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重症患者の連日クロルヘキシジン清拭は無効?/JAMA

 連日のクロルヘキシジン(商品名:ヒビテンほか)清拭は、重症患者の医療関連感染(health care-associated infection)を予防しないことが、米国・ヴァンダービルト大学のMichael J Noto氏らの検討で確認された。入院中の院内感染(医療関連感染)は、入院期間の延長や死亡率の上昇、医療費の増大をもたらす。入院患者の皮膚は病原菌の貯蔵庫であり、医療関連感染の機序には皮膚微生物叢の浸潤が関連すると考えられている。クロルヘキシジンは広域スペクトルの局所抗菌薬であり、清拭に使用すると皮膚の細菌量が減少し、感染が抑制される可能性が示唆されている。AMA誌2015年1月27日号掲載の報告。予防効果をクラスター無作為化クロスオーバー試験で評価 研究グループは、連日クロルヘキシジン清拭による、重症患者における医療関連感染の予防効果を検証するために、実臨床に即したクラスター無作為化クロスオーバー試験を行った。対象は、2012年7月~2013年7月までに、テネシー州ナッシュビル市にある3次医療機関の5つの専門機能別ICU(心血管ICU、メディカルICUなど)に入室した9,340例の患者であった。 5つのICUは、毎日1回、使い捨ての2%クロルヘキシジン含浸タオルを用いて清拭する群(2施設)または抗菌薬を含まないタオルで清拭する群(対照、3施設)に無作為に割り付けられた。これを10週行ったのち、2週の休止期間(この間は抗菌薬非含浸使い捨てタオルで清拭)を置き、含浸タオルと非含浸タオルをクロスオーバーしてさらに10週の清拭治療を実施した。 主要評価項目は、中心静脈ライン関連血流感染(CLABSI)、カテーテル関連尿路感染(CAUTI)、人工呼吸器関連肺炎(VAP)、クロストリジウム・ディフィシル(C.ディフィシル)感染の複合エンドポイントとした。副次評価項目には、多剤耐性菌、血液培養、医療関連血流感染の陽性率などが含まれた。医療費の損失や耐性菌の増加を招く可能性も クロルヘキシジン群に4,488例(年齢中央値:56.0歳、男性:57.6%)、対照群には4,852例(57.0歳、57.8%)が割り付けられた。医療関連感染は、クロルヘキシジン清拭期に55例(CLABSI:4例、CAUTI:21例、VAP:17例、C.ディフィシル感染:13例)、抗菌薬非含浸清拭期には60例(4例、32例、8例、16例、)に認められた。 主要評価項目の発生率は、クロルヘキシジン清拭期が1,000人日当たり2.86、抗菌薬非含浸清拭期は同2.90であり、両群間に有意な差は認められなかった(発生率の差:-0.04、95%信頼区間[CI]:-1.10~1.01、p=0.95)。ベースラインの変量で補正後も、主要評価項目に関して両群間に有意差はみられなかった。 また、院内血流感染、血液培養、多剤耐性菌などの副次評価項目の発生率にも、クロルヘキシジン清拭による変化は認めなかった。さらに、事前に規定されたサブグループ解析では、各ICU別の主要評価項目の発生率にも有意な差はなかった。 著者は、「連日クロルヘキシジン清拭は、CLABSI、CAUTI、VAP、C.ディフィシルによる医療関連感染を予防せず、重症患者に対する連日クロルヘキシジン清拭は支持されない」とまとめ、「クロルヘキシジン清拭はいくつかの専門ガイドラインに組み込まれているが、医療費の損失やクロルヘキシジン耐性菌の増加を招いている可能性がある」と指摘している。

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モノクロロ酢酸はいぼ治療の新たな選択肢

 疣贅(いぼ)の治療として凍結療法やサリチル酸が用いられるが、効果が得られないことも多い。オランダ・ライデン大学のSjoerd C Bruggink氏らは、モノクロロ酢酸が凍結療法あるいは凍結療法+サリチル酸併用療法に代わる、痛みのない効果的な治療選択肢となりうることを無作為化試験で示した。Journal of Investigative Dermatology誌オンライン版2015年1月13日号の掲載報告。モノクロロ酢酸塗布による尋常性疣贅と足底疣贅の治癒率 オランダのプライマリケア53施設において、1つ以上の新規の尋常性疣贅または足底疣贅を有する4歳以上の連続症例が登録され、尋常性疣贅患者(188例)は外来でのモノクロロ酢酸塗布および液体窒素凍結療法(2週ごと)の2群に、足底疣贅患者(227例)は外来でのモノクロロ酢酸塗布および液体窒素凍結療法+サリチル酸(毎日自己塗布)併用の2群に無作為化された。 主要評価項目は、治療13週後における治癒率(すべての疣贅が治癒した患者の割合)であった。 主な結果は以下のとおり。・尋常性疣贅の治癒率はモノクロロ酢酸群が40/92例43%(95%信頼区間[CI]:34~54)、凍結療法群が50/93例54%(同:44~64%)であった(p=0.16)。・足底疣贅の治癒率は、モノクロロ酢酸群が49/106例46%(同:37~56%)、凍結療法+サリチル酸群が45/115例39%(同:31~48%)であった(p=0.29)。・尋常性疣贅患者において治療後の疼痛は両群で類似していた。

