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肥満患者における鎮静下消化器内視鏡検査中の低酸素症発生に対する高流量式鼻カニュラ酸素化の有用性(解説:上村直実氏)

 消化器内視鏡検査は苦痛を伴う検査であると思われていたが、最近は多くの施設で苦痛を軽減するため、検査時に鎮静薬や鎮痛薬を用いた鎮静法により大変楽に検査を受けられるようになっている。しかし、内視鏡時の鎮静に対する考え方や方法は国によって大きく異なっている。米国では、内視鏡検査時の鎮静はほぼ必須であり、上下部消化管内視鏡検査受検者のほぼすべてが完璧な鎮静効果を希望するため、通常、ベンゾジアゼピン系薬品とオピオイドの組み合わせを使用して実施される。具体的には、ベンゾジアゼピン系催眠鎮静薬のミダゾラムとオピオイド鎮痛薬のフェンタニルの組み合わせが、最も広く利用されている。保険診療システムが異なるわが国でも、日本消化器内視鏡学会のガイドラインにおいて「経口的内視鏡の受容性や満足度を改善し、検査・治療成績向上に寄与する」ことから検査時の鎮静が推奨されると明記されており、多くの施設においてミダゾラムの使用が一般的になっている。 一方、内視鏡検査時の鎮静に関して最もよくみられる有害事象は、呼吸抑制、気道閉塞、胸壁コンプライアンスの低下に伴う低酸素血症である。とくに肥満者に多くみられる合併症であり、時に重篤になる場合もあるため注意が必要である。今回、中国・上海の大学病院3施設でBMIが28以上の肥満者を対象として鎮静を伴う検査時の低酸素血症を予防する手段として、加湿・加温された高濃度の酸素を最大60L/minという高流量で供給する高流量式鼻カニュラ(HFNC)を介した酸素投与の有用性を検証する目的で、通常の鼻カニュラを対照として施行された多施設ランダム化比較試験の結果が、2025年2月のBMJ誌において報告された。 本試験で使用された鎮静法は、麻酔科医師の指導の下にsufentanilと静脈麻酔薬のプロポフォールが用いられているが、日本では「消化器内視鏡診療におけるプロポフォールの不適切使用について ―注意喚起―」が日本消化器内視鏡学会から提起されているように、本剤は麻酔科医師の監視の下に使用することが義務付けられている点に注意が必要である。非常に強い鎮静効果を有する鎮静法における肥満者の低酸素血症予防が重要であると思われるが、本試験の結果では通常の鼻カニュラに比べて低酸素血症を引き起こす頻度が20%から2%に劇的に減少し、HFNCの有用性が明らかにされたものであり、将来的にはわが国にも導入されることが期待される。 最後に、消化器内視鏡検査を受ける患者さんにとって検査時の鎮静は賛否両論あるようで、「楽に検査を受けられる」「苦しい検査は受けたくない」とする鎮静賛成派と「検査の最中に意識がなくなるのは嫌」「内視鏡の画像を見たいので」という否定派に分かれている。内視鏡医にも肯定派と否定派がいて、最近では肯定派の医師が多くなっているが、鎮静に用いる薬剤の有用性とリスクに熟知することが重要であることは言うまでもない。

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第236回 麻酔薬を巡る2つのトピック(後編) プロポフォール使用の配信番組で麻酔科学会声明、芸人への検査は麻酔不要の「経鼻内視鏡」の不可解

