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研究機関でのハラスメント、影響を受けやすいのは?/JAMA

 米国・ミシガン大学のReshma Jagsi氏らは、医学アカデミアに従事する教員にまつわる職場ハラスメント、サイバーインシビリティ(ネット上での敬意を欠いた非礼な言動)、組織風土がどのように変化しているかを調べる検討を行った。その結果、セクシャルハラスメント、サイバーインシビリティ、ネガティブな組織風土が高率に、とりわけマイノリティ集団を対象として存在し、メンタルヘルスに影響をもたらしていることを報告した。著者は、「医学アカデミアには、労働力の活力を損なう虐待行為を助長する可能性がある文化が存在する。引き続き医学アカデミアの文化を変える努力が必要である」と述べている。JAMA誌2023年6月6日号掲載の報告。米国医学アカデミアの文化の変遷と教員メンタルヘルスとの関係性を調査 研究グループは、2006~2009年に国立衛生研究所(NIH)キャリア開発助成金を受けた米国医学アカデミアの教員について、2021年にサーベイを行い、回答を得られた830人(回答率64%)を対象に、医学アカデミアの文化と教員のメンタルヘルス、および両者の関係性を調べた。 多変数モデルを使用して、文化体験(組織風土、セクシャルハラスメント、サイバーインシビリティ)とメンタルヘルスとの関連性を調査。文化体験は、性別、人種・民族性(アジア人、医学界で過小評価されているグループ[アジア系または非ヒスパニック系白人以外の人種・民族として定義]、白人)、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クィア(LGBTQ+)別に比較した。 主要アウトカムは、3つの文化(組織風土、セクシャルハラスメント、サイバーインシビリティ)の影響とし、従前の開発ツールを用いて評価した。副次アウトカムはメンタルヘルスの評価で、5項目Mental Health Inventory(スコア範囲:0~100、高スコアほどメンタルヘルスは良好)を用いた。職場ハラスメント、サイバーインシビリティ、差別的組織風土の存在が明らかに 教員830人のうち、男性が422人、女性が385人、男女非分類2人、性別の特定なしが21人であった。また、169人がアジア人、66人が過小評価グループ、572人が白人と回答し、23人は人種・民族の回答がなかった。774人が、シスジェンダーおよびヘテロセクシャルと回答し、31人がLGBTQ+、25人が無回答だった。 女性は男性と比べてネガティブに一般的な組織風土を評価した(平均3.68[95%信頼区間[CI]:3.59~3.77]vs.3.96[3.88~4.04]、p<0.001)。多様性の風土評価は、性別(女性の平均3.72[3.64~3.80]vs.男性4.16[4.09~4.23]、p<0.001)、人種・民族性(アジア人の平均4.0[3.88~4.12]、過小評価グループ3.71[3.50~3.92]、白人3.96[3.90~4.02]、p=0.04)で有意に差があった。 また、女性は男性よりも、ジェンダーハラスメント(性差別な発言や粗暴な行為)を経験したとの回答が多かった(71.9%[95%CI:67.1~76.4]vs.44.9%[40.1~49.8]、p<0.001)。LGBTQ+回答者はシスジェンダーおよびヘテロセクシャル回答者と比べて、ソーシャルメディアを職業的に使用する場合、セクハラを受けたと報告する回答が多いようであった(13.3%[1.7~40.5]vs.2.5%[1.2~4.6]、p=0.01)。 多変量解析で、3つの文化とジェンダーは、メンタルヘルスの副次アウトカムと有意に関連していた。

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伝記「ヘレン・ケラー」(後編)【ということは特別なことをしたからといって変わらない!?(幼児教育ビジネス)】Part 2

モンテッソーリ教育も効果ははっきりしない!?モンテッソーリ教育も、一般的な幼児教育とは差別化され、世の中で成功している有名人がこの教育を受けていたと喧伝されています。この教育の中身については割愛しますが、この効果については、世界的な論文誌Natureの姉妹紙npj Science of Learning(2017)のレビューにおいて、「モンテッソーリ教育の科学的根拠は弱い」と結論付けられています6-8)。よくよく考えると、提唱者のモンテッソーリ先生が活躍したのは、ヘレン・ケラーと同じ20世紀前半です。当時は、体罰が容認され、今と比べものにならないほど幼児教育が行き届いていませんでした。だからこそ、モンテッソーリ教育にも意味があったでしょう。ヘレン・ケラーだって裕福な家庭に生まれたからこそ、あそこまでの教育が受けられました。しかし、現代において、「特別」な幼児教育をしても、その効果が特別にはならなくなってきているということは、保育園をはじめとする幼児教育が十分に行き届いていることを意味します。つまり、近代だからこそ広まったモンテッソーリの理念は、現代で拡大解釈され、幼児教育ビジネスにいいように利用されてしまっていることになります。これが、幼児教育ビジネスの不都合な真実です。「奇跡の人」とは?タイトル「奇跡の人」(The Miracle Worker)とは、ヘレン・ケラーではなく、ヘレン・ケラーに学ぶ楽しさを気付かせたサリバン先生のことだったわけですが、幼児教育ビジネスの不都合な真実を知った今、私たちの誰もが日々の生活の中でその「奇跡」を無理なく起こせることがわかります。これが、冒頭で触れた「子供を賢くさせるためには賢くさせようと特別なことをしない」という逆説の訳です。親が日常生活の中で、できる範囲でほどほどに子供にかかわり、その自由なやり取りを親子で一緒に楽しむことだけで、十分に子供の豊かな発達を育むことができるとわかりました。この子育てのあり方によってこそ、私たちもサリバン先生と同じく「奇跡の人」になることができるのではないでしょうか?6)「モンテッソーリ教育」には本当に効果があるのか 専門家たちが追跡調査を実施:クーリエ・ジャポン、20237)【解説】モンテッソーリ教育とは?その効果は?早期教育の科学的根拠:Suzakuの研究所8)モンテッソーリ教育 科学的根拠のレビュー:Marshall C、npj Science of Learning<< 前のページへ■関連記事そして父になる(続編・その2)【子育ては厳しく? それとも自由に? その正解は?(科学的根拠に基づく教育(EBE))】Part 1そして父になる(続編・その1)【英才教育で親がハマる「罠」とは?(教育虐待)】Part 1ちびまる子ちゃん(続編)【その教室は社会の縮図? エリート教育の危うさとは?(社会適応能力)】Part 1

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第162回 止められない人口減少に相変わらずのんきな病院経営者、医療関係団体(後編) 「看護師に処方権」「NP国家資格化」の行方は?

ジャニーズの性加害問題報道でNHKが「反省」の弁こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末、メディアはG7広島サミットの話題に加え、ジャニーズ事務所の「謝罪」動画、歌舞伎役者の自殺未遂事件など社会部ネタが頻発し、バタバタだった模様です。ジャニー喜多川氏によるジャニーズJr.の少年への性的虐待については、この連載の「第155回 日本はパワハラ、セクハラ、性犯罪に鈍感、寛容すぎる?WHO葛西氏解任が日本に迫る意識改造とは?(後編)」でも簡単に触れたのですが、「謝罪」動画公開後の5月17日にNHKで放送された「クローズアップ現代」(クロ現)はなかなか興味深い内容でした。「“誰も助けてくれなかった” 告白・ジャニーズと性加害問題」と題されたこの回の「クロ現」では、元ジャニーズJr.の男性が実名で登場、自身が受けた性被害の詳細を語っていました。印象的だったのは、桑子 真帆キャスターが、「なぜこの問題を報じてこなかったのか。私たちの取材でもこうした声を複数いただきました。海外メディアによる報道がきっかけで波紋が広がっていること。私たちは重く受けとめています」と反省の弁を述べ、番組の最後に「私たちは、これからも問題に向き合っていきます」と語ったことです。日本で長年に渡って起こっていた性被害事件にもかかわらず、日本のメディアで報道してきたのは週刊文春などごくわずかです。英国BBCのドキュメンタリーが放映されたので渋々動きました、というのではNHKも報道機関としての存在意義が問われても仕方ありません。今回、NHKの顔とも言えるキャスターが番組で反省の弁を述べたというのは、とても大きな意味があることだと思います。逆に言えば、ジャニーズ事務所に忖度し、BBCのドキュメンタリーや今回の「謝罪」動画に関しても、お茶を濁した報道しかしていない民放(「クロ現」ではジャーナリストの松谷 創一郎氏が「民放の人たち、テレビ朝日やフジテレビなんかはとくにそうですけれども」と名指しして批判していました)は、報道機関としては完全に“失格”と言えそうです。人口減少に対する、医療関係団体の希薄過ぎる危機感さて、今回も4月26日に厚生労働省の国立社会保障・人口問題研究所が公表した「将来推計人口」に関連して、日本の医療に及ぼす影響について考察してみます。前回は、一向に進まない地域医療構想や、病院の役割分担の明確化や病床削減などへ取り組みの遅れなど、医療提供体制における問題点について書きました。今回は、急速に進む人口減少が招くであろう医療・介護人材難に対して、日本医師会や日本薬剤師会といった医療関係団体の危機感が希薄過ぎる点について書きます。訪問看護ステーションに配置可能な医薬品の拡大案に「断固反対」と日本薬剤師会会長5月12日付のメディファクス等の報道によれば、日本薬剤師会の山本 信夫会長は5月10日に開かれた三師会の会見で、政府の規制改革推進会議で議論が進められている、訪問看護ステーションに配置可能な医薬品の拡大案について、「配置可能薬を拡大するということについては断固反対という立場だ」と述べたとのことです。この案は、規制改革推進会議の医療・介護・感染症対策ワーキング・グループで3月6日、医師の佐々木 淳専門委員(医療法人社団 悠翔会理事長)と弁護士の落合 孝文専門委員が提案したものです。佐々木氏は関東を中心に在宅医療専門のクリニックを複数ヵ所運営する医療法人を経営しています。佐々木氏らが提案したのは、訪問看護ステーションに配置する薬剤の種類を増やし、訪問看護師がある程度自由に使用できるようにするための新しいスキームです。現状では看護師が薬局で薬剤を入手してから患者宅に向かうか、看護師から連絡を受けた薬剤師が薬剤を配達しているのですが、このスキームによって患者への薬剤提供が効率化される、としています。このスキームでは、薬剤師はオンラインで訪問看護ステーションに配置された薬剤を遠隔管理(倉庫室温、ピッキングの適切性、在庫など)し、薬局がステーションに随時医薬品を授与します。一方、ステーションの看護師は、必要に応じて医師の指示内容を薬局と共有、処方箋の写しに基づいてステーションの倉庫から薬剤をピッキング、患者に投薬します。なお、倉庫内に配置する薬剤としては、脱水症状に対する輸液、被覆剤、浣腸液、湿布、緩下剤、ステロイド軟膏、鎮痛剤などを想定しているとのことです。薬剤師の調剤権を著しく侵害することにつながり「極めて問題がある」現状、薬剤師法などで、調剤を行えるのは、医師、歯科医師、獣医師が自己の処方箋により自ら調剤するときを除いて薬剤師に限られています。山本会長は、この改革案は医師の処方権、薬剤師の調剤権を著しく侵害することにつながり「極めて問題がある」と述べたそうです。その上で、在宅医療の提供について、「チームを組んで医療を提供するのが本来の姿。専門職が集まってその患者さんに対してどんな医療が必要か、医師や看護師、薬剤師など各専門職種が議論していくことが大前提だ。それを抜きにして、ただ置けばいいという発想について私どもとしては大変断固反対だ」と述べたとのことです。他の医療・看護・介護拠点が薬局機能を代替して何が悪い?「薬局の遠隔倉庫」案と呼ばれるこの案、患者が薬剤を手に入れるまでの時間が短縮されるだけでなく、調剤をする薬局自体がない地域や、土日や夜間は営業しない薬局しかない地域では、とても便利で現実的な方策に見えます。「薬剤師の調剤権を侵害」「チーム医療が本来の姿」と山本会長は語っています。しかし、そもそも薬局薬剤師が機能しない地域や時間帯があるなら、ほかの医療・看護・介護拠点がその機能を代替して何が悪いというのでしょう。山本会長の発言は、薬剤師のことは考えているが、患者のことは考えていないように感じます。ちなみに、令和4年度の厚生労働白書によれば、2020年度において、無薬局町村は34都道府県で136町村あるそうです。「包括指示」の仕組みを活用、「訪問看護師に一定範囲内の薬剤の処方箋を発行できるようにする」案も規制改革推進会議の医療・介護・感染症対策ワーキング・グループは先週、5月15日にも開かれ、佐々木氏は「薬局の遠隔倉庫」案をベースとした、もう一歩踏み込んだ改革案を提案しています。5月16日付のCBnewsマネジメントの報道によれば、佐々木氏は一定の条件下で訪問看護師が処方箋を発行して投薬できる規制緩和策を検討すべきだと提案したとのことです。具体的には、医師に連絡がついたものの処方箋を発行できない場合、看護師は医師の指示に基づいて処方箋を発行できる医師と連絡がつかない場合、看護師は医師の包括的指示に基づいて処方箋を発行できる24時間対応を標榜する薬局がある場合、薬剤師は迅速・確実に患者宅に薬剤を届ける。24時間対応の薬局がなければ訪問看護事業所に薬剤を配備し、看護師がその備蓄から薬剤を使用することができる24時間対応する薬局の有無にかかわらず、訪問看護事業所内への輸液製剤の配備を可能とするなお、佐々木氏は、これらの対象となる薬剤(輸液製剤を含む)の範囲をあらかじめ指定しておくことも提案しています。医師から看護師への「包括指示」の仕組みを活用して、「訪問看護師に一定範囲内の薬剤の処方箋を発行できるようにする」という大胆な提案です。日本薬剤師会が再び激怒しそうですが、働き方改革や人材難を背景に、タスクシフト/タスクシェア推進が叫ばれる中、とても理に適った提案ではないでしょうか。「NPを導入し、国家資格として新たに創設するというのは適切ではない、反対だ」と日本医師会政府の規制改革会議ですが、その議論や提案はいつもラジカルで、旧態依然とした医療関係団体を時折怒らせています。2月13日、規制改革推進会議の医療・介護・感染症対策ワーキング・グループは、医師と看護師のタスクシェア、とくにナース・プラクティショナー(NP)について日本医師会等にヒアリングを実施しました。NPとは、端的に言えば、医師と看護師の中間的な技量を有した医療専門資格です。現行の特定行為研修を修了した看護師ができる医療行為の範囲を超えて、“医師のように”自主的に医療行為が行える新しい国家資格(NP)をつくろうというのがNPの国家資格化のコンセプトです。米国においてNPは医師の指示・監督がなくても診察、診断、治療・処方のオーダーができる資格として確立しています。この回のワーキング・グループに日本医師会から参加した常任理事の釜萢 敏氏は「外国で行われているものを日本に導入すれば必ずうまくいくというものでは決してない。特定行為研修の修了者を増やしていくという方向に大きく踏み出したので、まずそれをしっかり実現することが喫緊の課題。NPという新たな職種を導入し、国家資格として新たに創設するというのは、現状において適切ではない、反対だ」と述べました。日本医師会などが慎重な姿勢を示してきたため業務範囲の拡大は遅々として進まず医療・介護分野のタスクシェア・タスクシフトを巡っては、これまで日本医師会などが慎重な姿勢を示してきました。そのため、実際の医療現場での業務範囲の拡大は遅々として進んでいません。2021年5月の医療法等改正においても、業務範囲が拡大されたのは診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、救急救命士のみで、“本丸”とも言える看護師には踏み込んでいません(「第66回 医療法等改正、10月からの業務範囲拡大で救急救命士の争奪戦勃発か」参照)。政府の規制改革推進会議が昨年5月に決めた令和4年度の最終答申には「医療・介護分野のタスクシェア・タスクシフトの推進」は記述されていますが、より本格的な検討は今期の同会議の“宿題”となりました。その後、議論を進めてきた規制改革推進会議は、昨年12月に当面の改革テーマに関する中間答申をまとめました。そこには、医師や看護師が職種を超えて業務を分担する「タスクシェア」の推進が明記され、医師の業務の一部を看護師らに委ねる「タスクシフト」も進めると書かれました。それを踏まえ、看護師らが担える業務の対象拡大を主要テーマとして、医療・介護・感染症対策ワーキング・グループが議論を進めてきた、というのがこれまでの流れです。6月にまとめられる規制改革推進会議の最終答申に注目それにしても、医師や薬剤師がタスクシェア・タスクシフトをこうも毛嫌いする理由はなんでしょう。自分たちの仕事が、「看護師ごときには対応できないほど高度なもの」とでも考えているのでしょうか。あるいは逆に、「意外に簡単で誰にでもできそうであることがバレるのが怖い」のでしょうか。確か、日本医師会は医師増(医学部新設)にも反対していましたから、単に自分たちの既得権を守りたいだけなのかもしれません。前回の冒頭で書いた青森の下北半島ではないですが、現状、医師確保にあえいでいる地域は全国にたくさんあります。人口減が今以上に進めば、無医町村も増えていくでしょう。そんな中、相応の資格を得た訪問看護ステーションなどの看護師が、処方を含む医療行為を自らの判断で行うことができるようになれば、地域医療に一定の安心感を与えるのではないでしょうか。また、老人保健施設や介護医療院は医師でなければ施設長になれませんが、高齢者医療を専門とするNPが施設長になることができれば、貴重な医師人材の節約にもつながります。今年6月にもまとめられる予定の令和5年度の規制改革推進会議の最終答申に、医師から看護師への包括指示の活用や、訪問看護師への処方権付与、NP国家資格化といった、ワーキング・グループで議論されてきた内容がどれくらい盛り込まれることになるか、注目されます。

