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急性期脳梗塞、血栓回収前の血栓溶解療法は必要か/Lancet

 発症から4.5時間以内の脳主幹動脈閉塞に起因する急性期虚血性脳卒中の治療において、直接的な機械的血栓回収術は経静脈的血栓溶解療法を施行後に機械的血栓回収術を行う標準治療(ブリッジング療法)と比較して、有効性(機能的自立)に関して非劣性は達成されず、症候性脳出血や死亡のリスクには差がないことが、オーストラリア・メルボルン大学のPeter J. Mitchell氏らが実施した「DIRECT-SAFE試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌2022年7月9日号で報告された。4ヵ国の無作為化非劣性試験 DIRECT-SAFEは、エンドポイント盲検下に行われた非盲検無作為化非劣性試験であり、2018年6月~2021年7月の期間に、4ヵ国(オーストラリア、ニュージーランド、中国、ベトナム)の25ヵ所の急性期病院で参加者の登録が行われた(オーストラリア国立保健医療研究評議会[NHMRC]と米国Strykerの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、発症から4.5時間以内で、非造影CTで小~中程度の大きさの早期の虚血性変化が認められ、CTまたはMR血管造影で頭蓋内内頸動脈、中大脳動脈(M1またはM2)、脳底動脈の閉塞が確認された患者であった。 被験者は、病院到着から90分以内に、機械的血栓回収術単独または標準的なブリッジング療法(経静脈的血栓溶解療法+機械的血栓回収術)を受ける群に無作為に割り付けられた。ブリッジング療法群では、各施設の標準的な経静脈的血栓溶解療法(アルテプラーゼまたはテネクテプラーゼ)を受けたのち、Trevoデバイス(米国Stryker Neurovascular製)を用いた標準的な機械的血栓回収術が行われた。 アウトカムの評価者は治療割り付け情報を知らされず、治療医と患者には知らされた。 有効性の主要エンドポイントは機能的自立とされ、治療後90日の時点での修正Rankin尺度(mRS)スコア0~2点の達成またはベースライン時の機能への回復と定義された。非劣性マージンは-0.1とされ、主要エンドポイント達成率の群間差の両側95%信頼区間(CI)下限値が-0.1より大きい場合に非劣性と判定された。アジア人ではブリッジング療法が有意に優れる 293例が登録され、機械的血栓回収術群に146例、ブリッジング療法群に147例が割り付けられた。全体の年齢中央値は68歳(IQR:61~78)で、166例(57%)が男性であった。NIHSSスコア中央値は両群とも15点で、ブリッジング療法群の入院から血栓溶解療法開始までの時間中央値は64分(IQR:47~87)だった。 また、無作為化から動脈穿刺までの時間中央値は、機械的血栓回収術群が29分(IQR:19~47)、ブリッジング療法群は42分(29~59)であり、動脈穿刺から再灌流達成までの時間中央値は両群とも60分以内(機械的血栓回収術群55.5分[IQR:26.0~88.5]、ブリッジング療法群44.5分[27.0~70.0])だった。 90日時の機能的自立は、intention-to-treat集団では機械的血栓回収術群が146例中80例(55%)、ブリッジング療法群は147例中89例(61%)で達成され(群間リスク差:-0.051、両側95%CI:-0.160~0.059)、per-protocol集団ではそれぞれ145例中79例(54%)および143例中88例(62%)で達成された(群間リスク差:-0.062、両側95%CI:-0.173~0.049)。したがって、機能的自立に関して、機械的血栓回収術群のブリッジング療法群に対する非劣性は確認されなかった。 安全性のアウトカムの発現は両群で同程度であり、症候性脳出血は機械的血栓回収術群が146例中2例(1%)、ブリッジング療法群は147例中1例(1%)でみられ(補正後オッズ比[OR]:1.70、95%CI:0.22~13.04)、死亡はそれぞれ146例中22例(15%)および147例中24例(16%)で認められた(補正後OR:0.92、95%CI:0.46~1.84)。また、再灌流成功率(mTICI分類2b~3)およびmRS 0~1点の達成率にも、両群間に差はなかった。 事前に規定されたサブグループ解析では、アジア地域(中国、ベトナム)の患者で、主要エンドポイントの達成率がブリッジング療法群で有意に優れた(機械的血栓回収術群34%[67例中23例]vs.ブリッジング療法群57%[69例中39例]、補正後OR:0.42、95%CI:0.21~0.86、p=0.017)。このような効果は、非アジア地域では認められず(1.35、0.65~2.8)、交互作用が確認された(pinteraction=0.024)。 著者は、「この試験で得られた付加的エビデンスは、血栓回収術前の血栓溶解療法を除外することによる利益を示すエビデンスはない(とくにアジア地域の患者で)との結論を支持するものである」とし、「これらの知見は、標準治療としてのブリッジング療法の推奨に関して、ガイドライン策定の際に有益な情報をもたらすと考えられる」と指摘している。

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循環器内科でも血栓溶解療法に期待が集まった時代がありました!(解説:後藤信哉氏)

 心臓でも脳でも、臓器灌流血管が血栓閉塞すると臓器に不可逆的な虚血性障害が起こる。筆者が循環器内科を始めた1980年代には血栓溶解療法に期待が集まった。フィブリン選択性のないストレプトキナーゼによる急性期の生命予後改善効果が大規模ランダム化比較試験(Second International Study of Infarct Survival:ISIS-2試験)にて示され、心筋梗塞急性期の標準治療となると期待された。ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼはフィブリン選択性がない。すなわち、血液中にて線溶が起こりフィブリノーゲンも消費してしまう。血栓を作るフィブリンに選択的に作用する線溶薬を開発できれば標準治療になると期待された。線溶研究は盛り上がった。血管内皮細胞が産生するフィブリン選択的線溶薬tissue type plasminogen activator(t-PA)は期待された。分子生物学の勃興期でもあり、フィブリン選択性の高い製剤、単回静注にて効果の持続する製剤などが多数作られた。 しかし、循環器領域における血栓溶解療法は短期の流行の後に廃れてしまった。廃れた理由の1つは再灌流障害であった。米国では大きな病院への搬送途中に救急車にてt-PAが静注され、再灌流と同時に心室細動になる症例が多発した。t-PAを静注しても全例速やかに再灌流するわけではない。胸痛消失まで不整脈ウオッチしながら観察するのはむしろ苦痛であった。さらに、頭蓋内出血を含む重篤な出血合併症にも難渋した。経皮的冠動脈形成術(Percutaneous Coronary Intervention:PCI)が普及すると、血栓溶解療法を行わず直接PCIするほうが合併症も少なかった。 本研究では1回静注可能なtenecteplaseと既存のt-PAが比較された。有効性、安全性には大きな差異がなかった。脳梗塞の病態の一部は心筋梗塞と類似する。脳血管疾患の領域が循環器領域の後追いをするのであれば、分子を修飾したt-PAよりカテーテルインターベンションの時代になるのではないだろうか? 今後の急性虚血性脳血管疾患の標準治療の変化に注目したい。

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急性期脳梗塞の血栓回収、アルテプラーゼ併用で良好な再開通率/Lancet

 ステント型血栓回収デバイスを用いた血栓除去術単独療法は、アルテプラーゼ静注+血栓除去術併用療法に対して非劣性は認められず、再開通率は低いことが、スイス・ベルン大学のUrs Fischer氏らが実施した「SWIFT DIRECT試験」の結果、示された。血栓除去術単独療法が静脈内血栓溶解+血栓除去術併用療法と同等の効果があるかどうかは議論が続いていたが、著者は、今回の結果を受け「適格患者における、血栓除去術前のアルテプラーゼ静注の割愛は支持されない」とまとめている。Lancet誌2022年7月9日号掲載の報告。ステント型血栓除去デバイスによる血栓除去術、90日後の機能的自立を比較 「SWIFT DIRECT試験」は、欧州およびカナダの48施設で実施された、医師主導の前向き無作為化非盲検評価者盲検試験。研究グループは、CTAまたはMRAで頭蓋内内頸動脈、中大脳動脈第1セグメントまたはその両方に閉塞が確認され、発症から4時間30分以内にアルテプラーゼ静注が可能で、無作為化後75分以内に血栓除去術が施行可能な患者を、血栓除去術単独群とアルテプラーゼ静注+血栓除去術群(併用群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。 血栓除去術は両群とも市販のステント型血栓除去デバイスSolitaire(米国Medtronic製)を用い、可能な限り早期に施行された。併用群では無作為化後、可能な限り早期にアルテプラーゼ(0.9mg/kg、最大90mg)を60分間静脈内投与(投与開始時に総量の10%を急速投与)した。 有効性の主要評価項目は、90日後の修正Rankinスケール(mRS)スコアが2点以下(機能的自立)の患者の割合で、評価者盲検とした。単独群の併用群に対する非劣性は、Mantel-Haenszelリスク差の片側95%信頼区間(CI)下限値で評価し、非劣性マージンを12%と事前に規定した。安全性の主要評価項目は、症候性頭蓋内出血であった。主要評価項目の非劣性を認めず、治療後の再開通率は91% vs.96%と併用群が良好 2017年11月29日~2021年5月7日に5,215例がスクリーニングされ、423例が無作為化された。このうち、同意辞退等の15例を除く408例が主要解析対象集団となった(単独群201例、併用群207例)。 90日後のmRSスコア2点以下の患者の割合は、単独群57%(114/201例)、併用群65%(135/207例)で、補正後群間リスク差は-7.3%(95%CI:-16.6~2.1%)、片側95%CI下限値は-15.1%で事前規定のマージン-12%を超えており、単独群の併用群に対する非劣性は示されなかった。 症候性頭蓋内出血は、単独群で201例中5例(2%)、併用群で202例中7例(3%)に認められた(群間リスク差:-1.0%、95%CI:-4.8~2.7)。 血管内治療後の再開通成功は、単独群のほうが観察された割合が低かった(91%[182/201例]vs.96%[199/207例]、群間リスク差:-5.1%[95%CI:-10.2~0.0]、p=0.047)。

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同時懸濁による配合変化が生じたため最適処方を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第48回

