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兵庫医科大学 呼吸器・血液内科学(血液)【大学医局紹介~がん診療編】

吉原 哲 氏(教授)吉原 享子 氏(臨床講師)寺本 昌弘 氏(助教)熊本 友子 氏(レジデント)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴私たちの医局のモットーは、すべての血液疾患の患者さんに最良の治療を提供することです。血液疾患には、白血病、リンパ腫、骨髄腫といった造血器腫瘍のほか、血友病、凝固異常症といった出血性疾患があります。兵庫医大には、ハプロ移植やCAR-T療法のイメージが強いかもしれませんが、血友病やHIVの診療施設としても関西での重要な拠点となっています。地域のがん診療における医局の役割兵庫県の特徴は、大学の系列などに関係なく、各病院間の血液内科医の横のネットワークが非常に強いことです。その結果として、兵庫県内の多数の病院から移植やCAR-T症例のご紹介をいただいています。また、ハプロ移植やCAR-T療法については、県外からも多数の患者さんをご紹介いただいています。医師の育成方針まずは血液内科医として、どんな疾患でもひととおり診られるようになってもらいたいと考えています。実際、白血病から血友病まで非常に症例数が多いですので、化学療法だけでなく移植やCAR-T療法、そして血友病等の治療についても効率的に研修可能です。その後は専門性を高めていってもらうことになりますが、その際には医師それぞれのライフプランに合わせて無理のない働き方をして欲しいと考えています。子育てをしながら働く女性医師も多いため、女性医師にとって相談しやすい環境だと思います。同医局でのがん診療のやりがい、魅力私たちの医局でのがん診療チームは、白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫といった疾患に対し、化学療法のみならず、同種造血幹細胞移植やCAR‐T療法など、最先端の治療法を幅広く実施しています。日々進歩していく血液内科診療の劇的な変化を肌で感じることができ、また大学病院ならではの高度な医療現場で、他院では診断が困難な症例や治療が難しいケースも積極的に受け入れており、その度に多くの発見とやりがいを感じる毎日です。医局の雰囲気少人数制のチーム体制で、アットホームな雰囲気です。タスクシフトを積極的に取り入れ、一人ひとりが豊富な症例経験を積み自らの専門性を高めていけるよう支援しています。さらに、当医局には出産後も現場で活躍している女性医師たちが多数在籍しています。私自身は2人の子育て中でもありますが、自身の経験より家庭と仕事の両立の困難さを誰よりも理解しているつもりです。そのような若手医師たちを支援するため、各医師のライフプランに合わせた柔軟なサポート体制を整えるよう尽力しています。医学部生/初期研修医へのメッセージ医学部生/初期研修医の皆さまが、当医局で最先端の医療技術と充実した臨床経験を学びながら、自身の成長と挑戦を続けていただけることを心より願っております。ぜひ一緒に働きましょう!力を入れている治療/研究テーマ兵庫医科大学病院 血液内科(当科)では血液疾患に対するさまざまな研究に取り組んでいますが、これまでとくに力を入れてきた研究テーマの1つに、血液がんに対する同種造血幹細胞移植(同種移植)があります。私自身はこれまで、同種移植後の副作用を抑えるための、免疫抑制剤の投与方法に関する研究や、同種移植を受けた患者さんの生存率に影響を与えるリスク因子の解析を行ってきました。また、白血病の治療ターゲットとなるような分子標的を見つけるための基礎研究にも取り組み、新しい治療薬の開発を目指しています。さらに、当科ではキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)に関する基礎研究も開始しており、より効果的な細胞療法を実現するために頑張っています。医学生/初期研修医へのメッセージ当科では、同種移植やCAR-T療法を含めた細胞治療の分野はもちろん、血液学に関する臨床研究、基礎研究の両方に挑戦できる環境が整っています。研究に興味がある方は、ぜひ気軽にご相談ください。一緒に新しい治療法を探していきましょう。これまでの経歴もともと2008年に筑波大学を卒業しましたが、その後海外でスポーツ活動に取り組んでいました。海外にいる頃に医師になりたいと奮起、2013年に兵庫医科大学に入学し、2019年に卒業、同大学で初期研修を行い血液内科に入局しました。1年半、外病院で一般内科・一般血液を学び今は大学で血液内科医として日々勉強しています。同医局を選んだ理由学生の頃から血液内科に入局しようと思っていましたが、兵庫医科大学病院は西日本でも有数の移植施設で、今ではCAR-T療法なども含め、大学でしかできない治療がたくさんあることと、腫瘍とは別にHIVや血友病など専門の先生がいることも大きな理由です。また、どんなに忙しくても質問すると上級医の先生は優しく丁寧に教えて下さったことも理由の1つです。最初の頃は勿論、今でも分からないことは沢山ありますし、自分の行為が患者様の命にも関わる仕事ゆえ、どんな些細なことでも気がねなく何でも聞ける医局の雰囲気、指導体制は大事だと思います。現在学んでいることCAR-T療法、臍帯血移植、ハプロ移植など、市中病院ではなかなか経験できない症例をたくさん受け持っております。一方で、市中病院でも診ることの多いITPやリンパ腫の症例も多数あります。血液疾患は新規薬剤やガイドラインについても年々アップデートが必要ですが、症例が多数あるため知識だけではなく実症例として経験することができます。今後のキャリアプラン出産・育児を挟んだこともあり、目の前の目標は内科専門医の取得です。兵庫医科大学 呼吸器・血液内科学(血液)住所〒663-850 兵庫県西宮市武庫川町1-1問い合わせ先ketsueki@hyo-med.ac.jp医局ホームページ兵庫医科大学 血液内科教室専門医取得実績のある学会日本内科学会日本血液学会日本造血・免疫細胞療法学会(認定医)日本輸血・細胞治療学会(認定医)日本再生医療学会(認定医)研修プログラムの特徴(1)造血器腫瘍だけでなく血栓・止血やHIV診療も研修可能(2)子育てなどライフプランに合わせた柔軟なサポート体制を整えている(3)造血細胞移植やCAR-T療法など最新の治療を経験できる

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リンパ腫・骨髄腫に対する新たな免疫治療/日本臨床腫瘍学会

 キメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞療法や二重特異性抗体など、最近の免疫治療の進歩は目覚ましく、とくに悪性リンパ腫と多発性骨髄腫に対しては生命予後を大幅に改善させている。今後もさらに治療成績が向上することが期待され、最適な治療法を選択していくためには、本邦における免疫治療の現状や課題、今後の治療法の開発状況などについてよく理解しておく必要がある。 2025年3月6~8日に開催された第22回日本臨床腫瘍学会学術集会では、リンパ腫・骨髄腫に対する新たな免疫治療についてのシンポジウムが開催され、国内外の4人の演者が最新の知見や今後の展望などについて講演した。B細胞リンパ腫治療の進歩に重要な役割を果たす二重特異性抗体 「とくに、最近のCD3とCD20を標的とする二重特異性抗体の出現は、B細胞リンパ腫治療に大きな進歩をもたらしている」とGrzegorz Stanislaw Nowakowski氏(Mayo Clinic)は強調する。T細胞の細胞膜上に発現するCD3とB細胞性がん細胞の膜上に発現するCD20の両者に結合し、T細胞の増殖および活性化を誘導することでCD20が発現しているがん細胞を攻撃する治療法で、最近はCD20とは異なる表面分子を標的とする、または複数の表面分子を同時に標的とする二重特異性抗体の研究開発も進行しているという。 CD3とCD20を標的とする二重特異性抗体に関する臨床試験は、CAR-T細胞療法後の再発を含む再発または難治性の進行性リンパ腫を対象に実施され、約50~60%の患者に奏効し、奏効した患者の約半数が完全奏効となっていた。加えて、完全奏効した患者は、その状態が長く持続し、患者の病態や前治療の数や内容などにかかわらず、効果は一貫してみられていた。 一方で、二重特異性抗体の有害事象については、Grade3以上のサイトカイン放出症候群(CRS)のリスクは高くなく、用量漸増や予防薬の前投与によって軽減することが可能となる。Nowakowski氏は、「重要なのは、CRSは管理可能であると認識することである。加えて、治療に関連する神経毒性の発生リスクも高くなく、Grade3以上の神経毒性の発現頻度は非常に低い」と述べた。 さらに、二重特異性抗体による治療のメリットは、化学療法やCAR-T細胞療法などのほかの治療法と組み合わせたり、治療の順番を調整したりすることができる点にあるとNowakowski氏は指摘する。また、特定の二重特異性抗体をCAR-T細胞療法までの橋渡しの治療としても使うことができることを示唆する研究報告もあり、治療効果をより継続したり高めたりする臨床研究が進行中であるという。 最後に、「活動性の高い低悪性度リンパ腫に対しては、化学療法を併用しない二重特異性抗体による単独治療も可能となる。このように、二重特異性抗体はモノクローナル抗体と同様に、複数の治療法で使用できる可能性がある」とNowakowski氏は付け加えた。B細胞リンパ腫に対する早期治療ラインにおけるCAR-T細胞療法の可能性 本邦においても、CD19を標的としたCAR-T細胞療法は、再発または難治性の大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)などのB細胞リンパ腫に適応となっている。CAR-T細胞療法の治療成績は、それまでの再発または難治性LBCLに対する標準治療に比べて群を抜いて高く、治療成績は劇的に改善された。今回、蒔田 真一氏(国立がん研究センター中央病院 血液腫瘍科)は、B細胞リンパ腫に対する早期の治療ラインにおけるCAR-T細胞療法の可能性について言及した。 LBCLに対するCAR-T細胞療法としては、第2世代のCAR-T細胞療法であるtisa-cel、axi-cel、liso-celがそれぞれの単群試験の結果を基に、3rdライン以降の治療薬として本邦では最初に承認された。その後、初回治療に対する治療抵抗例や、初回治療による寛解から12ヵ月以内の再発例を対象としたランダム化比較試験において、化学療法と自家幹細胞移植による標準治療を上回るCAR-T細胞療法の有効性が示されたことで、axi-celとliso-celが2ndラインとしても使用できるようになっている。 蒔田氏は、CAR-T細胞療法を早期ラインで使用することのメリットとして、まず、早期のラインではより多くのブリッジング(橋渡し)治療が可能となり、CAR-T細胞を製造している間の腫瘍進行を抑制することが可能となることを挙げる。さらに、早期ラインでは従来の細胞障害性抗がん薬への曝露が少ないことから、CAR-T細胞療法が効きやすい可能性もあるという。 このような背景の中で、未治療のLBCLに対する1stラインとしてのCAR-T細胞療法の有用性を評価するための臨床試験が現在進行している。「加えて、LBCLに対する二重特異性抗体の臨床試験なども複数進行しており、近い将来、未治療LBCLに対する治療戦略が劇的に変化する可能性がある」と蒔田氏は結んだ。CAR-T細胞療法の効果的な運用に向けて CAR-T細胞療法は、2012年に米国のフィラデルフィアで小児急性リンパ芽球性白血病への最初の使用が報告された免疫細胞療法であり、長期にわたる良好な治療成績が得られている。その後も、CD19を標的としたCAR-T細胞療法はとくに再発または難治性のLBCLの治療戦略を劇的に変化させ、その適応は広がっている。 LBCL患者の約60%は、初回のR-CHOP療法(リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン)で長期生存を達成するが、再発または難治性となった場合は、化学療法や自家幹細胞移植などの2ndラインの標準治療で治癒に至る患者はわずか10%にすぎない。そのため、再発または難治性のLBCLに対する治療戦略はきわめて重要であると福島 健太郎氏(大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学)は述べる。 CAR-T細胞療法を効果的に運用していくためには、まずは適切なCAR-T細胞の製造が重要となる。CAR-T細胞の製造については、製造管理や品質管理の手法が「再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準(GCTP)」に適合する必要があるが、開発企業や医療機関によってアフェレーシス(T細胞採取)の手順や採取されたアフェレーシス産物の製造所への輸送方法などが異なっている。大阪大学ではこれを未来医療センター細胞調製施設(MTR CPC)が担当し、アフェレーシス、CD3陽性細胞率の測定、生細胞率測定、採取産物の濃縮・調整・凍結保存、製品原料の発送などを主治医、輸血部門、中央研究所、MTR CPCなどが連携して実施しているという。 CAR-T細胞療法では、アフェレーシス、製造(遺伝子改変・培養)、輸送、投与前処置など、患者からT細胞を採取してから再び患者に戻すまでの過程があり、これに要する時間(Vein to Vein Time:V2VT)は治療効果や患者の状態管理に大きく影響を与えることになる。そのため、V2VTの短縮は、CAR-T細胞療法における重要な課題となっている。そして、V2VTによっては、アフェレーシス終了後にCAR-T細胞の輸注に先立ってリンパ腫に対する治療を行う橋渡し治療を行うこともある。このように、V2VTの短縮や橋渡し治療などを患者ごとに吟味しながら、CAR-T細胞療法の治療効果を高めていくことが重要と福島氏は指摘する。 さらに、福島氏はCAR-T細胞療法後における二次性のT細胞性悪性腫瘍の発生リスクについて言及した。2024年4月、米国食品医薬品局(FDA)は、CAR-T細胞療法製品の添付文書に新たなT細胞性悪性腫瘍が発生する可能性について警告を表示することを要求した。しかし、その後の新たな研究から、CAR-T細胞療法後の二次性悪性腫瘍の発生頻度は、標準治療後における発生頻度と同程度であることが示されているという。多発性骨髄腫に対する免疫療法の治療効果最大化への課題 これまで、プロテアソーム阻害薬(PI)、免疫調節薬(IMiDs)、抗CD38モノクローナル抗体製剤(抗CD38抗体)などの治療薬が登場し、多発性骨髄腫(MM)患者の生命予後はかなり改善されてきた。しかし、これらの治療を続けていても、多くの場合再発となり、予後不良の再発または難治性のMMとして、現在の重要なアンメットメディカルニーズとなっている。この問題に対処するために、最近はCAR-T細胞療法、二重特異性抗体、抗体薬物複合体(ADC)などが登場し、大いに注目されている。 CAR-T細胞療法や二重特異性抗体、ADCの標的抗原として、とくにMM患者の骨髄腫細胞に高発現しているB細胞成熟抗原(BCMA)が重要であり、BCMAを標的とした免疫療法の現状と、効果を最大限に発揮するための課題などについて、原田 武志氏(徳島大学大学院 血液・内分泌代謝内科学分野)が言及した。現状では、PI、IMiDs、抗CD38抗体による治療の後に再発または難治性となったMMに対して、BCMAを標的としたCAR-T細胞療法、二重特異性抗体、ADCによる治療が有効であることを示唆する結果が複数の臨床試験によって示されている。 このように、BCMAはMMの創薬ターゲットとして注目されているが、これらの薬剤の臨床効果はMM患者にとって普遍的ではなく、治療中に低下することがあり、これが治療効果を最大化するための1つの課題と原田氏は指摘する。現在、薬剤に対する治療抵抗性のメカニズムが精力的に研究されている中で、原田氏らはBCMAを標的とした免疫療法の後には、BCMA発現のダウンレギュレーションが関与していることを明らかにしてきた。また、BCMAとそのリガンドであるB細胞活性化因子(BAFF)とB細胞の発達や自己免疫応答に関与する関連タンパク質(APRIL)との相互作用も治療抵抗性に関与している可能性もあり、MM細胞と破骨細胞におけるBAFF/APRILのBCMAへの結合は、BCMAを標的とした免疫療法の有効性に影響を与える可能性が示唆されていた。さらに、原田氏らは、APRILがBCMAへのBCMAを標的とした二重特異性抗体製剤の結合を妨害し、破骨細胞由来のAPRILはBCMAを標的とした免疫療法の治療効果を減弱させる可能性もあると考えているという。 最近は、MMに対する新たな治療概念として、腫瘍細胞のみでなく腫瘍微小循環を標的とした治療も検討されはじめている。「今後、BCMAを標的とした免疫治療の効果を最大限に発揮するためには、腫瘍細胞と腫瘍微小循環の両者に対する治療戦略が重要となる」と原田氏は結論付けた。

