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1 疾患概要■ 概念・定義ギラン・バレー症候群(Guillain-Barre syndrome: GBS)は急性発症の四肢筋力低下を主徴とする単相性の末梢神経障害である。多くの症例で呼吸器系、消化器系などの先行感染を有し、自己免疫機序によって発症する。■ 疫学頻度は人口10万人当たり年間1~2人前後であり、男女比は約3 : 2で男性に多い。平均年齢は40歳前後であるが、あらゆる年齢層にみられる。■ 病因GBSの病因には液性免疫・細胞性免疫、感染因子・宿主因子が複合的に関与していると考えられている。GBS患者の急性期血清では、50~60%にヒト末梢神経に存在するさまざまな糖脂質に対する抗体が検出される。中性糖脂質であるガラクトセレブロシドや、シアル酸を有するスフィンゴ糖脂質であるガングリオシドのGD1bやGM1などで免疫され、血中に抗体の上昇を認めた動物では、補体の活性化などを介して、末梢神経障害を生じることから、これらの抗体の病態への直接的関与が示唆されている。GBS患者では先行感染を有することが多いが、先行感染因子として同定されたものとしてはCampylobacter jejuni、Mycoplasma pneumoniae、サイトメガロウィルス(CMV)、EBウィルスなどが知られている。なかでもC. jejuni やM. pneumoniaeの菌体外膜には末梢神経構成成分の糖脂質と分子相同性を有する糖鎖が発現しているため、感染による免疫反応により糖鎖に対する抗体が産生され、自己抗体として働いて本症候群が発症するという、分子相同性機序が考えられている。C. jejuniやM. pneumoniaeの感染者の一部にしかGBSを発症しないことから、宿主側の免疫遺伝学的背景も発症には関与していると考えられている。■ 症状先行感染の後に、四肢の進行性筋力低下を呈する。運動麻痺が優位であるが、感覚障害もみられることが多く、さまざまな脳神経障害(顔面神経麻痺、眼筋麻痺、嚥下・構音障害など)や、洞性頻脈や徐脈、起立性低血圧、神経因性膀胱などの自律神経障害もみられる。通常1~2週間で症状が完成し、4週間を超えて症状が増悪することのない単相性の経過をとるが、ピーク時には寝たきりになるケースも多く、呼吸筋麻痺を来す重症例もみられる。■ 分類非典型的な臨床症状を有したり、障害の分布が特異なものが特殊病型として認識されている。急性発症の外眼筋麻痺・運動失調・腱反射消失を3主徴とするFisher症候群がGBSの亜型として広く知られている。ほぼ運動障害のみの純粋運動型(pure motor GBS)や、感覚障害のみを呈する純粋感覚型(pure sensory GBS)、運動失調症状のみを呈する運動失調型(ataxic GBS)、深部感覚障害による運動失調が前景に立つ病型(sensory-ataxic GBS)、球麻痺を伴い上肢および上肢帯に筋力低下が限局する咽頭頸上腕型(pharyngeal-cervical-brachial [ PCB ] variant of GBS)や、上肢のみ脱力を呈する上肢型、下肢のみの脱力を来す下肢型、脳神経障害のみを来す多発脳神経麻痺(multiple cranial neuritis)などが知られている。急性に自律神経障害を来す急性汎自律神経異常症(acute pandysautonomia)もGBSの亜型と捉える考えもある。■ 予後多くの症例で数ヵ月以内に社会復帰が可能であるが、なかには重篤な後遺症を残す例も存在する。死亡例も数%あり、2~5%で再発がみられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)典型的な経過、症状を呈する症例では病歴と臨床症候のみから診断が可能であるが、種々の検査を施行し、他疾患を除外することが大切である。電気生理学的検査では、神経伝導検査(nerve conduction study : NCS) においてH波・F波の消失・潜時延長、遠位潜時の延長、複合筋活動電位振幅の低下、伝導ブロックなどが高率に認められる。脳脊髄液検査では、細胞数は上昇せず蛋白レベルが上昇する「蛋白細胞解離」を認める。NCS、脳脊髄検査いずれにおいても、発症早期では異常を示さないことがあり、初回の検査で異常がないことをもってGBSの診断を否定的に考えるべきではない。経過をみて再検査を施行することも必要である。