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オリゴ転移乳がん、局所併用療法 vs.全身療法(OLIGO-BC1)/ASCO2020

 日本、中国、韓国によるアジア圏での国際後ろ向きコホート研究の結果、オリゴ転移乳がんに対する局所療法と全身療法併用の生存に対するベネフィットが示された。米国臨床腫瘍学会年次総会(ASCO20 Virtual Scientific Program)で、がん研究会有明病院の上野 貴之氏がOLIGO-BC1試験の結果を発表した。・対象:ABCガイドラインで定義されたオリゴ転移を有する乳がん患者(転移個数が少なく[5個以下]、サイズが小さい、腫瘍量の少ない転移疾患。転移臓器の数は定義されていない)・主な除外基準:脳、胸膜、腹膜への転移、あるいは切除不能な皮膚および胸壁への再発症例/胸水貯留を認めた症例/生理的腹水を超えて腹水貯留を認めた症例/心外膜液貯留を認めた症例/同側乳房内再発症例/他臓器の浸潤がんの既往がある症例/重篤な併存症(心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病、自己免疫疾患など)を有する再発症例・試験群:局所療法(外科的切除、放射線療法、焼灼療法および経カテーテル動脈(化学)焼灼療法など)と全身療法(化学療法、内分泌療法、抗HER2療法など)の併用・対象群:全身療法のみ・評価項目:[主要評価項目]全生存期間(OS) ※以前の報告から5年OSを50%、40%とそれぞれ仮定した場合、両側の有意水準で併用療法の優位性を検出するために、少なくとも698例、検定力80%が必要とされた[副次評価項目]無増悪生存期間(PFS)、長期的なPFSおよびOSを定義する臨床的、解剖学的および病理学的分析、局所療法に関連する重篤な有害事象 主な結果は以下のとおり。・2018年2月~2019年5月に1,295例が登録され、除外基準に基づき1,200例が分析対象(中国、日本、韓国からそれぞれ573、529、98例)とされた。・HR+HER2-が526例(44%)、HR+HER2+が189例(16%)、HR-HER2+が154例(13%)に、HR-HER2-が166例(14%)、その他は161例(13%)であった。・オリゴ転移数1が578例(48%)、2が289例(24%)、3が154例(13%)、4が102例(9%)、5が77例(6%)であった。・内臓転移のみが387例(32%)、骨転移のみが301例(25%)、局所再発のみが83例(7%)、局所領域再発は25例(2%)、複数部位の転移が404例(34%)であった。・局所療法および全身療法は495例、全身療法は705例で行われた。・追跡期間中央値4.9年における、5年OS率は併用療法59.6%、全身療法41.9%(p<0.01)。調整後のハザード比(HR)は0.60(95%信頼区間[CI]:0.51~0.71)であった。・多変量解析の結果、全身療法の種類(化学療法-内分泌療法:HR0.59[0.44~0.78])、若年(20~39歳:HR0.72[0.59~0.88]、40~49歳:HR0.72[0.60~0.86])、ECOG PS0(HR0.68[0.55~0.86])、ステージI(HR0.72[0.54~0.96])、非トリプルネガティブ乳がん(HR+HER2-:HR0.82[0.64~1.04]、HR+HER2+:HR0.68[0.52~0.90]、HR-HER2+:HR0.76[0.57~1.02])、転移部位の少なさ(1:HR0.71[0.59~0.86]、2:HR0.95[0.78~1.18])、局所再発(HR0.69[0.49~0.97])、無病生存期間の長さ(≦1:HR2.01[1.52~2.68]/4≦:HR1)が、予後良好因子であった。

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MRワクチン【今、知っておきたいワクチンの話】各論 第1回

ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)ワクチンで予防できる疾患、VPD(Vaccine Preventable Disease)は、数えられるほどしかない。しかし、世界ではいまだに多くの子供や大人(時に胎児も)が、ワクチンで予防できるはずの感染症に罹患し、後遺症を患ったり、命を落としたりしている。わが国では2012~2013年の風疹大流行(感染者約17,000人)に引き続き1)、2018~2019年にも流行した(感染者5,000人以上)。その影響もあり、日本は下記期間において世界3位の風疹流行国となっている2)(図1、表1)。風疹ワクチンのもっとも重要な目的は先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrom:CRS)の予防である。それには、風疹が流行しないよう、風疹含有ワクチン接種により集団免疫を高めることが何より重要である。図1 2019年3月~2020年2月(1年間)の風疹発生数と発生率(100万人当たり)画像を拡大する表1 風疹患者数(上位10ヵ国)Global Measles and Rubella Monthly Update (Accessed on April 24, 2020)より引用画像を拡大する一方、麻疹は、世界で約14万人の命を奪う(2018年推計)ウイルス感染症である。麻疹の死亡率は先進国でさえも約1,000人に1人といわれており、重症度の高い感染症である。感染力も強いため、風疹と同様、予防接種により高い集団免疫を獲得する必要がある。しかし、日本国内での麻疹の散発的流行はいまだ絶えない。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に係る緊急事態宣言が解除された今なお、予防接種は不要不急だと考え接種を控えるケースが見受けられる。しかし「ワクチンと新型コロナウイルスと検疫」でも述べられているように、予防接種(特に小児)は適切な時期に受けることが重要であり、接種を延期する必要はない。過度な制限や自粛により、予防できるはずの感染症に罹患してしまうことは避けなければならない3)。麻疹・風疹の概要VPDの第1弾として、「麻疹・風疹」を取り上げる。麻疹・風疹ワクチンともに、経済性、安全性、有効性に優れており費用対効果も高い。日本国内における麻疹・風疹の感染流行の首座は、小児よりも青年・成人である。そのため、あらゆる年代、あらゆる受診機会に触れるプライマリケア医からの啓発が、非常に重要かつ効果的である。麻疹について1)麻疹の概要感染経路:空気感染、飛沫感染、接触感染潜伏期:10~12日周囲に感染させうる期間:症状出現1日前~解熱後3日間感染力(R0:基本再生産数):12-18感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:解熱後3日経過するまで)注)R0(基本再生産数):集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、一人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が多い方が感染力は強いということになる。2)麻疹の臨床症状麻疹の特徴は、感染力の強さと重症度の2つである。空気感染する感染症は、麻疹以外では結核と水痘がある。感染力を表すR0(アールノート)は、インフルエンザが1-2、COVID-19が1.3-2.5(5月時点)なので、麻疹はこれらの約10倍に相当する極めて強い感染力をもつ。典型的な麻疹の臨床経過は、10~12日程度の潜伏期ののち、3つの病期を経る。感染力がもっとも強いカタル期(2~4日間)には、高熱、上気道症状、目の充血、コプリック斑などが出現する。その後、一旦解熱し、再度高熱(二峰性発熱)と全身性の紅斑(発疹期)が拡がる(3~5日間)。発疹が出て3~4日後に徐々に解熱し回復する(回復期)。麻疹に対する免疫をもたない人が感染すると、約3割に合併症が生じ、肺炎や脳炎、中耳炎、心筋炎などを来す。肺炎や脳炎は2大死亡原因と言われ、乳児では麻疹による死亡例の6割が肺炎に起因する。まれではあるが罹患してから数年後に発症する亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という重篤な合併症を来すこともある。病歴や臨床症状から疑い、血清学的検査(IgM抗体、IgG抗体など)やPCR検査(咽頭、尿など)などにより確定診断をする(詳細は「医療機関での麻疹対応ガイドライン 第7版」4)を参照)。特異的な治療法はないため、対症療法が中心である。3)麻疹の疫学麻疹の感染者は、全数報告が開始された2008年が約1万1,000例だったが、2009年以降は、毎年数十~数百例の報告数である。2016年は165例、2017年は186例、2018年282例と続き、2019年は744例と多かった。かつては5歳未満の小児が主な感染者であったが、2011年頃からは20~30代の患者が半数以上占めている5)。2019年は感染者の56%が20~30代であり、主な感染者は接種歴のない乳児を除いて、30代をピークとした成人であることがわかる(図2、3)。図2 年齢群別接種歴別麻疹累積報告数 2019年第1~52週(n=744)画像を拡大する図3 年齢別麻疹累積報告数割合 2019年第1~52週(n=744)国立感染症研究所 感染症発生動向調査 2020年1月8日現在より引用画像を拡大する4)麻疹の抗体保有率抗体保有率は麻疹の感受性調査として、ほぼ毎年国立感染症研究所より報告されている。抗体価はあくまで免疫能の一部を表しているに過ぎないため、抗体価が基準を満たせば良い、という単純な話ではない(総論第4回 「抗体検査」参照)。しかし、年代と抗体保有率との相関性をみることで、ある程度の傾向が把握できるため紹介する。麻疹の抗体保有率(PA法16倍以上:図4赤線)は1歳以上の全年代で95%以上を維持しているが、修飾麻疹を含めた発症予防可能レベルは128倍以上が望ましい6)(図4:緑線)。10代と60代以上で128倍の抗体価を下回る人が多く、注意が必要である。また、すべての年代で128倍未満のものがいることから、輸入麻疹による感染拡大の危機は常につきまとうことになる。図4 麻疹の抗体価保有状況 2019年感染症流行予測調査より(2020年2月暫定値)国立感染症研究所 2019年感染症流行予測調査(2020年2月暫定値)より引用画像を拡大するわが国は2015年3月27日にWHOによる麻疹排除認定を受けた。麻疹排除認定の定義とは「質の高いサーベイランスが存在するある特定の地域、国等において、12ヵ月間以上継続した麻疹ウイルスの伝播がない状態」とされている。これは土着の麻疹ウイルスが国内流行しなくなった状態を意味するだけであり、土着でない、海外から持ち込まれた“輸入麻疹”は、麻疹排除認定後も、2020年現在まで国内で散発的にみられている(図5)。近年の代表的な事例として、2018年には海外からの旅行者を発端とした沖縄での集団感染(101例)や、2019年にはワクチン接種率の低い三重県の宗教団体関係者を中心とした集団感染(49例)などがある。その感染力の高さから4次や5次感染を来した事例も複数報告されている7)。その他、医療関係者、教育関係者、空港職員などが感染した事例も多く、不特定多数の人に接触しうる職種は特に、あらかじめワクチン接種により免疫を獲得しておくことが重要である。図5 麻疹累積報告数の推移 2013~2020年第15週 (2020年4月15日現在)国立感染症研究所 感染症発生動向調査より引用画像を拡大する麻疹はアジア・アフリカ諸国を始め、世界各国で流行が続いており、2019年は40万人以上が罹患したと報告されている。一方で、わが国への出入国者数は年々増加し、年間5,000万人を超えている。つまり、日本全体が麻疹に対する強固な集団免疫を獲得しないと、世界各国とのアクセスが容易な現代においては、“ふと”やってくる輸入麻疹を防げないのである。風疹について1)風疹の概要感染経路:飛沫感染、接触感染潜伏期:14~21日周囲に感染させうる期間:発疹出現前後1週間感染力(R0:基本再生産数):5-7感染症法:5類感染症(全数報告、直ちに届出が必要)学校保健安全法:第2種(出席停止期間:発疹が消失するまで)2)風疹の臨床症状風疹は、比較的予後の良い急性ウイルス感染症である。しかし、妊婦が風疹に罹患すると、その胎児に感染し、先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)が発生する可能性がある(後述)。風疹の主な感染様式は、風邪やインフルエンザと同様に飛沫感染であり、感染力は比較的強い(R0は5-7)。風疹の臨床経過について。2~3週間の潜伏期の後、軽い発熱と淡い全身性発疹が同時に出現する。その他、耳下や頸部リンパ節腫脹も特徴的で、関節痛を伴うこともある。発疹は3~5日程度で消失するため、風疹は“三日はしか”とも言われる。風疹ウイルスに感染した成人の約15%は不顕性感染(感染していても症状がでない)であり、たとえ症状がでても軽度なことも多い。そのため、自分が感染していることに気付かず、他人に感染させてしまう可能性がある。診断方法:臨床症状から疑い、血清検査(IgMやIgGなど)にて確定診断を行う。治療:CRSも含め、風疹に特異的な治療法はなく対症療法が中心となる。そのため、ワクチンがもっとも有効な予防方法となる。予後は基本的には良好だが、時に血小板減少性紫斑病や脳炎を合併することがある。3)先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)冒頭で述べたように、日本では2012~13年および2018~19年に風疹が流行した。2012~13年には17,000人以上の風疹感染者と45人のCRSが、2018~19年には5,000人以上の風疹感染者と5人のCRSが届出された。妊婦の風疹感染により流産や胎児死亡が起こりうることから、より多くの妊婦と胎児が風疹感染の犠牲となった可能性がある。CRSとは、風疹に対する免疫が不十分な妊婦が、妊娠中に風疹に罹患し、経胎盤感染により胎児が罹患する症候群である。3大症状は難聴、先天性心疾患、白内障であり、その他、肝脾腫、糖尿病、精神運動発達遅滞などを来す。妊婦(風疹に対する免疫が不十分な場合)の風疹感染によるCRS発生率は妊娠週数によって異なり、妊娠初期の感染は80%以上と非常に高率である(妊娠4~6週で100%、7~12週で約80%、13~16週で45~50%、17~20週で6%、20週以降で0%8))。2012~13年に発生したCRS45人の追跡調査で、11人が死亡していたことがわかり、致死率は24%と報告された。そのほとんどが重度の先天性疾患が死因となった1)。一方、CRS児の母親の年代は14~42歳と幅広く、風疹含有ワクチン接種歴が2回確認された母親はいなかった(接種歴1回が11例、なしが19例、不明が15例)。妊娠可能年齢の女性に対する風疹ワクチンの2回接種がいかに重要であるかがわかる。また、4例の母親には妊娠中に感染症状がなかった(31例は症状あり、10例は不明)ことから、不顕性感染によるCRSであったことが推測される。CRSもワクチンで予防できるVPDである。また、風疹流行は、妊婦にとって脅威である。妊娠可能年齢の女性やそのご家族には、積極的に風疹ワクチン2回の接種歴を確認し、不足回数分の接種を推奨いただきたい。4)風疹の疫学と抗体保有率近年の風疹流行の首座は成人(感染者の9割以上)であり、中でも20~50代の男性が約7~8割を占める9)。これらの年代は働き盛り、かつ子育て世代でもあることから、職場や家族内感染が主な感染源と推定された10)。一方、女性の感染者では妊娠可能年齢の20~30代が女性感染者全体の6割を占め、CRS予防の観点からも、憂慮すべきデータである。抗体保有率も上記の年代で低いことがわかる(図6)。風疹抗体価についてはHI法8倍以上(図6:赤線)で陽性とされるが、感染予防には16倍以上(図6:黄線)、さらにはCRS予防には32倍以上(図6:青線)が望ましい。男性については30~50代において抗体価が低いことがよくわかる。近年の風疹流行の首座の年代である。この年代で抗体価が低いのは、後述する過去の予防接種制度の煽りを受けたことが原因であり、昨年度から全国で開始された「風疹第5期定期接種」の対象年齢(1962~1979年生まれ)が含まれる。一方、女性では、HI法8、16倍以上の抗体保有率は高いものの、CRS予防に望ましい32倍以上(図6:青線)の抗体保有率は妊娠可能年齢(10~40代)では7~8割にとどまる。やはり小児期に2回の定期接種が義務付けられていなかった年代が含まれており、男性のように成人に対する定期接種制度はないため、日常診療における接種歴の確認が重要となる。図6 男女別の風疹抗体保有率 2018年画像を拡大する国立感染症研究所 年齢別/年齢群別の風疹抗体保有状況、2018年より引用画像を拡大する妊娠可能年齢の女性やその家族には、あらかじめ風疹ワクチンでの予防措置を講じておくことが非常に重要である。ワクチンの概要(効果・副反応、生または不活化、定期または任意、接種方法) 1)麻疹・風疹ワクチン(表2)画像を拡大する効果(免疫獲得率)麻疹ワクチン:1回接種により免疫獲得率93~95%以上、2回接種で97~99%3)風疹ワクチン:1回接種による免疫獲得率は95%、2回接種では約99%11)副反応:一部(10~30%)に軽度の麻疹様発疹や風疹様症状(発熱、発疹、リンパ節腫脹、関節痛など)を伴うことがあるが、いずれも軽度で数日中に消失する一過性のものである。その他、ワクチン接種による一般的な副作用以外に、MRワクチンに特異的な副反応報告はない。禁忌:発熱や急性疾患に罹患中の人、妊婦、明らかな免疫抑制状態にある人、このワクチンによる重度のアレルギー症状(アナフィラキシーなど)を呈した既往がある人注意事項:生ワクチン接種後は、2ヵ月間は妊娠を避ける。ただし、この期間に妊娠しても、母体や胎児に問題が生じた報告はない。また、輸血製剤またはガンマグロブリン製剤投与後は6ヵ月の間隔をあけてから接種する。麻疹風疹(MR)ワクチンは、2006年から小児に対して2回の定期接種(1期、2期)が定められた。1期(1歳)の接種率は目標の95%以上を維持しているが、2期(5~6歳)についてはいまだ93~94%で推移している12)。あらゆる機会を利用してキャッチアップを行うことにより、すべての人が生涯で計2回のワクチン接種が受けられるような啓発や取り組みが喫緊の課題である。2)麻疹の緊急ワクチン接種麻疹患者との接触者で、麻疹に対する免疫がない人は、接触後72時間以内に麻疹含有ワクチンを接種することで、発症を予防できる可能性がある(緊急ワクチン接種)4)。1歳未満の乳児でも、生後6ヵ月以降であれば曝露後接種は可能である(自費)。しかし、この場合は母親からの移行抗体によりワクチンウイルスが中和されてしまう可能性もあるため、必ず1歳以降で2回の定期接種を受ける必要がある。3)接種のスケジュール(小児/成人)麻疹・風疹ワクチンは、いずれも1歳以上で生涯計2回接種することで、麻疹・風疹ウイルスに対する免疫能を高率に獲得できる。血清検査で診断された罹患歴がなければ、不足回数分の接種を推奨する。ウイルス抗体価の測定は必須ではない。理由は前述の「抗体検査」で述べられたとおりであり、改定された日本環境感染学会のワクチンガイドラインでも同様の考えに基づくアルゴリズムが提示されている13)。抗体価は参考値として測定することはあっても、あくまで接種歴の方が重要度としては高い。よって、抗体価を測定せずに、接種歴の情報を元に接種回数を決めてよい。接種歴がわからない(もしくは、接種した記憶はあるが、記録がない)場合は、接種しすぎることによる害はないため「接種歴なし」として、1ヵ月以上の間隔をあけて、2回の接種を推奨する。4)小児期に2回の麻疹・風疹ワクチン接種が定期接種となった年代麻疹・風疹(それぞれ単独)ワクチン:2000年4月2日生まれ以降の人(表3)は、小児期に麻疹・風疹含有ワクチンが定期接種化されている年代である。ただし、1990年4月2日生まれ~2000年4月1日生まれまでの人(特例措置の年代)の接種率は80%台と低かった。どの年代においても接種歴の確認が重要である。特例措置:麻疹または風疹ワクチンの2回目を、中学1年生(第3期)と高校3年生相当(第4期)に対象者を拡大して5年間の期間限定で接種が行われた。表3 出生年月日および性別別の早見表:麻疹(上段)、風疹(下段)画像を拡大する5)成人に対する風疹第5期定期接種14)1962年4月2日生まれ以降~1979年4月1日生まれの年代(41~58歳)は、小児期の予防接種制度の影響で、小児期に風疹含有ワクチンを2回接種する機会がなかった。そのため、先述したように風疹抗体保有率が低く、風疹流行の首座となってしまった。この世代に対して、2019年度から全国で該当者(風疹含有ワクチンの接種歴がなく罹患歴もないなど)には無料で風疹の抗体価測定を行い、抗体価が不足している場合(HI法8倍以下)は、無料でMRワクチンを接種できる“風疹第5期定期接種”が開始された。しかし、2020年4月時点でクーポン券を使用した抗体検査実施率は16.2%、予防接種実施割合は3.4%と低迷している15)。プライマリケア医による能動的な情報提供、啓発が望まれる。日常診療で役立つ接種のポイント(例:ワクチンの説明方法や接種時の工夫)繰り返しになるが、麻疹・風疹ともに、罹患歴がなければ1歳以上で生涯2回の接種が必要である。接種歴がないまたは不明の場合は、接種しすぎることによる害はないため、任意接種であれば、1ヵ月あけて2回の接種を推奨する。麻疹または風疹のいずれか一方のみの接種を希望する人がいた場合、2回の接種歴が記録で確認できなければ、MRワクチンでの接種を推奨する。下記、MRワクチン接種を負担なく啓発できる工夫について何点かご紹介する。1)外来における工夫(1)小児の受診時受診理由に関わらず、母子手帳の提出をルーチン化する。電話予約時に一言添える、受付時や看護師の予診時などに提出をお願いする。これを習慣化すると、受診者全体に徐々にその文化が根付いていく。医師が診療前後に母子手帳の接種記録を確認し、不足しているものがあれば推奨する。ワクチンスケジュールの知識がある看護師などが担当してもよい。(2)カルテ記録プロブレムリストに「ヘルスメンテナンス」または「予防接種歴」を追加する。医師自身がリマインドできるシステムを作る。外来で扱う主要なプロブレムが落ち着いたときに、患者さんに一言接種歴の確認をするだけでも良い。余裕ができたときに、不足しているワクチンについて紹介、接種の推奨をする。(3)ポスターを掲示するワクチン接種についてのポスターを待合室に掲示する。リーフレットとして配布してもよい15)。2)積極的にワクチン接種を推奨したい対象者(1)妊娠可能年齢の女性とその家族あらゆる感染症は、妊婦の流産早産に関連しうる。CRSを含めたVPDとそのワクチンについて情報提供する。特に、妊娠中は接種が禁忌となる生ワクチン(風疹・麻疹・水痘・ムンプス)について、妊娠前にあらかじめ免疫をつけておくことが重要であることを情報提供する。妊娠希望の女性に対して、MRワクチン接種の助成がある自治体も多い。自治体によっては、そのパートナーにも助成を出しているところもある。あらかじめ自身の自治体の助成制度の確認を行い、該当者がいれば渡せるように当該ページを印刷しておくとよい。(2)風疹第5期定期接種の対象者(41~58歳:2020年4月中旬時点)接種率の低さから、自宅に風疹対策のクーポン券(無料で受けられる風疹抗体検査の受診券)が届いていても、それに気付いていない、またはその重要性を知らず放置している例も多いことが考えられる。定期接種の対象である年代については、受付などで、対象者であることを示す札や目印を作成し、受診時に医療スタッフから制度利用の推奨・案内をできるようにしておくとよい。自宅に定期接種のクーポン券が届いていないかどうか事前に確認し、検査を推奨する。届いていなければ地域の保健所に問い合わせるよう促せば対応してくれる。(3)海外渡航予定のある人海外では麻疹流行国が多数ある。渡航先に関わらず、海外渡航時はルーチンワクチンをキャッチアップする良い機会である。あれば母子手帳をもとに、なければ麻疹を含めたVPDについてしっかり話し合う。長期出張の場合は会社からの補助がでないか、家族同伴の場合は家族の予防接種状況も含めて、安心かつ安全な海外渡航となるよう、サポートする。(4)不特定多数の人と接触する職業(空港など)・医療職・教育関係者などこれらの職業の人は、感染リスクが高く、感染した場合の公衆衛生学的なインパクトも大きい。これらの職業に携わる人には、積極的にワクチン接種歴の確認をし、不足回数分の接種を推奨する。今後の課題・展望世界では、世界保健機関(WHO)などにより、麻疹および風疹排除を加速させる活動が進められている(Global Vaccine Action Plan 2011-2020)。わが国では、2015年に認定された麻疹排除認定を取り消されることがないよう、小児定期接種の高い接種率(1、2期ともに95%以上)を目指すと同時に、海外から麻疹ウイルスを持ち込まれても、国内流行につながらない高い集団免疫を目標にしなければいけない。風疹については、2014年3月に厚生労働省が「風疹に関する特定感染症予防指針」を策定した。この指針は、早期にCRSの発生をなくし、2020年度までに風疹排除(適切なサーベイランス制度のもと、土着株による感染が1年以上確認されないこと)を達成することを目標としている(なお、2020年1~4月の風疹感染者数は73人とCRSが1人、4~5月は3人、CRSは0人15,17))。プライマリケア医には、既存の制度(自治体の助成制度や風疹第5期定期接種など)の積極的利用の促進、また、日常診療内で幅広い年代に対する能動的な啓発および接種歴の確認・推奨を行うことが望まれる。参考となるサイト(公的助成情報、主要研究グループ、参考となるサイト)こどもとおとなのワクチンサイト予防接種啓発ツール 厚生労働省1)2012~2014年に出生した先天性風疹症候群45例のフォローアップ調査結果報告(IASR;Vol.39:p33-34.)2)Global Measeles and Rubella Monthly Update(pptx). Measeles and Rubella Surveillansce Data WHO (Accessed on March,2020)3)新型コロナウイルス感染症に対するQ&A 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会(2020年4月20日更新)4)医療機関での麻疹対応ガイドライン第7版 国立感染症研究所 感染症疫学センター (2018年4月17日)5)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹[2019年2月現在](IASR Vol.40.p.49-51.)6)国立感染症研究所 病原微生物検出情報 麻疹の抗体保有状況2018年(IASR.Vol.40.p.62-63.)7)多屋馨子. モダンメディア. 2019;65:29-37.8)Ghidini A,et al. West J Med. 1993;159:366-373.9)風疹および先天性風疹症候群の発生に関するリスクアセスメント第3版(国立感染症研究所 2018年1月24日)10)風疹流行に関する緊急情報:2019年12月25日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)11)風疹Q&A[2018年1月30日改定](国立感染症研究所)12)麻疹風疹予防接種の実施状況(厚生労働省)13)医療関係者のためのワクチンガイドライン 第3版(日本環境感染学会)14)風疹の追加的対策 専用ページ(厚生労働省)15)風疹に関する疫学情報 2020年4月8日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター )16)予防接種啓発ツール(厚生労働省)17)風疹に関する疫学情報 2020年6月3日現在(国立感染症研究所 感染症疫学センター)講師紹介