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獨協医科大学 血液・腫瘍内科【大学医局紹介~がん診療編】

今井 陽一 氏(主任教授)遠矢 嵩 氏(准教授)中村 文美 氏(講師)吉原 さつき 氏(助教)講座の基本情報医局独自の取り組み・特徴獨協医科大学病院は圧倒的症例数と最新鋭の設備で北関東の医療をリードする特定機能病院です。血液・腫瘍内科は広範囲の医療圏から多くの血液疾患の患者さんにご来院いただき、白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫を中心とした造血器腫瘍から再生不良性貧血などの造血障害まで幅広く血液疾患の診断と治療にあたっています。患者さんお一人おひとりに寄り添いながら、キメラ抗原受容体T細胞療法(CAR-T細胞療法)などの最先端治療を積極的に導入するなど最適な血液診療の提供を心掛けています。とくに多発性骨髄腫はCAR-T細胞療法、二重特異性抗体療法を取り入れ最先端の治療を推進しています。臨床研究では、16施設の多施設共同前向き臨床研究を主導して、多発性骨髄腫の維持療法における遺伝子変異・免疫状態の変化を世界に先駆けて解明すべく取り組んでいます。基礎研究は、ゲノム・フローサイトメトリー解析、分子生物学、疾患モデルマウスを駆使して造血器腫瘍の病態解明を目指し、新規治療法の開発を目指しています。このように、私たちの教室は目の前の患者さんの癒しを第一に考えることを礎に、さまざまな形で血液診療の推進に貢献できる医療人の育成を目指しています。日光・那須の素晴らしい景観に囲まれた充実した環境で共に切磋琢磨する仲間をお待ちしております。力を入れている治療/研究テーマ当科では、急性白血病などの造血器腫瘍のほか、再生不良性貧血などの特発性造血障害も含めた幅広い血液疾患に対する診療を行っています。通常の化学療法に加えHLA半合致移植(ハプロ移植)を含む造血幹細胞移植も行い、2025年にはCAR-T細胞療法も開始し、豊富かつ多彩な臨床経験を積むことができます。また、近年は血液疾患診療を行うにも遺伝子変異の理解が必要です。当科では次世代シーケンスを用いた遺伝子変異解析も行っており、経験知と理論的理解の双方に基づいた診療を行っています。研究についても、基礎研究から臨床研究まで幅広く行っています。私個人としては造血器腫瘍の遺伝子変異と病態の関連性や、日和見ウイルス感染症にとくに注目して研究を行っています。学会参加に対する補助もあり、学会発表や論文執筆の機会も多いです。医学生/初期研修医へのメッセージ血液内科に多忙、激務といったイメージをお持ちの方もいるかもしれません。当院ではチーム診療を行っており休日は交代制で十分確保できますし、残業も少なく、無理なく持続可能な形で経験や実績を積むことができると思います。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力北関東で高度な血液診療を提供できる施設は限られているため、遠方からも患者さんが来院されています。当院に対する期待と信頼を感じ、患者さんに希望を提供できるように、日々取り組んでいます。当科では症例報告や後方視的研究について学会発表をするだけではなく、多施設共同前向き研究の提案や参加をすることで、新たなエビデンスの確立にも貢献しています。基礎研究では、技術的なサポートが充実しているおかげで、診療と研究の両立が可能になっています。医局の雰囲気、魅力若手、ベテランを問わず、よりよい診療を提供するために、助け合っています。治療方針に悩む場合には、定時のカンファレンスだけでなく、随時、相談することが可能となっており、安心して診療ができます。週末・休日は当番制のため、プライベートとの両立が可能です。また、それぞれのキャリアプランに応じて、医局がサポートしてくれます。医学生/初期研修医へのメッセージ血液内科は新規薬剤や細胞療法の導入で、治療成績の向上を実感できるとてもやりがいのある科です。血液内科に興味のある先生方、一緒に頑張ってみませんか?これまでの経歴獨協医科大学病院で初期研修、国立病院機構栃木医療センターで内科専門医プログラムを修了し、2024年4月に獨協医科大学病院血液・腫瘍内科に入局しました。同医局を選んだ理由患者さんの診断から看取りまで伴走したいと思い、総合内科で学んでいましたが、より専門的な知識や技術があれば、治療や終末期といった患者さんの重要な意思決定により深く関われるのではないかと思いました。血液疾患は症状が多彩で診断の面白さがあり、急性期は集中治療の側面もあることから内科の醍醐味だと思いました。また、当医局では臨床医としてもきめ細やかな先生が研究にも従事しており、多面的に疾患や臨床を捉えている姿を見て、こういう医師になりたいと思いました。当院は県内外から多くの患者さんが集まるため血液疾患も多彩であり、他診療科との連携もしやすく、良い環境と考えました。現在学んでいること悪性リンパ腫や急性白血病の入院患者さんを担当し、化学療法について学んでいます。大学院進学予定であり、今は臨床研究の準備をしています。獨協医科大学 血液・腫瘍内科住所〒321-029 栃木県下都賀郡壬生町北小林880問い合わせ先ketsueki@dokkyomed.ac.jp医局ホームページ獨協医科大学 血液・腫瘍内科専門医取得実績のある学会日本内科学会(認定内科医・総合内科専門医)日本血液学会日本造血・免疫細胞療法学会日本輸血・細胞治療学会日本感染症学会日本臨床腫瘍学会研修プログラムの特徴(1)幅広い症例と専門的な指導急性白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など多様な疾患を経験でき、造血幹細胞移植やCAR-T細胞・二重特異性抗体療法など最先端の治療にも携わることができます。専門医の手厚い指導のもと、診断から治療まで実践的に学べる環境です。 (2)充実した設備と豊富な実践機会無菌室を備えた移植ユニットや最新の検査・治療設備を活用し、骨髄穿刺や腰椎穿刺などの基本手技から移植管理まで幅広く経験できます。学会発表や研究のサポートも整い、学術的な成長も後押しします。 (3)働きやすい環境とキャリア支援都市部の利便性を持ちながら、地方ならではの温かい雰囲気の中で研修でき、研修医一人ひとりに合った指導を受けられます。計画的なローテーションで血液内科の基礎をしっかり固め、専門医取得や大学院進学、海外研修など多様なキャリアを支援します。詳細はこちら

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第258回 献血は誰かを救うのみならず自身の健康も増進しうる

献血は誰かを救うのみならず自身の健康も増進しうる足しげく献血することはたくさんの誰かのためになるだけでなく、自身の血液も健康にするようです。私が足を運ぶ姫路の献血センターには、輸血を受けた患者さんやその近しい人からの手紙が掲示されています。よっぽど困難な状況にあるかあったであろう人たちからのそのような言葉の数々に触れると、血液検査目当てのおよそ健康診断のつもりの輸血もいくらかは役に立っていると感じることができて、なんだか前向きな気持ちになれます。献血する人は多かれ少なかれ似たような思いを経験されているかもしれません。血液学で最高峰のBlood誌に先週掲載された新たな観察試験結果1)によると、献血を頻繁にすることは自身にいくばくかの心の滋養になりうることのみならず、健康な血液細胞をより生み出せるようにする効果もあるようで、もしかすると血液がんを生じにくくする効果さえ担うかもしれません。英国のフランシスクリック研究所のチームは、ドイツの赤十字献血センターおよびドイツのがん研究所と協力し、生涯の献血回数が100回を超える頻回献血(frequent donor、以下「FD」)男性217人と献血回数がわずかな(10回未満)男性212人の血液検体を調べました。年齢はそろえられ、どちらもおよそ60歳代です。老化に伴って骨髄の造血幹細胞(HSC)に変異が蓄積することに伴い、遺伝配列が他とわずかに異なる血液細胞の一団が幅を利かせるようになるクローン性造血が生じるようになります。FD男性と非FD男性のクローン性造血の発生率に有意差はありませんでした。一方、クローン性造血との関連が知られるDNMT3A遺伝子の変化にはっきりとした差がありました。その差の意味を調べるべく、FD男性に多いDNMT3A遺伝子変化(FD変異)を導入したHSCがそうでないHSCとの共存の中でどう振る舞うかが検討されました。失血に応じて作られる造血ホルモンのエリスロポエチン(EPO)を与えることで献血に似せた環境にして培養したところ、FD変異細胞はそうでない細胞に比べてより早く増えました。その現象はEPOがあるときに限られ、EPOがないときの増える速さは似たりよったりでした。献血するたびに体内でEPOが突発することで、頻繁な献血者に多いDNMT3A変異細胞が増えるのに好都合になるようだ、と著者の1人Hector Huerga Encabo氏は言っています。研究はさらに続き、FD変異の取り柄が示唆されました。FD変異細胞と白血病を生じ易くする変異を有する細胞を一緒にしたところ、やはりEPOがある環境でFD変異細胞はより増え、赤血球をより生み出しました。すなわちFD変異はがん細胞の増殖を抑制する作用を担うかもしれません。今回の結果によると、献血はHSCの調子やその補充能力を向上するように仕向け、誰かの命を救うのみならず自身の血液系もより好調にするようです2)。とはいえ、検証がまだまだ必要です。たとえば、白血病を生じ易くする変異の発生を減らすと今回の結果をもって結論することは当然できず、異なる人種、女性、他の年齢層を含むより大人数でさらに検討しなければなりません2,3)。参考1)Karpova D, et al. Blood. 2025 Mar 11. [Epub ahead of print] 2)Giving blood frequently may make your blood cells healthier / NewScientist 3)Beneficial genetic changes observed in regular blood donors / Eurekalert

