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アジソン病〔Addison's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義慢性副腎皮質機能低下症(アジソン病)は、アルドステロン(ミネラルコルチコイド)、コルチゾール(グルココルチコイド)、デヒドロエピアンドロステロンとデヒドロエピアンドロステロンサルフェート(副腎アンドロゲン)の分泌が生体の必要量以下に慢性的に低下した状態である。アジソン病は、副腎皮質自体の病変による原発性副腎皮質機能低下症であり、その病因として、副腎皮質ステロイド合成酵素欠損症による先天性副腎過形成症、先天性副腎低形成(X連鎖性、常染色体性)、ACTH不応症などの責任遺伝子が明らかとされた先天性のものはアジソン病とは独立した疾患として扱われるため、アジソン病は後天性の病因による慢性副腎皮質機能低下症を指して用いられる。■ 疫学わが国における全国調査(厚生労働省特定疾患「副腎ホルモン産生異常症」調査分科会)によるとアジソン病の患者は1年間で660例と推定され、病因としては特発性が42.2%、結核性が36.7%、その他が19.3%であり、時代とともに特発性の比率が増加している。先天性副腎低形成症は約12,500人出生に1人である。副腎不全症としては、10,000人に5人程度(3人が下垂体性副腎不全、1人がアジソン病、1人が先天性副腎過形成症)の割合である。■ 病因病因としては、感染症、その他の原因によるものと特発性がある。感染症では結核性が代表的であるが、真菌性、後天性免疫不全症候群(AIDS)に合併するものが増えている。 特発性アジソン病は、抗副腎抗体陽性の例が多く(60~70%)、21-水酸化酵素、17α-水酸化酵素などに対する自己抗体が原因となる自己免疫性副腎皮質炎であり、その他の自己免疫性内分泌疾患を合併する多腺性自己免疫症候群と呼ばれる。I型は特発性副甲状腺機能低下症、皮膚カンジダ症を合併するHAM症候群、II型は橋本病などを合併するシュミット症候群などがある。その他の原因によるものとしては、がんの副腎転移、副腎白質ジストロフィーなどがある。また、最近使用される頻度が増えている免疫チェックポイント阻害薬の免疫関連有害事象(irAE)として内分泌障害があり、副腎炎によるアジソン病もみられる(約0.6%)。■ 症状コルチゾールの欠乏により、易疲労感、脱力感、食欲不振、体重減少、消化器症状(悪心、嘔吐、便秘、下痢、腹痛など)、血圧低下、精神症状(無気力、嗜眠、不安、性格変化)、発熱、低血糖症状、関節痛などを認める。副腎アンドロゲン欠乏により女性の腋毛、恥毛の脱落、ACTHの上昇により、歯肉、関節、手掌の皮溝、爪床、乳輪、手術痕などに色素沈着が顕著となる。■ 分類副腎皮質の90%以上が障害されて起きる原発性副腎皮質機能低下症(アジソン病)と続発性副腎皮質機能低下症にまず大きく分類できる。続発性副腎皮質機能低下症には、下垂体性(ACTH分泌不全)と視床下部性(CRH分泌不全)に分けられる。■ 予後欧州の大規模疫学研究によると、原発性副腎不全症患者の全死亡リスクは、男性で2.19、女性では2.86との報告がある。長期予後が悪い理由は、グルココルチコイドの過剰投与によるQOLの低下、心血管イベントや骨粗鬆症のリスクの増加などが、生存率の低下につながると考えられている。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)一般検査では、低血糖(血糖値が70mg/dL以下)、低ナトリウム血症(135mEq/L以下)、正球性正色素性貧血(男性13g/dL以下、女性12g/dL以下)、血中総コレステロール値低値(150mg/dL以下)、末梢血の好酸球増多(8%以上)、相対的好中球減少、リンパ球増多、高カリウム血症を示す。内分泌学的検査では、非ストレス下で早朝ACTHとコルチゾール値を測定する(絶食で9時までに)。早朝コルチゾール値が18μg/dL以上であれば副腎不全症を否定でき、4μg/dL未満であれば副腎不全症の可能性が高いが、4~18μg/dLでは可能性を否定できない。血中コルチゾール基礎値が18μg/dL未満のときは、迅速ACTH負荷試験(合成1-24 ACTHテトラコサクチド[商品名:コートロシン]250μg静注)を施行する。血中コルチゾール頂値が18μg/dL以上であれば副腎不全症を否定でき、18μg/dL未満であれば副腎不全症を疑うほか、15μg/dL未満では原発性副腎不全症の可能性が高い。迅速ACTH負荷試験では、原発性と続発性副腎皮質機能低下症の鑑別ができないため、ACTH連続負荷試験、CRH負荷試験、インスリン低血糖試験などを組み合わせて行う(図)。画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)可能な限り、生理的コルチゾールの分泌量と日内変動に近い至適な補充療法が望まれる。コルチゾールを1日当たり10~20mg補充するのが生理的補充量の目安である。日本人は食塩摂取量が多いので、ヒドロコルチゾン(同:コートリル)10~20mg/日を2~3回に分割服用する(2分割投与の場合は、朝2:夕1、3分割投与では朝:昼:夕=3:2:1)。4 今後の展望現在、使用されているヒドロコルチゾンは放出が早く、内因性コルチゾールの日内リズムを完全に再現できない。わが国では使用できないが、欧州を中心にヒドロコルチゾン放出時間を遅らせる徐放型ヒドロコルチゾンの開発研究が進んでおり、生理的補充に近い薬理動態を再現できることが期待される。5 主たる診療科内科(とくに内分泌代謝内科)※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本内分泌学会臨床重要課題(副腎クリーゼを含む副腎皮質機能低下症の診断基準作成と治療指針作成)(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター アジソン病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Charmandari E, et al. Lancet.2014;383:2152-2167.2)南学正臣 総編集.内科学書 改訂第9版.中山書店; 2019. p.153-160.3)矢崎義雄 総編集.内科学 第11版.朝倉書店; 2017. p.1630-1633.公開履歴初回2015年01月08日更新2016年07月19日更新2022年02月28日

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全粒穀物摂取があらゆる病気発症リスクの抑制/回避に役立つ可能性を示唆!(解説:島田 俊夫 氏)-567

 私たちは、主に三大栄養素(炭水化物、脂肪、タンパク質)をエネルギーの糧として生きているが、そのなかでも炭水化物が最大のエネルギー源であることは周知の事実である。しかしながら、炭水化物の摂り過ぎが、糖尿病、肥満、心臓疾患、がんの誘因になりうる可能性が取りざたされており、その反動で行き過ぎた糖質制限食が一部で行われ、逆に健康を悪化させているケースも散見されている。本研究は、炭水化物の主たるエネルギー源を精製穀物でなく全粒穀物に置き換えれば、がん1)、心血管疾患1)、脳血管障害1)、糖尿病2)、炎症性疾患らを対象とした全死亡リスクの発症抑制または回避に役立つことを、厳選された既存論文に基づき明らかにすることである。この視点から、英国インペリアル・カレッジ・ロンドンのDagfin Aune氏らがシステマティックレビュー・メタ解析を行い、レビュー論文をBMJ誌2016年6月14日号に掲載した。目的:全粒穀物および特定穀物の消費量と心血管疾患、全がん、全病因および死因別死亡リスク間での用量反応関係を定量評価化すること。データ選択と分析手法:2016年4月3日までにPubMedおよびEmbaseに掲載された論文を検索し、全粒および特定穀物の摂取量と心血管疾患・全がん・全死因または死因別死亡リスクとの関連を報告した前向き研究45件(64論文)を特定し、ランダム効果モデルを用いて要約相対リスクおよび95%信頼区間を算出した。結果:全粒穀物の食事摂取が1日90g増加すれば(90gは3食分に相当;たとえば、全粒パン2枚と全粒シリアル1ボウルまたは全粒ピタパン1.5枚)、要約相対リスクは冠動脈疾患:0.81(95%CI:0.75~0.87、I2=9%、n=7)、脳卒中:0.88(95%CI:0.75~1.03、I2=56%、n=6),心血管疾患:0.78(95%CI:0.73~0.85、I2=40%、n=10)それぞれで低下した。また、死亡の相対リスクは、がん全体:0.85(95%CI:0.80~0.91、I2=37%、n=6)、全死亡:0.83(95%CI:0.77~0.90、I2=83%、n=11)、呼吸器疾患:0.78(95%CI:0.70~0.87、I2=0%、n=4)、糖尿病:0.49(95%CI:0.23~1.05、I2=85%、n=4)、感染症:0.74(95%CI:0.56~0.96、I2=0%、n=3)、神経疾患:1.15(95%CI:0.66~2.02、I2=79%、n=2)、非血管疾患または非がんによる死亡:0.78(95%CI:0.75~0.82、I2=0%、n=5)で、それぞれ同様に低下した。1日210~225gまでの摂取量(7~7.5食/日)では、要約相対リスクの多くの評価項目で低下が観察された。全粒パン、全粒シリアル、ブラン添加など、特定の種類の全粒穀物およびパン全体ならびに朝食用シリアル全体で、心血管疾患や全死亡リスク低下と関連は認めたが、精製穀物、白米、米全体あるいは穀物全体では関連性はほとんど認められなかった。コメント:全粒穀物の摂取は、非線形用量反応分析から、1日90gから210~225gまでは明らかに有効で、曲線の急峻~やや急峻な下降部位がまず観察され、その後、緩徐~フラットな部位に移行する。このシステマティックレビュー・メタ解析論文は、急峻~やや急峻部位で全粒穀物を摂取することが病気発症予防上重要なポイントで、健康維持/病気回避を達成するための全粒穀物適量摂取に目を向けている。しかしながら、選択論文の出所対象集団が欧州、米国に偏り過ぎていること、および選択された論文間の不均質性が解釈の一般化にわずかながら疑問が残る。

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リラグルチドはインクレチン関連薬のLEADERとなりうるか?(解説:住谷 哲 氏)-564

