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障害児は暴力を受けるリスクが高い?:約1万8,000人のメタ解析

 障害児は非障害児に比べ暴力の犠牲になる可能性が高いことが、英国・リバプール・ジョン・ムーアズ大学のLisa Jones氏らの調査で示唆された。ただし、このメタ解析では各試験結果に顕著な異質性を認めたため結果の妥当性には疑問が残るという。中等度~重度の障害を持つ子どもは世界で9,300万人を下らず、障害児は非障害児に比べ暴力の犠牲となるリスクが高いという。効果的な予防プログラム開発の初期段階として、信頼性の高い評価基準の策定が必須とされる。Lancet誌2012年9月8日号(オンライン版2012年7月12日号)掲載の報告。障害児に対する暴力の発生率、リスクをメタ解析で評価研究グループは、障害児に対する暴力の発生状況とそのリスクのエビデンスを統合するために系統的レビューとメタ解析を行った。12のデータベースを検索して、1990年1月1日~2010年8月17日までに報告された断面研究、症例対照研究、コホート研究を同定した。対象は、18歳以下の障害児に対する暴力の発生率および非障害児との比較で障害児が暴力を受けるリスクを評価した試験とした。発生率、リスクともに大きな異質性を確認17件の試験が選出された(断面研究15件、コホート研究2件)。暴力の発生率とリスクの評価を行った試験は10件、発生率のみを検討した試験が6件、リスクのみの検討を行った試験が1件だった。全体で1万8,374人の障害児がメタ解析の対象となった。複合的な暴力の推定発生率は26.7%(95%信頼区間[CI]:13.8~42.1)、身体的暴力は20.4%(同:13.4~28.5)、性的暴力は13.7%(同:9.2~18.9)、精神的虐待は18.1%(同:11.5~25.8)、ネグレクトが9.5%(同:2.6~20.1)であった。一方、これらの推定発生率のI2統計量は、それぞれ98.9%(同:98.7~99.1)、96.8%(同:95.9~97.4)、98.3%(同:98.1~98.5)、94.7%(同:91.6~96.3)、98.4%(同:98.0~98.7)であり、顕著な異質性が認められた。非障害児との比較における推定リスクのオッズ比は、複合的暴力が3.68(95%CI:2.56~5.29)、身体的暴力が3.56(同:2.80~4.52)、性的暴力が2.88(同:2.24~3.69)、精神的虐待が4.36(同:2.42~7.87)、ネグレクトが4.56(同:3.23~6.43)だった。また、I2統計量はそれぞれ91.8%(同:87.7~94.1)、50.6%(0~73.0)、86.9%(78.8~90.9)、94.4%(91.4~96.0)、73.8%(27.7~86.0)と、やはり大きな異質性が確認された。試験間の推定値のばらつきは、試験の背景因子の解析では一貫性のある説明はつかなかった。著者は、「障害児は非障害児に比べ暴力の犠牲になる可能性が高いことが示唆された」と結論する一方で、「持続的で強固なエビデンスが得られなかったのは、よくデザインされた試験がなく、障害や暴力の測定基準が不完全で、障害が暴力によって生じた可能性の評価が不十分などの問題が原因と考えられる。今後、質の高い疫学調査を行う必要がある」と考察している。

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『ボストン便り』(第41回)「世界の主流としての当事者参画」