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腎細胞がんへのbelzutifan、安全性プロファイルとその管理戦略(LITESPARK統合解析)/日本臨床腫瘍学会

 belzutifanはHIF-2α阻害薬として米国で初めて承認された薬剤であり、日本でも承認申請中である。独自の作用機序を有し、貧血および低酸素症を含む特有の有害事象(AE)プロファイルを示すことが明らかになっている。腎細胞がん患者を対象にbelzutifanの安全性プロファイルを評価することを目的として、4つの臨床試験の事後統合解析が実施され、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのEric Jonasch氏が結果を第22回日本臨床腫瘍学会学術集会(JSMO2025)で発表した。 本解析は、既治療の進行淡明細胞型腎細胞がん(RCC)患者を対象とした第I相LITESPARK-001試験、第II相LITESPARK-013試験、第III相LITESPARK-005試験、およびフォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病関連腫瘍患者を対象とした第II相LITESPARK-004試験から、belzutifan 120mgの1日1回経口投与を受けたRCC患者を対象に実施された。 主な結果は以下のとおり。・対象となった患者は計576例で、各試験の内訳はLITESPARK-001が58例、LITESPARK-013が76例、LITESPARK-005が381例、LITESPARK-004が61例であった。・ベースラインの患者特性は年齢中央値が61歳(範囲:19~90)、男性が76.7%、ECOG PS 0~1が98.3%を占めた。西欧39.2%/北米38.4%/日本を含むその他の地域からの参加 が22.4%であった。・全体として、572例(99.3%)に何らかのAEが認められ、355例(61.6%)にGrade3以上のAEが発現した。・288例(50.0%)でAEによる用量調整が必要となったが、AEによる治療中止は37例(6.4%)にとどまった。・最も多く認められたAEは貧血(ヘモグロビン低下を含む、84.2%)で、疲労(42.7%)、悪心(24.1%)、呼吸困難(21.4%)が続いた。・多く認められたGrade3以上のAEは貧血(28.8%)、低酸素症(12.2%)であった。・主なAEの初回発現時期中央値(範囲)は、貧血が29日(1~834)、低酸素症が31日(1~952)、疲労が42日(1~1,017)、悪心が43日(1~1,346)、呼吸困難が57日(1~911)であった。・貧血を認めた485例のうち、111例(22.9%)は赤血球造血刺激因子製剤(ESA)のみ、85例(17.5%)は輸血のみ、62例(12.8%)はESAと輸血で治療された。患者当たりのESA投与回数の中央値は5回、輸血回数の中央値は2回であった。回復までの期間中央値は70日であった。・低酸素症を認めた94例のうち、66例(70.2%)が酸素療法を受けていた。酸素吸入の期間中央値は9日、回復までの期間中央値は11日であった。・治療関連有害事象(TRAE)は526例(91.3%)に認められ、Grade3以上は217例(37.7%)で発現した。Grade5のTRAEとして、多臓器不全が1例報告されている。 Jonasch氏は今回の結果について、有害事象は比較的早期に発現し、初回発現時期の中央値は治療開始から3ヵ月以内であったとし、想定されたとおり貧血と低酸素症が多くみられ、用量調整およびESA/輸血(貧血)・酸素療法(低酸素症)により管理されたとまとめている。

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テレビドラマ「説得」【親が輸血だめなら子供もだめ!?(医療ネグレクト)】Part 1

皆さんは、宗教上の理由で、輸血を拒む人をどう思いますか? 輸血自体にウイルス感染症などのリスクもあるため、たとえ輸血しなければ死んでしまうとしても、最終的には患者の自己決定権が優先されます。しかし、親が自分の子供への輸血を拒んでいる場合はどうでしょうか? そして、輸血しなければ死んでしまう場合はどうでしょうか?今回は、医療ネグレクトをテーマに、かつてのテレビドラマ「説得」を取り上げます。このドラマは、実際の事件をドラマ化しており、そのやり取りにはリアリティがあります。そして、この輸血拒否に対しての学会の対応ガイドラインと2023年までに出された厚労省の指針もご紹介します。さらに、輸血をどうするかという医療倫理としてだけでなく、子供にはどうするかという「子育て倫理」としても一緒に考えてみましょう。なんで輸血がだめなの?主人公は荒木。脱サラして小さな書店を妻と一緒に営んでいます。3人の子供にも恵まれ、ごく普通の家庭生活を送っていました。そんななか、ある日、2番目の子供の健が交通事故に遭います。荒木夫妻は医師から複雑骨折をして出血多量であるため、輸血して手術をすれば助かると言われます。ところが、荒木夫妻は輸血を頑なに拒みます。荒木は「宗教上の問題です」「私たちの宗教は輸血を禁じているんです」と説明します。代わる代わるに医師たちが説得を試みるのですが、荒木夫妻は一貫して「輸血しないで手術してください」と懇願するのです。別室での待機中、荒木夫妻は聖書の教えを唱え始めます。「あらゆる肉なるものの魂は、その血であり、魂がその内にあるから、いかなる肉なるものの血も食べてはならない。すべて、それを食べるものは断たれる」と。そして、妻が「私たちは委ねたんじゃない。あなたも私も健も、神の教えに従うって。それでいいって」と言います。荒木が「だけど、健にもしものことがあったら?」と戸惑っていると、妻は「わかってくれると思う、あの子は」と言い切ります。そしてとうとう救急車で運ばれてから数時間後、健は、目の前に輸血の点滴が準備されている手術台の上で、輸血されることのないまま、手術されることのないまま、息を引き取ります。荒木夫妻が悲しみに暮れていると、中学生の長女が駆けつけてきて、「健ちゃんかわいそうよ。大丈夫よ。健ちゃんは天国に行って必ず復活するんだもの。永遠の命を授かるんだもの」とたしなめるのでした。輸血拒否の論理は、血=命である。肉を食べることはできるが、その血は地に注いで神に返さなければならない。血を食べてしまうと、神から見放されてしまい、死んで天国に行けなくなるということです。そして、輸血も血を食べることになり禁じられます。ただし、自己血輸血や、主要成分ではないアルブミンや免疫グロブリンは受け入れる信者もいて、解釈が分かれています1)。それにしても、苦悩しながらも自分の子供の命よりも信仰を優先する言動には、あまりにも不合理に思われます。一方で、説得する医師の1人は「人間は信仰のためには死にもするし、殺しもするんです。今世界中で宗教上の違いから、どれだけの紛争や戦争が起こっているか」と述べ、理解を示そうとします。このセリフから、信仰とはそもそも不合理なものであり、それを文化的に受け入れられているかどうかの問題であることがわかります。そして、文化的に受け入れられない場合、精神医学的には妄想と呼ばれます。つまり、信仰と妄想は紙一重であり、表裏一体であることもわかります。実際の画像研究においても、信仰(宗教体験)と妄想状態(統合失調症)は、同じ脳領域が過活動になっていることがわかっています2)。なお、信仰と妄想の類似性の詳細については、関連記事1をご覧ください。次のページへ >>

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テレビドラマ「説得」【親が輸血だめなら子供もだめ!?(医療ネグレクト)】Part 2

輸血禁止の教えに子供はどうすればいいの?荒木夫妻は、以前に健が宿題の読書感想文を家で音読していた時のことを回想します。健は「…王子はお父さんをとても尊敬していたのです。僕も王子のようにお父さんの言うことをよく聞いて、信仰の道にがんばりたいと思います」と誇らしげに締めくくっていました。また、事故が起きる3週間前にも、母親が「交通事故起こしても、輸血してあげられないんだから」「本当に気を付けてね」と念押ししていました。健は「うん、いいよ」と軽く言っていました。これらのやり取りをもとに、荒木夫妻は、自分たちだけでなく、健も輸血を拒否する意思を持っていると考えていました。最後の最後で医師たちが健に直接確認しようと、「生きたいだろ?」と大声で呼びかけます。しかし、時すでに遅く、彼は返事をしません。そこに立ち会っていた荒木は、あとで「健は生きたいって。生きたいって言ったんだ。おれにはわかった」と打ち明けます。実際の事件では、その男の子は、医師から「輸血してもらうようにお父さんに言いなさい」と呼びかけられると、「死にたくない。生きたい」と訴えていました。当然ながら、小学5年生の子供が、いくら信仰心があるからといって、そのために死を選ぶことは考えにくいです。彼が信仰の道に頑張ると宣言し、輸血禁止に同意していたのは、そうでもしなければその家で生きていけないと思っていたからでした。つまり、子供には、最初から選択肢などないのでした。彼の言動は単純で、教えに沿った発言をしたら親が喜ぶから、ただそうしているだけでしょう。逆に、教えに少しでも疑問を抱いたことを口走ればどうなるでしょうか?ドラマでは描かれていませんでしたが、実際には、親から「お前はサタンだ」と激怒され、むち打ち(これも教えの1つ)が行われます1)。明らかに、親が宗教を子供に強要しています。これは、宗教的虐待と呼ばれています。また、このような親に育てられた子供は、「宗教2世」「カルト2世」と呼ばれています。なお、一般的な子供虐待の詳細については、関連記事2をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

8.

