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添付文書改訂:タミフル/スタチンとフィブラート併用の原則禁忌解除/リンゼス錠【下平博士のDIノート】第13回

タミフルカプセル75、タミフルドライシロップ3%画像を拡大する<Shimo's eyes>2007年に、オセルタミビルを服用した10代の患者が転落して死傷する事例が相次いで報告されたことから、緊急安全性情報の発出や添付文書の警告欄の新設によって、10代の未成年患者への使用は原則として差し控えられていました。しかし、2018年8月に、厚生労働省医薬・生活衛生局医薬安全対策課長通知にて、オセルタミビル服用と異常行動について、明確な因果関係は不明という調査結果が報告され、インフルエンザ罹患時には、抗インフルエンザウイルス薬の服用の有無または種類にかかわらず、異常行動が発現する可能性があることが明記されました。そして、オセルタミビルを含めたすべての抗インフルエンザウイルス薬について、異常行動に対する注意喚起の記載が統一されました。今年は経口抗インフルエンザ薬のラインアップに変化が生じており、2018年3月には新規作用機序であり、1回の経口投与で治療が可能なバロキサビル錠(商品名:ゾフルーザ)が発売され、同年9月には顆粒製剤が承認されています。同じく9月には、オセルタミビルの後発医薬品も発売されています。患者さんに合わせて処方薬が使い分けられるようになりますが、どのような薬剤が処方されていたとしても、異常行動の可能性があることを念頭に、小児・未成年者を1人にしないことや住居が高層階の場合は施錠を徹底することなどを指導しましょう。スタチン系とフィブラート系併用の原則禁忌が解除画像を拡大する<Shimo's eyes>2018年10月に、腎機能低下患者へのフィブラートとスタチンの併用が添付文書の原則禁忌から削除され、「重要な基本的注意」の項で、腎機能に関する検査値に異常が認められる場合、両剤は治療上やむを得ないと判断する場合のみ併用することという旨の注意喚起が追記されました。欧米では腎機能が低下している患者でもスタチンとフィブラートの併用が可能であること、わが国においても併用治療のニーズがあることなどから、日本動脈硬化学会より2018年4月に添付文書改訂の要望書が提出されていました。さらに、2019年4月に施行される予定の医療用医薬品の添付文書記載要領の改訂において、「原則禁忌」および「原則併用禁忌」が廃止されることを踏まえた対応と考えられます。なお、原則禁忌が解除されたとはいえ、腎機能が低下している患者では、スタチンとフィブラートの併用による横紋筋融解症のリスクについて、引き続き十分な注意を払う必要があるでしょう。リンゼス錠0.25mg画像を拡大する<使用上の注意>治療の基本である食事指導および生活指導を行ったうえで、症状の改善が得られない患者に対して本剤の適用を考慮します。重度の下痢が現れるおそれがあるので、症状の経過を十分に観察し、漫然と投与しないよう、定期的に本剤の投与継続の必要性を検討します。<用法・用量>通常、成人にはリナクロチドとして0.5mgを1日1回、食前に経口投与します。なお、症状により0.25mgに減量します。<Shimo's eyes>慢性便秘症は高齢者に多いため、超高齢社会となったわが国では、近年便秘治療薬の領域が活気を帯びています。従来、慢性便秘症の薬物治療には、酸化マグネシウムやセンノシドなどが主に使われてきましたが、近年新薬が相次いで発売されています。便秘は「本来、体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義され、腸そのものの病変(腫瘍や炎症、狭窄など)によって起こる「器質性便秘」と、消化器官の機能低下によって起こる「機能性便秘」に分類されます。「慢性便秘症」は機能性便秘のうち、便秘の状態が日常的に続くものです。リナクロチドは、2017年3月に「便秘型過敏性腸症候群」の適応で発売されましたが、今回「慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)」が追加されました。同適応を有するものとしてすでに、ルビプロストンカプセル(商品名:アミティーザ)、エロビキシバット錠(同:グーフィス)が発売されており、さらに2018年9月にはマクロゴール含有製剤(同:モビコール)、ラクツロースゼリー(同:ラグノスNF)が承認されました。なお、食後投与の薬剤や食前投与の薬剤、服用時点の定めのない薬剤があるため、監査・服薬指導の際には注意が必要です。

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チクングニア熱ワクチン、安全性と有効性を確認/Lancet

 麻疹ウイルスベクターを用いた弱毒生チクングニアワクチン(MV-CHIK)は、優れた安全性・忍容性と、麻疹ウイルスに対する既存免疫と独立した良好な免疫原性を発揮することが示された。ドイツ・Rostock University Medical CenterのEmil C. Reisinger氏らによる、MV-CHIKの第II相の無作為化二重盲検プラセボ/実薬対照試験の結果で、著者は、「MV-CHIKは、世界的に懸念されている新興感染症チクングニア熱の予防ワクチン候補として有望である」とまとめている。チクングニア熱は新興ウイルス性疾患で、公衆衛生上の大きな脅威となっている。チクングニアウイルスに対する承認されたワクチンはなく、治療は対症療法に限られていた。Lancet誌オンライン版2018年11月5日号掲載の報告。MV-CHIKの免疫原性、チクングニアウイルスに対する中和抗体の有無で評価 研究グループは、オーストリアとドイツの研究所4施設で、18~55歳の健康なボランティアを登録し、MV-CHIK(50%組織培養感染用量として5×104および5×105を筋肉注射)群、対照ワクチン(麻疹・流行性耳下腺炎・風疹の3種混合ワクチンの筋肉注射)群、麻疹ワクチン+MV-CHIK群(麻疹ワクチンを初回投与後、2つの異なる投与レジメンでMV-CHIKを筋肉注射)に無作為に割り付けた(データ管理サービスによる封筒法)。被験者と評価者は治療の割り付けについて盲検化され、プラセボは無菌食塩水を用いた。 主要評価項目は、免疫原性(56日時点[1回/2回の接種後28日]でのチクングニアウイルスに対する中和抗体の存在と定義)である。有効性の解析対象は、治験を完遂した全被験者(per-protocol集団)、ならびに無作為化され治験薬の投与を1回以上受けた全被験者(修正intention-to-treat集団)。安全性の解析対象は、治験薬の投与を1回以上受けた全被験者とした。MV-CHIKは忍容性が良好で免疫原性が高い 2016年8月17日~2017年5月31日に、被験者263例が対照ワクチン群(34例)、MV-CHIK群(195例)、麻疹ワクチン+MV-CHIK群(34例)に割り付けられ、per-protocol集団は247例であった。 チクングニアウイルスに対する中和抗体は、1回/2回の接種後の全MV-CHIK群で検出され、幾何平均抗体価は12.87(95%信頼区間[CI]:8.75~18.93)~174.80(95%CI:119.10~256.50)、抗体陽転率は投与量および投与スケジュールに応じ50.0~95.9%の範囲であった。 有害事象は両群間で類似しており、非自発的(solicited)に報告された有害事象の発現率はMV-CHIK群および麻疹ワクチン+MV-CHIK群を合わせて73%(168/229例)、対照ワクチン群で71%(24/34例)(p=0.84)、自発的(unsolicited)に報告された有害事象の発現率は、それぞれ51%(116/229例)および50%(17/34例)(p=1.00)であった。重篤な有害事象は報告されなかった。 現在、流行地域および米国におけるMV-CHIKの治験が進行中である。

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「かぜには抗菌薬が効く」と認識する患者が約半数、どう対応すべきか

 一般市民対象の抗菌薬に関する意識調査の結果、約半数が「かぜやインフルエンザなどのウイルス性疾患に対して抗菌薬が効く」と誤った認識をしていることが明らかになった。AMR臨床リファレンスセンターは10月30日、「抗菌薬意識調査2018」の結果を公表し、「薬剤耐性(AMR)対策の現状と取り組み 2018」と題したメディアセミナーを開催した。セミナーでは大曲 貴夫氏(国立国際医療研究センター病院 副院長/国際感染症センター長/AMR臨床リファレンスセンター長)、具 芳明氏(AMR臨床リファレンスセンター 情報‐教育支援室長)らが登壇し、意識調査結果や抗菌薬使用の現状などについて講演した。抗菌薬で熱が下がる? 痛みを抑える? 「抗菌薬意識調査2018」は、2018年8~9月に、10~60代の男女721人を対象に実施されたインターネット調査1)。「抗菌薬・抗生物質という言葉を聞いたことがあるか」という質問に対し、94.2%(679人)が「ある(66.7%)」あるいは「あるが詳しくはわからない(27.5%)」と回答した。「抗菌薬・抗生物質はどのような薬だと思うか」と複数回答で聞いた結果、「細菌が増えるのを抑える」と正しく回答した人はうち71.9%(488人)。一方で「熱を下げる(40.9%)」、「痛みを抑える(39.9%)」など、直接の作用ではないものを選択する人も多く、抗菌薬に対する誤った認識が浮き彫りとなった。 「抗菌薬・抗生物質はどのような病気に有用か知っているか」という質問に対しては、「かぜ」と答えた人が49.9%(339人)で最も多く、2番目に多かった回答は「インフルエンザ(49.2%)」であった。正しい回答である「膀胱炎」や「肺炎」と答えた人はそれぞれ26.7%、25.8%に留まっている。「かぜで受診したときにどんな薬を処方してほしいか」という質問にも、30.1%の人が「抗菌薬・抗生物質」と回答しており、“ウイルス性疾患に抗菌薬が効く”と認識している人が一定数いる現状が明らかになった。抗ウイルス薬を約3割の人が抗菌薬と誤解 さらに、抗菌薬5種類を含む全12種類の薬品名を挙げ、「あなたが思う抗菌薬・抗生物質はどれか」と複数回答で尋ねた質問では、多かった回答上位5種類のうち3種類が抗菌薬以外の薬剤であった。最も多かったのは抗ウイルス薬のT(頭文字)で、29.3%(199人)が抗菌薬だと誤解していた。他に、鎮痛解熱薬のL(18.1%)やB(14.4%)も抗菌薬だと回答した人が多かった。 本調査結果を解説した具氏は、「医療従事者が思っている以上に、一般市民の抗菌薬についての知識は十分とは言えず、適応や他の薬剤との区別について誤解が目立つ結果なのではないか。このギャップを意識しながら、十分なコミュニケーションを図っていく必要がある」と話した。 “不必要なことを説明して、納得してもらう”ために 医師側も、一部でこうした患者の要望に応え、抗菌薬処方を行っている実態が明らかになったデータがある。全国の診療所医師を対象に2018年2月に行われた調査2)で、「感冒と診断した患者や家族が抗菌薬処方を希望したときの対応」について聞いたところ(n=252)、「説明しても納得しなければ処方する」と答えた医師が50.4%と最も多かった。「説明して処方しない」は32.9%に留まり、「希望通り処方する」が12.7%であった。 大曲氏は、「薬剤耐性(AMR)対策アクションプランを取りまとめる過程で検討したデータからも、感冒をはじめとした急性気道感染症や下痢症など、本来抗生物質をまず使うべきでないところで多く使われている現状が明らかになっている」と話し、必要でないケースでは医師側が自信を持って、ときには繰り返し患者に説明していくことの重要性を強調した。2018年度の診療報酬改定で新設された、「小児抗菌薬適正使用支援加算」3)は、不必要な抗菌薬を処方するのではなく、患者への十分な説明を重視したものとなっている。そのためのツールの1つとして、2017年発行の「抗微生物薬適正使用の手引き 第一版」や、センターが運用している「薬剤耐性(AMR)対策eラーニングシステム」4)などの活用を呼び掛けている。■参考1)国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター プレスリリース2)日本化学療法学会・日本感染症学会合同外来抗菌薬適正使用調査委員会「全国の診療所医師を対象とした抗菌薬適正使用に関するアンケート調査」2018.3)厚生労働省「第3回厚生科学審議会感染症部会薬剤耐性(AMR)に関する小委員会 資料5」4)国立国際医療研究センター病院 AMR臨床リファレンスセンター情報サイト「かしこく治して、明日につなぐ」 ■関連記事全国の抗菌薬の使用状況が一目瞭然「抗微生物薬適正使用の手引き」完成●診療よろず相談TV シーズンII第30回「抗微生物薬適正使用の手引き」回答者:国立成育医療研究センター 感染症科 宮入 烈氏第32回「『抗微生物薬適正使用の手引き』の活用法」回答者:東京都立多摩総合医療センター 感染症科 本田 仁氏

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特発性肺線維症〔IPF : idiopathic pulmonary fibrosis〕

