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第23回 高齢糖尿病患者の骨折リスク、骨粗鬆症にどう対応する?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第23回 高齢糖尿病患者の骨折リスク、骨粗鬆症にどう対応する?Q1 糖尿病患者で骨折リスクが高くなる要因は?糖尿病患者では、糖尿病のない人と比べて骨折のリスクが高くなります。インスリン作用不足や糖化最終産物の蓄積による骨質の低下や、バランス感覚の悪化や視力低下による易転倒性などが要因として考えられています。血糖コントロール不良で推移している人は骨粗鬆症を併発しやすくなります。HbA1c値が7.5~8.0%以上のコントロール不良の糖尿病患者では、HbA1c値が7.5%未満のコントロール良好群と比較して骨折のリスクが1.6倍上昇していました。インスリン使用者では1.8倍上昇していたと報告されています1)。HbA1c 値が7.5%以上のコントロール不良の状態で、腎症や網膜症などの合併症を有し、さらにインスリン治療を必要とする糖尿病患者では骨折リスクが上昇すると考えられ、骨粗鬆症の検査を行うことが推奨されます。Q2 どのように骨折リスクを判定しますか?自分でできる骨折リスクの判定方法として、FRAX®(fracture risk assessment tool)があります(表)。この評価法は、2008年2月にWHO(世界保健機関)が発表しました。インターネットでアクセスし、指定された質問項目に答えると自動的に算出されます。今後10年以内に骨粗鬆症による主要骨折を起こす可能性が15%以上の場合には、リスク大と判断し薬物治療の開始が推奨されます。この評価法は40~90歳の方を対象としていますが、75歳以上の方は、年齢のみで高リスクと判断されてしまうため、参考程度とします。なお、罹病期間が5~10年の2型糖尿病患者では、実際の骨粗鬆症性骨折の発生はFRAX®値の1.2倍、10年以上の罹病期間を有する場合には1.5倍を呈していました。大腿骨近位部骨折の発症は5年未満でも1.4倍、10年以上では2.1倍と報告されています2)。罹病期間の長い2型糖尿病患者は、FRAX®で算出された骨折リスクよりもさらに骨折しやすいと考えられます。画像を拡大するQ3 どのように骨粗鬆症を診断しますか?骨粗鬆症の診断には骨密度検査が必須であり、さらに測定部位と方法が重要です。通常は大腿骨近位部(頚部または全体)と腰椎(L2-L4)の骨密度をDXA法(dual-energy X-ray absorptiometry)で測定して判断します。しかし、DXA装置を有する医療機関は限られており、手軽に計測できない場合も多いです。そのため、手を用いたMD(microdensitometry)法や、踵で測定する定量的超音波測定法、小型のDXA装置で橈骨のみ測定する検査などが利用されています。ただしこれらはあくまでもスクリーニング検査であり、実際の体幹部DXAでの診断と乖離を認める場合も少なくありません。リスクを要する患者さんに対しまずは簡易的な検査を行い、異常を指摘された場合にさらなる精査としてDXAを施行することが望ましいでしょう。治療効果の判定は、6ヵ月~1年に一度、体幹部DXAによる骨密度測定を施行します。機種により若干の誤差が生じるため、同一の装置・機種で追跡し、同一部位による判定が望ましいです。高齢糖尿病患者では動脈硬化による腹部大動脈の石灰化や椎体の変形等が椎体骨密度に反映されてしまい、実際より高い骨密度の計測値を示すことがあるため、DXAを施行すると同時に椎体のX線撮像を行うことも重要です。無症状の新規椎体骨折、いわゆる「いつのまにか骨折」の出現がないか確認することも必要です。Q4 どのように骨粗鬆症の薬物療法の開始を判断し、治療薬を選択しますか? 糖尿病患者において骨折予防のための薬物治療を開始する場合は、原発性骨粗鬆症に対する薬物治療開始基準(図)を参考にします。骨折の既往が無くても、1)大腿骨近位部骨折の家族歴を有すること、2)FRAX®での10年以内の骨折(主要骨折)確率が15%以上であることの2項目を満たす時には薬物治療開始が推奨されます。これに加え、「糖尿病の罹病期間が長く、HbA1c 値が7.5%以上のコントロール不良の状態を呈し、インスリン治療を必要とする場合」は薬物治療の開始を考慮して良いと考えます。画像を拡大するポリファーマシーの患者さんに骨粗鬆症治療薬を追加する場合には、慎重に検討する必要があります。ADLが低下し寝たきり状態の方や、認知症の合併により服薬管理が困難な方は、原則として新規導入を見合わせています。ただし、ADLが良好ならば、年齢に関係なく、転倒や骨折のリスクが高い場合は積極的に骨粗鬆症治療を行うべきと考えます。1年に一度のビスホスホネート注射製剤や、6ヵ月に一度の抗RANKL(receptor activator of nuclear factor κB ligand)抗体製剤などの導入は、ポリファーマシー対策にもなります。なお、ビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体製剤等は、腎機能低下例や透析施行例では使用できない場合があるため、薬剤開始前に腎機能評価を行います。高齢者糖尿病の腎機能評価は、筋肉量の影響を受けにくい血清シスタチンC値を参考にします。シスタチンC値>1.5 mg/Lを呈する場合は、ビスホスホネート製剤の新規導入は原則禁忌と考えています。その場合には選択的エストロゲン受容体調節薬(SERMs:Selective Estrogen Receptor Modulators)等の使用を検討します。活性型ビタミンD3製剤は、転倒予防効果が期待できる上、比較的管理しやすいため広く使用されています。既存骨折を認めずADLの良好な方であれば良い適応と考えられますが、腎機能の低下した患者さんでは用量の調整が必要です。尿中Ca/Cr比>0.3の場合には減量を考慮します。スポット尿で簡単に計測できるため、6ヵ月に一度程度確認することを推奨しています。ビスホスホネート製剤の長期臨床投与成績を示した報告では、6~9年程度継続しても安全性には問題がないとされています3, 4)。しかし、ビスホスホネート製剤による骨密度増加効果は、腰椎では長期に持続するものの、大腿骨近位部では3~5年でプラトーに達すると言われています。そのため、まずは5年くらい経過観察し、加療中に大腿骨近位部骨折や椎体骨折などを来たした時や、骨量の増加が期待できない時は抗RANKL抗体製剤などへの変更を考えるのが良いでしょう。一方、アメリカのガイドラインでは、既存の骨折がなく大腿骨近位部の骨密度が骨粗鬆症領域を脱した場合には、ビスホスホネート製剤を休薬して経過観察し、2~3年毎に再評価するよう提示しています5)。骨吸収抑制薬のビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体製剤などは、長期使用によって顎骨壊死や非定型骨折のリスクが増加することが指摘されています。ただし骨粗鬆症に対する経口ビスホスホネート治療に関連する顎骨壊死の発生率は1年間で人口10万人当たり0.2人程度とも言われます。しかも口腔衛生管理を適切に行うことで発症を予防できます。抜歯やインプラントなど顎骨に直接影響を及ぼす処置をする場合には、処置前後2~3ヵ月休薬して様子を見ます。非定型骨折は、ビスホスホネート製剤の使用にてその発症の相対リスクが上昇するといわれています。しかし、非定型骨折の頻度は、大腿骨近位部骨折の1%程度にとどまり、その絶対リスクはビスホスホネート製剤投与に伴う大腿骨近位部骨折およびその他の骨折リスクの減少と比較して、非常に小さいとも報告されています6)。薬物使用による骨折発症予防のベネフィットと、有害事象発症のリスクのバランスを考えながら、個々の患者さんにとって適正な治療方針を選択すべきと考えます。1)Schneider AL, et al. Diabetes Care 2013; 36: 1153-1158.2)Leslie WD, et al. J Bone Miner Res 2018; 33: 1923-1930.3)Eriksen EF, et al. Bone 2014; 58: 126-135.4)Black DM, et al. J Bone Miner Res 2015; 30: 934-944.5)Alder RA, et al. J Bone Miner Res 2016; 31: 16-35.6)Black DM, et al. N Eng J Med 2020; 383: 743-753.

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アプリでのバランス感覚練習、2年で高齢者の転倒率低下/BMJ

 StandingTallは、アプリケーションを用いて自宅で行うe-ヘルスのバランス感覚練習プログラム。オーストラリア・Neuroscience Research AustraliaのKim Delbaere氏らは、高齢者の自己管理による転倒予防におけるStandingTallの有用性を検討し、1年間では転倒率や転倒者の割合は改善されないものの、2年間継続すると、転倒率や処置を要する転倒の割合が低下する可能性があることを示した。研究の成果は、BMJ誌2021年4月6日号に掲載された。シドニー市の高齢者の無作為化対照比較試験 研究グループは、地域居住高齢者の転倒予防におけるStandingTallの有用性の検討を目的に、評価者盲検下の無作為化対照比較試験を実施した(オーストラリア国立保健医療研究会議[NHMRC]の助成による)。 対象は、年齢70歳以上のシドニー市の居住者で、日常生活動作が自立しており、認知障害や進行性の神経障害がなく、運動が不能となる不安定または急性期の病態がみられない人々であった。被験者は、介入群(StandingTall[週2時間]+健康教育)または対照群(健康教育)に無作為に割り付けられた。すべての参加者に、タブレット型コンピュータが配布された。試験期間は2年間であった。 主要アウトカムは、転倒率(1人年当たりの転倒件数)および12ヵ月の時点で少なくとも1回の転倒を経験した参加者の割合とした。副次アウトカムは、24ヵ月の時点での転倒者数および処置を要する転倒(負傷を伴う、または治療を要する転倒)をした参加者の割合、アドヒアランス、気分、健康関連QOL、活動性の程度などであった。練習中の転倒が3人に5件発生 2015年2月~2017年10月の期間に503人が登録され、介入群に254人(平均年齢77.1歳、女性69.7%)、対照群には249人(77.7歳、65.1%)が割り付けられた。 12ヵ月の時点における平均転倒率は、介入群が0.60件/年(SD 1.05)、対照群は0.76件/年(1.25)で、転倒発生の率比は0.84(95%信頼区間[CI]:0.62~1.13)であり、両群間に有意な差は認められなかった(p=0.071)。また、12ヵ月の時点での転倒者の割合は、介入群が34.6%、対照群は40.2%と、有意差はみられなかった(相対リスク:0.90、95%CI:0.67~1.20、p=0.461)。 一方、24ヵ月の時点における平均転倒率は、介入群が対照群よりも16%低く、介入群で有意に良好であった(0.57件/年vs.0.72件/年、率比:0.84、95%CI:0.72~0.98、p=0.027)。また、24ヵ月時の転倒者の割合は両群で同程度(相対リスク:0.87、95%CI:0.68~1.10、p=0.239)であったが、処置を要する転倒をした参加者の割合は、介入群が対照群に比べ20%少なかった(0.80、0.66~0.98、p=0.031)。 介入群では、12ヵ月時に練習を継続していたのは68.1%、24ヵ月時は52.0%で、週当たりの練習時間中央値はそれぞれ114.0分/週(IQR:53.5)および120.4分/週(38.6)であった。 気分(9項目患者健康質問票[PHQ-9])および日常生活の活動性(McRoberts MoveMonitor)は、両群とも同程度で維持されていた。また、介入群では、EQ-5D-5L(EuroQol five dimension five level)の効用値が、6ヵ月の時点で0.03(95%CI:0.01~0.06)改善され、立位バランスが6ヵ月時に11秒(2~19)、12ヵ月時には10秒(1~19)改善された。 介入群では、練習中に3人の参加者で5件の転倒がみられ、軽傷(擦りむき、打撲傷、切り傷)を負った。これらの転倒は介入と直接に関連していた。練習関連の重篤な有害事象は認められなかった。 著者は、「これらの結果は、個別化されたe-ヘルスの運動プログラムは高齢者の転倒予防において有効な介入法であることを示している。StandingTallは拡張性のある介入法で、実地診療への導入が容易であり、医療従事者がプログラムを遠隔で設定し、監視し、個々の患者に合わせて調整するプラットフォームを提供する。また、StandingTallは使用者の自主性に重点が置かれ、医療従事者とのやりとりは最小限で済む」としている。今後は、経済的な評価を行う予定だという。

