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第202回 麻疹感染が拡大、“真の死亡率”が報道されていない?

昨今、国内での麻疹患者の確認が話題だ。今年に入り3月13日までに確認された麻疹患者は11人。わずか3ヵ月弱で昨年の報告数28人の3分の1以上に達している。日本での麻疹はほぼ輸入感染症の様相を呈しているため、コロナ禍による入国制限があった2020~22年各年の報告数は10人以下だった。もっとも麻疹が感染症法で全数報告となった2008年からコロナ禍前の2019年までの年間報告数は、最大が2008年の1万1,013人、最小が2015年の35人、それ以外の年は200人弱から700人超だったことを考えれば、現状はまだコロナ禍の入国制限の影響を引きずった一過性の減少と言えるだろう。実際、出入国在留管理庁の統計を参照すると、日本の年間出入国者は2022年が約1,353万人、2023年が約7,052万人で、コロナ禍前の2019年の1億264万人までは復活していない。加えて世界保健機関(WHO)から麻疹の排除認定を受けていないインド、インドネシア、中国、ロシアなど、従来から日本への入国者が多い国からの入国者もいまだ2019年水準から見て数分の1というレベルである。一方、国内事情を考えると気になるのが麻疹ワクチンの接種状況である。現在の麻疹ワクチン接種は、いわゆる風疹との混合ワクチンの2回接種がスタンダードとなり、概して言えば、定期接種対象者の接種率は1回目接種が95%以上、2回目接種が90%台前半だが、2018~22年の接種率は経時的に漸減傾向にあり、この5年間で2~3%低下している。2022年度の1回目接種率は95.4%、2回目接種率は92.4%で、集団免疫獲得の目安とされる95%を超えるのは香川県のみ。続いて北海道、鹿児島県、沖縄県は90%未満である。その意味で現在の状況はかなり警戒度を高めなければならないことは疑いようがない。メディア各社もこの現状と麻疹ウイルスの感染力の強さ、ワクチン接種の有効率の高さなどを盛んに報じている。これ自体は非常に良い傾向だと思っている。もっとも各社の報道を見ているとバラツキを感じるのも現実だ。私が気になっているのは2点。1点目はワクチン接種に関してだ。現在では2回接種が基本となっているが、2000年4月以前に生まれた人は1回接種だったため*、免疫獲得が不十分な人がいる。麻疹ワクチン接種1回以下の世代は現時点で全員が成人であり、未成年よりも行動半径が広く、この世代の確実な免疫獲得は感染拡大阻止の成否に直結すると言っても過言ではない。しかも、麻疹の場合、子供の病気で成人にはあまり関係ないと思っている人は想像以上に多いのも問題である。*1990年4月2日~2000年4月1日に生まれた人は特例措置で中学1年生、高校3年生相当年齢に2回目接種が実施されているが、受けていない人もいる。2点目は麻疹の死亡率に関する報道である。国内の報道を散見する限り、感染者1,000人当たり1人が死に至るとの報道がほとんどだ。これ自体は先進国に関する一般論では正しいが、あくまで一般論である。国立感染症研究所が公表している日本国内の感染状況の年報と厚生労働省の人口動態統計をもとに試算すると、この数字は高い年度だと約250人に1人の時もある。「そこまで細かくなくとも…」というご意見はあるだろう。しかし、人とは不都合な情報ほど都合よく解釈するものである。たとえば100人に1人の確率で起こる悪い事象の場合、多くの人は“自分にはそれが起こらない、99人のほうだ”と勝手に思い込んでいる。その意味では危機を身近に感じてもらうためには、やや恐怖訴求になってしまっても、起きているよりワーストな現実を伝えることも必要である。麻疹のような極めて感染力が強い感染症の場合、とりわけこのシナリオを適用するほうが向いているとさえいえる。そんなこんなで巷の報道を横目で眺めながら、隔靴掻痒の感を抱いている(もちろんこの点を踏まえて自分も一般向け記事を執筆しようと思っているが)。

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新規2型経口生ポリオワクチン(nOPV2)、有効性・安全性を確認/Lancet

 新規2型経口生ポリオウイルスワクチン(nOPV2)は、ガンビアの乳幼児において免疫原性があり安全であることを、ガンビア・MRC Unit The Gambia at the London School of Hygiene and Tropical MedicineのMagnus Ochoge氏らが、単施設で実施した第III相無作為化二重盲検比較試験の結果を報告した。nOPV2は、セービン株由来経口生ポリオウイルスワクチンの遺伝的安定性を改善し、ワクチン由来ポリオウイルスの出現を抑制するために開発された。著者は、「本試験の結果は、nOPV2の認可とWHO事前認証を支持するものである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年2月22日号掲載の報告。ガンビアの乳児および幼児で、有効性、ロット間の同等性、安全性を検討 研究グループは、ガンビアにおいて2021年2~10月に、生後18週以上52週未満の乳児と1歳以上5歳未満の幼児を登録した。 乳児は、nOPV2の3ロットのうちの1つ(各群670例)またはbOPVの1ロット(335例)の計4群に、2対2対2対1の割合で無作為に割り付けられた。また、nOPV2の3群のうち、それぞれ224例は2回投与群(1回目投与の28日後に同じロットのnOPV2を投与)に、bOPV群も同様に112例が2回投与群に無作為に割り付けられた。 幼児は、nOPV2(ロット1)群またはbOPV群に1対1の割合で無作為に割り付けられ、28日間隔で2回投与を受けた。 免疫原性の主要アウトカムは、乳児におけるnOPV2ワクチン1回目投与28日後のポリオウイルス2型のセロコンバージョン(抗体陽転)率で、nOPV2の3群のうち各2群間のセロコンバージョン率の差の95%信頼区間(CI)が-10%から10%の範囲内にある場合、各ロットは同等であるとみなした。 忍容性および安全性の主要アウトカムは、投与後7日までの特定有害事象(solicited adverse events)、28日後までの非特定有害事象(unsolicited adverse events)、および投与後3ヵ月までの重篤な有害事象の発現率で、便中のポリオウイルス排泄量も調査した。全体で2回投与後の抗体保有率は93~96% 乳児2,346例が無作為に割り付けられ、2,345例がワクチンの投与を受け、2,272例が1回投与後の解析対象集団に、また746例が2回投与後の解析対象集団に組み入れられた。幼児は600例が無作為に割り付けられ、全例がワクチン投与を受けた。 乳児の1回投与群におけるセロコンバージョン率は、ロット1が48.9%、ロット2が49.0%、ロット3が49.2%であった。2ロット間のセロコンバージョン率の差の95%CIは、ロット1とロット2の比較で-5.5~5.4、ロット1とロット3の比較で-5.8~5.1、ロット2とロット3の比較で-5.7~5.2であり、ロット間の同等性が示された。 ベースラインにおいて血清陰性であった乳幼児におけるセロコンバージョン率は、乳児で1回投与後が63.3%(316/499例)(95%CI:58.9~67.6)、2回投与後が85.6%(143/167例)(79.4~90.6)、幼児ではそれぞれ65.2%(43/66例)(52.4~76.5)、83.1%(54/65例)(71.7~91.2)であった。 ベースラインにおいて血清陰性および血清陽性であった乳幼児における2回投与後の抗体保有率(血清中和抗体価が≧8を抗体保有と定義)は、乳児で92.9%(604/650例)(95%CI:90.7~94.8)、幼児で95.5%(276/286例)(92.4~97.6)であった。 安全性に関する懸念は認められなかった。1回目投与の7日後にポリオウイルス2型の排泄を認めた乳児は、187例中78例(41.7%)(95%CI:34.6~49.1)であった。

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第88回 麻疹以外でもKoplik斑が出る!?

イラストレインより使用先週も麻疹について取り上げましたが、東京都で感染者が報告されたことで、とうとう全国的にも麻疹が報道されるようになりました。私、先週からずっと言ってますからね!!「2峰目」前の診断が難しい麻疹は、症状でどこまで疑えるかがポイントになります。2峰性の経過なので、2峰目の発熱と発疹で「こりゃ麻疹やで!」ということになりますが、1峰目の発熱時にKoplikが口腔内にみられることがあり(写真1)、これが特異的な所見だと思われてきました。Koplikは、この所見が麻疹にみられることを発見した130年前の医師です(写真2)。「2峰目」前の診断が難しい麻疹は、症状でどこまで疑えるかがポイントになります。2峰性の経過なので、2峰目の発熱と発疹で「こりゃ麻疹やで!」ということになりますが、1峰目の発熱時にKoplikが口腔内にみられることがあり(写真1)、これが特異的な所見だと思われてきました。Koplikは、この所見が麻疹にみられることを発見した130年前の医師です(写真2)。       写真1. Koplik斑        写真2. Henry Koplik(1858~1927年)(Wikipediaより使用)写真1. Koplik斑写真2. Henry Koplik(1858~1927年)(Wikipediaより使用)2峰目で発見する前に麻疹らしいかどうかを判断する上で、Koplik斑は100年以上にわたって小児科医や内科医の間で「定番の所見」として君臨してきました。しかしながら、Koplik斑は感度や特異度についてまとまった報告がなく、他の感染症でも観察されるのではないかという見解もありました。Koplik斑の診断精度をみた国内3,000例以上の研究日本において、2009~14年にかけて、麻疹および麻疹が疑われる3,023例の全国調査が行われました1)。診断はPCRやRT-PCRを用いて行われ、合計3,023例が登録されました。このうち、Koplik斑が観察されたのは717例(23.7%)であり、麻疹と確定した症例の28.2%、風疹と確定した症例の17.4%、パルボウイルスB19感染症と確定した症例の2.0%にみられたのです。その他、アデノウイルス、ライノウイルス、ヘルペスウイルスでもKoplik斑が観察されました。この研究によると、麻疹の診断マーカーとしてのKoplik斑の感度は48%、特異度は80%と報告されています。つまり、風疹を含めた他のウイルス感染症でもKoplik斑が観察されるというわけです。もちろん周囲に麻疹の人がいれば事前確率は高くなりますが、一般的な発熱外来におけるKoplik斑は確実な所見とは言えないのかもしれません。参考文献・参考サイト1)Kimura H, et al. The Association Between Documentation of Koplik Spots and Laboratory Diagnosis of Measles and Other Rash Diseases in a National Measles Surveillance Program in Japan. Front Microbiol. 2019 Feb 18;10:269.

