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アンチエイジングを“アンチ”から学ぶ!抗加齢の原点回帰

『心身ともに若々しさを保つ アンチエイジング科学とエビデンス』をテーマに掲げ、第22回日本抗加齢医学会総会が2022年6月17日(金)~19日(日)に大阪国際会議場(グランキューブ大阪)とWEB併用のハイブリッド形式で開催される。脳の専門家として初の大会長を務める阿部 康二氏(国立精神・神経医療研究センター病院長)に、脳と抗加齢の関係や一押しのシンポジウムについて話を聞いた。“究極のアンチエイジングは脳”、血管内皮細胞の炎症抑制が課題老化現象の現れ方は個々で異なり、老化=酸化と言っても過言ではありません。たとえば、ピカピカだった鉄パイプが経年劣化して錆びるように、人間の体も酸素を利用することで酸素の毒性にもさらされ続け、年齢とともにそれが蓄積した結果、老化に至ります。毒性面を最小限に抑え、酸素のいいとこ取りをすることが老化予防の最大のコツですが、近年、血管内皮細胞の炎症抑制がアンチエイジングの1つであることが明らかにされています。この血管内皮細胞の保護の観点からも、脳の専門家である私としては、“究極のアンチエイジングは脳”だと自負しており、いくら見た目や皮膚が若々しくても、脳が老化していれば本当の若々しさを維持すること、表面化することは難しいと考えています。昨今、治療薬が国内承認の是非で話題を集めたアルツハイマー病も実は血管内皮細胞の酸化が原因の1つであり、それをターゲットとした治療薬の開発が急がれています。これまではアミロイドβの蓄積が問題だとされてきたため、何十年もの間、それをターゲットとした治療薬の開発が進められてきました。ところが、超高齢化社会におけるアルツハイマー病はアミロイドβに加えて血管そのものの老化が影響しているため、血管内皮細胞を同時にターゲットにする必要があるんです。治療薬開発から30年が経過し、その間に日本の超高齢化も進行してしまい、今後の治療薬開発において、脳の血管内皮細胞を若々しくするというようなコンセプトの転換が求められています。たとえば、結婚当初は10万円の指輪で喜んでいた妻が、何十年か連れ添うと10万円の指輪では喜んではくれず、100万円の指輪でないと喜んでくれないというように、妻の名前は同じでも中身が変わってしまう。それと同じ状況が医学でも起こっているのです。今の妻が喜ぶようなプレゼントを見定めるように、アルツハイマー病という疾患名は昔と同じでも、その治療ニーズが時代に伴い変化することを忘れてはならないのです。そもそも抗加齢医学の概念は正しいの?アーミッシュの考えにヒントが…話は変わりますが、これまで、“老化は悪、老化予防が善”という定説の下で抗加齢医学(アンチエイジング)の研究が進められてきましたが、それは本当に正しいのでしょうか。それを振り返るため、今回の特別講演には『アーミッシュの生活とアンチエイジング』という演題を盛り込みました。アーミッシュとは、「イエスやアマンの時代の生活を実践しようとする復古主義を特徴」とし、「現代文明を拒否して電気や車を使わず、馬車を用いて、おもに農業を営む」1)人々のことを指します。時の流れに身を任せようとする、つまり、アンチエイジングにアンチな人たちです。それゆえ、「アーミッシュから抗加齢のヒントになる学びがあるのでは!」「アンチエイジングの根本に立ち返れるいい機会になるのでは?」という思いが募り、企画しました。アンチエイジングが本当に正しいのかを問い直し、双方の意見がぶつかり合うなかで得るものがあるのでは、と期待を寄せています。阿部氏がお奨めする演題<会長講演>脳のアンチエイジングと見た目のアンチエイジング<特別講演>アーミッシュの生活とアンチエイジング<シンポジウム>中高年女性へ適応可能なサプリメントアンチエイジングと認知症予防メンタルヘルスとエクササイズ腸内細菌x新テクノロジーコロナ禍により一層孤独を強め、コミュニケーション力の低下、身体能力の低下を訴える人が増加しています。また、メンタルの破綻などにも影響しているためか凶悪事件が後を絶ちません。フレイルを助長、認知症や糖尿病などの持病を悪化させ、それに加えて新型コロナウイルス自体がもたらす血管内皮細胞への影響により脳出血や脳梗塞患者の増加も問題視されています。コロナ禍は外出規制による影響ばかりか、生物学的な血管内皮細胞の炎症においても抗加齢に逆行するパンデミックであることから、いかにこの負の連鎖から脱却できるか、その足掛かりになるような演題も豊富に取り揃えています。日本は世界で類を見ない超高齢社会となり、これまで以上に超高齢者と向き合う必要があります。そのため、若い医師には老化のメカニズムに関する基本的な理解、老化にどう立ち向かっていくのか、などを医師の基本的な心構えとして医業に取り組んでもらいたいと考えています。そのため、本学会では若手のための発表の場も多数用意していますし、病気と健康ひいては若々しさと老化の橋渡しになる学会として、健康産業など医療者以外の参加者との交流も積極的に行っています。ぜひ、皆さま奮ってご参加ください。第22回日本抗加齢医学会総会1)日本大百科全書(ニッポニカ)

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日本人がん患者の心血管疾患、発生しやすいがん種などが明らかに/日本循環器学会

 近年、がん患者の生存率向上により治療の副作用の1つである心毒性が問題視されている。ところが、アジア圏のなかでもとくに日本国内のそのような研究報告が乏しい。今回、村田 峻輔氏(国立循環器病センター予防医学・疫学情報部)らが、国内がん生存者における心血管疾患の全国的な発生率に関する後ろ向きコホート研究を行い、不整脈、心不全(HF)、および急性冠症候群(ASC)の100人年当たりの発生率(IR)は、それぞれ2.26、2.08、0.54 で不整脈とHFでは明らかに高く、一般集団と比較してもHFやACSのIRは非常に高いことが明らかになった。本結果は2022年3月11~13日に開催された第86回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Cohort Studies2で報告された。 本研究では、がん患者の心血管疾患発症に関し「HBCR(Hospital-based cancer registry)を用いてがん患者における心血管疾患の発生状況を説明する」「年齢・性別による発症頻度の違いを比較」「がん患者の心不全予防調査」の3つを目的として、対象者を1年間追跡して各心血管疾患の年間発生率を調査した。2014~2015年のDPCデータから対象のがん患者(乳がん、子宮頸がん、結腸がん、肝臓がん、肺がん、前立腺がん、胃がん)の心血管疾患発生状況を、HBCRデータからがん種、病期、1次治療に関する情報を抽出し、不整脈、HF、ASC、脳梗塞(CI)、脳出血(ICH)、静脈血栓塞栓症(VTE)の6つの発生率を調査した。各心血管疾患について、全がん患者、がん種別、年齢・性別のサブグループで100人年当たりのIRと95%信頼区間を算出した。また、各がん種で各心血管疾患のIRを比較、HF発生に対する潜在的な予測因子を調べるためにロジスティクス回帰分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・本研究の対象者は、2014~15年にがん診療連携拠点病院495施設でがん(乳がん、子宮頸がん、結腸がん、肝臓がん、肺がん、前立腺がん、胃がん)と診断された者から外来のみまたは18歳未満の患者を除外した54万1,956例だった。・患者の構成は、乳がんと子宮頸がん患者では若年者が多く、いずれも1次治療には外科的治療の選択が多かった。一方、肝臓がんと肺がんはいずれも40%超が1次治療として化学療法を実施していた。・不整脈、HF、およびACSの100人年当たりのIRは、それぞれ2.26、2.08、0.54で不整脈とHFでは明らかに高く、一般集団と比較してもHFやACSのIRは非常に高かった。これは年齢・性別で比較しても明らかであった。・不整脈とHF、ACSの発生率を年齢・性別でみると、高齢者かつ男性で多かった。・がん種ごとにIRをみたところ、肺がん、肝臓がん、結腸がん、そして胃がん患者では不整脈の頻度が高かった。・肺がんと肝臓がん患者ではHFのIRも高く、化学療法や外科的治療が関連していた。その予測因子として、肺がんのオッズ比(OR)は、病期stage2で1.23(95 %信頼区間[CI]:1.08~1.40、p=0.001)、stage3で1.26(同:1.13~1.41、p

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広範囲梗塞の患者にも経皮的脳血栓回収術の有効性が示された(解説:高梨成彦氏)

