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チカグレロルの中和薬、第I相試験で有効性確認/NEJM

 チカグレロルの特異的中和薬であるPB2452について、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のDeepak L. Bhatt氏らは、健常ボランティアにおいて、チカグレロルの抗血小板作用を迅速かつ持続的に中和し、毒性は軽度であることを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2019年3月17日号に掲載された。チカグレロルは経口P2Y12阻害薬で、急性冠症候群の患者や心筋梗塞の既往のある患者において、虚血性イベントのリスクを抑制するために、アスピリンとの併用で使用される。しかし他の抗血小板薬と同様、チカグレロルも大出血や緊急の侵襲的手技に伴う出血が懸念され、その抗血小板作用には、血小板輸血による可逆性はなく、出血の抑制には速効型の中和薬が有用とされる。複数の検査法で血小板機能を評価するプラセボ対照第I相試験 本研究は、健常ボランティアを対象に、単施設で行われた二重盲検プラセボ対照無作為化第I相試験であり、2018年4月3日~8月23日に参加者の登録が行われた(PhaseBio Pharmaceuticalsの助成による)。 PB2452は、チカグレロル中和薬として、チカグレロルに高い結合親和性を有するモノクローナル抗体フラグメントである。健常ボランティア(年齢18~50歳、体重50~120kg、BMI 18~35)において、48時間のチカグレロルによる治療の前後およびPB2452またはプラセボを投与後に血小板機能の評価を行った。 血小板機能の評価には、透過光血小板凝集検査法、P2Y12血小板反応性のポイント・オブ・ケア検査、血管拡張因子刺激リン酸化タンパク質検査が用いられた。中和作用は投与開始5分以内に発現、20時間以上持続 64例が登録され、PB2452群に48例(平均年齢30.5歳、男性48%)、プラセボ群には16例(34.0歳、69%)が割り付けられた。 PB2452群では、17例に27件の有害事象が認められた。主なものは注射部位内出血(4件)、医療機器部位反応(3件)、血管穿刺部位出血(2件)、注入部位血管外漏出(2件)であった。用量制限毒性や輸注反応はみられず、死亡や試験薬中止を要する有害事象、および入院を要する有害事象もみられなかった。 48時間のチカグレロル治療後には、血小板凝集能が約80%抑制された。迅速な中和を得るためにPB2452を静脈内ボーラス投与後、中和を持続させるために注入時間を8、12、16時間と延長すると、3つの測定法のすべてで、血小板機能がプラセボ群に比べ有意に上昇した。 チカグレロルの中和作用は、PB2452の投与開始から5分以内に発現し、20時間以上持続した(3つの測定法のすべての測定時点の値をBonferroni法で調整後のp<0.001)。薬剤投与終了後の血小板活性には、リバウンドの証拠はなかった。 著者は、「PB2452によるチカグレロルの抗血小板作用の中和は、出血患者に対し、より迅速な止血をもたらすか、また緊急の侵襲的手技を施行された患者において、出血を予防するかについては、まだ不明である」としている。

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バベシア症に気を付けろッ! その2【新興再興感染症に気を付けろッ!】

ケアネットをご覧の皆さま、こんにちは。国立国際医療研究センター 国際感染症センターの忽那です。本連載「新興再興感染症に気を付けろッ!」、通称「気を付けろッ」は「新興再興感染症の気を付け方」についてまったりと、そして時にまったりと、つまり一貫してまったりと学んでいくコーナーです。さて、前回は誰も興味がないと思われる超マニアックなバベシア症について語りました。しかしッ! 日本の医療従事者もバベシア症について知っておかなければならない時代が来ているのですッ!突然ですが、症例提示をしてよろしいでしょうか?原因不明の溶血の正体は何?症例:40歳日本人男性主訴:発熱、溶血現病歴:X年1月31日39℃台の発熱が出現2月2日ヘモグロビン尿が出現2月6日溶血性貧血の診断でA病院にてヒドロコルチゾン900mg/日の点滴と赤血球輸血を施行3月20日退院3月29日再びヘモグロビン尿が出現4月3日再入院しヒドロコルチゾン900mg/日を再開。溶血は改善したが原因精査のためB病院転院既往歴:出血性胃潰瘍でX-1年12月28日(A病院入院約1ヵ月前)に入院。赤血球10単位、FFP3単位の輸血を施行節足動物曝露:なし身体所見:体温 36.8℃、脈拍90/分、血圧152/84mmHg眼球結膜に黄疸あり、眼瞼結膜に貧血あり、表在リンパ節を触知せず、心肺異常なし、腹部圧痛なし、肝脾を触知せず、下肢に軽度の浮腫を認める血液検査:WBC 14,100/µL、RBC 1.87×106/µL、Hb 6.5g/dL、Ht 19.8%、Plt 25×104/µL、BUN 20mg/dL、Cre 0.68mg/dL、TP 5.7g/dL、Alb 2.9g/dL、T-BiL 1.6mg/dL、GOT 89IU/L、GPT 51IU/L、LDH 4,266IU/L、CRP 1.37mg/dL、Na 139mEq/L、K 4.1mEq/L、CL 106mEq/L尿検査:尿蛋白(+)、尿潜血(4+)、尿糖(-)症例患者の感染ルートはどこださて、この原因不明の溶血(再生不良性貧血として治療したが再燃)と、2ヵ月の経過で続く発熱、体重減少の症例…診断は何だと思いますでしょうか? まあ、ここまで来といてバベシア症じゃなかったら怒られると思うんですが、そうです、バベシア症なんです!日本人ですよ? 海外渡航歴なしですよ? 本症例は日本国内発の初のバベシア症症例です1)。末梢血ギムザ染色を行い、図のような赤血球内に寄生するバベシア原虫の所見が得られ確定診断に至っています。画像を拡大するこの患者さんはマダニからの感染ではなく、出血性胃潰瘍のため輸血をした際にバベシア症に感染したと考えられています。この供血者についても判明しており、海外渡航歴のない方による供血だったそうです。つまり、日本国内でもバベシア症に感染する可能性があるのですッ!国内に潜むバベシア症このわが国初のバベシア症が報告された兵庫県2)だけでなく、北海道、千葉県、島根県、徳島県などでもこのB.microti様原虫(Babesia microti-like parasites)を持つ野生動物が見つかっており、ヤマトマダニからも分離されています3)。あー、ちゃばい。つまり、すでに日本のマダニだの野生動物だのは、バベシア原虫を持っているということです。いつ感染してもおかしくないって話です。でも、すでにマダニや動物が持っているなら、1例だけじゃなくもっとたくさんの症例が報告されていても、おかしくないはずですよね。そうなんです。もっと患者がいてもいいのに(よかないけど)、報告されていないんです。しかし、興味深い論文がありますのでご紹介します。千葉県の房総半島で1,335人のボランティアの方から採血をしたところ、その1.3%でバベシア原虫に対する抗体が陽性だったというのですッ4)! そう、われわれは気付かないうちにバベシアに感染しているのかもしれないのですッ!というわけで、必ずしも日本では診ることがないとも言い切れないバベシア症についてお話いたしました。国内第2例目を診断するのは、あなたかもしれないッ!次回は「先進国イタリアでまさかのマラリア流行かッ!?」というお話をいたします。1)松井利充ほか. 臨床血液. 2000;41:628-634.2)Saito-Ito A, et al. J Clin Microbiol. 2004;42:2268-2270.3)Tsuji M, et al. J Clin Microbiol. 2001;39:4316-4322.4)Arai S, et al. J Vet Med Sci. 2003;65:335-340.

