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ギラン・バレー症候群〔GBS : Guillain-Barre syndrome〕

1 疾患概要■ 概念・定義ギラン・バレー症候群(Guillain-Barre syndrome: GBS)は急性発症の四肢筋力低下を主徴とする単相性の末梢神経障害である。多くの症例で呼吸器系、消化器系などの先行感染を有し、自己免疫機序によって発症する。■ 疫学頻度は人口10万人当たり年間1~2人前後であり、男女比は約3 : 2で男性に多い。平均年齢は40歳前後であるが、あらゆる年齢層にみられる。■ 病因GBSの病因には液性免疫・細胞性免疫、感染因子・宿主因子が複合的に関与していると考えられている。GBS患者の急性期血清では、50~60%にヒト末梢神経に存在するさまざまな糖脂質に対する抗体が検出される。中性糖脂質であるガラクトセレブロシドや、シアル酸を有するスフィンゴ糖脂質であるガングリオシドのGD1bやGM1などで免疫され、血中に抗体の上昇を認めた動物では、補体の活性化などを介して、末梢神経障害を生じることから、これらの抗体の病態への直接的関与が示唆されている。GBS患者では先行感染を有することが多いが、先行感染因子として同定されたものとしてはCampylobacter jejuni、Mycoplasma pneumoniae、サイトメガロウィルス(CMV)、EBウィルスなどが知られている。なかでもC. jejuni やM. pneumoniaeの菌体外膜には末梢神経構成成分の糖脂質と分子相同性を有する糖鎖が発現しているため、感染による免疫反応により糖鎖に対する抗体が産生され、自己抗体として働いて本症候群が発症するという、分子相同性機序が考えられている。C. jejuniやM. pneumoniaeの感染者の一部にしかGBSを発症しないことから、宿主側の免疫遺伝学的背景も発症には関与していると考えられている。■ 症状先行感染の後に、四肢の進行性筋力低下を呈する。運動麻痺が優位であるが、感覚障害もみられることが多く、さまざまな脳神経障害(顔面神経麻痺、眼筋麻痺、嚥下・構音障害など)や、洞性頻脈や徐脈、起立性低血圧、神経因性膀胱などの自律神経障害もみられる。通常1~2週間で症状が完成し、4週間を超えて症状が増悪することのない単相性の経過をとるが、ピーク時には寝たきりになるケースも多く、呼吸筋麻痺を来す重症例もみられる。■ 分類非典型的な臨床症状を有したり、障害の分布が特異なものが特殊病型として認識されている。急性発症の外眼筋麻痺・運動失調・腱反射消失を3主徴とするFisher症候群がGBSの亜型として広く知られている。ほぼ運動障害のみの純粋運動型(pure motor GBS)や、感覚障害のみを呈する純粋感覚型(pure sensory GBS)、運動失調症状のみを呈する運動失調型(ataxic GBS)、深部感覚障害による運動失調が前景に立つ病型(sensory-ataxic GBS)、球麻痺を伴い上肢および上肢帯に筋力低下が限局する咽頭頸上腕型(pharyngeal-cervical-brachial [ PCB ] variant of GBS)や、上肢のみ脱力を呈する上肢型、下肢のみの脱力を来す下肢型、脳神経障害のみを来す多発脳神経麻痺(multiple cranial neuritis)などが知られている。急性に自律神経障害を来す急性汎自律神経異常症(acute pandysautonomia)もGBSの亜型と捉える考えもある。■ 予後多くの症例で数ヵ月以内に社会復帰が可能であるが、なかには重篤な後遺症を残す例も存在する。死亡例も数%あり、2~5%で再発がみられる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)典型的な経過、症状を呈する症例では病歴と臨床症候のみから診断が可能であるが、種々の検査を施行し、他疾患を除外することが大切である。電気生理学的検査では、神経伝導検査(nerve conduction study : NCS) においてH波・F波の消失・潜時延長、遠位潜時の延長、複合筋活動電位振幅の低下、伝導ブロックなどが高率に認められる。脳脊髄液検査では、細胞数は上昇せず蛋白レベルが上昇する「蛋白細胞解離」を認める。NCS、脳脊髄検査いずれにおいても、発症早期では異常を示さないことがあり、初回の検査で異常がないことをもってGBSの診断を否定的に考えるべきではない。経過をみて再検査を施行することも必要である。過半数の症例で、さまざまな糖脂質に対する抗体や、単独の糖脂質ではなく2種類の分子が形成する複合体に反応する抗体の上昇がみられる1)。発症初期より陽性となることが多く、初期診断において有用である。これらの抗体は、先行感染因子のもつ糖鎖に対する免疫反応の結果として産生されることが多く、標的抗原の局在部位を選択的に障害して、独特の臨床病型を来すと考えられる。IgG GD1a/GD1b複合体、GD1b/GT1b複合体に特異的に反応する抗体は人工呼吸器装着の必要な重症例に多いことが報告されており、臨床経過観察に重要な指標といえる。表に抗糖脂質(ガングリオシド)抗体および抗糖脂質複合体抗体と関連が報告されている臨床的特徴を示す。画像を拡大する鑑別疾患としては、血管炎性ニューロパチー、サルコイドニューロパチー、膠原病に伴うニューロパチー、ライム病、神経痛性筋萎縮症、傍腫瘍性ニューロパチー、悪性リンパ腫に伴うニューロパチーなどの各種末梢神経障害、脊髄・脊髄根を圧迫する頸椎症性脊髄症や椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、重症筋無力症、周期性四肢麻痺、転換性障害(ヒステリーなど)など急性~亜急性に筋力低下を来す疾患が挙げられる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)急性期治療として免疫療法が有効である。免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)と血液浄化療法のいずれかを第一選択とする。高齢者、小児、心血管系の自律神経障害を有する例、全身感染症合併例ではIVIgが、IgA欠損症や血栓、塞栓症の危険の高い例などでは血漿交換が選択される。そうした要因がない場合では、身体への負担の少なさや、特別な設備を必要としないことからIVIgが施行されることが多い。IVIgと血液浄化療法では有効性に差を認めない。いずれの治療も発症から2週間以内に治療が開始された場合に、効果が高いとされている。4 今後の展望GBSでは発症早期に正確に診断し、急性期に適切な治療を開始することが重要であり、急性期の診断技術の向上が期待される。血中抗糖脂質抗体は急性期に陽性となるため、急性期診断では、抗体の検出率の向上が大事な役割となる。糖脂質にリン脂質を混合することにより抗体が検出可能となることがあり、これらの手法を用いることにより検出率が向上する。今後も抗体検出率の向上や新たな抗体の発見が予想される。また、少数ではあるが、重症例や難治例、後遺症が残るケースが存在する。重症例や難治例を予測することにより、さらに強い治療を施行したり、人工呼吸器装着へのリスク管理も可能となると考えられる。予後予測因子としてmodified Erasmus GBS Outcome Score (mEGOS) 2)やErasmus GBS Respiratory Insufficiency Score (EGRIS) 3)が発表され、また、前述のように陽性となる糖脂質(ガングリオシド)抗体によっても人工呼吸器装着が必要な症例の予測に使える可能性がある。治療に関しては、明確なエビデンスは得られていないが、IVIgとステロイドの併用がIVIg単独治療よりも有効であることを示唆する報告がある。神経障害に関与する補体系を抑制する治療の開発も考えられる。また、Naチャネル阻害薬(flecainide acetate)の軸索変性の保護作用の報告や、シクロオキシゲナーゼ2阻害薬(celecoxib)による炎症細胞浸潤の抑制が報告されており、これらの新規治療薬の有効性のさらなる検討が待たれる。5 主たる診療科神経内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)Kaida K, et al. J Neuroimmunol. 2010 ; 223 : 5-12.2)Walgaard C, et al. Neurology. 2011 ; 76 : 968-975.3)Walgaard C, et al. Ann Neurol. 2010 ; 67 : 781-787.日本神経学会監修.「ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群診療ガイドライン」作成委員会編. ギラン・バレー症候群、フィッシャー症候群診療ガイドライン2013. 南江堂; 2013

