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〔CLEAR! ジャーナル四天王(61)〕 他人の糞便注入によるクロストリジウム・ディフィシル腸炎の治療に、明白な有効性を証明!

 近年、抗菌薬投与に伴うクロストリジウム・ディフィシル(C.ディフィシル)腸炎が欧米で流行し、binary toxin産生やニューキノロン耐性株による、重篤例・再燃例の増加が注目されている。本邦では、このような強毒株の流行はみられないものの、C.ディフィシル腸炎自体は広くみられており、院内感染対策上の重要な課題と捉えられている。 本症は、投与された抗菌薬により腸管内の正常細菌叢が抑制され、毒素産生性のC.ディフィシルが異常増殖して発症するものであり、重症例では偽膜性大腸炎の形をとる。C.ディフィシルは、遺伝子レベルで少数存在する例を含めれば、過半数の人の腸管に常在するが、病院や高齢者施設では、芽胞汚染による院内感染の事例も知られている。本症の治療には、C.ディフィシルに抗菌力を示すバンコマイシンやメトロニダゾールを投与すれば良いのだが、これらは栄養型には抗菌力を示すが、芽胞化して生き残るため、バンコマイシン治療を終えると芽胞から出芽し、再燃してくる。また、乾燥や消毒剤にも抵抗性の芽胞が病院を汚染し、二次感染を引き起こす事例も知られている。 C.ディフィシルは、正常な菌叢においては、乳酸菌やバクテロイデス、ユウバクテリウムなどの優勢菌に競りまけて、辛うじて細々と生きている。バンコマイシンを含め、抗菌薬を投与すると、これらの優勢菌種は大幅に減少し、C.ディフィシルなどの耐性化しやすい菌種が異常増殖するのである。すなわち、常在菌を復活させてC.ディフィシルを相対的に少数勢力に追い込むことが、永続的治癒には必要である。これまで、種々のプロバイオティクスが、常在菌の正常化、C.ディフィシル腸炎の再燃予防に試みられてきたが、必ずしもエビデンスのある結果は得られていない。 他人の常在菌を移植することが、最も手っ取り早く常在菌を復活させ、腸炎の治癒に導けるはずだと多くの専門家は予想してきた。しかし、他人の糞便を注腸することには患者さん自身に相当な心理的抵抗があり、また、移植による別の病原体による感染も危惧され、実際に行うことはかなり困難であった。1958年以来、85症例が散発的に報告され、75~85%の有効性が報告されてきているが、比較試験でのまとまった成績は報告されていなかった。 今回報告された論文は、2008~2010年にアムステルダムのAcademic Medical Centerが計画し、ドナーグループと移植細菌叢液を準備し、オランダ国内の病院に呼びかけて行った“open label randomized trial comparing donor feces infusion to 14days of vancomycin treatment for recurrent C.difficile infection”の報告である。 本試験では患者を以下の3 群に割り付けた。(1)バンコマイシン(500mg 1日4回、4日間)に続き、4Lのマクロゴールで腸洗浄後、糞便菌叢移植(2)14日間のバンコマイシン治療(3)14日間のバンコマイシン治療後、腸洗浄 除外規定(原疾患による予後3ヵ月以内、重症例など)に当てはまらない、承諾の得られた患者を、コンピューターで患者背景に偏りがないようにrandomに割り付けている。オランダの周到な実験計画による研究の報告である。すなわち、多くの感染因子の陰性を確認したドナーグループを編成し、ドナーの糞便採取直後に糞便溶液(多数の生きた嫌気性菌菌液)をセンターで調整し、6時間以内に該当病院に輸送して、十二指腸内に管で注入する方法である。C.ディフィシル腸炎の再燃であることが立証された例にバンコマイシンによる栄養型の除菌を行ったうえで、移植を行っている。比較対照群として、バンコマイシン投与のみの症例、バンコマイシン投与後腸洗浄例を用意しているが、効果に有意差が出るためには、各群最小40例必要と見なし、計140症例について試験が計画された。エンドポイントは再燃の有無であり、腸内フローラの経時的定量培養、血液検査も計画されている。 これだけの周到な準備のうえ、比較試験は開始されたが、各群十数例の検討を行い、糞便移植群で93.8%、対照群で23.1~30.8%という歴然とした有効率の差が観察された時点で、コントロール群に対する倫理性が問題とされ、比較試験は42/120例行ったところで中止された。また、コントロール群の希望者には糞便移植を行い、良好な成績を得ている。副反応としては、投与初日の下痢が目立つだけで、重篤なものはなかった。また、糞便菌叢の検討により、ドナーと同様な菌叢の定着が確認されている。 有効性が証明できず、非劣性を証明することにきゅうきゅうとしてきた中で、夢のような話である。プロトコール、付随資料も公表されており、試験の全容がよく理解できる重要な論文である。■「糞便移植」関連記事糞便移植は潰瘍性大腸炎の新たな治療となるか/Lancet

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C型慢性肝炎治療薬「シメプレビル」の製造販売承認を申請

 ヤンセンファーマは22日、C型慢性肝炎治療薬として開発したシメプレビル(TMC435)を、世界に先駆けて日本で製造販売承認申請を行ったと発表した。 シメプレビルは、新たな直接作用型抗ウイルス剤(DAAs:Direct-acting Antiviral Agents)の1つであり 、C型肝炎ウイルスの複製に関与するセリン・プロテアーゼを直接阻害することによって、ウイルスの増殖を抑える機序を有する経口薬である。同社は国内で4つの第III相臨床試験を実施し、ジェノタイプ1型のC型肝炎患者における、シメプレビルとペグインターフェロン(α-2aまたはα-2b)とリバビリンの3剤併用療法において得られた治療効果と安全性、治療への忍容性などを示す結果をもとに、国内での製造販売申請に至ったという。 現在、C型肝炎ウイルス(HCV)に感染した患者は日本で約150~200万人存在していると推定され、約70%の割合で感染の持続による慢性肝炎へと移行する。さらに炎症の持続により肝線維化が進むと肝硬変や肝がんへと進展します 。現在、わが国では1年に約3万5000人が肝がんで死亡していおり、肝がんの原因の約80%がC型肝炎であるといわれている。同社は、「C型肝炎の治療は進化を続けており、治療薬の効果は著しく向上している一方で、副作用のマネジメントなど、治療に対する課題の解決が期待されている」と述べている。詳細はプレスリリースへhttp://www.janssen.co.jp/public/rls/news/4132