 ASPECTS 5点以下の大きな虚血コアを有する症例に対する、経皮的脳血栓回収術の有効性を示唆する後方視的研究はこれまでいくつか報告されている。本研究はランダム化比較試験で、主要評価項目である90日後のmRSが0~3であった患者の割合は内科治療群が13%であったのに対して、血管内治療群が31%と有意な予後改善効果が示された。虚血コアが大きいことで再開通後の出血が危惧されるところであるが、すべての頭蓋内出血こそ血管内治療群で58%と多かったものの症候性出血は内科治療群が5%で血管内治療群が9%と有意差はなかった。 発症6時間以内の患者に対する経皮的脳血栓回収術の有効性を示した4つの試験、MR CLEAN、ESCAPE、SWIFT PRIME、REVASCATはいずれも虚血コア領域を頭部CT検査を基にしたASPECTSで評価している。各試験における血管内治療群のASPECTSは下表のとおりであった。この結果を基にこれまでは、経皮的脳血栓回収術をASPECTS 6点以上の患者に適用することが推奨されていた。 本研究は経皮的脳血栓回収術の積極的な適応拡大に道を開くものであり、治療の恩恵を受ける患者が増えることが期待される。ただし本邦に特徴的なこととして頭部MRI検査で急性期脳梗塞を診断する施設が多く、これは小梗塞でも明瞭に描出されるため領域ごとの減点法であるASPECTSでは梗塞体積が小さくともASPECTSは低くなってしまう傾向にある。MR-ASPECTSはCTよりも1点程度低くなるともいわれている。本研究も大半の症例が頭部MRI検査で評価されているので、他の人種/地域における試験との比較には注意が必要である。

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脳梗塞の血管内治療、アスピリン・未分画ヘパリンは益より害?/Lancet

 虚血性脳卒中への血管内治療において、周術期のアスピリンまたは未分画ヘパリン投与はいずれも、症候性頭蓋内出血リスクを増大し、機能的アウトカムの有益な効果に関するエビデンスはないことが、オランダ・Erasmus MC University Medical CenterのWouter van der Steen氏らによる無作為化比較試験の結果、示された。アスピリンおよび未分画ヘパリンは、脳卒中の血管内治療において、再灌流とアウトカムを改善するためにしばしば使用される。しかし、その適応に関する効果とリスクは明らかではなかった。Lancet誌オンライン版2022年2月28日号掲載の報告。オランダ15施設で非盲検無作為化試験 虚血性脳卒中患者の血管内治療中に投与を開始した静脈内アスピリンまたは未分画ヘパリンもしくは両薬の安全性と有効性を評価するため、研究グループは2018年1月22日~2021年1月27日にかけて、オランダ15ヵ所の医療センターを通じて、非盲検多施設共同無作為化比較試験を2×3要因デザインにて実施した。登録被験者は、発症から6時間以内で血管内治療が可能だった前方循環系の主幹脳動脈閉塞による虚血性脳卒中の18歳以上患者。適格基準はNIH脳卒中スケール(NIHSS)スコアが2以上で、CTまたはMRIで頭蓋内出血患者は除外した。 Webベースの無作為化法にてブロック化と登録施設の層別化を行い、被験者を無作為に1対1の割合で周術期静脈内アスピリン(300mgボーラス)投与群またはアスピリン非投与群に割り付け、また1対1対1の割合で未分画ヘパリン中等量(5,000 IUボーラス、その後1,250 IU/時を6時間)投与群、同低量(5,000 IUボーラス、その後500 IU/時を6時間)投与群、未分画ヘパリン非投与群に割り付けた。 主要アウトカムは、90日時点の修正Rankinスケール(mRS)スコアとした。安全性に関する主要アウトカムは、症候性頭蓋内出血。解析はintention to treatベースで行い、治療効果は、ベースライン予後因子で補正後のオッズ比(OR)または共通(common)ORとした。アスピリン群、未分画ヘパリン群ともmRSスコアは悪化傾向 被験者数は663例で、同意を得た人または同意前に死亡した628例(95%)を、修正ITT解析の対象とした。2021年2月4日時点で、データの非盲検化と解析の結果、試験運営委員会は新たな被験者の組み入れを停止し、試験は安全性への懸念から中止となった。 症候性頭蓋内出血のリスクは、非アスピリン群(7%、23/318例)よりもアスピリン投与への割付群(14%、43/310例)で高率だった(補正後OR:1.95、95%信頼区間[CI]:1.13~3.35)。同様に、非未分画ヘパリン群(7%、22/296例)よりも未分画ヘパリン投与への割付群(13%、44/332例)でリスクが高かった(1.98、1.14~3.46)。 有意差は示されなかったが、mRSスコアを悪化させる傾向が、アスピリン群(共通OR:0.91、95%CI:0.69~1.21)と未分画ヘパリン群(0.81、0.61~1.08)のいずれにおいても認められた。

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抗凝固薬の使用は十分に慎重に!(解説:後藤信哉氏)

 DOACは出血合併症が少ないと喧伝される。しかし、心房細動の脳卒中予防をワルファリンと比較した4つのDOAC開発試験では、いずれも年間2~3%に重篤な出血合併症を惹起している。対照群がPT-INR 2-3を標的としたワルファリン療法であったこと、PT-INRの計測が精度の低いPOC deviceであったこと、実臨床で多用される0.5mgの錠剤が必ずしも供与されなかったこと、などの各種条件の結果、DOAC群の出血合併症リスクはワルファリン群よりも低かった。しかし、DOACは決して出血合併症の少ない薬剤ではない。年率2~3%の重篤な出血イベントはむしろ副作用の多い薬剤ともいえる。 実臨床ではワルファリンよりもDOACは使いやすい。とくに、ワルファリンの薬効が数日以上遷延するのに対してDOACの薬効は数時間にて消失する。脳卒中リスクのある心房細動症例は高齢、リスク因子が重畳し、近未来のイベントリスクが高い。イベントは悪性腫瘍かもしれず、出血かもしれず、また脳卒中かもしれない。脳卒中は血栓イベントであるが、長期予後改善のためには血栓溶解療法が有用である。血栓溶解療法を施行すれば出血イベントリスクは増加する。血栓イベントとしての脳卒中を発症しても、DOACを中止すれば血栓溶解療法による出血リスク増加を回避できる可能性がある。実際に、本研究は後ろ向きの観察研究ではあるが抗凝固薬としてのDOACを使用していた症例でも、血栓溶解療法による重篤な出血イベント発症リスクは抗凝固薬非使用例と差がないことを示している。 個別の症例の病態に応じて抗凝固活性を速やかに調節できることはDOACの優れた特性の1つである。正確に、科学的に論じればDOACにはそれなりの価値があると筆者は考える。

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急性期脳梗塞へのアルテプラーゼ、発症前NOAC服用でもリスク増大なし/JAMA

 アルテプラーゼ静注治療を受けた急性虚血性脳卒中患者において、発症前7日以内の非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(NOAC)服用者の頭蓋内出血リスクは、抗凝固薬非服用者と比べて大きく増大しないことが示された。米国・デューク大学のWayneho Kam氏らが、16万例超の患者を対象に行った後ろ向きコホート試験の結果を報告した。現行のガイドラインでは、急性虚血性脳卒中発症前にNOACを服用していた場合、原則的にはアルテプラーゼ静注を使用しないよう勧告されている。JAMA誌オンライン版2022年2月10日号掲載の報告。米国内1,752ヵ所の医療機関、約16万3,000例を対象に試験 研究グループは2015年4月~2020年3月に、脳卒中診療の質改善プログラム「Get With The Guidelines-Stroke」(GWTG-Stroke)に登録する米国内1,752ヵ所の医療機関で、急性虚血性脳卒中発症後4.5時間以内にアルテプラーゼ静注治療を受けた16万3,038例を対象に、後ろ向きコホート試験を行った。 被験者は、脳卒中発症前のNOAC服用者、抗凝固薬の非服用者であった。補完的に、抗凝固薬服用中に急性虚血性脳卒中や頭蓋内出血を発症した患者レジストリ「Addressing Real-world Anticoagulant Management Issues in Stroke」(ARAMIS)のデータも活用。脳卒中発症前NOAC服用患者への、アルテプラーゼ静注治療の安全性と機能性アウトカムについて、抗凝固薬の非服用者と比較した。 主要アウトカムは、アルテプラーゼ静注後36時間以内の症候性頭蓋内出血の発生だった。副次アウトカムは、院内死亡を含む安全性に関する4項目と、自宅への退院率を含む退院時に評価した機能性アウトカム7項目だった。症候性頭蓋内出血の発生率、NOAC服用群3.7%、抗凝固薬非服用群3.2% 被験者16万3,038例の年齢中央値は70歳(IQR:59~81)、女性は49.1%だった。このうち、脳卒中発症前のNOAC服用者(NOAC服用群)は2,207例(1.4%)、抗凝固薬の非服用者(非服用群)は16万831例(98.6%)だった。 NOAC服用群の年齢中央値は75歳(IQR:64~82)で、非服用群(同70歳、58~81)よりも高齢で、心血管系の併存疾患の罹患率が高く、脳卒中の程度もより重症だった(NIH脳卒中スケールの中央値、NOAC服用群:10[IQR:5~17]vs.非服用群:7[4~14])。 症候性頭蓋内出血の補正前発生率は、NOAC服用群3.7%(95%信頼区間[CI]:2.9~4.5)、非服用群3.2%(3.1~3.3)だった。ベースラインの臨床要因で補正後の症候性頭蓋内出血の発生リスクは、両群で同等だった(補正後オッズ比[OR]:0.88[95%CI:0.70~1.10]、補正後群間リスク差[RD]:-0.51%[95%CI:-1.36~0.34)。 副次アウトカムの安全性に関する項目は、院内死亡率(NOAC服用群6.3% vs.非服用群4.9%、補正後OR:0.84[95%CI:0.69~1.01]、補正後RD:-1.20%[-2.39~-0])を含めいずれも有意差はなかった。 機能性アウトカムについては、自宅への補正後退院率(NOAC服用群53.6% vs.非服用群45.9%、補正後OR:1.17[95%CI:1.06~1.29]、補正後RD:3.84%[1.46~6.22])など、7項目中4項目でNOAC服用群がより良好だった。

