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THAの前方アプローチ、重大術後合併症リスクをわずかに増大/JAMA

 人工股関節全置換術(THA)において、前方アプローチは側面または後方アプローチと比較して、わずかだが統計学的に有意に重大術後合併症リスクが増大することが示された。カナダ・トロント大学のDaniel Pincus氏らが、患者3万例超を対象に行った住民ベースの後ろ向きコホート試験で明らかにしたもので、JAMA誌2020年3月17日号で発表した。THAの好ましいアプローチ法については議論の的となっている。著者は「今回の試験の結果は、アプローチ法の判断に役立つ可能性があるだろう。一方で、痛みや機能的アウトカムを明らかにする、さらなる研究を行う必要もある」と述べている。深部感染、非観血的・観血的整復法を要する脱臼などの合併症発生率を評価 研究グループは、2015年4月1日~2018年3月31日にかけて、カナダ・オンタリオ州でプライマリなTHAを受けた患者3万98例を対象に試験を行った。全患者を1年間追跡し、手術の際の前方アプローチまたは側面・後方アプローチのアウトカムを比較した(最終追跡日は2019年3月31日)。 主要アウトカムは、手術を要する深部感染、非観血的・観血的整復法を要する脱臼、再置換手術のいずれかで定義した術後1年間の重大術後合併症だった。 Cox比例ハザードモデルを用い、傾向スコアでマッチングした各アプローチ群のアウトカムを比較した。 重大術後合併症の発生、前方アプローチ群2%、側面・後方アプローチ群1% 被験者3万98例の平均年齢は67歳(SD 10.7)、女性は1万6,079例(53.4%)だった。そのうち、THAを前方アプローチで実施したのは2,995例(10%)、側面アプローチは2万1,248例(70%)、後方アプローチは5,855例(20%)だった。後方アプローチは1病院の1人の外科医によって実施された(全体では73病院・施術外科医298人)。 前方アプローチ群は側面・後方アプローチ群と比較して、年齢が若く(平均年齢65歳vs.67歳、標準化群間差:0.17)、病的肥満率(4.8% vs.7.6%、0.12)、糖尿病の割合(14.2% vs.19.9%、0.15)、高血圧症の割合(53.4% vs.62.9%、0.19)が低く、また執刀経験値が高い外科医が多かった(症例中央値111[四分位範囲:69~172]vs.77[50~119])。 傾向スコアでマッチングした前方アプローチ群(2,993例)と側面・後方アプローチ群(2,993例)を比較したところ、重大術後合併症の発生はそれぞれ61例(2%)と29例(1%)で、前方アプローチ群で高率だった(絶対リスク差:1.07%[95%信頼区間[CI]:0.46~1.69]、ハザード比:2.07[95%CI:1.48~2.88])。

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自転車通勤は負傷リスクを上げるか?/BMJ

 自転車通勤は、公共交通機関や自動車による通勤と比較して、がんの診断や心血管イベント、死亡が少ない一方で、負傷で入院するリスクが高く、とくに輸送関連事故による負傷リスクが高いことが、英国・グラスゴー大学のClaire Welsh氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2020年3月11日号に掲載された。英国では、自転車通勤は傷病への罹患や死亡のリスクが低いとされてきた。また、国民の自転車通勤への理解の主な障壁は、主観的および客観的な交通の危険性だが、これまでに得られた自転車と負傷に関するエビデンスの質は高くないという。通勤手段別の負傷リスクを評価する前向きコホート研究 研究グループは、自転車通勤と負傷のリスクの関連を評価する目的で、地域住民ベースの前向きコホート研究を行った(Chest, Heart, and Stroke Association Scotlandの助成による)。 解析には、UK Biobankのデータが用いられた。対象は、英国の22の地域から登録された通勤者23万390人(平均年齢52.4歳、女性52.1%)。典型的な一日で、往復の通勤に利用する輸送方式別に比較した。 徒歩、自転車、徒歩を含む混合型(非活動型+徒歩)、自転車を含む混合型(自転車+他の輸送方式)の通勤と、非活動型(自動車/エンジン駆動の乗り物、公共交通機関)の通勤とを比較した。 主要アウトカムは、初回の負傷による入院とした。自転車移動距離が長いと、負傷リスクも高い 5,704人(2.5%)が、自転車が主な通勤の輸送方式と答えた。非活動型通勤者(17万8,976人[77.5%])と比較して、自転車通勤者は年齢がわずかに若く、BMIが低く、白人男性が多く、現喫煙者や心血管疾患、糖尿病、がん、長期の疾患の病歴を持つ者が少なかった。 フォローアップ期間中央値は8.9年(IQR:8.2~9.5)で、この間に全体で1万241人(4.4%)が負傷による入院または負傷で死亡(29人)した。負傷の内訳は、自転車通勤が397人(7.0%)、非活動型通勤は7,698人(4.3%)だった。負傷の発生率は、自転車通勤が1,000人年当たり8.06件と、非活動型通勤の1,000人年当たり4.96件に比べて高く(p<0.001)、自転車を含む混合型通勤(6.99件/1,000人年)でも高い傾向がみられた。 社会人口統計学や健康、生活様式に関連する主要な交絡因子を補正すると、自転車通勤は非活動型通勤に比べ、負傷のリスクが高かった(ハザード比[HR]:1.45、95%信頼区間[CI]:1.30~1.61)。自転車を含む通勤でも、同様の傾向が認められた(1.39、1.29~1.50)。徒歩は、負傷のリスク上昇とは関連がなかった。 自転車通勤と自転車を含む通勤では、通勤中の自転車での移動距離が長いほど、負傷のリスクが高くなったが、非活動型通勤では、通勤距離は負傷のリスクとは関連しなかった。また、自転車通勤は、外的要因が輸送関連事故の場合は、負傷者数が非活動型通勤の約3.4倍多く(発生率比:3.42、95%CI:3.00~3.90、p<0.001)、自転車を含む通勤でも約2.6倍だった(2.62、2.37~2.91、p<0.001)。 自転車通勤と自転車を含む通勤は、自転車以外での通勤に比べ、心血管疾患(HR:0.79、95%CI:0.69~0.90)、がんの新規診断(0.89、0.84~0.94)、全死因死亡(0.88、0.78~1.00)のリスクが低かった。また、10年間に1,000人が自転車または自転車を含む通勤に変更した場合、負傷による新規入院は26件(1週間以内の入院23件、1週間以上の入院3件)増加するのに対し、がんの新規診断は15件減少し、心血管イベントは4件、死亡は3件減少すると推定された。 著者は、「これらの自転車通勤のリスクは、活動的な通勤による健康上の有益性との関連において考察すべきであり、英国における自転車のより安全な基盤設備の必要性を強調するものである」と指摘している。

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動脈硬化リスクの早期発見、見過ごしがちな値とは/日本動脈硬化学会

