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強い骨の形成を促す新しいホルモンを発見

 骨粗鬆症と闘い、骨折を早く治すのに役立つ可能性を秘めたホルモンが、マウスを用いた実験で発見された。それは、CCN3(cellular communication network factor 3)と呼ばれるホルモンで、授乳中の雌マウスの骨量や骨の強度の維持に役立っていることから「母体脳ホルモン(maternal brain hormone)」とも呼ばれている。実験では、CCN3が、年齢や性別にかかわりなく全てのマウスの骨を強化することが確認された。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のHolly Ingraham氏らによるこの研究の詳細は、「Nature」に7月10日掲載された。 骨粗鬆症患者の数は世界で2億人に上る。女性では、特に閉経後に骨の形成を促す女性ホルモンであるエストロゲンレベルが低下するため、骨粗鬆症リスクが上昇する。エストロゲンは授乳中にも低下するが、この時期に骨粗鬆症や骨折が生じることはまれである。このことから、授乳期にはエストロゲン以外の何かが骨の形成を促していると考えられている。 Ingraham氏らは過去の研究で、雌マウスの脳の狭い領域にある特定のニューロンのエストロゲン受容体を遮断することで、骨量が増加することを確認していた。このことから研究グループは、血液中のホルモンが骨の増強に役立っている可能性を考えていたが、新型コロナウイルス感染症パンデミックの影響を受けて、研究は中断されていた。 今回の研究では、特定の遺伝子操作により意図的に遺伝子を変異させた雌マウスを用いて、骨の形成を促すこのホルモンを突き止めるために徹底的な調査が行われた。その結果、CCN3が特定された。CCN3は、ニューロンから分泌されるホルモンの典型的な特徴が該当しないため、Ingraham氏らはこの結果に驚いたと話す。 しかし、この疑問は、授乳中の雌マウスの同じ脳領域でCCN3が発見されたことにより解消されたという。これらの特定のニューロンでCCN3が生成されなければ、授乳中の雌マウスの骨量や骨の強度が急速に低下し、子マウスの体重も減り始めることが確認されたからだ。これは、CCN3が授乳中の母マウスの骨の健康維持に重要な役割を果たしていることを意味する。 さらに、若年成体や高齢の雌雄のマウスを対象に、体内を循環するCCN3の量を増加させたところ、数週間のうちに骨量と骨の強度が劇的に増加することが確認された。また、CCN3を2週間かけてゆっくりと放出するハイドロゲルパッチを作成して、高齢マウスの骨折部位に貼り付けた。その結果、骨の形成が促進され、高齢マウスで通常見られるよりも早いプロセスで治癒することも示された。 論文の責任著者の1人である米カリフォルニア大学デイビス校のThomas Ambrosi氏は、「これまで、このような骨の石灰化と治癒を達成した方法は他になかった」と述べ、「われわれは今後も、このホルモンについての研究を進めること、また、軟骨再生など他の問題に応用する可能性を探ることを心から楽しみにしている」と述べている。

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肺の空洞性病変の鑑別診断(2)[感染症編]【1分間で学べる感染症】第8回

画像を拡大するTake home message肺の空洞性病変の感染症の鑑別診断は多岐にわたる。抗酸菌:結核、非結核性抗酸菌(M. avium、M. kansasiii、M. abscessusなど)細菌:黄色ブドウ球菌、緑色連鎖球菌、ノカルジア、放線菌、クレブシエラ、緑膿菌、Stenotrophomonas、口腔内の嫌気性菌、Legionella non-pneumophila真菌:アスペルギルス、ムーコル、クリプトコッカス寄生虫:エキノコックス、肺吸虫など今回のテーマは、肺の空洞性病変の鑑別診断「感染症編」です。肺の空洞性病変の総論については、前回「CAVITY」で学習しました。今回はその中でも感染症の鑑別診断について深く学習していくことにします。肺の空洞性病変を見たら、まずは肺結核を否定することが何より重要です。しかし、それ以外にも、あらゆる微生物が肺の空洞性病変を呈することが知られています。肺結核以外にも、非定型抗酸菌、具体的にはM.aviumやM. kansasiii、M. abscessusなどが有名です。細菌では、黄色ブドウ球菌、緑色連鎖球菌などのグラム陽性球菌、ノカルジアや放線菌などのグラム陽性桿菌、グラム陰性桿菌ではクレブシエラ、とくに免疫不全者では緑膿菌、Stenotrophomonasなどを鑑別に入れる必要があります。また口腔内の嫌気性菌やレジオネラのnon pneumophilaのタイプが原因となることもあります。真菌では、とくに好中球減少者においてアスペルギルスやムーコル症、またHIVやがんで細胞性免疫が低下している患者ではクリプトコッカスが問題になることがあります。寄生虫では、まれですがエキノコックスや東南アジアからの帰国者では肺吸虫などがあります。肺の空洞性病変を見た際には、疫学的なリスクを考慮しながら結核だけではなく、これらの幅広い病原微生物を考慮することが重要です。1)Harding MC, et al. Fed Pract. 2021;38:465-467.2)Parkar AP, et al. J Belg Soc Radiol. 2016;100:100.

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妊娠初期のコロナ感染・ワクチン接種、児の先天異常と関連せず/BMJ

 妊娠第1三半期(13週+6日)における新型コロナウイルス感染およびワクチン接種は、生児の先天異常のリスクに大きな影響を及ぼさないことが、ノルウェー・公衆衛生研究所のMaria C. Magnus氏らの調査で示された。研究の詳細は、BMJ誌2024年7月17日号で報告された。北欧3ヵ国のレジストリベース前向き研究 研究グループは、妊娠第1三半期における新型コロナウイルス感染およびワクチン接種による主要な先天異常のリスクへの影響の評価を目的に、北欧の3ヵ国でレジストリベースの前向き研究を行った(ノルウェー研究会議[RCN]などの助成を受けた)。 2020年3月1日~2022年2月14日に妊娠したと推定され、スウェーデン、デンマーク、ノルウェーの全国的なレジストリに登録された単胎の生児34万3,066例を対象とした。 先天異常は、欧州先天異常サーベイランス(EUROCAT)の定義に基づいて分類した。妊娠第1三半期における新型コロナウイルス感染およびワクチン接種後のリスクを、母親の年齢、経産回数、教育歴、収入、出身国、喫煙状況、BMI値、慢性疾患、妊娠開始の推定日で補正したロジスティック回帰モデルで評価した。ウイルス変異株によるリスクの違いの解明が必要 1万7,704例(5.2%、516/1万人)の生児が先天異常と診断された。このうち737例(4.2%)では2つ以上の先天異常を認めた。 妊娠第1三半期の新型コロナウイルス感染に関連するリスクの評価では、補正後オッズ比(OR)は、眼球異常の0.84(95%信頼区間[CI]:0.51~1.40)から口腔顔面裂の1.12(0.68~1.84)の範囲であった。 同様に、妊娠第1三半期のCOVID-19ワクチン接種に関連するリスクのORは、神経系異常の0.84(95%CI:0.31~2.31)から腹壁破裂の1.69(0.76~3.78)の範囲だった。 また、先天異常の11のサブグループのうち10のORの推定値は1.04未満であり、顕著なリスク増加はみられなかった。 著者は、「今後、新型コロナウイルスの変異株による先天異常のリスクの違いを解明するための検討を進める必要がある」としている。

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最適な食物繊維は人それぞれ

 これまで長い間、食物繊維の摂取量を増やすべきとするアドバイスがなされてきているが、食物繊維摂取による健康上のメリットは人それぞれ異なることが報告された。単に多く摂取しても、あまり恩恵を受けられない人もいるという。米コーネル大学のAngela Poole氏らの研究によるもので、詳細は「Gut Microbes」に6月24日掲載された。 食物繊維は消化・吸収されないため、かつては食品中の不要な成分と位置付けられていた。しかし、整腸作用があること、および腸内細菌による発酵・利用の過程で、健康の維持・増進につながる有用菌(善玉菌)や短鎖脂肪酸の増加につながることなどが明らかになり、現在では「第六の栄養素」と呼ばれることもある。また糖尿病との関連では、食物繊維が糖質の吸収速度を抑え、食後の急激な血糖上昇を抑制するように働くと考えられている。そのほかにも、満腹感の維持に役立つことや、血圧・血清脂質に対する有益な作用があることも知られている。 本研究では、食物繊維の一種である難消化性でんぷん(resistant starch;RS)を摂取した場合に、腸内細菌叢の組成や糞便中の短鎖脂肪酸の量などに、どのような変化が現れるかを検討した。59人の被験者に対するクロスオーバーデザインで行われ、試行条件として、バナナなどに含まれている難消化性でんぷん(RS2と呼ばれるタイプ)と化学的に合成された難消化性でんぷん(RS4と呼ばれるタイプ)、および易消化性でんぷんという3条件を設定。5日間のウォッシュアウト期間を挟んで、それぞれ10日間摂取してもらった。 解析の結果、難消化性でんぷんの摂取によって腸内細菌叢や短鎖脂肪酸などに大きな変化が生じた人もいれば、あまり変化がない人、または全く変化がない人もいた。それらの違いは、腸内細菌叢の組成や多様性と関連があることが示唆された。研究者らは、「結局のところ、ある人の健康状態を腸内細菌叢へのアプローチを介して改善しようとする場合、どのような種類の食物繊維の摂取を推奨すべきか個別にアドバイスしなければならない」と述べている。 論文の上席著者であるPoole氏は、「過去何十年もの間、全ての人々に対して一律に食物繊維の摂取を推奨するというメッセージが送られてきた。しかし今日では、個人個人にどのような食物繊維の摂取を推奨すべきかを決定する上で役立つであろう、精密栄養学という新しい学問領域が発展してきている」と述べている。今回の研究でも、食物繊維の摂取によって短鎖脂肪酸の産生が増えるか否かは、その人の腸内細菌叢によって左右される可能性が浮かび上がった。また意外なことに、難消化性でんぷんではなく易消化性でんぷんの摂取によって、短鎖脂肪酸が最も増加していた。短鎖脂肪酸は、血糖値やコレステロールの改善に寄与することが明らかになりつつある。 研究者らは、個人の腸内細菌叢の組成を把握することで、その人がどのようなタイプの食物繊維に反応するのかを事前に予測でき、その結果を栄養指導に生かせるようになるのではないかと考えている。「食物繊維や炭水化物にはさまざまなタイプがある。一人一人のデータに基づき最適なアドバイスを伝えられるようになればよい」とPoole氏は語っている。

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第225回 新しい帯状疱疹ワクチンと認知症リスク低下が関連

