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“オゼンピック・フェイス”が美容外科のトレンドに

 米国顔面形成外科学会(AAFPRS)が行った調査により、GLP-1受容体作動薬(GLP-1RA)による肥満治療後の顔のたるみを引き締める手術が、急速に増加していることが明らかになった。この調査の結果は、AAFPRSのサイトに2月4日公開された。 GLP-1RAは、当初は2型糖尿病患者対象の血糖降下薬としてのみ使用されていたが、近年は減量目的での処方が広がっている。GLP-1RAによる減量に伴い、顔の皮膚がたるんでくることがある。このような特徴が現れた顔は、肥満目的で処方されることの多いGLP-1RAであるセマグルチドの商品名がオゼンピックであることから、“オゼンピック・フェイス”と呼ばれる(なお、肥満治療の適応を有するセマグルチドの商品名はウゴービであり、オゼンピックは血糖降下薬としてのみ認可されているが、実際には医師の裁量でオゼンピックが肥満治療に使われるケースも多い)。 AAFPRSは、同学会会員を対象に毎年、顔面形成術に関する調査を実施している。今回公表された2024年の調査結果では、鼻形成術(鼻整形)、フェイスリフト、アイリフトが依然として人気の高い手術リストのトップを占めていた。しかし、オゼンピック・フェイスに対する外科的処置の急増という変化も認められた。 この傾向について同学会会長のPatrick Byrne氏は、「GLP-1RAは速やかな減量効果を発揮するが、脂肪の減少によって皮膚のたるみなどの問題を引き起こすことが多い。その結果、顔面形成術を希望する患者が増えている」と解説している。具体的には、GLP-1RAによる減量に伴うものと推測される顔面脂肪移植術の件数が、2024年の1年間で50%増加していた可能性があるという。 同学会会員の10人に1人の医師が、患者に対して減量薬を処方しているという実態も明らかになった。また、会員医師の多くが、今後もオゼンピックやその同効薬が減量目的で使われるケースが増加し、それに伴い、顔面注入充填剤などを用いた非外科的な処置の人気も高まると予想している。 一方、伝統的な手術も人気が衰えていない。鼻整形を受ける患者数は依然として最多であり、フェイスリフトを受ける患者は若年化している。ただし、複雑で侵襲の大きい外科手術を受ける患者はそれほど多くはなく、ボツリヌス毒素などの注射や充填剤による治療法の方がはるかに人気であり、会員の9割以上がこうした治療を定期的に行っていると回答していた。 このほかに今回の調査では、会員の大半(92%)が、鼻整形、フェイスリフト、アイリフト、ボトックス注射、その他の治療を求める患者の中に、男性が少なくないことを指摘した。特に植毛手術に関しては、男性患者が女性患者を凌駕していることが分かった。 同学会のCEO兼副会長であるSteven Jurich氏は、「調査結果として示されたトレンドの多くは、ソーシャルメディア(SNS)を通じて生じた変化ではないか」と話している。同氏は、「SNSなどには詐欺や誤った情報も少なくないため、治療を受けることに同意する前に、術者の資格やどのようなトレーニングを受けた医師かを確認すべき」とアドバイスしている。

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小児・青年期の肥満の有病率は上昇傾向で今後も増加が予想される。対策が急務だが、経済発展の背景にある格差拡大が問題ではないか(解説:名郷直樹氏)

 180ヵ国の5~24歳の小児・青年期の男女を対象として、1990年から2021年にかけての過体重、肥満の有病率データから、2022年から2050年にわたる過体重、肥満の有病率を予想した論文である。 いずれの年代、いずれの地域においても、1990年から2021年までの過体重、肥満の有病率が上昇している。南北アメリカ、ヨーロッパで有病率が高く、アジア、アフリカでは有病率は前者ほど高くはないが、高い増加率が認められる。 実際の数字を見てみると、全体の集計の青年期では1990年の過体重が8.0%、肥満が1.9%、2021年にそれぞれ13.7%、6.6%へと増加。小児期でも過体重が6.7%から11.2%、肥満が2.0%から6.9%に増加している。日本が含まれる東南アジア、東アジア、オセアニアでは、青年期の過体重が5.2%から11.6%、肥満が0.8%から4.7%に増加、小児期では過体重が4.6%から9.7%、肥満が1.2%から5.9%にそれぞれ増加している。絶対値で見ればアジアの肥満の有病率は西欧より低いものの、30年間の増加率でみると西欧を上回り、青年期の肥満が470%、小児期では404%の増加である。 小児・青年期の肥満は将来の心血管疾患、肝疾患、腎疾患などのリスクであり、いったん肥満になると改善が困難なこともあり、その予防が重要である。しかし、この論文でも示されているように、高収入の集団で最も肥満の有病率が高く、肥満は経済発展の印でもある。ただ、これは高収入ほど肥満が多いというよりは、高収入の社会で格差が大きいことが問題なのかもしれない。経済の発展に伴う格差の拡大により、高収入集団の低所得者が栄養の偏りから肥満を来す面がある。格差の是正が肥満対策に対して重要なポイントだろう。 また日本の現状を考えたとき、この格差是正は喫緊の問題だろう。貧困率の上昇や少子化対策にも重なる。さらに日本での問題を考えた場合、肥満だけでなく、やせの問題もある。肥満は健康上の問題としてだけでなく、見た目の問題もある。とくに見た目を重視し過ぎる極端なやせはもっと問題にされてもいいのではないか。健康の面で見れば、BMI 18未満は30以上に匹敵する不健康な状態だ。体重減少をもたらすGLP-1作動薬が肥満でもないやせを希望する人に対して大量に使われることで、糖尿病患者に薬が届かないという異常な状態が出現している。日本においては肥満だけでなく、やせの有病率と健康との関連を調べるのも重要ではないだろうか。

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免疫チェックポイント阻害薬治療中の生存率にインスリン分泌能が独立して関連

