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インフルエンザでも後遺症が起こり得る

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の罹患後症状、いわゆるlong COVIDでは、さまざまな症状が、数週間や数カ月間、時には何年もの間、続く可能性があることは広く知られている。こうした中、季節性インフルエンザ(以下、インフルエンザ)でも長期間にわたって症状が持続する「long Flu(ロング・フルー)」が起こり得ることが、米セントルイス・ワシントン大学の臨床疫学者Ziyad Al-Aly氏らが実施した研究で示された。詳細は、「Lancet Infectious Diseases」に12月14日掲載された。 Al-Aly氏らは今回、米国退役軍人省のデータを用いて、2020年3月1日から2022年6月30日の間にCOVID-19により入院した8万1,280人と、2015年10月1日から2019年2月28日の間にインフルエンザにより入院した1万985人のデータを解析。18カ月間の追跡期間中に生じた、体の主要な臓器系に影響を与える94種類の有害な健康アウトカムを両群間で比較した。 解析の結果、全体としてCOVID-19による入院患者ではインフルエンザによる入院患者と比べて、追跡期間中の死亡リスクが51%高く、死亡者は患者100人当たり8.62人多いことが示された。また、COVID-19による入院患者では、インフルエンザによる入院患者と比べて退院後に再入院するリスクが11%、集中治療室(ICU)入室のリスクが27%高く、再入院となる患者は100人当たり20.50人、ICU入室となる患者は100人当たり9.23人多いことが示された。さらに、COVID-19による入院患者では、94種類の健康アウトカムのうちの64種類(68.1%)でリスクの上昇が示され、COVID-19はより多くの臓器系にリスクをもたらすことも判明した。一方、インフルエンザによる入院患者でリスク上昇が認められたのは94種類中6種類(6.4%)のみで、その多くは呼吸器系のアウトカムだった。 Al-Aly氏は「この研究で得られた最も重要な知見は、COVID-19とインフルエンザはいずれも長期にわたる健康問題につながるということだ。また、長期的な健康の損失の大きさが感染の初期段階の問題を上回るというのは、大きな気付きだった」と説明している。 Al-Aly氏はまた、「明らかな例外は、インフルエンザはCOVID-19よりも、呼吸器系により大きなリスクをもたらすという点だった。これは、過去100年にわたる通説通り、インフルエンザは呼吸器系ウイルスそのものであることを示している。一方で新型コロナウイルスは呼吸器系だけでなく、さまざまな臓器系にも影響を与え、心臓や脳、腎臓などの臓器に関連した致死的あるいは重篤な症状を引き起こす可能性がある。こうした面からCOVID-19はインフルエンザよりも手ごわく、広範囲に影響を与える感染症であると考えられる」と付け加えている。 なお、Al-Aly氏は、「5年前であればlong Fluが存在する可能性について調べようとは思わなかった。われわれがCOVID-19から得た大きな教訓の一つが、当初は短期間の症状しかもたらさないと考えられていた感染症が、慢性疾患を引き起こすこともあるということだ」と話す。同氏によると、いずれの感染症においても、死亡や障害の半数以上が、感染後30日以内ではなく、感染から数カ月の間に発生していたという。これは、いずれの感染症も短期的な健康上の問題にはとどまらないことを示していると同氏は指摘する。その上で、「COVID-19やインフルエンザを急性疾患として捉えると、これらの疾患が健康に及ぼす長期的な影響を見逃してしまう。われわれは、これらの疾患では罹患後に後遺症が生じ得るという現実を直視し、ウイルス感染症を軽視せず、これらが慢性疾患の大きな要因であることを認識する必要がある」と強調している。

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第196回 コロナ後遺症の原因と思しきミトコンドリア異常を同定

コロナ後遺症の原因と思しきミトコンドリア異常を同定新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(long COVID)の1つである疲労の根本原因と思しきミトコンドリア機能低下が被験者46例の試験で示唆されました1)。試験にはlong COVID患者25例と新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染したものの完全に回復した21例(回復例)が参加しました。心身を急に働かせた後の疲労や痛みの悪化はlong COVIDを特徴づける症状の1つである労作後倦怠感(post-exertional malaise:PEM)と関連します。試験ではPEMを誘発する15分間の自転車こぎ運動を被験者にあえて課しました。long COVID患者は自転車こぎの後に症状の悪化を呈し、筋肉組織を調べたところミトコンドリア異常が認められました。long COVID患者のミトコンドリアは回復例に比べて働きが悪く、エネルギー生成が劣りました。一方、long COVID患者の心臓や肺の機能に異常はなく、それらの異常によって長患いが生じているわけではなさそうです。また、SARS-CoV-2が居続けることがlong COVIDの原因の1つと想定されていますが、今回の研究で調べた筋肉組織にSARS-CoV-2のはびこりは見られませんでした。SARS-CoV-2に特有のヌクレオカプシドタンパク質の筋肉組織での検出はlong COVID患者と回復例で似たり寄ったりで、SARS-CoV-2残存もlong COVIDのPEMの発現や運動能力の原因ではなさそうです。ということはSARS-CoV-2残存以外の何かがlong COVID患者のミトコンドリア異常に寄与しているようであり、そのような異常をもたらす分子経路を今後調べる必要があります。long COVID患者のミトコンドリア異常はほかの研究でも示されています。昨年9月に報告されたlong COVID患者11例の検討結果では今回の報告と同様にミトコンドリア機能の指標の低下が認められました2)。また、ミトコンドリアの量や新生の指標の低下も観察されています。今回の試験の被験者は少なく、別の集団でも同じ結果になるかどうかを調べる必要があります。とはいえlong COVID患者の疲労はれっきとした生理的要因に基づくことはどうやら確からしく、生理作用に基づく適切な治療の研究がいまや可能になったと今回の研究の著者は言っています3)。long COVID患者の運動は許容範囲に抑えるべき自転車こぎ運動をしたlong COVID被験者が疲労の悪化や認知症状などのPEM症状を被ったことが示すように、long COVID患者の運動は有益とは限りません。ウォーキングなどで体調を維持することは好ましいですが、運動のしすぎで病状の悪化を招いては元も子もありません。そうならないように患者は許容範囲の運動量を各自あらかじめ設定し、病状を悪化させない程度の軽い運動を心がけるとよいようです3)。参考1)Appelman B, et al. Nat Commun. 2024;15:17. [Epub ahead of print]2)Colosio M, et al. J Appl Physiol(1985). 2023;135:902-917. 3)Tiredness experienced by Long-COVID patients has a physical cause / Eurekalert

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咳の種類、危険な咳とは

患者さん、それは…危険な咳(せき) かもしれません!咳(せき)は、気道内に異物が混入するのを防ぎ、逆に気道内から異物を排除するための身体防御機構です。継続期間によって急性(3週間未満)、遷延性(3~8週間)、慢性(8週間超)と分類されます。また、痰(たん)を伴う咳を湿性[⇔乾性]と区分します。●こんな時に症状が出ませんか?□明け方・夜間 □運動時/後 □寒冷時□季節の変わり目●以下の症状はありませんか?□ヒューヒュー音 □のどの奥に鼻水が垂れる□声がかすれる□横になった時□口臭がある◆病気が潜んでいるかもしれない咳とは!?• 高熱や息苦しさ、胸痛があれば、すぐに医療機関へ受診しましょう• 遷延性(3~8週間)の咳の原因はウイルスやマイコプラズマなどによる気道感染です• 2ヵ月以上続く慢性咳は軽い喘息であることが多いです出典:日本気管食道科学会、外来を愉しむ攻める問診監修:福島県立医科大学 会津医療センター 総合内科 山中 克郎氏Copyright © 2022 CareNet,Inc. All rights reserved.

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子宮頸部異形成、摘出と監視のどちらを選ぶべき?

 子宮頸がんの細胞診で異常が見つかった場合、すぐに病変部を摘出した方が良いかもしれない。子宮頸部異形成(cervical intraepithelial neoplasia;CIN、子宮頸部上皮内腫瘍ともいう)の中等度異形成(CIN2)の診断を受けたデンマークの女性2万7,500人以上を対象とした研究で、すぐに治療を開始するのではなく経過を見守る積極的監視療法(以下、監視療法)を受けた女性では、疑わしい病変部をすぐに切除した女性に比べて子宮頸がん発症の長期リスクが高いことが明らかになった。オーフス大学(デンマーク)臨床医学部のAnne Hammer氏らによるこの研究の詳細は、「The BMJ」に11月29日掲載された。研究グループは、「この研究結果は、CIN2の管理に関する将来のガイドラインや、CIN2と診断された女性の臨床カウンセリングにとって重要だ」と述べている。 Hammer氏らによると、現状では、CIN2にどのように対処すべきかについて一致した見解が得られていない。その理由は、病変が前駆症状となって子宮頸がんに進行する例もあれば、2年以内に無害な状態に「退縮」する例も半数程度を占めるため、見つかった全てのCIN2病変部を切除するのは過剰治療となる懸念があるからだ。また、病変部の切除と早産リスク上昇との関連も指摘されている。そのため、多くの国では、CIN2と診断された若い女性に対する治療選択肢として、監視療法を取り入れているという。 この研究では、1998年から2020年の間にCIN2の診断を受けた18〜40歳の女性2万7,524人を対象に、子宮頸がん発症の長期リスクが、監視療法とlarge loop excision of the transformation zone(LLETZ)による治療との間で比較された。LLETZは病変部をループ型の高周波電気メスで切除する処置で、loop electrosurgical excision procedure(LEEP)とも呼ばれる。対象者のうち、1万2,483人(45%)は監視療法を受け、1万5,041人(55%)は異常の発見後すぐにLEEPを受けていた。対象女性は、CIN2の診断から、子宮頸がんの診断を受ける、子宮摘出術を受ける、移住する、死亡する、2020年12月31日を迎える、のいずれかが最初に発生するまで追跡された。 追跡期間中に、104人〔監視療法群56人(54%)、LLETZ群48人(46%)〕が子宮頸がんの診断を受けた。子宮頸がん発症の累積リスクは、診断後2年の間では両群間で同等であったが(監視療法群0.56%、LLETZ群0.37%)、2年を超えると監視療法群でリスクが上昇し、診断後20年の時点では2.65%に達した。これに対してLLETZ群では、診断後20年の時点でも0.76%と大きな変化は認められなかった。 こうした結果について研究グループは、「CIN2の病変部をすぐに切除した女性では、ほとんどの子宮頸がんの原因ウイルスであるヒトパピローマウイルス(HPV)の活性が抑制されるが、病変部を温存したままの場合では、HPVが時間の経過とともに再活性化し、がんを誘発する可能性がある」と推察している。 また、研究グループは、どのような治療を受けようとも子宮頸がんを発症する絶対リスクは非常に低いことを強調し、「この研究で得られた知見は、年齢と生殖願望に基づいてCIN2の治療方針を決定すべきことを示唆するものだ」と結論付けている。 研究グループは、「われわれは現在、妊娠を計画している女性にとって、2年間の監視療法はがんの発症リスクという点では安全だと考えている。しかし、計画した妊娠を終えた後には、子宮頸がんの長期リスクについて医師と議論する必要があるだろう」と話している。