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無常と中道:認知症の人に処方され過ぎる中枢神経作動薬(解説:岡村毅氏)-1377

 たとえば90歳の軽度認知症の人から、何もかもが昔と違う、うつになってしまった、「薬をください」と切々と訴えられることがある。そして家族もまた「元気になる薬をください」「専門医でしょ」と訴えたりする。とはいえ病的な「うつ」ではない。医学や精神科への高い期待や信頼を感じる一方で、安直に薬など出しては本人を不幸にしてしまうので、なかなかつらい局面である。 さて本論文は、米国のメディケアのデータベースから、認知症をもつ地域在住の高齢者の14%が、中枢神経作動薬の多剤併用状態であるという報告だ。薬剤としては「抗うつ薬」「抗精神病薬」「ベンゾジアゼピン受容体作動薬(睡眠薬、抗不安薬)」の順で多かった。組み合わせとしては「抗うつ薬」「抗てんかん薬」「抗精神病薬」の組み合わせが多かった。 いうまでもなく、これらの多剤併用は、呼吸抑制、不整脈、転倒、認知機能低下などを起こす可能性があり望ましくない。米国は(私は生活したことはあるが臨床医をしたことはないので伝聞なのだが)簡単には処方箋を切ってくれないと聞くが、その米国ですら結構な薬が出ているのだと驚いた。わが国は、諸外国に比べると医療費は無料みたいなものだし、薬を出さないとやぶ医者だと思われる文化もかつてはあったので、おそらくもっと大量に処方されていることであろう。近年は多剤併用はこんなに怖い、といった雑誌記事を見ない日はないので、解消されつつあるのだろうか。 人間は時間的存在だとハイデガーは言ったが、生きることは加齢することでもある。年を取ることは、経験を積み、他者を知り、世界となじんでいくというプロセスと考えれば、だんだん生きることは楽になるはずだ。一方で、体力の衰え、記憶力の衰え、知人の死などは必ず起きるものであり、「うつっぽく」なる人はとても多い。これは精神異常とか精神症状とかそういうレベルではなく、生きることには楽しいこともつらいこともあるというだけの話である。 さて冒頭の90歳の人であるが、何もかもが昔と違うのは当たり前のことで、年をとると体も心も変わっていくのである、昔の肉体や心をいつまでも持ち続けることはできないのだ、それはあなたも医師も家族も同じであり、これは無常ともいうという話をさせていただいた。納得する人もいるし、納得しない人もいる。 このような人に「これは老化なのですから薬なんて絶対出しませんよ」と言い続けるのもちょっと冷たいように思う。中道を求めたい。かくいう私も、場合によっては処方することもある。さすがに老年精神医学会専門医なので本格的な向精神薬を処方するのは芸がなく、短時間精神療法と漢方などで何とかするが…。 長生きする人が増えたので、喪失や弱さと生きる機会は増えている。認知症の人の医療的意思決定においては、変数はとても多い:認知症疾患の種類および認知機能、頭蓋内の器質因、身体疾患、個人の考え方や歴史、周囲の人の考え方や歴史、置かれた社会状況、ほかに通院している医院の処方などなど。これらの変数は常に変わり続ける。昔の人はよく言ったもので、無常と中道というのはよい思考の枠組みである。 なお、認知症はせん妄や老年期のてんかんや睡眠障害を伴うことも多く、これらは致死的にもなりえるので、多剤併用も絶対にダメだというわけではない。冷静に、大局的に考えるべきだ。

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第22回 うつ傾向、うつ病【高齢者糖尿病診療のコツ】

第22回 うつ傾向、うつ病Q1 高齢者糖尿病とうつはどのような関係がありますか?糖尿病患者はうつ病や質問紙法で評価されるうつ傾向をきたしやすくなります。42の研究のメタ解析では、糖尿病患者は、約3割がうつ傾向を有し、約1割が面接法でうつ病と診断されます1)。1型、2型を問わず、糖尿病がない人と比べてうつ病の頻度が約2倍多くなっています1)。J-EDIT研究でも、高齢糖尿病患者の約39%は、GDS-15で評価したうつ傾向を有していました2)。うつ病があると糖尿病の発症は1.60倍で、一方、糖尿病があるとうつ病の発症リスクが1.15倍となり両者は双方向の関係があります3)。高齢糖尿病患者にうつ症状やうつ病が多い原因は高血糖、低血糖、糖尿病合併症、糖尿病治療、ADL低下、視力障害、尿失禁などが考えられます。糖尿病患者におけるうつ傾向は血糖コントロール状態と関連します。HbA1cが7.0%以上の糖尿病患者は、CES-Dで評価したうつ状態になりやすく、またうつ状態が再発しやすくなります4)。英国の追跡研究では、HbA1cが1%上昇するごとにうつ傾向のリスクが1.17倍になると報告されています5)。うつは血糖コントロールを悪化させ、さまざまな合併症を引き起こし、さらにうつを悪化させるという悪循環に陥る可能性もあります。一方、低血糖もうつ症状を増加させます。低血糖発作を起こした糖尿病患者はうつ病のリスクが1.73倍となりますが、この傾向は加齢とともに大きくなるとされています6)。J-EDIT研究でも、インスリン治療中でかつ低血糖の頻度が月1回以上あるとGDS-15で評価したうつ症状が多く見られました2)。一方、うつ病は重症低血糖のリスクになることが知られており7)、この両者も悪循環を形成しうることに注意する必要があります。糖尿病の合併症の中では神経障害による疼痛や身体の不安定さがうつ症状を引き起こします8)。また、糖尿病網膜症などによる視力障害、脳卒中、心血管障害などの大血管障害もうつのリスクとなります。糖尿病の治療状況自体もうつのリスクとなり得ます。逆に、社会的支援やボランティアなどの社会活動への参加、運動療法はうつに対し保護的に働きます。また、高齢者では肉親や友人との離別や死亡を意味するライフイベントが増加するとうつ病をきたしやすくなります。その他、女性、過去のうつ病の既往、社会的な孤立、家族関係の不良、介護環境の悪化もうつ傾向やうつ病発症の誘因となります。Q2 高齢者糖尿病にうつ(うつ傾向やうつ病)はどのような影響を及ぼしますか?うつは治療へのアドヒアランスを低下させ、血糖コントロール不良の原因となります。うつは高血糖のみならず、重症低血糖のリスクとなるため、治療に際しては十分な注意が必要です7)。うつがあると細小血管障害・大血管障害、要介護、死亡のリスクが高くなります。うつ傾向を合併した高齢糖尿病患者は、糖尿病もうつ傾向もない人と比べて、大血管症、細小血管症、要介護、死亡をそれぞれ2.4倍、8.6倍、6.9倍、4.9倍起こしやすく、うつ病を合併した場合も同様に糖尿病合併症、要介護、死亡をきたしやすいと報告されています9)。J-EDIT研究ではGDS-15が8点以上の糖尿病患者は年齢、性、HbA1c、収縮期血圧、non-HDL-C、HDL-Cを補正しても、脳卒中を2.56倍起こしやすいという結果が得られています2)。うつ病が脳卒中発症を増加させる機序は、1)視床・下垂体・副腎系の活性化によるコルチゾル増加や交感神経活性亢進、2)内皮細胞機能異常、3)血小板機能亢進、4)炎症マーカー増加などが考えられています。糖尿病患者におけるうつ病は認知症発症のリスクともなります10)。また、うつ病があるとフレイルのリスクは3.7倍、フレイルがあるとうつ病の発症は1.9倍起こりやすい11)ことが知られており、うつ傾向は心理的フレイルと呼ばれることもあります。糖尿病患者でうつ傾向やうつ病がある場合には認知機能障害やフレイルがないかをチェックすることが大切です。Q3 高齢者糖尿病ではどのようにうつを評価しますか?高齢者のうつ病ではうつの気分障害が目立たず、体重減少などの身体症状が前面に出るために、見逃されやすいことに注意する必要があります。うつ傾向は大うつ病とは異なり、一定期間持続する一定数以上のうつ症状を示し、GDS-15(高齢者うつスケール)などの質問票で評価します。一方、うつ病(大うつ病性障害)の診断はDSM-5に基づいて行います。うつ病は抑うつ気分、興味または喜びの喪失のいずれかがあてはまり、著しい体重減少(増加)または食欲低下、不眠または睡眠過多、易疲労感、精神運動制止または焦燥、無価値観・罪悪感、思考力・集中力の減退または決断困難、自殺企図の9項目中で5個以上満たすものを大うつ病と定義されます。スクリーニングツールとしてGDS-5、GDS-15、PHQ-9などが用いられていますが、GDS-5が簡便で使用しやすいと思います。GDS-5はうつ症状の評価に用いられますが、うつ症状と大うつ病の診断は必ずしも一致しないことに注意が必要です。うつ病の診断はDSM-5で行います。診断する際には、まず最初に物事に対してほとんど関心がない、楽しめないなど「興味・喜びの消失」や気分が落ち込む、憂うつになるなどの「抑うつ気分」の質問を行い、さらに食欲、睡眠などの質問をしていくとよいでしょう。不安・焦燥が強い、自殺念慮・企図がある、妄想、躁状態がみられる(既往がある)場合には早急に精神科専門医へのコンサルトが必要です。また、下記の治療で効果が得られない場合も精神科専門医へのコンサルトを行います。Q4 うつを合併した高齢者糖尿病はどのような治療を行いますか?うつ傾向、うつ病の対策では要因となる医学的要因を除去することが大切です。まず、低血糖を避けつつ、血糖をコントロールします。上記のように、低血糖は軽症でもうつ傾向を引き起こし、インスリン注射自体もうつの誘因となり得ます。したがって、2型糖尿病患者では可能な限りインスリンを離脱し、低血糖のリスクの少ない薬剤で治療することが大切です。一方で高血糖を下げることもうつの対策で重要です。軽度のうつ傾向であれば,心理的アプローチで医療スタッフによる傾聴やカウンセリングなどを行います。薬物療法単独と比較し、生活指導や心理療法を併用した方が治療効果は高まることが示されています12)。心理療法では認知行動療法が有効であるとされています。一般的に運動療法はうつ症状に対して有効であるとされ、運動を通して自信を取りもどし、他の人との関わりが増えることが利点です。運動教室やデイケアで運動療法を行うことで軽快するケースもあります。心理的アプローチで改善しない場合や中等度のうつ病の場合は抗うつ薬を使用します。実際に抗うつ薬による治療でうつだけでなく、血糖コントロールも有意に改善するという報告もあります13)。抗うつ薬ではまず、SSRI、SNRI、またはNaSSAが使用されます。SSRI やSNRI では服薬初期に嘔気・嘔吐の副作用が出やすいので,あらかじめそのことをお伝えし,必要であれば制吐薬を併用します。服薬初期に現れる副作用を乗り切れば,その後は問題なく服薬を継続できることが多いと思います。三環系抗うつ薬は不整脈、起立性低血圧、体重増加の関連が指摘されており、高齢者での使用は以前より少なくなっています。抗うつ薬は少量から開始し、忍容性を見ながら増量し、治療効果をみることが原則となります。通常量まで増量し、効果が得られない場合や自殺企図がある場合は精神科専門医への紹介が必要となります。糖尿病性合併症の有痛性神経障害はうつの原因になり得ます。両者は互いに影響を及ぼし、睡眠障害、移動度の低下、転倒、社会生活の制限をきたし、脳卒中、要介護のリスクを高めます(図1)。神経障害とうつを合併した患者では心理的アプローチ、フットケア、転倒予防を行います。また、セロトニン•ノルアドレナリン選択的再取り込み阻害薬(SNRI)のデュロキセチンはこうした患者に対してよい適応となります。神経障害に対してはカルシウムチャネルα2δ(アルファ2デルタ)リガンドのプレガバリンやミロガバリンも使用できますが、高齢者ではふらつき、転倒などに注意する必要があります。画像を拡大する1)Anderson RJ, et al. Diabetes Care 24:1069–1078, 2001.2)荒木 厚, 他.日本老年医学会雑誌52:4-10, 2015.3)Mezuk B, et al. Diabetes Care 31, 2383–2390, 2008.4)Maraldi C, et al. Arch Int Med 167: 1137-1141, 2007.5)Hamer M, et al. Psychol Med 41:1889-1896, 2011.6)Shao W, et al. Curr Med Res Opin 29:1609-1615, 2013.7)Katon WJ, et al. Ann Fam Med 11:245-250, 2013.8)Vileikyte L, et al. Diabetologia 52:1265-1273, 2009.9)Black SA, et al. Diabetes Care 26:2822-2828, 2003.10)Katon W et al. Arch Gen Psychiatry 69: 410–417, 2012.11)Soysal P, et al. Ageing Res Rev 36:78-87, 2017.12)Atlantis E, et al.BMJ Open 4, e004706,2014.13)Baumeister H, et al.Cochrane database Syst. Rev. 12, CD008381,2012.