新しい帯状疱疹ワクチンと認知症リスク低下が関連米国の20万例強の記録を英国オックスフォード大学の研究者らが解析したところ、2017年から同国で使用されるようになった新しい組み換え帯状疱疹ワクチンであるシングリックス接種と認知症を生じ難いことが関連しました1-3)。2006年から使われ始めて7年ほど前まで最も一般的だった別の帯状疱疹ワクチンZostavaxは生きた弱毒化ウイルスを成分とします。何を隠そうZostavaxも認知症が生じ難くなることとの関連が先立つ試験で示されています。しかし今回の新たな結果によると、認知症発現を遅らせるか、ともすると防ぎうるシングリックスの効果はZostavaxに比べて高いようです。帯状疱疹は高齢者の多くに生じる深刻な疾患の1つです。ストレスや化学療法などの免疫を弱らす事態に乗じて体内に潜む水痘帯状疱疹ウイルスが再活性化することを原因とし、痛い皮疹を引き起こし、2次感染や傷跡を残すことがあります。帯状疱疹は加齢につれて生じ易くなることから、高齢者へのそのワクチン接種が必要とされています。米国では50歳、英国では65歳での帯状疱疹ワクチン接種が推奨されています。米国を含む多くの国で帯状疱疹ワクチンは代替わりしてより有効なシングリックスが使われるようになっており、Zostavaxは使われなくなっています。シングリックスは組み換えワクチンであり、病原体のDNAのごく一部を細胞に挿入して作られるタンパク質を成分とします。それらタンパク質が体内で感染予防に必要な免疫反応を引き出します。米国では2017年後半からシングリックスがZostavaxの代わりに使われるようになりました。オックスフォード大学のMaxime Taquet氏らは、その区切り以降にシングリックスを接種した人とそれ以前にZostavaxを接種した人の認知症の生じ易さを比較しました。選ばれた人の数はどちらも10万例強で、平均年齢は71歳です。6年間の経過を追ったところ、シングリックス接種群の認知症の発症率はZostavax接種群に比べて17%低いことが示されました。また、帯状疱疹以外のワクチン(インフルエンザワクチンと3種混合ワクチン)接種群と比べてもシングリックス接種群の認知症発症率は2~3割ほど低く済んでいました。帯状疱疹ワクチンと認知症が生じ難くなることを関連付ける仕組みは不明で、今後調べる必要があります。もしかしたら帯状疱疹の原因ウイルスが認知症を生じ易くし、帯状疱疹ワクチンはそれらウイルスを阻止することで認知症をより生じ難くするのかもしれません2)。または、ワクチン自体が脳に有益な効果をもたらしている可能性もあります。ところで認知症発症率低下との関連は帯状疱疹以外のワクチンでも示されています。結核の予防や膀胱がん治療に使われるBCGワクチンはその1つで、認知症の発症リスクの45%低下との関連が昨年発表されたメタ解析で確認されています4)。BCGワクチンといえば新型コロナウイルス感染症(COVID-19)予防効果がかつて期待されましたが、プラセボ対照無作為化試験でその効果を示すことができませんでした5)。残念な結果になったとはいえBCGワクチンのCOVID-19予防効果は最終的に無作為化試験で検証されました。その試験と同様のシングリックスの認知症予防効果を検証する大規模無作為化試験の構想を今回の結果は促すだろうとTaquet氏らは論文に記しています。参考1)Taquet M, et al. Nat Med. 2024 Jul 25. [Epub ahead of print]2)New shingles vaccine could reduce risk of dementia / University of Oxford 3)Evidence mounts that shingles vaccines protect against dementia / NewScientist4)Han C, et al. Front Aging Neurosci. 2023;15:1243588. 5)Pittet LF, et al. N Engl J Med. 2023;388:1582-1596.

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第203回 新型コロナ感染者数が11週連続増加、厚労省が注意喚起/厚労省

<先週の動き>1.新型コロナ感染者数が11週連続増加、厚労省が注意喚起/厚労省2.日本人の平均寿命、3年ぶりにコロナ死者減少で延びる/厚労省3.脳死診断は脳死患者の3割、臓器提供の意思の尊重を/厚労省4.経口中絶薬の安全性を確認、使用条件の緩和を検討へ/厚労省5.国立大学病院、2023年度決算で60億円赤字で存続の危機/国立大学病院会議6.救急車の安易な利用を抑制、緊急性ない救急搬送に7,700円徴収へ/茨城県1.新型コロナ感染者数が11週連続増加、厚労省が注意喚起/厚労省厚生労働省は、7月26日に7月15~21日までの1週間における新型コロナウイルス感染症の新規感染者数が全国で6万7,334人となり、11週連続で増加していると発表した。全国の定点医療機関当たりの患者報告数は13.62人で、前週から1.22倍に増加。とくに10歳未満の感染者数が最も多く、1医療機関当たり1.75人だった。都道府県別では、佐賀県が31.08人と最も多く、次いで宮崎県(29.72人)、鹿児島県(27.38人)となっている。感染者数が最も少なかったのは青森県(3.89人)、次いで北海道(5.34人)、山形県(6.16人)。全45都道府県で感染者数が増加しており、とくに九州地方での増加が前週に続き顕著だった。新規入院患者数も増加傾向で、21日までの1週間で3,827人となり、前週の3,083人から744人増加した。この数値は過去のピークを超えており、集中治療室(ICU)に入院した患者数も167人と、前週から54人増加していた。厚労省は、増加傾向が続いていることから、今後も感染者数が増える可能性が高いと警戒している。とくにお盆明けが感染拡大のピークになることが多いため、注意が必要とされ、感染対策として、室内の換気やマスクの着用、手洗いの徹底が呼びかけられている。感染症の専門家である東京医科大学の濱田 篤郎客員教授は、九州地方の患者数はピークを迎えつつあるが、本州ではさらに増加する可能性があると指摘している。また、受診控えにより実際の患者数は報告されている以上に多い可能性があるとして、高齢者を中心に早期受診を促している。厚労省は感染者数の増加を受け、治療薬と対症療法薬の安定供給に向けた措置を日本製薬団体連合会に要請した。とくに解熱剤や鎮痛薬、去痰薬の不足が懸念されており、需給状況に応じた適切な増産と早期納品が求められている。厚労省は、今後も感染者数の増加が見込まれる中で、感染拡大の防止に向けた対策を強化する方針であり、感染対策の徹底に加え、医療体制の強化と治療薬の安定供給に向けた取り組みが求められている。参考1)新型コロナ患者数 11週連続増加 “今後も増加か” 厚労省(NHK)2)全国コロナ感染者数、11週連続増 入院者数は昨冬・夏のピーク超え(朝日新聞)3)新型コロナ患者6万7千人、11週連続増加 10歳未満が最多(CB news)2.日本人の平均寿命、3年ぶりにコロナ死者減少で延びる/厚労省7月26日に厚生労働省は「簡易生命表」を公表した。これによると2023年の日本人の平均寿命は、女性87.14歳、男性81.09歳となり、いずれも3年ぶりに前年を上回った。前年度と比較して女性は0.05歳、男性は0.04歳延長していた。いずれも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死亡者数が減少したことなどが影響したと考えられる。2023年のCOVID-19による死者数は3万8,080人で、前年から約1万人減少し、これが平均寿命の延びに寄与したと推定されている。また、がんによる死者数も減少し、2022年の38万5,797人から2023年は38万2,492人へと減少した。国際的な比較では、日本人女性の平均寿命は39年連続で世界1位を維持し、スイス(85.9歳)、フランス(85.75歳)が続く。男性では1位がスイス(82.3歳)、スウェーデン(81.58歳)、ノルウェー(81.39歳)、オーストラリア(81.22歳)と続き、前年の4位から5位に後退した。厚労省は「新型コロナが原因で亡くなる人が減少したことが、平均寿命の延びに寄与した。今後も高い保健水準を維持し、保健福祉の推進に全力を尽くす」としている。参考1)令和5年簡易生命表の概況(厚労省)2)日本人の平均寿命延びる 女性87.14歳 男性81.09歳 理由は…(NHK)3)平均寿命、3年ぶりに延びる 女性87.14歳、男性81.09歳に(朝日新聞)3.脳死診断は脳死患者の3割、臓器提供の意思の尊重を/厚労省厚生労働省は、厚生科学審議会 疾病対策部会臓器移植委員会を7月26日に開き、2022年度における脳死下での臓器提供の現状について、厚労省研究班の調査結果を明らかにした。これによると脳死の可能性がある患者のうち実際に「脳死とされうる状態」と診断されたのは約30%で、臓器提供の意思が尊重されるケースはさらに限られることが明らかになった。全国の医療機関に対する調査では、脳死の可能性がある患者は年間約4,400人と推計されたが、実際に脳死診断を受けたのは約1,300人、そのうち臓器提供の意思が確認されたのは25.2%に止まった。日本移植学会は、脳死者からの臓器移植手術を行う大学病院が人員や病床不足のために臓器受け入れを断念する問題に対し、「移植を待つ患者の権利を尊重し、確実に移植を実施できる医療体制の確立」を求める提言を策定した。同学会の調査では、昨年、東京大学、京都大学、東北大学の3大学病院で62件の臓器受け入れが断念されたことが判明した。厚生労働省の臓器移植に関する専門家委員会では、脳死下での臓器移植が実現されるためには、専門のコーディネーターや医療機関スタッフの不足が大きな課題となっていると指摘されたほか、臓器提供の意思が示されても、対応するための体制が整っていないため、多くのケースでその意思が尊重されない可能性があることが明らかになった。委員会では、移植の実施体制の見直しを進めるため、今年度中に具体的な方針をまとめる予定。参考1)今後の臓器移植医療のあり方について(厚労省)2)脳死診断は年間30% 臓器提供の意思確認が少ない背景には…(毎日新聞)3)脳死の臓器移植“提供側意思尊重されず”体制見直し方針策定へ(NHK)4)「確実な移植へ医療体制を確立」…大学病院の受け入れを断念問題で日本移植学会が提言(読売新聞)4.経口中絶薬の安全性を確認、使用条件の緩和を検討へ/厚労省2023年4月に承認された人工妊娠中絶用製剤「ミフェプリストン・ミソプロストール(商品名:メフィーゴパック、製造販売元:ラインファーマ)」が、承認から約半年間で少なくとも435例使用されたことが国の研究班の調査で明らかになった。この薬は妊娠9週までの人工妊娠中絶に用いられ、手術を必要とせず2種類の薬について時間を空けて服用することで中絶が完了する。調査によると、大きな合併症は報告されておらず、安全に使用されていることが確認された。調査は日本産婦人科医会の中井 章人副会長を中心に行われ、全国の2,000余りの医療機関から回答を得た。結果、昨年10月までの半年間に「メフィーゴパック」を使用したのは43施設で、症例数は435例。このうち396例は薬の服用のみで中絶が完了し、39例は追加の手術が必要だったが、重篤な合併症や他の医療機関への搬送はなかった。この調査結果を受け、厚生労働省は「メフィーゴパック」の使用条件を緩和する方針を明らかにした。現在は入院可能な医療機関でのみ使用が許可されているが、今後は無床診療所でも使用できるようにする。これには、緊急連絡体制の確保や医療機関との連携が条件となる。また、医療機関の近くに住む場合は帰宅も認められるが、中絶確認のために1週間以内に再来院が必要となる。調査では、手術よりも安全であることが示されており、無床診療所でも使用可能にすることで女性の選択肢が増えると期待される。厚労省では、この方針を軸に8月にも専門部会で要件の変更を議論する予定。参考1)経口中絶薬、無床診療所でも使用方針 実態調査で「重い合併症なし」(朝日新聞)2)“経口中絶薬” 承認から約半年 少なくとも435件使用 国が調査(NHK)3)人工妊娠中絶の飲み薬「メフィーゴパック」を無床診療所でも使用可能に…厚労省が見直し案(読売新聞)5.国立大学病院、2023年度決算で60億円赤字で存続の危機/国立大学病院長会議7月26日に国立大学病院長会議は、全国の42国立大学病院のうち約半数にあたる22病院が2023年度の経常損益で赤字となったことを明らかにした。全体でも約60億円の赤字となり、2004年の法人化以降初の赤字決算となった。赤字の主な原因は、人件費や医療費の増加、物価高騰、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連補助金の廃止などが挙げられる。病院全体の収益は2010年度以降増加し続け、2023年度も前年度比で184億円増の1兆5,657億円となった。しかし、働き方改革に伴う人件費や医薬品費、材料費の増加、COVID-19対策に関する補助金の廃止が影響し、収益は増えたものの利益が減少した。とくに光熱水費の増加が大きく、COVID-19拡大前の5年間と比較して約98億円の増加となった。国立大学病院長会議の大鳥 精司会長は、「病院の経常赤字は非常に大きく、危機的状況にある」と述べ、2024年度にはさらに赤字幅が拡大する見通しを示した。病院経営が困難な状況にある一因として、病院の収益の6割が大学全体の経営を支える構造にあるため、病院が経営破綻すると大学自体の存続に関わると強調した。これに対し、国立大学協会も国立大学の財務状況について「限界」とし、国民に理解を求める声明を発表している。声明では、運営費交付金の削減と物価高騰による実質的な予算減少が指摘された。大鳥会長は、病院を持つ国立大学に対する運営費交付金の増額を求めるなど、経営改善のための具体策を求めた。一方、一部で検討されている国立大学の授業料引き上げについては、「病院の赤字補填のためとしては合意が得られない」として否定的な見方を示した。参考1)国立大病院の半数が赤字 全体でも法人化後初の赤字 2023年度(毎日新聞)2)国立大学病院、23年度の経常損益60億円のマイナス 04年度の法人化後初の赤字 速報値(CB news)6.救急車の安易な利用を抑制、緊急性ない救急搬送に7,700円徴収へ/茨城県茨城県は、緊急性がないにもかかわらず救急車を利用した患者から「選定療養費」として7,700円以上を徴収することを12月1日から運用するという方針を発表した。これは全国で初めて都道府県単位で導入される取り組みで、救急車の適正な利用を促し、増加傾向にある救急車の出動件数を抑える狙いがある。茨城県内の救急車出動件数は、2023年に約14万件に達し、そのうち約6万件は入院を必要としない軽症者だった。県内23病院がこの徴収制度に前向きな姿勢を示しており、緊急性を判断する基準を作成し、制度の運用に備える。具体的な緊急性のない事例として「包丁で指先を切り、血がにじんだ」や「発熱、咽頭痛、頭痛の症状」などが挙げられている。記者会見で茨城県知事の大井川 和彦氏は、「救急車が無料のタクシー代わりになっている現状は憂慮すべきだ。本当に必要な人に救急医療が提供できるよう協力をお願いしたい」と述べた。また、医師の働き方改革や診療体制の縮小に伴う医療現場の負担軽減も理由に挙げられている。この取り組みは、救急車を無料のタクシー代わりに利用するケースを減らし、重症患者に対して迅速な救急医療を提供するためのものである。救急車の安易な利用を抑えるために、電話相談窓口の利用も呼びかけている。茨城県は、15歳以上は「#7119」、15歳未満は「#8000」の相談窓口を設け、救急車を呼ぶべきか判断に迷った際の支援を行う方針。茨城県のこの新しい取り組みは、救急医療の逼迫を抑え、医療資源の適正な配分を目指す重要な一歩となる。今後、他の都道府県でも同様の取り組みが広がることが予想される。参考1)救急搬送における選定療養費の取扱いについて(茨城県)2)緊急性ないのに救急車利用、患者から7,700円徴収 安易な利用減へ(朝日新聞)3)「救急車を無料タクシー代わり」撲滅へ 緊急性ない救急搬送は7,700円徴収…茨城県が12月運用目指す(東京新聞)4)緊急性認められない救急搬送、7,700円以上徴収へ 茨城(毎日新聞)