 インクレチン関連薬(DPP-4阻害薬およびGLP-1受容体作動薬)は、血糖依存性インスリン分泌作用を有することから低血糖の少ない血糖降下薬と位置付けられ、とくにDPP-4阻害薬は経口薬であることから、わが国で多用されている。心血管イベント高リスク2型糖尿病患者に対する安全性を確認する目的でこれまでに報告されたCVOTs(CardioVascular Outcomes Trials)は、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンを用いたEMPA-REG OUTCOME試験を除くと、SAVOR-TIMI53(サキサグリプチン)、EXAMINE(アログリプチン)、TECOS(シタグリプチン)、ELIXA(リキシセナチド)とも、すべてインクレチン関連薬を用いた試験であった。しかし、これら4試験においてはプラセボに対する有益性を示すことができず、インクレチン関連薬は2型糖尿病患者の心血管イベントを減らすことはできないだろうと考えられていた時に、今回のLEADER試験が発表された。  その結果は、リラグルチド投与量の中央値1.78mg/日(わが国の投与量の上限は0.9mg/日)、観察期間3年において、主要評価項目である心血管死、非致死性心筋梗塞および非致死性脳卒中からなる3-point MACEが、リラグルチド投与により13%減少し(HR:0.87、95%CI:0.78~0.97、p=0.01)、さらに全死亡も15%減少する(同:0.85、0.74~0.97、p=0.02)との結果であった。 主要評価項目を個別にみると、有意な減少を示したのは心血管死(HR:0.78、95%CI:0.66~0.93、p=0.007)のみであり、非致死性心筋梗塞(0.88、0.75~1.03、p=0.11)、非致死性脳卒中(0.89、0.72~1.11、p=0.30)には有意な減少が認められなかった。3-point MACEの中で心血管死のみが有意な減少を示した点は、SGLT2阻害薬を用いたEMPA-REG OUTCOME試験と同様である。 この結果は、心血管イベント高リスク2型糖尿病患者に対する包括的心血管リスクの減少を目指した現時点での標準的治療(メトホルミン、スタチン、ACE阻害薬、アスピリンなど)により、非致死性心筋梗塞・脳卒中の発症がほぼ限界まで抑制されている可能性を示唆している。したがって、本試験の結果もEMPA-REG OUTCOME試験と同じく、リラグルチドの標準的治療への上乗せの効果であることを再認識しておく必要がある。 ADA/EASD2015年高血糖管理ガイドライン1)では、メトホルミンへの追加薬剤としてSU薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、基礎インスリンの6種類を横並びに提示してある。どの薬剤を選択するかの判断基準として提示されているのは、有効性(HbA1c低下作用)、低血糖リスク、体重への影響、副作用、費用であり、アウトカムに基づいた判断基準は含まれていない。今後も多くのCVOTsの結果が発表される予定であるが2)、将来的にはガイドラインにもアウトカムに基づいた判断基準が含まれることになるのだろうか? ここで、CVOTsから得られるエビデンスについて、あらためて考えてみよう。本来CVOTsは、新規血糖降下薬が心血管イベントのリスクを、既存の標準的治療に比べて増加しないことを確認するための試験である。そこで、新規血糖降下薬が有する可能性のある血糖降下作用以外のリスクを検出するために、新規血糖降下薬群とプラセボ群とがほぼ同等の血糖コントロール状態になるよう最初からデザインされている。つまり、血糖降下薬に関する試験でありながら、得られた結果は血糖降下作用とは無関係であるという、ある意味矛盾した試験デザインとなっている。さらに、対象には心血管イベントをすでに発症した、または発症のリスクがきわめて高い患者、かつ糖尿病罹病歴の長い患者が含まれることになる。したがってCVOTsで得られたエビデンスは、厳密には糖尿病罹病歴の長い2次予防患者にのみ適用されるエビデンスといってよい。 一方、ADA/EASDをはじめとした各種ガイドラインは、初回治療initial therapyを示したものであり、その対象患者はCVOTsが対象とする患者とは大きく異なっている。したがって、ここではEBMに内包されている外的妥当性 external validity(一般化可能性 generalizability)の問題を避けて通れないことになる。換言すれば、糖尿病罹病歴の長い2次予防患者で得られたCVOTsのエビデンスを、ガイドラインが対象とする初回治療患者に適用できるのだろうか?教科書的には2次予防のエビデンスと1次予防のエビデンスははっきり区別しなければならない。つまり、CVOTsで得られたエビデンスは、厳密には1次予防には適用できないことになる。しかし、2次予防のエビデンスのない薬剤と2次予防のエビデンスのある薬剤との、二者のいずれかを選択しなくてはならない場合には、眼前の患者におけるリスクとベネフィットを十分に考慮したうえで、2次予防のエビデンスのある薬剤を選択するのは妥当と思われる。この点でリラグルチドは、インクレチン関連薬のLEADERとしての資格はあるだろう。ただし、部下の標準的治療(メトホルミン、スタチン、ACE阻害薬、アスピリンなど)に支えられてのLEADERであるのを忘れてはならない。 ADA/EASDのガイドラインには、治療にかかる費用も薬剤選択判断基準の1つに含まれている。本試験における全死亡のNNTは3年間で98であり、0.9mg/日の投与で同様の結果が得られると仮定すると(大きな仮定かもしれない)、薬剤費のみで約5,500万円の医療費を3年間に使用することで、1人の死亡が防げる計算になる。これが、高いか安いかの判断は筆者にはつきかねるが、この点も患者とのshared decision makingには必要な情報であろう。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第30回

第30回:造影CT検査を適正に行うために監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 CT(Computed Tomography)検査は物体を透過したX線の量をデータとして集めてコンピュータ処理し、物体の断面画像を得る検査です。現在、多くの施設で実用化されている装置はマルチスライスCTと呼ばれ、短時間で広範囲を撮影することができるうえ、立体的な画像(3D画像)を容易に撮像できるようになり、今日の日常診療で欠かせない検査となっています1) 。 今回の記事では造影CT検査撮像の適応、造影剤の副作用などを中心に、適正な使用について今一度整理をしてみます。 以下、American Family Physician 2013年 9月1日号2) より造影CT検査を適切に行うためには造影剤の種類・リスク・禁忌・造影剤使用が適切な臨床状況を知っておくことが必要である。<製剤の種類と投与経路>最もよく使用される造影剤はバリウムやヨード製剤があり、投与経路は経口・直腸・静脈・くも膜下投与が挙げられる。経口製剤は一般的に腸の病変が疑われる場合や、腹部・骨盤CTで使用される。直腸投与は直腸穿孔が疑われるときに適応となる。静脈製剤は血管組織や腹部・骨盤の固形臓器の評価の際に適応となる。くも膜下でのヨード製剤投与は脊髄造影で、脊髄・基底槽病変や脳脊髄液漏出の評価に用いられる。<造影剤の副作用>ヨードの濃度で高浸透圧か低浸透圧に分類され、ほとんどの施設は非ヨード性製剤(低浸透圧製剤)を使用する。重篤な副反応にはアナフィラキシー症状が挙げられ、頻度は1/170,000とされている。非ヨード製剤のほうが副反応は少ないとされている。造影剤の副作用のリスクとしては、薬剤アレルギーと気管支喘息が挙げられる。また腎障害も造影剤使用の際には注意が必要である。腎機能のスクリーニングとして、検査1ヵ月前にクレアチニンが測定され、一般的にクレアチニン1.5~2.0mg/dL以上、または増加傾向のときに他の投与方法を検討しなければならない。造影剤による腎症を起こすリスク因子は、慢性腎臓病・糖尿病・心不全・高齢・貧血・左室機能障害・大量の造影剤使用が挙げられる。<造影剤使用の注意点>静注製剤が忌避を検討すべきときは、造影剤への過敏性の既往・妊娠・甲状腺疾患に対するヨード製剤使用・メトホルミン製剤使用・腎不全が挙げられる。過敏反応はその重症度を評価し、それが小さな反応であれば前投薬(ジフェンヒドラミンとコルチコステロイド)でリスクが減る可能性がある。【アナフィラキシー反応の既往がある患者】緊急時以外は造影剤使用を控えるべきである。【妊婦】造影剤が胎盤を通過するため注意が必要である。アメリカ放射線学会では妊婦に対する造影剤使用の推奨があり、母体と胎児のケアに影響がある情報が造影剤使用でないと得られず、撮像指示医が妊娠後まで待てないと判断した場合に推奨される。【ヨード製剤で加療中の甲状腺疾患の患者】ヨード系造影剤使用で甲状腺へのI-131の取り込みが減弱し、治療効果が落ちるので使用を避けるべきである。【メトホルミン使用の患者】腎機能を変化させメトホルミン排泄を障害する可能性があり、代謝性アシドーシスのリスクが上がる (頻度はまれだが、腎機能障害の患者で相対的に多い)。アメリカ放射線学会の推奨では、腎機能正常時・合併症がないときはメトホルミン使用継続・クレアチニンの測定不要で、それ以外ではメトホルミン内服制限・クレアチニン測定が推奨される。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) 日本放射線技術学会. CT検査. http://www.jsrt.or.jp/data/citizen/housya/ct-01/ (2016.6.30参照). 2) James V,et al. Am Fam Phisician.2013;88(5):312-316