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高齢NVAF患者、DOAC使用実態と2年間の転帰(ANAFIEレジストリ)/日本循環器学会

 本邦では、80代あるいは90代の心房細動患者も少なくないが、最適な抗凝固療法は必ずしも明らかになっていない。85歳以上の超高齢者が約25%を占める、3万例超の日本人高齢非弁膜症性心房細動(NVAF)患者の大規模レジストリ(ANAFIE)の結果を、第85回日本循環器学会学術集会(2021年3月26日~28日)で井上 博氏(富山県済生会富山病院)が発表した。高齢NVAF患者での抗凝固療法の臨床転帰、DOACをワルファリンと比較 ANAFIEレジストリは、日本人高齢NVAF患者におけるリアルワールドでの抗凝固療法の使用状況と臨床転帰を調査するために実施された、多施設共同前向き観察研究。75歳以上のNVAF患者を登録、2年間の追跡調査が行われた。 脳卒中/全身性塞栓症(SEE)、大出血、および2年間の全死因死亡の発生率は、カプランマイヤー分析によって推定された。各イベントのハザード比は、治療群(抗凝固薬なし、ワルファリン[WF]、およびDOAC)間のCox比例ハザードモデルを使用して分析された。 75歳以上のNVAF患者を2年間追跡調査したANAFIEレジストリの主な結果は以下のとおり。・2016年10月~2018年1月に33,278例のNVAF患者が登録され、32,275例が解析対象とされた。・平均年齢は81.5歳、85歳以上は26.1%(8,419例)含まれた。男性:57.3%、平均CHA2DS2-VAScスコア:4.5、平均HAS-BLEDスコア:1.9、発作性心房細動:42.1%/持続性心房細動:16.5%/長時間持続性・永続性心房細動:41.4%であった。・92.4%が経口抗凝固薬による治療を受けていた(ワルファリン:25.5%、DOAC:66.9%)。・DOACの投与状況は通常用量(appropriate:17.7%、overdose:3.2%)、減量用量(appropriate:44.2%、underdose:16.8%)。・ワルファリンの平均至適範囲内時間(TTR)は75.5%であった。・平均追跡期間1.88年における各イベントの発生率は以下のとおり: 脳卒中/SEE(全体:3.01%、85歳未満:2.69%、85歳以上:3.91%) 大出血(全体:2.00%、85歳未満:1.80%、85歳以上:2.55%) 頭蓋内出血(全体:1.40%、85歳未満:1.28%、85歳以上:1.76%) 心血管死亡(全体:2.03%、85歳未満:1.39%、85歳以上:3.85%) 全死因死亡(全体:6.95%、85歳未満:4.89%、85歳以上:12.77%) net clinical outcome(全体:10.14%、85歳未満:7.92%、85歳以上:16.44%)・転倒歴(登録前1年以内)、カテーテルアブレーション歴が、脳卒中/SEE、大出血および全死因死亡の独立したリスク因子であり、多剤併用は大出血および全死因死亡と関連していた。・ワルファリン群と比較して、DOAC群では出血性脳卒中および消化管出血を除く全てのイベントリスクが低く、抗凝固薬なし群では脳卒中/SEEおよび全死因死亡のリスクが高かった。  これらの結果を受けて井上氏は、日本人高齢NVAF患者においてDOACは広く用いられており、良好にコントロールされたワルファリン投与群と比較して、脳卒中/SEE、大出血および全死因死亡リスクが有意に低かったとして発表を締めくくった。

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降圧治療と副作用:システマティックレビューおよびメタ解析(解説:石川讓治氏)-1370

 高血圧は心血管イベント発症のリスク増加と関連し、降圧治療が心血管イベント発症を抑制することが報告されている。STRATIFY研究グループのメンバーは、降圧薬の介入試験や大規模観察研究の結果のシステマティックレビューとメタ解析を行い、降圧治療は全死亡、心血管死亡、脳卒中の発症抑制と関連し、降圧治療の副作用としては、転倒のリスク増加とは有意な関連がなく(1次評価項目:リスク比1.05、95%信頼区間0.89~1.24)、2次評価項目である急性腎障害(リスク比1.18、95%信頼区間1.01~1.39)、高カリウム血症(リスク比1.89、95%信頼区間1.56~2.30)、低血圧(リスク比1.97、95%信頼区間1.67~2.32)、失神(リスク比1.28、95%信頼区間1.03~1.59)といった副作用のリスク増加と関連していたことを報告した1)。Bromfieldら2)の以前の研究においても、降圧治療中の転倒のリスクは血圧レベルよりもフレイルの存在やポリファーマシーと関連していたことが報告されており、本研究のメタ解析においても降圧治療は転倒のリスク増加と関連していなかったことが再確認された。 日常臨床において転倒が危惧される高齢者は、多くの無作為介入試験の登録から除外されている場合が多く、本研究の結果は慎重に解釈する必要がある。また、高齢者においては下肢筋力低下による転倒と、一過性の血圧低下によるめまいや転倒を完全に区別することは困難な場合も多い。高齢者高血圧は血圧変動が大きいことが特徴であり、下肢運動機能が低下すると立位保持時に血圧が上昇し、自律神経機能低下が起こると起立性や食後低血圧が生じ、ふらつきから転倒を来すことがある。そのため急激な降圧のほうが問題となることがあり、血圧変動性亢進のリスク患者の認識をし緩徐に降圧することが、過度の血圧低下のリスクを考慮した降圧治療を行ううえで重要であると思われる。 本研究においては、降圧薬による高カリウム血症や急性腎障害は、レニン・アルドステロン系の阻害薬の使用で多かったことも報告されている。高齢者では動脈スティッフネスが亢進しており、高齢者高血圧の日常診療においてカルシウムチャネル阻害薬が選択されることが多いが、ALLHAT研究においては3)、降圧薬の種類の中でカルシウムチャネル阻害薬のアムロジピンを投与された患者で、投与開始後1年以内に転倒が多かったことも報告されており、投与開始直後には注意が必要であると思われる。

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認知症への中枢神経系作用薬巡るポリファーマシーの実態/JAMA

 2018年に、米国の認知症高齢患者の13.9%で、中枢神経系作用薬の不適切な多剤併用(ポリファーマシー)の処方が行われており、曝露日数中央値は193日に及び、最も多い薬剤クラスの組み合わせは抗うつ薬+抗てんかん薬+抗精神病薬であることが、同国・ミシガン大学のDonovan T. Maust氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌2021年3月9日号に掲載された。米国では、地域居住の認知症高齢者は、向精神薬やオピオイドの使用率が高いとされる。また、これらの患者では、中枢神経系作用薬の不適切な多剤併用により、認知機能の低下、転倒関連の傷害、死亡のリスクが増加する可能性があるという。不適切な多剤併用の広まりを評価する米国の横断研究 研究グループは、米国の地域居住の認知症高齢患者における中枢神経系作用薬の不適切な多剤併用の広まりを評価する目的で横断研究を行った(米国国立老化研究所[NIA]の助成による)。 対象は、2015~17年の期間に、認知症を有し、従来のメディケア保険に加入していた地域居住のすべての高齢患者であった。薬剤曝露は、2017年10月1日~2018年12月31日の期間の処方箋の調剤データを用いて推定した。観察期間は2018年で、最終的な調査コホートに含まれるには、2018年1月1日の時点でメディケア・パートD(外来処方薬の保険給付)の保険適用があることが求められた。 主要アウトカムは、2018年における中枢神経系作用薬の不適切な多剤併用の発生とされ、抗うつ薬、抗精神病薬、抗てんかん薬、ベンゾジアゼピン系薬剤、非ベンゾジアゼピン系ベンゾジアゼピン受容体作動性催眠薬、オピオイドのうち3剤以上に、30日以上連続的に曝露した場合と定義された。 また、不適切な多剤併用の基準を満たした患者において、曝露期間、処方された薬剤と薬剤クラスの数、最も多い薬剤クラスの組み合わせ、最も使用頻度の高い中枢神経系作用薬を調べた。6.8%が1年曝露、全曝露日数の92%に抗うつ薬 認知症の高齢患者115万9,968例(年齢中央値83.0歳[IQR:77.0~88.6]、女性65.2%)が解析に含まれた。このうち13.9%(16万1,412例)が中枢神経系作用薬の不適切な多剤併用の基準を満たし、全曝露日数は3,213万9,610人日であった。 中枢神経系作用薬の不適切な多剤併用の基準を満たした患者は、満たさなかった患者に比べて年齢中央値が低く(79.4歳[IQR:74.0~85.5]vs.84.7歳[78.8~89.9])、女性が71.2%を占めた。また、基準を満たした患者の曝露日数中央値は193日(IQR:88~315)で、57.8%が180日以上、6.8%は365日曝露しており、29.4%は5剤以上、5.2%は5クラス以上に曝露していた。 全曝露日数(3,213万9,610人日)の92.0%に抗うつ薬が、62.1%に抗てんかん薬が、47.1%に抗精神病薬が、40.7%にベンゾジアゼピン系薬剤が含まれた。最も多い薬剤クラスの組み合わせは、抗うつ薬+抗てんかん薬+抗精神病薬で、全曝露日数の12.9%に相当した。 また、最も多く処方されていた薬剤はガバペンチンで、全曝露日数の33.0%、すべての抗てんかん薬の曝露日数の53.2%を占めた。次いで、トラゾドン(全曝露日数の26.0%)、クエチアピン(24.4%)、ミルタザピン(19.9%)、セルトラリン(18.7%)の順であった。 著者は、「処方の適応に関する情報がないため、個々の患者における薬剤の組み合わせの臨床的妥当性に関する判断には限界がある」としている。

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膝OAの高強度筋トレ、1年半後のアウトカムは?/JAMA

