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心房・心室の期外収縮は心血管イベントと関連

 心血管疾患を発症していなくても、ウェアラブル心電計で心室性期外収縮(PVC)または心房性期外収縮(PAC)が検出された人では、心房細動および心不全のリスクが高いという研究結果が、「European Heart Journal - Digital Health」3月号に掲載された論文で明らかにされた。 英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのMichele Orini氏らは、心血管疾患のないUKバイオバンクの参加者5万4,016例〔UKB-1コホート、年齢中央値58歳(四分位範囲50~63)、女性54%〕を対象に、PVCまたはPACと心血管アウトカムとの関連を検討する研究を実施した。 PVCおよびPACの計測には、15秒間隔の単極誘導のウェアラブル心電計を用いた。年齢、性別、BMI、高血圧、喫煙歴、LDLコレステロール値、糖尿病などを含むリスク因子で調整したCox回帰モデルを用いて、PVCまたはPACと、心血管アウトカム〔心房細動、心不全、心筋梗塞、脳卒中および致死的な心室性不整脈(LTVA)〕との関連を検討した。 ベースライン時における期外収縮の有病率は、PVC 2.2%、PAC 1.9%であった。追跡期間中央値11.5年(四分位範囲11.4~11.7)の時点における心血管アウトカムの有病率は、死亡4.4%、心房細動4.2%、心筋梗塞2.7%、脳卒中1.7%、心不全1.5%、LTVA 0.6%であった。 リスク因子で調整したCox回帰モデルで解析した結果、PVCと最も強い関連が認められたのは心不全〔ハザード比(HR)2.09、95%信頼区間(CI)1.58~2.78、P<0.001〕、PACと最も強い関連が認められたのは心房細動(同2.50、2.11~2.96、P<0.001)であった。心房細動のリスクは、先行収縮とPACの間隔(連結期)が短いほど、そしてPACの頻度が高いほど上昇した。さらに、PVCおよびPACはLTVAのリスクとも有意に関連しており、LTVAのHRは、PVCで1.71(95%CI 1.01~2.88、P=0.044)、PACで1.85(同1.10~3.12、P=0.020)であった。 PVCまたはPACと、心筋梗塞、脳卒中および死亡のリスクとの関連は、未調整のモデルで解析した場合には有意であったが、リスク因子で調整後は有意ではなくなった。 これらの結果を検証するために、UKバイオバンクの別のサブスタディに参加した2万9,324例〔UKB-2コホート、年齢中央値64歳(四分位範囲58~70)、女性54%、追跡期間中央値3.5年(四分位範囲2.6~4.8)〕を対象に同様の検討を行った。リスク因子で調整したCox回帰モデルで解析したところ、UKB-1とほぼ同じ結果が得られ、PACは心房細動と有意に関連し(HR 1.80、95%CI 1.12~2.89、P=0.016)、PVCは心不全と有意に関連していた(同2.32、1.28~4.22、P=0.006)。 著者らは、「ウェアラブル心電計のようなモバイルヘルスデバイスを活用して期外収縮を検出することによって、早期の心血管リスクを層別化することが臨床的に重要な意味を持つことを示唆する結果が得られた。今後の研究でさらに検討する必要がある」と述べている。

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英語で「詳細を教えてください」は?【1分★医療英語】第95回

第95回 英語で「詳細を教えてください」は?I don’t feel like eating recently.(最近、食欲がないんです)Could you elaborate on that?(もう少し詳しく教えてもらえますか?)《例文1》Could you explain further?(もっと説明してもらえますか?)《例文2》Could you tell me more about it?(それについてもう少し話してもらえますか?)《解説》問診において患者さんからオープンクエスチョンで情報収集することは非常に大切ですが、なかなか具体的な説明が伴わないこともよくあります。「もっと情報が欲しい」というときは、“Could you tell me more about it?”(それについて、もう少し話してもらえますか?)または“Could you explain further?”(もっと説明してもらえますか?)といった表現があります。そして、「もっと詳細を教えてほしい」と言いたい場合には、“Could you elaborate on that?”(それについて、もう少し詳しく教えてもらえますか?)、“Could you tell me in detail?”(詳細について話してもらえますか?)、“Could you break it down for me?”(詳しく教えてもらえますか?)などと表現することができます。“break it down”は「かみ砕いて話す」という意味になりますので、さらに内容を詳しく教えてほしいと言いたいときに使いやすい表現です。また、周辺の状況や背景について説明をしてほしい場合には、“Could you please give me a bit more background?”(もう少し状況について教えてもらえますか?)という言い方もできます。講師紹介

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白血球高値は高LDL-C血症の独立したリスク因子

 白血球数が高いことが、悪玉コレステロール(LDL-C)が高いことの独立したリスク因子であることを示すデータが報告された。福岡大学医学部衛生・公衆衛生学教室の奥津翔太氏、有馬久富氏らの研究結果であり、詳細は「Scientific Reports」に5月22日掲載された。 高LDL-C血症は心血管疾患(CVD)の確立されたリスク因子であり、LDL-Cを下げることでCVDリスクが低下することも、確固たるエビデンスにより支持されている。LDL-C上昇につながる要因としては、加齢、肥満、運動不足、トランス脂肪酸の過剰摂取などが知られている。近年、これらに加えて白血球数が高いことも、LDL-C上昇と関連がある可能性が報告されているが、いまだ明確になっていない。奥津氏らは、一般住民の健診データを用いた縦断的研究により、この点について検討した。 解析には、長崎県壱岐市で行われたアテローム性動脈硬化症と慢性腎臓病に関する疫学調査(ISSA-CKD研究)のデータを用いた。2008~2017年の間に健診を2回以上受けていて、縦断的な解析が可能な30歳以上の人のうち、ベースライン時(初回の健診時)に高LDL-C血症でなく、白血球数などのデータ欠落のない3,312人を解析対象とした。なお、高LDL-C血症はLDL-C140mg/dL以上または脂質低下薬の処方で定義した。 平均4.6年の追跡で698人が高LDL-C血症を新たに発症。1,000人年当たりの罹患率は46.8だった。ベースラインの白血球数の四分位数で4群に分けると、第1四分位群は1,000人年当たり38.5、第2四分位群は47.7、第3四分位群は47.3、第4四分位群は52.4であり、白血球数が高いほど高LDL-C血症の罹患率が高いという有意な関連が認められた(傾向性P=0.012)。 次に、解析結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、喫煙・飲酒・運動習慣、肥満、高血圧、糖尿病)の影響を調整後、第1四分位群を基準として他群の罹患率を比較。すると、第2四分位群は非有意ながら〔ハザード比(HR)1.24(95%信頼区間0.99~1.54)〕、第3四分位群〔HR1.29(同1.03~1.62)〕と第4四分位群〔HR1.39(同1.10~1.75)〕は有意にハイリスクであり、ベースラインの白血球数と高LDL-C血症罹患率との間に、粗解析と同様、有意な正の関連が認められた(傾向性P=0.006)。 続いて、年齢(65歳未満/以上)、性別、肥満の有無、喫煙・運動習慣の有無、糖尿病の有無で層別化して解析。その結果、いずれについても交互作用は非有意であり、白血球数と高LDL-C血症罹患率との正の関連は、一貫したものだった。 以上より論文の結論は、「日本人の一般成人において、白血球数が高いことと高LDL-C血症リスクの高さとの関連が認められた」とまとめられている。著者らによると、白血球数と高LDL-C血症との関連を示すエビデンスはこれまで主としてアジア人を対象とする研究から示されてきていて、その理由として「食習慣の違いなどによって、アジア人は欧米人より総じて炎症レベルが低いことが関与している可能性がある」としている。ただし、この点の確認のために多くの人種/民族での同様の研究が必要とされ、また、白血球数が高いことを根拠とする治療介入の強化がCVD転帰の改善に結びつくのかという点も、今後の研究課題として挙げている。

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外傷の処置(3)陥入爪【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q81

外傷の処置(3)陥入爪Q81総合病院の休診日の日直バイト中、高血圧、糖尿病既往の40歳男性が左母趾の痛みを主訴に受診した。痛みは急性経過で、歩行も困難だという。きっと痛風だろうと思いながら靴下を脱がしたが、MTP関節の腫脹、発赤、熱感はない。左母趾爪の側縁の陥入と側爪郭の腫脹発赤がみられた。院内では簡単な小外科対応しかできず、専門医もいない。どうする?