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マルモと認知症(解説:岡村毅氏)

 医学界は常に移ろいでいる。社会は高齢化し、重視するものが根治から生活の質へと変わり、プライマリケアの存在感がじわじわと向上している。そのなかで近年注目されてきたのがマルチモビディティ(多疾患併存)である。通常は2つ以上の慢性疾患を持つことを指す。ちなみに「マルモ」などと呼ばれることもあるとかないとか。 マルチモビディティを持つ「高齢者」が認知症になりやすいという報告はある。では、若いころのマルチモビディティも認知症のリスク因子であるのでは、と考えるのは自然だ。 そうすると長い歴史のあるコホートを戦略的に持っている英国が断然有利だ。あらゆる仮説を、時代をさかのぼってある程度検証できるのだから。ジェームズ・ボンドの国だけあって情報戦に強い、ということか。 ここでマルチモビディティに使われている慢性疾患は、心筋梗塞、脳梗塞、心不全、糖尿病、高血圧、がん、腎不全、閉塞性肺疾患、肝疾患、うつ、精神疾患(うつ以外)、パーキンソン病、膠原病であり、ICD10のコードに準拠している。 さて、その結果は、若いころからマルチモビディティがあると、加齢に伴い、認知症を発症するリスクはどんどんと増えていく、というものであった(50代前半でマルチモビディティがあった人は、50代後半で初めてあった人よりリスクは高い。50代後半は60代前半よりリスクが高い…つまり若くして持っているほど危険)。 若いころからマルチモビディティがある人はヘルスリテラシーが低い可能性が高いが、学歴や健康行動で調整したモデルでも結果は同じであった。 プライマリケアの重要性を示す論文と言えよう。 以下、2点ほどコメントしよう。 第1点はポリファーマシーとの関連である。マルチモビディティを持つ人は増えているし、時代の変化を見誤って愚直に薬を出すと、ポリファーマシー(多剤併用)になる。ポリファーマシーはかかりつけ医の利益にはまったくならないのであるから、ポリファーマシーの原因は(1)あまりにも多くの疾患がありすぎる場合、(2)真面目に(愚かに?)処方し過ぎている場合、(3)患者さんが求めている場合、のどれかだろう。 ちなみに精神科病床に入院するBPSD(たとえば不穏)の著しい認知症患者さんでは、整形外科や内科など各所から鎮痛薬が大量に出ていることが多い。痛みを激しく訴える患者さんが外来に来たら鎮痛薬を出してしまうのはよくわかるし、批判するつもりはない。ただ「痛み」とは精神的なものであり、認知症のために頭がうまく回らない、体がうまく動かないといったことは変換されて「痛み」になる。 入院したら、多くの場合はほぼすべて切ってしまう。同時に内科薬も、重要な疾患のみに対してそれぞれ1剤にえいやっと整理する。するとあら不思議、患者さんの不穏は結構改善する。薬でぼんやりしていたのも一因だったのだ。私にできるのだから優秀な内科医にできないわけがない。これは入院しないと難しいのも事実で、認知症の人を入院させることは悪行のように言われるが、こういう場合もあるという例として出した。 ポリファーマシーがマスコミでこれほど有名になったのだから、次はマルモかなと、個人的には思っている。 第2点として、認知症の専門家として少し批判的にコメントしてみよう。「慢性疾患のうちどの組み合わせが高リスクなのか」というタッグマッチのような分析では、パーキンソン病が抜きんでて強い(心筋梗塞、糖尿病、高血圧、がん、うつ、精神疾患とのタッグが高リスク)。これには少し鼻白んでしまった。そもそもパーキンソン病は認知症に移行する(Parkinson's disease dementia:PDD)が、診断基準が確立したのが近年であり、古い記録では信頼性が低いのではないか。また、進行したパーキンソン病ではうつが合併するし、幻視なども出現するので精神疾患の診断もつきやすいだろう。また、パーキンソン病とされた人の中には血管性パーキンソン症候群もおそらく隠れているだろうから、心筋梗塞、糖尿病、高血圧との組み合わせは血管性認知症の高リスクの人を拾っているのではないか。一方で脳梗塞との組み合わせが関連なしになっているのも理由は明確で、G21(血管性パーキンソン)が今回の解析から外れているからだ。 要するにパーキンソン病が微小脳梗塞によるものである場合、この解析では丁度見えない位置にあることが、パーキンソン+脳梗塞が高リスクになっておらず、パーキンソン+生活習慣病(糖尿病、高血圧、心筋梗塞)が高リスクになっている原因だろう。 と、探偵みたいなコメントをしてしまったが、まあ当然著者たちも承知だろう。私も研究者なのでわかるが、昔のデータは不十分で解析が難しいこともある。有名ジャーナルであろうと、疑って読めという例として書きました。

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日本人重症脳梗塞、血管内治療+薬物療法は薬物療法単独より有益/NEJM

 日本で行われた試験で、主幹動脈閉塞を伴う梗塞が大きい患者に対する血管内治療と薬物療法の併用は薬物療法のみに比べ、90日アウトカムが良好であり、修正Rankinスケールスコア0~3の患者の割合が約2.4倍に上ることが示された。頭蓋内出血の発生率は、血管内治療併用群で高率だった。兵庫医科大学の吉村 紳一氏らが、国内203例の患者を対象に行った無作為化比較試験の結果を報告した。急性虚血性脳卒中に対する血管内治療は、梗塞が大きい場合は一般的に回避されるが、これまで薬物療法単独と比較した血管内治療の効果について、十分な検討は行われていなかった。NEJM誌オンライン版2022年2月9日号掲載の報告。ASPECTS評価で3~5の患者を対象に試験 吉村氏らは、主幹動脈閉塞があり、画像上かなり大きな脳卒中が認められる、ASPECTS(Alberta Stroke Program Early Computed Tomographic Score)評価で3~5の患者を対象に、日本国内で多施設共同非盲検無作為化比較試験を行った。 被験者を無作為に2群に分け、症状が認められてから6時間以内またはFLAIR画像で早期の変化が認められない場合には24時間以内に、一方の群には血管内治療と薬物治療を(血管内治療群)、もう一方の群には薬物治療のみを行った(対照群)。両群に対し、必要に応じてアルテプラーゼ(0.6mg/kg)を投与した。 主要アウトカムは、90日後の修正Rankinスケールスコア0~3とした。副次アウトカムは、90日後の同スコア改善の大きさと、48時間後のNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)スコアの8ポイント以上の改善であった。NIHSSスコア8ポイント以上改善、血管内治療群31%に対し対照群9% 計203例の患者が無作為化を受けた(血管内治療群101例、対照群102例)。アルテプラーゼを投与した患者は両群ともに約27%だった。 90日後の修正Rankinスケールスコア0~3の該当被験者割合は、血管内治療群31.0%、対照群12.7%だった(相対リスク:2.43、95%信頼区間[CI]:1.35~4.37、p=0.002)。 スコア別にみた修正Rankinスケールスコアの改善は、全般的に血管内治療群のほうが良好だった。 48時間後にNIHSSスコアの8ポイント以上改善が認められたのは、血管内治療群31.0%、対照群8.8%だった(相対リスク:3.51、95%CI:1.76~7.00)。あらゆる頭蓋内出血の発生は、それぞれ58.0%、31.4%に認められた(p<0.001)。

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添付文書改訂:アクテムラが新型コロナ中等症II以上に適応追加/ジャディアンスに慢性心不全追加/エフィエントに脳血管障害の再発抑制追加/アジルバに小児適応追加/レルミナに子宮内膜症の疼痛改善追加【下平博士のDIノート】第92回

