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コロナ急性期、葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏の症状消失までの期間は?/東北大

 コロナウイルス感染症(COVID-19)の急性期症状を有する患者に、対症療法に加えて葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を投与した結果、有意差はなかったもののすべての症状の消失までの期間は対照群よりも早い傾向にあり、息切れの消失は補足的評価において有意に早かったことを、東北大学の高山 真氏らが明らかにした。Journal of Infection and Chemotherapy誌オンライン版2023年7月26日号の報告。 高山氏らが2021年2月22日~2022年2月16日にかけて実施した多施設共同ランダム化比較試験1)において、葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏の併用により、軽症~中等症I患者の発熱が早期に緩和され、とくに中等症I患者では呼吸不全への悪化が抑制傾向にあったことが報告されている。COVID-19の症状や病状悪化のリスクはワクチン接種の有無によって異なる可能性があるため、今回はこのランダム化比較試験のデータを用いて、ワクチン接種の有無も加味した症状の消失に焦点を当てた事後分析を行った。 研究グループは、20歳以上で軽症~中等症IのCOVID-19患者を対象に、通常の対症療法(解熱薬、鎮咳薬、去痰薬投与)を行うグループ(対照群)と、対症療法に加えて葛根湯2.5g+小柴胡湯加桔梗石膏2.5gを1日3回14日間経口投与するグループ(漢方群)の風邪様症状(発熱、咳、痰、倦怠感、息切れ)が消失するまでの日数を解析した。 主な結果は以下のとおり。・解析には、漢方群73例(男性64.4%、年齢中央値35.0歳)、対照群75例(65.3%、36.0歳)が含まれた。そのうち、ワクチン接種者は、漢方群7例(9.6%)、対照群8例(10.7%)であった。初回診察時のリスク因子や重症度は両群で同等であった。・少なくとも1つ以上の症状が消失した割合は、漢方群84.9%、対照群84.0%であった。消失までに要した日数の中央値は漢方群2日(90%信頼区間[CI]:2.0~3.0)、対照群3日(90%CI:3.0~4.0)で、有意差は認められなかったものの漢方群のほうが短い傾向にあった(ハザード比[HR]:1.28、90%CI:0.95~1.72、p=0.0603)。ワクチン接種の有無別では、ワクチン未接種の漢方群のHRは1.31(90%CI:0.96~1.79、p=0.0538)でほぼ同等であった。・すべての症状が消失した割合は、漢方群47.1%、対照群9.1%であった。消失までに要した日数の中央値は、漢方群9日(6.0~NA)、対照群NAで、同様に漢方群のほうが短い傾向にあった(HR:3.73、95%CI:0.46~29.98、p=0.1763)。ワクチン未接種の漢方群のHRは4.17(95%CI:0.52~33.64、p=0.1368)であった。・競合リスクを考慮した共変量調整後の補足的評価において、息切れの消失は漢方群のほうが対照群よりも有意に早かった(HR:1.92、95%CI:1.07~3.42、p=0.0278)。ワクチン未接種の漢方群では、発熱(HR:1.68、95%CI:1.00~2.83、p=0.0498)および息切れ(HR:2.15、95%CI:1.17~3.96、p=0.0141)の消失が有意に早かった。 これらの結果より、研究グループは「軽症~中等症IのCOVID-19患者に対する漢方治療の分析において、すべての症状の評価においても各症状の評価においても、対照群よりも漢方群のほうが早く症状が消失していた。これらの結果は、急性期のCOVID-19患者に対する漢方治療の利点を示すものである」とまとめた。

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第164回 ワクチン否定派がコロナワクチン接種に踏み切った、ある薬の功罪

先日、久しぶりに会った友人から次のように言われた。「半年ほど肩こりがひどかったんだけど、近くのクリニックに行って薬をもらって飲んだら、驚くほど良くなってさ。本当にびっくり。いつもお前(筆者)に『薬を不当に悪者にするな』と言われていたけど、その意味がよくわかった」ちなみにこの友人は大の医療機関嫌い、薬嫌いである。もちろんワクチンはもってのほかという人物である。ただし、余計なワクチン陰謀論にはまっていないことだけは唯一の救いでもある。約1年前に会った時は新型コロナウイルス感染症のワクチンも接種していなかったが、この肩こりが治ったのを機に新型コロナワクチンを接種したと聞いて驚いた。これほど人は変わるものかと思いながら話を聞いていると、彼が微妙に引っかかることを口にした。「その肩こりの薬がすごいのよ。気分もすっきりしてさ」嫌な予感がした。さりげなく、どのような薬を飲んでいるのかを尋ねてみると、ごそごそとカバンから取り出して見せてくれた。ああ、やっぱりか。2錠ほどすでに服用済みのシートには、はっきりと「デパス0.5mg」と印刷されていた。精神安定薬のデパスこと、エチゾラムという薬そのものに罪はないし、個人的にもまったく恨みつらみもない。しかし、本連載の読者にはもはや言うまでもなく、依存をはじめとする問題が少なくない薬である。「うん? どうした? なんかまずい薬?」友人は私の表情の変化に気付いてしまったらしい。私がとっさに「まあ、効果が強めの薬だからね。肩こりが治ったのなら、次の受診の時に先生と話して、薬を終わりにするのも選択肢の1つかな」と言ったのに対し、「うん、そのつもり。治ったのに薬を飲み続ける必要もないしね」とにっこり笑ったのを見て、少し安堵した。しかし、非医療従事者と医療の話をするのは本当に難しい。とりわけこの友人のように医療不信を根底に抱えた人だと余計に気を遣う。しかも、この薬がきっかけで、今まで拒否していた新型コロナワクチンの接種まで至ったならば、なおさらである。そんなこんなで久しぶりにNDBオープンデータを開いてみた。最新の令和2年度のレセプト情報によると、デパスの汎用規格である0.5mg錠の外来(院外)処方量は約2億5,334万錠。同データの精神神経用剤の分類では堂々の第1位である。この数字は年々減少してはいるが、ジェネリック品(以下、GE)で最も処方が多いエチゾラム錠0.5mg「トーワ」の外来(院外)処方量が約9,830万錠であり、先発品であるデパスはダブルスコアで上回っている。昨今のGE使用促進策、とくに後発医薬品調剤体制加算の影響で処方量の多い薬ほどGEに切り替えが進んでいる。GE登場から約半年で、数量ベースで先発品の約7割がGEに置き換わるというアメリカ市場に限りなく近い状況が日本でも珍しくなくなった。にもかかわらず、デパスについてはこの“有様”である。念のためNDBオープンデータをざっと眺めまわしてみたが、GE登場から10年以上経過してもなお、先発品の処方量が、同一規格で適応症も同じGEの最多処方量の銘柄を上回っているのはデパスと認知症治療薬のアリセプトD錠5mg(一般名・ドネペジル)くらいだ。実際、過去に私がデパスの依存性問題を取材した際、「この薬の場合、GEに切り替えようとしても服用者が拒否をしがち。『デパスという名前が入っていないと嫌』とまで言われる」という趣旨の話を複数の薬剤師から聞かされている。まさにこれこそ依存の極みと言っても過言ではないだろう。そしてNDBオープンデータの性別・年齢別の処方量を見ると、相変わらず70~80代前半にボリュームゾーンがある。ざっくり言えば、現役世代の頃に服用し始めた人が依存性のために止められず、キャリーオーバーしていると捉えるのが最も妥当な解釈だろう。しかし、肩こりを訴えた現役世代にポンとこの種の薬が処方されてしまう現象がいまだあることにはやや首をかしげざるを得ない。そんなこんなをつらつら思ってしまったのは、厚生労働省で6月12日に開催された「医薬品の販売制度等に関する検討会」での議論に関する報道を目にしたからである。報道によると、同検討会では若年者で増加しているOTC薬の鎮咳薬や総合感冒薬の濫用問題に関して、防止策としてこれらOTC薬の“小包装化”を厚生労働省が提案。これに賛同する医師側委員などと、家庭内常備薬として大包装販売を訴える販売者側が意見対立したというもの。厚生労働省の提案には一理あるが、改めてこのデパスの問題に遭遇し、データで現実を俯瞰すると、それと同時というか、むしろその前にやらなければならないことがあるのでは? と思うのだが。

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喘息の症状悪化、次にすべきは?【乗り切れ!アレルギー症状の初診対応】第1回

喘息の症状悪化、次にすべきは?講師富山赤十字病院 小児アレルギーセンター センター長 足立 雄一 氏【今回の症例】7歳の男児。1年ほど前から喘息のため、吸入ステロイド薬(フルチカゾン換算で50μgを1日2回吸入)で治療。半年以上良い状態が続いていたが、ここ2~3ヵ月は風邪をひくと咳込みが長引き、その都度、気管支拡張薬や去痰薬を内服していた。今回は、最近体育の授業で息苦しいことがある、と来院。吸入は朝晩続けている。どのように対応すればよいか?1.吸入ステロイド薬を増量する2.吸入ステロイド薬は増量せず、長時間作用性β2刺激薬との合剤に変更する3.吸入ステロイド薬は増量せず、ロイコトリエン受容体拮抗薬を追加する

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若年者でOTC薬の問題増加、濫用恐れのある医薬品の範囲拡大へ【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第107回

若年者のOTC医薬品の濫用が問題になっている、というのは今に始まったことではありませんが、具体的にその状況を想像したり解決策を考案したりできる薬剤師はそれほど多くはないでしょう。恥ずかしながら私もそうです。この4月より、濫用などの恐れのある医薬品の指定範囲が拡大されますので、現在の問題や議論を紹介します。厚生労働省は3月8日に開いた「医薬品の販売制度に関する検討会」で、若者の間で増加している鎮咳薬や総合感冒薬といったOTC薬の濫用について、本人確認などの販売方法や、複数購入の防止、包装単位や製品表示の変更といった対応策の議論に着手した。第1類と第2類のネット販売を解禁し、危険ドラッグの取り締まりを強化した14年以降、OTC薬で中毒を起こした救急搬送事例が「増加傾向にある」と指摘。現状では多くの濫用のおそれのある成分が、薬剤師などによる情報提供が努力義務とされる「指定第2類」に分類されているが、さらなる対策の必要性を投げかけた。(2023年3月9日付 RISFAX)記事にある「医薬品の販売制度に関する検討会」の第1回は2023年2月に開催され、現在の医薬品の販売方法などが紹介されました。第2回の今回は、若者のOTC医薬品の濫用による薬物依存治療を行う医師の資料が提供され、その切迫性が浮き彫りになりました。その医師による報告内容は以下のとおりです。コロナ禍でOTC医薬品の過量服薬による救急搬送が2倍に増加した。OTC医薬品を主たる薬物とする依存症患者が急増した。「過去1年以内にOTC医薬品の濫用経験がある」という高校生は約60人に1人(2021~22年の調査)。濫用する高校生は、男性より女性が多く、社会的に孤立している可能性が高い。日本のOTC医薬品は含有成分が多い。恐怖教育は有効ではなく、薬剤師・登録販売者による声かけなどのソーシャルスキル・アプローチが有効。高校生の1%以上がOTC医薬品の濫用経験があり、またこの2~3年で状況が悪化していると知り、現状にぞっとしたのは私だけではないはずです。濫用の恐れのある医薬品の具体的な成分としては、エフェドリン、コデイン、ジヒドロコデイン、プソイドエフェドリン、メチルエフェドリン、ブロムワレリル尿素があります。現在はコデイン、ジヒドロコデイン、メチルエフェドリンは鎮咳去痰薬に限る指定範囲ですが、2023年4月1日より、鎮咳去痰薬に限らず総合感冒薬なども指定範囲となります。これらの6成分は、一般用医薬品のうち第1類医薬品と第2類医薬品に分類されているため、インターネット販売も可能です。第2類医薬品は患者・購入者への情報提供は義務ではなく努力義務ですので、意外と軽いなと思います。一方で、薬機法施行通知には、購入者が高校生や中学生を含む子供である場合は、その氏名や年齢を確認するとともに使用状況を確認する旨の記載があり、これらが確認できない場合は販売を行わないとされています。検討会に出席した専門家からは、インターネットも実店舗も含め、販売歴の記録や本人確認をしなければ買えない仕組みの構築が必要というコメントがありました。今後は販売方法の変更、複数購入の防止、包装単位や製品表示の変更などの仕組みを変える検討が行われるのではないかと想像します。これから春になり新しい環境での生活が始まると、若い人たちには新しい誘惑があるかもしれません。この問題の周知や声かけの強化など、薬局ですぐにできることも抑止力の1つになると思います。

