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スタチンでアジア人乳がん患者のがん死亡リスク低下

 スタチン製剤を服用しているアジア人の乳がん患者では、スタチンを服用していない乳がん患者と比べて、がん関連の死亡リスクが有意に低かったことを、台湾・国立成功大学のWei-Ting Chang氏らが明らかにした。なお、心血管疾患による死亡リスクには有意差はなかった。JAMA Network Open誌4月21日号掲載の報告。 スタチンは化学療法と併用することで、がんの進行や微小転移を抑制することが報告されていて、乳がんの再発リスクを低減させる可能性が示唆されている。しかし、欧米の乳がん患者とは異なり、アジアの乳がん患者は診断時の年齢が比較的若く、ほとんどが心血管リスク因子を有していないため、スタチンの服用によって生存率が改善するかどうかは不明である。そこで研究グループは、アジア人の乳がん患者において、スタチン使用とがんおよび心血管疾患による死亡リスクとの関連を後方視的に調査した。 本コホート研究の対象は、台湾の国民健康保険研究データベース(NHIRD)と国民がん登録を用いて、2012年1月~2017年12月までに乳がんと診断された女性患者1万4,902例で、乳がんの診断前6ヵ月以内にスタチンを服用した患者と、スタチンを服用していない患者を比較した。年齢、がんの進行度、抗がん剤治療、併存疾患、社会経済的状況、心血管系薬剤などを傾向スコアマッチング法で適合させ、解析は2022年6月~2023年2月に実施された。主要アウトカムは死亡(全死因、がん、心血管疾患、その他)で、副次的アウトカムは新規発症の急性心不全、急性心筋梗塞や虚血性脳卒中などの動脈イベント、深部静脈血栓症や肺塞栓症などの静脈イベントであった。平均追跡期間は4.10±2.96年であった。 主な結果は以下のとおり。・スタチン使用群7,451例(平均年齢64.3±9.4歳)とスタチン非使用群7,451例(平均年齢65.8±10.8歳)がマッチングされた。・非使用群と比較して、使用群では全死因死亡のリスクが有意に低かった(調整ハザード比[aHR]:0.83、95%信頼区間[CI]:0.77~0.91、p<0.001)。・がん関連死亡のリスクも、非使用群と比較して、使用群では有意に低かった(aHR:0.83、95%CI:0.75~0.92、p<0.001)。・心不全、動脈・静脈イベントなどの心血管疾患の発生は少数であり、使用群と非使用群で死亡リスクに有意差は認められなかった。・時間依存性解析でも、非使用群と比較して、使用群では全死因死亡(aHR:0.32、95%CI:0.28~0.36、p<0.001)およびがん関連死亡(aHR:0.28、95%CI:0.24~0.32、p<0.001)が有意に少なかった。・これらのリスクは、とくに高用量スタチンを服用している群でさらに低かった。 これらの結果より、研究グループは「アジア人の乳がん患者を対象としたこのコホート研究では、スタチンの使用は心血管疾患による死亡ではなく、がん関連の死亡リスクの低減と関連していた。今回の結果は、乳がん患者におけるスタチンの使用を支持するエビデンスとなるが、さらなるランダム化試験が必要である」とまとめた。

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コロナ疾患後症状患者、1年以内の死亡/重篤心血管リスク増

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染から1年間のコロナ罹患後症状(Post-COVID-19 Condition:PCC[いわゆるコロナ後遺症、long COVID])について、米国の商業保険データベースを用いて未感染者と比較した大規模調査が、保険会社Elevance HealthのAndrea DeVries氏らによって実施された。その結果、コロナ後遺症患者は心血管疾患や呼吸器疾患のリスクが約2倍上昇し、1年間の追跡期間中の死亡率も約2倍上昇、1,000人あたり16.4人超過したことが明らかとなった。JAMA Health Forum誌2023年3月3日号に掲載の報告。コロナ後遺症群の死亡率は2.8%で未感染群は1.2% 米国50州の18歳以上の健康保険会員において、2020年4月1日~7月31日の期間にCOVID-19に罹患し、その後コロナ後遺症と診断された1万3,435例と、未感染者2万6,870例をマッチングし、2021年7月31日まで12ヵ月追跡してケースコントロール研究を実施した。評価項目は、心血管疾患、呼吸器疾患、死亡など。コロナ後遺症の診断は、疲労、咳嗽、痛み(関節、喉、胸)、味覚・嗅覚の喪失、息切れ、血栓塞栓症、神経認知障害、うつ病などの症状に基づいて行われた。統計学的有意性はカイ2乗検定とt検定で評価し、相対リスク(RR)と95%信頼区間(CI)を算出した。Kaplan-Meier法を用いて死亡率を算出した。 コロナ後遺症について未感染者と比較した大規模調査の主な結果は以下のとおり。・コロナ後遺症群(1万3,435例)の平均年齢は50.1歳(SD 15.1)、女性7,874例(58.6%)。PCC群のうち3,697例がCOVID-19診断後1ヵ月以内に入院していた(平均年齢57.4歳[SD 13.6]、女性44.7%)。未感染群(2万6,870例)の平均年齢は50.2歳(SD 15.4)、女性1万5,672例(58.3%)。・コロナ後遺症群はCOVID-19を発症する前に、高血圧(39.2%)、うつ病(23.7%)、糖尿病(20.5%)、COPD(19.1%)、喘息(中等症/重症)(13.3%)、高度肥満(10.3%)などの慢性疾患を有する人が多かった。・コロナ後遺症群の追跡期間中によく観察された症状は、息切れ(41%)、不安(31%)、筋肉痛/脱力(30%)、うつ病(25%)、疲労(21%)だった。・コロナ後遺症群において、未感染群と比較して医療利用が増加した疾患は次のとおり。 -不整脈の発症率:PCC群29.4% vs.未感染群12.5%、RR:2.35(95%CI:2.26~2.45) -肺塞栓症:8.0% vs.2.2%、RR:3.64(95%CI:3.23~3.92) -虚血性脳卒中:3.9% vs.1.8%、RR:2.17(95%CI:1.98~2.52) -冠動脈疾患:17.1% vs.9.6%、RR:1.78(95%CI:1.70~1.88) -心不全:11.8% vs.6.0%、RR:1.97(95%CI:1.85~2.10) -末梢血管疾患:9.9% vs.6.3%、RR:1.57(95%CI:1.48~1.70) -COPD:32.0% vs.16.5%、RR:1.94(95%CI:1.88~2.00) -喘息(中等症/重症):24.2% vs.12.4%、RR:1.95(95%CI:1.86~2.03)・追跡期間中の死亡率はコロナ後遺症群2.8% vs.未感染群1.2%で、コロナ後遺症群は1,000人あたり16.4人の超過死亡となる。・COVID-19発症初期に入院を経験したコロナ後遺症群において、未感染群と比較して医療利用が増加した疾患は次のとおり。 -不整脈:51.7% vs.17.4%、RR:2.97(95%CI:2.81~3.16) -肺塞栓症:19.3% vs.3.1%、RR:6.23(95%CI:5.36~7.15) -虚血性脳卒中:8.3% vs.2.7%、RR:3.07(95%CI:2.59~3.66) -冠動脈疾患:28.9% vs.14.5%、RR:1.99(95%CI:1.85~2.15) -心不全:25.6% vs.10.1%、RR:2.53(95%CI:2.32~2.76) -末梢血管疾患:17.3% vs.8.9%、RR:1.94(95%CI:1.75~2.15) -COPD:43.1% vs.19.2%、RR:2.24(95%CI:2.11~2.38) -喘息(中等症/重症):31.6% vs.14.7%、RR:2.15(95%CI:2.00~2.31) コロナ罹患後症状に関する米国での最大規模の追跡調査において、コロナ後遺症患者は死亡率だけでなく心血管疾患や呼吸器疾患のリスクが有意に増加し、とくにCOVID-19発症初期に入院した人では肺塞栓症が6倍、脳卒中が3倍以上など、さらにリスクが高くなることが示された。また、本研究はワクチン利用可能以前のサンプルを用いているため、ワクチン普及後では、ワクチンのコロナ後遺症緩和効果により、個人の医療利用パターンが変化する可能性もあると著者は指摘している。

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DOAC時代のVTE診療の国内大規模研究、再発リスクの層別化評価と出血リスク評価の重要性が明らかに/日本循環器学会