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児童虐待相談が多い都道府県は?【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第232回

児童虐待相談が多い都道府県は?Unsplashより使用日本の児童虐待の現状について調べた北海道大学の研究です。Seposo X, et al.Child Abuse Consultation Rates Before vs During the COVID-19 Pandemic in Japan.JAMA Netw Open. 2023 Mar 1;6(3):e231878.一般公開されている2019~21年の月別児童虐待相談件数を入手し、47都道府県の児童虐待相談率を推定しました。この研究では、身体的虐待だけでなく、ネグレクトや心理的な虐待も含めています。コロナ禍の影響を考察するため、2019年をパンデミック前、2020~21年をパンデミック期間としています。2019~21年に、日本では年間平均で18万2,549件の児童虐待相談が記録されていました。相談率の中央値が最も高かった都道府県はどこでしょう。最も多かったのは、大阪でした(パンデミック期:人口10万人当たり134.85件[四分位範囲[IQR]:132.06~154.53]、パンデミック前:人口10万人当たり144.89件[136.60~159.46])。私が住んでいる都道府県なので、ちょっぴりショックでした。反対に、最も低かったのは鳥取県(パンデミック期:人口10万人当たり8.97件[IQR:7.57~13.73]、パンデミック前:人口10万人あたり7.29件[4.48~11.77])でした。パンデミックの間、児童虐待相談率が減少していることも示されました。これは救急外来受診率が低下したことと同じロジックで、コロナ禍で相談の閾値が高くなってしまったことが影響しているでしょう。児童虐待相談件数は、イコール児童虐待の件数というわけではありません。これについては本来であれば相関があるか検討されるべきですが、なかなか検証が難しいですよね。

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第155回 日本はパワハラ、セクハラ、性犯罪に鈍感、寛容すぎる?WHO葛西氏解任が日本に迫る意識改造とは?(後編)

パンデミック以前の日常が完全に戻ってきたこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末、関東はお花見日和でした。近所の公園では、葉桜となってきた桜の木の下で多くの人がノーマスクで宴会をしていました。パンデミック以前の日常が完全に戻ってきたわけですが、数週間前からこれだけ飲んで騒いでいるのに、新型コロナウイルス感染症の患者数は目立った増加となってはいません。感染症は本当に不思議な病気だなと思いながら、私も桜が舞い散る公園で、タコスにコロナビールを楽しみました。さて今回も、前回に引き続き、WHO(世界保健機関)の西太平洋地域事務局(フィリピン・マニラ)の葛西 健・事務局長が解任されたニュースを取り上げます。「The Lancet」が「グローバルヘルスの専門家たち葛西氏解任を歓迎」と報道WHOは3月8日、職員らへの人種差別的な発言などがあったとして内部告発され、昨年8月から休職中だった葛西・西太平洋地域事務局長を解任したと発表しました。日本国内では「解任理由がきちんと説明されていない」といった批判もあるようですが、国際的にはどうやら今回の解任を歓迎する声の方が大きいようです。医学雑誌の「The Lancet」は3月18日、「Global health experts welcome Kasai dismissal(グローバルヘルスの専門家たちが葛西氏解任を歓迎)」と題する記事を掲載しています1)。「葛西氏はWHO労働者への嫌がらせを行っていた」刺激的なタイトルのこの記事は、世界の複数のグローバルヘルスの専門家が、今回の調査や決定が適正に行われ、処分も妥当と考え、解任決定を歓迎していると報じています。記事によれば、WHOは虐待行為を一切容認しないという方針に沿って今回の内部告発を調査、すべてのWHOスタッフに適用される通常の手順に従って検討が行われたとのことです。その結果、葛西氏が「攻撃的なコミュニケーション、公の場での侮辱と人種的中傷」を含む、WHO労働者へのハラスメントを行っていたことが判明したとしています。これら結果を踏まえ、西太平洋地域委員会の投票が行われ、解任賛成13票、反対11票、棄権1票という結果となり、その後、非公開の理事会で葛西氏の解任が決定したとのことです。WHOの不正行為や虐待行為に対するチェックの目は一層厳しくなる同記事は、米国ジョージタウン大学のグローバルヘルス法の研究者の次のような発言も報じています。「この決定を行ったWHOに拍手を送る。その決定は正しかったが、もっと早く行われるべきだった。WHOは、誰もが尊重される安全で敬意に満ちた職場を作るために、可能な限り最高の基準を設定する必要があると考える」。同記事は、その他の世界のグローバルヘルスの専門家たちの今回の決定に対する賛意も伝えています。それらはある意味、日本が期待を持って送り込んでいた葛西氏の”評判”とも言えるもので、日本政府にはなかなか手厳しい内容となっています。ところで、WHO内部では葛西氏の事例のようなハラスメントだけではなく、エボラ出血熱発生中に起きたWHO労働者や援助労働者に対する性的虐待なども問題視されており、同記事は、葛西氏に行われた内部調査や解任決定を機に、WHOの組織内におけるその他のさまざまな不正行為や虐待行為に対するチェックの目は一層厳しくなるに違いない、と書いています。横浜DeNAに現役バリバリのMLBの投手入団そう言えば、WBC開催中の3月14日、横浜DeNAベイスターズは3年前の2020年、シンシナティ・レッズ時代にサイ・ヤング賞を獲得(同年に同じく候補となったダルビッシュ有投手と争いました)したMLB投手、前ロサンゼルス・ドジャースのトレバー・バウアー投手と契約を結んだことを発表しました。現役バリバリのMLBの投手がNPBに来るということで大きなニュースになりました。実は彼、2021年に知人女性に対するドメスティックバイオレンスの禁止規定違反でメジャーリーグ機構から324試合の長期の出場停止処分を受け(その後、異議申し立てをし、処分は194試合に短縮)、今年1月にドジャースとの契約が解除された選手です。契約解除後、MLBでは新たな契約をする球団は現れず、うまくDeNAが獲得したというわけです。MLBが獲得に動かなかった理由は多々あるようです。ヒューストン・アストロズの投手陣が強力な粘着物質を使っている疑いがあることを”チクリ”、粘着物質使用厳格化のきっかけを作ったことでMLBの選手たちから裏切り者扱いされた、という説も流れていますが、女性に対するドメスティックバイオレンスの一件も少なからず影響していることは確かでしょう。そうした”問題”選手を、トラブルにはとりあえず目をつぶって獲得し、大喜びしているのも日本人のパワハラ、セクハラへに対する鈍感さ、寛容さのなせる業かもしれません。DeNAは3月24日に横浜市内で華々しくバウアー投手の入団会見を行いましたが、その5日後の29日に同選手が「右肩の張りを訴えた」と球団が発表、4月中の一軍デビューは先送り濃厚となってしまいました。「バウアー投手はMLB復帰のために日本にリハビリに来ただけ。もとより真剣に投げる気はない」という声もあるようです。BBC制作ジャニーズのドキュメンタリーをほぼ黙殺の日本マスコミパワハラ、セクハラ関連の話題ということでは、英国のBBCが制作、公開したドキュメンタリー「Predator:The Secret Scandal of J-Pop」(J-POPの捕食者:秘められたスキャンダル)を日本のマスコミのほとんどが黙殺したことも挙げておきたいと思います。2019年に死去したジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏によるジャニーズJr.の少年への性的虐待を追ったこのドキュメンタリー、日本ではBBCワールドニュースで3月18日、19日に配信放送されました。この件について日本のマスコミで報道したのはかねてからジャニーズ問題を追ってきた週刊文春と、FRIDAYデジタル、日刊ゲンダイDIGITALなどごく一部でした。香港や韓国、台湾のメディアも大きく取り上げたというのに、日本のマスコミの沈黙ぶりは、異常と言えるかもしれません。こうした鈍感さ、時代遅れの寛容さや忖度は、葛西氏のパワハラ同様、国際社会ではもう認められなくなってきています。そうした自覚と意識改造が日本人には早急に求められていると思いますが、皆さんいかがでしょう。「ジャニー喜多川氏の性的虐待の事実と、メディアに与えた強い影響力を調査し、社会が見て見ぬふりをすることの残酷な結果を明らかにする」(BBCワールドニュースのWebサイトより)というこの番組、4月18日までAmazonプライム・ビデオで視聴可能です。興味のある方はご覧下さい。参考1)Zarocostas J, Lancet. 2023 Mar 18. [Epub ahead of print]

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臨床心理士と精神科医の夫婦が子育てで大事なこと全部まとめてみました