過半数の症例で、さまざまな糖脂質に対する抗体や、単独の糖脂質ではなく2種類の分子が形成する複合体に反応する抗体の上昇がみられる1)。発症初期より陽性となることが多く、初期診断において有用である。これらの抗体は、先行感染因子のもつ糖鎖に対する免疫反応の結果として産生されることが多く、標的抗原の局在部位を選択的に障害して、独特の臨床病型を来すと考えられる。IgG GD1a/GD1b複合体、GD1b/GT1b複合体に特異的に反応する抗体は人工呼吸器装着の必要な重症例に多いことが報告されており、臨床経過観察に重要な指標といえる。表に抗糖脂質(ガングリオシド)抗体および抗糖脂質複合体抗体と関連が報告されている臨床的特徴を示す。画像を拡大する鑑別疾患としては、血管炎性ニューロパチー、サルコイドニューロパチー、膠原病に伴うニューロパチー、ライム病、神経痛性筋萎縮症、傍腫瘍性ニューロパチー、悪性リンパ腫に伴うニューロパチーなどの各種末梢神経障害、脊髄・脊髄根を圧迫する頸椎症性脊髄症や椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、重症筋無力症、周期性四肢麻痺、転換性障害(ヒステリーなど)など急性~亜急性に筋力低下を来す疾患が挙げられる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)急性期治療として免疫療法が有効である。免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)と血液浄化療法のいずれかを第一選択とする。高齢者、小児、心血管系の自律神経障害を有する例、全身感染症合併例ではIVIgが、IgA欠損症や血栓、塞栓症の危険の高い例などでは血漿交換が選択される。そうした要因がない場合では、身体への負担の少なさや、特別な設備を必要としないことからIVIgが施行されることが多い。IVIgと血液浄化療法では有効性に差を認めない。いずれの治療も発症から2週間以内に治療が開始された場合に、効果が高いとされている。4 今後の展望GBSでは発症早期に正確に診断し、急性期に適切な治療を開始することが重要であり、急性期の診断技術の向上が期待される。血中抗糖脂質抗体は急性期に陽性となるため、急性期診断では、抗体の検出率の向上が大事な役割となる。糖脂質にリン脂質を混合することにより抗体が検出可能となることがあり、これらの手法を用いることにより検出率が向上する。今後も抗体検出率の向上や新たな抗体の発見が予想される。また、少数ではあるが、重症例や難治例、後遺症が残るケースが存在する。重症例や難治例を予測することにより、さらに強い治療を施行したり、人工呼吸器装着へのリスク管理も可能となると考えられる。予後予測因子としてmodified Erasmus GBS Outcome Score (mEGOS) 2)やErasmus GBS Respiratory Insufficiency Score (EGRIS) 3)が発表され、また、前述のように陽性となる糖脂質(ガングリオシド)抗体によっても人工呼吸器装着が必要な症例の予測に使える可能性がある。治療に関しては、明確なエビデンスは得られていないが、IVIgとステロイドの併用がIVIg単独治療よりも有効であることを示唆する報告がある。神経障害に関与する補体系を抑制する治療の開発も考えられる。また、Naチャネル阻害薬(flecainide acetate)の軸索変性の保護作用の報告や、シクロオキシゲナーゼ2阻害薬(celecoxib)による炎症細胞浸潤の抑制が報告されており、これらの新規治療薬の有効性のさらなる検討が待たれる。5 主たる診療科神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Kaida K, et al. J Neuroimmunol. 2010 ; 223 : 5-12.2)Walgaard C, et al. Neurology. 2011 ; 76 : 968-975.3)Walgaard C, et al. Ann Neurol. 2010 ; 67 : 781-787.日本神経学会監修.「ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群診療ガイドライン」作成委員会編. ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群診療ガイドライン2013. 南江堂; 2013