 今回は、経管投与のトラブルを解決した処方提案を紹介します。薬剤を経管投薬する際は簡易懸濁法がとても便利ですが、崩壊・懸濁の可否に加えて、同時懸濁による配合変化も事前に確認しましょう。患者情報80歳、男性(施設入居)基礎疾患アテローム血栓性脳梗塞、右内頚動脈狭窄症、認知症、膀胱がん術後服薬管理施設職員処方内容1.クロピドグレル錠75mg 1錠 朝食後2.アスピリン腸溶錠100mg 1錠 朝食後3.イルソグラジン口腔内崩壊錠4mg 1錠 朝食後4.ロスバスタチン口腔内崩壊錠2.5mg 1錠 朝食後5.酸化マグネシウム錠330mg 4錠 朝夕食後6.センナ・センナ実顆粒 1g 朝夕食後本症例のポイントこの患者さんは、直近で脳梗塞を急性発症して入院し、内服調整ののち退院しました。退院処方では抗血小板薬が2剤追加されていました。大脳が広範囲にわたって梗塞していたことから意識障害があり、むせこみも強いことから、経鼻胃管を挿入して経管投薬を継続する指示となっていました。退院してまもなく、施設看護師より経鼻チューブが詰まりやすいのでどうにかならないかという相談がありました。施設を訪問し、退院処方の内容を確認していると、簡易懸濁法による薬剤投与にいくつか問題があることに気付きました。<簡易懸濁法での薬剤投与の問題1)>(1)簡易懸濁法に適していない薬剤があるセンナ・センナ実顆粒(商品名:アローゼン顆粒)は簡易懸濁法で崩壊・懸濁しづらく、通過困難から経鼻チューブを詰まらせていた可能性がある。(2)複数薬の同時懸濁で配合変化の問題がある酸化マグネシウムは崩壊・懸濁後の液性が強アルカリ(pHが約10)となり、配合変化において問題となる薬剤の代表格である。本事例においては、クロピドグレルが酸化マグネシウムとの同時懸濁によりクロピドグレル(イオン形)から水に難溶性で粘性のあるクロピドグレル(分子形)に変化したことで、チューブを閉塞させた可能性がある。また、経管投与量自体が減少している可能性もある。2)そこで、簡易懸濁法による投与を最適化するための提案をトレーシングレポートと電話で実施することにしました。処方提案と経過医師に、上記の問題(1)(2)より、現行の処方薬では簡易懸濁法による投与が困難であること説明しました。改善策として、(1)簡易懸濁が困難なセンナ・センナ実顆粒を、簡易懸濁可能なピコスルファートナトリウム錠2.5mgに変更することを提案しました。また、(2)クロピドグレル錠と酸化マグネシウム錠に関しては、同時懸濁による配合変化を避けるため、酸化マグネシウム錠の処方コメントとして、別包にして同時に懸濁しない旨を処方箋に追記するよう依頼しました。医師より、その場で承認が得られたため、当日中に変更内容を反映した対応を開始しました。その後は、経鼻チューブの閉塞もなく、排便コントロールも安定していることを確認し、現在もモニタリングしています。1)藤島一郎監修, 倉田なおみ編集. 内服薬 経管投与ハンドブック 〜簡易懸濁法可能医薬品一覧〜 第3版. じほう;2015.2)Aoki M, et al. J Pharm Health Care Sci. 7;18: 2021.

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動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版、主な改訂点5つ/日本動脈硬化学会

 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版が5年ぶりに改訂、7月4日に発刊された。本ガイドライン委員長の岡村 智教氏(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学 教授)が5日に開催されたプレスセミナーにおいて動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版の変更点を紹介した(主催:日本動脈硬化学会)。 今回の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版の改訂でキーワードとなるのが、「トリグリセライド」「アテローム血栓性脳梗塞」「糖尿病」である。これを踏まえて2017年版からの変更点がまとめられている動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版の序章(p.11)に目を通すと、改訂点が一目瞭然である。なお、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版のPDFは動脈硬化学会のホームページより誰でもダウンロードできる。<動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版の主な改訂点>1)随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG)の基準値を設定した。2)脂質管理目標値設定のための動脈硬化性疾患の絶対リスク評価手法として、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を合わせた動脈硬化性疾患をエンドポイントとした久山町研究のスコアが採用された。3)糖尿病がある場合のLDLコレステロール(LDL-C)の管理目標値について、末梢動脈疾患、細小血管症(網膜症、腎症、神経障害)合併時、または喫煙ありの場合は100mg/dL未満とし、これらを伴わない場合は従前どおり120mg/dL未満とした。4)二次予防の対象として冠動脈疾患に加えてアテローム血栓症脳梗塞も追加し、LDL-Cの目標値は100mg/dL未満とした。さらに二次予防の中で、「急性冠症候群」「家族性高コレステロール血症」「糖尿病」「冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の合併」の場合は、LDL-Cの管理目標値は70mg/dL未満とした。5)近年の研究成果や臨床現場からの要望を踏まえて、新たに下記の項目を掲載した。 (1)脂質異常症の検査 (2)潜在性動脈硬化(頸動脈超音波検査の内膜中膜複合体や脈波伝播速度、CAVI:Cardio Ankle Vascular Indexなどの現状での意義付) (3)非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH) (4)生活習慣の改善に飲酒の項を追加 (5)健康行動倫理に基づく保健指導 (6)慢性腎臓病(CKD)のリスク管理 (7)続発性脂質異常症動脈硬化性疾患予防ガイドライン改訂に至った主な理由 1)について、「TGは食事の摂取後は値が上昇するなど変動が大きい。また空腹時でも非空腹時でも値が高いと将来の冠動脈疾患や脳梗塞の発症や死亡を予測することが国内の疫学調査で示されている。国内の疫学研究の結果およびESC/EASガイドラインとの整合性も考慮して、空腹時採血:150mg/dL以上または随時採血:175mg/dL以上を高TG血症と診断する」とコメントした(参照:BQ5)。 2)については、吹田スコアに代わり今回の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版では久山町研究のスコアを採用している。その理由として、同氏は「吹田スコアの場合、研究アウトカムが心筋梗塞を含む冠動脈疾患発症で脳卒中が含まれていなかった。久山町研究のスコアは、虚血性心疾患と、脳梗塞の中でとくにLDL-Cとの関連が強いアテローム血栓性脳梗塞の発症にフォーカスされていた点が大きい」と説明(参照:BQ16)。 3)については、ESC/EASガイドラインでの目標値、国内のEMPATHY試験やJ-DOIT3試験の報告を踏まえ、心血管イベントリスクを有する糖尿病患者の一次予防において、十分な根拠が整っている(参照:FQ24)。 4)については、国内でのアテローム血栓性脳梗塞が増加傾向であり、再発予防が重要になるためである。また二次予防の場合、糖尿病の合併がプラーク退縮の阻害要因となることなどから「これまで厳格なコントロールは合併症などがあるハイリスクの糖尿病のみが対象だったが、今回の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版より糖尿病全般においてLDL-C 70mg/dL未満となった」と解説した。 5)の(7)続発性脂質異常症は新たに追加され(第6章)、他疾患などが原因で起こる続発性なものへの注意喚起として「続発性(二次性)脂質異常症に対しては、原疾患の治療を十分に行う」とし、甲状腺機能低下症など、続発性脂質異常症の鑑別を行わずに、安易にスタチンなどによる脂質異常症の治療を開始すると横紋筋融解症などの重大な有害事象につながることもあるので注意が必要、と記載されている。<続発性脂質異常症の原因>1.甲状腺機能低下症 2.ネフローゼ症候群 3慢性腎臓病(CKD)4.原発性胆汁性胆嚢炎(PBC) 5.閉塞性黄疸 6.糖尿病 7.肥満8.クッシング症候群 9.褐色細胞腫 10.薬剤 11.アルコール多飲 12.喫煙――― このほか同氏は、「LDL-Cのコントロールにおいて飽和脂肪酸の割合を減らすことが重要(参照:FQ3)」「薬物開始後のフォローアップのエビデンスレベルはコンセンサスレベルだが、患者さんの状態を丁寧に見ていくことは重要(参照:BQ21)」などの点を補足した。 2007年版よりタイトルを“診療”から“予防”に変更したように、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版は動脈硬化性疾患の予防に焦点を当てて作成されている。同氏は「すぐに薬物治療を実行するのではなく、高リスク病態や他疾患の有無を見極めることが重要。治療開始基準と診断基準は異なるので、あくまでスクリーニング基準であることは忘れないでほしい」と締めくくった。

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オンデキサの臨床的意義とDOAC投与中の患者に伝えておくべきこと/AZ

 アストラゼネカは国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤オンデキサ静注用200mg(一般名:アンデキサネット アルファ[遺伝子組み換え]、以下:オンデキサ)を発売したことをうけ、2022年6月28日にメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、はじめに緒方 史子氏(アストラゼネカ 執行役員 循環器・腎・代謝/消化器 事業本部長)により同部門の新領域拡大と今後の展望について語られた。 AstraZeneca(英国)とアレクシオン・ファーマシューティカルズが統合したことで、今後多くのシナジーが期待されるが、今回発売されたオンデキサはその象徴的なものであると考えている。同部門では、あらゆる診療科に情報提供を行っているため、オンデキサの処方が想定される診療科だけでなく、直接作用型第Xa因子阻害剤を処方している診療科にも幅広く情報提供が可能である。オンデキサが必要な患者さんに届けられるよう、認知拡大や医療機関での採用活動に注力していきたいと述べた。DOACを投与しても出血リスクは残存する 続いて、国立病院機構 九州医療センター 脳血管・神経内科 臨床研究センター 臨床研究推進部長 矢坂 正弘氏による国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤における臨床的意義と今後の展望が語られた。 心房細動などにより心臓内でできた血栓が脳に詰まることで生じる脳卒中を心原性脳塞栓症という。心原性脳塞栓症は再発率が高いことから、発症リスクの高いCHADS2スコア1点以上の患者では、直接経口抗凝固薬(DOAC)の投与による予防治療が推奨されている1)。DOACは従来の抗凝固薬であるワルファリンに比べ脳梗塞予防効果は同等かそれ以上、大出血発症リスクは同等かそれ以下とされるが、時には生命を脅かす出血あるいは止血困難な出血に至ることもあるため、投与中は出血時の止血対応が重要となる。出血時の対応として中和剤が使用されるが、これまでDOACのうち中和剤があるのはダビガトランのみで、直接作用型第Xa因子に対する中和剤はなかった。今回発売されたオンデキサは、国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤である。オンデキサの有効性と安全性 オンデキサはヒト第Xa因子の遺伝子組換え改変デコイタンパク質で第Xa因子のデコイとして作用し、第Xa因子阻害剤に結合してこれらの抗凝固作用を中和する作用をもつ。 第Xa因子阻害剤(アピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバン、エノキサパリン)投与中の第Xa因子活性抑制下で急性大出血を発現した患者を対象にした試験では、評価可能であった有効性解析集団のうちエノキサパリン投与例を除く全体集団324例において79.6%(95%信頼区間[CI]:74.8~83.9%)の患者で有効な止血効果が得られた。正確な95%CIの下限値が50%を上回ったため、オンデキサによる止血効果が認められた2)。副作用の発現割合は11.9%(57/477例)であり、主な副作用は虚血性脳卒中1.5%(7例)、頭痛1.0%(5例)、脳血管発作、心筋梗塞、発熱、肺塞栓症が各0.8%(各4例)であった2)。DOAC投与中の患者に伝えておくべきこと 止血を適切に行うためには、患者さんが服薬中のDOACを特定しそれに対する中和剤を投与することが重要である。そのため、医療機関と調剤薬局が協力して、DOAC服薬の患者さんに対して、最新のお薬手帳や抗凝固薬のカードを持ち歩いてもらうことや、自身の病名や服薬中の薬剤を家族と共有してもらうことの重要性を伝えていく必要がある、と締めくくった。

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急性期虚血性脳卒中へのtenecteplase、標準治療となる可能性/Lancet

