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第39回 人間の弱みを熟知した新型コロナウイルス、これを抑制させるには?

2020年はまさに新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に明けて暮れた1年だったと言える。私個人は2019年12月末に中国の武漢で謎の肺炎が流行しているという一報を耳にした時は、「フェイクもどきのオカルト的なニュース?」「中国ローカルな感染症でも出たのか?」くらいにしか考えていなかった。1月16日に日本で初の感染者が報告された時点でも「急性重症呼吸器症候群(SARS)のようなものかな?」ぐらいの認識だった。その後、2月下旬くらいまでは国内でポツリポツリと感染者が報告されると、1例1例の分かる範囲の情報をポチポチとExcelファイルに打ち込んでいた。今振り返ると、とてつもなく呑気なことをしていたと思う。その後、この作業は中止した。とてもそんなことはやっていられないほどに感染者が増えていったからだ。そして今や東京都で1日に確認される感染者は1,000人超どころか、2,000人超にまで達し、ついに政府が首都圏の一都三県に対して新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づく2度目の緊急事態宣言を発出するまで追い込まれている。ちょうど昨年末の大晦日の午前11時前に私はTwitter上でこんなツイートをしていた。「大晦日にあんまり不吉なこと言わないほうがいいんだが、今日と明日の元日に発表される感染者数が気になる。新型コロナの平均潜伏期間は5日強なので、これに検査による結果判明までの1~2日を加えると、ちょうどクリスマスの時にどんちゃん騒ぎした中で起きた感染が報告される時期になるから」とはいえ、この時は東京都でPCR検査陽性者数が900人台後半になるか、最悪でも1,000人をやや超える程度だろうと予測していた。しかし、大晦日の午後2時過ぎ、東京都での陽性者が1,300人超の見込みというYahoo!ニュース速報ポップアップがスマホに表示された際は、紋切り型の表現だが「凍り付いた」。その時はたまたま路上にいたのだが、なぜかポップアップからニュース本文に飛ばず、ディスプレイを凝視したまま立ち尽くしてしまっていた。もっとも前述のツイートで、クリスマスのどんちゃん騒ぎで感染したであろう人を非難したつもりは毛頭ない。従来ならばそうした行為は騒音や泥酔など他人への明らかな迷惑行為がなければ、非難されるものではなかったからだ。むしろそうできる仲間と環境を持つ人はうらやましがられたはずである。新型コロナウイルスはそうした状況を一変させてしまった。そして恨んでもしようがないが、新型コロナウイルスの特徴を改めて考えれば考えるほど、なんと嫌なウイルスだろうと思う。感染経路は接触感染と飛沫感染で、そのうちの前者が主。発症前から感染力を有し、一定割合の無症候感染者がいる。発症後は風邪やインフルエンザに比べ、だらだらと症状が続く期間が長く、そこでも他人に感染させる。とにかく音も気配もなく感染を広げていくのである。ワクチンがなく、治療薬も決定打と言えるほど奏効するものはなく、現在打てる対策は予防。3密回避、マスク着用、手洗い励行の3つである。この予防策の中で最も重要度が高いものは3密回避だろう。極端な話、屋内に1人で完全に引きこもって一切外出しないのならば、理論的にはマスク、手洗いという予防策の必要度はかなり低下するからである。そこで改めて3密の定義を確認すると、換気の悪い「密閉」空間、多数が集まる「密集」場所、間近で会話や発声をする「密接」場面の3つの「密」のことである。密閉ぐらいなら若干の注意で避けられるだろうが、日常生活のさまざまなシーンを考えれば密集はやや避けがたく、密接に至っては家族という存在も含めれば完全回避は不可能である。実際、現在報告されている感染者の中で、経路が判明しているケースの最多が家庭内感染というのも頷ける。ちなみに家庭内感染そのものは家族の誰かが他人との会食や接触で感染して家庭内に持ち込むことから始まる。それゆえ多くの専門家が「他人との会食はなるべく控えて」と訴えるのはこの上なく理にかなっている。しかし、食事の時間という日常生活での大きな楽しみを、可能ならば他人と共有したいと思うのもまた人の性である。よく「人は一人では生きられない」という使い古された言葉があるが、結局のところ「3密回避」とは、極端な言い方をすれば「人として当たり前に生きるな」と言われるに等しい。一時期、これまた耳にタコができるほど聞かされたキーワードに「不要不急」があるが、今回のことを通じて「不要不急」と呼ばれたものの多くが私たちの生活の潤滑油だったことに気づいた人も少なくないはずだ。今回2度目となる緊急事態宣言そのものは、かなりの「劇薬」でもあるため、発出中の期間は限定される。ところが今や日常生活でベースの予防対策である「3密回避」は、今のところ期間限定ではなく、終わりはまったく見えていない。結局、新型コロナウイルスはすべての人に「エンドレスな孤独との戦い」を強いている。そしてこれだけパンデミックが長期間に及ぶと、その過程でほぼすべての人がリスクを過小評価しようとする正常性バイアスに襲われたと思われる。時にはその結果として、ウイルスに対するガードを下げてしまう場合もあっただろう。ところがそうした隙を新型コロナウイルスは巧みに突いてくる。まるで、騙されたことに気付いた人が取る回避策すべてにわなを仕掛けてあざ笑う詐欺師のような陰湿さだ。その結果が現在の感染者増につながっていることは明らかだろう。そして医療従事者の中にはテレビで流れている情景とは異なり、思ったほど往来が減っていない年末年始の光景に、「自分たちが発するメッセージが伝わらない」といら立ちを覚える人たちも多いに違いない。だが、繰り返しになるがこのウイルスに対する重要な予防策である「3密回避」は人が人らしく生きようとすることを阻む行動様式である。単純に「伝わらない」のではなく、一旦は伝わっても意識的にも無意識的にも可能ならば無視したいメッセージなのであり、それが自然なのである。現在逼迫している医療現場で奮闘する皆さんからはお叱りを受けるかもしれないが、だからこそ私は「3密回避」を怠ったがゆえに感染したかもしれない感染者は「明日の自分」かもしれないと思ってしまうのだ。同時にこのウイルスは医学的作用と同時に負の社会的作用も生む。典型は少なからぬ医療従事者も経験したであろう差別・偏見である。これは不十分な知識のまま過剰な感染防御に走った人たちがもたらしたものである。また、感染者に占める若年者比率の高さから、無症候・軽症が多い若年感染者が流行を加速させている可能性があるという医学的には比較的妥当な分析が一部の若年者と高齢者との間に亀裂を招いたとの指摘もある。このような現象は挙げればきりがなく、しかも生み出された社会的分断が社会的後遺症にまでつながってしまう可能性もある。このような経緯を踏まえたうえでCOVID-19の報道にかかわる私たちや同じように社会や患者に向かって注意喚起する医療従事者がやるべきこと、やれることは何なのか? 実はこれまた極めて平凡な答えにならざるを得ない。それは3密回避、マスク着用、手洗いの意義をことあるごとに発信し続けることに尽きるのである。発信量が増えてもにわかに効果が出るものではないのは多くの人が認識しているだろうが、逆に発信量が減れば個々人の感染対策のガードを下げる正常性バイアスがいとも簡単に拡散しやすくなる懸念は十分にあるからだ。同時にもう一つ発信する側に必要なのはアンガーマネージメント的な感情コントロールだろう。さもなくば、地味な発信を地味に継続するという意欲を維持することは困難であり、なおかつ感情的な発信が時に前述した社会分断の原因にもなりかねないからである。2度目の緊急事態宣言を前に個人的雑感に寄り過ぎているかもしれないが、この1年を振り返って思いを強くしているのは、強大な敵に対して「竹槍戦法」で挑むしか方法がないならば、根気よく竹を削って竹槍を作り、何度も挑むしつこさが必要だということ。諦めたら負けなのである。

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免疫も老化、その予防が新型コロナ対策に重要

 国内初の新型コロナウイルスのワクチン開発に期待が寄せられるアンジェス社。その創業者でありメディカルアドバイザーを務める森下 竜一氏(大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝子治療学 寄附講座教授)が、12月15日に開催された第3回日本抗加齢医学会WEBメディアセミナー「感染症と免疫」において、『免疫老化とミトコンドリア』について講演した。風邪と混同してはいけない理由 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策やワクチン開発を進めていく上で世界中が難局に直面している。その最大の問題点について森下氏は、「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のモデルが作れないこと」だという。その理由として、「マウスはSARS-CoV-2に感染しない。ハムスターやネコは感染するものの肺炎症状が出ないため、治療薬に最適なモデルを作り出すことが難しい。つまり、従来の開発方法に当てはめられず、未知な領域が多い」と同氏は言及した。 そんな中、同氏率いるアンジェス社は同社が培ってきたプラスミドDNA製法の技術を活かし、新型コロナのDNAワクチンを開発中である。これは、ウイルスのスパイク部分(感染の足掛かりとなるタンパク質)の遺伝子情報を取り込んだプラスミドDNAをワクチンとして接種することで、スパイク部分のみを体内で発現させて抗体を産生させる仕組みである。12月23日現在、国内で500例を対象としたワクチンの用法・用量に関する安全性や免疫原性評価のための第2/3相臨床試験が行われている。ワクチン完成までは一人ひとりが自然免疫の強化を 国内でのワクチン(海外製含む)接種の開始時期は、2021年2月とも言われているが、実際のところ未だ見通しが立っていない。その間、個人でできる感染対策(手洗い・消毒、マスク着用、うがいなど)だけで感染を凌ぐにはもはや限界にきている。そこで同氏は人間のもともとの免疫力に着目し、「人間の体内で最初に働く自然免疫の強化」を強調した。しかし、自然免疫の機能は18~20歳でピークを迎え低下の一途をたどる。また、免疫機能の中で最も重要なT細胞の分化場所である胸腺は体内で一番老化が早いため、「加齢は自然免疫の低下だけではなく、胸腺の退縮がT細胞の老化につながり、獲得免疫の衰えの原因にもなる」と指摘した。加えて、「睡眠不足、ストレス、肥満、そして腸内細菌叢の構成異常なども免疫力の低下として問題だが、とくに“免疫の老化”が問題」とし、高齢者の重症化の要因の1つに免疫力の老化を挙げた。免疫老化を防ぐにはミトコンドリアをCoQ10で助けよ この免疫老化を食い止めるための方法として、同氏はミトコンドリアの老化を助けることが鍵だと話した。ミトコンドリアは細胞の中のエネルギー生産工場で、中和抗体を作るB細胞などあらゆる細胞の活性化に影響する、いわば“免疫を正常に働かせる司令塔”の役割を司る。そのため主要な自然免疫経路はすべてミトコンドリアに依存している。しかし、ミトコンドリアも加齢とともに減少傾向を示すことから、この働きを助けるコエンザイムQ10(CoQ10)の補充が重要1)だという。また、自然免疫のなかでも口腔内に多く存在し、口腔内に侵入したSARS-CoV-2を速やかに攻撃、粘膜への付着や体内への侵入阻止するIgAもこのCoQ10の摂取により増加傾向が示唆された2)ことを踏まえ、医療用医薬品のユビデカレノン製剤(商品名:ノイキノンほか)をはじめ、サプリメントや機能性食品として販売されているCoQ10(とくに還元型)の摂取が有効であることを説明した。 最後に同氏は「ワクチン導入には時間を要するので、現時点ではまず基本的な感染対策、生活習慣の改善から免疫力UPに注力してほしい。そのなかで免疫を上げる工夫として還元型CoQ10の多い食品(イワシ:約6.4mg、豚肉:約3.3mg[各100g中の含有量])を食べたり、プラスαとしてサプリメントなどを活用したりして、体内のCoQ10量を増やすことを心がけてほしい」とし、医療者に対しては「CoQ10量や唾液内のIgAは検査で測定可能であるため、患者の体質確認には有用」と締めくくった。

