サイト内検索|page:9

検索結果 合計:229件 表示位置:161 - 180

161.

腫瘍溶解ウイルス+ペムブロリズマブの固形がん医師主導治験開始/国がん

 国立研究開発法人国立がん研究センター(理事長:中釜 斉、東京都中央区)東病院(病院長:大津 敦、千葉県柏市)は2018年3月2日、進行性または転移性固形がん患者を対象とした、腫瘍溶解ウイルス製剤テロメライシン(OBP-301)と、抗PD-1抗体ペムブロリズマブの併用療法に関する医師主導治験(第I相試験)を開始したと発表。同試験では、併用した際の安全性及び有効性などの評価を行う。 テロメライシンは、風邪ウイルスの1つであるアデノウイルスに、多くのがん細胞で活性化しているテロメラーゼ酵素を遺伝子改変により組み込み、がん細胞内のみで特異的に増殖し、がん細胞を破壊するようにデザインされた腫瘍融解アデノウイルス製剤。正常細胞ではテロメラーゼ活性がないためウイルスは増殖しないが、がん細胞内ではテロメライシンが増殖して、がん細胞を破壊することで抗腫瘍効果を発揮する。この腫瘍溶解作用が、CTL活性(細胞傷害性T細胞活性)を誘導することで、腫瘍免疫増強効果が期待される。 今回、抗PD-1抗体ペムブロリズマブを併用することにより、抗腫瘍効果のさらなる向上が期待されている。■参考国立がん研究センタープレスリリース

162.