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ペコロスの母に会いに行く【認知症】

今回のキーワード社会脳社会的認知進化心理学・進化精神医学DSM-5デフォルトモードネットワークヒューマンセンタードケア「認知症の人はなんで無邪気なの?」 皆さんは、認知症になった人が無邪気になっていくのを不思議に思ったことはありませんか? 単にもの忘れをするだけでなく、ちょっとずつ無邪気に幼くなっていきます。 今回は、その原因とかかわり方のコツを、進化心理学・進化精神医学のメインテーマである社会脳(社会的認知)という視点から、いっしょに考えていきましょう。また、2013年にDSM-5(精神疾患の分類と診断の手引第5版)への改定に伴い、認知症の診断基準が変わりました。その内容とその理由も解説します。 取り上げるのは、2013年の映画「ペコロスの母に会いに行く」です。ペコロスとは、小さい西洋玉ねぎのことで、この映画の原作者である主人公の頭をユーモラスに表した愛称です。彼の母親が認知症を発症してからの介護生活の様子が、ありのままにそしてほのぼのと描かれています。もの忘れ―学習と記憶の障害 主人公の男やもめのゆういちは、認知症の母のみつえの介護をしながら、息子のまさきと3人で暮らしています。日常生活でゆういちとみつえの間で交わされる会話のワンシーンをみてみましょう。ゆういちが「また!母ちゃん!」(電話の)受話器ば外しっぱなしにしとったらいかんて言うたろうが」「なんかあった時に連絡のつかんやろが」と注意します。すると、みつえは「また親ばわるもん(悪者)にする、もう」と言い返します。 このやり取りが、日々の挨拶のように繰り返されます。みつえは、電話の受話器を戻すよう言われた体験を丸ごと忘れており、忘れたことに自覚がないのです。つまり、「忘れたことを忘れている」のです(メタ記憶の障害)。 これは、典型的な認知症のもの忘れの症状です(健忘)。この記憶障害は、従来の診断基準では、全ての認知症において絶対的な項目でした。しかし、新しい診断基準(DSM-5)では、アルツハイマー病を除く認知症において、6項目の診断基準の中の「学習と記憶の障害」の1項目として格下げされています。 その理由として、他の3つの認知症の特徴があげられます(表1)。1つ目として、脳血管性認知症はまだら認知症であり、必ずしも記憶障害が目立たないからです。2つ目として、レビー小体型認知症は認知症状が動揺性であり、記憶障害が固定されていないからです。3つ目はとして、前頭側頭型認知症は前頭葉症状が主であり、記憶障害が初期に目立たないからです。 表1 それぞれの認知症の記憶障害の特徴   アルツハイマー病 脳血管性認知症 レビー小体型認知症 前頭側頭型認知症 記憶生涯 必ず目立つ 必ずしも目立たず 目立ったり目立たなかったりと揺れ動く 初期に目立たず 言い間違え、言葉数が少ない―言語の障害 認知症の進行に伴い、自宅介護が難しくなったため、ゆういちはみつえをグループホーム(介護施設)に入所させます。ゆういちが訊ねてきた時のワンシーンです。みつえは「ゆういち、どこにおったん?」「フリーターの仕事や(か)?」と訊ねます。ゆういちはすかさず「フリーライター!」と言い返します。これは言葉の言い間違え(音韻性錯語)です。このようなボケとツッコミのユーモアがこの映画には溢れています。その後、みつえは問いかけに対して言葉が出なかったり言葉数が少なくなっていきますが(無言症)、そんなみつえをゆういちは温かく見守ります。 これらの言葉の症状も、認知症の診断基準の1つです(言語の障害)。従来の診断基準の失語に当たります。顔が分からない― 知覚―運動の障害 ゆういちがグループホームからみつえを散歩に連れ出そうとするシーン。みつえは「この盗人(ぬすっと)、嘘つき!」「ああっ!悪者(わるもん)がおる。誰か誰かー!」と叫び出します。すぐにゆういちは「母ちゃん、ほら!」とゆういちが、帽子をとって薄毛の頭を目の前に向けると、「アハッ、なっ、ゆういちやったとか、あ~ハハハッ」と薄毛の頭を撫で回し、「えいえいえい」と叩き、「はげちゃび~ん!」と無邪気に騒ぎます(タイトル画像)。薄毛を確認してようやく息子のゆういちであると認識しています。しかし、ゆういちが帽子をかぶると、すぐに「誰ね?」と言い、息子の顔が分からなくなっています(相貌失認)。 みつえが大正琴を弾くシーン。「どげんやったかいな?ハハハッ」と弾き方を忘れたことを笑い飛ばしています。本来、長年体に染みついていた動きはなかなか忘れないものです。楽器の弾き方を忘れるのは症状とまでは言えません。しかし、その後にみつえは、読めない字を書くようになります。字が書けなくなるのは、認知症の症状と言えます(構成失書)。着替えや歯磨きなどの日常生活の動作ができなくなると(更衣失行、観念失行)、介護がさらに必要になってきます。 このようにものごとが認識できなくなる症状と、ものや体の動かし方が分からなくなる症状を合わせたものが、新しい認知症の診断基準の1つになっています(知覚―運動の障害)。これは、従来の診断基準の失認と失行に当たります。段取りが立てられない―実行機能障害 みつえがまだ家にいる時のワンシーン。ゆういちとまさきは夕食に弁当を買って食べています。みつえが料理できなくなっていることを間接的に描いています。料理は、献立を考え多くの段取りを経て作る必要があります。 このように、段取りを立てて計画的に行動できなくなる症状も、認知症の診断基準の1つです(実行機能障害)。これは従来と同じ診断基準です。実行機能とは、意志→計画→実行→評価(フィードバック)という一連の手順を踏んで、ものごとを実行していく脳の働きです。気付きにくい―複雑性注意の障害 さきほどの電話の受話器を戻すことをみつえが忘れているワンシーンでは、電話のそばに「受話器ば絶対にもどすこと」というメモが貼られています。しかし、みつえは、毎回、電話の対応でいっぱいいっぱいになっており、そのメモに気付かないのです。さきほどのゆういちの顔が分からなかったシーンでは、ゆういちはみつえの背後から「母ちゃん」と声をかけています。そして、みつえがゆういちを確認する前に、車イスを後ろに引いています。みつえは、目の前に見えていないゆういちの声に注意を向けることができずに混乱しています。また、みつえが夜遅くまでゆういちの帰りを駐車場で待っているワンシーンでは、ゆういちの車が間近まで迫ってきても、ゆういちを出迎える気持ちでいっぱいであるため、全く危機意識がありません。「ゆういち、お帰り~」と笑顔で迎えます。ゆういちは「母親ばひいたらシャレならんやろがっ!」「あやうくひいてしまうとこやった」と肝を冷やします。 これは、一度に複数の対象に注意を向ける力が落ちて、ものごとの変化や危機に気付きにくい症状で、新しく追加された認知症の診断基準です(複雑性注意の障害)。無邪気になる―社会的認知の障害 みつえが家で留守番をしている時に電話がかかってくるワンシーン。みつえが電話に答えます。「えっ?オレって誰ね?」「アハハッ、まさき(孫)か?」「まさき、どげんしとると?」「こっちには帰ってこんとね?」「ええっ?事故ば起こしたけん帰れんて!?」「示談?」「金ば払えば良かて」「そげん大きな金、持っとらんやろ?」「それ、ばあちゃんが払うてやる」と涙ぐみます。これは、おれおれ詐欺(振り込め詐欺)に引っかかっている典型的なパターンです。電話の相手を信用し切ってしまい、言われたことにあっさりと応じています。相手から出し抜かれないようにしようと相手の気持ちを推し量る警戒心(心の理論)が鈍くなり、だまされやすくなっています。 さきほどのゆういちの頭をみつえが撫で回し叩くシーン。ゆういちが痛がっているのになかなか叩くのを止めず、「はげちゃび~ん!」とふざけています。微笑ましく見える一方、見方を変えれば、みつえはゆういちの気持ちを感じ取ること(共感、情動認知)が弱くなり、無神経で無遠慮で一方的になっています。認知症が進むにつれて、表情を読み取る能力(表情認知)も弱くなり、同時に本人も徐々に無表情になっていきます。 みつえは「父ちゃん(夫)もたかよ(子どもの時に亡くなった妹)も死んでからの方がようウチに会いに来てくれたとよ」と言います。ゆういちが「死んでるって知っとっと?」と聞くと、「何ば言うとるね!父ちゃんもたかよも死んどろうもん」と笑顔で答えます。過去にみつえの脳に紡(つむ)がれた人生の「模様」が映る記憶の「織物」が解(ほど)けていき、現在の現実世界に混じり合っています。相手(社会)との共通の時間感覚や論理性が揺らぎ、自分を適切に振り返ること(自己認識、メタ認知)が難しくなっています。 みつえは、だまされやすくなり、相手の気持ちが分かりにくくなり、自分を振り返りにくくなっています。しかし、裏を返せば、素直で天真爛漫なお人好し、つまり無邪気になっていると言えます。 これらは、人とうまくやっていくための社会的な能力が低くなっていく症状で、新しく追加された認知症の診断基準です(社会的認知の障害)。従来は「理解力の低下」という曖昧な用語を使っていました。社会的認知とは、精神医学用語で、相手の気持ちを察して相手(社会)に対して適切に振る舞うという意味で、社会的能力とも呼ばれます(表2)。日常用語の社会的認知は「広く世間(社会)に知れ渡っている(認められている)」という意味ですので、この違いに注意が必要です。 表2 社会的認知   意味 心の理論 相手の気持ちを推し量る 共感性 相手の気持ちを感じ取る 表情認知 相手の表情を読み取る 社会性 相手(社会)にうまく合わせる 理性的抑制 相手(社会)のために我慢する 自己認識 自分(の気持ち)を振り返る(推し量る) 私たちはなぜ無邪気ではないのか?―新しい診断基準(DSM-5)のポイント ゆういちが、営業の仕事をサボって、出先の公園で趣味のギターの練習をしている時に、上司から電話がかかってくるシーン。何をしているかと聞かれて、「せっかくこっちに来たけんですね、いくつか広告ば取ろうと思って何件も回っとっとですよ」「えっ、どこばどげん回っとかってですか?」「いや~あの何件も回り過ぎてよう確認しとらんですね」とうまく取り繕うとしています。また、ゆういちは、みつえを自宅で介護することに限界を感じている時、施設に入所させるか思い悩んでいます。さらに、ゆういちは、認知症のみつえに冗談を交えて接しています。 このようなその場をしのぐウソ、気遣いによる苦悩、そして場を和ませるユーモアなどは、私たちがより良い人間関係を築き、立ち振る舞おうとするズルさであり賢さでもあります(社会的認知)。これは、「人間性」「人間らしさ」そのものです。これが、社会生活を送る私たちが決して無邪気ではない答えでもあります。 対照的に、みつえは無邪気です。その無邪気さとは、ウソもつけないですが、先読みや裏読みもできず、お世辞や冗談も思い付かず、悩みや葛藤がなくなるということです。 新しい診断基準では、認知症の中心的な症状のとらえ方が、従来の記憶障害から、社会的認知の障害へとシフトしていると言えます。なぜなら、そもそも認知症にまつわる困難は、物忘れそのものよりも、周囲の人の気持ちや自分の状況を分からなくなることだからです。 表3 認知症の診断基準 DSM-IV-TR DSM-5 映画のエピソード例 記憶障害 →学習と記憶の障害 電話の受話器を戻し忘れることを繰り返す 失語 →言語の障害 言葉の言い間違え、言葉数が少なくなる 失認 知覚―運動の障害 薄毛を見ないとゆういちの顔が分からなくなる字の書き方が分からなくなる 失行 実行機能障害 料理ができない ― 複雑性注意の障害 すぐそばのメモや車の動きに気付かない ― 社会的認知の障害 振り込め詐欺にだまされるゆういちが痛がっている様子が分からないすでに死んでいる夫や妹に会えると考えている 認知症の行動・心理症状(BPSD) これまで紹介してきた6項目の診断基準は、認知症状(中核症状)と呼ばれます。ここから二次的に現れる症状は、認知症の行動・心理症状(BPSD、周辺症状)と呼ばれます。これらをいくつか見てみましょう。 (1)幻覚 みつえがゆういちに「なあ、さっきたかよ(子どもの時に亡くなった妹)が来て、天草にいっしょに行こうて言うてくれたとばい」「そのあと父ちゃん(すでに亡くなった夫)が来て」「ウチの手ばずーとしっかりと握ってくれらしたと」「ごめんな~ごめんな~ヘヘヘヘッ」と楽しげにのろけます。みつえは見えないものが見えていることになります(幻覚)。この症状は、過去の記憶と現在の現実世界が区別しにくくなり(社会的認知の障害)、記憶を現実のものと認識し知覚してしまうことで起こります。 ちなみに、東北地方に伝わる「座敷わらし」は、認知症の幻覚、特にレビー小体型認知症の「幻の同居人(小人幻視)」の症状である可能性があります。「座敷わらしが出てくるとその家は栄えて、いなくなるとその家は傾き落ちぶれる」という言い伝えは、裏を返せば、経済的に恵まれている家は、認知症の人を養う余裕があり、結果的にその認知症の人が座敷わらし(幻覚)を見ることになります。逆に、貧しい家は、認知症の人を養う余裕がなく、座敷わらし(幻覚)を見てしまう認知症の人がいないということです。つまり、正確には「座敷わらしは、栄えている家には出てくるが、落ちぶれた家には出てこない」ということです。 (2)妄想 さきほどの電話の受話器の戻し忘れのシーンで、みつえは「また親ばわるもん(悪者)にする、もう」と言い返しています。ここから分かることは、みつえは自分に非があるという認識ができず(社会的認知の障害)、叱られた理由の辻褄を合わせようとして(合理化)、「息子が親を悪く言うようになった」とひがみっぽくなっています(被害念慮)。 さらに、ひがみっぽさから、家族からいじめられていると思い込むことがあります(被害妄想)。例えば、お金をどこかに隠した後、隠したこと自体を忘れてしまった場合、お金がないことに気付くと「(家族の誰かに)お金を盗られた」という思い込みに発展します(もの盗られ妄想)。 (3)誤認 みつえは、ちいちゃん(すでに亡くなった幼馴染み)に書いた手紙の返事が来ないと郵便配達員にたずねた過去を、グループホームで思い出しているシーン。その直後にやって来たまさき(孫)を見て、「ちょっと待っとって、郵便屋さん」「書いてますけん」と言います。これは、過去の記憶と現在の現実が区別しにくくなることに加えて(社会的認知の障害)、孫の顔の認識ができなくなっていることで(知覚―運動の障害)、目の前にいる孫を郵便配達員と人違いしています(人物誤認)。 また、グループホームの別の認知症の女性は、ゆういちの薄毛を見て、女学校時代に憧れだった教師と人違いしています。 (4)逸脱行動、感情失禁 入所中の認知症の男性が、若い女性スタッフの胸を次々と触るシーンがあります。ゆういちは思わず「あの子も触られるっとですか?」と思わずうらやましそうに言ってしまいます。これは、ルールを守るために欲求を抑える心の働き(理性的抑制)が弱まっていることで(社会的認知の障害)、性的にみだらになってしまう症状です(性的逸脱行動)。その後、この男性は叱られますが、感情を抑える心の働き(理性的抑制)が弱いことで、簡単に泣き出してもいます(感情失禁)。 社会的認知の障害はなぜ目立つのか? 「認知症の人はなんで無邪気なの?」という最初の疑問への答えは、これまで紹介してきた社会的認知の障害による症状が出てくるからであると言えます。それでは、そもそもなぜ社会的認知の障害は目立つのでしょか? このさらなる疑問を、進化心理学・進化精神医学の視点で探ってみましょう。 人間の脳において、意識的な活動のエネルギーは5%しか消費されていません。修復と維持に20%が消費されます。そして、実は残りの75%は、無意識的な活動のエネルギーに消費されていることが最近の研究で分かってきました(デフォルトモードネットワーク)。この脳活動は、何もせずに頭を働かせていないと高まり、課題などで意識的に頭を働かせると低まります。それにしても、あまりにもエネルギーを使い過ぎているようにも思えるこの無意識的な脳活動とは一体何でしょうか? それは、はっきりしたことはまだ解明されていませんが、ぼんやりと思い浮かべること(記憶の検索)、自分がいつどこにいるかなどの自分の状況を把握すること(見当識)、自分を振り返ること(自己認識)などの活動が考えらえています。これは、ちょうど世界(相手、社会)に対して自分をうまく関係付け、位置づけていくための高度な脳活動です。さらには、社会的認知につながる能力というふうにも考えられます。 例えるなら、脳という「コンピュータ」は、世界(相手、社会)という「キーボードタッチ」や新奇な状況という「コンピュータウィルス」への察知のために、脳活動全体の75%の「電力」を使い、常に「待機状態」になっているということです。そして、この「待機状態」の脳活動は、最も「電力」が費やされて動かされているため、いち早く「故障」しやすいということが考えられます。実際に、この脳活動の部位は、アルツハイマー病で脳血流が低下する部分にほぼ一致しています。これが、「認知症ではなぜ社会的認知の障害が目立つのか?」という疑問への答えです。実行機能の正体は? 実行機能障害は、認知症のもともとある診断基準の1つであるとさきほどご紹介しました。実は、この実行機能は、社会的認知につながっていると言えます。これはどういうことでしょうか? 社会的認知(社会脳)の進化の流れを説明します。その出発点は、原始の時代、私たちの祖先が、競争と協力をうまく使い分けるため、相手の心の視点に立つ能力を得たことです(心の理論)。すると、自分を離れて外から自分自身を見る視点が得られます(自己認識)。これは、自分は、相手を見ていると同時に相手から見られているという2つの視点に立つことでもあります(メタ認知)。さらには、同時並行的にものごとを考え記憶することができるようになります(ワーキングメモリー、作動記憶)。 複数の視点(メタ認知)を持つことで、連続的な時間軸の中で、過去・現在・未来を別々の時間帯(視点)として認識できるようにもなります。だからこそ、過去の振り返りを現在に行い、未来に生かすことができます。こうして、計画を立ててものごとをうまく成し遂げることができるようになるのです(実行機能)。 実行機能は社会的認知がつながっているという説明を端的にすると、社会的認知が相手(人)の心に視点が置かれているのに対して、実行機能は時間軸に視点が置かれているというだけの違いであるということです。複雑性注意の正体は? 複雑性注意の障害は、認知症の新しい診断基準の1つであるとさきほどご紹介しました。実は、この複雑性注意も、社会的認知につながっていると言えます。