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鎮静目的のハロペリドール単独使用のエビデンスは蓄積されたのか?

 ハロペリドール単独での精神疾患による攻撃性や興奮症状に対する鎮静効果に関するレビューの結果、他のあらゆる選択肢がない場合に筋注投与は救命手段になりうるが、副作用を相殺する併用薬が入手可能であるにもかかわらず単独投与する場合は、極限の非常事態であっても非倫理的とみなされる可能性があることなどが明らかにされた。英国・マンチェスター大学のMelanie J Powney氏らにより報告された。Cochrane Library 2012年11月14日の発表報告。 精神疾患による攻撃性や興奮状態に対してはハロペリドールの単独投与が推奨されている。同薬は入手がしやすく、同時にリソースが限られる地域では唯一利用可能な抗精神病薬だが、研究グループは、その治療効果のエビデンスについて調査を行った。Cochrane Schizophrenia Group Trials Register(2011年6月1日)により文献検索を行い、興奮あるいは攻撃性(または両方、いずれも精神疾患によると思われるもの)を呈する人が関与し、ハロペリドール単独急速投与(経口、筋注、静注)と他の治療を比較していた無作為化試験(RCT)を選択した。アウトカムには、鎮静あるいは30分以内睡眠、24時間以内の急速鎮静のための再投与、特異的行動(他者/自身に対する脅威や傷害行為)、副作用を含んだ。レビュワーが独立的に、試験の方法論的質と抽出データを選択し評価した。「所見サマリー」部分からエビデンス等級と、可能な限り適正な絶対効果を割り出した。 主な内容は以下のとおり。・レビューには、32試験(ハロペリドールと他の治療18とを比較)を組み込んだが、ほとんどの研究は臨床を反映したものではなく著しい例外を内包しており、また大半は小規模な試験で、かなりのバイアスリスクを含むと思われた。・そのうえで、プラセボとの比較の結果、ハロペリドール群のほうが、2時間後に眠りに就いていた人がより多かった[2試験、220例、リスク比(RR):0.88、95%信頼区間(CI):0.82~0.95]。また、ジストニアの頻度が高かった(2試験、207例、7.49、0.93~60.21)。・アリピプラゾールとの比較で、ハロペリドール群のほうが、注射剤を要した人は少なかった(2試験、473例、0.78、0.62~0.99)。ジストニアの頻度はハロペリドール群のほうが高かった(2試験、477例、6.63、1.52~28.86)。・ジプラシドンとの試験は大規模試験が3件あったが、試験デザインと報告の不備が大きくデータが散在している状態のままであった。・ズクロペンチキソール酢酸塩との比較は、ハロペリドール群のほうが3回以上注射投与を受けた人がより多かった(1試験、70例、2.54、1.19~5.46)。・ハロペリドールとロラゼパムとの比較試験は3試験であった(205例)。・投与後1時間時点で眠りに就いていた被験者数に関する有意な群間差は認められなかった(1試験、60例、1.05、0.76~1.44)。しかし、3時間時点までの比較では、ロラゼパム群のほうが有意に多いことが示された(1試験、66例、1.93、1.14~3.27)。・複数回の注射投与を要したかについての差異はみられなかった(1試験、66例、1.14、0.91~1.43)。・ハロペリドールの副作用はロラゼパムの追加投与によって相殺されなかった(たとえばジストニア:1試験、67例、8.25、0.46~147.45、抗パーキンソン病薬を要する:2.74、0.81~9.25)。・プロメタジンの追加投与については、大規模かつ質の良好な1試験が行われていた(316例)。・ハロペリドール群の多くが、20分時点までに安穏あるいは睡眠に就くことはなかった(RR:1.60、95%CI:1.18~2.16)。・ハロペリドール群のほうが有意に多く1回以上の副作用を経験した(RR:11.28、95%CI:1.47~86.35)。・ハロペリドール単独投与に割り付けられた被験者は急性ジストニアの頻度が高く、中間解析以降にも認められた(RR:19.48、95%CI:1.14~331.92)。・他のいずれの選択肢もなければ、ハロペリドールの単独投与が救命になりうる。・副作用を相殺する追加薬が入手可能であるにもかかわらず、ハロペリドールを単独投与することは、たとえ極限の非常事態場面で強制投与が求められているような場面であっても、非倫理的であるとみなされるであろう。・プロメタジンの追加による鎮静は、無作為化試験からエビデンスが良好であることが支持された。・選択的抗精神病薬の投与は、断片的で不良なエビデンスしかなく部分的な支持にとどまった。・新世代抗精神病薬の投与のエビデンスは、旧タイプのものと比べて強力ではなかった。・ハロペリドールへのベンゾジアゼピン系薬の追加投与は、有効性および追加によって生じるリスクに関する強力なエビデンスはなかった。・急速な鎮静のための緊急投与がなされるようになって60年を経ているが、臨床に役立つ良質で独立した試験が依然として必要とされている。関連医療ニュース ・破壊的行動障害に対する非定型抗精神病薬使用 ・統合失調症に対するベンゾジアゼピン、最新レビュー知見 ・アルツハイマー病の興奮、抗精神病薬をどう使う?