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コロナによる認知障害、症状持続期間による違いは?/NEJM

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)へ感染し、症状が消失・回復しても、症状の持続期間にかかわらず軽度の認知機能障害が認められた。英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのAdam Hampshire氏らが、オンライン評価による大規模コミュニティのサンプル調査(14万例超)の結果を報告した。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)後の認知機能障害はよく知られているが、客観的に測定可能な認知機能障害が存在するか、またどのくらいの期間持続するかは不明だった。NEJM誌2024年2月29日号掲載の報告。イングランドの成人を対象に認知機能のオンライン評価を実施 研究グループは、イングランドの試験に参加した成人80万例に対し、認知機能のオンライン評価の実施を依頼し、8タスクの全般的認知機能スコアを推定した。 感染発症後に12週間以上持続する症状を有した患者は、客観的に測定可能な全般的認知機能障害があり、とくに直近の記憶力低下または思考や集中困難(ブレインフォグ)を報告した患者では、実行機能と記憶の障害が観察されるだろうと仮説を立て、検証した。起源株感染者は、変異株感染者より認知機能障害の程度が大きい オンライン認知機能評価を開始した14万1,583例のうち、11万2,964例が評価を完了した。重回帰分析の結果、COVID-19症状が4週間未満で消失・回復した患者や12週以上症状が持続するも消失・回復した患者は、非COVID-19群(SARS-CoV-2に非感染または感染が不確定)と比較し、同程度に軽度の全般的認知機能障害を有していた(それぞれ、-0.23 SD[95%信頼区間[CI]:-0.33~-0.13]、-0.24 SD[-0.36~-0.12])。 一方、12週以上症状が持続し、認知機能評価時点においても消失していなかった患者は、非COVID-19群と比較し、認知機能障害の程度が大きかった(-0.42 SD、95%CI:-0.53~-0.31)。 起源株やB.1.1.7変異株が優勢の期間にSARS-CoV-2に感染した患者は、その後の変異株感染者より認知機能障害の程度が大きかった(たとえばB.1.1.7変異株vs.B.1.1.529変異株:-0.17 SD、95%CI:-0.20~-0.13)。また、入院した患者のほうが、入院しなかった患者より認知機能障害の程度が大きかった(たとえばICU入院患者:-0.35 SD、95%CI:-0.49~-0.20)。 解析結果は傾向スコアマッチング解析を実施しても同様だった。症状が持続する患者は非COVID-19群に比べて、記憶、推理、実行機能のタスクで障害が大きく(-0.33~-0.20 SD)、これらのタスクは、記憶力低下、ブレインフォグなどの最近の症状と弱い相関が認められた。 今回の結果を踏まえて著者は、「認知機能障害の長期的な持続の有無および臨床的影響は、依然として不明である」と述べている。

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認知症の診断、実は肝硬変の可能性も?

 高齢化した米国の退役軍人を対象とした新たな研究で、認知症と診断された人の10人に1人は、実際には肝硬変により脳に障害が生じている可能性のあることが示された。米リッチモンドVA医療センターのJasmohan Bajaj氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に1月31日掲載された。 肝硬変は、肝臓の肝組織が徐々に瘢痕化して機能障害を起こすもので、その発症要因には、年齢、男性の性別、アルコール性肝障害、肝炎ウイルス、うっ血性心不全など多数ある。肝硬変の症状の一つである肝性脳症は、本来、肝臓で分解されるはずのアンモニアが、肝硬変や肝臓がんなどによる肝機能の低下が原因で十分に分解されず、血液に蓄積して脳に達し、脳の機能が低下する病態を指す。 肝性脳症では、認知症の症状に似たせん妄や錯乱のエピソードが誘発されることがあるため、臨床症状に基づき両者を鑑別するのは困難な場合が多い。肝性脳症は多くの場合、治療可能であるが、認知症と誤診されることで治療が遅れる可能性がある。肝性脳症患者に治療が施されなければ、患者は昏睡状態に陥り、死に至ることさえある。Bajaj氏は、「肝臓の問題を早期に発見することで的を絞った介入が可能になり、認知機能低下の原因となる治療可能な要因に対処する道が開ける」と話す。 今回の研究でBajaj氏らは、米国退役軍人保健局(VHA)のデータから抽出した、2009年から2019年の間に認知症の診断を受けた17万7,422人(平均年齢78.35歳、男性97.1%)を対象に、未診断の肝硬変の有病率とそのリスク因子について検討した。対象者の中に肝硬変の診断を受けた者はいなかったが、肝臓の線維化を評価する指標であるFibrosis-4(FIB-4)を算出するのに十分な臨床検査(血液検査)の結果がそろっていた。 その結果、対象者の10.3%(1万8,390人)はFIB-4スコアが2.67以上と肝臓の線維化が進行しており、また5.3%(9,373人)ではスコアが3.25以上、つまり肝硬変の可能性が高いことが明らかになった。FIB-4スコア3.25以上と有意な関連を示した因子としては、高年齢(オッズ比1.07、95%信頼区間1.06〜1.09)、男性の性別(同1.43、1.26〜1.61)、うっ血性心不全(同1.48、1.43〜1.54)、ウイルス性肝炎(同1.79、1.66〜1.91)、アルコール使用障害同定テストのスコア(同1.56、1.44〜1.68)、慢性腎臓病(同1.11、1.04〜1.17)が確認された。これに対して、FIB-4スコア3.25以上は白人(同0.79、0.73〜0.85)、糖尿病(同0.78、0.73〜0.84)、脂質異常症(同0.84、0.79〜0.89)、脳卒中(同0.85、0.79〜0.91)、タバコ使用障害(同0.78、0.70〜0.87)、地方に居住していること(同0.92、0.87〜0.97)とは逆相関を示した。 さらに、リッチモンドVA医療センターの認知症患者から二つの検証コホートを作成し、これらのコホートのFIB-4スコアを計算した。その結果、一つのコホートではFIB-4スコアが2.67以上だった患者の割合が11.2%、もう一つのコホートでFIB-4スコアが高スコアだった患者の割合は4.4〜11.2%と類似した結果が得られた。 では、認知症と誤診されがちな肝硬変の診断数を増やすにはどうすればよいのだろうか。Bajaj氏は、肝臓の状態を定期的に評価することが誤診を減らす手始めになると考えている。同氏は、「肝臓の定期的な評価は、肝疾患による認知機能障害を治療して回復させる機会の提供につながり、それが多くの患者やその家族、医師を助けることになる」と話す。その上で同氏は、「本研究の最重要点は、治療可能な肝性脳症を認知症と誤って診断してしまう可能性があることを医師が認識するべきだということだ」と述べている。

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認知症発症の危険因子としてのコロナ罹患【外来で役立つ!認知症Topics】第15回

