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コロナ急性期、葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏の症状消失までの期間は?/東北大

 コロナウイルス感染症(COVID-19)の急性期症状を有する患者に、対症療法に加えて葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を投与した結果、有意差はなかったもののすべての症状の消失までの期間は対照群よりも早い傾向にあり、息切れの消失は補足的評価において有意に早かったことを、東北大学の高山 真氏らが明らかにした。Journal of Infection and Chemotherapy誌オンライン版2023年7月26日号の報告。 高山氏らが2021年2月22日~2022年2月16日にかけて実施した多施設共同ランダム化比較試験1)において、葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の併用により、軽症~中等症I患者の発熱が早期に緩和され、とくに中等症I患者では呼吸不全への悪化が抑制傾向にあったことが報告されている。COVID-19の症状や病状悪化のリスクはワクチン接種の有無によって異なる可能性があるため、今回はこのランダム化比較試験のデータを用いて、ワクチン接種の有無も加味した症状の消失に焦点を当てた事後分析を行った。 研究グループは、20歳以上で軽症~中等症IのCOVID-19患者を対象に、通常の対症療法(解熱薬、鎮咳薬、去痰薬投与)を行うグループ(対照群)と、対症療法に加えて葛根湯2.5g+小柴胡湯加桔梗石膏2.5gを1日3回14日間経口投与するグループ(漢方群)の風邪様症状(発熱、咳、痰、倦怠感、息切れ)が消失するまでの日数を解析した。 主な結果は以下のとおり。・解析には、漢方群73例(男性64.4%、年齢中央値35.0歳)、対照群75例(65.3%、36.0歳)が含まれた。そのうち、ワクチン接種者は、漢方群7例(9.6%)、対照群8例(10.7%)であった。初回診察時のリスク因子や重症度は両群で同等であった。・少なくとも1つ以上の症状が消失した割合は、漢方群84.9%、対照群84.0%であった。消失までに要した日数の中央値は漢方群2日(90%信頼区間[CI]:2.0~3.0)、対照群3日(90%CI:3.0~4.0)で、有意差は認められなかったものの漢方群のほうが短い傾向にあった(ハザード比[HR]:1.28、90%CI:0.95~1.72、p=0.0603)。ワクチン接種の有無別では、ワクチン未接種の漢方群のHRは1.31(90%CI:0.96~1.79、p=0.0538)でほぼ同等であった。・すべての症状が消失した割合は、漢方群47.1%、対照群9.1%であった。消失までに要した日数の中央値は、漢方群9日(6.0~NA)、対照群NAで、同様に漢方群のほうが短い傾向にあった(HR:3.73、95%CI:0.46~29.98、p=0.1763)。ワクチン未接種の漢方群のHRは4.17(95%CI:0.52~33.64、p=0.1368)であった。・競合リスクを考慮した共変量調整後の補足的評価において、息切れの消失は漢方群のほうが対照群よりも有意に早かった(HR:1.92、95%CI:1.07~3.42、p=0.0278)。ワクチン未接種の漢方群では、発熱(HR:1.68、95%CI:1.00~2.83、p=0.0498)および息切れ(HR:2.15、95%CI:1.17~3.96、p=0.0141)の消失が有意に早かった。 これらの結果より、研究グループは「軽症~中等症IのCOVID-19患者に対する漢方治療の分析において、すべての症状の評価においても各症状の評価においても、対照群よりも漢方群のほうが早く症状が消失していた。これらの結果は、急性期のCOVID-19患者に対する漢方治療の利点を示すものである」とまとめた。

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コロナ感染しても無症状な人の遺伝的特徴

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患すると、大多数に咳や喉の痛みなどの症状が現れるが、奇妙なことに、約5人に1人では何の症状も現れない。この現象には、ある遺伝的バリアントが関与しているようだ。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)神経学および疫学・生物統計学分野教授のJill Hollenbach氏らによる研究において、HLA(ヒト白血球抗原)-B遺伝子の特定のアレル(対立遺伝子)を保有している人では、新型コロナウイルスに感染しても症状の現れない可能性が、保有していない人の2倍以上であることが示された。この研究の詳細は、「Nature」に7月19日掲載された。 通常、HLAは細菌やウイルスなどの健康に対する潜在的な脅威を検知し、それに対する免疫反応を誘導する。Hollenbach氏らは、HLAのこのような重要な役割に鑑み、新型コロナウイルスに感染しやすい、あるいは感染しにくい特定のHLAの遺伝的バリアントが存在する可能性を考え、それを調べるための研究を実施した。 Hollenbach氏らはまず、HLAの遺伝子型が判明しているボランティアの骨髄提供者に本研究への参加を呼びかけ、承諾した人には、COVID-19の症状を追跡するために設計されたモバイルアプリを使用してもらった。このようにして、2021年4月30日時点で2万9,947人を本研究に登録。この中から、ワクチン接種が広範に行われる前の2021年4月30日までに新型コロナウイルス検査で陽性の結果を報告していた1,428人を対象に解析を行った。1,428人中136人は、陽性判定の前後少なくとも2週間の間に症状が現れなかった無症候性感染者だった。 HLAの5つの遺伝子座とCOVID-19の経過との関連を検討した結果、無症候性感染者はHLAの遺伝子座に存在する特定のアレル(HLA-B*15:01)を保有している可能性が、有症状者よりも有意に高いことが明らかになった。具体的には、HLA-B*15:01を保有する頻度は、無症候性感染者で0.1103、有症状者で0.0495であり、オッズ比は2.38(95%信頼区間1.51〜3.65)と、前者でのHLA-B*15:01の発生頻度が後者の2倍以上であることが示された。また、無症候性感染者のうち、HLA-B*15:01を保有していた人の割合は約20%であったのに対し、有症状者での割合は9%にとどまっていた。 次に、このような関連が新型コロナウイルスに対する既存のT細胞による免疫反応に起因しているという仮説を検証するために、HLA-B*15:01を保有する人の血液サンプルを用いて、新型コロナウイルス由来の特定のペプチドに曝露した際のT細胞の反応を調べた。その結果、T細胞が新型コロナウイルスのSタンパク質由来のNQKLIANQFというペプチドに反応することが示された。また、このようなT細胞の大部分は多機能性のメモリーT細胞であり、通常の風邪の原因ウイルスである季節性コロナウイルス由来のペプチドにも交差反応性を示すことも判明した。このことは、HLA-B*15:01を保有する人では、新型コロナウイルスに曝露する以前に他のコロナウイルスに曝露することで、新型コロナウイルスに対するある程度の免疫を獲得していた可能性があり、このため、新型コロナウイルス感染後、症状が現れる前にウイルスを駆除することが可能であったことを示唆している。 Hollenbach氏は、「これらの結果は、次世代のワクチン設計に役立つだろう。また、感染した場合に、発症を防ぐ方法を知るためにも有用な情報だ」と話している。 この研究には関与していない、米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)感染症・世界公衆衛生部門の責任者であるDavey Smith氏は、「パンデミック中に観察された謎がこの研究により解けたのではないか」と述べる。同氏はまた、このアレルを持つ患者は、「言ってみれば、COVID-19の遺伝的宝くじに当たったようなものだ」とコメントしている。 Smith氏は、「ウイルスに対するより効果の高いワクチンを作るためには、HLAがどのようにして鍵となるウイルスのペプチドを認識するのかの理解を深めることが重要だ。私には、HLAの遺伝子型のように、遺伝子によって免疫反応を最大限に高めるために受けるべきワクチンを決めるような世界が想像できる」と述べている。

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考えがまとまらない【Dr. 中島の 新・徒然草】(488)

四百八十八の段 考えがまとまらない暑いですね。外に出る気がしません。毎日いるのは家か車か病院のどれか。ひたすらクーラーの効いたところで過ごしています。ただ、ベランダに干した洗濯物がよく乾くのだけは助かりますね。さて、先日来院した患者さんは30代の男性。主訴は頭痛、動悸、息切れ、微熱でした。これらの症状がひどいので会社を休んでいます。で、不明熱として当院の総合診療科に紹介されてきました。すでに前医で、レントゲンや心電図に加えて、膠原病スクリーニングや腫瘍マーカーを含む採血などがやり尽くされています。診断を付けるために私ができることなんか何も残っていません。なので、改めて病歴を確認しました。1ヵ月前に39度台の発熱が2~3日続いたそうです。それでコロナの検査をしたが、陰性でした。その後、熱は下がったのですが本調子になれません。仕事は現場の監督ですが、時には深夜近くに及びます。体がついていかないので、定時上がりの内勤に変えてもらいました。それでも倦怠感が続き、ついに休むに至ったとのこと。一番つらい症状は、体を動かした時の息切れと動悸。30代なのに走ったり階段を上ったりする気にはならないそうです。いくつかの医療機関を受診し、頻脈に対してβ遮断薬を処方されました。が、薬を飲んでも一向に良くなった気がしません。いろいろな医療機関を受診した後に、当院の総合診療科にたどり着きました。患者「仕事に戻りたいという気はあるんですけど、考えがまとまらなくて」中島「内勤の仕事に慣れていないのでしょうか?」患者「いや、前にも経験があるんで、そんなに難しい仕事ではないですね」中島「なるほど」患者「家でも物を考えるのが面倒になってしまって何もできないんですよ」息切れと動悸だけなら心臓や肺の疾患、もしくは貧血なども考えられます。でも考えがまとまらないという脳の症状もあるということは……ひょっとしてコロナ後遺症かも?確かにコロナ検査は陰性でした。しかし、検査の感度は70%しかありません。つまり、およそ3分の1のコロナは検査で見逃されるわけです。だから偽陰性だったのかも。そう考えると話の辻褄が合います。中島「もしかするとコロナ後遺症かもしれませんね。少し体調が良くなったとしても、あまり無理しないほうがいいですね」患者「会社のほうも休みにくくなってきたんで、そろそろ出勤したいんですよ」中島「内勤だったら何とかなりそうですか」患者「ええ」ということで「COVID-19後遺症:今後3ヵ月間の時間外勤務・出張を控えること」という診断書を作成しました。会社のほうはいいとして、もう1つの懸念が残っています。中島「家でゴロゴロすることを奥さんが許してくれるでしょうか」そう尋ねてみました。患者「理解してくれる……はずですけど」患者さんは目に見えて動揺しています。中島「お子さんは何歳でしたか?」患者「5歳と2歳です」中島「『育児で大変なのに、旦那は何もしてくれない』と奥さんに思われたりしませんかね」いくらご主人が会社で一生懸命働いているといっても、人というのは自分の目に入った情報だけで判断しがちです。患者「先生にそう言われると、だんだん心配になってきました」中島「まあ、そこはよく話し合って頑張ってください」第9波になってコロナ症例は増え続けています。その一方で、コロナ後遺症もよく目にするようになりました。若者にも軽症者にも起こるから厄介です。コロナをただの風邪と呼べるのは、もう少し先になりそうですね。最後に1句猛暑でも 頭の中は まだコロナ

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第173回 コロナと戦えるT細胞が風邪のお陰で育まれうることの初の裏付け

ウイルスが体内の細胞の1つに感染すると病原体駆逐に携わるヒト白血球抗原(HLA)遺伝子のタンパク質がその細胞表面にウイルスタンパク質の切れ端を提示して免疫系に通知します。その通知を受け、病原体を認識して記憶しうるT細胞が感染細胞を殺してウイルスが複製できないようにします。HLA遺伝子群の顔ぶれはすこぶる多彩で、その多くはどれかのウイルスへの免疫反応の強さの個人差に寄与しています。たとえばHLA-B遺伝子の1つは感染したヒト免疫不全ウイルス(HIV)が体内で極わずかなままで発症しない人にも認められ、かたや別の種類のHLA-B遺伝子を有する人では正反対にHIV感染後速やかにAIDSを発症します。HIV感染の経過との関連のように新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染の経過と関連するHLA遺伝子があるかもしれません。そこで米国・カリフォルニア大学の免疫遺伝研究者Jill Hollenbach氏が率いるチームは骨髄ドナー登録のおかげでHLAの種類が検査ですでに判明している3万例弱に協力を仰ぎ、SARS-CoV-2感染の経過とHLAの関連を調査しました。被験者の携帯機器にダウンロードしてもらったアプリを使って情報を集めたところSARS-CoV-2ワクチン普及前の2021年4月30日までに白人被験者の約1,400例がSARS-CoV-2に感染しており、その1割ほどの136例は無症状で済んでいました。HLA遺伝子情報と照らし合わせたところ、それら136例の5人に1人(20%)はHLA-B*15:01として知られるHLA-B遺伝子変異を有していました1)。一方、発症した人のHLA-B*15:01保有率は10人に1人に満たない9%でした。続いて、それら被験者とは別の米国とオーストラリアの被験者の血液検体を使ってHLA-B*15:01と発症予防を関連付ける仕組みの解明が試みられました。それら血液検体は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行前に集められました。それにも関わらずHLA-B*15:01保有者の血液検体の75%のT細胞はSARS-CoV-2スパイクタンパク質の一部NQK-Q8を認識しました。どうやらHLA-B*15:01保有者のT細胞はSARS-CoV-2の情報を知らされていないのにSARS-CoV-2と戦う準備ができているようなのです。それはなぜか。SARS-CoV-2が広まる前から馴染みの季節性コロナウイルス感染の経験がその理由の一端を担っているようです。風邪ウイルスとしても知られる季節性コロナウイルスのスパイクタンパク質はNQK-Q8とほぼ同一のペプチド配列NQK-A8を含みます。HLA-B*15:01保有者のT細胞はそのNQK-A8にも強力に反応しました。HLA-B*15:01保有者のT細胞は季節性コロナウイルスによる風邪の経験を糧に鍛えられ、SARS-CoV-2を含むほかの見知らぬコロナウイルスをも相手できる免疫を備えたのかもしれません。見知らぬSARS-CoV-2も相手しうるT細胞が季節性コロナウイルスとの先立つ交戦を経て生み出されうることを裏付けた初めての成果となったと免疫学の研究者などは述べています2)。今後の研究課題として、HLA-B*15:01がSARS-CoV-2への免疫反応を底上げする仕組みを調べる必要があります。その仕組みの解明は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の新たな予防ワクチンや治療手段の開発に役立ちそうです3)。参考1)Augusto DG, et al. Nature. 2023 Jul 19. [Epub ahead of print]2)One in five people who contract the COVID-19 virus don’t get sick. A gene variant may explain why / Science3)Gene Mutation May Explain Why Some Don’t Get Sick from COVID-19 / UC San Francisco

