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第1回 痛みの概説【エキスパートが教える痛み診療のコツ】

第1回 痛みの概説痛みは、古来より病気の兆候の中でも最も多く、医療・医学の原点です。今日でも人類を苦しめている大きな病気因子でもあります。この痛みを意味する英語の“Pain”はラテン語のPoena、ギリシャ語のPoineより由来しております。元来はPenalty あるいはPunishmentを意味しておりました。処罰の1つの方法として、痛みを受けさせられることは、昔からごく自然になされていたことと推察されます。このように、痛みは人類の誕生とともに歩んできたにもかかわらず、現在においても感覚としての「痛み」をなかなか科学的な研究対象として取り上げにくいのが実態です。その原因の1つには、聴覚や視覚など他の感覚と異なって、複数の人が痛みを同時に同程度に共有することが不可能であることが挙げられております。そのために痛みを客観的に把握することがきわめて困難であります。米国では、2001~2010年までを「痛みの10年」として、痛みの研究や治療に膨大な国家予算を費やし、痛み患者への対策を検討しました。これは、ともすれば痛みを口実に「怠惰さの隠れ蓑にしているのではないか」との世間の目を気にしている痛みの患者への救いであるとともに、痛み患者の就労不能や意欲低下、また、その看護などによる年間の経済的損失が米国ではおよそ8兆円にのぼるとの試算に向け、この深刻な問題に対する政策でもありました。国際疼痛学会(IASP)は、痛みとは「実際の組織損傷、あるいは潜在的な組織損傷と関連した、または、このような組織損傷と関連して述べられる不快な感覚的・情動的体験」と定義しています。しかしながら、この定義からしても痛みの実体を認識することは難しいのです。むしろ痛みを機序別による分類から考えるほうが、わかりやすいかもしれません。それでは、痛みの発生する原因機序別に従って分類してみましょう。侵害受容性疼痛針で刺したり、金鎚で叩いたりしたときに感じる痛みです。神経自由終末の侵害受容器に一定以上の痛み刺激が加わることによって、痛みインパルスが発生します。その痛みインパルスが脊髄を経由して上位中枢に伝達され、大脳皮質第2次体性感覚野に到達すると痛みとして認識されます。この痛みインパルスを伝導するのは、Aδ線維とC線維です。Aδ線維は表に示されているように、C線維より太いので伝達速度が速くなります。おそらくは向こう脛を机の角に打ち付けたときに、最初にドンと来る痛みを感じて、その後しばらくしてジーンとするいやな痛みを感じたことを経験されたことがあるでしょう。最初の痛みがAδ線維経由の痛み(1次痛)で、その後がC線維経由の痛み(2次痛)です。がんによる疼痛も侵害受容性疼痛と考えられ、がん細胞が神経末端を刺激することによって痛みが生じます。表 侵害受容性疼痛の種類・伝導速度・主な受容器画像を拡大する神経障害性疼痛帯状疱疹後神経痛(PHN)に代表される痛みです。帯状疱疹ウイルスによって、神経線維そのものが破壊される結果により、神経自由終末ではなく異所性に痛みインパルスが発生するために、痛みとして感じます。触覚などのインパルスを伝達する太い神経線維(Aβ)が減少して、代わりに痛み感覚を伝達する細い神経線維(C線維)に置き換わるために、触覚も痛みとして感じます。本来の痛み刺激ではない、筆などによる柔らかい刺激を痛みとして感じるアロディニアの症状が見られます。心因性疼痛(非器質性疼痛)痛みが長く持続すると、抑うつなどの心因的症状が進展して、それが痛みをさらに増悪することになります。また、いやなことが続くと身体のどこかに痛みを感じる「身体表現性疼痛」と言われる非器質的な疼痛が現れることがあります。このように、最初から心因性(非器質性)に痛みを感じることもあります。現代では、この「心因性疼痛」もかなりの頻度で見られるようです。このように、臨床的な痛みの分類として、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心因性疼痛(図)が存在しますが、痛みの開始時には、これらをある程度明確に分類できるでしょう。しかしながら、痛みが長期間持続してくると、これらが1つになってしまうために痛みの治療が著しく困難となります。この意味からも痛みには早期からの治療が必要でありますし、患者さんも我慢すべきではありません。図 臨床的な痛みの分類の概念*画面をクリックして動画を視聴ください1)Erlanger J,Gasser HS. Electrical signs of nervous activity.Philadelphia;University of Pennsylvania Press:1937.2)Burgess PR, Perl ER, Iggo A(ed). Somatosensory system. New York;Springer:1973.p.29-78.3)花岡一雄、ほか. 現代鍼灸学. 2005:5;59-68.4)河谷正仁 編集. 痛み研究のアプローチ. 新興交易医書出版部;2006.p.15-18.5)花岡一雄. 東京都医師会雑誌.2007:60;6-10.今後の掲載予定侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心因性疼痛、急性痛と慢性痛、痛みの悪循環などを総論的に解説後、各論として全身、頭頸部、胸部、腹部など部位別にさらに詳しくレクチャーしていきますのでご期待ください。次回は、「急性痛と慢性痛」について説明します。