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出勤とテレワークの反復による時差ぼけで心理的ストレス反応が強まる可能性

 出勤日とテレワークの日が混在することによって生じる時差ぼけによって、心理的ストレス反応が強くなる可能性を示唆するデータが報告された。久留米大学の松本悠貴氏らをはじめとする産業医で構成された研究チームによるもので、詳細は「Clocks & Sleep」に10月16日掲載された。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックとともに、新たな働き方としてテレワークが急速に普及した。テレワークによって、仕事と私生活の区別がつきにくくなることや孤独感を抱きやすくなることなどのため、以前の働き方にはなかったストレスが生じることが報告されている。また、テレワークの日と出勤日が混在している場合には睡眠時間が不規則になり、「ソーシャルジェットラグ(社会的時差ぼけ)」が発生しやすくなるとの指摘もある。 社会的時差ぼけとは、平日と休日の睡眠時間帯が異なることによって、週明けになるとあたかも海外から帰国した直後のような身体的・精神的不調が現れること。松本氏らは、テレワークと出勤の繰り返しによって生じる社会的時差ぼけを、「テレワークジェットラグ(テレワーク時差ぼけ)」と命名。社会的時差ぼけと同様にテレワーク時差ぼけも不調を来す可能性を想定し、オンラインアンケートによる検討を行った。 2021年10~12月に、東京都内にある企業4社の従業員2,971人(日勤者のみ)にアンケートへの協力を依頼。2,032人から回答を得て、過去1カ月以内にテレワークをしていない人や休職をしていた人などを除外して、1,789人(平均年齢43.2±11.3歳、男性68.8%)を解析対象とした(有効回答率60.2%)。出勤日とテレワークの日の就寝時刻と起床時刻の中央の時刻(睡眠中央値)の差が1時間以上ある場合を「テレワーク時差ぼけ」と定義。232人(13.0%)がこれに該当した。 心理的ストレス反応の評価には、「ケスラー6(K6)」という指標を用いた。K6は6項目の質問に対して0~4点で回答し、合計24点満点のスコアで評価する。本研究ではK6スコアが10点以上を「心理的ストレス反応が強い」と定義したところ、265人(14.8%)が該当した。 睡眠の時間帯に着目すると、テレワーク時差ぼけでない群の起床時刻は出勤日、テレワーク日ともに6時30分で、就床時刻は出勤日が0時30分、テレワーク日が23時30分だった。一方のテレワーク時差ぼけ群は、就床時刻はどちらも0時30分で変わらないものの、起床時刻は出勤日が6時30分であるのに対してテレワーク日は8時30分と2時間遅く起床していた。 心理的ストレス反応が強いと判定された人の割合は、テレワーク時差ぼけでない群は13.7%、テレワーク時差ぼけ群では22.0%であり、有意差が認められた(P<0.001)。 次に、結果に影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、テレワークの頻度や場所・期間、同居者の有無、職業、雇用形態、労働時間、仕事の裁量や他者からのサポート状況、通勤時間、飲酒・喫煙・運動習慣、カフェイン摂取量、睡眠時間、不眠症状(アテネ不眠尺度で評価)、仕事以外での電子端末等の使用など〕の影響を調整した上で比較。その結果、テレワーク時差ぼけと心理的ストレス反応の間には有意な関連性が示された〔オッズ比1.80(95%信頼区間1.16~2.79)〕。 著者らは本研究が横断研究であること、および交絡因子として収入や服薬状況が把握されていないことなどを限界点として挙げた上で、「出勤とテレワークが混在する『テレワーク時差ぼけ』が、心理的ストレス反応を増大させている可能性が示された」と結論付け、「労働者の健康を守りながらテレワークという新しい働き方を持続可能なものとするためにも、このトピックに関する縦断研究によって因果関係を確認することが望まれる」と述べている。 なお、時差ぼけによる不調には睡眠時間の長短自体が影響を及ぼしている可能性が考えられるが、本研究では上述のように交絡因子として睡眠時間を調整後にも有意なオッズ比上昇が観察された。この点について論文には、「テレワークの日の起床時刻が出勤日よりも遅くなることによって、起床直後に太陽光に当たる時間が遅くなり、メラトニンなどのホルモン分泌パターンが変動する。そのような変化も、テレワーク時差ぼけによってメンタルヘルス不調が生じる一因ではないか」との考察が加えられている。

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ドキシサイクリンPEP、シスジェンダー女性では予防効果なし/NEJM

 シスジェンダー女性において、ドキシサイクリンの曝露後予防(PEP)は標準治療と比較し性感染症(STI)の発生率を有意に低下しなかった。また、毛髪試料の分析の結果、ドキシサイクリンPEPの服用率は低かったという。米国・ミネソタ大学のJenell Stewart氏らdPEP Kenya Study Teamが無作為化非盲検試験の結果を報告した。ドキシサイクリンPEPは、シスジェンダー男性およびトランスジェンダー女性のSTIを予防することが示されているが、シスジェンダー女性を対象とした試験のデータは不足していた。著者は、「生物医学的な予防効果を得るためには、予防薬服用アドヒアランスに対する理解を深めてもらうこと、および支援を行う必要がある」とまとめている。NEJM誌2023年12月21日号掲載の報告。ケニア人女性449例をドキシサイクリンPEP群と標準治療群に無作為化し1年追跡 研究グループは2020年2月5日~2022年10月30日に、ケニアにおいてヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染に対する曝露前予防投与を受けている18~30歳のケニア人女性449例を、ドキシサイクリンPEP群(224例)または標準治療群(225例)に1対1の割合で無作為に割り付け、1年間追跡した。 ドキシサイクリンPEP群では、コンドームを使用しない性交渉後72時間以内にドキシサイクリン塩酸塩200mgを服用することとし、3ヵ月ごとにSTI検査を受けてもらった。標準治療群では、3ヵ月ごとのSTI検査と治療のみとした。 主要エンドポイントは、クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)、梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)のいずれかの感染症発生とした。また、ドキシサイクリン使用の客観的評価のため、ドキシサイクリンPEP群では3ヵ月ごとに参加者の22%を無作為に抽出し毛髪を採取した。STI発生頻度に有意差なし、総じてドキシサイクリン服用率が低い 全体で計109件のSTIが発生した。内訳はドキシサイクリンPEP群50件(100人年当たり25.1件)、標準治療群59件(100人年当たり29.0件)であり、発生頻度に有意差は認められなかった(相対リスク:0.88、95%信頼区間[CI]:0.60~1.29、p=0.51)。 また、109件のうちクラミジア感染が85件(78.0%)を占め、内訳はドキシサイクリンPEP群35件、標準治療群50件(相対リスク0.73、95%CI:0.47~1.13)であった。そのほか、109件のうち淋菌感染31件、梅毒トレポネーマ感染1件、クラミジアと淋菌の重複感染が8件であった。 ドキシサイクリンに関連する重篤な有害事象ならびにHIV感染症の発生は認められなかった。 ドキシサイクリンPEP群で無作為に抽出された50例から得られた毛髪計200検体のうち、ドキシサイクリンが検出されたのは58検体(29.0%)であった。また、淋菌陽性者から分離された淋菌株は、すべてドキシサイクリンに対して耐性があった。

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ウイルス薬が1型糖尿病患児のインスリン分泌能低下を抑制する可能性