星槎大学共生科学部教授ハーバード公衆衛生大学院リサーチ・フェロー細田 満和子(ほそだ みわこ)2012年8月31日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行※本記事は、MRIC by 医療ガバナンス学会より許可をいただき、同学会のメールマガジンで配信された記事を転載しております。紹介:ボストンはアメリカ東北部マサチューセッツ州の州都で、建国の地としての伝統を感じさせるとともに、革新的でラディカルな側面を持ち合わせている独特な街です。また、近郊も含めると単科・総合大学が100校くらいあり、世界中から研究者が集まってきています。そんなボストンから、保健医療や生活に関する話題をお届けします。(ブログはこちら→http://blog.goo.ne.jp/miwakohosoda/)*「ボストン便り」が本になりました。タイトルは『パブリックヘルス 市民が変える医療社会―アメリカ医療改革の現場から』(明石書店)。再構成し、大幅に加筆修正しましたので、ぜひお読み頂ければと思います。●マサチューセッツ慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎と繊維筋痛症(CFIDS/ME and FM)の会「この夏、ME/CFSの研究は大きく前進するための舵を切った」と、半年ぶりに再会したナンシーは、いつものように低いトーンの落ち着いた声で静かに言いました。彼女は、「マサチューセッツ CFIDS/ME and FMの会」の理事の一人です。この病気に30年以上も罹っていて、病気についての専門知識は深く、医学研究の進捗状況や医師たちの動向、さらにアメリカ内外の他の患者団体の動きにも精通しています。ナンシーは患者のための地域活動もしていて、地区患者会の例会の場所をとったり、会員に連絡したりしています。例会当日の会場設営もしていて、会員に和やかな楽しい時間を過ごしてもらおうと、スーツケース2つにお茶やお菓子を準備し、季節にちなんだ飾りつけもします。私が同行させて頂いた2月のバレンタインの月の例会は、ピンクと赤がテーマで、テーブルクロスは赤、紙皿や紙コップやナプキンはハートの模様で、ハート形の置物も用意されていました。ナンシーから手渡された、最近のアメリカ政府のME/CFS対策についての書類には、次のようなことが書かれていました。2012年6月13日と14日に、HHS(The Health and Human Services)は、慢性疲労症候群諮問委員会(The Chronic Fatigue Syndrome Advisory Committee: CFSAC)を開催しました。委員には10人のメンバーが選ばれましたが、臨床の専門家、FDA(食品医薬品局)代表を含む7人の元HHSメンバーのほかに、患者アドボケイトもメンバーとして入りました。そして、3時間にわたる公聴会が行われました。その他にも7つの患者団体の代表が報告をする機会が設けられました。さらに、このCFSACとは別に、HHSは所属を越えて協働できるために慢性疲労症候群の特別作業班(Ad Hoc Working Group on CFS)も結成しました。そこには、CDC(疾病予防管理センター)、NIH(国立健康研究所)、FDA(食品医薬品局)など各部局の代表も含まれています。こうした委員会や作業班が作られた背景には、オバマ大統領の意向があるといいます。インディアナ・ガジェットというオンライン新聞によると、ネバダ州のリノに住むME/CFS患者の妻は、2011年5月にオバマ大統領に、ME/CFS患者の救済、特にこの病因も分からず治療法もない病気の解明の為に、研究予算を付けて助けて欲しいという手紙を出しました。これに対してオバマ氏は、NIHを中心に研究を進めるための努力をすると回答しました。また、オバマ氏は、偏見を呼ぶCFSという病名にも配慮を示し、MEと併記したとのことでした。新聞記事は「これでオバマは新しい友人を何人か作った」と結ばれています。全米で約100万人いると推計されているこの病気の患者が味方になるなら、目前に大統領選を控えたオバマ氏にとって政治的に大きな力になることでしょう。●スウェーデンにおける自閉症とアスペルガーの会スウェーデンのストックホルム県に住むブルシッタとシュレジンは、ふたりとも「自閉症とアスペルガーの会」の有給職員です。ブルシッタには33歳になる自閉症の息子さんがいて、シュレジンには20歳になる自閉症と発達障害の息子さんがいます。8月に発達障害児・者への施策や医療を視察するためにスウェーデンを訪れたのですが、その際にこの二人にお会いしました。「自閉症とアスペルガーの会」は、患者も患者家族も、医療提供者も社会サービス提供者も学校関係者も、関心がある人がすべて入れる会です。親が中心になって1975年に設立され、ストックホルム県内では会員が3,000人います。全国組織もあって、こちらは会員が12,000人います。活動としては、メンバーのサポートをしたり、子どもたちの合宿を企画したりしています。ホームページがあり、機関誌も出しています。ブルシッタによれば現在の会の中心的な活動は、政治的な動きだといいます。確かに会の活動が様々な施策を実現してきたことは、色々なところで実感しました。今回、ストックホルム県内の、様々な制度を見聞したり施設(発達障害センター)を訪れたりしました。その際に、こうした制度や施設をコミューン(地方自治体)に作らせるように働きかけてきたのは、「自閉症とアスペルガーの会」のような親たちや専門職が加入している自閉症や発達障害の患者会だったということを、何人もの施設の長の方々から聞きました。さらには、自閉症に対する大学の研究にも、こうした患者会は大きな役割を果たしています。カロリンスカ研究所に付属する子ども病院における自閉症研究グループであるKIND(発達障害能力センター)は、企業やEU科学評議会などからの資金援助を受けていますが、その時大きな後押しになったのが、「自閉症とアスペルガーの会」だったといいます。KINDのディレクターのスティーブン・ボルト氏は、会からの大きな支えを強調していました。スウェーデンでは1980年代にハビリテーションのシステムが作られ、生きてゆくうえで支援が必要な人々に対する支援が整えられてきましたが、十分とは言えないままでした。それが1994年に施行されたLLS(特別援護法)によって、支援の制度は大きく前進しました。この法律の制定にも、患者団体などの利益団体の働き掛けが大きな後押しになったそうです。2004年にスタートした自閉症のハビリテーションセンターや、2007年にスタートしたADHD(注意欠陥・多動性障害)センターでも、責任者の方は口々に、患者会が政治家に働きかけることでセンターが誕生したと言っていました。そして、このような支援を受けることは、ニーズのある人々の権利なのだと繰り返していました。●各国での患者会の現状スウェーデンに先立って訪れたアルゼンチンで開かれた国際社会学会でも、各国で患者会が医療政策決定において重要な役割を担っていることが報告されました。私が発表した医療社会学のセッションでは、イギリスからは「当事者会・患者会とイングランドのNHS(National Health Service:筆者挿入)の変化」、イタリアからは「トスカーナ地方における健康保健サービスの向上と社会運動の役割」と題される研究成果が紹介されました。それぞれ、地域におけるヘルスケア改革に、当事者団体や患者団体のアドボカシー活動が大きな役割を果たしたことに関する実証研究でした。最後に私の発表の番となり、「日米における患者と市民の参加」と題した、日本とアメリカの合わせて7つの患者会に対する、アンケート調査とインタビュー調査の結果を報告しました。この調査は、2010年から2011年にかけて行われたもので、患者会の意味と役割について、メンバーに意識を尋ねたものです。アンケートに対しては、日本では132票、アメリカでは109票の有効回答が寄せられ、インタビューの方では23人の方が対象者になってくださいました。患者会は、脳障害、脳卒中、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群、ポストポリオ症候群、卵巣がんなどでした。当初は、アメリカの患者会の方が日本よりも、政治的問題に発言してゆくアドボカシー活動への関心が高く、実際に活動も行っているという仮説を立てましたが、どちらの国も同程度に関心が高く、活動をしているという結果が認められました。ただし日米とも、患者会がアドボカシー活動を積極的に行うようになってきたのは、ここ10年から20年のことだといいます。それまでは、患者や親たちは問題を個人で抱え込むしかなかったといいます。患者や親たちは、病気による身体的あるいは生活上の苦しさを理解されず、ましてや支援など受けることもできませんでした。そして逆に、病気のことをよく知らない一般の人や医療者から、非難するような言葉や態度を浴びせられてきたといいます。30年以上も筋痛性脳脊髄炎の患者であったナンシーの言葉を借りれば、「社会からは理解されず、医療者から虐待されてきた」というのです。それは発達障害を持つ子や親も同様でした。スウェーデンでも80年代くらいまでは、ADHDや自閉症を持つこども達は、さまざまな失敗をしては親や教師から叱られ、親の方も育て方が悪いと周囲から非難されてきたといいます。●日本の患者会昨年9月に、東京で開催されたランセットの医療構造改革に関するシンポジウムでは、タイからの登壇者に「日本では患者会との協働はどのようになっているのですか」と聞かれ、「患者会は、自分たちの半径5メートルしか見ていない」ので意見を聞いても仕方ないというようなことを権威ある立場の日本人医師が答え、椅子から転げ落ちるほどびっくりしました。ランセットの会議に招待されるような方が、そのようなことを国際社会の場で発言するとは、日本の医師をはじめとする医療界の認識の浅さや遅れではないか忸怩たる思いがしたものです。このことは、以前にMRICにも書きましたが、この状況は今後変わってゆくでしょうか。日本でも、いくつかの患者会はアドボカシー活動をしています。例えばNPO法人筋痛性脳脊髄炎の会(通称、ME/CFSの会)は、偏見に満ちた病名を変更させるために患者会の名前を変えました。そして、この病気の研究を推進してもらいように、厚労副大臣や元厚労大臣を始め、何人もの国会議員や厚労省職員に面会し、研究の重要性と必要性を訴えかけました。さらに、ME/CFS患者が適切な社会サービスを受けられるようにするため、いくつもの地方自治体の長や議会に要望書を提出し、複数において採択されてきています。さらにME/CFSの会は、この病気の世界的権威ハーバード大学医学校教授のアンソニー・コマロフ氏に、会が11月4日に開催するシンポジウムに向けてのメッセージも頂きました。ME/CFSは、未だに日本では医療者からも家族からも想像上の病気や精神的なものと誤解され、患者が苦しんでいることをご存知のコマロフ氏は、この病気が器質的なものであることを繰り返し、日本でも研究が進められるように呼びかけました。実際に研究が進んだり、社会サービスが受けられるようになったりといった具体的な成果はなかなか上がって来ていませんが、この様に患者会は、様々な活動を行い、続けていればいつか実現すると信じて続けられています。●当事者参画の可能性アルゼンチンの国際社会学会で同じセッションに参加していらしたシドニー大学教授のステファニー・ショート氏は、「私たち社会学者は、特に私の世代は、マルクス主義の影響が大きかったから、体制批判とか、社会運動とか、っていう視点で見ちゃうのよね。でも、今は時代が変わったわね」、とおっしゃっていました。彼女はまた、私の行った日米調査の調査票を使って、今度はオーストラリアでやろうという共同研究の話を持ちかけてくれました。もちろんぜひ調査を実施してみたいと思っています。次の国際社会学会の大会は横浜で開催されます。ちょうど私の所属する星槎大学も横浜に事務局がありますので、医療社会学の面々のパーティ係を任命されました。会場探しもしますが、その時までに、日本の行政や医療専門職が患者会の役割を重視し、患者のための医療体制ができてきたという報告をこの学会で発表できるようになればいいと思いました。謝辞:スウェーデンの患者会は、セイコーメディカルブレーンの主催する研修で知り合いました。研修を企画して下さった同社会長の平田二郎氏、研修参加を推奨し財政的支援をして下さった星槎グループ会長の宮澤保夫氏に感謝いたします。また、日米患者会調査の実施に当たって、資金の一部を助成して下さった安倍フェローシップ(Social Science Research Councilと日本文化交流基金)に感謝の意を表します。<参考資料>インディアナ・ガジェット オバマ、CFSについて応えるhttp://www.indianagazette.com/b_opinions/article_75b181eb-bd88-5fe4-bc90-f7b09f869ffd.html略歴:細田満和子(ほそだ みわこ)星槎大学教授。ハーバード公衆衛生大学院リサーチ・フェロー。博士(社会学)。1992年東京大学文学部社会学科卒業。同大学大学院修士・博士課程の後、02年から05年まで日本学術振興会特別研究員。コロンビア大学公衆衛生校アソシエイトを経て、ハーバード公衆衛生大学院フェローとなり、2012年10月より星槎大学客員研究員となり現職。主著に『「チーム医療」の理念と現実』(日本看護協会出版会)、『脳卒中を生きる意味―病いと障害の社会学』(青海社)、『パブリックヘルス市民が変える医療社会』(明石書店)。現在の関心は医療ガバナンス、日米の患者会のアドボカシー活動。

