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金子英弘のSHD intervention State of the Art 第2回

左心耳閉鎖デバイスWatchmanの真の実力を検証!!心房細動に伴う心原性脳梗塞脳梗塞予防として左心耳閉鎖術は欧州ではすでに標準的治療として行われています。一方、PROTECT-AF試験1)、PREVAIL試験2)など抗凝固療法とのランダム化比較試験のデータはありましたが、実臨床に基づく大規模なデータの報告はありませんでした。今回、ヨーロッパ、ロシア、中東の13ヵ国47施設が参加し、左心耳閉鎖デバイスとして現在、最も広く普及しているデバイスであるWatchman(ボストン・サイエンティック社)の実臨床における手技成功率や周術期の安全性について評価したEWOLUTION試験3)がEuropean Heart Journal誌に報告されました。画像を拡大する登録された1,021症例の平均年齢は73歳で6割が男性、高血圧や糖尿病、血管疾患の既往を高率に有し、34%の症例はうっ血心不全を合併しています。そして約半数の症例で一過性脳虚血発作、脳梗塞、あるいは出血性脳梗塞の既往が存在しました。全体の62%は既存の合併症や低アドヒアランス、出血のハイリスクなどのために抗凝固療法に不適とされ、Watchman植込み術の適応となった症例でした。患者背景として、PROTECT-AF試験(CHADS2スコア平均2.2、HA2DS2-VAScスコア平均3.4)、PREVAIL試験(CHADS2スコア平均2.6、HA2DS2-VAScスコア平均4.0)と比較し、EWOLUTION試験ではCHADS2スコア平均2.8、HA2DS2-VAScスコア平均4.5であり、より脳梗塞リスクの高い症例が集まっています。さらにHAS-BLEDスコア3以上の(抗凝固療法に伴う)出血リスクの高い症例もPROTECT-AF試験では20%、PREVAIL試験では30%なのに対して、EWOLUTION試験では約40%含まれ、抗凝固療法が行いづらい患者群であることもわかります。このようにこれまでの試験と比較して、EWOLUTION試験では実臨床を反映してハイリスクの患者群を対象としました。画像を拡大する結果としてWatchmanデバイスは98.5%の症例で成功裏に植込まれました。PROTECT-AF試験での手技成功率は90.9%であったことから、植込み技術の経時的な向上によって、ハイリスク症例を対象としても高い手技成功率を達成できることがわかります。手技に伴う重大な合併症としては、心嚢液貯留が5例(そのうち1例が心タンポナーデ)報告されていますが、この頻度もPROTECT-AF試験の約5%からは大きく改善されており、経験の蓄積により手技の安全性も高まることが示唆されます。そして特筆すべき点として、本研究では上記のように抗凝固療法不適と判断されてWatchman植込み術が行われた症例が6割を超えており、術後も7割以上の症例で抗凝固療法が行われていませんでした(6%の症例では抗血小板剤を含め一切の抗血栓療法が行われていません)。しかしながら、術後30日以内の脳梗塞発症はわずか3例(0.3%)ときわめて稀であり、一方で輸血を要する大出血は19例(2%)に認められました。この結果を踏まえて今後はWatchman植込み術後の至適抗血栓療法のプロトコルを考えていく必要があります。左心耳閉鎖術に関して、実臨床の患者群を対象としては初の大規模多施設研究であるEWOLUTION試験のインパクトは大きく、この結果は「Watchmanが実臨床において安全かつ成功裏に植込めるデバイスであり、抗凝固療法が困難な心房細動症例における脳梗塞予防の標準的治療として妥当である」との見解を支持するものだと考えます。日本人を含むアジア人は欧米人と比較して人種的に出血のリスクが高く、左心耳閉鎖術の恩恵を受ける可能性がある患者さんも多いと考えられます。本治療の安全かつ迅速なわが国への導入が期待されます。1)Holmes DR, et al. Lancet. 2009;374:534-542.2)Holmes DR, et al. J Am Coll Cardiol. 2014;64:1-12.3)Boersma LV, et al. Eur Heart J. 2016 Jan 27. [Epub ahead of print]

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CYP2C19遺伝子異型がクロピドグレルの併用効果に影響/JAMA

 軽度の脳梗塞または一過性脳虚血発作(TIA)を呈した患者で、CYP2C19機能欠失型対立遺伝子キャリアの患者は、クロピドグレルとアスピリンを併用しても、脳卒中の発症リスクはアスピリンのみの投与と同等であることが示された。中国・首都医科大学のYilong Wang氏らが、同国の患者2,933例を対象に行った無作為化比較試験の結果、明らかにした。これまで、CYP2C19遺伝子異型と臨床的アウトカムについてのデータは限定的であった。JAMA誌オンライン版2016年6月23日号掲載の報告。CYP2C19対立遺伝子(*2, *3, *17)を持つ2,933例について試験 研究グループは2010年1月2日~2012年3月20日にかけて、中国国内73施設で急性軽度脳梗塞またはTIAを発症した、3つのCYP2C19対立遺伝子(*2, *3, *17)を有する2,933例を対象に試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、一方の群にはクロピドグレルとアスピリンを、もう一方の群にはアスピリンのみを投与した。CYP2C19機能欠失型対立遺伝子が、クロピドグレルによる臨床的アウトカムに与える影響の有無について検証した。 主要有効性アウトカムは新たな脳卒中の発症だった。副次的有効性アウトカムは、新たな血管イベントの複合(虚血性脳卒中、出血性脳卒中、心筋梗塞、血管死)だった。また、安全性アウトカムとして出血について評価した。複合血管イベント発生リスクもクロピドグレル併用群で低下せず 被験者の66.4%が男性で、平均年齢は62.4歳だった。被験者のうちCYP2C19機能欠失型対立遺伝子(*2, *3)キャリアは58.8%(1,726例)で、非キャリアは41.2%(1,207例)だった。 90日後の新たな脳卒中発症率は、非キャリア群ではクロピドグレル併用群が6.7%と、アスピリン単独群の12.4%に比べ有意に低率だった(ハザード比[HR]:0.51、95%信頼区間[CI]:0.35~0.75)。一方、CYP2C19機能欠失型対立遺伝子キャリア群では、クロピドグレル併用群の同発症率は9.4%に対し、アスピリン単独群は10.8%と、両群で有意差はなかった(HR:0.93、95%CI:0.69~1.26)。 同様の結果は副次的有効性複合アウトカムについても認められた。非キャリア群では、クロピドグレル併用群の同アウトカム発生率は6.7%、アスピリン単独群は12.5%と有意差が認められたのに対し(HR:0.50、95%CI:0.34~0.74)、キャリア群では、それぞれ9.4%、10.9%と有意な差は認められなかった(同:0.92、0.68~1.24、交互作用p=0.02)。 なお出血率については、非キャリア群とキャリア群で同等だった。クロピドグレル併用群の発生率はキャリア群2.3%、非キャリア群2.5%に対して、アスピリン単独群は1.4%、1.7%だった(交互作用p=0.78)。

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乾癬とうつ病はどう関連する?

 乾癬は、うつ病のリスク因子である。うつ病もまた、乾癬のトリガーや悪化要因となる可能性があるが、乾癬とうつ病との関係は、いまだ完全には明らかにされていない。そこで米国・ニューヨーク大学のCohen BE氏らでは、米国民における乾癬と大うつ病の関係性を調査した。JAMA Dermatology誌2016年1月号に掲載の報告。 本研究は2009~12年の米国国民健康栄養調査(NHANES)への参加者を対象とした集団ベース研究である。大うつ病の診断はPatient Health Questionnaire-9(PHQ-9)を用いた。  主な結果は以下のとおり。・研究対象となった米国市民1万2,382人のうち、351例(2.8%)が乾癬、968例(7.8%)が大うつ病と診断された。・351例の乾癬患者のうち58例(16.5%)が大うつ病の診断基準を満たした。・乾癬の既往患者は、乾癬の既往がない患者と比較して平均PHQ-9スコアが有意に高かった(4.54 [5.7] vs.3.22 [4.3]、p<0.001)。・性別、年齢、人種、BMI、身体活動、喫煙歴、アルコール摂取、心筋梗塞(MI)の既往、脳梗塞の既往、糖尿病の既往の調整後においても、乾癬と大うつ病との間に有意な関連性があることが認められた(オッズ比[OR] 2.09 [95%CI:1.41~3.11]、p<0.001)。・乾癬の既往と心血管イベントの既往(とくにMIまたは脳梗塞)を有する患者との相互作用項を含む解析においては、相乗的な大うつ病のリスク上昇は示されなかった(乾癬とMI: OR 1.09 [95 % CI:0.28~3.60]、p=0.91;乾癬と脳卒中:OR 0.67 [95%CI:0.12~3.66]、p=0.63)。・多変量調整モデルにおける大うつ病のリスクは、限局型の乾癬と汎発型の乾癬の患者間で有意差は認められなかった(OR 0.66 [95%CI:0.18~2.44]、p=0.53)。 以上の結果より、自己申告に基づく乾癬の既往は、併存疾患による差の調整後においても、評価ツール(PHQ-9)による大うつ病の診断との間に独立した相関関係が認められた。ただし、心血管イベントの既往は乾癬患者の大うつ病リスクを増加させなかった。また、乾癬の重症度は、大うつ病のリスクとは無関係であった。したがって重症度に関係なく、乾癬を有するすべての患者は、大うつ病のリスクを有する可能性があると考えられる。

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Vol. 4 No. 4 心房細動患者におけるDAPTを考える