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血友病〔Hemophilia〕

血友病のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■概要血友病は、凝固第VIII因子(FVIII)あるいは第IX因子(FIX)の先天的な遺伝子異常により、それぞれのタンパクが量的あるいは質的な欠損・異常を来すことで出血傾向(症状)を示す疾患である1)。血友病は、古代バビロニア時代から割礼で出血死した子供が知られており、19世紀英国のヴィクトリア女王に端を発し、欧州王室へ広がった遺伝性疾患としても有名である1)。女王のひ孫にあたるロシア帝国皇帝ニコライ二世の第1皇子であり、最後の皇太子であるアレクセイ皇子は、世界で一番有名な血友病患者と言われ、その後の調査で血友病Bであったことが確認されている2)。しかし、血友病にAとBが存在することなど疾患概念が確立し、治療法も普及・進歩してきたのは20世紀になってからである。■疫学と病因血友病は、X連鎖劣性遺伝(伴性劣性遺伝)による遺伝形式を示す先天性の凝固異常症の代表的疾患である。基本的には男子にのみ発症し、血友病Aは出生男児約5,000人に1人、血友病Bは約2万5,000人に1人の発症率とされる1)。一方、約30%の患者は、家族歴が認められない突然変異による孤発例とされている1)。■分類血友病には、FVIII活性(FVIII:C)が欠乏する血友病Aと、FIX活性(FIX:C)が欠乏する血友病Bがある1)。血友病は、欠乏する凝固因子活性の程度によって重症度が分類される1)。因子活性が正常の1%未満を重症型(血友病A全体の約60%、血友病Bの約40%)、1~5%を中等症型(血友病Aの約20%、血友病Bの約30%)、5%以上40%未満を軽症型(血友病Aの約20%、血友病Bの約30%)と分類する1)。■症状血友病患者は、凝固因子が欠乏するために血液が固まりにくい。そのため、ひとたび出血すると止まりにくい。出産時に脳出血が多いのは、健常児では軽度の脳出血で済んでも、血友病児では止血が十分でないため重症化してしまうからである。乳児期は、ハイハイなどで皮下出血が生じる場合が多々あり、皮膚科や小児科を経由して診断されることもある。皮下出血程度ならば治療を必要としないことも多い。しかし、1歳以降、体重が増加し、運動量も活発になってくると下肢の関節を中心に関節内出血を来すようになる。擦り傷でかさぶたになった箇所をかきむしって再び出血を来すように、ひとたび関節出血が生じると同じ関節での出血を繰り返しやすくなる。国際血栓止血学会(ISTH)の新しい定義では、1年間に同じ関節の出血を3回以上繰り返すと「標的関節」と呼ばれるが、3回未満であれば標的関節でなくなるともされる3)。従来、重症型の血友病患者ではこの標的関節が多くなり、足首、膝、肘、股、肩などの関節障害が多く、歩行障害もかなりみられた。しかし、現在では1回目あるいは2回~数回目の出血後から血液製剤を定期的に投与し、平素から出血をさせないようにする定期補充療法が一般化されており、一昔前にみられた関節症を有する患者は少なくなってきている。中等症型~軽症型では出血回数は激減し、出血の程度も比較的軽く、成人になってからの手術の際や大けがをして初めて診断されることもある1)。■治療の歴史1960年代まで血友病の治療は輸血療法しかなく、十分な凝固因子の補充は不可能であった。1970年代になり、血漿から凝固因子成分を取り出したクリオ分画製剤が開発されたものの、溶解操作や液量も多く十分な因子の補充ができなかった1)。1970年代後半には血漿中の当該凝固因子を濃縮した製剤が開発され、使い勝手は一気に高まった。その陰で原料血漿中に含まれていたウイルスにより、C型肝炎(HCV)やHIV感染症などのいわゆる薬害を生む結果となった。当時、国内の血友病患者の約40%がHIVに感染し、約90%がHCVに感染した。クリオ製剤などの国内製剤は、HIV感染を免れたが、HCVは免れなかった1)。1983年にHIVが発見・同定された結果、1985年には製剤に加熱処理が施されるようになり、以後、製剤を経由してのHIV感染は皆無となった1)。HCVは1989年になってから同定され、1992年に信頼できる抗体検査が献血に導入されるようになり、以後、製剤由来のHCVの発生もなくなった1)。このように血友病治療の歴史は、輸血感染症との戦いの歴史でもあった。遺伝子組換え型製剤が主流となった現在でも、想定される感染症への対応がなされている1)。■予後血友病が発見された当時は治療法がなく、10歳までの死亡率も高かった。1970年代まで、重症型血友病患者の平均死亡年齢は18歳前後であった1,4)。その後、出血時の輸血療法、血漿投与などが行われるようになったが、十分な治療からは程遠い状態であった。続いて当該凝固因子成分を濃縮した製剤が開発されたが、非加熱ゆえに薬害を招くきっかけとなってしまった。このことは血友病患者の予後をさらに悪化させた。わが国におけるHIV感染血友病患者の死亡率は49%(平成28年時点のデータ)だが、欧米ではさらに多くの感染者が存在し、死亡率も60%を超えるところもある5)。罹患血友病患者においては、感染から30年を経過した現在、肝硬変の増加とともに肝臓がんが死亡原因の第1位となっている5)。1987年以後は、輸血感染症への対策が進んだほか、遺伝子組換え製剤の普及も進み、若い世代の血友病患者の予後は飛躍的に改善した。現在では、安全で有効な凝固因子製剤の供給が高まり、出血を予防する定期補充療法も普及し、血友病患者の予後は健常者と変わらなくなりつつある1)。2 診断乳児期に皮下出血が多いことで親が気付く場合も多いが、1~2歳前後に関節出血や筋肉出血を生じることから診断される場合が多い1)。皮膚科や小児科、時に整形外科が窓口となり出血傾向のスクリーニングが行われることが多い。臨床検査でAPTTの延長をみた場合には、男児であれば血友病の可能性も考え、確定診断については専門医に紹介して差し支えない。乳児期の紫斑は、母親が小児科で虐待を疑われるなど、いやな思いをすることも時にあるようだ。■検査と鑑別診断血友病の診断には、血液凝固時間のPTとAPTTがスクリーニングとして行われる。PT値が正常でAPTT値が延長している場合は、クロスミキシングテストとともにFVIII:CまたはFIX:Cを含む内因系凝固因子活性の測定を行う1)。FVIII:Cが単独で著明に低い場合は、血友病Aを強く疑うが、やはりFVIII:Cが低くなるフォン・ヴィレブランド病(VWD)を除外すべく、フォン・ヴィレブランド因子(VWF)活性を測定しておく必要がある1)。軽症型の場合には、血友病AかVWDか鑑別が難しい場合がある。FIX:Cが単独で著明に低ければ、血友病Bと診断してよい1)。新生児期では、ビタミンK欠乏症(VKD)に注意が必要である。VKDでは第II、第VII、第IX、第X因子活性が低下しており、PTとAPTTの両者がともに延長するが、ビタミンKシロップの投与により正常化することで鑑別可能である。それでも血友病が疑われる場合にはFVIII:CやFIX:Cを測定する6)。まれではあるが、とくに家族歴や基礎疾患もなく、それまで健康に生活していた高齢者や分娩後の女性などで、突然の出血症状とともにAPTTの著明な延長と著明なFVIII:Cの低下を認める「後天性血友病A」という疾患が存在する7)。後天的にFVIIIに対する自己抗体が産生されることにより活性が阻害され、出血症状を招く。100万人に1~4人のまれな疾患であるがゆえに、しばしば診断や治療に難渋することがある7)。ベセスダ法によるFVIII:Cに対するインヒビターの存在の確認が確定診断となる。■保因者への注意事項保因者には、血友病の父親をもつ「確定保因者」と、家系内に患者がいて可能性を否定できない「推定保因者」がいる。確定保因者の場合、その女性が妊娠・出産を希望する場合には、前もって十分な対応が可能であろう。推定保因者の場合にもしかるべき時期がきたら検査をすべきであろう。保因者であっても因子活性がかなり低いことがあり、幼小児期から出血傾向を示す場合もあり、製剤の投与が必要になることもあるので注意を要する。血友病児が生まれるときに、頭蓋内出血などを来す場合がある。保因者の可能性のある女性を前もって把握しておくためにも、あらためて家族歴を患者に確認しておくことが肝要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)従来は、出血したら治療するというオンデマンド、出血時補充療法が主体であった1)。欧米では1990年代後半から、安全な凝固因子製剤の使用が可能となり、出血症状を少なくすることができる定期的な製剤の投与、定期補充療法が普及してきた1)。また、先立って1980年代には自己注射による家庭内治療が一般化されてきたこともあり、わが国でも1990年代後半から定期補充療法が幅広く普及し、その実施率は年々増加してきており、現在では約70%の患者がこれを実践している5)。定期補充療法の普及によって、出血回数は減少し、健康な関節の維持が可能となって、それまでは消極的にならざるを得なかったスポーツなども行えるようになり、血友病の疾患・治療概念は大きく変わってきた。定期補充療法の進歩によって、年間出血回数を2回程度に抑制できるようになってきたが、それぞれの因子活性の半減期(FVIIIは10~12時間、FIXは20~24時間)から血友病Aでは週3回、血友病Bでは週2回の投与が推奨され、かつ必要であった1)。凝固因子製剤は、静脈注射で供給されるため、実施が困難な場合もあり、患者は常に大きな負担を強いられてきたともいえる。そこで、少しでも患者の負担を減らすべく、半減期を延長させた製剤(半減期延長型製剤:EHL製剤)の開発がなされ、FVIII製剤、FIX製剤ともにそれぞれ数社から製品化された6,8)。従来の凝固因子に免疫グロブリンのFc領域ではエフラロクトコグ アルファ(商品名:イロクテイト)、エフトレノナコグ アルファ(同:オルプロリクス)、ポリエチレングリコール(PEG)ではルリオクトコグ アルファ ペゴル(同:アディノベイト)、ダモクトコグ アルファ ペゴル(同:ジビイ)、ノナコグ ベータペゴル(同:レフィキシア)、アルブミン(Alb)ではアルブトレペノナコグ アルファ(同:イデルビオン)などを修飾・融合させることで半減期の延長を可能にした6,8)。PEGについては、凝固因子タンパクに部位特異的に付加したものやランダムに付加したものがある。付加したPEGの分子そのもののサイズも20~60kDaと各社さまざまである。また、通常はヘテロダイマーとして存在するFVIIIタンパクを1本鎖として安定化をさせたロノクトコグ アルファ(同:エイフスチラ)も使用可能となった。これらにより血友病AではFVIIIの半減期が約1.5倍に延長され、週3回が週2回へ、血友病BではFIXの半減期が4~5倍延長できたことから従来の週2回から週1回あるいは2週に1回にまで注射回数を減らすことが可能となり、かつ出血なく過ごせるようになってきた6,8)。上手に製剤を使うことで標的関節の出血回避、進展予防が可能になってきたとともに年間出血回数ゼロを目指すことも可能となってきた。■個別化治療以前は<1%の重症型からそれ以上(1~2%以上の中等症型)に維持すれば、それだけでも出血回数を減らすことが可能ということで、定期補充療法のメニューが組まれてきた。しかし、製剤の利便性も向上し、EHL製剤の登場により最低レベル(トラフ値)もより高く維持することが可能となってきた6,8)。必要なトラフ値を日常生活において維持するのみならず、必要なとき、必要な時間に、患者の活動に合わせて因子活性のピークを作ることも可能になった。個々の患者のさまざまなライフスタイルや活動性に合わせて、いわゆるテーラーメイドの個別化治療が可能になりつつある。また、合併症としてのHIV感染症やHCVのみならず、高齢化に伴う高血圧、腎疾患や糖尿病などの生活習慣病など、個々の合併症によって出血リスクだけではなく血栓リスクも考えなければならない時代になってきている。ひとえに定期補充療法が浸透してきたためである。ただし、凝固因子製剤の半減期やクリアランスは、小児と成人では大きく異なり、個人差が大きいことも判明している1)。しっかりと見極めるためには個々の薬物動態(PK)試験が必要である。現在ではPopulation PKを用いて投与後2ポイントの採血と体重、年齢などをコンピュータに入力するだけで、個々の患者・患児のPKがシミュレートできる9)。これにより、個々の患者・患児の生活や出血状況に応じた、より適切な投与量や投与回数に負担をかけずに検討できるようになった。もちろん医療費という面でも費用対効果を高めた治療を個別に検討することも可能となってきている。■製剤の選択基本的には現在、市場に出ているすべての凝固因子製剤は、その効性や安全性において優劣はない。現在、製剤は従来型、EHL含めてFVIIIが9種類、FIXは7種類が使用可能である。遺伝子組換え製剤のシェアが大きくなってきているが、国内献血由来の血漿由来製剤もFVIII、FIXそれぞれにある。血漿由来製剤は、未知の感染症に対する危険性が理論的にゼロではないため、先進国では若い世代には遺伝子組換え製剤を推奨している国が多い。血漿由来製剤の中にあって、VWF含有FVIII製剤は、遺伝子組換え製剤よりインヒビター発生リスクが低かったとの報告もなされている10)。米国の専門家で構成される科学諮問委員会(MASAC)は、最初の50EDs(実投与日数)はVWF含有FVIII製剤を使用してインヒビターの発生を抑制し、その後、遺伝子組換え製剤にすることも1つの方法とした11)。ただ、初めて凝固因子製剤を使用する患児に対しては、従来の、あるいは新しい遺伝子組換え製剤を使用してもよいとした11)。どれを選択して治療を開始するかはリスクとベネフィットを比較して、患者と医療者が十分に相談したうえで選択すべきであろう。4 今後の展望■個々の治療薬の開発状況1)凝固因子製剤現在、凝固因子にFc、PEG、Albなどを修飾・融合させたEHL製剤の開発が進んでいることは既述した。同様に、さまざまな方法で半減期を延長すべく新規薬剤が開発途上である。シアル酸などを結合させて半減期を延長させる製剤、FVIIIがVWFの半減期に影響されることを利用し、Fc融合FVIIIタンパクにVWFのDドメインとXTENを融合させた製剤などの開発が行われている12)。rFVIIIFc-VWF(D’D3)-XTENのフェーズ1における臨床試験では、その半減期は37時間と報告され、血友病Aも1回/週の定期補充療法による出血抑制の可能性がみえてきている13)。2)抗体医薬これまでの血液製剤はいずれも静脈注射であることには変わりない。インスリンのように簡単に注射ができないかという期待に応えられそうな製剤も開発中である。ヒト化抗第IXa・第X因子バイスペシフィック抗体は、活性型第IX因子(FIXa)と第X因子(FX)を結合させることによりFX以下を活性化させ、FVIIIあるいはFVIIIに対するインヒビターが存在しても、それによらない出血抑制効果が期待できるヒト型モノクローナル抗体製剤(エミシズマブ)として開発されてきた。週1回の皮下注射で血友病Aのみならず血友病Aインヒビター患者においても、安全性と良好な出血抑制効果が報告された14,15)。臨床試験においても年間出血回数ゼロを示した患者の割合も数多く、皮下注射でありながら従来の静脈注射による製剤の定期補充療法と同等の出血抑制効果が示された。エミシズマブはへムライブラという商品名で、2018年5月にインヒビター保有血友病A患者に対して認可・承認され、続いて12月にはインヒビターを保有しない血友病A患者においてもその適応が拡大された。皮下注射で供給される本剤は1回/週、1回/2週さらには1回/4週の投与方法が選択可能であり、利便性は高いものと考えられる。いずれにおいても血中濃度を高めていくための導入期となる最初の4回は1回/週での投与が必要となる。この期間はまだ十分に出血抑制効果が得られる濃度まで達していない状況であるため、出血に注意が必要である。導入時には定期補充を併用しておくことも推奨されている。しかし、けっして年間出血回数がすべての患者においてゼロになるわけではないため、出血時にはFVIIIの補充は免れない。インヒビター保有血友病A患者におけるバイパス製剤の使用においても同様であるが、出血時の対応については、主治医や専門医とあらかじめ十分に相談しておくことが肝要であろう。血友病Bではその長い半減期を有するEHLの登場により1回/2週の定期補充により出血抑制が可能となってきた。製剤によっては、通常の使用量で週の半分以上をFIXが40%以上(もはや血友病でない状態「非血友病状態」)を維持可能になってきた。血友病Bにおいても皮下注射によるアプローチが期待され、開発されてきている。やはりヒト型モノクローナル抗体製剤である抗TFPI(Tissue Factor Pathway Inhibitor)抗体はTFPIを阻害し、TF(組織因子)によるトロンビン生成を誘導することで出血抑制効果が得られると考えられ、現在数社により日本を含む国際共同試験が行われている12)。抗TFPI抗体の対象は血友病AあるいはB、さらにはインヒビターあるなしを問わないのが特徴であり、皮下注射で供給される12)。また、同様に出血抑制効果が期待できるものに、肝細胞におけるAT(antithrombin:アンチトロンビン)の合成を、RNA干渉で阻害することで出血抑制を図るFitusiran(ALN-AT3)なども研究開発中である12)。3)遺伝子治療1999年に米国で、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた血友病Bの遺伝子治療のヒトへの臨床試験が初めて行われた15)。以来、ex vivo、in vivoを問わずさまざまなベクターを用いての研究が行われてきた15)。近年、AAVベクターによる遺伝子治療による長期にわたっての安全性と有効性が改めて確認されてきている。FVIII遺伝子(F8)はFIX遺伝子(F9)に比較して大きいため、ベクターの選択もその難しさと扱いにくさから血友病Bに比べ、遅れていた感があった。血友病BではPadua変異を挿入したF9を用いることで、より少ないベクターの量でより副作用少なく安全かつ高効率にFIXタンパクを発現するベクターを開発し、10例ほどの患者において1年経た後も30%前後のFIX:Cを維持している16-18)。1回の静脈注射で1年にわたり、出血予防に十分以上のレベルを維持していることになる。血友病AでもAAVベクターを用いてヒトにおいて良好な結果が得られており、血友病Bの臨床開発に追い着いてきている16-18)。両者ともに海外においてフェーズ 1が終了し、フェーズ 3として国際臨床試験が準備されつつあり、2019年に国内でも導入される可能性がある。5 主たる診療科血友病の診療経験が豊富な診療施設(診療科)が近くにあれば、それに越したことはない。しかし、専門施設は大都市を除くと各県に1つあるかないかである。ネットで検索をすると血友病製剤を扱う多くのメーカーが、それぞれのホームページで全国の血友病診療を行っている医療機関を紹介している。たとえ施設が遠方であっても病診連携、病病連携により専門医の意見を聞きながら診療を進めていくことも十分可能である。日本血栓止血学会では現在、血友病診療連携委員会を立ち上げ、ネットワーク化に向けて準備中である。国内においてその拠点となる施設ならびに地域の中核となる施設が決定され、これらの施設と血友病患者を診ている小規模施設とが交流を持ち、スムーズな診療と情報共有ができるようにするのが目的である。また、血友病には患者が主体となって各地域や病院単位で患者会が設けられている。入会することで大きな安心を得ることが可能であろう。困ったときに、先輩会員に相談でき、患児の場合は同世代の親に気軽に相談することができるメリットも大きい。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)患者会情報一般社団法人ヘモフィリア友の会全国ネットワーク(National Hemophilia Network of Japan)(血友病患者と家族の会)1)Lee CA, et al. Textbook of Hemophilia.2nd ed.USA: Wiley-Blackwell; 2010.2)Rogaev EI, et al. Science. 2009;326:817.3)Blanchette VS, et al. J Thromb Haemost. 2014;12:1935-1939.4)Franchini M, et al. J Haematol. 2010;148:522-533.5)瀧正志(監修). 血液凝固異常症全国調査 平成28年度報告書.公益財団法人エイズ予防財団;2017. 6)Nazeef M, et al. J Blood Med. 2016;7:27-38.7)Kessler CM, et al. Eur J Haematol. 2015;95:36-44.8)Collins P, et al. Haemophilia. 2016;22:487-498.9)Iorio A, et al. JMIR Res Protoc. 2016;5:e239.10)Cannavo A, et al. Blood. 2017;129:1245-1250.11)MASAC Recommendation on SIPPET. Results and Recommendations for Treatment Products for Previously Untreated Patients with Hemophilia A. MASAC Document #243. 2016.12)Lane DA. Blood. 2017;129:10-11.13)Konkle BA, et al. Blood 2018,San Diego. 2018;132(suppl 1):636(abstract).14)Shima M, et al. N Engl J Med. 2016;374:2044-2053.15)Oldenburg J, et al. N Engl J Med. 2017;377:809-818.16)Swystun LL, et al. Circ Res. 2016;118:1443-1452.17)Doshi BS, et al. 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同種移植、鎌状赤血球貧血児の脳卒中リスクを軽減/JAMA