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血管撮影終了後の止血不十分で大腿神経麻痺を来したケース

循環器最終判決判例時報 1737号110-118頁概要心筋梗塞の疑いで心臓カテーテル検査を受けた61歳女性。カテーテル抜去後合計して約1時間の圧迫止血を行ったが、右大腿鼠径部に広範囲の内出血を来たし、翌日には右足の麻痺が明らかとなった。リハビリテーションによっても麻痺の回復は思わしくなく、2ヵ月後に大腿部神経剥離術を行ったところ、鼠径靱帯遠位部に約1cmにわたる神経の変性壊死が認められた。詳細な経過患者情報近所のかかりつけ医から心筋梗塞の疑いがあると指摘された61歳女性経過1989年8月28日A総合病院循環器内科を受診、心電図で異常所見がみられたため、精査目的で入院となった。なお検査前には、出血傾向、腎機能不全、感染症、発熱などはみられなかった。8月30日14:05心臓カテーテル検査開始(ヘパリン使用)。右大腿静脈:7フレンチ穿刺針に引き続き、シースを挿入。右大腿動脈:5フレンチ穿刺針に引き続き、シースを挿入。右心、左心の順に検査を進め、左右冠動脈造影、薬物負荷試験を行った。この間、右大腿動脈には2本目のシース(8フレンチ穿刺針使用)が挿入された。なお検査の結果肥大型心筋症と診断された。14:48体動が激しいためジアゼパム静注。15:00一連の検査終了が終了し、シースを抜去して用手圧迫による止血開始。10~15分間圧迫し、止血完了を確認後消毒、枕子をのせて圧迫帯を巻いた。ところがその直後に穿刺部周辺の大量出血を来たし、ソフトボール大の血腫を形成した。15:20一時的に血圧低下(77/58mmHg)がみられたため、昇圧剤を投与しながら30~40分用手圧迫を続けた。16:00ようやく止血完了。穿刺部に枕子を当て、圧迫帯を巻いて穿刺部を固定。16:20病室へ戻る。約8~9時間ベッド上の安静を指示された。8月31日右足が麻痺していることに気付く。9月11日別病院の整形外科を受診、右大腿神経の部分壊死と診断された。リハビリテーションが行われたものの満足のいく改善は得られなかった。10月30日別病院の整形外科で右大腿部神経剥離術施行。術中所見では、鼠径靱帯遠位5cmの部位で、大腿神経が約1cmにわたり、暗赤色軟性瘢痕組織に締扼されていて、壊死しているのが確認された。術後の回復は順調であり、筋力は正常近くまで回復し、知覚鈍麻も消失した。しかし、大腿神経損傷後に生じた右膝周囲のカウザルギー(頑固な疼痛)、右下肢のしびれが残存し、歩行時には杖が必要となった。1995年3月7日身体障害者第4級の認定。当事者の主張患者側(原告)の主張1.穿刺部の止血不十分のため大量出血を来し、さらに大腿神経を1時間にわたり強く圧迫したことが原因で神経が損傷、麻痺が生じた2.大出血による右大腿部の麻痺を確認しておきながら、専門医と相談したり転医措置をとらなかった病院側(被告)の主張1.穿刺部からの出血により広範囲の内出血が起きたことは認めるが、これは原告の体動によりいったん止血に成功したあとの再出血である。歩行障害はもともと患っていた腰椎疾患が原因である2.大腿神経麻痺が疑われた場合、とくに手術的措置をとらなくても自然に麻痺が回復することもあるので、経過観察したことに過失はない裁判所の判断1.心臓カテーテル検査終了後の止血措置を誤って大量出血させ大きな血腫ができ、右大腿神経麻痺が発症した2.担当医師は、「いったん止血に成功した後に激しく体動したため再出血した」と主張するが、入院カルテには「圧迫するも止血不完全、再圧迫」と記載されているのみ心臓カテーテル検査記録、報告書、看護記録にも体動に関する記載なし同僚医師・看護師の証言も曖昧で採用できない紹介もとの医師へは(検査終了後の圧迫の際に血腫を形成して大腿神経麻痺を来したことに対して)「どうもすみませんでした」と記載して謝罪しているなどの理由により、患者が動いたために再出血を来したとは到底考えることができない原告側1,778万円の請求に対し、1,144万円の判決考察セルジンガー法の血管撮影においては、大腿動脈に比較的太いシースを挿入するのが普通ですので、検査終了後の圧迫止血を慎重に行わないと本件のように大変な紛争へと発展することがあります。多くの先生方にも経験があると思いますが、ヘパリン使用下に検査を施行することもあって、細心の注意にもかかわらず穿刺部皮下に血液が漏れだし、あとで広範囲にわたる皮下出血となってしまうことがあります。その多くは数日で消退すると思いますが、場合によっては大腿神経に多大な圧迫が及んで下肢の麻痺にまで発展することがある、という重要な教訓を示唆しているケースです。ただし本件の裁判経過をみると、さまざまな問題点を指摘することができます。まず第一に、自分の関与した医療行為の結果、予期せぬ事態が発生し、患者さんに何らかの症状が残遺した場合には、その経過を詳細にカルテに記載しなければならない、という当たり前ではありますがけっして忘れてはならない重要な点です。今回の検査担当医は、「検査中からあまりにも体動が激しいので、心臓カテーテル検査では通常使用しないジアゼパムを静注したが、それでも体動は止まらずに本来施行するべき生検も断念した」、「検査終了後きちんと圧迫止血したけれども、止血完了直後に患者さんが動いたためにひどい出血を来した」と裁判で証言しました。それ以外に検査にかかわったスタッフは曖昧な証言に終始しているため、真相がどうであったのかはよくわかりません。しかし肝心のカルテには、「圧迫するも止血不完全、再圧迫」というたった一行の記載があるだけですので、「そんな重大な事実がありながら記録をまったく残していないのはきわめて不自然である。ということはそのような事実はなかったのだろう」と裁判官は判断しました。このように、医事紛争に巻き込まれた時に自らの正当性を証明する唯一ともいってよい手段は「きちんとカルテに記載を残す」ことにつきると思います。もし本件で、「カテーテル抜去後、約15分間慎重に圧迫止血を行ったが、止血確認直後患者が制止にもかかわらず起きてしまい、穿刺部にソフトボール大の血腫が生じた。その後圧迫止血を1時間追加してようやく止血を完了した」と記載していれば、おそらくここまで一方的な判断にはならなかったかもしれません。なお、本件の医学鑑定を行った専門医は、「カテーテル検査後の止血中には多少の体動はあり得ることであり、それを念頭において止血すべきであって、そのために出血を来すようであれば止血措置としては十分とはいえない」と判断しています。つまり、止血不十分で紛争に至ると、「止血中に動いた患者が悪い」という主張は難しいということになります。さらに本件では、循環器チームの医師、看護師数名が関与していたのに、誰一人として検査担当医をかばうような記録、証言を残しませんでした。おそらく、チーム内のコミュニケーションが相当悪かったことに起因しているのではないかと思いますが、それ以前の問題として、「この患者の主治医は誰であったのか」と首をかしげたくなるような状況でした。具体的に関与した医師は、A医師心臓カテーテル担当医師、検査当日にはじめて患者と会う。B医師主治医。ただし証言では「名目上の主治医」と主張し、検査前のカルテには直接診察していないものの一応主治医ということで記載したので、事前の説明はしていないし、検査中はモニター室に待機、検査終了後に患者を診察した。C、D医師おそらくオーベン医師E、F医師血腫形成後に交代で止血を担当した医師という6名です。このうち、裁判で「けしからん」とやり玉に挙げられたのがA医師ですが、この医師は検査前には一切患者と接することはなく、検査当日にはじめて患者と会い、心臓カテーテル検査を行いましたので、少々気の毒な気さえします。そして、名目とはいっても主治医はB医師であり、この患者を紹介してきたかかりつけ医へは、「大腿神経麻痺を来してどうもすみませんでした」という返事をD医師との連名で記載しています。つまり、はたからみるとB医師が主治医として責任を持つべきかと思うのですが、「主治医でありながら検査中に生じた大きな血腫の形成という異常な事態について原因の究明など十分な事実関係の確認をしなかった」と裁判官は判断し、さらに「被告病院の医療管理上の責任体制や診療録、看護記録の記載のあり方は疑問」という問題点も指摘しています。すなわち、いったいこの病院では誰がこの患者の主治医であったのか、と、きわめて不自然な印象を受けるばかりか、A医師が孤立してしまうような言動をくり返しています。そのためもあってか、大腿血腫に対しては対応が遅れがちとなり、整形外科を受診したのが検査後12日目であったのも、訴訟にまで発展した一因になっていると思います。また、唯一のカルテ記載である「圧迫するも止血不完全、再圧迫」というのは、もしかしたら名目上の主治医B医師が記載したのかもしれず、A医師は検査を担当しただけであったのでカルテ記載をする機会すら逸してしまったのかもしれません。このように本件では6名もの医師が関与していながら、主治医不在のまま紛争に発展したということがいえるのではないでしょうか。いくら複数の専門医チームで患者を担当するといっても、一歩間違えると無責任体制に陥る危険がありますので、侵襲を伴う医療行為をする際にはきちんと主治医を明確にして責任もった対応をする必要があると思います。循環器