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行が始まってから、コロナと認知症との関係という新たなテーマが生まれた。まず予防には3密だと喧伝された。その結果、孤独化する高齢者が増えたので、認知症の発症が増加しているという報告が相次いだ。つまり孤独という認知症の危険因子を、コロナが一気に後押ししたという考え方である。そうだろうなとは思いつつ、このエビデンスは乏しかった。それから次第に前向きの疫学研究から、コロナ罹患と認知症発症との関係を報告するものが出てきた。そして最近では、こうしたもののレビューも報告されるようになり、なるほど、こういうことかとポイントが見えてきた。そこで今回は、認知症発症の危険因子としてのコロナ罹患を中心にまとめてみたい。スペイン風邪と認知症の関連は?まず人畜共通感染症による第1のパンデミックとされる「スペイン風邪(Spanish Flu)」を連想した。というのは、コロナはスペイン風邪をしのぐ人畜共通感染症によるパンデミックをもたらしたからだ。スペイン風邪の原因は、トリインフルエンザウイルスとヒトインフルエンザウイルスの遺伝子が混ざり合った新型のウイルス(Influenza A virus subtype H1N1の亜系)だと考えられている。そこで1918年の第1次世界大戦当時に世界的に流行したこのスペイン風邪の認知症への影響はどうだったのかと調べてみた。説得力の強いものに、デンマークで1918年当時妊娠中の母親の胎内にあったヒトに注目し、対象とコントロールで合計28万人余りのデータを用いた研究がある1)。ここでは、該当者が62~92歳に達した期間において、あらゆる認知症性疾患についての発症に注目し、その相対危険度を調査している。その結果、スペイン風邪罹患と認知症発症の間には有意な関係はなかったとされる。この報告のように、どうも積極的に両者の関係を指摘する報告は乏しいようだ。コロナと認知症、追跡期間が長いほど発症率が上昇?さてコロナについて成された近年の報告のレビューが注目された2)。多くの研究結果からは、コロナに罹患することでアルツハイマー病を含むすべての認知症の発症率はおよそ2倍と考えられている。実際、これまでの報告の多くは、60歳以上のヒトにおいては、コロナに罹患することで、亜急性期、慢性期の認知症発症は確かに高まりそうだと報告している。もっとも、コロナ罹患による認知症発症への影響力は、他の呼吸器系のインフルエンザ感染や細菌感染と大差がないとの結論になっている。一方で興味深いのは、追跡期間の違いによる認知症の発症率の相違である。すなわち発症から3ヵ月間もしくは6ヵ月間追跡した研究に比べて、1年間追跡した研究では認知症の発症率が高くなっているのである。このことは、コロナによる認知症の発症は、罹患ののち長期間にわたって続くことを示唆している。また疫学から、なぜコロナが認知症とくにアルツハイマー病に関連するかについてのレビューも興味深い3)。まずコロナへの罹患しやすさについては、加齢が最大にして唯一の危険因子だとされる。そしてその背景として高血圧、糖尿病、心疾患など、いわゆる生活習慣病が考えられている。またこうした要因が、回復を遅くすることも事実である。さらに、最初に述べたような孤独化と普通の生活に戻れないことが高齢者においてうつ病や不安を生じる間接的な要因になることも関係しているだろうとされる。ところで、すでに認知症であった人が、パンデミックによって社会的な交流がなくなったり、ケアが手薄になったりしたことで死亡率が高まった可能性もあることが述べられている。実際、パンデミック時代になってから、コロナ感染の有無にかかわらず、認知症者の死亡率が25%も高まったことを報告したメタアナリシスもある4)。認知症発症の原因として注目される炎症こうしたコロナによる認知機能の低下や認知症発症の原因として最も注目されるのは炎症、とくにこれに関わるサイトカインであろう。このサイトカインとは、ある細胞から他の細胞に情報伝達するための物質である。その中でも有名なのは、インターフェロンやインターロイキンだろう。感染量が多くなるほど、サイトカインも大量に放出されるが、それが著しい場合はサイトカインストーム(免疫暴走)と呼ばれる。サイトカインストームが起こることで大脳組織の炎症が生じる結果、認知機能に障害が生じる。なお近年では、アルツハイマー病の病因仮説として、脳の炎症説は主流の1つとなっている。また別の説として、新型コロナウイルスは、微小血管に障害をもたらし、肺の組織を障害することによって、大脳への酸素の流れに支障を来すことに注目するものがある。さらには、新型コロナウイルスとアミロイドやタウとの関係にも注目するもの、あるいはアルツハイマー病の危険因子とされるAPOE4を介して発症に関係するという考えなどもある。いずれにせよ現時点において新型コロナウイルスと認知症の発症との関係について確立しているわけではない。今後の長期的なフォローアップにより、少しずつ解明が進んでいくと思われる。参考1)Cocoros NM, et al. In utero exposure to the 1918 pandemic influenza in Denmark and risk of dementia. Influenza Other Respir Viruses. 2018;12:314-318.2)Sidharthan C. COVID-19 linked to higher dementia risk in older adults, study finds. News-Medical.Net. 2024 Feb 9.3)Axenhus M, et al. Exploring the Impact of Coronavirus Disease 2019 on Dementia: A Review. touchREVIEWS in Neurology. 2023 Mar 24.4)Axenhus M, et al. The impact of the COVID-19 pandemic on mortality in people with dementia without COVID-19: a systematic review and meta-analysis. BMC Geriatr. 2022;22:878.

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第205回 コロナ感染で自己免疫性リウマチ性疾患が生じ易くなる

コロナ感染で自己免疫性リウマチ性疾患が生じ易くなる日本と韓国のそれぞれ1,200万例強と1,000万例強のデータを使った試験で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と自己免疫性炎症性リウマチ性疾患(AIRD)のリスク上昇が関連しました1,2)。自己抗原の許容が損なわれて生じる慢性の全身性筋骨格系炎症疾患一揃いがAIRDに属します3)。具体的には、関節リウマチ(RA)、強直性脊椎炎(AS)、全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性硬化症(SSc)、シェーグレン症候群、特発性炎症性筋炎、全身性血管炎がAIRDに含まれます。COVID-19患者がAIRDに含まれるそれら自己免疫疾患をどうやらより生じ易いことが先立ついくつかの試験で示唆されています。それらの試験はいずれも新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染者と非感染者の比較に限られ、インフルエンザなどの他のウイルス感染ではどうかは調べられていません。また、COVID-19後の長期の合併症の予防に寄与しうるワクチン接種などの影響の検討もなされていません。今回新たに発表された試験では、COVID-19後のAIRD発生率が非感染者に加えてインフルエンザ感染者とも比較されました。COVID-19後のAIRD発生率上昇がもし認められたとして、それがCOVID-19に限ったことなのか呼吸器のウイルス感染症で一般的なことなのかをインフルエンザとの比較により推し量ることができるからです。また、COVID-19ワクチンにSARS-CoV-2感染後のAIRD予防効果があるかどうかも調べられました。試験ではCOVID-19かインフルエンザの患者のそれらの診断から12ヵ月までの経過とそれらのどちらも感染していない人(非感染者)の経過を追いました。その結果、先立つ試験と同様にCOVID-19患者は非感染者に比べてAIRDをより被っていました。また、COVID-19患者のAIRD発生率はインフルエンザ患者より高いことも示されました。韓国と日本のCOVID-19患者のAIRD発生リスクは非感染者をそれぞれ25%と79%上回りました。また、インフルエンザ患者との比較ではCOVID-19患者のAIRD発生率がそれぞれ30%と14%高いという結果となっています。軽症のCOVID-19患者ではワクチン接種とAIRD発生率低下の関連が認められましたが、中等症~重症のCOVID-19患者ではワクチン接種のAIRD抑制効果は認められませんでした。また、より重症のCOVID-19患者ほどAIRDをより被っていました。COVID-19を経た患者、とくに重症だった患者の診察ではAIRDの発生に注意する必要があると著者は言っています。参考1)Kim MS, et al. Ann Intern Med. 2024 Mar 5. [Epub ahead of print]2)COVID-19 associated with increased risk for autoimmune inflammatory rheumatic diseases up to a year after infection / Eurekalert3)Kim H, et al. Semin Arthritis Rheum. 2020;50:526-533.

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第185回 国内外で広がるはしかの脅威、予防接種の呼びかけ/厚労省