 経頭蓋超音波ドプラ(TCD)で血流速度の持続的な上昇がみられるため、継続的な輸血を要する鎌状赤血球貧血(SCA)の患児では、適合同胞ドナー造血幹細胞移植(MSD-HSCT)により、標準治療に比べて1年後のTCD血流速度が有意に低下し、脳卒中リスクが軽減するとの研究結果が、フランス・Centre Hospitalier Intercommunal de CreteilのFrancoise Bernaudin氏らが実施したDREPAGREFFE試験で示された。研究の成果は、JAMA誌2019年1月22日号に掲載された。SCA児では、TCD血流速度の上昇が脳卒中リスクと関連し、継続的な輸血によってリスクは軽減することが知られている。MSD-HSCTは多くのSCA児に治癒をもたらすとともに脳血流量を低下させるが、輸血と比較する前向き対照比較試験は行われていなかった。脳血流速度を比較する非無作為化試験 本研究は、SCA児において、MSD-HSCTと、虚血性脳卒中発症の代替指標としてのTCD血流速度との関連の評価を目的とする非盲検非無作為化対照比較介入試験(フランスAssistance Publique-Hopitaux de Parisの助成による)。 対象は、年齢15歳未満、TCDで血流速度の持続的な上昇がみられるため継続的な輸血を要し、同じ両親を持つ1人以上の非SCAのきょうだいがいるSCAの子供であった。家族は、ヒト白血球抗原(HLA)の抗体検査の実施に同意し、適合同胞ドナーが見つかった場合は移植を、適合同胞ドナーがいない場合は標準治療を施行することに同意することとした。 標準治療は、1年以上の輸血を行い、その後はhydroxyureaへの切り換えも可とした。傾向スコアマッチング法を用いて、MSD-HSCT群と標準治療群を比較した。 主要アウトカムは、1年後の、TCDで測定した8つの脳動脈における時間平均最大血流速度(time-averaged mean of maximum velocities:TAMV)とした。4項目の副次アウトカムでも有意差 患者登録は、2010年12月~2013年6月の期間にフランスの9施設で行われ、2017年1月まで3年間のフォローアップが実施された。67例(年齢中央値7.6歳、女児35例[52%])が登録され、MSD-HSCT群に32例、標準治療群には35例が割り付けられた。傾向スコアでマッチさせた、それぞれ25例ずつの患者の解析を行った。 1年時のTAMVは、MSD-HSCT群が129.6cm/sと、標準治療群の170.4cm/sに比べ有意に低下した(差:-40.8cm/s、95%信頼区間[CI]:-62.9~-18.6、p<0.001)。 29項目の副次アウトカムのうち25項目の解析が行われた。以下の4項目で有意差が認められ、いずれもMSD-HSCT群で良好だった。 3年時のTAMV(MSD-HSCT群112.4cm/s vs.標準治療群156.7cm/s、差:-44.3cm/s、95%CI:-71.9~-21.1、p=0.001)、1年時の血流速度の正常化(TAMV<170cm/s)(80.0% vs.48.0%、32.0%、0.2~58.6%、p=0.045)、1年時のフェリチン値(905ng/mL vs.2,529ng/mL、-1,624ng/mL、-2,370~-879、p<0.001)、3年時のフェリチン値(382 ng/mL vs.2,170ng/mL、-1,788ng/mL、-2,570~-1,006、p<0.001)。 MSD-HSCT群の5例で、皮膚症状のみを伴う急性の移植片対宿主病(GVHD)が観察された(Grade I:2例、Grade II:2例、Grade III:1例)。Grade II以上の急性GVHDの累積発症率は9.4%であった。静脈閉塞性疾患は認めなかった。 その他の有害事象として、痙攣を伴う可逆性後頭葉白質脳症(2例)、無症候性のサイトメガロウイルス再活性化(11例)、EBウイルス感染症(6例)、出血性膀胱炎(4例)などがみられた。 著者は、「MSD-HSCTが臨床アウトカムに及ぼす影響を評価するために、さらなる検討を要すると考えられる」としている。

145.

合成カンナビノイド関連凝固障害が米国で集団発生/NEJM

 2018年3~4月に、米国イリノイ州で合成カンナビノイドの使用に関連する凝固障害の患者が集団発生した。予備検査で抗凝固薬の混入の可能性が示されたため、確認検査を行い、患者データを再検討したところ、数種のスーパーワルファリンの混入が確かめられた。多くの患者は、ビタミンK1補充療法で症状が抑制されたが、合成カンナビノイド化合物の詳細は判明していないという。米国・University of Illinois College of Medicine at PeoriaのAmar H Kelkar氏らが、NEJM誌2018年9月27日号で報告した。45件の入院中に34例が合成カンナビノイド関連凝固障害と判定 2018年3~4月に、150例以上の患者が、凝固障害および出血性素因でイリノイ州の病院を受診した。地域の医師と公衆衛生機関は、凝固障害と合成カンナビノイドの使用との関連を確認した。患者の血清と薬剤のサンプルの予備検査では、抗凝固薬brodifacoumの混入の可能性が示唆された。 そこで、研究チームは、2018年3月28日~4月21日にイリノイ州ピオリアのSaint Francis医療センターに入院した患者について、医師から報告されたデータを再検討した。ケースシリーズには、合成カンナビノイド関連凝固障害の診断に用いられる判定基準を満たした成人患者を含めた。確認として行われた抗凝固薬中毒の検査は、担当医の判断で指示された。 45件の入院中に、34例が合成カンナビノイド関連凝固障害と判定された。年齢中央値は37歳(IQR:27~46歳)、24例(71%)が男性で、32例(94%)が白人であった。合成カンナビノイドへのスーパーワルファリンの混入により臨床的に重大な凝固障害の可能性 受診時に最も頻度の高かった出血症状は肉眼的血尿(19例、56%)であり、非出血症状では腹痛(16例、47%)の頻度が高かった。合成カンナビノイドの使用頻度は、毎日(16例、47%)から初めて(4例、12%)まで、大きなばらつきが認められた。集団発生に関連した合成カンナビノイドの詳細は明らかではないが、いくつかの市販品が報告されている。 重度の腹痛または側腹部痛がみられる患者の出血状況を評価するために、画像検査が行われた。最も多い異常所見は、CTが施行された23例中12例にみられた腎臓の異常であった(腎周囲線状陰影[perinephric stranding]、充血、びまん性肥厚など)。 抗凝固薬の確認検査は34例中15例で行われ、15例でスーパーワルファリン中毒が確認された。brodifacoumが15例(100%)、difenacoumが5例(33%)、bromadioloneが2例(13%)、ワルファリンが1例(7%)で陽性であった。 ビタミンK1(フィトナジオン)が、34例全例に経口投与された。23例(68%)には静注投与も行われた。赤血球輸血が5例(15%)に、新鮮凍結血漿輸注が19例(56%)に施行され、4因子含有プロトロンビン複合体濃縮製剤が1例に使用された。治療により、入院中に死亡した1例を除き、出血は止まった。 この死亡例(37歳、女性)は、特発性頭蓋内出血の合併症で死亡した。集団発生中に全州で4例が死亡したが、死亡と関連した出血症状が認められたのは、本症例のみであった。この症例は、合成カンナビノイドとアンフェタミンを使用しており、受診時に頭部外傷は確認されておらず、凝固障害の既往歴や家族歴がなく、抗凝固薬は処方されていないことが確認された。 著者は、「これらのデータは、合成カンナビノイドへのスーパーワルファリンの混入は、臨床的に重大な凝固障害を引き起こす可能性があることを示すもの」としている。

146.

中心命題はまた持ち越し(解説:今中和人氏)-922

 開心術における輸血に関する観察研究はさまざまあるが、多くの論文の結論は「輸血をした症例の予後は短期・長期ともに悪い」というものである。恐るべき輸血合併症(具体的確率はきわめて低いが)もあるので、心臓外科医は無輸血にこだわってきた。 しかしこの結論は「さもありなん」であって、多くの観察研究で輸血群は年齢、貧血、心不全、併存疾患、再手術などにハンディがあり、これら術前要因を調整したらしたで、臨床研究の限界として、要するに術中・術後経過が思わしくない症例に輸血することが多くなるため、輸血と予後不良との相関関係はわかるが、因果関係は不明である。これら論文のlimitationの欄には、必ずと言って良いほど、「多数症例でのランダム化試験が待望される」と記されてきた。 本論文は、昨年publishされた、その待望されてきた国際多施設共同ランダム化試験の続報で、前回が1ヵ月時点、今回は6ヵ月追跡のアウトカム報告である。 この試験は74施設(今回、なぜか1つ増えているが御愛嬌)が参加し、対象患者5,243人を2群にランダム化しているのだが、 (1)輸血の有無ではなく、輸血に踏み切るHb値の設定(制限群7.5g/dL、自由群9.5g/dL)でランダム化しただけなので、制限輸血群でも52%が輸血をしており、自由輸血群でも27%は無輸血だった。 (2)「輸血」は赤血球限定で、両群ともFFPは25%前後、血小板は30%弱に投与された。 (3)エンドポイントに輸血合併症が含まれていない。 前報の結論は、どちらのHb設定でもとくに差はなかったのだが、これまた「さもありなん」。納得はできるが、輸血の是非を知りたい心臓外科医にとっては肩すかしの感が強かった。 今回の追跡(追跡率96%)では、当初の評価項目である死亡、心筋梗塞、脳卒中に、6ヵ月以内の再入院、救急受診、冠動脈再血行再建を追加して検討したが、やはりほぼ同等だった。つまり、待望されたランダム化試験ではあったが、Hb=7.5ぐらいまでは無輸血で粘れという考え方も、Hb=9.5ぐらいに低下したらさっさと輸血してしまえという考え方も、施設や医師団次第で成り立つわけなので、今日の心臓外科の診療指針にはあまり影響しない気がする。小田原評定と評するのは容易だが、この分野の臨床研究の難しさを痛感せずにはおれない。制限輸血群は無輸血「目標」群と読み替えることができようが、Hb=7.5を基準にすると何と半数がintention から外れてしまったわけである。もしカットオフを、たとえばHb=6.0にすれば、これほど脱落はないかわり、こんなに多くの施設や患者さんをenrollすることは不可能だっただろうし、輸血に強いこだわりのある外科医、というbiasがかかる。ともあれ、中心命題である輸血の是非や危険水準に関する結論は持ち越しである。

147.

英国女性で腹部大動脈瘤(AAA)スクリーニングは無駄(解説:中澤達氏)-918

 英国において、女性に対するAAAスクリーニングプログラムは、男性と同様のデザインでは、費用対効果が得られそうもないという。 スクリーニング介入の費用対効果は、その国の手技料・償還価格に依存している。そして、罹患率、手術成功率にも依存する。さらに、費用対効果も検討時期においてのみ有効である。なぜなら英国の手技料・償還価格も改定されるし、罹患率も低下し、AAA手術に使用するデバイス(ステントグラフトや人工血管)も進化し成績が向上し価格も低下するかもしれない。 一般的に、罹患率が低い、または治療費用が低額である疾患のスクリーニング介入は、医療費総額の低減にはつながりにくい。AAAの場合、女性は男性に比較して罹患率が低く、手術は高額ではあるが破裂緊急手術と定時手術のコスト差が少ない(ICU滞在期間と輸血は高額であるが、使用デバイスは変わらない)ことが原因であろう。 スウェーデン人を対象としたレジストベースのコホート研究でも、AAAスクリーニングは、AAA死亡の減少に寄与していないことが明らかにされていた。これには喫煙の減少によりAAA罹患率低下が関連していた1)。 気になるのが、女性のための修正オプション(70歳時にスクリーニング、AAA診断は大動脈径2.5cm、手術検討は同5.0cmとする)のときの55%にも及ぶ過剰診断率である。過剰診断とは、死亡や合併症リスクを増大した手術が回避可能であるにもかかわらず行われたということだ。普段の診療においても、加齢によるリスク増加に対する不安と瘤を持っているという精神的負担により、手術適応より小さい時期に手術を希望される患者さんもいらっしゃるので、実感としては批判できない。 未病を見つけ指摘してしまうと治療に関連したリスクを上昇させるということは、精神科領域で以前に話題となったdisease mongering(病気の売り込み行為)を想起させられた。

148.

