サイト内検索|page:2

検索結果 合計:91件 表示位置:21 - 40

21.

英語で「~だとわかった」は?【1分★医療英語】第21回

第21回 英語で「~だとわかった」は?I’d like to hear about the result of the blood test...(血液検査の結果を聞きたいのですが…) It turned out that you have diabetes.(検査の結果、あなたは糖尿病だとわかりました)《例文1》It turned out that the patient has lung cancer.(その患者は肺がんに罹患しているとわかった)《例文2》The blood test has turned out/come out to be negative.(血液検査の結果は陰性でした)《解説》“turn”という動詞には、単独では「向きを変える」などの意味がありますが、“I’m turning 40 next month.”(私は来月40歳になる)の使い方のように、「ある状態になる」といった意味もあります。“turn out”で、「〜だとわかる」「〜という結果になる」という意味になりますが、ここには「予想していた結果と異なる」というニュアンスが含まれます。同様に、“The patient turned out to be allergic to dye.”(その患者は造影剤にアレルギーがあることがわかった)などのように、対象を主語にして用いることもできます。用例としては、“The chemotherapy turned out to be effective for the patient.”([予測に反して]化学療法はその患者には有効であることがわかった)、“The patient, as it turned out, hadn’t taken his insulin for the last couple of days.”(その患者は[期待に反して]、この数日間インスリンを打っていなかったことがわかった)などもあります。一方、“come out”も「何かが明らかになる」という意味があり、こちらは予測と結果の関係によらずに使うことができます。“The result has just come out.”(ちょうど結果が出たところだ)のように使われます。講師紹介

22.

造影剤お役立ち情報サイト「Contrast ColleGE」開設【ご案内】

 ケアネットは、オンラインでのエンゲージメントに特化した新プラットフォーム「DXPlus」を用いて、GEヘルスケアファーマ提供のもと、放射線科の医師や医療従事者を対象とした造影剤に関するお役立ち情報サイト「Contrast ColleGE」を公開した。 本サイトは「集まって学び、解決する」をキーワードに、トップランナーの先生方による症例紹介コンテンツなどを掲載するライブラリコーナーや、造影剤に関する疑問やその答えが一覧ですぐに見つかるように工夫されたQ&Aコーナー、GEヘルスケアファーマの講演会などの告知をするイベントコーナーなどを充実させ、造影剤で困ったら「Contrast ColleGE」というブランディングを目的にスタートした。 今後は、提供元の「機器と造影剤のGE」の強みを活かしたシームレスな情報発信や、双方向コミュニケーション機能などの実装を通し、医療現場に寄り添った新しい価値を「Contrast ColleGE」から提供していく。「Contrast ColleGE」はこちらから※Contrast ColleGEは、CareNet.com会員ID(メールアドレス)のみでサイト利用登録が完了します。

23.

肥大型心筋症〔HCM:hypertrophic cardiomyopathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy:HCM)は、主に遺伝的変異を原因として不均一な心肥大を左室や右室に来し、心機能低下をもたらすとされる特発性心筋症であり、わが国では指定難病とされている。臨床的には左室流出路閉塞を来す閉塞性obstructive HCMと来さない非閉塞性non-obstructive HCMに分類され、前者では収縮期に左室内圧較差が生じることが臨床的に問題となることが多いのに対し、後者は予後が比較的安定しているとされている。■ 疫学日本全国に推計患者数が2万1,900人、有病率は人口10万人あたり17.3人と報告されている(1998年の全国疫学調査)。男女比は2.3:1と男性に多い。■ 病因心筋収縮関連蛋白の遺伝子異常が主な病因であり、2019年時点では11の原因遺伝子と、サルコメアを構成するタンパク質をコードする遺伝子の1,500以上の変異が報告されている。しかし、遺伝子異常が特定されない症例も多くみられ(20~50%)、病因に関しては不明な点も多い。 ■ 症状閉塞性肥大型心筋症では胸部症状(労作時呼吸困難や相対的心筋虚血による胸痛・胸部絞扼感)や神経学的症状(起立時のめまい・ふらつき、眼前暗黒感、失神)が認められる。非閉塞性肥大型心筋症患者は無症候であることも多く、健康診断での心電図などを契機にわが国では発見される場合も多い。■ 分類肥大型心筋症は以下の5つのタイプに分類される:1.閉塞性肥大型心筋症(HOCM)HOCM(basal obstruction):安静時に30mmHg以上の左室流出路圧較差を認める。HOCM(labile/provocable obstruction):安静時に圧較差は30mmHg未満であるが、運動などの生理的な誘発で30mmHg以上の圧較差を認める。2.非閉塞性肥大型心筋症(non-obstructive HCM):安静時および誘発時に30mmHg以上の圧較差を認めない。3.心室中部閉塞性心筋症(MVO):肥大に伴う心室中部での30mmHg以上の圧較差を認める。4.心尖部肥大型心筋症(apical HCM):心尖部に限局して肥大を認める。5.拡張相肥大型心筋症(dilated phase of HCM; D-HCM):肥大型心筋症の経過中に,肥大した心室壁厚が減少・菲薄化し、心室内腔の拡大を伴う左室収縮力低下(左室駆出率50%未満)を来し、拡張型心筋症様病態を呈する。■ 予後1982年の厚生省特定疾患特発性心筋症調査研究班の報告では肥大型心筋症の5年生存率および10年生存率は、それぞれ91.5%と81.8%であった。死因として若年者では心臓突然死が多く、致死性不整脈、失神・心停止の既往、突然死の家族歴、左室最大壁厚>30mmのうち2項目以上で突然死リスクが高いとされる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 心エコー検査心室中隔の肥大、非対称性中隔肥厚(拡張期の心室中隔厚/後壁厚≧1.3)など心筋の限局性肥大、左室拡張能障害(左室流入血流速波形での拡張障害パターン、僧帽弁輪部拡張早期運動速度低下)を認める。閉塞性肥大型心筋症では、僧帽弁の収縮期前方運動、左室流出路狭窄を認める。■ 心臓MRI検査ガドリニウム造影剤を用いた遅延相でのガドリニウム増強効果(Late Gadolinium Effect)は心筋線維化の存在を反映する。■ 心臓カテーテル検査圧測定で左室拡張末期圧上昇、左室−大動脈間圧較差(閉塞性)、Brockenbrough現象(期外収縮発生後の脈圧減少)が認められる。■ 心内膜下心筋生検他の原因による心筋肥大を鑑別する上で重要であり、病理検体で肥大心筋細胞、心筋線維化(線維犯行および間質線維化)、心筋細胞の錯綜配列などが認められる。■ 運動負荷検査心肺運動負荷試験により、肥大型心筋症症例では症状の出現閾値、Peak VO2を評価することで適切な運動制限を設定することが可能となる。■ 遺伝子検査ルーチンでの遺伝子検査は推奨されていないが、左室肥大を引き起こすことが知られている他の遺伝的疾患(ファブリー病、ライソゾーム蓄積病など)の除外診断のため、あるいは患者の一等親血縁者などを対象として希望があれば実施されることが多い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)閉塞性肥大型心筋症に対する現在の治療は、β遮断薬、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬、ジソピラミドなどによる対症療法が中心であるが、後述のマバカムテン(mavacamten)が近い将来使用可能になることが予想される。薬物療法に抵抗性を示す症例では、外科的中隔切除術やアルコールを用いた中隔焼灼術(percutaneous transluminal septal myocardial ablation:PTSMA)などの侵襲的中隔縮小療法を検討するが、リスクを伴うことから事前に入念な評価を要する。また、心臓突然死リスクを評価することは重要であり、心停止の既往、持続性心室頻拍、原因不明の失神、左室壁30mm以上、2014ESCガイドライン計算式(HCM Risk-SCD Calculator)でハイリスク(5年間のイベント予測が6%より大きい)、第1度近親者の突然死、運動時の血圧反応異常などが認められる場合には致死的不整脈による心臓突然死リスクが高く、植込み型除細動器の植え込みを検討する。4 今後の展望肥大型心筋症に対しての根本的治療として世界初の疾患特異的治療薬であるマバカムテンの登場によってパラダイム・シフトを迎えている。マバカムテンは、肥大型心筋症筋組織のアクチン・ミオシンの架橋形成を抑制する低分子選択的アロステリック阻害剤であり、心筋の過剰収縮を低下させ、心筋エネルギー消費を改善するまったく新しい機序の経口薬である。EXPLORER-HCM試験では、症候性の閉塞性肥大型心筋症(左室流出路における圧較差50mmHg以上)の成人患者を対象とし、マバカムテンまたはプラセボに1対1で無作為に割り付け、それぞれを30週間投与し、主要評価項目である(1)最高酸素摂取量(peak VO2)が1.5mL/kg/分以上増加し、かつNYHAクラスが1つ以上低下した場合、または(2)NYHAクラスの悪化を伴わずにpeak VO2が3.0mL/kg/分以上の増加が、プラセボ投与128例中22例(17%)に対し、マバカムテン投与123例中45例(37%)で達成し、有意な改善を認めており、2022年以降米国などで市販が望まれている。5 主たる診療科循環器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 肥大型心筋症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン 心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)(医療従事者向けのまとまった情報)2014 ESC HCM Risk-SCD Calculator(医療従事者向けのまとまった情報)1)Maron BJ. N Engl J Med. 2018;379:655-668.2)Ommen SR, et al. Circulation. 2020;142:e533-e557.3)Olivotto I,et al. Lancet. 2020;396:759-769.公開履歴初回2021年10月14日

24.