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在宅アルブミン尿スクリーニング、最適な方法は?/Lancet

 一般住民におけるアルブミン尿増加の在宅スクリーニングは、採尿器(UCD)法で参加率が高く、アルブミン尿高値ならびに慢性腎臓病(CKD)や心血管疾患のリスク因子を有する個人を正しく同定した。一方、スマートフォンのアプリケーションを用いる方法(スマホアプリ法)は、UCD法より参加率が低く、精密スクリーニングによる個人のリスク因子の正確な評価のためには検査の特異度が低かった。オランダ・フローニンゲン大学のDominique van Mil氏らが、前向き無作為化非盲検試験「Towards Home-based Albuminuria Screening:THOMAS試験」の結果を報告した。結果を踏まえて著者は、「UCDスクリーニング戦略により、CKD患者の進行性腎機能低下と心血管疾患を予防するための早期の治療開始が可能となるだろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2023年8月16日号掲載の報告。45~80歳の一般住民を、UCD法とスマホアプリ法に無作為化 研究グループは、オランダ・ブレダ地区に居住する45~80歳の一般住民から無作為に抽出され本研究の参加に同意した人を、UCD法群またはスマホアプリ法群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 UCD法群では、UCDで採取した尿サンプルを中央検査施設に送ってもらい、免疫比濁法による尿アルブミン/クレアチニン比(ACR)を測定した。スマホアプリ法群では、家庭用アルブミン尿スクリーニング自己検査キットを配布し、スマートフォンのアプリケーションを使用して自宅でディップスティックによるACR測定を行った。 いずれの群も、最初の検査でアルブミン尿高値(国際腎臓病ガイドライン機構[KDIGO]の分類でA2以上など)を認めた参加者には、2回目の検査キットを送付し、2回目の検査結果が陰性であった場合は、3回目の検査キットを送付した。2回目または3回目の検査が陽性だった参加者は、ブレダにあるAmphia HospitalでCKDと心血管リスク因子の精密スクリーニングを受け、高血圧、高コレステロール血症、2型糖尿病または腎機能障害などが発見された場合は、治療のために一般開業医に紹介された。 主要アウトカムは、在宅スクリーニングと精密スクリーニングの参加率と陽性率とした。また、探索的解析として、在宅スクリーニングの2つの方法の感度と特異度を評価することを事前に計画した。検査完了はUCD法群59.4%、スマホアプリ法群44.3%、検査の感度と特異度はUCD法で96.6%および97.3% 2019年11月14日~2021年3月19日の間に1万5,074例が登録され、7,552例(50.1%)がUCD法群、7,522例(49.9%)がスマホアプリ法群に割り付けられた。 在宅スクリーニングを完了した人(参加率)は、UCD法群で7,552例中4,484例(59.4%、95%信頼区間[CI]:58.3~60.5)、スマホアプリ法群で7,522例中3,336例(44.3%、43.2~45.5)であった(p<0.0001)。 そのうち、最終的にアルブミン尿陽性が確認された人(陽性率)は、UCD法群で4,484例中150例(3.3%、95%CI:2.9~3.9)、スマホアプリ法群で3,336例中171例(5.1%、4.4~5.9)であった。 精密スクリーニングには、UCD法群で150例中124例(82.7%、95%CI:75.8~87.9)、スマホアプリ法群で171例中142例(83.0%、76.7~87.9)が参加した。 ACR高値の検出感度は、UCD法で96.6%(95%CI:91.5~99.1)、スマホアプリ法で98.1%(89.9~99.9)、特異度はそれぞれ97.3%(95%CI:94.7~98.8)、67.9%(62.0~73.3)であり、UCD法のみ検査特性はスクリーニングに十分であることが示された。 精密スクリーニングを完了したUCD法群の124例のうち、アルブミン尿、高血圧、高コレステロール血症、腎機能低下が新たに診断されたのはそれぞれ77例(62.1%)、44例(35.5%)、30例(24.2%)、27例(21.8%)であり、111例(89.5%)が新たにCKDまたは心血管疾患等のリスク因子を有すると診断され、一般開業医に紹介された。

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高血圧への第1選択としての利尿薬vs.他の降圧薬~コクランレビュー

 高血圧患者における死亡率、心血管イベントの発生率、有害事象による中止率などについて、第1選択薬としてのサイアザイド系利尿薬と他のクラスの降圧薬を比較したシステマティックレビューの結果を、カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のMarcia Reinhart氏らがThe Cochrane Database of Systematic Reviews誌2023年7月13日号に報告した。 2021年3月までのCochrane Hypertension Specialized Register、CENTRAL、MEDLINE、Embase、および臨床試験登録が検索された。対象は1年以上の無作為化比較試験で、第1選択薬としての利尿薬と他の降圧薬の比較、および死亡率とその他のアウトカム(重篤な有害事象、総心血管系イベント、脳卒中、冠動脈性心疾患[CHD]、うっ血性心不全、有害作用による中止)が明確に定義されているものとした。 主な結果は以下のとおり。・9万例超が対象の、26の比較群を含む20件の無作為化試験が解析された。・今回の結果は、2型糖尿病を含む複数の合併症を有する50〜75歳の男女高血圧患者における第1選択薬に関するものである。・第1選択薬としてのサイアザイド系およびサイアザイド系類似利尿薬が、β遮断薬(6試験)、Ca拮抗薬(8試験)、ACE阻害薬(5試験)、およびα遮断薬(3試験)と比較された。・他の比較対照には、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、アリスキレン(直接的レニン阻害薬)、およびクロニジン(中枢作用薬)が含まれていたが、データが不十分だった。・重篤な有害事象の総数に関するデータを報告した研究は3件のみで、利尿薬とCa拮抗薬を比較した研究が2件、直接的レニン阻害薬と比較した研究が1件だった。β遮断薬と比較したサイアザイド系利尿薬:・全死亡率(リスク比[RR]:0.96[95%信頼区間:0.84~1.10]、5試験/1万8,241例/確実性:中程度)。・総心血管イベント(5.4% vs.4.8%、RR:0.88[0.78~1.00]、絶対リスク減少[ARR]:0.6%、4試験/1万8,135例/確実性:中程度)。・脳卒中(RR:0.85[0.66~1.09]、4試験/1万8,135例/確実性:低)、CHD(RR:0.91[0.78~1.07]、4試験/1万8,135例/確実性:低)、心不全(RR:0.69[0.40~1.19]、1試験/6,569 例/確実性:低)。・有害作用による中止(10.1% vs.7.9%、RR:0.78[0.71~0.85]、ARR:2.2%、5試験/1万8,501例/確実性:中程度)。Ca拮抗薬と比較したサイアザイド系利尿薬:・全死亡率(RR:1.02[0.96~1.08]、7試験/3万5,417例/確実性:中程度)。・重篤な有害事象(RR:1.09[0.97~1.24]、2試験/7,204例/確実性:低)。・総心血管イベント(14.3% vs.13.3%、RR:0.93[0.89~0.98]、ARR:1.0%、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)。・脳卒中(RR:1.06[0.95~1.18]、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)、CHD(RR:1.00[0.93~1.08]、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)、心不全(4.4% vs.3.2%、RR:0.74[0.66~0.82]、ARR:1.2%、6試験/3万5,217例/確実性:中程度)。・有害作用による中止(7.6% vs.6.2%、RR:0.81[0.75~0.88]、ARR:1.4%、7試験/3万3,908例/確実性:低)。ACE阻害薬と比較したサイアザイド系利尿薬:・全死亡率(RR:1.00[0.95~1.07]、3試験/3万961例/確実性:中程度)。・総心血管イベント(RR:0.97[0.92~1.02]、3試験/3万900例/確実性:低)。・脳卒中(4.7% vs.4.1%、RR:0.89[0.80~0.99]、ARR:0.6%、3試験/3万900例/確実性:中程度)、CHD(RR:1.03[0.96~1.12]、3試験/3万900例/確実性:中程度)、心不全(RR:0.94[0.84~1.04]、2試験/3万392例/確実性:中程度)。・有害作用による中止(3.9% vs.2.9%、RR:0.73[0.64~0.84]、ARR:1.0%、3試験/2万5,254例/確実性:中程度)。α遮断薬と比較したサイアザイド系利尿薬:・全死亡率(RR:0.98[0.88~1.09]、1試験/2万4,316例/確実性:中程度)。・総心血管イベント(12.1% vs.9.0%、RR:0.74[0.69~0.80]、ARR:3.1%、2試験/2万4,396例/確実性:中程度)。・脳卒中(2.7% vs.2.3%、RR:0.86[0.73~1.01]、ARR:0.4%、2試験/2万4,396例/確実性:中程度)、CHD(RR:0.98[0.86~1.11]、2試験/2万4,396例/確実性:低)、心不全(5.4% vs.2.8%、RR:0.51[0.45~0.58]、ARR:2.6%、1試験/2万4,316例/確実性:中程度)。・有害作用による中止(1.3% vs.0.9%、RR:0.70[0.54~0.89]、ARR:0.4%、3試験/2万4,772例/確実性:低)。 著者らは、本結果を以下のようにまとめている。・利尿薬と他のクラスの降圧薬の間で、おそらく死亡率に差はない。・利尿薬はβ遮断薬と比較して、心血管イベントをおそらく減少させる。・利尿薬はCa拮抗薬と比較して、心血管イベントと心不全をおそらく減少させる。・利尿薬はACE阻害薬と比較して、脳卒中をおそらくわずかに減少させる。・利尿薬はα遮断薬と比較して、心血管イベント、脳卒中、心不全をおそらく減少させる。・利尿薬はβ遮断薬、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、α遮断薬と比較して、有害作用による中止がおそらく少ない。