掃本 誠治 氏熊本大学大学院生命科学研究部循環器内科学はじめに高齢化で増加している心房細動には、抗凝固薬が必須である。経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行症例、心筋梗塞、それぞれに合併する心房細動頻度は、海外では約10%、本邦では6~8%程度と報告されている1-3)。心房細動とステントを伴うPCIを合併すれば、DAPT+抗凝固薬の3剤併用と考えるが、出血リスクが上昇する4-6)。心房細動合併PCIあるいは急性冠症候群(ACS)患者に対する抗凝固薬と抗血小板薬の組み合わせは、原疾患による血栓塞栓症リスクと抗血栓薬による出血リスクの有効性と安全性を考慮することが重要である。WOEST試験WOEST試験7)は、心房細動や機械弁留置後に抗凝固薬を服用する患者で、冠動脈ステント挿入後、クロピドグレルと抗凝固薬の2剤併用群[経口抗凝固薬(ワルファリン)+クロピドグレル284例]と、抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)と抗凝固薬の3剤併用群(ワルファリン+クロピドグレル+アスピリン289例)で、安全性と有効性を比較した試験で、平均年齢70歳、男性80%、抗凝固薬投与の理由として、心房細動が2剤併用群で69.5%、3剤併用群では69.2%、機械弁はそれぞれ10.2%と10.7%だった。結果として、1年間の出血イベントは、3剤併用群が有意に高値だった(3剤44.4% vs. 2剤19.4%)。また心血管イベントは、2剤併用群が有意に低かった(複合エンドポイント;1次エンドポイント+脳卒中+全死亡+心筋梗塞+ステント血栓症+標的血管再血行再建術;3剤併用群17.6% vs. 2剤併用群11.1%)。抗凝固薬を服用している患者でステント留置術を受けたとき、アスピリンを止めてチエノピリジン系抗血小板薬単剤と抗凝固薬の合計2剤にするというこれまでの発想とは異なることが不可能ではないことを示した意義は大きい。また、心房細動合併のステント留置術後の患者において、CREDO-Kyoto PCI/CABG Registryコホート2が日本の実情を表している3)。2005年~2007年、26施設、1,057例、退院時ワルファリン群506例(48%)、非ワルファリン群551例(52%)を5年間フォローし、脳卒中(虚血性、出血性)、全死亡、心筋梗塞、大出血を評価。非ワルファリン群は、高齢、急性心筋梗塞、頭蓋内出血、貧血が多く、男性、薬剤溶出性ステント(DES)、末梢動脈疾患(PAD)が少なかった。そもそも、心房細動があってもDAPTで上記の因子が複数あれば、臨床現場においてはワルファリンを躊躇するのかもしれない。脳卒中は、ワルファリン群と非ワルファリン群で有意差がなく、虚血性、出血性でも有意差はみられず、心筋梗塞は、ワルファリン群で少なかった。プロトロンビン時間国際標準比(PT-INR)治療域内時間(TTR)が65%以上群では、65%未満群に比し脳卒中発症率が低値だった。非弁膜症性心房細動(NVAF)ACSやPCI直後ではない非弁膜症性心房細動(NVAF)患者を対象として、本邦からJAST試験においてNVAF患者へのアスピリン150~200mg/日投与は、大出血が多く、無効と報告されている8)。海外では、ACTIVE W試験において、脳卒中リスクの高い心房細動患者に対し(17.4%に心筋梗塞既往)、DAPT(クロピドグレル+アスピリン)は、OAC(経口抗凝固薬)に比し心血管イベント抑制効果を示せなかった9)。さらに、NVAFでワルファリン不適合者に対するアスピリンとクロピドグレルのDAPTはアスピリン単独に比し脳梗塞抑制効果がみられたが、心筋梗塞死、血管死は差がなく、大出血イベントが多かった10)。以上の結果は、心房細動には抗血小板薬より抗凝固薬が必要であることを示している。ワルファリンのエビデンス冠動脈疾患には低用量アスピリンを終生投与するのが現在のガイドラインであるが、ワルファリンは50年以上日常臨床で使用されている薬剤で、急性心筋梗塞後のワルファリン vs. プラセボの大規模臨床研究でワルファリンの有効性が示されている11)。さらに心筋梗塞後、アスピリン vs. ワルファリン vs. アスピリン+ワルファリンの3群での比較研究では、アスピリン+ワルファリン併用群、ワルファリン群、アスピリン群の順に心血管イベント抑制効果が優れていた12)。しかし、この試験でのPT-INRは2.8~4.2と現在の実臨床より高値で設定されており、出血合併症が多かったこともあり推奨されなかった。安定冠動脈疾患を合併した心房細動患者のデンマークでのコホート研究では、ワルファリンに抗血小板薬を追加しても心血管イベントリスクは減少せずに出血リスクが増加した13)。以上は、出血リスクが低ければ、抗凝固薬が冠動脈疾患にも有効であることを示唆するものである。実臨床においては、本来抗凝固療法の適応でありながら、あえてコントロール不要の抗血小板薬を投与して、ワルファリンが躊躇される症例が存在した。そのようななかで、脳出血が少なく、PT-INRのコントロールが不要なNOACの登場は実臨床においては魅力的である。心房細動患者におけるACS合併またはステント留置時のガイドライン欧州心臓病学会からACS合併あるいはPCI施行の心房細動患者での抗血栓薬のjoint consensus documentが2014年に発表された14)。(1)脳卒中リスク CHA2DS2-VAScスコア(2)出血リスク HAS-BLEDスコア(3)病態 安定冠動脈疾患か急性冠症候群(待機的か緊急か)(4)抗血栓療法 どの抗血栓薬をどのくらい使用するか基本的には、出血リスクの高い3剤併用(DAPT+抗凝固薬)の期間を上記の条件にしたがって層別化し、可能なら抗血小板薬単剤+抗凝固薬に減量し、12か月以上では、左冠動脈主幹部病変などを除き可能なら抗凝固薬単剤への切り替えが推奨されている。また、VKAはTTR70%以上が推奨されており、VKAとクロピドグレルand/orアスピリンの症例ではINRは2.0~2.5が推奨されている。また、アクセス部位は橈骨動脈穿刺が推奨されている。AHA/ACC/HRSの心房細動ガイドライン2014でも、PCI後CHA2DS2-VAScスコアが2点以上では、慢性期にはアスピリンを除いて、抗凝固薬+抗血小板薬単剤が合理的であると記載されている15)。現在進行中の試験ACSあるいはPCIを受けた心房細動患者に対するNOACの臨床試験が進行中である(本誌p16の表を参照)16)。 RE-DUAL PCI試験は、ステント留置を伴うPCIを受けた非弁膜性心房細動患者を対象に、ダビガトランの有効性および安全性を評価する試験である。PIONEER AF-PCI試験は、ACS合併心房細動患者において、抗血小板薬に追加するリバーロキサバンの用量を検討する試験で、アピキサバンでも同様の試験が進行している。これらはステント留置術後急性期からの試験だが、本邦ではステント留置術後慢性安定期の心房細動合併患者を対象としたOAC-ALONE試験やAFIRE試験が進行しており、結果が待たれるところである。今後現在進行中の試験から新たなエビデンスが創出されるが、個々の患者において最適な治療法を見つけ出す努力は常に必要とされる(表)。表 ステント留置AF患者における抗血栓療法画像を拡大する文献1)Kirchhof P et al. Management of atrial fibrillation in seven European countries after the publication of the 2010 ESC Guidelines on atrial fibrillation: primary results of the PREvention oF thromboemolic events--European Registry in Atrial Fibrillation (PREFER in AF). Europace 2014; 16: 6-14.2)Akao M et al. Current status of clinical background of patients with atrial fibrillation in a community-based survey: the Fushimi AF Registry. J Cardiol 2013; 61: 260-266.3)Goto K et al. Anticoagulant and antiplatelet therapy in patients with atrial fibrillation undergoing percutaneous coronary intervention. Am J Cardiol 2014; 114: 70-78.4)Toyoda K et al. Dual antithrombotic therapy increases severe bleeding events in patients with stroke and cardiovascular disease: a prospective, multicenter, observational study. Stroke 2008; 39: 1740-1745.5)Uchida Y et al. Impact of anticoagulant therapy with dual antiplatelet therapy on prognosis after treatment with drug-eluting coronary stents. J Cardiol 2010; 55: 362-369.6)Sørensen R et al. Risk of bleeding in patients with acute myocardial infarction treated with different combinations of aspirin, clopidogrel, and vitamin K antagonists in Denmark: a retrospective analysis of nationwide registry data. Lancet 2009; 374: 1967-1974.7)Dewilde WJ et al. Use of clopidogrel with or without aspir in in patients taking oral anticoagulant therapy and under going percutaneous coronary intervention: an openlabel, randomised, controlled trial. Lancet 2013; 381: 1107-1115.8)Sato H et al. Low-dose aspirin for prevention of stroke in low-risk patients with atrial fibrillation: Japan Atrial Fibrillation Stroke Trial. Stroke 2006; 37: 447-451.9)Connolly S et al. Clopidogrel plus aspirin versus oral anticoagulation for atrial fibrillation in the Atrial fibrillation Clopidogrel Trial with Irbesartan for prevention of Vascular Events (ACTIVE W): a randomised controlled trial. Lancet 2006; 367: 1903-1912.10)Connolly SJ et al. Effect of clopidogrel added to aspirin in patients with atrial fibrillation. N Engl J Med 2009; 360: 2066-2078.11)Smith P et al. The effect of warfarin on mortality and reinfarction after myocardial infarction. N Engl J Med 1990; 323: 147-152.12)Hurlen M et al. Warfarin, aspirin, or both after myocardial infarction. N Engl J Med 2002; 347: 969-974.13)Lamberts M et al. Antiplatelet therapy for stable coronary artery disease in atrial fibrillation patients taking an oral anticoagulant: a nationwide cohort study. Circulation 2014; 129: 1577-1585.14)Lip GY et al. Management of antithrombotic therapy in atrial fibrillation patients presenting with acute coronary syndrome and/or undergoing percutaneous coronary or valve interventions: a joint consensus document of the European Society of Cardiology Working Group on Thrombosis, European Heart Rhythm Association (EHRA), European Association of Percutaneous Cardiovascular Interventions (EAPCI) and European Association of Acute Cardiac Care (ACCA) endorsed by the Heart Rhythm Society (HRS) and Asia-Pacific Heart Rhythm Society (APHRS). Eur Heart J 2014; 35: 3155-3179.15)January CT et al. 2014 AHA/ACC/HRS Guideline for the Management of Patients With Atrial Fibrillation: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines and the Heart Rhythm Society. Circulation 2014; 130: 2071-2104.16)Capodanno D et al. Triple antithrombotic therapy in atrial fibrillation patients with acute coronary syndromes or undergoing percutaneous coronary intervention or transcatheter aortic valve replacement. EuroIntervention 2015; 10: 1015-1021.

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結節性多発動脈炎〔PAN: polyarteritis nodosa〕