アクテムラ点滴静注用:新型コロナ中等症II以上に適応追加<対象薬剤>トシリズマブ(遺伝子組換え)(商品名:アクテムラ点滴静注用80mg/200mg/400mg、製造販売元:中外製薬)<承認年月>2022年1月<改訂項目>[追加]効能・効果SARS-CoV-2による肺炎酸素投与、人工呼吸器管理または体外式膜型人工肺(ECMO)導入を要する患者を対象に入院下で投与を行うこと。[追加]用法・用量通常、成人には、副腎皮質ステロイド薬との併用において、トシリズマブ(遺伝子組換え)として1回8mg/kgを点滴静注します。症状が改善しない場合には、初回投与終了から8時間以上の間隔をあけて、同量を1回追加投与できます。<Shimo's eyes>本剤は、国産初の抗体医薬品として、2005年にキャッスルマン病、2008年に関節リウマチの適応を取得して、現在は世界110ヵ国以上で承認されているヒト化抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体です。今回、新型コロナによる肺炎の効能が追加されました。これまで中等症II以上の患者に適応を持つ、レムデシビル(商品名:ベクルリー点滴静注用)、バリシチニブ(同:オルミエント錠)、デキサメタゾン(同:デカドロン)の3製剤に本剤が加わり、新たな治療選択肢となります。新型コロナ患者の一部では、IL-6を含む複数のサイトカインの発現亢進を特徴とする炎症状態により呼吸不全を起こすことが知られており、同剤投与による炎症抑制が期待されています。参考中外製薬 薬剤師向けサイト アクテムラ点滴静注用80mg・200mg・400mgジャディアンス:慢性心不全(HFrEF)の適応追加<対象薬剤>エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス錠10mg、製造販売元:日本ベーリンガーインゲルハイム)<承認年月>2021年11月<改訂項目>[追加]効能・効果慢性心不全ただし、慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る。[追加]用法・用量通常、成人にはエンパグリフロジンとして10mgを1日1回朝食前または朝食後に経口投与します。<Shimo's eyes>SGLT2阻害薬としては、すでにダパグリフロジン(商品名:フォシーガ)が慢性心不全の適応を2020年11月に追加しており、本剤は2剤目の薬剤となります。2022年1月現在、添付文書には「左室駆出率の保たれた慢性心不全(HFpEF)における本剤の有効性および安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者(HFrEF)に投与すること」と記載されていますが、HFpEF患者を対象とした第III相試験においても、2021年8月に良好な結果1)が報告されています。なお、本剤25mg錠には慢性心不全の適応はありません。参考エンパグリフロジンの慢性心不全への承認取得/日本ベーリンガーインゲルハイム・日本イーライリリー1)エンパグリフロジン、糖尿病の有無を問わずHFpEFに有効/NEJMエフィエント:脳血管障害後の再発抑制が追加<対象薬剤>プラスグレル塩酸塩(商品名:エフィエント錠2.5mg/3.75mg、製造販売元:アストラゼネカ)<承認年月>2021年12月<改訂項目>[追加]効能・効果虚血性脳血管障害(大血管アテローム硬化または小血管の閉塞に伴う)後の再発抑制(脳梗塞発症リスクが高い場合に限る)[追加]用法・用量通常、成人には、プラスグレルとして3.75mgを1日1回経口投与する。<Shimo's eyes>『脳卒中治療ガイドライン2021』では、非心原性脳梗塞の再発抑制に対しては抗血小板薬(クロピドグレル、アスピリンまたはシロスタゾール)の投与が勧められていますが、本剤の適応は、「大血管アテローム硬化または小血管の閉塞を伴う虚血性脳血管障害後の再発抑制」に限定されました。なお、適応追加の対象は2.5mg錠および3.75mg錠のみです。今回の改訂で、空腹時は食後投与と比較してCmaxが増加するため、空腹時の投与は避けることが望ましい旨の記載が追記されました。用法に「食後投与」は明記されていないので注意しましょう。既存薬のクロピドグレルは、主にCYP2C19によって代謝されるため、遺伝子多型による影響を受けやすいことが懸念されていますが、本剤は、ヒトカルボキシルエステラーゼ、CYP3AおよびCYP2B6などで代謝されて活性体となるプロドラッグであり、遺伝子多型の影響を受けにくいとされています。参考第一三共 医療関係者向けサイト エフィエント錠アジルバ:小児適応追加、新剤型として顆粒剤が登場<対象薬剤>アジルサルタン(商品名:アジルバ顆粒1%、同錠10mg/20mg/40mg、製造販売元:武田薬品工業)<承認年月>2021年9月<改訂項目>[追加]用法・用量<小児>通常、6歳以上の小児には、アジルサルタンとして体重50kg未満の場合は2.5mg、体重50kg以上の場合は5mgを1日1回経口投与から開始します。なお、年齢、体重、症状により適宜増減が可能ですが、1日最大投与量は体重50kg未満の場合は20mg、体重50kg以上の場合は40mgです。<Shimo's eyes>アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)であるアジルサルタンに、小児に対する用法および用量が追加されました。また、新剤型として顆粒剤も発売されました。顆粒剤は、成人にも小児にも適応がありますが、小児の開始用量である2.5~5mgを投与する際に便利です。参考武田薬品工業 医療関係者向けサイト アジルバレルミナ:子宮内膜症に基づく疼痛改善の適応が追加<対象薬剤>レルゴリクス(商品名:レルミナ錠40mg、製造販売元:あすか製薬)<承認年月>2021年12月<改訂項目>[追加]効能・効果子宮内膜症に基づく疼痛の改善<Shimo's eyes>本剤は、経口GnRHアンタゴニストであり、2019年1月に子宮筋腫に基づく諸症状(過多月経、下腹痛、腰痛、貧血)の改善で承認を取得しています。子宮筋腫に続き、子宮内膜症患者を対象とした第III相試験の結果が報告されたことから、今回新たな適応が承認されました。本剤は下垂体のGnRH受容体を阻害することにより、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)の分泌を阻害します。その結果、エストロゲンおよびプロゲステロンが抑制され、子宮内膜症の主な症状である骨盤痛を改善します。参考あすか製薬 医療関係者向け情報サイト レルミナ錠40mg

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6時間以上経過した脳主幹動脈閉塞患者に対する血管内治療の有効性について、さらに強いエビデンスとなる結果(解説:高梨成彦氏)

 本研究は発症から6~24時間経過した主幹動脈閉塞患者に対する経皮的脳血栓回収術についての6試験のデータを対象としたメタアナリシスである。505症例のデータが解析され、主要評価項目である90日後のmRSの改善について血管内治療の有効性が確認され、調整済みオッズ比は2.54と高いものであった。また副次評価項目である90日後の死亡率および症候性頭蓋内出血の発生率には差はなかった。 本試験の意義はサブグループにおいても均一な結果が示されたことで、年齢(<70/70~80/>80)、性別、脳卒中の重症度(NIHSS ≦17/≧18)、閉塞部位(ICA/M1)、ASPECTS(≦7/≧8)、発症形態(眼前発症/wake-up stroke)、いずれの群でも血管内治療の有効性が示された。すでに脳卒中ガイドラインにもあるように、発症から6時間以上経過した患者についての血管内治療は実施されているものの、高齢者や重症患者であっても治療をためらう必要はないということが明確に示された意義は大きい。ただし、軽症群にNIHSS 5点以下の患者は含まれておらず、ASPECTSが低値の群に0~5点は含まれていないことは留意する必要がある。 虚血コア体積を評価して治療適応を決定するに当たってDAWN、DEFUSE 3はRAPIDの使用が必須となっており、他の4試験は単純CTまたはMRI検査のASPECTSスコアによる判定が条件となっている。興味深いことに評価方法が違う2群間でも血管内治療の効果に差がなかった。この結果からただちに単純CTまたはMRI検査のみによる判定が有効であるとは言えないものの、RAPIDシステムが普及していない本邦ではclinical-ASPECTS mismatchによる判定が広く行われており、スコアの閾値設定など参考になる結果といえるだろう。 発症から6~12時間と12~24時間の患者群で比較したところ、後者のほうが血管内治療の効果が高かった。この結果は自然再開通が起きる可能性が時間経過とともに低くなることや、6時間未満に治療を受けた群ではtPA投与を受けた患者が多いことが影響している可能性がある。

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PFO閉鎖術で脳梗塞再発予防効果が得られる患者は?/JAMA