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日本人で増加傾向の口腔がん、その最大要因とはー診療ガイドライン改訂

 『口腔癌診療ガイドライン2023年版 第4版』が昨年11月に4年ぶりに改訂された。口腔がんは歯科医も治療を担う希少がんだが、口腔がんを口内炎などと見間違われるケースは稀ではないという。そこで今回、日本口腔腫瘍学会学術委員会『口腔癌診療ガイドライン』改定委員会の委員長を務めた栗田 浩氏(信州大学医学部歯科口腔外科学 教授)に口腔がんの疫学や鑑別診断などについて話を聞いた。 本ガイドライン(以下、GL)では、日常的に出くわす臨床疑問に対してClinical Question(CQ)を設定、可能な限りのエビデンスを集め、GRADEアプローチに準じ推奨を提案している。希少がんであるがゆえ、少ないエビデンスから検証を行っていることもあり、FRQ(future research question)やBQ(background question)はなく、すべてがCQだ。同氏は「アナログな手法ではあるが、システマティック・レビューで明らかになっているCQの “隙間を埋める”ように、明らかにされていない部分のCQを作成し、全部で60個を掲載した」と作成経緯を説明した。口腔がん、日本人で多い発生部位やその要因 口腔がんとは、顎口腔領域に発生する悪性腫瘍の総称である。病理組織学的に口腔がんの90%以上は扁平上皮がんであり、そのほかには小唾液腺に由来する腺系がんや肉腫、悪性リンパ腫、転移性がんなどがあるが、本GLでは最も頻度が高い口腔粘膜原発の扁平上皮がんを「口腔がん」として記している。 口腔がんの好発年齢は50歳以降で加齢とともに増加し、男女比3:2と男性に多いのが特徴である。これまで国内罹患数は年間5,000~8,000人で推移していたが、近年の罹患数は年間1万人と増加傾向にあるという。これについて栗田氏は「もともと世界的にはインドや欧州での罹患率が高いが、日本人で増えてきているのは高齢化が進んでいることが要因」とコメントした。部位別発生率については、2020年の口腔がん登録*の結果によると、舌(47.1%)、下顎歯肉(18.4%)、上顎歯肉(11.9%)、頬粘膜(8.6%)、口底(6.6%)、硬口蓋(2.6%)、下顎骨中心性(1.7%)、下唇(0.8%)で、初診時の頸部リンパ節の転移頻度は25%、遠隔転移は1%ほどである。*日本口腔外科学会および日本口腔腫瘍学会研修施設における調査。扁平上皮がん以外も含む。 また、口腔がんの場合、口腔以外の部位にがんが発生(重複がん)することがあり、重複がんの好発部位と発生頻度は上部消化管がんや肺がんが多く、11.0~16.2%に認められる。これはfield cancerizationの概念1,2)で口腔と咽頭、食道は同一の発がん環境にあると考えられているためである(CQ1、p.80)。 これまで、全国がん登録を含め口腔がんの統計は口腔・咽頭を合算した罹患数の集計になっていたため、口腔がん単独としては信頼性の高いデータは得られていなかった。同氏は「咽頭がんと口腔がんでは性質が異なるので別個の疾患として捉えることが重要」と、口腔がんと咽頭がんは別物であることを強調し、「本GLに記されている罹患率は口腔がん登録のものを記しているため、全国がん登録の罹患状況とは異なる。その点に注意して本GLを手に取ってもらいたい。今後、口腔がんに特化したデータの収集を行うためにも口腔がん登録が厳正に進むことを期待する」と説明した。口腔がんが疑われる例、現在の治療法 口腔がんが生じやすい部位や状態は、舌がん、歯肉がん、頬粘膜がんの順に発生しやすく、鑑別に挙げられる疾患として口内炎、歯肉炎、入れ歯による傷などがある。「もし、口内炎であれば通常は3~4日、長くても2週間で治る。この期間に治らない場合や入れ歯が合わないなどの原因をなくしても改善しない場合、そして、白板症、紅板症のような前がん病変が疑われる場合は歯科や口腔外科へ紹介してほしい。またステロイド含有製剤の長期投与はカンジダなど別疾患の原因となる可能性もあり避けてほしい」と話した。 口腔がんの治療は主に外科療法で、口腔を含む頭頸部がんにも多くの薬剤が承認されているが、薬物療法のみで根治が得られることは稀である。再発リスク因子(頸部リンパ節節外進展やその他リスク因子)がある場合には、術後化学放射線療法や術後放射線療法を行うことが提案されている(CQ33、p.146)。外科手術や放射線療法の適応がない切除不能な進行がんや再発がんにおいては、第1選択薬としてペムブロリズマブ/白金製剤/5-FUなどが投与されるため、がん専門医と連携し有害事象への対応が求められる。口腔がんの予防・早期発見、まずは口腔内チェックから 口腔がんの主な危険因子(CQ2~4、p.81~85)として喫煙や飲酒、合わない入れ歯による慢性的な刺激、そしてウイルス感染(ヒトパピローマウイルス[HPV]やヒト免疫不全ウイルス[HIV]など)が挙げられるが、「いずれも科学的根拠が乏しい。早期発見が最も重要であり、50歳を過ぎたら定期的な口腔内チェックが重要になる」と強調した。 現在、口腔以外の疾患で入院している患者では周術期などの口腔機能管理(口腔ケア、栄養アセスメントの観点からの口腔内チェックなど)が行われており、その際に口腔がんが発見されるケースもある。健康で病院受診をしていない人の場合には、近年では各歯科医師会主導の集団検診や人間ドックのオプションとして選択することがリスク回避の場として推奨される。同氏は「歯周病検診は口腔機能をチェックするために、口腔がん検診は生活習慣病の一貫として受けてほしい。口腔がん検診は目に見えるため容易に行えるほか、前がん病変、口腔扁平苔癬、鉄欠乏性貧血、梅毒による前がん状態などの発見にもつながる」と説明した。 最後に同氏は「口腔がんは簡単に見つけられるのに、発見機会が少ないがゆえに発見された時点で進行がんになっていることが多い。進行がんでは顔貌が変化する、食事は取りづらい、しゃべることが困難になるなど、人間の尊厳が奪われ、末期は悲惨な状況の患者が多い。そのような患者を一人でも減らすためにも早期発見が非常に重要」とし、「診察時に患者の話し方に違和感を覚えたり、食事量の低下がみられたりする場合には、患者の口腔変化を疑ってほしい」と締めくくった。

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ニルマトレルビル・リトナビル、曝露後予防の効果なし/NEJM

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の家庭内接触者を対象に、ニルマトレルビル・リトナビルの曝露後予防の有効性および安全性を検討した第II/III相無作為化二重盲検プラセボ対照試験の結果、ニルマトレルビル・リトナビルの5日間または10日間投与はいずれも、症候性COVID-19発症リスクの有意な低下が認められなかった。米国・PfizerのJennifer Hammond氏らが報告した。COVID-19治療薬の臨床試験では、これまで曝露後予防の有効性は示されていなかった。NEJM誌2024年7月18日号掲載の報告。COVID-19家庭内接触後96時間以内で無症状かつ迅速抗原検査陰性の成人が対象 研究グループは、無作為化前96時間以内にCOVID-19患者と家庭内接触があり、無症状かつSARS-CoV-2迅速抗原検査陰性の成人を、ニルマトレルビル・リトナビル(ニルマトレルビル300mg、リトナビル100mg)の5日間投与群、10日間投与群、またはプラセボ群(5日間または10日間投与)に1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、ベースラインでRT-PCR検査が陰性であった参加者(解析対象集団)における、14日目までの症候性COVID-19の発症(RT-PCR検査または迅速抗原検査でSARS-CoV-2感染を確認)であった。 2021年9月9日~2022年4月12日に、計2,736例が5日間投与群921例、10日間投与群917例、およびプラセボ群898例に無作為化された。症候性COVID-19発症率にプラセボ群と有意差認められず 投与14日目までのRT-PCR検査または迅速抗原検査でSARS-CoV-2感染が確認された症候性COVID-19の発症率は、5日間投与群2.6%(22/844例)、10日間投与群2.4%(20/830例)、プラセボ群3.9%(33/840例)であった。 プラセボ群に対する相対リスクの減少は、5日間投与群で29.8%(95%信頼区間[CI]:-16.7~57.8、p=0.17)、10日間投与群で35.5%(-11.5~62.7、p=0.12)であり、統計学的な有意差は認められなかった。 有害事象の発現率は、5日間投与群23.9%(218/912例)、10日間投与群23.3%(212/911例)、プラセボ群21.7%(195/898例)で、いずれも同程度であった。最も発現率が高かった有害事象は味覚障害で、それぞれ5.9%、6.8%、0.7%であった。 なお著者は、ニルマトレルビル・リトナビルの独特の味による盲検化への影響、COVID-19患者に関する診断や治療に関する詳細なデータの不足、家庭内の他の家族の影響などを本研究の限界として挙げている。

