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統合失調症のQOLに及ぼす副作用の影響度は

 統合失調症における効用値(utility)に治療薬が及ぼす影響を検討した研究の大半は、疾患のさまざまな過程に焦点を当てたものであった。フランス・Creativ-Ceutical社のA Millier氏らは、観察研究のデータを用いて、統合失調症患者の効用値に及ぼす治療関連副作用の影響について評価、定量化した。その結果、統合失調症治療では、抗精神病薬に関連する主な副作用である、錐体外路症状(EPS)、鎮静、体重増加、性機能不全などが、効用値に有意な影響を及ぼしており、とくにEPSの影響が最も大きいことが明らかにされた。2年間にわたる、フランス、英国およびドイツの多施設コホート研究の結果、報告されたもの。Journal of medical economics誌オンライン版2014年9月11日号の掲載報告。 検討には2年間にわたる、フランス、英国およびドイツの多施設コホート研究であるEuropean Schizophrenia Cohort(EuroSC)のデータを使用した。被験者には、6ヵ月ごとにSubjective Side Effect Rating ScaleとEQ-5D質問票に記入してもらい、抗精神病薬の副作用としてEPS、体重増加、鎮静および性機能不全を評価した。解析は、最初に二変量解析を実施し、副作用の有無別に効用値を評価した。次に、効用値のランダム効果回帰解析を実施し、ランダム効果は同一人物の反復測定の結果を交絡因子で調整した。最後に、得られた結果を既報と比較した。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者1,208例を対象に検討を行った。・ベースラインライン時、最も多く報告された副作用はEPS(患者の約60%)で、続いて鎮静、体重増加(それぞれ患者の50%)、性機能不全(患者の約30%)であった。・症状の重症度、機能的能力と効用値との間に、有意な関連がみられた。・副作用の訴えがなかった患者のEQ-5D indexスコアは0.81で、EPS(0.70)、性機能不全(0.67)、鎮静(0.70)または体重増加(0.72)を訴えた患者と比較して高値であった。・ランダム効果モデルにより、EPSでは効用値が0.042減少、体重増加では0.022、性機能不全では0.022、鎮静では0.019の減少がみられた。・今回得られた結果は、試験方法が多岐にわたることや、副作用の定義がさまざまであったこと、また体重増加、鎮静、性機能不全のデータが少なかったことから外的妥当性の検討は困難であったが、既報の結果と異なる点はほぼないと思われた。関連医療ニュース 統合失調症の陰性症状改善は何と相関するか 統合失調症の妄想低減へ、新たな介入方法 日本人統合失調症患者の自殺、そのリスク因子は:札幌医大  担当者へのご意見箱はこちら

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日本では認知症への抗精神病薬使用が増加

 日本の認知症高齢者に対する向精神薬の使用状況を、医療経済研究機構の奥村 泰之氏らが調査した。その結果、いくつかの国では、認知症高齢者への抗精神病薬使用に対し、安全上の警告が出されているにもかかわらず、日本では適応外の抗精神病薬使用がわずかではあるが増加していた。International psychogeriatrics誌オンライン版2014年9月12日号(2014年11月5日訂正公開)の報告。 2002~2010年の社会医療診療行為別調査(SMCA-PHI、毎年6月審査分の全国代表断面調査)データを利用した。コリンエステラーゼ阻害薬が処方された65歳以上の外来患者1万5,591例における調査月の向精神薬使用を調査した。 主な結果は以下のとおり。・2008~2010年における、認知症高齢者に対する向精神薬は、鎮静薬・睡眠薬(27.3%)、抗精神病薬(21.3%)、抗うつ薬(11.4%)、気分安定薬(2.8%)であった。・2002~2004年と2008~2010年を比較すると、第二世代抗精神病薬の使用が、4.9%から11.2%に増加し、第一世代抗精神病薬の使用は、17.4%から12.1%に減少していた。・全体の抗精神病薬使用の普及率で調整後、抗精神病薬の使用は1.1倍増加していた。・クエチアピンが4.8倍増加、リスペリドンが1.8倍増加していた一方で、ハロペリドールは2.3倍減少した。 本結果を踏まえ著者らは、「認知症に伴う重篤な興奮、攻撃性、精神症状に対する抗精神病薬の有効性について、緊急に評価する必要があることが示された。さらに、抗精神病薬全体の使用を減少させるために、心理社会的介入および抗精神病薬の離脱戦略が必要である」とまとめている。関連医療ニュース 認知症のBPSDに対する抗精神病薬のメリット、デメリット 認知症への新規抗精神病薬、有害事象のモニタリングが不十分 脳血管性認知症患者に非定型抗精神病薬を使用すべきか  担当者へのご意見箱はこちら

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せん妄管理における各抗精神病薬の違いは

 せん妄の管理において、定型抗精神病薬と各非定型抗精神病薬ではどのような違いがあるのか。スイス・チューリッヒ大学病院のSoenke Boettger氏らは、せん妄に対する定型抗精神病薬(ハロペリドール)と非定型抗精神病薬(リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾール)の有効性と副作用プロファイルを比較検討した。その結果、有効性は同程度であったが、副作用プロファイルに関しては相違がみられ、ハロペリドールでは錐体外路症状(EPS)、オランザピンでは鎮静の発現頻度が高いことを報告した。Palliative and Supportive Care誌オンライン版2014年9月5日号の掲載報告。 研究グループは、せん妄の管理において、定型抗精神病薬のハロペリドールと非定型抗精神病薬のリスペリドン、オランザピンおよびアリピプラゾールの有効性ならびに副作用プロファイルを比較検討した。ベースライン時(T1)、2~3日後(T2)、4~7日後(T3)に、The Memorial Delirium Assessment Scale(MDAS)、the Karnofsky Performance Status(KPS)scaleおよび副作用の程度を評価した。解析対象症例は、年齢、認知症の既往、ベースラインのMDASスコアをマッチさせた21例とした。 主な結果は以下のとおり。・各薬剤群でベースライン特性に差はなかった。・平均年齢は64.0~69.6歳の範囲であり、認知症を23.8~28.6%に認め、ベースラインのMDASスコアはハロペリドール19.9、リスペリドン18.6、オランザピン19.4、アリピプラゾール18.0であった。・T3時の投与量はハロペリドール5.5mg、リスペリドン1.3mg、オランザピン7.1mg、アリピプラゾール18.3mgであった。・1週間を通して、各薬剤とも同程度のMDASスコア低下を示し、T2またはT3時点でMDASスコア間に差はみられなかった。・1週間後のMDASスコアはハロペリドール6.8、リスペリドン7.1、オランザピン11.7、アリピプラゾール8.3であった。・T2時点においてせん妄の回復が42.9~52.4%に、T3時点では61.9~85.7%の症例に認められ、薬剤間で評価の差はみられなかった。・副作用としてEPSがハロペリドールで19%、リスペリドンで4.8%に、また、鎮静がオランザピンで28.6%に報告された。・せん妄の管理において、ハロペリドール、リスペリドン、オランザピンおよびアリピプラゾールの有効性は同程度であった。ただし、副作用プロファイルは異なり、ハロペリドールではEPSが、オランザピンでは鎮静が、それぞれ最も高頻度に発現した。関連医療ニュース 定型vs.非定型、せん妄治療における抗精神病薬 高齢者のせん妄に対する抗精神病薬のリスクは? 高力価vs低力価、有効性の違いは

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抗グルタミン酸受容体抗体が神経疾患に重大関与か

 グルタミン酸は中枢神経系(CNS)の主な興奮性神経伝達物質であり、多くの主要な神経機能に必要な物質である。しかし、過剰なグルタミン酸はグルタミン酸受容体活性化を介した有害な興奮毒性により、重度の神経細胞死と脳害を引き起こす。イスラエル・School of Behavioral Sciences, Academic College of Tel-Aviv-YafoのMia Levite氏は、抗グルタミン酸受容体抗体に関して、これまでに得られている知見をレビューした。抗AMPA-GluR3B抗体、抗NMDA-NR1 抗体、抗NMDA-NR2A/B抗体、抗mGluR1抗体、抗mGluR5抗体、以上5種類の抗グルタミン酸受容体抗体について言及し、いずれもさまざまな神経疾患に高頻度に認められ、神経系にきわめて有害な影響を及ぼしていることを示唆した。Journal of Neural Transmission誌オンライン版2014年8月号の掲載報告。 グルタミン酸による興奮毒性は、多くのタイプの急性および慢性CNS疾患および傷害に生じる主要な病理学的プロセスである。近年、過剰なグルタミン酸だけでなく、いくつかのタイプの抗グルタミン酸受容体抗体もまた、重度の脳傷害を引き起こしうることが明らかになってきた。抗グルタミン酸受容体抗体は神経疾患患者の血清および脳脊髄液(CSF)中に存在し、CNSにおいて何らかの強い病理学的影響を誘導することにより、脳に傷害を引き起こす。抗グルタミン酸受容体自己免疫抗体ファミリーは、これまでに開発されたなかで最も広範かつ強力、危険で興味深い抗脳自己免疫抗体だと思われる。ヒトの神経疾患および自己免疫疾患において種々のタイプの抗グルタミン酸受容体抗体が認められ、髄腔内産物に由来しCNS内に高濃度存在し、脳にさまざまな病理学的影響を及ぼし、またユニークかつ多様なメカニズムでグルタミン酸受容体とシグナル伝達に作用し、神経伝達を障害して脳に傷害を誘導する。2つの主な自己免疫抗グルタミン酸受容体抗体ファミリーが神経および/または自己免疫疾患患者においてすでに発見されており、抗AMPA-GluR3抗体、抗NMDA-NR1抗体、抗NMDA-NR2抗体などイオンチャンネル型のグルタミン酸受容体に直接作用する抗体、そして抗mGluR1抗体、抗mGluR5抗体など代謝型のグルタミン酸受容体に直接作用する抗体などがCNSに有害な影響を及ぼすことが示されている。 この包括的レビューでは、それぞれの抗グルタミン酸受容体抗体について、発現が認められたヒト疾患、神経系における発現と産物、さまざまな精神/行動/認知/運動障害との関連、特定の感染臓器との関連の可能性、マウス、ラット、ウサギなど動物モデルにおけるin vivoでの有害な作用そしてin vitroにおける有害な作用、多様でユニークなメカニズム、以上についてそれぞれの抗グルタミン酸受容体抗体別に言及する。また、これら抗グルタミン酸受容体抗体を有し、さまざまな神経疾患および神経系の問題を抱える患者における免疫療法に対する反応性についても言及する。5種類の抗グルタミン酸受容体抗体について、それぞれ項目を立て有用な図を用いて解説し、最後にすべての主要な知見をまとめ、診断、治療、ドラッグデザインおよび今後の検討に関する推奨ガイドラインを提示する。 ヒトを対象とした試験、in vitro試験、マウス、ラット、ウサギなど動物モデルを用いたin vivo試験から、5種類の抗グルタミン酸受容体抗体に関して得られた知見は以下のとおり。(1)抗AMPA-GluR3B抗体・さまざまなタイプのてんかん患者で~25~30%に認められる。・てんかん患者にこれら抗グルタミン酸受容体抗体(またはその他のタイプの自己免疫抗体)を認める場合、およびこれら自己免疫抗体がしばしば発作や認知/精神/行動障害を誘発または促進していると思われる場合、てんかんは“自己免疫性てんかん”と呼ばれる。・“自己免疫性てんかん”患者の中には、抗AMPA-GluR3B抗体が有意に精神/認知/行動異常に関連している者がいる。・in vitroおよび/または動物モデルにおいて、抗AMPA-GluR3B抗体自身が多くの病理学的影響を誘発する。すなわち、グルタミン酸/AMPA受容体の活性化、“興奮毒性”による神経細胞死、および/または補体調節タンパク質による補体活性化により脳への複数のダメージ、痙攣誘発化学物質による発作、行動/運動障害の誘発などである。・抗AMPA-GluR3B抗体を有する“自己免疫性てんかん”患者の中には、免疫療法に対する反応性が良好で(時々一過性ではあるが)、発作の軽減および神経機能全体の改善につながる者がいる。(2)抗NMDA-NR1 抗体・自己免疫性“抗NMDA受容体脳炎”に認められる。・ヒト、動物モデルおよびin vitroにおいて、抗NMDA-NR1抗体は海馬神経に発現している表面NMDA受容体を著しく減少させうること、そしてNMDA受容体のクラスター密度ならびにシナプス性局在もまた減少させることから重要な病因となりうる。・抗NMDA-NR1抗体は、NMDA受容体と架橋結合およびインターナリゼーションを介してこれらの作用を誘発する。・このような変化はNMDA受容体を介するグルタミン酸シグナル伝達を障害し、さまざまな神経/行動/認知/精神の異常を来す。・抗NMDA-NR1抗体は、その髄腔内産物により抗NMDA受容体脳炎患者のCSF中にしばしば高濃度に認められる。・抗NMDA受容体脳炎患者の多くは、いくつかの免疫療法に良好に反応する。(3)抗NMDA-NR2A/B抗体・神経精神的問題の有無にかかわらず、全身性エリテマトーデス(SLE)患者の多くに認められる。・抗NMDA-NR2A/B抗体を有するSLE患者の割合は報告により14~35%とさまざまである。・ある1件の試験では、びまん性神経精神的SLE患者の81%、焦点性“神経精神的SLE”患者の44%で抗NMDA-NR2A/B抗体が認められることが報告されている。・抗NMDA-NR2A/B抗体は、いくつかのタイプのてんかん、いくつかのタイプの脳炎 (慢性進行性辺縁系脳炎、傍腫瘍性脳炎または単純ヘルペス性脳炎など)、統合失調症、躁病、脳卒中またはシェーグレン症候群患者にも認められる。・患者の中には、抗NMDA-NR2A/B抗体が血清とCSFの両方に認められる者がいる。・dsDNAと交差反応する抗NMDA-NR2A/B抗体もある。・いくつかの抗NMDA-NR2A/B抗体は、SLE患者の神経精神/認知/行動/気分障害と関連している。・抗NMDA-NR2A/B抗体は、NMDA受容体の活性化により神経死をもたらすこと、“興奮毒性”を誘発して脳を傷害する、膜NMDA受容体発現の海馬神経における著明な減少、そして動物モデルにおいて認知行動障害を誘発することなどから、病因となりうることは明らかである。・しかし、抗NMDA-NR2A/B抗体の濃度は、グルタミン酸受容体に対するポジティブまたはネガティブな影響、神経の生存を決定付けていると思われる。・このため、低濃度において抗NMDA-NR2A/B抗体は受容体機能のポジティブモジュレーターであり、NMDA受容体を介した興奮性シナプス後電位を増加させる一方、高濃度ではミトコンドリア膜透過性遷移現象を介した“興奮毒性”を促進して病因となる。 (4)抗mGluR1抗体・これまでに、少数の傍腫瘍性小脳運動失調患者に認められており、これら患者では髄腔内で産生されるため血清中よりもCSF中濃度のほうが高い。・抗mGluR1抗体は、基本的な神経活性の減弱、プルキンエ細胞の長期抑圧の誘導阻害、プルキンエ細胞の急性および可塑反応の両方に対する速やかな作用による脳運動調節欠乏、慢性的な変性などにより脳疾患のきわめて大きな原因になりうる。・抗mGluR1抗体をマウス脳に注射後30分以内に、マウスは著しい運動失調に陥る。・運動失調患者に由来する抗mGluR1抗体は、動物モデルにおいて眼球運動もまた障害する。・抗mGluR1抗体を有する小脳性運動失調患者の中には、免疫療法が非常に効果的な者がいる。(5)抗mGluR5抗体・これまでに、ホジキンリンパ腫および辺縁系脳炎(オフェリア症候群)患者の血清およびCSF中にわずかに認められている。・抗GluR5抗体を含むこれら患者の血清は、海馬の神経線維網およびラット海馬ニューロン細胞表面と反応し、培養ニューロンを用いた免疫沈降法および質量分析法により抗原がmGluR5であることが示された。 以上のエビデンスから、著者は「抗グルタミン酸受容体抗体は、これまでに認識されていた以上にさまざまな神経疾患に高頻度に存在し、神経系に対してきわめて有害であることがわかった。したがって、診断、治療による抗グルタミン酸受容体抗体の除去あるいは鎮静化、および将来の研究が求められる。広範な抗グルタミン酸受容体抗体ファミリーに関しては、興味深く、新規でユニークかつ重要であり、将来に向けた努力はいずれも価値があり必須であることがわかった」とまとめている。関連医療ニュース 精神疾患におけるグルタミン酸受容体の役割が明らかに:理化学研究所 精神疾患のグルタミン酸仮説は支持されるか グルタミン酸作動薬は難治性の強迫性障害の切り札になるか