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腰痛や肩こりなどの「痛み」による経済損失約1兆9千億円

 働き方改革のもと、仕事へのかかわり方や働き方が変化しつつある。その中でも見過ごされやすい問題として、健康問題を抱えて就業ができない、効率を上げることができないという就労問題がある。今回、健康に起因する就労問題の中でも「痛み」に焦点をあて、ファイザー株式会社とエーザイ株式会社が共催で、2018年8月8日にプレスセミナーを開催した。セミナーでは、「健康経営時代に欠かせない『痛み』の早期診断と治療」をテーマに、「痛み」がもたらす社会的損失と神経障害性疼痛のスクリーニングツールについて講演が行われた。腰痛などの慢性疼痛による経済損失は1兆9,530億円にのぼる はじめに「痛みによる労働生産性への影響とその経済損失?」をテーマに、五十嵐 中氏(東京大学大学院 薬学系研究科・医薬政策学 特任准教授)が、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践する方策と労働生産性を阻む「痛み」とその損失について講演を行った。 少子高齢化で労働人口が減少する中で、労働者1人当りの労働生産性はこれまで以上に重要とされ、「健康経営」という概念が登場した。「健康経営」とは、従業員の健康保持・増進の取り組みが、将来的に収益性などを高めるという考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践することである。この実践により従業員の活力向上、生産性向上と組織の活性化をもたらし、結果として業績向上や組織としての価値向上につながることが期待されている。 この健康経営で問題となるのが、従業員の健康問題である。健康問題に関するコストとして、直接かかる医療費とは別にアブセンティーズム(病欠)とプレゼンティーズム(健康問題で効率・生産性が低下している状況)の2つがある。そして、企業における従業員の健康コストの内訳では、アブセンティーズムが11%、プレゼンティーズムが64%で、プレゼンティーズムの比率が高く、就労問題の中でも2大要因として精神関連症状と筋骨格系障害がある1)。また、医療費と生産性でみた場合の疾病コストでは「肩こり・腰痛」がトップで、こうした慢性疼痛による損失は1週間平均で4.6時間に及ぶという試算がある。そして、時間ベースの経済損失は、1兆9,530億円にのぼるという報告2)もあり、「企業は健康経営として身体の痛み対策に取り組むべきときだ」と同氏は述べる。 おわりに「健康経営では人件費だけでなく、保健指導やそのシステムの充実、診療施設やフィットネスルームの設置など投資をすることで、経営には生産性の向上、医療コストの削減、モチベ―ションの向上など企業価値を高める効果が予想される。企業はこうした視点も踏まえ、従業員の健康対策を図ってもらいたい」と語り、レクチャーを終えた。腰痛などの神経障害性疼痛患者のQOLはがんの終末期と同等 つぎに紺野 愼一氏(福島県立医科大学 医学部整形外科学講座 主任教授)を講師に迎え、「痛みの種類に応じた適切な治療と最新スクリーニングツール」をテーマに、主に神経障害性疼痛の診療とスクリーニングツールについて説明を行った。 慢性疼痛の保有率は、成人の22.5%(患者数2,315万人)とされ、男女ともに「腰痛」「肩こり」が上位を占める。この慢性疼痛の中でも診療が難しいとされる神経障害性疼痛について触れ、臨床的特徴として刺激がなくとも起こる痛み、非侵害刺激での痛み誘発、侵害刺激による疼痛閾値の低下、しびれがあるという。また、疼痛領域は損傷部位などと同一ではなく、神経、神経根、脊髄、脳の支配領域で発生し、通常NSAIDsに反応しにくく、COX阻害薬以外の鎮痛薬が必要となる。神経障害性疼痛が患者のQOLに与える影響について、健康関連QOLを評価するために開発された包括的な評価尺度(EQ-5D-3L:0は死亡、1.0は健康な人)で調査した結果によれば、終末期がん患者のQOL(0.4~0.5)と比較し、神経障害性疼痛のQOLはそれと同程度の値を示し、さらに重症の神経障害性疼痛のQOLは心筋梗塞で絶対安静状態の患者のQOL(0.2)と同程度の結果だったという3)。 神経障害性疼痛の診断では、VASなどの痛み評価の多種多様なツールが使用される。なかでも“Spine painDETECT”は、脊椎疾患に伴う神経障害性疼痛のスクリーニング質問票として開発されたツールであり、8つの質問事項の素点から算出される(開発試験での感度78.8%、特異度75.6%)。さらに簡易版のSpine painDETECTでは、2つの質問事項の素点から算出される(開発試験での感度82.4%、特異度66.7%)。 紺野氏は、「神経障害性疼痛は、早期に診断できれば患者の痛みを治療・軽減できる疾患なので、病院やクリニックを問わず、プライマリケアの場などで、このスクリーニングツールを積極的に活用してもらい、診断に役立ててほしい」と期待を語り、講演を終えた。■参考1)Nagata T, et al. J Occup Environ Med. 2018;60:e273-e280.2)Inoue S, et al. PLoS One. 2015;10:e0129262.3)日本ペインクリニック学会神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂版作成ワーキンググループ. 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン 改訂第2版.真興交易医書出版部;2016.p.43.■関連記事eディテーリング その痛み、神経障害性疼痛かも?

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高齢者の疼痛管理に必要なものとは?

 2018年7月19日より3日間開催された日本ペインクリニック学会 第52回大会(学会長:井関 雅子/テーマ「あなたの想いが未来のペインクリニックを創る」)のジョイント基調講演で「高齢者の疼痛管理に必要なものとは何か?」をテーマに、川井 康嗣氏(仙台ペインクリニック石巻分院 院長)が講演を行った。本稿ではこの講演の概要をお届けする。被災地特有の運動器障害と疼痛 川井氏は、東日本大震災の被災地である石巻・東松島地区で、約4年前からペインクリニックに従事し、主に高齢者の非がん性の痛みのマネジメントを行っている。 高齢者の「痛み」の多くは、加齢によるロコモティブシンドロームなどから起こる運動器障害の痛みであり、腰痛、関節痛および骨粗鬆症・脊椎椎体骨折などの整形外科疾患の痛みが多い。とくに石巻では、現在も狭小な仮設住宅に住む高齢者も多く、不良な生活環境が運動器の痛みの原因になっていることが推察される。また、震災で地域コミュニティが崩壊したこともあり、「生きがいを感じる場所の喪失は日常生活の不活発化~不動化をもたらし、患者に与えている影響は震災後7年を経過した現在でも大きい」と同氏は被災地の現状を語った。こうした高齢患者には良質の鎮痛とともに、不動化を予防するマネジメントが求められる。 不動化が生じている高齢患者の診療では、痛みが改善しても不動化が改善しない場合があり、その中には単なる運動不足ではない、いわゆる「生活不活発病」の症例があるという。これは、生活環境や人間関係の激変・喪失を契機に心身の機能が低下する状態であり、全国の他の被災地でも同様なことが生じているのではないかと危惧している。こうした症例では、「運動器の器質的なアプローチでは不十分であり、心理・社会的アセスメントと地域コミュニティ対策が求められる」と同氏は指摘する。老化の痛みのマネジメント 高齢者の運動アドヒアランスを維持するためには、1~2種類の体操に限定して指示することや、寝たきりが予防できる歩数として1日最低2,000歩以上は歩行するような提案(理想は速歩き20分を含む8,000歩/日:青柳幸利 The Nakanojo Studyより)、積極的な介護保険の申請と利用の推奨などを行う必要がある。また同時に、「医療者からは高齢患者に社会的な関わりを持たせるための工夫(男性ではスポーツ、ゲームなど競争要素のあるもの、女性では人間交流の点で利点の多い運動や趣味を中心に)を来院時に持ち掛けることも運動機能の維持に有益ではないか」と同氏は提案する。今後、こうした運動へのモチーベーションの提供のため、「同世代のサークル募集の張り紙や運動仲間のお誘いポスターを院内に掲示するなどの工夫をしたい」とも話す。 そのほか、高齢者では、退行変性(老化)の痛みを老化ではなく疾患と捉え、治癒を目指して闘っている姿がしばしば見られる。このような症例では、自己の老化を受け入れ、それをマネジメントしていくため、医療者からの丁寧な説明が必要だという。同氏は「医療者は、こうした患者に安易に鎮痛薬を処方するのではなく、薬物療法と同時に、投薬の意義についての教育も重要」と語る。高齢者の薬物療法はチームプレイで当たる 疼痛の薬物治療について、高齢者では出来る限りNSAIDsは慎重に使用し、アセトアミノフェンから使用することが望ましい。最近では、神経障害性疼痛に対する治療薬やオピオイド鎮痛薬が発売され、患者の選択肢は飛躍的に拡大した。しかし、忍容性の低い高齢者では、「細心の薬剤選択と用量調整(マルチモーダル鎮痛法や“start low, go slow”など)や副作用対策が必要となる。そのほか、薬物療法に神経ブロック療法を組み合わせることで、さらに良質な鎮痛が期待できる」と語る。 また、「高齢者では服薬アドヒアランスを維持することが重要で、看護師や薬剤師などを中心としたチームアプローチによって、患者に治療薬の説明や薬物療法の意義についての教育や副作用の相談や対処、残薬の確認などを行う必要がある。そのためにも日ごろから薬剤について学習会などを通じて、医療チーム全体で知識のアップデートを行うことが大事だ」と同氏は提案する。 最後に、「高齢者の疼痛管理では、鎮痛や不動化予防などの目標に加え、生きる自信を与えながら、人生のゴールに向かって苦痛や不安に寄り添う姿勢が求められる。今後も、高齢者が困ったときに、気軽に立ち寄れるようなクリニックを目指し診療を行っていく」と思いを語り、講演を終えた。■参考日本ペインクリニック学会 第52回大会■関連記事診療よろず相談TV シーズンII第21回「腰痛」回答者:福島県立医科大学 医学部 整形外科学講座 教授 紺野 愼一氏