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統合失調症に対するベンゾジアゼピン、最新レビュー知見

 統合失調症に対するベンゾジアゼピンの有効性と安全性について、システマティックレビューの結果、単独療法あるいは併用療法ともに投与に関する確実なエビデンスは現時点では確認できなかったことが、ドイツ・ミュンヘン工科大学付属病院Rechts der Isar ClinicのMarkus Dold氏らにより報告された。ベンゾジアゼピンの超短時間の鎮静効果、および急性期の興奮状態の統合失調症患者に対し鎮静のための投与を考慮すべきであるというエビデンスの質は低かったことが示されたという。Cochrane Library 2012年11月14日の発表報告。 研究グループは2011年2月に、以前に行った文献調査(2005年3月)のアップデートを行った。文献検索はCochrane Schizophrenia Groupの試験レジスターを対象とし(言語の規制なし)、関連研究の参考文献調査や、不明データを入手するため論文著者への連絡なども行った。選択適格基準は、統合失調症や統合失調症様精神病(両方またはどちらか)の薬物療法として、ベンゾジアゼピン(単独、併用含む)と抗精神病薬またはプラセボを比較した全無作為化試験とした。解析はMDとCLのレビュワーが独立的に行った。二分変数アウトカムについてリスク比(RR)と95%信頼区間(CI)を算出し、連続データを平均差(MD)と95%CIを用いて解析し、組み込んだ試験(バイアスリスクツール適用)からの事前選択アウトカムをそれぞれ評価した。 主な内容は以下のとおり。・レビューには、34試験(2005年解析より3試験増)、2,657例が組み込まれた。大半の試験は、サンプル数が少なく、短期試験で、アウトカムデータが不完全であった。・プラセボと比較したベンゾジアゼピン単独療法に関する試験は8試験であった。・重大臨床的効果がみられなかった被験者の割合は、ベンゾジアゼピン群とプラセボ群で有意な差はみられなかった(382例、6試験、RR:0.67、95%CI:0.44~1.02)。評価結果は、全身・精神状態のさまざまな評価スケールが用いられており整合性がなかった。・抗精神病薬単独療法とベンゾジアゼピン単独療法とを比較した試験は14試験であった。・重大臨床的効果の評価において、統計的に有意な差がみられた試験グループはなかった[(30分)44例、1試験、RR:0.91、95%CI:0.58~1.43、(60分)44例、1試験、0.61、0.20~1.86、(12時間)66例、1試験、0.75、0.44~1.30、(プール短時間試験)112例、2試験、1.48、0.64~3.46]。・抗精神病薬群と比べてベンゾジアゼピン群のほうが、20分、40分時点で至適な鎮静を得られた被験者が有意に多かった。全身・精神状態や副作用の発生について、有意な群間差は確認できなかった。・抗精神病薬+ベンゾジアゼピンを併用した増強療法と抗精神病薬単独療法とを比較した試験は20試験であった。重大臨床的効果があり統計的に有意な改善が示される可能性があったのは、併用療法での最初の30分だけであった[(30分)45例、1試験、RR:0.38、95%CI:0.18~0.80、(60分)45例、1試験、0.07、0.00~1.03、(12時間)67例、1試験、0.85、0.51~1.41、(プール短時間試験)511例、6試験、0.87、0.49~1.54]。・全身・精神状態の解析は、30分、60分時点での至適な鎮静を除いて、群間差は示されなかった[(30分)45例、1試験、RR:2.25、95%CI:1.18~4.30、(60分)45例、1試験、1.39、1.06~1.83]。・ベンゾジアゼピン治療に対する忍容性は、全体に漸減率が測定されたことで問題はないようであった。副作用は概してあまり報告がなかった。統合失調症でのベンゾジアゼピン治療(とくに長期的な併用戦略)のエビデンスを明らかにするために、さらなる質の高い規模の大規模な研究プロジェクトが求められる。関連医療ニュース ・ベンゾジアゼピン系薬剤の使用で抗精神病薬多剤併用率が上昇?! ・アルツハイマー病の興奮、抗精神病薬をどう使う? ・ベンゾジアゼピンと認知症リスクの関連

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プライマリ・ケア慢性腰痛患者の2.9%で高用量オピオイド(中央値180.0mg/日)処方

 長期にオピオイド療法を受けている慢性腰痛患者のうち、高用量オピオイドの処方を受けている患者は8.6%であり、慢性腰痛患者全体では2.9%にあたることが明らかにされた。米国・オレゴン健康科学大学のAmy M Kobus氏らがプライマリ・ケアでの腰痛患者の高用量オピオイド使用について調査した結果で、それら患者は、メンタルヘルスの問題や複数の内科疾患を有している割合も高く、潜在的に安全性が懸念される催眠・鎮静薬の複数処方を受けていることも確認されたと報告した。これまで、非がん性疼痛に対する高用量オピオイド療法の関連因子はほとんど明らかになっていなかった。Journal of Pain誌11月号の掲載報告。 研究グループは、腰痛患者における高用量オピオイド使用の出現率を、人口統計学的、臨床的および医療サービス利用と関連づけて調べた。 高用量オピオイド(モルヒネ相当量≧100mg/日と定義)を90日以上連続で使用している患者を、低用量オピオイド使用群(1~99mg/日)および非オピオイド使用群と比較した。 主な結果は以下のとおり。・高用量オピオイド使用群は453例、低用量群は4,815例、非使用群は1万184例であった(全対象総計1万5,452例)。・高用量オピオイド使用患者は全対象患者の2.9%であり、オピオイド使用患者のうち8.6%が高用量・長期使用患者であった。・高用量オピオイド群の使用量中央値は、180.0mg/日であった。・非使用群と比較して高用量群の健康状態は、より不良であることが報告されていた。・あらゆる群間比較において、高用量群はメンタルヘルスや依存症を有し催眠・鎮静薬を同時使用している割合が高く(60.5%、274例)、医療サービスの利用も高かった。・共変量選択法による補正後、高用量オピオイド処方尤度が高かったのは、男性[オッズ比(OR):1.68、95%CI:1.37~2.06]、併存疾患が多い、メディケア被保険者(同:1.65、1.22~2.23)、メンタルヘルスあるいは依存症がある(同:1.58、1.28~1.95)、催眠・鎮静薬の同時処方を受けている(同:1.75、1.42~2.16)、そして救急外来や専門ペインクリニック外来の受診がより多い人であった。

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認知症のエキスパートドクターが先生方からの質問に回答!(Part2)