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精神疾患患者、救急受診の現状は

 米国では年間推定約9万件の、精神疾患治療薬に関連した薬物有害事象での救急部門受診(ADE ED)が発生していることが、米国疾病予防管理センター(CDC)のLee M. Hampton氏らによる分析調査の結果、明らかになった。処方薬の種類ごとのADE ED受診率なども分析され、著者は「ADEを減らす努力は、すべての年代の成人を対象に必要だが、有害事象での救急部門受診が多発している薬物を優先する必要がある」とまとめている。JAMA Psychiatry誌オンライン版2014年7月9日号の掲載報告。 米国において、2011年に精神疾患のために処方薬を使用した人は年間推定2,680万人で、全成人の11.5%であったという。精神疾患治療薬はメンタルヘルスに重要な役割を果たしているが、重大な有害事象を引き起こす可能性もある。 そこで研究グループは、2009年1月1日~2011年12月31日の間に発生した精神疾患治療薬に関連したADE ED受診件数および受診率を明らかにする検討を行った。全国傷害電子監視システム-医薬品有害事象共同監視(NEISS-CADE)システムを用いて全米を代表するADE ED受診サーベイランスの記述的分析と、全米外来医療調査(NAMCS)および全米病院外来医療調査(NHAMCS)を用いて、外来受診の処方状況の記述的分析を行った。国を代表するサンプルとして19歳以上成人の、EDおよび外来受診医療記録をレビューし分析した。被験者は、抗うつ薬、抗精神病薬、リチウム、鎮静薬、抗不安薬、刺激薬の処方を受けていた。主要評価項目は、精神疾患治療薬の使用によるADE ED受診、および外来での精神疾患治療薬の処方数1万当たりのADE ED受診であった。 主な結果は以下のとおり。・2009~2011年において、精神疾患治療薬ADE ED受診は、年間推定8万9,094件(95%信頼区間[CI]:6万8,641~10万9,548件)であった。・そのうち入院となったのは19.3%(95%CI:16.3~22.2%)、また19~44歳の患者は49.4%(同:46.5~52.4%)であった。・処方薬別にみると、鎮静薬と抗不安薬によるものが3万707件(95%CI:2万3,406~3万8,008件)、抗うつ薬2万5,377件(同:1万9,051~3万1,704件)、抗精神病薬2万1,578件(同:1万6,599~2万6,557件)、リチウム3,620件(同:2,311~4,928件)、刺激薬2,779件(同:1,764~3,794件)であった。・外来処方1万当たりでみると、抗精神病薬は11.7件(95%CI:10.1~13.2件)リチウムは16.4件(同:13.0~19.9件)であったのに対し、鎮静薬は3.6件(同:3.2~4.1件)、刺激薬2.9件(同:2.3~3.5件)、抗うつ薬2.4件(同:2.1~2.7件)であった。・鎮静薬で使用頻度の高いゾルピデム酒石酸塩は、すべての成人精神疾患治療薬ADE EDの11.5%(95%CI:9.5~13.4%)を占めており、また、65歳以上の受診患者が21.0%(同:16.3~25.7%)と、いずれも、そのほかの精神疾患治療薬と比べて症例数が有意に多かった。関連医療ニュース 救急搬送患者に対する抗精神病薬の使用状況は 統合失調症の再入院、救急受診を減らすには 急性期精神疾患に対するベンゾジアゼピン系薬剤の使用をどう考える  担当者へのご意見箱はこちら

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高力価vs低力価、有効性の違いは

 統合失調症に対する治療の中心である抗精神病薬について、治療ガイドラインでは、有効性に差はないとしている。しかし、臨床的には低力価抗精神病薬は高力価抗精神病薬に比べて有効性が低いと認識されることが多く、また副作用の面でも異なるると言われていた。ドイツ・ミュンヘン工科大学のMagdolna Tardy氏らは、低力価と高力価の抗精神病薬について臨床的有効性の差を明らかにするため、無作為化比較試験のレビューを行った。その結果、臨床的有効性の優劣は明らかでなく、有害事象についてはハロペリドール群で運動障害が、低力価抗精神病薬群で起立性症状、鎮静および体重増加がより高頻度であったことを報告した。Cochrane Database Systematic Review誌オンライン版2014年7月9日号の掲載報告。 そこで研究グループは、統合失調症患者に対するハロペリドールおよび低力価抗精神病薬の臨床的有効性についてレビューした。2010年7月までのCochrane Schizophrenia Group Trials Registerを用い、統合失調症または統合失調様精神異常を呈する患者に対し、ハロペリドールと第一世代の低力価抗精神病薬の比較を行っている無作為化試験すべてを検索した。任意にデータを抽出し、intention-to-treatにおけるランダム効果モデルに基づき、二分変数についてはリスク比(RR)とその95%信頼区間(CI)を算出。連続変数についてもランダム効果モデルに基づき、平均差(MD)を算出した。  主な結果は以下のとおり。・無作為化試験17件の877例についてレビューを行った。試験の対象例数は16~109例の範囲であった。また、いずれの試験も調査期間は2~12週と短期間であった。なお、割付の順番、割付方法および盲検化に関する記載のある報告は少なかった。・ハロペリドールが、低力価抗精神病薬に比べて臨床的有効性が優れるという明らかなエビデンスは見出せなかった(ハロペリドール40%、低力価抗精神病36%、14試験、574例、RR:1.11、95%CI:0.86~1.44、エビデンスの質:低)。・何らかの理由で試験から早期脱落した被験者数の差は不明確で、いずれかの群で治療の忍容性にベネフィットがあるという明らかなエビデンスも見出せなかった(同:13%、17%、11試験、408例、0.82、0.38~1.77、エビデンスの質:低)。・1件以上の有害事象発現という点でも、明確な差はみられなかった(同:70%、35%、5試験、158例、1.97、0.69~5.66、エビデンスの質:きわめて低)。・低力価抗精神病薬群では、鎮静(同:14%、41%、2試験、44例、0.30、0.11~0.82、エビデンスの質:中等度)、起立性症状(同:25%、71%、1試験、41例、0.35、0.16~0.78)および体重増加(同:5%、29%、3試験、88例、0.22、0.06~0.81)を認めた患者の頻度がより高かった。・一方、「1つ以上の運動障害」というアウトカムに関しては、ハロペリドール群のほうが高頻度であった(同72%、41%、5試験、170例、1.64、1.22~2.21、エビデンスの質:低)。・死亡またはQOLに関するデータはなかった。・いくつかのサブグループおよび感度解析において、主要アウトカムは確固たるものであった。・全体に試験の質が低く、主要なアウトカムのエビデンスの質は中等度から非常に低度までとばらつきがあった。ハロペリドールと低力価抗精神病薬の優劣について明確な結論を得るためには、新規の試験が必要である。関連医療ニュース 急性期統合失調症、ハロペリドールの最適用量は 統合失調症への抗精神病薬、第一世代vs. 第二世代の注射製剤の効果は 第一世代 vs 第二世代抗精神病薬、初回エピソード統合失調症に対するメタ解析  担当者へのご意見箱はこちら

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鎮静薬を使用した内視鏡検査終了後、帰宅途中に交通事故を起こしたケース