これはどういうことでしょうか? それは、社会的認知を源とするさきほどの同時並行的にものごとを考え記憶すること(ワーキングメモリー)とは、一度に複数の注意を向けることでもあるということです(複雑性注意)。いわゆる「ながら行動」です。 その「メモリー容量」は、数字なら約7個、文字なら約6個、単語なら約5個であることが分かっています(マジカルナンバー7±2)。この数は、注意(認知)し行動する内容の複雑さによって変わってきます。例えば、食事会で皆がいっしょに話せる人数は4人が限界ではないでしょうか? 5人以上だと、自然と4人以下の少人数に分かれていきます。また、会議での積極的な発言者は4、5人までが一般的ではないでしょうか? 残りの人たちは、「観客」と化していることが多いです。なぜなら、これが人間の脳の「メモリー容量」の限界だからです。それ以上の人数の人たちがそれぞれ違う発言をする場合、多くの人が混乱してストレスになるからです。それをみんな無意識に理解していると言えます。だからでしょうか? 暗証番号は、皆が余裕を持って覚えられる4桁が通常です。クレジットカード番号も4桁ごとに分けられています。 複雑性注意は社会的認知につながっているという説明を端的にすると、社会的認知が認知の質に力点が置かれているのに対して、複雑性注意は注意(認知)の量(数)に力点が置かれているというだけの違いであるということです。なぜ良い思い出の方が残りやすいのか? みつえは、亡くなった夫が現れたと楽しげにのろけています。しかし、かつてはその夫は酒癖が悪く、みつえは大変に苦労していたのでした。良い思い出ばかりを思い出し、悪い思い出は忘れてしまっているようです。なぜ良い思い出の方が残りやすいのでしょうか? 一般的にも、これは「記憶美人」と呼ばれます。 その理由は、悪い思い出は、社会的認知に関わる記憶が多いからであることが考えられます。例えば、人間関係においての苦労や後悔などです。一方、良い思い出は、より原始的な欲求に関わる記憶なので、比較的残りやすいことが考えられます。例えば、満足や愛情(愛着)などです(ドパミン系)。 認知症で悪い思い出は忘れてしまうとは、まさに「邪気」(悪意、悪感情)がなくなり、無邪気になるということです。社会的認知から考える認知症のリハビリテーションは? 認知症の問題が単なる記憶の問題だけではないことを知った今、単に記憶力のトレーニングをしても効果は限られていることに気付きます。ここからは、社会的認知を踏まえて、認知症のリハビリテーションを3つご紹介しましょう。それは、役割を担うこと、自尊心を保つこと、配慮することです(表4)。役割を担う (1)お年寄りはなぜ昔話をしたがるのか?―回想法 ゆういちがみつえに注意するシーン。ゆういちが「よかね、セールスやら来たら追い払わないかんばい」「話しやら聞かんでよかけんね」と言うと、みつえは「分かっとるて」「分かっとらんけん言いよったい」「あんましわめくと夜声八丁(夜の声が八丁先まで響く妖怪)が来っぞー!」と、子どもの時のゆういちに接しているように脅します。ゆういちは「こん頃の事ば忘れて昔の事ばっか言うとさね」と嘆いています。 認知症のあるなしにかかわらず、お年寄りは昔話をよくします。もちろん認知機能の低下により、最近のもの覚えが悪くなり(短期記憶の障害)、比較的残っている昔の思い出を代わりに話していると説明することはできます(長期記憶の保持)。しかし、それだけでしょうか? むしろ、多くのお年寄りはあえて昔話をしており、この現象には普遍性がありそうです。長期記憶が保持されることに意味があるのではないかということです。ここから考えられることとして、お年寄りが昔話をすることで心の健康がより保たれる可能性があります。この理由を進化心理学的に考えてみましょう。 私たちの祖先が言葉を話すようになった20万年前からの原始の時代、文字はまだありませんでした。文字が発明されたのはたかだか数千年前です。ましてや、現代のようなインターネットもありません。そんな中、私たちの祖先は、共同体の生存の確率を高めるため、遠い昔に起こった自然災害や部族間の戦争の記憶を、生きる知恵や戒めとして次世代に語り継ぎました。一部は、伝説や神話に形を変えたでしょう。このような言い伝えを好む遺伝子を持つ種の末裔が私たちです。そして、生き字引としての語り部の役割を担ったのが、経験豊富なお年寄りだったのではないでしょうか? そういうお年寄りは、今でも発展途上国などの未開の地では、長老として敬(うやま)われています。つまり、お年寄りが昔話をするのを好むのは、遺伝子にプログラムされている可能性があるということです。この遺伝子によって、共同体の子孫の生存率(包括適応度)は高められたのでしょう。 現代の高度な情報化社会では、お年寄りが昔話をする必要はなくなってしまいました。しかし、お年寄りが昔話をしようとする原始の時代からの心理は残ったままです。つまり、進化論的に考えれば、原始の時代の環境に適応していた心身に近付けるため、私たちが運動をして心身の健康を保っているのと同じように、お年寄り、特に認知症の人に昔話をあえてしてもらうことで、心の健康をより保つことができるということです(回想法、思い出ノート)。 (2)お年寄りはなぜ孫を見たいのか?―おばあちゃん仮説 みつえは、認知症が進む前、孫のまさきをよく気にかけています。祖父母が孫の幸せを願うのは普遍性があり、当たり前であると皆さんは思うでしょう。さらには、特に祖母が、母親を支えて孫を見ることで、心の健康が保たれるという研究仮説があります。それは、「おばあちゃん仮説」「祖母効果」と呼ばれています。 そもそもほとんどの動物は、繁殖が終わる年齢と寿命はだいたい一致しています。つまり、繁殖力がなくなった時が寿命の尽きる時です。しかし、私たち人間の女性は違います。50歳前後で閉経を迎えて繁殖力がなくなった女性が長生きすることには進化論的な意味があるということです。 その意味とは、1つには、50歳以上で出産しなくなるのは、子どもの生存率を下げない理由があるということです。たとえば、50歳以上の高齢出産では母子ともに死亡するリスクが高まります。すると、すでに生まれている子どもたちの生存が危うくなります。たとえ出産が成功しても、その子どもがぎりぎり独り立ちできる10歳になるまでに、子育てをする母親が当時の寿命(60歳くらい?)を迎えると、子どもの生存が危うくなります。さらには、ダウン症などのように高齢出産で生まれた子どもは生存率が低いため、その育児の負担(コスト)が高まることで、すでに生まれている子どもたちの生存が危うくなります もう1つには、繁殖を終えるのと引き換えに、まだ体力のある祖母が、子育てをする次世代の自分の娘(母親)を助けることで、娘の繁殖力を高め、孫の生存率を高めることです(包括適応度)。いわゆる「おばあちゃん子」の存在も、「祖母効果」の延長線上にあるものと考えられます。 都市化、核家族化、少子化した現代では、お年寄りが孫を見る機会はぐっと減りました。しかし、お年寄りが孫を見たいという原始の時代からの心理は残ったままです。つまり、お年寄り、特に祖母が孫や地域の子どもたちを見ることで、心の健康をより保つことができるのではないかということです。例えば、最近では、グループホームなどの「託老所」(介護施設) と託児所を併設し、お年寄りと子どもがお互いに交流する仕組みがつくられています(幼老統合ケア)。また、お年寄りが、小学校の校門で挨拶をしたり通学路の信号機前で安全確保をするなど、地域の子どもを見守るボランティに参加する取り組みも行われています。自尊心を保つ―お年寄りはなぜ敬(うやま)われるべきなのか? ゆういちは息子のまさきに「ばあちゃんの下着ば買うても買うても無くなるとばってんさあ」と不思議がっていました。その後、開けたタンスの引き出しから、大量の汚れた下着があふれ出てきたのでした。ゆういちは「タンスから噴き出した!」と思わず叫びます。 お年寄りは、認知機能の低下に伴い、排泄などのセルフケアに困難が出てきます。汚れた下着を洗おうにも洗濯機の使い方が分からなくなります(知覚―運動の障害)。そして、それを恥じらう自尊心は残っているため、隠すのです。しかし、うまく隠し切ることはできないのです(社会的認知の障害)。このような時、どう接するのが認知症のリハビリテーションとして望ましいでしょうか? 認知症の人は、症状が進むにつれてどんどん無邪気な子どものようになります。そんな人に、私たちはつい子ども扱いしてしまいがちです。しかし、ここで注意することは、認知症の人は子どもではないということです。認知症介護と育児について、その共通点と相違点をそれぞれ整理してみましょう。 共通点は、両者ともに自尊心を大切にすることです。これは、頼られたり、ほめられたり、ありがたがられたりすることで高まります。一方、相違点は、育児では叱ることはありますが、高齢者介護では叱ることは望ましくないです。その理由は、3つあります。1つ目は、子どもは叱られることで禁止の学習効果を得ることができますが、認知症の人は記憶の障害により学習効果が得られないからです。2つ目は、ネズミの実験結果で確かめられていることですが、叱られるなど恐怖の心理的ストレスによって、海馬領域(記憶中枢)の神経細胞の新生が抑制され、認知症状がさらに進んでしまうからです。3つ目は、認知症の人は、叱られると、自尊心が傷付けられ、BPSDが出やすくなるからです。これは、叱られた時、叱られた理由は忘れてしまっているのに、叱られた悲しみや叱った相手の記憶は比較的残っているので、理不尽に感じるからです。叱られた理由についての記憶は理性的で複雑であるため残りにくく、叱られた時の気持ちや叱った相手の記憶は感情的で単純であるため残りやすいのです(リボーの法則)。 以上より、認知症のリハビリテーションとして望ましい対応は、敬意を持って親切に接すること、決して叱らないことです。さらには、できることはさせてほめまくること、できないことはさせないことです(満点主義)。つまり、お年寄りは、敬(うやま)われることで心の健康が保たれるのです。配慮する―お年寄りはなぜ恭(うやうや)しくもてなされるべきか? さきほどのグループホームでみつえが「この盗人(ぬすっと)、嘘つき!」「ああっ!悪者(わるもん)がおる。誰か誰かー!」と叫び騒ぐシーンを振り返ってみましょう。みつえのような認知症の人は、目の前に見えているものと聞こえてくる声や音とに同時に注意を向けることが難しいです(複雑性注意の障害)。それでは、この点を踏まえて、みつえが騒がなくても済む方法はなかったでしょうか?  それは、注意を高めてもらうため、視覚、聴覚、触覚を総動員して丁寧に接することです(ユマニチュード)。例えば、話しかける時、少し遠くから相手の視界に入り、近付いて、視線を合わせて(視覚)、間を置いて、なるべく肩や腕へのスキンタッチをして(触覚)、ようやく声をかけることです(聴覚)。 また、その人をよく観察して行動パターンを先読みして気遣うことです(先回り)。例えば、喉の渇きやトイレなどをうまく言葉で伝えられない場合、その人の行動パターンから、「お茶をどうぞ」「トイレに行きましょうか?」などと汲み取ることです。 さらには、トイレや入浴などの介助をするとき、たとえその人の反応が乏しくても、かかわる時は話しかけ続けることです(実況生中継)。その人が大人しいから、こちらが話しかけても無言でも変わらないとみなさんは思われるかもしれません。その時は問題ないかもしれません。しかし、その後に問題が起こる可能性が高まります。理由として、自分が何をされたか分からないことでストレスがたまり、後に混乱することが考えられるからです。また、人として扱われていないように感じられて、本人の自尊心が傷付けられることが考えられるからです。つまり、こちらからどんどん働きかけることが大切なのです。 表4 社会的認知から考える認知症のリハビリテーション   例 役割を担う 昔話をしてもらう(回想法) お年寄りが子どもを見守る環境をつくる(幼老統合ケア) 自尊心を保つ 敬意を持って親切に接する決して叱らないできることはさせてほめまくり、できないことはさせない(満点主義) 配慮する 視覚、聴覚、触覚を総動員して丁寧に接する(ユマニチュード)よく観察して行動パターンを先読みして気遣う(先回り)かかわる時は話しかけ続ける(実況生中継) なぜ認知症の症状に地域差があるのか?―敬老思想 映画の舞台は長崎です。ほのぼのとした長崎弁が交わされ、とてものどかな土地柄です。東京のようなせわしない大都市とは対照的です。実は、疫学調査から、長崎のような地方と東京のような大都市とでは、認知症の症状の出方に違いがあることが分かっています。記憶障害などの認知症状は同じなのですが、行動・心理症状(BPSD)については、地方では目立たず、大都市では目立つのです。つまり、行動・心理症状の出現率に地域差があるといことです。これはどういうことなのでしょうか? そもそも原始の時代から、お年寄りは、生き字引としての指導的立場を担い、周りから敬(うやま)われ、恭(うやうや)しくもてなされてきました。「老馬の智」「亀の甲より年の功」「おばあちゃんの知恵袋」などの言い回しはまさにこれを言い当てています。つまり、共同体のメンバー全員がお年寄りをありがたがり、大事にするという敬老思想はもともとごく当たり前のことだったのです。私たちには、もともとそうすることを望ましく感じる心理が遺伝子に組み込まれている可能性があります。 ところが、近代化し情報化した現代はどうでしょうか? 特に、大都市は、スピード、生産性、効率性、競争力、結果がとても重視されます。すると、その価値観に合わない人、つまり役に立たない人はいてはならないという発想が生まれやすくなります。それは、「ボケ」が出てきたら、早く認知症と診断してもらって、早く施設に入るべきであるという発想です。そのような人がい続ければ、敬(うやま)われるどころか、迷惑で困った人として貶(おとし)められ、蔑(さげす)まれてしまいます。こうして、認知症の人は、現代では、そして特に大都市では、より自尊心を傷付けられて、行動・心理症状をより引き起こしています。まるで、現代の価値観が、認知症の患者をつくり出し、そして追いやっているようにも思えてしまいます。これは、現代の価値観の負の側面です。 一方、助け合いや敬老の精神が比較的に残っているコミュニティがある地方では、お年寄りが認知症になっても、家族や近所の人たちが協力して温かく面倒を見るので、自尊心が保たれ、行動・心理症状(BPSD)が出にくくなるというわけです。その人らしさを支える介護とは?―パーソンセンタードケア みつえは、認知症が進むにつれて、現在の現実と過去の記憶が交錯していきます。そこには、家族の歴史や絆が描かれています。まさにこの映画の醍醐味です。認知症の介護とは、症状を見るのではなく、その人の人生、つまりその人らしさを見ることであるということに私たちは気付かされます。そして、目の前のお年寄りの人たちがどういう人生を経て今ここにいるのかという物語に思いを馳せ、その人たちの心に寄り添う気持ちにさせられます。その人のことをよく知ることで、その人らしさやその人らしい生活を支えることができます(パーソンセンタードケア)。 このような介護により、お年寄りの心は満たされ、認知症の行動・心理症状(BPSD)を減らしたり、出てくるのを防ぐことができます。また、認知症状の進行を遅らせる可能性もあります。さらには、私たちの心も満たされ、楽しさやりがいを感じることができるようになります。介護する側の心のあり方とは?―かかわり方と薬のバランス ゆういちは、行きつけの喫茶店のマスターから「(介護施設に)預けると?」「はあ、そがんことするったい」「親ば捨てるやらおれはようしきらん(とてもできない)」と言われてします。ゆういちは「おれもどげんしたらよかか分からん」と苦悩します。 世間体や後ろめたさから、家族が介護を抱え込み、「介護疲れ」(適応障害)になることはよくあります。この映画では、最終的にゆういちがみつえをグループホームに入所させ、抱え込まないモデルとして描かれています。 入所後は、ゆういちの心には余裕ができて、みつえに怒鳴ることはなくなっています。そもそも家族によって介護力には限界があります。それを踏まえて、デイケアへの通所やグループホームへの入所を見極める必要があります。ポイントは、家族の介護者が介護への負担(ストレス)からやりがいを見失っていないか?「介護疲れ」に陥っていないか?ということです。 この介護者のメンタルヘルスは、家族だけでなく、私たち医療関係者(特に介護士)にも当てはまります。これまで説明しました認知症の人へのかかわり方はもちろん重要なのですが、そのかかわり方をしたからと言って必ずしも行動・心理症状(BPSD)が全く出ないというわけではありません。 介護者がやりがいを感じ続けるためには、認知症の人にうまくかかわっていくことと合わせて薬をうまく使っていく必要があります。例えば、毎夜どうしても騒ぐ場合(夜間せん妄)、夕食後に精神科薬を飲んでもらうようにすることです。また、日中にどうしても手が出てしまう場合(暴力)、日中に精神科薬を飲む必要があります。このように、かかわり方の工夫と薬の適応のバランスをとることです。認知症の人が無邪気であることとは? ラストシーンでは、車いすに乗ったみつえとベビーカーに乗った赤ちゃんがすれ違います。みつえも赤ちゃんも、無邪気で幸せそうです。そして、ゆういちは「ボケるとも、悪か事ばっかりじゃなかかもな」とつぶやきます。 かつて孫のまさきが伸び盛ったように、これからそのまさきとさとさん(グループホームの介護士)の恋が燃え盛ろうとするように、みつえが熟し衰えていくのは自然なことであると私たちは思えてきます。 認知症は、障害という特別な状態になるというよりは、老いという自然の流れの中で見られるその人らしさであるとも言えます。そもそも私たちが年を取るとはこういうことであると受け入れることが出発点です。今、私たちが身近で見ている認知症の人は、私たちの数十年後の姿かもしれません。私たちもいずれ同じようになるかもしれません。 そう考えると、その時に私たちはどんなふうにされていたいのだろうかと現在の認知症の介護のあり方を見つめ直すことができるのではないでしょうか?そして、長生きすることが幸せであると心から思える社会にしていくことができるのではないでしょうか?1)岡野雄一:ペコロスの母に会いに行く、西日本新聞社、20122)岡野雄一:「ペコロスの母に学ぶ」ボケて幸せな生き方、小学館新書、20143)山口晴保:認知症の正しい理解と包括的医療・ケアのポイント、協同医書出版社、20144)伊古田俊夫:社会脳からみた認知症、講談社、20145)村井俊哉:社会化した脳、エクスナレッジ、20076)DSM-5(精神疾患の分類と診断の手引第5版)、医学書院、20147)本田美和子ほか:ユマニチュード入門、医学書院、2014