 18~60歳の卵円孔開存(PFO)関連脳梗塞患者において、PFOのデバイス閉鎖による脳梗塞再発リスクの低減効果は、脳梗塞とPFOの因果関係の確率で分類されたグループにより異なることが示された。この分類法は個別の治療意思決定に役立つ可能性があるという。米国・タフツ医療センターのDavid M. Kent氏らが、「Systematic, Collaborative, PFO Closure Evaluation(SCOPE)コンソーシアム」によるメタ解析の結果を報告した。PFOに関連する脳梗塞は、18~60歳の成人における脳梗塞の約10%を占める。PFOのデバイス閉鎖は脳梗塞の再発リスクを減少させるが、どのような治療法が最適かは不明であった。JAMA誌2021年12月14日号掲載の報告。再発例をPFO閉鎖術+内科的治療vs.内科的治療単独で比較 研究グループは、脳梗塞再発に対するPFO閉鎖術の治療効果の異質性を、これまでに開発されたスコアリングシステムに基づいて評価する目的で、2021年9月までに発表された脳梗塞再発予防のためのPFO閉鎖術と内科的治療を比較したすべての無作為化第III相試験について、個人データのメタ解析を行った。 有効性の主要評価項目は脳梗塞の再発で、PFO閉鎖術+内科的治療と内科的治療単独を比較するとともに、RoPE(Risk of Paradoxical Embolism)スコアおよびPASCAL(PFO-Associated Stroke Causal Likelihood)分類システムを用いたサブグループ解析を行った。 RoPEスコア(1~10点)は、原因不明の脳梗塞で発見されたPFOが、偶発的所見ではなく脳梗塞の原因である確率を示すもので、RoPEが高いほど若年でその確率が高いことを反映する。また、PASCAL分類システムは、RoPEスコアと高リスクPFOの特徴(心房中隔瘤またはシャント量増大のいずれか)を組み合わせ、因果関係を「可能性が低い」「可能性あり」「可能性が高い」の3つのカテゴリーに分類するものである。 2000年から2017年にかけて世界的に実施された無作為化臨床試験6件、計3,740例が解析に組み込まれた。脳梗塞の原因がPFOである可能性が高いほど、デバイス閉鎖の効果あり 追跡期間中央値57ヵ月(四分位範囲:24~64)において、3,740例中121件のイベントが認められた。脳梗塞の年間発生率は、内科的治療が1.09%(95%信頼区間[CI]:0.88~1.36)に対して、デバイス閉鎖併用では0.47%(0.35~0.65)であった(補正後ハザード比[HR]:0.41、95%CI:0.28~0.60)。 サブグループ解析では、統計学的に有意な交互作用が認められた。HRは、RoPEスコア低値の患者で0.61(95%CI:0.37~1.00)、高値の患者で0.21(0.11~0.42)であった(交互作用のp=0.02)。また、PASCAL分類システムで「可能性が低い」「可能性あり」「可能性が高い」と分類された患者のHRは、それぞれ1.14(95%CI:0.53~2.46)、0.38(0.22~0.65)、0.10(0.03~0.35)であった(相互作用のp=0.003)。2年間の絶対リスク減少は、PASCAL分類システムの「可能性が低い」「可能性あり」「可能性が高い」でそれぞれ-0.7%(95%CI:-4.0~2.6)、2.1%(0.6~3.6)、2.1%(0.9~3.4)であった。 デバイス関連有害事象は、「可能性が低い」と分類された患者で高く、無作為化後45日目以降の心房細動の絶対リスク増加は、「可能性が低い」「可能性あり」「可能性が高い」でそれぞれ4.41%(95%CI:1.02~7.80)、1.53%(0.33~2.72)、0.65%(-0.41~1.71)であった。

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腎不全患者の在宅中心静脈栄養の輸液設計を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第43回

 今回は、腎機能低下時の中心静脈栄養(以下、TPN)の設計についてです。腎機能低下時はタンパク質の利用制限があるため負荷量の制限が必要です。そのため、タンパク質の利用効率の指標であるNPC/N比(非タンパクカロリー/窒素比)を考慮して輸液設計を提案しました。患者情報80歳、男性(在宅)基礎疾患びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、前立腺がん(多発骨転移・リンパ節転移)、慢性心不全、心房細動、陳旧性脳梗塞、慢性腎不全、腹部大動脈瘤術後介護度要介護4服薬管理妻(点滴交換も妻が実施)介護状況毎週月曜日ルート交換、訪問看護処方内容 ※内服薬は誤嚥リスクのため中止1.エルネオパNF2号輸液 1,000mL 24時間投与2.フロセミド注20mg 1A 静脈注射本症例のポイントこの患者さんは、在宅医療で介入した当初よりBUN:49.8mg/dL、血清クレアチニン値:2.66mg/dLと高度の腎機能低下がありました。心不全もあるため水分量が多く、浮腫を繰り返して治療に難渋している状態でした。ある日、医師より電話連絡があり、「Alb値(1.9g/dL)、総タンパク(5.4g/dL)が低いので、がん末期で悪液質があることは承知のうえだが、栄養改善のために今の輸液内容にアミノ酸輸液を追加したいと考えているがどうか」と相談がありました。そこでポイントを整理することにしました。<NPC/N比(非タンパクカロリー/窒素比)>アミノ酸は十分な糖質や脂質を摂取できている状態ではタンパク合成に利用されるが、糖質や脂質が不足している状態ではエネルギーとして消費され、タンパク合成に利用されない。アミノ酸が効率よくタンパク質の合成に利用されるかどうかをみる指標としてNPC/N比が用いられる。NPC/N比=(総エネルギー量)-(タンパク質エネルギー量)/(タンパク質重量)÷6.25現行のエルネオパNF2号輸液1,000mLのNPC/N比は149で、腎不全時の推奨NPC/N比は300~500です。患者は腎不全があることからアミノ酸合成能力は低下しており、タンパク質の異化(分解)が亢進している状態と考えられます。タンパク質負荷が増加してアミノ酸利用能を超えると、BUN上昇から尿毒症や高NH3血症などが惹起される可能性が高くなります。輸液内容全体を見直して、アミノ酸利用効率の高い輸液設計が必要と考えました。処方提案と経過医師への折り返し電話の前に、トレーシングレポートで下記の輸液設計プランを送付しました。現在のエルネオパNF2号は電解質+糖質+アミノ酸+ビタミン剤+微量元素を含有した製剤であり、ここにアミノ酸輸液を上乗せするとさらにNPC/N比が低下します。そのため、電解質+糖質の製剤であるハイカリックRF輸液への変更を提案しました。ハイカリックRFの「RF」はRenal Failure(腎不全)の略で、腎不全患者用に調整された製剤です。また、本剤のみでは不足する成分もあるため、総合ビタミン剤や微量元素も追加し、アミノ酸輸液も腎不全用の低タンパク質製剤で個々に調整することが適当と考えました。提案内容1.ハイカリックRF輸液 500mL2.10%塩化ナトリウム注射液キット 20mL3.塩化カリウム注射液キット 20mEq4.高カロリー輸液用総合ビタミン剤キット 1キット5.腎不全用アミノ酸製剤(1-2)注射液200mL 2袋Total:1,094.4kcal、NPC/N比:312.5、水分量:900mL医師より上記の設計プランが承認され、投与内容を変更するよう指示がありました。変更対応後10日目に高Na血症(155mEq/L)が発現したことで10%塩化ナトリウム注射液キットが中止になりましたが、それ以外の輸液内容は継続となりました。その後、栄養評価に関する検査値の改善は認められませんでしたが、電解質も含めて悪化なく経過し、看取りまで点滴内容は継続となりました。日本静脈経腸栄養学会・大塚製薬工場. やさしく学ぶための輸液・栄養の第一歩 第4版.