消化器最終判決平成14年6月21日 神戸地方裁判所 判決概要胸やけの主訴で上部消化管内視鏡検査を受けた61歳男性。検査の結果、食道裂孔ヘルニアと診断された。検査にあたっては鎮静薬としてミダゾラム(商品名:ドルミカム)10mgを静脈注射し、拮抗薬としてフルマゼニル(同:アネキセート)0.5mgを使用した。ところが、自動車で帰宅途中に意識を失い単独交通事故を起こし、腰椎圧迫骨折、左肋軟骨骨折、左手関節部骨折、右腸骨骨折、両膝打撲、右肩腱板損傷などを受傷。鎮静薬使用についての説明がなかったということで医事紛争へ発展した。詳細な経過患者情報61歳男性。特記すべき既往症なし経過平成10年12月29日胸焼けを主訴として被告病院消化器科を受診し、逆流性食道炎と診断された。平成11年1月24日しばらく通院したのち、2月8日の上部消化管内視鏡検査を予約した。平成11年2月8日検査に際して鎮静薬としてドルミカム®10mgを静脈注射、検査終了後拮抗薬としてアネキセート®0.5mgを静脈注射した。上部消化管内視鏡検査の診断は食道裂孔ヘルニアであった。午前11:40頃検査終了後まもなく自動車で帰宅したが、午前11:40頃、運転中に意識を失い単独交通事故を起こす。診断は腰椎圧迫骨折、左肋軟骨骨折、左手関節部骨折、右腸骨骨折、両膝打撲、右肩腱板損傷などであり、しばらくのあいだ休業を余儀なくされた。ドルミカム®は睡眠導入剤で、速効性があり、その作用持続時間は約2時間とほかの鎮静薬に比べて短く、血中濃度半減期も静注時約2時間となっている。ジアゼパムのような血管痛はないが、鎮静効果が強いため舌根沈下による呼吸抑制に注意が必要である。アネキセート®は、ドルミカム®などベンゾジアゼピンの拮抗薬で、レセプターに結合したベンゾジアゼピンを追い出す作用がある。その血中濃度半減期は約50分とドルミカム®より短い。なお、フルマゼニルは代謝が速く時間とともに受容体占居率が低下し、アゴニストの作用が再び発現するため注意が必要である。当事者の主張患者側(原告)の主張医師、看護師は、胃カメラ検査に当たって睡眠導入剤を使用することについて説明をしたことがなく、また、検査後もその使用の事実および事後の自動車運転の危険性について説明せず、何も知らないまま自動車を運転して交通事故を起こしたのは病院側の責任である。病院側(被告)の主張1.看護師の予約時説明検査の予約時には以下の説明を行った検査前日は、軽い夕食を取り夜10:00以降は検査まで水も食事も取らないでください検査時、薬を使って眠くなるので2~3時間は車の運転をしないでくださいご都合の悪い時には、早めにご連絡ください2.検査当日看護師の説明「内視鏡挿入の刺激などで、吐き気などを起こしやすく辛いため、眠くなる薬を注射し検査を行います。検査後は、目を覚ます薬を注射し、目が覚めますが、また、後で眠くなることがありますので、しばらく休んで帰ってください」3.医師の説明検査前「内視鏡検査は、吐き気が起こると苦しいので、眠くなる注射をしていますがよろしいですか。検査中は眠ってしまいますが、終わったら目が覚める注射をします。ただし、目が覚めても、しばらく眠くなったり、ふらつくことがあるので注意してください」検査後「しばらくをボーとしたり、ふらつくことがあるので気をつけてください」と説明4.検査後看護師の説明「今は目が覚めていても、また、眠くなってくると思いますので、内科診察までの間、注射室のベッドで少し休みましょうかね」2階廊下の鏡の前で髪を整えている原告に対し「大丈夫ですか。下で休みますか」と声をかけている以上のように、睡眠導入剤の使用に関して説明義務違反はない裁判所の判断ドルミカム®の使用時間、ドルミカム®とアネキセート®との効用時間の関係、本件事故の時間・態様からすると、胃カメラ検査の際投与されたドルミカム®の影響によって起こったものと推定できる。その際担当医師らスタッフが胃カメラ検査に際して使用したドルミカム®などの薬剤の効用について、自動車運転に意識した説明をしていたとしたら、少なくとも胃カメラ検査当日、自ら自動車を運転して本件病院を訪れた可能性は少なく、もし自動車で来院したとしても病院内でもうしばらく休んでいたことが窺える。したがって、病院側の説明義務違反により起きた交通事故である。原告側1,261万円の請求に対し、607万円の判決考察上部消化管内視鏡検査を施行するにあたっては、苦痛のない内視鏡検査を目指して鎮痛、鎮静(ペチジン、ジアゼパム、フルニトラゼパム、ミダゾラムなど)を積極的に使用する施設と、これら薬剤による副作用(呼吸抑制など)を心配し副交感神経遮断薬のみで行う施設があります。なるべく薬剤を使用しない理由の一つとして、薬剤を使わないで検査を遂行することが、優れた検査技術を有していることの証明であると考える内視鏡医が多いという背景もあるようです。今回事件が起きた病院では、積極的に鎮静薬を使用する方針でした。ところが、病院の場所が少々不便であったため、患者は自分で自動車を運転してくるか、あるいは第三者に自動車に乗せてもらって来院することが多かったとのことです。そうすると、内視鏡検査で麻酔薬を使うとすれば、十分に麻酔から覚めてから帰宅を指示しなければなりません。そして、裁判でも、病院側は十分に説明義務を果たしたと主張しましたが、残念ながらそのような説明は記録に残っていないため、結局のところ「言った言わない」の争いになってしまったようです。その後この施設では、内視鏡検査の予約を受け付ける際の手続を以下のとおり変更しています。外来予約の時点で睡眠導入剤を希望するか否か確認をするその説明を患者にしたことの確認を患者に署名をしてもらう睡眠導入剤を希望した患者には、自動車で帰宅することをやめてもらう予約表には、従前の検査前日の食事に対する注意書きのほか、睡眠導入剤を希望した患者には、自動車で来院することをやめてもらう旨の記載を追加するやはりこのような説明は、きちんと文書で残しておかないと、本件のような検査終了後の自動車事故、あるいは転倒・転落により傷害を負った場合には、病院としての説明義務を果たしたか、安全には十分に配慮したかという点が問題になると思います。なお、ドルミカム®などベンゾジアゼピン系薬剤の拮抗薬としてはアネキセート®を用いますが、それぞれの薬の効用喪失時間から、一過性に拮抗効果がみられた後に再び鎮静効果や呼吸抑制が出現することがあることが知られています。したがって、アネキセート®投与後に患者が覚醒した後も、患者の意識レベルや呼吸状態を経時的に監視する必要があることは重要な点だと思います。消化器

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熱射病で意識不明となった高校生を脳震盪と誤診したケース

救急医療最終判決判例時報 1534号89-104頁概要校内のマラソン大会中に意識不明のまま転倒しているところを発見された16歳高校生。頭部CTスキャンでは明かな異常所見がなかったため、顔面打撲、脳震盪などの診断で入院による経過観察が行われた。当初から意識障害があり、不穏状態が強く、鎮静薬の投与や四肢の抑制が行われた。入院から約3時間後に体温が40℃となり、意識障害も継続し、解熱薬、マンニトールなどが投与された。ところが病態は一向に改善せず、入院から約16時間後に施行した血液検査で高度の肝障害、腎障害が判明した。ただちに集中治療が行われたが、多臓器不全が進行し、入院から約20時間後に死亡確認となった。詳細な経過患者情報学校恒例のマラソン大会(15km走)に参加した16歳男性経過1987年10月30日13:30マラソンスタート(気温18℃、曇り、湿度85%)。14:45スタートから約11.5km地点で、意識不明のまま転倒しているところを発見され、救急室に運び込まれた。外傷として顔面打撲、口唇、前歯、舌、前胸部などの傷害があり、両手で防御することなくバッタリ倒れたような状況であった。診察した学校医は赤っぽい顔で上気していた生徒を診て脱水症を疑い、酸素投与、リンゲル500mLの点滴を行ったが、意識状態は不安定であった。15:41脳神経外科病院に搬送され入院となる(搬送時体動が激しかったためジアゼパム(商品名:セルシン1A)使用)。頭部・胸部X線写真、頭部CTスキャンでは異常所見なし。当時担当医は手術中であったため、学校医により転倒時に受傷した口唇、口腔内の縫合処置が行われた(鎮静目的で合計セルシン®4A使用)。18:30意識レベル3-3-9度方式で100、体動が激しかったため四肢が抑制された。血圧98(触診)、脈拍118、体温40℃。学校の教諭に対し「見た目ほど重症ではない、命に別状はない」と説明した。19:00スルピリン(同:メチロン)2A筋注。クーリング施行。下痢が始まる。21:00血圧116(触診)、体動が著明であったが、痛覚反応や発語はなし。マンニトール250mL点滴静注。10月31日00:00体温38.3℃のためメチロン®1A筋注、このときまでに大量の水様便あり。03:00体温38.0℃、四肢冷感あり。体動は消失し、外観上は入眠中とみられた。このときまでに1,700mLの排尿あり。引き続きマンニトール250mL点滴静注。その後排尿なくなる。06:00血圧測定不能、四肢の冷感は著明で、痛覚反応なし。血糖を測定したところ測定不能(40以下)であったため、50%ブドウ糖100mL投与。さらにカルニゲン®(製造中止)投与により、血圧104(触診)、脈拍102となった。06:40脈拍触知不能のため、ドパミン(同:セミニート(急性循環不全改善薬))投与。その後血圧74/32mmHg、脈拍142、体温38.3℃。08:00意識レベル3-3-9度方式で100-200、血糖値68のため50%ブドウ糖40mL静注。このときはじめて生化学検査用の採血を行い、大至急で依頼。09:00集中治療室でモニターを装着、中心静脈ライン挿入、CVP 2cmH2O。10:00採血結果:BUN 38.3、Cre 5.5、尿酸18.0、GOT 901、GPT 821、ALP 656、LDH 2,914、血液ガスpH7.079、HCO3 13.9、BE -16.9、pO2 32.0という著しい代謝性アシドーシス、低酸素血症が確認されたため、ただちに気管内挿管、人工呼吸器による間欠的陽圧呼吸実施、メイロン®200mL投与などが行われた10:50心停止となり、蘇生開始、エピネフリン(同:ボスミン)心腔内投与などを試みるが効果なし。11:27急性心不全として死亡確認となる。当事者の主張患者側(原告)の主張1.診察・検査における過失学校医や教諭から詳細な事情聴取を行わず、しかも意識障害がみられた患者に対し血液一般検査、血液ガス検査などを実施せず、単純な脳震盪という診断を維持し続け、熱射病と診断できなかった2.治療行為における過失脱水状態にある患者にマンニトールを投与し、医原性脱水による末梢循環不全、低血圧性ショックを起こして死亡した。そして、看護師は十分な観察を行わず、担当医師も電話で薬剤の投与を指示するだけで十分な診察を行わなかった3.死亡との因果関係病院搬入時には熱射病が不可逆的段階まで達していなかったのに、診察、検査、治療が不適切、不十分であったため、熱射病が改善されず、低血糖症を併発し、脱水症も伴って末梢循環不全のショック状態となって死亡した病院側(被告)の主張1.診察・検査における過失学校医は意識障害の原因が脳内の病変にあると診断して当院に転医させたのであるから、その診断を信頼して脳神経外科医の立場から診察、検査、経過観察を行ったので、診察・検査を怠ったわけではない。また、学校医が合計4Aのセルシン®を使用したので、意識障害の原因を鑑別することがきわめて困難であった2.治療行為における過失マンニトールは頭部外傷患者にもっとも一般的に使用される薬剤であり、本件でCTの異常がなく、嘔吐もなかったというだけでは脳内の異常を確認することはできないため、マンニトールの投与に落ち度はない3.死亡との因果関係搬入後しばらくは熱射病と診断できなかったが、輸液、解熱薬、クーリングなどの措置を施し、結果的には熱射病の治療を行っていた。さらに来院時にはすでに不可逆的段階まで病状が悪化しており、救命するに至らなかった裁判所の判断1. 診察・検査における過失転倒時からの詳細な事情聴取、諸検査の実施およびバイタルサインなどについての綿密な経過観察などにより、熱射病および脱水を疑うべきであったのに、容易に脳震盪によるものと即断した過失がある。2. 治療行為における過失病院側は搬送直後から輸液、解熱薬の投与、クーリングなどを施行し、結果的には熱射病の治療義務を尽くしたと主張するが、熱射病に対する措置や対策としては不十分である。さらに多量の水様便と十分な利尿があったのにマンニトールを漫然と使用したため、脱水状態を進展させ深刻なショック状態を引き起こした。さらに、夜間の全身状態の観察が不十分であり、ショック状態に陥ってからの対処が不適切であった。3. 死亡との因果関係病院側は、患者が搬送されてきた時点で、すでに熱射病が不可逆的状態にまで進行していたと主張するが、当初は血圧低下傾向もなく、乏尿もなく、呼吸状態に異常はなく、熱射病により多臓器障害が深刻な段階に進んでいるとはいえなかったため、適切な対策を講ずれば救命された可能性は高かった。8,602万円の請求に対し、6,102万円の支払命令考察まずこのケースの背景を説明すると、亡くなった患者は将来医師になることを目指していた高校生であり、その父親は現役の医師でした。そのため、患者側からはかなり専門的な内容の主張がくり返され、判決ではそのほとんどが採用されるに至りました。本件で何よりも大事なのは、脱水症や熱射病といった一見身近に感じるような病気でも、判断を誤ると生命に関わる重大な危機に陥ってしまうということだと思います。担当された先生はご専門が脳神経外科ということもあって、頭部CTで頭蓋内病変がなかったということで「少なくとも生命の危険はない」と判断し、それ以上の検索を行わずに「経過観察」し続けたのではないかと思います。しかも、前医(学校医)が投与したセルシン®を過大評価してしまい、CTで頭蓋内病変がないのならば意識が悪いのはセルシン®の影響だろうと判断しました。もちろん、搬入直後の評価であればそのような判断でも誤りではないと思いますが、「脳震盪」程度の影響で、セルシン®を合計4Aも使用しなければならないほどの不穏状態になったり、40℃を越える高熱を発することは考えにくいと思います。この時点で、「CTでは脳内病変がなかったが、この意識障害は普通ではない」という考えにたどりつけば、内科的疾患を疑って尿検査や血液検査を行っていたと思います。しかも、頭部CTで異常がないにもかかわらず、意識障害や不穏を頭蓋内病変によるものと考えて強力な利尿作用のあるマンニトールを使用するのであれば、少なくとも電解質や腎機能をチェックして脱水がないことを確認するべきであっと思います。ただし、今回の施設は脳神経外科単科病院であり、緊急で血液検査を行うには外注に出すしかなかったため、入院時に血液生化学検査をスクリーニングしたり、容態がおかしい時にすぐに検査をすることができなかったという不利な点もありました。とはいうものの、救急指定を受けた病院である以上、当然施行するべき診察・検査を怠ったと認定されてもやむを得ない事例であったと思います。本件から得られる重要な教訓は、「救急外来で意識障害と40℃を超える発熱をみた場合には、熱射病も鑑別診断の一つにおき、頭部CTや血液一般生化学検査を行う」という、基本的事項の再確認だと思います。救急医療

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小児痙攣性てんかん、ロラゼパムの効果はジアゼパムと同等/JAMA

 小児の痙攣性てんかん発作重積状態に対して、ロラゼパム(商品名:ワイパックスほか)がジアゼパム(同:セルシンほか)よりも有効性や安全性が上回ることはなく、両者の治療効果は同等であることが判明した。米国・国立小児病院のJames M. Chamberlain氏らが、11病院を介して273例について行った無作為化比較試験の結果、明らかにした。これまでに発表されたいくつかの試験結果では、ロラゼパムがジアゼパムより効果・安全性ともに高いことが示唆されていた。JAMA誌4月23・30日号掲載の報告より。被験者を2群に分け、ジアゼパムとロラゼパムを静注 研究グループは、2008年3月~2012年3月にかけて、生後3ヵ月~18歳未満の痙攣性てんかん発作重積状態で、米国内11ヵ所の小児用救急外来を訪れた患者、合わせて273例について試験を行った。 被験者を2群に分け、一方にはジアゼパム0.2mg/kg(140例)を、もう一方にはロラゼパム0.1mg/kg(133例)を静注した。必要に応じて、5分後に半分の用量を追加投与した。12分後にもてんかん発作が継続していた場合には、ホスフェニトイン(商品名:ホストイン)を静注した。 主要有効性アウトカムは、10分以内にてんかん発作重積状態が停止し、30分間無再発であったこととした。副次アウトカムには、てんかん発作の再発率、意識レベルの低下した鎮静状態(Riker Sedation- Agitation Scale[Riker]スコア3未満)の発現率、てんかん発作重積状態停止までの時間、ベースライン時精神状態への回復などを含んだ。 主要安全性アウトカムは、補助呼吸を必要としたかで評価した。 アウトカムの評価は、試験薬投与4時間後に行った。治療有効性は同等、鎮静状態の発現率のみロラゼパム群が高率 結果、主要アウトカムの発生率は、ジアゼパム群で72.1%(140例中101例)、ロラゼパム群で72.9%(133例中97例)と、有効性についての絶対差は0.8%(95%信頼区間[CI]:-11.4~9.8%)だった。補助呼吸を必要とした人は、両群ともに26例で、発生率でみるとジアゼパム群が16.0%、ロラゼパム群が17.6%と、絶対リスク差は1.6%(95%CI:-9.9~6.8%)だった。 副次アウトカムのうち両群で有意差がみられたのは、鎮静状態の発現率で、ロラゼパム群が66.9%に対しジアゼパム群は50%と、絶対リスク差は16.9%(同:6.1~27.7%)だった。

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電気けいれん療法での麻酔薬使用、残された課題は?