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HCV治療レジメン、3剤目は直接作用型が有用/Lancet

 未治療の肝硬変なしC型肝炎ウイルス(HCV)遺伝子型1型感染患者に対しソホスブビル+レディパスビルに直接作用型抗ウイルス薬を加えた3剤併用レジメンは、6週間で高率のウイルス学的著効(SVR)が示され忍容性も良好であることが、米国立衛生研究所(NIH)のAnita Kohli氏らによる概念実証(proof-of-concept)第IIA相コホート試験の結果、報告された。ソホスブビル+レディパスビル+リバビリンの3剤併用レジメンでは、高いSVRを得るには8週間が必要なことが先行研究で示されており、著者は「直接作用型抗ウイルス薬を加えた3剤併用は、肝硬変なしHCV遺伝子型1型感染患者の治療期間を短縮可能である」と述べている。Lancet誌オンライン版2015年1月12日号掲載の報告より。 2種の直接作用型抗ウイルス薬で3剤併用6週治療のSVR12達成を評価 試験はNIHの臨床研究センターにて、非盲検にて行われた。3剤目として検討された直接作用型抗ウイルス薬はGS-9669、GS-9451でいずれも開発中である。直接作用型抗ウイルス薬は、HCV患者に対する高い治癒率と良好な忍容性が示されていた。 研究グループは、被験者を次の3群に割り付けて検討した。ソホスブビル+レディパスビルの2剤併用12週治療群、+GS-9669の3剤併用6週治療群、または+GS-9451の3剤併用6週治療群である。適格患者は、18歳以上、遺伝子型1型感染患者(血中HCV RNA値2,000 IU/mL以上)で、肝硬変を有する患者は評価から除外した。 主要エンドポイントは、治療後12週時点のSVRを認めた患者の割合(SVR12)とした。達成の目安は、HCV RNA値43 IU/mL未満とした。 2剤併用12週100%に対し、3剤併用は6週で95% 2013年1月11日~12月17日の間に、患者60例が登録され、3群に20例ずつ順次割り付けられた。 ソホスブビル+レディパスビルの2剤併用12週治療群20例は全例が、SVR12を達成した(100%、95%信頼区間[CI]:83~100%)。一方、+GS-9669の3剤併用6週治療群、+GS-9451の3剤併用6週治療群ともに19例(95%、同:75~100%)が、SVR12を達成した。なお、前者群の未達成1例は、治療完了後2週時点で再活性が認められたケースで、後者群の未達成1例は、4週間以降追跡不能となったケースであった。 有害事象の大半は軽度で、治療中断となった患者はいなかった。重大有害事象は2例に認められた(治療後の肝生検後の疼痛、めまい)が、いずれも試験薬とは無関係であった。

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HPVワクチン、複数回接種の費用対効果/JAMA

 2価と4価のヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの、接種回数と費用対効果について、英国・イングランド公衆衛生局(Public Health England:PHE)のMark Jit氏らが伝播モデルをベースに検討した。その結果、仮に2回接種による防御効果が10年しか持続せず、3回接種の効果が生涯持続するのなら、そのほうが費用対効果は高いこと、一方で2回接種の効果が20年超持続するのなら、2回接種が最適な選択肢であることを明らかにした。2価/4価HPVワクチンは、長期にわたりHPV16/18への防御効果をもたらす可能性が示されているが、その正確な期間・規模について、3回接種の場合と比較した検討はこれまで行われていなかった。BMJ誌オンライン版2015年1月7日号掲載の報告より。4価ワクチンのコスト136米ドル/回と仮定して検討 研究グループは、英国の12~74歳男女集団をベースとし、12歳女児の80%に対してHPVワクチンの初回接種が実施され、14歳までに2回接種が、3回接種はそれ以後で行われると仮定した伝播モデルを作成し、ワクチンの2回接種、3回接種について、効果持続期間による費用対効果を検討した。 ワクチン効果については、2価/4価HPVワクチンの2回接種は、10年、20年もしくは30年間、防御効果、交叉防御効果、または交叉防御効果はないが生涯持続性のあるワクチンであると仮定し、3回接種は生涯持続および交叉防御効果を有すると仮定し検討した。 検討では、4価HPVワクチン1用量の定価は86.5ポンド(136米ドル)として試算した。2回接種以上が費用対効果高く、2~3回は効果持続期間とコストにより異なる 結果、HPVワクチン2回以上の接種については、HPV関連のがん罹患率が有意に低下し、費用対効果が高いことが判明した。 また4価HPVワクチンの2回接種について、防御効果が10年しか持続せず、3回接種の効果が仮定どおりに生涯持続するのなら、3回接種(追加用量の定価を86.5ポンドとした場合)の費用対効果が高いことが示された(増分費用対効果の中央値:1万7,000ポンド、四分位範囲:1万1,700~2万5,800ポンド)。 一方で、ワクチン2回接種の防御効果が20年超持続するのなら、3回目の接種費用が閾値中央値31ポンド(範囲:28~35ポンド)程度まで大幅に下がらない限り、3回接種の費用対効果は低くなることが示された。 また、2価HPVワクチン(1用量の定価80.5ポンド)でも、同様な結果が得られたという。 結果を踏まえて著者は、「HPVワクチン接種は、防御効果が20年以上あるのならば2回接種が最も費用対効果のある選択肢となりそうだ」と述べるとともに、「2回接種の防御効果の正確な期間が不明であるのなら、同接種コホートに対するモニタリングを密にしなければならない」と指摘している。

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事例36 尿沈渣の査定【斬らレセプト】

解説事例では、D002-2 尿沈渣(フローサイトメトリー法)とそれに対する尿・糞便等検査判断料がD事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの/重複: 国保)にて査定となった。尿沈渣フローサイトメトリー法は、「D000尿中一般物質定性半定量検査若しくはD001尿中特殊物質定性定量検査において何らかの所見が認められ、又は診察の結果からその実施が必要と認められ、赤血球、白血球、上皮細胞、円柱及び細菌を同時に測定した場合に算定する」とあり、「D002 尿沈渣(鏡検法)を併せて実施した場合は主たるもののみ算定する」とある。事例では尿沈渣(鏡検法)の実施がないので算定をしたという。しかし、S-M(D017 3 排泄物、滲出物又は分泌物の細菌顕微鏡検査)も併施されている。尿沈渣(フローサイトメトリー法)の注1には、「同一検体について当該検査とD017に掲げる排泄物、滲出物又は分泌物の細菌顕微鏡検査を併せて行った場合は、主たる検査の所定点数のみ算定する」とある。したがって、主たる所定点数であるS-Mのみが算定できるとして尿沈渣が査定となったものである。

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エボラ、マールブルグウイルスワクチンの安全性と免疫原性(解説:吉田 敦 氏)-302

 西アフリカ3国でのエボラウイルス感染症の急激な増加により、エボラウイルスによるアウトブレイクはかつてない規模に達している。高い致死率と確実に治療できる薬剤がない中で、ワクチンの開発が模索されてきたが、今回エボラウイルス、マールブルグウイルスそれぞれのDNAワクチンが開発され、ウガンダ人で安全性と免疫原性が評価された。Lancet誌オンライン版2014年12月23日号の発表より。DNAワクチンの開発と試験 供試されたリコンビナントワクチンは、スーダンエボラウイルスとザイールエボラウイルスの糖蛋白をコードするDNAを用いたエボラウイルスワクチンと、マールブルグウイルスの糖蛋白をコードするDNAを含有するマールブルグウイルスワクチンである。すでに霊長類を対象とした先行研究で忍容性と免疫原性が確認されたものであり、今回の検討では2つ両方、あるいは単独で接種が行われた。 なお、エボラウイルスの同一の遺伝子領域を用いた、より強力なワクチンがすでに開発されており(リコンビナント・チンパンジー・アデノウイルス3型・エボラワクチン:cAd3-EBO、cAd3-EBOZ)、一部は2014年9月から臨床試験に入っていることから、本試験結果は今後のワクチン開発にとって非常に重要な意味を持つ。第I相試験としての免疫原性・安全性の比較 ウガンダ人108人を対象に、無作為化二重盲検プラセボ対照試験が行われた。試験施行期間は2009年から2010年であり、エボラウイルスワクチン単独接種、マールブルグウイルスワクチン単独接種、両者の同時接種、プラセボの4群に分けられ、ほとんどの例で3回接種が行われた。 結果として、同時接種と単独接種で抗体上昇やT細胞の反応には差がなく、ザイールエボラウイルス糖蛋白に対しては47~57%の例で、スーダンエボラウイルス糖蛋白には50%の例で抗体上昇が認められた。マールブルグウイルス糖蛋白に対する抗体上昇は23~30%であった。スーダンエボラウイルス糖蛋白、マールブルグウイルス糖蛋白へのT細胞の反応はそれぞれ33~43%、43~52%で証明できた。注射局所の反応はいずれも軽度であることが多く、頭痛や筋痛、関節痛、吐き気といった症状も4群で差はなかった。今後のワクチン開発への展望 本試験は、アフリカで初めて行われたエボラ・マールブルグウイルスワクチンの治験であり、ヒトで同時接種を行っても忍容性・免疫原性が確認できたことから、今後の多価ワクチンの開発がさらに加速することが予想される。同じ糖蛋白遺伝子を用いるcAd3-EBO、cAd3-EBOZの安全性、免疫原性にも期待が持てるかもしれない。最近、cAd3-EBOの第1相試験の結果が公表されたが、それでは1回接種を行ったのみで4週間後には良好な免疫反応が得られていたという。一方、DNAワクチンで得られる免疫は非常に強いものとはいえず、アウトブレイクでの使用や、曝露リスクの高い人にあらかじめ接種する場合の効果については懸念がある。 エボラウイルスワクチンとしてはほかに、VSV(Vesicular stomatitis virus)にザイールエボラウイルス糖蛋白遺伝子を挿入したVSVΔG-EBOV-GPが開発され、cAd3-EBOVと共に有望視されている。cAd3-EBOVについては間もなくアフリカでの臨床試験が開始される予定で、医療従事者も対象に加えられるとされているが、今後の治験にあたり、無作為化比較試験が難しい場合には、ワクチン接種群の間で接種時期をずらして評価していく手法(stepped-wedge)も検討されている1)。これらの基礎には、国際間協力を前提とした効率的かつ実際的な研究遂行への努力が欠かせないことは言うまでもない。