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喘息の症状悪化、次にすべきは?【乗り切れ!アレルギー症状の初診対応】第1回

喘息の症状悪化、次にすべきは?講師富山赤十字病院 小児アレルギーセンター センター長 足立 雄一 氏【今回の症例】7歳の男児。1年ほど前から喘息のため、吸入ステロイド薬(フルチカゾン換算で50μgを1日2回吸入)で治療。半年以上良い状態が続いていたが、ここ2~3ヵ月は風邪をひくと咳込みが長引き、その都度、気管支拡張薬や去痰薬を内服していた。今回は、最近体育の授業で息苦しいことがある、と来院。吸入は朝晩続けている。どのように対応すればよいか?1.吸入ステロイド薬を増量する2.吸入ステロイド薬は増量せず、長時間作用性β2刺激薬との合剤に変更する3.吸入ステロイド薬は増量せず、ロイコトリエン受容体拮抗薬を追加する

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第160回 インフルの集団感染、新型コロナの教訓はいずこに!?

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の教訓は生かされていないのか? 宮崎県でのインフルエンザ集団発生の報道を知って、そう思った。1つの高校で教職員・生徒を合わせて491人ものインフルエンザの感染者が発生したとの一報を目にした時は、正直「冗談だろう? もしかして新型コロナと間違えた?」と思った。集団発生が起きた高校の生徒数はわからないが、宮崎県内の高校のデータを参照すると、全日制高校の生徒数は最大規模でも約1,600人。多くは700~900人規模かそれ以下である。ざっくり計算をすると、集団発生が起きた高校では2~4人に1人がインフルエンザに感染したことになる。となると基本再生産数が約2のインフルエンザではなく、5以上と報告されているオミクロン株による新型コロナではないかと考えてしまったのだが、この時期の呼吸器感染症ではPCR検査による鑑別はしているはずで、やはりインフルエンザということなのだろう。ただ、立ち止まって考えてみれば、不思議はないのかもしれない。まず、報道されているように、きっかけはどうやら体育祭のようだ。前回の記事でも触れたように、文部科学省が4月1日から「学校での教職員・生徒のマスク着用を原則不要」と通知した中、体育祭では教職員・生徒の多くがマスクを外していた可能性がある。その環境で人と人とが密着しやすい体育祭を行えば、集団発生が起こりやすいのは確かだ。ここであえて言及すると、この高校の体育祭で教職員・生徒の多くが実際にマスク非着用だったとしても、私はこれを批判するつもりはない。とはいえ、近年、1つの学校で短期間にこれだけのインフルエンザ患者が発生したケースは、少なくとも私個人は記憶にない。そしてここまでの集団発生の主たる原因は、マスク非着用での体育祭実施よりも、コロナ禍でインフルエンザの流行がかなり抑えられた結果、多くの人でインフルエンザに対して免疫が失われていたからではないだろうか。これに高校生がインフルエンザワクチンの定期接種の対象者ではないこと、仮に昨秋以降にワクチン接種をした人がいたとしても季節外れで効力が失われていることを考え併せると、今回の集団発生はおおむね説明がつくのかもしれない。では、ここからは私がこの事例でどんな「教訓」が生かされていないと考えているかに話の軸を移していきたい。ここでは釈迦に説法となるが、改めてインフルエンザの特徴を整理しよう。潜伏期間は1~3日無症候割合は10%ほどで、こうしたケースではウイルス量は低い感染力(ウイルス排出量)のピークは発症後この特徴を踏まえれば、今回の集団発生は、他者への感染が起きやすい環境と集団免疫の喪失に加え、この教職員・生徒の中に症状があるのに体育祭に参加した人がいるということだ。まさに私が指摘したいのはこの点である。コロナ禍を通じて、繰り返し叫ばれたのは「風邪様症状のある人は外出を控えて」というメッセージだ。コロナ禍当初には、OTCの風邪薬のCMで有名だった「風邪でも絶対休めないあなたへ」というキャッチコピーもついに消えた(このコピーについては2016年から問題が指摘されていたが、変更されたのは2020年3月ごろ。当該製薬企業は「TVCMの放映期間ならびにキャンペーンが終了したため修正した」と説明している)。残念ながら、今回の集団発生ではこのメッセージが守られていなかった可能性があると考えざるを得ない。集団発生の時期は新型コロナの感染症法上「5類化」後であり、この高校では久々の体育祭だったかもしれない。ならば教職員・生徒共に無理を押してでも参加したい気持ちがあったのだろうと想像する。しかし、ちょっとした“油断”がこれだけの事態を招いてしまう。今はコロナ禍を経た過渡期だが、同時にこれまでに得た教訓を踏まえ、社会がより良い方向に定着していくための重要な時期でもある。たとえば、コロナ禍で得られた重要な教訓・経験の1つはリモート化・オンライン化である。これを活用して体育祭の実況中継によるハイブリット開催も可能だったはず。数少ない貴重なイベントだからこそ、体調不良の教職員・生徒が少しでも安心して休め、かつ疎外感を抱かないようそこまで配慮しても良かったのではと思う。しかも、以前よりもこうしたことは低コストでできる。もちろん現場で参加する高揚感や充実感にはかなわないのは確かだが、そうしたサポートがないより遥かにマシなはず。そして社会がコロナ禍明けで「湧いている」ようにも見える今こそ、コロナ禍の教訓をいかに社会に定着させるかを改めて再認識する必要がある。そのためには途方もない地味な努力の継続が求められるだろう。たとえば「風邪様症状のある人は家で休もう」と言い続けることはその1つだ。これはある種、医療関係者だけでなく社会全体にとって「苦痛」な作業となる。しかし、これをあきらめたら、私たちは新型コロナに真の敗北を喫することになる。

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第160回 岡山大教授の論文不正、懲戒解雇で決着も論文撤回にはまだ応じず

コロナは文字通り“普通の風邪”へこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。5月8日、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが「5類」に移行しました。これに伴い、3年3ヵ月余りにわたって設置されていた政府の対策本部も廃止されました。また、WHOのテドロス事務局長は5月5日の記者会見で、新型コロナウイルス感染症をめぐる世界の状況について、2020年1月に発表した「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」の終了を宣言しました。これで、新型コロナウイルス感染症の流行はほぼ“終息”し、文字通り“普通の風邪”となったと言えるでしょう。ただ、日本においてこの3年間で浮き彫りになった医療提供体制や医療連携の課題がすべて解決したとは到底言えません。“喉元過ぎれば熱さを忘れる“ではないですが、次のパンデミックにおいても同じような失敗、ドタバタを繰り返さぬよう、政府や医療関係者にはこの3年間の徹底した検証とパンデミック対策の更新を行ってほしいと思います。ところで、WHOのデータによれば、これまでに世界人口(約80億人)の1%弱が新型コロナウイルス感染症に感染(診断された確定例の累積)し、0.1%弱が死亡したと報告されています(途上国などを考慮すると、実際はより多くが感染し、0.25%超が死亡したとの見方もあります)。今から100年前、世界的大流行を引き起こしたA/H1N1型のスペインインフルエンザ(いわゆるスペイン風邪)では、1918〜1920年の3年間に3度の流行の波が押し寄せたと言われています。そして、当時の世界人口(18億〜20億人と推定)の25〜30%が感染し、2〜5%が死亡したと推計されています。当時は、抗生物質やワクチンはおろか、インフルエンザウイルスの存在すらわかっておらず、医学・医療のレベルも低かったので、全人口に対する死亡率の差はこんなものだろうと思われますが、終息までに同じく約3年かかっている点がとても興味深いです。どれだけ医学が進歩しても、「新興感染症によるパンデミックの終息には3年はかかる」ということなのでしょうか。誰かにこの謎を解き明かしてもらいたいと思います。岡山大、細胞生理学分野の教授を懲戒解雇さて今回は、岡山大学医学部での論文不正について書きます。岡山大学・学術研究院医歯薬学域の神谷 厚範教授(医学部・細胞生理学分野)が2019年7月にnature neuroscience電子版に発表したがん治療に関する論文1)に実験に使ったマウスの数などの捏造や画像の使い回しが113ヵ所確認も確認された問題で、同大は4月17日、神谷教授を懲戒解雇処分とした、と発表しました(処分は4月14日付)。AMEDもプレスリリース、全国紙も大きく報道した研究この事件、たびたび発覚する医学部や生命科学系の研究者による論文不正ではあるのですが、2019年に発表したのがnature neuroscienceという一流誌であったため、研究資金を提供した日本のAMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)も論文掲載当時、「がんに自律神経が影響することを発見!がんの神経医療の開発へ」と題するプレスリリース(最近までAMEDのサイトに掲載されていましたが4月27日に取り下げられました)を出し、全国紙やNHKもその成果を大きく報道しました。そうした経緯もあってか今回の懲戒解雇を報道したメディアの数も心なしか多かった印象です。研究成果を“誤報”したことへのメディア自身の反省もあったのかもしれません。全国紙各紙は、今回の懲戒解雇報道の末尾に2019年の記事を取り消す旨を記しています。たとえば読売新聞は「2019年7月9日の朝刊社会面で、神谷教授らによる論文について『乳がん 交感神経で悪化?』の見出しで報じました。岡山大などが論文不正を認定し、日本医療研究開発機構も研究費の一部返還と、神谷教授に対する新たな研究申請の停止を決めたことから、記事と見出しを取り消します」と記しました。交感神経の働きを止めるとがんの進行も抑えられることを、マウスを使って確認神谷元教授が発表した論文は、交感神経をがんの中で活発に働かせたところ腫瘍が大きくなるなどがんが進行し、交感神経の働きを止めるとがんの進行も抑えられることを乳がんのマウスを使った実験で確認した、という内容でした。マウスにヒトの乳がん組織を移植し、乳がん組織内の交感神経を刺激し続けると、60日後、刺激しないマウスと比較して刺激したマウスのがんの面積は2倍近く大きくなり、転移数も多かったそうです。一方、遺伝子治療で交感神経の活性化を止めると、60日経ってもがんの大きさはほとんど変化せず、転移もなかったとのことです。当時の朝日新聞の記事によれば、神谷元教授は「不安や怒りなどをうまくコントロールし、交感神経を刺激し過ぎないようにすることで、良い影響を与えられるかも知れない」と話していました。AMEDに論文に関する匿名の告発が届き不正発覚「精神の状態ががんの転移にも影響する…」。一般人にも極めてわかりやすいロジックゆえ、マスコミも飛びつきやすかったこの研究ですが、2020年9月にAMEDに対し同論文に関する匿名の告発があったことで事態は急転します。告発を受け取ったAMEDは、元教授が論文の実験を行った前任地、国立循環器病研究センターと岡山大に研究不正の予備調査実施の要請を行いました。翌2021年には、それぞれで調査委員会が立ち上げられ、本格的な調査がスタートしました。国立循環器病研究センターの調査報告書2)は2023年3月2日に、岡山大学の調査報告書3)は3月24日にそれぞれ公表されました。実験に用いたとするマウス、ラットの数と実際に使用できた数が大きく乖離それらの調査結果によれば、論文ではマウス914匹、ラット368匹を実験に用いたとしていましたが、神谷元教授が購入するなどして実際に使用できたとみられるのはそれぞれ72匹、35匹しかいなかったとのことです。こうした動物の使用数に関する捏造が108ヵ所に上り、「論文の実験は不可能」と結論付けています。ほかにも実験結果を示す画像5ヵ所の捏造も認定されました。たとえば自律神経の操作でマウスのがんの増殖が抑制されたとした実験では「0日目」と「60日目」の画像がいずれも同じ日に撮影されていました。調査報告書は、露光時間を変えることで見かけ上、がんの大きさを調整したとみられるとしています。調査委員会の調べに対し、神谷元教授は「2018年6月の大阪府北部地震でハードディスクが落下して故障し、データを失った」として実験データを提供しませんでした。捏造の指摘についても「マウスは再利用していた」「画像の取り違いがあった」などと説明し、不正を認めていないとのことです。岡山大が懲戒免職という重い処分を下したのに対し、AMEDは神谷元教授が論文執筆時に所属していた国立循環器病研究センターに対し、研究費の一部約11万8,000円の返還を求めました。AMEDによると、神谷教授が同センターで研究所室長などとして活動していた2015~2018年度、計約4,700万円の研究資金を提供。このうち、不正が確認された論文に直接関係する費用として、英文の校正費(2017年度)について返還を求めたとのことです。同センターは返還に応じる方針です。研究所時代の成果を引っさげ、教授に就任神谷元教授は1994年に浜松医科大学医学部卒業、2000年に名古屋大学大学院医学系研究科博士課程を修了しています。名古屋大学環境医学研究所助手を経て2002年より国立循環器病研究センター研究所・循環動態機能部室員となり、2017年には同循環モデル解析研究室長となっています。同研究所時代の研究成果を引っさげ、2018年に岡山大学の教授に就任しました。2019年にnature neuroscienceに発表した論文は、国立循環器病研究センター研究所の室長時代に行った実験によって得られた成果を発表したものであり、そのためもあって、同センターによる調査報告書は50ページ(岡山大学は10ページ)と長く、不正の背景や原因をより詳しく分析した内容となっています。研究姿勢が「科学者としてあるべき真摯さや誠実な姿勢からかけ離れたものであった」その中で、論文不正の社会的影響については、「論文I(nature neuroscience掲載の論文)については、2019年7月5日に岡山大学をはじめ5機関の連名で記者発表され、複数の新聞で報道されるとともに、元室長により複数回学会等で発表されている。また、元室長により、この論文と関連する別の研究が開始されている。加えて、この論文の被引用回数は2022 年8月4日現在で100回を超えており、すでに相当数の論文で引用がなされている状況である。掲載された『Nature Neuroscience』は、影響力の大きな科学雑誌であり、この論文を基に、新たな研究を着想している研究者がいることも十分に想定される。以上より、患者を対象とした新たな臨床研究等がスタートしているような状況でないものの、このような論文において、極めて不適切な研究が行われた事実が当該分野の研究の進展に与える悪影響は大きいと言わざるを得ない」と書いています。さらに、発生要因については、「今回の事案が発生した要因として、まず、元室長の研究に対する姿勢が、科学者としてあるべき真摯さや誠実な姿勢からかけ離れたものであった点を挙げざるを得ない。科学者として当然に備えるべき『科学界に対して真正なる結果を報告する』という意識、倫理観が欠如していたことが、今回の事案が引き起こされた最大の要因と言える。科学雑誌では、科学的根拠となる実験手法を正確に記載して、再検証ができるようにすることが求められているが、元室長による論文の記載は、それとはかけ離れたものであった」と、元室長個人の研究者としての姿勢を厳しく糾弾しています。さらに、「元室長が、調査の過程において、科学者が第三者的な立場から本実験結果を評価する上で考えもしない独自の主張を繰り返すとともに、『共著者や学術誌の査読者と編集者も気付かずに、そのまま出版されてしまいました』と他に責任を転嫁するような主張を行い、また、『大量の図の中においてこのエラーに気付くのは困難でした』と、図表が大量であれば、過失が許されるかのような主張をしたことも、上記の意識の欠如を裏付けるものである」とも書いています。2020年には別の国立循環器病研究センター室長による論文不正もそれにしても、論文不正が発覚すると、研究が行われた前職・元職の研究所や大学だけではなく、現職の職場でも調査を行わなければならないので大変です。今回は、国立循環器病研究センターの調査委員会は5人、岡山大の調査委員会では7人が調査を担当しています。数本の論文の捏造や改ざんのためにそれだけの時間と労力(外部有識者には費用も)が割かれたわけです。大変な無駄遣いと言えるでしょう。そう言えば、国立循環器病研究センターの論文不正としては、2020年8月にも別の事案が発覚し(「第22回 大阪大論文不正事件の“ナゾ” NHKスペシャル「人体」でも取り上げられた臨床研究の行方は?」参照)、大きなニュースになりました。この時も、同センターで室長を務めていた医師が発表した論文5本に捏造・改ざんが確認されています。論文を量産することでどこかの大学教授のポストをなんとか狙いたい“室長”という微妙な地位が、不正に走らせる一因となっているのでしょうか。なお、nature neuroscienceの論文について、岡山大は撤回するよう神谷元教授に対して勧告を行いましたが、まだ撤回は行われていません。参考1)Kamiya A, et al. Nat Neurosci. 2019;22:1289-1305.2)研究活動の不正行為に関する調査結果報告書/国立循環器病研究センター3)研究活動の不正行為及び倫理指針不適合に関する調査結果報告について/岡山大学