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脳梗塞を正中神経麻痺と誤診したケース

整形外科最終判決判例時報 1631号100-109頁概要右手のだるさ、右手関節の背屈困難を主訴に整形外科を受診し、右正中神経麻痺と診断された47歳男性。約3ヵ月間にわたってビタミン剤投与、低周波刺激による理学療法を受けたが目立った効果はなく、やがて右顔面のしびれも顕著となったため患者は別の総合病院内科を受診した。諸検査の結果、脳梗塞と診断されたが、右手の症状は改善されずに高度の障害が残存した。詳細な経過患者情報とくに既往症のない47歳男性経過1991年11月頃右手が少しだるく感じるようになる。12月12日近所の接骨院を受診、マッサージおよび電気治療を受ける。しかし右手のだるさは改善せず、やがて右手を伸ばすことができなくなり、右手第3-第5指も動かなくなったため整形外科受診を勧められる。1992年1月6日某病院整形外科受診。症状が右手に限局していたため、正中神経麻痺と診断してビタミン剤の注射および内服を指示した。連日の通院により右手が少し動くようになり、痛みも減少したが、依然として右手のだるさ、動かしにくさは残存した。1月21日第1指、第3指の屈曲は可能であったが、伸展は不完全であり、内転もできないことが確認されたので、ビタミン剤に加えて低周波刺激による理学療法が追加された。2月右上腕から前腕にかけてしびれ感、痛みが生じる。3月6日右握力13kg、左握力41kg3月16日右顔面にしびれ感が生じ医師に申告したが、診断・治療内容に変更なし。4月8日なかなか症状が改善されないため、別の総合病院内科を受診。諸検査の結果脳梗塞が疑われたため、入院を勧められる。4月9日この時はじめて担当の整形外科担当医師は、末梢神経系の異常のみならず中枢神経系の異常を疑って頭部CTスキャンを施行。その結果、左側頭葉に脳梗塞を確認し、入院治療を勧めた。しかし前日に別の総合病院からも入院の必要性を説明されていたので患者は入院を拒否。4月14日総合病院内科に入院。右手の握力低下、右頬のしびれ、右上腕の突っ張る感じは脳梗塞(左後側頭葉)の後遺症であり、すでに慢性期となっていたのでこれ以上の改善は期待できず、抗血小板抑制剤などを内服しながら自宅でのリハビリを指示された。また、入院中に頸椎の後縦靱帯骨化症を指摘されたが、部分的なもので占拠率は低く、症候的ではないと判断された。さらに頸部MRIでは第5-第6頸椎椎間板ヘルニアを指摘されたが、手術は不要と判断された。4月24日さらに別病院に入院して脳血管撮影施行。左頸動脈の一部に狭窄が確認された。6月13日脳梗塞による右手手指の機能の著しい障害に対し、身体障害者4級の認定を受けた。当事者の主張患者側(原告)の主張初診当初から脳血管障害を疑うべき中枢性運動障害があったのに、右手のしびれ、手指のIP関節、MP関節の局所症状を正中神経麻痺と誤診したため、脳梗塞に対する早期の内科的、外科的治療のチャンスを失い、脳梗塞が治癒せずに後遺障害が残った病院側(被告)の主張当初は右手関節の背屈不能、しびれ感を主訴に受診したため正中神経麻痺と診断した。その後次第に改善傾向にあり、4月9日になってはじめて「口がしびれる」と訴えたため頭部CTスキャンを施行し脳梗塞が確認されたので、診断の遅延はない(なおカルテには3月16日に顔面のしびれが出現と記載)画像所見の脳梗塞(後側頭葉大脳皮質1.3×3.0cm三角形の病変)は、運動領野と知覚領野にまたがるほど広範囲ではないため、上肢と顔面に障害が及ぶとは考えにくい中枢性運動障害(錐体路障害)では手指のIP関節、MP関節に限局した局所症状は起こり得ない大脳皮質の脳梗塞では疼痛は起こり得ないため、顔面のしびれを訴え始める前の原告の症状(右上肢のしびれや疼痛、運動障害)は後縦靱帯骨化症もしくは椎間板ヘルニアに起因する症状である裁判所の判断各病院のカルテ記載、原告の申告内容から判断して、右上肢の障害発症は平成3年11月ないし12月であり、初診当初から中枢性運動障害であって脳血管障害を疑うべき状態であった画像所見で問題となった左後側頭葉以外に、左内包後脚にも低吸収域を疑う病変がある(患者側鑑定人の意見を採用)。各病院で撮影したMRI上左内包後脚に病変を指摘できないからといって、本件の脳梗塞が左後側頭葉の大脳皮質に生じた小さなものと即断できない。MRIの読影には読影者の経験・技量によるものが大きい中枢性運動障害(錐体路障害)によって手指のIP関節、MP関節に限局した局所症状は起こり得ないとは限らない原告が訴えた右上肢の疼痛は、脳血管障害に起因する運動障害により四肢を動かさないことによる拘縮の痛みである可能性がある以上から、たとえ被告の専門が神経内科ではなく整形外科であったとしても、脳梗塞であったことに3ヵ月も気付かず正中神経麻痺の診断ならびに治療を継続したことは、医師として軽率であったとの誹りを逃れることはできない。