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第24回 風邪薬1箱飲んだら、さぁ大変!【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)若年者の嘔気・嘔吐では必ず鑑別に!2)拮抗薬はきちんと頭に入れておこう!【症例】26歳女性。ご主人が帰宅すると、自宅で繰り返し嘔吐している患者さんを発見し、辛そうにしているため救急要請。救急隊からの情報では、リビングの机の上には市販薬の空箱が数箱あり、嘔吐物には薬塊も含まれていた様子。●受診時のバイタルサイン意識10/JCS血圧119/71mmHg脈拍98回/分(整)呼吸25回/分SpO299%(RA)体温36.2℃瞳孔3/3 +/+既往歴特記既往なし内服薬定期内服薬なし最終月経2週間前風邪薬の成分とはみなさん風邪薬を服用したことがあるでしょうか? 医療者はあまり使用することはないかもしれませんが、一般の方は風邪らしいなと思ったら薬局などで購入し、内服することは多いでしょう。救急外来や診療所に発熱や咳嗽を主訴に来院する患者さんの中には、市販薬が効かないから来院したという方が一定数いるものです。市販薬を指定されている量を内服している場合には、それが理由でとんでもない副作用がでることはまれですが、当然服用量が過剰になればいろいろと問題が生じます。風邪薬の成分は、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの解熱鎮痛薬、クロルフェ二ラミンマレイン酸塩などの抗ヒスタミン薬、ジヒドロコデインリン酸塩などの鎮咳薬、そして無水カフェインが含まれている商品が多いです。今回は救急外来で遭遇する頻度が比較的高い「アセトアミノフェン中毒」について重要な点をまとめておきます。その他、カフェイン、ブロン、ブロムなども市販薬の内服で起こり得る中毒のため、是非一度勉強しておくことをお勧めします。アセトアミノフェンの投与量以前、アセトアミノフェンは1日最大量1,500mg(1回最大量500mg)と少量の使用しか認められていませんでしたが、2011年1月から1日最大量4,000mg(1回最大量1,000mg)と使用可能な量が増えました。また、静注薬も発売され、みなさんも外来で痛みを訴える患者さんに対して使用していることと思います。高齢者に対しても、肝機能障害やアルコール中毒患者では2,000〜3,000mg/日を超えないことが推奨されていますが、そうでなければ1回の投与量は10〜15mg/kg程度(1,000mgを超えない)が妥当と考えられています。アセトアミノフェン中毒とはアセトアミノフェンは、急性薬物中毒の原因物質として頻度が高く、救急外来でもしばしば遭遇します。最も注意すべきは肝障害であり、アセトアミノフェン中毒で急性肝不全を呈した患者の3週間死亡率は27%と非常に高率です1)。そのため、十分量使用しながらも中毒にならないように管理する必要があります。アセトアミノフェンの大部分は肝臓で抱合され尿中に排泄されますが、一部は肝臓で分解され、N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン(NAPQI)を生成し、これをグルタチオンが抱合することで尿中に排泄されます。NAPQIは毒性が高いのですが、アセトアミノフェンが適正の量であれば、グルタチオンによって解毒されます。しかし、過剰量の場合には、グルタチオンが枯渇し、正常の30%程度まで減少するとNAPQIが蓄積、肝細胞壊死へと進行してしまいます2)。そのため、アセトアミノフェンを過剰に摂取した場合には、グルタチオンを増やすことが必要になるわけです。NACとは中毒診療において重要なこととして、拮抗薬の存在が挙げられます。拮抗薬が存在する薬剤は限られるため頭に入れておきましょう(参考:第7回 意識障害その6 薬物中毒の具体的な対応は?)。アセトアミノフェンに対する拮抗薬はN-アセチルシステイン(NAC)です。NACは、グルタチオンの前駆体であり、中毒症例、特に肝細胞壊死へと至ってしまうような症例では必須となります。タイミングを逃さず、NACの投与が開始できれば肝不全は回避できます。ちなみにこのNAC、投与経路は経口です。静注ではありません。臭いをかいだことがある人は忘れない臭いですよね。腐った卵のあの臭い…。NACはいつ投与するかそれではいつNACを投与するべきでしょうか。アセトアミノフェンの血中濃度が迅速に判明する場合には、その数値を持って治療の介入の有無を判断することがある程度することが可能です。ちなみに、アセトアミノフェン摂取後の経過時間を考慮した血中濃度で判断する必要があり、内服直後の数値のみをもって判断してはいけません。一般的には4時間値が100μg/mLを超えているようであればNAC開始が望ましいとされます(以前は150μg/mLでしたが、肝障害発症の予防を強固に、そして医療費の削減のため基準値が下げられました)。“Rumack-Matthewのノモグラム”は有名ですね2)。そのため、摂取時間を意識した測定、経過観察が大切です。測定が困難な場合には、内服した量から推定するしかありません。アセトアミノフェンを150mg/kg以上(50kgであれば7,500mg)服薬していた場合にはNAC療法が推奨されます。この7,500mgという量をみてどのように思いますか? 前述した通り、アセトアミノフェンの1日の最大投与量として許容されている量は4,000mgです。中毒量が目の前に存在することがよくわかると思います。痛みに悩む患者さんは多く、処方されている薬を飲み過ぎてしまうと、簡単に中毒量に達してしまう可能性があるため注意が必要なのです。1箱飲んだら危険製品にもよりますが、アセトアミノフェンが含有される風邪薬や頭痛薬など鎮痛薬と称される市販薬は、1錠に含まれるアセトアミノフェンは80~200mg程度と少量の物が多いのですが、1箱80錠のものも存在します。また、インターネット上で購入しようと思えば500mg錠100錠など、中毒量を購入することは簡単にできてしまうのが現状です。初療時のポイントは、本症例のように嘔気・嘔吐を認める患者など過量内服患者を拾い上げること、そしてNACの適応となり得る量を内服していないかを血中濃度や推定内服量から見積もり判断することです。さいごにアセトアミノフェンは使用し易く、処方する機会は多いと思います。しかし、使用方法を間違ってしまうと肝不全へ陥ってしまう可能性のある恐い薬でもあります。安全な薬というイメージが強いかもしれませんが、いかなる薬もリスクであるため、処方する際には正しい内服方法を丁寧に患者さんに説明しましょう。また、過量内服患者ではNACの適応を理解し、肝障害を防ぎましょう。1)Ostapowicz G,et al. Ann Intern Med. 2002;137:947-954.2)Heard KJ. N Engl J Med. 2008;359:285-292.

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コロナについてのメモ【Dr. 中島の 新・徒然草】(352)

三百五十二の段 コロナについてのメモ2020年もついに12月に突入。何かと気忙しい季節になりました。さて、コロナ第3波の勢いは大変なことになっています。大阪府では、あらかじめ「府内の重症者数が〇〇人を超えたら、△△日以内に××人の受け入れができる体制をつくってください」という要請が医療機関ごとにあり、それぞれに準備をしておくことになっていました。ところが現実は予想のはるか上を行く勢い。コロナ重症者数はいきなり〇〇人を大きく上回り、さらにどんどん増えつつあります。受け入れの××人という数字も上方修正されてしまいました。「コロナはん、あんた強すぎるわ! 正直、勝てる気がせんのやけど」思わずそう言いたくなります。仮に感染者数が多くても、重症者数が少ないのであれば「コロナはただの風邪だ」で済ませることができます。しかし、こんなに重症者数が増えたら、もはや単なる風邪ではありません。外来の患者さんとの話題もコロナ一色です。患者「こちらの病院ではコロナの方も受け入れているんですか?」中島「ええ、もう大変なことになっていますよ」患者「私なんか恐くて、病院以外で外に行くことはなくなりました」中島「そのくらい注意していてちょうどいいですよ。Go To なんてもってのほか!」患者「やっぱり」中島「旅行に行くなとか、外食するなとかは言いません。でも、わざわざ国が煽らなくてもいいでしょう」患者「Go To のせいか、ここに来る途中、旗を持った人に引率された団体を駅構内のあちこちで見かけました」中島「怖すぎる!」この方は田舎に住んでいるのですが、難病にかかったので、都会の某大学病院にも通院しています。でも、そこは都会のわりには交通が不便なのだとか。患者「▲▲大学は駅から遠いのでバスに乗るんですよ」中島「そうなんですか」患者「バスが混雑して怖いので、自分で車を運転して行ったりもしました」中島「そのほうが安心ですね」患者「そしたら駐車場が狭くて、なかなか停めることができなかったんです」中島「ありゃりゃ」皆、それぞれに工夫したり苦労したりしているようです。工夫といえば、病院近くの教会のシスターが、「今年のクリスマスのミサは YouTube でやるんです」と言っておられました。人が集まったりとか聖歌隊とか、今年はもうできません。私なんか、どうしても教会と YouTube が結びつきませんが、コロナが背中を押したようです。シスター「でも信徒はベトナムやフィリピン、韓国にも沢山いますから」中島「なるほど、YouTube だと海外からも参加できますね」いやはや大変な時代になったものです。来年はどうなるやら。最後に1句ユーチューブ 使って参加 クリスマス

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孤独を感じる人のCOVID-19に対する予防行動とは?

 孤独感がCOVID-19予防行動の低下に関連していることが、早稲田大学のAndrew Stickley氏らの研究によって明らかとなった。Journal of Public Health誌オンライン版2020年9月3日号の報告。 孤独感と健康行動の悪化との関連性について数多くの報告があるが、孤独感とCOVID-19予防行動の関連性についてはほとんど研究されていない。 孤独感とCOVID-19予防行動の関連性について、2020年4月と5月に2,000人の日本人を対象にオンライン調査を実施した。孤独感は3項目の孤独尺度にて評価し、孤独感と予防行動の関連性については二変量線形回帰分析を、孤独感と予防行動13件(外出後/食事前の手洗い、マスク着用、うがい、咳やくしゃみ時のティッシュ使用、物に触れた後に顔に触ることを避ける、触れるものを頻繁に消毒する、外出/旅行のキャンセル、予定していたイベントのキャンセル、人込みを避けて自宅にいる、集会やパーティーへの参加を控える、病人/高齢者への接触を避ける、風邪の場合に家族以外への接触を避ける、2メートル以上の距離を保つ)それぞれとの関連性についてはロジスティック回帰分析を実施した。 孤独感の割合、孤独感とCOVID-19予防行動の関連性については以下のとおりである。・人口統計学的変数とメンタルヘルス変数を調整した線形回帰モデルでは、二分法と継続的な測定の両方で、孤独感にはCOVID-19予防行動への関与と負の関連があった。・さらにロジスティック回帰分析では、孤独感は、マスクの着用で0.77倍、手の消毒で0.80倍、屋外での社会的距離で0.75倍と、個別のCOVID-19予防行動の低下にも関連していた。 著者らは、「マスクの着用や手の消毒、社会的距離などの予防行動の低下に孤独感が関連することから、パンデミックにおいては孤独感の防止または改善が、新型コロナウイルスの蔓延と闘ううえでは必要である」と示唆している。

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AZ社の新型コロナワクチン有効率最大90%、貯蔵はより容易か/第II/III相試験中間解析

 アストラゼネカ社は、COVID-19に対するウイルスベクターワクチンAZD1222の第II/III相および第III相試験の中間分析の結果、最大90%の有効率が示されたことを11月23日に発表した。2つの異なる投与レジメンで有効性が示され、平均70%の有効率が示されている。条件付きまたは早期承認のためのデータを世界各国の規制当局に提出し、承認取得次第、2021年に最大30億回分のワクチンを製造できるよう準備を進めているという。 AZD1222は、SARS-CoV-2ウイルススパイクタンパク質の遺伝物質を含む、複製欠損および弱毒化されたチンパンジー由来の風邪アデノウイルスを用いて作製される。ワクチン接種後スパイクタンパク質が生成され、感染した場合に免疫系を刺激し、SARS-CoV-2ウイルスを攻撃する。 第II/III相COV002試験は英国の12,390人の参加者を対象に、第III相COV003試験はブラジルの10,300人の参加者を対象に実施されている。ともに参加者は18歳以上で健康あるいは医学的に安定した慢性疾患を有する患者。COV002では、半用量(〜2.5×1010ウイルス粒子)または全用量(〜5×1010ウイルス粒子)のAZD1222、対照群として髄膜炎菌ワクチンMenACWYを1回または2回筋肉内投与。COV003では、全用量のAZD1222またはMenACWYが2回投与される(対照群では1回目にMenACWY、2回目はプラセボとして生理食塩水を投与)。 中間分析では計131例のCOVID-19発症が確認された。今回発表された結果のうち、1回目に半用量を投与後、少なくとも1か月間隔で全用量を投与した2,741人では、90%の有効率を示した。少なくとも1か月間隔で全用量を2回投与した8,895人では、62%の有効率を示している。両投与レジメンの11,636人についての複合解析では、平均70%の有効率が示され、これらの結果はすべて統計的に有意であった(p≦0.0001)。 独立データモニタリング委員会は、2回投与を受けてから14日以上後に発生するCOVID-19からの保護を示す主要評価項目を満たしたと判断し、今回の結果が発表された。AZD1222に関連する重大な安全イベントは確認されておらず、AZD1222投与群ではCOVID-19による入院や重症例は報告されていない。 なお、AZD1222の臨床試験は、米国、日本、ロシア、南アフリカ、ケニア、ラテンアメリカでも実施されており、他のヨーロッパやアジアの国々でも試験が計画されている。また、同社はAZD1222の貯蔵について、標準的な家庭用または医療用冷蔵庫の温度である2~8℃(36~46°F)で少なくとも6ヵ月間保管、輸送、および取り扱いでき、既存の医療環境で投与可能としている。

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「抗菌薬は風邪に効果あり」の誤認識、若年・高齢層でいまだ多く

