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歩く速さが糖尿病リスクと相関

 歩行速度が速い人ほど糖尿病リスクが低いという関連性を示す研究結果が報告された。セムナン医科大学(イラン)のAhmad Jayedi氏らが行ったシステマティックレビューの結果であり、詳細は「British Journal of Sports Medicine」に11月28日掲載された。 この研究では、PubMed、Scopus、CENTRAL、Web of Scienceなどの文献データベースに2023年5月30日までに収載された論文から、成人の歩行速度と2型糖尿病のリスクとの関連を調査した研究を検索。米国、英国、日本で行われた計10件のコホート研究が特定された。それらの研究参加者は合計50万8,121人で、観察期間は3~11年だった。 プール解析の結果、歩行速度が時速3.2km未満の場合と比較して、時速3.2~4.8kmの場合〔該当する研究数4件、信頼性(GRADE)低〕は、2型糖尿病のリスクが15%低かった〔相対リスク(RR)0.85(95%信頼区間0.70~1.00)〕。時速4.8~6.4km〔研究数10、GRADE低〕ではリスクが24%低く〔RR0.76(同0.65~0.87)〕、さらに時速6.4km/時超の場合〔研究数6、GRADE中〕は39%低いことが分かった〔RR0.61(同0.49~0.73)〕。 これらのデータを基に2型糖尿病患者数への影響を推算すると、時速3.2~4.8kmの歩行速度では100人当たり0.86人、時速4.8~6.4kmでは1.38人、時速6.4km/時超では2.24人、患者数の減少につながると予測された。また、用量反応解析からは、2型糖尿病リスクの有意な低下が認められる歩行速度は、時速4km以上の場合であり、それ以上のスピードでは、時速1km速くなるごとにリスクが9%ずつ低下する可能性が示された。なお、時速4kmという速度で歩くための歩数は、男性では1分当たり87歩程度、女性では100歩程度だという。 これらの結果を基に研究グループは、「健康のためにウォーキングの時間を増やすという、現在よく行われている戦略は有益に違いないが、健康上のメリットをさらに高めるために、より速い速度での歩行を奨励することが合理的ではないか」と、ジャーナル発のリリースの中で語っている。ただし、この研究結果は因果の逆転を見ている可能性もあるため、解釈には注意を要するとも述べている。つまり、歩行速度が速い人は身体的に健康であり、心肺機能が高くて筋肉量が多く身体活動量も多いという、もともと2型糖尿病のリスクが低い人である可能性もあるということだ。 とは言え、早歩き自体に減量効果があり、肥満者や過体重者であれば体重が減るとともにインスリン感受性が良好になって、2型糖尿病リスクが低下することも確かなことだ。なお、本研究では、歩行速度の速さと2型糖尿病リスクの低さとの関連は、1日の総身体活動量や歩行に費やす時間にかかわらず認められた。 論文の結論は、「解析対象となった研究の信頼性は低~中程度であり、バイアスリスクが高い研究が多かったが、より速い速度で歩くほど2型糖尿病のリスクがより低下する可能性を示唆している」と総括されている。

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高齢者RSV感染における予防ワクチンの意義(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 原著論文 Respiratory Syncytial Virus Prefusion F Protein Vaccine in Older Adults./NEJM―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 2023年夏以降、急性呼吸器感染症として新型コロナに加え、季節性インフルエンザ、呼吸器合胞体ウイルス(RSV:respiratory syncytial virus)の3種類のウイルス感染に注意すべき新時代に突入した。興味深い事実として、新型コロナが世界に播種した2020年度にはインフルエンザ、RSVの感染は低く抑えられていたが、2021年度以降、両ウイルス感染は2019年以前のレベルに戻りつつある。この場合、インフルエンザは11月~1月、RSVは7月~8月に感染ピークを呈した。 本邦にあっては、RSVは主として幼児/小児の感染症として位置付けられており、ウイルス感染症の有意な危険因子である高齢者に対する配慮が不十分であった。本論評では、高齢者RSV感染に適用される新たな遺伝子組み換えProtein-based vaccine(RSVPreF3 OA、商品名:アレックスビー筋注用、グラクソ・スミスクライン)とGene-based vaccine(mRNA-1345、Moderna)に関する治験結果を基に、高齢者RSV感染症の全体像について考察する。RSVの分子生物学 RSVは1956年に同定されたParamyxovirus科のPneumovirus属に分類されるウイルスである。エンベロープを有する直径150~300nmのフィラメント状の球形を示す一本鎖(-)RNAウイルスで、10種の遺伝子をコードする15,000個の塩基からなる。RSVにあって宿主細胞との接着、侵入を司るのがウイルス表面に発現する1,345個のアミノ酸配列を有するF蛋白(膜融合前F蛋白)である(コロナウイルスのS蛋白に相当)。RSVは表面抗原であるG蛋白の違いによってA型とB型の2種類の亜型に分類されるが、両者の膜融合前F蛋白には明確な差を認めない。RSVの自然宿主はヒトを中心とする哺乳動物である。高齢者RSV感染の疫学 すべての新生児において母親と同程度のRSV抗体(母体からの移行抗体)が認められるが、その値は徐々に低下し、生後7ヵ月目以降のRSV抗体は生後に起こった新規自然感染に由来する(生後2年までに、ほぼ100%が新規感染)。それ以降、生涯を通して再感染を繰り返す。RSV感染の最大の脅威は生後3ヵ月以内の乳児、未熟児、先天性心疾患を有する小児であることは間違いないが、近年、成人、とくに、高齢者におけるRSV感染の重要性が指摘されている。 欧米の検討では、看護施設に入所中の高齢者のうち年間で5~10%がRSVに罹患、うち10~20%が肺炎を合併、2~5%が死亡すると報告されている。さらに、65歳以上の高齢者にあってA型インフルエンザによる死亡が毎年3.7万人であるのに対し、RSVによる死亡は毎年1万人(インフルエンザの約30%)に達すると報告されている。18歳以上の成人を対象とした検討では、基礎疾患として喘息、COPD、糖尿病、冠動脈疾患、うっ血性心不全を有する人のRSV感染による入院比率は、基礎疾患を有さない人に比べ有意に高いことが示されている。高齢に加え、上記の基礎疾患は新型コロナ、季節性インフルエンザ感染の増悪因子としても作用するので、ウイルス性呼吸器感染症の普遍的危険因子として念頭に置く必要がある。インフルエンザ感染との比較において、RSV感染のほうが入院した症例の肺炎合併頻度、基礎疾患として存在する喘息、COPDの増悪頻度が高いことが示されている。 本邦においては、RSV感染が小児科定点からの報告のみであり、本邦独自の成人データは集積されていない。2024年以降、3種のウイルスによる急性呼吸器感染症の本邦における重要性を確立するためには、RSV感染症に関する情報収集は成人を含めた広範囲な対象に広げる必要があり、早期の法的整備を望むものである。先進国のデータからの外挿値ではあるが、本邦の60歳以上の高齢者におけるRSV感染による入院者数は毎年6.3万人、死亡者数は4.5千人と推定されている(Savic M, et al. Influenza Other Respir Viruses. 2023;17:e13031.)。RSVワクチン開発の軌跡 RSVに対するワクチン製造は1960年代に開始され、当初は不活化されたRSVを生体に導入する不活化ワクチンが中心であった。しかしながら、不活化ワクチンを用いた臨床治験の結果は悲惨なものであった。失敗の原因は、不活化ワクチンの導入によってウイルス殺傷能力の低い不適切IgG抗体が産生され抗体依存性感染増強(ADE:Antibody dependent enhancement of infection)が発生したためである。それ以降の検討で、RSVが宿主細胞に侵入する際に本質的な働きをする膜融合前F蛋白の重要性が明らかにされ、それを標的として20世紀後半から現在に通じるモノクローナル抗体薬(mAb)、ワクチンの製造が開始された。まず初めに、膜融合前F蛋白に対する遺伝子組み換えmAbであるパリビズマブ(商品名:シナジス、アストラゼネカ)が実用化され、種々のハイリスクを有する新生児、乳児、幼児のRSV感染に伴う下気道感染の重症化阻止治療薬として使用されている(本邦承認:2002年1月)。現在、パリビズマブの半減期を延長させたニルセビマブの開発が進行中である。 新型コロナ発生に伴い、高度の蛋白・遺伝子工学手法を駆使した数多くのワクチンが作成されたことは記憶に新しい。新型コロナに対するワクチンは2種類に大別され、1つ目はGene-based vaccineであり、標的S蛋白をコードするmRNAをヒトに直接導入するもの(ファイザーのコミナティ、モデルナのスパイクバックスなど)、2つ目はProtein-based vaccineあるいはSubunit vaccineと定義されるもので、S蛋白に関する遺伝子情報をヒト以外の細胞に導入しS蛋白を生成、それをヒトに接種するものであった(ノババックス[武田]のヌバキソビッドなど)。2017年以降、以上と質的に同様のワクチンが、RSVの膜融合前F蛋白を標的として作成され始めた。高齢者に対する治験結果が報告されているProtein-based vaccineとしては、アレックスビー筋注用(GSK)とアブリスボ筋注用(ファイザー)がある。アレックスビー筋注用は2023年9月に、60歳以上の高齢者に対するRSV予防ワクチンとして本邦で製造承認された(米国での承認は2023年5月)。2023年12月、GSKはアレックスビー筋注用の適用を50歳以上の成人に拡大する申請を厚労省に提出した。 米国においては、アブリスボ筋注用も60歳以上の高齢者に使用可能である(2023年8月承認)。しかしながら、アブリスボ筋注用の特記事項は、本ワクチンを妊娠24~36週の妊婦に1回接種し、母体で作られた抗体を胎児に移行させるという斬新な方法が提示されたことである(米国での承認:2023年8月)。この方法によって新生児のRSV感染に由来する重症下気道感染を予防できるようになった(生後3ヵ月以内のRSV感染による重症化予防率:81.8%、生後6ヵ月以内の重症化予防率:69.4%)。本邦にあっては、アブリスボ筋注用は母体/新生児用として認可されているが(2023年11月)、高齢者用としては認可されていないことに注意する必要がある。 RSV膜融合前F蛋白を標的とした高齢者用のGene-based vaccineとしてmRNA-1345(Moderna)の開発が進められている。2023年現在、本ワクチンは、米国、スイス、オーストラリアなどにおいて製造承認の申請が始まっているが、本邦においても2024年度内に製造申請がなされるものと予測される。高齢者におけるRSVワクチンの予防効果 Papiらは60歳以上の高齢者2万4,966例を対象としたアレックスビー筋注用に関する国際共同プラセボ対照第III相試験の結果を報告した(Papi A, et al. N Engl J Med. 2023;388:595-608.)。中央値が6.7ヵ月の追跡期間においてRSVの下気道感染全体に対する有効率(予防効果)は82.6%であった。RSV感染の重症化因子(COPD、喘息、慢性心不全、糖尿病、慢性心血管疾患、慢性腎臓病、慢性肝疾患)を有する対象での下気道感染症に対する有効率は94.6%であった。これらの結果は、アレックスビー筋注用が高齢者のRSV感染全体に対して臨床的に意義ある予防効果を発揮することを示す。RSV-A型に対する下気道感染に対する有効率は84.6%、RSV-B型に対する有効率は80.9%と両亜型間でほぼ同等の有効率を示した。 Wilsonらは60歳以上の高齢者3万5,541例を対象としたmRNA-1345に関する国際共同無作為化二重盲検第III相試験の結果を発表した(Wilson E, et al. N Engl J Med. 2023;389:2233-2244.)。追跡期間の中央値は3.7ヵ月でRSV関連下気道感染に対する予防有効率は83.7%であった。基礎疾患の有無、RSV亜型による予防有効率に明確な差を認めなかった。以上より、Gene-based vaccineであるmRNA-1345のRSV感染抑制効果はProtein-based vaccineアレックスビー筋注用と同等であり、2024年度内に本邦を含め世界各国で承認されるものと期待される。 高齢者に対するRSVワクチンにあって今後の課題の1つがワクチンの年間接種回数である。しかしながら、RSVにあっては年1回の流行ピークが同定されているので、その時期に合わせた年1回のワクチン接種で十分だと論者らは考えている。RSVに関するもうひとつの課題は抗ウイルス薬の確立で早期の開発が望まれる。

