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<先週の動き>1.高額療養費制度の問題、石破首相が実施を明言、患者団体は反発/政府2.患者情報を即時に共有、「マイナ救急」で救命率向上へ/総務省消防庁3.大学病院に医師派遣義務付けへ、特定機能病院の新基準案/厚労省4.人口減少で社会保障に影響 現役世代の負担増は避けられず/厚労省5.医療ソーシャルワーカーも巻き込む高額な紹介料、規制を検討へ/厚労省6.精神科病院で患者虐待、通報義務を無視 看護師の暴行を隠蔽か/岐阜県1.高額療養費制度の問題、石破首相が実施を明言、患者団体は反発/政府石破 茂首相は2月28日、衆院予算委員会で高額療養費制度の負担上限額引き上げを8月から実施すると明言した。一方で、2026年8月以降のさらなる引き上げについては患者団体の意見を聞いた上で再検討し、今秋までに結論を出す方針を示した。この発表に対し、立憲民主党の野田 佳彦代表は「1年間凍結し、患者と対話をするべきだ」と主張。患者団体からも「治療を諦めざるを得ない人が出る」「命に関わる問題」と強い反発の声が上がっている。政府の方針では、年収370~770万円の患者は月額負担上限が約8,000円増の8万8,200円に、年収770~1,160万円では2万円増の18万8,400円、年収1,160万円以上は約4万円増の29万400円となる。さらに2026年以降は区分を細分化し、年収650~770万円では最終的に13万8,600円、年収1,650万円以上は44万4,300円に引き上げる予定だったが、見直しの可能性が示された。負担増の背景には高齢化と高額薬剤の普及による医療費の増加がある。政府は「制度を持続可能にするため」と説明するが、患者団体や専門学会は「がん患者の治療継続が困難になる」「経済的理由で適切な治療を受けられなくなる」と強く批判。日本臨床腫瘍学会などは「上限額の引き上げ幅が大きすぎる」と慎重な検討を求める声明を発表した。高額療養費の見直しは、子育て支援や医療財源確保の観点から避けられないとする意見もあるが、患者の命に関わる制度であるため、慎重な議論が求められている。参考1)石破首相、医療費の負担アップ「実施したい」と表明 非難集まる「高額療養費の負担上限引き上げ」8月から(東京新聞)2)高額療養費制度 負担上限額引き上げ方針で自己負担はどうなる?年収別に詳しく2025年8月から開始 2026年8月以降は再検討へ(NHK)3)高額療養費の負担増、一部凍結を首相表明 今夏は実施して「再検討」(朝日新聞)4)高額療養費引き上げ凍結に応じぬ石破首相、立民「不十分」と反発 予算案採決へ溝埋まらず(産経新聞)5)高額療養費制度における自己負担上限額引き上げに関する声明(日本臨床腫瘍学会・日本癌学会・日本癌治療学会)6)高額療養費制度上限額引き上げに関する緊急声明(日本乳癌学会)7)高額療養費制度の負担上限額引き上げに関する声明(日本胃癌学会)8)高額療養費制度の負担上限額引き上げに関する緊急声明(日本緩和医療学会)2.患者情報を即時に共有、「マイナ救急」で救命率向上へ/総務省消防庁総務省消防庁は2025年度より、全国の全消防本部で「マイナ救急」を本格導入する。「マイナ救急」とは、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」を活用し、救急搬送時に患者の通院歴や服用薬などの医療情報を確認するシステム。昨年実施された実証事業では約1万1,000件の情報閲覧が行われ、迅速な病院選定や適切な処置に貢献した。救急隊員からは「搬送先決定の迅速化」「意識不明者の病歴把握の容易化」といったメリットが報告され、病院側からも「診療開始の時間短縮」「独居高齢者の正確な医療情報の把握ができた」との評価が寄せられた。具体的な事例として、持病の糖尿病がマイナ保険証で判明し、搬送中に適切な処置が行われたケースや、意識のない患者の服薬状況が即座に確認できた事例などがあった。