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日本人の2型糖尿病に合わせた配合の治療薬/サノフィ

 サノフィ株式会社は、2020年6月8日に2型糖尿病治療薬「ソリクア配合注ソロスター」(以下「本剤」という)を発売し、同日にメディア向けWEBセミナーを開催した。セミナーでは、本剤の説明のほか、日本人の糖尿病患者の特徴と本剤の治療へのコミットなどが解説された。 「ソリクア配合注ソロスター」は、持効型溶解インスリン グラルギン(遺伝子組み換え)とGLP-1受容体作動薬リキシセナチドが配合された治療薬。インスリン グラルギンが主に空腹時血糖をコントロールし、リキシセナチドが主に食後血糖をコントロールする。注目すべきは、日本人の2型糖尿病患者の特性を考慮し、日本独自の配合比1単位:1μgとして開発された。なお、本剤は薬用量を「ドーズ」で示し、1ドーズには、インスリン グラルギン1単位:リキシセナチド1μgの配合比で含有されている(例:5ドーズはインスリン グラルギン5単位:リキシセナチド5μg)(販売承認は2020年3月25日)。難しい“かくれ高血糖”患者の血糖コントロール WEBセミナーでは、「2型糖尿病治療のNext Stage~日本人患者特有のアンメットニーズ“かくれ高血糖”の新たな選択肢~」をテーマに、寺内 康夫氏(横浜市立大学大学院医学研究科 分子内分泌・糖尿病内科学 教授)を講師に迎え、かくれ高血糖患者の治療にどのように介入するべきかが説明された。 日本人の糖尿病患者は欧米人に比較し、インスリン分泌能が低いのが特徴であり、HbA1cの上昇に伴い、空腹時血糖値と併せて食後血糖値も大きく上昇し、食後高血糖がHbA1c悪化に大きな影響を果たすことが示唆されている。 日本糖尿病学会では、合併症予防のためのHbA1c目標値を7.0%未満、それに対応する血糖値の目安を、空腹時血糖値130mg/dL未満、食後2時間血糖値180mg/dL未満と定めているが、実臨床では空腹時血糖値を目標値まで下げたとしても、食後の高血糖が存在し、HbA1c目標値を達成できない「かくれ高血糖」の患者も散見されるという。 かくれ高血糖患者の治療では、「低血糖と体重増加リスクを抑えながら、いかに空腹時血糖値だけでなく、食後高血糖も同時に改善するかが求められる」と寺内氏は臨床上の課題を提起する。かくれたメリットもあるソリクアの特徴 寺内氏は、国内で行われた第III相試験であるLixiLan試験(インスリン未治療のHbA1cコントロール不良の2型糖尿病患者)でJP-01試験(リキスミアと本剤を52週で評価)と同JP-02試験(ランタスと本剤を26週で評価)を示し、説明を行った。 ランタスと比較したJP-02試験では、本剤+経口血糖降下薬群(n=260)とランタス注+経口血糖降下薬群(n=261)を26週にわたり投与した。26週時のHbA1cの変化量でみるとベースラインからの変化量は本剤群で-1.40%(ベースライン時の平均HbA1c:8.18%)、ランタス群で-0.76%(同:8.12%)と有意に低下し、空腹時血糖の変化量では本剤群で-31.84mg/dL、ランタス群で-24.75mg/dLだった。また、食後2時間血糖の変化量では、本剤群で-109.60mg/dL、ランタス群で-23.53mg/dLだった。HbA1cが7.0%未満になった割合では、本剤群で71.5%、ランタス群で38.5%だった。体重の変化量ではベースラインから本剤群では0.26kg、ランタス群では1.33kgの増加だったほか、低血糖の出現は本剤群で低い結果だった。安全性では、本剤群で悪心、腹部不快感、食欲減退などが報告されたが、死亡にいたる副作用は報告されなかった。以上から、ランタスに対し、本剤の優越性が示されるとともに、新たな安全性シグナルも確認されず、本剤が新たな治療選択肢となる根拠が示された結果となった(同様に本剤とリキスミアを比較したJP-01試験でも効果、安全性ともに本剤の優越性が示された)。 寺内氏は、質疑応答の中で「ソリクアは、新医薬品に係る投薬期間制限の対象外のため、患者の通院回数を減らすことができるかくれたメリットもある」と述べレクチャーを終了した。ソリクアの概要一般名:インスリン グラルギン(遺伝子組換え)/リキシセナチド製品名:ソリクア配合注ソロスター効能・効果:インスリン療法が適応となる2型糖尿病用法・用量:通常、成人には、5~20ドーズ(インスリン グラルギン/リキシセナチドとして5~20単位/5~20μg)を1日1回朝食前に皮下注射。ただし、1日1回5~10ドーズから開始し、患者の状態に応じて増減するが、1日20ドーズを超えないこと。なお、本剤の用量単位である1ドーズには、インスリン グラルギン1単位およびリキシセナチド1μgが含まれる。製造販売承認取得日:2020年3月25日薬価収載日:2020年5月20日発売日:2020年6月8日薬価:6,497円投薬制限に関して:新医薬品に係る投薬期間制限(14日分を限度とする)の対象外