石破首相の知見は要職を降りてから「アップデートされていない」こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。自民党、衆院選で大敗しちゃいましたね。テレビに映る石破 茂首相の虚ろな目を見て、せっかくチャンスをもらったのに、総裁選前に自信満々で話していた自身の主張を次々反古にするなど、迷走するリーダーの姿を国民に見せてしまったことも大きな敗因ではないかと感じました。石破首相が誕生した直後、10月5日付の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」は「イシバノミクスはあるか」というタイトルで、今後の経済施策について予想するとともに、石破首相の欠点を鋭く突いていました。同記事は、石破首相が主導する経済政策「イシバノミクス」はないと断言、その理由を「党内非主流派に長く身を置」き、「首相の知見が要職を降りてから『アップデートされていない』ためだ、と霞が関の官僚はみている」と書いています。自ら得意と公言する安保政策(アジア版NATO構想など)ですら非現実的なのに、専門ではない経済・金融政策で新しい施策を打ち出せるわけがない、というわけです。実際、石破首相は、社会保障政策についても深く語ることはなく、やはり「アップデートされていない」感(言い換えれば勉強不足)を強く感じます。今回の総選挙で、紙の健康保険証存続を公約に挙げる立憲民主党が大躍進したことで、社会保障政策の最重要課題の一つである医療DX推進にも暗雲が垂れこめそうです。石破首相(あるいは新首相?)にはその点はぜひアップデートし、自らの頭の中身をDXしていただきたいと思います。配信されたバラエティ番組を麻酔科学会が強く非難さて今回も前回に引き続き、麻酔薬のトピックを取り上げます。日本麻酔科学会が「アナペイン注 7.5mg/mL」の製造所追加の承認取得をホームページで会員に伝えた同じ10月16日、同学会は別件で興味深い理事長声明を出しました。「静脈麻酔薬プロポフォールの不適切使用について」1)と題されたその声明は、「10月14日配信開始の番組において、内視鏡クリニックを舞台にプロポフォールが使用され、何らかの外科的処置を必要としない人物を意図的に朦朧状態にするという内容が含まれていることを知り、深い憂慮を抱いております」と、配信されたバラエティ番組で芸能人に対して安易にプロポフォールが使われたことを強く非難しました。このトピックについては、ケアネットの「ニュース批評」、「現場から木曜日」でも倉原 優氏が「第119回 『エンタメ番組でプロポフォール静注』を観た感想」でプロポフォールの内視鏡時の使用の問題点について言及、「日本麻酔科学会が書いているように『麻酔薬をいたずらに使用する行為は、極めて不適切』の一言に尽きます」と書かれていますが、私も実際に配信番組を観て“あること”に気付いたので、若干の補足コメントをしてみたいと思います。「地上波では放送できない企画」をテーマに芸人らが過激な企画に出演まず、経緯を簡単におさらいしておきます。麻酔科学会が問題視したのは、Amazonプライム・ビデオで10月14日から配信が始まった「KILLAH KUTS(キラーカッツ)」という番組の中の1エピソード、「EPISODE2 麻酔ダイイングメッセージ」です。同番組は、「水曜日のダウンタウン」の演出担当として知られる藤井 健太郎氏が手掛け、「地上波では放送できない企画」をテーマに、芸人らが過激な企画に挑むのが売りだそうです。このエピソードでは、「死ぬ瞬間の薄れゆく意識を、麻酔を使えば再現できる」として、みなみかわ、お見送り芸人しんいち、ラランド、モグライダーといった人気芸人らが、被害者役と刑事役に分かれ、病院を訪れた被害者役が院内で事件に巻き込まれ、殺されてしまう、という設定のコントを演じます。被害者役が殺されると、その瞬間、医師が麻酔薬の投与を開始。意識が薄れるなか、被害者役はメモに犯人の情報を残し(いわゆるダイイングメッセージですね)、後から来た刑事役がそれを読んで推理するという設定です。番組を観てみると、被害者役の芸人たち(どちらかというとボケ役が担当)は麻酔薬の投与直後からメモを書き始めるのですが、ほとんどの芸人が犯人の情報を正確に記述することができず、ほどなくして眠りに落ちていました。「麻酔を行う」必然的な理由、エクスキューズを一応は用意制作側も、何らかの非難が起こること(あるいは炎上すること)を想定していたのでしょう。健常人に「麻酔を行う」必然的な理由、エクスキューズを一応は用意していました。番組冒頭でまず、「当番組における麻酔の投与は胃カメラ検査を目的とし、医師による監修のもと安全性に配慮した上で通常の検査で行われる方法と同様に実施しております」というテロップが流れます。さらに番組内では「今回使用するのは、人間ドッグなどで用いられ、注入開始からおよそ1分ほどで意識を失う麻酔。ちなみに、ダイイングメッセージのくだりを終えた後は、実際に胃カメラ検査を実施。あくまで今回のロケは、検査のついでにロケを行わせていただきました」というナレーションも入っています。さらに司会の伊集院 光には番組内で、「あくまで胃カメラ検査をするついでに、麻酔がかかるならこういうこともやってみよう(ということ)。麻酔を悪ふざけとか遊びに使うなんてありえない」とも言わせています。学会は「厳格なガイドラインに従って静脈麻酔薬を適切に管理し、いかなる場合にも不適切な使用を避けるよう強く要請」10月17日付「Smart FLASH」の報道によれば、このエピソードは当初は7日から配信予定でしたが、6日にはAmazonプライム・ビデオの公式Xにて「諸事情により配信日が延期となりました」と発表、ようやく14日に配信されたとのことです。しかし、冒頭で書いたように日本麻酔科学会は配信からわずか2日後の10月16日、理事長名で「静脈麻酔薬プロポフォールの不適切使用について」と題する声明を出しました。麻酔科学会は、マイケル・ジャクソンの死亡事故も例に挙げながら、「プロポフォールをはじめとする静脈麻酔薬は、本来、手術や検査時の鎮静を目的に、医師の厳重な管理のもとで使用されるものです。特に、これらの薬剤は呼吸抑制のリスクを伴うため、必ず人工呼吸管理が可能な環境で使用される必要があります。(中略)適切な医療管理が行われない場合、生命に危険を及ぼす可能性があります。したがって、このような麻酔薬をいたずらに使用する行為は、極めて不適切であり、日本麻酔科学会として断じて容認できるものではありません」と強く非難、「麻酔科医ならびに関連する医療従事者には、厳格なガイドラインに従って静脈麻酔薬を適切に管理し、いかなる場合にも不適切な使用を避けるよう強く要請いたします」としています。内視鏡検査時のプロポフォール使用については安全性に疑問も配信番組では「麻酔薬」と言っているのみで「プロポフォール」という単語は出てこないので、番組内の麻酔薬がプロポフォールであると麻酔科学会がどう確定したかは不明です。ひょっとしたら、協力した埼玉市の医療機関(実名で出てきます)に問い合わせたのかもしれません。プロポフォールは、手術時の全身麻酔や術後管理時の鎮静効果が高いことなどメリットも多く、使いやすい麻酔薬との評価がある一方で、ベンゾジアゼピン系薬剤よりも舌が落ち込んだり、血圧が低下したりするような作用が強く、管理は比較的難しいとされています。また、ICUの小児への使用に関連して、2014年に東京女子医大で重大な事故も起こっています(「第30回 東京女子医大麻酔科医6人書類送検、特定機能病院の再承認にも影響か」参照)。そうしたことも、麻酔科学会が配信番組をあえて非難した理由の一つかもしれません。実際、倉原氏が指摘しているように、内視鏡検査時のプロポフォール使用はなかなか難しい問題もあるようです。日本麻酔科学会の「内視鏡治療における鎮静に関するガイドライン」ではその使用が認められている一方で、「プロポフォールによる鎮静が内視鏡室で非麻酔科医によって安全に行えるかどうかは、日本の医療現場や教育体制、現行の医療制度では明言できない」と記載されているとのことです。倉原氏は、「欧米と比較して非麻酔科医によるプロポフォール使用の教育システムが整っていないという指摘があります」と書かれています。使われていた内視鏡は経鼻内視鏡、プロポフォールによる静脈麻酔は必要だったのか?もう1点、この配信番組を観て驚いたのは、使われていた内視鏡が経鼻内視鏡だった点です。最初の“被害者”であるモグライダーのともしげに麻酔がかけられた後、経鼻内視鏡が挿入される場面があります(ほかの“被害者”ではその場面はなし)。咽頭反射が起こらないため通常の内視鏡検査よりも格段にラクな検査です。多くの医療機関で麻酔薬なしか、リドカインによる鼻腔麻酔などで行われている経鼻内視鏡の検査を行うのであれば、そもそもプロポフォールによる静脈麻酔は必要がなかったはずです。番組で伊集院 光は「麻酔を悪ふざけとか遊びに使うなんてありえない」と語っていますが、内視鏡検査が「経鼻」であったことだけでも、「悪ふざけとか遊び」であったと言えるのではないでしょうか。プロポフォールを打たれた芸人たちは、厳重な安全管理の下で麻酔をされたとは言え、不要、あるいは過剰とも言える医療を施されたわけで、その意味では本当の“被害者”だったわけです。それにしても、一番の問題は、この番組がコントとして全然面白くなかったことです。テレビ局のコンプライアンスが厳しくなり、地上波のバラエティ番組では作りたいものが作れない、と芸人がボヤいたりしています。「KILLAH KUTS」も「地上波では放送できない企画」がテーマだそうです。しかし、「コンプライアンスを守らない=過激=面白い」とはなりません。番組視聴のためにわざわざ入会したAmazonプライムの会費を返して欲しいとすら思った一件でした。参考1)静脈麻酔薬プロポフォールの不適切使用について/日本麻酔科学会

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第119回 「エンタメ番組でプロポフォール静注」を観た感想