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ハチミツでなくとも甘くてトロリとしたものなら鎮咳効果がある?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第229回

ハチミツでなくとも甘くてトロリとしたものなら鎮咳効果がある?Pixabayより使用ハチミツって咳をおさめる効果があるとされる唯一の食材なのですが、実はかなり議論の余地があります。私はハチミツの味が苦手なので使いませんが、子供の咳に対して有効とする報告はこれまでいくつもあります。たとえば、就寝前に「スプーン1杯(2.5mL)のハチミツを取るグループ」、「咳止めを飲むグループ」、「何もせず様子をみるグループ」のいずれかにランダムに割り付けた研究では、ハチミツを与えられた患児で、有意に咳が減少することが示されました1)。コクランレビューでも2018年の時点では、急性の咳に対するハチミツは、何もしないよりは咳止めの効果があり、「既存の咳止めと大差がないほど効果的だ」という結論になっています2)。Nishimura T, et al.Multicentre, randomised study found that honey had no pharmacological effect on nocturnal coughs and sleep quality at 1-5 years of age.Acta Paediatr. 2022 Nov;111(11):2157-2164.これは上気道炎による急性咳嗽を呈した1~5歳児を対象としたランダム化二重盲検プラセボ対照試験です。日本国内の複数の小児科クリニックから患児を登録しました。参加者には、ハチミツまたはハチミツ風味のシロップ(プラセボ)を2晩連続で、眠前1時間のタイミングで摂取してもらいました。夜間咳嗽と睡眠について、7段階のリッカート尺度で評価しました。161人が登録され、78人がハチミツ群、83人がプラセボ群にランダム化されました。この分野ではかなり多い登録数だと思います。結果、確かに夜間の咳嗽の改善はみられたのですが、ハチミツ群とプラセボ群の有意差が観察されなかったのです。つまり、ハチミツによる有効性はプラセボ効果をみているのか、あるいはシロップのような甘いものであれば鎮咳効果があるのか、どちらかの可能性が高そうです。過去の研究が正しいとするなら、後者のほうが妥当な解釈かなと思います。となると、甘くてトロリとしたものであれば、ハチミツでなくてもよいのかもしれませんね。1)Paul IM, et al. Effect of honey, dextromethorphan, and no treatment on nocturnal cough and sleep quality for coughing children and their parents. Arch Pediatr Adolesc Med. 2007 Dec;161(12):1140-1146.2)Oduwole O, et al. Honey for acute cough in children. Cochrane Database Syst Rev. 2018 Apr 10;4(4):CD007094.

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厚労省の「解熱鎮痛薬等110番」は供給不足の解決にはならない!【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第104回

 昨年末、厚生労働省に「医療用解熱鎮痛薬等110番」という相談窓口が設置されました。解熱鎮痛薬などを入手できない医療機関や薬局のために設置された供給相談窓口ですが、開始1ヵ月ですでに混乱が生じているようです。厚生労働省が12月14日に開設した医療用薬の「供給相談窓口」(医療用解熱鎮痛薬等110番)に対し、約3週間で薬局や医療機関から500件もの相談が寄せられていることがわかった。(中略)一方、厚労省への相談件数が伸びるほど、卸側の負担は増大していくかたちとなり「お上からの重圧感が強いので対応せざるを得ないが、その後の対応や価格に関するトラブルも出てきている」(広域卸関係者)という。(2023年1月5日 RISFAX)この相談窓口の対象は、発熱外来や新型コロナウイルス感染症の患者を受け入れている医療機関やこれらの医療機関の処方せんを受け付けている薬局で、かつ下記をすべて満たす必要があります。解熱鎮痛薬、鎮咳薬、トラネキサム酸の在庫が少ない平時に取引のある卸売業者に連絡しても入手が困難である業務に支障を来たすとともに患者に迷惑を掛けてしまう恐れがある全国的に医薬品の供給が不足しているのは言わずもがなの状態で、何も困っていません!と言える薬局は少ないのではないでしょうか。本来であればありがたい話のはずなのですが、この窓口は厚生労働省の中に設置されているため、相談を受け付けても医薬品を製造して出荷することも、納入を早めることもできません。厚生労働省が医薬品調達に窮している薬局などの訴えを聞き、卸売業者へ納入調整を依頼するというものです。調整依頼と言っていますが、厚生労働省から連絡があった卸売業者は、その相談元の薬局などに医薬品を納入せざるを得ない状態になるのではないかと思います。卸売業者も在庫が限られていて精一杯の調整をしている中、厚生労働省がそこにプレッシャーをかけて優先順位を繰り上げるというのは、本質的にはなんの解決にもなっていないのでは…と思うのは私だけではないはずです。医薬品の供給量が減っている一方で、解熱鎮痛薬や咳止め薬などの需要が高まっていることが原因なのに、なぜこのような窓口の設置が解決につながると思ったのかは不思議です。現場としては、どこか別のところにしわ寄せがいく納入調整ではなく、本質的な供給不足の解決や不適切処方に対する対応がとられることを期待したいと思います。

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葛根湯+小柴胡湯加桔梗石膏でコロナ増悪抑制の可能性/東北大学ほか

 軽症および中等症Iの新型コロナウイルス感染症患者に対し、葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を追加投与することで、発熱症状が早期に緩和し、呼吸不全への増悪リスクが低かったことが、東北大学大学院医学系研究科漢方・統合医療学共同研究講座の高山 真氏らの研究グループによる多施設共同ランダム化比較試験で明らかになった。Frontiers in pharmacology誌2022年11月9日掲載の報告。葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を併用したコロナ患者は増悪リスクが低かった 調査は、2021年2月22日~2022年2月16日にかけて国内7施設で行われた。20歳以上の軽症および中等症Iの新型コロナウイルス感染症患者161例を、解熱薬や鎮咳薬による通常治療を行うグループ(対照群、80例)と、通常治療に加えて葛根湯エキス顆粒2.5gと小柴胡湯加桔梗石膏エキス顆粒2.5gを1日3回14日間併用するグループ(漢方薬群、81例)にランダムに割り付け、その効果を比較検討した。主要評価項目は1つ以上の風邪様症状の緩和までの日数で、副次的評価項目は各症状が緩和するまでの日数および呼吸不全への増悪であった。 コロナ治療に葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を併用する効果を比較検討した主な結果は以下のとおり。・解析対象となったコロナ患者は、葛根湯と小柴胡湯加桔梗石膏を併用する漢方薬群70例(男性45例[64.3%]、年齢中央値35歳)、対照群73例(男性47例[64.4%]、年齢中央値37歳)であった。・1つ以上の風邪様症状緩和までの日数は、漢方薬群と対照群で有意差はみられなかった(p=0.43)。・共変量調整後の累積発熱率では、漢方薬群のほうが対照群より有意に回復が早かった(ハザード比[HR]:1.76、95%信頼区間[CI]:1.03~3.01、p=0.0385)。・中等症Iのコロナ患者における呼吸不全への増悪リスクは、漢方薬群のほうが対照群よりも低かった(リスク差:−0.13、95%CI:−0.27~0.01、p=0.0752)。・両群で薬物投与に関連する有害事象に有意な差はみられなかった。

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コロナ・インフル同時流行の際の注意点/日本感染症学会

 今冬は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に加え、季節性インフルエンザの同時流行が危惧されている。発熱や倦怠感など症状を同じくするものもあり、外来などでの鑑別で混乱を来すことが予想されている。そこで、日本感染症学会(理事長:四柳 宏氏[東京大学医科学研究所附属病院長])は、10月20日に同学会のホームページで「この冬のCOVID-19とインフルエンザ同時流行の際の注意点」を発表した。 本稿では、緊急避難的な措置の一例として「COVID-19、インフルエンザ同時流行となった場合の外来診療フローチャート」を示すとともに、外来診療フローチャートについて6つのポイントを説明している。1)COVID-19(コロナ)・インフルエンザ(インフル)同時流行に備える体制の必要性・オーストラリアや東アジアの疫学情報から今冬のコロナ・インフルの同時流行の可能性を示唆。最悪の事態を想定し、対策を講じる必要。・とくにオーストラリアでは、インフルの流行が2ヵ月前倒しで生じた。・インフルの流行が起きなくても、相当に大きなコロナ第8波が来る可能性を想定。・冬季は他の呼吸器感染症の流行もみられやすい時期であり、必要な場面での適切なマスク着用、3密回避・換気対策を引き続き継続するよう依頼。2)ワクチン接種のお願い・コロナ・インフルの同時流行に備えて、両ワクチンの速やかな接種を依頼。・両ワクチンの同時接種も可能であることを周知。・コロナワクチンとしてオミクロンBA.1、オミクロンBA.4、5対応の2種類(2価ワクチン)が利用可能。従来のワクチンに比べて2価ワクチンの高い有効性が推定されている。3)診療体制の基本:重症化リスクに応じた対応・コロナ、インフルの診療の原則は対面診療。・外来診療のひっ迫が想定される場合、医療機関への受診は重症化リスクの高い人(高齢者、基礎疾患を有する人、妊婦、小学生以下の小児)を優先。・重症化リスクが低い人は、新型コロナ検査キットによる自己検査を推奨し自宅療養へ誘導。4)診断検査の基本:コロナ・インフル同時簡易抗原検査の利用・医療機関では、コロナ・インフル同時簡易抗原検査(コンボキット)を有効に活用。・コンボキットによる判定が難しい場合に備え、コロナ遺伝子検査も実施できるように準備。・流行到来前に、市販の新型コロナ検査キットを購入しておくよう説明。5)健康フォローアップセンターへの登録と相談・自己検査でコロナ陽性となった人は、健康フォローアップセンターへの登録を指導。・症状の悪化や不安を感じる場合には、健康フォローアップセンターに連絡し、医療機関の受診を相談。6)電話・オンライン診療の活用と注意点・電話・オンライン診療では、対面診療に比べて得られる情報は限定されることに注意。・電話・オンライン診療で判断に迷う場合、重症化を否定できない場合には受診をお願いする。・電話・オンライン診療で、対症療法としての解熱剤、鎮咳剤に加えて、インフルの可能性が高いと判断する場合には抗インフル薬の処方も可能。・インフルの診断は、コロナ自己検査陰性、地域でのインフル流行状況、インフル感染者との接触歴、急激な発熱・筋肉痛などの臨床症状を参考に実施。 なお、学会では、「COVID-19・インフルエンザが同時流行していない状況では、対面診察の上、早期診断・早期治療することが基本」と注意を促している。