 1型糖尿病を発症してからあまり時間が経過しておらず、インスリン分泌がまだ残存している小児に対して抗ウイルス薬を投与すると、インスリンを産生する膵臓のβ細胞の保護につながる可能性のあることが報告された。オスロ大学病院(ノルウェー)のIda Maria Mynarek氏らの研究によるもので、第59回欧州糖尿病学会(EASD2023、10月2~6日、ドイツ・ハンブルク)で発表されるとともに、「Nature Medicine」に10月4日掲載された。 1型糖尿病は、インスリンを産生する膵臓のβ細胞が破壊されてインスリンを分泌できなくなり、インスリン療法の絶対的適応となる病気。ウイルス感染を契機に異常な自己免疫反応が生じて、β細胞が破壊されることが発症の一因と考えられている。例えば、エンテロウイルスというウイルスの感染と1型糖尿病発症の関連などが報告されている。Mynarek氏らは、エンテロウイルス感染症の治療薬として開発されている抗ウイルス薬(pleconaril)と、ウイルス性肝炎の治療などに実用化されているリバビリンとの併用により、診断後間もない1型糖尿病患児のβ細胞機能を保護できるか否かを検討した。 研究参加者は、1型糖尿病と診断されてから3週間以内の患児96人。主な特徴は、年齢は範囲6~15歳で平均11.1±2.4歳、女子が41.7%、診断時のHbA1cが11.8±4.3%で、エンテロウイルスの感染が確認された患児はいなかった。無作為に抗ウイルス薬群47人とプラセボ群49人に分け、診断から17.8±3.2日後から6カ月間にわたって投与を継続した。ベースライン時点において、年齢や性別の分布、BMI、診断時HbA1c、1型糖尿病リスクに関連のある自己抗体の保有率、診断から投与開始までの期間などに有意差はなかった。 主要評価項目として設定していた12カ月経過時点における食事負荷2時間以内のC-ペプチド(インスリン分泌能の指標)上昇曲線下面積(AUC)は、プラセボ群よりも抗ウイルス薬群の方が37%有意に高かった(ベースラインレベルで調整後の群間差がP=0.04)。プラセボ群でのベースラインからのC-ペプチドAUC低下幅は24%だったが、抗ウイルス薬群では11%であり、また後者の群の86%は比較的容易なインスリン療法のレジメンで血糖コントロールが可能な状態に維持されていた。ただし、HbA1cやグリコアルブミン、インスリン投与量には有意差がなかった。なお、重症低血糖を含む有害事象の発生状況は有意差がなかった。 研究グループによると、「1型糖尿病発症のベースにあるメカニズムは悪性度の高くないウイルス感染の持続であって、新たなワクチンを開発することで1型糖尿病を予防できるという考え方はこれまでにもあった」といい、「われわれの研究の結果はそのような概念を裏付けるものだ」としている。また、「1型糖尿病の病態進行を引き起こすβ細胞破壊を、抗ウイルス治療によって遅らせることができるかどうかを詳細に評価するため、より早期の段階で介入するといった、さらなる研究を行うべきだ」と付け加えている。

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パンデミック中の自損行為による救急搬送の実態

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック中の自損行為による大阪府での救急搬送の実態が報告された。年齢別の解析で、20歳代では2020年の自損行為による搬送数がパンデミック前よりも有意に増加していたという。大阪大学医学部附属病院高度救命救急センターの中尾俊一郎氏らの研究結果であり、詳細は「BMJ Open」に9月12日掲載された。 パンデミック下で行われた外出自粛や会食の制限などは、感染拡大抑止には一定の効果があったと考えられるが、一方で人々のメンタルヘルスに負の影響を与えた可能性が指摘されている。また、パンデミック中に発生した非正規雇用者の解雇なども、同じような影響を及ぼしたと考えられる。加えて海外からは、パンデミック中に自損行為の発生率が上昇したとする研究結果が報告されている。これらを背景として中尾氏らは、国内でもパンデミックの発生後に自損行為による救急搬送件数が増加していた可能性を想定し、大阪府全域の救急搬送に関する情報を集約している「大阪府救急搬送支援・情報収集・集計分析システム(ORION)」のデータを用いた検討を行った。 パンデミック発生以前の2018年から2021年までの4年間で、自損行為(救急隊員の報告に基づく搬送理由であり、自殺企図かどうかは考慮されていない)による救急搬送患者が1万1,839人記録されていた。このうち、診療を受けなかった患者やデータ欠落者を除外した1万843人〔年齢中央値38歳(四分位範囲25~53)、女性69.0%〕を解析対象とした。主要評価項目は、パンデミック前の2018年を基準とする救急搬送の発生率比(IRR)とし、搬送から21日以内の死亡を副次的な評価項目とした。 救急搬送患者の全体的な傾向として、年齢層は20代が25.0%を占め最も多く、救急要請場所は自宅が82.6%と大半を占めており、時間帯別では18~24時が32.3%と最多だった。また、月別では7月(9.4%)や9月(9.3%)が多く、反対に2月(7.1%)や4月(7.2%)は少なかった。なお、年齢中央値の年次推移を見ると、2018年から順に40歳、39歳、38歳、36歳と、若年化する傾向が認められた(傾向性P=0.002)。 10万人年当たりの搬送件数は30.7であり、この年次推移を見ると2018年から順に29.4、30.5、31.8、31.2と経時的に上昇する傾向が認められた(傾向性P=0.013)。しかし、交絡因子(年齢層、性別、発生月)を調整すると、自損行為による救急搬送の発生率比はいずれの年も統計学的な有意差を認めなかった。 次に、この結果を2018年を基準として年齢層別に解析。すると20代ではパンデミック初年に当たる2020年に、交絡因子を調整後の発生率比(aIRR)が有意に上昇していたことが明らかになった〔aIRR1.117(同1.002~1.245)〕。なお、20代でもパンデミック前の2019年や2021年はaIRRの有意な変化がなく、また20代以外の年齢層ではいずれの年も有意な変化がなかった。 医療機関に搬送後の経過は、入院治療が4,766人(44.0%)、入院を要さずに帰宅が4,907人(45.3%)であり、1,170人(10.8%)は搬送後に死亡が確認されていた。入院を要した4,766人の21日後転帰は、退院が3,785人(79.4%)、入院中が405人(8.5%)で、576人(12.1%)が死亡だった。副次的評価項目として設定していた21日以内の死亡は、搬送後に死亡確認された患者を加えて1,746人であり、死亡率〔搬送者数に対する全死亡(あらゆる原因による死亡)者の割合〕は16.1%だった。この死亡率の年次推移に関しては、交絡因子の調整の有無にかかわらず、2018年から有意な変化が認められなかった。 以上を基に著者らは、「2020年には、自損行為による救急搬送患者の最多年齢層である20代の搬送が有意に増加していた。パンデミック自体とそれに伴う社会環境の変化が、若年者のメンタルヘルスに負の影響を及ぼしていた可能性がある」と総括。また、「本研究の結果は、若年世代への精神的サポートを強化する施策立案に有用な知見となり得るのではないか」と付け加えている。

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テレワークでの育児ストレス、出社より高い

 新型コロナウイルス感染症の影響で定着した在宅勤務(テレワーク)。子供を持つ親がテレワークをした場合、健康状態や精神的健康状態はどう変化するのか。米国・シカゴのアン&ロバート H. ルリー小児病院のJohn James Parker氏らは、パンデミック中の2022年5~7月にイリノイ州シカゴの全77地区でパネル調査を行った。参加資格は、18歳以上で1人以上の子供を持つ親であることだった。本研究の結果はJAMA Network Open誌2023年11月3日号にResearch Letterとして掲載された。 主な結果は以下のとおり。・1,060例の回答者のうち、825例がその時点で雇用されていた。599例が女性、548例がテレワークを実施していた。・テレワークをしている親を人種で見ると、白人(244例)が黒人(99例)またはヒスパニック系(145例)よりも多かった。・テレワークをしている親は、現場で働く親と比較して、育児ストレスのオッズが増加した(調整オッズ比[aOR]:1.88、95%信頼区間[CI]:1.20~2.93)が、健康状態(aOR:1.23、95%CI:0.78~1.93)や精神的健康の改善(aOR:1.14、95%CI:0.64~2.04)には差がなかった。・テレワークをする父親は、現場で働く父親よりも育児ストレスが高いと報告した(aOR:2.33、95%CI:1.03~5.35)が、母親には関連はなかった(aOR:1.53、95%CI:0.93~2.49)。 研究者らは、COVID-19パンデミック時にテレワークを行った親は、現場で働いた親と比較して育児ストレスが高いと報告しており、親、とくに父親にその傾向が顕著だった。これは育児ストレスにテレワークによるストレスが加わったり、よりストレスの多い育児状況にある親がテレワークを優先的に選択したりした可能性を示唆している。テレワークを行う親を支援する戦略、たとえば勤務スケジュールの自律性を促進することや従業員支援プログラムなどは、親と子供にとって重要な健康上の意味を持つ可能性がある、とした。

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麻疹患者が世界的に急増、2022年の死者数は13万6,000人に

 麻疹(はしか)の予防接種率が数年にわたり低下し続けた結果、2021年と比較して、2022年には麻疹の患者数が18%、死亡者数が43%増加したことが、世界保健機関(WHO)と米疾病対策センター(CDC)が「Morbidity and Mortality Weekly Report」11月17日号に発表した報告書で明らかにされた。この報告書によると、2022年の麻疹患者数は900万人、死亡者数は13万6,000人と推定され、そのほとんどは小児であったという。 CDCの世界予防接種部門のディレクターであるJohn Vertefeuille氏は、「麻疹のアウトブレイク(突発的な発生)と死亡者数の増加は驚異的であるが、残念ながら、ここ数年の麻疹ワクチンの接種率の低下に鑑みると、予想された結果ではある」とCDCのニュースリリースで述べている。同氏はさらに、「場所を問わず、麻疹患者の発生は、ワクチン接種が不十分なあらゆる国や地域社会に危険をもたらす。麻疹の発生と死亡を予防するためには、緊急かつ的確な取り組みが重要となる」と語る。 報告書では、大規模または破壊的な麻疹のアウトブレイクが発生した国の数は、2021年には22カ国だったのが2022年には37カ国に増えたことが指摘されている。2022年にアウトブレイクが発生した国を地域ごとに見ると、最も多かったのはアフリカで28カ国、次いで、東地中海地域6カ国、東南アジア2カ国、ヨーロッパ1カ国の順だった。 麻疹は予防接種を2回受けることで予防可能な疾患だが、麻疹ワクチン未接種の小児の数は3300万人(初回接種を受けていない小児が約2200万人、2回目の接種を受けていない小児が約1100万人)に上ると推定されている。2022年の世界全体でのワクチン接種率は、初回が83%、2回目が74%であり、集団免疫を獲得し、地域社会を麻疹のアウトブレイクから守るのに必要な2回目接種率(95%)を大きく下回っていた。特に、低所得国では、麻疹ワクチンの初回接種率が、2019年から2021年の間に71%から67%へ低下し、2022年にはさらに低下して66%と、経時的に低下し続けている。 さらに、麻疹ワクチンの初回接種を受けなかった2200万人の小児の半数以上が、わずか10カ国に住んでいることも示された。それらの国は、ナイジェリア、コンゴ民主共和国、エチオピア、インド、パキスタン、アンゴラ、フィリピン、インドネシア、ブラジル、マダガスカルである。 WHOの予防接種・ワクチン・生物製剤部門長であるKate O’Brien氏は、「新型コロナウイルス感染症のパンデミック後、低所得国での麻疹ワクチン接種率が回復していないことは、行動を起こすべきことを伝える警鐘だと言える。麻疹ウイルスが不公平なウイルスと言われるのは、麻疹に罹患するのがワクチンによる保護を受けていない人だからだ。どこの国の子どもも、住んでいる場所にかかわりなく、命を救う麻疹ワクチンで守られる権利がある」と話している。