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映画「かがみの孤城」(その2)【実は好きなことをさせるだけじゃだめだったの!?(不登校へのペアレントトレーニング)】Part 2

(2)大人扱いする―自信こころの母親は、こころが城に通っている間に家にいないことに気付き心配して指摘します。しかし、こころから「監視されるの好きじゃない」と言い返されると、その後は、それ以上言わず、本人に任せるようになります。2つ目は、大人扱いすることです。ここで、その方法を具体的に4つ挙げてみましょう。a.プライバシー尊重1つ目は、プライバシーの尊重です。たとえば、部屋の掃除という口実で、勝手に持ち物を確認したり、日記を見たりしないことです。携帯電話を持たせている場合、勝手に見ないことです。ここで、「心配だから確認したい」と思う人はいますでしょうか? これは、子供扱いです。本人が「大人になりたい」という自我を削ぐことになります。そして、信頼関係も損ねてしまいます。もしも、皆さんが大人扱いする感覚がよくわからない場合は、ホームステイ中の外国人の若者だったらどう接するかと想像したらいいでしょう。もはや文化が違うわけです。相手の文化を尊重して、こっちの文化を押し付けることはできないです。親切に接して、決して勝手に携帯電話をのぞき見しないでしょう。それくらいの距離感が必要であるということです。b.大人トーク2つ目は、大人のトークです。たとえば、親が話しかけても子供が無愛想な時、「その態度は何なの?」と叱る(攻撃)のではなく、それ以上何も言わないという黙認(非主張)でもなく、フラットな大人の関係を意識して、ほどほどに伝えることです。具体例は表3をご覧ください。なお、これは、心理学ではアサーションと呼ばれています。この詳細については、関連記事3をご覧ください。c.お小遣い歩合制こころは、他のメンバーへのお誕生日プレゼントを自分の財布から支払っていました。こころはお小遣いをもらっているようです。実は、お小遣いは、子供を心理的に自立させるためにも効果的なツールであると言われています1)。一方で、不登校の相談を受ける時、お小遣いについて確認すると、多くの親がお小遣いをあげていない、つまり必要に応じて親の判断でお金を渡していることが判明しています。そうではなくて、このお小遣いに仕組みをつくる必要があります。3つ目は、お小遣い歩合制です。具体例は図1をご覧ください。ポイントは、親の判断や気分でお小遣いをあげないこと、つまりお小遣いのルール化です。まず、あらかじめベースのお小遣いを設定します。そして、たとえばフリースクールに行けたら1日プラス〇円と設定するのです。これは、大人の給料(報酬制)と同じです。心理学的には、トークンエコノミー(行動療法)と呼ばれています。これを本人がある程度納得する形で提案し、一緒に署名します(契約制)。定期的に見直して、項目や金額設定を変更する話し合いも行います(交渉制)。こうすることで、「何もしなくてもお金がもらえる」「なくなったらねだればいいや」という子供っぽい発想がなくなります。そして、「がんばったら自由に使えるお金が増える」「計画的にお金を使おう」という発想が生まれます。そうなるためにも、安易にお金を渡さないことも必要です。d.家庭のルールづくりこころの家には、ゲーム機がありませんでした。原作では、こころが不登校になってから父親が一方的にゲーム機を取り上げてしまったと説明されていました。確かに、ゲーム機やスマホを最初から家に置かないようにするのも1つのやり方です。ただし、ただ一方的に取り上げるだけでは子供扱いです。それでは、ゲームやスマホの時間制限をお小遣い歩合制の項目に入れるのはどうでしょうか? 残念ながら、機能しないでしょう。なぜなら、子供はその分を損してもやり続けるからです。それくらい、ゲームやスマホは依存性が強いのです。夜遅くまでゲームに熱中していれば、朝起きられないのは当たり前です。こんな時、親が本人を無理やり叩き起こして学校まで送迎するのはどうでしょうか? これも明らかに子供扱いです。「親が起こして連れてってくれるからいいや」とますます子供っぽい発想になります。そこで、最後にして最重要なのが、家庭のルールづくりです。具体例は図2をご覧ください。このポイントは、 まずペナルティの設定です。そして、ある程度納得してもらうために、ゲーム依存症のリスクがどれほどのものか根拠(データ)を示すとともに、家族の目標、つまりビジョンを示すことです。また、「家族で助け合う」というビジョンを入れておくと、先ほどのお小遣い歩合制によって「お金がもらえないなら家事は手伝わない」という発想を予防することもできます。さらに、なるべく家族全員に署名してもらいます。つまり、立会人の存在です。ルールが機能するためには、ペナルティの設定と同時に、それをチェックする周りの目が必要になります。これは、ルールを課される子供だけでなく、ルールを課す親にも向けられているという点で、とてもフェアで妥当なものになるでしょう。家庭のルールづくりの一番の目的は、ゲームやスマホなどの家庭内の娯楽の制限です。娯楽という点では、テレビも含まれます。こころは、城に招かれる前、1日中テレビを見ていました。家庭は、確かに安心できる場所であることが必要ですが、楽しい場所である必要はありません。むしろ、「家にいてとても楽しい」と思っている子供がそれよりも娯楽が少ない学校やフリースクールに行くわけがないことは容易に想像できます。「家にいると退屈だ」と子供に思わせることが必要になります。その方が、そんな家を早く出て自立したいと思うでしょう。「それじゃかわいそうだ」と思う人はいますでしょうか? この発想も子供扱いです。私たち親は、自立できる人を育てる責任があります。それが最優先されます。その責任がある以上、不登校の子供に家庭内の娯楽の制限をすることはやはり必須になります。ちょうど、糖尿病の子供にお菓子やジュースなどの嗜好品を制限するのとまったく同じです。そうしないのは、やはり「教育ネグレクト」と言わざるをえません。つまり、大人扱いをするとは、本人がどんな行動を選択するかの自由を与えると同時に、その行動への責任を教え、責任を取る練習をさせることであることがわかります。よく言われるように、自由と責任はセットです。この責任とは、最終的には自分の人生を自分で生きる責任です。逆に言えば、成人したら、経済的な援助は基本的にできない、病気になるなど困ったときに一時的に限ることをあらかじめ伝える必要があります。また、「ゲームをやらせろ」と暴れる場合は、もはや対応の限界です。暴行や器物破損として警察に通報を必要があることを本人に冷静に伝える必要もあります。つまり、家庭のルールは社会のルールにつながっています。なお、このような限界設定は、やはりその前に味方になるという信頼関係を十分に築いていることが大前提です。この信頼関係がなければ、そもそも家庭のルールを守ろうとする気が子供に起こらないでしょう。このようにして、もともとの自尊心を土台として、さらに大人扱いすることで、「自分はできる」(can)という有能感を育み、自信(自己効力感)を高めることができます。これが、中核として必要になります。(3)夢を語り合う―自我こころの両親は、二人とも仕事をしていました。しかし、夕食などで、とくに仕事については話題にしていませんでした。実は、話してほしい話題があります。3つ目は、夢を語り合うことです。ここで、その方法を具体的に3つ挙げてみましょう。a.背中語り1つ目は、背中を見せる、つまり背中語りをすることです。まず、親が、仕事をはじめボランティアなども含めた社会参加をどうしていて、どうなりたいのかという「夢」(ビジョン)をさりげなく語っていることです。これは「味方になる」の方法の1つである雑談の延長です。たまに愚痴は言いつつも、やはりがんばっていることを夫婦で語り合っていることです。いつか行ってみたい場所、いつか会ってみたい人たちなども語るのも良いでしょう。逆に言えば、親が仕事の愚痴を吐いてばっかりでつまらなさそうにしているだけでは、子供は大人になって仕事をがんばりたいとは思わなくなるでしょう。これは、心理学的にはモデリングと呼ばれています。思春期の子供は親の言うことは聞かなくなりますが、親のまねは知らず知らずにしてしまうということです。b.タイムマシン2つ目は、タイムマシンに乗せるです。これは、タイムマシンに乗って未来の自分を見にいったら、どんな自分が見れるか想像しもらうことです。何歳でどんな場所にいて、どんな格好や表情をしているか、誰とどんな話をしているか、細かく聞き出すことです。さらに、それを子供に書き出してもらって、その紙を張り出すことを提案します。絵が得意なら、絵にして飾るのも良いでしょう。夢(未来)を語るとは、自分の人生に責任を感じていくプロセスでもあります。すると、じゃあ今どうすればいいのかがおのずと沸き起こってきます。それは、夢(目的)を叶えるために少なくとも学校に行くことは必要だと気付くことです。こうして、自分で決めて行動することで、自分の行動に責任を持つようになります。それが自分の生き方に納得するという自我同一性(アイデンティティ)につながっていきます。この働きかけは、心理学的にはタイムマシンクエスチョン(ブリーフセラピー)と呼ばれています。ポイントは、未来の自分の視点に立たせ、考えさせることです。ちなみに、視点は、未来の自分だけでなく、理想の自分、尊敬する人(ロールモデル)に置き換えることもできます。具体例は、表4をご覧ください。この考えさせるかかわりの詳細については、関連記事4をご覧ください。c.意味づけ3つ目は、意味づけることです。これは、うまく行かないことや嫌なことがあっても、それを「これは夢(目的)を叶えるために必要なんだ」と意味づけることです。夢を具体的に描けていれば、これが可能になります。「試練」「次にうまくやるためのリハーサル」などと伝えることもできます。これは、「味方になる」でご紹介したポジティブ返しでもあります。実際の研究では、人はストレスがあることによって、自ら成長していくこともわかっています。心理学的には、ストレス関連成長(SRG)と呼ばれています。つまり、うまく行かないことや嫌なことは、成長するためにはむしろある程度必要であるという考え方です。これは、悔しさという心理の機能です。この点で、親が失敗させないように先回りして指示したり、嫌な思いをさせないように人間関係を制限するのは、逆効果であるということです。この詳細については、学校環境の影響度として、関連記事5をご覧ください。なお、夢を語ったり意味づけしてもらうためには、「味方になる」の方法の1つである良いところ探しから、本人が自分の強み(リソース)を自覚していることが大前提です。そして、「大人扱いする」の方法の1つである家庭のルールづくりから、本人が自分の人生を自分で生きる責任を自覚していることも大前提です。この強みや責任の自覚がなければ、いくら夢を聞いても、「わからない」「思いつかない」としか答えなかったり、「つまんない大人になってる」としか言わないでしょう。このように、先ほどの有能感を中核として、夢を語り合うことで、「やりたい」(want)、「なりたい」(want to be)という自分の人生への責任感を育み、個人的そして社会的な自我(アイデンティティ)を確立することができます。これが、仕上げとして必要になります。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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クリスマスケーキが健康増進に寄与?/BMJ