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出産後のうつ病リスクは「10~15%」新スクリーニングツール期待

 先進諸国で最も頻度の高い妊娠合併症である「産後うつ病」。産後うつ病(PPD)は新たに母親になる女性の10~15%で発症する。PPDの発症が高い要因として、PPD自体に対する関心の低さや出産後の不安への対応を含むメンタルヘルスの不足が考えられる。その対策として、出産後だけでなく出産前からのメンタルヘルスが重要である。しかし、現在用いられる出産前スクリーニングツールは感度や特異性が低かった。そこで、McDonald氏らは新たなスクリーニングツールの開発を行った。Paediatr Perinat Epidemiol誌2012年7月号(オンライン版2012年5月9日号)報告。 本研究の目的は、出産前にPPDリスクを有する女性をスクリーニングできるツールを開発し、運用化することである。カルガリーで実施された妊婦対象の前向きコホート研究より得られた1,578名のデータを用い、PPDの有病率に対するスコアベースの予測尺度を開発した。PPDの定義は、出産後4ヵ月のエジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)10点以上とした。 主な結果は以下のとおり。・最良なモデルとして、既知のPDDリスクファクター(妊娠後期のうつとストレス、虐待歴、夫との関係性の不足 )を含んだ。・本スクリーニングツールの感度は、妊娠後期のEPDSと比較して、有意に良好であった。・出産後の不安症状発現リスクを予測するために有用であることが示された。関連医療ニュース増加する青年期うつ病 、早期発見へうつ病治療におけるNaSSA+SNRIの薬理学的メリット統合失調症の高感度スクリーニング検査 「眼球運動検査」