 うつ病は主たる精神疾患で世界中の何百万人もが罹患しており、WHOでは障害の主要な一因としている。重度のうつ病において電気けいれん療法(ECT)は確立された治療であるが、不快感とECTに誘発される強直間代けいれんという有害な副作用を最小限に抑えるため、静脈麻酔が使用される。しかし、麻酔薬の種類によるうつ症状軽減効果や有害作用への影響は明らかになっていない。中国・重慶大学附属病院のPeng Lihua氏らは、うつ病に対するECTにあたって使用される静注麻酔薬について、うつ症状軽減効果や有害作用への影響を比較検討するためレビューを行った。Cochrane Database Systematix Reviewsオンライン版2014年4月11日号の掲載報告。  研究グループは、ECT施行中の成人うつ病患者において、静注催眠・鎮静薬の相違が抗うつ効果、回復および発作期間に及ぼす影響を評価することを目的としたレビューを行った。Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)(2012年の12号分)、MEDLINE via Ovid SP、およびEMBASE via Ovid SP(いずれも1966~2012年12月31日まで)を用いて検索した。関連記事は手作業で検索し、言語を制限することなく適用した。検索対象は、ECTに対して種類の異なる催眠・鎮静薬の有効性を評価している無作為化比較試験(RCTs)およびクロスオーバー試験とし、プラセボまたは吸入麻酔薬を使用している試験・研究および麻酔薬を使用していない試験は除外した。 2名のレビュワーが試験の質を独立して評価し、データを抽出した。可能な場合はデータを蓄積し、Cochrane Review Manager statistical package(RevMan)を用いて、リスク比(RR)と平均差(MD)をそれぞれ95%信頼区間(CI)と共にコンピュータで算出した。 主な結果は以下のとおり。・1994~2012年に報告された18件のRCT(599例)がレビューの対象となった。・大半がバイアスリスクの高い試験であった。・6種類の静脈麻酔薬を比較検討した結果を解析したほか、プロポフォールとメトヘキシタール(国内未承認)を比較した4件の試験、プロポフォールとチオペンタールを比較した3件の試験を併合して解析を行った。・プロポフォールとメトヘキシタールの比較において、うつスコアの軽減に差はみられなかった(エビデンスの質:低)。ただし分析に含んだ4件の試験では、うつスコアの差を検出するデザインとされていなかった。・プロポフォール群はメトヘキシタール群と比較して、脳波(EEG)の発作持続時間ならびに運動発作の期間が短かった(エビデンスの質:低)。・プロポフォールとチオペンタールの比較において、EEG発作期間に差はみられなかった(エビデンスの質:低)。・チオペンタール麻酔後の被験者は、プロポフォールに比べて回復までの時間(命令に従う)が長かった(エビデンスの質:低)。・その他の麻酔薬の比較に関しては、1件の試験または不十分なデータしかなかった。・検討対象とした試験において有害事象に関する報告は不十分であったが、麻酔薬に関連する死亡の報告はなかった。・今回、多くの試験でバイアスリスクが高く、エビデンスの質は概して低かったほか、臨床的に明らかなうつスコアの差を検出するようデザインされていなかった。著者は、「麻酔薬は有害事象プロファイル、すなわち発作の出現と発作期間に及ぼす影響に基づいて選択されるべきである」と指摘している。・十分に長期の発作を導き出すのが困難だとすれば、メトヘキシタールはプロポフォールに比べ優れている可能性があった(エビデンスの質:低)。・もし麻酔からの回復がゆっくりであれば、プロポフォールはチオペンタールに比べ命令に応じるまでの時間(回復までの時間)がより早い可能性があった(エビデンスの質:低)。・エトミデード(国内未承認)による副腎抑制は、いずれの試験でも臨床的な懸念事項として示されていなかった。・静脈催眠・鎮静薬の最適な用量はいまだ不明であった。有害事象を最小限に抑えつつ、うつスコアを最大限に改善する静注麻酔薬を明らかにするため、より大規模の十分にデザインされた無作為化試験が求められる。関連医療ニュース うつ病治療に対する、電気けいれん療法 vs 磁気けいれん療法 ECTが適応となる統合失調症患者は? 治療抵抗性うつ病患者が望む、次の治療選択はどれ

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脱水症の診断が遅れて死亡した8ヵ月女児のケース

小児科最終判決判例タイムズ 952号256-265頁概要右眼充血の精査目的で総合病院眼科へ入院した生後8ヵ月の女児。全身麻酔下の眼圧、眼底、隅角検査にて先天性緑内障、ぶどう膜炎と診断された。全身麻酔から覚醒後、発熱、下痢が出現し、感冒性消化不良症の診断で小児科に転科となった。補液、止痢薬投与などが行われたが、3日間にわたって頻回の下痢が継続し、嘔吐もみられるようになった。そして、発症から4日後の深夜に持続点滴が自然抜針し、大泉門陥没、顔色不良、四肢冷汗など脱水症を示唆する症状がみられた。当直医による血管確保が試みられたがうまくいかず、静脈のカットダウンを行おうとした矢先に噴水状の嘔吐、それに続き心肺停止となり、救急蘇生の効果なく死亡確認となった。詳細な経過患者情報生後8ヵ月、体重7,710gの乳児経過1988年11月頃右眼充血に気付き、近医眼科を受診して治療を受けるが改善せず。12月23日某総合病院眼科受診、全身麻酔下の眼圧、眼底、隅角検査などが必要と判断された。12月24日精査目的で眼科に入院。胸部X線写真、心電図では異常なし。12月25日外泊(このとき兄弟がインフルエンザに罹患していた)。12月26日全身麻酔下の精密検査にて、先天性緑内障、ぶどう膜炎と診断。治療については年明けに大学病院へ転医して検討することになった。麻酔から覚醒後、38.9℃の発熱、水様便が3回みられた。12月27日39.5℃、アセトアミノフェン(商品名:アンヒバ)坐薬投与。小児科に依頼するとともに退院を延期。小児科担当医の診察では、咽頭発赤、皮膚の緊満度がやや減少、血液検査でNa 135、BUN 7、Ht 35.6%、Hb 11.1であり、発熱、下痢が続いていたことから感冒性消化不良症(インフルエンザ疑い)と診断。水様便が15~17回みられたので止痢薬を投与するとともに、20mL/hrで輸液を開始。12月28日38.7℃、解熱薬メフェナム(同:ポンタール)シロップを適宜内服。1時間に2回くらいの水様便、さらに嘔吐もみられるようになる。12月29日病院は年末年始体制へ移行。小児科担当医は当直明けの午前中に診察し、咽頭発赤、下痢、やや粗い呼吸音が聴取されたが、皮膚の緊満度には問題はないと判断し帰宅した。この日も1時間に1回くらい黄色泥状便がみられた。12月29日23:0036.0℃、脈拍142、呼吸数40回、ぐずつきが続き、活気がなく衰弱が激しいと母親は看護師に訴えた。小児科担当医に電話連絡を取ったところ、眼科領域の問題ではないかと考えて眼科医へ連絡するように指示。連絡を受けた眼科医は3日前の検査で眼科的な疾病が原因で衰弱することはないと認識していたため、鎮静薬ジアゼパム(同:セルシン)シロップの投与を指示。12月30日00:00セルシン®シロップ0.7mg哺乳瓶に入れて投与。01:40ようやく入眠。この時看護師は眼窩部のへこみを確認(担当医に上申せず)。03:00母親が抱っこしようとした時に右足に入れていた点滴がぬけていることに気付く。看護師が駆けつけると点滴はシーネごと外れており、足に巻かれた包帯はかなり濡れていた。患児は元気なくぐったりしていて、顔色不良、四肢の冷感が強く、大泉門陥没が認められた。輸液の再開のため四肢を暖め、電気あんかを入れ保温に努めた(深夜ということもありすぐに小児科担当医へは上申せず)。04:10母親が心配したため看護師は内科系の当直に診察を依頼(この日小児科当直は不在)。04:20内科系当直により末梢からの血管確保が試みられたが不成功。06:00再度内科系当直医が末梢血管から点滴を試みたが失敗したため、小児科担当医に連絡。06:45小児科担当医が駆けつけ、経皮的静脈穿刺を試みたが失敗。患児は次第に元気がなくなり、ぐったりしてきた。07:30末梢からの血管確保ができないので静脈のカットダウンが必要と判断し、外科系当直医と産婦人科当直医に応援依頼。この時患児の脈拍は弱くなり、循環不全の症状が出現。07:50応援医師が到着。静脈カットダウンの準備をしている時に患児の呼吸が微弱となったため酸素投与開始。ところがまもなく噴水状の嘔吐を来たし、これを吸い込んで呼吸停止。ただちに吸引して吐物を除去。08:30心停止。気管内挿管、鎖骨下静脈穿刺、心腔内アドレナリン(同:ボスミン)投与などの救急蘇生を行ったが、効果はみられず。09:25死亡確認。病理解剖の同意は得られなかった。当事者の主張患者側(原告)の主張1.小児科担当医は脱水症状を疑うべきであったのに、頻繁に診察することを怠り、血液検査は小児科初診時のみで、かつ体重測定を怠った結果、脱水症の悪化を見落としたため死亡した2.点滴が自然抜針したのであればただちに血管確保するべきであったのに、看護師が担当医師への報告したのはかなり時間が経過してからであり、さらに何度も経皮的静脈穿刺に失敗したのであればただちにカットダウンを行うべきであった病院側(被告)の主張1.死亡するまでの水分補給は十分であり、死亡直前まで脱水症を疑う臨床症状はなかった。点滴が自然抜針してから約5時間半輸液は行われなかったが、それまでの水分補給量に照らすと脱水症によって死亡することはあり得ない2.死亡したのはインフルエンザからライ症候群となったことが原因である裁判所の判断頻回の下痢による水分喪失に対し、死亡前の輸液量、経口水分摂取量、大泉門の陥没、眼窩のくぼみ、四肢冷汗、顔色不良などの所見を総合すると、中等症の脱水症があったと考えられる。それに対し医師および看護師らは脱水症に陥り得ることを予測するべきであったのに、体重測定、血液検査などの十分な観察を怠り、点滴注射が抜針したあとも輸液路の確保を怠ったため、循環不全を起こして死亡した。病院側が主張するライ症候群については、経過中にけいれんがみられなかったこと、脳圧亢進を示す大泉門膨隆とは逆の大泉門陥没が認められたことを考えると採用できない。原告側合計3,390万円の請求に対し、3,190万円の判決考察本件では小児科担当医、内科当直医、眼科医師、小児科看護師などの複数のスタッフが関与していながら、事の重大さを認識することができずに、本来であれば死亡するとは考えにくい乳児が最悪の転帰となってしまいました。もちろん病院側の事情、たとえば容態が急変した時間帯がたまたま年末年始の当直体制とかさなっていたこと、小児科担当医が卒後2年目の研修医であったこと、点滴が抜けたのが深夜であり当直明けの小児科医を呼び出すのがためらわれたこと、直ぐに静脈のカットダウンを行うほど切迫した状況とは思えなかったことなどを考えると、同情すべき点が多々あることも事実です。とはいうものの、以下の点については重要な教訓として今後の参考にしたいと思います。1. 各担当医の認識不足まず、本件の場合には全身麻酔後に出現した発熱、下痢ということで、小児科担当医は「単なる感冒で点滴でもすればいずれ落ち着くだろう」という程度の認識であり、ご両親の主張にもある通り頻繁に患児のもとに診察に訪れなかったと思われます。そして、点滴自然抜針の約4時間前(この時患児を診察していれば脱水症状に気付いていたはず)の23:00に、「呼吸数40回、ぐずつきが続き、活気がなく衰弱が激しい」という看護師の上申を自宅で受けた時も、「きっと眼科的問題によるものだろう」と判断して眼科医の判断を仰ぎました。その根拠としては、約12時間前の診察でとくに異常はみられなかったことが頭にあったのだと思います。この時点で(たとえ当直明けであっても)面倒くさがらずに病院まで赴き患者を診察するか、あるいは内科の当直医師に診察を依頼するなどの対策を講じていれば、最悪の結果を回避できた可能性があったと思います。ところが眼科医にボールを投げてしまったために(眼科医も眼科的には問題ないと確信していたために)、脱水状態にある患児にセルシン®投与を指示し、さらに状態を悪化させたのではないかと思います。この眼科医にしても、頻回の下痢や嘔吐を十分に把握しないままセルシン®を投与したのですから、認識不足は否めないと思います。また、今回の小児科担当医師を監督する立場にある小児科部長医師も、卒後2年目の研修医に適切な指示を与えなかった点において由々しき問題があったと思います(小児科医師同士のコミュニケーション不足も潜在していたのでしょうか)。そして、看護師が点滴再挿入を内科当直医に依頼したのは点滴自然抜針に気付いてから1時間以上経過してからであり(それも母親に催促された)、依頼を受けた内科当直医にしても、当初はおそらく「自分の役割は点滴を入れることだけだ」という程度の認識であり、その当時の患児を注意深く観察せずに眼窩のくぼみ、大泉門陥没などの脱水症状に気付きませんでした。そして、何度も針を刺したもののうまくいかず、いよいよあきらめたのが1時間40分も経ってからでした。このように、本件を担当した病院スタッフはみな脱水症の危険性を念頭におかないばかりか、責任もって観察するという姿勢に欠けていたと思われます。2. 頻回の下痢、嘔吐が続いていながら体重測定や血液検査を怠ったこと。本件は体重わずか7,710gの乳児でした。しかも発症してから3日間はひどい時で1時間に2回という頻回の下痢がみられていましたので、当然脱水症に陥らないように配慮しなければならない状況でした。ところが、血液検査を行ったのは小児科初診時の1回きりであり、以後死亡するまでの3日間は電解質のチェックすら行っていませんし、たいして手間のかからない体重測定も指示しませんでした。しかも頻回の下痢に加えて嘔吐まで出現したのですから、現行の輸液(最初から輸液量20mL/hrで変更なし)でよいのか見直すのはむしろ当然ではなかったかと思います。3. 病理解剖の重要性感冒による発熱、下痢、嘔吐で入院治療中の8ヵ月乳児が4日後に急死したとあれば、病院側のミスを疑うのがむしろ当然ではないかと思います。裁判では「ライ症候群」の可能性、つまり死亡したのは不可抗力であったと主張しましたが、血液検査が行われたのは小児科入院時の1回きりであり、しかも急性脳症を疑う所見は嘔吐だけで脳圧亢進症状(大泉門膨隆)やけいれん発作もなく、臨床上はライ症候群とするには無理があったと思います。もちろん経過中にご家族へはライ症候群という説明はありませんでしたし、判決でもライ症候群の主張は一蹴されました。やはりこのような時、つまり死因が特定できず病院側の不備を指摘されかねない状況では、是が非でも病理解剖を行うべきであったと思います。今回のケースではご遺族の同意が得られず病理解剖ができなかったということですが、はっきりと死因が特定できない場合には少々ためらわれても異状死体として「行政解剖」の手続きをとり、医学的な裏付けをとっておかないと正当性を主張するチャンスを失うことになると思います。今回のようなケースは、日常の診療でも遭遇する機会が多いのではないかと思います。このコーナーをご覧頂いている先生方の多くは診療に対する問題意識が高いと思いますので、もし本件を担当していれば発熱、下痢、嘔吐などの症状から脱水症を早期に発見し、適切な対応を行うことができたのではないかと思います。そうはいっても、本件のようにさまざまな要因が重なって適切な診断へのプロセスが妨げられることもあり得ますので、まずは先入観にとらわれることなく基本的な診察(本件では脱水症の所見を確認すること)をきちんと行うとともに、主治医となって担当する患者さんには可能な限りのコミットメントを行うことが肝心だと痛感しました。小児科

