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1 疾患概要■ 概要家族性地中海熱(Familial Mediterranean fever:FMF)は、持続時間が比較的短い(1~3日)周期性発熱と漿膜炎を主徴とする遺伝性の自己炎症疾患である。本疾患は、MEFV遺伝子の異常に伴うインフラマソームの機能異常とIL-1βの産生による自己炎症が病態の中心にある。2009年に行った全国調査の結果では、各種臨床症状の頻度は、発熱が95.5%、胸痛(胸膜炎症状)が35.8%、腹痛(腹膜炎症状)62.7%、関節炎が31.2%であった。また、AA アミロイドーシスは3.7%に確認された。治療に関しては、コルヒチン(商品名:同)が92.0%の患者に有効であった。わが国において一定数のFMF患者が存在しており、重篤な合併症であるAA アミロイドーシスを予防するためにも早期診断、早期治療介入が望まれる。■ 疾患概念FMFは、パイリンの機能異常を背景として、炎症制御機構の破綻により発症する遺伝性自己炎症疾患である。臨床的には、漿膜炎(胸痛発作、腹痛発作)、関節炎を周期的に繰り返す。FMFの病型は、典型例、非定型例(不完全型)に大別され、典型例では12~72時間持続する38℃以上の発熱発作を認めるのに対して、非定型例では発熱期間、発熱の程度(38℃以上でないことがある)が典型例と異なり、また随伴する漿膜炎症状が、不完全である点も典型例と異なる。■ 病態生理FMFは、NLRP3インフラマソーム関連蛋白であるpyrinをコードするMEFV遺伝子の変異で発症すると考えられている。インフラマソームは、NLRとASC、caspase-1からなる。NLRはヒトで20個あまり同定されており、N末端にcaspase recruitment domain(CARD)あるいはpyrin domain (PYD)を持ち、中央にNOD領域を有するのが基本である。(NLR family PYD-containing 3)NLRP3を例に取るとNLRP3、ASC、caspase-1がCARD、PYDを介してインフラマソームを形成し重合すると、最終的に活性化されたcaspase-1によりpro-IL-1βが切断され活性型IL-1βに変換されることで炎症が誘導される1)。FMFの責任遺伝子であるMEFV遺伝子がコードするpyrinはNLRP3とASCのPYDを介した結合に干渉し、インフラマソームの活性を負に制御すると推定されている2)。MEFV遺伝子変異とpyrinの機能異常に関して結論が出ていないが、MEFV遺伝子変異によりpyrinのインフラマソームの抑制機能が障害され、自己炎症が起こると考えられている。■ 臨床症状1) 発熱症状FMFでもっとも高率にみられる症状が、周期性発熱である。発熱パターンには特徴があり、典型例では周熱期間が1~3日と短く、発熱は自然に軽快する。発熱はCRP、SAAなどの急性期蛋白の増加を伴っている。発熱発作の頻度は個人差があり、発熱発作の誘因としてストレス、手術などによる侵襲、女性の場合は月経などが挙げられる。FMFの責任遺伝子産物であるpyrinは好中球で、高発現していること、また、FMFの発作時に漿膜などの炎症局所に好中球が浸潤していることにより、FMFの自己炎症の病因の1つとして好中球の機能異常が考えられている。2) 随伴症例発熱に伴い出現することが多い随伴症状として漿膜炎、滑膜炎が挙げられる。漿膜炎の中でも胸膜炎において、咳嗽、胸水貯留を認めることは少なく、患者は胸痛に加え背部症、呼吸の際の違和感などの症状を訴えることもある。本症でみられる無菌性漿膜炎発作の病理的特徴は、漿膜細胞への好中球の浸潤である。腹膜炎による急性の腹痛は、腹水や腹膜刺激症状などの所見を伴うこともあり、急性腹症との鑑別が重要である。女性の場合は、月経で誘発されることもあり、激しい下腹部に限局した腹膜炎症状を呈することもある。滑膜炎は、膝関節、足関節などの下肢の単関節で発症することが多く、組織学的には、滑膜組織への好中球浸潤を特徴とする。また、頻度は少ないが、心外膜炎、無菌性髄膜炎、丹毒様紅斑などの随伴症状がみられることもある。■ 臨床経過・予後FMFの予後に影響する重大な合併症、遷延する炎症に続発するAAアミロイドーシスである。全国調査の結果でも134人中5人(約4%)にアミロイドーシスの合併がみられた3)。アミロイドーシス合併頻度は、コルヒチンの投与開始がまだ遅れているわが国の状況を考慮しても、海外症例に比べて明らかに低い。これらの結果は、わが国には重症例に多く、アミロイドーシス合併にも関連があると考えられているM694V変異例がみられないこと、MEFV exon10のホモ接合体の頻度が低いことに起因していると考えられ、遺伝子変異型と重症度の関連が考えられる。アミロイドーシスを合併したFMF症例の発症から治療開始までの平均期間は、20.1±4.5年と長く、アミロイドーシスの合併予防には、FMFの早期治療、早期治療介入が必要と考えられる。また、FMFはSAA高値接続するのではなく、周期的に上昇がみられる点が、関節リウマチなどの慢性炎症性疾患と異なり、SAAの厳密な陰性化は、RAほど重要でないかもしれないが、SAAの陰性化もアミロイドーシス予防には必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 診断基準FMFの診断には、Tel-Hashomer criteriaが海外では用いられているが4)、漿膜炎発作を限局型、非限局型に分類するなど難解な点も多い。わが国で使用されている診断基準を表に示す。必須項目と補助項目のいずれか1項目以上認める場合、臨床的にFMF典型例と診断する。感染症、自己免疫疾患、ほかの自己炎症疾患の鑑別は必要である。遺伝子診断に関しては、MEFV遺伝子の疾患に関連する遺伝子変異を認めない症例が一部みられ、臨床診断が中心となるが、exon10の変異(日本人は主にM649I)は、浸透率が高く診断的意義は高い。