テレビドラマ「説得」【親が輸血だめなら子供もだめ!?(医療ネグレクト)】Part 3

輸血拒否に医療はどうすればいいの?健が死んで1ヵ月後、担当していた医師が、荒木に再会し、言います。「心臓外科が専門なんですが、手術しても社会に復帰できない子がたくさんいるんです。宗教的に言えば、神がそういうふうにつくったとしか…それを手術して、神の意思に反してるんじゃないかって気がする時も。そう言いながらも、やはり今手術しないと死んでしまうと言えば、やはり…あの直後、うちの病院では、今後(子供には)承諾が取れなくても、医師の判断で輸血をするという決定をしました」と。実際に、2008年に日本輸血・細胞治療学会と日本小児科学会は合同でガイドラインを出しました。そして、2022年と2023年に厚労省は、このガイドラインを踏まえて、宗教的虐待と医療ネグレクトに関する指針を出しました3,4)。なお、医療ネグレクトとは、医師が必要と判断した医療を親が子供に受けさせないことです。このガイドラインでは、年齢を3つの時期に区切り、場合分けをしています。まず、18歳以上は当然ながら、本人の意思が尊重されます。逆に、14歳以下は、拒否が親や本人にあったとしても、なるべく輸血しないとしつつも、最終的には輸血は可能になります。注目すべきは、15歳から17歳の年齢です。本人と親がどちらも拒否した場合のみ、輸血は不可になります。たとえば、長女は「教えを守れば天国に行ける」と確信していたので、中3で15歳になっているとすると、彼女に輸血することはできません。逆に、どちらかしか拒否しなかった場合は、なるべく輸血しないとしつつも、最終的には輸血は可能になります。なお、15歳で分けている理由は、15歳が民法で遺言の効力が生まれる年齢と定められているからです。また、知的障害などによって医療に関する判断能力がない場合は、14歳以下と同じく、輸血は可能になります。さらに、輸血を含めて治療が親によって阻害される場合は、児童相談所に虐待通告し、児童相談所で一時保護のうえ、家庭裁判所による親権停止の審判を受けて、治療を行うことができます。緊急性がある場合は、審判確定までの間に権利を保護する暫定的な処分(保全処分)を申し立てることで、すぐに効力が発生する措置がとられます。実際に、2021年に親権停止が認められたのは107件で、医療ネグレクトが原因とされるものは21件でした1)。また、輸血拒否をする教団(「エホバの証人」)の広報によると、2017年から2022年の5年間で、親権停止などの法的措置がとられたのは13件でした1)。「説得」とは?このドラマは、親の信仰によって子供の命が救えなくなるという、宗教と医療の衝突を生々しく描いていました。そして、信仰とは、妄想と同じく不合理で訂正不能であるため、いくら理屈をこねたり情に訴えたりして説得しようとしても、納得が得られないものであることもわかりました。学会のガイドラインや厚労省の指針のおかげで、親の信仰によって子供の命が救えなくなることはなくなりました。しかし、まだ問題が残っています。それは、命にかかわる急性疾患とは違い、すぐに命にかかわらない慢性疾患や、担当した医師が言っていたように手術しても必ずしも治るとは限らない疾患についてです。たとえば、実際に、子供が精神的に不調でも親が偏見やいわゆる根性論から児童精神科を受診させないケースは、時々見受けられます。このような場合は、司法が親権停止の判断を出すのが難しくなります。つまり、どこまでが医療ネグレクトでどこまでが親の裁量とするかという線引きの問題がまだ残っています。これは、医療を含む子育て全般にも言えることです。この線引きのために、信仰を押し付けるのはもっての外ですが、経験則や自分の思い入れ、思い込みではなく、アカデミックな視点が必要です。それは何より、子供の不利益にならないようにするためだからです。これからは、医療だけでなく、子育てにも倫理観が必要な時代になってきます。これは、医療倫理を超えて、子育てのあり方にも広がる「子育て倫理」と呼べるでしょう。なお、今回は治療をさせない親がテーマでしたが、逆に治療をさせすぎる親については、関連記事3をご覧ください。1)宗教と子供p.106、p.118、p.122、pp.124-125、pp.149-153:毎日新聞取材班編、明石書店、20242)宗教の起源p.246:ロビン・ダンバー、白揚社、20233)宗教の信仰等に関係する児童虐待等への対応に関するQ&A:厚生労働省子供家庭局長通知、20224)宗教の信仰等を背景とする医療ネグレクトが疑われる事案への対応について:厚生労働省子供家庭局長、2023虐待についての関連記事教育虐待そして父になる(続編・その1)【英才教育で親がハマる「罠」とは?(教育虐待)】教育ネグレクト映画「かがみの孤城」(その2)【実は好きなことをさせるだけじゃだめだったの!?(不登校へのペアレントトレーニング)】Part 1<< 前のページへ■関連記事映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その1)【宗教体験と幻覚妄想は表裏一体!?(統合失調症の二面性)】Part 1Mother(続編)【虐待】映画「ラン」(前編)【なんで子供を病気にさせたがるの?(代理ミュンヒハウゼン症候群)】Part 1

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映画「クワイエットルームにようこそ」(その3)【実はこれが医療保護入院を廃止できない諸悪の根源だったの!?(扶養義務)】Part 2

(2)家族の義務として必要だと社会が思っているから現代は、核家族化しており、子供は成人したら家を出て、親と別居することが多いです。それでも、その子供に何か問題が起きたら、職場やアパート管理会社などから緊急連絡先として親に連絡が行きます。このように、まず親が解決すべきであるとの社会からの圧力があります。この感覚から、子供に障害があれば、たとえ成人していても、親のせいにされます。つまり、社会的には、親も「親扱い」され続けます。2つ目の理由は、社会が家族(親)に責任があり、義務として必要だと思っているからです。強制入院させるかどうかを決めるのは、親の義務である、だからこそ強制入院に家族の同意を得るのは当然と考えます。そして、入院費を支払うのも当然の義務と考えます。逆に、医療保護入院制度が廃止されたら、どうなるでしょうか? たとえば、映画に登場していた摂食障害の患者たちが、入院せずに親と同居または別居している時、万が一死んでしまったら、家族がその責任を親族や世間から問われるでしょう。少なくとも、そう思い込んでいる家族は多いです。一方で、強制入院させていたら、より管理されているため、死亡リスクは低くなる上に、たとえ死亡したとしても、専門的な治療をしても難しかったと捉えられ、少なくとも家族の責任は免れます。そもそも、摂食障害で体重を減らすことは、アルコール依存症で飲酒をやめないこと、もっと言えば宗教上の理由で輸血拒否をすることと本質的には同じ、つまり本人の生き方(嗜癖)の問題です。 治したくないなら、本人の生き方として、死亡リスクも含めて、親ではなく本人がその責任を取るだけの話です。そして、その問題に向き合い、本人が治したいと決意するなら、任意入院すればいいだけの話です。そのはずなのに、それを家族や社会が放っておけないのです。ちなみに、有名人が問題を起こした時、その家族が謝罪会見をしたり、メディアがその家族の家にレポート取材をする風習は、日本独特です。世間に迷惑をかけたら、家族のせいにもされてしまう文化があります。(3)家族の義務として必要だという社会に国が合わせているから実は、2009年の民主党(当時)政権では、国連の障害者権利条約に批准するにあたって、家族(保護者)の同意による強制入院をなくすことが検討されていました。ところが、その後に自公政権が返り咲いたことで、家族の同意をなくすのではなく、逆にそれまでにあった同意する家族の優先順位をなくしてしまい、本人の強制入院に家族が誰でも同意できるように改悪をしてしまったのでした2)。そして、だからこそなおさら国連から改善勧告を受けるという始末になってしまったのでした。なぜ自公政権はそこまでしたのでしょうか?3つ目の理由は、家族の義務として必要だという社会に国が合わせているからです。自民党や公明党は、保守政党であるだけに、これまでの家族同意の権利や義務を重んじる保守的な民意を汲み取るでしょう。これは、介護や育児と同じく、なるべく家族に丸抱えさせようとする考え方です。もちろん、一大巨大産業である精神科病院が所属する団体のロビー活動の影響も大きいでしょう。逆に、医療保護入院制度が廃止されたら、どうなるでしょうか? 医療保護入院による医療費を大きく削減できるというメリットはあります。一方で、その分の入院患者がいなくなってダウンサイジングを余儀なくされる精神科病院とその患者を家で抱え込む家族は国に不満を抱くでしょう。また、その患者たちが戻ってきた地域社会では、治安が不安定になると懸念されるでしょう。少なくとも、そう思う保守的な人は多いでしょう。さらには、厚生労働省の天下り先の1つである強制入院ビジネスがなくなってしまうと懸念されている可能性も考えてしまいます。ちなみに、保守政党である自公政権だからこそ、国民の6割が賛成している選択的夫婦別姓の法整備にも積極的に動こうとしないこともわかります。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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肝臓手術前の瀉血療法は輸血リスクを低減する

 カナダ、オタワ在住の2児の母であるRowan Laddさん(46歳)は、2022年、予定されている肝臓に転移したがんを摘出する手術を開始する前に、血液を採取して保存する可能性があると医師から説明を受けた際、不思議には思ったが害はないだろうと考えた。Laddさんは、「肝臓には血管がたくさんあるので大出血のリスクがあることは手術前の説明で聞いている。研究者達がそのリスクを低減させるために努力しているのは素晴らしいことだと思った」と振り返る。 実際、Laddさんが参加した臨床試験の結果によると、このような採血により肝臓手術中に必要となる輸血のリスクが半減することが明らかになった。この研究結果は、「The Lancet Gastroenterology & Hepatology」に12月9日掲載された。論文の筆頭著者で、オタワ大学(カナダ)肝膵胆道研究部長のGuillaume Martel氏は、「大規模な肝臓手術の直前に血液を患者から採取することは、出血量と輸血を減らすための方法としてこれまでわれわれが見出した中で最良の方法だ」と述べている。 Martel氏らは、肝臓手術を受けた患者の4分の1から3分の1は、過度の出血のため輸血が必要になると指摘する。肝臓手術の最も一般的な理由はがんであるが、残念ながら輸血ががんの再発リスクを高める可能性があるという。 Martel氏らは、2018年から2023年の間にカナダの4つの病院で、肝切除を受ける予定がある患者486人を登録し、循環血液量減少を目的とした瀉血療法を受ける群(245人、瀉血療法群)と通常のケアを受ける群(241人、通常ケア群)にランダムに割り付けた。瀉血療法群は、肝切除前に体重1kg当たり7~10mLの全血を採取された。 最終的に、瀉血療法群223人(平均年齢61.4歳、男性61%)と通常ケア群223人(平均年齢62.1歳、男性51%)を対象に解析が行われた。ランダム化後30日以内の赤血球輸血率は、瀉血療法群で8%(17/223人)、通常ケア群で16%(36/223人)であった。群間差は−8.8(95%信頼区間−14.8〜−2.8)、調整リスク比(aRR)は0.47(同0.27〜0.82)であり、瀉血療法群では輸血リスクが有意に低下していた。また、30日以内に重篤な合併症が生じた割合(瀉血療法群17%、通常ケア群16%)と、あらゆる合併症の発生率(それぞれ、61%、52%)に両群間で有意な差は認められなかった。 Martel氏は、循環血液量減少を目的とした瀉血療法について、「肝臓の血圧を下げることで効果を発揮する。この方法は安全で、簡単で、費用もかからないことから、出血リスクの高い肝臓手術では必ず検討すべきだ」と述べている。 Laddさんの手術は、輸血を必要とすることなく終わり、2年が経過した今もがんは再発していない。Laddさんはこの臨床試験について、「私が選ばれて本当に良かったと思うし、それが他の人の助けになることにも喜びを感じている。この手術は、私の命を救ってくれたと感じている。私は仕事を辞めて、リラックスし、自分のことを大事にするようになった。がんになったのは不運だったが、それが私の目を覚まさせてくれた。以前はただ生きているだけだったが、今は自分の人生を心から楽しんでいる」と話している。 研究グループは、瀉血療法は大幅なコスト削減につながることも指摘している。カナダでは、輸血には350ドル(1ドル154円換算で5万3,900円)以上かかるが、瀉血療法に使われる血液バッグとチューブのコストは20ドル(同3,080円)程度に過ぎない。研究グループは、この手順は現在、肝臓移植の手術で試験されているが、大量の出血を伴いがちな他の手術でも試験的に検討されるべきだとの考えを示している。論文の共著者であるモントリオール大学(カナダ)輸血医学部長のFrançois Martin Carrier氏は、「一度実施してみれば、医療従事者はこの処置の容易さが分かるし、それが手術に与える影響は劇的だ。これは現在、試験に参加した4つの病院で標準治療となっている。この研究結果が公表されれば、世界中の他の病院でもこの処置を採用し始めるはずだ」と述べている。

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鉄剤処方や検査・問診のポイント~「鉄欠乏性貧血の診療指針」発刊