特発性肺線維症特発性肺線維症のダイジェスト版はこちら1 疾患概要■ 概念・定義間質性肺炎は、肺の間質と呼ばれる肺胞(隔)壁などに傷害と炎症が生じ、不可逆的な線維化を起こす疾患群である。この間質性肺炎には、薬剤性、膠原病性、大量の粉塵吸入など原因が明らかなものと、原因が不明な特発性間質性肺炎とがある。主な特発性間質性肺炎は7つの病型に分類されているが、そのうち患者数が最も多く、かつ予後不良の中心的疾患が特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)である。IPFは慢性、進行性の疾患であり、高度の線維化が肺底部、肺の末梢領域から肺全体へ広がって、不可逆性の蜂巣肺と呼ばれる病変を形成する、きわめて予後不良の疾患である。IPFの病理組織像はusual interstitial pneumonia (UIP)と呼ばれている所見である。従来、有効な治療法のない疾患であったが、近年、2つの抗線維化薬が治療薬として注目されている。■ 疫学近年まで特発性間質性肺炎、IPFの患者数についての正確な調査は行われておらず、まったく不明であったが、厚生労働省難治性疾患克服研究事業「びまん性肺疾患に関する調査研究班」により2008年以来、北海道において詳細な疫学研究が行われ、実態が明らかにされてきた。これによると、特発性間質性肺炎の有病率は10万人あたり10.0人であり、日本全体では少なくとも約1万3千人の患者数となり、その多くがIPFであることから、少なくみても1万数千人以上のIPF患者が日本には存在すると考えられる。■ 病因定義で述べたように、IPFの原因は不明であるが、リスク・ファクターとして喫煙、職場の粉塵(とくに金属粉塵)、ウィルスなどが考えられている。家族性で遺伝的素因が強くうかがわれる例もある。■ 症状IPFはゆっくりと進行する疾患であるが、個々の患者によって比較的急速に進行する例もある。主な症状は労作時の呼吸困難とさまざまな程度の乾性咳嗽である。労作時の息切れは、来院する6ヵ月~数年前から存在しており、聴診ではほとんどの例で、背部下肺野に捻髪音(fine crackle)を聴取する。半分~1/3の例で「ばち指」を認める。進行し末期に至ると、肺性心、末梢性浮腫、チアノーゼなどがみられてくる。■ 分類背景因子として、粉塵吸入の目立つ例、C型肝炎例、糖尿病合併例、膠原病が疑われる症状のある例、過敏性肺炎との鑑別が難しい例、家族性の例などさまざまなサブタイプの存在するheterogeneousな疾患といえる。近年、欧米からの指摘により日本でも再注目されているのが、上肺に気腫が存在し、下肺に線維化がある「気腫合併肺線維症」(CPFE:combined pulmonary fibrosis and emphysema)である。本病態は喫煙と強い関係があり、呼吸機能上、気腫と線維化が相殺されて、1秒率 (FEV1/FVC)は一見正常に近いが、肺拡散能が低下しているという特徴を有する。本病態では、肺がんの高率合併や症例によっては強い肺高血圧症を合併することからも注意が必要である。分類ではないが、IPFの病態としてきわめて重要なものに「急性増悪」と肺がん合併がある。急性増悪を一旦起こすと、死亡率約80%ともいわれ、きわめて予後不良である。■ 予後IPFはきわめて予後不良の疾患で、わが国のある調査では、初診時を起点とした平均生存期間は約5年であった。また、欧米での診断確定後の平均生存期間は28~52ヵ月とされる。しかしながら、IPFの予後にはきわめて多様性があり、数ヵ月で急性増悪などにより死亡する例から10数年以上生存する例までさまざまである。ただ、全体的にはきわめて予後不良の疾患であることは間違いのないところである。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)IPFの診断については基本的には図1の「IPF診断のフローチャート」に沿って行われる。まず、原因の明らかな他の間質性肺疾患を除外し、つぎにHRCT所見で典型的なUIPパターン(表1)を示す場合には、臨床的にIPFと確定診断される。外科的肺生検が実施された例では、HRCT所見と病理所見の組み合わせで判断していく(表2)。HRCTで典型的なUIPパターンを示さない場合でもpossible UIPパターンで、臨床経過がIPFに合致するような肺機能低下を示す(disease behavior)例ではIPFと臨床診断されることも可能である。こういった診断の際には間質性肺疾患の診断経験を十分に積んだ呼吸器専門医、画像診断医、病理診断医がMDD(multi-disciplinary discussion:多職種による合議)を行い、総合的に判断していくことがIPFの正確な診断に重要とされている。血液検査所見としては、従来LDHのみであったが、近年、新しい間質性肺炎マーカーとしてKL-6、SP-D、SP-Aが導入された。これらは、診断と共に活動度の判定にも有用である。呼吸機能としては、通常肺活量(VC)や全肺気量(TLC)の低下がみられ、拘束性換気障害のパターンを示し、また同時に肺拡散能の低下も認められる。ただし、気腫合併肺線維症ではこの限りではないことは前述した。IPFとの鑑別が必要な主な疾患として、表3のようなものがあげられる。画像を拡大する■MDD(multidisciplinary discussion)の取り扱いMDD:下記のとおり、呼吸器内科医、画像診断医、病理診断医が総合的に診断するMDD-A:画像上他疾患が考えられる場合、気管支鏡検査あるいは外科的肺生検で他疾患が見込まれる場合MDD-B:外科的肺生検は積極的UIP診断の根拠になる場合が多いため、患者のリスクを勘案の上、可能な限り施行するMDD-C:IPF症例で非典型的な画像(蜂巣肺が不鮮明など)を約半数で認めるため、呼吸機能の低下など、進行経過(behavior)を総合して臨床的IPFと判断する症例があるMDD-D:病理検査のない場合の適格性を検討する各MDDにおいて最終診断が変わりうる可能性がある画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する3 治療今まで、IPFの生存率や健康関連QOLに対して明らかな有効性が証明された薬物治療法はなかったが、2008年に新しく上市された抗線維化薬ピルフェニドン(商品名:ピレスパ)、さらに2015年に上市されたニンテダニブ(同:オフェブ)が大きく注目されている。IPFは治癒が期待できない難治性疾患であるため、その治療目標は改善ではなく、むしろ悪化防止(現状維持)が現実的である。予後不良因子である急性増悪の予防(感冒・心不全などの予防、無理をしないなど)、合併症の肺がん、肺高血圧症の早期発見と対応が求められる。後述する薬剤治療に関しても、治療効果と副作用を考えて選択することが重要である。次に、薬剤治療について述べる。1)N-アセチルシステイン(NAC:N-acetylcysteine)は、グルタチオンの前駆物質であり、抗酸化作用を有すると共に、活性酸素のスカベンジャー作用、炎症性サイトカイン産生の抑制作用などがある。IPFの病変部ではグルタチオンが減少し、レドックスバランスの不均衡が生じていることからも、NACの有用性が考えられる。NACの経口薬については欧州を中心とした臨床試験において効果が示されていたが、近年PANTHER試験で経口薬は無効とされた。しかし、日本ではNACはすでに吸入薬の形で去痰薬として長い歴史がある。吸入薬の形によるNACのIPFに対する検証がわが国でも厚生労働省の研究班を中心に行われ、一定の効果が示されている。NACの利点は副作用が少ない点であるが、吸入療法のため、アドヒアランスに欠点がある。吸入薬のNACについては、抗線維化薬との併用を含めさらに検討が必要である。2)抗線維化薬ピルフェニドンピルフェニドンは米国で創薬された薬剤であり、TNF-αなどの炎症性サイトカイン抑制、線維芽細胞のコラーゲン産生抑制といった抗炎症、抗線維化作用を有する薬剤である。わが国において軽症および中等症のIPFを対象とした第II相試験が行われ、歩行時低酸素血症の改善、呼吸機能の悪化抑制が認められた。さらに第III相試験が行われ、%VC悪化の有意な抑制、無増悪生存期間の改善が認められ、2008年12月に世界初の抗線維化薬として市販された。副作用として当初は光線過敏症が注目されていたが、実際に使用してみるとむしろ問題になるのは胃腸障害である。その後の研究でピルフェニドンはIPF患者のVC/FVCの低下を抑制し、無増悪生存期間の延長、6分間歩行距離の低下抑制を示した。とくに軽症例においてVC低下抑制、無増悪生存期間の延長が際立っていた。いくつかのトライアルの統合解析において、ピルフェニドンはIPF患者の全死亡率、疾患関連死亡率の低下を示したという。3)抗線維化薬ニンテダニブニンテダニブは、ベーリンガーインゲルハイム社によって開発された経口薬である。肺の線維化に関係する3つの分子、VEGF受容体、PDGF受容体、FGF受容体を阻害する低分子トリプリチロキンシナーゼ阻害薬である。わが国では2015年に第2の抗線維化薬として承認され市販された。ニンテダニブは全世界的規模のトライアルにおいてIPF患者の呼吸機能の年間低下率を約50%抑制した。主な副作用は下痢であり、その他肝機能障害などがみられる。4)ステロイド、免疫抑制剤これらの抗炎症薬のIPFに対する効果は基本的に否定されているが、IPFの終末期など症例によっては一定の効果をみる場合もある。また、急性増悪の際の治療としては、頻用されている。その他、進行例では在宅酸素療法が行われ、呼吸リハビリテーションも重要である。進行例で基準を満たせば肺移植の適応でもある。4 今後の展望前述の2つの抗線維化薬に対して、今後どのような重症度から投与するのか、長期の安全性、2つの薬の使い分けまたは併用の可能性などの多くの明らかにすべき課題がある。5 主たる診療科呼吸器内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 特発性間質性肺炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本呼吸器学会(医療従事者向けのまとまった情報)1)日本呼吸器学会びまん性肺疾患診断・治療ガイドライン作成委員会編. 特発性間質性肺炎診断と治療の手引き.改訂第3版:南江堂;2016.2)「びまん性肺疾患に関する調査研究」班特発性肺線維症の治療ガイドライン作成委員会編. 特発性肺線維症の治療ガイドライン2017. 南江堂;2017.3)杉山幸比古編.特発性肺線維症(IPF) 改訂版.医薬ジャーナル社;2013.4)杉山幸比古編、特発性間質性肺炎の治療と管理.克誠堂出版;2013.公開履歴初回2013年02月28日更新2018年11月13日

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妊娠中の細菌性膣症に対する早期のクリンダマイシンの効果:多施設二重盲検ランダム化比較試験(PREMEVA)(解説:吉田敦氏、吉田穂波氏)-949

 細菌性膣症(BV)では、膣内のラクトバチルス属が減少、嫌気性菌やマイコプラズマが増加する。いわば膣のマイクロバイオータ(microbiota)のバランスが乱れるものとされているが、妊娠中ではBVは2倍以上に増加する。とくに16~20週での合併率は4~7倍に上昇するという。さらにBVを有する妊婦では、自然流産のリスクが9倍、母体感染のリスクが2倍以上になると報告されたが、この相関の原因は不明であった。 しかしながら膣細菌叢の乱れが、子宮への感染を生じることで流早産を来すと考えれば、妊娠早期の抗菌薬投与によって早期産が減ると予想される。ただし先行研究をまとめたメタアナリシスでは相反する結果にとどまっていた。このため今回の大規模PREMEVA試験に至った訳であるが、結果としてfirst trimesterにクリンダマイシンを内服しても、後期流産やごく早期の自然早産は減少せず、クリンダマイシンの副作用によると思われる下痢や腹痛が増加した。 クリンダマイシン自体は、内服あるいは膣クリーム・坐剤として、メトロニダゾールと並んでBVの治療に用いられる。BVに対してはこれらの治療は有効であるが、不良な転帰を減らすことが証明できなかった「限界」として、著者らは(1)内服のコンプライアンス、(2)軽快と再燃を繰り返すBV自体の性質、(3)対象者が低リスクで、早期産が少ない集団であったことを挙げており、今後はハイリスク群での、クリンダマイシンの投与の有無での検討を示唆している。 膣のマイクロバイオータに関する知見は、急速に蓄積されつつあるものの、それらを総括し、病態との相関について結論を出すにはまだ至っていない。妊婦は非妊婦に比べて構成する微生物の豊富さ、多様性が減少していることが指摘されている一方1)、自然早産では豊富さ・多様性が増しているものの、構成菌によるタイプには偏りが示せなかったともいう2)。マイクロバイオータ自体、多くの指標を設定して解析していく必要性がうかがわれる。今後のBV治療と流早産の関連の検討についても、膣あるいは子宮内のマイクロバイオータの解析が求められるかもしれない。

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第11回 レジパスビル/ソホスブビルの8週、12週、24週投与による有効性の違いは?【論文で探る服薬指導のエビデンス】

 C型肝炎の治療薬は近年急速に充実してきました。そのはしりがアスナプレビルとダクラタスビルの併用療法ですが、すぐにソホスブビル(商品名:ソバルディ錠)がインターフェロン無効例でも高い奏効率を示したことから、画期性加算が100%上乗せされて同薬剤には高額な薬価が設定されました。次いでレジパスビル/ソホスブビル(商品名:ハーボニー配合錠)が発売され、「ジェノタイプ(遺伝子型)1型のC型慢性肝炎において、リバビリン併用なしでSVR12を100%達成」と大きな話題になりました1)。レジパスビル/ソホスブビルも高額な薬価が設定され、IQVIAジャパンの調査によれば、レジパスビル/ソホスブビルは2016年の売上金額第1位でした。その後も、2017年にグレカプレビル/ピブレンタスビル(商品名:マヴィレット配合錠)が発売され、こちらも2018年の第1・第2四半期で売上金額第1位となっています2)。何かと話題に事欠かないC型肝炎治療薬の中から、今回はレジパスビル/ソホスブビルに関する研究を紹介します。レジパスビル/ソホスブビルの第III相試験には、多施設オープンラベルのランダム化比較試験のION-1、ION-2、ION-33-5)の3つがあります。いずれも18歳以上のジェノタイプ1のC型肝炎患者を対象としており、未治療例、他剤無効例、肝硬変例などの属性の患者ごとにレジパスビル/ソホスブビルあるいはレジパスビル/ソホスブビル+リバビリン併用の効果を、SVR12をプライマリエンドポイントとして検討しています。なお、SVRとはsustained virological response(持続陰性化)の略で、服用終了から12週後にC型肝炎ウイルス陰性(検出限界未満)が確認された場合にはSVR12となり、24週後も陰性が確認された場合にはSVR24となります。それぞれの試験の結果は下表のとおりです。結果から、インターフェロンが無効であった例でも高い奏効率であること、肝硬変例においても有効であることが読み取れます。また、ION-3において肝硬変なしの未治療例の研究では、8週服用と12週服用で大きな差はみられませんでした。本邦では12週服用が原則ですが、英国のNICEガイダンスにおいては、肝硬変を伴わないジェノタイプ1のC型肝炎については8週服用が推奨されています6)。国民保健サービス(NHS)により原則公費負担で提供される英国の医療制度においては、診療ガイドライン作成時に費用対効果も厳しく査定され、期待できる効果に大差がなければ8週で終了というのは経済的にも副作用予防の側面でも合理的なのかもしれません。なお、比較的多くみられた有害事象は、倦怠感や頭痛に不眠、吐き気、無力症、下痢、発疹などでした。これらの試験は肝がんへの進展や総死亡をプライマリエンドポイントとしているわけではないため、厳密には総死亡や肝がん発生率を語ることはできないのですが、SVR12の達成率が高いということはウイルス陰性が長く続くということなので、肝障害の進展抑制が期待できるものと推察されます。ただし、事例として多いわけではないものの、インターフェロンと異なり免疫活性作用が期待できない直接作用型の抗ウイルス薬治療で肝細胞がんの再発が増えた事例も報告されていますから、一定の認識はあってもよいかと思います7)。飲み忘れ時は「気づいた時点で服用」が原則経験上、レジパスビル/ソホスブビルは自己負担の上限はあれど薬価がきわめて高いことや、肝硬変や肝がんに進行させたくないという治療目的から、患者さんが普段以上に相互作用や飲み忘れ時の対応などで慎重になるように思います。レジパスビルは胃内pHの上昇により溶解性が低下するため、添付文書にはH2ブロッカー併用時は同時投与または12時間の間隔を空け、PPI併用時は空腹時に同時服用となっています。酸化マグネシウムは本邦の添付文書には具体的な服用間隔の指示はありませんが、米国の添付文書では4時間の間隔を空けるとあります。飲み忘れて慌てて連絡してくる患者さんもお見かけしますが、メーカーに問い合わせてみると「一般的に飲み忘れに気付いた時点で服用し、その日の服用はそれのみとして、その翌日から従来通りの服用時点で服用する。同じ日に2回分を飲まないという原則を守る。薬を体内から切らさないようにすることが大切」という回答を得たことがありますので参考にしていただければと思います。1)ギリアド ・サイエンシズ株式会社プレスリリース(2015年8月31日付)2)IQVIAジャパン トップライン市場データ3)Afdhal N, et al. N Engl J Med. 2014;370:1889-1898.4)Afdhal N, et al. N Engl J Med. 2014;370:1483-1493.5)Kowdley KV, et al. N Engl J Med. 2014;370:1879-1888.6)NICE guidance Ledipasvir-sofosbuvir for treating chronic hepatitis C7)Reig M, et al. J Hepatol. 2016;65:719-726.8)ハーボニー配合錠 添付文書(2018年2月改訂 第7版)、インタビューフォーム(2018年7月改訂 第8版)9)HARVONI package insert