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スタチンを中断する患者、7割以上が再開/BMJ

 スタチン治療患者の中断率および再開率を調べた結果、1次予防目的での服用開始患者の中断率は47%、うち再開率は72%であり、2次予防患者ではそれぞれ41%、75%であったという。英国・パーク大学のYana Vinogradova氏らが、同国プライマリケア・データベースを用いた前向きオープンコホート試験の結果、報告した。スタチン治療については先行試験で、中断率が高く、アドヒアランスが低いことが示されている。また傾向として、若年層または高年齢層、女性、マイノリティ、喫煙者、BMI低値、非高血圧または非糖尿病の患者でアドヒアランスが低いことが示されていた。しかし、大半の試験が一般市民の代表を対象としたものではなく、試験デザイン、曝露やアウトカムの定義がまちまちであった。BMJ誌オンライン版2016年6月28日号掲載の報告。英国プライマリケア・データベースで、中断率、再開率および患者特性を調査 研究グループが活用したのは、英国のClinical Practice Research Datalinkで、664人の一般医(GP)が関与していた。2014年10月時点でデータを抽出し、スタチン治療の中断率および再開率を調べ、それぞれの患者の特性を調べた。 対象被験者は、2002年1月~2013年9月の間にスタチン治療を開始した25~84歳。研究グループは、被験者を1次予防群と、2次予防群(心血管疾患の診断歴のある患者)の2群に分類した。試験登録前の12ヵ月間にスタチン処方を受けていた患者は除外した。 主要アウトカムは、スタチン治療中断率(最終処方日と推定される日から90日の間がある)、および中断者における再開率(再開の定義は、中断以降の試験終了までのあらゆる処方)とした。中断-再開の詳細な患者傾向が判明 1次予防群は43万1,023例。追跡期間中央値137週において、中断率は47%(20万4,622例)であり、うち再開率は72%(14万7,305例)であった。2次予防群は13万9,314例。追跡期間中央値182週において、中断率は41%(5万7,791例)であり、うち再開率は75%(4万3,211例)であった。 患者特性を調べた結果、若年層(50歳以下)、高年齢層(75歳以上)、女性、慢性肝疾患の患者は、中断率が高く、再開率が低い傾向が認められた。一方で、マイノリティ、現在喫煙、1型糖尿病の患者は、中断率は高いが再開率も高い傾向がみられた。一方で、高血圧、2型糖尿病の患者は、中断率が低く、たとえ中断しても再開する割合が高い傾向が認められた。 これらの結果は、1次予防群と2次予防群でほとんど変わらなかった。 著者は、「スタチン使用者のうち中断する人は多いが、そのほとんどで再開がみられた。“中断”が想定される大多数の患者にとって、スタチン治療の中断は、幅広く存在する低率アドヒアランス問題の一部にすぎないのだろう」と述べ、「どの患者が中断群または中断-再開群となるかを識別することは、患者および医師にとってポジティブな意味があり、さらなる検討領域であることが示唆される」とまとめている。

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糖尿病薬の心血管アウトカム試験をどう読むか?ADAハイライトより

 ノボノルディスクファーマ株式会社は6月27日に都内にて2016年米国糖尿病学会(ADA)ハイライトセミナーを開催し、関西電力病院総長/関西電力医学研究所所長の清野 裕氏が「糖尿病治療の流れと最適な治療薬の選択を考える」をテーマに講演した。ADA 2016でとくに注目を集めたトピックとして、「最適な2型糖尿病の管理を目指して新しい糖尿病治療薬をどのように使うか」「糖尿病治療薬の心血管系への影響(大規模心血管アウトカム試験の結果から)」が紹介され、それらを中心に同氏が解説した。個々の状態と病態に合わせた目標設定と治療法選択を 糖尿病治療においては血糖値の低下だけを目指して、低血糖が発生したり、体重が増加したりすることは好ましくないため、「血糖値の改善」「低血糖発現の抑制」「体重の維持または減量」を最終目標とすることが重要であることのことだ。 そして、欧米で第1選択薬となっているメトホルミンへの追加投与として、リラグルチドとグリメピリドを比較した臨床試験の結果を基に、GLP-1受容体作動薬の追加は前述の目標達成に有用であることが説明された。欧米における糖尿病は肥満型が多いため、SU薬の効果が出にくい、という側面があるものの、日本でもGLP-1受容体作動薬の使用について再評価する必要があるのではとの考えが示された。またADAおよび欧州糖尿病学会(EASD)においても患者中心のアプローチをより重要視する傾向になってきており、年齢、罹患期間、生活環境など個々の状態と病態に合わせた目標と治療法選択が必要であることを清野氏は強調した。糖尿病治療薬の心血管系への影響をどう考えるか? これまでに発表された糖尿病薬の心血管アウトカム試験はDPP-4阻害薬を対象としたものが3件、GLP-1受容体作動薬を対象としたものが1件あったが、いずれもプラセボと比較して非劣性という結果であった。しかし、昨年発表された、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンのEMPA-REG OUTCOME試験で初めて優越性が示された。それに続き、今回発表されたGLP-1受容体作動薬リラグルチドを用いたLEADER試験でも優越性が認められた。 LEADER試験の主な結果としては、プライマリエンドポイントである心血管死、非致死性心筋梗塞または非致死性脳卒中のいずれかが発現するまでの時間に関して、プラセボ群に対しリラグルチド群において、13%の有意なリスク低下が示された。また、全死亡については15%の有意な低下がみられ、心血管死単独では22%の有意なリスク低下が認められた。顕性アルブミン尿、血清クレアチン倍加、末期腎不全、腎死亡のいずれかの腎障害が発生するリスクについても22%の有意な低下が認められ、部分集団解析では、eGFR60未満の腎機能低下群でリラグルチドによる心血管イベントリスクの有意な抑制が認められた。優越性が認められた2つの試験結果の違いとは? プラセボ群に比較して心血管アウトカム抑制の優越性が認められたEMPA-REG OUTCOME試験とLEADER試験だが、清野氏によると、「これら2つの試験では心血管イベントの抑制の仕方が異なる」とのことだ。 両試験を比較すると、イベント発生の傾向に差が認められるようになるのは試験開始後3ヵ月付近である。EMPA-REG OUTCOME試験では、3ヵ月頃からプラセボ群とイベント発生数に顕著な差がみられるようになる。これはエンパグリフロジンに対して著しい反応性を示す患者が存在するためではないかと清野氏はみている。一方でLEADER試験では、1.5年ころから少しずつ両群に差が開いてきている。これはリラグルチドの心血管系への効果が少しずつ現れているためではないかと説明した。 さらに、個別のイベント発生に注目すると、大きな違いがみられる。心血管死については、リラグルチドでも有意な抑制が示されたが、エンパグリフロジンではより顕著な差がみられる。また、非致死性心筋梗塞や非致死性脳卒中についても傾向が異なっており、とくに非致死性脳卒中については、エンパグリフロジンはプラセボ群よりむしろ増加する傾向が示されていることを指摘した。 心不全による入院や心血管死がエンパグリフロジンにより著しい抑制が認められたのは、エンパグリフロジンが血行動態に対して好影響を与えているためではないかとの見方が示された。一方でリラグルチドに関しては、動脈硬化に対して抑制的に働いたのでは、と考えることができ、これら2つの試験におけるイベントの抑制の期間による発現の差、個別のイベント発生率の差は、それぞれの薬剤が異なる作用機序により心血管イベントを抑制しているからでは、との推論が展開された。 最後に、「DPP-4阻害薬の心血管アウトカム試験はすべて非劣性であったが、LEDEAR試験で優越性が示されたのはGLP-1受容体作動薬の作用の強さによるものなのか」との会場からの質問に対し清野氏は、血中の活性型換算からそれも1つの理由である可能性があるが、試験デザインの影響もあることを説明した。これらの試験は心血管イベント既往のある重症度の高い患者を対象としており、これらの条件で優越性を示すことは難しいと考えられ、より軽症患者を対象により長期の試験を行えば優越性が示される可能性もあるのでは、との見解を示した。

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第2回 薬物療法のキホン(総論)【糖尿病治療のキホンとギモン】