 日本では過去に静脈血栓塞栓症 (肺塞栓症および深部静脈血栓症、以下VTE)の患者を対象とした多施設共同の大規模観察研究:COMMAND VTE Registry(期間:2010年1月~2014年8月、対象:3,024例)が報告されていた。しかしながら、同研究はワルファリン時代のデータベースであり、抗凝固薬の88%がワルファリンであった。現在はVTE患者の治療には直接経口抗凝固薬(DOAC)が広く普及しており、そこでDOAC時代における日本のVTE診療の実態を明らかにすることを目的としたCOMMAND VTE Registry-2が実施され、3月10~12日に開催された第87回日本循環器学会学術集会の「Late Breaking Cohort Studies Session」にて、同研究班の金田 和久氏(京都大学大学院医学研究科 循環器内科学)が、その主解析の結果を報告した。DOAC時代のVTE患者を対象とした大規模な観察研究 COMMAND VTE Registry-2は、日本の31施設において2015年1月~2020年8月の期間に、急性の症候性の肺塞栓症および深部静脈血栓症と診断された患者5,197例を登録した多施設共同の観察研究である。本研究の特徴は、1)DOAC時代に特化したデータベースであること、2)世界的にみてもDOAC時代を対象とした最大規模のリアルワールドデータであること、3)詳細な情報収集かつ長期的なフォローアップが実施されたレジストリであることだ。 日本循環器学会が発行するガイドライン最新版1)では、VTE再発リスクを3つのグループに分類し検討されていたが、近年は国際血栓止血学(ISTH)よりさらなる詳細なリスク層別化が推奨され、世界中の多くの最新のVTEガイドラインでは、VTE再発リスクに応じて5つのグループに分類している(メジャーな一過性リスク群[大手術や長期臥床、帝王切開など]、マイナーな一過性リスク群[旅などで長時間姿勢保持、小手術、ホルモン療法、妊娠など]、VTE発症の誘因のない群、がん以外の持続的なリスク因子を有する群[自己免疫性疾患など]、活動性のがんを有する群)。 今回の主解析では、ISTHで推奨されている詳細な5つのグループに分類し、患者背景、治療の詳細、および予後が評価された。 DOAC時代における日本のVTE診療の実態を明らかにすることを目的としたCOMMAND VTE Registry-2の主な結果は以下のとおり。・全対象者は5,197例で、平均年齢は67.7歳、女性は3,063例(59.0%)、平均体重は58.9kgだった。・PE(肺塞栓症)の症例は、2,787例(54.0%)で、DVTのみの症例は2,420例(46.0%)であった。・初期治療において経口抗凝固薬が使用されたのは4,790例(92.0%)で、そのうちDOACが処方されたのは4,128例(79%)だった。DOACの処方状況は、エドキサバン2,004例(49%)、リバーロキサバン1,206例(29%)、アピキサバン912例(22%)、ダビガトラン6例(0.2%)であった。・治療開始1年間の投与中止率は、グループ間で大きく異なっていた(メジャーな一過性リスク群:57.2%、マイナーな一過性リスク群:46.3%、VTE発症の誘因のない群:29.1%、がん以外の持続的なリスク因子を有する群:32.0%、活動性のがんを有する群:45.6%、p<0.001)。・メジャーな一過性リスク群(n=475[9%])はVTE再発リスクの5年間の累積発生率が最も低かった(2.6%、p<0.001)。・マイナーな一過性リスク群(n=788[15%])では、メジャーな一過性リスク群と比較するとVTE再発リスクの5年間の累積発生率が比較的高かった(6.4%、p<0.001)。・VTE発症の誘因のない群(n=1,913[37%])では長期にわたり再発リスクがかなり高かった(5年時点にて11.0%、p<0.001)。・活動性のがんを有する群(n=1,507、29%)では再発リスクが高く(5年時点にて10.1%、p<0.001)、また、大出血の5年間の累積発生率は最も高く(20.4%、p<0.001)、抗凝固療法の中止率も高かった。 発表者の金田氏は「欧米の最新のVTEガイドラインでもマイナーな一過性リスク群に対する抗凝固療法の投与期間は、短期vs.長期で相反する推奨の記載があるが、今回の結果を見る限り、日本人でも出血リスクの低い患者においては長期的な抗凝固療法を継続するベネフィットがあるのかもしれない。欧米のVTEガイドラインでは、VTE発症の誘因のない群では、半永久的な抗凝固療法の継続を推奨しているが、日本人でも同患者群での長期的な高い再発リスクを考えると、出血リスクがない限りは長期的な抗凝固療法の継続が妥当なのかもしれない。活動性がんを有する患者では、日本循環器学会のガイドラインでもより長期の抗凝固療法の継続が推奨されているが、DOAC時代となっても出血イベントなどのためにやむなく中止されている事が多く、DOAC時代となっても今後解決すべきアンメットニーズであると考えられる」と述べた。 最後に同氏は「今回、日本全国の多くの共同研究者のご尽力により実施されたDOAC時代のVTE患者の大規模な観察研究により、日本においても最新のISTHの推奨に基づいた詳細な再発リスクの層別化が抗凝固療法の管理戦略に役立つ可能性があり、一方で、より長期の抗凝固療法の継続が推奨されるようになったDOAC時代においては、その出血リスクの評価が益々重要になっていることが明らかになった」と話し、「本レジストリは非常に詳細な情報収集を行っており、今後、さまざまなテーマでのサブ解析の検討を行い共同研究者の先生方とともに情報発信を行っていきたい」と結論付けた。 なお、本学術集会ではCOMMAND VTE Registry-2からサブ解析を含めて総数20演題の結果が報告された。(下記、一部を列記)―――Actual Management of Venous Thromboembolism Complicated by Antiphospholipid AntibodySyndrome in Japan. From the COMMAND VTE Registry-2久野 貴弘氏(群馬大学医学部附属病院 循環器内科)Risk Factors of Bleeding during Anticoagulation Therapy for Cancer-associated Venous Thromboembolism in the DOAC Era: From the COMMAND VTE Registry-2平森 誠一氏(長野県厚生連篠ノ井総合病院 循環器科)Chronic Thromboembolic Pulmonary Hypertension after Acute Pulmonary Embolism in the Era of Direct Oral Anticoagulants: From the COMMAND VTE Registry-2池田 長生氏(東邦大学医療センター大橋病院 循環器内科)Clinical Characteristics and Outcome of Critical Acute Pulmonary Embolism Requiring Extracorporeal Membrane Oxygenation: From the COMMAND VTE Registry-2高林 健介氏(枚方公済病院 循環器内科)Clinical Characteristics, Anticoagulation Strategies and Outcomes Comparing Patients with and without History of Venous Thromboembolism: From the COMMAND VTE Registry-2土井 康佑氏(京都医療センター 循環器内科)Risk Factor for Major Bleeding during Direct Oral Anticoagulant Therapy in Patients with Venous Thromboembolism: From the COMMAND VTE Registry-2上野 裕貴氏(長崎大学循環病態制御内科学)Utility and Application of Simplified PESI Score for Identification of Low-risk Patients withPulmonary Embolism in the Era of DOAC西川 隆介氏(京都大学医学研究科 循環器内科学)Management Strategies and Outcomes of Cancer-Associated Venous Thromboembolism in the Era of Direct Oral Anticoagulants: From the COMMAND VTE Registry-2茶谷 龍己氏(倉敷中央病院 循環器内科)Clinical Characteristics and Outcomes in Patients with Cancer-Associated Venous Thromboembolism According to Cancer Sites: From the COMMAND VTE Registry-2坂本 二郎氏(天理よろづ相談所病院 循環器内科)Direct Oral Anticoagulants-Associated Bleeding Complications in Patients with Gastrointestinal Cancer and Venous Thromboembolism: From the COMMAND VTE Registry-2西本 裕二氏(大阪急性期・総合医療センター 心臓内科)Influence of Fragility on Clinical Outcomes in Patients with Venous Thromboembolism and Direct Oral Anticoagulant: From the COMMAND VTE Registry-2荻原 義人氏(三重大学 循環器内科学)Comparison of Clinical Characteristics and Outcomes of Venous Thromboembolism(VTE)between Young and Elder Patients: From the COMMAND VTE Registry-2森 健太氏(神戸大学医学部附属病院 総合内科)Off-Label Under- and Overdosing of Direct Oral Anticoagulants in Patients with VenousThromboembolism: From the COMMAND VTE Registry-2辻 修平氏(日本赤十字社和歌山医療センター 循環器内科)The Association between Statin Use and Recurrent Venous Thromboembolism: From theCOMMAND VTE Registry-2馬渕 博氏(湖東記念病院 循環器科)Clinical Characteristics and Outcomes of Venous Thromboembolism Comparing Patients with and without Initial Intensive High-dose Anticoagulation by Rivaroxaban and Apixaban大井 磨紀氏(大津赤十字病院 循環器内科)Initial Anticoagulation Strategy in Pulmonary Embolism Patients with Right Ventricular Dysfunction and Elevated Troponin Levels: From the COMMAND VTE Registry-2滋野 稜氏(神戸市立医療センター中央市民病院 循環器内科)Current Use of Inferior Vena Cava Filters in Japan in the Era of DOACs from the COMMAND VTE Registry-2高瀬 徹氏(近畿大学 循環器内科学)Patient Characteristics and Clinical Outcomes among Direct Oral Anticoagulants for Cancer Associated Venous Thromboembolism: From the COMMAND VTE Registry-2末田 大輔氏(熊本大学大学院生命科学研究部 循環器内科)―――