 カナダの標準的な血栓溶解療法の基準を満たす急性期虚血性脳卒中の患者において、tenecteplase静注療法は、修正Rankinスケール(mRS)で評価した身体機能に関してアルテプラーゼ静注療法に対し非劣性で、安全性にも差はなく、アルテプラーゼに代わる妥当な選択肢であることが、カナダ・カルガリー大学のBijoy K. Menon氏らが実施した「AcT試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年6月29日号に掲載された。カナダのレジストリ連動型無作為化対照比較試験 AcT試験は、急性期虚血性脳卒中における、血栓溶解療法による再灌流の達成に関して、tenecteplaseの標準治療に対する非劣性の検証を目的とする、医師主導の実践的なレジストリ連動型非盲検無作為化対照比較試験であり、2019年12月~2022年1月の期間に、カナダの22ヵ所の脳卒中施設で参加者の登録が行われた(カナダ保健研究機構[CIHR]などの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、後遺障害の原因となる神経障害を引き起こす虚血性脳卒中と診断され、症状発現から4.5時間以内に来院し、カナダのガイドラインで血栓溶解療法の適応となる患者であった。 被験者は、tenecteplase静注療法(0.25mg/kg、最大25mg)またはアルテプラーゼ静注療法(0.9mg/kg[0.09mgをボーラス投与後、残りの0.81mg/kgを60分で注入]、最大90mg)を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、intention-to-treat(ITT)集団における治療後90~120日のmRSスコア0または1の患者の割合とされた。この達成割合の群間差の95%信頼区間(CI)下限値が-5%を超える場合に、非劣性と判定された。主要アウトカム:36.9% vs.34.8%、口舌血管性浮腫はまれ 1,577例(年齢中央値74歳[IQR:63~83]、女性755例[47.9%])がITT集団に含まれ、tenecteplase群が806例、アルテプラーゼ群は771例であった。全体の症状発現から無作為化までの期間中央値は2時間(IQR:1.5~3.0)だった。主要アウトカムの追跡期間中央値は97日(IQR:91~111)であった。 データカットオフ日(2022年1月21日)の時点で、治療後90~120日にmRS 0または1を達成した患者の割合は、tenecteplase群が36.9%(296/802例)、アルテプラーゼ群は34.8%(266/765例)で、両群間の補正前リスク差は2.1%(95%CI:-2.6~6.9)であり、事前に規定された非劣性の閾値を満たした。 効果の方向性はtenecteplase群で良好であったが、tenecteplase群の優越性はみられなかった(p=0.19)。副次アウトカムにも両群に差はなかった。また、事前に規定されたサブグループのすべてで、主要アウトカムに関して治療効果の異質性は観察されなかった。 安全性解析では、24時間以内の症候性頭蓋内出血の発現割合(tenecteplase群3.4%[27/800例]vs.アルテプラーゼ群3.2%[24/763例]、群間リスク差:0.2、95%CI:-1.5~2.0)や、治療開始から90日以内の死亡の割合(15.3%[122/796例]vs.15.4%[117/758例]、-0.1、-3.7~3.5)には、意義のある差は認められなかった。 口舌血管性浮腫(tenecteplase群1.1% vs.アルテプラーゼ群1.2%)や、輸血を要する頭蓋外出血(0.8% vs.0.8%)はまれであった。また、追跡期間中の画像検査で、頭蓋内出血はそれぞれ19.3%(154/800例)および20.6%(157/763例)でみられた。 著者は、「tenecteplaseは、アルテプラーゼに比べ投与法が容易で使い勝手がよく、安価となる可能性がある。この研究の結果は、これまでのエビデンスと合わせて、症状発現から4.5時間以内の急性期虚血性脳卒中における血栓溶解療法の世界標準をtenecteplase 0.25mg/kgに切り換える、説得力のある根拠となるものである」としている。

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無症候性内頚動脈狭窄症に対する内科治療の高い発症抑制効果が確認された(解説:高梨成彦氏)

 本研究では内科治療を適用されたNASCET 70~99%の無症候性高度頸動脈狭窄症患者において、同側脳卒中の発症率が5年間で4.7%と、過去の報告よりも低く抑えられたことが報告された。 観察期間中のスタチンと降圧薬のアドヒアランスはそれぞれ70.7%、88.5%と高い水準に保たれており、血中LDLコレステロール濃度と血圧は正常範囲内に管理されていた。近年の進歩した内科治療によって脳卒中の発症率が低く抑えられたと考えられる。 この結果を踏まえると、無症候性頸動脈狭窄症については発見時の狭窄度だけを根拠に血行再建術を適用することはできないだろう。本研究ではNASCET 90%以上の狭窄をhigh-grade stenosisと分類して狭窄度の進行を観察している。そして同側脳卒中を発症した患者のうち24.1%が観察中にhigh-grade stenosisに進行した患者で、12.8%は閉塞を来した患者であった。 無症候性高度頸動脈狭窄症患者の中でも狭窄が進行した患者については脳卒中発症リスクが高く、血行再建術の適応がある可能性が示唆される。 他の研究では、超音波検査で低輝度を呈するプラークを認めた患者では同側脳卒中発症の相対危険度が2.31と高かったという報告(Gupta A, et al. Stroke. 2015;46:91-97.)や、経頭蓋ドップラーでembolic signalを認めた患者では同側脳卒中発症の相対危険度が6.37と高かったという報告(Markus HS, et al. Lancet Neurol. 2010;9:663-671.)がある。 無症候性頸動脈狭窄症患者に対しては基本的に内科治療を適用し、前述のような狭窄度以外の因子を考慮して脳卒中発症の危険性が高いことが予想される患者を選択し、血行再建術の適応を判断する必要があるだろう。