番組でプロポフォールを使用「この演出家がこんな番組を!」という広告がチラホラ目に入っていたので、少し心配していましたが、案の定、炎上してしまいました。有名番組の演出を手がけていた人が制作したAmazonプライム・ビデオの番組が、プロポフォールを静脈注射するという企画を配信したのです。第1回は「スポーツスタンガン」がテーマで、芸人たちがフェンス付きのリング内でスタンガンを押し付け合い、通電したら負けというもの。私が子供の頃には、電気ショック系のお笑い番組がたくさんありましたが、これはその流れを汲んでいるのか、昭和世代には比較的受け入れられるのかもしれません。一定数、批判は来るでしょうが。そして、第2回が問題の「麻酔ダイイングメッセージ」。芸人が「病院で何者かに殺される」という設定で、実際にプロポフォールを静注して意識を失う前に、手書きのダイイングメッセージを残せるかどうかを試すというものです。めちゃくちゃ攻めてます。「当番組における麻酔の投与は胃カメラ検査を目的とした医師による監修のもと安全性に配慮した上で、通常の検査で行われる方法と同様に実施しております」というテロップもあり、一応検査目的での使用という体裁を取っています。しかし、実際のところは、検診ではなくお笑い目的で使っていることになります。私自身、許容範囲は広いほうですが、これは各所から批判が殺到するのではないか…と心配になる内容でした。予想通り、日本麻酔科学会が公式にコメントを発表したことで、SNS上で炎上。後で詳しく触れますが、炎上はある意味で予定どおりだったのかもしれません。日本麻酔科学会. 理事長声明「静脈麻酔薬プロポフォールの不適切使用について」(2024年10月16日)何が問題か?マイケル・ジャクソンの死因になっただけでなく、大学病院でも死亡が取り沙汰されたこともあり、プロポフォールの適切な管理に対する医学界の認識は高いはずです。とはいえ、内視鏡検査ではプロポフォールはたしかに使用されています(ちなみに当院の内視鏡検査はミダゾラム、フェンタニルが主です)。検診で行っている麻酔に、企画を乗っけた形になるので、違法性はありません。プロポフォールの内視鏡時の使用については、日本麻酔科学会の「内視鏡治療における鎮静に関するガイドライン」1)でも認められており、「適切なモニタリング下で使用すれば偶発症は増加せず、回復・離床時間が短く、長時間の手技中断も少なく、医師・看護師・患者の満足度が高い」とされています。さらに、「ASA-PS分類IまたはIIの患者に限り、気道確保等の訓練を受けた医師によるプロポフォール使用は可能」とされています。ただし、ガイドライン本文では、「プロポフォールによる鎮静が内視鏡室で非麻酔科医によって安全に行えるかどうかは、日本の医療現場や教育体制、現行の医療制度では明言できない」とも記載されており、欧米と比較して非麻酔科医によるプロポフォール使用の教育システムが整っていないという指摘があります。これにより、ダイジェストと本文の温度感に若干の違いを感じる部分もあります。ちなみに、プロポフォールは内視鏡検査時の使用について保険適用はありません。このあたりにも、若干の齟齬があります。ですから、おそらくエンタメでプロポフォールを使った時点で、どのような企画であっても炎上していたでしょう。だからこそ、伊集院 光さんが「地上波で放送できなかった」と番組でも発しています。日本麻酔科学会が書いているように「麻酔薬をいたずらに使用する行為は、極めて不適切」の一言に尽きます。何をもって「いたずらに」とするかは、何とも言えないところですが、「エンタメ目的で医薬品を使用する」のは個人的に賛成できません。この企画では検診が建前で、エンタメ目的ではないというスタンスですが、SNS上では議論が平行線のままです。想定範囲の炎上だったためか、その後配信は中止されることもなく、現在でもAmazonプライムで視聴できます。そして、その後も定期的に新しい企画が更新され続けています。制作側としては「地上波で批判が予想される企画は通らない」というジレンマを抱えていたのかもしれません。しかし、ここまで過激にしないと視聴者が付かないという現象は、テレビがエンタメとしての役割を終えつつあることや、スマホ世代の取り込みに苦戦している現状を映し出しているのかもしれません。参考文献・参考サイト1)日本消化器内視鏡学会内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン委員会. 内視鏡診療における鎮静に関するガイドライン(第2版). 日本消化器内視鏡学会雑誌. 2020;62:1635-1681.

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第235回 麻酔薬を巡る2つのトピック、アナペイン注供給不足と芸人にプロポフォール使用の配信番組で麻酔科学会大忙し(前編)

東京女子医大新学長に国際医療福祉大の山中寿教授こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。同窓会組織・至誠会と学校法人の不適切な資金支出や、寄付金を重視する推薦入試や人事のあり方などが問題視され、8月に前任理事長が解任された東京女子医大ですが、10月18日に理事会が開かれ、理事会の全理事と監事が辞任、新しい学長には国際医療福祉大の山中 寿教授(70)が選任されました。東京女子医大については、本連載でも「第226回 東京女子医大 第三者委員会報告書を読む(前編)『金銭に対する強い執着心』のワンマン理事長、『いずれ辞任するが、今ではない』と最後に抗うも解任」などで度々書いてきましたが、結局、経営陣は総入れ替えになりそうです。新しく学長に就任した山中氏はリウマチ学の権威で、1983年から東京女子医大に在籍、2003~18年には同大附属の膠原病リウマチ痛風センターなどで教授を務めていました。どういった経緯で山中氏が選ばれたのかは不明ですが、女子医大の内実をよく知り、かつ同大病院の名物センターの一つ、膠原病リウマチ痛風センターを切り盛りしていた実績が買われたのでしょう。山中氏は国際医療福祉大の教授であり、同大関連の医療法人財団順和会山王メディカルセンターの院長でもありました。国際医療福祉大が、厚生労働省官僚の主要“天下り先”であることを考えると、国、厚生労働省の意向も少なからず反映されたのかもしれません。70歳という年齢はやや行き過ぎている感は否めませんが、正常かつ公正な大学運営が行われることを期待したいと思います。供給不足が社会問題化していたアナペイン注に不足解消の兆しさて今回は麻酔薬を巡るトピックを2つ紹介します。まずは、6月以降限定出荷が続き、供給不足が社会問題化していた局所麻酔薬のアナペイン注(一般名:ロピバカイン塩酸塩水和物)ですが、不足解消の兆しが見えてきました。アナペイン注の供給不足については、10月2日付のNHKニュースでも大きく報じられました。同ニュースは、「国立がん研究センター中央病院では、がんの手術にアナペインを使っています。ところが出荷制限でことし6月ごろから減少し始め、8月になってからはほとんど入荷しなくなりました。このため臨床試験や大腸がんの手術に使用を限定しているということです」と報じ、さらに「産婦人科の中には出産の際に麻酔で陣痛を抑える無痛分べんに応じきれなくなることを心配する声も聞かれます」と、市中の産科での混乱も伝えていました。そのアナペイン注ですが、製造販売元のサンドは10月9日、「アナペイン注2mg/mL」について「10月8日、製造所追加の承認を取得いたしました」と、翌9日には「アナペイン注7.5mg/mL」について「10月9日、製造所追加の承認を取得いたしました」と発表しました。いずれも初回出荷に向けた最終確認、調整に入っているとのことです。なお、「アナペイン注10mg/mL」については製造所追加の承認取得の手続きを進めているとのことです。また、福岡 資麿厚生労働大臣は10月8日の閣議後会見で、「アナペイン注」の限定出荷が続いている現状を踏まえ、今年8月に薬事承認されたテルモの後発品が年内にも供給開始される見込みだと説明しました。海外生産のリスクを回避しようと国内生産に切り替えようとしたことが裏目にそもそもなぜ、アナペイン注は供給不足に陥ったのでしょうか。サンドは5月に出した「アナペイン注2mg/mL,7.5mg/mL,10mg/mL(10管、1バッグ)供給に関するお詫びとご案内」で、「製造委託先変更に伴う、逸脱による製造遅延が発生し、調査および品質・安全確保のために製造を停止しております」と理由を説明していました。NHKなどの報道によれば、製造を行っている関連会社が製造所を海外から国内に移そうとしたところ技術移転に時間がかかることが明らかになり、国内製造を延期せざるを得なくなったとのことです。海外で製造される医薬品が海外の工場などの事情で供給不足に陥った事例については、本連載でも「第74回 膵がん治療に欠かせないアブラキサン10月供給停止へ、学会、患者会が他工場製品の緊急承認要望」で取り上げました。このときは、米国の1工場の不具合により、進行膵がんの1次化学療法薬として使われるアブラキサンが供給停止となった問題を取り上げ、海外製造に依存するリスクについて書きました。しかし、今回のアナペイン注は、そうしたリスク回避のため国内生産に切り替えようとしたことが裏目に出たわけです。企業の経営戦略は間違ってはいないものの、詰めが甘かったということでしょう。「逸脱による製造遅延」の「逸脱」って?サンドの「お詫びとご案内」に出てくる「逸脱による製造遅延」の「逸脱」は日常あまり聞かない単語です。これは、「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(通称GMP省令)」で定めた製造手順から「逸脱」しており、製造工場が承認されなかったことを意味します。「アナペイン注2mg/mL」と「アナペイン注7.5mg/mL」については「逸脱」は解決され、製造所の承認も得たとのことなので、現場の医療機関はあとは出荷が軌道に乗るのを待てばいい、ということになります。なお、日本麻酔科学会は「長時間作用性局所麻酔薬が安定供給されるまでの対応について」1)という告知で、日本産科麻酔学会は「理事長メッセージ」2)で、アナペイン注が安定供給されるまでの対応策として、使用の優先順位を策定することやほかの鎮痛方法の検討などを推奨しています。もうしばらくは、学会の提言に従って麻酔薬を使うしかなさそうです。麻酔科学会が配信バラエティ番組で安易にプロポフォールが使われたことを強く非難ところで、日本麻酔科学会は「アナペイン注7.5mg/mL」の製造所追加の承認取得を同学会のサイトで会員に伝えた同じ10月16日、別件の興味深い理事長声明を出しています。「静脈麻酔薬プロポフォールの不適切使用について」と題されたその声明3)は、「10月14日配信開始の番組において、 プロポフォールが内視鏡クリニックを舞台に使用され、何らかの外科的処置を必要としない人物を意図的に朦朧状態にするという内容が含まれていることを知り、深い憂慮を抱いております」として、配信されたバラエティ番組で芸能人に対して安易にプロポフォールが使われたことを強く非難してしています。調べてみると、麻酔科学会が問題視したのは、Amazon Prime Videoで10月14日から配信が始まった番組「KILLAH KUTS(キラーカッツ)」中の1エピソード、「EPISODE2 麻酔ダイイングメッセージ」でした(この項続く)。参考1)長時間作用性局所麻酔薬が安定供給されるまでの対応について/日本麻酔科学会2)理事長メッセージ/日本産科麻酔学会3)静脈麻酔薬プロポフォールの不適切使用について/日本麻酔科学会