 11月は「薬剤耐性(AMR)対策推進月間」である。今年は年初から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生・流行があったが、いま一度、抗菌薬および抗生物質の適切な認識と使用について考える契機としたい。国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンターが先月取りまとめたインターネット調査の結果によると、10代・60代の7割および20代の6割近くが、抗菌薬・抗生物質は風邪に「効果がある」と誤って認識していることがわかった。一方、風邪症状で医療機関を受診した4割が抗菌薬を処方されており、回答者全体の2割が、風邪で今後受診する際に抗菌薬の処方を希望していることも明らかになった。 本調査は、抗菌薬・抗生物質および薬剤耐性について、一般の人がどう認識しているのかを把握し、問題点と今後の取り組みの方向性を提示することを目的に、2020年8月、全国の10~60歳代以上の男女700人を対象に、インターネット上で行われた。風邪症状で受診した43.0%に抗菌薬処方、患者側も効果を期待か 回答者全体の21.7%(152人)が、今年1~8月の期間に風邪症状を経験した。このうち、56.6%(86人)が医療機関を受診し、43.0%に対し抗菌薬が処方されていた。また、全体の26.4%が今後、風邪で受診した時に抗菌薬の処方を希望していた。 抗菌薬の知識を問う設問(「抗菌薬・抗生物質は風邪に効果がある」についての正誤、「あてはまらない」が正解)への正答率(「不明」を除く)を年代別に見ると、30~50歳代では50%程度が正しく回答した一方、10歳代の正答率は26%、20歳代では43%、60歳代以上も30%程度にとどまっていた。過去の調査結果と比較すると、「抗菌薬は風邪に効果がないことを知っている人が少しずつ増えている可能性がある」としているが、依然、多くの年代で風邪の治療に抗菌薬が有効であると認識されており、処方薬の多さもその一因になっているのではないだろうか。AMRの温床、抗菌薬の飲み残しの「保管」「転用」も 処方した抗菌薬・抗生物質を患者が自己判断で中止したり、以前の飲み残しを別の不調時に転用したりする不適切使用は、新たなAMRを生む温床になりかねない。しかし本調査では、全体の25.7%が「治ったら途中で飲むのを止める」、8.9%が「途中で忘れてしまい飲み切っていない」と回答していた。また、飲み残しの抗菌薬の取り扱いについての設問(複数回答可)に対し、「いつか使おうと思ってとってある」(31.6%)、「体調が悪い時に飲んだことがある」(21.0%)、「人にあげたことがある」(1.0%)など、不適切な取り扱い方を回答に挙げた人が少なくないことは注視すべきである。 COVID-19への厳しい警戒状態は依然続いている上、これからインフルエンザや風邪の流行期となる。ただ、コロナ対策を通じて市民の感染症予防への意識は例年より高まっているはずであり、これを適切な抗菌薬の使い方を再確認する好機としたいところだ。

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今冬の流感予防接種の予定なしは6割/アイスタット

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行の中で、今冬のインフルエンザの流行を前に一般市民のインフルエンザの予防意識を探る目的で、株式会社アイスタット(代表取締役社長 志賀保夫)は、10月20日に「インフルエンザ予防接種に関するアンケート調査」を行った。 アンケートは、業界最大規模のモニター数を誇るセルフ型アンケートツール“Freeasy”に登録している会員で20歳以上の会員300人を対象に調査を実施したもの。調査概要 形式:WEBアンケート方式 期日:2020年10月20日 対象:セルフ型アンケートツール“freeasy”の登録者300人(20歳以上)インフルエンザの予防接種を阻む壁 「今までにインフルエンザに感染したことがあるか」の問いに「ある」が48.0%、「ない」」が52.0%という結果で、約半数の回答者にインフルエンザ感染の経験がなかった。 「(10月20日時点)予防接種を受ける予定はあるか」の問いに「受ける予定はまったくない」が38.7%と最も多い結果だった。また、「受けた/受ける予定」「今は受ける予定はない/予定はまったくない」ごとに足した割合でみると、「受けた/受ける予定」は37.3%、「受ける予定はない」は62.7%で、「受ける予定はない」が過半数を上回る結果だった。参考までに2019年の調査と比較すると「受ける予定はない」が9ポイント増加していた。 「予防接種を受けた/受ける予定」と回答した112名の「接種の理由」を聞いたところ、最も多かった理由は「今シーズンは新型コロナウイルスがあり、危機感を感じたから」が58.9%で、次に「インフルエンザに感染しても軽い症状ですむ、回復が早いから」が44.6%、「今シーズンは流行しそうなので」が20.5%と続いた。一方、「予防接種を受ける予定はない」と回答した188名に「接種しない理由」を聞いたところ、最も多かった理由は「値段が高い」が26.1%、「受けに行くのが面倒」が22.3%、「コロナ感染予防対策で予防できる」が21.8%と続いた。手洗い、マスク、うがいで健康を維持 回答者の健康状態について「日頃、風邪をひきやすい、体調を崩しやすい体質」かの問いでは、「はい」が26.7%、「いいえ」が73.3%の結果だった。回答者の約3割が風邪をひきやすい体質との回答だった。 これを踏まえ「最近1年間の感染症による症状」について聞いたところ、「風邪で37.5℃以上の発熱」が9.7%、「インフルエンザ」が5.7%、「出勤停止を伴う伝染病、ウイルス感染症」が2.3%、「COVID-19」が1.0%、「肺炎」が0.3%の回答であり、「いずれにもあてはまらない」が81.7%と8割を超える回答者がCOVID-19流行の中でも健康を維持していた。 「最近1年間で、日頃行っていること」の問いでは、「手洗い」が79.0%、「マスク着用」が77.0%、「うがい」が63.7%と続き、上位はCOVID-19予防対策の内容が占めた。 最後に回答者へ「平熱はいくつか」という問いでは、「 36.3℃~36.5℃」が42.3%で最も多く、「36.0℃~36.2℃」が31.7%、35.9℃以下が15.0%と続いた。 同社では今後も毎月定期的に定点調査を行い、その結果を報告するとしている。参考2020年11月 インフルエンザ予防接種に関するアンケート調査

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普段から気を付けたい身体診察のうっかり/日本感染症学会

 第94回日本感染症学会総会・学術講演会(会長:館田 一博氏[東邦大学医学部 教授])が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行下、8月19日~21日の期日でインターネット配信との併用で東京にて開催された。 本稿では、特別企画「感染症を究める」より徳田 安春氏(群星沖縄臨床研修センター長)の「診察」の概要をお届けする。時にリスクとなる抗菌薬 「感染症です」と外来に訪れる患者はいない。その多くは「熱っぽい、だるい、寒気がする」などの訴えから医師が知識と経験を通じて総合的に診断をする。徳田氏の講演では、こうした診断の際に忘れがちなポイントや見落としやすい身体部位などについて症例を交え、レクチャーを行った。以下にレクチャーされた症例を抜粋して紹介する。 はじめに2つの表情の画像を並べ顔貌から読み取れる身体の不調を示し、“General appearance”から患者の全身状態を診る重要性を指摘した。 症例(1)では97歳・男性について、高齢者の無熱性肺炎について述べた。患者は平熱が35.4度で、診察時36.9度。主訴は「3日前からせきと痰」で、最終的に肺炎と診断された。高齢者の風邪診断では、患者の平熱のベースラインが異なるので、バイタル表では本人のベースライン体温にプラス1度の赤線を引くことで背後のリスクに気付くことができると説明した。 症例(2)では50歳・女性について、尿路感染症治療後に、バレーボールで左足首を痛め受診した。トンプソン検査は陽性で「アキレス腱断裂」と診断されたが、原因はバレーボールだけではなく、実は感染症治療で処方されたシプロフロキサシンに関連したアキレス腱断裂だったという症例を紹介した。フルオロキノロン系抗菌薬はよく使用される抗菌薬だが、もともと日本人では大動脈解離の発症頻度も多く、高用量、長期間の使用では注意が必要だと促した。 症例(3)では45歳・男性について、草野球で外傷性開放骨折を負い、術後7日後に急激な血圧低下により紹介された症例。患者の身体所見は「腫脹、発赤、発熱、圧痛」があり、びまん性に全身性の発赤があった。当初、手術部位感染(SSI)疑いで診療されたが、全身の発赤などからトキシクショック症候群(TSS)の合併もあると診断された。こうしたショックを伴う感染症について、「『急激に起こるショック』の感染症」(皮疹ないことあり)を示し、外来で想起できるように注意を促した。・「急激に起こるショック」の感染症」 “SMARTTT”S:SepsisM:MeningococcemiaA:Acute endocarditisR:RickettsiaT:Toxic shock syndromeT:Toxic epidermal necrolysis T:Travel-related infection普段診ない部位の身体所見は診断のカギになる 症例(4)では30歳代女性について、発熱、意識障害、肺炎、X線所見を提示し、髄膜刺激徴候、後部硬直があるという症例を説明した。身体診察でのケルニッヒ徴候検査の重要性を示し、普段の診療から診察し、経験を重ねておく大切さを伝えた。なお、この患者は、以前に交通外傷で脾摘後であり、髄液検査により肺炎球菌による髄膜炎の診断となった。 症例(5)では40歳代男性について、主訴として、咽頭痛、発熱、嚥下痛、よだれのほか喘息様の呼吸音があり、上気道の狭窄病変を示唆する所見があった例を提示した。患者の状態から挿管となったが、その際の注意点として上気道閉塞を塞がないために仰臥位にせず、座位で診察と挿管を施行するケースもあること、体位によっては、手技が患者にとって大きなリスクになることを説明した。患者はその後の診断で後咽頭腫瘍に伴う壊死性縦隔炎と診断され、手術対応となった。また、「咽頭痛で見逃してはいけない疾患」として次の5つの疾患を掲げ、生命予後に係わる疾患もあるので覚えておいてほしいと注意を促した。1 急性咽頭蓋炎2 後咽頭腫瘍3 扁桃周囲腫瘍4 レミエール症候群(内頸静脈の血栓性静脈炎)5 Ludwig angina(口腔底蜂窩織炎)6 無顆粒球症 症例(6)では20歳代男性について、主訴に2週間にわたる発熱、咳嗽、労作時の息苦しさなどがあった。口腔内のカンジタ所見から性生活歴を聴取し、男性同性愛者であることが判明した。諸検査によって、AIDSによるニューモスチス肺炎と口腔カンジタ症と診断し、ただちにST合剤とステロイド療法で呼吸状態は改善したという。患者の社会的背景の聴取の重要性も診断の一助となると指摘した。 症例(7)では60歳・男性について、3週間前から寝汗、AR雑音があり、爪下線状出血に加えオスラー結節とJaneway紅斑が足の裏にあり、眼底ではRoth斑が観察された。心エコーで疣贅を確認し、血液培養で腸球菌が検出されて感染性心内膜炎の診断がなされた。診断での目印の1つは「寝汗」であり、また、普段なかなか診ることのない足の裏の所見を診ることも大切だと説明した。

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「抗菌薬はウイルスをやっつける」5割が依然として誤解【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第56回

感染症への関心がかつてないほど高まっていますが、一般の方の感染対策や抗菌薬に対する意識は昨年から変化したのでしょうか。抗菌薬に対する知識や理解について調査した「抗菌薬意識調査レポート2020」が公表されましたので紹介します。国立国際医療研究センターは10月8日、抗菌薬意識調査レポート2020を発表した。調査結果によると、普段処方された抗菌薬・抗生物質を飲みきらない人は34.6%。そのうち「途中で忘れてしまい飲みきっていない」人は8.9%、「治ったら途中で飲むのをやめる」人は25.7%だった。同センターは、飲み残しを取っておく人も多いことも指摘した上で、「抗菌薬の正しい使用法を積極的に広めていく必要がある」とした。(2020年10月12日付 日刊薬業)この調査は、2020年8月に10代以上の方を対象として行われたインターネット調査で、700人が回答しました。同様の調査は昨年も行われているため、昨年と今年の変化もみていきたいと思います。まず、「抗菌薬・抗生物質はウイルスをやっつける」と回答した人は、昨年の調査では64.0%、今年は49.7%でした。また、「抗菌薬・抗生物質はかぜに効果がある」と回答した人は、昨年は45.6%、今年は34.3%でした。まだまだ間違った知識の人が多いじゃん…と思いますが、どちらも昨年よりは減っています。風邪の原因の多くはウイルスで、多くの場合は抗菌薬が効かないということが普及してきたのでしょう。次に、耐性菌で悩ましい抗菌薬飲み切り問題についてですが、昨年の調査において、「処方された抗菌薬・抗生物質はすべて飲み切る必要がある」と回答した人は63.4%でした。今年の調査は多少質問や選択肢が異なっているのですが、「普段、処方された抗菌薬・抗生物質を飲み切っていますか」という実際の行動を尋ねる質問に対し、「普段からできるだけ飲まない」と回答した人が20.3%、「最後まで飲み切っている」が45.1%、「治ったら途中で飲むのをやめる」が25.7%、「途中で忘れてしまい飲み切っていない」が8.9%で、結果的に飲み切っていないと回答した人は34.6%でした。抗菌薬の飲み切りについて誤った行動をとっている人もまだ多くいるため、服薬指導の重要性を感じます。ただ、「普段からできるだけ飲まない」と回答した人のスタンスはわからなくもないのですが、医師から処方されても飲まないというニュアンスが含まれているのだとしたら、それはちょっと別の問題かなと思います。コロナで感染対策への意識高まる今年は新型コロナウイルス感染症が流行したこともあって、コロナ関連の項目もありました。「新型コロナウイルス感染症が流行し始めてから、感染症や感染対策に関する情報を以前よりも気にするようになりましたか」という質問では、30.7%が「大変気にするようになった」、36.7%が「少し気にするようになった」と答えており、67.4%が以前よりも気にしていました。また、「現在感染症予防として取っている感染対策は、今後も日常生活で続けていけそうですか」という質問に対して、「このまま続ける」と答えた人は65.6%で、「新しい生活様式」がすっかりなじんだことがわかります。対策を続けていくことで、そもそも風邪にかかる人が少なくなるのではないでしょうか。今年はなかったのですが、昨年は「朝起きたら、だるくて鼻水、咳、のどの痛みがあり、熱を測ったら37℃でした。あなたは学校や職場を休みますか?」という興味深い質問があり、「休む」と答えた人が37.1%、「休みたいが休めない」「休まない」のように結局休まないと答えた人が60%以上となりました。今思うとこの“頑張り”はとても怖いですよね。新型コロナや働き方改革などを考慮して、これまで風邪をひいても「働くために」症状を抑制することを促していた風邪薬のCMが、「かぜの時は、お家で休もう!」「大切ですよ、無理しない勇気」などと、無理をせずに家で休もうというメッセージに変更されました。今年こそこの休むかどうかの質問を実施してほしかった!と思うのですが、今年の質問にはなく比較できませんでした。間もなく新型コロナ・風邪・インフルエンザのトリプルパンチになる恐れがあります。感染予防や感染後の対応、抗菌薬の使用について正しい知識を伝えて、これまでとは異なる冬を乗り切りましょう。