CareNet.comでは10月の認知症特集を配信するにあたって、事前に会員の先生より認知症診療に関する質問を募集しました。その中から、とくに多く寄せられた質問に対し、朝田 隆先生にご回答いただきました。今回は残りの5問について回答を掲載します。6 アルツハイマー病と血管性認知症を簡単に鑑別する方法はあるか? 血管性認知症の具体的な治療方法は?6 この鑑別方法は認知症医療の基本と言えるテーマですね。鑑別については、血管性認知症では片麻痺をはじめとする神経学的な所見があり、その発症と認知症の発症との間に時間的な密着性があることが基本かと思います。そのうえで、段階的な悪化や、障害される認知機能の不均等さ(斑認知症)などの有無が鑑別のポイントになるでしょう。ところで、かつてはわが国で最も多いのは血管性認知症で、これにアルツハイマー病が次ぐとされていました。ところが最近では、両者の順位が入れ替わったとされます。また実際には、両者が合併した混合型認知症が最も多いともいわれます。それだけに、この鑑別は二者択一の問題から、両者をどう攻めたら効率的かの方略を考えるうえでの基本、という新たな意味を持つようになったと思います。7 アルツハイマー病とてんかんとの鑑別点は?7 認知症もどきの「てんかん」は最近のトピックスになっていますね。てんかんはややもすると子どもの病気というイメージがありましたが、最近では初発年齢が高くなる傾向があり、患者数も高齢者に多いという事実が知られるようになりました。てんかんも、明らかなけいれんを伴うタイプであれば、認知症との鑑別は簡単です。ところが、けいれん発作がないタイプのてんかんもあります。とくに海馬付近に発作の焦点をもつケースでは、主症状が健忘ということが少なくありません。注意深く観ているとそのような人では、時に数秒から数分、「ぼーっ」として心ここにあらずという状態が生じがちです。これが家族や同僚など周囲の人に気づかれていることも少なくありません。本人にはこのような発作中のことは、ほぼ記憶に残りません。また傍目には普通に過ごしているように見える時であっても、本人はぼんやりとしか覚えていないことがあります。このような状態が、周囲の人には認知症ではないかと思われてしまうのです。8 薬物治療を開始する際、専門医にアルツハイマー病の診断をしてもらうべきか? また、精神科へ紹介すべきなのはどのようなケースか?8 これもまた悩ましい問題ですね。と言いますのは、すごく診断に迷うような例外的なケースは別ですが、最も多い認知症性疾患はアルツハイマー病ですから、普通の認知症と思われたら、即アルツハイマー病という診断になるかもしれません。それなのにいちいち専門医にアルツハイマー病の診断をしてもらうべきなのか?というのもごもっともなことです。しかし、時としてアルツハイマー病と誤診されるものに、たとえば意味性認知症や皮質基底核変性症など、各種の変性性認知症があります。あるいは正常圧水頭症も、最大の可逆性認知症に位置づけられるだけに要注意です。臨床経過、神経心理学的プロフィール、神経学的所見、脳画像所見などから、これらとの鑑別がついているという自信があれば、紹介は不要でしょう。逆に、何となくひっかかりを覚えたら、必ず専門医に相談するようにされていれば、後悔を生まないことでしょう。次に、精神科医であれば誰でも認知症が診られるというわけではありません。しかし、他科の医師との比較で精神科医が得意とするのは、幻覚妄想などの精神症状や攻撃性・不穏興奮などの行動異常(両者を併せてBPSD)への対応でしょう。とくに暴力が激しくなった認知症のケースでは自傷他害の危険性も高いですから、早めに対応設備のある精神科の専門医に依頼されるようにお勧めします。9 抗アルツハイマー病薬の使い分けは? また、増量、切り替え、追加のタイミングは?9 ここでは、現在わが国で流通している抗アルツハイマー病薬の特徴と処方の原則を述べます。これらの薬剤は、コリンエステラーゼ阻害薬とNMDA受容体拮抗薬に二分されます。前者にはドネペジル(商品名:アリセプト)、ガランタミン(同:レミニール)、リバスチグミン(同:イクセロン、リバスタッチ)の3種類があります。後者はメマンチン(同:メマリー)です。前者について、どのようなタイプのアルツハイマー病患者にはどの薬が適切といったエビデンスレベルは今のところありません。総じて言えば、どれもそう変わらない、同レベルと言っても大きな間違いではないでしょう。たとえ専門医であっても、3つのうちのどれかで始めてみて、効果がないとか副作用で使いづらい場合に、次はこれでというパターンが一般的かもしれません。増量法は、それぞれ異なりますが、ガランタミン、リバスチグミンの場合は、副作用のために最大用量の24mg/日、18mg/日まで増量せずに中間用量を維持した方がよい場合もあります。適応については、ドネペジルは軽症から重症まですべての段階のアルツハイマー病に適応があります。野球のピッチャーにたとえるなら先発完投型と言えます。これに対してガランタミン、リバスチグミンは軽度と中等度例を適応としますので、先発ながら途中降板のピッチャーです。NMDA受容体拮抗薬であるメマンチンについては、中等度と高度の例が適応ですからリリーフ専門のピッチャーと言えるでしょう。使用上の特徴として、コリンエステラーゼ阻害薬は複数処方できませんが、コリンエステラーゼ阻害薬と本剤の併用は可能なことがあります。この薬は原則として1週間ごとに増量していきます。ところが、わが国では15~20mg/日の段階で、強い眩暈や眠気などの副作用を来す例が少なくないことがわかっています。この副作用を防止するために、2~4週間毎に増量する方法を勧める専門医もいらっしゃいます。10 BPSDに対する抗不安薬や気分安定薬などの上手な使い方は?10 BPSDに対する治療の基本は薬物治療ではなく、対応法の工夫・環境調整やデイケアも含めた非薬物療法にあります。薬物は、それらでだめな場合に使うセカンドチョイスと位置づけたほうがよいと思われます。その理由として、せん妄や幻覚・妄想など精神面のみならず、錐体外路症状そして転倒などの副作用があります。また高齢者では10種類以上の薬剤を服用していることも珍しくありませんから、処方薬を加えることでさまざまな副作用を生じるリスクは指数関数的に上昇します。そうは言っても薬物治療が求められるのは、暴言・暴力、不眠・夜間の興奮、幻覚・妄想などのBPSDが激しいケースでしょう。このような場合に向精神薬を処方するとしたら、とくに以下の点を考慮してください。筋弛緩・錐体外路症状などの易転倒性を惹起する可能性、それに意識障害を起こす危険性です。そうなると、ほとんどの抗精神病薬(メジャートランキライザー)、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬・睡眠薬は使えません。また三環系の抗うつ薬も同様です。そこで、あくまで私的な方法ですが、私は漢方薬を好んで使います。抑肝散、抑肝散加陳皮半夏などが主です。抗不安薬では、鎮静効果を狙って非ベンゾジアゼピン系のタンドスピロン、睡眠薬としてはむしろ睡眠・覚醒のリズム作りを狙ってラメルテオンを使うことがあります。こうした薬剤で無効なときには、バルプロ酸やカルバマゼピンといった抗てんかん薬も使います。どうにもならない激しい暴力・攻撃性には最後の手段として、スルトプリドをごくわずか(20~30mg/日)処方します。多くの場合、適応外使用ですから、このことをしっかり説明したうえで処方すべきでしょう。

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バイポーラの躁症状に対するアリピプラゾールの位置付けは?

 近年、わが国では双極性障害に適応を有する薬剤が次々と承認されている。従来、気分安定薬を中心とした薬剤が主流であったが、非定型抗精神病薬も使用可能となった。双極性障害患者の急性躁症状に対し、明確な薬理学的および副作用プロファイルを有するアリピプラゾールをどのように使用すべきだろうか。英国のDratcu氏らは、双極性障害患者の急性躁症状に対し、アリピプラゾールの豊富な使用経験を有する英国の医療専門家による委員会にて議論を行った。Int J Psychiatry Clin Pract誌2012年10月号の報告。主な結果は以下のとおり。・アリピプラゾールは短期、長期にかかわらず、また単剤、気分安定薬との併用にかかわらず、適正に使用することで、双極性障害患者の躁症状に有効であるとの見解が一致した。・他の非定型抗精神病薬と異なり、アリピプラゾールの躁症状への効果は鎮静作用に関連していなかった。このことより、患者にとってとくに長期的なメリットが大きいと考えられる。・急速な鎮静が必要な場合には、ベンゾジアゼピン系薬剤の短期間併用が推奨される。・アリピプラゾールに関連しているほとんどの副作用は、最初の1~3週間以内に発現し、通常は一時的かつ簡便に治療可能である。・アリピプラゾールは、代謝系の副作用や性機能不全のリスク低下をもたらし、アドヒアランスを高め、臨床転帰を向上させることができる薬剤である。・良好な安全性・忍容性プロファイルを有するアリピプラゾールは、双極性障害患者の急性躁症状に対しファーストライン治療薬として推奨される。関連医療ニュース ・アリピプラゾールが有用な双極性障害の患者像とは? ・うつ病の5人に1人が双極性障害、躁症状どう見つける? ・アリピプラゾールで患者満足度向上?!

