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褐色細胞腫・パラガングリオーマ〔PPGL:pheochro mocytoma/paraganglioma〕

1 疾患概要褐色細胞腫・パラガングリオーマ(PPGL)は副腎髄質または傍神経節のクロム親和性細胞から発生するカテコールアミン産生腫瘍で、前者を褐色細胞腫、後者をパラガングリオーマ、総称して「褐色細胞腫・パラガングリオーマ」と呼ぶ。カテコールアミン過剰分泌による症状と腫瘍性病変による症状がある。カテコラミン過剰により、動悸、頭痛などの症状、高血圧、糖代謝異常などの種々の代謝異常、心血管系合併症、さらには各種の緊急症(高血圧クリーゼ、たこつぼ型心筋症による心不全、腫瘍破裂によるショックなど)を呈することがある。すべてのPPGLは潜在的に悪性腫瘍の性格を有し、実際、約10〜15%は悪性・転移性を示す。それ故、早期の適切な診断と治療が極めて重要である。原則として日本内分泌学会「褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018」1)(図)に基づき、診断と治療を行う。図 褐色細胞腫・パラガングリオーマの診療アルゴリズム画像を拡大する2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ PPGLを疑う所見カテコラミン過剰による頭痛、動悸、発汗、顔面蒼白、体重減少、悪心・嘔吐、心筋梗塞類似の胸痛、不整脈などの多彩な症状を示す。肥満はまれである。高血圧を約85%に認め、持続型、発作型、混合型があるが、特に発作性高血圧が特徴的である。持続型では治療抵抗性高血圧の原因となる。発作型では各種刺激(運動、ストレス、過食、排便、飲酒、腹部触診、メトクロプラミド[商品名:プリンペラン]静注など)で高血圧発作が誘発される(高血圧クリーゼ)。さらに、急性心不全、肺水腫、ショックなどを合併することもある。発作型の非発作時には、まったくの「無症候性」であることも少なくない。また、高血圧をまったく呈さない無症候性や、逆に起立性低血圧を示すこともある。副腎や後腹膜の偶発腫瘍として発見される例も多い。■ スクリーニングの対象PPGLは二次性高血圧の中でも頻度が少なく、希少疾患に位置付けられるため、全高血圧でのスクリーニングは、費用対効果の観点から現実的ではない。PPGLガイドラインでは、特に疑いの強いPPGL高リスク群(表)での積極的なスクリーニングを推奨している。表 PPGL高リスク群1)PPGLの家族歴ないし既往歴(MEN、Von Hippel-Lindau病など)のある例2)特定の条件下の高血圧(発作性、治療抵抗性、糖尿病合併、高血圧クリーゼなど)3)多彩な臨床症状(動悸、発汗、頭痛、胸痛など)4)副腎偶発腫特に近年、副腎偶発腫瘍、無症候例の頻度が増加しているため、慎重な鑑別診断が必須である。スクリーニング方法カテコールアミン過剰の評価に際しては、運動、ストレス、体位、食品、薬剤などの測定値に影響する要因を考慮する必要がある。まず、外来でも実施可能な血中カテコールアミン(CA)分画(正常上限の3倍以上)、随時尿中メタネフリン分画(メタネフリン、ノルメタネフリン)(正常上限の3倍以上または500ng/mg・Cr以上)の増加を確認する。メタネフリン、ノルメタネフリンはカテコールアミンの代謝産物であり、随時尿でも安定であるため、スクリーニングや発作型の診断に有用である。近年、海外で第1選択である血中遊離メタネフリン分画も実施可能となったが、海外とは測定法が異なるため注意を要する。機能診断法上記のスクリーニングが陽性の場合、24時間尿中カテコールアミン分画(≧正常上限の2倍以上)、24時間尿中総メタネフリン分画(正常上限の3倍以上)の増加を確認する。従来実施された誘発試験は著明な高血圧を来すため推奨されない。アドレナリン優位の腫瘍は褐色細胞腫、ノルアドレナリン優位の腫瘍はパラガングリオーマが多い。画像診断臨床的にPPGLが疑われる場合は腫瘍の局在、広がり、転移の有無に関する画像診断(CT、MRI)を行う。約90%は副腎原発で局在診断が容易であり、副腎偶発腫瘍としての発見も多い。約10%はPGLで時に局在診断が困難なため、CT、 MRI、123I-MIBGシンチグラフィなどの複数のモダリティーを組み合わせる。(1)CT副腎腫瘍確認の第1選択。造影剤使用はクリーゼ誘発の可能性があるため、わが国では原則禁忌であり、実施時には患者への説明・同意とフェントラミンの準備が必須となる。(2)MRI副腎皮質腫瘍との鑑別診断、頭頸部病変、転移性病変の診断に有用である。(3)123I-MIBGシンチグラフィ疾患特異性が高いが偽陰性、偽陽性がある。PGLや転移巣の診断にも有用である。ヨウ化カリウムによる甲状腺ブロックを行う。(4)18F-FDG PET多発性病変や転移巣検索に有用である。病理学的診断(1)良・悪性を鑑別する病理組織マーカーは未確立である。組織所見とカテコールアミン分泌パターンを組み合わせたスコアリング(GAPP)が悪性度と予後判定に有用とされる。(2)コハク酸脱水素酵素サブユニットB(SDHB)の免疫染色の欠如はSDHx遺伝子変異の存在を示唆する。遺伝子解析(1)PPGLの30~40%が遺伝性で、19種類の原因遺伝子が報告されている2)。(2)若年発症(35歳未満)、PGL、多発性、両側性、悪性では生殖細胞系列の遺伝子変異が示唆される2)。(3)SDHB遺伝子変異は遠隔転移が多いため悪性度評価の指標となる。(4)全患者において遺伝子変異の頻度と臨床的意義、遺伝子解析の利益と不利益の説明を行うことが推奨されるが、必須ではなく、[1]遺伝カウンセリング、[2]患者の自由意思による判断、[3]質の担保された解析施設での実施が重要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)過剰カテコールアミンを阻害する薬物治療と手術による腫瘍摘除が治療原則である。1)薬物治療α1遮断薬が第1選択で、効果不十分な場合、Ca拮抗薬を併用する。頻脈・頻脈性不整脈ではβ遮断薬を併用するが、α1遮断薬に先行しての単独投与は禁忌である。循環血漿量減少に対して、術前に高食塩食あるいは生理食塩水点滴を行う。α1遮断薬でのコントロール不十分な場合はカテコールアミン合成阻害薬メチロシン(商品名:デムサー)を使用する。2)外科的治療小さな褐色細胞腫では腹腔鏡下副腎摘除術、悪性度が高い例では開腹手術を施行する。潜在的に悪性であることを考慮して、腫瘍被膜の損傷に注意が必要である。家族性PPGLや対側副腎摘除後の症例では副腎部分切除術を検討する。悪性の可能性があるため、全例で少なくとも術後10年間、悪性度が高いと判断される高リスク群では生涯にわたる経過観察が推奨される。3)悪性PPGL131I-MIBG内照射、CVD化学療法、骨転移に対する外照射などの集学的治療を行う。治癒切除が困難でも、原発巣切除術による予後改善が期待される。■ 診断と治療のアルゴリズム上述の日本内分泌学会診療ガイドラインの診療アルゴリズム(図)を参照されたい。PPGL高リスク群で積極的にスクリーニングを行う。外来にて血中カテコラミン、随時尿中メタネフリン分画などを測定、疑いが強ければ、蓄尿でのCA分画と画像診断を行う。内分泌異常と画像所見が合理的に一致していれば、典型例での診断は容易である。無症候性、カテコールアミン産生能が低い例、腫瘍の局在を確認できない場合の診断は困難で、内分泌検査の反復、異なるモダリティーの画像診断の組み合わせが必要である。単発性病変であれば、α1ブロッカーによる適切な事前治療後、腫瘍摘出術を行う。術後、長期にわたり定期的に経過観察を要する。悪性・転移性の場合は、ガイドラインに準拠して集学的な治療を行う。診断と治療は専門医療施設での実施が推奨される。4 今後の展望今後解決すべき課題は以下の通りである。PPGL疾患概念の変遷:分類、神経内分泌腫瘍との関連診療アルゴリズムの改変診断基準の精緻化機能検査:遊離メタネフリン分画の位置付け画像検査:オクトレオチドスキャンの位置付け、68Ga-DOTATEシンチの応用遺伝子検査の臨床的適応頸部パラガングリオーマの診断と治療内科的治療:デムサの適応と治療効果核医学治療:123I-MIBG、ルテチウムオキソドトレオチド(商品名:ルタテラ)の適応と実態5 主たる診療科初回受診診療科は一般的に代謝・内分泌科、循環器内科、泌尿器科、腎臓内科など多岐にわたるが、以下の場合には専門医療施設への紹介が望ましい。(1)PPGLの家族歴・既往歴のある患者(2)高血圧クリーゼ、治療抵抗性高血圧、発作性高血圧などの患者(3)副腎偶発腫瘍で基礎疾患が不明な場合(4)PPGLの局所再発や遠隔転移のある悪性PPGL(5)遺伝子解析の実施を考慮する場合6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難治性副腎疾患プロジェクト(医療従事者向けのまとまった情報)1)成瀬光栄、他. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「褐色細胞腫の実態調査と診療指針の作成」研究班 平成22年度報告書.2010.2)Lenders JW、 et al. J Clin Endocrinol Metab. 2014;99:1915-1942.3)日本内分泌学会「悪性褐色細胞腫の実態調査と診療指針の作成」委員会(編).褐色細胞腫・パラガングリオーマ診療ガイドライン2018.診断と治療社;2018.公開履歴初回2023年1月5日

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12~20歳のmRNAコロナワクチン接種後の心筋炎をメタ解析、男性が9割