第26回 アナフィラキシー? 迅速に判断、アドレナリンの適切な投与を!【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)アナフィラキシーか否かを迅速に判断!2)アドレナリンの投与は適切に!アナフィラキシーに関しては以前(第15回 薬剤投与後の意識消失、原因は?)も取り上げましたが、大切なことですので、今一度整理しておきましょう。今回の症例は、新型コロナワクチン接種後のアナフィラキシーとして報告された事例*からです。この経過をみて突っ込みどころ、ありますよね?!*第53回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会令和2年度第13回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会【症例】30歳女性。ワクチン接種後待機中、呼吸困難を自覚。咳嗽が徐々に増悪し、体中の掻痒感を自覚した。接種5分後、SpO2が85~88%まで低下。酸素負荷、その後ネオフィリン注125mg、リンデロン注2mg点滴を開始。接種後20分緊急入院。眼瞼浮腫、喘鳴、SpO2100%(酸素4L)、血圧収縮期150mmHg程度、脈拍70~80/分、体幹に丘疹。接種55分後、アドレナリン0.3mL皮下注。その後、喘鳴は徐々に改善。接種4時間後酸素負荷終了。翌日午前中に一般病棟に転出。午後になり呼吸困難を自覚、サルブタモール吸入も効果なし。喘鳴は徐々に増強。その後も、リンデロン1.0mg投与効果なし、SpO2は98~100%、心拍70~80/分であった。オキシマスク2L投与併用。意識障害はなかったが、発語は困難であった。数時間後にリンデロン3mgを投与したところ、徐々に呼吸状態は改善。その後会話が可能な程度にまで回復した。翌朝、意識清明、会話可能、喘鳴なし、SpO2低下なし、リンデロン投与を継続し、経過観察したところ再燃なし、数日後自宅退院とした。はじめにアナフィラキシーは、どんな薬剤でも起こりえるものであり、初期対応が不適切であると致死的となるため、早期に認識し、適切な介入を行うことが極めて大切です。救急外来で診療をしているとしばしば出会います。また、院内でも抗菌薬や造影剤投与後にアナフィラキシーは一定数発生するため、研修医含め誰もが初期対応を理解しておく必要があります。新型コロナウイルス感染症に対するワクチン接種も全国で進んでおり、勤務先の病院やクリニック、大規模接種センターなどでアナフィラキシーに対して不安がある医療者の方も多いと思います。今回はアナフィラキシーの初期対応をシンプルにまとめましたので整理してみてください。アナフィラキシーを疑うサインとはアナフィラキシーか否かを判断できるでしょうか。そんなの簡単だろうと思われるかもしれませんが、意外と迷うことがあるのではないでしょうか。薬剤投与後に皮疹と喘鳴、血圧低下を認めれば誰もが気付くかもしれませんが、皮疹を認め喉の違和感や嘔気を認めるもののバイタルサインは安定している、皮疹は認めないが投与後に明らかにバイタルサインが変化しているなど、実際の現場では悩むのが現状であると思います。アナフィラキシーの診断基準は表の通りですが、抗菌薬や造影剤、さらにワクチン接種後の場合には、「アレルゲンと思われる物質に曝露後」に該当するため、皮膚や呼吸、循環、消化器症状のうち2つを認める場合にはアナフィラキシーとして動き出す必要があります。「血圧が保たれているからアドレナリンまでは…」「SpO2が保たれているからアドレナリンはやりすぎ…」ではないのです。皮膚症状もきちんと体幹部や四肢を直視しなければ見落とすこともあるため、薬剤使用後に呼吸・循環・消化器症状を認める場合、さらには頭痛や胸痛、痙攣などを認めた場合には必ず確認しましょう。表 アナフィラキシーの診断基準画像を拡大する(Sampson HA, et al. J Allergy Clin Immunol. 2006;117:391-397.より引用)ワクチン接種後のアナフィラキシーは、普段通りの全身症状で打つことに問題がない方が打っているわけですから、より判断がしやすいはずです。抗菌薬や造影剤の場合には、細菌感染や急性腹症など、全身状態が良好とはいえない状況で使用しますが、ワクチンは違いますよね。筋注後に何らかの症状を認めた場合にはアナフィラキシーを念頭にチェックすればいいわけですから、それほど判断は難しくありません。痛みや不安に伴う反射性失神によるもろもろの症状のこともありますが、皮疹や喘鳴は通常認めませんし、安静臥位の状態で様子をみれば時間経過とともによくなる点から大抵は判断が可能です。ここで重要な点は、「迷ったらアナフィラキシーとして対応する」ということです。アナフィラキシーは1分1秒を争い、対応の遅れが病状の悪化に直結します。アナフィラキシー? と思ったらアナフィラキシーと判断したらやるべきことはシンプルです。患者を臥位にしてバイタルサインの確認、そしてアドレナリンの投与です。アナフィラキシーと判断したらアドレナリンは必須なわけですが、投与量や投与方法を間違えてしまっては十分な効果が得られません。正確に覚えているでしょうか?アドレナリンは[1]大腿外側に、[2]0.3~0.5mg、[3]筋注です。肩ではありません、1mgではありません、そして皮下注ではありません。OKですね? アドレナリンの投与量に関しては、成人では0.5mgを推奨しているものもありますが、エピペンは0.3mgですから、その場にエピペンしかなければ0.3mgでOKです。何が言いたいか、「とにかく早期にアナフィラキシーを認識し、早期にアドレナリンを適切に投与する」、これが大事なのです。救急医学会が公開した、アナフィラキシー対応・簡易チャート(図)を見ながらアプローチをきっちり頭に入れておいて下さい。アナフィラキシー対応・簡易チャート画像を拡大する間違い探しさぁそれでは今回の症例をもう1度みてみましょう。この患者は基礎疾患に喘息などがあり、現場での対応が難しかったことが予想されますが、ちょっと突っ込みどころがあります。まず、ワクチン接種後、掻痒感に加え呼吸困難、SpO2も低下しています。この時点でアナフィラキシー症状の所見ですから、なる早でアドレナリンを投与する準備を進めなければなりません。よくアナフィラキシーに対して抗ヒスタミン薬やステロイドを投与しているのをみかけますが、これらの薬剤は使用を急ぐ必要は一切ありません。そして、アドレナリンは皮下注ではありません、筋注です! 重症喘息の際のアドレナリン投与は、なぜか皮下注も選択肢となっていますが筋注でよいでしょう。本症例では特にアナフィラキシーが考えられるため0.3~0.5mg筋注です。位置は大腿外側ですよ!さいごにアナフィラキシーはどこでも起こりえます。アナフィラキシーショックや死亡症例の多くは、アドレナリンの投与の遅れが大きく影響しています。迅速に判断し、適切なマネジメントができるように、今一度整理しておきましょう。1)Sampson HA, et al. J Allergy Clin Immunol. 2006;117:391-397.2)救急医学会. ワクチン接種会場におけるアナフィラキシー対応簡易チャート

25.

その症状もアナフィラキシーですよ!【Dr.山中の攻める!問診3step】第4回

第4回 その症状もアナフィラキシーですよ!―Key Point―皮膚や粘膜に症状がなくてもアナフィラキシーを診断するある日、中学2年生の女生徒が息苦しさを主訴に、学校から救急車で搬送されてきました。頻呼吸と喘鳴があり、唇がひどく腫脹しています。あどけない少女が救急室でおびえながら涙を流している姿を見てショックを受けました。学校で解熱鎮痛薬を飲んだ後に症状が出現したとのことです。アナフィラキシーによる呼吸器症状と血管浮腫です。改めて恐ろしい病気だと思いました。この連載では、患者の訴える症状が危険性のある疾患を示唆するかどうかを一緒に考えていきます。シャーロックホームズのような鋭い推理ができればカッコいいですよね。◆今回おさえておくべき原因はコチラ!【原因と病態生理】1)アナフィラキシーはIgEを介した即時型(I型)アレルギー反応によることが多い(薬剤、食物、虫刺され、ラテックス)。アレルゲンが肥満細胞や好塩基球の表面に存在するIgEと抗原抗体反応を起こすと、ヒスタミンやトリプターゼ、ブラジキニンなどのケミカルメディエーターが放出され全身反応が起こるIgEが介在せずに補体の活性化や未知の機序により肥満細胞が活性化されることもある(アスピリン、バンコマイシン、造影剤、運動、寒冷)【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2】診断へのアプローチ【診断】アナフィラキシーは頻繁に見逃されている可能性がある皮膚や粘膜に症状がなくてもアナフィラキシーと診断できる(下図)アニサキスもアナフィラキシーに関与しているとの報告がある2)(図)画像を拡大する【STEP3】治療や対策を検討する【治療】大腿前外側にアドレナリンを筋注する(大人では0.3~0.5mg、子供では0.01mg/kg)必要なら筋注を5~20分毎に繰り返すβブロッカーを内服しているとアドレナリンの反応が悪くなる。この場合はグルカゴン1A(1mg)を静注する下肢を挙上し、十分な補液(生食1000mL)をする死亡の多くの原因は循環血漿量の減少である(empty heart syndrome)軽快後に再び症状が起こる(ニ相性反応)ことが10~20%あるので、中等症以上では入院させる。帰宅する場合も4時間は院内での滞在を勧めるH1受容体拮抗薬(例:d-クロルフェニラミン[商品名:ポララミン ほか])とH2受容体拮抗薬(例:ファモチジン[同:ガスター ほか])を投与するステロイドが二相性反応を抑制するという明確なエビデンスはない3)。しかし、効果を期待してメチルプレドニゾロン(同:メドロール ほか)1~2mg/kgを静注することもある【予防】アレルゲンを明らかにするためには病歴を繰り返し聴取することが重要アナフィラキシーを起こすことが予想される患者にはエピペンを処方し携帯させる<参考文献・資料>1)Goldman L, et al. Goldman-Cecil Medicine. 16th. Elsevier. 2019. 1654-1658.2)国立感染症研究所:IASR.アニサキスアレルギーによる蕁麻疹・アナフィラキシー3)Cochrane:Glucocorticoids for the treatment of anaphylaxis

26.

コロナワクチンのアナフィラキシー、患者さんに予防策を聞かれたら?

 7月に入り、新型コロナワクチン接種が65歳未満でも本格化している。厚生労働省の副反応報告1)によると、現時点では「ワクチンの接種体制に直ちに影響を与える程度の重大な懸念は認められない」との見解が示されており、アナフィラキシーやその他副反応のリスクよりも新型コロナの重症化予防/無症状感染対策というベネフィットが上回るため、12歳以上へのワクチン接種は推奨される。 しかし、接種対象者の年齢範囲が広がることで問題となるのが、SNS上での根拠のないワクチン批判である。その要因の1つが「アナフィラキシー」だが、患者自身で出来る予防策はあるのだろうかー。今回、日本アレルギー学会のCOVID-19ワクチンに関するアナウンスメントワーキンググループのひとりである中村 陽一氏(横浜市立みなと赤十字病院アレルギーセンター センター長)に話を聞いた。ワクチンだけを恐れる矛盾を指摘 まず、中村氏はワクチン不安に陥る前に、あらかじめ知っておくべきこととして2点を提示した。一つは「腕の痛みなどの注射部位反応や筋肉痛、頭痛、寒気、倦怠感、発熱などの反応は、ワクチンに対する身体の正常な免疫反応を反映している」ということで、それらは数日以内に消失する。もう一つは「わが国における新型コロナワクチン接種後に起こったアナフィラキシーの報告で信頼に足るものは100万回あたり7件と報告されており、医療機関で使用される造影剤(100万回あたり約400件)や肺炎などの感染症で使用される抗生物質(100万回あたり100~500件)に比べると極めて少ない」という事実である。今回の新型コロナワクチンに限らず一般にワクチンはほかの医薬品に比べてアナフィラキシーが少ないと言われているにもかかわらず、接種を怖がる人が多いのは、「一部マスコミの注意喚起が強調され過ぎたのかもしれない。ただし、ごく稀とはいえ誰にでも新型コロナワクチンによるアナフィラキシーがあり得るのは事実であり、個人的にできる予防策があればそれに越したことはない」とも話した。 アナフィラキシーを増強させる促進要因(飲酒、運動、月経前状態など)2)はいくつか明らかになっているものの、実際にアナフィラキシーが発症する際にはさまざまな要因が絡み合うため、「これという確かな予防策は存在しない」と同氏はコメント。しかし、予防策が断定できなくとも患者が心得ておくべきは、「ワクチン接種日の数日前から体調を整えておくこと」であり、医療者の役割は「自分の患者からワクチン接種の可否について相談された場合にリスク因子の有無を正確に見極めること」と話した。その際に参考になるのは、アナフィラキシーの主な原因が新型コロナワクチンの主成分ではなく添加物(ポリエチレングリコール[PEG]やポリソルベートなど)との報告である。実際にファイザー製やモデルナ製にはPEGが、アストラゼネカ製にはPEGに交差反応性のあるポリソルベート80が添加されている。 一方、これらの賦形剤は多くの医薬品(注射薬、錠剤、外用薬、など)や化粧品に(PEGはマクロゴールの名称で)広く含有されており、同氏は「私の所属する医療機関で扱っている医薬品4,000種類以上に含まれている。そして、多くの患者は普段から定期的にこれらを体内に取り込んでいることになる。もちろん、その接種経路により症状誘発の程度が異なることはあり得るが、自分が担当する患者さんにワクチン接種の可否を訊ねられた際には、定期処方薬にそれらが含有されていることを確認した上で、『あなたは一般に新型コロナワクチンの原因と言われている成分を毎日服用しているのに普段何ともないのですから、そんなに心配することはないですよ』とアドバイスをして安心していただくようにしている」と、添加物の実状と患者の不安を払拭させるような声掛け方法を例示した。 現在、PEGは日本薬局方には医薬品添加物として、分子量200、300、400、600、1000、1500、1540、4000、6000、20000が登録されており、添付文書ではマクロゴール◯◯や下記のようにPEG◯◯などと記載されていることが多い(◯◯は分子量)。<各ワクチンに含有される主な添加物>・コミナティ筋注(ファイザー):2-[(ポリエチレングリコール)-2000]- N,N-ジテトラデシルアセトアミド・COVID-19ワクチンモデルナ筋注(モデルナ):λ1, 2-ジミリストイル-rac-グリセロ-3-メチルポ リオキシエチレン(PEG2000-DMG)、トロメタモール(アナフィラキシー報告あり)・バキスゼブリア筋注(アストラゼネカ):ポリソルベート80アナフィラキシーの“既往なし”でも注意したい患者 加えて、PEGやポリソルベートに対するアレルギーが考えにくい場合でも、ワクチン前に受診を薦めたい患者として「喘息患者のなかでもコントロール不良な人、そして、“かくれ喘息”の人」を挙げた。喘息はアナフィラキシーの重症化リスクの1つであるため、「喘息治療をしていないが、ゼーゼー、ヒューヒューと喘息様の症状を有する人、治療を続けていても発作が多かったりコントロールが不良だったりする人は、ワクチン前にしっかり診断と治療を受け、コントロールしておくことも重要」とし、接種後には「通常の2倍の時間、30分間は経過観察が必要」とも話した。 これらを踏まえ、アナフィラキシー発症リスクの高い例と注意すべき患者像を以下のように示す。<アナフィラキシーに注意すべき患者像>( )内は主な可能性・高齢者(薬剤に過敏歴がある場合、化粧品使用とその経験が長い)・女性(化粧品の使用率が高く、PEGへの経皮感作の可能性がある)・喘息の既往(コントロール不良、発作が多い)、かくれ喘息<アナフィラキシーの発生リスクを探る>(優先順)1)アナフィラキシーに最もリスクがある患者は“PEGやポリソルベートによるアナフィラキシー歴あるいは1回目のワクチン接種でアナフィラキシーがあった”人。その場合には接種を見送る/2回目接種を見送る必要がある。2)次に注意すべきは、“原因不明あるいは不特定多数の医薬品などによるアナフィラキシー歴(PEGやポリソルベートに対するアレルギーの可能性を有する)”がある人。この人は可能な限り主治医に事前相談し、集団接種会場ではなく医療機関での個別接種が望ましい。3)“アナフィラキシー歴はあるが、PEG・ポリソルベートなどの賦形剤以外の物質(食物、金属など)が原因として確定している”人は通常通りワクチン接種を行っても差し支えないと言える。 アレルギー反応にはアナフィラキシーや花粉症、食物アレルギーなどを引き起こすI型、II型(血小板減少症など)、III型(SLEや関節リウマチなど)、IV型(接触皮膚炎など)が存在するが、食物アレルギーはアナフィラキシーと同型に分類されるため、食物アレルギーを抱える患者は接種に不安を抱え、ためらうこともあるかもしれない。これについては、日本アレルギー学会が今年3月に公開したアナウンスメント3)にも「少なくとも現時点では花粉、食物などの特定の抗原に対する I 型アレルギーや、アナフィラキシー症状を伴わない喘息、アトピー性皮膚炎などのアトピー疾患であることが、新型コロナウイルスワクチンに対する過敏性を予測するものではないことを意味する」と示されている、と強調した。医療者としての声掛けー新型コロナワクチンに不安な被接種者へ 新型コロナに罹患した際の症状は死に至る場合もある。感染から回復しても長引く後遺症(疲労感・倦怠感や息切れ…)に悩まされることになり、それらの症状からいつ完全回復を遂げられるかはまだ明らかにされていない。ワクチン接種時の一時的な副反応症状(発熱、倦怠感など)と発症率が低く適切な治療により致命的になることがほとんどないアナフィラキシー、どちらのリスクが自分にとって危険であるのかを天秤にかけた場合、「ワクチンを接種せずに新型コロナに罹患することだけは避けるべきであるのは自明」と同氏は繰り返した。 最後に、ワクチン接種に関し医療者が患者にできることとして、「今後の変異株の拡大などにより若い人でも重症化することが懸念されている現状では、患者にワクチンを諦めさせるのではなく、推奨することが大切なのではないか」とワクチン接種が患者の命を救う最善の手立ての1つであることを強く訴えた。中村 陽一(なかむら よういち)氏横浜市立みなと赤十字病院アレルギーセンター長1955年香川県生まれ。81年徳島大卒。91年医学博士取得および米国ネブラスカ大学留学。2000年国立病院機構高知病院臨床研究部長を経て05年より現職および昭和大学医学部客員教授。日本アレルギー学会功労会員。同学会アナフィラキシー対策委員会委員長。