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新たなRSウイルスワクチン、高齢者と乳児の双方で効果を発揮

 ファイザー社が開発したRS(呼吸器合胞体)ウイルスワクチンは、高齢者と乳児の双方でRSウイルス感染症を安全かつ効果的に予防するという2件の臨床試験の結果が報告された。ファイザー社は、同ワクチンの高齢者に対する接種が5月までに、妊婦に対する接種が8月までに米食品医薬品(FDA)により承認されるものと見ている。これらの臨床試験の結果は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に4月5日掲載された。 RSウイルスに感染しても、通常は風邪様の症状が現れる程度だ。しかし米国では、1歳未満の子どもの気管支炎と肺炎の最も一般的な原因ウイルスがRSウイルスである。また、このウイルスは高齢者、特に健康状態が不良な人にリスクをもたらす。米疾病対策センター(CDC)によると、毎年、5万8,000〜8万人の5歳未満の子ども、および6万〜16万人の高齢者がRSウイルス感染症で入院し、さらに6,000〜1万人の高齢者が同感染症により死亡しているという。 RSウイルスワクチンの臨床試験は1960年代に実施されたが、ワクチンにより産生された抗体が、ウイルスへの感染や重症化を促してしまう「抗体依存性感染増強」を引き起こし、失敗に終わった。しかし、2010年代初頭、米国国立衛生研究所(NIH)の研究グループが、RSウイルスのヒト細胞への侵入に関わるウイルス表面のFタンパク質がヒト細胞の受容体と結合し、ウイルス粒子が細胞膜と融合した後に構造を変えることを突き止めた。そして、RSウイルスワクチンが効果を発揮するには、融合前のFタンパク質の構造をターゲットにする必要があることを報告した。この画期的な発見により、ファイザー社やグラクソ・スミスクライン(GSK)社をはじめとする製薬企業が、安全で効果的なRSウイルスワクチンの開発をめぐって競争を繰り広げている。 2件の臨床試験のうち、高齢者を対象にした第3相試験では、中間解析の時点で60歳以上の高齢者3万4,284人がファイザー社のRSウイルスワクチン(1万7,215人)、またはプラセボ(1万7,069人)のいずれかを接種する群にランダムに割り付けられていた。解析の結果、RSウイルスワクチン接種群では、3種類以上の兆候や症状を伴うRSウイルス感染に関連した下気道疾患の予防に85.7%、2種類以上の兆候や症状を伴う同疾患の予防に66.7%の効果を有することが明らかになった。 米ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院国際保健学分野教授のRuth Karron氏は、「重症化においては入院に関心が集まるが、この中間解析では、入院に対する有効性を示すことはできなかった。しかし、2種類以上よりも3種類以上の兆候や症状を伴うRSウイルス感染症に対する有効性の方が高かったことから、重症化の予防効果も期待できるのではないか」と述べている。 一方、妊婦を対象に18カ国で実施された第3相試験では、妊娠24〜36週の妊婦にファイザー社のRSウイルスワクチン(3,682人)、またはプラセボ(3,676人)がランダムに投与された。その後、生まれた子どもの追跡調査を行い、ワクチンによって産生された母親の抗体が子どもに保護効果をもたらすのかどうかを確認した。 RSワクチン接種群の子ども3,570人、プラセボ接種群の子ども3,558人を対象にした中間解析の結果、入院を要するような重症の下気道感染症が生じたのは、生後90日以内ではRSワクチン接種群の子どもで6人、プラセボ接種群の子どもで33人(ワクチンの有効性81.8%)、生後180日以内では同順で19人と62人(ワクチンの有効性69.4%)であることが明らかになった。ファイザー社の副社長であり臨床ワクチン研究の長を務めるBill Gruber氏は、「乳児を守るためには、妊娠中の母親がワクチンを接種し、抗体を子どもに受動的に移行させる必要がある。FDAの承認が早ければ早いほど、RSウイルスワクチンを接種できる妊婦の数が増え、保護される乳児の数も増える」と話している。 なお、Gruber氏によると、ファイザー社は、ワクチン接種後の副作用の有無と、接種による保護効果の持続期間を確認するために、今後もワクチン接種者を追跡調査する予定とのことだ。

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第157回 新教授の下、体制立て直し再スタート切った三重大麻酔科。小野薬品は奨学寄附金中止、寄附講座への拠出も終了へ

汚職事件で壊滅的なダメージを被った三重大病院麻酔科こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。先週の4月14日金曜夜は、千葉ロッテマリーンズの佐々木 朗希投手と、オリックス・バファローズの山本 由伸投手の投げ合いを観戦するため、千葉のZOZOマリンスタジアムに行ってきました。同球場は、昨年のちょうど今頃、“野球感染”リスクの取材で訪れて以来です(参考:第105回 進まないリフィル処方に首相も「使用促進」を明言、日医や現場の“抵抗”の行方は?)。試合は、両投手合わせて20奪三振(うち佐々木投手11)という素晴らしい投手戦で、佐々木投手が7回1安打無失点の好投で今季2勝目をあげました。MLBに行ってしまうまでにどこまで成長するのか。これからがますます楽しみです。ちなみにコロナでさまざまな制限が行われていた応援ですが、マリンスタジアムではジェット風船以外、ほとんどが解禁されていました。それにしても同球場の2階席最上段は風が強く、春山並みに寒くて風邪をひきそうでした。さて、今回はランジオロール塩酸塩(商品名:オノアクト)の積極的な使用や医療機器の納入に便宜を図る見返りに現金を受け取ったなどとして、元臨床麻酔部教授や准教授、講師などが次々逮捕され、壊滅的なダメージを被った三重大病院の麻酔科の現在について書いてみたいと思います。同病院の麻酔科には、昨年4月に新任教授が着任、体制も抜本的に見直され、今年4月からは麻酔科の専門医を育成する研修プログラムもスタートしています。懲役2年6ヵ月、執行猶予4年の判決を不服として元教授は控訴この事件については、事件発覚直後の2020年9月からこの連載でも度々取り上げて来ました。元教授の裁判の判決が下った今年1月には、「第145回 三重大臨床麻酔部汚職事件、元教授に懲役2年6ヵ月、執行猶予4年の有罪判決、賄賂は『オノアクト使用の見返りだった』」で、元教授に対する判決の内容を詳説しました。判決では、元教授に懲役2年6ヵ月、執行猶予4年の判決が言い渡されました。裁判で最大の争点となったのは小野薬品工業からの寄附金200万円が賄賂に当たるかどうでした。判決は、被告が小野薬品の薬剤「オノアクト」の使用を増やす見返りを約束した上で寄附を求めたと認め、賄賂に当たると結論付けました。なお、元教授はこの判決を不服として、2月1日付で名古屋高等裁判所に控訴しています。三重大病院の年間手術数は約5,000件程度まで激減さて、一連の事件で三重大病院の麻酔科は大きなダメージを受けました。日経メディカル Onlineは4月6日付で「事件で手術や地域医療に多大な影響、再スタートの三重大麻酔科の今後 三重大麻酔科学講座教授、賀来隆治氏に聞く」と題するインタビュー記事を掲載しています。岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 麻酔蘇生学講師だった賀来氏が、教授選を勝ち抜き三重大学大学院 医学系研究科臨床医学系講座 麻酔科学教授となったのがちょうど1年前の2022年4月でした。インタビュー記事では、事件が三重大病院に及ぼした影響や、麻酔科の新体制について語っていて、とても興味深いです。同記事によれば、事件の影響などで、手術の麻酔を担当する臨床麻酔部だけでもピーク時には18人いた麻酔医は3人まで減ったとのことです。一方、麻酔科医が担当するもう一つの部門であった麻酔集中治療科も、賀来教授着任直前には2人まで減っていました。そうした影響もあって、三重大病院の手術数は激減、事件前は年間7,000件以上、8,000件に迫るほどだった手術件数は、新型コロナウイルス感染症の影響も加わり、2020年、2021年度は約5,000件程度にまで激減していたそうです。麻酔集中治療科と臨床麻酔部の2つの部署を統合賀来教授の着任した昨年4月から、麻酔科の体制変更が行われました。それまであった麻酔集中治療科(ペインクリニック外来、集中治療部の管理などを担当)と臨床麻酔部(手術の麻酔を担当)の2つの部署を統合、名称も麻酔科として運営していくことになりました。それまで、2つの部署は完全に分かれており、どちらかの麻酔科医がもう1つの部署の業務を手伝うこともなかったそうです。このように非常にいびつな形で麻酔科が運営されていた遠因は、20年近く前の麻酔科医大量退職にあったと考えられます。三重大病院では、2000年代初めに当時の麻酔科学教室教授から離反する形で麻酔科医の大量退職が起こっています。大学病院の手術にも影響が及んだため、2006年に麻酔科学教室とは独立した組織として麻酔管理と臨床実習に業務を特化した臨床麻酔部が新設され、2009年には大学医学部の講座(臨床麻酔学講座)も設けられました。その講座を率いていた元教授が今回の一連の事件を引き起こしました。2つの部署統合によって、2006年以前の元の体制(多くの大学病院と同様の体制)に戻ったことになります。麻酔科医の専門医研修プログラムも2023年度から再開麻酔科医については、賀来教授含め、岡山大から3人の麻酔科医が着任、8人体制となりました。専門研修指導医の数も満たしたため、事件を機に2020年10月から停止していた麻酔科医の専門医研修プログラムも2023年度から再開しました。今年度は、三重大関連施設で初期臨床研修を修了した医師1人が、プログラムに参加したとのことです。インタビュー記事で賀来教授は、「6人まで対応できると考えていましたが、今回は残念ながら1人でした。やはりかなりインパクトの強い事件が起こった医局なので、教授が替わったからといって、そのイメージはすぐにはマイナスからプラスには変わりません。(中略)私が医学部の学生と関わったとしても、それが専門医研修プログラムへの参加につながってくるのは何年か後になります。ですから、長い目で取り組んで行こうと考えています」と語っています。結果として岡山大のジッツとなったわけですが、麻酔科医も揃い、専門医研修プログラムも再開できたことは、地域医療にとっては喜ばしいことです。“黒歴史”が繰り返されないことを願うばかりです。小野薬品、寄附講座への拠出を全て終了へところで、事件のもう一方の“主役”とも言える小野薬品工業は、今回の事件で問題となった寄附講座について、2023年度に拠出予定の2件をもってすべて終了することを4月14日に同社サイト上で明らかにしました。公表された「コンプライアンス体制強化のための取り組み」と題する文書によれば、「2020年度に起こした不祥事以降、再発防止に向け取り組んできた」として、コンプライアンス体制をより強化するとともに、社員教育を充実させ、奨学寄附金の取り扱いの見直しを行うとしています。具体的には、「奨学寄附金(一般講座への寄附)の拠出に関しては、まず2021年度の寄附は中止とし、さらに、2022年度以降も引き続き行わないことを社内決定」したとしています。その上で、「アカデミアへの貢献の必要性や研究振興の社会的意義を鑑みながら、独立性、公平性を担保し得る新たな貢献方法を引き続き検討してきた結果、財団(小野薬品がん・免疫・神経研究財団)を設立し、2023年度より研究助成事業を行うことを決定」したとのことです。また、寄附講座への寄附については「2020年10月以降新たな寄附依頼に対して全てお断りし、それ以前に拠出を約束していた先、および複数年契約のもとに拠出を約束していた先のみへの対応としました。なお、これら寄附に関しても、2023年度中に全ての対応を終了します(2021年度の実施:21件、2022年度の実施:8件、2023年度実施予定:2件)」としています。実際、この事件をきっかけとして、製薬企業の奨学寄附金や寄附講座への寄附を廃止する動きは加速しているようです。これらは基本的に使い道を定めず無償提供されるため、大学や研究室にとっては使い勝手が良い研究費でした。奨学寄附金の廃止傾向が強まれば、研究力が弱い大学の資金調達がこれまで以上に難しくなるでしょう。もともと国からの研究費が少ない地方大学の教授たちの中には、三重大の事件を「とんでもないことをしてくれた」と苦々しく思っている人も少なくないはずです。大学間、医局間の研究力の差が、今後ますます広がっていくことが懸念されます。