<先週の動き>1.国内外で広がるはしかの脅威、予防接種の呼びかけ/厚労省2.地域包括医療病棟の導入で変わる高齢者救急医療/厚労省3.電子処方箋の導入から1年、病院での運用率0.4%と低迷/厚労省4.公立病院の労働環境悪化、公立病院の勤務者の8割が退職願望/自治労5.見劣りする日本の体外受精の成功率、成功率を上げるためには?6.ALS患者嘱託殺人、医師に懲役18年の判決/京都地裁1.国内外で広がるはしかの脅威、予防接種の呼びかけ/厚労省厚生労働省の武見 敬三厚生労働省大臣は、関西国際空港に到着したアラブ首長国連邦(UAE)発の国際便に搭乗していた5人から、はしかの感染が確認されたことを3月8日に発表した。この感染者は、2月24日にエティハド航空EY830便で関空に到着し、岐阜県で1人、愛知県で2人、大阪府で2人が感染していることが判明している。武見厚労相は、はしかの感染疑いがある場合、公共交通機関の利用を避け、医療機関に電話で相談するよう国民に強く呼びかけた。また、はしかは空気感染するため、手洗いやマスクでは予防が難しく、ワクチン接種が最も有効な予防策であることを強調した。はしかは世界的に流行しており、2023年の感染者数は前年の1.8倍の30万人を超え、とくに欧州地域では前年の60倍に当たる5万8,114人と大幅に増加している。国内でも感染が広がる可能性があり、すでに複数の感染者が報告されている。はしかには10~12日の潜伏期間があり、発症すると高熱や発疹が出現し、肺炎や脳炎などの重症化リスクがある。武見厚労相は、国内での感染拡大を防ぐために、ワクチン接種を含む予防策の徹底を呼びかけ、2回のワクチン接種で95%以上の人が免疫を獲得できるとされ、国は接種率の向上を目指しているが、2回目の接種率が目標に達していない状況。参考1)はしか、厚労相が注意喚起 関空到着便の5人感染確認(毎日新聞)2)はしかの世界的流行 欧州で60倍 国内も感染相次ぐ 国が注意喚起(朝日新聞)3)麻しんについて(厚労省)2.地域包括医療病棟の導入で変わる高齢者救急医療/厚労省厚生労働省は、2024年度の診療報酬改定について3月5日に官報告示を行ない、新たに急性期病床として設けられる「地域包括医療病棟」の詳細について発表した。この病棟は、とくに高齢者の救急搬送に応じ、急性期からの早期離脱を目指し、ADL(日常生活動作)や栄養状態の維持・向上に注力する。この病棟は、看護師の配置基準が「10対1以上」で、かつリハビリテーション、栄養管理、退院・在宅復帰支援など、高齢者の在宅復帰に向けて一体的な医療サービスを提供することが求められている。また、理学療法士や作業療法士などのリハビリ専門職を2名以上、常勤の管理栄養士を1名以上配置することを求めている。地域包括医療病棟入院料は、DPC(診断群分類)に準じた包括範囲で設定され、手術や一部の高度な検査は出来高算定が可能とされ、加算ポイントとしては、入院初期の14日間には1日150点の初期加算が認められる。さらに、急性期一般入院料1の基準が厳格化され、急性期から地域包括医療病棟への移行を促す。この改定により、急性期病棟、地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟という3つの機能区分が明確にされ、患者のニーズに応じた適切な医療提供の枠組みが整うことになる。この改革の背景には、高齢化社会における救急搬送患者の増加と、それに伴う介護・リハビリテーションのニーズの高まりがあり、地域包括医療病棟は、これらの課題に対応するため、急性期治療後の患者に対して継続的かつ包括的な医療サービスを提供することを目指す。参考1)地域包括医療病棟、DPC同様の包括範囲に 診療報酬改定を告示(CB news)2)新設される【地域包括医療病棟】、高齢の救急患者を受け入れ、急性期からの離脱、ADLや栄養の維持・向上を強く意識した施設基準・要件(Gem Med)3)令和6年度診療報酬改定の概要[全体概要版](厚労省)【動画】3.電子処方箋の導入から1年、病院での運用率0.4%と低迷/厚労省電子処方箋の運用開始から1年、全国の医療機関や薬局において導入が約6%にとどまっていることが明らかになった。とくに病院の運用開始率は0.4%と非常に低く、25道県では運用を始めた病院が1つもない状況。導入が進まない主な理由として、高額な導入費用、医療機関や薬局が緊要性を感じていないこと、さらには患者からの認知度の低さが挙げられている。電子処方箋は、医療のデジタル化推進の一環として導入され、医師が処方内容をサーバーに登録し、患者が薬局でマイナンバーカードか健康保険証を提示することで、薬剤師がデータを確認し、薬を渡す仕組み。これにより、患者の処方履歴が一元化され、重複処方の防止や薬の相互作用チェックなど、医療の質向上が期待されている。政府は、2025年3月までに約23万施設での電子処方箋の導入を目指しており、システム導入費用への補助金拡充などを通じて、その普及を後押ししていく。しかし、病院での導入費用が約600万円、診療所や薬局では55万円程度が必要であることが普及の大きな障壁となっている。3月3日時点で、電子処方箋の運用を始めた施設は計1万5,380施設に達しているが、そのうち薬局が全体の92.4%を占めており、医科診療所、歯科診療所、病院での導入は遅れている。厚労省は、診療報酬改定に伴うシステム改修のタイミングでの導入を公的病院に要請しており、導入施設数の増加を目指す。参考1)電子処方箋の導入・運用方法(社会保険診療報酬支払基金)2)電子処方箋導入わずか6% 運用1年、費用負担も要因(東京新聞)3)電子処方箋、病院の「運用開始率」0.4%-厚労省「緊要性を感じていない」(CB news)4.公立病院の労働環境悪化、公立病院の勤務者の8割が退職願望/自治労公立・公的病院で働く看護師、臨床検査技師、事務職員など約8割が現在の職場を辞めたいと考えていることが、全日本自治団体労働組合(自治労)の調査によって明らかになった。この調査は、47都道府県の公立・公的病院勤務者1万184人を対象に実施され、36%がうつ的症状を訴えていた。理由としては、業務の多忙、人員不足、賃金への不満が挙げられており、とくに「業務の多忙」を理由とする回答が最も多く、新型コロナウイルス感染症が5類へ移行した後も、慢性的な人員不足や業務の過多が改善されていない状況が背景にあると分析されている。新型コロナ関連の補助金減額による病院経営の悪化と人件費の抑制も、問題の一因とされている。自治労は、業務量に見合った人員確保や公立・公的医療機関での賃上げ実施の必要性を訴えているほか、医師の働き方改革に伴い、医療従事者全体の労働時間管理や労働基準法の遵守が必要だとしている。参考1)公立病院の看護師ら、8割が「辞めたい」 3割超がうつ症状訴え(毎日新聞)2)公立病院の看護師など 約8割“職場 辞めたい” 労働組合の調査(NHK)3)「職場を辞めたい」と感じる医療従事者が増加-衛生医療評議会が調査結果を公表-(自治労)5.見劣りする日本の体外受精の成功率、成功率を上げるためには?わが国は「不妊治療大国」と称されながらも、体外受精の成功率は10%台前半に留まり、米国や英国と比べ約10ポイント低い状況であることが明らかになった。日経新聞の報道によると、不妊治療に取り組むタイミングの遅れが主な原因とされている。不妊治療の開始年齢が遅いことによる成功率の低下は、出産適齢期や妊娠についての正確な知識の提供が不足していることと関係しており、わが国の「プレコンセプションケア(将来の妊娠を考えながら女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合うこと)」の取り組みが十分ではないことによる。わが国は、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療の件数が世界で2番目に多いにもかかわらず、出産数に対する成功率は低いままであり、この理由として年齢が上がるほど、成功に必要な卵子の数が減り、治療開始の遅れだけでなく、高齢になるにつれて卵子の質が低下することにも起因する。不妊治療の体験者からは、治療の長期化による心身への負担や、職場での理解不足による仕事と治療の両立の困難さが指摘されている。また、不妊治療について適切な時期に関する情報が不足していることも、問題として浮き彫りになっている。企業や自治体による不妊治療支援は徐々に広がりをみせているが、職場での不妊治療への理解を深め、支援体制を構築することが求められる。NPOの調査によれば、治療経験者の多くが職場の支援制度の不足を訴えており、不妊治療に関する休暇・休業制度や就業時間制度の導入が望まれている。参考1)不妊治療、仕事と両立困難で働き方変更39% NPO調査(日経新聞)2)不妊治療大国、日本の実相 体外受精の成功率10%台前半(日経新聞)3)プレコンセプションケア体制整備に向けた相談・研修ガイドライン作成に向けた調査研究報告書(こども家庭庁)6.ALS患者嘱託殺人、医師に懲役18年の判決/京都地裁京都地裁は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う女性への嘱託殺人罪などで起訴された被告医師(45)に対し、懲役18年の判決を下した。女性の依頼に応えて行ったとされる殺害行為について、被告は「願いをかなえた」ためと主張し、弁護側は自己決定権を理由に無罪を主張したが、裁判所はこれを退け、「生命軽視の姿勢は顕著であり、強い非難に値する」と述べた。判決では、「自らの命を絶つため他者の援助を求める権利は憲法から導き出されるものではない」と指摘、また、社会的相当性の欠如やSNSでのやり取りのみで短期間に殺害に及んだ点を重視した。被告の医師は2019年、別の被告医師と共謀し、女性を急性薬物中毒で死亡させたとされ、さらに別の殺人罪でも有罪とされた。事件について、亡くなった女性の父親は「第2、第3の犠牲者が出ないことを願う」と述べ、ALS患者の当事者からは、「生きることを支えられる社会であるべき」という訴えがされていた。判決は、医療行為としての嘱託殺人の範囲や自己決定権の限界に関する議論を浮き彫りにした。参考1)ALS嘱託殺人、医師に懲役18年判決 京都地裁「生命軽視」(日経新聞)2)ALS女性嘱託殺人 被告の医師に対し懲役18年の判決 京都地裁(NHK)3)「命絶つため援助求める権利」憲法にない ALS嘱託殺人判決、弁護側主張退ける(産経新聞)

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事例043 クレナフィン爪外用液10% 7.12gの査定【斬らレセプト シーズン3】

解説高血圧症で通院中の患者から「足の爪白癬にかかる薬が欲しい」と相談を受けました。目視で爪白癬を確認し、他院で真菌検査をされたことを患者に確認し、エフィナコナゾール(商品名:クレナフィン爪外用液)を当院で投与したところ、多くの場合に病名不足を示すA事由(医学的に適応と認められないもの)にて査定になりました。査定理由を調べるために添付文書をみました。効能または効果に関連する注意に「直接鏡検又は培養等に基づき爪白癬であると確定診断された患者に使用すること」と記載されていました。レセプトには、「他院で検査済み」とコメントの記入があります。査定理由が見当たらないために、まずは他院の査定状況を調べてみました。複数医療機関において審査支払機関から「2年以内に細菌顕微鏡検査を行っていない場合、(クレナフィン投与は)医学的に必要性を認められない」との指摘があることがわかりました。今回の査定は、いつ検査が行われたのか不明だったために、この規定が適用され、病名不足ではなく、医学的に保険診療上の適用とならないと判断されたものと推測しました。医師には、検査の裏付けがない投与はできないことを伝え、投与が必要な場合には自院で検査を行うか、専門医への紹介をお願いしました。レセプトチェックシステムでは対応が遅れるために、薬剤処方時に検査の施行が必須であることを表示させて査定対策としました。なお、クレナフィン爪外用液7.12gについては、必要とする部位がレセプトに表示されていない場合、最大3本を超えた部分が認められていないことを申し添えます。