 デザートは、何世紀にもわたってクリスマスのお祝いで重要な役割を担っているが、中世イングランドのプディングがかなり健康的なものだったのに比べ、最近は不健康な食材を含むレシピが多くなり、死亡や疾病のリスクに関して懸念が示されている。米国・エモリー大学のJoshua D. Wallach氏らは、英国のテレビ料理番組「ブリティッシュ・ベイクオフ(The Great British Bake Off)」の、クリスマスデザートのレシピに使用されている食材の健康への影響を調査した。その結果、死亡や疾病のリスク増加と関連する食材よりも、むしろリスク減少と関連のある食材のほうが多いことが明らかになったという。BMJ誌2023年12月20日号クリスマス特集号「CHAMPAGNE PROBLEMS」掲載の報告。アンブレラレビューのアンブレラレビュー 研究グループは、「ブリティッシュ・ベイクオフ」のクリスマスデザートに含まれるさまざまな食材の健康上の有益性と有害性の評価を目的に、観察研究のメタ解析のアンブレラレビューを収集し、それらのアンブレラレビューを行った(特定の研究助成は受けていない)。 「ブリティッシュ・ベイクオフ」のウェブサイトと医学関連データベース(Embase、Medline、Scopus)を用いて、クリスマスデザートに使用する食材と死亡または疾病リスクとの関連を評価した観察研究のメタ解析に関するアンブレラレビューの文献を収集した。48件のレシピに含まれる17の食材グループのリスクを評価 「ブリティッシュ・ベイクオフ」のウェブサイトに掲載されているクリスマスデザート(ケーキ、ビスケット、ペストリー、プディング/デザート)のレシピは48件で、一意の値で178品目の食材が含まれた。これらを17の包括的な食材グループ(バター、精粉、砂糖、卵、塩、着色料/香料、果物、アルコール、ミルク、ナッツ類、コーヒーなど)に分類した。 46編のアンブレラレビューにおいて、食材グループと死亡または疾病のリスクの関連について363件の要約が報告されていた。これらの要約された関連性のうち、149件(41%)が有意であり、そのうち110件(74%)は死亡または疾病のリスクを減少させ、39件(26%)はリスクを増加させると推定された。 食材グループがリスクを減少させた110件の要約のうち、32件(29%)はがんの発生率または死亡率、20件(18%)は神経学的または脳の疾患、16件(15%)は心血管疾患の発生率または死亡率であった。また、リスクを増加させた39件の要約のうち、22件(56%)はがんの発生率または死亡率、5件(13%)は自己免疫疾患、4件(10%)は神経学的または脳の疾患だった。果物、コーヒー、ナッツ類を含むレシピが多い 死亡または疾病のリスク減少と関連のある食材グループのうち、最も多かったのは果物(44/110件、40%)で、次いでコーヒー(17/110件、16%)、ナッツ類(14/110件、13%)の順であった。一方、死亡または疾病のリスク増加と関連のある食材グループでは、アルコール(20/39件、51%)の頻度が高く、次いで砂糖(5/39件、13%)であった。 著者は、「観察的栄養学研究の限界に関する懸念を脇に置くことができるなら、われわれは喜んで、クリスマスには誰もがケーキを食べられると報告するだろう」としている。

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現行のHbA1c糖尿病判定値は閉経前女性にとって高すぎる可能性

 性差が考慮されていない現在のHbA1cの糖尿病判定値は、閉経前女性には高すぎる可能性を示すデータが報告された。仮に性特異的なカットオフ値を適用したとすると、50歳未満の女性糖尿病患者が17%増加する可能性があるという。英国の臨床検査関連企業であるBenchmarking Partnership社のDavid Holland氏らの研究によるもので、第59回欧州糖尿病学会(EASD2023、10月2~6日、ドイツ・ハンブルク)で発表されるとともに、「Diabetes Therapy」に9月30日掲載された。 耐糖能の評価や糖尿病の診断には経口ブドウ糖負荷試験が行われるが、血糖コントロールの指標であるHbA1cも糖尿病の判定ツールとして利用されている。そのHbA1cは溶血や失血、鉄欠乏性貧血からの回復期などの赤血球寿命が短縮する状態において、低値となりやすい。閉経前女性は同年代の男性よりHbA1cが低いことが報告されているが、これには月経による鉄欠乏の反復のためにHbA1cが低値となっている女性が一定数存在していることの影響も考えられる。一方、女性糖尿病患者の診断時年齢は平均すると男性よりも高齢である反面、死亡率は男性よりも高い。この事実に、糖尿病の診断の遅れが関与している可能性がある。 これらの点を検討するためHolland氏らはまず、英ノースミッドランド大学病院で2012~2019年にHbA1c検査を1回のみ受け、その値が50mmol/mol(約6.8%)以下だった14万6,907人のデータを解析。このうち50歳未満のHbA1cを性別で比較すると、女性は男性よりも平均1.6mmol/mol有意に低値であり(P<0.0001)、HbA1cの中央値である36mmol/molに該当する年齢は、男性では34~36歳であるのに対して女性は46~47歳だった。これにより、50歳未満の女性の糖尿病診断年齢が、男性より最大10年遅くなる可能性のあることが分かった。なお、50歳以上の集団でも女性の方が平均HbA1cは低値だったが、男性との差は0.9mmol/molだった(P<0.0001)。 次に、同大学病院とは別の英国内6件の医療機関、計93万8,678人のデータを用いた解析を実施したところ、上記と同様の結果が再現された。現行の糖尿病判定のためのHbA1c基準値は国際的に48mmol/mol(6.5%)とされているが、これを仮に46mmol/molに下げた場合、16~50歳の女性の0.26%が新たに糖尿病と判定される可能性が示唆された。 続いて、イングランドとウェールズで実施された一般住民対象糖尿病実態調査のデータを援用した解析を施行。HbA1cの判定値を性特異的なものとし、女性に対しては46mmol/molという値を適用したとすると、50歳未満の糖尿病女性患者数は現在よりも17%増加すると試算された。また、16~50歳の糖尿病患者における死亡リスクの差(女性が男性より26.7%高値との報告がある)の最大64%は、診断遅延の影響により発生している可能性が考えられた。 著者らは、「われわれの研究結果は、50歳未満の女性にとって現行のHbA1cによる糖尿病の判定値が、約2mmol/mol高すぎる可能性があることを示唆している。判定値を再検討し、性特異的なカットオフ値を設定すべきかもしれない。それによって女性の糖尿病を早期に見いだし介入することができ、将来的には女性患者の予後改善につながるのではないか」と述べている。