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神経障害性疼痛の実態をさぐる

神経障害性疼痛が見逃されているたとえば熱いものを触ったり、刃物で切れば痛みを感じる。そういう通常の痛みを「侵害受容性疼痛」といいます。末梢神経の終末にある侵害受容器が刺激されたときに感じる痛みです。侵害受容性疼痛の中には炎症に伴って起こる炎症性疼痛も含まれますが、これらを合わせて生体を守るための生理的な疼痛と呼んでいます。一方、「神経障害性疼痛」は、末梢神経から脊髄、さらに大脳に至るまでの神経系に何かの障害が起こったときに、エラーとして生じる痛みです。生体を守る意義はなく、病的な疼痛と考えられています。このように、神経障害性疼痛と炎症性疼痛は区別して考える事になっています。ただし、臨床的には炎症が遷延し持続的に痛みのシグナルが入力されるような状態では、神経系はエラーとしての過敏性を獲得するため、炎症性疼痛が続いた結果起こる痛みと神経障害性疼痛は明確に区別できないと考えられています。多くの神経障害性疼痛は痛みの重症度が高く、患者さんのQOLは著しく低下します。神経障害性疼痛は、まだまだ医療者に浸透していない痛みの概念です。神経障害性疼痛であることが疑われないで治療されているケースも多くみられ、神経障害性疼痛には特別なスクリーニングが必要だと考えます。神経障害性疼痛のスクリーニング痛みと一口にいっても、ナイフで刺された時の痛みと、炎や熱に手をかざした時の痛みは、おのずと性質が違ってきます。神経障害性疼痛の患者さんの多くは、「ヒリヒリと焼けるような痛み」「電気ショックのような痛み」「痺れたような痛み」「ピリピリする痛み」「針でチクチク刺されるような痛み」といった特徴的な性質の痛みを訴えます。一方、炎症性疼痛の患者さんでは、ズキズキする、ズキンズキンするといった、明らかに痛みの性質が異なった訴えをします。痛みの性質の違いは、痛みの発生メカニズムの違いを表していると考えられています。患者さんの自覚的な訴えから痛みの種類を鑑別するために、痛みの問診票が各国で開発されています。私たちはドイツでつくられた「PainDETECT」の日本語版を許可を得て開発し、その妥当性の検証試験を行っています。痛みの性質、重症度、場所、範囲、時間的変化を1つの質問用紙に記入する形のもので、臨床で使いやすい問診票になっています。侵害受容性疼痛なのか神経障害性疼痛なのか、あるいは両方が混合している疼痛なのかを分類することができます。画像を拡大する痛みの具体性を評価する痛みのスクリーニングにおいて、痛みの性質と共に痛みの具体性を評価することが重要です。たとえば捻挫をした患者さんにどこが痛いか聞くと、「足首のここが痛い、足首を伸ばすと痛い」と明確な答えが得られます。これは痛みの具体性が高いといえます。一方、器質的な異常を伴わない非特異的腰痛や、外傷後の頸部症候群(むち打ち症)では、「腰のあたりが全体的に痛い」とか、「何となく首の周りが痛い」といった部位を特定しにくい漠然とした痛みを訴えることがあります。そのような場合は痛みの具体性が低いと評価します。痛みの具体性が高いときには身体的な問題、器質的な異常があり、痛みの具体性が低い場合は器質的な異常がない(少ない)と判断し、心因性疼痛の要素の有無を考えます。器質的異常の有無は薬物療法の適応を考える際に重要なポイントになりますので、痛みの性質と共に具体性を聞くことは非常に有用です。神経障害性疼痛が合併しやすい疾患神経障害性疼痛が多く見られる疾患は、糖尿病性ニューロパチー、帯状疱疹後神経痛、脊柱管狭窄症です。たとえば帯状疱疹では、神経にウイルスが棲んでいて神経の炎症や障害が起きます。日本での大規模な調査研究で、これまで神経障害性疼痛ではないと考えられていた腰痛や膝関節症を含む多くの慢性疼痛患者さんの中にも、神経障害性疼痛が含まれていることがわかってきました。首から背中、腰の痛みを訴える患者さんの実に約8割が、神経障害性疼痛だろうと推察される報告もあります。手術後の痛みは意外に調べられていない領域です。傷が治れば痛くないと医療者が思っているので、患者さんが痛みを訴えにくい環境があるようです。開胸手術後は6~8割、乳腺の術後には5~6割、鼠径ヘルニアの術後では3~4割の患者さんが傷が治った後にも痛みを持っていることがわかっています。もちろん手術後に遷延する痛みの病態のすべてが神経障害性疼痛ではありません。術後遷延痛には、神経障害性疼痛とも炎症性疼痛ともいえない独特のメカニズムがありそうだ、ということが分子生物学的な病態研究によってわかってきています。薬物療法による神経障害性疼痛の治療神経障害性疼痛の治療は、侵害受容性疼痛とは治療戦略がまったく異なります。基本的に消炎鎮痛薬は効果がありません。神経障害性疼痛の第一選択薬はCa2+チャネルα2δリガンドであるプレガバリン(商品名:リリカ)と三環系抗うつ薬です。第二選択薬としては、抗うつ薬セロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)のうちの一つであるデュロキセチン(商品名:サインバルタ)、ワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤(商品名:ノイロトロピン)、抗不整脈薬メキシレチン(商品名:メキシチールほか)です。第三選択薬は、麻薬性鎮痛薬(オピオイド鎮痛薬)です。まず初めにプレガバリンか三環系抗うつ薬を用います。効果が不十分であれば、いずれかに切り替えるか併用する。プレガバリンは添付文書では、朝と夕方に内服することになっていますが、私たちは就寝前の服用を勧めています。神経障害性疼痛の患者さんは痛みが強く不眠を訴える方が多いのですが、プレガバリンによる眠気の作用を逆に利用した服用方法です。プレガバリンの眠気は鎮静によって生じるものではなく、生理的な睡眠作用であることがわかっています。そのためか、患者さんもぐっすり眠れたという満足感を持つことが多いようです。そして第一選択薬で効果が不十分な場合は、第二選択薬への切り替え、あるいは第二選択薬との併用を行います。ただし三環系抗うつ薬とデュロキセチンの併用では、副作用として興奮・せん妄等のセロトニン症候群を起こす危険性があるので、三環系抗うつ薬とデュロキセチンは基本的に併用はしません。第二選択薬が無効な場合は、第三選択薬として麻薬性鎮痛薬(オピオイド鎮痛薬)を使います。非がん性の慢性疼痛に対して使えるオピオイド鎮痛薬は、トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠(商品名:トラムセット)とフェンタニル貼付剤(商品名:デュロテップMTパッチ)が主なものです。ブプレノルフィン貼付剤(商品名:ノルスパンテープ)は変形性関節症、腰痛症のみが保険適応となっています。オピオイドは最も高い鎮痛効果を期待できますが、長期間使った場合に便秘や吐き気、日中の眠気などの副作用が問題になります。オピオイド鎮痛薬に対して精神依存を起こす患者さんもまれにですがいます。そのため、第一選択薬、第二選択薬が無効な場合にのみ使うことが推奨されています。オピオイド鎮痛薬使用における注意点非がん性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬の使い方は、がん性疼痛とは異なります。がん性疼痛の場合は、上限を設けずに患者さんごとに投与量を設定し、痛みが続いている間は使い続けます。痛みが発作的に強まったときには頓用薬も用います。一方、非がん性の疼痛に対してオピオイド鎮痛薬を使用する場合は、経口のモルヒネ製剤換算で120mgを上限に設定することが推奨されています。オピオイド鎮痛薬の使用期間は極力最少期間にとどめ、痛みが強くなったときの頓用は推奨されていません。これらのオピオイド鎮痛薬の使用に制限を設けている理由は、すべて精神依存の発症リスクを抑えるためです。がん性疼痛と非がん性疼痛では、オピオイド鎮痛薬の使い方の原則が違うことをご理解いただきたいと思います。オピオイド鎮痛薬の精神依存は、器質的な痛みの患者さんでは基本的に発症しないことがわかっています。器質的ではない疼痛、すなわち痛みの具体性の低い患者さんでは精神依存を起こす可能性が高まるので、オピオイド鎮痛薬を積極的に使用すべきではないと考えています。うつ病や不安障害といった精神障害を合併している患者さんも、オピオイド鎮痛薬による精神依存を発症しやすいことがわかっています。最も強い鎮痛効果を求めるときは、われわれはオピオイド鎮痛薬とプレガバリンを併用しています。プレガバリンには抗不安作用があり、それがオピオイド鎮痛薬による吐き気の発生に対する予期不安を抑制し、制吐効果が期待できます。オピオイド鎮痛薬と三環系抗うつ薬の併用も強い鎮痛効果が期待できますが、吐き気、眠気、抗コリン作用による口渇などを相乗的に増強してしまうため推奨していません。

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クロストリジウム・ディフィシル感染症再発に健康なドナー便の注入が有効/NEJM

 クロストリジウム・ディフィシル(C.ディフィシル)感染症再発後の治療について、ドナー便の十二指腸注入が、バンコマイシン治療よりも有意に効果が高いことが示された。オランダ・アムステルダム大学のEls van Nood氏らが、C.ディフィシル感染症の再発患者について行った無作為化試験の結果で、初回便注入による下痢症状消失の割合は8割以上であったという。C.ディフィシル感染症再発の治療は困難で、抗菌薬治療の失敗率が高い。NEJM誌2013年1月31日号(オンライン版2013年1月16日号)掲載報告より。ドナー便注入群、抗菌薬単独治療群、抗菌薬治療+腸洗浄群の3群を比較 研究グループは、抗菌薬治療完了後にC.ディフィシル感染症の再発が認められた43人を無作為に、(1)バンコマイシンの短期投与(500mg経口投与、1日4回、4日間)に続き、腸洗浄の後、健康なドナー便を経鼻十二指腸管注入する群(17人)、(2)標準的バンコマイシン投与群(13人、500mg経口投与、1日4回、14日間)、(3)標準的バンコマイシン投与と腸洗浄を行う群(13人)に割り付け検討した。 主要エンドポイントは、10週間後の下痢症状の消失(C.ディフィシル感染症の再発が認められない)とした。16人中13人が、ドナー便初回注入後に下痢症状消失 試験を終了したのは、41人だった。 便注入群16人のうち13人(81%)で、初回注入後にC.ディフィシル感染症関連の下痢症状が消失した。同群残り3人のうち2人は、2回目の便注入(別のドナー便)後に同症状が消失した。 バンコマイシン投与群では単独投与群13人のうち4人(31%)と、バンコマイシン+腸洗浄群13人中3人(23%)だった(いずれも便注入群との比較でp<0.001)。 有害事象発生率については、ドナー便注入群で注入を行った当日に、軽度下痢症状と腹部痙攣が認められたが、その他についてはいずれの群とも同程度だった。 ドナー便注入群の注入後の便は、細菌が多様となり、健康なドナーと同程度となっていた。クテロイデス種とクロストリジウムクラスターIV、XIVaが増加し、プロテオバクテリア種が減少していた。

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エンテロウイルス71ワクチン、第2相試験で免疫原性、安全性を確認/Lancet

 エンテロウイルス71(EV71)ワクチンについて、第2相無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果、乳幼児に対する免疫原性と安全性を確認したことを中国・江蘇省疾病管理予防センターのFeng-Cai Zhu氏らが報告した。EV71は1969年に米国カリフォルニアで初めて報告された腸管ウイルスで、その後14ヵ国以上(日本も含む)から報告が寄せられている。とくに中国では過去に3度重大流行が発生し2009年には255人超が死亡したという。今回検討されたワクチンは、中国Beijing Vigoo Biologicalが開発したアラムアジュバンドワクチン製剤で、第1相試験で臨床的に認容性のある安全性プロファイルと免疫原性が示唆されたことを受けて本試験が行われた。Lancet誌オンライン版2013年1月24日号掲載報告より。生後6~36ヵ月の乳幼児を対象に無作為化二重盲検プラセボ対照試験 EV71ワクチンの第2相試験は、江蘇省東海県の1施設で、生後6~36ヵ月の健康な男女児を適格被験者として行われた。 被験児を無作為に5群[アラムアジュバントEV71ワクチン160U、320U、640U群と、非アジュバントワクチン群、プラセボ(アラムアジュバントのみ含有)群]に、SAS9.1ブロックランダムリストを用いて割り付けた。無作為化情報は、被験児および試験担当者には知らされなかった。 主要エンドポイントは、56日時点での幾何平均抗体価(GMTs)で、プロトコルに基づき解析が行われた。320Uアラムアジュバント製剤が最適 無作為化された被験児は1,200例で、各接種群には240例ずつ(乳児:6~11ヵ月齢児120例、幼児:12~36ヵ月齢児120例)が割り付けられた。そのうち試験を完了したのは1,106例であった。被験児のドロップアウトは、同意が得られなかったことと血液サンプル提供の拒否が主な理由であった。 解析の結果、乳児640U接種群が56日時点のGMTsが最も高値であった(742.2、95%CI:577.3~954.3)。次いで乳児320U接種群が続いた(497.9、383.1~647.0)。 幼児では320U接種群が最も高値であった(1,383.2、1,037.3~1,844.5)。 全体では、ワクチン接種群が非接種群よりもGMTs値が有意に高値であった(p<0.0001)。 ベースラインで血清陰性であった被験児のサブグループについて、640U接種を受けた乳児および幼児の両群が56日時点のGMTsが最も高値であった(乳児:522.8、403.9~676.6、幼児:708.4、524.1~957.6)。次いで320U接種群であった(乳児:358.2、280.5~457.5、幼児:498.0、383.4~646.9)。 安全性について、1,200例のうち549例(45.8%)が1つ以上の注射部位あるいは全身性の副反応を報告したが、副反応発生率は接種群間で有意な差はみられなかった(p=0.36)。ただし硬結発生率について、640Uアジュバントワクチン接種群が非アジュバントと比較して有意に高率であった(p=0.001)。 以上を踏まえて著者は、「EV71ワクチンの免疫原性、安全性、製剤の生産性が確認された。おそらく第3相試験には320Uアラムアジュバント製剤が最も適しているであろう」と結論している。