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貧困化と医療・介護

亀田総合病院小松 秀樹 2012年6月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 ※本記事は、MRIC by 医療ガバナンス学会より許可をいただき、同学会のメールマガジンで配信された記事を転載しております。 ●自己負担分が払えないので入院できない  2010年4月、私は、千葉県の房総半島南端の亀田総合病院に赴任した。以後、鴨川市の亀田総合病院と館山市の安房地域医療センターで診療を行っている。当地に来て、それまで勤務していた虎の門病院との違いに驚いたことがある。自己負担分のお金が用意できないので、入院できないという患者が珍しくないのである。亀田総合病院では、医療費の自己負担分の未収金が年間6千万円生じている。未収金は累積で3億3千万円になる。本人がお金を持っていないので、多くは回収できない。他にも、貧困化を感じさせる事件があった。無保険状態の患者が、他人の保険証で入院していたのが本人からの申し出で発覚した。同じことが他にもあるかもしれない。●国民健康保険被保険者の所得国民健康保険(国保)実態調査を見ると、貧困化が進行していることが分かる。2010年度被保険者3920万人の前年(2009年)の平均世帯所得、一人当たり平均所得はそれぞれ145万円、83万7千円だった。被保険者の平均世帯所得は2008年、2009年、それぞれ、前年より6%、8.2%減少した。2008年9月のリーマン・ショックが弱者を直撃したのである。1994年度の被保険者の前年の平均世帯所得、一人当たり平均所得はそれぞれ240万円、109万円だった。以後減少傾向が続いた。1993年の値を100とすると、2009年の人口、名目GDP がそれぞれ102、97とほとんど変化していないにもかかわらず、世帯平均所得、一人当たり平均所得はそれぞれ60、77だった。国保被保険者の所得は、名目GDPに比べて減少幅が大きい。自営業者の所得の実態がつかみにくいとはいえ、同じ方法で調査されているので、変化は捉えられているはずである。また、高齢者には、貯蓄はあったとしても、捕捉されない裏収入が多額あるとは思えない。補足説明を加える。2008年4月1日、後期高齢者医療制度の施行に伴い、75歳以上の高齢者が国保から外れ、被保険者数が5110万人から3966万人に減少し、一人当たりの平均所得は91万5千円から95万6千円に増加した#。75歳以上の高齢者を除けば、最近16年間の所得の減少幅はさらに大きいかもしれない。#最初に配信した記事の数字が間違えていたので修正いたしました。お詫び申し上げます(著者)。●生活保護の支給水準国保被保険者の中には、生活保護受給者より所得の少ない人たちが相当数存在する。68歳と65歳の夫婦が生活保護になった場合、1級地1の東京都江戸川区だと、第1類費2人分、第2類費、住宅扶助で月額190,070円、年額2,280,840円、2級地1の千葉県柏市だと月額168,440円、年額2,021,280円、3級地1の千葉県鴨川市だと月額147,020円、年額1,764,240が支給される。医療については、国保と同等の医療が保険料、自己負担なしに現物支給される。介護も、原則として介護保険と同等のサービスが自己負担なしに現物支給される。他に教育扶助、障害者・母子・児童加算などがある。一方で、国保被保険者は平均世帯所得145万円の中から、平均保険料14万3千円を支払っている。しかも、医療機関の窓口で3割を負担しなければならない。国保被保険者の所得は、地域によって全国平均よりはるかに低い。一人当たりの平均所得は東京の119万6千円に対し、沖縄は48万4千円と半額以下だった。鹿児島、徳島、青森、高知も東京の半額以下だった。●館山市の高齢患者再度、医療現場での実感に戻る。亀田総合病院は安房医療圏最大の基幹病院である。館山市にある安房地域医療センターは、2008年、破綻した安房医師会病院を社会福祉法人太陽会が負債込で引き受けたものである。安房地域医療センターは、館山市の二次救急の大半を引き受けている。亀田総合病院の救命救急センターは、安房医療圏のみならず、君津医療圏、山武・長生・夷隅医療圏の南半分、東京都の島嶼を守備範囲にしている。安房地域医療センターに、脱水や肺炎で救急入院する高齢者は、23キロメートル離れた亀田総合病院まで到達する気力と資力がない。しばしば複数の疾患を抱えており、普段から健康だとは思えない。それでも、救急入院患者は初診患者が多い。安房地域医療センターに普段受診しているわけではない。交通費と医療費の自己負担分が重いのかもしれない。●高齢化と孤独化国立社会保障・人口問題研究所によると、日本の人口は2010年から、2030年までの20年間で1195万人減少すると推計されている。 一方で、全国で65歳以上の高齢者人口が726万人増加する。その内の267万人(37%)が首都圏の増加である。国民生活基礎調査によると、2000年には、65歳以上の高齢者のいる世帯の中で、単独世帯が307万9千世帯、夫婦のみの世帯が423万4千世帯だった。2010年には、単独世帯が501万8千世帯、夫婦のみの世帯が619万世帯に増加した。10年間で独居高齢者は63%増加した。国立社会保障・人口問題研究所によると、高齢者の単独世帯数は増加し続け、2030年には、65歳以上の人口の19.5%、717万人が独居になると推計されている。小松らの「医療計画における基準病床の計算式と都道府県別将来推計人口を用いた入院需要の推移予測」(文献1)によれば、療養病床・入所介護需要の増加は著しい。2010年と比較して2030年には847,822床増加する。このうち288,059床、率にして34%が、埼玉、千葉、東京、神奈川における増加分である。首都圏は、現状でも、療養病床・入所介護の需給が日本で最も逼迫している地域である。今後20年間で、現在の3倍の施設が必要になる。孤独化を考慮すると、実際の療養病床・入所介護需要の増加幅はさらに大きくなる。●相対的貧困率相対的貧困率とは、貧困線以下の世帯員数の全人口に占める比率である。貧困線とは、等価可処分所得(世帯の手取り収入を世帯員数の平方根で除した値)の全国民の中央値の半分の金額である。国民生活基礎調査によると、2009年の貧困線は、名目値で114万円である。単独世帯では手取り所得114万円、2人世帯では手取り所得161万円、3人世帯では手取り所得197万円に相当する。2000年台半ばの日本の相対貧困率は、OECDの中でメキシコ、トルコ、アメリカについで4位だった。1985年以来、上昇傾向が続いている。2009年の相対貧困率は、データのある1985年以後最高の16%に達した。国民生活基礎調査では、2009年の全世帯の平均所得金額は549万6千円、中央値は438万円だった。所得金額150万円未満は、全世帯12.2%、高齢者世帯(#)25.2%、児童のいる世帯3.3%、母子世帯19.9%だった。高齢者世帯、母子世帯に低所得者層が多い。しかし、生活意識調査では、生活が大変苦しいとした世帯は、全世帯27.1%、高齢者世帯21.3%、児童のいる世帯31.0%、母子世帯50.5%であり、子供を持つ家庭、特に母子世帯で生活が大変苦しいと実感されていた。#65歳以上の者のみで構成するか、又はこれに18歳未満の未婚の者が加わった世帯●特別養護老人ホームの個室化(ユニット型)2001年厚労省は、特別養護老人ホーム(特養)を、「終のすみか」と位置付けて、完全個室化する方針を決めた。10名程度の入居者を一つのグループにして、グループごとに食堂、談話スペースなどの設備を設け、自宅に近い環境の中で介護サービスを提供する。居住費については自己負担として徴収することにした。当初より懸念があった。玖珂中央病院吉岡春紀院長の意見(2001年4月11日)を紹介する。意識状態に問題のある場合には個室にする意味はありませんし、むしろ意識障害のある重介護者が一人一人別の部屋になると、今のシステムでは介護スタッフの人数が圧倒的に足りません。全て個室にすることで建設費用は当然アップします。大半が補助金で建設されますが基は税金です。「要介護4」以上の重介護者は介護できないのではないかと思います。個人負担が払えず行き場を失う要介護者を誰が自宅で介護するのでしょうか。質素でよいから使いやすい施設をつくるべきだと思います。吉岡春紀院長の懸念は的中した。2008年7月22日の読売新聞は、新型特養の経営悪化を伝えた。開設2ヶ月前の05年10月、政府の社会保障費抑制策を受け、介護報酬が大幅に削減された。入居者から1人月額8万円の居住費を徴収できれば赤字にならず、借入金も返済できる計画だった。