 動脈硬化と悪玉コレステロール増加の結びつきをよく知っている患者でも、TG(トリグリセライド、中性脂肪)値の増加は肥満者だけのものと捉えてはいないだろうかー。2020年2月21日、日本動脈硬化学会はプレスセミナー「食後高脂血症と動脈硬化」を開催。増田 大作氏(りんくうウェルネスケア研究センター センター長)が「食後高脂血症」について、矢作 直也氏(筑波大学医学医療系 准教授)が「糖尿病と動脈硬化」について講演した。TG値の増加をリポ蛋白で知る 動脈硬化に影響を及ぼす脂質の値は、健康診断を受ける人にとって気になる項目だ。増田氏によると「企業健診受診者の3分の1になんらかの脂質異常症が存在している」という。この脂質異常症の有無が動脈硬化リスクの判定材料となるわけだが、近年はコレステロール値だけではなくTG値の上昇が心血管疾患の増加因子として問題視されている。実際、将来の冠動脈疾患や脳梗塞発症の死亡予測に重要なことが、日本動脈硬化学会が発表した2017年版動脈硬化性疾患予防ガイドライン1)にも記されている。 TG値は、通常食後3時間程でピークとなり、徐々に低下して6~8時間で空腹時の値へ戻る。しかし、冠動脈疾患患者や糖尿病患者などでは、食後TG値の上昇が緩やかに続きピークが後ろ倒しとなり、8時間経過してもまだ高いことから、空腹時のTG値上昇につながる。この非空腹時(食後)TGが高値な病態は“食後高脂血症”と呼ばれ、動脈硬化を惹起するリポ蛋白の増加にもつながる。これを踏まえ同氏は「食後TG値が高くなるのは、食後にTGの多いレムナントリポ蛋白(とくに小腸からのカイロミクロンレムナント)が残っている証拠」と、話した。また、空腹時のみならず食後TG値にも心血管疾患イベントリスクとの相関が存在し、「空腹時TG値がほぼ正常でも非空腹時TG値が高い人は、レムナントリポ蛋白が蓄積している」と述べた。 次に同氏は動脈硬化リスク評価に有力なレムナントリポ蛋白の測定方法として、1)non-HDL-C、2)レムナントコレステロール3)アポB-48濃度測定の3つを挙げた。同氏はこれらの測定法について、「Non-HDLコレステロール測定はもっとも簡易的な反面、LDLコレステロールの上昇も反映するのでレムナント単独の変動がわかりにくい。レムナントコレステロール測定(RemL-C法など)は直接的定量的な評価が可能だが3ヵ月に1回しか算定ができないなどのデメリットがあり、対象者や測定タイミングに悩む医師が多い。アポB-48濃度測定は空腹時のカイロミクロンレムナントを測定するので、食生活や食材の影響を評価できる可能性があるが、まだ保険収載されていない」とそれぞれの長短について説明した。 最後に食後高脂血症を防ぐ方法として「薬物治療も重要だが、まずはThe Japan Dietのような動脈硬化を抑える食事の導入や定期的な運動が極めて重要」とコメントした。脂質異常症治療は糖尿病患者の血管に恩恵与える 糖尿病は動脈硬化性疾患の重要な危険因子であり、前述のガイドライン1)で動脈硬化性疾患の高リスクに分類されている。さらに、糖尿病患者では発症早期から血糖値のみならず脂質値、血圧値の厳格な管理を包括的に行う必要がある、とも記載されている。これらを踏まえ、矢作氏は糖尿病と動脈硬化の関係について解説した。 代表的な脂質異常症治療薬であるスタチン系薬剤では投与後早期に糖尿病に伴う心血管イベントの抑制が報告されている。一方で、インスリンを含む血糖降下薬の場合、投薬期間が5~10年程度では大血管障害に対する治療効果は乏しい。これについて同氏は「血糖降下薬の場合は、10年以上の長期経過の中でlegacy effectがみられる」と指摘した。 このような糖尿病治療の現況を前提として、同氏は指先検査を活用した糖尿病疑い症例の早期発見に努めている。東京都足立区と徳島県で、2010年10月~2017年9月に総計4,865名(希望者;ただし糖尿病治療中の人は対象外)に対して薬局での指先HbA1c検査(検体測定室)を導入したところ、糖尿病予備群疑い:701名、糖尿病疑い:515名を発見した。同氏はこの検体測定室での検査実績や既知のエビデンスを通し、「糖尿病患者の動脈硬化リスクは耐糖能異常などの前糖尿病状態から既に上昇していることが示されている。動脈硬化を予防するためには、前糖尿病の段階から早期発見、早期介入が必要である」と、締めくくった。

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COVID-19患者、ウイルス排出期間中央値が20日/Lancet

 新型コロナウイルスへの感染が確認された成人入院患者について調べたところ、高齢、高Sequential Organ Failure Assessment(SOFA)スコア、Dダイマー値1μg/L超が、院内死亡リスク増大と関連することが示された。また、生存者のウイルス排出期間中央値は20.0日であった。中国・北京協和医科大学付属医院のFei Zhou氏らが、患者191例について行った後ろ向きコホート研究を報告した。Lancet誌オンライン版2020年3月9日号掲載の報告。1月末までに退院・死亡した患者を比較 研究グループはCOVID-19患者について、疫学的および臨床的特性は報告されているが、死亡リスク因子やウイルス潜伏期間など詳細な臨床経過は十分に描出されていないことから今回、後ろ向き多施設コホート研究を行った。 対象は、中国湖北省武漢市の金銀潭病院とWuhan Pulmonary Hospitalに入院し、2020年1月31日までに退院または死亡した18歳以上の患者。患者に関する人口統計学的特性、臨床、治療、ウイルスRNA検出のために連続的に採取された検体に関する情報などの検査データを電子医療記録から抽出し、生存者と非生存者の比較を行った。 単変量および多変量解析を行い、入院中の死亡と関連したリスク因子を調べた。年齢1歳増加で死亡リスクは1.1倍に 解析対象患者は191例(金銀潭病院135例、Wuhan Pulmonary Hospital 56例、年齢中央値56.0歳[範囲:18~87]、男性62%)で、そのうち137例が退院し、入院中の死亡は54例だった。 対象患者のうち91例(48%)は併存疾患があり、そのうち高血圧症が最も多く58例(30%)、糖尿病36例(19%)、冠動脈性心疾患15例(8%)だった。 多変量解析の結果、院内死亡リスク増大と関連していたのは、入院時において、高齢(1歳増加当たりのオッズ比[OR]:1.10、95%信頼区間[CI]:1.03~1.17、p=0.0043)、高SOFAスコア(OR:5.65、95%CI:2.61~12.23、p<0.0001)、Dダイマー値が1μg/L超(同:18.42、2.64~128.55、p=0.0033)だった。 生存者におけるウイルス排出期間中央値は20.0日(IQR:17.0~24.0)であったが、非生存者は死亡までCOVID-19の起因ウイルス(SARS-CoV-2)が検出可能だった。なお生存者においてウイルス排出が観察された最長期間は37日だった。 結果を踏まえて著者は、「医師が患者の予後不良を予見可能なリスク因子として、初期段階で高齢、高SOFAスコア、Dダイマー値が1μg/L超であることだ」と述べるとともに、「ウイルス排出が長期にわたることは、今後の感染患者の隔離および最適な抗ウイルス治療戦略の理論的根拠となる」とまとめている。

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新型コロナ感染拡大防止でオンライン服薬指導が可能に【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第44回

新型コロナウイルスに関する報道が始まって以降、患者さんから新型コロナウイルスに関する問い合わせは増え続けているのではないでしょうか。一般的な公衆衛生や感染予防の知識はあっても、情報が錯綜している中で最新の情報を収集し、一般の方々に提供するというのは本当に難しいことだと身をもって感じています。そのような中、新たな感染拡大を防ぐ目的で、厚生労働省が事務連絡を発出しました。厚生労働省は3月2日までに、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染防止を目的とした電話やテレビ電話での診察について、医療機関は「オンライン診療料」(月70点)ではなく「電話等再診料」(月73点)を算定すると明確化した。処方箋を発行し、FAXなどで薬局に送付した場合は「処方箋料」も算定できる。(2020年3月3日付 RISFAX)新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、2月28日に厚生労働省より事務連絡「新型コロナウイルス感染症患者の増加に際しての電話や情報通信機器を用いた診療や処方箋の取扱いについて」が発出されました。内容としては、高血圧症や糖尿病などの慢性疾患で何度も同じ病院にかかっている患者さんに対しては、病院に来なくても電話などで医師の診察を受けることができ、処方箋情報をFAXで薬局に流すことでいつもの薬を渡すことができますよ、というものです。感染拡大を防止するためによい取り組みだと思いますが、いくつか注意点があるので薬局に関わるFAX処方箋調剤の流れを抜粋して紹介します。患者さんからFAXなどで処方箋情報を受け付けた薬局は、処方箋の真偽を確認するため、処方医が所属する医療機関に処方箋の内容を確認する。直接医療機関からFAXなどで処方箋情報を受け付けた場合は、上記の真偽確認は不要。医療機関から処方箋原本を入手するまでの間は、FAXなどにより送付された処方箋情報を「処方箋」と見なして調剤を行う。服薬指導は電話や情報通信機器を用いて行うことができる。調剤した薬剤は、当該薬剤の品質の保持や、確実な授与がなされる方法で患者さんへ渡す。長期処方に伴う患者さんの服薬アドヒアランスの低下や薬剤の紛失などを回避するため、調剤後も必要に応じてフォローする。(「新型コロナウイルス感染症患者の増加に際しての電話や情報通信機器を用いた診療や処方箋の取扱いについて」(2020年2月28日厚生労働省医政局医事課、医薬・生活衛生局総務課事務連絡)より改変)患者さんからのFAXの場合と、医療機関からのFAXの場合では扱いが異なることに注意が必要です。原則は医療機関から処方箋情報を送ることになりますが、もし患者さんからFAXが送られてきた場合は、その内容に疑義がなくても医療機関に確認することが求められています。患者さんが複数の薬局にFAXを送って、複数の薬局から重複して薬を受け取ることを避けるためです。薬の受け渡し方法や支払い方法は各薬局が定めることになりますが、私の周りでは宅配便で薬を配送し、支払いは再来局時などの後払いという薬局が多そうです。後で処方箋原本を受け取ることを忘れないようにしましょう。また、同日に報酬の取り扱いに関するQ&Aも発出されています。それによると、FAXなどで処方箋情報を受け付けた薬局がその処方箋情報を基に調剤を行った場合でも、調剤技術料および薬剤料は算定することができます。また、電話で服薬指導を行った場合に、その他の要件を満たしていれば、薬剤服用歴管理指導料などを算定することも可能ですので、普通の処方箋を受け付けた場合と同様の対応となりそうです。患者さんへの対応を薬歴へ記載する必要がありますので、薬局内で十分に記録を残す旨の情報共有をしましょう。2018年度の診療報酬改定でオンライン診療に関する評価が新設され、2020年度の改定でも点数構成が見直されましたが、オンライン服薬指導については国家戦略特区内で実証的に行われているのみです。今回の対応はあくまでも新型コロナウイルス対策ですが、薬機法が改正されると特区以外でもオンライン服薬指導は可能になりますので、普及きっかけになればいいなと思っています。個人的にはこのご時世にまだFAXか…というちょっと落胆した気持ちもありますが。※本コラムは2020年3月18日に掲載いたしましたが、その後2020年4月10日に新たな通知「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」が発出され、本コラムで紹介した通知は廃止されています。