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新型コロナ公費支援、3月末で終了を発表/厚労省

 厚生労働省は3月5日付の事務連絡にて、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の医療提供体制および公費支援について、予定どおり2024年3月末をもって終了し、4月以降は通常の医療体制とすることを発表した1)。新型コロナの医療提供体制については、2023年5月8日に5類感染症変更に当たり特例措置が見直され、同年10月に公費支援を縮小し、2024年3月末までが「移行期間」であった。4月以降、医療機関への病床確保料や、患者のコロナ治療薬の薬剤費および入院医療費の自己負担に係る支援、高齢者施設への補助などが打ち切りとなる。無料で行われてきた新型コロナワクチンの特例臨時接種も予定どおり3月末で終了する。新型コロナの特例的な財政支援の終了について記載された資料も公開された2)。医療提供体制の移行(外来・入院・入院調整) 外来医療体制については、移行期間に各都道府県が策定した移行計画に沿って、外来対応医療機関数のほか、かかりつけ患者以外に対応する医療機関数が拡充されてきた。4月以降は広く一般の医療機関による対応に移行し、外来対応医療機関の指定・公表の仕組みは3月末をもって終了する。 4月から病床確保料は廃止となる。2023年10月~2024年3月末の病床確保料の金額は、ICUの場合、特定機能病院等では1日17万4,000円、一般病院では1日12万1,000円。HCUの場合、一律1日8万5,000円。その他病床の場合、特定機能病棟等では1日3万円、一般病院では1日2万9,000円であった。 4月以降の新型コロナ患者の入院先の決定(入院調整)は医療機関間で行う。医療機関等情報支援システム(G-MIS)での受け入れ可能病床数および入院患者数が入力できる日時調査等の項目は残される。厚労省からの入力依頼は3月末で終了するが、4月以降は都道府県で必要に応じて管轄下の医療機関に対してG-MISの入力を依頼するなどの活用が可能だ。令和6年度診療報酬改定での感染症への対応 6月1日からの施行となる令和6年度診療報酬改定では、コロナに限らない感染症を対象とした恒常的な対策へと見直されるが、新型コロナを含む感染症患者への診療も一定の措置が取られる。新興感染症に備えた第8次医療計画に合わせ、診療報酬上の加算要件(施設基準)も強化される。 外来感染対策向上加算の医療機関を対象に、発熱患者等への診療に加算(+20点/回)や、とくに感染対策が必要な感染症(新型コロナ含む)の患者入院の管理を評価し、(1)入院加算の新設(+100~200点/日)、(2)個室加算の拡充(+300点/日)、(3)リハビリに対する加算の新設(+50点/回)が行われる。新型コロナ患者等に対する公費支援の終了 新型コロナ患者の治療費および入院医療費については、一定の自己負担ともに公費支援が継続されてきたが、3月末で終了する。4月以降は、他の疾病と同様に、医療保険の自己負担割合に応じて負担することとなるが、医療保険における高額療養費制度が適用され、所得に応じた一定額以上の自己負担が生じない取り扱いとなる。 3月末までは新型コロナ治療薬の薬剤費のうち、医療費の自己負担割合に応じて3割負担の人で9,000円、2割負担の人で6,000円、1割負担の人で3,000円という上限額が設けられ、これらの上限額を超える部分を公費で負担していたが、4月以降は公費負担を終了する3)。 4月以降の新型コロナ治療薬の1治療(5日分)当たりの薬価と自己負担額の目安は以下のとおり。・モルヌピラビル(ラゲブリオ):約9万4,000円 1割負担:9,400円、2割負担:1万8,800円、3割負担:2万8,200円・ニルマトレルビル/リトナビル(パキロビッド):約9万9,000円 1割負担:9,900円、2割負担:1万9,800円、3割負担:2万9,700円・エンシトレルビル(ゾコーバ):約5万2,000円 1割負担:5,200円、2割負担:1万300円、3割負担:1万5,500円 入院医療費については、3月末まで高額療養費制度の自己負担額限度額から最大1万円の減額が行われていたが、4月以降は他の疾病と同様に、医療保険の負担割合に応じた通常の自己負担と、必要に応じて高額療養費制度が適用となる。 高齢者施設等については、約9割が医療機関との連携体制を確保し、感染症の予防およびまん延防止のための研修と訓練を実施していることが確認されたため、3月末までで新型コロナに関わる高齢者施設等への支援も終了する。令和6年度介護報酬改定において、今後の新興感染症の発生に備えた高齢者施設等における恒常的な取り組みとして、新興感染症発生時に施設内療養を行う高齢者施設等を評価する加算の創設などを行う。ゲノムサーベイランスは継続 そのほかの措置として、各自治体が実施しているゲノムサーベイランスについては、実施方法を見直したうえで4月以降も継続する方針で、引き続き行政検査として取り扱われる。また、自治体が設置している相談窓口機能について、今後の対応は各自治体の判断によるが、厚労省では4月以降も新型コロナ患者等に対する相談窓口機能が設けられる予定だ。新型コロナ緊急包括支援交付金(医療分)終了 新型コロナへの対応として、都道府県の取り組みを包括的に支援することを目的として行われてきた「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(医療分)」については、3月末で終了する。救急で新型コロナ対応として使用する個人防護具(PPE)について、都道府県や市町村が購入する場合の費用も本措置の補助対象であった。

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第87回 「そもそも麻疹を診たことがない」

フタバのフリーイラストより使用世界保健機関(WHO)から「西太平洋諸国は予防接種とサーベイランスのギャップによって麻疹発生のリスクにさらされている」という衝撃的な記事が公開されました1)。輸入リスクが高い国として、日本も麻疹の知識を身に付けておく必要があるでしょう。「西太平洋地域では2023年、世界の他の地域でみられるような大規模な麻疹の流行は発生しなかったが、この地域で360万人の子供たちが2020~22年にかけて定期予防接種を受けられなかった。世界中で麻疹が再流行しており、麻疹の輸入リスクが増大している」定期的に観測される麻疹例2月26日、奈良市保健所が、外国人観光客の20代男性が麻疹に感染していると報告しました。19日に発熱・発疹があり、同感染症と診断されました。保健所は、その行動を細かく報告しています。いつ、どこの観光都市から奈良県にやって来たのか、移動手段は何を使ったのか、など。さらに、3月1日には東大阪市でも20代男性の麻疹感染例が確認されました。なぜここまで詳細なコンタクトトレースをするかというと、麻疹の基本再生産数(R0)は12~18といわれており、1人の発症者から多くの感染者を生み出すことで知られているためです。麻疹のR0はインフルエンザウイルスの約10倍で、免疫がない人が接触すると、ほぼ100%感染するといわれています。しかし、現在はワクチンのおかげで麻疹というものは流行しなくなりました。「なぜこんなに慌てるんですか?」と感じている医療従事者もいるかもしれません。私が子供のときは、麻疹にかかる人はそれなりにいたので、いやほんとジェネレーションギャップを感じます。麻疹が全数届出になった2008年の年間届出数は約1万例で、そのあとは激減の一途をたどっており、2022年はわずか6例でした。ここまで減るかというくらい、本当に減ったのです。もはやレアな疾患ですから、複数例アウトブレイクしようものなら、報道になるのです。ワクチン接種歴の確認を医療従事者に限ったことではありませんが、自身に麻疹ワクチン接種歴があるかどうか、母子手帳がある人はご確認ください。麻疹ワクチンが定期接種になったのは1978年で、当時1回の定期接種でした。1回の接種では十分な免疫がないため、2008年に特例措置によって、追加接種が行われました。そのため、2000年以降に生まれた方は、2回の定期接種を受けている可能性が高いでしょう。私みたいなオッサン世代が一番自分自身のワクチン接種歴を把握していなかったりするので、一度皆さんご確認ください(表)。追加接種は自費ですが、たいがい1万円以内で接種できますし、成人でも接種可能です。画像を拡大する表. 麻疹のワクチン接種歴(筆者作成)麻疹の臨床経過麻疹の症状についておさらいしておきましょう。教科書で知っていても、目の前にやって来ると診断できない可能性があります。まず潜伏期間ですが、10~12日と長いです。接触感染だけでなく、空気感染する点に注意が必要です。そのため、R0がむちゃくちゃ高いのです。初発症状は、発熱、咳、鼻水、のどの痛みなど感冒症状があります。いったん治癒すると思われた矢先、高熱と発疹が同時にやって来ます(図)。この激烈な「2峰性」が麻疹の特徴です。発疹が出てくる1~2日前に口の中の頬の裏側に、やや隆起した小さな白い斑点(Koplik斑)が出現することが特徴的といわれてきましたが、風疹や他のウイルス感染症でも出現することがわかっており、必ずしも特異度が高いとは言えません。画像を拡大する図. 麻疹の典型的経過(筆者作成)成人の場合、中途半端な免疫がある場合(1回接種者など)、軽症で非典型的な「修飾麻疹」になることがあります。そうなるとさらに診断が困難となります。何よりも、いざというときに麻疹の存在を疑えることが重要といえます。参考文献・参考サイト1)WHO:Western Pacific countries at risk of measles outbreaks due to immunization and surveillance gaps. 2024 Mar 1.