27.

第66回 医療法等改正、10月からの業務範囲拡大で救急救命士の争奪戦勃発か

今年の医療法等改正をおさらいこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。予想通り、7月12日から東京都は4回目の緊急事態宣言に突入しました。沖縄県に出されていた同宣言も延長となりました。オリンピック開催を至上命令として、マッチポンプのようにコロコロと変わる政府の施策に、国民の多くはさすがに辟易としてきているようです。7月13日に読売新聞社が公表した同社世論調査によれば、菅内閣の支持率は37%、昨年9月の内閣発足以降最低だった前回(6月4~6日調査)から横ばいです。一方、不支持率は53%(前回50%)に上がり、内閣発足後で最高となったそうです。中でも東京の菅内閣の支持率は28%で、全国平均の37%と比べて9ポイント低かったそうです。進まないワクチン接種や、酒提供に関して金融機関からの働き掛け方針の撤回など、政府の右往左往ぶりは既に末期症状かもしれません。さて、こんな時は野球観戦です。昨日(7月13日)は、MLBオールスターゲームのホームランダービーを朝から観戦していました。初出場のロサンゼルス・エンゼルスの大谷 翔平選手は、残念ながら1回戦でワシントン・ナショナルズのフアン・ソト選手に敗れてしまいました。それにしても、対戦後、ハアハア息をする大谷選手を見て、ホームランダービーの過酷さがわかりました。他の出場選手よりも息が荒かったのは、デンバーの球場が標高1,600mと高地にあり高度順応ができなかったからか、他の選手の心肺機能の方が高かったからかわかりませんが、あの対戦を2回連続(2019年と今年)制したニューヨーク・メッツのピート・アロンソ選手は本当にすごいです。さて、新型コロナ感染症による緊急事態宣言とオリンピック開催を巡る騒動の陰で、これからの医療現場に大きな影響を及ぼす法律改正が行われていました。今回は”事件”から少々離れて、それについて簡単におさらいしておきたいと思います。医療現場に大きな影響を及ぼす法律改正とは、ずばり医療法等の改正です。法律案の名称は「良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律案」。医師の労働時間の短縮や新興感染症の感染拡大時における医療提供体制の確保など、医療現場が直面するさまざまな課題を解決するためにつくられた法律案です。関連する法律も医療法をはじめ、医師法や歯科医師法、診療放射線技師法、臨床検査技師等に関する法律、臨床工学技士法、救急救命士法と幅広く、それぞれの法律の改正を一括するかたちで、「……医療法等の一部を改正する法律案」として審議されてきました。2024年度からの時間外労働規制に向けた「医師の働き方改革」この医療法等改正法は5月21日の参議院本会議で可決・成立しました。柱は大きくは3つです。1)医師の働き方改革勤務医の時間外労働規制が2024年度から適用されることを受け、「長時間労働の医師の労働時間短縮および健康確保のための措置の整備」が講じられます。具体的には、勤務医が長時間労働となる医療機関での「医師労働時間短縮計画」の作成が義務付けられます。また、地域医療の確保や研修を集中的に実施する観点からやむを得ず、規定よりも多い上限時間を適用する医療機関を都道府県知事が指定する制度がつくられます。指定された医療機関では連続勤務時間の制限といった健康確保措置が求められます。2)各医療関係職種の専門性の活用次に「各医療関係職種の専門性の活用」です。 これも「医師の働き方改革」に関連したもので、医師の負担軽減を目的に、4つの医療関係職種の業務範囲を拡大し、タスクシフト・シェアを推進することになりました。診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士の4職種の資格法が改正されています。いずれも施行は今年10月1日からで、医師が働く現場にすぐに影響が出るのは、このタスクシフト・シェアでしょう。これについては、あとからもう少し詳しく解説します。なお、「専門性の活用」については医師の養成課程の見直しも行われています。2025年4月から共用試験合格が医師国家試験の受験資格要件となります。また、同試験に合格した医学生は医師法第17条(医師でなければ、医業をなしてはならない)の規定にかかわらず、大学が行う臨床実習において、医師の指導監督のもとで医業(つまり診療)を行えるようになります。この措置は2023年4月からの施行です。医療計画に新興・再興感染症医療提供体制に関する事項追加そして法改正のもう一つの柱が、3)地域の実情に応じた医療提供体制の確保です。新型コロナウイルス感染症の感染拡大で露呈した医療提供体制のさまざまな課題に対応するため、2024年度からの第8次医療計画に「新興感染症等の感染拡大時における医療」の確保に関する事項が追加されます。具体的には、現行は「5疾病・5事業および在宅医療」の医療計画の記載事項が、「5疾病・6事業および在宅医療」に改められます。これまで、医療計画の中に、新興・再興感染症の感染拡大への対応が記載されていなかったのは国・厚生労働省の怠慢としか言いようがありませんが、とにかくそれに関する事項が追加されたことは評価したいと思います。また、2022年度からは、高度な医療機器など医療資源を重点的に活用する外来等について報告を求める「外来機能報告制度」が創設されます。これまで入院医療については「病床機能報告制度」があったのですが、それが外来にも拡大されるわけです。入院医療に加え外来医療も医療機能の分化と連携を進めるのが狙いとされています。外来機能報告制度の施行は2022年4月で、報告を基に、地域医療構想と同様不足する外来医療機能の確保といった問題を「地域の協議の場」などで話し合い、調整することになります。放射線技師、検査技師、臨床工学技士、救急救命士の業務拡大の中身さて、前述のように、こうしたさまざまな改革の中で、すぐに現場に影響を及ぼしそうなのが、医療関係職種の業務範囲拡大によるタスクシフト・シェアでしょう。何せこれまで医師にしかできなかった業務を他職種に任せることができるのですから。診療放射線技師法、臨床検査技師等に関する法律、臨床工学技士法、救急救命士法の改正により、各職種に新たに認められる業務は以下です(政省令改正で済むものを除く)。診療放射線技師造影剤を使用した検査・RI検査(放射性医薬品を用いる検査)のための静脈路確保RI検査医薬品を注入するための装置接続と操作RI検査医薬品投与終了後の抜針・止血医師・歯科医師が診察した患者に対する、その医師等の指示に基づく、医療機関以外の場所に出張して行う超音波検査臨床検査技師採血に伴う静脈路確保と、電解質輸液(ヘパリン加生理食塩水を含む)への接続静脈路を確保し、成分採血のための装置接続と操作、終了後の抜針・止血超音波検査に関連する行為としての静脈路確保、造影剤接続・注入、造影剤投与終了後の抜針・止血臨床工学技士手術室等で生命維持管理装置を使用して行う治療における▼静脈路確保と装置や輸液ポンプ・シリンジポンプとの接続▼輸液ポンプ・シリンジポンプを用いた薬剤(手術室等で使用する薬剤に限る)投与▼当該装置や輸液ポンプ・シリンジポンプに接続された静脈路の抜針・止血心・血管カテーテル治療における生命維持管理装置を使用して行う治療に関連する業務として、身体に電気的負荷を与えるための当該負荷装置操作手術室での鏡視下手術における体内に挿入されている内視鏡用ビデオカメラの保持、術野視野を確保するための内視鏡用ビデオカメラ操作救急救命士現行法における「医療機関に搬送されるまでの間(病院前)に重度傷病者に対して実施可能な救急救命処置」について、救急外来(救急診療を要する傷病者が来院してから入院に移行するまで〈入院しない場合は帰宅するまで〉に必要な診察・検査・処置等を提供される場)においても実施可能に救急救命士の業務範囲拡大は医療関係団体からの強い要望で実現最後の救急救命士の業務範囲拡大は、日本医師会、日本救急医学会、四病院団体協議会から要望が出され、厚労省の「救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会」で議論がされてきました。一部には救急救命士が一定の医行為を実施することに強く反対する意見もあったそうですが、最終的には医師の負担軽減に必要、として了承されました。法改正が施行される今年10月1日からは、重度傷病者が搬送先医療機関に入院するまでの間、または入院を要さない場合はその医療機関に滞在している間、医療機関に勤務する救急救命士は特定行為を含む救急救命処置ができることになります。実際の運用面の議論も開始救急救命士法の改正を受け、厚労省は6月4日「救急・災害医療提供体制等の在り方に関する検討会」を開催し、救急救命士が救急外来において処置を実施する際の運用面の議論が行われています。この中では、救急救命士の質を担保するために医療機関に設置する委員会の詳細や、 救急救命士への院内研修項目なども提案されました。つまり、病院が救急救命士を救命救急業務に就かせるには相応の組織を設けたうえで、研修等の実施が必須になるようです。運用スタートまで3ヵ月を切っており、秋口までには詳細が決まると思いますが、他の職種のタスクシフト・シェアと比べても患者の生死に直結する業務だけに、拙速な議論だけは避けてもらいたいものです。救急救命士の効果的な活用は、急性期病院の命運を握る救急救命士が救急外来で働くことは、医師の仕事量の軽減だけでなく、病院経営にとっても大きなプラスになると考えられます。人件費の高い医師でなく、救急救命士を多数雇うことで、コストを抑えつつ救急外来を回すことができるからです。しかも、救急部門の充実は、病院が急性期病院として生き残るための経営の要でもあります。救急救命士の効果的な活用は、今後の急性期病院の命運を握ると言えるでしょう。実際、今回の法改正が行われる前から、救急救命士を雇用する病院は増加傾向のようで、病院勤務を志望する救急救命士も増えていると聞きます。来年にかけ、救急救命士の争奪戦が本格化しそうな気配です。

28.