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療を受けているがん患者において、インスリン分泌能が良好であることが、全生存期間(OS)や無増悪生存期間(PFS)の延長に独立して関連しているとする研究結果が報告された。岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腎・免疫・内分泌代謝内科の渡邉真由氏、江口潤氏らが行った前向きコホート研究によるもので、詳細は「Frontiers in Endocrinology」に12月11日掲載された。 ICIは種々のがんに対してしばしば著効を示すが、従来の抗がん剤とは異なる副作用があり、糖尿病を有する場合はインスリン分泌能低下リスクのあることが知られている。ただし、糖尿病でないがん患者に関しては、まれに劇症1型糖尿病を引き起こすリスクがあることを除き、糖代謝へどのような影響が生じるのかという点の知見は限られている。 渡邉氏らはこの点について、同大学病院の患者を対象とする前向きコホート研究により検討した。解析対象は、2017年6月~2019年8月に進行がんと診断され、ICIによる初回治療が行われた87人。ベースライン以前および研究期間中に糖尿病と診断・治療された患者、および糖代謝に影響を及ぼし得るステロイドが処方された患者などは除外されている。 主な特徴は、年齢中央値(以下、連続変数は全て中央値)が65歳(四分位範囲56~72)、男性67.8%、BMI19.2。がん種は頭頸部がん52人、胃がん19人、その他16人であり、全身状態を0~4で表すECOG PSは0~1(比較的良好なパフォーマンス)が80.5%を占めていた。糖代謝に関しては、HbA1c5.6%、空腹時血糖値97mg/dL、インスリン分泌能を表すHOMA-βが59.4(四分位範囲37.1~85.3)、Cペプチドが1.52ng/dL(同1.01~2.24)、インスリン抵抗性を表すHOMA-IRが1.11(0.72~2.34)であり、腎機能(eGFR)は70.9mL/分/1.73m2(63.5~87.2)と良好だった。投与されたICIは、ニボルマブが78人、ペムブロリズマブが10人、イピリムマブが1人だった(2人は2剤併用)。 ICI投与開始1カ月後、HbA1cの有意な低下(P=0.018)とCペプチドの有意な上昇(P=0.022)が観察され、ICIは非糖尿病患者の糖代謝にも影響を及ぼし得ることが示唆された。 観察期間中に82人(94.3%)が死亡し、OSは中央値7カ月、PFSは同3カ月だった。OSの中央値で2群に分けて比較すると、HOMA-βはベースラインおよび投与1カ月後の両時点で有意差があり、OSが7カ月以上の群のほうが高値だった。その他の糖代謝関連指標の群間差は非有意だった。ROC解析により、OSが7カ月以上であることを予測するHOMA-βの最適なカットオフ値は64.24と計算され、AUCは0.665だった。また、PFSが3カ月以上であることを予測するHOMA-βの最適なカットオフ値は66.43、AUCは0.582だった。 次に、年齢、性別、BMI(最適なカットオフ値である18.58以上)、eGFRおよびHOMA-β(64.24以上)を独立変数、OSの短縮(中央値である7カ月未満)を従属変数とする多変量ロジスティック回帰分析を施行。その結果、BMI(ハザード比〔HR〕0.481〔95%信頼区間0.299~0.772〕)とHOMA-β(HR0.623〔同0.393~0.989〕)の2項目が、OS延長に独立して関連していることが明らかになった。続いて行ったPFSの短縮(中央値である3カ月未満)を従属変数とする解析からは、HOMA-β(66.43以上の場合にHR0.557〔0.339~0.916〕)のみが、PFS延長に独立して関連していることが明らかになった。 著者らは本研究が単施設の患者データに基づく解析であり、サンプルサイズも十分でないことなどを限界点として挙げた上で、「得られた結果は、ICI治療を受ける非糖尿病患者において、インスリン分泌能の高さがOSやPFSの延長に独立して関連することを示している。HOMA-βは、ICI投与が予定されるがん患者の予後予測指標となり得るのではないか」と結論。また、「ICIが膵β細胞機能に影響を及ぼすメカニズムの解明が期待される」と付け加えている。

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認知症の急速悪化、服用中の薬剤が引き金に?【外来で役立つ!認知症Topics】第27回

認知症の急速進行性患者(Rapid Decliner)少なからぬ認知症の患者さん、とくにアルツハイマー病(AD)患者の外来治療は長期にわたりがちで、2年や3年はざら、時には10年ということもある。そうした中で、この病気が進行していくスピード感というものがだんだんとわかってくる。ところが、「なぜこんなにも急速に悪化するのか」という驚きと、主治医としての後ろめたさを感じてしまうような症例を少なからず経験する。こうした患者さんは、医学的には急速進行性患者(Rapid Decliner:RD)と呼ばれる。急速進行性認知症とは、本来プリオン病をプロトタイプとするが、プリオン病との鑑別で最も多いのは急速進行性のADだとされる。このようなケースでは、本人というよりも主たる介護者が、そのことを嘆かれ、治療の変更や転医などを相談されることもある。しかし担当医として容易にはお答えができず、忸怩たる思いを経験する。また新薬の治験のようにADの経過を評価する際にもRDはしばしば問題になる。というのは、こうした新薬の効果は、多くの場合、わずかなものである。そこに一般的な患者の経過から飛び抜けて悪化を示すケースがあると、「結果解析ではこうしたRDを例外として対象から除外するのか?」などの統計解析上の取り扱いが問題になると聞く。急速進行性アルツハイマー病(RD AD)の定義さて急速進行性AD(RD AD)の定義では、MMSEのような認知機能評価尺度の点数悪化や発症から死亡に至るまでの時間により示されることが多い。RD ADの定義として、MMSEの年間点の得点低下が6点以上とするものが多い1)。一般的には年間低下率は、2~3点とされるから、その倍以上である。また普通は7~8年とされるADの生存期間だが、RD ADでは、それが2年以内とされることも多い2)。つまり約3~4分の1程度も短命である。このようなRD ADを予測する要因としては、合併症として、血管性要因、高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満などがある。また慢性的な心不全や閉塞性肺疾患の関与も注目されてきた。しかしいずれも確立していない。さらに一般的には若年性が悪いと思われがちだが、必ずしもそうではない。バイオマーカーでは、脳脊髄液中の総タウ、リン酸化タウの高値は予測要因の可能性があるとされる。多くの遺伝子多型も研究報告されてきた。最もよく知られた遺伝子多型のAPOEだが、この役割については賛否両論ある。以上をまとめると、RD ADの予測要因として確立したものはなさそうである。RD ADの症状:体力低下、BPSD、IADLの障害もっとも実臨床の場面でRD ADが持つ意味は上記のような医学的な定義とは少し異なる。つまり体力低下、認知症にみられる行動および神経心理学的な症状(BPSD)や道具的ADL(Instrumental Activity of Daily Living:IADL)の障害などが急速に進んで日常生活の維持が困難になって、急速進行が事例化するケースが多いと思う。たとえば、大腿骨頸部骨折や各種の肺炎後に衰弱が急に進むという訴えがある。IADLでは、排泄の後始末ができない・汚れたおむつで便器を詰まらせる、着衣失行など衣類が着られなくなった、などが多い。またBPSDでは、多くの介護者にとって、幻視や幻聴、そして妄想の出現はショックが大きい。つまり家族介護者は、認知機能の低下というよりは、衰弱やIADLの低下、衰弱や幻覚妄想による言動のように、目に見える変化が急速な悪化と感じやすい。服用中の薬剤が急速悪化の引き金にさて問題は、こうしたケースへの対応である。これには2つのポイントがある。まず診断の見直しという基本の確認である。ここでは必要に応じてセカンドピニオンも考慮すべきである。次にRDの危険因子とされた要因を点検することである。とくに注目すべきは、服用薬剤の副作用だろう。診断の見直しでは、まずビタミンB群、梅毒やHIVを含む血液検査はしておきたい。新たな脳血管障害などが加わった可能性もあるからCTやMRI等の脳画像の再検査も考慮する。また脳脊髄液検査や脳波検査も、感染症やプリオン病などの可能性を踏まえてやっておきたい。高度検査では、遺伝学的な検査、また悪性腫瘍の合併を考慮してWhole body PET-CTが必要になるケースもあるだろう。さらに炎症系の関りも視野に入れて、専門医との相談に基づいて、抗炎症治療による治療的診断として、イムノグロブリン、高用量ステロイドなどの投与もありうる。いずれにせよこれらでは、躊躇なくセカンドオピニオンが求められる。危険視の中でも、服用薬剤が重要である。まず向精神薬がある程以上に長期間にわたって投与されていれば、これらが心身の機能にも生命予後にも悪影響を及ぼす可能性がある。なお向精神薬には、抗精神病薬、抗うつ薬、睡眠薬、抗不安薬のほかに、抗てんかん薬、抗パーキンソン薬などが含まれる。とりわけ、他科から処方されている薬剤は案外盲点かもしれない。他科の担当医はご自分の領域の治療薬に精通されていても、それが認知症に及ぼす影響まではあまり注意されていないかもしれない。それだけに「おくすり手帳」などを見せてもらう必要がある。さまざまな薬剤の中でも、とくに抗コリン薬は要注意である。これは過活動性膀胱の治療薬など泌尿器科用薬剤、循環器用薬剤に多い。またヒスタミンH2受容体拮抗薬、ステロイド、非ステロイド性抗炎症薬、循環器系治療薬、抗菌薬などにも目配りが求められる。参考1)Soto ME, et al. Rapid cognitive decline in Alzheimer's disease. Consensus paper. J Nutr Health Aging. 2008;12:703-713. 2)Harmann P, Zerr I. Rapidly progressive dementias – aetiologies, diagnosis. Nat Rev Neurol. 2022;18:363-376.