 12~20歳の若年者へのCOVID-19mRNAワクチン接種後の心筋炎に関連する臨床的特徴および早期転帰を評価するため、米国The Abigail Wexner Research and Heart Center、Nationwide Children’s Hospitalの安原 潤氏ら日米研究グループにより、系統的レビューとメタ解析が行われた。本研究の結果、ワクチン接種後の心筋炎発生率は男性のほうが女性よりも高く、15.6%の患者に左室収縮障害があったが、重度の左室収縮障害(LVEF<35%)は1.3%にとどまり、若年者のワクチン関連心筋炎の早期転帰がおおむね良好であることが明らかとなった。JAMA Pediatrics誌オンライン版2022年12月5日号に掲載の報告。 本研究では、2022年8月25日までに報告された、12~20歳のCOVID-19ワクチン関連心筋炎の臨床的特徴と早期転帰の観察研究および症例集積研究を、PubMedとEMBASEのデータベースより23件抽出し、ランダム効果モデルメタ解析を行った。抽出されたのは、前向きまたは後ろ向きコホート研究12件(米国、イスラエル、香港、韓国、デンマーク、欧州)、および症例集積研究11件(米国、ポーランド、イタリア、ドイツ、イラク)の計23件の研究で、COVID-19ワクチン接種後の心筋炎患者の合計は854例であった。被験者のベースラインは、平均年齢15.9歳(95%信頼区間[CI]:15.5~16.2)、SARS-CoV-2感染既往者3.8%(1.1~6.4)。心筋炎の既往や心筋症を含む心血管疾患を有する者はいなかった。 本系統レビューおよびメタ解析は、PRISMAガイドライン、およびMOOSEガイドラインに従った。バイアスリスクについて、観察研究はAssessing Risk of Bias in Prevalence Studies、症例集積研究はJoanna Briggs Instituteチェックリスト、各研究の全体的品質はGRADEを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・接種したワクチンは、ファイザー製(BNT162b2)97.5%、モデルナ製(mRNA-1273)2.2%であった。・ワクチン接種後に心筋炎を発症した患者では、男性が90.3%(87.3~93.2)であった。・ワクチン接種後に心筋炎を発症した患者では、1回目接種後(20.7%、95%CI:58.2~90.5)よりも2回目接種後(74.4%、58.2~90.5)のほうが多く、心筋炎の発生率は、1回目接種後が100万人あたり0.6~10.0例、2回目接種後が100万人あたり12.7~118.7例であった。・ワクチン接種から心筋炎発症までの平均間隔のプールされた推定値は2.6日(95%CI:1.9~3.3)であった。・左室収縮障害(LVEF<55%)は患者の15.6%(95%CI:11.7~19.5)に認められたが、重度の左室収縮障害(LVEF<35%)を有する患者は1.3%(0~2.6)にすぎなかった。・心臓MRI検査(CMR)では、87.2%の患者にガドリニウム遅延造影(LGE)所見が認められた。・92.6%(95%CI:87.8~97.3)の患者が入院し、23.2%(11.7~34.7)の患者がICUに収容されたが、昇圧薬投与は1.3%(0~2.7)にとどまり、入院期間は2.8日(2.1~3.5)で、入院中の死亡や医療機器の支援を必要とした患者はいなかった。・最もよく見られた心筋炎の臨床的特徴は、胸痛83.7%(95%CI:72.7~94.6)、発熱44.5%(16.9~72.0)、頭痛33.3%(8.6~58.0)、呼吸困難/呼吸窮迫25.2%(17.2~33.1)だった。・心筋炎の治療に使用された薬剤は、NSAIDsが81.8%(95%CI:75.3~88.3)、グルココルチコイド13.8%(6.7~20.9)、免疫グロブリン静注12.0%(3.8~20.2)、コルヒチン7.3%(4.1~10.4)であった。 著者によると、SARS-CoV-2感染後の心筋炎発症リスクは、mRNAワクチン接種後の心筋炎発症リスクよりも有意に高いという。本結果は、複数の国や地域の多様な若年者の集団において、ワクチン関連心筋炎の早期転帰がおおむね良好であり、ワクチン接種による利益は潜在的リスクを上回ることを裏付けるとしている。

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生後6ヵ月からCOVID-19ワクチン接種推奨を提言/日本小児科学会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)第8波が到来しつつある今、第7波で起こった小児へのCOVID-19感染の増加、重症化や今冬のインフルエンザの同時流行を憂慮し、日本小児科学会(会長:岡明[埼玉県立小児医療センター])の予防接種・感染症対策委員会は、同学会のホームページで「生後6ヵ月以上5歳未満の小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」を発表した。 これは先に示した「5~17歳の小児におけるワクチンの有益性」も考慮したうえで、メリット(発症予防)がデメリット(副反応など)を上回ると判断し、生後6ヵ月以上5歳未満の小児でも推奨したもの。 なお、厚生労働省では乳幼児(生後6ヵ月~4歳)の接種は「努力義務」としている。生後6ヵ月以上5歳未満の小児でも接種の方がメリットある 同学会ではワクチン推奨の考え方の要旨として以下4点にまとめている。1)小児患者数の急増に伴い、以前は少数であった重症例と死亡例が増加している。2)成人と比較して小児の呼吸不全例は比較的まれだが、オミクロン株流行以降は小児に特有な疾患であるクループ症候群、熱性けいれんを合併する児が増加し、また、脳症、心筋炎などの重症例も報告されている。3)生後6ヵ月以上5歳未満の小児におけるワクチンの有効性は、オミクロン株BA.2流行期における発症予防効果について生後6ヵ月~23ヵ月児で75.8%、24ヵ月児で71.8%と報告されている。流行株によっては有効性が低下する可能性はあるが、これまでの他の年齢におけるワクチンの有効性の知見からは、重症化予防効果は発症予防効果を上回ることが期待される。4)生後6ヵ月以上5歳未満の小児におけるワクチンの安全性については、治験で観察された有害事象はプラセボ群と同等で、その後の米国における調査でも重篤な有害事象はまれと報告されている。なお、接種後数日以内に胸痛、息切れ(呼吸困難)、動悸、浮腫などの心筋炎・心膜炎を疑う症状が現れた場合は、すぐに医療機関を受診し、新型コロナワクチンを受けたことを伝えるよう指導すること。

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コロナ軽症でも、高頻度に罹患後症状を発症/BMJ

 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)による感染症の急性期後6~12ヵ月の時期における、患者の自己申告による罹患後症状(いわゆる後遺症、とくに疲労や神経認知障害)は、たとえ急性期の症状が軽症だった若年・中年の成人であってもかなりの負担となっており、全体的な健康状態や労働の作業能力への影響が大きいことが、ドイツ・ウルム大学のRaphael S. Peter氏らが実施した「EPILOC試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年10月13日号に掲載された。ドイツ南西部住民270万人ベースの研究 EPILOC試験は、ドイツ南西部バーデン・ビュルテンベルク州の4つの地域(人口計約270万人)で行われた住民ベースの研究で、2020年10月1日~2021年4月1日にポリメラーゼ連鎖反応(PCR)検査でSARS-CoV-2陽性と判定された18~65歳の集団が解析の対象となった(バーデン・ビュルテンベルク州Ministry of Science and Artの助成を受けた)。 1万1,710人が解析に含まれた。平均年齢は44.1(SD 13.7)歳、6,881人(58.8%)が女性であった。既存の慢性疾患として、筋骨格系疾患(28.9%)、心血管疾患(17.4%)、神経・感覚障害(16.2%)、呼吸器疾患(12.1%)などがみられた。 SARS-CoV-2による感染症の急性期には、77.5%は医療を必要とせず、19.0%が外来治療を受け、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による入院を要したのは3.6%であった。平均追跡期間は8.5ヵ月だった。 主要アウトカムとして、症状の頻度が感染症の急性期後6~12ヵ月と急性期以前で比較され、症状の重症度とクラスタリング、リスク因子、全体的な健康の回復や労働の作業能力との関連の評価が行われた。胸部症状、嗅覚/味覚障害、不安/抑うつも20%以上で発現 急性期前にはみられず、急性期後6~12ヵ月の時期に発現した症状クラスターでは、疲労(急激な身体的消耗、慢性疲労など、37.2%[4,213/1万1,312人、95%信頼区間[CI]:36.4~38.1])と、神経認知障害(集中困難、記憶障害など、31.3%[3,561/1万1,361人、30.5~32.2])の頻度が高く、いずれも健康回復や労働能力の低下に最も強く寄与していた。 また、胸部症状(呼吸困難、胸痛など、30.2%[95%CI:29.4~31.0])、不安/抑うつ(睡眠障害、抑うつ気分、不安など、21.1%[20.4~21.9])、頭痛/めまい(19.9%[19.2~20.6])も高頻度にみられ、労働能力に影響を及ぼしていたが、性別や年齢別で多少の差が認められた。 嗅覚/味覚障害(嗅覚の変化、味覚の変化)は23.6%(95%CI:22.9~24.4)、筋骨格系の疼痛(筋肉痛、関節痛、四肢痛)は16.8%(16.1~17.5)、上気道症状(咳嗽、咽頭痛、嗄声)は13.9%(13.3~14.6)で発現した。 日常生活を少なくとも中程度に低下させる新たな症状が発現し、健康回復や労働能力を80%以下に低下させたと考えると、post-COVID症候群の全体の推定値は28.5%(3,289/1万1,536人、95%CI:27.7~29.3)であった。一方、これに該当しない参加者は完全に回復したと仮定すると、post-COVID症候群の発生の推定値は6.5%(3,289/5万457人)で、このうち男性は4.6%(1,145/2万4,959人)、女性は8.4%(2,144/2万5,483人)であった。真の値は、これらの推定値の間と考えられる。 著者は、「このようなcovid後の後遺症(post-covid sequelae)の個人的、社会的な負担の大きさを考えると、適切な治療選択肢を確立し、有効なリハビリテーション法を開発するために、その基礎となる生物学的異常と原因を早急に明らかにする必要がある」としている。

