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「爪白癬は外用薬で治す」は誤解?

 昨年6月にイムノクロマト法を用いた白癬菌抗原キット「デルマクイック爪白癬」が発売されたことを契機に、以前に比べ、内科医でも爪白癬の診断に対応できるようになったのをご存じだろうか。今回、常深 祐一郎氏(埼玉医科大学医学部皮膚科 教授)が『本邦初の白癬菌抗原検査キットによる爪水虫診断と正しい治療法~爪水虫診療は新たなステージへ~』と題し、今年4月に発表された爪白癬の治療実態調査の結果、新たな抗原キットなどについて説明した(佐藤製薬・マルホ共催メディアセミナー)。爪白癬は外用薬で治せる、という誤解 日本人の10人に1人は爪白癬に罹患しており、その多くが高齢者である。高齢者では足の爪白癬が転倒リスク1)やロコモティブシンドローム、フレイルの原因になるほか、糖尿病などの合併症を有する患者においては白癬病変から細菌感染症を発症し、蜂窩織炎や時には壊死性筋膜炎を発症するなど命を脅かす存在になる場合もあるため、完全治癒=臨床的治癒(爪甲混濁部の消失)+真菌学的治癒(直接鏡検における皮膚糸状菌が陰性)を目指す必要がある。 爪白癬の治療は診断さえついてしまえば、外用薬を処方して継続を促せば…と思われることが多いのだが、その安易な判断が「治療の長期化につながり、結局治癒に至らない」と常深氏は指摘した。外用薬は白癬菌が爪の表面に存在する表在性白色爪真菌症(SWO)には効果が高いが、その他の病型では経口抗真菌薬が優れているという。また、「遠位側縁爪甲下爪真菌症(DLSO)の軽症であれば外用薬でも治せると考えられているが、治癒まで時間を要し、その間に次に述べるように脱落が多くなってしまうことから、軽症の間に経口薬で治癒させることが望ましい。もちろんDLSOの中等症以上では経口薬が必要であるし、近位爪甲下爪真菌症(PSO)、全異栄養性爪真菌症(TDO)では経口薬による治療が推奨される」と、病態ごとの剤型の使い分けが重要であることに触れた。皮膚科専門医でも、経口薬を避ける傾向に そうはいっても、とくに高齢者への経口薬処方は、ポリファーマシーの観点や肝機能への影響から敬遠される傾向にある。これに対し、同氏は治療継続率のデータを引用2)し、「経口薬のほうが外用薬より治療継続率が高く、脱落しにくいことが明らかになっている。外用薬の場合は投与開始から1ヵ月時点ですでに4割強が脱落してしまう。一方で、経口薬は投与開始3ヵ月時点でも6割の人が継続している。爪白癬治療に年齢は関係ない」と説明した。 上述のように、治癒率や患者の治療継続率からも爪白癬への経口薬処方が有効であることは明確だが、診断に自信がないと、外用薬で様子を見てしまうということが多そうだ。また、皮膚科専門医は顕微鏡を用いたKOH直接鏡検法で診断することができるが、他科の医師においては視診で判断していることが多いのが実情である。この点について、「皮膚科医であっても視診のみで診断を行うと30%程度は誤った判断をするため3)、やはり検査は必要。爪甲鉤弯症などが爪白癬と誤診されることもある4)」と述べたうえで、「経口薬は外用薬と比較して検査で確定診断がつかないと処方しづらく、“本当に薬を処方していいのか”という不安が処方医に生じる」と医療者側の問題点を挙げた。<爪白癬と誤診されやすい疾患>・掌蹠膿疱症の爪病変・緑色爪(green nail)・黄色爪症候群(yellow nail syndrome)・爪甲鉤弯症・厚硬爪甲 昨年に上市された検査法『イムノクロマト法』は迅速および簡便で感度が高く、皮膚科専門医が行うKOH直接鏡検法や真菌培養法に比べ、技術や検査時間も不問であることから視診による誤診も防ぐことが可能である。同氏は「鏡検できる医師がいない場合、顕微鏡がない施設や往診先での検査に適しており、また、鏡検での見落としを防ぐために検査を併用するのも有用」と述べ、皮膚科専門医ならびに一般内科医に向けて、「精度の高い検査を患者に提供して確定診断が得られた後に適切な薬剤を処方する、という正しい診断フローに沿った治療にもつながる」とコメントした。 最後に同氏はクリニカル・イナーシャ(clinical inertia)5)という言葉に触れ、「これは直訳すると“臨床的な惰性or慣性”。患者が治療目標に達していないにも関わらず治療が適切に強化されていない状態を意味する」と定義を説明し、「患者側がクリニカル・イナーシャに陥る要因は、治療効果の正しい知識不足や経口薬による副作用への懸念、飲み合わせへの懸念などが漠然とある。一方、医師側の要因には完治が必要であるとの認識不足、治癒への熱意や責任感不足などがあり、両者のクリニカル・イナーシャが相乗的に負の方向に働き、外用薬が漫然と使用されてしまう。しかし、爪白癬の治療意義、新たな検査法や経口薬の有用性を理解していけば解決できる」と締めくくった。

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手首の骨折の実態が明らかに―好発年齢は性別により顕著な差

 手首の骨折〔橈骨遠位端骨折(DRF)〕の国内での発生状況などの詳細が明らかになった。自治医科大学整形外科の安藤治朗氏、同大学地域医療学センター公衆衛生学部門の阿江竜介氏、石橋総合病院整形外科の高橋恒存氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Musculoskeletal Disorders」に6月13日掲載された。 DRFは転倒時に手をついた際に発生しやすく、発生頻度の高い骨折として知られており、高齢化を背景に増加傾向にあるとされている。ただし日本国内でのDRFに関する疫学データは、主として骨粗鬆症の高齢者を対象とする研究から得られたものに限られていて全体像が不明。これを背景として安藤氏らは、北海道北部の苫前郡にある北海道立羽幌病院の患者データを用いて、全年齢層を対象としたDRFの疫学調査を行った。なお、北海道立羽幌病院は苫前郡で唯一、整形外科診療を行っている医療機関であり、同地域の骨折患者はほぼ全て同院で治療を受けている。そのため、著者によると、「単施設の患者データの解析ではあるが、骨折に関しては、地域全体の疫学研究に近似した結果を得られる」という。 2011~2020年に同院で治療を受けたDRF患者は280人で、苫前郡以外の居住者20人、および同側のDRF再発患者2人を除外し、258人を解析対象とした。 まず性別に着目すると、女性が73.6%を占め、男女比は1対2.8と女性が多かった。年齢は全体平均が67.0±21.5歳(範囲2~99)で、男性は49.9±30.4歳、女性は73.0±12.9歳だった。発生年齢は二峰性で、最初のピークは10~14歳に見られ大半が男性であり、二つ目のピークは75~79歳でその多くは女性が占めていた。 高齢化の影響を除外するために年齢調整をした上で、人口10万人年当たりの発生率の推移を見ると、女性は222.0~429.2の範囲に分布しており、2011年から2020年にかけて有意に低下していた(P=0.043)。それに対して男性は74.0~184.6の範囲であって、解析対象期間での有意な変化は観察されなかった(P=0.90)。 DRFの発生場所は屋外が67.1%を占めていたが、85歳以上では屋内での発生が多かった。受傷機転は、15歳以上(234人)では転倒が85.3%と多くを占め、次いで高所からの転落が6.9%だった。一方の15歳未満(24人)ではスポーツ中の受傷が50.0%、交通事故が33.3%であって、年齢層により大きな相違が見られた。DRF発生の季節変動も認められ、冬季に多く、とくに冬季の屋外での発生が多かった。 骨折は53%が左手、47%が右手に起きていた。骨折の形態についてはAO/OTA分類という分類で、15歳以上の患者についてはAタイプ(関節外骨折)が78.7%、Bタイプ(関節内部分骨折)が1.7%、Cタイプ(関節内完全骨折)が19.6%と診断されていた。 治療については、15歳未満の患者は全て保存的に治療され、15歳以上では29.1%に外科的治療が行われていた。カプランマイヤー法により、骨折後1年間の死亡率は2.8%、5年間では11.9%と計算された。 著者らは、「本研究により日本国内のDRFの疫学が明らかになった。DRF発生率は諸外国から報告されている数値と類似していた」とまとめるとともに、女性のDRF発生率が経年的に低下していることについて、「骨粗鬆症の標準化された治療法が普及してきていることを反映しているのではないか」との考察を加えている。また、好発年齢が二峰性で男性では若年者、女性では高齢者に多いことに関連し、「若年男性のスポーツ外傷と高齢女性の転倒を防ぐための公衆衛生対策の必要性が示唆される」と付言している。

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精度と速度のバランスを調整して演習する【国試のトリセツ】第7回

精度と速度のバランスを調整して演習するQuestion〈109G61〉72 歳の男性。全身倦怠感を主訴に来院した。現病歴7 日前に自宅を出たところでつまずいて転倒し、腰痛が生じたため自宅近くの診療所にて鎮痛薬を処方されて頻回に服用していた。3日前から全身倦怠感と食欲低下とを自覚していたが、今朝になり食事がとれなくなったため家族に付き添われて受診した。既往歴中学生時に虫垂炎。高血圧症、糖尿病および脂質異常症で内服治療中。生活歴喫煙は60歳まで20本/日を40年間。12年前から禁煙している。飲酒は機会飲酒。家族歴父親が肺癌で死亡。母親が脳卒中で死亡。現 症意識レベルはJCSI-1。身長160cm、体重66kg。体温36.4℃。脈拍52/分、整。血圧120/60mmHg。呼吸数18/分。SpO2 98%(room air)。眼瞼結膜と眼球結膜とに異常を認めない。頸静脈の怒張を認めない。心音と呼吸音とに異常を認めない。腹部は平坦、軟で、肝・脾を触知しない。浮腫を認めない。検査所見血液所見:赤血球383万、Hb 11.0g/dL、Ht 34%、白血球8,400、血小板22万。血液生化学所見:総蛋白7.0g/dL、アルブミン3.5g/dL、総ビリルビン0.9mg/dL、AST 34IU/L、ALT 42IU/L、LD 341IU/L(基準176~353)、ALP 281IU/L(基準115~359)、γ-GTP 48IU/L(基準8~50)、アミラーゼ74IU/L(基準37~160)、CK 162IU/L(基準30~140)、尿素窒素32mg/dL、クレアチニン1.6mg/dL、尿酸8.4mg/dL、血糖124mg/dL、HbA1c 6.8%(基準4.6~6.2)、Na 138mEq/L、K 7.8mEq/L、Cl 108mEq/L。CRP 0.3mg/dL。直ちに行うべき検査はどれか。(a)頭部CT(b)心エコー検査(c)尿中薬物検査(d)12誘導心電図(e)胸部X線撮影

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シスタチンC/クレアチニン比で骨粗鬆症性骨折のリスクを予測可能