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特定の抗うつ薬使用で脳内ヘモグロビン濃度が増加!:名古屋大学

 近年、日本の研究者たちは脳活動の変化に基づいて精神疾患を診断するために、近赤外分光法(NIRS)を用いた研究を行ってきた。NIRSとは、近赤外光を生体外から照射し、組織内を透過した光を分析することにより、組織血液中におけるヘモグロビンの状態を調べる方法である。しかし、NIRS測定における向精神薬の影響については明らかになっていない。名古屋大学 幸村氏らはNIRSを用いて健常者の前頭前野活性に対する抗うつ薬の鎮静効果を評価した。その結果、ミルタザピンの投与によりヘモグロビン濃度の増加が認められたことを報告した。Psychopharmacology (Berl)誌オンライン版2012年10月5日号の掲載。 健常男性19名を対象としたプラセボ対照二重盲検クロスオーバー試験。ミルタザピン15㎎、トラゾドン25㎎、プラセボを8日間連続で夜間に投与し、1週間以上のウォッシュアウト期間を設けながらローテーションを行った。被験者は、試験期間中に計7回、NIRSを行った(試験開始1週間以上前および各ローテーションの第2、9日目)。NIRS実施時には、言語流暢タスクを計測し、正確な言語の数(行動遂行)を記録した。スタンフォード眠気尺度(SSS)スコアは毎日測定した。 主な結果は以下のとおり。・ミルタザピン投与後9日目におけるNIRSの結果によると、他の群と比較し、オキシヘモグロビン(oxy-Hb)濃度の有意な増加が認められた。・ミルタザピン投与後2日目には、他の群と比較し、SSSスコアの有意な上昇が認められた。・すべての群において、行動遂行に有意差は認められなかった。 これらの結果を受けて、著者は「精神障害をもつ患者の脳活動を評価するにあたって、特定の種類の抗うつ薬が脳機能に影響を与える可能性についても検討すべきである」としている。関連医療ニュース ・統合失調症患者の認知機能改善にフルボキサミンは有効か? ・SPECT画像診断による前頭部脳血流評価で、大うつ病高齢者のSSRI有効性を予測 ・うつ病治療におけるNaSSA+SNRIの薬理学的メリット

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ジプレキサ筋注用10mg、承認取得

 日本イーライリリー株式会社は9月28日、統合失調症の急性期治療のための非定型抗精神病薬の注射剤「ジプレキサ筋注用10mg(一般名:オランザピン)」の承認を取得したと発表した。 統合失調症の急性期には、リスクが高い危険な行動につながるような過度の興奮、焦躁、激越などの精神症状を速やかに鎮静させるために、経口投与が困難な場合には注射剤が使用される場合がある。統合失調症治療ガイドラインによると、急性期治療の薬物治療においては非定型抗精神病薬が第一選択薬とされている。しかし、日本では速効性の非定型抗精神病薬の注射剤が承認されていなかった。今回承認されたジプレキサ筋注用10mgは、「統合失調症における精神運動興奮」に適応が認められた最初の非定型抗精神病薬の速効性筋注製剤となる。 オランザピンは非定型抗精神病薬と呼ばれる統合失調症治療薬であり、1996年に米国で発売された。日本では2001年6月にジプレキサ錠(フィルムコート錠)の販売を開始した。現在は、ジプレキサ細粒、ジプレキサザイディス錠(口腔内崩壊錠)と剤型もそろっている。今回承認されたジプレキサ筋注用10mgは、非経口的治療が必要となる統合失調症の急性期治療薬として開発され、世界では、約83ヵ国または地域で承認されている(2012年8月現在)。詳細はプレスリリースへhttps://www.lilly.co.jp/pressrelease/2012/news_2012_129.aspx

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急性期の新たな治療選択となりうるか?非定型抗精神病薬ルラシドン

 現在、国内でも開発が進められている非定型抗精神病薬 ルラシドン。本剤の統合失調症の急性増悪期に対する有効性および安全性を評価した試験結果がPsychopharmacology (Berl)誌オンライン版2012年8月19日号で発表された。大日本住友製薬 小笠氏らは「ルラシドンは統合失調症の急性増悪期に有効であり、体重や脂質代謝への影響も少ない」と報告した。 急性期増悪期の統合失調症患者を対象としたプラセボ対照無作為化二重盲検比較試験。ルラシドン40㎎群50例、ルラシドン120㎎群49例、プラセボ群50例に無作為に割り付け、1日1回固定用量にて6週間投与した。有効性の主要評価項目は、BPRS(簡易精神症状評価尺度)、PANSS(陽性・陰性症状評価尺度)のベースラインからの変化量とした。主な結果は以下のとおり。・ルラシドン40㎎群および120㎎群におけるBPRSの平均変化量は、プラセボ群と比較し有意に高かった(-9.4 and -11.0 vs -3.8、各々 p=0.018 、 p=0.004)。・ルラシドン120㎎群は副次評価を含めたすべての評価項目でプラセボ群よりも優れていた(PANSS総合スコア:p=0.009、PANSS陽性尺度:p=0.005、PANSS陰性尺度: p=0.011、PANSS総合精神病理尺度:p=0.023、CGI-S[臨床全般印象・重症度尺度]:p=0.001)。・ルラシドン40㎎群はPANSS陽性尺度(p=0.018)およびCGI-S(p=0.002)においてプラセボ群より優れていた。・ルラシドン群における最も一般的な有害事象は、悪心(16.2% vs 4.0%[プラセボ群])、鎮静(16.2% vs 10.0%[プラセボ群])であった。・体重、コレステロール、トリグリセリド、グルコース濃度の変化は最小限であった。関連医療ニュース ・統合失調症患者における「禁煙」は治療に影響を与えるか? ・デポ剤使用で寛解率は向上するのか? ・ルラシドンの長期投与試験

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パリペリドンはリスペリドンよりも安全性プロファイルが良好

Yoon氏らはパリペリドン徐放剤(ER)とリスペリドン両薬剤間に安全性プロファイルの違いがあるかをプラセボ対照二重盲検比較試験にて検討した。著者らは「パリペリドンERは主観的な陰性症状や認知機能への影響が少なく、安全性プロファイルが良好な薬剤だと考えられる」と結論づけている。この論文は、Hum Psychopharmacol誌2012年5月号に掲載された。本試験では、健常ボランティア32名を対象にパリペリドンER(6mg)またはリスペリドン(3mg)またはプラセボを一定用量で3日間投与し、主観的な二次性陰性症状や認知機能への影響を調査した。主な結果は以下のとおり。 ・リスペリドン群ではパリペリドンER群、プラセボ群と比較してより有害な主観的経験と関係していた(p<0.05)。そして、この関係は精神的および身体的症状を鎮静し、コントロールした後も変わらなかった。・認知機能への影響は、パリペリドンER群とリスペリドン群(p<0.005)、プラセボ群とリスペリドン群(p<0.005)で有意に関係した。・パリペリドンERはリスペリドンと比較して主観的な陰性症状や認知機能への影響が少なく、安全性プロファイルが良好な可能性がある。(ケアネット 鷹野 敦夫)