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鼻腔内インスリン投与で認知機能改善?

 鼻腔内へのインスリン投与が、アルツハイマー病(AD)や軽度認知障害(MCI)患者の認知機能に対して保護的に働くことが、メタ解析の結果として示された。一方、認知機能低下の見られない対象では、有意な影響は認められないという。トロント大学(カナダ)のSally Wu氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS ONE」に6月28日掲載された。 鼻腔内へのインスリン投与(intranasal Insulin;INI)は、末梢でのインスリン作用発現に伴う副作用リスクを抑制しつつ、脳内のインスリンシグナル伝達を改善し、認知機能に対して保護的に働くと考えられている。これまでに、INIによる認知機能への影響を調べた研究結果が複数報告されてきている。ただしそれらの結果に一貫性が見られない。Wu氏らは、このトピックに関するシステマティックレビューとメタ解析により、この点を検討した。 MEDLINE、EMBASE、PsycINFO、およびCochrane CENTRALに2000年から2021年7月までに収載された論文を対象として、認知機能に対するINIの影響を研究した無作為化比較試験の報告を検索。2,654件の報告がヒットし、重複削除、タイトルと要約に基づくスクリーニングにより52件に絞り込み、これを全文精査の対象とした。最終的に32件が包括基準を満たした。 それら32件の研究は2004~2021年に発表されており、介入対象として研究ごとに、ADやMCIのほか、健康成人、大うつ病性障害、双極性障害、統合失調症、肥満、2型糖尿病などが設定されていた。INIの投与量は中央値40IU(範囲40~160)であり、研究参加者の平均年齢は53.4歳だった。10件の研究は単回投与による急性効果を検討し、他の研究は慢性効果を検討していた。慢性効果を検討していた研究の介入期間は中央値8週(範囲1~52)だった。 ADやMCIの患者を対象とした研究を統合した解析からは、INI介入による認知機能への有意な保護的作用が確認された〔標準化平均差(SMD)=0.22(95%信頼区間0.05~0.38)〕。一方、その他の集団を対象とした研究の解析からは、INI介入による認知機能への有意な影響は確認されなかった。例えば健康な集団ではSMD=0.02(同-0.05~0.09)、メンタルヘルス疾患患者ではSMD=0.07(-0.09~0.24)、代謝性疾患患者ではSMD=0.18(-0.11~0.48)であり、いずれも非有意だった。 著者らは、「このシステマティックレビューとメタ解析の結果は、認知機能が低下している対象ではINIによる介入が有効である可能性を示唆している。INIはまだ新しい研究分野であるため、対象者の生活全体の質を向上させるという最終的な目標に向けて、今後の研究ではさまざまな背景を持つ患者集団での有用性を探り、治療反応の不均一性を理解する必要がある」と述べている。 なお、数人の著者がバイオ医薬品企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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英語で「再確認しましょう」は?【1分★医療英語】第94回

第94回 英語で「再確認しましょう」は?Is this dose correct?(この用量で大丈夫でしたか?)Let’s double-check.(再確認してみましょう)《例文1》医師Have you sent this medication to their pharmacy?(この薬を患者さんの薬局に処方してありますか?)看護師Yes, but let me double-check.(はい、でも再確認しますね)《解説》“double-check(double check)”の表現を学びましょう。これは医学以外でも幅広く使われる英語表現なので、すでに知っている方も多いと思います。日本語でも「ダブルチェック」という言葉はそのまま使われますよね。ただ、日本の医療現場で「ダブルチェック」と言ったとき、「2人が同時にチェックする」という意味で使われることが多いかと思います。英語の場合はちょっとニュアンスが異なります。ケンブリッジ辞典では、“To make certain that something is correct or safe, usually by examining it again.”(もう一度調べることによって、何かが正しいのか問題がないのかを確認すること)と記載がありますが、「正しいかどうかを、チェックすることで確かめる」といったような意味になります。“double-check”を聞かない日はないくらい、医療現場で頻用されている表現です。意味としてはほぼ同じなのですが、さらに“extra”な表現として“double-check”の上の“triple-check”なんて言うこともあります。講師紹介