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新型コロナ感染時、外出を控える推奨期間

新型コロナウイルス感染症に感染した場合の考え方①(5類感染症移行後)5類感染症に移行後、新型コロナ患者は法律に基づく外出自粛は求められません。外出を控えるかどうかは、個人の判断に委ねられます。新型コロナウイルス感染症を他の人にうつすリスクは?⚫ 一般的に、発症2日前から発症後7~10日間はウイルスを排出しているといわれている(症状軽快後もウイルスを排出しているといわれている)。⚫ 発症後3日間は感染性のウイルスの平均的な排出量が非常に多く、5日間経過後は大きく減少する。⚫ とくに発症後5日間が他人に感染させるリスクが高いことに注意。新型コロナにかかったとき、外出を控えることが推奨される期間は?⚫ 発症日を0日目(無症状の場合は検体採取日)として5日間は外出を控え、5日目に症状が続いていた場合は、熱が下がり痰や喉の痛みなどの症状が軽快して24時間程度が経過するまでは外出を控え様子を見ることが推奨される。⚫ 発症後10日間は不織布マスクを着用したり、高齢者などハイリスク者と接触は控えるなど、周りの人に配慮する。10日を過ぎても咳やくしゃみなどの症状が続く場合は、マスク着用など咳エチケットを心がける。厚生労働省ホームページ「新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について」(https://www.mhlw.go.jp/stf/corona5rui.html)より抜粋Copyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.新型コロナウイルス感染症に感染した場合の考え方②(5類感染症移行後)5類感染症に移行後、新型コロナ患者は法律に基づく外出自粛は求められません。外出を控えるかどうかは、個人の判断に委ねられます。家族が新型コロナウイルス感染症にかかったときは?⚫ 家族・同居人が新型コロナにかかったら、可能であれば部屋を分け、感染者の世話はできるだけ限られた人で行う。⚫ 外出する場合、新型コロナにかかった人の発症日を0日として、とくに5日間は自身の体調に注意する。7日目までは発症する可能性がある。その間、手洗いなどの手指衛生や換気などの基本的感染対策のほか、不織布マスクの着用や高齢者などハイリスク者と接触を控える。【参考】位置付け変更前との違い位置付け変更前感染症法に基づき外出自粛を求められる期間位置付け変更後(2023年5月8日~)外出を控えることが推奨される期間(個人の判断)新型コロナ陽性者(有症状)発症日を0日目として、発症後7日間経過するまで発症日を0日目として、発症後5日間経過するまで新型コロナ陽性者(無症状)・5日目の抗原定性検査キットによる陰性確認・検査を行わない場合は7日間経過するまで検査採取日を発症日(0日)として、5日間経過するまで濃厚接触者5日間の外出自粛なしかつ、症状軽快から24時間経過するまでの間厚生労働省ホームページ「新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について(https://www.mhlw.go.jp/stf/corona5rui.html)より抜粋Copyright © 2024 CareNet,Inc. All rights reserved.

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コロナ罹患後症状の累積発生率、変異株で異なるか/NEJM

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染後に生じる罹患後症状(postacute sequelae of SARS-CoV-2 infection:PASC)は多くの臓器システムに影響を及ぼす可能性がある。米国・退役軍人省セントルイス・ヘルスケアシステムのYan Xie氏らは、パンデミックの間にPASCのリスクと負担が変化したかを調べた。感染後1年間のPASC累積発生率はパンデミックの経過に伴って低下したが、PASCのリスクはオミクロン株が優勢になった時期のワクチン接種者においても依然として持続していることが示された。NEJM誌オンライン版2024年7月17日号掲載の報告。各株優勢期別に、SARS-CoV-2感染後1年間のPASC累積発生率を推定 研究グループは、退役軍人省の健康記録を用いて、COVID-19パンデミックのプレデルタ株優勢期、デルタ株優勢期、オミクロン株優勢期におけるSARS-CoV-2感染後1年間のPASC累積発生率を推定した。 試験集団は、2020年3月1日~2022年1月31日にSARS-CoV-2に感染した退役軍人44万1,583例と、同時期の非感染対照474万8,504例で構成された。ワクチン接種者のオミクロン株優勢期とデルタ株優勢期の差は-1.83件/100人 ワクチン非接種のSARS-CoV-2感染者において、感染後1年間のPASC累積発生率は、プレデルタ株優勢期では10.42件/100人(95%信頼区間[CI]:10.22~10.64)、デルタ株優勢期では9.51件/100人(9.26~9.75)、オミクロン株優勢期では7.76件/100人(7.57~7.98)であった。オミクロン株優勢期とプレデルタ株優勢期の差は-2.66件/100人(-2.93~-2.36)、オミクロン株優勢期とデルタ株優勢期の差は-1.75件/100人(-2.08~-1.42)であった。 ワクチン接種者では、1年時点のPASC累積発生率は、デルタ株優勢期では5.34件/100人(95%CI:5.10~5.58)、オミクロン株優勢期では3.50件/100人(3.31~3.71)で、オミクロン株優勢期とデルタ株優勢期の差は-1.83件/100人(-2.14~-1.52)であった。 1年時点のPASC累積発生率は、ワクチン接種者が非ワクチン接種者よりも低く、デルタ株優勢期では-4.18件/100人(95%CI:-4.47~-3.88)、オミクロン株優勢期では-4.26件/100人(-4.49~-4.05)であった。 分解分析の結果、オミクロン株優勢期ではプレデルタ株優勢期とデルタ株優勢期を合わせた時期よりも、1年時点の100人当たりのPASCイベント数が5.23件(95%CI:4.97~5.47)少ないことが示された。減少分の28.11%(95%CI:25.57~30.50)は、優勢期に関連した影響(ウイルスの変化やその他の時間的影響)によるものであり、71.89%(69.50~74.43)はワクチンによるものであった。

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なぜ子どもはコロナが重症化しにくいのか

 子どもというものは、しょっちゅう風邪をひいたり鼻水が出ていたりするものだが、そのことが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による重症化から子どもを守っている可能性のあることが、米イェール大学医学部准教授のEllen Foxman氏らの研究で示された。この研究結果は、「Journal of Experimental Medicine」に7月1日掲載された。 COVID-19パンデミックを通して、子どもは大人よりもCOVID-19が重症化しにくい傾向があると指摘されていたが、その理由は明確になっていない。Foxman氏は、「先行研究では、子どもの鼻腔内の自然免疫の亢進は、小児期にのみ見られる生物学的なメカニズムによって生じることが示唆されていた。しかし、われわれは、子どもにおける呼吸器系ウイルス細菌感染による負荷の高さも鼻腔内の自然免疫の亢進に寄与している可能性があると考えた」と言う。自然免疫系は、生まれつき体に備わっている、細菌ウイルスに対する防御システムだ。体は抗体を作り出すことで、より標的を絞った免疫反応を起こす一方で、自然免疫系は抗ウイルス性タンパク質と炎症性タンパク質を速やかに産生して、感染から体を守る働きを担っている。 Foxman氏らは今回、子どもでの頻繁な呼吸器感染症への罹患が鼻の自然免疫を高めるかどうかを調べるため、467点の鼻腔ぬぐい液検体の再分析を行った。これらの鼻腔ぬぐい液は、COVID-19パンデミック中の2021年から2022年にかけて、手術前のスクリーニング検査を受けた子どもや救急部門で診療を受けた子どもから採取されたものだった。研究グループは、上気道感染症の原因となる16種類の呼吸器系ウイルスと3種類の細菌について調べるとともに、自然免疫系によって産生されるタンパク質の量を測定した。 サンプルから最も多く検出されたウイルスは、2021年6〜7月ではライノウイルス(176検体中43点、24.4%)であり、2022年1月では新型コロナウイルス(291検体中65点、22.3%)であった。しかし、同時期にその他のウイルス感染が確認された検体も一定数あり、全体でのウイルス陽性率は、2021年6〜7月で38.6%、2022年1月で36.4%であった。また、RT-PCR検査でウイルスまたは病原性のある細菌、あるいはその両方について陽性と判定された検体に5歳未満の子どもの検体が占める割合は高く、2021年6〜7月で66.2%(51/77点)、2022年1月では53.3%(155/291点)であった。さらに、呼吸器系ウイルス細菌の量が多い子どもでは、鼻腔内の自然免疫活性レベルも高いことが示された。 Foxman氏らがさらに、乳児健診時とその7〜14日後に健康な1歳児から採取された鼻腔ぬぐい液を調べた。その結果、いずれかの時点で何らかの呼吸器系ウイルスの感染が陽性と判定されていた子どもが半数以上を占めており、そのほとんどのケースで、自然免疫活性は、感染時には高まり非感染時には低下することが明らかになった。Foxman氏は、「このことから、低年齢の子どもでは、鼻の中でのウイルスに対する防御機構は常に厳戒態勢にあるのではなく、呼吸器系ウイルスの侵入に反応して活性化すること、そのウイルスが症状を引き起こしていない場合でも活性化することが明らかになった」と話す。 これらの結果は、子どもはライノウイルスのような比較的無害な呼吸器系ウイルスに感染することが多いため、自然免疫系が頻繁に、強く活性化されることを示している。 Foxman氏は、子どもが季節性ウイルスに頻繁に感染するのは、感染により得られる抗体が築かれていないのが理由ではないかとの考えを示している。新型コロナウイルスは新型のウイルスであったため、パンデミック発生時に感染を防御する抗体を持つ人は1人もいなかった。Foxman氏らは、「このような状況で、他の感染症によって子どものウイルスに対する防御機構が活性化され、これが新型コロナウイルスへの感染を初期段階で阻止することに寄与した可能性がある。さらに、そのことが、成人と比べて子どもでは重症度が低いという転帰につながったと考えられる」とニュースリリースの中で述べている。 Foxman氏は、季節性ウイルスや鼻腔内の細菌がCOVID-19の重症度にどのような影響を与えるのかについて、今後さらなる研究で検討する必要があると話している。

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重症敗血症患者におけるβ-ラクタム系抗菌薬持続投与の有用性(BLING III)(解説:寺田教彦氏)

 β-ラクタム系抗菌薬は「時間依存性」の抗菌薬であり、薬物動態学/薬力学(PK/PD)理論からは投与時間を延ばして血中濃度が細菌の最小発育阻止濃度(MIC)を超える時間(time above MIC)が長くなると、効果が高まることが期待される。β-ラクタム系抗菌薬の持続投与(投与時間延長)は、薬剤耐性菌の出現率低下や、抗菌薬総投与量を減らすことで経済的な利益をもたらす可能性があるが、抗菌薬の持続投与(あるいは、投与時間延長)の欠点も指摘されている。たとえば、抗菌薬の持続投与では、経静脈的抗菌薬投与のために血管内デバイスやラインを維持する必要があり、血管内デバイス留置に伴うカテーテル関連血流感染症(CRBSI)のリスク増加や、同一ラインから投与する薬剤での配合変化に注意しなければならない可能性がある。また、薬剤の持続投与では患者行動に制限が生じたり、看護師の負担増加や、抗菌薬の安定性に注意したりする必要もある。また、理論上の話ではあるが、カルバペネム系抗菌薬などではPAE(postantibiotic effect)効果も期待される(Hurst M, et al. Drugs. 2000;59:653-680.)ため、持続投与は必須ではないのではないかとの意見もある。 重症敗血症患者に対するβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与(あるいは、投与時間延長)は、これまで多くの臨床試験が行われてきたが、決定的なエビデンス確立には至ってはいない。代表的なガイドラインの記述「Surviving sepsis campaign guidelines(SSCG)2021」では、敗血症または敗血症性ショックの成人に対して維持(最初のボーラス投与後)のために、従来のボーラス注入よりもβ-ラクタムの長期注入を用いることを提案する(弱い、中等度の質のエビデンス)としており(Evans L, et al. Intensive Care Med. 2021;47:1181-1247.)、米国感染症学会(IDSA)を含めた国際的コンセンサス勧告では、重症成人患者、とくにグラム陰性桿菌患者における死亡率の低減や臨床治癒率向上のために、β-ラクタム系抗菌薬の長期注入を推奨する(条件付き推奨、非常に弱いエビデンス)(Hong LT, et al. Pharmacotherapy. 2023;43:740-777.)、「日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG2024)」では、敗血症に対するβ-ラクタム系抗菌薬は、持続投与もしくは投与時間の延長を行うことを弱く推奨する(GRADE 2B)としている「The Japanese Clinical Practice Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2024」。 直近では、2024年6月号のJAMA誌に本研究も含まれたシステマティックレビューとメタ解析結果が掲載されており、ICUに入室した成人重症感染症患者におけるβ-ラクタム系抗菌薬の長期注入と間欠投与の比較で、長期投与の有効性を示す報告がされていた(ジャーナル四天王「重症敗血症へのβ-ラクタム系薬、持続投与vs.間欠投与~メタ解析/JAMA 」)(Abdul-Aziz MH, et al. JAMA. 2024 Jun 12. [Epub ahead of print])。 本BLING III試験は、7ヵ国の104の集中治療室で実施した非盲検無作為化第III相試験で、敗血症患者7,031例(持続投与群:3,498例、間欠投与群:3,533例)と、敗血症患者におけるβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与に関する研究としては患者登録数が最大の試験であり、β-ラクタム系抗菌薬持続投与の有用性の有無に結論が出ることが期待されていた(Abdul-Aziz MH, et al. JAMA. 2024 Jun 12. [Epub ahead of print])。 本研究結果は「重症敗血症へのβ-ラクタム系薬投与、持続と間欠の比較(BLING III)/JAMA」に示されたとおりで、β-ラクタム系抗菌薬の持続投与により死亡率の有意な低下は示すことができなかったが、持続投与群で90日死亡率は2%低く、臨床的治癒率が6%高かった。潜在的に有効性のある患者がいる可能性はあり、筆者の主張するとおり、今回の患者集団におけるβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与には重要な効果がない可能性と、臨床的に重要な有益性のある可能性が共に含まれるという解釈に同意したい。 本研究結果からは、重症敗血症患者に対してβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与が有益な可能性が残るが有意差は示せず、残念ながらβ-ラクタム系抗菌薬の持続投与の是非を結論付けられなかった。β-ラクタムの種類や患者・微生物因子等によっては持続投与も含めた長期注入のほうが予後良好となる可能性はあり、今後も患者や医療従事者の状況を勘案して、持続投与も含めた長期注入は検討してもよいのかもしれない。 本研究結果では明確に示されなかったものの、β-ラクタム系抗菌薬の長期注入が予後改善につながる可能性は残ると考えられ、引き続きβ-ラクタム系抗菌薬の長期注入による臨床的影響の調査結果を期待したい。また、今回は重症敗血症患者に対する、β-ラクタム系抗菌薬の持続投与の有効性と調査するため、患者背景を重症敗血症、抗菌薬はピペラシリン・タゾバクタムとメロペネムが対象とされたが、原因微生物や抗菌薬の種類によっては長期注入のメリットが明らかになるかもしれない。抗菌薬の適切な投与方法について、引き続き新規の研究結果を待ちたいと考える。