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侵襲的冠動脈造影とCT、MACEリスクに性差はあるか/BMJ

 侵襲的冠動脈造影(ICA)のために紹介された、安定胸痛を有する閉塞性冠動脈疾患(CAD)の検査前確率が中程度の患者において、初期画像診断に用いるCTはICAと比較して、有害心血管イベントのリスクは同等であることがすでに報告されているが、その有効性に男性と女性で差はないことが示された。デンマーク・コペンハーゲン大学のKlaus F. Kofoed氏ら「DISCHARGE試験」グループが報告した。CTは、CADの検査前確率が低~中程度の患者において、閉塞性CADを除外することが可能であるが、男性より女性で精度が低くなる可能性があり、CADの診断および臨床管理において、CTとICAの臨床転帰に関する有効性の男女差はこれまで不明であった。BMJ誌2022年10月19日号掲載の報告。無作為化試験で主要評価項目MACE発生を比較 DISCHARGE試験は、欧州16ヵ国の26施設で実施された医師主導、実用的、評価者盲検、無作為化比較試験である。研究グループは、安定胸痛を有し、閉塞性CADの検査前確率が中程度(10~60%)で、ICAの目的で紹介された30歳以上の患者を、性別および施設で層別化してCT群とICA群に1対1の割合で無作為に割り付け追跡評価した。 男女別のサブグループ解析は事前に規定され、主要評価項目は主要有害心血管イベント(MACE:心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合)、重要な副次評価項目は拡張MACE(MACE、一過性脳虚血発作、主要な手技関連合併症の複合)および主要な手技関連合併症であった。MACEリスクに男女差なし、CT群の男性で拡張MACE、女性で合併症が少ない 2015年10月3日~2019年4月12日の間に計3,667例(女性2,052例、男性1,615例)が無作為化され、検査を受けた3,561例(女性2,002例、男性1,559例)が修正intention-to-treat解析対象集団となった。 追跡調査期間中央値3.5年において、女性98.9%(2,002例中1,979例)、男性99.0%(1,559例中1,544例)が追跡調査を完了した。 MACE(p=0.29)、拡張MACE(p=0.45)、および主要な手技関連合併症(p=0.11)に関して、女性と男性で統計学的有意差は確認されなかった。また、女性と男性のいずれにおいても、MACEの発生率にCT群とICA群で差はなかった。 一方男性では、拡張MACEの発生率がCT群においてICA群より少なかった(22例[2.8%]vs.41例[5.3%]、ハザード比[HR]:0.52、95%信頼区間[CI]:0.31~0.87)。女性では、主要な手技関連合併症のリスクがCT群においてICA群より低かった(3例[0.3%]vs.21例[2.1%]、HR:0.14、95%CI:0.04~0.46)。

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かかりつけ医も知っておきたい、コロナ罹患後症状診療の手引き第2版/厚労省

 厚生労働省は、2022年6月に公開した「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き 別冊 罹患後症状のマネジメント(第1.1版)」を改訂し、第2版を10月14日に発表し、全国の自治体や関係機関などに周知を行った。 主な改訂箇所としては、・第1章の「3.罹患後症状の特徴」について国内外の最新知見を追加・第3~11章の「2.科学的知見」について国内外の最新知見を追加・代表的な症状やキーワードの索引、参考文献全般の見直しなどが行われた。 同手引きの編集委員会では、「はじめに」で「現在、罹患後症状に悩む患者さんの診療や相談にあたる、かかりつけ医などやその他医療従事者、行政機関の方々に、本書を活用いただき、罹患後症状に悩む患者さんの症状の改善に役立ててほしい」と抱負を述べている。1年後に多い残存症状は、疲労感・倦怠感、呼吸困難、筋力低下/集中力低下 主な改訂内容を抜粋して以下に示す。【1章 罹患後症状】「3 罹患後症状の特徴」について、タイトルを「罹患後症状の頻度、持続時間」から変更し、(罹患者における研究)で国内外の知見を追加。・海外の知見 18報告(計8,591例)の系統的レビューによると、倦怠感(28%)、息切れ(18%)、関節痛(26%)、抑うつ(23%)、不安(22%)、記憶障害(19%)、集中力低下(18%)、不眠(12%)が12ヵ月時点で多くみられた罹患後症状であった。中国、デンマークなどからの研究報告を記載。・国内の知見 COVID-19と診断され入院歴のある患者1,066例の追跡調査について、急性期(診断後~退院まで)、診断後3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月で検討されている。男性679例(63.7%)、女性387例(36.3%)。 診断12ヵ月後でも罹患者全体の30%程度に1つ以上の罹患後症状が認められたものの、いずれの症状に関しても経時的に有症状者の頻度が低下する傾向を認めた(12ヵ月後に5%以上残存していた症状は、疲労感・倦怠感(13%)、呼吸困難(9%)、筋力低下/集中力低下(8%)など。 入院中に酸素需要のあった重症度の高い患者は、酸素需要のなかった患者と比べ3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月といずれの時点でも罹患後症状を有する頻度が高かった。 入院中に気管内挿管、人工呼吸器管理を要した患者は、挿管が不要であった患者と比べて3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月といずれの時点でも罹患後症状を有する頻度が高かった。 罹患後症状に関する男女別の検討では、診断後3ヵ月時点で男性に43.5%、女性に51.2%、診断後6ヵ月時点で男性に38.0%、女性に44.8%、診断後12ヵ月時点で男性に32.1%、女性に34.5%と、いずれの時点でも罹患後症状を1つでも有する割合は女性に多かった。(非罹患者と比較した研究) COVID-19非罹患者との比較をした2つの大規模コホート研究の報告。英国の後ろ向きマッチングコホート研究。合計62の症状が12週間後のSARS-CoV-2感染と有意に関連していて、修正ハザード比で大きい順に嗅覚障害(6.49)、脱毛(3.99)、くしゃみ(2.77)、射精障害(2.63)、性欲低下(2.36)のほか、オランダの大規模マッチングコホート研究を記載。(罹患後症状とCOVID-19ワクチン接種に関する研究)(A)COVID-19ワクチン接種がCOVID-19感染時の罹患後症状のリスクを減らすかどうか(B)すでに罹患後症状を認める被験者にCOVID-19ワクチン接種を行うことでどのような影響が出るのか、の2点に分け論じられている。(A)低レベルのエビデンス(ケースコントロール研究、コホート研究のみでの結果)では、SARS-CoV-2感染前のCOVID-19ワクチン接種が、その後の罹患後症状のリスクを減少させる可能性が示唆されている。(B)罹患後症状がすでにある人へのCOVID-19ワクチン接種の影響については、症状の変化を示すデータと示さないデータがあり、一定した見解が得られていない。「5 今後の課題」 オミクロン株症例では4.5%が罹患後症状を経験し、デルタ株流行時の症例では10.8%が罹患後症状を経験したと報告されており、オミクロン株流行時の症例では罹患後症状の頻度は低下していることが示唆されている。揃いつつある各診療領域の知見 以下に各章の「2.科学的知見」の改訂点を抜粋して示す。【3章 呼吸器症状へのアプローチ】 罹患後症状として、呼吸困難は20〜30%に認め、呼吸器系では最も頻度の高い症状であった。年齢、性別、罹患時期などをマッチさせた未感染の対照群と比較しても、呼吸困難は胸痛や全身倦怠感などとともに、両者を区別しうる中核的な症状だった。【4章 循環器症状へのアプローチ】 イタリアからの研究報告では、わずか13%しか症状の完全回復を認めておらず、全身倦怠感が53%、呼吸困難が43.4%、胸痛が21.7%。このほか、イギリス、ドイツの報告を記載。【5章 嗅覚・味覚症状へのアプローチ】 フランス公衆衛生局の報告によると、BA.1系統流行期と比較し、BA.5系統流行期では再び嗅覚・味覚障害の発生頻度が増加し、嗅覚障害、味覚障害がそれぞれ8%、9%から17%に倍増した。【6章 神経症状へのアプローチ】 中国武漢の研究では、発症から6ヵ月経過しても、63%に疲労感・倦怠感や筋力低下を認めた。また、発症から6週間以上持続する神経症状を有していた自宅療養者では、疲労感・倦怠感(85%)、brain fog(81%)、頭痛(68%)、しびれ感や感覚障害(60%)、味覚障害(59%)、嗅覚障害(55%)、筋痛(55%)を認めたと報告されている。【7章 精神症状へのアプローチ】 罹患後症状が長期間(約1年以上)にわたり持続することにより、二次的に不安障害やうつ病を発症するリスクが高まるという報告も出始めている。【8章 “痛み”へのアプローチ】 下記の2つの図を追加。 「図8-1 COVID-19罹患後疼痛(筋痛、関節痛、胸痛)の経時的変化」 「図8-2 COVID-19罹患後疼痛の発生部位」 COVID-19罹患後に身体の痛みを有していたものは75%で、そのうち罹患前に痛みがなかったにも関わらず新規発症したケースは約50%と報告されている。罹患後、新規発症した痛みの部位は、広範性(20.8%)、頸部(14.3%)、頭痛、腰部、肩周辺(各11.7%)などが報告され、全身に及ぶ広範性の痛みが最も多い。 【9章 皮膚症状へのアプローチ】「参考 COVID-19と帯状疱疹[HZ]の関連について」を追加。ブラジルでは2017〜19年のCOVID-19流行前の同じ間隔と比較して、COVID-19流行時(2020年3〜8月)のHZ患者数は35.4%増加した。一方、宮崎での帯状疱疹大規模疫学研究では、2020年のCOVID-19の拡大はHZ発症率に影響を与えなかったと報告。    【10章 小児へのアプローチ】 研究結果をまとめると、(1)小児でも罹患後症状を有する確率は対照群と比べるとやや高く、特に複数の症状を有する場合が多い、(2)年少児は年長児と比べて少ない、(3)症状の内訳は、嗅覚障害を除くと対照群との間に大きな違いはない、(4)対照群においてもメンタルヘルスに関わる症状を含め、多くの訴えが認められる、(5)症例群と対照群との間に罹患後症状の有病率の有意差を認めない、(6)小児においてもまれに成人にみられるような循環器系・呼吸器系などの重篤な病態を起こす可能性があるといえる。【11章 罹患後症状に対するリハビリテーション】 2022年9月にWHOより公表された"COVID-19の臨床管理のためのガイドライン"の最新版(第5版)では、罹患後症状に対するリハビリテーションの項が新たに追加され、関連する疾患におけるエビデンスやエキスパートオピニオンに基づいて、呼吸障害や疲労感・倦怠感をはじめとするさまざまな症状別に推奨されるリハビリテーションアプローチが紹介されている。 なお、本手引きは2022年9月の情報を基に作成されており、最新の情報については、厚生労働省などのホームページなどから情報を得るように注意を喚起している。