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ジュースクレンズはたった3日間でも有害な可能性

 一定期間、固形物を取らずにジュースのみで必要な栄養素を補うジュースクレンズは、ファスティングの一種であり、健康的な生活を始める第一歩として多くの人に取り入れられている。しかし、たとえ短期間であっても、こうした食生活によりもたらされるのは効果よりも有害性の方が大きいかもしれない。米ノースウェスタン大学フェインバーグ医学部のMelinda Ring氏らの研究によると、野菜や果物のジュースのみの食事を3日間続けることで、炎症や記憶力および思考力の問題との関連が指摘されている腸内や口腔のマイクロバイオームに変化が起こることが明らかになったという。詳細は、「Nutrients」に1月27日掲載された。 ジュースクレンズがこのような変化を引き起こすメカニズムについては、正確には解明されていない。しかしRing氏らは、ジュースは食物繊維が不足していることが要因ではないかとの見方を示している。Ring氏は、「ほとんどの人はジュースクレンズを健康的なクレンズ(浄化)として捉えているが、この研究は現実を突きつけるものだ。食物繊維がほとんど含まれていないジュースを大量に摂取すると、マイクロバイオームのバランスが崩れ、炎症や腸の健康状態の悪化といった悪影響がもたらされる可能性がある」とニュースリリースの中で述べている。 果物や野菜をジュースにする際には、含まれていた食物繊維の多くが取り除かれてしまう。食物繊維は抗炎症物質を産生する善玉菌のエサになる。食物繊維が不足すると、糖類を好む悪玉菌が増殖し、腸内や口腔内のマイクロバイオームのバランスが崩れる。 Ring氏らは今回、健康な成人14人(男性7人、平均年齢22.7歳)を対象に、ジュースの摂取が腸内と口腔内のマイクロバイオームに与える影響について調べた。研究参加者は3日間、1)果物と野菜のコールドプレスジュースのみを摂取する群(ジュース摂取群、男性2人、女性3人)、2)コールドプレスジュースと通常の食事を摂取する群(通常食摂取群、男女2人ずつ)、3)植物性食品をベースにしたホールフードのみを摂取する群(植物性食品摂取群、男性3人、女性2人)の3群に分類された。対象者はまず、オーガニックの果物、野菜、グルテンフリーの全粒穀物、卵、8杯の水から成る除去食を3日間摂取したのち、3種類の介入食のいずれかを3日間摂取した。その後、3日間の再導入期間を経て通常の食事に戻った。Ring氏らは、ベースライン、除去食実施後、介入終了直後、および介入後14日目に研究参加者から採取した唾液検体、頬の内側の粘膜のぬぐい液、および便検体を用いてマイクロバイオームの変化を分析した。 その結果、ジュース摂取群では、唾液および口腔粘膜のマイクロバイオームに変化が見られ、ファーミキューテス門(2021年にBacillota門に改名)の細菌の減少と、炎症との関連が注目されているプロテオバクテリア門(2021年にPseudomonadota門に改名)の細菌の増加が認められた。これは、ジュースが高糖質・低食物繊維であることが影響している可能性が疑われた。腸内マイクロバイオームに大きな変化は見られなかったが、腸の透過性、炎症、認知機能低下に関連する細菌の増加が認められた。一方、通常食摂取群と植物性食品摂取群でも、口腔や腸内のマイクロバイオームにある程度の変化は観察されたが、ジュース摂取群での変化ほど顕著ではなかった。 Ring氏は、「本研究結果は、食事の選択がいかに短期間で健康に関連する細菌の集団に影響を与えるかを明確に示している。口腔のマイクロバイオームは、食事の影響を迅速に把握できるバロメーターになるようだ」との見方を示している。 Ring氏らは、「この研究結果から、ジュースやその他の食事がマイクロバイオームにどのような影響を与えるのか、特に果物を食べる代わりにジュースを飲むことが多い子どもにおける影響について、さらに詳細に調べる必要性が浮き彫りになった」と話している。

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優秀な医師は投資も上手くいく!? 投資と医療の共通点とは【医師のためのお金の話】第90回

資産形成は、多くの人々にとって重要なテーマです。もちろん医師も例外ではありません。そして資産形成を成功させるためには、適切な投資戦略が不可欠です。しかし、投資の世界は複雑で、多くの人が非合理的な行動を取ってしまいがちです。そして、投資における人間の非合理的な行動を理解することは、意外なほど重要です。たとえば、暴落や暴騰に対する過剰反応や、過去の成功体験に基づく過信などがあります。もう少し合理的に考えられれば、資産形成の効率は向上するでしょう。長期的な視点を持つことも重要です。具体的な例として、投資の目標を明確に設定して、それに基づいて計画を立てることが挙げられます。歴史的にみても、長期的な視点を持つ投資家は、短期的なトレーダーよりも高いリターンを得る傾向があります。実は、医師として患者さんを治療するときも、投資における判断と似たような考え方が働いていることに気付かされます。私は整形外科医なので、外傷の患者さんを日常的に治療しています。その治療プロセスを考えてみましょう。患者さんがケガをしたとき、メリットとデメリットを考えたうえで治療計画を立てます。目の前の患者さんの状況に舞い上がって場当たり的な治療を行うのはご法度です。同様に、投資においても短期的利益を追い求めるのではなく、長期的な視点を持つことが大切です。このように、投資と医療の考え方には似ている点が多いです。患者さんにとってベストの治療を心掛けている医師は、資産形成においても成功する可能性が高いのかもしれません。医師として興味深いテーマを考えてみましょう。投資における人間の非合理的な行動を理解して、それを克服する方法医師が治療を行う際の心構えと、成功する投資家の行動には多くの共通点があります。投資において、人間はしばしば非合理的な行動を取ります。『富の法則 一生「投資」で迷わない行動科学の超メソッド』(徳間書店)では、以下のような非合理的な行動を例示しています。表 非合理的な行動の例1.過剰反応2.過信3.損失回避4.アンカリング(初期の情報や価格に固執して、その後の判断に影響を与えること)5.確証バイアス6.群集心理7.短期志向8.フレーミング効果9.後悔回避過信と確証バイアスは、医師の心構えと共通していると思います。まず過信ですが、医療だけでなく投資でも望ましくありません。過去の成功体験に基づいて自分の能力を過信すると、本来のリスクを過小評価し、無謀な治療や投資行動を取ることになります。確証バイアスとは、自分の信念や予測を支持する情報だけを集めて、反対の情報を無視する傾向です。医療において思い込みによる診断と治療が危険であるのと同様に、投資においても確証バイアスによって偏った判断を下すのは危険です。これら以外にも、私たちが非合理的な行動を避けるためには、自己認識が重要だと思います。自己認識とは、自分の感情や行動パターンを理解することです。とくに投資では、自分がどのような状況で感情的になりやすいかを知ることで、冷静な判断を下しやすくなります。長期的な視点で医療や投資に向かい合おう!生活習慣病では、長期間にわたる治療が必要です。たとえば、高血圧や糖尿病の治療で、昨日の血圧や血糖値に一喜一憂することはありません。私の整形外科の領域でも、長期的に関節機能を温存するにはどうすれば良いかを常に考えて治療しています。投資においても、長期的な視点を持つことは非常に重要です。短期的な市場の変動に一喜一憂するのではなく、長期的にはどうなのかを問い続けることが成功への鍵となります。とくにコロナショックのような暴落が発生した時には有効でしょう。株式市場では短期的な変動が頻繁に起こりますが、長期的には上昇傾向にあることが多いです。このため、短期的な損失に対して過剰に反応せず、長期的な利益を見据えて投資を続けることが重要です。いわゆるBuy & Holdですね。また、長期的な視点を持つことで、投資家は複利効果を最大限に活用することができます。私の経験ですが、2008年に投資したJ-REITでは、すでに投下資金を分配金だけで全額回収済みです。さらに、分配金で株式を買い増ししており、大きな複利効果を得ています。最後に、長期的な視点を持つことで、私たちは冷静な判断を下しやすくなります。短期的な市場の変動に対して感情的にならず、長期的な目線で投資を続ける。いかがでしょう、医療と資産形成で成功するポイントは、意外と似ていると思いませんか?

