サイト内検索|page:233

検索結果 合計:4893件 表示位置:4641 - 4660

4641.

米国40歳以上糖尿病患者のうち網膜症罹患率は28.5%

米国の40歳以上糖尿病患者のうち、糖尿病性網膜症の罹患率推定値は、28.5%と高率であることが明らかになった。特に非ヒスパニック系黒人で高く、4割近くにみられたという。米国疾病対策予防センター(CDC)のXinzhi Zhang氏らが、1,000人超の糖尿病患者について調べ明らかにしたもので、JAMA誌2010年8月11日号で発表した。糖尿病性網膜症の罹患率、重症度に関して、全米人口をベースとした最近の動向は存在しなかったという。糖尿病1,006人について蛍光眼底撮影を実施同研究グループは、全米の断面調査「National Health and Nutrition Examination Survey」2005~2008年を基に分析を行った。サンプル数は1,006人だった。糖尿病の定義については、自己申告による糖尿病診断歴あり(妊娠糖尿病除く)、またはHbA1cが6.5%以上とした。両眼について2回の蛍光眼底撮影を行い、その程度についてAirlie House分類スキーム、Early Treatment Diabetic Retinopathy Study重症度スケールにて分類した。サンプルから求めた罹患率を基に、全米の40歳以上に関する罹患率推定値を算出した。40歳以上糖尿病の、男性の31.6%、女性の25.7%が糖尿病性網膜症全米40歳以上糖尿病患者における糖尿病性網膜症の罹患率推定値は、28.5%(95%信頼区間:24.9~32.5)だった。そのうち、治療をせずに放っておくと間もなく失明するほどの重症度の同罹患率推定値は、4.4%(同:3.5~5.7)だった。男女別では、同推定値は、男性が31.6%と、女性の25.7%に比べ有意に高かった(p=0.04)。人種別では、非ヒスパニック系黒人で同推定値が38.8%、また治療をせずに放っておくと間もなく失明する程の重症度の同推定値は9.3%と、非ヒスパニック系白人の各値26.4%、3.2%に比べ、いずれも有意に高かった(p=0.01)。なお、糖尿病性網膜症に関する独立危険因子は、男性(オッズ比:2.07)、HbA1c高値(同:1.45)、長期糖尿病歴(同:1.06)、インスリン使用(同:3.23)、収縮期血圧高値(1mmHg上昇につきオッズ比:1.03)だった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

4642.

ACCORD試験の細小血管合併症リスク、強化療法早期中止後の追跡結果

心血管リスクの高い2型糖尿病患者に対する強化療法(HbA1c<6.0%)は、標準療法(同7.0~7.9%)に比べ細小血管合併症のリスクを低減させないものの、その発症を遅延させ、腎、眼、末梢神経の機能の一部を有意に良好に保持することが、アメリカCase Western Reserve大学のFaramarz Ismail-Beigi氏らが行ったACCORD試験の追跡結果で明らかとなった。本試験は、2008年2月、中間解析で総死亡が強化療法群で有意に多かったため一部が早期中止となり、世界中の糖尿病専門医に衝撃を与えた。研究グループは、強化療法群の患者を標準療法群へ移行したうえでフォローアップを続け、今回、事前に規定された細小血管合併症の解析結果を、Lancet誌2010年8月7日号(オンライン版2010年6月29日号)で報告した。事前に規定された複合アウトカムと臓器機能について評価ACCORD試験の研究グループは、2型糖尿病患者では血糖値を低下させることで細小血管合併症の発症を低減できるかについて検討した。本試験には北米の77施設が参加し、対象は年齢40~79歳、HbA1c>7.5%、心血管疾患あるいはそのリスク因子を二つ以上有する2型糖尿病患者であった。これらの患者が、HbA1c<6.0%を目標とする強化療法あるいはHbA1c 7.0~7.9%を目標とする標準療法を施行する群に無作為に割り付けられた。今回の解析では、以下の事前に規定された複合アウトカムについて評価を行った。(1)主要複合アウトカム:透析あるいは腎移植、血清クレアチニン>291.7μmol/L、光凝固療法あるいは硝子体切除術。(2)副次的複合アウトカム:末梢神経障害+主要複合アウトカム。(3)腎、眼、末梢神経の機能に関する事前に規定された13の副次的エンドポイント。患者も担当医も治療割り付け情報を知らされていた。細小血管合併症の解析は全症例について行われ、受療の状況やコンプライアンスは考慮されなかった。強化療法群で、腎、眼、末梢神経障害の発症が遅延、7つの副次的エンドポイントが有意に良好1万251例が登録され、強化療法群に5,128例が、標準療法群には5,123例が割り付けられた。中間解析において、強化療法群で総死亡が有意に多かったため試験は早期中止とされ、この群の患者は標準療法群へと移行された。移行時点における主要複合アウトカムの発現率は、強化療法群が8.7%(443/5,107例)、標準療法群も8.7%(444/5,108例)(ハザード比:1.00、95%信頼区間:0.88~1.14、p=1.00)、副次的複合アウトカムはそれぞれ31.2%(1,591/5,107例)、32.5%(1,659/5,108例)(同:0.96、同:0.89~1.02、p=0.19)であり、いずれも両群間で同等であった。試験終了時の主要複合アウトカムの発現率は、強化療法群が10.9%(556/5,119例)、標準療法群は11.5%(586/5,115例)(ハザード比:0.95、95%信頼区間:0.85~1.07、p=0.42)、副次的アウトカムはそれぞれ38.2%(1,956/5,119例)、40.0%(2,046/5,115例)(同:0.95、同:0.89~1.01、p=0.12)であり、いずれも両群間に有意な差を認めなかった。試験終了時において、強化療法群では細小血管合併症のリスクは低減されなかったが、アルブミン尿や眼合併症、神経障害の発症が遅延していた。また、腎、眼、末梢神経の機能に関する13の副次的エンドポイントのうち7項目が、強化療法群で有意に良好であった(p<0.05)。著者は、「強化療法では、総死亡や心血管疾患関連死、体重増加、重篤な低血糖のリスクが増大する点を考慮したうえで、その細小血管合併症の抑制効果のベネフィットを慎重に検討すべきである」と結論し、「我々はHbA1c<6.0%という現在の治療戦略の目標値を安易に考えすぎかもしれない。ACCORD試験の患者のフォローアップを継続することで、長期的なリスク対ベネフィットの評価を行う必要がある」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

4643.

新しい糖尿病治療薬exenatide、追加薬として最適:DURATION-2試験

メトホルミンで十分な血糖コントロールが得られない2型糖尿病患者に対する追加薬剤としては、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体アゴニストであるexenatideが、ジペプチジルペプチダーゼ-4(DPP-4) 阻害薬シタグリプチン(商品名:ジャヌビア、グラクティブ)やチアゾリジン系薬剤ピオグリタゾン(同:アクトス)よりも有用なことが、アメリカInternational Diabetes Center at Park NicolletのRichard M Bergenstal氏らが実施した無作為化試験で示された。2型糖尿病患者の薬物療法はメトホルミンで開始されることが多いが、いずれは他の薬剤の追加が必要となる。GLP-1受容体アゴニストやDPP-4 阻害薬は血糖コントロールだけでなく、肥満、高血圧、脂質異常などの2型糖尿病関連の代謝異常にも有効な可能性が示唆されている。Lancet誌2010年8月7日号(オンライン版2010年6月26日号)掲載の報告。3群の優越性を評価する二重盲検ダブルダミー無作為化試験DURATION-2試験の研究グループは、メトホルミン治療を受けている2型糖尿病患者において、週1回のexenatide、最大承認用量のシタグリプチン、最大承認用量のピオグリタゾンの安全性と有効性を評価する二重盲検無作為化試験を行った。2008年1月22日~8月6日までに、アメリカ、インド、メキシコの72施設から、メトホルミン治療を受けている18歳以上の2型糖尿病患者で、ベースライン時の糖化ヘモグロビン(HbA1c)が7.1~11.0%、BMIが25~45 kg/m2の者が登録された。これらの患者が、exenatide 2mg/週(皮下注)+プラセボ 1回/日(経口)、シタグリプチン100mg/日(経口)+プラセボ 1回/週(皮下注)、ピオグリタゾン45mg/日(経口)+プラセボ1回/週(皮下注)を併用投与する群で無作為に割り付けられた。主要評価項目はベースラインから治療26週までのHbA1cの変化率とし、1回以上の治療を受けたすべての患者についてintention-to-treat解析を行った。exenatide群でHbA1cと体重が有意に低下、重篤な低血糖は認めなかったexenatide群に170例、シタグリプチン群に172例、ピオグリタゾン群には172例が割り付けられた。このうちintention-to-treat解析の対象となったのは、それぞれ160例、166例、165例であった。ベースライン時の平均年齢は52歳、HbA1c平均値は8.5%、空腹時血糖は9.1mmol/L、体重は88.0kgであった。HbA1cのベースラインからの変化の最小二乗平均は、exenatide群が-1.5%(95%信頼区間:-1.7~-1.4%)であり、シタグリプチン群の-0.9(同:-1.1~-0.7%)、ピオグリタゾン群の-1.2%(同:-1.4~-1.0%)に比べ低かった。exenatide群とシタグリプチン群の差は-0.6%(同:-0.9~-0.4%、p<0.0001)、exenatide群とピオグリタゾン群の差は-0.3%(同:-0.6~-0.1%、p=0.0165)であり、exenatide群におけるHbA1cの有意な改善効果が確かめられた。exenatide群では体重が2.3kg(95%信頼区間:-2.9~-1.7kg)減少していた。シタグリプチン群との差は1.5kg(p=0.0002)、ピオグリタゾン群の差は5.1kg(p<0.0001)であり、シタグリプチン群で有意な体重減少効果が確認された。3群ともに重篤な低血糖エピソードの報告はなかった。最も高頻度にみられた有害事象は、exenatide群とシタグリプチン群が悪心[それぞれ24%(38例)、10%(16例)]、下痢[それぞれ18%(29例)、10%(16例)]であり、ピオグリタゾン群では上気道感染症[10%(17例)]、末梢浮腫[8%(13例)]の頻度が高かった。著者は、「糖尿病の治療を行う臨床医の目標は体重の減少と低血糖エピソードの抑制とともに最適な血糖コントロールを達成することであり、メトホルミンへの追加薬剤として、exenatideはシタグリプチンやピオグリタゾンよりもこの目標の達成度が高い」と結論している。(菅野守:医学ライター)

4644.