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水断食、減量効果はあるが…

 一定期間、水のみを摂取するダイエット法である水断食は、減量という点では効果的なようだ。しかし、水断食により減った体重をどの程度維持できるかは不明である上に、血圧低下やコレステロール値の改善といった代謝に関わる効果は水断食を終えるとともに消失する可能性が、新たな研究で示唆された。米イリノイ大学シカゴ校のKrista Varady氏らによるこの研究結果は、「Nutrition Reviews」に6月27日掲載された。 水断食は、通常は5〜20日間、時にはそれ以上の期間、水だけを摂取するダイエット法だが、専門家の監督下で、朝食に少量のジュース、昼食にごく少量のスープなど、1日に250kcalまで摂取する水断食も行われている。Varady氏らは今回、8件の研究を対象にしたナラティブレビューを実施し、水断食が、体重、血圧、血中の脂質値、血糖コントロールなどに与える影響についての評価を行った。 その結果、水断食により短期間で体重が減る可能性のあることが明らかになった。具体的には、水断食を5日間行った人では体重が4〜6%、10日間行った人では2〜10%、15〜20日間行った人では7〜10%減っていた。ただし、減量した分のおよそ3分の2は除脂肪量であり、体脂肪量は3分の1程度を占めたに過ぎなかった。Varady氏らは、「除脂肪量の減少は、絶食後の安静時代謝率の低下につながり、それが将来の体重再増加のリスクとなり得るため、この結果は懸念すべきものだ」と述べている。 減量後にその体重が維持されているかどうかを追跡した研究は数件だけで、そのうちの1件の研究では、水断食終了から3カ月以内に参加者の体重が元に戻っていた。別の2件の研究では、体重の戻りはわずかであったが、参加者は水断食終了後も食事のカロリー制限をするよう促されていた。 一方、血圧は、水断食の期間の長さに応じて持続的に低下していた。血液中の脂質値に与える効果については明確ではなかったが、いくつかの研究では、悪玉コレステロールとも呼ばれるLDLコレステロール値とトリグリセライド(中性脂肪)値の低下を報告していた。しかし、その他の研究では、水断食によるベネフィットは報告されていなかった。血糖コントロールについては、血糖値が正常な人では、空腹時血糖値、空腹時インスリン値、インスリン抵抗性、HbA1c値の低下が認められたが、1型および2型糖尿病患者ではこれらの値に変化が認められなかった。しかし、このような代謝上の利点は、水断食を終えるとともに消失した。この結果は、水断食終了後も体重を維持している人でも同様だった。 安全性に関しては、最もよく生じた副作用は、空腹感、頭痛、不眠、代謝性アシドーシスであり、水断食は比較的安全なものと判断された。 これらの結果を踏まえてVarady氏は、「私なら水断食を人に勧めたりはしない。水断食がこの1年ほどの間で突如として人気のダイエット法になったことは知っている。しかし、たとえ水断食で落とした体重を維持できたとしても、健康上のメリットは全て失われてしまう」と話す。 一方、米ボストン医療センターの肥満医学部門の長であるIvania Rizo氏は、水断食を長期にわたって行うと、ビタミンやミネラルが欠乏した状態になることが予想されるとして、懸念を示している。 Varady氏とRizo氏は、「水断食は、端的に言うと、持続可能なダイエット法ではない」と断言する。Rizo氏は、「水断食のような短期的で持続不可能な介入が、慢性疾患である肥満に特定の影響を与えるとは思えない」と述べる。そして、「水断食をするよりは、空腹感を減らし、食事以外のことを考えられるようにするオゼンピックのような新しい減量薬に目を向けた方が良い」と話している。

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アミリンアナログとGLP-1受容体作動薬の配合剤は肥満を伴う2型糖尿病に有効である(解説:小川大輔氏)

 肥満を伴う2型糖尿病の治療として、GLP-1受容体作動薬であるセマグルチドが有効であることは周知のとおりである。一方、新規のアミリンアナログであるcagrilintideは肥満症の治療薬として期待が高まっている。今回、BMI 27以上の2型糖尿病患者を対象に、週1回投与のセマグルチド2.4mgとcagrilintide 2.4mgの配合剤(CagriSema)の第II相臨床試験の結果がLancet誌に発表された1)。 アミリンは高血糖時にインスリンと共に膵β細胞から分泌されるホルモンであり、視床下部の食欲中枢に作用して胃の内容物排出速度を低下させ、満腹感を促進する。アミリンアナログであるpramlintideは1型および2型糖尿病の治療薬として2005年にFDAによって承認された。しかし作用時間が短く、1日2~3回注射しなければいけないため実際にはほとんど使用されていない。その後、長時間作用型のアミリンアナログであるcagrilintideが開発され、GLP-1受容体作動薬と共に肥満症の治療薬として期待されている2)。 この試験は米国の17施設において、BMI値27以上でメトホルミン治療中の2型糖尿病成人患者92例を無作為に1対1対1の3群に割り付け、CagriSema、セマグルチド、cagrilintide(いずれも2.4mgまで漸増)をそれぞれ週1回皮下投与した。主要エンドポイントはHbA1cのベースラインから32週目までの変化量で、副次エンドポイントは体重、空腹時血糖値、CGMパラメータ、安全性であった。 ベースラインから32週までのHbA1c値と空腹時血糖値の平均変化は、CagriSema群は、cagrilintide群よりも有意に変化幅が大きかったが、セマグルチド群とは有意差は認められなかった。また体重の平均変化は、CagriSema群-15.6%、セマグルチド群-5.1%、cagrilintide群-8.1%と、CagriSema群はセマグルチド群、cagrilintide群のいずれよりも減少幅が有意に大きかった。これらの結果より、セマグルチドとcagrilintideの併用は、セマグルチド単独に比べてHbA1c値と空腹時血糖値の有意な改善は認めないが、体重に関してはセマグルチド単独よりさらに減少することが示された。 有害事象については、CagriSema群、セマグルチド群、cagrilintide群のいずれの群も同程度であり、消化器系有害事象の頻度が高かった。レベル2およびレベル3の低血糖の発現はいずれの群にも認めなかった。またDexcom G6を用いたCGMのデータにおいても低血糖を伴わず良好な血糖プロファイルが確認された。 今回発表されたCagriSemaの第II相試験で、週1回投与のセマグルチド2.4mgとcagrilintide 2.4mgの配合剤は、過体重の2型糖尿病患者の減量に有効である可能性が示された。第III相試験では症例数を1,200例に増やして現在検討が行われているので、その結果を待ちたい。残念ながら、日本ではセマグルチドはまだ1mgまでしか使えず、アミリンアナログは承認されていない。肥満を伴う2型糖尿病の治療の格差はますます広がるばかりである。

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産後受診時の心血管健康カウンセリング、減少傾向に/JAMA

 出産をした成人女性において、妊娠前の心血管健康(cardiovascular health、CVH)の不良と有害な妊娠アウトカム(APO)は、その後の心血管疾患(CVD)の重大なリスク因子となる。産後受診は、リスクを有する人のCVHに関する診療の機会となるが、CVHカウンセリングを受けていたのは約60%であったことが、米国・ノースウェスタン大学のNatalie A. Cameron氏らによる調査で明らかにされた。また、5年の調査対象期間(2016~20年)に、わずかだが減少していたという。JAMA誌2023年7月25日号掲載の報告。2016~20年にカウンセリングを受けた割合と予測因子、傾向を調査 研究グループは、米国疾病予防管理センター(CDC)が行う住民ベースのサーベイ(全国から代表者を抽出して実施)のPregnancy Risk Assessment Monitoring System(PRAMS)から、2016~20年のデータを連続断面解析し、自己申告による産後受診時のCVHカウンセリングを受けた割合と予測因子および傾向を調べた。 主要解析には、出産後4~6週に受診し、CVHカウンセリングを受けた、自己申告による妊娠前のCVDリスク因子(肥満症、糖尿病、高血圧)およびAPO(妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群、早産)に関するデータが入手できた16万7,705人(重み付け調整計871万4,459人)を包含した。 自己申告による産後CVHカウンセリング(健康的な食事、運動、妊娠中に増加した体重を減らすためのカウンセリングと定義)を受けた割合(/100人、年間年齢補正後)を全体およびCVDリスク因子数別(妊娠前リスク因子またはAPOが0、1、2以上で定義)で算出。2016~20年のCVHカウンセリングの傾向を、年平均変化率(APC)で評価した。 データをプールし、年齢、教育、加入保険(産後)、出産年で補正後、CVDリスク因子の有無で比較するため、カウンセリングの率比(RR)を算出して評価した。リスクなし群とあり群との差はわずかで、いずれも年々減少 2016~20年に自己申告に基づく産後CVHカウンセリングを受けた割合は、CVDリスク因子なし群で56.2/100人から52.8/100人に減少していた(APC:-1.4%[95%信頼区間[CI]:-1.8~-1.0/年])。リスク因子が1つあり群では58.5/100人から57.3/100人に減少(-0.7%[-1.3~-0.1/年])、リスク因子が2つ以上群では61.9/100人から59.8/100人に減少していた(-0.8%[-1.3~-0.3/年])。 カウンセリングを受けたとの報告はリスク因子なし群と比べて、リスク因子1つの群(RR:1.05[95%CI:1.04~1.07])、リスク因子2つ以上の群(1.11[1.09~1.13])いずれもわずかな増大にとどまった。

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孤独が糖尿病患者の心臓にダメージを与える?