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第77回 mRNAワクチン技術でまさかの「がん治療」

悪性黒色腫・膵がんに対するmRNAワクチン技術Unsplashより使用mRNAワクチンは、新型コロナウイルスに対して有効性や安全性が検証されましたが、がん細胞を対象とした研究が世界各国で進められています。がん細胞に特異的なタンパクを作るmRNAを接種することで、がん細胞を攻撃する細胞性免疫が成立するというメカニズムです。さて、mRNA-4157/V940は、がんの遺伝子変異に基づいて設計された、腫瘍特異的変異抗原(ネオアンチゲン)をコードするmRNAベースの個別化ワクチンです。完全切除後の再発リスクが高い病期のStageIII/IVの悪性黒色腫において、ペムブロリズマブ単剤療法と比較して、疾患の再発または死亡のリスクを有意に減少させたことが1年前に話題となりました。2023年12月14日のModerna社(米国)のプレスリリースでは、当該追跡3年の結果が報告されています。mRNA-4157/V940とペムブロリズマブ併用による術後補助療法によって、ペムブロリズマブ単剤より無再発生存期間の延長が確認され、再発または死亡のリスクが49%減少したことが報告されました(ハザード比[HR]:0.510、95%信頼区間[CI]:0.288~0.906、片側p=0.0095)。また、無遠隔転移生存期間も有意に延長し、遠隔転移の発生または死亡リスクを62%減少させました(HR:0.384、95%CI:0.172~0.858、片側p=0.0077)。―――かなり効果があると言っても差し支えのない成績です。生存期間が非常に短い膵がんにおいても、mRNAベースの個別化ワクチンによってT細胞応答がみられた症例では、生存期間が長くなるのではないかと期待されています1)。「mRNAワクチンを接種したらターボがんになる」というデマmRNAワクチンといえば、「遺伝子が書き換えられて発がんする」という根も葉もないウワサが流れ、一部トンデモがん情報提供インフルエンサーで騒がれたことがありました。とくに、がんの急速な進行のことを独自に「ターボがん」などと名付け、デマが流布されました。そもそも「ターボがん」自体がコンセンサスのない概念なので、二重デマなわけですが…。何億回と接種されてきた新型コロナワクチンですが、現時点で発がんに関する安全性シグナルは検知されていません。アメリカの国立がん研究所においても、「新型コロナワクチンが発がんを引き起こし、再発やがんの進行につながることを支持するデータはない」と明記されています2)。そんなmRNAワクチン技術によって、発がんどころか、がんの治療が行えるというのは、誠に興味深い現象です。参考文献・参考サイト1)Rojas RA, et al. Personalized RNA neoantigen vaccines stimulate T cells in pancreatic cancer. Nature. 2023 Jun;618(7963):144-150.2)National Cancer Institute:COVID-19 Vaccines and People with Cancer

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ミシガン州の5人の女性で眼梅毒、感染源は同一の無症候性梅毒男性

 「Morbidity and Mortality Weekly Report」11月24日号に、米ミシガン州で2022年3月から7月の間に5人の女性において確認された眼梅毒の症例に関する報告書が掲載された。この報告書をまとめた、米カラマズー郡保健地域サービス局(KCHCSD)のWilliam Nettleton氏らは、これらの女性がいずれも、無症候性梅毒の同一の男性と性的関係を持っていたこと、および眼梅毒自体が非常にまれなことから、この男性が持っていた梅毒菌(Treponema pallidum)の株が眼合併症のリスクを高めたのではないかと見ている。 梅毒菌は、感染しても多くの場合、症状がすぐに現れることはないため、気付かないうちに他者を感染させてしまうことがある。梅毒の症状は、時間とともに全身に進行していき、視力の永久的な損傷など深刻な神経症状を引き起こす可能性がある。 残念ながら梅毒は、地域を問わず、特に性的に活発な米国人の間で復活を遂げつつある。Nettleton氏らによると、ミシガン州では人口10万人当たりの症例数が2016年の3.8人から2022年には9.7人にまで増加しており、特にミシガン州南西部(カラマズー周辺)での増加が顕著だという。 2022年のミシガン州のアウトブレイクでは、上記の40〜60歳の女性5人が眼梅毒で入院した。患者の詳細は以下の通り。患者A:梅毒トレポネーマ抗体検査で陽性が判明したことから、眼科医により3月にKCHCSDへ紹介された。患者は目のかすみと失明の恐怖を訴え、また、単純ヘルペスウイルス感染症の再発との見立てでバラシクロビルを使用していたが病変が改善しなかったことを報告した。患者B:4月に頭痛、軽度の難聴、目のかすみの悪化と複視の悪化を訴え、神経梅毒と診断されて入院した。患者C:5月に梅毒検査で陽性が判明。患者には、全身の発疹、手のひらの皮むけ、視界に浮遊する斑点が見える(飛蚊症)などの症状が現れていた。患者D:膣潰瘍と、手および腹部に発疹が現れており、6月に眼科医から眼梅毒の診断を受けた。患者E:5月に飛蚊症などを訴えて眼科で診察を受け、7月に眼梅毒と神経梅毒と診断されて入院した。 保健員が5月にこれらの女性と性的関係を持った男性を探し出し、梅毒検査を行ったところ、陽性であったが、梅毒の症状は現れていなかった。この男性と5人の女性は、最終的にペニシリン治療を受け、全員が治癒した。 眼梅毒のアウトブレイクは他にも記録されているが、研究グループによると、ミシガン州のアウトブレイクは、「異性間性的接触に起因する症例として初めて記録されたもの」であるという。また、梅毒の合併症は、通常、病状がより進行した段階で生じるにもかかわらず、今回の症例では、「全ての患者が梅毒の初期段階にあった」ことを懸念すべき点として挙げている。さらに、過去に確認された多くのクラスターと異なり、注射薬の使用やトランザクションセックスを報告した患者はおらず、全員がHIV陰性であったことにも言及している。 報告書ではこのほかにも、2022年のミシガン州における梅毒症例の大半は男性であるものの、梅毒症例に女性が占める割合は、2016年には9%だったのが2022年には23%に増加している点も指摘されている。 Nettleton氏らは、「梅毒は、迅速に診断して治療すれは、永続的な視覚障害や聴覚障害を含む全身合併症を予防できる疾患だ」と述べ、医師に、梅毒の症例に注視するよう助言している。

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12月27日 国際疫病対策の日【今日は何の日?】

【12月27日 国際疫病対策の日】〔由来〕新型コロナウイルス感染の初確認から約1年となる2020年、疫病の大流行に対する備えの必要性を国際社会が認識し続ける狙いをこめて、国連総会の本会議で採択し、制定。関連コンテンツ新興再興感染症に気を付けろッ!コロナの症状、ワクチン回数による違い【患者説明用スライド】年齢別、コロナ後遺症の発生頻度【患者説明用スライド】コロナ再感染、高齢者よりも若年層で増加コロナとインフルの死亡リスク、最新研究では差が縮まる

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手袋をしたままのアルコール擦式消毒、効果は?

 世界保健機関(WHO)が推奨する5つのタイミング(患者に触れる前、清潔/無菌操作の前、体液に曝露された可能性のある場合、患者に触れた後、患者周辺の環境や物品に触れた後)で手袋をしたままアルコール擦式消毒を行うことは、ゴールドスタンダードである手袋の交換と比較すると効果は劣ったが、試験参加者が通常行っている対応と比較すると大幅に汚染を減少させた。米国・メリーランド大学のKerri A. Thom氏らによるInfection Control & Hospital Epidemiology誌オンライン版2023年11月23日号の報告。 著者らは、成人および小児の外科、中間治療、救急治療ユニットを有する4つの病院の医療従事者を対象に、混合研究法を用いた多施設共同無作為化比較試験を実施した。参加者は介入群(WHO推奨の5つの手指衛生タイミングで、手袋の上からアルコール消毒し、手をこする)、ゴールドスタンダード(GS)群(WHO推奨の5つの手指衛生タイミングで、手袋を外し、手指衛生を実施し、新しい手袋を着用する)、通常対応群(参加者が通常行っているとおりに手指衛生・手袋の交換を行う)の3群に無作為に割り付けられ、総コロニー数および病原性細菌の有無を評価。GS群と介入群および通常対応群と介入群が比較された。 主な結果は以下のとおり。・GS群と介入群を比較した結果、手袋をはめた状態の手に細菌が確認されたのはGS群では641回中432回(67.4%)、介入群では662回中548回(82.8%)であった(p<0.001)。・総コロニー数中央値はGS群では2CFU(四分位範囲[IQR]:0~5)、介入群では4CFU(IQR:1~15)であった(p<0.001)。・病原性細菌はGS群3.9%、介入群7.3%で同定された(p<0.01)。・患者のケア再開までに要する時間は、GS群では平均28.7秒、介入群では平均14秒であった(p<0.001)。・通常対応群と介入群を比較した結果、手袋をはめた状態の手に細菌が確認されたのは通常対応群では135回中133回(98.5%)、介入群では226回中173回(76.6%)であった(p<0.001)。・総コロニー数中央値は通常対応群では29CFU(IQR:10.5~105.5)、介入群では2CFU(IQR:1~14.75)であった(p<0.001)。・病原性細菌は通常対応群28.1%、介入群7.1%で同定された(p<0.001)。・通常対応群において、WHO推奨の5つの手指衛生タイミングは537回記録されたが、そのうち手指衛生あるいは手袋の交換の実施が確認されたのは26回(4.8%)だった。そのうち遵守率が高かったのは「体液に曝露された可能性のある場合」で、低かったのは「患者周辺の環境や物品に触れた後」および「患者に触れる前」であった。・テストされた331個の手袋のうち、6個(1.8%)に微細な穴があることが判明し、これらはすべて介入群で特定された。 著者らは、ゴールドスタンダード遵守の実現可能性の低さを考慮すると、WHOや疾病予防管理センター(CDC)は、1人の患者のケア中においては手袋をしたままのアルコール擦式消毒を推奨することも検討すべきではないかとしている。