 腎機能の指標であるシスタチンCとクレアチニンの比が、骨粗鬆症性骨折の発生リスクの予測にも利用可能とする研究結果が報告された。吉井クリニック(高知県)の吉井一郎氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of General and Family Medicine」に4月20日掲載された。 骨粗鬆症による骨折は、生活の質(QOL)を大きく低下させ、生命予後を悪化させることも少なくない。骨粗鬆症による骨折のリスク因子として、高齢、女性、喫煙、飲酒、糖尿病などの生活習慣病、ステロイドの長期使用などが知られているが、近年、新たなリスクマーカーとして、シスタチンCとクレアチニンの比(CysC/Cr)が注目されつつある。 シスタチンCとクレアチニンはいずれも腎機能の評価指標。これらのうち、クレアチニンは骨格筋量の低下とともに低値となるために腎機能低下がマスクされやすいのに対して、シスタチンCは骨格筋量変動の影響を受けない。そのため骨格筋量が低下するとCysC/Crが上昇する。このことからCysC/Crはサルコペニアのマーカーとしての有用性が示されており、さらに続発性骨粗鬆症を来しやすい糖尿病患者の骨折リスクも予測できる可能性が報告されている。ただし、糖尿病の有無にかかわらずCysC/Crが骨折のリスクマーカーとなり得るのかは不明。吉井氏らはこの点について、後方視的コホート研究により検討した。 解析対象は、2010年11月~2015年12月の同院の患者のうち、年齢が女性は65歳以上、男性は70歳以上、ステロイド長期投与患者は50歳以上であり、腰椎と大腿骨頸部の骨密度およびシスタチンCとクレアチニンが測定されていて、長期間の追跡が可能であった175人(平均年齢70.2±14.6歳、女性78.3%)。追跡中の死亡、心血管疾患や肺炎などにより入院を要した患者、慢性腎臓病(CKD)ステージ3b以上の患者は除外されている。 平均52.9±16.9カ月の追跡で28人に、主要骨粗鬆症性骨折〔MOF(椎体骨折、大腿骨近位部骨折、上腕骨近位部骨折、橈骨遠位端骨折で定義)〕が発生していた。MOF発生までの平均期間は15.8±12.3カ月だった。 単変量解析から、MOFの発生に関連のある因子として、MOFの既往、易転倒性(歩行障害、下肢の関節の変形、パーキンソニズムなど)、生活習慣病(2型糖尿病、高血圧、脂質異常症、心不全、COPD、不眠症など)、ステージ3a以上のCKDとともに、CysC/Cr高値が抽出された。年齢や性別、BMI、骨密度、飲酒・喫煙習慣、骨粗鬆症治療薬・ビタミンD・ステロイドの処方、ポリファーマシー、関節リウマチ、認知症などは、MOF発生と有意な関連がなかった。 多変量解析で有意性が認められたのは、易転倒性と生活習慣病の2項目のみだった。ただし、単変量解析で有意な因子についてROC解析に基づく曲線下面積(AUC)を検討したところ、全ての因子がMOFの有意な予測能を有することが確認された。例えば、易転倒性ありの場合のAUCは0.703(P<0.001)、生活習慣病を有する場合は0.626(P<0.01)であり、CysC/Crは1.345をカットオフ値とした場合に0.614(P<0.01)だった。また、カプランマイヤー法によるハザード比はCysC/Crが6.32(95%信頼区間2.87~13.92)と最も高値であり、易転倒性が4.83(同2.16~10.21)、MOFの既往4.81(2.08~9.39)、生活習慣病3.60(1.67~7.73)、CKD2.56(1.06~6.20)と続いた。 著者らは、本研究が単施設の比較的小規模なデータに基づく解析であること、シスタチンCに影響を及ぼす悪性腫瘍の存在を考慮していないことなどの限界点を挙げた上で、「CysC/Crが1.345を上回る場合、MOFリスクが6倍以上高くなる。CysC/CrをMOFリスクのスクリーニングに利用できるのではないか」と結論付けている。

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アスピリンは健康な高齢者ではむしろ副作用のリスク増

 低用量アスピリンは脳卒中の予防に広く用いられているが、高齢者においては脳卒中の有意な減少は認められず、むしろ頭蓋内出血が有意に増加したという結果が示された。オーストラリア・メルボルンのモナシュ大学のGeoffrey C. Cloud氏らによる本研究の結果は、JAMA Network Open誌2023年7月26日号に掲載された。高齢者に対してはアスピリン使用の副作用にとくに配慮する必要 この報告は、高齢者における低用量アスピリンの副作用リスクとベネフィットのバランスを検討した無作為化二重盲検プラセボ対照試験Aspirin in Reducing Events in the Elderly(ASPREE)の2次解析の結果である。参加者は米国とオーストラリア在住の心血管疾患の既往のない70歳以上の高齢者で、募集は2010~14年に行われた。追跡期間中央値は4.7(四分位範囲[IQR]:3.6~5.7)年で、本解析は2021年8月~2023年3月に行われた。 本試験における主要評価項目は、無障害生存期間(身体障害および認知症のない生存期間と定義)で、アスピリン群とプラセボ群で差はなかったことがすでに報告されている1)。今回報告された脳卒中および出血性イベントはあらかじめ設定された副次評価項目で、転帰は医療記録のレビューにより評価した。 高齢者における低用量アスピリンの副作用リスクとベネフィットのバランスを検討した主な結果は以下のとおり。・1万9,114例が登録され、女性1万782例(56.4%)、年齢中央値74(IQR:71.6~77.7)歳がアスピリン投与群(毎日100mg・9,525例)とプラセボ群(9,589例)に1対1で割り付けられた。・脳卒中を含む頭蓋内イベントの発生率は低く、追跡期間1,000人年あたり5.8人であった。・虚血性脳卒中は、アスピリン群146例(1.5%)、プラセボ群166例(1.7%)で発生し、両群のリスクに統計学的有意差はなかった(ハザード比[HR]:0.89、95%信頼区間[CI]:0.71~1.11)。・出血性脳卒中は、アスピリン群49例(0.5%)、プラセボ群は37例(0.4%)で発生し、こちらも有意差は見られなかった(HR:1.33、95%CI:0.87~2.04)。・出血性脳卒中を含む頭蓋内出血の合計は、アスピリン群はプラセボ群より有意に増加していた(108例[1.1%]vs.79例[0.8%]、HR:1.38、95%CI:1.03~1.84)。 研究者らは「低用量アスピリンの連日投与による虚血性脳卒中の有意な減少は認められない一方で、頭蓋内出血は有意に増加していた。これらの所見は、転倒などで頭蓋内出血を発症しやすい高齢者に対しては、アスピリン使用にとくに配慮する必要があることを示すものだ」としている。

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第52回 「電動キックボード外傷」が急増しませんか?

電動キックボード解禁Unsplashより使用7月1日から改正道路交通法が施行され、最高時速20km以下で一定の要件を満たす電動キックボードに関して新制度がスタートしました。これまでは電動キックボードは「原動機付自転車」(原付バイク)の位置付けでしたが、今回から「特定小型原動機付自転車」となり、自転車と同じ交通ルールが適用されるようになります(図)。図.電動キックボード新ルール(政府広報オンライン)図.電動キックボード新ルール(政府広報オンライン)つまり、運転免許は不要で、車道を走行し、自転車と同じようにヘルメット着用については努力義務扱いとなっています。街中を走る電動キックボードがノーヘルで走ることになり、自転車が逆走してもよい一方通行も逆走可能になります。要は時速20kmが出る原付が、自転車と同じ扱いになる点が懸念材料とされており、世間は賛否両論です。私個人としては電動キックボードを車で轢きそうになったことがあるので、解禁する方向へ動くのは、どちらかといえば反対なんですよね。いや私見で申し訳ないんですが。外傷リスク上記の速度で歩道を走ることはできず、最高時速を6km以下に設定し、緑色のライトを点滅させれば走行可能です。でも現時点で歩道をビュンビュン走っている電動キックボードが多いので、無法地帯になるのではと懸念しています。電動キックボードはタイヤが小径です。段差などの衝撃の影響は自転車よりもはるかに受けやすく、転倒リスクが高いです。自転車が乗れなくなった高齢者が電動キックボードを利用するようにならないか不安もあります。「今後高齢者の足として電動キックボードを利用してみたらどうか」という声もありますが、自転車に乗れなくなった人がスケボーに乗れるはずがないので、外傷リスクが増すだけだと思います。そして、電動キックボードで頭頚部外傷を起こした症例の2~3割は飲酒運転とされており1,2)、これが一番懸念されることかなと思っています。自転車も当然飲酒運転はダメなのですが、「まいっか」みたいな風潮がどこかにあります。参考文献・参考サイト1)Clough RA, et al. Major trauma among E-Scooter and bicycle users: a nationwide cohort study. Inj Prev. 2023 Apr;29(2):121-125.2)Kowalczewska J, et al. Characteristics of E-Scooter-Related Maxillofacial Injuries over 2019-2022-Retrospective Study from Poznan, Poland. J Clin Med. 2023 May 26;12(11):3690.

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日本における抗認知症薬に関連する有害事象プロファイル

 抗認知症薬であるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬に関連する有害事象(ADE)の発生率は、5~20%と推定されており、さまざまな症状が認められる。しかし、各抗認知症薬のADEプロファイルの違いを検討した報告は、これまでなかった。帝京大学の小瀬 英司氏らは、抗認知症薬とADEプロファイルに違いがあるかを検討した。Die Pharmazie誌2023年5月1日号の報告。 医薬品副作用データベース(JADER)に基づき、データを収集した。2004年4月~2021年10月のADEデータを分析するため、レポートオッズ比(ROR)を用いた。対象薬剤は、ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンとした。最も発生頻度の高い有害事象の上位10件(徐脈、食欲不振、意識喪失、発作、変性意識状態、転倒、せん妄、嘔吐、失神、横紋筋融解症)を選択した。主要アウトカムはRORとし、副次的アウトカムは抗認知症薬に関連するADEの発現年齢および発生までの期間とした。 主な結果は以下のとおり。・70万5,294件のレポートを分析した。・ドネペジルでRORが最も高かったのは、横紋筋融解症(ROR:2.40、95%信頼区間[CI]:2.031~2.825)であり、次いで食欲不振(ROR:2.01、95%CI:1.770~2.285)、発作(ROR:1.54、95%CI:1.345~1.765)、徐脈(ROR:1.53、95%CI:1.367~1.716)、失神(ROR:1.33、95%CI:1.137~1.562)であった。・ガランタミンでRORが最も高かったのは、意識喪失(ROR:1.89、95%CI:1.643~2.183)であり、次いで徐脈(ROR:1.50、95%CI:1.321~1.713)であった。・リバスチグミンでRORが最も高かったのは、嘔吐(ROR:2.01、95%CI:1.733~2.323)であり、次いでせん妄(ROR:1.63、95%CI:1.407~1.900)、転倒(ROR:1.42、95%CI:1.219~1.647)であった。・メマンチンでRORが最も高かったのは、意識喪失(ROR:3.03、95%CI:2.634~3.480)であり、次いで転倒(ROR:3.01、95%CI:2.593~3.495)、変性意識状態(ROR:2.13、95%CI:1.823~2.480)、失神(ROR:2.05、95%CI:1.710~2.452)、発作(ROR:1.81、95%CI:1.542~2.113)、横紋筋融解症(ROR:1.68、95%CI:1.385~2.033)であった。・薬剤ごとに有害事象は発生率に違いが認められた。・徐脈、意識喪失、転倒、失神の発生率に有意な違いが認められた。・カプランマイヤーによる累積ADE発生率では、ドネペジルは発生までの時間が最も遅く、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチンは、ほぼ同様であることが確認された。

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併存症のある患者での注意点~高齢者糖尿病診療ガイドライン2023/糖尿病学会