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第12回 内科からのホスホマイシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Salmonella enterica(サルモネラ)・・・10名Campylobacter(カンピロバクター)・・・9名Escherichia coli(大腸菌)・・・8名ノロウイルス、サポウイルス、ロタウイルスなどのウイルス・・・4名大腸菌へのホスホマイシン投与 奥村雪男さん(薬局)ひどい下痢・腹痛、食事内容から、細菌性腸炎の可能性があります。起因菌は疫学的にはカンピロバクター、サルモネラ、下痢原性大腸菌の場合が多いですが、ユッケは通常生の牛肉を使用していること、ホスホマイシンが選択されていることから、大腸菌が最も疑われている、もしくは警戒しているかも知れません。「JAID/JSC 感染症治療ガイドライン 2015─腸管感染症─」では、成人の細菌性腸炎のエンピリックセラピーとして、第一選択にはレボフロキサシン、シプロフロキサシンといったキノロン系抗菌薬、アレルギーがある場合の第二選択としてアジスロマイシンやセフトリアキソンが挙げられています。O157 などの腸管出血性大腸菌(enterohemorrhagic Escherichia coli ; EHEC)の場合、溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome ;HUS)※発症が問題となりますが、「発症から2日以内のホスホマイシンの使用はHUSの発症リスク低下と関連していた(補正後オッズ比0.15, 95%CI 0.03~0.78)」という報告1)があり、処方の際、それを意識されたのかも知れません。※ベロ(志賀)毒素を産生するO157などのEHEC感染をきっかけに、下痢症状を伴った溶血性貧血、血小板減少、急性腎不全を主な症状とする可能性は低いがノロウイルスかも JITHURYOUさん(病院)O111、O157などのEHEC、カンピロバクター、サルモネラ、貝類等を食している可能性を否定できないので、可能性は低いですがノロウイルス、ロタウイルスも考えられます。大腸菌がもっとも疑わしい 荒川隆之さん(病院)生肉による食中毒と思われるので、大腸菌やカンピロバクター、サルモネラなどが原因菌として考えられます。ただ、サルモネラの場合はニューキノロン系抗菌薬、カンピロバクターの場合はマクロライド系抗菌薬が第一選択となります。今回の症例はホスホマイシンを使用していることから、大腸菌が最も疑わしいかと思います。Q2 患者さんに確認することは?副作用歴、併用薬、採便をしたか 中堅薬剤師さん(薬局)抗菌薬関連の副作用歴、併用薬と、採便をしたかどうかを確認します。基礎疾患の有無 奥村雪男さん(薬局)薬(特にキノロン系抗菌薬)のアレルギーがあるか確認します。重症化のリスク因子となる免疫不全などの基礎疾患の有無も確認します。経過をもう一度確認 キャンプ人さん(病院)単なる胃腸炎の可能性もあるかもしれないので症状発現までの時間を確認します。便の培養結果はどうだったか。ノロウイルスの迅速結果はどうだったか(自費なので行わない施設もあるかもしれません)。便の色 柏木紀久さん(薬局)併用薬、便の色や状態(血が混じっているかどうか)、尿は出ているか、また尿の色などの状態はどうか、嘔吐や発熱はあるか、水分は摂取できているか。食事は摂れるか 中西剛明さん(薬局)食事の摂取が可能かどうか聞きます。用法に関連するからです。家族の情報も聞き出す わらび餅さん(病院)妻と子供の症状を尋ねます。患者と同じか、いつからか、血便や腹痛の場所、発熱の有無など患者や家族の症状詳細を聞き、家族としての原因菌や重症度の評価をします。また、妻や子供は現在、何の点滴をしているか、家族に処方箋は出たのかも確認したいです。脱水状態 JITHURYOUさん(病院)利尿薬やSGLT2阻害薬の併用確認をすることは重要だと思います。感染性胃腸炎では脱水により急性腎障害リスクが高くなり、これらの薬剤はもともとの薬理作用からそのリスクを助長する可能性があります。もしこれらの薬剤を使用していたら、一時休薬する必要性があると思います。他にも休薬すべき糖尿病治療薬はありますが、とりわけ脱水という視点で言うとこれらの薬剤になります。本症例では、現在意識清明で、脱水としても重症感はないのですが、ツルゴール反応※や尿量など確認したいと思います。※ ツルゴールとは皮膚の緊張のことで、前腕あるいは胸骨上の皮膚をつまみ上げて放し、2秒以内に皮膚が元の状態に戻れば正常と判断し、2秒以上かかるようであれば脱水症の可能性がある。Q3 疑義照会する?する・・・6人ホスホマイシンの使用量 荒川隆之さん(病院)ホスホマイシンの使用量が少ないので疑義照会します。ただEHECの場合、抗菌薬使用により菌の毒素放出が亢進されHUS発症の危険性が増すとの報告もあるので、使用量を加減しているのかもしれません。海外においては、EHECの場合に抗菌薬の使用を推奨しないことが多いのですが、国内ではホスホマイシンが有効であったとの報告1)もあり、議論の残るところです。腎障害を考慮しての減量の場合もあるかもしれませんが、もともと経口では血中濃度が上がりにくい抗菌薬ですので、ある程度ならば通常用量でよいと考えています。医師の処方意図、真意を探ることも意識して疑義照会を行います。用法の提案も 中西剛明さん(薬局)抗菌薬が必要か確認します。うっかり投与すると菌の破壊で毒素放出量が増加し、HUSを発症するかもしれないからです。個人的には、ホスホマイシンは使用しない方が安心できます。ホスホマイシンを投与するなら、食事を取れない可能性を考慮して、用法は食後ではなく、8時間ごとを提案します。抗菌薬は必要? JITHURYOUさんホスホマイシン投与量1.5g/日と投与期間について疑義照会します。仮にEHECとしても、抗菌薬治療に対しては要・不要双方の見解があります。本症例は、救急外来で点滴後に朝一番の来局ということもあり、重症感があまり感じられないこと、ホスホマイシン投与量が絶対的に少ないことなどを勘案すると、抗菌薬自体不要ではないのでしょうか。仮に必要だとして、このままホスホマイシンを続けるのか、JAID/JSC 感染症治療ガイドライン2015では1日2gとなっていること、第一選択薬であるニューキノロン系抗菌薬にしないのかを確認したいです。抗菌作用以外の効果(HUS予防や炎症性サイトカイン抑制)を狙っているのかも併せて確認したいです。しない・・・4人EHECの可能性の場合もあるので現状で様子見 清水直明さん(病院)疑義照会はしません。入院はしていないようなので、症状は軽症~中等症だと想定すると、カンピロバクター属菌、サルモネラ属菌やノロウイルス・サポウイルスなどのウイルス性の場合、抗菌薬投与は不要であると思います。しかしながら、万が一、O157を代表とするEHECの可能性がある場合には、HUSや脳炎などを併発して重篤化することが多いので、ホスホマイシンの投与で様子を見てもいいと思います。ただし、EHECに対する抗菌薬投与の是非については、専門家の間でも意見が分かれているようです。投与量はやや少なめですが、腸管内での作用を期待しており、ホスホマイシンのバイオアベイラビリティは比較的低く(吸収率は12%)、腸管内に高濃度でとどまるのでそのままとします。用量で迷うが・・・ ふな3さん(薬局)ホスホマイシンの量が少ない(2~3g/日が適当)と思います。微妙な量なので、疑義照会をするか非常に悩ましいところです。ホスホマイシンの有効性については議論があるところなので、疑義照会はしないと思います。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?抗菌薬の服用タイミング、抗菌薬を飲みきる 中堅薬剤師さん(薬局)抗菌薬は食後である必要はなく、食事できない場合でも、普段の食事の時間に合わせて服用してよいことを伝えます。採便をしたことが分かれば、ホスホマイシンはつなぎの治療であることを説明します。もし採便しておらず、再受診指示もないのであれば、自ら再受診した方がよいと助言します。再受診の目安 柏木紀久さん(薬局)注意してもらうのは脱水と二次感染、EHECだった場合はHUSへの移行が心配です。また、「血尿、浮腫、貧血、痙攣などが出たら再度受診してください」とも伝えます。下痢止めは使用しないこと 清水直明さん(病院)「指示された通りに正しく最後まで服用してください。ただし、服用の途中であっても、便に血が混じってきたり、意識障害など普段と違った様子が見られた場合は、すぐに救急外来を受診してください。市販の下痢止めは症状を悪化させることがあるので、使用しないでください。」水分補給と二次感染予防 ふな3さん(薬局)「食欲がなく食事が取れなくても、1日3回5日分、しっかり飲みきってください。下痢によって脱水症状が心配されますので、経口補水液などで、しっかり水分補給をしてください。(外出先での排便により感染を広げる可能性があるので)下痢が治まるまでは、自宅で過ごすようにしてください。自宅に他の同居家族がいる場合には、ドアノブ・便器の消毒やタオルの共用を避けるなど注意してください。」Q5 その他、気付いたことは?検査結果までのつなぎ 中堅薬剤師さん(薬局)経験上ですが、開業医は便検査結果が出るまでの「つなぎ」として、ホスホマイシンを数日分処方することがあります。本症例でも、夜間救急で対応した医師も専門ではなく、便検査もできないため、同じような意図で対応したのではないか、と推測します。重篤化のリスクと再受診について 荒川隆之さん(病院)小児ではないので可能性は低いと思うのですが、EHECでは、5~10%の患者さんでHUSを起こし重篤化することが知られているため、元気がない、尿量が少ない、浮腫、出血斑、頭痛、傾眠傾向などの症状が見られた場合にはすぐに受診するように伝えます。時間経過の重要性 キャンプ人さん(病院)菌やウイルスにより潜伏期間が異なるため、丁寧に時間経過を聞くことが大切だと思います。原因菌や経過は分からないことが多い わらび餅さん(病院)実際、このような腸管感染の原因菌は培養提出しないとはっきりせず、ほとんどの場合分からないままです。すぐに元気になってほしいと願うばかりで、正しい選択だったのか経過の確認も難しいです。とりあえず抗菌薬? JITHURYOUさん(病院)本症例は軽症である可能性があり、前述したように抗菌薬投与が必須ではないと考えることもできます。水分を取っても吐くような状況であれば、点滴が必要となります。対症的に五苓散(柴苓湯)などの併用の提案も考慮したいです。ひどい下痢ということから、整腸剤も最大投与量を提案したいです。また考えたくないのですが、夜間診療ということで「とりあえず抗菌薬を処方しておけばなんとかなる」という考えもあったかもしれません。後日談(担当した薬剤師から)用量について疑義照会をしましたが、処方医が外部の非常勤の医師で、既に当直を終えて帰宅しており、回答が得られませんでした。本来は、疑義が解決していないのでこのまま調剤してはいけないのですが、カルテを確認してもらい、特に不自然な点もないことから、急性疾患の患者を待たせることはできないという状況もあり、やむなくそのまま調剤しました。1回きりの来局で、その後の経過は不明です。1)Clin Nephrol 1999; 52(6): 357-362. PMID:10604643

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妊娠中の細菌性膣症、早期抗菌薬治療は有益か?/Lancet

 妊娠中の細菌性膣症の治療は、早産などの不良なアウトカムを減少可能だが、早期発見・治療に努めることでリスクの減少につながるのか。フランス・リール大学病院のDamien Subtil氏らによる多施設共同二重盲検無作為化試験「PREMEVA試験」の結果、そうしたエビデンスは認められないことが示された。検討では、妊娠14週前に系統的なスクリーニングを行い、細菌性膣症が認められた場合は、抗菌薬のクリンダマイシンによる治療を行った。結果を受けて著者は、「今回検討した患者集団では、早産回避のための抗菌薬使用について再考すべきことが示された」とまとめている。Lancet誌オンライン版2018年10月12日号掲載の報告。妊娠リスク高低別に、プラセボを含む治療コース5群について検討 PREMEVA試験では、細菌性膣症の治療が後期流産や自然超早産を減らすのか、フランス国内40ヵ所で細菌性膣症を有する18歳以上の女性を集めて検討された。 被験者のうち妊娠リスクが低い対象者は、(1)クリンダマイシン300mgを1日2回で4日間投与の1コース+プラセボ4日間投与の2コース(低1コース群)、(2)クリンダマイシン300mgを1日2回で4日間投与を3コース(低3コース群)、(3)プラセボ4日間投与を3コースの3群に、(1)(2)対(3)が2対1の割合になるよう無作為に割り付けられた。また妊娠リスクが高い対象者は、(4)クリンダマイシン300mgを1日2回、4日間投与を1コース(高1コース群)、(5)同投与を3コース(高3コース群)の2群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要評価項目は、後期流産(16~21週)または自然超早産(22~32週)の複合で、分娩データが得られた全患者(修正intention-to-treat集団)で評価した。有害事象は、系統的に報告された。後期流産・自然超早産の発生について、有意差はみられず 2006年4月1日~2011年6月30日に、妊娠14週前に8万4,530例の妊婦をスクリーニングした。5,630例が細菌性膣症を有しており、そのうち3,105例を、低1コース群(943例)、低3コース群(968例)、プラセボ群(958例)、高1コース群(122例)、高3コース群(114例)に無作為に割り付けた。 妊娠リスクが低い2,869例では、主要評価項目の発生は、クリンダマイシン投与群が22/1,904例(1.2%)、プラセボ群10/956例(1.0%)であった(相対リスク[RR]:1.10、95%信頼区間[CI]:0.53~2.32、p=0.82)。 妊娠リスクが高い236例では、同発生は、高3コース群5例(4.4%)、高1コース群8例(6.0%)であった(RR:0.67、95%CI:0.23~2.00、p=0.47)。 妊娠リスクが低い集団では、有害事象は、クリンダマイシン群がプラセボ群よりも頻度が高かった(58/1,904例[3.0%]vs.12/956例[1.3%]、p=0.0035)。 概して多く報告されたのは、下痢(30例[1.6%]vs.4例[0.4%]、p=0.0071)で、腹痛もクリンダマイシン群で多く観察された(9例[0.6%]vs.報告なし、p=0.034)。重篤な有害事象はいずれの群においても報告がなかった。 妊娠リスクが高い集団において、胎児および新生児の有害アウトカムについて、両投与群間で有意差はなかった。〔11月6日 記事の一部を修正いたしました〕

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ICUにおけるCandida aurisの集団発生と制圧(解説:吉田敦氏)-930