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第27回 有名だけれども意外と見落とされがちな意識障害の原因は?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)意識障害の原因は主軸を持って対応を!2)忘れがちな意識障害の原因を把握し対応を!【症例】62歳男性。意識障害仕事場の敷地内で倒れていた。●受診時のバイタルサイン意識20/JCS血圧128/51mmHg脈拍95回/分(整)呼吸20回/分SpO295%(RA)体温36.0℃瞳孔4/4 +/+既往歴高血圧内服薬定期内服薬なし所見麻痺の評価は困難だが、明らかな左右差なし意識障害の原因は?1)救急外来では意識障害患者にしばしば遭遇します。以前に取り上げた意識障害のアプローチに準じて対応しますが、今回の原因は何らしいでしょうか。意識障害というとどうしても頭蓋内疾患を考えがちですが、一般的に頭蓋内疾患が原因の意識障害では血圧は高くなるため、この時点で明らかな麻痺も認めないことから脳卒中は積極的には疑いません。クモ膜下出血の多くは左右差を認めないため、突然発症であった場合には注意が必要ですけどね。それでは原因は何でしょうか?意識障害の原因は多岐に渡り、“AIUEOTIPS”などの語呂合わせで覚えている人も多いのではないでしょうか。急性発症の意識障害であれば、低血糖を除外し、その後頭部CTを検査するというのは一般的な流れかと思います。診療の場において頻度は異なりますが、救急外来を受診する患者では感染症、脳卒中、痙攣、薬剤性、外傷が多く、その他、血糖異常やアルコール、電解質異常などもそれなりに経験します。今回はその中でも見逃しがちな意識障害の原因を見逃される理由と併せて整理しておきましょう。細菌性髄膜炎2)頻度として高くはありませんが、病態として敗血症が考えられる状況においては常に考える必要があります。見逃してしまう理由は、そもそも鑑別に挙げることができない、鑑別に挙げても発熱がない、項部硬直を認めないなどから除外してしまう、その他腰椎穿刺は施行したものの細胞数の上昇を認めなかったため除外してしまったなどが一般的でしょう。ワクチンの普及によって、以前と比較し細菌性髄膜炎は減少傾向にあるものの、毎年私の施設でも数例を経験します。忘れた頃にやってくる疾患といったイメージでしょうか。救急外来では、qSOFA陽性患者では鑑別に挙げ、他のフォーカスが明らかでない場合には積極的に腰椎穿刺を施行し、たとえ細胞数が上昇していなくてもグラム染色所見や培養結果で根拠を持って否定できるまでは、細菌性髄膜炎として対応するようにしています。髄膜刺激徴候は重要ですが、ケルニッヒ徴候やブルジンスキー徴候など特異度が比較的高い所見はあるものの、感度が高い身体所見は存在しないことに注意が必要です(項部硬直は感度46.1%、特異度71.3%)。単一の指標ではなく、総合的な判断が必要であるため、髄膜刺激徴候は1つ1つ確認しますが、結果の解釈を誤らないようにしましょう。細菌性髄膜炎は内科的エマージェンシー疾患であり、安易な除外は禁物です。レジオネラ症(legionellosis)「レジオネラ肺炎」。誰もが聞いたことがある病気ですが、早期に疑い適切な介入を行うことは簡単なようで難しいものです。呼吸困難を主訴に来院し、低酸素血症を認め、X線検査所見では明らかな肺炎像、尿中抗原を提出して陽性、このような状況であれば誰もが考えると思いますが、実臨床はそんなに甘くはありません。肺炎球菌と並んで重症肺炎の代表的な菌であるため、早期発見、早期治療介入が重要ですが、入り口を把握し疑うポイントを知らなければ対応できません。レジオネラ肺炎を見逃してしまう理由もまた同様であり、そもそも鑑別に挙がらない、疑ったものの温泉入浴などの感染経路がなく否定してしまった、尿中抗原陰性を理由に除外してしまったなどが挙げられます。市中肺炎患者に対して肺炎球菌をカバーしない人はいないと思いますが、意外とレジオネラは忘れ去られています。セフトリアキソン(CTRX)やアンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)などの抗菌薬は、しばしば救急外来で投与されますが、これらはレジオネラに対しては無効ですよね。重症肺炎、喀痰グラム染色で起因菌が見当たらない、紹介症例などでCTRXなどβラクタム系抗菌薬が無効な場合には積極的にレジオネラ肺炎を疑う必要があります。難しいのは入り口が肺炎を示唆する症状ではない場合です。レジオネラ症の初期に認めうる肺外症状を頭に入れておきましょう(表)。これらを認める場合、他に説明しうる原因があれば過度にレジオネラを考える必要はありませんが、そうではない場合、「もしかしてレジオネラ?!」と考え、改めて病歴や身体所見をとるとヒントが隠れているかもしれません。また、意識すれば発熱の割に脈拍の上昇が認められない比較的徐脈にも気付くかもしれません。尿中抗原は診断に多々利用されていますが、これも注意が必要です。特異度は比較的高いとされますが、偽陽性の問題もあります。また、感度は決して高くないため陰性であっても否定できません。(1)重症肺炎、(2)βラクタム系抗菌薬が効かない肺炎、(3)グラム染色で有意な菌が認められない場合、(4)肺外症状を認める場合、(5)比較的徐脈を認める場合、このような場合にはレジオネラを意識して対応するようにしています。表 レジオネラ肺炎の肺外症状画像を拡大するウェルニッケ脳症4)アルコール多飲患者では鑑別に挙げ対応することが多いと思いますが、それ以外の場合には忘れがちです。フレイル患者など低栄養の患者さんでは常に考えるべき疾患であると思います。ウェルニッケ脳症が見逃されがちな5つの誤解があります。それは、「(1)非常にまれである、(2)慢性アルコール患者のみに起こる、(3)3徴(意識障害、眼球運動障害、歩行失調)が揃っていなければならない、(4)チアミンを静注するとアナフィラキシーのリスクが高い、(5)他の診断があれば除外できる」です。正確な頻度は不明であるものの、私たちが行わなければならないのはウェルニッケ脳症を診断すること以上に治療介入のタイミングを逃さないことです。意識障害患者に対するビタミンB1の投与は経静脈的に行いますが、迷ったら投与するようにしましょう。典型的な症状が揃うまで待っていてはいけません。重要なこととして(5)の他の診断があれば除外できるという誤解です。フレイル患者が脳梗塞を起こした場合、肺炎を起こした場合、その場合にビタミンB1が欠乏している(しかけている)ことも考え対応するようにしましょう。意識すると撮影した脳梗塞のMRIに典型的な所見が映っているかもしれませんよ。今回の症例の最終診断は「レジオネラ肺炎」でした。診断へのアプローチは紙面の都合上割愛しますが、意識障害のアプローチは主軸を持ちつつ、そのアプローチで見逃しがちな点を把握し、対応することが重要です。私は重度の意識障害患者に対するアプローチ方法を決め、そこから目の前の患者さんでは必要のない項目を引く形で対応しています。これもあれもと足し算で対応すると忘れたり、後手に回ることがありますからね。1)坂本 壮、安藤 裕貴著. 意識障害。あなたも名医!. 日本医事新報社;2019.2)Akaishi T, et al. J Gen Fam Med. 2019;20:193-198.3)Cunha BA. Infect Dis Clin North Am. 2010;24:73-105.4)坂本 壮 編著. 救急外来、ここだけの話. 医学書院;2021.

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脳梗塞の血栓除去術、発症6h以降でも機能障害を改善/Lancet

 発症後6~24時間で、可逆的な脳虚血の証拠が確認された急性期脳梗塞患者の治療において、血管内血栓除去術はこれを施行しない場合と比較して、90日後の修正Rankin尺度(mRS)で評価した機能障害が良好であり、日常生活動作の自立(mRS:0~2点)の達成割合も高いことが、米国・Cooper University Health CareのTudor G. Jovin氏らが実施した「AURORA試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2021年11月11日号で報告された。6つの無作為化対照比較試験のメタ解析 研究グループは、発症から6時間以上が経過した脳梗塞患者における、血管内治療のリスクとベネフィットを評価する目的で、無作為化対照比較試験の系統的レビューを行い、個々の患者データに基づくメタ解析を実施した(Stryker Neurovascularの助成を受けた)。 医学データベース(MEDLINE、PubMed、Embase、ClinicalTrials.gov)を用いて、2000年1月1日~2021年3月1日の期間に発表された文献が検索された。最後に健常な様子が目撃されてから6時間以上経過した前方循環系の大血管閉塞による脳梗塞患者において、第2世代血栓回収デバイス(ステント型血栓回収機器、大口径吸引カテーテル)+標準的薬物療法(介入群)と標準的薬物療法単独(対照群)を比較した無作為化対照比較試験を適格とした。 主要アウトカムは、90日の時点における修正Rankin尺度(mRS、0[障害なし]~6[死亡]点)で評価した機能障害の程度とされ、順序ロジスティック回帰分析で評価された。主な安全性アウトカムは、症候性脳出血と90日以内の死亡であった。 スクリーニングの対象となった17の試験のうち6つの試験(DAWN、DEFUSE 3、ESCAPE、REVASCAT、POSITIVE、RESILIENT)が、この研究の基準を満たした。1例でmRSを1点以上低下させる必要治療数は3 6試験の参加者505例(介入群266例、対照群239例、平均年齢68.6歳[SD 13.7]、女性259例[51.3%])が解析に含まれた。ベースラインのNIHSSスコア(0~42点、点数が高いほど脳卒中の重症度が高い)中央値は16点、発症から無作為化までの時間中央値は625分(IQR:472~808)、ASPECTS(0~10点、点数が高いほどCT画像上の早期虚血性変化を呈する中大脳動脈領域が少ない)中央値は8点(IQR:7~9)であった。 主要アウトカムの解析では、補正前の共通オッズ比(OR)は2.42(95%信頼区間[CI]:1.76~3.33、p<0.0001)、補正後の共通ORは2.54(1.83~3.54、p<0.0001)であり、血栓除去療法の利益が確認された。1例の患者でmRSを1点以上低下させて機能障害を改善するのに要する治療必要数は、3であった。 また、介入群は対照群に比べ、90日時点の日常生活動作の自立(mRS:0~2点)の割合が高かった(45.9%[122/266例]vs.19.3%[46/238例]、率比:2.37、95%CI:1.69~3.33、p<0.0001)。一方、90日死亡率(16.5%[44/266例]vs.19.3%[46/238例])および症候性脳出血の発生率(5.3%[14/266例]vs.3.3%[8/239例])は、両群間に有意差はみられなかった。 主要アウトカムに関して、すべてのサブグループ(年齢、性、ベースラインの脳梗塞の重症度、血管の閉塞部位、ベースラインのASPECTS、発症時の状況[目撃者あり、起床時、目撃者なし])で血栓除去療法の治療効果が認められ、発症後12~24時間に無作為化された患者(共通OR:5.86、95%CI:3.14~10.94、p<0.0001)は、6~12時間に無作為化された患者(1.76、1.18~2.62、p=0.0060)に比べ治療効果が高かった(p interaction=0.0087)。 著者は、「この研究結果は、保健施策の検討や臨床現場にいくつかの示唆を与え、現行のガイドラインの変更につながる可能性がある」とし、「これらの知見は、前方循環系の大血管近位部閉塞による脳梗塞患者では、高齢であることやベースラインのCT検査で梗塞サイズが中等度であること、中等度または重度の臨床的障害、発症状況、発症後6~24時間という時間枠を理由に、血管内血栓除去術を控えるべきではないことを示唆する」と指摘している。