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毎日1個の卵、アジア人は心血管疾患リスク低下の可能性/BMJ

 卵の中等度の消費(最大1日1個まで)は、心血管疾患全般のリスクを増加させず、アジア人ではむしろリスクを低下させる可能性があることが、米国・ハーバード公衆衛生大学院のJean-Philippe Drouin-Chartier氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2020年3月4日号に掲載された。卵の消費と心血管疾患リスクの関連は、この10年間、激しい議論を呼ぶ主題となっているが、これまでに得られた知見では結論が出ていないという。コホート研究とこれを含むアップデートメタ解析 研究グループは、卵の摂取と心血管疾患リスクの関連を評価する目的で前向きコホート研究を行い、この研究結果を含めたアップデートメタ解析を実施した(米国国立衛生研究所[NIH]などの助成による)。 米国の3つのコホート研究(Nurses’ Health Study[NHS、1980~2012年]、NHS II[1991~2013年]、Health Professionals’ Follow-Up Study[HPFS、1986~2012年])のデータが用いられた。ベースライン時に心血管疾患や2型糖尿病、がんに罹患していない集団(NHS[女性]8万3,349例、NHS II[女性]9万214例、HPFS[男性]4万2,055例)が解析に含まれた。 卵摂取の頻度で6つの群(月1個未満、月1~4個未満、週1~3個未満、週3~5個未満、週5~7個未満、1日1個以上)に分けた。卵は、卵黄を含む全卵とし、焼いた製品(例 ケーキ)や液状卵、卵白のみの場合は除外された。 主要アウトカムは、初発の心血管疾患(非致死的心筋梗塞、致死的冠動脈性心疾患、脳卒中)とした。 次いで、今回の研究と既報の前向きコホート研究のアップデートメタ解析が行われた。卵消費量が相対的に低い点に留意 米国の3つのコホート研究では、最長32年のフォローアップ期間(554万人年以上)に、1万4,806例が初発の心血管疾患を発症した。卵の消費量は、多くの参加者が週に1~5個未満だった。 卵の摂取量が多い参加者ほど、BMIが高く、身体活動が少なく、喫煙者が多かった。また、卵摂取量の多い参加者は、スタチン治療の割合や心筋梗塞の家族歴が少なく、2型糖尿病が多かった。さらに、高い卵摂取量は、高いカロリー摂取量と関連し、未加工の赤身肉、ベーコン、その他の加工肉、精製穀物、ジャガイモ、高脂肪分牛乳、コーヒー、砂糖入り飲料の摂取量が多かった。 多変量統合解析では、卵摂取と関連のある生活様式や食事因子で補正すると、1日1個以上の卵消費は、初発心血管疾患のリスクと関連しなかった(1日1個以上と月1個未満の比較のハザード比[HR]:0.93、95%信頼区間[CI]:0.82~1.05、p=0.16、1日1個増加のHR:0.98、0.92~1.04)。冠動脈性心疾患(p=0.22)および脳卒中(p=0.53)にも有意な関連は認められなかった。 一方、アップデートメタ解析では、この研究を含む28件の前向きコホート研究(日本のNIPPON DATA80、NIPPON DATA90などのデータを含む)が対象となった。 このアップデートメタ解析(リスク指標[risk estimate]33個、参加者172万108例、心血管疾患イベント13万9,195件)では、1日の卵摂取が1個増えても、心血管疾患リスクは増加しなかった(統合相対リスク[RR]:0.98、95%CI:0.93~1.03、I2=62.3%)。同様に、卵摂取量が最も多い集団と少ない集団の間にも、心血管疾患リスクには差がなかった(0.99、0.93~1.06、52.9%)。 冠動脈性心疾患(リスク指標21個、参加者141万1,261例、イベント5万9,713件、統合RR:0.96、95%CI:0.91~1.03、I2=38.2%)および脳卒中(22個、105万9,315例、5万3,617件、0.99、0.91~1.07、71.5%)についても、1日の卵摂取が1個増えた場合のリスクに差はなかった。いずれの疾患も、最高摂取量集団と最低摂取量集団の間にリスクの差はみられなかった。 卵摂取の1日1個増加と心血管疾患リスクの関連に関する地理的な層別解析(相互作用のp=0.07)では、米国(RR:1.01、95%CI:0.96~1.06、I2=30.8%)と欧州(1.05、0.92~1.19、64.7%)のコホートでは関連がなかったのに対し、アジア人のコホート(リスク指標10個、参加者68万5,147例、イベント9万100件、0.92、0.85~0.99、I2=44.8%)では逆相関の関係が認められた。 著者は、「この研究に含まれるコホートの平均的な卵消費量は相対的に低い。週に1~5個未満の参加者が多く、1日1個以上の参加者は相対的に少ないため、結果を解釈する際は、この消費レベルを考慮する必要がある」と指摘している。

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持続血糖測定器「FreeStyle リブレ」に新たな保険適用

 アボット ジャパン合同会社は、フラッシュグルコースモニタリングシステム 「FreeStyle リブレ」(以下「リブレ」)に、2020年4月1日より新たな保険が適用されると発表した。 リブレは、組織間質液中のグルコース値を記録するセンサーと、その測定値を読み取って表示するリーダーから構成され、500円玉大のセンサーを上腕後部に装着し、グルコース値を毎分測定する。センサーは防水性で、最長14日間装着でき、リーダーをセンサーにかざしスキャンするだけで、グルコース値を測定することができる持続血糖測定器。わが国では2017年9月1日より保険適用となっている。リブレによる従来までの血糖自己測定器の保険適用も維持 今回の診療報酬改定では、これまでの血糖自己測定の回数に応じた保険項目に加え、リブレを主とした新たな「間歇スキャン式持続血糖測定器によるもの」という項目が設定され、リブレを主とした糖尿病の日常の自己管理を行うことが、この診療報酬の枠組みの下で可能となる。 この「間歇スキャン式持続血糖測定器によるもの」という新規保険項目は、強化インスリン療法施行中の患者または強化インスリン療法施行後に混合型インスリン製剤を1 日2 回以上使用している患者に適用される。ただ、従来までの血糖自己測定器の保険適用も維持されるため、新規項目での保険適用の対象とならないインスリン療法を受けている患者であっても、現在と同じ基準に基づき、リブレで血糖自己測定器加算の下で保険適用となる。 今回、新たな保険項目の設定で、医療従事者は対象患者に対して、血糖自己測定の回数に縛られることなく保険適用でリブレを処方することができるようになる。

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インスリンポンプ療法に特化したQOL尺度を新規開発

 最近の1型糖尿病に対する先進的な糖尿病関連デバイスは、持続血糖モニタリング(CGM)や持続皮下インスリン注入療法(CSII)など、めざましい進歩を遂げている。 とくにインスリンポンプ療法は、毎回煩雑な手順を踏んで注射しなくてよいため、食事の際や高血糖時など、目標の血糖まで速やかに修正できるなどのメリットがある。一方、常に装着しておかなければならず、装着部位のかゆみや服の制約などのデメリットもある。 従来、インスリンポンプ療法の使用に関して、全般的なQOL尺度しかなかった。そこで、坂根 直樹氏(京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室)は、村田 敬氏(同、糖尿病センター)、利根 淳仁氏(岡山済生会総合病院)、豊田 雅夫氏(東海大学医学部)らと共に、インスリンポンプ療法に特化したQOL尺度を新規に開発した。 対象となったのは、インスリンポンプ療法を行っている15歳以上の1型糖尿病患者50例(男性28%、平均年齢:47.6±17.0歳、糖尿病歴:14.7±9.7年、CSII歴:6.1±3.3年、平均HbA1c:7.4±0.8%)。 CSIIに関するQOLを評価するために、28項目のCSII-QOLを準備した。各質問は、5点のリッカート尺度(0=まったくそうではない、1=そうではない、2=どちらともいえない、3=そのとおりだ、4=まったくそのとおりだ)を使用し、負の影響項目の逆スコアリングとして回答を得た。 主な結果は以下のとおり。・28項目について因子分析を行ったところ、「インスリンポンプ療法は高血糖の修正に役立つ」など「利便性」について6項目、「インスリンポンプの療法のために余暇の活動(レジャーや趣味)が制限される」など「社会的制約」が9項目、「インスリンポンプの装着は不快である」「自動車やバイク運転時の低血糖が不安である」など「心理的負担」が10項目の計3因子、25項目が抽出された。・サンプルサイズの妥当性は許容範囲内(Kaiser-Meyer-Olkin=0.669)であり、内部一貫性(クロンバックのα信頼性係数=0.870)も妥当であった。・Intra-class correlation coefficients(ICC)=0.65であり、相当な再現性(0.61以上)も得られた。・糖尿病問題領質問表(PAID)とCSII-QOLとの間には、有意な負の相関があった(Kendall's Tau-b=0.468、p<0.001)。・HbA1cとCSII-QOLに、有意な相関関係はみられなかった。 坂根氏は「今までは全般的なQOL尺度しかなかったが、本尺度を用いることでインスリンポンプ療法の比較や介入による効果も測定することができるようになった。ぜひ、活用していただきたい」とこれからの展望を述べた。