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亜鉛欠乏症診療ガイドライン、味覚障害など症例別の治療効果が充実

 亜鉛欠乏症は世界で約20億人いるものの、世界的に認知度が低い疾患である。そして、日本も例外ではないー。日本臨床栄養学会ミネラル栄養部会の児玉 浩子氏(帝京平成大学健康メディカル学部健康栄養学科教授・学科長)が委員長を務め、2018年7月に発刊された『亜鉛欠乏症診療ガイドライン2018』の概要がInternational Journal of Molecular Sciences誌2020年4月22日号に掲載された。 亜鉛欠乏症診療ガイドライン2018にて、同氏らは亜鉛欠乏症の診断基準を以下のように示した。(a)症状(皮膚炎、口内炎、味覚障害など)/検査所見(ALP:血清アルカリホスファターゼ低値)のうち、1項目以上を満たす(b)他の疾患が否定される(c)血清亜鉛が低値-血清亜鉛値60μg/dL未満:亜鉛欠乏症、血清亜鉛値60~80μg/dL未満:潜在性亜鉛欠乏とする。(d)亜鉛補充により症状が改善する。亜鉛欠乏症診療ガイドラインは亜鉛投与による治療効果、基礎疾患ごとの症例を豊富に記載 亜鉛欠乏症はさまざまな病態で併発する。その症状はさまざまで、とくに皮膚炎や味覚障害、貧血、易感染などを訴える患者については血清亜鉛濃度の測定が望ましい。一方、慢性肝疾患、糖尿病、慢性炎症性腸疾患、腎不全では、しばしば血清亜鉛値が低値であるにも関わらず、前述のような症状を訴えない場合もある。亜鉛投与により基礎疾患の所見・症状が改善する場合があることから、亜鉛欠乏症診療ガイドライン2018には「これら疾患を有する患者では亜鉛欠乏症状が認められなくても、亜鉛補充を考慮してもよい」と記載されている。 亜鉛欠乏症診療ガイドライン2018の一番の特徴は、投与前後の血清亜鉛値や改善率などが書かれているため処方時に有用である点だ。治療効果を“亜鉛欠乏の症状がある患者に対する亜鉛投与の治療効果”と“基礎疾患の改善を目的に行う亜鉛投与の治療効果”に区分し、表で示している。 前者には低身長症、皮膚炎、口内炎、骨粗鬆症などの症例を提示、後者では慢性肝疾患、糖尿病などの症例を挙げている。 このほか、亜鉛補充時の注意事項として「亜鉛投与の効果はすぐには現れないため、治療は少なくとも3ヵ月間の継続が必要」「亜鉛投与による有害事象として、消化器症状(嘔気、腹痛)、血清膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ)上昇、銅欠乏による貧血・白血球減少、鉄欠乏性貧血が報告されているため、これらの臨床症状や検査値が見られた場合には亜鉛投与量の減量・中止、銅や鉄補充などの対処が必要」などが盛り込まれている。  亜鉛欠乏症診療ガイドライン2018では、2016年版からの改訂にあたり、炎症性腸疾患(IBD)と肝硬変にも焦点が当てられた。研究者らは「亜鉛欠乏症はマクロファージの活性化を介して腸の炎症を促進するので、IBDでの炎症や亜鉛欠乏症の病理学的メカニズム検討している」とし、「肝硬変患者の窒素代謝障害にも影響している可能性がある。亜鉛補給は、アンモニア代謝だけでなく、タンパク質の代謝も改善することができる」とも述べている。

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「そろそろ禁煙しないと」と思っているだけの患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第34回

■外来NGワード「禁煙しなさい!」(これでできたら苦労していない)「喫煙を続けると早死にしますよ!」(ショックを与える言動)「タバコの本数を減らしなさい!」(あいまいな節煙指導)■解説 新型コロナ感染症の重症化には、糖尿病、心不全、呼吸器疾患、透析などに加え、喫煙が強く関係しています。喫煙室は、新型コロナウイルス感染リスクが高い「3密」(密閉、密集、密接)の代表ともいえます。また、テレワークや休校のために、喫煙者が家でタバコを吸う機会が多くなり、家族の受動喫煙のリスクも高まっています。このようなパンデミックは、経済的な負担だけでなく精神的なダメージも大きく、「ストレスで喫煙本数が増えた」という患者さんもおり、普段以上に禁煙のハードルが高くなっているのかもしれません。禁煙治療には、ニコチンパッチ・ニコチンガムなど(ニコチン代替療法)や、禁煙補助薬バレニクリンなどを用いた薬物療法があります。薬物療法に行動療法(行動パターン変更法、環境改善法、代償行動法など)を組み合わせることで、禁煙成功率は高まります。しかし、すぐに禁煙しようとしない無関心期にある患者さんの場合、本数を減らすという選択肢もあります。コクランによると、禁煙する前に喫煙本数を減らすのと、ただちに完全禁煙する場合では、同程度の禁煙成功率であるとのエビデンスが報告されています1)。徐々に減らす場合には、1~2週間後に禁煙するという目標を立てることが大切です。新型コロナ感染症にはACE2受容体が関係するとの報告がありますが、喫煙はACE2受容体の発現を増加させます。喫煙が新型コロナウイルス感染症の重症化に深く関わることを上手に説明して、禁煙に真摯に向き合ってもらえるといいですね。 ■患者さんとの会話でロールプレイ医師最近、タバコの本数はいかがですか?患者今、テレワークになって家にずっといるんですが、子供も家にいるのでタバコが吸いづらくて。医師なるほど。確かに、ご家族にとっては受動喫煙になりますからね。患者そうなんです。妻から、「家の中では吸わないで」と言われていて…。医師どこで吸っておられるんですか?患者外に出て吸っています。近くに喫煙所もないし、マンションのベランダも喫煙禁止なので。医師なるほど。喫煙室も3密ですし、吸える場所がだんだん少なくなってきましたね。患者そうなんですよ。医師ところで、喫煙が新型コロナの重症化に深く関わっているのはご存じですか?患者やっぱり、そうですよね。そろそろ、禁煙しないといけないとは思っているんですが。医師これをきっかけに、禁煙について真剣に考えてもいいかもしれませんね。患者はい。けど、スパッと禁煙する自信がなくて。医師そんな人でも禁煙できる方法がありますよ!(前置きする)患者それはどんな方法ですか?(禁煙の準備についての話に進む)■医師へのお勧めの言葉「コロナをきっかけに、禁煙について真剣に考えてみませんか?」1)Lindson N, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2019;9:CD013183.2)Berlin I, et al. Nicotine Tob Res. 2020 Apr 03. [Epub ahead of print]3)Vardavas CI, et al. Tob Induc Dis. 2020;18:20.4)Seys LJM, et al. Clin Infect Dis. 2018;66:45-53.5)Brake SJ, et al. J Clin Med. 2020;9:841.

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女性における脳心血管病対策は十分といえるのか?(解説:有馬久富氏)-1243

 世界のさまざまな所得水準の27ヵ国において20万人以上の一般住民を対象に疫学調査を継続しているPURE研究から、脳心血管病の男女差に関する成績がLancet誌に報告された1)。その結果、脳心血管病の既往のない女性の1次予防においては、男性と同等あるいはそれ以上に、高血圧に対する降圧療法、脂質異常症に対するスタチン、糖尿病に対する血糖降下療法が実施されていた。また、女性における初発脳心血管病のリスクは、男性の約4分の3と有意に低く、この結果は、すべての所得レベルおよびすべての地域に当てはまった。 一方、脳心血管病の既往がある女性の2次予防においては、男性に比べて十分な対策が行われていないことが明らかになった。たとえば、抗血小板薬やスタチンを処方されている女性の割合は、男性の3分の2程度であった。また、高血圧に対して降圧薬を処方されている女性の割合も、男性より有意に低かった。さらに、冠動脈疾患の既往がある女性をみると、男性に比べて心カテ等の検査やPCI等の治療が十分に行われていない可能性も示唆された。このような状況であっても、低・中所得国における彼女らの脳心血管病再発リスクは男性よりも低かった。しかし、高所得国における女性の脳心血管病再発リスクは男性と同等あるいはやや高い傾向にあった。1次予防の成績で示されたように元来女性の脳心血管病リスクは低いものと思われるが、2次予防においては、十分な予防対策や医療介入が行われていないために、女性の脳心血管病再発リスクが高まっている可能性がある。 東アジアからPURE研究に参加しているのは中国だけなので、本研究の結果をそのまま日本に当てはめてよいかはわからない。しかし、日本においても、脳心血管病リスクの低い印象を有する女性において、2次予防戦略が手薄になってしまうことはありうることなのかもしれない。女性であっても、脳心血管病の既往がある場合は高リスク者であることをきちんと認識し、2次予防対策(危険因子のコントロール、抗血栓療法、定期検査、早期の治療介入)を徹底することが大切と考えられる。

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HFrEF患者の死亡率はこの20年で半分になった!(解説:絹川弘一郎氏)-1242