原告側合計6,000万円の請求に対し3,999万円の判決考察本件では(1)発症時の年齢が47歳と脳梗塞のケースとしてはやや若年齢であったこと(2)初診時の症状が右上肢だけに限局し、それも手指のIP関節、MP関節の局所症状であり正中神経麻痺でも説明可能と思われるなど、脳梗塞としては非典型的であり、診断が困難なケースであったと思います。しかし、初診から約3ヵ月もビタミン剤を投与し続けてあまり効果が得られなかったことに加えて、右顔面のしびれという新たな症状を申告したにもかかわらず担当医師は取り合わなかったことは、注意義務違反とされても仕方がないと思います。裁判でもその点に注目していて、「カルテには日付および診察した医師名以外何も記載されていないことが多く、仮に記載されていたとしてもきわめて簡潔にしか記載されていない場合が多いので、原告が訴える症状が忠実にカルテに記載されていたかどうか疑問である」とされました。つまり、カルテの記載がお粗末な点をみて「きちんと患者を診ていないではないか」という判断が優先したような印象です。ことにこの病院では5名の医師が代わる代わる診察に当たっていて、一貫して症状を追跡していた医師がいなかったことも問題を複雑にしています。この5名の医師のなかにはアルバイトの先生も含まれていたでしょうから、そのような医師にとっては、いったん「正中神経麻痺」という診断がついて毎日のようにビタミン剤の注射や理学療法を受けている患者に対し、改めて検査を追加したり症状を細かくみるといったことは省略されやすいと思います。したがって、病院側の対応が遅れたという点に関しては同情する面もありますが、やはり患者の申告にはなるべく耳を傾けるようにしないと、予期せぬ事態を招くことになると思います。一方で、裁判官の判断にも疑問点がいくつかあります。1. この患者さんは脳梗塞にもっと早く気付いていたら本当に回復の可能性があったのでしょうか?本件では左後側頭葉大脳皮質に発生した3cm程度の「脳血栓」であり、脳血管撮影では(詳細な部位は不明ですが)左頸動脈に狭窄病変が確認されたとのことです。しかも発症は急激ではなく、初診の約2ヵ月前から「少し右手がだるい」という症状で始まりました。裁判所は脳梗塞の教科書的な説明を引用して、「脳梗塞の患者は発症初期から入院させ精神的かつ身体的安静を与え、脳梗塞とそれによる脳浮腫を軽減させるための薬物療法を行うとともにリハビリを開始し、慢性期には運動療法および脳循環代謝改善薬の投与などを行わなければ運動障害などの後遺症を回避することは困難である」ため、早く脳梗塞に気付かなかったのは病院側が悪い、残った後遺障害はすべて医者の責任だ、と短絡しています。脳梗塞を数多く診察されている先生ならばすでにお気づきのことと思いますが、脳梗塞はいったん発症すると完全に元に戻るような治療法はなく、むしろ再発予防のほうに主眼がおかれると思います。本件では発症が緩徐であったために初診時にはすでに1ヵ月以上経過していたため、裁判所のいうような「脳浮腫」は初診時にはほとんど問題にはなっていなかった可能性が高いと思います。つまり、最初から脳梗塞と診断されていたとしても結果はあまり変わらなかった可能性のほうが高いということです。2. 病院側の主張を否認するためにかなり強引な論理展開をしている点たとえば、「患者が主張した「右上肢の疼痛」は脳梗塞ではおきないので、この時の症状には後縦靱帯骨化症もしくは頸椎椎間板ヘルニアによるものと考えるのが妥当である」という病院側の主張に対し、「右上肢の疼痛は、脳血管障害に起因する運動障害により四肢を動かさないことによる拘縮による痛みである」と判断しています。もちろん、脳梗塞によって高度の片麻痺が生じた患者さんであれば、拘縮による疼痛がみられることもしばしば経験されます。しかし、本件ではあくまでも「軽度の運動障害、軽度の握力低下」を来した症例ですので、関節が拘縮して救急車を呼ばなければならないような痛みが出現するとは、とても思えません(痛みに対しては心因的な要素も疑われます)。また、「画像所見の脳梗塞は運動領野と知覚領野にまたがるほど広範囲ではないため、上肢と顔面に障害が及ぶとは考えにくい」という病院側の主張を、「MRIの読影には読影者の経験・技量によるものが大きい」ことを理由に退けているのはかなり恣意的な判断といわざるを得ません。このような納得のいかない判決に対しては、医学的に反論する余地も十分にあるとは思うのですが、カルテ記載などがお粗末で患者をよくみていない点をことさら取り上げられてしまうと、「医者が悪い」という結論を覆すのは相当難しいのではないかと思います(本件は第1審で確定)。整形外科