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「働き方改革」一歩前進へ-ロボット麻酔システム-

 2019年4月16日、福井大学医学部の重見 研司氏(麻酔・蘇生学教授)、ならびに松木 悠佳氏(同、助教)とその共同研究者らは、全身麻酔の3要素である鎮静・鎮痛・筋弛緩薬をすべて自動的に制御する日本初のシステムについて厚生労働省で記者発表した。本会見には共同研究者の長田 理氏(国立国際医療研究センター麻酔科診療科長)、荻野 芳弘氏(日本光電工業株式会社 呼吸器・麻酔器事業本部専門部長)も同席し、実用化に向けた取り組みについて報告した。なぜ麻酔システムを開発したのか 近年、全身麻酔が必要な手術件数は全国的に年々増加傾向にある。他方で、医師の「働き方改革」が叫ばれているが、医師偏在など問題解決の糸口は未だ見えていない。これに対し、労働時間の削減とともに質の担保が不可欠と考える重見氏は、「血圧測定や人工呼吸は看護師による手助けを要する。しかし、容態安定時や、繰り返しになるような単純作業は、機械の助けを借りることで“ついうっかり”がなくなり、安全面にも貢献する」と述べ、「機械補助によって麻酔科医の業務負担が劇的に軽減される。働き方改革と医療の質のバランスをとるための技術が必要」と、開発の経緯を語った。機械化のメリットとは ロボット麻酔システムは、“ロボット”と銘打っているが、実は、制御用のソフトウェアのことを指す。このシステムは、脳波を用いて薬剤を自動調節するため、医療ビッグデータやAIに頼らずとも、麻酔薬を至適濃度に保つことができる。 このシステムは、1)バイタルサインを測定し、催眠レベルの数値、筋弛緩状態を出力するモニター、2)制御用コンピューター、3)麻酔薬3種を静脈に注入するシリンジポンプの3つで構成されている。また、重見氏によると「麻酔科医の生産性・患者QOL・医療経済性の向上、患者安全への寄与、さらには、“診断”を加味して“加療”するシステム」という点が特徴だという。 期待できる業務として、鎮痛・鎮静・筋弛緩薬の初回投与および投与調節、脳波による鎮静度評価、筋弛緩薬の投与調節があり、本システムは婦人科の腹腔鏡手術、甲状腺、腹部などの脳波モニターに影響を及ぼさない術野での使用が可能である。松木氏は「これらを活用することで、麻酔科医の時間的余裕が生まれ、容態急変時など患者の全身状態の看視に注力ができる」と、麻酔科医と患者の両者における有用性について語った。実用化までの道のり これまで、2017年より2つの予備研究を実施し100例近くのデータ収集を行うことで、自動制御に関するアルゴリズム改善に役立ててきた。今年3月より臨床研究法に則り、特定臨床研究として、ロボット麻酔システムを使用し、全身麻酔時に使用する静脈麻酔薬の自動投与調節の有効性と安全性の検討に関する対象無作為化並行群間比較試験を開始。目標症例数は福井大学と国立国際医療研究センターを併せて60例とし、2019年9月までを予定。現時点ですでに21例が登録を終えている。今後、治験などを経てシステム運用のための講習会の企画や2022年の発売を目指す。■関連記事ソーシャルロボットによる高齢者の認知機能検査の信頼性と受容性

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CABG施行中の揮発性麻酔薬、臨床転帰を改善するか/NEJM