直腸と膀胱を貫通させた、ある行為【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第187回

直腸と膀胱を貫通させた、ある行為Photo-acより使用おどろき医学論文の連載も200回近くになってきました。ここまで来ると、膀胱や直腸の異物ごときでは驚かなくなります。ただ、その両方の臓器がやられてしまった、となると話は別ッ!Hosni A, et al.A rectal foreign body: An unexpected cause of a rectovesical fistula with hematuriaUrol Case Rep . 2021 Feb 4;36:101596.50歳の男性が、尿閉を訴えて救急外来を受診しました。排尿障害の病歴はなく、とくにこれといった既往歴もなさそうです。とりあえず導尿をしてから、泌尿器科へコンサルトされました。尿閉どころか、肉眼的血尿が出てくるようになり、これはいよいよおかしいぞということで造影剤を用いてCT尿路検査が行われました。おや……おやや!ぞ、造影剤が、膀胱から直腸に流れているぞ……?――こ、これは「膀胱直腸瘻」だっ!患者に直腸出血の可能性はないかと尋ねましたが、答えはNOでした。また、骨盤内手術や結核などの慢性炎症の既往もありませんでした。直腸診でも、これといった異常もありませんでした。いや、なぜ直腸と膀胱に穴が開いているんだ。頼むから、隠していることを言ってくれ。そうお願いしたのでしょうか、再び患者に詳しい問診と検査を開始し始めたとき、こんな回答が返ってきました。「便秘の自己治療のために、長いブラシを肛門に突っ込んで使っていた」おかしな性癖があって異物を入れる症例は、過去何度も紹介してきましたが、便秘治療でブラシを突っ込んで膀胱直腸瘻をつくるって、あーた、どんなに強く入れたの!しかも、普通のブラシではなく、排水管の詰まりを取るような、長いアレです。あれを膀胱が貫通するほど突っ込んでいたということになります。膿瘍化したり重症化したりせずにこの症例は治癒に至りましたが、便秘のときに摘便するがごとくブラシを突っ込んでしまう事態、高齢者では起こる可能性があるため、注意が必要です。

29.

Modernaの新型コロナワクチン、400万人でのアレルギー反応/CDC

 米国で2020年12月21日~2021年1月10日に初回投与されたModernaのCOVID-19ワクチン接種404万1,396回で、10例(2.5例/100万回)にアナフィラキシーが発現し、9例は15分以内、1例は45分後に発現したことを、米国疾病予防管理センター(CDC)が2021年1月22日に発表した。 米国では2021年1月10日の時点で、ModernaのCOVID-19ワクチンの1回目の投与が404万1,396人(女性246万5,411人、男性145万966人、性別不明12万5,019人)に実施され、1,266例(0.03%)に有害事象が報告された。そのうち、アナフィラキシーを含む重度のアレルギー反応の可能性がある108例を調査した。これらのうち10例(2.5例/100万回)がアナフィラキシーと判断され、うち9例はアレルギーまたはアレルギー反応の既往(薬剤6例、造影剤2例、食物1例)があり、そのうち5例はアナフィラキシーの既往があった。 アナフィラキシー発現例の年齢中央値は47歳(範囲:31~63歳)。接種から症状発現までの中央値は7.5分(範囲:1〜45分)で、9例が15分以内、1例が45分後であった。10例すべてがアドレナリン(エピネフリン)を筋肉内投与された。6例が入院(うち集中治療室が5例、そのうち4例が気管内挿管を要した)し、4例が救急科で治療を受けた。その後の情報が入手可能な8例は回復もしくは退院した。アナフィラキシーによる死亡は報告されていない。 アナフィラキシーではないと判断された98例のうち、47例は非アナフィラキシー性のアレルギー反応、47例は非アレルギー性の有害事象と判断され、4例は評価に十分な情報が得られなかったという。

30.

脳血管内治療STANDARD

第1回 病気と治療法について第2回 脳血管内治療のセットアップ第3回 治療に必要な血管解剖第4回 穿刺とガイディングカテーテル第5回 急性期脳梗塞第6回 脳動脈瘤(コイル塞栓術)第7回 脳動脈瘤(フローダイバーター)第8回 頚動脈狭窄症第9回 頭蓋内動脈狭窄症第10回 周術期管理 脳血管内治療は、昨今の需要の高まりで脳神経外科医が身につけるべき必須のスキルになりつつあります。本番組では、この分野の第一人者である吉村紳一先生、兵庫医科大学の講師陣が、器材のセットアップから術式ごとの手技のポイント、周術期管理までをレクチャー。現在の脳血管内治療の標準となる知識と技術を網羅しています。脳血管内治療が適応となる代表的な4つの疾患、脳動脈瘤・頸動脈狭窄症・頭蓋内動脈狭窄症・急性期脳梗塞で、吉村先生が手術室から実際に手術を行いながら解説しているのも特徴です。この番組は、メジカルビュー社から刊行されている『脳血管内治療 スタート&スタンダード』と連動しています。実際の手術映像で同書の内容をよりリアルに学ぶことができます。書籍はこちら ↓【脳血管内治療 スタート&スタンダード】第1回 病気と治療法について第1回は、病気と治療法についてです。脳血管内治療の適応となる代表的な4つの疾患、脳動脈瘤・頸動脈狭窄症・頭蓋内動脈狭窄症・急性期脳梗塞から、それぞれに適応する治療法とその術式について詳しく解説していきます。第2回 脳血管内治療のセットアップ脳血管内治療においては、機器のセットアップが非常に重要です。とくに緊急治療においては必要な物品がすぐに取り出せるよう、セットを作っておくことが大切です。第2回では、脳血管内治療で用いる機器の基本的なセットアップについて紹介します。第3回 治療に必要な血管解剖脳血管内治療を行う上で、血管解剖を理解することは極めて重要です。鼠径部の穿刺から始まり、大動脈、頚部血管、頭蓋内動脈の構造を正確に理解すること、また、そのバリエーションを知っておくことは、治療を成功させるために不可欠です。脳動脈の詳細な解剖について紹介します。第4回 穿刺とガイディングカテーテル脳血管内治療を開始する最初のステップが、動脈の穿刺とシースの留置、そしてガイディングカテーテルの誘導です。治療方法、また治療対象によって穿刺の部位やシースの太さ、ガイディングカテーテルの種類などが異なりますが、この回では代表的な治療における機器と操作法について紹介します。第5回 急性期脳梗塞急性期脳梗塞に対する治療についてクリニカルエビデンスの解説、そして実際の手術の様子まで詳しく紹介します。兵庫医科大学脳神経外科で行われている、患者搬入から穿刺までの様子と、動脈硬化性脳梗塞、末梢血管閉塞の治療について、実際の動画を用いながら解説します。第6回 脳動脈瘤(コイル塞栓術)脳動脈瘤に対するコイル塞栓術は、破裂・未破裂どちらの動脈瘤に対しても行われ、近年ではステントを併用して行う機会も増えています。脳動脈瘤コイル塞栓術のエビデンスの解説と、兵庫医科大学で実際に行われた手術の様子をご覧ください。第7回 脳動脈瘤(フローダイバーター)大型・巨大脳動脈瘤においては、従来の開頭手術やコイル塞栓術では、良好な治療結果が得られにくいことが知られています。近年このような動脈瘤に対し、新たな治療機器であるフローダイバーターを用いた治療が可能となりました。この回では、フローダイバーターの留置法について、実際の手術映像を用いて詳しく解説します。第8回 頚動脈狭窄症頚動脈ステント留置術は、頚動脈の高度狭窄症に対する主流の治療となっています。他部位と異なり、治療中に血栓や血管の成分が脳に流れないよう、脳を保護しながら行う必要があります。この回では、対側内頚動脈閉塞を伴う、比較的リスクの高い症例における、治療の工夫について紹介します。第9回 頭蓋内動脈狭窄症頭蓋内動脈高度狭窄症によって脳虚血発作を来した場合に、ステントを用いた血管拡張術が行われることがありますが、本治療は血圧低下や脂質低下などの積極的内科治療に対する優位性が証明されていません。このため、内科治療抵抗例などの限定的な状況で行われていることに注意してください。この回では、その治療の実際と注意点について解説します。第10回 周術期管理脳血管内治療においては、周術期の抗血栓療法が極めて重要になります。また、腎機能低下例や造影剤アレルギーを有する症例においては、とくに注意が必要です。この回では、脳血管内治療の周術管理について詳しく解説します。

31.

Dr.水谷の妊娠・授乳中の処方コンサルト

第1回 【妊娠中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗インフルエンザ薬第2回 【妊娠中】抗てんかん薬・抗うつ薬・麻酔薬第3回 【妊娠中】β刺激薬・チアマゾール・レボチロキシン第4回 【妊娠中】経口血糖降下薬・ワルファリン・制酸薬第5回 【妊娠中】抗リウマチ薬・抗アレルギー薬・タクロリムス外用薬第6回 【妊娠中】漢方薬・CT,MRI検査・悪性疾患の治療方針第7回 【授乳中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗ウイルス薬第8回 【授乳中】抗てんかん薬・向精神薬・全身麻酔第9回 【授乳中】胃腸薬・降圧薬・抗アレルギー薬第10回 【授乳中】ステロイド・乳腺炎への対処・造影検査後の授乳再開 臨床では妊娠中・授乳中であっても薬が必要な場面は多いもの。ですが、薬剤の添付文書を見ると妊婦や授乳婦への処方は禁忌や注意ばかり。必要な治療を行うために、何なら使ってもいいのでしょうか?臨床医アンケートで集めた実際の症例をベースとした30のQ&Aで、妊娠中・授乳中の処方の疑問を解決します。産科医・総合診療医の水谷先生が、実臨床で使える、薬剤選択の基準の考え方、そして実際の処方案を提示します。第1回 【妊娠中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗インフルエンザ薬臨床医アンケートで集めた妊婦・授乳婦への処方の疑問を症例ベースで解説・解決していきます。初回は、妊娠中の解熱鎮痛薬、抗菌薬、抗インフルエンザ薬の選択についてです。明日から使える内容をぜひチェックしてください。第2回 【妊娠中】抗てんかん薬・抗うつ薬・麻酔薬妊娠を機に服薬を自己中断してしまう患者は少なくありません。そして症状の悪化とともに受診することはよくあります。今回は抗てんかん薬、抗うつ薬の自己中断症例から妊娠中の薬剤選択について解説します。緊急手術時に必須の麻酔薬の処方についても必見です。第3回 【妊娠中】β刺激薬・チアマゾール・レボチロキシン喘息は妊娠によって症状の軽快・不変・増悪いずれの経過もとりえます。悪化した場合にβ刺激薬やステロイド吸入など一般的な処方が可能のか?甲状腺関連の疾患では妊娠の希望に応じて、バセドウ病患者はチアマゾールを継続していいのか?橋本病ではレボチロキシンを変更すべきなのか?といった実臨床で遭遇する疑問を解決します。第4回 【妊娠中】経口血糖降下薬・ワルファリン・制酸薬今回のクエスチョンは弁置換術既往の妊婦の抗凝固薬選択。ワルファリンからヘパリンへの変更は適切なのでしょうか?降圧薬の選択では妊娠週数に応じて使用可能な薬剤が変わる点を必ず押さえましょう!そのほか、妊娠中の内視鏡検査の可否とその判断、2型糖尿病の薬剤選択についても取り上げます。2型糖尿病管理は、薬剤選択とともに血糖管理目標についてもチェックしてください。第5回 【妊娠中】抗リウマチ薬・抗アレルギー薬・タクロリムス外用薬膠原病があっても妊娠を継続するにはどのような薬剤選択が必要なのでしょうか?メトトレキサートや抗リウマチ薬の処方変更について解説します。花粉症症状に対する抗アレルギー薬処方、アトピー性皮膚炎へのタクロリムス外用薬の継続可否など、臨床で頻用される薬剤についての解説もお見逃しなく。第6回 【妊娠中】漢方薬・CT,MRI検査・悪性疾患の治療方針妊娠中に漢方薬を希望する患者は多いですが、どういうときに漢方薬を使用すべきなのでしょうか?上気道炎事例を入り口に、妊婦のよくある症状に対する漢方薬の処方について解説します。CTやMRIの適応判断に必要な放射線量や妊娠週数に応じたリスクを押さえ、がん治療については永久不妊リスクのある治療をチェックしておきましょう。第7回 【授乳中】解熱鎮痛薬・抗菌薬・抗ウイルス薬今回から授乳中の処方に関する質問を取り上げます。授乳中処方のポイントはRID(相対的乳児投与量)とM/P比(母乳/母体濃度比)。この2つの概念を理解して乳児への影響を適切に検討できるようになりましょう。今回取り上げるのは、解熱鎮痛薬、抗菌薬、抗インフルエンザ薬といった日常診療に必要不可欠な薬剤。インフルエンザについては、推奨される薬剤はもちろん、家庭内での感染予防に対する考え方なども必見です。第8回 【授乳中】抗てんかん薬・向精神薬・全身麻酔ほとんどの母親は服薬中も授乳継続を希望します。多くの薬剤は添付文書上で授乳中止が推奨されていますが、実は授乳を中断しなくてはならないケースはあまり多くありません。育児疲労が増悪因子になりやすい、てんかんや精神疾患について取り上げ、こうした場合の対応を解説します。治療と母乳育児を継続するための、薬剤以外のサポートについても押さえておきましょう。第9回 【授乳中】胃腸薬・降圧薬・抗アレルギー薬授乳中の処方で気を付けるべきは、薬剤の児への移行だけではありません。見落としがちなのが、乳汁分泌の促進・抑制をする薬剤があるということ。症例ベースのQ&Aで、胃腸薬、降圧薬、抗アレルギー薬など日ごろよく処方する薬の注意点を解説していきます。OTC薬で気を付けるべき薬剤やピロリ菌除菌の可否なども押さえておきましょう。第10回 【授乳中】ステロイド・乳腺炎への対処・造影検査後の授乳再開ステロイド全身投与で議論になるのは児の副腎抑制と授乳間隔。どちらも闇雲に恐れる必要はありません。乳腺炎については、投与可能な薬剤だけでなく再発を予防するための知識を押さえておきましょう。造影剤使用後の授乳再開については日米での見解の違いを臨床に活かすための知識を伝授します。

32.