教授 尾﨑重之先生「弁膜症治療の歴史を変える「自己心膜を使用した大動脈弁形成術」」

東邦大学医療センター大橋病院・心臓血管外科教授。防衛医科大学校卒。自衛隊医官、亀田総合病院、3年半ベルギー・ルーヴァン・カトリック大学留学、新東京病院、防衛医大病院に勤務後 03年より現職。「自己心膜を使用した大動脈弁形成術」を確立後、スーパードクターとして各メディアの注目を集めている。患者さんへのリスクを下げ、QOLを上げる。それが「自己心膜を使用した大動脈弁形成術」患者さんの平均年齢は70歳前後が多く、他病院で手術日程が決定しているにもかかわらず来院される方もいます。テレビなどのメディアで特集されるようになって以来、全国から患者さんが来院されるようになりました。最近では、糖尿病、膠原病も合併して患っている方が急増しています。今現在、年間200~250症例、手術件数は、都内大学病院の中で第二位の数です。大動脈弁狭窄症に対する手術方法として「人工弁による大動脈弁置換術」がありますが、人工弁、つまり「異物」を自分の体内に入れることに抵抗を感じる患者さんは少なくありません。また、人工弁を入れた場合、術後に拒絶反応を起こすリスクや、ワルファリンを服用するために食事制限や運動制限をする必要があります。また、人工弁は一つ数百万円するので経済的にもあまりよろしくはありません。「自己心膜を使用した大動脈弁形成術」は、自分の体組織を使用して弁を形成する手術法です。当然拒絶反応はなく、ワルファリンを服用する必要もないので、従来の方法に比べて術後のリスクを下げQOLを上げることができます。全国から患者さんが集まる理由はここにあります。動く臓器は美しく、私の心をとらえた!防衛医科大学校は、当時としては珍しく、今の臨床研修制度のような全診療科をラウンドするシステムがありました。今だから言えますが、実は当時の私は血を見ることが苦手で、外科医になるなどもってのほかでした。しかし、心臓外科をラウンドした時、ピンク、橙、青、黄色と心臓の持つ色彩に目を奪われ、興味を持つようになりました。心臓手術は他の臓器とは違い、臓器自体が動いたままで手術をするので緊迫感が尋常ではありません。そして当時の心臓手術は術後が安定せず、常に付き添い、状態の変化に臨機応変に対応せねばなりませんでした。手術だけでなく、術後の管理も含めて、全身全霊で命に向き合う心臓外科医の姿にすっかり魅了されてしまい、心臓外科医を目指すようになりました。その後勤務した千葉・亀田総合病院で見た恩師の手術は、術後の患者さんの容態が非常に安定していました。術後の管理が難しかった時代でしたが、術前から術後までの治療過程の違いは歴然としていたのです。当時の勤務体制は4人しかおらず、上司二人は当直なしで、もう一人と交代勤務の当直で、今とは比べ物にならない大変厳しくきつい勤務でした。しかし、苦しいことがあるとそれは後でよい経験となり、鍛錬となりました。人間はつい楽な方向へ流れて行こうとしますが、苦労は買ってでもして自分の経験とすれば、ステップアップにつながります。私はこういうことを繰り返してきたわけです。また、その後の海外留学で私は今の弁開発の基となる研究・臨床と出会い、心臓外科医としての人生に変化が出てきました。ベルギー留学「研究・臨床」経験が研究開発へ導く大学卒業後、勤務医を経験。その後、ご縁がありベルギーに3年半ほど留学しました。学生時代一ヵ月ほど欧州を旅した時の印象があまりにもよく、そこでの生活を夢見て、学ぶのであれば米国より欧州と決めていました。治安が良く、美食、歴史的な建造物の街々、陸路に続く周辺各国も素晴らしく、人々の考え方が日本と違い大陸的で、民族の勉強にもなりました。その反面、研究・臨床は容易ではなく、「苦労は買ってでもしなさい」という言葉を実践している日々でした。しかし、この留学中に私が理想とする心臓外科医と出会い、これが私にとっては将来の方向性を決定する大切な海外留学となりました。最初の1年は主に大動物での実験・研究に明け暮れて臨床までには至りませんでしたが、大動物での実験で実績を重ねることでこの師から絶大な信頼を得ることができ、2年目からは臨床への参加が認められました。この師は、臨床で不明な点を大動物で実験・検証し、その結果を必ず臨床にフィードバックしていました。我々は臨床の中で多くのアイデアを見つけることができますが、それを形にすることはできません。しかし、医療系の工学研究所とコラボレートすることで、形にすることができるのです。そのことを彼から学ぶことができ、今後は医工連携を発展させることで、さらに前に進むことができると考えました。この経験から帰国してすぐ早稲田大学理工学部(現・創造理工学部)の教授だった梅津先生を訪ね、医工連携を早々に実現し、現在も研究開発を両者で定期的に行っています。もし、この海外留学がなければ工学とのコラボも考えつきませんでした。研究開発方法、理想的な師との出会い、海外留学は私にとって国内初「自己心膜を使用した大動脈弁形成術」の基になり、医師としての糧にもなっています。また、海外で生活していると、国内のようにすぐに解決できる状況ではありません。数日かけて解決に至ることもあり、流れている時間や環境がまるで違います。この時に忍耐力が養われたのだと思います。今の若い方はあまり海外留学をしたがりませんが、是非海外で研究生活を送って経験を積んでください。その時の経験は必ず先のキャリアで役に立つことでしょう。そして、それは自分だけでなく患者さんのためになります。患者さんの笑顔に報われて心臓血管外科というのは、外科手術をすれば患者さんは治って日常生活・社会生活に復帰していくんですよ。来院されるまでは、心臓疾患ということで不安が大きかった患者さんが手術後に笑顔で退院されてお元気でいらっしゃるのは、この仕事をしていて報われるひと時です。「自己心膜を使用した大動脈弁形成術」は当院だけではなく、全国の数施設で実際に行われる用になりましたが、更に多くの施設で行われることを望んでいます。そのためにもこの手術法の教育システムの確立も急務と考えています。今では、世界的評価を大きくいただくことができ、大変うれしく思っています。一人でも多くの患者さんの社会復帰と笑顔が増えてくれれば、こんなに嬉しいことはありません。心臓血管外科は、努力すればするほど報われる診療科です。私の場合、海外生活での苦労、今まで知らなかった大学工学部とのコラボなどを取り入れた国内での研究、困難は多々ありました。しかし、その結果、私は自己心膜を使用した大動脈弁形成術を開発することができたのだと思います。やはり心臓血管外科を選択してよかったです。これからも大学病院で研究開発を極める私がここまで来るには、常に自分の進むべき道、どのようなスタイルの医師になりたいかを頭に描き、目標を高くかかげていました。また恩師たちの診察・手術スタイルが頭にあり、自分なりにそのスタイルを取り入れようと観察をしていました。心臓血管外科は、多忙が苦でなく手術が好きな人、ある程度高い目標を持てる人が向いていると思います。心臓の手術で悪い弁を取れば新しい弁を作る、動脈瘤を取れば新しい動脈を作るというようにすべてが形成術なのです。形成術ゆえに芸術性が高く、自分で考えた創意工夫を取り入れることができ、手術のでき映えにワクワクできることも魅力の一つなのです。そして、手術で元気になってもらえる、医師が努力すればするほど成果は患者さんの元気に表れます。私を頼り、はるばる遠くから来院してくださる患者さんも多いので、私が頑張らないわけにはいきません。やりがいを感じますね。私はこの世界でさらなるステップアップをしていきたいと考えています。現在、臨床で使用されている人工弁はすべてが外国製です。日本製は一つもありません。また、その人工弁は異物であり、大きさは変わりません。私は、トヨタのハイブリッドカーのように日本発の技術を世界に発信していきたいと思っています。今後、身体の成長に合わせて「成長する大動脈弁」の開発に力を入れていき、患者さんの身体にやさしい手術を心がけていきます。質問と回答を公開中!

4645.

薬物療法で改善しない2型糖尿病患者、強化食事療法で改善の可能性

 最適な薬物療法を行っても糖化ヘモグロビン(HbA1c)が改善しない2型糖尿病患者は、個別化された強化食事療法アドバイスによって血糖コントロールや体重、BMI、ウエスト周囲長が改善する可能性があることが、ニュージーランドOtago大学のKirsten J Coppell氏らが行った無作為化試験(LOADD試験)で示された。ライフスタイルの改善は2型糖尿病治療の基盤であり、特に適切な食事パターンが推奨されているが、これを遵守するには困難が伴う。また、高血糖で薬物療法を受けている2型糖尿病患者に対する栄養療法のベネフィットを示すエビデンスはないという。BMJ誌2010年7月31日号(オンライン版2010年7月20日号)掲載の報告。通常治療に6ヵ月間の強化食事療法アドバイスを追加 LOADD試験の研究グループは、最適な薬物療法を行っても高血糖が改善しない2型糖尿病患者に対する強化食事療法による介入は、血糖コントロールや心血管疾患のリスク因子に影響を及ぼすか否かについて検討する、無作為化対照比較試験を実施した。 対象は、最適な薬物療法でもHbA1c>7%のままで、過体重あるいは肥満、高血圧、脂質異常のうち二つ以上がみられる、70歳未満の2型糖尿病患者93例。これらの患者が、通常の糖尿病治療に加え欧州糖尿病学会(EASD)の栄養療法に関する勧告に準拠した強化食事療法のアドバイスを6ヵ月間実施する群(45例)、あるいは通常の糖尿病治療のみを行う対照群(48例)に無作為に割り付けられた。 主要評価項目はHbA1cとし、副次的評価項目は肥満、血圧、脂質プロフィールなどであった。HbA1c、体重、BMI、ウエスト周囲長が低下、飽和脂肪とタンパク質の摂取量が改善 年齢、性別、ベースライン時の各種測定値で補正したところ、対照群に比べ強化食事療法群でHbA1cが有意に低下し(差:-0.4%、95%信頼区間:-0.7~-0.1%、p=0.007)、体重(同:-1.3kg、同:-2.4~-0.1kg、p=0.032)、BMI(同:-0.5、同:-0.9~-0.1、p=0.026)、ウエスト周囲長(-1.6 cm、-2.7~-0.5 cm、p=0.005)も有意に改善した。 強化食事療法群では、飽和脂肪酸の摂取量が対照群に比べ有意に低下し(エネルギー総量の差:-1.9%、95%信頼区間:-3.3~-0.6%、p=0.006)、タンパク質の摂取量が有意に増加しており(同:1.6%、0.04~3.1%、p=0.045)、これらは両群間で摂取量の差が最も大きい栄養素であった。 著者は、「最適な薬物療法を行ってもHbA1cが改善しない2型糖尿病患者は、個別化された強化食事療法アドバイスを行うことで血糖コントロールとともに体重、BMI、ウエスト周囲長が改善する可能性がある」と結論し、「食習慣の改善には、専門家のアドバイスだけでなく、家族によるサポートや適切な食べ物の選択が可能な環境も求められる」と指摘している。

4646.