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視神経脊髄炎で出現する脳幹症状とは?

 視神経脊髄炎(Neuromyelitis Optica、以下NMO)において、高頻度に発現する脳幹症状は嘔吐としゃっくりであり、これら脳幹症状の有病率が白人以外の人種で高かったことが、フランス・ストラスブール大学病院のL. Kremer氏らによって報告された。Multiple sclerosis誌オンライン版2013年10月7日掲載の報告。 NMOは、脊髄や視神経の病変を特徴とする中枢神経系の重篤な自己免疫疾患であり、近年、脳幹症状が出現することが報告されている。 本研究は、2006 Wingerchuk基準によりNMOと診断された258例を対象に行った前向き多施設共同研究である。目的は、NMOの患者群を人種や抗アクアポリン4抗体の血清学的状態に分け、脳幹症状の発現時期や、頻度、特徴を評価することである。 主な結果は以下のとおり:・脳幹症状は81例(31.4%)に認められた。・最も頻度が高かった症状は、嘔吐(33.1%)、しゃっくり(22.3%)などであり、続いて眼球運動障害(19.8%)、掻痒(12.4%)、その他、聴力損失(2.5%)、顔面神経麻痺(2.5%)、めまい、前庭性運動失調(それぞれ1.7%)、三叉神経痛(2.5%)、他の脳神経徴候(3.3%)であった。・44例の患者(54.3%)では、これらの症状が初めに出現した症状であった。・これらの脳幹症状の有病率は、白人(26%)よりも白人以外の人種(36.6%)において有意に高く(p<0.05)、抗アクアポリン4抗体陰性患者(26%)よりも陽性患者(32.7%)のほうが高い傾向にあった(有意差なし)。