ところが、同時に導入された低所得者対策で、計算が狂った。施設が受け取る低所得者分の居住費に、月6万円(本人負担と公費補てん)という上限額が設けられたためだ。この結果、「居住費は、建設費用をもとに、入居者との契約で自由に設定できる」という当初の国の方針に沿って月6万円以上の料金を設定した施設では、軒並み経営が苦しくなった。「これからは特養も、質の高いハード、ソフトを目指せという国の方針に沿って整備したのに、はしごを外された気分。」2010年4月、利用者の負担軽減と供給を増やすために、厚労省は特養の個室の面積基準を8畳から6畳に狭める方針を打ち出したが、個室推進の方針を堅持している。この現状に対し、群馬県の大澤正明知事は以下のように語って厚労省の現状認識を批判した。「今入居されている方の中には、国民年金をフルに受給できない方もたくさんいらっしゃいます。理想論で『ユニット型』を進めるというのは、私は、現状認識が少し違うのではないかなという思いがあります。そのため、群馬県としては『多床室』も併設して進めたいと思っています。やはり、『多床室』と『ユニット型』では、一か月の入居費用も6万円前後の差があります。」長野県の社会福祉法人敬老園の理事長である斎藤俊明氏も、ブログで個室化に異議を唱えている。5ヶ所の特養。現入所者340人のうち、本日現在、平均年齢85歳(男性81歳、女性87歳)、男性27%、女性73%。平均介護度は4.3と重度です。女性が多いことは、介護サービス全体にいえますが、男性に比べて年金の額が低額の方が多いことも費用負担の少ない多床室のニーズが高い要因の一つでもあります。この春(2012年)開設した特養。個室の希望者が2%、50の個室を埋める苦労に比べ、多床室は、満床でスタートし、3月31日現在では、多床室希望の待機者が815人を超えています。就業構造基本調査によると、看護・介護するために離職した人数は、年間10万人前後を推移してきたが、最新のデータ(2006年10月から2007年9月)では、年間14万4800人に達した。長年在宅医療に携わっている小野沢滋医師によると、入所介護の費用を負担できない貧困家庭で、息子や娘が仕事を辞めて介護に専念せざるをえなくなっている事例が目立つという。彼の経験では、退職する息子、あるいは、娘の平均年齢は、52歳だとのこと。52歳で仕事を辞めると、彼らの生活資金が枯渇する。貧困が再生産される。無理な在宅介護は、虐待、自殺、殺人の原因となる。厚労省は、特養に対し、要介護度4、5の重度者を70%以上にすることを義務付けている。入所者の多くは認知症が進んでいる。厚労省の個室化方針には矛盾がある。重度の要介護者は個室だと目が届きにくく、介護もしにくい。個室化によるプライバシーの尊重より、介護しやすい多床室での手厚い介護が優先されるべきである。特養は、入所介護施設としては、利用者の負担が最も低い。現在、特養の入所待ちが、数十万人になり、「終のすみか」が圧倒的に不足している。「背景にあるのは、危機に立つ国家財政と、厚労省のかたくなとも思える在宅介護への誘導である」(河内孝『自衛する老後』新潮新書)。厚労省の方針は、高齢の要介護者を健康にして自宅に戻すことが可能であり、それを目指すことが正しいという無理な理念に基づいている。人生は、生老病死の順に進んでいく。老、病の後には死が来る。まれに、要介護者が、元気になって自宅に帰れたとしても、次はそうはいかない。独居を含めて、高齢者のみの世帯が増加し続けている。人生の終末期を個人に押し付けるのは不可能になった。超高齢化社会では、老病死を前提にして、社会全体で死を上手にこなしていかないと、不幸の総量を増やす。●厚労省のかたくなな態度はなぜ生じるのか歴史を俯瞰すると、家族と部族がいてそこで生産がほとんど成り立つような分節分化の時代、封建社会や資本家と被搾取階級という分類が可能な初期資本主義社会など階層分化の時代を経て、現代社会は、社会システムの機能分化の時代になった。現代社会では、医療を含めて、経済、学術、テクノロジーなどの専門分野は、社会システムとして、それぞれ世界的に発展して部分社会を形成し、その内部で独自の正しさを体系として提示し、それを日々更新している。例えば、医療の共通言語は統計学と英語である。頻繁に国際会議が開かれているが、これらは、医療における正しさや合理性を形成するためのものである。今日の世界社会は、このようなさまざまな部分社会の集合として成り立っている。それぞれの部分社会はコミュニケーションで作動する。ニクラス・ルーマンはコミュニケーションを支える予期に注目し、社会システムを、規範的予期類型(法、政治、行政、メディアなど)と認知的予期類型(経済、学術、テクノロジー、医療など)に大別した(文献2)。規範的予期類型は、「道徳を掲げて徳目を定め、内的確信・制裁手段・合意によって支えられる」。違背に対し、あらかじめ持っている規範にあわせて相手を変えようとする。違背にあって自ら学習しない。これに対し、認知的予期類型では知識・技術が増大し続ける。ものごとがうまく運ばないときに、知識を増やし、自らを変えようとする。「学習するかしないか―これが違いなのだ」。ルーマンは「規範的なことを普遍的に要求する可能性が大きく、その可能性が徹底的に利用されるときは、現実と乖離した社会構造がもたらされる」と警告する。例えば、耐震偽装問題に対する過熱報道をうけて、建築基準法が改正された。07年6月20日に施行されたが、あまりに厳格すぎたため、建築確認申請が滞ったままの異常な状態が続き、建築着工が激減した。多くの会社が倒産に追い込まれた。日本のGDPが1%近く押し下げられたとする推定もある。耐震偽装そのものによる実被害は知られていないが、過熱報道は日本経済と建築業界、そして日本国民に大被害をもたらした。東日本大震災で行政が迅速に対応できなかったのも、行政が実情ではなく、法律に基づく統治システムだったからである(文献3)。行政は,法,すなわち過去に作成された規範と前例に縛られている。しかも、法は、適切に運用されていなくても、国家の権威と暴力を背景にした強制力を有する。したがって,行政は、過去になかった事態に対し、未来に向かって、臨機応変に試行錯誤しつつ、最適な行動を選択することが原理的にできない。 肥満を目の敵にした特定検診でも感じたことだが、厚労官僚は、特定の個人や団体から聞いた規範色の濃い仮説に、安易に乗る傾向があるのではないか。仮説が法的に規範化されると後戻りが難しい。それにしても、特養個室化へのこだわりは強すぎる。現在(2012年6月)の社会・援護局長の山崎史郎氏が、課長時代に、特養の個室化を強力に推進したと聞く。行政は、科学と異なり、正しさより、法に基づく地位で発言権が決まる。厚労省のかたくなな態度には、人的要因があるかもしれない。●結論日本の国家財政が危機的状況にある中で、国民が高齢化し、孤独化している。格差が広がり、貧困層が増え続けている。生活保護を受給していない貧困層の中に、医療を受けにくくなっている人たちが相当数存在するのは間違いない。加えて、今後、首都圏では要介護者が爆発的に増加する。一方で、母子家庭問題に象徴されるように、若年者への社会保障があまりに軽視されすぎてきた。高齢者だけを優遇しすぎると、少子高齢化がさらに進み、高齢化対策が難しくなる。貧困化、孤独化が進む中で、厚労省がこだわる特養の個室化は、実情に合わない。需要の多い多床室の供給を大幅に増やすべきである。厚労省による在宅介護へのかたくなな誘導は悲劇を生む。現状の制度では、首都圏の爆発的な高齢化に対応できない。日本の財政状況で、万全を求める余裕はない。家族に頼らない質素な介護の方法を考え出す必要がある。医療・介護で雇用を増やすべきではあるものの、無駄遣いが許されるわけではない。医療・介護全体として費用を指標化し、全体として質素にしていく必要がある。必要な介護を提供するためには、高額な割に成果の少ない医療を保険診療から外すことも検討しなければならない。モラルハザードを防ぐためには、利用者による費用負担の大きさとサービス水準の逆転は可能な限り避けなければならない。「等しきは等しく、不等なるものは不等に扱わるべし」(アリストテレス)。 <文献>1 小松俊平, 渡邉政則, 亀田信介: 医療計画における基準病床数の算定式と都道府県別将来推計人口を用いた入院需要の推移予測. 厚生の指標, 59, 7-13, 2012.2 ニクラス・ルーマン:「世界社会」 Soziologische Aufkl?rung 2, Opladen, 1975. 村上淳一訳・桐蔭横浜大学法科大学院平成16年度教材)3 小松秀樹:大規模災害時の医療・介護. 『緊急提言集 東日本大震災 今後の日本社会の向かうべき道』pp64-73, 全労済協会. 2011年6月.