【第2回】薬物療法のキホン(総論)-薬物療法のポイントを教えてください。 糖尿病では、血糖のみならず、体重、血圧、脂質の良好なコントロール状態を維持し、細小血管合併症や動脈硬化性疾患の発症・進展を抑制し、健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)を維持し、寿命を確保することが求められます1)。そのために、まず、食事・運動療法から開始し、効果がなければ薬物療法を開始しますが、そのときも重要なのは“食事・運動療法”です。 第1回でもお話ししましたが、糖尿病では、食事・運動療法は治療の大前提です(第1回 食事療法・運動療法のキホン)。食事・運動療法、とくに食事療法が守られなければ、薬物療法の効果が十分に得られないからです。薬物治療を開始する際には、患者さんに“食事療法の代わりになる薬はない”こと、“食事療法が守られないと、どんな薬を使っても十分な効果が得られない”ことをお伝えするとよいでしょう。また、薬物療法で期待できる効果が得られないときには、食事・運動療法が守られていない可能性があるので、生活習慣が乱れていないかを確認してください。-経口血糖降下薬のファーストチョイスは?DPP-4阻害薬かメトホルミンかで迷っています。 DPP-4阻害薬、メトホルミンのいずれの薬剤も単独で低血糖を来しにくく、体重増加を来さないという点で使いやすい薬剤です。 DPP-4阻害薬は、腎機能、あるいは肝機能障害に注意が必要ですが、薬剤によって異なるので、各薬剤の腎・肝機能障害のある患者さんに対する適応を確認して選択します。メトホルミンは、高齢者や腎機能低下進行例注)では注意が必要ですが、薬価が安いというメリットがあります。糖尿病患者さんは他の薬剤を服用していることも多いため、経済的事情を考慮するのも大切な視点です。 私は、メトホルミンを最初に処方することが比較的多く、メトホルミンが使えない場合はDPP-4阻害薬を選択することがあります。また、メトホルミンで治療を開始するも、副作用である消化器症状のために治療が継続できない場合には、DPP-4阻害薬に切り替えることがあります。 DPP-4阻害薬はインスリン分泌促進系の薬剤で、メトホルミンはインスリン抵抗性改善系の薬剤ですので、若くて肥満があり、食事療法が守れない方であればメトホルミン、非肥満、高齢であればDPP-4阻害薬という考え方もよいと思います。それぞれの薬剤の特性や副作用、禁忌などを考慮し、患者さんに適した薬剤を選択するとよいでしょう。注:メトグルコを除くビグアナイド薬は、腎機能障害患者に禁忌となっています。-機序の異なる薬の使い分け・効果的な組み合わせを教えてください。 日本糖尿病学会の「糖尿病治療ガイド」1)では、病態に合わせた経口血糖降下薬の選択が示されています。病態で分けるとすれば、インスリン分泌能低下、あるいはインスリン抵抗性のどちらが優位かによって薬剤を選択できます。いずれかを使っても目標とする血糖コントロールが得られなければ、異なる作用機序の薬剤を組み合わせるのも有用です。 もう1つは、「平均血糖」と「血糖変動」という考え方です。診断、あるいは治療開始後の血糖コントロール状況の確認のために、空腹時血糖値とHbA1cでみることが多いと思いますが、HbA1cは、過去1~2ヵ月の血糖値の平均をみているものです。しかし、血糖値は1日の中で常に変動していて、その変動する血糖値をならした「平均血糖」を反映しているのがHbA1cであり、そこに大きく影響するのは基本的には空腹時血糖値です。 血糖値は、食事のたびに上昇し、食後1時間半~2時間の間にピークを迎えますが(食後血糖値)、糖尿病、あるいは予備軍であるIGT(境界型)で、食後高血糖が心血管疾患のリスクになることが、幾つかの大規模臨床試験で示されています2,3)。しかし、食後高血糖をHbA1cでみることはむずかしく、空腹時血糖値やHbA1cで良好な血糖コントロールが得られている患者さんで、CGM(Continuous Glucose Monitoring:持続血糖測定)により24時間の血糖変動をみたところ、空腹時血糖値は正常範囲でしたが、食後高血糖が認められたというケースも少なくありません。 糖尿病で血糖値を下げる目的は、合併症の予防です。生命予後を左右する心血管疾患などの大血管障害予防のために、空腹時血糖のみならず、食後の急激な血糖上昇を抑制し、血糖変動幅を縮小させる治療が重要だと私は考えています。血糖変動幅の縮小によりHbA1cが低下することを、われわれは「“上質”なHbA1cの低下」と呼んでいます。 平均血糖、つまり主に空腹時血糖値を低下させる薬剤には、スルホニル尿素(SU)薬、チアゾリジン薬、BG薬、SGLT2阻害薬があります。対して、食後高血糖を抑制し、血糖変動幅を縮小させる薬剤には、α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)と速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)があります。DPP-4阻害薬はいずれの作用も持ちます。空腹時血糖値、食後血糖値ともに高い患者さんであれば、空腹時血糖値を低下させる薬剤と食後高血糖を改善する薬剤を組み合わせるのもよいでしょう。 このように病態や血糖日内変動幅などの観点から患者さんに適した薬剤を選択しますが、加えて年齢や肝・腎などの生理機能、肥満の有無や低血糖を起こしにくい、といった視点も合わせて、最適な治療を決めていきます。-同グループ内での薬剤の選択、使い分けを教えてください。 いざ、薬剤を選択しようとすると、同種・同効の薬剤が多いものもあり、どれを選べばよいか迷うこともあると思います。とくに比較的新しい薬剤はそうですね。 DPP-4阻害薬は血糖低下作用についてはおおむね同等ですが、排出経路が薬剤によって異なります。主に腎で排泄される薬剤と肝で排泄される薬剤があるので、腎機能、もしくは肝機能障害がある患者さんで使い分けるとよいでしょう。また、半減期の違いから、1日1回投与のものと2回投与のものがあるので、服薬回数で選択するというのもよいでしょう。 最も新しい薬剤であるSGLT2阻害薬は、腎の近位尿細管で糖の再吸収を担うSGLT2を阻害することで、腎における糖の再吸収を抑制し、尿中への糖排泄を促進させて血糖を低下させます。SGLT2阻害薬の血糖低下作用についてもおおむね同等と思っていますが、私は、SGLT2以外に腎でブドウ糖の再吸収を担うSGLT2と同じファミリーであるSGLT1に注目しています。 腎における糖の再吸収の90%はSGLT2によるものですが、残り10%を担っているのがSGLT1です4)。このSGLT1は主に小腸に存在し、腸管からの糖の吸収・再吸収という役割を担っています5)。SGLT2に選択性が高い場合、腎における糖の再吸収抑制という点ではよいのですが、食直後に消化管から糖が吸収されるスピードに、尿細管での糖の再吸収阻害がどうしても追い付かないという問題が出てきます。SGLT2阻害薬の中にはSGLT2に対する選択性が低い、つまりSGLT1の阻害作用を持つ薬剤もあり、その場合、食後の消化管における糖の吸収遅延が期待できます。実際に、カナグリフロジン(商品名:カナグル)で、小腸での糖の吸収を遅らせ、食後の血糖上昇を抑制したというデータもあります6)。α-GIと同じ作用と考えてよいでしょう。このSGLT1の小腸における糖の吸収・再吸収という作用に着目し、SGLT2とSGLT1の両方を阻害するデュアルインヒビターが現在、海外では開発中です。 インスリン分泌を促進する消化管ホルモンであるインクレチンに着目し、7年前にその関連薬として臨床応用できるようになったのがDPP-4阻害薬と、もう1つGLP-1受容体作動薬があります。間接的に作用するのがDPP-4阻害薬であるのに対し、直接作用するのがGLP-1受容体作動薬です。GLP-1受容体作動薬は注射ですので、インスリン療法のようにきめ細やかな用量設定の必要はないものの、患者さんの注射に対する心理的障壁もあって、導入は容易ではないかもしれません。GLP-1受容体作動薬では、血糖低下以外に体重減少が期待できますが、これは、中枢神経系にも作用して食欲を抑制する以外に、胃の内容物の排出を遅らせることで、内容物が胃にとどまっている時間が長くなり、満腹感を感じやすいことにもよります。 GLP-1受容体作動薬には、半減期の長い長時間作用型[リラグルチド(商品名:ビクトーザ)、持続性エキセナチド(同:ビデュリオン)、デュラグルチド(同:トルリシティ)]と、半減期の短い短時間作用型[エキセナチド(同:バイエッタ)、リキシセナチド(同:リキスミア)]があり、短時間作用型のものは、高濃度のGLP-1が維持されないため、胃排泄の遅延作用に対するタキフィラキシー(効果減弱)が起こりにくいという特徴があります。胃排泄の遅延作用が継続するため、体重減少効果が期待でき、さらに、食後高血糖の抑制作用が期待できます。対して、長時間作用型のものは、高濃度のGLP-1が維持されるため、空腹時の血糖低下作用が期待できます。1)日本糖尿病学会編・著. 糖尿病治療ガイド2015-2016. 文光堂;2016. 2)DECODE Study Group, the European Diabetes Epidemiology Group. Arch Intern Med 2001;161:397-405.3)Tominaga M et al. Diabetes Care 1999;22:920-924.4)Fujita Y, et al . J Diabetes Investig. 2014;5:265-275.5)稲垣暢也編. 糖輸送体の基礎を知る. SGLT阻害薬のすべて. 先端医学社;2014. 6)Polidori D et al. Diabetes Care. 2013;36:2154-2161.

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EMPA-REG OUTCOME試験のサブ解析:SGLT2阻害薬は糖尿病腎症の進展を抑制する(解説:吉岡 成人 氏)-561

エンパグリフロジンによる糖尿病腎症の進展阻止 SGLT2阻害薬であるエンパグリフロジンが、心血管イベントの既往がある2型糖尿病患者において心血管死、総死亡を抑止することを示したEMPA-REG OUTCOME試験のサブ解析が第76回米国糖尿病学会で発表され、その詳細がNew Engl J Med誌に掲載された(オンライン版2016年6月14日号)。 顕性腎症の発症(尿アルブミン>300mg/gCr)、推定GFR(eGFR)が45mL/min/1.73m 2以下となり血清クレアチニン値が倍増する、腎代替療法の導入、腎疾患による死亡の4つのアウトカムを「腎症の発症・進展」として、Cox比例ハザードモデルによる解析を行った結果、腎症の発症・進展がエンパグリフロジン投与群で12.7%(4,124例中525例)、プラセボ群18.8%(2,061例中388例)でエンパグリフロジンでの有意なリスク低下が確認された(ハザード比0.61、95%信頼区間:0.53~0.70、p<0.001)。対象者のeGFRは30mL/min/1.73m2以上で、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAS)阻害薬が80%に、利尿薬が58%に処方されている。顕性腎症への進行、血清クレアチニン値の倍加、腎代替療法導入の各項目単独でもエンパグリフロジンは有意にリスクを低下させた。しかし、腎症を伴わない患者が早期腎症(尿アルブミン≧30mg/gCr)に至るリスクは軽減されていない(エンパグリフロジン群:51.5%、プラセボ群:51.2%、ハザード比0.95、95%信頼区間:0.87~1.04、p=0.25)。腎症の進展と発症に関わるメカニズムは違うのか エンパグリフロジン投与群では、投与量(10mg、25mg)にかかわらず、一過性にeGFRが2~3mL/min/1.73m2低下するが、その後回復傾向を示している。一方、プラセボ群ではeGFRが経時的に緩やかに低下している。 糖尿病では、尿糖の排泄に伴い近位尿細管でのグルコース量が増加すると、SGLT2の作用によりグルコースとともにNa+の再吸収が活性化するため、遠位尿細管にある傍糸球体装置の緻密斑(macula densa)に到達するNa、Clが減少し、GFRの低下によるClの減少と同様な事態が生じる。そこで、尿細管糸球体フィードバック(TGF:tubuloglomerular feedback)機構のシグナルが作動し、糸球体の輸入細動脈を拡張させて糸球体内圧を上昇させるために糸球体過剰濾過がもたらされる。一方、SGLT2阻害薬が投与されると、グルコースの再吸収は阻害され、近位尿細管でのNa+の再吸収も減少し、緻密斑に到達するNa、Clが増加する。そのため、GFRの低下が改善された状態と同様な状況となり、輸入細動脈の拡張が解除されて糸球体内圧の過剰濾過が是正されるというのである。このTGF機構の回復が、腎症の進展を抑止したのではないかと推察されている。 心血管イベントの既往がある2型糖尿病患者における腎症の進展が、エンパグリフロジンで抑止されうることは示された。しかし、早期腎症の発症抑止にはつながらない可能性も同時に示唆された。今後は、その背景にある病態の解明が待たれる。