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5~24歳の肥満者数、この30年で3倍に/Lancet

 1990~2021年にかけて世界のあらゆる地域で過体重と肥満が大幅に増加しており、増加を抑制するための現行の対策が小児期・青年期の世代で失敗していることが、オーストラリア・Murdoch Children 's Research InstituteのJessica A. Kerr氏ら世界疾病負担研究(Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Study:GBD)2021 Adolescent BMI Collaboratorsの解析で明らかとなった。結果を踏まえて著者は、「2021年以降も、小児期・青年期の過体重の有病率は高いままで、将来的に肥満集団はさらに増加すると予測される。世界のすべての地域、すべての人口集団で増加が続き、2022~30年に大きな変化が起こると予測されるため、この公衆衛生上の危機に対処するため早急な行動が必要である」と述べている。Lancet誌2025年3月8日号掲載の報告。1990~2021年の180の国と地域5~24歳のデータを解析 研究グループは、GBD 2021の確立された方法論を用い、1990~2021年の小児期・青年期における過体重と肥満の推移をモデル化し、2050年までの予測を行った。モデルの主要データには、180の国と地域から収集された1,321件の測定データが含まれた。 これらのデータを用い、1990~2021年における204の国と地域での過体重と肥満の年齢標準化有病率を、性別、年齢層別、国・地域別に推定した。年齢層は、学童期(5~14歳、通常学校に通い児童保健サービスを受ける)と学生期(15~24歳、徐々に学校を離れ、成人向けサービスを受ける)に分けた。 1990~2021年の推定有病率は時空間ガウス過程回帰モデルを用いて、2022~50年の予測有病率は現在の傾向が継続すると仮定した一般化アンサンブルモデリング法を用いてそれぞれ算出し、1990~2050年の各年齢、性別、地域の人口集団について、肥満の割合と過体重の割合の対数比から肥満の過体重に対する優位性を推定した。2050年までに世界的に過体重と肥満の有病率が増加 1990~2021年にかけて、小児期・青年期における過体重と肥満の合計有病率は2倍、肥満のみの有病率は3倍となった。2021年までに、肥満者数は5~14歳で9,310万人(95%不確実性区間[UI]:8,960万~9,660万)、15~24歳で8,060万人(7,820万~8,330万)と推定された。 2021年の過体重および肥満の有病率は、GBD super-regionの中で北アフリカ・中東(アラブ首長国連邦、クウェートなど)で最も高く、1990~2021年にかけて増加率が最も高かったのは東南アジア・東アジア・オセアニア(台湾、モルディブ、中国など)であった。 2021年までに、両年齢層の女性は、オーストララシア(オーストラリアなど)および北米の高所得地域(カナダなど)の多くの国で肥満優位状態であり、北アフリカ・中東(アラブ首長国連邦やカタールなど)およびオセアニア(クック諸島やサモアなど)の多くの国でも、男女ともに肥満優位状態に移行していた。 2022~50年にかけて、過体重(肥満ではない)の有病率は世界的に安定すると予測されたが、世界人口に対する肥満人口の絶対割合の増加は1990~2021年の間より大きくなり、2022~30年にかけて大幅に増加し、この増加は2031~50年の間も続くと予測された。 2050年までに、肥満有病率は北アフリカ・中東(アラブ首長国連邦、クウェートなど)で最も高くなると予測され、肥満の増加は依然として東南アジア・東アジア・オセアニア(東ティモール、北朝鮮など)に加え、南アジア(ネパール、バングラデシュなど)でも増加すると予想された。 15~24歳と比較して5~14歳のほうが、ほとんどの地域(中南米・カリブ海地域および高所得地域を除く)で2050年までに過体重より肥満の有病率が高くなると予測された。 世界的には、2050年までに5~14歳のうち15.6%(95%UI:12.7~17.2、1億8,600万人[1億4,100万~2億2,100万])、15~24歳のうち14.2%(11.4~15.7、1億7,500万人[1億3,600万~2億300万])が肥満になると予測された。 また、2050年までに、5~14歳の男性では、肥満(16.5%[95%UI:13.3~18.3])が過体重(12.9%[12.2~13.6])を上回り、5~24歳の女性および15~24歳の男性では過体重が肥満を上回ると予測された。 地域別では、北アフリカ・中東および熱帯中南米の5~24歳の男女、東アジア、サハラ以南のアフリカ中央部と南部、中南米の中央部の5~14歳の男性、オーストララシアの5~14歳の女性、オーストララシア、北米の高所得地域、サハラ以南のアフリカ南部の15~24歳の女性、北米の高所得地域の15~24歳の男性で、2041~50年までに肥満優位状態に移行すると予測された。

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慢性疾患を持つ労働者の多くが職場で病気を隠している

 糖尿病、心臓病、喘息などの慢性疾患を持つ米国の労働者の60%は、そのような健康上の問題を職場の管理者に伝えていないという実態が報告された。米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のGillian SteelFisher氏らが行った調査の結果であり、2月11日、同大学院のサイトにニュースリリースが掲載された。 調査の結果、慢性疾患を持つ労働者の3分の1以上が、過去1年間に、仕事の都合で必要な受診をしない日があったことも明らかになった。SteelFisher氏は、「慢性疾患を持つ労働者は、自分の健康状態のために差別を受けていると感じることが多く、そのために仕事と健康の双方に深刻な影響が及ぶこともある」と話している。 この調査は2024年10月2~16日にかけて、米国内の従業員数50人以上の企業に所属しているフルタイムおよびパートタイムの成人労働者1,010人を対象に実施された。このうち58%は、糖尿病、高血圧、心臓病、喘息などの慢性疾患を1種類以上有していた。この慢性疾患有病者のうち76%は、「勤務時間中に健康管理のための時間を割く必要がある」と回答していたが、60%は自分の病気について会社に伝えていなかった。また、36%は、過去1年以内に仕事を優先して受診の予約を入れなかったり予約を延期したりしていた。「健康管理のために休暇を取る必要があったのに、それができなかった」との回答も49%に上った。 このほかにも、慢性疾患を有する労働者の25%は、「健康上の理由で過去1年間に昇進を逃したことがある」と考え、21%は「健康状態のために自分の勤務に対する否定的な評価を受けたことがある」と答えていた。SteelFisher氏は、「これらの問題は全て、労働者だけでなく雇用者側にも負の影響を及ぼす可能性がある。従業員を引きとめるために雇用主は、従業員ともっとコミュニケーションを取り、双方にとってベストな方法を模索すべきではないか」と提案している。 一方、本調査では、本人が健康であっても、自宅に慢性疾患を持ちケアを要する同居者がいるというケースが少なくないことも分かった。回答者の3分の1がこのような状況にあり、そのほぼ半数(45%)は「勤務時間中にもしばしばケアにあたる必要がある」と回答した。それにもかかわらず、慢性疾患を患う家族がいる人の37%は「ケアのために休暇を取るのは困難」と答え、25%は「その状況に対処するために労働時間を減らし、収入減を受け入れざるを得ない」と答えた。 これらの結果について、調査に協力した米ド・ボーモン財団の会長兼CEOのBrian Castrucci氏は、「雇用主にとり、自分自身や家族の慢性疾患に悩む従業員を支援することは、重要な責務であると同時に大きなチャンスでもある。それを行うことで、従業員とその家族の健康が改善されるだけでなく、従業員の定着率が向上し欠勤も減るのではないか」と論評している。