 5月11日~13日に城山ホテル鹿児島をメイン会場に第66回 日本糖尿病学会年次学術集会(会長:西尾 善彦氏[鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 糖尿病・内分泌内科学 教授])が「糖尿病学維新-つなぐ医療 拓く未来-」をテーマに開催された。 高齢者の糖尿病患者では、糖尿病とは別に併存症があるケースが多い。では、糖尿病以外の疾病もある高齢者の糖尿病患者の診療はどうあるべきであろう。 本稿では、「シンポジウム10 より良い高齢糖尿病ケアを目指して」より「高齢者糖尿病の合併症と併存症」(杉本 研氏 [川崎医科大学総合老年医学])の口演をお届けする。 2023年5月に『高齢者糖尿病診療ガイドライン 2023』(以下「ガイドライン」と略す)が上梓され、今回の口演は、このガイドラインの内容を踏まえて構成されている。 今回のガイドラインの改訂では、合併症と併存症につき、「併存症」が独立して章立てされた。また、併存症の予防・管理が、健康寿命の延伸には重要となることが改めて確認され、引き続き、高齢の糖尿病患者の診療では、平均余命の減少と低血糖の高リスクをどのように防止するかが重要とされている。 とくに杉本氏は「高齢者の併存疾患で注意したいのが、動脈硬化性疾患であり、高齢者のADLとQOLを大きく損ない健康寿命などに影響を与える」と診療での注意点を強調した。 続いて先のガイドライン中で「高齢者の併存疾患」を取り上げ、重要なポイントを説明した。 なお、ガイドラインでは、「CQ」と「Q」に分けて、「CQ」は「推奨度(推奨グレード)を問う疑問として回答が可能な臨床的疑問」を、「Q」は「CQ以外の臨床的疑問(推奨グレードは付さない)」について記述している。■高齢者の糖尿病治療が認知機能などの低下抑制になるかは不明 CQ V-3「高齢者糖尿病における(厳格な)血糖コントロールは認知機能低下・認知症発症の抑制に有効か?」というCQでは「血糖コントロールが認知機能低下、認知症発症予防に有効であるかについては、結論が出ていない」(推奨グレードU:推奨するだけの明確根拠がない)、「糖尿病治療薬による治療が認知機能低下、認知症発症予防に有効であるかについては、結論が出ていない」(推奨グレードU)として研究の余地を残している。 Q V-4「高齢者糖尿病の高血糖はフレイル、サルコペニアの危険因子か?」というQでは「高齢者糖尿病または高血糖は、フレイル、サルコペニアの危険因子である」とされ、これについて杉本氏は「8つのメタ解析から糖尿病はフレイルの危険因子となり(オッズ比1.48)1)、サルコぺニアはBMI25以下で増加する」と説明した。 同様にQ V-5「高齢者糖尿病のHbA1c低値または低血糖はフレイル、サルコペニアの危険因子か?」というQでは「高齢者糖尿病のHbA1c低値または低血糖はフレイル、サルコぺニアに危険因子である」としている。 Q V-6「高齢者糖尿病における血糖コントロールは筋量や筋力の維持に有効か?」というQでは「高齢者糖尿病の血糖コントロールが筋量や筋力の維持に有効かは明らかではない」としている。ただ、HbA1cとサルコぺニアの関係では、いくつかの論文で弱い相関を示唆するものもあり、今後研究が待たれる。また、薬物治療の影響については、フレイルとSGLT2阻害薬との関係は「現状では『明らかでない』としか言えない」と杉本氏は説明した。 Q V-8「高齢者糖尿病の高血糖または低血糖は転倒の危険因子か?」というQでは「高齢者糖尿病の高血糖または低血糖は転倒の危険因子であり、インスリン使用者ではとくに注意を要する」と転倒への注意を記載している。 Q V-9「高齢者糖尿病における血糖コントロールは転倒の予防に有用か?」というQでは「高齢者糖尿病における血糖コントロール状態は転倒に影響するが、厳格な血糖コントロールの影響は明らかではない」、「高齢者糖尿病における血糖コントロールの改善が転倒の予防に有用であるかは不明である」と研究の余地を残している。■高齢者糖尿病の心不全の予防・改善に糖尿病治療薬は有効か 悪性腫瘍や心不全、multimorbidity(多疾患罹患)についても触れ、とくに心不全、multimorbidityでは次の3つのQについて説明を行った。 Q V-16「高齢者糖尿病において糖尿病治療薬は心不全の予防・改善に有効か?」というQでは、「高齢者糖尿病においてSGLT2阻害薬は心不全の予防・改善に有効な可能性がある」とする一方で「高齢者糖尿病においてDPP-4阻害薬が心不全リスクに及ぼす影響は明らかではない」と記載している。 そして、このQに関して杉本氏は、SGLT2阻害薬による心不全への影響は70歳以上でより良かったとする報告2)がある一方で、有意なBNPの低下がなかったとする報告もある3)ことを述べ、自験例としながらもSGLT2阻害薬で左室心筋重量係数(LVMI)の低下がみられたことを報告した。 Q V-18「高齢者糖尿病はmultimorbidityとなりやすいか?」というQでは、「高齢者糖尿病はmultimorbidityとなりやすい」と記載している。 また、Q V-19「高齢者糖尿病のmultimorbidityではどのような点に注意すべきか?」というQでは「高齢者糖尿病のmultimorbidityにどのような対応を行うべきかのエビデンスは不足しているが、低血糖に注意し、多職種で患者・家族の意思決定の支援をしながら目標を設定していくことが望ましい」と記載している。 今回のガイドラインを受け杉本氏は75歳以上では4つ以上の疾患の合併割合が多くなること、とくに認知症、腎機能不全、骨折が多くなることを指摘するとともに、「重症低血糖では、糖尿病治療薬もインスリンやSU薬など3剤以上の併用も多くなり、ポリファーマシーへの配慮も必要」と述べ、口演を終えた。■参考文献1)Hanlon P, et al. Lancet Healthy Longev. 2020 Dec;1:e106-e116.2)Martinez FA, et al. Circulation. 2020;141:100-111.3)Tamaki S, et al. Circ Heart Fail. 2021;14:e007048.

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患者情報から治療期間を評価して、漫然投与薬の中止を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第54回

 今回は、長期服用薬の治療期間を疑問に思い、患者情報を収集し直して漫然投与となりがちな薬剤の必要性を再考した症例を紹介します。副作用などの問題がなくても、治療の適応があるのかどうかを定期的に考える機会は必要です。急性疾患で処方された薬剤がいつまで必要なのか、慢性疾患であれば処方時点と現在で治療内容が妥当であるのか否かを、薬剤師の視点で評価しましょう。患者情報85歳、女性(施設入居)基礎疾患アルツハイマー型認知症介護度要介護2服薬管理施設職員が管理処方内容1.カルバゾクロムスルホン酸ナトリウム錠30mg 3錠 分3 毎食後2.トラネキサム酸錠250mg 3錠 分3 毎食後3.五苓散エキス顆粒 3包 分3 毎食後4.クエン酸第一鉄ナトリウム錠50mg 3錠 分3 毎食後本症例のポイントこの患者さんは半年前の施設入居時から上記の処方薬を服用していました。処方監査を実施していた薬剤師が、採血結果もなく、病歴も認知症のみなのになぜ止血剤および鉄剤を飲んでいるのか不明であったため、基礎疾患や治療経過を収集する治療計画(Care plan)を立案しました。当然、出血既往があると予測はつきますし、そのための貧血治療と考えるのが妥当ですが、いつ・どこの・どの程度の出血なのか明確でないことに違和感がありました。担当薬剤師へ情報を引き継ぎ、担当薬剤師が施設訪問時に看護師と入居前に入院していた病院の看護サマリーと診療情報提供書を確認しました。すると、繰り返す転倒から慢性硬膜下血腫が生じ、1年前に穿頭血腫ドレナージ術を施行していたことがわかりました。術後の再出血予防および血腫サイズの縮小などを目的に現行の治療薬が処方され、クエン酸第一鉄もそのときの採血結果をもとに追加されていました。そこで現在の主治医が外科医であることから現行薬の必要性を相談することにしました。医師への相談と経過主治医に電話で、長期的に現行薬を服用していて服薬アドヒアランスは維持されていることを伝えたうえで、病歴の聴取、今後の脳外科受診などの予定について確認しました。また、今後の治療方針も確認しました。主治医は病歴を把握していたものの、現行薬を今後どうするかについては保留中だったそうで、前回の術後頭部CT画像の確認から現行薬の必要性はないだろうという返答がありました。また、貧血治療も採血予定(Hb、フェリチン、TIBC、MCVなど)を組んだので、そこで鉄剤の中止を検討するとのことでした。最後に医師より、長期服用薬の評価は緊急性がなければ後回しになってしまうことが多いので、こういうアシストはとても助かるとお礼がありました。患者さんは現在も施設で転倒もなく、出血イベントも起きずに生活しています。鉄剤もその後の採血結果で異常所見はなく、治療は終了となりました。薬が終了したことで本人の服薬負担も看護師の与薬負担も減らすことができました。このように、病歴確認と見直しを行い、漫然投与となりがちな薬剤について今一度治療の適応があるのかどうか考える機会は必要です。治療継続の必要可否について確認する薬剤師のアプローチも多剤併用を予防するポジティブアクションに繋がると実感しました。

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軽症頭部外傷【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第3回