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プラチナダブレット不適NSCLCに対するアテゾリズマブ1次療法の有用性(IPSOS試験)/ESMO2022

 プラチナ化学療法の1次治療が不適格な進行非小細胞肺がん(NSCLC)に対して、アテゾリズマブは単剤化学療法(ビノレルビンまたはゲムシタビン)よりも全生存期間(OS)を有意に延長した。 NSCLCの実臨床では、複数の合併症を持つなど治療忍容性の低い高齢者が多い。また40%以上がPS≧2と全身状態不良の患者である。実臨床で多いこれらの患者はほとんどの臨床試験から除外されており、新たな治療選択肢を検討する研究への医学的なニーズは高い。 そのような中、これらの患者を対象とした、多施設オープンラベル無作為化第III相試験IPSOSが行われている。欧州臨床腫瘍学会(ESMO2022)では、英国・ロンドン大学のSiow Ming Lee氏がその試験結果を報告した。・対象:ECOG PS 2〜3(70歳以上で併存疾患がある、またはプラチナダブレット不適の場合はPS0〜1も許容)の未治療StageIIIB/IV NSCLC(EGFRおよびALK陽性は除外、無症状の安定した脳転移は許容)・試験群:アテゾリズマブ 1,200mg 3週ごと(302例)・対照群:単剤化学療法(ビノレルビンまたはゲムシタビン) 3週~4週ごと(151例)・評価項目:[主要評価項目]OS[副次評価項目]6、12、18、24ヵ月OS率、無増悪生存期間(PFS)、奏効率(ORR)、奏効期間(DoR)、PD-L1陽性患者におけるOSとPFS 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値41.0ヵ月のOS中央値は試験群10.3ヵ月、対照群9.2ヵ月、2年OS率はそれぞれ24.4%と12.4%、と試験群で有意な改善を認めた(ハザード比[HR]:0.78、95%信頼区間[CI]:0.63〜0.97、p=0.028)。・年齢、全身状態(PS)、組織型、PD-L1発現レベルなどのすべてのサブグループにおいて、試験群のOS改善効果は一貫して示されていた。・ORRは試験群16.9%、対照群7.9%であった。・DoR中央値は試験群14.0ヵ月、対照群7.8ヵ月であった。・PFS中央値は試験群4.2ヵ月、対照群4.0ヵ月(95%CI:2.9~5.4)で、試験群の対照群に対するHRは0.87(95%CI:0.70~1.07)であった。・試験群の20.2%、対照群の29.8%が後治療を受けており、試験群では化学療法(15.9%)、対照群では免疫療法(18.5%)や化学療法(10.6%)などの後治療が多かった。・Grade3/4の治療関連有害事象の発現率は、試験群が16.3%、対照群が33.3%であり、有害事象により投薬中止に至ったのは、試験群で13.0%、対照群で13.6%であった。・試験群では健康関連QoLの安定化が見られ、胸痛の増悪が確認されるまでの期間の改善に関するHRは0.51(95%CI:0.27〜0.97)であった。 発表者のLee氏は、IIPSOS試験により、生命予後の悪いこれらの患者に対し、アテゾリズマブの1次治療によるOS改善が初めて無作為化試験で示された、とまとめた。

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曝露前の発症抑制の適応を取得したコロナ抗体薬「エバシェルド筋注セット」【下平博士のDIノート】第106回

曝露前の発症抑制の適応を取得したコロナ抗体薬「エバシェルド筋注セット」今回は、抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体「チキサゲビマブ(遺伝子組換え)/シルガビマブ(遺伝子組換え)(商品名:エバシェルド筋注セット、製造販売元:アストラゼネカ)」を紹介します。本剤は、SARS-CoV-2による感染症の治療に加え、曝露前の発症抑制にも使用することができる世界初の薬剤です。<効能・効果>本剤は、SARS-CoV-2による感染症およびその発症抑制の適応で、2022年8月30日に特例承認されました。<用法・用量>SARS-CoV-2による感染症通常、成人および12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、チキサゲビマブ(遺伝子組換え)/シルガビマブ(遺伝子組換え)としてそれぞれ300mgを併用により筋肉内注射します。SARS-CoV-2による感染症の発症抑制通常、成人および12歳以上かつ体重40kg以上の小児には、チキサゲビマブ(遺伝子組換え)/シルガビマブ(遺伝子組換え)としてそれぞれ150mgを併用により筋肉内注射します。SARS-CoV2変異株の流行状況などに応じて、チキサゲビマブ(遺伝子組換え)/シルガビマブ(遺伝子組換え)としてそれぞれ300mgを併用により筋肉内注射することもできます。なお、2剤は混和せずにそれぞれ筋肉内注射を行い、投与部位は左右の臀部とします。<安全性>主な副作用として、注射部位反応(発現頻度 1%以上)、発疹・蕁麻疹や注射に伴う反応(発現頻度 1%未満)が報告されています。なお、重大な副作用として、アナフィラキシーを含む重篤な過敏症(頻度不明)が現れることがあります。<患者さんへの指導例>1.本剤は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療または発症抑制に用いられる薬です。2種類の中和抗体を投与することで、新型コロナウイルスに対する中和作用を示します。2.過去に薬剤などで重篤なアレルギー症状を起こしたことのある方は必ず事前に申し出てください。3.投与中または投与後に、発熱、悪寒、吐き気、不整脈、胸痛、脱力感、頭痛のほか、過敏症やアレルギーのような症状が現れた場合は、すぐに医療者または医療機関に連絡してください。<Shimo's eyes>エバシェルド筋注セットは、新型コロナウイルス感染症の「治療」と「発症抑制」の適応を取得した抗SARS-CoV-2モノクローナル抗体です。ワクチンを除き、新型コロナウイルス曝露前の発症抑制に用いることのできる初めての医薬品です。既承認薬のカシリビマブ/イムデビマブ(商品名:ロナプリーブ)も発症抑制の適応を有していますが、カシリビマブ/イムデビマブの対象患者は濃厚接触者であり、本剤の対象は濃厚接触者ではない曝露前の人という違いがあります。治療目的での投与対象は、軽症~中等症I相当で、重症化リスク因子を有し、酸素投与を要しない患者です。しかし、供給量が限られていることや治療を目的とした薬は他にもあることから、当面の間は発症抑制を目的とした投与に限って薬剤が供給されます。発症抑制目的での投与対象は、新型コロナウイルスに対するワクチン接種が推奨されない人や、免疫機能低下などによりワクチン接種で十分な免疫応答が得られない可能性がある人です。事務連絡では、日本感染症学会の「COVID-19に対する薬物治療の考え方 第14版」(2022年8月30日)を踏まえて以下のようになっています。抗体産生不全あるいは複合免疫不全を呈する原発性免疫不全症の患者B細胞枯渇療法(リツキシマブなど)を受けてから1年以内の患者ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬を投与されている患者キメラ抗原受容体T細胞レシピエント慢性移植片対宿主病を患っている、または別の適応症のために免疫抑制薬を服用している造血細胞移植後のレシピエント積極的な治療を受けている血液悪性腫瘍の患者肺移植レシピエント固形臓器移植(肺移植以外)を受けてから1年以内の患者T細胞又はB細胞枯渇剤による急性拒絶反応で最近治療を受けた固形臓器移植レシピエントCD4Tリンパ球細胞数が50cells/μL未満の未治療のHIV患者発症抑制の効果については、海外第III相試験(PROVENT 試験)において、プラセボ群と比較して、RT-PCR検査で陽性が確認された患者の症状のリスク減少率は76.7%であり、統計学的に有意な差が認められました。また、1回投与後、少なくとも6ヵ月間は感染抑制効果が持続することが示されています。新型コロナウイルス感染症の予防の基本はワクチン接種ですが、ワクチンを接種することができない人や効果が不十分と考えられる人に対するワクチン以外の予防の選択肢として期待されます。また、筋注ということから、訪問診療において曝露前の患者への投与が簡便であることも利点の1つと考えられます。<流通・費用>本剤は一般流通を行わず、厚生労働省が所有した上で、流通委託先を通じて対象医療機関に配分・無償譲渡されます。発症抑制目的での投与に限って配分されるため、計画的な投与が可能であることから在庫配置は認められていません。患者負担については、本来は薬剤費を含めて全額自己負担となるところですが、本剤を必要とする対象者にとって過度な負担とならないように、投与時の自己負担分の徴収金額は3,100円以下となる方針です。