また、典型例と非定型例の識別には、MEFV遺伝子解析がある程度有用である。表 FMF診断基準●必須項目:12時間から72時間続く38℃以上の発熱を3回以上繰り返す。発熱時には、CRPや血清アミロイドA(SAA)などの炎症検査所見の著明な上昇を認める。発作間欠期にはこれらが消失する。●補助項目:1 発熱時の随伴症状として、以下のいずれかを認める。a 非限局性の腹膜炎による腹痛 b 胸膜炎による胸背部痛 c 関節炎d 心膜炎 e 精巣漿膜炎 f 髄膜炎による頭痛2 コルヒチンの予防内服によって発作が消失あるいは軽減する。必須項目と、補助項目のいずれか1項目以上を認める症例を、臨床的にFMF典型例と診断する。■ 不完全型FMFの存在典型的なFMFは、発熱発作、漿膜炎発作が半日~3日以内のことが多い。一方、非定型的なFMFは、発熱期間が典型例と異なり、数時間以内であったり、4日以上持続したり、38℃以上の発熱がみられない(微熱)こともある。また、漿膜炎発作が典型的でなく(限局している、激しい腹痛はなく腹膜刺激症状を伴わない)、関節痛、筋肉痛などの非特異的症状がみられることがある。これら病像を呈する症例は、不完全型(非定型的)FMFである可能性があり、MEFV遺伝子検査が診断の補助となる。不完全型FMFでは、MEFV遺伝子 exon10の変異は少なくexon1(E84K)、exon2(E148Q、L110-E148Q、R202Q、G304R)、exon3(P369S-R408Q)、exon5(S503C)の変異を伴っていることが多い。■ 検査所見検査所見では、好中球優位の白血球増加、赤沈亢進、CRPおよびフィブリノゲンの上昇など、非特異的な炎症所見を認める。アミロイドーシス合併例では、尿蛋白、腎機能の上昇を認めることがある。FMFでは、好中球の機能亢進が病態の1つと考えられており、筆者らもFMF患者において、好中球CD64分子が、自己免疫疾患患者に比べ、有意に上昇していることを確認している5)。■ 画像所見FMFに特異的な画像診断はないが、FMFの随伴症状である漿膜炎発作を画像で検出できる可能性がある。胸膜炎(胸痛)発作時に示すように胸水、心嚢水を認める場合もあるが6)、このようなケースはまれである。家族性地中海熱の一部は、MEFV遺伝子に疾患関連変異がない症例が少なくなく、臨床診断が中心となるが、exon10の変異(日本人は主にM694I)は、浸透率が高く診断的意義は高い。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)FMFの治療の中心はコルヒチン投与であり、コルヒチンで症状の改善がみられる。治療に関する海外のリコメンデーション7)でも、コルヒチンの有用性はランダム化比較試験でも確認されており、成人、小児においても、第1選択薬として位置付けられている。コルヒチン治療開始後は、3ヵ月間隔で治療効果を判定すべきで、発熱発作が3ヵ月に1回以上、あるいは発作の有無にかかわらず、炎症反応が持続する場合は、コルヒチンの投与量を増量すべきと推奨されている。コルヒチンの投与は、小児例においても、症状の改善、アミロイドーシスの予防のために考慮されるべきである。小児におけるコルヒチンの投与量は、0.03~0.07mg/kg/日である。成人においては、1mg/日(1日2~3回の分割投与が望ましい)が至適投与量であるが、わが国FMFにおいては0.5mg/日と比較的少ない投与量でも改善がみられることがある。コルヒチン治療で改善がみられない場合やコルヒチンの副作用のため使用できない場合は、代替治療が必要である。十分量のコルヒチンを投与しても年間6回以上の発熱発作がある場合は、コルヒチン耐性と考え、他の治療法を考えるべきであり、その場合、IL-1阻害薬が第1選択薬と考えられている8)。4 今後の展望これまでの調査などにより、わが国でも一定数の家族性地中海熱症例が存在し、その臨床像の海外症例との相違点が明らかにされている。わが国で経験する症例は海外症例に比べ、重症度は高くないと考えられるが、治療が遅れるとアミロイドーシス合併リスクがあり、早期診断、早期治療介入が望まれる。また、非特異的症状を呈する不完全型FMFの存在に加え、本症の責任遺伝子であるMEFV遺伝子の異常が家族性地中海熱以外のリウマチ性疾患の病態にも関与している可能性があり、今後の研究の進展が望まれる。5 主たる診療科膠原病・リウマチ内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 家族性地中海熱(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報自己炎症疾患友の会 家族性地中海熱(患者とその家族向けのまとまった情報)1)Pedra JH, et al. Curr Opin Immunol. 2009; 21: 10-16.2)Stojanov S, et al. Curr Opin Rheumatol. 2005; 17: 586-599.3)Migita K, et al. Medicine (Baltimore). 2012; 91: 337-343.4)Livneh A, et al. Arthritis Rheum. 1997; 40: 1879-1885.5)Migita K, et al. Clin Exp Immunol. 2011; 164: 365-372.6)Takazono T, et al. Respiration. 2012; 84: 334-336.7)Hentgen V, et al. Semin Arthritis Rheum. 2013; 43: 387-391.8)Hashkes PJ, et al. Ann Intern Med. 2012; 157: 533-541.