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混合性結合組織病〔MCTD : mixed connective tissue disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義混合性結合組織病(mixed connective tissue disease: MCTD)は、1972年にGC Sharpが提唱した疾患概念である。膠原病の中で2つ以上の疾患の特徴を併せ持ち(混合性)、しかも抗U1-RNP抗体と呼ばれる自己抗体が陽性となるものである。これは治療反応性がよく、予後も良好であったことから独立疾患として提唱された。その後、この疾患の独立性に疑問がもたれ、とくに欧米では全身性エリテマトーデスの亜型、あるいは強皮症の亜型と考えられ、英語文献でもあまりみられなくなった。しかし後述するように、高率に肺高血圧症を合併することや膠原病の単なる重複あるいは混合のみからは把握できないような特異症状の存在が明らかとなってきたことから、その疾患独立性が欧米でも再認識されている。■ 疫学本症は厚生労働省の指定難病に認定されており、その個人調査票を基にした調査では平成22年だけでおよそ9,000名の登録が確認されている。性別では女/男比で15/1と圧倒的に女性に多く、年齢分布では40代にもっとも多く、平均年齢は45歳である。また、推定発症年齢は30代が多く、平均年齢は36歳である。■ 病因本症の病因は他の膠原病と同様、不明である。全身性自己免疫疾患の1つであり、疾患に特徴的な免疫異常は抗U1-RNP抗体である。本抗体を産生するモデル動物も作成されており、関与する免疫細胞や環境因子について研究が進められている。■ 症状1)共通症状レイノー現象が必発である。また手指や手背部の浮腫傾向がみられ、「ソーセージ様手指」「指または手背の腫脹」が持続的にみられる。これらの症状は、多くの例で初発症状となっている。なお手指や手背部の浮腫傾向は強皮症でも初期にみられるが、強皮症ではすぐに硬化期に入り持続しない。2)混合所見全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎/皮膚筋炎の3疾患にみられる臨床症状あるいは検査所見が混在してみられる。しかもそれぞれの膠原病の完全な重複ではなく、むしろ不完全な重複所見がみられることが多い。混合所見の中で頻度の高いものは、多発関節痛、白血球減少、手指に限局した皮膚硬化、筋力低下、筋電図における筋原性異常所見、肺機能障害などである。3)肺高血圧症肺高血圧症は一般人口では100万人中5~10人程度と非常にまれな疾患であり、しかも予後不良の疾患である。このまれな疾患がMCTDでは5~10%と一般人口の1万倍も高率にみられ、さらに本症の主要な死因となっていることから重要な特異症状として位置付けられている。大部分の症例では肺動脈そのものに病変がある肺動脈性の肺高血圧症である。心エコー検査などのスクリーニング検査やその他の画像・生理検査などが重要であるが、確定診断には右心カテーテル検査が必要である。4)その他の特徴的症状肺高血圧症以外にもMCTDに比較的特徴的な症状がある。三叉神経II枝、III枝の障害による顔面のしびれ感を主体とした症状は、MCTDの約10%にみられる。レイノー現象と同じく、神経の血流障害と推測されている。また、イブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬による無菌性髄膜炎が、本症の約10%にみられる。MCTDあるいは抗U1-RNP抗体陽性患者では、この薬剤性髄膜炎に留意が必要である。5)免疫学的所見抗U1-RNP抗体が陽性である。間接蛍光抗体法による抗核抗体では斑紋型を示す。抗Sm抗体や抗Jo-1抗体、抗トポイソメラーゼ1抗体など他の膠原病の疾患特異的自己抗体が出現しているときには、本症の診断は慎重にすべきである。6)合併症上記以外にシェーグレン症候群(25%)、橋本甲状腺炎(10%)などがある。■ 予後当初は、治療反応性や予後のよい疾患群として提唱されてきた。確かに発病からの5年生存率は96.9%、初診時からの5年生存率は94.2%と高い。しかし、死亡者の死因を検討すると、肺高血圧症、呼吸不全、心不全など心肺系の死因が全体の60%を占めている。とくに肺高血圧症は、一般人口にみられる特発性肺高血圧症よりもさらに予後不良であり、その治療の進歩が望まれる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)わが国では1982年に厚生省の特定疾患に指定され調査研究班が結成されて以来、研究が続けられ、1993年には特定疾患治療研究対象疾患に指定された。1988年に「疫学調査のための診断の手引き」が作成され、何度か改訂されてきた。わが国の診断基準は国際的にも評価されていて、最も普遍的なものである。2004年の改訂では、共通所見に肺高血圧症が加えられ、中核所見と名称が変更された。この3所見のうち1所見以上の陽性と抗U1-RNP抗体陽性が必須であり、さらに混合所見の中で3疾患のうち2疾患以上の項目を併せ持てばMCTDと診断する(表1)。たとえば混合所見で多発関節炎とCK高値があれば、前者が全身性エリテマトーデス様所見、後者が多発性筋炎様所見として満たすこととなる。表1 MCTD診断の手引き(2004年度改訂版)■MCTDの概念全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎などにみられる症状や所見が混在し、血清中に抗U1-RNP抗体がみられる疾患である。I.中核所見1.レイノー現象2.指ないし手背の腫脹3.肺高血圧症II.免疫学的所見抗U1-RNP抗体陽性III.混合所見A.全身性エリテマトーデス様所見1.多発関節炎2.リンパ節腫脹3.顔面紅斑4.心膜炎または胸膜炎5.白血球減少(4,000/μL以下)または血小板減少(10万/μL以下)B.強皮症様所見1.手指に限局した皮膚硬化2.肺線維症、肺拘束性換気障害(%VC:80%以下)または肺拡散能低下(%DLCO:70%以下)3.食道蠕動低下または拡張C.多発性筋炎様所見1.筋力低下2.筋原性酵素(CK)上昇3.筋電図における筋原性異常所見■診断1.Iの1所見以上が陽性2.IIの所見が陽性3.IIIのA、B、C項のうち、2項目以上につき、それぞれ1所見以上が陽性以上の3項目を満たす場合をMCTDと診断する。■付記抗U1-RNP抗体の検出は二重免疫拡散法あるいは酵素免疫測定法(ELISA)のいずれでもよい。ただし二重免疫拡散法が陽性でELISAの結果と一致しない場合には、二重免疫拡散法を優先する。(近藤 啓文. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病に関する研究班 平成16年度研究報告書:2005.1-6.)また、肺高血圧症については、予後不良であり早期発見、早期治療が必要なこともあり、その診断にはとくに継続的な注意が必要である。確定診断には、右心カテーテル検査が必要であるが、侵襲的検査であり、専門医の存在が必要なため、スクリーニング検査として心臓超音波検査が重要である。これを基にした「MCTD肺高血圧症診断の手引き」(図1)が作成されており、肺高血圧症を疑う臨床所見や検査所見がある場合には、早急に心臓超音波検査をすべきである。画像を拡大する<脚注>1)MCTD患者では肺高血圧症を示唆する臨床所見、検査所見がなくても、心臓超音波検査を行うことが望ましい。2)右房圧は5mmHgと仮定。3)推定肺動脈収縮期圧以外の肺高血圧症を示唆するパラメーターである肺動脈弁逆流速度の上昇、肺動脈への右室駆出時間の短縮、右心系の径の増大、心室中隔の形状および機能の異常、右室肥厚の増加、主肺動脈の拡張を認める場合には、推定肺動脈収縮期圧が36mmHg以下であっても少なくとも1年以内に再評価することが望ましい。4)右心カテーテル検査が施行できない場合には慎重に経過観察し、治療を行わない場合でも3ヵ月後に心臓超音波検査を行い再評価する。3)肺高血圧症の臨床分類、重症度評価のため、治療開始前に右心カテーテル検査を施行することが望ましい。(吉田 俊治ほか. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病に関する研究班 平成22年度研究報告書:2011.7-13.)3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 総論本症は自己免疫疾患であり、抗炎症薬と免疫抑制療法が治療の中心となる。非ステロイド性抗炎症薬もしばしば用いられるが、前述のごとく、時に無菌性髄膜炎が誘発されるので、その使用には慎重な配慮が必要である。急性期には、多くの場合で副腎皮質ステロイド薬が治療の中心となる。他の膠原病と同様、臓器障害の種類と程度により必要なステロイド量が決定される(表2)。表2 臓器障害別の重症度分類a)軽症レイノー現象、指ないし手の腫脹、紅斑、手指に限局する皮膚硬化、非破壊性関節炎b)中等症発熱、リンパ節腫脹、筋炎、食道運動機能障害、漿膜炎、腎障害、皮膚血管炎、皮膚潰瘍、手指末端部壊死、肺線維症、末梢神経障害、骨破壊性関節炎c)重症中枢神経症状、無菌性髄膜炎、肺高血圧症、急速進行性間質性肺炎、進行した肺線維症、重度の血小板減少、溶血性貧血、腸管機能不全(三森 経世 編. 混合性結合組織病の診療ガイドライン(改訂第3版). 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病の病態解明と治療法の確立に関する研究班:2011.)前表のように、中枢神経障害、急速に進行する肺症状・腎症状、血小板減少症を除いて大量のステロイドを必要とすることは比較的少ない。ただ、ステロイドを長期に使用することが多いため、骨粗鬆症や糖尿病、感染症の誘発などの副作用には留意が必要である。■ 肺高血圧症MCTDの生命予後を規定する肺高血圧症(PH)については、病態からみて肺動脈性のもの以外に間質性肺炎によるもの、慢性肺血栓塞栓症によるもの、心筋炎など心筋疾患によるものなどがあり、これらは治療方法も異なるため、右心カテーテル検査などで厳密に識別する必要がある。もっとも頻度の高い肺動脈性肺高血圧症については、しばしば大量ステロイド薬や免疫抑制薬が奏効するため、これらの薬剤の適応を検討すべきである。また、通常の特発性肺動脈性肺高血圧症に用いられる血管拡張薬も有用性が確認されているため、プロスタサイクリン系薬、エンドセリン受容体拮抗薬、ホスホジエステラーゼ5阻害薬を併用して用いる(図2)。画像を拡大する<脚注>*ETR拮抗薬エンドセリン受容体拮抗薬(アンブリセンタン、ボセンタン)**PDE5阻害薬ホスホジエステラーゼ5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル)(三森 経世 編. 混合性結合組織病の診療ガイドライン(改訂第3版). 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病の病態解明と治療法の確立に関する研究班:2011.)その後、マシテンタン(ETR拮抗薬)、リオシグアート(可溶性グアニルシクラーゼ刺激薬)なども使用できるようになっており、治療の幅が広がっている。これらは肺血管拡張作用に加えて肺動脈内皮細胞の増殖抑制作用も期待されている。ただ、肺血管のリモデリングが進行した場合や強皮症的要素の強い場合、これらの薬剤はしばしば無効であり、心不全のコントロールなども重要になるため、循環器内科などと共同して治療に当たることが必要になる。4 今後の展望遺伝子多型の検討やゲノムワイド関連解析によって、MCTDやMCTD合併肺高血圧症になりやすい危険因子が解明されつつある。これにより、さらに精度が高くこれらの診断を早期に行えることが期待される。また、予後に大きな影響を与える肺高血圧症に関する薬剤が少なからず開発されつつある。これらの出現により一段とMCTD合併肺高血圧症の治療成績が上昇する可能性がある。5 主たる診療科リウマチ膠原病内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 混合性結合組織病(一般利用者と医療従事者向けの情報)患者会情報全国膠原病友の会(膠原病全般について、その患者と家族向け)1)近藤 啓文. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病に関する研究班 平成16年度研究報告書:2005.1-6.2)近藤 啓文. 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病に関する研究班 平成16年度研究報告書:2011.7-13.3)三森 経世編. 混合性結合組織病の診療ガイドライン(改訂第3版). 厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 混合性結合組織病の病態解明と治療法の確立に関する研究班:2011.7-13.公開履歴初回2014年10月07日更新2016年07月05日