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小児のコロナ後遺症は成人と異なる特徴~約66万人の解析

 小児における新型コロナウイルス感染症の罹患後症状には、成人とは異なる特徴があることを、米国・コロラド大学医学部/コロラド小児病院のSuchitra Rao氏らが明らかにした。同氏らは、新型コロナウイルスの感染から1~6ヵ月時点の症状・全身病態・投与された薬剤を調べ、罹患後症状の発生率を明らかにするとともに、リスク因子の特定を目的に、抗原検査またはPCR検査を受けた約66万人の小児を抽出して後ろ向きコホート研究を行った。これまでに成人における罹患後症状のデータは蓄積されつつあるが、小児では多系統炎症性症候群(MIS-C)を除くとデータは限られていた。JAMA pediatrics誌オンライン版2022年8月22日号掲載の報告。 解析対象となったのは、米国の小児病院9施設の電子カルテに登録があり、2020年3月1日~2021年10月31日の間に新型コロナウイルスの抗原検査またはPCR検査を受けた21歳未満の小児で、かつ過去3年間に1回以上受診(電話、遠隔診療を含む)したことのある65万9,286例。男性が52.8%で、平均年齢は8.1歳(±5.7歳)であった。 初回の抗原検査またはPCR検査の日から28~179日時点の、罹患後症状に関連する121項目の症状や全身病態、30項目の投与薬の計151項目を調べた。症状には発熱、咳、疲労、息切れ、胸痛、動悸、胸の圧迫感、頭痛、味覚・嗅覚の変化などが含まれており、全身病態には多系統炎症性症候群、心筋炎、糖尿病、その他の自己免疫疾患などが含まれていた。施設、年齢、性別、検査場所、人種・民族、調査への参加時期を調整したCox比例ハザードモデルを用いて、検査陰性群に対する陽性群の調整ハザード比(aHR)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・新型コロナウイルスの陽性者は5万9,893例(9.1%)で、陰性者は59万9,393例(90.9%)であった。 ・1つ以上の症状や全身病態、投薬があったのは、陽性群で41.9%(95%信頼区間[CI]:41.4~42.4)、陰性群で38.2%(95%CI:38.1~38.4)で、差は3.7%(3.2~4.2)、調整後の標準化罹患率比は1.15(1.14~1.17)であった。・陰性群と比べて陽性群で多かった症状は、味覚・嗅覚の変化(aHR:1.96、95%CI:1.16~3.32)、味覚消失(1.85、1.20~2.86)、脱毛(1.58、1.24~2.01)、胸痛 (1.52、1.38~1.68)、肝酵素値異常(1.50、1.27~1.77)、発疹(1.29、1.17~1.43)、疲労・倦怠感(1.24、1.13~1.35)、発熱・悪寒(1.22、1.16~1.28)、心肺疾患の徴候・症状(1.20、1.15~1.26)、下痢(1.18、1.09~1.29)、筋炎(2.59、1.37~4.89)であった。・全身の病態は、心筋炎(aHR:3.10、95%CI:1.94~4.96)、急性呼吸促迫症候群(2.96、1.54~5.67)、歯・歯肉障害(1.48、1.36~1.60)、原因不明の心臓病(1.47、1.17~1.84)、電解質異常(1.45、1.32~1.58)であった。精神的な関連としては、精神疾患の治療(aHR:1.62、aHR:1.46~1.80) 、不安症状(1.29、1.08~1.55)があった。・多く用いられていた治療薬は、鎮咳薬・感冒薬のほか、全身投与の鼻粘膜充血除去薬、ステロイドと消毒薬の併用、オピオイド、充血除去薬であった。・多系統炎症性症候群以外で罹患後症状と強く関連していたのは、5歳未満、急性期のICU利用、複数または進行性の慢性疾患の罹患であった。 著者らは、「小児の新型コロナウイルス感染症の罹患後症状の発症率は少なかったが、急性期の重症、低年齢、慢性疾患の合併は罹患後症状リスクを高める」とともに「小児の罹患後症状では、成人でよく報告されている味覚・嗅覚の変化、胸痛、疲労・倦怠感、心肺の徴候や症状、発熱・悪寒など以外にも、肝酵素値異常、脱毛、発疹、下痢などが多いことに注意が必要である。とくに心筋炎は新型コロナウイルス感染症と最も強く関連する症状であり、小児では重要な合併症である」とまとめている。

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コロナ罹患後症状、約13%は90~150日も持続/Lancet

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の持続する全身症状(いわゆる後遺症)としての呼吸困難、呼吸時の痛み、筋肉痛、嗅覚消失・嗅覚障害などの長期(90~150日)発生率は12.7%と推定されることが、オランダで約7万6,000例を対象に行われた観察コホート試験で示された。オランダ・フローニンゲン大学のAranka V. Ballering氏らが、同国北部在住者を対象にした、学際的前向き住民ベース観察コホート試験で、健康状態や健康に関連する生活習慣などを評価するLifelines試験のデータを基に、COVID-19診断前の状態や、SARS-CoV-2非感染者のマッチングコントロールで補正し、COVID-19に起因する罹患後症状の発生率を明らかにした。Lancet誌2022年8月6日号掲載の報告。23項目の身体症状を繰り返し調査 これまでのコロナ罹患後症状に関する検討では、COVID-19診断前の状態や、SARS-CoV-2非感染者における同様の症状の有病率や重症度を考慮した検討は行われておらず、研究グループは、SARS-CoV-2感染前の症状で補正し、非感染者の症状と比較しながら、COVID-19に関連する長期症状の経過、有病率、重症度の分析を行った。 検討はLifelines試験のデータを基に行われた。同試験では、18歳以上の参加者全員に、COVID-19オンライン質問票(digital COVID-19 questionnaires)が送達され、COVID-19診断に関連する23項目の身体症状(SARS-CoV-2アルファ[B.1.1.7]変異株またはそれ以前の変異株による)について、2020年3月31日~2021年8月2日に、24回の繰り返し評価が行われた。 SARS-CoV-2検査陽性または医師によるCOVID-19の診断を受けた被験者について、年齢、性別、時間をCOVID-19陰性の被験者(対照)とマッチングした。COVID-19の診断を受けた被験者については、COVID-19前後の症状と重症度を記録し、マッチング対照と比較した。90~150日時点の持続症状、陽性者21.4%、非感染者8.7% 7万6,422例(平均年齢53.7[SD 12.9]歳、女性は4万6,329例[60.8%])が、合計88万3,973回の質問に回答した。このうち4,231例(5.5%)がCOVID-19の診断を受けた被験者で、8,462例の対照とマッチングされた。 COVID-19陽性だった被験者において、COVID-19後90~150日時点で認められた持続する全身症状は、胸痛、呼吸困難、呼吸時の痛み、筋肉痛、嗅覚消失・嗅覚障害、四肢のうずき、喉のしこり、暑さ・寒さを交互に感じる、腕・足が重く感じる、疲労感で、これらについてCOVID-19前およびマッチング対照と比較した。 一般集団のCOVID-19患者のうち12.7%が、COVID-19後にこれらの持続症状を経験すると推定された。また、これらの持続症状の少なくとも1つを有し、COVID-19診断時またはマッチング規定時点から90~150日時点で中等度以上に大幅に重症度が増していた被験者は、COVID-19陽性被験者では21.4%(381/1,782例)、COVID-19陰性の対照被験者では8.7%(361/4,130例)だった。 これらの結果を踏まえ著者は、「検討で示された持続症状は、COVID-19罹患後の状態と非COVID-19関連症状を区別する最も高い識別能を有しており、今後の研究に大きな影響を与えるものである。COVID-19罹患後の関連症状を増大する潜在的メカニズムを明らかにする、さらなる研究が必要である」と述べている。

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循環器内科でも血栓溶解療法に期待が集まった時代がありました!(解説:後藤信哉氏)

 心臓でも脳でも、臓器灌流血管が血栓閉塞すると臓器に不可逆的な虚血性障害が起こる。筆者が循環器内科を始めた1980年代には血栓溶解療法に期待が集まった。フィブリン選択性のないストレプトキナーゼによる急性期の生命予後改善効果が大規模ランダム化比較試験(Second International Study of Infarct Survival:ISIS-2試験)にて示され、心筋梗塞急性期の標準治療となると期待された。ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼはフィブリン選択性がない。すなわち、血液中にて線溶が起こりフィブリノーゲンも消費してしまう。血栓を作るフィブリンに選択的に作用する線溶薬を開発できれば標準治療になると期待された。線溶研究は盛り上がった。血管内皮細胞が産生するフィブリン選択的線溶薬tissue type plasminogen activator(t-PA)は期待された。分子生物学の勃興期でもあり、フィブリン選択性の高い製剤、単回静注にて効果の持続する製剤などが多数作られた。 しかし、循環器領域における血栓溶解療法は短期の流行の後に廃れてしまった。廃れた理由の1つは再灌流障害であった。米国では大きな病院への搬送途中に救急車にてt-PAが静注され、再灌流と同時に心室細動になる症例が多発した。t-PAを静注しても全例速やかに再灌流するわけではない。胸痛消失まで不整脈ウオッチしながら観察するのはむしろ苦痛であった。さらに、頭蓋内出血を含む重篤な出血合併症にも難渋した。経皮的冠動脈形成術(Percutaneous Coronary Intervention:PCI)が普及すると、血栓溶解療法を行わず直接PCIするほうが合併症も少なかった。 本研究では1回静注可能なtenecteplaseと既存のt-PAが比較された。有効性、安全性には大きな差異がなかった。脳梗塞の病態の一部は心筋梗塞と類似する。脳血管疾患の領域が循環器領域の後追いをするのであれば、分子を修飾したt-PAよりカテーテルインターベンションの時代になるのではないだろうか? 今後の急性虚血性脳血管疾患の標準治療の変化に注目したい。

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この仕事量はミッション・インポッシブル!? 1年目フェローだけの24時間オンコール【臨床留学通信 from NY】第35回