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第18回 高齢糖尿病患者の脂質管理、目標値や薬剤選択は?【高齢者糖尿病診療のコツ】

第18回 高齢糖尿病患者の脂質管理、目標値や薬剤選択は?Q1 治療介入の必要な値、介入後の目標値は? 80歳以上でも同じように管理しますか?心血管イベントの発症はADL低下や要介護状態を招き、QOLを低下させうるため、予防が重要です。高齢者においてもスタチンは冠動脈疾患の2次予防効果のエビデンスがありますので、2次予防の患者さんには年齢にかかわらずできるだけ投与、継続しています。患者さんの忍容性があれば、動脈硬化性疾患診療ガイドラインに準拠して通常の成人同様にLDL-C<100mg/dLを目標としています。1次予防については、少なくとも前期高齢者においては、高LDL-C血症に対するスタチン投与による心血管イベント減少が認められていることから、投与を考慮します。レベルとしては、やはりガイドラインに従い、糖尿病患者では冠動脈疾患高リスク群になりますので、LDL-C<120mg/dLを目標としています。75歳以上の高齢者に対する1次予防介入エビデンスはほとんどありません。Cholesterol Treatment Trialists’ (CTT) Collaborationの最新のRCTのメタアナリシスでも、2次予防では有効でしたが、1次予防では有効性が示されませんでした1)。一方で、2019年に本邦75歳以上のハイリスク高LDL-C血症患者に対する、エゼチミブ単独投与の有用性を検討したEWTOPIA75の結果が発表され、エゼチミブ投与群では心臓突然死・心筋梗塞・冠血行再建術、脳卒中の複合イベントが34%減少しました2)。これは糖尿病患者に限った研究ではありませんが、治療を考慮する年齢が引き上げられる可能性があります。ただし、これら介入試験の多くは外来通院可能な比較的健康な患者さんを対象としています。認知症やフレイルがあったり施設入所されている患者さんに対し、スタチンが1次、2次にかかわらず心血管イベントを減少させたという明確なエビデンスはありません。80代や90代の患者さんについても同様です。私は、これらの患者さんには2次予防の場合はできるだけ治療を行うが、1次予防には厳格なコントロールは不要ではないかと考えています。Q2 TG高値への介入は? 定期的なエコーが必要な症例TG高値自体が高齢者の心血管疾患を増やすという明確なエビデンスはありません。ただし、とくに肥満を伴う高TG血症では低HDL-C血症や高nonHDL-C血症を伴うことが多く、本邦の観察研究におけるサブ解析において、前期高齢者で高nonHDL-C血症が致死的冠動脈疾患の発症と関連したという報告があります3)。高齢糖尿病患者への介入研究(J-EDIT, 平均年齢71歳)の2次解析でも、nonHDL-Cが高値の群(≧163mg/dL)で全死亡や糖尿病関連イベントが増加しました(図)4)。肥満症例ではメタボリック症候群(Mets)を伴っていることが多く、Metsはインスリン抵抗性を生じ、前期高齢者では心血管疾患発症と関連するという報告が複数あります。後期高齢者のMetsと心血管疾患発症の関連は明らかではありません。画像を拡大するしたがって、前期高齢者でMets合併例やnonHDL-Cが高い症例では治療を考慮します。この場合、運動、アルコール/糖質の過剰摂取是正指導に加え、必要によりフィブラート等を併用し、nonHDL-C<150mg/dLを目指します。TGの値が下がりすぎて問題となることはほとんどありませんが、もともとTGが著明に低い人の中に低栄養が隠れていることがあるので注意が必要です。一方後期高齢者、および前期高齢者でもMetsや低HDL-C血症・高nonHDL-C血症を伴わないTG単独高値の場合はよほどの高値でない限り経過をみることもあります。なお、著明なTG高値は膵炎発症のリスクとなり、発症時の重症度にも影響するといわれているため、TGが500mg/dLを超えるものには膵炎予防の観点からも介入を考えます。一方、TG高値のものの中に、肝機能障害を伴っているものがあります。アルコール多飲は原因の1つとなりますが、飲酒がなくても肥満、脂肪肝をきたし、インスリン抵抗性を呈して肝炎や線維化が進行する病態(NASH)があります。NASHは肝硬変、肝細胞がんに至ることもあるため、このような症例では定期的に肝臓のエコーを行っておくとよいでしょう。Q3 薬剤選択と投与量の考え方について教えてくださいQ1で述べたように心血管イベント予防に対し最もエビデンスがあるのはスタチンですが、EWTOPIA75の結果により、エゼチミブ投与の有効性も注目されています。PCSK9阻害薬は FHまたは冠動脈2次予防でスタチン最大量にエゼチミブ併用でもLDL-Cが目標値に達しない場合に使用され、かつ2週間あるいは4週間に1回自己注射を行わなければならず、高齢者で適応となる症例は一部に限られます。やはりスタチン投与が中心になるでしょう。米国心臓協会(AHA)が2019年1月に発表した、「スタチンの安全性と有害事象に関する声明」によると、スタチン投与による重篤な横紋筋融解症の発症頻度は0.01%程度ときわめてまれです(AHA)5)。高齢者ではリスクが上昇することが知られているものの、年齢だけでスタチンを回避する理由にはしていません。またCKD患者自体が冠動脈疾患のハイリスクになっているので、腎疾患患者でもスタチンは投与します。腎機能低下例だからといって、使用できないスタチンはありませんが、横紋筋融解症の多くは高用量のスタチン使用と関連するため、高齢者では常用量の最小量からはじめ漸増しています。また脱水を避けるように指導します。スタチンとフィブラートの併用はともに横紋筋融解症のリスクがあるため、腎機能低下リスクの高い高齢者ではとくに注意して投与します。LDL-CとTGの両者が高い場合は、スタチン使用を優先し、フィブラートに変えてEPA含有製剤やエゼチミブを併用する場合もあります。なお、フィブラートは中等度以上の腎不全では単独でも横紋筋融解症のリスクがあるため中止します。スタチンが重篤な肝障害を起こすことはさらにまれであり、0.001%程度と報告されています5)。肝機能障害を懸念して投与を行わない、ということは通常ありません。Q4 逆に減薬できるのはどんなときか前述のとおり、冠動脈疾患の2次予防症例ではできる限りスタチンは継続としています。75歳以上の1次予防で投与されている場合には、老年医学会も主治医判断としているように、ケースバイケースです。最近、スタチンの中断によって、心血管イベントによる入院が増えるという後ろ向きコホート研究の結果が報告されましたが6)、白人のデータで、糖尿病患者でのサブ解析では有意差が認められず、まだまだエビデンスが不足していると考えられます。私たちはまず、コレステロールが明らかに低値の患者さんには減量、中止を試みています。長期間減量することによるリバウンドが懸念される場合は、次回外来の1週間前から減量するなどして変化を確かめています。コレステロールが比較的高値のものでも、たとえば認知機能の低下があるポリファーマシーの患者さんで、服薬間違いがむしろリスクになるという患者さんなどでは中止を考慮しています。また余命が1年以内と見込まれるエンドオブライフの患者さんにおいても、投薬の中止はむしろQOL向上に寄与する可能性があり、中止を考慮します。一方、認知機能やADLが保たれている患者で、LDLがかなり高値だったり(たとえば≧180mg/dL)、頸動脈に不安定プラークがあったりするものでは継続することが多いです。1)Cholesterol Treatment Trialists' Collaboration. Lancet. 393: 407-415, 2019.2)Ouchi Y, et al.Circulation.140: 992-1003, 2019.3)Ito T, et al. Int J Cardiol.220: 262-267, 2016.4)Araki A, et al. Geriatr Gerontol Int.12.Suppl 1:18-28, 2012.5)Newman CB, et al. Arterioscler Thromb Vasc Biol.39: e38-e81, 2019.6)Giral P, et al. Eur Heart J.40:3516-3525, 2019.

