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花粉シーズンすでにスタート?神奈川や西日本の一部で飛散始まる

 日本気象協会は2018年2月15日、2018年春の花粉飛散予測(第4報)を発表。一部にスギ花粉の飛散開始となった地域もあり、それ以外の地域でも飛散開始は目前に迫っているようだ。例年より遅れながらも2月第5週に飛散開始か 1月下旬、2月上旬と強い寒気が流れ込み、全国的に記録的な低温になり、北陸地方では数十年ぶりの大雪となった。この影響で、多くの地点では花粉の飛散開始が遅れている。しかし、神奈川県など関東の一部では大雪の翌日1月23日と24日に、飛散開始が確認された。西日本などでも飛散開始となったところがあり、花粉シーズンがスタートしている。そのほかの地点でも、わずかな飛散が確認されている。 2月第5週は、平年並みか高くなる日もあるため、西日本や東日本の地点でも、花粉の飛散が始まるところがあると予想される。2月下旬から3月にかけては、北陸でも飛散開始となる見込み。一方、北日本では、2月下旬には東北南部で、3月上旬には東北北部でも花粉の飛散が始まる予想。北海道の飛散開始は例年通り4月下旬になる見込み。広い範囲で前シーズンの飛散量を上回る 2018年春の花粉飛散予測は、東北から近畿、四国地方までの広い範囲で、前シーズンの飛散量を上回る見込みだという。ピーク時期は例年並み スギ・ヒノキ花粉それぞれのピーク時期は例年並みの見込み。 スギ花粉のピークは、福岡では2月下旬~3月上旬、高松・広島・大阪・名古屋では3月上旬~中旬、金沢と仙台では3月中旬~下旬にピークを迎える見込み。東京のピークは3月上旬~4月上旬となり、多く飛ぶ期間が長い。 スギ花粉のピークの後始まるヒノキ花粉のピークは、福岡では3月下旬~4月上旬、広島では4月上旬、高松・大阪・名古屋・東京では4月上旬~中旬の見込み。■参考tenki.jp

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アトピー性皮膚炎への抗IL-13抗体薬、ステロイドと併用では改善

 インターロイキン(IL)-13は、2型炎症反応において重要な役割を果たしており、アトピー性皮膚炎における新たな病原性メディエーターとされる。中等症~重症アトピー性皮膚炎に対し、ヒト化抗IL-13モノクローナル抗体であるlebrikizumab 125mgの4週ごと投与は、局所作用性コルチコステロイドとの併用において、重症度を有意に改善し忍容性は良好であることが認められた。米国・オレゴン健康科学大学のEric L. Simpson氏らが、無作為化プラセボ対照二重盲検第II相臨床試験(TREBLE試験)の結果を報告した。なお著者は、「単独療法としてのlebrikizumabの有効性は不明であり、今回は研究期間が短く長期投与の有効性および安全性は評価できない」と付け加えている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2018年1月15日号掲載の報告。 TREBLE試験の目的は、局所作用性コルチコステロイドとの併用投与におけるlebrikizumabの有効性および安全性を検討することであった。対象は、中等症~重症アトピー性皮膚炎成人患者209例で、2週間の局所作用性コルチコステロイド導入期の後、lebrikizumab 125mg単回投与群、250mg単回投与群、125mgを4週ごと投与(Q4W)群またはプラセボ(Q4W)群に1対1対1対1の割合で無作為に割り付け、12週間治療した。 主要評価項目は、12週時に湿疹面積重症度指数(Eczema Area and Severity Index:EASI)スコアが50%低下した患者の割合(EASI-50達成率)であった。 主な結果は以下のとおり。・12週時のEASI-50達成率は、プラセボ群62.3%に対し、lebrikizumab 125mg Q4W群は82.4%で有意に高かった(p=0.026)。・プラセボ群と、lebrikizumab単回投与群の2群とは差がなかった。・有害事象の発現頻度は、lebrikizumab(全投与)とプラセボ群で類似しており(66.7% vs.66.0%)、有害事象の多くは軽症もしくは中等症であった。

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極寒の影響で今シーズンの花粉飛散開始時期はどうなる?

 日本気象協会は2018年2月8日、2018年春の花粉飛散予測を発表。記録的な寒波により、これまで極端な低温が続き、都心の1月1日からの積算気温は、飛散時期の目安となる数字(およそ400度)に達しておらず、飛散開始時期が遅れる可能性がある。 一方、これまでは強い寒気が長く居座り、厳しい寒さの日が長く続いたが、この先は寒気が流れ込んでも一時的で、気温の上がる日がでてきそうだ。関東でも、すでにわずかながら花粉が飛んでいる所があり、風の強まる日があれば、本格的な花粉シーズンへと突入するかもしれないとのこと。■参考tenki.jp

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プロバイオティクス・カプセル、アトピー性皮膚炎を改善

 新たな剤形で複数成分を含むプロバイオティクス・カプセル製剤は、小児・若年者におけるアトピー性皮膚炎(AD)の経過を改善する可能性が、スペイン・Hospital Universitario VinalopoのVicente Navarro-Lopez氏らによる無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験の結果、示された。アトピー性皮膚炎疾患重症度評価(SCORAD)スコアが低下し、局所ステロイドの使用も減少したという。JAMA Dermatology誌オンライン版2017年11月8日号掲載の報告。 研究グループは2016年3月~6月に、新たな混合プロバイオティクス製剤の経口摂取について、有効性と安全性、ならびに局所ステロイドの使用に及ぼす影響を評価する目的で、12週間の無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験を行った。 対象は、4~17歳の中等度AD患者50例(女児26例[50%]、平均[±SD]年齢:9.2±3.7歳)。試験前3ヵ月以内に全身性免疫抑制剤の使用歴のある患者、2週以内に抗菌薬使用歴のある患者、腸疾患合併の診断や細菌感染症の症状のある患者は除外された。 性別、年齢、発症年齢により層別化し、ブロックランダム化法によりプロバイオティクス群または対照群(プラセボ)に割り付け、凍結乾燥させたビフィズス菌(Bifidobacterium lactis)CECT 8145、ビフィズス菌(B.longum)CECT 7347、乳酸菌(Lactobacillus casei)CECT 9104を計109 CFU含むカプセル製剤(キャリアとしてマルトデキストリン使用)、またはプラセボ(マルトデキストリン)を毎日、12週間経口投与した。 主要評価項目は、SCORADスコアと局所ステロイドの使用日数とした。 主な結果は以下のとおり。・12週後、プロバイオティクス群は対照群と比較して、SCORADスコアの平均減少幅が19.2ポイント大きかった(群間差:-19.2、95%信頼区間[CI]:-15.0~-23.4)。・ベースラインから12週時点までのSCORADスコアの変化は、プロバイオティクス群-83%(95%信頼区間[CI]:-95~-70)、対照群-24%(95%CI:-36~-11)であった(p<0.001)。・対照群(220/2,032患者・日、10.8%)と比較して、プロバイオティクス群(161/2,084患者・日、7.7%)では局所ステロイドの使用が有意に減少したことが認められた(オッズ比:0.63、95%CI:0.51~0.78)。

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ダニアレルギー対策は環境と免疫療法

 2017年11月21日、ダニアレルギー対策会は、都内においてダニアレルギー対策の啓発活動の一環として「知っておきたいダニアレルギー対策」をテーマに、メディアセミナーを開催した。セミナーでは、最新の診療情報の講演ほか、ダニアレルギー対策の各種製品展示などが行われた。 ※ダニアレルギー対策会は、ダニによる通年性アレルギー性鼻炎の認知向上と、その対策方法の啓発を目的に株式会社サンゲツ、塩野義製薬株式会社、ダイキン工業株式会社、帝人フロンティア株式会社の異業種4社により発足した団体。国民の4割が罹患しているアレルギー性鼻炎 セミナーでは、岡本 美孝氏(千葉大学大学院医学研究院耳鼻咽喉科・頭頸部腫瘍学 教授)が、「知っておきたいダニアレルギー対策~アレルギー性鼻炎患者1,600人の意識調査から見えた課題~」をテーマに講演を行った。 アレルギー性鼻炎とは、鼻粘膜のI型アレルギー疾患であり、原則的に発作性反復性のくしゃみ、水性鼻漏、鼻閉の3主徴とする疾患と定義されている。 疫学では、正確な統計はないとしながらも国民の約4割が罹患していると推定される。ダニなどを起因とする通年性アレルギー性鼻炎は男性に多く、学童に多いとされる。一方、花粉などを起因とする季節性アレルギー性鼻炎(いわゆる花粉症)は女性に多く、とくに20~30代に多いとされているが、近年では低年齢化もみられるという。 アレルギー性鼻炎は自然寛解することは少なく、また、喘息発症の先行にアレルギー性鼻炎が多いことでも知られている1)。そして、現在行われている治療は、(1)抗原回避、(2)薬物療法、(3)免疫(減感作)療法、(4)手術療法、などがあると診療の概要を説明した。患者の3割が罹病歴20年以上 次にダニアレルギー対策会が企画・実施した「アレルギー性鼻炎患者実態調査」の結果について触れた。この調査は「通年性アレルギー性鼻炎患者の意識と行動について調査」(実施:2017年3月/対象:15~60歳の男女3万5千例/方法:インターネット調査)を目的に行われ、その結果、アレルギー性鼻炎の診断・自覚率では、現在診断中が14.9%、自覚しているが19.0%に対し、全体の6割強が何ら治療や疾患への自覚をしていないことが判明した。患者歴では、20年以上という患者が最も多く30.7%、10~20年未満が29.8%、5~10年未満が15.6%という順で、患者の長期罹病がうかがわれた。 この中よりさらに本調査として通年性・季節性アレルゲンの患者1,600例を抽出し、調査した。主に通年性アレルギー性鼻炎患者(n=800)の「症状の認識」につき、「重い」と感じる認識は全体では23.0%と多くはないものの、若年者では「重い」と感じる傾向が強いことがわかった。また、完治への希望については66.5%の患者が希望している半面、25.9%の患者しか「治療法によっては長期寛解が目指せる」ことを理解していないことが判明した。また、受診状況では、全体の62.4%が医療機関などでの治療を受けていない現状が示された。抗原回避の対策は環境整備と免疫療法 一般的な抗原回避の対策として、生活環境の整備が挙げられる。具体的には、ダニの繁殖を防ぐために寝具の天日干し、ソファーを布張りから皮など他の素材へ変更、防ダニ壁の採用、室内鉢植えの排除などがある。寝具、カーペット、カーテンなどを防ダニ効果製品へ変更する、エアコン・空気清浄機の設置なども効果的だという。 こうした生活環境整備以外にもアレルゲン免疫療法が勧められる。現在、アレルゲン免疫療法には、皮下免疫療法(SCIT)と舌下免疫療法(SLIT)があり2)、本療法は唯一アレルギー性鼻炎の自然経過を改善しうる治療とされ、その効果は治療終了後も長期間持続するという。免疫療法のメリットとしては、先述のほかに抗ヒスタミン薬や抗LT薬などの対症薬の使用低減、アレルギー性結膜炎や喘息への治療、喘息発症の予防、新抗原感作の抑制効果がある。デメリットとしては、遅効性ゆえに3年超の長期間にわたる投与や服薬が必要となり、SCITでは全身性のアナフィラキシーへの注意が、SLITでは口腔内のアレルギー反応への注意が必要とされるが、副作用は軽度であるという。 最後に岡本氏は「最近では、ダニアレルギー診療に関するウェブサイトも充実してきた。こうしたサイトも参考にし、疾患の知識を広げてもらいたい」と期待を述べ、レクチャーを終えた。■参考文献1)Yonekura S,et al. Acta Otolaryngol.2012;132:981-987. 2)松根彰志. 日本医事新報.2014;4687:31.■参考「通年性・季節性アレルギー性鼻炎患者の意識・実態調査結果」の詳細(塩野義製薬株式会社プレスリリースダニによるアレルギー性鼻炎に関する情報サイト(塩野義製薬株式会社)認定NPO法人 アレルギー支援ネットワーク ダニアレルギー

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アトピー性皮膚炎児、睡眠障害の原因は?