今回は軽症頭部外傷の治療についてです。軽症頭部外傷で悩むことが多いのが、「頭部CTを撮るべきかどうか」ではないでしょうか? しかし、救急の教科書にはどういった場合に頭部CTを撮影することが推奨されるかという記載は充実していますが、CTがない施設や患者が撮りに行けない場合の対応に関する記載はあまりありません。今回は、私が在宅や診療所で困ったケースの対応を紹介します。まず、軽症頭部外傷は「Minimum head injury」と「Minor head injury」の2つに分かれます。この2つを表現する適切な日本語は難しいですが、Minimum head injuryは受傷機転(外傷を負った原因・経緯)が失神でなく、受傷後の意識障害を伴わないものを指します。Minor head injuryは受診時のグラスゴー・コーマ・スケール(Glasgow Coma Scale:GCS)が13~15点で、(1)受傷機転が失神、(2)健忘を伴う、(3)意識障害を伴う、のいずれかを満たすものを指します。軽症頭部外傷でCTを撮影するかどうかの判断でよく使われるのが、カナダ頭部CTルール(Canadian CT Head Rule:CCHR)です1,2)。カナダ頭部CTルール画像を拡大するカナダ頭部CTルールを使うときに、よく若手医師は65歳以上の軽症頭部外傷患者全員のCTを撮ろうとします(私もそうでした…)。しかし、カナダ頭部CTルールの選択基準はMinor head injuryであり、Minimum head injuryではありません。Minor head injuryでカナダ頭部CTルールを1つでも満たす場合はCT撮影を考慮します。こう考えるとCT撮影がやや減るのではないでしょうか。しかし、認知症がある高齢者ではそもそも受傷時のことを覚えていない場合もあり、MinorかMinimumかを鑑別することは困難です。カナダ頭部CTルールは「医学的介入(受傷7日以内に頭蓋内疾患による死亡、もしくは受傷7日以内に、開頭手術、頭蓋整復術、頭蓋内圧モニタリング)が必要な頭蓋内損傷」の否定を目的としているため、神経学的介入の必要がない脳出血は除外できないという問題もあります。また、高齢者は慢性硬膜下血腫のリスクがあり、たとえきちんと説明していたとしてもトラブルになることがあります。「軽く頭をぶつけただけなのでCTを撮影しなかった。2ヵ月後に慢性硬膜下血腫となり、家族になぜ前回の受診時にCTを撮らなかったのか文句を言われている」という経験を数例聞いたことがあります。頭部外傷で救急外来に来る患者の多くは、不安を解消するために来院します。被爆のことを考えるとなるべく撮りたくない気持ちもありますが、CTが普及している日本ではそこまでCTを回避する必要はないのかもしれません。ちなみに、CTを撮影しても頭蓋内に異常がないことがほとんどであり、帰宅後の注意点を説明して帰宅とします。CTを撮っても撮らなくてもマネジメントは同じとなることが多いです。では、すぐにCTを撮ることができない場合はどうでしょうか?<症例1>80歳、男性、施設入居中既往症:パーキンソン病、認知症訪問診療で訪れたところ、患者の右眼がパンパンに腫れあがっていて目が開けらない状態であった。話を聞くと、前日の夜に車椅子から落ちて顔面を受傷したが、すぐに反応があり、ぶつけたところを痛がるのみで異常がないため経過観察となっていた。朝には右目が腫れていたが、患者からとくに訴えはない。バイタル:Stable GCS E4V4M6(受傷前と同等)右目を何とか開いてみたところ、眼球運動に障害なし。視力も問題なし、その他の神経所見も異常なし。患者が病院に受診するには家族に来てもらわなければならないが、息子は「症状がないなら様子をみてほしい」とのこと。皆さんはこの患者さんにどう対応しますか? きっと答えはないと思います。この患者さんには認知症があり、そもそも受傷時の出来事を覚えていません。そのためOver triageして受傷時に健忘があったとみなしてカナダ頭部CTルールに組み込みました。受傷後のGCSは15点未満ですが、これは受傷前と変化がないため項目として採用しませんでしたが、「パンダの眼サイン」と「65歳以上」が当てはまり、頭部CTの考慮対象となります。とくにパンダの目徴候が出ているため、頭蓋内出血に加えて顔面骨骨折を伴っている可能性が高いです。顔面骨骨折で忘れてはいけないのが吹き抜け骨折で、外眼筋が陥頓してしまい眼球運動障害が生じます。幸い、視力障害や眼球運動障害はなかったため、やや緊急度は落ちると考えました。ちなみに、もしこの患者さんに受傷時の記憶があり、Minimum head injuryと判断してカナダ頭部CTルールに組み込まなくても、パンダの眼サインがある時点で私はCTを撮っていたでしょう。総合的に考えて、救急車を呼ぶほどの緊急性はないものの、なるべく早い受診が必要と判断しました。そこで、息子さんに電話で説明して明日の午前中に来てもらうことになり、施設職員には何か変化があればすぐに連絡するように伝えました。翌日、近くの脳神経外科を受診したところ、頭蓋内は問題なく、眼科内側壁に骨折がありましたが保存的加療となりました。2週間後の診察では若干腫れが引いていて、とくに問題なく生活することができていました。次にこの患者さんはどうでしょうか?<症例2>72歳、女性、夫と自宅で2人暮らし既往歴:認知症患者が認知症の夫の面倒をみていたが、次第に患者本人も認知症が進み、通院が困難となったため2人とも訪問診療を受けている。診察当日の朝5時ごろ、トイレに行こうと畳の上の布団から立ち上がった際に転倒。頭を机の角にぶつけて出血し、ティッシュペーパーで圧迫して止血した。日中にケアマネジャーが血まみれの患者を見つけ、緊急往診を依頼した。患者は夫を置いて病院に行くことができないので受診したくないと言っている。バイタル:Stable GCS E4V5M6後頭部に1cmくらいの挫創があるが止血済み。瞳孔は3mm 3mm ++、神経所見に異常なし。受傷機転もしっかりと覚えていて、ぶつけた先が机の角であったため出血していますが、強いエネルギーは加わっていないと考えられます。よってMinimum head injuryとなります。この場合明確にCTを撮る・撮らないという臨床予測ツールはありませんので、患者の状況とリスクを兼ね合い判断します。今回は、頭蓋内出血のリスクは低いと考え、本人も病院受診をしたくないことを加味して経過観察の方針としました。頭部の挫創は本人が注射嫌いとのことで毛髪縫合を施行しました3)。髪質によっては、合成皮膚表面接着剤(ダーマボンドなど)で縫合部を固めますが、往診セットになく、患者の髪で比較的強固に縫合できたのでその日はそのまま縫合し、髪は洗わずに翌日以降の洗浄を指示しました。1週間後に診察したところ創部はきれいで、毛髪縫合もほどけていなかったので、伸びてきた髪の根元を切りました。今回はCTを撮影することが困難な環境での軽症頭部外傷の治療を紹介しました。日本の人口当たりのCT台数は世界一であり、私はCTがない総合病院で働いたことはありません。被爆のことを考えるとなるべく撮りたくない一方で、その手軽さからCTを撮ることに年々悩まなくなっているところもあります。しかし、CTがない施設や患者が撮りに行けない場合も多々あります。「これが正しい」というものはないかもしれませんが、ご参考までに。1)Stiell IG,et al. Lancet. 2001;357:1391-1396.2)Smits M, et al. JAMA. 2005;294:1519-1525.3)Hock MOE, et al. Ann Emerg Med. 2002;40:19-26.

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経口difelikefalin、CKD患者のかゆみの軽減に有望

 そう痒症は、後期慢性腎臓病(CKD)患者において多く認められるが、中等度~重度のそう痒症を伴うCKD(ステージ3~5)患者において、経口の選択的κオピオイド受容体作動薬difelikefalin(本邦では静脈注射用製剤が申請中)が、そう痒を大幅に軽減し、その状態を維持することが示された。米国・University of Miami Miller School of MedicineのGil Yosipovitch氏らが、第II相二重盲検無作為化プラセボ対照用量設定試験の結果を報告した。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2023年4月12日号掲載の報告。 研究グループは、非透析CKD患者と透析治療を受けるCKD患者のかゆみの軽減について、経口difelikefalinの有効性と安全性を評価した。 本試験の対象は、中等度~重度のそう痒症を伴うCKD(ステージ3~5)の非透析患者および透析治療を受ける患者であった。対象患者を経口difelikefalin(0.25mg、0.5mg、1.0mg)各用量群またはプラセボ群へ無作為に均等に割り付け、1日1回12週間投与した。 主要エンドポイントは、12週時の週平均Worst Itch Numeric Rating Scale(WI-NRS)スコアの変化であった。 主な結果は以下のとおり。・269例が無作為化され、ベースライン時のWI-NRSスコア(平均値±標準偏差)は7.1±1.2であった。・経口difelikefalin 1.0mg群はプラセボ群と比較して、2週時から週平均WI-NRSスコアが有意に減少し(p<0.05)、12週時においても有意に減少していた(最小二乗平均差:-1.1、p=0.018)。経口difelikefalin 0.25mg群および0.5mg群においても、週平均WI-NRSスコアの数値的な減少が観察された。・12週時において、経口difelikefalin 1.0mg群では38.6%が完全奏効(WI-NRSスコア0~1)を達成した。一方、プラセボ群の達成率は14.4%であった。・経口difelikefalin 1.0mg群はプラセボ群と比較して、そう痒に関するQOL尺度のベースラインからの変化が、20%程度数値的に改善した。・治療下で発現した有害事象のうち、最も多くみられた事象は、めまい、転倒、便秘、下痢、胃食道逆流性疾患、疲労、高カリウム血症、高血圧、尿路感染であった。

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軽度熱傷【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第1回