 変形性膝関節症(膝OA)の患者への介入として、高強度筋力トレーニングは低強度筋力トレーニングや注意制御と比較して、膝痛や膝関節圧縮力の長期的な改善効果をもたらさないことが、米国・ウェイクフォレスト大学のStephen P. Messier氏らが実施した「START試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2021年2月16日号で報告された。大腿筋の筋力低下は、膝の痛みや変形性関節疾患の進行と関連するため、米国の診療ガイドラインは変形性膝関節症患者に筋力トレーニングを推奨している。高強度筋力トレーニングは、関節への圧迫力が大きいため変形性膝関節症の症状を悪化させる可能性があるものの、短期であれば安全で、高齢患者にも十分に忍容可能とされる。一方、長期の高強度の運動による筋力の向上は、変形性膝関節症の臨床アウトカムを改善する可能性も示唆されているという。3群を比較する米国の単施設無作為化試験 本研究は、18ヵ月間(長期)の高強度筋力トレーニングは低強度トレーニングや高度な注意制御と比較して、変形性膝関節症患者の膝痛や膝関節圧縮力を改善するかを評価する無作為化臨床試験であり、2012年7月~2016年2月の期間に米国の単施設(ウェイクフォレスト大学)で患者登録が行われた(米国国立関節炎・骨格筋・皮膚疾患研究所[NIAMS]などの助成による)。 対象は、年齢50歳以上、BMIが20~45で、膝痛がみられ、X線所見で軽症~中等症の変形性膝関節症(Kellgren-Lawrenceスコア:2~3点)と診断された患者であった。被験者は、高強度筋力トレーニング、低強度筋力トレーニング、注意制御(対照)を受ける群に無作為に割り付けられた。 筋力トレーニングは、1回につき5分の準備運動、40分のトレーニング、15分の整理運動から成り、週3回、18ヵ月間行われた。高強度群は、個々の運動の最大反復回数(RM)の75%を3セット、その8回反復を2週間行い、その後は2週ごとに、1RMの80%を3セット/8回反復、同85%/6回反復、同90%/4回反復を行い、9週目は強度を緩和して別の運動を行うとともに、個々の運動の新たな1RMを設定し、この9週の筋力トレーニングを8回(18ヵ月)繰り返した。低強度群は、同様の9週間のパターンで、1RMの30~40%の運動を3セット、15回反復した。対照群は、1回60分の研修(健康教育、社会的交流)を、2週ごとに6ヵ月間受け、以降は1ヵ月ごとに、合計24回受けた。 主要アウトカムは、18ヵ月の時点におけるWestern Ontario McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)膝痛スコア(0[最良]~20[最悪]点、臨床的に意義のある最小変化量[MCID]2点)および膝関節圧縮力(歩行中の脛骨の長軸に沿って生じる脛骨大腿骨の最大圧迫力、MCIDは不明)とした。短期の評価では、低強度群で膝痛の改善が良好 377例(平均年齢65歳、女性151例[40%])が登録され、320例(85%)が試験を完遂した。127例が高強度群、126例が低強度群、124例は対照群に割り付けられた。 18ヵ月時の平均WOMAC膝痛スコアは、高強度群は5.1点であり、対照群の4.9点(補正後群間差:0.2点、95%信頼区間[CI]:-0.6~1.1、p=0.61)、および低強度群の4.4点(0.7、-0.1~1.6、p=0.08)と比較して、いずれも有意な差は認められなかった。 膝関節圧縮力にも、高強度群と対照群(2,453N vs.2,512N、補正後群間差:-58N、95%CI:-282~165、p=0.61)、および高強度群と低強度群(2,453N vs.2,475N、-21N、-235~193、p=0.85)のいずれの比較においても有意差はみられなかった。 6ヵ月(短期)の時点では、低強度群は高強度群に比べ、WOMAC膝痛スコア(高強度群5.6点vs.低強度群4.4点、補正後群間差:1.2点、95%CI:0.5~1.9、p=0.001)およびWOMAC機能障害スコア(20.8点vs.16.1点、4.8点、2.4~7.2、p<0.001)が有意に優れていた。膝関節圧縮力には有意差がなかった。 重篤でない有害事象は87件(高強度群53件、低強度群30件、対照群4件)発生し、このうち29件が試験関連であった(20件、9件、0件)。頻度の高い有害事象として、体の痛みが20件(12件、7件、1件)、転倒が19件(11件、6件、2件)、筋挫傷が10件(8件、2件、0件)報告された。試験に関連しない重篤な有害事象は13件(5件、3件、5件)みられた。 著者は、「これらの知見は、成人の変形性膝関節症患者への高強度筋力トレーニングを支持しない」とまとめ、「高強度群と対照群でアウトカムに差がなかった理由の1つとして、対照群で変形性膝関節症による痛みが33%(既報の試験では1~17%)と大幅に改善されたことが挙げられる」と指摘している。

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降圧薬の有害事象メタ解析、急性腎障害や失神が関連か/BMJ

 降圧薬による高血圧治療は、転倒との関連はないものの、軽度の有害事象として高カリウム血症および低血圧と関連し、重度の有害事象として急性腎障害および失神との関連が認められることが、英国・オックスフォード大学のAli Albasri氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年2月10日号に掲載された。降圧治療の有効性を評価した無作為化対照比較試験のメタ解析は多いが、潜在的な有害性を検討したメタ解析はほとんどない。また、既存のメタ解析は、降圧治療とすべての有害事象の関連に重点を置き、特定の有害事象との関連は明らかにされていないという。降圧治療と特定の有害事象の関連をメタ解析で評価 研究グループは、降圧治療と特定の有害事象との関連を評価する目的で、系統的レビューとメタ解析を実施した(英国Wellcome Trustなどの助成による)。 成人(年齢18歳以上)で、降圧薬とプラセボまたは無投与、降圧薬数が多い群と少ない群、降圧目標値の高値と低値を比較した無作為化対照比較試験を対象とした。小規模な初期段階の試験を回避するために、試験はフォローアップ期間が650人年以上であることが求められた。 2020年4月14日の時点で、4つの学術データベース(Embase、Medline、CENTRAL、Science Citation Index)に登録された文献を検索した。 主要アウトカムは、試験のフォローアップ期間中の転倒とした。副次アウトカムは、急性腎障害、骨折、痛風、高カリウム血症、低カリウム血症、低血圧、失神であった。また、死亡や主要心血管イベントと関連する追加アウトカムのデータを抽出した。 バイアスのリスクはCochrane risk of bias toolで評価した。変量効果メタ解析で、試験の異質性(τ2)を考慮してすべての試験の率比(RR)、オッズ比(OR)、ハザード比(HR)を統合した。死亡、心血管死、脳卒中を抑制、心筋梗塞との関連は不明確 58件の無作為化対照比較試験(28万638例、フォローアップ期間中央値:3年[IQR:2~4])に関する63本の論文が解析に含まれた。多くの試験(40件[69%])はバイアスのリスクが低かった。 転倒のデータを報告したのは7件の試験(2万9,481例、1,790イベント)で、降圧治療との関連を示すエビデンスは認められず(要約RR:1.05、95%信頼区間[CI]:0.89~1.24)、この関連に関する試験間の異質性はほとんどなかった(τ2=0.009、I2=31.5%、p=0.372)。 一方、降圧薬は、急性腎障害(要約RR:1.18、95%CI:1.01~1.39、τ2=0.037、15試験)、高カリウム血症(1.89、1.56~2.30、τ2=0.122、26試験)、低血圧(1.97、1.67~2.32、τ2=0.132、35試験)、失神(1.28、1.03~1.59、τ2=0.050、16試験)との関連が認められた。 降圧治療と骨折(要約RR:0.93、95%CI:0.58~1.48、τ2=0.062、I2=53.8%、5試験)、および痛風(1.54、0.63~3.75、τ2=1.612、I2=94.3%、12試験)との関連のエビデンスは明確ではなく、CIの幅の広さは試験の異質性が大きいことをある程度反映すると考えられた。 レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系拮抗薬に限定すると、急性腎障害と高カリウム血症のイベントを評価した試験間の異質性は低くなった。また、個々の試験で投与中止の原因となった有害事象に焦点を当てた感度分析では、結果の頑健性が示された。 さらに、降圧治療は、全死因死亡(HR:0.93、95%CI:0.88~0.98、τ2=0.008、I2=50.4%、32試験)、心血管死(0.92、0.86~0.99、τ2=0.011、I2=54.6%、21試験)、脳卒中(0.84、0.76~0.93、τ2=0.013、I2=44.8%、17試験)のリスク低減と関連したが、心筋梗塞(0.94、0.85~1.03、τ2=0.013、I2=40.7%、19試験)との関連は明確ではなかった。 著者は、「これらのデータは、降圧治療の開始や継続について医師と患者が協働意思決定を行う際に、とくに有害事象の既往歴や腎機能低下により有害性のリスクが高い患者にとって、有益な情報となるだろう」としている。

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コロナワクチン「コミナティ」使用時の具体的な注意点

 「SARS-CoV-2による感染症の予防」を効能・効果として2月14日に特例承認されたファイザーの「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)」(商品名:コミナティ筋注)について、同日、本剤の使用に当たっての具体的な留意事項の通知が、厚生労働省から都道府県などの各衛生主管部(局)長宛に発出された。 本通知には、薬剤調製、接種時の具体的な注意点が記載されており、以下に一部抜粋する。■解凍方法・冷蔵庫(2~8℃)で解凍する場合は、解凍および希釈を5日以内に行う・室温で解凍する場合は、解凍および希釈を2時間以内に行う・解凍後は再冷凍しない■希釈方法・希釈前に室温に戻しておく・本剤のバイアルに日局生理食塩液1.8mLを加え、白色の均一な液になるまでゆっくりと転倒混和する。振り混ぜない・希釈後の液は6回接種分(1回0.3mL)を有する。デッドボリュームの少ない注射針または注射筒を使用した場合、6回分を採取することができる。標準的な注射針および注射筒等を使用した場合、6回目の接種分を採取できないことがある。1回0.3mLを採取できない場合、残量は廃棄する・希釈後の液は2~30℃で保存し、希釈後6時間以内に使用する。希釈後6時間以内に使用しなかった液は廃棄する■薬剤接種時の注意・通常、三角筋に筋肉内接種する。静脈内、皮内、皮下への接種は行わない また本剤の適正使用として、本剤の成分に対して重度の過敏症の既往歴のある者等は予防接種を受けることが適当でないとし、本剤の成分を示している。・トジナメラン(有効成分)・[(4-ヒドロキシブチル)アザンジイル]ビス(ヘキサン-6,1-ジイル)ビス(2-ヘキシルデカン酸エステル)・2-[(ポリエチレングリコール)-2000]-N,N-ジテトラデシルアセトアミド・1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン・コレステロール・精製白糖・塩化ナトリウム・塩化カリウム・リン酸水素ナトリウム二水和物・リン酸二水素カリウム そのほか、注射による心因性反応を含む血管迷走神経反射としてあらわれる失神への対処、妊婦または妊娠している可能性のある女性への接種の考え方なども記載されている。

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今年はさみしいクリスマスマーケット【空手家心臓外科医、ドイツ武者修行の旅】第23回