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50歳以上の帯状疱疹はワクチンで予防

 2018年7月19日から3日間、都内で日本ペインクリニック学会 第52回大会「あなたの想いが未来のペインクリニックを創る-専門性と多様性への挑戦-」が開催された。本稿では、7月20日のシンポジウム「帯状疱疹関連痛の治療、予防の未来を考える」から、木村 嘉之氏(獨協医科大学 麻酔科学講座 准教授)が発表した「帯状疱疹関連痛の疫学と予防」について、概要を紹介する。PHNは、痛みの期間が長いと発症リスクが上がる 帯状疱疹は、初感染を経て細胞に潜伏した水痘・帯状疱疹ウイルスが何らかの原因により再燃することで発症し、これに起因した一連の痛みは、帯状疱疹関連痛と呼ばれている。帯状疱疹関連痛は、皮疹による痛み(侵害受容性疼痛)と、帯状疱疹後神経痛(神経障害性疼痛)に分けられ、病期に伴い痛みの性状は変化していく。 帯状疱疹の発症数は近年増加傾向にあり、わが国では、50歳以上で帯状疱疹の罹患率が上昇するという報告がある1)。とくに皮膚症状・疼痛が中等度~重症の患者では、痛みが遷延し、帯状疱疹後神経痛(PHN)に移行することがあり、海外では、50歳以上の帯状疱疹患者の18%がPHNを発症すると報告2)されている。 PHNのリスクは、重症度、年齢、ウイルスの感染部位などによって異なるが、痛み治療の遅れがPHN発症につながる可能性も指摘されている。PHNは、長期に続く痛み・かゆみが患者のQOLを大きく低下させるため、帯状疱疹の予防と適切な治療の早期導入が重要だ。PHNの予防には、帯状疱疹ワクチンが有効 PHNの予防として、木村氏は、まず水痘にならないこと、そして帯状疱疹を発症させないことを強調した。患者に水痘罹患歴がない場合は、水痘ワクチン接種で発症を予防できる。水痘に罹患しなければ、ウイルスの潜伏もなく、将来的な帯状疱疹の発症はないと考えられる。 水痘ワクチンは2014年から定期接種の対象になっているため、近年患者数は激減しているが、成人の90%以上は水痘・帯状疱疹ウイルスへの感染歴がある3)という。よって、この集団における将来的な帯状疱疹発症の予防が急務となる。同氏は、高齢者が水痘患者と接する機会が減ったことで、追加免疫効果を得られず、帯状疱疹ウイルスに対する抗体価が低下している可能性を指摘する。そこで推奨されるのが、帯状疱疹ワクチンだ。水痘の感染歴がある場合でも、ワクチン接種で抗体価をあげることによってウイルスの再活性化を予防できるという。 また、帯状疱疹の予防には、日常生活の中で、免疫力の低下(過度のストレスや体力低下など)を避けることも大切だ。同氏は、「50歳以上の患者さんには、帯状疱疹・PHNの予防策として、水痘・帯状疱疹ワクチンを推奨する必要がある」と強く訴えた。 なお、帯状疱疹が発症してしまった場合、PHNなど痛みの遷延化を防ぐためには、早期診断、抗ウイルス薬の投与とともに、痛みに対する適切な治療を開始することが重要となる。 海外では、ワクチン接種がPHNへの移行を予防する可能性が報告4)されている。わが国では、帯状疱疹ウイルスワクチン(生ワクチン)が発売されており、任意で接種を受けることができる。なお、2018年3月にはサブユニットワクチンが承認されており、発売が待たれる。〔8月13日 記事の一部を修正いたしました〕■参考1)国立感染症研究所 宮崎県の帯状疱疹の疫学(宮崎スタディ)2)Yawn BP, et al. Mayo Clin Proc. 2007;82:1341-1349.3)国立感染症研究所 感染症流行予測調査グラフ 抗体保有状況の年度比較「水痘」4)Izurieta HS, et al. Clin Infect Dis. 2017;64:785-793.日本ペインクリニック学会 第52回大会■関連記事こどもとおとなのワクチンサイトが完成

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糖尿病患者は日常的にしびれを感じている

 2018年5月24日から3日間、都内で第61回日本糖尿病学会年次学術集会「糖尿病におけるサイエンスとアートの探究」が開催された。5月25日のシンポジウム「神経障害の病態と治療―痛みを科学する」の概要を紹介する。半数の糖尿病患者は、外来でしびれや痛みを話さない 糖尿病性神経障害は、早期から発症する重大な合併症であり、なかでも糖尿病性多発神経障害(DPN)は、QOLを著しく低下させ、進行すると生命予後の短縮につながる疾患である。DPNは、罹病期間や血糖コントロールと関連し、5~10年単位で緩徐に進行するが、国際的に統一された診断基準はいまだ確立されていない。わが国では、「糖尿病性神経障害を考える会」の簡易診断基準とDPNの臨床病期分類(I~V期)などが用いられ、日常診療でのスクリーニングが行われている。また、ハンマーの金属部分や竹串の鋭端と鈍端を足に当てて、簡易的に神経(温痛覚)障害の初期症状をチェックする検査ができるという。 厚生労働省の「平成19年国民健康・栄養調査」によると、糖尿病と診断された患者の中で、「神経障害(手足がしびれる、感覚がにぶくなるなど)がある」と答えた人は、11.8%だった。しかし、実際の外来では半分ほどの患者しか神経症状を訴えていない。糖尿病性神経障害は、糖尿病が発覚する前から発症しているケースもあるため、なるべく早期に発見し、適切な治療と良好なコントロールを行う必要がある。医療者が、しびれや痛みを感じている患者の訴えを積極的に拾い上げることが望まれる。HbA1cの下降幅が大きいほど、治療後の神経障害が大きい 出口 尚寿氏(鹿児島大学大学院医歯学総合研究科糖尿病・内分泌内科学)は、「有痛性糖尿病性神経障害の臨床像」をテーマに発表を行った。 痛みを伴う糖尿病性神経障害は、感覚神経(温痛覚)と自律神経により構成される小径神経の障害(small fiber neuropathy:SFN)であり、DPNのような典型的病型のほか、主にメタボリックシンドロームに起因する耐糖能障害や、急性有痛性神経障害など、多様な病態・病型を含み、脂質異常症や高血圧症など、さまざまな因子の関与が示唆される。また、長期間HbA1cが高値だった患者の治療において、期間あたりのHbA1c下降幅が大きいほど、治療後に生じる神経障害の程度と障害の分布が大きい傾向にあるという。 神経障害による痛みの治療は、「神経障害性疼痛薬物治療ガイドライン」に準じて行うが、病型に応じた疼痛へのアプローチが求められる。第1選択薬(プレガバリン、デュロキセチンなど)を少量で開始し、効果と副作用をみながら漸増するが、急性で激しい疼痛がある病型では、速やかな増量や第2選択薬(トラマドールなど)の追加などが必要となる。出口氏は、「糖尿病患者にとって、疼痛は大きなストレスとなる。初期用量で効かないからと、薬を増量せずに中止するのではなく、副作用がクリアできれば、まず常用量をしっかり使うべき。患者さんの声を聞き、根気強く痛みと向き合いケアすることが大切だ」と強調した。痛みの緩和+運動習慣でQOLの低下を食い止める 住谷 昌彦氏(東京大学医学部附属病院 緩和ケア診療部/麻酔科・痛みセンター)は、「糖尿病関連疼痛の治療学」をテーマに発表を行った。 糖尿病性神経障害は、無髄神経線維(C線維)から有髄神経線維へと障害が進展していくが、簡易診断基準では有髄神経障害の症状しかスクリーニングできない可能性がある。しかし、C線維の障害だけでも疼痛は発症しうる。また、神経障害の初期には神経線維が保たれていても、痛みや知覚過敏などの徴候を示すことがあり、知覚鈍麻だけが糖尿病性神経障害の特徴ではない。神経障害に伴う症状は、寛解と増悪を繰り返して進行することが知られているが、病期が進むまで無症候な例もあるという。神経障害の重症度と疼痛の重症度が必ずしも相関しないため、とくに初期のしびれや違和感の把握が重要で、肥満があると、痛みやしびれが強く出る傾向にある。 神経障害性疼痛を持つ患者は、足の痛みなどが原因で、転倒に対する恐怖が付きまとうが、家にこもりがちになることに対して住谷氏は警鐘を鳴らした。運動量の減少が招く筋肉量の低下は、ロコモティブシンドロームの入り口となる危険性がある。同氏は、「痛みの治療だけではQOLは改善されない。QOLの改善には、適切な薬物治療を行って痛みをコントロールしたうえで、運動・食事療法も並行する必要がある。痛みを緩和して、運動習慣を定着させることが、QOL低下の悪循環を止めるために重要である」と語った。■参考厚生労働省「平成19年国民健康・栄養調査報告 第4部 生活習慣調査の結果」■関連記事神経障害性疼痛の実態をさぐる