 英国・オックスフォード大学病院の神経ICUで、C. aurisの集団感染が発生し、アクティブサーベイランス、全ゲノム解析に基づく分子疫学、伝播要因の追究、制圧の過程が今回NEJM誌に報告された。多剤耐性を示す本菌の増加は世界中で報告されており、米国および英国は2016年6月にアラートを発したが1)、今回の事例はその前から始まっていたもので、最終的に皮膚体温計のリユースが最も疑われる結果となった。 オックスフォード大学病院では、上記のアラートを受け、過去にさかのぼって調査を行ったところ、2015年2月~2016年10月までに4人の保菌と5人の感染があったことが判明した。このうち8人は神経ICUに入室歴があったため、2016年10月24日から患者・環境のスクリーニング(神経ICU入室時、入室中および退室時の鼻・腋窩・鼠径・気管切開部・創部・尿の培養を含む)を開始した。同定は質量分析を用いて行い、培養陽性例をCase、培養陰性例をControlとする症例対照研究としてリスクファクターを解析した。さらに同一患者において、最初に分離された株と最後に分離された株、そして環境分離株について全ゲノムシークエンスを行い、分子系統的な関係を解析した。 最終的に2015年2月~2017年8月31日までの間に患者は70例となり、うち66例(94%)は神経ICUに入室歴のある患者であった。7例は侵襲性感染症(真菌血症、デバイス関連髄膜炎)を生じていた。保菌/感染のリスクファクターとしては、再使用可能な皮膚体温計(OR=6.80)、フルコナゾールの全身投与(OR=10.34)が最も高かった。ベッド周囲、接触面、器具、空気を中心とした環境培養ではほとんどは陰性であったが、皮膚体温計、パルスオキシメーターは陽性であった。感染対策としては複数を組み合わせるバンドル介入(隔離、コホート、表面・床の連日の清掃、空室の最終清掃など)を行ったものの、新規の検出は皮膚体温計の使用を中止した後でもしばらく認められ、やがて終息した。全ゲノム解析では、患者・環境分離株はすべて南アフリカクレードに属し、単一クラスターをなしていた。ゲノム変異から算出した進化速度から推定すると、このクラスターが出現した時期は2013年4月ごろであった。 Candida aurisが最初に分離されたのは、実は本邦であり、耳感染症の患者からであった(2009年新種提唱)2)。しかし後に侵襲性感染症・保菌例の増加が相次ぎ、さらにフルコナゾール、アムホテリシンBを含む多剤に耐性であること、バイオフィルムを産生し、医療関連感染症を生じやすいことが明らかになった。ただし本菌の同定は、検査室で行われてきた従来法ではほぼ困難で、質量分析や遺伝子同定といった方法に頼らねばならない。つまり「同定不明なCandidaが気付かれないうちに増加し、治療抵抗性の侵襲性感染症を生じたり、大規模発生に進展してしまう」危険性が非常に高い。このような中で本報告がなされたわけであるが、患者体表に付着させ、うまく消毒できない器具が媒介になっていたことは、思いがけない伝播経路の存在と、究明の重要性を強調するものであろう。本邦では最近2例目の報告がなされたが3)、認識と同定に至っていない例があることはほぼ確実であるにもかかわらず、実態についてほとんど確実な情報がない状況といえよう。確実な同定に基づいたサーベイランス、発生を想定した対策の立案が喫緊の課題である。

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第10回 内科クリニックからのミノサイクリン、レボフロキサシンの処方(前編)【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Mycoplasma pneumoniae(肺炎マイコプラズマ)・・・全員Bordetella pertussis(百日咳菌)・・・6名Chlamydophila pneumoniae(クラミジア・ニューモニエ)・・・4名Mycobacterium tuberculosis(結核菌)・・・3名マクロライド耐性の肺炎マイコプラズマ 奥村雪男さん(薬局)母子ともに急性の乾性咳嗽のみで他に目立った症状がないこと、およびテトラサイクリン、ニューキノロン系抗菌薬が選択されていることから、肺炎マイコプラズマ感染症、それもマクロライド耐性株による市中肺炎を想定しているのではないかと思います。「肺炎マイコプラズマ肺炎に対する治療指針」によれば、成人のマクロライド耐性マイコプラズマの第1選択はテトラサイクリンとされています。マイコプラズマと百日咳 中堅薬剤師さん(薬局)母子ともマイコプラズマか百日咳と予想します。しつこい乾性咳嗽(鎮咳薬が2週間も処方されていることから想像)もこれらの感染症の典型的症状だと思います。結核の可能性も わらび餅さん(病院)百日咳も考えましたが、普通に予防接種しているはずの13 歳がなる可能性は低いのではないでしょうか。症状からは結核も考えられますが、病歴など情報収集がもっと必要です。百日咳以外の可能性も? 清水直明さん(病院)発熱がなく2週間以上続く「カハっと乾いた咳」、「一度咳をし出すとなかなか止まらない」状態は、発作性けいれん性の咳嗽と考えられ、百日咳に特徴的な所見だと考えます。母親を含めた周囲の方にも咳嗽が見られることから、周囲への感染性が高い病原体であると予想されます。百日咳は基本再生産数(R0)※が16~21とされており、周囲へ感染させる確率がかなり高い疾患です。成人の百日咳の症状は小児ほど典型的ではないので、whoop(ゼーゼーとした息)が見られないのかもしれません。また、14日以上咳が続く成人の10~20%は百日咳だとも言われています。ただし、百日咳以外にもアデノウイルス、マイコプラズマ、クラミジアなどでも同様の症状が見られることがあるので、百日咳菌を含めたこれらが原因微生物の可能性が高いと予想します。※免疫を持たない人の集団の中に、感染者が1人入ったときに、何人感染するかを表した数で、この数値が高いほど感染力が高い。R0<1であれば、流行は自然と消失する。なお、インフルエンザはR0が2~3とされている。Q2 患者さんに確認することは?アレルギーやこれまでの投与歴など JITHURYOUさん(病院)母子ともにアトピー体質など含めたアレルギー、この処方に至るまでの投薬歴、ピロリ除菌中など含めた基礎疾患の有無、併用薬(間質性肺炎のリスク除外も含めて)、鳥接触歴を確認します。さらに、母親には妊娠の有無、子供には基礎疾患(喘息など)の有無、症状はいつからか、運動時など息苦しさや倦怠感の増強などがないかも合わせて確認します。併用薬・サプリメントについて  柏木紀久さん(薬局)車の運転や機械作業などをすることがあるか。ミノサイクリンやレボフロキサシンとの相互作用のあるサプリメントを含めた鉄、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどの含有薬品の使用も確認します。結核の検査 ふな3さん(薬局)母には結核の検査を受けたか、結果確認の受診はいつかを聞きます。子にはNSAIDs などレボフロキサシンの併用注意薬の服用の有無、てんかん、痙攣などの既往、アレルギーを確認します。お薬手帳の確認 わらび餅さん(病院)母は前医での処方が何だったのか、お薬手帳などで確認したいです。Q3 疑義照会する?母の処方について疑義照会する・・・2人子の処方について疑義照会する・・・全員ミノサイクリンの用法 キャンプ人さん(病院)ミノサイクリンの副作用によるめまい感があるので、起床時から夕食後または眠前へ用法の変更を依頼します。疑義照会しない 中堅薬剤師さん(薬局)母については、第1選択はマクロライド系抗菌薬ですが、おそらく他で処方されて改善がないので第2 選択のミノサイクリンになったのでしょう。というわけで、疑義照会はしません。ミノサイクリン起床時服用の理由 ふな3さん(薬局)疑義照会はしません。ミノサイクリンが起床時となっているのは、相互作用が懸念される鉄剤や酸化マグネシウムを併用中などの理由があるのかもしれません。食事による相互作用も考えられるため、併用薬がなかったとしても、起床時で問題ないと思います。ミノサイクリンのあまりみない用法 中西剛明さん(薬局)母に関しては、疑義照会しません。初回200mgの用法は最近見かけませんが、PK-PD理論からしても、時間依存型、濃度依存型、どちらにも区分できない薬剤ですので、問題はないと考えます。加えて、2回目の服用法が添付文書通りなので、計算ずくの処方と考えます。起床時の服用も見かけませんが、食道刺激性があること、食物、特に乳製品との相互作用があることから、この服用法も理にかなっていると思います。レボフロキサシンは小児で禁忌 児玉暁人さん(病院)13歳は小児で禁忌にあたるので、レボフロキサシンについて疑義照会します。代替薬としてトスフロキサシン、ミノサイクリンがありますので、あえてレボフロキサシンでなくてもよいかと思います。キノロン系抗菌薬は切り札 キャンプ人さん(病院)最近の服用歴を確認して、前治療がなければマクロライド系抗菌薬がガイドラインなどで推奨されていることを伝えます。小児肺炎の各種原因菌の耐性化が進んでおり、レボフロキサシンはこれらの原因菌に対して良好な抗菌活性を示すため、キノロン系抗菌薬は小児(15 歳まで)では切り札としていることも伝えます。マクロライド系抗菌薬かミノサイクリンを提案 荒川隆之さん(病院)子に対して、医師がマイコプラズマを想定しているならクラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬、マクロライド耐性を危惧しているなら、母親と同じくミノサイクリンを提案します。ミノサイクリンの場合、歯牙着色などもあり8 才未満は特に注意なのですが、お子さんは13才ですので選択肢になると考えます。そもそも抗菌薬は必要か JITHURYOUさん(病院)子の抗菌薬投与の必要性を確認します。必要なら小児の適応があるノルフロキサシンやトスフロキサシンなどへの変更を提案します。咳自体はQOLを下げ、体力を消耗し飛沫感染リスクを上げることに加え、患者が投与を希望することがあり、心情的に鎮咳薬の必要性を感じます。効果不十分なら他の鎮咳薬も提案します。子の服薬アドヒアランスについて わらび餅さん(病院)体重56kgと言っても、まだ13歳。レボフロキサシンは禁忌であることを問い合わせる必要があります。処方医は一般内科なので、小児禁忌であることを知らないケースは有り得ます。ついでに、なぜ母と子で抗菌薬の選択が異なるのか、医師からその意図をききだしたいです。母の前医での処方がマクロライド系抗菌薬だったら、その効果不良(耐性)のためだと納得できます。子供だけがキノロン系抗菌薬になったのは、1日1回の服用で済むため、アドヒアランスを考慮しての選択かと思いました。学童が1日2~3回飲むのは、難しいこともありますが、母子でミノマイシンにしても1日2回になるだけで、アドヒアランスは維持できるものと思います。あくまで第1選択はマクロライド系抗菌薬 清水直明さん(病院)母と子は基本的に同じ病原体によって症状が出ていると考えられるので、同一の抗菌薬で様子を見てもよいのではないでしょうか。ミノサイクリン、レボフロキサシンともにマイコプラズマ、クラミジアなどの非定型菌にも効果があると思いますが、百日咳菌をカバーしていないので、これらをカバーするマクロライド系抗菌薬であるクラリスロマイシンやアジスロマイシンなどへの変更を打診します。マイコプラズマのマクロライド耐性化が問題になっていますが、それでも第1選択薬はマクロライド系抗菌薬です。13歳の小児にレボフロキサシン投与は添付文書上、禁忌とされていますが、アメリカでは安全かつ有効な他の選択肢がない場合、小児に対しても使用されているようです。前治療が不明なので何とも言えませんが、他の医療機関でマクロライド系抗菌薬の投与を「適正に」受けていたとすると、第2選択肢としてミノサイクリン、レボフロキサシン(15歳以上)が選択されることは妥当かもしれません。他の医療機関でマクロライド系抗菌薬の投与を「不適切に」(過少な投与量・投与期間)受けていたとすると、十分な投与量・投与期間で仕切り直してもよいのではないでしょうか。後編では、抗菌薬について患者さんに説明することは?、その他気付いたことを聞きます。

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新種のカンジダ症、意外な感染経路/NEJM

 Candida aurisは、新興の多剤耐性病原体であり、2009年、日本で入院患者の外耳道から分離されたカンジダ属の新種である。2011年、韓国で院内の血流感染の原因として報告されて以降、多くの国や地域で相次いで集団発生が確認されており、集中治療室(ICU)でも頻繁に発生している。英国・オックスフォード大学病院のDavid W. Eyre氏らは、同大学関連病院のICUで発生したC. auris感染の集団発生の調査結果を、NEJM誌2018年10月4日号で報告した。約2.5年で70例が保菌または感染 研究チームは、オックスフォード大学関連病院の神経科学ICUでC. auris感染集団が同定された後、集中的な患者および環境のスクリーニングプログラムと、一連の感染制御のための介入を開始した(英国国立健康研究所[NIHR]などの助成による)。 多変量ロジスティック回帰を用いて、C. aurisの保菌と感染の予測因子を特定。また、患者と環境からの分離株を、全ゲノムシークエンシングで解析した。 2015年2月2日~2017年8月31日の期間に、合計70例がC. aurisの保菌または感染患者として同定された。このうち66例(94%)は診断前に神経科学ICUに入室しており、診断までの在室期間中央値は8.4日(IQR:4.6~13.4)であった。他の3例は、診断前に隣接する神経科学病棟に入院しており、残りの1例は神経科学ICUにも病棟にも曝露していなかった。 侵襲性C. auris感染症は、7例で発症した。4例がカンジダ血症、3例は中枢神経系デバイス関連の髄膜炎(1例はカンジダ血症を伴っていた)であった。神経科学ICUにも病棟にも曝露していなかった1例では、整形外科デバイスによる感染が認められた。再使用が可能な腋窩温プローブが感染の予測因子に 多変量モデルでは、C. aurisの保菌または感染のリスクは、診断前の神経科学ICU在室期間が長くなるに従って増大し(p=0.001)、20日に達すると有意差はなくなった。同様に、好中球数が正常高値の場合に比べ、中等度の異常値に上昇すると、リスクは有意に増大した(p=0.01)。 さらに、C. aurisの保菌または感染の予測因子には、再使用が可能な皮膚表面腋窩の体温プローブの使用(多変量オッズ比:6.80、95%信頼区間[CI]:2.96~15.63、p<0.001)や、フルコナゾールの全身曝露(10.34、1.64~65.18、p=0.01)が含まれた。 C. aurisは、通常の環境ではほとんど検出されなかったが、複数の皮膚表面腋窩温プローブを含む再使用が可能な機器からの分離株では検出された。複数の感染制御のための介入を一括して行ったにもかかわらず、新規症例の発生が低下したのは、体温プローブの使用を中止した時だけだった。 すべての集団発生のシークエンスは、C. auris南アフリカクレード内の単一の遺伝子クラスターを形成した。シークエンスが決定された再使用機器からの分離株は、患者からの分離株と遺伝的に関連していた。 著者は、「この院内集団発生でのC. aurisの伝播には、再使用可能な腋窩温プローブとの関連を認めたことから、この新興病原体は環境内で生存し続け、医療環境下で感染する可能性があることが示された」としている。

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抗菌スペクトルが選択的で腸内細菌に影響しづらい感染性腸炎治療薬「ダフクリア錠200mg」【下平博士のDIノート】第11回