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TG/HDL-C比は2型糖尿病発症の強力な予測因子

 中性脂肪(TG)と善玉コレステロール(HDL-C)の比が、将来の2型糖尿病の発症リスクの予測に利用できることが、12万人以上の日本人を長期間追跡した結果、明らかになった。京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学の弓削大貴氏、岡田博史氏、福井道明氏、パナソニック健康管理センターの伊藤正人氏らの研究によるもので、詳細は「Cardiovascular Diabetology」に11月8日掲載された。2型糖尿病発症予測のための最適なカットオフ値は、2.1だという。 TGをHDL-Cで除した値「TG/HDL-C比」は、インスリン抵抗性の簡便な指標であることが知られているほか、脂肪性肝疾患や動脈硬化性疾患、および2型糖尿病の発症リスクと相関することが報告されている。ただしそれらの報告の多くは横断的研究またはサンプルサイズが小さい研究であり、大規模な追跡研究からのエビデンスは存在せず、2型糖尿病発症予測のための最適なカットオフ値も明らかになっていない。弓削氏、岡田氏らは、国内の企業グループの従業員を対象とするコホート研究(Panasonic cohort study)のデータを用いた縦断的解析によって、この点を検討した。 2008~2017年に健診を受けた計23万6,603人から、ベースライン時点で既に糖尿病と診断されている患者、脂質異常症治療薬を服用している患者、およびデータ欠落者などを除外し、12万613人を解析対象とした。主な特徴は、平均年齢44.2±8.5歳、男性76.0%、BMI22.9±3.4kg/m2であり、TGは110.0±85.9mg/dL、HDL-Cは60.5±15.4mg/dLで、悪玉コレステロール(LDL-C)は123.4±31.5mg/dLだった。 2018年までの追跡〔期間中央値6.0年(四分位範囲3~10年)〕で、6,080人が新たに2型糖尿病を発症した。2型糖尿病発症リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、空腹時血糖値、喫煙習慣、運動習慣、収縮期血圧)を調整後に、脂質関連検査値と2型糖尿病発症リスクとの間に、以下の有意な関連が認められた。 まず、TGは10mg/dL上昇するごとのハザード比(HR)が1.008(95%信頼区間1.006~1.010)だった。同様の解析でHDL-CはHR0.88(同0.86~0.90)、LDL-CはHR1.02(1.02~1.03)であり、TG/HDL-C比は1上昇するごとにHR1.03(1.02~1.03)となった。 次に、向こう10年間での2型糖尿病発症を予測するための最適なカットオフ値と予測能(AUC)を検討。すると、予測能が低い指標から順に、LDL-Cがカットオフ値124mg/dLでAUCは0.609、HDL-Cは54mg/dLでAUC0.638、TGは106mg/dLで0.672であり、最も高いAUCはTG/HDL-C比の0.679であって、そのカットオフ値は2.1と計算された。TG/HDL-C比の予測能は、他の3指標すべてに対して有意に優れていた(いずれもP<0.001)。 続いて、性別およびBMI別のサブグループ解析を施行。すると、男性では全体解析と同様に、TG/HDL-C比が1上昇することによる2型糖尿病発症のHRは1.03(1.02~1.03)だったが、女性は1.05(1.02~1.08)であり、より強い関連が示された。ただし交互作用は非有意だった。 BMI25kg/m2未満/以上で層別化した解析からは、25未満の群でTG/HDL-C比が1上昇するごとのHRは1.04(1.03~1.05)である一方、25以上の群ではHR1.02(1.02~1.03)であって、有意な交互作用が観察された(交互作用P=0.0001)。最適なカットオフ値は、BMI25未満では1.7、25以上では2.5だった。 著者らは本研究の特徴として、日本人を対象とする縦断的研究でありサンプルサイズも大きいことを挙げる一方、女性が少ないこと、比較的若年者が多いことなどの限界点があるとしている。その上で「TG/HDL-C比は、LDL-C、HDL-C、TGよりも10年以内の2型糖尿病発症の強力な予測因子であることが示された。この結果は、2型糖尿病発症抑制のための今後の医療政策に有用な知見となり得る」と述べている。

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teplizumabの登場で1型糖尿病治療は新たなステージへ(解説:住谷哲氏)

 膵島関連自己抗体が陽性の1型糖尿病は正常耐糖能であるステージ1、耐糖能異常はあるが糖尿病を発症していないステージ2、そして糖尿病を発症してインスリン投与が必要となるステージ3に進行する1)。抗CD3抗体であるteplizumabはステージ2からステージ3への進行を抑制することから、8歳以上のステージ2の1型糖尿病患者への投与が2022年FDAで承認された。しかし、現実にはステージ2の1型糖尿病患者がすべて診断・管理されているわけではなく、臨床的に1型糖尿病を発症したステージ3の患者が多数を占めている。 teplizumabがステージ2と同様にステージ3の患者でも有効か否かについては、これまでに実施された複数の第I、II相臨床試験のメタ解析で、その有効性が示唆されていた2)。そこで実施されたのが第III相となる本試験PROTECT (Provention Bio’s Type 1 Diabetes Trial Evaluating C-Peptide with Teplizumab)である。 teplizumabは1コース12日間投与で26週後に2コース目が実施された。主要評価項目は、78週後に実施された食事負荷試験後のC-ペプチドAUCのベースラインからの変化量とされた。結果はプラセボ群に比較して、teplizumab投与群ではC-ペプチド値が有意に高値であった。副次評価項目であるインスリン投与量、HbA1cの変化量などには有意差を認めなかったが、主要評価項目が達成されたので本試験の結果はpositiveである。つまり、teplizumabは発症直後の1型糖尿病患者のβ細胞機能を維持する可能性があると考えられる。 わが国の1型糖尿病の発症率は欧米に比べると低い。欧米では2015年に1型糖尿病発症の自然史(ステージング)の概念が導入されたが、わが国では、ほとんど認知されていないのではないだろうか。1型糖尿病は発症予防可能な疾患になりつつある。わが国での発症率から考えて、ステージ2からステージ3への進行を抑制する薬剤としてのteplizumabが承認されなくても大きな問題はないだろう。しかし、teplizumabが発症直後の1型糖尿病患者のβ細胞機能保持薬として欧米で承認されれば、わが国でも早急に承認されることが期待される。

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効果的なFreeStyleリブレのスキャン回数が明らかに/京都医療センターほか

 糖尿病の血糖管理において、先進糖尿病デバイスとして持続血糖モニター(CGM)が活用されている。CGMには間歇スキャン式(isCGM)とリアルタイムCGMの2方式がある。間歇スキャン式では、上腕の後ろに装着されたセンサーをワイヤレスでスキャンすることでグルコース値が測定でき、リーダーやスマートフォンを使用する手軽さが魅力的だ。海外の先行研究では、スキャンの頻度が増すほど、HbA1cやTIR(time in range)などの血糖管理指標が改善すると報告されている。そのエビデンスに基づいて、これまでは「できるだけ多くスキャンするように」という指導がされてきたが、70~180mg/dLのTIR70%超を達成する最適なスキャン回数は明らかではなかった。 坂根 直樹氏(京都医療センター 臨床研究センター 予防医学研究室長)らのFGM-Japan研究グループ(全9施設)は日本人1型糖尿病211例(平均年齢50.9±15.2歳、男性40.8%、糖尿病期間16.4±11.9年、CGM使用期間2.1±1.0年、平均HbA1c7.6±0.9%)を対象に、過去90日間のグルコース値データから、TIRを算出し、ROC曲線から最適なスキャン回数を明らかにするとともに、そのスキャン回数に与える要因も明らかにした。Diabetology International誌2023年9月12日号の報告。 主な結果は以下のとおり。・平均スキャン回数は10.5±3.3回/日。・スキャン回数はTIRと正の相関、TAR(time above range)と負の相関があったが、TBR(time below range)とは有意な相関は認められなかった。・スキャン回数は低血糖不安-行動スコアと正の相関があり、一部の血糖変動指標(ADRR[average daily risk range]、%CV[coefficient of variation]など)と負の相関があった。・運動習慣のある者は、ない者に比べてスキャン回数が有意に多かった。・TIRが70%超に対するスキャン回数のAUCは0.653で、最適なカットオフ値は1日に11.1回のスキャンだった。 坂根氏は、「今までは『できるだけスキャンしなさい』と患者に指導することが多かったが、本研究から目標血糖を達成するために3食前後、起床と就寝時、間食や運動前後など、12回のスキャンを推奨するエビデンスが得られた。また、運動習慣がある人はスキャン回数が多いことや、スキャン回数が多い人ほど低血糖に対する対処行動が多いという結果はリブレを用いた糖尿病療養指導に大いに役立つと考えられる」と述べている。

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第194回 能登半島地震、被災地の医療現場でこれから起こること、求められることとは~東日本大震災の取材経験から~