一方で課題も残り、救急隊員には患者の所持品を確認する法的根拠がなく、意識を失った傷病者がマイナ保険証を提示できない場合、情報閲覧が困難となる。また、従来の医療機関専用システムでは情報閲覧に時間を要する問題があり、消防庁はタブレット端末を活用した新システムを開発し、3月に実装する予定という。消防庁は将来的に、マイナ保険証をスマートフォンに搭載し、救急隊がロック解除なしで必要な医療情報を閲覧できる仕組みの検討も進める方針。救急医療の効率化を図る一方、個人情報保護や法整備の必要性が問われており、今後の運用方法に注目が集まる。参考1)マイナンバーカードを活用した救急業務(マイナ救急)の全国展開に係る検討(消防庁)2)マイナ保険証を活用する「マイナ救急」とは 全国の消防本部に導入へ(NHK)3)マイナ救急の実証事業、全720消防本部で来年度実施へ 情報閲覧の新システムを構築 総務省消防庁(CB news)4)マイナ救急、意識障害の急病人の早期回復などにつながる-4月から全国で実施(ケータイWatch)3.大学病院に医師派遣義務付けへ、特定機能病院の新基準案/厚労省厚生労働省は2月26日、高度な医療を提供する「特定機能病院」の基準を見直し、大学病院には「医師を派遣する機能」を追加する方針案を公表した。大学病院は、これまで高度な医療の提供、研究、教育といった役割を担ってきた。しかし、医療の高度化に伴い、大学病院以外の病院も高度な医療を提供できるようになり、大学病院の役割が見直されている。そこで、厚労省は、大学病院にしか担えない役割を明確にすると同時に、特定機能病院の基準を見直すこととした。新基準案では、大学病院に対し、地域医療を守るための医師派遣機能を強化することを求めている。具体的には、大学病院が地域に一定数の医師を派遣することを求めるほか、移植医療やゲノム医療、充実した研究や教育体制、都道府県と連携した医師派遣の取り組みなどを評価する。将来的には、積極的に取り組む大学病院には、経済的な報酬などのメリットも検討している。参考1)第23回特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会資料(厚労省)2)大学本院「基礎的」と「上乗せ」の基準設定へ 特定機能病院の承認要件、厚労省が見直し案(CB news)3)大学病院に「医師派遣機能」追加へ 厚労省、特定機能病院の新基準案(朝日新聞)4.人口減少で社会保障に影響 現役世代の負担増は避けられず/厚労省厚生労働省が、2月27日に発表した2024年の人口動態統計速報によると、わが国の出生数は72万988人と過去最少を更新し、9年連続で減少した。死亡数は161万8,684人と過去最多となり、出生数を上回る「自然減」は過去最大の89万7,696人に達した。人口減少はさらに加速し、少子化の進行が政府の想定よりも15年早まった結果となった。少子化の主な要因として、未婚化・晩婚化の進行、経済的な不安、子育てと仕事の両立の困難さなどが挙げられる。とくに、出産・育児による女性の賃金低下が顕著で、男女間の格差が拡大している。社会全体に根付いた「子育ては女性の役割」といった価値観や長時間労働の慣行も影響しており、単なる経済支援策だけでは効果が限定的である。政府は2024年度から3年間で「異次元の少子化対策」を進め、児童手当の拡充や育児休業給付の改善を行っている。しかし、今回の統計はこうした施策の初年度に当たりながらも、出生数の増加にはつながらなかった。加えて、婚姻数は49万9,999組と戦後2番目に低い水準にあり、少子化対策の根本となる婚姻の増加も実現できていない。こうした状況に対し、石破 茂首相は「出生数の減少に歯止めがかかっていない。地方の出生率の高さに注目し、若者や女性の定着を進める」と述べた。また、政府は社会保障制度の維持のために、高齢者中心だった給付と負担の構造を転換し、現役世代の負担を軽減する方針を示した。しかし、現役世代の減少は避けられず、今後の社会保障制度の安定性にも懸念が広がる。専門家は「少子化を前提とした社会の仕組みを構築し、男女ともに働きやすく、安心して子育てができる環境を整備することが急務」と指摘している。