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4価HPVワクチン接種、多発性硬化症と関連なし/JAMA

 4価ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種は、多発性硬化症などの中枢神経系の脱髄疾患の発症とは関連がないことが、デンマーク・Statens Serum研究所のNikolai Madrid Scheller氏らの調査で示された。2006年に4価、その後2価ワクチンが登場して以降、HPVワクチンは世界で1億7,500万回以上接種されているが、多発性硬化症のほか視神経炎、横断性脊髄炎、急性散在性脳脊髄炎、視神経脊髄炎などの脱髄疾患との関連を示唆する症例が報告されている。ワクチンが免疫疾患を誘発する可能性のある機序として、分子相同性や自己反応性T細胞活性化が指摘されているが、HPVワクチンが多発性硬化症のリスクを真に増大させるか否かは不明であった。JAMA誌2015年1月6日号掲載の報告。2国の10~44歳の全女性のデータを解析 研究グループは、2006~2013年のデンマークおよびスウェーデンの10~44歳の全女性における4価HPVワクチンの接種状況および多発性硬化症などの中枢神経系の脱髄疾患の発症に関するデータを用い、これらの関連を検証した(Swedish Foundation for Strategic Research、Novo Nordisk Foundation、Danish Medical Research Council funded the studyの助成による)。 ポアソン回帰モデルを用いて、ワクチン接種者・非接種者に関するコホート解析および自己対照ケースシリーズ(self-controlled case-series)解析を行った。接種後2年(730日)のリスク期間におけるイベント発生率を比較し、発症の率比を推算した。 398万3,824人(デンマーク:156万5,964人、スウェーデン:241万7,860人)の女性が解析の対象となった。そのうち78万9,082人が合計192万7,581回の4価HPVワクチン接種を受けた。接種回数は、1回が78万9,082人、2回が67万687人、3回が46万7,812人であった。2つの解析はともに有意差なし 全体のフォローアップ期間は2,133万2,622人年であった。接種時の平均年齢は17.3歳であり、デンマークの18.5歳に比べスウェーデンは15.3歳と約3歳年少だった。フォローアップ期間中に多発性硬化症が4,322例、その他の脱髄疾患は3,300例に認められ、そのうち2年のリスク期間内の発症はそれぞれ73例、90例であった。 コホート解析では、多発性硬化症、その他の脱髄疾患の双方で、4価HPVワクチン接種に関連するリスクの増加は認めなかった。すなわち、多発性硬化症の粗発症率は、ワクチン接種群が10万人年当たり6.12件(95%信頼区間[CI]:4.86~7.69)、非接種群は21.54件(95%CI:20.90~22.20)であり、補正後の率比は0.90(95%CI:0.70~1.15)と有意な差はなかった。また、その他の脱髄疾患の粗発症率は、それぞれ7.54件(95%CI:6.13~9.27)、16.14件(95%CI:15.58~16.71件)、補正率比は1.00(95%CI:0.80~1.26)であり、やはり有意差は認めなかった。 同様に、自己対照ケースシリーズ解析による多発性硬化症の発症率は1.05(95%CI:0.79~1.38)、その他の脱髄疾患の発症率は1.14(95%CI:0.88~1.47)であり、いずれも有意な差はみられなかった。また、年齢別(10~29歳、30~44歳)、国別、リスク期間別(0~179日、180~364日、365~729日、730日以降)の解析でも、有意な差は認めなかった。 著者は、「4価HPVワクチンは多発性硬化症や他の脱髄疾患の発症とは関連がない。本試験の知見はこれらの因果関係への懸念を支持しない」と結論している。

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エボラワクチン、第Ib相で免疫原性確認/Lancet

 アフリカで行われたエボラウイルスまたはマールブルグウイルスワクチンの第Ib相の臨床試験の結果、免疫原性、安全性が確認された。ウガンダ・マケレレ大学のHannah Kibuuka氏らが、同国内健康成人を対象に両ワクチンを単独または同時接種で検討した無作為化二重盲検プラセボ対照試験を行い報告した。今回の所見について著者は、2014年に西アフリカでアウトブレイクしたエボラウイルス性疾患に対する、より効果的なワクチンの開発に寄与するものであると述べている。Lancet誌オンライン版2014年12月23日号掲載の報告より。3回スケジュール接種群とプラセボ群で評価 RV 247試験と命名された本検討は、ザイール/スーダン・エボラウイルス糖蛋白をエンコードしたワクチン(EBOワクチン)と、マールブルグウイルス糖蛋白をエンコードしたワクチン(MARワクチン)の2つのDNAワクチンについて、安全性、免疫原性を評価することが目的であった。試験は、ウガンダのカンパラにある1施設で行われ、18~50歳の健常成人を5対1の割合で、ワクチン接種(0、4、8週の3回)群とプラセボ群に無作為に割り付けて評価した。なおワクチン接種群はさらに、EBOワクチン単独、MARワクチン単独、両ワクチン接種群に均等に割り付けられた。 主要試験目的は、ワクチンの安全性と忍容性の評価で、局所および全身性の反応原性(reactogenicity)と有害事象で評価した。また、免疫原性について、3回接種完了後4週時点でELISA、T細胞反応(ELISpot、細胞内サイトカイン染色分析)を基に評価した。ザイール/スーダン・エボラウイルス糖蛋白への抗体反応、単独接種で50~57% 2009年11月2日~2010年4月15日に、108例が試験に登録され、全員が1回以上、試験ワクチンの接種を受けた。3回接種スケジュールを完了したのは100例であった。 解析には全108例を組み込んだ(EBO単独、MAR単独、両接種は各30例、プラセボ18例)。免疫原性についてはデータが入手できた107例(MAR単独接種群1例で未入手)を対象に評価された。 結果、試験ワクチンの忍容性は良好であり、局所または全身性の反応について、両接種群で有意な差はみられなかった。ワクチンは、接種された糖蛋白に特異的な抗体反応およびT細胞反応を誘発したことが認められた。ワクチンの単独または両接種による差は認められなかった。 ザイール糖蛋白に抗体反応を示したのは、EBOワクチン単独接種群のうち17/30例(57%、95%信頼区間[CI]:37~75%)、両ワクチン接種群では14/30例(47%、同:28~66%)だった。スーダン糖蛋白への抗体反応は、EBOワクチン単独接種群15/30例(50%、31~69%)、両ワクチン接種群15/30例(50%、31~69%)で認められた。 マールブルグ糖蛋白への抗体反応を示したのは、MARワクチン単独接種群は9/29例(31%、15~51%)、両ワクチン接種群7/30例(23%、10~42%)であった。 また、ザイール糖蛋白へのT細胞反応を示したのは、EBOワクチン単独接種群19/30例(63%、44~80%)、両ワクチン接種群は10/30例(33%、17~53%)だった。スーダン糖蛋白へのT細胞反応を示したのは、EBOワクチン単独接種群13/30例(43%、25~63%)、両ワクチン接種群は10/30例(33%、17~53%)だった。 マールブルグ糖蛋白へのT細胞反応を示したのは、MARワクチン単独接種群15/29例(52%、33~71%)、両ワクチン接種群は13/30例(43%、25~63%)だった。