 アトピー性皮膚炎(AD)を有する小児の60%は、睡眠が妨げられているとされる。米国・Ann & Robert H. Lurie小児病院のAnna B. Fishbein氏らは、症例対照研究において、中等症~重症アトピー性皮膚炎の小児は健常児に比べ、就寝・起床時間、睡眠時間、睡眠潜時は類似していたものの、中途覚醒が多く睡眠効率が低いことを明らかにした。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2017年10月28日号掲載の報告。 研究グループは、中等症~重症アトピー性皮膚炎小児の睡眠の特徴ならびに睡眠障害の評価法を検討する目的で、6~17歳の中等症~重症アトピー性皮膚炎患児19例および年齢と性別をマッチさせた健常対照児19例を比較した。参加者は腕時計型のアクチグラフを装着し、睡眠および疾患特異的質問票に記入した。 主な結果は以下のとおり。・AD患児は、中途覚醒(WASO)時間が103±55分であったのに対して、対照児は50±27分であった。・AD患児は対照児より、睡眠時体動、日中の眠気、夜間の再入眠困難および教師の報告による日中の眠気の頻度が高かった。・重症度は、WASOとよく相関した。総SCORADスコア:r=0.61(p<0.01)、客観的SCORADスコア:r=0.58(p=0.01)、湿疹面積・重症度指数(EASI):r=0.68(p<0.01)。・小児皮膚疾患のQOL評価尺度はWASOと相関した(r=0.52、p=0.03)が、自己報告による痒みの重症度とは相関しなかった(r=0.28、p=0.30)。

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アトピー性脊髄炎〔AM:atopic myelitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義中枢神経系が自己免疫機序により障害されることは、よく知られている。中でも最も頻度の高い多発性硬化症は、中枢神経髄鞘抗原を標的とした代表的な自己免疫疾患と考えられている。一方、外界に対して固く閉ざされている中枢神経系が、アレルギー機転により障害されるとは従来考えられていなかった。しかし、1997年にアトピー性皮膚炎と高IgE血症を持つ成人で、四肢の異常感覚(じんじん感)を主徴とする頸髄炎症例がアトピー性脊髄炎(atopic myelitis:AM)として報告され1)、アトピー性疾患と脊髄炎との関連性が初めて指摘された。2000年に第1回全国臨床疫学調査2)、2006年には第2回3)が行われ、国内に本疾患が広く存在することが明らかとなった。その後、海外からも症例が報告されている。2012年には磯部ら4)が感度・特異度の高い診断基準を公表し(表)、わが国では2015年7月1日より「難病の患者に対する医療等に関する法律」に基づき「指定難病」に選定されている。画像を拡大する■ 疫学平均発症年齢は34~36歳で、男女比1:0.65~0.76と男性にやや多い。先行するアトピー性疾患は、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息の順で多く、アトピー性疾患の増悪後に発症する傾向にあった。発症様式は急性、亜急性、慢性のものが約3割ずつみられ、症状の経過は、単相性のものも3~4割でみられるものの、多くは、動揺性、緩徐に進行し、長い経過をとる。■ 病因図1のようにAMの病理組織学的検討では、脊髄病巣は、その他のアトピー性疾患と同様に好酸球性炎症であり、アレルギー性の機序が主体であると考えられる。さまざまな程度の好酸球浸潤を伴う、小静脈、毛細血管周囲、脊髄実質の炎症性病巣を呈する(図1A)5)。髄鞘の脱落、軸索の破壊があり、一部にspheroidを認める(図1B)5)。好酸球浸潤が目立たない症例においても、eosinophil cationic protein(ECP)の沈着を認める(図1C)6)。浸潤細胞の免疫染色では、病変部では主にCD8陽性T細胞が浸潤していたが(図1D)6)、血管周囲ではCD4陽性T細胞やB細胞の浸潤もみられる。さらに、脊髄後角を中心にミクログリアならびにアストログリアの活性化が認められ(図1E、F)7)、アストログリアではエンドセリンB受容体(endothelin receptor type B:EDNRB)の発現亢進を確認している(図1G、H)7)。図1 アトピー性脊髄炎の病理組織所見画像を拡大する■ 臨床症状初発症状は、約7割が四肢遠位部の異常感覚(じんじん感)、約2割が筋力低下である。経過中に8割以上でアロディニアや神経障害性疼痛を認める。そのほか、8割で腱反射の亢進、2~3割で病的反射を生じ、排尿障害も約2割に生じる。何らかの筋力低下を来した症例は6割であったが、その約半数は軽度の筋力低下にとどまった。最重症時のKurtzkeのExpanded Disability Status Scale(EDSS)スコアは平均3.4点であった。■ 予後第2回の全国臨床疫学調査では、最重症時のEDSSスコアが高いといずれかの免疫治療が行われ、治療を行わなかった群と同等まで臨床症状は改善し、平均6.6年間の経過観察では、症例全体で平均EDSS 2.3点の障害が残存していた。全体的には大きな障害を残しにくいものの、異常感覚が長く持続し、患者のQOLを低下させることが特徴といえる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 検査所見末梢血所見としては、高IgE血症が8~9割にあり、ヤケヒョウヒダニやコナヒョウヒダニに対する抗原特異的IgEを85%以上の症例で有し、約6割で末梢血好酸球数が増加していた。前述のAMの病理組織において発現が亢進していたEDNRBのリガンドであるエンドセリン1(endothelin 1:ET1)は、AM患者の血清で健常者と比較し有意に上昇していた7)。髄液一般検査では、軽度(50個/μL以下)の細胞増加を約1/4の症例で認め、髄液における好酸球の出現は10%未満とされる。蛋白は軽度(100mg/dL以下)の増加を約2~3割の症例で認める程度で、大きな異常所見はみられないことが多い。髄液特殊検査では、IL-9とCCL11(eotaxin-1)は有意に増加していた。末梢神経伝導検査において、九州大学病院症例では約4割で潜在的な末梢神経病変が合併し、第2回の全国調査では、検査実施症例の25%で下肢感覚神経を主体に異常を認めていた3)。また、体性感覚誘発電位を用いた検討では、上肢で33.3%、下肢では18.5%で末梢神経障害の合併を認めている8)。図2のように脊髄のMRI所見では、60%で病変を認め、その3/4が頸髄で、とくに後索寄りに多い(図2A)。また、Gd増強効果も半数以上でみられる。この病巣は、ほぼ同じ大きさで長く続くことが特徴である(図2B)。画像を拡大する■ 診断・鑑別診断脊髄炎であること、既知の基礎疾患がないこと、アレルギー素因があることを、それぞれを証明することが必要である。先に磯部ら6)による診断基準を表で示した。この基準を脊髄初発多発性硬化症との鑑別に適用した場合、感度93.3%、特異度93.3%、陽性的中率は82.4%、陰性的中率は97.7%であった。鑑別として、寄生虫性脊髄炎、多発性硬化症、膠原病、HTLV1関連脊髄症、サルコイドーシス、視神経脊髄炎、頸椎症性脊髄症、脊髄腫瘍、脊髄血管奇形を除外することが必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)第2回の全国臨床疫学調査の結果では、全体の約60%でステロイド治療が行われ、約80%で有効性を認めている。血漿交換療法が選択されたのは全体の約25%で、約80%で有効であった。AMの治療においてほとんどの症例はパルス療法を含む、ステロイド治療により効果がみられるが、ステロイド治療が無効の場合には、血漿交換が有効な治療の選択肢となりうる。再発、再燃の予防については、アトピー性疾患が先行して発症、再燃することが多いことから、基礎となるアトピー性疾患の沈静化の持続が重要と推測される。4 今後の展望当教室ではAMの病態解明を目的とし、アトピー性疾患モデルマウスにおける神経学的徴候の評価と中枢神経の病理学的な解析を行い、その成果は2016年に北米神経科学学会の学会誌“The Journal of Neuroscience”に掲載された7)。モデル動物により明らかとなった知見として、(1)アトピー性疾患モデルマウスでは足底触刺激に対しアロディニアを認める、(2)脊髄後角ではミクログリア、アストログリア、神経細胞が活性化している、(3)ミクログリアとアストログリアではEDNRBの発現が亢進し、EDNRB拮抗薬の前投与により脊髄グリア炎症を抑制すると、神経細胞の活性化が抑えられ、アロディニアが有意に減少したというもので、AMに伴う神経障害性疼痛に脊髄グリア炎症ならびにET1/EDNRB経路が大きく関わっていることを見出している。5 主たる診療科神経内科6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター アトピー性脊髄炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報アトピー性脊髄炎患者会 StepS(AM患者と家族向けの情報)1)Kira J, et al. J Neurol Sci. 1997;148:199-203.2)Osoegawa M, et al. J Neurol Sci. 2003;209:5-11.3)Isobe N, et al. Neurology. 2009;73:790-797.4)Isobe N, et al. J Neurol Sci. 2012;316:30-35.5)Kikuchi H, et al. J Neurol Sci. 2001;183:73-78.6)Osoegawa M, et al. Acta Neuropathol. 2003;105:289-295.7)Yamasaki R, et al. J Neurosci. 2016;36:11929-11945.8)Kanamori Y, et al. Clin Exp Neuroimmunol. 2013;4:29-35.公開履歴初回2017年11月14日