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アスピリンでいいの?(解説:後藤信哉氏)

 骨折症例は肺塞栓症などの致死的静脈血栓リスクが高いと認識されている。欧米諸国では静脈血栓予防の標準治療は低分子ヘパリンである。皮下注射といえども注射と経口の差異は大きい。血栓イベント予防が目的であれば経口薬が好ましい。 静脈血栓予防におけるアスピリンの有効性については長年の議論がある。無効とも言いにくいが、抗凝固薬よりも有効性が乏しいと一般に理解されていると思う。しかし、本論文のintroductionに記載されているようにアスピリンと低分子ヘパリンとのしっかりしたランダム化比較試験が施行されてきてはいない。 エビデンスが明確でないのでランダム化比較試験をやって仮説を検証しようとの発想は欧米らしい。実臨床のうえでの低分子ヘパリンとアスピリンのランダム化比較試験を下半身の骨折症例を対象として施行した。有効性の1次エンドポイントは90日の時点での総死亡とした。 1万2,211例のランダム化比較試験の結果は無視できない。骨折症例は抗凝固薬による血栓予防という固定概念があるが、安価で安易なアスピリンでもよいのかもしれない。議論を起こしそうだが、1つの実験による科学的事実としては評価せざるを得ないと思う。

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骨折後の血栓予防、アスピリンvs.低分子ヘパリン/NEJM

 手術を受けた四肢骨折患者、または手術有無を問わない骨盤・寛骨臼骨折患者の血栓予防において、アスピリンは致死的イベント抑制に関して低分子ヘパリンに非劣性を示すことが示された。アスピリンによる深部静脈血栓症・肺塞栓症・90日での全死亡の発現頻度は低かった。米国・メリーランド大学のRobert V. O'Toole氏らMajor Extremity Trauma Research Consortium(METRC)が、米国およびカナダの外傷センター21施設で実施した医師主導の実用的多施設共同無作為化非劣性試験「Prevention of Clot in Orthopaedic Trauma trial:PREVENT CLOT試験」の結果を報告した。臨床ガイドラインでは、骨折患者に対する血栓予防に低分子ヘパリンが推奨されている。しかし、低分子ヘパリンの有効性をアスピリンと比較した試験はこれまでなかった。NEJM誌2023年1月19日号掲載の報告。手術治療の四肢骨折患者、または骨盤・寛骨臼骨折患者約1万2千例を無作為化 研究グループは、受傷後48時間以内に来院し、手術による治療を受けた四肢骨折患者(股関節から中足部までの下肢、または肩から手首までの上肢)、または手術/非手術による治療を受けた骨盤・寛骨臼骨折患者(いずれも18歳以上)を登録し、入院中に低分子ヘパリン(エノキサパリン、30mg用量1日2回)を投与する群、またはアスピリン(81mg用量1日2回)を投与する群に1対1の割合に無作為に割り付けた。投与期間は各病院の臨床プロトコールに基づき、退院時に終了または退院後も継続可とした。 主要アウトカムは、無作為化後90日時点での全死亡、副次アウトカムは非致死的肺塞栓症、深部静脈血栓症、出血性合併症などであった。 2017年4月~2021年8月の期間に、計1万2,211例がアスピリン群(6,101例)または低分子ヘパリン群(6,110例)に無作為に割り付けられた。患者の平均(±SD)年齢は44.6±17.8歳、62.3%が男性で、0.7%に静脈血栓塞栓症、2.5%にがんの既往があった。90日全死亡に関して、アスピリンは低分子ヘパリンに対し非劣性 平均入院日数は5.3±5.7日、入院中の試験薬の平均投与回数は8.8±10.6回であり、退院時に処方された血栓予防薬の期間中央値は21日間であった。 intention-to-treat解析の結果、90日全死亡率はアスピリン群0.78%(47例)、低分子ヘパリン群0.73%(45例)であり、アスピリン群の低分子ヘパリン群に対する非劣性が示された(群間差:0.05ポイント、96.2%信頼区間[CI]:-0.27~0.38、非劣性のp<0.001[非劣性マージン0.75ポイント])。 90日間の深部静脈血栓症の発現率はアスピリン群で2.51%、低分子ヘパリン群で1.71%(群間差:0.80ポイント、95%CI:0.28~1.31)、非致死的肺塞栓症は両群とも1.49%であり、出血性合併症、その他の重篤な有害事象の発現率は両群で同程度であった。

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コロナ感染後の手術、間隔が長いほど術後の心血管疾患リスク減

 SARS-CoV-2感染から手術までの間隔が長くなるほど、術後の主要心血管イベント複合転帰のリスクが低くなることを、米国・ヴァンダービルト大学医療センターのJohn M. Bryant氏らが単一施設の後ろ向きコホート研究によって明らかにした。JAMA Netw Open誌2022年12月14日号掲載の報告。 これまで、複数の研究によってSARS-CoV-2感染と手術後の死亡率増加の関連が報告されているが、手術までの期間と死亡率の関連性についてはまだ不十分であった。そこで研究グループは、SARS-CoV-2感染から手術までの期間が短いほど、術後の心血管イベントの発生率が上がると仮説を立て、手術後30日以内の心血管イベントリスクを評価することにした。 対象は、PCR検査によるSARS-CoV-2感染歴があり、かつ2020年1月1日~2021年12月6日にヴァンダービルト大学医療センターで手術を行った3,997例(年齢中央値51.3歳、女性55.6%、白人74.8%)であった。主要エンドポイントは、手術後30日以内の深部静脈血栓症、肺塞栓症、脳血管障害、心筋損傷、急性腎障害、または死亡の複合転帰であった。データ分析は2022年3月29日に実施された。 主な結果は以下のとおり。・SARS-CoV-2感染の診断から手術までの期間の中央値は98日(四分位範囲[IQR]:30~225日)で、3,997例中1,394名(34.9%)が7週以内に手術を受けていた。・手術の内訳は、消化器系25.1%、整形外科系14.3%、頸部・頸部10.4%、産婦人科系9.6%、腹部全般9.3%、循環器系5.8%、泌尿器科系5.8%などであった。・術後30日以内に485例(12.1%)で主要心血管イベントが確認された。急性腎障害は363例(9.1%)、心筋損傷は116例(2.9%)、深部静脈血栓症は61例(1.5%)、脳血管障害は29例(0.7%)、肺塞栓症は16例(0.4%)、死亡は79例(2.0%)であった。・多変量ロジスティック回帰分析の結果、SARS-CoV-2感染から手術までの期間が長くなるほど、主要心血管イベントの複合転帰の発生率は低くなった(10日あたり調整オッズ比[aOR]:0.99、95%信頼区間[CI]:0.98~1.00、p=0.006)。・高齢、男性、黒人/アフリカ系、全身状態不良、泌尿器科系手術、併存症を既往している患者などでは、主要心血管イベントの複合転帰の発生率が高かった。・COVID-19の症状の有無、ワクチン接種の有無にかかわらず、陽性診断から手術までの経過日数と複合転帰の発生率は同様の傾向を示した。 研究グループは、これらの結果から「SARS-CoV-2感染の診断から手術までの間隔の延長が、術後の重大な心血管疾患イベントの低減と関連していた。SARS-CoV-2感染歴のある患者の手術タイミングと転帰の議論に役立ててほしい」とまとめた。

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リバーロキサバン延長で、静脈血栓塞栓症の再発リスク低減/BMJ