ちょっと今から仕事やめてくる【過労自殺を防ぐには?】

今回のキーワード働き方改革産業精神保健ストレスチェック要求度-コントロール-社会的支援モデルストレス脆弱性モデル「ワーカホリック」「時短ハラスメント」AI(人口知能)2017年に、政府は働き方改革実行計画を策定しました。その中では、「長時間労働の是正」を初めとして数か条の検討事項を挙げています。みなさんは、自分の働き方が「改革」される必要があると思いますか?特に、医師は働き過ぎていると言われています。なぜ働き過ぎるのでしょうか? 一方で、なぜ働かせ過ぎるのでしょうか? そして、なぜ働き過ぎは良くないのでしょうか? そもそも私たちはなぜ働くのでしょうか? それでは、どう働かせるのが良いでしょうか? 最終的に、私たちはどう働くのが良いのでしょうか? そして、どう生きるのが良いのでしょうか?これらの疑問を解き明かすために、今回は、2017年の映画「ちょっと今から仕事やめてくる」を取り上げます。この映画を通して、働くことを生理学的に、社会学的に、そして進化心理学的に掘り下げ、産業精神保健の理解を深めましょう。ブラック企業とは?主人公の青山は、入社して半年、営業部に勤務しています。達成不可能なノルマを課され、3か月連続で残業は150時間を超えています。しかし、残業代は出ていません。毎朝、勤務開始時間には、「有休なんていらない」などとの社訓の音読を社員全員でさせられます。急ぎの命令でタクシーを利用したのに、経費は支払われません。ミスによる減損分は給料から差し引かれます。彼の上司は、彼を「このタコ!」「おまえはクズだ」と人前で怒鳴り付け、ミスが起きると、書類ではたき、足蹴りし、鞄で叩きます。それでも気持ちが治まらない時は、「ここにいる全員に謝れ」と命令して、土下座を延々とさせて、見せしめます。このように、過剰なノルマ、長時間の時間外労働、時間外労働分の不払い、必要経費の不払い、損失分の給料からの差し引き、パワーハラスメントなど違法な労働条件が常態化している場合は、ブラック企業と呼ばれます。ちなみに、研修医や医師にとって長時間労働が常態化しているという点では、医療機関もブラック企業になりえます。仕事のストレスとは?-グラフ1青山は、過剰なノルマにより、仕事量はとても多いです(仕事の要求度)。顧客の都合や気分に合わせなければならない営業という職種柄や上司の理不尽な命令や急な呼び出しにより、裁量権や技量の活用はとても少ないです(仕事のコントロール)。さらに同僚とは競争関係にあり、仕事の横取りや足の引っ張り合いが起きています。上司や同僚のサポートはとても少ないと言えます(職場の社会的支援)。そんな極限状況の中、青山はメンタル不調に陥ります。このように、仕事の要求度、仕事のコントロール、職場の社会的支援という3つの軸による3次元モデルによって、仕事のストレス要因とうつ病との関連が指摘されています(要求度-コントロール-社会的支援モデル)。この3つのポイントは、2015年から義務化されているストレスチェックにも反映されています。今回は、グラフ1のように分かりやすく2次元でご紹介します。ちなみに、医師は、専門職として裁量権や技量があり、仕事のコントロールは良い方に思われます。しかし、実際には、治療マニュアルに従っている点、急患や急変に即座に対応しなければならない点、詳しい説明などの医療サービスが患者からますます求められている点、医療ミスへの訴訟リスクがある点で、長時間労働と相まって、仕事のストレスはかなり高いと言えるでしょう。うつ病の予兆は?-表1青山は、夜眠れなくなります(不眠)。実家には1年半以上帰っておらず、電話口で心配する母親にきつく当たります(精神運動焦燥)。このように、職場のストレスによって、行動面、体調面、メンタル面で何かしらいつもの自分にはない症状が出てきた場合、それはうつ病の予兆と言えます。どの症状が出やすいかは、人によって違い、表1のようにあらゆる症状が出てきます。うつ病の診断基準は?-表2青山は、休日はぐったりして、恋人や友人と遊びに行く元気もありません(興味・喜びの減退)。彼は、ある日の仕事の帰り道、「人は何のために働くんだろう?」「もし生きるために働くんだとしたら、おれは生きているって言えるんだろうか?」(抑うつ気分)、「体が鉛のように重い。休みたい。眠りたい。もう疲れた」(疲労感)、「明日なんて来なくていい」と思います(希死念慮)。そして、駅のホームからやって来る電車にふらっと飛び込むのです(自殺企図)。青山は、ついにうつ病を発症したのでした。うつ病は、表2のように、濃いグレーの欄が1つ以上、濃いグレーと薄いグレー両方で5つ以上の項目が同じ2週間の間で当てはまっていれば診断されます。この表は、もともと精神科医師が使用するうつ病の診断基準(DSM-5)を、一般の医療関係者にも分かりやすいように簡便な表記にしています。診断の注意点は、希死念慮以外の症状が2週間の間で持続一貫していることです。逆に、時間や場所などの状況によって症状が改善していたり、そもそも基準の項目を満たしていない場合は、適応障害と診断されます。ただし、適応障害とうつ病は厳密に区別が付けられないことも多々あります。その理由は、症状の根拠が本人からの問診に大きく頼っていて客観性が乏しいこと、症状の程度が数値化されないので診断する医師の経験や裁量などの主観が入り込んでしまうこと、症状が時間経過によって変化することもあり固定していないことなどがあげられます。よって、初回の診断では、適応障害とうつ病を合わせて、「うつ状態」とする場合もあります。なぜ急に自殺するの?ちなみに、青山がメンタル不調になり、自殺をするまで病状が悪化するスピードはかなり早いです。なぜ病状の悪化は、徐々にではなく急速になのでしょうか?言い換えれば、なぜ急に自殺するのでしょうか? その答えは、もともと私たちの脳は、ある程度のストレスへの抵抗力(脆弱性)によって恒常性を維持していますが、そのしわ寄せとしてある程度以上のストレスがたまるとその恒常性が破綻してしまい、一気に症状が出てしまうからです(ストレス脆弱性モデル)。例えるなら、骨折です。骨は、ある程度までの力には耐えられますが、ある程度以上の力で折れてしまいます。うつ病は、「心の風邪」と例えられますが、むしろ「心の骨折」です。ある時、急に心が折れてしまうということです。そして、治るのにも時間がかかるということです。過労自殺とは?青山は、過労(長時間労働)を主とする職場のストレスによって自殺をしようとしました。このような自殺は、過労自殺と社会的に定義されています。現在、労働災害における労働と過労死・過労自殺の因果関係を認める過労死ラインは、時間外労働が半年間で月80時間以上、1か月で100時間以上です。この根拠の1つとして、時間外労働が増えれば、連動して必然的に睡眠時間が減ることです。そして、睡眠不足とメンタル不調には密接な関係があることです。NHKの「国民生活時間調査」によると、時間外労働が月80時間(1日4時間)に増えると睡眠時間が6時間に減り、月100時間(1日5時間)に増えると睡眠時間が5時間に減るということが分かっています。ちなみに、2017年に報道されたある研修医の過労自殺の場合は、1か月に160時間を超えていました。なぜ働き過ぎるの?-過労の心理-表3自殺しかけた青山を間一髪で助けたのは、幼なじみのヤマモトと名乗る男でした。青山は、その男を覚えていなかったのですが、ヤマモトの強引なペースに乗せられて、その後も一緒に時間を過ごすようになります。そして、青山は、冷静になり、自身の過労を自覚するようになります。そもそも彼はなぜ働き過ぎるのでしょうか? 言い換えれば、なぜ青山は過労自殺を避けられなかったのでしょうか?本来、人間を含む動物は、働いて(動いて)、疲れが出てきたら休みます。疲れとは、痛みや発熱と同じく、生物が生命を守るために体の状態や働きを一定にする保とうとするために進化した生体アラームの1つです(ホメオスタシス)。ところが、人間は、疲れても働き続けること(動き続けること)ができるようになりました。この人間特有の過労の心理を、主に3つ挙げてみましょう。(1)恐怖感青山は、上司に怒鳴られるのが怖くて、必死になって無理して残業をしています。そんな青山にヤマモトは「仕事辞めることと死ぬことはどっちの方が簡単なん?」「仕事、変えた方がえんちゃうか?」とアドバイスしますが、青山は「とにかく仕事辞めるのってそんな簡単なことじゃないんだって」と言い張ります。青山は、職場以外の人間関係がなく、視野が狭くなっており、「迷惑をかける」「居場所がなくなる」と怯えていました。1つ目は、恐怖感による過労です。他の動物と違って、人間は、パワーハラスメント(権力)や居場所(社会)を生み出す文明を進歩させました。このパワーハラスメントや孤立への恐怖に延々とさらされることによって、脳内ではノルアドレナリンが分泌され、恐怖感が得られます。そして、自律神経の交感神経が刺激されて、疲れを奮い立たせて、働き続けることが可能になりました。ただし、恐怖心は、被害的そして罪業的な感情を高めます。「嫌なら(怖いなら)辞めれば良い」と言う人がいますが、実際はそういうふうに割り切れないほどに理性が麻痺してしまうのです。(2)達成感青山は、上司から無理難題の業務を押し付けられた後に、「がんばれよ」と肩を叩かれて、目を輝かせています。そして、残業に励むのです。2つ目は、達成感による過労です。他の動物と違って、人間は、励ましや期待、感謝などの社会的報酬を交換する社会脳を進化させました。これらの報酬を定期的に受け取ることによって、脳内ではドパミンが分泌され、達成感や満足感が得られます。そして、疲れを感じにくくなり、働き続けることが可能になりました。「疲れが吹っ飛んだ」という表現がこれを端的に表しています。疲れが起こるのは自律神経の中枢(視床下部と前帯状回)であるのに対して、疲れを感じるのは前頭葉(眼窩前頭野)であり、一体ではないです。疲れは、「吹っ飛んだ」のではなく、一時的に感じにくくなっているだけで、蓄積し続けていきます。ちなみに、特に医師は、患者を救うというやりがいや感謝されるという喜びによって、この達成感による過労の心理が高まっていく危うさがあります。(3)快感青山の上司は、部下たちを怒鳴り散らしながら、ばりばり仕事をしています。どうやら仕事好きのようです。部下たちに過剰なノルマを課すのは正しいと信じています。3つ目は、快感による過労です。人間を含む動物は、天敵による手負いの極限状況で、その状況を切り抜けて生き残るために、一時的にその痛みや疲れを緩和させる防御反応を進化させました。過労もその極限状況の1つです。過労による苦痛を感じ続けることによって、脳内ではエンドルフィンやカンナビノイドなどのいわゆる「脳内麻薬」が分泌され、快感が得られます。そして、極限状態の疲れは緩和されるばかりか逆に快感になり、働き続けることが可能になりました。「疲れが心地良い」という表現がこれを端的に表しています。厳密には、これは、「心地良い」のではなく、心地良く感じることで最後の力を振り絞らせようとしている危うい精神状態であるということです。同じ現象は、私たちの様々な精神活動にもみられます。例えば、長距離ランナーが限界を超えた時に感じる「ランナーズハイ」、ダイエット中の人や摂食障害の人が飢餓状態で感じる「ダイエットハイ」「拒食ハイ」、境界性パーソナリティ障害の患者がリストカットした後に空虚感(心の痛み)が一時的になくなることなどです。ちなみに、快感による過労は、「ワーカホリック」「仕事中毒」とも呼ばれています。「ワーカホリック」は「アルコホリック(アルコール依存症)」が語源です。快感を得るために、その摂取や行為をするという点では、アルコール、ドラッグ、ギャンブルなどの依存症や摂食障害と同じメカニズムであると言えます。さらに、もっと言えば、労働から、スポーツ、勉強、ゲーム、セックスまで、私たちのあらゆる精神活動は、コントロールができなくなれば、依存症になりうると言えます。なお、現在、「ワーカホリック」は、DSM-5に掲載されていませんが、日本で過労自殺が続くなら、今後の改訂版で正式に依存症の一種として掲載されるかもしれません。なぜ働かせ過ぎるの?-過労をさせる心理ここまで働く側の心理を主に3つ考えてきました。ここからは働かせる側の心理も考えてみましょう。なぜ働かせ過ぎるのでしょうか? その過労をさせる心理を主に3つ挙げてみましょう。(1)がんばることは良いことだから青山の上司は、最多契約賞として一番優秀な部下を全員の前で表彰し、金一封を手渡します。そして、次のノルマをつり上げます(ストレッチゴール)。1つ目は、がんばることは良いことだからです。これは、江戸時代の封建社会から洗練されてきた日本独特の文化で、「気合い」「精神力」にも通じます。自分ががんばって我慢して世間(集団)の役に立つことを良しとする集団主義の文化です。よって、「長く働く人は偉い」、逆に言えば「残業をやらない人はやる気がない」という雰囲気になりやすいです。また、顧客の都合で突発的に「呼ばれたらすっ飛んで行く」という対応の方が、好ましく思われ、顧客満足度は高いでしょう。こうして、働かせる側は、残業や突発的な仕事があることを前提にして仕事のスケジュールを組み、働かせ過ぎることができます。そして、残業を無制限にさせられるように、従来からの日本の企業は、労働法の例外事項を拡大解釈しています(サブロク協定)。ちなみに、医師は、「病気という顧客の都合」により、「呼ばれたらすっ飛んで行く」ことが義務付けられている点で(医師の応召義務)、やはり働かせられ過ぎます。(2)首切りが難しく新しい人を雇いにくいから退職を申し出る青山に対して、上司は、「懲戒解雇しかねえからな!」などと脅しています。本当でしょうか?2つ目は、首切りが難しく新しい人を雇いにくいからです。日本の労働法は、労働者に保護的であり、使用者が解雇するハードルが極めて高いです。これは、「簡単に見捨てない」という集団主義の文化が根付いているとも言えます。だからこそ、繁忙期だからと言って人を増やさずに、残業を増やします。そして、閑散期に残業を減らします。一方、欧米は、繁忙期に人を増やし、閑散期に人を減らしています。言い換えれば、欧米では首切りがしやすいということです。こうして、働かせる側は、残業を繁閑の調整弁にすることで、働かせ過ぎることができます。裏を返せば、欧米に比べて、日本の残業制度は、労働者の雇用を安定させるという役割があります。ちなみに、医師は、医師不足によって新しく雇いにくいという点で、やはり働かせられ過ぎます。(3)仕事の範囲を広げられるから青山の部署は営業部ですが、他の部署への異動も可能です。3つ目は、仕事の範囲を広げられるからです。日本の労働文化は、働かせる側の命令の権限が大きく、仕事の範囲がどこまでも広がってしまうということです。例えば、仕事の内容や求められるスキルが違っていても、部署異動があります。能力の高い人や断らない人はより多くの仕事を任せられます。仕事が終わらない同僚や部署を手伝わせることもあります。これは、「会社も家族同様」という集団主義の文化の名残とも言えます。言うなれば、日本は「人に仕事をつける」ということです(メンバーシップ型)。一方、欧米は「仕事に人をつける」、つまり、仕事の範囲が最初から詳細な労働契約で決まっていて広げられないということです(ジョブ型)。このように、仕事の範囲に融通を効かせる点でも、首切りは、日本ではしにくく、欧米ではしやすいと言えるでしょう。こうして、働かせる側は、会社のメンバーの一員であることを口実に仕事の範囲を広げていき、働かせ過ぎることができます。だからこそ、企業の人事が採用する新人に一番求めるのは、もともとのスキルや経験よりも、「コミュニケーション能力」です。言い換えれば、求めているのは、無理な残業でも断らない「企業戦士」ということです。さらに、これを悪用しているのが、昨今話題になる新手のブラック企業です。急成長する会社の知名度を利用して、新人を大量に雇用して、従順で能力のある人だけを選別します。そして、残りの人を巧妙なパワーハラスメントによって自主退職に追い込みます。いわば実質的な大量解雇です。ちなみに、日本の医師は、欧米と違い、専門外の診療行為に制限が少ないため、診る患者の範囲を広げられる点で、働かせられ過ぎます。なぜ働き過ぎは良くないの?-過労のマイナス面青山は、ヤマモトに「ちょっと今から仕事やめてくる」と宣言して、怖い上司に自分のまっすぐな気持ちをひるまずに伝えます。そして「できれば部長も少し休んでください」と言う言葉を残して、職場を後にします。その帰り道、鞄をぶんぶん振り回してスキップしながら戻ってきます。彼の開放感が、軽やかに描かれています。彼は、働き過ぎないことを選んだのでした。一方、青山の上司なら「好きで働いてなぜ悪い」と言うでしょう。それも1つの価値観です。ただし、それを周りに強要する時代ではなくなってきているということです。なぜ働き過ぎは良くないのでしょうか? その過労のマイナス面を主に3つに挙げてみましょう。(1)メンタルヘルスの危うさ1つ目は、メンタルヘルスが危うくなることです。青山が過労自殺をしそうになったように、これは、過労死とともに最低限守るべき労働安全衛生であることは明らかです。これが、現在の情報化社会によって、うやむやにはできない状況になっています。(2)ワークライフバランスの危うさ2つ目は、ワークライフバランスが危うくなることです。時代の変化によって、仕事(ワーク)よりもプライベート(ライフ)に重きを置くバランスが求められているからです。例えば、男女共働きで家事育児の分担、少子高齢化で介護の負担、趣味や資格取得のための個人の時間などです。(3)雇用の活性化の危うさ3つ目は、雇用の活性化が危うくなることです。価値観の変化により、より多くの女性や高齢者も労働に参加することが望まれています。労働者市場は一定であると考えれば、従来の労働者が働き過ぎないことで、その不足分を新規に女性や高齢者が補う形で参入できるようになるはずです。なぜ働くの?-労働の心理ある日、青山がヤマモトについて調べると、何と3年前に自殺していたことが分かります。そのヤマモトに、青山は「人生は誰のためにあると思う?」と尋ねられます。「自分のため」「他にあるのか?」と答える青山に、ヤマモトは「おまえを大切に思っている人のためや」「おまえが死んで何もかんも終わりにできると思ってるかもしれんけど、そんなんたまらんわ。残された方はほんまにたまらんわ」と語ります。ヤマモトは一体何者なのでしょうか? その答えは、この映画を見て納得していただきたいと思います。そもそも私たちはなぜ働くのでしょうか? 確かに、自分のため、生活のため、生きるためです。もっと分かりやすく言えば、お金のためです。それにしても、果たしてそうでしょうか? その答えを進化心理学的に掘り下げてみましょう。原始の時代、私たちヒトは、体と同じく心(脳)も進化させました。それが先ほどにもご紹介した社会脳です。社会脳とは、家族を中心にして村(生活共同体)の中でうまくやって行くための能力です。そのシンボルとして、当時、頼られている者が周りの者から貝の首飾りの贈り物をもらいました。感謝の印です。つまり、貝の首飾りが多ければ多いほど、みんなとうまくやっているという信頼の証が得られたのでした。これが、お金(貨幣)の起源と言われています。つまり、本来のお金とは、信頼の象徴だったのです。しかし、現在、お金は富の象徴にすり替わって、一人歩きしています。よって、「なぜ働くの?」という労働の心理への究極的な答えは、「お金のため」「自分のため」を超えて、家族のためであり、自分と信頼関係を築きたい人のためであると言えます。これは、ヤマモトの答えにもつながります。どう働かせる?-表4これまで、過労の心理、過労をさせる心理、過労のマイナス面、そしてそもそもの労働の心理を詳しく見てきました。これらを踏まえて、今後、青山の会社や上司などの働かせる側はどうすれば良いでしょうか?  その対策を主に3つ挙げてみましょう。(1)ルールに基づいて働かせる1つ目は、ルールに基づいて働かせることです。ドイツやフランスでは、時間外労働に対してペナルティを課しています。日本も、ようやく働き方改革で、罰則付きで労働時間に制限を設ける方針を打ち出しています。こうして、仕事の要求度を減らし、職場のストレスを減らすことができます。ただし、医師は、医師法に基づく応召義務などの特殊性を理由に、現時点で適用除外対象になっており、今後も議論の余地があるでしょう。(2)風通し良く働かせる2つ目は、風通し良く働かせるです。まず組織のトップが、「過労は良くない」というメッセージを自ら発信し続けることです。そして、お互いに積極的に意見が言い合える関係作りをすることです(フラット型のコミュニケーション)。まさに、青山の上司とは真逆です。トップの発言や態度が、集団の規範となり、コミュニケーションのスタイルとなり、組織文化となります。「周りが仕事をしているのに帰りづらい」という横並びの負の同調圧力を減らすことができます。そして、時短勤務や在宅勤務などの多様な働き方をより受け入れることができます。こうして、仕事のコントロール感を増やし、職場のストレスを減らすことができます。(3)見極めて働かせる3つ目は、見極めて働かせることです。これは、労働量と労働時間の関係の「見える化」です。確かに、マニュアル通りではない仕事(非定型業務)は、状況や個人によって差があり、労働量と労働時間の相関関係を決めづらい面はあります。そうだとしても、この仕事に対してこのくらいの能力の人にはこのくらいの時間がかかるという労働力や労働時間の適正な相場をあえて見極め、示すことです。そうしないとどうなるでしょうか? 働かせる側は「時短だ」「定時に帰れ」と言って表向きには労働時間を減らしておきながら、納期やノルマなどの労働量はそのままにして、時間内に仕事が終わらないのは「能力がない」という理屈を押し付けることができます。すると、働く側は、「能力がない」と思われたくないために、タイムカード通りに帰宅せずに職場に居残る「サービス残業」をしたり、職場近くのカフェに移動して仕事を続ける「持ち出し残業」をしたり、自宅に持ち帰る「持ち帰り残業」をしたりするなど、隠れて残業をさせられるはめになります。これは、「時短ハラスメント」とも呼ばれています。「プレミアムフライデー」が広がらない理由はここにあります。また、仕事のやり方と時間配分を本人の裁量に任せる労働(裁量労働制)も危ういです。なぜなら、そもそも最初から過剰な労働量が設定されてしまえば、労働時間が不透明なだけに、より働かせ過ぎることができるからです。これは、逆に、労働の「見えない化」です。この「見える化」をあえてしない組織は、つまり働き方改革を逆手に取って悪用することで、残業代を支払わなくて良くなりコストカットしたことになるので、短期的には業績(生産性)を上げるでしょう。しかし、現代の高度な情報化社会の中で、これが明るみになるのに時間はそれほどかからないでしょう。つまり、長期的にはその組織は社会的信用を失い、人が集まらなくなり、業績は下がっていくでしょう。先ほどの原始の時代の社会脳の進化でも触れましたが、信用される、信頼されることこそが働くことの原点です。それは組織においても同じだからです。働かせる側は、「見える化」によって働く側の様子を理解していることが重要です。こうして、職場の社会的支援を増やし、職場のストレスを減らすことができます。どう働く?-表4それでは、働く側はどう働ければ良いでしょうか? ヤマモトの心がけを主に3つ挙げてみましょう。(1)余裕を持って働く給料や正社員であることに固執して自分を追い詰めている青山とは対照的に、ヤマモトは、「ニートやで」「いちおうアルバイト的なことはしてるで」「就職なんかせんでも、意外と生きていけるからな」と軽く言います。1つ目は、余裕を持って働くことです。時間や体力の余裕は、心の余裕を保ちます。その余裕の中で、どれくらい働いて、どれくらい余暇や家族との時間を過ごして、そしてどれくらい稼ぐのか、つまりどんな生き方(ライフスタイル)をしたいのかということに向き合うことです。そして、そのバランスを取るために、仕事を休む、辞めるという選択肢は常にあると考えることです。これは、働く側の「見える化」とも言えます。逆に言えば、余裕がない中、やみくもに働く時代ではなくなっています。こうして、仕事の要求度を減らし、職場のストレスを減らすことができます。(2)積極性を持って働く叱られまいと萎縮して受け身になって働く青山とは対照的に、ヤマモトは、明るいネクタイを勧め、笑顔でゆっくり話すこと、営業相手に寄り添い、懐に入ることを説きます。2つ目は、積極性です。これは、自分から積極的に先回りして動くことです。こうして、仕事のコントロール感を増やし、職場のストレスを減らすことができます。(3)やりがいを持って働くヤマモトは、青山を過労自殺から救い、彼の人生を大きく変えました。そして、青山に心の底から感謝されます。ヤマモトはお金では計り知れない大きな仕事をしたとも言えます。実は、ヤマモトは、すでにある場所でやりがいを見いだし、生き生きと働いていました。3つ目は、やりがいを持って働くことです。先ほどの原始の時代の社会脳の進化でも触れましたが、感謝されるやりがいこそが働くことの原点です。そして、仕事にやりがいを見いだすことで、信頼関係が生まれ、自分の居場所が見いだせます。こうして、職場の社会的支援を増やし、職場のストレスを減らすことができます。どう生きる?ラストシーンで、ヤマモトの居場所が、なんとバヌアツという外国の小学校であることが判明します。そこを尋ねた青山は、ヤマモトに「ここで、今度はおれがおまえを助けることができないかな?」と申し出ます。すると、ヤマモトは「最初はボランティアからやで」と微笑むのです。かつての狭く息苦しい青山の職場とは対照的に、抜けるような青空、海、そして子どもたちの絶えない笑顔があるバヌアツはまさに楽園です。青山は、ヤマモトのおかげで、働き方だけでなく、生き方も変えたのでした。ボランティアとは、ラテン語の「ボランタス(自由意志)」を語源としています。まさに働くことの原点です。確かに、ボランティアだけでは、生きて行くことは難しいでしょう。組織も個人も、お金(収入)は大事です。働き方改革のマイナス面として、個人も組織も収入を減らしてしまうおそれがあります。政府の成長戦略に連動しないおそれもあるでしょう。これは、個人、組織、政府のそれぞれにとって、あまりはっきりさせたくない不都合な真実でしょう。一方で、これからはAI(人工知能)の時代です。現在、機械化によって力仕事をする必要がなくなってしまったために、逆にお金を払ってスポーツジムで運動をする人がいます。同じように、近い将来には、AI化によって仕事自体をする必要がなくなってしまうために、逆に、お金を払って働く人が現れるかもしれません。これは、究極のボランティア精神と言えるでしょう。なぜなら、社会構造の変化(環境変化)に、私たちの心(脳)の進化が追いつくには、少なくとも何万年かは必要だからです。働き方を変えて収入を減らしたとしても、働かなくても良いAIの時代になったとしても、やはり働くことは自由意志であり周りとの信頼関係を強めることであるという原点に立ち返れば、私たちは、どう働くかを超えて、どう生きるかという問いへの答えも見いだすことができるのではないでしょうか?1)北川恵海:ちょっと今から仕事やめてくる、メディアワークス文庫、20152)日本産業精神保健学会編:職場のメンタルヘルス、南山堂、20113)大室正志:産業医が見る過労自殺企業の内側、集英社新書、20174)梶本修身:すべての疲労は脳が原因、集英社新書、20165)常見陽平:なぜ、残業はなくならないのか?、祥伝社新書、2017

163.