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認知症のBPSDに対する抗精神病薬のメリット、デメリット

 多くの認知症患者において精神症状や抑うつを含むBPSDがみられる。抗精神病薬が適応外使用でしばしば処方されているが、それらは著明な副作用を発現しうる。さらに、抗精神病薬の薬効を比較した前臨床試験はきわめて少なく、新規薬物療法の開発は遅れていた。ポーランド・Adamed社のMarcin Kolaczkowski氏らは、認知症患者にみられるBPSDに対して処方される抗精神病薬の有用性を検討するため、ラットを用いて抗精神病薬8剤の抗うつ活性および認知障害を検討した。Naunyn-Schmiedeberg's Archives of Pharmacology誌オンライン版2014年3月6日号の掲載報告。 研究グループは、新規薬剤の前臨床評価の基礎として、抗精神病薬8剤(クロルプロマジン、ハロペリドール、クロザピン、オランザピン、リスペリドン、アリピプラゾール、ルラシドン、アセナピン)の抗うつ活性、認知障害をラット行動試験により比較検討。MK-801誘発活動亢進の抑制、強制水泳試験(FST)、受動回避(PA)、自発運動、カタレプシーなどを調べた。 主な結果は以下のとおり。・8剤ともMK-801試験において抗精神病様活性を示したが、その他の試験モデルでは薬剤の種類により多様なプロファイルを示した。・リスペリドンは、MK-801試験で活性を示した用量のうち、いくつかの用量でPA行動を抑制した。これに対し、クロザピン、オランザピン、ルラシドン(国内未承認)、アセナピン(国内未承認)は、用量による作用の違いはほとんど(またはまったく)みられなかった。また、アリピプラゾールは、PA行動を抑制しなかった。・FSTにおいても、以下のような多様な作用が認められた。クロルプロマジンは活性を示さず、その他の薬剤の大半は狭い用量範囲で不動性を軽減した。クロザピンは抗精神病活性と重複する広い用量範囲で不動性を軽減した。・第2世代抗精神病薬によるカタレプシーの発現傾向は小さかったが、いずれも著明な鎮静を惹起した。・以上のように、現在処方可能な第2世代抗精神病薬の大半は、治療用量とほとんど変わらない用量で認知および運動の副作用を引き起こすことが示された。それらは、臨床データと矛盾しない結果であった。・本研究は、BPSDに対する有望な薬剤の開発にあたり、in vivoにおける比較研究の基礎的知見を提供するものである。関連医療ニュース 認知症患者の興奮症状に対し、抗精神病薬をどう使う? 認知症高齢者5人に1人が抗コリン薬を使用 認知症に対する非定型抗精神病薬処方、そのリスクは?

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治療抵抗性うつ病に対し抗精神病薬をどう使う

 治療抵抗性の大うつ病性障害(MDD)患者に対して非定型抗精神病薬による増強療法を行う場合、どのような投与パターンが適切なのだろうか。韓国・カトリック大学校のChi-Un Pae氏らは、MDDに対する増強療法におけるアリピプラゾールの投与パターンについて、過去の使用経験をもとに検討を行った。International clinical psychopharmacology誌2014年3月号の報告。 2009年1月1日から2012年3月31までの間に抗うつ薬とともにアリピプラゾールの増強療法を施行したMDD患者276例を対象に、電子カルテや臨床データをレビューした。 主な結果は以下のとおり。・アリピプラゾール増強療法の平均期間:約5ヵ月・初回投与から増量するまでの平均期間:約3週間・平均初回投与量:3.4mg/日・平均初回タイトレーション用量:4.2mg/日・平均最大投与量:4.7mg/日・平均維持用量:4.4mg/日・主な有害事象:不眠、不安、鎮静 これらの結果から、著者らは「治療抵抗性のMDD患者に対しアリピプラゾール増強療法を行う場合には、プラセボ対照臨床試験や米国FDAが推奨する投与量よりも低用量で効果が期待できる」としたうえで、「とくに実臨床におけるルーチンのMDD治療において、低用量アリピプラゾールの増強療法をより正確に理解するために、十分な検出力を備え、適切な対照を置いた前向き研究が必要である」と述べている。■関連記事難治性うつ病にアリピプラゾールはどの程度有用かうつ病に対するアリピプラゾール強化療法、低用量で改善治療抵抗性うつ病患者が望む、次の治療選択はどれ治療抵抗性うつ病は本当に治療抵抗性なのかを検証

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エキスパートに聞く!「睡眠障害」Q&A Part2

睡眠薬の増量・減量のタイミング、治療効果判定で注意すべきポイントは?不眠症が慢性化すると、患者さんは不眠による日中の生活の質の低下を強く自覚するようになる。こうしたつらさから抜け出したいと望むあまり、不眠症にかかる以前に増して長く深く眠りたいと望むようになる。このため、寝床で眠れないでいた時間を補おうとだんだんと早く就床したり、遅くまで起床しないで過ごしたりするようになる。これにより、寝床で過ごす時間が長くなってくる。実質的に一晩に眠ることのできる生理的睡眠時間は成人で7時間、高齢になると6時間程度であるが、不眠症の患者さんは、だんだん早寝遅起きとなり寝床で8時間以上過ごしている場合が多い。こうなると、いくら薬剤を投与しても生理的睡眠時間を超えて眠らせることはきわめて困難になる。通常の問診で、何時間眠れているかについては尋ねるが、就床時刻や起床時刻について明確に尋ねない場合が多く、寝床で長く過ごしていることについては見過ごされがちである。寝床で過ごす時間が生理的な睡眠時間を超えていると、いくら薬剤を投与しても不眠は改善しない。徐々に薬剤が増えていき、多剤大量投与に結びつきやすい。このため、寝床で過ごす時間を、7時間以内に適切化しながら薬物療法を行う。このような治療を行っても、寝付けない、夜中に目が覚めるといった場合に、初めて睡眠薬の増量を考える。ただし、薬剤を増やす前に、睡眠習慣を守っているかを再度確認したい。生活習慣を適正化しながら薬物療法を行い、服薬していれば毎晩安定して眠ることができるようになることが第一の目標である。こうした安心感ができ、睡眠に対するこだわりがとれてきたら、徐々に減量していく。その際に、これまでの睡眠薬による睡眠時間分は差し引いて就床時刻と起床時刻を設定することがポイントである。たとえば、65歳以上の患者さんが睡眠薬を使用して7時間眠っていたとする。この年代の生理的夜間睡眠量はおよそ6時間であるため、1時間分は睡眠薬で眠らされていると考える。減量の前に、30分早起きすることで、寝床で過ごす時間を30分短くし、一方で薬剤投与量を半分にする。減量により患者さんが不安になることもあるため、徐々に減量することにより、この不安を軽減する。こうして、寝床で過ごす時間を適正化しながら、減量していくことが重要である。子供(思春期)の睡眠障害や、薬物療法の工夫について教えてください。子供(思春期)の不眠では成人とは異なり、遅い時刻まで寝つけず、いったん眠るとなかなか起床できないというパターンになりやすい。背景には、体内時計の遅れがあり、睡眠相後退型の概日リズム睡眠障害と呼ばれる。何とか眠らせることができれば起床もできるようになるのではと考えやすいが、睡眠薬で早くから眠らせても、起床困難は改善しないことが多い。こうした場合には、朝起きる時刻を少しずつ早くしていくことで、次第に夜に寝つく時刻が早くなっていくというように考えて治療に当たると良い。朝少しでも早く起こして、日光を浴びるように指導を行う。その際、起床時刻を早くするには時間がかかることを考慮し、1週間に30分から1時間を目標に起床時刻を早めていくとよい。体内時計がずれていることが原因なので、薬物療法を行う際は、鎮静系の薬剤で無理に眠らせるべきではない。メラトニン受容体作動薬のような薬剤を少量、少し早めの時刻に投与する。眠らせるというよりは、時差ボケを治すイメージで体内時計のずれを解消する。緊張して眠れないというケースでは、通常の睡眠薬の投与も考慮することがある。ただし、ベンゾジアゼピン系、非ベンゾジアゼピン系ともに、服用後になかなか眠れないでいるときに感情が不安定になることもあるので、用量設定と投与時刻に注意する必要がある。近年の検討で、非ベンゾジアゼピン系の薬剤が有効であるという報告もある。なお、不眠の背景には、思春期の精神疾患が隠れている場合もあるので、注意しながら観察し、可能性が疑われる場合は専門医に相談していただきたい。自己判断で薬を勝手にやめてしまう患者さんへの対応を教えてください。こういった患者さんは、連続的に服用すると “癖になる”と思い、少し眠ることができると次の晩は服薬をしない等のようになることが多い。服薬しているときは眠ることができるが、自己判断で薬を中断すると、薬を飲んでいない不安から緊張が高まりかえって眠れない。このようなことが繰り返されると、“やはり薬がやめられなくなるのではないか”と思い込むようになる。まず、このようなケースの治療の第一ステップとしては、“睡眠薬が1錠あれば安心して生活できる”と実感してもらうことである。先に述べたように、安心できるようになれば、次は半錠にし、最後は薬がなくても眠れるようにする、といった手順を根気よく患者さんに説明・指導していくことが望ましい。近年の報告では、適切な量を適切な生活習慣の中で服薬していれば、依存が起こる可能性は低いと報告されている。睡眠薬を次々に希望する患者さんへの対応を教えてください。こういった患者さんは、薬物に対する依存ではなく、誤った睡眠習慣が原因となっている場合が多い。不眠で苦しんでいるうちに、とにかく長時間眠らなくてはと考え、“早寝遅起き”になる人が多い。しかし、極端に長く床に入っているとかえって睡眠は浅くなり熟眠感が低下する。このような状態では、どんな睡眠薬を用いても熟眠感は得られない。かといって、患者が満足するよう、希望する睡眠時間を担保できる用量の睡眠薬を用いると、翌日の持ち越し効果により、日中のQOLが低下する。したがって、このようなケースでは生活指導をしながら、薬の減量や、現在の薬で満足できるよう指導する。それが難しい場合は精神科の医師への紹介を考慮する。なお、薬が効かないという患者さんの中には、本当に睡眠薬が効かない睡眠障害も隠れているということを念頭に置く必要がある。頻度として高いのは、レストレスレッグス症候群である。患者さんが下肢の異常感覚を自覚していないことや、眠れないために異常感覚が生じていると誤解していることもあるので、医師から積極的に症状を確認することが必要である。レストレスレッグス症候群の治療には、睡眠薬ではなくドパミン作動薬やGABA誘導体)などを用いる。また、周期性四肢運動障害による脚のぴくつきが原因で、睡眠が浅くなったり夜中に起きたりする場合もある。さらに、睡眠時無呼吸症候群やうつ病の可能性もある。これらは、早めに専門的な治療を行えば改善するので、疑わしいケースは専門医へ紹介していただきたい。《 内山 真氏 著書 》『睡眠のはなし(中公新書2014)』 『不眠症診療&マネジメントマニュアル(メディカ出版2013)』 『睡眠障害の対応と治療ガイドライン第2版(じほう2012)』 『別冊NHK きょうの健康 睡眠の病気(NHK出版2012)』 ※エキスパートに聞く!「睡眠障害」Q&A Part1はこちら