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英語で「不意を突かれる」は?【1分★医療英語】第140回

第140回 英語で「不意を突かれる」は?《例文1》We will monitor fungal infections so that we will not be caught off guard.(不意を突かれて不利にならないように、真菌感染は持続的に監視します)《例文2》We still cannot let our guard down.(まだ安心できません)《解説》“catch A off guard”という表現は、何か予期しない出来事や情報に対して驚きや戸惑いを感じるときに使われます。直訳すると「Aが油断した状態で捕らえられる」といった意味になりますが、より広く「思いがけない出来事」や「予期せぬ状況」に対する感情的な反応を表現します。医療現場では、予期しない悪い検査結果を知らされたときなどによく使われます。“deer in the headlights”(車のヘッドライトに照らされた鹿=ショック状態になる、呆然とする)も、この類似表現です。日本語では「蛇ににらまれたカエル」が近いニュアンスでしょうか。“be caught off guard”は「不意を突かれて不利な状態になる」という意味でも頻用され、予防的な検査や治療をする際の説明などに使うことができます《例文1》。“guard”を使った表現としては、“let our guard down”は「(安心して)防御を下げる」という意味になり、こちらも頻用されています《例文2》。講師紹介

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コロナ変異株KP.3のウイルス学的特徴、他株との比較/感染症学会・化学療法学会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第11波が到来したか――。厚生労働省が7月19日時点に発表した「新型コロナウイルス感染症の定点当たり報告数の推移」によると、都道府県別では、沖縄、九州、四国を中心に、定点当たりの報告数が第10波のピークを上回る地域が続出している1)。全国の定点当たりの報告数は11.18となり、昨年同期(第9波)の11.04を超えた2)。また、東京都が同日に発表したゲノム解析による変異株サーベイランスによると、7月18日時点では、全体の87%をKP.3(JN.1系統)が占めている3)。KP.2やJN.1を合わせると、JN.1系統が98.7%となっている。 東京大学医科学研究所システムウイルス学分野の佐藤 佳氏が主宰する研究コンソーシアム「G2P-Japan(The Genotype to Phenotype Japan)」は、感染拡大中のKP.3、および近縁のLB.1と KP.2.3の流行動態や免疫抵抗性等のウイルス学的特性について調査した。その結果、これらの親系統のJN.1と比べ、自然感染やワクチン接種により誘導された中和抗体に対して高い逃避能や、高い伝播力(実効再生産数)を有することが判明した4)。6月27~29日に開催の第98回日本感染症学会学術講演会 第72回日本化学療法学会総会 合同学会にて結果を発表した。本結果はThe Lancet Infectious Diseases誌オンライン版2024年6月27日号に掲載された。 本研究ではJN.1より派生したKP.3、LB.1、KP.2.3の流行拡大のリスク、およびウイルス学的特性を明らかにするため、ウイルスゲノム疫学調査情報を基に、ヒト集団内における各変異株の実効再生産数を推定し、次に、培養細胞におけるウイルスの感染性を評価した。また、SARS-CoV-2感染によって誘導される中和抗体や、XBB.1.5対応ワクチンによって誘導される中和抗体に対しての抵抗性も検証した。 主な結果は以下のとおり。・2024年5月時点のカナダ、英国、米国のウイルスゲノム疫学調査情報を基にした調査において、KP.3の実効再生産数は、親系統のJN.1よりも1.2倍高いことが認められた。さらに、LB.1、KP.2.3は、KP.2とKP.3よりも高かった。・培養細胞におけるウイルスの感染性について、KP.2とKP.3はJN.1よりも低い感染性を示した。一方、LB.1とKP.2.3は、JN.1と同等の感染性を示した。・これまでの流行株(XBB.1.5、EG.5.1、HK.3、JN.1)の既感染もしくはブレークスルー感染血清を用いた中和アッセイでは、LB.1とKP.2.3に対する50%中和力価(NT50)は、JN.1に対するものよりも有意に(LB.1:2.2~3.3倍、KP.2.3:2.0~2.9倍)低かった。さらに、KP.2に対するものよりも(LB.1:1.6~1.9倍、KP.2.3:1.4~1.7倍)低かった。・KP.3はすべての回復期血清サンプルに対してJN.1よりも高い中和抵抗性(1.6~2.2倍)を示したが、KP.3とKP.2の間に有意差は認められなかった。・コロナ未感染のXBB.1.5対応ワクチン血清サンプルは、JN.1系統(JN.1、KP.2、KP.3、LB.1、KP.2.3)に対するNT50は非常に低かった。・XBB自然感染後のXBB.1.5対応ワクチン血清サンプルにおいて、KP.3、LB.1、KP.2.3に対するNT50は、JN.1に対するものよりも有意に(2.1~2.8倍)低く、さらにKP.2に対するものよりも(1.4~2.0倍)低かった。 本研究の結果、JN.1から派生したKP.2、KP.3、LB.1、KP.2.3は、JN.1と比較して免疫逃避能と実効再生産数が増加し、その中でも、LB.1とKP.2.3は、KP.2やKP.3よりも高い感染性とより強力な免疫逃避能を保持することが明らかとなった。G2P-Japanについて 佐藤氏が主宰する研究コンソーシアム「G2P-Japan」では、所属機関を超えて研究者が共同で研究を行っている。2021年より、新たな懸念すべき変異株出現の超早期にウイルス学的性状について検証し、その成果は主要な医科学誌に断続的に掲載され、世界的に注目されている。佐藤氏は、次のパンデミックに備えるためにも、「G2P-Japan」としての研究活動を継続し、若手研究者の育成や啓蒙することの重要性を訴えた。ウイルス研究に関して、従来のin vivoやin vitroでの解析に加え、疫学や全世界的な流行動態の推定といったマクロの視点から、迅速に変異の影響を理解するためのタンパク質構造解析といったミクロの視点まで、多角的かつ統合的に理解することが必要であるとし、佐藤氏が創設した「システムウイルス学」という新たな研究分野によって解決していきたいと語った。第2回新型コロナウイルス研究集会を開催 新型コロナに関する最新の知見を共有するため、佐藤氏が大会長を務める「第2回新型コロナウイルス研究集会」が8月2~4日に東京・品川にて開催される5)。2023年に開催された第1回はウイルス学に関する基礎研究にフォーカスしたものだったが、第2回研究集会では、疫学、臨床医学、免疫学、ウイルス学と領域を拡大し、各分野で活躍する研究者が登壇する。 開催概要は以下のとおり。第2回新型コロナウイルス研究集会開催日時:2024年8月2日(金)〜4日(日)会場:東京コンファレンスセンター品川[現地開催]2024年8月2日(金)〜4日(日)[オンデマンド]2024年9月2日(月)正午〜9月30日(月)正午 ※予定[参加登録締切]2024年9月30日(月)大会長:佐藤 佳参加登録など詳細は公式ウェブサイトまで。

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第202回 新型コロナ新変異株「KP.3」拡大で感染者数急増/政府