高リスク心臓手術の輸血戦略、6ヵ月後の転帰は?/NEJM

 死亡リスクが中等度~高度の心臓手術を受ける成人患者において、制限的赤血球輸血は非制限的輸血と比較し、術後6ヵ月時点でも複合アウトカム(全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、透析を要する新規腎不全)に関して非劣性であることが認められた。カナダ・セント・マイケルズ病院のC. David Mazer氏らが、多施設共同無作為化非盲検非劣性試験「TRICS III」の最終解析結果を報告した。同試験の術後28日時の解析でも、退院または術後28日までの複合アウトカムについて、非制限的輸血戦略に対する制限的赤血球輸血の非劣性が報告されていた。NEJM誌オンライン版2018年8月26日号掲載の報告。制限的vs.非制限的赤血球輸血、術後6ヵ月の臨床転帰を比較 研究グループは、心臓外科手術後リスク予測モデルEuroSCORE Iスコアが6以上の、死亡リスクが中等度~高度な心臓手術を受ける成人患者5,243例を、制限的赤血球輸血群(全身麻酔導入以降の術中/術後、ヘモグロビン濃度<7.5g/dLの場合に輸血)、または非制限的赤血球輸血群(術中または術後ICU入室中:ヘモグロビン濃度<9.5g/dLで輸血、ICU以外の病棟:ヘモグロビン濃度<8.5g/dLで輸血)のいずれかに、無作為に割り付けた。 主要評価項目は、手術後6ヵ月以内の全死因死亡、心筋梗塞、脳卒中、透析を要する新規腎不全の複合アウトカム。副次評価項目は、主要評価項目に加え術後6ヵ月以内に発生した救急部受診、再入院および冠動脈血行再建術を含む複合アウトカム、および各構成要素とした。主要評価項目および副次評価項目は、修正intention-to-treat集団で解析した。術後6ヵ月時でも、複合アウトカムは非劣性、全死因死亡率も両群で有意差なし 術後6ヵ月時の主要複合アウトカムの発生率は、制限的輸血群17.4%(402/2,317例)、非制限的輸血群17.1%(402/2,347例)であり、制限的輸血群の非制限的輸血群に対する非劣性が示された。絶対リスク差は0.22ポイント(95%信頼区間[CI]:-1.95~2.39)、オッズ比(OR)は1.02(95%CI:0.87~1.18)で、事前規定の非劣性マージン(絶対リスク差の95%CI上限値が3ポイント未満)を満たした(p=0.006)。アウトカムを個別にみると、全死因死亡率は、制限的輸血群6.2%、非制限的輸血群6.4%であった(OR:0.95、95%CI:0.75~1.21)。 副次評価項目に関しては、両群で有意差は確認されなかった。 なお、著者は、術後28日時または退院後に輸血のプロトコールに従うよう医師に求めていなかったこと、転帰に関する情報がさまざまな情報源から得られていたこと、非盲検試験のバイアスの可能性を除外できていないことなどを研究の限界として挙げている。

149.

救急ヘリ搬送中の出血性ショックの外傷患者、血漿輸血は有効か/NEJM

 外傷による出血性ショックのリスクがある患者に対し、病院到着前に解凍した血漿輸血をすることで標準蘇生処置と比較し、安全性の問題を伴うことなく病院到着時のプロトロンビン時間比が改善し、30日死亡率も低下した。米国・ピッツバーグ大学医療センターのJason L. Sperry氏らが、救急搬送中の解凍血漿輸血の有効性と安全性を検証した第III相優越性試験「PAMPer(Prehospital Air Medical Plasma)試験」の結果を報告した。外傷患者では、病院到着前に標準的な蘇生処置に加え血漿を輸血することで、出血やショックによる合併症リスクを軽減できる可能性がある。しかし、これまで大規模臨床試験による検討は行われていなかった。NEJM誌2018年7月26日号掲載の報告。救急ヘリコプターで搬送中の血漿輸血の有効性を30日死亡率で評価 PAMPer試験は、出血性ショックのリスクがある外傷患者を対象に、病院到着前の解凍血漿輸血の有効性と安全性を検証する、第III相の多施設共同プラグマティッククラスター無作為化優越性試験であった。航空医療基地を、ブロックランダム化法を用いて1ヵ月ごとに解凍血漿輸血群と対照群に割り付け、それぞれ救急ヘリコプターで外傷センターへ患者を搬送中に、解凍しておいた血漿を輸血または標準的な蘇生処置を行った。主要評価項目は、30日死亡率であった。 2014年5月~2017年10月に登録され解析対象となった患者は501例で、230例が解凍血漿輸血を、271例が標準的な蘇生処置を受けた。30日死亡率は血漿群23%、対照群33%で、血漿群で有意に低下 30日死亡率は、解凍血漿輸血群が対照群より有意に低かった(23.2% vs.33.0%、群間差:-9.8ポイント、95%信頼区間[CI]:-18.6~-1.0%、p=0.03)。事前に規定した9つのサブグループで同様の治療効果が確認された(異質性のχ2検定:12.21、p=0.79)。Kaplan-Meier曲線では、無作為化3時間後という早期に両群が分離しはじめ、無作為化30日後まで持続した(log-rank χ2検定:5.70、p=0.02)。 外傷センター到着後の患者のプロトロンビン時間比中央値は、解凍血漿輸血群が対照群より低値であった(1.2[四分位範囲:1.1~1.4] vs.1.3[同:1.1~1.6]、p<0.001)。多臓器不全、急性肺損傷・急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、院内感染、アレルギー/輸血関連反応については、両群間で有意差はなかった。 なお、著者は研究の限界として、解凍血漿の保存可能期間が短く利用に制限があり盲検化できないこと、外傷センター到着前に受けた治療の違いによってバイアスが生じる可能性があることなどを挙げている。

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都市部救急搬送中の出血性ショックの外傷患者、血漿輸血は有効か/Lancet

 出血性ショックの外傷患者を、都市部のレベル1外傷センターへ救急車で搬送中、病院到着前に血漿輸血を行っても生命予後は改善しなかった。米国・コロラド大学デンバー校のHunter B. Moore氏らが、救急車で搬送中の血漿輸血の有用性を検証したプラグマティック無作為化試験「COMBAT(Control of Major Bleeding After Trauma Trial)試験」の結果を報告した。血漿は外傷後の止血重視輸血法(haemostatic resuscitation)に不可欠であるが、投与のタイミングについては議論が続いていた。著者は、「血液製剤は、搬送時間が長くかかるような環境においては有益かもしれないが、外傷センターまでの距離が短い都市部においては経済的負担を考慮すると妥当とはいえないだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2018年7月19日号掲載の報告。救急車で搬送中の血漿輸血の有効性を28日死亡率で評価 COMBAT試験は、デンバー健康医療センター(DHMC)で実施された。出血性ショック状態(収縮期血圧≦70mmHgまたは71~90mmHg+脈拍数≧108回/分)にある外傷の連続症例を、訓練を受けた救急隊員が外傷現場でその適格性について評価し、適格患者は血漿輸血を受ける血漿群または生理食塩水の投与を受ける対照群に、無作為に割り付けられた。無作為化は、DHMCに拠点を置く33台の全救急車に、密封された保冷バッグを各々始業前に先行載荷することで行われた。 保冷バッグに凍結血漿2単位が入っていた場合は、救急車で解凍し、投与を行った。保冷バッグにダミーの凍結水が入っていた場合は、生理食塩水が投与された。 主要評価項目は外傷後28日死亡率で、解析はas-treated集団とintention-to-treat集団で実施した。28日死亡率は血漿群15%、対照群10%で有意差なし 2014年4月1日~2017年3月31日に、144例が血漿群と対照群に割り付けられた。as-treated解析の適格患者は125例(血漿群65例、対照群60例)で、年齢中央値は33歳(IQR:25~47)、新外傷重症度スコアの中央値は27(10~38)であった。 70例(56%)が外傷後6時間以内に輸血を要した。両群の患者背景は類似しており、搬送時間中央値も同程度であった(血漿群19分[IQR:16~23]vs.対照群16分[14~22])。 28日死亡率は、両群で有意差が確認されなかった(血漿群15% vs.対照群10%、p=0.37)。intention-to-treat解析(144例)において、安全性転帰や有害事象に両群で差はなかった。 なお、これらの解析結果に基づき、有効性が認められないことから、本研究は144例を登録後に中止となっている。