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エキスパートに聞く!「うつ病診療」Q&A Part1

CareNet.comではうつ病特集を配信するにあたって、事前に会員の先生方からうつ病診療に関する質問を募集しました。その中から、とくに多く寄せられた質問に対し、産業医科大学 杉田篤子先生にご回答いただきました。2回に分けて掲載します。今回は、精神科に行きたがらない患者さんへの対応、最初の抗うつ薬が効果不十分な場合の対応、抗うつ薬の減量・中止のタイミング、抗うつ薬と睡眠薬との併用、認知行動療法の効果についての質問です。精神科に紹介しても行きたがらない患者さんに対して、どのように対応したらよいでしょうか?うつ病では、睡眠欲、食欲、性欲などといった人間が生きていくうえで基本となる本能が損なわれていることが多く、その結果、さまざまな身体症状が出現するため、うつ病患者が最も多く受診するのは、内科といわれています。さらに、身体疾患のある患者さんはうつ病を高率に合併しています。希死念慮や自殺企図のリスクが高いとき、精神病像を伴うとき、双極性障害が疑われるとき、慢性化しているとき、抗うつ薬の反応が通常と異なるとき、産後うつ病などの際は、精神科へ紹介するタイミングです1)。しかし、専門医を受診させようと、「身体的問題がないから精神科を受診しなさい」という説明をすると、患者さんが「かかりつけ医から見捨てられるのではないか」と不安になり、拒否することがあります。さらに、精神的な問題が生じているという病識がないこともしばしばありますし、精神科への偏見を持っている方もいます。したがって、紹介する際は、主治医と精神科が協力して心身両面を支えていくという姿勢を示し、「専門家の意見を聞いてみましょう」、「主治医として今後も関わっていきます」ということを丁寧に説明するとよいでしょう。また、うつ病患者では不眠が生じる頻度が高いため、「睡眠障害について詳しい先生に診てもらいましょう」というのも方策です。自殺の危険性があるなど緊急時は、家族にも状況を説明して、協力を得る必要があります。1)堀 輝ほか. Medical Practice. 2011;28:1720-1729.最初の抗うつ薬の効果が不十分な場合、増量、薬剤変更、併用のうち、いずれがよいのでしょうか? また、併用療法について具体的に(相性のよい薬剤の組み合わせなど)お教えください。抗うつ薬を使用する際は、合理性のない抗うつ薬の多剤併用は行わず、第一選択薬を十分量・十分期間使用し、用量不足や観察期間不足による見かけの難治例をつくらないようにしなければなりません。抗うつ薬を低用量で使用して反応がない場合は、1)有害作用が臨床上問題にならない範囲で添付文書に従って十分量まで増量、2)十分量まで増やしてから4週間程度を目安に、ほとんど反応がない場合は薬物変更、3)一部の抑うつ症状に反応がみられるがそれ以上の改善がない場合(部分反応)は増強療法を行います。増強療法には、リチウムや甲状腺ホルモン、ラモトリギン、バルプロ酸、カルバマゼピン、非定型抗精神病薬が挙げられます(アリピプラゾールを除き、適応外)。原則は単剤ですが、場合によっては、例外的に、4)抗うつ薬の併用を考慮します。その場合は、ミルタザピンとSSRI/ SNRI1)、ミアンセリンとSSRI/ SNRI2)の併用がよいでしょう。1)Carpenter LL, et al. Biol Psychiatry. 2002;51:183-188.2)Maes M, et al. J Clin Psychopharmacol. 1999;19:177-182.抗うつ薬の減量・中止のタイミングを教えてください。早期に抗うつ薬を減量・中止することは再燃の危険性を高めます。薬物療法に反応後4~5ヵ月以内に抗うつ薬を中止した場合の再燃率は50~70%で、同時期に抗うつ薬を継続した群では0~20%であったと報告されています1)。とくに、寛解後4ヵ月までは再燃の危険性が高く、副作用が管理できれば、寛解後6ヵ月以上は急性期と同用量でコンプライアンスを保つことが重要です2,3)。寛解後26週は抗うつ薬の再燃予防効果が立証されており4)、欧米のガイドラインでは、副作用の問題がなければ初発の寛解後4~9ヵ月、またはそれ以上の期間、急性期と同用量で維持すべきとしています5~7)。うつ病相を繰り返す患者さんは再発危険率が高いですが、これらの再発性うつ病の患者に対して抗うつ薬を1~3年、急性期と同用量で継続使用した場合の再発予防効果が立証されています8)。したがって、再発例では2年以上にわたる抗うつ薬の維持療法が強く勧められています7)。なお、漸減中に抑うつ症状が悪化した場合は、減薬前の量にいったん戻すとよいでしょう。1)Zajecka J, et al. J Clin Psychiatry. 1999;60:389-394.2)Peretti S, et al. Acta Psychiatr Scand Suppl. 2000;403:17-25.3)Paykel ES, et al. J Affect Disord. 1988;14:83-95.4)Reimherr FW, et al. Am J Psychiatry. 1998;155:1247-1253.5)American Psychiatric Association. Am J Psychiatry. 2000;157:1-45.6)American Psychiatric Association. Practice guideline for the treatment of patients with major depressive disorder. 3rd ed. 2010. 7)Lam RW, et al. J Affect Disord. 2009;117(Suppl1):S26-43.8)Geddes JR, et al. Lancet. 2003;361:653-661.抗うつ薬と睡眠薬との併用について教えてください。不眠を有するうつ病患者の治療において、抗うつ薬の中で、アミトリプチリン、トラゾドン、ミアンセリン、ミルタザピンなどのような鎮静的な作用があり睡眠を改善させる薬剤は、抗うつ薬単剤で治療可能です。しかし、SSRIやSNRIなどのように鎮静作用が弱く、睡眠状態の悪化を招く可能性を有する抗うつ薬を使用する際は、睡眠薬を併用することになります。うつ病の不眠への効果がランダム化比較試験によって示されているのは、ゾルピデム1)とエスゾピクロン2)です。睡眠薬の使用時は、依存性、認知機能障害、閉塞性睡眠時無呼吸症状の悪化、奇異反応などの可能性がある点に留意し、漫然と長期間処方することは慎み、睡眠衛生的なアドバイスを積極的に行うべきです。とくに、不眠の改善のためには、朝は一定の時間に起床して外の光にあたることや飲酒を控えることなどは、睡眠薬を投与する前に指導したほうがよい事柄です。1)Asnis GM. J Clin Psychiatry. 1999;60:668-676.2)Fava M, et al. Biol Psychiatry. 2006;59:1052-1060.認知行動療法の効果について教えてください。認知行動療法は、人の感情や行動が、状況をどうとらえるか(認知の仕方)によって規定されるという理解のもとに、患者のうつ状態の発生や維持に関連している認知や行動を同定し、必要に応じた修正を行うことで気分を改善させる治療法です。認知行動療法は、うつ病に対して薬物療法と同等の効果を有し、とくに再発予防効果は、薬物療法に優るというエビデンスがあります1~6)。英国の診療ガイドラインでは、軽症~中等症のうつ病治療では薬物療法より優先して認知行動療法を実施することが推奨されています7)。また、薬物療法を行う場合に患者さんが精神科治療薬の服用を拒絶することがあり、薬物に対する認知に注意を払わなくてはなりませんが、認知行動療法を用いて薬物療法に対する非機能的認知を修正することにより、患者さんの服薬アドヒアランスを高める可能性もあり、薬物療法との併用の意義も大きいと考えられます8)。1)DeRubeis RJ, et al. Arch Gen Psychiatry. 2005;62:409-416.2)Miller IW, et al. Behav Ther. 1989;20:25-47.3)Stuart S, et al. Gen Hosp Psychiatry. 1997;19:42-50.4)Dobson KS, et al. J Consult Clin Psychol. 2008;76:468-477.5)Wampold BE, et al. J Affect Disord. 2002;68:159-165.6)Persons JB, et al. Arch Gen Psychiatry. 1996;53:283-290.7)National Institute for Health and Clinical Excellence. Depression (amended): management of depression in primary and secondary care: NICE guidance. London: National Institute for Health and Clinical Excellence; 2007.8)井上和臣. Pharma Med. 2002;20:41-45.※エキスパートに聞く!「うつ病診療」Q&A Part2はこちら