<先週の動き>1.新型コロナ新変異株「KP.3」拡大で感染者数急増/政府2.新型コロナワクチン定期接種10月から開始、任意接種は1万5,000円/厚労省3.かかりつけ医制度の整備進む、2025年度から報告義務化/厚労省4.マイナ保険証推進のため医療DX推進体制整備加算の見直しが決定/中医協5.新興感染症対策強化へ、新たな行動計画と備蓄計画を発表/厚労省6.専門医機構の特別地域連携プログラム、要件緩和案に反発広がる/厚労省1.新型コロナ新変異株「KP.3」拡大で感染者数急増/政府林 芳正官房長官は7月19日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染者数が増加していることについて、「今後、夏の間に一定の感染拡大が生じる可能性がある」と述べ、感染対策を徹底するよう呼び掛けた。厚生労働省によると、全国約5,000の定点医療機関から7月8~14日に報告された感染者数は5万5,072人で、1医療機関当たり11.18人と、前週比1.39倍に増加。感染者数は10週連続で増加し、とくに九州地方での増加が目立った。鹿児島県の定点医療機関の感染者数は31.75人、佐賀県は29.46人、宮崎県は29.34人と高い水準を記録。東京(7.56人)、愛知(15.62人)、大阪(9.65人)、福岡(14.92人)でも増加が確認され、全国45都府県で感染者数が増加していた。入院者数も増加傾向にあり、14日までの1週間で新規入院患者は3,081人、前週の2,357人から724人増加。集中治療室(ICU)に入院した患者数も113人と、前週から11人増加していた。専門家は、今回の感染拡大の背景には、新たな変異株「KP.3」の存在があると指摘する。東京大学の研究チームによると、KP.3はオミクロン株から派生した変異株で、感染力が強く、免疫を回避しやすい特徴があるという。とくに高齢者は重症化するリスクがあるため、十分な対策を講じる必要がある。感染症に詳しい東京医科大学の濱田 篤郎客員教授は、「今後、夏休みやお盆期間中に人の移動が増えることで、感染がさらに拡大する可能性がある」と警告。室内の換気や手洗い、マスクの着用など基本的な感染対策の徹底を呼び掛けている。また、高齢者は人混みを避け、感染が疑われる場合には、速やかに医療機関を受診することが重要だとしている。参考1)新型コロナ流行、なぜ毎年夏に 「第11波」ピークは8月か(朝日新聞)2)新型コロナの感染者数増加 林官房長官が注意喚起(毎日新聞)3)コロナ「第11波」、夏の流行期前に変異株KP・3が主流 梅雨明けで影響か(産経新聞)2.新型コロナワクチン定期接種10月から開始、任意接種は1万5,000円/厚労省2024年7月18日に厚生労働省は、新型コロナウイルスと帯状疱疹のワクチンを定期接種化する方針を発表した。新型コロナワクチンの定期接種は10月1日から開始予定で、65歳以上の高齢者と60~64歳の重症化リスクが高い人を対象とする。帯状疱疹ワクチンについては、対象年齢を65歳とし、費用を公費で支援する定期接種とする案が示された。新型コロナワクチンの定期接種は、2023年度まで全額公費負担で無料接種が行われていたが、今秋からは季節性インフルエンザと同様に接種費用の一部自己負担が求められる。接種費用の自己負担額は自治体によって異なるが、最大で7,000円と設定される。国は接種1回当たり8,300円を各自治体に助成し、費用負担を軽減する。接種期間は、2024年10月1日~2025年3月31日までで、各自治体が設定する。対象外の人は「任意接種」となり、全額自己負担で費用は約1万5,000円程度となる見込み。また、帯状疱疹ワクチンの定期接種についても同日、厚労省の予防接種基本方針部会で議論が行われた。帯状疱疹は水痘(水ぼうそう)と同じウイルスが引き起こし、加齢や疲労などによる免疫力の低下で発症する。日常生活に支障を来すほどの痛みが生じることがある。現在、国内で承認されている帯状疱疹ワクチンは、阪大微生物病研究会の生ワクチンと、英グラクソ・スミスクラインの不活化ワクチンの2種類である。部会では、65歳を対象とする定期接種化を検討し、帯状疱疹や合併症による重症化予防を目的とすることが提案された。厚労省は今後、専門家による会議での議論を経て正式に決定する予定。参考1)厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会 予防接種基本方針部会 ワクチン評価に関する小委員会(厚労省)2)帯状疱疹ワクチン65歳に定期接種化、厚労省案 引き続き検討(CB news)3)新型コロナワクチン 高齢者など対象の定期接種 10月めど開始へ(NHK)4)新型コロナワクチンの定期接種、10月から開始…全額自己負担の任意接種費は1万5,000円程度(読売新聞)3.かかりつけ医制度の整備進む、2025年度から報告義務化/厚労省厚生労働省は、「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」を7月19日に開き、2025年4月に施行される新たな報告制度を巡る議論を大筋で取りまとめた。新しい報告制度によって、各都道府県が病院や診療所に対して、かかりつけ医の機能や診療できる疾患を毎年報告させる。報告された情報はウェブサイトで公開され、患者がかかりつけ医を選びやすくすることを目指す。この報告制度は、大学病院や歯科医療機関を除くすべての病院や診療所を対象とし、かかりつけ医の研修を修了した医師や総合診療専門医の有無も報告対象に含まれる。診療できる疾患は、患者にわかりやすいように高血圧や腰痛症、かぜ・感冒などの40疾患から選ぶ形となる。報告された情報は、厚労省の医療機関検索サイト「ナビイ」で公開される予定。地域の医療提供体制を把握し、足りない機能があれば対策を講じるよう各自治体に求める。初回の報告は2026年初めごろを見込んでおり、制度開始に向けてルールの改正やガイドライン作成が進められる。また、この報告制度では、病院や診療所は「日常的な診療」(1号機能)と「時間外診療」(2号機能)の2段階で報告する。1号機能は17の診療領域ごとに一時診療に対応できるかどうかを報告し、かかりつけ医機能に関する研修修了者や総合診療医の有無も報告する。2号機能には時間外診療や在宅医療、介護サービスとの連携が含まれる。時間外診療の体制については、在宅当番医制や休日夜間急患センターへの参加状況などを報告する。かかりつけ医機能の報告制度は、5年後を目途に報告内容の見直しが検討される。初回の報告時には「高血圧」「脳梗塞」「乳房の疾患」などの40疾患についての報告を求めるが、施行から5年後に改めて検討する予定である。また、かかりつけ医機能に関する研修の要件を設定し、それに該当する研修を示す予定。今回の制度導入により、患者が適切なかかりつけ医を選びやすくなると同時に、医療提供体制の強化が期待されることで、地域医療の質の向上が期待される。参考1)第8回 かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会(厚労省)2)「かかりつけ医機能報告」枠組み固まる 一次診療への対応は「17領域ごと」に(CB news)3)かかりつけ医、選びやすく 来年度、診療疾患をウェブ掲載(日経新聞)4.マイナ保険証推進のため医療DX推進体制整備加算の見直しが決定/中医協7月17日に厚生労働省は、中央社会保険医療協議会を開催し、2024年度の診療報酬改定で新設された「医療DX推進体制整備加算」の見直しを決定した。見直しでは、マイナカードの利用率の実績に応じて、医療DX推進体制整備加算を3区分に再編することが含まれている。具体的には、医科における加算1が現在の8点から11点に引き上げられる。医療情報取得加算についても変更があり、患者がマイナ保険証を利用するかどうかで区分されていた初診時と再診時の点数が、12月以降はそれぞれ1点に一本化されることが決定した。医療DX推進体制整備加算の医科における点数は、10月以降、加算1が11点、加算2が10点に引き上げられるのと同時に、マイナポータルの医療情報に基づき患者からの健康管理の相談に応じることが新たに求められる。加算3は現在の8点を維持し、相談対応の基準は設定されない。マイナ保険証の利用率は、原則として適用3ヵ月前のレセプト件数ベースでの実績を使い、10月から2025年1月までは2ヵ月前のオンライン資格確認件数ベースでの利用率の使用も認められる。具体的な基準値は、10~12月には加算1が15%、加算2が10%、加算3が5%となり、2025年1~3月にはそれぞれ30%、20%、10%に引き上げられる予定。2025年4月以降の基準は年末をめどに検討される予定となっている。医療情報取得加算については、医科の初診時と再診時の点数が12月以降に1点に一本化される。これは、現行の保険証が12月に廃止され、マイナ保険証に一本化されることに対応するための措置。厚労省は、この改定を8月中に告示する予定。一方、厚労省は、低迷するマイナ保険証の利用を推進するため、医療従事者のマイナ保険証に関する疑問を解消するためのセミナーを7月19日にYouTubeでライブ配信した。セミナー資料は下記のリンクを参照されたい。厚労省は、医療DX推進体制整備加算の見直しにより、マイナ保険証の利用率向上を図り、医療現場でのデジタルトランスフォーメーションを推進する考え。2025年度以降も、電子処方箋の普及のため、さらなる引き上げが検討される予定。参考1)中央社会保険医療協議会 総会(厚労省)2)徹底解決!マイナ保険証への医療現場の疑問 解消セミナー(同)3)医療DX推進体制加算1は11点、10月以降 加算3は8点、中医協が即日答申(CB news)4)マイナ保険証、来年度以降の基準は年末めどに 医療DX推進体制加算 中医協で検討・設定(CB news)5.新興感染症対策強化へ、新たな行動計画と備蓄計画を発表/厚労省7月17日に厚生労働省は、厚生科学審議会感染症部会を開催し、新型インフルエンザ等対策政府行動計画に基づく新ガイドライン案を示した。このガイドラインでは、緊急時に備えて医療用マスク3億1,200万枚を国と都道府県で備蓄することを盛り込んでいる。ガイドライン案には、高機能なN95マスク2,420万枚や非滅菌手袋12億2,200万枚の備蓄など、物資確保の項目が新たに追加された。都道府県は、初動1ヵ月分の物資を備蓄し、国は2ヵ月目以降の供給が回復するまでの分を備蓄する。また、事実誤認の指摘など国民への情報発信の強化も求められている。2024年度からの新しい医療計画(第8次医療計画)では、「新興感染症対策」が追加され、各都道府県で感染患者受け入れ病床や発熱患者対応外来医療機関の確保が進展している。6月1日時点で病床確保は目標の81.8%、発熱外来は54.0%の達成率となっている。とくに流行初期に確保すべき病床の進捗率は109.5%、初期に対応すべき発熱外来は124.1%と目標を上回る進展をみせている。新医療計画では、新興感染症の流行初期や蔓延時に備えて、都道府県と医療機関が「医療措置協定」を締結することが義務付けられている。現在、各都道府県で協議が進行中であり、9月末までに協定の締結完了を目指している。協定締結が進む一方で、病床数や発熱外来の整備が依然として必要とされている。部会では、病床の確保だけでなく医療従事者の確保も課題として挙げられた。出席した委員からは、「病床数は多いが医療従事者が不足することで運用が難しい」との指摘があり、医療現場の状況の把握も検討が求められた。また、初動期には各都道府県が相談センターを整備し、受診調整を実施することが提案された。厚労省は同日、新型インフルエンザ等対策ガイドラインの案も示し、感染症発生前の「準備期」から発生後の「初動期」、「対応期」ごとに対応策を整理し、感染者の受け入れや流行段階に応じた対応を求めている。政府は、今後もガイドラインの内容を議論し、夏ごろに取りまとめを目指す予定。参考1)新型インフルエンザ等対策政府行動計画 ガイドライン案 概要(厚労省)2)第87回厚生科学審議会感染症部会(同)3)新興感染症対策、各都道府県の「感染患者受け入れ病床」「発熱患者に対応する外来医療機関」確保が着実に進展-社保審・医療部会(Gem Med)4)感染症のまん延防止策、ガイドライン案を公表 リスク評価に基づき、機動的に実施 厚労省(CB news)5)感染症有事の対応、「病床確保」だけでは不十分 厚科審でガイドライン案めぐり議論(同)6.専門医機構の特別地域連携プログラム、要件緩和案に反発広がる/厚労省日本専門医機構は、7月19日に開催された厚生労働省の医道審議会の医師専門研修部会で、医師少数区域の施設で1年以上の研修を設ける「特別地域連携プログラム」の要件緩和案を示した。この案では、新たに医師を1年以上派遣する研修施設を連携先に加えることを提案。しかし、「ミニ一極集中」を招く恐れがあるとして反対意見が相次いだ。特別地域連携プログラムは、医師が不足している都道府県の医師少数区域の施設などを連携先とし、1年以上の研修を行うもの。しかし、研修施設としての要件を満たす施設が少ないことから、連携枠を設けるのが困難だという指摘が複数の学会から出ていた。そのため、同機構は2025年度に向けて、医師多数区域であっても、医師少数区域の医療機関に新たに医師を派遣する研修施設であれば、連携先に加えることを提案した。しかし、立谷 秀清委員(全国市長会相馬市長)は「ミニ一極集中を助長する」と反対を表明。2024年度のプログラムで採用された専攻医42人の連携先のうち、約4割が茨城県、約3割が埼玉県と、東京に近い地域に偏っていることが問題視され、他の委員からも反対意見が多く出された。花角 英世委員(全国知事会新潟県知事)は、要件緩和を行うにしても「シーリングの効果が十分に発揮されていない東北や東海、甲信越地域の医師少数区域に医師が派遣されるような制限を設けるべき」と主張し、医師の偏在解消に効果が期待できる制度設計を求めた。参考1)令和6年度第1回医道審議会医師分科会 医師専門研修部会(厚労省)2)特別地域連携プログラム、「要件緩和」に反対相次ぐ 25年度シーリング案 専門医機構(CB news)

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anemia(貧血)【病名のルーツはどこから?英語で学ぶ医学用語】第8回

言葉の由来貧血は英語で“anemia”といい、「アニィーミア」のように発音します。これはギリシャ語の“anaimia”に由来しています。単語の成り立ちは、「否定」を表す接頭辞である“an”と、「血液の状態または血液中に“あるもの”が多量に存在すること」を意味する接尾辞の“-emia”がくっついてできたもので、「血液がない状態」を表します。医学用語の多くは接頭辞と接尾辞を含んでおり、これらを知っておくと英語の医学用語を覚えたり理解したりすることがぐっとラクになります。たとえば、否定を表す接頭辞の“a-”や“an-”を使った医学に関連する用語としては以下のようなものがあります。aplastic無形成性の(例:aplastic anemia 再生不良性貧血)anoxic無酸素症の(例:anoxic brain injury 低酸素脳症)asymptomatic無症候性の(例:asymptomatic bacteriuria 無症候性細菌尿)atypical非定型の(例:atypical pneumonia 非定型肺炎)また、接尾辞の“-emia”を使った用語の例として、以下のようなものがあります。hyperlipidemia脂質異常症bacteremia菌血症hyperuricemia高尿酸血症hyperbilirubinemia高ビリルビン血症このように、1つの単語の接頭辞や接尾辞を意識して勉強することで、芋づる式に多くの単語を覚えることができ、新しい英単語を見たときにも意味が理解しやすくなります。さらに多くの接頭辞や接尾辞を勉強したいという方は、ウエストフロリダ大学のウェブサイトに医学用語に関連した接頭辞や接尾辞が詳しくまとまっており、参考になるでしょう。併せて覚えよう! 周辺単語多血症polycythemia白血球減少leukopenia血小板減少thrombocytopenia白血球増多症leukocytosis血小板増多症thrombocytosisこの病気、英語で説明できますか?Anemia is a condition where the body lacks enough healthy red blood cells or hemoglobin to carry adequate oxygen to the body's tissues. Red blood cells contain hemoglobin, an iron-rich protein that binds to oxygen and transports it from the lungs to all other organs and tissues in the body.講師紹介