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第30回 市販薬にご用心!?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)患者さんの内服薬は処方薬以外も確認しよう!2)注意が必要な市販薬を知ろう!【症例】23歳女性。特記既往はなく、手術歴もない。仕事中に頭痛、嘔気を自覚した。しばらく様子をみていたが症状が改善せず、嘔吐も認めたため、仕事を早退し、外来を受診した。●来院時のバイタルサイン意識清明血圧108/61mmHg脈拍102回/分(整)呼吸18回/分SpO299%(RA)体温36.1℃中毒の入り口中毒患者さんはどのように来院するでしょうか。薬を過量に内服したことを自己申告ないし発見され来院する場合も多いですが、その他、意識障害、嘔気・嘔吐、頭痛、動悸、ふらつきなどを主訴に来院します。また、重篤な場合にはショック、痙攣、心停止状態で搬送されてくることもあります。今回は、どこでも来院しうる一見軽症そうにみえる中毒患者さんに関して取り上げます。市販薬の現状コロナ禍となり、自宅に解熱鎮痛薬や総合感冒薬を常備している方も多くなりました。発熱や咽頭痛を主訴に来院した患者さんに対して、アセトアミノフェンなどを処方するとともに、今後に備えて患者さん、ご家族へ市販薬を常備するようにオススメした方も少なくないと思います。適切に使用すれば基本的には問題ありませんが、内服量や方法を誤ってしまうと、いくら市販薬といえども危険なことはいくらでもあります。薬局やコンビニ、さらにはインターネット上で総合感冒薬などの市販薬はいくらでも入手可能です。規制がかかっている薬剤もありますが、実際のところ抜け穴はいくらでもあり、購入しようと思えば購入できてしまっているのが現状でしょう。注意が必要な市販薬処方薬ではベンゾジアゼピン系などの薬に注意が必要ですが、市販薬ではどのような薬剤が問題となっているのでしょうか。表11)が代表的な薬剤であり、みなさんもよくみかけると思います。実際に、救急外来で診療していると、これらの薬剤を過量に内服し、来院する方を多く経験するとともに、常備し乱用している方も少なくありません。これらの薬剤がなぜ問題なのか、代表的な2剤を中心に簡単に説明しておきましょう。表1 注意が必要な市販薬1)商品名:エスエスブロン錠(表2)成分は主に4つです。上から、オピオイド、エフェドリン、抗ヒスタミン薬、カフェインです。ジヒドロコデインは半合成オピオイドです。オピオイド受容体に結合し、中枢神経抑制作用や呼吸抑制作用を発揮し、高揚感や多幸感をもたらします。メチルエフェドリンは、エフェドリンの作用を抑えたものですが、アンフェタミン類に属し、中枢神経興奮作用や交感神経興奮作用を発揮します。これらの成分が含まれる薬剤を適正量以上に、また不用意に内服すると、他の成分と相互作用を及ぼし頭痛や嘔気・嘔吐、興奮などの症状、さらには意識障害やショック、痙攣、呼吸抑制などの重篤な病態を引き起こします。表2 エスエスブロン錠2)商品名:パブロンゴールドA(表3)エスエスブロン錠と共通している成分が多いことに気付くと思います。大きな違いとしてパブロン系の薬にはアセトアミノフェンが含有されているという点です。この点は非常に重要であり、アセトアミノフェンは多量に内服すると肝毒性があり、場合によっては肝不全に陥るリスクがあります(アセトアミノフェン中毒に関しては、以前の連載「第24回 風邪薬1箱飲んだら、さぁ大変」を参照してください。表3 パブロンゴールドAエスエスブロン錠は規制がかかっているため、本来は薬局などで購入する際は1瓶までです。これは販売元のホームページにも明記されています。また、値段も決して安くはないため、同成分が含まれ、比較的安価なパブロン系の薬剤を購入する流れがあります。パブロン系は規制がかかっていないため、多量に購入可能なのです(中国向けの転売目的で多量に購入されたニュースが今年に入ってから流れていましたよね)。市販薬を乱用している方は10代、20代も多く、最近の状況を知るためにはSNSも有用です。twitterで「ブロン」、「金パブ(パブロンゴールド)」、「メジコン」などで検索すると多くの投稿が閲覧できます。「市販薬中毒なんてそんなに多くないでしょ!?」、そう感じている先生はちょっとのぞいてみてください。本症ではどうだったか冒頭の症例はそもそも市販薬の中毒を疑わなければ診断は難しいかもしれません。実際に、初めは本人も薬を内服したことを話してくれませんでした。しかし、改めて確認すると職場のストレスなどを理由に市販薬を過量に飲んでしまったことを打ち明けてくれました。セルフメディケーションは大切です。しかし、一般用医薬品(OTC医薬品)を不適切に利用している方も少なくありません。「くすりもりすく」、これは処方薬だけでなく市販薬も含め常に意識し対応することが重要です。1)松本俊彦、他. 2020年全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患実態調査.2022.

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子どもの免疫は新型コロナウイルスに素早く反応するが記憶は苦手

 子どもの免疫は、新型コロナウイルスの初回感染時にそれを排除する働きが優れている半面、成人のように一度感染したウイルスを記憶して再感染に備えることは苦手のようだ。ガーバン医学研究所(オーストラリア)のTri Phan氏らの研究による知見であり、同氏は「子どもたちは初回感染時のウイルス排除に優れている代償として、2回目にウイルスに曝露された時に免疫が機能するための記憶をする機会を失っていると言える」と話している。詳細は「Clinical Immunology」1月号に掲載された。 免疫には自然免疫と獲得免疫があり、自然免疫は主に皮膚や粘膜表面などで、ウイルスが体内に侵入するのをブロックするバリアのように働いたり、それを破って体内に侵入した微生物に対しても排除するように働く。ただし、微生物の種類に即した特異的で効率の良い働きはできない。一方、獲得免疫は、白血球中のB細胞やT細胞などが中心になって、一度感染した微生物の特徴を記憶しておき、同じ微生物が侵入した場合に特異的な抗体を産生して効果的に対抗する。 新生児の免疫はほぼ白紙の状態で始まり、自然免疫に依存して微生物に対抗するが、成長するに従い、侵入した微生物を記憶していき獲得免疫が構築されて再感染に備える。ウェストミード小児病院(オーストラリア)のPhilip Britton氏は、「子どもの免疫システムは、そのほとんどを出生時に備わっているシステムに依存しているが、歳を取るにつれ、バックアップとして働く獲得免疫への依存が大きくなる。それに伴って、ウイルスの素早い排除ができなくなっていく」と解説する。 Phan氏らの研究では、COVID-19に罹患した小児とその保護者(いずれも無症候か軽症)を対象に、罹患時(PCR検査陽性判定後1~10日)とその約1カ月後に検体を採取。また、ICU入室を要した重症成人患者からも急性期と回復期に検体を採取し、免疫反応の強さを比較検討した。その結果、小児患者は上気道の免疫反応を通じて、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を排除していたことが分かった。またウイルスの排除に際して自然免疫だけでなく、上気道の分泌物などの物理的バリアも良く機能していたと考えられた。 しかし、小児患者はCOVID-19から回復後のSARS-CoV-2に対する記憶T細胞の反応が乏しいことも分かった。これは、免疫システムがSARS-CoV-2を特異的な標的として排除する方法を学習していなかったことを意味する。小児患者に認められた自然免疫の強力な反応は、獲得免疫の反応を弱めるように働いた可能性が示唆された。その一方、成人は正反対であり、自然免疫はあまり働かずに、記憶T細胞の反応は優れていた。これらの結果から著者らは、「子どもに対するワクチン接種の重要性を支持するデータと言える。上気道感染に対する子どもたちの免疫システムのボトルネックを解消するために、ワクチンが必要とされる」と論文中で述べている。 なお、Phan氏は、「今回の研究で示された結果を基に、高齢者ではSARS-CoV-2に対して免疫が過剰反応し、生命を脅かす重篤な症状が引き起こされやすいことの理由の一端を説明できる可能性がある」と付け加えている。COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2は、ありふれた風邪の原因ウイルスの一種であるコロナウイルスの一つのタイプであるために、「成人がSARS-CoV-2に初めて感染すると、記憶T細胞は、以前に感染したことのある風邪のコロナウイルスと同じだと認識することがあるようだ。それによって、SARS-CoV-2特異的ではない、誤った免疫反応が引き起こされてしまうのではないか。そのような場合はSARS-CoV-2は排除されずに増殖し、一方で過剰な免疫反応が生じて深刻な状態になってしまう」と同氏は解説している。

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5歳未満でCOVID-19と他のウイルスに重複感染すると重症化しやすい