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予後が改善されつつある難病LAL-D

 アレクシオンファーマ合同会社は、6月23日都内において、5月25日に発売されたライソゾーム酸性リパーゼ欠損症治療薬「カヌマ点滴静注液20mg」[一般名:セベリパーゼ アルファ(遺伝子組み換え)]に関するプレスセミナーを開催した。「ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症」(以下「LAL-D」と略す)は、遺伝子変異が原因でライソゾーム酸性リパーゼという酵素活性が低下または欠損することで発症するまれな代謝性疾患であり、患者の多くが肝硬変から肝不全、死亡へと至る予後不良の希少疾患である。セミナーでは、本症の最新知見について2人の研究者が講演を行った。「ちょっと気になる脂肪肝」への意識が大事 はじめに、「LAL-Dの疾患概要と自験例紹介」というテーマで、村上 潤氏(鳥取大学医学部附属病院 小児科 講師)が、診断の視点から自験例を交え、レクチャーを行った。 通常「脂肪肝」は、栄養性、薬剤性、先天代謝異常症などが原因で起こり、腹部エコーやCT、MRI、肝生検などで詳しく診断が行われる。しかし、小児の脂肪肝では、一定頻度で先天性代謝異常が存在し、注意が必要であるという。たとえば、小児で肥満がなく、肝腫大の程度が強く、体重増加不良、低血糖、発達遅滞などの症状や、乳酸、アンモニア高値などを伴う脂肪肝を見かけたら、先天代謝異常症を疑う必要がある。 この先天代謝異常症の一つにLAL-Dがあり、LAL-DにはLAL活性が完全欠損している乳児型のWolman病(WD)と、部分欠損している遅発型のコレステロールエステル蓄積症(CESD)の2つの表現型がある。 WDでは、顕著な肝・脾腫大や肝不全を観察し、持続性の嘔吐・下痢、腹部膨満、腸管の吸収不良、胆汁うっ滞などの症状があり、急速進行性で致死的である。一方、CESDでは、同じく肝・脾腫大が観察され、一般に肥満はないとされる。臨床所見では、ALT>正常上限の1.5倍以上、LDL-C≧182mg/dL、HDL-C<50mg/dLなどが見られ、肝生検では、小滴性脂肪沈着も観察される。患者の89%が12歳未満で発症、50%が21歳未満で死亡している。 LAL-Dの正確な罹患率は、疫学調査が行われていないため不明であるが、2013年までに全国でWDが12例、CESDが13例報告されている。 自験例として、11歳・男児について、小学校の健診で高脂血症を指摘されたことで精査へとつながり、LAL-Dと診断された例を紹介した。一見、一般的な脂肪肝と見なしがちで、臨床検査や画像診断ではなかなか見分けがつきにくいところが、本症の診断の難しい点であるという。 本症のスクリーニングについては、肝臓関連所見では持続性肝腫大、原因不明のトランスアミナーゼ値上昇、顕著な小滴性脂肪沈着、潜在性肝硬変、インスリン耐性がないメタボリックシンドロームと思われる患者が挙げられ、脂質関連所見では、高LDL-C値および/または低HDL-C値、家族歴不明の家族性高コレステロール血症(FH)疑い、LDLR、APO BおよびPCSK9をコードする遺伝子の検査結果陰性のFH疑いが挙げられる。 確定診断は、非侵襲的で簡便な方法である血中酵素活性測定によって診断される。 補充療法が予後を改善 続いて、「ライソゾーム酸性リパーゼ欠損症の臨床像と治療」と題して、天野 克之氏(東京慈恵会医科大学附属病院 消化器肝臓内科 診療医長)が、治療の視点から本症と新治療薬について解説を行った。 従来、LAL-Dは、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)などと同じ治療法で、支持療法が行われてきた。また、臓器移植を行ってもその治療効果は弱いものであったという。 今回、本症の治療薬として発売されたセベリパーゼ アルファ(商品名:カヌマ)は、遺伝子組換えヒトライソゾーム酸性リパーゼ製剤であり、細胞内に取り込まれた後、ライソゾームに運ばれ、コレステロールエステル(CE)およびトリグリセリド(TG)を加水分解する作用を持つ。これにより脂肪量の減少、LDL-CやTGの低下、HDL-Cの上昇、脂質減少による成長障害の改善が期待されている。 臨床試験は、2歳未満の小児(n=9)と4歳以上の小児/成人(n=66)に分かれて実施され、報告された。 2歳未満の小児では、カヌマを週1回、最大5mg/kgまでを最長208週間投与した結果、生後12ヵ月で9例中6例が生存していたほか、ALT/ASTの顕著な減少、体重増加、リンパ節腫脹、血清アルブミン値の改善が認められた(II/III相試験)。 4歳以上の小児/成人では、30例をプラセボに、36例をカヌマ(1mg/kg、2週に1回投与)に割り付けて、20週の効果を比較した。その結果、ALTの正常化が認められた患者がプラセボ7%に対し、カヌマでは31%、同様にASTでプラセボ3%に対し、カヌマでは42%だった。また、肝脂肪量の減少(ベースラインからの平均変化率)では、プラセボ-4%に対し、カヌマでは-32%だったほか、LDL-C低下、脂質プロファイルの改善なども見られた(III相試験/20週後はオープンラベルで実施)。ALTのベースラインからの平均変化率推移では、投与後4週までに急激に下がり、肝機能が改善されることで以後はフラットに維持される。報告された有害事象は、尿路感染症、アナフィラキシー反応、不安症などで、いずれも重篤なものではないが、投与1年後までみられる場合があるという。 自験例として21歳・女性の例を紹介し、13歳でLAL-Dと診断されて以降、高脂血症などの対症療法が行われてきたが、カヌマによる治療で速やかに肝機能、脂質異常が改善し、対症療法の常用薬の中止も検討されていることを報告し、レクチャーを終えた。関連コンテンツ待望の治療薬登場、希少疾患に福音新薬情報:カヌマ点滴静注液20mg

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肥満治療薬5剤の体重減少効果を比較/JAMA

 米国食品医薬品局(FDA)の承認を得ている5つの肥満治療薬は、いずれも良好な体重減少効果を有し、とくにphentermine-トピラマート配合薬とリラグルチドの効果が高いことが、米国・アイオワ大学のRohan Khera氏らの検討で示された。2014年の報告では、世界には約19億人の成人の過体重者と約6億人の肥満者がおり、長期的に有効な治療戦略の確立がきわめて重要とされる。FDAは、1つ以上の体重関連の併存疾患(2型糖尿病、高血圧、脂質異常症)を有する肥満(BMI≧30)または過体重(BMI≧27)の治療として、5つの肥満治療薬を承認しているが、これらの薬剤を比較した無作為化臨床試験のエビデンスは少ないという。JAMA誌2016年6月14日号掲載の報告。5つの薬剤の体重減少効果と有害事象をネットワークメタ解析で評価 研究グループは、5つの肥満治療薬―orlistat、lorcaserin、naltrexone-bupropion配合薬、フェンテルミン/トピラマート配合薬、リラグルチドの、体重減少効果と有害事象を比較した論文を系統的にレビューし、ネットワークメタ解析を行った(National Library of Medicineなどの助成による)。 2016年3月23日の時点で、MEDLINE、EMBASE、Web of Science、Scopus、Cochrane Centralに登録された文献を検索した。18歳以上の過体重者または肥満者を対象に、FDAの承認を得ている5つの肥満治療薬を他剤またはプラセボと比較した無作為化臨床試験(治療期間1年以上)の論文を選出した。 2人の研究者が、事前に規定されたプロトコルを用いて別個にデータを抽出した。ベイジアンネットワークメタ解析を行い、surface under the cumulative ranking(SUCRA)確率法を用いて薬剤の有効性の相対的な順位を評価した。エビデンスの質の評価にはGRADE基準を用いた。 主要評価項目は、治療1年時の体重減少率5%以上および10%以上を達成した患者の割合、減量の程度、有害事象による治療中止とした。リラグルチドは効果が高いが、有害事象関連の治療中止が多い 1998~2015年に報告された28件の無作為化臨床試験に参加した2万9,018例が解析の対象となった。ベースラインの全体の年齢中央値は46歳、女性が74%含まれ、体重中央値は100.5kg、BMI中央値は36.1だった。 1年時のプラセボ群の体重減少率5%以上の達成率は23%であった。これに対し、フェンテルミン/トピラマート配合薬群は75%(オッズ比[OR]:9.22、95%信用区間[credible interval:CrI]:6.63~12.85、SUCRA:0.95)、リラグルチド群は63%(5.54、4.16~7.78、0.83)、naltrexone-bupropion配合薬群は55%(3.96、3.03~5.11、0.60)、lorcaserin群は49%(3.10、2.38~4.05、0.39)、orlistat群は44%(2.70、2.34~3.09、0.22)であり、いずれも有意に良好であった。 体重減少率10%以上の達成率のORも、プラセボ群に比べ5つの肥満治療薬群が優れた。達成率は、プラセボ群の9%に対し、フェンテルミン/トピラマート配合薬群が54%、リラグルチド群が34%、naltrexone-bupropion配合薬群が30%、lorcaserin群が25%、orlistat群は20%だった。 1年時のプラセボ群と比較した超過体重減少(excess weight loss)は、フェンテルミン/トピラマート配合薬群が8.8kg(95%CrI:-10.20~-7.42)、リラグルチド群が5.3kg(-6.06~-4.52)、naltrexone-bupropion配合薬群が5.0kg(-5.94~-3.96)、lorcaserin群が3.2kg(-3.97~-2.46)、orlistat群は2.6kg(-3.04~-2.16kg)であった。 プラセボ群と比較した5つの肥満治療薬の有害事象関連の治療中止のORは1.34~2.95であった。lorcaserin群が最も低かった(OR:1.34、95%CrI:1.05~1.76、SUCRA:0.61)のに対し、リラグルチド群(2.95、2.11~4.23、0.20)が最も高く、次いでnaltrexone-bupropion配合薬群(2.64、2.10~3.35、0.23)が高かった。 全試験の脱落率は30~45%と高く、バイアスのリスクによりエビデンスの質は低くなった。GRADE基準を適用すると、体重減少5%以上の達成率のORのエビデンスの質は中等度であった。