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在宅で診る肺炎診療の実際

■在宅高齢者の肺炎の多くが誤嚥性肺炎在宅高齢者の発熱の原因として最も多いのは肺炎である1)。在宅医療を受けている患者の多くは嚥下障害を起こしやすい、脳血管性障害、中枢性変性疾患、認知症を患っており、寝たきり状態の患者や経管栄養を行っている患者も含まれていて、肺炎のほとんどは誤嚥性肺炎である。日本呼吸器学会は2005年に「成人市中肺炎診療ガイドライン(改訂版)」を、2008年には「成人院内肺炎診療ガイドライン」を作成したが、在宅高齢者の肺炎診療に適するものではなかった。その後、2011年に「医療介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン」が作成された。NHCAPの定義と発症機序は表1 2)および表2 2)に示されるように、在宅療養患者が該当しており、その特徴は市中肺炎と院内肺炎の中間に位置し、その本質は高齢者における誤嚥性肺炎を中心とした予後不良肺炎と、高度医療の結果生じた耐性菌性肺炎の混在したもの、としている。本稿では、NHCAPガイドライン(以下「ガイドライン」と略す)に沿って、実際に在宅医療の現場で行っている肺炎診療を紹介していく。表1 NHCAP の定義1.長期療養型病床群もしくは介護施設に入所している(精神病床も含む)2.90日以内に病院を退院した3.介護を必要とする高齢者、身障者4.通院にて継続的に血管内治療(透析、抗菌薬、化学療法、免疫抑制薬などによる治療)を受けている・介護の基準PS3: 限られた自分の身の回りのことしかできない、日中の50%以上をベッドか椅子で過ごす、以上を目安とする表2 NHCAP の主な発症機序1.誤嚥性肺炎2.インフルエンザ後の2次性細菌性肺炎3.透析などの血管内治療による耐性菌性肺炎(MRSA肺炎など)4.免疫抑制薬や抗がん剤による治療中に発症した日和見感染症としての肺炎を受けている■在宅での肺炎診断在宅患者の診察では、平素より経皮的酸素飽和度(SpO2)を測定しておき、発熱時には変化がないかを必ず確認する。高齢者は、咳や痰などの一般的症状に乏しいが、多くの場合で発熱を伴う。しかし、発熱を伴わない場合もあるので注意する。聴診所見では、必ずしも特異的な所見がなく、脱水を伴っている場合はcoarse crackleは聴取しにくくなる。血液検査では、発症直後でも上昇しやすい白血球数を参考にするが、数が正常でも左方移動がみられれば有意と考える。CRPは、発症直後には上昇しにくいので、発症当日のCRP 値で重症度を評価することはできない。必要に応じてX線ポータブル検査を依頼する。■NHCAPにおける原因菌ガイドラインによると原因菌として表3 2)が考えられている。表3 NHCAP における原因菌●耐性菌のリスクがない場合肺炎球菌MSSAグラム陰性腸内細菌(クレブシエラ属、大腸菌など)インフルエンザ菌口腔内レンサ球菌非定型病原体(とくにクラミドフィラ属)●耐性菌のリスクがある場合(上記の菌種に加え、下記の菌を考慮する)緑膿菌MRSAアシネトバクター属ESBL産生腸内細菌ガイドラインでは、在宅療養している高齢者や寝たきりの患者では、喀出痰の採取は困難であり、また口腔内常在菌や気道内定着菌が混入するため、起因菌同定の意義は低く、診断や治療の相対的な判断材料として用い、抗菌薬の選択にはエンピリック治療を優先すべきである、とされている。実際の現場では、喀出痰が採取できる患者は肺炎が疑われた場合、抗菌薬を開始する前にグラム染色と好気性培養検査を依頼し、初期のエンピリック治療に反応が不十分な場合、その結果を参考に抗菌薬の変更を考慮している。■ガイドラインで示された治療区分とはガイドラインでは、市中肺炎診療ガイドラインで示しているような重症度基準(A-DROP分類)では、予後との関連がはっきりしなかったため、治療区分という考え方が導入された。この治療区分(図1)2)に沿って抗菌薬が推奨されている(図2)2)。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大するここでのポイントは、耐性菌のリスクの有無(90日以内の抗菌薬の投与、経管栄養があり、MRSAが分離された既往歴)が、問われていることである。■在宅患者における肺炎の重症度判断PSI(pneumonia severity index)は、患者を年齢、既往歴、身体所見・検査所見の異常など20因子による総得点により、最も正確に肺炎の重症度判定ができる尺度として有名である。そこで筆者の診療所では在宅診療対象患者のみを対象に、血液検査・画像所見の結果がなくても肺炎の重症度を推定できる方法はないかを検討した。身体所見や患者背景から得られた総得点をPSI for home-care based patients(PSI-HC)と名付け、この得点を基に患者を分類したところ、血液検査や画像所見がなくても予後を反映するものであった3)。当院ではそれを基に「発熱フェイスシート」を作成し、重症度の把握と家族への説明に利用している(図3)。なお、図中の死亡率は1年間における97人の肺炎患者をレトロスペクティブにみた値であり、今後さらなる検討が必要な参考値である。画像を拡大する■在宅における肺炎治療の実際実際の現場では、治療区分で入院が必要とされるB群でも、連日の抗菌薬投与ができるようであれば在宅での治療も可能である。先述したように、喀出痰が採取できない症例が多いため、在宅高齢者の肺炎の起因菌についての大規模なデータはないが、グラム陰性菌、嫌気性菌が主な起因菌であるといわれている。グラム陰性菌に抗菌力が強く、ブドウ球菌や肺炎球菌などのグラム陽性菌や一部の嫌気性菌を広くカバーする、ニューセフェムやレスピラトリーキノロンを第1選択としている。●経口投与の場合:レボフロキサシン(商品名:クラビット[LVFX])、モキシフロキサシン(同:アベロックス[MFLX])LVFXは1日1回500mgを標準投与量・法とする。腎排泄型の抗菌薬であり、糸球体濾過量(GFR)に応じて減量する。MFLXは主に肝代謝排泄型の抗菌薬であり、腎機能にかかわらず、1日1回400mgを標準投与量とする。●静脈投与の場合:セフトリアキソン(同:ロセフィン[CTRX])血中半減期が7~8時間と最も長いので1日1回投与でも十分な効果を発揮し、胆汁排泄型であることからGFRの低下を認める高齢者にも安心して使用できる。CTRXは緑膿菌に対して抗菌力がほとんどなく、ブドウ球菌、嫌気性菌などにも強い抗菌力はないといわれており、ガイドライン上でも誤嚥性肺炎には不適と記載されているが、筆者らは誤嚥性肺炎を含む、肺炎初期治療としてほとんどの患者に使用し、十分な効果を認めている。また、過去90日以内に抗菌薬の使用がある場合にも、同様に効果を認めている。3日間投与して解熱傾向を認めないときには、耐性菌や緑膿菌を考慮した抗菌薬に変更する。嫌気性菌をカバーする目的で、クリンダマイシン内服の併用やブドウ球菌や嫌気性菌に、より効果の強いニューキノロン内服を併用することもある。■入院適用はどのような場合か在宅では、病院と比較すると正確な診断は困難である。しかし、全身状態が保たれ、介護する家族など条件に恵まれれば、在宅で治療可能な場合が多い。筆者らは、先述した在宅患者の肺炎の重症度(PSI-HC)を利用して重症度の把握、家族への説明を行ったうえで、患者や家族の意思を尊重し、入院治療にするか在宅治療にするかを決定している。在宅高齢者が入院という環境変化により、肺炎は治癒したけれども、認知機能の悪化やADL低下などを経験している場合も少なくない。過去にそのような体験がある場合には、在宅でできる最大限の治療を行ってほしいと所望されることが多い。ただ、医療的には、高度の低酸素血症、意識低下や血圧低下を伴う重症肺炎や、エンピリック治療で正しく選択された抗菌薬を使い、3日~1週間近く治療を行っても改善傾向が明らかでない場合に入院を検討している。また、介護面では重症度にかかわらず、介護量が増えて家族や介護者が対応できない場合にも入院を考慮している。■肺炎予防と再発対策誤嚥性肺炎の治療および予防として表42)が挙げられる。表4 NHCAP における誤嚥性肺炎の治療方針1)抗菌薬治療(口腔内常在菌、嫌気菌に有効な薬剤を優先する)2)PPV 接種は可能であれば実施(重症化を防ぐためにインフルエンザワクチンの接種が望ましい)3)口腔ケアを行う4)摂食・嚥下リハビリテーションを行う5)嚥下機能を改善させる薬物療法を考慮(ACE阻害薬、シロスタゾール、など)6)意識レベルを高める努力(鎮静薬、睡眠薬の減量、中止、など)7)嚥下困難を生ずる薬剤の減量、中止8)栄養状態の改善を図る(ただし、PEG〔胃ろう〕自体に肺炎予防のエビデンスはない)9)就寝時の体位は頭位(上半身)の軽度挙上が望ましいガイドラインではNHCAPの主な発症機序として誤嚥性肺炎のほか、インフルエンザと関連する2次性細菌性肺炎の重要性が提案されており、わが国でも高齢者施設におけるインフルエンザワクチン、そして肺炎球菌ワクチンの効果がはっきり示されたこともあり、両ワクチンの接種が勧められる4)。日々の生活の中では、口腔ケアや摂食嚥下リハビリテーションは重要であり、歯科医師・歯科衛生士や言語聴覚士との連携で、より質の高いケアを提供することができる。●文献1)Yokobayashi K,et al. BMJ Open. 2014 Jul 9;4(7):e004998.2)日本呼吸器学会 医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン作成委員会. 医療・介護関連肺炎診療ガイドライン. 2011.3)Ishibashi F, et al. Geriatr Gerontol Int. 2014 Mar 12 . [Epub ahead of print].4)Maruyama T,et al. BMJ. 2010 Mar 8;340:c1004.●関連リンク日本呼吸器学会 医療・介護関連肺炎(NHCAP)診療ガイドライン

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エンテカビル、R-CHOP後のHBV関連肝炎を0%に/JAMA

 びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)で、R-CHOP(リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾン)療法を受ける患者に対し、エンテカビル(商品名:バラクルード)の投与は同療法後のB型肝炎ウイルス(HBV)関連肝炎の予防効果が高いことが判明した。発生率は0%に抑制できたという。中国・中山大学がんセンターのHe Huang氏らが、第III相無作為化非盲検試験の結果、報告した。JAMA誌2014年12月17日号掲載の報告より。エンテカビルvs. ラミブジンをR-CHOP療法終了後6ヵ月後まで投与 試験は2008年2月~2012年12月にかけて、中国10ヵ所の医療機関を通じて、R-CHOP療法が予定されている未治療のDLBCL患者121例について行われた。 研究グループ被験者を無作為に2群に分け、エンテカビル(0.5mg)またはラミブジン(商品名:ゼフィックス、100mg)を、1日1回、R-CHOP療法1週間前から同療法終了後6ヵ月後まで投与し、HBV再活性の予防効果を比較した。 主要有効性エンドポイントは、HBV関連肝炎の罹患率だった。副次エンドポイントは、HBV再活性化率、肝炎発生によるR-CHOP療法の中断、治療関連の有害事象発生などだった。HBV再活性化率もラミブジン群30%に対しエンテカビル群6.6% 追跡期間最終日は2013年5月25日、同中央値は40.7ヵ月だった。 結果、HBV関連肝炎の発生率は、ラミブジン群で60例中8例(13.3%)だったのに対し、エンテカビル群では61例中0例(0%)と有意に低率だった(群間差:13.3%、95%信頼区間:4.7~21.9%、p=0.003)。 また、HBV再活性もラミブジン群が30.0%だったのに対し、エンテカビル群は6.6%と大幅に低率だった(p=0.001)。化学療法中断となった割合もそれぞれ18.3%、1.6%とエンテカビル群で有意に低率だった(p=0.002)。 一方、治療関連有害事象の発生率はラミブジン群30.0%、エンテカビル群24.6%で、両群差は有意ではなかった(p=0.50)。エンテカビル群の主な同事象の報告は、悪心9.8%、めまい6.6%、頭痛4.9%、疲労感3.3%だった。

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医師が選んだ2014年の10大ニュース! 1位はやはり、あの騒動 【CareNet.com会員アンケート結果発表】

1位 STAP細胞の発表論文に不正発覚 STAP細胞は、一度分化した細胞に外部刺激を加えることで再び分化能を獲得したという生物界の常識を覆す大発見であった。論文筆頭著者である小保方 晴子氏が若い女性であったこともあり、大きな注目を集めた。 しかし、世界中の研究者が追試をしてもSTAP細胞を作製できなかった。そのような中、論文の共著者である若山 照彦氏(山梨大教授)が、論文と理化学研究所(理研)発表文書の矛盾点や画像の誤りを発表し、論文の撤回を呼び掛けた。その後、理研の調査委員会が本論文に対する不正を認定、7月2日の論文撤回に至った。 その後、理研の検証チームおよび小保方氏独自の検証実験が行われたが、STAP細胞を再現できなかった。これにより、STAP細胞が存在しない可能性がさらに高まった。 2位 エボラウイルスの感染拡大 エボラ出血熱がギニア、シエラレオネ、リベリアなど、西アフリカで蔓延した。スペインやアメリカにおいても、この地域からの帰国者が感染していることが確認された。現在、エボラ出血熱に対する治療薬やワクチンが臨床試験中であり、WHO、国境なき医師団など、世界中から支援の手が差し伸べられている。 出典:国立感染症研究所 3位 消費税が5%から8%に 4月1日、消費税が5%から8%に引き上げられた。消費税引き上げは17年ぶり。当初、政府やエコノミストは、増税当初の経済活動はいったん落ち込むが夏場から回復すると見込んでいた。しかし、回復は遅れ、来年10月に予定されていた10%への引き上げは、17年4月に延期された。 4位 臨床試験の不正が相次ぎ発覚 製薬会社社員の関与、不適切な資金提供、データ捏造など、臨床試験の不正が相次いで明らかとなった。ディオバン問題では逮捕者も出て、日本発臨床研究の信頼が大きく揺らいだ。 5位 ノーベル物理学賞を日本人が受賞 ノーベル物理学賞を赤崎 勇(名城大教授)、天野 浩(名古屋大教授)、中村 修二(カリフォルニア大サンタバーバラ校教授)の3氏が受賞した。授賞理由は、実用的青色発光ダイオード(LED)の開発。日本人のノーベル賞受賞は、22人となった。 6位 デング熱が日本で流行 7位 御嶽山が噴火 8位 ソチ五輪開幕 羽生選手が金メダル 9位 テニスの錦織選手が全米オープンで決勝進出 10位 朝日新聞が吉田調書と慰安婦問題で謝罪 #feature2014 dt{width:50px;}

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C型肝炎治療を変える!ソホスブビルとギリアド ~ギリアド社長インタビュー~