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小児のコロナ後遺症は成人と異なる特徴~約66万人の解析

 小児における新型コロナウイルス感染症の罹患後症状には、成人とは異なる特徴があることを、米国・コロラド大学医学部/コロラド小児病院のSuchitra Rao氏らが明らかにした。同氏らは、新型コロナウイルスの感染から1~6ヵ月時点の症状・全身病態・投与された薬剤を調べ、罹患後症状の発生率を明らかにするとともに、リスク因子の特定を目的に、抗原検査またはPCR検査を受けた約66万人の小児を抽出して後ろ向きコホート研究を行った。これまでに成人における罹患後症状のデータは蓄積されつつあるが、小児では多系統炎症性症候群(MIS-C)を除くとデータは限られていた。JAMA pediatrics誌オンライン版2022年8月22日号掲載の報告。 解析対象となったのは、米国の小児病院9施設の電子カルテに登録があり、2020年3月1日~2021年10月31日の間に新型コロナウイルスの抗原検査またはPCR検査を受けた21歳未満の小児で、かつ過去3年間に1回以上受診(電話、遠隔診療を含む)したことのある65万9,286例。男性が52.8%で、平均年齢は8.1歳(±5.7歳)であった。 初回の抗原検査またはPCR検査の日から28~179日時点の、罹患後症状に関連する121項目の症状や全身病態、30項目の投与薬の計151項目を調べた。症状には発熱、咳、疲労、息切れ、胸痛、動悸、胸の圧迫感、頭痛、味覚・嗅覚の変化などが含まれており、全身病態には多系統炎症性症候群、心筋炎、糖尿病、その他の自己免疫疾患などが含まれていた。施設、年齢、性別、検査場所、人種・民族、調査への参加時期を調整したCox比例ハザードモデルを用いて、検査陰性群に対する陽性群の調整ハザード比(aHR)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・新型コロナウイルスの陽性者は5万9,893例(9.1%)で、陰性者は59万9,393例(90.9%)であった。 ・1つ以上の症状や全身病態、投薬があったのは、陽性群で41.9%(95%信頼区間[CI]:41.4~42.4)、陰性群で38.2%(95%CI:38.1~38.4)で、差は3.7%(3.2~4.2)、調整後の標準化罹患率比は1.15(1.14~1.17)であった。・陰性群と比べて陽性群で多かった症状は、味覚・嗅覚の変化(aHR:1.96、95%CI:1.16~3.32)、味覚消失(1.85、1.20~2.86)、脱毛(1.58、1.24~2.01)、胸痛 (1.52、1.38~1.68)、肝酵素値異常(1.50、1.27~1.77)、発疹(1.29、1.17~1.43)、疲労・倦怠感(1.24、1.13~1.35)、発熱・悪寒(1.22、1.16~1.28)、心肺疾患の徴候・症状(1.20、1.15~1.26)、下痢(1.18、1.09~1.29)、筋炎(2.59、1.37~4.89)であった。・全身の病態は、心筋炎(aHR:3.10、95%CI:1.94~4.96)、急性呼吸促迫症候群(2.96、1.54~5.67)、歯・歯肉障害(1.48、1.36~1.60)、原因不明の心臓病(1.47、1.17~1.84)、電解質異常(1.45、1.32~1.58)であった。精神的な関連としては、精神疾患の治療(aHR:1.62、aHR:1.46~1.80) 、不安症状(1.29、1.08~1.55)があった。・多く用いられていた治療薬は、鎮咳薬・感冒薬のほか、全身投与の鼻粘膜充血除去薬、ステロイドと消毒薬の併用、オピオイド、充血除去薬であった。・多系統炎症性症候群以外で罹患後症状と強く関連していたのは、5歳未満、急性期のICU利用、複数または進行性の慢性疾患の罹患であった。 著者らは、「小児の新型コロナウイルス感染症の罹患後症状の発症率は少なかったが、急性期の重症、低年齢、慢性疾患の合併は罹患後症状リスクを高める」とともに「小児の罹患後症状では、成人でよく報告されている味覚・嗅覚の変化、胸痛、疲労・倦怠感、心肺の徴候や症状、発熱・悪寒など以外にも、肝酵素値異常、脱毛、発疹、下痢などが多いことに注意が必要である。とくに心筋炎は新型コロナウイルス感染症と最も強く関連する症状であり、小児では重要な合併症である」とまとめている。

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新機序の難治性慢性咳嗽治療薬「リフヌア錠45mg」【下平博士のDIノート】第96回

新機序の難治性慢性咳嗽治療薬「リフヌア錠45mg」今回は、選択的P2X3受容体拮抗薬「ゲーファピキサントクエン酸塩錠(商品名:リフヌア錠45mg、製造販売元:MSD)」を紹介します。本剤は、P2X3受容体を標的とした非麻薬性の咳嗽治療薬で、難治性の慢性咳嗽への効果が期待されています。<効能・効果>本剤は、難治性の慢性咳嗽の適応で、2022年1月20日に承認されました。なお、効能または効果に関連する注意として「最新のガイドライン等を参考に、慢性咳嗽の原因となる病歴、職業、環境要因、臨床検査結果等を含めた包括的な診断に基づく十分な治療を行っても咳嗽が継続する場合に使用を考慮すること」、重要な基本的注意として「本剤による咳嗽の治療は原因療法ではなく対症療法であることから、漫然と投与しないこと」が記載されています。<用法・用量>通常、成人にはゲーファピキサントとして1回45mgを1日2回経口投与します。なお、重度腎機能障害(eGFR 30mL/min/1.73m2未満)で透析を必要としない患者には、本剤45mgを1日1回投与すること。<安全性>難治性の慢性咳嗽患者を対象とした国際共同第III相試験および海外第III相試験の併合データにおいて認められた主な副作用は、味覚不全(40.4%)、味覚消失、味覚減退、味覚障害、悪心、口内乾燥などでした。味覚に関連する副作用の大多数は軽度または中等度であったものの、投与を中止している症例も認められたことから、医薬品リスク管理計画書(RMP)において「味覚異常」が重要な特定されたリスクとされています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、気道の神経の伝達を遮断して感覚神経の活性化や咳嗽反射を鎮めることで、慢性の咳を緩和します。2.苦味、金属味、塩味などを感じて食事がおいしく感じられなくなることがあります。不快感が強く、食事が取れないなど日常生活に支障を来す場合はご相談ください。 <Shimo's eyes>咳嗽は、医療機関を受診する患者さんの主訴として最も頻度が高い症候で、持続期間が3週間未満の場合は「急性咳嗽」、3週間以上8週間未満は「遷延性咳嗽」、8週間以上は「慢性咳嗽」と分類されています。これまで使用されてきた咳嗽治療薬としては、コデイン類のような麻薬性鎮咳薬や、デキストロメトルファンのような非麻薬性の中枢性鎮咳薬などがありますが、慢性咳嗽患者の中には治療抵抗性を示す例や、原因がわからず改善が不十分な例があります。本剤は世界で初めて承認された選択的P2X3受容体拮抗薬であり、非麻薬性かつ末梢に作用する経口の慢性咳嗽治療薬です。咳嗽が1年以上継続している治療抵抗性または原因不明の慢性咳嗽患者を対象としたプラセボ対照国際共同第III相試験(027試験)および海外第III相試験(030試験)において、52週投与の結果、本剤45mg投与群はプラセボ群と比較して、4週時から24時間の咳嗽頻度の有意な減少がみられ、12週時もしくは24週時まで持続しました。副作用については、上記試験の併合データにおいて、味覚不全、味覚消失、味覚減退、味覚障害等の味覚関連の副作用が63.1%に発現しました。多数は投与開始後9日以内に発現し、軽度または中等度でしたが、味覚関連の有害事象により服用中止に至った症例も13.9%ありました。なお、味覚関連の副作用は曝露量依存的に増加する傾向が認められており、その多くは本剤の投与中または投与中止後に改善するとされています。相互作用については設定されていませんが、本剤の有効成分であるゲーファピキサントはスルホンアミド基を有するため、スルホンアミド系薬剤に過敏症の既往歴のある患者では交叉過敏症が現れる可能性があり、注意が必要です。本剤は腎排泄型であり、腎機能の低下が疑われる患者さんに投与する場合は定期的に腎機能検査値を確認しましょう。参考1)PMDA 添付文書 リフヌア錠45mg

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副作用の原因は代謝酵素の個人差?【ママに聞いてみよう(1)】

ママに聞いてみよう(1)副作用の原因は代謝酵素の個人差?講師:堀 美智子氏 / 医薬情報研究所 (株)エス・アイ・シー取締役、日本女性薬局経営者の会 会長動画解説鎮咳薬が処方された患者さんに副作用が発現。2人は話し合いの中からCYP2D6のPoor Metabolizerの可能性を考えます。代謝酵素に注意が必要な薬剤や薬局でできる対策を美智子先生がレクチャーします。

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「ビソルボン」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第45回

第45回 「ビソルボン」の名称の由来は?販売名ビソルボン®錠4mgビソルボン®細粒2%※ビソルボン吸入液と注射液はインタビューフォームが異なるため今回は情報を割愛しています。ご了承ください。一般名(和名[命名法])ブロムヘキシン塩酸塩(JAN)効能又は効果ビソルボン錠4mg・細粒2%:下記疾患の去痰急性気管支炎、慢性気管支炎、肺結核、塵肺症、手術後用法及び用量ビソルボン錠4mg:通常成人には1回1錠(ブロムヘキシン塩酸塩として4mg)を1日3回経口投与する。なお、年齢、症状により適宜増減する。ビソルボン細粒2%:通常成人には1回0.2g(ブロムヘキシン塩酸塩として4mg)を1日3回経口投与する。 なお、年齢、症状により適宜増減する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)禁忌(次の患者には投与しないこと)本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2021年3月31日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2017年7月改訂(改訂第7版)医薬品インタビューフォーム「ビソルボン®錠4mg/ビソルボン®細粒2%」2)サノフィ e-MR:製品情報