1 疾患概要■ 概念・定義主として中型の筋性動脈が侵される壊死性動脈炎である。国際的な血管炎の分類であるChapel Hill Consensus Conference 2012分類(CHCC2012)1)では、血管炎を障害される血管のサイズにより分類しており、本疾患はmedium vessel vasculitis(中型血管炎)に分類されている。剖検時に動脈に沿って粟粒大から豌豆大の小結節が多発して認められる場合があり、KussmaulとMaierにより結節性動脈周囲炎として1866年に提唱された。現在では、結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PAN)の呼称が一般的に用いられている。本症の壊死性動脈炎は、肝臓、胆嚢、脾臓、消化管、腸間膜、腎泌尿生殖器、皮膚、骨格筋、中枢神経系、心臓、肺など全身に認め、とくに血管の分岐部が侵されやすい。肺では気管支動脈に病変を認め、肺動脈が侵されることはまれである。原則として腎糸球体は侵されない。■ 疫学50~60歳に好発し、男女比では男性にやや多い。厚生労働省より結節性動脈周囲炎として、特定疾患医療受給者証を交付された患者数は2011年の時点でおよそ9,000人であるが、この中には顕微鏡的多発血管炎の患者も含まれているので、PANの患者が実際にどのくらい存在するかは不明である。しかしながら、PANの患者数は顕微鏡的多発血管炎に比べて圧倒的に少なく、500人未満と推定される。2006年以降、PANと顕微鏡的多発血管炎は別個に登録されるようになったため、今後その実数が明らかになるものと思われる。■ 病因不明である。アデノシンデアミナーゼ2(adenosine deaminase 2: ADA2)の一塩基多型による先天的機能欠損が、小児期のPAN類似血管症の原因となることが報告されている2、3)が、成人例でADA2の量的または質的異常があるとの報告はない。本疾患に特徴的な自己抗体は知られていない。■ 症状発熱や全身倦怠感、体重減少のほか、急速進行性腎障害、高血圧、中枢神経症状、消化器症状、紫斑、皮膚潰瘍、末梢神経障害などの多彩な症状を呈する。■ 分類本症の組織学的病期はArkinにより、I期:変性期、II期:炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期に分類されている(Arkin分類)。変性期には内膜から中膜にかけて、浮腫とフィブリノイド変性が認められる。炎症期には中膜から外膜にかけて、好中球、時に好酸球、リンパ球、形質細胞が浸潤し、フィブリノイド壊死は血管全層に及ぶ。その結果、内弾性板は破壊され、断裂、消失する。炎症期が過ぎると、組織球や線維芽細胞が外膜より侵入し、肉芽期に入る。肉芽期には内膜増殖が起こり、血管内腔が閉塞するほど高度になることがある。瘢痕期では、炎症細胞浸潤はほとんどみられず、血管壁は線維性組織に置換される。このような場合でも、弾性線維染色を行うと内弾性板の断裂が認められ、診断に有用である。また、これら各期の病変が、同一症例内に同時期に混在して認められることも特徴である。■ 予後本症の予後は急性期の治療によるところが大きい。副腎皮質ステロイドによる治療を基本としたフランスの臨床研究では、57例中48例(84.2%)が初期治療により寛解し、残りの9例中8例も免疫抑制薬の併用などにより寛解導入されている4)。しかしながら、寛解導入された56例中、26例(46.4%)で再燃しており、再燃率は比較的高いといえる。5年生存率は90%強である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)厚生労働省指定難病診断基準(難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)に基づいて行われる(表1)。重症度に応じて、1度~5度に分類される(表2)。表1 結節性多発動脈炎の診断基準(厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班2006年改訂)【主要項目】1) 主要症候(1)発熱(38℃以上、2週以上)と体重減少(6ヵ月以内に6kg以上)(2)高血圧(3)急速に進行する腎不全、腎梗塞(4)脳出血、脳梗塞(5)心筋梗塞、虚血性心疾患、心膜炎、心不全(6)胸膜炎(7)消化管出血、腸閉塞(8)多発性単神経炎(9)皮下結節、皮膚潰瘍、壊疽、紫斑(10)多関節痛(炎)、筋痛(炎)、筋力低下2) 組織所見中・小動脈のフィブリノイド壊死性血管炎の存在3) 血管造影所見腹部大動脈分枝(とくに腎内小動脈)の多発小動脈瘤と狭窄・閉塞4) 判定(1)確実(definite)主要症候2項目以上と組織所見のある例(2)疑い(probable)(a)主要症候2項目以上と血管造影所見の存在する例(b)主要症候のうち(1)を含む6項目以上存在する例5) 参考となる検査所見(1)白血球増加(10,000/μL以上)(2)血小板増加(400,000/μL以上)(3)赤沈亢進(4)CRP強陽性6) 鑑別診断(1)顕微鏡的多発血管炎(2)多発血管炎性肉芽腫症(旧称:ウェゲナー肉芽腫症)(3)好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(旧称:アレルギー性肉芽腫性血管炎)(4)川崎病動脈炎(5)膠原病(SLE、RAなど)(6)IgA血管炎(旧称:紫斑病性血管炎)【参考事項】(1)組織学的にI期:変性期、II期:急性炎症期、III期:肉芽期、IV期:瘢痕期の4つの病期に分類される。(2)臨床的にI、II期病変は全身の血管の高度の炎症を反映する症候、III、IV期病変は侵された臓器の虚血を反映する症候を呈する。(3)除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが、特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。表2 結節性多発動脈炎の重症度分類●1度ステロイドを含む免疫抑制薬の維持量ないしは投薬なしで1年以上病状が安定し、臓器病変および合併症を認めず、日常生活に支障なく寛解状態にある患者(血管拡張剤、降圧剤、抗凝固剤などによる治療は行ってもよい)。●2度ステロイドを含む免疫抑制療法の治療と定期的外来通院を必要とするも、臓器病変と合併症は併存しても軽微であり、介助なしで日常生活に支障のない患者。●3度機能不全に至る臓器病変(腎、肺、心、精神・神経、消化管など)ないし合併症(感染症、圧迫骨折、消化管潰瘍、糖尿病など)を有し、しばしば再燃により入院または入院に準じた免疫抑制療法ないし合併症に対する治療を必要とし、日常生活に支障を来している患者。臓器病変の程度は注1のa~hのいずれかを認める。●4度臓器の機能と生命予後に深く関わる臓器病変(腎不全、呼吸不全、消化管出血、中枢神経障害、運動障害を伴う末梢神経障害、四肢壊死など)ないしは合併症(重症感染症など)が認められ、免疫抑制療法を含む厳重な治療管理ないし合併症に対する治療を必要とし、少なからず入院治療、時に一部介助を要し、日常生活に支障のある患者。臓器病変の程度は注2のa~hのいずれかを認める。●5度重篤な不可逆性臓器機能不全(腎不全、心不全、呼吸不全、意識障害・認知障害、消化管手術、消化・吸収障害、肝不全など)と重篤な合併症(重症感染症、DICなど)を伴い、入院を含む厳重な治療管理と少なからず介助を必要とし、日常生活が著しく支障を来している患者。これには、人工透析、在宅酸素療法、経管栄養などの治療を要する患者も含まれる。臓器病変の程度は注3のa~hのいずれかを認める。注1:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により軽度の呼吸不全を認め、PaO2が60~70Torr。b.NYHA2度の心不全徴候を認め、心電図上陳旧性心筋梗塞、心房細動(粗動)、期外収縮あるいはST低下(0.2mV以上)の1つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が2.5~4.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.09~0.2の視力障害。e.拇指を含む2関節以上の指・趾切断。f.末梢神経障害による1肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による軽度の片麻痺(筋力6)。h.血管炎による便潜血反応中等度以上陽性、コーヒー残渣物の嘔吐。注2:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により中等度の呼吸不全を認め、PaO2が50~59Torr。b.NYHA3度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着のいずれかを認める。c.血清クレアチニン値が5.0~7.9mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.02~0.08の視力障害。e.1肢以上の手・足関節より中枢側における切断。f.末梢神経障害による2肢の機能障害(筋力3)。g.脳血管障害による著しい片麻痺(筋力3)。h.血管炎による肉眼的下血、嘔吐を認める。注3:以下のいずれかを認めることa.肺線維症により高度の呼吸不全を認め、PaO2が50Torr 未満。b.NYHA4度の心不全徴候を認め、胸部X線上CTR60%以上、心電図上陳旧性心筋梗塞、脚ブロック、2度以上の房室ブロック、心房細動(粗動)、人口ペースメーカーの装着、のいずれか2つ以上を認める。c.血清クレアチニン値が8.0mg/dLの腎不全。d.両眼の視力の和が0.01以下の視力障害。e.2肢以上の手・足関節より中枢側の切断。f.末梢神経障害による3肢以上の機能障害(筋力3)、もしくは1肢以上の筋力全廃(筋力2以下)。g.脳血管障害による完全片麻痺(筋力2以下)。h.血管炎による消化管切除術を施行。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)2006~2007年度合同研究班による『血管炎症候群の診療ガイドライン』の中で、「寛解導入療法と寛解維持療法の指針」が示されているので、以下に示す。■ 寛解導入療法1)副腎皮質ステロイドプレドニゾロン0.5~1mg/kg/日(40~60mg/日)を重症度に応じて経口投与する。腎、脳、消化管など生命予後に関わる臓器障害を認めるような重症例では、パルス療法すなわちメチルプレドニゾロン大量点滴静注療法(メチルプレドニゾロン500~1,000mg + 5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけ点滴静注、3日間連続)を行う。後療法としてプレドニゾロン0.5~0.8mg/日の投与を行う5)。2)ステロイド治療に反応しない場合シクロホスファミド点滴静注療法(intravenous cyclophosphamide:IVCY)または経口シクロホスファミド(CY)の経口投与(0.5~2mg/kg/日)を行う。IVCYは、シクロホスファミド500~600mg/生理食塩水または5%ブドウ糖溶液500mLを2~3時間かけて点滴静注し、4週間間隔、計6回を目安に行う6、7)。IVCY治療中は白血球減少に注意し3,000/㎜3以下にならないように次回のIVCY量を減量する。なお、CYは腎排泄性のため腎機能低下に応じて減量投与を行う(クラスIIb、レベルC)8)。表3に年齢、腎機能に応じたIVCY量を示す。なお、IVCYは経口CYに比べて有効性は同等だが副作用が少ないと報告されている9)。画像を拡大するその他の免疫抑制薬としてアザチオプリン、メトトレキセートも用いられる(クラスIIb、レベルC)9)。いずれも腎排泄性である。アザチオプリンは腎機能低下時には減量が必要であり、メトトレキセートは腎不全には禁忌である。3)重要臓器傷害の重症例肺・腎・消化管・膵などの重要臓器を2ヵ所以上傷害された重症例では、ステロイドパルスと共に血漿交換療法を行い、生命予後を改善させるようにする(クラスIIb、レベルC)10、11)。4)HBウイルス肝炎併発例活動性のHBウイルス肝炎を伴っている場合には、抗ウイルス薬および免疫複合体除去目的で血漿交換療法を併用する(クラスIIb、レベルC)5、6)。■ 寛解維持療法初期治療による寛解導入後は、再燃のないことを確認しつつ副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロン)を漸減し維持量(5~10mg/日)とする。副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬の治療期間は原則として2年を超えない(クラスIIb、レベルC)12)。CYは3ヵ月間用い、その後寛解維持薬として、より副作用の少ないアザチオプリンに変更し、半年~1年間用いる(クラスIIb、レベルC)13)。なお、免疫抑制薬、血漿交換療法は、本疾患に対する保険適用薬でないため、投薬時には十分なインフォームドコンセントが必要である。4 今後の展望血管炎症候群の中でも、顕微鏡的多発血管炎などのANCA関連血管炎の病因・病態解明が進み、新規治療法が考案されてきているのに対し、PANに対する基礎研究ならびに臨床研究は、ここ数年あまり大きな進展が得られていないのが実情である。とはいえ、厚生労働省難治性血管炎に関する調査研究班をはじめとする地道な基礎的・臨床的研究が継続されており、その中からブレイクスルーが生まれることが期待される。5 主たる診療科膠原病・リウマチ科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 結節性多発動脈炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本血管病理研究会(医療従事者向けのまとまった情報)1)Jennette JC, et al. Arthritis Rheum. 2013;65:1-11.2)Zhou Q, et al. New Engl J Med.2014;370:911-920.3)Navon Elkan P, et al. New Engl J Med.2014;370:921-931.4)Samson M, et al. Autoimmun Rev. 2014;13:197-205.5)中林公正ほか. ANCA関連血管炎の治療指針. 厚生労働省厚生科学特定疾患対策研究事業難治性血管炎に対する研究班(橋本博史編). 2002;19-23.6)Gayraud M, et al. Br J Rheumatol. 1997;36:1290-1297.7)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 2003;49:93-100.8)難病医学研究財団/難病情報センター 免疫疾患調査研究班(難治性血管炎に関する調査研究班). IVCY治療における年齢、腎機能に応じたシクロホスファミドの投与量設定表. 難病情報センター. (参照 2015.1月26日)9)Jayne D. Curr Opin Rheumatol. 2001;13:48-55.10)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1995;38:1638-1645.11)寺田典生ほか. 日内会誌. 1988;77:494-498.12)Guillevin L, et al. Arthritis Rheum. 1998;41:2100-2105.13)Jayne D, et al. N Engl J Med. 2003;349:36-44.公開履歴初回2015年05月15日更新2016年06月07日

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SPRINT試験:frailな高齢者でも厳格な降圧が有用であることを示した点で画期的、ただし腎機能の悪化や有害事象も起こりやすい(解説:桑島 巖 氏)-540

 今回のSPRINTサブ解析では、75歳以上の高齢者高血圧では収縮期血圧140mmHg未満を目指す標準降圧群よりも、120mmHg未満の厳格降圧群のほうが生命予後の改善に良好であることを示した点で画期的である。サブ解析とはいえども対象数は2,636例と、解析には十分堪えられる症例数であり、信頼性は高い。 厳格降圧群で実際に達成された血圧値は、厳格群で123.4/62.0mmHgであることから、後期高齢者では収縮期血圧120~130mmHgが好ましく、拡張期血圧への配慮は不要であることを示唆している。かつて、拡張期血圧が80mmHg以下では死亡率が増加するというJ-カーブ仮説がまことしやかに流布していたことを考えると、今昔の感がある。 本試験の特徴は、frailtyについても詳細に検討しており、参加者の55%以上がless fit(頑強でない)であることや、歩行速度が遅い症例も28%前後含まれており、試験の対象のfrailtyが一般社会の後期高齢者の頻度とは差がないことが示されている。この点、頑強な高齢者ばかりを対象とした研究ではないといえるが、結果を読み解くうえで、frailな例や歩行速度の遅い症例は試験からの脱落率も高いことに注意が必要である。 全死亡を除いた1次エンドポイントは、厳格降圧群のほうが標準降圧群に比べて34%減少を示しており、NNTは27とかなり低い数値である。1次エンドポイントの中でも心不全抑制率が顕著である。しかし、もともとCKDを有していなかった症例において、厳格降圧群において腎機能悪化症例が、3倍以上増えたことは注意しておく必要がある。また、厳格降圧による有用性は心筋梗塞や脳梗塞といった一般的な心血管合併症ではなく、心不全というこれまでのトライアルではしばしば2次エンドポイントとされてきた疾患であることの解釈が難しい。おそらく、降圧利尿薬の有効性が発揮されているのであろう。 また、SPRINT試験では脳卒中既往例や糖尿病例は含まれていないことから、もともと心機能が低下している症例が高血圧という後負荷が軽減されたことで、心不全の抑制に有効であったとも解釈できる。 frailtyのサブ解析では、frailになるほどエンドポイント発症率が経過とともに高くなっていることが示されているが、興味あることにfrailな症例ほど厳格降圧の1次エンドポイント抑制効果が大きくなるという結果は、意外である。ただ、厳格治療群のほうが、低血圧、失神、電解質異常、急性腎障害が多いという結果は、後期高齢者ではただ積極的に血圧を下げるだけではなく、これらの有害事象が起こりやすいことを念頭に置きながら、きわめて慎重な対応が必要であることを示唆している。