入院をためらう親を納得させるセリフ~RSウイルス感染症

 2017年8月3日、アッヴィ合同会社は、都内でRSウイルス感染症啓発のプレスセミナーを開催した。例年RSウイルス感染症は秋~早春にかけて流行するが、2017年は春先から初夏にかけて感染者の報告があり、今回、注意喚起のため開催された。 セミナーでは、本症の診療概要などのレクチャーのほか、実子が本症に感染した経験を持つ鈴木 おさむ氏(放送作家・タレント)を迎えてトークセッションも行われた。例年の流行パターンではない2017年 はじめに「子どもを持つ親御さんに知ってほしいこと~子どものRSウイルス感染症~」をテーマに今川 智之氏(神奈川県立こども医療センター感染免疫科 部長)が、疾患の概要とアッヴィ社が実施したアンケート調査の結果について説明を行った。 RSウイルス感染症は、感染動向調査の小児科定点把握であり、5類感染症に指定される小児科領域に多い感染症。従来、晩秋~早春が感染の流行時期だったものが、ここ数年来、流行時期が徐々に早くなっており、本年はすでに感染した患児が報告されている。 潜伏期は2~8日、生後1歳までに50%以上が、2歳までにほぼ100%が初感染をする。風疹のように免疫獲得はなく、成人でも再感染はあるが、症状が比較的軽微であり風邪と間違われやすい。 主な症状として40℃近い発熱、鼻汁、咳嗽など上気道症状が出現し、初回の感染が重症化しやすく、約20~30%で気管支炎や肺炎などの下気道症状へ進展するとされる。乳幼児の肺炎の約50%、細気管支炎の約50~90%がRSウイルス感染症との報告もある。 とくにハイリスク群として新生児、生後6ヵ月以内の乳児、早産児、(月齢24ヵ月以内の)免疫不全児、ダウン症児、高齢者が挙げられ、注意が必要という。 診断は、(小児のみ保険適用の)迅速検査とX線検査で行われ、治療では、抗ウイルス薬がないため、主に諸症状への対症療法となる。なお、ダウン症児などのハイリスク患児を対象にした抗体であるパリビズマブ(商品名:シナジス)もあるが、適応はかなり限定されている。 そこで感染予防が重要となるが、本症の感染は、飛沫感染と接触感染の2つの経路がある。とくに家庭内や保育園、学校など集団内での感染が多く、咳へのマスク使用、手指消毒など、家族で感染対策を行うことが大切だという。 本症の親の認知度は約40% 同社が行った「RSウイルス感染症・子どもの健康に関する意識調査」(実施:2017年6月、対象:2歳未満の子どもを持つ親1,800名)によれば、本症を知っている親は約40%と、百日咳、プール熱(咽頭結膜熱)とほぼ同じ程度だった。また、本症の認知度について保育施設利用者(55.2%)と非利用者(30.1%)では利用者のほうが25.1ポイントも多く、親同士のネットワークにより知識が拡散されていることがうかがわれた。本症の流行時期に関しては、「RSウイルスの流行時期が秋~春だけではなく、夏にもみられる」ことを知らないと答えた割合が半数以上の54.5%と、夏の流行への認識不足も読み取れた。入院を勧める場合の説明法 後半では、「家庭内で知っておくべき知識と予防策」をテーマに、今川氏と鈴木 おさむ氏のトークセッションが行われた。 鈴木氏のお子さんが、昨夏に本症を発症。41℃近い発熱と咳をしたことでRSウイルス検査を受け、本症と確定診断された。そのときの経験から、本症について親として知っておくべきこと、感染予防での子どもへの接し方、医師との付き合い方などを、親の目線から語った。 とくに患児の重症度について両氏は、親が医師に聞きたい場合、「子供が先生のお子さんなら入院させますか?」という尋ね方は、的確な回答がもたらされる良い質問法であり、逆に医師が親に患児の入院を勧める場合、「私の子供なら入院させます」という説明は、親に重症の度合いを理解してもらう良い説明法であると語った。 また、本症の啓発について鈴木氏は「患児を持った親が情報を拡散していくことが大事。親もWEBやSNSで調べる時代なので、経験者の情報が後で役立つ」と述べた。 本症全般について今川氏は、「医師は、本症の流行時期に夏も考慮に入れ、診療時に思いつくことが大事。また、親御さんも風邪だと簡単に片付けず、高熱やひどい咳をお子さんがしていたら診療を受けさせること。その際、感染症などの既往歴、予防接種の有無、普段服用のお薬など、お子さんの情報は診療の参考になるので、お母さんだけでなく、お父さんもきちんと知っていてほしい」と思いを語り、トークセッションを締めた。■参考RSウイルス感染症・子どもの健康に関する意識調査

164.

遺伝性血管性浮腫〔HAE:Hereditary angioedema〕

1 疾患概要■ 概念・定義遺伝性血管性浮腫(HAE)は、顔面や四肢、腸管や喉頭など全身のさまざまな部位に突発性、一過性の浮腫を生じる遺伝性疾患である。気道閉塞や激烈な腹痛を生じて重篤になりうるため希少疾患ではあるが見逃してはならない。従来、C1インヒビター(C1-INH)遺伝子異常によるHAE I型、II型が知られていたが、2000年にC1-INH遺伝子に異常を認めないHAE with normal C1-INH(HAEnC1-INHあるいはHAE III型)が報告された。HAEは常染色体優性遺伝形式をとるが、HAE III型では浸透率が低く、しかも発症するのはほとんど女性である。またHAE I/II型では家族歴のない孤発例も25%で認められる。孤発例はde novoの遺伝子異常症である1)。HAEにみられる突発性浮腫の本態は、これらの遺伝子異常の結果、産生が亢進したブラジキニンなどの炎症メディエーターによって血管透過性が亢進することがある。古くから知られた疾患であるがまれな疾患であり、気付かれにくく診断に難渋することが多い。2010年に「遺伝性血管性浮腫ガイドライン2010」が補体研究会(現 一般社団法人 日本補体学会)から発表され2)、2014年に改訂された3)。HAEの診断、鑑別、症状別の治療方針について系統的に記載されたわが国で初めてのガイドラインである。■ 疫学HAE I/II型は人種を問わず5万人に1人とする報告が多い。HAE III型は10万人に1人程度と考えられている。いずれもすべての人種で報告されている。■ 病因HAEはその病因から3つの型に分類される。I型常染色体優性の遺伝形式をとり、C1-INHの活性、タンパク量ともに低下している。HAE全体の約85%を占める。II型常染色体優性の遺伝形式をとり、C1-INHの活性中心のアミノ酸変異による機能異常である。C1-INH活性は低下するが、タンパク量は低下しない。HAEの約15%を占める。III型遺伝性であるがほとんど女性に発症する。病態の詳細は不明であるが、一部の症例に凝固XII因子の変異を認める。C1-INHの活性、タンパク量ともに正常である。HAEのほとんどを占めるI型、II型の原因は、遺伝子変異によるC1-INHの機能低下である。I型、II型ならびにIII型の中で凝固XII因子の変異がある場合は、最終的にブラジキニンの産生が亢進する。その結果、血管透過性が亢進し、血管外に水分が漏出、貯留して浮腫が生じるが、この浮腫は数日で消失する。III型で凝固XII因子の異常を認めない場合の病因は不明である。■ 症状24時間で最大となり数日で自然に消褪する発作を繰り返す。10~20歳代に初発することが多い。I~III型まで報告されているHAEの特徴を、表に示す4)。いずれの病型も発現する症状はほぼ同じである。風邪、外傷、歯科治療、精神的ストレス、疲労などが誘因になりやすいが、何の誘因もない症例も多い。浮腫発作がないときには、健康人と何ら変わりはない。画像を拡大する1)皮膚症状眼瞼、口唇、四肢に発作性に浮腫を生じやすいが、ほかにもあらゆる場所に生じうる。浮腫を起こした皮膚表面は、赤みをごく軽度に帯びることはあっても蕁麻疹などのように明瞭な皮疹は伴わない。発作初期に罹患部がピリピリすることはあるが痛みやかゆみはない。2)消化器症状嘔気、嘔吐、下痢、腹痛などがあるが、なかでも腹痛は激烈である。炎症性疾患とは異なり、筋性防御はなく腹部エコーやCT所見で浮腫を認める。3)喉頭浮腫嚥下困難、喉の詰まり感、嗄声や声が出ないなどの声の変化、息苦しさを呈するが、進行すると呼吸困難、窒息になる。■ 予後喉頭浮腫を生じているにもかかわらず、適切に治療されなかった場合の致死率は30%とされる。その他の症候は予後良好である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準1)突発性の浮腫2)補体C4の低下、C1-INH活性の低下3)家族歴以上の3つがあればHAE I型あるいはII型(HAE I/II型)と診断できる。C1-INHタンパク質量が低下していればHAE I型、正常または増加していればHAE II型である。1)と3)のみの場合、HAE III型と診断しうる。1)と2)のみの場合HAE I/II型の孤発例か後天性血管性浮腫である。血清C1qタンパク質定量(保険適用外)が低値であれば後天性とされているが、HAEの場合でも低値を示すことがある。4)確定診断のためには遺伝子解析が有用である。確定診断のためにはC1-INH遺伝子(SERPING1)異常の同定が望ましい。HAE III型の一部では凝固XII因子遺伝子異常が報告されているが、わが国での報告はない。HAE III型は今後の研究の進展に伴って疾患概念が変化する可能性がある。5)診断の参考となるアルゴリズムを提示する(図)1)。画像を拡大する■ 検査1)HAEを疑った際にはまず補体C4濃度を測定する。発作時には100%、発作がないときでも98%の検体で基準値を下回る。2)C1-INH活性は発作時であるか否かにかかわらず50%未満となるため診断に最も有用である。保険適用である。3)C1-INHタンパク質定量はHAE I型、II型を区別する場合に施行するが、保険適用ではない。4)HAE I/II型ではSERPING1遺伝子のヘテロ変異を認める。5)HAE III型の一部には凝固XII因子の遺伝子異常を認めるが、それ以外には診断に役立つ検査はない。■ 鑑別診断突発性浮腫を呈するほかの疾患との鑑別が重要である。1)アレルギー性血管性浮腫蕁麻疹を伴い、原因はペニシリンなどの薬剤や卵、小麦などの食物、化学物質に対するIgEを介したアレルギー機序である。2)後天性血管性浮腫思春期発症が多いHAEと異なり40歳以降に初発することが多い。悪性腫瘍、自己免疫によるC1-INHの消費が原因である。3)非アレルギー性薬剤性血管性浮腫アスピリンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)では、COX阻害により浮腫を生じる。ACE阻害薬内服患者の0.1~0.5%に生じるとされる。4)物理的刺激による血管性浮腫温熱、寒冷、振動、日光曝露などの物理的刺激で生じる。5)好酸球増多を伴う好酸球性血管性浮腫末梢血の好酸球増多、繰り返す浮腫と発熱、蕁麻疹、体重増加とIgM増加を伴う。まれ。6)特発性浮腫原因不明である。血管性浮腫の半数近くを占め、最も頻度が高い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)発作出現時の治療と発作の予防の2つに分けられる。1)発作時の治療世界的にはC1-INH製剤、ブラジキニンB2受容体拮抗薬、カリクレイン阻害薬の3系統が存在するが、わが国では2017年6月現在ヒト血漿由来C1-INH製剤である乾燥濃縮人C1インアクチベーター製剤(商品名:ベリナートP静注)のみ保険適用である。顔面、頸部、喉頭、腹部の発作には積極的に投与する。2)短期予防あらかじめ処置や手術がわかっているときの発作予防である。ベリナートPが1990年にわが国で承認されて以来、効能・効果は「遺伝性血管性浮腫の急性発作」のみであった。しかしながら、侵襲を伴う処置に対する発作予防の必要性が認められ、2017年3月ベリナートPの効能・効果に「侵襲を伴う処置による遺伝性血管性浮腫の急性発作の発症抑制」が追加された。(1)歯科治療(侵襲が小さい場合)C1-INH製剤の準備のうえならば予防投与は必要ない。(2)歯科治療(侵襲が大きい場合)、外科手術などの大ストレス時手術の1時間前にC1-INH製剤の補充を行う。3)長期予防1ヵ月に1回以上あるいは1ヵ月に5日以上の発作がある場合、または喉頭浮腫の既往がある場合には、次の治療を検討する。(1)トラネキサム酸(同:トランサミン)30~50mg/kg/日を1日2~3回に分けて服用する。そのほか、長期の発作予防には抗プラスミン作用を期待してトラネキサム酸が用いられるが、効果は限定的である。(2)ダナゾール(同:ボンゾール)蛋白同化ホルモンであるダナゾールも用いられる。2.5mg/kg/日(最大200mg/日)を1ヵ月、もし無効ならば300mgを1ヵ月、さらに無効ならば400mg/日を1ヵ月投与する。有効であれば、その後1ヵ月ごとに半量に軽減し50mg/日連日か100mg/日隔日まで減量する。副作用として肝障害、高血糖、多毛、男性化には注意が必要である。ただし保険適用はない。(3)C1-INH製剤(C1エステラーゼ阻害剤)欧米ではヒト血漿由来のCinryzeの予防投与(週2回、静注)が認められているが、わが国では未承認である。4 今後の展望HAEの早期発見、早期治療のためには、関連診療科医師へのさらなる啓発活動が重要である。また、HAEのような希少疾患では、1人でも多くの患者情報を正確に収集し、病態の把握や診断基準の作成に役立てる必要がある。欧米では、すでにいくつかの登録システムが稼働しているように、わが国においても患者レジストリーの構築が不可欠である。現在、NPO法人 血管性浮腫情報センターと、一般社団法人 日本補体学会の協力をもとにレジストリーの構築が進められている。薬剤治療法については、従来から存在するヒト血漿由来C1-INH製剤に加えて、最近の10年間で遺伝子組換えヒトC1-INH製剤、ブラジキニンB2受容体拮抗薬、カリクレイン阻害薬が次々と登場してきた。わが国ではヒト血漿由来C1-INH製剤ベリナートPのみがHAEへの保険適用を認められているに過ぎないが、これらの薬剤のHAEへの承認へ向けた臨床試験が進められている。とくに新しい経口のHAE治療薬開発の進展が期待されている。5 主たる診療科内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、小児科、救命救急科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報NPO法人 血管性浮腫情報センター(CREATE)(医療従事者向けのまとまった情報)一般社団法人 日本補体学会HAEサイト(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報HAE患者会「くみーむ」(HAE患者と家族への情報)その他の情報腫れ・腹痛ナビ(医療従事者向け)腫れ・腹痛ナビ(患者さん向け)1)堀内孝彦. 遺伝性血管性浮腫(HAE). In:日本免疫不全症研究会編. 原発性免疫不全症候群 診療の手引き. 診断と治療社; 2017.p.130-135.2)Horiuchi T, et al. Allergol Int. 2012;61:559-562.3)堀内孝彦ほか. 補体. 2014;52:24-30.4)堀内孝彦. 医学のあゆみ. 2016;258:861-866.公開履歴初回2017年6月27日

165.