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歯周病治療で糖尿病患者における人工透析リスクが低下か

 歯周病を治療している糖尿病患者では、人工透析に移行するリスクが32~44%低いことが明らかになった。東北大学大学院歯学研究科歯学イノベーションリエゾンセンターの草間太郎氏、同センターの竹内研時氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Clinical Periodontology」に1月5日掲載された。 慢性腎臓病は糖尿病の重大な合併症の一つであり、進行した場合、死亡リスクも高まり人工透析や腎移植といった高額な介入が必要となる。したがって、患者の疾病負荷と医療経済の両方の観点から、慢性腎臓病を進行させるリスク因子の同定が待たれている。 歯周病は糖尿病の合併症であるだけでなく、糖尿病自体の発症やその他の合併症の要因でもあることが示唆されている。また、歯周病と腎機能低下との関連を示唆する報告もされていることから、研究グループは糖尿病患者における定期的な歯周病ケアが腎機能低下のリスクを軽減または進行を遅らせる可能性を想定し、大規模な糖尿病患者のデータを追跡した。具体的には、歯周病治療を伴う歯科受診を曝露変数として、人工透析に移行するリスクを後ろ向きに検討した。 本研究では、40~74歳までの2型糖尿病患者9万9,273人の医療受診データ、特定健診データが用いられた。2016年1月1日~2022年2月28日までの期間に、2型糖尿病を主傷病としていた患者を登録した。 9万9,273人の参加者(平均年齢は54.4±7.8歳、男性71.9%)における人工透析の発生率は1,000人あたり1年間で0.92人だった。交絡因子については、年齢、性別、被保険者の種類、チャールソン併存疾患指数、糖尿病の治療状況(外来の頻度、経口糖尿病治療薬の種類、インスリン製剤使用の有無、治療期間)、健診結果(高血圧、高脂血症、蛋白尿、HbA1c)、喫煙・飲酒といった生活習慣などが共変量として調整された。 交絡因子を調整後、人工透析開始のハザード比(HR)を分析した結果、歯科受診をしていなかった患者と比較して、1年に1回以上歯周病治療を受けている患者で32%(HR 0.68〔95%信頼区間0.51~0.91〕、P<0.05)、半年に1回以上治療を受けている患者で44%(同0.56〔0.41~0.77〕、P<0.001)、人工透析開始のリスクが低いことが示された。 研究グループは本研究の結果について、「これらの結果は、糖尿病性の腎疾患の進行を緩和し、患者の転帰を改善するためには、糖尿病治療に日常的な歯周病治療を組み込むことが重要であることを示唆している。また糖尿病患者の管理における専門医と歯科の連携欠如は以前より報告されており、本研究でも患者の半数以上が歯周病ケアを受けていなかった。今後、糖尿病患者の健康を維持するためには、専門医と歯科のさらなる連携が必要と考える」と総括した。なお、本研究の限界について、登録データは企業が提供する雇用保険に加入する個人のみが含まれていたことから、研究の参加者は日本人全体の特徴を表していない点などを挙げている。

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介護が必要となった主な原因(男女別)

介護が必要となった主な原因(男女別)視覚・聴覚障害1.1%呼吸器疾患3.4%視覚・聴覚障害 1.0%呼吸器疾患 1.3%脊髄損傷 1.6%その他11.4%脳卒中25.2%脊髄損傷3.4%男性がん3.9%認知症13.7%パーキンソン病5.4%n=3万4,777人パーキンソン病2.5%女性骨折・転倒17.8%脳卒中11.2%関節疾患12.7%高齢による衰弱8.7%骨折・転倒6.6%認知症18.1%がん 2.1%心臓病4.4%糖尿病5.2%関節疾患 心臓病5.4% 6.5%その他10.0%糖尿病 1.7%高齢による衰弱15.6%n=6万5,223人厚生労働省「2022(令和4)年国民生活基礎調査」第023表「介護を要する者数、介護が必要となった主な原因・通院の有無・性・年齢階級別」を基に作成Copyright © 2025 CareNet,Inc. All rights reserved.

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睡眠時間×身体活動量×食事の質、わずかな改善でも死亡リスク10%減

 睡眠・身体活動・栄養は健康の維持に重要な要素であるが、その影響について、これまで多くの場合個別に研究されてきた。オーストラリア・シドニー大学のEmmanuel Stamatakis氏らは、これらの要素の組み合わせが全死因死亡リスクに与える影響について評価し、リスクを有意に低下させる個人レベルの変化について明らかにすることを目的としたコホート研究を実施した。BMC Medicine誌2025年2月26日号掲載の報告。 本研究では、UK Biobankの前向きコホートデータから、7日間の手首装着型加速度計(Axivity AX3)データおよび自己申告による食事データを有する参加者5万9,078人(年齢中央値:64.0歳、男性:45.4%)を対象とした。加速度計で測定された睡眠時間(時間/日)と中~高強度身体活動(MVPA、分/日)は、機械学習ベースのスキーマを用いて計算された。10項目の食事品質スコア(DQS)により、野菜、果物、魚、乳製品、全粒穀物、植物油、精製穀物、加工肉および未加工肉、砂糖入り飲料の摂取量を評価した(各項目の摂取量を0[最も不健康]から10[最も健康的]の最大100ポイントで評価、値が高いほど食事の質が高いことを示す)。 Cox比例ハザードモデルを用いて、3要素の三分位群27通りの組み合わせと全死因死亡リスクの関連を評価し、3要素すべてが最低三分位に属する群を対照群とした。より詳細な臨床的解釈のために、各行動の5パーセンタイル値を基準として、3要素の複合的な増分用量反応変化を解析した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値8.1年において、2,458件の死亡が確認された。・対照群と比較して最も大きな全死因死亡リスク低下がみられた最適な3要素の組み合わせは、中程度の睡眠(7.2~8.0時間/日)、高MVPA(42~103分/日)、高DQS(57.5~72.5)で、全死因死亡リスクの64%低下と関連した(ハザード比[HR]:0.36、95%信頼区間[CI]: 0.26~0.50)。・睡眠5.5時間/日、MVPA 7.3分/日、DQS 36.9(いずれも5パーセンタイル値)を基準とした場合、睡眠15分/日、MVPA 1.6分/日、DQS 5ポイント(例:1日当たり野菜を1/2サービング多く食べる、または1週間当たり加工肉1サービングを削減)という最小限の増加が、全死因死亡リスクの10%低下と関連していた(HR:0.90、95%CI:0.88~0.93)。・さらに、睡眠75分/日、MVPA 12.5分/日、DQS 25ポイントの増加は、全死因死亡リスクの50%低下と関連していた(HR:0.50、95%CI:0.44~0.58)。 著者らは、最適な3要素の組み合わせは中程度の睡眠×高MVPA×高DQSであることが示され、睡眠・身体活動・食事の質の非常にわずかな改善も全死因死亡リスク低下に寄与する可能性が示唆されたとまとめている。

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線形回帰(重回帰)分析 その3【「実践的」臨床研究入門】第52回