事例011 点滴注射手技料の査定【斬らレセプト シーズン2】

解説「G004 点滴注射の手技料」では、下記の3つに分かれています。(1)6歳未満の乳幼児に対する1日の注射薬剤総量が100mL以上の場合に「1」(2)6歳以上で1日の注射薬剤総量が500mL以上の場合に「2」(3)注射薬剤総量が6歳未満で100mL未満または6歳以上で500mL未満の場合には「3」以上のように、それぞれに応じた区分を算定します。この場合、同日に静脈内注射を行っている場合は、注射薬剤に含めて総量を計算します。事例は、6歳以上の患者(40歳)であって、実日数が2日あり、同日再診が2回ありますので計4回受診されています。注射薬剤に目を向けると、250mLを3本、200mLを1本算定されています。静脈内注射はありませんでした。どのように組み合わせても1日当たり注射薬剤総量は、500mL以上が1回、500mL未満が1回です。500mLに満たない場合は、点滴注射区分「3」の算定が妥当となるため、点滴注射手技料2(1日分の注射料が500mL以上の場合)1回分が、同手技料3(入院中の患者以外の患者に限る)に査定となったものです。レセプトコンピュータでは、修正入力を行った場合に、注射薬剤総量と一致しない手技料区分が入力できてしまいます。とくに、事例のように、1日2回以上の点滴を行う場合や、同日に造影剤点滴注入などが行われている場合に、誤った手技料を入力してしまう場合がありますので注意が必要です。

33.

クローン病〔CD : Crohn’s disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義クローン病(Crohn’s disease: CD)は消化管の慢性肉芽腫性炎症性疾患であり、発症原因は不明であるが、免疫異常などの関与が考えられる。小腸、大腸を中心に浮腫や潰瘍を認め、腸管狭窄や瘻孔など特徴的な病態を生じる。■ 疫学主として若年者(10代後半~30代前半)に好発する。年々増加傾向にあり、わが国のCDの有病率は最近15年間で約4倍に増加、患者数4万人以上と推測され、日本では1.8:1.0の比率で男性に多い。現在も増加していると考えられる。■ 病因原因はいまだ不明であるが、遺伝的素因と食事などの環境因子の両者が関与し、消化管局所の免疫学的異常により、慢性の肉芽腫性炎症が持続する多因子疾患である。喫煙が増悪因子とされている。ほかに長鎖脂肪酸、多価不飽和脂肪酸、精製糖質の過剰摂取などが増悪因子として想定されている。■ 症状主症状は腹痛(70%)、下痢(80%)、体重減少・発熱(40~70%)である。肛門病変はCD患者の半数以上にみられ、先行する場合も多い(36~81%)。検査値の異常として、炎症所見(白血球数、CRP、血小板数、赤沈)の上昇、低栄養(血清総蛋白、アルブミン、総コレステロール値の低下)、貧血を示す。■ 分類正しい治療を考える上で、病変部位、疾患パターン、活動度・重症度の把握が重要である。病変部位は小腸型、小腸大腸型、大腸型の3つに大きく分類される。日本では小腸型20%、小腸大腸型50%、大腸型30%とされている。疾患パターンとして炎症型、狭窄型、瘻孔形成型の3通りに分類することが国際的に提唱されている。さらに疾患活動性として、症状が軽微もしくは消失する寛解期と、症状のある活動期に分けられる。重症度を客観的に評価するために、CD活動指数CDAI(表1)、IOIBDなどがあるが、日常診療に適した重症度分類は現在のところまだないため、患者の自覚症状、臨床所見、検査所見から総合的に評価する。画像を拡大する■ 予後CDは再燃、寛解を繰り返し慢性に経過する疾患である。病初期は消化管の炎症が中心であるが、徐々に狭窄型・瘻孔型へ移行し、手術が必要となる症例が多い。2000年に提唱されたCDの分類法であるモントリオール分類(表2)では発症時年齢、罹患範囲、病気の性質により分類されている。病型や病態は罹患期間により比率が変化し、Cosnes氏らは診断時に炎症型が85%であっても、20年後には88%が狭窄型から瘻孔型へ移行すると報告している 。累積手術率は発症後経過年数とともに上昇し、生涯手術率は80%以上になるという報告もある。海外での累積手術率は10年で34~71%である。わが国の累積手術率も、10年で70.8%、初回手術後の5年再手術率は16~43%、10年で26~67%と報告されている。とくに瘻孔型では手術率、術後再発率とも高くなっている。死亡率に関しては、Caravanらのメタ解析によるとCDの標準化死亡率は1.5(1.3~1.7)と算出されている。死亡率は過去30年で減少傾向にあるが、CDの死亡率比は一般住民よりやや高いとの報告がある。わが国では、やや高いとする報告と変わらないとする報告があり、死亡因子としては肝胆道疾患、消化管がん、肺がんが挙げられている。画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準厚生労働省の診断基準(表3)に沿って診断を行う。2018年に改訂した診断基準(案) ではCDAI(Crohn’s disease activitiy index)や合併症、炎症所見、治療反応に基づくECCO(European Crohn’s and colitis organisation )(表4)の分類に準じた重症度分類(軽症、中等症、重症)が記載されている。画像を拡大する■ 診断の実際若年者に、主症状である腹痛(70%)、下痢(80%)、体重減少・発熱(40~70%)が続いた場合CDを念頭に置く。肛門病変はCD患者の半数以上にみられ、先行する場合も多い(36~81%)。血液検査にて炎症所見、低栄養、貧血がみられたら、CDを疑い終末回腸を含めた下部消化管内視鏡検査および生検を行う。診断基準に含まれる特徴的な所見および生検組織にて、非乾酪性類上皮肉芽腫が検出されれば診断が確定できる。病変の範囲、治療方針決定のためにも、上部消化管内視鏡検査、小腸X線造影検査を行うべきである。CDと鑑別を要する疾患として、腸結核、腸型ベーチェット病、単純性潰瘍、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)潰瘍、感染性腸炎、虚血性腸炎、潰瘍性大腸炎などがあるため、服薬歴の確認・便培養・ツベルクリン反応およびクォンティフェロン(QFT)、病理組織検査を確認する。診断のフローチャートを図に示す。画像を拡大する1)画像検査所見(1)下部消化管内視鏡検査、小腸バルーン内視鏡検査検査前に、問診やX線にて強い狭窄症状がないか確認する。60~80%の患者では大腸と終末回腸が罹患する。病変は非連続性または区域性に分布し、偏側性で介在部はほぼ正常である。活動性病変として、縦走潰瘍と敷石像が特徴的な所見である。小病変としてはアフタや不整形潰瘍が認められる。(2)上部消化管内視鏡検査胃では、胃体上部小弯側の竹の節状外観、前庭部のたこいぼびらん・不整形潰瘍が認められる。十二指腸では、球部と下行脚に好発し、多発アフタ、不整形潰瘍、ノッチ様陥凹、結節状隆起が認められる。(3)消化管造影検査(X線検査)病変の大きさや分布、狭窄の程度、瘻孔の有無について簡単に検査ができる。所見の特徴は、縦走潰瘍、敷石像、非連続性病変、瘻孔、非対称性狭窄(偏側性変形)、裂孔、および多発するアフタがある。(4)その他近年、機器の性能向上および撮影技法の開発により、超音波検査、CT、MRIにより腸管自体を詳細に描出することが可能となった。小腸病変の診断に、経口造影剤で腸管内を満たし、造影CT検査を行うCT enterography(CTE)や、MRI撮影を行うMR enterography(MRE)が欧米では広く用いられており、わが国の一部の医療施設でも用いられている。撮影法の工夫により大腸も同時に評価ができるMR enterocolonography(MREC)も一部の施設では行われており、検査が標準化されれば、繰り返し行う場合も侵襲が少なく、内視鏡が到達できない腸管の評価にも有用と考えられる。2)病理検査所見CDには病理診断上、絶対的な基準となるものがなく、種々の所見を組み合わせて診断する。生検診断をするにあたっては、その有無を多数の生検標本で連続切片を作成し検討する。組織学的所見として重要なものは(1)全層性炎症像、(2)非乾酪性類上皮肉芽腫の検出、(3)裂溝、(4)潰瘍である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)CDは発症原因が不明であり、経過中に寛解と再燃を繰り返すことが多い。CDの根治的治療法は現時点ではないため、治療の目標は病勢をコントロールし、炎症を繰り返すことによる患者のQOL低下を予防することにある。そのため薬物療法、栄養療法、外科療法を組み合わせて症状を抑えるとともに、栄養状態を維持し、炎症の再燃や術後の再発を予防することが重要である。■ 内科治療(主に薬物治療として)活動期の治療と寛解期の治療に大別される。活動期CDの治療方針は、疾患の重症度、病変範囲、合併症の有無、患者の社会的背景を考慮して決定する。初発のCDでは、診断および病変範囲、重症度の確定と疾患に関する教育や総合的指導のため、専門医にコンサルトすることが望ましい。また、ステロイド依存や免疫調節薬の投与経験がない場合においても、生物学的製剤の投与に関しては専門医にコンサルトすべきである。わが国における平成30年度 CD治療指針、および各治療法の位置づけ(表5)を示す。画像を拡大する1)5-ASA製剤CDに適応があるのはメサラジン(商品名:ペンタサ)、サラゾスルファピリジン(同:サラゾピリン)の経口薬である。治療指針においては軽症~中等症の活動期の治療、寛解維持療法、術後再発予防のための治療薬として推奨されている。CDの寛解導入効果および寛解維持効果は限定的であるが有害性は低い。腸の病変部に直接作用し炎症を抑えるため、製剤の選択には薬剤の放出機序に注意して病変範囲によって決める必要がある。2)ステロイド(GS)5-ASA製剤無効例、全身症状を有する中等症以上の症例で寛解導入に有効である。関節症状、皮膚症状、眼症状などの腸管外合併症を有する場合や、発熱、CRP高値などの全身症状が著明な場合は、最初からステロイドを使用する。寛解維持効果はないため、副作用の面からも長期投与は避けるべきである。ステロイド依存となった場合は、少量の免疫調節薬(アザチオプリン〔AZA〕、6-メルカプトプリン〔6-MP〕)を併用し、ステロイドからの離脱を図る。軽症あるいは中等症例の回盲部病変の寛解導入には、全身性副作用を軽減し局所に作用するブデソニド(同:ゼンタコート)9mg/日の投与が有効である。3)免疫調節薬(AZA、6-MPなど)免疫調節薬として、AZA(同:イムラン、アザニン)、6-MP(同:ロイケリン)が主なものであり、AZAのみ保険適用となっている。AZAと6-MPは寛解導入、寛解維持に有効であり、ステロイド減量効果を有する。欧米の使用量はAZA 2.0~3.0mg/kg/日、6-MP 50mg/日または1.5mg/kg/日であるが、日本人は代謝酵素の問題から用量依存性の副作用が生じやすく、欧米より少量のAZA(50~100mg/日)、6-MP(20~50mg/日)が投与されることが多い。チオプリン製剤の副作用の中で、服用開始後早期に発現する重度の急性白血球減少と全脱毛がNUDT15遺伝子多型と関連することが明らかとされている。2019年2月よりNUDT15遺伝子多型検査が保険適用となっており、初回チオプリン製剤治療前には本検査を施行し、表6に従ってチオプリン製剤の適応を判断することが推奨される。AZA/6-MPの効果発現は緩徐で2~3ヵ月かかることが多いが、長期に安定した効果が期待できる。適応としてステロイド減量効果、難治例の寛解維持目的、瘻孔病変、術後再燃予防、抗TNF-α抗体製剤を使用する際の相乗効果があげられる。画像を拡大する4)抗体製剤(1)抗TNF-α抗体製剤わが国ではインフリキシマブ(同:レミケード)、アダリムマブ(同:ヒュミラ)が保険適用となっている。抗TNF-α抗体製剤は、CDの寛解導入、寛解維持に有効で外瘻閉鎖維持効果を有する。適応として、中等症~重症のステロイド・栄養療法が無効な症例、重症例で膿瘍や狭窄がない治療抵抗例、抗TNF-α抗体製剤で寛解導入された症例の寛解維持療法、膿瘍がコントロールされた肛門病変が挙げられる。早期に免疫調節薬と併用での導入が治療成績がよいとの報告があるが、副作用と医療費の問題もあり、全例導入は避けるべきである。早期導入を進める症例として、肛門病変を有する症例、穿孔型の症例、若年発症が挙げられる。(2)抗IL12/23p40抗体製剤2017年5月より中等症から重症の寛解導入および維持療法としてウステキヌマブ (同:ステラーラ)が使用可能となっている。導入時のみ点滴静注(体重あたり、55kg以下260㎎、55kgを超えて85kg以下390㎎、85kgを超える場合520㎎)、その後は12週間隔の皮下注射もしくは活動性が高い場合は8週間隔の皮下注射であり、投与間隔が長くてもよいという特徴がある。また、安全性が高いことも特徴である。腸管ダメージの進行があまりない炎症期の症例に有効との報告がある。肛門病変への効果については、まだ統一見解は得られていない。(3)抗α4β7インテグリン抗体製剤2018年11月より中等症から重症の寛解導入および維持療法としてベドリズマブ (同:エンタイビオ)が使用可能となっている。インフリキシマブ同様0週、2週、6週で投与後維持療法として8週間隔の点滴静注 (30分/回)を行う。抗TNF-α抗体製剤failure症例よりもnaive症例で寛解導入および維持効果を示した報告が多い。日本での長期効果の報告に関してはまだ症例数も少なく、今後のデータ集積が必要である。5)栄養療法活動期には腸管の安静を図りつつ、栄養状態を改善するために、低脂肪・低残渣・低刺激・高蛋白・高カロリー食を基本とする。糖質・脂質の多い食事は危険因子とされている。「クローン病診療ガイドライン(2011年)」では、栄養療法はステロイドとともに主として中等症以上が適応となり 、痔瘻や狭窄などの腸管合併症には無効である。1日30kcal/kg以上の成分栄養療法の継続が再発防止に有効であるが、長期にわたる成分栄養療法の継続はアドヒアランスの問題から困難であることも少なくない。総摂取カロリーの半分を成分栄養剤で摂取すれば、寛解維持に有効であることが示されており、1日900kcal以上を摂取するhalf EDが目標となっている。6)抗菌薬メトロニダゾール、シプロフロキサシンなどの抗菌薬は中等度~重症の活動期の治療薬として、肛門部病変の治療薬として有効性が示されている。病変部位別の比較では小腸病変より大腸病変に対して有効性が高いとされる。7)顆粒球・単球吸着療法(granulocyte/monocyte apheresis: GMA)2010年より大腸病変のあるCDに対しGMAが適応拡大となった。GMAは単独治療の適応はなく、既存治療の有効性が乏しい場合に併用療法として考慮すべきである。施行回数は週1回×5回を1クールとして、最大2クールまで施行する。8)内視鏡的バルーン拡張術(endoscopic balloon dilatation: EBD)CDは、経過中に高い確率で外科手術を要する疾患であり、手術適応の半数以上は腸管狭窄である。EBDは手術回避の目的として行われる内視鏡的治療であり、治療指針にも取り上げられている。適応としては、腸閉塞症状を伴う比較的短く(3cm以下)屈曲が少ない良性狭窄で、深い潰瘍や瘻孔を伴わないものである。適応外としては、細径内視鏡が通過する程度の狭窄、強度に屈曲した狭窄、長い狭窄、瘻孔合併例、炎症や潰瘍が合併している狭窄である。■ 外科的治療CDの外科的治療は内科的治療で改善しない病変のみに対して行い、QOLの改善が目的である。腸管病変に対する手術では、原則として切除をなるべく小範囲とし、小腸病変に対しては可能な症例では狭窄形成術を行い、腸管はなるべく温存する。5年再手術率16~43%、10年で32~76%と高く、可能な症例では腹腔鏡下手術が有効である。緊急手術、穿孔、広範囲膿瘍形成、複数回の開腹手術既往、腸管外多臓器への複雑な瘻孔などは開腹手術が選択される。厚生労働省研究班治療指針によるCDの手術適応は表7の通りである。完全な腸閉塞、穿孔、大量出血、中毒性巨大結腸症は緊急に手術を行う。狭窄病変については、活動性病変は内科治療、線維性狭窄で口側拡張の著しいもの、短い範囲に多発するもの、狭窄の範囲が長いもの、瘻孔を伴うもの、狭窄症状を繰り返すものは手術適応となる。肛門病変は、難治性で再発を繰り返す痔瘻・膿瘍が外科的治療の対象となる。治療として、痔瘻根治術、シートン法ドレナージ、人工肛門造設(一時的)、直腸切断術が選択される。治療の目標は症状の軽減と肛門機能の保持となる。画像を拡大する4 今後の展望現在、各種免疫を ターゲットとした治験が行われており、進行中の治験を以下に示す。グセルクマブ(商品名:トレムフィア):抗IL-23p19抗体(点滴静注および皮下注射製剤)Upadacitinib:JAK1阻害薬(経口)E6011:抗フラクタルカイン抗体(静注)Filgotinib:JAK1阻害薬(経口)BMS-986165:TYK2阻害療法(経口)5 主たる診療科消化器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究に関するサイト難病情報センター CD(一般利用者と医療従事者向けの情報)東京医科歯科大学消化器内科 「潰瘍性大腸炎・クローン病先端治療センター」(一般利用者向けの情報)JIMRO IBD情報(一般利用者と医療従事者向けの情報)患者会に関するサイトIBDネットワーク(IBD患者と家族向け)1)日比紀文 監修.クローン病 新しい診断と治療.診断と治療社; 2011.2)難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班プロジェクト研究グループ 日本消化器病学会クローン病診療ガイドライン作成委員会・評価委員会.クローン病診療ガイドライン: 2011.3)NPO法人日本炎症性腸疾患協会(CCFJ)編.潰瘍性大腸炎の診療ガイド. 第2版.文光堂; 2011.4)日比紀文.炎症性腸疾患.医学書院; 2010.5)渡辺守.IBD(炎症性腸疾患を究める). メジカルビュー; 2011.公開履歴初回2013年04月11日更新2020年03月09日