冬の長いドイツでは、12月になると日照時間も短くなり、1日の大半が夜のようになります。寒いし暗いし、正直外に出るのがかなり億劫になっちゃいます。ですが、12月は1ヵ月まるまるクリスマスマーケットが行われます(ドイツ語では“Weihnachtsmarkt”「ヴァイナハツマルクト」と呼ばれます)。大都市ニュルンベルクなどのクリスマスマーケットは規模が大きく有名なのですが、クリスマスマーケット自体はどの街でも行われています。毎年この時期の週末は、近隣の街にも足を伸ばして「ご当地クリスマスマーケット巡り」に出かけていました。もちろん、わがグライフスバルトでもクリスマスマーケットは行われます。小さな街なのですが、広場には所狭しと出店が並び、子供用のカートレース場や即席観覧車なんかも作られたりします(画像の真ん中あたりに観覧車の上半分が写っています)。ところが…新型コロナウイルス感染症の強烈な第2波がやってきたドイツでは、現在ロックダウンが行われており、各地でクリスマスマーケットの中止が発表されています。当地ではこれは結構大きな事件のようで、地域のネットの掲示板も悲しみの声で溢れかえっていました。数年前、テロ事件でヨーロッパがお騒ぎになったときでも、セキュリティを厳重にすることでクリスマスマーケットは敢行されていたのですが…流石に今回は難しかったようです。広場にポツンとグライフスバルトでは、「せめてクリスマスツリーだけでも」と広場にポツンとツリーだけが飾られました。(「単にキャンセルができなかっただけ」との意見もちらほら聞かれていますが…)。これはこれで風情があって、悪くないと思いましたが、地元の方々は「クリスマスマーケットをやらないなら、ただ転倒のリスクがあるだけだ」と、ネット掲示板でプチ炎上していました…まあ正直どうでもいいんですが。イベントがないと、冬のドイツの夜は長過ぎですから…。クリスマスマーケット、来年は無事再開されるといいな…。

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介護負担軽減のためエチゾラムを開始したが、過鎮静でかえって負担増大したため中止【うまくいく!処方提案プラクティス】第29回

 エチゾラムなどのベンゾジアゼピン系睡眠薬は、75歳以上あるいはフレイルから要介護状態の高齢者においては、過鎮静、認知機能や運動機能の低下、せん妄、転倒骨折のリスクになりうるため、慎重に投与する必要があります。今回の症例では、エチゾラムの服薬開始から中止までの経緯と、看護師と連携したフォローアップについて紹介します。患者情報90歳、男性(施設入居)基礎疾患ラクナ梗塞、アルツハイマー型認知症、高血圧症、脂質異常症、前立腺肥大症、変形性腰椎症、高度房室ブロック(ペースメーカー留置)、慢性心不全介護度要介護4訪問診療の間隔2週間に1回処方内容1.アムロジピン錠5mg 1錠 分1 朝食後2.アスピリン原末0.1g 分1 朝食後3.ジゴキシン錠0.125mg 1錠 分1 朝食後4.ボノプラザン錠10mg 1錠 分1 朝食後5.シロスタゾール錠100mg 1錠 分1 朝食後6.アルファカルシドール錠0.5μg 1錠 分1 朝食後7.タムスロシン錠0.2mg 1錠 分1 夕食後8.プロピベリン錠10mg 1錠 分1 夕食後9.フルボキサミン錠50mg 1錠 分1 夕食後10.フレカイニド錠50mg 2錠 分2 朝夕食後11.エチゾラム錠0.5mg 1錠 分1 夕食後(施設入居後の初診で追加)本症例のポイントこの患者さんは、アルツハイマー型認知症を基礎疾患とし、施設入居当初から入眠困難の状態で、徘徊や日中の活動低下などもありました。入居4日目の初診同行時に、施設看護師から、今後の介護負担増大が懸念されるため睡眠導入薬の処方を検討してほしいという話がありました。認知症患者における睡眠導入薬のエビデンスは乏しいため推奨されていませんが、現時点では施設介護職員の負担が大きいため、一時的な使用は必要と考えました。施設入居からまだ日が浅く、環境変化に慣れていないことが不眠の原因となっている可能性があるため、長期的ではなく短期的な服薬や状況に応じた頓用が適していると考えました。そこで睡眠障害のパターンが入眠障害型であることから、転倒リスクを考慮して筋弛緩作用が弱い低用量ゾルピデムを提案しました。しかし、医師からは施設介護職員が困っているのでしっかり落ち着かせる必要があるため、エチゾラム錠0.5mgを処方するとの回答でした。エチゾラムなどのベンゾジアゼピン系睡眠薬は『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』において、75歳以上あるいはフレイルから要介護状態の高齢者では、過鎮静、認知機能や運動機能の低下、せん妄、転倒骨折のリスクになることが指摘されています。この患者さんも当てはまりますので、過鎮静や筋弛緩作用による転倒などのリスクを伝え、経過について看護師と小まめに共有することで話がまとまりました。患者さんは、エチゾラム錠0.5mgの服用2日目には入眠できるようになりました。しかし、服用4日目の朝から座位保持が困難な状況になり、日中のふらつきが強く、転倒の危険性が高まってきました。看護師から移動や食事介助も難しいレベルの傾眠とふらつきがあり、かえって介護負担が増えているという相談があったため、医師に処方中止の提案をすることにしました。処方提案と経過医師に電話で上記の状況を報告し、エチゾラムを一旦中止あるいは減量で経過をみるか、エチゾラムを中止して非ベンゾジアゼピン系薬を頓用にするのはどうか提案しました。医師より、「鎮静も強く転倒リスクがあるのは問題なのでエチゾラムを中止して経過をみたい。薬が抜け切ったところで状況がまた変わるようなら他剤を検討する」という返答があり、即日エチゾラムを中止しました。看護師にも医師とのやりとりを共有し、エチゾラムを中止して鎮静が緩和した後に再度不眠で困るようなことがあれば他剤の提案を検討するので、経過については引き続き情報共有してほしい旨を伝えました。その結果、患者さんはエチゾラムの服薬を中止してから3日目まで傾眠とふらつきはありましたが徐々に改善し、5日目には食事や移動の介助時のふらつきもないほどに改善しました。現在は、活気を取り戻し、睡眠も問題ないことから処方薬の整理を医師と検討しているところです。1)日本老年医学会, 日本医療研究開発機構研究費・高齢者の薬物治療の安全性に関する研究研究班 編. 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015 改訂第5版. 日本老年医学会;2016.2)臨床神経学. 2014;54.

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転倒リスクを測定、立位年齢を1分で測定できる「StA2BLE」とは

 皆さんはご自身の転倒リスクについて意識したことがあるだろうか? 転倒はQOLの低下を招くばかりか要介護の原因となる。そのため、国の政策でも転倒予防が掲げられているが、アンメットメディカルニーズであることから抜本的な解決にはつながっていない。 10月26日にWeb開催された日本抗加齢協会主催『第2回ヘルスケアベンチャー大賞』において、転倒リスクを回避できる画期的な技術についてプレゼンテーションした、合同会社アントラクトの「StA2BLEによる転倒リスク評価と機能回復訓練事業」が大賞に選ばれた。プレゼンターを務めた島 圭介氏(横浜国立大学大学院工学研究院 准教授/アントラクトCEO)らの研究は、転倒リスクから身を守るだけではなく抗加齢につなげることを目標に設計されており、立位年齢TMが抗加齢分野において新しい指標として活用が期待されると多くの審査員から支持を得た。本稿では、見事に賞金100万円を手にした島氏への取材内容を交えてお届けする。 転倒リスクを身体と感覚の両側面から測定できる インターネットでたまたま公募を知ったことが今回の受賞のきっかけと話す島氏。同氏らは転倒リスクを回避するための技術として、立位機能アシスト&検査装置「StA2BLE」を開発した。StA2BLEとは、指先への感覚刺激の制御によって世界で初めて転倒リスクの可視化を実現し、身体/感覚機能を同時に評価する検査法で、「ただ目を閉じて立っているとふらつくが、壁に手をつくことで立っていられる」という原理を応用している。従来の体力テスト(握力や柔軟性など)では測定できないような転倒のリスクを身体と感覚の両側面から測定可能な点が特徴だ。 立位機能アシストはライトタッチと呼ばれる、人が何かに触れると姿勢が安定する現象を見えない壁(仮想壁)で作りだして転倒を予防する。これを利用することでいつでも・どこでも転倒予防ができるので、安定した立位、歩行が可能になる。 検査装置は仮想壁を取り払うことで転倒リスク評価につなげる技術で、ふらつきを誘発させてわずか1分間で転倒リスクを測定するものである。転倒リスクは過去に何回転倒したか、1年に何回転倒したかなどが鍵となるが、「立位年齢TMを知ることで自身への必要なサポートを意識することができる」と最終審査でPRした。 また、アントラクトでは技術提供だけではなく、立位年齢TMを測定後、理学療法的知見に基づき個々に応じた立位機能改善の訓練プログラム「筋制御トレーニング」「身体認識トレーニング」「感覚柔軟化訓練」の3つを提供しているのも特徴だ。若年者から高齢者まで有用なことから、この技術を入院前に実施し立位年齢TMを若返らせれば「入院中やその後のリスク回避につながる」とも説明した。転倒リスクが生命に影響する産業現場へ参入 現時点でこの技術を体験したのは全国各地で開催された健康イベントなどに参加した約1,400名だが、同氏は将来ビジョンとして「転倒予防が重要な産業現場」への導入件数の増加を目指している。これについては、「産業現場は転落・転倒リスクが生命に影響することから、就業前の体操などが元来導入されている。健康な人でも転倒リスクは日々の体調に左右されるので、この部分に着目し、就業前にStA2BLEで転倒リスク確認を行ってから就業することを推奨していきたい」と話した。今後の販路拡大の方法については模索中のようだが、「各疾患での利用価値を計るため、今後は疾患別の転倒リスクを層別化できるよう取り組みたい」と研究者としての意気込みを語った。 最後に同氏は「この取り組みは平均寿命の延伸、ひいては高齢者の労働力の確保、医療費の削減につながり、社会に大きく貢献できる。StA2BLEこそ転倒事故ゼロの社会を目指す世界でただ1つの方法論となりうる。われわれは工学、社会学、都市科学の専門家集団として結束力を高め、今後は国の事業にも積極的に参画したい」と今後の展望を述べるとともに「皆さまの隣にStA2BLEが来る世界を目指していきたい」と喜びを噛み締めた。 このほかの受賞は以下のとおり。・学会賞株式会社レストアビジョン「視覚再生遺伝子治療薬開発」・ヘルスケアイノベーションチャレンジ賞株式会社OUI「Smart Eye Cameraを使用した白内障診断AIの開発」株式会社Surfs Med「変形性膝関節症に対する次世代インプラントの開発」歯っぴー株式会社「テクノロジーで普及を拡張させる口腔ケア事業」・最優秀アイデア賞松本 成史氏(旭川医科大学)「メンズヘルス指標に有効な新規『勃起力』計測装置の開発」・アイデア賞佐藤 拓己氏(東京工科大学)「寿司を食べながらケトン体を高く保つ方法」松本 佳津氏(愛知淑徳大学)「長寿高齢社会を前提とした真に豊かな住空間をインテリアから考え、活用できる具体的な指標を作成する それは『豊かな人生』のデザイン」 ヘルスケアベンチャー大賞は、アンチエイジング領域においてさまざまなシーズをもとに新しい可能性を拓き社会課題の解決につなげていく試みとして、坪田 一男氏(日本抗加齢医学会イノベーション委員会委員長)らが2019年に立ち上げたもの。今年の応募総数は約40件に上り、ベンチャー企業や個人のアイデアによるビジネスプランを書類審査、1次審査、最終審査の3段階で評価し表彰した。

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高齢者の転倒・骨折予防、スクリーニング+介入は有効か/NEJM