 貧血の7割を占めるといわれる鉄欠乏性貧血。これに関し『鉄欠乏性貧血の診療指針』が2024年7月に発刊された。これまでに「鉄剤の適正使用による貧血治療指針」が2004年から2015年にわたり3回発刊されてきたが、近年では高用量の静注鉄剤をはじめとした新たな鉄剤が普及しつつあることから、鉄欠乏性貧血の診療の改訂が必要と判断され、このたび、タイトルを刷新して発刊に至った。そこで今回、診療指針作成のためのワーキンググループのメンバーである生田 克哉氏(北海道赤十字血液センター)に鉄欠乏性貧血を診断、治療するうえで知っておくべきポイントなどを聞いた。なお、本書は発刊1年後を目処に学会ウェブサイトへPDFとして掲載される予定だ。 本書は以下のように、3つの章と補遺で構成されている。第I章  鉄代謝に関する総論第II章  鉄欠乏・鉄欠乏性貧血の診断指針第III章 鉄欠乏・鉄欠乏性貧血の治療指針補遺  1. 貯血式自己血輸血における自己血貯血    2. 鉄代謝異常症の遺伝的素因について鉄欠乏が進む患者層、現代ならではの問題 まず、第I章では、鉄の生理作用、人体内での鉄イオンの存在様式、鉄代謝制御の概要などが最新の研究結果を基に見直されており、生田氏によると「鉄代謝全般に関して基礎知識を学びたい先生にも有用となる仕上がりとなっている」という。 続いて第II章では、貧血に関する疫学が示されており(p.18表II-1-1、p.19図II-1-1)、女性の場合は高齢者に続き30~40代の貧血の割合が高いことが示されている。これについては、「晩婚化によって生涯の月経回数が増えていることが一因と考えられる。患者には時代に応じた薬物治療や栄養学的実践の指導を行う必要があるため、30~40代の貧血を診断した際には、上記の説明を加えて、鉄の重要性について意識を持っていただけるようにしてほしい」と述べた。 鉄欠乏性貧血の原因の項目(p.24)では、トピックスとして「悪性貧血と鉄欠乏性貧血」が記されているが、一言で貧血と言っても鉄欠乏・鉄欠乏性なのか否かの判断がその後の治療にも大きく左右するため、非常に重要である。たとえば、慢性炎症に伴う貧血と鉄欠乏性貧血を判別するうえでは、検査値としてヘモグロビン(Hb)値:低、平均赤血球容積(MCV)値:低、血清鉄を確認されるだろう。ところが、血液中の鉄量はどちらも減少している状態のため、いずれの検査値も両者とも同じ動向を示してしまう。鉄欠乏性貧血を鑑別する際には、鉄の体内蓄積の指標である血清フェリチンが低いかどうかをしっかり確認してもらいたい」と同氏は強調し、「不飽和鉄結合能(UIBC)を測定することで総鉄結合能(TIBC)にも違いが見られ、さらなる鑑別になる」とも説明した。ただし問題点として、血清フェリチンが炎症の影響で上昇してしまい、本当に鉄が不足しているのかわからないことがある。病態生理的に慢性炎症に伴う貧血はヘプシジンの測定が鑑別に有用であるが、現時点では保険適用はないため、現状はさまざまな病態や検査マーカーを組み合わせて判断してほしい。なお、微量元素の銅や亜鉛も臨床症状によって過不足の判断が難しい項目であるが、貧血の原因となっている場合があるため、貧血の原因が特定できない時には微量元素の測定も推奨していきたい(p.33)」と話した。鉄剤の処方時にうっかりしやすいこと 鉄剤を処方する前に確認しておくべき第III章は、治療方針、鉄剤による治療開始前に患者へ説明しておくべき事項、治療薬の種類、治療効果や鉄剤が効かなかった場合の対応方法について網羅されており、新薬である経口剤のクエン酸第二鉄水和物錠(商品名:リオナ)、注射剤のカルボキシマルトース第二鉄(同:フェインジェクト)やデルイソマルトース第二鉄(同:モノヴァー)の製品特徴に触れている。「新薬については、発売の経緯や特徴がわかりやすくなるよう意識して構成し、本邦における各薬剤の臨床試験については、コラムで紹介する形にして読みやすさを考慮した」と説明した。 さらに、鉄剤の処方時の注意点については、「たとえば循環器領域において、『静注鉄剤の入院率や入院期間への有用性に関する論文』が海外で報告されているが、この研究対象は鉄欠乏ではあるが貧血患者ではない。日本での鉄剤の保険適用はあくまで“貧血がある場合”に限るため、鉄剤を処方する際には鉄欠乏性貧血の診断基準を満たすかどうかを確認する必要がある」と指摘した。なお、実際の投与量や切り替えタイミング、どのような場面での処方が適切なのかは、今後、実臨床からの声をくみ上げて検証・反映させていく予定だという。 このほか、領域別(腎臓内科、消化器内科、産婦人科、小児科)の鉄剤使用法を示している点が本章の特徴である。鉄欠乏性貧血を問診で疑う際、注意したい症状 問診時の注意点として、同氏は「軽い貧血でもおざなりな対応をせず、鉄剤服用後のモニタリング(たとえば、3ヵ月に1回の通院時で血算以外に血清フェリチンを確認)を行い、鉄剤を漫然投与せず、必要に応じて中断し経過観察することも重要」とし、「鉄欠乏性貧血患者が問診時に訴える症状として、氷をガリガリ食べる異食症が散見される。また、脚のつりやむずむず脚症候群に関しても患者本人からの訴えはないものの、問診してみると症状を有している場合があるため、治療モニタリングのためにもこれらの症状がカギとなることを理解しておいてほしい」と症状を探るポイントを説明した。 さらに、鉄欠乏性貧血患者の特徴として「自覚症状や特異的症状がないことも多いため、だるさ(倦怠感)があったり、自律神経失調症と診断されたりした方はHb値に問題なくても実は…という場合がある。気象病や月経前不快気分障害などを自覚する方には鉄欠乏性貧血を疑い、実際に鉄欠乏性貧血を認めた場合には、軽度の貧血であっても鉄剤を処方すると患者さんが見違えるくらい元気になることがある」とコメントした。改訂に至った経緯 最後に、生田氏は改訂の背景について「鉄代謝に関しての新たな知見は集積しているが、鉄欠乏性貧血に関する目立った研究的視点が加わっていなかったため、なかなか改訂に至らなかった。しかし、近年に新たな経口鉄剤や静注鉄剤が登場したことで、今後の鉄欠乏性貧血の診療もそれらを見据えたうえで方針を決定する必要があることから、第3版では対応しきれなくなった」とし、「今回の改訂ではMinds方式を取ることができなかったが、項目立てからしっかり見直し、各領域の専門家が独立して執筆を担当していた第3版に対して、本書はワーキンググループ全体で見解を統一させた。ありふれた疾患であるゆえ、新たな知見が出そろわない、海外でも高いエビデンスを持って適切な治療の推奨ができない、各国で使用する鉄剤が異なるなどの要因がありMinds方式が取りづらく従来の方式を踏襲した」とガイドラインではなく指針に留まった旨についても説明し、「ぜひ、日常診療で本書を役立ててもらいたい」と締めくくった。

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貧血を伴う動脈瘤性くも膜下出血の輸血、非制限戦略vs.制限戦略/NEJM

 動脈瘤性くも膜下出血で貧血を伴う患者において、非制限輸血戦略は制限輸血戦略と比較して12ヵ月後の神経学的アウトカム不良のリスクを改善しなかった。カナダ・オタワ大学のShane W. English氏らが、カナダ、オーストラリアおよび米国の計23施設で実施した研究者主導の無作為化非盲検評価者盲検試験「Subarachnoid Hemorrhage Red Cell Transfusion Strategies and Outcome:SAHARA試験」の結果を報告した。動脈瘤性くも膜下出血後の集中治療管理中の患者において、制限輸血戦略と比較した非制限輸血戦略の有効性は不明であった。NEJM誌オンライン版2024年12月9日号掲載の報告。非制限群(≦10g/dL)vs.≦制限群(8g/dL)で神経学的アウトカムを比較 研究グループは、動脈瘤性くも膜下出血を初めて発症し入院後10日以内のヘモグロビン値10g/dL以下の18歳以上の患者を、非制限輸血戦略群(ヘモグロビン値≦10g/dLで輸血)または制限輸血戦略群(ヘモグロビン値≦8g/dLで輸血)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、12ヵ月時の神経学的アウトカム不良とし、修正Rankinスケールスコア(範囲:0[症状なし]~6[死亡])が4以上と定義した。 また、副次アウトカムは、12ヵ月時の機能的自立度(Functional Independence Measure[FIM]、範囲:18~126)、ならびにEQ-5D-5L効用値(範囲:-0.1~0.95)およびVAS(範囲:0~100)で測定したQOLなどであった。12ヵ月後の神経学的アウトカム不良、非制限群33.5%、制限群37.7% 2015年10月17日~2016年11月21日にパイロット試験として60例、2018年3月11日~2023年7月10日に本試験として682例の計742例が無作為化され、このうち同意撤回等を除外した732例(非制限輸血戦略群366例、制限輸血戦略群366例)が解析対象となった。年齢は平均(±SD)59.4±12.3歳で、82%が女性であった。 12ヵ月時の主要アウトカムは、データが得られなかった7例を除く725例(97.7%)について解析した。神経学的アウトカム不良は、非制限輸血戦略群で364例中122例(33.5%)、制限輸血戦略群で361例中136例(37.7%)に認められた(リスク比:0.88、95%信頼区間[CI]:0.72~1.09、p=0.22)。 12ヵ月時のFIMスコア(平均値±SD)は非制限輸血戦略群82.8±54.6、制限輸血戦略群79.8±54.5(平均群間差:3.01、95%CI:-5.49~11.51)、EQ-5D-5L効用値(平均値±SD)は両群とも0.5±0.4(平均群間差:0.02、95%CI:-0.04~0.09)、VASスコア(平均値±SD)はそれぞれ52.1±37.5および50±37.1(平均群間差:2.08、95%CI:-3.76~7.93)であった。 有害事象の発現率は両群間で同程度であった。

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九州大学医学部 第一内科(血液・腫瘍・心血管・膠原病・感染症)【大学医局紹介~がん診療編】