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悪性神経膠腫〔malignant glioma〕

1 疾患概要■ 定義脳には神経細胞と神経線維以外に、それらを支持する神経膠細胞があり、この神経膠細胞から発生する腫瘍を総称して「神経膠腫(グリオーマ:glioma)」という。細胞の種類により星細胞腫(アストロサイトーマ:astrocytoma)、乏突起膠腫(オリゴデンドログリオーマ:oligodendroglioma)、上衣腫(エペンディモーマ:ependymoma)などに分類される。さらに病理診断上は悪性度に応じてグレード(grade)が1~4までの4つに分かれており、成人の神経膠腫はほとんどがグレード2以上のものであり、びまん性神経膠腫と呼ばれる。グレード4の神経膠腫は膠芽腫(グリオブラストーマ:glioblastoma)と呼ばれ最も予後不良である。グレード2とグレード3の神経膠腫をまとめて低悪性度神経膠腫(lower grade glioma)と呼ぶが、必ずしも悪性度が低いわけではない。■ 疫学「脳腫瘍全国集計調査報告(2005~2008)」では、原発性脳腫瘍のうち神経膠腫全体の頻度は26.9%であった1)。神経膠腫のなかでは、グレード4の膠芽腫が約半数を占め、グレード2、3のlower grade gliomaが約40%の頻度である。Lower grade gliomaのうち、星細胞腫系と乏突起膠腫系がおよそ2:1となっており、以前の統計に比べて乏突起膠腫の頻度が増加している。グレードが上がるにつれて発症年齢も上がっていき、年齢中央値はグレード2のびまん性星細胞腫で38歳、乏突起膠腫で42歳、グレード3の退形成性星細胞腫で49歳、退形成性乏突起膠腫で54歳、グレード4の膠芽腫で63歳となっている。男女比は、膠芽腫で1.39:1、lower grade gliomaで1.34:1と男性にやや多い。■ 病因1)遺伝的素因神経膠腫のほとんどは孤発性に発生し、遺伝的な素因により発症する遺伝性腫瘍はまれである。神経膠腫を生じうる遺伝性腫瘍として、以下のような疾患がある。リ・フラウメニ症候群:生殖細胞系列にTP53遺伝子の異常を有し、家族性にがんを多発する。リンチ症候群:生殖細胞系列にミスマッチ修復遺伝子の異常を有しており、神経膠腫のみならず大腸がん、子宮体がん、卵巣がん、胃がんなどのリスクを有する。ターコット症候群のtype1はリンチ症候群の亜型で、神経膠腫と大腸がんを合併する。2)遺伝子異常腫瘍細胞は、前駆細胞に遺伝子異常が生じ、その結果生物学的な性格の変化を来して発生すると考えられている。神経膠腫においては、腫瘍の組織型別および悪性度別に生じている遺伝子異常に共通性と相違が認められており、その種類や生じる時期により、異なるタイプと悪性度の神経膠腫が発生するのではないかとの仮説が提唱されている。主な神経膠腫の遺伝子異常を図1に示す。図1 神経膠腫の遺伝子異常画像を拡大するびまん性神経膠腫の発生初期に起こる遺伝子異常の代表的なものとして、イソクエン酸脱水素酵素(IDH)遺伝子変異があげられる。網羅的な遺伝子解析の結果、lower grade gliomaおよびグレード2、3の星細胞腫から悪性転化した二次性膠芽腫に非常に高頻度にみられることが明らかになった。このIDH遺伝子変異を持つ細胞にTP53遺伝子変異やATRX遺伝子変異が加わると星細胞腫へ、第1番染色体短腕(1p)および第19番染色体長腕(19q)の全体が共に欠失する(1p/19q共欠失)変異が加わると乏突起膠腫に進展していくという仮説が広く受け入れられている。IDH変異のない膠芽腫では、EGFR遺伝子の増幅、第10番染色体の欠失、TERT遺伝子プロモーター領域の変異などが腫瘍形成に関与していると考えられている。小児悪性神経膠腫において、ヒストンテールをコードする遺伝子変異(H3F3A K27M/G34Rなど)が高頻度に認められることが判明し、この変異がエピゲノム制御を介して腫瘍化に関わっていることが示唆される。毛様細胞性星細胞腫(pilocytic astrocytoma)や類上皮膠芽腫(epithelioid glioblastoma)に高率に認められるBRAF遺伝子変異(BRAF V600E)なども重要な遺伝子異常で、この遺伝子を標的とした分子標的薬による治療が開発されている。3)外的因子放射線照射は脳腫瘍の発生と関連性が深いと考えられており、照射後数年~数十年後に神経膠腫が発生する事例の報告がある。■ 症状神経膠腫の症状としては、(1)腫瘍による脳の圧迫や脳浮腫に由来する頭蓋内圧亢進症状、(2)発生部位の脳機能障害による局所症状、(3)腫瘍に起因する痙攣発作がある。(1)頭蓋内圧亢進症状:頭痛や嘔気・嘔吐の症状が出現し、進行すると意識障害を来す。(2)局所症状:腫瘍の部位により麻痺、感覚障害、失語症、視野障害、認知機能低下などのさまざまな高次脳機能障害が起こりうる。進行の早い膠芽腫では局所症状が起こりやすく、脳腫瘍全国集計調査報告では膠芽腫の初発症状のうち57%が局所症状である1)。(3)痙攣発作:腫瘍が発生源となる部分発作から、二次性全般化を来して全身の強直間代性発作を起こすこともある。特にlower grade gliomaで痙攣発作の頻度が高く、lower grade gliomaの初発症状のおよそ半数が痙攣発作である1)。■ 分類神経膠腫はグリア細胞起源であり、その分化組織型により星細胞腫系、乏突起膠腫系に分かれる。また、疾患予後を表す指標である組織学的悪性度は世界保健機関(WHO)のグレード分類で予後が良い方から悪い方へグレードIからIVに分類される。WHO脳腫瘍分類第4版(2007年改訂)では病理組織所見に基づいて分類され、星細胞腫系、乏突起膠腫系およびそれらの混合腫瘍に分類された(表1)。表1 成人神経膠腫の分類(WHO2007)画像を拡大する2016年にWHO脳腫瘍分類の改訂が行われ、腫瘍組織の遺伝子検査を加味した分類がされるようになった。神経膠腫においては、lower grade gliomaの70~100%の頻度でみられるIDH変異、乏突起膠腫系腫瘍の特徴である1p/19q共欠失を付記し、形態学的診断、悪性度、分子情報を統合したintegrated diagnosis(統合診断)が取り入れられた(表2)。表2 成人神経膠腫の分類(WHO2016)画像を拡大するまた、小児脳幹部に好発する神経膠腫ではヒストンの遺伝子変異などの異常が明らかにされて、びまん性正中神経膠腫(diffuse midline glioma、H3K27M-mutant)という分類が新設された。さらに、2021年にWHO分類の改定が行われ、成人びまん性神経膠腫は以下の3種類に統合された(表3)。グレードの記載はローマ数字からアラビア数字に変更された。表3 成人神経膠腫の分類(WHO2021)画像を拡大する(1)星細胞腫IDH変異型(グレード2、3、4)グレードは病理組織学的に決定されるが、遺伝子解析の結果CDKN2A/B遺伝子のホモ接合型欠失があればグレード4に分類される。(2)乏突起膠腫IDH変異型, 1p19q共欠失(グレード2、3)乏突起膠腫の診断にはこの遺伝子型が必須となり、グレードは病理組織学的に決定される。(3)膠芽腫IDH野生型(グレード4)IDH野生型で、[1]病理での微小血管増殖または壊死、[2]TERT遺伝子プロモーター領域の変異、[3]EGFR遺伝子増幅、[4]7番染色体増加かつ10番染色体の全欠失のいずれかを伴えば膠芽腫と診断される。IDH野生型のグリオーマでこれらの所見を伴わない場合には、小児型のびまん性神経膠腫を考慮することになるが、この分類では診断困難な腫瘍群が出てくることが課題である。■ 予後神経膠腫の予後はグレード、組織型により異なり、最も予後の悪い膠芽腫では標準治療 である放射線治療およびテモゾロミド化学療法の併用療法を行っても生存期間中央値は15~20.3ヵ月と予後不良である1、2)。脳腫瘍全国集計調査報告(2005~2008年)によると、神経膠腫の5年生存率は、グレード4の膠芽腫で16%、グレード3の退形成性星細胞腫で43%、退形成性乏突起膠腫で63%、グレード2のびまん性星細胞腫で77%、乏突起膠腫で92%である(表4)1)。表4 組織型・グレード別予後画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 血液検査神経膠腫の有用な腫瘍マーカーは今のところない。悪性リンパ腫に対する腫瘍マーカーとして可溶性IL-2レセプターがあり、その他各種がんの腫瘍マーカーは転移性脳腫瘍の鑑別診断の補助となる。■ 髄液検査髄腔内播種がある場合、髄液細胞診で異型細胞が検出されることがある。■ 画像検査診断のためにはCT、MRIなどの画像検査が欠かせない。1)CT腫瘍の局在に加えて、腫瘍内の出血や石灰化の有無を確認する。神経膠腫で腫瘍内の石灰化があれば、乏突起膠腫を強く疑う。2)MRI腫瘍の詳細な解剖学的位置情報のみならず、多種類の撮像方法により、病巣の質的・生物学的情報も得ることができる。T2強調画像・FLAIR画像では、病巣の広がりと脳浮腫の領域を、T1強調画像ではガドリニウムによる造影検査を行うことで、血液脳関門の破綻のある腫瘍本体の局在情報が得られる。造影される神経膠腫は、膠芽腫をはじめとした高悪性度(high grade)の腫瘍を疑う。拡散強調画像では、腫瘍細胞密度の推定や急性期脳梗塞との鑑別を行う。拡散テンソル画像(diffusion tensor imaging)を用いて、錐体路、視放線、言語関連線維(弓状束や上縦束など)などの白質線維の描出が可能である。灌流画像により腫瘍の血流・血液量の評価が可能で、腫瘍の悪性度の推定や膠芽腫と悪性リンパ腫の鑑別に有用である。さらに、MR spectroscopy (MRS)では、病巣に含有される分子の成分解析を行い、腫瘍性成分の多寡、嫌気性代謝の有無などの情報が得られ、疾患の鑑別の一助となる。3)PET病巣の代謝活性を直接評価するためにPET検査が有用である。脳はブドウ糖代謝が高度であることから、一般に用いられるブドウ糖をトレーサーとするFDG-PET検査での検出力は低く、アミノ酸代謝を反映するメチオニンPETがより検出力に優れているが、現在まだ保険適用となっていないため自費での検査となる。アミノ酸をトレーサーとするフルシクロビン(18F)PETは2021年に初発悪性神経膠腫に対して薬事承認されたが、いまだ保険収載されておらず、使用できる段階にはない。■ 病理診断診断確定のためには、手術摘出検体(生検含む)を用いた病理組織診断が必要である。■ 遺伝子解析2016年のWHO脳腫瘍分類改訂第4版以降は、IDH変異や1p/19q共欠失などの遺伝子解析が診断確定に必須となる。IDH変異のうち、IDH1遺伝子のR132H変異は免疫染色で高精度に検出できるが、他のIDH変異はサンガーシークエンスやパイロシークエンスなどの解析が必要である。1p/19q共欠失は、FISH法、マイクロサテライト法、MLPA法などで解析を行うのが一般的である。現在、保険収載を目指した1p/19qのFISHプローブの開発が進められている。IDH変異、1p/19q共欠失含め神経膠腫の遺伝子解析は保険適用となっておらず、現在は主要施設において研究の一環として実施されているのが実情であり、今後の課題である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)悪性神経膠腫に対する治療の柱は手術、放射線治療、化学療法であるが、腫瘍の組織型、グレードによりその選択は異なる。また、腫瘍治療電場療法(商品名:オプチューン)やウイルス療法(同:デリタクト)などの新規治療法が近年保険収載され、保険診療下に使用可能となった。初発膠芽腫の標準治療例について、図2に示す。図2 初発膠芽腫標準治療画像を拡大する■ 手術神経膠腫が疑われたら、原則としてまず手術による腫瘍摘出が行われる。摘出標本による病理学的確定診断が極めて重要であり、その結果により術後の補助療法の内容や適否が決定される。神経膠腫の手術は、膠芽腫においてもlower grade gliomaにおいても摘出率を上げることにより予後改善が見込めるという報告が多く、最大限の摘出が望ましい3、4)。ただし、手術合併症により症状を悪化させてしまうと患者QOLを大きく損なうばかりか、生命予後をかえって悪化させてしまうため、症状を悪化させない範囲での最大限の摘出(maximal safe resection)を目指すべきである。手術支援技術が発展してきたため、術中ナビゲーション、電気生理モニタリング、覚醒下手術、術中蛍光診断(5-ALA)、術中MRIなどを駆使した精度の高い手術が可能となってきている。■ 放射線治療神経膠腫への放射線治療は、腫瘍細胞の浸潤性性格から浸潤領域を含む領域に照射することが必要であるため、正常神経細胞の機能障害を最小限とするべく、局所分割照射が行われる。グレード4の膠芽腫には、手術に引き続き後述のテモゾロミド併用放射線治療を60Gy/30回分割(1回線量2Gy)で施行する。照射範囲は腫瘍周囲のT2高信号域に若干のマージンを加えた範囲とすることが一般的である。高齢者の膠芽腫に対しては、40Gy/15回分割の放射線治療の非劣性が示され、寡分割照射が推奨される5)。また、高齢者や脆弱なフレイル患者に対して25Gy/5回分割照射の40Gy/15回分割照射に対する非劣性が示され、さらなる照射期間の短縮が治療選択肢となり得る6)。グレード3の退形成性神経膠腫には、総線量54~60Gyが照射される。摘出術後に引き続き照射を行うことが標準的であるが、予後良好な因子を持つ退形成性乏突起膠腫に対しては、照射を待機する試験的な治療も臨床試験では検討されている。グレード2の低悪性度神経膠腫の場合は、摘出度、年齢、腫瘍径、組織型などにより高リスク(high risk)例では放射線治療を行うことが推奨される。低リスク(low risk)例では術後早期の放射線治療は行わず、慎重に経過をみることが提案される。■ 化学療法わが国で神経膠腫に対して保険適用のある薬剤は、テモゾロミド(TMZ)、ニムスチン(ACNU、商品名:ニドラン)、ベバシズマブ(bevacizumab;BEV、同:アバスチン)、カルムスチン(BCNUウエハー、同:ギリアデル)、プロカルバジン(PCZ、同:プロカルバジン)、ビンクリスチン(VCR、同:オンコビン)などである。1)膠芽腫テモゾロミド(TMZ)18歳以上70歳以下の成人初発膠芽腫患者に対しては、手術後TMZを放射線治療期間中、ならびに放射線終了後投与するStuppレジメンが強く推奨される7)。TMZはリンパ球減少を生じやすく、その結果ニューモシスチス肺炎などの日和見感染のリスクが高まるため、ST合剤などの予防処置を行う。神経膠腫においては、O6-methylguanine-DNA methyltransferase (MGMT)遺伝子プロモーター領域のメチル化があるとTMZがより有効である8)。高齢者の膠芽腫において、短期照射の放射線治療にTMZの上乗せが有効かどうか検証した第III相臨床試験において、TMZ併用の有効性が示された9)。特にMGMTメチル化のある高齢者膠芽腫に対してはTMZ併用が勧められる。ベバシズマブ(BEV)血管新生の主因となる血管内皮増殖因子(VEGF)を阻害するヒト化モノクローナル抗体で、2013年6月に悪性神経膠腫に対して薬事承認された。初発膠芽腫に対して、AVAglioとRTOG0825の2つの第III相臨床試験が報告され、どちらも無増悪生存期間は延長するが、全生存期間は延長させないという結果であった10、11)。わが国では保険診療下で初発膠芽腫でのBEVの使用が可能であるが、全生存期間の延長が示されないことから必ずしも推奨されない。術後の残存腫瘍や浮腫によりperformance status(PS)を下げている患者には、浮腫軽減効果の強いBEV併用が期待できる可能性がある。一方、TMZ治療後の再発膠芽腫に対しては、国内外での臨床試験で高い奏効割合、無増悪生存期間と症状改善効果が示され、BEV単独療法は再発膠芽腫に対する有力な治療法と考えられる12、13)。これまでのところ、他剤との併用による効果増強は示されておらず、単独投与が基本である。BCNUウエハー手術時に摘出腔壁に留置してくるニトロソウレア系BCNUの徐放性ペレット剤(ギリアデル)が、2013年1月に承認された。初発および再発悪性神経膠腫に対する欧米での第III相臨床試験の結果は、BCNUウエハー留置による全生存期間が、初発時では悪性神経膠腫に対し、再発時にはサブ解析にて膠芽腫に対し、有意な延長が認められた。逆に、初発時の膠芽腫に、また再発時の悪性神経膠腫全症例には有意差はみられなかった。一方、BCNUウエハーの使用による有害事象としては、術後の脳浮腫が約25%で認められたほか、摘出腔内ガス発生、髄液漏、創感染、けいれん発作などが生じる可能性がある。現在、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)において、90%以上の摘出が見込まれる初発膠芽腫に対して術中ランダム化してBCNUウエハー留置の有効性を検証する第III相試験が行われている(JCOG1703)。2)グレード3神経膠腫グレード3神経膠腫に対しては、術後薬物療法が推奨される。退形成性星細胞腫に対して放射線治療に同時併用(concurrent)と維持療法(adjuvant)のTMZを併用するかどうかを検証したCATNON試験では、concurrent TMZは放射線治療単独に比べて無増悪生存期間(PFS)・全生存期間(OS)ともに差を認めなかったが、adjuvant TMZはPFS・OSともに有意に延長するという結果であった14)。退形成性乏突起膠腫(1p/19q共欠失腫瘍)に対する放射線治療単独と放射線治療とPCV療法(PCZ+CCNU+VCR)の併用療法を比較した欧米の2つの第III相試験において、PCV療法の併用がOSを有意に延長することが示された15、16)。わが国ではCCNUが未承認であるため、ACNUを代替薬として用いるPAV療法が行われている。また、放射線治療+PCV療法と、放射線治療+TMZを比較するCODEL試験が現在行われている17)。3)グレード2神経膠腫High riskのグレード2神経膠腫に対しては、放射線治療+PCV療法の併用療法が放射線治療単独に比べてOSを延長することが示された18)。同じくhigh riskのグレード2神経膠腫に対するTMZ単独療法と放射線治療の第III相試験では、両群に差を認めなかった19)。■ 腫瘍治療電場療法(オプチューン)脳内に特殊な電場を発生させて腫瘍増殖を抑制する治療法で、交流電場腫瘍治療システム(オプチューン)を用いる。頭皮に電極パッド(transducer arrays)を貼り、中間周波の交流電場(Tumor Treating Fields)を持続的に発生させて腫瘍細胞の分裂を阻害する。初発テント上膠芽腫に対して、手術とTMZ併用放射線治療後、TMZ維持療法時にオプチューンを併用することで有意にPFS・OSが延長することが示され、2018年にわが国でも承認された20)。装着のために髪の毛を頻繁に剃り、約1.2kgの装置を常時持ち運びする必要が生じるため日常生活が制限される可能性がある。装着時間が長いほど治療効果が高まるが、接触性皮膚炎などの皮膚トラブルに注意が必要である。4 今後の展望■ ウイルス療法腫瘍溶解ウイルス療法(oncolytic virus therapy)とは、腫瘍細胞だけで増えるように改変したウイルスを腫瘍細胞に感染させ、ウイルスそのものが腫瘍細胞を殺しながら腫瘍内で増幅していくという新しい治療法である。ウイルスが直接腫瘍細胞を殺すことに加え、腫瘍細胞に対するワクチン効果も誘発する。2021年6月、世界初の脳腫瘍に対するウイルス療法として、テセルパツレブ(デリタクト)が承認されたが、薬剤の供給が間に合わずまだ普及はしていない。■ がん遺伝子パネル、がんゲノム医療2019年6月にがん遺伝子パネル検査としてOncoGuide NCCオンコパネル(シスメックス社)とFoundationOne CDxがんゲノムプロファイル(中外製薬)が保険収載され、それぞれ114遺伝子、324遺伝子の遺伝子変異などを解析することが可能となった。神経膠腫においてもがん遺伝子パネル検査を行い、遺伝子異常に応じた分子標的薬治療につなげるがんゲノム医療が進んでいくことが期待される。5 主たる診療科脳神経外科、脳脊髄腫瘍科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本脳腫瘍学会オフィシャルホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)がん情報サイト「オンコロ」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報脳腫瘍ネットワーク(Japan Brain Tumor Alliance:JBTA)(患者とその家族および支援者の会)がんの子どもを守る会(患者とその家族および支援者の会)1)Brain Tumor Registry of Japan(2005-2008). Neurol Med Chir(Tokyo).2017;57:9-102.2)Wakabayashi T, et al. J Neurooncol. 2018;138:627-636.3)Sanai N, et al. J Neurosurg. 2011;115:3-8.4)Smith J.S, et al. J Clin Oncol. 2008;26:1338-1345.5)Roa W, et al. J Clin Oncol. 2004;22:1583-1588.6)Roa W, et al. J Clin Oncol. 2015;33:4145-4150.7)Stupp R, et al. N Engl J Med. 2005;352:987-996.8)Hegi M.E, et al. N Engl J Med. 2005;352:997-1003.9)Perry J.R, et al. N Engl J Med. 2017;376:1027-1037.10)Chinot O.L, et al. N Engl J Med. 2014;370:709-722.11)Gilbert M.R, et al. N Engl J Med. 2014;370:699-708.12)Friedman H.S, et al. J Clin Oncol. 2009;27:4733-4740.13)Nagane M, et al. Jpn J Clin Oncol. 2012;42:887-895.14)van den Bent M.J, et al. Lancet Oncol. 2021;22:813-823.15)Cairncross J.G, et al. J Clin Oncol. 2014;32:783-790.16)van den Bent M.J, et al. J Clin Oncol. 2013;31:344-350.17)Jaeckle K.A, et al. Neuro Oncol. 2021;23:457-467.18)Buckner J.C, et al. N Engl J Med. 2016;374:1344-1355.19)Baumert B.G, et al. Lancet Oncol. 2016;17:1521-1532.20)Stupp R, et al. JAMA. 2015;314:2535-2543.公開履歴初回2022年6月16日