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以前のように働きたい、でもどうすればいい?  -東京都世田谷区と精神科医がうつ病患者さんの就労を支援-

近年、うつ病患者数の急増が注目されている。その中でも、働き盛りの世代のうつ病は単なる疾患の問題にとどまらず、経済的な損失の観点からも大きな社会問題として指摘されている。そのような中、東京都世田谷区では精神科医や心理士らと共に、うつ病に悩む区民の就労を支援するため、2008年からうつ病に関する講演会や就労支援講座を実施してきた。同企画の3年目となる今年は、5月17日(月)に世田谷区役所第3庁舎ブライトホールにて、区民約100名を集めた講演会が開催された。そこで、同企画の立ち上げから参加し、講演会の講師を務めている仮屋暢聡氏(まいんずたわーメンタルクリニック〔渋谷区〕)に同企画の趣旨と今後の展望についてお話を伺った。行政との二人三脚で始まったうつ病患者さんの就労支援世田谷区の東京都立松沢病院、東京都健康局の精神保健福祉課長などの経歴を持つ仮屋氏は、地域活動の一環として十数年、同区の保健所に様々な支援をしてきた。このような経緯を経て、世田谷区の保健所からうつ病患者さんの就労支援の相談を受けたのが3年前に遡る。「本企画を立ち上げた3年前は、なかなか復職できずに会社を辞めてしまう患者さんも多く、患者さんの家族からも『どのように患者さんを支えてよいかわからない』という悩みを多く聞いていた」と仮屋氏は振り返る。うつ病に対する認識が広がりつつあるものの、3年前はうつ病に対する認識はまだまだ低く、相談できるところがないような状況だった。そこで、その対策として立ち上げたのがこの企画だ。患者さんやご家族が本当に知りたいことに応える講演会の内容は、“うつ病とは何か?”という全般的な話を一通り説明した上で、今、うつ病で何が問題になっているのかなどの視点や、うつ病に対して自分の臨床経験が深まっていくからこそできる話も織り交ぜ、毎年少しずつ話を変える工夫をしている。現在、インターネットやメディアからの情報で、一般の人たちもうつ病について大まかには知られるようになってきた。しかし、「うつ病は治るのか、いつ治るのか」「どこに受診すればいいのか」「どのような治療法があるのか」「薬はどの程度効くのか」「家族はどうしたらいいのか」など、まだまだうつ病患者さんやご家族ではわからないことが多いと、仮屋氏は指摘する。仮屋氏は、今回の講演会においてうつ病と神経の関連についても言及し、今回はうつ病によって引き起こされる体の変化についても触れた。実際のデータも見せ、自律神経の亢進が身体に及ぼす影響を説明した。そして、「打たれ弱いから、心が弱いからうつ病になったのではない」「何かのショックによってうつ病になったのではない」ことを今回の講演会で最も強調した。仮屋氏は「心を抽象的に捉えてしまうとどうしてもわかりにくくなってしまうが、目に見える形で提示するとうつ病患者さんの理解が得られる」と、講演会の手応えをしっかり感じていた。本企画は、仮屋氏によるうつ病患者さんへの疾患の説明にとどまらない。別の日程で、うつ病患者さんのご家族に対しても、個別にご家族の悩みを聞き、どうしたらよいか相談に乗る機会を設けた。さらに、うつ病患者さんの就労のためのセミナーも用意している。「頑張ったらいけない」ことが、いけないこと?うつ病患者に対して「頑張り過ぎない」「頑張ったらいけない」とよく言われる。この点について逆説的に「頑張らなければならない時は頑張らなければならないのだから、「どういう部分を頑張ればよいのか」「どういう部分は頑張ってはいけないのか」と説明すると患者さんもご家族の方もよくわかってくださる」と、うつ病患者さんに対する対処方法も披露した。聴講者も最後までしっかり聞き入り、「よくわかった」と感想を話していたという。全国に先駆けた世田谷区の取り組み仮屋氏は「うつ病患者さん本人やご家族へのうつ病の講演はあるが、うつ病患者さんの就労支援や患者さん本人のスキルアップのためのセミナーまでやっているところは全国でも少ないのではないか」という。 自治体ができることには限度があるが、「その中でも、少しでも本企画のような動きが広まってくれることを世田谷区も期待している」とのことだ。就労を希望するうつ病患者さんは、一体何に困っている?「今のうつ病患者さんの就労の問題は、就労のための実際のやり方がわからないということ。だから本企画では、私が講演会でうつ病の疾患や治療、対応、家族の基本的な考え方などについて話し、精神保健福祉士やケースワーカーの人たちがセミナーで就労支援の制度の大枠、たとえば障害基礎年金や傷病手当金、失業保険など制度について大まかに説明している。」と、仮屋氏は本企画の特徴を述べた。「世田谷区でもこの事業を毎年総括し、成果がよければまたこの形で続けていくことになるかもしれない」と今後の見解も示した。世田谷区内へ、そして全国へ。 うつ病患者の就労支援は広まるか?仮屋氏は「本企画は世田谷区内の小さいエリアへの展開も考えられる。世田谷区は5つくらいの地区に分かれるので、区が実施した企画が、より小さい地区においても細かくフォローされていくことを実現したいと考えているようだ」と、今後の発展の可能性があることを示唆した。また、これらの成果を、「公衆衛生学会や保健師の学会などで発表できれば、他の地区にも波及して様々な方法が検討され全国に広まっていく。世田谷区がそのような雛形作りになればいい」と仮屋氏は語った。過去世田谷区では、今回のうつ病同様に、全国に先駆けて虐待やアルコール依存症対策などについても取組んできた歴史がある。結果として、この動きは全国に広まっていった。このような世田谷区の特徴を仮屋氏は「世田谷区は80万人という人口を抱えており、いろんな資源もある。区長も積極的にこのような事業に力を入れているという伝統がある。逆にいえば、世田谷区は恵まれているのかもしれない」と説明する。うつ病対策の主力は「コ・メディカル」?もう一つ、仮屋氏が熱い視線を送っているのがコ・メディカルだ。仮屋氏によれば、「世田谷区は心の問題、たとえばアルコール依存症などは今でもコ・メディカルの方々が、「家族が変われば患者さんも変わるのではないか」「コ・メディカルがこの問題に自発的に取り組むことでさらに成果が上がるのではないか」と考え、患者さんの家族に対するアプローチを開始して成果を上げている。このような医師以外のコ・メディカルの運動が、実は地方のような医師が少ない地域でもうつも防げるのではないか。」とコ・メディカルの活動に大きな期待を寄せている。「実際に地方では、臨床に対するアプローチとして、医師がすべてできない部分を保健師などがフォローしていくというように進んでいるようだ」と地方のうつ病診療にまで話が及んだ。最後に仮屋氏は「精神科医も含め医師は不足している。コ・メディカルや職場の産業医、一般の内科医などいろんな職域が上手く連携し、うつ病患者を早期に発見して早期にアプローチしていくということが必要なのだろう。精神科医の仕事として、そういった人たちに対して教育していくということも重要だ」と言葉を結んだ。(ケアネット 高橋 洋明)