 症候性の孤立性遠位深部静脈血栓症(DVT)の患者に対して、リバーロキサバンによる6週間の治療の後、さらに6週間の同薬の投与を行うと、プラセボと比較して、出血のリスクを増加させずに静脈血栓塞栓症の再発リスクが低減することが、イタリア・インスブリア大学のWalter Ageno氏らが実施した「RIDTS試験」で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年11月23日号に掲載された。6週と12週投与を比較するイタリアの無作為化試験 RIDTS試験は、イタリアの28施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2017年1月~2020年3月の期間に患者の登録が行われた(Bayerとインスブリア大学の助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、下肢の症候性孤立性遠位DVTと診断され、標準的な用量のリバーロキサバンの投与を6週間受けた患者であった。被験者は、さらに6週間の同薬(20mg、1日1回)の追加投与を受ける群、またはプラセボ群に無作為に割り付けられ、24ヵ月間追跡された。 有効性の主要アウトカムは静脈血栓塞栓症の再発であり、孤立性遠位DVTの進行、孤立性遠位DVTの再発、近位DVT、症候性肺塞栓症、致死的肺塞栓症の複合と定義された。安全性の主要アウトカムは、無作為化から最終投与後2日までの大出血の発現であった。大出血は両群とも発現せず 402例が登録され、リバーロキサバン群に200例(平均[SD]年齢65.0[16.0]歳、女性58%、高リスク例93%)、プラセボ群に202例(65.3[15.4]歳、59%、94%)が割り付けられた。誘因のない孤立性遠位DVTは、リバーロキサバン群が81例(40%)、プラセボ群は86例(43%)であった。 有効性の主要アウトカムは、リバーロキサバン群が23例(11%)で発現し、プラセボ群の39例(19%)に比べ有意に少なかった(相対リスク:0.59、95%信頼区間[CI]:0.36~0.95、p=0.03)。有効性の主要アウトカム発現を1件防止するのに要する治療必要数は13(95%CI:7~126)であった。 孤立性遠位DVTの再発は、リバーロキサバン群が16例(8%)、プラセボ群は31例(15%)で認められた(相対リスク:0.52、95%CI:0.29~0.92、p=0.02)。近位DVTまたは肺塞栓症は、それぞれ7例(3%)および8例(4%)で発現した(0.88、0.33~2.39、p=0.80)。 大出血は、両群ともに認められなかった。臨床的に重要な非大出血は、両群とも1例(0.5%)であった。 著者は、「これらの知見は、本試験で除外されたがん関連の孤立性遠位DVTを有する患者には適用されず、他の抗凝固薬治療に外挿すべきではない。今後、抗凝固薬治療を必要としない可能性のある低リスク患者を特定するための検討が求められる」としている。

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パクスロビドがコロナ後遺症リスクを低減

 抗ウイルス薬のパクスロビド(一般名ニルマトレルビル・リトナビル、日本での商品名パキロビッドパック)の使用により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後の入院率と死亡率を低減できるだけでなく、COVID-19の後遺症(以下、後遺症)のリスクも低減できることが新たな研究で示された。米VAセントルイス・ヘルスケアシステムのZiyad Al-Aly氏らが実施したこの研究結果は、査読前の論文のオンラインアーカイブである「medRxiv」に11月5日発表された。Al-Aly氏は、「この薬剤が深刻な後遺症問題に対処する重要な手段となる可能性がある」と述べている。 パクスロビドは新しい抗ウイルス薬のニルマトレルビルと、既存の抗HIV薬であるリトナビルを組み合わせた合剤で、COVID-19感染急性期に重症化リスクを低減させることが示されている。今回の研究では、米国退役軍人省のヘルスケアデータを用いて、COVID-19感染急性期にパクスロビドを投与することで、診断から90日後の後遺症リスクが低減するのかどうかが検討された。 研究対象者は、2022年3月1日から6月30日までの間に新型コロナウイルス検査で陽性の判定を受け、判定を受けた日には入院に至らず、COVID-19重症化のリスク因子を1つ以上有し、診断から30日以上生存していた5万6,340人(平均年齢65.07歳、白人74.59%、男性87.64%)。これらの対象者は、陽性判定後5日以内にパクスロビドを投与された9,217人(パクスロビド投与群)と、感染後30日以内に抗ウイルス薬や抗体による治療を受けなかった4万7,123人(対照群)で構成されていた。また、対象者の中には、ワクチン未接種、接種済み、ブースター接種済みの患者が混在しており、新型コロナウイルスへの感染歴を1回以上持つ人もいた。検討する後遺症は、虚血性心疾患、不整脈、深部静脈血栓症、肺塞栓症、倦怠感、肝疾患、急性腎障害、筋肉痛、糖尿病、神経認知機能障害、息切れ、咳の12種類とした。 その結果、COVID-19の診断から90日後に、検討した12種類の後遺症の症状のうち1種類以上を有するリスクは、パクスロビド投与群で対照群に比べて低いことが明らかになった(ハザード比0.74、95%信頼区間0.69〜0.81)。診断後90日時点での後遺症の100人当たりの発症率は、パクスロビド投与群で7.11人、対照群で9.43人であった。これは、診断後90日時点で後遺症を1つ以上有する人が、パクスロビド群では対照群よりも100人当たり2.3人少ないことに相当する。 症状別に見ると、パクスロビド投与群では対照群に比べて、12種類のうちの10種類の後遺症の発症リスクが有意に低かったが、持続的な咳および新たに糖尿病と診断されるリスクの2種類については、両群間で有意差は認められなかった。パクスロビド投与群ではさらに、急性期後の死亡リスクおよび入院リスクの低減も認められた(ハザード比は死亡リスクで0.52、入院リスクで0.70)。 こうした結果を受けてAl-Aly氏らは、「全体的なエビデンスから、重症化予防だけでなく、急性期後の有害転帰のリスクを低減する目的でも、感染急性期のパクスロビドの利用率を向上させる必要があることが示唆される」と述べている。 ファイザー社が製造するパクスロビドは12歳から使用可能である。COVID-19の発症から5日以内に使用するのが最も効果的とされるが、用量や使用日数を増やすことで効果が変わるかどうかは明らかにされていないとCNNは報じている。米国立衛生研究所(NIH)は、すでに後遺症のある患者を対象にパクスロビドの効果を検討する研究を実施する予定だという。

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肥満はCOVID-19に伴う血栓症リスクに影響なし?―国内共同CLOT-COVID研究

 肥満は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症化のリスク因子ではあるものの、COVID-19に伴う血栓症リスクへの影響は統計的に有意でないとするデータが報告された。三重大学医学部付属病院循環器内科の荻原義人氏らの研究であり、詳細は「Journal of Cardiology」に8月28日掲載された。 肥満は入院患者に発生する血栓症のリスク因子であることが以前から知られている。またCOVID-19が血液の凝固異常を引き起こし血栓症のリスクを上げることも、既に明らかになっている。ただし、肥満がCOVID-19に伴う血栓症のリスク因子であるか否かは明らかにされていない。荻原氏らはこの点について、COVID-19患者の血栓症や抗凝固療法に関する国内16施設の共同研究「CLOT-COVID研究」のデータを後方視的に解析し検討した。 CLOT-COVID研究には2021年4~9月のCOVID-19入院患者2,894人が登録されており、BMIデータのない患者と18歳未満の未成年を除外した2,690人を解析対象とした。国際的な基準であるBMI30以上を肥満と定義すると17%が該当した。 肥満群は非肥満群に比較して若年で(平均47対55歳、P<0.01)、高血圧、糖尿病の有病率が高いという有意差が見られた。一方、性別(男性の割合)、入院時のDダイマー、静脈血栓塞栓症(VTE)や大出血の既往者の割合などには有意差がなかった。また、肥満群はCOVID-19の重症度が高く(P=0.02)、血栓症に対するヘパリンなど抗凝固薬の予防的投与が行われていた割合も高かった(55%対42%、P<0.01)。 入院中の血栓症は、54件(2.0%)発生していた。その内訳は、VTE(画像検査などで確認された肺塞栓症、深部静脈血栓症)が最も多く39件であり血栓症の72%を占めていた。ほかには、動脈血栓イベント(心筋梗塞、虚血性脳卒中など)が12件、その他の血栓症が6件だった。大出血イベントは56件(2.1%)、全死亡は145人(5.4%)だった。 肥満群と非肥満群の血栓症発生率を比較すると、同順に2.6%、1.9%であり有意差はなく(P=0.39)、VTEは2.2%、1.3%(P=0.15)、大出血2.4%、2.0%(P=0.59)、全死亡4.4%、5.6%(P=0.29)であり、いずれも有意差がなかった。その一方で、全死亡および機械的人工換気または体外式膜型人工肺(ECMO)の施行で構成される複合エンドポイントの発生率は、20.1%、15.0%(P<0.01)で肥満群の方が高かった。 年齢、性別、高血圧・糖尿病・心疾患・呼吸器疾患・活動性がんの影響を調整したロジスティック回帰分析の結果、非肥満群に対する肥満群の血栓症のオッズ比(OR)は1.39(95%信頼区間0.68~2.84)となり、肥満による有意なリスク上昇は示されなかった。一方、全死亡や機械的人工換気、ECMOの複合エンドポイントはOR1.85(同1.39~2.47)であり、肥満が有意なリスク因子と考えられた。 著者らは、本研究の限界点として、ワクチン接種状況が把握されていないこと、COVID-19に対する治療や抗凝固薬予防投与が各医師の裁量で決定されていたこと、肥満該当者が少なかったことなどを挙げた上で、「肥満はCOVID-19の重症度と関連があるものの、COVID-19に伴う血栓症の発症とは有意な関連がなかった」と結論付けている。なお、本研究以外にも、VTEを発症したCOVID-19患者はBMI高値だがCOVID-19の重症度も高いとする国内の既報研究があることから、「COVID-19に伴う血栓症はCOVID-19の重症度の高さに関連するものであり、肥満に起因するものではないのではないか」との考察を加えている。

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VTE既往妊産婦への低分子ヘパリン、体重補正中用量vs.固定低用量/Lancet