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大血管閉塞性脳卒中疑い患者の血栓回収可能センターへの直接輸送の効果(解説:中川原譲二氏)

 血栓回収可能センターへのアクセスが制限されている非都市部では、大血管閉塞性(LVO)脳卒中が疑われる患者における最適な病院前輸送戦略は不明である。本研究の目的は、都市部以外の地域で、血栓回収可能センターへの直接輸送が、最も近い1次脳卒中センターへの輸送と比較して有益であるかどうかを判断することであった。急性LVO脳卒中が疑われる1,401例の患者を対象 2017年3月から2020年6月までの間、スペインのカタルーニャ地方で、最も近い1次脳卒中センターが血栓回収を施行できない地域において、急性LVO脳卒中が疑われる1,401例の患者を対象として、多施設、人口ベース、クラスター無作為化試験が行われた。最終フォローアップは2020年9月であった。患者は、血栓回収可能センター(688例)または最も近い1次脳卒中センター(713例)へ輸送された。 主要転帰は、虚血性脳卒中患者の対象集団におけるmRSスコア(0[症状なし]から6[死亡])による90日後の機能障害とした。対象集団における静脈内t-PA投与および血栓回収の割合、ならびにすべての無作為化された患者の安全性評価集団における90日死亡率を含む、11の副次転帰を設定した。血栓回収可能センターへの直接輸送の効果は見られず 2回目の中間分析後に、無益のため登録が停止された。登録された1,401例の患者が安全性分析に含まれ、そのうち1,369例(98%)が参加に同意し、無作為化分析に含まれた(56%男性、年齢中央値75歳、NIHSSスコア17)949例(69%)は、主要分析に含まれる虚血性脳卒中対象集団を構成した。対象集団の主要転帰については、mRSスコアの中央値は3(IQR、2~5)対3(IQR、2~5)(オッズ比[OR]:1.03、95%信頼区間[CI]:0.82~1.29)。報告された11の副次転帰のうち、8つは有意差を示さなかった。1次脳卒中センターに最初に移送された患者と比較して、血栓回収可能センターに直接移送された患者は、静脈内t-PAを投与される確率が有意に低かった(対象集団では、229/482[47.5%]対282/467[60.4%]、OR:0.59、95%CI:0.45~0.76)、および血栓回収を受ける確率が有意に高かった(対象集団では、235/482[48.8%]vs.184/467[39.4%]、OR:1.46、95%CI:1.13~1.89)。安全集団における90日死亡率は、グループ間で有意差はなかった(188/688[27.3%]vs.194/713[27.2%]、補正後ハザード比:0.97、95%CI:0.79~1.18)。血栓回収可能センターへの直接輸送では、発症から治療開始までの時間が課題 スペイン、カタルーニャの非都市部で行われた本研究では、LVO脳卒中が疑われる患者の1次脳卒中センターと血栓回収可能センターへの輸送との間で、90日後の神経学的転帰に有意差が見られなかった。血栓回収可能センターに直接移送された患者では、静脈内t-PAを投与される確率が有意に低かったが、血栓回収を受ける確率が有意に高かったにもかかわらず、転帰の改善は得られなかった。患者背景を示した論文中の表1には、無作為化から病院到着までの時間(中央値)が、血栓回収可能センター群で61分、1次脳卒中センター群で21分とあり、血栓回収可能センター群では、発症から治療開始までの時間の延長が認められた。 LVO脳卒中に対する血栓回収療法の有効性については、これまでの臨床研究によって、すでに確立した感があり、1次脳卒中センターにおいて血栓回収が施行できない地域では、LVO脳卒中患者の血栓回収可能センターへの直接搬送が推奨されている。しかし、本研究においては、血栓回収治療の有効性が発症から治療開始までの時間に依存することが、あらためて示唆されており、血栓回収可能センターへの直接輸送では、発症から治療開始までの時間が常に課題になると考えられた。

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出張血管内治療方式では血栓回収術を開始するまでの時間が大幅に短縮された(解説:高梨成彦氏)

 急性期脳梗塞患者を1次脳卒中センターから血栓回収術が可能な施設へ搬送する群(transfer group)と、治療チームを1次脳卒中センターに空輸する群(flying team group)において、治療に要する時間と機能予後を比較した試験である。2つの医療システムを比較するには地域の特性に影響されることが免れないが、同一地域で1週間ごとにシステムを変えることでこれを可能にしている。 結果としてflying team groupにおいて治療方針の決定から穿刺までの時間が短く(58分 vs.148分)、また発症から再開通までの時間も短く(243分 vs.340分)、いずれも大きな差がついた。再開通率と合併症率には差がなかった。また事後解析の結果であることに留意する必要があるが、機能予後改善効果はflying team groupで高かった。flying team groupにおいて治療開始までの時間が短いことが予後の改善につながっている可能性があり、治療医が出張して血栓回収を行う方式の有効性が示唆される。 報告の本旨からは外れるが、flying team groupは試験期間中に治療を担当した医師の人数が少なく済んでおり(5 vs.19)、オンコール当番医の負荷を減らす効果もあるかもしれない。 本邦でも包括的脳卒中センター、血栓回収脳卒中センター、1次脳卒中センターの整備が進められている。各センターの間で連携する方法を構築するに当たって、今回の結果は考慮する必要があるだろう。

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無症候性高度頸動脈狭窄症、外科的介入なしの脳梗塞発症率は?/JAMA