重回帰分析の考え方前回解説したのは、線形回帰のうち、1つの目的変数に対して1つの説明変数を用いる「単回帰」分析でした。今回からは、複数の説明変数を扱うことができる「重回帰分析」について説明します。重回帰式は、ある目的変数が複数の説明変数によってどのように影響されているかを数式で示したものです。重回帰式は下記のような数式で示され、目的変数yが切片aと複数の説明変数xiのそれぞれの回帰係数biの項の総和と残差eで表されます(連載第51回参照)。y=a+b1x1+b2x2+…+bixi+e「重回帰分析」の目的変数は連続変数に限定されますが(連載第49回参照)、説明変数は連続変数以外のカテゴリ変数、たとえば2値変数も適用可能です。ここで、残差eについて簡単に説明します。上記の重回帰式をeを左辺にして変形すると、以下のようになります。e=y-(a+b1x1+b2x2+…+bixi)残差eとは上記の式のとおり、実際に観察された目的変数yと重回帰モデルで予測された値(a+b1x1+b2x2+…+bixi)の差分として定義されます。残差が小さいほど重回帰モデルのデータへの適合度が高いことを示しています。また、「残差の正規性(残差が正規分布していること)」が「重回帰分析」の前提条件になります。それでは、われわれのResearch Question(RQ)を重回帰式に当てはめて考えてみましょう(連載第49回参照)。ここでは、「低たんぱく食の遵守」が、連続変数である糸球体濾過量(GFR)の低下速度に影響を与えているかどうかを検証します。検証したい要因(E)である「低たんぱく食の遵守」と、アウトカム(O)である「GFR低下速度」の関連を歪める可能性のある交絡因子として、以下の要因を挙げ、重回帰分析による調整を試みます。年齢、性別、糖尿病の有無、血圧、ベースラインeGFR、蛋白尿定量、血清アルブミン値、ヘモグロビン値Oである「GFR低下速度」を重回帰式によって表すと、下記のようになります。「GFR低下速度」=a+b1「低たんぱく食の遵守」+b2「年齢」+b3「性別」+b4「糖尿病の有無」+b5「血圧」+b6「ベースラインeGFR」+b7「蛋白尿定量」+b8「血清アルブミン値」+b9「ヘモグロビン値」+eすなわち、目的変数yである「GFR低下速度」は、切片aと主たる要因である「低たんぱく食の遵守」と以下の交絡因子(「年齢」、「性別」、「糖尿病の有無」、「血圧」、「ベースラインeGFR」、「蛋白尿定量」、「血清アルブミン値」、「ヘモグロビン値」)とそれぞれの回帰係数の項と残差eの総和で表されます。ここで必要な仮定が「重回帰分析」における線形性の前提です。重回帰モデルでは、上述の式で表したように説明変数と目的変数の間に直線的な関係があると仮定します。つまり、説明変数が 1 単位変化すると、目的変数が常に一定の割合で増減するということです。この線形性の前提は、前述の「残差の正規性」を確認することで検証できます。「重回帰分析」を用いた多変量解析結果の解釈について、われわれの RQ を適用した重回帰式を用いて具体的に説明します。O である「GFR低下速度」が、検証したい E である「低たんぱく食の遵守」のあり・なしでどの程度違うのかを考えてみます。「低たんぱく食の遵守」あり、の場合は下記の式で示したとおり、その回帰係数b1の項は残ります。「GFR低下速度」=a+b1「低たんぱく食の遵守の程度(あり=1)」+b2「年齢」+b3「性別」+b4「糖尿病の有無」+b5「血圧」+b6「ベースラインeGFR」+b7「蛋白尿定量」+b8「血清アルブミン値」+b9「ヘモグロビン値」+e一方、「低たんぱく食の遵守」なし、の場合は下記の式で示したように、その回帰係数b1はゼロとの積になるため、項は消えます。「GFR低下速度」=a+b1「低たんぱく食の遵守の程度(なし=0)」+b2「年齢」+b3「性別」+b4「糖尿病の有無」+b5「血圧」+b6「ベースラインeGFR」+b7「蛋白尿定量」+b8「血清アルブミン値」+b9「ヘモグロビン値」+e多変量解析を行うことにより、その他の交絡因子の影響はすべて一定に保ったうえで(他の説明変数の影響を除外して)分析ができます。したがって、他の交絡因子を調整したうえでの、「低たんぱく食の遵守」あり(なし、と比較して1単位増加)の場合の、「GFR低下速度」に与える影響は、回帰係数b1で表されるのです。

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2型DMの血糖コントロールなど、予測モデルによる治療最適化で改善/Lancet

 英国・エクセター大学のJohn M. Dennis氏らMASTERMIND Consortiumは、2型糖尿病患者に対する最適な血糖降下療法を確立するために、日常臨床データを用いた5つの薬剤クラスのモデルを開発し、妥当性の検証を行った。その結果、モデルによって予測された最適な治療を受けていない2型糖尿病患者と比較して、最適な治療を受けている患者は、12ヵ月間の糖化ヘモグロビン(HbA1c)値が低く、追加的な血糖降下療法を必要とする可能性が低下し、糖尿病合併症のリスクが減少することが示された。研究の成果は、Lancet誌2025年3月1日号で報告された。モデルの予測因子は、日常的に入手可能な9つの要因 研究グループは、2型糖尿病患者の日常臨床で利用可能なデータを用いて、5つの薬剤クラス(DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、SGLT2阻害薬、スルホニル尿素薬、チアゾリジン薬)の血糖降下薬に関して、相対的な血糖降下作用の予測が可能かを明らかにする目的で、モデルを開発しその妥当性を検証した(英国医学研究審議会[MRC]の助成を受けた)。 モデルには、予測因子として、薬剤投与開始時の2型糖尿病患者の日常臨床で入手可能な9つの要因(年齢、糖尿病罹病期間、性別、ベースラインのHbA1c・BMI・推算糸球体濾過量[eGFR]・HDLコレステロール・総コレステロール・ALTの値)を用いた。 モデルの開発と初期検証には、Clinical Practice Research Datalink(CPRD)Aurumのデータベースの観察データを用い、2004年1月1日~2020年10月14日に5つの薬剤クラスのうち1つの投与を開始した年齢18~79歳の2型糖尿病患者を対象とした(データへのアクセス時に英国の人口の19.3%を網羅)。 モデルの検証には、2型糖尿病患者を対象とした3つの無作為化臨床試験の個人レベルのデータを用いた。また、CPRDを用いた検証では、モデルで予測された最適な治療(予測された血糖降下作用が最も高い[すなわち、12ヵ月時のHbA1c値が最も低い]薬剤クラスと定義)と一致する治療を受けた群と、一致しない治療を受けた群で観察された血糖降下作用の差を評価した。血糖値異常の5年リスクも良好 5つの薬剤クラスのモデル開発には、CPRDの10万107件の薬剤投与開始時のデータを用いた。CPRDコホート全体(開発コホート+検証コホート)では、21万2,166件の薬剤投与開始のうち3万2,305件(15.2%)がモデルによる予測で最適な治療法とされた。 モデルによって予測された最適な治療を受けなかった群に比べ、これを受けた群は、観察期間12ヵ月の時点での平均HbA1c値の有益性が、CPRDの地理的検証コホート(薬剤投与開始群2万4,746例、背景因子をマッチさせた群1万2,373例)で5.3mmol/mol(95%信頼区間[CI]:4.9~5.7)、CPRDの時間的検証コホート(9,682例、4,841例)では5.0mmol/mol(4.3~5.6)であった。 予測されたHbA1c値の差は、3つの臨床試験における薬剤クラスのpairwise比較、およびCPRDにおける5つの薬剤クラスのpairwise比較で観察されたHbA1c値の差で良好にキャリブレーション(較正)されていた。 また、CPRDにおける血糖値異常の5年リスクは、モデルによって予測された最適な治療を受けなかった群に比べこれを受けた群で低かった(補正後ハザード比[aHR]:0.62[95%CI:0.59~0.64])。MACE-HF、腎疾患進行、細小血管合併症が改善 血糖値以外の長期のアウトカムについては、全死因死亡の5年リスクには差がなかった(aHR:0.95[95%CI:0.83~1.09])が、主要有害心血管イベントまたは心不全(MACE-HF、心筋梗塞、脳卒中、心不全が主な原因の入院、心血管疾患、心不全が主な原因の死亡)アウトカム(0.85[0.76~0.95])、腎疾患の進行(eGFRの40%超の低下、末期腎不全)(0.71[0.64~0.79])、細小血管合併症(臨床的に有意なアルブミン尿[尿中アルブミン/クレアチニン比>30mg/g]の進行または重度の網膜症のいずれか先に発現した病態に基づく複合)(0.86[0.78~0.96])は、いずれもモデルによって予測された最適な治療を受けた群で優れた。 著者は、「このモデルは、日常臨床で収集されるパラメータのみを使用することから、世界中のほとんどの国で、低コストで容易に臨床への導入が可能と考えられる」「このモデルの導入により、血糖コントロールの改善、追加治療による治療強化前の安定的な血糖降下療法の期間の大幅な延長、および糖尿病合併症の減少につながる可能性がある」としている。

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「善玉」コレステロールは緑内障リスクを高める?