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麻酔薬などの静脈注射で呼吸停止を来したケース

救急医療最終判決判例時報 1611号62-77頁概要原付バイクの自損事故で受傷した18歳男性。左下腿骨開放骨折と診断され、傷の縫合処置およびスピードトラック牽引が施行された。受傷6日目に観血的整復固定術が予定されたが、受傷部位に皮膚壊死がみられ骨髄炎が危惧されたため、ジアゼパム(商品名:セルシン)、チオペンタール(同:ラボナール)静脈麻酔下の徒手整復に変更された。ところが、静脈麻酔後まもなく呼吸停止となり、ただちに気管内挿管が施行され純酸素による強制換気が行われた。その後バイタルサインは安定したが意識障害が継続し、高圧酸素療法が施行されたものの、脳の不可逆的障害に起因する四肢麻痺、言語障害、視覚障害などが残存した。詳細な経過患者情報昭和42年3月28日生まれ18歳経過1986年12月13日22:15原付バイクを運転中の自損事故で左下腿骨開放骨折を受傷した18歳男性。近医に救急車で搬送され、骨折部位を生食・抗菌薬で洗浄したうえで、傷口を縫合しシーネ固定とした。抗菌薬としてセファゾリンを投与(12月17日まで投与し中止)。12月14日スピードトラック牽引施行(以後手術当日までの5日間消毒施行せず)。WBCCRPHbHt12月15日9,600(4+)11.1g/dL31.7%12月18日6,100(3+)11.5g/dL33.1%12月19日13:00骨折部位に対する内固定手術のため手術室入室。直前の体温37.6℃、脈拍92、血圧132/74mmHgであった。ところが、骨折部位に約3cmの創があり、その周辺皮膚が壊死していたため、観血的手術を行うことは骨髄炎発生のリスクが高いと判断し、内固定術を中止して徒手整復に治療方針が変更された。13:40マスクで酸素を投与しながら、麻酔薬としてブプレノルフィン(同:レペタン)0.3mg、ラボナール®125mg、セルシン®10mgを静脈注射した。13:43脈拍124、血圧125/50mmHg(この時に頻脈がみられたことをもって呼吸不全状態にあったと裁判所は認定)13:47血圧80/40mmHgと低下し、深呼吸を1回したのち呼吸停止状態に陥る。顔面および口唇にはチアノーゼが認められ、脈拍76、血圧60mmHg、心電図にはPVCが頻発。13:50気管内挿管を施行し、純酸素を投与して強制換気を行ったところ、血圧128/47mmHg、脈拍140となった。13:52血液ガス検査。pHpCO2pO2BEpH 7.266pCO2 39.7pO2 440.7BE -8.3代謝性アシドーシスのため炭酸水素ナトリウム(同:メイロン)投与。15:10自発呼吸が戻った直後に全身硬直性のけいれん発作が出現。脳神経外科医師が診察し、頭部CTスキャンを施行したが異常なし。16:15再びけいれん発作が出現。18:00高圧酸素療法目的で、脳神経外科医院に転院。その際の看護師申し送りに「無R7分ほどあり」と記載。12月24日徐々に意識状態は改善し、氏名年齢を不明瞭かつゆっくりではあるが発語。12月25日再度けいれん発作があり、その後意識状態はかなり後退(病院側鑑定人はこの時に2回目の脂肪塞栓が起こったと証言したが、採用されず)。1987年2月26日脳障害の改善と骨折の治療目的で、某大学病院に転院。徐々に意識は回復したが、脳の不可逆的障害に起因する四肢麻痺、言語障害、視覚障害(皮質盲)などの障害が残存した。当事者の主張患者側(原告)の主張手術前から感染症、貧血傾向がみられたにもかかわらず、術前状態を十分に把握しないままセルシン®、ラボナール®の静脈麻酔を行った。しかも麻酔中の呼吸・循環状態を十分に監視しなかったために低酸素状態に陥り、不可逆的な脳障害が発生した。病院側(被告)の主張患者には開放骨折はあったが、感染症は鎮静化しており、貧血も改善傾向にあり、手術を行うのに不適切な状態ではなく、また、脳障害は脂肪塞栓症によるものであるので、病院側に責任はない。裁判所の判断感染症についてCRPが3プラスとか4プラスという状態は、下腿骨骨折程度の組織損傷では得られないものであり、当時の所見を考えるとまず感染症を疑って創部の確認を行うのが普通なのに、担当医らは何も留意していなかった。貧血について一般に輸血の指標としてHb 10、Ht 30%とされているが、当時十分な食事や水分の摂取ができない時期があり、脱水状態にあったと判断される。そのため実際は貧血の度合いが高度であった。脂肪塞栓症について患者側鑑定人の意見を全面採用し、脂肪塞栓とは診断できないと認定。重度の脳障害を負うに至った原因は、麻酔施行中に発生した呼吸抑制によって酸素欠乏状態に陥ったためである。病院側は術前状態(貧血、感染症)などを十分に把握することなく漫然と麻酔薬(セルシン、ラボナール®)を投与し、麻酔施行中は呼吸・循環状態を十分に監視するべきであるのに、暗い部屋で手術を行ったこともあって患者の呼吸状態、胸郭の動きを十分に注視することを怠ったため、呼吸困難による酸素欠乏状態・チアノーゼが生じたのに発見が遅れた。原告側合計1億5,030万円の請求に対し、1億4,994万円の判決考察この裁判の最大の争点は、重度の脳障害に至った原因を、患者側静脈麻酔後の観察不足で低酸素脳症に陥った。病院側脳が低酸素になったのは脂肪塞栓のためである。と主張している点です。結果は第1審、第2審ともに患者側の主張を全面採用し、ほぼ請求通りのきわめて高額な判決に至りました。この裁判では、原告、被告双方とも教授クラスの鑑定人をたてて、かなり専門的な議論が交わされましたが、どちらの意見をみても医学的には適切な内容の論理を展開しています。ところが、結論がまったく正反対となっているのは、このケースの難しさを物語っていると同時に、さまざま情報を取捨選択することによって異なる結論を導くのが可能なことをあらわしていると思います。判決文を読み直しても、なぜ裁判官が原告側の鑑定を受け入れたのか納得のいく理由は示しておらず、患者側の主張に沿った鑑定内容を羅列した後に、「(患者側)認定に反する病院側鑑定(意見)は措信することができない」とだけ断定しています。これはそのまま「患者側」と「病院側」をそっくり入れ替えても通じるような論理展開なので、少なくとも医師の立場ではここまで断定することは無謀すぎるという印象さえ持ちます。結局のところ、もしかすると本当のところは脂肪塞栓による脳障害なのかもしれませんが、「18歳の青年が下腿骨骨折程度のけがで重度の脳障害を負った」という現代の医療水準からみれば大変気の毒な出来事に対し、その結果責任の重大性が強調されたケースだと思います。そして、このような判決に至ったもう一つの重要な点として、病院側が「裁判官の心証」をかなり悪くしている点は見逃せません。具体的には以下の2点です。1. 手術まで傷の消毒を5日間も行わず、感染徴候を見逃した。欧米では無菌手術後にあえて包帯交換を行わずに、抜糸まで様子をみることがありますが、本件では交通事故による開放骨折ですので、けっして無菌状態とはいえません。したがって、スピードトラック牽引後に5日間も開放創の消毒をせず、手術時に傷をみてはじめて感染兆候に気付いたのは、問題なしとはいえないと思います。その点を強調するために裁判所は、手術前の「CRPが3プラスとか4プラスという状態は、下腿骨骨折程度の組織損傷では得られない明らかな骨折部の感染だ」と決めつけています。日常臨床にたずさわる整形外科医であれば、下腿骨骨折だけでもこの程度の炎症反応をみることはしばしば経験しますし、経過を通じて骨髄炎などは併発していませんので「明らかな感染は起こしていない」という病院側の主張も理解できます。しかし、消毒を行わなかったという点や、とくに理由もなく術前に抗菌薬を中止していることについての抗弁は難しいと思います。また、本件では整形外科の常勤医師がおらず、患者の骨折を一貫してみることができなかった点も気の毒ではありますが、裁判ではそのような病院側の事情はまったく考慮しません。2. 看護師の申し送りに「無R7分程」と記載されたこと。実際に無呼吸状態が7分も継続したのか、真偽のほどはわかりませんが、看護師同士がこのような申し送りをしてしまうと、後からどのような言い訳をしても状況はきわめて厳しくなると思います。病院側は「入院時看護記録の『無R7分程』との記載は、看護師が手術中に生じた脳障害なのだから無Rに違いないという先入観に従ってしたものと推測される」という反論をしましたが、裁判官の立場では到底採用できないものでしょう。おそらく、担当医師らが「麻酔中に呼吸障害が7分くらいあったのかも知れない」という認識でいたのを、看護師が「無R7分程」と受け取ってしまったのではないか思いますが、このように医師と看護師の見解が食い違うと、それだけで「病院側は何かを隠しているにちがいない」という印象を強く与えてしまうので、ぜひとも注意しなければなりません。救急医療

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重度ICU患者、せん妄期間と認知機能障害リスクは有意に関連/NEJM

 ICUの重症患者のうち7割以上が、入院中にせん妄を発症するリスクがあり、せん妄期間が長いほど長期の認知機能障害発症リスクが高いことが明らかになった。米国・ヴァンダービルト大学のPratik P. Pandharipande氏らが、800例超のICU重症患者を対象に行った試験で明らかにしたもので、NEJM誌2013年10月3日号で発表した。重症疾患から回復した人は、認知機能障害を発症することが多いものの、その特徴についてはあまり調査がされていなかったという。入院中のせん妄期間と、退院後3ヵ月、12ヵ月の認知・実行機能を評価 研究グループは、内科・外科系のICU患者で呼吸不全やショックを発症した成人821例について、入院中のせん妄と、退院後3ヵ月、12ヵ月時点での認知・実行機能について評価を行った。 同機能の評価については、神経心理検査RBANS とTrail Making Test (TMT ) Part Bを用いた。RBANS神経心理検査は、年齢補正後平均スコアを100(標準偏差:15)とし、スコアが低いほど全般的認知機能が低いと評価し、TMTは、年齢・性別・教育補正後平均スコアを50(標準偏差:10)とし、スコアが低いほど実行機能が低いと評価した。 入院中のせん妄持続期間、鎮静薬または鎮痛薬の服用と、アウトカムとの関連を分析した。退院3ヵ月後、軽度アルツハイマー病患者と同等以下の認知機能の人は26% 被験者821例のうち、ベースライン時に認知機能障害が認められたのは6%のみだった。入院中にせん妄を発症したのは74%だった。 退院後3ヵ月時点で、全般的認知機能スコアが中程度の外傷性脳損傷患者と同等以下(母平均より1.5標準偏差低いスコア)だった人の割合は、40%だった。さらに、軽度アルツハイマー病患者と同等以下(母平均より2標準偏差低いスコア)だった人の割合は、26%だった。 退院後12ヵ月時点でも、この状態は継続しており、それぞれの割合は34%、24%だった。また、こうした状態は若年、高齢患者ともに認められた。 入院中せん妄持続期間と退院後のアウトカムの関連についてみると、入院中せん妄期間が長いほど、退院後3ヵ月、12ヵ月後の全般的認知機能が有意に低く(それぞれp=0.001、p=0.04)、実行機能も有意に低かった(それぞれp=0.004、p=0.007)。 なお、鎮静薬や鎮痛薬の服用は、退院後3ヵ月、12ヵ月の認知機能障害とは関連していなかった。

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ベンゾジアゼピン使用は何をもたらすのか

 オーストラリア・カンバーランド病院のDonna Gillies氏らは、急性精神疾患に対するベンゾジアゼピン系薬剤の有用性についてレビューを行った。その結果、ベンゾジアゼピン単独または抗精神病薬と併用した場合の効果が、抗精神病薬単独または同薬併用、あるいは抗精神病薬と抗ヒスタミン薬などの併用と比べて、症状改善に差がないことを報告した。ただし、今回の評価の結果について著者は、ベンゾジアゼピンの単独または併用使用に関するエビデンスが弱く現段階では不明確であり、質の高い研究が必要だと指摘している。Cochrane database of systematic reviewsオンライン版2013年9月18日の掲載報告。 急性精神疾患、とくに興奮性または攻撃性の行動が認められる場合は精神安定剤や鎮静剤による緊急治療が必要となる。こうした状況に対し、いくつかの国ではベンゾジアゼピン単独またはベンゾジアゼピンと抗精神病薬の併用がしばしば行われている。本研究は、行動のコントロールならびに精神症状の軽減に対するベンゾジアゼピン単独または抗精神病薬との併用における効果を、プラセボまたは抗精神病薬単独または抗精神病薬と抗ヒスタミン薬を併用した場合の効果と比較検討することを目的としたものであった。 2012年1月現在のCochrane Schizophrenia Group's registerを検索し、適格試験を詳細に調べ、代表的な試験の著者らを調査した。急性精神疾患患者を対象とし、「ベンゾジアゼピン単独またはベンゾジアゼピン+抗精神病薬」と「抗精神病薬単独または抗精神病薬+その他の抗精神病薬、ベンゾジアゼピンまたは抗ヒスタミン薬」を比較したランダム化臨床試験(RCT)をすべて適格とした。 忠実な方法で試験を選択し、それらの質を評価してデータを抽出した。バイナリ(2値)アウトカムに対しては、固定効果モデルを用いて標準推定相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)を算出した。連続アウトカムに対しては、群間の平均差(MD)を算出した。不均質性を認めた場合はランダム効果モデルを用いて探索した。 主な結果は以下のとおり。・21試験、1,968例を評価の対象とした。・「ベンゾジアゼピン」と「プラセボ」を比較した1試験において、大半のアウトカムで有意差は認められなかったが、プラセボ群のほうが「中期(1~48時間)の改善なし」のリスクがより高かった(1試験、102例、RR:0.62、95%CI:0.40~0.97、エビデンスの質:きわめて低い)。・「ベンゾジアゼピン」と「抗精神病薬」の比較において、中期に改善を認めなかった被検者数に差はみられなかった(5試験、308例、同:1.10、0.85~1.42、低)。ただし、ベンゾジアゼピン群では中期に錐体外路作用(EPS)が少ない傾向にあった(8試験、536例、同:0.15、0.06~0.39、中)。・「ベンゾジアゼピン+抗精神病薬」と「ベンゾジアゼピン単独」の比較において、有意差は認められなかった。・「ベンゾジアゼピン+抗精神病薬」と「同一抗精神病薬単独」との比較(すべての試験でハロペリドールであった)において、中期の改善に群間差は認められなかったが(3試験、155例、同:1.27、0.94~1.70、きわめて低い)、併用療法群で鎮静が得られた患者が多い傾向にあった(3試験、172例、同:1.75、1.14~2.67、きわめて低い)。・しかし、「ベンゾジアゼピン+ハロペリドール」群は、オランザピン群(1試験、60例、同:25.00、1.55~403.99、きわめて低い)またはジプラシドン(国内未承認)群(1試験、60例、同:4.00、1.25~12.75、きわめて低い)に比べ、中期の改善を認めた被検者が少なかった。・「ハロペリドール+ミダゾラム」は、オランザピンと比較して改善、鎮静、行動において優れているという若干のエビデンスが認められた。・以上のように、ベンゾジアゼピン単独使用に関して、良い結果は得られなかった。 良質なデータが非常に少なく、大半の試験はポジティブあるいはネガティブな差を検出するには母集団が少なすぎた。その他の薬剤へのベンゾジアゼピン追加による明らかなメリットはみられず、不要な有害事象の可能性があった。従来の抗精神病薬単独使用(抗コリン薬非併用)の妥当性を評価することは厳しいと思われる。本分野においては、より質の高い研究が求められる。関連医療ニュース 統合失調症患者にNaSSA増強療法は有用か:藤田保健衛生大学 急性期統合失調症、ハロペリドールの最適用量は 抗精神病薬へのNSAIDs追加投与、ベネフィットはあるのか?  担当者へのご意見箱はこちら

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統合失調症患者にNaSSA増強療法は有用か:藤田保健衛生大学

 藤田保健衛生大学の岸 太郎氏らは、統合失調症の増強療法としてノルアドレナリン・セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA:ミルタザピン、ミアンセリン)が有用かを系統的レビューにより検討した。The international journal of neuropsychopharmacology誌オンライン版2013年7月3日号の報告。 系統的レビューは、2012年12月にPubMed、コクランライブラリー、PsycINFOから無作為化プラセボ対照二重盲検比較試験のメタアナリシスを検索した。 主な結果は以下のとおり。・12試験、362例が抽出された(ミルタザピン:7試験、221例、ミアンセリン:5試験、141例)。・NaSSa増強療法はプラセボと比較し全体的な症状(SMD=-0.75、95%CI:-1.24~-0.26、p=0.003、11試験、301例)、陰性症状(SMD=-0.88、95%CI:-1.41~-0.34、p=0.001、9試験、240例)、奏効率(RR=0.71、95%CI:0.57~0.88、p=0.002、NNT=4、p<0.00001、6試験、163例)において優れていた。陽性症状、抑うつ症状、中止率では有意差はみられなかった。また、試験中に精神症状の悪化が認められた患者はいなかった。・ミルタザピンによる増強療法はプラセボと比較し全体的な症状(SMD=0.98、95%CI:-1.74~-0.22、p=0.01、7試験、194例)、陰性症状(SMD=-1.25、95%CI:-1.88~-0.62、p=0.0001、6試験、172例)、奏効率(RR=0.70、p=0.04、NNT=4、p=0.0004、4試験、119例)において優れていた。・NaSSa増強療法はアカシジアスコア(p<0.00001)、錐体外路症状スケール(p=0.01)の減少と関連していた。しかし、眠気、鎮静、傾眠を引き起こした(RR=3.52、p=0.002、NNT=6、p=0.01、8試験、209例)。・NaSSa増強療法(とくにミルタザピン)は統合失調症患者の全体的な症状および陰性症状を改善させることが示唆された。関連医療ニュース 統合失調症患者に対するフルボキサミン併用療法は有用か?:藤田保健衛生大学 統合失調症患者へのセロトニン作動薬のアドオン、臨床効果と認知機能を増大 統合失調症患者とタバコ、どのような影響を及ぼすのか?:藤田保健衛生大学