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治療の幅が拡大した再生不良性貧血

 2017年10月16日、ノバルティス ファーマ株式会社は、同社のエルトロンボパグ オラミン(商品名:レボレード)およびシクロスポリン(同:ネオーラル)が、2017年8月25日に再生不良性貧血へ適応が拡大されたことから、「再生不良性貧血のメディカルニーズに対応する“輸血フリー”実現に向けた最新治療戦略 ~9年ぶりの治療選択肢の登場で変わる新たな薬物療法~」をテーマに、都内においてメディアセミナーを開催した。いまだに機序は不明の難病 はじめに中尾 眞二氏(金沢大学 医薬保健研究域医学系 血液・呼吸器内科教授)が、「再生不良性貧血の病態と最新の治療」と題して、再生不良性貧血(AA)の病態、診療、治療の現在と展望について講演を行った。 一般に「貧血」とは赤血球が不足し、体内に十分な酸素が行き渡らない状態で、鉄欠乏性貧血が最も多くみられる。AAでは、造血幹細胞が外的に傷害され、赤血球、白血球、血小板がともに減少するが、その正確な機序はいまだ不明であるという。 血液が作られないことから、貧血からくるめまい、倦怠感、動悸・息切れ、易感染による発熱、出血傾向などが症状としてみられる。また、眼瞼が白くなる、体幹部の点状出血、壊疽ができるなどの身体所見も観察される。 AAの診断基準としては、好中球、ヘモグロビン、血小板の値、骨髄の低形成(細胞の密度が低い)、除外診断などの項目が挙げられ、各種検査により確定診断がなされる。そして、AAでは重症度を「1.軽症、2.中等症、3.やや重症、4.重症、5.最重症」の5つに分類し、各重症度によって異なった治療が行われる。予後の改善が図られ、今では5年生存率も90% AAの治療では、造血機能を改善する治療として、免疫抑制療法(抗胸腺細胞グロブリン[ATG]、シクロスポリン投与)、タンパク同化ステロイド療法、造血幹細胞移植、エルトロンボパグ療法が行われる。また、支持療法として成分輸血(重症度「3.やや重症」から必要)や顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、鉄キレート剤の投与も行われている。 60年ほど前までAAの患者の約半数は6ヵ月程度で亡くなるなど、予後がきわめて悪い疾患だったが、免疫抑制療法などの治療で現在は5年生存率が90%と向上し、寛解率も6割程度を維持しているという。 治療のポイントとして、血幹細胞が枯渇する前に治療を開始することが重要で、「免疫抑制療法で、軽症例からシクロスポリンが使用できるようになったことは意義が大きい」と中尾氏は語る。これにより、難治例の減少や医療費を抑えることもできると期待を寄せている。 ここで問題なのが、免疫抑制療法では、血球減少パターンで効果が異なることである。血小板減少と貧血が併存する場合に効果は発揮されるが、好中球減少と貧血の場合、効果はそれほどでもないという。 こうした、免疫抑制療法の治療抵抗性のある患者や高齢の患者への治療となるのが、エルトロンボパグ療法である。エルトロンボパグは、巨核球や骨髄前駆細胞の増殖や分化を促進することで血小板を作る。臨床試験によると、21例(非重症15例、重症6例)に25~100mgのエルトロンボパグを6ヵ月投与した結果、10例に一血球系統の増加がみられ、血小板輸血の6例中4例で、赤血球輸血の19例中9例で輸血が不要となった。副作用は、3例に染色体異常が出現したが重篤なものはなく、有害事象としては軽度なもので鼻咽頭炎、肝機能障害、蕁麻疹などが報告されている(承認時資料より)。 同氏は、「エルトロンボパグの登場で、輸血や骨髄移植の不要、奏効も期待できる」と今後の治療に期待を寄せる。実際、同氏が示した試案ではエルトロンボパグの適応として、「あらゆる治療を受けてきたが定期的な輸血が必要」な患者または「ATG療法が予定されている70歳以上で重症度3以上」の患者に適応度が高いと説明する。その一方で使用に際し、「晩期の副作用は未知の部分が多いので、定期検査を受けることが重要であり、若年者の初回ATG治療例では、エルトロンボパグを併用する必要があるかどうか、慎重に判断しなければならない」と注意を喚起し、レクチャーを終えた。 引き続いて、AAの患者会の患者と中尾氏の対談が行われた。その中で患者からは、「AAという疾患の詳しい説明がされず不安であったこと、見た目では健康にみえることで誤解され困っていること、AAという疾患が医師などの間でも十分知られておらず不便もあること」などが語られた。■参考再生不良性貧血.com■関連記事希少疾病ライブラリ 再生不良性貧血

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新規抗体薬、コントロール不良喘息の増悪抑制/NEJM

 長時間作用性β刺激薬(LABA)と中~高用量の吸入ステロイドによる治療歴のある喘息患者の治療において、tezepelumabはベースラインの血中好酸球数とは無関係に、臨床的に重要な喘息の増悪を抑制することが、米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のJonathan Corren氏らが行ったPATHWAY試験で示された。研究の成果は、NEJM誌2017年9月7日号に掲載された。胸腺間質性リンパ球新生因子(TSLP)は、炎症性の刺激因子に反応して産生される上皮細胞由来のサイトカインで、2型免疫の調節において中心的な役割を担う。喘息患者は健常者に比べ、気道のTSLP発現が高度で、TSLP値は2型ヘルパーT細胞(Th2)サイトカインやケモカインの発現、および喘息の疾患重症度と相関を示す。tezepelumab(AMG 157/MEDI9929)は、TSLPに特異的に結合するヒトIgG2モノクローナル抗体で、proof-of-concept試験では軽症アトピー型喘息患者の早期型および晩期型喘息反応を防止し、吸入アレルゲン負荷後の2型炎症反応のバイオマーカーを抑制したという。3つの用量の効果をプラセボと比較 本研究は、コントロール不良の喘息患者におけるtezepelumabの有効性と安全性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化第II相試験(MedImmune社、Amgen社の助成による)。対象は、年齢18~75歳の非喫煙者(登録時に、6ヵ月以上喫煙しておらず、喫煙歴が<10pack-years)で、登録の6ヵ月以上前にLABAと中~高用量の吸入ステロイドによる治療を行ってもコントロールが不良の喘息で、登録前12ヵ月以内に糖質コルチコイドの全身投与を要する喘息の増悪を2回以上、または入院を要する重度増悪を1回以上経験した患者であった。 被験者は、3つの用量(低用量:70mg、4週ごと、中用量:210mg、4週ごと、高用量:280mg、2週ごと)のtezepelumabまたはプラセボ(2週ごと)を皮下投与する群に無作為に割り付けられ、52週の治療が行われた。盲検を維持するために、4週ごとの投与群には、中間の2週時ごとにプラセボが投与された。 主要評価項目は、52週時の喘息増悪の年間発生率(イベント件数/1患者年)とした。喘息の増悪は、糖質コルチコイドの全身投与(経口、静注)を要する喘息症状の悪化、または糖質コルチコイドの経口投与による安定期維持療法中の患者における3日以上続く用量倍増、糖質コルチコイドの全身投与を要する喘息による救急診療部への入院、喘息による入院と定義した。 12ヵ国108施設で584例が登録され、低用量群に145例、中用量群に145例、高用量群に146例、プラセボ群には148例が割り付けられた。ベースラインの平均年齢はtezepelumab群(436例)が51.1±12.4歳、プラセボ群は52.2±11.5歳で、男性はそれぞれ157例(36.0%)、48例(32.4%)であった。喘息増悪率が約60~70%低下 52週時の年間喘息増悪率は、プラセボ群の0.67件に比べ、tezepelumab低用量群が0.26件、中用量群が0.19件、高用量群は0.22件であり、それぞれプラセボ群よりも61%、71%、66%低下した(いずれも、p<0.001)。また、登録時の血中好酸球数を問わず、同様の結果が得られた。 52週時の気管支拡張薬吸入前の1秒量(FEV1)は、tezepelumabの3群ともプラセボ群よりも有意に高かった(最小二乗平均のベースラインから52週までの変化の差:低用量群0.12L[p=0.01]、中用量群0.11L[p=0.02]、高用量群0.15L[p=0.002])。 喘息管理質問票(ACQ-6:0~6点、点数が低いほど疾患コントロールが良好、1.5点以上でコントロール不良と判定)のスコアは、中用量群(最小二乗平均のベースラインから52週までの変化の差:−0.27点[p=0.046])および高用量群(同:−0.33点[p=0.01])がプラセボ群よりも良好であった。また、12歳以上の標準化された喘息QOL質問票(AQLQ[S]+12:1~7点、点数が高いほど喘息関連QOLが良好、臨床的に意義のある最小変化量は0.5点)のスコアは、高用量群(同:1.33点[p=0.008])がプラセボ群よりも優れた。 1つ以上の有害事象を発現した症例は、プラセボ群が62.2%、低用量群が66.2%、中用量群が64.8%、高用量群は61.6%であり、1つ以上の重篤な有害事象の発現率は、それぞれ12.2%、11.7%、9.0%、12.3%であった。有害事象による試験薬の中止は、プラセボ群の1例、中用量群の2例、高用量群の3例に認められた。 著者は、「これらの知見により、TSLPのような上流のサイトカインを標的とすることで、単一の下流経路を阻害するよりも広範に疾患活動性に影響を及ぼし、利点を得る可能性が明らかとなった」と指摘し、「臨床的な意義を示すには、最良の治療を行ってもコントロール不良な喘息患者の、民族的に多彩で大規模な集団を対象とする試験の実施が重要と考えられる」としている。

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アトピー性皮膚炎へのPDE4阻害薬軟膏、長期安全性を確認

 慢性炎症性皮膚疾患のアトピー性皮膚炎(AD)に対しては、しばしば長期にわたる局所治療が必要となるが、ホスホジエステラーゼ4(PDE4)阻害薬のcrisaborole軟膏は、長期投与においても治療関連有害事象の発現率が低いことが示された。米国・カリフォルニア大学のLawrence F. Eichenfield氏らが、2件の第III相試験を完遂後のAD患者を対象とした48週間の延長試験で明らかにした。なお、本試験では、長期有効性については解析されていない。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2017年8月17日号掲載の報告。 研究グループは、crisaborole軟膏の長期安全性を評価する目的で、2歳以上の軽症~中等症AD患者を対象にcrisaborole軟膏を28日間投与する第III相ピボタル試験2件(AD-301試験[NCT02118766]、AD-302試験[NCT02118792])を完遂した患者を対象に、48週間の延長試験(AD-303試験)を行った。 医師による全般重症度評価(Investigator's Static Global Assessment:ISGA)を4週ごとに行い、軽度以上(ISGAスコアが2以上)であればcrisaborole軟膏による治療(1日2回塗布、1サイクル4週間)を開始し、ISGAスコアが1以下は休薬とした。 評価項目は、有害事象(治療下に発現した有害事象[TEAE])および重篤な有害事象である。 主な結果は以下のとおり。・ピボタル試験およびAD-303試験の期間中、TEAEは65%の患者で認められ、ほとんどは軽度(51.2%)または中等度(44.6%)で、93.1%は治療と関連なしと判定された。・AD-303試験において、12週毎のTEAEの発現率および重症度は一貫していた。・ピボタル試験およびAD-303試験における治療関連有害事象の発現率は10.2%で、主なものはAD(3.1%)、塗布部位疼痛(2.3%)および塗布部位感染(1.2%)であった。・TEAEのため延長試験を中止したのは、9例(1.7%)であった。

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005)平坦化したい【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

第5回 平坦化したい天候・気候の影響を受けやすい皮膚科外来。この夏も、涼しい日が続いた後は、外来が空いていて、「夏なのに!」と不安になりました(夏は皮膚科の繁忙期)。そうかと思えば、翌週の猛暑日には、ひさびさの激混み外来!致し方ないことではありますが、なるべく外来の忙しさも平坦であってくれれば、「日々の労力も同じくらいで済むのになぁ~」と思ってしまうのでした。ここで、デルぽん的「この夏の皮膚科外来疾患トップ5」を発表しま~す☆第1位 汗疹第2位 蕁麻疹第3位 伝染性膿痂疹第4位 伝染性軟属腫第5位 虫刺症だいたい例年通りですが、今年は蜂の被害が多かったような印象です。今のところヒアリはお見かけしておりません~。以上、秋の涼しさが待ち遠しい皮膚科外来からお送りしました!