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ASCO2018レポート 乳がん-2

レポーター紹介高齢者におけるトラスツズマブ単独治療の意義:RESPECT試験高齢のHER2陽性乳がん患者に対して術後補助療法として、トラスツズマブ単独または化学療法と併用した群とで比較した本邦からの無作為化第III相試験である。これは名古屋大学の澤木 正孝先生がPIとなって進めていた試験である。一般的に無作為化比較試験の対象から除外されている70歳以上(80歳以下)の方を対象としている点が特筆すべきポイントである。PSにもよるが高齢者ではやや化学療法を行いにくい、しかしHER2陽性乳がんは予後不良なためできるだけ治療は行いたいという臨床上のジレンマがある。もしトラスツズマブ単独でも化学療法併用と同等の効果があれば、わざわざ毒性の高い治療を選択しなくてもいいのではないかという思いは皆持っているかも知れない。また高齢化社会がますます進んでいく中で、70歳以上の割合は明らかに増加していくため、このような試験の立案はとても重要にみえる。本試験は優越性試験でも非劣性試験でもなく、主要評価項目の優劣の判定域を臨床医のアンケート結果に基づいて設定したという点もユニークである。統計学的有意性=臨床的有用性ではないことはどのような試験であっても理解しておかなければならないが、本試験ではまさに臨床上の実を取ったという訳である。計275例の患者が割り付けされ、StageIが43.6%、StageIIAが41.7%、リンパ節転移陰性が78.5%と比較的早期がんが多くを占めていた。HR陽性は45.9%とやや少なかった。3年のDFSはH+CT94.8%に対してH単独89.2%で有意差はなかった(HR:1.42、0.68~2.95、p=0.35)。いずれの群もイベント数が少なく予後良好であった。H単独でも十分な治療効果があったのか、もともと予後が良かったのかは明らかではないが、HER2陽性乳がんの性質を考えると、H単独でも高齢者において比較的良い予後改善効果があったというべきだろうか。QOLに関しては術後1年ではHのほうが良いが3年では差がなくなっていた。最近注目されているDe-escalationという考え方からすると非常に良い結果だったとは言える。PSの良い70代は、本来さらに生存が期待できるので、3年より長期の経過も知りたいところである。QOLは化学療法レジメンによっても多少異なる可能性があり、近年では3cm以下のn0では、個人的にはPTX+HER12サイクルのみのレジメンも積極的に用いていて、しびれがなければ高齢者でも比較的使いやすい印象がある。論文化されるのを待ちたいが、少なくとも早期HER2陽性乳がんの一部ではHRの状況にかかわらず、H単独のオプションを提示してもよいだろう。アントラサイクリンとタキサンの順序は重要か?局所進行HER2陰性乳がんに対してAとTの順序の違いを比較する第II相試験で、NeoSAMBA試験と呼ばれる。ブラジルからの報告である。FAC(500/50/500)3サイクルおよびドセタキセル(100)3サイクルを、A先行とT先行で比較するため118例の患者が無作為に割り付けられた。HR陽性が70%以上であった。結果は、中断、輸血、G使用は同等であったが、減量はT先行で少なかった。Grade3以上の有害事象は、T先行で急性過敏反応が多く、A先行で高血圧、感染、筋関節痛が多かった。pCRはT先行で高く、DFS(HR:0.34、1.8~0.64、p<0.001)、OS(HR:0.33、0.16~0.69、p=0.002)ともにT先行で良好であった。本試験は単施設の第II相試験であり、局所進行がんに限定されている。しかし、薬剤の送達やpCR率は、過去の試験でも一貫してT先行で良好であり、やはりT先行を術前術後の化学療法の標準と考えたほうが良さそうである。ただし、経験上注意点が1つある。増殖率のきわめて高いTNBCでは、ときにタキサンでまったく効果がなく、治療中に明らかな増大を示すものがある。そのため、T開始から1~2サイクルでそのような傾向がみられたら、ちゅうちょせずにAに変更することが勧められる。DC(ドセタキセル75/シクロホスファミド600)の有用性ドイツから、HER2陰性乳がんにおける2つの第III試験であるWSG Plan B試験(ECx4-Dx4 vs.DCx6)とSUCCESS C試験(FECx3-Dx3 vs.DCx6)の統合解析の結果が報告された。Aを含む群2,944例、DC群2,979例と大規模である。中央観察期間62ヵ月でDFSにまったく差はなかった。サブタイプ別にみても、Luminal A-like、Luminal B-like、Triple negativeともにまったく差は認められなかった。ただし、pN2/pN3ではAを含む群でDFSは良好であった(HR:0.69、0.48~0.98、p=0.04)。SABCS2016の報告で、DBCG07-READ試験(ECx3-Dx3 vs. DCx6)の結果を紹介したが、一貫したデータである。したがって、pN2/pN3以外では、もはやAは不要かもしれない。また、以前から述べていることだが、乳がん術後補助療法において、4サイクル以上行って優越性を示しているレジメンは今のところみられず、DCは4サイクルで十分なのではないかと考えている。6サイクルのTCは毒性の面からやはり相当大変だと思われる。パクリタキセル類似の微小管重合促進作用を持つutideloneの有用性アントラサイクリンとタキサン不応性の転移性乳がんに対してカペシタビン(CAP)のみとutidelone(UTD1)を追加した群を比較した中国における第III相試験で、OSの結果が報告された。utideloneはepothiloneのアナログで、微小管を安定させ、血管新生を阻害する薬剤である。UTD1+CAPがCAP単独に比べてPFS、ORRがを改善していることはすでに報告されている。対象としては化学療法レジメンが4つまでと規定している。UTD1+CAPではCAPは1,000mg/m2(CAPのみの群では1,250)であり、UTD1は30mg2を最初の5日間ivを行い3週を1サイクルとしていて、患者は2:1に割り付けられている(CAP+UTD1 270例、CAP 135例)。PFSはUTD1+CAPで著明に改善しており(HR:0.47、0.37~0.59、p<0.0001)、OSもUTD1+CAPで良好であった(HR:0.72、0.57~0.93、p<0.0093)。安全性に関してはグレード3以上の末梢神経障害の割合がUTD1+CAPで25。1%と高い(CAP0.8%)。すでにFDAで認可されているixabepiloneでは、治療終了後6週間で末梢神経障害は改善しているようだが、UTD1においてはどうだろうか。また、安全性プロファイルも限られた情報しか提示されていなかったため、もう少し詳細をみてみたい。しかし、これだけ少数例の検討にもかかわらず明確にOSに差が出ていたため紹介することとした。今後同薬剤がどのように使われていくのか見守りたい。未発症BRCA保有者における乳房MRIの重要性未発症のBRCA変異保有者に対して、乳房MRIによるサーベイランスがリスク低減手術に代わるオプションとなりうるかを検討した試験(トロントMRIスクリーニング試験)である。1997年7月~2009年6月までに乳がんや卵巣がん未発症のBRCA変異保有者380例が登録され、年1回のマンモグラフィとMRIが行われた。研究中40例(41腫瘍)に乳がんが発見された(BRCA1/2各20例、年齢中央値48[32~68]歳)。18例は以前に卵管・卵巣摘出術が行われていた。がん診断までの期間中央値は14(8~19)年であり、脱落例はなかった。発見契機はMRI 38例、マンモグラフィ6例、中間期1例でありTステージは大半が1cm以内の発見であった(2cm以上は1例のみ)。n+は4例に認められた。化学療法は13例に行われた。遠隔再発による死亡は2例、他がんによる死亡が4例(自殺1例、卵巣がん1例、腹膜がん2例)で、遠隔転移を来した2例の腫瘍の特徴はBRCA1/3cm/グレード2/ER+PR-HER2-/n1、およびBRCA2/0.7cm/グレード2/ER+PR-HER2-/n0であった。カプラン・マイヤー法による10年間の乳がん特異的生存率は94.6%と良好であり、乳房MRIスクリーニングはリスク低減手術に代わる重要なオプションであることが証明されたと結んでいる。この研究は、未発症のBRCA1/2保有者に今後の対策について話し合う際に非常に貴重な資料となる。Li-Fraumeni症候群における全身MRIによるがん早期発見の評価:LIFSCREEN試験フランスからの報告である。乳がんの約1%に認められることが知られているLi-Fraumeni症候群(TP53胚細胞変異)では、小児期からさまざまな悪性腫瘍を発症しやすく、有効なスクリーニングの手段が必要である。がん発症リスク上昇の懸念から被曝は極力避けたいため、以前から全身MRIの有用性が報告されているが、本研究は国を挙げての無作為化比較試験であり、実に素晴らしいと言わざるを得ない。アームAは身体所見、脳MRI、腹部-骨盤超音波検査、乳房MRI+乳房超音波、血算であり、アームBはアームAの検査に全身MRI(拡散強調画像)を加えたものである。計105例が無作為に割り付けられ、18歳以上が80%以上、女性が70%以上を占め、家族歴のない患者が約半数であった。少なくとも3年以上の経過観察が行われた。全身MRIでは肺がん3例、脈絡叢がん1例(肺転移)、副腎皮質がん1例(超音波でも同定)、乳がん3例(乳房MRIでも同定)、脊髄グリオーマ1例が発見され、一方、骨髄腫1例、顎の骨肉腫1例、乳がん1例が発見されなかった。3年という短期間では両群でOSに差はなかった。全身MRIではとくに肺がんの発見率が良いようである。フランスでは、本試験の結果を基に、全身MRIをスクリーニング手段としてガイドラインに追加している。しかし多くの放射線科医が全身MRIの読影に慣れていないという大きな問題が存在する。また、全身MRIのプロトコールはさまざまであり、放射線科医は見逃しを少しでも減らし疾患の鑑別をしたいがために、どうしても長い撮像時間のプロトコールを組みたがるが、腫瘍があることが前提の精密検査ではなくスクリーニングであることを十分認識し、受診者負担、撮影装置の占有時間を少しでも減らすため撮像時間を可能な限り短縮したいものである。本報告では具体的な撮像法がわからなかったため、論文化された時点で撮像法の詳細を確認したい。

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ASCO2018レポート 乳がん-1

レポーター紹介2018年ASCOのテーマは、”Deliverling Discoveries:Expanding the Reach of Precision Medicine”であった。その言葉どおり、プレシジョンメディスンの言葉が随所に散りばめられていた。まさに遺伝子解析から治療を選択する時代に突入している。がん種によらず腫瘍の遺伝学的特徴から治療を決めることは当たり前の状況になっていくであろう。それに伴い、胚細胞遺伝子変異、すなわち、遺伝性腫瘍との関わりも重要視されてきており、先駆けて臨床遺伝専門医制度の指導医まで獲得しておいて良かったと思うと同時に、日本家族性腫瘍学会において家族性腫瘍専門医制度が開始されたことも時代の要請だろう。免疫療法の話題も増加している。すでにFDAが複数のがん種においてペムブロリズマブやニボルマブを認可しており、一般病院への影響についてのレクチャーもあったくらいである。乳がんというくくりでは、まだ第III相試験が行われている段階ではある。TAILORx試験最初はなんといってもプレナリーセッションからである。TAILORxは、ER+/HER2-リンパ節転移陰性乳がんに対してOncotype Dxでの中間リスクを、化学療法を追加する群としない群に分けて予後をみた大規模無作為化比較試験である。発表と同時に論文化されている(Sparano JA, et al. N Engl J Med. 2018Jun 3. [Epub ahead of print])。それ以前に低リスクでは、化学療法の追加の意義はなく、内分泌療法だけで良いことが示されている。本研究での中間リスクはリスクスコア11~25としていて、メーカーが設定しているスコアとは範囲が異なることは注意する必要がある。非劣性試験であり、全6,711名の患者が割り付けられた。化学療法はTCが56%でアントラサイクリン含むレジメンは36%であった。63%は腫瘍径1~2cm、57%は腫瘍グレードが中間であった。結果は主要評価項目である浸潤DFS、副次評価項目である遠隔RFIともまったく差はなく、非劣性が証明された。もちろんRFI、OSも非劣性である。発表の中では、探索的分析が行われており、年齢50歳以下では、リスクスコア16~25で2群間の差は浸潤DFS 9%、遠隔再発2%、21~25で浸潤DFS 6%であった。結論として、リスクスコア16~25では50歳以下で化学療法のベネフィットがあるかもしれないと要約している。しかしこれは後付けの解析であることから、さまざまな因子のサブ解析の中で、たまたま年齢だけ差が出た可能性もあり、あくまで参考程度にみておくのが良いだろう。また、化学療法群で18.4%が化学療法を受けておらず、非化学療法群で5.4%が化学療法を受けていたところが気にはなる。ASTRRA試験ASTRRA試験は化学療法後に卵巣機能が残っている方に対して、タモキシフェン(5年)に卵巣機能抑制(2年)を追加することの効果をみたもので、韓国からの報告である。化学療法後2年のうちに卵巣機能が回復したり、生理がある方をそれぞれ無作為に割り付けしている。症例数の蓄積に時間がかかったようで登録期間は2年から5年に延長された。計1,293名が割り付けされた。年齢中央値は40歳で、50%以上がn+であった。またHER2陽性が10%以上存在した。化学療法はAC-Taxaneが50%以上であった。5年DFSは有意に卵巣機能抑制群で優っていた(HR=0.686、0.483~0.972、p=0.033)。サブ解析でも一定の傾向はみられなかった。OSも卵巣機能抑制群で有意に優れていた(HR=0.310、0.102~0.941、p=0.029)。SOFT試験と比較するというより、SOFT試験と組み合わせて治療方針を練ると、卵巣機能抑制の適応をより選択的に決めることであろう。すなわち、化学療法により卵巣機能が抑制されなかった、あるいは抑制されていても2年のうちに回復したハイリスク患者に対してLHRHaを用いる価値があるものと思われる。しかし、問題点はタモキシフェンを使用していると卵巣機能の回復がわかりにくいことであるが、本試験ではFSH<30U/mLを卵巣機能ありとしている。BRCA変異を有する早期乳がん患者における術前タラゾパリブタラゾパリブはPARP阻害剤であり、第III相試験であるEMBRACA試験において、医師選択の化学療法と比較して有意にPFSを延長したことが報告されている。また初期のfeasibility試験においてタラゾパリブは腫瘍量を2ヵ月で88%減少させていた。今回は術前治療としてタラゾパリブを6ヵ月内服し、手術を行った結果が報告された。BRCA1変異が17名、BRCA2が3名であり、TNBCが15例であった。pCRは53%であり、pCRまたはほぼpCRは63%であった。BRCA1か2かにかかわらず、またTNBCかHR+かにかかわらず良い効果を示していた。安全性に関しては貧血、好中球減少が主なもので、非血液毒性はほぼ軽微であった。輸血例も8例いた。9例で減量を要していた。かなり高いnear pCR率であり、早期乳がんの補助療法におけるPARP阻害剤の役割が今後注目を集めていくであろう。本剤の至適使用期間も課題である。PERSEPHONE試験PERSEPHONE試験はHER2陽性乳がんに対して術前術後補助療法としてのトラスツズマブ6ヵ月と12ヵ月を比較する、サンプルサイズ4千例の大規模な非劣性試験である。4年DFSが12ヵ月のトラスツズマブで80%と評価され、非劣性として3%を下回らないことが条件である。片側有意差5%、検出力85%である。実際に4,089例がリクルートされ、4,088例が解析された。ER陽性が69%と高くアントラサイクリンベースが41~42%、アントラサイクリン-タキサンベースが48~49%であった。トラスツズマブのタイミングは同時が47%、逐次投与が53%であった。また、58~60%がリンパ節転移陰性であった。結果は中央値5.4年でDFSが非劣性であった(HR=1.07、0.93~1.24)。予定されていたサブ解析では目立つものはなかったが、タキサンベースまたはトラスツズマブ同時投与で12ヵ月投与が良好であった。もちろんOSも完全に非劣性である。心毒性のためにトラスツズマブを中止したのは6ヵ月投与で4%、12ヵ月投与で8%であった。今まで複数のトラスツズマブ投与期間に関する試験の結果が明らかとなっており、はじめて非劣性が証明された。しかし、今回のPERSEPHONE試験の結果をもって診療が変わるわけではない。ASCO2017の報告でトラスツズマブ1年投与の適応について詳しく述べており、またSABCS2017の報告でメタアナリシスとSOLD試験の結果をまとめているので参照してほしい。