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慢性疼痛治療ガイドラインが発刊

 2018年3月、痛みに関連する7学会のメンバーが結集し作り上げた「慢性疼痛治療ガイドライン」(監修:厚生労働行政推進調査事業費補助金慢性の痛み政策研究事業「慢性の痛み診療・教育の基盤となるシステム構築に関する研究」研究班、編集:慢性疼痛治療ガイドライン作成ワーキンググループ*)が発刊された。*ペインコンソーシアム(日本運動器疼痛学会、日本口腔顔面痛学会、日本疼痛学会、日本ペインクリニック学会、日本ペインリハビリテーション学会、日本慢性疼痛学会、日本腰痛学会)より選出された委員により構成慢性疼痛に対する施策はエアポケットとなっていた これまで、種々の疾患(がん、生活習慣病、感染症、精神疾患、難病など)への対策が日本政府により行われてきたが、慢性疼痛に対する施策は、エアポケットのように抜け落ちていた。しかし、最近、慢性疼痛に対する施策も国の事業として進められるようになり、前述の研究班とワーキンググループにより、All Japanの慢性疼痛治療ガイドラインが策定された。慢性疼痛治療ガイドラインは、全6章、51CQから成る 慢性疼痛治療ガイドラインは、全6章(総論、薬物療法、インターベンショナル治療、心理的アプローチ、リハビリテーション、集学的治療)から成り、全51個のクリニカルクエスチョン(CQ)が設定されている。慢性疼痛治療ガイドラインのエビデンスレベルは4段階で評価 慢性疼痛治療ガイドラインのCQに対するAnswerの部分には、推奨度およびエビデンスレベルが記されている。推奨度は、「1:する(しない)ことを強く推奨する」「2:する(しない)ことを弱く推奨する(提案する)」の2通りで提示されている。エビデンスレベルは、「A(強):効果の推定値に強く確信がある」「B(中):効果の推定値に中程度の確信がある」「C(弱):効果の推定値に対する確信は限定的である」「D(とても弱い):効果の推定値がほとんど確信できない」と規定された。慢性疼痛とは 慢性疼痛は、国際疼痛学会(IASP)で「治療に要すると期待される時間の枠を超えて持続する痛み、あるいは進行性の非がん性疼痛に基づく痛み」とされている。 慢性疼痛には「侵害受容性」「神経障害性」「心理社会的」などの要因があるが、これらは密接に関連している場合が多く、痛み以外に多彩な症状・徴候を伴っていることも多い。そのため、慢性疼痛治療ガイドラインでは、慢性疼痛の診断において最も重要なことは、正確な病態把握とされた。また、慢性疼痛の治療は、痛みの軽減が目標の1つであるが第一目標ではなく、作用をできるだけ少なくしながら痛みの管理を行い、QOLやADLを向上させることが重要であると記載されている。慢性疼痛治療ガイドラインには薬物療法の推奨度を詳細に記載 慢性疼痛治療ガイドラインでは、薬物療法の項に最も多くの紙面が割かれている。なお、本ガイドラインでは、「医療者は各項の推奨度のレベルのみを一読するのではなく、CQの本文、要約、解説を十分に読み込んだ上での試行・処方などを検討するようにお願いしたい」「一部、現在(平成30年3月現在)の保険診療上適応のない薬物や手技もあるが、薬物療法においては、添付文書などを熟読の上、治療に当たることが望ましい」と記載されている。 主な薬剤の推奨度、エビデンス総体の総括は以下のとおり。●非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)運動器疼痛:1A(使用することを強く推奨する)神経障害性疼痛:2D(使用しないことを弱く推奨する)頭痛・口腔顔面痛:2B(使用することを弱く推奨する)線維筋痛症:2C(使用しないことを弱く推奨する)●アセトアミノフェン運動器疼痛:1A(使用することを強く推奨する)神経障害性疼痛:2D(使用しないことを弱く推奨する)頭痛・口腔顔面痛:1A(使用することを強く推奨する)線維筋痛症:2C(使用することを弱く推奨する)●プレガバリン運動器疼痛:2C(使用することを弱く推奨する)神経障害性疼痛:1A(使用することを強く推奨する)頭痛・口腔顔面痛:2C(使用することを弱く推奨する)線維筋痛症:1A(使用することを強く推奨する)●デュロキセチン運動器疼痛:1A(使用することを強く推奨する)神経障害性疼痛:1A(使用することを強く推奨する)頭痛・口腔顔面痛:2C(使用することを弱く推奨する)線維筋痛症:1A(使用することを強く推奨する)●抗不安薬(ベンゾジアゼピン系薬物)運動器疼痛:2C(使用することを弱く推奨する)(エチゾラム)神経障害性疼痛:2C(使用することを弱く推奨する)(クロナゼパム)頭痛・口腔顔面痛:2B(使用することを弱く推奨する)           (緊張型頭痛:エチゾラム、アルプラゾラム)           (口腔顔面痛:ジアゼパム、クロナゼパム)線維筋痛症:2C(使用することを弱く推奨する)●トラマドール運動器疼痛:1B(使用することを強く推奨する)神経障害性疼痛:1B(使用することを強く推奨する)頭痛・口腔顔面痛:推奨度なし線維筋痛症:2C(使用することを弱く推奨する)慢性疼痛治療ガイドラインには心理療法・集学的療法の推奨度も記載 心理療法として取り上げられた心理教育、行動療法、認知行動療法、マインドフルネス、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)は、慢性疼痛治療ガイドラインではいずれも推奨度1(行うことを強く推奨する)とされている。また、最近話題の集学的治療や集団認知行動療法(集団教育行動指導)も慢性疼痛治療ガイドラインでは推奨度1(施行することを強く推奨する)とされ、その重要性が示されている。

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アトピー性脊髄炎〔AM:atopic myelitis〕