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次世代mRNAコロナワクチン、国内第III相で有効性・安全性を確認/Meiji Seika

 Meiji Seika ファルマは12月21日付のプレスリリースにて、同社が国内における供給・販売を担う新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する次世代mRNAワクチン(レプリコンワクチン)「コスタイベ筋注用」(ARCT-154)について、追加免疫国内第III相試験の結果がThe Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2023年12月20日号に掲載されたことを発表した。 本試験は、既存mRNAワクチンを接種済みの成人を対象とし、次世代mRNAワクチンと既存mRNAワクチンの追加接種を比較した初めての臨床試験だ。本試験の結果、ARCT-154の5μgの追加接種が、コミナティ(ファイザー製)の30μgの追加接種と比較して、武漢株(Wuhan-Hu-1)に対して非劣性を示し、オミクロン株BA.4/5株に対して優越性を示すことが認められた。 次世代mRNAワクチンのARCT-154は、新規のsa-mRNA技術を使用しており、細胞内に送達されたmRNAが増幅されるように設計されている。そのため、既存ワクチンよりも少ない接種量で高い中和抗体価、高い安全性と有効性、効果の持続が期待される。 本試験では、既存mRNAワクチンを3ヵ月以上前に3回接種した18歳以上の健康成人828例を対象に、1回の追加接種としてARCT-154を5μg(420例)、あるいはコミナティを30μg(408例)接種し、免疫原性および安全性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・追加接種から4週間後の武漢株に対する中和抗体価の幾何平均(GMT)は、ARCT-154群:5,641(95%信頼区間[CI]:4,321~7,363)vs.コミナティ群:3,934(2,993~5,169)であった。GMT比:1.43(95%CI:1.26~1.63)。・武漢株に対する中和抗体応答率は、ARCT-154群:65.2%(95%CI:60.2~69.9)vs.コミナティ群:51.6%(46.4~56.8)で、差は13.6%(95%CI:6.8~20.5)となり、非劣性が示された。・オミクロン株BA.4/5に対する中和抗体価のGMTは、ARCT-154群:2,551(95%CI:1,687~3,859)vs.コミナティ:1,958(1,281~2,993)であった。GMT比:1.30(95%CI:1.07~1.58)。・BA.4/5に対する中和抗体応答率は、ARCT-154群:69.9%(95%CI:65.0~74.4)vs.コミナティ群:58.0%(52.8~63.1)となり、優越性が示された。・ARCT-154またはコミナティの追加接種により、重度または重篤な有害事象は認められず、忍容性は等しく良好だった。・特定局所反応については、ARCT-154群の95%、およびコミナティ群の97%から報告された。特定全身有害事象については、同じく66%および63%から報告された。 本試験結果は、ベトナムで実施された海外第I/II/IIIa相試験と海外第IIIb相試験、米国・シンガポールで実施された海外第II相試験などと合わせて申請資料として提出され、2023年11月28日に「コスタイベ筋注用」として厚生労働省より製造販売承認された。本試験は、接種後3ヵ月、6ヵ月、12ヵ月での安全性および免疫応答の持続性や細胞性免疫を検討するため現在も進行中。変異株対応の試験も進められており、2024年秋冬接種に向けて実用化を目指している。

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コロナワクチン全額公費接種を3月31日に終了/ヌバキソビッド供給終了/厚労省

 厚生労働省は12月25日、新型コロナワクチン接種体制確保事業に関する自治体向け説明会にて、2024年3月31日に新型コロナワクチンの特例臨時接種による全額公費の接種を終了することを発表した1)。2023年9月20日以降は、生後6ヵ月以上のすべての人を対象に、オミクロン株XBB.1.5対応1価ワクチンの全額公費による接種が行われていたが、2024年4月1日以降(令和6年度)から、65歳以上および重い基礎疾患のある60~64歳(インフルエンザワクチン等の接種対象者と同様)を対象に、秋冬に自治体による定期接種が行われる。特例臨時接種終了の情報提供として、リーフレットも掲載された2)。 厚労省は、低所得者以外の接種対象者の自己負担額は、7,000円(ワクチン価格:3,260円、手技料:3,740円)を標準として、各自治体にて検討するよう呼びかけた。接種を受ける努力義務や自治体からの接種奨励の規定はない。接種対象者以外は、任意接種として、時期を問わず自費で接種することとなる。 また同日、厚労省は、武田薬品工業が国内で製造販売する組換えコロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン「ヌバキソビッド筋注」(従来株対応)について、現在流通しているものの有効期限を迎えた2023年12月25日をもって、供給を終了することも発表した3)。同ワクチンは、何らかの理由でXBB.1.5対応ワクチンが接種できない12歳以上に対して、公費接種で供給されていた。同ワクチンの活用状況として、同社により供給された約824万回分のうち、国内に配送されたのが約110万回分、廃棄されるのが約714万回分だとしている。なお、同社が11月20日に発表した「ヌバキソビッド筋注の供給に関するお知らせ」によると、2024年度以降の供給再開に向けて、変異株の流行状況を考慮したワクチンの準備に取り組んでいるという。

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2023年、読んでよかった!「この医学書」/会員医師アンケート