 静脈血栓塞栓症(VTE)既往のある女性において、分娩前~分娩後に体重で補正した中用量の低分子ヘパリン投与は、固定低用量の低分子ヘパリン投与と比べてVTE再発リスクを低減しないことが、オランダ・アムステルダム大学のIngrid M. Bistervels氏らが行った多施設共同非盲検無作為化試験「Highlow試験」の結果、示された。妊娠に関連したVTEは、母体の罹患および死亡の主要な原因であり、VTE既往女性では分娩前および分娩後に血栓予防が適応となる。しかし同期間中のVTE再発予防のための低分子ヘパリンの至適投与量は明らかでなかった。Lancet誌オンライン版2022年10月28日号掲載の報告。9ヵ国70病院で無作為化試験、妊娠14週~分娩後6週まで各用量を投与 Highlow試験は、9ヵ国(オランダ、フランス、アイルランド、ベルギー、ノルウェー、デンマーク、カナダ、米国、ロシア)の70病院から、VTE既往の妊娠中の女性を集めて行われた。客観的診断によるVTE既往のある18歳以上で、妊娠14週以下の女性を適格とした。 適格女性を、1対1の割合でウェブベースシステムと置換ブロック無作為化法にて、妊娠14週前に、体重補正した中用量の低分子ヘパリン投与(体重補正中用量)群または固定低用量の低分子ヘパリン投与(低用量)群に割り付け、分娩後6週まで1日1回皮下投与した。 主要有効性アウトカムは客観的診断のVTE(深部静脈血栓症、肺塞栓症または非典型的部位静脈血栓症など)で、独立した中央判定委員会で確認を行った。評価対象はintention-to-treat(ITT)集団(投与群に割り付けられたすべての女性など)とした。 主要安全性アウトカムは、分娩前、分娩後早期(分娩後24時間未満)を含む大出血、および分娩後後期大出血(分娩後24時間以上~6週間)で、割り付けられた治療の投与を少なくとも1回受け、投与の終了が確認されたすべての女性を評価対象とした。VTE再発に有意差なし、安全性も同等 2013年4月24日~2020年10月31日に、1,339例の妊娠中の女性がスクリーニングを受け、適格であった1,110例が、体重補正中用量群(555例)、低用量群(555例)に無作為に割り付けられた(ITT集団)。 VTEの発生は、体重補正中用量群11/555例(2%)、低用量群16/555例(3%)であった(相対リスク[RR]:0.69[95%信頼区間[CI]:0.32~1.47]、p=0.33)。 分娩前のVTE発生は、体重補正中用量群5/555例(1%)、低用量群5/555例(1%)であり、分娩後のVTE発生はそれぞれ6例(1%)、11例(2%)であった。 安全性解析集団(1,045例)における治療期間中の大出血は、体重補正中用量群23/520例(4%)、低用量群20/525例(4%)であった(RR:1.16[95%CI:0.65~2.09])。

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コロナワクチンの血栓症リスク、種類別比較を定量化/BMJ

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンのうち、アデノウイルスベースのワクチンであるChAdOx1-S(アストラゼネカ製)はmRNAベースワクチンのBNT162b2(ファイザー製)と比較して、初回接種から28日以内の血小板減少症のリスクが30%以上高く、アデノウイルスベースのワクチンAd26.COV2.S(ヤンセン製)はBNT162b2に比べ、血小板減少症を伴う血栓症候群(TTS)の中でも静脈血栓塞栓症のリスクが高い傾向にあることが、英国・オックスフォード大学のXintong Li氏らが行った欧米6ヵ国のデータセットの解析で示された。研究の成果は、BMJ誌2022年10月26日号で報告された。欧州5ヵ国と米国のネットワークコホート研究 研究グループは、COVID-19に対するアデノウイルスベースのワクチンとmRNAベースのワクチンとで、TTSまたは血栓塞栓イベントのリスクの定量的な比較を目的に、国際的なネットワークコホート研究を実施した(欧州医薬品庁[EMA]の助成を受けた)。 解析には、欧州の5ヵ国(フランス、ドイツ、オランダ、スペイン、英国)の各1つのデータセットと、米国の2つのデータセットが使用された。 対象は、2020年12月から2021年の半ばまでの期間に、2つのアデノウイルスベースのCOVID-19ワクチン(ChAdOx1-S、Ad26.COV2.S)または2つのmRNAベースのCOVID-19ワクチン(BNT162b2、mRNA-1273[モデルナ製])のいずれかの接種を少なくとも1回受け、初回接種時に年齢18歳以上の集団であった。 主要アウトカムは、ワクチン接種から28日以内のTTS(深部静脈血栓症、血栓塞栓症など)または静脈・動脈血栓塞栓イベント(深部静脈血栓症、肺塞栓症、脳静脈洞血栓症、心筋梗塞など)とされた。 傾向スコアマッチング後に罹患率比が推算され、陰性コントロールのアウトカムを用いて較正が行われた。変量効果によるメタ解析で、データベースごとの推算値が統合された。今後の予防接種キャンペーンの際に考慮すべき ドイツと英国のデータの解析では、血小板減少症は、ChAdOx1-Sの初回接種を受けた集団で862件、BNT162b2の初回接種を受けた集団で520件発生した。 ドイツと英国のデータのメタ解析では、ChAdOx1-S初回接種はBNT162b2初回接種と比較して、28日後の血小板減少症のリスクが高く、較正後の統合罹患率比は1.33(95%信頼区間[CI]:1.18~1.50)であり、較正後罹患率の差は1,000人年当たり1.18(95%CI:0.57~1.8)、絶対リスク差は10万人当たり8.21(95%CI:3.59~12.82)であった。 TSSはきわめてまれであった。米国とスペインのデータのメタ解析では、Ad26.COV2.SはBNT162b2に比べ、TTSのうち静脈血栓塞栓症のリスクが高い傾向が認められ、較正後の統合罹患率比は2.26(95%CI:0.93~5.52)であった。不確実性はより高いものの、TTSの深部静脈血栓症にも同様の傾向がみられた(較正後統合罹患率比:1.83、95%CI:0.62~5.38)。 著者は、「罹患数はきわめて少ないが、アデノウイルスベースのワクチン接種後に観察された血小板減少症のリスクは、今後、予防接種キャンペーンやワクチン開発を計画する際に考慮すべきと考えられる」としている。

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インフルエンザと新型コロナ:動脈血栓の視点ではどっちが怖い?(解説:後藤信哉氏)

 新型コロナウイルス感染症の特徴として、深部静脈血栓症・肺塞栓症などの静脈血栓症リスクの増加が注目された。静脈血栓症リスクは、新型コロナウイルス以外の感染症でもICU入院例では高かった。インフルエンザなど他のウイルス感染と比較して、新型コロナウイルスにはACE-2受容体を介して血管内皮細胞に感染するとの特徴があった。血管内皮細胞は血管内の血栓予防にて死活的に重要な役割を演じている。新型コロナウイルス感染により血管内皮細胞の機能が障害されれば、微小循環の過程にて血小板、白血球が活性化し全身循環する血液の血栓性は亢進する。静脈血栓症以外に、心筋梗塞・脳梗塞などの動脈血栓リスクも新型コロナウイルス感染後に増加すると想定された。また、新型コロナウイルス感染症例の心筋梗塞、脳梗塞リスクの増加を示唆する論文も多数出版されている。 本研究は米国の健康保険のデータベースの後ろ向き解析である。新型コロナウイルス感染症にて入院した症例の静脈血栓、動脈血栓リスクは高いが、われわれに十分な経験のあるインフルエンザの入院例との比較において動脈、静脈血栓リスクを評価したのが本研究の新規性である。また、新型コロナウイルスのワクチン接種のインパクトの評価も志向している。もっとも、本研究は重症の入院例に限局しているので、ワクチンの血栓イベントに及ぼす効果は評価できないことを理解する必要がある。 ワクチン普及後でも、新型コロナウイルス感染症による入院後90日以内の動脈血栓イベント発症率は16.3%(95%CI:16.0%~16.6%)と高い。新型コロナは恐ろしい。しかし、インフルエンザでも入院例では90日以内に14.4%(95%CI:13.6%~15.2%)が動脈血栓を発症している。新型コロナは恐ろしいが、インフルエンザも怖い。動脈血栓イベントリスクは年齢に依存している。高齢者であれば、新型コロナであろうとインフルエンザであろうと入院後の動脈血栓イベントには注意が必要である。本研究では血管内皮細胞への感染を特徴とする新型コロナウイルスの血栓性亢進は静脈血栓のみにて確認された。米国の保険医療データベースのラフな解析の結果である。英国などの精緻なデータが待たれる。 時に、現在まで日本は全数把握を行政が主導してきた。全数把握しながら、日本のデータベースから新型コロナウイルスに関する科学的情報の発表は乏しい。労力をかけて情報を収集するのであれば、科学的情報を発信できる情報にしなければならない。厚労省に論文出版課などができれば科学的情報解析に目が向くだろうか?