1 疾患概要■ 概念・定義中枢神経系が自己免疫機序により障害されることは、よく知られている。中でも最も頻度の高い多発性硬化症は、中枢神経髄鞘抗原を標的とした代表的な自己免疫疾患と考えられている。一方、外界に対して固く閉ざされている中枢神経系が、アレルギー機転により障害されるとは従来考えられていなかった。しかし、1997年にアトピー性皮膚炎と高IgE血症を持つ成人で、四肢の異常感覚(じんじん感)を主徴とする頸髄炎症例がアトピー性脊髄炎(atopic myelitis:AM)として報告され1)、アトピー性疾患と脊髄炎との関連性が初めて指摘された。2000年に第1回全国臨床疫学調査2)、2006年には第2回3)が行われ、国内に本疾患が広く存在することが明らかとなった。その後、海外からも症例が報告されている。2012年には磯部ら4)が感度・特異度の高い診断基準を公表し(表)、わが国では2015年7月1日より「難病の患者に対する医療等に関する法律」に基づき「指定難病」に選定されている。画像を拡大する■ 疫学平均発症年齢は34~36歳で、男女比1:0.65~0.76と男性にやや多い。先行するアトピー性疾患は、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、気管支喘息の順で多く、アトピー性疾患の増悪後に発症する傾向にあった。発症様式は急性、亜急性、慢性のものが約3割ずつみられ、症状の経過は、単相性のものも3~4割でみられるものの、多くは、動揺性、緩徐に進行し、長い経過をとる。■ 病因図1のようにAMの病理組織学的検討では、脊髄病巣は、その他のアトピー性疾患と同様に好酸球性炎症であり、アレルギー性の機序が主体であると考えられる。さまざまな程度の好酸球浸潤を伴う、小静脈、毛細血管周囲、脊髄実質の炎症性病巣を呈する(図1A)5)。髄鞘の脱落、軸索の破壊があり、一部にspheroidを認める(図1B)5)。好酸球浸潤が目立たない症例においても、eosinophil cationic protein(ECP)の沈着を認める(図1C)6)。浸潤細胞の免疫染色では、病変部では主にCD8陽性T細胞が浸潤していたが(図1D)6)、血管周囲ではCD4陽性T細胞やB細胞の浸潤もみられる。さらに、脊髄後角を中心にミクログリアならびにアストログリアの活性化が認められ(図1E、F)7)、アストログリアではエンドセリンB受容体(endothelin receptor type B:EDNRB)の発現亢進を確認している(図1G、H)7)。図1 アトピー性脊髄炎の病理組織所見画像を拡大する■ 臨床症状初発症状は、約7割が四肢遠位部の異常感覚(じんじん感)、約2割が筋力低下である。経過中に8割以上でアロディニアや神経障害性疼痛を認める。そのほか、8割で腱反射の亢進、2~3割で病的反射を生じ、排尿障害も約2割に生じる。何らかの筋力低下を来した症例は6割であったが、その約半数は軽度の筋力低下にとどまった。最重症時のKurtzkeのExpanded Disability Status Scale(EDSS)スコアは平均3.4点であった。■ 予後第2回の全国臨床疫学調査では、最重症時のEDSSスコアが高いといずれかの免疫治療が行われ、治療を行わなかった群と同等まで臨床症状は改善し、平均6.6年間の経過観察では、症例全体で平均EDSS 2.3点の障害が残存していた。全体的には大きな障害を残しにくいものの、異常感覚が長く持続し、患者のQOLを低下させることが特徴といえる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 検査所見末梢血所見としては、高IgE血症が8~9割にあり、ヤケヒョウヒダニやコナヒョウヒダニに対する抗原特異的IgEを85%以上の症例で有し、約6割で末梢血好酸球数が増加していた。前述のAMの病理組織において発現が亢進していたEDNRBのリガンドであるエンドセリン1(endothelin 1:ET1)は、AM患者の血清で健常者と比較し有意に上昇していた7)。髄液一般検査では、軽度(50個/μL以下)の細胞増加を約1/4の症例で認め、髄液における好酸球の出現は10%未満とされる。蛋白は軽度(100mg/dL以下)の増加を約2~3割の症例で認める程度で、大きな異常所見はみられないことが多い。髄液特殊検査では、IL-9とCCL11(eotaxin-1)は有意に増加していた。末梢神経伝導検査において、九州大学病院症例では約4割で潜在的な末梢神経病変が合併し、第2回の全国調査では、検査実施症例の25%で下肢感覚神経を主体に異常を認めていた3)。また、体性感覚誘発電位を用いた検討では、上肢で33.3%、下肢では18.5%で末梢神経障害の合併を認めている8)。図2のように脊髄のMRI所見では、60%で病変を認め、その3/4が頸髄で、とくに後索寄りに多い(図2A)。また、Gd増強効果も半数以上でみられる。この病巣は、ほぼ同じ大きさで長く続くことが特徴である(図2B)。画像を拡大する■ 診断・鑑別診断脊髄炎であること、既知の基礎疾患がないこと、アレルギー素因があることを、それぞれを証明することが必要である。先に磯部ら6)による診断基準を表で示した。この基準を脊髄初発多発性硬化症との鑑別に適用した場合、感度93.3%、特異度93.3%、陽性的中率は82.4%、陰性的中率は97.7%であった。鑑別として、寄生虫性脊髄炎、多発性硬化症、膠原病、HTLV1関連脊髄症、サルコイドーシス、視神経脊髄炎、頸椎症性脊髄症、脊髄腫瘍、脊髄血管奇形を除外することが必要である。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)第2回の全国臨床疫学調査の結果では、全体の約60%でステロイド治療が行われ、約80%で有効性を認めている。血漿交換療法が選択されたのは全体の約25%で、約80%で有効であった。AMの治療においてほとんどの症例はパルス療法を含む、ステロイド治療により効果がみられるが、ステロイド治療が無効の場合には、血漿交換が有効な治療の選択肢となりうる。再発、再燃の予防については、アトピー性疾患が先行して発症、再燃することが多いことから、基礎となるアトピー性疾患の沈静化の持続が重要と推測される。4 今後の展望当教室ではAMの病態解明を目的とし、アトピー性疾患モデルマウスにおける神経学的徴候の評価と中枢神経の病理学的な解析を行い、その成果は2016年に北米神経科学学会の学会誌“The Journal of Neuroscience”に掲載された7)。モデル動物により明らかとなった知見として、(1)アトピー性疾患モデルマウスでは足底触刺激に対しアロディニアを認める、(2)脊髄後角ではミクログリア、アストログリア、神経細胞が活性化している、(3)ミクログリアとアストログリアではEDNRBの発現が亢進し、EDNRB拮抗薬の前投与により脊髄グリア炎症を抑制すると、神経細胞の活性化が抑えられ、アロディニアが有意に減少したというもので、AMに伴う神経障害性疼痛に脊髄グリア炎症ならびにET1/EDNRB経路が大きく関わっていることを見出している。5 主たる診療科神経内科6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター アトピー性脊髄炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報アトピー性脊髄炎患者会 StepS(AM患者と家族向けの情報)1)Kira J, et al. J Neurol Sci. 1997;148:199-203.2)Osoegawa M, et al. J Neurol Sci. 2003;209:5-11.3)Isobe N, et al. Neurology. 2009;73:790-797.4)Isobe N, et al. J Neurol Sci. 2012;316:30-35.5)Kikuchi H, et al. J Neurol Sci. 2001;183:73-78.6)Osoegawa M, et al. Acta Neuropathol. 2003;105:289-295.7)Yamasaki R, et al. J Neurosci. 2016;36:11929-11945.8)Kanamori Y, et al. Clin Exp Neuroimmunol. 2013;4:29-35.公開履歴初回2017年11月14日