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ウイルス性肝疾患による死亡リスクは女性の方が高い

 飲酒やメタボリックシンドローム(MetS)が関与して生じる肝臓の病気は、男性に比べて女性は少ないものの、それによる死亡率は男性よりも女性の方が高いことが報告された。青島大学医学院付属医院(中国)のHongwei Ji氏、米シダーズ・サイナイ医療センター、シュミット心臓研究所のSusan Cheng氏が、米国国民健康栄養調査(NHANES)のデータを解析した結果であり、「Journal of Hepatology」2月号にレターとして掲載された。 肝臓の病気の原因のうち、C型肝炎などのウイルスによるものは治療が進歩して患者数が減少している一方で、MetSなどの代謝性疾患に伴う脂肪性肝疾患「MASLD」やアルコール関連の肝疾患「ALD」、および代謝性疾患とアルコール双方の影響による肝疾患「MetALD」と呼ばれる肝疾患が増加している。Cheng氏は、それらの肝疾患の有病率と死亡率の実態を性別に検討した。 1988~1994年のNHANES参加者から、20歳未満および解析に必要なデータのない人を除外し、1万7人(平均年齢42±15歳、女性50.3%)を解析対象とした。各疾患の定義は、MASLDについては心臓代謝疾患のリスク因子があること、ALDは飲酒量がアルコール換算で男性420g/週超、女性350g/週超、MetALDは同順に210~420g/週、140~350g/週であり、画像検査で脂肪肝が確認されたものとした。 各疾患の患者数は、MASLDが1,461人、ALDが105人、MetALDが225人だった。これらの有病率を性別に見ると大きな性差が認められ、3タイプの疾患の全て、男性の有病率の方が高かった。具体的には、男性ではMASLD、ALD、MetALDの順に18.5%、1.7%、3.2%であるのに対し、女性は10.3%、0.3%、1.2%だった(すべてP<0.001)。一方、死亡リスクについては以下のように、女性の方が高い傾向にあった。 中央値26.7年の追跡で、2,495人の死亡が記録されており、年齢やBMI、人種、喫煙習慣、収縮期血圧、脂質異常症、糖尿病、降圧薬・血糖降下薬・脂質低下薬の処方、世帯収入などを調整後の死亡ハザード比を性別に検討。すると、MetALDに関しては女性でのみ有意なリスク上昇が確認された〔男性1.00(95%信頼区間0.79~1.28)、女性1.83(同1.29~2.57)。ALDは男性・女性ともに有意なリスク上昇が確認されたが〔男性1.89(1.42~2.51)、女性3.49(1.86~6.52)〕、女性のリスクの方が高い傾向にあった(P=0.080)。MASLDは男性・女性ともに有意なリスク上昇は観察されなかった。 MetALDの「Met」とは「代謝性の」という意味の「metabolic」の略であり、肝臓への脂肪の蓄積を引き起こす可能性がある代謝性の問題、つまり肥満や糖尿病、高血圧、脂質異常症を指している。研究グループでは、「これらのリスク因子のいずれかが該当する女性は、飲酒には特に注意が必要」と述べ、その理由を「飲酒と代謝の問題が組み合わさると、肝臓に脂肪がより蓄積しやすくなるからだ」と解説している。 しかし、なぜ女性の肝臓がこれらの変化に対して、男性よりも脆弱であるのかはまだ明らかにされていない。Cheng氏らは現在、その理由の解明と、そのようなリスクの抑制につながる介入方法の確立に向けて、新たな研究を計画している。

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RSウイルスの疾病負担、早産児で長期的に増大/Lancet

 早産児は、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)関連疾患の負担が過度に大きく、乳幼児のRSVによる入院の25%が早産児であり、とくに早期早産児で入院のリスクが高く、この状態は生後2年目までは続くことが、中国・南京医科大学のXin Wang氏らRespiratory Virus Global Epidemiology Networkが実施したRESCEU研究で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年2月14日号に掲載された。2歳未満の早産児の疾患負担をメタ解析で評価 研究グループは、在胎週数37週未満で出生した乳幼児におけるRSV関連の重症急性下気道感染症(ALRI)の世界的な疾病負担とリスク因子の評価を目的に、系統的レビューとメタ解析を行った(EU Innovative Medicines Initiative Respiratory Syncytial Virus Consortium in Europeの助成を受けた)。 1995年1月1日~2021年12月31日に発表された研究の集計データと、Respiratory Virus Global Epidemiology Networkが共有する呼吸器感染症に関する個々の患者データを用いて、早産で出生した2歳未満の乳幼児の地域におけるRSV関連ALRIの発生率、入院率、院内死亡率、および全死亡率を推定した。在胎週数32週未満を早期早産、32~<37週を後期早産とした。2019年のALRI 165万件、入院53万3,000件 47件の論文と、共同研究者の提供による個々の患者データを含む17件の研究を解析の対象とした。 2019年には、世界の早産児において、生後0~<12ヵ月にRSV関連ALRIエピソードが165万件(95%不確実性範囲[UR]:135万~199万)発生したと推定され、このうち154万件(93%)が開発途上国であった。 同様に、RSV関連入院は53万3,000件(95%UR:38万5,000~73万)で、このうち49万3,000件(92%)が開発途上国、RSV関連院内死亡は3,050件(95%UR:1,080~8,620)で、2,700件(88.5%)が開発途上国で発生した。また、RSVに起因する死亡が早産児で2万6,760件(95%UR:1万1,190~4万6,240)発生しており、これは全乳幼児のRSV死の40%(17~65)に相当した。早期早産児でALRIの発生率と入院率が高い 早期早産児では、RSV関連ALRIの発生率と入院率が、すべての在胎週数で出生した乳幼児と比較して有意に高かった(年齢別、アウトカム別の率比[RR]の範囲は1.69~3.87)。また、生後2年目(12~<24ヵ月)には、早期早産児は全乳幼児と比較して、RSV関連ALRIの発生率は同程度であったが、入院率は有意に高かった(RR:2.26、95%UR:1.27~3.98)。 後期早産児におけるRSV関連ALRIの発生率は、1歳未満の全乳幼児と同程度であったが、生後6ヵ月までのRSV関連ALRIによる入院率は後期早産児で高かった(RR:1.93、95%UR:1.11~3.26)。院内死亡率は同程度 全体として、すべての在胎週数の乳幼児におけるRSV関連ALRIによる入院の25%(95%UR:16~37)を早産児が占めた。早産児におけるRSV関連ALRIによる院内死亡率は全乳幼児と同程度であった。 RSV関連ALRIの発生との関連を認めた因子は、主に周産期および社会人口統計学的な特性(母親の妊娠中の喫煙、5歳未満の子供が2人以上いる家庭、多胎児)であった(オッズ比[OR]の範囲は1.68~1.80)。また、入院を要する感染による重篤なアウトカムとの関連を認めた因子は、主に先天性心疾患、気管切開、気管支肺異形成症、慢性肺疾患、ダウン症候群などの基礎疾患だった(ORの範囲は1.40~4.23)。 著者は、「これらの知見は、早産児および乳幼児におけるRSVの予防と臨床管理の戦略を最適化するための重要なエビデンスとなる」としている。

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英語で「緊急対応策」は?【1分★医療英語】第120回

第120回 英語で「緊急対応策」は?《例文》医師ADue to the outbreak of this new virus, we need to establish a contingency plan.(この新型ウイルスの大流行のため、われわれは緊急対策を立てる必要があります)医師BIndeed, we need to organize necessary resources for unforeseen circumstances.(そうですね、予期しない事態に備えて、必要なリソースを整理しなければなりません)《解説》“contingency plan”についての説明です。“contingency plan”とは、英語の直訳で「緊急対策」や「予備計画」という意味を持つ言葉ですが、医療現場では予期しない事態や緊急事態に対応するための計画を指します。米国では医師も日勤と夜勤の引き継ぎを行うため、日勤帯で決めたプランを的確に引き継ぐことが重要です。医療現場の引き継ぎの際に「“contingency plan”を基に、もし~が起こったら~する」というような文脈で使われます。基本的には、“sign out”と呼ばれる電子カルテの引き継ぎ欄の機能を使って引き継ぎを行うことが多いのですが、そこにも“contingency plan”というリストが存在します。《例文》に挙げたように、さらに大きな緊急事態が想定される場合の計画にも用いることができます。講師紹介

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小児への15価肺炎球菌ワクチン、定期接種導入に向けて/MSD