 米疾病対策センター(CDC)による新たな研究から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のために入院した5歳未満の子どもが他の呼吸器感染症に重複感染すると、重症化リスクが高くなることが明らかになった。5歳以上では有意なリスク上昇は認められないという。 子どもに多い呼吸器感染症の原因として、ライノウイルス、エンテロウイルス、RSウイルスなどがあり、これらは一般に「風邪」として扱われる。COVID-19パンデミックとともに、マスク着用、身体的距離の確保をはじめとする厳格な対策が実施されたことで、これらの感染症も一時は減少し、ほとんど患者が見られなくなったものもある。しかし規制緩和によって再び増加し、米国では通常のシーズン以上にRSウイルスの感染が拡大。子どもたちが、COVID-19とそれらのウイルス感染症に重複して罹患する可能性が高まっている。 米国内14の州でCDCが実施している、COVID-19関連の入院に関するサーベイランス「COVID-NET」の研究メンバーであるNickolas Agathis氏らは、COVID-NETのデータを利用して重複感染した子どもの転帰を検討。その結果の詳細が、「Pediatrics」に1月18日掲載された。それによると、COVID-19のために入院した5歳未満の子どもが他の呼吸器感染症ウイルスにも感染していた場合、重症化(ICU入室または機械的人工換気を要する)リスクが2倍以上に上昇することが分かったという。 小児感染症の専門家によると、この結果はパンデミック発生以来2年間の臨床での印象と一致しているが、今は少し事情が異なるとのことだ。その理由は主として、パンデミック初期にほとんど見られなかったインフルエンザの流行が始まったことだという。そのように語る専門家の1人、米マサチューセッツ総合病院で小児感染症部門のディレクターを務め、米国感染症学会(IDSA)のスポークスパーソンであるVandana Madhavan氏は、「この季節になってもまだRSウイルスの子どもが受診することがあり、COVID-19と重複感染する子どももいる。インフルエンザやその他のウイルスの感染症、または細菌感染症も増えてきた」と状況を説明する。 Agathis氏らが研究に用いたCOVID-NETには、2020年3月~2022年2月に18歳未満のCOVID-19による入院患者が4,372人記録されていた。このうちの62%に対してCOVID-19以外の呼吸器感染症の検査が行われており、その21%が何らかの検査で陽性と判定された重複感染だった。ICU入室を要したのは、重複感染群では37.8%、COVID-19単独感染群では26.9%、機械的人工換気を要したのは同順に10.2%、5.7%であり、いずれも重複感染群の方が有意に多かった(いずれもP<0.001)。 重症化リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、人種/民族、BMI、基礎疾患、未熟児で生まれた2歳未満の幼児、ワクチン接種状況など)を調整後、5~17歳では、重複感染群の重症化リスクはCOVID-19単独感染群と有意差がなかった。それに対して5歳未満の重複感染群では、COVID-19単独感染群よりも重症化リスクが有意に高いことが示された〔2歳未満は調整オッズ比(aOR)2.1(95%信頼区間1.5~3.0)、2~4歳はaOR1.9(同1.2~3.1)〕。 この研究報告について、米ルーリー小児病院の感染症専門医であるWilliam Muller氏は、「5歳未満の重複感染患児の重症化が、どのウイルスによって引き起こされるのかを特定することは困難だ。ただし、対策は単純明快である」と語る。その対策とは、「COVID-19と毎年のインフルエンザの予防接種を受けることだ。どちらも生後6カ月以上なら接種でき、重症化リスクを大幅に抑制する」と解説。また、Muller氏とMadhavan氏は、「1月中旬であっても、子どもたちがインフルエンザの予防接種を受けるのに遅すぎるということはない」と声をそろえる。なぜなら、インフルエンザは多くの場合、2月にピークを迎え、4~5月まで続くこともあるからだという。

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自己注射可能な週1回投与のMTX皮下注「メトジェクト皮下注シリンジ」【下平博士のDIノート】第115回

自己注射可能な週1回投与のMTX皮下注「メトジェクト皮下注シリンジ」今回は、抗リウマチ薬「メトトレキサート(MTX)皮下注(商品名:メトジェクト皮下注7.5mgシリンジ0.15mL/同10mgシリンジ0.20mL/同12.5mgシリンジ0.25mL/同15mgシリンジ0.30mL)、製造販売元:日本メダック」を紹介します。本剤は、国内初の自己注射可能なMTX皮下注製剤であり、関節リウマチ患者の服薬アドヒアランスの向上に加え、誤投与・過剰投与リスクの軽減が期待されています。<効能・効果>本剤は、関節リウマチの適応で、2022年9月26日に製造販売承認を取得し、同年11月16日より発売されています。<用法・用量>通常、成人にはMTXとして7.5mgを週に1回皮下注射します。患者の状態や忍容性などに応じて適宜増量できますが、15mgを超えることはできません。4週を目安に患者の状態を十分に確認し、増量は2.5mgずつ行います。<安全性>国内第III相臨床試験(MC-MTX.17/RA試験)において、83.8%(93/111例)に臨床検査値異常を含む有害事象が認められました。5%以上に認められたものは、悪心16.2%、口内炎14.4%、関節リウマチ11.7%、上咽頭炎10.8%、ALT増加9.9%、肝機能異常9.9%、白血球数減少8.1%、上腹部痛5.4%、高血圧5.4%などでした。なお、重大な副作用として、ショック/アナフィラキシー(頻度不明)、骨髄抑制(5%以上)、感染症(0.1~5%未満)、結核、劇症肝炎/肝不全、急性腎障害/尿細管壊死/重症ネフロパチー、間質性肺炎/肺線維症/胸水、中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis:TEN)/皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)、出血性腸炎/壊死性腸炎、膵炎、骨粗鬆症、脳症(白質脳症を含む)、進行性多巣性白質脳症(PML)(いずれも頻度不明)が設定されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、異常な状態となっている免疫反応や炎症反応を抑えることで、関節リウマチによる関節の腫れや痛みを改善します。2.通常、週に1回、特定の曜日に皮下注射してください。3.注射部位は大腿部・腹部・上腕部の毎回異なる部位を選び、短期間に同一部位へ繰り返して投与しないでください。4.この薬を投与している間は、生ワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪、水痘・帯状疱疹、BCGなど)の接種ができません。接種の必要がある場合は医師に相談してください。5.発熱、倦怠感が現れた場合や、口内炎、激しい腹痛、嘔吐、下痢などの症状が現れた場合は直ちに医師に連絡してください。6.(妊娠可能年齢の女性やパートナーが妊娠する可能性のある男性に対して)この薬を投与中および投与終了後一定の期間は、適切な方法で避妊を行ってください。7.(授乳中の女性に対して)薬剤が乳汁中へ移行する可能性があるため、本剤の投与中は授乳しないでください。<Shimo's eyes> 関節リウマチ(RA)治療の基本は、疾患活動性を低く抑え、早期の臨床的寛解を達成・維持することです。MTXはRAの病態形成に関与する種々の細胞に対して、複数の分子作用機序を介して免疫および炎症性反応を抑制し、抗RA作用を発揮すると考えられています。日本リウマチ学会、米国リウマチ学会(ACR)、欧州リウマチ学会(EULAR)のガイドラインではMTXが第1選択薬として推奨されています。わが国においては、RAに対するMTXはこれまで経口薬のみが発売されていましたが、本剤は週1回の皮下投与のプレフィルドシリンジです。医師の管理・指導のもと、自己注射も可能です。2022年9月時点で、本剤は欧州を中心に世界49の国または地域で承認されており、2019年には欧州医薬品庁はMTXの誤投与の危険性を回避するため、RAなどの治療に対して週1回投与のMTX皮下注製剤を推奨しています。MTX経口薬から切り替えの際の投与初期量は、1週間当たりの投与量を対比させた添付文書の表などを参考に決定されます。安全性プロファイルは、注射部位反応を除いてMTX経口薬と同様と考えられています。主な副作用は白血球数減少、肝機能障害、悪心、口内炎などであり、重大な副作用である骨髄抑制、感染症、結核、劇症肝炎、肝不全、急性腎障害、尿細管壊死、重症ネフロパチー、間質性肺炎、肺線維症、出血性腸炎などに注意する必要があります。2020年10月の「医療安全情報No.167」では、MTXの過剰投与による骨髄抑制の事故が後を絶たないことを注意喚起しています。本剤の普及によって医療現場での投与過誤、あるいは患者さんの服用過誤が減少することを期待します。

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第149回 コロナ感染に特有の罹患後症状は7つのみ

2020年に新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の世界的流行が始まって以降、その通常の感染期間後にもかかわらず長く続く症状を訴える患者が増えています。それらCOVID-19罹患後症状(コロナ罹患後症状)のうち疲労、脳のもやもや(brain fog)、息切れは広く検討されていますが、他は調べが足りません。感染症発症後の長患いはCOVID-19に限るものではありません。インフルエンザなどの他の呼吸器ウイルスも長期の影響を及ぼしうることが示されています。COVID-19ではあって他の一般的な呼吸器ウイルス感染では認められないCOVID-19に特有の罹患後症状を同定することはCOVID-19の健康への長期影響の理解に不可欠です。そこで米国・ミズーリ大学の研究チームはソフトウェア会社Oracleが提供するCerner Real-World Dataを使ってCOVID-19に特有の罹患後症状の同定を試みました。米国の122の医療団体の薬局、診療、臨床検査値、入院、請求情報から集めた5万例超(5万2,461例)のCerner Real-World Data収載情報が検討され、47の症状が以下の3群に分けて比較されました。COVID-19と診断され、他の一般的な呼吸器ウイルスには感染していない患者(COVID-19患者)COVID-19以外の一般的な呼吸器ウイルス(風邪、インフルエンザ、ウイルス性肺炎)に感染した患者(呼吸器ウイルス感染者)COVID-19にも一般的な呼吸器ウイルスにも感染していない患者(非感染者)SARS-CoV-2感染から30日以降1年後までの47の症状の生じやすさを比較したところ、呼吸器ウイルス感染者と非感染者に比べてCOVID-19患者により生じやすい罹患後症状は思いの外少なく、動悸・脱毛・疲労・胸痛・息切れ・関節痛・肥満の7つのみでした1,2)。無嗅覚(嗅覚障害)などの神経病態がSARS-CoV-2感染から回復した後も長く続きうると先立つ研究で示唆されていますが、今回の研究では一般的な呼吸器ウイルス感染に比べて有意に多くはありませんでした。無嗅覚は非感染者と比べるとCOVID-19患者に確かにより多く生じていましたが、COVID-19以外の呼吸器ウイルス感染者にもまた非感染者に比べて有意に多く発生していました。つまり無嗅覚はCOVID-19を含む呼吸器ウイルス感染症全般で生じやすくなるのかもしれません。一方、先立つ研究でCOVID-19罹患後症状として示唆されている末梢神経障害や耳鳴りは呼吸器ウイルス感染者と非感染者のどちらとの比較でも多くはありませんでした。全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)、1型糖尿病(T1D)などの免疫病態もSARS-CoV-2感染で生じやすくなると先立つ研究で示唆されていますが、今回の研究では神経症状と同様にCOVID-19に限って有意に多い症状はありませんでした。ただし、1型糖尿病との関連は注意が必要です。COVID-19患者の1型糖尿病は呼吸器ウイルス感染者と比べると有意に多く発生していたものの、非感染者との比較では有意差がありませんでした。呼吸器ウイルス感染者の1型糖尿病はCOVID-19患者とは逆に非感染者に比べて有意に少なく済んでいました。心血管や骨格筋の病態でも1型糖尿病のような関連がいくつか認められており、COVID-19患者の頻拍・貧血・心不全・高血圧症・高脂血症・筋力低下は呼吸器ウイルス感染者と比べるとより有意に多く、非感染者との比較ではそうではありませんでした。今回の研究でCOVID-19に特有の罹患後症状とされた脱毛はSARS-CoV-2感染から100日後くらいに最も生じやすく、250日を過ぎて元の状態に回復するようです。疲労や関節痛は今回の試験期間である感染後1年以内には元の状態に落ち着くようです。COVID-19患者により多く認められた肥満はダラダラ続くCOVID-19流行が原因の運動不足に端を発するのかもしれません。ただし今回の研究ではそうだとは断言できず、さらなる研究が必要です。参考1)Baskett WI, et al. Open Forum Infect Dis. 1011;10: ofac683.2)Study unexpectedly finds only 7 health symptoms directly related to ‘long COVID’ / Eurekalert

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第145回 これが患者のリアル、ワクチンマニアもコロナ感染!?村上氏のヒヤヒヤ実記(後編)