抗菌スペクトルが選択的で腸内細菌に影響しづらい感染性腸炎治療薬「ダフクリア錠200mg」今回は、「フィダキソマイシン錠(商品名:ダフクリア錠200mg)」を紹介します。本剤は、抗菌スペクトルが狭く、クロストリジウム・ディフィシル(C.difficile)に選択的に作用するため、腸内細菌に大きな影響を与えにくく、再発リスクの軽減が期待されています。<効能・効果>本剤に感性のクロストリジウム・ディフィシルによる感染性腸炎(偽膜性大腸炎を含む)の適応で、2018年7月2日に承認され、2018年9月18日より販売されています。細菌RNAポリメラーゼを阻害することでクロストリジウム・ディフィシルをはじめとする一部のグラム陽性菌に抗菌活性を示しますが、ほとんどのグラム陰性菌に対しては抗菌活性を示しません。<用法・用量>通常、成人には、フィダキソマイシンとして1回200mgを1日2回経口投与します。本剤の投与期間は原則として10日間であり、この期間を超えて使用する場合はベネフィット・リスクを考慮して投与の継続を慎重に判断する必要があります。<副作用>米国の第III相臨床試験において、発現割合が1%以上であった副作用は、悪心2.3%、嘔吐1.0%、便秘1.3%、食欲不振1.3%、頭痛1.0%、浮動性めまい1.3%でした。<患者さんへの指導例>1.感染性腸炎の原因であるクロストリジウム・ディフィシルを殺菌する薬です。2.自分の判断で飲むのを止めてしまうと、現在の病気が治りにくくなったり、悪化したりする恐れがあるので、医師の指示があるまでは必ず続けてください。3.悪心、嘔吐、便秘などの症状が現れることがあります。症状が強く出るようであれば連絡してください。<Shimo's eyes>クロストリジウム・ディフィシル感染症(CDI)は、抗菌スペクトルの広い抗菌薬の使用などによって、腸内細菌叢が撹乱されて菌交代症が生じ、C.difficileが過増殖して毒素を産生することで起こります。主な症状は下痢や腹痛、発熱などですが、致死的な病態にもなりえるため注意が必要です。また、C.difficileは偽膜性大腸炎の主要原因菌としても知られています。本剤は、18員環マクロライド骨格を持つ新しいクラスの抗菌薬であり、わが国の既存CDI治療薬であるメトロニダゾールやバンコマイシンとは異なる作用機序を有します。抗菌スペクトルが狭いため腸内細菌叢を撹乱しにくく、また、芽胞形成を抑制する作用や毒素産生を阻害する作用も併せ持つという特徴があります。2018年10月に公表された「Clostridioides(Clostridium)difficile感染症診療ガイドライン」では、「フィダキソマイシンを初発CDI患者の初期治療薬として使用すべきか?」というCQに対し、「使用しないことを弱く推奨する」としながらも、「ただし、海外CDI患者において、CDIの再発抑制および治癒維持に対して優れていることが示されており、国内CDI患者においても再発率はバンコマイシンよりも低く、治癒維持率はバンコマイシンよりも高かった。そのため、再発リスクの高い患者では初期治療薬として推奨できる」と記載されています。CDIは再発が起こりやすく、海外では抗菌薬治療を受けたCDI患者のうち、約25%が再発し、そのうち約45~65%がさらに再発を繰り返しているという報告があり、いかに再発を減らすかということが課題となっています。米国のCDI患者623例を対象とした第III相試験の副次評価項目として再発率が検討され、本剤群は15.7%、対照薬であるバンコマイシン群は25.1%であり、本剤群のCDI再発率が統計学的に有意に少ないことが認められています(p=0.0080)。そのため、65歳以上であったり、CDIを繰り返しているなどの再発リスク因子をもつ患者さんや、継続的に発生している施設などでは、本剤の治療による再発の抑制が期待されます。なお、本剤は2018年2月現在、55の国と地域で承認されており、欧州のガイドラインでは再発に、米国のガイドラインでは初感染および再発に本剤が推奨されています。医療施設におけるCDIの発生数減少は、抗菌薬適正使用支援チーム(AST:Antimicrobial Stewardship Team)の成果指標にもなっています。CDIの感染予防は、石鹸と流水による手指衛生が基本となります。芽胞にはアルコールが効かないため、便や陰部に触れる場合には、ディスポーザブルガウン・手袋や器具を使用するなど細心の注意を払い、環境消毒には1日1回以上の次亜塩素酸による消毒が必要です。■参考資料一般社団法人 日本感染症学会 Clostridioides(Clostridium)difficile感染症診療ガイドライン

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Dr.岡の感染症プラチナレクチャー 市中感染症編(下巻)

第6回 感染性腸炎 第7回 肝胆道系感染症 第8回 細菌性髄膜炎 第9回 感染性心内膜炎 第10回 皮膚軟部組織感染症第11回 骨・関節の感染症 あの医療者必携のベストセラー書籍「感染症プラチナマニュアル」がレクチャーになりました!“プラマニュ”の第3章、病態・臓器別アプローチから市中感染症をピックアップ。著者である岡秀昭氏が、臨床の現場で必要なポイントだけに絞った、シンプルかつ明快なレクチャーをお届けします。ここで得た知識、考え方は、明日からの感染症診療にそのまま生かすことができます。下巻は腸炎、肝胆道系、髄膜炎、心内膜炎、皮膚・骨軟部組織の感染症について。さあ、ぜひプラマニュを片手に本DVDをご覧ください。※書籍「感染症プラチナマニュアル」はメディカル・サイエンス・インターナショナルより刊行されています。第6回 感染性腸炎 今回は感染性腸炎を取り上げます。感染性腸炎には抗菌薬は不要?!感染性腸炎が疑われた患者に最初にやることは「本当に感染性腸炎か」を疑うこと!便培養は本当に意味あるのか?!ピットフォール満載の感染性腸炎の診断と治療。「胃腸炎」というゴミ箱診断をしないために、腸炎が疑われる患者に対して何をすべきかを明快にレクチャーします。第7回 肝胆道系感染症 胆道系の感染症は「胆道系感染症」として、ひとくくりに考えないことが重要です。なぜならば、胆嚢炎であるのか、胆管炎であるのかによって治療戦略は大きく異なるからです。それらをどのように鑑別するのか、それぞれの診断基準を基に、ピットフォールやポイントを解説します。第8回 細菌性髄膜炎 細菌性髄膜炎は経験することの少ない感染症ではありますが、疑ったときには内科エマージェンシー!時間勝負の感染症です。まず、何をやるべきか?そしてその次は?その順番を間違うと、命取りになることも!!また、治療についても、どこまで何を投与すべきか?迷ったときは過剰治療も許されます!細菌性髄膜炎疑いの患者が来たときに、何をどうすべきか、Dr.岡が明確にお教えします。シミュレーションをしっかりとして、患者が来たときにはギアをあげて対応できるようにしておきましょう。第9回 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎(IE)は最も見逃されやすい感染症の中の1つです。なぜ見逃してしまうのか、見逃さないためのポイントは?そして、IEと診断したときにやるべきこととは?実臨床に即した内容をシンプルに、かつわかりやすく解説します。第10回 皮膚軟部組織感染症皮膚軟部組織感染症診療の一番のポイントは、予後良好な丹毒や蜂窩織炎か、壊死性筋膜炎やガス壊疽のような重症外科感染症かの鑑別。壊死性筋膜炎に対して、アトラスなどで見るかなり酷い状態の皮膚所見のイメージを持っていませんか?実はそれが診断を誤らせる1つの原因なのです。このような状態になる前に診断をつけること。その鑑別のポイントと治療法について、しっかりとお教えします。第11回 骨・関節の感染症骨髄炎は、比較的‘ゆっくり’な感染症。原因微生物が判明してから標的治療を行うべきである。そう、経験的治療はできるだけ避けるのが原則。しかしながら、早く治療しろとせかされるなどのやむを得ない場合はどのように治療をすすめていけばいいのか?理論だけでなく、実臨床でのやり方をお教えします!

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Dr.岡の感染症プラチナレクチャー 市中感染症編(上下巻2枚組)

第1回 感染症診療の8大原則 第2回 市中肺炎 初期診療アプローチ 第3回 市中肺炎 治療経過と合併症第4回 単純性尿路感染症 第5回 複雑性尿路感染症 第6回 感染性腸炎 第7回 肝胆道系感染症 第8回 細菌性髄膜炎 第9回 感染性心内膜炎 第10回 皮膚軟部組織感染症第11回 骨・関節の感染症 ※当DVDの内容は「Dr.岡の感染症プラチナレクチャー 市中感染症編」の上巻と下巻を組み合わせたものです。あの医療者必携のベストセラー書籍「感染症プラチナマニュアル」がレクチャーになりました!本DVDでは“プラマニュ”の第3章、病態・臓器別アプローチから市中感染症をピックアップ。著者である岡秀昭氏が、臨床の現場で必要なポイントだけに絞った、シンプルかつ明快なレクチャーをお届けします。ここで得た知識、考え方は、明日からの感染症診療にそのまま生かすことができます。さあ、ぜひプラマニュを片手に本DVDをご覧ください。※書籍「感染症プラチナマニュアル」はメディカル・サイエンス・インターナショナルより刊行されています。第1回 感染症診療の8大原則 臓器、微生物、抗菌薬そして、その中心に患者。これらすべてを満たすことが、感染症診療の第1歩です。まずは、感染症診療の8大原則を、明日からの診療に生かせるよう、現場の状況と照らし合わせながら、解説します。第2回 市中肺炎 初期診療アプローチ 第2回、第3回では市中肺炎を取り上げます。今回は、初期の診断と治療についてです。肺炎を疑ったら、最初にすべきことは?抗菌薬を開始?いいえそうではありません。まずは「本当に肺炎かどうか」を疑うことから始めましょう。肺炎と診断されれば、原因微生物の同定、重症度判定。それによって、治療も大きく変わってきます。第3回 市中肺炎 治療経過と合併症肺炎の治療効果を判断するために、胸部X線をルーティンで撮っていませんか?Dr.岡が指摘しているのは「撮る」ことではなく、「ルーティン」であること。そう、X線の反応は“最も遅れる”んです。CRPや胸部X線所見を正常化させるための治療は必要ありません。何を見て判断すべきか考えてみましょう。そのほか、合併症や治療効果が見られなかったときの対応、そして、誤嚥性肺炎について解説します。第4回 単純性尿路感染症 第4回、5回では尿路感染症を取り上げます。今回はその中でも、単純性尿路感染症について解説します。単純性尿路感染は、基本的には、妊娠していない閉経前の成人女性の尿路感染のことを指し、それ以外はすべて複雑性と考えます。(複雑性については第5回)また、上部(腎臓)、と下部(膀胱、尿道、前立腺、精巣上体)を区別して考えましょう。単純性尿路感染症の診断と治療について、詳しく解説します。第5回 複雑性尿路感染症 複雑性尿路感染症は、さまざまな点から見ても非常に「複雑」で、診断と治療が難しい疾患です。膿尿+発熱・炎症反応だけでは尿路感染症とは限らず、全身をもれなく診察し、ほかの感染源を除外して初めて診断できるのです。また、男性の場合は、「尿路感染症」という診断名だけでは不十分で、前立腺炎などとも区別していくことが重要です。微生物についても、単純性はそのほとんどが大腸菌であるのに対して、ほかの微生物の頻度も増え、それにより治療も異なってきます。第6回 感染性腸炎 今回は感染性腸炎を取り上げます。感染性腸炎には抗菌薬は不要?!感染性腸炎が疑われた患者に最初にやることは「本当に感染性腸炎か」を疑うこと!便培養は本当に意味あるのか?!ピットフォール満載の感染性腸炎の診断と治療。「胃腸炎」というゴミ箱診断をしないために、腸炎が疑われる患者に対して何をすべきかを明快にレクチャーします。第7回 肝胆道系感染症 胆道系の感染症は「胆道系感染症」として、ひとくくりに考えないことが重要です。なぜならば、胆嚢炎であるのか、胆管炎であるのかによって治療戦略は大きく異なるからです。それらをどのように鑑別するのか、それぞれの診断基準を基に、ピットフォールやポイントを解説します。第8回 細菌性髄膜炎 細菌性髄膜炎は経験することの少ない感染症ではありますが、疑ったときには内科エマージェンシー!時間勝負の感染症です。まず、何をやるべきか?そしてその次は?その順番を間違うと、命取りになることも!!また、治療についても、どこまで何を投与すべきか?迷ったときは過剰治療も許されます!細菌性髄膜炎疑いの患者が来たときに、何をどうすべきか、Dr.岡が明確にお教えします。シミュレーションをしっかりとして、患者が来たときにはギアをあげて対応できるようにしておきましょう。第9回 感染性心内膜炎 感染性心内膜炎(IE)は最も見逃されやすい感染症の中の1つです。なぜ見逃してしまうのか、見逃さないためのポイントは?そして、IEと診断したときにやるべきこととは?実臨床に即した内容をシンプルに、かつわかりやすく解説します。第10回 皮膚軟部組織感染症皮膚軟部組織感染症診療の一番のポイントは、予後良好な丹毒や蜂窩織炎か、壊死性筋膜炎やガス壊疽のような重症外科感染症かの鑑別。壊死性筋膜炎に対して、アトラスなどで見るかなり酷い状態の皮膚所見のイメージを持っていませんか?実はそれが診断を誤らせる1つの原因なのです。このような状態になる前に診断をつけること。その鑑別のポイントと治療法について、しっかりとお教えします。第11回 骨・関節の感染症骨髄炎は、比較的‘ゆっくり’な感染症。原因微生物が判明してから標的治療を行うべきである。そう、経験的治療はできるだけ避けるのが原則。しかしながら、早く治療しろとせかされるなどのやむを得ない場合はどのように治療をすすめていけばいいのか?理論だけでなく、実臨床でのやり方をお教えします!