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抗血小板薬抵抗性などの問題(解説:後藤信哉氏)

 心筋梗塞、脳梗塞などの疾病予防のため降圧、糖尿病管理などが行われる。降圧薬の効果は血圧で簡便・正確に計測できる。血糖もしかりである。アスピリン、クロピドグレルなどの抗血小板薬の効果を簡便・正確に計測する方法は確立されていない。このため、新薬が開発されるごとに古い薬の「抵抗性」などが強調された。クロピドグレルの特許切れ前には「アスピリン抵抗性」などが喧伝された。簡便・正確な薬効指標がないため、反論は困難であった。一世を風靡したクロピドグレルも特許切れした。同一の薬効標的に対してプラスグレル、チカグレロルが開発された。しかし、臨床家が実感できるクロピドグレルの欠点を探すのは困難であった。多くの医師は自らが処方する多く薬剤の代謝経路など理解していない。しかし、クロピドグレルについてはCYP2C19という肝酵素により活生体が産生されることが強調された。CYP2C19の遺伝子型も解明され、代謝の速いヒト、遅いヒトがいるとされた。代謝の遅いヒトではクロピドグレルの効果が発現しないように喧伝された。日本人を含むアジア人では代謝の遅いpoor metabolizerが多いのでクロピドグレルが効きにくいとされた。クロピドグレルの臨床開発に寄与して、日本人はむしろ効き過ぎて出血が増える懸念があるとして50mgの減量を承認したプロセスを熟知する筆者には世の中の風の変化が驚きであった。 クロピドグレルが効きにくいとされるCYP2C19のpoor metabolizerを6,412例集めて、イベントリスクの高いminor stroke/TIAを対象としたランダム化比較試験は科学的価値が高い。クロピドグレル群における7.6%の有効性1次エンドポイントの発現に対してチカグレロル群では6.0%とわずかに低かった。中等度以上の出血イベントに差がなく、全出血ではチカグレロル群が多かったので、この試験ではクロピドグレルよりもチカグレロルがより強い抗血小板効果を発現したのであろう。 本試験の結果はCYP2C19 loss-of-function alleleにてクロピドグレルが効かないことを示したわけではない。急性冠症候群におけるPLATO試験にてクロピドグレルに対する優越性を示した180mg loading 90mg/日は一般に体重の軽いアジア人には多過ぎることを示唆しているのかもしれない。いずれにしても、薬効を反映する簡便・正確なマーカーがない抗血小板薬では、ノイズを作られると否定するのが大変である。チカグレロル、プラスグレルの特許が切れれば真実がわかるかもしれない。

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急性期脳梗塞の欧州人患者、血管内治療前のアルテプラーゼは不要か/NEJM

 欧州人の急性期脳梗塞患者の治療において、血管内治療(EVT)単独はアルテプラーゼ静注後にEVTを行う通常治療と比較して、90日後の修正Rankin尺度で評価した機能障害に関して優越性も非劣性もみられず、死亡や症候性脳出血の発生にも両群間に差はないことが、オランダ・アムステルダム大学のNatalie E. LeCouffe氏らが実施した「MR CLEAN-NO IV試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌2021年11月11日号に掲載された。欧州3ヵ国の医師主導無作為化試験 本研究は、急性期脳梗塞の欧州人の患者の治療におけるEVT単独の有効性と非劣性をアルテプラーゼ静注後のEVTと比較する医師主導の非盲検(エンドポイント評価者盲検)無作為化試験であり、2018年1月~2020年10月の期間に、オランダ、ベルギー、フランスの20の病院で参加者の登録が行われた(オランダCollaboration for New Treatments of Acute Stroke consortiumなどの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、前方循環の頭蓋内近位部閉塞による急性期脳梗塞を発症し、各地域のガイドラインに従って、症状発症後4.5時間以内のアルテプラーゼ静注とEVTが可能と判定され、EVTが施行可能な施設に直接入院した患者であった。被験者は、EVT単独群またはアルテプラーゼ静注後にEVTを受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、90日の時点における修正Rankin尺度(0[障害なし]~6[死亡]点)で評価した身体機能のアウトカムとされた。EVT単独群のアルテプラーゼ+EVT群に対する優越性とともに、非劣性の評価が行われた。2つの群のオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)が算出され、95%CIの下限値0.8が非劣性マージンとされた。アジアの試験とは対照的な結果 539例が修正intention-to-treat解析に含まれ、273例(年齢中央値72歳[IQR:62~80]、男性59.0%)がEVT単独群、266例(69歳[61~77]、54.1%)はアルテプラーゼ+EVT群であった。通常治療群の脳梗塞発症からアルテプラーゼ投与までの時間中央値は98分(75~156)だった。 90日時における修正Rankin尺度スコア中央値は、EVT単独群が3点(IQR:2~5)、アルテプラーゼ+EVT群は2点(2~5)であった。補正後共通ORは0.84(95%CI:0.62~1.15、p=0.28)であり、EVT単独群の優越性と非劣性はいずれも示されなかった。 初回頭蓋内血管造影における再開通(EVT単独群2.8% vs.アルテプラーゼ+EVT群3.7%、OR:0.79、95%CI:0.42~1.47)や、最終頭蓋内血管造影における再灌流の成功(78.7% vs.83.1%、0.73、0.47~1.13)、24時間後のCTA/MRA上の再開通(78.2% vs.84.7%、0.82、0.52~1.28)の割合にも、両群間に差はなかった。 安全性のエンドポイントである90日時の死亡率は、EVT単独群が20.5%、アルテプラーゼ+EVT群は15.8%(補正後OR:1.39、95%CI:0.84~2.30)、症候性脳出血の発生率はそれぞれ5.9%および5.3%(1.30、0.60~2.81)であり、いずれも両群間に有意な差は認められなかった。 著者は、「前方循環脳梗塞のアジア人患者を対象とする既報の試験(中国のDIRECT-MT試験とDEVT試験)では、90日後の身体機能の転帰に関してEVT単独の非劣性が確認されているが、欧州人を対象とする本試験は対照的な結果となった」とまとめ、「この試験では、アルテプラーゼを投与されてから、EVTを受けるために他の病院へ転院した患者は除外されている。また、発症から病院到着までの時間が相対的に短いため、これらの知見の搬送に時間を要する環境への一般化可能性には限界がある」と指摘している。

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欧州人では血管内治療前の血栓溶解療法は必要か?(解説:内山真一郎氏)

 前方循環系の脳内主幹動脈閉塞による急性虚血性脳卒中において血管内治療(EVT)前のアルテプラーゼ静注療法の有無を比較した無作為化比較試験はいずれもアジア(中国と日本)で行われており、欧州で行われた本試験(MR CLEAN-NO IV)はアジア以外では初めての試験であった。 EVTが可能で、かつアルテプラーゼ静注療法の適応がある539例を対象に行われた本試験では、主要評価項目であった90日後の転帰に両群間で有意差はなく、EVT単独療法の非劣性は証明されず、安全性の評価項目であった症候性頭蓋内出血もEVT単独群とアルテプラーゼ併用群の間に有意差がなかった。 これまでに行われた同様の試験としては、中国で行われたDIRECT-MT試験とDEPT試験、および日本で行われたSKIP試験の3試験があり、それらのメタ解析によれば、血管内治療単独群と血栓溶解橋渡し療法群の間に3ヵ月後の転帰は有意差がなく、症候性頭蓋内出血も有意差がないという結果が示されている。本試験の結果もこのメタ解析と同様であり、この論争に決着をつけるには、さらなるエビデンスの集積が必要になる。