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妊娠中のH1N1インフルエンザワクチン接種、発症リスクを7割減/NEJM

 妊娠中の2009インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染症パンデミックの罹患は、胎児死亡リスクを約2倍増大する一方、妊娠中に同ワクチンを投与した人では、インフルエンザを発症した人の割合は約7割少なかったことが報告された。ノルウェーのNorwegian Institute of Public HealthのSiri E. Haberg氏らが、H1N1ウイルスが流行した2009~2010年に妊娠中だった女性12万人弱について行った試験で明らかにしたもので、NEJM誌2013年1月24日号(オンライン版2013年1月16日号)で発表した。2009パンデミックでは、ワクチン接種後に胎児死亡が散発的に報告されたことで、妊婦へのワクチン接種の安全性について懸念が持ち上がっていた。胎児死亡率は1,000児中4.9児 研究グループは、ノルウェーの全国登録名簿などを用いて、2009~2010年に妊娠中だった11万7,347例について調査を行った。被験者のインフルエンザワクチン接種の有無、出産アウトカム、パンデミック前後や期間中の状況などについて調べ、Cox回帰モデルを用いて、H1N1ウイルス感染やワクチン接種と胎児死亡率についての関連を分析した。 その結果、胎児の死亡は570例で、胎児死亡率は1,000例中4.9だった。被験者のうち単胎妊娠は11万3,331人で、そのうち胎児の死亡は492例(1,000例中4.3)だった。妊婦のワクチン投与で発症リスクは7割減、胎児死亡リスク減少では有意差みられず パンデミック期間中に妊娠第2・第3期だった妊婦は4万6,491例で、そのうちインフルエンザワクチン接種を受けた人の割合は54%だった。 妊娠中のインフルエンザワクチン投与は、インフルエンザ発症率を約7割減少した(補正後ハザード比:0.30、95%信頼区間:0.25~0.34)。 妊婦のうちインフルエンザの臨床的診断を受けた人では、胎児死亡率は約2倍に増大した(補正後ハザード比:1.91、同:1.07~3.41)。 妊娠中のワクチン投与によって、胎児死亡リスクは減少する傾向が認められたものの、有意差は認めらなかった(補正後ハザード比:0.88、同:0.66~1.17)。 これらの結果を踏まえて著者は、「ワクチン接種自体は胎児死亡とは関係がない。むしろパンデミック期間中のインフルエンザ関連の胎児死亡リスクを低減する可能性がある」と結論した。

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HIV初感染への48週間抗レトロウイルス療法の効果は?/NEJM

 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)初感染(primary HIV infection)に対し、48週間の抗レトロウイルス療法(ART)は、従前より示唆されていたように疾患進行を遅らせることが明らかにされた。英国・Imperial College LondonのSarah Fidler氏らが、約370人の患者について行った無作為化試験「Short Pulse Anti-Retroviral Therapy at Seroconversion」(SPARTAC)の結果、報告した。これまで、HIV初感染に対する短期ART療法について疾患進行を遅延しうる可能性が言われていたが、十分な評価は行われていなかった。NEJM誌2013年1月17日号掲載より。HIV初感染初期の366人を平均4.2年追跡 SPARTAC研究グループは、HIV初感染の患者366人を無作為に3群に分け比較検討した。一群にはARTを48週間、別の群にはARTを12週間、もう一つの群には通常の治療を、いずれもセロコンバージョン後6ヵ月以内に開始した。 主要エンドポイントは、CD4+細胞数の350/mm3未満への低下、または長期ART療法の開始とした。 被験者の年齢中央値は31~33歳、男性は60%だった。48週間ART群は123人、12週間ART群は120人、通常治療群は123人だった。平均追跡期間は4.2年だった。48週間ART群、主要エンドポイント発生リスクは通常治療群の4割減 その結果、主要エンドポイントのイベント発生率は、12週間ART群と通常治療群ではそれぞれ61%だったのに対し、48週間ART群では50%と低率だった。48週間ART群の通常治療群に対する主要エンドポイントのイベント発生に関する平均ハザード比は、0.63(95%信頼区間:0.45~0.90、p=0.01)だった。一方、12週間ART群の同値は、0.93(同:0.67~1.29、p=0.67)と、有意差は認められなかった。 また、CD4+細胞数350/mm3未満に低下した人の割合は、12週間ART群と通常治療群は40%だったのに対し、48週間ART群では28%と低率だった。 主要エンドポイント発生までの期間中央値は、48週間ART群は通常治療群と比べ65週間(同:17~114)長かった。 事後解析により、ART開始と主要エンドポイントとの期間は、ART開始がセロコンバージョン時期に近いほど長期となる傾向があることが確認された。また、48週間ARTは、短期療法完了後36週時点のHIV RNA量を、0.44 log10コピー/mL(同:0.25~0.64)減少した。 なお、エイズ、死亡、重度有害イベントの発生率については、すべての群で同等だった。 結果を踏まえて著者は、「HIV初感染の患者に対する48週間ARTは、疾患の進行を遅らせることを発見した。しかしその期間は、治療期間の48週よりも有意に長くはなかった。またART中断が臨床転帰に有害な影響を及ぼす証拠は認められなかった」と結論している。

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インターフェロン治療SVR達成の慢性C型肝炎患者は全死因死亡が有意に低下/JAMA

 慢性C型肝炎ウイルス(HCV)感染症・進行性肝線維症患者の全死因死亡率について、インターフェロン治療により持続的ウイルス学的著効(SVR)がみられる人では有意な低下がみられたことが、オランダ・エラスムス大学のAdriaan J. van der Meer氏らによる評価の結果、明らかにされた。JAMA誌2012年12月26日号掲載より。530例を中央値8.4年追跡、全死因死亡率などを評価 研究グループは、慢性HCV・進行性肝線維症患者におけるSVRと全死因死亡率との関連を評価することを目的に、国際多施設長期フォローアップ研究を行った。 被験者は、ヨーロッパおよびカナダの5つの病院から登録された慢性HCV患者530例で、1990~2003年の間にインターフェロンをベースとした治療を開始し、肝線維症または肝硬変症の進行(Ishakスコア4~6)について組織学的検査に基づき追跡された。 フォローアップは、2010年1月~2011年10月にわたって行われ、全死因死亡率を主要評価項目に、また肝不全、肝細胞がん(HCC)、肝臓関連の死亡または肝移植を副次評価項目として評価が行われた。 530例の被験者の追跡期間中央値は8.4年(IQR:6.4~11.4)だった。ベースラインでの年齢中央値は48歳(同:42~56)で、369例(70%)が男性だった。 肝線維症のIshakスコアは、143例(27%)が4、101例(19%)が5、6は286例(54%)だった。SVR達成・非達成で、10年累積全死因死亡、肝細胞がん、移植などに有意な差 SVRを達成したのは192例(36%)だった。 死亡したのは、SVR患者13例、非SVR患者100例で、10年累積全死因死亡率はSVR患者8.9%[95%信頼区間(CI):3.3~14.5]、非SVR患者26.0%(同:20.2~28.4)で有意な差がみられた(p<0.001)。 時間依存的多変量Cox回帰分析の結果、SVRと全死因死亡低下との有意な関連が認められた[ハザード比(HR):0.26、95%CI:0.14~0.49、p<0.001]。また、肝関連死亡または肝移植の有意な低下(SVR患者3例、非SVR患者103例)も認められた(HR:0.06、95%CI:0.02~0.19、p<0.001)。10年累積肝関連死亡-肝移植発生率は、SVR患者1.9%(95%CI:0.0~4.1)、非SVR患者27.4%(同:22.0~32.8)だった(p<0.001)。 HCCを発症したのはSVR患者7例、非SVR患者76例だった。10年累積発生率はSVR患者5.1%(95%CI:1.3~8.9)、非SVR患者21.8%(同:16.6~27.0)で有意な差が認められた(p<0.001)。 肝不全の発症は、SVR患者4例、非SVR患者111例だった。10年累積発生率はSVR患者2.1%(95%CI:0.0~4.5)、非SVR患者29.9%(同:24.3~35.5)で有意な差が認められた(p<0.001)。