 糖尿病患者にとって不健康な生活習慣よりも、孤独であることの方が、予後に悪影響を及ぼすのではないかとする研究結果が報告された。米テュレーン大学公衆衛生・熱帯医学分野のLu Qi氏らの研究によるもので、詳細は「European Heart Journal」に6月29日掲載された。孤独を感じている糖尿病患者は、社会とのつながりを感じている患者に比べて、その後10年間で心血管疾患(CVD)イベントを起こすリスクが、最大26%高いという。 この研究では、英国の大規模ヘルスケアデータベース「UKバイオバンク」に登録されている糖尿病患者1万8,509人のデータが解析に用いられた。「孤独を感じることがしばしばあるか?」、「相談相手が身近にいるか?」という二つの質問で孤独レベルを評価すると、対象者の61%は孤独を感じていない(スコア0)と判定され、30%弱がスコア1であり、約9%はスコア2で強い孤独を感じていると判定された。この結果とCVDイベントリスクとの関連を、既知のCVDリスク因子であるHbA1cや血圧、LDL(悪玉)コレステロール(LDL-C)、喫煙習慣、腎機能などとともに検討した。 平均10.7年の追跡期間中に、冠動脈性心疾患(CHD)2,771件、脳卒中701件を含む合計3,247件のCVDイベントが記録されていた。結果に影響を及ぼし得る交絡因子を調整後、孤独を表すスコアが最も低い(ゼロ)の群に比較して、スコアが1の群はCVDイベントリスクが11%高く〔ハザード比(HR)1.11(95%信頼区間1.02~1.20)〕、スコアが2の群は26%ハイリスクであり〔HR1.26(同1.11~1.42)〕、有意な関連が認められた(傾向性P<0.001)。 CVDイベントリスクとの関連の強さを他のリスク因子と比較すると、関連が強い因子から順に、LDL-C、BMI、尿中アルブミン/クレアチニン比、腎機能(eGFR)に続いて、孤独が上位にランク入りした。HbA1c、収縮期血圧、喫煙、運動不足、非健康的な食習慣などは、孤独より下位だった。 この結果は、孤独がCVDリスクに直接的な影響を及ぼすことを証明するものではない。ただし、これと同様の研究結果は以前にも報告されている。米サウスフロリダ大学のTheresa Beckie氏は今回の研究には関与していないが、このトピックに関する米国心臓協会(AHA)の2022年の声明の著者陣の1人だ。その声明をまとめる段階で行われた既報研究のレビューでは、孤独や孤立した状態にあることが、CVDイベントの発生やそれによる死亡のリスクが30%高いことと関連していることが示されていた。 Beckie氏は今回の研究報告について、喫煙や運動不足よりも孤独の方がさらに、CVDイベントの脅威である可能性が示されたことに注目している。その理由について同氏は、「詳細は不明でさらなる研究が必要だが、孤独を感じている人は自分の健康に気を配ろうとしない傾向があるのではないか」と指摘している。なお、今回の研究では社会的な孤立とCVDリスクとの関連も検討されていたが、その関連は非有意だった。この点についてQi氏は、「孤立は個人が置かれた状況を示しているのに対して、孤独は個人の感じ方であるという違いによるものかもしれない」と述べている。

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経口GLP-1受容体作動薬の肥満症に対する効果(解説:小川大輔氏)

 2023年8月現在、欧米で肥満症の治療薬として使用されているGLP-1受容体作動薬は、リラグルチドとセマグルチドの2製剤であり、いずれも注射薬である。一方、GLP-1受容体作動薬の経口薬(経口セマグルチドの最大用量は14mg)は、2型糖尿病の治療薬として承認されており、その減量効果は注射薬と比べて低い。今回、2型糖尿病を伴わない肥満症の成人を対象とした、経口GLP-1受容体作動薬であるセマグルチド50mgの1日1回投与の試験結果が、第83回米国糖尿病学会年次学術総会で発表され、Lancet誌に掲載された1)。 この第III相試験は北米や欧州など9ヵ国、50医療機関において実施された。2型糖尿病のないBMI値30以上、もしくは27以上で体重関連の合併症あるいは併存疾患がある患者667例を無作為に1対1の2群に割り付け、セマグルチド50mgあるいはプラセボを投与し、68週間後の体重の変化率と、ベースラインより体重が5%以上減少した症例の割合を評価した。 その結果、ベースラインから68週までの体重の平均変化率は、セマグルチド群では15.1%の体重減少を達成し(プラセボ投与群では2.4%)、マイナス12.7パーセントポイントの有意な減量効果が示された。また、68週間後に5%以上の体重減少を達成した割合は、プラセボ群が26%に対しセマグルチド群が85%と有意差を認めた。さらに、10%以上の体重減少はセマグルチド群69%対プラセボ群12%、20%以上の体重減少はセマグルチド群34%対プラセボ群3%であった。有害事象については消化器系有害事象が最も多く、セマグルチド群で80%、プラセボ群で46%と報告された。 食事療法と運動療法で十分な減量効果が得られない肥満症患者に対し、欧米ではGLP-1受容体作動薬の注射薬が処方可能である。そして今回の試験により、経口投与可能なGLP-1受容体作動薬が肥満症治療の選択肢に加わったことになる。実は今年の米国糖尿病学会で、別の経口GLP-1受容体作動薬の試験結果も発表されている2)。GLP-1受容体作動薬の注射薬すら使用できない日本においては、肥満症の治療は従来通り食事療法と運動療法を継続する、あるいは減量手術を考慮することになる。

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2型糖尿病の肝硬変、GLP-1受容体作動薬により死亡リスク減

 肝硬変は2型糖尿病と関連していることが多いものの、肝硬変患者を対象とした2型糖尿病治療に関する研究はほとんどない。今回、台湾・Dr. Yen's ClinicのFu-Shun Yen氏らは2型糖尿病の肝硬変患者を対象にGLP-1受容体作動薬による治療の長期アウトカムを調査した。その結果、2型糖尿病の肝硬変(代償性)患者がGLP-1受容体作動薬を使用した場合、死亡、心血管イベント、非代償性肝硬変、肝性脳症、肝不全のリスクが有意に低くなることが示された。Clinical Gastroenterology and Hepatology誌オンライン版2023年6月16日号掲載の報告。2型糖尿病の肝硬変患者はGLP-1受容体作動薬による治療で死亡リスク減 研究者らは台湾の国民健康保険研究データベースを用い、傾向スコアマッチング法により2008年1月1日~2019年12月31日のGLP-1受容体作動薬の使用者と未使用者467組を選定した。 2型糖尿病の肝硬変患者を対象にGLP-1受容体作動薬による治療の長期アウトカムを調査した主な結果は以下のとおり。・平均追跡期間は、GLP-1受容体作動薬の使用者で3.28年、未使用者で3.06年だった。・それぞれの死亡率は、1,000人年当たり27.46例と55.90例だった。・多変量解析の結果、GLP-1受容体作動薬の使用者は未使用者に比べ、死亡(調整ハザード比[aHR]:0.47、95%信頼区間[CI]:0.32~0.69)、心血管イベント(aHR:0.6、95%CI:0.41~0.87)、非代償性肝硬変(aHR:0.7、95%CI:0.49~0.99)、肝性脳症(aHR:0.59、95%CI:0.36~0.97)、肝不全(aHR:0.54、95%CI:0.34~0.85)のリスクが低いことが示された。・GLP-1受容体作動薬の累積使用期間が長いほど、GLP-1受容体作動薬を使用しなかった場合よりもこれらのリスクが低くなった。

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HIV感染者の心血管イベント、ピタバスタチンで35%減/NEJM

 ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者において、ピタバスタチンはプラセボと比較し、追跡期間中央値5.1年で主要有害心血管イベントのリスクを低下することが示された。米国・マサチューセッツ総合病院のSteven K. Grinspoon氏らが12ヵ国145施設で実施した無作為化二重盲検第III相試験「Randomized Trial to Prevent Vascular Events in HIV:REPRIEVE試験」の結果を報告した。HIV感染者は、一般集団と比較して心血管疾患のリスクが最大2倍高いことが知られており、HIV感染者における1次予防戦略に関するデータが求められていた。NEJM誌オンライン版2023年7月23日号掲載の報告。HIV感染者約7,800例において、主要有害心血管イベントの発生を評価 研究グループは2015年3月26日~2019年7月31日に、抗レトロウイルス療法を受けている心血管疾患リスクが低~中等度の40~75歳のHIV感染者7,769例を登録し、ピタバスタチン群(ピタバスタチンカルシウム1日4mgを1日1回経口投与)またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けた。過去90日以内のスタチン使用歴があり、アテローム性動脈硬化症が認められた患者は除外した。 主要アウトカムは、主要有害心血管イベント(心血管死、心筋梗塞、不安定狭心症による入院、脳卒中、一過性脳虚血発作、末梢動脈虚血、冠動脈・頸動脈・末梢動脈の血行再建術、原因不明の死亡の複合と定義)とし、出生時の性別およびスクリーニング時のCD4数で層別化したCox比例ハザードモデルを用いたtime-to-event解析を行った。ピタバスタチンで心血管イベントが35%低下 7,769例(ピタバスタチン群3,888例、プラセボ群3,881例)の年齢中央値は50歳(四分位範囲[IQR]:45~55)、CD4数の中央値は621個/mm3(IQR:448~827)であった。また、HIV RNA量は、利用可能なデータを有する5,997例中5,250例(87.5%)で定量未満であった。 本試験は、追跡期間中央値5.1年(IQR:4.3~5.9)時点の2回目の中間解析の結果、有効性が認められ安全性の懸念はなかったことから早期に打ち切りとなった。 主要有害心血管イベントの発生頻度は、ピタバスタチン群が1,000人年当たり4.81、プラセボ群は1,000人年当たり7.32で、ハザード比(HR)は0.65(95%信頼区間[CI]:0.48~0.90、p=0.002)であった。 有害事象については、Grade3以上または治療変更を要した筋肉痛またはミオパチーがピタバスタチン群で91例(2.3%)、プラセボ群で53例(1.4%)、糖尿病がそれぞれ206例(5.3%)、155例(4.0%)に認められ、いずれもピタバスタチン群では発現率が高かった。 なお、著者は、「今回はピタバスタチンを用いた結果ではあるが、LDLコレステロールを低下させる他の戦略も同様に有用である可能性があり、さらなる大規模臨床試験においてスタチン療法単独で得られた結果と比較検証する必要がある」とまとめている。

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患者へのわかりやすい説明のためにChatGPTを使う【医療者のためのAI活用術】第3回

(1)ChatGPTはわかりやすい説明に向いている患者さんに病気について十分説明したにもかかわらず、理解してもらえなかったという経験をしたことはないでしょうか。私自身、とくに研修医の頃は、病状説明の際につい専門用語を多用してしまい、患者さんが混乱してしまうという苦い経験を何度もしました。ChatGPTの強みは、目的にあった文章を効率的に生成することです。そのため、病気について専門用語を避けてわかりやすく説明することにも向いており、とくに研修医の先生や若手の医療者が重宝する活用法です。実際に、「ChatGPTを患者へのわかりやすい説明のために利用している医師は多い」と、ChatGPTに出資しているマイクロソフト社の担当者が語っています1)。注意点としては、ChatGPTは正確な情報を得るのには不向きなツールであり、説明する内容は自身の医学知識や教科書の内容と照らし合わせて調整する必要があります。また、当然ですがプロンプトを入力する際に、患者の個人情報を含まないように注意しましょう。ここでは、前回説明した「深津式プロンプト」を使用して具体例を紹介していきます。(2)箇条書きで説明するたとえば、検査の結果、甲状腺機能亢進症の診断をした患者さんに病状説明をしたいという場合、以下のようなプロンプトを使用できます。#役割あなたは、優秀な内分泌内科の医師です#命令書甲状腺機能亢進症について、患者さん向けにわかりやすく説明してください#制約条件疾患の概要、症状、検査、治療に分けて箇条書きで説明してください専門の医学用語をなるべく避け、簡単な言葉を使ってくださいすると、以下のような回答が返ってきます。ChatGPTの回答(GPT-4を使用)疾患の概要甲状腺機能亢進症は、甲状腺という首の前部にある小さな器官が、普通よりも多くの甲状腺ホルモンを作り出す状態を指します。甲状腺ホルモンは、体のエネルギーの使い方や心の働きをコントロールします。症状心臓がドキドキと早く打つ、体重が減る、神経が高ぶりやすい、イライラする、夜なかなか眠れない、手が震える、汗をよくかく、筋肉が弱くなる、便が通常より多くなる、体が常に暑く感じる検査血液検査甲状腺ホルモンの量をチェックします。甲状腺機能亢進症の場合、一般的には甲状腺ホルモンが多い状態となります。甲状腺スキャン放射性物質を使って甲状腺の大きさや形、そしてどの程度活発に働いているかをチェックします。治療薬甲状腺ホルモンの生成を抑える薬を使用します。放射線ヨード治療放射性ヨウ素を用いて甲状腺組織を破壊し、甲状腺ホルモンの生成を抑えます。手術一部または全ての甲状腺を取り除く手術を行うこともあります。手術後は、生涯にわたって甲状腺ホルモンの補充治療が必要となります。いかがでしょうか。不正確・不十分な点はありますが、的外れな回答ではないと思います。「この説明の仕方はわかりやすい」と感じた部分を実際に患者さんに説明する際に採用すると良いでしょう。(3)医師と患者の対話形式で説明するほかにも、医師と患者の対話形式で示してもらうことで、実際の場面に近い形式で参考にすることができます。以下、心房細動について説明する状況を想定して、プロンプトを作成しています。#役割あなたは、循環器内科の医師です#命令書心房細動についてわかりやすく説明してください#制約条件医師と患者の会話形式で説明してください医学用語をなるべく避け、簡単な言葉を使ってくださいすると、以下のような回答がChatGPTから得られます。ChatGPTの回答(GPT-4を使用)患者先生、心房細動って何ですか?医師心房細動は、心臓が正常に働かない状態の1つで、とくに心房と呼ばれる心臓の部分が、通常より速く、または不規則に拍動する状況を指します。心房は心臓の4つの部屋のうちの2つで、心臓の血液を送り出すためのポンプのような役割を果たしています。心房細動が起こると、このポンプがうまく機能しなくなり、心臓全体の働きが乱れます。患者それはどういう影響があるのですか?医師うまく機能しない心房は、血液が心臓内で滞りやすくなります。その結果、血液が固まり、血栓と呼ばれる塊を作る可能性があります。この血栓が血管を通って体の他の部分、とくに脳に到達すると、脳卒中のリスクが高まります。また、心房細動は体全体への血液の供給が不足することで、息切れや疲れやすさなどの症状を引き起こすことがあります。患者どうやって治療するのですか?医師心房細動の治療は主に3つの目的があります。まず、症状を改善し、生活の質を向上させること。次に、心房細動が引き起こす可能性のある合併症を防ぐこと。そして最後に、心臓のリズムを正常に戻すことです。治療法は個々の患者の状態やリスクによりますが、薬物療法、カテーテルアブレーションという手術、あるいは生活習慣の変更などが含まれます。こちらも、完璧な回答とはいえませんが、説明する際のヒントになるかもしれません。また、さらに回答を求めたい場合は、「発作性心房細動についても説明して」「続けて」などと追加で入力することが可能です。1)The New York Times. 「When Doctors Use a Chatbot to Improve Their Bedside Manner」. (2023年7月6日参照)

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2型DM患者は超加工食品摂取で食事の質と無関係に死亡リスク増