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70%の人は痛みを我慢している

 ファイザー株式会社は、全国の慢性疼痛を抱える20代以上の男女約9,000人を対象にインターネット調査を実施した。 調査の概要は次のとおり。調査期間:2017年6月2日~19日調査対象:47都道府県8,924人スクリーニング条件:(1)週2回以上の頻度で「痛み」が起こる(2)3ヵ月以上「痛み」が続いている(3)疼痛の11段階の痛みスケールで、4以上の強さの痛み方法:インターネットアンケート調査痛みがあっても我慢する人は66.6% 「痛みがあってもある程度、我慢するべきだと思っていますか」という質問では、「非常にそう思う」(10.5%)と「ややそう思う」(56.1%)を合わせると66.6%となり、「痛み」があっても我慢をすると考えている人が7割近くにのぼった(参考:2012年調査では合わせて74.3%)。 また、「痛いということを、簡単に他人に言うべきではないと思いますか」に対しては、「非常にそう思う」(9.7%)と「ややそう思う」(44.5%)が54.1%となり、依然として「痛み」を自分だけで抱えている人が半数以上を占める結果だった(参考:2012年調査では合わせて55.7%)。 次に、「長く続く痛みに対して、痛みが治ることを諦めていますか」では、「非常にそう思う」(19.9%)、「ややそう思う」(49.2%)で69.1%となり、約7割の回答者が痛みの治療を諦めていることが判明した。 続く質問、「あなたは『長く続く痛み』の治療のため、通院したことがありますか?」には32.8%が「いいえ」と回答し、3人に1人がそもそも医療機関に受診しない現実が明らかとなった。そして、「いいえ」と回答した人に「なぜ通院していないのですか」と質問したところ、複数回答で「通院するほどでもないと思ったから」(36.6%)、「通院しても治らない気がするから」(33.8%)、「通院する費用がかかるから」(31.9%)の順に多かった。 さらに、「あなたが、今まで(5年以内)に行ったことのある、『長く続く痛みに対する対処法』はどのようなものがありますか」への複数回答では、「病院・医院で処方された薬」(52.0%)、「(柔軟体操、マッサージ、患部の温冷などで)自己対処している」(32.6%)、「整体、鍼灸、接骨院、マッサージなどで治療を受けている」(27.3%)という順で多かった。 「長く続く痛みの治療について、どのようなきっかけがあると医療機関を受診しようと思いますか」という質問では、複数回答で「日常生活に大きな支障が出たとき」(62.2%)が一番多く、「あまりにも症状がつらいと感じたとき」(56.3%)、「具体的な疾患の可能性があるとわかったとき」(27.7%)という順で多かった。栃木県、愛媛県の人は我慢強い!? 次に「あなたは長く続く痛みを感じた際に我慢しますか」で、「必ず我慢する」「だいたい我慢する」の回答を地域別にみると、栃木県(81.6%)、愛媛県(78.8%)、和歌山県(78.1%)の順で多く、一方、少ない地域は、神奈川県(68.3%)、静岡県(69.7%)、埼玉県(69.8%)の順であった。 また、「長く続く痛みがあってもある程度、我慢するべきだと思っていますか」に「非常にそう思う」「ややそう思う」と回答したのは、栃木県(74.7%)、千葉県(71.8%)、島根県(71.7%)の順で多く、少ない地域は順に、秋田県(60.2%)、広島県と山梨県が同順位(61.1%)、大阪府(61.2%)だった。 「長く続く痛みに対して、痛みが治ることを諦めていますか」では、「非常にそう思う」「ややそう思う」の回答が、愛知県(75.7%)、鹿児島県(74.6%)、千葉県(74.5%)の順で多く、沖縄県(60.6%)、大分県(61.9%)、徳島県(62.1%)の順で少なかった。痛みと向き合って早期治療への取り組みを 本調査について、中村 雅也氏(慶應義塾大学 医学部整形外科 教授)は、「運動器の痛みが長期化することでQOLにも大きな影響を及ぼすことがすでに報告されており、痛みの種類に応じた早期の診断と適切な治療を行う必要がある」と指摘する。また、「実際に医療機関を受診するきっかけは『日常生活に大きな支障が出たとき』が最も多く、日常生活に大きな影響が出るまで、放置してしまう傾向がうかがえる」と分析。「痛みの治療を諦めずに自身の痛みを正確に把握し、適切な治療を行うために、医療機関を受診することが重要。痛みを我慢して放置するのではなく、痛みと向き合って早期治療に取り組んでもらいたい」とコメントを寄せている。■参考ファイザー株式会社 47都道府県 長く続く痛みに関する実態 2012年vs 2017年比較調査■関連記事その痛み、神経障害性疼痛かも?長引く腰痛、その裏に迫る!