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低用量アスピリンの投与で低・中所得国における早産率が有意に低下―日本でも大規模周産期センターでは一考の価値あり(解説:前田裕斗氏)-1198

 早産は低・中所得国においては新生児死亡の大きな原因の1つであり、予防戦略が最も大事な分野である。一方、早産率自体は世界全体ではここ10年でほぼ横ばいであり、予防についてもなかなか有効な戦略が見いだせていない現状がある。低用量アスピリンは周産期医療においては妊娠高血圧症候群の予防目的に用いられることが多いが、最近になって胎盤形成期における抗炎症作用から早産についての予防効果も叫ばれるようになってきている。そうした背景を基に、今回の研究ではインド、パキスタンやアフリカ諸国を対象に、アスピリン投与による早産の予防効果を見た大規模RCTが行われた。結果の詳細は別稿に譲るが、アスピリン投与群で有意に早産率が低下(34週未満、37週未満ともに)、とくに妊娠高血圧症候群を伴う34週未満の早産率が有意に低下した。また、死産、周産期死亡率も低下した。一方で妊娠高血圧症候群の頻度そのものは低下しなかった。 アスピリン投与による予防効果を見た大きな研究はほかに二つある。1つは妊娠高血圧腎症(高血圧症候群の重症型)の高リスク患者を対象にした研究を集めたメタアナリシスであり、34週未満、37週未満の早産でともに早産率の有意な低下を認めた。もう1つの研究は妊娠高血圧腎症の低リスク患者約2,500例を対象としたRCTであり、こちらは34週未満の早産率の有意な低下を認めたが、37週未満の早産率低下については有意な差を認めなかった。今回の研究では早産率が全体の11~13%、34週未満の早産が約3%、妊娠高血圧症候群が約6%であり、明らかな高リスク集団ではないため、対象集団に問題ありということではない。先行研究と比べてもサイズが大きく、介入の手軽さからしても低・中所得国の早産予防戦略については一石を投ずる論文といえるだろう。 さて、日本においてこの結果は適応可能だろうか。日本における早産率は約6%と本研究の集団よりも低く、妊婦健診をはじめとした周産期管理自体も異なるため、論文のように日本ですべての妊婦にアスピリンを投与することの利点があるかどうかははっきりしない。一方で妊娠高血圧症候群を伴う34週未満の早産率が減少したことや、先行研究のメタアナリシスを考えれば、妊娠高血圧症候群のリスクが高い妊婦、つまり高齢初産、高度生殖医療での妊娠、糖尿病や高血圧合併妊娠などが多い分娩施設ではこの戦略をとる価値がある可能性が高い。周産期センター、とくに5都府県のような妊婦の高年齢化が進む地域では検討してもよいのではないだろうか。日本では妊娠高血圧症候群の予防として保険適用が通っていないこともあり積極的に処方されない傾向もあるが、低用量アスピリンの処方に対するハードルを下げる時期がきているのかもしれない。

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マザーゲーム(後編)【女性同士の人間関係、どうすればいいの?(「女心」へのコミュニケーションスキル)】Part 1

今回のキーワードオキシトシン選ばれる性多様性人間関係の流動化バウンダリー「共感の押し付け」人間関係の目的化集団のルールの緩和化「女心」はなぜ「ある」の?-女性性の進化心理「女心」(女性性)とは、つながりやすさ(共感性)、気付きやすさ(感受性)、受け身になりやすさ(安全性)という3つの心理があることが分かりました。それでは、そもそも「女心」はなぜ「ある」のでしょうか? 「女心」の3つの心理に重ねながら、その起源を進化の歴史から探ってみましょう。私たちの体が原始の時代から進化してきたのと同じように、実は私たちの脳、つまり心も進化してきました。ここから、「女心」の進化を、3つの段階に分けてみましょう。(1)子育てする性-共感性約2億年前に誕生した哺乳類は、母親が子どもを哺乳する、つまりお乳を与えて育てるというメカニズムを進化させました。もともとお乳を出しやすくするオキシトシンというホルモンは、その後に、母親がお乳を欲する子どもの気持ちになる働きもするようになりました。これが、共感性の起源です。「女心」の進化の1つ目の段階は、子育てする性になったことです。(2)選ばれる性-感受性約700万年前に誕生した人類は、男性が獲った食料を女性にプレゼントして、そのお返しとして、女性がその男性とセックスして、生まれた子どもを育てるように進化したことです(性別役割分業)。オキシトシンは、お乳を欲する子どもの顔色だけはでなく、プレゼントをくれる男性たちの顔色や自分の格付けにも敏感になる働きもするようになりました。こうして、ある女性が選ばれるということは、それ以外の女性、つまり自分は選ばれなかったことになり、傷付くわけです。これが、感受性の起源です。「女心」の進化の2つ目の段階は、選ばれる性になったことです。(3)家を守る性-安全性約300万年前の人類は、男性(父親)と女性(母親)とその子どもたちの家族が血縁によっていくつも集まって、共同生活をするように進化しました(生活共同体)。オキシトシンは、男性(父親)たちが狩りに出かけて家を空けている数日間に、子どもたちを守るために、女性(母親)たちの近所付き合いがスムーズになる働きもするようになりました。そのために、危険になりうる異質なものをできるだけ排除しようとするわけです。これが、安全性の起源です。「女心」の進化の3つ目の段階は、家を守る性になったことです。 「女心」にどうすればいいの?-「女心」へのコミュニケーションスキル「女心」(女性性)の起源は、子育てする性、選ばれる性、家を守る性という3つの進化の段階があることが分かりました。つまり、「女心」は、そもそも「ある」ものです。ただし、ここで誤解がないようにしたいのは、だからと言って、そのままでいいと言うわけではないです。たとえば、私たちが甘いものをつい口にしてしまうのは原始の時代に生存のために進化した嗜好です。だからと言って、飽食の現代に甘いものを食べ過ぎて糖尿病になることを私たちは決して良しとはしないです。むしろ逆に私たちは食生活を意識しています。これと同じです。原始の時代と違って、豊かで安全で個人の自由が認められた現代の社会構造では、必ずしも、女性が男性に選ばれて、子育てをして、家を守る必要はなくなりました。男性も女性に選ばれて、子育てをして、家を守る選択肢があります。そんな多様性の時代に、「女心」にどうすれば良いでしょうか? どんなコミュニケーションを意識すれば良いでしょうか? 希子がまさにお手本になります。彼女のコミュニケーションスキルを参考にしながら、3つのポイントに分けて、一緒に考えてみましょう。 次のページへ >>

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ロピナビル・リトナビルで治療したCOVID-19/日本感染症学会

 3月3日、日本感染症学会(理事長:舘田 一博)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の特設ページの中で、宮下 馨氏(国際医療福祉大学熱海病院 糖尿病代謝内科)らによる「ロピナビル・リトナビルで治療した新型コロナウイルス肺炎(COVID-19)の症例報告」を公開した。 症例報告は、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号に乗船の70代・女性の症例。搬送時には無症状であったものの、のちに高熱と肺炎を生じ、抗HIV薬であるロピナビル・リトナビル配合剤(商品名:カレトラ)で治療を行ったもの。投与後は自覚症状の改善があり、入院後20日間でPCRの陰性化を確認し、退院に至った。症例の経過 2/4 PCR検査を実施し、陽性 2/7 当院に転送(入院時身体症状なし、X線・CT検査所見ともに肺炎像なし) 2/8 検温で37.4℃の発熱(19時) 2/9 検温で39.1℃(16時)。身体症状は倦怠感のみ、CT検査所見で左上葉や右中葉背側部にすりガラス影主体の陰影が出現 2/10 検温では38℃台で経過し、咳嗽や咽頭痛が顕在化 2/11 再度のCT検査でそれぞれの肺野異常陰影が拡大、悪化。カレトラの投与を開始する方針となった 2/12 カレトラ配合錠1回2錠(400/100mg)を1日2回、10日間の計画で投与開始 2/13 夜間に副作用と思われる水様下痢が出現。強い倦怠感は消失 2/14 解熱とともに、下痢に対し整腸剤を処方 2/16 CT検査所見では引き続き病変が増悪。新出病変も認められていた 2/21 CT検査所見で病変の改善が得られた 2/22と/25に喀痰検体によるPCRを実施し、ともに陰性。臨床症状改善とPCR陰性化を確認 2/26 退院重症化予防には肺炎診断を得た時点で治療介入 宮下氏らは考察として「高齢であり、重症化のリスクがあると判断し臨時の倫理委員会の審査のもと早期の介入を決定した」「画像所見の増悪に反し臨床経過は改善に転じており、本例の経過に限って言えばカレトラの投与は好意的に評価して良い」「酸素化低下などの重症化の徴候を待たず、肺炎の診断を得た時点で早期に治療介入を行うことで重症化の阻止、致命率の低下をもたらすことができるかもしれない」とレポートしている。 なお、今回の報告は通常のレポート公開ではなく、緊急性、重要性を鑑み、学会からの緊急報告としてのホームページでの情報公開のお願いにより公開されたものである。

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COVID-19肺炎初期~中期にシクレソニドで改善、国内3症例の詳細