はじめまして!聖マリアンナ医科大学病院 救急医学の沼田と申します。主に救急科で勤務しながら、総合診療医、小児救急、集中治療を勉強してきました。最近は緩和ケアを勉強しています。オフ・ザ・ジョブトレーニングでは、外科系救急初期診療を学ぶ「T&Aマイナーエマージェンシーコース」のコアメンバーとして活動しています。このコラムでは、かかりつけ医が診る機会の多い軽症救急疾患の治療を、救急医の視点でわかりやすく解説していきます。初回は熱傷の中でもI、II度の軽度熱傷の治療についてです。熱傷にはさまざまな原因がありますよね。天ぷらを揚げていた、子供が電気ケトルを倒した、カセットコンロが爆発した…など。熱傷の加療の方向性はほぼ同一ですが、医師によって使用する薬剤や被覆材にはばらつきがあると感じています。大まかな治療に関してはAmerican family physicianの「Outpatient burns: prevention and care」と日本熱傷学会の「熱傷診療ガイドライン(改訂第3版)」を基に、私の経験も交えながらポイントを解説します1,2)。22歳男性。夜間にカップラーメンを食べようとして、カップに熱湯を入れて移動した際に転倒し、熱湯が両腕にかかり受診。既往歴なし、内服歴なし、アレルギー歴なし、バイタル特記事項なし。右前腕に5cm程度の発赤、左前腕に3cm程度の発赤と水疱が2ヵ所ある。水疱の1つは1cm程度、もう1つは3cm程度で破れている。これは、私が近くに皮膚科がない地方の内科外来で働いていたときに経験した症例です。熱傷の治療は、ステップを踏んで診察をしていくことが重要ですので、今回はこの症例を基にどういう判断や対応を行ったかお話しします。1. すぐに入院が必要かどうかの判断(1)受傷部位私の専門が救急であり、火災などによる熱傷に遭遇することもありますが、その場合に最も警戒するのは気道熱傷です。火災が関連している熱傷では、顔面熱傷がないかどうかを確認し、気道熱傷がある場合は人工呼吸管理を行うため入院が必要です。今回の症例は、両腕に熱湯がかかったことによる熱傷ですので気道熱傷はありません。(2)熱傷面積熱傷の面積によっては病院や熱傷センターなどへの搬送が必要になりますので、熱傷の範囲を把握します。よく使われるのが「9の法則」です。頭部、右上肢、左上肢をそれぞれ9%、体幹部の前面、後面をそれぞれ18%、右下肢、左下肢をそれぞれ18%、陰部を1%として熱傷面積を推定します。画像を拡大するまた、熱傷面積が小さく、散在しているときは「手掌法」を用います。これは、手のひらの大きさを体表面積の1%と換算して熱傷面積を推定します。患者の入院の必要性を判断するにあたっては、「Artzの基準」がよく用いられます。II度熱傷の面積が15~30%、III度熱傷の面積が2~10%で一般病院での入院加療が必要とされています。逆に言えば、この面積以下であれば外来通院でよいでしょう。今回の症例の熱傷範囲は1~2%程度ですので、外来通院としました。2. 後日専門医への相談が必要かどうかの判断(1)受傷部位受傷部位で専門的な加療が必要かどうか変わってきます。顔面、手指、肛門、陰部の熱傷や、大関節(肩、膝、股関節)を超える熱傷は、美容や機能予後に影響を与えるので、可能であればなるべく早く専門医に診察してもらいましょう。(2)深達度熱傷には、I度、II度、III度があります。I度は発赤のみ、II度(浅達)は水疱を形成して水疱底の真皮が赤色、II度(深達)は水疱を形成して水疱底の真皮が白色、III度は白色皮革様もしくは褐色皮革様で感覚が消失します。III度熱傷は、適切に治療したとしても拘縮して植皮が必要になる可能性が高いため、専門医に紹介するべきです。II度の浅達か深達かの判別は専門医でなくては困難ですが、治療もとくに変わらないので必ずしも判別する必要性はないと考えます。この患者は、右前腕は発赤のみでI度、左前腕は水疱を形成していてII度熱傷となります。3. 治療(1)冷水での洗浄ここからは、症例のような軽症熱傷を通院加療する流れを記載します。どこで受傷したとしてもまず推奨されるのが冷水での洗浄です。実は強いエビデンスはないと言われていますが、熱傷を負った人の治療で「水で洗う vs.水で洗わない」の検証は倫理的に問題があり行えないため、実際の効果を検証することは困難です。どこでも、すぐに、安価にできるので、受傷後なるべく早く10分程度洗ってもらいましょう。ただし、20分以上の冷水での洗浄や氷水の使用は組織障害や低体温を起こすことがあるため控えます。●右腕(I度)右腕のI度熱傷の治療は、基本的には適切な鎮痛薬の内服のみで完了します。しかし、熱傷は時間とともに進行することがあり、今日はI度であったとしても翌日には水疱を形成してII度に進行していることはしばしば経験するので、進行する可能性があることをしっかりと説明しましょう。進行した場合はII度として治療を行います。●左腕(II度)II 度熱傷の場合は、まずは水疱が保たれているかどうかを確認しましょう。水疱内は清潔ですので、破れていなければ基本的には保存的に加療します。American Family physicianでは水疱のサイズが6mmを超える場合は破膜するよう指導されていますが、私は2~3cmでも保存的に加療しています。重要なのは、患者自身が水疱を保護できるかどうかで、難しいようであれば破膜します。保存的に加療する場合は、ガーゼをかぶせて保護し、もし破れてしまった場合は受診するよう指導します。この症例では、3cmの大きいほうの水疱が破れていました。水疱が破けている場合や、水疱を破膜した場合の治療はどうでしょうか? 私はまずリドカイン塩酸塩ゼリー(商品名:キシロカインゼリー)を塗布してから創部を洗浄しています。その後、破れた水疱の膜を残しておくと感染のリスクがあるため除去します。なお、アルコールやポビドンヨード液などによる消毒は組織障害が生じるため、参考文献2つはいずれも推奨していません。私も創部がよほど汚染されていない限り使用はしません。(2)創部の被覆被覆材にはさまざまなものがあります。メディカルオンラインで「創傷・熱傷被覆材(ドレッシング材)」と検索すると、サイズや用途はさまざまですが130個ほど出てきます。これらの有意性に関する報告は限られていますが、元々熱傷にはスルファジアジン銀が使用されており、それに対する非劣性や有意性を示した論文はあるため、どれを選択しても大きくは変わらないと考えます。その中で、私は基本的には白色ワセリン+ガーゼを使用しています。理由はどこの施設でも置いていて、安価で簡便だからです。患者には、ワセリンをたっぷりと塗って、最低1日1回交換するよう指導して帰宅とします。私がインストラクターとして参加しているT&Aマイナーエマージェンシーコースでは、ガーゼ1枚の範囲を覆う場合、約20gの白色ワセリンの使用を推奨しています。画像のとおり「ぷにゅっとする」くらい厚塗りします。画像を拡大する熱傷の範囲に合わせて調節しますが、熱傷の初期は浸出液が多く、頻回にガーゼ交換が必要ですので、私は患者に白色ワセリンを最低100g渡しています。以前、とある外来で、軟膏がすぐになくなったのでガーゼのみを張って、乾燥して創部に引っ付いてしまった患者がいて、剥ぐのに苦労したことがありました。必ず「軟膏なしでガーゼのみを張るのは控えましょう」と伝えてください。ちなみに、白色ワセリンはドラッグストアでも販売しているので、必ずしも病院を受診して受け取る必要はありません。(4)ステロイド軟膏ステロイド軟膏は、有用性を示すエビデンスに乏しく、安易に使用するべきではないという意見がある一方で、局所の炎症兆候に対して推奨する意見もあるのが現状です。American Family physicianでは使用を推奨せず、本邦の熱傷診療ガイドラインでは「専門医が抗炎症効果を期待して使用する際は、ステロイドの副作用に十分注意しながら、受傷早期(2日間程度)に使用することが望ましい」とされているので、非専門医である私は原則使用しません。(5)外来フォロー推奨された通院間隔はなく、あくまで私のプラクティスを紹介させていただきます。I度熱傷であれば通院の必要はなく、鎮痛薬の処方で終診です。しかし、II度へ移行した場合は再診するよう指導しています。II度熱傷は状況により通院間隔が異なります。その見極めは自力で被覆交換ができるかどうかです。自力で被覆交換が可能であれば、患者の症状に合わせて3~7日程度のサイクルで通院してもらいます。自力での被覆交換が難しい場合は1~3日ごとに通院してもらいます。被覆終了のタイミングは、「ガーゼに浸出液が付かなくなったとき」と伝えています。フォロー中に患者からよく訴えられる症状は、疼痛と掻痒感です。疼痛は初期から生じますので、私は初めからNSAIDsかアセトアミノフェンで対応しています。ただし、数日経って急激に痛みが増悪する、創部に熱感が生じる場合は感染した可能性があるため受診するよう指導します。かゆみが出た場合は抗ヒスタミン薬の有効性が示されているため処方します。今回は、軽度熱傷の症例を例に挙げながら、どういう判断や対応を行ったかお話ししました。軽度熱傷はかかりつけ医が診る機会がありますが、美容や機能予後に影響を与えることも多々あるので、重症度や受傷部位によっては専門医へ相談しましょう。これから定期的に非専門医向けの軽症救急処置のコラムを連載いたします。可能な限り根拠に基づきながら、自身の経験を織り交ぜていこうと思いますのでどうぞよろしくお願いします!1)Lanham JS, et al. Am Fam Physician. 2020;101:463-470.2)日本熱傷学会編. 熱傷診療ガイドライン(改訂第3版).2021.

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オールシングスマストパス~高齢者の抗うつ薬の選択についての研究の難しさ(解説:岡村毅氏)

 従来のRCTの論文とはずいぶん違う印象だ。無常(All Things Must Pass)を感じたのは私だけだろうか。この論文、老年医学を専門とする研究者には、突っ込みどころ満載のように思える。とはいえ現実世界で大規模研究をすることは大変であることもわかっている。 順に説明していこう。2種類の抗うつ薬に反応しないものを治療抵抗性うつ病という。こういう場合、臨床的には「他の薬を追加する増強療法」(augmentation)か「他の種類の薬剤への変更」(switch)のどちらを選択するべきかというのは臨床的難問だ。これに対して、うつ病一般においてはSTAR*Dなどの大規模な研究が行われてきた。本研究はOPTIMUM研究と名付けられ、やはりNIH主導で大規模に行われた。 結果であるが、アリピプラゾールの増強療法が比較的優れた効果を示した。とはいえ、ステップ1で比較されているbupropionは本邦未承認であるから日本の臨床家への示唆はあまりない。なおステップ2で比較対象となっているのはリチウムの増強療法とノルトリプチリンへの変更であるが、これらは本邦でも使用できる。 以下は、この論文を批判的に眺めた感想である。 第1にプロトコルがまったく安定していない。途中までステップ2への直接参加が可能になっているが、途中から禁じられた。参加基準も当初PHQ-9で6点以上であったのが、途中から10点以上になっている。さまざまな横やりがあったことが推測される。 第2に参加者は普通に薬局で薬をもらっているので、増強(追加)されているのか変更されているのかがわかってしまう。単純化すると、前者は錠剤が1錠増えるし、後者は増えない。プラセボで良くなる高齢者が多いから、この点は重要だ。 第3に認知機能の検査は一応しているが(supplementaryの隅まで読んでようやく書いてあったが、これは最も重要な点ではないか?)、Short blessed testで10点以上はダメというあまりにも粗い基準だ。さまざまな認知機能の人が含まれているに違いない。 第4に脳梗塞に伴う治療抵抗性うつ病も含まれているはずだが、これはdepression-executive dysfunctionともいい、高齢期のうつ病の難問の一つである。生活障害が大きく、むしろ非薬物治療が効果的とされる。この群は何をやっても変わらないだろうが、期間中に良いデイケアに行き始めたら劇的に回復することだろう。この議論が抜け落ちている。 第5に、アウトカムは「健やかさ」(wellbeing)になっている。これは当事者団体の意見等を反映させたということである。「症状は外から見ると減ったようです、でも本人は苦しいです」というのでは意味がないのだから良いことともいえる。薬剤の効果を症状だけで見るのは「古い」医学者であり、リカバリーのようなより主観的なものが現在好まれる。しかし薬剤の効果をwellbeingで見ることは、拡大した医療化であり、危険をはらんでいると個人的には思っている。というのは、高齢者ではとくにそうだが、さまざまな出来事(人間関係、出会いと別れ、とくに死別、体調、他の疾患の状態など)によりwellbeingは大きく影響を受けるのだ。公平を期すために、この研究でも「社会参加」も測定されていることは述べておく。 第6に、結果的には、bupropion変更組とリチウム増強組では、きちんと定められた分量までいって寛解している者は10%もいないとのことであり、とても低いところで比較しているというのは否めまい。 第7に転倒が多い。対照がないので、高齢者とはそういうものだと言われればそれまでだが、良い結果の治療でも3人に1人は転倒しているし、最も悪い群は55%が転倒している。この研究は増強vs.変更を比較しているので、これを言ってしまうとちゃぶ台返しになってしまうが…「この人はうつ病で、薬で治すべし」という大前提がここでは間違っているんじゃないか。この際、漢方薬に変えて、生活も変えてみてはどうかと提案する(たとえば地域の集まりや運動に行くとか、それこそお寺に行ってみるとか)というのが日本の小慣れた臨床医の対応ではないだろうか。 第8に…これくらいでやめておこう。 僕らはRCTで少しでも科学的に妥当な知見を手に入れて、患者さんにより妥当な治療を提案し、結果的に多くの患者さんを幸せにしたいという根源的な欲求がある。しかし高齢者を対象にしたこの論文を読むと、さまざまな現実のノイズにより、非常に読みにくく、苦しい印象を受けた。RCT、メタアナリシス、さらにネットワークメタアナリシスに心躍らされた時代はもしかしたら、長い歴史の中のそよ風なのかもしれず(Times They Are A-Changin)、無常(All Things Must Pass)を感じる。一方で、批判だけするつもりはない。医療者の主観や勘に頼った時代に戻ってよいわけはない。なんか苦しいなあと思いながら、批判的に読み、そしてこのような大規模研究を苦しみながら遂行した仲間に最大の敬意を払いつつも、この知見が目の前の患者さんに適応できるかどうかを考え続けるしかないのではないか。 考えてみれば、この薬が一番いいですという単純な世界(うつ病ですか、じゃあエスシタロプラムかゾロフトでしょうみたいな)なら、医師なんていらないではないか。目の前の患者さんが、医療の対象にするべきことが何割で、医療が対象にしてはいけないことが何割かを判断する必要があるし、どの見方を採用するか(たとえば高齢者の抑うつ症状なら、感情障害、認知機能障害、脳血管障害といったさまざまな次元がある)を常に選択する必要がある。患者の高齢化に伴い、臨床はより頭を使う仕事になってきたように感じる。

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高齢者へのDOAC、本当に減量・中止すべき患者とは/日本循環器学会