 MSDが製造販売を行う15価肺炎球菌結合型ワクチン(商品名:バクニュバンス、PCV15)は、2022年9月に国内で成人を対象として承認を取得し、2023年6月には小児における肺炎球菌感染症の予防についても追加承認を取得した。小児への肺炎球菌ワクチンは、2013年4月に7価ワクチン(PCV7)が定期接種化され、2013年11月より13価ワクチン(PCV13)に切り替えられたが、2023年12月20日の厚生労働省の予防接種基本方針部会において、2024年4月から本PCV15を小児の定期接種に用いるワクチンとする方針が了承された。同社は2月22日に、15価肺炎球菌結ワクチンメディアセミナーを実施し、峯 眞人氏(医療法人自然堂峯小児科)が「小児における侵襲性肺炎球菌感染症の現状と課題」をテーマに講演した。集団生活に備え0歳からワクチンを 近年の子供の生活環境の変化として、年少の子供たちも家庭以外の集団の場所で過ごす時間が長くなっている。子供の集団生活の開始とともに急増する感染症への対策として、予防接種はきわめて重要だという。とくに、小児の侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)では、0~1歳にかけてかかりやすい肺炎球菌性髄膜炎や敗血症は、非常に重篤になりやすい。 峯氏は、かつて自身が経験した生後10ヵ月児の肺炎球菌性髄膜炎の症例について言及し、発症後まもなく救急を受診し処置をしても、死に至ることもまれではなく、回復後も精神発達や運動機能の障害、てんかん・痙攣といった後遺症が残る確率が高いと述べた。5歳未満の肺炎球菌性髄膜炎の死亡率は15%、後遺症発現率は9.5%だという1,2)。10年ぶりの新たな肺炎球菌ワクチン 2013年の小児肺炎球菌ワクチン定期接種導入後、小児の肺炎球菌性髄膜炎の患者数は、0歳児で83.1%、1歳児で81.4%減少したという2)。2024年4月から定期接種に導入される方針のPCV15は、PCV13と共通する血清型に対する免疫原性は非劣性を満たしたうえで、PCV13に含まれていなかった血清型の22Fと33Fが追加されている。これらの血清型は、小児でIPDを引き起こす頻度の高い24血清型のなかでも、33Fは2番目に、22Fは6番目に高い侵襲性であることが示されている3)。 峯氏は、IPDである肺炎球菌性髄膜炎が増加する生後5ヵ月までに、3回のワクチン接種を終了していることが望ましく、そのため生後2ヵ月からワクチンを開始する「ワクチンデビュー」と、さらに、3~5歳に一定数みられる肺炎球菌性髄膜炎を考慮して、1歳過ぎてからブースター接種を受ける「ワクチンレビュー」の重要性を述べた。また、すでにPCV13で接種を開始した場合も、途中からPCV15に切り替えることが可能だ。PCV15は筋注も選択可、痛みを軽減 PCV15の小児への接種経路は、皮下接種または筋肉内接種から選択可となっている。諸外国ではすでに筋注が一般的であるが、日本では筋注が好まれない傾向にあった。新型コロナワクチンにより国内でも筋注が一般化し、PCV15でも筋注が可能となった4,5)。峯氏によると、肺炎球菌結合型ワクチンは痛みを感じやすいワクチンだが、筋肉内は皮下よりも神経が少ないため、筋注のほうが接種時に痛みを感じにくく、接種後も発赤を生じにくいというメリットがあるという。筋注の場合は、1歳未満は大腿前外側部に、1歳以上は上腕の三角筋中央部または大腿前外側部に接種し、皮下注の場合は上腕伸側に接種する。 日本では、小児の定期接種として肺炎球菌ワクチンが導入されて以来、IPDは減少傾向にあり、大きな貢献を果たしてきた。峯氏は、ワクチンで防げる病気(VPD)は可能な限りワクチンで防ぐことが重要であることと、肺炎球菌は依然として注意すべき病原体であることをあらためて注意喚起し、とくにワクチンが導入されて10年以上経過したことで、実際にIPDの診療を経験したことがない小児科医が増えていることにも触れ、引き続き疾患に関する知識の普及が必要であるとまとめた。

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普段から活発な高齢者、新型コロナ発症や入院リスク低い

 健康のための身体活動(PA)は、心血管疾患(CVD)、がん、2型糖尿病やその他の慢性疾患の予防や軽減に有効とされているが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症や入院のリスク低下と関連することが、米国・ハーバード大学ブリガム・アンド・ウィメンズ病院のDennis Munoz-Vergara氏らの研究により明らかになった。JAMA Network Open誌2024年2月13日に掲載の報告。 本研究では、COVID-19パンデミック以前から実施されている米国成人を対象とした次の3件のRCTのコホートが利用された。(1)CVDとがんの予防におけるココアサプリメントとマルチビタミンに関するRCT、65歳以上の女性と60歳以上の男性2万1,442人、(2)CVDとがんの予防におけるビタミンDとオメガ3脂肪酸に関するRCT、55歳以上の女性と50歳以上の男性2万5,871人、(3)女性への低用量アスピリンとビタミンEに関するRCT、45歳以上の女性3万9,876人。 本研究の主要アウトカムは、COVID-19の発症および入院とした。2020年5月~2022年5月の期間において、参加者はCOVID-19検査結果が1回以上陽性か、COVID-19と診断されたか、COVID-19で入院したかを回答した。PAは、パンデミック以前の週当たり代謝当量時間(MET)で、非活動的な群(0~3.5)、不十分に活動的な群(3.5超~7.5未満)、十分に活動的な群(7.5以上)の3群に分類した。人口統計学的要因、BMI、生活様式、合併症、使用した薬剤で調整後、SARS-CoV-2感染およびCOVID-19による入院について、多変量ロジスティック回帰モデルを用いて非活動的な群とほかの2群とのオッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・6万1,557人(平均年齢75.7歳[SD 6.4]、女性70.7%)が回答した。そのうち20.2%は非活動的、11.4%は不十分に活動的、68.5%は十分に活動的だった。・2022年5月までに、COVID-19の確定症例は5,890例、うち入院が626例だった。・非活動的な群と比較して、不十分に活動的な群は感染リスク(OR:0.96、95%CI:0.86~1.06)または入院リスク(OR:0.98、95%CI:0.76~1.28)に有意な減少はみられなかった。・一方、非活動的な群と比較して、十分に活動的な群は感染リスク(OR:0.90、95%CI:0.84~0.97)および入院リスク(OR:0.73、95%CI:0.60~0.90)に有意な減少がみられた。・サブグループ解析では、PAとSARS-CoV-2感染との関連は性別によって異なり、十分に活動的な女性のみが感染リスクが低下している傾向があった(OR:0.87、95%CI:0.79~0.95、相互作用p=0.04)。男性では関連がなかった。・新型コロナワクチン接種状況で調整後に解析した場合も、非活動的な群と比較して不十分に活動的な群は、感染と入院のORはほとんど変化しなかった。・新型コロナワクチンは、PAレベルに関係なく感染と入院のリスクを大幅に減少させた。感染リスクはOR:0.55、95%CI:0.50〜0.61、p<0.001、入院リスクはOR:0.37、95%CI:0.30~0.47、p<0.001。

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複雑性尿路感染症、CFPM/taniborbactam配合剤が有効/NEJM

 急性腎盂腎炎を含む複雑性尿路感染症(UTI)の治療において、セフェピム/taniborbactamはメロペネムに対する優越性が認められ、安全性プロファイルはメロペネムと同様であることが、ドイツ・ユストゥス・リービッヒ大学ギーセンのFlorian M. Wagenlehner氏らが15ヵ国68施設で実施した無作為化二重盲検第III相試験「Cefepime Rescue with Taniborbactam in Complicated UTI:CERTAIN-1試験」の結果、明らかとなった。カルバペネム耐性腸内細菌細菌や多剤耐性緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)は、世界的な健康上への脅威となっている。セフェピム/taniborbactam(CFPM/enmetazobactam)は、β-ラクタムおよびβ-ラクタマーゼ阻害薬の配合剤で、セリンβ-ラクタマーゼおよびメタロβ-ラクタマーゼを発現する腸内細菌細菌、および緑膿菌に対して活性を発揮することが示されていた。NEJM誌2024年2月15日号掲載の報告。セフェピム/taniborbactamの有効性と安全性をメロペネムと比較 研究グループは、複雑性UTIまたは急性腎盂腎炎と診断された18歳以上の入院患者を、セフェピム/taniborbactam(2.5g:セフェピム2g、taniborbactam0.5g)群またはメロペネム(1g)群に、2対1の割合に無作為に割り付け、8時間ごとに7日間静脈内投与した。菌血症を有する患者には、投与期間を最大14日間まで延長可とした。 主要アウトカムは、微生物学的ITT(microITT)集団(両治験薬が有効である、特定のグラム陰性菌を有する患者)における投与(試験)開始後19~23日目の微生物学的成功および臨床的成功の複合であった。複合成功率の群間差の95%信頼区間(CI)の下限値-15%を非劣性マージンとし、非劣性が認められた場合に優越性を評価することが事前に規定された。有効性はメロペネムより優れ、安全性は類似 2019年8月~2021年12月に661例が無作為化され、このうち436例(66.0%)がmicroITT集団であった。microITT集団の平均年齢は56.2歳で、65歳以上が38.1%、複雑性UTI 57.8%、急性腎盂腎炎42.2%、ベースラインで菌血症を有した患者13.1%であった。 複合成功は、セフェピム/taniborbactam群で293例中207例(70.6%)、メロペネム群で143例中83例(58.0%)に認められた。複合成功率の群間差は12.6ポイント(95%CI:3.1~22.2、p=0.009)であり、セフェピム/taniborbactamのメロペネムに対する優越性が示された。 複合成功の差異は、後期追跡調査(試験開始後28~35日目)においても持続しており、セフェピム/taniborbactam群のほうが複合成功率および臨床的成功率が高かった。 安全性解析対象集団(657例)において、有害事象はセフェピム/taniborbactam群で35.5%、メロペネム群で29.0%に認められ、主な事象は頭痛、下痢、便秘、高血圧、悪心であった。重篤な有害事象の発現率は両群で同程度であった(それぞれ2.0%、1.8%)。