34.

簡略化MRI、高濃度乳房で高い乳がん検出率/JAMA

 高濃度乳房(dense breast)女性の乳がんスクリーニング検査では、簡略化乳房MRI(AB-MRI)はデジタル乳房トモシンセシス(DBT)に比べ、浸潤性乳がんの検出率が有意に高いことが、米国・スローン・ケタリング記念がんセンターのChristopher E. Comstock氏らECOG-ACRIN Cancer Research Groupが行ったEA1141試験で示された。研究の成果は、JAMA誌2020年2月25日号に掲載された。高濃度乳房の女性は乳がんのリスクが高く、マンモグラフィでも早期診断が難しいため、スクリーニング検査法の改良が求められているという。2つの検査を受けた女性を長期に追跡した横断研究 本研究は、高濃度乳房女性の乳がんスクリーニングにおけるAB-MRIとDBTの診断能を比較する横断研究である(米国国立がん研究所[NCI]などの助成による)。米国の47施設とドイツの1施設が参加し、2016年12月~2017年11月の期間に患者登録が行われ、2019年9月までフォローアップが実施された。 対象は、年齢40~75歳、直近のマンモグラフィによるスクリーニング検査で高濃度乳房(米国放射線学会[ACR]の定義で、heterogeneously denseまたはextremely dense)とされ、DBTによる乳がんスクリーニング検査を受ける予定の臨床的に無症状の女性であった。 被験者は、ベースラインと1年後に、AB-MRI(造影剤投与前後にT2強調とT1強調画像を10分以内に撮像)とDBTの両方を受けた(検査間隔は24時間以内)。2つの検査の施行順は、中央で無作為化された。読影バイアスを回避するために、2人の乳房放射線科医が独立に、互いの検査結果をブラインドした状態で読影した。 DBTで陽性所見の女性は、追加画像検査を受けるよう勧められ(コールバック)、AB-MRIの施行前に最終診断が行われた。また、AB-MRIまたはDBTで「良性腫瘍が弱く疑われる(probably benign)」所見の女性は、6ヵ月後に「短期フォローアップ」として画像検査が推奨された。 主要評価項目は、浸潤性乳がんの検出率とした。副次評価項目には、感度、特異度、追加画像検査推奨率(コールバック+短期フォローアップの推奨)、生検の陽性反応適中度(PPV)が含まれた。浸潤性乳がんまたは非浸潤性乳管がん(DCIS)、あるいは双方の発現を、これら評価項目の陽性参照基準と定義した。また、コア生検または外科的生検の病理所見を、がん検出率とPPVの参照基準とした。追加画像検査推奨率やPPVに差はない 1,516例の女性が登録され、1,444例(96%、年齢中央値54歳[範囲:40~75])が2つの検査の双方を受けた。高濃度乳房のACR分類の内訳は、heterogeneously denseが77%、extremely denseは15%だった。 17例の女性(19病変)が、DCISの有無にかかわらず浸潤性乳がんが陽性で、6例はDCISが単独で陽性であった。フォローアップ期間中に、中間期がんは認められなかった。 AB-MRIは、17例の浸潤性乳がんをすべて検出し、6例のDCISのうち5例を検出した。また、DBTは、浸潤性乳がん女性17例中7例を、DCIS女性6例中5例を検出した。浸潤性乳がん検出率は、AB-MRIは1,000例当たり11.8例(95%信頼区間[CI]:7.4~18.8)、DBTは1,000例当たり4.8例(2.4~10.0)であり、1,000例当たりの差は7例(2.2~11.6)と、AB-MRIで有意に良好であった(exact McNemar検定のp=0.002)。 浸潤性乳がんおよびDCISの検出の感度は、AB-MRIが95.7%(95%CI:79.0~99.2)、DBTは39.1%(22.2~59.2)であり(p=0.001)、特異度はそれぞれ86.7%(84.8~88.4)および97.4%(96.5~98.1)であった(p<0.001)。また、追加画像検査推奨率は、AB-MRIが7.5%(6.2~9.0)、DBTは10.1%(8.7~11.8)であり、有意な差はなかった(Bonferroni補正後のp=0.02[p<0.01で有意差ありと定義])。また、生検のPPVは、AB-MRIが19.6%(13.2~28.2)、DBTは31.0%(17.0~49.7)だった(p=0.15)。 1年以内に12例に13件の有害事象が認められた。8件(62%)はGrade1またはそれ以下であった。最も頻度の高い有害事象は、軽度アレルギー反応(3件)と不安(2件)だった。 著者は、「スクリーニング検査法と臨床アウトカムの関連を、よりよく理解するためにさらなる研究を要する」としている。

35.