木造家屋の倒壊の多く死因は圧死や窒息死こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。元日に起きた、最大震度7を観測した能登半島地震から9日が経過しました。最も被害が大きかった石川県では、1月9日現在、死者202人、負傷者565人、安否不明者102人と発表されています。1月8日現在の避難者数は2万8,160人とのことです。テレビや新聞などの報道をみていると、木造家屋の倒壊の多いことがわかります。その結果、死因は圧死や窒息死が大半を占めているようです。道路の寸断などによって孤立している集落がまだ数多く、避難所の中にも停電や断水が続いているところもあります。さらには、避難所が満員で入所できない人も多いようです(NHKニュースではビニールハウスに避難している人の姿を伝えていました)。本格的な冬が訪れる前に、被災した方々が、まずは一刻でも早く、ライフラインや食料が整った避難所やみなし避難所(宿泊施設等)への避難できることを願っています。東日本大震災との大きな違い1995年に起きた阪神・淡路大震災では、約80%が建物倒壊による圧死や窒息死でした。このときの教訓をもとに組織されたのがDMATです。しかし、2011年に起きた東日本大震災では津波の被害が甚大で、死亡者の8〜9割が溺死でした。震災直後、私は被災地の医療提供体制を取材するため宮城県の気仙沼市や石巻市に入りましたが、阪神・淡路と同じような状況を想定して現地入りしたDMATの医師たちが、「数多くの溺死者の前でなすすべもなかった」と話していたのを覚えています。今回の地震は、津波の被害より建物倒壊の被害が圧倒的に多く、その意味で震災直後のDMATなどの医療支援チームのニーズは大きいと考えられます。ただ、道路の寸断などで、物資や医療の支援が行き届くまでに相当な時間が掛かりそうなのが気掛かりです。これから重要となってくるのは“急性期”後、“慢性期”の医療支援震災医療は、ともすれば被災直後のDMATなどによる“急性期”の医療支援に注目が集まりますが、むしろ重要となってくるのは、その後に続く、“慢性期”の医療支援だということは、今では日本における震災医療の常識となっています。外傷や低体温症といった直接被害に対する医療提供に加え、避難所等での感染症(呼吸器、消化器)や血栓塞栓症などにも気を付けていかなければなりません。その後、数週間、数ヵ月と経過するにつれて、ストレスによる不眠や交感神経の緊張等が高血圧や血栓傾向の亢進につながり、高血圧関連の循環器疾患(脳梗塞、心筋梗塞、大動脈解離、心不全など)が増えてくるとされています。そのほか、消化性潰瘍や消化管穿孔、肺炎も震災直後に増えるとのデータもあります。DMAT後の医療支援は、東日本大震災の時のように、日本医師会(JMAT)、各病院団体や、日本プライマリ・ケア連合学会などの学会関連団体が組織する医療支援チームなどが担っていくことになると思われますが、過去の大震災時と同様、単発的ではなく、長く継続的な医療支援が必要となるでしょう。ちなみに厚生労働省調べでは、1月8日現在、石川県で活動する主な医療支援チームはDMAT195隊、JMAT8隊、AMAT(全日本病院医療支援班)9隊、DPAT(災害派遣精神医療チーム)14隊とのことです。避難所や自宅で暮らす高齢者に対する在宅医療のニーズが高まる医療・保健面では、高血圧や糖尿病、その他のさまざまな慢性疾患を抱えて避難所や地域で暮らす多くの高齢者の医療や健康管理を今後どう行っていくかが大きな課題となります。そして、避難所や自宅で暮らす住民に対する在宅医療の提供も必要になってきます。東日本大震災では、病院や介護施設への入院・入所を中心としてきたそれまでの医療提供体制の問題点が浮き彫りになりました。震災被害によって被災者が病院・診療所に通えなくなり、在宅医療のニーズが急拡大したのです。この時、気仙沼市では、JMATの医療支援チームとして入っていた医師を中心に気仙沼巡回療養支援隊が組織され、突発的な在宅医療のニーズに対応。その支援は約半年間続き、その時にできた在宅医療の体制が地域に普及・定着していきました。奥能登はそもそも医療機関のリソースが少なかった上に、道路が寸断されてしまったこと、地域の高齢化率が50%近いという状況から、地域住民の医療機関への「通院」は東日本大震災の時と同様、相当困難になるのではないでしょうか。東日本大震災が起こった時、気仙沼市の高齢化率は30%でした。今回、被害が大きかった奥能登の市町村の高齢化率は45%を超えています(珠洲市50%、輪島市46% 、いずれも2020年)。「気仙沼は日本の10年先の姿だ」と当時は思ったのですが、奥能登は20年、30年先の日本の姿と言えるかもしれません。テレビ報道を見ていても、本当に高齢者ばかりなのが気になります。東日本大震災では、被災直後からさまざまな活動に取り組み始めた若者たちがいたのが印象的でした。しかし、これまでの報道を見る限り、被災者たちは多くが高齢で“受け身”です。東日本大震災や熊本地震のときよりも、個々の被災者に対する支援の度合いは大きなものにならざるを得ないでしょう。プライマリ・ケア、医療と介護をシームレスにつなぐ「かかりつけ医」機能、多職種による医療・介護の連携これからの医療提供で求められるのは、プライマリ・ケアの診療技術であり、医療と介護をシームレスにつなぐ「かかりつけ医」機能、そしてさまざまな多職種による医療・介護の連携ということになるでしょう。東日本大震災、熊本地震、そして新型コロナウイルス感染症によるパンデミックで日本の医療関係者たちは多くのことを学んできたはずです。日本医師会をはじめとする医療関係団体の真の“力”が試される時だと言えます。ところで、被災した市町村の一つである七尾市には、私も幾度か取材したことがある、社会医療法人財団董仙会・恵寿総合病院(426床)があります。同病院は関連法人が運営する約30の施設と共に医療・介護・福祉の複合体、けいじゅヘルスケアシステムを構築し、シームレスなサービスを展開してきました。同病院も大きな被害を被ったとの報道がありますが、これまで構築してきたけいじゅヘルスケアシステムという社会インフラは、これからの被災地医療の“核”ともなり得るでしょう。頑張ってほしいと思います。耐震化率の低さは政治家や行政による不作為にも責任それにしても、なぜあれほど多くの木造住宅が倒壊してしまったのでしょうか。1月6日付の日本経済新聞は、その原因は奥能登地方の住宅の低い耐震化率にある、と書いています。全国では9割近くの住宅が耐震化しているのに対して、たとえば珠洲市では2018年末時点で基準をクリアしたのは51%に留まっていたそうです。ちなみに輪島市は2022年度末時点で46%でした。耐震化は都市部で進んでいる一方、過疎地では大きく遅れているのです。その耐震基準ですが、建築基準法改正で「震度5強程度で損壊しない」から「震度6強〜7でも倒壊しない」に引き上げられたのは1981年、実に40年以上も前のことです。きっかけは1978年の宮城県沖地震(当時の基準で震度は5、約7,500棟の建物が全半壊)でした。仙台で学生生活を送っていた私は、市内で地震に遭遇、ブロック塀があちこち倒れまくった住宅街の道路を自転車で下宿まで帰ってきた記憶があります。各地域(家の建て替えがないなど)や個人の事情はあるとは思いますが、法改正後40年経っても耐震化が進んでおらず、被害が大きくなってしまった理由として、政治家(石川県選出の国会議員)や行政による不作為もあるのではないでしょうか。もう引退しましたが、あの大物政治家は石川県にいったい何の貢献をしてきたのでしょうか。お金をかけてオリンピックを開催しても、過疎地の住民の命は守れません。いずれにせよ、全国各地の過疎地の住宅の耐震化をしっかり進めておかないと、また同じような震災被害が起こります。政府にはそのあたりの検証もしっかりと行ってもらいたいと思います。

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若年期のテレビ視聴時間が45歳時のメタボリックシンドロームと関連

 小児期から青年期にかけてテレビの平均視聴時間が長い人は、45歳時点でメタボリックシンドローム(MS)を有している確率が高まるという研究結果が、「Pediatrics」8月1日号に掲載された。 オタゴ大学ダニーデン校医学部(ニュージーランド)のNathan MacDonell氏とRobert J. Hancox氏は、1972年および1973年に、ニュージーランドのダニーデンで生まれた住民ベースの出生コホートデータを用い、小児期から青年期のテレビ視聴時間と45歳時点のMSとの関連を調べた。対象者が5歳、7歳、9歳、11歳、13歳、15歳および32歳になった時点で、対象者の親または対象者自身から平日のテレビ視聴時間を尋ねた。 45歳の時点で、MSの有無を調べ、また、心肺機能を評価するため、運動をさせて心拍数を計測し、VO2max(最大運動時の酸素消費量)を推定した。MSは、HbA1cが5.7%以上、腹囲が男性102cm以上、女性88cm以上、中性脂肪が200mg/dL以上、HDL-コレステロールが男性40mg/dL未満、女性50mg/dL未満、血圧が130/85mmHg以上または降圧薬を服用、のうち3つ以上を満たすものと定義した。生存していた参加者997人のうち870人(87%)からテレビ視聴時間とMSに関するデータを収集した。分析にはロジスティック回帰モデルとt検定を用いた。 5歳から15歳までの平均テレビ視聴時間と45歳時点でのMSの関連を調べるため、まず、対象者を視聴時間で0~1時間、1~2時間、2~3時間、3時間以上の4つの群に分けたところ、視聴時間が長いほど、男女ともMSの割合が増加した。また、平均テレビ視聴時間が1時間増加した場合のオッズ比(OR)は、性別のみを調整すると1.33(95%信頼区間1.11~1.58、P=0.002)と有意な関連が見られ、次に、性別と社会経済的地位、5歳時点のBMIで調整しても1.30(同1.08~1.58、P=0.006)と有意であり続けた。 さらに、32歳時点のテレビ視聴時間を調整因子に加えたところ、ORは1.26(同1.03~1.54、P=0.026)と有意であった上に、VO2maxの低下(係数-0.70、95%信頼区間-1.20~-0.19、P=0.007)とBMIの上昇(同0.59、0.11~1.06、P=0.016)のいずれとも有意に関連していた。 以上から著者らは、「今回の研究結果から、小児期から青年期のテレビ視聴時間が長いと、中年期のMSリスクが上昇する可能性が示唆され、若年期のテレビ視聴は健康に長期的な悪影響を与えるという仮説が裏付けられた」とし、「小児期から青年期のスクリーンタイムを減らすための介入は、健康に対して長期にわたり良い影響を与えるだろう」と述べている。

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新規アルドステロン合成酵素阻害薬、CKDでアルブミン尿を減少/Lancet