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アトピー性皮膚炎とHBV感染は逆相関する

 韓国・カトリック大学のHee Yeon Kim氏らは、韓国国民健康栄養調査のデータを解析し、B型肝炎抗原(HBs抗原)陽性とアトピー性皮膚炎との間に有意な逆相関があることを報告した。これまで、アトピー性皮膚炎とB型肝炎ウイルス(HBV)感染との関連は明らかになっていない。ある研究ではHBV保有者でアトピー性皮膚炎のリスク増加が報告され、他の研究ではHBV血清陽性はアレルギー疾患と逆の関連があることが示されている。Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology誌オンライン版2017年6月24日号掲載の報告。 研究グループは、全国規模、人口ベースの横断調査である韓国国民健康栄養調査(Korea National Health and Nutrition Examination Survey)のデータを用い、アトピー性皮膚炎とHBs抗原陽性との間の関連を評価した。 解析対象は19歳超の1万4,776例で、多重ロジスティック回帰分析により、アトピー性皮膚炎ならびに喘息とHBs抗原陽性の関連についてオッズ比を求めた。 主な結果は以下のとおり。・HBs抗原陽性率(平均±SE)は、アトピー性皮膚炎ありで0.7±0.4%、なしで3.7±0.2%と、アトピー性皮膚炎ありで有意に低かった(p=0.001)。・一方、喘息ありでは2.8±0.8%、喘息なしでは3.7±0.2%であり、HBs抗原陽性率と喘息との間に有意な関連は認められなかった(p=0.2844)。・HBs抗原陽性者で、アトピー性皮膚炎のリスクが有意に低かった(オッズ比:0.223、95%信頼区間:0.069~0.72)。

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抗うつ薬の皮膚疾患に関連する抗炎症作用

 モノアミン作動性抗うつ薬の臨床的に関連する抗炎症作用についてのエビデンスが増加している。ノルウェー・オスロ大学のShirin Eskeland氏らは、慢性蕁麻疹、乾癬、アトピー性皮膚炎、他の湿疹、円形脱毛症の5つの一般的な炎症性皮膚疾患と関連した抗うつ薬の使用および有効性について、PubMedおよびOvidデータベースをシステマティックに検索した。Acta dermato-venereologica誌オンライン版2017年5月17日号の報告。 主な結果は以下のとおり。・1984年1月~2016年6月に報告された臨床試験または症例報告28件より、皮膚疾患患者1,252例が抽出された。・これらの患者において、抗うつ薬治療に関連した皮膚症状の明確な軽減が報告されていた。・新規抗うつ薬の研究は通常オープンラベルであった一方、第1世代抗うつ薬でのいくつかは無作為化比較試験であった。 著者らは「全体的にポジティブな結果は、抗うつ薬使用が、併存する精神疾患を治療するだけでなく、皮膚疾患に対する根拠を示している可能性がある。SSRIやミルタザピンおよびbupropionを含む新規抗うつ薬に関するさらなる研究が必要とされる」としている。■関連記事たった2つの質問で、うつ病スクリーニングが可能抗炎症薬の抗うつ効果を検証皮膚がんとの関連研究で判明!アルツハイマー病に特異的な神経保護作用

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アトピー性皮膚炎、重症度に応じ眼合併症リスク増

 アトピー性皮膚炎において、疾患そのものに伴って、または薬物療法の結果として眼疾患がみられることが知られている。これまで成人アトピー性皮膚炎における眼合併症の有病率に関する大規模な疫学データはなかったが、デンマーク・国立アレルギー研究センターのJacob P. Thyssen氏らは、国内の登録データを用いて調査を行い、成人アトピー性皮膚炎は有意に、かつ重症度に依存して、結膜炎、角膜炎および円錐角膜の発症リスク増加と関連していることを明らかにした。なお、著者は「観察研究であり、因果関係を明らかにすることはできない」と研究の限界を述べている。Journal of the American Academy of Dermatology誌オンライン版2017年6月7日号掲載の報告。 研究グループは、成人アトピー性皮膚炎患者における眼合併症の有病率とリスクを調査する目的で、18歳以上すべてのデンマーク人が登録する全国データを用いて解析し、Cox回帰により補正ハザード比(HR)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象となったアトピー性皮膚炎患者は、軽度(5,766例)あるいは重度(4,272例)に分類された。・眼科用抗炎症薬を1回以上処方されていた割合は、軽度患者で12.0%、重度患者で18.9%であった。・結膜炎のHRは、軽度患者で1.48(95%信頼区間[CI]:1.15~1.90)、重度患者で1.95(95%CI:1.51~2.51)であった。・角膜炎のHRは、軽度患者1.66(95%CI:1.15~2.40)、重度患者3.17(95%CI:2.31~4.35)であった。・重度患者では、円錐角膜のHRが10.01(95%CI:5.02~19.96)であった。・50歳未満の患者において、アトピー性皮膚炎と“白内障のみ”との関連が認められた。

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遺伝性血管性浮腫〔HAE:Hereditary angioedema〕