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併用療法の有効性が示唆される結果となった(解説:高梨成彦氏)

 経皮的脳血栓回収術では、血栓吸引カテーテルとステントリトリーバーの2種類のデバイスが使用される。基本的にはそれぞれ単独で使用するが、効率的な回収を期待して両者を組み合わせた併用療法も行われている。 本研究は併用療法がステントリトリーバー単独療法よりも有効性が高いという作業仮説を証明するために組まれた、オープンラベルのランダム化比較試験である。 主要評価項目は手術終了時のTICI 2c/3の有効再開通率と設定され、最終的に408例の患者が参加した。年間100例以上の脳血栓回収術を行っている施設のみが参加しており、術者は血栓吸引法とステントリトリーバー法をそれぞれ10例以上経験していることが条件である。 治療手技プロトコールとして注目すべきなのは、いずれの群も割り付けられた治療法を3回試行した後には、rescue therapyとして治療方法を切り換えることが認められている点である。これは実臨床に沿ったプロトコールであり、またRCTに起こりうる倫理的問題を回避しているともいえる。 主要評価項目に関しては併用群と単独群との間で有意差が示されなかった(64.5% vs.57.9%、p=0.17)。 しかし単純に併用療法の優位性が示されなかったと解釈すべきではないと考えられる。まず考察で述べられているように、研究計画当初よりも器材の性能が改善し全体の治療成績が向上しており、併用による上乗せが期待できる割合が少なくなった。さらにrescue therapyの効果によって単独療法に対する併用療法の有効性が曖昧にならざるを得ない。その証拠に、割り付けられた治療方法が終了した時点でのTICI 2b以上の再開通率は併用療法群が有意に高く(86.2% vs.72.3%)、さらに併用療法群ではrescue therapyを要した割合が少なかった。 また穿刺から再開通までに要した時間は両群でほとんど同じであった。併用療法は2種の器材を使用するために準備や手技が複雑にならざるを得ない。しかし少ない試行回数で確実に血栓を回収できるために、全体として手技時間はほぼ同じになったと解釈できる。 本研究の結果から併用療法か単独療法いずれを第1選択としてもrescue therapyへの切り替えを適切に行えば臨床的有効性に決定的な差はないともいえるが、手技としては併用療法に軍配が上がるという印象を強く受ける。主要評価項目における有意差は示されなかったがRCTとして失敗したと評価するべきではなく、きわめて重要な示唆に富む結果をわれわれに示してくれた貴重な臨床試験として評価したい。

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問診が要の片頭痛、判断基準を整理しよう!【Dr.山中の攻める!問診3step】第8回

第8回 問診が要の片頭痛、判断基準を整理しよう!―Key Point―二次性頭痛の除外が最も大切である二次性頭痛が否定的ならば、片頭痛の特徴的症状がないかを問診で確認する三叉神経・自律神経性頭痛は片頭痛と治療が異なるので鑑別は重要症例:27歳 女性主訴)頭痛現病歴)生来健康な27歳女性。1ヵ月前から毎日1時間続く、ひどい頭痛を主訴に来院。いつも右の頭部に痛みがある。このような頭痛の経験はない。片頭痛の既往はなし。NSAIDs(商品名:ロキソニン)は効かない。2週間前から、頭痛時に頭痛と同じ右側の目から流涙、右鼻から鼻汁あり。ズキズキするひどい痛みが1時間続く。明け方4時30分頃や20時頃に、決まって毎日右側の頭痛あり。20~21時の頭痛は目をえぐられる感じ。頭痛時に落ち着きがなくなり歩き回る。既往歴)特になし薬剤歴)定期服用薬なし経過)症状から群発頭痛を疑った。酸素投与とトリプタン(皮下注)の投与を開始した。◆今回おさえておくべき臨床背景はコチラ!雷鳴頭痛は内科エマージェンシー。くも膜下出血が最多三叉神経・自律神経性頭痛を見逃さない。群発頭痛が最多インドメタシンが著効する頭痛がある【STEP1】患者の症状に関する理解不足を解消させよう【STEP2-1】二次性頭痛を除外し、片頭痛なのか診断しよう■二次性頭痛を疑うred flag1)初めて経験する、または最悪の頭痛突然発症した雷鳴様頭痛増悪する、または今までとはまったく異なるパターンの頭痛脳神経学的異常所見あり50歳以上の新規発症頭痛担がん、凝固異常、免疫抑制状態の患者、妊婦に起こった新規の頭痛意識変容や意識障害を伴う頭痛体位、労作、性行為、バルサルバ法により誘発された頭痛これらがあれば、MRIでの精査が必要となる。■雷鳴頭痛*の鑑別診断1)*1分以内に最高となる突然発症の頭痛くも膜下出血(最多)、脳静脈洞血栓症、内頸動脈解離/椎骨動脈解離、可逆性脳血管攣縮症候群、可逆性後白質脳症症候群、下垂体卒中、緑内障発作、脳梗塞可逆性脳血管攣縮症候群は2番目に多い。入浴やシャワー、性行為、薬剤が誘引となり雷鳴頭痛を繰り返す■片頭痛なのか診断二次性頭痛が否定されれば、医療機関を訪れる患者の90%は片頭痛である片頭痛は軽症から重症までいろいろな表現形を持つ。緊張型頭痛と誤って診断される片頭痛は非常に多い。片頭痛の問診(POUND)2):3つ以上の項目が当てはまるなら、片頭痛と診断できる。PPulsatile quality(拍動性)O4-72 hOurs(4〜72時間続く)UUnilateral location(片側性)NNausea/vomiting(吐き気)DDisabling intensity(日常生活に支障)薬剤乱用頭痛、睡眠時無呼吸症候群、カフェイン中毒を否定することが大切である頭痛ダイアリーは診断に大いに役立つ【STEP2-2】三叉神経・自律神経性頭痛(TACs: trigeminal autonomic cephalalgias)を鑑別のために、次のいずれかの症状の有無を疑う■下記の自律神経症状(頭痛と同側に起こる)の発症、または発作中に興奮し落ち着きがなくウロウロ歩き回る結膜充血または流涙鼻閉または鼻汁眼瞼浮腫前額部と顔の発汗縮瞳または眼瞼下垂■群発頭痛(TACsでは最多)1,3)「キリで眼を突き刺されるような」かなり激しい片側性の頭痛かつては男性にほぼ特有の疾患と考えられていたが、最近の疫学統計では男女比は3~7:1発作の頻度は1日に1~8回、夜間決まった時刻に起こることが多い持続時間は15~180分で、数週〜数ヵ月続くアルコールが誘引となる■インドメタシンが著効する頭痛発作性片側頭痛(頻度:1~40回/日、持続:2~30分)や持続性片側頭痛(頻度:3~200回/日、時々悪化しながら持続する痛み)がある3)【STEP3】治療■片頭痛急性期治療はNSAIDs、トリプタン製剤、制吐薬である。いくつかを組み合わせて使うと効果的である頭痛が起こって1時間以内に薬を使うことが大切である皮膚アロディニア(感覚異常)が起こってからではトリプタン製剤の効果は減る。トリプタン製剤は十分な量を使用し、効果がなければ別のトリプタン製剤を試すと有効なことがある1ヵ月に10日以上、片頭痛発作があるときは、予防治療を考慮する。非薬物的療法として、規則正しい睡眠、分割した少量ずつの食事、十分な水分摂取を指導する。薬物ではプロプラノロール(商品名:インデラル)、トピラマート(商品名:トピナ)を用いる1)■群発頭痛治療は高流量の酸素投与(リザーバーマスクで12L/分、15分間)とスマトリプタン(商品名:イミグランキット)の皮下注を行う。経口トリプタン製剤は効果発現が遅いため役に立たない。群発頭痛の予防はベラパミル(商品名:ワソラン)を用いる。<参考文献・資料>1)ACP MKSAP19 Neurology. P1, 20212)Wilson JF, et al. Ann Intern Med. 2007;147:ITC11-1-ITC11-16.3)Goldman L, et al. Goldman-Cecil Medicine. 26th. Elsevier. 2020.p2316-2323.日本頭痛学会:頭痛ダイアリー日本神経学会、日本頭痛学会、日本神経治療学会:頭痛の診療ガイドライン2021

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