 待機的冠動脈バイパス移植術(CABG)中の麻酔では、揮発性麻酔薬による吸入麻酔は、静脈麻酔薬のみを用いる全静脈麻酔と比較して、1年時の死亡を抑制しないことが、イタリア・IRCCS San Raffaele Scentific InstituteのGiovanni Landoni氏らが実施したMYRIAD試験で示された。研究の詳細は、NEJM誌2019年3月28日号に掲載された。CABG施行中の麻酔は、一般に全静脈麻酔または揮発性麻酔薬による吸入麻酔と静脈麻酔薬の併用で導入される。揮発性麻酔薬は心保護作用を有し、CABG施行患者の臨床転帰を改善する可能性が示唆されている。13ヵ国5,400例の単盲検無作為化試験 MYRIAD試験は、13ヵ国36施設が参加したプラグマティックな多施設共同単盲検無作為化試験であり、2014年4月~2017年9月に患者登録が行われた(イタリア保健省の助成による)。 待機的CABGを予定されている5,400例が、揮発性麻酔薬を含む術中麻酔レジメンを受ける群(2,709例、平均年齢62.2歳、女性19.2%)または全静脈麻酔を受ける群(2,691例、62.3歳、18.5%)に無作為に割り付けられた。 揮発性麻酔薬は、セボフルラン(83.2%)が最も多く使用され、次いでデスフルラン(9.2%)、イソフルラン(5.8%)の順であった。全静脈麻酔では、プロポフォール(87.7%)とミダゾラム(32.2%)の使用頻度が高かった。全体の64%でon-pump CABGが施行され、人工心肺を用いた平均時間は79分だった。術後1年時の全死因死亡:2.8% vs.3.0%、中間解析で無効中止を勧告 本研究は、2回目の中間解析時に、データ安全性監視委員会により、無効中止が勧告された。 主要評価項目である術後1年時の全死因死亡(5,353例[99.1%]のデータを使用)には有意差を認めなかった(揮発性麻酔薬群2.8% vs.全静脈麻酔群3.0%、相対リスク[RR]:0.94、95%信頼区間[CI]:0.69~1.29、p=0.71)。 また、術後30日時の全死因死亡(5,398例[99.9%]のデータを使用)にも有意な差はみられなかった(1.4% vs.1.3%、RR:1.11、95%CI:0.70~1.76)。ほかの副次評価項目(1年および30日時の心臓死、30日時の非致死性心筋梗塞と死亡の複合、フォローアップ期間中の再入院、集中治療室入室期間、入院期間)にも、有意な差はなかった。 プロポフォール注入症候群および悪性高熱症の報告はなかった。導入時のアレルギー反応が9例(揮発性麻酔薬群4例、全静脈麻酔群5例)で発現し、重度のプロタミン反応が5例(4例、1例)にみられた。術中に3例が心原性ショックで死亡した。心筋梗塞を含め、ほかの事前に規定された有害事象の頻度は、両群で差はなかった。 著者は、これらの結果に影響を及ぼした可能性のある要因の1つとして、多くの既報の試験とは異なり、off-pump CABGを受けた患者が約3分の1含まれた点を挙げている。

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事例58 内視鏡でのプロポフォールの査定【斬らレセプト】

解説事例では、大腸内視鏡時に使用した全身麻酔導入薬のプロポフォールが、静脈麻酔手技料とともにA事由(医学的に適応と認められないもの)で査定となった。医師からは、「腸管内視鏡時のプロポフォール使用は、学会などでは鎮静と鎮痛が適度に得られて、内視鏡実施時の安全に寄与するとの報告が複数あるのに、なぜ査定となったのか」と問い合せがあった。プロポフォールの添付文書によると「全身麻酔の導入及び維持」と「集中治療における人工呼吸中の鎮静」の適応を持つ静脈投与麻酔薬とあった。医師から見せていただいた文献には、プロポフォールは体内からの消失が速やかなため、投与終了後の覚醒が早いなどの特長があり、世界では消化器内視鏡実施時の鎮静薬としても広く使われていることが記載されていた。しかし、添付文書にはこの適応が記載されていない。よって、内視鏡時の鎮静・鎮痛には適用がないとしてA査定となったものであろう。学会などでは一般的であって、良い成績を収めていても、添付文書に適応がない場合は査定対象となるのである。

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事例40 静脈麻酔に対する深夜加算の査定【斬らレセプト】

解説事例では、深夜に緊急のために静脈麻酔下にてカウンターショックを実施、J047 カウンターショックとともにL001-2 静脈麻酔に対して深夜加算を算定したところ、静脈麻酔のみD(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)を理由に、深夜加算部分が査定となった。麻酔料の通則3には、「入院中の患者以外の患者に対し、緊急のために診療時間外等加算が算定できる時間に行った手術に伴う麻酔料に診療時間外等加算が算定できる」と記載されている。時間外等加算は、緊急手術に伴う麻酔に限り算定ができるのである。緊急に行われたカウンターショックは、救急処置であって緊急手術ではないため、麻酔料に診療時間外等加算の算定ができないのである。カウンターショックに対しては、処置料の通則により時間外等加算(事例では深夜)が算定できる。算定担当者は、処置に伴う麻酔料にも加算できるものと思い込んで算定していた。会計担当者への周知とコンピュータレセプトチェックシステムにてエラーを表示する対策をとった。