慢性C型肝炎の治療は、今、まさにパラダイムシフトの時を迎えている。インターフェロン(IFN)が当たり前のように使われていた時代から、IFNフリーの時代へと急激に変わろうとしている。その主役を担うと期待されているのがソホスブビルである。本年6月にその製造承認申請を行った、ギリアド・サイエンシズ株式会社(以下、ギリアド)の代表取締役社長 折原 祐治氏に話を聞いた。ソホスブビルの現況は?折原 祐治氏折原 ソホスブビルは、C型肝炎のIFNフリー治療を目指して開発されました。2014年6月に、ゲノタイプ2型のC型肝炎に対する治療薬としてソホスブビルの製造販売承認を申請し、2014年9月には、ゲノタイプ1型に対する治療薬としてソホスブビル・レジパスビルの配合剤を申請しました。現在は承認を待つ段階ですが、申請以来、患者さんや医師からの承認時期に対するお問い合わせが相次いでいます。承認は楽しみでもありますが、患者さんや医師の期待を考えると身が引き締まる思いで、楽しみよりも緊張のほうが大きいです。ソホスブビルの臨床効果は?折原 ソホスブビルは、ゲノタイプ1型と2型のそれぞれに対して臨床試験が行われています。まずは、ゲノタイプ2型の試験から紹介します。未治療および治療歴のあるゲノタイプ2型のC型肝炎例に対して、ソホスブビルとリバビリン(600~1000mg/日)を12週投与したところ、97%(n=148/153)において治療終了後12週時の持続的ウイルス学的著効(SVR12)が達成されました。一方、ゲノタイプ1型のC型肝炎例に対しては、ソホスブビル・レジパスビルの12週間投与により、未治療患者(n=83/83)および治療歴のある患者(n=88/88)それぞれでSVR12が100%となりました。このときの主な有害事象は、鼻咽頭炎(29%)、頭痛(7%)、倦怠感(5%)などでいずれも軽度でした。ソホスブビルの特徴は?折原 この薬剤の特徴は主に3つあります。SVR、安全性、耐性です。SVRと安全性については、先ほどの臨床試験結果で紹介しましたので、ここでは耐性についてお話ししたいと思います。現在開発が進んでいるC型肝炎の主な治療薬は、NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬、NS5A阻害薬、NS5Bポリメラーゼ阻害薬の3種類です。いずれもC型肝炎ウイルスの増殖を直接的に阻害する作用を有しています。ソホスブビルは、NS5Bポリメラーゼ阻害薬に分類され、NS5Bポリメラーゼ阻害薬としては唯一の申請中の薬剤です。増幅するHCV RNA中に入り込み伸長を停止する核酸アナログ製剤であり、この作用機序から、耐性が起こりにくいと期待されています。これからのC型肝炎治療では、いかに薬剤耐性を起こさないで治療するかが重要となってきます。そのため、先に承認された海外では、耐性を起こしにくいソホスブビルはC型肝炎治療のベース薬として使用され、「ソホスブビルに何を追加するか?」が議論されています。ソホスブビルのような革新的な薬剤が、なぜ開発されたか?折原 ギリアドは、いまだ医療ニーズが満たされていない疾患領域の、とくに生命に関わる疾患の治療を向上させることを目指しています。その結果の1つがソホスブビルだと思います。ギリアドは、「For the Patient」を実践しています。興味深い例を1つ挙げますと、米国本社での会議では、「患者さんのためにどうすべきか?」が話し合われます。「日本の患者さんはどのような治療を受けているか?」「良くなっているか?」「何か困っていないか?」が優先して次々に尋ねられます。これまで私は複数の製薬企業に勤務してきました。これまでの製薬企業の場合、売上やシェアといったことが議題のほとんどでしたから、この違いには本当に驚きました。このあたりの姿勢が、革新的な薬剤を生み出すきっかけになっていると思います。ゲノタイプ2型から治験・申請した理由は?折原 ゲノタイプ2型に対する治験から行ったのも、ギリアドならではだと思っています。わが国では慢性C型肝炎のうち約7割が1型、残りの3割を2型が占めると言われ、ゲノタイプ1型に対するIFNフリー治療は、複数社が開発を進めていました。一方、ゲノタイプ2型に対するIFNフリー治療の開発は進められていませんでした。日本にはゲノタイプ1型の患者さんのほうが多く、競合も多いですから、通常、ゲノタイプ1型の治験を優先するかと思います。しかし、私たちはそのように考えませんでした。ゲノタイプ2型の患者さんをIFNフリーに導けるのはギリアドしかいないと考え、まずはゲノタイプ2型に対する治験から開始したのです。ギリアドとは?折原 ギリアドは、1987年に米国カリフォルニアに創立され、2013年に日本進出を果たしたバイオファーマです。全世界での売上は、2013年度が約1兆円、今年度は約2兆円が見込まれ、売上では世界のトップ10に入ると予想されるほど勢いがあります。製品パイプラインは、HIV/AIDS、肝疾患を中心に、今後はオンコロジーへも展開予定です。また、あまり知られていませんが、実は「タミフル」「アムビゾーム」の開発会社でもあります。最後にゲノタイプ1型C型肝炎に対する治療の進歩の速度は驚異的である。約10年前は、IFNの副作用に苦しみながらもSVRは10%程度であったが、リバビリン、PEG-IFN、NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬と次々に開発され、ついにSVR が約90%まで改善した。そして、NS5Bポリメラーゼ阻害薬であるソホスブビルの登場により、SVRはほぼ100%に到達する。さらに、安全性も飛躍的に改善されてきている。折原氏も、ベテランの肝臓専門医から「まさか自分が現役の時代にC型肝炎が駆逐される時が来るとは思わなかった。」と言われることがあるという。ソホスブビルなどのIFNフリー治療によりSVRを達成した症例で、実際に肝臓がんが減るかについてはまだ検討が必要である。しかし、C型肝炎患者をSVRへ導きやすくなることは明らかである。今後のC型肝炎治療の明るい未来に大いに期待したい。(ケアネット 鈴木 渉)

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治療抵抗性の慢性咳嗽に対する新選択肢(AF-219)の有効性について(解説:小林 英夫 氏)-291

 外来診療で、咳止めを処方してくださいという声をしばしば耳にされませんか。そんなときはどう対処されていますか。当然ですが、疾患を問わずすべての咳嗽を抑制できる夢の薬は存在していません。細菌性肺炎に鎮咳薬のみを投与しても効果は期待できないので、まず咳嗽の基盤病態の鑑別が医師の出発点ですが、受診者は余計な検査などせず咳止めを出してくれればそれでけっこうです、と主張することも少なくないと思います。 無理とは思いつつ、幅広い病態に有効な鎮咳処方箋はないかと願うこともあります。 新薬AF-219は、気道の迷走神経に発現し咳嗽感覚の過剰反応に関与するP2X3 受容体に対する低分子拮抗薬で、米国Afferent製薬により治験が進められている。同社ホームページによると、P2X3受容体は無髄の細径C神経線維に特異的で内臓、皮膚、関節にも存在し痛覚や臓器機能に関与している。その機序はATPをリガンドとして活性化されるチャンネルで、痛覚感作経路に発現する。英国で慢性咳嗽への治験(本論文)、米国で変形性関節炎による疼痛治療、さらに膀胱痛への治験中とのことである。本来の役割からも咳嗽よりも鎮痛効果を狙っている印象である。本薬を鎮咳に用いた根拠は、気道の迷走神経C線維にP2X3受容体が存在すること、モルモットではATPやヒスタミン吸入させるとP2X受容体を介した咳嗽反射が強まることなどであった。 本研究は、基礎疾患の明らかでない難治性(治療抵抗性)慢性咳嗽患者を対象とし、第II相二重盲検無作為化プラセボ対照試験、単一医療機関でのクロスオーバー法(2週間服薬、2週間wash out、2週間服薬)で実施された。結果は、咳嗽頻度は75%低下し期待できる鎮咳薬である、となっている。 臨床的に満足できる鎮咳薬が少ない実状を踏まえればAF-219に期待したい一方で、論文を読み込むとまだまだ未解決点がある。評価できる点として、primary endpointである鎮咳効果を音響学的自動咳嗽記録機(VitaloJAK)により計測し客観的量的評価がなされている。同時に主観的なvisual analogue scale (VAS)などもsecondary endpointとしているが、咳嗽回数を記録することの価値は大きい。 マイナス点としては対象集団の曖昧さがある。本論文に限らないが慢性咳嗽の研究では回避できない問題である。エントリー基準は、閉塞性障害、胃食道逆流、喫煙、感染、薬剤性咳嗽などを除外し、明らかな咳嗽の原因疾患を有さず、治療によっても8週間以上咳嗽が継続する症例、が選択されている。本邦で重視されるアトピー咳嗽の概念は導入されていない。また、呼吸機能は施行されているが胸部CTについては記載がなく、英国での試験なので未施行と推測される。さらに平均咳嗽罹病期間は9年間である。どのような病態が混在しているのかが不明瞭であろう。次の問題点は、24例中6例が有害事象により服薬中止となっている。重篤な副反応はみられないものの、全例で味覚障害が出現している点が用量変更で解決できるかどうかが大きな課題であろう。これは舌味蕾にP2X3が存在するためで、減量により味覚障害が回避できる可能性があると考察されている。 抗てんかん薬であるガバペンチン、徐放性モルヒネ、サリドマイド、リドカイン吸入などが最新の咳嗽研究対象薬であるが、いずれも十分な鎮咳効果は得られなかった。鎮咳薬という分野での選択肢が少ない、遅れているという現状からは、P2X3受容体拮抗薬の今後に期待したいが、実臨床への過程には今いっそうの検討を経なければならない。さらに有効疾患の絞り込みも望まれる。なお、本邦の咳嗽診療指針として日本呼吸器学会編集の「咳嗽に関するガイドライン第2版(PDF)」は無料ダウンロード可能なので参照をお薦めしたい。

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ポリフェノールは皮膚疾患の新たな治療選択肢

 米国・カリフォルニア大学デービス校のWilliam Tuong氏らは、皮膚疾患の新たな治療選択肢としてのポリフェノールベース治療について、システマティックレビューによる検討を行った。その結果、特定の皮膚疾患の治療に有効でありうると質的に結論づけられると述べ、臨床医に、エビデンスに基づく知識(有効性、適応症、副作用)が必要であると示唆した。同時に、さらなる厳格な臨床試験を行う必要性、有効性の評価が不可欠であることにも言及した。Journal of Dermatological Treatment誌オンライン版2014年11月26日号の掲載報告。 植物由来のポリフェノール物質は、in vitroおよびin vivoでバイオロジカルな特性があることを示し、特定の皮膚疾患の新たな治療の開発につながっている。本検討で研究グループは、臨床医にポリフェノールベースの治療法の有効性を評価している臨床試験の概要を提供すること、および、新たな治療として、使用を裏づけるエビデンスがあることを強調するのが目的であった。 システマティックレビューは、PubMed、Embaseのデータベースを介して、2014年7月4日時点で文献検索を行った。2人の独立レビュワーが、要約をレビューし包含。関連スタディについて参考文献の検索も手動で行った。 データの抽出は、適格条件を満たした試験から個別に行い、矛盾点についてはコンセンサスによって包含判定を下した。 主な結果は以下のとおり。・検索により、356の特色のある要約が得られた。そのうち17試験が包含および除外基準を満たした。・ポリフェノールは、外用および経口の形態で用いられていた。・緑茶ポリフェノールが肛門性器疣贅の治療に効果がある可能性を示唆する質の高いエビデンスが認められた。・ポリフェノールが脱毛症、にきび、真菌感染症、シミや日焼けした皮膚の治療として効果がある可能性を示唆する、限定的だが有用なエビデンスも認められた。・著者は、「皮膚科領域でのポリフェノールベース治療の臨床使用増大とともに、その有効性、適応症、副作用に関するエビデンスベースの知識が必要となる」と述べている。

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腎移植後のBKウイルス尿症、キノロンで予防できるか/JAMA

 腎移植後レシピエントの重大合併症であるBKウイルス感染症に対して、移植後早期開始のレボフロキサシン(商品名:クラビットほか)療法(3ヵ月間投与)は、BKウイルス尿症発症を予防しなかったことが、カナダ・オタワ大学のGreg A. Knoll氏らによる、前向き二重盲検プラセボ対照無作為化試験の結果、判明した。BKウイルスの一般集団保有率は60~80%であり、移植後免疫療法は同ウイルスを再活性化することが知られる。ウイルス尿症に始まり、ウイルス血症、最終的にウイルス腎症に至る感染症の進行は、レシピエントの移植失敗に結びつくこと(10~100%)から問題視されている。今のところ同感染症に対する有効な治療戦略はないが、後ろ向き検討において、キノロン系抗菌薬の抗ウイルス効果が示されたことから、前向き試験による予防的投与の効果を検討する本試験が行われた。JAMA誌2014年11月26日号掲載の報告。移植後5日以内に3ヵ月間投与、プラセボ群と比較 試験は、2011年12月~2013年6月にカナダの7つの移植医療施設で行われた。被験者は、死体または生体腎移植を受けた154例で、移植後5日以内に開始する3ヵ月間のレボフロキサシン投与(500mg/日、76例)を受ける群と、プラセボ群(78例)に無作為に割り付けられ追跡を受けた。 主要アウトカムは、移植後1年以内のBKウイルス尿症発症(定量リアルタイムPCR法で検出)までの期間。副次アウトカムは、BKウイルス血症の発生率、ウイルス量最大値、拒絶反応、患者死亡率および移植片生着失敗率などであった。BKウイルス尿症発生のハザード比0.91で有意差なし、むしろ耐性菌リスク増大 本試験は、被験者154例のうち38例が追跡予定期間(12ヵ月)を完遂できなかった。38例のうち11例はウイルス尿症を発症したため、また27例はリスクが認められ、試験を早期に終了した(全被験者が完了した追跡期間は8ヵ月間)。全体の平均追跡期間は、レボフロキサシン群46.5週、プラセボ群46.3週であった。 BKウイルス尿症の発生は、レボフロキサシン群22例(29%)、プラセボ群26例(33.3%)で、両群に有意差は認められなかった(ハザード比:0.91、95%信頼区間[CI]:0.51~1.63、p=0.58)。また、各副次エンドポイントについても、両群間で有意差はみられなかった。 一方で、レボフロキサシン群でキノロン耐性菌感染症のリスク増大が認められた(58.3%vs. 33.3%、リスク比:1.75、95%CI:1.01~2.98)。また、有意ではなかったが腱炎リスクの増大も認められた(7.9%vs. 1.3%、リスク比:6.16、95%CI:0.76~49.95)。 試験期間中の腎機能は両群で同等であった。