HDL-C低値は、心血管疾患の治療ターゲットか?:JUPITER試験サブ解析

HDLコレステロール(HDL-C)値の測定は、初回心血管疾患のリスクの評価には有用だが、HDL-C値はスタチン治療でLDL-Cが著明に低下した患者の残存血管リスクの予測因子ではないことが、アメリカ・ブリガム&ウィメンズ病院のPaul M Ridker氏らが行ったJUPITER試験のサブ解析で明らかとなった。HDL-C値は心血管イベントの発症と逆相関を示す。スタチンは心血管疾患の治療薬として確立されているが、スタチン治療を行ってもなお残存する血管リスクはHDL-C値が低いことである程度説明でき、HDL-Cの不足は治療ターゲットとなる可能性が指摘されている。Lancet誌2010年7月31日号(オンライン版2010年7月22日号)掲載の報告。JUPITER試験のエンドポイントを、HDL-C値の四分位に分けて解析研究グループは、高用量スタチン治療でLDL-C値が著明に低下した患者においても、HDL-C値と心血管イベントの発症とは逆相関の関係を示すかについて解析を行った。JUPITER試験の対象は心血管疾患の既往歴のない非糖尿病の成人で、ベースライン時のLDL-C値<3.37mmol/L、高感度C反応性蛋白(hs-CRP)値≧2mg/Lの者であった。これらの参加者が、ロスバスタチン20mg/日を投与する群あるいはプラセボ群に無作為に割り付けられた。今回の解析では、対象をHDL-C値とアポリポ蛋白A1値の四分位に分けて、JUPITER試験の主要評価項目である非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、不安定狭心症による入院、冠動脈血行再建術、心血管死について評価した。ロスバスタチン群では、HDL-C値と血管リスクは関連しない17,802例を対象とした主解析では、エンドポイントの発現率はロスバスタチン群がプラセボ群に比べ44%低下した(p<0.0001)。プラセボ群[8,901例(50%)、治療時のLDL-C中央値2.80mmol/L]では、HDL-C値と血管リスクはベースライン時(四分位の最低値群に対する最高値群のハザード比:0.54、95%信頼区間:0.35~0.83、p=0.0039)および治療時(同:0.55、同:0.35~0.87、p=0.0047)ともに有意な逆相関を示した。これに対し、ロスバスタチン群[8,900例(50%)、治療時のLDL-C中央値1.42mmol/L]では、HDL-C値と血管リスクはベースライン時(四分位の最低値群に対する最高値群のハザード比:1.12、95%信頼区間:0.62~2.03、p=0.82)および治療時(同:1.03、同:0.57~1.87、p=0.97)ともに有意な関連はなかった。アポリポ蛋白A1値は、プラセボ群ではエンドポイントの発現率と強い相関を示したのに対し、ロスバスタチン群では関連はほとんど認めなかった。著者は、「HDL-C値の測定は初回心血管疾患のリスクの評価には有用であるが、HDL-C値はスタチン治療でLDL-Cが著明に低下した患者の残存血管リスクの予測因子ではない」と結論したうえで、「現在までのところ、この仮説を支持する有望なデータはないが、コレステリルエステル転送蛋白(CETP)阻害薬などには可能性が残っているため、無作為化試験で検証する必要があるだろう」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

4647.

2型糖尿病治療薬rosiglitazone vs. ピオグリタゾン

65歳以上の2型糖尿病治療薬rosiglitazone服用者は、ピオグリタゾン(商品名:アクトス)服用者と比べて、脳卒中・心不全・全死亡リスクが増大、急性心筋梗塞も加えた複合イベントリスクも増大することが明らかにされた。米国食品医薬品局(FDA)のDavid J. Graham氏らが、約23万人の米国高齢者向け公的医療保険メディケア加入者について調べ報告したもので、JAMA誌2010年7月28日号(オンライン版2010年6月28日号)で発表された。これまでの研究でも、rosiglitazoneの服用が、重篤な心血管疾患イベントの発生リスク増大につながる可能性が示唆されていた。rosiglitazoneまたはピオグリタゾン服用者を最長3年間追跡同研究グループは、65歳以上でメディケアに加入し、2006年7月~2009年6月の間にrosiglitazoneまたはピオグリタゾンの服用を開始した22万7,571人について、最長3年にわたり追跡した。被験者の平均年齢は、74.4歳だった。エンドポイントは、急性心筋梗塞、脳卒中、心不全それぞれの発症と、総死亡、またそれらすべての複合イベントだった。rosiglitazone服用者は脳卒中リスク1.27倍、心不全1.25倍結果、追跡期間中のエンドポイントいずれかを発生した件数の合計は、8,667件だった。rosiglitazone服用者のピオグリタゾン服用者に対する、イベント発生に関する補正後ハザード比は、脳卒中が1.27(95%信頼区間:1.12~1.45)、心不全が1.25(同:1.16~1.34)、死亡が1.14(同:1.05~1.24)、複合イベントは1.18(同:1.12~1.23)だった。急性心筋梗塞については、1.06(同:0.96~1.18)と、有意差はなかった。また、ピオグリタゾン服用者に対するrosiglitazone服用者の、複合イベントの寄与リスクは1.68(95%信頼区間:1.27~2.08)イベント/100人・治療年だった。有害必要数は1年間で60(同:48~79)人への治療だった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

4648.

1型糖尿病妊婦に対するビタミンC/E投与は、子癇前症を予防しない

1型糖尿病の妊婦に対しサプリメントとしてビタミンCとビタミンEを投与する方法は、子癇前症のリスク低下には効果がないことが、イギリスRoyal Victoria病院(ベルファスト)のDavid R McCance氏らによる無作為化試験(DAPIT試験)で示された。子癇前症は、妊娠後期にみられる妊娠誘発性の高血圧と新規発症の蛋白尿で特徴付けられる多系統疾患であり、未経産、20歳未満、40歳以上、肥満、子癇前症の既往歴、多胎妊娠、慢性高血圧・腎疾患・自己免疫疾患・抗リン脂質症候群・糖尿病などの既存疾患がリスク因子となることが指摘されている。既存疾患のない妊婦に抗酸化物質を投与しても子癇前症は低下しないことがすでに報告されているが、糖尿病の妊婦に対するビタミン類の効果は不明だという。Lancet誌2010年7月24日号(オンライン版2010年6月26日号)掲載の報告。ビタミンC/Eとプラセボで子癇前症予防効果を評価DAPIT試験の研究グループは、1型糖尿病の妊婦を対象にサプリメントとしてのビタミンCとビタミンEの投与が子癇前症の発症に及ぼす効果を評価するために無作為化プラセボ対照比較試験を実施した。イギリスの25施設から、妊娠前に1型糖尿病に罹患しており、妊娠8~22週、単胎妊娠、16歳以上の女性が登録された。これらの妊婦が、分娩まで1日1回ビタミンC 1,000mg+ビタミンE 400IU(α-tocopherol)を投与する群あるいはプラセボ群に無作為に割り付けられた。試験関係者と参加者には、治療割り付け情報は知らされなかった。主要評価項目は、子癇前症(蛋白尿を伴う妊娠高血圧)の発症とし、modified ITT解析が行われた。子癇前症発症率:15% vs. 19%、有意差はないがベネフィットの可能性も2003年4月~2008年6月までに762人の妊婦が登録され、ビタミンC/E投与群に379人が、プラセボ群には383人が割り付けられた。子癇前症の評価は、ビタミンC/E投与群の375人、プラセボ群の374人で可能であった。子癇前症の発症率は、ビタミンC/E投与群が15%(57/375人)、プラセボ群は19%(70/374人)であり、両群間に差を認めなかった(リスク比:0.81、95%信頼区間:0.59~1.12)。母体および新生児ともに有害事象の報告はなかった。著者は、「サプリメントとしてビタミンCとビタミンEを投与する方法は、1型糖尿病の妊婦における子癇前症のリスクを低下させなかった」と結論したうえで、「ベースライン時に抗酸化物質が低下した状態にある女性では、サプリメントとしてのビタミン類の投与がベネフィットをもたらす可能性は残されているため、さらなる検討を要する」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

4649.