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Dr.みやざきの鼠径ヘルニア手術テクニックコレクション

第1回 鼠径部ヘルニアの診断と分類 第2回 鼠径部の臨床解剖 第3回 手術手技の種類と術式選択の基準 第4回 鼠径部ヘルニア手術の術前・術後管理 第5回 鼠径部ヘルニア手術の麻酔法 第6回 手術手技の実際(1)高位結紮術第7回 手術手技の実際(2)Mesh-plug法第8回 手術手技の実際(3)Lichtenstein法第9回 手術手技の実際(4)UHS法第10回 手術手技の実際(5)Direct Kugel Patch法第11回 手術手技の実際(6)大腿ヘルニア手術第12回 手術手技の実際(7)女性の鼠径ヘルニア手術 手術の中で最も件数の多い手術の一つである鼠径ヘルニア修復術。「研修医やレジデントなどが行う初歩的な手術」と思っていませんか?しかし、侮るなかれ!鼠径部は解剖が複雑、手術手技は多種多様と、ヘルニア修復術を完全に理解するのは実は非常に難しいのです!そこで、日本でも有数の鼠径部ヘルニアの手術件数を誇るDr.みやざきこと宮崎恭介氏が講師として登場!鼠径ヘルニア症例数はなんと10年で4300例!この経験に裏打ちされた手術テクニックを余すことなくお見せいたします。臨床解剖、麻酔、術後管理、そして様々な手術手技-高位結紮術、プラグ法、DK法、UHS法、リヒテンシュタイン法、そして大腿ヘルニア、女性の鼠径ヘルニアなどなど、知りたかった、見たかった内容が網羅されています。こんなにたくさんの症例を、多様な手技を、見ることができるものはほかにはありません。しかも手術映像・画像は術者目線!明日からの手術が大きく変わります!第1回 鼠径部ヘルニアの診断と分類 鼠径ヘルニア修復術を理解する上でまず知っておかなければならないことは、鼠径部の解剖、ヘルニアの種類と分類、そして診断方法です。第1回では、鼠径ヘルニアの分類と、その診断方法について解説します。 診断の際は必ず立位で行うこと、そして大腿ヘルニアを見逃さないこと、この2つをおさえておきましょう。第2回 鼠径部の臨床解剖 鼠径ヘルニア手術を行うにあたっては、鼠径部の解剖の理解が重要なのは当然ですが、完全に理解することは難しいと言われています。 鼠径部の解剖をシェーマや写真などで理解したとしても、実際の手術現場では役に立たない事を経験した方も多いでしょう。それは鼠径部の構造が立体的であること、連続する組織(膜)でも部位によって名称が異なる場合があるからです。 そこで、今回は、鼠径部の臨床解剖ーすなわち術者として鼠径部を見た際の解剖をしっかりと理解していきます。最初のポイントは皮膚切開から。皮膚切開ひとつで、こんなにも視野が違います!第3回 手術手技の種類と術式選択の基準 鼠径ヘルニア修復術の手技は、多種多様。 ヘルニアの位置や大きさ、性別や年齢、既往など、術式を決めるための要素はたくさんあるなかで、患者さんにとって、そして、術者にとってよりよい手術手技は一体何か?様々な手術手技を行うヘルニアのスペシャリストはこうやって術式を決めている! 第4回 鼠径部ヘルニア手術の術前・術後管理鼠径ヘルニア手術は嵌頓例以外は手術の緊急性はありません。無理に患者さんへ手術を薦めず、患者さん自信が、手術を決意するまで待つことが大切です。さて、いざ手術となった場合、鼠径ヘルニア修復術の術前と術後の管理はどうすればよいのでしょうか?実は、鼠径ヘルニア手術の術前には特別な管理はほとんど不要です。Dr.みやざき曰く「抗凝固薬服用中、抗血小板療法中の患者でさえも、内服継続のままでも十分に手術可能。」はてさて本当に可能かどうか、どうすれば可能なのか、みていきましょう。また、術後では、「出血」「漿液腫」「SSI」「再発」「慢性疼痛」などが合併症として考えられますが、これらは起こった場合にどう対応するではなくて、「起こさない」ことが重要です。そのために何をするべきかを知り、実践してみましょう。第5回 鼠径部ヘルニア手術の麻酔法 鼠径ヘルニア修復術の麻酔は、日帰りの場合と、入院の場合と異なります。麻酔の3要素は鎮静(意識の消失)、鎮痛(痛みの除去)、筋弛緩(体動の防止)。この3つすべてを、麻酔するのが、麻酔科医による麻酔、すなわち外科医にとって最も手術を行いやすい麻酔です。入院手術の場合は、この麻酔方法で行います。しかし、日帰り手術の際は、筋弛緩は必要ありませし、意識があってもかまいません。鎮痛と鎮静を患者さんに与える手術侵襲を少しだけ上回る麻酔をかけてあげればよいのです。静脈麻酔、局所麻酔、硬膜外麻酔、気管挿管などの様々な麻酔を組み合わせ、術式、患者さんの年齢、BMI、嵌頓の有無等に合わせた麻酔方法を行っています。この回ではそれぞれの詳しい方法を解説します。第6回 手術手技の実際(1) 高位結紮術さて、いよいよ手術手技の実際に入っていきます。最初は高位結紮術です。高位結紮術は、内鼠径輪のみを閉鎖するというシンプルな術式ですが、他の手術手技の基本となる手技です、ここでしっかりと習得しておきましょう。高位結紮術は、若年男性や若年女性のⅠ-1型間接鼠径ヘルニアが適応となります。術者目線の手術映像を見ながら、実際の手術手技を体験し、習得してください。第7回 手術手技の実際(2) Mesh-plug法手術手技の実際:第2回はMesh-plug法です。Mesh-plug法はメッシュプラグでヘルニア門を閉鎖し、オンレイパッチで鼠径管後壁を補強するという術式です。鼠径ヘルニア修復術の中で日本で一番行われている手術法で、シンプルな術式ですが、一歩間違うと術後の疼痛や再発などを引き起こすことがあります。これらの合併症をいかに防止するかは、すべて手術手技にかかっています。そのコツをヘルニアスペシャリストのテクニックから学んでください。第8回 手術手技の実際(3) Lichtenstein法手術手技の実際:第3回はLichtenstein法です。リヒテンシュタイン法はヘルニア門を高位結紮術で閉鎖し、鼠径管後壁をメッシュで補強する術式です。日本においては、それほど多くの症例が行われているわけではありませんが、EHS(the European Hernia Society)の鼠径ヘルニアの診療ガイドラインではLichtenstein法が推奨されているように欧米では第一選択の術式となっています。Dr.みやざきは、腹膜前腔の剥離操作がないことから下腹部手術既往のある間接鼠径ヘルニアを適応としています。メッシュ固定による疼痛を予防するために縫合固定の必要のないメッシュを用いることも1つのポイントです。第9回 手術手技の実際(4) UHS法手術手技の実際:第4回はUHS法です。UHS法は、UHS(Ultlapro® Hernia System )というメッシュを使用して行う術式で、インレイメッシュ法、プラグ法、、リヒテンシュタイン法を1つにした欲張りな術式です。コネクターでヘルニア門を閉鎖し、アンダーレイパッチ、オンレイパッチで鼠径管後壁を挟み込むように補強します。Ⅰ-3型巨大陰嚢内ヘルニア以外の鼠径ヘルニアすべてが適応となります。メッシュ固定による疼痛を予防するためにオンレイメッシュは縫合固定しないこともポイントです。第10回 手術手技の実際(5) Direct Kugel Patch法手術手技の実際:第5回はDirect Kugel Patch法です。Direct Kugel Patch法はインレイメッシュ法の1つで、形状記憶リングにより、腹膜前腔への展開が容易な術式です。ヘルニア門の閉鎖をダイレクトクーゲル®パッチで行い、オンレイパッチは、鼠径管後壁の補強としてオプションとして使用します。ダイレクトクーゲル®パッチで筋恥骨孔すべてを覆うことができ、すべての鼠径部ヘルニアに適応しています。今回は、間接鼠径ヘルニア、直接鼠径ヘルニアともに実際の手術症例を術者目線の映像で提示します。第11回 手術手技の実際(6) 大腿ヘルニア手術大腿ヘルニア手術を解説します。大腿ヘルニアの術式は大きく、2つに分けることができます。1つは鼠径法、そしてもう1つが大腿法です。鼠径法は、鼠径靭帯の上からアプローチし、筋恥骨孔すべてを覆う方法で、大腿法は鼠径靭帯の下からアプローチし、大腿輪のみ閉鎖する方法となります。男性の大腿ヘルニアは症例としては稀ですが、他の鼠径ヘルニアを合併することが多いため鼠径法を適応とし、女性の大腿ヘルニアは、鼠径ヘルニアの合併がほとんどないため、大腿輪のみの閉鎖を行う大腿法を適応としています。本番組では、いずれの方法も術者目線の映像でご覧いただけます。第12回 手術手技の実際(7) 女性の鼠径ヘルニア手術鼠径ヘルニア手術テクニックコレクションの最終回は「女性の鼠径ヘルニア手術」です。女性の鼠径ヘルニアは、男性に比べると症例が少ないため、マニュアルや手順書などでも取り上げられる機会が非常に少ないようです。そのため、学習したり、修得したりする機会が少なく、重要なポイントを見落としてしまうことも。本番組では、見落とされがちなポイントを実際の症例に照らしあわせて解説し、その後、手術映像で手術手技を学んでいただきます。女性の鼠径部ヘルニアを診る場合に気をつけなければならないポイントは2つ。鼠径部ヘルニアの発生頻度と若年女性の鼠径ヘルニアです。そして、そのKey wordは大腿ヘルニアとNuck管嚢腫です。

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電気けいれん療法での麻酔薬使用、残された課題は?