 外科的介入を受けなかった無症候性高度頸動脈狭窄症患者において、頸動脈病変に関連した同側の急性虚血性脳卒中の推定発生率は5年間で4.7%であることが、米国・カイザーパーマネンテ北カリフォルニア(KPNC)のRobert W. Chang氏らによる後ろ向きコホート研究で示された。近年、医療が進歩しており、また、内科的治療と外科的治療の最新の比較データがないため、無症候性高度頸動脈狭窄症の最適な管理方法は不確かである。著者は、「今回の知見は、無症候性高度頸動脈狭窄症患者に対する外科的治療と内科的治療に関する意思決定に役立つだろう」とまとめている。JAMA誌2022年5月24日号掲載の報告。無症候性で狭窄率70~99%の高度頸動脈狭窄症患者3,737例について調査 研究グループは、KPNC(医療センター/病院21施設、会員450万人以上の統合医療システム)のデータを用い、2008~12年の間に無症候性高度頸動脈狭窄症(Society of Radiologists in Ultrasound Consensus基準、またはNASCET法で70~99%狭窄)と診断された患者で、同側の頸動脈インターベンション(頸動脈内膜切除術または頸動脈ステント留置)歴ならびに過去6ヵ月以内の脳卒中または一過性脳虚血発作既往歴がない成人患者を対象に、2019年12月31日まで追跡した。 主要評価項目は、頸動脈病変に関連した同側の急性虚血性脳卒中(脳梗塞)の発生であった。死亡、KPNC会員脱退または同側の頸動脈インターベンション実施があった時点で打ち切りとした。 2008~12年に頸動脈狭窄症のスクリーニングを受けた9万4,822例のうち、3,737例(平均[±SD]年齢73.8±9.5歳、男性57.4%)、標的動脈4,230本が適格基準を満たした。同側脳梗塞の平均年間発症率は0.9% 3,737例(標的動脈4,230本)のうち、2,314例(標的動脈2,539本)は試験終了時点までにインターベンションを受けていなかった。 平均追跡期間4.1±3.6年において、インターベンション前の同側脳梗塞は129例133件発生し、平均年間発症率は0.9%(95%信頼区間[CI]:0.7~1.2)であった。 Kaplan-Meier法による同側脳梗塞の5年累積発生率は、インターベンションを受けた患者で4.7%(95%CI:3.9~5.7)、受けなかった患者で4.1%(3.3~5.0)であった。 多変量Cox回帰分析では、年齢(10歳増加することに補正後ハザード比[HR]は1.25、95%CI:1.02~1.53、p=0.03)、ベースラインの超高度病変(NASCET法で90~99%狭窄またはPSV≧350cm/s)(補正後HR:1.73、95%CI:1.06~2.84、p=0.03)、非同側脳梗塞の既往(2.81、1.63~4.84、P<0.001)が同側脳梗塞に関連する有意な独立変数として認められた。 また、追跡期間中のスタチンの使用は、脳梗塞のリスク低下と関連していた(補正後HR:0.38、95%CI:0.21~0.72、p=0.003)。

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オンデキサ発売、国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤/アレクシオンファーマ・アストラゼネカ

 アストラゼネカは5月25日付のプレスリリースで、アレクシオンファーマが製造販売承認を取得したオンデキサ静注用 200mg(一般名:アンデキサネット アルファ[遺伝子組換え]、以下:オンデキサ)の販売を開始したことを発表した。オンデキサ投与後12時間で患者の79.6%に有効な止血効果 直接作用型第Xa因子阻害剤は、血栓が形成されないよう血液の凝固を防ぐ一方で、生命を脅かす重大な出血のリスクを高める可能性がある。しかし、大出血を起こした直接作用型第Xa因子阻害剤を服用している患者に対して中和剤はこれまでなく、高いアンメットニーズが存在していた。 オンデキサは、血液凝固に関与するヒト血液凝固第Xa因子の遺伝子組換え改変デコイタンパク質であり、国内で唯一第Xa因子阻害剤に結合し、その抗凝固作用を速やかに中和する作用をもつ薬剤として承認された。 オンデキサ承認の根拠となった国際共同第IIIb/IV相14-505(ANNEXA-4)試験では、直接作用型第Xa因子阻害剤の投与を受けており、急性の大出血を起こした患者を対象に、オンデキサの有効性(第Xa因子阻害剤の抗第Xa因子活性の中和効果、および止血効果)と安全性が評価された。 オンデキサ承認の根拠となったANNEXA-4試験の主な結果は以下の通り。・オンデキサはいずれの第Xa因子阻害剤を投与した患者でも、本剤を静脈内投与後には抗第Xa因子活性を速やかかつ有意に低下させた。・オンデキサ投与後12時間の時点で患者の79.6%(258/324例)に有効な止血効果が確認された。・オンデキサの副作用の発現頻度は、11.9%(57/477例)で、主な副作用は、虚血性脳卒中1.5%(7/477例)、頭痛1.0%(5/477例)、脳血管発作、心筋梗塞、肺塞栓症、発熱各0.8%(4/477例)、脳梗塞、塞栓性脳卒中、心房血栓症、深部静脈血栓症、悪心各0.6%(3/477例)であった。 オンデキサは、第Xa因子阻害剤であるアピキサバンまたはリバーロキサバン投与中に大出血を起こした患者に対する中和剤として、2018年5月に米国食品医薬品局より迅速承認制度による承認を受け、2019年4月に欧州委員会から条件付き承認を取得した。日本でオンデキサは、2019年11月19日付で希少疾病用医薬品に指定されている。

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非都市部の脳卒中治療、ヘリでのドクター派遣が有益/JAMA

 ドイツ非都市部の脳卒中医療センターネットワークにおいて、急性虚血性脳卒中患者への脳血管内血栓除去術(EVT)実施の決定から施行までの経過時間を検討したところ、ヘリコプターで医師らを現地に派遣するほうが、患者を別の医療機関に移送するよりも約1時間半、短縮できることが示され、3ヵ月後の機能性アウトカムに有意差はなかったという。ドイツ・ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンのGordian J. Hubert氏らが、約160例の患者を対象に行った非盲検非無作為化比較試験の結果を報告した。急性虚血性脳卒中へのEVTの有益性は時間に依存しており、遠隔地患者への治療推進は困難とされている。今回の結果を踏まえて著者は、「長期的な転帰を確認し、地理的条件への適用を明らかにするさらなる検討は必要だが、脳卒中治療システムにフライング治療チームを取り入れる検討をすべきことが示された」と述べている。JAMA誌2022年5月5日号掲載の報告。3ヵ月後の修正Rankinスケールも比較 検討は2018年2月1日~2019年10月24日に、隔週で2つの治療システムを比較する非盲検非無作為化対照介入試験にて行われた。遠隔脳卒中ネットワーク内で遠隔医療サポートを受けるドイツ非都市部の脳卒中センター13ヵ所で、急性虚血性脳卒中に対しEVTを実施する際、ヘリコプターで医師らを現地に派遣する方法(フライング群)と、患者を別の医療機関に移送する方法(移送群)で、アウトカムを比較。最終フォローアップは2020年1月31日だった。 主要アウトカムは、EVT実施の決定から施行までの経過時間(分)。副次アウトカムは、3ヵ月後の修正Rankinスケールスコア(機能性スコア範囲:0[障害なし]~6[死亡])で評価した機能性アウトカムなどだった。EVT決定から施行の所要時間、フライング群58分vs.移送群148分 被験者は157例(年齢中央値75歳[IQR:66~80]、女性80例[51%])で、フライング群は72例、移送群は85例だった。このうちEVTを実施したのは、フライング群60例(83%)、移送群57例(67%)だった。 EVT決定から施行までの経過時間中央値は、フライング群が58分(IQR:51~71)に対し、移送群は148分(同:124~177)と、フライング群で有意に短かった(群間差:90分、95%信頼区間[CI]:75~103、p<0.001)。 一方で3ヵ月後の修正Rankinスケールスコア中央値は、フライング群が3(IQR:2~6)に対し移送群も3(2~5)と、両群で同等だった(障害の程度が低い状態に関する補正後共通オッズ比:1.91、95%CI:0.96~3.88、p=0.07)。

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血栓回収脳卒中センターと地方脳卒中センター、死亡率に有意差なし/JAMA

 大血管閉塞による脳卒中が疑われる患者を、地方脳卒中センターに搬送した場合と血栓回収脳卒中センターへ搬送した場合を比較した結果、90日神経学的アウトカムについて有意な差は示されなかった。スペイン・Hospital Universitari Germans Trias i PujolのNatalia Perez de la Ossa氏らが、同国カタルーニャ州で行った住民ベースの多施設共同クラスター無作為化試験の結果を報告した。地方では血栓回収脳卒中センターへのアクセスが制限されており、大血管閉塞による脳卒中が疑われる患者の最適な搬送先病院の戦略は明らかになっていなかった。JAMA誌2022年5月10日号掲載の報告。血栓回収脳卒中センター搬送群vs.地元の脳卒中センター搬送群で評価 試験は2017年3月~2020年6月に、スペインのカタルーニャ州で、血栓摘出術が提供できない地方の脳卒中センターに近在する救急医療サービスを利用した、急性大血管閉塞による脳卒中が疑われる患者1,401例を対象に行われた。 被験者は、血栓回収脳卒中センターへと搬送された群(688例)と近接の地方脳卒中センターに搬送された群(713例)に無作為化され、追跡評価を受けた。最終フォローアップは2020年9月。 主要アウトカムは、虚血性脳卒中患者(標的集団)の90日時点の機能障害で、修正Rankinスケール(mRS)スコア(範囲:0[症状なし]~6[死亡])に基づき評価した。副次アウトカムは11項目で、標的集団におけるt-PA静脈内投与率および血栓摘出の割合、全無作為化集団(安全性評価集団)における90日死亡率などであった。 被験者登録は、2回目の中間解析後に無益性を理由に中止となった。90日時点のmRSスコア、死亡率とも有意差みられず 1,401例が安全性解析に登録された。うち1,369例(98%)から試験参加の承諾を得ており無作為化解析に包含された(男性56%、年齢中央値75歳[IQR:65~83]、National Institutes of Health Stroke Scale[NIH脳卒中スケール]スコア17[IQR:11~21])。主要解析には、標的虚血性脳卒中集団の949例が含まれた。 標的集団における主要アウトカムのmRSスコア中央値は、血栓回収脳卒中センター搬送群3(IQR:2~5)vs.地方脳卒中センター搬送群3(IQR:2~5)であった(補正後共通オッズ比[OR]:1.03[95%信頼区間[CI]:0.82~1.29])。報告された11の副次アウトカムのうち、8つで有意差が認められなかった。 標的集団において、一次搬送が地方脳卒中センターであった患者群と比較して、最初から血栓回収脳卒中センターに搬送された患者群は、t-PA静脈内投与を受けたオッズ比は有意に低く(229/482例[47.5%]vs.282/467例[60.4%]、OR:0.59[95%CI:0.45~0.76])、血栓摘出を受けたオッズ比は有意に高かった(235/482例[48.8%]vs.184/467例[39.4%]、OR:1.46[95%CI:1.13~1.89]。 安全性集団における90日死亡率は、両群で有意な差はみられなかった(188/688例[27.3%]vs.194/713例[27.2%]、補正後ハザード比:0.97[95%CI:0.79~1.18])。 著者は、「今回示された所見が、他の設定集団でも観察されるのか確認する必要がある」とまとめている。

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第107回 急性期病院で増える要介護高齢者、介護力強化の具体策とは?