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健康診断の採血で右上肢が廃用となったケース

内科最終判決平成14年9月5日 松山地方裁判所 判決概要経験年数20年のベテラン看護師が、健康診断目的で来院した42歳女性の右肘尺側皮静脈から採血を試みた。針を挿入直後に患者が「痛い!」と訴え、血液の逆流がなかったので左側から改めて採血した。ところが、採血直後から右上肢の知覚障害、痛み、浮腫、運動障害が出現し、大学病院整形外科で反射性交感神経異栄養症(RSDS)と診断され、労災等級第7級に相当する後遺障害が残存した。詳細な経過患者情報42歳女性。特記すべき既往症なし経過平成8年7月17日09:40定期健康診断時に、尺側皮静脈から採血するため右腕肘窩部分に針を刺したが、血液の逆流はなく、針が刺された後で「痛い!」といったため針を抜き、針やスピッツを新しいものに変えて、改めて左腕に針を刺して採血は完了した。ところが、採血直後から右手第1-第2指にしびれを自覚し、同日総合病院整形外科を受診して、「右正中神経麻痺、反射性交感神経性萎縮症」と診断された。12月16日大学病院整形外科医師は、右上肢の知覚障害、痛み、浮腫、運動障害があることから「カウザルギー」と診断した。平成11年3月10日労災認定。右上肢手関節と肘関節の中心部より右手指にかけて、常時疼痛を中心とした異常感覚および知覚低下、右上肢肘関節以下の神経症状による運動障害があるとして、障害等級第7級3号に該当すると認定。平成13年11月9日本人尋問。右手、とくに親指の付け根付近から上肢にかけての約20cmの部分に強い痛みがあると訴え、被告ら代理人が少し触れようとすると激しく痛がった。本人の上申書右腕は痛くて伸ばせない右手指も無理に伸ばそうとすると歯の神経にさわったような電撃的な痛みが出るし、不意に痛むこともある右手指から肘までの1/2の範囲は、常時、火傷したようなきりきりとした痛みがある肘の内側にはじくじくとした鈍痛がある肩と肘の真ん中あたりから指先にかけて、いつもむくんでいる右手指のうち、小指以外は何かに触れただけで飛び上がるような痛みがある。指先から遠位指節間関節(指先にもっとも近い関節)までほとんど感覚がないため、物を握れないこのため右手はほとんど用をなさないし、寝る時は右手が下にならないように気をつける。手首を内側に向けて捻っている状態は楽だが、その反対はできないなどの障害が残っている当事者の主張患者側(原告)の主張採血時、血液の逆流がなく血管内に注射針を刺入できていないことがわかったのに、注射針をそのまま抜こうとせず、注射針の先を動かして血管を探すような動作をし、痛みを訴えたにもかかわらず同様の動作を続けた結果、右腕正中神経を注射針の先で傷つけたため、右手第1-第2指にしびれ、疼痛を生じる障害を負った。看護師は肘窩の静脈に針を刺す場合、正中神経を傷つけないように注射針を操作するべき注意義務があるのに、不用意に操作した過失によって正中神経を損傷しRSDSを併発した。病院側(被告)の主張担当看護師は勤続20年のベテラン保健師・看護師であり、通算数千件もの採血を実施しているが、一度もミスなどしたことはない。採血の際は、皮膚から約15度の角度で針先カット面を上にして血管穿刺を行っており、かつ、血液の逆流が認められないため、スピッツを数ミリ手前に引いたのみであり、注射針の先を動かして血管を探すなどした事実はない。このような採血によって皮膚の表面上を走る尺側皮静脈から、遠く離れた深部にある正中神経を傷つけることはあり得ない。また、右腕の痛みに対し星状神経ブロックなどの医師の勧める基本的治療を行わず、痛みのまったくない軽度な治療を行うのみであった。また、日常行動を調査したビデオによれば、右手を普通に用いて日常生活を送っていると認められ、法廷の本人尋問での言動は事実と異なる演技に過ぎない。各医師の診断結果や、これらに基づく労働基準監督署長の判断も、同様に原告が演技をし、またはその訴えたところに従って作成され判断されたものに過ぎず、誤っている。仮に採血による後遺障害が残っているとしても、それは医師から再三の治療上のアドバイスがあったにもかかわらず拒否し、特異な気質と体質により複雑な病態となったものと考えられる。裁判所の判断原告は採血直後から右手のしびれなどを訴えるようになり、現在でも右手は触れられただけでも強い痛みを訴え、大学病院医師は採血を原因とする「右上肢カウザルギー」ないし「RSDS」と診断している。痛みに関する供述にはやや誇張された面があると感じられるが、およそ障害がない、あるいはその障害が軽微であるとの根拠とすることはできない。したがって、採血時に肘窩の尺側皮静脈に注射針を深く刺し、正中神経を傷つけたため右手が使えなくなったのは、採血担当看護師の過失である。原告側合計3,254万円の請求に対し、2,419万円の判決考察たった1回の採血失敗によって、右手が使えなくなるという重度後遺障害が残存し、しかも2,419万円もの高額賠償につながったという衝撃的なケースです。肘の解剖学的な構造をみると、尺側皮静脈は腕の内側を走行し、比較的太い静脈の一つです。ただその深部には、筋膜の内側に上腕動脈と伴走するように正中神経が走行しています。本件では、結果的にはこの正中神経に針が届いてしまい、右腕が使い物にならなくなるほどの損傷をうけて医事紛争に発展しました。本当にこの神経を刺してしまうほど、深く注射針を挿入してしまったのかは、おそらく担当した看護師にしかわからないことだと思いますが、採血直後から正中神経に関連した症状が出現していますので、正中神経に損傷が及んだことを否認するのは難しいと思います。ただし、今回問題となったRSDSには特有の素因があることも知られていて、交感神経過反応者、情緒不安定、依存性、不安定性を示す性格の持ち主であることも知られています。今回の採血では、担当看護師の主張のように、けっして針をブスブスとつき刺すような乱暴な操作をしていないと思います。にもかかわらず重篤な障害に至ってしまったということは、今後私たちが採血や注射を担当する以上、一定の確率で否が応でも今回のような症例に遭遇する可能性があることになります。ではどうすればこのような紛争を未然に防ぐことができるかというと、あらかじめ採血をする時には、危険な部位には針を刺さないようにすることが必要です。通常は肘の外側に太い神経はみられないので、可能な限り内側の尺側皮静脈から採血するのは避け、外側の皮静脈に注射するのが懸命でしょう。もしどうしても採血可能な静脈が内側の尺側皮静脈以外にみつからない場合には、なるべく静脈の真上から針を挿入し、けっして針が深く入らないようにすることが望まれます。また、採血時に普通ではみないほどひどく痛がる患者の場合には、RSDSへと発展しやすい体質的な素因が考えられますので、無理をして何回も針を刺さないように心がけるとともに、場合によっては医師の判断を早めに仰ぐようにするなどといった配慮が必要だと思います。内科

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新規ワクチン導入後の安全性を適正に検討するには?