「抗微生物薬適正使用の手引き」完成

 2017年6月1日、厚生労働省健康局結核感染症課は、薬剤耐性(AMR)対策の一環として「抗微生物薬適正使用の手引き 第一版」(以下「手引き」)を発行した。 世界的に不適正な抗微生物薬使用による薬剤耐性菌の脅威が叫ばれている中で、わが国でも適正な感染症診療に関わる指針を明確にすることで、抗微生物薬の適正使用を推進していくことを目指している。 今回の「手引き」の作成で、抗微生物薬適正使用(AMS)等に関する作業部会委員の座長として取りまとめを行った大曲 貴夫氏(国立国際医療研究センター病院 国際感染症センター長)に、作成の経緯や「手引き」のポイント、今後の展望について聞いた。極端に使用量が多い3種類の抗微生物薬 「手引き」作成までの経緯について簡単に述べると、まず、現在使用されている抗微生物薬に対して微生物が耐性を持ってしまい、治療ができなくなる状況がやってくる危険性への懸念があります。そのため2016年4月に「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」が決められ、議論が重ねられました。抗微生物薬を使う感染症診療の場で、あまり適切な使用が行われていないところがあるかもしれず、必要以上の抗微生物薬が使われていることが薬剤耐性を増悪させているかもしれない。では、抗微生物薬を適正に使用する「手引き」を作ろうとなったのが、作成の出発点です。 そして、このような形の「手引き」になった理由として、次の3点があります。1)日本の抗微生物薬の使用量自体は多くないものの、広範囲に有効であるセファロスポリン、マクロライド、キノロンの使用割合が諸外国と比べて極めて高いこと。2)内服か静注かの内訳調査では、大部分が内服剤であること(外来での多用が示唆される)。3)その外来でよく診療される感染症を考えた場合、頻度の高い急性気道感染症や腸炎、尿路感染症(今回の手引きでは割愛)などが挙げられ、その中でも、適切な見分けをしていけば抗微生物薬を使わずに済むケースも多く、かつ、診療もある程度の型が決まっているものとして、急性気道感染症と急性下痢症に絞られること。 以上を踏まえ、抗微生物薬の適正使用を総論として構成し、今回の「手引き」を作成しました。 「手引き」を熟読し診療に生かしていただきたいところですが、情報量も多いので、ゆくゆくはこの「手引き」を要約してポケットサイズのカードを作成し、いつでも臨床の現場で活用できるようにしたいと考えています。 また、一般臨床に携わる医師、医療従事者はもちろん、医学教育の場、保健衛生の場、一般の方々への啓発の場でも活用してもらい、抗微生物薬の適正使用への理解を深めていければと思います。「風邪」は単なる風邪ではないことへの理解 「手引き」の中でとくに読んでいただきたい所は、「本手引きで扱う急性気道感染症の概念と区分」(p.8)という、概念を理解するために作られた図です。 今回「急性気道感染症」をターゲット疾患としたのは、いわゆるウイルス性の感冒と急性鼻副鼻腔炎、急性咽頭炎、急性気管支炎に分けられることを知ってもらう狙いがあります。「『風邪』は風邪ではない」と理解することが大切で、きちんと診察し、必要な検査をすれば、これらをえり分けられます。それにより抗微生物薬が必要かどうかのマネジメントが異なってきます。ただ、患者さんが「風邪」を主訴に来院したとき、風邪以外の怖い病態(急性心筋炎など)も隠れているのが「風邪」だということを認識するのも同じく大事です。2020年に全体の抗微生物薬使用量を33%減 最後に展望として、AMR対策という観点からさまざまな広域抗菌薬の使用が抑えられて、2020年までにセファロスポリン、マクロライド、キノロンの使用量を半減させ、全体の使用量も33%減少させるという大きな目標があります。 ただ個人的には、少なくとも「手引き」の内容が浸透することで、これまで「風邪」と診断され、漠然と片付けられていた患者さんに正確で適切な診断がなされ、見逃してはいけない重大なリスクのある患者さんが早く拾い上げられて、個々の患者さんの健康に貢献すること、結果的には医療全体のレベルが上がることを最も期待しています。 今後もっと対象疾患を広げるかどうかなど、臨床現場の声や患者さんの声を取り入れて議論され、改訂の機会もあると思います。しかし、今回の「手引き」で示した基本的な考え方は、この5年や10年単位では変わらないものと考えています。 「手引き」で取り上げた疾患は、広い意味での「風邪」と「急性胃腸炎」ですが、この領域だけでも実臨床における、原則的な診療を示すことができたと思います。これらの実践により、診療は必ず良いものとなるだけでなく、診療者である医師の自信にもつながると考えます。 どうか「手引き」を活用していただきたいと思います。

166.

MRワクチン接種後に失明、偶然か必然かは不明

 予防接種後、まれに眼炎症が観察されることがあるが、ほとんどは永続的な視覚障害を生じることなく回復する。今回、近畿大学医学部眼科学教室の國吉一樹氏らは、インフルエンザ菌b型(Hib)ワクチン、肺炎球菌結合型ワクチンならびに麻疹風疹混合(MR)ワクチン接種後に、両眼の急性失明を来した生後13ヵ月の日本人の健康な男児について報告した。後ろ向きの調査の結果、感染により滲出性網膜剥離とともに重篤な脈絡網膜炎が誘発されてリカバリンに対する自己抗体が産生され、自己抗体が急速に光受容体の機能を変化させたものと推察された。著者らは、「初期の感染はMRワクチン接種に起因した可能性がある」との見解を示したうえで、「われわれの知る限り過去に報告例はないので、ワクチン接種後の失明は偶然の一致によるものかもしれないし、ワクチン接種に関連しているのかもしれない」とまとめている。JAMA Ophthalmology誌オンライン版2017年3月30日号掲載の報告。MRワクチン接種24日後に両眼の急性失明 研究グループは、急性失明を来した生後13ヵ月の日本人の健康な男児のカルテを後ろ向きに調査し、眼底およびフルオレセイン血管造影所見、超音波検査および光干渉断層計(OCT)所見、網膜電図検査所見について検討した。 ワクチン接種後に両眼の急性失明を来した男児のデータを検討した主な結果は以下のとおり。・男児が両眼の急性失明を来したのは、Hibワクチンと肺炎球菌結合型ワクチン接種31日後であり、MRワクチン接種24日後であった。・男児は、失明する10日前に風邪を呈していた。・視力低下発症1日後、超音波検査で滲出性網膜剥離が認められたが、4日後、眼底は正常であった。・男児の眼は物体を追わず、瞳孔対光反射はみられなかった。・前部ぶどう膜炎の徴候はなかった。・副腎皮質ステロイドで治療が行われたが、視力は改善しなかった。・網膜血管は次第に減少し、深部網膜にびまん性の小さな白い斑点状病変が現れた。・OCTで、外顆粒層の菲薄化とエリプソイドゾーンの消失が認められた。・網膜電図は記録できなかった。・これらの所見から、とくに外節の光受容体の重篤な機能障害が示唆された。・血清のウェスタンブロット法の結果、光受容体のカルシウム結合タンパク質であるリカバリンの抗体が検出された。

167.

Dr.宮本のママもナットク!小児科コモンプラクティス

第1回 熱性けいれん 第2回 運動発達の遅れ 第3回 母乳育児と体重増加不良 第4回 発達障害 第5回 食物アレルギー 第6回 子どもの風邪薬 子どもの診療には単に病気を治すという以上の難しさがあります。診断や薬剤の選択だけでなく、慌てるお母さんへ説明してもなかなか納得してもらえなくて困ったことはありませんか? このDVDでは、小児科専門医である宮本雄策先生が、小児を診療しているとよく出合う問題をピックアップし、臨床上のポイントをわかりやすくレクチャーします。それだけでなく、お母さんに対しての接し方や説明の仕方をロールプレーで実演するので、実際の診療に役立つこと間違いなしです。 宮本先生によるGノート(羊土社)での好評連載「小児科医 宮本先生,ちょっと教えてください!」との連動企画!ぜひGノートもチェックしてください!第1回 熱性けいれん2回目の熱性けいれんを起こした2歳児の母親が、診察室に駆け込んできました。「坐薬使ったほうがいい?」と心配しています。子どもはけいれんがおさまって、すっかり元の状態です。さてこんなとき、どんな対応をすればよいのでしょうか?熱が出たらすぐにジアゼパムを投与?慌てているお母さんを落ち着かせるためには?小児科専門医の宮本雄策先生が、わかりやすくレクチャーします。第2回 運動発達の遅れ 「1歳の息子がまだハイハイもつかまり立ちもしない」と話すお母さん。発達の遅れが疑われる子どもに対して、どんなところを確認すればよいのでしょうか?ポイントは、消えるべき反射、出現すべき反射。宮本先生が実際に行っているお母さんへの説明の仕方をぜひ参考にしてください。第3回 母乳育児と体重増加不良 母乳育児を続けたお母さんが、4ヵ月検診で「赤ちゃんの体重が増えてない」と怒られたとのこと。まず確認するのは、赤ちゃんの成長曲線です。どのような経過をたどれば正常で、どのような状況だと母乳不足なのか。大切なのは、「成長の過程を見る」ことです。第4回 発達障害 最近、「落ち着きがない」「集団生活になじめない」と、発達障害を心配して相談にくる親子が増えています。そもそも、発達障害とは何でしょうか?発達障害の子どもは叱ってはいけない?情報が錯綜する分野だからこそ、しっかりと筋道立てた宮本先生の解説はまさに納得です。第5回 食物アレルギー 外出先で親子丼を食べたら蕁麻疹が出た1歳6ヵ月の男児。即時型症状のある食物アレルギーの診断においては、最初の問診が重要です。いつ、何を、どのくらい食べて、症状が出たか。今までに食べられたものをきちんと確認しましょう。「もうその食材は食べさせられないの?」と心配するお母さんへの対応も必見です。第6回 子どもの風邪風邪症状の1歳6ヵ月男児。風邪薬をまったく飲まなくなったと、お母さんが困っています。薬を飲ませるときの宮本先生おすすめの方法や、それぞれの薬のメリットとデメリットについてわかりやすく解説。抗ヒスタミン薬を処方する際の、宮本先生が実践しているルールはとても参考になります。

168.

脳卒中後の慢性期失語、集中的言語療法が有効/Lancet

 70歳以下の脳卒中患者の慢性期失語症の治療において、3週間の集中的言語療法は、言語コミュニケーション能力を改善することが、ドイツ・ミュンスター大学のCaterina Breitenstein氏らが行ったFCET2EC試験で示された。失語症の治療ガイドラインでは、脳卒中発症後6ヵ月以降も症状が持続する場合は集中的言語療法が推奨されているが、治療効果を検証した無作為化対照比較試験は少ないという。Lancet誌オンライン版2017年2月27日号掲載の報告。従来の言語療法と比較する無作為化試験 FCET2EC試験は、年齢18~70歳、虚血性または出血性脳卒中の発症後6ヵ月以上持続する慢性期失語症(アーヘン失語症検査[AAT]で判定)がみられる患者を対象に、集中的言語療法の日常的な言語コミュニケーション能力の改善効果を評価する多施設共同無作為化対照比較試験(ドイツ連邦教育研究省などの助成による)。 被験者は、通常治療下に、3週間以上の集中的言語療法(≧10時間/週)を行う群(介入群)または同様の治療を3週間遅れて開始する群(対照群)に無作為に割り付けられた。言語療法は、研究グループが作成したマニュアルに従って、専門のセラピストが個別の患者およびグループで行った。対照群は、待機中の3週間、従来の言語療法を受けた。 主要評価項目は、日常的な言語コミュニケーション能力(Amsterdam-Nijmegen Everyday Language Test[ANELT]A-scaleで判定)のベースラインから治療終了時までの変化とした。解析には、1日以上の治療を受けた全患者が含まれた。 2012年4月1日~2014年5月31日に、ドイツの19の入院/外来リハビリテーション施設で156例が登録され、両群に78例ずつが割り付けられた。言語能力、患者知覚QOLも改善 ベースラインの平均年齢は、介入群が53.5(SD 9.0)歳、対照群は52.9(SD 10.2)歳、女性がそれぞれ59%、69%を占めた。脳卒中の重症度(修正Rankinスケール[mRS])は、両群とも2(2~3)、脳卒中発症後の経過期間中央値は介入群が43.0ヵ月(IQR:16.0~68.3)、対照群は27.0ヵ月(13.0~48.8)であり、虚血性脳卒中がそれぞれ58%、72%だった。 言語療法は、全体で3~10週間行われ(期間中央値:介入群4.8週[IQR:3.0~5.6]、対照群4.0週[3.0~5.0])、このうち3週間の集中的言語療法は22.5~49.0時間実施された(期間中央値:介入群31.0時間[30.0~34.5]、対照群32.0時間[30.0~34.6])。対照群は、待機中の3週間、従来の言語療法を0~22.5時間受けた。それぞれ92%、94%の患者が、6ヵ月時に言語療法を継続していた(1.0時間[IQR:0.6~1.7]/週)。 言語コミュニケーション能力は、介入群ではベースラインに比べ3週間の集中的言語療法により有意に改善した(ANELT Aスコアの平均差:2.61[SD 4.94]点、95%信頼区間[CI]:1.49~3.72、p<0.0001)のに対し、対照群(従来言語療法期間)では3週後に有意な効果はみられず(-0.03[SD 4.04]点、-0.94~0.88、p=0.95)、両群間に有意な差が認められた(p=0.0004、効果量[Cohen’s d]:0.58)。また、対照群も、3週間の集中的言語療法後に、介入群と同様の言語コミュニケーション能力の改善効果が得られた。 全体で、ベースラインから3週間の集中的言語療法終了時までにANELT Aスコアが3点以上改善した患者は44%(69/156例)であり、同様の期間に3点以上低下(増悪)した患者は10%(16/156例)だけだった。 また、3週間の集中的言語療法により、言語能力(Sprachsystematisches APhasieScreening[SAPS]:音韻、語彙、統語法、言語理解、言語産出)の総合スコア(p<0.0001、Cohen’s d:0.73)および患者知覚QOL(Stroke and Aphasia Quality of Life Scale-39[SAQOL-39]:身体機能、コミュニケーション、心理社会、活力)の総合スコア(p=0.0365、Cohen’s d:0.27)が有意に改善された。 有害事象は、集中治療中の介入群が6%(5例:風邪1例、消化管または心臓の症状3例、治療開始前の脳卒中の再発1例)、待機中および集中治療中の対照群は3%(2例:自動車事故1例、風邪1例)に認められ、割り付け前に脳卒中の再発が1例にみられたが、いずれも試験への参加とは関連がなかった。 著者は、「有益な治療効果を得るための最小限の治療強度を調査し、反復介入期間以降も治療効果が持続するかを検証するために、さらなる研究を要する」としている。

169.