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チオ硫酸Na、シスプラチン誘発難聴予防に有効/NEJM

 標準リスク肝芽腫の小児において、チオ硫酸ナトリウムをシスプラチンによる化学療法終了後に追加投与することで、全生存と無イベント生存に影響することなく、シスプラチン誘発難聴の発生率が低下した。英・Great Ormond Street HospitalのPenelope R. Brock氏らが、シスプラチンによる聴覚障害に対するチオ硫酸ナトリウムの予防効果を検討した評価者盲検無作為化第III相臨床試験(SIOPEL6試験)の結果を報告した。標準リスク肝芽腫の小児に対するシスプラチンと外科手術は有効な治療法であるが、多くの患者に不可逆的な聴覚障害を引き起こすことが知られていた。NEJM誌2018年6月21日号掲載の報告。シスプラチン単独投与とチオ硫酸ナトリウム追加投与で、最小可聴値を評価 研究グループは、2007~14年に12ヵ国52施設において、生後1ヵ月超~18歳未満の標準リスク肝芽腫(肝病変3区域以下、転移なし、α-フェトプロテイン値>100ng/ml)小児116例を登録し、シスプラチン単独投与群(80mg/m2体表面積を6時間以上かけて投与)と、チオ硫酸ナトリウム追加併用投与群(シスプラチン投与終了6時間後に、20g/m2体表面積を15分以上かけて静脈内投与)に無作為に割り付け、いずれも術前4クールおよび術後2クール投与した。 主要評価項目は、最低年齢3.5歳時における純音聴力検査による最小可聴値で、聴覚障害はBrockグレード(0~4、グレードが高いほど聴覚障害が重度)で評価した(中央判定)。主な副次評価項目は、3年全生存および無イベント生存などであった。チオ硫酸ナトリウムの追加投与により、聴覚障害の発生率が半減 登録された116例中113例が無作為化され、不適格症例を除く109例(チオ硫酸ナトリウム追加併用群57例、シスプラチン単独群52例)が解析対象(intention-to-treat集団)となった。 絶対聴覚域値の評価可能症例101例において、Brockグレード1以上の聴覚障害の発生率はチオ硫酸ナトリウム追加併用群33%(18/55例)、シスプラチン単独群63%(29/46例)であり、チオ硫酸ナトリウム追加併用により聴覚障害の発生が48%低下することが確認された(相対リスク:0.52、95%信頼区間[CI]:0.33~0.81、p=0.002)。追跡期間中央値52ヵ月における3年無イベント生存率は、チオ硫酸ナトリウム追加併用群82%(95%CI:69~90)、シスプラチン単独群79%(95%CI:65~88)、3年全生存率はそれぞれ98%(95%CI:88~100)および92%(95%CI:81~97)であった。 重篤な副作用は16例に認められ、このうちチオ硫酸ナトリウムと関連があると判定されたのは8例(Grade3の感染症2例、Grade3の好中球減少2例、Grade3の輸血を要する貧血1例、腫瘍進行2例、Grade2の悪心嘔吐1例)であった。

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第2回 意識障害 その2 意識障害の具体的なアプローチ 10’s rule【救急診療の基礎知識】

72歳男性の意識障害:典型的なあの疾患の症例72歳男性。友人と食事中に、椅子から崩れるようにして倒れた。友人が呼び掛けると開眼はあるものの、反応が乏しく救急車を要請した。救急隊到着時、失語、右上下肢の麻痺を認め、脳卒中選定で当院へ要請があった。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:3/JCS、E4V2M5/GCS血圧:188/102mmHg 脈拍:98回/分(不整) 呼吸:18回/分SpO2:95%(RA) 体温:36.2℃ 瞳孔:3/3mm+/+意識障害のアプローチ意識障害は非常にコモンな症候であり、救急外来ではもちろんのこと、その他一般の外来であってもしばしば遭遇します。発熱や腹痛など他の症候で来院した患者であっても、意識障害を認める場合には必ずプロブレムリストに挙げて鑑別をする癖をもちましょう。意識はバイタルサインの中でも呼吸数と並んで非常に重要なバイタルサインであるばかりでなく、軽視されがちなバイタルサインの1つです。何となくおかしいというのも立派な意識障害でしたね。救急の現場では、人材や検査などの資源が限られるだけでなく、早期に判断することが必要です。じっくり考えている時間がないのです。そのため、意識障害、意識消失、ショックなどの頻度や緊急性が高い症候に関しては、症候ごとの軸となるアプローチ法を身に付けておく必要があります。もちろん、経験を重ね、最短距離でベストなアプローチをとることができれば良いですが、さまざまな制約がある場面では難しいものです。みなさんも意識障害患者を診る際に手順はあると思うのですが、まだアプローチ方法が確立していない、もしくは自身のアプローチ方法に自信がない方は参考にしてみてください。アプローチ方法の確立:10’s Rule1)私は表1の様な手順で意識障害患者に対応しています。坂本originalなものではありません。ごく当たり前のアプローチです。ですが、この当たり前のアプローチが意外と確立されておらず、しばしば診断が遅れてしまっている事例が少なくありません。「低血糖を否定する前に頭部CTを撮影」「髄膜炎を見逃してしまった」「飲酒患者の原因をアルコール中毒以外に考えなかった」などなど、みなさんも経験があるのではないでしょうか。画像を拡大する●Rule1 ABCの安定が最優先!意識障害であろうとなかろうと、バイタルサインの異常は早期に察知し、介入する必要があります。原因がわかっても救命できなければ意味がありません。バイタルサインでは、血圧や脈拍も重要ですが、呼吸数を意識する癖を持つと重症患者のトリアージに有効です。頻呼吸や徐呼吸、死戦期呼吸は要注意です。心停止患者に対するアプローチにおいても、反応を確認した後にさらに確認するバイタルサインは呼吸です。反応がなく、呼吸が正常でなければ胸骨圧迫開始でしたね。今後取り上げる予定の敗血症の診断基準に用いる「quick SOFA(qSOFA)」にも、意識、呼吸が含まれています。「意識障害患者ではまず『呼吸』に着目」、これを意識しておきましょう。気管挿管の適応血圧が低ければ輸液、場合によっては輸血、昇圧剤や止血処置が必要です。C(Circulation)の異常は、血圧や脈拍など、モニターに表示される数値で把握できるため、誰もが異変に気付き、対応することは難しくありません。それに対して、A(Airway)、B(Breathing)に対しては、SpO2のみで判断しがちですが、そうではありません。SpO2が95%と保たれていても、前述のとおり、呼吸回数が多い場合、換気が不十分な場合(CO2の貯留が認められる場合)、重度の意識障害を認める場合、ショックの場合には、確実な気道確保のために気管挿管が必要です。消化管出血に伴う出血性ショックでは、緊急上部内視鏡を行うこともありますが、その際にはCの改善に従事できるように、気管挿管を行い、AとBは安定させて内視鏡処置に専念する必要性を考える癖を持つようにしましょう。緊急内視鏡症例全例に気管挿管を行うわけではありませんが、SpO2が保たれているからといって内視鏡を行い、再吐血や不穏による誤嚥などによってAとBの異常が起こりうることは知っておきましょう。●Rule2 Vital signs、病歴、身体所見が超重要! 外傷検索、AMPLE聴取も忘れずに!症例の患者は、突然発症の右上下肢麻痺であり、誰もが脳卒中を考えるでしょう。それではvital signsは脳卒中に矛盾ないでしょうか。脳卒中に代表される頭蓋内疾患による意識障害では、通常血圧は高くなります(表2)2)。これは、脳卒中に伴う脳圧の亢進に対して、体血圧を上昇させ脳血流を維持しようとする生体の反応によるものです。つまり、脳卒中様症状を認めた場合に、血圧が高ければ「脳卒中らしい」ということです。さらに瞳孔の左右差や共同偏視を認めれば、より疑いは強くなります。画像を拡大する頸部の診察を忘れずに!意識障害患者は、「路上で倒れていた」「卒倒した」などの病歴から外傷を伴うことが少なくありません。その際、頭部外傷は気にすることはできても、頸部の病変を見逃してしまうことがあります。頸椎損傷など、頸の外傷は不用意な頸部の観察で症状を悪化させてしまうこともあるため、後頸部の圧痛は必ず確認すること、また意識障害のために評価が困難な場合には否定されるまで頸を保護するようにしましょう。画像を拡大する意識障害の鑑別では、既往歴や内服薬は大きく影響します。糖尿病治療中であれば低血糖や高血糖、心房細動の既往があれば心原性脳塞栓症、肝硬変を認めれば肝性脳症などなど。また、内服薬の影響は常に考え、お薬手帳を確認するだけでなく、漢方やサプリメント、家族や友人の薬を内服していないかまで確認しましょう3)。●Rule3 鑑別疾患の基本をmasterせよ!救急外来など初診時には、(1)緊急性、(2)簡便性、(3)検査前確率の3点に意識して鑑別を進めていきましょう。意識障害の原因はAIUEOTIPS(表4)です。表4はCarpenterの分類に大動脈解離(Aortic Dissection)、ビタミン欠乏(Supplement)を追加しています。頭に入れておきましょう。画像を拡大する●Rule4 意識障害と意識消失を明確に区別せよ!意識障害ではなく意識消失(失神や痙攣)の場合には、鑑別診断が異なるためアプローチが異なります。これは、今後のシリーズで詳細を述べる予定です。ここでは1つだけおさえておきましょう。それは、意識状態は「普段と比較する」ということです。高齢者が多いわが国では、認知症や脳卒中後の影響で普段から意思疎通が困難な場合も少なくありません。必ず普段の意識状態を知る人からの情報を確認し、意識障害の有無を把握しましょう。前述の「Rule4つ」は順番というよりも同時に確認していきます。かかりつけの患者さんであれば、来院前に内服薬や既往を確認しつつ、病歴から◯◯らしいかを意識しておきましょう。ここで、実際に前掲の症例を考えてみましょう。突然発症の右上下肢麻痺であり、3/JCSと明らかな意識障害を認めます(普段は見当識障害など特記異常はないことを確認)。血圧が普段と比較し高く、脈拍も心房細動を示唆する不整を認めます。ここまでの情報がそろえば、この患者さんの診断は脳卒中、とくに左大脳半球領域の脳梗塞で間違いなしですね?!実際にこの症例では、頭部CT、MRIとMRAを撮影したところ左中大脳動脈領域の急性期心原性脳塞栓症でした。診断は容易に思えるかもしれませんが、迅速かつ正確な診断を限られた時間の中で行うことは決して簡単ではありません。次回は、10’s Ruleの後半を、陥りやすいpitfallsを交えながら解説します。お楽しみに!1)坂本壮. 救急外来 ただいま診断中. 中外医学社;2015.2)Ikeda M, et al. BMJ. 2002;325:800.3)坂本壮ほか. 月刊薬事. 2017;59:148-156.コラム(2) 相談できるか否か、それが問題だ!「報告・連絡・相談(ほう・れん・そう)」が大事! この単語はみなさん聞いたことがあると思います。何か困ったことやトラブルに巻き込まれそうになったときは、自身で抱え込まずに、上司や同僚などに声をかけ、対応するのが良いことは誰もが納得するところです。それでは、この3つのうち最も大切なのはどれでしょうか。すべて大事なのですが、とくに「相談」は大事です。報告や連絡は事後であることが多いのに対して、相談はまさに困っているときにできるからです。言われてみると当たり前ですが、学年が上がるにつれて、また忙しくなるにつれて相談せずに自己解決し、後で後悔してしまうことが多いのではないでしょうか。「こんなことで相談したら情けないか…」「まぁ大丈夫だろう」「あの先生に前に相談したときに怒られたし…」など理由は多々あるかもしれませんが、医師の役目は患者さんの症状の改善であって、自分の評価を上げることではありません。原因検索や対応に悩んだら相談すること、指導医など相談される立場の医師は、相談されやすい環境作り、振る舞いを意識しましょう(私もこの部分は実践できているとは言えず、書きながら反省しています)。(次回は6月27日の予定)

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敗血症性ショックに対するグルココルチコイドの投与:長い議論の転機となるか(解説:吉田 敦 氏)-813

 敗血症性ショックにおいてグルココルチコイドの投与が有効であるかについては、長い間議論が続いてきた。グルココルチコイドの種類・量・投与法のみならず、何をもって有効とするかなど、介入と評価法についてもばらつきがあり、一方でこのような重症病態での副腎機能の評価について限界があったことも根底にある。今回大規模なランダム化比較試験が行われ、その結果が報告された。 オーストラリア、英国、ニュージーランド、サウジアラビア、デンマークのICUに敗血症性ショックで入室し、人工呼吸器管理を受けた18歳以上の患者3,800例を、無作為にヒドロコルチゾン(200mg/日)投与群とプラセボ投与群とに割り付けた。この際、SIRSの基準を2項目以上満たすこと、昇圧薬ないし変力作用のある薬剤を4時間以上投与されたことを条件とした。ヒドロコルチゾンは200mgを24時間以上かけて持続静注し、最長で7日間あるいはICU退室ないしは死亡までの投与とした。ランダム化から90日までの死亡をプライマリーアウトカム、さらに28日までの死亡、ショックの再発、ICU入室期間、入院期間、人工呼吸器管理の回数と期間、腎代替療法の回数と期間、新規の菌血症・真菌血症発症、ICUでの輸血をセカンダリーアウトカムとし、原疾患による死亡は除いた。 患者の平均年齢は約62歳、外科手術が行われた後に入室した患者は約31%、感染巣は肺(35%)、腹部(25%)、血液(7%)、皮膚軟部組織(7%)、尿路(7%)の順であり、介入前の基礎パラメーターや各検査値に2群間で差はなかった。なおショック発症からランダム化までは平均約20時間、ランダム化から薬剤投与開始までは0.8時間(中央値)であり、ヒドロコルチゾンの投与期間は5.1日(中央値)であった。 まずプライマリーアウトカムとしての90日死亡率は、ヒドロコルチゾン投与群では27.9%(1,832例中511例)、プラセボ投与群では28.8%(1,826例中526例)であり、有意差はなかった。次いでセカンダリーアウトカムでは、ショックから回復するまでの期間も、ICU退室までの期間も、さらに1回目の人工呼吸器管理の期間もヒドロコルチゾン投与群で有意に短かった(それぞれ3日と4日、p<0.001、10日と12日、p<0.001、6日と7日、p<0.001)。ただし再度人工呼吸器管理が必要な患者もおり、人工呼吸器を要しなかった期間としてみると差はなかった。輸血を要した割合も前者で少なかったが(37.0%と41.7%、p=0.004)、その他、28日死亡率やショックの再発率、退院までの日数、ICU退室後の生存期間、人工呼吸器管理の再導入率、腎代替療法の施行率・期間、菌血症・真菌血症発生率に差はなかった。 これまでの検討では、グルココルチコイドは高用量よりは低用量のほうが成績がよかったものの、二重盲検ランダム化比較試験では一致した結果が得られなかった1,2)。現行のガイドラインでも“十分な輸液と昇圧薬の投与でも血行動態の安定が得られない例”に対し、エビデンスが弱い推奨として記載されている3)。本検討は、上記のランダム化比較試験よりも症例数がかなり増えているのが特徴であり、2群で比較が可能であった項目も多い。したがって、グルココルチコイド投与の目的—改善を目指す指標—をより詳しく評価できたともいえる。一方で21例対6例と少数ではあるが、グルココルチコイド群で副作用が多く、中にはミオパチーなど重症例も存在した。グルココルチコイドとの相関の可能性を含んで、この結果は解釈したほうがよいであろう。本検討は、これまでの議論の転機となり、マネジメントや指針の再考につながるであろうか。これからの動向に注目したい。