 心臓の健康に良いとされるHDLコレステロール(HDL-C)は緑内障のリスクを上昇させる一方で、心臓の健康に悪いとされるLDLコレステロール(LDL-C)は緑内障リスクを低下させる可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。中山大学(中国)中山眼科センターのZhenzhen Liu氏らによるこの研究結果は、「British Journal of Ophthalmology」に2月4日掲載された。 Liu氏は、「HDL-Cは70年間にわたり『善玉コレステロール』と考えられてきた。しかし、この研究では、高レベルのHDL-Cが必ずしも良好なアウトカムと関連しているわけではないことが示された」と述べている。 米国心臓協会(AHA)によると、LDL-Cは肝臓から組織にコレステロールを運ぶ働きを持つが、血管内に過剰に存在すると血管壁に沈着してプラークを形成し、最終的には心臓病、心筋梗塞、脳卒中を引き起こす可能性がある。一方、HDL-Cは、余分なLDL-Cを回収して肝臓に戻し、分解を促すことで、動脈硬化を予防する働きを持つ。 研究グループによると、これまでの研究で、脂質異常症は加齢黄斑変性や網膜静脈閉塞症、糖尿病網膜症と関連付けられているものの、緑内障との関連については一貫した結果が得られていないという。緑内障は、多くの場合は眼圧の上昇により視神経が損傷を受けることで視野が欠けていく進行性の眼疾患である。 今回の研究でLiu氏らは、UKバイオバンク参加者40万229人(試験参加時の平均年齢56.40歳)のデータを分析して、一般的な血中脂質の指標(LDL-C、HDL-C、総コレステロール〔TC〕、トリグリセライド〔TG〕)と緑内障との関連を評価した。対象者は、試験開始時に脂質レベルを測定されていた。 平均14.44年間の追跡期間中に6,868人(1.72%)が緑内障を発症していた。解析の結果、HDL-Cの値が最も高いグループは、最も低いグループと比べて緑内障の発症リスクが10%高いことが示された(ハザード比〔HR〕1.10、95%信頼区間〔CI〕1.02〜1.20、P=0.014)。HDL-Cの値の1標準偏差上昇ごとの緑内障発症のHRは1.05(95%信頼区間1.02〜1.08、P=0.001)であった。これに対して、LDL-CとTGの値が最も高いグループでは、最も低いグループと比べて緑内障の発症リスクがそれぞれ8%(HR 0.92、95%CI 0.85〜0.99、P=0.030)と14%(同0.86、0.80〜0.93、P<0.001)低かった。TCと緑内障との関連は、統計学的に有意ではなかった。LDL-C、TC、TGの値の1標準偏差上昇ごとの緑内障発症のHRは、それぞれ0.96(95%CI 0.94〜0.99、P=0.005)、0.97(同0.94〜1.00、P=0.037)、0.96(同0.94〜0.99、P=0.008)であった。さらに、年齢層別に分けて解析を行うと、コレステロール値と緑内障とのこのような関連は55歳超の対象者でのみ認められ、40〜55歳の年齢層での関連は統計学的に有意ではなかった。 研究グループは、それぞれのコレステロールが緑内障のリスクに異なる影響を及ぼす理由は明らかになっていないと述べている。それでも、「これらの研究結果は、目の健康に関連した善玉コレステロールと悪玉コレステロールに関する既存のパラダイムに疑問を投げかけるものだ」と結論付けている。 さらに研究グループは、追跡調査でこれらの結果が裏付けられれば、緑内障リスクを持つ患者に対するコレステロール低下薬の使用について再評価する必要が生じるかもしれないと付言している。

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うつ病歴は慢性疾患の発症を早める

 過去にうつ病と診断されたことがある人は、同年代のうつ病歴がない人に比べて中高年期に慢性疾患に罹患している可能性が高く、また、より早いペースで新たな慢性疾患を発症する可能性のあることが、新たな研究で明らかにされた。英エディンバラ大学の統計学者であるKelly Fleetwood氏らによるこの研究は、「PLOS Medicine」に2月13日掲載された。Fleetwood氏は、「うつ病歴のある人は、ない人に比べて心臓病や糖尿病などの慢性疾患を発症しやすい」と述べている。 この研究では、UKバイオバンク参加者から抽出した17万2,556人を対象に、UKバイオバンク参加当時および追跡期間中のうつ病歴と慢性疾患との関連が検討された。対象者は、2006〜2010年にUKバイオバンクに参加し(参加時の年齢は40〜71歳)、評価を受けていた。追跡期間は平均6.9年だった。慢性疾患については、血液がん、固形がん、心筋炎、冠動脈性心疾患、脳卒中、1型および2型糖尿病、高血圧、勃起不全、アレルギー性・慢性鼻炎、慢性閉塞性肺疾患、認知症など69種類を対象とした。対象者の17.8%に当たる3万770人がうつ病歴を持っていた。 解析の結果、うつ病歴がある人はうつ病歴がない人と比べて、UKバイオバンク参加時に有していた身体疾患の数が多く(平均2.9個対2.1個)、また年間の新たな疾患の発症数も多いことが明らかになった(平均0.20個/年対0.16個/年)。最も発生頻度の高かった疾患は、変形性関節症(うつ病歴ありの患者15.7%、うつ病歴なしの患者12.5%)、高血圧(12.9%対12.0%)、胃食道逆流症(13.8%対9.6%)であった。年齢、性別、社会経済状況を調整した上でも、うつ病歴のある人ではない人に比べて1.3倍の速さで新たに慢性疾患を発症することが示唆された(率比1.30、95%信頼区間1.28〜1.32)。さらに、試験参加時の疾患数や生活習慣なども調整して解析すると、この差はやや縮まったものの、それでも依然としてうつ病歴のある人の方が有意に発症の早いことが確認された(同1.10、1.09〜1.12)。 こうした結果を受けて研究グループは、「これらの結果は、うつ病を『全身』の病気として捉え、それに応じて治療する必要があることを意味している」と結論付けている。 研究グループはまた、「既存の医療制度は、複数の症状を抱える個人ではなく、個々の症状を治療するように設計されている」と指摘。「うつ病と慢性疾患の両方を抱える人をケアするために、総合的なアプローチを取る医療サービスが必要だ」と述べている。

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抗PD-L1抗体薬、GLP-1薬などに重大な副作用追加/厚労省