クレヨンしんちゃん【ユーモアのセンス】Part 3

しんちゃんから学ぶユーモアのコツここから、すでにユーモアの「エリート」のしんちゃんから学ぶユーモアのコツを3つに整理してみましょう。どれも明日からすぐに使える基本モデルです(表2)。(1)わざと大げさしんちゃんが父ひろしといっしょに竹馬をつくるシーン。父が「まず竹を切る。そこをしっかり押さえてくれ」と言うと、「オラ切りたい。オラ切りたい」「オラに切らせないと親子の縁切るぞ」と騒ぎます。また、しんちゃんがお茶の葉を入れようとして、筒ごとひっくり返してしまいます。険しい表情の母みさえに、しんちゃんは「お茶ちゃが飛び降り自殺した・・・」と神妙な顔をします。1つ目は、このようにわざと大げさにする、誇張です。これには、さらに3つの要素があります。a. 見た目1つ目は、表情と身振りなどの見た目です(非言語的コミュニケーション)。相手と接する時に、表情を豊かにして、手を広げるなど身振り手振りを大きくすると、エネルギッシュで存在感が増します。イメージとしては、オーバーリアクションなアメリカ人で、落ち着きがないくらいを心がけると良いでしょう。b. 口調2つ目は、声の大きさや速さなど口調です(準言語的コミュニケーション)。声は大きく、早さに緩急付けると、エネルギッシュで存在感が増します。例えば、以下のように促音(小さい「っ」)や擬音、さらにはその合わせワザを意識して使うことです。促音・にほん→にっぽん ・とても→とっても ・めちゃ→めっちゃ擬音+促音・ドキドキ→ドッキドキ ・ボコボコ→ボッコボコ ・サクサク→サックサクまた、「よっ!ニッポンイチ!」「待ってましたっ!」などの掛け声、いわゆるガヤは、中身はほとんどないですが、口調によっては、場の空気を盛り上げるために、重要な役割があります。c. 発言内容3つ目は、発言内容そのものです(言語的コミュニケーション)。極端に言いすぎてしまうことで、おかしさが生まれると同時に、エネルギッシュで存在感が増します。例えば、以下のように、あえて大げさに言っていることが分かりやすいことです。暑い→雪男が来たら即死よ会議がうまくまとまった時→やっぱ私は宇宙一のリーダーだわ繰り返しのミスを指摘する→もう何回言わせる?これで3億回目よ!失敗が続く→一緒にお祓いに行こうか?しどろもどろ→朝からお酒飲んでない?以上の3つの要素の中で、1番重要なのは3つ目の言葉の内容そのものと思われがちです。しかし、実際は、見た目55%、口調38%、発言そのもの7%の順に重要なのです。これは、メラビアンの法則と呼ばれています(表1)。つまり、相手を楽しませるには、まず雰囲気作りが大事だということです。つまり、大げさな見た目と口調でウォーミングアップをしておいて、大げさなことを言う雰囲気をつくることです。ちなみに、メラビアンの法則の根拠を進化心理学的に考えることができます。それは、私たちの祖先が言葉を使う言語的コミュニケーションを始めたのは、喉の構造が進化したごく最近の20万年前です。一方、表情、身振り手振り、態度などの非言語的コミュニケーションは、すでに社会脳が進化した300万年前からです。つまり、非言語的コミュニケーションの方が圧倒的に、進化の歴史が長く、それだけ影響力が大きいと言えます。(2)わざとぼかす母みさえが風邪気味の時、しんちゃんは「母ちゃん、顔が悪いぞ」と真剣に心配します。すると、「『顔色が』でしょ!!」「ツッコませないでよ。熱があるんだから」とリアクションします。また、休日、寝ている父ひろしに、遊んでほしいしんちゃんが「父ちゃん」「ひらめ・くつでしょ」と尋ねます。すると父が「まあな」と言いつつ「たい・くつだろ」とツッコミます。2つ目は、このようにわざとぼかす、ほのめかしです。これは、ストレートに言うと角が立つ言葉をあえてぼかして伝え、相手に察するよう仕向けることです。みなさんの中には、そんなにすぐに発想できないとみなさんは思うでしょうか? まずは、ほのめかしの言い回しのストックをたくさんため込みましょう。それを状況に応じてアレンジするのです。これは、ほのめかしの引き出しとも言えます。これには、さらに3つの要素があります。a. 遠回し1つ目は、遠回しです。例えば、以下のように、状況を違った側面から指摘することです。(仕事中に寝てしまっている人に対して)寝ないで!→お疲れでいらっしゃいますね。(会議中におしゃべりしている人たちに)静かに!→何か良い意見がありそうですか?(会議中にノートに落書きをしている人に)落書きしないで!→絵、うまいですね。b. 特徴例え2つ目は、特徴例えです。これは、比較的に簡単です。普段から心の中で、相手のニックネームを付けるように心がけましょう。以下の例を参考にしてください。明るい→満開の桜みたい香水が強い→大人の雰囲気が溢れ出ているさわやか→洗い立てのふかふかのタオル頼りになる→お腹が痛い時の正露丸記憶力が良い→この病棟のスーパーコンピューターc. 状況例え3つ目は、状況例えです。これは、特徴例えの応用になります。以下の例を参考にしてみましょう。出してくれたお茶がおいしい→もしかして・・・そこに千利休、いる?遅い→雨の日の宅配ピザみたいに待ち遠しいな正座して足がしびれる→生まれたての子羊ね歯に詰まったネギ→歯茎からネギ生えてます。そろそろ収穫の時期かあ鼻毛→ゴキブリの足出てません?飼ってました?怒りで我を忘れた→一瞬、信長が乗り移ったわ(3)わざとはっきりさきほどのしんちゃんがお茶の葉をこぼしたシーンの後に、母みさえが「そうか~ママにお茶を入れてくれようとしたのか・・・ありがとう」とフォローします。すると、しんちゃんは「そうだぞ、えっへん」と偉そうにします。そしてみさえは「いばるなフフ」と微笑みます。また、しんちゃんが好意を寄せるななこちゃんから「しんちゃん、お手伝いしてえらーい」と褒められると、しんちゃんは「いえ、当然のことですから」と好青年ぶります。そして、みさえから「こーゆーことか」とツッコミが入るのです。3つ目は、このようにわざとはっきり、同感、共感です。これは、当たり前で分かりやすい気持ちを共有する言葉かけをすることで緊張を和らげることです。これには、さらに3つの要素があります。a. 本音1つ目は、本音です。周り(相手)との緊張感を俯瞰してストレートに言い当ててほっとさせることです。これには、皮肉や嫌味にならないように注意する必要があります。会議でみんなが沈黙する→換気扇の音ってけっこう良い音ね上司にゴマをすった時→私、好かれたいんです飲み会の座敷で靴を脱いだ時に靴下に穴が空いているのを自覚→はっ!靴下に穴が空いてる!恥ずかしい~b. ナンセンス2つ目は、ナンセンスです。これは、その言葉通り、無意味さのことで、ダジャレ、オヤジギャグ、一発ギャグを指します。これらは、一見、ただの幼稚な言葉遊びのように思われ、多くの人、特に女性からは敬遠されるかもしれません。しかし、ここで大事なことは、これらは単にウケを狙っていないということです。その目的は、相手にガクッと拍子抜けさせる脱力です。そして、そこから場の空気を和ませる共感につなげる意図があるのです。この発想に立てば、ナンセンスも決してくだらないものと決め付けることはできないでしょう。さらには、おもしろくないと思われても、自分から笑うという誘い笑いも効果的です。強いハートで身を削ってオヤジギャクを連発する姿に、周りはいずれ心を打たれるでしょう。特に流行り言葉は効果的です。逆に、あえて死語を使うのも効果的です。「コピーはA4で良いですか?」という質問に→ええよん。会議前の自己紹介で→○○さんだゾ!朝の挨拶に→おはヨーグルトc. お約束3つ目はお約束です。これは、決まり切った言い回しのやり取りをすることです。一種のじゃれ合いです。これも特に流行り言葉は効果的です。明日も来てくれるかな→いいとも~もう待たなくて良いですか?→ちょっと待って、ちょっと待って、おにいさん!大丈夫ですかね?→安心してください。準備してますよ。未来の賢さとは?20世紀の人間の賢さは、記憶力や情報処理能力が大きな割合を占めていました。しかし、21世紀の現在は、記憶をそんなにしなくても、手軽にスマホで検索して、知識を得ることができるようになりました。また、すでに単純作業は機械化されていますし、さらに、より複雑な情報処理が必要な作業も、近い将来に人口知能がやるでしょう。つまり、これからの時代に求められるのは、記憶や情報処理などの知識のコレクションではないです。すでにコレクションされた知識をどう使いこなすかというマネージメントです。例えば、それは、積極性、創造性、そしてコミュニケーション能力を生かして、遊び心を持って、生き生きとして周りを楽しませることです。その大切さを理解した時、私たちは、クレヨンしんちゃんから、より多くのことを学ぶことができるのではないでしょうか?<< 前のページへ1)クレヨンしんちゃん大全、20112)徳田克己:育児の教科書「クレヨンしんちゃん」、福村出版、20113)汐見稔幸:子育てにとても大切な27のヒント、クレヨンしんちゃん親子学、双葉社、20064)トレーシー・カチロー:最高の子育てベスト55、ダイヤモンド社、20165)雨宮俊彦:笑いとユーモアの心理学、ミネルヴァ出版、2016

170.

Dr.山本の感染症ワンポイントレクチャー Q37

Q37 ただの「風邪(ウイルスによる上気道感染症)」と言い切れるポイントはありますか? 言い切ることはできませんが、そもそも言い切る必要がありません。その時点で抗菌薬を処方するのとしないのでは、どちらのほうが利益が多そうかを判断します。 鼻症状(鼻汁、鼻閉)、咽頭症状(咽頭痛)、下気道症状(咳、痰)の3系統の症状が「同時」に、「同程度」存在する場合は、非特異的上気道炎、いわゆる普通感冒の可能性が高く、一般的に抗菌薬投与のメリットは極めて小さいです1)。 結果的に診断が間違っていることもあるかもしれません。しかし、間違っていたとしても、再診についての具体的な指示を行い、その後の経過をフォローすることによってリスクヘッジをするようにしています。近年、急性気道感染症における抗菌薬使用削減のための戦略として、Delayed Antibiotics Prescription (DAP:抗菌薬の延期処方)に関する報告が増えてきています。初診時に抗菌薬投与の明らかな適応がない急性気道感染症患者に対して、すぐに抗菌薬を処方した場合と、経過が思わしくない場合に抗菌薬を投与した場合を比べると、合併症や副作用、予期しない受診などの好ましくない転帰を増やすことなく抗菌薬処方を減らすことができるというものです2)3)4)。「抗菌薬を出さずに何かあったらどうするのか?」という疑問をもたれる方もいらっしゃるかもしれません。そんなときは「何か」って何なのか?を具体的に言語化することが大切です。言語化することにより対策を立てることができます。漠然と不安を感じているだけで、なんとなく抗菌薬を処方してもリスクをヘッジできているとは限りません。たとえば、風邪だと思ったら実は心筋炎だったとか、実は感染性心内膜炎だったとか、実はマラリアだったとか。診断を推定せずに闇雲に抗菌薬を処方することは、リスクをヘッジするどころかときに有害ですらあります。また、どんな抗菌薬にも副作用はあります。明らかな適応がないにもかかわらず処方した抗菌薬によって重大な副作用が出てしまう可能性もあります。「抗菌薬を出さずに何かあったらどうするのか?」の裏側には「抗菌薬を出して何かあったらどうするのか?」がつきまといます。私の場合は、上気道症状のある患者さんで抗菌薬の適応がなさそうだと思った場合は、「今のところ、抗菌薬が効かないタイプの風邪のようです」と伝え、経過が思わしくないようであればその時点での再評価が必要になることをお話しし、再診についての指示を行うようにしています。説明が面倒だからとりあえず抗菌薬を処方しておけばよいという考え方は、何のリスクヘッジにもなっておらず、ときに患者さんを危険にさらしている可能性すらあるので、お勧めできません。 1)Harris AM, et al. Ann Intern Med. 2016;164:425-434.2)Spurling GKP, et al.Cochrane Database Syst Rev. 2013;4:CD004417.3)Little P, et al. BMJ. 2014;348:g1606.4)de la Poza Abad M, et al. JAMA Intern Med. 2016;176:21-9.