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聖路加GENERAL 【Dr.小林の消化器内科】

第1回「海外で ""生肉""は要注意?」第2回「黄疸は 急いで診断 よい治療」第3回「つっかえ感? まず内視鏡」第4回「先生、胸のあたりが痛むのですが・・・」 第1回「海外で ""生肉""は要注意 ? 」絶対に聞いておきたい4つのポイントや腹部診察のコツを紹介します。【CASE1:72歳女性 急性下痢】倦怠感や嘔気を感じ、徐々に腹痛と下痢も出始めた症状が持続したため外来を受診。急性下痢症の鑑別では、まず小腸型か大腸型かを見分けることが必要です。正しい鑑別のために、絶対に聞いておきたい4つのポイントを紹介します。また、病歴聴取の際は、最近の渡航歴や服薬歴、生肉などの十分加熱されていない食物を口にしていないかといった点についても注意します。これらのポイントに沿って診察を進めた結果、腸管出血性大腸炎と判明しました。さて、ここからどのように原因を探っていけばよいでしょうか。また、どのような場合に直腸診や便培養を行うのか、適切なフォローアップについても見ていきます。【CASE2:21歳女性 慢性下痢】1ヵ月前から下腹部痛、1日3〜4回の下痢が生じ、熱も出始めて外来を受診。発熱と体重減少があったことから、機能性ではなく器質的なものを疑いました。体重の変化など、鑑別で注意すべき病歴から診断の検索をしていきます。このケースでは、腹部診察で索状の腫瘤を触知したので、悪性腫瘍や炎症性腸疾患で壁肥大になっている可能性を疑い、血液検査をした結果、慢性下痢症ということになりました。ではそこからどのように診断を進めていけばよいでしょうか。慢性下痢症の特徴、どのような場合に内視鏡検査を行えばよいか、内視鏡検査で異常が見られなかった場合についても、次に行うべき検査を項目別に分かりやすくお伝えします。また、知っておきたい腹部診察のコツを紹介します。第2回「黄疸は 急いで診断 よい治療」外来でも出くわすことの多い黄疸について紹介します。【CASE1:40歳男性 倦怠感発熱と黄疸症状】1週間ほど前から熱や倦怠感を自覚していたが、市販薬を飲んで仕事をしていた。しかし、数日前から食欲が低下し、尿の濃染や眼球の黄染に気づいて外来を受診。黄疸は外見に出やすく患者自身も気づきやすい症状ですが、鑑別していく上で注意すべき病歴を細かく見ていきます。特に、問診では魚介類の生食の既往を聞くことが多いですが、生肉生食の既往についても、期間は1ヵ月以上と長期的に見ることが重要です。また、黄疸は特にウィルス感染も疑われる疾患ですので、ウィルス性肝炎や評価に役立つ検査方法について分かりやすく解説します。【CASE2:63歳男性 上腹部痛と黄疸症状】1ヵ月ほど前から上腹部の軽い痛みを感じながらも、市販の胃薬で様子をみていたが、最近眼球の黄染が出始め、便が灰白色になったため外来を受診。常用薬はありましたが、黄疸を誘発するようなものではなく、海外渡航歴もないため、ウィルス性肝炎の可能性はあまり考えられません。診察を進め、腹部でやや腫大した胆嚢が触知されましたが、痛みはないということで、急性ではなく別の症状を疑いました。そこで検査所見や腹部超音波検査を行うと、膵がんによる閉塞性黄疸だということがわかりました。発見が遅れると予後の悪い本疾患について、アメリカの例と比較したスクリーニング法や効果的な検査方法など、早期発見のポイントを紹介します。また、最新の治療方法とその成績についてお伝えします。第3回「つっかえ感? まず内視鏡」嚥下障害について、ポイントを押さえ、わかりやすく解説します。【CASE1:64歳男性 嚥下困難(固形物で)】食べ物のつかえ感と胸やけの症状が続いたため、外来を受診。持続する嚥下困難の症状があり、食道の炎症なども考えられるため、詳しく病歴を聞くことにしました。嚥下困難の問診のポイントとなる嚥下痛や体重減少があり、喫煙が1日に20本、飲酒も仕事上機会が多いということから、悪性疾患が疑われます。さらなる精査のため、内視鏡検査を行った結果、食道がんという診断に至りました。早期発見が治療の鍵となる食道がんを鑑別するための効果的な内視鏡検査・治療について最新の情報を紹介します。また、嚥下困難をきたす原因は多岐にわたるため、その鑑別方法について、ポイントを解説します。【CASE2:52歳女性 嚥下困難(液体でも)】数年前から食べ物のつっかえ感を自覚、固形物だけでなく液体でも症状が見られます。症状が持続し体重減少があるものの、既往歴はなく身体所見でも異常はありません。このようなケースで医療面接で聞いておくべきポイント、嚥下障害の非消化管疾患について詳しく紹介します。本症例では液体でも嚥下障害が見られるということで、機能的疾患を疑い内視鏡検査を行いましたが、腫瘤性病変は認められず、更なる精査として食道内圧測定を行った結果、アカラシアと診断しました。アカラシアは比較的まれな症例ですが、早期発見が重要な疾患です。アカラシアに関する効果的な検査、最新の治療方法を紹介します。第4回「先生、胸のあたりが痛むのですが・・・」患者が痛みを訴える部位とは異なる場所が原因ということもあります。腹痛の部位によってカテゴライズした鑑別診断について詳しく説明します。【CASE1:45歳男性 高血圧の既往のある心窩部痛】来院当日に心窩部痛を発症し来院。ACSが疑われたため、心電図をとったところ不整が見られましたが、フォローの心電図、トロポニンともに異常なかったことから別の原因が考えられます。血液検査でも白血球がわずかに増多していた他は異常なし。来院前に嘔吐や下痢があり、改善していないこと、急性発症という点、そして他の疾患の特徴にあてはまらないことから腹部CTを行った結果、腫脹した虫垂を認め、急性虫垂炎の診断に至りました。腹痛は日常診療で頻繁に遭遇する疾患ですが、原因が患者が痛みを訴える部位とは異なる関連痛もあり、その鑑別は多岐に渡ります。腹痛について分かりやすく、診察でつかえるポイントを詳しく紹介します。【CASE2:47歳女性 腹部膨満感を伴う心窩部痛】半年前から心窩部痛を自覚していた。最近になって腹部膨満感を感じるようになったため外来を受診 。しかし、食事との関連や体重減少もなく、検査でも異常ありません。そこで、鑑別診断として機能性ディスペプシアを疑いました。機能性疾患の診断に必要な器質的疾患の除外のために行う検査について、ポイントを押さえてわかりやすく紹介します。また、腹痛の部位によってカテゴライズした鑑別診断について詳しく説明します。最近のホットトピックでもあるヘリコバクター・ピロリについても、検査に役立つ注意事項など、最新の情報をお伝えします。

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"かぜ"と"かぜ"のように見える重症疾患 ~かぜ診療の極め方~

vol.1 “かぜ”のような顔をしてやってくる重症患者vol.2 “かぜ”をグルーピングしよう !vol.3 気道症状がない“かぜ”に要注意 ! (E)高熱のみ型vol.4 気道症状がない“かぜ”に要注意 !    (F)微熱・倦怠感型 (G)下痢型 (H)頭痛型(髄膜炎型)vol.5 積極的に“かぜ”を診断する   (A)非特異的上気道炎型(せき、はな、のど型)vol.6 どうする ? 抗菌薬 (B)急性鼻・副鼻腔炎型(はな型)vol.7 どうする ? 抗菌薬 (C)急性咽頭・扁桃炎型(のど型)vol.8 怖い咽頭痛vol.9 レントゲン撮る? 撮らない? (D)気管支炎型(せき型)vol.10 フォローアップを忘れずに !column1 悪寒戦慄とCRP column2 プロカルシトニンの使い方 column3 “かぜ”に抗菌薬は効くのか ? かぜ診療のプロになろう !「かぜ」。クリニックや一般外来でこれほど多く診る疾患があるでしょうか。ところが、この“かぜ”についての実践的な指導を受けた医師はほとんどいないのです。たかが“かぜ”と侮る事なかれ。命に関わる病気が隠れていることもあれば、安易に抗菌薬を処方すべきではない場合も多々あります。これを見れば、あなたも「かぜ診療」のプロに !薬剤師、看護師の皆さんにもオススメ !ドクターだけでなく、コメディカルの皆さんにも知って欲しい知識です。「かぜをひいた」と言う患者さん、薬が欲しいと言う患者さんに適切なアドバイスができるようになります !理解を深める確認テスト付 !各セッションごとの確認テストで知識が身についたかチェックできます。【収録タイトル】vol.1 “かぜ”のような顔をしてやってくる重症患者“かぜ”だと思って来院する患者さんは、やはりほとんどがウイルス性上気道炎。しかしその中に、まれに肺炎や髄膜炎、ときには心内膜炎、急性喉頭蓋炎、あるいは肝炎やHIVであることも。それはまるで広大な地雷原を歩いていくようなもの。その地雷を避けるにはどうしたらいいのでしょう?気鋭の山本舜悟先生が明解に解説します。vol.2 “かぜ”をグルーピングしよう !重篤な疾患を見逃さないために“かぜ”をタイプ別に分け、リスクの高い患者さんをグルーピングしましょう。8つのタイプに分類すれば、それぞれにどんな危険な疾患が隠れているのか、抗菌薬はどうしたらいいのか、すっきり理解でき、“かぜ”と戦いやすくなります。vol.3 気道症状がない“かぜ”に要注意 ! (E)高熱のみ型“かぜ”の中で一番気をつけておきたいのはこの“高熱のみ型”です。もちろんインフルエンザやウイルス感染であることが多いのですが、実は危険な菌血症・敗血症が隠れていることも。気道症状がないのに軽々しく“かぜ”と言わない。これが鉄則です。vol.4 気道症状がない“かぜ”に要注意 ! (F)微熱・倦怠感型 (G)下痢型 (H)頭痛型(髄膜炎型)気道症状がない“かぜ”は、実は“かぜ”でない疾患が隠れていることがあります。微熱と倦怠感が続く“かぜ”、いわゆるお腹の“かぜ”、頭痛と発熱だけの“かぜ”。これらには要注意。それぞれどんな疾患を考えどう対応したらいいか解説します。vol.5 積極的に“かぜ”を診断する (A)非特異的上気道炎型(せき、はな、のど型)“かぜ”は除外診断。重篤な疾患を除外して初めて診断できるもの。確かにそうなのですが、自信を持ってこれは“かぜ”だといえる病態もあります。「せき、はな、のど」に同時に症状があれば、これは、いわゆる“かぜ”、つまりウイルス性上気道炎。抗菌薬は不要です !vol.6 どうする ? 抗菌薬 (B)急性鼻・副鼻腔炎型(はな型)副鼻腔炎自体の診断はそれほどむずかしくないでしょう。しかし、それが「細菌性なのか、ウイルス性なのか」、「抗菌薬は必要なのか不要なのか」については迷うところ。これらを臨床的にどう判断するかを解説します。vol.7 どうする ? 抗菌薬 (C)急性咽頭・扁桃炎型(のど型)咽頭炎で頭を悩ませるのは抗菌薬を使うかどうかです。従来は、「A群溶連菌による咽頭炎だけを抗菌薬治療すればいい」と言われてきましたが、今日的にはそれでいいのしょうか ?  Centorの基準を参考に、誰にどんな抗菌薬を使うか詳しく解説します。vol.8 怖い咽頭痛咽頭痛を訴える患者さんには、ときとして非常に危険な疾患が隠れていることがあります。扁桃周囲膿瘍、そして急性喉頭蓋炎です。これらを見逃さないためのレッドフラッグを覚えましょう。喉頭ファイバーが使えないときのvallecula signも紹介します。vol.9 レントゲン撮る ? 撮らない ? (D)気管支炎型(せき型)咳を主体とする気管支炎型の“かぜ”は、肺炎を疑って胸部X線を撮るか撮らないかが悩ましいところです。Diehrのルールなど参考にすべきガイドラインもありますが、医師自身による判断が重要です。どのように考えたらいいのか解説します。vol.10 フォローアップを忘れずに !ここまでの話でかなり“かぜ”を見極められようになったと思いますが、それでも除外診断である“かぜ”を100%診断するのは不可能です。よって必要になるのはフォローアップ。「また来てください」だけでなく、具体的な指示をどうしたらいいか、実例を元に解説します。column1 悪寒戦慄とCRPたいていの血液検査で測られているCRP。感度や特異度はそれほど高いわけでなく、場合によっては計測自体に意味がないこともあります。しかし、使いようによっては思わぬピットフォールを避ける武器にもなります。悪寒戦慄と合わせて、CRPの使い方を覚えましょう。column2 プロカルシトニンの使い方最近話題のプロカルシトニン。新しい指標としてさまざまな議論がなされていますが、今現在の臨床ではどのように使えるのでしょうか ? 診療の現場での実際の使い道を解説します。column3 “かぜ”に抗菌薬は効くのか ?“かぜ”に抗菌薬、実は効果があります。え ? と思うかも知れませんが、だからといって“かぜ”に一律の抗菌薬を処方することは考えものです。どんな人に、どれくらいの効果があるのかに注目しましょう。NNTの概念で抗菌薬の有用性を検証します。