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脳梗塞/TIA再発予防にアスピリン早期投与が有効/Lancet

 一過性脳虚血発作(TIA)または軽度虚血性脳卒中(脳梗塞)後の早期再発リスクは、薬物療法によって低下し、とくにアスピリンが鍵となるとの結果を、英・オックスフォード大学のPeter M Rothwell氏らが、アスピリンの無作為化比較試験を統合し経時的解析を行い報告した。アスピリンは、脳梗塞の長期再発リスクを13%減少することが示され、TIAまたは脳梗塞の2次予防として推奨されている。しかしながら、重大な脳梗塞の再発リスクは急性期に高い。これまで、観察研究では早期から薬物療法を開始するほうが有用性は大きいことが示されていたが、アスピリンの効果は過小評価されていた。結果を踏まえて著者は、「従来考えられていたよりも、アスピリンを早期から開始することは有効であり、TIAが疑われる症状が現れた場合は自らアスピリンを服用するよう公衆衛生教育をしたほうがよい」とまとめている。Lancet誌オンライン版2016年5月18日号掲載の報告。TIAまたは脳梗塞の2次予防に関するアスピリンの無作為化比較試験を解析 研究グループは、TIAまたは脳梗塞の2次予防に関するアスピリンのすべての無作為化試験から、個々の患者データを統合し、脳梗塞再発リスクと重症度に対するアスピリンの効果を、経時的(無作為化後0~6週未満、6~12週未満、12週以上)に解析した。重症度は修正Rankinスケール(mRS)で評価し、シフト解析を用いた。また、作用機序を検討する目的で、アスピリンとジピリダモールの交互作用の時間特性を評価した。 さらに研究グループは、脳梗塞の再発リスクに対するアスピリンの超早期の効果、ならびにその効果がベースラインでの重症度によってどのように異なるかを確かめるため、急性脳梗塞発症後48時間未満の患者を対象としたアスピリンの無作為化比較試験について、ベースラインの神経障害の重症度で層別化し、データを解析した。発症後6週以内の脳梗塞再発リスクが60%低下、後遺障害等のリスクも70%低下 2次予防に関するアスピリンの無作為化比較試験は12件あり、計1万5,778例のデータを統合解析した。その結果、アスピリン投与により、発症後6週以内の脳梗塞再発リスクは60%低下することが認められた(アスピリン群8,452例中84例 vs 対照群7,326例中175例、ハザード比[HR]:0.42、95%CI:0.32~0.55、p<0.0001)。後遺障害を伴うまたは致死的脳梗塞の再発リスクも,同様に70%低下した(それぞれ8,452例中36例 vs 7,326例中110例、HR:0.29、95%CI:0.20~0.42、p<0.0001)。これらの効果は、とくにTIAまたは軽度脳梗塞患者で最も高かった(0~2週;アスピリン群6,691例中2例 vs 対照群5,726例中23例、HR:0.07、95%CI:0.02~0.31、p=0.004/0~6週;それぞれ14例 vs 60例、HR:0.19、95%CI:0.11~0.34、p<0.0001)。 早期再発に対するアスピリンの効果は、主に重症度の軽減によるもので、投与量、患者背景、TIAまたは脳卒中の病因とは独立していた。 また、アスピリン投与による脳梗塞再発リスクの低下は、12週を過ぎると確認されなかった。一方、ジピリダモール+アスピリン群とアスピリン単独群を比較すると、ジピリダモール併用では12週以降に再発リスクが低下し、とくに後遺障害を伴うまたは致死的脳梗塞に関して顕著であった。 急性脳梗塞患者を対象とした無作為化比較試験は3件あり、計4万531例のデータを解析した。結果、14日目での脳梗塞再発リスクの低下は、ベースラインの神経障害が軽度の患者で最も大きく、とくに治療開始後2日目までが顕著であることが示された。

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心筋梗塞・脳梗塞の発症確率予測モデルを開発~JPHC研究

 わが国の多目的コホート(JPHC)研究から、研究開始時の健診成績・生活習慣からその後10年間の心筋梗塞および脳梗塞の発症確率予測モデルを開発した研究結果が発表された。健診結果から自分で心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクを計算できるため、禁煙などの行動変化や生活習慣の変容を通した心血管疾患予防に役立つことが期待される。Circulation journal誌2016年5月25日号に掲載。 この研究では、JPHC研究コホートII(1993~94年のベースライン時に40~69歳であった1万5,672人)のデータを用いた。平均約16年の追跡期間中に観察された192例の心筋梗塞と552例の脳梗塞発症について、研究開始時の健診成績や生活習慣の組み合わせから、統計学的な方法でリスク予測に有用な変数を選択した。 その結果、性別、年齢、現在喫煙、降圧薬の有無、収縮期血圧、糖尿病の有無、HDLコレステロール値、non-HDLコレステロール値の8つの変数が、心筋梗塞発症予測に必要十分な変数として選択された。また、これらの変数のうちnon-HDLコレステロール以外は、脳梗塞の発症予測に関係する変数として選択された。作成した予測モデルの性能は十分高く、日本人の一般集団に対して適用することも可能であることが確認された。詳細はこちらへ国立研究開発法人国立がん研究センター 多目的コホート研究(JPHC study)

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もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)〔moyamoya disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)は、1960年代にわが国において、脳血管造影上の特徴からその疾患概念が確立された1)。病態の特徴は、両側内頸動脈終末部に慢性進行性の狭窄を生じ、側副路として脳底部に異常血管網(脳底部もやもや血管)が形成される(脳血管造影でこれらの血管が立ち上る煙のようにもやもやとみえるため、この病気が「もやもや病」と名付けられた)。進行すると、両側内頸動脈の閉塞とともに脳底部もやもや血管も消失し、外頸動脈系および椎骨脳底動脈系により脳全体が灌流される。本疾患は厚生労働省の定める難治性疾患克服研究事業における臨床調査研究対象疾患130疾患の1つである。■ 疫学もやもや病は、アジア地域に多発する疾患で、欧米ではまれである。ウィリス動脈輪閉塞症調査研究班のデータベース(2006年の時点で確診例785例、疑診例60例、類もやもや病62例の計962例が登録)によれば、わが国における発生頻度は年間10万人当たり0.35人、男女比は1:1.8と女性に多く、約10~15%に家族性発症がみられる。発症年齢分布は二峰性で5歳前後と30歳前後にピークがみられる(図1)2)。画像を拡大する■ 病因もやもや病の病因は不明である。内頸動脈終末部の狭窄の原因として、血管平滑筋細胞の質的異常が背景にあると考えられており、TGF-βなどの転写因子や、bFGFやHGFなどの成長因子の関与が想定されている。血縁者内に発症者の集積性が認められる家族性もやもや病が約10~15%にみられることから、遺伝的要因の関与は大きいものの、浸透率は完全ではなく、年齢にも依存することなどから、遺伝的要因による効果が蓄積し、血管平滑筋細胞の細胞死と増殖を引き起こすものと考えられる。発症には、遺伝要因と加齢や環境要因との相互作用が必要と考えられている2)。■ 症状本疾患の発症年齢は小児期より成人期に及ぶが、一般に小児例では脳虚血症状で、脳血流の低下による一過性脳虚血発作や脳梗塞がみられる。成人例では脳虚血症状と頭蓋内出血症状で発症するものが半々であり、出血型ではもやもや血管の破綻による脳内出血や脳室内出血がみられる。2000年までに登録された、もやもや病調査研究班全国調査の確診例1,127例における虚血型および出血型の発症年齢の分布を図2に示す2)。長期例では、しばしば両側前頭葉の脳循環不全に起因する高次脳機能障害が問題となる。画像を拡大する■ 分類もやもや病調査研究班では、1979年度に初回発作を“出血型”、“てんかん型”、“梗塞型”、“一過性脳虚血発作(TIA)型”、“TIA頻発型”(1ヵ月に2回以上)、“その他”の6型に分類した。しかし、最近のMRIの普及に伴い、無症状のまま偶然発見されるものや頭痛のみを訴える症例も多いことが明らかにされ、現在では“無症状型”、“頭痛型”が追加されている。2003年より2006年度までに登録された962例の各初回発作の病型の占める割合を表に示す2)。画像を拡大する■ 予後小児もやもや病では、一過性脳虚血(TIA)が最も多く発生するのは発症後の数年間であり、知能障害と機能障害を有する患者は発症から時間が経過するほど増加し、その程度も増悪する2)。年齢が低い乳幼児ほど脳梗塞の発生が多く、脳梗塞の存在が機能予後に最も大きく関与する。脳血行再建術の効果を検証したランダム化比較試験(RCT)は存在しないが、脳血行再建術を実施した場合、その術式にかかわらずTIAは消失あるいは減少し、脳梗塞の再発はきわめてまれで、自然歴と比較すると機能予後は良好であると考えられている。また、脳血行再建術は知能予後を改善させると考えられている2)。一方、成人もやもや病では、発症病型にかかわらず、未治療例は外科治療例よりも脳血管イベントの再発率は高く予後も不良との報告が多く、小児と同様、脳血行再建術を考慮すべきである。症候例・無症候例、確診例・疑診例にかかわらず、非手術半球の約20%で病期が進行し、その半数はTIA/脳梗塞あるいは頭蓋内出血が起きる。女性で病期の進行が生じやすく、もやもや病罹患女性の妊娠・分娩に関しては、時に頭蓋内出血など重篤な脳卒中が生じうることが知られている。したがって、産科医師と脳神経外科医師が緊密に連携できる環境の下で妊娠継続期・分娩・産褥期の綿密な管理を行うことが推奨される。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)診断は、MRAによる内頸動脈終末部の狭窄や閉塞、MRIによる基底核部のflow voidなどで確定されるが、詳細な評価には脳血管造影が必要である。もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)に関する特定疾患申請のための診断基準は、2016年に以下のよう改正されている。1)診断上、脳血管造影などの画像診断は必須であり、少なくとも次の所見がある。(1)頭蓋内内頸動脈終末部を中心とした領域に狭窄または閉塞がみられる(両側または片側)。(2)モヤモヤ血管(異常血管網)が動脈相においてみられる。2)もやもや病は原因不明の疾患であり、原因の明らかな類似の脳血管病変(下記)は除外する。(1)動脈硬化、(2)自己免疫疾患、(3)髄膜炎、(4)脳腫瘍、(5)ダウン症候群、(6)フォンレックリングハウゼン病、(7)頭部外傷、(8)頭部放射線照射の既往、(9)その他もやもや病に伴う脳循環障害については、O-15ガスPETによる脳血流量、脳酸素代謝量、脳酸素摂取率、脳血液量などの測定や脳血流SPECT(安静時とダイアモックス負荷時)による脳血流量、脳循環予備能などの測定で、血行力学的重症度が診断される。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)脳虚血発作を呈するもやもや病に対しては、血行再建術を行うことにより、TIA/脳梗塞のリスク、術後のADL、長期的高次脳機能予後などの改善が得られることが報告されている3)。脳血流SPECTやO-15ガスPETなどにより術前の脳循環代謝障害が認められる症例では、血行再建術を施行することにより脳循環代謝の改善が得られる。もやもや病に対する血行再建術の手技としては、浅側頭動脈・中大脳動脈吻合術(STA-MCA 吻合術)を代表とする直接血行再建術と、encephalo-myo-synangiosis(EMS)、encephalo-arterio-synangiosis(EAS)、encephalo-duro-synangiosis(EDS)、multiple burr hole surgery などの間接血行再建術が用いられ、両者の組み合わせも可能である。手術前後には抗血小板薬が投与されるが、若年者に対する漫然とした投薬の継続は行わない。出血型もやもや病に対する直接血行再建術の再出血予防効果については、多施設共同研究JAM(Japanese Adult Moyamoya)Trial4)によって、2013年にその有効性が確認された。4 今後の展望もやもや病は原因不明の難病であり無症候例や軽症例でも長期の経過観察を必要とする。難病申請(18歳以下で運動障害などが続く場合は、小児慢性特定疾患の申請)により、医療費が助成される。無症候性もやもや病の診断例では、自然歴が不明であり、現在、登録観察研究AMORE(Asymptomatic Moyamoya Registry)研究が行われている。高次脳機能障害については、その実態が不明であり、その診断法(神経心理検査、画像検査)を確立するために、COSMO(Cognitive dysfunction Survey of Moyamoya)-Japan研究が行われている。また、最近の遺伝子研究により、17番染色体の候補領域にあるRNF213に多型(p.R4810K)が患者群において高頻度にみつかり、感受性多型の一部が判明したが、さらなる進展が期待される。5 主たる診療科脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報国立循環器病研究センター もやもや病専門外来(一般利用者と医療従事者向けの情報)難病情報センター もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)(一般利用者と医療従事者向けの情報)1)Suzuki J, et al. Arch Neurol.1969;20:288–299.2)もやもや病(ウイリス動脈輪閉塞症)診断・治療ガイドライン. 脳卒中の外科.2009;37:321-337.3)脳卒中治療ガイドライン2015. 協和企画;2015:245-249.4)Miyamoto S, et al. Stroke.2014;45:1415-1421.公開履歴初回2014年10月29日更新2016年05月24日