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COVID-19抗体陽性率、1,603例を独自調査/神奈川県内科医学会

 神奈川県内科医学会が独自にCOVID-19の抗体陽性率を調査し、不顕性感染の実態を明らかにした研究結果がJournal of Infection and Chemotherapy誌オンライン版9月6日号に掲載された。 調査は神奈川県内65の医療機関を受診した患者と神奈川県医師会に所属する医療機関で働く医師や看護師を対象とし、2020年5月18日~6月24日にアンケートで同意を得た1,603例が登録された。不顕性感染の実態を明らかにするため、以下は除外された。1)COVID-19検査で陽性となった2)21日以内に発熱などの風邪症状があった3)2020年になって4日以上37.5度以上の発熱があった4)2020年になって強い倦怠感や呼吸困難を経験した 参加者は抗体検査を受け、検査には横浜市立大学と関東化学が共同開発したイムノクロマトグラフテスト(シカイムノテスト SARS-CoV-2 IgG)が使われた。キットの感度は発症後9〜12日の9検体で89%(8/9)、発症後13日以降の8検体で100%(8/8)、特異度は20検体で100%(20/20)だった。再現性は、全陽性対照と陰性対照(各3回測定)で確認された。抗体検査が陽性の場合は、必要に応じてPCR検査を実施した。 主要評価項目は、SARS-CoV-2抗体(IgG)陽性の被験者の割合だった。全例のうち、非医師・非看護師と、基礎疾患がない人を対照群として分類し、対照群、患者群(基礎疾患あり)、および医師/看護師群の抗体保有率を計算した。 主な結果は以下のとおり。・1,603例の内訳は、患者群988例、医師/看護師群504例、対照群111例(基礎疾患なし)だった。・抗体検査で陽性となったのは、全群で39例(2.4%)、患者群で29例(2.9%)、医師/看護師群で10例(2.0%)、対照群で0例だった。群間・年齢・性別、および対照群の抗体有病率を調整後、抗体有病率は患者群で2.7%、医師/看護師群で2.1%だった。・抗体検査で陽性となった39例のうち、医師の判断により7例がPCR検査を受けたが、結果はいずれも陰性だった。・年齢、性別、医療者/非医療者、BCG ワクチン接種の有無、基礎疾患の有無、直近の海外渡航経験など、すべての調査項目と抗体検査結果のあいだに有意差のある関連は見出だせなかった。 今回の調査を主導した神奈川県内科医学会学術部会長の松葉 育郎氏は「国内の抗体陽性率は0.33~3.3%と調査によって幅があるが、今回の調査の結果からは6月に政府が発表した東京0.10%、大阪0.17%よりも高い可能性が見える。無症状の不顕性感染が相当数いることを踏まえ、PCR検査を受ける要件を再検討する必要がある」と提言している。

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音羽幼女殺害事件【なぜママ友の子どもを殺したの?人ごとじゃないわけは?】Part 2

動機は執着?(1)弁護側の主張動機の解明には、Mさんがもともとどういう人なのかをもっと詳しく知る必要があります。そのため、心理カウンセラーが弁護側の証人となりました。以下がその心理分析です。a. 良い子になりきるMさんは、ある田舎町の農家の大家族の長女として生まれ育ちました。その家族構成は、両親、妹、父方の祖父に加えて、その祖父の後妻の祖母(Mさんにとっては義理の祖母)、その子ども2人(Mさんにとっては叔父と叔母)でした。義理の祖母が家計の権限を握っていたことに加えて、父と叔父のどちらが跡取りになるかの問題で、家の中はもともと緊張感がありました。Mさんは、子どもながらに、争いごとに巻き込まれないために、そしてあら探しをされないために、常に礼儀正しく勉強のできる「良い子」になりきりました。小学生の時は、祖父や義理の祖母が近所の人に両親の悪口を言っていると、自発的にその内容をすべてメモして、両親に渡していました。中学生になると、学級委員も務める優等生で、担任教師との交換ノートには、教師が不在の教室で騒ぐ男子生徒のリストを密告していました。ところが、その担任教師は、そのノートを見ながら、その男子生徒たちに厳しく注意をするというミスをしてしまいます。Mさんは、男子生徒たちから「格好をつけて告げ口した」と非難されます。そのことで、「良い生徒」としての自信を失い、人目をますます気にするようになりました。Mさんは、「全然関係のない人たちのいるところに行きたい」という気持ちから、高校は、遠方の高校にわざわざ遠距離通学をしていました。その後、他県の短大の看護科に進学し、アパート暮らしを始めました。そして、その頃、摂食障害が始まります。拒食と過食によって10kgの体重の増減がありました。短大卒業後は、出身県に戻ってその大学病院に就職しましたが、「いつも頭の中が食べ物のことでいっぱい」との理由で、1ヵ月で退職しました。その後は、実家で引きこもり、過食が多くなり、体重は20kg増加しました。父親への暴言や暴力もありました。引きこもりの1年後には、風邪薬の過量服薬による自殺企図をしました。幸いにも、これが契機となって、食事コントロールの意識が高まっていきました。引きこもりから2年近く経った22歳の時、総合病院に再就職しました。看護カルテを丁寧に書き、休日は精神障害者の共同作業所でボランティアをするなど、「良い看護師」に徹していました。また、当時から仏教サークルにも通っていました。しかし、同僚から過食嘔吐のやり方をたまたま聞いてしまったことで、自己誘発性嘔吐を覚えてしまい、摂食障害は悪化しました。そして、再就職から6年後の28歳の時、睡眠薬の過量服薬による2度目の自殺企図をしました。その後、Mさんが仏教セミナーで知り合った僧侶に自己啓発セミナーの勧誘をしたことで、その男性と親しくなり、29歳の時、看護師を辞めて、結婚し、上京しました。そして、夫が勤務する寺で、パート勤務を始めました。30歳の時に、長男が生まれました。忙しさとあいまって、生活環境が変わったことで、いつの間にか過食嘔吐をしなくなり、摂食障害は回復していきました。b. 良いママ友になりきるしかし、夫(副住職)とその上司(住職)の関係が悪いことを知り、関係を取り持つために、寺の仕事を積極的に行い、体調不良でも休まず、「良い副住職夫人」になりきりました。Wさんと出会ってからは、実は基本的に彼女に気を遣い、彼女のやり方に合わせていました。Mさんは「良いママ友」にもなりきりました。また、Mさんは、子どもが「良い子」にしていない時には、とくにWさんの前で手を上げていました。その後、Mさんは、Wさんとの関係がだんだんと煮詰まっていく中、「MさんがWさんと仲違いした」とほかのママ友から思われたくないために、距離は取ろうとしませんでした。事件の8ヵ月前に、Wさんにひな人形を見せたのも、Mさんなりに仲直りができないかと模索した結果だったのでした。つまり、「良い園ママ」にもなりきろうとしていました。当然ながら、その努力がMさんをますます苦しめます。当時、Mさんは夫に転居や転園の相談をしています。しかし、夫が職場から遠くなる点や、子どもが幼稚園に馴染んでいる点で、現実的ではないと夫に諭されます。Mさんは、それ以上は訴えなかったのでした。その後、Mさんは、近所のWさんのマンションの自転車置き場に行き、Wさんの自転車があるか確認するようになりました。事件の2、3ヵ月前には、Mさんは子ども2人を自転車に乗せて、あちこちの公園に行き、「なんでこんなことをするのか自分でもおかしい」と思いつつ、Wさんの居場所を探し回ることが10回以上あったと述べています。その結果、Wさんに鉢合わせることもありました。事件の1ヵ月前には、Mさんは夫に「私が犯罪者になったらどうする?」と漏らします。しかし、それ以上、話そうとせず、会話はうやむやになりました。Mさんは「良い妻」にもなりきろうと無理をしていたのでした。そして、事件は起きたのでした。裁判でMさんは、「ただとにかくWさんがいなくなればいい」「Wさんを苦しめるのが目的ではない」「Hちゃんを殺しても、Wさんがいなくなるわけではないということは、当たり前なのだけれども、そのとき私の頭の中では、ごちゃごちゃになってわけが分からなくなっていた」と述べています。(2)弁護側の最終弁論の要旨MさんはWさんのことに頭をめぐらせ、強迫観念にさいなまれ続けていた。動機の形成に、摂食障害に発する強迫性障害という病的な心理が大きな影響を及ぼしている。Mさんではなく、Hちゃんを殺害したのは、八つ当たり(置き換え)の心理機制が働いていた。Mさんは、病的な心理の自覚がなかった。犯行直前には、子ども2人の入園・入学の準備のストレスが加わり、抑うつ状態に陥り、突発的に犯行に至った。恨みや妬みが直接的な動機ではない。(3)精神医学的な考察a. 摂食障害Mさんは、複雑な家庭環境によって、心休まる居場所(安全基地)がなかったことが想像できます。その生い立ちが、他人に対して弱みを見せられず(自尊心の低さ)、他人と親しくなるのが苦手な性格の一因になった可能性があります(親密性の低さ)。一方で、規範意識が強く、周りの目(主流秩序)を気にして、がんばりすぎる性格の一因になった可能性もあります(過剰適応)。Mさんが看護師という職業を選んだのは、単純に患者を助けたいという思いよりも、弱い立場の患者なら比較的に安心して接することができるという思いがあったでしょう。なお、低い自尊心と過剰適応は、摂食障害を発症する根っこのパーソナリティとして典型的です。「良い子」を演じるために自分の思い通りに生きていないのですが、唯一思い通りになるのが体重だと知り、体重を減らせることで、コントロール感を得ようとするのです。さらには、「良いダイエット実践者」であると思い込んでしまうのです。ただし、摂食障害は、5年前から回復しており、事件との直接的な関係はないと言えます。b. 支配観念心理分析には、明らかな誤りもあります。MさんがWさんのことに常に頭を巡らすという執着は、強迫観念ではなく、支配観念です。強迫観念は、不潔さや不完全さなどの抽象的なことへの了解不能な心の囚われです。一方、支配観念は、特定の個人や出来事などの具体的なことへの了解可能な心の囚われです。Mさんが頭を巡らすのは、Wさんという特定の個人に限定されており、その主な内容は恨みや妬みという了解可能なものです。これはまさに支配観念です。よって、強迫性障害とは診断できないです。そもそも当時の診断基準(ICD-10、DSM-IV)に照らし合わせても、まったく当てはまりません。また、「抑うつ状態」とも言えないです。その根拠は、殺害から死体遺棄までの流れが、あまりにも手際良いからです。また、翌日には長男の小学校受験の手続きをしているからです。抑うつ状態であれば、誰にも悟れられずに死体遺棄まですることも、日常生活を維持することも難しいでしょう。なお、心理分析をした心理カウンセラーは、当時メディアに出ている著名人であり、「母親の心理にくわしい」との理由で証人になりました。ただし、臨床心理士(1988年から認定開始)ではないです。無資格の自称「心理カウンセラー」が世間に注目される事件の裁判で、精神障害の診断まで下してしまうところに、時代性を感じます。c. 強迫性パーソナリティ障害Mさんは、その生真面目さ(完璧主義)、我慢強さ(過剰適応)、堅苦しさ(親密性の低さ)から、強迫性パーソナリティ障害と診断できるでしょう。ただし、これは強迫性障害とは違い、あくまで性格の偏りを説明したものにすぎません。よって、パーソナリティ障害と診断されたからと言って、量刑に影響を与えることはないです。Mさんの強迫性パーソナリティ障害による問題点は、その生真面目さから「良い子」「良い生徒」「良い看護師」「良い妻」「良い夫人」「良いママ友」「良い園ママ」になりきろうとして無理をしている点です。実際に、その破綻が、進学や就職で各地を転々とする結果を招いています。また、摂食障害の発症、引きこもり、父親への暴言・暴力、自殺未遂を招いています。また、その頑固さから、Mさんは、弁護人の質問に対して「(人付き合いが)下手だとは思いません。わりあい誰とでも上手に付き合えるほうだと思います」と言い切っています。「(Wさんの家がうらやましいと思ったことは)まったくありません」と完全否定しています。最後は、本人なりの「良い被告」になりきっていたのかもしれないです。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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第27回 実体験から望む、リアルな「アンサング・シンデレラ」