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第24回 風邪薬1箱飲んだら、さぁ大変!【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)若年者の嘔気・嘔吐では必ず鑑別に!2)拮抗薬はきちんと頭に入れておこう!【症例】26歳女性。ご主人が帰宅すると、自宅で繰り返し嘔吐している患者さんを発見し、辛そうにしているため救急要請。救急隊からの情報では、リビングの机の上には市販薬の空箱が数箱あり、嘔吐物には薬塊も含まれていた様子。●受診時のバイタルサイン意識10/JCS血圧119/71mmHg脈拍98回/分(整)呼吸25回/分SpO299%(RA)体温36.2℃瞳孔3/3 +/+既往歴特記既往なし内服薬定期内服薬なし最終月経2週間前風邪薬の成分とはみなさん風邪薬を服用したことがあるでしょうか? 医療者はあまり使用することはないかもしれませんが、一般の方は風邪らしいなと思ったら薬局などで購入し、内服することは多いでしょう。救急外来や診療所に発熱や咳嗽を主訴に来院する患者さんの中には、市販薬が効かないから来院したという方が一定数いるものです。市販薬を指定されている量を内服している場合には、それが理由でとんでもない副作用がでることはまれですが、当然服用量が過剰になればいろいろと問題が生じます。風邪薬の成分は、アセトアミノフェンやイブプロフェンなどの解熱鎮痛薬、クロルフェ二ラミンマレイン酸塩などの抗ヒスタミン薬、ジヒドロコデインリン酸塩などの鎮咳薬、そして無水カフェインが含まれている商品が多いです。今回は救急外来で遭遇する頻度が比較的高い「アセトアミノフェン中毒」について重要な点をまとめておきます。その他、カフェイン、ブロン、ブロムなども市販薬の内服で起こり得る中毒のため、是非一度勉強しておくことをお勧めします。アセトアミノフェンの投与量以前、アセトアミノフェンは1日最大量1,500mg(1回最大量500mg)と少量の使用しか認められていませんでしたが、2011年1月から1日最大量4,000mg(1回最大量1,000mg)と使用可能な量が増えました。また、静注薬も発売され、みなさんも外来で痛みを訴える患者さんに対して使用していることと思います。高齢者に対しても、肝機能障害やアルコール中毒患者では2,000〜3,000mg/日を超えないことが推奨されていますが、そうでなければ1回の投与量は10〜15mg/kg程度(1,000mgを超えない)が妥当と考えられています。アセトアミノフェン中毒とはアセトアミノフェンは、急性薬物中毒の原因物質として頻度が高く、救急外来でもしばしば遭遇します。最も注意すべきは肝障害であり、アセトアミノフェン中毒で急性肝不全を呈した患者の3週間死亡率は27%と非常に高率です1)。そのため、十分量使用しながらも中毒にならないように管理する必要があります。アセトアミノフェンの大部分は肝臓で抱合され尿中に排泄されますが、一部は肝臓で分解され、N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン(NAPQI)を生成し、これをグルタチオンが抱合することで尿中に排泄されます。NAPQIは毒性が高いのですが、アセトアミノフェンが適正の量であれば、グルタチオンによって解毒されます。しかし、過剰量の場合には、グルタチオンが枯渇し、正常の30%程度まで減少するとNAPQIが蓄積、肝細胞壊死へと進行してしまいます2)。そのため、アセトアミノフェンを過剰に摂取した場合には、グルタチオンを増やすことが必要になるわけです。NACとは中毒診療において重要なこととして、拮抗薬の存在が挙げられます。拮抗薬が存在する薬剤は限られるため頭に入れておきましょう(参考:第7回 意識障害その6 薬物中毒の具体的な対応は?)。アセトアミノフェンに対する拮抗薬はN-アセチルシステイン(NAC)です。NACは、グルタチオンの前駆体であり、中毒症例、特に肝細胞壊死へと至ってしまうような症例では必須となります。タイミングを逃さず、NACの投与が開始できれば肝不全は回避できます。ちなみにこのNAC、投与経路は経口です。静注ではありません。臭いをかいだことがある人は忘れない臭いですよね。腐った卵のあの臭い…。NACはいつ投与するかそれではいつNACを投与するべきでしょうか。アセトアミノフェンの血中濃度が迅速に判明する場合には、その数値を持って治療の介入の有無を判断することがある程度することが可能です。ちなみに、アセトアミノフェン摂取後の経過時間を考慮した血中濃度で判断する必要があり、内服直後の数値のみをもって判断してはいけません。一般的には4時間値が100μg/mLを超えているようであればNAC開始が望ましいとされます(以前は150μg/mLでしたが、肝障害発症の予防を強固に、そして医療費の削減のため基準値が下げられました)。“Rumack-Matthewのノモグラム”は有名ですね2)。そのため、摂取時間を意識した測定、経過観察が大切です。測定が困難な場合には、内服した量から推定するしかありません。アセトアミノフェンを150mg/kg以上(50kgであれば7,500mg)服薬していた場合にはNAC療法が推奨されます。この7,500mgという量をみてどのように思いますか? 前述した通り、アセトアミノフェンの1日の最大投与量として許容されている量は4,000mgです。中毒量が目の前に存在することがよくわかると思います。痛みに悩む患者さんは多く、処方されている薬を飲み過ぎてしまうと、簡単に中毒量に達してしまう可能性があるため注意が必要なのです。1箱飲んだら危険製品にもよりますが、アセトアミノフェンが含有される風邪薬や頭痛薬など鎮痛薬と称される市販薬は、1錠に含まれるアセトアミノフェンは80~200mg程度と少量の物が多いのですが、1箱80錠のものも存在します。また、インターネット上で購入しようと思えば500mg錠100錠など、中毒量を購入することは簡単にできてしまうのが現状です。初療時のポイントは、本症例のように嘔気・嘔吐を認める患者など過量内服患者を拾い上げること、そしてNACの適応となり得る量を内服していないかを血中濃度や推定内服量から見積もり判断することです。さいごにアセトアミノフェンは使用し易く、処方する機会は多いと思います。しかし、使用方法を間違ってしまうと肝不全へ陥ってしまう可能性のある恐い薬でもあります。安全な薬というイメージが強いかもしれませんが、いかなる薬もリスクであるため、処方する際には正しい内服方法を丁寧に患者さんに説明しましょう。また、過量内服患者ではNACの適応を理解し、肝障害を防ぎましょう。1)Ostapowicz G,et al. Ann Intern Med. 2002;137:947-954.2)Heard KJ. N Engl J Med. 2008;359:285-292.

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第27回 実体験から望む、リアルな「アンサング・シンデレラ」