シネマセラピーでおなじみ荒田先生のマンガでよくわかる!0~18歳の子育て大全CareNet.comの連載「シネマセラピー」でおなじみの精神科医、荒田 智史先生。シネマセラピーでは、子育てをテーマとして解説いただくこともありましたが、この度「科学的根拠に基づく子育て」を掲げた著書が発売されました。「厳しくすべきか見守るべきか」「親がリードすべきか」「子どものペースに合わせるべきか」など、成長に伴って変化していく子育ての悩みについて、発達心理学、行動遺伝学、進化心理学という3つの視点で解決する本書。非認知能力、自己肯定感、自己効力感、子供のHSP、教育虐待、性教育、中学受験、反抗、思春期危機、レジリエンス、いじめ、不登校など…乳児期~思春期の子育てで気になる課題と対処をマンガでわかりやすく解説しています。本書は、子育てに悩む親だけでなく、医療関係者(精神科医や小児科医など)の方々にもお役立ていただける内容となっているため、ぜひ読んでいただきたい一冊です。また、病院の待合室に置いていただければ、子育てでお困りの患者さんにもお役立ていただけます。著者・荒田よりご挨拶臨床心理士で妻の杉野珠理との共著です。私たちがいっしょになって、みなさんのお悩みやご心配に全力でお答えしています。エビデンスだけでなく、臨床的なケース、そして夫婦としてのリアルな子育ての現実(ときに葛藤!?)も盛り込みました。この本が、患者さんへの子育てのアドバイス、そしてみなさん自身の子育ての参考になればうれしい限りです。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。    臨床心理士と精神科医の夫婦が子育てで大事なこと全部まとめてみました定価1,980円(税込)判型四六判頁数352頁発行2023年3月著者杉野 珠理、荒田 智史

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第135回 ポスト2025年の医療・介護提供体制の確立に向けた総合確保方針を改定/厚労省

<先週の動き>1.ポスト2025年の医療・介護提供体制の確立に向けた総合確保方針を改定/厚労省2.医療情報システムをサイバー犯罪から守れ、ガイドライン改定へ/厚労省3.マイナ保険証を持たない人に1年有効の「資格確認書」を発行へ/デジタル庁4.新型コロナウイルス接触確認アプリの開発、不備を認める/デジタル庁5.入院患者への暴行で、精神病院に立ち入り検査/東京都6.「サル痘」の名称を「エムポックス」に変更へ/厚労省1.ポスト2025年の医療・介護提供体制の確立に向けた総合確保方針を改定/厚労省厚生労働省は2月16日に「医療介護総合確保促進会議」を開催し、「団塊の世代」がすべて75歳以上となる2025年、さらにその後の医療・介護提供体制を見据えて、患者・利用者・国民の視点に立った医療・介護の提供体制を構築する必要があるとして「総合確保方針」の見直し案を討議し、承認された。この中で、入院医療については、令和7年に向けて地域医療構想を推進して、さらに医療機能の分化・連携を進めることで「地域完結型」の医療・介護提供体制の構築を目指す。また、外来医療・在宅医療については、外来機能報告制度を用いて紹介受診重点医療機関の明確化を図り、かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行っていくことが重要としている。厚生労働省は新たな「総合確保方針」を、今年度内に告示する見通し。(参考)第19回医療介護総合確保促進会議(厚労省)医療と介護の総合確保方針、改定案を大筋了承 3月中に告示、厚労省(CB news)医療・介護計画の上位指針となる総合確保方針を見直し!2025年から先を見据え「柔軟なサービス提供」目指す!-医療介護総合確保促進会議(Gem Med)厚労省、介護事業者の協働化・大規模化を推進 事業計画の指針に明記(JOINT)2.医療情報システムをサイバー犯罪から守れ、ガイドライン改定へ/厚労省厚生労働省は第14回健康・医療・介護情報利活用検討会医療等情報利活用ワーキンググループを持ち回りで開催し、昨年4月に改定した医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6版の骨子案を示した。昨年、発生した大阪急性期・総合医療センターや徳島県つるぎ町立半田病院へのサイバー攻撃事件をきっかけに厚生労働省は医療機関に対して、医療機関へのサイバー攻撃に対してセキュリティー対策を呼びかけている。また、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」に対するパブリックコメントの募集を開始しており(締切は2023年3月7日)、募集を経て4月には公表したいとしている。なお、厚生労働省は、医療法を改正しており、令和5年4月より医療法第25条第1項の規定にされている立入調査の実施の際は、病院、診療所の管理者がサイバーセキュリティの確保を講じているかを確認するとしている。(参考)「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」の骨子(案)について〔概要〕(厚労省)「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第6.0版」の骨子(案)に関する御意見の募集について(同)セキュリティー対策、役割ごとに整理 安全管理指針(CB news)3.マイナ保険証を持たない人に1年有効の「資格確認書」を発行へ/デジタル庁デジタル庁は2月17日に「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」を開き、中間とりまとめを発表した。来年の秋に、従来の健康保険証が原則廃止となるため「マイナ保険証」を持たない人に対して、無料で有効期間1年の「資格確認書」を発行するとともに「更新も可能」となる見込み。また、マイナンバーカードの取得についても、交付申請者が庁舎などに出向くことが困難な人については診断書、障害者手帳などを用いて、柔軟に代理交付の仕組みを活用することで交付をスムーズに行えるように自治体向けに指導するとした。このほか、マイナカードの紛失など緊急時には最短で5日で発行できる体制を作ることとした。(参考)マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会 中間とりまとめ(デジタル庁)マイナンバーカード、再発行最短5日で 24年秋までに(日経新聞)マイナカード最短5日で発行へ、保険証廃止で政府が中間取りまとめ(朝日新聞)4.新型コロナウイルス接触確認アプリの開発、不備を認める/デジタル庁厚生労働省とデジタル庁は、昨年11月に機能を停止した新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」の取組に関する総括報告書をまとめて、公表した。同アプリは、陽性者と接触した可能性を利用者に伝え、検査や保健所のサポートを早く受けることで、感染拡大の防止が期待されていたが、Android端末で接触通知が到達していないなどの不具合が発覚した。原因には、アプリの開発や運用などで体制の整備が十分でなかったことなどが指摘されており、さらにアプリの効果を検証できないなどの課題があった。デジタル庁は、将来のパンデミックに備えて、今後のアプリ開発などに活用していく方針であるとした。(参考)新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)の取組に関する総括報告書(デジタル庁)河野デジタル相、「COCOA」開発不備認める…「政治のリーダーシップが欠如していた」(読売新聞)接触確認アプリ「COCOA」“課題あった” デジタル庁など報告書(NHK)5.入院患者への暴行で、精神病院に立ち入り検査/東京都2月14日に入院患者への暴行が行われたとして、東京都八王子市にある精神病院の滝山病院(288床)の看護師の男性職員が逮捕された。これまでも入院患者に対して、違法な身体拘束が行われているとして関係者から告発があり、翌日、警察は病院を家宅捜索した。また、厚生労働省は東京都に対して立ち入り調査を行うよう指導した。事件に対して、加藤厚生労働大臣は記者会見で「精神科病院での患者に対する虐待など人権侵害はあってはならない」とし、来年の4月に改正される精神保健福祉法では、精神科病院で虐待を発見した場合に都道府県などへの通報を義務付けられており、今後、指導していくことを明らかにしている。(参考)精神科病院 看護師逮捕“虐待疑われる場合 行政指導”厚労相(NHK)東京 八王子の精神科病院“少なくとも10人以上が虐待”弁護士(同)小池都知事「今後も立ち入り検査」 八王子の精神科病院患者暴行事件(産経新聞)精神科の入院患者に暴行か 看護師の男逮捕-警視庁(時事通信)6.「サル痘」の名称を「エムポックス」に変更へ/厚労省厚生労働省は、2月17日に天然痘に似た感染症「サル痘」の名称を、世界保健機関(WHO)が2022年11月28日に“mpox”の使用を推奨することを公表したため、これに従って「エムポックス」に変更する方針を決めた。サル痘は2022年5月以降、国際的に市中感染が拡大しており(110ヵ国・8万人以上)、2023年2月16日時点で国内でも20例の症例が確認されているが死者はなく、海外でも感染者の多くは軽症で回復している。(参考)サル痘の名称変更について(厚労省)「サル痘」を「エムポックス」に変更へ 厚生労働省(NHK)サル痘の名称、「エムポックス」に WHO推奨で変更へ(日経新聞)サル痘の名称を「エムポックス」に…厚労省が変更方針(読売新聞)

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映画「ラン」(後編)【子どもを病気にさせたがるのが人ごとではないわけは?(育児中毒)】Part 2

育児中毒が気付かれにくいわけは?育児中毒の特徴とは、乳幼児期に発達に問題がある子にさせたがる、児童思春期に能力に問題がある子にさせたがる、成人期以降に生き方に問題がある子にさせたがることであることがわかりました。育児中毒は、必要とされることを必要とする、依存されることに依存する点で、親子関係における共依存とも言い換えられます。共依存の異常性は、夫婦関係においては比較的気付かれやすいです。一方で、親子関係においてはよくあることとされて見逃されています。なお、男女関係の共依存の詳細については、関連記事8をご覧ください。また、育児中毒の親を、子供の視点から言い換えたものがいわゆる毒親です。毒親の詳細については、関連記事9をご覧ください。ちなみに、育児中毒が「ちゃんとやってあげたい(そばにいたい)」という「母性」の暴走だとすれば、「ちゃんとやりなさい」という「父性」の暴走が正義中毒と言えるでしょう。実際に、正義中毒は逆に男性に多いようです。見守り(育児)を発揮するか、見張り(正義)を発揮するかという点で対照的です。しかし、お世話や正しさにとらわれ、見守りや見張りという手段が目的化してしまい、相手(社会)に悪影響を与えている点では共通しています。なお、正義中毒の詳細については、関連記事10をご覧ください。育児中毒にどうすればいいの?それでは、育児中毒にどうすればいいでしょうか? 再びダイアンを通して、その社会的な対策を大きく3つ挙げてみましょう。(1)ケアする人を1人にしないダイアンはひとり親であったため、育児のやり方をすべて自分1人で決めることができました。もしもダイアンに夫がいて一緒に育児をしていたら、彼女はここまでおかしくならなかったかもしれません。1つ目の社会的な対策は、ケアする人を1人にしないよう啓発することです。1人になってしまうと、やり方がどんどん独りよがりになっていきます。これは、虐待のリスクでもあります。この点で、たとえ夫(または妻)がいたとしても、その人が育児を一緒にやろうとしなかったり、その人に「私の子育てに口出ししないで」と言って育児を一緒にさせないようにすることも危ういと言えるでしょう。(2)ケアすることを1つにしないダイアンは、働きに出ることもなく、家でほとんどクロエにつきっきりでした。もしもダイアンが働きに出ていたりボランティア活動をしたりペットを飼っていたら、彼女はここまでおかしくならなかったかもしれません。2つ目の社会的な対策は、ケアすることを1つにしないよう啓発することです。1つにしてしまうと、その1つにエネルギーを注げますが、その1つがなくなった時(またはなくなりそうな時)、そのエネルギーの行き場がなくなります。この点で、親の介護が親の死によって終わりを迎えた時や仕事人間が定年退職した場合も危ういと言えるでしょう。(3)自分のためにケアしないダイアンは、クロエのためではなく、自分のために育児をしていました。もしもダイアンがクロエのためにどうしたらいいかという視点に最初から立てていたら、彼女はここまでおかしくならなかったかもしれません。3つ目の社会的な対策は、自分のためにケアしないよう啓発することです。自分が満足するためにケアしてあげていると、それが必ずしも相手のためにならなくなります。この点で、先ほどにも触れたひきこもりや子連れ出戻りの場合も危ういと言えるでしょう。育児中毒の「解毒」とは?ダイアンは、瀕死のクロエを病院から無理やり連れ出そうとするなか、クロエはもともと歩けなかったのに、車椅子から踏ん張って立ち上がろうとします。親がいなくても生きていこうとすることを示す象徴的なシーンであり、まさにタイトルの「RUN/ラン」する(逃げ出す)瞬間です。ラストシーンでは、ダイアンは「あること」(ネタバレ防止のため伏せます)によって放心状態になっています。これは、その「あること」以外に、クロエが自分から離れていってしまい、空の巣症候群になってしまっているのを象徴しているようにも見えます。つまり、アルコール依存症の人が身近にアルコールがないようにすることで回復するのと同じように、この育児中毒は子供が親から自立して身近にいなくなることで「解毒」されていくと言えるのではないでしょうか?1)特集「うそと脳」P1576:臨床精神医学、アークメディア、2009年11月号2)うその心理学P77:こころの科学、日本評論社、20113)親の手で病気にされる子供たちP156:南部さおり、学芸みらい社、20214)シックンド 病気にされ続けたジュリー:ジュリー・グレゴリー、竹書房文庫、2004<< 前のページへ■関連記事映画「二つの真実、三つの嘘」(前編)【なんで病気になりたがるの? 実はよくある訳は?(同情中毒)】Part 1美女と野獣【実はモラハラしていた!? なぜされるの?どうすれば?(従う心理)】サイレント・プア【ひきこもり】ペコロスの母に会いに行く【認知症】カレには言えない私のケイカク【結婚をすっ飛ばして子どもが欲しい!?そのメリットとリスクは?(生殖戦略)】Part 1だめんず・うぉ~か~【共依存】八日目の蝉【なぜ人を好きになれないの?毒親だったから!?どうすれば良いの?(好きの心理)】苦情殺到!桃太郎(前編)【なんでバッシングするの?どうすれば?(正義中毒)】Part 1

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映画「ラン」(前編)【なんで子どもを病気にさせたがるの?(代理ミュンヒハウゼン症候群)】Part 1