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統合失調症治療薬ルラシドンの長期投与試験

統合失調症治療薬ルラシドンの12ヵ月にわたる長期投与試験の結果が発表された。Citrome氏らはルラシドンの長期安全性および忍容性を評価する目的でリスペリドンとの二重盲検比較試験を実施し、「ルラシドンは長期投与により良好な忍容性が示された」と報告した。安定した統合失調症外来患者427例をルラシドン群(40-120mg/日)とリスペリドン群(2-6mg/日)に2:1の比率で割り付け比較検討した。主な結果は以下のとおり。 1)ルラシドン群(vs リスペリドン群)で最も多くみられた有害事象は、嘔気(16.7% vs 10.9%)、不眠症(15.8% vs 13.4%)、鎮静(14.6% vs 13.9%)であった。2)リスペリドン群(vs ルラシドン群)で最も多くみられた有害事象は、体重増加(19.8% vs 9.3%)、傾眠(17.8% vs 13.6%)、頭痛(14.9% vs 10.0%)であった。3)少なくとも7%の体重増加がみられた患者はリスペリドン群 vs ルラシドン群=14% vs 7%であった。4)プロラクチン値の変化量はリスペリドン群で有意に高かった(p

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統合失調症の再発予防のポイントとは?

統合失調症の治療において、再発を予防することは極めて重要な課題である。Leucht氏らは抗精神病薬の再発予防への影響を分析した。統合失調症患者の維持治療期おける65件のプラセボ対照無作為化試験から得られた116件の報告より6,493名の患者データを抽出した。主要評価項目は7~12ヵ月後の再発率とし、忍容性や機能的な影響に関しても調査した。主な結果は以下のとおり。 1)抗精神病薬投与群ではプラセボ群と比較して1年後の再発率を有意に低下させた(27% vs 64%、リスク比=0.40(95%信頼区間=0.33-0.49)、number needed to treat to benefit(NNTB)=3(95%信頼区間=2-3))。2)抗精神病薬投与群では再入院率は低かった(10% vs 26%、リスク比=0.38(95%信頼区間=0.27-0.55)、NNTB=5(95%信頼区間=4-9))。3)抗精神病薬投与群で良好なQOL(両群間の変化差=-0.62(95%信頼区間=-1.15 to -0.09))、攻撃性の低下(2% vs 12%、リスク比=0.27(95%信頼区間=0.15-0.52)、NNTB=11(95%信頼区間=6-100))が認められた。4)抗精神病薬投与群では体重増加(10% vs 6%、リスク比=2.07(95%信頼区間=2.31-3.25))、運動障害(16% vs 9%、リスク比=1.55(95%信頼区間=1.25-1.93))、過鎮静(13% vs 9%、リスク比=1.50(95%信頼区間=1.22-1.84))が多く認められた。5)サブグループ解析の結果、エピソード数、寛解率の有無、治療中止方法、症状安定期間、第1世代または第2世代抗精神病薬使用状況、無作為割り当て方法に関しては有意な影響を及ぼさなかった。6)デポ剤投与患者では経口剤投与患者と比較して再発率が低かった(リスク比=0.31(95%信頼区間=0.21-0.41))。7)抗精神病薬の効果は非盲検下の2試験においてより大きかった。8)メタ回帰分析では、抗精神病薬投与群とプラセボ群の差は試験期間により減少した。

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不眠症治療薬「ルネスタ」新発売

エーザイ18日、不眠症治療薬「ルネスタ」(一般名:エスゾピクロン)を国内において新発売する。同剤は、米サノビオン社(旧セプラコール社:現在は大日本住友製薬株式会社の米国子会社)によって創製され、非ベンゾジアゼピン系の薬剤としては国内では12年ぶりの新薬となるGABAA受容体作動薬で、GABAの効果を増強して催眠作用および鎮静作用を発揮すると考えられている。国内外の臨床試験では、不眠症の主症状である入眠障害と中途覚醒のいずれにも有効であることが示されている。また、臨床的に問題となる依存性や持ち越し効果などは認められず、長期投与による耐性(有効性の減弱)を示さないという特徴も有しているという。また同剤は、米国では2005年4月より製品名「LUNESTA」として販売されている。LUNESTAは、米国では初めて投与期間に関する制限の無い不眠症治療薬として承認を取得し、不眠症の患者様に主に単剤で広く使用されているとのこと。日本では、同社がサノビオン社より独占的開発・販売権を獲得して開発を進め、2012年1月に製造販売承認を取得、4月17日に薬価収載された。詳細はプレスリリースへhttp://www.eisai.co.jp/news/news201216.html