10月1日に発表された人気女優の石原さとみの結婚というニュースはSNS上で見る限り、多くの男性を悲嘆・落胆に追いやったようだ。この直前、石原さとみは病院薬剤師を描いたドラマ「アンサング・シンデレラ」で主役の病院薬剤師・葵 みどりを演じている。このドラマに関しては、そのストーリーが「ナンセンスだ」など批判的な指摘もあったが、その一部には、薬剤師以外の医療従事者による薬剤師業務に対する無理解・無知さがあったことにはやや驚いた。一方、薬剤師が一部のシーンに対して「『薬剤師あるある』だ」という声も多かった。私はリアルタイムで見ることができず、今頃録画したものを見始めているが、そのなかで患者・家族の立場でダブってしまった、というかトラウマが蘇った瞬間があった。苦い薬と母子の葛藤を薬剤師が緩和それは第2話で出てくるマイコプラズマ感染で受診した男の子とシングルマザーの母親の物語だ。男の子に処方された去痰薬と抗菌薬の顆粒を飲ませようとする母親。しかし、息子は「苦い」といって拒否する。母親は苦心してオレンジジュースに顆粒を混ぜ、「これでもう苦くない」と言って息子に渡したものの、それを飲んだ息子はやはり「苦い」と言ってコップを放り投げ、「ママ、嘘ついた」とまで言い張る。母親は医師に処方変更を希望するが、医師から「もう少し頑張ってみてください」と言われ、思わず「頑張っていないですか?」と漏らしてしまう。そんな母親に服薬指導をするのが、葵 みどり。葵は母親自身に抗菌薬顆粒の甘さの中に苦みが残る味を実際に味見させたうえで、オレンジジュースに混ぜて渡す。それを口にして「うわっ、苦い」と漏らす母親。葵は「○○は酸性のものと混ぜるとコーティング(甘み)が剥がれて強い苦みが出てしまうんです」と説明する。葵が母親に勧めるのがチョコレートアイスに混ぜる方法。口にした母親は「チョコの味しかしない」と驚く。この○○という薬は実在する。私は最初に男の子が薬を口にして「苦い」と言った瞬間にほぼ推測がついた。そして葵による服薬指導のシーンで明らかにされた○○の名称を聞いて、やっぱりと思った。答えは、クラリスロマイシンのドライシロップだ。処方薬は看病する人にも少なからず影響実は私自身も娘で似た経験があったのだ。それはある部分ではドラマで描かれたものより過酷だった。うちの家庭は共働きの夫婦と娘の3人家族。夫婦互いの実家は東京から新幹線で2時間弱は離れている。娘が熱を出した時、頼れる親族は身近にいない。さらに夫婦の役割で言えば、妻は電車で40分離れた職場、私は自宅から自転車で10分以内のアパートを事務所にしている。娘が保育園で発熱したといえば必然的に駆け付け、自宅療養の担当となるのは私だった。もっとも自営業で出来高仕事の私はその分だけ仕事で割を食う。小児医療費の助成も相まって、どうしても娘を連れて医療機関に駆け込んでしまう。よく抗インフルエンザ薬のタミフルは適切に服用しても発熱期間を半日から1日しか短縮する効果がないとネガティブな評価を受ける。しかし、治療を受ける側ではなく看病する側から見た場合、私のような立場の者にとっては、その半日から1日早く業務に復帰できることは周囲の人が考える以上にありがたい。そういう人は少なくないはずだ。そんなこんなで娘が発熱した場合は即座に受診することがほとんどだった。多くは「風邪だと思われます」との診断。娘のかかりつけ医の処方は、去痰薬と鎮咳薬、頓服用の解熱薬にとどまることが多く、抗菌薬を処方された記憶はほとんどない。単なる抗菌薬と侮っていたら…ところが娘が3歳になった年の2月、発熱でかかりつけ医に駆け込むと、いつものように「風邪でしょう」と診断した医師が珍しく「念のため抗菌薬を出しておきます」と言って処方したのが、クラリスロマイシンのドライシロップだった。早速、自宅で服用させるものの、このクラリスロマイシンだけは口にした瞬間に「オェー」と言いながら、吐き出した。驚きはしたものの、私はそれ以上服用させることはしなかった。「所詮、風邪に抗菌薬は無駄」と思っていたからだ。翌日娘は解熱するものの、翌々日は微熱を出した。3日後には再び解熱したが、この間、乾いた咳が続き、4日目の日曜日、突如38度まで熱が上昇し、自治体の休日診療所に駆け込んだ。休日診療所の医師は一般的には半ば「儀礼的」とも思われがちな聴診を、私の目にも普通ではないとわかるほど何度も繰り返した。聴診器をようやく外した医師からこう告げられた。「お父さん、今すぐ○○大学病院に向かえますか? こちらからも連絡を入れます。娘さんは肺炎を起こしている可能性が高いです」休日診療所を出て大学病院に向かうタクシーの中で突如、娘は嘔吐をした。慌てる私に運転手さんは「お気になさらず。とにかく病院へ急ぎます」と冷静だった。大学病院に到着して受付すると、娘はすぐにX線写真撮影をすることになり、看護師が衣服の表面についた吐瀉物を拭いてくれた。私もトイレに駆け込み、吐瀉物がついたジャケットとシャツを洗おうとしたが、濡れたまま持ち帰る手段が思い浮かばず、思い切ってごみ箱に捨てることにした。待合室は暖房が入っているため、とくに寒さは感じなかったが、やはり2月にTシャツ一枚の姿は周囲から見れば異様だったろう。20分ほど待っただろうか。呼ばれて診察室に入ると、医師の目の前のPCに映し出された娘のものと思われる胸部X線写真が目に入った。ちなみに私自身は20代前半にエジプトのカイロを旅行中に右肺の半分弱、左肺の約4分の1がX線写真で白く映るほどの肺炎にかかり、現地で2週間も入院した経験がある。また、職業柄、学術書や論文に掲載されている肺炎のX線写真も目にしている。この時、PCに映し出されていた右肺の下部が白くなっていたX線写真は私でも肺炎だとわかった。医師からも娘が肺炎を起こし、経過や咳の状況などを見ると、マイコプラズマ肺炎と思われ、クラリスロマイシンを処方すると説明された。娘がクラリスロマイシンの味を嫌って服用拒否してしまうことを伝えたが、医師からはこう告げられた。「とにかく頑張って飲ませてみてください。どうしても飲まないというならば、入院して点滴するしかありません」大学病院の門前薬局でクラリスロマイシンを受け取った際にも娘が服用拒否してしまうことを伝えると、薬剤師からチョコ味の服薬ゼリーがお勧めだと教えられた。しかし、この薬局ではあいにくチョコ味のゼリーの在庫がなく、あるのはストロベリー味のみ。それを取り敢えず購入した時に、薬剤師から「ここで1回分飲んでいきます?」と提案された。薬包紙を切った段階で娘は口を開けている。ゼリーを使わなくても飲めるのかもと思い、口にドライシロップをいれると眉間にしわを寄せながら、水で飲み干した。ああ、案外すんなりいけるかもと思ったが、実際にはそうはならなかった。片手にクラリスロマイシンの父vs.愛娘、地獄の戦い翌朝から保育園をお休みし、私が自宅療養に付き合うことなった。妻が出勤後に娘に朝食をとらせ、服薬させようとしたが昨日から一転して娘は拒否し始めた。私は「このままだと入院になるし、最悪肺炎で死ぬ人もいるよ」と告げるが、娘は頑として拒否。ストロベリー味の服薬ゼリーがあることを思い出し、それに混ぜて口にさせるがそれも吐き出した。「えっ?」と思い、自分で口にしてみたが確かに苦みが残っている。さて困った。私はリビングのテレビをつけ、「お父さんはお買い物に行ってくるから、好きな番組見ていいよ」と娘に告げると、街に飛び出し、保険調剤薬局、ドラッグストアを片っ端から訪ね、チョコ味の服薬ゼリーを探した。7軒目でようやく見つけ、購入して帰宅。テレビの前でうたた寝していた娘を起こして、今度はチョコ味のゼリーでクラリスロマイシンを飲ませようとしたが、娘の一言でとん挫した。「チョコは苦いから嫌い」私もハッとした。確かに過去に保育園からの連絡帳に「おやつの時に出したチョコを苦いと言って食べなかった」という旨の記載があったことを思い出したのだ。仕方なく、私は再び外に出て、自宅から一番近い保険調剤薬局で事情を説明した。すると、「バニラアイスや牛乳に混ぜると良いとは言われています」とのこと。コンビニでバニラアイスと牛乳を買って帰り、試したのだがそれでも「苦い」と言われ吐き出された。もはや万事休す。前医からの残薬分があったとはいえ、味の実験をしているだけの量の余裕はない。私は服薬用の水を入れたコップを用意し、薬包紙を破って自分の手の平にドライシロップ全量を出して軽く握ると、左手で娘をヘッドロックし、そのまま右手の親指から中指までの3本の指で娘の口をこじ開けながら手を傾け、口内にドライシロップを突っ込んだ。さらに泣きわめく娘を尻目に、左の手の平で娘の口を押え、右手を伸ばしてコップをつかんで顔の近くまで持って行き、左の手の平を離した際に嘔吐気味に開けた口にコップの端を当て水を注ぎこみ、再び左の手の平で口を封じた。「苦しいけど、ゴックンしてね、ゴックン」と言いながら。もはや虐待じみているが、仕方がない。娘は既に肺炎を起こしているのだ。1日2回の服用のうち、朝は妻の出勤後、夕刻は妻の帰宅前・夕食前にこの格闘が続いた。あえて妻がいない時間にしたのは、打つ手なしとは言え娘が苦しむ姿は見せたくなかったからだ。もっともその後も何もしていなかったわけではない。時間があるごとに近隣の保険調剤薬局やドラッグストアをまわり、状況を伝えて相談はした。その数はチョコ味の服薬ゼリーを探した時を超えて11軒。しかし、ストロベリー味のゼリーもダメ、チョコ味のゼリーもダメ、牛乳もダメ、バニラアイスもダメという私の説明後に返ってくるのは決まって「大抵そのどれかでいけるんですがね」というもの。新たな案は1つも出てこず、不思議なくらい同情すらされなかった。結局、娘は大学病院の初診から3日目の受診で肺炎の改善が確認され、7日目の受診で「まあもう大丈夫でしょう」と医師から告げられた。その間、強制服薬を続け、毎回娘の服は私の手の平から一部こぼれ落ちたドライシロップまみれになり、顔や服は飛び散った水で濡れていた。クラリスロマイシンの服用が終了となった7日目の受診後に私は娘に「いっぱいがんばったからハンバーグ食べに行こうか?」と提案した。大学病院の近くにハンバーグがおいしいと評判の老舗レストランがあることを知っていたからだ。娘が久しぶりに満面の笑みを浮かべたことを今でも覚えている。私も娘も、もうあの強制服薬で苦しむことはない。晴れ晴れとした気持ちでそのレストランに入ってテーブルに座り、私がメニューに手を伸ばして、「さあ何を食べようね」と言いかけた瞬間、娘が「お薬はもういや」と金切り声を挙げて、テーブルの片隅にあったものを払い落とした。食塩のボトルだった。あの強制服薬の影響で白っぽく見える粉が薬に見えたらしい。その後、2ヵ月ほど白い粉末に対する拒否反応が続いた。結局このときから9ヵ月後、娘は再びクラリスロマイシンのドライシロップを服用する羽目になる。しかし、観念したのか、この時以降は自ら口を開き、ドライシロップを受け入れるようになった。もっとも飲み始めから飲み下し後数分間はひたすら「まじゅい(不味い)」と文句を言い続けていたが。医療者「あるある」で終わらせてほしくないたぶんこのクラリスロマイシンの話題は医師、薬剤師双方にとって「あるある」的な話なのだろう。テレビドラマはどうしても典型例しか描けないが、その「あるある」にはクラリスロマイシンの事例で私が経験したような典型パターンで解決できないケースもある。そしてそうしたケースは、ほかにも山のようにあるだろう。しかし、過去にも言及したが、生活習慣指導も含め、日常的に医療に接していると医療従事者による添付文書の棒読みのような対処のなんと多いことか。今、丹念にあの時の事を振り返っても思うのが、別にドラマの中のようにエレガントに解決されなくともある意味仕方がない、ただ共感してくれるだけでもいいから「葵 みどり」が現れていたらと、ふと思う。昨今、一部の医薬分業バッシングにあるように薬剤師を取り巻く周囲の目はやや厳しい。そして「かかりつけ薬剤師・薬局」「健康サポート薬局」など行政による矢継ぎ早な提案が続いている。今回、改めてこうした検討が行われた時の資料を読み返してみた。そして思うのだ。そこに求められている薬剤師像はまさに「葵 みどり」ではないかと。薬剤師の中にもあのドラマを部分部分で「ナンセンス」と突っ込みを入れてみていた人もいるだろうし、繰り返しになるが「あるある」で見ていた人もいるだろう。だが、私にはもはや薬剤師はその「ナンセンス」「あるある」を超えるべき時期、もっと一歩踏み込んだ存在になるべき時期が来ているように思えてならない。

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第17回 治療編(1)薬物療法・その4【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第17回 治療編(1)薬物療法・その4前回侵害受容性疼痛に対し、わが国で非麻薬系オピオイドとして使用されているトラマドール製剤とブプレノルフィン貼付薬について解説しました。今回は、さらに痛みの程度が強い患者さんに使用する麻薬系オピオイドのコデイン、モルヒネ、フェンタニルについて説明したいと思います。(1)コデイン<作用機序>コデインは、投与量の5~15%が肝臓で代謝されることで、CYP2D6により産出されるモルヒネとなり、鎮痛効果が得られます。産出されたモルヒネがオピオイド受容体と結合することで、鎮痛効果を発揮します。<投与上の注意>モルヒネと同様に考えて使用します。コデインリン酸塩散には1%、10%、原末があります。また、コデインリン酸塩錠には5mg、20mgがあります。通常は、1回20mg錠を1日3回投与します。ただし、モルヒネ換算には幅があり、鎮痛作用を目的にする場合には、鎮咳目的の場合と異ってかなりの量が必要になります。1%散として使用する場合には、1回2g、1日3回6gの投与になりますので、漢方薬並みの用量となります。通常は麻薬扱いですが、 内容量が少ない1%散、5mg錠は、投与量と関係なく非麻薬扱いになります。副作用として、嘔気・嘔吐、食欲低下、便秘、口渇、ふらつき、傾眠、意識消失などがあります。(2)モルヒネ<作用機序>オピオイドの基本薬です。オピオイド受容体と結合して鎮痛効果を発揮します。<投与上の注意>次の項に示した合成麻薬フェンタニルの基本薬物になります。錠剤は10mgですが、いきなり10mg錠剤ではなく、末として3mg、5mg、8mgと段階的に体が慣れてくるたびに増量していきます。もちろん、途中で疼痛が緩和されれば、その投与量で維持していきます。また、1日の投与量が15mgに達すれば、フェンタニル貼付剤の適応(文末の表を参照)になります。(3)フェンタニル貼付剤<作用機序>モルヒネと同様、強オピオイドに分類されます。オピオイド受容体と結合して鎮痛効果を発揮します。<投与上の注意>フェンタニル貼付剤には、3日用の「デュロテップMTパッチ」、1日用の「フェントスパッチ」「ワンデュロパッチ」が適応されます。モルヒネ経口剤で30mgが「フェントスパッチ1mg」「デュロテップMTパッチ2.1mg」「ワンデュロパッチ0.84mg」に相当します。貼付剤なので、貼付する部位を毎回ずらしていきます。また、温度が高くなると、吸収が増えるので、入浴などの際には気を付けなければなりません。そのために、入浴が好きな患者さんでは、1日用のパッチを入浴前にいったん外し、入浴後に再度貼付される方もいます。なお、本剤の投与に際してはeラーニングの受講が必要です。モルヒネおよびフェンタニルは、医療用麻薬に分類される強オピオイドであり、乱用、依存、退薬症候、長期処方に伴う鎮痛耐性、鎮痛過敏、腸機能、性腺機能障害などに注意が必要です。貼付剤では掻痒、発赤などの皮膚症状が見られることがありますので、貼付部位をローテーションすることが重要です。以上、痛み治療の第3段階における薬物について、その作用機序、投与における注意点などを述べさせていただきました。難治性疼痛患者さんに接しておられる読者の皆様に少しでもお役に立てれば幸いです。次回は神経ブロックについて解説します。1)花岡一雄ほか監修. 痛みマネジメントupdate 日本医師会雑誌. 2014;143:S156-S157