171.

なぜ必要? 4番目のIFNフリーC肝治療薬の価値とは

 インターフェロン(IFN)フリーのジェノタイプ1型C型肝炎治療薬として、これまでにダクラタスビル/アスナプレビル(商品名:ダクルインザ/スンベプラ)、ソホスブビル/レジパスビル(同:ハーボニー)、オムビタスビル/パリタプレビル/リトナビル(同:ヴィキラックス)の3つが発売されている。そこに、今年3月の申請から半年後の9月に承認されたエルバスビル/グラゾプレビル(同:エレルサ/グラジナ)が、11月18日に発売された。治療効果の高い薬剤があるなかで、新薬が発売される価値はどこにあるのか。11月29日、MSD株式会社主催の発売メディアセミナーにて、熊田 博光氏(虎の門病院分院長)がその価値について、今後の治療戦略とともに紹介した。患者背景によらず一貫した有効性 エレルサ/グラジナは、国内第III相試験において、SVR12(投与終了後12週時点のウイルス持続陰性化)率が慢性肝炎患者で96.5%、代償性肝硬変患者で97.1%と高いことが認められている。また、サブグループ解析では、前治療歴、性別、IL28Bの遺伝子型、ジェノタイプ(1a、1b)、耐性変異の有無にかかわらず、一貫した有効性が認められており、慢性腎臓病合併患者、HIV合併患者においても、海外第III相試験で95%以上のSVR12率を示している。IFNフリー治療薬4剤の効果を比較 しかしながら、すでにIFNフリー治療薬が3剤ある状況で、新薬が発売される価値はあるのかという疑問に、熊田氏はまず4剤の効果を治験成績と市販後成績で比較した。 薬剤耐性(NS5A)なしの症例では、治験時の各薬剤の効果(SVR24率)は、ダクルインザ/スンベプラが91.3%、ハーボニーが100%、ヴィキラックスが98.6%、エレルサ/グラジナが98.9%であり、実臨床である虎の門病院での市販後成績でも、ダクルインザ/スンベプラが94.0%、ハーボニーが98.2%、ヴィキラックスが97.7%(SVR12率)と、どの薬剤も良好であった。 一方、薬剤耐性(NS5A)保有例の治験時の成績は、ダクルインザ/スンベプラが38%、ハーボニーが100%、ヴィキラックスが83%、エレルサ/グラジナが93.2%であり、虎の門病院の市販後成績では、ダクルインザ/スンベプラが63.7%、ハーボニーが89.6%、ヴィキラックスが80.0%(SVR12率)であった。熊田氏は、「治験時の100%よりは低いがハーボニーが3剤の中では良好であるのは確かであり、実際に使用している患者も多い」と述べた。副作用はそれぞれ異なる 次に、熊田氏は虎の門病院での症例の有害事象の集計から、各薬剤の副作用の特徴と注意点について説明した。 最初に発売されたダクルインザ/スンベプラは、ALT上昇と発熱が多く、風邪のような症状が多いのが特徴という。 ハーボニーは、ALT上昇は少ないが、心臓・腎臓への影響があるため、高血圧・糖尿病・高齢者への投与には十分注意する必要があり、熊田氏は「これがエレルサ/グラジナが発売される価値があることにつながる」と指摘した。 ヴィキラックスは、心臓系の副作用はないが、腎障害やビリルビンの上昇がみられるのが特徴である。また、Ca拮抗薬併用患者で死亡例が出ているため、高血圧症合併例では必ず他の降圧薬に変更することが必要という。 発売されたばかりのエレルサ/グラジナについては、今後、症例数が増えてくれば他の副作用が発現するかもしれないが、現在のところ、ALT上昇と下痢が多く、脳出血や心筋梗塞などの重篤な副作用がないのが特徴、と熊田氏は述べた。 このように、各薬剤の副作用の特徴は大きく異なるため、合併症による薬剤選択が必要となってくる。今後の薬剤選択 熊田氏は、各種治療薬の薬剤耐性の有無別の治療効果と腎臓・心臓・肝臓への影響をまとめ、「エレルサ/グラジナは、耐性変異の有無にかかわらず、ハーボニーと同等の高い治療効果を示すが、ハーボニーで注意すべき腎臓や心臓への影響が少なく、ここに新しい薬剤が発売される価値がある」と述べた。 また、今後の虎の門病院におけるジェノタイプ1型C型肝炎の薬剤選択について、「耐性変異なし、心臓・腎臓の合併症なし」の患者にはハーボニーまたはヴィキラックスまたはエレルサ/グラジナ、「NS5A耐性変異あり」の患者にはハーボニーまたはエレルサ/グラジナ、「腎障害」のある患者にはヴィキラックスまたはエレルサ/グラジナ(透析症例はダクルインザ/スンベプラ)という方針を紹介した。さらに、「NS5A耐性変異あり」の患者には、「これまではハーボニー以外に選択肢がなかったが、今後はエレルサ/グラジナが使用できるようになる。とくに心臓の合併症がある場合には安全かもしれない」と期待を示した。

172.

可愛い孫は、肺炎を持ってくる

孫の世話に疲れる高齢者 大都市の待機児童の問題にみられるように、保育園や幼稚園に入所できず、祖父母に子供を預ける共働き世帯も多い。また、地方では、2世帯同居が珍しくなく、日中、孫の育児を祖父母がみるという家庭も多い。そんななか、預かった孫の世話に追われ、体力的にも精神的にも疲れてしまう「孫疲れ」という現象が、最近顕在化しているという。晩婚化のため祖父母が高齢化し、体力的に衰えてきているところに、孫の育児をすることで、身体が追いついていかないことが原因ともいわれている。家庭内で感染する感染症 そして、孫に疲れた高齢者に家庭内、とくに孫から祖父母へうつる感染症が問題となっている。子供は、よく感染症を外からもらってくる。風邪、インフルエンザをはじめとして、アデノウイルス、ノロウイルス、帯状疱疹など種々の細菌、ウイルスが子供への感染をきっかけに家庭内に持ち込まれ、両親、兄弟、祖父母へと感染を拡大させる。 日頃孫の面倒をみていない祖父母でも、お盆や年末、大型連休などの帰省シーズンに帰ってきた孫との接触で感染することも十分考えられ、連休明けに高齢者の風邪や肺炎患者が外来で増えているなと感じている医療者も多いのではないだろうか1)。ワクチンで予防できる肺炎 なかでも高齢者が、注意しなくてはいけないのが「肺炎」である。肺炎は、厚生労働省の「人口動態統計(2013年)」によれば、がん、心疾患についで死亡原因の第3位であり、近年も徐々に上昇しつつある。また、肺炎による死亡者の96.8%を65歳以上の高齢者が占めることから肺炎にかからない対策が望まれる。 日常生活でできる肺炎予防としては、口腔・上下気道のクリーニング、嚥下障害・誤嚥の予防、栄養の保持、加湿器使用などでの環境整備、ワクチン接種が推奨されている。とくにワクチン接種については、高齢者の市中肺炎の原因菌の約4分の1が肺炎球菌と報告2)されていることから、2014年よりわが国の施策として、高齢者を対象に肺炎球菌ワクチンが定期接種となり、実施されている。 定期接種では、65歳以上の高齢者に23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(商品名:ニューモバックスNP)の接種が行われ、平成30年度まで経過措置として65歳から5歳刻みで区切った年齢の該当者に接種が行われる。定期接種の注意点と効果を上げるコツ 定期接種の際に気を付けたいことは、経過措置の期間中に接種年齢に該当する高齢者が接種を受けなかった場合、以後は補助が受けられず自己負担となってしまうことである(自治体によっては、独自の補助などもある)。また、過去にこのワクチンの任意接種を受けた人も、定期接種の対象からは外れてしまうので注意が必要となる。 そして、ワクチンの効果は約5年とされ、以後は継続して任意で接種を受けることが望ましいとされている。 このほか高齢者においては肺炎球菌ワクチンだけでなく、同時にインフルエンザワクチンも接種することで、発症リスクを減らすことが期待できるとされる3,4)。低年齢の子供へのインフルエンザワクチンの接種により、高齢者のインフルエンザ感染が減少したという報告5)と同様に肺炎球菌ワクチンでも同じような報告6)があり、今後のワクチン接種の展開が期待されている。 普段からの孫との同居や預かり、連休の帰省時の接触など、年間を通じて何かと幼い子供と接する機会の多い高齢者が、健康寿命を長く保つためにも、高齢者と子供が同時にワクチンを接種するなどの医療政策の推進が、現在求められている。 この秋から冬の流行シーズンを控え、今から万全の対策が望まれる。(ケアネット 稲川 進)参考文献 1)Walter ND, et al. N Engl J Med. 2009;361:2584-2585. 2)日本呼吸器学会. 成人市中肺炎診療ガイドライン. 2007;15. 3)Maruyama T, et al. BMJ. 2010;340:c1004. 4)Kawakami K, et al. Vaccine. 2010;28:7063-7069. 5)Reichert TA, et al. N Engl J Med. 2001;344:889-896. 6)Pilishvili T, et al. J Infect Dis. 2010;201:32-41.参考サイト ケアネット・ドットコム 特集 肺炎 厚生労働省 肺炎球菌感染症(高齢者):定期接種のお知らせ 肺炎予防.JP

173.

イワケンの「極論で語る感染症内科」講義

第1回 なぜ極論が必要なのか? 第2回 あなたはなぜその抗菌薬を出すのか 第3回 その非劣性試験は何のためか 第4回 急性咽頭炎の診療戦略のシナリオを変えろ! 第5回 肺炎・髄膜炎 その抗菌薬で本当にいいのか? 第6回 CRPは何のために測るのか 第7回 急性細菌性腸炎 菌を殺すことで患者は治るのか第8回 ピロリ菌は除菌すべきか第9回 カテ感染 院内感染を許容するな 第10回 インフルエンザ 検査と薬の必要性を考えろ 第11回 HIV/AIDS 医療者が知っておくべきHIV/AIDS診療の今 きょく ろん 【極論】1.極端な議論。また,そのような議論をすること。極言。2.つきつめたところまで論ずること。           大辞林第3版(三省堂)イワケンこと岩田健太郎氏が感染症内科・抗菌薬について極論で語ります。「この疾患にはこの抗菌薬」とガイドラインどおりに安易に選択していませんか?それぞれ異なった背景を持つ患者にルーチンの抗菌薬というのは存在するはずがありません。抗菌薬が持つ特性や副作用のリスクなどを突き詰めて考え、相対比較をしながら目の前の患者に最適なものを特定することこそが、抗菌薬を選択するということ。イワケン節でその思考法をたたきこんでいきます。※本DVDの内容は、丸善出版で人気の「極論で語る」シリーズの講義版です。 書籍「極論で語る感染症内科」は2016年1月丸善出版より刊行されています。  http://pub.maruzen.co.jp/book_magazine/book_data/search/9784621089781.html第1回 なぜ極論が必要なのか? 抗菌薬選択、感染症治療に関してなぜ“極論”が必要なのかをイワケンが語ります。これまでの感染症の診断・治療の問題点を指摘しながら、どういう方向に向かっていかなければならないのか、何をすればよいのかを示していきます。“感染症とはなにか”が理解できる内容です。第2回 あなたはなぜその抗菌薬を出すのか抗菌薬を処方するとき、何を基準に選択していますか?ほとんどの場合において「スペクトラム」を基準にしていることが多いのではないでしょうか?否。本当にそれでいいのでしょうか。移行性、時間依存性、濃度依存性などの抗菌薬が持つ特性や副作用のリスクなどを突き詰めて考え、、相対比較をしながら最適なものを特定することこそが、抗菌薬を選択するということ。イワケン節でその思考法をたたきこみます。第3回 その非劣性試験は何のためか近年耳にする機会が増えている「非劣性試験」。既存薬よりも新薬の効果のほうが劣っていないことを示す試験で、新薬が主要な治療効果以外に何らかの点で優れているということを前提としてが実施するものである。本来患者の恩恵のために行われるべきこの試験が価値をもたらすことは当然ある。しかしながら、臨床的には意味の小さいいわゆる「me too drug」を増やす道具になりかねないということも、また事実である。この試験のあり方にイワケンが警鐘を鳴らす。第4回 急性咽頭炎の診療戦略のシナリオを変えろ!いよいよ疾患の診療戦略に入っていきます。まずは誰もが診たことのある急性咽頭炎。急性咽頭炎の診療において、溶連菌迅速検査の結果が陽性の場合は、抗菌薬(ペニシリン系)を投与を使用し、陰性の場合は、伝染性単核球症などとして、抗菌薬を使用しないという治療戦略が一般的。しかし、細菌性の急性咽頭炎の原因菌は「溶連菌」だけではなかった!つまり、検査が陰性であっても、抗菌薬が必要な場合もある!ではそれをどのように見つけ、診断し、治療するのか?イワケンが明確にお答えします。第5回 肺炎・髄膜炎 その抗菌薬で本当にいいのか?今回は、肺炎と髄膜炎の診療戦略について見ていきます。風邪と肺炎の見極めはどうするか?グラム染色と尿中抗原検査、その有用性は?また、髄膜炎のセクションでは、抗菌薬の選択についてイワケンが一刀両断。細菌性髄膜炎の治療に推奨されているカルバペネム。この薬が第1選択となったその理由を知っていますか?そこに矛盾はないでしょうか?ガイドライン通りに安易に選択していると、痛い目を見るかもしれません。番組最後には耐性菌についても言及していきます。第6回 CRPは何のために測るのか炎症の指標であるCRPと白血球は感染症診療において多用されている。多くの医療者は感染症を診るときに、白血球とCRPしか見ていない。CRPが高いと感染症と判断し、ある数値を超えると一律入院と決めている医療機関もある。しかし、それで本当に感染症の評価ができていると言えるのだろうか。実例を挙げながらCRP測定の意義を問う。第7回 急性細菌性腸炎 菌を殺すことで患者は治るのか細菌性腸炎の主な原因菌は「カンピロバクター」。カンピロバクターはマクロライドに感受性がある。しかし、臨床医として、安易にマクロライドを処方する判断をすべきではない。抗菌薬で下痢の原因菌を殺し、その抗菌薬で下痢を起こす・・・。その治療法は正しいといえるのか?イワケン自身がカンピロバクター腸炎に罹患したときの経験を含めて解説します。第8回 ピロリ菌は除菌すべきか世の中は「ピロリ菌がいれば、とりあえず除菌」といった圧力が強い。ピロリ菌が胃炎や胃潰瘍、さらには胃がんなど多様な疾患の原因となる菌であるからだ。一方で、ピロリ菌は病気から身を守ってくれている存在でもあるのだ。そのピロリ菌をやみくもに除菌することの是非を、イワケンの深い思考力で論じる。第9回 カテ感染 院内感染を許容するなカテーテルを抜去して解熱、改善すればカテ感染(CRBSI:catheter-related blood stream infection)と定義する日本のガイドライン。また、カテ感染はカテーテルの感染であると勘違いされている。そんな間違いだらけの日本のカテ感染の診療に、イワケンが切り込む。限りなくゼロにできるカテ感染(CRBSI)。感染が起こることを許容すべきではない。第10回 インフルエンザ 検査と薬の必要性を考えろインフルエンザの診療において迅速キットを使って診断、そして、陽性であれば抗インフルエンザ薬。そんなルーチン化した診療にイワケンが待ったをかける。今一度検査と抗インフルエンザ薬の必要性と意義を考えてみるべきではないだろうか。また、イワケンの治療戦略の1つである、「漢方薬」についても解説する。第11回 HIV/AIDS 医療者が知っておくべきHIV/AIDS診療の今HIV/AIDSの診療は劇的に進化し、薬を飲み続けてさえいれば天寿をまっとうすることも可能となった。そのため、HIV/AIDS診療を専門としない医師であっても、そのほかの病気や、妊娠・出産などのライフイベントで、HIV感染者を診療する機会が増えてきているはず。その患者が受診したとき、あなたはどう対応するのか。そう、医療者として、“患者差別”は許されない!普段通りの診療をすればいいのだ。しかしながら、薬の相互作用や患者心理など、気をつけるべきことを知っておく必要はある。その点を中心に解説する。