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脊髄空洞症〔syringomyelia〕

1 疾患概要■ 定義脊髄空洞症とは、さまざまな原因により脊髄に空洞性病変を形成する慢性進行性の疾患である。原因の約半数は、キアリ奇形が原因と言われており、脊髄損傷、脊髄腫瘍に伴うものがそれぞれ約10%、脊髄くも膜炎に伴うものが約6%と言われている。■ 疫学成人10万人あたり8.4人/年という報告があるが、近年、MRIの普及により小児例での早期発見が増えているため、実際はもう少し多いことが想定される。■ 病因脊髄空洞症は、高率に後頭蓋窩の形態異常の合併を認めることがわかっており、後頭蓋窩の狭小化により小脳扁桃下垂が起こりやすくなる。現在のところ小脳扁桃下垂による脊髄空洞症のメカニズムは、完全には解明されていない。小脳扁桃下垂により大孔部で髄液循環障害が起こることは明らかであるが、なぜ髄液循環障害により脊髄空洞症が生じるかはわかっていない。過去にはさまざまな病因説が提唱されているが、現在は脳脊髄液と脊髄細胞外液の動的平衡状態の破綻が、空洞形成の要因となるという説が有力となっている。■ 症状受診の契機については、腕から手にかけてのしびれ、痛みなどを主訴に来院することが多く、息こらえ、咳など腹圧の上昇による頭痛を訴えることもある。脊椎外科、脳神経外科、整形外科のみならず神経内科、一般内科など内科を受診する患者さんも少なくない。小児期の脊椎側弯症の精査で偶然発見される場合もある。症状としては、進行性の四肢知覚鈍麻、筋力低下が多く、とくに温痛覚は初期段階から障害されることが多い。進行すると巧緻運動障害、筋萎縮、上下肢のしびれ、痛み、歩行障害、膀胱直腸障害が出現することがある。また、キアリ奇形合併例では、めまい、嚥下障害、嗄声など小脳や脳幹部圧迫症状の併発を認めることもある。高齢発症例では、術後空洞の縮小を認めるにも関わらず疼痛が残存することがある。■ 分類病因に基づいた分類が用いられることが多い。それぞれの原因により手術方法を決定する。1)交通性:画像上第四脳室と空洞の交通を認める2)非交通性(髄液の流出障害によるもの)(1)後頭蓋窩、頭蓋頸椎移行部での流通障害a.キアリ1型奇形b.脳底部くも膜炎c.腫瘍、くも膜嚢胞、ダンディーウォーカー症候群などd.頭蓋底陥入症(2)脊髄くも膜下腔での流通障害a.腫瘍、くも膜嚢胞b.癒着性くも膜炎3)脊髄自体への損傷(1)外傷、出血、感染(2)椎間板変性疾患、脊柱管狭窄症4)神経管閉鎖障害(二分脊椎)5)原因不明■ 予後基礎疾患による影響もあるが、治療による症状の改善はMRIなどの画像上の空洞の縮小よりも早期にみられることが多い。とくに怒責時の疼痛の緩和は、術後早期より緩和される。また、運動障害は、感覚障害よりも回復しやすいと言われている。ただし、診断されるまでの時間が長くかかった場合、空洞の縮小を認めた場合でも症状が改善しない場合もある。そのためにも早期診断が望まれる。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)一番大事な事は病歴、身体所見をしっかりととる事である。症状の進行を詳細に聴取し、とくに感覚障害については温痛覚、振動覚、位置覚など詳しく神経所見をとる必要がある。これにより現在どの段階まで神経障害を受けているのかを推測することができる。また、既往歴、外傷歴より空洞の発生原因がないかを追求することも大事である。画像的診断のゴールドスタンダードはMRIであり、空洞性病変の確認を行う(図1)。腫瘍性病変を伴う場合は造影MRIも実施する。キアリ奇形の合併精査のため頭蓋内および頸髄移行部のMRIも実施する必要がある。図1 空洞症病変のMRI所見画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)現時点では空洞縮小に有効な薬剤は報告されていない。治療について、キアリ奇形を伴うものと脊髄外傷など、その他を伴うものに分けて考える。まず、キアリ奇形に伴う脊髄空洞症の治療について、小児例では患児の成長とともに後頭蓋窩の容積増加が期待できるため、保存的加療を行うことも多い。成人例でも軽微な神経兆候、軽度の側弯症の場合、経過観察をすることもある。ただし、神経徴候や側弯症の増悪、著明な小脳扁桃下垂、限局性ではなく全脊髄に広がる空洞の場合は、手術を行う必要がある。手術の目的は、大孔部における髄液通過障害を改善し、空洞を縮小させることである。後頭蓋窩の骨削除と環椎後弓切除を行い、拡大硬膜形成術を行う方法がもっとも多く施術されている。通常の後頭下減圧術と異なり、十分に外側部まで減圧を行う必要がある(図2)。くも膜下腔に血液が流入すると、癒着性くも膜炎や空洞再発の原因となるため、手術の際にはくも膜を損傷しないように十分に留意する必要がある。図2 拡大硬膜形成術の例画像を拡大する次にその他要因に伴う脊髄空洞症の治療について、腫瘍性病変など原疾患の治療を行うことにより空洞の縮小を認める場合がある。脊髄外傷後に空洞の出現を認めかつ症候性である場合は、空洞短絡術を行う。空洞とくも膜下腔にシャントを作る場合と空洞と腹腔内にシャントを作る場合がある。4 今後の展望前述の通り病因に関して完全な解明はなされていない。脳脊髄液と脊髄細胞外液の動的平衡状態の破綻が空洞形成の要因と考えられている。しかし、なぜ平衡状態の破綻が生じるかはわかっていない。脊髄実質内の静脈圧上昇による髄液吸収障害が一因となっているという報告やアクアポリン受容体の関与などが報告されているが、解明には至っていない。さらなる研究報告が待たれる。原因遺伝子の解析については、家族歴が認められることから、いくつかの候補遺伝子の報告がされている。後頭骨の遺伝子形成や頭蓋頸椎移行部の発生に関与すると言われているHox遺伝子やPax遺伝子が候補とされているが、確定されていない。また、同様の病態が動物でも報告されており、小型犬のキャバリア種において後頭蓋低形成、脊髄空洞症が生じることがわかっている。小動物では純血が保たれ世代交代も早いため、こちらの研究においても今後の発展が期待される。手術方法の進歩の反面、脊髄空洞症に伴う難治性疼痛については、われわれが最も悩まされる問題の1つであり、手術を行っても耐え難い痛みが残存することがある。術前より患者本人および家族に十分な説明を行っておく必要がある。痛みの特徴としては、幻肢痛や視床痛と同じような求心路遮断性疼痛に分類される。高齢発症のケースや術前より激しい痛みがある場合、術後も残存しやすいと言われている。痛みの治療としては通常の消炎鎮痛薬が効きにくく、プレガバリン(商品名:リリカ)、ガバペンチン(同:ガバペン)などの神経障害性疼痛に対する治療薬が第1選択となる。三環系抗うつ薬も一定の効果があると考えられる。星状神経節ブロックや後根侵入部遮断術(DREZ)も選択肢にあがる。いずれにしても痛みとうまく付き合っていく必要があり、手術を行う担当科のみならず、かかりつけ医、ペインクリニック医、心療内科医、看護師、リハビリスタッフなど多角的な立場から治療に当たる必要がある。5 主たる診療科脊椎脊髄外科、脳神経外科への紹介を必要とする。非常に専門性の高い分野であり、ホームページなどで診療実績を確認する必要がある。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療・研究情報難病情報センター 脊髄空洞症(医療従事者向けのまとまった情報)神経変性疾患領域における基盤的調査研究班(医療従事者向けのまとまった情報)日本脊髄外科学会 脊髄空洞症(医療従事者向けのまとまった情報)亀田グループ 医療ポータルサイト キアリ奇形と脊髄空洞症について(一般向け、医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報脊髄空洞症友の会(脊髄空洞症患者とその家族向けの情報)公開履歴初回2017年01月10日

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慢性腰痛、うつ病合併で痛み増大

 神経障害性の腰痛にうつ病を合併している患者は、うつ病を合併していない患者よりも疼痛レベルが有意に高く、疼痛による障害の度合いが大きく、QOLも低いことが、東海大学の檜山 明彦氏らによる研究で明らかになった。これは、自己評価式抑うつ性尺度(SDS-Zung)およびPainDETECT日本語版(PDQ-J)を用いて、神経障害性の腰痛患者の抑うつ症状とQOLへの影響を評価した最初の研究である。European spine journal誌オンライン版2016年2月13日号の報告。 本研究の目的は、腰痛にうつ病を合併する患者、腰痛が神経障害性である患者の割合を調査し、彼らのQOLに与える影響を検討することであった。 2012年6月と13年12月の間に東海大学医学部付属病院を訪れた慢性腰痛患者650例のうち、腰痛とQOLについてのアンケートに回答した309例を対象に断面レトロスペクティブ研究を行った。アンケートには、SDS-Zung、PDQ-J、痛みの評価スケール(NRS)、QOL評価が用いられた。対象患者をSDS-Zungスコアに応じて2群に分け(スコア40未満:非うつ病群、スコア50以上:うつ病群)、両群を比較検討した。 主な結果は以下のとおり。・うつ病群が63例(20.4%)、非うつ病群が125例(40.5%)であった。・平均PDQ-Jスコアは、非うつ病群よりも、うつ病群で高かった。・神経障害性疼痛は、うつ病群の17例(27%)、非うつ病群の11例(9%)で認められ、うつ病群で多かった。・腰痛患者のSDS-ZungスコアとPDQ-Jスコアは、有意に相関していた(r=0.261、p<0.001)。・NRSスコアは、非うつ病群よりもうつ病群で高かった。・QOLスコアは、非うつ病群よりもうつ病群で低かった。 抑うつ症状を合併する神経障害性の腰痛は、早期に発見し、早期から治療を行うことで、治療効果の改善が期待できる。しかし、多くの腰痛患者の痛みは複合しているため(神経障害性疼痛・侵害受容性疼痛・心因性疼痛)、数種類の薬剤を使う必要があり、マネジメントは複雑となる。さらに研究を重ねることで、痛みや機能障害の原因、痛みと抑うつ症状の合併例に対する治療の有効性を明らかにし、腰痛患者のQOL向上につなげることが大切であると考えられる。