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5歳から17歳の小児および青年に対する2価新型コロナワクチンの有効性(解説:寺田教彦氏)

 本研究は、米国で行われた3つの前向きコホート研究のうち、2022年9月4日から2023年1月31日までの期間のデータを統合して、オミクロン株BA.4/5亜系統が主に流行していた時期の小児および青年期におけるCOVID-19に対する2価mRNAワクチンの有効性を推定している。本研究結果の要約は「小児・思春期の2価コロナワクチン、有効性は?/JAMA」にもまとめられているように、SARS-CoV-2感染症(COVID-19 RT-PCR陽性)に対するワクチンの有効性は54.0%(95%信頼区間[CI]:36.6~69.1)で、症候性COVID-19に対する同有効性は49.4%(95%CI:22.2~70.7)だった。本論文の著者らは、2価新型コロナワクチンは小児および青年に対して有効性を示し、対象となるすべての小児と青年は推奨されるCOVID-19ワクチン接種を最新の状況とする必要があると結論づけている。 さて、新型コロナワクチンは2024年3月末までは全額公費負担であったが、今後(2024年4月以降)は、今回の研究対象である5~17歳は任意接種のため、養育者と小児自身で接種の有無を判断する必要がある。 本邦では、小児への新型コロナワクチンについて、2023年10月3日に日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会から考え方が示されており「小児への新型コロナワクチン令和 5 年度秋冬接種に対する考え方」、日本小児科学会では、生後6ヵ月~17歳のすべての小児への新型コロナワクチン接種(初回シリーズおよび適切な時期の追加接種)を引き続き推奨している。理由には、(1)流行株の変化によって今後も感染拡大が予測される(2)今後も感染機会が続く(3)小児においても重症例・死亡例が発生している(4)小児へのワクチンは有効である(5)小児のワクチン接種に関する膨大なデータが蓄積され、より信頼性の高い安全性評価が継続的に行われるようになったことが挙げられており、根拠となるエビデンスもまとめられている。 現在も、新型コロナウイルスは変異と感染拡大の波を繰り返しており、少なくともしばらくの間はワクチン接種をするか否かの判断を各自でせざるを得ないだろう。ワクチン接種の是非は、「COVID-19の罹患率や重症度」の推移を勘案しながら、「発症(および感染)の予防効果」と「重症化の予防効果」や「接種後の副反応」といったメリットとデメリットを比較し、「ワクチン接種の費用負担」に見合った利益が享受できるかを、対象者が判断できるように、科学的な根拠となるデータを提供し続けることが好ましい。 本論文は、ワクチン接種のメリットである「発症(および感染)の予防効果」と「重症化の予防効果」が引き続き期待できることを示しており、現時点では、小児への新型コロナワクチン令和5年度秋冬接種に対する考え方で示されたデータを加味すると、小児へのワクチン接種は推奨されると私は考えるが、今後は被接種者の基礎疾患を含めた背景や「ワクチン接種の費用負担」に見合った利益が享受できるかも考えて、新型コロナワクチン接種の是非を養育者と小児に判断してもらう必要がある。

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再発性多発性硬化症、抗CD40L抗体frexalimabが有望/NEJM

 再発性多発性硬化症患者において、抗CD40Lヒト化モノクローナル抗体のfrexalimabはプラセボと比較し、12週時におけるT1強調MRIでの新規ガドリニウム(Gd)増強病変数を減少させたことが示された。フランス・リール大学のPatrick Vermersch氏らが、10ヵ国38施設で実施した第II相臨床試験の結果を報告した。CD40-CD40L共刺激経路は、適応免疫応答と自然免疫応答を制御し多発性硬化症の病態に関与する。frexalimabは第2世代の抗CD40Lモノクローナル抗体で、抗原提示細胞表面に発現しているCD40へのCD40Lの結合を阻害することによりCD40-CD40Lシグナル伝達経路を阻害し、T細胞を介した免疫応答を抑制する。著者は、「多発性硬化症患者におけるfrexalimabの長期的な有効性と安全性を明らかにするため、より大規模で長期間の試験が必要である」とまとめている。NEJM誌2024年2月15日号掲載の報告。frexalimab 1,200mg静脈内投与と300mg皮下投与を、プラセボと比較 研究グループは再発性多発性硬化症患者を、frexalimab 1,200mgを4週間隔で静脈内投与する群(負荷用量1,800mg)、frexalimab 300mgを2週間隔で皮下投与する群(負荷用量600mg)、またはそれぞれのプラセボを投与する群に4対4対1対1で割り付け、二重盲検下で12週間投与した。投与経路は盲検化されなかった。12週後、全例が非盲検下でfrexalimabを投与した(プラセボ群の患者はそれぞれ対応するfrexalimabに切り替えた)。 主要エンドポイントは、8週時と比較した12週時におけるT1強調MRIでの新規Gd増強病変数。副次エンドポイントは、8週時と比較した12週時における新規または拡大したT2強調病変数、12週時のGd増強病変総数、および安全性であった。8週時と比較した12週時の新規Gd増強病変数はfrexalimab群で減少 2021年6月7日~2022年9月21日の間に、166例がスクリーニングを受け、129例が無作為に割り付けられ、うち125例(97%)が12週間の二重盲検期間を終了した。患者背景は、平均年齢36.6歳、66%が女性、30%がベースラインでGd増強病変を有していた。 12週時における新規Gd増強病変数の補正後平均値は、プラセボ群1.4(95%信頼区間[CI]:0.6~3.0)に対し、frexalimab 1,200mg静脈内投与群0.2(95%CI:0.1~0.4)、frexalimab 300mg皮下投与群0.3(95%CI:0.1~0.6)であり、プラセボ群に対する率比は1,200mg静脈内投与群0.11(95%CI:0.03~0.38)、300mg皮下投与群0.21(95%CI:0.08~0.56)であった。副次エンドポイントの結果は、主要エンドポイントの結果とおおむね同じであった。 12週間の二重盲検期間における有害事象の発現率は、frexalimab 1,200mg静脈内投与群29%(15/52例)、frexalimab 300mg皮下投与群45%(23/51例)、プラセボ群31%(8/26例)で、最も多くみられた有害事象(いずれかの群で発現率5%以上)は新型コロナウイルス感染症および頭痛であった。

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第203回 1ヵ月以上続くコロナ感染は結構多い

1ヵ月以上続くコロナ感染は結構多い英国を代表する9万人強の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)配列を解析した結果によると、少なくとも100人に1人ほどの感染は1ヵ月以上長引くようです1,2)。試験では被験者からおよそ1ヵ月ごとに採取した検体のSARS-CoV-2配列が解析され、3,603人は2回以上の検体の配列解析が可能でした。得られたウイルス配列を照らし合わせたところ、それら3,603人のうち381人に1ヵ月以上の同一ウイルス感染が認められました。381人のうち54人にいたっては2ヵ月以上同じウイルスに感染していました。その結果に基づくと、感染者100人に1~4人弱(0.7~3.5%)のその感染は1ヵ月以上、感染者1,000人に1~5人(0.1~0.5%)の感染は2ヵ月以上続くと推定されました。SARS-CoV-2持続感染者381人のうち3回以上のRT-PCR検査がなされた65人のデータによると、感染し続けているSARS-CoV-2の多くは複製できる力を失っていないようです。それら65人のほとんどのウイルスはいったん減り、その後再び増加するというリバウンドの推移を示しました。研究者によると、そのようなリバウンドは複製できるウイルスが居続けていることを示唆しています。また、SARS-CoV-2の感染持続はやはりただでは済まないようで、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(long COVID)をより招くようです。SARS-CoV-2感染が1ヵ月以上持続した人の感染後12週時点以降でのlong COVID有病率は非持続感染者を55%上回りました。SARS-CoV-2感染持続とlong COVIDの関連を示した先立つ報告や今回の研究によるとSARS-CoV-2感染持続はlong COVIDの発生にどうやら寄与しうるようです。とはいえSARS-CoV-2感染持続で必ずlong COVIDが生じるというわけではありませんし、long COVIDのすべてが感染持続のせいというわけではなさそうです。実際、long COVIDに寄与するとみられる仕組みがこれまでにいくつも示唆されており、引き続き盛んに調べられています。たとえば先月にScience誌に掲載された最近の報告では、免疫機能の一翼である補体系の活性化亢進がlong COVIDで生じる細胞/組織損傷の原因となりうることが示唆されています3,4)。参考1)Ghafari M, et al. Nature. 2024 Feb 21. [Epub ahead of print]2)Study finds high number of persistent COVID-19 infections in the general population / Eurekalert3)Cervia-Hasler C, et al. Science. 2024;383:eadg7942.4)Complement system causes cell damage in Long Covid / Eurekalert

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