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第1回 痛みの概説【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第1回 痛みの概説痛みは、古来より病気の兆候の中でも最も多く、医療・医学の原点です。今日でも人類を苦しめている大きな病気因子でもあります。この痛みを意味する英語の“Pain”はラテン語のPoena、ギリシャ語のPoineより由来しております。元来はPenalty あるいはPunishmentを意味しておりました。処罰の1つの方法として、痛みを受けさせられることは、昔からごく自然になされていたことと推察されます。このように、痛みは人類の誕生とともに歩んできたにもかかわらず、現在においても感覚としての「痛み」をなかなか科学的な研究対象として取り上げにくいのが実態です。その原因の1つには、聴覚や視覚など他の感覚と異なって、複数の人が痛みを同時に同程度に共有することが不可能であることが挙げられております。そのために痛みを客観的に把握することがきわめて困難であります。米国では、2001~2010年までを「痛みの10年」として、痛みの研究や治療に膨大な国家予算を費やし、痛み患者への対策を検討しました。これは、ともすれば痛みを口実に「怠惰さの隠れ蓑にしているのではないか」との世間の目を気にしている痛みの患者への救いであるとともに、痛み患者の就労不能や意欲低下、また、その看護などによる年間の経済的損失が米国ではおよそ8兆円にのぼるとの試算に向け、この深刻な問題に対する政策でもありました。国際疼痛学会(IASP)は、痛みとは「実際の組織損傷、あるいは潜在的な組織損傷と関連した、または、このような組織損傷と関連して述べられる不快な感覚的・情動的体験」と定義しています。しかしながら、この定義からしても痛みの実体を認識することは難しいのです。むしろ痛みを機序別による分類から考えるほうが、わかりやすいかもしれません。それでは、痛みの発生する原因機序別に従って分類してみましょう。侵害受容性疼痛針で刺したり、金鎚で叩いたりしたときに感じる痛みです。神経自由終末の侵害受容器に一定以上の痛み刺激が加わることによって、痛みインパルスが発生します。その痛みインパルスが脊髄を経由して上位中枢に伝達され、大脳皮質第2次体性感覚野に到達すると痛みとして認識されます。この痛みインパルスを伝導するのは、Aδ線維とC線維です。Aδ線維は表に示されているように、C線維より太いので伝達速度が速くなります。おそらくは向こう脛を机の角に打ち付けたときに、最初にドンと来る痛みを感じて、その後しばらくしてジーンとするいやな痛みを感じたことを経験されたことがあるでしょう。最初の痛みがAδ線維経由の痛み(1次痛)で、その後がC線維経由の痛み(2次痛)です。がんによる疼痛も侵害受容性疼痛と考えられ、がん細胞が神経末端を刺激することによって痛みが生じます。表 侵害受容性疼痛の種類・伝導速度・主な受容器画像を拡大する神経障害性疼痛帯状疱疹後神経痛(PHN)に代表される痛みです。帯状疱疹ウイルスによって、神経線維そのものが破壊される結果により、神経自由終末ではなく異所性に痛みインパルスが発生するために、痛みとして感じます。触覚などのインパルスを伝達する太い神経線維(Aβ)が減少して、代わりに痛み感覚を伝達する細い神経線維(C線維)に置き換わるために、触覚も痛みとして感じます。本来の痛み刺激ではない、筆などによる柔らかい刺激を痛みとして感じるアロディニアの症状が見られます。心因性疼痛(非器質性疼痛)痛みが長く持続すると、抑うつなどの心因的症状が進展して、それが痛みをさらに増悪することになります。また、いやなことが続くと身体のどこかに痛みを感じる「身体表現性疼痛」と言われる非器質的な疼痛が現れることがあります。このように、最初から心因性(非器質性)に痛みを感じることもあります。現代では、この「心因性疼痛」もかなりの頻度で見られるようです。このように、臨床的な痛みの分類として、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心因性疼痛(図)が存在しますが、痛みの開始時には、これらをある程度明確に分類できるでしょう。しかしながら、痛みが長期間持続してくると、これらが1つになってしまうために痛みの治療が著しく困難となります。この意味からも痛みには早期からの治療が必要でありますし、患者さんも我慢すべきではありません。図 臨床的な痛みの分類の概念*画面をクリックして動画を視聴ください1)Erlanger J,Gasser HS. Electrical signs of nervous activity.Philadelphia;University of Pennsylvania Press:1937.2)Burgess PR, Perl ER, Iggo A(ed). Somatosensory system. New York;Springer:1973.p.29-78.3)花岡一雄、ほか. 現代鍼灸学. 2005:5;59-68.4)河谷正仁 編集. 痛み研究のアプローチ. 新興交易医書出版部;2006.p.15-18.5)花岡一雄. 東京都医師会雑誌.2007:60;6-10.今後の掲載予定侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心因性疼痛、急性痛と慢性痛、痛みの悪循環などを総論的に解説後、各論として全身、頭頸部、胸部、腹部など部位別にさらに詳しくレクチャーしていきますのでご期待ください。次回は、「急性痛と慢性痛」について説明します。

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免疫CP阻害薬の治療効果と便秘の関係

 近年、腸内細菌叢にある宿主免疫制御が報告され、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の治療効果との相関が注目されている。また、腸内細菌叢は排便習慣により変化することが報告されている。非小細胞肺がん(NSCLC)患者における便通異常と、ICIの治療効果の関連性について後ろ向きに検討した京都府立医科大学の研究結果が、片山 勇輝氏らにより第16回日本臨床腫瘍学会で報告された。 対象は京都府立医科大学附属病院でICI治療を行ったNSCLC40例。ICI投与前後1週間で3日以上の便秘もしくは緩下剤の内服歴を有する患者を便秘群と定義し、便秘群と非便秘群においてICIの治療効果を評価した。 主な結果は以下のとおり。・治療成功期間(TTF)中央値は便秘群で31.5日、非便秘群で204日と、便秘群で有意な短縮を示した(p=0.0032)。・病勢制御率(DCR)は便秘群で20.0%、非便秘群で78.8%と、便秘群で低い結果であった(p=0.00083)。・全生存期間(OS)は便秘群で79日、非便秘群で511日と、便秘群で有意な短縮を示した(p=0.0017)。 片山氏は、NSCLCのICIの治療効果や予後と患者の便通異常に有意な相関を認めた。このことは、ICI治療開始時の便通異常がICIの治療効果を予測しうる新たなバイオマーカーの1つである可能性を示した、としている。 以下、発表者 片山 勇輝氏(現在は京都鞍馬口医療センター)との一問一答この試験の実施背景として排便習慣に着目した理由はどのようなものですか? 2016~17年にかけて、悪性黒色腫において腸内細菌叢と免疫治療の効果についてのデータが発表されてきました。免疫チェックポイント阻害薬が奏効したメラノーマ患者では、腸内細菌叢が多様性に富んでいたという報告もあります。 一方、免疫チェックポイント阻害薬の使用機会が多いものの、肺がんでは、腸内細菌叢との関係は明らかではありません。ただ、腸内細菌叢の測定にコストがかかることもあり、まだ現実的ではありません。腸内細菌叢と排便習慣は関連性も示されていることから、簡便なマーカーとして排便習慣が使えないかと考え、このような研究を行いました。免疫チェックポイント阻害薬治療成功期間(TTF)全生存期間(OS)とも非便秘群で有意に長いという結果でしたが、これは臨床でどう考えるべきでしょうか。 従来、EGFR変異陽性例や、悪液質も含め全身状態の悪い例では免疫チェックポイント阻害薬が効きにくいといわれていましたが、便秘もそういったマーカーの1つなのではないかと考えられます。非便秘、つまり排便良好は腸内細菌叢が良好だということでしょうか。 排便習慣といっても、カルテで回数を追跡したにとどまりますので、単純に非便秘イコール良好な腸内細菌叢の形成とはいえないと思います。今後の研究はどのようにお考えですか? 今回の研究は後ろ向きですが、今後は、前向きに排便習慣を確認しながら腸内細菌叢の関連も一緒に調査したいと考えています。ただ、がんではオピオイド誘発性の便秘になりがちですし、殺細胞性抗がん剤により腸内細菌叢も乱れますので、こういった交絡因子を除外することが必要だと思います。この点を明らかにためにも、今後のさらなる検討が必要だと思います。※医師限定肺がん最新情報ピックアップDoctors’ Picksはこちら

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第9回 内科クリニックからのセファレキシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?Escherichia coli(大腸菌)・・・10名Klebsiella pneumoniae(肺炎桿菌)・・・6名Staphylococcus saprophyticus(腐性ブドウ球菌)※1・・・4名Proteus mirabilis(プロテウス・ミラビリス)※2・・・3名腸球菌・・・2名淋菌、クラミジアなど(性感染症)・・・2名※1 腐性ブドウ球菌は、主に泌尿器周辺の皮膚に常在しており、尿道口から膀胱へ到達することで膀胱炎の原因になる。※2 グラム陰性桿菌で、ヒトの腸内や土壌中、水中に生息している。尿路感染症、敗血症などの原因となる。ガイドラインも参考に 荒川隆之さん(病院)やはり一番頻度が高いのはE. coli です。性交渉を持つ年代の女性の単純性尿路感染としては、S.saprophyticus なども考えます。JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015では、閉経前の急性単純性膀胱炎について推定される原因微生物について、下記のように記載されています。グラム陰性桿菌が約80%を占め、そのうち約90%はE. coli である。その他のグラム陰性桿菌としてP.mirabilis やKlebsiella 属が認められる。グラム陽性球菌は約20%に認められ、なかでもS. saprophyticus が最も多く、次いでその他のStaphylococcus 属、Streptococcus 属、Enterococcus 属などが分離される。JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015急性単純性腎盂腎炎と膀胱炎の併発の場合 清水直明さん(病院)閉経前の若い女性、排尿痛、背部叩打痛があることから、急性単純性腎盂腎炎)※3に膀胱炎を併発している可能性が考えられます。その場合の原因菌は前述のJAID/JSC感染症治療ガイドライン2015の通りで、これらがほとんどを占めるといってもよいと思います。E. coliなどのグラム陰性桿菌(健常人にも常在している腸内細菌)には近年ESBL(extended spectrum β-lactamase)産生菌が増加しており、加えてこれらはキロノン系抗菌薬にも耐性を示すことが多く、セフェム系、キノロン系抗菌薬が効かない場合が多くなっているので注意が必要です。※3 尿道口から細菌が侵入し、腎盂まで達して炎症を起こす。20~40歳代の女性に多いとされる。グラム陰性桿菌が原因菌であることが多い。Q2 患者さんに確認することは?アレルギーや腎臓疾患など 柏木紀久さん(薬局)セフェム系抗菌薬やペニシリン系抗菌薬のアレルギー、気管支喘息や蕁麻疹などのアレルギー関連疾患、腎臓疾患の有無。妊娠の有無  わらび餅さん(病院)アレルギー歴や併用薬(相互作用の観点で必要時指導がいるので)に加え、妊娠の有無を確認します。Q3 疑義照会する?軟便や胃腸障害への対策 中堅薬剤師さん(薬局)処方内容自体に疑義はありませんが、抗菌薬で軟便になりやすい患者さんならば耐性乳酸菌製剤、胃腸障害が出やすい患者さんであれば胃薬の追加を提案します。1日2回への変更 柏木紀久さん(薬局)職業等生活状況によっては1日2回で成人適応もあるセファレキシン顆粒を提案します。フラボキサートの必要性 キャンプ人さん(病院)今回は急性症状でもあり、フラボキサートは過剰かなと思いました。今回の症例の経過や再受診時の状況にもよりますが、一度は「フラボキサートは不要では」と疑義照会します。症状の確認をしてから JITHURYOUさん(病院)フラボキサートについては、排尿時痛だけでは処方はされないと考えます。それ以外の排尿困難症、すなわち頻尿・ひょっとしたら尿漏れの可能性? それらがないとすれば、疑義照会して処方中止提案をします。下腹部の冷えを避け、排尿我慢や便秘などしないように、性交渉後、排尿をするなどの習慣についても指導できればいいと思います。疑義照会しない 奥村雪男さん(薬局)セファレキシンは6時間ごと1日4回ですが、今回の1 日3 回で1,500mgにした処方では疑義照会しません。なお、JAID/JSC感染症治療ガイドライン2015 では閉経前の急性単純性膀胱炎のセカンドラインの推奨として、セファクロル250mgを1 日3 回、7 日間を挙げています。患者さんのアドヒアランスを考慮? わらび餅さん(病院)疑義照会はしません。投与量がJAID/JSCガイドラインと異なり多いと思いましたが、患者さんが若くアドヒアランスの低下の可能性を疑って、膀胱炎を繰り返さないためにも、あえて高用量で処方したのかとも考えました。ESBL産生菌を念頭に置く 清水直明さん(病院)セファレキシンは未変化体のまま尿中に排泄される腎排泄型の薬剤であり、尿路に高濃度移行すると考えられ、本症例のような尿路感染症には使用できると思います。しかし、地域のアンチバイオグラムにもよりますが、腸内細菌にESBL産生菌が増えており(平均して1~3割程度でしょうか)、単純なセフェム系抗菌薬の治療では3割失敗する可能性があるともいえます。ケフレックス®(セファレキシン)のインタビューフォームによると、E. coli、K. pneumoniae、P. mirabilisに対するMICはそれぞれ6.25、6.25、12.5μg/mLです。一方、JAID/JSCガイドラインで推奨されている1つであるフロモックス®(セフカペンピボキシル塩酸塩)のMICは、インタビューフォームによると、それぞれ3.13、0.013、0.20 μg/mLと、同じセフェム系抗菌薬でも2つの薬剤間で感受性がかなり異なることが分かります。やはり、セファレキシンは高用量で用いないと効果が出ない可能性があるので高用量処方となっているのだと思います。これらのことから、1つの選択肢としては疑義照会をして感受性のより高いセフカペンなどのセフェム系抗菌薬に変更してもらい、3日ほどたっても症状が変わらないか増悪するようであれば、薬が残っていても再度受診するように伝えることが挙げられます。もう1つの選択肢としては、初めからESBL産生菌を念頭に置いて、下痢発現の心配はあるものの、βラクタマーゼ配合ペニシリン系抗菌薬、ファロペネムなどを提案するかもしれません。私見ですが、キノロン系抗菌薬は温存の意味と、キノロン耐性菌を増やす可能性があり、あまり勧めたくありません。キノロン耐性菌の中にはESBL産生菌が含まれるので、ESBL産生菌を増やすことに繋がってしまいます。Q4 抗菌薬について、患者さんに説明することは?他科受診時や高熱に注意 柏木紀久さん(薬局)「セファレキシンは症状が治まっても服用を続けてください。服用途中でも高熱が出てきたら受診してください。水分をよく取って、排尿も我慢せず頻繁にしてください。セファレキシン服用中は尿検査で尿糖の偽陽性が出ることがあるので、他科を受診する際には申告してください」。腎盂腎炎に進行する可能性を懸念し、熱が上がってきたら再受診を勧めます。牛乳で飲まないように わらび餅さん(病院)飲み忘れなく、しっかりセファレキシンを飲むように指導します。牛乳と同時に摂取するのは避ける※4ように説明します。※4 セファレキシンやテトラサイクリン系抗菌薬は、牛乳の中のカルシウムにより吸収が低下する。キノロン系抗菌薬の服用歴 JITHURYOUさん(病院)性交渉頻度など(セックスワーカー・不特定多数との性交渉の可能性? )は気になるところですが、なかなか聞きにくい質問でもあります。レボフロキサシンなどのキノロン系抗菌薬は、開業医での処方が多いです。このため、これらの薬剤の服用歴や受診歴が重要であると思います。ESBL産生菌の可能性はないかもしれませんが、さまざまな抗菌薬にさらされている現状を考慮して、数日で症状改善しなければ、耐性菌や腎盂腎炎などの可能性もあるので再受診を促します。中止か継続かの判断 中西剛明さん(薬局)蕁麻疹や皮膚粘膜の剝落などのアレルギー症状が出た場合は中止を、下痢の場合はやがて改善するので水分をしっかり取った上で中止しないよう付け加えます。あまりに下痢がひどい場合は、耐性乳酸菌製剤が必要かもしれません。Q5 その他、気付いたことは?薬薬連携で情報を共有 荒川隆之さん(病院)閉経前の急性単純性膀胱炎から分離されるE. coliの薬剤感受性は比較的良好とされてはいるものの、地域のE. coliの薬剤感受性は把握しておくべきだと考えます。ESBL産生菌の頻度が高い地域においては、キノロン系抗菌薬の使用は控えた方がよいかもしれませんし、ファロペネムなどの選択も必要となるかもしれません。病院側もアンチバイオグラムなどの感受性情報は地域の医療機関で共有すべきだと考えますし、薬局側も必要だとアクションしていただきたいと思います。薬薬連携の中でこのような情報が共有できるとよいですね。余談ですが、ESBLを考える場合、ガイドライン上にはホスホマイシンも推奨されていますが、通常量経口投与しても血中濃度が低すぎるため、個人的にあまりお勧めしません。注射の場合は十分上がります。欧米のように高用量1回投与などができればよいのにと考えています。地域のアンチバイオグラムを参考に 児玉暁人さん(病院)ESBL産生菌の可能性は低いかもしれませんが、地域のアンチバイオグラムがあれば抗菌薬選択の参考になるかもしれません。背部叩打痛があるようですが、腎盂腎炎は否定されているのでしょうか。膀胱炎の原因 中堅薬剤師さん(薬局)膀胱炎であることは確かだと思いますが、その原因が気になります。泌尿器科の処方箋が多い薬局で数年働き、若い女性の膀胱炎をよく見てきましたが、間質性膀胱炎のことが多く、そのような場合には、保険適用外でしたがスプラタスト(アイピーディ®)やシメチジンなどが投与されていました。背部叩打痛があることから、尿路結石の可能性もあります。また、若い女性であることから、ストレス性も考えられます。営業職で、トイレを我慢し過ぎて膀胱炎になるケースも少なくありません。最悪、敗血症になる可能性も ふな3さん(薬局)発熱・背部叩打痛があることから、腎盂腎炎への進行リスクが心配されます。最悪の場合、敗血症への進行の可能性も懸念されるため、高熱や腰痛などの症状発現や、2~3日で排尿痛等の改善がない場合には、早めに再受診または、泌尿器科専門医を受診するよう説明します。後日談この患者は1週間後、再受診、来局した。薬を飲み始めて数日したら排尿時の痛みがなくなったため、服薬をやめてしまい、再発したという。レボフロキサシン錠500mg/1錠、朝食後3日分の処方で治療することになった。医師の診断は急性単純性膀胱炎で、腎盂腎炎は否定的だったそうだ。担当した薬剤師から再治療がニューキノロン系抗菌薬になったのは、より短期間の治療で済むからでしょう。セファレキシンなどの第一世代セフェムを含むβラクタム系抗菌薬を使う場合、1週間は服用を続ける必要があるといわれています。この症例は、服薬中断に加え、フラボキサートで排尿痛を減らす方法では残尿をつくってしまう可能性があり、よくなかったのかもしれません。症状がよくなっても服薬を中断しないこと、加えて、水分摂取量を増やして尿量を増やすことも治療の一環であると説明しました。[PharmaTribune 2017年1月号掲載]