 過剰なアルドステロンは慢性腎臓病(CKD)の進行を加速するとされる。米国・ワシントン大学のKatherine R. Tuttle氏らASi in CKD groupは、基礎治療としてレニン・アンジオテンシン系阻害薬の投与を受けているCKD患者において、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンとの併用でアルドステロン合成酵素阻害薬BI 690517を使用すると、用量依存性にアルブミン尿を減少させ、予期せぬ安全性シグナルを発現せずにCKD治療に相加的な効果をもたらす可能性があることを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年12月15日号で報告された。2回の無作為化を行う29ヵ国の第II相試験 本研究は、日本を含む29ヵ国で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第II相試験であり、2022年2月~12月に、run-in期を終了した参加者の無作為割り付けを行った(Boehringer Ingelheimの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、CKDの診断を受け、2型糖尿病の有無は問わず、推算糸球体濾過量(eGFR)が30~<90mL/分/1.73m2、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)が200~5,000mg/g、血清カリウム値が4.8mmol/L以下で、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬またはアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の投与を受けている患者であった。 714例をrun-in期に登録し、エンパグリフロジン(10mg)群に356例、プラセボ群に358例を無作為に割り付け、8週間の経口投与を行った。引き続き、このうち586例(エンパグリフロジン群298例、プラセボ群288例)を、それぞれ3つの用量(3mg、10mg、20mg)のBI 690517またはプラセボを追加で経口投与(1日1回、14週間)する4つの群に無作為に割り付けた(全8群)。アルドステロン値も大きく低下 ベースライン(2回目の無作為化時)の全体の平均年齢は63.8(SD 11.3)歳、女性196例(33%)、非白人244例(42%)であり、平均eGFR値は51.9(SD 17.7)mL/分/1.73m2、UACR中央値は426mg/g(四分位範囲[IQR]:205~889)であった。 朝の起床時第一尿で測定した、UACRのベースラインから14週時の治療終了までの変化率(主要エンドポイント)は、プラセボ群が-3%(95%信頼区間[CI]:-19~17)であったのに対し、BI 690517単剤の3mg群は-22%(-36~-7)、同10mg群は-39%(-50~-26)、同20mg群は-37%(-49~-22)であった。 また、エンパグリフロジンにBI 690517を追加した場合のUACRの変化率も、BI 690517単剤と同程度の低下を示した(プラセボ群:-11%[95%CI:-23~4]、3mg群:-19%[-31~-5]、10mg群:-46%[-54~-36]、20mg群:-40%[-49~-30])。 血漿アルドステロン値(曲線下面積)は、14週時までにBI 690517の用量依存性に低下し、最大用量(20mg)では、プラセボ群と比較して単剤群で-62%(95%CI:-76~-41)、エンパグリフロジン併用群で-66%(-75~-53)となった。高カリウム血症の多くは介入を要さず BI 690517の安全性プロファイルは、エンパグリフロジン併用の有無にかかわらず許容できるものであった。投与期間中に4例が死亡したが、試験薬関連と判定されたものはなかった。また、重度の薬物性肝障害やケトアシドーシスは認めなかった。 高カリウム血症は、エンパグリフロジンの有無にかかわらず、プラセボ群では6%(9/147例)に発生したのに対し、BI 690517 3mg群で10%(14/146例)、同10mg群で15%(22/144例)、同20mg群では18%(26/146例)に認めた。また、高カリウム血症の多くは介入を要さず(86%[72/84例])、致死性のものはなかった。 とくに注目すべき有害事象としての副腎機能低下症は、BI 690517群で436例中7例(2%)、プラセボ群では147例中1例(1%)にみられた。 著者は、「アルドステロン合成酵素阻害薬とSGLT2阻害薬の併用により、臨床的に意義のあるアルブミン尿の改善が得られた。このアプローチは、今後、CKDの大規模な臨床試験で検討すべき有望な併用療法となる可能性がある」としている。

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糖尿病と喫煙の組み合わせは若者にとって致命的

 年齢中央値が30歳代という比較的若い集団においても、前糖尿病と喫煙習慣が組み合わさると、深刻な疾患のリスクが上昇し、特に脳卒中のリスク上昇が顕著であることを示唆するデータが報告された。米ネブラスカ大学医療センターのAdvait Vasavada氏らの研究によるもので、米国心臓協会(AHA)学術集会(AHA Scientific Sessions 2023、11月11~13日、フィラデルフィア)で発表された。Vasavada氏は、「若い喫煙者の脳卒中リスクを抑制するために、前糖尿病の早期スクリーニング体制と予防戦略を確立する必要があるのではないか」と述べている。 この研究には、米国の入院医療に関する大規模データベース(National Inpatient Sample)が用いられた。2019年の米国全土の入院患者のうち年齢が18~44歳で喫煙習慣があり、高血圧や2型糖尿病、高コレステロール血症、肥満などの心血管疾患危険因子のない101万7,540人が解析対象とされた。全員が、ニコチン依存状態または習慣的な喫煙者であって、禁煙が困難であることがカルテに記録されていた。 この集団の0.2%に当たる2,390人は前糖尿病だった。前糖尿病の入院患者は、年齢中央値36歳であり、前糖尿病でない(血糖値が正常範囲)の入院患者の31歳よりも高齢であり、また男性の割合が高かった。前糖尿病の患者は血糖値が正常範囲の患者に比べて、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の割合(19.2対11.7%)、心臓発作の既往(1.5対0.4%)、慢性腎臓病の割合(2.5対0.9%)が高く、また入院の目的が心臓発作や脳卒中または心不全の治療である割合(2.9対1.4%)が高かった。 特に脳卒中による入院の割合(1.9対0.5%)に顕著な差が認められた。年齢や性別、人種、世帯収入、飲酒習慣、薬物乱用歴、併発疾患などの影響を調整後にも、脳卒中による入院リスクが3.31倍高いことが分かった。 この結果に関連してVasavada氏はAHA発のリリースの中で、「たとえ代謝的に健康な若者であっても、喫煙者は喫煙本数を減らすことが賢明であり、できれば完全に禁煙することが理想的だ」とアドバイスしている。また、「タバコを吸わない人であっても前糖尿病に該当する場合、若いうちに脳卒中を発症するリスクが高まる可能性があることにも注意すべきだ」と付け加えている。 一方、AHAの薬物・アルコール・タバコ委員会の一員であるEsa Davis氏は、「この研究結果は、なぜタバコが若者にとっても危険であるのかを示している」と話す。加えて、「若い人は一般的に脳卒中のことを、自分たちの祖父母のような年齢の高齢者に起こる病気だという印象を持っている。しかし、そうではなく、今回の報告に見られるように、脳卒中はより若い年齢でも発生し得るということだ。さらにこの研究によって、前糖尿病に該当する場合、脳卒中や心臓病のリスクがはるかに高くなり、若いうちに発症する可能性があることが示され、できるだけ早い段階で禁煙することがより重要であることが分かった」と解説。Davis氏は、「心臓の健康を守り、そして脳卒中リスクを減らすためにできることの中で最も重要なことは、禁煙することだ」とも述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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臓器によって老化速度に差

 特定の臓器だけ他の臓器よりも老化速度が速い場合があり、そのような臓器があると病気や死亡のリスクが高まる可能性のあることが、米スタンフォード大学神経学教授のTony Wyss-Coray氏らの研究で示された。同氏らによると、50歳以上の健康な人の約5人に1人で、少なくとも一つの臓器の老化速度が速まっていることが明らかになったという。研究の詳細は、「Nature」に12月6日掲載された。 Wyss-Coray氏らは、「これは悪いことのように聞こえるが、健康増進のチャンスでもある」と主張する。なぜなら、簡単な血液検査で急速に老化している臓器を特定することで、医師は、症状が現れる前にその臓器に関連する潜在的な病気の治療を開始できる可能性があるからだ。 今回の研究でWyss-Coray氏らは、まず、5,676人分の血漿からSomaScan assayにより4,979種類のタンパク質の相対濃度を定量した。また、ヒト臓器のRNAシーケンシングデータを用いて、11種類の臓器(心臓、脂肪、肺、免疫系、腎臓、肝臓、筋肉、膵臓、脳、血管、腸)で発現している遺伝子のうち、発現量が他の臓器の4倍以上の遺伝子を臓器特異的遺伝子としてピックアップ。これらの遺伝子情報を4,979種類のタンパク質に注釈付けし、最終的に、臓器特異的なタンパク質として856種類(17.9%)を得た。次に、これらの情報を用いて機械学習モデルを構築し、11種類の臓器の一つ一つに焦点を当てて臓器特異的タンパク質のレベルを測定し、その人の年齢(暦年齢)とその臓器の生物学的年齢の差を導き出した。 その結果、研究の対象となった50歳以上の人のうち、平均よりも有意に老化速度の速い臓器が一つ以上ある人の割合は18.4%に上ることが明らかになった。老化速度の速い臓器が複数ある人の割合は60人中1人程度(1.7%)であった。また、11種類の臓器のうち腸を除いた10種類の臓器において、暦年齢と臓器の生物学的年齢の差はその後15年間の追跡期間の全死亡リスクと関連を示し、老化速度の速い臓器がある人では、臓器によって差はあるものの、その後15年間の全死亡リスクが15~50%高いことが示された。また、老化速度の速い臓器は、その臓器特異的な疾患との関連も示した。例えば、心臓の加齢が進んでいる人では心不全リスクが250%増加しており、また、脳と血管の加齢から、タウタンパク質とは無関係にアルツハイマー病の進行を予測できる可能性も示された。このほか、腎臓の急速な老化は高血圧と糖尿病のリスクに関連していたほか、心臓の極度の老化は心房細動や心筋梗塞のリスクに関連していることなども示された。 Wyss-Coray氏らは、より多くの人を対象とした大規模な研究を行い、今回の研究で得た結果の信頼性を高める予定だとしている。同氏は、「もし5万人、あるいは10万人を対象とした研究で今回の結果が再現されれば、一見、健康に見える人の個々の臓器の状態をモニタリングして体内で老化が急速に進んでいる臓器を見つけ出し、病気になる前に治療を開始できるようになる可能性がある」と語っている。