第35回:この仕事量はミッション・インポッシブル!? 1年目フェローだけの24時間オンコールさて、前回までは講義やローテーションの仕組みの概要を説明いたしました。今回からもっと実務的な内容をご紹介したいと思います。その中でも、24時間当直について説明したいと思います。米国では、医学教育プログラムのトレーニング内容は施設によって差はありますが、ACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education、米国卒後医学教育認定評議会)という団体が、内科レジデントや、循環器フェローなど、各教育プログラムをおおむね管理しており、施設の大きさや教育の仕組みなどによって、病院が雇えるレジデント、フェローに制限を設けています。全米でのフェローの枠が一定数に決まっているため、内科の中でも人気のある循環器フェローには、希望者の6割程度の人しか進むことができません。さらにACGMEは、当直したその次の日に働くことを原則禁止しており、24時間を最大の連続勤務時間とし、週80時間を最大勤務時間としています。抜け道として、自宅待機で電話でのオンコール対応をメインとしている病院のフェローは、次の日も働かなければならないようです。それはさておき、そのような時間制限が可能なのは、豊富な数のレジデントないしフェローがいるからなのです。日本より楽!?と思うかもしれませんが、やはりここはアメリカ。日本の忙しい病院で寝る暇もなく夜通し働いて、次の日も通常の8時間、いや12時間勤務、ということまでは確かにありません。しかし、瞬間的に裁く仕事量は日本より多く、物理的にほぼ不可能な量(医療ミスが起きてもおかしくないレベル)の処理をしなければならないこともあります。私は卒後10年以上経っていて、医学的判断に問題はないといっても、瞬間的な量が一気に降りかかってしまう時のストレスは、日本の時以上です。しかも英語ということで、疲れも倍増している気がします。24時間オンコールについて、具体的に説明します。土曜から日曜の勤務の場合、朝7時半に病院に来て、その前の晩に泊まっていたオンコールフェローから引き継ぎを受けます。そして、CCUの12人の患者のラウンドが8時半から2~3時間ほどあり、必要な中心静脈カテーテルやスワンガンツカテーテルを入れるのはフェローの仕事です。さらには、病院の中のすべてのコンサルテーションを一手に引き受けます。胸痛があってトロポニンが陽性なら循環器内科の介入が必要で、コンサルテーションは妥当だとわかりますが、敗血症に伴ったトロポニン陽性で、大した介入が必要でない人もいます。介入が不要な患者でもコンサルテーションしてくるのは、訴訟対策のためかもしれません。一方で、不整脈や心不全のサブスペシャリティもカバーしなければならず、ICD(植込み型除細動器)の誤作動、頸静脈ペーシングが必要な人への対応や、LVAD(左室補助ポンプ)のトラブルや、移植後の拒絶反応への対応などさまざまです。そのような対応が1日平均で15~20件あり、STEMI(ST上昇型心筋梗塞)が来たらその判断をして、STEMIチームを始動することなどもフェローの仕事です。正直、アメリカのレジデントを終わりたてのフェロー1年目には手に負えるわけもなく(多くは中心静脈カテーテルを数回入れたかどうかの経験です)、2~3年目フェローのバックアップや、それぞれの分野の指導医に電話で指示を仰ぎながら、なんとかこなしていくことで経験を積んでいきます。経験の浅い1年目フェローに経験を積ませることが目的だとしても、1年目フェローしかいない最も大変な土日の24時間オンコールは、ちょっと野蛮な仕組みではないかな、と思う次第です。Column画像を拡大する祝日を利用して、2泊3日で同じニューヨーク州のナイアガラの滝に行ってきました。手前がアメリカ滝、奥がカナダ滝、対岸がカナダです。きれいに2本の虹がかかっていました。同じ州といってもマンハッタンから650kmほど離れているので、車で7時間ほどかかりました。カメラはLeica M9を使用しています。

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ノババックスワクチンに心筋炎・心膜炎の注意喚起/使用上の注意改訂指示

 厚生労働省は7月8日、新型コロナウイルスに対するノババックス製新型コロナウイルスワクチン「組換えコロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン」(商品名:ヌバキソビッド筋注)について、使用上の注意に「重要な基本的注意」の項目を新設し、心筋炎・心膜炎に関して追記するよう改訂指示を発出した。 今回の改訂指示は、第81回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和4年度第6回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)(2022年7月8日開催)における審議結果などを踏まえたものとなる。 ワクチンの添付文書における改訂(新設)は以下のとおり。8. 重要な基本的注意心筋炎、心膜炎が報告されているため、被接種者又はその保護者に対しては、心筋炎、心膜炎が疑われる症状(胸痛、動悸、むくみ、呼吸困難、頻呼吸等)が認められた場合には、速やかに医師の診察を受けるよう事前に知らせること。

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NCCPの原因はしっかり鑑別したい【知って得する!?医療略語】第12回

第12回 NCCPの原因はしっかり鑑別したいNCCPという胸痛があるのですか?そうなのです。循環器疾患が否定的な胸痛を非心臓性胸痛と言い、NCCP(non-cardiac chest pain)と表現します。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】NCCP【日本語】非心臓性胸痛【英字】non-cardiac chest pain【分野】救急【診療科】消化器科・総合診療科【関連】心臓性胸痛(CCP:cardiac chest pain)実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。筆者が研修医の頃、「非特異的胸痛」という言葉をよく耳にしました。当時、「非特異的胸痛」は 心臓由来の痛みではない胸痛の患者さんに多く使用されていた印象でした。この「非特異的胸痛」という言葉に、心臓由来の胸痛の可能性が残っているのか否か、その定義に曖昧さがあり、個人的にはあまりしっくりきませんでした。しかし、近年は大動脈疾患を含む心臓性胸痛(CCP:Cardiac chest pain)が否定的な胸痛を「非心臓性胸痛(NCCP:non-cardiac chest pain)」と表現するようになっています。2019年に発表された三輪氏のNCCPに関する実態調査報告1)によれば、「胸痛症状で医療機関の受診者のうち、NCCPが7割に及んだ」と報告されています。臨床現場で悩ましいのは、いざ心臓性胸痛が否定的なときのNCCPの原因です。NCCPの原因について論文を検索すると、消化器疾患の論文が多く、筆者自身も消化器疾患、とくに胃食道逆流症(GERD)や食道痙攣の消化器疾患を想起しがちでした。しかし、2008年の谷村氏らの報告2)によれば、非心臓性胸痛における逆流性食道炎の頻度は2.5%と決して多くはなかったことが示唆されています。また、同論文ではNCCP40名の胸痛の原因を以下のように報告しています。【非心臓性胸痛の鑑別内訳】論文2より引用改変◆消化器疾患2例(GERD・食道がん)◆呼吸器疾患18例(肺炎・胸膜炎・肺がん・がん性胸膜炎・自然気胸・肺動脈血栓症)◆筋骨格  5例(肋間神経痛・筋肉痛)◆精神疾患 8例◆原因不明 7例近年は、非びらん性胃食道逆流症(NERD:non-erosive reflux disease)の疾患概念もありますので、NCCPに占める胃食道逆流症の割合は2.5%より多いかもしれません。しかし、いずれにしても心臓性胸痛が否定されNCCPと考えられる胸痛でも、ただちに消化器疾患だと鑑別を狭めず、肺動脈塞栓症や胸部悪性疾患のような重要疾患も想起し、鑑別していく必要があると考えます。1)科学研究費助成事業 研究成果報告書「わが国における非心臓性胸痛(NCCP)の実態調査とその病態の解明」2)谷村隆志ほか. 日消誌. 2008;105:54-59.保坂浩子ほか. medicina. 2017;54:852-855.藤野 雅史ほか. medicina. 2013;50:840-843.判田正典. 心身医学. 2010;50:923-930.

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冠動脈疾患疑い患者への検査、CT vs.侵襲的冠動脈造影/NEJM

 侵襲的冠動脈造影(ICA)のために紹介された、安定胸痛を有する閉塞性冠動脈疾患(CAD)の検査前確率が中程度の患者において、初期画像診断に用いるCTはICAと比較して、有害心血管イベントのリスクは同等であり、手技関連合併症の発生頻度は低いことが示された。ハンガリー・Semmelweis大学のPal Maurovich-Horvat氏らDISCHARGE試験グループが報告した。閉塞性CADの診断では、CTはICAに代わる正確で非侵襲的な検査法であるが、ICAと比較したCTの有効性、すなわち主要有害心血管イベントの発生頻度低下についてはこれまで検討されていなかった。NEJM誌2022年4月28日号掲載の報告。CT群とICA群に無作為化、主要有害心血管イベントの発生を評価者盲検下で評価 DISCHARGE試験は欧州16ヵ国26施設で実施された医師主導、評価者盲検、実用的、無作為優越性試験である。研究グループは、参加施設のいずれかにICAのために紹介された、閉塞性CADの検査前確率が中程度(10~60%)で安定胸痛を有する30歳以上の患者を、CT群とICA群に1対1の割合で無作為に割り付け追跡評価した。 主要評価項目は、主要有害心血管イベント(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)、主な副次評価項目は手技関連合併症および狭心症であった。 2015年10月3日~2019年4月12日の間に計3,667例が無作為化され、検査を受けた3,561例が修正intention-to-treat解析対象集団となった。主要有害心血管イベントのリスクは同等、手技関連合併症はCTが少ない 追跡期間中央値3.5年(四分位範囲:2.9~4.2)において、3,561例(うち56.2%が女性)中3,523例(98.9%)が追跡調査を完了した。 主要有害心血管イベントは、CT群で1,808例中38例(2.1%)、ICA群で1,753例中52例(3.0%)に発生した(ハザード比[HR]:0.70、95%信頼区間[CI]:0.46~1.07、p=0.10)。 手技関連合併症はそれぞれ9例(0.5%)、33例(1.9%)に認められた(HR:0.26、95%CI:0.13~0.55)。また、追跡期間の最終4週間に、CT群で8.8%、ICA群で7.5%に狭心症が報告された(オッズ比:1.17、95%CI:0.92~1.48)。