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虚血性脳卒中、血管内治療を加えるほうが機能的アウトカム良好(解説:中川原 譲二 氏)-533

 前方循環の主幹動脈閉塞による虚血性脳卒中の患者では、発症から6~8時間以内に血栓回収などの血管内治療を加えるほうがrt-PA静注療法を含む内科的治療単独に比べ、発症90日後の機能的アウトカムは良好である。ポルトガル・リスボン大学のFilipe Brogueira Rodrigues氏らが、10件の無作為化比較試験を対象に行ったメタ解析の結果を報告した。この結果を踏まえて著者らは、「標準治療としての血管内治療の推奨は、現行のリソースを強化するために、包括的脳卒中センター(Comprehensive stroke center)の再編成及び血管内治療医の養成についての構造改革を求めるものである」とまとめている。BMJ誌オンライン版2016年4月18日号掲載の報告より。10試験、被験者総数3,000例弱について分析 研究グループは、Medline、Embase、Cochrane Central Register of ControlledTrials、Web of Scienceなどのデータベースを用い、18歳以上の虚血性脳卒中に対する血栓回収などの血管内治療と、rt-PA静注療法を含む内科的治療単独について検討した無作為化比較試験を検索し、システマティック・レビューとメタ解析を行った。検索の結果、分析には2件の未掲載試験を含む10試験、被験者総数2,925例が組み込まれた。エンドポイントは、発症から90日後の修正Rankin scaleスコア2以下の機能的アウトカム、および死亡率とした。血管内治療群の良好な機能的アウトカムのリスク比は1.56 結果、血管内治療群はrt-PA静注療法を含む内科的治療単独群に比べ、発症90日後の機能的アウトカムが良好(スコア2以下)または非常に良好(スコア1以下)の割合が高かった。一方で、死亡率や症候性頭蓋内出血の発症率は同等だった。また、2015年に掲載または発表された最近の7試験は、患者選択がより適切で、rt-PA静注療法が高い施行率でより早期に行われ、血管内治療ではより有効とされるデバイスが使用されていたことから、血栓回収療法の効果を評価するためによりふさしい試験であった。すなわち、被験者の86%超がステントリトリーバー(血栓回収型デバイス)による治療を受けており、血管再開通率も従前の報告よりも高かった(58%超)。これら7試験についてサブグループ解析を行った結果、良好な機能的アウトカムに関して血管内治療群の内科的治療群に対するリスク比は、1.56(95%信頼区間:1.38~1.75)だった。一方で死亡に関する同リスク比は、0.86(同:0.69~1.06)だった。これらの試験結果には、不均一性はみられなかった。  1995年に急性期脳梗塞に対するrt-PA静注療法の有効性が確立してから20年の歳月を経て、2015年に前方循環の主幹動脈閉塞による虚血性脳卒中の患者に対する血管内治療の有効性と安全性が確認された。この間、米国ではrt-PA静注療法に対応して地域を単位とするPrimary stroke center (PSC)が整備され、その施行率の向上が達成され、血管内治療に対応してComprehensive stroke center (CSC)が整備されてきている。わが国では、2005年にrt-PA静注療法が保険適応となったが、地域を単位とするPSCの整備が不十分なため、その施行率は7%前後と低迷している。一方、血管内治療に必要なデバイスについては、欧米に遅れることなく臨床に導入されているが、血管内治療に対応するCSCの整備は進展しておらず、わが国においても、血管内治療を標準治療として推奨するためには、CSCの整備や血管内治療医の養成についての構造改革が強く求められる。

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2度目の改訂版を発表-SGLT2阻害薬の適正使用に関する Recommendation

 日本糖尿病学会「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」は、5月12日に「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」の改訂版を公表した。SGLT2阻害薬は、新しい作用機序を有する2型糖尿病薬で、現在は6成分7製剤が臨床使用されている。 Recommendationでは、75歳以上の高齢者への投与を慎重投与とするほか、65歳以上でも老年症候群の患者には同様としている、また、利尿薬との併用については、「推奨されない」から「脱水に注意する」に変更された。そのほか、全身倦怠・悪心嘔吐・体重減少などを伴う場合には、血糖値が正常に近くともケトアシドーシスの可能性を考慮し、血中ケトン体の確認を推奨している。 今回の改訂は、1年9ヵ月ぶりの改訂となるが、その間に報告された副作用情報や高齢者(65歳以上)に投与する場合の全例特定使用成績調査による、高齢者糖尿病における副作用や有害事象の発生率や注意点について、一定のデータが得られたことから、改訂されたものである。 本委員会では、「これらの情報をさらに広く共有することにより、副作用や有害事象が可能な限り防止され、適正使用が推進されるよう、Recommendationをアップデートする」と表明している。Recommendation1)インスリンやSU薬などインスリン分泌促進薬と併用する場合には、低血糖に十分留意して、それらの用量を減じる(方法については下記参照)。患者にも低血糖に関する教育を十分行うこと。2)75歳以上の高齢者あるいは65~74歳で老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)のある場合には慎重に投与する。3)脱水防止について患者への説明も含めて十分に対策を講じること。利尿薬の併用の場合にはとくに脱水に注意する。4)発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には必ず休薬する。5)全身倦怠・悪心嘔吐・体重減少などを伴う場合には、血糖値が正常に近くてもケトアシドーシスの可能性があるので、血中ケトン体を確認すること。6)本剤投与後、薬疹を疑わせる紅斑などの皮膚症状が認められた場合には速やかに投与を中止し、皮膚科にコンサルテーションすること。また、必ず副作用報告を行うこと。7)尿路感染・性器感染については、適宜問診・検査を行って、発見に努めること。問診では質問紙の活用も推奨される。発見時には、泌尿器科、婦人科にコンサルテーションすること。副作用の事例と対策(抜粋)重症低血糖 重症低血糖の発生では、インスリン併用例が多く、SU薬などのインスリン分泌促進薬との併用が次いでいる。DPP-4阻害薬の重症低血糖の場合にSU薬との併用が多かったことに比し、本剤ではインスリンとの併用例が多いという特徴がある。SGLT2阻害薬による糖毒性改善などによりインスリンの効きが急に良くなり低血糖が起こっている可能性がある。このように、インスリン、SU薬または速効型インスリン分泌促進薬を投与中の患者へのSGLT2阻害薬の追加は、重症低血糖を起こす恐れがあり、あらかじめインスリン、SU薬または速効型インスリン分泌促進薬の減量を検討することが必要である。また、これらの低血糖は、比較的若年者にも生じていることに注意すべきである。 インスリン製剤と併用する場合には、低血糖に万全の注意を払い、インスリンをあらかじめ相当量減量して行うべきである。また、SU薬にSGLT2阻害薬を併用する場合には、DPP-4阻害薬の場合に準じて、以下のとおりSU薬の減量を検討することが必要である。 ・グリメピリド2mg/日を超えて使用している患者は2mg/日以下に減じる ・グリベンクラミド1.25mg/日を超えて使用している患者は1.25mg/日以下に減じる ・グリクラジド40mg/日を超えて使用している患者は40mg/日以下に減じるケトアシドーシス インスリンの中止、極端な糖質制限、清涼飲料水多飲などが原因となっている。血糖値が正常に近くてもケトアシドーシスの可能性がある。とくに、全身倦怠・悪心嘔吐・体重減少などを伴う場合には血中ケトン体を確認する。SGLT2阻害薬の投与に際し、インスリン分泌能が低下している症例への投与では、ケトアシドーシスの発現に厳重な注意が必要である。同時に、栄養不良状態、飢餓状態の患者や極端な糖質制限を行っている患者に対するSGLT2阻害薬投与開始やSGLT2阻害薬投与時の口渇に伴う清涼飲料水多飲は、ケトアシドーシスを発症させうることにいっそうの注意が必要である。脱水・脳梗塞など 循環動態の変化に基づく副作用として、引き続き重症の脱水と脳梗塞の発生が報告されている。脳梗塞発症者の年齢は50~80代である。脳梗塞はSGLT2阻害薬投与後数週間以内に起こることが大部分で、調査された例ではヘマトクリットの著明な上昇を認める場合があり、SGLT2阻害薬による脱水との関連が疑われる。また、SGLT2阻害薬投与後に心筋梗塞・狭心症も報告されている。SGLT2阻害薬投与により通常体液量が減少するので、適度な水分補給を行うよう指導すること、脱水が脳梗塞など血栓・塞栓症の発現に至りうることに改めて注意を喚起する。75歳以上の高齢者あるいは65~74歳で老年症候群(サルコペニア、認知機能低下、ADL低下など)のある場合や利尿薬併用患者などの体液量減少を起こしやすい患者に対するSGLT2阻害薬投与は、注意して慎重に行う、とくに投与の初期には体液量減少に対する十分な観察と適切な水分補給を必ず行い、投与中はその注意を継続する。脱水と関連して、高血糖高浸透圧性非ケトン性症候群も報告されている。また、脱水や脳梗塞は高齢者以外でも認められているので、非高齢者であっても十分な注意が必要である。脱水に対する注意は、SGLT2阻害薬投与開始時のみならず、発熱・下痢・嘔吐などがあるときないしは食思不振で食事が十分摂れないような場合(シックデイ)には万全の注意が必要であり、SGLT2阻害薬は必ず休薬する。この点を患者にもあらかじめよく教育する。また、脱水がビグアナイド薬による乳酸アシドーシスの重大な危険因子であることに鑑み、ビグアナイド薬使用患者にSGLT2阻害薬を併用する場合には、脱水と乳酸アシドーシスに対する十分な注意を払う必要がある(「メトホルミンの適正使用に関するRecommendation」)。皮膚症状 皮膚症状は掻痒症、薬疹、発疹、皮疹、紅斑などが副作用として多数例報告されているが、非重篤のものが大半を占める。すべての種類のSGLT2阻害薬で皮膚症状の報告がある。皮膚症状が全身に及んでいるなど症状の重症度やステロイド治療がなされたことなどから重篤と判定されたものも報告されている。皮膚症状はSGLT2阻害薬投与後1日目からおよそ2週間以内に発症している。SGLT2阻害薬投与に際しては、投与日を含め投与後早期より十分な注意が必要である。あるSGLT2阻害薬で皮疹を生じた症例で、別のSGLT2阻害薬に変更しても皮疹が生じる可能性があるため、SGLT2阻害薬以外の薬剤への変更を考慮する。いずれにせよ皮疹を認めた場合には、速やかに皮膚科医にコンサルトすることが重要である。とくに粘膜(眼結膜、口唇、外陰部)に皮疹(発赤、びらん)を認めた場合には、スティーブンス・ジョンソン症候群などの重症薬疹の可能性があり、可及的速やかに皮膚科医にコンサルトするべきである。尿路・性器感染症 治験時よりSGLT2阻害薬使用との関連が認められている。これまで、多数例の尿路感染症、性器感染症が報告されている。尿路感染症は腎盂腎炎、膀胱炎など、性器感染症は外陰部膣カンジダ症などである。全体として、女性に多いが男性でも報告されている。投与開始から2、3日および1週間以内に起こる例もあれば2ヵ月程度経って起こる例もある。腎盂腎炎など重篤な尿路感染症も引き続き報告されている。尿路感染・性器感染については、質問紙の活用を含め適宜問診・検査を行って、発見に努めること、発見時には、泌尿器科、婦人科にコンサルテーションすることが重要である。 本委員会では、SGLT2阻害薬の使用にあたっては、「特定使用成績調査の結果、75歳以上では安全性への一定の留意が必要と思われる結果であった。本薬剤は適応やエビデンスを十分に考慮したうえで、添付文書に示されている安全性情報に十分な注意を払い、また本Recommendationを十分に踏まえて、適正使用されるべきである」と注意を喚起している。「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」からのお知らせはこちら。