加藤 光次 氏(准教授)山内 拓司 氏(助教)大村 洋文 氏(助教)近藤 萌 氏(大学院生)講座の基本情報医局独自の取り組み、医師の育成方針私たちが目指す医療は、目の前の患者さんを助けること、そして将来の患者さんを救うことであり、深い洞察を伴う臨床と研究を通じて、この2つの役割を果たすことができる“Physician Scientist”の育成に、医局として力を入れています。九州大学医学部第一内科は、5つの診療研究グループ(血液・腫瘍・心血管・膠原病・感染症)で構成され、各医師が専門領域に精通しつつ、人・全身を総合的に診る力を重視しています。当科では、全体回診を継続するなど、グループや臓器別診療の垣根を越え、全人的に診療できる総合内科医の臨床力を自ずと身に付けることができる土壌が育まれています。さらに、当科の専門であるがんや免疫の領域では、奇跡的とも言える最近の基礎研究から臨床開発への応用を容易に目の当たりにすることができます。このことは、第一内科ならではの特徴で、基礎研究や臨床開発における成果を、専門性を越えて異なる視点やアプローチから学ぶことが可能です。すぐ近くに、自らの視野を広げてくれる環境が整っています。さまざまなグループの垣根を越えた組織の活力は「自由」から生まれ、第一内科開講以来100年以上もの間、それを大切にしてきました。第一内科に息づく「自分のやりたいことがやれる自由度の高さ、そしてそれを支える歴史と伝統」を引き継ぎ、臨床力・研究力・人間力のバランスが取れた“Physician Scientist”を目指す若い皆さまに是非教室にご参加いただき、それぞれがもつ夢を実現して欲しいと思います。全体回診を行い、グループの垣根を越えて診療力を入れている治療/研究テーマ九州大学病院血液内科では、移植推進拠点病院として年間約50件の造血幹細胞移植を実施しています。また、難治性悪性リンパ腫や多発性骨髄腫に対する新規治療であるCAR-T細胞療法も、いち早く導入され、年間50件以上の実施件数を誇っています。研究面では、白血病や悪性リンパ腫を中心とした基礎研究に加え、臨床現場での疑問点を出発点とした研究や、基礎研究から臨床応用を目指すトランスレーショナルリサーチも推進しています。たとえば、白血病幹細胞に発現するTIM3を世界に先駆けて発見し、これをターゲットとした治療薬の開発を進めています。医学生/初期研修医へのメッセージ当科では、細胞治療に関する豊富な臨床経験を積むことができるほか、臨床と研究の距離感が近い環境が整っています。血液がんは一般的に予後が不良な疾患ですが、その治療法は日進月歩で進展しており、新たな治療法の開発に取り組むことができるのが大きな魅力です。血液がんと診断された患者さんは、多大なショックや不安を抱えていますが、少しでも安心できる未来を目指し、共に治療を進めていきましょう。カンファレンスの様子同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力私たち腫瘍グループは、がん治療の最前線で、多職種や複数の診療科と連携し、患者さん一人ひとりに最適な治療を届けることを目指しています。消化器がん、軟部肉腫、原発不明がんなど、幅広いがん種に対し、最新のエビデンスに基づく薬物療法を実践しています。時には合併症で悩むこともありますが、他のグループの先生方にいつでも気軽に相談できるので、心強いサポートを感じています。このように臓器の枠組みを越えた連携が、「全人的に診る」総合内科としての第一内科の強みであり魅力でもあります。患者さんに寄り添い、時に笑い合い、悩みながらも一緒に歩んでいく―それがやりがいであり、私が第一内科に入局した理由でもあります。さらに、研究設備も非常に充実しており、関連病院の先生方と協力しながら存分に研究を行うことも可能ですし、学位取得のチャンスも広がっています。また日本臨床腫瘍学会の認定研修施設として、「がん薬物療法専門医」の資格取得を目指すための高度な教育環境が整っています。臨床、研究、教育のいずれも充実したこの環境で、私たちと一緒に最先端のがん医療に取り組んでみませんか?これまでの経歴山口大学を卒業後、九州大学第一内科(心血管グループ)に入局し、内科専門医・循環器専門医を取得しました。現在は腫瘍循環器診療を行うとともに、がん治療と心血管疾患に関する基礎・臨床研究に力を入れています。同医局を選んだ理由当科は血液、腫瘍、循環器、膠原病、感染症など多様な診療グループがあり、各診療グループ間の垣根がないため、内科医としての知識を幅広く学べる環境が整っています。指導医の先生方は豊富な知識を持ち、患者さんに真摯に向き合っており、その姿勢に惹かれて入局を決意しました。所属する先生方のキャリアは多様で、各々のニーズに応じた働き方やスキル習得が可能です。私もがんと循環器領域の両方に興味を持ち、入局後にがん診療に従事した後、心血管グループに所属しています。現在学んでいること現在は大学院で、がん治療に関連する心血管障害の基礎研究を進めつつ、造血器腫瘍と心血管有害事象、腫瘍循環器リハビリテーションの臨床研究も行っています。がん治療は日々進歩し続けており、その中で患者さんに少しでも良い診療を提供できるよう研鑽を重ねています。九州大学医学部 第一内科(血液・腫瘍・心血管・膠原病・感染症)住所〒812-858 福岡県福岡市東区馬出3-1-1問い合わせ先ikyoku1intmed1@gmail.com医局ホームページ九州大学医学部 第一内科(血液・腫瘍・心血管・膠原病・感染症)専門医取得実績のある学会日本内科学会、日本血液学会、日本輸血・細胞治療学会、日本移植学会、日本臨床腫瘍学会、日本消化器病学会、日本消化器内視鏡学会、日本循環器学会、日本心血管インターベンション治療学会、日本不整脈心電学会、日本アレルギー学会、日本リウマチ学会、日本感染症学会、日本臨床検査医学会、日本救急医学会、日本糖尿病学会 など研修プログラムの特徴(1)血液内科・腫瘍内科・心血管内科・膠原病内科・感染症内科と複数のグループが連携して診療にあたっており、充実したサポート体制のもとさまざまな分野の症例が経験できます。(2)治験や臨床試験をはじめ最先端の治療を実施しており、将来の治療開発に繋がる基礎研究にも精力的に取り組んでいます。希望があれば海外留学も支援します。(3)休日当番制を敷いて、ライフワークバランス実現に取り組んでいます。産休・育休から復帰した女性医師のキャリア支援にも力を入れています。詳細はこちら

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手術目的の入院患者の有害事象、多くは予防可能/BMJ

 米国・ハーバード大学公衆衛生大学院のAntoine Duclos氏らは、多施設共同後ろ向きコホート研究の結果、手術目的で入院した患者の3分の1以上で有害事象が確認され、そのうちの約半数が重大な有害事象であり、また多くが予防できた可能性があることを明らかにした。これまでの研究では、2018年のすべての入院医療で入院患者の約4人に1人に有害事象が認められたことが報告されているが、外科手術(周術期を含む)における有害事象の発生と主な特徴について、最新の評価が必要とされていた。著者は、「今回の結果は、周術期医療全体で、すべての医療従事者が関与し患者の安全性向上を進めていく必要性がきわめて高いことを強調している」とまとめている。BMJ誌2024年11月13日号掲載の報告。11施設の約6万4,000例から無作為抽出した1,009例を解析 研究グループは、米国の11施設(100床未満:2、100~200床:4、201~500床:2、700床超:3)において、2018年に手術目的で入院した18歳以上の成人患者6万4,121例のうち、重み付けランダムサンプリングにより無作為に抽出した1,009例について解析した。 訓練を受けた看護師9人がすべてのカルテを精査して有害事象(医療に起因し、追加のモニタリング、治療または入院が必要となった、または死亡に至った予期しない身体的損傷と定義)を特定した。その後、医師8人が、事象の発生と特徴、重症度を確認し、臨床的に重要な事象(不要な害[harm]を引き起こすが速やかな回復につながる)、重篤な事象(相当の介入および回復期間の延長につながる)、生命を脅かす事象または死亡に至った事象の4つに分類するとともに、それらが予防可能であったかどうかについても評価した。38%に有害事象が発現、全有害事象の21%は予防可能、49%は手術関連有害事象 解析対象1,009例のうち、383例(38.0%、95%信頼区間:32.6~43.4)で1件以上の有害事象が発生し、160例(15.9%、12.7~19.0)で1件以上の重大な有害事象(重篤な事象、生命を脅かす事象または死亡に至った事象)が認められた。 全有害事象593件のうち、353件(59.5%)は予防できた可能性あり、123件(20.7%)はおそらくまたは確実に予防可能であったと判定された。 原因別では、外科手術関連有害事象が最も多く(292件、49.3%)、次いで薬剤関連有害事象(158件、26.6%)、医療関連感染症(74件、12.4%)、患者ケア関連有害事象(66件、11.2%)、輸血関連有害事象(3件、0.5%)の順であった。 有害事象の発生場所は、一般病棟(289件、48.8%)が最も多く、次いで手術室(155件、26.1%)、集中治療室(77件、13.0%)、回復室(20件、3.3%)、救急外来(11件、1.8%)、その他院内(42件、7.0%)の順であった。 有害事象に関与した職種は、主治医(531件、89.5%)、看護師(349件、58.9%)、研修医(294件、49.5%)、上級医(169件、28.5%)、フェロー(68件、11.5%)であった。

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重症βサラセミアへのbeti-cel、89%が輸血非依存性を達成/Lancet

 重症βサラセミアを引き起こす遺伝子型(β0/β0、β0/β+IVS-I-110、またはβ+IVS-I-110/β+IVS-I-110)を有する輸血依存性βサラセミア(TDT)患者において、betibeglogene autotemcel(beti-cel)の投与により約90%の患者が輸血非依存状態になったことが示された。米国・ペンシルベニア大学のJanet L. Kwiatkowski氏らが、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、英国、米国の8つの医療施設で実施した第III相非無作為化非盲検単群試験「HGB-212試験」の結果を報告した。TDTは、生涯にわたる輸血、鉄過剰症および関連合併症を伴う重篤な疾患である。beti-celによる遺伝子治療は、BB305レンチウイルスベクターで形質導入した自己造血幹細胞および前駆細胞を使用するもので、輸血非依存性を可能にする。著者は、「beti-celは、重症TDT患者においてほぼ正常なヘモグロビン値を達成する可能性があり、同種造血幹細胞移植のリスクや限界がなく、治癒を目指す治療選択肢になると考えられる」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年11月8日号掲載の報告。主要アウトカムは輸血非依存状態 HGB-212試験の対象は、β0/β0、β0/β+IVS-I-110、またはβ+IVS-I-110/β+IVS-I-110遺伝子型を有し、登録前2年間に100mL/kg/年以上の濃厚赤血球(pRBC)輸血歴または年間8回以上のpRBC輸血歴がある臨床的に安定した50歳以下のTDT患者であった。 HSPC動員ならびに用量調整ブスルファンを用いた骨髄破壊的前処置を行った後、beti-celを静脈内投与し、24ヵ月間追跡した。 主要アウトカムは、輸血非依存状態(pRBC輸血なしでHb濃度加重平均9g/dL以上が12ヵ月以上持続)の患者の割合で、beti-celの投与を受けたすべての患者(移植対象集団)を解析対象集団とした。安全性は、試験の治療を開始したすべての患者(ITT集団)を対象に評価した。89%が主要アウトカムを達成 2017年6月8日~2020年3月12日に、20例がスクリーニングされた。1例は進行性肝疾患を有しており適格基準を満たさず、1例はHSPC動員およびアフェレーシス後に試験同意を撤回したため、beti-cel投与患者は18例であった。 男性が10例(56%)、女性が8例(44%)で、同意取得時に18歳未満が13例(72%)、18歳以上が5例(28%)であった。また、β0/β0遺伝子型が12例(67%)、β0/β+IVS-I-110遺伝子型が3例(17%)、β+IVS-I-110/β+IVS-I-110遺伝子型が3例(17%)であった。 beti-celを投与された18例全例が、主要アウトカムの評価対象となった。2023年1月30日時点(追跡期間中央値47.9ヵ月[範囲:23.8~59.0])において、18例中16例(89%)が輸血非依存状態を達成した(推定効果量:89.9%[95%信頼区間:65.3~98.6])。 有害事象は、18例全例に認められたが、beti-celとの関連が疑われる重篤な有害事象は認められず、死亡例も報告されなかった。 全例が第III相試験を完了し、現在進行中の13年間の長期追跡試験「LTF-303試験」に登録された。

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骨髄腫研究の最前線:新たな治療法開発への挑戦と期待/日本血液学会