2023年も多くの医学書が刊行されました。CareNet.comでは、会員医師1,000人(内科、循環器科、呼吸器科、消化器科、精神科/心療内科・各200人)に、「今年読んでよかった医学書」についてアンケートを実施しました(今年刊行された本に限らず、今年読んだ本であればOK)。アンケートでは「ご自身の専門分野でよかった本」「専門分野以外でよかった本」を1冊ずつ、理由も添えて挙げてもらいました。本記事では、複数の医師から名前の挙がった書籍を、お薦めコメントと共に紹介します(アンケート実施日:12月5日)。ぜひ、年末年始の読書の参考にしてください。内科幅広いテーマの書籍が「専門分野」として挙げられた内科。『今日の治療薬』(南江堂)、『ハリソン内科学』(メディカル・サイエンス・インターナショナル)、『当直医マニュアル』(医歯薬出版)といった「ド定番」のほか、糖尿病治療に関する書籍と「日本内科学会雑誌」を挙げる人が目立ちました。『ジェネラリストのための内科外来マニュアル 第3版』(金城 光代ほか[編]、医学書院、2023年)内科外来のトップマニュアルが6年ぶりの改訂。内科医以外からも多くの推薦がありました。●推薦コメント「外来診療に役立った」「疾患別に緊急性や重症度などを考えさせるように導く内容となっていて面白い」『胃炎の京都分類 改訂第3版』(春間 賢[監修]、日本メディカルセンター、2023年)多くの画像で胃炎を解説する定番書の改訂第3版。●推薦コメント「慢性胃炎に対する内視鏡的・肉眼的考察により、これまでの慢性胃炎の概念を体系化した書物」「臨床に生かせる」『内科学 第12版』(矢崎 義雄・小室 一成[編]、朝倉書店、2022年)初版は1977年、病態生理を中心に内科的疾患の最新の知見を集大成した改訂12版。●推薦コメント「鉄板です」「ザ・定番と思われるため」循環器科内科医からも多くの推薦があった『ジェネラリストのための内科外来マニュアル』のほか、個別テーマでは心電図、PCIを扱った書籍が多く挙げられました。『循環とは何か? 虜になる循環の生理学』(中村 謙介[著]、三輪書店、2020年)難解な循環の生理学を、深くかつわかりやすく解説。●推薦コメント「面白い」「知識の整理になった」『PCIで使い倒す IVUS徹底活用術 改訂第2版』(本江 純子[編]、メジカルビュー社、2020年)「もっとこうしたらIVUSをより有効に活用できる」という手順・方法などを、実例と共に解説。●推薦コメント「IVUSの基本的な読影やトラブルシューティングなど、理論的にわかりやすかった」「説明がわかりやすく、実践的」『心不全治療薬の考え方,使い方 改訂2版』(齋藤 秀輝ほか[編]、中外医学社、2023年)心不全治療薬の整理のほか、使い分けや未知の事柄も追記した実践的な書の改訂版。●推薦コメント「いつも参考にしています」「心不全治療薬の“革命”を経て…、U40新世代が作り上げるバイブル」呼吸器科「間質性肺炎」「肺がん」「喘息」「気管支鏡」「人工呼吸」「咳」など、「専門」とする書籍テーマのバリエーションが多様だった呼吸器科。回答者によってさまざまな疾患に対応していることが垣間見える結果となりました。『ポケット呼吸器診療2023』(倉原 優[著]、シーニュ、2023年)CareNet.comの連載でもおなじみの倉原氏による定番の一冊の最新版。●推薦コメント「毎年非常に詳しく書かれているから」「ガイドラインや最新の治療薬のアップデートを記憶するのに役立つ」「呼吸器診療のtipsがコンパクトにまとめられている」『誤嚥性肺炎の主治医力』(飛野 和則[監修]、吉松 由貴[著]、南山堂、2021年)飯塚病院 呼吸器内科の著者らによる誤嚥性肺炎診療の実践書。●推薦コメント「気を付けるポイントを再認識した」「読みやすく、わかりやすかった」『抗菌薬の考え方,使い方 ver.5』(岩田 健太郎[著]、中外医学社、2022年)未曽有のコロナ禍を経て、新たに刊行された改訂版。●推薦コメント「大学の授業で習うべき重要な内容」「基本的な抗菌薬の知識を臨床の面から解説してある」「普段何気なく使用している抗菌薬の使用方法を見直すきっかけになった」消化器科内科医からも多く挙げられた『胃炎の京都分類 改訂第3版』のほか、医学誌「胃と腸」や『胃と腸アトラス』を「基本知識、専門知識がよくわかる」「読影の参考になる」「症例問題集が面白く勉強になる」と推薦する声が目立ちました。『専門医のための消化器病学 第3版』(下瀬川 徹ほか[監修]、医学書院、2021年)消化器専門医が知っておきたい最新知見を各領域のエキスパートが解説。●推薦コメント「内容が新しくてよい」「専門医として知っておくべき内容がまとめてあり、わかりやすい」「網羅的に消化器病の知識が記されており、教科書兼辞書として重宝している」『カール先生の大腸内視鏡挿入術 第2版』(軽部 友明[著]、日本医事新報社、2020年)内視鏡手技をテーマとした書籍が多いなか、内視鏡挿入のテクニックを動画付きで解説した本書を挙げる人が目立ちました。●推薦コメント「図が豊富」「基本的な内容が理解できた」「わかりやすく、新しい発見があった」『患者背景とサイトカインプロファイルから導く IBD治療薬 処方の最適解』(杉本 健[著]、南江堂、2023年)炎症性腸疾患(IBD)の治療薬について、著者独自の観点から患者ごとの最適解の考え方を提供。●推薦コメント「目から鱗でした」「わかりやすく、的確な具体例もある」精神科/心療内科他科と比較して同じ本を選択した回答者が多く、刊行から時間が経過した本も多く選ばれる傾向がありました。『精神診療プラチナマニュアル 第2版』(松崎 朝樹[著]、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2020年)精神診療に必要かつ不可欠な内容をハンディサイズに収載。●推薦コメント「ノイヘレン(新人)時代にこういった入門書があればよかった。今でも復習に役立つ」「内容がわかりやすくまとまっている」「最新の話題が記載されている」『[新版]精神科治療の覚書』(中井 久夫[著]、日本評論社、2014年)「医者ができる最大の処方は希望である」。精神科医のみならず、すべての臨床医に向けられた基本の書。●推薦コメント「読みやすい」「改めて読み直してみて、初心を思い出せた」『カプラン臨床精神医学テキスト 第3版』(井上 令一[著・監修]、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2016年)DSM-5準拠、高評と信頼を得た最高峰のテキストの改訂版。●推薦コメント「精神科医が学ぶことがおおむね網羅されている」「DSM-5に準じ体系化されていて、たくさんの疾患が網羅されている」「精神科専門医試験もここから多く出ていた」専門も専門外も!「信頼のシリーズ」アンケートの設問では「事典やガイドライン、医学雑誌以外の本を推薦ください」と条件を付けたものの、医師にとって最も身近であるこれらの書籍や、医学生・研修医、非専門医、コメディカルを対象とした定番シリーズを挙げる方も多くいました。「極論で語る」シリーズ(丸善出版)●推薦コメント「循環器疾患についてメカニズムと対応方法をわかりやすく解説してくれる」(『極論で語る循環器内科』/循環器科)、「体液コントロールにおける腎臓の視点を取り入れることができる」(『極論で語る腎臓内科』/循環器科)「病気がみえる」シリーズ(メディックメディア)●推薦コメント「看護学校の講師をしていますが、初心に返ることができた」(循環器科)、「基礎の確認になった」(循環器科)「レジデントのための」シリーズ(日本医事新報社)●推薦コメント「内科診療の疑問をEBMの側面でまとめてくれている」(『レジデントのための 内科診断の道標』/精神科)、「実臨床に即しており、非常にわかりやすい」(『レジデントのための これだけ輸液』/呼吸器科)どの科も必須「このテーマ」新型コロナウイルス感染症が収まり切らないなか、「専門外」の良書としてどの科の医師からも名前が挙がった本には、感染症をテーマとするものが多数ありました。『レジデントのための感染症診療マニュアル 第4版』(青木 眞[著]、医学書院、2020年)初版から20年。読み継がれてきた「感染症診療のバイブル」の最新版。●推薦コメント「抗菌薬の選択に参考となる」(呼吸器科)『感染症プラチナマニュアル Ver.8 2023-2024』(岡 秀昭[著]、メディカル・サイエンス・インターナショナル、2023年)2015年初版、ベストセラー「感染症診療マニュアル」の改訂第8版。●推薦コメント「実臨床に即しており、非常にわかりやすい」(呼吸器科)キラリと光る「新定番」絶対数としてはさほど多くないものの、最近刊行された注目の書籍が、複数の科の医師から「専門外の好著」として名前が挙がりました。『誰も教えてくれなかった皮疹の診かた・考えかた』(松田 光弘[著]、医学書院、2022年)皮膚科疾患のロジックが身に付く、フローチャートを用いた解説が好評の一冊。●推薦コメント「皮膚科が苦手だったが、まさに目からウロコ」(内科)、「皮疹を診る際の皮膚科医の思考過程がよくわかる」(内科)、「他科の医師でも皮疹診療についての基本がわかる」(呼吸器科)『世界一わかりやすい 筋肉のつながり図鑑』(きまた りょう[著]、KADOKAWA、2023年)100点以上のオールカラーイラストで筋肉のつながり・仕組みを平易に解説した一般書のベストセラー。●推薦コメント「筋肉の解剖学的特徴がわかりやすい」(内科)、「イラストがよい、わかりやすい」(消化器科)『心電図ハンター 心電図×非循環器医』(増井 伸高[著]、中外医学社、2016年)非循環器医をターゲットに、即座に判断できない微妙な症例を集め、心電図判読のコツを紹介。●推薦コメント「実際の臨床の場面を想定した形での判断基準などがわかりやすい」(内科)、「知りたいことがコンパクトにまとめてある」(呼吸器科)こんな本も! 医師ならではの一冊医学書以外でも、医師ならではの視点から、熱のこもったコメントと共に寄せられた本がありました。『蘭学事始』(杉田 玄白[著]、緒方 富雄[校註]、岩波文庫、1959年)江戸後期、杉田 玄白が著した蘭学創始期の回想録。●推薦コメント「印象に残った」(呼吸器科)『医療現場の行動経済学 すれ違う医者と患者』(大竹 文雄・平井 啓[編著]、東洋経済新報社、2018年)●推薦コメント「インフォームドコンセントからSDMになり、なんとなく感じていた違和感が、行動経済学的な考え方によりすっきりした」(消化器科)『嫌われる勇気』(岸見 一郎・古賀 史健[著]、ダイヤモンド社、2013年)アドラー心理学を解説する、100万部突破のベストセラー。●推薦コメント「承認欲求に気付くことができた」(循環器科)『わたしが誰かわからない ヤングケアラーを探す旅』(中村 佑子[著]、医学書院、2023年)●推薦コメント「一体ヤングケアラーとは誰なのか。世界をどのように感受していて、具体的に何に困っているのか。取材はドキメンタリーを読むようだ」(消化器科)

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新型コロナ、免疫回避能の高いJN.1へ急速に進化

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のオミクロン株BA.2.86(ピロラ)から派生したJN.1は、フランス、米国、シンガポール、カナダ、英国など全世界で急速に拡大しており、世界保健機構(WHO)は2023年12月18日付で、JN.1をVOI(注目すべき変異株)に追加した1)。中国・北京大学のSijie Yang氏らの研究グループは、JN.1のウイルス学的特徴を解析したところ、親株のBA.2.86よりも高い免疫回避能を獲得しており、それが受容体結合ドメインの変異(L455S)によるものである可能性が示唆された。The Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2023年12月15日号に掲載の報告。新型コロナJN.1は抗体に対する広範な耐性を急速に獲得 本研究では、XBB感染後に回復した人の血漿を用いて、疑似ウイルスに基づく中和アッセイを行い、JN.1の体液性免疫回避能を調べた。対象となったのは、不活化ワクチン(Sinovac製)を3回接種後にXBBにブレークスルー感染(XBB BTI)していた27例、および、ワクチン3回接種後にBA.5またはBF.7に感染し、その後XBBに再感染(XBB再感染)していた54例。 新型コロナJN.1のウイルス学的特徴を解析した主な結果は以下のとおり。・JN.1は親株のBA.2.86と比較して、受容体結合ドメインの変異(L455S)が1つ追加したものとなっている。・JN.1はBA.2.86と比較して免疫回避能が有意に亢進していた。JN.1に対するXBB再感染血漿の50%中和力価値(NT50)は、BA.2.86に対するものより2.1倍低下していた。JN.1に対するXBB BTI血漿のNT50は、BA.2.86に対するものより1.1倍低下していた。・JN.1の免疫回避能は、競合する変異株のHV.1やJD.1.1を上回っていた。・JN.1の受容体結合ドメイン変異(L455S)によって、ACE2との結合親和性が顕著に低下していることが表面プラズモン共鳴法で認められた。これは、免疫回避能の向上がACE2結合の低下と引き換えになっていることを示している。・8種類のXBB.1.5中和クラス1モノクローナル抗体に対するJN.1の回避能を擬似ウイルス中和アッセイで調べたところ、クラス1抗体に対する回避能が高まっていることが示された。・治療用抗体に関しては、SA55(Singlomics製)は、JN.1を含むすべての変異株に対して中和効果を維持していた。 JN.1は、BA.2.86の抗原的多様性を受け継ぎ、L455Sを獲得することにより、抗体に対する広範な耐性を急速に獲得し、ヒトACE2結合の低下と引き換えに、より高い免疫回避能を示した。著者らは、高い免疫回避能は持たないものの、ヒトACE2結合親和性が高く、明確な抗原性を持つBA.2.86やBA.2.75のような株を監視することの重要性を強調している。このような株は、抗原性の違いから優勢株とは異なる集団を標的にすることができ、免疫回避性の高い変異を急速に蓄積して感染拡大する可能性があると指摘している。