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【GET!ザ・トレンド】Dr岩田が提言 エボラ、医療者が知っておくべきポイント

かつてないアウトブレイクで加熱するエボラ報道。伝えられている情報はどこまで正しいのか?岩田健太郎氏が緊急出演、いま医療者が正しく知っておくべきポイントを3分で解説いただいた。エボラ出血熱の正しい情報をNew England Journal of Medicine /EBLA OUTBREAKhttp://www.nejm.org/page/ebola-outbreakThe New York Timeshttp://www.nytimes.comCDC( Centers for Disease Control and Prevention )/Ebola Updatehttp://www.cdc.gov/vhf/ebola/index.htmlWHOhttp://www.who.int/en/The Lancet /Ebola Resource Centrehttp://ebola.thelancet.com/より詳しい情報はCareNeTVライブ アーカイブへ「岩田健太郎が緊急提言!エボラ出血熱にこう備えよ!」(2014年11月27日OA)https://www.carenet.com/report/series/asf/cnlive/37.html

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HHV6関与の小児薬物アレルギーは重症化

 ヒトヘルペスウイルス6(HHV6)陽性の薬物アレルギー症候群(DHS)患者は、より重症化する傾向があることが明らかにされた。また、全身性コルチコステロイド治療が、統計的有意差は示されなかったが入院期間の短縮および発熱日数を減少し、統計的に有意に早期回復をもたらしていた。J. Ahluwalia氏らが小児29例の症例についてレトロスペクティブに評価し報告した。British Journal of Dermatology誌オンライン版2014年11月4日号の掲載報告。 研究グループは、DHSの重症度にはHHV6陽性が影響する可能性が示唆されており、また、HHV6陽性DHS患者への全身性コルチコステロイド治療は疾患を長期化することが推測されていたことから、次の2点について検討を行った。(1)小児患者におけるHHV6陽性(再活性を検出)DHS患者vs. HHV6陰性DHS患者の重症度の評価、(2)全身性コルチコステロイド治療に対する反応の評価である。 29例の患者を対象とし、HHV6陽性群vs.陰性群、全身性コルチコステロイド治療の有無で層別化し、入院期間、総発熱日数、疾患の進行停止(CTP)までの期間を調べた。 主な結果は以下のとおり。・HHV6陽性患者とHHV6陰性患者の人口統計学的特性は類似していた。・陽性患者のほうが陰性患者と比べて、入院期間(11.5日vs. 5日、p=0.0386)、総発熱日数(12.5日vs. 3日、p=0.0325)、CTP期間(4日vs. 2日、p=0.0141)が有意に長期であった。・HHV6陰性全患者と、大半の陽性患者(80%)が、全身性コルチコステロイド治療を受けた。・HHV6陰性患者でコルチコステロイド治療を受けた患者は、受けなかった患者よりも、CTP期間が有意に短縮した(3日vs. 2日、p=0.043)。・また、統計的に有意差は示されなかったが、入院期間と総発熱日数も短縮化の傾向がみられた。・DHS頻度が高かった薬物は、ST合剤(33%)、フェニトイン(10%)、アモキシシリン(10%)などであった。

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C型肝炎は内服でほぼ全例が治癒する時代へ

 C型肝炎ウイルスに対する治療は、2011年の直接作用型抗ウイルス薬(Direct Acting Antivirals;DAA)の登場で大きく変換した。現在、効果のより高い薬剤・レジメンの開発が続いている。2014年11月26日、都内で開催されたC型肝炎プレスセミナー(主催:アッヴィ合同会社)にて、熊田 博光氏(虎の門病院分院長)がC型肝炎治療の進歩と著効率の変遷を解説、さらに開発中のレジメンを紹介し、「来年にはC型肝炎は内服薬のみでほぼ全症例が治癒する時代が到来するだろう」と予測した。■日本人で多いのは「ジェノタイプ1b型・高ウイルス量」 C型肝炎ウイルスの遺伝子型は民族によって異なり、日本人ではジェノタイプ1b型・高ウイルス量の患者が多く、5割以上を占める。しかしながら、1992年に承認されたインターフェロン(IFN)単独療法では、このジェノタイプ1b型・高ウイルス量の患者に対して、虎の門病院における著効率は11.7%と低く、全体でも著効率は3割と、つらい治療にもかかわらず7割が無効であったという。また、次に承認されたペグ-IFN+リバビリン(RBV)併用療法でも、2004年~2011年における、ジェノタイプ1b型・高ウイルス量の患者の著効率は48.8%と5割に満たなかった。しかし、2011年にDAAが登場し、IFN+RBV+プロテアーゼ阻害剤併用療法により、ジェノタイプ1型のSVR率は、初回治療例ではテラプレビルで73%、シメプレビルで88%、バニプレビルで84%と高い効果を示した。しかし、前治療無効例に対しては、順に34%、50%、61%と徐々に増えているものの低いことが課題であった。■IFNフリーの経口剤が登場 日本人のC型肝炎患者の特徴として、高齢者が多いこと、副作用(とくにIFN)に敏感なこと、高齢化のために欧米より肝がんの発生頻度が高いことが挙げられる。そのため、高齢者・うつ病・IFNが使えない患者にも使える、IFNフリーの経口剤治療が求められていると熊田氏は述べた。このような状況から、IFNフリーの経口治療薬であるダクラタスビル(NS5A阻害剤)+アスナプレビル(NS3阻害剤)併用療法が開発され、今年9月に両薬剤が発売された。 これら2剤の併用療法における第III相試験での著効率は、ジェノタイプ1b型のIFN治療に不適格の未治療または不耐容の患者で87.4%、IFN治療無効の患者で80.5%と、高い有効性が示された。また、この有効性には、性別、年齢、開始時HCV-RNA量、肝硬変などの背景因子の影響はみられなかった。有害事象については、鼻咽頭炎、頭痛、ALT増加、AST増加、発熱が多く、有害事象による投与中止例は5%であったと熊田氏は紹介した。■「前治療無効でNS5A・NS3耐性変異株あり」は著効率が低い この2剤併用経口療法の登場により、厚生労働省「科学的根拠に基づくウイルス性肝炎治療ガイドラインの構築に関する研究班 C型肝炎ガイドライン」が今年9月に改訂された。このガイドラインの治療選択肢の患者群ごとのSVR率をみると、・IFN適格の初回・再燃例:88%(IFN+RBV+シメプレビル3剤併用療法)・IFN不適格の未治療/不耐容例:89%(ダクラタスビル+アスナプレビル2剤併用療法)・前治療無効でNS5A・NS3耐性変異株ありの患者:43%(IFN+RBV+シメプレビル3剤併用療法)・前治療無効でNS5A・NS3耐性変異株なしの患者:85%(ダクラタスビル+アスナプレビル2剤併用療法)となる。 熊田氏は、前治療無効でNS5A・NS3耐性変異株ありの患者では43%と低いのが問題であると指摘した。■内服薬のみでほぼ全症例が治癒する時代が到来 最後に熊田氏は、わが国で経口剤のみの臨床試験がすでに実施されているレジメンとして以下を紹介し、このうち、ギリアド、アッヴィ、ブリストルの薬剤は来年には発売されるという見通しを語った。・NS5B阻害剤+NS5A阻害剤(ギリアド・サイエンシズ、2014年9月申請)・NS5A阻害剤+NS3阻害剤(アッヴィ、Phase3)・NS5A阻害剤+NS5B阻害剤+NS3阻害剤(ブリストル・マイヤーズ、Phase3)・NS5A阻害剤+NS3阻害剤(MSD、Phase2~3) これらレジメンの治療期間は12週と短くなっている。熊田氏は、これらの著効率が海外で95~100%、日本でもギリアドのNS5B阻害剤+NS5A阻害剤が99%(Phase3)、アッヴィのNS5A阻害剤+NS3阻害剤が95%(Phase2)と高いことから、「C型肝炎は内服薬のみでほぼ全症例が治癒する時代が到来するだろう」と述べた。

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グラゾプレビル+エルバスビル、8週vs. 12週/Lancet

 肝硬変なし未治療のC型肝炎ウイルス(HCV)遺伝子型1型単独感染患者およびHIV/HCV重複感染患者に対し、グラゾプレビル(grazoprevir、MK-5172)+エルバスビル(elbasvir、MK-8742)併用療法はリバビリン併用の有無を問わず、8週投与よりも12週投与が有効であることが判明した。米国・ジョンズホプキンス大学のMark Sulkowski氏らが第II相無作為化試験C-WORTHYの結果から報告した。グラゾプレビル+エルバスビル併用療法に関する検討はすでに、より大規模な第III相試験が行われている。著者は、「われわれの検討結果は、第III相試験の継続を支持するものであった」とまとめている。Lancet誌オンライン版2014年11月11日号掲載の報告より。肝硬変なし未治療のHCV単独感染またはHIV/HCV重複感染患者について評価 C-WORTHYは、HCV患者に対するグラゾプレビル(1日100mg)+エルバスビル(1日20または50mg)併用療法について、リバビリン投与あり/なしで検討した第II相の国際多施設非盲検無作為化並行群間比較試験である。 研究グループは、肝硬変なし未治療のHCV遺伝子型1型単独感染またはHIV/HCV重複感染についての検討所見を報告した。被験者の適格条件は、18歳以上、末梢血HCV RNA値1万IU/mL以上の未治療HCV遺伝子型1型感染症患者であった。 検討では、パートAにおいて、HCV単独感染患者に対する併用療法+リバビリンあり/なしの12週投与を行った。被験者は遺伝子型1a、1b群で層別化され、次の各群に無作為化された。A1群(1a+1b):グラゾプレビル+エルバスビル(20mg)+リバビリン、A2群(1a+1b):グラゾプレビル+エルバスビル(50mg)+リバビリン、A3群(1b):グラゾプレビル+エルバスビル(50mg)。 パートBでは、HCV単独感染患者に対する8週投与と12週投与の検討、およびHIV/HCV重複感染患者に対する併用療法+リバビリンあり/なし12週投与の検討を行った。被験者は遺伝子型1a、1b群で層別化され、次の各群に無作為化された。B1群(1a):グラゾプレビル+エルバスビル(50mg)+リバビリンを8週投与、B2群(1a+1b):グラゾプレビル+エルバスビル(50mg)+リバビリンを12週投与、B3群(1a):グラゾプレビル+エルバスビル(50mg)、重複感染患者についてはB12群(1a+1b):グラゾプレビル+エルバスビル(50mg)+リバビリン、B13群(1a+1b):グラゾプレビル+エルバスビル(50mg)でいずれも12週投与。 主要エンドポイントは、ウイルス学的著効(SVR)について、各治療終了後12週時点でのHCV RNA値25 IU/mL未満達成患者の割合で評価した(SVR12)。12週投与群のSVR12、HCV単独感染群93~98%、HIV/HCV重複感染群87~97% 試験に登録されたのは、HCV単独感染患者159例、HIV/HCV重複感染患者59例の計218例であった。 結果、12週投与リバビリンあり/なしのSVR12達成率は、HCV単独感染群が93~98%、HIV/HCV重複感染群は87~97%であった。このうちリバビリン投与なし群についてみると、HCV単独感染群は98%(95%信頼区間[CI]:88~100%、43/44例)、HIV/HCV重複感染群87%(同:69~96%、26/30例)であった。リバビリン投与群については、HCV単独感染群は93%(同:85~97%、79/85例)、HIV/HCV重複感染群97%(同:82~100%、28/29例)であった。 一方、HCV(遺伝子型1a)単独感染患者に対する8週投与のSVR12は、80%(95%CI:61~92%、24/30例)であった。 ウイルス学的失敗以外の理由で早期に治療中止となった被験者は6例いたが、そのうち5例は、試験最終測定時でHCV RNA値25 IU/mL未満を示していた。 12週治療群のウイルス学的失敗例は7例(7/188例、4%)で、薬剤関連耐性変異によるものであった。 安全性プロファイル(グラゾプレビル+エルバスビル併用療法+リバビリン投与あり/なし)は、HCV単独感染群、HIV/HCV重複感染群で類似していた。有害事象や検査値異常による治療中断例はなかった。最も頻度が高かった有害事象は、疲労(51例、23%)、頭痛(44例、20%)、悪心(32例、15%)、下痢(21例、10%)であった。

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