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2010年の世界的な平均余命、男性67.5年、女性73.3年:GBD2010/Lancet

 世界的な出生時平均余命の延長は1990年代にいったん停滞したが、1970~2010年の40年間で持続的かつ実質的に延長し、2010年には男性が67.5年、女性は73.3年に達したことが、米国・ワシントン大学のHaidong Wang氏らの調査で明らかとなった。集団における原因別死亡率を抑制し、早期死亡率を適切に評価するには疾病負担の算定を要するが、その初期段階として年齢階層別、男女別の死亡数や死亡率の予測が重要とされる。ミレニアム開発目標4(乳幼児死亡率の削減)の期限(2015年末)が迫る中、乳幼児死亡率の正確な評価への関心が世界的に高まっているという。Lancet誌2012年12月15・22・29日合併号掲載の報告。世界的な死亡率の年齢階層別のパターンを検討 研究グループは、Global Burden of Disease Study 2010 (GBD2010)のデータを用いて、187ヵ国における1970~2010年の年齢階層別の年間死亡率を評価し、世界的な死亡率の年齢階層別のパターンを明らかにすることを目的に系統的な解析を行った。 各国の5歳未満(0~4歳)死亡率および成人(15~59歳)死亡率を推算した。100ヵ国以上の死亡登録データを用い、自然災害や戦争による死亡とは分けて解析した。 5歳未満死亡率と成人死亡率の最終的な推定値はガウス過程回帰で解析したデータから算定し、これをモデル生命表の入力パラメータとして用いた。全死亡率や死亡数の算定には95%不確定区間(95%UI)を用いた。ミレニアム開発目標4の達成予測は過小評価されている可能性も 世界的な男性の出生時平均余命は1970年の56.4年から2010年には67.5年に、女性では61.2年から73.3年にまで延長した。1990年代を除き、1970年から10年ごとに出生時平均余命が3~4年ずつ延長した(90年代の延長は男性1.4年、女性1.6年)。  2004年以降、東アフリカおよびサハラ砂漠以南のアフリカで死亡率が実質的に低下しており、これは抗レトロウイルス療法やマラリア予防対策の普及と時期が一致する。1970~2010年までに、男女の平均余命はそれぞれ23~29年の延長(モルディブ、ブータン)から、1~7年の短縮(ベラルーシ、レソト、ウクライナ、ジンバブエ)までの幅が認められた。 2010年に世界全体で5,280万人が死亡したが、これは1990年の4,650万人に比し13.5%、1970年の4,330万人に比べ21.9%の増加であった。2010年の死亡者に占める70歳以上の割合は42.8%(1990年は33.1%)、80歳以上の割合は22.9%だった。 5歳未満児の死亡数は1970年が1,640万人、2010年が680万人で、死亡率は約60%低下しており、特に生後1~59ヵ月児の死亡数は1,080万人から400万人へと著明に低下していた。HIV/AIDSの影響が最も大きい地域を含むすべての地域で、平均死亡時年齢の上昇が確認された。 著者は、「世界的、地域的な健康危機がみられるにもかかわらず、過去40年間で平均余命は持続的かつ実質的に延長していた。平均余命の延長は1990年代にいったん停滞したが、その後187国中179国で良好な伸展が認められた」とまとめ、「低~中所得国における死亡率の抑制に力を注ぐ必要がある。ミレニアム開発目標4の達成予測は過小評価されている可能性が示唆されるが、これは直近の小児死亡率に関するデータが不十分なためと考えられる」と指摘している。

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インフルエンザ 総説

突如として発生して瞬く間に広がりすぐに消え去っていく、咳と高熱のみられる流行病はギリシャ・ローマ時代から記録があり、このような流行病は周期的に現われてくるところから、16世紀のイタリアの星占いたちは星や寒気の影響によるものと考え、influence(影響)すなわちinfluenzaと呼ぶようになったといわれている。国内では、天保6(1835)年に出版された医書「医療生始」に、インフリュエンザ(印弗魯英撤)という病名が書かれているが、その字は、インド・フランス・ロシア・イギリスなどから撒き散らされる病気、という意味のように読み取れる。インフルエンザの病原体1891年 ドイツのコッホ研究所の Pfeifferと北里柴三郎が、インフルエンザ患者の鼻咽頭から小型の桿菌を発見し、1892年インフルエンザの病原体として発表しているが、1933年インフルエンザウイルスによってインフルエンザの病原体としては否定された。しかしその業績は高く評価され、その後も、本菌の学名として「Haemophilus influenzae: ヘモフィルス・インフルエンザ 」が使用されてきている。ヒトのインフルエンザウイルスは、1933年に初めて分離されたが、そのきっかけとなったのは、1931年ブタのインフルエンザからの分離である。これらから、インフルエンザという症状からつけられた疾病は、インフルエンザウイルスによって生じる感染症であることが明らかとなった。しかし、微生物学が進歩するにつれていろいろな微生物の存在が明らかとなり、さらにその病原診断が速やかになってくると、インフルエンザという症状の病気=インフルエンザウイルスの感染 となるわけではなく、インフルエンザという病名に一致した症状を呈しながら他の病原体による感染症であったり、またインフルエンザという病名とは異なる症状でありながらインフルエンザウイルスが検出されたりすることがある、ということも明らかになってきた。また、インフルエンザウイルス感染に伴い、急性脳症およびその他の中枢神経障害・精神異常・心循環器障害・肝障害・運動器障害など、さまざまな病態像を呈することも明らかになってきた。インフルエンザウイルスウイルス粒子内の核蛋白複合体の抗原性の違いから、A・B・Cの3型に分けられ、このうち流行的な広がりを見せるのはA型とB型である。A型ウイルス粒子表面には赤血球凝集素(HA)とノイラミニダーゼ(NA)という糖蛋白があり、HAには16の亜型が、NAには9つの亜型がある。これらはさまざまな組み合わせをして、ヒト以外にもブタやトリなどその他の宿主に広く分布している。インフルエンザとは人の病気の病名であるが、インフルエンザウイルス感染症は、広く動物界に分布しているといえる。ウイルスの表面にあるHAとNAは、同一の亜型内で 抗原性を毎年のように変化させるため、A型インフルエンザは巧みにヒトの免疫機構から逃れ、流行し続ける。これを連続抗原変異(antigenic drift)または小変異という。いわばマイナーモデルチェンジで基本的に同じ形が少しずつ姿を変えることになる。連続抗原変異によりウイルスの抗原性の変化が大きくなれば、A型インフルエンザ感染を以前に受け、免疫がある人でも、再び別のA型インフルエンザの感染を受けることになる。その抗原性に差があるほど、感染を受けやすく、また発症したときの症状も強くなる。そしてウイルスは生き延びることになる。さらにA型は数年から数10年単位で、突然別の亜型に取って代わることがある。これを不連続抗原変異(antigenic shift)または大変異という。これはいわばインフルエンザウイルスのフルモデルチェンジで、つまり「新型インフルエンザウイルスの登場」ということになる。人々は新に出現したインフルエンザウイルスに対する抗体はないため、感染は拡大し地球規模での大流行(パンデミック)となり、インフルエンザウイルスは息をふきかえしたようにさらに生き延びる。2009年新型インフルエンザ(パンデミック):1918年に始まったスペイン型インフルエンザ(A/H1N1)は39年間続き、1957年からはアジア型インフルエンザ(A/H2N2)が発生し、その流行は11年続いた。その後1968年に香港型インフルエンザ(A/H3N2) が現われ、ついで1977年ソ連型インフルエンザ (A/H1N1)が加わり、小変異を続けてきた。2009年北アメリカ固有のブタのインフルエンザA/H1N1(スペイン型由来と考えられる)に、北アメリカの鳥インフルエンザウイルス、ヒトのインフルエンザウイルス、ユーラシアのブタインフルエンザの遺伝子が北アメリカのブタ体内で集合したと考えられるインフルエンザウイルス感染者が検知され、「ブタ由来(swine lineage)インフルエンザ:A/H1N1 swl」と命名された。ウイルスの亜型はH1N1タイプなのでA/H1N1(ソ連型)が変化したもので「新型」とはいえないのではないかという考えもあったが、その遺伝子構造はこれまでのH1N1(ソ連型)とはかなり異なるものであったため、「新型」インフルエンザウイルス(novel influenza virus)とされた。現在WHOではウイルスはPandemic influenza A (H1N1) 2009 virus。疾病名は「Pandemic influenza (H1N1) 2009」と呼んでいる。国内での2010/2011インフルエンザシーズンは、A/H3N2(香港型)、A/H1N1 pdm 2009およびB型が混在した流行で、A/H1N1(ソ連型)は消失した。2011/12シーズンは、A/H3N2(香港型)、およびB型が混在した流行で、A/H1N1 pdm 2009 はほとんど見られていなかった。インフルエンザの疫学状況わが国のインフルエンザは、毎年11月下旬から12月上旬頃に発生が始まり、翌年の1~3月頃にその数が増加、4~5月にかけて減少していくというパターンであるが、流行の程度とピークの時期はその年によって異なる(図1)。2009年は、新型インフルエンザ(パンデミック2009)の登場によって、著しくそのパターンは異なっている。わが国におけるインフルエンザの状況は、以下のようなサーベイランスシステムによって行われており、その結果は国立感染症研究所感染症情報センターのホームページで見ることができる(国立感染症研究所感染症情報センター:インフルエンザ http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/index.html)1)インフルエンザ患者発生状況:インフルエンザは感染症法の第五類定点把握疾患に定められており、全国約5,000カ所のインフルエンザ定点医療機関(小児科約3,000、内科約2,000)より報告がなされている。報告のための基準は以下の通りであり、臨床診断に基づく「インフルエンザ様疾患(influenza like illness: ILI)の報告である。診断した医師の判断により、症状や所見から当該疾患が疑われ、かつ、以下の4つの基準を全て満たすもの1.突然の発症2.38℃を超える発熱3.上気道炎症状4.全身倦怠感等の全身症状定点は保健所に報告を行い、保健所は都道府県等の自治体に、自治体は国(厚生労働省)にその報告を伝達し、感染研情報センターがこれを集計・解析・還元している(図1)。図1インフルエンザ流行曲線全国5,000カ所のインフルエンザ定点医療機関からの報告http://idsc.nih.go.jp/idwr/kanja/weeklygraph/01flu.html2)病原体(インフルエンザウイルス)サーベイランスインフルエンザ定点の約10%は検査定点として設定され、検体を各地方の衛生研究所(地研)などに送付する。地研ではウイルス分離や抗原分析を行う。分離ウイルスに関する詳細な分析については、各地研および国立感染症研究所ウイルス3部インフルエンザウイルス室で行われ、感染研情報センターがこれを集計、解析、還元している(図2)。国内で分離されたウイルスの薬剤耐性に関する情報も公開されている。図2週別インフルエンザウイルス分離・検出報告数http://www.nih.go.jp/niid/images/iasr/rapid/infl/2012_49w/sinin1_121213.gif3)感染症流行予測事業によるインフルエンザ免疫保有状況一般健康者より血液の提供を受け、地研でインフルエンザ抗体保有状況を測定し、それを感染研において全国データとして集計する。調査結果については、インフルエンザシーズン前に感染症情報センターホームページ等を通じ公表される。4)その他のインフルエンザサーベイランスシステム感染症発生動向調査を補い、インフルエンザ流行初期にその拡大やピークを把握することを目的として、1999年度よりインフルエンザ定点(5,000定点)のうち約1割を対象に、インターネットを利用した「インフルエンザによる患者数の迅速把握事業(毎日患者報告)」を実施している。また、有志の医師による「MLインフルエンザ流行前線情報データベース(ML-flu)」が行われているが、両者による流行曲線は非常に良く相関している。(MLインフルエンザ流行前線情報データベース :http://ml-flu.children.jp)インフルエンザ流行の社会へのインパクトの評価には超過死亡(インフルエンザ流行に関連して生じたであろう死亡)数を用いる。「インフルエンザ疾患関連死亡者数迅速把握」事業により、16都市が参加し、インフルエンザ・肺炎死亡の迅速把握も行われている。シーズン終了後の事後的解析に加え、シーズン中の対策に生かせるように、週単位の「インフルエンザ・肺炎死亡」による超過死亡数の迅速な把握に並行し、解析および情報還元が行われるようになっている。(http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/inf-rpd/index-rpd.html)」