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TIA後の心血管系イベントリスク、従来より低下/NEJM

 一過性脳虚血発作(TIA)発症後の心血管系イベントリスクは先行研究報告よりも低いことを、フランス・Bichat HospitalのPierre Amarenco氏らTIAregistry.org研究グループが、21ヵ国4,789例の患者を対象とした国際多施設共同前向き観察試験の結果、明らかにした。1997~2003年に行われた研究では、TIAまたは軽症脳卒中の発症後3ヵ月間の脳卒中または急性冠症候群発症のリスクは12~20%と推定されていた。その後、TIA治療は大きく変化したが、最近の患者の予後やリスクスコアシステムの有用性については明らかになっていない。研究グループによるTIAregistry.orgプロジェクトは、脳卒中専門医が緊急性を評価するようになった現行医療体制下で治療を受けた、TIAまたは軽症脳卒中患者の最新のプロファイル、再発等のリスク因子、そしてアウトカムを明らかにするようデザインされた研究であった。NEJM誌2016年4月21日号掲載の報告。21ヵ国61施設で4,789例を登録し前向き観察研究 試験は、2009~11年に21ヵ国61施設で4,789例を登録して行われた。 試験参加施設はいずれも、TIAの緊急性評価を行う体制が整備されており、被験者は発症から7日以内のTIAまたは軽症脳卒中患者であった。 研究グループは、1年後の脳卒中リスク、および脳卒中・急性冠症候群・心血管系が原因の死亡の複合アウトカムのリスクを推定。また、脳卒中リスクを評価するABCD2スコア(範囲:0[最低リスク]~7[最高リスク])、脳画像所見、およびTIAまたは軽症脳卒中発症と、1年間の脳卒中再発リスクとの関連を調べた。発症後1年時点の複合心血管転帰の発生率6.2%、脳卒中は5.1% 解析には被験者4,583例が組み込まれた。平均年齢は66歳、男性が60.2%を占め、病歴は高血圧が70.0%、脂質異常症69.9%など、元喫煙者は24.6%、現在喫煙者は21.9%などであった。入院期間中央値は4日、発症後24時間以内に脳卒中専門医の評価を受けたのは3,593例(78.4%)であった。臨床的症状で最もよくみられたのは、筋力低下(55.0%)、言語の異常(48.3%)。また、ABCD2スコアについて、発症後24時間以内に脳卒中専門医による評価を受けた患者のほうが(4.7±1.5)、24時間後に評価を受けた患者(3.8±1.6)よりも有意に高かった(p<0.001)。 また全体で、患者の33.4%(1,476/4,422例)で急性期脳梗塞が、23.2%に頭蓋外・頭蓋内血管の50%以上の狭窄が1ヵ所以上、および10.4%(410/3,960例)に心房細動が認められた。 被験者の91.0%(4,200例)が中央値27.2ヵ月の追跡を受けた。Kaplan-Meier法で推定した1年時点の複合心血管アウトカムの発生率は6.2%(95%信頼区間[CI]:5.5~7.0)であった。同法推定による脳卒中発生率は2日時点1.5%、7日時点2.1%、30日時点2.8%、90日時点3.7%、365日時点5.1%であった。 多変量解析において、「脳画像検査で認められた複数の梗塞」「大動脈のアテローム硬化」「ABCD2スコア6~7」のそれぞれについて、脳卒中リスク2倍超との関連が認められた。 著者は、「今回得られた所見は、現在のTIAまたは軽症脳卒中を発症した患者の、心血管イベント再発リスクが反映されたものである。ABCD2スコアは良好なリスク予測因子であることが明らかになった。脳画像検査で認めた複数梗塞、および大動脈アテローム硬化性疾患も血管系イベント再発の強力な独立予測因子であることが判明した」と述べ、今回の結果は将来的な無作為化試験の試験デザインと解釈に役立つだろうとまとめている。

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CoreValveを使用したTAVRの3年成績、開心術より良好

 重症の大動脈弁狭窄症患者に対する自己拡張型の経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)は、開心術と比べて術後2年の成績が良好であることが知られている。その成績がその後も持続するかを見極めるべく、全米45施設による多施設共同前向き無作為化非劣性試験が行われ、Journal of the American College of Cardiology誌オンライン版2016年3月22日号に発表された。なお、本試験の資金はMedtronic社によりサポートされている。ハイリスクの重症大動脈弁狭窄症患者750例を無作為化 重症の大動脈弁狭窄症を有し、各分野から成る大動脈弁評価チームによりハイリスクと認定された患者をTAVR群と外科的大動脈弁置換術(SAVR群)に1対1で無作為に割り付けた。全米45施設から797例が組み入れられ、750例がいずれかの治療を受けた。重症大動脈弁狭窄症は、大動脈弁口面積≦0.8cm2もしくは大動脈弁口インデックス≦0.5cm2/m2、かつ平均圧較差>40mmHgもしくは最大弁通過血流速度>4m/s、かつNYHA機能分類II以上の症状を有するものと定義され、個々の病院の心臓チームと全国スクリーニング委員会の双方が、開心術をハイリスクと認めた場合のみ、患者は試験に加えられた。術後30日での死亡リスクが15%以上で、かつ30日での死亡および重篤な疾病発症率の合計が50%以下をハイリスクと定義し、STS PROM scoreとこれまでに報告されている死亡率を上昇させる他の要素を考慮してリスクを評価した。平均年齢は83.2歳、86%がNYHA 3もしくは4 患者の平均年齢は83.2±6.7歳で、53.2%が男性であった。86.1%の患者のNYHAが3もしくは4であった。糖尿病の有病率がSAVR群で有意に高かったが(34.8% vs. 45.1%、p=0.004)、両群間でその他の項目に有意な差は認められなかった。TAVR群、全死亡もしくは脳梗塞の発生率は有意に低値 3年後のアウトカムは、TAVR群で生存していた246例のうち228例、SAVR群で生存していた194例中179例から得ることができた。3年後の全死亡率もしくは脳梗塞の発生率は、TAVR群で有意に低かった(TAVR 37.3% vs. SAVR 46.7%、p=0.006)。TAVRによる全死亡もしくは脳梗塞の絶対的なリスクの改善率は9.4%(p=0.006)であった。合併症のそれぞれの項目も、TAVR群はSAVR群に比べて減少していた[全死亡率(32.9% vs. 39.1%、p=0.068)、すべての脳卒中(12.6% vs. 19.0%、p=0.034)、主要脳心血管イベント(40.2% vs. 47.9%、p=0.025)]。大動脈弁血行動態もTAVR群のほうが良好 3年後の血行動態の数値もTAVR群のほうが良好であったが(平均大動脈弁圧較差:TAVR 7.62±3.57mmHg vs. SAVR 11.40±6.81mmHg、p<0.001)、中等度もしくは重症の残存大動脈弁逆流の頻度はTAVRのほうが高値であった(6.8% vs. SAVR 0.0%、p<0.001)。臨床的に明らかとなるような弁血栓はいずれのグループでも認められなかった。 著者らは、外科手術がハイリスクと考えられる重症大動脈弁狭窄症患者の3年後の成績は、TAVRがSAVRと比べて優れており、大動脈弁の血行動態評価も、TAVRは構造的な弁の劣化が見られず、SAVRより良好であったとしている。

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自分のLDLコレステロール値、まずは知ることから

 サノフィ株式会社は3月10日、LDLコレステロールとそのリスクに関するプレスセミナーを都内で開催し、山下 静也氏(りんくう総合医療センター 病院長)が、「LDLコレステロールの本当の怖さ リスクと知ることの重要性」と題して講演を行った。また、欧州動脈硬化学会が実施したコレステロールに関する国際意識調査を基に、日本とEU 11ヵ国の比較分析を行った結果1)を、同社の宇野 希世子氏が発表した。LDLコレステロール管理が不十分な日本の現状 高LDLコレステロール(LDL-C)血症は、狭心症や心筋梗塞などの心血管病の発症を促進させるリスク因子である。食生活の欧米化により、日本人の血清コレステロール値は年々増加しており、山下氏は、脳・心血管系イベントが今後さらに増える可能性が高いと言う。しかし、日本の現状としては、管理目標値に到達していない患者が多く、心血管系高リスク患者の約3割はLDL-C管理が不十分であるといわれている。いまだ診断率の低い家族性高コレステロール血症 山下氏は、家族性高コレステロール血症(FH)の診断率の低さについても警鐘を鳴らす。肝臓の細胞表面にあるLDL受容体というタンパクの機能に障害があり、血液中のLDL-Cの量が増加する遺伝性の疾患であるFHは、遺伝的背景のない高LDL-C血症と比べて動脈硬化の進展が著しく早いため、より早期から厳格なLDL-C値の管理が必要になる。 日本におけるFH患者数は、ヘテロ接合型で30~70万人、ホモ接合型で120~700人といわれるが、診断率はいまだ低く、日本での診断率は推定患者数の1%以下にとどまるという。これはFHが実地医家の間で十分認知されていないことが原因となっている可能性が大きい、と山下氏は指摘する。認知度の向上が今後の課題 高LDL-C血症は自覚症状がないため、心筋梗塞や脳梗塞による突然死を引き起こす可能性がある。心血管病のリスク低下のために今日からできることとして、まずは自分のLDL-C値、LDL-C目標値を知ることが重要である、と山下氏は述べた。 同セミナーで発表された、日本とEU 11ヵ国のコレステロールに関する意識調査の結果によると、日本人の心血管病に対する問題意識、当事者意識はともにEUと比べて低く、コレステロールに関する知識も不足していることが明らかになったという。とくに、心血管病が日本人の死因第2位であるにもかかわらず、「個人的に最も心配している疾患または健康上の問題」という質問(複数回答)に対して、心血管病(心疾患または脳卒中)を挙げた日本人は21%と、EU(39%)の約半数であった。FHという遺伝性疾患が隠れている場合もあることから、自分の問題としてコレステロールの怖さを捉え、理解することの重要性を宇野氏は訴えた。 心血管病予防のために、LDL-Cに対するリスクの認知度の向上が、今後の課題のようだ。

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IRIS試験:脳梗塞とピオグリタゾン-インスリン抵抗性改善薬が経た長い道のり-(解説:住谷 哲 氏)-500