 多発性骨髄腫(MM)は形質細胞の単クローン性増殖を特徴とする進行性かつ難治性の造血器腫瘍であるため、現時点では治癒困難とされる。しかし近年、新たな治療戦略によって長期生存が可能になりつつある。 2024年10月11~13日に開催された第86回日本血液学会学術集会では、『新たなアプローチが切り拓く骨髄腫の病態解析』と題したシンポジウムが行われた。座長の1人である黒田 純也氏(京都府立医科大学大学院医学研究科 血液内科学)は、「多発性骨髄腫の病因・病態のさらなる解明は、新規治療法の開発や個別化医療の推進につながると期待される。そこで、本シンポジウムでは4名の先生方に、最新研究に基づく知見や将来展望についてご講演いただきたい」とあいさつした。多発性骨髄腫の診断・治療における循環腫瘍細胞の役割と展望 MMの前がん病態であり、治療の対象とならないくすぶり型骨髄腫(SMM)患者を対象としたBruno Paiva氏(スペイン・ナバラ大学)らの検討から、治療対象となる症候性MMへの進展リスクを予測するうえで、末梢血中の循環腫瘍細胞(CTC)は骨髄形質細胞(BMPC)の代替となりうることが示唆されている。 また、SMM患者の無増悪期間にCTCの挙動が影響することも確認されたため、Paiva氏は「こうした低侵襲な検査による評価は頻回のリスク再評価を可能にし、予想能を向上させる可能性がある。さらに、わずかなCTCで評価可能な手法も開発されている状況を踏まえると、無症候段階にある患者での有用性が期待される」とした。 一方、新規診断(ND)MM患者におけるCTCの予後的価値に関しては、Paiva氏らの検討によりCTCの割合が高いほど無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)が有意に短縮し、これは標準リスク群、高リスク群に関係なく同様とされたことから、「CTCはNDMM患者における最も重要な予後因子の1つ」と報告している。 そして、「CTCは移植の適応やR-ISS(改訂国際病期分類)と共に、NDMM患者におけるPFSとOSの独立した予測因子であり、CTC不検出であれば完全寛解や骨髄中の微小残存病変(MRD)はPFSとOSに影響しないことを確認している」と付け加えた。 さらにPaiva氏らは、末梢血中の残存病変の予後的価値について検討する中で、CTCを検出する新たなフローサイトメトリー法“BloodFlow”と、免疫グロブリン・サブクラスを検出する質量分析法“QIP-MS”が予後予測能を補完的に向上させることを示し、「血液検査のみで骨髄検査と同等の情報が得られる」と述べた。 「MMの診断・治療には、骨髄検査と共に遺伝子検査やCTCなどを組み合わせたリスク層別化が必要である。また、治療過程では初期には骨髄検査が重要だが、維持期や観察期間中は画像検査も考慮しつつ、末梢血検査で代用できる可能性がある」と結論した。新たな解析技術による多発性骨髄腫の理解 MMの理解にはゲノミクス、トランスクリプトミクス、プロテオミクスなどの観点から腫瘍細胞の特性を捉える必要がある。また、骨髄中の腫瘍細胞の局在と他の細胞との関係性や、どのようなタイミングで臨床的に懸念される病態に至るかを解明することが重要とされる。しかし、「MMは細胞遺伝学的・分子生物学的に多様で不均一なため、従来の解析技術では骨髄腫細胞の詳細を明確にすることは難しい」と、Michael Slade氏(米国・セントルイス・ワシントン大学)は指摘する。 こうした中、Slade氏らのグループはシングルセル解析による新たな腫瘍関連マーカーの特定を試みている。これによると、MM患者41例の骨髄穿刺液53検体を用いたシングルセルRNAシーケンスにより、既知のBCMAのほか、FCRL5やSLAMF7を含む複数の治療標的候補となるタンパク質が特定された。また、これらタンパク質をコードする遺伝子は高い相関もしくは相互に排他的であり、バルクプロテオミクス/RNAシーケンスによる検証で、これらの治療標的候補としての妥当性が確認された。 なお、無症候性から症候性MMへの進行は腫瘍のみならず、その周囲の微小環境の変化が関与するため、治療においてはその影響を考慮すべきであることが認識されつつある。そこでSlade氏らのグループは、腫瘍免疫微小環境の構成をさらに詳しく理解するため、NDMM患者の治療前および治療後に採取した100万個以上のCD138陰性骨髄穿刺液検体をシングルセル解析により評価し、微小環境がMMの進行に関与することや、高リスクの細胞遺伝学的異常を有する患者では治療前から細胞傷害性T細胞や炎症性CD14陽性単球が豊富に存在するといった特有の免疫環境を認めることを明らかにした。 また近年、細胞の空間情報を維持しつつタンパク質・遺伝子の発現およびシグナル伝達を網羅的に評価する“空間マルチオミクス”技術が登場し、多数のプラットフォームが開発されている。たとえば、ドイツの研究グループは、難治性MM患者11例の皮膚や筋肉などの髄外病変を空間トランスクリプトミクスで解析し、細胞遺伝学的異常が空間的に不均一でないことを明らかにした。Slade氏は、「髄外病変は検体として扱いやすいが、骨髄自体の分析にはいくつかの課題がある。われわれはその克服に向け取り組んでいる」とし、「シングルセル解析と空間マルチオミクスの組み合わせがMMの生物学的理解をより深め、新しい発見をもたらすだろう。まだ発展途上だが、これらによる知見がMMの予防や治療法の開発につながるため、今後の期待は大きい」と結んだ。多発性骨髄腫の病態に関与する新たなエピゲノム制御機構の特定 細胞の増殖、分化、アポトーシスの転写制御因子であるMYCはMMをはじめ、多くのがん種で重要な役割を果たしている。そのため、MYCの転写共役因子の特定ならびに詳細なメカニズムの解明は、新規治療法の開発に不可欠と考えられる。 こうした中、転写活性化に関わるH3K4のヒストン脱メチル化酵素KDM5ファミリーは、MYC依存的な細胞増殖メカニズムの重要な制御因子であることが示されている。そして、KDM5ファミリーの中でもとくにKDM5Aは、H3K4メチル化サイクルを制御することでMYC標的遺伝子の転写活性化をサポートするため、MMをはじめとするがん種に対する有望な治療標的と示唆されている。 一方、がん細胞はその発生過程において、前駆細胞に組み込まれた増殖と生存のメカニズムに深く依存している。この“Lineage dependency”と呼ばれる概念はさまざまながん種において認識されているため、正常発達過程に関与する系統関連がん遺伝子を標的とすることは合理的と考えられる。 なかでもIL-6は、MMの発症や進行に重要な因子であることから、これに焦点を当てた系統関連がん遺伝子の特定が行われている。これらの研究に加え、現在、大口 裕人氏(熊本大学 生命資源研究・支援センター)らはIL-6/JAK/STAT3経路におけるMM細胞の増殖と生存を促進するB細胞系転写調節因子の同定を進めている。 「われわれの試みは、MMの病態には異なる2つのメカニズムが関与し、その両者にエピゲノム制御異常が深く関わっていることを支持するものである。このような新たなメカニズムの解明が、本疾患に対する新規治療法の開発につながる」と、大口氏は述べた。多発性骨髄腫の新規治療戦略の開発に向けた骨髄腫モデルマウスの解析 ヒストン脱メチル化酵素のUTX(KDM6A)はエピゲノム制御に関わる遺伝子であり、その変異や欠損を伴うMM患者の予後は不良なため、UTXはMMにおける腫瘍抑制因子とされる。また、RAS/RAF/MEK/ERKカスケードはNDMM患者において最も影響を受ける経路とされ、BRAF遺伝子の中でも活性型BrafV600E変異はとくに重要と考えられている。 こうした背景に基づき、三村 尚也氏(千葉大学医学部附属病院 輸血・細胞療法部)らはUtx欠損かつ活性型BrafV600E変異を有する新たなコンパウンドマウスを作製し、MMの病態解明を試みている。 まず、エピジェネティックな側面の検討から、Utx欠損と活性型BrafV600E変異は疾患の進行を相乗的に加速させ、生存期間の短縮を招くとともに、形質細胞新生物やB細胞リンパ腫、リンパ増殖性疾患といった成熟B細胞腫瘍を誘発した。なお、UTXの腫瘍抑制機能は脱メチル化酵素活性でなく、cIDR(天然変性領域のコアドメイン)が主にその機能を担っていた。さらに、Mycや細胞周期、リボソーム関連遺伝子が腫瘍細胞に多く含まれていることや、クロマチン構造の変化は発症前から始まり、長い時間をかけて徐々に転写が変化してMM発症に至ることが示唆された。 一方、PD-1やTim-3などの共抑制性受容体は疲弊したT細胞に発現し、MM患者ではCD8陽性・PD-1陽性・Tim-3陽性の疲弊T細胞が増加している。 そこで三村氏らは、抗腫瘍免疫応答に関する検討を行い、PD-1陽性・Tim-3陽性の疲弊T細胞は細胞傷害活性が強いものの、アポトーシスを誘導するために寿命が短く、PD-1陽性・Tim-3陰性の疲弊T細胞は抗腫瘍反応の維持に重要な役割を果たしていることを明らかにした。さらに、T細胞を疲弊させる転写因子のToxおよびNr4a2発現がリンパ節や脾臓で上昇していることを確認し、「T細胞の過剰な疲弊を防ぐことが、抗腫瘍免疫の活性・維持につながる」とした。 そして、「本モデルマウスはエピゲノム制御異常と免疫応答の役割を理解する有用なツールである。現在、MMの新規治療戦略について、小胞体ストレス応答、シグナル伝達、エピゲノム修飾、免疫応答に着目した研究を進めており、これらの展開を通してMMの根治を目指す」と結んだ。

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骨髄線維症に10年ぶりの新薬、貧血改善が特徴/GSK

 グラクソ・スミスクライン(GSK)は6月に日本における約10年ぶりとなる骨髄線維症の新薬モメロチニブ(商品名:オムジャラ)の承認を取得した。発売開始に合わせ、10月18日に行われたメディアセミナーでは、近畿大学 血液・膠原病内科 教授の松村 到氏が骨髄線維症の疾患特性や新薬の概要について講演を行った。 骨髄線維症は血液疾患で、骨髄増殖性腫瘍(MPN)のなかの古典的骨髄増殖性疾患に分類される。骨髄組織が線維化することが特徴で、これによって血球産生が障害され、貧血や髄外造血による脾腫、倦怠感などの全身症状を伴い、一部は急性骨髄性白血病(AML)に移行する。患者数は国内で年間約380人と希少疾患の部類に入り、高齢者に多く、生存期間中央値は3.9年(国内調査)と、MPNの中でも最も予後の悪い疾患だ。MPNに共通にみられるJAK2、CALR、MPL遺伝子変異が本疾患の発症と疾患進行にも関与する。 骨髄線維症の薬物療法におけるこれまでのキードラッグは、2014年に承認されたJAK阻害薬ルキソリチニブだ。JAK2経路を阻害することで脾腫を縮小し、全身症状を軽減する効果が見込める。一方で副作用として血小板減少症と貧血が問題となる。今回発売となったモメロチニブはJAK1・JAK2の阻害に加え、アクチビンA受容体1型(ACVR1)の阻害作用も持つ。これにより、鉄代謝を調整するホルモンであるヘプシジンの産生を抑制するため貧血の改善が期待できる。こうした特性により、ルキソリチニブの使用が難しい貧血を有する患者にも使用できる。 今回の承認は、第III相SIMPLIFY-1試験とMOMENTUM試験の結果に基づくもの。SIMPLIFY-1はJAK阻害薬治療歴のない患者を対象に、モメロチニブのルキソリチニブに対する非劣性を検証した試験。主要評価項目は24週時点での脾臓縮小(35%以上)した患者の割合で、モメロチニブ26.5%、ルキソリチニブ29.0%とほぼ同等の結果を示した。全体的な症状改善はルキソリチニブのほうが勝る一方、輸血非依存の割合はモメロチニブ群でより高かった。 MOMENTUMはJAK阻害薬治療歴のある患者を対象に、ダナゾール(貧血治療に用いられるステロイド薬)とモメロチニブを比較した試験。主要評価項目である全身症状の改善でモメロチニブは有意に優れた結果を示した(24週後、モメロチニブ群25% vs.ダナゾール群9%)。 両試験の結果を踏まえ、モメロチニブは未治療・既治療両方の骨髄線維症患者に対する適応を取得した。松村氏は「薬剤の使い分けは今後の議論となるが、貧血や血小板減少傾向のある患者に対してはモメロチニブを優先して使うことになるだろう。10年振りの新薬に期待している」とまとめた。

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CAR-T療法における血球減少の頻度とパターン/日本血液学会

 遷延性血球減少はCAR-T細胞療法の重篤な合併症の1つである。兵庫医科大学の吉原 享子氏は、実臨床における後方視的研究の結果を第86回日本血液学会学術集会で発表した。 CAR-T療法では、リンパ球除去療法の影響でCAR-T細胞投与後に血球減少がみられる。多くの場合改善するが、未回復のまま遷延する症例があり注意を要する。 血球減少にはQuick recoveryタイプ、Intermittent recoveryタイプ(一旦回復したのち再度低下する)、Aplasticタイプ(減少が遷延する)がある。遷延性血球現象の発生機序は、前治療による骨髄予備能の低下、造血幹細胞のCHIPの出現、CAR-TによるCRSやそのほかの免疫学的機序、原疾患の状態などさまざまな機序が関与していると考えられている。そのため疾患およびCAR-T製剤により血球減少の頻度やパターンが異なる可能性がある。 吉原氏らは、ide-celおよび他のCAR-T製剤(tisa-cel、liso-cel)における遷延性血球減少について後方視的に解析した。 主な結果は以下のとおり。・症例は2020年3月~2024年6月に兵庫医科大学でCAR-T療法を受けた116例。投与後5週間以上経過追跡できない例などを除き、解析対象はide-cel22例、それ以外のCAR-T68例(tisa-cel38例、liso-cel30例)となった。・CAR-T投与から血球減少回復までの期間中央値はide-cel群は29.5日、tisa/liso‐cel群は20日と、ide-cel群で長い傾向にあった(p=0.419)。・血球減少タイプについて、ide-cel群はtisa/liso‐cel群に比べ、Intermittent recoveryタイプが多く、6割以上を占めた。・CAR-T投与23日後の好中球数はide-cel群470/μL、tisa/liso‐cel群は1,350/μLと、ide-cel群で有意に少なかった(p=0.0202)。・血球減少の程度を予測するCAR-HEMATOTOXスコアはtisa/liso‐cel群に比べ、ide-cel群でlowリスクが多く、スコアも低い傾向であった。・tisa/liso‐cel群ではCAR-HEMATOTOXスコアとの相関は乏しかった。・ide-cel単独の血球減少はCAR-HEMATOTOXスコアと相関する傾向にあった。好中球回復までの期間は同スコアLowリスク群では28日、Highリスク群では46日であった。また、輸血の必要性はHighリスク群で有意に高かった(赤血球輸血p=0.019、血小板輸血p=0.02)。・ide-cel投与後の好中球回復日数中央値は、フェリチンのピーク中央値(732ng/dL)未満では14日、中央値以上では31日と、高ピーク値で有意に遅延した(p=0.02)。