10月1日に発表された人気女優の石原さとみの結婚というニュースはSNS上で見る限り、多くの男性を悲嘆・落胆に追いやったようだ。この直前、石原さとみは病院薬剤師を描いたドラマ「アンサング・シンデレラ」で主役の病院薬剤師・葵 みどりを演じている。このドラマに関しては、そのストーリーが「ナンセンスだ」など批判的な指摘もあったが、その一部には、薬剤師以外の医療従事者による薬剤師業務に対する無理解・無知さがあったことにはやや驚いた。一方、薬剤師が一部のシーンに対して「『薬剤師あるある』だ」という声も多かった。私はリアルタイムで見ることができず、今頃録画したものを見始めているが、そのなかで患者・家族の立場でダブってしまった、というかトラウマが蘇った瞬間があった。苦い薬と母子の葛藤を薬剤師が緩和それは第2話で出てくるマイコプラズマ感染で受診した男の子とシングルマザーの母親の物語だ。男の子に処方された去痰薬と抗菌薬の顆粒を飲ませようとする母親。しかし、息子は「苦い」といって拒否する。母親は苦心してオレンジジュースに顆粒を混ぜ、「これでもう苦くない」と言って息子に渡したものの、それを飲んだ息子はやはり「苦い」と言ってコップを放り投げ、「ママ、嘘ついた」とまで言い張る。母親は医師に処方変更を希望するが、医師から「もう少し頑張ってみてください」と言われ、思わず「頑張っていないですか?」と漏らしてしまう。そんな母親に服薬指導をするのが、葵 みどり。葵は母親自身に抗菌薬顆粒の甘さの中に苦みが残る味を実際に味見させたうえで、オレンジジュースに混ぜて渡す。それを口にして「うわっ、苦い」と漏らす母親。葵は「○○は酸性のものと混ぜるとコーティング(甘み)が剥がれて強い苦みが出てしまうんです」と説明する。葵が母親に勧めるのがチョコレートアイスに混ぜる方法。口にした母親は「チョコの味しかしない」と驚く。この○○という薬は実在する。私は最初に男の子が薬を口にして「苦い」と言った瞬間にほぼ推測がついた。そして葵による服薬指導のシーンで明らかにされた○○の名称を聞いて、やっぱりと思った。答えは、クラリスロマイシンのドライシロップだ。処方薬は看病する人にも少なからず影響実は私自身も娘で似た経験があったのだ。それはある部分ではドラマで描かれたものより過酷だった。うちの家庭は共働きの夫婦と娘の3人家族。夫婦互いの実家は東京から新幹線で2時間弱は離れている。娘が熱を出した時、頼れる親族は身近にいない。さらに夫婦の役割で言えば、妻は電車で40分離れた職場、私は自宅から自転車で10分以内のアパートを事務所にしている。娘が保育園で発熱したといえば必然的に駆け付け、自宅療養の担当となるのは私だった。もっとも自営業で出来高仕事の私はその分だけ仕事で割を食う。小児医療費の助成も相まって、どうしても娘を連れて医療機関に駆け込んでしまう。よく抗インフルエンザ薬のタミフルは適切に服用しても発熱期間を半日から1日しか短縮する効果がないとネガティブな評価を受ける。しかし、治療を受ける側ではなく看病する側から見た場合、私のような立場の者にとっては、その半日から1日早く業務に復帰できることは周囲の人が考える以上にありがたい。そういう人は少なくないはずだ。そんなこんなで娘が発熱した場合は即座に受診することがほとんどだった。多くは「風邪だと思われます」との診断。娘のかかりつけ医の処方は、去痰薬と鎮咳薬、頓服用の解熱薬にとどまることが多く、抗菌薬を処方された記憶はほとんどない。単なる抗菌薬と侮っていたら…ところが娘が3歳になった年の2月、発熱でかかりつけ医に駆け込むと、いつものように「風邪でしょう」と診断した医師が珍しく「念のため抗菌薬を出しておきます」と言って処方したのが、クラリスロマイシンのドライシロップだった。早速、自宅で服用させるものの、このクラリスロマイシンだけは口にした瞬間に「オェー」と言いながら、吐き出した。驚きはしたものの、私はそれ以上服用させることはしなかった。「所詮、風邪に抗菌薬は無駄」と思っていたからだ。翌日娘は解熱するものの、翌々日は微熱を出した。3日後には再び解熱したが、この間、乾いた咳が続き、4日目の日曜日、突如38度まで熱が上昇し、自治体の休日診療所に駆け込んだ。休日診療所の医師は一般的には半ば「儀礼的」とも思われがちな聴診を、私の目にも普通ではないとわかるほど何度も繰り返した。聴診器をようやく外した医師からこう告げられた。「お父さん、今すぐ○○大学病院に向かえますか? こちらからも連絡を入れます。娘さんは肺炎を起こしている可能性が高いです」休日診療所を出て大学病院に向かうタクシーの中で突如、娘は嘔吐をした。慌てる私に運転手さんは「お気になさらず。とにかく病院へ急ぎます」と冷静だった。大学病院に到着して受付すると、娘はすぐにX線写真撮影をすることになり、看護師が衣服の表面についた吐瀉物を拭いてくれた。私もトイレに駆け込み、吐瀉物がついたジャケットとシャツを洗おうとしたが、濡れたまま持ち帰る手段が思い浮かばず、思い切ってごみ箱に捨てることにした。待合室は暖房が入っているため、とくに寒さは感じなかったが、やはり2月にTシャツ一枚の姿は周囲から見れば異様だったろう。20分ほど待っただろうか。呼ばれて診察室に入ると、医師の目の前のPCに映し出された娘のものと思われる胸部X線写真が目に入った。ちなみに私自身は20代前半にエジプトのカイロを旅行中に右肺の半分弱、左肺の約4分の1がX線写真で白く映るほどの肺炎にかかり、現地で2週間も入院した経験がある。また、職業柄、学術書や論文に掲載されている肺炎のX線写真も目にしている。この時、PCに映し出されていた右肺の下部が白くなっていたX線写真は私でも肺炎だとわかった。医師からも娘が肺炎を起こし、経過や咳の状況などを見ると、マイコプラズマ肺炎と思われ、クラリスロマイシンを処方すると説明された。娘がクラリスロマイシンの味を嫌って服用拒否してしまうことを伝えたが、医師からはこう告げられた。「とにかく頑張って飲ませてみてください。どうしても飲まないというならば、入院して点滴するしかありません」大学病院の門前薬局でクラリスロマイシンを受け取った際にも娘が服用拒否してしまうことを伝えると、薬剤師からチョコ味の服薬ゼリーがお勧めだと教えられた。しかし、この薬局ではあいにくチョコ味のゼリーの在庫がなく、あるのはストロベリー味のみ。それを取り敢えず購入した時に、薬剤師から「ここで1回分飲んでいきます?」と提案された。薬包紙を切った段階で娘は口を開けている。ゼリーを使わなくても飲めるのかもと思い、口にドライシロップをいれると眉間にしわを寄せながら、水で飲み干した。ああ、案外すんなりいけるかもと思ったが、実際にはそうはならなかった。片手にクラリスロマイシンの父vs.愛娘、地獄の戦い翌朝から保育園をお休みし、私が自宅療養に付き合うことなった。妻が出勤後に娘に朝食をとらせ、服薬させようとしたが昨日から一転して娘は拒否し始めた。私は「このままだと入院になるし、最悪肺炎で死ぬ人もいるよ」と告げるが、娘は頑として拒否。ストロベリー味の服薬ゼリーがあることを思い出し、それに混ぜて口にさせるがそれも吐き出した。「えっ?」と思い、自分で口にしてみたが確かに苦みが残っている。さて困った。私はリビングのテレビをつけ、「お父さんはお買い物に行ってくるから、好きな番組見ていいよ」と娘に告げると、街に飛び出し、保険調剤薬局、ドラッグストアを片っ端から訪ね、チョコ味の服薬ゼリーを探した。7軒目でようやく見つけ、購入して帰宅。テレビの前でうたた寝していた娘を起こして、今度はチョコ味のゼリーでクラリスロマイシンを飲ませようとしたが、娘の一言でとん挫した。「チョコは苦いから嫌い」私もハッとした。確かに過去に保育園からの連絡帳に「おやつの時に出したチョコを苦いと言って食べなかった」という旨の記載があったことを思い出したのだ。仕方なく、私は再び外に出て、自宅から一番近い保険調剤薬局で事情を説明した。すると、「バニラアイスや牛乳に混ぜると良いとは言われています」とのこと。コンビニでバニラアイスと牛乳を買って帰り、試したのだがそれでも「苦い」と言われ吐き出された。もはや万事休す。前医からの残薬分があったとはいえ、味の実験をしているだけの量の余裕はない。私は服薬用の水を入れたコップを用意し、薬包紙を破って自分の手の平にドライシロップ全量を出して軽く握ると、左手で娘をヘッドロックし、そのまま右手の親指から中指までの3本の指で娘の口をこじ開けながら手を傾け、口内にドライシロップを突っ込んだ。さらに泣きわめく娘を尻目に、左の手の平で娘の口を押え、右手を伸ばしてコップをつかんで顔の近くまで持って行き、左の手の平を離した際に嘔吐気味に開けた口にコップの端を当て水を注ぎこみ、再び左の手の平で口を封じた。「苦しいけど、ゴックンしてね、ゴックン」と言いながら。もはや虐待じみているが、仕方がない。娘は既に肺炎を起こしているのだ。1日2回の服用のうち、朝は妻の出勤後、夕刻は妻の帰宅前・夕食前にこの格闘が続いた。あえて妻がいない時間にしたのは、打つ手なしとは言え娘が苦しむ姿は見せたくなかったからだ。もっともその後も何もしていなかったわけではない。時間があるごとに近隣の保険調剤薬局やドラッグストアをまわり、状況を伝えて相談はした。その数はチョコ味の服薬ゼリーを探した時を超えて11軒。しかし、ストロベリー味のゼリーもダメ、チョコ味のゼリーもダメ、牛乳もダメ、バニラアイスもダメという私の説明後に返ってくるのは決まって「大抵そのどれかでいけるんですがね」というもの。新たな案は1つも出てこず、不思議なくらい同情すらされなかった。結局、娘は大学病院の初診から3日目の受診で肺炎の改善が確認され、7日目の受診で「まあもう大丈夫でしょう」と医師から告げられた。その間、強制服薬を続け、毎回娘の服は私の手の平から一部こぼれ落ちたドライシロップまみれになり、顔や服は飛び散った水で濡れていた。クラリスロマイシンの服用が終了となった7日目の受診後に私は娘に「いっぱいがんばったからハンバーグ食べに行こうか?」と提案した。大学病院の近くにハンバーグがおいしいと評判の老舗レストランがあることを知っていたからだ。娘が久しぶりに満面の笑みを浮かべたことを今でも覚えている。私も娘も、もうあの強制服薬で苦しむことはない。晴れ晴れとした気持ちでそのレストランに入ってテーブルに座り、私がメニューに手を伸ばして、「さあ何を食べようね」と言いかけた瞬間、娘が「お薬はもういや」と金切り声を挙げて、テーブルの片隅にあったものを払い落とした。食塩のボトルだった。あの強制服薬の影響で白っぽく見える粉が薬に見えたらしい。その後、2ヵ月ほど白い粉末に対する拒否反応が続いた。結局このときから9ヵ月後、娘は再びクラリスロマイシンのドライシロップを服用する羽目になる。しかし、観念したのか、この時以降は自ら口を開き、ドライシロップを受け入れるようになった。もっとも飲み始めから飲み下し後数分間はひたすら「まじゅい(不味い)」と文句を言い続けていたが。医療者「あるある」で終わらせてほしくないたぶんこのクラリスロマイシンの話題は医師、薬剤師双方にとって「あるある」的な話なのだろう。テレビドラマはどうしても典型例しか描けないが、その「あるある」にはクラリスロマイシンの事例で私が経験したような典型パターンで解決できないケースもある。そしてそうしたケースは、ほかにも山のようにあるだろう。しかし、過去にも言及したが、生活習慣指導も含め、日常的に医療に接していると医療従事者による添付文書の棒読みのような対処のなんと多いことか。今、丹念にあの時の事を振り返っても思うのが、別にドラマの中のようにエレガントに解決されなくともある意味仕方がない、ただ共感してくれるだけでもいいから「葵 みどり」が現れていたらと、ふと思う。昨今、一部の医薬分業バッシングにあるように薬剤師を取り巻く周囲の目はやや厳しい。そして「かかりつけ薬剤師・薬局」「健康サポート薬局」など行政による矢継ぎ早な提案が続いている。今回、改めてこうした検討が行われた時の資料を読み返してみた。そして思うのだ。そこに求められている薬剤師像はまさに「葵 みどり」ではないかと。薬剤師の中にもあのドラマを部分部分で「ナンセンス」と突っ込みを入れてみていた人もいるだろうし、繰り返しになるが「あるある」で見ていた人もいるだろう。だが、私にはもはや薬剤師はその「ナンセンス」「あるある」を超えるべき時期、もっと一歩踏み込んだ存在になるべき時期が来ているように思えてならない。

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イエスマン(後編)【日本人ならではの幸福感とは?(幸福感の心理)】Part 1