―2023年1月3日(火)午前6時前に目が覚める。就寝中かなり寝汗をかいたことは寝間着代わりにしているTシャツの首元がじっとりと湿っていることでわかった。昨日と比べ、頭はすっきりしている。検温すると、37.2℃。だいぶ下がった。タイミングよく娘から「おにぎりとみそ汁」という朝食オーダーが届いたので、いつものようにマスクを両面テープで顔面に密着させた状態で、一番近いコンビニに買い出しに行く。ここは有人レジと無人レジが離れていて、人と距離が取れることが利点だ。部屋に電子レンジもあるのでみそ汁の温めも店員に頼まなくて済む。朝食を置き配して、シャワーを浴びる。出発約束時刻は8:45。まず私がホテルの出口から数メートル先まで行き、それから娘にLINEで部屋を出るように連絡し、その後は距離を取ってついてくるよう指示した。ホテルの出口に現れた娘はジャンプしながらこちらに手を振っている。思えば壁一つ隔てた場所にいながら、約3日間、顔を合わせていなかった。私も手を振り返すが、この3日間の療養で相当体力を奪われたのか、転倒しそうなほど体がふらついた。とりあえず前を向いてスタスタと歩き出す。後ろからはかすかに娘のものらしい足音が聞こえる。途中、小さな公園を通過した時、「うわー、カラス」と叫びながら娘が私のほぼ真後ろに距離を詰めてきた。娘は幼児期からカラスが大嫌いだ。距離が近過ぎる。私は微量でも娘の方向に飛沫が向かうことを避けるため、振り返らずに「おとうに近寄り過ぎない」とやや大きめの声で言い渡した。足音がやや遠ざかった。そこから2分ほど歩いたところで歩道が大幅に広くなる。すると、娘が私の真横にかなり距離を取って並んだ。マスク越しにニコニコしている。その手があったか。まもなく地下道の入り口。私はそのまま娘のほうを向かずに地下道入り口を指さして、「わかるね?」というと、「うん」という声とともに娘が私の前方に走り出て地下道の入り口を目指し始めた。その場に立ち止まっていると、娘は入り口で立ち止まって振り返った。私が手を振ると、それに応え、娘は地下道の中に消えていった。私は方向転換してホテルに戻って検温。36.7℃。少し休憩してから、件のクリニックに向かった。到着したのは開院5分前。中の電気がついており、ガラス越しに看護師らしい女性職員がマスクに加え、フェイスシールドで防護している姿が見えた。まだ、受診者は誰も来ていない模様。ガラス越しに目が合ったその女性が入り口まで出てきて「村上さんですか?」と尋ねてきた。はいと答えると、そのまま室内に案内され、手指消毒の指示。「来る前に検温はしました?」と尋ねられたので、朝6時と直前の体温を告げると、そのまま「こちらへ」と誘導される。診察室の表記のあるドアの前を通り過ぎ、女性がその先の小さめのドアを開けた。物品置き場のような間取りだ。中にはパソコン(PC)を置いた机を前にマスクとフェイスシールドを着用したB医師が着席していた。「どうですか、お加減は?」と尋ねられた。私はまだ微熱状態ではあるものの、今朝はかなり改善している感じがすること、咽頭痛はそれほど感じなくなったが、その代わり痰が絡むようになったと伝えた。B医師が「まず口の中を診ますね」と言いながら開口を指示してきた。複数回、顔の角度を変えながら咽頭の様子を見ている。それが終わると、パルスオキシメーターを私の指に挟んだ。数値は99%。B医師が「ちなみにコロナワクチンは何回接種していますか?」と尋ねてきた。そういえば、昨日のやり取りではその話はしていなかった。オミクロン株対応ワクチンも含め、4回接種が完了している旨、最後の接種が12月27日、これまでの接種ワクチンの種類(私はファイザー→ファイザー→モデルナ→モデルナ2価[BA.4/5対応])、4回目接種直前にスパイクタンパク抗体価検査を実施したことを伝えると、B医師が「うわっ、抗体価がかなり高いですね」と目を見開いてこっちを凝視した。加えてインフルエンザ(以下、インフル)ワクチンも接種済みと伝えた。「抗原検査が4回連続陰性だったことや、コロナのスパイクタンパク抗体価の高さ、インフルワクチン接種済みといったことを考えると、ただの風邪の可能性も十分にあります。ただ、最近うちを受診した発熱患者で、いわゆるただの風邪は1割程度とかなり少ないです。また現状の感染状況や症状を伺う限り、コロナの可能性は十分あり得ます。娘さんの受験も心配でしょうから、コロナとインフルの検査はしてみましょう」鼻出しマスク状態で、綿棒2本でそれぞれ鼻の奥をゴリゴリ。2本目が終了したところでくしゃみが出そうになり、慌てて鼻までマスクを覆い、下を向いてマスクを手で押さえながらくしゃみ。B医師にお詫びをしながらふと机の上に目をやると、消毒用アルコールのボトルが目に入ったので、使わせてくださいとお願いすると、「どうぞ」と私のそばに置いてくれた。私がノズル近くに左手を差し出し、右ひじでポンプを押すと、「ああ、そういうの気を付けているんですね」と笑われる。誰が触るかわからない手押し式の場合、私は常にポンプを肘押ししている。B医師が「インフルは迅速キットなのでもうじき結果がわかります。コロナのPCRは明日の遅くとも夕方には判明すると思います」と告げられた。実は明日はホテルのチェックアウト予定日。チェックアウト時間は午前11時だ。もし、コロナと判明した場合、発症日が12月30日なので療養解除は1月6日。私はなんとかホテルに事情を説明して、あと2泊はしなければならない。可能ならば明日午前11時までに結果を知りたいが、新年早々に診察をしてくれたB医師に無理は言えない。とりあえずPCR検査結果を待つこと、インフルの検査結果はこのまままっすぐホテルに戻ってから電話で尋ねることにしてクリニックを後にした。ホテルに戻るや否やB医師から電話があり、インフルは陰性だったことを告げられる。「発症からかなり経っての検査で陰性なのでインフルの可能性はほぼないと思います」とのこと。さらに早ければ明日午前にはPCR検査の結果もわかるだろうとの話だった。そのまま机に座ってPCに向かい仕事。娘には出発前にPayPayを1,000円分送り、昼は予備校近くのコンビニで何か買うように指示していた。まずは娘と私の洗濯に着手。その間は仕事。この日はほとんど苦痛なく仕事が進められる。ただ、今日は机を使っているので、昨日のような室内を即席乾燥室として使うことはできない。幸い今日の洗濯物は厚手のものはないので、貧乏性は引っ込めて館内のコインランドリーの乾燥機を1時間使うことにした。遅くとも明日には仕上げなければならない原稿があるので、時々水分を摂りながら一気に進めた。気が付くと午後3時を過ぎていた。そこで買い置きのインスタントラーメンをすすって、再び仕事に勤しんだ。午後6時過ぎに原稿のめどがつく。一気にどっと脱力感に襲われる。まだ、本調子ではない。娘は自習室が閉まる夜9時までは予備校にいるはず。そこからの時間計算で午後9時10分前後に朝に見送った地下道付近で待ち合わせる旨をLINEでメッセージしてから、タイマーをかけて横になった。目を覚ましたのは9時5分過ぎ。慌ててホテルを出て小走りで待ち合わせ場所に向かうが息が上がる。ということで小走りは止めてゆっくり歩いた。待ち合わせ場所にはすでに娘が到着していた。通常こういう時は「遅い」とブツクサ言われるのだが、今日は何も言われなかった。朝と同じく私が先行したが、ピンクのネオンが輝く時間になっていたので、朝よりは距離は詰めることにした。途中のコンビニの前で私は立ち止まり、無言で店内を指さした。娘が近づいてくるのに合わせて私は入り口から遠ざかり、娘も心得たように店内に消えていった。今日は肉系の弁当を買ってくるだろうか?まもなく娘が買い物袋入りの弁当をぶら下げて戻ってきた。それを確認してホテルに向かって歩き始めた。ホテルの入り口が見えてきたので、私は小走りにそこを通り過ぎて距離を置き、入り口を指さして「先に」とだけ告げた。娘が入っていったのを確認してから5分後に、私も部屋に戻った。LINEでメッセージすると、やはり買ってきたのは肉系弁当。体調不良でもこういうところは勘が働く。娘にはインフルは陰性だったこと、明日にはPCR検査の結果がわかることを告げた。娘からは荷物をどうするかとの問い。そうそれが問題なのだ。娘は勉強道具と宿泊に必要な諸々の物品を持ってきている。チェックイン時は宿泊用の物品が入ったスポーツバッグを私が運んで先に手続きを済ませていた。小柄な娘が一人で持つのはかなり大変な量と大きさである。さてどうしようかと悩んでいると、娘からはスポーツバッグの中身はすぐには必要ないので、数日後でも家に届けばいいという。もし私が陽性だった場合はここに6日まで泊まり、後日に荷物を渡すことが決定する。もっとも留まることが決定した場合、このホテルに空きがあるか、それをホテルが許容してくれるかは未解決だ。まあ、その時に考えるしかないと腹をくくった。宿泊予約サイトで見ると、明日以降は3部屋ほど空きがある。それが埋まらないことを願いつつ就寝。―2023年1月4日(水)朝5時半過ぎに目が覚める。検温すると36.5℃。体調も良いと感じる。念のため部屋の片づけを始めると、娘から朝食のオーダー。今日は調理パンと洋風スープ。はいはい。いつものようにコンビニへ。この時間はほとんど人が歩いていない。周りへの影響を考えると非常に気が楽である。娘の部屋の前に行くと、すでにスポーツバッグが置いてあった。朝食の置き配をし、代わりにスポーツバッグを持って自分の部屋に入り、そのまま片づけを続ける。7時半にそれを終え、今度はこの日提出予定の原稿の再チェック。8時過ぎにそれも終えると、ちょうど娘からのLINE。娘「今日も送ってくれる?」私「もう道は分かるでしょ」娘「わかるけど」私「けど?」娘「カラス」ああ、またそこか。合格した大学を蹴ってまで浪人を選ぶ度胸がありながら、カラスの何が怖いと言いたくなるが、ぐっとこらえる。昨日のように送っていくことにした。昨日と同じく予定時刻に距離を置いてホテルの前で待ち合わせてまた地下道へ。今日の娘は過度に近づいては来ない。地下道入り口で別れ、私は部屋に戻って用意していた原稿を送信。その後はこの間、十分とは言えなかった各種ニュースのチェックに。午前10時を過ぎたあたりで、B医師から電話に着信。B医師「おはようございます。検査結果出ました。陰性でした」安堵のあまり言葉が逆に出なくなる。B医師が続けた。B医師「まあ、結果としては今どき珍しいただの風邪ということですね。アハハ。ただの風邪にはワクチンありませんから」私  「とはいえ、偽陰性の可能性がないわけではないですよね」と問うとB医師「理論上はそうですが、それを言い出したらきりがないですよ。いずれにせよまだ本調子ではないですよね。お大事になさってください」と告げられ電話が終わった。私は机上に残っていたPCの電源を切ってチェックアウトした。ホテルを出たところで娘にコロナ陰性だったことをLINEで報告した。自分の荷物を背負い、娘のスポーツバッグを肩に掛け、駅の改札に到着。しかし、ここで余計な考えが頭に浮かぶ。もし偽陰性だったら、と。数分考え、自分の事務所まで、距離にして約3.5kmを歩くことにした。しかし、病み上がりの体にはこれがかなりハード。途中休み休みで結局、1時間10分かかった。事務所で体重計に乗ってみる。58.5kg。宿泊当日朝の計測から-2.5kg。58kg台を目にするのは何年ぶりだろう。結局、1時間ほど休んで自宅に娘の荷物を運びこみ、私は念には念を入れ、週末の日曜日夕刻まで事務所で“籠城”することにした。この間、水とペヤングソース焼きそばのみの生活。日曜日の夕刻には体重は60kgまで戻っていた。こうして年末からのコロナ疑惑はようやく終了した。

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家屋の断熱性が高いと冬の朝の交感神経活性化が抑制される可能性

 断熱性の高い家に住むと、気温が最も低下する冬の朝方であっても、交感神経の活性化が起きにくい可能性を示唆するデータが報告された。研究参加者に断熱性の高いモデルハウスに宿泊してもらい、自宅環境との差を検討するという、大阪大学大学院医学系研究科健康発達医学寄附講座の中神啓徳氏らが行った研究の結果であり、詳細は「Hypertension Research」に10月13日掲載された。研究参加者の全員が、モデルハウス宿泊時に睡眠時間が長くなるという変化も認められたという。 寒い冬の朝には脳卒中などの心血管イベントが起こりやすいことが知られている。その理由として、低温に反応して交感神経が活性化され、血圧や心拍数などが上昇することが挙げられる。屋内の温度が低いことに加えて、暖房されている部屋とそうでないスペースとの温度の格差も、そのような交感神経活性の変化に関係していると考えられる。よって、屋内全体の暖かさを保つことが、寒い季節の心血管イベント抑制につながる可能性がある。中神氏らの研究では、この条件にマッチする家屋として、断熱性の高いモデルハウス(木造2階建て)が用いられた。 研究参加者8人(男性と女性各4人)を2群に分け、1群はモデルハウスで2日間滞在した後、自宅で2日間過ごしてもらい、他の1群は逆の順序で試行するという、クロスオーバー法により検討。家屋内の居間と寝室、洗面所にサーモセンサーを設置して、温度の変化を経時的に計測した。また研究参加者には、心拍数、交感神経活性(LF/HF比)、身体活動状況なども把握できる携帯型心電計を身に着けて過ごしてもらった。 自宅滞在条件およびモデルハウス滞在条件のいずれについても、滞在2日目のデータを解析対象とした。その結果、まず室温については、モデルハウスではどのスペースでも20℃以上に保たれていた。それに対し自宅は全体的に低温であり、寝室で6.3℃を記録したケースも認められた。スペースによる室温の差も大きかった。 心拍数や心電図所見、交感神経活性については、8人全員の平均としては条件間に有意差は認められなかった。ただし、4人の参加者は自宅滞在条件での起床直後に、交感神経の急な活性化が生じたことが観察された。また、睡眠時間は全ての参加者が、自宅よりモデルハウス滞在時の方が長いという結果が得られた。これは、モデルハウスの室温が睡眠に適していたためと考えられた。これらの結果は、快適な室温が冬季に生じる交感神経の活性化を緩和する可能性があることを示唆している。 世界保健機関(WHO)は、風邪などの予防のために室内の温度を18℃以上に保つことを推奨している。それに対して日本の冬季の家屋内は、居間が平均16.8℃、寝室は12.8℃という報告があり、WHOの推奨よりも低い。一方、海外では、例えば英国は同順に19.3℃、18.3℃であり、米国ニューヨークは居間で23.3℃というデータがある。一般的に寒さの厳しい国ほど屋内を暖房する傾向がみられ、それによって冬季の超過死亡(何らかの原因により通常の予測を超える死亡者数の上昇)が抑制されることも報告されている。 著者らは、「本研究は探索的な研究であって、サンプル数が小さいことなどの限界点があり、明確な結論を導き出すことはできない」とした上で、「冬季の自宅内での心血管イベントを防ぐには、適切な室温を維持する工夫が必要ではないか」と述べている。