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エンパグリフロジン、腎症の発症・進行を抑制/NEJM

 心血管リスクが高い2型糖尿病患者において、SGLT2阻害薬エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)は、標準治療への追加によりプラセボと比較して腎症の進行を抑制し、臨床的な腎イベント発生率を低下させることが明らかとなった。ドイツ・Wurzburg University ClinicのChristoph Wanner氏らが、EMPA-REG OUTCOME試験で事前に規定されていた腎アウトカムの解析から報告した。糖尿病では心血管および腎イベントのリスクが増加するが、エンパグリフロジンは、EMPA-REG OUTCOME試験において標準治療への追加により、主要評価項目である心血管イベントのリスクを有意に低下させることが報告され、注目されていた。NEJM誌オンライン版2016年6月14日号掲載の報告。約7,000例でエンパグリフロジン上乗せによる腎アウトカムを解析 EMPA-REG OUTCOME試験は、42ヵ国、590施設において、心血管イベントの発生リスクが高い2型糖尿病患者を対象に、エンパグリフロジンの標準治療への上乗せによる有効性を評価した長期無作為化二重盲検プラセボ対照試験である。心血管疾患の既往歴を有し、推算糸球体濾過量(eGFR)が30mL/分/1.73m2以上の2型糖尿病患者7,020例が、エンパグリフロジン(10mgまたは25mg、1日1回投与)群、またはプラセボ群に無作為に割り付けられた。 事前に規定された腎アウトカムは、腎症の発症・悪化(微量アルブミン尿の進行、血清クレアチニン倍化、腎代替療法の導入、腎疾患による死亡)、ならびにアルブミン尿の新規発症であった。プラセボと比較し、腎症の発症・悪化が39%、腎代替療法導入が55%低下 治療期間中央値2.6年、観察期間中央値3.1年において、腎症の発症・悪化はエンパグリフロジン群で12.7%(525/4,124例)、プラセボ群で18.8%(388/2,061例)にみられ、エンパグリフロジン群で39%有意なリスク低下が認められた(ハザード比[HR]:0.61、95%信頼区間[CI]:0.53~0.70、p<0.001)。血清クレアチニンの倍化は、エンパグリフロジン群で1.5%(70/4,645例)、プラセボ群で2.6%(60/2,323例)にみられ、エンパグリフロジン群で44%有意にリスクが低下した(HR:0.56、95%CI:0.39~0.79、p<0.001)。また、腎代替療法の導入率はエンパグリフロジン群0.3%(13/4,687例)、プラセボ群0.6%(14/2,333例)であり、エンパグリフロジン群で55%有意にリスクが低下した(HR:0.45、95%CI:0.21~0.97、p=0.04)。アルブミン尿の新規発症率は、両群間で有意差は認められなかった(エンパグリフロジン群51.5%、プラセボ群51.2%、p=0.25)。 ベースラインに腎機能障害を有する患者におけるエンパグリフロジンの有害事象プロファイルは、患者全体で報告されたものと類似していた。 なお、著者は「今回の結果は心血管リスクの低い2型糖尿病患者にも一般化できるというわけではなく、エンパグリフロジン投与患者でみられた腎機能の違いを説明するには追跡期間が不十分である」と述べている。

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全粒穀物の摂取は、あらゆる死亡リスクを下げる/BMJ

 全粒穀物の摂取は、心血管疾患、がん、全死亡、呼吸器疾患・感染症・糖尿病・非心血管疾患または非がんによる死亡のリスク低下と関連していることを、英国インペリアル・カレッジ・ロンドンのDagfinn Aune氏らが、前向き研究のシステマティックレビューとメタ解析の結果、報告した。全粒穀物の摂取量の多さと、2型糖尿病、心血管疾患および体重増加のリスク低下が関連することが示唆されていたが、慢性疾患や死亡リスクを低下させるための全粒穀物の摂取量や種類はよくわかっていなかった。著者は、「慢性疾患や早期死亡のリスクを減らすために全粒穀物を多く摂取する食事ガイドラインが推奨される」とまとめている。BMJ誌オンライン版2016年6月14日号掲載の報告。穀物摂取と各種疾患の発症・死亡リスクとの関連を調査した45件の研究をメタ解析 研究グループは、PubMedおよびEmbaseを用い、2016年4月3日までに発表された論文を検索し、全粒穀物または他の穀物の摂取量と心血管・がん・全死因または死因別死亡リスクとの関連(補正相対リスク)を報告した前向き研究45件(64論文)を特定しデータを分析した。統計解析にはランダム効果モデルを用い、相対リスクと95%信頼区間(CI)を算出した。 全粒穀物の摂取量は、90gを3食分(1食分は全粒パン1枚、または全粒シリアル1ボウル、または全粒ピタパン1.5枚など)とした。全粒穀物90g/日摂取で、心血管疾患の発症リスクが22%、全死亡リスクが17%低下 全粒穀物の摂取量が1日90g増えた場合の発症の相対リスクは、冠動脈疾患が0.81(95%CI:0.75~0.87、I2=9%、7件)、脳卒中が0.88(0.75~1.03、56%、6件)、心血管疾患が0.78(0.73~0.85、40%、10件)であった。また、死亡の相対リスクは、全てのがん0.85(0.80~0.91、37%、6件)、全死亡0.83(0.77~0.90、83%、11件)、呼吸器疾患0.78(0.70~0.87、0%、4件)、糖尿病0.49(0.23~1.05、85%、4件)、感染症0.74(0.56~0.96、0%、3件)、神経系疾患1.15(0.66~2.02、79%、2件)、非心血管疾患または非がんによる死亡0.78(0.75~0.82、0%、5件)であった。 全粒穀物の摂取量が210~225g/日(7~7.5食/日)までは、ほとんどの評価項目でリスクの低下が観察された。また、全粒パン、全粒シリアル、ブラン添加など特定の種類の全粒穀物、およびパン全体ならびに朝食用シリアル全体で、心血管疾患や全死亡のリスク低下との関連が認められたが、精製穀物、白米、米全体あるいは穀物全体では関連がほとんどみられなかった。

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リラグルチドで2型糖尿病の心血管イベントリスク低下/NEJM

 心血管イベントの発生リスクが高い2型糖尿病患者に対し、標準治療に加えてGLP-1受容体作動薬リラグルチド(商品名:ビクトーザ)を投与することで、心血管イベントリスクが有意に低下したことが報告された。米国・テキサス大学のSteven P. Marso 氏らによる9,000例超を対象とした国際多施設共同のプラセボ対照無作為化二重盲検試験「LEADER」の結果で、NEJM誌オンライン版2016年6月13日号で発表された。2型糖尿病患者で、標準治療に追加投与した場合のリラグルチドの心血管系の効果については明らかになっていなかった。心血管死、非致死的心筋梗塞・脳卒中の初回発生を時間事象分析 LEADER試験は、32ヵ国、410ヵ所の医療機関を通じ、2型糖尿病で心血管イベントの発生リスクが高い9,340例を対象に行われた。 被験者を無作為に2群に割り付け、一方にはリラグルチドを(1.8mgまたは最大耐容量)、もう一方の群にはプラセボを、それぞれ1日1回標準治療に加え投与した。 主要評価項目は心血管死・非致死的心筋梗塞・非致死的脳卒中の初回発生の複合で、時間事象分析にて評価した。本試験は、主要アウトカムについてリラグルチドはプラセボに対し非劣性であると仮定して行われ、非劣性マージンの設定は、ハザード比(HR)の95%信頼区間(CI)上限値1.30とされた。また、事前規定の探索的アウトカムについて、多様性に関する補正は行われなかった。リラグルチド投与で心血管死リスクが約2割低下 追跡期間中央値は3.8年だった。主要評価項目の複合イベントの発生は、プラセボ群14.9%(694/4,672例)に対し、リラグルチド群は13.0%(608/4,668例)と有意に低率だった(HR:0.87、95%CI:0.78~0.97、非劣性p<0.001、優越性p=0.01)。 個別にみると、心血管死亡の発生は、プラセボ群6.0%(278例)に対し、リラグルチド群は4.7%(219例)で有意に低率だった(HR:0.78、95%CI:0.66~0.93、p=0.007)。また全死因死亡も、それぞれ9.6%(447例)と8.2%(381例)と、リラグルチド群で有意に低かった(同:0.85、0.74~0.97、p=0.02)。 一方で、非致死的心筋梗塞(同:0.88、0.75~1.03、p=0.11)、非致死的脳卒中(0.89、0.72~1.11、p=0.30)、心不全による入院(0.87、0.73~1.05)の発生については、プラセボ群と比べてリラグルチド群で有意な低下は認められなかった。 試験薬の中断率は、リラグルチド群がプラセボ群よりも有意に多かった(9.5% vs.7.3%、p<0.001)。リラグルチド群服用中止の原因で最も頻度の高かった有害事象は、消化管イベントだった。膵炎の発生は、リラグルチド群のほうが少なかったが有意差はみられなかった(急性膵炎18例[0.4%] vs.23例[0.5%](p=0.44)。

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DPP-4阻害薬は糖尿病網膜症の進行を抑制する!?