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高齢者のセルフネグレクトあるいは虐待は死亡率を有意に増大

セルフネグレクト(自己放任)や他者からの虐待が認められた高齢者は、死亡率が、そうでない人に比べ有意に増大するという。セルフネグレクトの場合には、1年以内の死亡率がおよそ6倍に増大していた。米国Rush大学のXinQi Dong氏らが、9,000人超の高齢者について、前向きに調査をして明らかにしたもので、JAMA誌2009年8月5日号で発表した。高齢者のセルフネグレクトあるいは他者による虐待は大きな問題となっているが、死亡率との関連を調べた研究は珍しいという。65歳以上の9,318人を、中央値6.9年で追跡Dong氏らは1993~2005年にかけて、シカゴ地域に住む65歳以上の高齢者、9,318人について調査を行った。そのうち、セルフネグレクトが報告されたのは1,544人、虐待は113人だった。追跡期間の中央値は6.9年(四分位範囲7.4年)で、その間に死亡した人は4,306人だった。セルフネグレクトの1年死亡率は5.8倍、虐待の総死亡率は1.39倍にセルフネグレクトを報告した高齢者の1年死亡率は、270.36/100人年、1年以降死亡率は9.46/100人年だった。一方、セルフネグレクトの報告のなかった高齢者の死亡率は、5.01/100人・年だった。セルフネグレクトを報告した高齢者は、そうでない人に比べ、1年以内の死亡に関するハザード比が5.82(95%信頼区間:5.20~6.51)だった。1年以降の死亡に関する同ハザード比は、1.88(同:1.67~2.14)と、1年以内より低下はするが依然として有意に高かった。なかでも、白人(補正後ハザード比:1.63)、男性(補正後ハザード比:1.72)の死亡率が高率だった。一方、虐待の報告された高齢者の死亡に関するハザード比は、1.39(同:1.07~1.84)だった。なお、セルフネグレクトや虐待による死亡率の増大は、認知能力や身体機能レベルの低いグループ以外でも認められた。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

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在宅認知症高齢者への家族による虐待は52%:イギリス

在宅認知症高齢者に対する家族による虐待の実態について、ロンドン大学メンタルヘルス部門のClaudia Cooper氏らが調査を行ったところ、約半数が身体的・心理的な虐待を行っていることが明らかになった。虐待の度合いが重視すべきケースは約3割強に上ることも報告されている。イギリスおよびアメリカでは高齢者虐待が政策上の優先課題とされており、英国では虐待対策の法整備の改訂が検討されているところだという。BMJ誌2009年3月7日号(オンライン版2009年1月22日号)より。220人の家族介護者に身体的・心理的虐待の有無について5段階評価アンケート調査は、イギリスのエセックスおよびロンドンで、新規に、在宅医療を受けながら自宅で療養生活を送ることになった認知症高齢者のいる家族介護者を対象に行われた。身体的および心理的な虐待を各5項目ずつ、過去3ヵ月間に行ったかどうかを5段階評価(0:なし~4:常に)で回答を求めるアンケートで、評価2(時々)以上のものを重大な虐待があるとした。回答が得られたのは、319人のうち220人。平均年齢は61.7歳(範囲:24~92歳)。女性の家族介護者は144人(66%)で、182人(83%)が白人だった。157人(71%)は同居の夫か妻であり、介護者(配偶者、子ども、その他)と患者が同居していたのは118世帯(54%)だった。一方、要介護者は159人(72%)が女性で、平均年齢は81.6歳(範囲:58~99歳)。認知機能を示すMini-mental state examination(MMSE)スコアは平均18.4だった。家族介護者を対象に含んだ虐待対策が必要虐待を行っていると回答した家族介護者は115人(52%、95%信頼区間:46%~59%)だった。評価2(時々)以上の回答者は74人(34%、27%~40%)で、「大声で言ったり、どなりつける」「きつい口調で辱めたり、ののしる」が突出していた。なお「暴言行為」は、日常的に行われていることが確認された。また3人(1.4%)ではあったが、「身体的な虐待を常に行っている」との回答があった。 Cooper氏は、「認知症のケアをする介護者による虐待は、ごく一般的なことであることが確認された。ごくわずかだったが深刻なケースも見いだされた。同時に一方で、非常に虐待的な態度を持つ人は、それを報告するのを嫌う場合があったことも確認された」と述べ、家族介護者を対象に含んだ虐待対策に政策転換すること、高齢者虐待を「all or nothing」の事例レベルではなく、専門家にアドバイスを求めるべきこととしてみなす必要があると結論している。