今回のキーワード幸福感(主観的ウェルビーイング)ポジティブ率セットポイント代償(トレードオフ)ミニマリスト幸福感学習性楽観学習性無力感マインドフルネス【前編】では、ポジティブさもネガティブさも、それぞれメリットとデメリットがあることが分かりました。幸せかどうかという視点に立つと、ネガティブ過ぎれば、明らかに幸福感は低くなります。実際に、幸福度における日本の世界順位は概ね50位圏外で、中・下位です。一方、ポジティブ過ぎれば、一見、幸福感は高まりそうです。しかし、そうではないようです。実際に、幸福度におけるアメリカの世界順位は20位程度で、最上位とは言えないです。つまり、ポジティブ過ぎても幸福感は高まらないと言えます。そもそも、幸せを感じるとはどういうことでしょうか? そして、日本人が幸せを感じるにはどうすれば良いでしょうか? これらの答えを探るために、今回も、映画「イエスマン」を取り上げます。この映画を通して、幸福感を行動遺伝学的にも解き明かします。そして、日本人ならではの幸福感について一緒に考えてみましょう。 幸せを感じるとは?-幸福感を左右する心理それでは、幸せを感じること、つまり幸福感(主観的ウェルビーイング)幸福感(主観的ウェルビーイング)を左右する心理を3つ挙げてみましょう。(1)良いことより悪いことは強い-ネガティビティ優勢性1つ目は、良いことより悪いことは強く感じることです。これは、ポジティブな体験よりも、ネガティブな体験はインパクトが強く影響を受けやすい心理です(ネガティビティ優勢性)。この訳は、脳科学的に言えば、ポジティブな体験がドパミンによる報酬である一方、ネガティブな体験はノルアドレナリンによる恐怖だからです。たとえば、ドパミンによる学習効果(ほめ)は即効性がなく繰り返す必要がありますが、ノルアドレナリンによる学習効果(叱り)は即効性があることが分かっています。この詳細については、末尾の関連記事2をご参照ください。進化心理学的に言えば、報酬は1回なくてもすぐに飢え死にすることはないですが、恐怖は1回だけでも死につながります。この点で、哺乳類の記憶学習のメカニズムである夢やフラッシュバックが基本的にネガティブなものであることも納得が行くでしょう。また、人が、良い噂よりも悪い噂に敏感であることや、良い印象よりも悪い印象を覆しにくいこと(印象形成のバイアス)にも納得するでしょう。つまり、ネガティブな体験のインパクト(質)が強いからこそ、人はポジティブな感情や行動の数(量)で対抗してバランスをとる心理を生存戦略として身に付けたと言えます。言い換えれば、人は、不幸がいきなりやって来るから、それを乗り越えるために、幸せをこつこつ追い続けていると言えるでしょう。実際に、ポジティブ心理学の研究(フレドリクソン)によると、ポジティブな感情とネガティブな感情の比の黄金比は3対1(ポジティブ率75%)であるという結果が出ています。また、カップルなどの親密な関係における研究(ゴッドマン)によると、ポジティブな行動とネガティブな行動の「魔法の比率」は5対1(ポジティブ率83%)であるという結果が出ています。なお、この記事のポジティブ率とは、ポジティブな感情の頻度(P)を、ポジティブな感情の頻度(P)とネガティブな感情の頻度(N)で割った値(P/P+N)とします。(2)良いことも悪いこともなければマシ-ポジティビティ補正2つ目は、良いことも悪いこともなければ、自分はマシ(まだ良い)と感じることです。これは、ポジティブ体験もネガティブ体験もない時は、人はポジティブな感情を軽く抱く心理です(ポジティビティ補正)。この訳は、脳科学的に言えば、ポジティブな感情は、ドパミンによる報酬(社会的報酬を含む)だけでなく、オキシトシンによる愛着・絆によるものでもあることが考えられます。オキシトシンは、それ自体に学習効果は(行動変容)ないですが、見守られている自尊心からポジティブな感情を維持できます。この詳細についても、末尾の関連記事2をご参照ください。進化心理学的に言えば、人は、原始の時代から、愛着・絆によって、ネガティブな感情よりもポジティブな感情を少しだけでも保つ心理を生存戦略として身に付けたのでしょう。つまり、人はもともと軽く幸せであると言えます(ポジティブ率50%+α)。ちなみに、このマシと思う心理は、自分は人と比べてもマシという心理(平均以上効果)や、何となくうまくいく気がするという心理(ポジティブバイアス)につながります。 (3)良いことも悪いことも長続きしない-感情減衰バイアス3つ目は、良いことも悪いことも長く感じ続けることはないことです。これは、ポジティブ体験もネガティブ体験も、時間とともにそのインパクトが目減りする心理です(感情減衰バイアス)。この訳は、脳科学的に言えば、一般的な記憶のメカニズムで説明できます。たとえば、受験に合格した時や失恋した時の感情の経過を想像すれば分かりやすいでしょう。進化心理学的に言えば、快感が持続してしまったら、食べる快感やセックスする快感を得るための行動づけや動機づけが行われなくなり、生存や生殖をしなくなるからです。つまり、人は、幸せがだんだん薄れるから、幸せをこつこつ追い続けていると言えるでしょう。どんなに恵まれた環境であっても、 慣れて飽きてくるというわけです。これは、下りのエレベータを上り続けている状況に例えられます(ヘドニックトレッドミル現象)。また、これは「楽あれば苦あり」「禍福はあざなえる縄のごとし」という日本のことわざに通じます。残念ながら、人は幸せになるように遺伝的にプログラムされていないということです。遺伝的にプログラムされているのは、人が幸せを追い続けることです。なお、つらいことも時間が経てば笑い話になるとよく言われます。これは、深刻さのインパクトが時間の経過によって失われるからであると説明できるでしょう。また、「昔は良かった」「古き良き時代」「最近の若者は」という言い回しは、ネガティブ体験のインパクトが失われた過去とまだインパクトが失われていない現在を比べた時の心理状態と考えると納得がいくでしょう(記憶の楽観性)。実は幸福感は遺伝的に決まっている!?幸福感(主観的ウェルビーイング)を左右する3つの心理から、人は、もともと軽く幸せですが、不幸がいきなりやって来るから、そして幸せがだんだん薄れるから、幸せをこつこつ追い続けていることが分かりました。では、「もともと幸せ」ということは、幸福感は、実は最初から決まっているのでしょうか? ここから、この答えを3つのポイントに分けて、行動遺伝学的に考えてみましょう。なお、幸福感の起源については、末尾の関連記事3をご覧ください。 (1)個人差双子研究から、幸福感の遺伝率は約50%であることが分かっています。言い換えれば、幸福感の半分の要素は、やはりもともと遺伝的に決まっています。これは、セットポイントと呼ばれます。ここで、幸福感を「体温」に例えてみましょう。すると、このセットポイントは「基礎体温」です。ネガティブな体験は「吹雪」、ポジティブな体験は「マッサージ」です。もし「吹雪」に1回襲われたら、「体温」が下がります。よって、「体温」を保つために、「マッサージ」を繰り返しやるのです。愛着・絆は、「基礎体温」を安定させる「防寒具」です。もちろん「防寒具」があれば、その分「吹雪」に耐えられます。逆に、家族との死別や離婚などによって「防寒具」が薄くなったら、その分「吹雪」に耐えられなくなります。ただし、「防寒具」に頼り過ぎると、「マッサージ」をするのを怠り、その「防寒具」が分厚くなる共依存やひきこもりのリスクがあります。なお、「マッサージ」と「防寒具」は体温を下げない点では同じですが、「マッサージ」が断続的であるのに対して「防寒具」は持続的であるとイメージすると分かりやすいでしょう。1つ目は、個人差です。人によって「基礎体温」がそれぞれ違うように、幸福感のセットポイントはそれぞれ違うと言えます。たとえば、基礎体温が35℃台の「寒がり」の人や37℃近い「暑がり」の人がいるように、幸福感を左右するポジティブ率が50%台のネガティブな人や70%近いポジティブな人がもともといると言えます。(2)年齢差幸福感の遺伝率は、対象期間が長くなればなるほど高まり、最終的には80%になることが分かっています。つまり、幸福感は、高齢になるとセットポイントに回帰して行くということです。よくよく考えると、若い頃は、活力に満ち溢れ、チャレンジ精神で革新的になります。その分、ポジティブ率は高いです。確かに、そのままうまく行けば、幸福感も高まるでしょう。ただし、チャレンジに失敗したら、ネガティブな体験を味わうので、結果的に幸福感は下がってしまいます。このように、若年期は、幸福感の振れ幅が大きくなります。これは、ポジティブ率が高過ぎることによる代償(トレードオフ)です。一方、歳を重ねると、活力が枯れしぼみ、これまで自分が得た家族や財産(リソース)を守ろうと保守的になります。すると、その分のポジティブ率が上がりません。もちろん、リスクを踏まないので、ネガティブな体験もありません。こうして、その人のもともとの幸福感が露わになっていくというわけです。例えるなら、先ほどの「体温」に影響する「吹雪」も「マッサージ」もなくなり、「体温」が「基礎体温」と同じになるということです。2つ目は、年齢差です。年齢によって「体温」がそれぞれ違うように、同じ人でも年齢によって幸福感はそれぞれ違うと言えます。高齢者の心理として見れば、猜疑的になる人と多幸的になる人がそれぞれいるのは、このセットポイントへの回帰が示唆されます(パーソナリティの先鋭化)。(3)人種差(文化差)ものごとを自分で判断できるという状況は、アメリカ人にとってはポジティブな体験です。しかし、日本人にとっては必ずしもそうではありません。なぜなら、日本人は、もともとの不安な気質から指示待ちすること好み、逆に自分で判断することがストレスになりうるからです。しかも、自分で判断したら、周りから「出しゃばり」「調子に乗っている」と思われ、ネガティブな体験をするリスクもあります。逆に、何もしなかったり変わらないことで、周りとの調和を生み出して、ポジティブな体験をすることもあります(ミニマリスト幸福感、協調的幸福感)。また、日本人の平均寿命の世界順位が最上位であることは、身体的な健康として誇るべきことです。つまり、幸福感の物差しは1つではないということです。この点で先ほど紹介した幸福感をランキングすることには、その評価基準に限界があるでしょう。一方で、アメリカ人はポジティブ率がとても高いのに、実際にはアメリカはストレス大国と言われています。このストレスは、先ほどの年齢差の説明でも登場したポジティブになることの代償(トレードオフ)です。例えるなら、日本人はもともと「基礎体温」が低い「寒がり」です。そして「心の風邪」であるうつ病になりやすいです。かと言って、「マッサージ」を無理にすることは、もっと「吹雪」を招くおそれがあるため、そう簡単に「暑がり」にはなれないと言えます。一方、アメリカ人はもともと「基礎体温」が高い「暑がり」です。その代償として、「心の肥大」である肥満や浪費の問題が起きやすくなると言えます。3つ目は、人種差(文化差)です。人種や文化によって「寒がり」だったり「暑がり」だったりするように、相互作用を起こす人種(遺伝)と文化(環境)によって幸福感はそれぞれ違うと言えます。たとえば、もともと「基礎体温」が35℃後半(ポジティブ率50%後半)の文化圏の人が、先ほどの理想とされるポジティブ率75%や83%にまで達する必要は必ずしもないと言えるでしょう。次のページへ >>

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長期に消化性潰瘍の再発を予防するアスピリン+PPI配合薬「キャブピリン配合錠」【下平博士のDIノート】第58回