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3回目接種3ヵ月後、日本の医療従事者での抗体価は

 追加接種(3回目接種)前に400U/mL前後だった抗体価は、追加接種1ヵ月後には2万~3万U/mLに増加し、3ヵ月後にはコミナティ筋注(ファイザー)、スパイクバックス筋注(モデルナ)ともにおおむね半分の1万~1万5,000U/mLに低下していることが報告された。なお追加接種約1ヵ月後の抗体価は、スパイクバックス筋注接種者で統計学的に有意に高値であった。1~2回目にコミナティ筋注を接種した国立病院機構(NHO)、地域医療機能推進機構(JCHO)の職員における前向き観察研究によるもので、順天堂大学の伊藤 澄信氏が4月13日開催の第78回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、令和4年度第1回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)で報告した。<研究概要>新型コロナワクチン追加接種(3回目接種)にかかわる免疫持続性および安全性調査(コホート調査)調査内容:・体温、接種部位反応、全身反応(日誌)、胸痛発現時の詳細情報・副反応疑い、重篤なAE(因果関係問わず)のコホート調査による頻度調査・SARS-CoV-2ワクチン追加接種者の最終接種12ヵ月までのブレークスルー感染率、重篤なAE(因果関係問わず)、追加接種者の最終接種12ヵ月後までのCOVID-19抗体価(調査対象者の一部、予定)・抗体価等測定のための採血は接種前、1、3、6、12ヵ月後(予定)調査対象:初回接種としてコミナティ筋注、追加接種としてコミナティ筋注またはスパイクバックス筋注を受けたNHO、JCHO職員・今回の報告のデータカットオフは2022年4月1日 抗体価の推移について主な結果は以下の通り。[コミナティ筋注を追加接種]・追加接種としてコミナティ筋注の投与を受けたのは2,931人(医師16.0%/看護師45.6%、女性68.0%、20代19.5%/30代25.0%/40代25.9%/50代21.2%/60歳以上8.4%)。・このうち抗N抗体陰性の487人について抗S抗体価をみたところ、追加接種前幾何平均抗体価は386U/mL(95%CI:357~418)だったのに対し、追加接種1ヵ月後は19,771U/ mL(18,629~20,984)となり、幾何平均抗体価倍率は51.2(47.7~55.1)倍だった。・年代別にみると、追加接種前は20代で634U/mLだったのに対し60歳以上では232 U/mLと年齢が高いほど低く、追加接種1ヵ月後では20代で22,474U/mL(追加接種前の35.4倍)、60歳以上では22,381U/mL(96.3倍)だった。・接種から3ヵ月後の抗体価が測定された440人について、3ヵ月後の幾何平均抗体価は10,376U/mL(9,616~11,196)だった。[スパイクバックス筋注を追加接種]・追加接種としてスパイクバックス筋注の投与を受けたのは890人(医師13.9%/看護師41.2%、女性62.1%、20代27.5%/30代26.1%/40代23.7%/50代17.5%/60歳以上5.1%)。・このうち抗N抗体陰性の482人について抗S抗体価をみたところ、追加接種前幾何平均抗体価は454U/mL(417~494)だったのに対し、追加接種1ヵ月後は29,422U/mL(27,495~31,483)となり、幾何平均抗体価倍率は64.8(60.3~69.7)倍だった。・年代別にみると、追加接種前は20代で701U/mLだったのに対し60歳以上では294 U/mLと年齢が高いほど低く、追加接種1ヵ月後では20代で32,080U/mL(追加接種前の45.8倍)、60歳以上では33,383U/mL(113.4倍)だった。・接種から3ヵ月後の抗体価が測定された92人について、3ヵ月後の幾何平均抗体価は14,719U/mL(12,380~17,500)だった。[全体のまとめ]・追加接種前抗N抗体が陰性で、追加接種1ヵ月後の抗体価を測定した972人の追加接種前抗体価は年齢が高くなるにつれて低値をとり、女性は高かった(ワクチン種別、2・3回目接種間隔で調整した重回帰分析)。・3回目追加接種1ヵ月後の幾何平均抗体価はコミナティ筋注19,771U/mL、スパイクバックス筋注29,422U/mL、幾何平均抗体価倍率はそれぞれ51.2倍、64.8倍で、スパイクバックス筋注の方が高かった。抗体価については、性・年齢および接種間隔を調整した重回帰分析で、スパイクバックス筋注の方が統計学的に有意に高値であった。・3回目接種3ヵ月後抗体価はコミナティ筋注、スパイクバックス筋注とも追加接種1ヵ月後の抗体価に比しておおむね半分に低下した。・幾何平均抗体価倍率は年齢とともに増加し、結果として1ヵ月後の幾何平均抗体価は年齢ごとの差はわずかで、女性がやや低値だった。

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高感度トロポニンを歓迎している?(解説:後藤信哉氏)

 過去の12誘導心電図のない症例の急性虚血性心疾患の入院の是非を決めるのは難しい。胸痛が微妙、心電図のST変化も微妙な場合には心筋ダメージのバイオマーカーが決め手になる。長年使用してきたCKは上昇までに3~4時間はかかる。外傷、筋トレなどにて骨格筋の成分が上がる場合もある。発症後早期に上昇し、心筋のみのダメージを反映するマーカーが必須であった。以前のトロポニンでは陽性・陰性の2択であった。急性虚血疑いでは陽性な入院、陰性なら帰宅と明確に使用できた。高感度トロポニンの時代になって急性虚血の現場では複雑性が増した。基準値より相当高くても、高齢、腎機能障害の影響で心筋虚血の反映でない場合もある。少なくとも2回計測して変化を見る必要ができた。高感度トロポニン値を規定する因子は虚血による心筋ダメージのみではないことがわかってきた。心筋由来ではあるが、産生速度と消失速度のバランスにて血中濃度が高い症例もあるのだ。複雑性を有するマーカーであるため、急性虚血以外の複雑性を有する病態の予後予測マーカーにもなる可能性がある。 本研究では心臓血管系の手術を受けた13,862例を対象として術後3~12時間、1~3日までの高感度トロポニンを計測し、個別症例の1ヵ月以内の死亡との相関を検討した。全体として1ヵ月以内の死亡率は2.1%であった。心臓の手術としては多くの手術が含まれている。術後1日のトロポニンであっても30日以内の死亡予測能力があることが示された。高感度トロポニンを心筋障害のマーカーと考えれば、手術による心筋障害の大きかった症例の予後が悪いことになる。循環器内科の急性虚血の経験から、高感度トロポニンは心筋障害以上のマーカーである可能性もある。いずれにしても術後に高感度トロポニンの高い症例には十分な治療が必要である。

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ゼロ・リスクか?ウィズ・リスクか?それが問題だ(解説:甲斐久史氏)

 早いもので20年ほど前、外勤先の内科クリニックでの昼下がり。「今朝から、とくにどこというわけではないが、何となく全身がきつい」と20歳代後半の女性が来院した。熱も貧血もないのに脈拍が120前後。血圧はもともと低いそうだが収縮期血圧は80mmHg弱。心音・呼吸音に明らかな異常はないが、皮膚が何となくジトーッと冷たい気がする。聞いてみると先週、2〜3日間、風邪にかかったとのこと。心電図をとってみた。洞性頻脈。PQ延長(0.30秒くらいだったか?)。ドヨヨーンとした嫌な波形のwide QRS。どのように患者さんに説明し納得してもらったかは覚えていないが、ドクターヘリでK大学病院に搬送した。救急車では小一時間かかるためでもあったが、当時導入されたばかりのドクターヘリを使ってみたいというミーハー心に負けた一面も否定できない。夕方、帰学するとその足でCCUを覗いてみた。「大げさですよ。スカでしたよ!」レジデントたちからの叱責(?)覚悟しつつ…。が、何と!その患者はPCPSにつながれていたのである。約10分のフライト中は順調であったが、CCU搬入直後に完全房室ブロック。あっという間に心室補充収縮も消失。直ちにその場でPCPSを挿入できたため事なきを得たとのこと。CCUスタッフの的確な治療もあり、彼女は、2~3日後にはPCPSを離脱し、その後も順調に回復。完璧な正常心電図に復し、心機能障害を残すこともなく退院した。循環器内科医には身に覚えのある“心筋炎、あるある話”と言えよう。 本稿の執筆時(2022年3月中旬)、オミクロン変異株による新型コロナウイルス感染拡大第6波の感染者数のピークは越えたとはいえ、期待されていた急激な感染者数減少はなかなか見通せず、死亡者数や重症者数も高水準で推移している。そのような中で、依然としてワクチンが、発症・重症化予防、感染予防(オミクロン変異株には期待できないようであるが)の現実的な切り札的存在であることに変わりはない。しかしながら、種々の要因のため3回目のワクチン接種は伸び悩んでいる。その中で、ワクチンの副反応、とりわけ最近、コミナティ(BNT162b2、ファイザー社)・スパイクバックス(mRNA-1273、モデルナ社)の添付文書にも記載された心筋炎・心膜炎への危惧の影響も大きいようである。 米国疾病予防管理センターのOsterらによれば、米国のワクチン有害事象報告システム(Vaccine Adverse Event Reporting System:VAERS)に基づく解析の結果、2020年12月〜2021年8月にmRNAワクチンを接種された12歳以上の約2億例(約3億5,000万回接種)のうち、心筋炎が1,626例(BNT162b2 947例、mRNA-1273 382例)でみられたという。心筋炎患者の年齢中央値は21歳、男性に多く(82%)、2回目接種後が多く、症状発症までの期間は2日(中央値)であった。ワクチン接種後7日以内の心筋炎の報告は、12〜15歳男性でBNT162b2 70.7例/100万回、16〜17歳男性でBNT162b2 105.9例/100万回、18〜24歳男性でBNT162b2 52.7例/100万回、mRNA-1273 56.3例/100万回であった。これらは、一般の心筋炎の発症頻度とされる80〜100例/100万人に匹敵する。なお、30歳未満の症例のうち詳細な臨床情報が得られたものは826例でそのうち98%が入院した。その87%が退院までに症状が消失した。治療は主に非ステロイド系抗炎症薬投与(87%)であった。最近の厚生労働省資料によれば、わが国の心筋炎・心膜炎の発症頻度は、10代男性でBNT162b2 3.7例/100万回、mRNA-1273 28.8例/100万回、20代男性でBNT162b2 9.6例/100万回、mRNA-1273 25.7例/100万回である。VAERSの報告と比較すると低めではあるが、やはり10〜20代男性では心筋症発症リスクが認められる。ただ、VAERSや厚生労働省のデータは受動的な報告システムであるため、心筋炎の報告が不完全であり情報の質も一貫していない恐れがあり、報告数が過小評価なのか過剰評価なのかさえ判断が難しい。 まったく健康な若者にワクチン接種することで、一定の割合で心筋症のリスクを負わせることに、社会や当の若者たちが不安を覚えることはよくわかる。しかし、そのリスクは一般住民が日常的に曝されている普通のウイルスなどにより引き起こされる心筋炎・心膜炎のリスクを超えるものではない。少なくとも急激に重症心不全に陥るような劇症心筋炎はまずみられないようである。一方、新型コロナウイルス感染症に実際に感染した場合、心筋症・心筋炎発症リスクは、わが国(15〜39歳男性)では834例/100万回、海外(12〜17歳男性)では450例/100万回にのぼる。われわれ医師としては、ワクチン接種のメリットがデメリットよりはるかに大きいことを、正しく冷静に社会に訴えていくのが妥当であろう。リスクを強いるのであれば、ワクチン接種者に胸痛、動悸、強い倦怠感や息切れなど心筋炎・心膜炎症状を自覚したら迷わず受診することを周知するとともに、ワクチン接種後には積極的に心筋炎・心膜炎を考慮した診察・検査を行い早期発見、早期治療を提供することがわれわれの責務と心得るべきであろう。ただ、心筋炎は、心不全進展とは全く別途に、心室頻拍、心室粗動、伝導障害により突然死を来す。この発症頻度の推定困難なリスクまで考えると悩みは深まる。 2年以上続く新型コロナウイルス感染症パンデミックを前にして、日本は、依然、ゼロ・コロナか? ウィズ・コロナか? という命題の前に右往左往している。その根源には、そもそもゼロ・リスクの人生などあり得ないのに、ウィズ・リスクの現実には目を背け、「日々安心が何より」を是とする筆者のような正常性バイアスがあるのではないか? かと思うと一点、自分に都合の良い情報ばかりに頼る確証バイアスに陥るし・・・。日常からリスクを正面に見据えたリスク・リテラシーの醸成は、わが国にとって喫緊の課題かもしれない。