1 疾患概要■ 概念・定義遺伝性血管性浮腫(HAE)は、顔面や四肢、腸管や喉頭など全身のさまざまな部位に突発性、一過性の浮腫を生じる遺伝性疾患である。気道閉塞や激烈な腹痛を生じて重篤になりうるため希少疾患ではあるが見逃してはならない。従来、C1インヒビター(C1-INH)遺伝子異常によるHAE I型、II型が知られていたが、2000年にC1-INH遺伝子に異常を認めないHAE with normal C1-INH(HAEnC1-INHあるいはHAE III型)が報告された。HAEは常染色体優性遺伝形式をとるが、HAE III型では浸透率が低く、しかも発症するのはほとんど女性である。またHAE I/II型では家族歴のない孤発例も25%で認められる。孤発例はde novoの遺伝子異常症である1)。HAEにみられる突発性浮腫の本態は、これらの遺伝子異常の結果、産生が亢進したブラジキニンなどの炎症メディエーターによって血管透過性が亢進することがある。古くから知られた疾患であるがまれな疾患であり、気付かれにくく診断に難渋することが多い。2010年に「遺伝性血管性浮腫ガイドライン2010」が補体研究会(現 一般社団法人 日本補体学会)から発表され2)、2014年に改訂された3)。HAEの診断、鑑別、症状別の治療方針について系統的に記載されたわが国で初めてのガイドラインである。■ 疫学HAE I/II型は人種を問わず5万人に1人とする報告が多い。HAE III型は10万人に1人程度と考えられている。いずれもすべての人種で報告されている。■ 病因HAEはその病因から3つの型に分類される。I型常染色体優性の遺伝形式をとり、C1-INHの活性、タンパク量ともに低下している。HAE全体の約85%を占める。II型常染色体優性の遺伝形式をとり、C1-INHの活性中心のアミノ酸変異による機能異常である。C1-INH活性は低下するが、タンパク量は低下しない。HAEの約15%を占める。III型遺伝性であるがほとんど女性に発症する。病態の詳細は不明であるが、一部の症例に凝固XII因子の変異を認める。C1-INHの活性、タンパク量ともに正常である。HAEのほとんどを占めるI型、II型の原因は、遺伝子変異によるC1-INHの機能低下である。I型、II型ならびにIII型の中で凝固XII因子の変異がある場合は、最終的にブラジキニンの産生が亢進する。その結果、血管透過性が亢進し、血管外に水分が漏出、貯留して浮腫が生じるが、この浮腫は数日で消失する。III型で凝固XII因子の異常を認めない場合の病因は不明である。■ 症状24時間で最大となり数日で自然に消褪する発作を繰り返す。10~20歳代に初発することが多い。I~III型まで報告されているHAEの特徴を、表に示す4)。いずれの病型も発現する症状はほぼ同じである。風邪、外傷、歯科治療、精神的ストレス、疲労などが誘因になりやすいが、何の誘因もない症例も多い。浮腫発作がないときには、健康人と何ら変わりはない。画像を拡大する1)皮膚症状眼瞼、口唇、四肢に発作性に浮腫を生じやすいが、ほかにもあらゆる場所に生じうる。浮腫を起こした皮膚表面は、赤みをごく軽度に帯びることはあっても蕁麻疹などのように明瞭な皮疹は伴わない。発作初期に罹患部がピリピリすることはあるが痛みやかゆみはない。2)消化器症状嘔気、嘔吐、下痢、腹痛などがあるが、なかでも腹痛は激烈である。炎症性疾患とは異なり、筋性防御はなく腹部エコーやCT所見で浮腫を認める。3)喉頭浮腫嚥下困難、喉の詰まり感、嗄声や声が出ないなどの声の変化、息苦しさを呈するが、進行すると呼吸困難、窒息になる。■ 予後喉頭浮腫を生じているにもかかわらず、適切に治療されなかった場合の致死率は30%とされる。その他の症候は予後良好である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準1)突発性の浮腫2)補体C4の低下、C1-INH活性の低下3)家族歴以上の3つがあればHAE I型あるいはII型(HAE I/II型)と診断できる。C1-INHタンパク質量が低下していればHAE I型、正常または増加していればHAE II型である。1)と3)のみの場合、HAE III型と診断しうる。1)と2)のみの場合HAE I/II型の孤発例か後天性血管性浮腫である。血清C1qタンパク質定量(保険適用外)が低値であれば後天性とされているが、HAEの場合でも低値を示すことがある。4)確定診断のためには遺伝子解析が有用である。確定診断のためにはC1-INH遺伝子(SERPING1)異常の同定が望ましい。HAE III型の一部では凝固XII因子遺伝子異常が報告されているが、わが国での報告はない。HAE III型は今後の研究の進展に伴って疾患概念が変化する可能性がある。5)診断の参考となるアルゴリズムを提示する(図)1)。画像を拡大する■ 検査1)HAEを疑った際にはまず補体C4濃度を測定する。発作時には100%、発作がないときでも98%の検体で基準値を下回る。2)C1-INH活性は発作時であるか否かにかかわらず50%未満となるため診断に最も有用である。保険適用である。3)C1-INHタンパク質定量はHAE I型、II型を区別する場合に施行するが、保険適用ではない。4)HAE I/II型ではSERPING1遺伝子のヘテロ変異を認める。5)HAE III型の一部には凝固XII因子の遺伝子異常を認めるが、それ以外には診断に役立つ検査はない。■ 鑑別診断突発性浮腫を呈するほかの疾患との鑑別が重要である。1)アレルギー性血管性浮腫蕁麻疹を伴い、原因はペニシリンなどの薬剤や卵、小麦などの食物、化学物質に対するIgEを介したアレルギー機序である。2)後天性血管性浮腫思春期発症が多いHAEと異なり40歳以降に初発することが多い。悪性腫瘍、自己免疫によるC1-INHの消費が原因である。3)非アレルギー性薬剤性血管性浮腫アスピリンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)では、COX阻害により浮腫を生じる。ACE阻害薬内服患者の0.1~0.5%に生じるとされる。4)物理的刺激による血管性浮腫温熱、寒冷、振動、日光曝露などの物理的刺激で生じる。5)好酸球増多を伴う好酸球性血管性浮腫末梢血の好酸球増多、繰り返す浮腫と発熱、蕁麻疹、体重増加とIgM増加を伴う。まれ。6)特発性浮腫原因不明である。血管性浮腫の半数近くを占め、最も頻度が高い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)発作出現時の治療と発作の予防の2つに分けられる。1)発作時の治療世界的にはC1-INH製剤、ブラジキニンB2受容体拮抗薬、カリクレイン阻害薬の3系統が存在するが、わが国では2017年6月現在ヒト血漿由来C1-INH製剤である乾燥濃縮人C1インアクチベーター製剤(商品名:ベリナートP静注)のみ保険適用である。顔面、頸部、喉頭、腹部の発作には積極的に投与する。2)短期予防あらかじめ処置や手術がわかっているときの発作予防である。ベリナートPが1990年にわが国で承認されて以来、効能・効果は「遺伝性血管性浮腫の急性発作」のみであった。しかしながら、侵襲を伴う処置に対する発作予防の必要性が認められ、2017年3月ベリナートPの効能・効果に「侵襲を伴う処置による遺伝性血管性浮腫の急性発作の発症抑制」が追加された。(1)歯科治療(侵襲が小さい場合)C1-INH製剤の準備のうえならば予防投与は必要ない。(2)歯科治療(侵襲が大きい場合)、外科手術などの大ストレス時手術の1時間前にC1-INH製剤の補充を行う。3)長期予防1ヵ月に1回以上あるいは1ヵ月に5日以上の発作がある場合、または喉頭浮腫の既往がある場合には、次の治療を検討する。(1)トラネキサム酸(同:トランサミン)30~50mg/kg/日を1日2~3回に分けて服用する。そのほか、長期の発作予防には抗プラスミン作用を期待してトラネキサム酸が用いられるが、効果は限定的である。(2)ダナゾール(同:ボンゾール)蛋白同化ホルモンであるダナゾールも用いられる。2.5mg/kg/日(最大200mg/日)を1ヵ月、もし無効ならば300mgを1ヵ月、さらに無効ならば400mg/日を1ヵ月投与する。有効であれば、その後1ヵ月ごとに半量に軽減し50mg/日連日か100mg/日隔日まで減量する。副作用として肝障害、高血糖、多毛、男性化には注意が必要である。ただし保険適用はない。(3)C1-INH製剤(C1エステラーゼ阻害剤)欧米ではヒト血漿由来のCinryzeの予防投与(週2回、静注)が認められているが、わが国では未承認である。4 今後の展望HAEの早期発見、早期治療のためには、関連診療科医師へのさらなる啓発活動が重要である。また、HAEのような希少疾患では、1人でも多くの患者情報を正確に収集し、病態の把握や診断基準の作成に役立てる必要がある。欧米では、すでにいくつかの登録システムが稼働しているように、わが国においても患者レジストリーの構築が不可欠である。現在、NPO法人 血管性浮腫情報センターと、一般社団法人 日本補体学会の協力をもとにレジストリーの構築が進められている。薬剤治療法については、従来から存在するヒト血漿由来C1-INH製剤に加えて、最近の10年間で遺伝子組換えヒトC1-INH製剤、ブラジキニンB2受容体拮抗薬、カリクレイン阻害薬が次々と登場してきた。わが国ではヒト血漿由来C1-INH製剤ベリナートPのみがHAEへの保険適用を認められているに過ぎないが、これらの薬剤のHAEへの承認へ向けた臨床試験が進められている。とくに新しい経口のHAE治療薬開発の進展が期待されている。5 主たる診療科内科、皮膚科、耳鼻咽喉科、小児科、救命救急科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報NPO法人 血管性浮腫情報センター(CREATE)(医療従事者向けのまとまった情報)一般社団法人 日本補体学会HAEサイト(医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報HAE患者会「くみーむ」(HAE患者と家族への情報)その他の情報腫れ・腹痛ナビ(医療従事者向け)腫れ・腹痛ナビ(患者さん向け)1)堀内孝彦. 遺伝性血管性浮腫(HAE). In:日本免疫不全症研究会編. 原発性免疫不全症候群 診療の手引き. 診断と治療社; 2017.p.130-135.2)Horiuchi T, et al. Allergol Int. 2012;61:559-562.3)堀内孝彦ほか. 補体. 2014;52:24-30.4)堀内孝彦. 医学のあゆみ. 2016;258:861-866.公開履歴初回2017年6月27日

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湿疹性紅皮症

【皮膚疾患】湿疹性紅皮症◆病状全身の皮膚が赤くなり、激しい痒み、リンパ節の腫れ、皮膚がフケのように落ちるなどの症状がみられ、時に発熱、脱水、体温調節ができなくなることもあります。◆原因アトピー性皮膚炎など湿疹が悪化して生じることが多い疾患ですが、ウイルス感染、膠原病、血液の腫瘍などからも起きます。免疫力の低下、肝・腎臓などの機能低下、あやまった治療や放置により紅皮症へ進みます。◆治療と予防・ステロイド外用薬が治療の基本ですが、重症の場合はステロイドや免疫抑制剤の内服、点滴などを行います。入院が必要となる場合もあります。・紅皮症に至る前に、きちんと皮膚疾患の治療をする必要があります。監修:浅井皮膚科クリニック 院長Copyright © 2017 CareNet,Inc. All rights reserved.浅井 俊弥氏

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鶏卵アレルギー予防、生後6ヵ月から微量鶏卵摂取を推奨 日本小児アレルギー学会提言

 6月16日、日本小児アレルギー学会から「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」が公表された。提言では、鶏卵アレルギー発症予防の方策として、アトピー性皮膚炎の乳児において、医師の管理のもと生後6ヵ月から微量の鶏卵摂取を推奨。鶏卵摂取はアトピー性皮膚炎が寛解した上で進めることが望ましいとしている。この提言は2016年に発刊された「食物アレルギー診療ガイドライン2016」および国立成育医療センターが報告したPETITスタディに基づく。 なお、すでに鶏卵アレルギーの発症が疑われる乳児に鶏卵摂取を促すことは極めて危険として、これに関しては「食物アレルギー診療ガイドライン2016」に準拠した対応を求めている。また、アトピー性皮膚炎に罹患していない乳児の鶏卵摂取については「授乳・離乳の支援ガイド2007」を参照するよう勧めている。