2022年度以降、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になり始めた。社会の負担も増加する中、急性期医療・高度急性期医療病床においても、転倒骨折や脳梗塞・急性心筋梗塞などにより、高齢者が入院するケースが増えている。高齢患者は介護や介助が必要になることが少なくないが、急性期病院では介護職員が極めて不足し、介護需要に十分対応できないことで患者の状態悪化を招き、要介護高齢者が増加。そのため、「要介護者は急性期病棟で作られている」と、日本慢性期医療協会(日慢協)の武久 洋三会長は指摘する。4月14日の定例記者会見では、急性期病院における介護力強化の具体的な対策を提案した。要介護者の増加に対し介護人材は不足武久氏は「急性期病院において介護力を強化することが必要不可欠」とし、要介護者を増やさない施策をとらなければ、介護現場の人材不足はいつまでたっても解消しないとの認識を述べた。そのうえで、「介護体制危機」に対処するために、現状と対策を3つの方向性に分けて以下のように示した。(1)病院に高齢患者が増えているのに、介護職員(看護補助者)が来てくれない(2)介護業務内容によって3つの職種に分けてはどうか(3)急性期病院での介護職員不足による要介護者の増加を食い止めなければならない介護補助者の業務の明確化と適切な処遇を(1)については次のように認識を示した。介護職員は、病院では「看護補助者」と呼ばれ、国家資格者である「介護福祉士」でもその専門性が認められず、看護補助者として、看護師の命令・指示・管理のもとに業務を遂行している。介護保険施設に勤務する介護職員には、処遇改善給付金があるが、病院勤務には処遇改善加算はなく、給与面でも差がある。そのため、医療現場では介護職員が集まらず、看護師がみなし看護補助者として介護業務にあたっているのが実情だ。しかし、看護師は主に看護業務に偏りがちで、介護業務の適正施行に問題がある。そこで、武久氏は「国は病院で勤務してくれる介護専門職を集めることに最大の努力をすべき」と述べ、「病院で勤務する介護職員に対しても処遇改善給付金などの対応をする」および「プライドを持って働けるように、『看護補助者』という職名を、もっと主体性を持った実態に沿ったものにする」ことを提案。介護分野だけでなく、医療分野においても介護福祉士や介護専門職を適切に評価すべきと強調した。(2)の「3つの職種」に関しては、看護補助者のうち、患者の直接的なケアを担う職員は「介護職員」、患者に直接接することのない周辺業務を担う職員は「介護助手」、診療にかかわる事務業務を担う職員は「看護事務」などと、業務内容に応じた名称に変更することを提案。また、介護ケアの国家資格取得者である介護福祉士は急性期病棟に配置すべきと述べた。そのうえで、介護職員を介護福祉士、専門介護職、介護助手と大きく3つに分けることを提案した。「急性期病棟が要介護者を作っている」背景とは(3)に対して、武久氏は「要介護者を作っているのは急性期病棟」と述べた。その理由として、急性期病棟では介護職員が十分に配置されていないことから、認知症状がみられる患者や、歩行不安定な患者に対して身体抑止を行ったり、膀胱留置バルーンカテーテルを挿入したりすることで、介護業務を減らしている実態を指摘。臥床状態が続くことで筋力が低下、廃用が生じ、要介護状態になる因果関係を示した。そのうえで、現在、病院で働く介護職員の2倍以上の介護職員を配置しなければ、安易なバルーン挿入や身体抑制行為はなくならないと予想した。診療報酬上の対応策として病院にも基準介護の導入を人材確保には診療報酬上の対応が必要になる。「看護配置7対1以上」などの基準看護があるが、武久氏は「介護配置〇対1以上」などの基準介護の導入が病院にも必要であるとの見解を示した。ちなみに、2040年には団塊の世代は92歳前後になる。92歳前後は女性の死亡年齢の最頻値で、2040年の要介護者数は806万人と推計されている。介護保険サービス・施設に従事する介護職員だけで、現在より約70万人多い、約280万人が必要といわれる。さらに病院で従事する必要介護職員数を合わせると、もっと多くの介護職員を確保しなければならない。確保の展望はどうか。2040年に20歳になる人口は約80万人。現在、20歳は約120万人だが、今年の介護福祉士国家試験合格者数はわずか6万人で5%を占めている。2040年は人口比で現在以上の数を確保できるはずもない。周辺国も、あと20年もすると若年労働者が減って、日本に来て働いてくれなくなる可能性がある。新たに要介護者になる人を減らさないと、日本の介護がパンクするのは時間の問題となっている。

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第28回 原因は1つとは限らない【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)検査で異常値をみつけたからといって今回の原因とは限らない。2)検査で異常が認められないからといって異常なしとは限らない。3)症状を説明し得るか、結論付ける前に再考を!【症例】81歳男性。意識障害自宅で反応が乏しいところを仕事から帰宅した息子が発見し救急要請。●受診時のバイタルサイン意識20/JCS血圧148/81mmHg脈拍92回/分(整)呼吸18回/分SpO295%(RA)体温36.1℃瞳孔4/3.5 +/+既往歴認知症、高血圧、脂質異常症、便秘、不眠内服薬ドネペジル塩酸塩、トリクロルメチアジド、アトルバスタチンカルシウム水和物、酸化マグネシウム、ゾルピデム酒石酸塩所見顔面の麻痺ははっきりしないが、左上肢の運動障害あり検査の異常が今回の原因とは限らない採血、心電図、X線、CTなどの検査を行い異常がみつかることは、よくあります。特に高齢者の場合にはその頻度は高く、むしろまったく検査に異常が認められないことの方が多いでしょう。しかし、異常を認めるからといって今回の主訴の要因かというとそんなことはありません。腎機能障害、肝機能障害、貧血、電解質異常、中には急を要する場合もありますが、症状とは関係なく検査の異常が認められることはよくあるものです。そのため、検査結果は常に病歴や身体所見、バイタルサインを考慮した結果の解釈が重要です。以前から数値や所見が変わっていなければ、基本的には今回の症状とは関係ないことが多いですよね。慢性腎臓病患者のCr、Hb、心筋梗塞の既往のある患者の心電図など、けっして正常値でありません。急性の変化か否かが、1つのポイントとなりますので、以前の検査結果と比較することを徹底しましょう。検査で異常が認められないから原因ではないとは限らないコロナ禍となり早2年が経過しました。抗原検査、PCRなど何回施行したか覚えていないほど、皆さんも検査の機会があったと思います。抗原陰性だからコロナではない、PCR陰性だからコロナではない、そんなことないことは皆さんもよく理解していると思います。頭痛患者で頭部CTが陰性だからクモ膜下出血ではない、肺炎疑い患者でX線所見陰性だから肺炎ではない、CRPが陰性だから重篤な病気は否定的、CO中毒疑い患者の一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)が正常値だからCO中毒ではないなど、例を挙げたらきりがありません。皆さんも自身で施行した検査結果で異常の1つや2つ、経験ありますよね?!原因が1つとは限らない今回の症例の原因、皆さんは何だと思いますか? もちろんこれだけでは原因の特定は難しいかもしれませんが、高齢男性の急性経過の意識障害で麻痺もあるとなると脳梗塞や脳出血などの脳卒中が考えやすいと思います。低血糖や大動脈解離、痙攣なども“stroke mimics”の代表であるため考えますが、例えばMRI検査を実施し、画像所見が光っていたらどうでしょうか? MRIで高信号な部分があるのであれば、「原因は脳梗塞で決まり」。それでよいのでしょうか?脳梗塞の病巣から症状が完全に説明できる場合にはOKですが、「この病巣で意識障害来すかな…」「こんな症状でるのかなぁ…」こんなことってありますよね。このような場合には必ず「こんなこともあるのだろう」と思考停止するのではなく、他に症状を説明し得る原因があるのではないかと再考する必要があります。この患者さんの場合には、脳梗塞に加え低栄養状態に伴うビタミン欠乏、ゾルピデム酒石酸塩による薬剤性などの影響も考えられました。ビタミンB1欠乏に伴うウェルニッケ脳症は他疾患に合併することはけっして珍しくありません1)。また、高齢者の場合には「くすりもりすく」と考え、常に薬剤の影響を考える必要があります。きちんと薬は飲んでいるのに…患者さんが訴える症状が、内服している薬剤によるものであると疑うのは、どんなときでしょうか?新規の薬剤が導入され、その後からの症状であれば疑うことは簡単です。また、用法、用量を誤って内服してしまった場合なども、その情報が得られれば薬剤性を疑うのは容易ですよね。意外と見落とされがちなのが、腎機能や肝機能の悪化に伴う薬効の増強や電解質異常などです。フレイルの高齢者は大抵の場合、食事摂取量が減少しています。数日の単位では大きな変化はなくても、数ヵ月の単位でみると体重も減少し、食事だけでなく水分の摂取も減少していることがほとんどです。そのような場合に、「ご飯は食べてますか?」と聞くだけでは不十分で、具体的に「何をどれだけ食べているのか」「数ヵ月、半年前と比較してどの程度食事摂取量や体重が変化したか」を確認するとよいでしょう。「ご飯は食べてます」という本人や家族の返答をそのまま鵜呑みにするのではなく、具体的に確認することをお勧めします。骨粗鬆症に対するビタミンD製剤による高Ca血症、利尿薬内服に伴う脚気心、眠剤など、ありとあらゆる薬の血中濃度が増加することに伴う、さまざまな症状が引き起こされかねません。薬の変更、追加がなくても「くすりもりすく」を常に意識しておきましょう。最後に高齢者は複数の基礎疾患を併せ持ち、多数の薬剤を内服しています。そのような患者が急性疾患に罹患すると検査の異常は複数存在するでしょう。時には検査が優先される場面もあるとは思いますが、常にその変化がいつからのものなのか、症状を説明しうるものなのか、いちいち考え検査結果を解釈するようにしましょう。1)Leon G. Clinicians Who Miss Wernicke Encephalopathy Are Frequently Called Defendants. Toxicology Rounds. Emergency Medicine News. 2019;41:p.14.