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てんかんと献血に関する世界の方針

 てんかんは、発作を特徴とする神経障害である。てんかん患者は多くの場合、献血対象者から一時的または永久に除外される。ベルギー赤十字のA. Kellens氏らは、現在適用されている献血方針をより把握するために、世界の血液事業について調査を行った。Vox sanguinis誌オンライン版2018年1月4日号の報告。 世界各国の血液事業担当者46名を対象に、オンラインQuestbackツールを使用したWebベースのアンケートを行った。アンケートは、9つの質問で構成されていた。 主な結果は以下のとおり。・5大陸26ヵ国から27名の担当者が、この調査に参加した。・現在の献血方針は、「一時的な除外を永久に受け入れる」から「永久に除外」の範囲であった。・これらの異なる方針の合理性は、多様であった。・血液事業の大多数(59.3%)は、その方針として一時的な除外を適用しており、献血を行う際には、てんかん患者が投薬を受けていないまたは発作を起こしていないようにする必要があるが、その期間に関しては言及されていない。・献血中のてんかん患者の有害事象に関するデータは、収集できなかった。 著者らは「この調査結果より、世界中で適用されている献血方針には、大きな差異があることを示している。その理由の1つとして、科学的根拠の不足が考えられる。そのため、てんかん患者の献血に関するドナーとレシピエントの潜在的なリスクについて、さらに研究することが最も重要である。これが、エビデンスベースの方針決定の基礎となり、より安全で効果的な輸血プログラムにつながる」としている。■関連記事てんかん重積状態に対するアプローチはてんかん再発リスクと初回発作後消失期間医学の進歩はてんかん発症を予防できるようになったのか

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敗血症性ショックへの低用量ステロイド、死亡率は低下せず/NEJM

 人工呼吸器を装着した敗血症性ショック患者において、低用量ステロイド(ヒドロコルチゾン持続静脈内投与)は、プラセボと比較し90日死亡率を低下させるという結果は得られなかった。オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のBalasubramanian Venkatesh氏らが、国際共同無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験「ADRENAL(Adjunctive Corticosteroid Treatment in Critically Ill Patients with Septic Shock)試験」の結果を報告した。現在、敗血症性ショックに対する低用量ステロイド療法は、敗血症ガイドラインにおいてショックの離脱を目的とした投与は推奨されているが、エビデンスの質が低く推奨度は低い。死亡率低下については賛否両論が報告されていた。NEJM誌オンライン版2018年1月19日号掲載の報告。敗血症性ショック3,800例で、低用量ステロイドとプラセボの90日死亡率を比較 研究グループは、18歳以上で敗血症性ショックにより人工呼吸器を装着している患者を、ステロイド群(ヒドロコルチゾン200mg/日)またはプラセボ群に無作為に割り付け、7日間または死亡/ICU退室までそれぞれ投与した。主要評価項目は90日全死因死亡率で、ロジスティック回帰分析により解析した。 2013年3月~2017年4月に、3,800例が無作為化され、うち3,658例(ステロイド群1,832例、プラセボ群1,826例)が主要評価項目の解析対象となった。90日全死因死亡率は両群で有意差なし 90日時点で、ステロイド群27.9%(511例)、プラセボ群28.8%(526例)で死亡が認められた(オッズ比[OR]:0.95、95%信頼区間[CI]:0.82~1.10、p=0.50)。事前に定義された6つのサブグループ(入院の種類、カテコールアミン投与量、敗血症の主要部位、性別、APACHE IIスコア、ショックの期間)において、有効性は類似していた。 ショックからの離脱については、ステロイド群がプラセボ群より早かった(中央値[四分位範囲]で3日[2~5]vs.4日[2~9]、ハザード比[HR]:1.32、95%CI:1.23~1.41、p<0.001)。また、ステロイド群はプラセボ群と比較し、初回の人工呼吸器の使用期間が短かったが(6日[3~18]vs.7日[3~24]、HR:1.13、95%CI:1.05~1.22、p<0.001)、人工呼吸器の再装着を考慮すると、人工呼吸器から離脱した状態での生存日数に有意差は認められなかった。 ステロイド群ではプラセボ群と比較し、輸血を受けた患者が少なかったが(37.0% vs.41.7%、OR:0.82、95%CI:0.72~0.94、p=0.004)、28日死亡率、ショック再発率、ICU退室後の生存日数、退院後の生存日数、人工呼吸器の再装着、腎代替療法率、菌血症/真菌血症の新規発生率は、両群間に差はなかった。

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再生不良性貧血〔AA : aplastic anemia〕