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お気に入りのインフルエンザ迅速診断キットベスト5ほか~医師アンケート(3)~

対象ケアネット会員の内科医師1,771名方法インターネット調査実施期間2012年12月18日~12月25日お気に入りのインフルエンザ迅速キットを1つ教えてください回答者(1,649名)の投票シェアベスト5今シーズンのインフルエンザウイルスの型別の傾向はいかがですか?すべてのインフルエンザ患者(非検出例を含め)のうちA型の占める割合でお教えください。今年のインフルエンザはA型が圧倒的か…抗インフルエンザ薬と解熱鎮痛薬の両方を処方する患者さんはどの程度いらっしゃいますか?外来のインフルエンザ患者における割合をお教えください。解熱鎮痛薬併用80%以上が半数弱。小児科では併用比率高い小児を除く患者さんについてお聞きします。インフルエンザで解熱鎮痛薬を処方するとき、次のどの薬剤を処方していますか?成人例での解熱鎮痛薬はアセトアミノフェンが圧倒的

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エキスパートが質問に回答「インフルエンザ診療」その2

CareNet.comでは12月のインフルエンザ特集を配信にあたり、会員の先生よりインフルエンザ診療に関する質問を募集しました。その中から、多く寄せられた質問に対し、岡部信彦先生にご回答いただきました。インフルエンザ脳症の早期発見のポイントについて教えてください。インフルエンザ様症状が発現後、比較的早い時期における“意味不明な言動を起こす”“意識状態に異常がみられる(呼んでも反応が鈍いなど)”という症状は、急性脳症を疑う重要なポイントといえるでしょう。もちろん、痙攣や重度の意識障害も、本症を疑う大きなポイントです。インフルエンザに伴う発熱について、解熱に積極的に介入していくべきか教えてください。インフルエンザの発熱は基本的には自然経過で解熱するため、解熱剤を使用しないというのも選択しうる一つの方法だと思います。しかし、一般的には患者さんの辛さや不安、全身状態の一時的な改善などを目的として使用することのほうが多いと思います。その際、小児に関しては、アスピリンなどのサリチル酸系解熱薬はライ症候群発症のきっかけとなる可能性があり、ジクロフェナクナトリウムやメフェナム酸などのNSAIDsについては急性脳症発症者での予後を悪化させる可能性があるため、原則として使用しないという注意を遵守していただきたいと思います。商品名だとわかりにくいことがあるため、一般名を必ず確認するようにしてください。インフルエンザ治療後、職場に出勤する時期の目安は、どのように考えたらよいでしょうか?成人の場合は仕事などの関係上、学校や幼稚園・保育園などのようにはいかないと思いますが、少なくとも解熱しているかどうかの確認は必要です。また、解熱後はウイルス量は減少しますが、他人に感染させうる程度のウイルスは暫くは排泄される可能性があるため、発症(発熱)から5日程度経過し、かつ解熱から2日経過するくらいまでは、マスクや手洗いなどで他人にうつさないようにすることを指導していただければと思います。新型インフルエンザが発生した場合の一般診療所で行うべき防御手段について、スタッフやその家族を守る観点から教えてください。新型インフルエンザが発生した場合、その病原性、感染力については最新の情報を得ることが最も重要です。その程度によって対応は異なりますが、少なくても平常時から、感染対策におけるスタンダード・プレコーション(標準予防策)を、いつでもとれるように準備しておくことが重要です。それをレベルアップするか、レベルダウンするかは状況によって異なりますので、まずは最新の情報を入手してください。日本のインフルエンザの診療水準や予防への取り組みは、諸外国と比較した場合どの程度の水準なのでしょうか? また、どのような特徴があるのでしょうか?診療水準に関しては、インフルエンザ迅速診断キットで丁寧に診断し、抗インフルエンザ薬を豊富に使用するなど世界でも最上位にあるといえるでしょう。インフルエンザワクチンについても、アメリカには及ばないものの、わが国の関心は世界でも最も高いレベルに位置します。また、わが国における医療機関へのアクセスの良さは、やはりトップクラスであり、重症例の早期発見や早期治療に大きく結び付いていることでしょう。とはいえ、その利点は一方では軽症患者が夜昼となく外来および救急医療機関に集中することにもなり、解決すべき問題点としてあげられます。

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Dr.中野のこどものみかたNEO

第1回「小児気管支喘息最前線 ! 」第2回「使ってみよう ! こどもに漢方」第3回「ワクチン(1) Hib,肺炎球菌」第4回「ワクチン(2) 子宮頸癌の予防ワクチンとHPV」 第1回「小児気管支喘息最前線 ! 」他科領域で“最も難しい”、“なるべくなら回避したい”とされる小児科。小児の特異性は成人を診ることが多い医師にはどうしても判断しにくいものです。このシリーズでは、一般内科医の「診断はどうすれば良いのか?」「治療薬の処方は?」などの疑問に小児科専門医が答えるQ&A形式でわかりやすくお伝えしていきます。新米ママでもある馬杉先生が臨床現場の生の声をぶつけます。2008 年に改訂されたガイドラインを基軸に、現在の小児・乳児の気管支喘息の診断や治療、そして保護者への具体的な指導内容とその方法を徹底的に解説します。医師のみならず薬剤師や看護師など、小児と保護者に接する機会のある全ての医療従事者にご覧いただける内容です。第2回「使ってみよう ! こどもに漢方」最近では一般の医師でも漢方を処方したり、西洋薬と併用使用したりするケースが増えてきましたが、逆に情報通の保護者から漢方処方を依頼されることもあるのではないでしょうか。夜泣きや疳の虫、引きつけなど小さなこどもに多くみられる特有の症状。病気とはいえないがママ達には大変なストレス ! 漢方はそんな症状にズバリ著効することが多々あるのです。もちろん、嘔吐や下痢、発熱、くしゃみ鼻水といった一般的な症候によく効く漢方薬もあります。比較的小児に用い易い漢方処方を取り上げ、症例に沿って紹介します。大流行したノロウイルス感染症に効果のある「五散」のほか、「抑肝散」の母子同服という裏ワザ、そして服薬指導も行います。苦手意識をもたずに先ずは実践してみてください。第3回「ワクチン(1) Hib,肺炎球菌」Hib(インフルエンザ菌b型)と肺炎球菌(7価混合型)の2 種のワクチンについて学習します。Hib も肺炎球菌も、細菌性髄膜炎や中耳炎、肺炎、ときには菌血症といった非常に深刻な感染症を引き起こす菌。こどもが保育園などに通い始めると1年あまりで保菌率が飛躍的に上昇します。そのため家族に高齢者がいれば飛沫感染で影響を及ぼすこともあります。これらのワクチンは、世界的には非常にポピュラーでありWHO でも定期接種が勧められていながら日本では認知度も接種率も低かったのですが、2011 年度から公費助成での接種が始まりました。公衆衛生や集団免疫の観点からも、小児科医だけでなく全ての医師と医療従事者がきちんと知っておく必要がありますので、この機会に是非ワクチンの知識を身につけてください !第4回「ワクチン(2) 子宮頸癌の予防ワクチンとHPV」第4回は小児疾患ではなく、子宮頸がんとそのワクチンについて学習します。近年急増傾向にあり、特に20 代から30 代女性の罹患と発症が問題となっています。子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルス感染症によって引き起こされ、日本では成人女性の実に4 割以上がHPV に感染しているという驚くべき感染症です。タイプによっては予後が非常に悪く発症後の死亡率も高いため「Mother killer」と呼ばれています。にも関わらず日本では定期検診受診率が低くワクチンに関しても浸透しておらず、医師を含む医療従事者の間でさえ認知度が高いとはいえませんでした。しかし、2009 年12月から一般の医療機関でワクチン接種が可能となり、国と市町村の公費助成がはじまったため、婦人科以外で問合せを受ける可能性もあります。ワクチンで予防可能ながんをよく知り、その重要性を患者さんに啓蒙できるようになることが、これからの医療には求められるのではないでしょうか。