 高齢者の心房細動治療において、つい抗凝固薬を減量してしまいがちだが、それは本当に正しいのだろうか。今回、小田倉 弘典氏(土橋内科医院)が『心房細動抗凝固薬(アブレーションを望まない高齢のPAFなど)』と題し、第87回日本循環器学会学術集会のセッション「クリニックで選択されるべき循環器治療薬~Beyond guideline~」にて、高齢者心房細動の薬物療法における注意点を発表した。 小田倉氏はまず、以下の高齢者の症例を提示し、実際に直接経口抗凝固薬(DOAC)を処方するかどうか、またその際に減量するか否かについて問題提起した。高齢者へのDOAC減量と出血リスクの管理<症例>●年齢・性別:82歳・男性、体重:64kg、クレアチニンクリアランス(CCr):52 mL/min(血清クレアチニン[Cr]:1.0mg/dL)●主訴:ある日、脈をとったら不整で、心電図で心房細動と診断された。●服用歴:降圧薬、認知症治療薬、前立腺肥大症治療薬など6種類●患者背景:要介護2。トイレ歩行は可能だが受診時は車いす。転倒歴あり。長男夫婦と3人暮らしだが、日中は1人のことが多い。●CHADS2スコア:3点、HAS-BLEDスコア:1点 上記の高齢者の症例について、「DOAC各薬剤の添付文書にある減量基準、たとえば、アピキサバンは(1)80歳以上、(2)60kg以下、(3)Cr 1.5mg/dL以上のうち2つ以上が、エドキサバンは(1)60kg以下、(2)CCr 15~50、(3)P糖蛋白阻害薬服用のうち1つ以上が該当する場合にそれに当たるが、いずれにも該当していないので、この患者の場合、該当項目を見る限りでは処方可能であり、減量する必要もない」とコメント。 しかし、実際には高齢というだけでDOACの減量基準を満たさずとも減量する例が散見される。クリニックの患者が主体となった日本の高齢者心房細動に対する抗凝固薬療法に関する2つの試験からもその状況が見て取れる。・ANAFIEレジストリ1):3万2,275例(平均年齢81.5歳[85歳以上が26.1%]、経口抗凝固薬の服用:92.4%、ワルファリンTTR :75.5%、発作性心房細動:42%、認知症:7.8%[通院・在宅患者])ではunder-doseが16.8%、未承認低用量が3.7%。 ・GENERAL研究2):5,717例(平均年齢73.9歳、経口抗凝固薬の服用:100%、フレイル[要介護]:12.1%、認知症治療薬の併用:5.9%)ではunder-doseが27.3%。 では、実臨床で高齢者(75歳以上)に対しDOACをunder-doseする理由とは何か。35.8%でunder-doseを認め、脳卒中/全身性塞栓症が有意に多かったXAPASS study3)の結果によると「処方医は通常用量による出血リスクを最も懸念し、続いて高齢、腎機能低下を意識していた。一方、低体重や併用薬剤を選んだ者は少なかった」とコメント。 ところが、75歳以上の日本人で非弁膜症性心房細動患者を対象としたJ-ELD AF試験4)によれば、アピキサバン5mg/日(低用量)群と同薬10mg/日(通常用量)群に割り付け、脳卒中または全身性塞栓症、入院を要する出血について評価したところ、いずれの発生率も有意差が得られなかった。ただし、サブ解析で出血イベントの発生とアピキサバンの血中濃度の関係性を調べたところ、低用量群では血中濃度が高い(トラフ中央値:86ng/dL)群で出血性イベントが有意に多かった。その原因は明らかではないが、「減量基準以外のunknown factorsの存在が示唆される」と同氏は指摘した。DOAC減量基準を満たした患者の出血リスクに注力を これらの報告を踏まえ、同氏は「DOACの減量基準に該当しなければ用量を守り、減量基準を満たす患者は減量したうえで、いかに出血の関連リスクを減らせるかを考えることが重要」と述べ、「その関連リスクはDOAC減量基準やHAS-BLEDスコアに記載がないものにも注意を払う必要があり、改善可能なソフトプロブレム(上記unknown factorsにおおむね相当)と改善困難なハードプロブレムに分類できる。前者にはポリファーマシー(抗凝固薬と併用注意の薬剤を確認)、フレイル(転倒頻度や低体重を考慮)、認知症(服薬アドヒアランスを確認)、高血圧(外来での血圧130/80mmHg目標)が該当し、後者には腎機能低下や出血の既往があるだろう。後者では低用量投与を前提とし、2020年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン5)に従い、腎機能チェックの採血をCCr<60mL/minの患者では少なくともXヵ月(X=CCr/10)に1回実施すれば、リスク回避につながる」と対策を講じた。DOACの中止を考えるタイミング また、とくに高齢者ではDOAC中止を考える場面は多いが、具体的には以下が挙げられた。・出血したとき →出血の制御ができないような大腸憩室炎、蜂窩織炎などの既往歴がある場合 →生活面に支障を来すような重い後遺症が残る可能性のある場合・出血以外の副作用が出たとき・腎機能が低下してきたとき・アドヒアランス不良のとき・フレイル(要介護度)が進行した(寝たきりになった)とき 最後に同氏は「併存疾患の有無や身体機能レベルが個々で大きく異なるにもかかわらず、そもそも高齢者を1つのカテゴリーとして捉えることは不可能であり、多様な視点からのカテゴライズが必要となる。言うならば、“科学”と“生活”の両面からのアプローチが必要なのであり、それにはゴールはないため、考え続けることが重要である」と締めくくった。

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抗精神病薬とプロラクチンレベル上昇が骨折リスクに及ぼす影響

 抗精神病薬による治療が必要な患者は、骨粗鬆症関連の脆弱性骨折を含む骨折リスクが高いといわれている。これには、人口統計学的、疾患関連、治療関連の因子が関連していると考えられる。インド・National Institute of Mental Health and NeurosciencesのChittaranjan Andrade氏は、抗精神病薬治療と骨折リスクとの関連を調査し、プロラクチンレベルが骨折リスクに及ぼす影響について、検討を行った。The Journal of Clinical Psychiatry誌2023年1月30日号掲載の報告。 主な結果は以下のとおり。・たとえば、認知症患者では、認知機能低下や精神運動興奮により転倒リスクが高く、統合失調症患者では、身体的に落ち着きがない、身体攻撃に関連する外傷リスクが高く、抗精神病薬服用患者では鎮静、精神運動興奮、動作緩慢、起立性低血圧に関連する転倒リスクが高くなる。・抗精神病薬は、長期にわたる高プロラクチン血症により生じる骨粗鬆症に関連する骨折リスクを高める可能性がある。・高齢者中心で実施された36件の観察研究のメタ解析では、抗精神病薬の使用が大腿骨近位部骨折リスクおよび骨折リスクの増加と関連していることが示唆された。この結果は、ほぼすべてのサブグループ解析でも同様であった。・適応疾患と疾患重症度の交絡因子で調整した観察研究では、統合失調症患者の脆弱性骨折は、1日投与量および累積投与量が多く、治療期間が長い場合に見られ、プロラクチンレベルを維持する抗精神病薬よりも、上昇させる抗精神病薬を使用した場合との関連が認められた。また、プロラクチンレベル上昇リスクの高い抗精神病薬を使用している患者では、アリピプラゾール併用により保護的に作用することが示唆された。・骨折の絶対リスクは不明だが、患者の年齢、性別、抗精神病薬の使用目的、抗精神病薬の特徴(鎮静、精神運動興奮、動作緩慢、起立性低血圧に関連するリスク)、1日投与量、抗精神病薬治療期間、ベースライン時の骨折リスク、その他のリスク因子により異なると考えられる。・社会人口統計学的、臨床的、治療に関連するリスク因子に関連する転倒および骨折リスクは、患者個々に評価し、リスクが特定された場合には、リスク軽減策を検討する必要がある。・プロラクチンレベルの上昇リスクの高い抗精神病薬による長期的な治療が必要な場合、プロラクチンレベルをモニタリングし、必要に応じてプロラクチンレベルを低下させる治療を検討する必要がある。・骨粗鬆症が認められた場合には、脆弱性骨折を予防するための調査やマネジメントが求められる。

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認知症になってから何年生きられるのか?【外来で役立つ!認知症Topics】第3回

認知症臨床の場において、「あるある質問」として代表的なものには、筆者の場合、3つある。まずアルツハイマー病と認知症が同じか否かというもの。次に遺伝性の有無と、では自分は?という質問。そして今回のテーマ、「認知症になってから何年生きられるか?」という質問である。長年この問題に関して、正解とまでは言わずとも、エビデンスがしっかりした答えを知りたいと思ってきた。またこの質問の意図はそう単純ではない。長生きを望む人もあれば、逆に…という場合もありうる。今さらではあるが、2021年にLancet Healthy Longevity誌1)で優れたメタアナリシスが報告されていることを知り、丁寧に読んだ。その概要を臨床の場を鑑みながら解説する。メタアナリシスでの認知症平均余命まずメタアナリシスの素材となったのは、78の研究である。ここでは6.3万人余りの認知症があった人、15.2万人余りの認知症がなかった人のコントロールデータが扱われた。なお原因疾患はアルツハイマー病、血管性認知症、レビー小体型認知症と前頭側頭葉変性症である。アウトカムとして、まずあらゆる原因による「死亡率:mortality rate」、すなわち一定期間における死亡者数を総人口で割った値が用いられた。次に、認知症の診断もしくは発症から亡くなるまでの年数も用いられた。まず認知症全体としての死亡率は、認知症のない者に比べて5.9倍も高い。また全体では、発症の平均年齢が68.1±7.0歳、診断された年齢は72.7±5.9歳、初発から死亡までが7.3±2.3年。さらに診断から死亡までが4.8±2.0年となされている。全体の3分の2を占めるアルツハイマー病では、初発から死亡まで7.6±2.1年、診断から死亡までが5.8±2.0年になっている。つまりアルツハイマー病の診断がついた患者さんやその家族から「余命は何年か?」の質問を受けたなら、4~8年程度と答えることになる。もっとも本論文の対象は、われわれが対応する患者さんの年齢より、少し若いかなという印象がある。最も生命予後が良い/悪い認知症性疾患は?さて注目すべきは、4つの認知症性疾患の中でアルツハイマー病の生命予後が一番良いという結果である。逆にレビー小体型認知症(パーキンソン病に伴う認知症を含む)では、認知症のなかったコントロールに比べて、死亡率は17.88倍も高く、4つの認知症性疾患の中で最悪である。アルツハイマー病に比べても余命は1.12年も短い。その理由として以下に述べられている。1つには幻覚や妄想などの精神症状を伴うことである。それにより危険行為や衝動性に結び付きやすいことをよく経験する。また従来のデータでも示されてきたように、認知症性疾患のなかで、認知機能の低下率が大きく、合併疾患の割合が高く、QOLも悪いとされる。こうしたものが高い死亡率に結び付いているのではと考察している。確かにと納得できる。次に血管性認知症は、アルツハイマー病に比べて、死亡率が1.26倍高く、余命は1.33年短い。恐らくは心血管系の問題が大きく寄与していると考えられている。さらに前頭側頭葉変性症も生命予後は良くない。その理由として、運動障害に注目した面白い報告がある。近年よく知られるようになったが、前頭側頭型認知症では、パーキンソニズム、錐体外路徴候などによる運動障害を示す例が少なくない。さらにジストニアや失行も見られる。筆者はこれらによる転倒・転落を経験してきた。一方で、ある程度以上進むと、いわゆる早食いや詰め込み食いも見られることがある。こうしたことによる窒息や誤嚥性肺炎が死亡率を高めていると考察されている。自分の臨床経験では、このような突然死の多くは、盗んだり隠れたりして食べていたのである。治療のためにも早期受診が不可欠以上について、論文の著者らは注目していないが、いくつか感想がある。まず初発から診断までに、4年余りかかっているという結果である。疾患修復薬が前駆期・早期なら有用かと期待されるようになった今日、これでは治療の好機を逃してしまう。早期受診の重要性を再度認識する。次に自分が対応するアルツハイマー病の患者さんに限っても、何年経ってもほとんど変わらない人もいるが、1年以内に急速に悪化してしまう人もいる。こうしたケースはrapidly progressive Alzheimer diseaseと呼ばれることもあり、認知機能のみならず生命予後も不良である。そして現場では、主治医である筆者がその責任を厳しく問われることもある。けれども遺伝子、併存疾患、または症候学等からみて、この急速悪化群の関連因子はまだ定まっていない。こうしたsubtypeの予想も臨床的には不可欠な観点だろう。終わりに。アルツハイマー病以外の認知症性疾患に対しては、今のところこれという薬物治療法はない。それだけにこれらの疾患のある人に対する治療の場では、上に示した余命を短縮させてしまう因子に注意を払い、少しでもQOLが高く健やかな生活を実現する努力がこれまで以上に望まれる。参考1)Liang CS, et al. Mortality rates in Alzheimer's disease and non-Alzheimer's dementias: a systematic review and meta-analysis. Lancet Healthy Longev. 2021;2:e479-e488.