 デンマーク・Aarhus大学病院のRasmussen TA氏らは、ワクチン接種と時間的関連はあるが起因とはなっていない背景疾患の発生数を予想し、小児の大規模ワクチン接種後に発生する有害事象の因果関係評価を補足するため、全デンマーク集団ベースのコホート研究を行った。同種の検討はこれまで行われていなかったという。結果を踏まえて著者は、「年齢、性、季節分布に基づく正確な背景疾患の発生率を組み込むことは、ワクチンの安全性評価を強化することにつながる。また新規ワクチン導入後に増大するリスクを議論するうえで、エビデンスベースの論点を提供することにもなる」と述べている。BMJ誌オンライン版9月17日号の掲載報告。 1980年1月1日以降出生の全新生児を対象とし、出生日から開始して、アウトカム設定した疾患で入院した日まで、または死亡、移住、18歳時点あるいは2009年12月31日まで追跡した。ワクチン接種率は82~93%であった。 急性伝染性または感染後多発性神経炎(ギラン・バレー症候群)、急性横断性脊髄炎、多発性視神経炎、顔面神経麻痺、アナフィラキシーショック、けいれん発作、多発性硬化症、自己免疫性血小板減少症、1型糖尿病、若年性関節炎または関節リウマチ、ナルコレプシー、原因不明の死亡の各発生率をアウトカムとして設定した(性、年齢、季節性で階層化)。 主な結果は以下のとおり。・新生児230万227人を追跡した。フォローアップ総計3,726万2,404人・年、追跡期間中央値16.8人・年であった。・アウトカム設定疾患の発生率は、自己免疫性血小板減少症0.32/100万人・年から、けいれん発作189.82/100万人・年までと、かなりの差があった。・最も頻度の高かったけいれん発作の発生率は、100万人・年当たり、1歳未満児475.43、1~3歳が593.49とピークで、その後は低下した(4~9歳47.24、10~17歳30.83)。・季節的な変動が最も顕著であったのは、アナフィラキシーショック(第1四半期と比べて第3四半期がほぼ3倍)、けいれん発作および多発性硬化症(冬に高率に発生)であった。・発生が稀なアウトカムおよびワクチンとの因果関係がないアウトカムも、仮定的ワクチンコホートにおいて多くのイベントを予想した。・たとえば、ワクチン接種後42日以内に起こる可能性として、100万児につき、1型糖尿病20例、若年性関節炎または関節リウマチ19例、顔面神経麻痺8例、多発性硬化症5例を予測した。

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甲状腺摘出術、臨床経験20年以上の外科医で合併症リスクが上昇

甲状腺摘出術の最良の技能は、内分泌外科医が経験を積んだだけで達成されるわけではなく、合併症リスクは経験年数が20年を超えると有意に増大することが、フランス・リヨン大学のAntoine Duclos氏らの検討で示された。専門医は30~50歳でその専門的技能の頂点に達するとされ、大学卒業後長期にわたり実地臨床に携わってきた医師は実際的な知識が低下し、EBMに基づくケアを着実に実行する能力が劣化している可能性があるという。術後合併症の発生率は、外科医が経験を重ねるに従い、大きなばらつきが生じることも示されている。BMJ誌2012年2月11日号(オンライン版2012年1月10日号)掲載の報告。外科医の経験年数と術後合併症の関連を評価研究グループは、甲状腺摘出術における内分泌外科医の経験と術後合併症の関連を評価するプロスペクティブな横断的多施設共同試験を実施した。2008年4月1日~2009年12月31日までに、フランスの5つの大学病院の専門施設で甲状腺摘出術を施行した外科医を対象とし、術後に患者の登録を行った。主要評価項目は、2つの恒久的な術後合併症である再発性喉頭神経麻痺および副甲状腺機能低下症の発生率とした。解析には、混合効果ロジスティック回帰モデルを用いた。35~50歳の外科医で患者のアウトカムが良好1年間に28人(平均年齢41歳、平均経験年数10年、女性医師5人)の外科医が3,574件の手術を行った。再発性喉頭神経麻痺は2,357件(66%)で、副甲状腺機能低下症は2、904件(81%)で評価可能であった。再発性喉頭神経麻痺の発生率は2.08%(49例)、副甲状腺機能低下症の発生率は2.69%(78例)だった。多変量解析では、臨床経験が20年以上になると、再発性喉頭神経麻痺(オッズ比:3.06、p=0.04)および副甲状腺機能低下症(同:7.56、p=0.01)のリスクが有意に増大した。外科医の技能は経験年数(p=0.036)や年齢(p=0.035)と負の相関を示し、35~50歳の外科医では35歳未満および50歳以上の医師に比べ、患者のアウトカムが良好だった。著者は、「甲状腺摘出術の最良の技能は、経験を積んだだけで達成されたり、維持できるわけではないことが示された」と結論し、「経験豊富な外科医の技能が劣る場合、これにどのような因子が寄与するかについてはさらなる検討を要する」と指摘している。(菅野守:医学ライター)

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症候性頸動脈狭窄、ステント留置術は時期尚早?:ICSS試験