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人工関節置換術後のVTE予防、アスピリンvs.エノキサパリン/JAMA

 股関節または膝関節の変形性関節症で人工関節置換術を受けた患者における静脈血栓塞栓症(VTE)の予防では、アスピリンはエノキサパリンと比較して、90日以内の症候性VTEの発現率が統計学的に有意に高く、死亡や大出血、再入院、再手術の頻度には差がないことが、オーストラリア・インガム応用医学研究所のVerinder S. Sidhu氏らが実施した「CRISTAL試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌2022年8月23日号に掲載された。オーストラリアのレジストリ内クラスター無作為化非劣性試験 CRISTAL試験は、人工股関節置換術(THA)および人工膝関節置換術(TKA)に伴うVTEの予防における、アスピリンのエノキサパリン(低分子量ヘパリン)に対する非劣性の検証を目的とするレジストリ内クラスター無作為化クロスオーバー試験であり、2019年4月~2020年12月の期間に、オーストラリアの31の病院で参加者の登録が行われた(オーストラリア連邦政府の助成を受けた)。 クラスターは、参加施設募集の前年に年間250件以上のTHAまたはTKAを行っている病院とされた。対象は、年齢18歳以上で、試験参加施設でTHAまたはTKAを受けた患者であった。術前に抗凝固薬の投与を受けた患者や、試験薬が禁忌の患者は除外された。 試験参加施設は、THA施行後は35日間、TKA施行後は14日間、アスピリン(100mg/日、経口投与)またはエノキサパリン(40mg/日、皮下投与)の投与を行う群に無作為に割り付けられた。また、試験参加施設は、無作為割り付けされた薬剤群で目標登録患者数が達成された時点で、試験薬をクロスオーバーするよう求められた。 主要アウトカムは、術後90日以内の症候性VTE(肺塞栓症[PE]、膝下または膝上の深部静脈血栓症[DVT])であり、非劣性マージンは1%とされた。副次アウトカムは、90日以内の死亡や大出血など6項目が設定された。解析は、クロスオーバー前の無作為化された薬剤群で行われた。 本試験は、2回目の中間解析(2020年12月)で停止規則が満たされたため、データ安全性監視委員会により患者の登録の中止が勧告され、早期中止となった。膝下DVTがアスピリン群で有意に多い 本試験の当初の目標登録患者数は1万5,562例(各群251例ずつ×31施設)で、9,711例(62%)(年齢中央値68歳、女性56.8%)が登録された時点で中止となった。このうち9,203例(95%)が試験を完遂した。アスピリン群に5,675例、エノキサパリン群に4,036例が割り付けられた。 術後90日以内に、256例で症候性VTEが発現し、PEが79例、膝上のDVTが18例、膝下のDVTは174例で認められた。 90日以内の症候性VTE発現率は、アスピリン群が3.45%(187/5,416例)、エノキサパリン群は1.82%(69/3,787例)であり(推定群間差:1.97%、95%信頼区間[CI]:0.54~3.41)、アスピリン群の非劣性基準は満たされず、エノキサパリン群で統計学的に有意な優越性が示された(p=0.007)。 主要アウトカムの構成要件のうち、90日以内のPE、PEとDVTの双方、膝上のDVTの発現には有意差はなかったが、全DVT(p=0.003)と膝下のDVT(p=0.004)がエノキサパリン群で有意に少なかった。 また、副次アウトカムである90日以内の死亡、大出血、再入院、再手術、6ヵ月以内の再手術、薬剤アドヒアランスには、両群間に有意な差は認められなかった。 著者は、「最近のVTE予防に関する国際的なコンセンサス会議のガイドラインでは、アスピリンの使用が強く推奨されているが、これは症候性VTEと無症候性VTEを区別していない後ろ向き観察研究を多く含むネットワークメタ解析に基づいている」と指摘し、「これらの結果の解釈では、両群間のVTE発生の差は主に膝下のDVTの差によるもので、膝下DVTは膝上DVTやPEに比べ臨床的な重要性が低いことから、今回の知見の臨床的重要性は明確ではない」としている。

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コロナvs.インフル、入院患者の血栓塞栓症リスク/JAMA

 米国・ペンシルベニア大学のVincent Lo Re III氏らによる、米国の公衆衛生サーベイランスシステムのデータを用いた後ろ向きコホート研究の結果、COVID-19入院患者はワクチンの導入前か実施期間中にかかわらず、2018/2019シーズンのインフルエンザ入院患者と比較し、入院後90日以内の動脈血栓塞栓症リスクに有意差はないものの静脈血栓塞栓症リスクが有意に高いことが示された。これまで、COVID-19患者における動脈血栓塞栓症および静脈血栓塞栓症の発生率は不明であった。JAMA誌2022年8月16日号掲載の報告。入院後90日以内の動脈/静脈血栓塞栓症の発症を比較 研究グループは、米国食品医薬品局センチネルシステムから4つの地域統合医療システムと2つの医療保険会社のデータを利用し、ワクチン導入前(2020年4月~11月)のCOVID-19入院患者4万1,443例、ワクチン実施期間中(2020年12月~2021年5月)のCOVID-19入院患者4万4,194例、ならびにCOVID-19の重複感染がない2018年10月~2019年4月のインフルエンザ入院患者8,269例(いずれも診断時に18歳以上)を抽出し、後ろ向きに解析した。 主要評価項目は、入院日から90日以内の動脈血栓塞栓症(急性心筋梗塞、虚血性脳卒中)または静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓症)の診断であった。追跡期間は、インフルエンザ患者は2019年7月まで、COVID-19患者は2021年8月までとした。 インフルエンザコホートとCOVID-19コホート間の差異に対応するため層別化した傾向スコアを作成し、重み付けCox回帰を用いて各COVID-19入院患者群のインフルエンザ入院患者群に対する血栓性イベントの補正後ハザード比(aHR)を算出し評価した。COVID-19入院患者で、静脈血栓塞栓症リスクが有意に高い 患者背景は、COVID-19患者群(計8万5,637例)が平均(±SD)年齢72±13.0歳、男性50.5%、インフルエンザ患者群がそれぞれ72±13.3歳、45.0%であった。 動脈血栓塞栓症の90日絶対リスクは、インフルエンザ患者群14.4%(95%信頼区間[CI]:13.6~15.2)に対し、ワクチン導入前COVID-19患者群15.8%(15.5~16.2)(群間リスク差:1.4%、95%CI:1.0~2.3)、ワクチン実施期間中COVID-19患者群16.3%(16.0~16.6)(群間リスク差:1.9%、95%CI:1.1~2.7)であった。インフルエンザ患者群と比較し、動脈血栓塞栓症リスクは、ワクチン導入前COVID-19患者群(aHR:1.04、95%CI:0.97~1.11)およびワクチン実施期間中COVID-19患者群(1.07、1.00~1.14)のいずれも、有意な上昇は認められなかった。 一方、静脈血栓塞栓症の90日絶対リスクは、インフルエンザ患者群5.3%(95%CI:4.9~5.8)に対し、ワクチン導入前COVID-19患者群9.5%(9.2~9.7)(群間リスク差:4.1%、95%CI:3.6~4.7)、ワクチン実施期間中COVID-19患者10.9%(10.6~11.1)(群間リスク差:5.5%、95%CI:5.0~6.1)であり、静脈血栓塞栓症リスクはインフルエンザ患者群と比較して、ワクチン導入前COVID-19患者群(aHR:1.60、95%CI:1.43~1.79)およびワクチン実施期間中COVID-19患者群(aHR:1.89、95%CI:1.68~2.12)のいずれも有意に高かった。

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トラネキサム酸、高用量で心臓手術関連の輸血を低減/JAMA