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パプリカ【夢と精神症状の違いは?】

今回のキーワードせん妄レム睡眠行動障害ナルコレプシーデフォルトモードローカルスリープマインドフルネスEMDRオプトジェネティクスみなさんは昨夜どんな夢を見ましたか?怖い夢?追われる夢?それとも飛んでいる夢?展開が速くて突飛な夢?なんでそんな夢ばかりなのでしょうか?何か意味ありげではないでしょうか。それは予知夢?正夢?逆夢?そんなふうに考えて、現実の生活を見つめ直すこともあります。このように、夢は、とても不思議で、私たちを魅惑します。なぜ夢にはいろいろな特徴があるのでしょうか? そもそもなぜ私たちは夢を見るのでしょうか? なぜ眠るのでしょうか? 逆に起きているとはどういうことなのでしょうか? さらに、夢に似ているせん妄、解離性障害、統合失調症などの精神障害とはどんな関係や違いがあるのでしょうか? そして、夢をどう利用できるでしょうか?今回は、夢をテーマにしたSFファンタジーのアニメ映画「パプリカ」を取り上げ、これらの謎に進化医学的な視点で、みなさんといっしょに迫っていきたいと思います。主人公の敦子は、精神医学研究所の医師であり研究員。同僚の時田の発明した夢を共有する装置「DCミニ」を駆使するサイコセラピスト、またの名はパプリカです。ある日、そのDCミニが研究所から盗まれてしまいます。犯人はそれを悪用して他人の夢に勝手に入り込み、悪夢を見せて、意識を乗っ取り、支離滅裂にさせる事件が発生していきます。敦子たちは、夢の中でその犯人を見つけ出し、終わりのない悪夢から抜け出す方法を探っていきます。夢の特徴は?パプリカがクライエントの粉川警部の夢に入り込んでいる冒頭のシーン。粉川は、サーカスのショーの中で、「奴はこの中にいる」「やつは裏切り者だ」とパプリカに言い、捜査をしています。ところが、急に展開が変わり、逆に得体の知れない人たちに追いかけられます。さらに、また展開が変わって、今度は自分が追いかけようとします。しかし、そのうちに床が上下に大きくうねって、前に進みません。そして、最後には床が抜けて落ちていきます。そこで目が覚めて、パプリカに「ひどく怖かった」とつぶやきます。粉川警部の夢は、とても典型的です。その特徴は、まず、感情が強いことです。統計的には、特に「不安」「高揚感」「怒り」の3つで、70%を占めています。逆に、残念なことに楽しい夢や性的な夢は少ないです。また、体の動きが多いことです。特に、追われる夢が圧倒的に多く、その追ってくる相手は、見知らぬ人か動物がほとんどです。また、動いているのに進まない、浮遊感、そして落下も多いです。そして、何よりも、展開が突飛であることです。その他の夢の一般的な特徴としては、夢の中では夢だと気付かないことです。どんなにありえなくても当然だと思い必死になっています。また、夢の中では常にその瞬間の自分の視点だけです(現在一人称)。逆に、他人、過去、未来、仮定の視点はありません。そして、夢は見るだけがほとんどです(視覚優位)。聞こえたり、触れたり、嗅いだり、味わったりすることは稀です。粉川警部のように、同じような夢を繰り返し見ることもよくあります。その割に、夢はすぐに忘れやすいです。なぜ夢を見るの? ―レム睡眠の働きー図1パプリカは、粉川警部に「同じレム睡眠でも明け方の夢は長くて分析しやすいの。深夜の夢が芸術的な短編映画だとしたら、明け方は長編娯楽映画ってとこかな」と説明します。レム睡眠とは、睡眠中に急速眼球運動(REM)が出現している状態のことです。周期的に3、4回あり、この時に夢を見ていることが多いです。そもそもなぜ夢を見るのでしょうか? その答えを探るために、レム睡眠の主な3つの働きを整理してみましょう。1)記憶を送る1つ目は、その日の記憶を海馬から大脳皮質に送ることです。そうすることで、長期記憶として保存されていきます。この働きは、特に寝入った直後の初回のレム睡眠で高まります。その時に見える夢は、その日に見たままのものとその時の自分の体の動きです。また、寝入り端(ばな)には、夢に似たような鮮明な映像(入眠時幻覚)や幾何学模様(入眠時心象体験)が一時的に見えます。そのほとんどはその後の深い眠りで忘れてしまいます。断片的で短く、まさに「芸術的な短編映画」です。パソコンに例えると、その日に得たデータをデスクトップから、保存用の大容量のハードディスクに送っている状態です。それでは、夢に自分の体の動きが多いのはなぜでしょうか? その答えを進化医学的に考えることができます。太古の昔から、生存競争において、特に追ってくる動物から逃げ切るなど体をうまく動かすことは、最も必要な能力です。つまり、答えは、その運動の学習(手続き記憶)が次の日に生き延びるために役立つからです。そうする種がより生き残り、子孫を残したでしょう。その子孫が現在の私たちです。さらに、夢で飛ぶ、浮く、落ちることが多いのはなぜでしょうか? その答えは、レム睡眠中に体を動かす筋肉(骨格筋)が脱力しているからです(睡眠麻痺)。踏ん張れず、地に足が着いていない感覚になります。それでは、なぜ脱力しているのでしょうか? その答えも進化医学的に考えることができます。それは、逆に脱力していなければ、見ている夢と同じ動きをしてしまい、自然界では天敵に気付かれ、生き残れないからです。実際に、パーキンソン病や加齢などによって、この脱力モードが働きにくくなると、睡眠中に夢と同じ動きをしてしまい、ベッドパートナーを叩いたり蹴ったりしてしまいます(レム睡眠行動障害)。逆に、疲労などで、この脱力モードが目覚めても残っていると、体が動かないことを自覚できてしまい、いわゆる「金縛り」になります。2)記憶をつなげる2つ目は、海馬から新しく送られた記憶と大脳皮質にすでにある古い記憶をつなぎ合わせることです。そうすることで、記憶が関連付けられ、整理されていきます。この働きは、目覚める直前の最後のレム睡眠で高まります。その時に見える夢は、先ほどの粉川の夢のように、感情的で、ストーリーが次々と展開していきます。詳細な描写があり長く、まさに「長編娯楽映画」です。パソコンに例えると、デスクトップから送られてきたデータを、ハードディスクのそれぞれのフォルダに照合し、上書きをしている状態です。それでは、夢に感情が強いのはなぜでしょうか? その答えは、レム睡眠中に、海馬と隣り合わせの扁桃体(情動中枢)も同時に活性化しているからです。だからこそ、レム睡眠中の心拍、血圧、呼吸などの自律神経は不安定になります。では、なぜ扁桃体が活性化しているのでしょうか? その答えも進化医学的に考えることができます。それは、不安や怒りなどのネガティブで強い感情は、「逃げるか戦うか」を動機付ける心理として、生存するために、より必要だからです。扁桃体によって、より生存に有利な記憶の重み付けがなされて、優先してつなぎ合わされるからです。ちなみに、現代版の追われる恐怖は、試験勉強や仕事の締め切りなどの時間に追われることであると言えるでしょう。また、夢の展開が突飛なのはなぜでしょうか? これが最も夢らしい特徴です。その答えは、レム睡眠中はものごとを論理的に考えたり、同時並行で記憶(ワーキングメモリー)したりする前頭葉(特に背側前頭前野)の働きが弱まっているからです。では、なぜ前頭葉が働いていないのでしょうか? その答えも進化医学的に考えることができます。それは、前頭葉は起きている時の記憶の「司令塔」であり、記憶の保存や整理をする「労働」そのものには必要がないからです。また、夢を見るレム睡眠中に特に活性化する脳の部位は、主に脳幹や大脳辺縁系です。そして、胎児期や乳児期は、レム睡眠がほとんどを占めています。つまり、解剖学的にも発生学的にも、そもそもレム睡眠はとても原始的な脳活動であることが分かります。夢とは、レム睡眠中の記憶をつなぐ脳活動をたまたま垣間見ただけの主観的な体験のつぎはぎであり、客観的なストーリーになっている必要がないということです。ちなみに、先ほど紹介した「金縛り」は、前頭葉が抑制されて、扁桃体が活性化される状態でもあり、恐怖で冷静な判断ができなくなって、霊的な意味付けをしてしまいやすくなります。同じように、統合失調症でも、前頭葉の働きが弱まっていることが分かっており、論理の飛躍から、被害妄想などが出やすくなります。まさに目が覚めていながら、夢を見ているような状態です。夢は原始的であるからこそ、見るという視覚がほとんどだということが分かります。触覚、嗅覚、味覚も原始的ではありますが、生存競争にそれほど必要がないことから、夢に出てこないと理解できます。また、言葉を聞き取る聴覚は、より知的に高い精神活動であるため、出てきにくいと言えるでしょう。ちなみに、身体的な原因で意識レベルが低下している状態(せん妄)では、夢と似たような幻視や錯覚が多く、幻聴は少ないと言えます。逆に、統合失調症では、意識は保たれているので、幻聴が多く、幻視は少ないと言えます。また、レム睡眠中に前頭葉が働いていないからこそ、夢の中では常にその瞬間の自分の視点だけになってしまいます。そのわけは、前頭葉の重要な働きであるメタ認知は、自分から離れた他人の視点、現在から離れた過去や未来の時間軸の視点、そして現実から離れた仮定の視点も同時に持つ能力だからです。この働きが夢ではないのです。さらに、メタ認知ができないからこそ、夢の中では夢だと気付かないのです。よって、そもそもメタ認知ができない動物やメタ認知が未発達の4歳未満の人間の子どもは、夢を見ても現実との区別ができないと言えます。3)記憶を繰り返す3つ目は、つなぎ合わせのバリエーションを少しずつ変えながら記憶を繰り返すことです。そうすることで、記憶が強化され、記憶の引き出しから出てきやすくなります。それは、まるで反復練習によるリハーサルです。パソコンに例えると、出力をよりスムーズにするため、ハードディスクのプログラムを日々バージョンアップしている状態です。それでは、同じような夢を繰り返し見るのはなぜでしょうか? その答えは、自分にとって気になってしまったことだからです。粉川警部にとって、それはやり残したことでした。さらに進化医学的に考えれば、次に同じ状況になったらどうするかという学習を促し、より環境に適応して生き残るために必要だからです。夢を見るレム睡眠は、安全な状況で脅威をシミュレーションする手段として進化した精神活動であるとも言えます。この働きが過剰になってしまうと、例えば、生存が脅かされる体験(トラウマ)によるストレス障害(PTSD)のように、その時の体験を悪夢として繰り返し見て、うなされます(悪夢障害)。また、白昼夢に似たフラッシュバックも出てきます。まさに花粉症を初めとする自己免疫疾患のように、本来は防御のために備わった機能が過剰になったり、誤作動を起こして、逆に自分を苦しめるというわけです。夢が繰り返されると言っても、それはすぐではありません。その日の出来事の夢はその夜の最初のレム睡眠時に記憶の断片として出てきます。しかし、その後はしばらく出てこなくなり、1週間後以降に再び出てくるようになります。この理由は、海馬から大脳皮質への転送が完了されるまでにタイムラグがあるからです(夢のタイムラグ効果)。そして、より強いインパクトやストレスを伴う場合は、より時間がかかるということです。これは、PTSDはすぐには発症しないということを説明できます。最近の研究では、トラウマ体験直後の6時間以内にコンピューターゲームのテトリスをやり続けることで、PTSDの発症を有意に予防できる可能性が示唆されています。これは、レム睡眠中にゲームの体験の学習を多く占めることで、逆にトラウマ体験の学習をある程度阻害することができるからでしょう。ここから分かることは、つらいことがあったときは、そのことばかりに思い悩まずに、代わりに別のことをやるのが悪夢の予防になるということです。夢は繰り返されることがある一方で、忘れてしまいやすいのはなぜでしょうか? その答えも進化医学的に考えれば、生存にとって覚えている必要がないからです。言い換えれば、夢を覚えていてもいなくても、生存の確率は変わらないからです。逆に、全てをはっきり覚えていたら、動物や4歳未満の人間の子どもは、夢を現実と認識するので、毎朝起きて怯えてつらい思いをして、現実の生活に差し障りがあるでしょう。むしろ、覚えていない方が適応的です。実際に、小さい子どもほど、大人よりもレム睡眠が多いにもかかわらず、夢を覚えていないことが多く、思い出せても短かったり、単純です。ここまでで分かったことは、レム睡眠には大きな意味があることです。しかし、夢を覚えておく必要がない点では、進化医学的に夢を見ることには意味がないです。つまり、「なぜ夢を見るの?」というこの章の質問には、「見えたから」と答えるのが正解でしょう。「夢」のない話だと思われたかもしれません。しかし、果たしてそうでしょうか? そうとも限らない可能性を後半に考えてみましょう。なぜ眠るの? ―睡眠の進化―グラフ1これまで、夢をよく見るレム睡眠の働きについて整理してきました。レム睡眠と交互に出てくるノンレム睡眠、特に深睡眠も含めると、そもそもなぜ眠るのでしょうか? ここからは、その答えを探るために、生物の睡眠の進化の歴史を通して、睡眠の主な3つの働きを整理してみましょう。1)夜だから眠る―概日リズム1つ目の答えは、夜だから眠るということです。約10億年前に進化した原始的な菌類などの植物からは、日中に光合成をして、紫外線のない夜に細胞分裂をして、日中と夜の活動を分けるようになりました(概日リズム)。約5億年前に進化した最初の動物の魚類からは、暗くて捕食の行動が難しくなる夜はあまり動かないようになりました(行動睡眠)。約3億年前に進化した最初の陸生動物である両生類やその後の爬虫類は、まだ気温差によって体温が変わる変温動物であったため、冷え込む夜はエネルギーが足りないためずっと動かないようになりました。このように、日中に活動して、夜に活動しないという概日リズム(体内時計)が進化しました。この概日リズムを日中の光によって調節する代表的なホルモンがメラトニンです。例えば、夜勤や時差ぼけや夜更かしなどによって起きている時間が変わった場合、ひきこもりや視覚障害によって光を浴びるのが減っている場合、もともと遺伝的(時計遺伝子)に睡眠時間がずれやすい場合は、1日の決まった時間に眠れず起きにくくなくなります(概日リズム睡眠覚醒障害)。よって、多く光を浴びたり(高照度光療法)、メラトニン受容体作動薬(ラメルテオン)による薬物療法が有効です。2)疲れたから眠る―恒常性2つ目の答えは、疲れたから眠るということです。約2億年前に進化した最初の恒温動物である哺乳類やその後の鳥類は、夜に脱力して筋肉を弛緩させることで産熱を抑え、深部体温や代謝を下げてカロリー消費を抑えました。同時に栄養の消化吸収や筋肉の修復などをして、体調を回復させました。実際に、日中代謝量が多い動物ほど睡眠が多いです。また、そんな睡眠中であっても、外界の脅威に瞬時に反応できるように、脳の活動レベルは起きている時に近い状態を保っていました。これがレム睡眠の始まりです。このように、夜に成長ホルモンなどの様々なホルモンが働くことで、体温を含めた体調の恒常性を維持しました。例えば、休日に平日と違って何もせずに過ごした場合は、運動不足で疲れていないので、恒常性が維持されなくなり、眠りにくくなります。よって、あえて体を動かして疲れさせるという運動療法が有効です。逆に、翌日に試験やプレゼンが控えている場合も、過度の緊張で恒常性が維持されなくなり、眠りにくくなります。よって、適量の晩酌やベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬による薬物療法が有効です。3)覚えるために眠る―学習3つ目の答えは、覚えるために眠るということです。約1億年前に進化した最初の胎生出産の哺乳類は、卵生出産よりも未熟に生まれてくる分、出生後により多くの学習をして成長する必要がありました。この時から、その記憶の学習のために、レム睡眠が利用されていました。レム睡眠中は、脳から外界への出力(運動)だけでなく、外界から脳への入力(感覚)も遮断されており、記憶の学習のためだけに脳が使われているため、とてもはかどります。例えるなら、パソコンが、インターネットに接続されていない機内モード(オフラインモード)になっている状態です。約6500万年前に進化した最初の霊長類は、脳が高度に発達していった分、脳を休める必要がありました。それが、いわゆる熟睡です。これは、ノンレム睡眠中で徐波という脳波が多く出ている深睡眠(徐波睡眠)に当たります(睡眠段階3と4)。この時、大脳皮質では神経細胞が同期して発火することが分かっています(長期増強)。これは、脳内の神経細胞のつながり(シナプス)で、強いものをますます強め、弱いものをますます弱めているものと考えられています。こうして、過剰なエネルギー消費や細胞へのストレスを抑えて、脳の神経回路を元の強度に戻しています(シナプス恒常性仮説)。つまり、不要な記憶をなくして整理することで、必要な記憶を際立たせて残し、より脳から引き出しやすくしているということです。例えるなら、パソコンが、デスクトップで入力も出力もできないスリープモード中に、重複したデータや使わないデータを消去することで最適化をしている状態です。