 国内における新型コロナウイルス感染症の患者を多く出したダイヤモンドプリンセス号。患者の一部について治療に当たった神奈川県立足柄上病院は3月2日、喘息治療の第1選択薬である吸入ステロイド薬のシクレソニドの投与により症状が改善した3例について、日本感染症学会のホームページにその詳細を報告した。いずれもCOVID-19による酸素化不良やCT所見などが見られたが、薬剤投与により良好な経過を得ているという。 症例の臨床的特徴や経過については、以下のとおり。症例1:73歳女性 2020年1月20日にダイヤモンドプリンセス号乗船、25日に香港に上陸。2月4日より咽頭痛、 倦怠感、食欲不振を認め、7日には38℃の発熱が出現。翌8日に検体が提出され、10日にPCR検査にてSARS-CoV-2陽性の判定となり、11日下船後、当該病院に搬送された。 入院時の採血では抗核抗体1,280倍で、手指の色調不良もあり、強皮症が疑われた。胸部レントゲンでは右下肺野に浸潤影を認め、CTでは両側中下肺野にかけてすりガラス陰影(GGO)が胸膜に沿って認められた。 当初は倦怠感が強く、ほとんど臥床状態であり、食事もできない状態であった。疎通不良や見当識障害も見られた。維持輸液およびセフトリアキソン、アジスロマイシンを開始したが改善せず、ロピナビル・リトナビル(LPV/r)を開始。解熱し、酸素化も改善したが、食欲は改善せず倦怠感が著明。GGOの陰影が増強し、領域の拡大も認められた。LPV/rの有害事象と見られる症状も出現したため、LPV/r中止後、シクレソニド吸入(200μg、1日2回)を開始(入院10日目)。開始後2日程度で発熱および酸素化が改善。食欲の回復も著明で、全身倦怠感も改善し、室内独歩可能に。鼻腔拭いPCRでSARS-CoV-2陰性を確認し、退院となった(入院19日目)。症例2:78歳男性 2020年1月20日にダイヤモンドプリンセス号乗船。2月6日より乾性咳嗽、倦怠感、食欲不振、下痢が出現し、固形物はほとんど食べられなくなった。37.4℃の発熱も見られた。16日のPCR検査でSARS-CoV-2陽性となり、16日に当該病院に入院した。 初診時の身体所見では、咽頭発赤やリンパ節腫脹はなく、肺野呼吸音に異常雑音はなかった。入院当初の胸部レントゲンでは右下肺野に浸潤影が認められた。入院5日目よりシクレソニド吸入(200μg、1日2回)を開始。来院時より水様便が持続し、食事もほとんど摂れない状態だったが、入院6日目から食欲が徐々に改善。下痢も回復し普通便となった。入院6日目には酸素中止が可能となり、倦怠感も改善。食事もほぼ全量摂取できるまでに回復した。咽頭拭いPCRでは、入院12日目の施行時にも陽性となり、シクレソニドを1,200μg/日(400μg、1 日3回)に増量して継続中。症例3:67歳女性 2020年1月20日にダイヤモンドプリンセス号乗船。2月6日より乾性咳嗽、8日より倦怠感、関節痛が出現。9日には38.9℃の発熱あり、その後食欲不振および下痢が出現し、食事がほとんどとれなくなった。16日のPCR検査でSARS-CoV-2陽性となり、そのまま当該病院に入院となった。 初診時の身体所見では、咽頭発赤やリンパ節腫脹はなく、肺野呼吸音に異常雑音はなかった。入院当初の胸部レントゲンでは右中肺野肺門部に浸潤影が認められた。来院時より倦怠感を認め、ベッドで横になっていることが多かった。食事は半量程度。増悪予防を目的として入院5日目からシクレソニド開始。入院6日目には胸部聴診で背側部からfine crackleが聴取され、CTでは両側下肺野背側にGGOを認めた。引き続き、シクレソニド投与のみで経過観察したところ、入院7日目ごろにはほとんどの症状が改善した。咽頭拭いPCRでは、入院12日目の施行時にも陽性となり、シクレソニドを1,200μg/日(400μg、1日3回)に増量して継続中。現在までの知見および考察・COVID-19に対し、シクレソニドの抗ウイルス作用と抗炎症作用が、重症化しつつある肺炎治療に有効であることが期待される。ただし、シクレソニド以外の吸入ステロイドには、COVID-19の抗ウイルス作用は現時点では認められない。・これまでの研究で、COVID-19に対するステロイド治療は、ウイルス血症を遷延させる可能性や糖尿病等の合併症があり推奨されないと報告されているが、シクレソニドはプロドラッグの吸入薬であり、肺の表面に留まるため、血中濃度増加はごく微量である。・投与時期は重症化する前の、感染早期〜中期あるいは肺炎初期が望ましく、ウイルスの早期陰性化や重症肺炎への進展防止効果が期待される。・新型コロナウイルスの増幅時間は6~8時間と考えられ、シクレソニドを頻回投与かつ肺胞に充分量を到達させるため、高用量投与を推奨する。・残存ウイルスの再活性化および耐性ウイルスの出現を避けるため、開始後は14日程度以上継続するのが望ましい。・ウイルスは肺胞上皮細胞で増殖しているため、吸入はできるだけ深く行うことが効果を高めると考えられる。・これらの知見から、以下の投与方法を提案する。 適応:COVID-19陽性確定者の肺炎 用法容量: (1)シクレソニド200μgを1日2回、 1回2吸入、14日分 (2)シクレソニド200μgを1日3回、 1回2吸入、約9日分・(1)を基本とし、重症例、効果不十分例に対しては(2)を検討する。

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第24回 外食ランチの糖質量比較~1日の糖質量を把握する~【実践型!食事指導スライド】

第24回 外食ランチの糖質量比較~1日の糖質量を把握する~医療者向けワンポイント解説適切な糖質量については個々で見解が分かれますが、食事療法を実践する上で長期的に継続できる、患者さんの嗜好に配慮できる、糖尿病の予防・管理に対してのエビデンスを踏まえて糖質量を考えることが必要です。日本においても各栄養について、推定必要量や栄養素比率などが定められていますが、「糖尿病の予防・管理のための望ましいエネルギー産生栄養素比率」を設定する明確なエビデンスは、今のところありません。米国糖尿病学会の2019年版診療ガイドラインにおいても、「総エネルギーの適正化を念頭に個別化を図ること。低炭水化物食(糖質制限)は短期的には血糖コントロール改善に役立ち、投薬を減らせる可能性があるが、長期継続は困難で大半の人は元の栄養バランスに戻り、効果は持続しない」とされています。また、国内の糖尿病診療ガイドライン2019には、「炭水化物摂取量と糖尿病の発症リスク、糖尿病の管理状態との関連性は確認されていない」と記されています。しかし、日常の食生活を考えると、糖質は過多になる傾向が強くあります。これは、糖質を多く含む菓子類やジュース、スポーツドリンクなどの嗜好飲料、アルコール飲料などの摂取過多がひとつの原因となります。また、外食においてはファーストフードや丼物、麺類などが手軽に食べやすいことから、食生活の癖によって摂取する糖質量は大きく変化していきます。日本人の食事摂取基準2020年版では、成人の目標量は「炭水化物:50〜65%エネルギー、タンパク質:13〜20%エネルギー、脂質:20〜30%エネルギー」となっています。この基準をもとに、外食での糖質量摂取についての比較を掲載しました。今回の掲載基準は、1日に必要な摂取カロリー(kcal)を1600kcalと想定しています。炭水化物を50%エネルギーとして計算すると、糖質は800kcal分になります。炭水化物は4kcal/gですので、1日の糖質量の目安は200g、1日3食とした場合、1食あたり66.7gとなります。牛丼を食べた場合、並盛りで糖質量が約90〜100gとなり、1食で1/2日分の糖質を摂取することになります。米飯だけではなく、甘く煮る調理法によっても糖質量が上がることを意識する必要があります。カレーには、米飯のほかルゥにも糖質が含まれ、1食の糖質量は約100〜130gとさらに多くなります。ハンバーガー類の糖質量は約30〜40gと抑えられますが、一方で脂質に偏りがちです。また、同時にフライドポテトなどを追加するとさらに糖質量が増えていきます。そば、うどんは、約60〜120gと米飯1膳ほどです。比較的ボリュームが少なく大盛りにしがちな麺類は、単体よりもトッピングを意識すると満足度が上がります。糖質をむやみに減らそうとするだけでは、食事療法の継続は難しく、また栄養バランスを崩す原因となります。1日の糖質量の目安を理解したうえで、患者さん自身がどのぐらいの糖質量を摂取しているかを把握することが大切です。

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処方薬が自主回収に 処方理由を掘り下げた代替薬の提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第16回