血糖センサー付インスリンポンプ、1型糖尿病患者の血糖コントロール有意に改善

近年、1型糖尿病患者向けにインスリン治療器具が様々に開発され、従来の注射療法に代わる、小型携帯型24時間自動注入可能なインスリンポンプ、さらには血糖センサー付インスリンポンプが登場した。本論は、米国ミネアポリスにあるPark Nicollet国際糖尿病センターのRichard M. Bergenstal氏ら「STAR 3」研究グループが、最新の血糖センサー付インスリンポンプについて、従来の注射療法との有効性を比較した1年にわたる多施設共同無作為化試験結果の報告で、小児、成人とも有意に血糖コントロールが改善し、目標血糖値達成割合も高かったという。これまでも、インスリンポンプが注射療法よりも有効であることは明らかにされていたが、小児については結果にバラつきがあった。NEJM誌2010年7月22日号(オンライン版2010年6月29日号)掲載より。成人329例、小児156例を、最新ポンプ療法群と従来注射療法群に無作為化試験は、1型糖尿病で血糖コントロール不良の、成人(19~70歳)329例と小児(7~18歳)156例の計485例を、血糖センサー付インスリンポンプで治療する群(ポンプ療法群、成人166例、小児78例)と、1日複数回の注射療法群(成人163例、小児78例)とに無作為化して行われた。主要エンドポイントは、追跡1年時点の血糖値(HbA1c)の、ベースラインからの変化。患者は、遺伝子組み換え型インスリンアナログ製剤を投与され、専門家医療チームが管理指導にあたった。1年時点の血糖値低下、7%未満達成割合ともにポンプ療法群に軍配ベースラインでの両群の平均HbA1c値はともに、8.3%だった。1年時点で、その値は、ポンプ療法群は7.5%と、注射療法群の8.1%よりも有意に低下していた(P<0.001)。<7%目標達成患者の割合は、注射療法群よりもポンプ療法群で大きかった(27%対10%、P<0.001)。重症低血糖発生は、ポンプ療法群は100人・年につき13.31例、注射療法群は100人・年につき13.48例で、有意差は認められなかった(P=0.58)。また、両群とも体重増加はみられなかった。(医療ライター:武藤まき)

4650.

糖尿病性網膜症の進行を抑制する薬物療法

2型糖尿病患者の網膜症進行に対する薬物療法の効果を検討した結果、強化血糖コントロールと、抗高脂血症薬併用療法で進行率の低下が認められたことが報告された。一方、強化血圧コントロールによる効果は認められなかった。報告は、「ACCORD」試験被験者のサブグループ「ACCORD Eye」被験者データを解析した結果による。これまでのデータで、血糖、コレステロール、血圧という全身性因子が、糖尿病性網膜症の発症および進行に重要な影響を及ぼしている可能性が示唆されていたことを受けて行われた。NEJM誌2010年7月15日号(オンライン版2010年6月29日号)より。ACCORDサブグループ対象に解析無作為化試験「ACCORD」(Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes)は、2型糖尿病を有し心血管疾患リスクが高く、各種薬物療法を受けている1万251例が参加して行われた。被験者は、血糖コントロールの強化治療(目標<6.0%)もしくは標準治療(同7.0~7.9%)を受け、さらに脂質異常症に対する治療として抗高脂血症薬の併用投与[フェノフィブラート(商品名:リピディルなど)1日1回160mg+シンバスタチン(商品名:リポバスなど)]か単独投与(プラセボ+シンバスタチン)を、あるいは収縮期血圧コントロール[目標<120mmHg(強化群)か<140mmHg(標準群)]を受けた。これら治療の糖尿病性網膜症に対する4年時点の効果について、サブグループ「ACCORD Eye」(2,856例)を対象に評価が行われた。評価は、ETDRS(Early Treatment Diabetic Retinopathy Study)重症度スケール(7方向の立体眼底写真を17段階で評価、高段階ほど重症)で3段階以上の進行、あるいはレーザー光凝固術または硝子体切除術を余儀なくされた糖尿病性網膜症の発症について検討された。強化血糖コントロールのオッズ比0.67、抗高脂血症薬併用療法のオッズ比は0.604年時点の糖尿病性網膜症の進行率は、強化血糖コントロール群は7.3%だったのに対し、標準血糖コントロール群は10.4%だった。強化血糖コントロール群の補正後オッズ比は0.67(95%信頼区間:0.51~0.87、P=0.003)。抗高脂血症薬治療別では、併用群は6.5%だったのに対し、単独群は10.2%だった。併用群の補正後オッズ比は0.60(0.42~0.87、P=0.006)。一方、血圧コントロールについては、強化血圧コントロール群10.4%、標準血圧コントロール群8.8%で、強化血圧コントロール群の補正後オッズ比は1.23(0.84~1.79、P=0.29)だった。(医療ライター:武藤まき)

4651.

健康高齢男性で筋力アップするテストステロン、運動制限を有する人では?

健康な高齢男性では、テストステロン・サプリメントによって筋量・筋力がアップすることが明らかになっている。米国ボストン大学医療センター内分泌・糖尿病・栄養学部門のShehzad Basaria氏らは、これまで検討されていなかった、運動制限を有する高齢男性を対象にテストステロン補充療法の安全性と有効性について試験を行った。結果、心血管有害事象の増大が認められたと報告した。ただし試験規模が小さかったこと、対象者の特性(慢性疾患有病者が多かった)に留意すべきとコメントもしている。NEJM誌2010年7月8日号(オンライン版2010年6月30日号)掲載より。プラセボ対照試験、有害心血管イベント発生率が有意に高く早期中止に試験は、地域居住の65歳以上男性で、運動制限があり、血清総テストステロン値100~350ng(3.5~12.1nmol/L)もしくは血清遊離テストステロン値50pg/mL(173pmol/L)未満の人を対象に、無作為に、プラセボかテストステロンのゲル剤塗布を毎日、6ヵ月間受けるよう割り付け行われた。有害事象は、MedDRAに基づき分類集計された。試験登録は2005年9月~2009年12月まで。プラセボ投与群に比べテストステロン投与群での有害心血管イベント発症率が有意に高値であることが認められたため、試験データ・安全性モニタリング委員会の勧告で、同年末をもって早期中止となった。筋力、運動機能は改善試験終了までに登録されたのは合計209例(平均年齢74歳)だった。被験者(テストステロン群106例、プラセボ群103例)は、基線で、高血圧(同:85%、78%)、糖尿病(24%、27%)、高脂血症(63%、50%)、肥満(45%、49%)を有している人が多かった。試験中、プラセボ群に比べテストステロン群は、心臓・呼吸器・皮膚に関するイベント発生率が高かった。心血管関連の有害イベント発生は、プラセボ群では5例だったが、テストステロン群は23例で起きた。相対リスクは、6ヵ月の治療期間を通じて一定していた。プラセボ群と比べてテストステロン群は、レッグプレスやチェストプレスの筋力、重しを抱えての階段昇降が改善された。(医療ライター:武藤まき)

4652.

脳卒中の90%は、10のリスク因子に起因:INTERSTROKE試験

脳卒中リスクの約90%が10のリスク因子に起因し、降圧や喫煙制限の実施、身体活動や健康的な食事の推奨といった介入により、脳卒中の世界的負担は実質的に低減しうることが、カナダMcMaster大学地域健康調査研究所のMartin J O’Donnell氏らが実施した症例対照研究で示された。脳卒中は世界第2位の死亡原因であり、ほとんどの地域では成人の後天性身体障害の主要原因である。一方、脳卒中の世界的負担に対して種々のリスク因子がどの程度寄与しているかは不明であり、特に低~中収入国における調査が遅れているという。Lancet誌2010年7月10日号(オンライン版2010年6月18日号)掲載の報告。リスク因子と脳卒中との関連、疾病負担への寄与の程度などを評価INTERSTROKE試験の研究グループは、既知の緊急を要するリスク因子と脳卒中の主なサブタイプの関連を明らかにし、これらのリスク因子が脳卒中の負担にどの程度寄与するかを評価し、さらに脳卒中と心筋梗塞のリスク因子の違いを探索的に検討することを目的に、大規模な標準化症例対照研究を実施した。2007年3月1日~2010年4月23日までに、低~中収入国を中心とする22ヵ国84施設から初回急性脳卒中(症状発現後5日以内、入院後72時間以内)の症例および年齢と性別をマッチさせた脳卒中の既往歴のない対照が登録された。すべての参加者が質問票に回答して身体検査を受け、ほとんどが血液および尿のサンプルを提供した。脳卒中、虚血性脳卒中、出血性脳卒中と個々のリスク因子の関連の指標として、オッズ比(OR)および人口寄与リスク(PAR)を算出した。虚血性脳卒中は10項目すべてが、出血性脳卒中は5項目が有意なリスク因子試験開始からの累積症例数が3,000例[虚血性脳卒中2,337例(78%)、出血性脳卒中663例(22%)]となった時点で、対照3,000人とともに解析を行ったところ、有意差を認めた脳卒中のリスク因子は以下の10項目であった。(1)高血圧の既往歴[OR:2.64、99% 信頼区間(CI):2.26~3.08、PAR:34.6%、99% CI:30.4~39.1](2)喫煙(OR:2.09、99% CI:1.75~2.51、PAR:18.9%、99% CI:15.3~23.1)(3)ウエスト/ヒップ比(三分位の最低値に対する最高値のOR:1.65、99% CI:1.36~1.99、PAR:26.5%、99% CI:18.8~36.0)(4)脳卒中に関連する食事のリスクスコア(三分位の最低値に対する最高値のOR:1.35、99% CI:1.11~1.64、PAR:18.8%、99% CI:11.2~29.7)(5)規則的な身体活動(OR:0.69、99% CI:0.53~0.90、PAR:28.5%、99% CI:14.5~48.5)(6)糖尿病(OR:1.36、99% CI:1.10~1.68、PAR:5.0%、99% CI:2.6~9.5)(7)アルコール摂取[月に30杯以上飲酒する者あるいは大酒飲み(月に1回以上、5杯以上飲酒する日がある者)のOR:1.51、99% CI:1.18~1.92、PAR:3.8%、99% CI:0.9~14.4](8)社会心理的ストレス(OR:1.30、99% CI:1.06~1.60、PAR:4.6%、99% CI:2.1~9.6)およびうつ病(OR:1.35、99% CI:1.10~1.66、PAR:5.2%、99% CI:2.7~9.8)(9)心臓の原因(OR:2.38、99% CI:1.77~3.20、PAR:6.7%、99% CI:4.8~9.1)(10)アポリポ蛋白B/A1比(三分位の最低値に対する最高値のOR:1.89、99% CI:1.49~2.40、PAR:24.9%、99% CI:15.7~37.1)これらのリスク因子を合わせると、全脳卒中のPARの88.1%(99% CI:82.3~92.2)を占めた。高血圧の定義を「高血圧の既往歴あるいは>160/90mmHg」に変更すると、全体のPARは全脳卒中の90.3%(99%CI:85.3~93.7)に達した。虚血性脳卒中ではこれら10項目がいずれも有意なリスク因子であったのに対し、出血性脳卒中の有意なリスク因子は高血圧、喫煙、ウエスト/ヒップ比、食事、アルコール摂取の5つであった。これらのデータをふまえ、著者は「脳卒中リスクの約90%が、10のリスク因子によって起こることが示唆される。降圧や喫煙制限の実施、身体活動や健康的な食事の推奨といった介入により、脳卒中の負担は実質的に低減する可能性がある」と結論している。(菅野守:医学ライター)

4653.