今回のキーワードミュンヒハウゼン症候群同情中毒承認中毒育児中毒罪悪感(社会脳)心の距離感(バウンダリー)皆さんは、自分の子供を病気にさせたいですか? 「そんなことありえない」と思いますよね。しかし、世の中には、症状をねつ造してまで自分の子供を病気にさせたがる人がいます。それは、代理ミュンヒハウゼン症候群と呼ばれる子供虐待です。関連記事1で紹介した「病気になりたがる人」、ミュンヒハウゼン症候群の代理バージョンです。今回は、代理ミュンヒハウゼン症候群をテーマに、サイコスリラー映画「RUN/ラン」を取り上げ、子供を病気にさせたがる心理やその要因を掘り下げます。なお、ミュンヒハウゼン症候群の詳細については、関連記事1をご覧ください。何が最初からおかしい?主人公は、高校生のクロエとその母親のダイアン。クロエは、早産で生まれたことで、もともと下半身の麻痺があり、車いす生活をしています。また、不整脈、喘息、糖尿病があり、さらに鉄過剰症に伴う発疹や嘔吐が見られ、たくさんの薬を飲んでいます。母親のダイアンは、働きに出ることもなく、そんな一人娘のクロエのお世話を家で熱心にしています。父親はおらず、家計をどうやって成り立たせているかは不明ですが、経済的には不自由はないようです。しかし、ストーリーが進むにつれて、実は最初からおかしな点があることに、私たちはだんだんと気付かされます。主に3つ挙げてみましょう。(1)クロエの部屋が1階ではない1つ目のおかしな点は、クロエの部屋が1階ではないことです。確かに、子供部屋は一軒家の2階にあることが多いです。しかし、車いす生活をしているのなら、必然的に1階になるのが合理的です。クロエの部屋が2階にあるため、階段にわざわざ電動の昇降機まで設置しています。つまり、クロエは、部屋が2階にあることによって、物理的に行動範囲が制限されていることがわかります。(2)クロエは学校に行っていない2つ目のおかしな点は、クロエは学校に行っていないことです。確かに、彼女は科学好きであることから、ホームスクーリングによって、自宅で十分な教育を受けてきたことはわかります。スクールバスは、車いすに対応していないという事情があることもわかります。しかし、母親が学校までの送り迎えをしても良いはずです。または、アメリカの高校生は車での通学も可能であることから、クロエが障害者として車の免許を取ることもできるはずです。なぜなら、学校は、単に勉強するところではなく、友達との人間関係を通して社会性を育むところでもあるからです。この映画の前半は、この2人のやり取りが家でずっと続く展開で、見ている私たちはだんだんと息苦しくなります。つまり、クロエは、学校に行っていないことによって、人間関係が制限されていることがわかります。(3)手紙を直接受け取れない3つ目のおかしな点は、手紙を直接受け取れないことです。確かに、車いすに乗っているため、手紙を受け取るために車いすで玄関先に出ることは手間がかかります。しかし、クロエは大学の合否通知を待っているタイミングであり、本来は配達員が来たら本人に受け取らせてあげても良いはずです。それなのに、必ず母親が先に受け取ります。そして、「手紙が来ても開けないわよ」とわざわざ言うのです。また、自宅の電話機は、母親の部屋にあり、クロエが使うにはわざわざ母親の部屋に入る必要があります。母親は携帯電話を持っていますが、もちろんクロエは持っていません。パソコンは1階にありますが、調べ物をする時は、母親の目があります。つまり、クロエは、手紙が直接受け取れないなどによって、外部との情報のアクセスが制限されていることがわかります。次のページへ >>

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映画「ラン」(前編)【なんで子どもを病気にさせたがるの?(代理ミュンヒハウゼン症候群)】Part 3

なんで子供の病気のねつ造までするの?子供を病気にさせたがる心理は、同情欲求、承認欲求、そして育児欲求によるものであることが分かりました。同情や承認によって構ってもらいたいという対人希求だけでなく、育児によって構いたいという対人希求もあることがわかります。映画の後半では、ダイアンから逃げようとするクロエと娘を逃がすまいとするダイアンの心理戦が繰り広げられます。なんとダイアンは、クロエを地下室に閉じ込め、寝たきりにするための毒薬を作り始めるのです。それにしても、ダイアンはなぜそこまでするのでしょうか? ここから、代理ミュンヒハウゼン症候群の要因を主に2つ挙げてみましょう。(1)罪悪感がないクロエは郵便配達員のトムに助けを求めますが、それに勘付いたダイアンは、トムが油断したすきに彼を注射で気絶(毒殺?)させます。その後、追い詰められたクロエは自殺を図り、病院に運ばれますが、病院ではクロエに担当の看護師が付いているため、ダイアンはクロエに近付けません。しかし、他の患者の急変でその看護師が持ち場を離れた直後に、ダイアンがクロエの目の前に現れるのです。あまりにもタイミングが良く、ダイアンが他の患者を急変させた可能性を考えてしまいます。ダイアンは、クロエの人工呼吸器の抜管を自分だけで手際よくしている様子から、ある程度の医療行為をクロエの看病を通して学んだことも推測できます。このようにダイアンがここまで抵抗なく人に危害を加えることができる原因のヒントが、ダイアンの背中にありました。そこには、大きな傷痕があり、彼女自身が虐待されていたことがほのめかされています。1つ目の要因は、虐待などによる生育環境によって罪悪感が育まれていないことです。もちろん、もともとの遺伝要因よって罪悪感が育まれにくい場合(いわゆるサイコパス)もあります。前回のミュンヒハウゼン症候群の記事(関連記事1)でも紹介しましたが、そもそも私たち人間は、相手に危害を加えるなどの反社会的な行動をすると罪悪感を抱くように心(社会的感情)が進化しました。これは、社会脳と呼ばれています。この詳細は、関連記事3をご覧ください。(2)心の距離感がないダイアンは、クロエの小さい頃を映したホームビデオを繰り返し見て、涙まで流して懐かしんでいました。このことから、ダイアンは決してクロエを憎んでいるわけではありません。ダイアンは、クロエの大学合格通知を隠し持っていたことから、むしろクロエと離れたくないと思っていることがわかります。2つ目の要因は、心の距離感(バウンダリー)がないことです。これは、言い換えれば、子供との一体感が強く、子供は自分の一部、自分の分身と捉えてしまうことです。すると、子供に危害を加えるという他害行為は、「自傷行為」にすり替わります。自分を傷付けているわけなので誰にも迷惑をかけていないという発想になり、ますます罪悪感は希薄になります。実際に、代理ミュンヒハウゼン症候群になるのは、ダイアンがそうであるように、女性が85~95%であり、男性よりも女性が圧倒的に多いことが分かっています1-3)。この点からも、妊娠・出産・授乳という女性ならではの生物学的な密着の必要性が心の距離感に影響を及ぼしていることが考えられます。1)特集「うそと脳」P1576:臨床精神医学、アークメディア、2009年11月号2)うその心理学P77:こころの科学、日本評論社、20113)親の手で病気にされる子供たちP156:南部さおり、学芸みらい社、2021・シックンド 病気にされ続けたジュリー:ジュリー・グレゴリー、竹書房文庫、2004<< 前のページへ■関連記事映画「二つの真実、三つの嘘」(前編)【なんで病気になりたがるの? 実はよくある訳は?(同情中毒)】Part 1ザ・サークル【「いいね!」を欲しがりすぎると?(承認中毒)】Part 1万引き家族(前編)【親が万引きするなら子供もするの?(犯罪心理)】Part 1

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第127回 新型コロナウイルスの2類見直しについて討議開始/感染症対策分科会

<先週の動き>1.新型コロナウイルスの2類見直しについて討議開始/感染症対策分科会2.75歳以上の医療保険料、年間5,300円の負担増へ/厚労省3.がん患者数、コロナ前の水準に、進行がん患者増を懸念/国立がん研究センター4.医療機関にセキュリティ対策研修用ポータルサイト開設/厚労省5.かかりつけ医機能について、年内に結論へ/全世代型社会保障構築会議6.改正精神保健福祉法と改正難病法が成立/参院1.新型コロナウイルスの2類見直しについて討議開始/感染症対策分科会政府は新型コロナウイルス感染症対策分科会を12月9日に開き、今年の年末年始の感染対策について考えをまとめ、公表した。この中で、オミクロン株対応ワクチンの早期接種を求めるとともに、医療逼迫防止のために、重症化リスクが低い人については咽頭痛や発熱などの自覚症状が出た場合は、自宅での抗原定性検査キットを使うことも検討を求めた。また、定期的に換気することも求めた。さらに、新型コロナの2類感染症の見直しについても、季節性インフルエンザなどと同じ「5類」への引き下げについても議論されたが、致死率などがインフルエンザに近づいているという意見もある一方で、死亡数が多いといった意見も出され、最新のデータに基づいた評価をもとに、改めて議論することとなった。(参考)年末年始の感染対策についての考え方(新型コロナウイルス感染症対策分科会)新型コロナの感染症法上の扱い 改めて議論へ 政府分科会(NHK)ワクチン年内接種呼び掛け コロナ分科会 年末年始の医療逼迫回避(時事通信)2.75歳以上の医療保険料、年間5,300円の負担増へ/厚労省厚生労働省は12月9日に開催された社会保障審議会医療保険部会において、年末までに医療保険の見直し案による試算を公表した。これによると、出産育児一時金を47万円に増額した場合、75歳以上が加入している後期高齢者医療制度の保険料が年間5,300円増加する見込みとなっている。政府は、出産一時金については50万円に引き上げる方針のため、健康保険料はこの試算より増額が見込まれている。なお、実際に保険料が増えるのは、75歳以上のうち年金収入が153万円以上の所得がある人で、全体の約4割に止まるとみられる。高齢者医療をすべての世代で公平に支え合う仕組みのため、政府はさらに改革を進めていく方針。(参考)第160回社会保障審議会医療保険部会(厚労省)24年度医療保険料 75歳以上、年5300円増 政府試算(毎日新聞)後期高齢者の年間保険料 2年後 約5400円の負担増 厚労省が試算(NHK)75歳以上、平均年5300円負担増 医療保険見直し案、厚労省が試算公表(朝日新聞)3.がん患者数、コロナ前の水準に、進行がん患者増を懸念/国立がん研究センター国立がん研究センターは12月9日に、2021年1月1日から12月31日の1年間にがんと診断または治療された患者の院内がん登録データをまとめ、速報値として報告書としてウェブサイトで公表した。院内がん登録データの提出があった拠点病院453施設と小児拠点6施設のうち、過去4年間にわたってデータ提出のあった計455施設を対象にデータをまとめたところ、2021年の院内がん登録数は、2018年と2019年の2ヵ年平均登録数と比較して101.1%とほぼ同程度であることが明らかとなり、新型コロナウイルスの影響で減った2020年と比べると2021年は感染拡大前の水準であったことがわかった。一方、2021年の登録症例は、2018年と2019年の平均登録数と比較したところ、多くのがん種で早期がんでの登録の割合が減少しており、今後も継続的に分析を行う必要があるとしている。(参考)院内がん登録2021年全国集計速報値 公表 2021年のがん診療連携拠点病院等におけるがん診療の状況(国立がん研究センター)国立がん研究センター「がん情報サービス がん統計」報告書ページ(同)国がん 21年院内がん登録全国集計結果を公表 コロナ禍で減少の新規患者数が同程度に(ミクスオンライン)昨年がん診断・治療、コロナ前並みの81万件…想定より少なく「進行がんで見つかる恐れ」(読売新聞)4.医療機関にセキュリティ対策研修用ポータルサイト開設/厚労省厚生労働省は、医療機関へのランサムウェアによるサイバー攻撃が増加しているのを受け、12月8日に、医療機関向けに「医療機関向けセキュリティ教育支援ポータルサイト」を開設した。医療機関の経営者に対して最近のサイバー攻撃事例を紹介するほか、システム管理者に向けてはインシデント対応やシステム設定などを伝える。また、一般の医療従事者には情報セキュリティの基本や注意点などを説明する。さらにトラブル発生時の相談・初動対応依頼窓口も設置されている。(参考)医療機関向けセキュリティ教育支援ポータルサイト(厚労省)医療機関向けサイバーセキュリティ対策研修を開始します(同)医療機関にセキュリティ知識を ソフトウェア協会が講習事業スタート(ITmedia)医療機関にサイバー研修 厚生労働省がポータルサイト(日経新聞)5.かかりつけ医機能について、年内に結論へ/全世代型社会保障構築会議政府は、12月7日に全世代型社会保障構築会議を開催し、報告書の取りまとめに向け、論点整理を巡って議論を行った。当日、論点となったのは医療・介護制度改革のほか、誰もが安心して希望通りに働くことができる社会保障制度の構築、子育て支援。医療・介護保険制度の改革では、今後の高齢者人口のさらなる増加を見据え、「かかりつけ医機能」制度の整備は不可欠とし、具体的なかかりつけ医の機能として「日常的に高い頻度で発生する疾患・症状について幅広く対応し、オンライン資格確認も活用して患者の情報を一元的に把握し、日常的な医学管理や健康管理の相談を総合的・継続的に行うこと」とし、「休日・夜間の対応、他の医療機関への紹介・逆紹介、在宅医療、介護施設との連携」も必要ではないかとされた。今後は、年内に議論をまとめ、来年の通常国会での関連法改正を目指す方向とみられる。(参考)全世代型社会保障の構築に向けた各分野における改革の方向性(全世代型社会保障構築会議)「かかりつけ医機能」年内結論 全世代型会議「足元の課題」(CB news)かかりつけ医機能の方向性決定は年内か 政府の全世代型社会保障構築会議が報告書の素案を提示(日経ヘルスケア)6.改正精神保健福祉法と改正難病法が成立/参院12月10日、会期末の参院本会議で精神保健福祉法、難病法の改正案も含めた「障害者総合支援法等改正案」が成立した。難病法の改正案には、これまで難病の申請を行った日からされていた医療費助成を「重症と診断された日」にさかのぼって受けられることにするほか、障害福祉サービス利用時に使える「登録者証」の発行が盛り込まれた。このほか、難病患者や小児慢性特定疾病患者らのデータベースの整備により、製薬企業が難病患者のデータベースのデータを利活用できるようにして、新薬の開発を促進することを目指す。また、精神科病院の管理者に対し、病院の職員への研修や患者の相談体制の整備など、患者虐待防止策義務付けた改正精神保健福祉法も同日成立した。(参考)障害者総合支援法等改正案の概要(厚労省)「改正難病法」成立 患者からは一日も早く治療薬開発求める声(NHK)精神科病院の患者虐待防止策義務づけ 改正精神保健福祉法成立(同)1人暮らし促進 障害者支援、改正法成立(毎日新聞)