 2025年3月5日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、該当医薬品の副作用の項などに追記がなされる。 対象医薬品は以下のとおり。抗PD-L1抗体薬アテゾリズマブ(商品名:テセントリク)アベルマブ(同:バベンチオ)セミプリマブ(同:リブタヨ)<重大な副作用>免疫性血小板減少症免疫性血小板減少症関連症例を評価した結果、アテゾリズマブ、アベルマブにおいて、免疫性血小板減少症との因果関係が否定できない症例が集積した。また、セミプリマブにおいては、現時点では因果関係の否定できない症例の集積はないものの、海外添付文書の記載状況等を考慮し、それぞれの使用上の注意を改訂することが適切と判断された。持続性GLP-1受容体作動薬デュラグルチド(商品名:トルリシティ)<重大な副作用>肝機能障害肝機能障害関連の症例等を評価した結果、本剤と肝機能障害関連事象との因果関係が否定できない症例が集積した。BRAF阻害薬ダブラフェニブ(商品名:タフィンラー)MEK阻害薬トラメチニブ(同:メキニスト)<重大な副作用>好中球減少症、白血球減少症現行、「11.副作用」の「11.2その他の副作用」の項で好中球減少症、白血球減少症を注意喚起しているが、好中球減少症および白血球減少症関連症例を改めて評価した。その結果、ダブラフェニブメシル酸塩およびトラメチニブ ジメチルスルホキシド付加物と好中球減少症および白血球減少症との因果関係が否定できない重篤症例が集積した。そのため、重要な基本的注意の項にも「好中球減少症、白血球減少症があらわれることがあるので、本剤投与中は定期的に血液検査を実施するなど観察を十分に行うこと」と追記される。

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GLP-1受容体作動薬、自殺リスクと関連せず/BMJ

 英国の大規模コホート研究において、2型糖尿病患者のGLP-1受容体作動薬の使用は、DPP-4阻害薬またはSGLT-2阻害薬の使用と比較し、自殺傾向のリスク増加とは関連していないことが示された。カナダ・Lady Davis InstituteのSamantha B. Shapiro氏らが報告した。GLP-1受容体作動薬と自殺傾向との関連性が懸念されており、これを調査する観察研究がいくつか実施されているものの、結論には至っていなかった。BMJ誌2025年2月26日号掲載の報告。2型糖尿病患者の使用者について、DPP4阻害薬、SGLT-2阻害薬と比較 研究グループは、英国の一般診療所2,000施設以上、患者6,000万例を網羅する大規模プライマリケアデータベース「Clinical Practice Research Datalink(CPRD)AurumおよびGOLD」のデータを用いた。このデータベースは、英国の国民保健サービス(NHS)の入院記録「Hospital Episode Statistics Admitted Patient Care」および国家統計局の死亡登録データベース「Office for National Statistics(ONS)Death Registration」と連携している。 対象は2型糖尿病患者で、次の2つのコホートを特定した。(1)2007年1月1日~2020年12月31日にGLP-1受容体作動薬またはDPP-4阻害薬の服用を開始し継続した患者(コホート1)、(2)2013年1月1日~2020年12月31日にGLP-1受容体作動薬またはSGLT-2阻害薬の服用を開始し継続した患者(コホート2)。いずれも、2021年3月29日まで追跡した。 主要アウトカムは自殺傾向(自殺念慮、自傷行為および自殺の複合と定義)とし、副次アウトカムはこれらの各イベントとした。傾向スコアによる層別化および重み付けCox比例ハザードモデルを用いて、ハザード比(HR)とその95%信頼区間(CI)を算出し、治療を受けた患者における平均処置効果を推定した。GLP-1受容体作動薬は、自殺念慮、自傷行為、自殺のリスク増加と関連なし コホート1には、GLP-1受容体作動薬使用者3万6,082例(追跡期間中央値1.3年)とDPP-4阻害薬使用者23万4,028例(追跡期間中央値1.7年)が含まれた。粗解析では、GLP-1受容体作動薬の使用はDPP-4阻害薬と比較して、自殺傾向の発生率増加と関連していた(粗発生率1,000人年当たり3.9 vs.1.8、HR:2.08、95%CI:1.83~2.36)。しかし、交絡因子補正後は、関連は認められなかった(HR:1.02、95%CI:0.85~1.23)。 コホート2には、GLP-1受容体作動薬使用者3万2,336例(追跡期間中央値1.2年)とSGLT-2阻害薬使用者9万6,212例(追跡期間中央値1.2年)が含まれた。同様に、粗解析では、GLP-1受容体作動薬の使用はSGLT-2阻害薬と比較して、自殺傾向のリスクが高かったが(粗発生率1,000人年当たり4.3 vs.2.7、HR:1.60、95%CI:1.37~1.87)、交絡因子補正後は、関連は認められなかった(HR:0.91、95%CI:0.73~1.12)。 両コホートとも、自殺念慮、自傷行為、自殺を個別に解析した場合も、同様の結果であった。

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ダイエットの繰り返しは1型糖尿病患者の腎臓にも悪影響

 減量とリバウンドを繰り返すことは、1型糖尿病患者の腎臓にも悪影響を及ぼすことが明らかになった。ボルドー大学病院(フランス)のMarion Camoin氏らの研究によるもので、詳細は「The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism」に2月4日掲載された。 減量とその後のリバウンドを繰り返す“ヨーヨーダイエット”と呼ばれるような体重の増減は、2型糖尿病患者や一般人口においてよく見られる。Camoin氏らの論文の研究背景には、一般人口におけるヨーヨーダイエットをしたことのある人の割合は、男性は35%、女性では55%に上ると記されている。一方、1型糖尿病患者は従来、やせた人に多い病気であって肥満やダイエットはあまり関係ないと考えられていた。しかし著者らは、1型糖尿病患者の間でも肥満が増えているとしている。 一般人口においては、体重の増減を繰り返すことが慢性腎臓病(CKD)リスクの上昇と関連していることが知られている。しかし、1型糖尿病患者ではその関連の有無が明らかにされていないことから著者らは、1型糖尿病患者対象の大規模臨床研究であるDCCT(Diabetes Control and Complications Trial)と、DCCT終了後の追跡観察研究であるEDIC(Epidemiology of Diabetes Interventions and Complications)のデータを用いた検討を行った。 DCCT/EDICの参加者1,432人を、DCCTの追跡期間(6±2年)に生じていた体重変動の激しさの指標であるVIM(variability independent of the mean)で分類し、EDICを含めた追跡期間(21±4年)に生じていた、6種類のCKD関連指標の変化との関係を検討。その結果、他のCKDリスク因子や腎保護薬の使用の影響を統計学的に調整した後、VIMが高く体重変動が激しかった群で、CKD関連指標がより悪化していた。具体的には、高VIM群は、eGFRがベースラインから40%低下するリスクが25%高く(ハザード比〔HR〕1.25〔95%信頼区間1.09~1.41〕)、血清クレアチニンの倍化(HR1.34〔同1.13~1.57〕)、CKDステージ3への進行(HR1.36〔1.12~1.63〕)などのリスクも有意に高かった。 Camoin氏によると、1型糖尿病患者の体重変動の大きさとCKDリスクとの関連を明らかにした研究は、本研究が初めてだという。得られた結果に基づき同氏は、「1型糖尿病患者の体重変動は、既知のCKDリスク因子とは独立して腎臓に悪影響を及ぼすようだ」と述べている。 1型糖尿病患者の減量とリバウンドの繰り返しが、なぜ腎臓に悪影響を及ぼすのかというメカニズムの詳細は、まだ明らかになっていない。一つの可能性として研究者らは、血糖管理に用いるインスリンが体重変動を大きくすることがあり、そのことが腎機能の悪化に関係しているのではないかと指摘している。また、ヨーヨーダイエットは心臓に負担をかけ、それが腎臓や血管のダメージにつながるのではないかとする研究者もいる。一方で著者らは、「1型糖尿病患者の減量そのものは、体重の安定を通じて健康状態に良い影響を与える可能性がある」とし、「体重を長期間にわたって維持することに重点を置くべきだ」と総括している。

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