 2型糖尿病患者では、食事の質とは無関係に、カップ麺やスナック菓子、加工肉などの超加工食品の摂取量の増加は全死因死亡率と心血管疾患(CVD)死亡率の上昇と関連していることが、イタリア・IRCCS NEUROMEDのMarialaura Bonaccio氏らの前向き観察コホート研究の結果、明らかになった。The American Journal of Clinical Nutrition誌オンライン版2023年7月26日号掲載の報告。 研究グループは、ベースライン時に2型糖尿病を発症している1,065例を対象として、11.6年間(中央値)を前向きに追跡した。食物摂取量は、188項目の食事アンケートによって評価された。超加工食品はNova分類に従って定義され、超加工食品と総摂取食物の重量比として計算された。食事の質は、地中海食スコアによって評価された。Cox比例ハザードモデルを用いて、死亡率の多変量調整ハザード比(aHR)と95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・超加工食品の摂取量は平均7.4%(±5.0%)であった。・超加工食品摂取量が最も多かった群(女性10.5%以上、男性9%以上)では、摂取量が最も少なかった群(女性4.7%未満、男性3.7%未満)よりも、全死因死亡(aHR:1.70、95%CI:1.25)およびCVD死亡(aHR:2.64、95%CI:1.59)のリスクが高かった。・地中海食スコアによる食事の質を加味しても、これらの関連性は変化しなかった。・超加工食品摂取量と全死因死亡およびCVD死亡リスクの間には線形の用量反応関係が観察された。 これらの結果より、研究グループは「ベースライン時に2型糖尿病を発症していた参加者では、食事の質とは無関係に、超加工食品摂取量の増加は生存率の低下とCVD死亡率の上昇と関連していた。2型糖尿病管理の食事ガイドラインでは、必要栄養量に基づいた食事の導入に加えて、超加工食品を制限することも推奨する必要がある」とまとめた。

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1カ月の生活習慣改善で精液の質が向上する

 タバコやお酒を控えたり、熱がこもりにくいタイプの下着を履く、禁欲期間が長くならないようにするといった生活習慣の見直しによって、精液の質が改善する可能性を示す研究結果が報告された。不妊外来を受診した男性に対してこのような指導を行ったところ、約1カ月後に精子の運動能の有意な向上などが確認されたという。千葉大学大学院医学研究院泌尿器科学・亀田IVFクリニック幕張の小宮顕氏らの研究によるもので、詳細は「Heliyon」に4月4日掲載された。 男性不妊の一因として不適切な生活習慣や慢性疾患の影響が関与していることが知られている。また、男性の生殖能力が低いことは、がんなどの疾患罹患や死亡リスクの高さ、あるいは生まれてくる子どもが早産や低出生体重児となるリスクの高さと関連しているとする報告もある。そのため、男性不妊のリスク因子の中で修正可能のものを早期に見いだして介入することが、不妊治療の成功とともに本人と子どもの健康につながる可能性もある。とはいえ、男性の生殖能力に影響を与える修正可能な因子へ介入することの効果は、いまだ明確になっていない。 以上を背景として小宮氏らは、体外受精(IVF)や顕微授精を行っている生殖医療専門施設である亀田IVFクリニック幕張をカップルで受診した男性患者を対象に、生活習慣改善の指導を行って、その前後での生殖能力に関わる検査値の変化を検討した。解析対象は、初回受診時に精子の数や精液の質の低下を示す何らかの所見があり、かつ無精子症ではない402人(平均年齢35.8±5.6歳)。なお、全カップルの80.6%が原発性不妊症(過去に妊娠成立が一度もない)であり、52.9%は不妊症の女性要因ありと診断されていた。 解析対象男性の主な特徴は以下の通り。現喫煙者22.6%、習慣的飲酒者47.0%、夜間勤務者14.8%、性器に熱ストレスが加わりやすい肌に密着する下着を用いている割合が68.7%、禁欲期間が3日を超えている割合が31.2%で、性交頻度は月4回以下が75.6%、月1回以下が22.2%だった。また、生殖能力の低下に関連する可能性のある検査指標や併存疾患として、BMI30以上が7.0%、糖尿病3.4%、亜鉛欠乏症16.2%、性腺機能低下症17.0%、触知可能な精索静脈瘤25.9%、軽症以上の勃起障害(SHIMという評価スコアが21点以下のED)44.2%、中等症以上のED(SHIMが16点以下)18.8%などが認められた。患者全体の98.8%が、生殖機能低下につながる可能性のあるこれらの因子を一つ以上有していた。 生活習慣改善指導の主な内容は、タバコやアルコールをやめるか減らす、性器への熱ストレスを抑える(ゆったりとした下着を着用、パソコンを膝の上に置いて使わない、サウナや長湯を避ける)、脱毛症治療薬の服用中止、禁欲期間を最大3日以内とする(禁欲が長引くと精液の質が低下するため)など。なお、糖尿病などの併存疾患の治療は行わなかった。 初回の検査から中央値28日(平均36.1±54.3日)後に2回目の検査を実施。その間に、禁欲期間は平均3.6日から2.9日へと有意に短縮していた。検査所見については、精液量や総精子数は有意な変化が見られなかったが、精液の質を表す精子濃度、精子の運動性、総運動精子数(TMSC)は有意に上昇し、精子DNA断片化率は有意に低下していた。また、乏精子症に該当する割合は49.1%から33.6%に、精子無力症は74.8%から53.4%に、いずれも有意に減少していた。 介入前後のTMSCの差は720万だった。これを患者背景別に解析すると、35歳以上や喫煙・飲酒習慣あり、短時間睡眠(6.5時間未満)、性器への熱ストレスが生じやすい生活習慣、精液量が少ない(1.0mL未満)、軽症EDに該当する患者でも、TMSCの有意な増加が認められた。さらに、性腺機能低下症、触知可能な精索静脈瘤、脂質異常症、高尿酸血症、肝機能障害を有する患者も、介入によるTMSCの有意な増加が認められた。 その一方で、BMI30以上、高血圧、糖尿病、亜鉛欠乏症、夜間勤務、禁欲期間が3日を超える、中等症以上のEDなどに該当する患者では、TMSCの有意な変化が見られなかった。それらの因子を独立変数、介入によるTMSCの増加が720万未満であることを従属変数とする多変量回帰分析からは、中等症以上のEDのみが独立した関連因子として抽出された。 著者らは、本研究は単施設の後方視的観察研究であること、精液の質に影響を及ぼし得るビタミンDを含む栄養素摂取量を評価していないことなどの限界点があると述べた上で、「男性不妊患者に対して生活習慣の修正を指導すれば、泌尿器科での専門的治療を受ける前に、精液の質をある程度改善できるのではないか」とまとめている。

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薬の中止・開始理由、紹介先が安心する書き方【紹介状の傾向と対策】第7回