 本論文のタイトルを見た時には、2型糖尿病患者における脳梗塞(以下では虚血性脳卒中および一過性脳虚血発作を脳梗塞とする)の再発予防にピオグリタゾンが有効なのかと思ったが、正しくは「インスリン抵抗性および脳梗塞の既往を有する非糖尿病患者に対して、ピオグリタゾンの投与は脳梗塞または心筋梗塞の発症リスクを有意に抑制した」との内容である。ピオグリタゾンの2型糖尿病患者における心血管イベントの2次予防効果を検討したPROactive試験1)の結果についてはいろいろと議論があるが、本試験の結果の解釈についても注意が必要と思われる。少なくとも2型糖尿病患者の脳梗塞再発を予防するために明日の外来からピオグリタゾンを積極的に投与すべきである、との結果ではない。 インスリン抵抗性が2型糖尿病患者の心血管イベント発症に深く関与していることは、以前から知られている。したがって、インスリン抵抗性改善薬が心血管イベント発症予防に有効だろうと考えるのは自然である。そこで「ピオグリタゾンによるインスリン抵抗性の改善は2型糖尿病患者における心血管イベントリスクを減少させる」との仮説を証明する目的でPROactive試験が行われたが、結果は解析手法の問題もあり、その仮説は証明されなかった。つまり、インスリン抵抗性を改善することで2型糖尿病患者の心血管イベントが抑制されるか否かは、これまで不明であった。 PROactive試験において、ピオグリタゾンの投与により脳梗塞の発症は抑制されなかったが(ハザード比:0.81、95%信頼区間:0.61~1.07)、その後に発表されたサブ解析では、脳梗塞既往患者においてピオグリタゾンの投与により、脳梗塞再発が47%(95%信頼区間:0.34~0.85、p=0.009)減少することが報告された2)。本試験Insulin Resistance Intervention after Stroke (IRIS)が、ClinicalTrial.govに登録されたのが2004年であることを考えると、本試験の対象患者が心筋梗塞ではなく、脳梗塞既往患者が選択されたのもそのあたりに理由があるのかもしれない。しかしその後、同じくチアゾリジン薬に属するロシグリタゾンが心筋梗塞を増加させる可能性が指摘され、さらに、ピオグリタゾンと膀胱がんとの関連も示唆される中で、インスリン抵抗性改善薬に対する熱狂は潮が引くように冷めていった。本試験は、そのような四面楚歌の状況下で地道に続けられていた臨床試験が、ようやく実を結んだといって良い。実臨床で使用され始めてから20年後に、ようやくインスリン抵抗性改善薬の心血管イベント抑制作用が証明されたのである。 本試験では、試験参加6ヵ月以内に脳梗塞を発症した、HOMA-IR>3.0で定義されるインスリン抵抗性を有する非糖尿病患者3,876例を、プラセボ群とピオグリタゾン群に分けて、中央値4.8年にわたり観察した。主要評価項目は、致死性・非致死性脳梗塞および致死性・非致死性心筋梗塞からなる複合エンドポイントとされた。その結果、ピオグリタゾン投与群で主要評価項目が24%減少した(ハザード比:0.76、95%信頼区間:0.62~0.93、p=0.007)。全死亡については両群に差を認めなかった。しかし、副次評価項目である脳梗塞の発症は、ピオグリタゾン群で減少傾向はあるようにみえるが有意差はついていない(ハザード比0.82、95%信頼区間:0.61~1.10、p=0.19)。脳梗塞の再発予防に対する、ピオグリタゾンの効果を検討する目的であれば、脳梗塞の発症のみを主要評価項目に設定すべきであると思われるが、なぜこのような複合エンドポイントになったのかは記載がない。 ピオグリタゾンを使用する際に、現在最も懸念されているのは心不全および骨折である。心不全の発症に関しては、NYHA III、IVの患者およびNYHA IIでEFの低下している患者は最初から除外されており、さらに、心不全の発症を予防するためのアルゴリズムに基づいて、適宜薬剤の減量が行われたため両群に有意な差はなかった。一方、骨折はピオグリタゾン投与群で明らかに増加しており、100例の患者に5年間ピオグリタゾンを投与すると、3例の患者で脳梗塞および心筋梗塞の発症が予防できるが、入院または手術を必要とする骨折が2例発生する計算となった。 インスリン抵抗性改善薬であるピオグリタゾンが、心血管イベント発症のリスクを低下させることを初めて明らかにした点において、本試験は重要である。しかし、本試験の結果を実臨床に適用するためには下記の点に留意する必要がある。(1)対象は2型糖尿病患者ではない。(2)インスリン測定系は現時点で国際的に統一されていないのでHOMA-IR>3.0は目安程度の意味しかない。(3)脳梗塞および心筋梗塞の複合エンドポイントのリスクが減少したことが示されたのであり、脳梗塞再発予防効果が示されたのではない。(4)心血管イベントの再発予防と引き換えに、入院または手術を必要とする骨折が同程度に増加する可能性がある。 今後、2型糖尿病患者において同様の試験が行われることを期待したいが、現実にはその可能性はきわめて小さいだろう。本論文に対する付属論評でも指摘されているように3)、今後はprecision-medicine approach、つまりピオグリタゾン投与によるリスク・ベネフィット比が最も高い一群(ピオグリタゾン投与により心血管イベントは減少するが心不全、骨折などは増加しない一群)をDNA解析などの結果により投与前に同定し、その一群に対してのみ投与を行うことになっていくだろう。

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降圧薬、アドヒアランス不良でCVD死亡リスク1.6倍以上

 降圧薬のアドヒアランス不良は、心血管疾患(虚血性心疾患・脳出血・脳梗塞)による死亡および入院リスクの上昇と有意な関連が認められることが、韓国・Korea Cancer Center HospitalのSoyeun Kim氏らによる研究で明らかになった。著者らは、実臨床における服薬アドヒアランス改善と監視システムの重要性を強調した。Hypertension誌2016年3月号の報告。 心血管疾患予防において、降圧薬の服薬アドヒアランスが重要であるかは十分に解明されていない。そのため、本研究では、降圧薬の服薬アドヒアランスが特定の心血管疾患(虚血性心疾患・脳出血・脳梗塞)の死亡率に及ぼす影響について検討した。 韓国の国民健康保険の登録者からランダムに抽出した3%のサンプルコホートのデータを使用した。調査対象は、2003~04年に降圧薬治療を新規に開始した20歳以上の高血圧患者であった。降圧薬の服薬アドヒアランスは、累積服薬順守率から推定した。対象を、アドヒアランス良好群(累積服薬順守率80%以上)、アドヒアランス中間群(同50~80%)、アドヒアランス不良群(同50%未満)に分類し、時間依存Cox比例ハザードモデルを用いて、服薬順守率と予後との関連を評価した。 主な結果は以下のとおり。・3万3,728例の適格者のうち、670例(1.99%)がフォローアップ中に冠動脈疾患、あるいは脳卒中で死亡した。・アドヒアランス不良群は、良好群よりも心血管疾患による死亡リスクが有意に高い傾向が認められた。虚血性心疾患(ハザード比[HR] 1.64、95%CI:1.16~2.31、p for trend=0.005)脳出血(HR 2.19、95%CI:1.28~3.77、p for trend=0.004)脳梗塞(HR 1.92、95%CI:1.25~2.96、p for trend=0.003)・心血管疾患による入院の推定ハザード比は、死亡のエンドポイントと一致した。

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スーグラほかSGLT2阻害薬は高齢者に安全か

 3月3日、アステラス製薬株式会社は、「本邦の高齢者におけるSGLT2阻害薬の安全性と有効性」と題し、演者に横手 幸太郎氏(千葉大学大学院医学研究院 細胞治療内科学講座 教授)を招き、プレスセミナーを開催した。講演では、65歳以上の高齢者7,170人を対象としたSGLT2阻害薬イプラグリフロジン(商品名:スーグラ)錠の大規模調査「STELLA-ELDER」の中間報告も行われた。約10年でHbA1cは下がったが… はじめに、2型糖尿病をメインにその概要や機序が説明された。わが国の糖尿病患者は、疫学推計で2,050万人(2012年)と予想され、この5年間で予備群といわれている層が減少した半面、糖尿病と確定診断された層は増加しているという。血糖コントロールについては、さまざまな治療薬の発売もあり、2002年と2013年を比較すると、2型糖尿病患者のHbA1cは7.42%から6.96%へと低下している。しかしながら、患者の平均BMIは24.10から25.00と肥満化傾向がみられる。SGLT2阻害薬の課題 これまで糖尿病の治療薬は、SU薬をはじめメトホルミン、チアゾリジン、DPP-4阻害薬などさまざまな治療薬が上市されている。そして、これら治療薬では、患者へ食事療法などの生活介入なく治療を行うと、患者の体重増加を招き、このジレンマに医師、患者は悩まされてきた。 そうした中で発売されたSGLT2阻害薬は、糖を尿中排出することで血糖を下げる治療薬であり、体重減少ももたらす。また、期待される効果として、血糖降下、膵臓機能の改善、血清脂質の改善、血圧の低下、腎機能の改善などが挙げられる。その反面、危惧される副作用として、頻尿による尿路感染症、脱水による脳梗塞などがあり、昨年、日本糖尿病会から注意を促す「SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation」が発出されたのは記憶に新しい。 米国では、処方率においてDPP-4阻害薬をすでに抜く勢いであるが、わが国では、5%前後と低調である。今後、わが国でも適応の患者にきちんと使えるように、さらなる検証を行い、使用への道筋を作ることが大切だという。スーグラ処方の注意点 続いて、イプラグリフロジン(スーグラ)錠について、高齢者を対象に行われた全例調査「STELLA-ELDER」の中間報告の説明が行われた。 「STELLA-ELDER」は、スーグラの高齢者への安全性について確認することを目的に、2014年4月から2015年7月にかけて、本剤を服用した65歳以上(平均72.2歳)の2型糖尿病患者(n=7,170)について調査したものである。 スーグラの副作用の発現症例率は全体で10.06%(721例)であった。多かった副作用の上位5つをみてみると皮膚疾患(2.27%)が最も多く、次に体液量減少(1.90%)、性器感染症(1.45%)、多尿・頻尿(1.32%)、尿路感染症(0.77%)などであった。いずれも重篤ではなく、90%以上がすでに回復している。また、これら副作用の発現までの日数について、「脱水・熱中症」「脳血管障害」「皮膚関連疾患」「尿路/性器感染」は、投与開始後早期(30日以内)に発現する傾向が報告された。 スーグラの全例調査で注目すべきは、高齢者に懸念される「低血糖」の発現状況である。全例中23例(0.3%)に低血糖が発現し、とりわけBMIが18.5未満の患者では発現率が高い(6.8%)ことが示された。また、腎機能に中等度障害、軽度障害がある患者でも高いことが報告された。その他、体液減少に伴う副作用の発現については、75歳以上(68/2,223例)では75歳未満(68/4,947例)に比べ、発現率が約2倍高くなることも示された。 最後に、横手氏は、「これらの調査により、腎機能が低下している、痩せている高齢者(とくに75歳以上)には、処方でさらに注意が必要となることが示された。今後も適正な治療を実施してほしい」とレクチャーを終えた。アステラス製薬 「STELLA-ELDER」中間報告はこちら(pdfが開きます)「SGLT2阻害薬」関連記事SGLT2阻害薬、CV/腎アウトカムへのベースライン特性の影響は/Lancet