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糖尿病、肥満、膵臓がんの関連性が明らかに

 2型糖尿病の患者や肥満者では膵臓がんのリスクが高いことが知られているが、その原因の一端を明らかにした研究結果が報告された。インスリン値が高くなる「高インスリン血症」が、消化液を産生している膵外分泌細胞の炎症を引き起こし、そのことが前がん状態につながると考えられるという。ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)のJames Johnson氏らの研究によるもので、詳細が「Cell Metabolism」に10月31日掲載された。 糖尿病はインスリンの作用が低下するために高血糖になる病気。インスリンの作用が低下する原因として、膵臓の内分泌細胞の機能低下のためにインスリンの量が不足することと、インスリンに対する組織の感受性が低下すること(インスリン抵抗性)が挙げられる。2型糖尿病、特に肥満2型糖尿病では後者の影響が強い。インスリン抵抗性は血糖コントロールの悪化要因であるが、今回発表された研究によると、2型糖尿病や肥満者での膵臓がん発症リスク上昇にもかかわっているようだ。 膵臓にはインスリンなどのホルモンを産生する内分泌細胞と、消化液である膵液を産生する外分泌細胞がある。インスリン抵抗性が存在していると、代償的にインスリンの分泌量が増えて「高インスリン血症」となり、その状態が長引くと内分泌細胞の機能が低下してしまい、糖尿病が悪化することが既に知られている。しかしJohnson氏らの研究により、高インスリン血症の悪影響は内分泌細胞だけでなく、外分泌細胞である膵腺房細胞にも及ぶことが分かった。過剰なインスリンが膵腺房細胞を刺激して炎症を引き起こすのだという。 Johnson氏は、「肥満者数と2型糖尿病患者数の急速な増加に加えて近年は、膵臓がんの罹患率も驚くほど上昇してきている。われわれの発見は、それらの関連性の理解に役立ち、インスリンレベルを健康な範囲内に保つことの重要性を強調するものと言える。インスリンレベルの抑制には、食事や運動が有効であり、場合によっては薬物を用いるという介入も考えられる」と話す。同氏らは今回の研究で、膵管腺がんという最も一般的なタイプの膵臓がんに焦点を当てた。膵管腺がんは悪性度が高いことが多く、5年生存率は10%未満であり、2030年までにがん関連死の原因の第2位になるとの予測もある。 論文の筆頭著者である米スタンフォード大学のAnni Zhang氏によると、「本研究により、高インスリン血症が膵腺房細胞のインスリン受容体を介して、膵臓がんの発生に直接関与していることが明らかになった。そのメカニズムには膵液産生の増加も関与しており、それらが膵臓の炎症を悪化させている」と解説。このようなメカニズムの解明は、新たながん予防戦略、あるいは膵腺房細胞のインスリン受容体を標的とした治療法の開発につながる可能性もある。 一方、論文の上席著者であるブリティッシュコロンビア大学のJanel Kopp氏は、「この研究結果が実臨床に影響を与え、また一般集団の膵臓がんリスクを抑制するためのライフスタイル介入促進に役立つことを願っている」と話す。同氏らの研究チームは現在、膵管腺がん患者に対して内分泌専門医の介入により、血糖値とインスリンレベルをコントロールすることの影響を検証する、他施設との共同臨床試験を進めている。その研究の結果は、肥満や2型糖尿病に関連する膵臓がん以外のがん、例えば乳がんなどの臨床にも影響を与える可能性があると、著者らは述べている。

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米国の包括的プライマリケア+、手挙げ診療所は増収/JAMA

 包括的プライマリケアプラス(Comprehensive Primary Care Plus:CPC+)は、サービス利用率の低下および急性期入院医療費の減少と関連していたが、5年間の総支出額の減少とは関連していなかったことが、米国・MathematicaのPragya Singh氏らによる検討で示された。CPC+は米国の18地域で導入された最大の検証済みプライマリケア提供モデル。その健康アウトカムとの関連を明らかにすることは、将来の転換モデルを設計するうえで重要とされていた。JAMA誌オンライン版2023年12月15日号掲載の報告。CPC+介入5年間のアウトカムの変化をCPC+診療所と対照診療所で比較 研究グループは、差分の差分回帰モデルを用い、CPC+診療所(介入群)および対照診療所(対照群)の出来高払いメディケア受給者に関して、ベースライン(CPC+導入前年の2016年)とCPC+導入後各年(2017~21年の5年間)のアウトカムの変化を比較した。 介入群には、2017年にCPC+開始を申請し、最低限の医療提供およびその他の適格要件を満たした、track 1の1,373ヵ所(受給者154万9,585人)およびtrack 2の1,515ヵ所(受給者534万7,499人)の診療所が組み込まれた。2つのtrackには、他の支払機関よりも高額な報酬(さらにtrack 2のほうが高額)、出来高報酬の選択肢(track 2のみ)、医療提供要件(5つのCPC+機能[アクセスと継続性、ケアマネジメント、包括性と調整、患者・介護者とのエンゲージメント、計画的ケアと地域住民の健康])の設定(track 2は、さらに複雑なニーズを持つ患者を適切にサポートできるようtrack 1の基準に加えて高度な医療提供アプローチ提供の要件あり)、データのフィードバック、学習の機会提供、医療情報技術サポートといった介入が行われた。 対照群は、介入群と類似の出来高払いメディケア受給者、診療所およびサービスニーズの特性を持つよう傾向スコアのマッチングと再重み付けが行われ、CPC+導入地域の近接地域から、track 1に5,243ヵ所(受給者534万7,499人)、track 2に3,783ヵ所(受給者450万7,499人)の診療所が組み込まれた。 事前に規定された主要アウトカムは、年換算したメディケアパートAおよびBの受給者1人当たりの月額医療費(per beneficiary per month:PBPM)で、副次アウトカムは主な支出(入院、外来、医師など7項目)、利用指標(急性期入院、救急外来受診など8項目)、請求ベースでみた医療の質の指標(糖尿病に関する推奨サービス、乳がん検診、予定外の再入院など27項目)などであった。CPC+は、総支出額の変化や、医療の質の変化と関連せず CPC+の患者背景は、白人87%、黒人5%、ヒスパニック3%、その他の人種5%(アジア/その他の太平洋諸島およびアメリカ先住民を含む)であった。CPC+患者の85%は65歳以上で、58%が女性であった。 CPC+は、総支出額(PBPM)の目に見える変化とは関連していなかったが(track 1:1.1ドル[90%信頼区間[CI]:-4.3~6.6]、p=0.74/track 2:1.3ドル[-5~7.7]、p=0.73)、高額な報酬など支出の増加と関連していた(track 1:13ドル[7~18]、p<0.001/track 2:24ドル[18~31]、p<0.001)。 副次アウトカムでは、CPC+は導入1年目で救急外来受診の減少と関連し、2年目以降では急性期入院および急性期入院費の減少と関連していた。その関連性は、メディケア共同節減プログラム(Medicare Shared Savings Program)にも参加している診療所およびCPC+システムに依存はしていない診療所で、より好ましい関連性が認められた。また、CPC+は、請求に基づく医療の質の指標の有意な変化とは関連していなかった。 著者は、「CPC+と共同節減プログラムとの相乗効果は、コスト削減のインセンティブが専門分野全体で調整されていれば、転換モデルがより成功する可能性があることを示すものである」と述べ、「さらなるプライマリケアの転換モデルの適合および検証を行うとともに、モデルがよりよく機能するよう大きな視点で検討していく必要がある」とまとめている。

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喫煙+受動喫煙で身体的フレイルのリスクがより上昇

 タバコを吸うことで身体的フレイルのリスクが有意に上昇し、受動喫煙が加わるとさらにリスクが高くなることを示すデータが、国内の地域在住高齢者を対象とする縦断研究から示された。国立長寿医療研究センター研究所老年学・社会科学研究センター老化疫学研究部の西田裕紀子氏、台中栄民総医院(台湾)の朱為民氏らの共同研究によるもので、詳細は「Geriatrics & Gerontology International」に10月26日掲載された。 喫煙や受動喫煙が有害であることについては、膨大な研究によって強固なエビデンスが確立されており、近年ではフレイル(要介護予備群)との関連も報告されている。ただし受動喫煙とフレイルとの関連を示した研究の大半は横断研究であり因果関係は確認されておらず、また喫煙と受動喫煙が重なった場合にフレイルリスクがどのように変化するのかは明らかにされていない。西田氏らは、同研究所による「老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」のデータを用いてこれらの点を検討した。 NILS-LSAは、愛知県大府市などの40~79歳の日本人一般住民2,267人を対象とする前向きコホート研究で、1997~2022年に全9回の調査が実施されている。本研究では、喫煙状況とフレイルの関連の解析に必要な情報が収集されていた第3次調査(2002~2004年)から第7次調査(2010~2012年)のデータを利用した。フレイルという高齢者に多い状態のリスクを評価するという目的から、65歳未満は解析対象から除外。そのほかに、研究参加登録時点でフレイルと判定されていた人、追跡調査に参加していなかった人などを除外し、最終的に540人(平均年齢71.4±4.6歳、男性52.4%)を解析対象とした。 喫煙状況はアンケートの回答に基づき判定。喫煙歴がない人と禁煙後の人を「非喫煙者」、現在も吸っている人を「喫煙者」として全体を二分すると、後者が13.2%だった。また受動喫煙については、家庭内や職場環境などでの自分以外の喫煙者の有無と、その人に接する頻度を問い、それらの喫煙者との接触頻度が「なし」以外(毎日または時々のいずれか)の場合を「受動喫煙曝露者」と定義した。 フレイルについては、CHS基準という基準を用いて、身体的フレイルに該当するか否かを判定。平均6.6年間の追跡で、139人が新たに身体的フレイルと判定された。 解析ではまず、全体を非喫煙者と喫煙者に二分して、交絡因子(年齢、性別、教育歴、婚姻状況、雇用状況、余暇身体活動、うつ症状、慢性疾患、残存歯数など)の影響を調整後に比較すると、喫煙者は身体的フレイルのオッズ比が2.4倍高い可能性が示された〔オッズ比(OR)2.39(95%信頼区間1.21~4.74)〕。 次に、非喫煙/喫煙および受動喫煙の曝露なし/ありにより全体を4群に分け、非喫煙かつ受動喫煙曝露のない群を基準として比較。すると、喫煙者で受動喫煙曝露のある群は、身体的フレイル発症のオッズ比が3.5倍高かった〔OR3.47(同1.56~7.73)〕。自分の喫煙のみや受動喫煙のみの群は、有意なオッズ比上昇が観察されなかった。 続いて性別や年齢で層別化したサブグループ解析を施行。性別の解析からは、男性では全体解析と同様に、非喫煙者に比較して喫煙者は有意なオッズ比上昇が認められたが〔OR3.75(1.76~8.00)〕、女性は非有意だった。年齢層別の解析からは、75歳以上では全体解析と同様に、非喫煙者に比較して喫煙者は有意なオッズ比上昇が認められたが〔OR4.12(1.43~11.87)〕、75歳未満は非有意だった。 最後に、解析対象を喫煙者のみとし、喫煙者の受動喫煙曝露の有無でオッズ比を算出。すると、喫煙者ながらも受動喫煙曝露のない群に比べて、喫煙かつ受動喫煙曝露のある群でのフレイル発症オッズ比は9倍を上回ることが明らかになった〔OR9.03(2.42~33.77)〕。 著者らによると、本研究は日本人高齢者の喫煙および受動喫煙の状況と身体的フレイルのリスクとの関連を縦断的に検討した初の研究だという。結果の総括として、「累積喫煙量を評価していないことなどが限界点として挙げられるが、喫煙と受動喫煙はフレイルリスクを相加的に高めることが示唆された。それら両者に対する公衆衛生対策の強化が必要と考えられる」と述べられている。