 HFrEFの治療薬は2000年くらいにはACE阻害薬とβ遮断薬が基礎治療薬で、数年のうちにARBとMRAが出そろった。エナラプリルとカルベジロールが第1世代のHFrEF治療薬であろうか。ARBはやや遅れてスタートしたので1.5世代薬くらいの印象である。ただACE阻害薬に優るエビデンスはなく多くは咳が出たときの代替薬なので、大きなインパクトではない。MRAについては古くからスピロノラクトンがあるもののunderuseが続き、2011年により忍容性の高いエプレレノンが登場したが、現在の実臨床でもファーストラインで投与される率はまだ低い。しかし、ARNIが2014年にPARADIGM-HF試験1)でHFrEFに対しACE阻害薬を上回る効果を示し、2019年にはSGLT2阻害薬が非糖尿病HFrEFでも有効と証明してみせた。対象は限定的であるが2010年にイバブラジンも予後改善効果を示した。このように2010年代はHFrEF治療の第2世代薬(ARNI、SGLT2阻害薬、イバブラジン)が登場したまさにパラダイムシフトのdecadeであった。それを総括する論文がこのLancet誌である。 この論文はEMPHASIS-HF2)のプラセボ群をコントロールにおいて、そこからEMPHASIS-HFとPARADIGM-HFとDAPA-HF3)の実薬群におけるイベント抑制の効果を、ある数学モデルを使用して計算推定したというものである。EMPHASIS-HFのプラセボ群は90%近くACE阻害薬とβ遮断薬で基礎治療されており、第1世代治療の代表例としてふさわしい。また3つの試験はそれぞれエプレレノンを追加、エナラプリルをsacubitril-バルサルタンに切り替え、ダパグリフロジンを追加、であるため、3つを統合解析するとβ遮断薬にMRAとSGLT2阻害薬を加え、かつACE阻害薬またはARBをARNIに切り替えた、4剤併用の効果が見られるというものである。その解析の詳細はまったく理解していないが、実は次の表を見てもらいたい。3つの試験の各エンドポイントに対する実薬ハザード比である。心血管死心血管死+心不全入院心不全入院全死亡EMPHASIS-HF0.760.630.580.76PARADIGM-HF0.820.740.700.83DAPA-HF0.800.800.790.843つを掛けたもの0.500.370.320.53 表に示したように、3つの試験のハザード比を掛けた数字はこの解析で出てきたものと寸分違わない。この20年で得られた予後改善効果がこの数値である。だいたい心不全入院が3分の1になって、死亡率が半分になっているのは大変喜ばしいことで、これにイバブラジンとvericiguatも加わるし、CRTやMitraClipもカウントされていない。全部合わせたら死亡率は1990年代の3分の1くらいになっているかもしれない。ただ、非常に難しい計算をした結果が、ただ掛け算したのと一緒とはこれいかに?

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「ダイアート」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第3回

第3回 「ダイアート」の名称の由来は?販売名ダイアート®錠 30mg/60mg一般名(和名[命名法])アゾセミド(JAN)効能又は効果心性浮腫(うっ血性心不全)、腎性浮腫、肝性浮腫用法及び用量ダイアート錠30mg通常成人1日1回2錠(アゾセミドとして60mg)を経口投与する。 なお、年齢・症状により適宜増減する。ダイアート錠60mg通常成人1日1回1錠(アゾセミドとして60mg)を経口投与する。 なお、年齢・症状により適宜増減する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)1.無尿の患者[本剤の効果が期待できない。]2.肝性昏睡の患者[低カリウム血症によるアルカローシスの増悪により肝性昏睡が悪化するおそれがある。]3.体液中のナトリウム、カリウムが明らかに減少している患者[電解質異常を起こすおそれがある。]4.デスモプレシン酢酸塩水和物(男性における夜間多尿による夜間頻尿)を投与中の患者5.スルフォンアミド誘導体に対し過敏症の既往歴のある患者※本内容は2020年6月10日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2019年8月改訂(改訂第11版)医薬品インタビューフォーム「ダイアート錠® 30mg/60mg」2)三和化学研究所:医薬品一覧

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パチシラン継続投与でTTR型FAPの症状が改善/アルナイラム

 アルナイラム社は、欧州神経学会バーチャル会議2020でトランスサイレチン(TTR)型家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)のRNAi治療薬パチシラン(商品名:オンパットロ)の国際共同試験の長期結果と同所性肝移植後に病状が進行した患者を対象とした治療の中間データを発表した。 TTR型家族性アミロイドポリニューロパチーは、TTR遺伝子の変異が原因で生じる進行性の難治性疾患で、患者数は全世界で約5万人と推定される。障害発生率と死亡率はきわめて高く、診断からの生存期間の中央値は4.7年、心筋症を発症した患者では3.4年とさらに短くなる。 オープンラベル継続投与(OLE)国際共同試験では、パチシランを24ヵ月間継続および追加投与したところ、ポリニューロパチーの症状およびQOLの改善が維持されたことが報告された。2020年3月の時点で、OLE国際共同試験に継続登録された13例の患者は6年以上パチシランによる治療を継続し、RNAi治療の臨床経験としては最長の結果が得られているという。 また、同所性肝移植後の患者を対象とした試験の中間データでは、これら患者団においてもTTRノックダウンが示され、パチシラン治療が広範な患者にベネフィットをもたらす可能性が示唆された。24ヵ月継続でニューロパチーの進行を抑止 現在進行中のパチシランの長期有効性および安全性を評価するOLE国際共同試験は、適格とされた患者(n=211)で行われており、パチシランを42ヵ月間継続投与された患者では、補正神経障害スコアが+7(mNIS+7)スコアおよびNorfolk QOL-糖尿病性ニューロパチー(QOL-DN)スコアともに低下するなど、第III相試験のベースラインと比較してニューロパチー障害およびQOLの改善が維持された。また、第III相試験でプラセボ投与後に、OLE試験でパチシランを24ヵ月間投与された患者では、ニューロパチーの進行に対する顕著な抑止効果とQOLの改善が認められた。同所性肝移植後に病状が進行した患者でも血清TTR値を低下 欧州で行われている同所性肝移植(OLT)後に病状が進行したTTR型家族性アミロイドポリニューロパチー患者を対象にしたパチシランの安全性、有効性、および薬物動態(PK)を評価する第IIIb相オープンラベル試験の中間解析データも発表された。この試験は、OLT後に疾患進行した(多発神経障害性能力障害[PND]スコアに基づく)23例の患者に、パチシラン点滴静注(0.3mg/kg)を3週間ごとに投与したもの。パチシラン投与3週間後の血清TTR値のベースラインからの平均低下率は81.9%だった。中間安全性解析時(2019年12月9日時点のカットオフ)のパチシランの安全性プロファイルは、第III相試験で認められ、報告された安全性プロファイルと一貫していた。OLT 後のパチシラン投与の安全性、有効性、およびPKは、進行中の本試験で引き続き検討されるという。パチシランの特徴 パチシランは、遺伝性ATTRアミロイドーシスを適応として承認されたRNAi治療薬で、わが国ではTTR型家族性アミロイドポリニューロパチーを適応症に承認されている。同治療薬は、原因となるTTRを標的とし、TTRメッセンジャーRNAを分解し、TTRタンパク質が作られる前にその産生を阻害するように設計されている。肝臓でのTTRの産生を阻害し、体内組織でのTTRの蓄積を減少させることで、本疾患に伴うポリニューロパチーの進行を停止または遅延させる働きを持つ。 点滴薬のため潮紅、背部痛、悪心などのインフュージョン・リアクションが認められ、副作用としては上気道感染などが報告されているほか、治療ではビタミンAの補充も推奨されている。

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COVID-19による静脈血栓症、入院前に発症か/JAMA

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症患者では、Dダイマーと凝固系での凝固促進変化、この感染症に関連する静脈および動脈血栓症の上昇率が報告されている。現時点でのさまざまな論文報告によると、ICUに入室したCOVID-19患者の死亡率は50%と高い。とくに動脈・静脈での血栓イベント発症の報告は多く、末梢静脈血栓塞栓症は27~69%、肺塞栓症は最大23%も発生している。 フランス・CCN(centre cardiologique du nord saint denis)のJulien Nahum氏らが観察研究を行った結果、深部静脈血栓症の発症割合は79%と高く、早期発見と抗凝固療法を迅速に開始することで予後を改善する可能性が示唆された。また、抗凝固薬を予防投与したにもかかわらず、ICU入室後わずか2日で患者の15%が深部静脈血栓症を発症したことから、COVID-19のICU患者すべてにおいて系統的に抗凝固療法を評価する必要があるとしている。JAMA Network Open 2020年5月29日号のリサーチレターに報告した。 研究者らは、2020年3月中旬~4月初旬、フランス・パリ郊外にある病院の集中治療室(ICU)に入室したCOVID-19重症患者(急性呼吸窮迫症候群を起こし、人工呼吸を要した)を対象に深部静脈血栓症の系統的な評価を行う目的で観察研究を実施した。 研究者らは、ICU入室時、過去に炎症マーカー値の上昇を示したデータや入院時の静脈血栓症の発症率が高いことを考慮し、COVID-19患者全症例に対して下肢静脈エコーを実施。入院時の検査値が正常でも48時間後に下肢静脈エコーを行い、COVID-19の全入院患者に抗凝固療薬の予防投与を推奨した。統計分析はグラフパッドプリズム(ver.5.0)とExcel 365(Microsoft Corp)を用い、両側検定を有意水準5%として行った。 主な結果は以下のとおり。・計34例が組み込まれ、平均年齢±SDは62.2±8.6歳で、25例(78%)が男性だった。・COVID-19患者のうち26例(76%)がPCR法で診断された。 ・8例(24%)はPCR法で陰性だったが、CT画像でCOVID-19肺炎の典型的なパターンを示した。・主な併存疾患は、糖尿病(15例[44%])、高血圧症(13例[38%])、肥満(平均BMI±SD:31.4±9.0)で、深部静脈血栓症を最も発症していたのは、糖尿病(12例/15例)、次いで高血圧(9例/13例)だった。・ 26例(76%)は入院時にノルアドレナリンを、16例(47%)は腹臥位管理を、4例(12%)は体外式膜型人工肺(ECMO)を必要とした。・入院前に抗凝固療法を受けていた患者はわずか1例(3%)だった。・深部静脈血栓症は、入院時に22例(65%)、ICU入室48時間後に下肢静脈エコーを行った際5例(15%)で見られ、入院から48時間経過時点で計27例(79%)に認められた。 ・血栓症の発症部位は、両側性が18例(53%)、遠位が23例(68%)で、近位が9例(26%)だった。 ・過去に報告されたデータと比較して、今回の集団ではDダイマー(平均±SD:5.1±5.4μg/mL)、フィブリノーゲン(同:760±170mg/dL)およびCRP(同:22.8±12.9mg/dL)の値が高かった。一方、プロトロンビン活性(同:85±11.4%)と血小板数(同:256×103±107×103/μL)は正常だった。

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新型コロナで8割の診療所が患者&収入減!診療科別の違いも浮き彫りに-会員医師アンケート