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遺族にNGな声かけとは…「遺族ケアガイドライン」発刊

 2022年6月、日本サイコオンコロジー学会と日本がんサポーティブケア学会の合同編集により「遺族ケアガイドライン」が発刊された。本ガイドラインには“がん等の身体疾患によって重要他者を失った遺族が経験する精神心理的苦痛の診療とケアに関するガイドライン”とあるが、がんにかかわらず死別を経験した誰もが必要とするケアについて書かれているため、ぜひ医療者も自身の経験を照らし合わせながら、自分ごととして読んでほしい一冊である。 だが、本邦初となるこのガイドラインをどのように読み解けばいいのか、非専門医にとっては難しい。そこで、なぜこのガイドラインが必要なのか、とくに読んでおくべき項目や臨床での実践の仕方などを伺うため、日本サイコオンコロジー学会ガイドライン策定委員会の遺族ケア小委員会委員長を務めた松岡 弘道氏(国立がん研究センター中央病院精神腫瘍科/支持療法開発センター)を取材した。ガイドラインの概要 本書は4つに章立てられ、II章は医療者全般向けで、たとえば、「遺族とのコミュニケーション」(p29)には、役に立たない援助、遺族に対して慎みたい言葉の一例が掲載されている。III章は専門医向けになっており、臨床疑問(いわゆるClinical questionのような疑問)2点として、非薬物療法に関する「複雑性悲嘆の認知行動療法」と薬物療法に関する「一般的な薬物療法、特に向精神薬の使い方について」が盛り込まれている。第IV章は今後の検討課題や用語集などの資料が集約されている。遺族の心、喪失と回復を行ったり来たり 人の死というは“家族”という単位だけではなく、友人、恋人や同性愛者のパートナーのように社会的に公認されていない間柄でも生じ(公認されない悲嘆)、生きている限り誰もが必ず経験する。そして皮肉なことに、患者家族という言葉は患者が生存している時点の表現であり、亡くなった瞬間から“遺族”になる。そんな遺族の心のケアは緩和ケアの主たる要素として位置付けられるが、多くの場合は自分自身の力で死別後の悲しみから回復していく。ところが、死別の急性期にみられる強い悲嘆反応が長期的に持続し、社会生活や精神健康など重要な機能の障害をきたす『複雑性悲嘆(CG:complicated grief)』という状態になる方もいる。CGの特徴である“6ヵ月以上の期間を経ても強度に症状が継続していること、故人への強い思慕やとらわれなど複雑性悲嘆特有の症状が非常に苦痛で圧倒されるほど極度に激しいこと、それらにより日常生活に支障をきたしていること”の3点が重要視されるが、この場合は「薬物治療の必要性はない」と説明した。 一方でうつ病と診断される場合には、専門医による治療が必要になる。これを踏まえ松岡氏は「非専門医であっても通常の悲嘆反応なのかCGなのか、はたまた精神疾患なのかを見極めるためにも、CG・大うつ病性障害(MDD)・心的外傷後ストレス障害(PTSD)の併存と相違(p54図1)、悲嘆のプロセス(p15図1:死別へのコーピングの二重過程モデル)を踏まえ、通常の悲嘆反応がどのようなものなのかを理解しておいてほしい」と強調した。医師ができる援助と“役に立たない”援助 死別後の遺族の支援は「ビリーブメントケア(日本ではグリーフケア)」と呼ばれる。その担い手には医師も含まれ、遺族の辛さをなんとかするために言葉かけをする場面もあるだろう。そんな時に慎みたい言葉が『寿命だったのよ』『いつまでも悲しまないで』などのフレーズで、遺族が傷つく言葉の代表例である。言葉かけしたくも言葉が見つからないときは、正直にその旨を伝えることが良いとされる。一方、遺族から見て有用とされるのは、話し合いや感情を出す機会を持つことである。 そのような機会を提供する施設が国内でも設立されつつあるが、現時点で約50施設と、まだまだ多くの遺族が頼るには程遠い数である。この状況を踏まえ、同氏は「医師や医療者には患者の心理社会的背景を意識したうえで診療や支援にあたってほしいが、実際には多忙を極める医師がここまで介入することは難しい」と話し、「遺族の状況によってソーシャルワーカーなどに任せる」ことも必要であると話した。 なお、メンタルヘルスの専門家(精神科医、心療内科医、公認心理師など)に紹介すべき遺族もいる。それらをハイリスク群とし、特徴を以下のように示す。<強い死別反応に関連する遺族のリスク因子>(p62 表4より)(1)遺族の個人的背景・うつ病などの精神疾患の既往、虐待やネグレクト・アルコール、物質使用障害・死別後の睡眠障害・近親者(とくに配偶者や子供の死)・生前の患者に対する強い依存、不安定な愛着関係や葛藤・低い教育歴、経済的困窮・ソーシャルサポートの乏しさや社会的孤立(2)治療に関連した要因・治療に対する負担感や葛藤・副介護者の不在など、介護者のサポート不足・治療やケアに関する医療者への不満や怒り・治療や関わりに関する後悔・積極的治療介入(集中治療、心肺蘇生術、気管内挿管)の実施の有無(3)死に関連した要因・病院での死・ホスピス在院日数が短い・予測よりも早い死、突然の死・死への準備や受容が不十分・「望ましい死」であったかどうか・緩和ケアや終末期の患者のQOLに対する遺族の評価 上記を踏まえたうえで、遺族をサポートする必要がある。不定愁訴を訴える患者、実は誰かを亡くしているかも 一般内科には不定愁訴で来院される方も多いだろうが、「遺族になって不定愁訴を訴える」ケースがあるそうで、それを医療者が把握するためにも、原因不明の症状を訴える患者には、問診時に問いかけることも重要だと話した。<表5 遺族の心身症の代表例>(p64より一部抜粋)1.呼吸器系(気管支喘息、過換気症候群など)2.循環器系(本態性高血圧症など)3.消化器系(胃・十二指腸潰瘍、機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群など)4.内分泌・代謝系(神経性過食症、単純性肥満症など)5.神経・筋肉系(緊張型頭痛、片頭痛など)6.その他(線維筋痛症、慢性蕁麻疹、アトピー性皮膚炎など) 最後に同氏は高齢化社会特有の問題である『別れのないさよなら』について言及し、「これは死別のような確実な喪失とは異なり、あいまいで終結をみることのない喪失に対して提唱されたもの。高齢化が進み認知症患者の割合が高くなると『別れのないさよなら』も増える。そのような家族へのケアも今後の課題として取り上げていきたい」と締めくくった。書籍紹介『遺族ケアガイドライン』

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第104回 教授に指導医停止処分、試験要件の研修時間を水増しで/内科学会

<先週の動き>1.教授に指導医停止処分、試験要件の研修時間を水増しで/内科学会2.HPVワクチン副反応疑い症例15件、安全性に重大な懸念なし/厚労省3.感染症法改正で、民間病院に対する自治体の指揮権を強化へ4.骨太方針2022を閣議決定、デジタル化で医療制度改革を加速へ/政府5.医療保護入院の縮小は削除、虐待通報義務化も明記せず/厚労省6.手術動画の外部提供と利活用、指針作りを/コンピュータ外科学会1.教授に指導医停止処分、試験要件の研修時間を水増しで/内科学会日本内科学会は、新潟大学医学部の教授に対し3年間の指導医停止の処分をしたことが明らかになった。報道によると、処分を受けたのは消化器内科教授で同大病院の内科医科長。去年2月、専門医認定試験の受験要件に満たない9人の医局員に対して、研修時間に大学院での研究や当直勤務の時間を合わせて申告するよう指示していた。内科専門医の受験には、2年間の初期研修と、臨床病院で常勤する3年間の後期研修が原則必要だが、新潟大消化器内科では後期研修中の一部期間も大学院で研究に従事させた。学会への匿名の告発を受けた研修先の新潟大病院による調査で問題が発覚し、9人は受験できなかった。同時に研修プログラム責任者の別の特任教授も指導医を6ヵ月停止とする処分が出ているが、同大は別の医師を責任者とし、内科専門医の研修を続けている。今回、現行の専門医制度が2018年度に開始されて以降、最も重い処分となった。(参考)研修時間の水増し申告指示、新潟大医学部教授を処分 日本内科学会(朝日新聞)2.HPVワクチン副反応疑い症例15件、安全性に重大な懸念なし/厚労省厚生労働省は10日に第80回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会を開催し、HPVワクチンの副反応について検討を行った。HPVワクチン接種は2013年に定期接種となったが、副反応が報道されたのを機に積極的な接種推奨が中止されており、9年ぶりの2022年4月に再開された。積極的勧奨の再開後に報告された「サーバリックス(2価)」「ガーダシル(4価)」ならびに定期接種対象外の「シルガード9(9価)」の有害事象についてそれぞれ検討を行ったが、現時点でワクチンの安全性に重大な懸念はないとする見解がまとめられた。厚労省は今後も、およそ1ヵ月ごとに部会を開いて検証するという。(参考)子宮頸がんなど防ぐHPVワクチン 副反応疑い症例 15件報告(NHK)HPVワクチン「安全懸念なし」 厚労省専門部会、再開後初評価(毎日新聞)3.感染症法改正で、民間病院に対する自治体の指揮権を強化へ政府は、新型コロナウイルスの感染拡大時に、感染症指定医療機関だけでは感染者の受け入れをしきれず、病床確保に取り組んだものの適切な医療を維持できなかったことから、民間病院に対する自治体の指揮権を強化する感染症法改正案をまとめた。改正案では、公立・公的医療機関や大学病院に対して有事を想定した病床確保計画の策定を求め、自治体と協定の締結を行い、国や自治体の指示に従わない場合は医療機関名を公表できるようにする。岸田内閣は、内閣官房の新型コロナ感染症対策推進室と厚生労働省の対策推進本部などを統合した「健康危機管理庁」の創設を検討しており、国会へ法案の提出を目指し、今後の感染症対策に役立てたいとしている。(参考)病床確保、政府が医療機関へ指示権限 感染症法改正案、概要判明(毎日新聞)民間病院に直接指示 政府、新感染症に備え病床確保(日経新聞)感染症対策の司令塔、「健康危機管理庁」創設へ…厚労省と内閣官房の部署統合も検討(読売新聞)4.骨太方針2022を閣議決定、デジタル化で医療制度改革を加速へ/政府7日、岸田内閣は初の「経済財政運営と改革の基本方針」(通称:骨太の方針)をまとめた。この中で、経済社会活動の正常化に向けた感染症対策として、新型コロナウイルス感染症対策を踏まえた医療提供体制の強化とともに、感染状況や変異株の発生動向に細心の注意を払い段階的な見直しを行い、経済社会活動の正常化を目指す。また、医療DXを推進し、医療情報の基盤整備とともにG-MISやレセプトデータ等を活用し、病床確保や使用率、オンライン診療実績など医療体制の稼働状況の徹底的な「見える化」を進める。さらにワクチン接種証明書のデジタル化等により、入国時での効率的なワクチン接種履歴の確認など円滑な確認体制を進め、今後、医療のデジタル化推進にマイナンバーカードなどを活用することが盛り込まれている。政府はこれをもとに来年度の予算編成を行う方針だ。(参考)経済財政運営と改革の基本方針2022(内閣府)骨太方針2022を閣議決定、コロナ禍踏まえた医療提供体制改革、データヘルスの推進などの方向を明確化(Gem Med)骨太方針2022を閣議決定 「医療DX」は実行フェーズに 国民目線の医療・介護提供体制の改革へ(ミクスonline)5.医療保護入院の縮小は削除、虐待通報義務化も明記せず/厚労省厚労省は9日に「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」の報告書を取りまとめ、公表した。精神疾患を有する患者の数は増加傾向であり、2017年には約420万人となっている一方、自殺者数は2017年以降10年連続で減少していたが、2020年には増加に転じている。入院医療を必要最小限にするための予防的取り組みを充実させるとともに、精神障害者が強制入院(医療保護入院)となった場合、入院中に患者が同意できる状態になったら、「速やかに本人の意思を確認し、任意入院への移行や入院治療以外の精神科医療を行うことが必要である」とされる。当初案にあった医療保護入院の縮小方針は削除され、虐待通報義務化も明記されないなど、当事者や障害者団体からは「患者の権利が守られない」と批判の声が上がっている。(参考)「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」報告書について(厚労省)虐待通報義務化、明記せず 強制入院の縮小方針も削除 精神医療、厚労省検討会(共同通信)医療保護入院中の患者「意思確認し任意入院へ」厚労省が検討会報告書を公表(CB news)6.手術動画の外部提供と利活用、指針作りを/コンピュータ外科学会6月9~10日に東京で開かれた第31回日本コンピュータ外科学会大会において、手術動画の外部提供や利活用について討論がされた。今年、医療機器メーカーに白内障治療用眼内レンズの手術動画を提供した医師に、販売促進目的に現金提供がされたことが問題になったこともあり、手術動画の活用に当たって、ガイドラインの策定を求める声が上がった。(参考)“手術動画の活用 指針作り検討すべき” シンポジウムで意見(NHK)“手術動画”で医師に現金提供 業界団体がメーカーを調査(NHK)