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特発性冠動脈解離(SCAD)による急性心筋梗塞【知って得する!?医療略語】第6回

第6回 特発性冠動脈解離(SCAD)による急性心筋梗塞急性心筋梗塞の原因に動脈硬化以外の原因もあるのですか?そうなんです。「非動脈硬化性心筋梗塞」の発症原因の1つに特発性冠動脈解離(SCAD)があります。今回は近年に報告が目立つSCADを見ていきましょう。≪医療略語アプリ「ポケットブレイン」より≫【略語】SCAD【日本語】特発性冠動脈解離【英字】spontaneous coronary artery dissection【分野】循環器【診療科】循環器内科・心臓血管外科・救急【関連】非動脈硬化性心筋梗塞・若年性心筋梗塞実際のアプリの検索画面はこちら※「ポケットブレイン」は医療略語を読み解くためのもので、略語の使用を促すものではありません。若年女性の急性心筋梗塞と聞くと、筆者は冠攣縮や凝固異常の病態を連想してしまいます。しかし、近年は特発性冠動脈解離(SCAD:spontaneous coronary artery dissection)による若年女性の急性心筋梗塞の報告が目立ちます。この背景には、冠血管内超音波(IVUS:intravascular ultrasound)や光干渉断層法(OCT:Optical Coherence Tomography)の普及に伴い、冠動脈内の観察が容易になり、特発性冠動脈解離を診断しやすくなったと推測されます。特発性冠動脈解離の病因は妊娠、結合組織異常、女性ホルモン、動脈炎、冠攣縮、動脈硬化、薬物中毒、過度の運動などが指摘され、50歳未満の女性の急性心筋梗塞は、その24.2%~35%が特発性冠動脈解離であったとする報告があります。特発性冠動脈解離は通常の冠動脈造影では動脈硬化性病変との鑑別が困難で、IVUS、OCTによりはじめて特発性冠動脈解離と診断される症例もあるようです。以下のグラフは国内の年齢別急性心筋梗塞の発症人数に関するグラフです。調査期間は2020年1月~12月の1年間、448医療機関、1,153万人のデータから急性心筋梗塞患者(ICD10コード:I21)を分析しました。表)年齢別、急性心筋梗塞の発症人数[調査期間:2020年1月~12月]画像を拡大するその結果、対象期間の急性心筋梗塞は総数8万254人、そのうち女性は2万2,986人(28%)と圧倒的に男性のほうが急性心筋梗塞を発症しやすい傾向が読み取れます。今度は女性だけに注目し、急性心筋梗塞総数に対する50歳以下の発症割合をみると5.1%でした。これは女性の急性心筋梗塞発症者の20人に1人は50歳以下であるということを示しています。筆者は動脈硬化リスクのない女性の胸痛に対し、急性心筋梗塞の鑑別順位を低く見積もりがちでした。しかし、上記の結果や特発性冠動脈解離による非動脈硬化性の心筋梗塞が存在することを踏まえると、若年女性で動脈硬化リスクがない患者さんでも、胸痛を呈した場合には先入観にとらわれず、急性心筋梗塞をしっかり鑑別する必要性を感じました。1)森 隆浩ほか. 日内会誌. 2015;104:2563-2570.2)坂田 鋼治ほか. 心臓. 2015;47:85-90.3)下野 洋和ほか. 心臓. 2018;50:742-749.

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小児用の新型コロナワクチン「コミナティ筋注5~11歳用」【下平博士のDIノート】第91回

小児用の新型コロナワクチン「コミナティ筋注5~11歳用」今回は、小児用のSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)ワクチン「コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)(商品名:コミナティ筋注5~11歳用、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。これまで新型コロナワクチンの接種対象外であった5~11歳の小児が適応となるため、小学校などでの集団感染や子供が発端となる家庭内感染を抑えることが期待されています。<効能・効果>本剤は、SARS-CoV-2による感染症の予防の適応で、2022年1月21日に特例承認されました。接種対象は5歳以上11歳以下の小児です。なお、本剤の予防効果の持続期間は確立していません。<用法・用量>日局生理食塩液1.3mLで希釈し、1回0.2mLを合計2回、通常3週間の間隔で筋肉内に接種します。1回目の接種から3週間を超えた場合には、できる限り速やかに2回目の接種を実施します。本剤は2回接種により効果が確認されているため、原則として、同一の効能・効果をもつ他ワクチンと混同することなく2回接種します。<供給・保管に関する注意>本剤は冷蔵庫(2~8℃)で解凍後、10週間の保存が可能であり、超低温冷凍庫の設備は必須ではありません。30℃を超えない室温で解凍する場合は、解凍開始から24時間以内(一度針を刺した後の時間を含む)に使用します。希釈後は2~30℃で12時間までの保存が可能となっています。<安全性>臨床試験で報告された主な副反応は、注射部位疼痛84.3%、疲労51.7%、頭痛38.2%、発赤・紅斑26.4%、腫脹20.4%、筋肉痛17.5%、悪寒12.4%などでした。また、重大な副反応として、ショック、アナフィラキシー、心筋炎、心膜炎(いずれも頻度不明)が報告されています。<患者さんへの指導例>1.このワクチンを接種することで新型コロナウイルスに対する免疫ができ、新型コロナウイルス感染症の発症を予防します。2.本剤の接種当日は激しい運動を避け、接種部位を清潔に保ってください。3.医師による問診、検温および診察の結果から、接種できるかどうかが判断されます。発熱している人などは、本剤の接種を受けることができません。4.合計2回を3週間の間隔で筋肉内に接種します。1回目の接種から3週間を超えた場合は、できる限り速やかに本剤の2回目の接種を受けてください。5.本剤の接種直後または接種後に、心因性反応を含む血管迷走神経反射として、失神が現れることがあります。接種後一定時間は接種施設で待機し、帰宅後もすぐに医師と連絡を取れるようにしておいてください。6.接種後は健康状態に留意し、接種部位の異常や体調の変化、高熱、痙攣など普段と違う症状がある場合には、速やかに医師の診察を受けてください。7.心筋炎、心膜炎が疑われる症状(胸痛、動悸、むくみ、呼吸困難、頻呼吸など)が認められた場合には、すみやかに医師の診察を受けてください。<Shimo's eyes>本剤は12歳以上が対象のmRNAワクチン「コミナティ筋注」(2021年2月承認)と同一有効成分であり、11歳以下であっても使用できる小児用新型コロナワクチンとして初めて特例承認されました。5~11歳を対象に行った海外の臨床試験では、90.7%の有効性が確認されています。本剤は、希釈後の濃度が従来製剤の半分になるように調整されており、0.2mLで有効成分10μg(12歳以上への投与量の3分の1)が投与されます。従来製剤とは希釈液量が異なるので代用はできません。デッドボリュームの少ない注射針またはシリンジを使用した場合、10回分を採取することができます。1回量0.2mLを採取できない場合は、残量は使わずに廃棄します。従来製剤のバイアルキャップは紫色ですが、取り違えを防ぐため、小児用の本剤はオレンジ色となっています。そのほか、両剤の違いは「適正使用ガイド」にまとめられています。

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