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10代の市販薬乱用問題で日薬が通知【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第37回

以前のコラムで、10代の薬物依存患者の4割が市販薬を乱用しているというセンセーショナルな調査結果をお伝えしました。これは市販の中枢性麻薬性鎮咳薬などを、本来の咳止め目的以外で乱用していることを明らかにしたもので、一般紙でも広く報じられました。乱用者は複数の薬局やドラッグストアを回って購入したり、インターネットサイトなどで購入したりしているのでしょうが、副作用や依存性が大変危惧されます。そこで、この調査結果を受け、日本薬剤師会が各都道府県薬剤師会に通知を発出しました。その中では、以下のような販売に関する対策が求められています。1.複数個購入の防止乱用のおそれのある医薬品は複数個販売しない。来局者の直接手の届かない位置に陳列する。または、陳列は空箱、商品カードで対応する。2.頻回購入の防止乱用のおそれのある医薬品を販売する場合は、要指導医薬品・第一類医薬品等の販売記録に記入するとともに、薬局および店舗内での情報連携・販売管理を徹底する。3.複数薬局および店舗での購入防止乱用のおそれのある医薬品の販売を行う際には、他薬局や他店舗での購入状況、保有状況を確認し、その内容を販売記録に記載する。購入状況に応じて、適切な指導等を行う。4.若年者への不適切な販売の防止乱用の事例が多いとされる若年者には、氏名・年齢を身分証明書で確認し、必要に応じて販売しない。その旨を薬局および店舗内に掲示する。「濫用等のおそれのある医薬品の取扱いについて(お願い)」(2019年11月20日付 日本薬剤師会発)より抜粋対応としては、「まさにそのとおり!」という感じではあるのですが、この通知には具体的な商品名の記載はありません。乱用のおそれのある成分としては、エフェドリン、コデイン(鎮咳去痰薬に限る)、ジヒドロコデイン(鎮咳去痰薬に限る)、ブロモバレリル尿素、プソイドエフェドリン、メチルエフェドリン(鎮咳去痰薬のうち内用液剤に限る)の6成分が挙げられています。皆さんの薬局で扱っている一般用医薬品にこれらの成分が含まれているものがあるかどうかは、各店舗で確認する必要があります。通知まで出したのに市販薬を用いた若年層の薬物依存患者がさらに増えたとなったら、それはもう薬局や薬剤師は何をしていたのかと責められても仕方ありません。この対策をどのように運用していくのか考え、薬事の門番として毅然とした態度で対応することが求められています。濫用等のおそれのある医薬品の取扱いについて(お願い)

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10代の薬物依存患者の4割が市販薬を乱用【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第34回

市販薬の中でも、風邪薬はよく売れる商品カテゴリーの1つではないでしょうか。それらの市販薬に関して、憂慮すべき事態が起こっています。2018年に薬物依存などで全国の精神科で治療を受けた10代患者の4割以上が、せき止め薬や風邪薬などの市販薬を乱用していたことが厚生労働省研究班の実態調査で分かった。(中略)「消えたい」「死にたい」などと考え、生きづらさを抱えた若者が、一時的に意欲を高めるために市販薬を乱用するケースが多いという。せき止め薬は安価で簡単に入手できる上、中枢神経興奮薬と抑制薬の両方の成分が含まれている。(2019年9月16日付 日本経済新聞)この報道は、厚生労働省の研究事業の一環である「全国の精神科医療施設における薬物関連精神疾患の実態調査」という、精神科医を中心として行われた研究結果を基にしています。本研究は、全国の入院設備のある精神科1,566施設を対象に、2018年9月~10月に薬物関連の治療を受けた患者のうち、同意が得られた2,609例を分析対象として実施されました。「10代の薬物依存患者の4割が市販薬を乱用」というかなりショッキングな内容のため、テレビや一般紙などでもこの結果が取り上げられました。情報番組『めざましテレビ』の取材では、実際に市販薬を風邪や咳止めなどの本来の目的以外で使用した経験がある10代の若者たちに直接その現状や理由を聞いており、以下のような回答が紹介されました(一部改変)。「学校の周りとかで結構います。1回でやめるつもりだったみたいだけど、どんどんハマっちゃって、どんどん飲んじゃうみたい」(友人が市販薬を過剰摂取していた10代)「追い詰められたときに薬に頼った。クラクラが気持ちいい。現実から逃げられる」(以前、市販薬を過剰摂取していた10代)このテレビ番組の街頭アンケートによると、街にいた10代~20代の107人のうち14%で本人あるいは身近な人物が市販薬を過剰摂取していたそうです。市販薬は身近な場所でいつでも購入できるというメリットがありますが、一方で購入のハードルが低く、乱用によって健康被害や依存が容易に生じうる危険もあると改めて感じます。乱用されている薬剤の第1位はブロン錠・液実際にどのような市販薬が乱用されているのでしょうか。これらも冒頭の研究結果で明らかになっています。第1位がブロン錠/ブロン液で158件と圧倒的な多さでした。第2位はパブロン/パブロンゴールド(34件)、第3位以下はウット(32件)、ナロン/ナロンエース(16件)、と続きます。これは2年前の調査から変わっていません。ブロン錠、パブロンゴールドA錠の成分を見てみると、以下のようになっています。ブロン錠:ジヒドロコデインリン酸塩、dl-メチルエフェドリン塩酸塩、クロルフェニラミンマレイン酸塩、無水カフェインパブロンゴールドA 錠:グアイフェネシン、ジヒドロコデインリン酸塩、dl-メチルエフェドリン塩酸塩、アセトアミノフェン、クロルフェニラミンマレイン酸塩、無水カフェイン、リボフラビン咳止めを目的として配合されている「ジヒドロコデインリン酸塩」は、医療用医薬品としても使用される中枢性麻薬性鎮咳薬で、モルヒネと同様の基本構造を有します。用法用量を守って服用してもせん妄や呼吸抑制などが起こることがあり、依存性があることでも知られています。なお、コデイン類含有製剤は呼吸抑制の恐れがあることから、2019年以降は12歳未満の小児への使用が禁忌となりました。販売に関しても、「原則1回1包装単位」と決められています。セルフメディケーションが推進されている中、どうやって市販薬の乱用を止められるのか、と考えましたが、現実的にはなかなか難しいと言わざるを得ません。購入時に薬剤師から質問などがあるとは思いますが、風邪のときに使用すると言って複数の薬局やドラッグストアを回れば、誰だって大量購入ができてしまいます。また、これらの医薬品はインターネット購入も可能な商品であり、薬剤師と顔を合わせることなく購入することもできます。個々の薬剤師にできることは多くはないかもしれませんが、このような市販薬の乱用が社会問題になっていることを肝に銘じて、販売品目や方法を考える必要がありそうです。

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第17回 内科からのレボフロキサシンの処方(後編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