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乳幼児の骨折で原因が確認できない場合は虐待を疑うべき

子どもの骨折が虐待によるものなのか、骨折タイプから虐待の可能性を見極めることを目的とする骨折指標の同定作業が、公表論文のシステマティックレビューによって行われた。カーディフ大学(英国)ウェールズ・ヒースパーク大学病院臨床疫学学際研究グループ/ウェールズ児童保護システマティックレビューグループのAlison M Kemp氏らによる。研究報告は、BMJ誌2008年10月2日号に掲載された。システマティックレビューで異なる骨部位の骨折を比較研究レビューのデータソースは2007年5月までのMedline、Medline in Process、embase、Assia、Caredata、Child Data、CINAHL、ISI Proceedings、Sciences Citation、Social Science Citation Index、SIGLE、Scopus、TRIP、Social Care Onlineのオリジナル研究論文、参考文献、テキスト、要約を対象とし言語文献検索(32のキーワード)された。選択された研究は、異なる骨部位の骨折(身体的虐待によるもの、および18歳未満の子どもに起きたその他ケースを含む)を比較研究したもの。総説、専門家の意見、検死研究、成人対象の研究は除外された。各論文を2人ないしは議論の余地がある場合は3人の異なる専門家(小児科医、小児レントゲン技師、整形外科医、児童保護に任ぜられている看護師のいずれか)によってレビューし行われた。またレビューではNHS Reviews and Disseminationセンターのガイダンスをベースとするデータ抽出シート、評価査定用紙、エビデンスシートが用いられた。メタ解析は可能な限り行われ、研究間の異質性を説明するため変量効果モデルで適合を図った。部位、骨折タイプ、発育段階も含めて判断することが大切選択された研究は32。乳児(1歳未満)と幼児(1~3歳)で頻繁に、虐待から生じている骨折が全身にわたって見受けられた。共通して見られたのが多発性骨折だった。自動車事故、虐待の証拠があった外傷を除き、虐待によると思われる骨折の可能性の確率が最も高かったのが肋骨骨折だった(0.71、95%信頼区間0.42~0.91)。虐待の定義付けに基づき、上腕骨骨折が虐待による確率は0.48(0.06~0.94)と0.54(0.20~0.88)の間だった。骨折タイプの解析は、子どもが転倒などで負いやすい上腕骨顆上骨折によってうまくいきそうもなかった。虐待の定義付けに基づき、大腿骨骨折が虐待による確率は0.28(0.15~0.44)と0.43(0.32~0.54)の間にあった。そして小児の発育段階は重要な選定要因であることが示された。頭蓋骨折が虐待による確率は0.30(0.19~0.46)で、虐待による骨折で最もよく見られた。虐待と無関係な骨折は線状骨折であった。本研究では、虐待による骨折の可能性の確率を算出するには、他の骨折タイプのデータが不十分だった。Kemp氏は「乳児や幼児の骨折で原因が確認できない場合は、身体的な虐待があることを潜在原因として考えなければならない。骨折それ自体だけでは、虐待によるものなのかそうでないかは区別できない。個々の骨折の評価では、部位、骨折タイプ、発育段階が、虐待可能性の判定を助けてくれる」と結論。「この分野の質の高い比較研究は限られている。さらなる前向きな疫学研究の必要が示される」と提言している。

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女性に対するDVは、人権侵害かつ深刻な公衆衛生上の問題を引き起こす

「女性に対する親密な男性パートナーによる暴力は、人権侵害だけでなくその帰結として深刻な公衆衛生上の問題を引き起こす」――WHO主導の研究グループが日本を含む10ヵ国のデータをまとめ、Lancet誌2008年4月5日号で報告した。女性の外傷の主原因が身体的虐待であることを示す多くの報告がある一方で、男性パートナーによる虐待がもたらす不良な健康アウトカムは外傷に限らず、はるかに広範囲に及ぶことが指摘されている。WHOとの共同研究に当たったPATH(Program for Appropriate Technology in Health)のMary Ellsberg氏による報告。暴力行為の経験、特定の症状、暴力で負った外傷についてインタビュー本試験は、“WHO Multi-country Study on Women’s Health and Domestic Violence against Women(VAW)”の研究チームによる観察研究である。2000~2003年に、標準化された地域住民ベースの調査が実施された。15~49歳の女性を対象に、現在あるいは以前の親密な男性パートナーによる身体的、性的な暴力行為の経験および身体的、精神的健康に関連する特定の症状についてインタビューを行った。パートナーによる身体的暴力を報告した女性には、その暴力で負った外傷について質問した。身体的な健康問題だけでなく、精神的苦痛の頻度も高い10ヵ国15地域の2万4,097名の女性にインタビューし、これまでにパートナーがいたことがある1万9,568人のデータについてプール解析を行った。パートナーによる暴力の経験と自己報告による不良な健康状態との間には有意な相関が認められた(補正オッズ比:1.6、95%信頼区間:1.5~1.8)。これらの女性には、過去4週間における特定の健康問題として、歩行困難(1.6、1.5~1.8)、日常動作困難(1.6、1.5~1.8)、疼痛(1.6、1.5~1.7)、記憶喪失(1.8、1.6~2.0)、目まい(1.7、1.6~1.8)、膣分泌物異常(1.8、1.7~2.0)が見られた。少なくとも1回以上のパートナーによる暴力を報告した女性は精神的苦痛の頻度も有意に高く、虐待を受けたことがない女性に比べ自殺念慮(2.9、2.7~3.2)、自殺企図(3.8、3.3~4.5)が有意に多く見られた。これらの有意な相関はほとんどの調査地域で維持されており、身体的虐待を受けた女性の19~55%が外傷を負った経験をもっていた。Ellsberg氏は、「生活地域や文化的、人種的背景にかかわらず、ひいてはその地域や女性自身が暴力を許容したとしても、パートナーによる身体的、性的な暴力は不良な身体的、精神的健康状態の頻度を増大させた」と指摘したうえで、「女性に対する親密な男性パートナーによる暴力は、人権侵害だけでなくその帰結として深刻な公衆衛生上の問題を引き起こす。国およびグローバルな健康関連組織による施策やプログラムの検討が急務なことが浮き彫りとなった」と結論している。ちなみに、日本からの参加者1,276人のうち虐待経験者は196人(15.4%)と15の調査地区中最も低く、不良な健康状態のオッズ比は全体より高いものの有意差はなかった(1.9、0.9~4.0)。(菅野守:医学ライター)

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クレーマーに仮処分、患者の妨害行為を禁じる

埼玉県春日部市立病院に入院中の患者家族が医師や看護師などに対して威嚇行為や誹謗中傷を繰り返したとして、同市が医療妨害禁止を求めていた仮処分申請に対して、さいたま地裁越谷支部がこの申請を認めたことがわかった。同市によると、仮処分を受けたのは90歳代の入院患者の息子夫婦。大声で医療スタッフを威嚇したり、「虐待だ」など虚偽の誹謗中傷を繰り返して医療行為を妨害していたという。こうした医療行為に対する妨害に禁止の仮処分が出たのは珍しい。

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