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糖尿病ケトアシドーシスの輸液管理ミスで死亡したケース

糖尿病・代謝・内分泌最終判決平成15年4月11日 前橋地方裁判所 判決概要25歳、体重130kgの肥満男性。約2週間前から出現した体調不良で入院し、糖尿病ケトアシドーシス(初診時血糖値580mg/dL)と診断されてIVHによる輸液管理が始まった。ところが、IVH挿入から12時間後の深夜に不穏状態となってIVHを自己抜去。自宅で報告を受けた担当医師は「仕方ないでしょう」と看護師に話し、翌日午後に再度挿入を予定した。ところが、挿入直前に心肺停止状態となり、翌日他院へ転送されたが、3日後に多臓器不全で死亡した。詳細な経過患者情報昭和49年9月3日生まれの25歳、体重130kgの肥満男性経過平成12年3月16日胃部不快感と痛みが出現、その後徐々に固形物がのどを通らなくなる。3月28日動悸、呼吸困難、嘔気、嘔吐が出現。3月30日10:30被告病院受診。歩行困難のため車いす使用。ぐったりとして意識も明瞭でなく、顔面蒼白、ろれつが回らず、医師の診察に対してうまく言葉を発することができなかった。血糖値580mg/dL、「脱水、糖尿病ケトアシドーシス、消化管通過障害疑い」と診断、「持続点滴、インスリン投与」を行う必要があり、2週間程度の入院と説明。家族が看護師に対し付添いを申し入れたが、完全看護であるからその必要はないといわれた。11:15左鎖骨下静脈にIVHを挿入して輸液を開始。約12時間で2,000mLの輸液を行う方針で看護師に指示。18:00当直医への申し送りなく担当医師は帰宅。このとき患者には意識障害がみられ、看護師に対し「今日で入院して3日目になるんですけど、管は取ってもらえませんか」などと要領を得ない発言あり。20:30ひっきりなしに水を欲しがり、呼吸促迫が出現。ナースコール頻回。17:20水分摂取時に嘔吐あり。22:45膀胱カテーテル自己抜去。看護師の制止にもかかわらず、IVHも外しかけてベッドのわきに座っていた。22:55IVH自己抜去。不穏状態のため当直医はIVHを再挿入できず。看護師から電話報告を受けた担当医師は、「仕方ないでしょう」と回答。翌日3月31日14:00頃に出勤してからIVHの再挿入を予定し、輸液再開を指示しないまま鎮静目的でハロペリドール(商品名:セレネース)を筋注。3月31日03:00肩で大きく息をし、口を開けたまま舌が奥に入ってしまうような状態で、大きないびきをかいていた。11:00呼吸困難、のどの渇きを訴えたが、意識障害のため自力で水分摂取不能。家族の要望で看護師が末梢血管を確保し、点滴が再開された(約12時間輸液なし)。14:20担当医師が出勤。再びIVHを挿入しようとしたところで呼吸停止、心停止。ただちに気管内挿管して心肺蘇生を行ったところ、5分ほどで心拍は再開した。しかし糖尿病性昏睡による意識障害が持続。15:30膀胱カテーテル留置。17:20家族から無尿を指摘され、フロセミド(同:ラシックス)を投与。その後6時間で尿量は175cc。さらに明け方までの6時間で尿量はわずか20ccであった。4月1日10:25救急車で別の総合病院へ搬送。糖尿病ケトアシドーシスによる糖尿病性昏睡と診断され、急激なアシドーシスや脱水の進行により急性腎不全を発症していた。4月4日19:44多臓器不全により死亡。当事者の主張患者側(原告)の主張糖尿病ケトアシドーシスで脱水状態改善の生理食塩水投与は、14~20mL/kg/hr程度が妥当なので、130kgの体重では1,820~2,600mL/hrの点滴が必要だった。ところが、入院してから47時間の輸液量は、入院注射指示簿によれば合計わずか2,000mLで必要量を大幅に下回った。しかも途中でIVHを外してしまったので、輸液量はさらに少なかったことになる。IVHを自己抜去するような状況であったのに、輸液もせずセレネース®投与を指示した(セレネース®は昏睡状態の患者に禁忌)だけであった。また、家族から無尿を指摘されて利尿薬を用いたが、脱水症状が原因で尿が出なくなっているのに利尿薬を用いた。糖尿病を早期に発見して適切な治療を続ければ、糖尿病患者が健康で長生きできることは公知の事実である。被告病院が適切な治療を施していれば、死亡することはなかった。病院側(被告)の主張入院時の血液検査により糖尿病ケトアシドーシスと診断し、高血糖状態に対する処置としてインスリンを適宜投与した。ただし急激な血糖値の改善を行うと脳浮腫を起こす危険があるので、当面は血糖値300mg/dLを目標とし、消化管通過障害も考えて内視鏡の検査も視野に入れた慎重な診療を行っていた。原告らは脱水治療の初期段階で1,820~2,600mL/hrもの輸液をする必要があると主張するが、そのような大量輸液は不適切で、500~1,000mLを最初の1時間で、その後3~4時間は200~500mL/hrで輸液を行うのが通常である。患者の心機能を考慮すると、体重が平均人の2倍あるから2倍の速度で輸液を行うことができるというものではない。しかもIVHを患者が自己抜去したため適切な治療ができなくなり、当時は不穏状態でIVHの再挿入は不可能であった。このような状況下でIVH挿入をくり返せば、気胸などの合併症が生じる可能性がありかえって危険。セレネース®の筋注を指示したのは不穏状態の鎮静化を目的としたものであり適正である。そもそも入院時に、糖尿病の急性合併症である重度の糖尿病ケトアシドーシスによる昏睡状態であったから、短期の治療では改善できないほどの重篤、手遅れの状態であった。心停止の原因は、高度のアシドーシスに感染が加わり、敗血症性ショックないしエンドトキシンショック、さらには横紋筋融解症を来し、これにより多臓器不全を併発したためと推測される。裁判所の判断平成12年当時の医療水準として各種文献によれば、糖尿病ケトアシドーシスの患者に症状の大幅な改善が認められない限り、通常成人で1日当たり少なくとも5,000mL程度の輸液量が必要であった。ところが本件では、3月30日11:15のIVH挿入から転院した4月1日10:25までの47時間余りで、多くても総輸液量は4,420mLにすぎず、130kgもの肥満を呈していた患者にとって必要輸液量に満たなかった。したがって、輸液量が大幅に不足していたという点で担当医師の判断および処置に誤りがあった。被告らは治療当初に500~1,000mL/hrもの輸液を行うと急性心不全や肺水腫を起こす可能性もあり危険であると主張するが、その程度の輸液を行っても急性心不全や肺水腫を起こす可能性はほとんどないし、実際に治療初日の30日においても輸液を160mL/hr程度しか試みていないのであるから、急性心不全や肺水腫を起こす危険性を考慮に入れても、担当医師の試みた輸液量は明らかに少なかった。さらに看護師からIVHを自己抜去したという電話連絡を受けた時点で、意識障害がみられていて、その原因は糖尿病ケトアシドーシスによるものと判断していたにもかかわらず、「仕方ないでしょう」などといって当直医ないし看護師に対し輸液を再開するよう指示せず、そのまま放置したのは明らかな過失である。これに対し担当医師は、不穏状態の患者にIVH再挿入をくり返せば気胸が生じる可能性があり、かえって危険であったと主張するが、IVHの抜去後セレネース®によって鎮静されていることから、入眠しておとなしくなった時点でIVHを挿入することは可能であった。しかもそのまま放置すれば糖尿病性昏睡や急性腎不全、急性心不全により死亡する危険性があったことから、気胸が生じる可能性を考慮に入れても、IVHによる輸液再開を優先して行うべきであった。本件では入院時から腹痛、嘔気、嘔吐などがみられ、意識が明瞭でないなど、すでに糖尿病性昏睡への予兆が現れていた。一方で入院時の血液生化学検査は血糖値以外ほぼ正常であり、当初は腎機能にも問題はなく、いまだ糖尿病性昏睡の初期症状の段階にとどまっていた。ところが輸液が中断された後で意識レベルが悪化し、やがて呼吸停止、心停止状態となった。そして、転院時には、もはや糖尿病性昏睡の症状は治癒不可能な状態まで悪化し、死亡が避けられない状況にあった。担当医師の輸液に関する過失、とりわけIVHの抜去後看護師らに対しIVHの再挿入を指示せずに放置した過失と死亡との間には明らかな因果関係が認められる。原告側合計8,267万円の請求に対し、合計7,672万円の判決考察夜中に不穏状態となってIVHを自己抜去した患者に対し、どのような指示を出しますでしょうか。今回のケースでは、内科医にとってかなり厳しい判断が下されました。体重が130kgにも及ぶ超肥満男性が、糖尿病・脱水で入院してきて、苦労して鎖骨下静脈穿刺を行い、やっとの思いでIVHを挿入しました。とりあえず輸液の指示を出したところで、ひととおりの診断と治療方針決定は終了し、あとは治療への反応を期待してその日は帰宅しました。ところが当日深夜に看護師から電話があり、「本日入院の患者さんですが、IVHを自己抜去し、当直の先生にお願いしましたが、患者さんが暴れていて挿入できません。どうしましょうか」と連絡がありました。そのような時、深夜にもかかわらずすぐに病院に駆けつけ、鎮静薬を投与したうえで再度IVHを挿入するというような判断はできますでしょうか。このように自分から治療拒否するような患者を前にした場合、「仕方ないでしょう」と考える気持ちは十分に理解できます。こちらが誠意を尽くして血管確保を行い、そのままいけば無事回復するものが、「どうして命綱でもある大事なIVHを抜いてしまうのか!」と考えたくなるのも十分に理解できます。ところが本件では、糖尿病ケトアシドーシスの病態が担当医師の予想以上に悪化していて、結果的には不適切な治療となってしまいました。まず第一に、IVHを自己抜去したという異常行動自体が糖尿病性昏睡の始まりだったにもかかわらず、「せっかく入れたIVHなのに、本当にしょうがない患者だ」と考えて、輸液開始・IVH再挿入を翌日午後まで延期してしまったことが最大の問題点であったと思います。担当医師は翌日午前中にほかの用事があり、午後になるまで出勤できませんでした。そのような特別な事情があれば、とりあえずはIVHではなく末梢の血管を確保するよう当直スタッフに指示してIVH再挿入まで何とか輸液を維持するとか、場合によってはほかの医師に依頼して、早めにIVHを挿入しておくべきだったと考えられます。また、担当医師が不在時のバックアップ体制についても再考が必要でしょう。そして、第二に、そもそもの輸液オーダーが少なすぎ、糖尿病ケトアシドーシスの治療としては不十分であった点は、標準治療から外れているといわれても抗弁するのは難しくなります。「日本糖尿病学会編:糖尿病治療ガイド2000」によれば、糖尿病ケトアシドーシス(インスリン依存状態)の輸液として、「ただちに生理食塩水を1,000mL/hr(14~20mL/kg/hr)の速度で点滴静注を開始」と明記されているので、体重が130kgにも及ぶ肥満男性であった患者に対しては、1時間に500mLのボトルで少なくとも2本は投与すべきであったことになります。ところが本件では、当初の輸液オーダーが少なすぎ、3時間で500mLのボトル1本のペースでした。1時間に500mLの点滴を2本も投与するという輸液量は、かなりのハイペースとなりますので、一般的な感触では「ここまで多くしなくても良いのでは」という印象です。しかし、数々のエビデンスをもとに推奨されている治療ガイドラインで「ただちに生理食塩水を1,000mL/hr(14~20mL/kg/hr)の速度で点滴静注を開始」とされている以上、今回の少なすぎる輸液量では標準から大きく外れていることになります。本件では入院当初から糖尿病性ケトアシドーシス、脱水という診断がついていたのですから、「インスリンによる血糖値管理」と「多めの輸液」という治療方針を立てるのが医学的常識でしょう。しかし、経験的な感覚で治療を行っていると、今回の輸液のように、結果的には最近の知見から外れた治療となってしまう危険性が潜んでいるので注意が必要です。本件でも、ひととおりの処置が終了した後で、治療方針や点滴内容が正しかったのかどうか、成書を参照したり同僚に聞いてみるといった時間的余裕はあったと思われます。最近の傾向として、各種医療行為の結果が思わしくなく、患者本人または家族がその事実を受け入れられないと、ほとんどのケースで紛争へ発展するような印象があります。その場合には、医学書、論文、各種ガイドラインなどの記述をもとに、その時の医療行為が正しかったかどうか細かな検証が行われ、「医師の裁量範囲内」という考え方はなかなか採用されません。そのため、日頃から学会での話題や治療ガイドラインを確認して知識をアップデートしておくことが望まれます。糖尿病・代謝・内分泌

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