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第32回 マスク緩和論を巡り再び世論分断

世論分断の波が再来3月13日からマスク着用は個人判断に委ねることを基本とする方針が示されました。コロナ禍も後半戦、あるいはもう9回表くらいでしょうか。そのあたりは誰にもわかりませんが、とにもかくにも緩和される方針になりました。ただし、医療機関、高齢者施設、通勤ラッシュ・混雑した場所ではマスク着用が推奨されています。厚生労働省は、上記の考え方を事務連絡「マスク着用の考え方の見直し等について(令和5年3月13日以降の取扱い)」として示しています1)。医学的な弱者に感染させてしまうリスクがあるため、きわめて妥当な推奨なのですが、これで世論がまた分断されているようです。コロナ禍で何度か見た風景がまた始まってしまった。卒業式のマスク問題なぜ再びマスク問題が過熱しているかというと、「卒業式でマスク着用どうする問題」が急浮上したからです。文部科学省は2023年2月10日、卒業式におけるマスクの取扱いについて、各都道府県の教育委員会等に通知を出しています2,3)。これによると、「児童生徒と教職員は式典全体を通じてマスクなし、来賓や保護者等はマスク着用を基本」として示しています。簡単に言えば、感染対策はゼロにしたくないけど、子供の思い出のためのマスク緩和はやむなしということですよね。さらに通知では、児童生徒と教職員は、入退場、式辞・祝辞等、卒業証書授与、送辞・答辞の場面を含めて、式典全体を通じてマスクなしを基本とする、としています。しかし、来賓や保護者等はマスクを着用し、座席間の距離を確保するとされています。またさらに、壇上で式辞や祝辞等を述べる場合に関しては、来賓はマスクなしを許可しています。そして、国歌・校歌等の斉唱や「6年間で楽しかったことー!」などの「呼びかけイベント」についてはマスク着用を求めています。こ、細かい…細かすぎる……!「5類」化なのに厳格化そもそも、マスクを巡ってここまで重箱の隅をつつくような議論が必要なのでしょうか。日本ってこれほどルールが必要でしたっけ。あるいは、コロナ禍がそうさせてしまったのか…。全国知事会は、加藤 勝信厚生労働大臣に対して「全部が個人の判断と言われても困る」と伝えています。この意見もわからなくもないのですが、もう大人ですから、当初提示されたように「個人の判断に委ねる」でいいんじゃないか、と私自身は思っています。各業界団体は、業種別にガイドラインの見直しを行う方針になっています。飲食店で中間管理職をやっている私の友人も、「仕事が増えた」と激オコでした。5月8日から「5類感染症」にするというのに、逆に細かい規定でがんじがらめになってしまう現象って、本末転倒な気もします。具体的な場面を挙げるとなると、新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身 茂会長もおっしゃっていたように、100万の場面があるのでキリがありません。もちろん、具体的な場面例を通達してもよいですが、分断を生む火種になることは目に見えているので、国民に対しては「感染が流行しているので常識的なマスク着用を」程度の啓発で、押し通せばよかったのでは、とも感じます。参考文献・参考サイト1)厚生労働省:マスク着用の考え方の見直し等について(令和5年3月13日以降の取扱い)2)文部科学省:永岡文部科学大臣臨時会見(令和5年2月10日)【動画】3)文部科学省:卒業式におけるマスクの取扱いに関する基本的な考え方について(通知)(令和5年2月10日)

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血友病Aの新規治療薬、既治療重症例の出血を低減/NEJM

 既治療の重症血友病A患者の治療において、efanesoctocog alfa(エフアネソクトコグ アルファ、国内で承認申請中)の週1回投与は、試験開始前の第VIII因子製剤による定期補充療法と比較して、出血の予防効果が優れ、正常~ほぼ正常の第VIII因子活性と、身体的健康や疼痛・関節の健康の改善をもたらすことが、米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のAnnette von Drygalski氏らが実施した「XTEND-1試験」で示された。同薬は、von Willebrand因子(VWF)による半減期の上限を克服し、第VIII因子活性を高い状態で維持するよう設計された新たなクラスの第VIII因子補充療法薬。研究の成果は、NEJM誌2023年1月26日号に掲載された。19ヵ国159例の第III相非盲検介入試験 XTEND-1試験は、重症血友病A患者に対するefanesoctocog alfaの有効性、安全性、薬物動態の評価を目的とする第III相非盲検介入試験であり、日本を含む19ヵ国48施設で患者の登録が行われた(SanofiとSobiの助成を受けた)。 対象は、年齢12歳以上で既治療の重症血友病A患者であった。被験者は、efanesoctocog alfa(50 IU/kg体重)の週1回静脈内投与による定期補充療法を52週間行う群(A群)と、同薬(50 IU/kg体重)のオンデマンド療法を26週間施行後に同薬(50 IU/kg体重)の週1回投与による定期補充療法を26週間行う群(B群)に分けられた。 主要エンドポイントは、A群の平均年間出血回数(annualized bleeding rate:ABR)とされた。また、主な副次エンドポイントは、A群における定期補充療法中のABRと、試験開始前の第VIII因子製剤による定期補充療法中のABRとの患者内比較であった。 159例が登録され、149例(94%)が試験を完遂した。A群が133例(平均[±SD]年齢33.9±15.3歳、男性99%)、B群は26例(42.8±11.7歳、100%)であった。出血時投与でイベントの97%が消失 A群では、ABR中央値は0.00(四分位範囲[IQR]:0.00~1.04)であり、推定平均ABRは0.71(95%信頼区間[CI]:0.52~0.97)であった。A群の平均ABRは、試験開始前の2.96(2.00~4.37)から開始後には0.69(0.43~1.11)へと77%低下(ABR比:0.23、95%CI:0.13~0.42)し、試験開始前の第VIII因子製剤による定期補充療法に対する、efanesoctocog alfaによる定期補充療法の優越性が示された(p<0.001)。 試験期間中に全体で362件の出血イベントが発現したが、このうち268件(74%)はオンデマンド療法中のB群でみられた。出血の発現時には、efanesoctocog alfa(50 IU/kg)の1回の注射により、出血イベントのほぼすべて(97%)が消失した。 薬物動態の解析では、efanesoctocog alfaの週1回投与による定期補充療法は、投与から約4日間は第VIII因子活性の平均値が正常~ほぼ正常(>40 IU/dL)の範囲内で、7日目には15 IU/dLとなった。半減期の幾何平均値は47.0時間(95%CI:42.3~52.2)と長かった。 また、efanesoctocog alfaによる52週間の定期補充療法(A群)によって、Haem-A-QoLの身体的健康スコア(p<0.001)、Patient-Reported Outcomes Measurement Information System(PROMIS)の疼痛強度スコア(p=0.03)、Hemophilia Joint Health Score(HJHS)の関節の健康(p=0.01)がいずれも有意に改善した。 副作用プロファイルは許容できるものであった。全体で、第VIII因子インヒビターの発生(0%、95%CI:0.0~2.3)は検出されず、重篤なアレルギー反応、アナフィラキシー、血管内血栓イベントの報告はなかった。少なくとも1回のefanesoctocog alfaの投与を受けた159例のうち、123例(77%)で1件以上の有害事象が発現または増悪し、重篤な有害事象は15例(9%)で認められた。全体で、最も頻度の高い有害事象は、頭痛(32例[20%])、関節痛(26例[16%])、転倒(10例[6%])、背部痛(9例[6%])だった。 現在、12歳以下の小児(XTEND-Kids)および長期的な安全性と有効性(XTEND-ed)を評価する臨床試験が進行中だという。

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第145回 これが患者のリアル、ワクチンマニアもコロナ感染!?村上氏のヒヤヒヤ実記(後編)