 DPP-4阻害薬による糖尿病治療は、糖尿病網膜症の進行に対し血糖コントロールの改善とは独立した防御因子であることを、韓国・亜洲大学校のYoo-Ri Chung氏らが報告した。DPP-4阻害薬の糖尿病網膜症に対する有用性を示した最初の研究であり、著者らは「DPP-4阻害薬の糖尿病網膜症の進行に対する有効性について、無作為化二重盲検プラセボ比較試験によりさらなる評価を行うことを促す予備的データである」とまとめている。Retina誌オンライン版2016年6月9日号の掲載の報告。 研究グループは、2型糖尿病患者の糖尿病網膜症進行に対するDPP-4阻害薬の効果を糖尿病網膜症重症度スケールに基づいて評価する目的で、2型糖尿病患者82例について2005~15年の医療記録を後ろ向きに調査した。 眼底写真はETDRSを用いてグレード分類し、ベースラインの危険因子と糖尿病網膜症との関係について調査した。 主な結果は以下のとおり。・糖尿病網膜症が進行した(ETDRSスコアで1以上)のは、DPP-4阻害薬治療群は28例中7例、他の糖尿病治療薬治療群では54例中26例であった。・DPP-4阻害薬治療についてのみ、傾向スコアマッチング後に糖尿病網膜症の進行が有意に減少することが示された(p=0.009)。・DPP-4阻害薬による治療は、糖尿病網膜症進行のリスク低下と有意な関連が認められた(p=0.011)。

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過去10年で米国女性の肥満率が上昇/JAMA

 米国成人の年齢補正後肥満の有病率は、2013~14年男性35.0%、女性40.4%であり、女性の全肥満(BMI≧30)と3度肥満(BMI≧40)の有病率は2005~2014年の間に有意な右肩上がりの上昇が認められたことを、米国疾病予防管理センター(CDC)のKatherine M. Flegal氏らが報告した。同期間中、男性については有意な傾向はみられなかったという。これまでの調査研究では、1980~2000年の米国成人の肥満の有病率は男女ともに有意な上昇が認められ、その後2003~04年まで、男性については有意な上昇がみられたが女性ではみられなかった。著者は、「さらなる研究を行い、今回の調査で認められた傾向の要因を調べる必要がある」とまとめている。JAMA誌2016年6月7日号掲載の報告。2013~14年および2005~14年の成人男女の肥満の有病率動向を調査 研究グループは、性別、年齢、人種/ヒスパニック系、喫煙状態、教育レベルで補正した肥満の有病率について、2013~14年、および2005~14年の直近10年の傾向を調べた。全米の代表的市民を抽出して体重と身長などを測定して行われた断面調査の米国民健康・栄養調査(NHANES)のデータを用いて分析した。 主要評価項目は、肥満(BMI≧30)と3度肥満(BMI≧40)の有病率であった。直近10年、女性のみ有意に有病率が上昇 分析は、NHANESの直近2年(2013~14年)の男性2,638人(平均年齢46.8歳)と女性2,817人(同48.4歳)のデータと、2005~12年の2万1,013人のデータを基に行われた。 2013~14年の年齢補正後肥満有病率は、全体では37.7%(95%信頼区間[CI]:35.8~39.7)であり、男性では35.0%(同:32.8~37.3)、女性では40.4%(同:37.6~43.3)であった。 3度肥満相当の有病率は、全体で7.7%(95%CI:6.2~9.3)であり、男性では5.5%(同:4.0~7.2)、女性では9.9%(同:7.5~12.3)であった。 2005~14年の直近10年の変化の傾向を分析した結果、年齢・人種/ヒスパニック系・喫煙状態・教育で補正後、女性の全肥満(p=0.004)、3度肥満(p=0.01)で有意な直線的な増大の傾向がみられたが、男性では全肥満(p=0.30)、3度肥満(p=0.14)ともにそのような傾向はみられなかった。

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ESS留置後のDAPT、6ヵ月と12ヵ月の比較

 薬剤溶出ステント(DES)留置後は、ステント血栓症を防ぐため、12ヵ月間の抗血小板薬2剤併用療法(dual antiplatelet therapy:DAPT)が推奨されている。近年の無作為化試験では、新世代のDES留置後のDAPTの3~6ヵ月投与は12ヵ月投与と同等の成績が得られることが報告されており、また新世代DESの死亡、心筋梗塞、ステント血栓症のリスクがベアメタルステントや第1世代のDESと比べて低いことも示唆されている。しかし、新世代のエベロリムス溶出ステント留置後のDAPTの最適な投与期間について、適切に計画、実施された試験は少ない。 今回、韓国の20施設で、エベロリムス溶出ステント(商品名:Xience Prime)留置後のDAPT 6ヵ月投与を12ヵ月投与と比較する医師主導型の前向き無作為化試験が実施され、JACC Cardiovascular Interventions誌オンライン版2016年5月11日号に発表された。主要評価項目に有意差なし 本試験では、2010年10月~2014年7月の間に、エベロリムス溶出ステントを留置した1,400例(平均ステント長45mm超)のうち、699例をDAPT(アスピリン100mg/日とクロピドグレル75mg/日)6ヵ月投与群に、701例を12ヵ月投与群に無作為に割り付けた。 主要評価項目は1年後の心臓関連死亡、心筋梗塞、脳卒中、およびTIMI基準による大出血の複合とし、intention-to-treatを用いて解析を行った。 主要評価項目の発生は、6ヵ月群で15例(2.2%)、12ヵ月群で14例(2.1%)であった(HR:1.07、p=0.854)。definiteもしくはprobableのステント血栓症は6ヵ月群で2例(0.3%)、12ヵ月群でも2例(0.3%)発症した(HR:1.00、p=0.999)。686例の急性冠動脈症候群の患者(両群とも2.4%、HR:1.00、p=0.994)と糖尿病を有する506例(6ヵ月群 2.2% vs. 12ヵ月群 3.3%、HR:0.64、p=0.428)の間で、主要評価項目の有意な差は認められなかった。 2014年にThe New England Journal of Medicine誌に発表された大規模無作為化試験であるDAPT試験では、新世代のDES後でも12ヵ月を超えるDAPTの有用性が示されており、DAPTの最適な使用期間については答えが出ていない。報告者らは、今後、大規模な無作為化試験での1年超の追跡が必要であると結論付けている。(カリフォルニア大学アーバイン校 循環器内科 河田 宏)関連コンテンツ循環器内科 米国臨床留学記

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未成年者の肥満、過去20年の動向/JAMA

 米国の小児・思春期青少年(2~19歳)の肥満の有病率は、2011~14年は17.0%であり、極度の肥満(extreme obesity:年齢性特異的BMI値が95パーセンタイル以上の120%以上)の割合は5.8%であることが、米国疾病予防管理センター(CDC)のCynthia L. Ogden氏らにより報告された。1988~94年から2013~14年の動向を調査した結果で、肥満の有病率は、2~5歳児では2003~04年までは上昇、以降は減少したことや、6~11歳児では2007~08年までは上昇し、以降は横ばい、12~19歳では調査期間中は上昇していたという。JAMA誌2016年6月7日号掲載の報告。1988~94年から2013~14年の米国民健康・栄養調査の2~19歳のデータを分析 調査は、1988~94年から2013~14年の米国民健康・栄養調査で体重と身長を測定した2~19歳の小児と思春期青少年を対象に行われた。2011~14年の肥満および極度の肥満の有病率を示すとともに、調査期間中の動向を明らかにすることが目的であった。 主要評価項目は、肥満で、性別にみたCDCの発育期BMI評価チャートで95パーセンタイル以上と定義した。極度の肥満は、同95パーセンタイルの120%以上と定義した。詳細推定値は2011~14年について算出し、有病率の線形・二次傾向の分析は、9つの調査対象期間(1988~94、1999~2000、2001~02、2003~04、2005~06、2007~08、2009~10、2011~12、2013~14年)で行った。また、2005~06年と2013~14年の間の動向も分析した。2011~14年の有病率は17.0%、極度の肥満5.8% 分析には、4万780人の小児・思春期青少年が含まれた。平均年齢は11.0歳、女子が48.8%であった。 2~19歳において、2011~14年の肥満有病率は17.0%(95%信頼区間[CI]:15.5~18.6)であり、極度の肥満は5.8%(同:4.9~6.8)であった。 2~5歳の有病率は、1988~94年の7.2%(同:5.8~8.8)から2003~04年は13.9%(同:10.7~17.7)に上昇し(p<0.001)、その後2013~14年の9.4%(同:6.8~12.6)へと減少(p=0.03)がみられた。 6~11歳では、1988~94年の11.3%(95%CI:9.4~13.4)から2007~08年19.6%(同:17.1~22.4)へと上昇したが(p<0.001)、その後は変化がみられず、2013~14年は17.4%(同:13.8~21.4)であった(p=0.44)。 12~19歳では、1988~94年10.5%(95%CI:8.8~12.5)から2013~14年20.6%(同:16.2~25.6%)まで上昇が認められた(p<0.001)。 極度の肥満については、6~11歳は1988~94年3.6%から2013~14年4.3%に上昇(p=0.02)、12~19歳は同2.6%から9.1%へと上昇(p<0.001)していた。 なお、2005~06年と2013~14年の間について有意な変化の傾向はみられなかった(p値範囲0.09~0.87)。

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