 高齢者の転倒による骨折の予防において、郵送での情報提供に加え、転倒リスクのスクリーニングで対象を高リスク集団に限定した運動介入または多因子介入を行うアプローチは、郵送による情報提供のみと比較して骨折を減少させないことが、英国・エクセター大学のSarah E. Lamb氏らが行った無作為化試験「Prevention of Fall Injury Trial」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2020年11月5日号で報告された。高齢者における転倒の発生は、地域スクリーニングとその結果を考慮した予防戦略によって抑制される可能性があるが、英国ではこれらの対策が骨折の発生、医療資源の活用、健康関連QOLに及ぼす効果は知られていないという。イングランドの63施設が参加した実践的クラスター無作為化試験 本研究は、イングランドの7つの地方と都市部の63の総合診療施設が参加した実践的な3群クラスター無作為化対照比較試験であり、2010年9月~2014年6月の期間に参加施設と参加者の募集が行われた(英国国立健康研究所[NIHR]の助成による)。 各地域の保健区域にある3つの総合診療施設が、3つの介入のいずれかに無作為に割り付けられた。参加施設は、自施設の患者登録データを用いて70歳以上の地域居住者に試験への参加を募った。運動介入または多因子転倒予防介入を行う群に割り付けられた施設は、参加者に転倒リスクに関する簡略なスクリーニング質問票を送付した。 郵送による情報提供、転倒リスクのスクリーニング、対象を限定した介入(転倒リスクが高い集団への運動介入または多因子転倒予防介入)を行った群の効果を、郵送による情報提供のみを行った群と比較した。 運動介入にはOtago運動プログラム(筋力、バランス、歩行)などが用いられた。多因子転倒予防介入では、看護師、総合診療医、老年病専門医が、転倒と病歴、歩行とバランス、投薬状況、視力、足と履き物などを評価し、家庭環境に関する聞き取りを実施して、服薬の見直し、運動(運動介入群と同じ)、専門医への紹介などが行われた。 主要アウトカムは、18ヵ月後の100人年当たりの骨折発生率とした。副次アウトカムは、転倒、健康関連QOL、フレイル、経済評価などであった。100人年当たりの骨折発生率:2.76件vs.3.06件vs.3.50件 63施設から70歳以上の9,803例(平均年齢78歳、女性5,150例[53%])が無作為に選出された。このうち3,223例が郵送による情報提供のみを行う群(21施設)、3,279例が郵送による情報提供に加え、転倒リスクのスクリーニングと対象を限定した運動介入を行う群(21施設)、3,301例は郵送による情報提供に加え、転倒リスクのスクリーニングと対象を限定した多因子転倒予防介入を行う群(21施設)に割り付けられた。 転倒リスクスクリーニング質問票は、運動群の3,279例中2,925例(89%)と、多因子転倒予防群の3,301例中2,854例(87%)から回答が返送された。これら質問票を返送した5,779例のうち、2,153例(37%)が「転倒リスクが高い」と判定され、介入を受けることが勧められた。 骨折データは9,803例中9,802例で得られた。18ヵ月の時点で、骨折は郵送による情報提供群で133件、運動群で152件、多因子転倒予防群で173件発生し、100人年当たりの発生率はそれぞれ2.76件、3.06件、3.50件であった。運動群の郵送による情報提供群に対する骨折発生の率比は1.20(95%信頼区間[CI]:0.91~1.59、p=0.19)、多因子転倒予防群の郵送による情報提供群に対する骨折発生の率比は1.30(0.99~1.71、p=0.06)であり、スクリーニングと対象を限定した介入は骨折発生率を抑制しなかった。 転倒、SF-12で評価した健康関連QOL、Strawbridge Frailty Indexスコアで評価したフレイルにも有意な差は認められなかった。また、2万ポンド(2万5,800米ドル)を閾値とした場合、運動介入で費用対効果が優れる確率は70%だった。 試験期間中に、3件の有害事象(狭心症エピソード1件、多因子転倒予防の評価中の転倒1件、大腿骨近位部骨折1件)が発現した。 著者は、「最近のCochraneレビューでは、転倒への多因子介入の効果は限定的でばらつきが大きいと報告されており、骨折については信頼できるエビデンスはないとされる。また、今回の試験では、既報の研究に比べ運動の転倒への効果が低かったが、どの研究よりも追跡期間が長かった」としている。

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病院風景3題【Dr. 中島の 新・徒然草】(348)

三百四十八の段 病院風景3題2020年も11月に突入し、ますます寒くなってきました。昨日、ついに電気毛布が登場。お蔭でよく眠れました。さて、今回は最近のちょっとした出来事を語りましょう。(その1)先日、顔面痙攣の患者さんにボトックスを打っていたときのこと。患者「中島先生は都構想に賛成? それとも反対?」中島「僕は〇〇ですね」患者「なんでまた?」ひとしきり政治ネタで盛り上がりました。考えてみれば、外科医のルーツは散髪屋さん。まさしく床屋談義です。患者「コロナも怖いし、私、投票はやめておこうかと思ってるのよ」中島「投票には行かないとダメでしょう」患者「先生は真面目やねえ」中島「自分が投票するからこそ、後で見るニュースが面白いんですよ」患者「じゃあ私も行こうかな」と、11月1日の投票日をスケジュールに入れて張り切っていたのですが、これ、投票は大阪市民だけなんですね。大阪府民であっても大阪市民でない私は関係なし。「府と市が一緒になって二重行政解消」と言ってるくらいだから府民も投票させてくれたらいいのに。確かに、大阪市外の自宅のほうには投票に関するこれといったお知らせも来ません。でも、職場のある大阪市中央区では選挙カーみたいなのが走り回っていました。「このままでは大阪市がなくなってしまいます!」「大阪市がなくなってもいいのでしょうか!」大きな声で主張していたのは、もっぱら反対派です。で、投票結果は反対派が賛成派を僅差で上回りました。面白いのが自民党と共産党が反対派、維新と公明党が賛成派だったことです。国語の試験で「呉越同舟を説明せよ」という問題が出たら、例として使えますね。(その2)転倒して、左手をついたら骨折してしまったという患者さん。彼女は若くして脳梗塞になり、左不全片麻痺になっていたのです。ほとんど見てわからない程度には回復したのですが、バランスが悪く、何かの拍子に転びそうになります。毎回、左足が引っかかるという同じパターン。中島「転んで受け身をとる練習をしたらどうですか?」患者「柔道みたいに?」中島「そう。左足が引っかかったときに、どううまく転ぶかって練習」患者「それ難しそう」中島「何も黒帯を取ろうってわけじゃないからできますよ」患者「できるかなあ」中島「最初は柔らかいマットか何かの上で練習するといいですよ」例によって、自分ではやらないことを偉そうに講釈してしまいました。でも、転ばないのも大切だけど、転んでしまったときの対処も大切ですよね。リハビリに取り入れるのもいいんじゃないかな。(その3)手術室でのお話。血管吻合の手術ですが、まずは若手が皮切開始。私は手術用顕微鏡をのぞきながら助手を務めます。もちろん、若手が行き詰まったら途中で交代するつもりでした。中島「おい、糸の真ん中を持ったら蝶々結びになってしまうやないか。端を持てよ」若手「すみません」中島「そもそも何回ぐらい練習してきたんや」若手「……」中島「100回か200回か、先生の回答はこの2択や」若手「……」中島「そうか、200回以上っていうのもあるから3択になるな」若手「もう勘弁してください」手術室というのは逃げ場がないので、熱血指導にはぴったりの場所です。と言いながらも、若手の吻合した血管はうまく開通し、見事に先発完投してくれました。手術室から出た時に若手2号と出くわしたので、つい余計な一言。中島「彼、時間はかかったけどうまくやりよったぞ」若手2号「先を越されて、ちょっと悔しいです」中島「先生にも必ず出番がくるから、その日に備えて練習しとこか」若手2号「そうします!」同期というのは何かと助け合う一方で、ライバル心も持っています。切磋琢磨して成長してくれるといいですね。最後に1句都構想 銀杏の黄色と ともに散る

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HPVワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第5回