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第108回 医療施設はウクライナ軍の逃げ場!?だからロシアは狙うのか

現在、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の1日の新規陽性報告数は、ゴールデン・ウイークで人同士の接触が増えたことから、一時的に増加傾向にあるようだ。しかし、今年に入って始まった第6波のピーク時から考えれば、全体としてはすでに減少傾向にある。そして2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻により、一般向けニュースの様相は変わってきた。実際、私が記事を提供するインターネットの情報サイトの編集者からは「もうコロナは読まれなくなってきているので、書くなら短めで。それより、ぜひウクライナのほうで何かあれば」とまで言われるようになっている。とくに自分の場合は医療と国際紛争をメインテーマにしているというやや特殊な立ち位置だけに、そうした依頼が来る。そんなこんなことも踏まえ、今回は世界保健機関(WHO)のレポートを中核に据えて、現在のウクライナの医療事情を個人的な経験や感想も交えながら簡単にご紹介しようと思う。世界保健機関(WHO)の報告によると、開戦から5月4日までの時点で医療施設や医療関連の輸送、医療従事者や患者、医療関連物資の倉庫などに対して確認された攻撃が186件。これにより発生した死者は73人、負傷者は52人となっている。日本国内でもこうした事例はたびたび報道されており、「なぜ医療機関が攻撃対象に?」と思う人も少なくないだろう。これは誤爆など意図しない攻撃と意図した攻撃の2つが考えられる。現代では軍事作戦と無関係の施設や人間を攻撃することは、戦時国際法では違法行為とされる。こうした違法行為を防ぐために発展してきたのが戦闘機による空爆や地上からのミサイル攻撃などで使われる精密誘導弾である。これらは主にレーザーなどで目標位置を確認しながら軌道修正を行って着弾する。その命中精度だが、攻撃目標に対して半数以上が命中する半数必中界(CEP:Circular Error Probability)は20~30m程度である。逆に言えば医療機関から20~30m以内に軍事施設などがあれば、結果として誤爆は起こりえるということだ。これが非精密誘導兵器ならば、CEPはおおむね0が1個多くなる。ロシアの場合、精密誘導兵器の保有割合が先進国などと比べて低いと言われているため、必然的に誤爆の確率は高くなる。そして先進国による経済制裁により、現在、ロシアではこうした精密誘導兵器に使う電子部品などが枯渇しつつあると報じられている。やや嫌な見通しになるが、今後はさらにこうした誤爆による医療機関も含む民間施設への攻撃は増加してくると考えられる。一方、意図した攻撃とは、敢えて民間施設を狙うことで一般人の厭戦(えんせん)気分を煽り、「反撃能力を低下させる」あるいは究極のケースでは「その結果、戦争を主導する首脳部を下から突き上げ崩壊させる」ことを意図したものだ。今回のロシアの攻撃についてはむしろこの可能性が強く疑われている。というのもロシアに関しては、近年明らかに“そうしたい”としか感じられない攻撃を中東のシリアで何度も行っているからである。シリアは現在、バッシャール・アル・アサド大統領による独裁政権に抵抗する反政府勢力との間で内戦状態となっているが、ロシアはアサド大統領側に肩入れして軍事介入を行っている。ここでは何度も医療機関を含む民間施設への執拗な空爆をロシア軍が行っている。また、現在ウクライナ入りして取材している私の友人によると、先日までロシアが支配下に置いていた首都キーウ(キエフ)北方のボロディアンカの市街地は見事なまでに一般市民の高層アパートのみが攻撃を受けているという。実はこの2つ以外に医療機関が攻撃を受けるグレーな状況というものが存在する。先日、日本記者クラブで、フランスに本部を置く国際協力組織(NGO)の「国境なき医師団」のメンバーとして3月下旬から4月上旬まで現地に派遣されていた医師の門馬 秀介氏が記者会見したが、会見の中で門馬氏は次のように語った。「これは聞いた話でしかないんですけれど、マリウポリから避難してきたウクライナ人に話を聞くと、医療機関に逃げてくる兵士もいるので、 そこを狙って攻撃をしていると言っている方もいらっしゃいました」 これは「やっぱり」と思った。私もイラクで経験があるのだが、医療機関の周辺で戦闘が起こると、付近の住民はもちろんのこと一部の戦闘員が武装したまま逃げ込んでくることがあるのだ。少なくともそこを拠点に攻撃を開始でもしなければ、医療機関側も避難者として兵士を受け入れるしかない。自分もこの経験をした時は「勘弁してほしい」と内心では思っていたものの、兵士に面と向かってそうは言えなかった。ちなみに自分以外にもこうした経験を持つ取材者はいて、皆で意見が共通しているのが、逃げ込んでくるのは、多くは若年の徴集兵だということ。まあ経験値も少ない彼らは恐れが先に立つので、ある意味やむを得ないとも思う。もっともこうした事実があったとしても、医療機関への攻撃が正当化されるものではない。さて、WHOのレポートでは、ウクライナに展開しているWHOの救急医療チームが3月12日~4月30日までに提供したケア件数は3,472件で、その内訳は感染症が17%、外傷が12%、その他が62%。意外に外傷は少ないと思われるかもしれないが、あくまでWHOが把握している範囲である。そもそもWHOが活動する地域は最前線からある程度後方になることを考えれば、そこまでアクセスできないケースや前線近傍で対応しているケースも考えられるため、そもそもが過少報告になっている可能性が高いと言える。もっとも感染症の蔓延についてはWHOもかなり懸念しているようだ。日本国内でも多くの人が報道で目にしているように、一般市民の中には地下の避難所などで長らく避難生活を強いられている人も少なくない。そしてこれもまた報道で目にしているようにその環境はお世辞にも衛生的とは言えない。実際、WHOもレポートで「コレラ、はしか、ジフテリア、新型コロナなどのような病気の発生リスクは、水、下水設備、衛生状態へのアクセスの欠如、空爆シェルターと集合避難センターの混雑状態、通常および小児期の免疫獲得が最適ではないなどの事情から悪化している」と指摘している。WHOによると、4月28日~5月4日までの間に報告されたウクライナでの新型コロナ新規陽性者は2,886人、死亡者は52人。この前の1週間と比べ、それぞれ37%と29%減少しているが、 WHOは「新型コロナの症例と死亡は過少報告されているため、これらの数値は慎重に解釈する必要がある」と指摘している。むろんこの状況でウクライナ全土での公的サーベイランスが平時同様に機能している可能性は極めて低いため当然の指摘だろう。一方、WHOレポート内ではメンタルサポートへのアクセスが制限されている結果として、虐待や自傷行為も含むメンタル問題が増加することへの懸念も簡潔ながら言及されている。前述の門馬氏も移動診療所での診療経験からこの点の重要性を指摘していた。門馬氏の通訳を担当した現地の英語教師が、問診の通訳最中、患者が避難に至る訴えなどを聞いているうちにショックを受けて泣き出してしまうのだという。門馬氏は「(ウクライナの人たちは)戦争が扉1 枚隔ててすぐ横にある状態で心理状況が不安定。そのギリギリの中でやっているので、何か1つのことで急に泣き出してしまうことを実感した」と語っている。そして私個人の経験では、紛争地でのメンタルの問題は戦闘状態が長期化するほど複合的にさまざまな問題をもたらすと感じている。おおむね戦闘が長期化している地域では、メンタル面でどん底に落ち込んでしまう人とその状態に慣れてしまう人がいる。どん底に落ちた人の一部は薬物中毒などに走る。実際、私が過去に取材した紛争地では違法薬物が半ば堂々と売買されているシーンを目にすることは稀ではなかった。しかも医療アクセスが限定的となっているため、こうした人たちが医療的ケアにアクセスできる機会は限られているため、どんどん泥沼に落ち込んでしまう。一方で、打ち続く戦闘状態の中で半ば正常性バイアスらしきものが働き、その状態にメンタル的に慣れてしまう人もある種の問題を引き起こす。どういうことかというと、慣れっこゆえの不注意さで戦闘に巻き込まれて負傷したり、命を落としたりということが少なくないのだ。自分が以前、内戦中の旧ユーゴのボスニア・ヘルツェゴビナを取材した時のことだ。私の通訳をしてくれたのはサラエボ在住の男子大学生。その彼が市街地のある場所を通り過ぎる時、いつもなぜか寡黙になった。彼と仕事をするようになって3回目の時、私は彼に思い切ってそのことを尋ねてみた。すると彼はため息と苦笑い交じりで次のように話してくれた。「ここさ、高校時代の同級生が撃たれて死んだところなんだ。敵側のスナイパーの射程に直接入るところでね。うちらは毎日ここを走り抜けて高校に行っていたんだけど、ある時、自分と友人も含め5人で集まって『いつもよりやや遅めの走りで肝試ししよう』となってね。自分は4人目で何ともなかったんだけど、5人目の彼がやられてしまった。今考えると何でそんな遊びしちゃったんだろうって」戦闘に慣れるということはそういう負の側面もあるのかと何とも言えない気持ちになったことを今でもはっきり覚えている。ロシアによるウクライナ侵攻はまだ当面終わりそうにない。この状態が長く続くほど、私もまたこのエピソードを何度も思い返すことになるだろう。何とも気が重くて仕方がない。

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高齢成人のうつ、不安、PTSDに対する性的虐待の影響

 性的暴力は、メンタルヘルスに重大な影響を及ぼすとされる。小児期の性的虐待は、その後の人生における内在化障害と関連しており、高齢の成人においては、性的暴力がこれまで考えられていた以上に多く発生している。後の人生における性的暴力への医療従事者の対応スキルは十分であるとは言えず、生涯(小児期、成人期、老年期)における性的暴力のメンタルヘルスへの影響に関する研究も不十分である。ベルギー・ゲント大学のAnne Nobels氏らは、高齢成人を対象に、性的虐待とメンタルヘルスへの影響について調査を行った。International Journal of Environmental Research and Public Health誌2022年2月28日号の報告。 2019年7月~2020年3月、ベルギー在住の高齢成人513人を対象に構造化された対面式インタビューを実施した。ランダムウォーク検索アプローチを用いて、クラスターランダム確立サンプリングを行った。うつ病、不安神経症、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の評価には検証済みの尺度を用いた。対象者には、生涯および過去12ヵ月間の自殺企図および自傷行為について質問した。性的暴力は、広範な性的暴力の定義に基づくbehaviourally specific questionsを用いて測定した。 主な結果は以下のとおり。・各発症率は、うつ病27%、不安神経症26%、PTSDが6%であり、過去12ヵ月間における自殺企図の割合は2%、自傷行為の割合は1%であった。・生涯における性的暴力の経験は44%以上で認められ、過去12ヵ月間でも8%であった。・生涯における性的暴力は、うつ病(p=0.001)、不安神経症(p=0.001)、慢性疾患を有する(p=0.002)または低学歴である(p<0.001)試験参加者のPTSDと関連が認められた。・生涯における性的暴力と過去12ヵ月間の自殺企図または自傷行為との間に関連は認められなかった。 著者らは「生涯における性的暴力は、後の人生におけるメンタルヘルスの問題と関連しており、性的暴力歴を有する高齢成人に個別に対応したメンタルヘルスケアが求められる。そのためには、専門家への教育促進や臨床ガイドラインの開発、ケア手順の策定が重要である」としている。

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ちびまる子ちゃん(続々編)【その教室は社会の縮図? 男子校と女子校の危うさとは?(恋愛能力)】Part 2