 うつ病は主たる精神疾患で世界中の何百万人もが罹患しており、WHOでは障害の主要な一因としている。重度のうつ病において電気けいれん療法(ECT)は確立された治療であるが、不快感とECTに誘発される強直間代けいれんという有害な副作用を最小限に抑えるため、静脈麻酔が使用される。しかし、麻酔薬の種類によるうつ症状軽減効果や有害作用への影響は明らかになっていない。中国・重慶大学附属病院のPeng Lihua氏らは、うつ病に対するECTにあたって使用される静注麻酔薬について、うつ症状軽減効果や有害作用への影響を比較検討するためレビューを行った。Cochrane Database Systematix Reviewsオンライン版2014年4月11日号の掲載報告。  研究グループは、ECT施行中の成人うつ病患者において、静注催眠・鎮静薬の相違が抗うつ効果、回復および発作期間に及ぼす影響を評価することを目的としたレビューを行った。Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)(2012年の12号分)、MEDLINE via Ovid SP、およびEMBASE via Ovid SP(いずれも1966~2012年12月31日まで)を用いて検索した。関連記事は手作業で検索し、言語を制限することなく適用した。検索対象は、ECTに対して種類の異なる催眠・鎮静薬の有効性を評価している無作為化比較試験(RCTs)およびクロスオーバー試験とし、プラセボまたは吸入麻酔薬を使用している試験・研究および麻酔薬を使用していない試験は除外した。 2名のレビュワーが試験の質を独立して評価し、データを抽出した。可能な場合はデータを蓄積し、Cochrane Review Manager statistical package(RevMan)を用いて、リスク比(RR)と平均差(MD)をそれぞれ95%信頼区間(CI)と共にコンピュータで算出した。 主な結果は以下のとおり。・1994~2012年に報告された18件のRCT(599例)がレビューの対象となった。・大半がバイアスリスクの高い試験であった。・6種類の静脈麻酔薬を比較検討した結果を解析したほか、プロポフォールとメトヘキシタール(国内未承認)を比較した4件の試験、プロポフォールとチオペンタールを比較した3件の試験を併合して解析を行った。・プロポフォールとメトヘキシタールの比較において、うつスコアの軽減に差はみられなかった(エビデンスの質:低)。ただし分析に含んだ4件の試験では、うつスコアの差を検出するデザインとされていなかった。・プロポフォール群はメトヘキシタール群と比較して、脳波(EEG)の発作持続時間ならびに運動発作の期間が短かった(エビデンスの質:低)。・プロポフォールとチオペンタールの比較において、EEG発作期間に差はみられなかった(エビデンスの質:低)。・チオペンタール麻酔後の被験者は、プロポフォールに比べて回復までの時間(命令に従う)が長かった(エビデンスの質:低)。・その他の麻酔薬の比較に関しては、1件の試験または不十分なデータしかなかった。・検討対象とした試験において有害事象に関する報告は不十分であったが、麻酔薬に関連する死亡の報告はなかった。・今回、多くの試験でバイアスリスクが高く、エビデンスの質は概して低かったほか、臨床的に明らかなうつスコアの差を検出するようデザインされていなかった。著者は、「麻酔薬は有害事象プロファイル、すなわち発作の出現と発作期間に及ぼす影響に基づいて選択されるべきである」と指摘している。・十分に長期の発作を導き出すのが困難だとすれば、メトヘキシタールはプロポフォールに比べ優れている可能性があった(エビデンスの質:低)。・もし麻酔からの回復がゆっくりであれば、プロポフォールはチオペンタールに比べ命令に応じるまでの時間(回復までの時間)がより早い可能性があった(エビデンスの質:低)。・エトミデード(国内未承認)による副腎抑制は、いずれの試験でも臨床的な懸念事項として示されていなかった。・静脈催眠・鎮静薬の最適な用量はいまだ不明であった。有害事象を最小限に抑えつつ、うつスコアを最大限に改善する静注麻酔薬を明らかにするため、より大規模の十分にデザインされた無作為化試験が求められる。関連医療ニュース うつ病治療に対する、電気けいれん療法 vs 磁気けいれん療法 ECTが適応となる統合失調症患者は? 治療抵抗性うつ病患者が望む、次の治療選択はどれ