少子化対策には時間がかかるため、政府は短期的な経済支援だけでなく、社会全体の意識改革や労働環境の抜本的な見直しを進める必要がある。参考1)人口動態統計速報[令和6年12月分](厚労省)2)24年の死亡数・人口減が過去最多 厚労省、約90万人の自然減(CB news)3)少子化の進行、想定より15年早く…昨年の出生数は過去最少72万988人で9年連続最少(読売新聞)4)24年出生数は最少72万人 10年で3割減、現役世代に負担(日経新聞)5)「異次元の少子化対策」初年度は不発 婚姻数も最低水準(同)5.医療ソーシャルワーカーも巻き込む高額な紹介料、規制を検討へ/厚労省東証プライム上場企業「サンウェルズ」が、入所者紹介業者に対し1人当たり100万円の高額な紹介料を支払っていたことが発覚した。同社は現在、こうした高額紹介を受けない方針に転換するとしているが、老人ホーム業界では要介護度に応じた紹介料の設定が横行しており、公平性が問題視されている。この問題を受け、日本医療ソーシャルワーカー協会は、全国の医療ソーシャルワーカーを対象に紹介業者との関係実態を調査開始。元紹介業者の証言によれば、MSW(医療ソーシャルワーカー)への接待を通じて、入所者を紹介させるケースもあったという。また、厚生労働省は要介護度に応じた紹介料を「不適切」と認定し、昨年12月に有料老人ホームの設置運営標準指導指針の改正を行い、有料老人ホームに対し、入居希望者の介護度や医療の必要度に応じて手数料を設定しないよう求めているが、さらなる規制を検討している。さらに厚労省は自治体に対しては、施設側の指導を強化するよう求めている。高齢者施設の紹介ビジネスが、医療・介護保険を利用した営利目的の手段と化している実態が浮き彫りとなり、制度の見直しが急務となっている。参考1)老人ホーム会社、診療報酬28億円不正請求疑い 高額紹介料支払いも(朝日新聞)2)医療ソーシャルワーカー協会、紹介業者との関係を調査 高額紹介料で(同)3)要介護度に応じた高額紹介料「不適切」 老人ホームビジネスで厚労相(同)4)高額な紹介料は不適切 厚労省 有料老人ホーム指導指針を改正(シルバー新報)5)有料老人ホームの設置運営標準指導指針について(厚労省)6.精神科病院で患者虐待、通報義務を無視 看護師の暴行を隠蔽か/岐阜県岐阜県海津市の精神科病院「養南病院」で、2024年10月に男性看護師が女性入院患者に暴行を加えたにもかかわらず、病院が義務付けられている通報を怠っていたことが明らかになった。暴行の内容は、患者が指示に従わなかったことに腹を立て、押し倒して首をつかむなどの行為であり、院内カメラにも映像が残されていた。病院側は患者からの訴えを受け、事態を把握していたが、加害者である看護師は自主退職したため、懲戒処分も行われなかった。病院の関谷 道晴理事長は「通報義務が頭から抜け落ちていた」と釈明している。2024年4月の精神保健福祉法改正により、精神科病院で虐待が疑われる事案を発見した場合、都道府県への通報が義務化されている。しかし、病院は「職員がすぐに退職したため、判断に迷い通報をためらった」と説明。匿名通報を受けた岐阜県が11月に立ち入り調査を実施し、今回発覚に至った。病院側も「隠蔽と受け取られてもやむを得ない」と認めている。また、昨年12月には別の女性看護師が患者に対し乱暴な対応をしたことも判明。この件については県に通報され、現在調査が進められている。同病院では、過去にも看護師による不適切な言動が複数報告されており、県が継続的に監視を行う方針だ。この問題を受け、病院は「再発防止と信頼回復に努める」としているが、精神科病院の通報体制の不備や虐待の隠蔽体質が浮き彫りになった。厚生労働省の指導の下、精神医療の透明性向上と、虐待防止策の徹底が求められている。参考1)精神科病院で虐待、隠蔽 改正法で義務化の通報せず(共同通信)2)義務付けられた県への通報せず…精神科病院で男性看護師が女性患者に暴行 言うことを聞かず立腹し押し倒す(東海テレビ)3)海津市の精神科病院 虐待疑われる事案を県に通報せず(NHK)