ワクチンで予防できる疾患ヒトパピローマウイルス(human papilloma virus:HPV)ワクチンは、HPV感染と感染によって発症する疾患を予防する。その代表が子宮頸がんである。HPV感染は、女性では、子宮頸がんのほか、肛門がん、膣がん、外陰部がん、口腔咽頭がん、肛門性器疣贅(尖圭コンジローマ)、男性では、肛門がん、陰茎がん、口腔咽頭がん、肛門性器疣贅の原因となる。HPVはヒトのみに感染する2本鎖DNAウイルスで、性交渉によって感染する。HPV感染はほとんどが一時的で典型的には12ヵ月以内に消失するが、12ヵ月を超えて感染が持続した場合に、数年の経過でがんを発症することがある1)。HPVには200種類以上のジェノタイプがあり、ジェノタイプによって、がんの発症リスクと発症する疾患が異なる(表1)。子宮頸がんの発症リスクが高い高リスクなジェノタイプは16型と18型がよく知られている。子宮頸がんの組織型のうち、扁平上皮がん、腺がん、腺扁平上皮がんは、約70%が、高リスク群である16型と18型が原因となる。そのほかのジェノタイプ、31, 33, 45, 52, 58型を加えると、約90%を占める2,3)。表1 HPVジェノタイプと関連疾患画像を拡大する子宮頸がんは、持続的なHPV感染によって、前がん病変である子宮頸部上皮内腫瘍(cervical intraepithelial neoplasia:CIN)やadenocarcinoma-in-situを経て発症する。CINは、組織学的にCIN1、CIN2、CIN3の3つに分類され、がんの発症リスクと関連している。CIN1やCIN2は通常がんへ進行することはまれで、正常組織へ戻るほうが多いと報告されている。CIN1からCIN3への進行は1年で1%程度だが、CIN2からCIN3への進行は2年以内に16%、5年以内に25%と上昇する。さらに、子宮頸がんやadenocarcinoma-in-situへの進行は、CIN2とCIN3は、CIN1と比較すると4.2倍のリスクがある。異形成が重度になるほどがん発症のリスクは高まる8)。ワクチンの概要(効果・副反応・生または不活化・定期または任意・接種方法)1)ワクチンの効果HPVワクチンには2価ワクチン(Cervarix)、4価ワクチン(Gardasil)、9価ワクチン(Gardasil 9、2020年に日本承認されたものは商品名をシルガード9という)の3種類が存在する。それぞれカバーするHPVの型が異なり、2価ワクチンは16, 18型、4価ワクチンは6, 11, 16, 18型、9価ワクチンは6, 11, 16, 18, 31, 33, 45, 52, 58型をカバーする(表2)。16, 18型は子宮頸がんの原因の約70%を占め、31, 33, 45, 52, 58型で約20%を占めるため、9価ワクチンでは子宮頸がんの原因の約90%をカバーできる。表2 HPVワクチンとカバーするHPVジェノタイプ画像を拡大するHPVワクチン接種により、HPV感染、子宮頸がんの前がん病変であるCIN2〜3、adenocarcinoma-in-situ、尖圭コンジローマ、肛門感染が減少することが示されてきた9)。前がん病変を確認した後に子宮頸がんが発症するまで放置するのは非倫理的であり、こうした病変は切除される。よって、がんに進行する前段階であり外科的治療の対象となる高悪性度の前がん病変の発生がエンドポイントに設定された。これまで、子宮頸がんの減少を直接示した報告はなかったが、本稿執筆中(2020年10月)に子宮頸がんが減少することを示した研究が発表された10)。若年女性に対する4価ワクチンの効果を検討した“FUTUREII”というランダム化比較試験では、15〜26歳の女性に4価ワクチン接種を行ったところ、48ヵ月の追跡期間で、プラセボと比較して、HPV16型または18型に関連したCIN2〜3、adenocarcinoma-in-situを含む前がん病変発症が98%減少した。CIN2単独では100%、CIN3では97%、adenocarcinoma-in-situでは100%の有効率が示された11)。また、10〜30歳の女性を対象とした、4価ワクチンの効果を検討したスウェーデンのコホート研究では、ワクチン接種者と非接種者を比較した場合、年齢補正後の子宮頸がんの発生率比は、0.51(95% CI,0.32-0.82)、暦年・居住地や親の特徴を追加補正した後の子宮頸がん発症率比は、0.37(95% CI,0.21-0.57)であり、初めて子宮頸がんが減少することが示された。4価ワクチンを17歳未満で接種した方が、17〜30歳で接種した場合よりも、子宮頸がんの発症が減少した10)。27〜45歳女性に対する4価ワクチンの研究では、予防効果は、CIN≧2の高度異形成は83.3%、尖圭コンジローマは100%と高く、接種後少なくとも10年間の予防効果が示された12)。9価ワクチンについては、16〜24歳の女性において、9価ワクチンと4価ワクチンの効果を48ヵ月追跡し比較した研究で、ワクチン接種前のHPV感染の有無に関わらず、高悪性度の子宮頸部や外陰部および膣の疾患(CIN、adenocarcinoma-in-situ、子宮頸がん、外陰上皮内腫瘍、膣がんを含む)の累積罹患率は100万人あたり14人と同等であった。また、9価ワクチンでカバーできる高悪性度の31, 33, 45, 52, 59型関連疾患(CIN, adenocarcinoma-in-situ, 子宮頸がん, 外陰上皮内腫瘍, 膣がんを含む)の罹患率については、9価ワクチンは100万人年あたり0.1人で、4価ワクチンは100万人年あたり1.6人であり、9価ワクチンの有効率は96.7%と高いことが示された13)。2)ワクチンの副反応主に報告されているワクチン接種後の有害事象は、注射部位の疼痛、腫脹、紅斑、掻痒感、全身症状は、頭痛、発熱、悪心、めまい、倦怠感などである14)。9価ワクチン接種者15,776例では、頭痛2,090例(13.2%)、発熱955例(6.1%)、失神36例(0.2%)が報告され、重篤な副反応は少なく0.1%未満であった15)。また、2009〜2015年にワクチン有害事象報告システムに報告された4価ワクチンの副反応は、合計60,461,220回接種のうち19,720例(0.03%)報告され、失神が100万接種あたり47例、体位性頻脈症候群(postural orthostatic tachycardia syndrome:POTS)やギラン・バレー症候群が100万接種あたり約1例、複雑性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)が100万接種あたり0.28例報告された16)。日本では、副反応としてCRPS、POTSに類似する病態、記憶障害や見当識障害などの高次脳機能障害や認知機能障害の報告が相次ぎ、それらは2014年に入り、HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HPV vaccine associated neuropathic syndrome:HANS)と呼ばれるようになった。HPVワクチンと、副反応と報告された症状との因果関係を調べる目的で行われた名古屋スタディでは、中学3年生〜大学3年生の女性約7万人を対象にアンケートを実施し、月経不順、疼痛、倦怠感、記憶障害、歩行困難、四肢の脱力を含む24の症状に関してワクチン接種者と非接種者とで比較したところ、症状発現に差はなく、ワクチンとそれらの症状との因果関係は示されなかった17)。接種スケジュールわが国では、HPVワクチンは2013年4月に定期接種化されたが、その後、副反応の報告が相次ぎ、同年6月に接種の積極的な勧奨が一時差し控えとなった。しかし、現在でも、A類の定期接種ワクチンに含まれている。画像を拡大する日本では、小学6年生〜高校1年生相当の女性に2価または4価ワクチンの3回接種が推奨されている。接種のタイミングは、2価ワクチンでは、初回接種、初回接種後1ヵ月、6ヵ月、4価ワクチンでは、初回接種、初回接種後2ヵ月、6ヵ月となっている。最近では、2020年7月21日に9価ワクチンであるシルガード9が、日本で製造販売承認された。9価ワクチンは、いまだ日本では定期接種化されていない(2020年10月現在)。画像を拡大する世界保健機関(World Health Organization:WHO)や米国予防接種諮問委員会(Advisory Committee on Immunization Practices:ACIP)は図3のように9〜14歳の男女全員に最低6ヵ月あけて2回のワクチン接種(0、6〜12ヵ月)を推奨している(男性は4価と9価ワクチンのみ承認)。12〜15ヵ月以上はあけないこと、5ヵ月以内に2回目を接種した場合は、初回から少なくとも6ヵ月あけて3回目の接種を行うことを推奨している18)。HIV、悪性腫瘍、造血幹細胞移植後、固形臓器移植後、自己免疫性疾患、免疫抑制薬使用中などの免疫不全者や、15歳以上の場合には、3回接種(0、1〜2、6ヵ月)が推奨されている。当初は、すべての対象者に3回接種が推奨されていたが、9〜14歳の場合、2回接種(0、6ヵ月)と3回接種(0、1〜2、6ヵ月)では免疫原性に差がないことが示されたため、2014年にWHOは2回接種に推奨を変更した19-22)。最近では、子宮頸部の高悪性度病変の発症をエンドポイントとしたコホート研究が報告され、16歳以下で4価ワクチンを接種開始した女性において、1〜2回接種は、3回接種と同等にCIN3以上の高悪性度病変に対する有効性が示されている23)。また、2価または4価ワクチンで接種を開始した場合に、9価ワクチンでシリーズを終了することは可能となっている。ただし、2価または4価ワクチンを3回接種終了後に9価ワクチンを追加接種することは推奨されていない24)。27〜45歳については、HPVワクチン接種の推奨はない。ただし、感染していない型のHPVに対する新規感染を予防するメリットはあり、実際CIN、尖圭コンジローマを有意に減少されることは示されている25)。接種のメリットがある場合は、医師と話し合いの上、接種を行うことが考慮できるとなっている。図3 米国予防接種諮問委員会(ACIP)やWHOにおけるHPVワクチン接種スケジュール画像を拡大する日常診療で役立つ接種ポイント接種は、筋注で行う。まれに、失神の報告があることから、失神による転倒や怪我を予防するため、ワクチン接種は座位または臥位で実施し、接種後は座位で15分間経過観察するよう推奨されている。注意点は、妊婦に対する安全性は確立していないこと、接種の禁忌は、HPVワクチンでのアナフィラキシーの既往、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)のアレルギーがある。今後の課題・展望WHOは2030年までにすべての国で、子宮頸がんの罹患率を100,000人年あたり4人未満、子宮頸がんの死亡率を30%減少させることを目標として掲げている。そのため、諸外国ではHPVワクチンプログラムが立ち上げられ、HPVワクチンの接種が積極的に行われている。オーストラリアでは、2019年10月の報告で、子宮頸がんの発症率は、2014年で100,000人年あたり7.4人だが、2020 年までに 100,000人年あたり6人未満、2028 年までに 100,000人年あたり4人未満に減少し、2066年には 100,000 人年あたり1人未満という非常にまれながんになることが予想されている26)。一方、日本は、2017年の子宮頸がんの罹患率は、100,000人年あたり16.9人で、ワクチン接種率は1%未満といった現状である27)。最近、オーストラリアの研究グループは、日本が2013年6月から現在に至るまで、HPVワクチン接種を差し控えたことによる、子宮頸がん罹患数や死亡数への影響について報告した。1994〜2007年に生まれた女性(2002年生まれ以降の女性の20歳までのワクチン接種率は1%未満)に関して、生涯における子宮頸がん罹患数が80,200〜82,100人、死亡数が16,500〜16,800人のところ、もし、2013年のワクチン接種の差し控えがなく接種率が70%で維持されていた場合、罹患数は52,900〜57,500人、死亡数は10,800〜11,800人となり、それぞれ24,600〜27,300人、5,000〜5,700人減少すると推定された。また、今後2020年以降の接種率が70%に回復し、キャッチアップも行った場合には、罹患数は64,000〜67,300人、死亡数は13,100〜13,800人となり、14,800〜16,200人の発症と3,000〜3,400人の死亡を防ぐことが可能であると推測した28)。9価ワクチンのシルガード9が承認され、ようやくHPVワクチンに対して、再度社会が動き始めたようだ。しかし、実際のところ、定期接種であることの周知や、積極的なワクチン接種までは進んでいない。早急に接種の積極的な勧奨を再開し、将来的には、子宮頸がんで苦しむ人がいなくなることを期待している。参考となるサイトこどもとおとなのワクチンサイト1)Joel M Palefsk. Up to date. Human papillomavirus infections: Epidemiology and disease associations.2)de Sanjose S, et al. Lancet Oncol. 2010;11:1048-1056.3)Schiffman M, et al. Lancet. 2007;370:890-907.4)EM Burd. Clin Microbiol Rev. 2003;16:1–17.5)Muñoz N, et al. N Engl J Med. 2003;348:518-527.6)D'Souza G, et al. N Engl J Med. 2007;356:1944-1956.7)Olesen TB, et al. Lancet Oncol. 2019;20:145-158.8)Holowaty P, et al. J Natl Cancer Inst. 1999;91:252-258.9)Bosch FX, et al. Vaccine. 2013;31:H1-31.10)Lei J, et al. N Engl J Med. 2020;383:1340-1348.11)FUTURE II Study Group. N Engl J Med. 2007;356:1915-1927.12)CDC.9vHPV Vaccine for Mid-Adult Persons (27-45 yo) Results from Clinical Studies.13)Joura EA, et al. N Engl J Med. 2015;372:711-723.14)Dahlström LA, et al. BMJ. 2013;347:f5906.15)Moreira ED Jr, et al. Pediatrics. 2016;138:e20154387.doi:10.1542/peds.2015-4387.16)Arana JE, et al. Vaccine. 2018;36:1781-1788.17)Suzuki S, et al. Papillomavirus Res. 2018;5:96-103.18)WHO.Comprehensive Cervical Cancer Control.19)Dobson SR, et al. JAMA. 2013;309:1793-1802.20)Puthanakit T, et al. J Infect Dis. 2016;214:525-536.21)Iversen OE, et al. JAMA. 2016;316:2411-2421.22)Huang LM, et al. J Infect Dis. 2017;215:1711–1719.23)Verdoodt F, et al. Clin Infect Dis. 2020;70:608-614.24)CDC.Supplemental information and guidance for vaccination providers regarding use of 9-valent HPV.25)FDA.FDA approves expanded use of Gardasil 9 to include individuals 27 through 45 years old.26)Hall MT, et al. Lancet Public Health. 2019;4:e19-e27.27)国立がん研究センター がん情報サービス.最新がん統計(2020年07月06日)28)Simms KT, et al. Lancet Public Health. 2020;5:e223-e234.講師紹介

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医療のイノベーション、ヘルスケアベンチャー大賞で体感しよう!