どうやって恋愛能力を高めるの?男女別学のリスクとは、身近にいる異性を好きになれない(消極性)、異性をそのまま受け止められない(ストレス脆弱性)、異性と一緒にいて楽しめない(排他性)であることがわかりました。言い換えれば、現実の異性への「惚れ慣れ」(自発性)、「異性慣れ」(セルフコントロール)、「交際慣れ」(共感性)という恋愛(生殖)における非認知能力が高まらないことがわかりました。つまり、恋愛を「能力」として、捉え直すことができます。名付けるなら、恋愛能力です。これは、心理学者フロムの「愛するという技術(art of loving)」という名言を裏付けます。それでは、どうやってこの恋愛能力を高めましょうか? 言い換えれば、どうやって異性を好きになり、受け止め、一緒にいて楽しめるのでしょうか?その答えは、現実の異性への「惚れ慣れ」「異性慣れ」「交際慣れ」をとくに思春期にすることです。つまり、思春期にこそ、この生殖における非認知能力を高める練習をする必要があるということです。この理由を、愛着形成や性格形成のメカニズムをヒントにして、癖になりやすさ(嗜癖性)の臨界期の観点から、発達心理学的に掘り下げてみましょう。なお、臨界期とは、特定の刺激に対して脳(脳神経回路)が反応しやすい(可塑性が高い)特定の時期です。これは、反応しやすくなる時期と反応しにくくなる期限があることを意味します。期限があるのは、次のステップ(発達段階)に進むために必要な脳のメカニズムであると考えられています。(1)愛着という能力は乳児期に高まる愛着とは、乳児が授乳する母親にくっついていたいと思うことです。これは、抱っこや愛撫などの親との肌の触れ合いの刺激に繰り返し曝されることで、乳児の脳内のオキシトシンとドパミンが連動的に活性化され、親を後追いする愛着行動として発達していきます。このメカニズムがなければ、乳児はおっぱいをもらうアピールができずに餓死してしまうかもしれません。この点で、愛着は、依存行動(嗜癖)であると同時に能力であると言えます。名付けるなら、愛着能力です。この依存形成(愛着形成)の期間(臨界期)は、生後半年から2歳までの乳児期であることがわかっています。つまり、授乳期に一致します。この期間で、愛着能力が高まり、特定の親への愛着が固定化されるのです。逆に言えば、臨界期がなければ、次々と違う大人への愛着行動を示してしまい、親子の絆が定まらなくなります。また、この期間に、ネグレクト(虐待)によって愛着行動をしていないければ、愛着は充分に形成されません。これは、反応性愛着障害と呼ばれます。なお、愛着の嗜癖性の詳細については、関連記事1をご覧ください。(2)性格という能力は児童期・思春期で高まる性格とは、周りの人に対しての、その人の感じ方、考え方、行動の仕方です。これは、学校環境(社会環境)での友達とのかかわりの刺激に繰り返し曝されることで、子どもの脳内のドパミン、セロトニン、オキシトシンが主に活性化され、周りの人たちにうまくつながっていようとする社会適応行動として発達していきます。このメカニズムがなければ、子どもは社会に出て周りとうまくやっていきたいと思えず、社会生活をするのが難しくなります。この点で、性格も、愛着と同じく、依存行動(嗜癖)であると同時に能力であると言えます。名付けるなら、社会適応能力です。この依存形成(性格形成)の期間(臨界期)は、児童期と思春期であると考えられます。つまり、義務教育の期間にほぼ一致します。この期間で、社会適応能力が高まり、アイデンティティという性格が固定化されるのです。それ以降は30歳くらいまでに徐々に可塑性がなくなっていくと考えられます。逆に言えば、臨界期がなければ、自分の性格も相手の性格も定まらず、人間関係を安定して築くのが難しくなるでしょう。また、この期間に、不登校、いじめ、非行などによって社会適応行動をしていなければ、性格は適応的には形成されないリスクがあります。これは、パーソナリティ障害と呼ばれます。なお、性格の嗜癖性の詳細については、関連記事2をご覧ください。(3)恋愛という能力は思春期に高まる恋愛とは、すでにご説明した通り、異性を好きになり、受け止め、一緒にいて楽しめることです。そして、これは、実際の異性とのかかわりの刺激に繰り返し曝されることで、思春期特有の性ホルモンが活性化され、脳内のドパミン、セロトニン、オキシトシンの活性化とあいまって、異性に近づこうとする恋愛行動として発達していくことが考えられます。この点で、恋愛も、愛着や性格と同じように考えれば、依存行動(嗜癖)であると同時に能力であると言えます。この依存形成(恋愛心理の形成)の期間(臨界期)は、まさに思春期であると推定されます。その一番の根拠は、性ホルモンを分泌する生殖器の発達が10~20歳までの思春期に限定されていることです。実際に、初恋の年齢で最も多いのは10歳前後で、その初恋相手で最も多いのはクラスメイトであることがわかっています。逆に、10歳以降にクラスメイトなどの実際の異性からの刺激を極端に排除すれば、先ほどのアンケート調査で示されたように、量的にも質的にも恋愛行動での問題が現れるというわけです。つまり、この期間で、恋愛能力が高まり、見た目や性格などの異性の好みのタイプ(恋愛心理)が固定化されるのです。それ以降は30歳くらいまでに徐々に可塑性がなくなっていくと考えられます。逆に言えば、臨界期がなければ、新しく別のタイプの異性を好きになる可能性があり、特定の好みの異性とのパートナーシップを安定して築くのが難しくなるでしょう。ちょうど、友情は、児童期で不特定多数の友達たちによって量的に育まれますが、思春期になると同じ好みや考え方の特定少数の親友によって質的に育まれていきます。同じように、恋愛心理は、思春期である程度の異性のクラスメイトたちによって量的に育まれますが、成人期になると好みのタイプの特定の交際相手によって質的に育まれていくと言えるでしょう。これは、成人期の発達段階(エリクソンによる)である親密性を裏付けます。ちなみに、不倫については、まったく別の生殖戦略になります。この心理の詳細については、関連記事3をご覧ください。よって、男女別学だけでなく、共学であっても、この期間に、恋愛行動をある程度していなければ、恋愛能力が充分に高まらないと言えます。この状態は、名付けるなら「反応性恋愛障害」です。なお、これは、理想化した異性は好きだけど実際の異性は好きになれないという葛藤がある場合に限定します。そもそも異性そのものが好きではない同性愛や無性愛(アセクシャル)は除外します。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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ちびまる子ちゃん(続編)【その教室は社会の縮図? エリート教育の危うさとは?(社会適応能力)】Part 3

なんで性格は「ある」の?家庭環境ではなく学校環境で高まる心理は、相手にしてほしいという好奇心(快感)、相手にされないという恐怖心(不安)、相手にされているという連帯感(同調)であることが分かりました。そして、これらの心理が、「世間慣れ」(自発性)、「ストレス慣れ」(セルフコントロール)、「弱者慣れ」(共感性)という非認知能力を高め、性格に影響を与えることが分かりました。それでは、そもそもなぜ性格は「ある」のでしょうか? その答えを、心の進化の歴史から掘り下げて見ましょう。約700万年前に人類が誕生し、約300万年前に家族をつくり、さらにその血縁から部族をつくるようになりました。この時、部族(社会環境)の中で狩りや子育てのためにお互いに協力し合うように進化しました(社会脳)。たとえば、それが、周りの人とうまくやっていくために自分で考えて行動すること(自発性)、周りの人に対して自分を落ち着かせること(セルフコントロール)、周りの人と心を通わせること(共感性)などの非認知能力です。そして、この非認知能力を高めた「性格」の人類が、より生き残り、より子孫を残したでしょう。つまり、性格はただ「ある」のではなく、生存と生殖のために「ある」のです。これが、なぜ性格が「ある」かの答えと言えるでしょう。そもそも性格とは?進化心理学的に考えると、性格は、人類が社会環境の中で生存と生殖の適応度を上げるために「ある」ことが分かりました。つまり、性格とは、社会適応するための機能であり、非認知能力と同じ「能力」であると言えます。その能力を名付けるなら、社会適応能力です。逆に言えば、この社会適応能力を、私たちが「性格」と定義し、その評価尺度をつくっただけに過ぎないとも言えます。そう考えれば、性格に家庭環境の影響に違いがないのは何も不思議なことではないことが分かります。性格を機能として見ると、性格とは、家庭環境の刺激にある程度一様に反応した非認知能力を基盤として(家庭環境の影響の違いはないながら)、さらに特定の学校環境(家庭外環境)の刺激に多様に反応したそれぞれの非認知能力の高まり具合(または高まらない具合)のバリエーションの結果であると言えるでしょう。そもそも、家庭環境は、親などの家族から無条件に守られているため、家庭環境だけでは社会適応能力としての性格を形成することができないとも言えます。逆に、教育虐待を含むマルトリートメント(不適切な子育て)は、無条件に守られていない家庭環境である点で、「マルトリートメント適応能力」が高まってしまいます。その分、社会適応能力が偏って高まるリスクがあるとも言えます(代償性過剰発達)。ということは、逆に、学校環境(社会環境)にいながら人間関係が抑制されたエリート教育のような特殊な状況においては、「エリート適応能力」が高まってしまう分、社会適応能力が必ずしも高まらないリスクがあるというわけです。これが、先ほどにもご紹介した自己愛性パーソナリティ障害です。なお、現時点で、エリート教育と自己愛パーソナリティ障害の因果関係を明らかにした研究はあまり見当たりません。しかし、エリート意識という言葉があるように、エリートならではの認知の偏り(自己愛性パーソナリティ)があるのは明らかでしょう。この傍証として、児童期・青年期の性格への家庭外環境の影響力が挙げられるのです。ちなみに、この自己愛性パーソナリティをはじめとして、最初にご紹介した性格の分類におけるキャラクターたちは、社会適応能力が偏ることに伴い、それぞれの性格の特性が顕在化していることが分かります。じゃあどんな学校がいいの?エリート教育のリスクを踏まえて、その性格形成への影響を掘り下げました。それでは、どんな学校が良いのでしょうか? その答えは、その学校が社会の縮図であるような、ほどほどに良い学校です。そんな学校が、社会適応のための性格という「能力」をバランス良く高めるでしょう。その点で、いくらエリート教育にリスクがあるからと言って、学級崩壊をしている学校に無理に通う必要もありません。そこは、エリート学校と同じく、もはや社会の縮図ではないため、転校を検討するべきでしょう。この「ほどほどに良い」という言い回しは、完璧な子育てを目指さない「グッド・イナッフ・マザー(ほど良い母親)」という発達心理学の用語に重なります。つまり、学校に置き換えると、完璧な教育を目指さない「グッド・イナッフ・スクール」です。なぜなら、それが結果的に、最適な子育てと同じように、最適な教育になるからです。ちびまる子ちゃんの教室のように、そこにはいろんなクラスメイトがいたほうが良いです。極端な話、変わった(性格に偏りのある)教師がいても良いです。なぜなら、世の中にはそんな人がいるからです。なお、「グッド・イナッフ・マザー」の詳細については、関連記事3をご覧ください。もちろん、これは、ちびまる子ちゃんたちがいる小学校の話です。中学校になると、エリート教育を受けるかはもはや本人の意思です。そして、その決断を強いるのではなく、ほど良くサポートすることが、「グッド・イナッフ・マザー」であり、その子どもがほど良く希望して進む学校が「グッド・イナッフ・スクール」と言えるのではないでしょうか? さらに、そうする子どもが大人になって人生にほど良く幸せを感じることができるのではないでしょうか?1)ちびまる子ちゃん大図鑑DX:フジテレビ、扶桑社、20152)DSM-5(精神疾患の分類と診断の手引)、アメリカ精神医学会、医学書院、20143)「心は遺伝する」とどうして言えるのか:安藤寿康、創元社、2017<< 前のページへ■関連記事そして父になる(続編・その1)【英才教育で親がハマる「罠」とは?(教育虐待)】Part 1そして父になる(続編・その2)【子育ては厳しく? それとも自由に? その正解は?(科学的根拠に基づく教育(EBE))】Part 1そして父になる(続編・その2)【子育ては厳しく? それとも自由に? その正解は?(科学的根拠に基づく教育(EBE))】Part 3そして父になる(続編・その2)【子育ては厳しく? それとも自由に? その正解は?(科学的根拠に基づく教育(EBE))】Part 2だめんず・うぉ~か~【共依存】Mother(前編)【過剰適応】美女と野獣【実はモラハラしていた!? なぜされるの?どうすれば?(従う心理)】

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耳からハエが何度も出てくる女の子【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第202回

耳からハエが何度も出てくる女の子pixabayより使用ゴキブリが耳に入ったらどうしたらいいのか、という話は耳鼻咽喉科の研修医レクチャーで聞いたことがあるかもしれませんが、耳からハエが出てきたらどうすればいいでしょうか?今日紹介するのは、耳から何度も死んだハエが出てくるという奇妙な現象です。Sethi S, et al.An unusual case of Munchausen syndrome by proxy.Indian J Psychiatry. 2012 Oct;54(4):389-90.ある日、12歳の女の子が耳鼻咽喉科から精神科に紹介されてきました。どうやら死んだハエが耳の中に入っていたとのことですが、親子に何か違和感があり、精神科に入院することとなりました。まぁこの時点で、ある程度確信はあったのかもしれませんが、入院中にハエが出てくればあの疾患の可能性が高くなるということです。やはり、入院後再び耳の中に死んだハエが出現しました。はて、これは一体どういうことでしょう。鼓膜の中からハエが出てきているのでしょうか。念のため頭部CTを撮影しましたが、体の中にハエがいそうな気配はありません。肉眼で観察しても、鼓膜にも異常はありません。主治医は「母親が子どもの耳にハエを入れた」と確信しました。この症例の診断名は、「代理によるミュンヒハウゼン症候群」です。よくよく見れば、論文のタイトルに答えが書いているんですけどね……。ズコー!代理によるミュンヒハウゼン症候群は、児童虐待とは異なり、子どもを傷付けることが目的ではなく、その行為によって周囲の関心を自分に引き寄せることで、精神的満足を得ようとする疾患です。つまり、「死んだハエが出てくる病気なんて、お母さんタイへンね」、「なぜ死んだハエが出てくるのだろう?」という関心を引き付けることに目的があるわけです。決して、子どもを傷付けようとしているわけではありません。その後、病院のサポートによって(主には母親への介入)、女の子の耳には死んだハエは出現しなくなったそうです。この世の中にある“奇病”と呼ばれるものの中には、もしかすると代理によるミュンヒハウゼン症候群が隠れているのもしれませんね。