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関節疾患にみる慢性疼痛

関節痛の概要・特徴痛みを呈する関節で最も多いのが膝関節、次いで肩こりを含めた肩関節が多い。股関節では骨形成不全などがあると痛みが発症するが、膝関節や肩関節に比べて頻度は低い。また、肩関節、手関節および肘関節の痛みの訴えはそれ以上に少なく、治療上も問題になることは多くない。関節痛の原因としては変形性関節症が最も多く、次に痛風、偽痛風、関節リウマチなどの炎症性関節炎、そして感染性関節炎となる。関節痛の多くは、慢性的なケースが多く、継続して痛みがあるか亜急性的に痛みが悪化する患者さんが多い。関節痛のリスク因子には、下肢(股関節、膝関節、足関節)のアライメントの異常(関節の歪み)や肥満、筋力低下がある。日本人にはO脚が多いため、膝の内側が摩耗しやすく、体重増や筋力低下により摩耗が進むと関節痛がさらに悪化するというのはその典型といえる。関節痛の原因関節痛についても、痛みの原因を明らかにし、その原因に対処していくことが必要である。変形性関節症の場合、過労時や荷重時の痛みが多く、安静時痛がない。ちなみに、安静時痛のある場合は、関節リウマチや痛風などの炎症性関節炎や細菌感染などの化膿性関節炎などのこともあるので注意が必要である。炎症性関節炎の場合、痛みの原因となる内科疾患を明らかにする必要がある。痛風であれば熱感や発赤が認められるが関節液の濁りは少なく、採血でCRPおよび尿酸値の高値が認められる。偽通風であれば関節液からピロリン酸が検出される。炎症性関節炎では、感染性関節炎と鑑別しにくい場合もある。化膿性関節炎では、熱感、発赤が非常に強く、白血球は10万レベルになる。一方、炎症性関節炎であれば上がっても白血球は数千から1万程度である。また、化膿性関節炎の関節液では白色の膿が確認されるが、炎症性関節炎の関節液は少し濁っている程度である。炎症性、感染性が除外された場合、単純X線所見と併せて変形性関節症と診断することになる。また、胆嚢疾患や心疾患などの内科疾患が原因で肩関節が痛む関連痛が報告されているが、整形外科に来院する場合もあるので注意が必要である。変形性関節症の特徴的X線所見骨棘形成関節裂隙の狭小化軟骨下骨の硬化関節裂隙の消失関節痛の治療変形性関節症はセルフリミティングな疾患であり、ある程度までしか進行せず自然治癒力が期待できるため治療の緊急性は少ない。NSAIDsで効果を期待できるため、治療初期の2週間ほどはNSAIDsを処方して様子をみて、運動療法を行う。長期にわたり鎮痛効果が必要な場合は、NSAIDsの長期服用による腎障害や胃潰瘍の発現を考慮し、弱オピオイド鎮痛薬の併用あるいは切り替えを検討する。また、変形性関節症ではX線の所見と痛みの程度は必ずしも一致せず、進行した例でも薬物療法や運動療法が有効な場合がある。関節破壊が進展し十分な保存療法を行っても症状の改善が得られず、患者さんの希望するレベルの生活に障害がある場合などは手術の適応を検討する。炎症性関節炎の場合、原因となる内科疾患、関節リウマチであればその治療を、痛風であれば尿酸値を下げるなど、その疾患の治療を行う。感染性疾患は治療に緊急性を要する場合が多い。たとえば化膿性関節炎では、関節破壊が進行し、さらに敗血症で死亡する危険があるため緊急手術を要する。運動療法の積極導入ある程度痛みが軽減したら、運動療法、筋力トレーニング、関節可動域改善のトレーニングを行う。痛みがあると、その部位の筋力が低下していることが多く、運動療法で筋力を回復するだけでも随分痛みが改善することが多い。変性疾患で軟骨が摩耗している変形性膝関節症であれば、むしろ運動療法することでが機能が回復するとされている1)。「痛み=安静」という意識を変え、症状改善のためには、少し痛みが残っていても動くことを勧めるのも治療選択肢であろう。代表的な運動療法としては、肩関節周囲のコッドマン体操や滑車体操、膝関節の大腿四頭筋訓練、股関節の股関節周囲筋筋力体操などがある。いずれの場合も運動療法を導入する際は、管理下の運動療法といって、PTや整形外科医の指導・監視下で行うことが基本であり、その際には、整形外科医との連携を図っていただくべきであろう。高齢者の肩の腱板断裂関節痛とは異なるが整形外科では高齢者の肩の腱板断裂という疾患が近年多くみられるため紹介する。この疾患は、急に肩が動かなくなり、夜も寝られない程の肩の痛みを訴える。しかしながら、単純X線検査では診断がつきにくく、内科からの紹介も多い。検査としてはドロップアームサインがある。腕を上げてバンザイはできるが、肩の腱板が切れているため腕をおろしてゆくと保持できず途中でドロップする。つまり、棚の上の物が取れなくなるが、腕をおろした状態では問題がないため字は書ける。治療として、NSAIDsで痛みをある程度軽減してから、手術療法が必要なければ運動療法により肩の可動域を保持する。症例ごとに最適の疼痛診療を目指す整形外科領域の疼痛の診療にはさまざまなピットフォールがあるが、どんな場合でも痛みの原因を明らかにし、それぞれの症例に適した診療が必要となる。また、疼痛患者さんはどの診療科を受診するかわからず、他診療科からの紹介も多い。整形外科と他診療科が連携して、患者さんの痛みをうまくコントロールしていくことが、超高齢化社会に入っていくこれからの医療には重要なのではないだろうか。参考文献1)岩谷 力 (監修)ほか 変形性膝関節症の保存的治療ガイドブック;メジカルレビュー社2006年

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小児急性胃腸炎動向からみえたノロウイルスワクチン開発の鍵

 長崎大学大学院のHoa Tran TN氏らは、小児(18歳以下)の急性散発性胃腸炎におけるノロウイルス遺伝子型分布を明らかにするため、2000年以降の発表論文のシステマティックレビューを行った。その結果、直近10年でGII.4、GII.3が大勢を占めるようになっており、その背景には世界的なGII.4変異型の出現があること、またノロウイルスはロタウイルス感染胃腸炎の減少と相反する形で小児急性胃腸炎での重要度を増している傾向が認められることなどを報告した。著者は、有効なノロウイルスワクチン開発には、GII.4、GII.3株に対する獲得免疫の提供が欠かせないとまとめている。Journal of Clinical Virology誌オンライン版2012年12月4日号の掲載報告。 ノロウイルスは世界的な流行性または散発性急性胃腸炎の原因である。研究グループは、過去20年間、感度の高い分子診断技術の開発がノロウイルス分子疫学の解明に革命をもたらしたものの、ノロウイルス株タイプと散発性胃腸炎との関連については十分に解明されていないとして、ノロウイルスの疫学的解析を行った。 2000年以降に行われた試験報告についてシステマティックレビューを行い、散発性急性胃腸炎の小児(18歳以下)におけるノロウイルス遺伝子型の分布状況を明らかにした。 主な結果は以下のとおり。・遺伝子グループでみるとGIIの占める割合が最も高く、すべての散発的な感染症のうち96%を占めていた。・遺伝子型でみるとGII.4の分布が最も優勢で、カプシド遺伝子型では70%を、ポリメラーゼ遺伝子型では60%を占めていた。次いで、GII.3(カプシド遺伝子型で16%)、GII.b(ポリメラーゼ遺伝子型で14%)であった。・最も頻度の高い組換え型ORF1.ORF2インター遺伝子型は、GII.3カプシド遺伝子型との結合によるGII.b、GII.12およびGII.4ポリメラーゼ遺伝子型で、同定されたすべての遺伝子型の19%を占めていた。・ここ10年間は、GII.4の突然変異の分布が勝っていた。現在までにGII.4/2002、GII.4/2004、GII.4/2006b、GII.4/2008、GII.4/2006bと続いてきている。・直近10年間の小児の散発性急性胃腸炎では、遺伝子型GII.4、GII.3の分布が優勢であった。その動きは、GII.4変異型ノロウイルスの世界的な出現で最も顕著であった。・小児予防接種プログラムの導入に伴ってロタウイルス疾患負荷が減少するに従い、相対的にノロウイルスが小児急性胃腸炎の原因における重要度を増している可能性がうかがえた。・有効なノロウイルスワクチン開発には、カプシド遺伝子型GII.4、GII.3株に対する獲得免疫提供が必要である。