糖尿病とCAD有する患者への厳格血圧コントロール、心血管アウトカム改善認められず

高血圧治療ガイドラインでは、糖尿病患者の降圧目標は収縮期血圧130mmHg未満とする治療を行うことを提唱しているが、推奨値に関するデータは限られており、特に増大する冠動脈疾患(CAD)を有する糖尿病患者に関するデータは十分ではない。米国フロリダ大学のRhonda M. Cooper-DeHoff氏らは、糖尿病とCADを有する患者コホートにおいて、収縮期血圧コントロール達成と有害心血管アウトカムとの関連を評価することを目的に、「INVEST」試験参加者の観察サブグループ解析を行った。JAMA誌2010年7月7日号掲載より。厳格、通常、非コントロール群の有害心血管アウトカムを評価観察サブグループ解析が行われたのは、「INVEST」試験(International Verapamil SR-Trandolapril Study)参加者2万2,576人のうちの6,400人で、糖尿病とCADを有する50歳以上の人だった。参加者は、14ヵ国862施設から1997年9月~2000年12月の間に集められ、2003年3月まで追跡された。米国からの参加者の追跡評価は、全米死亡統計によって2008年8月まで行われた。INVEST参加者は、収縮期血圧130mmHg未満、拡張期血圧85mmHg未満を目標に、降圧薬治療の第一選択薬はCa拮抗薬あるいはβ遮断薬を用い、併用薬として、ACE阻害薬か利尿薬または両剤を服用した。Cooper-DeHoff氏らは、被験者を、血圧コントロールが130mmHg未満を保持している場合は厳格コントロール群に、130~140mmHg未満の場合は通常コントロール群に、140mmHg以上だった場合は非コントロール群に分類し、全死因死亡、非致死的心筋梗塞または非致死的脳卒中の初発を含む、有害心血管アウトカムを主要評価項目に検討した。主要アウトカム、通常群12.6%、厳格群12.7%、補正後ハザード比1.111万6,893患者・年の追跡調査の間、主要アウトカムイベントを呈した患者は、厳格コントロール群286人(12.7%)、通常コントロール群249人(12.6%)、非コントロール群431例(19.8%)だった。通常コントロール群 vs. 非コントロール群の心血管イベント発生率は、12.6%対19.8%だった(補正後ハザード比:1.46、95%信頼区間:1.25~1.71、P<0.001)。一方、通常コントロール群 vs. 厳格コントロール群は、12.6%対12.7%(同:1.11、0.93~1.32、P=0.24)で、ほとんど違いは存在しなかった。全死因死亡率については、厳格コントロール群は11.0%、通常コントロール群は10.2%(同:1.20、0.99~1.45、P=0.06)。延長追跡評価を含むと、同22.8%、21.8%(同:1.15、1.01~1.32、P=0.04)だった。上記結果から、「糖尿病とCADを有する患者における収縮期血圧の厳格なコントロールは、通常のコントロールと比べて心血管アウトカムの改善には関連が認められなかった」と結論した。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

4654.

主任教授 森田峰人先生の答え

子宮内膜症と低用量ピルについて子宮内膜症の治療で低用量ピルを使用することもあるかと思いますが、副作用の発現はどうでしょうか?私自身は内膜症を診るわけではないのですが、患者さんから相談を受けることがあるので、症例数が多いであろう大学病院臨床現場での状況を知りたいです。宜しくお願いします。OC(ピル)はエストロゲン+プロゲストーゲンの配合剤であることはご存じと思います。これらのホルモン依存性に副作用が発生すると考えられます。一般的にエストロゲンとしてエチニルエストラジオールが、プロゲストーゲンとしてノルエチステロン、デソゲストレル、レボノルゲストレルがあり、OCの種類によってこれらの組み合わせや1相性、2相性、3相性が存在します。一般的にエストロゲン依存性の副作用としては、悪心・嘔吐、頭痛、水分貯留、帯下増加などが、プロゲストーゲン依存性の副作用としては、倦怠感、抑うつ感、乳房緊満感などが、アンドロゲン依存性(プロゲストーゲンには男性ホルモン活性があります)の副作用として、体重増加、ニキビ、食欲亢進、性欲亢進、男性化兆候などがあります。これらの副作用発現率は各種プロゲストーゲンの種類により異なるとは思いますが、全体的な副作用発現率として、悪心・嘔吐は1.2~29.2%、頭痛は3.4~15.7%、体重増加は0.8~2.2%、乳房緊満感は0.1~20%等となっており、これらのマイナートラブルは、通常、3か月以内で消失するともいわれています。子宮内膜症患者さんの月経痛改善のための効果ですが、ほとんどの場合効果はあると感じています。しかしながら、OCの各種副作用の発現により、継続しての服用が困難になる場合もあります。そのような場合には、OCの種類を変更することで継続服用が可能になる場合が多々あり、1種類のOCがダメであってもあきらめる必要はありません。子宮頸がんワクチンの効果・副反応について最近、子宮頸がんワクチン接種に関して助成金が出るとか出さないとか、何かと話題になっていますが、そもそもこのワクチン、実際の効果は如何なものなのでしょうか?「日本人には合わない」などおっしゃっている先生もいるようです。また、副反応についても現場の見解を知りたいと思っています。差し支えない範囲で結構ですのでご教授お願いします。現在使われているワクチンはHPVの遺伝子型が16と18に対するものです。日本人の子宮頸がんに関連するHPV遺伝子型が16と18であるものは58.8%(16型44.8%+18型14.0%)と報告されています。海外の報告では16/18が70.7%(16型53.5%+18型17.2%)で、その他31,33,35,51,52,53,56,58,59,68の10の型が31.2%に検出され、その他の型が9.0%であったとなっています。日本人の統計で、このワクチンでHPV16/18型の感染による子宮頸がんの発生を予防できる全体に占める割合は60%弱ということになります。よって、16/18による子宮頸がん発生を100%抑制できるとして、ハイリスクHPV感染者の0.15%ががんになるのを防げる場合の、費用対効果がどうなるのかは現在のところはっきりしていません。さらに大切な事として、日本における子宮頸がん検診率は23%程度であり、この健診率を先進国並みの60~82%に持って行く方法を考える必要があると思います。副反応に関しましては、全てのワクチンに言えることですが、何らかの重篤な合併症が引き起こされる可能性は否定できません。一般的な副反応として、局所の疼痛や発赤は90%程度に認められておりますが、当院での接種に際しては、幸いなことに重篤な副反応には遭遇しておりません。今後、これらの副反応に関しましても日本におけるデータが集積されてくるものと思います。研修について産婦人科医を目指している医学生です。産婦人科医になるにあたり、小児科(NICU)を経験した方が良いと聞きます。また、病院によっては一定期間NICUへ行かせてくれるところもあると聞きます。大森病院さんでも、このように小児科(NICU)のことを勉強したり、経験したりする機会はあるのでしょうか?ホームページを拝見しましたが、その辺の情報がなかったので教えて頂ければと思います。東邦大学医療センター大森病院でも小児科(NICU)のことを勉強したり、経験したりすることになります。産婦人科のホームページで「入局希望の方へ」を見て頂くと「後期研修プログラム」として1年目に「産科・周産期」と記載してありますが、この期間に3か月間、新生児科(NICU/GCU)の研修を行うことになります。また、後期研修期間中に、「腫瘍」「生殖内分泌」を専門医レベルまで習得してもらうために、2年目「腫瘍」、3年目「生殖内分泌」を主な研修期間としてトータルで3年間での研修計画をたてています。その後に、さらに新生児科での研修を希望される場合には、適時相談により、更に高度な新生児科での研修を行うことも可能です。産科婦人科の専門領域について初期研修中の者です。最近、産婦人科医に興味を持つようになりました。産婦人科の専門領域を大きく分けると、周産期、婦人科腫瘍、生殖医学の3つと教わりましたが、どれを専門にするのか?を決めるのは、通常どの位のタイミングなのでしょうか?また、森田先生はいつ頃、どんな理由で今の専門(婦人科腫瘍でしょうか?)に決めたのでしょうか?場違いな質問でしたら申し訳ありません。宜しくお願いします。後期研修として産婦人科に進んだ場合、まず目指していただくのは産婦人科専門医です。当院でもまずはそれを第1目標にしています。通常、後期研修3年間(初期研修2年とあわせて卒後5年)が終了した時点で専門医の受験資格ができます。それまでは、「周産期」「腫瘍」「生殖内分泌」の3本の柱をしっかりと研修し、専門医取得を目指します。通常は、その後に専門性のあるサブスペシャリティの各種指導医や認定医取得、および研究などを行うことになります。自分自身の場合は、卒業が27年前ですので、現在のような初期研修、後期研修制度はなく、卒業して直ちに医局に入局し、2年間の研修医、その後2年間の関連病院での研修の後に、卒後5年目に大学に帰局して研究を始めるとともに、当時、黎明期であった婦人科内視鏡に興味を持ち、臨床では生殖医療や関連する子宮内膜症、子宮筋腫などの診療に携わってきました。自身のおかれている環境によっても、これら専門領域選択に適切な時期や場所が大きく異なる可能性もあります。まずは、興味を持ち、かつ、その領域にすすむ事ができる環境にあるかどうかの見極めは大切なことでないかと思います。また、産婦人科としてのジェネラリストを目指すという道もあります。妊娠糖尿病患者を診るときに気をつけること妊娠糖尿病患者を診るときに気をつけていることがありましたらご教授下さい。特に糖尿病専門医との連携方法で気をつけていることや、こうすると上手く行く!といったノウハウをお聞きしたいと思っております。私の病院には糖尿を診れる医師はいないため、いつも他院の先生方との連携になってしまいます。どのように連携するのが良いのか毎日模索している日々です。ご教授お願いします。ご質問いただきました内容に関して、的確にお応えできる回答を持ち合わせておりませんが、他院の先生と連携をとって妊娠糖尿病患者を診ておられるご苦労は大変かと思います。ご存じの対応であるとは思いますが、妊娠糖尿病患者に対しては、食事指導、運動療法からはじまり、妊娠中の運動療法は比較的制限を受けることから、食事療法のみで血糖コントロールが目標に到達しない場合には、迷うことなくインスリン療法を開始する、ということに尽きると思います。男性産婦人科医が気をつけること産婦人科は、女性医師と違って男性医師は色々と気を遣わないといけない科だと思います。先生が男性産婦人科医として気をつけている点を教えてください。産婦人科の診察対象は女性生殖器であることから、最近は、女性医師の診察を希望する患者さんも増加しています。まず、大切なことは、不安を抱いている患者さんに対して、出来るだけその不安を取り除き、適切な診療ができる環境を作り出すことにあります。一言で言い表すのは難しいですが、常に、そのような気持ちで患者さんと接するよう心がけています。また、男性医師は、診察の場面では必ず女性の看護師を同席させることも忘れてはならない事です。日本の産婦人科領域の臨床研究レベルについて海外に比べた時、日本の産婦人科領域の臨床研究はどの位の位置にいるのでしょうか?また、海外への留学は必要なのでしょうか?僕はまだ医学生なのですが、将来は先生のように研究も臨床もでき、多くの患者さんのライフスタイルにあった治療提案ができるドクターになりたいと思っています。日本の産婦人科領域の臨床研究レベルは決して諸外国に劣っているとは思いません。しかし、日本人であるが故の不利な点があります。世界で研究に対する評価を得るためには英文論文の執筆は不可欠です。しかしながら、日本ではやはり主に日本語による論文執筆が先になり、英文は後回しになる傾向があるように思えます。もちろん、英文の論文を多数輩出している優れた日本人研究者もたくさんいらっしゃいますが、大変な努力が必要であることは事実です。海外への留学に関する事ですが、この留学は研究留学のことと理解してコメントします。留学には、研究留学と臨床留学がありますが、現在、大多数を占めるのは大学医局からの研究留学です。しかし、研究留学は目的意識を高く持たないと得るものは少ないと思われます。必ずしも留学が必要である理由は存在しないと思います。臨床遺伝について大森病院さんのホームページで、臨床遺伝についての記載がありますがもう少し教えて頂けないでしょうか?今大学病院では、具体的にどんな研究や取り組みが行われているのか?どのような成果を上げているのか興味あります。是非宜しくお願いします。近年、疾患に限らず生命現象ほとんどが遺伝子によって制御されていることが解明され、注目を浴びています。臨床遺伝学は、基礎遺伝学(いわゆる遺伝学)と臨床をつなぐ重要な分野として発展してきています。さらに最近では、生活習慣病などの多因子疾患も、遺伝子が関与している事が判明しています。しかし、遺伝学的検査を行うときに、十分な説明がなされず、施行されたり、結果を適切に判断することが出来ず、誤った説明などがなされ、時に、患者、その家族に誤解を招く場合があります。大森病院には、日本人類遺伝学会、遺伝カウンセリング学会認定の、臨床遺伝専門医が2名(いすれも産婦人科医)がおり、専門医研修施設に認定されています。産婦人科領域、生殖遺伝(挙児希望、習慣流産など)、周産期遺伝(出生前診断、高齢妊娠など)を中心に、火曜日午後、遺伝相談外来として対応しています。また、内科、外科など他科の担当医と協力し、横断的に、遺伝学的検査施行時、結果説明時など患者、その家族と話し合う機会を設けています。窓口は、産婦人科外来となっており、電話にて担当医と受診の予約についてお話しいただけます。妊娠を控えている慢性腎臓病実臨床にて妊娠を控えている慢性腎臓病の患者に対してどのような降圧剤を選択するのがベストか、臨床研究などの結果があれば教えていただければ幸いです.まず、慢性腎臓病合併妊婦では早期に妊娠高血圧症候群をおこして、母児共に予後が悪い事はよく知られております。したがいまして、妊娠前に十分に腎機能検査を行い、GFR 50ml/分以下、血清クレアチニン1.5mg/dl以上、血清尿酸値6.0ng/ml以上、降圧剤投与での血圧160/110mmHg以上、あるいは腎生検にて活動性病変のある者には妊娠を許可すべきではありません。これらの条件をクリアして、血圧の管理を行い、拡張期血圧を90~100mmHgの範囲に、収縮期血圧155~160mmHgを超えない事を目標に、妊娠が成立しても継続して投与が可能な薬剤を選択する事が望まれます。第1選択はヒドララジンもしくはメチルドパになります。また、妊婦に対してはACE阻害剤、アンギオテンシン受容体拮抗薬は禁忌であり、妊娠前にこれらの薬剤によりコントロールされている場合には薬剤の変更が必要になります。したがいまして、妊娠を目指して降圧剤を使用する場合にはヒドララジンもしくはメチルドパによる良好なコントロールがその後の管理が行いやすい状況にすると思われます。月経か否か性器出血が主訴の患者さんで性成熟期で子宮がある場合、どれが月経なのか不正性器出血なのか分からないと言われます。まず頚部・内膜の細胞診はとり、経膣エコーを見るかと思いますが、産婦人科として出血が月経かどうかを判断する術はあるでしょうか。産後の不正出血などでも(明らかな遺残ではなく)それが月経なのか何なのか判断に迷うことがあります。お教えいただけないでしょうか。 性器出血の様子だけから判断することは困難です。出血の様子に加え経腟超音波所見は重要で、特に子宮内膜の状態は評価に大きく役立ちます。患者さんのもともとの月経周期や体型なども判断材料になる機会は少なくありません。総合的に評価することとなります。総括たくさんの、また様々な内容のご質問をいただきありがとうございました。産婦人科の3本柱は、「周産期」「腫瘍」「生殖内分泌」であり、まだまだ伝えきれないほどの魅力ある診療および研究分野がたくさんあります。少しでも興味を持って、産婦人科の世界に入ってきてくれる人たちが増えてくれることを願っています。主任教授 森田峰人先生「産科婦人科最先端治療は患者個々への対応が決め手」