長期に消化性潰瘍の再発を予防するアスピリン+PPI配合薬「キャブピリン配合錠」今回は、「アスピリン/ボノプラザンフマル酸塩配合錠(商品名:キャブピリン配合錠、製造販売元:武田薬品工業)」を紹介します。本剤は、アスピリンとプロトンポンプ阻害薬(PPI)を配合することで、胃・十二指腸潰瘍の再発低減と服薬負担の軽減によるアドヒアランスの向上が期待されています。<効能・効果>本剤は、狭心症(慢性安定狭心症、不安定狭心症)、心筋梗塞、虚血性脳血管障害(一過性脳虚血発作[TIA]、脳梗塞)、冠動脈バイパス術(CABG)あるいは経皮経管冠動脈形成術(PTCA)施行後における血栓・塞栓形成の抑制の適応で、2020年3月25日に承認され、2020年5月22日より発売されています。なお、本剤の使用は、胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往がある患者に限られます。<用法・用量>通常、成人には1日1回1錠(アスピリン/ボノプラザンとして100mg/10mg)を経口投与します。<安全性>国内で実施された臨床試験において、安全性評価対象431例中73例(16.9%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、便秘8例(1.9%)、高血圧、下痢、末梢性浮腫各3例(0.7%)などでした(承認時)。なお、重大な副作用として、汎血球減少、無顆粒球症、白血球減少、血小板減少、再生不良性貧血、中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)、皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、多形紅斑、剥脱性皮膚炎、ショック、アナフィラキシー、脳出血などの頭蓋内出血、肺出血、消化管出血、鼻出血、眼底出血など、喘息発作、肝機能障害、黄疸、消化性潰瘍、小腸・大腸潰瘍(いずれも頻度不明)が発現する恐れがあります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、血小板の働きを抑えて血液が固まるのを防ぐことで、血栓や塞栓の再形成を予防します。長期服用によって胃潰瘍・十二指腸潰瘍が再発しないよう、胃酸を抑える薬も併せて配合されています。2.解熱鎮痛薬や風邪薬で喘息を起こしたことのある方、出産予定日12週以内の妊婦は使用できません。3.割ったり砕いたりせず、噛まずにそのまま服用してください。4.手術や抜歯など出血が伴う処置を行う場合は、医師に必ず本剤の服用を伝えてください。<Shimo's eyes>本剤は、低用量アスピリンとPPIの配合剤であり、アスピリン/ランソプラゾール配合錠(商品名:タケルダ)に次ぐ2剤目の薬剤です。虚血性心疾患、脳血管疾患による血栓・塞栓形成抑制には、アスピリンなどの抗血小板薬投与が有効であり、国内外の診療ガイドラインで推奨されています。しかし、アスピリンの長期投与によって消化性潰瘍が発症・再発することから、低用量アスピリン療法時には原則としてPPIが併用されます。この際に併用できるPPIとしては、ランソプラゾール(同:タケプロン)、ラベプラゾール(同:パリエット)、エソメプラゾール(同:ネキシウム)、ボノプラザン(同:タケキャブ)があります。PPI併用の低用量アスピリン投与による消化性潰瘍発生に対する予防効果については、国内第III相試験(OCT-302試験)の副次評価項目として調べられています。胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往のある患者にアスピリン100mgを投与した後の胃潰瘍または十二指腸潰瘍の再発率は、投与12、24、52、76、104週後において、ランソプラゾール15mg併用群ではそれぞれ0.9%、2.8%、2.8%、3.3%、3.3%であったのに対し、ボノプラザン10mg併用群ではいずれも0.5%であり、ボノプラザン併用群で有意に低下していました(p=0.039)。本剤は、アスピリンを含む腸溶性の内核錠を、ボノプラザンを含む外層が包み込んだ構造となっているため、噛まずにそのまま服用する必要があります。本剤の適応には、「胃潰瘍または十二指腸潰瘍の既往がある患者に限る」という制限がありますが、現在消化性潰瘍を治療中の患者さんには禁忌となっているので注意が必要です。参考1)PMDA 添付文書 キャブピリン配合錠

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流行性耳下腺炎(ムンプス)【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第3回

ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)ムンプスもしくは流行性耳下腺炎は、ワクチンで予防できる疾患Vaccine Preventable Diseaseの代表疾患である。1)ムンプスの概要感染経路:飛沫感染潜伏期:12~24日周囲に感染させうる期間:耳下腺腫脹の7日前から発症後9日頃まで感染力(R0:基本再生産数):11~14注)R0(基本再生産数):集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、1人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力は強いということになる。感染症法:5類感染症(小児科指定医療機関による定点観測、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種感染症(耳下腺、顎下腺または舌下腺の腫脹が発現した後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで)2)ムンプスの臨床症状(表)ムンプスは、多彩な経過や合併症に特徴がある1)。ムンプスは主に唾液による飛沫によりヒト-ヒト感染を起こす。感染から発症までの潜伏期間は典型例で17~18日と非常に長いうえ、発症する6日前から唾液や尿中にウイルスが排泄され感染性がある。さらに、感染しても平均30%は不顕性感染で終わる。不顕性感染は低年齢者に多く,年齢があがるほど症状が現れやすく腫脹も長期化する傾向にある。ただし,無症状でも唾液中のウイルスには感染性がある。耳下腺の腫脹は最も有名かつ高頻度の症状で,発症者のうち90~95%に出現するとされる。しかし、前述の通り感染者全体では70%前後にすぎず、腫脹も両側とは限らない。ここで重要な点として,耳下腺や顎下腺の腫脹は他のウイルス感染症でも起こるため、発熱と耳下腺腫脹だけでムンプスとは確定診断できない。したがって「熱と耳下腺腫脹があった」だけではムンプス罹患といえず、ワクチン不要と判断すべきでない。耳下腺腫脹に続いて多い症状は、思春期以降の男性に起こる睾丸炎で、感染者の1/3に起こるほど多い。片側性の腫脹が多く、睾丸が萎縮し精子数も減少するが、完全な不妊に至ることはまれとされる。女性では感染者の5%に卵巣炎が起こるが,不妊との関連はいまだ証明されていない。このほか無菌性髄膜炎から脳炎、乳腺炎、膵炎といった症状も知られている。無症候の髄液細胞数増多は感染者の50%に認められるとの報告もある。このようにムンプスは潜伏期間が長く、無症候性感染が多いうえ、発症前からウイルスを排泄する。つまり、発症者や接触者を隔離しても伝搬は防げない。表 自然感染の症状とワクチンの合併症1)画像を拡大する3)ムンプスの疫学4~5年おきに大きな流行があり、年間報告数は4~17万例で推移している。ここ数年では、2016年に比較的大きな流行が確認されており、2020年の再流行が懸念されていた(図1)。合併症として問題になる難聴について日本耳鼻咽喉科学会が実施した調査によると2)、上記2年間の流行中に少なくとも335例がムンプス難聴と診断されていた。調査デザインの限界から考えると、症例はもっと多いことが推定される。図1 ムンプスウイルス診断名別分離・検出報告数の推移(2000年1月~2019年9月)画像を拡大するワクチン概要単味の生ワクチンであり、年齢を問わず0.5mLを皮下注する。正確には、ワクチンキットに付属している溶解液0.7mLをバイアル瓶に注入したうち0.5mLを吸い出して接種する。ワクチンで一般にみられるアレルギー反応、接種部位の腫脹、短時間の発熱、といった副反応のほかに特異的なものはない。弱毒化した病原性ウイルスそのものを接種する生ワクチンであり、妊娠中の女性には接種は禁忌である。また、接種後2ヵ月間は妊娠を避けるべきである。同様にステロイドを含む免疫抑制薬を投与中、もしくは免疫抑制状態にある患者も接種禁忌である。現時点では任意接種に位置付けられており、自治体などの補助がなければ接種費用は自己負担となる。なお、先進国の中で日本だけが定期接種化されていない(図2)。図2 世界のムンプスワクチンの接種状況画像を拡大する(From data reported to WHO by 193 WHO Member States as of February 2015より引用)国内では、鳥居株を用いたタケダと星野株を用いた第一三共の2製品が流通している。両者とも無菌性髄膜炎の発生頻度は同様(鳥居株が1/1,600、星野株が1/2,300)。国際的に広く流通しているJeryl-Lynn株は、国産品に比べて免疫獲得能がやや低い一方で無菌性髄膜炎の発症は少ない。接種スケジュール「1ヵ月以上の間隔で2回以上の接種」が原則となる。添付文書では生後24ヵ月~60ヵ月の間に接種することが望ましいとされているが、妊娠中などの禁忌がなければ成人でも接種可能である(図3)。画像を拡大するその他の注意事項は以下の通りである。他の生ワクチン接種:27日以上空ける(4週目の同じ曜日から接種可能)不活化ワクチン接種:6日以上空ける(翌週の同じ曜日から接種可能)輸血およびガンマグロブリン製剤の投与:投与3ヵ月以降に接種ガンマグロブリンを200mg/kg以上の大量投与:投与6ヵ月以降に接種ワクチン接種後14日以内にガンマグロブリン製剤投与:投与後3ヵ月以降に再接種ステロイドや免疫抑制剤:投与中止後6ヵ月以降に接種罹患歴については前述の通り、医療機関でムンプスウイルス感染を証明された場合のみ意義ありとして、臨床症状のみで罹患歴としないことが望ましい。ムンプス成分を3回以上接種しても医学的には問題はない。Jeryl-Lynn株ワクチンを採用している先進国によってはむしろ、10年程度で抗体価が低下することによる“Secondary vaccine failure”への対策として追加接種を検討している。また、ウイルス曝露の早期にワクチン接種することで発症を予防する曝露後緊急接種について、麻疹や水痘では有効性が確認されているが、ムンプスワクチンでは無効と考えられてきた。しかし、2017年に“The New England Journal of Medicine”で一定の効果が報告されるなど3)、近年ムンプスワクチンの接種戦略は世界的に見直しが検討されつつある。ただし、この研究で用いられたのはJeryl-Lynn株を含むMMRワクチンであり、日本製品とは素性が異なる。また、日本のムンプスワクチンには曝露後接種の適応はない。日常診療で役立つ接種ポイント(例.ワクチンの説明方法や、接種時の工夫)外来などでは、おおむね以下の点について説明することが望ましい。「いわゆる『おたふく風邪』を予防するワクチンです。1回接種の予防効果は75~80%で、確実な予防のために2回接種しましょう」「『おたふく風邪』で死亡することはまれですが、多様な合併症が起きます。特に難聴は、年間300人前後も発症している可能性があるうえ、もし発症すると回復不能です」「感染から発症まで2週間以上と長いことや、感染しても1/3は無症状のままウイルスを広げている、といった特性から発症者の隔離は意味がなく、確実な予防法はワクチンだけです」「接種間隔を伸ばすメリットはないので、幼稚園などの集団生活を始める前に2回接種を済ませましょう」「海外へ移住する方は、お子さんだけでなく大人も接種を検討しましょう。幼少時に耳下腺が腫れた、というだけではムンプスとは限りませんし、追加接種しても問題ありません」今後の課題・展望ワクチンギャップ解消の機運を受け、厚生労働省の厚生科学審議会は2012年に「広く接種を促進することが望ましい」と7つのワクチンを提示した4)。これら7つのうち、2020年現在いまだに定期接種化を果たしていないのはムンプスだけになった。これには、1989年のMMR統一株ワクチンによる無菌性髄膜炎が大きく影響している。それまで積極的だったワクチン行政を決定的に転回させ、日本にワクチンギャップが生まれる遠因ともなった渦中のムンプスワクチンが、その影響を最後まで受けているともいえる。しかし、そもそも自然感染に比べれば現行ワクチンでも無菌性髄膜炎の発症率は1/20以下であるし、さらに1歳前後で早期接種すると無菌性髄膜炎の発生率が減ることが明らかになってきた。そして、現在、無菌性髄膜炎の発生率は、MMR統一株ワクチン当時の1/10にまで減っている。ムンプスワクチン定期接種化のメリットは感覚的にも明らかだが、医療経済学的な試算でも有効性は示されており5)、学術団体からも繰り返し要望が出ている。しかしながら、無菌性髄膜炎が減ったことでワクチン接種の効果を自然感染と比較する調査のハードルは高くなっており、承認申請のために治験を通過する必要がある輸入ワクチンの導入やワクチン株の新規開発を一層難しくなっている。一方、諸外国では、Jeryl-Lynn株ワクチン2回接種後の感染が問題となっており、不活化ワクチンの新規開発や曝露後接種の検討なども始まっており、日本と世界の現状は乖離しつつある。2020年1月の厚生科学審議会の評価小委員会では、ムンプスワクチンについて審議が行われたが、明確な方針決定には至らなかった6)。 参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト1)おたふくかぜワクチンに関するファクトシート2)2015-2016年にかけて発症したムンプス難聴の大規模全国調査3)Cardemil CV, et al. N Engl J Med. 2017;377:947-956.4)予防接種制度の見直しについて(第二次提言)5)大日康史、他. ムンプスの疾病負担と定期接種化の費用対効果分析.厚生労働科学研究費補助金(新興・再興感染症研究事業)「水痘、流行性耳下腺炎、肺炎球菌による肺炎等の今後の感染症対策に必要な予防接種に関する研究(研究代表者:岡部信彦)」、平成15年度から平成17年度総合研究報告書.p144-154:2006.6)厚生科学審議会(予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会)第37回講師紹介

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第21回 アフリカはCOVID-19流行をうまく切り盛りしている~集団免疫が可能か?