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HPVワクチン、積極的勧奨の再開後の年代別接種率は?/阪大

 ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの積極的勧奨が再開しているが、接種率は伸び悩んでいる。この状況が維持された場合、ワクチンの積極的勧奨再開世代における定期接種終了年度までの累積接種率は、WHOが子宮頸がん排除のために掲げる目標値(90%)の半分にも満たないことが推定された。八木 麻未氏(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学教室 特任助教)らの研究グループは、2022年度までのHPVワクチンの生まれ年度ごとの累積接種率を集計した。その結果、個別案内を受けた世代(2004~09年度生まれ)では平均16.16%、積極的勧奨が再開された世代(2010年度生まれ)では2.83%と、積極的勧奨再開後も接種率が回復していない実態が明らかとなった。本研究結果は、JAMA Network Open誌2024年7月16日号に掲載された。 HPVワクチンは2010年度に公費助成が開始され、2013年度に定期接種化されたが、副反応の報道や厚生労働省の積極的勧奨差し控えにより接種率が激減していた。2020年度から対象者へ個別案内が行われ、2022年度からは積極的勧奨が再開(キャッチアップ接種も開始)されたが、接種率の回復が課題となっている。そこで、研究グループは施策を反映した正確な接種状況や生まれ年度ごとの累積接種率を調べた。また、2022年度と同様の接種状況が続いたと仮定した場合の2028年度時点の累積接種率を推定した。 主な結果は以下のとおり。・生まれ年代別にみた、2022年度末時点のHPVワクチン定期接種終了時までの累積接種率は以下のとおり。接種世代(1994~99年度):71.96%停止世代(2000~03年度):4.62%個別案内世代(2004~09年度):16.16%積極的勧奨再開世代(2010年度):2.83%・生まれ年代別にみた、2028年度末時点のHPVワクチン定期接種終了時までの累積接種率の推定値は以下のとおり。接種世代(1994~99年度):71.96%停止世代(2000~03年度):4.62%個別案内世代(2004~09年度):28.83%積極的勧奨再開世代(2010~12年度):43.16% 本研究結果について、著者らは「日本においては、ほかの小児ワクチンの接種率やパンデミック下の新型コロナウイルス感染症ワクチンの接種率が世界的にみて高いことから、HPVワクチンの接種率だけが特異な状況にあることは明白である。今後、子宮頸がんによる悲劇を少しでも減らすため、HPVワクチンの接種率を上昇させる取り組みに加えて、子宮頸がん検診の受診勧奨の強化も必要となる。本研究結果は、今後の日本における子宮頸がん対策を検討する際の重要な資料となるだろう」と考察している。

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高温短時間殺菌は鳥インフルエンザウイルスの除去に有効

 米国で鳥インフルエンザが乳牛の間で広がり続けている中、米食品医薬品局(FDA)と米国農務省(USDA)が実施した新たな研究で、摂氏100度以下の温度で行う殺菌法(パスチャライゼーション)の1つである高温短時間殺菌(HTST法)は、生乳中の鳥インフルエンザウイルスを効果的に死滅させることが明らかになった。FDAは、6月28日に発表したこの研究に関するニュースリリースの中で、「この結果は、食料品店で売られているパスチャライズド牛乳がH5N1型の高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)ウイルスに汚染されていない安全なものであることを示した最新の研究結果だ」と述べている。 FDA食品安全応用栄養センターディレクター代理のDon Prater氏はCBSニュースに対し、「逸話的なエビデンスはたくさんあったが、われわれはH5N1型のHPAIウイルスと牛乳に関する直接的なエビデンスを手に入れたかった」と話す。そして、「得られた結果は、小売店から収集した297点の乳製品のサンプルを調べ、その全てがH5N1型のHPAIウイルス陰性であったことを示した、FDAの最初の調査結果を補完するものだ。これらの研究結果は、商業的な牛乳のサプライシステムの安全性を強く裏付けるものだ」と語っている。 この最新の研究は、FDAとUSDAの研究者が、米国で牛乳の殺菌条件(温度と殺菌時間)が、H5N1型のHPAIウイルスの不活化に有効であるかどうかを検証したもの。そのために研究グループは、商業用の牛乳に使われる生乳のサンプルを、乳牛のH5N1型HPAIウイルス感染が報告されている4つの州の農場から計275点入手した。 これらのサンプルのRT-PCR検査から、158点(57.5%)はA型インフルエンザウイルス陽性と判定され、このうちの39点(24.8%)では感染性のあるウイルスが検出された。次に、これらのサンプルを人工的にH5N1型のHPAIウイルスで汚染した上で、米国で最も多く採用されているHTST法(72℃で15秒間加熱)で殺菌した。その結果、牛乳が72℃で保持される前の最高温度(72.5℃)まで加熱される過程でウイルスが死滅することが確認され、この殺菌方法は大きな安全マージンを提供することが示された。 米政府高官の報告によると、現時点では、鳥インフルエンザウイルスは感染牛から他の動物へ、そしてウイルスで汚染された生乳の飛沫を通して3人の酪農作業員へと広がっているという。CBSニュースによると、USDAのH5N1型HPAIウイルス対策の上級顧問代理であるEric Deeble氏は、「生乳を搾乳されていた牛の中に、これまでにH5N1型のHPAIウイルス感染が確認された牛はいない」と語ったという。 Prater氏らは次の研究で、生乳から作られたチーズでの鳥インフルエンザウイルス感染の有無を調べる予定であるとしている。 なお、FDAによると、この研究結果は、査読を経て「Journal of Food Protection」に掲載される予定であるという。

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第220回 コロナ第11波に反しワクチンが打てない!?その最大原因は…

新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)ワクチンの特例臨時接種が今年3月末で終了し、2024年4月以降は65歳以上の高齢者と基礎疾患を有する60~64歳が秋冬1回の定期接種、そのほかの人は任意接種となる1)のは周知のことだ。現在は秋冬の定期接種に向けての準備期間となるが、実はこの時期、新型コロナワクチン“難民”が出現している。コロナワクチン難民?私がこのことを知ったのは6月に入ってすぐだ。友人から何の脈絡もなく「ちょっと教えてほしいんだけど、コロナの予防接種って任意になってからできるとこが少ないの? 仙台の人なんだけど、病院や行政や医師会に聞いてもみつからなくて埼玉で接種したって…」とのメッセージが送られてきた。今だから明かすと、この時は多忙だったことに加え、極めて特殊事例か最悪はガセネタだと思って既読スルーしてしまった。もっとも特例臨時接種終了後、接種可能な医療機関が減少するであろうことは容易に想像がついた。ご存じのように新型コロナのmRNAワクチンは保管管理に手間がかかる。現在、国内で承認されているのは、ファイザーのコミナティ、モデルナのスパイクバックス、第一三共のダイチロナの3種類。このうちコミナティとスパイクバックスは、出荷時は超低温で冷凍され、2~8℃の冷蔵庫で解凍後の保存可能期間はコミナティが10週間、スパイクバックスが30日間。いずれも再冷凍は不可だ。ダイチロナは冷蔵保存が可能で保管可能期間は7ヵ月とコミナティやスパイクバックスよりは扱いやすい。そして、1バイアル当たりはコミナティが6回接種分、スパイクバックスが10~20回接種分、ダイチロナは2回接種分で、1度針を刺したバイアルはコミナティ、スパイクバックスでは12時間以内、ダイチロナは24時間以内に使い切らねばならない。要はそれだけの接種希望者を一度に集めなければ、残りは廃棄になり、医療機関側はその分の損失を被るだけになる。この点を解決すべく、コミナティに関しては5月中旬に1人用バイアルが登場したばかりだ。とはいえ、まさか東北地方の首都と言ってもいい仙台で、新型コロナワクチンを接種できない事態はあるはずがないと思っていた。実際、友人からのメッセージにも「あれだけたくさんあったはずのワクチンがないって」との記述があったが、私も同じ考えだったのだ。しかし、数日後、たまたまこの友人と直接会う機会があり、そこで話を聞いて一定の信憑性があると感じた。大元の情報提供者は私の地元である仙台に在住。たまたま、以前の本連載で触れた父親が使い始めた車椅子の操作を確認するため帰省する予定だったので、実際に話を聞いてみることにした。任意接種できる場所、どこにもみつからない!情報提供者のAさんは40代の大学教員。20年ほど前から風邪をひくと咳が1~2ヵ月続く体質で、仙台に住み始めてから呼吸器科を受診し、咳喘息の診断を受けている。このため年1回ぐらいの頻度でステロイド吸入薬を頓用していたが、コロナ禍中にユニバーサルマスクが社会全体に浸透したおかげで、2020年以降は咳喘息の症状をほとんど経験しなかったという。新型コロナワクチンに関しては、いわゆる自己申告の基礎疾患保有者として優先接種対象となり、昨年9月に6回目の接種を終了していた。しかし、今年2月にAさんの子供の学校で新型コロナが大流行し、自身も家庭内感染をしてから事態は一変。新型コロナの主な症状が治まった後も咳の症状はひかない。しかも、「大きめの声を出すと、咳が止まらなくなる。ひどいときは喋れないぐらい」(Aさん)まで症状が悪化したそうだ。受診した医療機関で新型コロナ感染や咳喘息の既往を伝えたところ、診察した医師から「半年くらい症状が続くと思われます」と即答された。いわゆる後遺症である。私が話を聞いたのは6月下旬だったが、取材中にも一度ひどく咳込んで水を口にし、ステロイド薬も1日1回は吸入しなければならなくなっていた。二度と感染したくないと思ったAさんは3月中旬から新型コロナワクチンの任意接種ができそうな医療機関を探し始めた。しかし、当時はいくら検索しても、見つかるのは同月末の特例臨時接種終了の告知ばかり。厚生労働省にも直接連絡を取ってみたが、「任意接種できる医療機関の情報はとりまとめていないので、各医療機関に個別に問い合わせてください」との返答で、かかりつけの呼吸器内科も、今後、任意接種を自院で行うかは未定とのことだった。一旦は諦めたA氏だったが、コミナティの1人用バイアルが5月中旬にも承認の見通しと報じられていたため、5月のゴールデン・ウイーク中から再び接種可能な施設を探すために医療機関へ問い合わせを始めた。仙台市内の大学附属病院、公立・公的病院から順に電話で問い合わせ、いずれも「接種は行っていない」との回答を受けたという。その後は呼吸器内科がありそうな病院・クリニック、特例臨時接種時に接種を行っていた病院・クリニックなどにも電話をかけ続けたAさん曰く、「『盛ってませんか?』と言われることもあるが、100軒以上は電話した」という。しかし、仙台市内でこの時期、任意接種可能な医療機関はついに見つからなかった。Aさんはこのほかにも宮城県庁、仙台市役所、宮城県と仙台市の医師会にも問い合わせたが、いずれも「現時点で任意接種できる医療機関はわからず、そうした情報をとりまとめてもいない。とりあえずご意見は承るが、現時点で任意接種対応医療機関情報をとりまとめる予定はない」という趣旨の回答しか得られなかった。新型コロナワクチン求め、問い合わせ窓口巡りまた、ファイザー、モデルナ両社の一般向け相談窓口にも問い合わせをしたが、接種可能な医療機関情報の公表について、ファイザーは「まだそういう予定はない」、モデルナは「検討中」との回答。そして嬉しいことにモデルナ社への問い合わせ時に秋田県由利本荘市が同市内で任意接種可能な医療機関名の一覧をホームページ(HP)で公表していたことを知った。Aさんは仙台から車で由利本荘市に行くことも念頭に、HPに掲載されていた各医療機関に問い合わせたが、いずれの医療機関もこの時点では接種を始めていないことがわかった。そこでAさんは由利本荘市健康福祉部健康づくり課に連絡を取り、市外在住者であることを伝えたうえでリストの更新を要請した。その甲斐があってか、現在は同HPでは各医療機関の任意接種開始時期が記載されている。この時点でほぼ万事休すかに思われた。AさんはX(旧Twitter)でワクチン接種医療機関をまとめているアカウントをウォッチし、東京都内で何軒か任意接種が可能な医療機関は見つけてはいたが、いずれも東京駅からはさらに電車で1時間は要する場所。「これでは接種に行くのはほぼ1日がかりになる」と思っていた矢先、X上で偶然、新幹線で大宮まで約1時間、そこから在来線に乗り換えて10分ほどで行ける埼玉県さいたま市浦和区で接種可能なクリニックを発見した。同クリニックのHPで接種可能なことを確認して予約を入れ、仙台から新幹線で現地に向かい無事接種することができた。ワクチンの接種料金は1万6,000円。これに仙台から浦和までの新幹線と在来線の往復料金が2万1,000円強。合計4万円弱の費用がかかった。なんとも高価な接種となったが、多くの人にとってはそこまでの対応はほぼ不可能だ。こんなにも苦労したAさんだが、現在はモデルナだけが接種可能な医療機関を公表している2)など状況はやや改善している。そこでmRNAワクチンを供給する3社に私自身が今回の事例を説明し、各社の対応について問い合わせてみた。任意接種可能な医療機関について、各社の対応まず、モデルナ社によると、接種可能医療機関の公表は5月下旬にスタート。その経緯について、同社のコミュニケーションズ&メディア担当者は「どの施設でワクチン接種できるのか情報がなく困っている患者さんやご家族は多く、コールセンターへの問い合わせも多くあったため」と回答した。現時点では掲載に同意した医療機関のみ公開しており、「当社サイトを経由して、ワクチンを接種できたとの声もいただいている」という。ファイザーの広報部門は「当社への問い合わせの詳細な内容は回答できないが、ワクチン接種医療機関がみつけられず、困っている人が一部にいることなどは認識している。現時点では、一般人に医療用医薬品の宣伝を禁じる広告規制なども鑑み、接種可能医療機関の検索システムなどはHPに設けてはいない。ただ、接種希望者への適切な情報伝達は社としても重視をしており、その実現のために現在さまざまな可能性を検討中」とのこと。第一三共のコーポレートコミュニケーション部広報グループは「一般の方から当社相談窓口に接種医療機関などに関する問い合わせをいただいている事実はあるが、現時点で接種可能な医療機関リストなどを公開する予定はない」という。ちなみに広告規制との兼ね合いについて、すでに接種医療機関を公表しているモデルナに重ねて問い合わせしたところ、「社内の必要な承認プロセスと厚生労働省への確認も経たうえで公開している」とのことだった。今回、接種に至るまで驚くほど苦労したAさんに改めてこの事態をどう考えるかを尋ねたところ、次のような答えが返ってきた。「何よりもまず、行政や医師会がきちんと動いてほしい。私がネット上を見る限り、今現在も接種希望者は一定数いる。私は強い接種希望があったから、埼玉県まで接種に行ったが、多くの人が同じことはできない。任意接種と言いつつ、地域によっては事実上接種不可能という現状は問題だと思う」少なくとも今回のような事例は、行政、医師会、製薬企業のそれぞれが単独で解決できるコトではないのは確かである。参考1)厚生労働省:新型コロナワクチンについて2))モデルナワクチン接種医療機関一覧