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第176回 紙の保険証は来年12月2日に廃止、マイナ保険証を導入へ/政府

<先週の動き>1.紙の保険証は来年12月2日に廃止、マイナ保険証を導入へ/政府2.来年度の新型コロナワクチン定期接種、自己負担は7,000円/政府3.来年度の社会保障費過去最大の37兆円、医療・介護従事者の賃上げが実現へ/政府4.地方では3割以上の人口減、日本の2050年を予測/社会保障・人口問題研究所5.健康増進のための睡眠ガイド、成人は6時間以上を推奨/厚労省6.甲南医療センター院長らが書類送検、再発防止を求めて遺族会が発足/兵庫1.紙の保険証は来年12月2日に廃止、マイナ保険証を導入へ/政府政府は、マイナンバーカードと一体化した「マイナ保険証」へ移行して、2024年12月2日に現行の健康保険証を廃止することを閣議決定した。この変更により、現行の保険証は最長1年間使用可能な経過措置が設けられるが、新規発行は停止される。マイナ保険証を持たない人には、保険証の代わりとなる「資格確認書」が発行され、その有効期限は5年間となる。この政策に対して、ネット上では、政府の方針に対して「取得は任意だったはず」「進め方が詐欺的」といった不満が噴出している。政府は、医療機関や保険者、事業主と連携して利用促進に努めるとともに、マイナ保険証の利用率増加に応じた支援金の周知や、保険証の不安払拭やマイナンバーカード取得の円滑化に向けた取り組みを進めていく方針を明らかにしている。閣議決定では保険者の準備や窓口での円滑な対応を考慮して決定されたが、実際にマイナ保険証が使えなかったケースも報告されており、政府は引き続き周知広報を進めるとしている。マイナ保険証への変更は、わが国の社会保障制度におけるデジタル化の一環として注目されているが、利用率は4.5%に止まり、さらなる普及には国民の理解が不可欠となる。デジタル庁は、来年度の予算でマイナンバーカードの利便性向上・利活用シーンの拡大をさらに推進するするとともに、個人情報保護の体制強化に乗り出す方針を明らかにしている。参考1)健康保険証、来年12月2日に廃止 経過措置1年(CB news)2)紙の健康保険証は24年12月2日に廃止「マイナ保険証」へ一本化する期日を閣議決定(ITmedia NEWS)3)マイナ保険証移行で医療効率化へ 利用率は4.5%どまり(日経新聞)4)マイナンバー制度の普及推進継続 個人情報保護の体制強化に21億円(朝日新聞)2.来年度の新型コロナワクチン定期接種、自己負担は7,000円/政府政府は、65歳以上の高齢者と一定の基礎疾患を持つ60~64歳を対象とする、来年度の新型コロナウイルスワクチン定期接種の標準的な自己負担を7,000円とする方針を決定した。低所得者には接種費用の一部を助成し、実際の自己負担額が7,000円より低くなる可能性もある。一方、定期接種の対象者は65歳以上の高齢者と60~64歳で基礎疾患のある人で、それ以外の任意接種者は助成対象外となり、原則全額自己負担となる見込み。今年度までのコロナワクチンは全世代を対象に公費で全額負担されていたが、来年度からは年1回、秋から冬に接種する定期接種となる。政府は、ワクチン価格が3,260円、診察など接種にかかる手技料が3,740円の計7,000円と見積もっており、来年2月ごろにメーカー各社から価格を聞き取り、超過する場合は対応を検討する。この政策に対し、全国知事会からは負担軽減策を求める声が上がっている。米国ではワクチンの価格と手技料を合わせて2万円前後とされており、来年度以降、定期接種が高額になるケースが想定されている。政府は、接種費用の一部を助成し、市町村に助成金を交付して、国民の負担を軽減を目指している。参考1)コロナワクチン、自己負担7千円に 来年度、高齢者ら対象の定期接種(朝日新聞)2)コロナワクチン定期接種、自己負担の上限7,000円に…自治体が補助上乗せなら減額(読売新聞)3)コロナワクチン定期接種の自己負担7千円 来年度、政府が超過分助成へ(産経新聞)3.来年度の社会保障費過去最大の37兆円、医療・介護従事者の賃上げが実現へ/政府政府は12月24日、2024年度の予算案を閣議決定し、社会保障関係費が過去最大の37兆7,193億円に達することが確認された。この中で、医療費は12兆3,668億円を占める。来年度の診療報酬改定においては、本体部分が0.88%プラスに設定され、これにより看護師や医療関係職種の賃上げが実現される見込み。なお、賃上げ率は定期昇給を含めて約4%になると予測されている。一方、薬価は1%引き下げられ、診療報酬全体の改定率はマイナス0.12%となり、医療費の抑制効果は限定的となる見通し。また、後発薬の供給不足に対応するため636億円が投入され、医療や介護のデジタル化推進にも30億円が割り当てられる。このほか、特許切れの先発医薬品に対する後発薬との差額の25%が新たな患者負担となる見込み。介護分野では、報酬の引き上げにより賃金体系の底上げを図り、人手不足の解消を目指す方針。しかし、介護保険サービス利用者の自己負担引き上げは見送られ、高齢化に伴う費用増加への対応には課題が残されている。政府は、医療費の抑制と賃上げのバランスを考慮しながら、次世代への負担を軽減する持続可能な医療体系の構築を目指しているとのこと。参考1)令和6年度予算政府案(財務省)2)24年度予算案、社保費膨張で初の37兆円 総額112兆円(日経新聞)3)社会保障費、過去最大の37.7兆円 来年度予算案決定(CB news)4)来年度予算案 閣議決定 一般会計総額 2年連続110兆円超(NHK)4.地方では3割以上の人口減、日本の2050年を予測/社会保障・人口問題研究所国立社会保障・人口問題研究所が12月22日に公表した2050年の地域別将来推計人口によると、わが国の総人口は2,146万人減の1億468万人になる見込みで、東京を除く46道府県で人口が減少する。とくに秋田、青森、岩手など11県では、30%以上の人口減が予測されており、25道県では65歳以上の人口割合が4割を超えるとされている。地方の人口減少と高齢化は加速度的に進行し、東京への一極集中が深刻化すると予想されている。市区町村別では、全体の95.5%で2050年の人口が2020年に比べて減少し、19.7%は半数未満になると推計。また、全国的に人口減のスピードは加速し、とくに地方では社会基盤の維持が困難になる可能性が指摘されている。2050年には、全体の2割にあたる11の県で30%以上減少し、多くの地域で高齢者も減少し、人口減少が進むペースに地域差が出ることが明らかになった。専門家は、とくに人口減少のペースが早い地域では、インフラや公共交通機関が過剰なサービスにならないか、人口の規模に見合うよう見直すきっかけにするべきだと指摘している。また、地方の人口減少を止めるためには企業の役割が重要で、新たな投資を行い、地域で事業を継続・発展させ、雇用を生み出すことが必要だとも述べている。参考1)『日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)』(国立社会保障・人口問題研究所)2)2050年の人口、東京への一極集中が深刻化…46道府県で減少(読売新聞)3)人口減少の日本 2050年にはどうなる 最新データからわかること(NHK)4)2050年の人口、11県で3割減予測 25道県で高齢者4割に(毎日新聞)5.健康増進のための睡眠ガイド、成人は6時間以上を推奨/厚労省厚生労働省の「健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会」が新たにまとめた「健康づくりのための睡眠ガイド2023」が公表された。公表された睡眠ガイドでは、睡眠の量と質の確保を目的とし、年代別に睡眠時間の目標を設定しており、小学生は9~12時間、中高生は8~10時間、成人には毎日6時間以上の睡眠を推奨している。一方、高齢者に対しては8時間以上の寝床時間を避けることが推奨されている。また、睡眠の質を向上させるための具体的なアドバイスも提供されており、日中の日光浴、寝室の暗さの確保、カフェイン摂取の制限などが挙げられている。日本人の睡眠時間は、世界的にみても短い傾向にあり、睡眠不足は、日中の眠気や疲労に加え、頭痛などの心身愁訴の増加、情動不安定、注意力や判断力の低下に関連した作業効率の低下・学業成績の低下など、多岐にわたる影響を及ぼし、事故など重大な結果を招く場合もある。さらに睡眠不足が慢性化すると肥満や心疾患などのリスクが高まることも指摘されている。睡眠の質を高めるためには、寝始めから3時間の睡眠が重要であり、適切な生活習慣の維持が求められている。さらに、睡眠に関する悩みを持つ人々のための専門的なサポートや、睡眠に特化したサービスを提供する施設の充実が求められている。参考1)健康づくりのための睡眠ガイド2023(案)(厚労省)2)睡眠時間の推奨 成人は6時間 “睡眠の質”上げるポイントは?(NHK)3)成人は6時間以上… 「健康に良い睡眠」ガイド案 厚労省検討会(毎日新聞)4)成人は睡眠6時間以上推奨 健康づくりで厚労省ガイド(日経新聞)6.甲南医療センター院長らが書類送検、再発防止を求めて遺族会が発足/兵庫神戸市東灘区の甲南医療センターで勤務していた26歳の専攻医、高島 晨伍氏が過労に伴い自殺した問題に関連して、西宮労働基準監督署は病院の運営法人「甲南会」や院長、上司だった医師を労働基準法違反の疑いで書類送検した。高島氏は、長時間労働が原因で2022年5月に自宅で自死した。同氏の直前1ヵ月間の時間外労働は207時間50分に及び、約100日間休日がなかったとされている。この事件を受けて、同氏の遺族らは「医師の過労死家族会」を立ち上げ、厚生労働省に医師の働き方改革を進めるよう強く求めた。家族会は、医師の労働時間が正確に反映されるよう要求し、すべての医療従事者に労務管理についての研修を義務付けることなどを含む請願書を提出した。母親である高島 淳子氏は、「患者の命を守る医師が命を落とすことはあってはならない」と述べ、労働環境の改善を強く希望した。武見 敬三厚生労働省大臣は、悪質な労基法違反には厳正に対処すると述べ、医師の働き方改革が重要な議題であると強調した。また、医師臨床研修病院に指定されている甲南医療センターで専攻医の過労自殺が起きたことについて、適切な労働時間と健康の管理が重要な課題であると指摘した。この事件は、医師の過重労働が医療安全に及ぼす影響と、医師自身の健康と命を守るための労働環境改善の必要性を浮き彫りにした。また、家族会の活動と政府の対応は、医師の過労死を防ぐための働き方改革の進展に向けた重要な一歩となることが期待されている。なお、医師の過労死家族会では、全国的活動、労災支援、行政訴求などの活動のための寄付を募っている。参考1)医師の過労死家族会2)甲南医療センター医師の過労自殺、病院側と院長らを書類送検 西宮労基署、労働基準法違反容疑(神戸新聞)3)「悪質な労基法違反は厳正に対処」厚労相 若手医師の過労自殺うけて(朝日新聞)4)神戸の病院で過労死した医師の母親など 家族会結成し国に要望(NHK)