 新型コロナウイルス感染症の流行拡大は、診療所・病院の経営に大きな影響を与えている。今回、ケアネットでは診療所で働く会員医師に対し、2020年4月の外来患者数・経営状態についてアンケート調査を行った。アンケートは2020年5月21(木)~25日(月)に実施し、1,000名から回答を得た。 調査は、全国のケアネット会員のうち診療所(病床数0床)で勤務する30代以上の医師を対象にインターネット上で実施。回答者の年代は50代が36.7%と最も多く、60代が32.2%、40代が17.0%、70代以上が8.1%、30代が6%だった。診療科は内科が47.5%と半数近くを占め、続いて小児科が6.9%。整形外科・皮膚科が各4.7%、循環器内科・精神科が各4.6%、などとなっている。新型コロナの影響による患者減は内科と比べて小児科が大きく皮膚科が小さい 「4月平日の外来患者数」を前年同月比で尋ねた設問では、「5~25%減った」という回答が41.2%と最多となり、「25~50%減った」が28.4%、「50%以上減った」が9.7%だった。「減った」という回答を合計すると8割に達し、新型コロナウイルス感染流行が診療所に与えた影響の大きさを確認できる。一方、新型コロナの影響による患者の減少幅には診療科ごとの違いもあり、内科と比較した場合、小児科・耳鼻咽喉科では減少幅が大きい一方で、整形外科・皮膚科・精神科は減少幅が小さい傾向が見られた。 「現時点での経営上の一番の問題」について自由回答で尋ねた設問では、「フェイスシールドなど注文していますが、1ヵ月以上たっても届かない(東京都・内科)」といった依然として続く新型コロナの影響による資材不足や「患者の受診控えによる症状の悪化が心配(京都府・消化器内科)」「隔離場所が確保できない(東京都・糖尿病・代謝・内分泌内科)」といった診療面の不安を訴える声が上がった。自由回答でも最多だったのは「外来患者数が元に戻らない(神奈川県・整形外科)」「外来患者数減少、処方日数の長期化を戻せない(広島県・内科)」といった新型コロナの影響による患者減に関する回答だ。中には「資金ショートの恐れあり、閉院検討(東京都・内科)」という深刻な内容もあった。 アンケートでは、保険診療収入の増減状況や給付金・助成金制度の利用状況についても聞いている。 アンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。新型コロナ影響で8割の診療所が患者&収入減!対策どうする?-会員医師アンケート

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ダパグリフロジンはHFrEF治療薬で決定だが、いまだメカニズムはわからない(解説:絹川弘一郎氏)-1241

 DAPA-HF1)の衝撃はすでに10ヵ月も前の話で、ただ昨年8月の時点ではまだデータ不足と仰っていた先生方も11月のAHAのころにはBraunwald先生の総説2)が出て、あっさりSGLT2阻害薬をHFrEFのファーストラインドラッグとして容認しはじめた。そして、2020年にはどんどんSGLT2阻害薬のデータが心不全領域で出てくるかと期待に満ちあふれていた矢先、新型コロナの蔓延で本家本元の感染パンデミックのさなかには、心不全パンデミックという用語も軽々とは使用し難い雰囲気である。また、学会やイベントが中止になるだけで研究がここまで減速するのかと感慨深い。このJAMA誌の論文は本年3月に発表されたものでそもそも旧聞に属する時期外れの感想文であるが、なにぶん4〜5月は私の地方でもそこそこコロナで騒然としていて、毎日対策会議なるものを開いていたため、今になってご紹介することをお許しいただきたい。 この論文はDAPA-HFのサブ解析をしただけで、その本旨はすでに元論文で示されている、糖尿病非合併HFrEF患者でも糖尿病合併HFrEFとほぼ同等の予後改善効果をダパグリフロジンが有する、ということに尽きる。背景は糖尿病患者でやや肥満であることと少しだけ腎機能が低下していることくらいで、BNPやLVEF的に言えば糖尿病患者も非糖尿病患者も同等の心不全である。しかし、古くから知られていることはここでも厳然として残っており、糖尿病患者のイベント発生率は非糖尿病患者よりざっくり言って1.5倍くらいである。ダパグリフロジンはそれをいずれも低下させているが、カプランマイヤーの曲線はDM-placebo→DM-dapa→nonDM-placebo→nonDM-dapaの順であり、ダパグリフロジンで低減させてもなお非投与の非糖尿病患者よりイベントが多いわけで、糖尿病の業の深さが知れる。これ以上どうすればいいのか、そもそも糖尿病にならないことしか長生きの方法はないようにも感じられる。 ところで、SGLT2阻害薬の有効性のメカニズムについて多くの仮説が出現したが、たとえばケトン体仮説についてはややトーンダウンなのかと思われる。非糖尿病患者でのケトン体産生はおそらくきわめて低く、実際ケトアシドーシスは発症ゼロである。尿糖増加にしても非糖尿病患者では10分の1くらいであり、浸透圧利尿として尿量増加は少ない。血液濃縮ではないと思われるヘマトクリットの増加が現在一番注目されている心不全予防メカニズムであり、この試験結果でも糖尿病の有無で差はなく増加している。ヘマトクリットの増加を近位尿細管細胞の保護効果によるエリスロポエチン産生亢進と結び付けるのが一般的であるが、そこで若干解釈に困ることが出てきている。これまでのSGLT2阻害薬の大規模臨床試験では一貫して腎保護効果が認められていたが、それはこの薬剤が糖尿病性腎症の進展を抑制する、そしてそのメカニズムとして近位尿細管におけるATP消費抑制や緻密斑におけるtubuloglomerular feedbackが想定されているゆえんであった。とくにtubuloglomerular feedbackによるhyperfiltrationの抑制がSGLT2阻害薬の腎保護効果の成因だという説明が一番しっくりする気がしていたが、この試験では糖尿病患者ですら腎保護効果が認められていない。観察期間が短いことをその理由としているようであるが、通常SGLT2阻害薬投与直後に低下したeGFRが1年後に非投与群と交差するというのが今までの結果であり、なぜDAPA-HFではそれが違うのか、そして非糖尿病心不全患者でもやはり腎保護効果が認められないのはどうしてなのか、今後心不全治療薬として考えていくうえでとても重要なことであろう。これまでの糖尿病患者に対する心血管イベントを見た大規模臨床試験では心不全患者はせいぜい10%程度しか含まれていなかったので、もしかすると心不全であるということが腎保護効果を幾分打ち消してしまうのかもしれない。また、ベースラインのeGFRが60程度であり、元々hyperfiltrationではない患者では目に見えて腎保護効果はないのかもしれないとも思ったが、CREDENCE試験3)はそうではなく、やはり心不全患者のCKDは別物か? DAPA-HFの結果自体は明白であり、今後ほかのSGLT2阻害薬でHFrEFに対する効果が示されれば完全にファーストラインドラッグになるであろうが、いまいちメカニズムがはっきりしないままエビデンスが出てしまうところは、いつもの心不全業界の慣らしということであろうか。

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「体重を気にしていたのに増えてしまった」という患者さん【Dr. 坂根の糖尿病外来NGワード】第33回

■外来NGワード「体重を減らしなさい」(わかっているけど、できない)「食事を減らしなさい」(あいまいな食事指導)「家で何か運動しなさい」(あいまいな運動指導)■解説 緊急事態宣言の発出期間は、仕事がテレワークになったり、休日の外出ができなくなったりして、どうしても運動不足になりがちです。家に閉じこもっては気分が上がらないからと、食卓を豪華にしていた人も多いかもしれません。その結果、体重を気にしていたにもかかわらず、「以前と比べて体重が増えた」と言う患者さんがいます。中には、「免疫力を高めるために食べる」と言う人もいますが、肥満気味の人では逆効果となります。海外での報告によると、新型コロナウイルス感染症の重症化には肥満が関係しており、とくに、60歳未満ではその傾向が強いようです。体重が増えると、糖尿病や睡眠時無呼吸症候群などになりやすく、そういった基礎疾患によって免疫力が低下し、感染症になりやすくなると考えられます。さらに、脂肪細胞にはACE2というタンパク質が多く発現していますが、これは、新型コロナウイルスのヒト細胞への侵入と関係しています。肥満の人は、脂肪細胞の量が多いので、新型コロナウイルスに侵入されやすいのかもしれません。ほかにも、脂肪細胞はアデノやインフルエンザなどのウイルスに感染しやすく、肺などほかの臓器にウイルスを供給している可能性があるとも考えられています。つまり、肥満自体がウイルス感染と関係しているわけです。では、どんな対策をすればよいのでしょうか。「3密」を避けることはもちろんですが、肥満を予防することが、新型コロナウイルス対策に役立つかもしれません。ただし、極端なダイエットは免疫力を低下させるので禁物です。ウィズ・コロナでも継続できる、自分に合ったダイエット法を見つけてもらいましょう。 ■患者さんとの会話でロールプレイ医師なかなか外出できなかったと思いますが、体重はいかがですか?患者テレビで「免疫力をつけるためにエネルギーをしっかり摂って」と言っていたので、よく食べていたら、体重が増えてしまって…。医師なるほど。それは痩せ過ぎなどで栄養状態がよくない人に向けた話ですね。一方で、肥満の人が新型コロナに感染すると重症化しやすいとの報告がありますよ。患者えっ、そうなんですか?(驚きの声)医師まだ仮説の段階ですが、脂肪細胞には、新型コロナにかかりやすい原因となるタンパク質がたくさん発現しているようです。肥満の人は要注意ですね。それに…患者それに?医師肥満と関連する糖尿病や睡眠時無呼吸があると、免疫力が低下しやすいです。患者ほかにもあるんですね。それじゃ、痩せないといけませんね…。(気付きの言葉)医師そうですね。太り過ぎもよくないですからね。ただし、極端なダイエットは免疫力を低下させるので厳禁です。患者それなら、何を食べたらいいですか?医師まずは、朝と晩に体重を測ってください。そうすると、自分が太りやすい食べ物と痩せやすい食べ物がわかりますよ。(方法論を伝授)患者ほうほう。医師この記録用紙に、朝と晩の体重を書いてみてください。患者はい。わかりました。(うれしそうな顔)■医師へのお勧めの言葉「肥満の人は新型コロナで重症化しやすいと報告されていますよ」「まずは、朝と晩に体重を測って、太りやすい食べ物を調べてみましょう」1)Kassir R. Obes Rev. 2020;21:e13034.2)Dietz W, et al. Obesity (Silver Spring). 2020;28:1005.3)Luzi L, et al. Acta Diabetol. 2020;57:759-764.4)Lighter J, et al. Clin Infect Dis. 2020 Apr 9. [Epub ahead of print]5)Rundle AG, et al. Obesity (Silver Spring). 2020;28:1008-1009.