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血管収縮作用を伴わない経口片頭痛発作治療薬「レイボー錠50mg/100mg」【下平博士のDIノート】第95回

血管収縮作用を伴わない経口片頭痛発作治療薬「レイボー錠50mg/100mg」今回は、セロトニン(5-HT)1F受容体作動薬「ラスミジタンコハク酸塩錠(商品名:レイボー錠50mg/100mg、製造販売元:日本イーライリリー)」を紹介します。本剤は、5-HT1F受容体に選択的に作動する世界初のジタン系薬剤であり、血管収縮作用を伴わないことから、従来の片頭痛発作治療薬が使えなかった患者への効果も期待できます。<効能・効果>本剤は、片頭痛の適応で、2022年1月20日に承認されました。<用法・用量>通常、成人にはラスミジタンとして1回100mgを片頭痛発作時に経口投与します。ただし、患者の状態に応じて1回50mgまたは200mgを投与することができます。頭痛の消失後に再発した場合は、24時間当たりの総投与量が200mgを超えない範囲で再投与可能です。なお、本剤は片頭痛発作時のみに使用し、予防的には使用できません。<安全性>片頭痛患者を対象とした日本人および外国人の臨床試験(併合)において、本剤の服用後48時間以内に発現した副作用は、評価対象4,625例中1,884例(40.7%)に認められました。主な副作用は、浮動性めまい863例(18.7%)、傾眠317例(6.9%)、錯感覚276例(6.0%)、疲労201例(4.4%)、悪心200例(4.3%)、無力症107例(2.3%)、感覚鈍麻96例(2.1%)、筋力低下93例(2.0%)、回転性めまい89例(1.9%)などでした。なお、重大な副作用としてセロトニン症候群(0.1%未満)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.この薬は、セロトニン受容体に作用して片頭痛を改善します。片頭痛発作が起こり始めたら、我慢せず早めに服用しましょう。発作の予防には使用しないでください。2.服用後にいったん片頭痛が治まり、もし再び痛みが戻ってきた場合、再度このお薬を服用することができます。その場合は、24時間で合計200mgを超えないようにしてください。3.眠気、めまい等が現れることがあるので、本剤服用中は自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事しないようにしてください。4.この薬は苦味を感じることがあるため、噛んだり割ったり砕いたりせず、そのまま服用してください。5.飲酒によって鎮静作用などが強まる可能性があるので、ご注意ください。 <Shimo's eyes>本剤は、血液脳関門を通過し、5-HT1F受容体に選択的に結合する世界初のジタン系薬剤です。中枢での疼痛情報の伝達を抑制し、末梢では三叉神経からの神経原性炎症や疼痛伝達に関わるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)やグルタミン酸などの放出を抑制することで、片頭痛発作に対する作用を示すと考えられています。現在、片頭痛の急性期治療薬として、軽度~中等度の片頭痛発作に対してはアセトアミノフェン、NSAIDsなどが使用され、中等度以上の片頭痛発作に対してはトリプタン系薬剤などが使用されています。2000年以降、トリプタン系薬剤の登場により画期的に進歩しましたが、トリプタン系薬剤は有効性を示さない症例も認められます。また、トリプタン系薬剤の持つ血管収縮作用により、脳梗塞や心筋梗塞、血管狭窄などがある脳血管疾患の患者には禁忌となっています。これに対し、本剤は血管収縮作用を示さないことから、脳心血管疾患の既往または合併症を有するなどでトリプタン系薬剤が使えなかった片頭痛患者にも使用できます。効果発現は投与30分~1時間後と比較的早期であり、服用24時間後の頭痛消失の持続において、プラセボ群との間に有意差が認められました。また、片頭痛患者を対象とした外国第III相CENTURION試験において、トリプタン系薬剤では効果不十分であった患者集団で服用2時間後に頭痛消失および頭痛改善が認められた割合は、本剤投与群とプラセボ群との間に有意差が認められました。一方で、本剤は中枢神経抑制作用を有することから、とくに高齢者では浮動性めまい、傾眠などによる転倒に注意が必要です。また、本剤を服用中の飲酒は中枢神経抑制作用を強める恐れがあり、なるべく避けるべきでしょう。SSRIやSNRI、三環系抗うつ薬などのセロトニン作動薬やMAO阻害薬などは、セロトニン症候群の発症リスクから併用注意となっています。今後、脳心血管疾患を有する患者には本剤を使用し、中枢神経抑制作用を有する薬剤を使用している患者では、トリプタン系薬剤を考慮するなどの薬剤選択が考えられます。片頭痛は日常生活および社会活動に大きな支障を来す疾患のため、生活習慣の改善を踏まえたサポートを心掛けましょう。参考1)PMDA 添付文書 レイボー錠50mg/レイボー錠100mg

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REAL-CADサブ解析で日本人の2次予防に最適なLDL-C値が明らかに/日本循環器学会

 LDLコレステロール(LDL-C)値について、“The lower, the better(低ければ低いほど良い)”という考え方があるが、日本人の冠動脈疾患(CAD)患者には必ずしも当てはまらないかもしれない。今回、日本人の安定CAD患者における最適なLDL-C目標値を検討すべく、REAL-CADの新たなサブ解析を行った結果を、第86回日本循環器学会学術集会(2022年3月11~13日)で佐久間 理吏氏(獨協医科大学病院 心臓・血管内科/循環器内科)が発表した。REAL-CADサブ解析により“The lower, The better”がアジア人で初めて検証 REAL-CADは、2010年1月31日~2013年3月31日に登録された20~80歳の日本人安定CAD患者の男女1万1,105例を対象に、ピタバスタチンによる積極的脂質低下療法と通常療法を比較したランダム化試験。ピタバスタチン1mg/日を1ヵ月以上服用するrun-in期間後、LDL-C値120mg/dL未満の参加者をピタバスタチン1mg群と4mg群に1:1でランダム化し、6ヵ月後のLDL-C値と5年間の心血管アウトカムを評価した。1次エンドポイントは、心血管イベント(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳梗塞、緊急入院を要する不安定狭心症のいずれか)の発生。REAL-CAD試験により、ピタバスタチン4mg投与による積極的治療のイベント抑制効果が認められ、アジア人において“The lower, The better”が検証された初のエビデンスとなった。 今回のREAL-CADの新たなサブ解析では、欧米人に比べて日本人の安定CAD患者は心血管リスクが低く、心血管イベント発生率も低いことを踏まえ、LDL-C値をそれ以上下げても心血管イベントの発症に影響しない最適な目標値、すなわち「閾値」の調査が行われた。今回のREAL-CADサブ解析では、人為的な閾値(LDL-C:0mg/dL)を共変量に含めた多変量Coxモデルを用いて、ハザード比(HR)が一定とされるLDL-C値の閾値を40~100mg/dLまで10mg/dL刻みで設定して分析を行い、モデルの適合性を対数尤度で評価した。 REAL-CADサブ解析で“The lower, The better”を検証した主な結果は以下のとおり。・ベースラインの年齢中央値は68.1±8.3歳、男性が82.8%、65歳以上が67.7%を占めた。・平均LDL-C値は、ベースラインで87.8±18.8mg/dL、6ヵ月後で81.1±21.6mg/dL(ベースラインから-6.6±19.1mg/dL)だった。・1次エンドポイント(心血管イベントの複合発生率)では、LDL-Cの閾値を70mg/dLと設定したときモデルの適合度が最も良好であった。このモデルにおいて、LDL-Cが10mg/dL増加した場合の調整HRは1.07(95%信頼区間:1.01~1.13)だった。・上記モデルによって標準化された1次エンドポイントの5年リスクは、LDL-C値が70mg/dLに低下するまでは単調に減少し、それ以下になるとLDL-C値とは無関係に減少することが明らかになった。 日本人の安定CAD患者において、心血管イベントの2次予防のためにスタチンを投与する場合、LDL-Cの閾値は70mg/dLが適切である可能性が示された。佐久間氏は「本結果は、新しい脂質低下戦略を提供するかもしれない」と発表を締めくくった。

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虚血性脳卒中の血管内治療中のアスピリン・未分画ヘパリンの安全性と有効性の検討(MR CLEAN-MED)(解説:中川原譲二氏)

 アスピリンおよび未分画ヘパリンは、虚血性脳卒中の血管内治療において、再灌流とアウトカムを改善するためにしばしば使用される。しかし、その適応に関する抗血栓薬の効果とリスクは明らかではなかった。そこで、虚血性脳卒中患者の血管内治療中に開始した静脈内アスピリンと未分画ヘパリンの両方あるいは片方の安全性と有効性を評価した。オランダ15施設で非盲検無作為化試験を実施 MR CLEAN-MED研究グループは、オランダ15ヵ所の医療センターを通じて、非盲検多施設共同無作為化比較試験を2×3要因デザインにて実施した。登録被験者は、発症から6時間以内で血管内治療が可能だった前方循環系の主幹脳動脈閉塞による虚血性脳卒中の18歳以上の患者とした。適格基準はNIHSSスコアが2以上で、CTまたはMRIで頭蓋内出血患者は除外した。Webベースの無作為化法にてブロック化と登録施設の層別化を行い、被験者を無作為に1対1の割合で周術期静脈内アスピリン(300mgボーラス)投与群またはアスピリン非投与群に割り付け、また1対1対1の割合で未分画ヘパリン中等量(5,000 IUボーラス、その後1,250 IU/時を6時間)投与群、同低量(5,000 IUボーラス、その後500 IU/時を6時間)投与群、未分画ヘパリン非投与群に割り付けた。主要アウトカムは、90日時点の修正Rankinスケール(mRS)スコアとした。安全性に関する主要アウトカムは、症候性頭蓋内出血とした。解析はintention to treatベースで行い、治療効果は、ベースライン予後因子で補正後のオッズ比(OR)または共通(common)ORとした。症候性頭蓋内出血のリスクがアスピリン・未分画ヘパリンで高率 2018年1月22日~2021年1月27日にかけて、被験者数は663例で、同意を得た人または同意前に死亡した628例(95%)を、修正ITT解析の対象とした。2021年2月4日時点で、データの非盲検化と解析の結果、試験運営委員会は新たな被験者の組み入れを停止し、試験は安全性への懸念から中止となった。症候性頭蓋内出血のリスクは、非アスピリン群(7%、23/318例)よりもアスピリン投与への割付群(14%、43/310例)で高率だった(補正後OR:1.95、95%信頼区間[CI]:1.13~3.35)。同様に、非未分画ヘパリン群(7%、22/296例)よりも未分画ヘパリン投与への割付群(13%、44/332例)でリスクが高かった(1.98、1.14~3.46)。有意差は示されなかったが、mRSスコアを悪化させる傾向が、アスピリン群(共通OR:0.91、95%CI:0.69~1.21)と未分画ヘパリン群(0.81、0.61~1.08)のいずれにおいても認められた。 血性脳卒中への血管内治療において、周術期の静脈内アスピリンまたは未分画ヘパリン投与はいずれも、症候性頭蓋内出血リスクを増大し、機能的アウトカムの有益な効果に関するエビデンスはない。虚血性脳卒中の血管内治療手技の再考を促す 虚血性脳卒中の血管内治療において、アスピリンおよび未分画ヘパリンは、治療手技に伴う血栓形成を抑制し、再灌流を促進する薬剤としてしばしば使用されてきた。MR CLEAN-MED研究グループによって実施された本試験において、周術期の静脈内アスピリンまたは未分画ヘパリン投与はいずれも、症候性頭蓋内出血リスクを2倍に増加させ、機能的アウトカム(90日時点のmRSスコア)を悪化させる傾向が認められ、有益な効果に関するエビデンスは確認されなかった。本試験は、試験運営委員会の解析により安全性への懸念から途中中止となったが、試験が継続された場合には、90日時点のmRSスコアを有意に悪化させるといった結果がもたらされた可能性さえある。 虚血性脳卒中に対する血管内治療は、わが国でも標準的治療として普及しつつあるが、本試験の結果は、血管内治療手技中の抗血栓薬の使用方法について注意喚起をもたらし、安全性と有効性の観点から再考を促すものと思われる。

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