全身性強皮症〔SSc:systemic sclerosis〕

1 疾患概要■ 概念・定義全身性強皮症(systemic sclerosis:SSc)は、指趾から左右対称性に中枢側へと及ぶ線維性皮膚硬化を主徴とし、しばしば内臓(肺、食道病変の頻度が高い)にも線維性硬化を伴う慢性疾患である。■ 疫学わが国では約2万人が特定疾患として認定されている。しかし、見逃されている症例や他の膠原病とされている症例、軽症例では患者自身が受診していないことも多く、正確な患者数は不明である。男女比は1:12で、30~50歳代の女性に好発する。まれに、幼児期~小児期、70歳以降の高齢者に発症することもある。■ 病因SScの病因は不明である。本症は、(1)線維性硬化(皮膚におけるコラーゲンの過剰蓄積。内臓病変では臓器傷害部位をコラーゲンが置換する)、(2)末梢循環障害(レイノー現象、指趾潰瘍など)、(3)免疫異常(抗セントロメア抗体、抗トポイソメラーゼ(Scl-70)抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体などの自己抗体産生)の3要素によって特徴付けることができる。ただし、自己抗体そのものが疾患を惹起しているわけではなく、SSc特異的自己抗体を産生しやすい遺伝的背景とSScを発症させる疾患感受性の遺伝的背景とが密接にリンクしていると考えられる。■ 症状初発症状としてはレイノー現象(典型例では、寒冷刺激などによって手指が白色、紫藍色、赤色の3相性に変化する。図1)、手指の腫脹・こわばり(図2)が多い。その後、強指症に代表される皮膚硬化が明確となり、皮膚潰瘍・壊疽、肺線維症(図3)、逆流性食道炎をしばしば伴う。手指の屈曲拘縮、肺高血圧症、心外膜炎、不整脈、右心不全、腎クリーゼ(乏尿と高血圧)、関節炎、筋炎、偽性イレウス(腸閉塞)(図4)、吸収不良、便秘、下痢など合併することがある。図1 レイノー現象による手指の蒼白化画像を拡大する図2 手指の浮腫性硬化画像を拡大する図3 肺線維症画像を拡大する図4 偽性イレウス画像を拡大する■ 分類強皮症にはSScと限局性強皮症(Localized scleroderma)とがある。SScは皮膚硬化が肘・膝を超えるびまん皮膚硬化型(diffuse cutaneous type SSc)と肘・膝より遠位側に留まる限局皮膚硬化型(limited cutaneous type SSc)とに分類される。びまん皮膚硬化型は内臓病変が重症である確率が高い。びまん皮膚硬化型では、抗トポイソメラーゼ(Scl-70)抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体の陽性率が高く、内臓病変は重症化しやすい。限局皮膚硬化型では抗セントロメア抗体の陽性率が高く、生命予後に関わる内臓病変として肺高血圧症がある。SSc特異的自己抗体の有無は病型判別に役立つ。なお、皮膚硬化が部分的に生じる限局性強皮症(localized scleroderma)とSScの限局皮膚硬化型(limited cutaneous type SSc)とは別疾患であり、混同してはならない。■ 予後日本人の成人発症SSc患者の10年生存率は88%である。先に述べたように、びまん皮膚硬化型SScでは内臓病変が重症化しやすく、内臓病変が生命予後を左右する。内臓病変は慢性に進行するわけではなく、重症例は発症5、6年以内に急速に進行することが多い。このような症例を正確に見極め、できるかぎり早期に治療を開始して組織破壊を抑制し、組織損傷を軽減することが重要である。一方、限局皮膚硬化型SScでは、肺高血圧症以外に重篤な内臓病変を合併することは少なく、生命予後について過度の心配は不要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)SScは、症例毎に多彩な症状を呈するため、診断に際しては皮膚病変、内臓病変の正確な評価が不可欠である。分類(診断)基準案として厚生労働省研究班(表1)のものと、欧米リウマチ学会のもの(表2)を示す。表2はポイント制であり、早期例の診断に有用性が高い。特に、爪上皮の出血、後爪郭部毛細血管異常は早期診断には重要である(図5)鑑別すべき疾患として、腎性全身性線維症(造影剤を使用された腎不全患者に発症)、汎発型限局性強皮症(斑状強皮症、帯状強皮症などの限局性病変が多発したもの)、好酸球性筋膜炎、糖尿病性浮腫性硬化症、硬化性粘液水腫、ポルフィリン症、移植片宿主病(GVHD)、糖尿病性手関節症、クロウ-フカセ症候群、ウェルナー症候群などが挙げられる(表1)。表1 全身性強皮症診断基準(厚生労働省研究班,2014)◎大基準両側性の手指を超える皮膚硬化◎小基準(1)手指に限局する皮膚硬化*1(2)爪郭部毛細血管異常*2(3)手指尖端の陥凹性瘢痕,あるいは指尖潰瘍*3(4)両側下肺野の間質性陰影(5)抗トポイソメラーゼI(Scl-70)抗体、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体の何れかが陽性◎除外基準以下の疾患を除外すること腎性全身性線維症、汎発型限局性強皮、好酸球性筋膜炎、糖尿病性浮腫性硬化症、硬化性粘液水腫、ポルフィリン症、移植片宿主病(GVHD)、糖尿病性手関節症、クロウ-フカセ症候群、ウェルナー症候群【診断の判定】大基準、あるいは小基準(1)および(2)~(5)のうち1項目以上を満たせば全身性強皮症と診断する【注釈】*1:MCP関節よりも遠位に留まり、かつPIP関節よりも近位に及ぶものに限る*2:肉眼的に爪上皮出血点が2本以上の指に認められる、またはcapillaroscopyあるいはdermoscopyで全身性強皮症に特徴的な所見が認められる*3:手指の循環障害によるもので、外傷などによるものを除く表2 アメリカリウマチ学会と欧州リウマチ学会の分類(診断)基準(2013)画像を拡大する図5 後爪郭部の毛細血管拡張と爪上皮内の点状出血画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現時点でSScを完治させる、あるいは進行を完全に抑制できる薬剤はない。しかし、ある程度の効果が期待できる治療薬は揃いつつある。(1)皮膚硬化に対する副腎皮質ステロイド(少量内服、20mg/日以下)(2)肺線維症(間質性肺炎)に対するシクロフォスファミド・パルス療法(点滴静注を1回/月、6回)(3)逆流性食道炎に対するプロトンポンプ阻害薬(内服)(4)末梢循環障害に対するプロスタサイクリンなど(5)肺高血圧症、手指潰瘍再発に対するエンドセリン受容体拮抗薬(内服)(6)腎クリーゼに対するアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(内服)4 今後の展望強皮症を含む自己免疫性リウマチ性疾患の発症機序は不明である。近年の研究成果からは、自然免疫(innate immunity)の制御異常が注目されている。自然免疫は獲得免疫(acquired immunity)が成立するまでの期間に働く生体防御システムであり、外来性病原体に由来する、あるいは我々自身の体細胞に由来する物質の刺激によって始動する。これらの物質は生体の恒常性を破綻させる可能性があるため、自然免疫システムは炎症を起こしてこれら物質を排除しようとする。この炎症が上手くコントロールされて適切な段階で終息すれば正常状態であるが、炎症が遷延化して臓器損傷が慢性に進行するのが異常状態であり、これこそが自己免疫性リウマチ性疾患の発症機序ではないかと推測されている。したがって、最初にスイッチオンする物質の種類、その後の自然免疫による炎症の強弱によって患者さんごとの多様な病態が形成されると考えられる。根本治療薬の開発は、発症機序の解明を待たねばならないが、炎症制御に関わるさまざまな生体物質を制御する薬剤(分子標的薬)の探索へと向かうであろう。5 主たる診療科皮膚科、膠原病内科(SScを専門とする医師がいることが望ましい)。罹患臓器の重症度によって呼吸器内科、循環器内科、消化器内科などに診療する。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター全身性強皮症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)平成26年度厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業「強皮症・皮膚線維化疾患の診断基準・重症度分類・診断ガイドライン作成事業」(医療従事者向けのまとまった情報)公開履歴初回2020年02月10日

36.

頸動脈狭窄症への経頸動脈血行再建、経大腿動脈と比較/JAMA

 頸動脈狭窄症の治療において、経頸動脈血行再建術(transcarotid artery revascularization:TCAR)は経大腿動脈アプローチによるステント留置術と比較し、脳卒中または死亡のリスクが有意に低いことが示された。米国・ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターのMarc L. Schermerhorn氏らが、TCARと経大腿動脈ステント術の転帰を傾向スコアマッチング法により比較した解析結果を報告した。従来の経大腿動脈アプローチによる頸動脈ステント術は、頸動脈内膜剥離術と比較して周術期脳卒中の発生率が高いことがいくつかの試験で観察されていた。一方、TCARは2015年に開発されたリバースフローシステムによる新しい頸動脈ステント術で、経大腿動脈アプローチとは対照的に、頸動脈に直接アクセスすることによって大動脈弓でのカテーテル操作を回避し、標的病変操作前の頸動脈から大腿静脈への体外動静脈シャントによって脳を保護する。TCARは経大腿動脈アプローチによる脳卒中リスクを減少させるために開発されたが、経大腿動脈ステント術と比較した場合のアウトカムはよくわかっていなかった。JAMA誌2019年12月17日号掲載の報告。傾向スコアマッチング法でTCARと経大腿動脈ステント術のアウトカムを比較 研究グループは、2016年9月~2019年4月に米国およびカナダでTCARまたは経大腿動脈ステント術を受けた無症候性/症候性の頸動脈狭窄症患者を前向きに登録したVascular Quality Initiative Transcarotid Artery Surveillance ProjectおよびCarotid Stent Registryのデータ(追跡期間終了日2019年5月29日)を用い、傾向スコアマッチング解析を実施した。 主要評価項目は、院内脳卒中(同側または反対側、皮質または椎骨脳底、虚血性または出血性脳卒中と定義)/死亡、脳卒中、死亡(全死因死亡)、心筋梗塞、ならびに1年時点の同側脳卒中または死亡の複合エンドポイントであった。 研究期間中の登録患者はTCARが5,251例、経大腿動脈ステント術が6,640例で、傾向スコアマッチングにより抽出されたそれぞれ3,286例が解析対象となった。TCAR群は平均(±SD)年齢71.7±9.8歳、女性35.7%、経大腿動脈ステント術群は同71.6±9.3歳、女性35.1%であった。院内脳卒中/死亡、脳卒中および死亡のリスクはTCARが有意に低い 院内脳卒中/死亡はTCAR群1.6%vs.経大腿動脈ステント術群3.1%で、絶対差は-1.52%(95%信頼区間[CI]:-2.29~-0.75)、相対リスク(RR)は0.51(95%CI:0.37~0.72)(p<0.001)であった。脳卒中は1.3% vs.2.4%(絶対差:-1.10%[95%CI:-1.79~-0.41]、RR:0.54[95%CI:0.38~0.79]、p=0.001)、死亡は0.4% vs.1.0%(-0.55%[-0.98~-0.11]、0.44[0.23~0.82]、p=0.008)で、いずれもTCAR群で有意にリスクが低下した。 周術期心筋梗塞については、両群間で統計学的有意差は確認されなかった(0.2% vs.0.3%、絶対差:-0.09%[95%CI:-0.37~0.19]、RR:0.70[0.27~1.84]、p=0.47)。Kaplan-Meier法による1年時点の同側脳卒中または死亡は、TCARで有意にリスクが低下した(5.1% vs.9.6%、ハザード比:0.52[95%CI:0.41~0.66]、p<0.001)。 TCARでは、治療を要するアクセス部位合併症のリスクが高かったが(1.3% vs.0.8%、絶対差:0.52%[95%CI:-0.01~1.04]、RR:1.63[95%CI:1.02~2.61]、p=0.04)、術中放射線照射時間(中央値5分[IQR:3~7]vs.16分[11~23]、p<0.001)は短く、造影剤使用量(中央値30mL[IQR:20~45]vs.80 mL[55~122]、p<0.001)は少なかった。

37.

TAVRのデバイス性能は製品によって差がある(解説:上妻謙氏)-1160

 経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)は、重症大動脈弁狭窄症に対する治療として数々の外科手術との無作為化比較臨床試験が行われてきて、すでに手術リスクの程度にかかわらず外科手術よりも安全であることが証明され、世界中で適応が拡大されてきている。しかし今までTAVRのデバイス同士の比較が行われた大規模研究は少なく、デバイスごとの成績の差違は明らかではなかった。 本SCOPE I試験は、現在のスタンダードデバイスであるSAPIEN 3と自己拡張型デバイスであるACURATE neoを1対1にランダマイズして比較したもので、75歳以上のSTSスコアの平均が3.5と中等度から低リスク患者を中心に739例がエントリーされた。プライマリーエンドポイントはVARC-2という弁膜症治療における有効性と安全性の30日成績で、具体的には全死亡、脳卒中、生命を脅かす出血、重大な血管合併症、PCIを要する冠動脈閉塞、急性腎障害、弁膜症症状または心不全による再入院、再治療を要する人工弁不全、中等度以上の弁逆流、あるいは狭窄の複合エンドポイントである。 結果はACURATE neo群24%、SAPIEN 3群16%で、非劣性は証明されず、SAPIEN 3のほうが有意に良好な成績であった。ただし死亡、脳卒中は差がなく、主に差があったのは急性腎障害と人工弁逆流の割合であった。人工弁逆流の差はSAPIEN 3に逆流防止のスカートが付いている効果と考えられ、腎障害の頻度の差はACURATE neo群で手技時間が長く造影剤使用量が多かったことによると考察されている。代わりにSAPIEN 3はACURATE neoに比べ残存圧較差が大きく、有効弁口面積が小さくなった。ACURATE neoは弁輪を拡張する力が弱く、ペースメーカーが必要になる症例が少ないといわれているが、ペースメーカー植え込み率も10%対9%と違いがなかった。 複合エンドポイントでの差で、ハードエンドポイントには差がなかったが、このようなデバイスによる成績の差がはっきりと示された臨床試験は近年では珍しい。実際に本研究も非劣性を検証するデザインであり、同等になるとの仮説であった。冠動脈の薬剤溶出ステント同士の比較試験で同等の成績ばかりが続いており、薬剤溶出ステントは成熟したデバイス市場であることが示されてきたが、TAVRのデバイスに関してはその製品差が大きいことをうかがわせる。しかしACURATE neoのシステムも今後逆流防止のスカートが付く予定で、手技時間が短縮するようなデバイスの改良が進めば、性能が追いつき、むしろ有効弁口面積を大きくとれるメリットも活かせる可能性があり、今後のデバイス進歩に有用な情報が得られたといえる。

38.