 製薬会社からの「自主回収のお知らせ」は、ある日突然アナウンスされます。「代替薬はどうしますか?」と医師に丸投げするのではなく、服用理由や副作用リスクを考慮しながら代替薬を提案しましょう。患者情報80歳、男性(在宅)基礎疾患:慢性心不全、心房細動、高血圧症、糖尿病、症候性てんかん、甲状腺機能低下症既 往 歴:1年前に外傷性くも膜下出血で入院服薬管理:一包化処方内容1.エドキサバン錠30mg 1錠 分1 朝食後2.アゾセミド錠60mg 2錠 分1 朝食後3.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後4.トルバプタン錠7.5mg 1錠 分1 朝食後5.レボチロキシンナトリウム錠50μg 1錠 分1 朝食後6.カルベジロール錠2.5mg 2錠 分2 朝夕食後7.メトホルミン錠250mg 2錠 分2 朝夕食後8.リナグリプチン錠5mg 1錠 分1 朝食後9.テルミサルタン錠20mg1錠 分1 朝食後10.ラメルテオン錠8mg 1錠 分1 夕食後11.ミアンセリン錠10mg 1錠 分1 夕食後本症例のポイントこの患者さんの訪問薬剤管理指導を始めてから3ヵ月目に、MSDよりミアンセリン錠10mgの自主回収(クラスII)のアナウンスが入りました。理由は、安定性モニタリングにおいて溶出性が承認規格に適合せず、効果発現が遅延する可能性があるとのことで、使用期限内の全製品の回収と出荷停止が行われました。そこで、医師にミアンセリンから代替薬への変更を提案することにしました。服用契機は、入院中にせん妄が生じたため処方されたと記録されていました。また、以前からこの患者さんには不眠傾向があり、睡眠薬の代替としていることも考えられました。高齢者では、ベンゾジアゼピン系睡眠薬により、せん妄や意識障害のリスクが懸念されるため、5HT2a受容体遮断作用により睡眠の質を改善するとともに、H1受容体遮断作用により睡眠の量も改善するミアンセリンが代替薬として少量投与されることがあります。なお、ラメルテオンもせん妄リスクのある患者で有効とするデータもあり、ベンゾジアゼピン系睡眠薬のリスクを回避しつつ、せん妄と不眠症の両方の改善を目指していると思われました1)。これらの背景を考慮したうえで、代替薬としてトラゾドンを考えました。トラゾドンは、弱いセロトニン再取り込み阻害作用と、強い5HT2受容体遮断作用を併せ持つ薬剤です。睡眠に関しては、全体の睡眠時間を増加させ、持続する悪夢による覚醒やレム睡眠量を減らす効果を期待して処方されることもあり、せん妄と不眠症を有するこの患者さんには最適と考えました。処方提案と経過医師に「ミアンセリン自主回収に伴う代替薬」という表題の処方提案書を作成し、トラゾドンへの変更を提案しました。標準用量では過鎮静やふらつき、起立性低血圧など薬剤有害事象の懸念があると考え、少量の25mgを提案し、認知機能や運動機能低下の有害事象をモニタリング項目として観察することを記載しました。その結果、医師の承認を得ることができました。処方変更後、過鎮静やふらつきなどはなく、せん妄の再燃や入眠困難、中途覚醒などの症状もなく経過しています。1)Hatta K, et al. JAMA Psychiatry. 2014;71:397-403.2)山本雄一郎著. 日経ドラッグインフォメーション編. 薬局で使える 実践薬学. 日経BP社;2017.3)Sateia MJ, et al. Journal of Clinical Sleep Medicine. 2017:13;307-349.doi: 10.5664/jcsm.6470.

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プロピオン酸血症〔PA:Propionic acidemia〕

1 疾患概要■ 概念・定義生体内で生じる各種の不揮発酸が代謝障害によって蓄積し、代謝性アシドーシスを主徴とする各種の症状・異常所見を呈する疾患群を「有機酸代謝異常症」と総称する。主な疾患は、分枝鎖アミノ酸の代謝経路上に多く、中でもプロピオン酸血症(Propionic acidemia:PA)は最も代表的なものである。本疾患では、3-ヒドロキシプロピオン酸、メチルクエン酸などの短鎖カルボン酸が体液中に蓄積し、典型的には重篤な代謝性アシドーシスを主徴とする急性脳症様の症状で発症するほか、各種臓器に慢性進行性の病的変化をもたらす。■ 疫学新生児マススクリーニング試験研究(1997~2012年、被検者数195万人)による国内での罹患頻度は約45,000人に1人と、高頻度に発見された。ただし、これには後述する「最軽症型」が多く含まれ、典型的な症状を示す患者の頻度は約40万人に1人と推計されている。■ 病因(図)バリン・イソロイシン代謝経路上の酵素「プロピオニオニル-CoAカルボキシラーゼ(PCC)」の活性低下に起因する、常染色体劣性遺伝性疾患(OMIM#606054)である。PCCはミトコンドリア基質に発現しており、αサブユニットとβサブユニットからなる多量体である。各サブユニットは、それぞれPCCA遺伝子(MIM*232000、局在13q32.3)とPCCB遺伝子(MIM*232050、局在3q22.3)にコードされている。図 プロピオン酸血症に関連する代謝経路画像を拡大する■ 症状典型的には新生児期から乳児期にかけて、重度の代謝性アシドーシスと高アンモニア血症が出現し、哺乳不良、嘔吐、呼吸障害、筋緊張低下などから、けいれんや嗜眠~昏睡など急性脳症の症状へ進展する。初発時以降も同様の急性増悪を繰り返しやすく、特に感染症罹患が契機となることが多い。コントロール困難例では、経口摂取不良が続き、身体発育が遅延する。1)中枢神経障害急性代謝不全の後遺症として、もしくは代謝異常が慢性的に中枢神経系に及ぼす影響によって、全般的な精神運動発達遅滞を呈することが多い。急性増悪を契機に、あるいは明らかな誘因なく、両側大脳基底核病変(梗塞様病変)を生じて不随意運動が出現することもある。2)心臓病変急性代謝不全による発症歴の有無に関わらず、心筋症や不整脈を併発しうる。心筋症は拡張型の報告が多いが、肥大型の報告もある。不整脈はQT延長が本疾患に特徴的である。3)その他汎血球減少、免疫不全、視神経萎縮、感音性難聴、膵炎などが報告されている。■ 分類1)発症前型新生児マススクリーニングで発見される無症状例を指す。そのうち多数を占めるPCCB p.Y435C変異のホモ接合体は、特段の症状を発症しないと目されており、「最軽症型」と呼ばれる。2)急性発症型呼吸障害、多呼吸、意識障害などで急性に発症し、代謝性アシドーシス、ケトーシス、高アンモニア血症、低血糖、高乳酸血症などの検査異常を呈する症例を指す。3)慢性進行型乳幼児期からの食思不振、反復性嘔吐などが認められ、身体発育や精神運動発達に遅延が現れる症例を指すが、経過中に急性症状を呈しうる。■ 予後新生児期発症の重症例は、急性期死亡ないし重篤な障害を遺すことが少なくない。遅発例も急性発症時の症状が軽いとは限らず、治療が遅れれば後遺症の危険が高くなる。また、急性代謝不全の有無に関わらず、心筋症、QT延長などの心臓合併症が出現・進行する可能性があり、特に心筋症は慢性期死亡の主要な原因に挙げられている。一方、新生児マススクリーニングで発見された87例(最長20歳まで)の予後調査では、患者の大半が少なくとも1アレルにPCCB p.Y435C変異を有しており、疾患との関連が明らかな症状の回答はなかった。したがって、この群の予後は総じて良好と思われるが、より長期的な評価(特に心臓への影響)には、さらに経過観察を続ける必要がある。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)1)一般血液・尿検査急性期には、アニオンギャップ開大性の代謝性アシドーシスをはじめ、ケトーシス、高アンモニア血症、低血糖、汎血球減少などが認められる。高乳酸血症や血清アミノトランスフェラーゼ(AST・ALT)、クレアチニンキナーゼの上昇を伴うことも多い。2)タンデム質量分析法(タンデムマス、MS/MS)による血中アシルカルニチン分析プロピオニルカルニチン(C3)の増加を認め、アセチルカルニチン(C2)との比(C3/C2)の上昇を伴う。これはメチルマロン酸血症と共通の所見であり、鑑別には尿中有機酸分析が必要である。C3/C2の上昇を伴わない場合は、異化亢進状態(=アセチルCoA増加)に伴う非特異的変化と考えられる。3)ガスクロマトグラフィ質量分析法(GC/MS)による尿中有機酸分析診断確定に最も重要な検査で、3-ヒドロキシプロピオン酸・プロピオニルグリシン・メチルクエン酸の排泄が増加する。メチルマロン酸血症との鑑別には、メチルマロン酸の排泄増加が伴わないことを確認する。4)PCC酵素活性測定白血球や皮膚線維芽細胞の破砕液を粗酵素源として測定可能であり、低下していれば確定所見となるが、実施しているのは一部の研究機関に限られる。5)遺伝子解析PCCA、PCCBのいずれにも病因となる変異が報告されている。遺伝学的検査料の算定対象である。※ 2)、3)は「先天性代謝異常症検査」として保険診療項目に収載されている。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)■ 急性代謝不全の治療タンパク摂取を中止し、輸液にて80kcal/kg/日以上を確保する。有機酸の排泄促進に静注用L-カルニチンを投与する。未診断の段階では、ビタミンB12反応性メチルマロン酸血症の可能性に対するヒドロキソコバラミン(商品名:フレスミンS)またはシアノコバラミン(同:同名、ビタミンB12ほか)の投与をはじめ、チアミン(同:塩酸チアミン、メタボリンほか)、リボフラビン(同:強力ビスラーゼ、ハイボンほか)、ビオチン(同:同名)などの各種水溶性ビタミン剤も投与しておく。高アンモニア血症を認める場合は、安息香酸ナトリウムやカルグルミン酸を投与する。速やかに改善しない場合は、持続血液透析(CHD)または持続血液透析濾過(CHDF)を開始するか、実施可能施設へ転送する。■ 亜急性期〜慢性期の治療急性期所見の改善を評価しつつ、治療開始から24~36時間以内にアミノ酸輸液を開始する。経口摂取・経管栄養が可能になれば、母乳や育児用調製粉乳などへ変更し、自然タンパク摂取量を漸増する。必要エネルギーおよびタンパク量の不足分は、イソロイシン・バリン・メチオニン・スレオニン・グリシン除去粉乳(同:雪印S-22)で補う。薬物療法としては、L-カルニチン補充を続けるほか、腸内細菌によるプロピオン酸産生の抑制にメトロニダゾールやラクツロースを投与する。■ 肝移植・腎移植早期発症の重症例を中心に生体肝移植の実施例が増えている。食欲改善、食事療法緩和、救急受診・入院の大幅な減少などの効果が認められているが、移植後に急性代謝不全や中枢神経病変の進行などを認めた事例の報告もある。4 今後の展望新生児マススクリーニングによる発症前診断・治療開始による発症予防と予後改善が期待されているが、「最軽症型」が多発する一方で、最重症例の発症にはスクリーニングが間に合わないなど、その効果・有用性には限界も看取されている。また、臨床像が類似する尿素サイクル異常症では、肝移植によって根治的効果を得られるが、本疾患では中枢神経障害などに対する効果は十分ではない。これらの課題を克服する新規治療法としては、遺伝子治療の実用化が期待される。5 主たる診療科小児科・新生児科が診療に当たるが、急性期の治療は、先天代謝異常症専門医の下、小児の血液浄化療法に豊富な経験を有する医療機関で実施することが望ましい。成人期に移行した患者については、症状・病変に応じて内分泌代謝内科、神経内科、循環器内科などで対応しながら、小児科が並診する形が考えられる。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本先天代謝異常学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本マススクリーニング学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)タンデムマス・スクリーニング普及協会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)先天代謝異常症患者登録制度JaSMIn(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)島根大学医学部小児科(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)福井大学医学部小児科(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)岐阜大学大学院医学系研究科小児病態学(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)国立成育医療研究センター研究所マススクリーニング研究室(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報有機酸・脂肪酸代謝異常症の患者家族会「ひだまりたんぽぽ」(患者とその家族および支援者の会)1)日本先天代謝異常学会編集. 新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン. 診断と治療社;2019.2)山口清次編集. よくわかる新生児マススクリーニングガイドブック. 診断と治療社; 2019.公開履歴初回2020年03月02日