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ロケルマ:45年ぶりに誕生した高カリウム血症改善薬

2020年5月20日、高カリウム血症改善薬ロケルマ懸濁用散分包5gおよび10g(一般名:ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム水和物)(以下、ロケルマ)がアストラゼネカ株式会社より発売された。ロケルマは、同疾患改善薬としては45年ぶりの新有効成分含有薬となる。アンメットニーズが高い高カリウム血症高カリウム血症は、CKD例や心不全例に高頻度に合併し、日本の300床超の病院にて治療中の患者では、全例、CKD例、心不全例、RA系抑制薬服用例のうち、6.8、22.8、13.4、14.2%に合併していると報告されている1)。そして、血清カリウムが異常高値になると致死性不整脈や心停止を引き起こしうる臨床上重大な疾患である。しかし、現在の主な治療法(食事制限、原因薬剤の減量・休止、利尿薬、陽イオン交換樹脂)では、効果発現までの時間や忍容性の問題から期待した効果が得られないこともある。ロケルマは速やかな血清カリウム値の低下を実現ロケルマは、非ポリマー無機陽イオン交換化合物の経口剤である。消化管内でカリウムイオンを選択的に捕捉し、初回投与開始後1時間から血清カリウム値の低下を示し、水分による膨潤をしないという特徴を有している。透析例および非透析例への試験結果から効果発現、持続性、安全性に期待ロケルマは、2つの国内試験(第II/III相試験、長期投与試験)および2つの国際共同試験(HARMONIZE Global試験、DIALIZE試験)の結果に基づき承認された。HARMONIZE Global試験は、高カリウム血症患者267例(うち日本人68例)を対象に、ロケルマ10gを48時間投与し、正常カリウム値に達した患者に同剤10g、同剤5gまたはプラセボのいずれかを1日1回28日間投与した試験である。補正期において、投与24および48時間後に正常カリウム値に達した患者の割合は、それぞれ63.3%および89.1%であった。主要評価項目である22日間の血清カリウム値の最小二乗幾何平均は、同剤10g群、5g群およびプラセボ群それぞれ4.4、4.8、5.3mmol/Lであり、プラセボ群と比較していずれも有意に低値となった(いずれもp<0.001)。DIALIZE試験は、血液透析患者196例(うち日本人56例)を対象に、最大透析間隔(血液透析日以外の2日間)後の血液透析前のカリウム値を4.0~5.0mmol/Lに維持するよう、ロケルマを4週間、適宜増減投与し、その後用量を変更せずさらに4週間投与した。ロケルマ群はプラセボ群と比較して奏効例(後半4週間における最大透析間隔後の4回中3回で透析前血清カリウム値が4.0~5.0mmol/Lで、レスキュー治療を受けなかった患者の割合)が有意に高かった(41.2% vs1.0%、p<0.001)。副作用としては、両試験ともに浮腫、便秘、低カリウム血症が認められている。高カリウム血症治療の指針策定を期待させる新薬高カリウム血症に45年ぶりに新有効成分含有薬が登場し、CKD例や心不全例の高カリウム血症の是正による不整脈や突然死の抑制はもちろん、ARB/ACEIの減量や厳しい食事制限の負担軽減が可能となるケースも考えられ、今後、高カリウム血症治療が変貌することは想像に難くない。一方、45年間新有効成分含有薬が出なかったということは、それだけ治療に大きな進歩がなかったことの裏返しでもある。はたして、高カリウム血症は治療開始カリウム値、目標値の明確な指針が示されておらず、医師個人個人の判断によって治療が行われている。学会から新たに高カリウム血症の治療指針が示されるかもしれない。そのような期待を抱かせる新薬が誕生した。1)Kashihara N, et al. Kidney Int Rep. 2019;4:1248-1260.

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13価肺炎球菌ワクチン、接種対象者を拡大/ファイザー

 ファイザー株式会社(本社:東京都渋谷区)は2020年5月29日、プレベナー13(R)水性懸濁注(一般名:沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン)の新たな適応として、肺炎球菌による疾患に罹患するリスクが高いと考えられる者に対する「肺炎球菌(血清型:1、3、4、5、6A、6B、7F、9V、14、18C、19A、19F および23F)による感染症の予防」の製造販売承認事項一部変更承認を取得した。今回の適応追加により、小児並びに高齢者に限らず、肺炎球菌(血清型:同)による疾患に罹患するリスクが高い方にも接種が可能となる。 肺炎球菌による疾患に罹患するリスクが高いと考えられる者は、以下のような状態の者を指す。●慢性的な心疾患、肺疾患、肝疾患又は腎疾患●糖尿病●基礎疾患若しくは治療により免疫不全状態である又はその状態が疑われる者●先天的又は後天的無脾症(無脾症候群、脾臓摘出術を受けた者)●鎌状赤血球症又はその他の異常ヘモグロビン症●人工内耳の装用、慢性髄液漏等の解剖学的要因により生体防御機能が低下した者●上記以外で医師が本剤の接種を必要と認めた者 本剤は、生後2ヵ月齢から6歳未満の小児、65歳以上の高齢者に対する肺炎球菌(血清型:同上)による侵襲性感染症を予防するワクチンとして、定期接種の対象である。なお、2019年1月現在、本剤は米国や欧州をはじめとする80ヵ国以上で生後6週から18歳未満の青年並びに全年齢の成人に対する接種が既に承認されているが、日本では6~65歳未満に対する接種への適応がなかった。2017年5月に厚生労働省へ要望書「沈降13価肺炎球菌結合型ワクチンの接種対象者拡大に関する要望」が提出され、2018年に国内第III相試験の実施を経て、今回の承認に至った。

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COVID-19へのヒドロキシクロロキン、死亡・心室性不整脈が増加か/Lancet

※本論文は6月4日に撤回されました。 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者へのヒドロキシクロロキンまたはクロロキン±第2世代マクロライド系抗菌薬による治療は、院内アウトカムに関して有益性をもたらさず、むしろ院内死亡や心室性不整脈のリスクを高める可能性があることが、米国・ブリガム&ウィメンズ病院のMandeep R. Mehra氏らの調査で示された。研究の成果は2020年5月22日、Lancet誌オンライン版に掲載された。抗マラリア薬クロロキンと、そのアナログで主に自己免疫疾患の治療薬として使用されるヒドロキシクロロキンは、多くの場合、第2世代マクロライド系抗菌薬との併用でCOVID-19治療に広く用いられているが、その有益性を示す確固たるエビデンスはない。また、これまでの研究で、このレジメンは心血管有害作用としてQT間隔延長をもたらし、QT間隔延長は心室性不整脈のリスクを高める可能性が指摘されている。6大陸671病院の入院患者の多国間レジストリ解析 研究グループは、COVID-19治療におけるヒドロキシクロロキンまたはクロロキン±第2世代マクロライド系抗菌薬の有益性を評価する目的で多国間レジストリ解析を行った(ブリガム&ウィメンズ病院の助成による)。 レジストリ(Surgical Outcomes Collaborative)には6大陸671ヵ所の病院のデータが含まれた。対象は、2019年12月20日~2020年4月14日の期間に入院し、検査で重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)が陽性のCOVID-19患者であった。 診断から48時間以内に次の4つの治療のうち1つを受けた患者と、これらの治療を受けていない対照群を解析に含めた。(1)ヒドロキシクロロキン、(2)ヒドロキシクロロキン+マクロライド系抗菌薬、(3)クロロキン、(4)クロロキン+マクロライド系抗菌薬。マクロライド系抗菌薬はクラリスロマイシンとアジスロマイシンに限定された。 診断後48時間を超えてから治療が開始された患者や、機械的換気およびレムデシビルの投与を受けた患者は除外された。 主要アウトカムは、院内死亡と新規心室性不整脈(非持続性・持続性の心室頻拍および心室細動)とした。4レジメンすべてで、死亡と心室性不整脈が増加 試験期間中にCOVID-19患者96,032例(平均年齢53.8歳、女性46.3%)が入院し、適格基準を満たした。このうち、1万4,888例が治療群(ヒドロキシクロロキン群3,016例、ヒドロキシクロロキン+マクロライド系抗菌薬群6,221例、クロロキン群1,868例、クロロキン+マクロライド系抗菌薬群3,783例)で、8万1,144例は対照群であった。1万698例(11.1%)が院内で死亡した。 交絡因子(年齢、性別、人種または民族、BMI、心血管系の基礎疾患とそのリスク因子、糖尿病、肺の基礎疾患、喫煙、免疫不全疾患、ベースラインの疾患重症度)を調整し、対照群の院内死亡率(9.3%)と比較したところ、4つの治療群のいずれにおいても院内死亡リスクが増加していた。各群の院内死亡率およびハザード比(HR)は、ヒドロキシクロロキン群18.0%(HR:1.335、95%信頼区間[CI]:1.223~1.457)、ヒドロキシクロロキン+マクロライド系抗菌薬群23.8%(1.447、1.368~1.531)、クロロキン群16.4%(1.365、1.218~1.531)、クロロキン+マクロライド系抗菌薬群22.2%(1.368、1.273~1.469)であった。 また、入院中の新規心室性不整脈のリスクは、対照群(発生率0.3%)と比較して、4つの治療群のすべてで増加していた。各群の発生率とHRは、ヒドロキシクロロキン群6.1%(HR:2.369、95%CI:1.935~2.900)、ヒドロキシクロロキン+マクロライド系抗菌薬群8.1%(5.106、4.106~5.983)、クロロキン群4.3%(3.561、2.760~4.596)、クロロキン+マクロライド系抗菌薬群6.5%(4.011、3.344~4.812)。 著者は、「これらの薬剤の有用性を示唆するエビデンスは、少数の事例研究や小規模の非盲検無作為化試験に基づいているが、今回の研究は複数の地域の多数の患者を対象としており、現時点で最も頑健な実臨床(real-world)のエビデンスをもたらすものである」とし、「これらの知見は、4つの治療レジメンは臨床試験以外では使用すべきでないことを示唆しており、無作為化臨床試験により早急に確認する必要がある」と指摘している。 なお、本論文のオンライン版は、掲載後に、使用したデータベースに問題があることが判明し、修正のうえ2020年5月29日付で再掲されている。修正の前後で結論は変わらないとされるが(https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)31249-6/fulltext)、同じデータベースを用いた他の論文を含め調査が進められており、今後、さらに修正が加えられる可能性もある。