高濃度乳房女性にはMRI検査の追加が有用/NEJM

 きわめて高濃度乳房でマンモグラフィ検査が正常の女性において、MRIスクリーニングの追加はマンモグラフィ検査単独と比較し、2年間のスクリーニング中の中間期がんの診断件数が有意に減少することが、オランダ・ユトレヒト大学のMarije F. Bakker氏らによる多施設共同無作為化比較試験「Dense Tissue and Early Breast Neoplasm Screening trial:DENSE試験」の結果、示された。高濃度乳房は乳がんのリスク因子であるが、マンモグラフィ検査によるがん検出には限界があり、高濃度乳房の女性における早期発見率の改善と中間期乳がん減少のためのMRI追加に関するデータが必要とされていた。NEJM誌2019年11月28日号掲載の報告。きわめて高濃度乳房の女性約4万例で、MRI追加と非追加の中間期がん発生を比較 研究グループは、オランダで2年ごとに実施されているデジタルマンモグラフィ検診プログラムに参加し、マンモグラフィ検査で陰性と判定されたきわめて高濃度乳房の50~75歳の女性4万373例を、MRI追加実施招待(MRI追加)群と、マンモグラフィ検査のみのマンモグラフィ群に、1対4の割合で無作為に割り付け追跡評価した(MRI追加群8,061例、マンモグラフィ群3万2,312例)。 主要評価項目は、2年間のスクリーニング期間における中間期がんの発生頻度の群間差であった。MRI追加群でマンモグラフィ単独群より中間期乳がん発生頻度が有意に低下 中間期がんの発生頻度(スクリーニング1,000件当たり)は、MRI追加群で2.5件、マンモグラフィ群で5.0件であり、群間差は2.5件(95%信頼区間[CI]:1.0~3.7、p<0.001)であった。 MRI追加群のうち、実際にMRI検査を受けた女性は4,783例(59%)であり、MRI追加群で中間期がん診断された20例のうち、4例(スクリーニング1,000件当たり0.8)がMRI実施例、16例(同4.9)はMRI非実施例であった。したがって、MRI実施例におけるMRIによるがん検出率は、スクリーニング1,000件当たり16.5件(95%CI:13.3~20.5)であった。 陽性適中率は、MRI検査陽性例(BI-RADSスコア3~5)で17.4%(95%CI:14.2~21.2)、MRI検査陽性生検実施例(BI-RADSスコアが4または5、フォローアップMRIでスコア4または5を含む)で26.3%(95%CI:21.7~31.6)であった。一方、偽陽性率は、スクリーニング1,000件当たり79.8件であった。 MRI実施例において、検査中または検査直後の有害事象あるいは重篤な有害事象の発現率は0.1%で、血管迷走神経反応、造影剤反応、血管外漏出に関連していた。

39.

点滴誤投与と不適切な蘇生処置による患者死亡を公表/京大病院

 京都大学医学部附属病院は19日、腎機能障害のある入院男性(年齢非公表)に対し、造影CT検査の前処置として点滴投与を行う際、本来投与すべき薬剤の高濃度の同一成分製剤を誤って投与したうえ、男性が心停止を来した際に行った蘇生処置にもミスが重なったことにより、6日後に死亡させたと発表した。病院側は、医薬品取り違え対策としてシステム改修を実施するなどの再発防止策を講じたという。宮本 享病院長らが19日に記者会見を開き、「薬剤の誤った処方による死亡という、期待を裏切るような結果になり、誠に申し訳なく、心よりお詫び申し上げる」と謝罪した。 京大病院によると、男性患者は造影剤による急性腎不全リスクがあり、入院患者の場合は腎保護用の生理食塩水を検査の6時間前に点滴投与する必要があったが、本件ではオーダーから検査までに十分な時間がなかったため、外来患者が造影CT検査を受ける際に使用する炭酸水素ナトリウムが投与されることとなった。その際、炭酸水素Na静注1.26%バッグ「フソー」を選択すべきところ、本来投与すべき薬剤の6.7倍濃度の同一成分製剤(商品名:メイロン静注8.4%)が処方された。 点滴開始直後から、男性患者は血管痛や顔面のほてり、頸部の痺れ、頸部や手足がつるなどの異変や、医師を呼んでほしい旨をたびたび訴えたにもかかわらず、点滴は続行された。 男性患者は、検査前後で計4時間にわたって高濃度の点滴が誤投与され、その後、病棟内で心停止の状態で発見された。すぐに蘇生処置が開始されたが、心臓マッサージを行った際、肺損傷が原因とみられる多量の出血が認められた。この段階で、処置に当たった医療チームのメンバーは、男性患者が抗凝固薬を服用していることを把握しておらず、中和薬投与のタイミングが遅れたという。男性患者は出血傾向が止まらず、6日後に死亡した。 本件を受けて京大病院は、外部委員を含む調査委員会で一連の経緯について検証を進めるとともに、医薬品のオーダリングシステムを改修し、電子カルテ内の薬剤名を変更したり、多量の処方時には警告が表示されたりするなどの再発防止策を講じた。 宮本病院長は本件について、「治療でよくなることを望んでおられた患者さんご本人とご家族には、薬剤の誤った処方による死亡という期待を裏切るような結果になり、誠に申し訳なく、心よりお詫び申し上げます。関係者のみならず病院職員の一人ひとりが自分たちのこととして受け止め、再発防止に努めてまいります」とのコメントを発表した。

40.

第14回 高齢糖尿病患者の動脈硬化、介入や治療強化のタイミングは?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第14回 高齢糖尿病患者の動脈硬化、介入や治療強化のタイミングは?Q1 ABIだけで十分? それとも他の検査も行うべき?頸動脈エコーや足関節上腕血圧比(ABI)は簡便であり、後述の通り冠動脈スクリーニングの意味もあるので、糖尿病の患者であれば一度は行っておくとよいと思います。頸動脈狭窄やABI低下はいずれも冠動脈疾患とよく合併します1)。頸動脈内膜剥離術(CEA)を行った頸動脈狭窄症例での冠動脈疾患合併は約40%みられるとの報告があります2)。ABI低下がなくても無症候頸動脈狭窄と冠動脈狭窄を呈する症例もあるので、やはり頸動脈エコーは行っておくべきでしょう。また頸動脈エコーを行うとQ2で述べる不安定プラークの有無を知ることができるので有意義です。Q2 頚動脈エコーの結果と治療法選択の判断について教えてくださいIMT肥厚がその後の心血管疾患の発症予測に使えることが知られていますが、軽度のIMT肥厚は糖尿病患者では高頻度で認められるため、これらの患者においては一般的な動脈硬化のリスク因子の介入を行っています。すなわち、禁煙の他、適切な血糖・血圧・脂質のコントロールです。この段階での抗血小板薬の投与は行いません。高度の肥厚があるものについては、冠動脈病変をスクリーニングしています(後述)。無症候頸動脈狭窄の患者への抗血小板薬の投与で、脳梗塞一次予防の介入エビデンスはありません。しかし観察研究では、≧50%あるいは≧70%狭窄のある患者で抗血小板薬投与が同側の脳卒中発症抑制に関連したという報告があり、2015年の脳卒中ガイドラインでも、中等度以上の無症候頸動脈狭窄では他の心血管疾患の併存や出血性合併症のリスクなどを総合的に評価した上で、必要に応じて抗血小板療法を考慮してよいとしています3)。われわれもこれに準じ、通常50%以上(NASCET法)の狭窄例では抗血小板薬を投与していることが多いです。一方、無症候頸動脈狭窄や高度のIMT肥厚は冠動脈疾患を合併していることが多いので、これらの症例では通常の12誘導心電図だけでなく、一度循環器内科を紹介し、心エコーの他、冠動脈CTや心筋シンチグラムなどを考慮しています(高齢者ではトレッドミルテストが困難なことが多いため)。2型糖尿病患者で冠動脈インターベンションやバイパス術を必要とするような、高度な冠動脈病変を伴う患者を検出するために適正なIMT最大値(Max IMT)のカットオフ値としては2.45mmという報告があり、参考になると思います4)。冠動脈病変が疑われれば、抗血小板薬(アスピリンやクロピドグレル)を投与する意義はさらに大きくなります。抗血小板薬による消化管出血リスクは年齢リスクとともに増加し、日本人では海外の報告より高いといわれます。胃十二指腸潰瘍の既往があるものや、NSAIDs投与中の患者ではとくに消化管出血に注意を払わなければなりません。冠動脈疾患をともなわない無症候頸動脈狭窄でとくに出血リスクが高いと考えられる症例には、患者に説明のうえ投与を行わないこともあります。あるいは出血リスクが低いといわれているシロスタゾールに変更することもありますが、頭痛や頻脈などの副作用がありえます。とくに頻脈には注意が必要で、うっ血性心不全患者には禁忌であり、冠動脈狭窄のある患者にも狭心症を起こすリスクがあることから慎重投与となっています。このため必ず冠動脈病変の評価を行ってから投与すべきと考えます。なお、すでに他の疾患で抗凝固薬を投与されているものでは、頸動脈狭窄に対しての抗血小板薬の投与は控えています。なお、無症候性の頸動脈狭窄が認知機能低下5)やフレイル6) に関連するという報告もみられます。これらの患者では認知機能やフレイルの評価を行っておくことが望ましいと考えられます。頚動脈エコー所見で低輝度のプラークは、粥腫に富んだ不安定プラークであり脳梗塞のリスクとなります7)。潰瘍形成や可動性のあるものもリスクが高いプラークです。このような不安定プラークが観察されれば、プラーク安定化作用のあるスタチンを積極的に投与しています。糖尿病治療薬については、頸動脈狭窄症のある患者に対し、とくに有効だというエビデンスをもつものはありません。SGLT2阻害薬は最近心血管イベントリスクを低下させるという報告がありますが、高齢者では脱水をきたすリスクがあるので、明らかな頸動脈狭窄症例には慎重に投与すべきと考えます。Q3 専門医への紹介のタイミングについて教えてください脳卒中ガイドラインでは高度無症候性狭窄の場合、CEAやその代替療法としての頸動脈ステント留置術(CAS)を考慮してよいとされています3)。脳神経外科に紹介し、手術になることは高齢者では少ないように思いますが、内科治療を十分行っていても狭窄が進展したり、不安定プラークが残存したりする症例などはCASを行うことが多くなっています。また、TIAなどの有症状症例で50%以上狭窄の症例では紹介しています。手術は高齢者のCEAやCASに熟練した施設で行うことが望まれます。最近、CEAやCASを行った症例において認知機能の改善が認められたという報告がみられており、エビデンスの蓄積が期待されます8)。末梢動脈疾患では跛行や安静時痛のある患者や、ABIの低下があり下肢造影CTを撮影して狭窄が疑われる場合に血管外科に紹介しています。腎機能が悪い患者については下肢動脈エコーや非造影MRAで代用することが多いですが、エコーは検査者の技量に左右されることが多く、またいずれの検査も造影CTよりは精度が劣ると考えられます。最近炭酸ガスを用い、造影剤を使用しない血管造影がありますが9) 、施行している施設は限られます。このような施設で検査を受けるか、透析導入のリスクを説明のうえ造影剤検査を行うか、しばらく内科治療で様子をみるかは、外科医と患者さんで相談のうえ、決めていただいています。 Q4 頚動脈エコー検査の頻度は? 何歳まで検査を行うべき?頚動脈エコーのフォロー間隔についてのエビデンスはありませんが、われわれは通常1年に1回フォローしています。無症候の頸動脈狭窄や不安定プラークが出現した場合、内科治療の強化や冠動脈のスクリーニングの検討が必要と考えますので、80~90代でも冠動脈インターベンションを行う今日では、このような高齢の方でも評価を行っています。IMTは年齢とともに健常者でも肥厚しますが、平均IMTは90歳代でも1mmを超えないという報告もあり10)、高度の肥厚は異常と考えます。また上述のように、無症候頸動脈狭窄に対して内科治療を十分行っていても病変が進展した際には、外科医に紹介する判断の一助となります。一方、頸動脈狭窄あるいは冠動脈CTで石灰化がある方でも、すでにしっかり内科的治療が行われており、かつ冠動脈検査やインターベンションの希望がない場合は検査の頻度は減らしてもよいかもしれません。 1)Kawarada O. et al. Circ J .2003;67; 1003-1006. 2)Shimada T et al. J Neurosurg. 2005;103: 593-596.3)日本脳卒中学会. 脳卒中治療ガイドライン2015[追補2017対応].pp88-89.協和企画;2017.4)Irie Y, et al. Diabetes Care. 2013;36: 1327-1334.5)Dutra AP. Dement Neuropsychol. 2012;6:127-130.6)Newman AB, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2001;56: M158–166.7)Polak JF, et al. Radiology. 1998;208: 649-654.8)Watanabe J, et al. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2017;26:1297-1305.9)Merz CN, et al. Angiology. 2016;67:875-881.10)Homma S, et al. Stroke. 2001; 32: 830-335, 2001.

検索結果 合計:91件 表示位置:21 - 40