<あるある傾向>この薬の服用している理由がわからない。この薬を中止して良いかわからない。<対策>紹介するときは、できるだけ薬の開始理由、減量・中止の可否を明記する多忙な臨床業務の中で紹介状(診療情報提供書)の作成は負担の大きな業務の1つです。しかし、紹介状の不備は、依頼先(紹介先)の医師やスタッフに迷惑をかけるだけではなく、患者さんの不利益やトラブルにつながりかねません。このため、できる限り依頼先が困らない紹介状の作成を心がけたいものです。今回は「処方薬の継続要否、中止の可否は明記」についてお話したいと思います。【紹介状全般に共通する留意点】(1)相手の読みやすさが基本(2)冒頭に紹介する目的を明示する(3)プロブレムと既往歴は漏れなく記載(4)入院経過は過不足なく、かつ簡潔に記載(5)診断根拠・診断経緯は適宜詳述(6)処方薬は継続の要否、中止の可否を明記(7)検査データ、画像データもきちんと引き継ぐ筆者は患者さんが使用するすべての薬剤には、処方開始に至った症状や病名があると考えています。言い換えれば、紹介されてきた患者さんの処方内容は、紹介状の病名やプロブレム、既往歴から説明可能であるべきです。しかし、現実はそうではありません。しかし、患者さんが紹介されてきたとき、内服理由がわからないということは日常茶飯事です。しかも比較的に重要度の高い薬剤の服用理由がわからないこともあります。処方意図が不明なアスピリン先日、筆者に紹介されてきた70代後半の患者さんは、アスピリンを服用していました。しかし、冠動脈疾患の既往はなく、脳梗塞イベントや血管狭窄の既往も確認されませんでした。患者や家族に聴取しても服用理由はわかりませんでした。紹介元の病院にも問い合わせましたが、紹介元も処方理由は把握しておらず、アスピリンの服用が必要な既往歴は、確認できないとのことでした。血圧コントロールが良くない患者さんでしたので、そのままアスピリンを継続する際には、きちんとした血圧管理下で服用しなければ脳出血を助長する可能性も想定され、中止しても良いかどうかの判断に非常に困りました。このように処方理由がわからないことで、中止判断ができない薬剤もあります。紹介元やさらにその紹介元まで遡って問い合わせることは、多忙な医療現場では限界があるため、結局は、紹介されてきた患者さんの「薬をそのまま継続するのが無難」という判断になってしまうことが少なからずあります。その上、自身の病院で新たな処方をすることもあり、患者さんの使用薬剤が増えてしまう問題が生まれてしまいます。血圧に影響する薬、どれから減量するか…また、別の紹介患者さんのケースですが、心筋梗塞後の低心機能状態でした。紹介されてきたときから収縮期血圧は80台です。そして、ときどき70台にまで低下するようになりました。前医の処方には血圧降下に影響を与える薬剤5種類が処方されていたので、前医に問い合わせて、血圧を改善させるために減量や中止可能な薬剤と減量してほしくない薬剤を確認しました。このようなときも、すでに低血圧の状況を把握していた前医が、紹介状に薬剤の詳細を記載していれば、問い合わせは発生しなかったでしょう。その患者さんに生じうる状況を想定し、紹介状には「この状況のときは、この薬剤から中止・減量してください」と、薬剤に関する申し送りもきちんと書いておくことは、紹介された医師の負担軽減にとても有効だと考えます。ポリファーマーシーの問題が叫ばれるようになって久しいですが、本来は中止可能な薬剤を安心して中止できるようにするには、その薬剤が開始された経緯をわかっていることが一番重要です。そのためにも患者さんを他医に紹介し、その後の診療を依頼するときは、紹介状に薬剤の開始経緯と減量、中止の可否を明記し、その後に引き継いだ医師が適切な判断ができるように情報提供できることが望ましいです。

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寄せられた疑問に答える、脂質異常症診療ガイド2023発刊/日本動脈硬化学会

 『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』が6月30日に発刊された。動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイドは2018年版から5年ぶりの改訂となり、塚本 和久氏(帝京大学大学院医学研究科長、内科学講座 教授)が改訂点や本書の新たな取り組みについて、日本動脈硬化学会主催のプレスセミナーで解説した。動脈硬化関連の各種ガイドライン・指針に準拠 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイドは脂質異常症に特化し、非専門医が困ったときに参考となる情報をコンパクトに記載したものである。日本動脈硬化学会では『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022度版』をはじめ、『スタチン不耐に関する診療指針2018』『PCSK9阻害薬の継続使用に関する指針』などのさまざまなガイドラインや指針を発刊しており、『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』はそれらの内容を網羅するかたちで作成されている。そのため、主な改訂点も『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022度版』に準じたものになっている。<脂質異常症診療ガイド2023の主な改訂内容>1.随時(非空腹時)のトリグリセライド(TG、中性脂肪)基準値(175mg/dL以上)を設定。2.脂質管理目標値設定のための動脈硬化性疾患の絶対リスク評価手法として、冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞を合わせた動脈硬化性疾患をエンドポイントとした久山町研究のスコアを採用。3.糖尿病がある場合のLDLコレステロールの管理目標値について、合併症がある場合の1次予防は100mg/dL未満、2次予防は70mg/dL未満に設定。4.2次予防の対象疾患として冠動脈疾患に加えてアテローム血栓性脳梗塞も追加。5.薬物療法において、スタチン不耐と判断する際の注意点を記載。6.原発性脂質異常症の項を拡充。 上記の『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』改訂内容1について、塚本氏は「脂質異常症の診断基準は“動脈硬化発症リスクを判断するためのスクリーニング値であり、治療開始のための基準値ではない”ことは、ぜひ理解しておいていただきたい」と述べ、改訂内容5については「スタチンは費用対効果も高く不必要な中止を避けたい。また、スタチン不耐と判断される患者の半数以上がスタチン不耐ではないとの報告1)もある。それゆえ、ノセボ効果には注意し、患者の筋関連症状とスタチンとの関連性をしっかり確認してほしい」と強調した。脂質異常症診療ガイド改訂でQ&Aを拡充 今回の動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド改訂では本文の内容の充実はもちろんのこと、Q&Aを拡充し、項目数を47から61に増やしている。この中には、予防ガイドラインでは詳述されなかったポイントや比較的よく質問される疑問点、そして日本動脈硬化学会広報啓発委員会が会員ページに掲載している症例(日常臨床で診断・治療に難渋する症例)を参考に作成したケースを取り上げている。たとえば、上述の『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』改訂内容2に関連する質問が寄せられ、それに対する回答が記載されている。―――Q25久山町スコアでは40歳未満の方は対象にはなりませんが、多くの危険因子を持つ若年の脂質異常症患者さんにはどのように対応すればよいでしょうか?A久山町スコアのアプリでは、絶対リスクとともに相対リスクも表示される。久山町スコアは40歳以上を対象としたものなので正確とは言えないが、40歳未満の対象者であっても年齢以外の因子を入力後、年齢の項を40歳と入力すれば、同世代の危険因子のない方と比べての相対リスクがわかるので、患者指導に用いると良い。――― このほかにもよく質問される疑問点として「Q21 吹田スコアで高リスクだった患者さんが久山町スコアでは中リスクとなりました。どのように対応すればよいでしょうか?」「Q22 管理目標値設定のフローチャートに記載されている『その他の脳梗塞』はどのような脳梗塞でしょうか? 心原性脳梗塞やラクナ梗塞も含まれるのでしょうか?」などが寄せられている。また、広報啓発委員会作成の会員マイページに掲載されている症例を参考とした症例としては「Q55 LDL-C 260mg/dLでアキレス腱肥厚もあったので、FHと考えスタチンで治療を始めましたが、LDL-C値はほとんど下がりません。どのように対応すればよいでしょうか?」(シトステロール血症の鑑別が必要)のようなQ&Aが作成されている。ぜひ『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』のQ&Aをご一読いただきたい。遺伝子検査項目の増加、指定難病の診断に 2022年4月に原発性脂質異常症の遺伝子検査項目が5つに増えた(家族性高コレステロール血症、原発性高カイロミクロン血症、無βリポタンパク血症、家族性低βリポタンパク血症1[ホモ接合体]、タンジール病)。これを受けて、『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』では低HDLコレステロール低値の際のフローチャートを追加し、解説疾患を増やすなど、原発性脂質異常症の項を拡充。遺伝子検査項目が増えるメリットには「指定難病の確定診断がつけば、患者の登録が進み、患者のbenefitにつながる」と述べた。脂質異常症診療ガイド2023にICT導入 今回の発刊に際し情報通信技術(ICT)を積極的に導入しており、『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』を購入した方はデジタルブックでも閲覧できる。また、掲載されているQRコードを読み込むことで代表的な臨床比較試験、診療指針、専門医リストなどが確認できるため、web検索する手間が省ける仕組みになっている。 最後に同氏は「以上の改訂点を踏まえ、医師や管理栄養士、臨床検査技師などをはじめとする多くの医療者に活用していただきたい」とコメントした。

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