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そして父になる(続編・その3)【どうほどほどに子育てをすればいいの? そして「人育て」とは?(育てるスキル)】Part 2

(2)仕掛け野々宮家には、ピアノ・ギターなどの楽器や最新の英語の音声教材が置かれ、壁に地図が貼られています。もちろん、本もたくさんあります。そんな野々宮家で暮らすようになった琉晴は、ピアノに興味を持ち、メチャクチャながらも、鍵盤を弾き続けるシーンがありました。2つ目の取り組みは、仕掛けです(ギミック)。仕掛けとは、もともと釣りや手品のように、ある目的のために巧みに工夫されて仕組まれたものです。この仕掛けと同じように、子どもが興味を抱きやってみたくなったり、逆に葛藤を抱き考えさせる親の関わりです。ここで、無理やり押し付けたり、やらせようと叱ってしまったら、やはり厳格な家庭環境になります。逆に、何もしなかったら(何もなかったら)、やはり放任的な家庭環境になります。そうではなくて、「ほどほどに」仕向けるのです。たとえば、幼児はよく「やりたいやりたい」と言います。この時、危ないことでなければなるべくやらせてみることです。料理や家事をしている時に、敢えて鼻歌を歌いながら楽しくやれば、お手伝いを仕向けることもできます。もちろん、そのために手間と時間がかかっても、ちゃんとできていなくて後で親がやり直すことになっても、自発性(非認知能力)を高めるために、敢えてやらせるのです。お手伝いは、社会経験の第一歩です。敢えてできそうな頼み事をしても良いでしょう。ここで注意点は、「ちゃんとできていない」とダメ出ししないことです。そうではなくて、「助かる」「うれしい」「ありがとう」に加えて、「〇〇ちゃんが手伝ってくれた料理はおいしいなあ」「〇〇くんがしてくれたお掃除で気持ちが良いなあ」とぼそっと(ほどほどに)言い、お手伝いを通して役に立っている感覚としての自発性を育むのです。一方で、幼児はよくけんかをします。兄弟や友達とけんかが始まると、または始まりそうになると、親としてはトラブルを起こしたくないので、つい先回りして引き離したくなります。しかし、ここも我慢です。ある程度、小競り合いになるまで泳がせて見届けます。そして、手が出たり、ケガになりそうになった時に、介入します。まったくほったらかしにする訳ではありません。この点で、野々宮家のように子どものけがに神経質にならないほうが良いでしょう。子どもは、実際の集団遊びの中、とくに葛藤場面でセルフコントロール(非認知能力)を高めています。そもそも、けんかをしなければ、仲直りの仕方が学べないです。つまり、何かトラブルが起きそうなピンチにこそ、そこに学びのチャンスがあるのです。習いごとも仕掛けの1つとしては使えます。ただし、習いごとの目的は、学習成果ではなく、学習態度であると割り切ることです。まずは、楽しんでやり続けることができるかを一番とすることです。逆に言えば、ガチガチに管理して、できるだけ多くやらせたり、無理やりにやらせないことです。無理やりやらされている限り、自分で考えて行動するという自発性は育まれません。習いごとはあくまで子どもが望んだ場合のオプションであり、豊かな発達のための刺激の1つに過ぎません。経済的な事情があれば無理してやらせることではないでしょう。お金をかけなくても、親ができることはほかにもたくさんあります。逆に言えば、「習いごとを続けろ」「勉強をしろ」と叱り飛ばすことに、ほとんど意味はなくなります。それどころか、これは、教育虐待のリスクがあることをその1ですでにご説明しました。実際の動物実験において、犬に電気ショック(罰)を与え続けると、最初は逃げるのに、やがて逃げられないことが分かると、逃げるのをあきらめてしまい、その後に逃げられる状況になっても、逃げなくなることが分かっています。同じように、人間の心理実験において、もともと解決できない問題を解かされた学生は、その後に簡単な問題を与えられても取り組もうとしなくなることが分かっています。つまり、無理難題を強いられること(外発的動機づけ)によって、自分は問題を解決することにおいて無力であると学習してしまい、やる気(内発的動機づけ)が削がれてしまう訳です(学習性無力感)。たとえば、ピアノ演奏会のシーン。慶多は練習の通りに本番でうまく弾けず、うまく弾いているほかの子に「上手だね」と感心して言います。そんな慶多に父親の良多は「悔しくないのか? もっと上手に弾きたいと思わなければ続けてても意味ないぞ」と叱ります。すると、慶多は顔をこわばらせて萎縮するばかりなのでした。この状況への効果的な仕掛けは、叱るのは必要最低限(ほどほど)にして、「うまい子もいるねえ」「でも慶多も練習頑張ったよね」「今日の演奏会は楽しかったね」と言うことです。すると、次の演奏会に向けて自らもっと練習に励むでしょう。もしも慶多が悔しがっているのなら、「悔しいね」「でもパパとママは慶多が練習してきたのをずっと見てきたよ」と言えば、自分で自分を慰めるセルフコンパッション(セルフコントロール)を高めることができるしょう。叱るスキルの詳細については、関連記事3をご覧ください。なお、日本ならではの裏メッセージ(ダブルバインド)の文化には注意が必要です。たとえば、「心配ねえ」「駄目ねえ」「無理よ」という声かけです。これは、奮起させる効果がある一方、自尊心や自信をなくさせて、やる気を削ぐリスクがあります。やはり奮起させる声かけはほどほどにして、「うまく行くよ」「大丈夫だよ」「あと少し」という受容的な声かけを織り交ぜるのが良いでしょう。「人育て」(人材育成)においても、まったく同じことが言えます。部下にダメ出ししたり叱咤激励をするのはほどほどにして、まずは部下がやる気を高める職場環境を整えることに重きを置くことが効果的でしょう。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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そして父になる(続編・その3)【どうほどほどに子育てをすればいいの? そして「人育て」とは?(育てるスキル)】Part 6

(3)お目付け役良多が、新しい父親として琉晴に家族のルールを座って説明している間、新しい母親になるみどりは、離れたところで立って荷物の片付けをしながら聞いているだけで、琉晴に背を向け、何も言いません。あたかも良多が独りよがりに話を進めているように見えます。3つ目の取り組みは、お目付け役です(客観性)。これは、普段の行動に目を付ける(監視する)役職のように、いろいろな関係者の目を家庭に入れる親の取り組みです。ここで、野々宮家のように独断で細かいルールを押し付けると、厳格な家庭環境になります。逆に、斎木家のようにルールがはっきりせず、気まぐれで体罰があるだけだと、放任的な家庭環境になります。そうではなくて、民主的に(ほどほどに)ルールを作るのです。たとえば、家族会議です。少なくとも、両親がいるなら、両親が揃ってそのルールを伝えることです。さらに、祖父母・叔父叔母などの親族やママ友などを立会人として同席させることです。もしも、一人親で立ち会える親族やママ友もいない場合は、地域の保健師に立ち会いをお願いすることもできます。心療内科・精神科で心理カウンセラーが対応することもできます。このように、なるべく多くの目(お目付役)を、子どもに向けるようにすることで、子どもにルールを守らせる良い意味でのプレッシャーをかけることができます。また、お小遣いルールだけでなく、家族のルールも書面化することです。そして、そもそものルールを作る理由として、家族の目標(ビジョン)を掲げることです。たとえば、ルールの理由として「自分で生きていける大人になるため」「家族で仲良くするため」「家族で助け合うため」などです。そうすることで、ルールを守る直接の理由だけでなく、そもそもルールが存在する意味を理解させることができます。とくに、「家族で助け合う」というビジョンを掲げておくと、先ほどご紹介したお手伝い給料制において、「お金がもらえないならお手伝いはしない」という発想になるのを未然に防ぐこともできるでしょう。さらに、年齢が上がれば、家族会議で、子どもにお小遣いアップやペナルティ変更を提案させることもできます。そして、その理由や根拠を示してもらうこともできます。これは、自分自身へのお目付役(客観性)になることであり、自分の行動に自覚(責任)を持たせ、子どもを大人扱いしていく取り組みでもあります。こうして、単に親(社会)が作ったルールに従うだけの認知能力ではなく、自分で考えて自分で自分(そして社会)のルールを作っていきたいと思う非認知能力が高まるでしょう。子どもが納得した形でルールが決まると、家族会議の参加者全員が署名(承認)を入れる儀式も効果的です。この取り組みは、ものごとは話し合いによって決めるというお手本を見せることにもなります。まさに民主主義の基本であり、民主主義型という自律的な子育てを下支えするものでしょう。なお、子どもを客観視させるスキルの詳細については、関連記事4をご覧ください。もっと言えば、このお目付役の取り組みは、ルールを課される側の子どもだけでなく、ルールを課す側の親にも効果があります。複数の目が家族のルールに向けられることによって、とくに良多のように、一人の親が暴走して、独りよがりなルールを一方的につくり、教育虐待を招くリスクを避けることができます。たとえば、それは、受験勉強のために「反抗禁止」「恋愛禁止」などの過剰なルールを設けることです。「ブラック校則」ならぬ、「ブラック家庭ルール」です。これは、明らかにやり過ぎであり、子どもの権利への侵害の恐れがあります。なぜなら、思春期の子どもが、反抗するかしないか、恋愛するかしないかは本人が決めることであり、本人の権利だからです。この点で、妻(または夫)が夫(または妻)に「私の子育てに口出ししないで」と当たり前のように言うのは、かなり危うさがあります。これは、夫婦の一方だけに決定権がある状況を子どもに見せることであり、夫婦関係(人間関係)のあり方の悪いお手本となります。子どもが、友達関係においていじめ加害者になったり、いじめ黙認者になる危うさもあるでしょう。ちなみに、受験勉強のために子どもの人権をないがしろにする親の関わりは、もはや過激思想と同じくらい合理主義的でも個人主義的でもないです。これは、教育虐待のリスクがあるばかりか、統合失調症を発症させる心理社会的ストレスのリスクがあることをその2ですでにご説明しました。「人育て」(人材育成)においても、まったく同じことが言えます。先ほどの人間関係の問題の実際のケースを紹介して、そのルールを職場の全員に考えてもらい、ペナルティを決めてもらうことです。これは、同調の心理を促し、ルール遵守の心理を高める効果があるでしょう。なお、同調させるスキルの詳細については、関連記事5をご覧ください。表4に示しているように、良い能力を促す取り組みも悪い「能力」を抑える取り組みについても、年齢が上がっていくにつれて、ほどほど度(介入レベル)を弱いものにシフトさせていくことが効果的です。なぜなら、それが大人扱いをしていくことであるからです。そして、それが、親に言われて生きて行くのではなく、親に言われなくても自分で生きていける大人にさせることであるからです。なお、最初にご説明した「足場作り」で、子育てを建築工事に例えました。さらに、愛着(親に愛着を持つ「能力」)は土台、非認知能力は柱、そして認知能力は外壁に例えることができます。早期英才教育をするということは、支える柱がしっかりしていないのに、親が外壁だけ無理やり作らせているようなものです。そんな家は、環境変化(心理社会的ストレス)という地震などの災害にとても脆弱でしょう。非認知能力という柱は、太ければ太いほど、子どものメンタルという家をより丈夫でしなやかにするでしょう。そんな家が、また次の世代で、同じように丈夫でしなやかな家を造ることができるでしょう。サブタイトル“Like father, like son”とは?ラストシーンで、慶多と琉晴を中心に、野々宮家と斎木家のみんなが、笑い合って、1つの家の中に入っていく様子は、感動的です。慶多と琉晴のために、2つの真逆の家庭環境が融合し中和して、「ほどほど」の家庭環境が生まれた象徴的なシーンです。サブタイトルであり、海外向けのタイトルでもある”Like father, like son”とは、「この親にしてこの子あり」「親が親なら子も子」という意味です。それは、子育てを通して、親の認知能力も非認知能力も試されているニュアンスがあるように思えてきます。結局、子育ての正解とは、認知能力を高めることそのものではなく、子どもが人生を楽しみ幸せを感じるトータルな「能力」を育むことではないでしょうか? そして、その「幸せ」はその子どもそれぞれであり、本人が決めることであることを私たちがよく理解した時、子育ての正解は「正解がない」または「正解がたくさんある」という逆説的な正解に納得できるのではないでしょうか? そして、子育てをもっと賢く楽しめるのではないでしょうか?1)非認知能力を伸ばすコツ:中山芳一、東京書籍、20202)自分をコントロールする力 非認知スキルの心理学:森口佑介、講談社現代新書、20193)子どもにおこづかいをあげよう:西村隆男、主婦の友社、2020<< 前のページへ■関連記事Mother(後編)【家族機能】ダンボ【なぜ飛ぶの? 私たちが「飛ぶ」には?(褒めるスキル)】3年B組金八先生(前編)【令和の金八先生になるには? 子どもにも大人にも使える!(叱るスキル)】Part 1ドラえもん【子どものメンタルヘルスに使えるひみつ道具は?】3年B組金八先生(続編)【令和の金八先生になるには?わがままにさせない!(同調させるスキル)】Part 1

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