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スタチンは卵巣がんの発生を抑制するか/JAMA

 スタチン治療薬のターゲット遺伝子の抑制は、上皮性卵巣がんのリスク低下と有意に関連することが、英国・ブリストル大学のJames Yarmolinsky氏らによるメンデルランダム化解析の結果、示された。ただし著者は、「今回の所見は、スタチン治療薬がリスクを低減することを示す所見ではない。さらなる研究を行い治療薬においても同様の関連性が認められるかを明らかにする必要がある」と述べている。これまで前臨床試験および疫学的研究において、スタチンが上皮性卵巣がんリスクに対して化学的予防効果をもたらす可能性が示唆されていた。JAMA誌2020年2月18日号掲載の報告。HMG-CoA還元酵素、NPC1L1、PCSK9の治療的抑制をGWASメタ解析データで解析 研究グループは、3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル補酵素A(HMG-CoA)還元酵素(HMG-CoA還元酵素の機能低下と関連する遺伝子異型、スタチン治療薬のターゲット遺伝子)と、一般集団における上皮性卵巣がんの関連性、およびBRCA1/2変異遺伝子との関連性を調べる検討を行った。 HMG-CoA還元酵素、Niemann-Pick C1-Like 1(NPC1L1)、proprotein convertase subtilisin/kexin type 9(PCSK9)の治療的抑制の代替として、HMGCR、NPC1L1、PCSK9における一塩基遺伝子多型(SNPs)とLDLコレステロール低下との関連が示されている、ゲノムワイド関連解析(GWAS)のメタ解析データ(19万6,475例以下で構成)を用いた。 このGWASメタ解析のデータを用いたOvarian Cancer Association Consortium(OCAC)による浸潤上皮性卵巣がんの症例対照解析での上記SNPsに関するサマリー統計(6万3,347例)と、Consortium of Investigators of Modifiers of BRCA1/2(CIMBA)によるBRCA1/2変異遺伝子キャリアにおける上皮性卵巣がんの後ろ向きコホート解析のサマリー統計(3万1,448例)を入手して評価した。2つのコンソーシアムにおける被験者は、1973~2014年に登録され、2015年まで追跡を受けていた。OCAC被験者は14ヵ国から、CIMBA被験者は25ヵ国から参加していた。 SNPsは、multi-allelicモデルに統合され、ターゲットの終身阻害を意味するメンデルランダム化推定値を、逆分散法ランダム効果モデルを用いて算出した。 主要曝露は、HMG-CoA還元酵素の遺伝的プロキシ阻害、副次曝露は、NPC1L1とPCSK9の遺伝的プロキシ阻害および遺伝的プロキシLDLコレステロール値で、主要評価項目は、総合的および組織型特異的な浸潤上皮性卵巣がん(一般集団対象)、上皮性卵巣がん(BRCA1/2変異遺伝子キャリア対象)、卵巣がんオッズ(一般集団対象)およびハザード比(BRCA1/2変異遺伝子キャリア対象)とした。HMG-CoA還元酵素の遺伝的プロキシ阻害は卵巣がんリスク低下と有意に関連 OCACのサンプル例は浸潤上皮性卵巣がんの女性2万2,406例と対照4万941例であり、CIMBAのサンプル例は上皮性卵巣がんの女性3,887例と対照2万7,561例であった。コホート年齢中央値は41.5~59.0歳の範囲にわたっており、全被験者が欧州人であった。 主要解析において、遺伝的プロキシLDLコレステロール値1mmol/L(38.7mg/dL)低下に相当するHMG-CoA還元酵素の遺伝的プロキシ阻害が、上皮性卵巣がんのオッズ低下と関連することが示された(オッズ比[OR]:0.60[95%信頼区間[CI]:0.43~0.83]、p=0.002)。 また、BRCA1/2変異遺伝子キャリア対象の解析では、HMG-CoA還元酵素の遺伝的プロキシ阻害と卵巣がんリスク低下の関連が示された(ハザード比[HR]:0.69、[95%CI:0.51~0.93、p=0.01)。 副次解析では、NPC1L1(OR:0.97[95%CI:0.53~1.75]p=0.91)およびPCSK9(0.98[0.85~1.13]、p=0.80)の遺伝的プロキシ阻害、LDLコレステロール値(0.98[0.91~1.05]、p=0.55)のいずれも上皮性卵巣がんとの有意な関連は認められなかった。

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multimorbidity評価に利用可能な指標は?/BMJ

 慢性疾患が2つ以上併存する多疾患罹患(multimorbidity)の患者が一般的にみられるようになっているが、この多疾患罹患を評価する指標は、研究者と臨床医でさまざまに異なっている。英国・エディンバラ大学のLucy E. Stirland氏らは、システマティックレビューにて多疾患罹患を評価する指標の特定などを行った結果、異なる項目とアウトカムから構成される35の指標が利用可能であることを明らかにした。結果を踏まえて著者は、「研究者と臨床医は、新たな指標を作成する前に、既存の指標の適合性を検証する必要があるだろう」と述べている。BMJ誌2020年2月18日号掲載の報告。システマティックレビューで指標を特定および評価 研究グループは、併存疾患数にかかわらず多疾患罹患を評価する既存の指標を特定およびサマライズすること、メンタルヘルスの併存またはアウトカムを包含した指標であるかを確認すること、さらに適用性、実行性、活用性をベースにした勧告を作成することを目的とするシステマティックレビューを行った。 データソースは、2018年10月までの7つのメディカルリサーチデータベース(Medline、Web of Science Core Collection、Cochrane Library、Embase、PsycINFO、Scopus、CINAHL Plus)、および関連論文の参考・引用文献。検索の対象は英語の出版物のみとした。疾患数よりも多くの情報を含み、1つの特異的疾患に関連する併存疾患へのフォーカスではない、新たな多疾患罹患の指標について描出していたオリジナル論文を適格とした。また、コミュニティおよび集団レベルの成人を試験対象のベースとしているものとした。使用が推奨されるのは12指標 7,128報が検索され、重複を除いた5,560のタイトルが特定された。適格基準についてスクリーニング後、最終的に35の指標を示した論文がレビューに包含された。 指標項目としては、状態(他のパラメーターに重きを置いたものまたは統合したもの)を用いたものが25指標、診断カテゴリーを用いたものが5指標、薬物使用を用いたものが4指標、生理学的評価を用いたものが1指標であった。 予測アウトカムは、死亡(18指標)、医療の利用またはコスト(13指標)、入院(13指標)、健康関連QOL(7指標)であった。 メンタルヘルスは29指標で併存疾患に含まれており、多くの指標で考慮されていることが示唆された。 使用が推奨されるのは12指標であった。

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