再生不良性貧血のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 概念・定義再生不良性貧血は、末梢血でのすべての血球の減少(汎血球減少)と骨髄の細胞密度の低下(低形成)を特徴とする症候群である。同じ徴候を示す疾患群から、概念のより明確なほかの疾患を除外することによって診断することができる。病気の本態は「骨髄毒性を示す薬剤の影響がないにもかかわらず、造血幹細胞が持続的に減少した状態」である。再生不良性貧血という病名は、鉄欠乏性貧血や悪性貧血などのように、不足している栄養素を補充すれば改善する貧血とは異なり、血液細胞が再生しにくいという意味で付けられたが、治療方法が進歩した現在では、再生不良性貧血の骨髄は必ずしも「再生不良」とはいえないので、この病名は現実に即さなくなってきている。■ 疫学臨床調査個人票による調査では、2004~2012年の9年間の罹患数は約9,500(年間約1,000人)、罹患率は8.2(/100万人年)と推計された。罹患率の性比(女/男)は1.16であり、男女とも10~20歳代と70~80歳代でピークが認められ、高齢のピークの方が大きかった1)。これは欧米諸国の約3倍の発生率である。■ 病因成因によってFanconi貧血、dyskeratosis congenitaなどの先天性と後天性に分けられる。後天性の再生不良性貧血には原因不明の一次性と、クロラムフェニコールをはじめとするさまざまな薬剤や放射線被曝・ベンゼンなど化学物質による二次性がある。一次性(特発性)再生不良性貧血は、何らかのウイルスや環境因子が引き金になって起こると考えられているが詳細は不明である。わが国では特発性が大部分(90%)を占める。また、そのほかに特殊型として肝炎後再生不良性貧血は、A型、B型、C型などの既知のウイルス以外の原因による急性肝炎発症後1~3ヵ月で発症する。若年の男性に比較的多く重症化しやすいが、免疫抑制療法に対する反応性は特発性再生不良性貧血と変わらない。再生不良性貧血-発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria:PNH)症候群は、臨床的には再生不良性貧血でありながら、末梢血中にglycosylphosphadidylinositol(GPI)アンカー膜蛋白の欠失した血球が増加しており、溶血を伴う状態を指す。そのなかには、発症時から再生不良性貧血‐PNH症候群状態のもの(骨髄不全型のPNH)と、再生不良性貧血と診断されたのち長期間を経てPNHに移行するもの(二次性PNH)の2種類がある。再生不良性貧血の重症度は、血球減少の程度によって表1のように5段階に分けられている1)。画像を拡大する特発性再生不良性貧血の約70%は抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン(anti-thymocyte globulin:ATG、商品名:サイモグロブリン)やシクロスポリン(CsA〔同:ネオーラル〕)などの免疫抑制療法によって改善することから、免疫学的機序による造血幹細胞の破壊・抑制が多くの例で関与していると考えられている。しかし、免疫反応の標的となる自己抗原は同定されていない。再生不良性貧血の約60%に、GPIアンカー膜蛋白の欠失したPNH形質の血球(PNH型血球)が検出されることや、第6染色体短腕の片親性二倍体により細胞傷害性T細胞からの攻撃を免れて造血を支持するようになった造血幹細胞由来の血球が約25%の例で検出されること2,3)などが、免疫病態の関与を裏付けている。一方、Fanconi貧血のように、特定の遺伝子異常によって発症する先天性再生不良性貧血が存在することや、特発性再生不良性貧血と診断されていた例のなかにテロメラーゼ関連の遺伝子異常を持つ例があることなどから、一部の例では造血幹細胞自身に異常があると考えられている。ただし、これらの遺伝子異常が検出される頻度は非常に低い。免疫抑制療法が効かない再生不良性貧血例のなかには、骨髄が脂肪髄であったために再生不良性貧血として治療されたが、その後短期間で異常細胞が顕在化し、診断が造血器悪性腫瘍に変更される例も含まれている。さらに、免疫抑制療法が効かないからといって、必ずしも免疫病態が関与していないという訳ではない。そのなかには、(1)免疫異常による発病から治療までの時間が経ち過ぎているために効果が出にくい、(2)免疫抑制療法の強さが不十分である、(3)免疫学的攻撃による造血幹細胞の枯渇が激しいために造血が回復しえない、などの理由で免疫抑制療法に反応しない例もある。このため、発病して間もない再生不良性貧血のほとんどは、造血幹細胞に対する何らかの免疫学的攻撃によって起こっていると考えたほうがよい。■ 症状息切れ・動悸・めまいなどの貧血症状と、皮下出血斑・歯肉出血・鼻出血などの出血傾向がみられる。好中球減少の強い例では発熱がみられる。軽症・中等症例や、貧血の進行が遅い重症例では無症状のこともある。他覚症状として顔面蒼白、貧血様の眼瞼結膜、皮下出血、歯肉出血などがみられる。■ 予後かつては重症例の50%が半年以内に死亡するとされていた。最近では血小板輸血、抗菌薬、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)などの支持療法が進歩し、免疫抑制療法や骨髄移植が発症後早期に行われるようになったため、約7割の患者が輸血不要となるまで改善し、9割が長期生存するようになっている。一部の重症例や、発症後長期間を経過した例は免疫抑制療法によっても改善せず、定期的な赤血球輸血・血小板輸血を必要とする。赤血球輸血が40単位を超えると糖尿病・心不全・肝障害などの鉄過剰症による症状が現れる。最近では、デフェラシロクス(商品名:エクジェイド)による鉄キレート療法が行われるようになったため、輸血依存例の予後の改善が期待されている。一方、免疫抑制療法により改善した長期生存例の約5%が骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome:MDS)、5~10%がPNHに移行する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 末梢血所見通常は赤血球、白血球、血小板のすべてが減少する。重症度の低い例では貧血と血小板減少だけしか認めないこともある。急性型では正球性正色素性、慢性型では通常大球性を示し、すべての例で網赤血球の増加を伴わない。重症例では好中球だけではなくリンパ球も減少する。■ 血液生化学検査血液生化学検査では血清鉄、鉄飽和率、血中エリスロポエチン値、トロンボポエチン値などの増加がみられる。とくにトロンボポエチンの増加は、前白血病状態との鑑別に重要である。トロンボポエチンが300pg/mL未満であれば再生不良性貧血は否定的である4)。■ 骨髄穿刺・生検所見再生不良性貧血と診断するためには両者を行うことが必須である。骨髄生検では細胞成分の占める割合が全体の30%以下に減少している。なかでも巨核球・幼若顆粒球・赤芽球の著しい減少が特徴的である。骨髄細胞が残存している場合には多くの例で赤芽球に異形成が認められる。好中球にも異形成を認めることがあるが、その割合が全好中球の10%を超えることはない。巨核球は減少しているため、異形成の有無は評価できないことが多い。ステージ4までの再生不良性貧血では、穿刺する場所によって骨髄が正形成または過形成を示すことがあるが、そのような場合でも巨核球は通常減少している。染色体は原則として正常であるが、病的意義の明らかでない染色体異常を少数認めることがある。■ 病理腸骨からの骨髄生検では細胞成分の占める割合が全体の30%以下に減少し、重症例では完全に脂肪髄化する(図1)。ただし、ステージ 1~3の患者では、細胞成分の多い部分が残存していることが多い。画像を拡大する■ 骨髄MRI骨髄穿刺・生検で評価できる骨髄は一部に限られるため、骨髄細胞密度を評価するためには胸腰椎を脂肪抑制画像で評価することが望ましい。重症再生不良性貧血例の胸腰椎をMRIで検索するとSTIR法では均一な低信号となり、T1強調画像では高信号を示す。ステージ3より重症度の低い例の胸腰椎画像は、残存する造血巣のため不均一なパターンを示す。■ フローサイトメトリーによるCD55・CD59陰性血球の検出Decay accelerating factor(DAF、CD55)、homologous restriction factor(HRF、CD59)などのGPIアンカー膜蛋白の欠失した血球の有無を、感度の高いフローサイトメトリーを用いて検索すると、明らかな溶血を伴わない再生不良性貧血患者の約半数に少数のCD55・CD59陰性血球が検出される。このようなPNH形質の血球陽性例は陰性例に比べて免疫抑制療法が効きやすく、また予後もよいことが知られている5)。■ 診断基準・鑑別診断わが国で使用されている診断基準を表2に示す1)。画像を拡大する再生不良性貧血との鑑別がとくに問題となるのは、MDS(2008年分類)のなかでも芽球の割合が少ないrefractory cytopenia with unilineage dysplasia(RCUD)、refractory cytopenia with multilineage dysplasia(RCMD)、idiopathic cytopenia of undetermined significance(ICUS)、骨髄不全の程度が強いPNH、欧米型の有毛細胞白血病などである。RCUD、RCMDまたはICUSが疑われる症例において、巨核球増加を伴わない血小板減少や血漿トロンボポエチンの上昇がみられる場合には、再生不良性貧血と同様の免疫病態による骨髄不全を考えたほうがよい。PNH形質血球の増加がみられる骨髄不全のうち、網赤血球の増加(>10万/μL)、正常上限の1.5倍を超えるLDH値の上昇、間接ビリルビンの上昇、ヘモグロビン尿などの溶血所見がみられる場合には、骨髄不全型PNHと診断する。骨髄生検上細網線維の増加や、血清可溶性インターロイキン2レセプター値の著増などがみられる場合は、有毛細胞白血病を疑う。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ ステージ1、2に対する治療輸血を必要としないこの重症度で、血球減少の進行がみられない場合には、血球減少が自然に回復する可能性があるため、無治療で経過をみることが勧められてきた。しかし、再生不良性貧血では診断から治療までの期間が長くなるほど免疫抑制療法の奏効率が低くなるため、診断後はできるだけ早期にCsAを投与して効果の有無をみたほうがよい。とくに血小板減少が先行する例は、免疫抑制療法に反応して改善することが多いので、血小板減少が軽度であっても、少量のCsAを短期間投与し反応性をみることが望ましい。図2は筆者の私案を示している。画像を拡大する■ 重症例(ステージ3以上など)に対する治療この重症度の患者に対する治療方針(筆者私案)を図3に示す。画像を拡大する患者が40歳以下でHLAの一致する同胞ドナーが得られる場合には、同種骨髄移植が第一選択の治療方法である。とくに20歳未満の患者では治療関連死亡の確率が低く、長期生存率も90%前後が期待できるため、最初から骨髄移植を行うことが勧められる。40歳以上の高齢患者に対してはATG・CsAか、ATG・CsA・エルトロンボパグ(ELT〔商品名:レボレード〕)併用療法を行う。サイモグロブリンの市販後調査によると、ステージ4・5例およびステージ2・3例におけるATG+CsAの有効率はそれぞれ44%(219/502)、64%(171/268)とされている。ELTは、ATG+CsAと同時またはATG+CsAの2週間後から併用することにより、ウマATG+CsAの有効率が90%まで向上することが、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の臨床研究により示された6)。日本でも2017年8月より保険適用が認められ、初回のATG+CsA療法後に併用することが可能になっている。これにより、日本で唯一使用できるサイモグロブリンの有効率が高まる可能性がある。ただし、NIHの臨床試験では、2年間で約12%の症例に、第7染色体異常を中心とする新たな染色体異常が出現していることから、ELT併用によって異常造血幹細胞の増殖が誘発される可能性は否定できない。このため、若年患者に対する初回治療にELTを併用するかどうかは、患者の重症度、罹病期間、免疫病態マーカーの有無などを考慮して判断することが勧められる。とくに、治療前に骨髄FISH検査で第7染色体欠失細胞がないかどうかを確認する必要がある。保険で認められているサイモグロブリンの投与量は2.5~3.75mg/kgと幅が広く、至適投与量についてはよく分かっていない。サイモグロブリンは、リンフォグロブリンに比べて免疫抑制作用が強いため、サイトメガロウイルスやEBウイルスの再活性化のリスクが高いとされている。このため、治療後2~3週以降はできる限り頻回にEBウイルスコピー数をモニタリングする必要がある。重症例のうち初診時から好中球がほとんどなく、G-CSF投与後も好中球がまったく増えない劇症型の場合には、緊急的な臍帯血移植やHLA部分一致血縁ドナーからの移植適応がある。■ 難治例に対する治療免疫抑制療法が無効であった場合、初回治療としてELTが使用されなかった例に対しては約40%にELTの効果が期待できる7)。メテノロンやダナゾール(保険適用外)も重症度の低い一部の例には有効である。これらの薬物療法にすべて抵抗性であった場合には、非血縁ドナーからの骨髄移植の適応がある。支持療法としては、貧血症状の強さに応じて、ヘモグロビンで7g/dL以上を目安に1回あたり400mLの赤血球濃厚液‐LRを輸血する。輸血によって血清フェリチン値が1,000ng/mL以上となった場合には経口鉄キレート剤のデフェラシロクスを投与し、輸血後鉄過剰症による臓器障害を防ぐ。血小板数が1万/μL以下となっても、明らかな出血傾向がなければ予防的血小板輸血は通常行わないが、感染症を併発している場合や出血傾向が強いときには、血小板数が2万/μL以上となるように輸血を行う。4 今後の展望再生不良性貧血の発症の引き金となる自己抗原が同定されれば、その抗原に対する抗体や抗原特異的なT細胞を検出することによって、造血幹細胞に対する免疫的な攻撃によって起こった骨髄不全、すなわち再生不良性貧血であることが積極的に診断できるようになる。自己抗原やそれに対する特異的なT細胞が同定されれば、現在用いられているATGやCsAのような非特異的な免疫抑制剤ではなく、より選択的な治療法が開発される可能性がある。また、近年使用できるようになったELTは、治療抵抗性の再生不良性貧血に対しても約40%に奏効する画期的な薬剤であるが、どのような症例に奏効し、またどのような症例に染色体異常が誘発されるのか(ELTを使用すべきではないのか)は不明である。これらを明らかにするために前向きの臨床試験と定期的なゲノム解析が必要である。5 主たる診療科血液内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)特発性造血障害に関する調査研究班(資料)(再生不良性貧血診療の参照ガイドがダウンロードできる)公的助成情報難病情報センター 再生不良性貧血(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報再生つばさの会(再生不良性貧血の患者と家族の会の情報)1)再生不良性貧血の診断基準と診療の参照ガイド改訂版作成のためのワーキンググループ. 再生不良性貧血診療の参照ガイド 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業特発性造血障害に関する調査研究班:特発性造血障害疾患の診療の参照ガイド(平成22年度改訂版); 2011. p3-32.2)Katagiri T, et al. Blood. 2011; 118: 6601-6609.3)Maruyama H, et al. Exp Hematol. 2016; 44: 931-939 e933.4)Seiki Y, et al. Haematologica. 2013; 98: 901-907.5)Sugimori C, et al. Blood. 2006; 107: 1308-1314.6)Townsley DM, et al. N Engl J Med. 2017; 376: 1540-1550.7)Olnes MJ, et al. N Engl J Med. 2012; 367: 11-19.公開履歴初回2013年09月26日更新2018年01月23日

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PTSD心臓外科医のこだわりと肩すかし(解説:今中和人氏)-791

 医療に必要不可欠な輸血療法の歴史は、肝炎やGVHDに代表される輸血後合併症との戦いの歴史でもある。多くの先人・関係者の研究とご尽力により、昨今、上記合併症は激減し、日本赤十字社の公式発表によれば、たとえば肝炎は2012年B型6例・C型ゼロ、2013年B型7例・C型1例、2014年B型2例・C型ゼロである。何よりも私たちは、このことに感謝しなければならない(もちろん、表面化していない症例はあるであろうが)。ただ、まれながら経験あるいは見聞した劇症肝炎やGVHDのすさまじさで、医療者、とくに輸血を頻用してきた心臓外科医はPTSDになっている。上記2つ以外の合併症も、遅発性溶血は1/2,500、急性肺障害1/5,000~10,000、アナフィラキシー8/100,000(いずれも対1単位)と学んでもなお恐れ、無輸血にこだわっている。 ウインドウ期の献血でHIV感染が1例起きて大騒ぎになったのは2013年。もう4年あまり前のことで、以降1例も報告されていないが、「いやいや、未知の病原体だってありうる」とこだわっている。 さらに、しばしばオーバーな報道に振り回されがちな患者さんたちが「無輸血」と聞くと喜ぶこともあるが、誇り高き心臓外科医が無輸血にこだわる、もう1つ大きな理由を率直に記すと「手術が上手→出血が少ない→無輸血」という図式である。別に同業者を揶揄するのではなく、たとえば当院での2017年11月の開心術は全例無輸血だったので、ためしにこの時期の14例(平均62歳)を集計すると、当日Hb9.9g/dL(7.7~11.3)、大抵2病日に最低となりHb8.3g/dL(7.3~11.1)。とくに6例が女性で、ACSが3例、DAPT中の症例も1例いたことを思うと、われわれもご多分に漏れず相当こだわっている。ただし多くの論文が指摘するように、無輸血と最も相関する因子は術前Hbで、当院の14例も13.6g/dL(10.7~16.6)と、術前から基準値を下回っていたのは2例のみだった。 一方、重症貧血では組織への酸素供給が不十分になる。無輸血にこだわることの安全性はとても重要で、最低Htと術後死亡率、入院期間、諸合併症率の相関を指摘する有名施設の論文もあり、心臓外科医は「どこまでこだわってよいか?」に強い関心がある。 そういった心臓外科医にとって、実に隔靴掻痒の論文である。 この北米中心の国際多施設共同研究(ちなみに中国・インドなどアジアの施設も参加しているが、本邦の施設は含まれていない)は、われわれが知りたい、無輸血の是非を論じたものでもなく、どの程度の貧血まで粘ってよいかを論じているのでもなく、輸血に踏み切るHb値をいくつに設定するかで比較しているにすぎない。だから制限輸血群でも52%が輸血をしているし、自由輸血群は73%。つまり自由群も1/4以上は無輸血なのだ。逆に、制限群に割り付けられたが、自由群だとしても無輸血でいけた症例も多いはずだ。 もっとがっかりするのは、この論文の言う輸血は「赤血球」限定で、FFPは両群とも25%前後、血小板は30%弱投与されており、何ら差がない。これはわれわれの言う無輸血とは異なるだけでなく、たとえばアナフィラキシーを含むアレルギーは圧倒的に血小板、次いでFFPに多いのだがまったくお構いなし。どちらも自由群である。 とどめは、この論文のエンドポイントに輸血合併症が含まれていないことで、これは国際共同研究のアキレス腱と言うべきか。今でもインドなどでは売血が一般的なようで、輸血合併症の頻度もさまざまで致し方ないのだろうが、強烈な肩すかし感が残る。せん妄とか痙攣なんてエンドポイントで差が出るわけがない。 で、結論は「どちらのHb設定でも大きな差はない」とのこと。さもありなん、である。 なお輸血は、国や施設によってはコストも大いに関係する。本邦の薬価、1単位当たり赤血球 約8,600円、FFP 約9,000円、血小板 約7,800円に対するご意見はさまざまだが、安全性の担保から街角で終日献血を呼びかける職員に至るまで、関係各位のご努力への感謝を忘れるべきでないと私は思う。

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血小板輸血後に女児死亡、厚労省から注意喚起

 2017年11月29日、血小板製剤輸血による細菌感染が疑われていた症例について、患者の死亡が確認されていたことが、厚生労働省の有識者会議にて報告された。患者は、急性骨髄性白血病の再発に対する同種骨髄移植を受けた10歳未満の女児。移植の約1ヵ月後に、血小板製剤の投与が行われ、投与20分後より振戦、呼吸促拍の出現により投与が一時中止された。その後、投与が再開されたものの、嘔吐、下痢により再び中止に至った。女児は投与後4日目に一時心肺停止状態となり、投与後1ヵ月6日目、敗血症性ショックによる多臓器不全で死亡した。 今回、女児が投与されたのは、「照射濃厚血小板-LR」(採血後4日目)20mlで、その後の検査により、残りの製剤および女児の血液から同一の大腸菌が同定された。担当医は「細菌感染と輸血血液との因果関係はあると考えられる」との見解を出している。 この問題に関して、厚生労働省は12月4日付で、血小板製剤使用時の安全確保について都道府県などに向けた通知を出した。 主な内容は以下のとおり。・少なくとも輸血開始後約5分間は患者の観察を十分に行い、約15分経過した時点で再度観察を行う。・輸血には同種免疫などによる副作用やウイルスなどに感染する危険性がありえるので、他に代替する治療法などがなく、その有効性が危険性を上回ると判断される場合にのみ実施する。・輸血を行う場合は、その必要性とともに感染症・副作用のリスクについて、患者またはその家族などに文書にてわかりやすく説明し、同意を得る。

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