このように、レム睡眠で脳を活性化させ、深睡眠で脳を休めることを繰り返すことで、記憶の学習の効率を上げました。つまり、最適な学習には、ぐっすり寝ることが重要であるということです。逆に言えば、睡眠時間を削った学習や、徹夜でのプレゼンの準備は、逆効果であるということです。また、加齢によって、睡眠時間は減っていきますが、中でも特にレム睡眠と深睡眠が減っていき、浅睡眠(睡眠段階1と2)だけになっていきます。この場合、もともと加齢により海馬の神経が新しく生まれ変わること(神経新生)が少なくなることで溜まった不要な脳の老廃物(アミロイドβ)を取り除ききれなくなることと相まって、記憶の学習がますます困難になっていき、反復されていない際立ちの弱い直近の記憶から徐々に失われていきます(アルツハイマー型認知症)。よって、この場合は、より若い時の記憶しか残らなくなっていくので、進行すればするほど、年齢をより若く答えるようになります(若返り現象)。よって、認知リハとして最近に注目されているのは、体を動かすなどの運動をしながらおしゃべりをするなどの学習をすることです(デュアルタスク)。これは、運動により、その刺激で神経新生が高まると同時に、より良い睡眠が得られるからでしょう。さらに、最近の研究では、起きている時にストレスのかかった脳、つまりより学習が必要な脳の領域ほど深い睡眠になることが分かってきています。また、レム睡眠以外の睡眠(ノンレム睡眠)でも夢を見ていることが分かっています。つまり、睡眠は、脳全体で一様ではなく、局所で多様に行われているということです(ローカルスリープ)。その極端な例として、イルカや渡り鳥は大脳半球を交互に眠らせることで、泳いだり飛びながら睡眠をとることができます(半球睡眠)。このローカルスリープの考え方によっても、様々な精神障害を説明することができます。例えば、脳が未発達の子どもでは、深い睡眠中に、一部の脳機能が局所的に覚醒してしまう状況が考えられます。扁桃体(情動中枢)のみ覚醒すれば、泣いたり(いわゆる夜泣き)、叫んだりするでしょう(睡眠時驚愕症)。また、運動中枢のみで覚醒すれば、寝言、歯ぎしり、おねしょをしたり、極端な場合は動き回ります(睡眠時遊行症)。同じようなことは、身体的な原因や加齢などによっても起こります(夜間せん妄)。また、てんかん発作によって、脳の活動電位が局所的に活性化すると、意識を失っていながら、動き回ります(自動症)。起きているとは? ―グラフ2これまで、「なぜ眠るの?」という問いへの答えを通して、眠っている状態について解き明かしてきました。それでは、逆に、起きているとはどういう状態なのでしょうか? ここから、その答えを探るために、起きている状態を3つの要素に分けて、整理してみましょう。1)自分と周りが分かる―意識敦子は、夢の中で見た「妄想パレード」を現実の世界で見てしまい、それに圧倒されます。もはや夢と現実の境目がなくなっていました。敦子は起きているのか寝ているのか私たちも分からなくなりかけます。1つ目は、起きているとは自分と周りが分かることです。厳密に言えば、脳が脳自体の活動を認識することです(意識)。例えば、今がいつで、ここがどこで、自分が誰かと見当を付け(見当識)、周りは何かと注意を払うことです(注意力)。つまり、周りの世界と自分の関係を認識できることです。このためには、さきほどにも触れた前頭葉の働きであるメタ認知が必要です。メタ認知が進化したのは、300、400万年前の原始の時代と考えられます。当時、ヒトは森から草原に出て、天敵から身を守り、獲物を手に入れるために、血縁の集団になって協力していくようになりました。そのために、相手の気持ちや考えを推し量る、つまり相手の視点に立つというメタ認知が生まれました。やがて、この能力は、他人だけでなく、自分自身を振り返る視点としても、そして時間軸、空間軸、仮定軸の視点としても使われるようになっていきました。逆に言えば、300、400万年前より以前のヒト、ヒト以外の動物、そして脳が未発達な4歳未満の子どもは、メタ認知ができないので、今ここでというその瞬間を、まるで夢を見ているのと同じように、反射的に生きているだけであると言えます。睡眠生理学的に言えば、起きている状態(覚醒)では、脳内の「活動ホルモン」(ノルアドレナリン)と「気分安定ホルモン」(セロトニン)であるアミン系の神経伝達物質が活発に出て、交感神経を優位にしています。また、「リラックスホルモン」(アセチルコリン)であるコリン系の神経伝達物質も出ていて、副交感神経に作用して、交換神経との綱引きをしています。体を休めている夢見状態(レム睡眠)では、アミン系が出なくなる一方、コリン系が活発に出るようになり、副交感神経が優位になります。この時にセロトニンが出ていないので、不安や恐怖の夢が出やすいことが理解できます。頭(脳)を休めている熟睡の状態(深睡眠)では、アミン系とコリン系の両方が少くなって出ています。もう1つ脳内で重要な「快感ホルモン」(ドパミン)は、覚醒時にも、レム睡眠や深睡眠などの睡眠時にも変わらず出ており、睡眠や夢と直接関係がないことが分かります。ちなみに、アミン系が増えたままだと躁病になり、眠りたくなくなります。逆に、アミン系が減ったままだとうつ病になり、眠れなくなったり眠りすぎたりして睡眠が不安定になります。また、特にアミン系のセロトニンが減れば不安障害や強迫性障害になり、やはり睡眠は不安定になります。さらに最近の研究では、この覚醒を安定化させるためには、オレキシンというホルモンが大きくかかわっていることが分かっています。オレキシンは、もともと摂食中枢(視床下部)にあることから、満腹で眠くなり、空腹で眠れなくなったり目が冴えてしまうのも納得がいきます。まさに「ハングリー精神ホルモン」とも言えます。このオレキシンが体質的(遺伝的)に足りない場合、覚醒と睡眠の切り替えが不安定になります。よって、起きている時に、急に気絶するように眠ってしまい(睡眠発作)、日常生活に支障をきたします(ナルコレプシー)。特に笑ったり喜んだりして感情の高ぶり(緊張)の後に安堵(弛緩)が起きると、副交感神経が優位となり、アセチルコリンが誘発されて、脱力してしまいます(情動脱力発作)。また、脳の覚醒が残っていて夢見状態(レム睡眠)になると、先ほどにも紹介した白昼夢(入眠時幻覚)や金縛り(睡眠発作)が出てきます。治療薬としては、覚醒作用が強いドパミン作動薬(メチルフェニデート)が適応になっています。ただし、根本治療のためには、オレキシンの作用を高めるオレキシン作動薬の開発が今後に期待されます。逆に、このオレキシンの作用を低めるオレキシン受容体拮抗薬(スボレキサント)は、最新の不眠症の治療薬として、すでに販売されています。夜寝る前だけ、薬で「ナルコレプシー」になるわけです。より自然な睡眠作用があるので、先ほどに紹介した晩酌やベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬よりも副作用が少ないという利点があります。2)自分が自分であると分かる―自我意識現実の世界の敦子の目の前に、敦子が夢の中でなりきっていたパプリカが現れます。敦子は「時田くんを助けなきゃ」と言いますが、パプリカは「放っときなさい。あんな肥満の無責任」と挑発します。敦子が「パプリカは私の分身でしょ」と叱りつけると、パプリカは「敦子が私の分身だって発想はないわけ?」と言い返します。2つ目は、起きているとは自分が自分であると分かることです。厳密に言えば、知覚や思考などの意識が統合されていることです(自我意識)。例えば、自分は、いつでもどこでも変わらず自分であるということです。逆に、ストレスや恐怖で、起きていながらもぼんやりとしている半覚醒の状態になる場合、意識が統合されず分離している病的な状態になることがあります(解離性障害)。例えば、敦子が扮するパプリカのように、自分の心が、時間や場所によって入れ替わります(人格交代)。同時にもう1人の自分が出てきます(二重心)。敦子の上司の所長のように意識が乗っ取られた感覚になり、自分が意図せずに急に支離滅裂になります(トランス、憑依)。また、脳血管障害などの器質的な原因がある場合、例えば自分の意思とは別に手が勝手に動いてしまいます(エイリアンハンド、分離脳)。睡眠生理学的には、半覚醒の状態では脳内のアミン系が減りつつも出ていて、コリン系が活発化しています。夢見(レム睡眠)に近い状態です。アセチルコリンは、副交感神経に作用する「リラックスホルモン」であるだけでなく、脳内の視覚中枢、感情中枢、運動中枢を活性化する「夢見ホルモン」とも言えます。この時、レム睡眠に近い状態になるので、前頭葉の働きが弱まるにもかかわらず、記憶中枢(海馬)は活性化します。最近の研究では、この半覚醒の状態は、「デフォルトモード」と呼ばれます。この時に、記憶の整理や学習が進むので、もの分かりが良くなり、言われたことをすんなり受け止めやすくなります。これは、かつて「無意識」として、催眠療法や精神分析療法で「暗示」に利用されていました。3)自分の動き、感覚、想起が思いのままである―自律性3つ目は、自分の動き、感覚、想起が思いのままであることです。厳密に言えば、運動機能、感覚機能、記憶機能が全うされていることです(自律性)。逆に、ストレスや恐怖で、起きている時に、先ほど紹介したローカルスリープがある脳領域で過剰になる場合、その脳の機能が部分的に喪失している病的な状態になります(転換性障害)。例えば、立位・歩行機能の喪失なら、腰が抜けて立てなくなったり(失立)、膝が抜けて歩けなくなります(失歩)。発声機能の喪失なら、声が出なくなります(失声)。協調運動機能の喪失なら、手が震えたり(心因性振戦)、字が書けなくなったりします(書痙)。嚥下機能の喪失なら、喉の違和感が出てきます(ヒステリー球)。聴覚機能の喪失なら、突然に聞こえなくなります(突発性難聴)。視覚機能の喪失なら、突然に目が見えなくなります(心因性視力障害)。また、記憶機能の喪失なら、特定の記憶が思い出しにくかったり(抑圧)、思い出せなかったり(選択的健忘)、重度の場合は自分の生活史の全てを思い出せなかったりします(全般性健忘)。これらは、あくまで脳が局所的に「失神」をしているローカルスリープが原因であるため、現代の身体的な精密検査においては明らかな異常とならないのが特徴です。夢に何ができる?これまで、夢を見ている状態、眠っている状態、起きている状態の正体を解き明かしてきました。それでは、夢に何ができるでしょうか? ここから、夢の利用の可能性について、3つご紹介しましょう。1)夢から気付きを得る―ひらめき敦子がパプリカに「言うことを聞きなさい」と叱りつけると、「自分も他人もそうやって思い通りにできると思うなんて」と言い返されます。そこで敦子は我に返り、「時田くんを放っておけない。だって私・・・」と言い、どうしようもない時田を愛しているという自分の抑え込んでいた本当の気持ちに気付くのです。敦子が自分を抑えてクールで知性的な大人の女性であるのに対して、パプリカはまさにスパイスの利いた赤い野菜のように、無邪気で開放的な少女です。性格がとても対照的です。パプリカは、敦子が普段、意識せずに抑えていたもう1人の自分だったのです。1つ目は、夢から気付きを得ることです。それは、起きてる時には思いも付かなかった発想、生きるヒント、さらにはひらめきです。例えば、世紀の科学的な発見、商業的な発明、名曲や名画などは、夢に出てきたという逸話をよく聞きます。そのわけは、起きている時は緊張して堂々巡りの頭でっかちの脳が、前頭葉の働きが弱まることで、連想性や創造性が柔軟になり、情感、発想力、そして直感力が高まるからです。ただし、私たちが夢について話をする時に注意することは、夢はあくまでポジティブな気付きを得るきっかけとして利用するのみとすることです。かつての夢分析のように、不安などのネガティブな感情を煽ったり、性的な関心事に結び付けるなどの過剰な解釈をしないことです。なぜなら、先ほどにも説明したように、夢は突飛で、そもそも内容の解釈にエビデンスがないからです。2)夢をコントロールする―明晰夢粉川警部は、夢の中に登場するバーテンダーの質問によって、繰り返す不快な夢のわけが、過去にやり残したことであることに気付きます。そして、再び同じ夢を見た時、その夢の続きをハッピーエンドにして完成させるのです。また、敦子が犯人と直接対決をするラストシーン。敦子は、無意識の幼児の姿で立ち向かい、犯人の欲望のイメージを丸ごと飲み込み、清々しい爽やかな大人の姿へと成長します。これらは、夢の中ではネガティブな内容をポジティブな内容に変えられることを象徴的に描いています。2つ目は、夢をコントロールすることです。本来、夢を見ている時はその自覚がないので、コントロールすることはできません。そこで、自覚ができるように訓練するのです。いわゆる明晰夢です。そのために必要なのは、起きている時に夢についての意識を高めることです。例えば、夢の内容を細かく記録することです(夢日記)。そして、繰り返し見るネガティブな夢を、ポジティブな筋書きに書き変えて、起きている時に想像することです(イメージリハーサル)。これはちょうど認知行動療法で、ネガティブな思考パターンにポジティブな思考パターンを増やしてバランスを変えていくアプローチに似ています(認知再構築)。また眠る前に、「明晰夢を見る」と念じることです。これはちょうど翌朝に起きる時間を意識したら(注意睡眠)、その時間の少し前に自然に目が覚めることに通じています(自己覚醒)。また、起きている時に、普段よりも五感を研ぎ澄まして全身で世界を感じ取れるように注意力を高めることです(マインドフルネス)。これは、言うなれば「超覚醒」の状態です。そうすることで、もともと夢を見るレム睡眠時に抑制される機能である前頭葉のメタ認知が活性化される可能性があります。さらに、最近の研究では、夢を見ている時に、経頭蓋交流電気刺激(tACS)によって、前頭葉を直接刺激して、明晰夢にすることが可能になってきています。3)夢を変える―オプトジェネティックス冒頭のシーンで、パプリカは粉川警部に「DCミニ。これは夢の扉を開く科学の鍵なの」と説明します。粉川がさっきまで見ていた夢の内容は全てパソコンで映像化され、録画されています。まさにこの映画はSFファンタジーだと思いきや、近い将来にこの「DCミニ」が現実のものになる可能性があります。3つ目は、夢を変えることです。これに近い手法としては、かつて催眠療法で、クライエントに振り子を追わせてまどろみを引き起こし、半覚醒の状態で、セラピストがトラウマ体験の意味付けや解決のための指示をしていました。現在は、眼球運動脱感作再処理法(EMDR)として、クライエントに左右を往復するライトを追わせるなどして目を左右に動かさせながらトラウマ体験を語らせ、セラピストがそれに対してのポジティブな意味付けを促します。ちなみに、EMDRに、新しい技術である仮想現実(VR)を取り入れた手法も今後は可能になるでしょう。催眠療法もEMDRも、眼球運動により半覚醒の状態を引き起こします。これは、眼球運動とアセチルコリンの誘発は連動しているので、レム睡眠で急速眼球運動が出てきますが、逆に眼球運動をするとレム睡眠に近い状態になるということです。つまり、寝付きが良くない時に、眼球を動かすと眠気が来やすくなるということです。ちなみに、アセチルコリンを減らす抗コリン薬の副作用が、眼球上転という眼球が動かなくなる症状であるのも納得がいきます。催眠療法やEMDRが、セラピストのコントロールによって、覚醒状態から意識レベルを下げます。一方、先ほどの明晰夢は、自分のコントロールによって夢見状態から意識レベルを上げます。両者は、スタートは違いますが、トラウマ体験の記憶の上書きがしやすい状態になるという意味でゴールは同じです。そして、最近、人工知能による解析によって、どんな夢を見ているかまで分かるようになりました(夢の可視化)。さらに、最新の研究では、光ファイバーによる脳への刺激によって、別々の記憶をつなぎ合わせたり、引き離したりすることができる可能性が出てきました(オプトジェネティクス)。これは、夢を直接変えることに応用できそうです。例えば、トラウマ体験の夢を見ている時に、楽しい体験の記憶のパターンを刺激することで、トラウマ体験自体の辛さが緩和されるということです。さらに、近未来には、眠って夢を見ているときだけでなく、起きている時も、「DCミニ」のような装置によって、私たちの意識が仮想現実の空間で共有される日が来るかもしれません。夢には「夢」があり「夢中」になれる今回、進化医学的に夢を見ることに意味がないと説明しました。しかし、夢を利用することには限りない可能性が秘められていることが分かってきました。これこそまさに「夢」のある話です。そのことを知った今、私たちは夢についてもっと「夢中」になることができるのではないでしょうか?1)筒井康隆:パプリカ、中公文庫、19972)櫻井武:睡眠の科学、講談社、20103)三島和夫編:睡眠科学、科学同人、20164)アラン・ホブソン:ドリームドラッグストア 意識変容の脳科学、創造出版、20075)アンソニー・スティーブンズほか:進化精神医学、世論時報社、2011