前編 Q1予想される原因菌は?Q2患者さんに確認することは?Q3 疑義照会する?しない・・・8人PRSPを想定? 荒川隆之さん(病院)しません。経口へのスイッチングの場合、わざわざブロードスペクトルであるレボフロキサシンにする必要性は低く、クラブラン酸/アモキシシリンなどでもよい気はするのですが、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)を想定されているのかもしれません。ガイドラインを参考に 奥村雪男さん(薬局)疑義照会しないと思います。JAID/JSC感染症治療ガイド2014でdefinitive therapyとして推奨される治療に、PSSP外来治療の第二選択と、PRSP外来治療の第一選択にレボフロキサシンが記載されています。投与期間については、「症状および検査所見の改善に応じて決定する。5~7日間が目安となる」とあるので、セフトリアキソン4日間+レボフロキサシン5日間で、不自然な日数ではないと思います。する・・・3人ガレノキサシンへの変更提案 清水直明さん(病院)発熱・呼吸器症状・食欲不振があるので、喘息発作ではなく呼吸器感染症と考えます。本来、肺炎球菌と確定しているのならば高用量ペニシリンを推奨すべきところですが、肺炎球菌の検査をしたかどうか、胸部レントゲンも撮ったかどうか不明確ですので、外来静注抗菌薬療法後のスイッチ療法としてはキノロン系抗菌薬もありだと思います。ただし、幾つかの成書から呼吸器感染症に対してはレボフロキサシンよりもガレノキサシンが有効性が高いと思いますし、特に、肺炎球菌に対してはレボフロキサシンとガレノキサシンのMICは結構異なっているので、「レボフロキサシン500mgでも特別問題ないかもしれませんが、より有効性を期待するという意味で、ジェニナック®錠 1回400mg 1日1回をお勧めします」と提案します。アモキシシリン高用量かアジスロマイシン単回投与に JITHURYOUさん(病院)疑義照会します。喘鳴がなく、熱があることを考えると、喘息発作ではなく呼吸器感染症でいいと思います。食欲がない、発熱からも肺炎の可能性があると考えます。その場合、呼吸器学会の鑑別基準でいくと、1~5の項目で3項目が該当するため非定型肺炎の可能性があると思われます。喘息があることや、非定型のカバーを考えるとレボフロキサシン経口内服指示は理解できます。しかし、セフトリアキソン点滴に効果があることから非定型肺炎はカバーしなくてよいと思います。PRSPである場合は、レボフロキサシン投与もうなずけます。しかし、結核のリスクがあること、喘息の管理としてステロイド吸入やマクロライド系抗菌薬を使用していないこと、飲酒習慣などもなく耐性菌リスクが少ないのではないかと考えられるため、今回のレボフロキサシンの処方は一考した方がいいのではないかと考えました。アモキシシリン高用量かアジスロマイシン単回投与(アドヒアランス考慮)を提案すると思います。細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別1.年齢60 歳未満2.基礎疾患がない、あるいは軽微3.頑固な咳嗽がある4.胸部聴診上所見が乏しい5.喀痰がない、あるいは迅速診断で原因菌らしきものがない6.末梢血白血球数が10,000/μL未満である1-6の6項目中4項目以上合致した場合、非定型肺炎の感度77.9%、特異度93.0%。1-5の5項目中3項目以上合致した場合、非定型肺炎の感度83.9%、特異度87.0%日本呼吸器学会呼吸器感染症に関するガイドライン作成委員会.成人市中肺炎診療ガイドライン.東京、日本呼吸器学会、2007.Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?再受診のタイミングや他院受診時の注意 ふな3さん(薬局)必ず指示された日(3日後)から服用を開始すること食欲がなくても、食事が取れなくても、毎日必ず1錠服用すること症状が改善しても5 日分服用を続けること服薬して3日以上(=治療開始から7日以上)経過しても症状が改善しない場合には、すぐに医療機関を再受診すること他院(喘息治療など)に通院の際は、必ずレボフロキサシンを服用中であることを伝えることしっかり飲みきることと副作用について JITHURYOUさん(病院)耐性菌が出現しないよう、しっかり飲み切ること。確率は低いですが、アキレス腱炎や痙攣、光線過敏症などに気を付けること。患者さんへの説明例 清水直明さん(病院)「薬のせいでお腹が緩くなることがあります。我慢できる程度の軽い症状ならば抗菌薬をやめれば戻るので問題ありませんが、ひどい場合には服用を中止してご連絡ください」「牛乳などの乳製品や一部の制酸薬や下剤、貧血の薬(鉄剤)と一緒に服用すると効果が弱くなる可能性があるので、抗菌薬服用の前後2時間はそれらの摂取を避けるようにしてください」併用薬はなしとのことですが、OTCやサプリメントを服用している可能性はあり、その中に相互作用を起こすアルミニウムやマグネシウムなどが入っていることがあるので、一応伝えておきます。結核検査をしていた場合 キャンプ人さん(病院)「4日間点滴後の内服薬なので、飲み始める日にちを間違えないようにしてください」と言います。結核の検査をしていたなら、病院から検査結果の連絡があれば必ず受診するなど、そのままほったらかしにしないよう説明します。車の運転について 柏木紀久さん(薬局)3日後からの服用を理解しているかの確認と、5日間きちんと服用してもらうこと。車や機械などの運転を極力控えること。Q5 その他、気付いたことは?肺炎球菌→レボフロキサシン? 中堅薬剤師さん(薬局)肺炎球菌にすぐレボフロキサシン、はオーバートリートメントかな、と個人的に思います。できれば、アモキシシリン5~7日の投与で十分とコメントしたいです。地域のアンチバイオグラムは? 荒川隆之さん(病院)原因菌も肺炎球菌とされているので、通常ならレボフロキサシンではなく、クラブラン酸/アモキシシリンなどの経口の方が適しているものと考えますが、原因菌がPRSPであった場合は、レボフロキサシンでもよいのかもしれません。PRSPかどうかは尿中抗原などでは診断が付かず、培養の結果を待たなければなりません。喀痰培養などで肺炎球菌は増殖しづらく、処方の時点でPRSPだと断定はできていないものと考えます。地域のアンチバイオグラムにおいてPRSPの頻度が高い地域なのでしょうか。処方タイミング ふな3さん(薬局)4日間の点滴での容体の変化を見て、その後の抗菌薬フォローアップを決めるのが一般的だと思うので、なぜこのタイミングで処方なのかは疑問です。GWや年末年始でクローズする調剤薬局が多いタイミングだったのでしょうか。治療後の残存症状として、喘息症状の遷延や悪化があった場合、喘息治療薬も必要になる可能性があるので、やはり点滴投与後の処方が望ましいと感じます。また、出勤などは控えるように伝えられているのではと思うので、その点も確認したいです。肺炎球菌の耐性度は、ほとんどが中等度まで 奥村雪男さん(薬局)薬剤耐性対策としては可能であれば、レボフロキサシンより高用量のアモキシシリンなどのペニシリンが好ましかったのではと思います。日常診療で遭遇するほとんどの肺炎球菌はせいぜい中等度耐性(MICが1~2μg/mL)であり、高用量のペニシリンで対応可能とされています1)。処方例としては、アモキシシリン500~1,000mgの1日3~4回経口が挙げられています。感受性の結果次第ではペニシリン系を提案 児玉暁人さん(病院)セフトリアキソンで効果があるようであれば、レボフロキサシンでなくてもよいかもしれません。喀痰培養で感受性結果が分かれば、自信を持ってペニシリン系を処方できると思います。判定が早いので迅速キットでの検査だったのかもしれません。検査室がありグラム染色ができれば、その日でも肺炎球菌を想定はできますが。初日に培養を出せば4日目の点滴時には感受性結果が出るはずですので、そこで抗菌薬を決めて処方箋を出すというのでもいいのでは。検査が外注だとそうはいかないのですが。喘息の定期受診と生活指導 JITHURYOUさん(病院)喘息で併用薬なしということですが、本当に定期的な受診をしているのかは不明です。日常生活の支障がないのでしょう。しかし、発作がなくてもステロイド吸入で気道リモデリングの予防と喘息死の予防をすることは欠かせないこと、感染症が発作の引き金になるので合わせて定期受診すべきであることを伝えたいです。男性一人暮らし、ハウスダストアレルギーなので定期的な部屋の掃除なども指導したいですね。また、患者の身長体重から、BMIは17.31となります。やせ型の若い男性で気胸のリスクがあるので、咳が続き胸痛や呼吸困難などの症状があれば受診するように指導します(登山や出張などで飛行機など乗ること、楽器演奏、激しい運動などは治療が終わるまでできれば避けること)。さらに可能であれば、運動を少しずつしていき筋肉や体力をつけていき、呼吸器感染症や喘息、気胸予防をしていくように指導したいです。後日談(担当した薬剤師から)翌週、無事に回復しましたと処方箋を持って来局。咳症状が少し残っていたのでしょう、デキストロメトルファン錠15mgとカルボシステイン錠250mgを1回2 錠 1日3回 毎食後7日分を受け取って帰られました。後日談について 中堅薬剤師さん(薬局)後日談の咳が残るという主訴(おそらく感染後咳嗽)に対して、デキストロメトルファンは微妙かなあと感じました。呼吸器門前で働いてきた経験から、むやみな鎮咳剤投与は無意味ではないか、と考えるようになったからです。本当につらい咳なら、コデイン投与で間欠的にするべきですし、そもそもの治療が奏功していない可能性もあります。そんなにひどくない咳であれば、麦門冬湯でもよいと思います。1)青木眞. レジデントのための感染症診療マニュアル. 第2 版. 東京、医学書院、2008.[PharmaTribune 2017年7月号掲載]

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特発性肺線維症〔IPF : idiopathic pulmonary fibrosis〕

特発性肺線維症特発性肺線維症のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 概念・定義間質性肺炎は、肺の間質と呼ばれる肺胞(隔)壁などに傷害と炎症が生じ、不可逆的な線維化を起こす疾患群である。この間質性肺炎には、薬剤性、膠原病性、大量の粉塵吸入など原因が明らかなものと、原因が不明な特発性間質性肺炎とがある。主な特発性間質性肺炎は7つの病型に分類されているが、そのうち患者数が最も多く、かつ予後不良の中心的疾患が特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)である。IPFは慢性、進行性の疾患であり、高度の線維化が肺底部、肺の末梢領域から肺全体へ広がって、不可逆性の蜂巣肺と呼ばれる病変を形成する、きわめて予後不良の疾患である。IPFの病理組織像はusual interstitial pneumonia (UIP)と呼ばれている所見である。従来、有効な治療法のない疾患であったが、近年、2つの抗線維化薬が治療薬として注目されている。■ 疫学近年まで特発性間質性肺炎、IPFの患者数についての正確な調査は行われておらず、まったく不明であったが、厚生労働省難治性疾患克服研究事業「びまん性肺疾患に関する調査研究班」により2008年以来、北海道において詳細な疫学研究が行われ、実態が明らかにされてきた。これによると、特発性間質性肺炎の有病率は10万人あたり10.0人であり、日本全体では少なくとも約1万3千人の患者数となり、その多くがIPFであることから、少なくみても1万数千人以上のIPF患者が日本には存在すると考えられる。■ 病因定義で述べたように、IPFの原因は不明であるが、リスク・ファクターとして喫煙、職場の粉塵(とくに金属粉塵)、ウィルスなどが考えられている。家族性で遺伝的素因が強くうかがわれる例もある。■ 症状IPFはゆっくりと進行する疾患であるが、個々の患者によって比較的急速に進行する例もある。主な症状は労作時の呼吸困難とさまざまな程度の乾性咳嗽である。労作時の息切れは、来院する6ヵ月~数年前から存在しており、聴診ではほとんどの例で、背部下肺野に捻髪音(fine crackle)を聴取する。半分~1/3の例で「ばち指」を認める。進行し末期に至ると、肺性心、末梢性浮腫、チアノーゼなどがみられてくる。■ 分類背景因子として、粉塵吸入の目立つ例、C型肝炎例、糖尿病合併例、膠原病が疑われる症状のある例、過敏性肺炎との鑑別が難しい例、家族性の例などさまざまなサブタイプの存在するheterogeneousな疾患といえる。近年、欧米からの指摘により日本でも再注目されているのが、上肺に気腫が存在し、下肺に線維化がある「気腫合併肺線維症」(CPFE:combined pulmonary fibrosis and emphysema)である。本病態は喫煙と強い関係があり、呼吸機能上、気腫と線維化が相殺されて、1秒率 (FEV1/FVC)は一見正常に近いが、肺拡散能が低下しているという特徴を有する。本病態では、肺がんの高率合併や症例によっては強い肺高血圧症を合併することからも注意が必要である。分類ではないが、IPFの病態としてきわめて重要なものに「急性増悪」と肺がん合併がある。急性増悪を一旦起こすと、死亡率約80%ともいわれ、きわめて予後不良である。■ 予後IPFはきわめて予後不良の疾患で、わが国のある調査では、初診時を起点とした平均生存期間は約5年であった。また、欧米での診断確定後の平均生存期間は28~52ヵ月とされる。しかしながら、IPFの予後にはきわめて多様性があり、数ヵ月で急性増悪などにより死亡する例から10数年以上生存する例までさまざまである。ただ、全体的にはきわめて予後不良の疾患であることは間違いのないところである。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)IPFの診断については基本的には図1の「IPF診断のフローチャート」に沿って行われる。まず、原因の明らかな他の間質性肺疾患を除外し、つぎにHRCT所見で典型的なUIPパターン(表1)を示す場合には、臨床的にIPFと確定診断される。外科的肺生検が実施された例では、HRCT所見と病理所見の組み合わせで判断していく(表2)。HRCTで典型的なUIPパターンを示さない場合でもpossible UIPパターンで、臨床経過がIPFに合致するような肺機能低下を示す(disease behavior)例ではIPFと臨床診断されることも可能である。こういった診断の際には間質性肺疾患の診断経験を十分に積んだ呼吸器専門医、画像診断医、病理診断医がMDD(multi-disciplinary discussion:多職種による合議)を行い、総合的に判断していくことがIPFの正確な診断に重要とされている。血液検査所見としては、従来LDHのみであったが、近年、新しい間質性肺炎マーカーとしてKL-6、SP-D、SP-Aが導入された。これらは、診断と共に活動度の判定にも有用である。呼吸機能としては、通常肺活量(VC)や全肺気量(TLC)の低下がみられ、拘束性換気障害のパターンを示し、また同時に肺拡散能の低下も認められる。ただし、気腫合併肺線維症ではこの限りではないことは前述した。IPFとの鑑別が必要な主な疾患として、表3のようなものがあげられる。画像を拡大する■MDD(multidisciplinary discussion)の取り扱いMDD:下記のとおり、呼吸器内科医、画像診断医、病理診断医が総合的に診断するMDD-A:画像上他疾患が考えられる場合、気管支鏡検査あるいは外科的肺生検で他疾患が見込まれる場合MDD-B:外科的肺生検は積極的UIP診断の根拠になる場合が多いため、患者のリスクを勘案の上、可能な限り施行するMDD-C:IPF症例で非典型的な画像(蜂巣肺が不鮮明など)を約半数で認めるため、呼吸機能の低下など、進行経過(behavior)を総合して臨床的IPFと判断する症例があるMDD-D:病理検査のない場合の適格性を検討する各MDDにおいて最終診断が変わりうる可能性がある画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する3 治療今まで、IPFの生存率や健康関連QOLに対して明らかな有効性が証明された薬物治療法はなかったが、2008年に新しく上市された抗線維化薬ピルフェニドン(商品名:ピレスパ)、さらに2015年に上市されたニンテダニブ(同:オフェブ)が大きく注目されている。IPFは治癒が期待できない難治性疾患であるため、その治療目標は改善ではなく、むしろ悪化防止(現状維持)が現実的である。予後不良因子である急性増悪の予防(感冒・心不全などの予防、無理をしないなど)、合併症の肺がん、肺高血圧症の早期発見と対応が求められる。後述する薬剤治療に関しても、治療効果と副作用を考えて選択することが重要である。次に、薬剤治療について述べる。1)N-アセチルシステイン(NAC:N-acetylcysteine)は、グルタチオンの前駆物質であり、抗酸化作用を有すると共に、活性酸素のスカベンジャー作用、炎症性サイトカイン産生の抑制作用などがある。IPFの病変部ではグルタチオンが減少し、レドックスバランスの不均衡が生じていることからも、NACの有用性が考えられる。NACの経口薬については欧州を中心とした臨床試験において効果が示されていたが、近年PANTHER試験で経口薬は無効とされた。しかし、日本ではNACはすでに吸入薬の形で去痰薬として長い歴史がある。吸入薬の形によるNACのIPFに対する検証がわが国でも厚生労働省の研究班を中心に行われ、一定の効果が示されている。NACの利点は副作用が少ない点であるが、吸入療法のため、アドヒアランスに欠点がある。吸入薬のNACについては、抗線維化薬との併用を含めさらに検討が必要である。2)抗線維化薬ピルフェニドンピルフェニドンは米国で創薬された薬剤であり、TNF-αなどの炎症性サイトカイン抑制、線維芽細胞のコラーゲン産生抑制といった抗炎症、抗線維化作用を有する薬剤である。わが国において軽症および中等症のIPFを対象とした第II相試験が行われ、歩行時低酸素血症の改善、呼吸機能の悪化抑制が認められた。さらに第III相試験が行われ、%VC悪化の有意な抑制、無増悪生存期間の改善が認められ、2008年12月に世界初の抗線維化薬として市販された。副作用として当初は光線過敏症が注目されていたが、実際に使用してみるとむしろ問題になるのは胃腸障害である。その後の研究でピルフェニドンはIPF患者のVC/FVCの低下を抑制し、無増悪生存期間の延長、6分間歩行距離の低下抑制を示した。とくに軽症例においてVC低下抑制、無増悪生存期間の延長が際立っていた。いくつかのトライアルの統合解析において、ピルフェニドンはIPF患者の全死亡率、疾患関連死亡率の低下を示したという。3)抗線維化薬ニンテダニブニンテダニブは、ベーリンガーインゲルハイム社によって開発された経口薬である。肺の線維化に関係する3つの分子、VEGF受容体、PDGF受容体、FGF受容体を阻害する低分子トリプリチロキンシナーゼ阻害薬である。わが国では2015年に第2の抗線維化薬として承認され市販された。ニンテダニブは全世界的規模のトライアルにおいてIPF患者の呼吸機能の年間低下率を約50%抑制した。主な副作用は下痢であり、その他肝機能障害などがみられる。4)ステロイド、免疫抑制剤これらの抗炎症薬のIPFに対する効果は基本的に否定されているが、IPFの終末期など症例によっては一定の効果をみる場合もある。また、急性増悪の際の治療としては、頻用されている。その他、進行例では在宅酸素療法が行われ、呼吸リハビリテーションも重要である。進行例で基準を満たせば肺移植の適応でもある。4 今後の展望前述の2つの抗線維化薬に対して、今後どのような重症度から投与するのか、長期の安全性、2つの薬の使い分けまたは併用の可能性などの多くの明らかにすべき課題がある。5 主たる診療科呼吸器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 特発性間質性肺炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本呼吸器学会(医療従事者向けのまとまった情報)1)日本呼吸器学会びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編. 特発性間質性肺炎診断と治療の手引き.改訂第3版:南江堂;2016.2)「びまん性肺疾患に関する調査研究」班特発性肺線維症の治療ガイドライン作成委員会編. 特発性肺線維症の治療ガイドライン2017. 南江堂;2017.3)杉山幸比古編.特発性肺線維症(IPF) 改訂版.医薬ジャーナル社;2013.4)杉山幸比古編、特発性間質性肺炎の治療と管理.克誠堂出版;2013.公開履歴初回2013年02月28日更新2018年11月13日