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HPV DNA検査の子宮頸部病変検出能は、細胞診よりも良好/BMJ

 子宮頸がん検診における子宮頸部病変の検出能は、ヒトパピローマウイルス(HPV)DNA検査が従来の細胞診よりも高いことが、フィンランドがん登録のMaarit K Leinonen氏らの検討で示された。HPV DNA検査は細胞診に比べ感受性が高く、子宮頸部の進行性病変をより早期に検出するが、非進行性病変をも検出するリスクがあるという。ほとんどのHPV感染は重大な細胞異型を引き起こすことなく迅速に消退するため、HPV検査陽性例は即座に確定診断や治療を要するわけではなく、細胞診の質が高い国では、これら陽性例に対するパパニコロー塗抹標本検査が適切なスクリーニング戦略と考えられている。BMJ誌2012年12月8日号(オンライン版2012年11月29日号)掲載の報告。HPV DNA検査、細胞診の検出能を前向き無作為化試験で評価 研究グループは、HPV DNA検査および従来の細胞診による子宮頸部の前がん病変、がん病変の検出率を比較するプロスペクティブな地域住民ベースの無作為化試験を行った。 対象は2003~2007年にHPV検査を推奨された25~65歳のフィンランド人女性で、HPV DNA検査を受ける群または細胞診を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。HPV DNA検査の陽性例は細胞診を受けることとした。 主要評価項目は、5年後の2回目の検査または2008年12月31日までの子宮頸部上皮内腫瘍(CIN)、上皮内腺がん(AIS)、浸潤がん(ICC)の検出率とし、細胞診に対するHPV DNA検査のハザード比(HR)を算出した。HRはCIN1が1.53、CIN2が1.54、CIN3/AISが1.32、ICCは0.81 HPV DNA検査群に10万1,678人、細胞診群には10万1,747人が割り付けられた。平均フォローアップ期間3.6年の時点で、前がん病変またはがん病変が検出されたのはHPV DNA検査群が1,010人、細胞診群は701人だった。 CIN 1(軽度異形成)の検出のHRは1.53〔95%信頼区間(CI):1.28~1.84〕、CIN2(中等度異形成)のHRは1.54(同:1.33~1.78)、CIN3(高度異形成、上皮内がん)またはAISのHRは1.32(同:1.09~1.59)と、HPV DNA検査の検出能が有意に優れたが、ICCのHRは0.81(同:0.48~1.37)であり2つの検査法に有意な差は認めなかった。 25~34歳の女性における5年間のCIN3またはICCの累積ハザード(累積検出率)は、HPV DNA検査が0.0057(95%CI:0.0045~0.0072)、細胞診は0.0046(同:0.0035~0.0059)、35歳以上の女性ではそれぞれ0.0022(同:0.0019~0.0026)、0.0017(0.0014~0.0021)であった。 著者は、「HPV DNA検査は細胞診よりも子宮頸部病変の検出能が高いことが示された。CIN3またはAISの検出率は、25~34歳、35歳以上の女性のいずれもがHPV DNA検査で高率だったが、35歳以上では両検査の絶対差は小さなものであった」とまとめ、「年齢や検査間隔を十分に考慮して検診対象を選択すれば、HPV DNA検査によって全体的な子宮頸部前がん病変の検出率が、わずかとはいえ改善する可能性がある。一方、これらの知見は、フィンランドは任意型検診の質が高いことを考慮したうえで解釈する必要がある」と指摘している。

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医療施設におけるインフルエンザの予防と治療

1 流行に備えた感染対策インフルエンザ対策は、本格的な流行が始まる前に開始する。平素の感染対策活動に加え、流行前に職員に対するインフルエンザ感染対策に関する啓発活動を強化する。また、施設内で患者発生を早期に探知できる体制を構築しておく。職員もインフルエンザ様症状を認めた場合はただちに当該部署に届けて欠勤するなどのルールを作っておく。その他重要な点を以下に示す。(1)ワクチン接種ワクチン接種はインフルエンザ感染対策の基本である。患者に対し、予防接種の意義、有効性、副反応の可能性を十分に説明して同意を得たうえで、禁忌者を除き積極的にワクチンを接種する。とくに65歳以上の者、および60歳以上65歳未満の者であって心臓、腎臓もしくは呼吸器の機能またはHIV感染による免疫機能障害を有する者に対するワクチン接種は、予防接種法上定期接種と位置付けられている。医療施設の職員にも、禁忌者を除き積極的にワクチン接種を勧める。(2)ウイルスの持ち込みリスクの低減流行期間中、ウイルスは医療施設外からもたらされるため、ウイルス持ち込みのリスクを低減する工夫が必要となる。インフルエンザ様症状を呈する者が面会などの目的で施設内に入ることは、必要に応じて制限する。そのため施設の入口にポスターを掲示したり、家族等にはあらかじめ説明しておくなどして、事前に理解を得ておく。施設に入る前に擦り込み式アルコール消毒薬の使用を求めることも必要である。2 流行開始後の感染対策インフルエンザ患者に対しては、まず良質かつ適切な医療の提供が基本となる。治療については後述するので、ここでは医療施設内でインフルエンザが発生した後の対応について述べる。(1)速やかな患者の隔離施設内でインフルエンザ様患者が発生した場合は、迅速診断キットを活用して診断を行う。発症早期には偽陰性となる場合があるので、キットの結果が陰性であっても、臨床的に疑われる場合はインフルエンザとして扱う。患者はただちに個室に隔離し、できるだけ個室内で過ごすように指示する。個室が確保できない場合は、患者とその他の患者をカーテン等で遮蔽する、ベッド等の間隔を2メートル程度空ける、患者との同室者について、入居者の全身状態を考慮しつつサージカルマスクの着用を勧める、といった次善の策も提案されている。患者が複数いる場合は、同型のインフルエンザ患者を同室に集めることも検討する。(2)飛沫感染予防策とその他の予防策職員が患者の部屋に入る場合はサージカルマスクを着用する。インフルエンザ患者がやむを得ず部屋を出る場合は、サージカルマスクを着用させる。インフルエンザの感染対策では通常、空気予防対策は不要であるが、サクションチューブで喀痰を吸引する時や、緊急で心肺蘇生を行う場合などは、N95マスクなどの高性能マスクの着用も勧められる。飛沫予防策として、インフルエンザを発症してから7日間もしくは発熱や呼吸器症状が消散してから24時間のどちらか長い方が経過するまで継続することが推奨されている。(3)患者への抗ウイルス薬の予防投与CDCは、施設内で72時間以内に2名以上のインフルエンザ様患者が発生した場合や、1名のインフルエンザ確定患者が発生した場合は、入所者への抗ウイルス薬の予防投与を勧めている。日本感染症学会は、インフルエンザ患者に接触した患者には、承諾を得たうえで、ワクチン接種歴にかかわらずオセルタミビルかザナミビルによる予防投与を開始すべきであるとしている。予防投与の範囲は、原則的にはインフルエンザ発症者の同室者とする。なお、現時点でペラミビルとラニナミビルには予防投与の適応は無い。(4)職員への予防投与CDCは、医療施設の職員についても、ワクチン未接種者については抗ウイルス薬の予防投与を検討すべきであるとしている。日本感染症学会は、職員は本来健康なので抗ウイルス薬の予防投与は原則として必要ではなく、発症した場合の早期治療開始でよいとしている。しかし、施設内での流行伝搬に職員が関与していると考えられる場合、とくに職員の間でインフルエンザ発症が続く場合は、職員にも予防投与が必要であるとしている。3 インフルエンザの治療-抗インフルエンザウイルス薬-ここでは主に抗ウイルス薬について述べる。現在わが国で使用可能な抗インフルエンザウイルス薬は、アマンタジン、ザナミビル水和物、オセルタミビルリン酸塩、ペラミビル水和物、ラニナミビルオクタン酸エステル水和物の5種類である。そのうちアマンタジンはA型ウイルスにのみ有効であることと、ほとんどの流行株が耐性化していること、ならびに副作用の問題などから使用機会は少なく、現在は主としてノイラミニダーゼ阻害薬が使用される。以下に各薬の特徴をまとめた。ザナミビル水和物(商品名:リレンザ)は、吸入で用いるノイラミニダーゼ阻害薬である。通常インフルエンザウイルスは主に上気道~気管で増殖するため、非常に高濃度のザナミビルが感染局所に到達する。副作用として、まれではあるが吸入に伴い気道攣縮を誘発する可能性がある。これまでにザナミビルでは耐性ウイルスの出現はほとんど報告されていない。オセルタミビルリン酸塩(同:タミフル)は、内服のノイラミニダーゼ阻害薬である。消化管から吸収され、肝でエステラーゼにより加水分解され活性体に変換される。ペラミビル水和物(同:ラピアクタ点滴用)は、1回の点滴静注でA型およびB型インフルエンザウイルス感染症に対して有効性を示す。点滴静注であるため確実に血中に移行し長時間効果を表す。ラニナミビルオクタン酸エステル水和物(同:イナビル吸入粉末剤)の特徴は、初回の吸入のみで完結する点で、服薬中断や服薬忘れの懸念が無い。以上の薬剤をどのように使い分けるかは、臨床的に大きな課題である。社団法人日本感染症学会の提言などが参考になる。文献(1)CDC. Prevention strategies for seasonal influenza in healthcare settings. http://www.cdc.gov/flu/professionals/infectioncontrol/healthcaresettings.htm(2)CDC. Interim guidance for influenza outbreak management in long-term care facilities. http://www.cdc.gov/flu/professionals/infectioncontrol/ltc-facility-guidance.htm(3)厚生労働省健康局結核感染症課、日本医師会感染症危機管理対策室.インフルエンザ施設内感染予防の手引き 平成23年11月改訂.http://dl.med.or.jp/dl-med/influenza/infl_tebiki23.pdf(4)社団法人日本感染症学会.社団法人日本感染症学会提言2012~インフルエンザ病院内感染対策の考え方について~(高齢者施設を含めて).http://www.kansensho.or.jp/influenza/pdf/1208_teigen.pdf(5)Fiore AE, et al. MMWR.Recomm Rep.2011;60 : 1-24.

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