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健康の大疑問

健康常識をアップデートせよNY在住・新進気鋭の専門医が、最新の知見を駆使し、健康情報の真偽を問う。白髪の原因はストレス?腸内細菌が認知機能を高める?痛風にプリン体制限は有効?高血圧の薬は一生飲み続けてOK?ウォーキングは1日何歩までがベスト?次世代エイジングケアNMNサプリの正体とは?若者の大腸がんが急増している本当の理由とは?乳酸菌は風邪予防になる?断食で長生きが可能となる?グルコサミンは変形性膝関節症の痛みを改善する?ビタミンDで骨は強くなる?音楽が健康に及ぼす影響とは? ……etc.画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    健康の大疑問定価1,100円(税込)判型新書判頁数188頁発行2023年1月著者山田 悠史

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第144回 これが患者のリアル、ワクチンマニアもコロナ感染!?村上氏のヒヤヒヤ実記(中編)

―2023年1月2日(月)深夜に38℃超の熱を記録して以来、時折、体のほてりで目が覚める。そのたびに体温を測ろうと思うが、気力が湧いてこない。朝6時過ぎ、娘が求めるパンとスープを買いに出るが、かなりフラフラである。嫌な予感がしたので、この時、娘が昼に食べたがるだろうと予想したパスタも購入して戻り、パンとスープは置き配にし、パスタを自室の冷蔵庫にしまうと、そのままベッドに倒れこんだ。目が覚めたのは午前11時過ぎ。気力を振り絞って検温した結果に驚く。38.9℃。ここ最近見たこともない数字だ。私の発熱の最高記録は20代前半の頃の39.8℃。この時はバックパッカーとして旅行中にエジプトのカイロでかなり重い肺炎にかかり、日本大使館のご助力で、人生初しかも2週間の入院をカイロで経験している。ちなみに当時のことで、鮮明に記憶しているのは、ベッドサイドに置かれた紙袋入りの自分の胸部X線写真。右肺の下から3分の1程度、左肺の4分の1程度が真っ白。様子を見に来た日本大使館の医務官がそれを見て「ありゃりゃ」と言いながら病状を説明してくれた。退院後、成田空港からまっすぐ実家に向かい、父親のかかりつけ医にそれを見せたところ、「えっ、この状態なのに2週間で退院したの? 僕ならあと1週間は入院させるなあ。オリンピックだ。オリンピック」と言われた。私がきょとんとしていると「まあ4年に1回くらいしか見ない、結構重い肺炎だよ」と告げられた。あの時も辛かったが、当時はまだ20代前半。それから30年経った今、38.9℃があの時よりも辛く感じる。しかし、発汗やだるさは少ないと思いながら、食事も水分も十分に取っていなかったことに気付く。部屋の冷蔵庫を開けると、そこには大みそかに娘と一緒に食べようと買い込んだ2人分のミニおせち。消費期限は今晩まで。結局、自分1人で食べることにした。部屋に備え付けの電子レンジでレトルトのご飯を温め、冷蔵庫の中で冷え冷えとなったおせち料理をつまむ。途中で2個ずつある各料理を丁寧に1個ずつ食べていたことに気付いたが、そんな必要はなかった。固めのごぼうの煮物を噛みながら「何やっているんだろう」とふと思った。幸い味覚障害はないが、うまいともまずいとも思えない。最後に500mLのペットボトルのお茶を一気飲み。喉に引っ掛けたわけでもないのに、その直後から咳も出始めた。咳をするたびに咽頭が強烈に痛む。朝食後は廊下に置かれた娘の衣服をピックアップして1階のコインランドリーで洗濯する時間である。しんどすぎるが、行くしかない。再びマスクの上下に両面テープを張り、部屋を出て娘の部屋のドアノブに下げられた洗濯物と自分の洗濯物を持って1階に降りた。幸いほかの人は誰もいない。加えて部屋の外では運よく咳も出ない。洗濯機に洗剤と洗濯物を放り込んで部屋に戻り、洗濯が終わる約40分後にスマホのタイマーをかけ、靴だけを脱ぎ、再びベッドに横になる。うとうとしているとタイマーがなり始めた。また、階下に降り、今度は30分100円の乾燥機に洗濯物を入れ替え、また部屋へ。すると、娘から「お昼はパスタが食べたい」と。ビンゴだ。部屋の電子レンジで温め、すぐに袋に入れて娘の部屋のドアノブにかける。この時、猛烈に咳が出た。慌てて部屋に戻り、LINEで「いまパスタを置き配したけど、おとう(娘は私をこう呼ぶ)がいま廊下で咳をしてしまったので10分ほど待ってから取ること」とメッセージを送った。廊下は狭く、お世辞にも換気がよいとは言えないからだ。部屋に戻ってから再度検温をする。38.6℃。念のため4回目となる抗原検査をやってみる。左右の鼻腔の奥を綿棒でこすると、くしゃみが出た。検体を流し込んでもコントロールのほうしか線は浮き上がらない。本当に新型コロナではないのか? とするとインフルエンザ?それともただの風邪?悩みに悩んで正月早々ではあるが、SNSのメッセージ機能を使って知り合いのA医師にコンタクトを取った。すぐに既読がつき、「どうしたの?」と返信。こちらの状況をメッセージに打ち込むが、発熱で頭がぼーっとしているのでその作業自体が苦痛である。音声電話機能で話せないかと提案すると、即OKの返事が来た。私から連絡してこちらの状況を伝えた。すると、「うーん、抗原検査が4日間連続陰性とはいえ、症状や今の感染流行の状況を考えればやっぱり疑いはあるよね。自分の患者が同じような状況なら念のため検査するね」との反応。私は基本的に表面的には重症化リスク因子が少ないし、安易な受診で外来ひっ迫させるのは心苦しいと告げた。ちなみにこの時点で保有していた解熱鎮痛薬は服用していない。当たり前の生体反応である発熱を無理に薬で抑え込みたくはない。まだ、もう少しは頑張れる。そんなこともこの医師には伝えた。しかし、「村上さんは50代だし、娘さんの受験も考えると、大事をとって受診して白黒はっきりさせたほうが安心じゃないですか? 幸い村上さんが今いる辺りで開業している友人がいるから連絡してあげるよ」と言われる。三が日も明けてないのにそれは気が引けると言ったが、「いや、気軽に連絡取れる仲だから。ちょっと待ってて。とりあえずお大事にね」と言って電話が切れた。電話が切れた直後、洗濯物を乾燥機から取り込まなければならないことに気づく。急いで階下に降り、乾燥機の中に手を入れるとまだ生乾き。ため息が出る。市中のコインランドリーならば30分かからずに乾くのにと思う。初日にここの乾燥機で洗濯物を完全に乾燥できるまで2時間、合計400円もかかった。娘の衣服は2組しかないが、今日のはかなり乾きにくい厚手のもの。ホテルから徒歩10分弱のところにコインランドリーがあることは知っているが、そこまで歩いて行ける状態ではなさそうだし、乾燥中はコインランドリー内で待機せねばならず、そこで他人に感染させるなどはあってはならない。かといって400円も使いたくない。とりあえず生乾きの洗濯物を持って部屋に戻ると、SNSの電話機能で着信があったことに気づく。先ほどの医師が連絡を取ると言っていた友人のB医師だった。まず、メッセージ機能で受信できなかったことを詫び、折り返しても良いかと尋ねた。すぐに既読がつき、「ええ大丈夫です」との返信。さっそく電話をして自己紹介をすると、「A先生から話は聞いています。場所も近いようですし、明日からうちは診療する予定なので受診されます?」との申し出。こちらが遠慮気味に可能か尋ねると、「新年一発目なので朝に来ていただければ、たぶん即診察できると思いますよ」とのことで、翌朝9時半の受診が決定した。2人の医師の迅速な対応に感謝しかない。とりあえず自分の体のほうはどうにか方向性は見えてきた。そうすると、気になるのが生乾きの洗濯物だ。宿泊先の部屋の間取りはユニットバスを囲むようにL字型の構造。Lの長辺にベッドと部屋の出入り口があり、短辺側にユニットバスの入り口、机、さらに壁上部にエアコンがあった。そうだ!と思い付き、自分のバッグを開け、何かの時に役に立つと思って持ち歩いていた大型の半透明ビニール袋を2つを取り出した。これと両面テープを使って短辺部分を閉鎖空間とする。そこに娘の洗濯物をハンガーでつるし、エアコンの風量を最大にして即席乾燥室を作った。これは乾燥の効率もあるが、何よりベッド付近で私が横になっている際に頻繁に咳をしていることで浮遊しているであろうエアロゾルが娘の衣服に付着することを恐れたからだ。もっとも咳は止まっているわけではないので、換気のために部屋の窓を全開にして、ベッドにもぐりこんだ。外からの冷気は、布団にくるまることでなんとか我慢できる範囲に収まった。相変わらず体は火照った感じだ。原稿執筆は難しいが文字を読めるので、そのままスマートフォンでニュースをチェックする。1時間ほどして、咳をしないように我慢しながら閉鎖空間内に入り、ユニットバスでの手洗いと手拭き後、洗濯物に触った。乾いている。それを持参していた未使用のスーパーの買い物袋に入れて封をし、廊下に出て娘の部屋のドアノブにかけた。部屋に戻り、LINEで娘に洗濯物を戻した旨を伝えたメッセージが既読になったことを確認すると、そのまま眠りに落ちてしまった。再び目を覚ましたのは午後7時過ぎに娘からのLINEメッセージの着信があった時だ。夕飯のリクエストである。「海鮮丼」とある。え? コンビニにあったっけ? 寿司ならあった記憶があるが、すぐに思い浮かばない。とりあえずネットで検索してみる。どうやら近所にあるコンビニチェーンにはそれに近い物がありそうだ。ホテルから最短距離にあるコンビニチェーンなので行ってみたが、海鮮丼はなく、寿司のみ。店外に出て娘にLINEで「海鮮丼はないので、寿司でもいい?」とメッセージする。屋外の人気のないところに移動して返信を待つが反応はない。発熱による火照りのせいか徐々に視界がぐらぐらしてくる。10分過ぎても返信はない。LINEの音声通話で呼び出すが、反応なし。18分経過してようやく返信があり、寿司で落ち着いた。寿司を買って帰るも足元はフラフラ。部屋のあるフロアに付くと寿司の一部が容器内で横倒しになっていた。置き配をしてから部屋に戻り、検温すると38.6℃。食欲はなかったが、レトルトパックのカレーとご飯を用意して、作業のようにもくもくと口に放り込んでから、ベッドにもぐりこんだ。9時半過ぎにじんわりと汗ばんでいることに気づいて目を覚ますと、数分前に娘からLINEメッセージが着信していたことに気付く。曰く「明日、この近くの自習室に行きたい」。娘が在籍している予備校の校舎と今いるホテルは電車での移動が必要だが、最寄り駅近くにも別校舎があり、在籍校舎が異なっても自習室は使える。そしてこのメッセージは「送ってくれ」という意味も含んでいるのは父親としてはすぐわかった。しかし、10分強は歩かねばならず、最短距離を採用すると空間的に密な地下道を通過しなければならない。ただ、地下道の入り口までは開放的な屋外で、正月三が日ならば、通常よりも人通りは少ないだろう。娘は地下道入り口から先の道はわかる。自習室が開くのは午前9時だが、席を確保するには、9時ちょうどには到着しなければならない。私が予約した診察は9時半だが、クリニックはホテルからは徒歩5分ほど。ということで娘には地下道入り口までの条件で送っていくことを承諾した。そして原稿を書かねばと思い、椅子に座ってパソコン(PC)に向かったが、やはり30分が限界。結局、またベッドに横になるしかなかった。(次回に続く)

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第145回 三重大臨床麻酔部汚職事件、元教授に懲役2年6ヵ月、執行猶予4年の有罪判決、賄賂は「オノアクト使用の見返りだった」