―2023年1月3日(火)午前6時前に目が覚める。就寝中かなり寝汗をかいたことは寝間着代わりにしているTシャツの首元がじっとりと湿っていることでわかった。昨日と比べ、頭はすっきりしている。検温すると、37.2℃。だいぶ下がった。タイミングよく娘から「おにぎりとみそ汁」という朝食オーダーが届いたので、いつものようにマスクを両面テープで顔面に密着させた状態で、一番近いコンビニに買い出しに行く。ここは有人レジと無人レジが離れていて、人と距離が取れることが利点だ。部屋に電子レンジもあるのでみそ汁の温めも店員に頼まなくて済む。朝食を置き配して、シャワーを浴びる。出発約束時刻は8:45。まず私がホテルの出口から数メートル先まで行き、それから娘にLINEで部屋を出るように連絡し、その後は距離を取ってついてくるよう指示した。ホテルの出口に現れた娘はジャンプしながらこちらに手を振っている。思えば壁一つ隔てた場所にいながら、約3日間、顔を合わせていなかった。私も手を振り返すが、この3日間の療養で相当体力を奪われたのか、転倒しそうなほど体がふらついた。とりあえず前を向いてスタスタと歩き出す。後ろからはかすかに娘のものらしい足音が聞こえる。途中、小さな公園を通過した時、「うわー、カラス」と叫びながら娘が私のほぼ真後ろに距離を詰めてきた。娘は幼児期からカラスが大嫌いだ。距離が近過ぎる。私は微量でも娘の方向に飛沫が向かうことを避けるため、振り返らずに「おとうに近寄り過ぎない」とやや大きめの声で言い渡した。足音がやや遠ざかった。そこから2分ほど歩いたところで歩道が大幅に広くなる。すると、娘が私の真横にかなり距離を取って並んだ。マスク越しにニコニコしている。その手があったか。まもなく地下道の入り口。私はそのまま娘のほうを向かずに地下道入り口を指さして、「わかるね?」というと、「うん」という声とともに娘が私の前方に走り出て地下道の入り口を目指し始めた。その場に立ち止まっていると、娘は入り口で立ち止まって振り返った。私が手を振ると、それに応え、娘は地下道の中に消えていった。私は方向転換してホテルに戻って検温。36.7℃。少し休憩してから、件のクリニックに向かった。到着したのは開院5分前。中の電気がついており、ガラス越しに看護師らしい女性職員がマスクに加え、フェイスシールドで防護している姿が見えた。まだ、受診者は誰も来ていない模様。ガラス越しに目が合ったその女性が入り口まで出てきて「村上さんですか?」と尋ねてきた。はいと答えると、そのまま室内に案内され、手指消毒の指示。「来る前に検温はしました?」と尋ねられたので、朝6時と直前の体温を告げると、そのまま「こちらへ」と誘導される。診察室の表記のあるドアの前を通り過ぎ、女性がその先の小さめのドアを開けた。物品置き場のような間取りだ。中にはパソコン(PC)を置いた机を前にマスクとフェイスシールドを着用したB医師が着席していた。「どうですか、お加減は?」と尋ねられた。私はまだ微熱状態ではあるものの、今朝はかなり改善している感じがすること、咽頭痛はそれほど感じなくなったが、その代わり痰が絡むようになったと伝えた。B医師が「まず口の中を診ますね」と言いながら開口を指示してきた。複数回、顔の角度を変えながら咽頭の様子を見ている。それが終わると、パルスオキシメーターを私の指に挟んだ。数値は99%。B医師が「ちなみにコロナワクチンは何回接種していますか?」と尋ねてきた。そういえば、昨日のやり取りではその話はしていなかった。オミクロン株対応ワクチンも含め、4回接種が完了している旨、最後の接種が12月27日、これまでの接種ワクチンの種類(私はファイザー→ファイザー→モデルナ→モデルナ2価[BA.4/5対応])、4回目接種直前にスパイクタンパク抗体価検査を実施したことを伝えると、B医師が「うわっ、抗体価がかなり高いですね」と目を見開いてこっちを凝視した。加えてインフルエンザ(以下、インフル)ワクチンも接種済みと伝えた。「抗原検査が4回連続陰性だったことや、コロナのスパイクタンパク抗体価の高さ、インフルワクチン接種済みといったことを考えると、ただの風邪の可能性も十分にあります。ただ、最近うちを受診した発熱患者で、いわゆるただの風邪は1割程度とかなり少ないです。また現状の感染状況や症状を伺う限り、コロナの可能性は十分あり得ます。娘さんの受験も心配でしょうから、コロナとインフルの検査はしてみましょう」鼻出しマスク状態で、綿棒2本でそれぞれ鼻の奥をゴリゴリ。2本目が終了したところでくしゃみが出そうになり、慌てて鼻までマスクを覆い、下を向いてマスクを手で押さえながらくしゃみ。B医師にお詫びをしながらふと机の上に目をやると、消毒用アルコールのボトルが目に入ったので、使わせてくださいとお願いすると、「どうぞ」と私のそばに置いてくれた。私がノズル近くに左手を差し出し、右ひじでポンプを押すと、「ああ、そういうの気を付けているんですね」と笑われる。誰が触るかわからない手押し式の場合、私は常にポンプを肘押ししている。B医師が「インフルは迅速キットなのでもうじき結果がわかります。コロナのPCRは明日の遅くとも夕方には判明すると思います」と告げられた。実は明日はホテルのチェックアウト予定日。チェックアウト時間は午前11時だ。もし、コロナと判明した場合、発症日が12月30日なので療養解除は1月6日。私はなんとかホテルに事情を説明して、あと2泊はしなければならない。可能ならば明日午前11時までに結果を知りたいが、新年早々に診察をしてくれたB医師に無理は言えない。とりあえずPCR検査結果を待つこと、インフルの検査結果はこのまままっすぐホテルに戻ってから電話で尋ねることにしてクリニックを後にした。ホテルに戻るや否やB医師から電話があり、インフルは陰性だったことを告げられる。「発症からかなり経っての検査で陰性なのでインフルの可能性はほぼないと思います」とのこと。さらに早ければ明日午前にはPCR検査の結果もわかるだろうとの話だった。そのまま机に座ってPCに向かい仕事。娘には出発前にPayPayを1,000円分送り、昼は予備校近くのコンビニで何か買うように指示していた。まずは娘と私の洗濯に着手。その間は仕事。この日はほとんど苦痛なく仕事が進められる。ただ、今日は机を使っているので、昨日のような室内を即席乾燥室として使うことはできない。幸い今日の洗濯物は厚手のものはないので、貧乏性は引っ込めて館内のコインランドリーの乾燥機を1時間使うことにした。遅くとも明日には仕上げなければならない原稿があるので、時々水分を摂りながら一気に進めた。気が付くと午後3時を過ぎていた。そこで買い置きのインスタントラーメンをすすって、再び仕事に勤しんだ。午後6時過ぎに原稿のめどがつく。一気にどっと脱力感に襲われる。まだ、本調子ではない。娘は自習室が閉まる夜9時までは予備校にいるはず。そこからの時間計算で午後9時10分前後に朝に見送った地下道付近で待ち合わせる旨をLINEでメッセージしてから、タイマーをかけて横になった。目を覚ましたのは9時5分過ぎ。慌ててホテルを出て小走りで待ち合わせ場所に向かうが息が上がる。ということで小走りは止めてゆっくり歩いた。待ち合わせ場所にはすでに娘が到着していた。通常こういう時は「遅い」とブツクサ言われるのだが、今日は何も言われなかった。朝と同じく私が先行したが、ピンクのネオンが輝く時間になっていたので、朝よりは距離は詰めることにした。途中のコンビニの前で私は立ち止まり、無言で店内を指さした。娘が近づいてくるのに合わせて私は入り口から遠ざかり、娘も心得たように店内に消えていった。今日は肉系の弁当を買ってくるだろうか?まもなく娘が買い物袋入りの弁当をぶら下げて戻ってきた。それを確認してホテルに向かって歩き始めた。ホテルの入り口が見えてきたので、私は小走りにそこを通り過ぎて距離を置き、入り口を指さして「先に」とだけ告げた。娘が入っていったのを確認してから5分後に、私も部屋に戻った。LINEでメッセージすると、やはり買ってきたのは肉系弁当。体調不良でもこういうところは勘が働く。娘にはインフルは陰性だったこと、明日にはPCR検査の結果がわかることを告げた。娘からは荷物をどうするかとの問い。そうそれが問題なのだ。娘は勉強道具と宿泊に必要な諸々の物品を持ってきている。チェックイン時は宿泊用の物品が入ったスポーツバッグを私が運んで先に手続きを済ませていた。小柄な娘が一人で持つのはかなり大変な量と大きさである。さてどうしようかと悩んでいると、娘からはスポーツバッグの中身はすぐには必要ないので、数日後でも家に届けばいいという。もし私が陽性だった場合はここに6日まで泊まり、後日に荷物を渡すことが決定する。もっとも留まることが決定した場合、このホテルに空きがあるか、それをホテルが許容してくれるかは未解決だ。まあ、その時に考えるしかないと腹をくくった。宿泊予約サイトで見ると、明日以降は3部屋ほど空きがある。それが埋まらないことを願いつつ就寝。―2023年1月4日(水)朝5時半過ぎに目が覚める。検温すると36.5℃。体調も良いと感じる。念のため部屋の片づけを始めると、娘から朝食のオーダー。今日は調理パンと洋風スープ。はいはい。いつものようにコンビニへ。この時間はほとんど人が歩いていない。周りへの影響を考えると非常に気が楽である。娘の部屋の前に行くと、すでにスポーツバッグが置いてあった。朝食の置き配をし、代わりにスポーツバッグを持って自分の部屋に入り、そのまま片づけを続ける。7時半にそれを終え、今度はこの日提出予定の原稿の再チェック。8時過ぎにそれも終えると、ちょうど娘からのLINE。娘「今日も送ってくれる?」私「もう道は分かるでしょ」娘「わかるけど」私「けど?」娘「カラス」ああ、またそこか。合格した大学を蹴ってまで浪人を選ぶ度胸がありながら、カラスの何が怖いと言いたくなるが、ぐっとこらえる。昨日のように送っていくことにした。昨日と同じく予定時刻に距離を置いてホテルの前で待ち合わせてまた地下道へ。今日の娘は過度に近づいては来ない。地下道入り口で別れ、私は部屋に戻って用意していた原稿を送信。その後はこの間、十分とは言えなかった各種ニュースのチェックに。午前10時を過ぎたあたりで、B医師から電話に着信。B医師「おはようございます。検査結果出ました。陰性でした」安堵のあまり言葉が逆に出なくなる。B医師が続けた。B医師「まあ、結果としては今どき珍しいただの風邪ということですね。アハハ。ただの風邪にはワクチンありませんから」私  「とはいえ、偽陰性の可能性がないわけではないですよね」と問うとB医師「理論上はそうですが、それを言い出したらきりがないですよ。いずれにせよまだ本調子ではないですよね。お大事になさってください」と告げられ電話が終わった。私は机上に残っていたPCの電源を切ってチェックアウトした。ホテルを出たところで娘にコロナ陰性だったことをLINEで報告した。自分の荷物を背負い、娘のスポーツバッグを肩に掛け、駅の改札に到着。しかし、ここで余計な考えが頭に浮かぶ。もし偽陰性だったら、と。数分考え、自分の事務所まで、距離にして約3.5kmを歩くことにした。しかし、病み上がりの体にはこれがかなりハード。途中休み休みで結局、1時間10分かかった。事務所で体重計に乗ってみる。58.5kg。宿泊当日朝の計測から-2.5kg。58kg台を目にするのは何年ぶりだろう。結局、1時間ほど休んで自宅に娘の荷物を運びこみ、私は念には念を入れ、週末の日曜日夕刻まで事務所で“籠城”することにした。この間、水とペヤングソース焼きそばのみの生活。日曜日の夕刻には体重は60kgまで戻っていた。こうして年末からのコロナ疑惑はようやく終了した。

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過体重・肥満の膝OA疼痛、食事・運動療法は有効か/JAMA

 過体重または肥満の変形性膝関節症患者では、18ヵ月間の食事療法と運動療法を組み合わせたプログラムは生活指導のみの場合と比較して、わずかだが統計学的に有意な膝痛の改善をもたらしたものの、この改善の臨床的な意義は不明であることが、米国・ウェイクフォレスト大学のStephen P. Messier氏らが実施した「WE-CAN試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2022年12月13日号に掲載された。米国の1州3郡での無作為化臨床試験 WE-CAN試験は、米国ノースカロライナ州の3つの郡(都市部1郡、農村部2郡)で行われた無作為化臨床試験であり、2016年5月~2019年8月の期間に参加者の登録が行われた(米国国立関節炎・骨格筋/皮膚疾患研究所[NIAMS]の助成を受けた)。 対象は、年齢50歳以上、過体重または肥満(BMI値≧27)の変形性膝関節症(米国リウマチ学会基準で判定)の患者であった。被験者は、地域の施設で18ヵ月間の食事・運動介入を受ける群(介入群)またはattention control(生活指導)を受ける群(対照群)に無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、18ヵ月の時点におけるWestern Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)の膝痛スコア(0[痛みなし]~20[重度の痛み]点)の差(臨床的に意義のある最小差[MCID]1.6点)であった。有意差はあるが、MCIDに達せず 823例が登録され、介入群に414例(平均年齢64.5歳、女性320例[77.3%]、平均体重100.7kg、平均BMI値36.7)、対照群に409例(64.7歳、317例[77.5%]、101.1kg、36.9)が割り付けられた。658例(80%)(介入群336例、対照群322例)が試験を完遂した。 18ヵ月の時点での補正後平均WOMAC膝痛スコアは、介入群が5.0点と、対照群の5.5点に比べ有意に改善した(補正後群間差:-0.6点、95%信頼区間[CI]:-1.0~-0.1、p=0.02)。 7項目の副次アウトカムのうち次の5項目で、介入群が対照群に比べ有意に改善した(ベースラインから18ヵ月後までの変化量)。体重(-7.7kg vs.-1.7kg、平均群間差:-6.0kg、95%CI:-7.3~-4.7、p<0.001)、ウエスト周囲長(-9cm vs.-4cm、-5cm、-7~-4、p<0.001)、WOMAC機能障害スコア(0~68点、点数が高いほど機能障害が重度、MICD:6点)(-9.2点vs.-5.5点、-3.3点、-4.9~-1.7、p<0.001)、6分間歩行距離(41m vs.-4m、43m、31~55、p<0.001)、SF-36身体機能スコア(0~100点、点数が高いほど身体機能が良好、MICD:5点)(6.7点vs.2.1点、3.8点、2.5~5.2、p<0.001)。 重篤な有害事象が169件(介入群70件、対照群99件)発現したが、試験と明らかに関連するものはなかった。729件の有害事象のうち32件(4%)が試験と関連し、身体の負傷が10件(介入群9件、対照群1件)、筋挫傷(肉離れ)が7件(6件、1件)、つまずき/転倒が6件(6件、0件)などであった。 著者は、「食事療法と運動療法による7.7kg(8%)の減量と、ウエスト周囲長の9cmの短縮は、変形性膝関節症の高齢者に健康上の利益をもたらす可能性がある」としている。

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