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脳梗塞急性期には血栓除去術が有益/Lancet

 患者特性などを問わず大半の脳前方循環近位部閉塞による急性虚血性脳卒中患者にベネフィットをもたらす脳血管内治療は、血栓除去術であることが明らかにされた。カナダ・カルガリー大学のMayank Goyal氏らHERMES共同研究グループが、5つの無作為化試験に参加した全被験者データをメタ解析した結果で、Lancet誌オンライン版2016年2月18日号で発表した。著者は、「この結果は、脳主幹動脈梗塞による急性虚血性脳卒中患者へのタイムリーな治療を提供するケアシステム構築において大きな意味を持つだろう」と述べている。5つの無作為化試験の患者データをメタ解析 2015年現在までに、5つの無作為化試験で、脳前方循環近位部閉塞による急性虚血性脳卒中(以下、脳梗塞急性期)患者には、血栓除去術が標準的内科治療よりも有効であることが示されている。研究グループは、それら試験に参加した全被験者データを分析し、背景が異なる患者集団全体で治療の有効性が認められるか、メタ解析で調べた。 対象となった試験は、2010年12月~14年12月に行われたMR CLEAN、ESCAPE、REVASCAT、SWIFT PRIME、EXTEND IA。これらの試験では、脳梗塞急性期患者を、発症後12時間以内に血栓除去術を行う群または標準的内科治療(対照)群に無作為に割り付けて、90日時点の障害重症度の軽減を修正Rankinスケール(mRS)で評価(主要アウトカム)する検討が行われていた。 研究グループは、各試験データベースから直接、被験者データを集めて、プール集団で90日時点のmRS評価による障害軽減について評価した。また、その治療効果の不均一性について、事前に規定したサブグループ全体で検証した。 試験間のばらつきは、混合効果モデルと着目したパラメータのランダム効果を用いて補足した。そのうえで、混合効果順序ロジスティック回帰モデルを用いて、全集団における主要アウトカムの共通オッズ比(cOR)を算出した(シフト解析)。また、年齢、性別、ベースライン脳卒中重症度(National Institutes of Health Stroke Scale score)、閉塞部位(内頸動脈 vs.中大脳動脈M1 vs.同M2)、rt-PA静注療法(実施 vs.未実施)、ベースラインのAlberta Stroke Program Early CTスコア、発症から無作為化までの時間で補正後のサブグループ評価も行った。標準的内科治療と比較した90日時点の障害重症度軽減オッズ比は2.49 解析には、1,287例の患者データが組み込まれた(血栓除去群634例、対照群653例)。 血栓除去群は、対照群と比べて90日時点の障害重症度が有意に低かった(補正後cOR:2.49、95%信頼区間[CI]:1.76~3.53、p<0.0001)。NTTを試算すると、血栓除去術2.6例施行につき1例の患者で、mRS評価で1単位以上の障害重症度の軽減が認められた。 主要エンドポイントのサブグループ解析では、事前規定のサブグループ全体で障害重症度軽減への治療効果の不均一性は認められなかった(交互作用p=0.43)。 また、80歳以上の患者(cOR:3.68、95%CI:1.95~6.92)、発症から無作為化までの時間が300分超の患者(1.76、1.05~2.97)、rt-PA静注療法不適の患者(2.43、1.30~4.55)といった注目すべき階層群で、対照よりも血栓除去術の効果サイズが大きかった。 90日時点の死亡率、硬膜下血腫および症候性頭蓋内出血リスクは、治療群間で差はみられなかった。

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性差という個体の特徴の意義~女性は心房細動の予後規定因子なのか~(解説:西垣 和彦 氏)-491

性差医療とその本質とは? 歴史的に医学は成人男性を標準個体とし、その病態や臨床経過・予後、診断から治療に至るまでを確立してきた。しかし近年、危険因子や薬剤の効果においても性差があることが明らかになるにつれ、性差の存在がクローズ・アップされるようになった。この性差という個体の特徴における相違は、生物学的要因としてのホルモンバランスの違いなどがその原因として挙げられている。現代医学は、この性差を無視して成立しなくなったこともあり、性差研究を通して医療に反映させる性差医療が発展してきた。しかし、この性差医療に関し危惧されることがある。それは、性差がもたらすだろう損得を種々追求するがあまり、性差は個体の特徴の1つに過ぎないという本質を失念し、人種や年齢などの寄与度の高い危険因子の存在を無視・偏重して解析することであり、さらに性差がその疾患の予後を規定する普遍の定理かのような提起をしてしまうことである。このことは厳に慎まなければならない。 本論文のポイントは? 本論文のポイントをまとめる。本論文は、女性であることが心房細動の予後規定因子としてより強い心血管イベント/死亡リスクであるのか、30件のコホート研究、計437万1,714例を解析対象として行ったメタ解析研究である。 その結果、心房細動の各アウトカムに対する相対危険の男女比(女性/男性)は、全死亡:1.12(1.07~1.17)、脳卒中:1.99(1.46~2.71)、心血管死:1.93(1.44~2.60)、心イベント:1.55(1.15~2.08)、心不全:1.16(1.07~1.27)であった。したがって、心房細動は、女性であることが心血管イベントや死亡リスクに対し、より強い予後規定因子であると報告している。著者らはその機序として、女性のほうが男性より治療が遅れるのではないかということや、抗凝固薬による出血が多いことが、より強い心血管イベント/死亡リスクとなったのではないかとしているが、あくまでも著者らの推論の域を出ない。 各国の心房細動に対する抗凝固療法ガイドラインにおける性差 心房細動患者の生命予後に対する性差の影響に関しては、わが国も含めてこれまでも多くの研究報告がなされているが、その結果は混沌としていて一定の見解が得られていない。 フラミンガム心臓研究の38年に及ぶ追跡調査では、心房細動の危険度は高血圧があれば男性1.5倍、女性1.4倍とほぼ同等であったが、糖尿病があれば男性1.4倍、女性1.6倍高いという結果が報告された1)。 わが国の心房細動の有無と死亡リスクの関連を検討した、1万人以上の住民を登録したNIPPON DATA80では、非心房細動患者の死亡リスクを1としたとき、心房細動患者の循環器疾患死亡リスクは、男性で1.4倍、女性で4.0倍と多く、総死亡リスクは男性で1.4倍、女性で2.4倍と、女性において心房細動は全死亡あるいは心血管死の独立した危険因子であることが示された2)。しかし、この研究データは1980年~1999年の追跡調査より得られていることから、ワルファリンによる抗凝固療法が普及する以前を反映しているものと考えられ、現状に即応していないものと考えられている。 一方、最近では、心房細動患者の生命予後に関して、女性という因子はそれほど強い危険因子ではないのではないかという報告がなされている。デンマークで行われた、ワルファリン療法を受けていない心房細動患者7万例を登録したコホート研究によると、うっ血栓心不全、高血圧、および糖尿病といったCHADS2スコア1点のリスクと比較して、女性という性差のリスクがきわめて低いことが示された3)。 このような混沌とした結果を受けて、各国のガイドラインも異なった取り扱いをしている。2014年10月にアップデートされた、カナダの心房細動に対する抗凝固療法のガイドラインでは、女性という因子のみはエビデンスがないと抗凝固の対象には入れないとしている4)。これに対して、2015年2月にヨーロッパ心血管プライマリケア学会から出された、心房細動における脳梗塞予防のコンセンサスガイドラインでは、65歳以上の女性あるいは75歳以上の男性であるならば、CHA2DS2-VAScスコアの他のリスクを評価して抗凝固療法の適応を判断することとしており、女性という性差を心房細動の予後規定因子として重要視している5)。 わが国のガイドラインにおいては、65歳未満でほかに器質的心疾患を伴わない心房細動患者において、女性であることは単独の危険因子にならないとし、さらに65~74歳は性別にかかわらず考慮可となりうることから、単独因子として女性という性差は記載されていない6)。さらに、昨年5月に報告されたわが国のJ-RHYTHMレジストリを用いたCHA2DS2-VAScスコアの妥当性を検討した論文では7)、血栓塞栓症は男性(年1.6%)に比較し、女性(年1.2%)ではかえって少ないこと、CHA2DS2-VAScスコアから女性を除いたスコアリングは、血栓塞栓症のリスク層別化の点で有用であり、さらに日本人では、65歳以上や血管疾患もあまりリスク因子として効いていないことから、かえってこれらの因子を含めると予測能が落ちるため、むしろCHADS2スコアで抗凝固薬の使用を評価するのがよいと結論付けられている。はたして女性は心房細動の危険因子なのか? これまでの結果から、心房細動患者に対する抗凝固療法の適応を考慮するとき、女性という性差をその危険因子として考えることよりも、やはり人種による差が大きいといわざるを得ない。その点、この論文は所詮欧米のガイドラインを構築するエビデンスに過ぎず、わが国のガイドラインを左右するほどの影響力は持ち合わせていない。 米国心臓協会 (American Heart Association)の活動として、“Go Red for Women”が提唱されている。この標語は、日本人にとってわかりづらい英語の表現であったこともあり、私が『女性の心血管疾患を減らすことを目的として、女性に積極的に呼びかけていこうという運動の名称』であると知ったのは、かなり経ってからである。米国における女性の心血管疾患罹患の深刻化が問題となっていることの一端であるが、わが国の現状とはかなり異なっているといわざるを得ない。参考文献1)Kannel WB, et al. Am J Cardiol. 1998;82:2N-9N.2)Ohsawa M, et al. Circ J. 2007;71:814-819.3)Olesen JB, et al. BMJ 2011;342:d124.4)Verma A, et al. Can J Cardiol. 2014;30:1114-1130.5)Hobbs FR, et al. Eur J Prev Cardiol. 2016;23:460-473.6)日本循環器学会ほか. 心房細動治療(薬物)ガイドライン(2013年改訂版).PDF (2016.3.1参照)7)Tomita H, et al. Circ J. 2015;79:1719-1726.

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試みない後悔よりも、試みる勇気を持て、高齢者へのPCI(解説:中川 義久 氏)-490

 「後悔」とは、「ああすれば良かった、こうすれば良かった」と後から物事を悔いることで、皆ができれば避けたいと思っている感情の1つである。恋愛でも、仕事でも、対人関係でもそういう機会は多い。「あの時、勇気を出して告白すれば彼女の気持ちは変わったんじゃないか?」など、ギクシャクしたりした後で後悔の念は強まるものだ。“後悔先に立たず”というが、後悔しても取り戻せないとわかっていても執着心が勝ってしまうのが人間である。これはPCI施行医においても同様である。 非ST上昇型心筋梗塞と不安定狭心症の80歳以上の高齢者に対して、「早期侵襲的治療」と「保存的治療」を比較し、どちらの戦略が患者に利益をもたらすのかを調べた結果がノルウェーのグループからLancet誌に報告された。早期侵襲的治療とは、急性期に冠動脈造影を行い、必要に応じてPCIやCABGを選択し薬物療法の判断にも造影所見を利用する戦略である。保存的治療とは、至適薬物療法のみを行うもので冠動脈造影すら施行しない戦略である。主要エンドポイントは心筋梗塞、緊急血行再建、脳梗塞、全死亡の複合である。 その結果、主要エンドポイントは、早期侵襲的治療群93/229例(40.6%)vs.保存的治療群140/228例(61.4%)で、ハザード比0.53(95%信頼区間:0.41~0.69、p=0.0001)と早期侵襲的治療群が優れていた。出血性合併症は同程度であったという。 早期侵襲的治療を選択しPCI施術を試みたが、手技にまつわる合併症などで不幸な転帰をたどった場合には、「そっと保存的に様子をみれば良かった」と後悔するのが人間である。逆に、保存的治療を選択し結果が芳しくなかった場合には、「多少の危険を冒してでも本人と家族に説明し、勇気を出して侵襲的治療である冠動脈造影とPCIを施行していれば良かったのではないか」と考える場合もあろう。高齢患者の多い日本の実臨床の現場では、日々直面する問題である。 人間が自責の念を抱く最大の後悔は「できるのにしなかったこと」といわれる。つまり、一番大きな後悔は「わかっていたのにしなかった」「できるのにやらなかった」という罪悪感に基づくものである。試みたがうまくいかなかった場合には、その不成功の原因を究明し、次回の改善を期することも可能となる。これは、前向きな後悔といえる。 早期侵襲的治療と保存的治療の選択を迫られた場合に、個々の症例において得失を冷静に考えることは当然であるが、真にevenで迷った場合には、積極的方針を選択すること後押ししてくれる報告と思い、コメントさせていただいた。

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