 昨年盛況に終わり、今年2回目を迎える『ヘルスケアベンチャー大賞』(主催:日本抗加齢協会、共催:日本抗加齢医学会)。この最終審査が10月26日(月)に開催される。 ヘルスケアベンチャー大賞は、アンチエイジング領域においてさまざまなシーズをもとに新しい可能性を拓き、社会課題の解決につなげていく試みとして、日本抗加齢医学会のイノベーション委員会発足後、坪田 一男氏(日本抗加齢医学会イノベーション委員会委員長)らが2019年に立ち上げた。ベンチャー企業や個人のアイデアによるビジネスプランを書類審査、1次審査、最終審査の3段階で評価し表彰する。 今年は新型コロナウイルス感染症が猛威を振るい、これまでの日常は非日常となりニューノーマルを余儀なくされている。そんな状況下、ヘルスケア分野でイノベーションを起こそうと多くの起業家や学生が応募した。今回はその中から選出されたファイナリスト8組のユニークなビジネスモデルのプレゼンテーションを聴講できるまたとない機会である。気になる方は参加登録をしてみてはいかがだろうか。第2回ヘルスケアベンチャー大賞 ファイナリスト決定 最終審査【日時】2020年10月26日(月)15~17時【参加方法】WEB開催 (最終審査会参加登録はこちら)【ファイナリスト】<企業5社>合同会社アントラクト:StA2BLEによる転倒リスク評価と機能回復訓練事業株式会社OUI:Smart Eye Cameraを使用した白内障診断AIの開発株式会社Surfs Med:変形性膝関節症に対する次世代インプラントの開発歯っぴー株式会社:テクノロジーで普及を拡張させる口腔ケア事業株式会社レストアビジョン:視覚再生遺伝子治療薬開発<個人3名>佐藤 拓己氏(東京工科大学):寿司を食べながらケトン体を高く保つ方法松本 成史氏(旭川医科大学):メンズヘルス指標に有効な新規「勃起力」計測装置の開発松本 佳津氏(愛知淑徳大学):長寿高齢社会を前提とした真に豊かな住空間をインテリアから考え、活用できる具体的な指標を作成する

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1日1回投与の長時間作用型COMT阻害薬「オンジェンティス錠25mg」【下平博士のDIノート】第59回

1日1回投与の長時間作用型COMT阻害薬「オンジェンティス錠25mg」今回は、末梢COMT阻害薬「オピカポン錠(商品名:オンジェンティス錠25mg、製造販売元:小野薬品工業)」を紹介します。本剤は、血漿中レボドパの脳内移行を効率化することで、パーキンソン病の日内変動を改善してOFF時間を短縮することが期待されています。<効能・効果>本剤は、レボドパ・カルビドパまたはレボドパ・ベンセラジド塩酸塩との併用によるパーキンソン病における症状の日内変動(wearing-off現象)改善の適応で、2020年6月29日に承認され、2020年8月26日より発売されています。なお、レボドパ・カルビドパまたはレボドパ・ベンセラジド塩酸塩による治療において、十分な効果の得られない患者に限り使用することができます。<用法・用量>通常、成人にはオピカポンとして25mgを1日1回、レボドパ・カルビドパまたはレボドパ・ベンセラジド塩酸塩の投与前後および食事の前後1時間以上空けて経口投与します。<安全性>国内第II相試験の安全性評価対象428例中、215例(50.2%)に臨床検査値異常を含む副作用が認められました。主な副作用は、ジスキネジア74例(17.3%)、便秘24例(5.6%)、幻覚19例(4.4%)、起立性低血圧18例(4.2%)、体重減少16例(3.7%)、悪心15例(3.5%)、幻視12例(2.8%)、口渇、傾眠各9例(2.1%)でした(承認時)。なお、重大な副作用として、ジスキネジア(17.3%)、幻覚(4.4%)、幻視(2.8%)、幻聴(0.7%)、せん妄(0.5%)、傾眠(2.1%)、前兆のない突発的睡眠(1.2%)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、レボドパを分解する酵素の働きを抑えることで、脳内で不足しているドパミンを増やし、レボドパ製剤の効果が低下するOFF時間を短くします。2.食事やレボドパ製剤服用の前後1時間を避けて、毎日同じ時間帯に服用する必要があります。服用タイミングが難しい場合はご相談ください。3.体が勝手に動く、耐え難い眠気が突然現れる、ギャンブルや買い物、暴食などの衝動が抑えられない、実際にはないものがあるように感じる、便秘症状が強いなど、気になる症状がある場合はご連絡ください。4.眠気、立ちくらみ、めまいなどが現れることがあるので、自動車の運転、高所での作業など、危険を伴う作業は行わないでください。また、起立性低血圧などを引き起こす可能性があるので、転倒に伴うけがには十分に注意して生活してください。<Shimo's eyes>パーキンソン病の薬物療法では、病状の進行に伴ってレボドパ製剤の作用持続時間が短縮し、症状の日内変動(wearing-off現象)が発現することがあります。そのような場合には、COMT阻害薬、MAO-B阻害薬などのドパミン附随薬の併用が検討されます。本剤は、エンタカポン(商品名:コムタンほか)に続く2番目のCOMT阻害薬です。エンタカポンは、レボドパ製剤と同時に1日数回服用する必要がありますが、本剤は長時間作用型であるため1日1回投与となっています。本剤は血液脳関門(BBB)を通過せず、末梢でのレボドパ分解を抑制して脳内へのレボドパ移行率を高める薬剤です。レボドパ・カルビドパ(同:ネオドパストン、メネシットほか)または、レボドパ・ベンセラジド塩酸塩(同:マドパー、イーシー・ドパールほか)と併用して用いることで効果を発揮します。副作用では、レボドパのドパミン作動性により引き起こされるジスキネジア、幻覚、悪心、嘔吐、起立性低血圧などに注意が必要です。相互作用については、本剤はカテコール基を持つ薬物全般の代謝を阻害するため、COMTにより代謝される薬剤(アドレナリン、ノルアドレナリン、dl-イソプレナリンなど)だけでなく、MAO-B阻害薬(セレギリンなど)、三環系・四環系抗うつ薬、ノルアドレナリン取込み阻害作用あるいは放出促進作用を有する薬剤(SNRI、NaSSAなど)との併用によっても、作用が増強して血圧上昇などを引き起こす恐れがあります。また、本剤は消化管内で鉄とキレートを形成する可能性があり、本剤と鉄剤それぞれの効果が減弱する恐れがあるため、鉄剤とは少なくとも2~3時間以上空けて服用する必要があります。本剤は、1日1回1錠の投与で良好なアドヒアランスが期待できますが、毎日一定の時間帯に服用する必要があり、最適な服用タイミングは患者さんの生活リズムによって変わります。できる限り少ない負担で続けられる時間帯を確認するなど、適切なフォローを心掛けましょう。参考1)PMDA 添付文書 オンジェンティス錠25mg

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第20回 高齢者の肥満、食事・運動療法の方法と薬剤選択は?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第20回 高齢者の肥満、食事・運動療法の方法と薬剤選択は?Q1 肥満症を合併した高齢者糖尿病ではどのような食事・運動療法を行うべきですか?食事・運動療法を行うにはまず、膝関節疾患や心血管疾患の有無をチェックし、認知機能、身体機能(ADL、サルコペニア、フレイル・転倒)、心理状態、栄養、薬剤、社会・経済状況、骨密度などを総合的に評価します。80歳以上の肥満症では治療によって血管障害や死亡のリスクを減らせるというエビデンスに乏しくなります。しかしながら、減量によって疼痛が軽減され、QOLが改善されるということも報告されていますので、膝関節痛などがある場合は減量を勧めてもいいと思います。肥満症を合併した糖尿病患者ではレジスタンス運動を含めた運動療法と食事療法を併用することが大切です。肥満症の高齢者に食事療法と運動療法の両者を併用し、減量を行うと、食事療法単独または運動療法単独と比べて、身体機能とQOLが改善します。有酸素運動とレジスタンス運動の両者を併用した方がそれぞれ単独の運動よりも歩行速度などの身体能力の改善効果が認められます。レジスタンス運動は肥満症の人は一人で行うことが困難な場合が多いので、介護保険のデイケア、市町村の運動教室などを利用し、監視下で運動することがいいと思います。また、体重による負荷を軽減する運動としてはプール歩行やエアロバイクなどを勧める場合もあります。また、高齢者の肥満では運動療法を行わず、食事療法のみで減量すると骨格筋量や骨密度が減少するリスクがあります。一方、適切なエネルギー量を設定し、運動療法を併用することにより筋肉量、身体機能、および骨密度を低下させることなく減量が可能であるとされています。Look AHEAD研究では高齢糖尿病患者を対象に運動を中心とした生活習慣改善と体重減少を行った介入群では、対照群と比べて、歩行速度が速く、SPPBスコアで評価した身体能力が有意に高いという結果が得られています。介入群は歩行速度低下のリスクが16%減少しました1)。とくに、65歳以上の高齢糖尿病患者でSPPBスコアの改善効果がみられました。食事のエネルギー摂取量に関しては、肥満があるとエネルギー制限を行うことになりますが、過度の制限によるサルコペニア・フレイル・低栄養の悪化に注意する必要があります。肥満高齢者にレジスタンス運動にエネルギー制限を併用した群では運動のみの群に比し体重減少とともに除脂肪量の減少がみられたが、歩行能力や要介護状態は改善し、筋肉内脂肪の減少を認めたという報告があります2)。この結果は減量によって筋肉内の脂肪をとることが筋肉の質を改善することにつながることを示唆しています。「糖尿病診療ガイドライン2019」においては、高齢者では[身長(m)]2×22~25で得られた目標体重に身体活動の係数をかけて総エネルギー量を計算します。J-EDIT研究では目標体重当りのエネルギー量が約25kcal/kg体重以下と35kcal/kg体重以上の群で死亡リスクの上昇がみられ、過度のエネルギー摂取もよくないことが示唆されています3)。高齢者でも肥満があり、減量が必要な場合には目標体重は[身長(m)]2に低めの係数(22~23)をかけて目標体重を求め、目標体重当たり25~30 kcalの範囲でエネルギー量を設定することが望ましいと考えています。一般のサルコペニア・フレイルに対してはタンパク質の十分な摂取(1.0~1.5㎏/㎏体重)が推奨されています。肥満やサルコペニア肥満がある場合のタンパク質摂取に関しては、まだ十分なエビデンスがありませんが、タンパク質は十分に摂取した方がいいという報告があります。膝OAがある高齢糖尿病女性の縦断研究でも、タンパク質の摂取が1.0g/㎏体重以上を摂取した群の方が膝進展力低下や身体機能低下が少ないという結果が得られました(図1)4)。サルコペニア肥満がある高齢女性を低カロリーかつ正常タンパク質(0.8g/㎏体重)摂取群と低カロリーかつ高タンパク質(1.2g/㎏体重)摂取群に割り付けて3ヵ月間治療した結果、骨格筋量の指標は正常タンパク質群では減少したのに対し、高タンパク質摂取群では有意に増加していました5)。したがって、肥満症のある高齢糖尿病患者では、少なくとも1.0g/㎏のタンパク質をとることが望ましいと思われます。画像を拡大するQ2 肥満症を合併した高齢糖尿病、薬物療法は何に注意が必要ですか?個々の病態に合わせて薬物選択を行いますが、肥満があるので、インスリン抵抗性を改善する薬剤を主体に治療します。体重減少を目的にする場合にはメトホルミン(高用量)、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬が使用されます。メトホルミンはeGFR 30ml/min/1.73m2以上を確認して使用し、eGFR 60ml/min/1.73m2以上を確認できれば少なくとも1,500㎎/日以上の高用量で使用します。SGLT2阻害薬は、心血管疾患合併例で、血糖コントロール目標設定のためのカテゴリーI(認知機能正常でADL自立)で積極的に使用し、カテゴリーIIでは運動や飲水ができる場合に使用するのがいいと考えています。GLP-1受容体作動薬は消化器症状に注意して使用します。いずれの薬剤を使用する場合もレジスタンス運動を含む運動を併用し、サルコペニア肥満やフレイルを予防することが大切です。1)Houston DK, et al . J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2018;73:1552-1559.2)Nicklas BJ, et al. Am J Clin Nutr. 2015;101:991-999.3)Omura T, et al. Geriatr Gerontol Int. 2020;20:59-65.4)Rahi B, et al. Eur J Nutr. 2016; 55:1729-1739. 5)Muscariello E, et al. Clin Interv Aging. 2016;11:133-140.

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