4655.

ピオグリタゾン対rosiglitazoneのイベントリスク:米国FDA報告

2型糖尿病治療薬のrosiglitazone(国内未承認)は、ピオグリタゾン(商品名:アクトス)他米国内で販売されているチアゾリジン系薬に比べ、脳卒中リスクを1.27倍、心不全リスクを1.25倍に増加するなど、心血管疾患イベントリスクを増大することが報告された。米国食品医薬品局(FDA)のDavid J. Graham氏らが、約23万人のチアゾリジン系薬の服用者を追跡して明らかにしたもので、JAMA誌オンライン版2010年6月28日号で発表された。被験者の平均年齢は74歳、最長3年間追跡研究グループは、米国の高齢者向け公的医療保険メディケアの被保険者で、2006年7月から2009年6月の間に、メディケアのパートD処方プランでrosiglitazoneまたはピオグリタゾンの服用を開始した22万7,571人について、後ろ向き発端コホート研究を行った。被験者は65歳以上で、平均年齢は74.4歳だった。追跡期間は、服用開始から最長で3年だった。エンドポイントは、急性心筋梗塞、脳卒中、心不全、原因を問わない死亡と、それらすべてを合わせた複合イベントだった。rosiglitazoneの複合イベント発生は1.68/100人・治療年その結果、追跡期間中にいずれかのエンドポイントが発生したのは、8,667人だった。rosiglitazoneのピオグリタゾンに対するイベント発生に関するハザード比は、脳卒中が1.27(95%信頼区間:1.12~1.45)、心不全が1.25(同:1.16~1.34)、死亡が1.14(同:1.05~1.24)、複合イベントが1.18(同:1.12~1.23)だった。なお、急性心筋梗塞については、1.06(同:0.96~1.18)で両群で有意差はみられなかった。また、複合イベント発生に関するrosiglitazoneの寄与危険度は、1.68/100人・治療年(同:1.27~2.08)だった。有害必要数(NNH)は、60人(同:48~79)への1年間投与だった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

4656.