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双極性障害治療における課題と新たな治療選択肢への期待

 2012年2月22日、オランザピン(商品名:ジプレキサ)の「双極性障害におけるうつ症状の改善」の適応承認を受け、3月14日、日本イーライリリー株式会社による記者発表会が開催された。この会では、帝京大学医学部附属溝口病院精神神経科科長・教授の張賢徳氏より、現在の双極性障害治療の課題や新たなる選択肢への期待などについて講演が行われた。双極性障害とは? 双極性障害は躁症状とうつ症状の二つの病相を繰り返す疾患であり、わが国における生涯有病率は0.6%程度 1) と決して珍しい疾患ではない。躁症状は自尊心の肥大や快楽的活動への熱中などにより人間関係や社会的信頼の失墜をもたらす一方で、うつ症状は無気力や種々の身体症状、自殺のリスクの増大などにより、患者やその家族の社会生活に大きな影響を及ぼすことが知られている。双極性障害診療の問題点 双極性障害の診断には躁症状の認識が重要であるが、患者が躁症状を自覚していないことが多く、医師に報告されないことも多いため診断が難しいと言われている。さらに、双極性障害におけるうつ症状と単極性うつ病の症状は類似しており、鑑別が難しいケースが少なくない。海外の報告によると、69%の患者が単極性うつ病など他の精神疾患と診断され、適切に診断されるまで10年以上かかる患者は35%にのぼると言われている 2)。 鑑別診断が難しい一方で、薬物治療に関してはそれぞれのうつ症状に対し、異なるアプローチを要する。しかし、これまで、わが国において双極性障害におけるうつ症状の改善の適応を有する治療薬はなく、気分安定薬や抗精神病薬、抗うつ薬などが用いられてきた。双極性障害におけるうつ症状に対し抗うつ薬治療を継続すると、躁転やラピッドサイクル化、衝動性の亢進などのリスクが伴うことが報告されており 3)、その使用の是非や適切な治療の重要性が長期にわたり叫ばれてきた。オランザピン、「躁」「うつ」両症状に適応をもつ唯一の双極性障害治療剤に このような背景のもと、非定型抗精神病薬であるオランザピンは双極性障害における躁症状に加え、わが国では初となるうつ症状の改善も承認され、両症状の改善に適応が認められた唯一の薬剤となった。 今回の適応取得の根拠となった国際共同第III相プラセボ対象二重盲検比較試験及び非盲検継続治療試験(HGMP試験)は、DSM-IV-TRにより『双極I型障害、最も新しいエピソードがうつ病』と診断され、大うつ病エピソードの基準を満たしている患者514例を対象としており、日本人156例も含まれる。結果をみると、最終観察時点(投与開始6週後)におけるMADRS(Montgomery-Asberg Depression Rating Scale:うつ症状の評価指標)合計点のベースラインからの変化量の平均値は、オランザピン群でプラセボ群と比較して有意な改善が認められ、日本人のみで検討した場合でも同様の結果が示された。また、うつ症状治療時における躁症状の発現率もプラセボと比較して有意に少ないことも示された。HGMP試験に続いて実施された長期投与試験(HGMS試験)では、HGMP試験を完了した日本人患者及びHGMS試験から参加した患者を対象に48週間、オランザピンの持続した効果が示された。張氏は講演の中で、「双極性障害の治療の基本は波のコントロールである。両症状の改善の適応をもつオランザピンは情動の安定化が期待できるのではないだろうか」と述べた。 なお、同試験における副作用は、頻度の高いものから体重増加、傾眠、食欲亢進、鎮静、過眠症などであった。 また、うつ症状の疾患自体に自殺のリスクが伴うため、十分に患者の状態を評価しながら投与することが必要であることから、添付文書の使用上の注意に自殺に対する注意喚起が追記された。今後への期待 双極性障害は患者の社会生活や健康、生命が脅かされる重大な疾患であり、薬物治療を中断すると再発するリスクが大きいことが知られている。さらに再発を繰り返すにつれて次の再発までの期間が短くなることに加え、薬剤の効果が得られなくなることが報告されており 4)、早い段階から適切な治療を行うことが必要である。 双極性障害の治療目標の一つに、「再発を防ぎ、患者が普通の社会生活を送れるようにする」ことが挙げられる。わが国で唯一、双極性障害における躁症状とうつ症状の両症状に適応を有するオランザピンは今後、長期的な症状のコントロールと再発の予防の観点からも、治療上重要な役割を担うことが期待される。

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ICU入院中のせん妄発現リスクの予測モデルを開発

集中治療室(ICU)入院患者におけるせん妄の発現リスクを、入院後24時間以内に評価が可能なリスク因子を用いて予測するモデルが、オランダRadboud大学ナイメーヘン医療センターのM van den Boogaard氏らによって開発された。せん妄は、精神状態の変動や意識レベルの変化の急性な発現で特徴付けられ、罹病率や死亡率の高い重篤な病態である。ICU入院中の患者はせん妄のリスク因子を有するが、その発現の予測モデルは確立されていないという。BMJ誌2012年2月25日号(オンライン版2012年2月9日号)掲載の報告。せん妄の予測モデルを開発し、妥当性を検証する観察試験研究グループは、成人のICU入院患者におけるせん妄の発現を予測するモデル(PRE-DELIRIC[PREdiction of DELIRium for Intensive Care patients]モデル)を開発し、その妥当性を検証する多施設共同の観察試験を実施した。オランダの5つのICU(2つの大学病院と3つの大学関連の教育病院)から、18歳以上のICU入院患者3,056例が登録された。1つの施設のICUに入院した1,613例のデータを用いてモデルを開発し、同じ施設に入院した549例で時間的妥当性の検証を行った。外的妥当性の検証には他の4施設に入院した894例のデータを用いた。PRE-DELIRICモデルは、10のリスク因子(年齢、APACHE-IIスコア、入院形態[外科/内科/外傷/神経・脳神経]、昏睡、感染、代謝性アシドーシス、鎮静薬の使用、モルヒネの使用、尿素濃度、緊急入院)で構成された。モデルの予測能は看護師、医師よりも良好モデルの予測能を受信者動作特性(ROC)曲線下面積で評価したところ0.87(95%信頼区間[CI]:0.85~0.89)という良好な値が得られた。ブートストラップ法で過剰適合(overfitting)を調整後のROC曲線下面積は0.86だった。時間的妥当性および外的妥当性のROC曲線下面積はそれぞれ0.89(95%CI:0.86~0.92)、0.84(同:0.82~0.87)であった。3,056例全例に関する統合ROC曲線下面積は0.85(同:0.84~0.87)だった。便宜的なサンプル(124例)を用いてモデルと医療者のリスク予測能を比較したところ、モデルのROC曲線下面積が0.87(同:0.81~0.93)であったのに対し、看護師は0.59(同:0.49~0.70)、医師も0.59(同:0.49~0.70)と有意に低値であった。著者は、「ICU入院後24時間以内に評価可能な10のリスク因子から成るPRE-DELIRICモデルは、せん妄発現の高い予測能を持つことが示された」と結論し、「このモデルを用いれば、せん妄のリスクが高く予防対策の導入を要する患者を早期に同定することが可能である」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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新たなサーファクタント治療が早産児の人工呼吸器適応を低減