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第8回 内科クリニックからのクラリスロマイシンの処方【適正使用に貢献したい  抗菌薬の処方解析】

Q1 予想される原因菌は?マイコプラズマ・・・7名百日咳菌・・・6名コロナウイルス、アデノウイルスなどのウイルス・・・3名結核菌・・・2名肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)・・・6名モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)・・・2名インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)・・・1名遷延性の咳嗽 清水直明さん(病院)3週間続く咳嗽であることから、遷延性の咳嗽だと思います。そうなると感染症から始まったとしても最初の原因菌は分からず、ウイルスもしくは非定型菌※による軽い感冒から始まったことも予想されるでしょう。他に、成人であっても百日咳の可能性も高いと思われます。その場合、抗菌薬はクラリスロマイシン(以下、CAM)でよいでしょう。初発がウイルスや非定型菌であったとしても、二次性に細菌感染を起こして急性気管支炎となっているかもしれません。その場合は、Streptococcus pneumoniae、Haemophilus influenzae、Moraxella catarrhalisなどが原因菌として想定されます。このようなときにグラム染色を行うことができると、抗菌薬選択の参考になります。※非定型菌は一般の細菌とは異なり、βラクタム系抗菌薬が無効で、培養や染色は困難なことが多い。マイコプラズマ、肺炎クラミジア、レジオネラなどがある。結核の可能性も 児玉暁人さん(病院)長引く咳とのことで、マイコプラズマや百日咳菌を疑います。患者背景が年齢しか分かりませんが、見逃すと怖いので念のため結核も考慮します。細菌感染症ではないのでは? 中西剛明さん(薬局)同居家族で最近かかった感染症があるかどうかを確認します。それで思い当たるところがなければ、まず、ウイルスかマイコプラズマを考えます。肺炎の所見もないので、肺炎球菌、インフルエンザやアデノウイルスなどは除外します。百日咳は成人の発症頻度が低いので、流行が確認されていなければ除外します。RSウイルスやコロナウイルス、エコーウイルスあたりはありうると考えます。ただ、咳の続く疾患が感染症とは限らず、ブデソニド/ホルモテロールフマル酸塩水和物(シムビコート®)が処方されているので、この段階では「細菌感染症ではないのでは?」が有力と考えます。Q2 患者さんに何を確認する?薬物相互作用 ふな3さん(薬局)CAMは、重大な相互作用が多い薬剤なので、併用薬を確認します。禁忌ではありませんが、タダラフィル(シアリス®)などは患者さんにとっても話しにくい薬なので、それとなく確認します。喫煙の有無と、アレルギー歴(特にハウスダストなどの通年性アレルギー)についても確認したいです。自覚していないことも考慮  児玉暁人さん(病院)やはり併用薬の確認ですね。スボレキサント錠(ベルソムラ®)やC型肝炎治療薬のアナスプレビルカプセル(スンベプラ®)は、この年齢でも服用している可能性があります。ピロリ菌の除菌など、パック製剤だと本人がCAM服用を自覚していないことも考えられるので、重複投与があるかどうかを確認します。シムビコート®は咳喘息も疑っての処方だと思います。感染性、非感染性のどちらもカバーし、β2刺激薬を配合したシムビコート®は吸入後に症状緩和を実感しやすく、患者さんのQOLに配慮されているのではないでしょうか。過去に喘息の既往はないか、シムビコート®は使い切りで終了なのか気になります。最近の抗菌薬服用歴 キャンプ人さん(病院)アレルギー歴、最近の抗菌薬服用歴、生活歴(ペットなども含める)を確認します。受診するまでの症状確認とACE阻害薬 柏木紀久さん(薬局)この3週間の間に先行して発熱などの感冒症状があったか、ACE阻害薬(副作用に咳嗽がある)の服用、喫煙、胸焼けなどの確認。Q3 抗菌薬の使用で思い浮かんだことは?咳喘息ならば・・・ 清水直明さん(病院)痰のからまない乾性咳嗽であれば、咳喘息の可能性が出てきます。そのために、シムビコート®が併用されていると思われ、それで改善されれば咳喘息の可能性が高くなります。咳喘息に対しては必ずしも抗菌薬が必要とは思いませんが、今の状態では感染症を完全には否定できないので、まずは今回の治療で反応を見たいと医師は考えていると思います。抗菌薬の低感受性に注意 JITHURYOUさん(病院)CAMは、抗菌作用以外の作用もあります。画像上、肺炎はないということですが、呼吸器細菌感染症としては肺炎球菌、インフルエンザ菌を想定しないといけないので、それらの菌に対する抗菌薬の低感受性に注意しなければなりません。さらに溶連菌、Moraxella catarrhalisなども考慮します。抗菌薬の漫然とした投与に注意 わらび餅さん(病院)痰培養は提出されていないようなので、原因菌を特定できるか分かりません。CAM耐性菌も以前より高頻度になっているので、漫然と投与されないように投与は必要最低限を維持することが大切だと思います。再診時の処方が非常に気になります。CAMの用量 柏木紀久さん(薬局)副鼻腔気管支症候群ならCAMは半量での処方もあると思いますが、1週間後の再診で、かつ感染性咳嗽の可能性を考えると400mg/日で構わないと思います。しっかりとした診断を 荒川隆之さん(病院)長引く咳の原因としては、咳喘息や後鼻漏、胃食道逆流、百日咳、結核、心不全、COPD、ACE阻害薬などの薬剤性の咳など多くありますが、抗菌薬が必要なケースは少ないです。もし百日咳であったとしても、感染性は3週間程度でなくなることが多く、1~2カ月程度続く慢性咳嗽に対してむやみに抗菌薬を使うべきではないと考えます。慢性咳嗽の原因の1つに結核があります。ニューキノロン系抗菌薬は結核にも効果があり、症状が少し改善することがありますが、結核は複数の抗菌薬を組み合わせて、長い期間治療が必要な疾患です。そのため、むやみにニューキノロン系抗菌薬を投与すると、少しだけ症状がよくなる、服用が終わると悪くなる、を繰り返し、結核の発見が遅れる可能性が出てくるのです。結核は空気感染しますので、発見が遅れるということは、それだけ他の人にうつしてしまう機会が増えてしまいます。また、結核診断前にニューキノロン系抗菌薬を投与した場合、患者自身の死亡リスクが高まるといった報告もあります(van der Heijden YF, et al. Int J Tuberc Lung Dis 2012;16(9): 1162-1167.)。慢性咳嗽においてニューキノロン系抗菌薬を使用する場合は、結核を除外してから使用すべきだと考えます。まずはしっかりした診断が大事です。Q4 その他、気付いたことは?QOLのための鎮咳薬 JITHURYOUさん(病院)小児ではないので可能性は低いですが、百日咳だとするとカタル期※1でマクロライドを使用します。ただ、経過として3週間過ぎていることと、シムビコート®が処方されているので、カタル期ではない可能性が高いです。咳自体は自衛反射で、あまり抑えることに意味がないと言われていますが、本症例では咳が持続して夜間も眠れないことや季肋部※2の痛みなどの可能性もあるので、患者QOLを上げるために、対症療法的にデキストロメトルファンが処方されたと考えます。※1 咳や鼻水、咽頭痛などの諸症状が起きている期間※2 上腹部で左右の肋骨弓下の部分鎮咳薬の連用について 中堅薬剤師さん(薬局)原疾患を放置したまま、安易に鎮咳薬で症状を改善させることは推奨されていません1)。また、麦門冬湯は「乾性咳嗽の非特異的治療」のエビデンスが認められている2)ので、医師に提案したいです。なお、遷延性咳嗽の原因は、アレルギー、感染症、逆流性食道炎が主であり、まれに薬剤性(副作用)や心疾患などの要因があると考えています。話は変わりますが、開業医の適当な抗菌薬処方はずっと気になっています。特にキノロン系抗菌薬を安易に使いすぎです。高齢のワルファリン服用患者にモキシフロキサシンをフルドーズしようとした例もありました。医師の意図 中西剛明さん(薬局)自身の体験から、マイコプラズマの残存する咳についてはステロイドの吸入が効果的なことがあると実感しています。アレルギーがなかったとしても、マイコプラズマ学会のガイドラインにあるように、最終手段としてのステロイド投与(ガイドラインでは体重当たり1mg/kgのプレドニゾロンの点滴ですが)は一考の余地があります。また、マイコプラズマ学会のガイドラインにも記載がありますが、このケースがマイコプラズマであれば、マクロライド系抗菌薬の効果判定をするため、3日後に再受診の必要があるので3日分の処方で十分なはずです。ステロイド吸入が適切かどうか議論のあるところですが、シムビコート®を処方するくらいですから医師は気管支喘息ということで治療をしたのだと考えます。Q5 患者さんに何を説明する?抗菌薬の患者さんに対する説明例 清水直明さん(病院)「咳で悪さをしているばい菌を殺す薬です。ただし、必ずしもばい菌が悪さをしているとは限りません。この薬(CAM)には、抗菌作用の他にも気道の状態を調節する作用もあるので、7日分しっかり飲み切ってください。」CAMの副作用 キャンプ人さん(病院)処方された期間はきちんと内服すること、副作用の下痢などの消化器症状、味覚異常が出るかもしれないこと。抗菌薬を飲み切る 中堅薬剤師さん(薬局)治療の中心になるので、CAMだけは飲み切るよう指示します。また、副作用が出た際、継続の可否を主治医に確認するよう話します。別の医療機関にかかるときの注意 ふな3さん(薬局)CAMを飲み忘れた場合は、食後でなくてよいので継続するよう説明します。また、別の医師にかかる場合は、必ずCAMを服用していることを話すよう伝えます。後日談本症例の患者は、1週間後の再診時、血液検査の結果に異常は見られなかったが、ハウスダストのアレルギーがあることが分かり、アレルギー性咳嗽(咳喘息)と診断された。初診後3日ほどで、咳は改善したそうだ。医師からはシムビコート®の吸入を続けるよう指示があり、新たな処方はなされなかった。もし咳が再発したら受診するよう言われているという。1)井端英憲、他.処方Q&A100 呼吸器疾患.東京、南山堂、2013.2)日本呼吸器学会.咳嗽に関するガイドライン第2版.[PharmaTribune 2016年11月号掲載]

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相互作用が少なく高齢者にも使いやすい経口爪白癬治療薬「ネイリンカプセル100mg」【下平博士のDIノート】第10回