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001)その『じんましん』は本当に蕁麻疹?【Dr.デルぽんの診察室観察日記】

第1回 その『じんましん』は本当に蕁麻疹?私がまだ大学で働いていた頃のこと。時間外受付のナースに「じんましんの患者さんがいます」と呼ばれていったところ、診察で皮膚を見たら「『中毒疹』だった」ということがありました。日頃、皮膚科の外来でも「じんましんが出来て…」と自己申告してくる患者さんは割といます。「どれ膨疹でも出ているかな」と服をあげて診ると、丘疹が集蔟した「湿疹」だったり。紅暈を帯びた小水疱が帯状に並んだ「帯状疱疹」だったり…と。意外と正しい蕁麻疹ではなかったりします。こうした発言を聞いていると、どうも「何か赤いものができた」ことを指し、「じんましん」と称しているようです。医療者にとっての蕁麻疹とは必ずしも一致しないため、問診で「じんましん」と書かれていても、すぐには信じないようになりました。もちろんなかには、過去に蕁麻疹の経験があり自己判断できる患者さんや、実際に膨疹を写真に撮って見せてくれる、正しい蕁麻疹の患者さんもいます。前情報が何であれ、問診や診察で正しい診断はつくのですが、冒頭ナースの例もあり、患者さんの主訴を鵜呑みにしないことは大事だなあと思った次第です。

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