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第11回 内科クリニックからのミノサイクリン、レボフロキサシンの処方 (後編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

前編 Q1予想される原因菌は?Q2患者さんに確認することは?Q3疑義照会する?Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?抗菌薬を飲みきる キャンプ人さん(病院)母子ともに、指示された期間きちんと服用するように説明します。服用時の注意や改善しない場合の対処 清水直明さん(病院)レボフロキサシンもしくはミノサイクリンの処方が確定している場合の説明例です。「牛乳などの乳製品や一部の制酸薬や下剤、貧血の薬(鉄剤)とともに服用すると効果が弱くなる可能性があるので、抗菌薬服用の前後2時間はそれらの摂取を避けるようにしてください」「3日ほど服用しても全く症状が改善しないか、悪化したと感じる時は、服用の途中でも一度ご相談ください」「ミノサイクリンを服用中は、めまい感があらわれることがあるので、車の運転など危険を伴う機械の操作、高所での作業などは行わないでください」「ミノサイクリンは、もしも食道にくっついてそこで溶けてしまうと食道に潰瘍ができることがありますので、多めの水でしっかり服用してください」尿の色 奥村雪男さん(薬局)ミノサイクリンは尿が青~緑に着色する場合があるので、あらかじめ伝えておいた方が無難だと思います。カルシウムと難溶性のキレートを形成するので、牛乳はミノマイシン服用後2時間程度あけて摂取するように、とも説明した方がよいでしょう。解熱鎮痛薬との併用について ふな3さん(薬局)母については、ひどいめまいや悪心・食欲不振が出た場合には、医師に相談するよう伝えます。子には抗菌薬を飲みきることと、服用期間に発熱・頭痛等が起きた場合、一部のNSAIDs で痙攣が誘発される可能性があるので、自己判断でのNSAIDsの使用を控え、重い症状であれば医師に相談するよう伝えます。飲み忘れた場合の対処 中西剛明さん(薬局)母には頭痛、めまい、倦怠感が起こる可能性について伝えます。おそらくすぐに良くなると思われるが、これらが起きたとしても途中で服用を中止しないこと、倦怠感の場合は、薬剤性肝障害の可能性もあるので受診をするように説明をしておきます。また、朝は乳製品の摂取をできるだけ控えることを伝えます。食道刺激作用があるため、服用後すぐに横にならないように、とも伝えます。子には短期間であれば関節障害の発症は心配いらないものの、アキレス腱などの腱断裂の危険があるので、治療中は激しい運動を避けるように説明します。また、朝の服用となっていますが、飲み忘れたときはすぐに飲むことと、夕から寝る前にかけて服用すると不眠や悪夢を経験する可能性があることを付け加えます。Q5 その他、気付いたことは?肺炎マイコプラズマの治療方針 奥村雪男さん(薬局)15歳以下の小児の場合日本マイコプラズマ学会の「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」では、マイコプラズマ感染症で、「マクロライド系薬が無効の肺炎には、使用する必要があると判断される場合は、トスフロキサシンあるいはテトラサイクリン系薬の投与を考慮する。ただし、8歳未満には、テトラサイクリン系薬剤は原則禁忌である」とされています。マクロライドが無効との判断は、服用2~3日で解熱しなかった場合でなされるようです。必要があると判断された場合と言うのは、年齢や流行状況、重症感で判断されるのではないかと思います。ちなみに、マクロライドで症状の改善が無い場合の耐性率は90%以上、一方でマクロライドの前投与がない場合の耐性率は50%以下に留まるとの報告があります(IASR Vol.33 p.267-268:2012年10月号)。他の医療機関で治療を受けていたとの事から、すでにクラリスロマイシンなどのマクロライドを服用していたのかも知れません。小児呼吸器感染症ガイドライン2011では、全身状態が良好で、チアノーゼがなく、呼吸数正常、努力呼吸なし、胸部X線陰影が片側の1/3以下、胸水なし、SpO2>96%、循環不全なし、人工呼吸器管理不要の全てを満たす場合、外来でフォロー出来る軽症と判断するようです。治療期間は、「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」に従うと、トスフロキサシン、テトラサイクリンの場合7~14日とされるようです。5日間はやや短く、治療への反応を見ているのかも知れません。成人の場合次に母親の方ですが、親子で同じような症状であり、息子さんからの感染が考えられます。「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」によれば、成人のマクロライド耐性マイコプラズマの第1選択はテトラサイクリンとされます。成人に対するマイコプラズマ肺炎の適切な治療期間についてはエビデンスに乏しいが、エキスパートオピニオンとして7~10日間が適当であると考えられるとしています。学校で広まっている可能性も キャンプ人さん(病院)乾いた咳はマイコプラズマ肺炎の初期症状でもあり、きちんと抗菌薬を服用すること。そして他の部員にも広がっている可能性があり、学校保健法を考慮して出席停止になる可能性もあることを伝えます。小児へのミノサイクリン投与について 中西剛明さん(薬局)本来は「肺炎の場合に抗菌薬を使う」が原則ですから、肺炎に至っていたのかどうかが気になるところです。おそらく、前医でマクロライドの投薬を受けてきたのでしょう。マイコプラズマは免疫系から逃れて増殖するので、免疫に作用するミノサイクリンは、最小発育阻止濃度(MIC)はマクロライド系抗菌薬に劣るものの、十分な効果が期待できます。小児の場合、1回の服用で歯の黄染の痕跡が残るとされているので、ミノサイクリンはできるだけ避けた方がよいと考えます。ニューキノロン系抗菌薬とのリスクとベネフィットのバランスを考えると、禁忌とはいえ、必要なこともあると思います。この症例ではレボフロキサシンが選択されていますが、本当は適応症を持っているトスフロキサシンの方がよいでしょう。ニューキノロン系抗菌薬は耐性ができやすいので、できるだけ避けたいですね。鎮咳薬は必要? 中堅薬剤師さん(薬局)母子ともにデキストロメトルファン2週間の処方は、必要なのかな? と思いました。咳喘息もあるようなら、吸入薬を導入するほうがよい気がします。子に抗菌薬は不要では JITHURYOUさん(病院)子は解熱しており、レボフロキサシンが必要か疑問です。必要な場合も当然あるとは思いますが、アキレス腱炎や断裂、また動物レベルで関節異常の副作用の報告があり、成長期の子供に使用が必要か吟味することを考えました。仮に肺炎マイコプラズマによる呼吸器感染であるならば、咳の症状は強いかもしれませんが解熱していること、改善しても咳症状のみ遷延することがあるからです。結核菌を考慮すると、症状をマスクするので菌の同定がされていないうちに投与することはリスクが高いのではないのかと考えました。加えて、マスク着用、水分補給をして安静を心がけることも指導したいです。後日談2週後の時点では来局なし。3 週間後、母にだけ「麦門冬湯9g 分3 毎食前 7日分」が処方された。抗菌薬の処方はなかった。聞き取りの結果、「割と早く咳は楽にはなった、咳は続くが特に抗菌薬によるトラブルはなかった」とのことだった。[PharmaTribune 2017年2月号掲載]

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