持続的気道陽圧法(CPAP)で自発呼吸が保持されている早産児では、細いカテーテルを用いたサーファクタント治療によって人工呼吸器の適応が低減することが、ドイツLubeck大学のWolfgang Gopel氏、Cologne大学のAngela Kribs氏らが実施したAMV試験で示された。サーファクタント治療は、通常、呼吸窮迫症候群の治療のために人工呼吸器を装着された早産児に気管内チューブを介して施行されるが、挿管せずに安定状態が保持されている早産児にはCPAPの不利益を考慮してこの治療は行われない。一方、ドイツの新生児集中治療施設では、気管内挿管や人工呼吸器を必要としないサーファクタント治療(治療中のみ気管内に細いカテーテルを留置してCPAPを行いながら施行)が広く普及しつつあるという。Lancet誌2011年11月5日号(オンライン版2011年9月30日号)掲載の報告。人工呼吸器の使用を回避して自発呼吸をうながす新たなサーファクタント治療AMV(Avoiding Mechanical Ventilation)試験の研究グループは、早産児において人工呼吸器の使用を回避して自発呼吸を促す新たなサーファクタント治療の有用性を評価するための無作為化対照比較試験を行った。2007年10月~2010年1月までに、ドイツの12の新生児集中治療施設に在胎週数26~28週、出生時体重1.5kg未満の早産児220人が登録された。これらの新生児が、生後12時間以内に標準治療群あるいは介入群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。すべての早産児はCPAPで安定状態を保持され、必要に応じてレスキュー挿管が行われた。介入群の早産児には、自発呼吸をうながすために吸入気酸素濃度(FiO2)が0.30以上となるよう、喉頭鏡で気管内に細いカテーテル(2.5~5 french)を留置して経鼻的CPAPが施行された。カテーテル留置後に喉頭鏡を外して1~3分間の気管内サーファクタント治療(100mg/kg体重)を行い、治療終了後は即座にカテーテルを抜去した。主要評価項目は、生後25~72時間において、人工呼吸器の適応もしくは人工呼吸器は使用しないが二酸化炭素分圧(pCO2)65mmHg(8.6kPa)以上かFiO2 0.60以上、あるいはその双方を要する状態が2時間以上に達した場合とした。生後2~3日および在院期間中の人工呼吸器適応率が有意に改善介入群に108人が、標準治療群には112人が割り付けられ、すべての新生児が解析の対象となった。生後2~3日における人工呼吸器の適応率は介入群の28%(30/108人)に対し標準治療群は46%(51/112人)であり、有意な差が認められた(絶対リスク低下:-0.18、95%信頼区間:-0.30~-0.05、p=0.008)。在院期間中の人工呼吸器適応率は介入群の33%(36/108人)に比べ標準治療群は73%(82/112人)と、有意差がみられた(絶対リスク低下:-0.40、95%信頼区間:-0.52~-0.27、p<0.0001)。人工呼吸器使用日数中央値は、介入群が0日、標準治療群は2日であり、生後28日までに酸素補給療法を要した早産児は30%(30/101人)、標準治療群は45%(49/109人)(p=0.032)であった。死亡数は介入群が7人、標準治療群は5人、重篤な有害事象はそれぞれ21人、28人であり、いずれも有意な差はなかった。著者は、「CPAPによって自発呼吸が保持されている早産児に対する細いカテーテルを用いたサーファクタント治療は、標準治療に比べ人工呼吸器の適応を低減させた」と結論したうえで、「鎮痛薬や鎮静薬の使用は主要評価項目に影響を及ぼさなかったが、極度な未熟児ではこれらの薬剤による血圧低下や脳灌流障害の有害な影響が指摘されており、介入群で使用頻度が低かったことがベネフィットにつながった可能性もある」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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「眠気の強さ」=「効果の強さ」!?

平成23年9月28日、東京・大手町にて、NPO法人「皮膚の健康研究機構」理事・東京女子医科大学皮膚科学教授川島眞氏、東京大学大学院医学系研究科医学部皮膚科学教授佐藤伸一氏により、大規模比較検討試験「ACROSS Trial」の結果が発表された。「ACROSS Trial」の背景と目的じんましんやアトピー性皮膚炎の治療薬である抗ヒスタミン薬は、副作用として眠気をきたすことがある。80年代から眠気が少ない非鎮静性抗ヒスタミン薬(ほとんどが第2世代)が登場してきたが、眠気が強い第1世代抗ヒスタミン薬のシェアは、2008年に56%、2009年に52%、2010年に49%と依然高いままである1)。その理由として、約半数の臨床医と患者は「眠気の強さ」=「効果の強さ」と考えていることがわかっている 2)。この考えは正しいかどうかを検証するため、NPO法人「皮膚の健康研究機構」は2010年1月~10月にかけて、比較検討試験「ACROSS Trial(Antihistamine CROSSover Trial)」を実施した。ACROSS Trialはアトピー性皮膚炎および慢性じんましん患者502例を対象として行った多施設無作為化オープンラベルクロスオーバー比較試験である。非鎮静性抗ヒスタミン薬としてベポタスチンベシル酸塩を1回10mg、1日2回経口投与、鎮静性抗ヒスタミン薬としてd-クロルフェニラミンを1回2mg、1日3回経口投与、もしくはケトチフェンを1回1mg、1日2回経口投与した 3)。「眠気の強さ」≠「効果の強さ」本試験の結果をみると、鎮静性抗ヒスタミン薬において、投与前後に眠気の程度が悪化したのに対し、非鎮静性抗ヒスタミン薬では眠気の程度に変化がなく、薬剤間で統計学的に有意差が認められた。一方、かゆみの抑制効果について、非鎮静性抗ヒスタミン薬は、鎮静性抗ヒスタミン薬と同程度の抑制効果を示し、両薬剤間に有意差は認められなかった。また、眠気以外の有害事象は、鎮静性抗ヒスタミン薬が8例9件(口渇2件、倦怠感5件、下痢1件、ふらつき感1件)がみられ、非鎮静性抗ヒスタミン薬であるベポタスチンベシル酸塩には1件も認められなかった。まとめ非鎮静性抗ヒスタミン薬であるベポタスチンベシル酸塩は、眠気の程度に影響を与えない一方、鎮静性抗ヒスタミン薬と同等の有効性を有することから、佐藤氏らは「眠気の強さと効果の強さは相関しない」と結論付けた。さらに、安全性の観点から、蕁麻疹診療ガイドライン(日本皮膚科学会ガイドライン)に基づき、鎮静性の低い第2世代抗ヒスタミン薬を第一選択薬として扱うべきと強調した 4)。 出典:1) 株式会社医療情報総合研究所(JMIRI)の調査より2) 川島眞 監修. 抗ヒスタミン薬の真・事実. じほうヴィゴラス, 2011.  3) 川島眞 ほか. J Clin Therap Med. 2011; 27: 563-573.4) 秀道広 ほか. 日本皮膚科学会雑誌. 2011; 121: 1339-1388.(ケアネット 呉 晨)

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新型インフル、住民の13.5%が抗体陽転、施設入所者・職員は1.2%に留まる:シンガポール

シンガポールでは、2009年の新型(H1N1)インフルエンザ流行後に抗体陽転が起こっていたのは、一般住民の13.5%に上っていたという。一方で、長期ケア施設入所者・職員の同割合は、1.2%と低かった。シンガポールTan Tock Seng病院のMark I. C. Chen氏らが、一般住民や軍人など異なる集団の抗体陽転率について調査を行い明らかにしたもので、JAMA誌2010年4月14日号で発表した。流行前期の抗体価40以上は一般市民の2.6%シンガポールでは、新型インフルの流行は2009年6月に始まり8月にそのピークを迎えた。同研究グループは、一般住民(838人)、軍人(1,213人)、急性期病院の職員(558人)、長期ケア施設職員と入所者(300人)の4つの異なるコホートについて、新型インフル流行前期から流行後の抗体陽転率について調査を行った。血清サンプルの採取は、同流行前期、流行ピークの約4週間後、流行鎮静後4週間以降の3回行い、赤血球凝集抑制試験を実施した。いずれかの検査で、抗体価が4倍以上に増えた場合を、抗体陽転と定義した。初回検査で抗体価が40以上だったのは、一般市民22人(2.6%)、軍人114人(9.4%)、病院職員37人(6.6%)、長期ケア施設者20人(6.7%)だった。一般市民、年齢10歳上がるごとに抗体陽転リスクは0.77倍減少血清サンプルを1回以上摂取した人のうち、抗体陽転がみられたのは、軍人が最も高率で312人(29.4%、95%信頼区間:26.8~32.2)、次いで一般市民が98人(13.5%、同:11.2~16.2)、病院職員が35人(6.5%、同:4.7~8.9)で、最も低率だったのは長期ケア施設者で3人(1.2%、同:0.4~3.5)だった。抗体陽転リスクが高かったのは、一般市民で同居人1人以上が抗体陽転していた場合で、オッズ比は3.32(95%信頼区間:1.50~7.33)だった。一方で、一般市民のうち年齢が高いほど同リスクは低く、年齢が10歳高いことによるオッズ比は、0.77(同:0.64~0.93)だった。初回検査時点の抗体価が高い人も、抗体陽転リスクが低く、同抗体価2倍増における同リスクの補正後オッズ比は、一般市民が0.48、軍人が0.71、病院職員が0.50だった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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人工呼吸器装着の重症疾患患者、非鎮静で非装着日数が増加