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注射薬【アトピー性皮膚炎の治療】

デュピルマブ(商品名:デュピクセント)デュピルマブは、ヒト型抗ヒトIL-4/13受容体モノクローナル抗体の治療薬で、2018年から使用できるようになったアトピー性皮膚炎の治療薬です。2週間に1回注射をします。生物学的製剤であり、生体が作る抗体タンパクを人工的に作成しアトピーを悪化させる活性物質にピンポイントで作用させることを目的としています。デュピルマブの対象患者ステロイド外用剤やタクロリムス外用剤などの抗炎症外用剤による適切な治療を一定期間施行しても、十分な効果が得られず、強い炎症を伴う皮疹が広範囲に及ぶ患者。デュピルマブの注射の種類注射器型のシリンジと自己注射に向いているペンの2種類。デュピルマブの特徴アトピー性皮膚炎の炎症やかゆみに大きく関わる蛋白であるインターロイキン4(IL-4)、IL-13の働きを抑えます。具体的には、IL-4受容体α(IL-4Rα)をブロックする薬です。ブロックすることでアトピー性皮膚炎のかゆみ、皮膚炎症状が改善します。また、IL-4、13はフィラグリンという皮膚のバリア機能を保つための重要な蛋白を作りにくくさせることが知られており、これを抑制することで皮膚バリア機能の回復も期待できます。デュピルマブの用法・用量15歳以上の成人の初回投与は600mg(2本)です。以後、2週間おきに300mg(1本)ずつ注射します。初診時は問診と診察で適応があるかどうかの確認を行います。なお、初診時にデュピルマブの投与はできません。2023年9月25日より生後6ヵ月以上の小児に適応が追加されました。また、2023年12月18日より200mgシリンジが発売されました。小児では体重ごとに用法が変わります。具体的には5kg以上15kg 未満:1回 200mgを4週間隔、15kg以上30kg未満:1回 300mgを4週間隔、30kg以上60kg未満:初回に400mg、その後は1回 200mgを2週間隔、60kg以上:初回に600mg、その後は1回 300mgを2週間隔(成人と同様の用法、用量)で投与します。デュピルマブの薬価300mgシリンジ:5万8,593円300mgペン:5万8,775円200mg シリンジ:4万3,320円〔ワンポイント〕高額療養費制度の勧め:薬剤費が高額なため、高額療養費制度を利用されることを強くお勧めします。収入や年齢により適応となる場合やそうでない場合があります。自己注射をする場合、最大6本の注射薬を処方することができ、一部の方には高額療養費制度を用いて医療費の負担軽減が可能です。デュピクセント皮下注 電子添文(2023年9月改訂(第6版))ネモリズマブ(商品名:ミチーガ)ネモリズマブは、ヒト化抗ヒトIL-31受容体A(IL-31RA)モノクローナル抗体です。IL-31は、かゆみに重要な役割を果たすサイトカインで、主にTh2細胞から作られます。ネモリズマブは、アトピー性皮膚炎に伴うかゆみを改善する新しい発想の治療薬です。IL-31とアトピー性皮膚炎、そしてかゆみIL-31は、Th2細胞から産生され、アトピー性皮膚炎の皮膚病変部では、過剰に産生されていることが知られています1)。また、血清中のIL-31の濃度はアトピー性皮膚炎患者では上昇しており、病勢と相関していることが知られています2)。IL-31は神経線維が成長することを促進し、かゆみを増強する働きもあります3)。IL-31の受容体は神経線維や表皮角化細胞に分布しています。また、IL-31はバリア低下にも働くことが知られています4)。そして、この受容体は、感覚情報の中継点として機能する脊髄後根神経節に多く発現しており、かゆみを脳に伝えることにも深く関わっています5)。つまり、IL-31はかゆみに関係する神経を刺激して脳にそのかゆみを伝え、そして神経の成長を助けてかゆみを起こしやすくする働きがあります。この受容体は、IL-31RAとオンコスタチンM受容体(OSMR)が合わさってできており、ネモリズマブはそのうちIL-31RAに結合して働きを抑えます。ネモリズマブの効果第III相臨床試験の結果6)より、かゆみに関しては、1週目より有意な差がみられています。速やかなかゆみの改善という点を期待したいところです。ネモリズマブの副作用電子添文7)によると、アトピー性皮膚炎(18.5%)、皮膚感染症(ヘルペス感染、蜂巣炎、膿痂疹、二次感染など)(18.8%)が頻度の多い副作用です。ウイルス細菌真菌などによる重篤な感染症が3.4%に認められ、アナフィラキシー(血圧低下、呼吸困難、蕁麻疹など)などの重篤な過敏症が0.3%報告されています。使用上の注意ネモリズマブはかゆみを治療する薬剤であり、かゆみが改善した場合も含め、投与中はアトピー性皮膚炎に対して外用薬をはじめとした必要な治療を継続することが必要です。ネモリズマブはIgGという種類の抗体製剤ですので、胎盤や乳汁に移行することがあります。そのため、妊娠中や授乳中の投与は禁忌ではありませんが、治療上の有益性が投与の危険性を上回ると判断された場合にのみ使用することになっています。ネモリズマブの適応13歳以上のアトピー性皮膚炎に伴うそう痒(既存治療で効果不十分な場合に限る)となっています。ステロイド外用剤やタクロリムス外用剤などの抗炎症外用剤および抗ヒスタミン剤などの抗アレルギー剤による適切な治療を一定期間施行しても、そう痒を十分にコントロールできない患者さんが対象です。ネモリズマブの用法・用量ネモリズマブとして60mgを4週に1回皮下注射で投与します。在宅自己注射も可能です。ネモリズマブの薬価60mgシリンジ:11万7,181円1)Guttman-Yassky E, et al: J. Allergy Clin. 2019;143:155-172.2)Ezzat M H M, et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2011;25:334-339.3)Feld M, et al. J Allergy Clin Immunol. 2016;138:500-508.4)Cornelissen C, et al. J Allergy Clin Immunol. 2012;129:426-433.5)Furue M, et.al. Allergy. 2018;73:29-36.6)Kabashima K, et al. N Engl J Med. 2020;383:141-150.7)ミチーガ皮下注 電子添文(2023年11月改訂(第3版))トラロキヌマブ(商品名:アドトラーザ)トラロキヌマブは、IL-13を選択的に阻害するヒト免疫グロブリンIgG4モノクローナル抗体であり、IL-13がその受容体に結合するのをブロックします。IL-13はアトピー性皮膚炎の病変ができ、慢性化していくのに重要な働きをしますので、IL-13をブロックするのは合理的と考えられます。2022年12月に製造販売承認を取得、2023年3月に薬価基準に収載されました。2023年9月26日、アドトラーザ皮下注150mgシリンジが発売されました。IL-13の働きアトピー性皮膚炎の病変が持続するために重要な働きをするのが、Th2細胞というリンパ球です。Th2細胞は、IL-13やIL-4を産生することで皮膚のバリア機能低下、抗菌ペプチドの産生低下、IL-31というかゆみに関連するサイトカインの産生などを起こしてアトピー性皮膚炎の特徴的な病変を作ります。IL-13はIL-4と似た働きをしていますが、アトピー性皮膚炎の病態が作られる上で、IL-4よりIL-13のほうがより中心的な働きをしていることが知られています。また、線維化に関しても重要な役割を果たすことが解明され、アトピー性皮膚炎の慢性病変では苔癬化という皮膚がゴワついた感じになる病変ができますが、それにもIL-13の働きが重要であることが判明しています。トラロキヌマブの効果ステロイド外用剤併用下で、16週間トラロキヌマブを投与することで皮膚炎の重症度指標であるEASIが75%減少した患者割合であるEASI75は56.0%でした。これに対し外用薬だけの患者は35.7%でした。トラロキヌマブの適応従来の治療(ステロイド外用剤など)で十分な効果が得られない15歳以上のアトピー性皮膚炎患者トラロキヌマブの用法・用量トラロキヌマブはシリンジ製剤で、初回4本、その後2週間隔で2本を皮下注射します。現段階では在宅自己注射はできません。トラロキヌマブの薬価150mgシリンジ:2万9,295円アドトラーザ皮下注 電子添文(2023年9月改訂(第2版))

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