相互作用が少なく高齢者にも使いやすい経口爪白癬治療薬「ネイリンカプセル100mg」今回は、「ホスラブコナゾール L-リシンエタノール付加物カプセル(商品名:ネイリンカプセル100mg)」を紹介します。本剤は、薬物相互作用が少なく、休薬期間や服用時点の制限もないため、高齢者に多い爪白癬の新たな治療選択肢となることが期待できます。<効能・効果>皮膚糸状菌(トリコフィトン属)による爪白癬の適応で、2018年1月19日に承認され、2018年7月27日より販売されています。本剤は、トリアゾール系抗真菌薬であるラブコナゾールの水溶性および生物学的利用率を高めたプロドラッグであり、経口投与後速やかに活性本体であるラブコナゾールに変換され、真菌の発育に必要なエルゴステロールの生合成を阻害して抗真菌作用を示します。<用法・用量>通常、成人には、1日1回1カプセルを12週間経口投与します。なお、本剤はすでに変色した爪所見を回復させるものではないので、投与終了後も爪の伸長期間を考慮した経過観察が必要です。<副作用>国内第III相臨床試験において、101例中副作用が24例(23.8%)に認められました。主な副作用は、γ-GTP増加16例(15.8%)、ALT(GPT)増加9例(8.9%)、AST(GOT)増加8例(7.9%)、腹部不快感4例(4.0%)、血中Al-P増加2例(2.0%)でした(承認時)。<患者さんへの指導例>1.この薬は、飲み続けることで爪白癬の原因となる真菌を殺菌する働きがあります。2.すでに変形・変色してしまった爪を回復させる薬ではありません。服薬終了後も健康な爪に生え変わるまで継続的な観察(約9ヵ月間)が必要です。3.自己判断で中止すると、再発・悪化につながります。医師の指示があるまではしっかり続けてください。4.爪が肥厚、変形している場合は、必要に応じてやすりや爪切りなどで爪のお手入れをしてください。5.爪白癬はご家族などに感染することがあります。患部はお風呂に入った後よく乾かし、清潔に保ってください。6.この薬を服用している間および使用を中止してから少なくとも3ヵ月間は必ず避妊をしてください。<Shimo's eyes>本剤は、経口爪白癬治療薬として約20年ぶりに承認された新薬で、適応は爪白癬のみとなっています。爪(NAIL)に薬物が入る(IN)ことからNAILIN(ネイリン)と命名されました。爪白癬治療薬として、経口薬ではテルビナフィン(先発品名:ラミシール)およびイトラコナゾール(同:イトリゾール)が発売されています。1997年に発売されたテルビナフィンは、肝機能障害や血球減少といった重篤な副作用が報告されているため定期的な採血が必要であり、また服用期間が約6ヵ月と長いことが課題でした。そのため、現在では主に1999年に発売されたイトラコナゾールのパルス療法(1週間投与して3週間休薬を1サイクルとして、3サイクル繰り返す)が行われています。しかし、イトラコナゾールは強力なCYP3A4とP糖蛋白の阻害作用を有するため、併用禁忌・併用注意薬が多くあり、高齢者や合併症のある患者さんでは使用しづらいこともあります。そのような中、爪外用液として2014年にエフィナコナゾール爪外用液10%(商品名:クレナフィン)、2016年にルリコナゾール爪外用液5%(同:ルコナック)が発売されました。しかし、爪外用液は、肝障害などの副作用や他剤との薬物相互作用が少ないというメリットがあるものの、爪が生え変わるまでの期間(1年程度)塗布し続ける必要があり、経口薬に比べて有効性が低い傾向があります。このように、これまでの爪白癬治療では、有効性や安全性、治療の利便性に課題があり、服薬アドヒアランスを良好に保つことが課題でした。本剤は、CYP3A阻害作用が比較的弱いため、シンバスタチンやミダゾラム、ワルファリンとは併用注意ですが、併用禁忌の薬はありません。また、1日1回12週間の連日服薬で、食事の影響がないため患者さんのライフスタイルに合わせて服用することができ、服薬アドヒアランスが良好に維持されることが期待されます。とくに要介護患者さんに対する爪外用液の使用で負担が大きかった介護者にとっては、負担が大きく軽減されるかもしれません。なお、国内臨床試験において、肝機能に関する重篤な有害事象は認められていませんが、海外で承認されている国および地域はありません※ので、副作用に関しては継続的な情報収集が必要です。※2018年8月現在

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第6回 意識障害 その5 敗血症ってなんだ?【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)バイタルサインを総合的に判断し、敗血症を見逃すな!2)“No Culture,No Therapy!”、治療の根拠を必ず残そう!3)敗血症の初療は1時間以内に確実に! やるべきことを整理し遂行しよう!【症例】82歳女性の意識障害:これまたよく出会う原因82歳女性。来院前日から活気がなく、就寝前に熱っぽさを自覚し、普段と比較し早めに寝た。来院当日起床時から38℃台の発熱を認め、体動困難となり、同居している娘さんが救急要請。救急隊接触時のバイタルサインは以下のとおり。どのようにアプローチするべきだろうか?●搬送時のバイタルサイン意識:10/JCS、E3V4M6/GCS血圧:102/48mmHg 脈拍:118回/分(整) 呼吸:24回/分 SpO2:97%(RA)体温:37.9℃ 瞳孔:3/3mm +/+前回までの症例が一段落ついたため、今回は新たな症例です。高齢女性の意識障害です。誰もが経験したことのあるような症例ではないでしょうか。救急外来で多くの患者さんを診ている先生ならば、原因はわかりますよね?!前回までの復習をしながらアプローチしていきましょう。Dr.Sakamotoの10’s Ruleの1~6)を確認(表1)病歴やバイタルサインに重きを置き、患者背景から「○○らしい」ということを意識しながら救急車到着を待ちます。来院時も大きく変わらぬバイタルサインであれば、意識消失ではなく意識障害であり、まず鑑別すべきは低血糖です。低血糖が否定されれば、頭部CTを考慮しますが…。画像を拡大する原因は感染症か否か?病歴やバイタルサインから、なんらかの感染症が原因の意識障害を疑うことは難しくありません。それでは、今回の症例において体温が36.0℃であったらどうでしょうか? 発熱を認めた場合には細菌ウイルスの感染を考えやすいですが、ない場合に疑えるか否か、ここが初療におけるポイントです。この症例は、疫学的にも、そしてバイタルサイン的にも敗血症による意識障害が最も考えやすいですが、その理由は説明できるでしょうか。●Rule7 菌血症・敗血症が疑われたらfever work up!高齢者の感染症は意識障害を伴うことが多い救急外来や一般の外来で出会う感染症のフォーカスの多くは、肺炎や尿路感染症、その他、皮膚軟部組織感染症や腹腔内感染症です。とくに肺炎、尿路感染症の頻度が高く、さらに高齢女性となれば尿路感染症は非常に多く、常に考慮する必要があります。また、肺炎や腎盂腎炎は、意識障害を認めることが珍しくないことを忘れてはいけません。「発熱のため」、「認知症の影響で普段から」などと、目の前の患者の意識状態を勝手に根拠なく評価してはいけません。意識障害のアプローチの最初で述べたように、まずは「意識障害であることを認識!」しなければ、正しい評価はできません。感染症らしいバイタルサイン:qSOFAとSIRS*感染症らしいバイタルサインとは、どのようなものでしょうか。急性に発熱を認める場合にはもちろん、なんらかの感染症の関与を考えますが、臨床の現場で悩むのは、その感染症がウイルス感染症なのか細菌感染症なのか、さらには細菌感染症の中でも抗菌薬を使用すべき病態なのか否かです。救急外来など初療時にはフォーカスがわからないことも少なくなく、病歴や臓器特異的所見(肺炎であれば、酸素化や聴診所見、腎盂腎炎であれば叩打痛や頻尿、残尿感など)をきちんと評価してもわからないこともあります。そのような場合にはバイタルサインに注目して対応しましょう。そのためにまず、現在の敗血症の定義について歴史的な流れを知っておきましょう。現在の敗血症の定義は、「感染による制御不能な宿主反応によって引き起こされる生命を脅かす臓器障害1)」です(図1、2)。一昔前までは「感染症によるSIRS」でしたが、2016年に敗血症性ショックの定義とともに変わりました。そして、敗血症と診断するために、ベッドサイドで用いる術として、SIRS(表2)に代わりqSOFA (quickSOFA)(表3)が導入されました。その理由として、以下の2点が挙げられます。1)なんでもかんでも敗血症になってしまうSIRSの4項目を見ればわかるとおり、2項目以上は簡単に満たしてしまいます。皆さんが階段を駆け上がっただけでも満たしますよね(笑)。実際に感染症以外に、膵炎、外傷、熱傷などSIRSを満たす症候や疾患は多々存在し、さらに、インフルエンザなどウイルスに伴う発熱であっても、それに見合う体温の上昇を認めればSIRSは簡単に満たすため、SIRS+感染症を敗血症と定義した場合には、多くの発熱患者が敗血症と判断される実情がありました。2)SIRSを満たさない重篤な感染症を見逃してしまうSIRSを満たさないからといって敗血症でないといえるのでしょうか。実際にSIRSは満たさないものの、臓器障害を呈した状態が以前の定義(SIRS+感染症=敗血症)では12%程度認められました。つまり、SIRSでは拾いあげられない重篤な病態が存在したということです。これは問題であり、敗血症患者の初療が遅れ予後の悪化に直結します。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大するそこで登場したのがqSOFAです。qSOFAは、(1)呼吸数≧22/分、(2)意識障害、(3)収縮期血圧≦100mmHgの3項目で構成され、2項目以上満たす場合に陽性と判断します。項目数がSIRSと比較し少なくなり、どれもバイタルサインで構成されていることが特徴ですが、その中でも呼吸数と意識障害の2項目が取り上げられているのが超・超・重要です。敗血症に限らず重症患者を見逃さないために評価すべきバイタルサインとして、この2項目は非常に重要であり、逆にこれら2項目に問題なければ、たとえ血圧が低めであっても焦る必要は通常ありません。心停止のアルゴリズムでもまず評価すべきは意識、そして、その次に評価するのは呼吸ですよね。また、これら2項目は医療者自身で測定しなければ正確な判断はできません。普段と比較した意識の変化、代謝性アシドーシスの代償を示唆する頻呼吸を見逃さないように、患者さんに接触後速やかに評価しましょう。*qSOFA:quick Sequential[Sepsis- Related] Organ Failure Assessment ScoreSIRS:Systemic Inflammatory Response Syndrome“No Culture,No Therapy!”:適切な治療のために根拠を残そう!“Fever work up”という言葉を聞いたことがあるでしょうか? 感染症かなと思ったら、必ずフォーカス検索を行う必要があります。熱があるから抗菌薬、酸素化が悪いから肺炎、尿が濁っているから尿路感染症というのは、上手くいくこともありますが、しばしば裏切られて後々痛い目に遭います。高齢者や好中球減少などの免疫不全患者では、とくに症状が乏しいことがあり悩まされます。フォーカスがわからないならば、抗菌薬を投与せずに経過を診るというのも1つの選択肢ですが、重症度が高い場合にはそうも言っていられません。また、前医から抗菌薬がすでに投与されている場合には、さらにその判断を難しくさせます。そのため、われわれが行うべきことは「(1)グラム染色を行いその場で関与している菌の有無を判断する、(2)培養を採取し根拠を残す」の2つです。(1)は施設によっては困難かもしれませんが、施行可能な施設では行わない理由がありません。喀痰、尿、髄液、胸水、腹水など、フォーカスと考えられる場所はきちんと評価し、その目でちゃんと評価しましょう。自信がない人はまずは細菌検査室の技師さんと仲良くなりましょう。いろいろ教えてくださいます。(2)は誰でもできますね。しかし、意外とやってしまうのが、痰が出ないから喀痰のグラム染色、培養を提出しない、髄膜炎を考慮しながらも腰椎穿刺を施行しないなんてことはないでしょうか。肺炎の起因菌を同定する機会があるのならば、痰を出さなければできません。血液培養は10%程度しか陽性になりません、肺炎球菌尿中抗原は混合感染の評価は困難、一度陽性となると数ヵ月陽性になるなど、目の前の患者の肺炎の起因菌を同定できるとは限りません。とにかく痰を頑張って採取するのです。喀出困難であれば、誘発喀痰、吸引なども考慮しましょう。肺炎患者の多くは数日前から食事摂取量が低下しており、脱水を伴うことが多く、外液投与後に喀痰がでやすくなることもしばしば経験します。とにかく採取し検査室へ走り、起因菌を同定しましょう。髄液も同様です。フォーカスがわからず、本症例のように意識障害を認め、その原因に悩むようであれば、腰椎穿刺を行う判断をした方がよいでしょう。不用意に行う必要はありませんが、限られた時間で対応する必要がある場合には、踏ん切りをつけるのも重要です。敗血症の1時間バンドルを遂行しよう!敗血症かなと思ったら表4にある5項目を遂行しましょう。ここではポイントのみ追記しておきます。敗血症性ショックの診断基準にも入りましたが、乳酸値は敗血症を疑ったら測定し、上昇している場合には、治療効果判定目的に低下を入れ、確認するようにしましょう。血圧は収縮期血圧だけでなく、平均動脈圧を評価し管理しましょう。十分な輸液でも目標血圧に至らない場合には、昇圧剤を使用しますが、まず使用するのはノルアドレナリンです。施設毎にシリンジの組成は異なるかもしれませんが、きちんと処方できるようになりましょう。ノルアドレナリンを使用することは頭に入っていても、実際にオーダーできなければ救命できません。バンドルに含まれていませんが重要な治療が1つ存在します。それがドレナージや手術などの抗菌薬以外の外科的介入(5D:drug、drainage、debridement、device removal、definitive controlの選択を適切に行う)です。急性閉塞性腎盂腎炎に対する尿管ステントや腎瘻、総胆管結石に伴う胆管炎に対するERCPなどが代表的です。バンドルの5項目に優先されるものではありませんが、同時並行でマネジメントしなければ一気に敗血症性ショックへと陥ります。どのタイミングでコンサルトするか、明確な基準はありませんが、院内で事前に話し合って決めておくとよいでしょう。画像を拡大する今回の症例を振り返る今回の症例は、高齢女性がqSOFAならびにSIRSを満たしている状態です。疫学的に腎盂腎炎に伴う敗血症の可能性を考えながら、バンドルにのっとり対応しました。もちろん低血糖の否定や頭部CTなども行いますが、以前の症例のように積極的に頭蓋内疾患を疑って撮影しているわけではありません。この場合には、脳卒中以上に明らかな外傷歴はなくても、慢性硬膜下血腫など外傷性変化も考慮する必要があるため施行するものです。尿のグラム染色では大腸菌様のグラム陰性桿菌を認め、腎叩打痛ははっきりしませんでしたが、エコーで左水腎症を認めました。抗菌薬を投与しつつ、バイタルサインが安定したところで腹部CTを施行すると左尿管結石を認め、意識状態は外液投与とともに普段と同様の状態へ改善したため、急性閉塞性腎盂腎炎による敗血症が原因と考え、泌尿器科医と連携をとりつつ対応することになりました。翌日、血液培養からグラム陰性桿菌が2セット4本から検出され、尿培養所見とも合致していたため確定診断に至りました。いかがだったでしょうか。よくある疾患ですが、系統だったアプローチを行わなければ忙しい、そして時間の限られた状況での対応は意外と難しいものです。多くの患者さんの対応をしていれば、原因疾患の検査前確率を正しく見積もることができるようになり、ショートカットで原因の同定に至ることもできると思いますが、それまではコツコツと一つひとつ考えながら対応していきましょう。次回はアルコールや薬剤による意識障害の対応に関して考えていきましょう。1)Singer M, et al. JAMA. 2016;315:801-810.2)Levy MM, et al. Crit Care Med. 2018;46:997-1000

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