 人工心肺を用いた心臓手術を受けた患者では、トラネキサム酸の高用量投与は低用量と比較して、同種赤血球輸血を受けた患者の割合が統計学的に有意に少なく、安全性の主要複合エンドポイント(30日時の死亡、発作、腎機能障害、血栓イベント)の発生は非劣性であることが、中国国立医学科学院・北京協和医学院のJia Shi氏らが実施した「OPTIMAL試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌2022年7月26日号に掲載された。中国4施設の無作為化試験 OPTIMAL試験は、人工心肺を用いた心臓手術を受けた患者ではトラネキサム酸の高用量は低用量に比べ、有効性が高く安全性は非劣性との仮説の検証を目的とする二重盲検無作為化試験であり、2018年12月~2021年4月の期間に、中国の4施設で参加者の登録が行われた(中国国家重点研究開発計画の助成による)。 対象は、年齢18~70歳、人工心肺を用いた待機的心臓手術を受ける予定で、本試験への参加についてインフォームド・コンセントを受ける意思と能力を持つ患者であった。患者はいつでも試験参加への同意を撤回できるとされた。 被験者は、高用量トラネキサム酸または低用量トラネキサム酸の投与を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。高用量群では、麻酔導入後、トラネキサム酸30mg/kgがボーラス静注され、術中は維持量16mg/kg/時がポンプ充填量2mg/kgで投与された。低用量群は、トラネキサム酸10mg/kgがボーラス静注され、術中は維持量2mg/kg/時がポンプ充填量1mg/kgで投与された。 有効性の主要エンドポイントは、手術開始後に同種赤血球輸血を受けた患者の割合(優越性仮説)とされ、安全性の主要エンドポイントは、術後30日の時点での全死因死亡、臨床的発作(全般強直間代発作、焦点発作)、腎機能障害(KDIGO基準のステージ2または3)、血栓イベント(心筋梗塞、虚血性脳卒中、深部静脈血栓症、肺塞栓症)の複合であった(非劣性仮説、非劣性マージン5%)。副次エンドポイントには、安全性の主要エンドポイントの各構成要素など15項目が含まれた。輸血:21.8% vs.26.0%、安全性:17.6% vs.16.8% 3,079例(平均年齢52.8歳、女性38.1%)が無作為化の対象となり、このうち3,031例(98.4%)が試験を完了した。高用量群に1,525例、低用量群に1,506例が割り付けられた。追跡期間中に48例(高用量群23例、低用量群25例)が脱落し、安全性の主要複合エンドポイントの評価から除外された。 手術開始から退院までに、少なくとも1回の同種赤血球輸血を受けた患者は、高用量群が1,525例中333例(21.8%)であり、低用量群の1,506例中391例(26.0%)に比べ、有意に割合が低かった(群間リスク差[RD]:-4.1%、片側97.55%信頼区間[CI]:-∞~-1.1、リスク比:0.84、片側97.55%CI:-∞~0.96、p=0.004)。 また、安全性の主要複合エンドポイントが発現した患者は、高用量群が265例(17.6%)、低用量群は249例(16.8%)と、高用量群の低用量群に対する非劣性が確認された(群間RD:0.8%、片側97.55%CI:-∞~3.9、非劣性検定のp=0.003)。 同種赤血球輸血量中央値は、高用量群が0.0mL(四分位範囲[IQR]:0.0~0.0)、低用量群は0.0mL(0.0~300.0)と、高用量群で有意に少なかった(群間差中央値:0.0mL、95%CI:0.0~0.0mL、p=0.01)。一方、新鮮凍結血漿や血小板、クリオプレシピテートの輸注量には両群間に差はなかった。 術後の胸部ドレナージによる総排液量、出血による再手術、人工呼吸器の使用期間、集中治療室(ICU)入室期間、術後入院期間にも、両群間で差は認められなかった。また、心筋梗塞の30日リスクや、腎機能障害、虚血性脳卒中、肺塞栓症、深部静脈血栓症、死亡の発生率にも有意な差はみられなかった。 発作は、高用量群が15例(1.0%)、低用量群は6例(0.4%)で発現したが、トラネキサム酸の用量が増加しても発作が有意に多くなることはなかった(群間RD:0.6%、95%CI:-0.0~1.2、相対リスク:2.47、95%CI:0.96~6.35、p=0.05)。 著者は、「トラネキサム酸の高用量と低用量のどちらを用いるかは、開心心臓手術と非開心心臓手術における手術関連の出血リスクによって決まる可能性がある」としている。

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CPB心臓手術、4%アルブミン溶液投与の効果は?/JAMA

 心肺バイパス術(CPB)による心臓手術を受ける患者において、心肺バイパス用プライミング液と術中・術後の静脈内充填液として、4%アルブミン溶液の投与は酢酸リンゲル液投与と比べ、術後90日の主要有害イベントリスクを有意に低下しなかった。フィンランド・ヘルシンキ大学のEero Pesonen氏らが、1,407例を対象に行った二重盲検無作為化試験の結果を報告した。心臓手術において、アルブミン溶液はクリスタロイドよりも血行動態を維持し、血小板数と体液過剰を抑制する可能性が示唆されていたが、手術に伴う合併症軽減に有効なのか、これまで無作為化試験は行われていなかった。著者は結果を踏まえて「CPB心臓手術を受ける患者における4%アルブミン溶液の使用を支持する所見は得られなかった」とまとめている。JAMA誌2022年7月19日号掲載の報告。死亡、心筋傷害、急性心不全などの主要有害イベント発生率を比較 研究グループは2017~20年にかけて、ヘルシンキ大学病院単施設で試験を行った。on-pump冠状動脈バイパス術(CABG)、大動脈弁・僧帽弁・三尖弁術、低体温循環停止を伴わない上行大動脈術、および/またはメイズ手術のいずれかを実施した患者を対象とし、術後90日追跡した(最終フォローアップは2020年4月13日)。 被験者を1対1の割合で無作為に2群に分け、心肺バイパス用プライミング液と術中・術後24時間までの静脈内充填液として、一方の群には4%アルブミン溶液を、もう一方の群には酢酸リンゲル液を投与した(各群ともに693例)。 主要アウトカムは、主要有害イベント(死亡、心筋傷害、急性心不全、再開胸、脳卒中、不整脈、出血、感染症、急性腎障害)の1つ以上の発生とした。有害イベント発生率、アルブミン群37%、リンゲル群34% 無作為化された1,407例のうち、1,386例が試験を完了した(男性1,091例[79%]、女性295例[21%])。アルブミン群の同溶液投与量中央値は2,150mL(四分位範囲[IQR]:1,598~2,700)で、リンゲル群の同投与量中央値は3,298mL(2,669~3,500)だった。 1つ以上の主要有害イベントの発生は、アルブミン群257/693例(37.1%)、リンゲル群234/693例(33.8%)だった。リンゲル群に対するアルブミン群の相対リスクは、1.10(95%信頼区間[CI]:0.95~1.27、p=0.20)、絶対群間差は3.3ポイント(95%CI:-1.7~8.4)だった。 最も多く発生した重篤な有害イベントは、肺塞栓症(アルブミン群11例[1.6%]、リンゲル群8例[1.2%])、心膜切開術後症候群(両群ともに9例[1.3%])、ICU入室または再入院を伴う胸膜滲出液(7例[1.0%]、9例[1.3%])だった。

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肩関節鏡視、術後90日以内の有害事象は1.2%/BMJ

 肩関節鏡視下手術は、英国で一般的に行われるようになっているが、有害事象のデータはほとんどないという。同国オックスフォード大学のJonathan L. Rees氏らは、待機的な肩関節鏡視下手術に伴う有害事象について調査し、90日以内の重篤な有害事象のリスクは低いものの、再手術(1年以内に26例に1例の割合)などの重篤な合併症のリスクがあることを示した。研究の詳細は、BMJ誌2022年7月6日号に掲載された。英国の約29万件の手術のコホート研究 研究グループは、待機的な肩関節鏡視下手術における重篤な有害事象の正確なリスクを推定し、医師および患者に情報を提供する目的で、地域住民ベースのコホート研究を行った(英国国立健康研究所[NIHR]オックスフォード生物医学研究センター[BRC]の助成による)。 解析には、英国国家統計局の市民登録死亡データを含むイングランド国民保健サービス(NHS)の病院エピソード統計(Hospital Episode Statistics)のデータが用いられた。 対象は、2009年4月1日~2017年3月31日の期間に、16歳以上の26万1,248例に施行された28万8,250件の肩関節鏡視下手術(肩峰下除圧術、腱板修復術、肩鎖関節切除術、肩関節安定化術、凍結肩関節授動術)であった。 主要アウトカムは、術後90日以内の入院治療を要する重篤な有害事象(死亡、肺塞栓症、肺炎、心筋梗塞、急性腎障害、脳卒中、尿路感染症)の割合とされた。深部感染症は腱板修復術で高い 全体の年齢中央値は55歳(IQR:46~64)で、手技別の年齢中央値は、肩関節安定化術の27歳(IQR:22~35)から腱板修復術の61歳(53~68)までの幅が認められた。47.8%が女性であった。試験期間を通じて、肩峰下除圧術の件数は減少したが、これを除く肩関節鏡視下手術の件数は増加していた。 肩関節鏡視下手術後90日以内の有害事象(再手術を含む)の発生率は、1.2%(95%信頼区間[CI]:1.2~1.3)と低く、81例に1例の割合であり、肩関節安定化術の0.6%(95%CI:0.5~0.8)から凍結肩関節授動術の1.7%(1.5~1.8)までの幅が認められた。年齢、併存症、性別で調整すると、手技の種類による影響はみられなくなった。 最も頻度の高い有害事象は肺炎(発生率:0.3%、95%CI:0.3~0.4)で、303例に1例の割合であった。一方、最もまれな有害事象は肺塞栓症(0.1%、0.1~0.1)で、1,428例に1例の割合だった。 1年以内に再手術を要した患者は3.8%(95%CI:3.8~3.9)と比較的高く、26例に1例の割合であり、肩関節安定化術の2.7%(95%CI:2.5~3.0)から凍結肩関節授動術の5.7%(5.4~6.1)までの幅がみられた。 深部感染症に対する追加手術は全体で0.1%(95%CI:0.1~0.1)と低く、1,111例に1例の割合であったが、腱板修復術に伴う深部感染症の発生率は0.2%(0.2~0.2)と高く、526例に1例の割合だった。 著者は、「膝関節鏡視下手術に比べて90日以内の肺炎の発生率が高かった理由は不明であり、今後、その原因の解明と予防法の確立が求められる。また、今後の研究では、腱板修復術に伴う感染症の増加に関連する因子の検討も行うべきであろう」としている。