糖尿病の血管疾患リスクはどの程度? 70万人のメタ解析

糖尿病の存在は、肥満、脂質異常、高血圧など従来のリスク因子とは別個に、血管疾患リスクを約2倍に高めることが、Emerging Risk Factors Collaborationが実施した102もの試験のメタ解析で明らかとなった。糖尿病は冠動脈心疾患や脳卒中のリスク因子として確立されているが、年齢、性別、従来のリスク因子の有無などでリスクの程度はどれくらい変化するのか、致死的心筋梗塞と非致死的心筋梗塞、虚血性脳卒中と出血性脳卒中とでは糖尿病の影響はどの程度は異なるのかという問題は未解決のままだ。さらに、非糖尿病患者における血糖異常の意義についても同様の問題が残されているという。Lancet誌2010年6月26日号掲載の報告。糖尿病の血管疾患リスクを定量的に評価するメタ解析研究グループは、血管疾患リスクに及ぼす糖尿病の影響を定量的に評価することを目的に102のプロスペクティブ試験のメタ解析を行った。Emerging Risk Factors Collaborationが実施した試験から血管疾患の既往のない患者を抽出し、個々の患者の糖尿病、空腹時血糖値およびその他のリスク因子の記録について解析した。個々の試験を年齢、性別、喫煙状況、収縮期血圧、BMIで補正して回帰分析を行い、これらのデータを統合して血管疾患に対するハザード比(HR)を算出した。糖尿病の血管疾患に対するHRは1.73~2.27、空腹時血糖値の関連はわずか102のプロスペクティブ試験から抽出された69万8,782人(5万2,765人が非致死的あるいは致死的血管疾患を発症、849万人・年)が解析の対象となった。糖尿病の冠動脈心疾患に対する補正HRは2.00(95%信頼区間:1.83~2.19)、虚血性脳卒中に対する補正HRは2.27(同:1.95~2.65)、出血性脳卒中は1.56(1.19~2.05)、分類不能の脳卒中は1.84(同:1.59~2.13)、その他の血管死の合計が1.73(同:1.51~1.98)であった。脂質、炎症、腎機能のマーカーでさらに補正しても、HRに明確な変化は認めなかった。冠動脈心疾患に対するHRは男性よりも女性で高く、70歳以上よりも40~59歳で、非致死的疾患よりも致死的疾患で高かった。成人の糖尿病有病率を10%とすると、血管疾患の11%が糖尿病関連と推算された。空腹時血糖値は血管リスクと直線的な関連はなく、3.90mmol/Lと5.59mmol/Lで有意な差はみられなかった。空腹時血糖値3.90~5.59mmol/Lの場合と比較して、空腹時血糖値≦3.90mmol/Lの場合の冠動脈心疾患に対するHRは1.07(95%信頼区間:0.97~1.18)、5.60~6.09mmol/Lの冠動脈心疾患に対するHRは1.11(同:1.04~1.18)、6.10~6.99mmol/Lでは1.17(同:1.08~1.26)であった。糖尿病歴のない集団では、従来のリスク因子のほかに、空腹時血糖値や空腹時血糖異常に関する情報を付加しても、血管疾患の検出基準が改善されることはなかった。著者は、「糖尿病は、他の従来のリスク因子とは別個に、広範な血管疾患のリスクを約2倍に上昇させる。非糖尿病集団では、空腹時血糖値の血管疾患リスクとの関連はわずかであった」と結論している。(菅野守:医学ライター)

4657.

新規SGLT2阻害薬dapagliflozin、血糖コントロールが不良な2型糖尿病に有効

メトホルミンだけでは十分な血糖コントロールが得られない2型糖尿病患者に対し、ナトリウム・グルコース共輸送体2(SGLT2)の選択的阻害薬であるdapagliflozinを追加投与すると、ヘモグロビンA1c(HbA1c)が有意に改善することが、英国Aston大学のClifford J Bailey氏らが行った無作為化試験で示された。高血糖の是正や糖毒性の発現予防は2型糖尿病の管理における重要な目標とされる。dapagliflozinは、SGLT2を選択的に阻害することで、インスリン非依存性に腎臓でのグルコースの再吸収を抑制するという。Lancet誌2010年6月26日号掲載の報告。dapagliflozinの有用性を評価する二重盲検プラセボ対照第III相試験研究グループは、メトホルミンだけでは血糖コントロールが不十分な患者においてdapagliflozinの有効性と安全性を評価する多施設共同二重盲検プラセボ対照第III相試験を実施した。メトホルミン≧1,500mg/日で十分な血糖コントロールが達成されない2型糖尿病患者546例が、3つの用量のdapagliflozin(2.5mg群:137例、5mg群:137例、10mg群:135例)あるいはプラセボ群(137例)に無作為に割り付けられた(いずれも1日1回経口投与)。メトホルミンは、試験開始前と同一の用量を継続投与した。主要評価項目は、24週におけるHbA1cのベースラインからの変化とした。二重盲検下で1回以上の投薬を受け、ベースラインとその後に少なくとも1回の検査を受けた全症例が解析の対象となった。用量依存性にHbA1cが有意に低下、ウエスト周囲長の短縮を伴う体重減少効果も主要評価項目の解析は、534例(dapagliflozin 2.5mg群:135例、5mg群:133例、10mg群:132例、プラセボ群:134例)で行われた。24週の時点で、プラセボ群の平均HbA1cが0.30%低下したのに対し、dapagliflozin 2.5mg群は0.67%(p=0.0002)、5mg群は0.70%(p<0.0001)、10mg群は0.84%(p<0.0001)と用量依存性に低下しており、いずれも有意差を認めた。dapagliflozin群では治療早期から体重減少を認め、この効果は治療期間を通じて持続した。24週には、プラセボ群の体重が平均0.9kg低下したのに対し、2.5mg群が2.2kg、5mg群が3.0kg、10mg群は2.9kg減少した(いずれも、p<0.0001)。ウエスト周囲長も、プラセボ群が平均1.3cm短縮したのに対し、2.5mg群が1.7cm、5mg群が2.7cm、10mg群は2.5cm減少していた。低血糖症状の発現率は、dapagliflozin群が2~4%、プラセボ群は3%と同等であった。性器感染を示唆する徴候、症状などの報告は、プラセボ群の5%(7例)に比べ、dapagliflozin 2.5mg群が8%(11例)、5mg群が13%(18例)、10mg群は9%(12例)と頻度が高い傾向がみられた。重篤な有害事象は17例(dapagliflozinの各用量群が4例ずつ、プラセボ群が5例)に認められた。著者は、「メトホルミン単剤では血糖コントロールが不十分な2型糖尿病患者の治療において、メトホルミンへのdapagliflozin追加療法は新たな選択肢となる」と結論している。(菅野守:医学ライター)

4658.

65歳以上の肥満や50歳からの体重増で、2型糖尿病リスクが大幅増加

65歳以上の肥満や、50歳からの体重増は、糖尿病発症リスクを増加するという。BMI値の最高五分位範囲の群では、最低五分位範囲の群に比べ、糖尿病発症リスクが4倍以上であったことが報告された。米国ワシントン大学公衆衛生校生物統計学部のMary L. Biggs氏らが、65歳以上の4,000人超を対象とした前向きコホート試験の結果明らかにしたもので、JAMA誌2010年6月23/30日号で発表した。これまで、若者や中年の肥満が2型糖尿病のリスク因子であることは知られていたが、高齢者の肥満と同リスクに関する研究報告はほとんどなかった。肥満について人体測定学と生体インピーダンス法で測定研究グループは1989~2007年にかけて、Cardiovascular Health Studyの被験者で65歳以上の4,193人について、前向きに追跡した。肥満測定は、ベースラインでは人体測定学と生体インピーダンス法を用い、3年後に人体測定学で再測定を行った。主要評価項目とした糖尿病の診断については、糖尿病治療薬の服用や空腹時血中血糖値が126mg/dL以上とした。追跡期間の中央値は12.4年(範囲:0.9~17.8年)だった。その間、糖尿病が確認されたのは、339人だった(7.1/1,000人・年)。糖尿病リスクは、各因子とも最高五分位範囲が最低五分位範囲の約4倍ベースラインのBMI値が、最高五分位範囲の最低五分位範囲に対する、糖尿病発症に関するハザード比は、4.3(95%信頼区間:2.9~6.5)、50歳時点のBMI値については同3.0(同:2.0~4.3)だった。ベースラインの体重が、最高五分位範囲の最低五分位範囲に対する同ハザード比は、4.2(同:2.8~6.4)、体脂肪量は同4.0(同:2.6~6.0)、ウエスト周囲が同4.2(同:2.8~6.2)、ウエスト・ヒップ比が同2.4(同:1.6~3.5)、ウエスト・身長比が同3.8(同:2.6~5.5)だった。ただこれらハザード比の傾向を年齢階層化してみると、75歳以上になるとリスクは、65~74歳と比べておよそ半分であった。また、体重増との関係についてみてみると、本試験登録時の体重について50歳時点から9kg以上増えていた人は、体重の増減が2kg以内の人と比べ、2型糖尿病発症のハザード比が2.8(95%信頼区間:1.9~4.3)、ベースラインから追跡中3回目の測定までに体重が6kg以上増えた人の同ハザード比は2.0(同:1.1~3.7)だった。ベースラインから3回目の測定までに、ウエストが10cm超増えた人の同ハザード比は、ウエスト増減が2cm未満だった人との比較で、1.7(同:1.1~2.8)だった。(當麻あづさ:医療ジャーナリスト)

4659.

ほんとうに、eGFR、蛋白尿はCKDの指標なのか?

一般住民を対象とした試験のメタ解析により、推定糸球体濾過量(eGFR)<60mL/分/1.73m2および尿中アルブミン/クレアチニン比(ACR)≧1.1mg/mmolは死亡リスクの独立の予測因子であり、慢性腎臓病(CKD)の定義やstagingの定量的なデータとして使用可能なことが明らかとなった。Johns Hopkins Bloomberg公衆衛生大学院のJosef Coresh氏ら「Chronic Kidney Disease Prognosis Consortium」の研究グループがLancet誌2010年6月12日号(オンライン版2010年5月18日号)で報告した。アジアや欧米などでは成人の10~16%がCKDとされ、高血圧や糖尿病などにCKDが加わると全死亡や心血管死、腎不全の進行のリスクが増大する。しかし、CKDの定義やstageの決定にeGFRおよびアルブミン尿を使用することには大きな議論があるという。一般住民におけるeGFR、アルブミン尿と死亡率の関連を評価研究グループは、eGFR、アルブミン尿と死亡率の関連の評価を目的に、一般住民を対象とした臨床試験のメタ解析を行った。1,000例以上を対象としベースラインにおけるeGFR、尿中アルブミン濃度の情報を含む試験を選択し、全死亡および心血管死に関する標準化されたデータを抽出してプールした。Cox比例ハザードモデルを用いて、関連する交絡因子で補正したeGFR、アルブミン尿と全死亡、心血管死のハザード比(HR)を推算した。eGFRとACRが悪化すると死亡リスクが倍数的に増大解析の対象は、ACRの測定値を含む14試験に参加した10万5,872人(73万577人・年)および尿蛋白の試験紙検査値を含む7試験に参加した112万8,310人(473万2,110人・年)であった。ACR測定値を含む試験では、eGFRが75~105mL/分/1.73m2の範囲にあることや、eGFRが低値から上昇することと、死亡リスクとの間には関連は認めなかった。eGFR 95 mL/分/1.73m2との比較における、eGFR 60mL/分/1.73m2の場合の全死亡の補正HRは1.18(95%信頼区間:1.05~1.32)で、45mL/分/1.73m2の全死亡の補正HRは1.57(同:1.39~1.78)、15mL/分/1.73m2の全死亡の補正HRは3.14(2.39~4.13)であり、eGFRが60mL/分/1.73m2以下では値が低下するほど死亡リスクが増大した。ACR 0.6mg/mmolとの比較では、ACR 1.1mg/mmolの場合の全死亡の補正HRは1.20(95%信頼区間:1.15~1.26)で、3.4mg/mmolの全死亡の補正HRは1.63(同:1.50~1.77)、33.9mg/mmolの全死亡の補正HRは2.22(同:1.97~2.51)であり、ACRが1.1mg/mmol以上になると値が上昇するほど死亡リスクが上昇した。eGFRとACRには相互作用のエビデンスはないものの、双方が悪化すると死亡リスクが倍数的に増大した。同様の知見が、心血管死に関する解析でも確認され、蛋白尿試験紙検査を行った試験でも求められた。著者は、「eGFR<60mL/分/1.73m2およびACR≧1.1mg/mmolは一般住民における死亡リスクの独立の予測因子である」と結論し、「本試験は腎機能のリスク評価およびCKDの定義、stagingにおいて定量的なデータをもたらす」としている。(菅野守:医学ライター)

4660.