岸田首相G7広島サミットを意識?今春にもコロナは5類にこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この連載もまもなく3年を迎え150回近くとなりますが、その半分以上は新型コロウイルス感染症に対する国の対応について書いてきたのではないかと思います。そのコロナ対応も、いよいよ大きな転換期を迎えます。岸田 文雄首相が1月20日、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の分類を、今春から5類に変更する方針を示し、23日から専門家らによる感染症部会で本格的な議論が開始されたためです。昨年11月、感染症法等を改正し、都道府県は地域医療支援病院や特定機能病院などとあらかじめ協定を結び、病床確保や発熱外来といった医療の提供を義務付けることになったばかりですが、5類にすればそうした義務付けから外れることになります。これまでコロナを診てこなかった医療機関も、通常の風邪と同じように診療、入院させるようになると期待されていますが、本当にそうなるでしょうか。コロナ禍の中での多くの医療機関の消極的な対応を見てきた経験から言うと、はなはだ疑問です。あわせて気になったのは、1月19日に日本医師会の松本 吉郎会長が岸田総理と面会し、政府が新型コロナの感染症法上の見直しを行った場合でも、公費負担などを継続するよう要望したことです。報道等によれば松本会長は「患者さんに負担が掛からないように、それから医療機関の感染対応にもできる限り支援を継続していただきたいということをお話しした」と語ったそうです。5類に移行すれば医療費などの公費負担の法的根拠がなくなるのは当然です。なのに「公費負担は続けろ」とは、意味がわかりません。普通の風邪ならば、医療機関を受診したい人や重症化リスクが高い高齢者などは受診し、そうでない人は自力で治す(もともとほとんどの風邪は医療機関を受診しなくても治ります)というのが筋です。公費負担を続けるということは、受診不要と思われる軽症患者まで掘り起こすことになりそうです。医療機関の経営にはプラスでしょうが、結局、無駄な医療費の増加を招くだけではないでしょうか。松本会長の要請に岸田首相は「しっかりと検討したい」と応じたそうです。5月開催予定のG7広島サミットで海外首脳を迎える前に、5類にして屋内のマスク着用も不要にしておきたい、という少々自分勝手な考えもあるのではないでしょうか。未だ、マスク着用がルール化されている先進国は日本くらいだからです(エリザベス女王の国葬の時、日本の天皇陛下のマスク着用が話題となりました)。複数の関係者たちの公判のうち大トリとも言える元教授に判決さて今回は、この連載でも何度(今回で7回目)も取り上げてきた三重大病院臨床麻酔部の汚職事件を取り上げます(「第133回 三重大病院臨床麻酔部事件、元教授に懲役4年の求刑、大学は新教授で再スタート」ほか)。薬剤の積極的な使用や医療機器の納入に便宜を図る見返りに現金を受け取ったなどとして、第三者供賄と詐欺の罪に問われた、三重大学医学部附属病院の臨床麻酔部元教授(56歳)の判決公判が1月19日に津地方裁判所であり、柴田 誠裁判長は懲役2年6ヵ月・執行猶予4年と、元教授が代表理事を務める一般社団法人に追徴金200万円(求刑懲役4年、追徴金200万円)とする有罪判決を言い渡しました。ちょうど新型コロナウイルス感染症が猛威をふるい始めた2020年9月に発覚したこの事件、複数の関係者たちの公判のうち大トリとも言える元教授の判決が出たことで、被告全員の公判が一通り終了したことになります。一連の事件では7人の有罪が既に確定この事件で被告人である元教授は、小野薬品工業が製造・販売する薬剤「ランジオロール塩酸塩(商品名:オノアクト)」を積極的に使う見返りに大学の口座に寄付金200万円を振り込ませたほか、日本光電からも200万円を提供させたとして、第三者供賄罪に問われていました。また、小野薬品のオノアクトを投与したように装い診療報酬を詐取(約80万円)したとする詐欺罪でも起訴されていました。元教授の公判は、他の被告の公判がすべて終わった2022年4月から始まりました。ちなみに、一連の事件では、診療報酬詐取事件で共犯とされた同部の元准教授、医療機器納入を巡る汚職事件で共犯とされた元講師、そして小野薬品の社員2人、日本光電の元社員3人の計7人の有罪が既に確定しています。公電磁的記録不正作出、公電磁的記録供用と詐欺の罪に問われた元准教授には懲役2年6ヵ月・執行猶予4年、第三者供賄罪に問われた元講師には懲役1年・執行猶予3年の判決が下されています。一方、贈賄罪に問われた小野薬品の社員2人には懲役8ヵ月・執行猶予3年、同じく贈賄罪に問われた日本光電の元社員1人には懲役1年・執行猶予3年、元社員2人には懲役10ヵ月・執行猶予3年の判決が下されています。最大の争点はオノアクト採用への元教授の関わり2022年4月から始まり、計14回、6ヵ月にも及ぶ審理を経て、10月に結審した今回の公判、最大の争点はオノアクト採用への元教授の関わりでした。小野薬品を巡る第三者供賄罪について元教授は、「オノアクトの効能に着目して積極的に使用していく方針を採用した」などと主張していました。また、詐欺罪についても無罪を主張し、寄付金の対価性(いわゆる見返り)が認定されるかどうかが争点となっていました。一方で元教授は、日本光電に200万円を振り込ませたとする第三者供賄罪は認めていました。報道等によれば、元教授は公判で「職務権限を利用して対価をもらったことは恥ずかしい」と語るとともに、お金の使い道を「麻酔科医を集めるため。ほとんどを飲食代に充てた」と説明したとのことです。元教授が臨床麻酔部教授に就任して以降オノアクトの処方量急増各紙報道等によれば、同日の判決で津地裁はオノアクトの積極使用と寄付の関連を認め、対価性があったとしています。具体的には、元教授が臨床麻酔部教授に就任して以降オノアクトの処方量が急増したこと、小野薬品の当時のMRの証言から元教授が「寄付金が必要だ頼むよ」「最初に世話になったところは忘れないよ」などと供述したこと、MRが作成した週報に「講演会活動を通じ三重大で『OA(オノアクト)をもっと出すための相談』が行えた。そのもっとを今後具体化していく段階に今後していこう」と記載していたことなどを指摘、「200万円の寄附とオノアクトの処方が密接に関連付けられていた」として寄付金の対価性があったと判断しました。「職務の公正さや社会の信頼を害した程度は大きい」以上を踏まえ、柴田裁判長は判決理由で「寄附金を獲得するためになりふり構わず処方量の増大に突き進んだことは異常というほかなく、職務の公正さや社会の信頼を害した程度は大きいと言わざるを得ない」と指摘。さらに、「使用されずに廃棄される医薬品が大量に生じる歪みを発生させ、診療報酬の搾取につながった」と非難したとのことです。ただ、量刑については「職務の公正さや社会の信頼を害した程度は大きいと言わざるをえないが、前科のない被告人をただちに刑務所に収容するのは重きに過ぎる」などとして懲役2年6ヵ月・執行猶予4年の有罪判決としたとのことです。判決に対し、元教授の弁護士は「判決は不当で、控訴するかどうかは被告人と相談したい」と述べたとのことです。一方、三重大学病院の池田 智明病院長は「有罪判決が下されたことを真摯に受け止めます。今後も信頼回復に向け、全力を尽くします」とのコメントを出しています。新たなスタートを切った三重大麻酔科さて、元教授の逮捕によって、三重大病院の麻酔科は混乱に陥り、地域医療にも多大な影響を及ぼしました。さらに製薬会社が大学などに提供している奨学寄付金の是非についても議論が沸き起こり、奨学寄付金を廃止する動きも広まっているようです。その意味で、元教授は法律では罪に問われない部分でも、さまざまな“罪”を犯していたと言えるでしょう。三重大の麻酔科については、2022年4月には新教授が就任、手術での麻酔を行う「臨床麻酔部」を廃止し、痛みを取り除く治療などを行う「麻酔科」に統合するという組織改編も行われました。また、麻酔の専門医を育成する研修プログラムも2023年度からスタートするとのことです。元教授が控訴すれば、裁判は続くことになりますが、少なくとも三重大病院麻酔科の再スタートは喜ばしいことです。幾多の“黒歴史”から決別し、地域の麻酔科医療を牽引する存在になることを願います。

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COPDガイドライン改訂―未診断者の早期発見と適切な管理を目指して

 COPDは、日本全体で約500万人を超える患者がいると見積もられており、多くの非専門医が診療している疾患である。そこで、疾患概念や病態、診断、治療について非専門医にもわかりやすく解説する「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版」が2022年6月24日に刊行された。本ガイドラインは、2018年版からの4年ぶりの改訂で、大きな変更点としてMindsに準拠した形で安定期COPD治療に関する15のクリニカルクエスチョン(CQ)を設定したことが挙げられる。本ガイドライン作成委員会の委員長を務めた柴田 陽光氏(福島県立医科大学呼吸器内科学講座 教授)に改訂点や日常診療におけるCOPD診断・治療のポイントについて、話を聞いた。未診断のCOPD患者を発見するために COPD患者は、なかなか症状を訴えないことが多いという。柴田氏は、「高齢の方は『歳だから、あるいはタバコを吸っているから仕方がない』と考えていたり、無意識のうちに身体活動レベルを落としていて、息切れを感じなくなっていたりすることもある」と話す。そのような背景から、未診断のままの患者が存在し、診断がつく時点ではかなり進行していることも多い。そこで第6版では、「風邪が治りにくい」「風邪の症状が強い」などの増悪期の症状や、気道感染時の症状で医療機関を受診したときが診断の契機となることなどを強調した。 COPDの確定診断には呼吸機能検査が必要であるが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響や設備の問題で実施が難しい場合も多い。その場合は「長期の喫煙歴と息切れがあり、咳や痰などの慢性的な症状が併存し、他疾患を否定できればCOPDの可能性がかなり高い。病診連携などを活用して画像診断を実施し、肺気腫を発見してほしい」と述べた。また、呼吸機能検査が難しい場合の診断について、日本呼吸器学会では「COVID-19流行期日常診療における慢性閉塞性肺疾患(COPD)の作業診断と管理手順」を公表しており、本ガイドラインにも掲載されているので参照されたい。管理目標と安定期の治療 第6版では、COPDの管理目標に「疾患進行の抑制および健康寿命の延長」が追加された。その背景として、「疾患進行抑制の最大の要素である禁煙の重要性を強調したい」、「何らかの症状を抱えていたり、生活に不自由を感じていたりする患者の多いCOPDでは、健康寿命に影響を及ぼすフレイルに陥らないようにして、健康寿命を延ばすことの重要性を強調したい」という意図があると、柴田氏は述べた。 安定期の治療について、第6版では「安定期COPD管理のアルゴリズム」が喘息病態の合併例と非合併例に分けて記載された。柴田氏は「COPD患者の約4分の1が喘息を合併し、喘息合併例では吸入ステロイド薬(ICS)が治療の基本となるため、治療の入り口を分けた」と解説する。具体的には、日頃からの息切れと慢性的な咳・痰がある場合、喘息非合併例では「長時間作用性抗コリン薬(LAMA)あるいは長時間作用性β2刺激薬(LABA)」、喘息合併例では「ICS+LABAあるいはICS+LAMA」から治療を開始し、症状の悪化あるいは増悪がみられる場合、喘息非合併例では「LAMA+LABA(テオフィリン・喀痰調整薬の追加)」、喘息合併例では「ICS+LABA+LAMA(テオフィリン・喀痰調整薬の追加)」にステップアップする。 喘息非合併例では、頻回の増悪かつ末梢好酸球数増多がみられる患者には「LAMA+LABA+ICS」の使用を考慮する。なお、喘息非合併の安定期COPD治療は、LAMAまたはLABAの単剤で始めなければならないというわけではなく、「CAT(COPDアセスメントテスト)が20点以上やmMRC(modified British Medical Research Council)グレード2以上といった症状の強い患者は、LAMA+LABAで治療を開始しても問題ない。詳細はCQ5を参照してほしい」と述べた。 安定期の治療について、第6版では15個のCQが設定された。その中で「強く推奨する」となったのは、「LAMAによる治療(CQ2)」「禁煙(CQ10)」「肺炎球菌ワクチン(CQ11)」「呼吸リハビリテーション(CQ12)」の4つである。とくに「呼吸リハビリテーション」について、柴田氏は「エビデンスレベルが高く、強く推奨するという結果になったことは、まだまだ普及が進んでいない呼吸リハビリテーションを普及させるという観点から、非常に意義のあることだと考えている」と話した。 COVID-19流行期における注意点として、「COPD患者は新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいため、感染対策が重要となるが、身体活動性を落とさないよう定期的な運動は続けてほしい。薬物療法については、ICSを使用していてもCOVID-19の重症化リスクは上昇しないため、現在の治療を継続することが重要」とした。診断・治療共に積極的な病診連携の活用を 第6版では、病診連携の項でプライマリケア医と呼吸器専門医の役割を詳細に解説している。柴田氏は、非専門医に期待する役割について「COPD治療の基本である禁煙の徹底、併存症の管理、インフルエンザや新型コロナのワクチンに加えて肺炎球菌ワクチン接種を行ってほしい」と述べた。加えて、「COPD患者の肺がんの年間発生率は2%ともいわれるため、願わくは年1回など定期的な低線量CTを実施してほしい」とも述べた。一方、呼吸器専門医については、「呼吸機能検査を実施して診断の入口となることや、治療をしていても増悪を繰り返すような管理の難しい患者の治療、呼吸リハビリテーションの実施といった役割を期待する」と話し、病診連携を活用して呼吸器専門医に紹介してほしいと強調した。 また、COPDの薬物治療は吸入療法が中心となるため、適切な吸入指導が欠かせない。しかし、吸入薬の取り扱いや指導に不慣れな医師もいるだろう。そこで活用してほしいのが、病薬連携だという。柴田氏は「薬剤服用歴管理指導料吸入薬指導加算が算定できるため、吸入薬の取り扱いに慣れている薬局の薬剤師に、吸入指導を依頼することも可能だ。デバイスについては、患者によって向き・不向きがあり、処方変更が必要になることもあるため、病薬連携が重要となる」と述べた。COPD患者の発見と積極的な介入を 柴田氏は、非専門医の先生方へ「皆さんの思っている以上にCOPD患者は多い。70歳以上の高齢男性では4人に1人が何らかの気流閉塞があることが知られており、高血圧や循環器疾患の3人に1人はCOPDというデータもある。高齢で糖尿病を有し喫煙歴のある患者にもCOPDが多い。このような患者をどんどん発見して、治療介入してほしい。その際、本ガイドラインを活用してほしい」とメッセージを送った。COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン第6版定価:4,950円(税込)判型:A4変型判頁数:312頁発行:2022年6月編集:日本呼吸器学会COPDガイドライン第6版作成委員会発行:メディカルレビュー社

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