アフリカ大陸での新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染者数は8月6日に100万人を超えましたが勢いは衰えており、以降13日までの一週間の増加率はその前の週の11%より低い8%でした1)。アフリカの国々は最初のSARS-CoV-2感染が同大陸で確認されてから8月14日までの6ヵ月間に多くの手を打ちました2)。速やかにロックダウンを実行し、診断や治療体制を整え、いまやすべての国で人口1万人あたり100の検査を提供しています。重篤な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者に必要となる酸素もより供給できるようになっており、最初は69棟だった酸素プラントは倍近い119棟に増えています。酸素濃縮器も2倍を超える6,000台超を備えます。世界保健機関(WHO)がアフリカのデータを解析したところ2)、最初の感染発見からおよそ2~3週間後の感染急増は生じておらず、ほとんどの国での増加はゆっくりであり、増加の山場ははっきりしていません。どうやらアフリカはCOVID-19流行をいまのところうまく切り盛りしているようです3)。先月7月末のmedRxiv報告4)によると、ケニアの15~64歳の実に20人に1人、数にして160万人がSARS-CoV-2感染指標の抗体を有していると約3,000人の献血検査結果から推定されました。しかしケニアの病院でCOVID-19発症患者は溢れかえってはいません。モザンビークの2都市・ナンプラやペンバでおよそ1万人を調べた調査では、職業によって3~10%がSARS-CoV-2への抗体を有していましたが、診断数はずっと少なく、およそ75万人が住むナンプラでその時点で感染が確定していたのはわずか数百人ほどでした3)。マラウィでの試験でも同様に驚く結果が得られています5)。同国の大都市ブランタイアの無症状の医療従事者500人を調べたところ10人に1人を超える12.3%がSARS-CoV-2への抗体を有していると判断され、その結果や他のデータに基づくと、その時点でのブランタイアでのCOVID-19による死亡数17人は予想の1/8程でしかありませんでした。そのように、アフリカの多くの国の医療は不自由であるにもかかわらずCOVID-19死亡率は他の地域を下回ります。最近の世界のCOVID-19感染者の死亡率は3.7%ですが6)、アフリカでは2.3%(8月16日時点で死亡数は2万5,356人、感染例数は111万53人)7)です。より高齢の人ほどCOVID-19による死亡リスクは高まりますが、アフリカの人々の6割以上は25歳未満と若く、そのことがCOVID-19による死亡が少ないことに寄与しているかもしれないとWHOは言っています1)。それに、COVID-19の重症化と関連する肥満や2型糖尿病等の富裕国に多い持病がアフリカではより稀です。また、風邪を引き起こす他のコロナウイルスにより接していることや、マラリアやその他の感染症に繰り返し曝されていることでSARS-CoV-2を含む新たな病原体と戦える免疫が備わっているのかもしれません3)。ケニア人が重病化し難いことに生来の遺伝的特徴が寄与していると想定している研究者もいます。これからアフリカではギニア、セネガル、ベニン、カメルーン、コンゴ共和国の数千人のSARS-CoV-2抗体を調べる試験が始まります。WHOの指揮の下での国際的な抗体検査にはアフリカの11ヵ国の13の検査拠点が参加しています。抗体は感染しても備わらない場合もありますし、備わっても徐々に失われるとの報告もあるので抗体保有率は真の感染率を恐らく下回るでしょうが、得られたデータはアフリカでの感染の実態の把握を助けるでしょう。もしアフリカで数千万人がすでにSARS-CoV-2に感染しているとするなら、ワクチンに頼らず感染に身を任せて集団免疫を獲得して流行を終わらせることに取り組んでみたらどうかという考えが浮かぶと国境なき医師団の研究/指導部門Epicentre Africaで働く微生物/疫学者Yap Boum氏は言っています3)。経済を停滞させ、長い目で見るとむしろ人々の健康をより害しかねない制約方針よりも集団免疫を目指すほうが良い場合もあるかもしれません。感染数に比して死亡数が明らかに少ないアフリカなら集団免疫の取り組みが許されるかもしれず、真剣に検討してみる必要があるとBoum氏は話しています。参考1)Coronavirus: How fast is it spreading in Africa? /BBC2)Africa marks six months of COVID-19/WHO3)The pandemic appears to have spared Africa so far. Scientists are struggling to explain why/Science 4)Seroprevalence of anti-SARS-CoV-2 IgG antibodies in Kenyan blood donors. medRxiv. July 29, 20205)High SARS-CoV-2 seroprevalence in Health Care Workers but relatively low numbers of deaths in urban Malawi. medRxiv. August 05, 20206)Situation reports, WHO African Region/12 August 20207)Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) / Africa Centres for Disease Control and Prevention

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第20回 風邪コロナウイルスがSARS-CoV-2免疫を授けうる? / キャンプ場で小児にCOVID-19が大流行

風邪コロナウイルス反応T細胞がSARS-CoV-2も認識する?新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染していないのにSARS-CoV-2に反応するCD4+ T細胞が少なくとも5人に1人、多ければ2人に1人に備わっていると示唆されています。SARS-CoV-2が流行する前に25人から採取した血液検体を調べた新たなScience誌報告でもこれまでの幾つかの研究と同様にSARS-CoV-2反応T細胞が見つかり、SARS-CoV-2の142の領域(抗原決定基)がT細胞への反応と関連しました1,2)。そして、これまでにない新たな発見として、SARS-CoV-2に反応するT細胞が風邪を引き起こす馴染みのコロナウイルス(風邪コロナウイルス)4種のSARS-CoV-2に似た抗原決定基にも同様に反応しうることが示されました。この結果は、SARS-CoV-2流行前から馴染みのコロナウイルスに曝露したことでSARS-CoV-2にも反応しうるT細胞が備わったという考えを支持しています3)。また、感染前から備わるSARS-CoV-2への免疫反応はT細胞だけではなさそうです。先月23日にmedRxivに発表された報告によると、英国で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が本格的に流行する前の2018~2020年初めに非感染者262人から採取した血液検体のうち15検体(6%)にはSARS-CoV-2に反応する抗体が認められました4)。さらに特筆すべきことに小児でのその割合はとくに高く、1~16歳の小児48人のうち少なくとも21人(44%)はSARS-CoV-2スパイクタンパク質に反応するIgG抗体を有していました。小児は一般的に他のコロナウイルスとの接触がより多く、それが小児にIgG抗体が多い理由かもしれません。そのようなSARS-CoV-2反応抗体は小児におけるCOVID-19感染者の多くがかなり軽症で済むことの理由の一つかもしれないと著者の1人Rupert Beale氏はツイートしています5)。ただし、SARS-CoV-2への幾ばくかの免疫で感染を絶対に防げるという保証はありませんし、悪くすると正反対の効果、免疫反応を乱して手に負えない炎症やウイルスの蹂躙を招く恐れがあります。たまたま備わったSARS-CoV-2反応T細胞はとくに高齢者にとっては有害になる恐れがあるとシンガポールの免疫学者Nina Le Bert氏は言っています3)。Le Bert氏もCOVID-19へのT細胞反応を調べている研究者の一人です。キャンプ場で小児にCOVID-19が大流行小児はSARS-CoV-2感染しても多くが軽症で済み、それに感染し難いことが示唆されている一方で、米国ジョージア州のキャンプ場で6月に発生した小児のCOVID-19大流行はどの年齢の小児も感染と無縁ではないことを改めて示しました6)。そのキャンプ場では、キャンプする小児(6~19歳、中央値12歳)の受け入れの準備のためにまずは世話係(年齢14~59歳、中央値17歳)が6月17日にキャンプ場に集まり、キャンプはその週末21日から始まりました。キャンプ場のCOVID-19食い止め対策は完全ではなく、世話係は綿製マスク着用が義務でしたがキャンプする小児のマスク着用は必須とせず、ドアや窓を開けて建物内の換気を促すこともしませんでした。6月23日に10代の世話係の1人が前の晩に寒気を覚えてキャンプ場を去り、検査の結果24日にSARS-CoV-2感染が確認されました。キャンプ場は24日から滞在者を帰宅させはじめ、27日に閉鎖しました。キャンプには世話係251人とキャンプ参加小児346人合わせて597人が集い、検査結果が判明した344人(内訳は未報告)のうち260人(76%)が陽性でした。マスクが必須ではない環境で大勢が集まって同じ部屋で寝て、勢いよく歌ったり声援したりを繰り返したことが恐らく感染を広まらせたようであり、集いの場では相手との距離を保ってマスクを絶えず装着する必要があると著者は言っています。参考1)Selective and cross-reactive SARS-CoV-2 T cell epitopes in unexposed humans. Science 04 Aug 20202)Exposure to common cold coronaviruses can teach the immune system to recognize SARS-CoV-2 / Eurekalert 3)Does the Common Cold Protect You from COVID-19? / TheScientist4)Pre-existing and de novo humoral immunity to SARS-CoV-2 in humans. bioRxiv. July 23, 20205)Rupert Beale氏ツイッター 6)SARS-CoV-2 Transmission and Infection Among Attendees of an Overnight Camp - Georgia, June 2020. MMWR. Early Release / July 31, 2020

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第18回 身近に迫る新型コロナ、COCOAより基本的な感染予防が勝る

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者拡大に歯止めがかからない。クルーズ船での感染例も含む国内感染者数は既に4万人を突破。3万人突破からこの数字に至るまでわずか9日間しか要していないという。数ヵ月前のニューヨークやイタリア国内を彷彿とさせる状況である。実際、先週は自分の周囲にもCOVID-19がヒタヒタと足音を忍ばせて近づいてきていると感じたことを2度も経験した。そもそも私の場合、最初に身近の感染例を見聞きしたのは4月下旬。まだ国内のPCR検査陽性者が1万2,000人強、人口当たりでは陽性者が1万人当たり1人の時だ。この時は自宅マンションを出て近所で買い物をし、そのまま約1km離れた賃貸アパート一室の事務所へ戻ろうと再びマンション前を通り、異変に気付いた。マンション前の道路にパトカーと救急車が横付けされていたのだ。買い物をしたスーパーまで50mも離れていないのにサイレンを聞いた覚えはない。目を凝らすと自宅マンションのエントランスにあるインターホン前で完全防護服の人間が複数うごめいている。救急車の消防署要員と警察官だろう。職業柄、警察官が複数たむろしていると、ついつい近づいて「コロシ(殺し)ですか?」と業界用語で尋ねてしまう癖があり、警戒につく警察官に「もしかして非番(の同業者)の方ですか?」とぎょっとされたりするのだが、今回はあまりの緊迫感に近づける雰囲気ではない。明日、管理人に尋ねれば良いと思い、そのまま事務所に戻った。翌日、管理人に尋ねたところ、「発熱を訴えた住民がいきなり110番した」とのこと。いやはや神経質な人が過剰反応したのだろうと思ったのだが、結局数日後にこの住民がPCR検査陽性者だと判明した。マンション内の掲示板には、建物内の大規模な消毒はせず、共用部分で多くの人が手を触れる場所を管理人が入念に掃除をする、との管理組合からの決定が張り出されたことで決着がついた。そこからしばらくは周囲でそれらしい話を聞くことなく日々が過ぎていった。ついに知り合いから出たPCR検査陽性者そして先週水曜日の夕刻、旧知の編集者と対面した時、そっと耳打ちされた。「A君が新型コロナのPCR検査で陽性だったらしいです」A君もやはり旧知の編集者。本人がメディア業界に入った当時から現在に至るまで15年以上の付き合いがあり、何度か一緒に仕事をしたこともある。もちろん、時々飲食を共にすることもあり、最後に会ったのも昨年12月の飲食の場でだ。この原稿執筆時点で本人は既に回復し、仕事にも復帰している。本人に連絡を取ると、発熱の症状があり3日間休暇を取得。解熱したため職場に出勤したところ、翌日再度発熱して再び休暇を取り、その後陽性が判明したとのこと。職場に出勤したのは1日のみでとくにクラスターも発生していない。感染経路も不明だという。A君は次のように語った。「実は発熱後から今までまったく咳が出てないんですよね。そんなこともあり正直、油断してました」COVID-19の場合、これまでのデータからはほぼ全例に発熱があり、これに次いで7割以上の患者で観察されるのが乾性咳嗽。ところがA君本人はこの症状がまったくなかったことに加え、3日目の解熱というインフルエンザや風邪との臨床鑑別に用いられる現象があったのだから、実に厄介な感染症といえる。実はすれ違っていたCOVID-19そして2日後の先週金曜日、行きつけのスポーツジムで一汗かいてシャワーを浴びて帰宅しようと出口に向かったところ、従業員に名指しで呼び止められた。私が利用しているジムは時々利用者にちょっとしたプレゼントを配ったりするので、今回もその手のものかと思ってニコニコ顔で振り返ったら、思わぬ“プレゼント”をいただく羽目になった。「実は月曜日に保健所から連絡があり、当店の利用者から新型コロナの陽性者が発生しました。で、その方の直近の利用時間に村上さんが店内にいたことが判明しまして…」一瞬反射的に驚いたものの、もはや感染者がどこにいてもおかしくないと考えていたこともあり、厚生労働省がダウンロードを推奨する新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)を既に自分のスマホでも稼働させていたが反応してなかったな、とぼんやりと思ったくらいだ。従業員の話を聞いてみると、判明した陽性者は、入会のための初来店で、ほぼ入口付近のテーブル席におり、店内の防犯カメラの解析結果でこの時の私はテーブル席から離れたストレッチ・エリア、トレッドミル・エリアにいたとのこと。厚生労働省の一般向けQ&Aで示している濃厚接触者の基本定義は『1m以内、15分以上の接触の可能性がある場合』であり、この定義を満たしたとしてもマスクの有無、会話など発声を伴う行動や対面での接触の有無など、“3密”の状況などを考慮して最終的な濃厚接触者が決定されている。従業員によると、保健所が店内で濃厚接触者として認定した人はいないという。しかも来店日は2週間前のことで、既にウイルスの潜伏期間は過ぎている。従業員からは「この間体調に変化はありませんでしたか?」と尋ねられたが、もちろん変化はない。「一応、同時刻にいた方には念のためお知らせしています」とにこやかに言われて話は終了した。ちなみに前述のCOCOAは陽性と診断された人に対し、保健所が処理番号を発行し、本人が自らの意思で処理番号をアプリに入力しないと、陽性者の登録にはならない。厚生労働省の発表によると、8月5日時点でのCOCOAのダウンロード件数は約1,157万件、陽性登録者は135件であり、まだまだ利用者にとって有効に機能する状態にはなっていないのが現状である。結局、今回私の傍らをCOVID-19が通り過ぎて行ったことで改めて認識したのが、現時点ではソーシャルディスタンスの確保、屋内での距離確保が難しい場合のマスク着用、手洗いの励行という、もはや聞き飽きたといわれるようなことを自分自身が腐らず実行し、そして外に向けては繰り返し伝えていかねばならないということだ。

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