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ARNI・β遮断薬・MRA・SGLT2阻害薬併用で、HFrEF患者の生存延長/Lancet

 左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者において、疾患修飾薬による早期からの包括的な薬物療法で得られるであろう総合的な治療効果は非常に大きく、新たな標準治療として、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)および選択的ナトリウム・グルコース共役輸送体2(SGLT2)阻害薬の併用が支持されることが示された。米国・ハーバード大学のMuthiah Vaduganathan氏らが、慢性HFrEF患者を対象とした各クラスの薬剤の無作為化比較試験3件を比較した解析結果を報告した。3クラス(MRA、ARNI、SGLT2阻害薬)の薬剤は、ACE阻害薬またはARBとβ遮断薬を併用する従来療法よりも、HFrEF患者の死亡リスクを低下させることが知られている。これまでの研究では、それぞれのクラスは異なる基礎療法と併用して検証されており、組み合わせにより予測される治療効果は不明であった。Lancet誌オンライン版2020年5月21日号掲載の報告。MRA、ARNI、SGLT2阻害薬に関する3つの臨床試験をクロス解析 研究グループは、包括的疾患修飾薬物療法と従来療法の無イベント生存期間と全生存期間の増分を推定する目的で、従来療法へのMRA追加を検討したEMPHASIS-HF試験(2,737例)、ARNIと従来療法を比較したPARADIGM-HF試験(8,399例)および従来療法へのSGLT2阻害薬追加を検討したDAPA-HF試験(4,744例)の3つの臨床試験のクロス解析を行った。 慢性HFrEF患者における包括的疾患修飾薬物療法(ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)および従来療法(ACE阻害薬またはARB+β遮断薬)の有効性を推算し、間接的に比較した。 主要評価項目は、心血管死または心不全による初回入院の複合エンドポイントとし、それぞれのエンドポイントと全死因死亡率も同様に評価した。これらの相対的な治療の影響は長期にわたり一貫していると仮定し、EMPHASIS-HF試験の対照群(ACE阻害薬またはARB+β遮断薬)に対する、包括的疾患修飾薬物療法による無イベント生存期間および全生存期間の長期的な増分を推算した。ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の包括的疾患修飾薬物療法は全生存期間も延長 包括的疾患修飾薬物療法vs.従来療法の主要評価項目に関するハザード比(HR)は、0.38(95%信頼区間[CI]:0.30~0.47)であった。心血管死(HR:0.50、95%CI:0.37~0.67)、心不全による初回入院(0.32、0.24~0.43)および全死因死亡(0.53、0.40~0.70)も包括的疾患修飾薬物療法が好ましい結果であった。 ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬の包括的疾患修飾薬物療法は従来療法と比較し、心血管死または心不全による初回入院までの無イベント期間を推定2.7年(80歳時)~8.3年(55歳時)延長し、全生存期間は推定1.4年(80歳時)~6.3年(55歳時)延長した。

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ISCHEMIA試験の解釈は難しい、試験への私見!(解説:中川義久氏)-1236

 ついに待ちに待った論文が発表された。それは、ISCHEMIA試験の結果を記載したもので、NEJM誌2020年3月30日オンライン版に掲載された。ISCHEMIA試験は、2019年AHAのLate-Breaking Clinical Trialで発表されたものの、論文化がなされていなかったのである。この試験は、安定虚血性心疾患に対する侵襲的な血行再建治療戦略(PCIまたはCABG)と至適薬物療法を優先する保存的戦略を比較したもので、侵襲的戦略は保存的戦略に比べ、虚血性冠動脈イベントや全死因死亡のリスクを抑制しないことを示した。 このISCHEMIA試験の結果については、さまざまな切り口から議論が行われているが、今回は血行再建の適応と、今後の循環器内科医の在り方、といった観点から私見を述べたい。 今後は、安定狭心症に対する冠血行再建法としてのPCIの適応はいっそうの厳格化が行われ、施行する場合には理由を明確に説明できることが必要となろう。患者の症状の改善という具体的な目標の達成のために、そのためだけにPCIをするというのは理解を得やすい説明であろう。一方で、ISCHEMIA試験の結果は、PCIやCABGはまったく役に立たないということを意味するものではない。さらに、血行再建群と保存的治療群の差異は非常に小さい(ない)ともいえ、その分だけ患者自身の考えを尊重する必要も高くなる。つまり、「シェアード・ディシジョン・メイキング(shared decision making)」の比重も増してくる。 生命予後改善効果が血行再建群で認められないことにも言及したい。冠血行再建で改善が見込まれる虚血という因子以外のファクター、つまり、年齢・血圧・糖代謝・脂質・腎機能・喫煙・心不全などの要因、さらには結果としての動脈硬化の進行のスピードのほうが生命予後においてはより重要な規定因子なのである。冠動脈という全身からみれば一部の血流を治すくらいで、人は長生きするようにはならないのであろう。心臓という臓器に介入したのだから生命予後が改善するはずだ、というのは医療サイドの思い込みなのかもしれない。 循環器内科医だけでなく医師として、ISCHEMIA試験の登録基準に該当する患者が目の前にいた場合に何をどうすれば良いのか? まず何よりも生活習慣の修正を含めた至適薬物療法をすぐに開始することである。循環器内科医として患者に関与するうえで、「PCIのことしか知りません」は容認されない。心不全、不整脈、糖尿病、高血圧、慢性腎臓病、脂質低下療法、抗血栓療法などについての知識を習得し活用できることは、これまで以上に必須となる。 それにしても、ISCHEMIA試験の解釈は難しい。

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COVID-19の入院リスク、RAAS阻害薬 vs.他の降圧薬/Lancet

 スペイン・University Hospital Principe de AsturiasのFrancisco J de Abajo氏らは、マドリード市内の7つの病院で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の調査「MED-ACE2-COVID19研究」を行い、レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)阻害薬は他の降圧薬に比べ、致死的な患者や集中治療室(ICU)入室を含む入院を要する患者を増加させていないことを明らかにした。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2020年5月14日号に掲載された。RAAS阻害薬が、COVID-19を重症化する可能性が懸念されているが、疫学的なエビデンスは示されていなかった。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、そのスパイクタンパク質の受容体としてアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を利用して細胞内に侵入し、複製する。RAAS阻害薬はACE2の発現を増加させるとする動物実験の報告があり、COVID-19の重症化を招く可能性が示唆されている。一方で、アンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)は、アンジオテンシンIIによる肺損傷を抑制する可能性があるため、予防手段または治療薬としての使用を提唱する研究者もいる。また、RAAS阻害薬は、高血圧や心不全、糖尿病の腎合併症などに広く使用されており、中止すると有害な影響をもたらす可能性があるため、学会や医薬品規制当局は、確実なエビデンスが得られるまでは中止しないよう勧告している。他の降圧薬と入院リスクを比較する症例集団研究 研究グループは、COVID-19患者において、RAAS阻害薬と他の降圧薬による入院リスクを比較する目的で、薬剤疫学的な症例集団研究を実施した(スペイン・Instituto de Salud Carlos IIIの助成による)。 2020年3月1日~24日の期間に、マドリード市内の7つの病院から、PCR検査でCOVID-19と確定診断され、入院を要すると判定された18歳以上の患者を連続的に抽出し、症例群とした。対照群として、スペインの医療データベースであるBase de datos para la Investigacion Farmacoepidemiologica en Atencion Primaria(BIFAP)から、症例群と年齢、性別、地域(マドリード市)、インデックス入院の月日をマッチさせて、1例につき10例の患者を無作為に抽出した。 RAAS阻害薬には、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、ARB、アルドステロン拮抗薬、レニン阻害薬が含まれた(単剤、他剤との併用)。他の降圧薬は、カルシウム拮抗薬、利尿薬、β遮断薬、α遮断薬であった(単剤、RAAS阻害薬以外の他剤との併用)。 症例群と対照群の電子カルテから、インデックス入院日の前月までの併存疾患と処方薬に関する情報を収集した。主要アウトカムは、COVID-19患者の入院とした。重症度にかかわらず、入院リスクに影響はない 症例群1,139例と、マッチさせた対照群1万1,390例のデータを収集した。年齢(両群とも、平均年齢69.1[SD 15.4]歳)と性別(両群とも、女性39.0%)はマッチしていたが、心血管疾患(虚血性心疾患、脳血管障害、心不全、心房細動、血栓塞栓性疾患)の既往(オッズ比[OR]:1.98、95%信頼区間[CI]:1.62~2.41)と、心血管リスク因子(高血圧、脂質異常症、糖尿病、慢性腎不全)(1.46、1.23~1.73)を有する患者の割合が、対照群に比べ症例群で有意に高かった。 RAAS阻害薬の使用者では、他の降圧薬の使用者と比較して、入院を要するCOVID-19のリスクに有意な差は認められなかった(補正後OR:0.94、95%CI:0.77~1.15)。また、ACE阻害薬(0.80、0.64~1.00)およびARB(1.10、0.88~1.37)のいずれでも、他の降圧薬に比べ、入院を要するCOVID-19の有意な増加はみられなかった。これらの薬剤は、単剤および他剤との併用でも、入院リスクに有意な影響はなかった。 性別、年齢別(<70歳vs.≧70歳)、高血圧の有無、心血管疾患の既往、心血管リスク因子に関しては、他の降圧薬と比較して、RAAS阻害薬の使用による入院を要するCOVID-19のリスクに有意な交互作用は確認されなかった。一方、RAAS阻害薬を使用している糖尿病患者では、入院を要するCOVID-19患者が少なかった(補正後OR:0.53、95%CI:0.34~0.80、交互作用検定のp=0.004)。 COVID-19の重症度を最重症(死亡、ICU入室)と、低重症(最重症以外のすべての入院患者)に分けた。いずれの重症度でも、RAAS阻害薬、ACE阻害薬、ARBは、他の降圧薬と比較して、入院を要するCOVID-19のリスクに有意な差はなかった。 これらの結果を踏まえて著者は、「RAAS阻害薬は安全であり、COVID-19の重症化を予防する目的で投与を中止すべきではない」と指摘している。

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