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麻酔薬などの静脈注射で呼吸停止を来したケース

救急医療最終判決判例時報 1611号62-77頁概要原付バイクの自損事故で受傷した18歳男性。左下腿骨開放骨折と診断され、傷の縫合処置およびスピードトラック牽引が施行された。受傷6日目に観血的整復固定術が予定されたが、受傷部位に皮膚壊死がみられ骨髄炎が危惧されたため、ジアゼパム(商品名:セルシン)、チオペンタール(同:ラボナール)静脈麻酔下の徒手整復に変更された。ところが、静脈麻酔後まもなく呼吸停止となり、ただちに気管内挿管が施行され純酸素による強制換気が行われた。その後バイタルサインは安定したが意識障害が継続し、高圧酸素療法が施行されたものの、脳の不可逆的障害に起因する四肢麻痺、言語障害、視覚障害などが残存した。詳細な経過患者情報昭和42年3月28日生まれ18歳経過1986年12月13日22:15原付バイクを運転中の自損事故で左下腿骨開放骨折を受傷した18歳男性。近医に救急車で搬送され、骨折部位を生食・抗菌薬で洗浄したうえで、傷口を縫合しシーネ固定とした。抗菌薬としてセファゾリンを投与(12月17日まで投与し中止)。12月14日スピードトラック牽引施行(以後手術当日までの5日間消毒施行せず)。WBCCRPHbHt12月15日9,600(4+)11.1g/dL31.7%12月18日6,100(3+)11.5g/dL33.1%12月19日13:00骨折部位に対する内固定手術のため手術室入室。直前の体温37.6℃、脈拍92、血圧132/74mmHgであった。ところが、骨折部位に約3cmの創があり、その周辺皮膚が壊死していたため、観血的手術を行うことは骨髄炎発生のリスクが高いと判断し、内固定術を中止して徒手整復に治療方針が変更された。13:40マスクで酸素を投与しながら、麻酔薬としてブプレノルフィン(同:レペタン)0.3mg、ラボナール®125mg、セルシン®10mgを静脈注射した。13:43脈拍124、血圧125/50mmHg(この時に頻脈がみられたことをもって呼吸不全状態にあったと裁判所は認定)13:47血圧80/40mmHgと低下し、深呼吸を1回したのち呼吸停止状態に陥る。顔面および口唇にはチアノーゼが認められ、脈拍76、血圧60mmHg、心電図にはPVCが頻発。13:50気管内挿管を施行し、純酸素を投与して強制換気を行ったところ、血圧128/47mmHg、脈拍140となった。13:52血液ガス検査。pHpCO2pO2BEpH 7.266pCO2 39.7pO2 440.7BE -8.3代謝性アシドーシスのため炭酸水素ナトリウム(同:メイロン)投与。15:10自発呼吸が戻った直後に全身硬直性のけいれん発作が出現。脳神経外科医師が診察し、頭部CTスキャンを施行したが異常なし。16:15再びけいれん発作が出現。18:00高圧酸素療法目的で、脳神経外科医院に転院。その際の看護師申し送りに「無R7分ほどあり」と記載。12月24日徐々に意識状態は改善し、氏名年齢を不明瞭かつゆっくりではあるが発語。12月25日再度けいれん発作があり、その後意識状態はかなり後退(病院側鑑定人はこの時に2回目の脂肪塞栓が起こったと証言したが、採用されず)。1987年2月26日脳障害の改善と骨折の治療目的で、某大学病院に転院。徐々に意識は回復したが、脳の不可逆的障害に起因する四肢麻痺、言語障害、視覚障害(皮質盲)などの障害が残存した。当事者の主張患者側(原告)の主張手術前から感染症、貧血傾向がみられたにもかかわらず、術前状態を十分に把握しないままセルシン®、ラボナール®の静脈麻酔を行った。しかも麻酔中の呼吸・循環状態を十分に監視しなかったために低酸素状態に陥り、不可逆的な脳障害が発生した。病院側(被告)の主張患者には開放骨折はあったが、感染症は鎮静化しており、貧血も改善傾向にあり、手術を行うのに不適切な状態ではなく、また、脳障害は脂肪塞栓症によるものであるので、病院側に責任はない。裁判所の判断感染症についてCRPが3プラスとか4プラスという状態は、下腿骨骨折程度の組織損傷では得られないものであり、当時の所見を考えるとまず感染症を疑って創部の確認を行うのが普通なのに、担当医らは何も留意していなかった。貧血について一般に輸血の指標としてHb 10、Ht 30%とされているが、当時十分な食事や水分の摂取ができない時期があり、脱水状態にあったと判断される。そのため実際は貧血の度合いが高度であった。脂肪塞栓症について患者側鑑定人の意見を全面採用し、脂肪塞栓とは診断できないと認定。重度の脳障害を負うに至った原因は、麻酔施行中に発生した呼吸抑制によって酸素欠乏状態に陥ったためである。病院側は術前状態(貧血、感染症)などを十分に把握することなく漫然と麻酔薬(セルシン、ラボナール®)を投与し、麻酔施行中は呼吸・循環状態を十分に監視するべきであるのに、暗い部屋で手術を行ったこともあって患者の呼吸状態、胸郭の動きを十分に注視することを怠ったため、呼吸困難による酸素欠乏状態・チアノーゼが生じたのに発見が遅れた。原告側合計1億5,030万円の請求に対し、1億4,994万円の判決考察この裁判の最大の争点は、重度の脳障害に至った原因を、患者側静脈麻酔後の観察不足で低酸素脳症に陥った。病院側脳が低酸素になったのは脂肪塞栓のためである。と主張している点です。結果は第1審、第2審ともに患者側の主張を全面採用し、ほぼ請求通りのきわめて高額な判決に至りました。この裁判では、原告、被告双方とも教授クラスの鑑定人をたてて、かなり専門的な議論が交わされましたが、どちらの意見をみても医学的には適切な内容の論理を展開しています。ところが、結論がまったく正反対となっているのは、このケースの難しさを物語っていると同時に、さまざま情報を取捨選択することによって異なる結論を導くのが可能なことをあらわしていると思います。判決文を読み直しても、なぜ裁判官が原告側の鑑定を受け入れたのか納得のいく理由は示しておらず、患者側の主張に沿った鑑定内容を羅列した後に、「(患者側)認定に反する病院側鑑定(意見)は措信することができない」とだけ断定しています。これはそのまま「患者側」と「病院側」をそっくり入れ替えても通じるような論理展開なので、少なくとも医師の立場ではここまで断定することは無謀すぎるという印象さえ持ちます。結局のところ、もしかすると本当のところは脂肪塞栓による脳障害なのかもしれませんが、「18歳の青年が下腿骨骨折程度のけがで重度の脳障害を負った」という現代の医療水準からみれば大変気の毒な出来事に対し、その結果責任の重大性が強調されたケースだと思います。そして、このような判決に至ったもう一つの重要な点として、病院側が「裁判官の心証」をかなり悪くしている点は見逃せません。具体的には以下の2点です。1. 手術まで傷の消毒を5日間も行わず、感染徴候を見逃した。欧米では無菌手術後にあえて包帯交換を行わずに、抜糸まで様子をみることがありますが、本件では交通事故による開放骨折ですので、けっして無菌状態とはいえません。したがって、スピードトラック牽引後に5日間も開放創の消毒をせず、手術時に傷をみてはじめて感染兆候に気付いたのは、問題なしとはいえないと思います。その点を強調するために裁判所は、手術前の「CRPが3プラスとか4プラスという状態は、下腿骨骨折程度の組織損傷では得られない明らかな骨折部の感染だ」と決めつけています。日常臨床にたずさわる整形外科医であれば、下腿骨骨折だけでもこの程度の炎症反応をみることはしばしば経験しますし、経過を通じて骨髄炎などは併発していませんので「明らかな感染は起こしていない」という病院側の主張も理解できます。しかし、消毒を行わなかったという点や、とくに理由もなく術前に抗菌薬を中止していることについての抗弁は難しいと思います。また、本件では整形外科の常勤医師がおらず、患者の骨折を一貫してみることができなかった点も気の毒ではありますが、裁判ではそのような病院側の事情はまったく考慮しません。2. 看護師の申し送りに「無R7分程」と記載されたこと。実際に無呼吸状態が7分も継続したのか、真偽のほどはわかりませんが、看護師同士がこのような申し送りをしてしまうと、後からどのような言い訳をしても状況はきわめて厳しくなると思います。病院側は「入院時看護記録の『無R7分程』との記載は、看護師が手術中に生じた脳障害なのだから無Rに違いないという先入観に従ってしたものと推測される」という反論をしましたが、裁判官の立場では到底採用できないものでしょう。おそらく、担当医師らが「麻酔中に呼吸障害が7分くらいあったのかも知れない」という認識でいたのを、看護師が「無R7分程」と受け取ってしまったのではないか思いますが、このように医師と看護師の見解が食い違うと、それだけで「病院側は何かを隠しているにちがいない」という印象を強く与えてしまうので、ぜひとも注意しなければなりません。救急医療

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