人工呼吸器装着中の重症疾患患者では、毎日中断しながら鎮静を継続する方法よりも鎮静を行わない方法が、非装着日数を増加させることが、デンマークOdense大学病院麻酔科・集中治療医学のThomas Strøm氏らが実施した無作為化試験で示された。人工呼吸器装着重症疾患患者の標準治療では、通常、持続的な鎮静が行われる。最近は毎日中断しながら鎮静を継続する方法の有用性も示されているが、Odense大学病院の集中治療室(ICU)では非鎮静のプロトコールが標準だという。Lancet誌2010年2月6日号(オンライン版2010年1月29日号)掲載の報告。非鎮静群と中断的鎮静群の非装着日数を比較する単施設無作為化試験研究グループは、人工呼吸器装着期間は毎日中断しながら鎮静を継続する方法よりも鎮静を行わない方法で短縮できることを検証するために、単施設における無作為化試験を実施した。24時間以上の人工呼吸器の装着を要すると考えられる成人重症疾患患者140例が登録され、非鎮静群(70例)あるいは毎日中断しながら鎮静[プロポフォール(商品名:ディプリバンなど)20mg/mLを48時間、以後ミダゾラム(同:ドルミカムなど)1mg/mL]を続ける群(70例)に無作為に割り付けられた。両群ともモルヒネ(2.5あるいは5mg)がボーラス投与された。主要評価項目は人工呼吸器装着後28日までの非装着日数とし、入院~28日までのICU収容日数および入院~90日までの入院日数も記録した。28日までの非装着日数:13.8日 vs. 9.6日48時間以内に死亡あるいは人工呼吸器が抜管された27例が試験から除外された。平均人工呼吸器非装着日数は、非鎮静群(55例)が13.8日と中断的鎮静群(58例)の9.6日に比べ有意に増加した(平均差:4.2日、p=0.0191)。非鎮静群は、ICU在室日数(ハザード比:1.86、p=0.0316)および30日までの入院日数(同:3.57、p=0.0039)がともに、中断的鎮静群よりも有意に短かった。事故による抜管、CTやMRIによる脳検査を要する症例、人工呼吸器関連の肺炎はみられなかった。激越型せん妄の頻度は、非鎮静群が20%(11/55例)と中断的鎮静群の7%(4/58例)に比べ有意に高かった(p=0.0400)。著者は、「人工呼吸器装着重症疾患患者では、毎日中断しながら鎮静を行うよりも鎮静を行わない方法が非装着日数を増加させる」と結論し、「この効果の他施設における再現性を検証するために多施設共同試験を実施すべき」としている。(菅野守:医学ライター)

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米国で鎮静剤「LUSEDRA注射剤」新発売

エーザイ株式会社は17日、鎮静剤「LUSEDRA(一般名:fospropofol disodium)注射剤」について、米国にて発売を開始したと発表した。同剤は全身麻酔についての訓練を受けた医療従事者によって使用されることになるという。LUSEDRA注射剤は、プロポフォールの水溶性プロドラッグで、静脈注射後、体内で酵素(アルカリ・フォスファターゼ)によりプロポフォールに変換され、鎮静効果を発現する。同剤は、監視下鎮静管理(monitored anesthesia care: MAC)による、成人患者の検査もしくは処置における鎮静の適応について、2008年12月に米国食品医薬品局(FDA)より承認された。なお、同剤は、FDAよりスケジュールIV医薬品に規制分類指定されている。詳細はプレスリリースへ(PDF)http://www.eisai.co.jp/news/news200948pdf.pdf

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ケタミンは、迅速気管挿管時の鎮静においてetomidateと代替可能

フェンサイクリジン系麻酔薬であるケタミン(商品名:ケタラール)は、重症患者に対する迅速気管挿管時の鎮静薬として安全に使用でき、etomidateの代替薬となりうることが、フランスParis 第13大学のPatricia Jabre氏らが実施した無作為化試験で明らかにされた。重症患者は緊急の挿管を要することが多いが、鎮静薬として頻用されるetomidateは用量依存的な11βヒドロキシラーゼ阻害により可逆的な副腎の機能不全を引き起こす可能性があり、院内合併症罹患率の上昇を招くおそれがあるという。Lancet誌2009年7月25日号(オンライン版2009年7月1日号)掲載の報告。87施設から655例を登録、最大SOFAスコアを評価研究グループは、重症患者に対する迅速気管挿管時のetomidateとケタミンの単回投与法の安全性と有効性を評価する単盲検無作為化対照比較試験を実施した。2007年4月~2008年2月までに、フランスの12の救急医療施設/病院救急部、および65の集中治療室(ICU)から、迅速気管挿管のために鎮静を要する655例がプロスペクティブに登録され、etomidate 0.3mg/kg(328例)あるいはケタミン2mg/kg(327例)を投与する群に無作為に割り付けられた。患者登録を行った救急医は薬剤の割り付けを知り得た。主要評価項目は、ICU入院から3日目までの臓器不全評価(sequential organ failure assessment:SOFA)の最大スコアとした。病院到着前に死亡した症例やICUを3日以内に退院した症例は除外したうえで、modified intention to treat解析を行った。SOFAスコア、挿管困難度は同等、副腎機能不全はetomidate群で有意に多い解析の対象となったのは、etomidate群が234例、ケタミン群は235例であった。SOFAスコアは、etomidate群が10.3、ケタミン群は9.6で、差の平均値は0.7(95%信頼区間:0.0~1.4、p=0.056)であり、有意差は認めなかった。挿管の状態にも有意な差はなく、挿管困難度スコア(スコアが上がるほど困難度が高くなる)の中央値は両群ともに1であった(p=0.70)。副腎機能不全の発生率は、ケタミン群の48%に比べetomidate群では86%と有意に高かった(オッズ比:6.7、95%信頼区間:3.5~12.7、p<0.0001)。両群とも、重篤な有害事象は認めなかった。著者は、「重症患者の迅速気管挿管時の鎮静薬として、ケタミンは安全に使用でき、有効性もetomidateと同等であることから、その代替薬となりうる」と結論し、「敗血症合併例では、有意差はないもののSOFAスコアおよび死亡率がケタミン群で優れる傾向がみられることから、これらの患者では特にケタミンを考慮すべきであろう」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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