教授 白井厚治先生「「CAVI」千葉県・佐倉から世界へ 抗動脈硬化の治療戦略」

東邦大学医療センター佐倉病院内科学講座の教授で、前院長。医局のモットーは総合力と専門性を両方備えた医師育成。一人でも多くを救うこと。加えて先端医療の開発をモットーにしている。最近では、血管機能検査CAVIの開発に参画し、国内から海外にも発信。肥満症治療については脂肪細胞、脂質代謝の基礎研究から心理学まで動員して新しい治療システムを構築中。動脈硬化の分野で新しい治療体制の扉を開く動脈硬化は、地味な分野ですが、ご存知のとおり、脳梗塞、心不全、さらには腎不全をもたらし大きく個人のQOLを低下させ、また社会的損失も大きい疾患です。これに対し、病変動脈、静脈の直接的治療を循環器グループが担う一方、「動脈」が水道管でなく、生きた機能を持った臓器とし見、それに細胞生物学と代謝学を応用して治療・予防法を打ち立てるというのが夢でした。実は、癌は最近の治療学の進歩は著しいのを目の当たりあたりにしますが、30年前には不治の印象が強く、生命現象そのものの解明が必要で、とても自分の能力では歯が立たないと思い避けたのも事実です。動脈硬化なら多少とも代謝学的側面から治療できるのではないかと思ったりもしました。これまで、副院長6年、院長3年と病院の経営面にも携わりましたが、医療現場は人間が担うものであり、かつ科学性を保って運営されるべきもので、根本原則は、病気を見ることと変わらないと思いました。みんなして誠意を尽くし、精一杯がんばれば、経営のほうが、なんだかんだといっても人の作った制度の運用ですから、患者さんがいる限り、道は開けると思います。しかし、対疾病への取り組みは、神が創った摂理と破綻への挑戦ですから、数段難しいと思います。でも、全身全霊、日々、改革、改良に向けやり続けるのが、医師の誠意だと思います。それには、効率よくみんなが取り組めるセンター方式が必要と、糖尿病・内分泌・代謝センターを9年前に立ち上げました。場所、人の問題で、思い立って3年ほどかかりましたが、皆さんの協力でできました。そのころから、病棟と外来が一体となった継続看護治療システムも導入され、看護師も病棟での看護結果が外来でどのように効果が出ているのか確認しあい、フィードバックをかけるシステムが導入、大きかったのは、患者さん全員に、「ヘルスケアファイル」という手書きのファイルをお渡しし、代謝要因の変化と日常生活管理がどのように結びつくかをグラフで表すシステムを導入したことです。患者と医師のみでなく、家族にも分り、医療スタッフも採血者、受付、看護師、栄養士も一目瞭然に個々の病態が把握でき、互いにコミュニケーションが取れやすくなったのがよかったです。若い研修医にとっても数年の治療経過を見れば、病態がわかり最大の教科書にもなっています。診療体制を分りやすく、すっきり整えることは、生活習慣病と呼ばれる一連の疾患にとても有用と思います。若い医師も情熱を持った人たちが幸運にも集まり、地に足をつけ、真に役立つ研究を進めてくれたのも、推進力になってくれました。動脈硬化発生機序の解明とCAVIの開発研究学会のマニュアル、ガイドラインは大切ですが、大学病院の使命はその先を見つめることにあります。その眼は、字づらで覚えたことではなく、自然との対話、すなわち研究の基盤なくして開かれないと思います。ささやかながら病理、細胞培養実験から、動脈硬化とコレステロールの関係は直接ではなく、コレステロール自身が酸化され、オキシステロールになると強力な組織障害性をもち、慢性炎症が引きおこすとしました。これに基づき、強力な抗酸化作用を持つ脂質低下剤プロブコール投与による糖尿病性腎症の抑制効果を見いだしました。結局、末期腎硬化症は動脈硬化と同じような機序で起こると考えたからです。また、動脈硬化の臨床研究には、簡便で経時的に測定できる指標が必要ですが、これまで必ずしも十分なものがなかったわけです。これに対して、血管弾性を直接反映するCAVIという検査法の開発に携わったところ、これまで見えなかった部分がどんどん見えるようになりました。これは、内科の循環器、代謝チーム、それに生理機能検査部が一体となり、精力的に仕事をしてきた結果です。循環動態を把握するうえで、血管抵抗を反映することがわかり、これは血圧計に匹敵する意味を持つわけで、まだまだその妥当性をさまざまな角度から検証する必要がありましたが、循環器、代謝領域の疾患や、薬物治療成績が英文論文となり、世界に向けて発信し始めたところです。今後、日常診療の中から、動脈硬化治療が見出される可能性もあり、楽しみです。肥満・メタボリックシンドロームへの低糖質食、フォーミュラー食の応用を中心に、チーム医療体制を確立動脈硬化診療は診断に加え、予防と治療が究極目標ですが、動脈硬化の主な原因として肥満の意味は大きく、糖尿病、高血圧、脂質異常を伴い、所謂メタボリックシンドロームを引き起こします。すでに当院では15年前から肥満への取り組みをチームで始めており、治療として低糖質食、その極みとして安全で効果のあるフォーミュラー食を実施しています。今、欧米では低糖質がよいとの論文が出始めましたが、当院では、入院時にも低糖質食を用いています。またフォーミュラー食は必須アミノ酸を含むたんぱく質とビタミン、ミネラルをパウダーにしたものを水で溶かして、飲んでもらうものです。それによる減量効果特に、内臓脂肪の減少度が高く、それに伴い代謝改善度も一般通常食より効果があり、そのメカニズムは、動物実験でも検証中です。脂肪細胞自身のインスリン感受性関連分子の発現が上がっていることが確認されました。研究面では脂肪細胞から分泌されるサイトカイン、分子、酵素、さらに脂肪細胞分化に加えて、「人」の行動様式にも興味を持ち、毎月、オベシテイカンファランスを開き、内科医、栄養士、看護師は無論のこと、精神科医、臨床心理士も加わり、症例への総合的アプローチを試みています。肥満が解消できない理由に、ハイラムダー型と呼ばれるパーソナリテイを持つ人が肥満患者さんに多いことも見出されました。また、入院中に、何らかの振り返りができ、周囲との関係も客観化できるようになると、長期予後がよいことも見出しており、メンタルサポートは必須と思われます。このような成功例に遭遇すると、チーム全体が活気づくのも不思議です。これから、これらチームのバックアップで肥満外科治療も始まります。患者さんデータを集約したヘルスケアファイルで真の地域連携の夢を糖尿病を中心とした生活習慣病は、結局、本人の自己努力に大きく依存します。人は決して命令で動くものでなく、自分で納得、わかって初めて真の治療が始まります。その際、さまざまな情報を錯綜させないために、1冊のノートをつくり、なるべくグラフ化、マンガで示す方式で、病態理解をはかっています。これをヘルスケアファイルと呼んでいます。きちんとしたデータの推移をみて、各種職域の人が適切なアドバイスができます。また、もっと重要なことは、患者本人が自分の経過を一覧すると、そこから、自分の特性が分かるというものです。医療者自身にも勉強になり、多職種の方々がのぞきこむことによって、患者さん個々の蓄積データに基づき、最適なアドバイスができるというメリットがあります。これは、病院内の代謝科、循環器、神経内科などにとどまらず、眼科とも共通に使えますが、さらに、これで院外の施設とも、真に患者さん中心の医療ができます。できれば、全国国民全員が持つべきで、これで、医療費削減、効率化、医学教育もでき、これを如何に全国的に広めてゆくか楽しみ考えているところです。若い医師へのメッセージ:自分の医学を打ちたてる現在、各種疾患は、学会がガイドラインなどを決め、医療の標準化が進み、それはそれで、一定のレベルにまであげることでは意味があるでしょう。現場に立てば、ほとんどがそれを基礎に幾つかのバリアンスがあり、物足りないはずです。確かに一杯本もあり、インターネットでも知識はふんだんに得られます。でも、結局医師は、自分の医学を自分で打ち立てるのが原則でしょう。決して独断に走れというのではなく、ささやかでも、自分のデータをまとめ、自分として言えるファイルを作ることです。それは、先輩の先生から呟きとしておそわりました、教えてくれるのを待っていたって本当のところは教えられないし、頭を下げても教えてもらえることは少なく、自分で、縦軸、横軸を引き、そこにプロットさせ因果関係を探れといわれましたが、その通りです。ささやかでも、自分の経験症例をまとめておき、そこから何が発信できるか日夜思考錯誤してください。それが、許される余裕と良き指導者がいるところで、研修はすべきでしょうし、後期研修もそんな環境で自己研鑽することが大切でしょう。専門分野の選考は、社会的にニーズが高いところに向かうべきで、無論雰囲気も大切ですが、はやり、楽というよりは、皆が困っているところに入り込こむ勇気が大切でしょう。そこで、頑張れば、面白く楽しく医師生活をやって行けるでしょう。今後も、佐倉病院でなければ、できないことに向けて頑張ってまいります。お待ちしています。質問と回答を公開中!

検索結果 合計:4893件 表示位置:4641 - 4660