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オンデキサの臨床的意義とDOAC投与中の患者に伝えておくべきこと/AZ

 アストラゼネカは国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤オンデキサ静注用200mg(一般名:アンデキサネット アルファ[遺伝子組み換え]、以下:オンデキサ)を発売したことをうけ、2022年6月28日にメディアセミナーを開催した。 セミナーでは、はじめに緒方 史子氏(アストラゼネカ 執行役員 循環器・腎・代謝/消化器 事業本部長)により同部門の新領域拡大と今後の展望について語られた。 AstraZeneca(英国)とアレクシオン・ファーマシューティカルズが統合したことで、今後多くのシナジーが期待されるが、今回発売されたオンデキサはその象徴的なものであると考えている。同部門では、あらゆる診療科に情報提供を行っているため、オンデキサの処方が想定される診療科だけでなく、直接作用型第Xa因子阻害剤を処方している診療科にも幅広く情報提供が可能である。オンデキサが必要な患者さんに届けられるよう、認知拡大や医療機関での採用活動に注力していきたいと述べた。DOACを投与しても出血リスクは残存する 続いて、国立病院機構 九州医療センター 脳血管・神経内科 臨床研究センター 臨床研究推進部長 矢坂 正弘氏による国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤における臨床的意義と今後の展望が語られた。 心房細動などにより心臓内でできた血栓が脳に詰まることで生じる脳卒中を心原性脳塞栓症という。心原性脳塞栓症は再発率が高いことから、発症リスクの高いCHADS2スコア1点以上の患者では、直接経口抗凝固薬(DOAC)の投与による予防治療が推奨されている1)。DOACは従来の抗凝固薬であるワルファリンに比べ脳梗塞予防効果は同等かそれ以上、大出血発症リスクは同等かそれ以下とされるが、時には生命を脅かす出血あるいは止血困難な出血に至ることもあるため、投与中は出血時の止血対応が重要となる。出血時の対応として中和剤が使用されるが、これまでDOACのうち中和剤があるのはダビガトランのみで、直接作用型第Xa因子に対する中和剤はなかった。今回発売されたオンデキサは、国内初の直接作用型第Xa因子阻害剤中和剤である。オンデキサの有効性と安全性 オンデキサはヒト第Xa因子の遺伝子組換え改変デコイタンパク質で第Xa因子のデコイとして作用し、第Xa因子阻害剤に結合してこれらの抗凝固作用を中和する作用をもつ。 第Xa因子阻害剤(アピキサバン、リバーロキサバン、エドキサバン、エノキサパリン)投与中の第Xa因子活性抑制下で急性大出血を発現した患者を対象にした試験では、評価可能であった有効性解析集団のうちエノキサパリン投与例を除く全体集団324例において79.6%(95%信頼区間[CI]:74.8~83.9%)の患者で有効な止血効果が得られた。正確な95%CIの下限値が50%を上回ったため、オンデキサによる止血効果が認められた2)。副作用の発現割合は11.9%(57/477例)であり、主な副作用は虚血性脳卒中1.5%(7例)、頭痛1.0%(5例)、脳血管発作、心筋梗塞、発熱、肺塞栓症が各0.8%(各4例)であった2)。DOAC投与中の患者に伝えておくべきこと 止血を適切に行うためには、患者さんが服薬中のDOACを特定しそれに対する中和剤を投与することが重要である。そのため、医療機関と調剤薬局が協力して、DOAC服薬の患者さんに対して、最新のお薬手帳や抗凝固薬のカードを持ち歩いてもらうことや、自身の病名や服薬中の薬剤を家族と共有してもらうことの重要性を伝えていく必要がある、と締めくくった。

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コロナの血栓塞栓症予防および抗凝固療法の診療指針Ver.4.0発刊/日本静脈学会

 6月13日に日本静脈学会は『新型コロナウイルス感染症(COVID-19)における血栓症予防および抗凝固療法の診療指針 Ver.4.0』を発刊した。今回の改訂点は、コロナに罹患した際の国内での血栓症の合併頻度や予防的抗凝固療法の実態を調査したCLOT-COVID研究のエビデンスが追加されたこと。また、今回より日本循環器学会が参加している。 本指針は、日本静脈学会、肺塞栓症研究会、日本血管外科学会、日本脈管学会の4学会合同で、出血リスクの高い日本人を考慮し、中等症II、重症例に限って選択的に保険適用のある低用量未分画ヘパリンを推奨するために、昨年1月にVer.1.0が発表された。

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第116回 男性の500人に1人が性染色体過剰で、より病気がち

英国の50万人ほどの匿名化情報を集めている医学データベースUK Biobankの参加男性およそ21万人を調べたところ356人がそうとはほとんどが知らずに性染色体(X染色体かY染色体)を余分に有しており、不妊などの生殖不調、2型糖尿病、動脈硬化や血栓症などをより被っていました1,2)。UK Biobankの男性が一般に比べてより高学歴で健康的というバイアスを考慮すると世間の男性では約500人に1人がXかY染色体を余分に有するようです。X染色体が1つ多い病態はクラインフェルター症候群として知られ、UK Biobankの性染色体過剰男性365人のうち213人がそうであり、残り143人はY染色体が1つ過剰でした。それらの性染色体異常が発見に至っていたのはわずかで、X染色体過剰(XXY)の診断率は4人に1人に満たない23%、Y染色体過剰(XYY)の診断率はたった1%未満(0.7%)でした。カルテ情報で行く末を調べたところXXYの男性は生殖困難をより生じており、性的成熟(思春期)の遅れが3倍、子供ができないことが4倍多く認められました。また、男性ホルモン・テストステロン血中濃度が低いことも示されました。対照的にXYY男性の生殖機能はどうやら正常です。ただしXYYの男性もXXYの男性と同様に病気がちであり、XYYかXXYだと静脈血栓症が約6倍、慢性閉塞性肺疾患(COPD)が約4倍、2型糖尿病・肺塞栓症(PE)・動脈硬化がいずれも約3倍多く生じていました。性染色体過剰の害は他の国でも調べられており、たとえばデンマークのXXY男性832人を検討したところ今回の試験と同様に静脈血栓症、PE、COPD、2型糖尿病、動脈硬化をより生じていました3)。英国での先立つ研究ではXXY男性の糖尿病、PE、慢性下気道疾患での死亡率がより高いことが確認されています4)。性染色体過剰でそれらの病気が生じやすくなる仕組みはよくわかっていません。また、過剰な性染色体がXであれYであれ生じやすくなる病気がなぜ似通うのかも不明です。代謝、血管、呼吸器のそれらの病気は仕組みがどうあれ性染色体過剰の診断を足がかりにして予防できる可能性があります。しかし相当数の男性が性染色体過剰であるにもかかわらず残念ながらそうと気付けることは今回の研究が示しているとおり稀です2)。男性のX染色体過剰は思春期の遅れや不妊でたまに判明しますが、ほとんどは無自覚なままです。Y染色体過剰の男性は身長がより高くなる傾向があるだけで他にこれといった身体的特徴はありません。見た目では発見しにくい染色体異常を検診で早くに検出すれば病気を未然に防ぐ手立てを講じうるようになるかもしれず、そういった可能性も含め、世間の男性の染色体異常をより手広く検出することにどれほどの価値があるかをこれから調べる必要があります。当然ながら女性にも性染色体異常はあり、X染色体が余分なトリプルX症候群は女性の1,000人に1人に認められ、言語発達の遅れや知能指数(IQ)が低い等の困難と関連しうることが示されています5)。参考1)Zhao Y,et al.Genet Med. 2022 Jun 9;S1098-3600. 00777-8. [Epub ahead of print]2)One in 500 men carry extra sex chromosome, putting them at higher risk of several common diseases / Eurekalert3)Bojesen A, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2006 Apr;91:1254-60. 4)Swerdlow AJ, et al.J Clin Endocrinol Metab. 2005; 90: 6516-6522.5)Otter M, et al. Eur J Hum Genet. 2010 Mar;18:265-71.

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