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原発性胆汁性胆管炎(PBC)に対するelafibranorの有用性と安全性(解説:上村直実氏)

 原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、自己免疫学的機序による肝内小葉間胆管の破壊を特徴とする慢性胆汁うっ滞性肝疾患であり、徐々に肝硬変から肝不全へ移行するとともに肝がんをも引き起こすことのある疾患で、わが国の難病に指定されている。最近の診断技術や治療の進歩により肝硬変まで進展する以前に胆管炎として診断されるケースが多くなり、2016年にそれまで使用されていた原発性胆汁性肝硬変から原発性胆汁性胆管炎と病名が変更されている。進行期の症状としては掻痒感や黄疸が特徴的であるが、その前には無症状であることが多く、日本における患者数は中年の女性を中心として約5~6万人に上ると推定され、稀な疾患というわけではない。 治療法としてはウルソデオキシコール酸(UDCA)が標準治療薬で、肝硬変が進み肝不全になった場合には肝移植が究極の救命法であったが、最近、病気の進行を抑制するために高脂血症の治療薬であるベサフィブラートとUDCA併用療法の有効性が報告され、厚生労働省研究班による『PBC診療ガイドライン2023』にも推奨されている。ただし、わが国でベサフィブラートは高脂血症にのみ保険適応があるため、高脂血症を合併しないPBCに対しては、臨床研究として投与することが適切となっている。 今回は、UDCAに不応性のPBCに対してペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)α、およびδのデュアルアゴニストであるelafibranorの有効性を検証した国際共同RCTの結果が、2023年10月のNEJM誌に報告された。プラセボと比較して投与52週目には、胆道系酵素やビリルビンなどの血清学的異常が有意に改善していた。長期投与により、さらなる改善が期待される結果である。ちなみにelafibranorはインシュリン抵抗性を改善して、糖尿病、高脂血症および非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)に対する有用性が示されて、今後の臨床応用が期待されている薬剤である。 このようにUDCAのみでなく胆管炎から肝硬変への進展を抑制する薬剤が次々と開発され、PBCの予後が大幅に改善されることが切望される。最後に、ベサフィブラートやelafibranorは米国のFDAで承認されており、いまだにPBCに対して保険適用となっていない日本においても、迅速な承認が期待される。

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抗ウイルス薬が1型糖尿病患児のインスリン分泌能低下を抑制する可能性

 1型糖尿病を発症してからあまり時間が経過しておらず、インスリン分泌がまだ残存している小児に対して抗ウイルス薬を投与すると、インスリンを産生する膵臓のβ細胞の保護につながる可能性のあることが報告された。オスロ大学病院(ノルウェー)のIda Maria Mynarek氏らの研究によるもので、第59回欧州糖尿病学会(EASD2023、10月2~6日、ドイツ・ハンブルク)で発表されるとともに、「Nature Medicine」に10月4日掲載された。 1型糖尿病は、インスリンを産生する膵臓のβ細胞が破壊されてインスリンを分泌できなくなり、インスリン療法の絶対的適応となる病気。ウイルス感染を契機に異常な自己免疫反応が生じて、β細胞が破壊されることが発症の一因と考えられている。例えば、エンテロウイルスというウイルスの感染と1型糖尿病発症の関連などが報告されている。Mynarek氏らは、エンテロウイルス感染症の治療薬として開発されている抗ウイルス薬(pleconaril)と、ウイルス性肝炎の治療などに実用化されているリバビリンとの併用により、診断後間もない1型糖尿病患児のβ細胞機能を保護できるか否かを検討した。 研究参加者は、1型糖尿病と診断されてから3週間以内の患児96人。主な特徴は、年齢は範囲6~15歳で平均11.1±2.4歳、女子が41.7%、診断時のHbA1cが11.8±4.3%で、エンテロウイルスの感染が確認された患児はいなかった。無作為に抗ウイルス薬群47人とプラセボ群49人に分け、診断から17.8±3.2日後から6カ月間にわたって投与を継続した。ベースライン時点において、年齢や性別の分布、BMI、診断時HbA1c、1型糖尿病リスクに関連のある自己抗体の保有率、診断から投与開始までの期間などに有意差はなかった。 主要評価項目として設定していた12カ月経過時点における食事負荷2時間以内のC-ペプチド(インスリン分泌能の指標)上昇曲線下面積(AUC)は、プラセボ群よりも抗ウイルス薬群の方が37%有意に高かった(ベースラインレベルで調整後の群間差がP=0.04)。プラセボ群でのベースラインからのC-ペプチドAUC低下幅は24%だったが、抗ウイルス薬群では11%であり、また後者の群の86%は比較的容易なインスリン療法のレジメンで血糖コントロールが可能な状態に維持されていた。ただし、HbA1cやグリコアルブミン、インスリン投与量には有意差がなかった。なお、重症低血糖を含む有害事象の発生状況は有意差がなかった。 研究グループによると、「1型糖尿病発症のベースにあるメカニズムは悪性度の高くないウイルス感染の持続であって、新たなワクチンを開発することで1型糖尿病を予防できるという考え方はこれまでにもあった」といい、「われわれの研究の結果はそのような概念を裏付けるものだ」としている。また、「1型糖尿病の病態進行を引き起こすβ細胞破壊を、抗ウイルス治療によって遅らせることができるかどうかを詳細に評価するため、より早期の段階で介入するといった、さらなる研究を行うべきだ」と付け加えている。

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食後に椅子に座らなければエネルギー消費が1割増える

 食後に立っているだけで、座って過ごすよりもエネルギー消費が1割増えるというデータが報告された。ただし、糖尿病でない人を対象に行われたこの研究では、食後の血糖値には有意差が認められなかったことから、代謝性疾患の予防という点では単に立っているだけでなく、軽い運動を加えた方が良い可能性があるという。岐阜大学教育学部保健体育講座の河野寛也氏、上田真也氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に10月17日掲載された。 エネルギー収支がプラスの状態が続いていると、肥満やそれに伴う糖尿病、心血管疾患などのリスクが上昇する。最近の肥満や糖尿病の増加の一因として、人々の生活の中の座位行動が増えてエネルギー消費が減り、収支がプラスになりやすくなっていることとの関係が指摘されている。特に本研究で対象とした大学生は座学での講義が多いために、一般人口以上に座位行動が長いという報告がある。 一方、エネルギー消費を増やす方法として以前からスポーツや運動が推奨されているが、近年では座位行動を減らすだけでも健康上のメリットを得られることが分かってきた。ただし、食後の座位を立位に変えることの代謝への影響は、十分検討されていない。上田氏らは、食後に立位で過ごすことでエネルギー消費が増え、血糖上昇が抑制されるとの仮説の下、大学生を対象に以下の検討を行った。 研究参加者は15人の男子大学生(平均年齢21.6±1.1歳)で全て非喫煙者であり、代謝性疾患などの既往歴のある学生や何らかの薬剤が処方されている学生は除外されている。試験デザインはクロスオーバー法で、全員に対して食事摂取後に通常の椅子に座るか、身長に合わせて高さを調整したスタンディングデスクを使うという2条件を試行。試行順序は無作為化し、7日間のウォッシュアウト期間を設けて行った。 テスト前日からアルコールやカフェインの摂取と中強度以上の運動を禁止し、夕食は21時までに済ませて、それ以降は翌日の朝食以外、水以外の飲食を禁止した。テスト当日は8時までに、2条件共通の食事を取った上で、12時から300gの白米を食べてもらうという食事負荷テストを実施。食前から食後120分まで、間接熱量測定法に基づくエネルギー消費量、心拍数、血糖値、呼吸交換比(RER)、外因性グルコース代謝率などの推移を把握した。 その結果、食後30~120分のエネルギー消費量は、両条件ともに食前に比べて有意に増大し、食事誘発性熱産生が確認された。ただし、立位条件のエネルギー消費量の方がより高値で推移し、30分おきに測定した全てのポイントで有意差が認められた。条件間の差は1分当たり0.16±0.08kcalであり、立位条件では120分間でのエネルギー消費が10.7±4.6%多かった。 10分おきに測定された心拍数に関しては、食前は有意差がなかったものが、食後は10~120分の全てのポイントで立位の方が有意に高値だった。血糖値は30分おきに測定され、両条件ともに食後30分のみ食前より有意に高値となり、その他のポイントは食前値と有意差がなく、また全ポイントで条件間の有意差は見られなかった。 RERや外因性グルコース代謝率の推移にも、条件間の有意差は観察されなかった。なお、両条件ともに食後60~120分にかけて外因性グルコース代謝率が食前値より高値となり、糖質の酸化が同程度に亢進していたことが確認された。このことから、立位条件でのエネルギー消費の増大は、主として脂質酸化の亢進によるものと考えられた。 著者らは以上の総括として、「食後に立位で過ごすことで、糖代謝への影響は生じないが、エネルギー消費は有意に増大することが確認された」と結論付けている。なお、立位によりエネルギー消費が10.7±4.6%増えるという結果を基に、1日に4時間の座位を立位に置き換えた場合の影響を試算すると、エネルギー収支が38.4kcalマイナスになり、これを毎日続ければ1年間で体脂肪量1.6kg減という効果が予測されるという。 一方、血糖変動には有意差がなかったことに関連して、「食後の血糖上昇は非糖尿病者でも酸化ストレス亢進や血管内皮機能の低下などをもたらし得る。疾患予防のためには、例えば食後に座位と立位を繰り返すなどの運動を加えて糖質の酸化を刺激することが必要ではないか」との考察を付け加えている。

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