手術適応の症候性の頸動脈狭窄に対する第一選択治療は、現時点では頸動脈内膜切除術(CEA)とすべきことが、英国University College London神経学研究所のMartin M Brown氏らが進めている無作為化試験(ICSS試験、http://www.cavatas.com/)の中間解析で示された。CAVATAS試験では血管内治療(ステント使用/非使用の血管形成術)が有用な可能性が示唆されたが、CEAの主要な合併症(脳神経傷害、重度血腫)は回避しうるものの術後30日以内の脳卒中/死亡の発生率はいずれの治療でも高かった。また、SPACE試験ではCEAに対する頸動脈ステント留置術(CAS)の非劣性が示せず、EVA-3S試験では周術期の脳卒中/死亡の発生率がCASよりもCEAで有意に低かったため、いずれの試験も早期中止となっている。Lancet誌2010年3月20日号(オンライン版2010年2月26日号)掲載の報告。安全性に関する中間解析ICSS(International Carotid Stenting Study)試験の研究グループは、CASとCEAの有用性を比較する国際的な多施設共同無作為化対照比較試験を進めており、今回の中間解析では安全性に関する結果を報告した。症候性の頸動脈狭窄の患者が、CASあるいはCEAを施行する群に無作為に割り付けられた。治療割り付け情報は患者、研究者ともにマスクされず、患者のフォローアップは治療に直接には関与しなかった医師が独立に行った。主要評価項目は術後3年間における致死的あるいは廃疾性の脳卒中(disabling stroke)の発生率であり、現時点では解析結果は出ていない。安全性に関する中間解析の主要評価項目は、術後120日間における脳卒中、死亡、治療関連心筋梗塞の発生率であった。安全性の主要評価項目、CAS群8.5%、CEA群5.2%で有意差あり2001年5月~2008年10月までに、ヨーロッパ、オセアニア、カナダの50施設から1,713例が登録され、CAS群に855例が、CEA群には858例が割り付けられた。割り付け直後に試験を中止した3例(CAS群:2例、CEA群:1例)はintention-to-treat解析には含めなかった。無作為割り付け後120日までの死亡および廃疾性脳卒中の発生率は、CAS群が4.0%(34例)、CEA群は27例(3.2%)であり、両群間に有意な差はなかった(ハザード比:1.28、95%信頼区間:0.77~2.11)。120日までの脳卒中、死亡、治療関連心筋梗塞の発生率は、CAS群が8.5%(72例)、CEA群は5.2%(44例)であり、CAS群で有意に高かった(ハザード比:1.69、95%信頼区間:1.16~2.45、p=0.006)。脳卒中はCAS群65例、CEA群35例(ハザード比:1.92、95%信頼区間:1.27~2.89)、全死亡はそれぞれ19例、7例(ハザード比:2.76、95%信頼区間:1.16~6.56)にみられ、いずれもCAS群で有意に多かった。治療関連心筋梗塞は、CAS群で3例にみられすべて死亡したのに対し、CEA群で認めた4例はいずれも非致死的であった。脳神経麻痺は、CAS群では1例のみであったが、CEA群では45例に認めた。血腫の頻度も、それぞれ31例、50例と、CAS群で有意に少なかった(p=0.0197)。これらの結果により、著者は「頸動脈内膜切除術との比較における頸動脈ステント留置術の有用性を確立するには、長期のフォローアップを完遂する必要がある」とし、「それまでは、手術適応の症候性頸動脈狭窄患者に対する治療としては頸動脈内膜切除術を選択すべきである」と結論している。(菅野守:医学ライター)

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頸動脈狭窄、内膜摘除か?ステント留置か?:短期・中期アウトカムの比較

米国ミシガン大学のPascal Meier氏らの研究グループは、議論が続いている頸動脈狭窄に対する頸動脈内膜摘除術と頸動脈ステント留置術の、周術期における安全性と中期の有効性を評価するため、過去に行われた無作為化臨床試験のシステマティックレビューとメタ解析を行い、BMJ誌2010年2月27日号(オンライン版2010年2月12日号)に発表した。死亡または脳卒中の複合エンドポイントで比較使用したデータ・ソースは、1990年1月1日から2009年7月25日までのBIOSIS、Embase、Medline、the Cochrane central register of controlled trials、International Pharmaceutical Abstracts database、ISI Web of Science、Google scholar and bibliographies。症状の有無にかかわらない頸動脈狭窄患者を対象とした無作為化対照試験で、頸動脈内膜摘除術群と頸動脈ステント留置術群について比較を行った。主要エンドポイントは「死亡または脳卒中」の複合とした。また2次エンドポイントとして、「死亡」「脳卒中」「心筋梗塞」「顔面神経麻痺」と「死亡または重い障害の残る脳卒中」を評価した。11試験(4,796例)が対象となり、そのうち10試験(4,709例)が短期アウトカム(30日以内の周術期)を、9試験が中期アウトカム(1~4年)を報告していた。中期アウトカムは有意差なし、症状に応じた選択が必要周術期の「死亡または脳卒中」リスクは、ステント術群より内膜摘除術群の方が低かった(オッズ比0.67、95%信頼区間:0.47~0.95、P=0.025)。その主な要因は「脳卒中」リスクの低下(0.65、0.43~1.00、P=0.049)によるもので、「死亡」リスク(1.14、0.56~2.31、P=0.727)ならびに「死亡または重い障害の残る脳卒中」リスクに有意差はなかった(0.74、0.53~1.05、P=0.088)。一方、周術期の「心筋梗塞」(2.69、1.06~6.79、P=0.036)、「脳神経損傷」(10.2、95%CI 4.0~26.1、P

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ベル麻痺患者の早期治療で抗ウイルス剤治療は「?」

コルチコステロイドと抗ウイルス剤は特発性顔面神経麻痺(ベル麻痺)の早期治療に広く使われている。しかしその効果は明確ではない。 ダンディ大学(英国)プライマリケア・スコットランド校のFrank M. Sullivan氏らは、症状発現後72時間以内に集められたベル麻痺患者を対照とする二重盲検プラセボ対照無作為化要因試験を実施した。NEJM誌10月18日号掲載報告から。プレドニゾロン、acyclovir、両剤、プラセボ10日間投与で比較対象患者は、プレドニゾロン(コルチコステロイド)、acyclovir(抗ウイルス剤)、これら両剤またはプラセボのいずれかを投与する群に無作為に割り付けられた。期間は10日間。主要転帰は顔面機能の回復とし、House-Brackmanスケールで評価された。副次転帰には、クオリティオブライフ(QOL)と、顔の様相、疼痛が含まれた。最終転帰が評価されたのは、551例のうち496例だった。プレドニゾロン投与群は有意に顔面機能を改善3ヵ月時点で顔面機能が回復した患者の比率は、プレドニゾロン投与群vs非投与群で83.0% vs 63.6%(P

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