174.

その症状、夏風邪ではなく肺炎かもしれない

 「夏風邪は長引く」と慣用句的に言われるが、診察室に来た高齢の患者が長引く発熱や咳の症状を訴えた時、急性上気道炎と決めてかかるのは危険かもしれない。6月30日、都内でファイザー株式会社がプレスセミナー「夏風邪かと思っていたら肺炎に!? 高齢者が注意すべき夏の呼吸器疾患の最新対策」を開催した。講演に登壇した杉山 温人氏(国立国際医療研究センター病院 呼吸器内科診療科長)は、「肺炎はワクチンで予防できる呼吸器疾患だが、当事者である高齢患者たちはワクチン接種の必要性を感じておらず、接種を勧めたい医療者の認識との間に大きな乖離がある」と述べた。急性上気道炎(感冒)との鑑別が紛らわしい肺炎 いまや肺炎は、がん、心疾患に続く日本人の死因第3位となっている。また、肺炎はその死亡の96.9%を高齢者が占めている。高齢者の肺炎は、若年者や中高年者の肺炎と異なり、罹患がADLの低下や心身の機能低下へと連鎖し、寝たきりや、認知症の進行といった悪循環に陥りやすいという特徴がある。 杉山氏によると、夏風邪と紛らわしい肺炎の鑑別にはとくに注意が必要だという。問診時に聞き取るポイントとして、発熱期間(風邪が数日~1週間程度であるのに対し、肺炎は1週間以上続く)や痰の色(肺炎の場合は黄~緑色、鉄さび色)などが挙げられる。しかし、高齢者の場合には、無熱性の場合があることも鑑別を難しくしており、意識障害のみで搬送され、肺炎と診断されたケースもあるという。肺炎への危機感が希薄な高齢者 肺炎の主な原因菌は何なのか。65歳以上の市中肺炎で入院したケースをみると、インフルエンザ菌や黄色ブドウ球菌などと比べても、肺炎球菌が圧倒的に多い。大学病院における医療・介護関連肺炎(NHCAP)についても同様に、肺炎球菌が最も多いことが過去の調査から明らかになっている。 2014(平成26)年10月から、65歳以上の高齢者を対象に肺炎球菌ワクチンが定期接種化(65歳より5歳刻み)されたが、ファイザーが同年11月に行ったインターネット調査によると、65~70歳の男女600人のうち、肺炎球菌ワクチンを接種したことがある人は、70歳で14%、65歳ではわずか3%にとどまった。さらに、肺炎にかかる可能性を感じているかと尋ねたところ、「感じている」と答えた人は70歳では10%、65歳では5%にとどまり、危機感がきわめて希薄である実情も浮き彫りになった。複雑なワクチン接種フローが課題 国内で承認されている肺炎球菌ワクチンは、13価結合型ワクチン(商品名:プレベナー)と、23価多糖体ワクチン(同:ニューモバックス)の2種類があるが、65歳以上の肺炎球菌ワクチン接種で公費対象となっているのは23価ワクチンのみである。一方、13価ワクチンは小児(生後2ヵ月~6歳未満)の定期接種で使用されており、優れた免疫応答と長期的な免疫記憶の獲得が特徴である。 杉山氏は「作用機序が異なるプレベナーとニューモバックス、2種類をうまく組み合わせて肺炎球菌に対する抵抗力を維持することが肝要である」と強調。さらに、定期接種はニューモバックスのみでプレベナーは任意接種であるために、ワクチン接種のフローが複雑になっている課題を指摘し、「現場の運用はシンプルであるべき。ニューモバックスだけでなく、プレベナーについても定期接種化を望みたい」と述べた。

175.

1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第28回

第28回:子供の発疹の見分け方監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 小児科医、皮膚科医でなくとも、子供の風邪やワクチン接種の時などに、保護者から皮膚トラブルの相談をされることがあると思います。1回の診察で診断・治療まで至らないことがあっても、助言ぐらいはしてあげたいと思うのは私だけではないと思います。文章だけでははっきりしないことも多いため、一度、皮膚科のアトラスなどで写真を見ていただくことをお勧めします。 以下、American Family Physician 2015年8月1日号1) より子供の発疹は見た目だけでは鑑別することが難しいので、臨床経過を考慮することが大切である。発疹の外観と部位、臨床経過、症状を含め考慮する。発熱は、突発性発疹、伝染性紅斑、猩紅熱に起こりやすい。掻痒はアトピー性皮膚炎やばら色粃糠疹、伝染性紅斑、伝染性軟属腫、白癬菌により起こりやすい。突発性発疹のキーポイントは高熱が引いた後の発疹の出現である。体幹から末梢へと広がり1~2日で発疹は消える。ばら色粃糠疹における鑑別は、Herald Patch(2~10cmの環状に鱗屑を伴った境界明瞭な楕円形で長軸が皮膚割線に沿った紅斑)やクリスマスツリー様の両側対称的な発疹であり、比較的若い成人にも起こる。大抵は積極的な治療をしなくても2~12週間のうちに自然治癒するが、白癬菌との鑑別を要する場合もある。上気道症状が先行することが多く、HSV6.7が関与しているとも言われている。猩紅熱の発疹は大抵、上半身体幹から全身へ広がるが、手掌や足底には広がらない。膿痂疹は表皮の細菌感染であり、子供では顔や四肢に出やすい。自然治癒する疾患でもあるが、合併症や広がりを防ぐために抗菌薬使用が一般的である。伝染性紅斑は、微熱や倦怠感、咽頭痛、頭痛の数日後にSlapped Cheekという顔の発疹が特徴的である(筆者注:この皮疹の形状から、日本ではりんご病と呼ばれる)。中心臍窩のある肌色、もしくは真珠のようなつやのある白色の丘疹は伝染性軟属腫に起こる。接触による感染力が強いが、治療せずに大抵は治癒する。白癬菌は一般的な真菌皮膚感染症で、頭皮や体、足の付け根や足元、手、爪に出る。アトピー性皮膚炎は慢性で再燃しやすい炎症状態にある皮膚で、いろいろな状態を呈する。皮膚が乾燥することを防ぐエモリエント剤(白色ワセリンなど)が推奨される。もし一般的治療に反応がなく、感染が考えられるのであれば組織診や細菌培養もすべきであるが、感染の証拠なしに抗菌薬内服は勧められない。※本内容にはプライマリ・ケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) Allmon A, et al. Am Fam Physician. 2015;92:211-216.

176.

ポリオワクチンの追加接種を4歳時に

 2016年2月18日、サノフィ株式会社は「『ポリオ』未だ残る日本のワクチンギャップ解消へ~グローバル化の進展に伴い、高まる子どもの感染症リスク」と題し、都内でプレスセミナーを開催した。 ポリオ(急性灰白髄炎)は、小児期にかかることが多い感染症で、重い後遺症を残すことから「小児麻痺」とも呼ばれている。セミナーでは、諸外国と異なる日本のワクチン接種の現状について、小児感染症のエキスパートがレクチャーを行った。ポリオが輸入感染症になる日 「海外における最新の予防接種動向と日本に残る“ワクチンギャップ”」と題し、中野 貴司氏(川崎医科大学小児科学 教授)が解説を行った。 「わが国では、『暗黒の20年』と呼ばれるように、小児へのワクチン接種が、海外から遅れをとった時期があった」と過去を振り返りつつ、日本と米国の予防接種の状況を比較した。日米では、接種できるワクチンがほぼ同じである。しかしながら、日本ではまだ任意接種のレベルであるロタウイルス、インフルエンザ、おたふく風邪などが、米国では定期接種となっていること、また、接種スケジュールについても、わが国が就学前に集中しているのに対し、米国では就学後でも定期接種が行われている点が異なると説明した。 続いて、ポリオに関して、WHO(世界保健機関)が2018年を目標に「ポリオ最終根絶計画」を打ち出し、全世界で封じ込め対策がとられている現状を紹介した。その一環として、多くの国で安価・簡単という理由で使用されている生(経口)ワクチンから、安全性が高く、ワクチンからの感染を起こさない不活化ワクチンへの切り替えが、全世界で進められている(わが国では2012年に不活化ワクチンに変更)。 現在確認されているポリオ発生地域として、野生株ウイルスではアフガニスタン、パキスタンが、ワクチン由来ウイルスではギニア、ラオス、ミャンマー、ウクライナなどが報告されており、こうした国々からの輸入感染が懸念されている。 ポリオは、症状が現れにくい感染症であり、不顕性の場合も多い。そのため、根絶宣言がなされた地域へ、非根絶地域から感染者が流入する可能性が危惧されている。実際に、過去、日本に飛来した航空機からポリオウイルスが検出された例もある。「今後、日本でさまざまなイベントが開催される中で、多くの外国からの入国者が見込まれる。今、こうした感染症への対策が求められている」と問題を提起した。4歳で再度ポリオワクチンの接種を 続いて、「不活化ポリオワクチン就学前接種を追加する意義」と題し、松山 剛氏(千葉県立佐原病院小児科部長)が解説を行った。 わが国のポリオ患者は、1960年代の生(経口)ポリオワクチンの導入以来、急激に減少し、1980年代以降はワクチン関連麻痺性ポリオの報告を除き、患者はみられなくなった。 また、現在わが国においてポリオワクチン接種は、3回の初回接種に加え、1歳以降に1回の追加接種が行われている。これは海外の追加2回接種と比べ、その回数が少ないことが以前より指摘されている。通常、乳幼児期の追加免疫接種後、上昇した抗体価は継時的に減衰する。そのため現在の接種回数は、抗体価の維持に不安を残すものであるという。 そこで、不活化ポリオワクチン(商品名:イモバックスポリオ皮下注)の追加接種(2回目)による免疫原性および安全性の検討が行われた(製造販売後臨床試験)1)。試験は、就学前の小児60例(男児35例、女児25例)を対象に不活化ポリオワクチンを皮下注射し、接種前と接種後1ヵ月後の変化をみたものである。 試験結果によれば、追加免疫反応率(接種前と比べ各抗体価が4倍以上上昇した被験者の割合)は、ポリオ1型~3型でいずれも78.0%以上に達し、発症防御レベル以上の中和抗体保有率も各型で100%だった。また、安全面では、注射部位反応として紅斑、腫脹が、全身性反応として倦怠感、発熱などが報告されたが、いずれも軽微なものだった。 先述のように、わが国では2回目の追加免疫接種が定期接種として実施されていない。しかし、欧米各国では、4歳以降に追加免疫接種が実施されている。米国予防接種諮問委員会(ACIP)の勧告や米国疾病管理予防センター(CDC)の推奨でも、4歳以上での追加免疫接種の必要性がうたわれている。日本全体のワクチン接種率をみると、就学前のほうが就学後と比較した場合、ワクチンの接種率が高く、4歳での接種は期待できる2)。 現在のように、海外からわが国へポリオウイルスが持ち込まれるリスクがある以上、「諸外国と同じように追加免疫接種を4歳以後に行うことで、ポリオ禍から子供たちを守ることが大切である」とレクチャーを終えた。詳しくはサノフィ株式会社プレスリリースまで(PDFがダウンロードされます)(ケアネット 稲川 進)参考文献1)佐々木津ほか.小児科臨床.2015;68:1557-1567.2)厚生労働省 定期の予防接種実施者数

177.

海外旅行で肺炎、請求は数千万円!