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発作性夜間ヘモグロビン尿症に経口治療薬が登場/ノバルティス

 ノバルティス ファーマは、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の単剤経口薬イプタコパン(商品名:ファビハルタ)の発売と適正使用の推進に向けて都内でメディアセミナーを開催した。 PNHは、後天性の遺伝子異常により赤血球が補体の攻撃を受けやすくなるまれな血液疾患。わが国には約1,000例程度の患者が推定されている。進行は緩徐であるが、溶血発作を繰り返すことで血栓症や造血不全になることもあり、脳卒中や臓器障害といった重篤な合併症を引き起こすリスクがある。 イプタコパンは、新たな作用機序により、現在使われている補体C5阻害薬による適切な治療を行っても十分な効果が得られないPNH患者のヘモグロビン(Hb)値とQOLを改善する単剤で使用できる唯一の経口治療薬。血管内外の溶血を抑制し、Hb値を改善することでPNHの課題に対処するとともに、患者を輸血などの侵襲的な処置を伴う治療から解放する有効な治療選択肢として期待されている。本セミナーでは、PNHの診療ならびに今後の治療への展望、患者の体験談などが講演された。PNHの治療と課題 はじめに「発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療と課題」をテーマに西村 純一氏(大阪大学大学院医学系研究科血液・腫瘍内科 招聘教授)が講演を行った。 PNHは後天性のまれな造血器疾患であり、わが国に中等症以上の指定難病の受給者証所持者が約1,000例(軽症例も含めると約2,000例は推定される)おり、年々増加している。有病率はアジア圏で高く、診断時年齢はわが国では45歳であり、性差はない。 発症は、補体活性の制御不能により引き起こされ、補体第二経路が介在することが知られている。典型的な症状として、貧血・めまい、疲労、息切れ・呼吸困難、ヘモグロビン尿症、黄疸、腹痛、嚥下困難、男性機能不全などがみられる。そして、3大徴候として「溶血、血栓症、骨髄不全」がみられ、とくに骨髄不全の有無が、再生不良性貧血や骨髄異形成症候群との鑑別でのメルクマールとなる。 PNHでは、慢性溶血によりNOが枯渇し、ヘモジデリンが腎臓尿細管に沈着するために腎機能が障害される。そのためにPNH患者の64%が慢性腎臓病(CKD)であり、21%がステージ3~5であるという報告もある1)。 また、血栓症についてPNHでは、血管内溶血などにより血栓症を合併する。その多くは静脈血栓症であるが、動脈血栓症も発症し、顆粒球のクローンサイズや溶血の程度が大きいほど血栓症リスクは増加する。 PNHの診断フローチャートによれば、溶血所見を確認後、PNHを疑う場合、フローサイトメトリー検査でPNHかそうでないかを診断する。 PNHの治療については、溶血が主体か(古典的PNH)、骨髄不全が主体か(骨髄不全型PNH)で分けて考えられている。骨髄不全が主体の場合、再生不良性貧血の診療が参照となる。一方、溶血が主体の場合、重症、中等症、軽症に分けて治療が行われる。 溶血の治療では、2010年に登場した補体C5阻害薬のエクリズマブから最新の補体B因子阻害薬のイプタコパンまで数種類の治療薬が現在使用できる(ただし抗補体療法は中等症[LDH値が正常の3倍以上、年に1~2回肉眼的ヘモグロビン尿症認知、腎障害、胸痛、腹痛などの症状あり]以上が適応)。 補体C5阻害薬の使用により、血管内溶血の抑制、貧血の改善、患者のQOLの改善、血栓症の予防、ステロイドの減量・中止、抗凝固薬の減量・中止、妊娠の管理ができるなどの効果が得られる。その一方で、持続性貧血の残存2)、輸血依存、疲労感などのQOL不良、治療薬に抵抗性のある患者への対応などの課題もある。 西村氏は「PNH患者のQOL向上のために、溶血に伴う持続性貧血だけでなく、疲労の改善も今後は考える必要がある」と語り、説明を終えた。イプタコパンは貧血に伴う疲労感の改善に期待される PNHに関して、患者の生命予後は良くなったが、患者のQOLの改善は課題とされている。そこで、イプタコパンがどういう効果を及ぼすか、また、今後の治療をどう考えるかについて「国際共同第III相試験の結果から考えるPNH治療の展望」をテーマに、植田 康敬氏(大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科 学内講師)が、イプタコパンのAPPLY-PNH試験の概要を説明した。 イプタコパンの国際共同第III相試験のAPPLY-PNH試験では、主要評価項目として、無輸血で126~168日目にHb値がベースラインから2g/dL以上増加するか、無輸血で126~168日目にHb値12g/dL以上となるかの2項目が評価された。また、副次評価項目として輸血回避、FACIT-Fatigueスコア(日常生活および機能に疲労が及ぼす影響を評価する患者報告アウトカムの指標、がん患者で頻用されている)3)のベースラインからの変化量、網状赤血球数のベースラインからの変化量などが評価された。 試験デザインとして、補体C5阻害薬投与下で貧血を呈するPNH患者97例(日本人9例を含む)について、主要評価期(24週間)にはイプタコパン群62例(日本人6例を含む)と補体C5阻害薬群35例(日本人3例を含む)に分け実施、継続投与期(24週間)には全員がイプタコパンを投与された。 その結果、血液学的奏効ではHb値の改善はイプタコパン群が82.3%だったのに対し、補体C5阻害薬では2.0%だった。また、輸血回避(無輸血)はイプタコパン群が94.8%だったのに対し、補体C5阻害薬では25.9%だった。LDH値の対ベースライン比は、イプタコパン群と補体C5阻害薬はほぼ変わらなかった。これは、血管内溶血の抑制維持を示すものとされる。 副次評価項目であるFACIT-Fatigueスコアでは、イプタコパン群が8.59だったのに対し、補体C5阻害薬では0.31だった(点数が低いほど疲労が大きい)。また、臨床的ブレイクスルー溶血の発現はイプタコパン群が2例(3.2%)だったのに対し、補体C5阻害薬では6例(17.1%)だった。 安全性面について、主な副作用として両群ともに頭痛、悪心、関節痛が報告されているが、死亡などの重篤なものは報告されなかった。 48週後の効果についてもイプタコパン群は、血液学的奏効、輸血回避も効果が持続し、FACIT-Fatigueスコアも高いまま効果が保たれ、安全面でも24週時と同様の結果だった。 植田氏は、「PNH合併症の貧血からくる疲労感が、患者のQOLや予後不良4)、認知機能に大きな影響を与えている。PNHでは貧血だけでなく、この疲労感の改善も考える必要がある。今回発売されたイプタコパンが、今後、これらの患者の疲労感の改善を促し、経口薬という身体に負担の少ない治療によりQOLが改善することを期待する」と述べ、説明を終えた。 最後にPNH患者の体験談として、「当初は15分の徒歩通勤も大変だったこと、最初のころの点滴治療がつらかったこと、現在では経口薬の治療により活動的になったことなど」が語られた。 なお、イプタコパンは、2024年6月24日に製造販売承認を取得し、同年8月15日に薬価基準収載、発売されている。効能・効果は発作性夜間ヘモグロビン尿症。用法・用量は、通常、成人に1回200mgを1日2回経口投与。薬価は7万3,218.10円となっている。

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関節炎を診るときの鑑別診断【1分間で学べる感染症】第13回

画像を拡大するTake home message関節炎を診る際には「急性・慢性」「単関節・多関節」の組み合わせで4つにカテゴリー分けをしたうえで診断を進める。皆さんは関節炎を訴える患者さんを診る際、どのように問診や検査を進めていきますか?今回は、関節炎をカテゴリーに分けてその特徴を学んでいきましょう。関節炎は、その臨床経過や関与する関節の数に基づいて分類され、この分類結果が診断や治療の方針決定に役立ちます。具体的には「急性」か「慢性」か、1つの関節だけに起こる「単関節炎」か、多くの関節に起こる「多関節炎」か、これらの組み合わせで4つのカテゴリーに分類します。I. 急性単関節炎急性単関節炎では、主な原因として細菌性関節炎、結晶誘発性関節炎、外傷性関節炎が考えられます。【細菌性関節炎】細菌性関節炎には非淋菌性と淋菌性があり、非淋菌性関節炎の原因菌としては一般的に黄色ブドウ球菌が最多で、それにβ溶血性連鎖球菌が続きます。また、頻度は高くないものの、高齢者や免疫抑制患者ではグラム陰性桿菌も考えられます。一方、淋菌性関節炎は性行為を介して感染し、移動性の関節痛がみられることが特徴です。【結晶誘発性関節炎】臨床上、細菌性と判断が難しいケースが多いです。痛風と偽痛風があり、偽痛風は、ピロリン酸カルシウムが関節に沈着し炎症を引き起こし、高齢者に多い傾向があります。【外傷性関節炎】外傷や過度の運動によるもの。このほかの急性単関節炎の鑑別としては、反応性関節炎や急性多関節炎の初期段階などが挙げられます。II. 急性多関節炎急性多関節炎では、主な原因として細菌性関節炎、ウイルス性関節炎が考えられます。【細菌性関節炎】感染性心内膜炎を含めた全身性の血行性感染や淋菌性関節炎などが含まれます。感染性心内膜炎は歯科治療歴や心雑音などを診断の手掛かりとします。また、淋菌性関節炎ではリスクのある性交渉歴がポイントとなります。全例ではないものの、移動性の関節痛がみられるのも特徴です。【ウイルス性関節炎】インフルエンザやCOVID-19などを含めた呼吸器感染症のほか、ヒトパルボウイルスB19感染では皮疹や小児との接触歴が重要な診断の手掛かりです。とくに急性HIV感染症はリスクが高く、早期の診断が重要です。また、肝炎ウイルスによるものも報告されており、輸血歴や性交渉歴、刺青がリスクファクターとして挙げられます。このほかの急性多関節炎の鑑別としては、慢性多関節炎の初期段階などが挙げられます。III. 慢性単関節炎慢性単関節炎では、まれであるものの抗酸菌性関節炎や大腿骨頭壊死、悪性腫瘍などが鑑別診断として考えられます。MRIによる画像診断やそのほかのリスクを考慮する必要があります。このほかに、慢性多関節炎の早期段階などが挙げられます。IV. 慢性多関節炎慢性多関節炎では、関節リウマチやSLE(全身性エリテマトーデス)、リウマチ性多発筋痛症を含めた自己免疫疾患をまず検討します。ほかには変形性関節症などが鑑別診断として挙げられます。そのほかの症状や身体所見、家族歴、各種スクリーニング検査などを総合的に判断し診断を進める必要があります。これらの4つのカテゴリーを大まかに理解しながら、さらなる追加問診や該当関節以外の身体所見を加えて、診断のための次なる検査をスムーズに進めていくようにしましょう。1)Earwood JS, et al. Am Fam Physician. 2021;104:589-597.2)Horowitz DL, et al. Am Fam Physician. 2011;84:653-660.3)McBride S, et al. Clin Infect Dis. 2020;70:271-279.4)Lin WT, et al. J Microbiol Immunol Infect. 2017;50:527-531.

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