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尿検体の迅速検査【とことん極める!腎盂腎炎】第5回

尿検査でどこまで迫れる?【後編】Teaching point(1)尿定性検査の白血球陽性反応の細菌尿に対する感度は70〜80%程度であり、白血球反応陰性で尿路感染症を除外しない(2)硝酸塩を亜硝酸塩に変換できない(もしくは時間がかかる)微生物による尿路感染症もあり、亜硝酸塩陰性で尿路感染症を除外しない(3)尿pH>8の際にはウレアーゼ産生菌の関与を考える《今回の症例》70代女性が昨日からの悪寒戦慄を伴う発熱を主訴に救急外来を受診した。いままでも腎盂腎炎を繰り返している既往がある。また糖尿病のコントロールは不良である。腎盂腎炎を疑い尿定性検査を提出したが、白血球反応は陰性、亜硝酸塩も陰性であった。今回は腎盂腎炎ではないのだろうか…?はじめに尿検査はさまざまな要因による影響を受けるため解釈が難しく、尿検査のみで尿路感染症を診断することはできない。しかし尿検査の限界を知り、原理を深く理解すれば重要な情報を与えてくれる。そこで、あえて尿検査でどこまで診断に迫れるかにこだわってみる。前回、「尿検体の採取方法と検体の取り扱い」「細菌尿と膿尿の定義や原因」について紹介した。今回は引き続き、迅速に細菌尿を検知するための検査として有用な尿定性検査(試験紙)や尿沈渣、グラム染色などの詳細を述べる。1.白血球エステラーゼ(試験紙白血球反応)尿定性検査での白血球の検出は、好中球に存在するエステラーゼが特異基質(3-N-トルエンスルホニル-L-アラニロキシ-インドール)を分解し、生じたインドキシルがMMB(2-メトキシ-4-Nホルモリノ-ベンゼンジアゾニウム塩)とジアゾカップリング反応し、紫色を呈することを利用している。そのため顆粒球しか検出できず、リンパ球には反応しない。多少崩壊した好中球や腟分泌物で偽陽性となりうる。糖>3g/dL、タンパク>500mg/dL、高比重、酸性化物質の混入(ケトン尿)などで偽陰性となる1)。尿試験紙を保存している容器の蓋が開いた状態で2週間以上放置すると試薬が変色し、約半数で亜硝酸は偽陽性となる2)のため注意が必要である。日本で市販されている白血球反応は、(±):10〜25個/μL、(1+):25〜75個/μL、(2+):75〜250個/μL、(3+):500個/μLに相当する(尿沈渣鏡検での陽性と判定するWBC≧5/HPFは20個/μL相当)。2.亜硝酸塩尿定性検査の亜硝酸塩は、細菌の存在を間接的に評価する方法である。細菌が硝酸塩を還元し、亜硝酸塩とすることを利用して検出している。細菌の細胞質内に亜硝酸をつくる硝酸還元酵素もあるが、主にNap(periplasmic dissimilatory nitrate reductase)と呼ばれる酵素を有する細菌がperiplasmic space(細胞膜と細胞外膜の間)に亜硝酸塩を作った場合に検出できると考えられている3)。食品などから摂取した硝酸塩が尿中に存在すること、前述のような菌種が膀胱内に存在すること、尿路への貯留時間が4時間以上あることが必要である4)。腸内細菌細菌やStaphylococcus属は硝酸塩を亜硝酸塩に還元でき、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)も還元できるが還元するのに時間がかかり、レンサ球菌や腸球菌は還元できない5)。硝酸塩を亜硝酸塩に変換できない微生物、pH<6.0、ウロビロノーゲン陽性、ビタミンC(アスコルビン酸)が存在する場合に偽陰性となる1)。血清ビリルビン値が高いときは、機序不明だが偽陽性が報告されている6)。3.尿pH意外に思われるかもしれないが、実は尿路感染症の診断において、尿定性検査での尿pHも有用である。尿pH<4.5もしくは>8.0の場合は生理的範囲では説明できない。尿路感染症の場合に酸性尿となることもあるが、臨床的意義が高いのはアルカリ尿のほうである。尿pH>8であれば、ウレアーゼ産生菌の関与を考える。細菌のもつウレアーゼが尿素を加水分解し、アンモニアが生成され尿pHが上昇する(図)7)。画像を拡大する代表的菌種はProteus mirabilis、Klebsiella pneumoniae、Morganella morganiiなど8)である。また、Corynebacterium属もウレアーゼを産生する。Escherichia coliはウレアーゼを産生することはなく、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、Enterococcus属も産生率は低い。尿路感染症での尿pHと培養結果を検討した研究では、pHが高いほどProteus mirabilisの頻度が高かったという報告もあり、実臨床でも起因菌の推定に有用である9)。また、尿pHが高いことは、リン酸マグネシウムアンモニウム結石(ストルバイトとも呼ばれる)ができやすいことにも関連する10)。グラム染色や尿沈渣でこれらを確認することで間接的に尿pHを予測することもできる。閉塞性尿路感染症+意識障害ではウレアーゼ産生菌による高アンモニア血症を鑑別する必要がある。4. 迅速検査の組み合わせから尿路感染症を診断するここまで各種検査の詳細について述べてきたが、いずれも単独で尿路感染症を診断できるものではない。しかしながら各種検査を正確に解釈し、組み合わせることで診断に迫ることができる。各種検査とその組み合わせによる診断特性についてまとめると表1~311-16)となる。画像を拡大する画像を拡大する画像を拡大する白血球反応は膿尿検出の感度・特異度は比較的高いが、陽性であれば尿路感染症であるというわけではなく、また白血球反応が陰性で尿路感染症状がある患者では、尿沈渣や尿培養を検討する必要がある。亜硝酸塩は感度が低く、陰性でも尿路感染症を否定できないが、陽性なら尿路感染症を強く疑う根拠とはなる。逆に白血球エステラーゼと亜硝酸塩がともに陰性であれば尿路感染症の可能性を下げる。尿沈渣は簡便性に劣るが信頼性が高く、白血球数や細菌数によって尿路感染症の可能性を段階的に評価できる。尿グラム染色は迅速に施行することができ、得られる情報量も多く、診断特性が高い検査の1つである。とくに尿沈渣の検査を夜間・休日に施行できない施設では大きな武器となる。おわりに逆説的ではあるが、あくまで検査所見のみをもって尿路感染症を診断することができないことは繰り返し述べておく。検査を適切に解釈し、病歴・身体診察と組み合わせることでより正確な診断に迫れることは忘れないでほしい。本項が検査の解釈の一助となれば幸いである。《今回の症例の診断》昨日より頻尿を認めており、左CVA叩打痛も陽性であった。尿グラム染色ではレンサ状のグラム陽性球菌を認めた。尿定性での白血球反応陽性の感度が70%程度であること、腸球菌やレンサ球菌では亜硝酸塩は陰性になることを鑑みて、臨床所見とあわせて腎盂腎炎の疑いで入院加療とした。翌日、尿培養からB群溶連菌を認め、これに伴う腎盂腎炎と診断した。1)Simerville JA, et al. Am Fam Physician. 2005;71:1153-1162.2)Gallagher EJ et al. Am J Emerg Med. 1990;8:121-123.3)Morozkina EV, Zvyagilskaya RA. Biochemistry. 2007;72:1151-1160.4)Wilson ML, Gaido L. Clin Infect Dis. 2004;38:1150-1158.5)Sleigh JD. Br Med J. 1965;1:765-767.6)Watts S, et al. Am J Emerg Med. 2007;25:10-14.7)Burne RA, Chen YY. Microbes Infect. 2000;2:533-542.8)新井 豊ほか. 泌尿器科紀要 1989;35:277-281.9)Lai HC, et al. J Microbiol Immunol Infect. 2021;54:290-298.10)Daudon M, Frochot V. Clin Chem Lab Med. 2015;53:s1479-1487.11)Ramakrishnan K, Scheid DC. Am Fam Physician. 2005;71:933-942.12)Zaman Z, et al. J Clin Pathol. 1998;51:471-472.13)Williams GJ, et al. Lancet Infect Dis. 2010;10:240-250.14)Whiting P, et al. BMC Pediatr. 2005;5:4.15)Meister L, et al. Acad Emerg Med. 2013;20:631-645.16)Ducharme J, et al. CJEM. 2007;9:87-92.

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