 MSD株式会社は、「シニアの海外旅行と肺炎~日頃の肺炎予防の重要性」をテーマに、11月19日、都内でプレスセミナーを開催した。シニア世代の海外旅行が増える中で、現地で肺炎を発症し、医療機関にかかるケースを紹介。どのようなリスクと対策があるのかを保険と医療のエキスパートが語った。治療費だけではない、海外旅行先での不慮の事態 はじめに加藤 修氏(ジェイアイ傷害火災保険株式会社)が、「シニアの海外旅行における事故と予防策」と題し、海外旅行先でシニアが遭遇する事故の傾向と特徴、そして、予防への取り組みについて説明を行った。 2014年度の海外旅行保険事故概況(ジェイアイ傷害火災保険調べ)によれば、事故発生率は3.53%(約28人に1人)に上り、その半数が治療・救援費用であること。また、最近、海外旅行先でシニアの事故が増加していると報告した(65歳以上と65歳未満では重症事故発生は65歳以上が約6倍)。そして、シニア旅行者が、旅先で入院など加療をした場合、治療費だけでなく、医療通訳や搬送費など費用がかさむことを指摘。たとえばシニア旅行者が、北米で肺炎に罹患し、約50日間入院・手術した場合、支払保険金額が約9,330万円に上った高額事例を紹介した。旅行前にリスク予防を啓発 シニア旅行者の事故原因は、転倒による外傷のほか、脳疾患、心疾患、肺炎が多く、高額保険金支払い上位5つのうち、4つまでがシニア旅行者であり、原因疾患も肺炎だったと報告した。そのため、同社では、予防に力を入れており、海外旅行保険への加入はもちろんのこと、渡航前のリスク情報の収集、肺炎球菌などのワクチンの積極接種、転倒防止などの事故予防グッズの購入、英文診断書作成などの渡航前健康準備をシニア旅行者に啓発している。とくに70歳以上の利用者には『健康・安全・保険情報BOOK』を配布し、実践してもらうことで、安全で楽しい旅をしてもらいたいとしている。インフルエンザ後の肺炎は要注意 続いて内藤 俊夫氏(順天堂大学医学部総合診療科 教授)が、「海外旅行者と高齢者肺炎」と題し、肺炎予防に焦点を当て、レクチャーを行った。 はじめに概要として、肺炎はわが国における死亡原因第3位であり、肺炎で亡くなった方の96.5%は65歳以上の高齢者である。肺炎の原因菌では、肺炎球菌が一番多く、ついでインフルエンザ菌であること、また、インフルエンザに罹患後、肺炎となる細菌性肺炎は予後が悪く、いわゆる「スペイン風邪」はこのタイプであり、臨床現場ではとくに注意が必要と語った。 こうしたインフルエンザや肺炎の発症予防・軽快のためにワクチンが存在するが、わが国ではワクチンの接種は、医療経済上の問題で進んでいない。 ワクチンの予防効果として、高齢者施設の入所者に対する23価肺炎球菌ワクチン(商品名:ニューモバックスNP)の予防効果に関する研究1)によれば、プラセボと比較し、肺炎発症減少率で63.8%、死亡減少率で100%だった。23価肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンの併用接種者と未接種者の肺炎による入院率を比較した研究2)では、未接種者が約9%に対し、併用接種者では約5%と減少効果が認められたと語った。迷ったらワクチン接種を わが国の肺炎球菌ワクチン接種状況をみると、長らく公的補助がなかったなどの要因により、接種率は全国平均で20.9%であり3)、欧米諸国の接種率50%超と比較すると、依然として低い。今後、定期接種の普及により欧米並みに接種率が上がることが期待される。 外来の現場でとくに高齢者にワクチン接種を勧めるタイミングとしては、初診時、健康診断時、退院時、インフルエンザ接種時、海外旅行時など5つの場面が想定される。その際、過去の接種歴が定かでない場合でも、接種は積極的に行ったほうが良いとされ、インフルエンザワクチンと同時に接種すると、より高い予防効果が得られる2)。 また、高齢者の海外旅行では、肺炎球菌ワクチンのほかにも肝炎ワクチン、トキソイドワクチンも考慮し、接種を勧めるようにお願いしたい。その際、少なくとも出発の2週間前には接種を受けておく必要がある。 最後に「日本の高齢者は元気な方も多く、医療機関に頻繁に通うわけではない。診療の場で的確に機会を捉え、ワクチン接種へ医療者から誘導してほしい」と述べ、レクチャーを終えた。肺炎球菌ワクチンに関しては、「肺炎予防.jp」まで(ケアネット 稲川 進)関連コンテンツケアネット・ドットコム 特集「肺炎」はこちら。参考文献1) Maruyama T, et al. BMJ.2010;340:c1004.2) Hung IF, et al. Clin Infect Dis.2010;51:1007-1016.3) Naito T, et al. J Infect Chemother.2014;20:450-453.

178.

甘くみていませんか、RSウイルス感染症

 10月1日、都内においてアッヴィ合同会社は、RSウイルス感染症に関するプレスセミナーを開催した。 セミナーでは、小保内 俊雅氏(多摩北部医療センター 小児科部長)が「秋から冬に流行る呼吸器感染症 侮れないRSウイルス~突然死を含む重症例の観点から~」と題し、最新のRSウイルス感染症の動向や臨床知見と小児の突然死を絡め、解説が行われた。注意するのは小児だけでない 秋から冬に流行するRSウイルス(以下「RSV」と略す)は、新生児期から感染が始まり、2歳を迎えるまでにほとんどのヒトが感染するウイルスである。これは、生涯にわたり感染を繰り返し、麻疹のように免疫を獲得することはない。症状としては、鼻みず、咳、喉の痛み、発熱などの感冒様症状のほか、重症化すると喘鳴、肩呼吸、乳児では哺乳ができないなどの症状が出現し、肺炎、細気管支炎などを引き起こすこともある。成人では鼻風邪のような症状であり、乳幼児では多量の鼻みずと喘鳴などが診断の目安となる。インフルエンザと同じように迅速診断キットがあり、これで簡易診断ができる(ただし成人には保険適用がない。小児のみ保険適用)。治療は対症療法のみとなる。 「乳幼児」(なかでも早産児、慢性肺疾患、先天性心疾患の児)、「褥婦」、「65歳以上の高齢者」では、時に重症化することがあるので注意を要する。とくに褥婦は、容易に感染しやすく、感染に気付かないまま病院の新生児室などを訪れることで、感染拡大を起こす例が散見される。また、高齢者では、施設内での集団感染で重篤化した事例も報告されているので、感染防止対策が必要とされる。約7割の親はRSV感染症を知らないと回答 次にアッヴィ社が行った「RSV感染症と保育施設利用に関する意識調査」に触れ、一般的な本症の認知度、理解度を説明した。アンケート調査は、2歳以下の乳幼児を保育施設に預ける両親1,030名(男:515名、女:515名)にインターネットを使用し、本年7月に行われたものである。 アンケートによると66.8%の親が「RSV感染症がどのような病気か知らない」と回答し、重症化のリスクを知っている親はわずか17.3%だった。また、56.9%の親が子供に病気の疑いがあっても保育施設を利用していることが明らかとなった。なお、子供が病気の際に必要なサポートとしては、「職場の理解」という回答が一番多く、母親の回答では「父親の協力」を求めるものも多かった。 今後、院内保育の充実や本症へのさらなる啓発の必要性が示された結果となった。怖い乳幼児のRSV感染症 小児集中治療室(PICU)に入院する、呼吸器感染症の主要原因トップが「RSV感染症」であるという。主症状としては、呼吸不全(喘鳴を伴う下気道感染)、中枢神経系の異常(痙攣、脳炎)、心筋炎、無呼吸発作(生後3ヵ月未満で起こる)が認められる。これに伴い、乳幼児の突然死がみられることから、小保内氏が月別のRSVの流行期と突然死の発生状況を調査したところ、相関することが明らかとなった。また、RSV感染に続発する突然死として、その機序は無呼吸ではなく、致死的不整脈であること、症状の重症度とは相関せず突然死が発生すること、SIDSの好発年齢(1歳以上)を超えても発生することが報告された。知らないことが最大の脅威 RSV感染症は、生涯にわたり感染する。よって、誰でも、いつでも感染源になる危険性を知っておく必要がある。当初は弱い症状であっても、急変することも多く、軽く考えずに軽い風邪と思い込んで子供を保育園などに通園させないほうがよいとされる。また、突然死は、危機的症状と相関しないので、病初期から注意が必要となる。 RSV感染症の予防としては、手洗い、うがいの励行であり、とくに大人の子供への咳エチケットは徹底する必要がある、また、流行期には、人混みへの不要不急の外出を避けるなどの配慮も必要となる。これら感染予防を充実することで、大人が子供を守らなければならない。その他、ハイリスクの乳幼児(たとえば1歳未満の早産や2歳未満の免疫不全など)には、重症化を防ぐ抗体としてパリビズマブ(商品名:シナジス)がある。これは、小児にしか保険適用が認められておらず、接種要件も厳格となっているので、日常診療での説明の際は注意が必要となる。 最後に、「RSV感染症は単なる鼻風邪ではなく、実は怖い病気であると、よく理解することが重要であり、予防と感染拡大防止の知識の普及と啓発が今後も期待される」とレクチャーを終えた。 「RS ウイルス感染症と保育施設利用に関する意識調査」は、こちら。

179.

侮れない侵襲性髄膜炎菌感染症にワクチン普及願う

 サノフィ株式会社は2015年7月3日、侵襲性髄膜炎菌感染症(Invasive Meningococcal Disease、以下IMD)を予防する4価髄膜炎菌ワクチン(ジフテリアトキソイド結合体)(商品名:メナクトラ筋注)のプレスセミナーを開催。川崎医科大学小児科学主任教授 尾内 一信氏と、同大学小児科学教授 中野 貴司氏がIMDの疾患概要や予防ワクチンの必要性について講演した。  細菌性髄膜炎の起因菌にはHib(インフルエンザ菌b型)、肺炎球菌などがあるが、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)もその1つである。髄膜炎菌は髄膜炎以外にも菌血症、敗血症などを引き起こし、それらをIMDと呼ぶ。IMDの初期症状は風邪症状に類似しており、早期診断が難しい。だが、急速に進行し発症から24~48時間以内に患者の5~10%が死に至り、生存しても11~19%に難聴、神経障害、四肢切断など重篤な後遺症が残ると報告されている。また、髄膜炎菌は感染力が強く、飛沫感染で伝播するため集団感染を起こしやすい。そのため、各国の大学・高校、さらにスポーツイベントなどでの集団感染が多数報告されている。このような状況から、IMDは本邦でも2013年4月より第5類感染症に指定されている。 IMDは全世界で年間50万件発生し、うち約5万人が死亡に至っている。IMDの発生は髄膜炎ベルトといわれるアフリカ中部で多くみられるが、米国、オーストラリア、英国などの先進国でも流行を繰り返しており注意が必要だ。米国疾病予防管理センター(CDC)によれば、米国では2005年~2011年に年間800~1,200人のIMDが報告されている。発症年齢は5歳未満と10歳代が多くを占める。本邦でも、2005年1月~2013年10月に報告されたIMD 115例の好発年齢は0~4歳と15~19歳であった。 IMDの治療にはペニシリンGまたは第3世代セフェム系抗菌薬などが用いられるが、急速に進行するため予防対策が重要となる。IMDの予防にはワクチン接種が有効であることが明らかになっている。本邦の第III相試験の結果をみても、4価髄膜炎菌ワクチン接種後、80%以上の接種者の抗体価が上昇しており、その有効性が示されている。このような高い有効性から、発症数は多くないものの、米国、オーストラリア、英国においてはすでに定期接種ワクチンとなっている。 本邦でも4価髄膜炎菌ワクチン「メナクトラ筋注」が本年(2015年)5月に発売され、IMDの予防が可能となった。しかしながら、本邦におけるIMDの認知度は医師および保護者の双方で低い。また、IMDワクチンの医師の認知率は49%と約半分である。IMDの罹患率は低いが、そのリスクは無視できない。今後の啓発活動が重要となるだろう。サノフィプレスリリース「侵襲性髄膜炎菌感染症」に関する意識調査(PDFがダウンロードされます)「メナクトラ筋注」新発売のお知らせ(PDFがダウンロードされます)

180.

エアロゾル麻疹ワクチンの有効性(解説:小金丸 博 氏)-360

 麻疹はワクチンで防ぐことができる疾患群(vaccine-preventable diseases)の1つである。皮下注射で行う麻疹ワクチンは安全で効果的であり、世界中で広く使用されている。米国、オーストラリア、韓国などの先進国は、WHOから「麻疹排除国」として認定されており、日本もやっと2015年3月に認定された。一方で、とくに医療資源の乏しい発展途上国ではワクチンの接種率が低く、いまだに麻疹の流行が起こっている。WHOはこの状況を改善する手段の1つとして、注射手技の不要な吸入タイプのワクチンの可能性を追求している。  本研究は、エアロゾル化した麻疹ワクチンの抗体誘導能を検討したランダム化比較試験である。麻疹ワクチンの初回接種年齢として適切な生後9.0ヵ月~11.9ヵ月の子供を対象に、インドで実施された。麻疹ワクチンを(1)エアロゾル吸入で行う群(1,001例)と、(2)皮下注射で行う群(1,003例)に無作為に割り付けた。主要エンドポイントは、ワクチン接種後91日時点の抗麻疹ウイルス抗体の陽性率と、有害事象とした。非劣性マージンを5パーセントポイントと設定した。  per-protocol解析では、2,004例中1,560例(77.8%)を評価しえた。91日時点での抗体陽性者は、エアロゾル吸入群で775例中662例(85.4%、95%信頼区間:82.5~88.0)、皮下注射群で785例中743例(94.6%、同:92.7~96.1)であり、両群間差は-9.2パーセントポイント(同:-12.2~-6.3)だった。麻疹ワクチンによる重篤な有害事象は発生しなかった。有害事象として、エアロゾルワクチン群では鼻風邪様の症状が多くみられた。 本研究は、麻疹の皮下注射ワクチンに対するエアロゾルワクチンの非劣性を証明するために計画された臨床試験であったが、両群間差は事前に設定された非劣性の上限である5パーセントポイントよりも大きく、非劣性を証明できなかった。本試験の結果からも、皮下注射ワクチンが普及している先進国では、今後も皮下注射が主流になると思われる。しかしながら、エアロゾル吸入ワクチンは手技的には非医療従事者でも使用可能であり、医療資源が限られている途上国などではワクチン接種率向上に貢献する可能性があると考える。 今後は、エアロゾルワクチンの投与量調節などによる抗体陽転化率の改善、エアロゾル化した麻疹・風疹混合ワクチンの開発に期待したい。

検索結果 合計:229件 表示位置:161 - 180