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帯状疱疹の急性痛、慢性疼痛の有無と関連

 慢性疼痛の存在が重度の術後痛と関連していることを踏まえ、ドイツにあるゲオルク・アウグスト大学ゲッティンゲンのJoachim Erlenwein氏らは、慢性疼痛の非外科的急性期痛への影響を、急性帯状疱疹患者において前向きに調査した。その結果、慢性疼痛を有する患者では、帯状疱疹関連急性痛がより強く、疼痛に関連した機能障害もみられ、より長期の入院を要するなど、術後急性痛と同様の所見が確認されたという。Pain Medicine誌オンライン版2016年3月5日号の掲載報告。 研究グループは、急性帯状疱疹で入院した連続患者59例を対象に、慢性疼痛の既往歴別に帯状疱疹痛について比較検討した。 ベースライン時(入院日)に疼痛強度、疼痛関連機能障害、鎮痛薬の使用、および心理学的・生理学的特性について調査し、入院1、4、7日目および退院日に疼痛強度と機能障害について評価した。鎮痛薬の使用についても記録した。 主な結果は以下のとおり。・59例中25例42.4%が、慢性疼痛を有していた。・慢性疼痛を有していた患者は、慢性疼痛のない患者と比較し、すべての評価日において帯状疱疹急性痛が重度で、機能(睡眠の質や可動性など)の障害も認められた。・鎮痛薬の使用量については、慢性疼痛の有無で違いはなかった。・慢性疼痛のない患者では、帯状疱疹痛の重症度との関連が、鎮痛薬の使用量のみにおいてみられた。・対照的に、慢性疼痛を有していた患者は、鎮痛薬の使用量との関連はみられなかったが、慢性疼痛の重症度、身体的健康、および神経障害性疼痛の程度と、帯状疱疹関連急性痛の関連がみられた。

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治療薬は「痛み」の種類で変わる

 ファイザー株式会社とエーザイ株式会社は、12月1日に都内において「いまさら聞けない痛み止め薬の基礎知識」をテーマに、プレスセミナーを共催した。 セミナーでは、ファイザー社が行ったアンケート調査「痛み止め薬の使用実態と患者意識に関する全国調査」を織り交ぜ、加藤 実氏(日本大学医学部麻酔科学系麻酔科学分野 診療教授)が慢性痛とその治療の概要をレクチャーした。慢性痛には、種類に応じた治療薬がある 加藤氏は、「慢性痛に対する痛みの種類に応じた薬物選択と適切な服薬指導の必要性」と題し、慢性痛治療の現状と今後の治療の在り方について説明した。 現在わが国には、慢性痛を有する患者は2,700万人と推定されており、神経障害性疼痛疑いの患者は660万人と推定されている。これらの痛みの治療を放置すると、睡眠・情動・QOLに多大な影響を及ぼし、破局的思考モデル(痛みへの不安や悲観的思考の増大)により、さらに身体状態を悪化させることになる。 痛みは、大きく「侵害受容性痛(外傷などの痛み)」と「神経障害性痛(電気が走るようなビリビリした痛み)」と、その混合である「混合性痛」に分かれる。通常、侵害受容性痛であれば、NSAIDsやオピオイドでの治療が行われ、神経障害性痛であれば、神経障害性疼痛治療薬、抗うつ薬、オピオイドで治療が行われる。 とくに神経障害性痛の痛みの仕組みでは、侵害受容器からの痛み信号が神経節などを経る段階で中枢感作されて脳に到達し、そのため痛み信号の増幅が起こり痛苦が発生するものであり、この感作を抑える治療薬が適用される。具体的には、第1選択薬ではプレガバリン、ノルトリプチリンなどがあり、第2選択薬ではワクシニアウイルス接種家兎炎症皮膚抽出液含有製剤、デュロキセチンなどが、第3選択薬ではフェンタニル、モルヒネなどが使用される。また、慢性痛の原因となる神経障害性痛は、画像所見、病理検査で診断できず、NSAIDsでも治療反応がないことから、臨床の場では痛みの鑑別に注意が必要となる。患者の8割は医師から副作用の説明を受けていない 次に11月にファイザー社がインターネットで行った「痛み止めの使用実態と患者意識に関する全国調査」を紹介した(調査対象:長く持続する痛みを抱える全国の成人男女、n=9,400)。これによると不適切使用・管理の実態として、回答者の約6割が「以前の処方薬が余っていても定期的に処方をしてもらう」と答え、約3割が「ほかの医療機関からも処方してもらい併用している」、「そのことを疼痛治療の主治医に伝えていない」など、患者の実態がわかった。また、自己判断による治療中の痛み止め中止については、約6割の回答者が「経験がある」と答え、その理由として「痛みの軽減」「症状の改善なし」「薬に頼りたくない」(上位3つ)などが挙げられていた。また、「治療薬処方時の医師からの説明」では、約5割が「効能・効果の説明を受けていない」と答えるとともに、約8割が「副作用の説明を受けていない」と回答し、医療側からの情報提供不足が懸念される結果となった。 「痛みの種類の知識」では、約2割が「よく知っている」と回答、約5割が「聞いたことがある」と答えている反面、「痛みの種類により治療効果のある薬が異なることの知識」では、約6割以上が知らないと回答するなど知識の偏在も明らかとなった。 「患者が求める痛み治療の目標設定の現状」では、「痛みは完全に取り除きたい」と約9割が回答していたが、約6割は「痛みがあっても日常生活を送ることができればよい」とも回答していた。 治療目標をどこに設定する? 実際の痛みの治療現場では、目標を「痛みを消す」ことから、「痛みが半分になり、生活改善ができる」ことを目指して、治療が行われている。具体的には、患者の痛みが和らぎ、QOLやADLが改善され、日常生活が送れるようになること、睡眠がきちんと取れることが目安となる。そして、治療薬選択の際は、痛みの評価をすることと、無効な薬を速やかに中止することが重要だという。また、加藤氏は、痛み止めを処方する際に、・少ない副作用で最大の鎮痛効果を目指す痛み止めの治療プランを提示する・患者と医師間での治療目標の設定を明確化する・治療薬の必要性について、わかりやすく説明する・副作用の種類/長期投与の安全性を説明する・効果と副作用の継続的な評価の必要性を考えるの5項目を心がけている。診療の際に具体的な説明を言葉やメモで、患者にきちんと伝えることが大切だという。 最後に、「治療環境の質の向上には、医療側から治療薬の効果と副作用の情報提供、そして、患者の正しい理解と能動的な協力は必要不可欠であり、患者参加型の治療環境で治療薬を最大限活用させることが治療のポイントになる」と述べ、レクチャーを終えた。ファイザー株式会社の「痛み止め薬の使用実態と患者意識に関する全国調査」はこちら(ケアネット 稲川 進)関連コンテンツ特集「慢性疼痛 神経障害性疼痛

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神経障害性疼痛を伴う慢性腰痛へのプレガバリン、費用対効果は良好

 神経障害性疼痛を伴う慢性腰痛(CLBP-NeP)の治療におけるプレガバリン(商品名:リリカ)の費用対効果について、東京大学大学院 薬学系研究科・薬学部 准教授の五十嵐 中氏らが、公的医療費支払者および社会の視点から分析した。日常的な臨床診療のデータと仮定を用いた結果、わが国においてCLBP-NePに対するプレガバリンによる治療は、費用対効果が良好であることが示されたという。ClinicoEconomics and Outcomes Research誌オンライン版2015年10月7 日号の掲載報告。 研究グループは、CLBP-NePに対するプレガバリンと通常治療の費用対効果を、増分費用対効果比(ICER)を用いて検討した。 効果はEQ-5D-5L調査より算出した質調整生存年(QALYs)で測定し、医療費および生産性損失を算出して、状態遷移モデル(軽度、中等度および重度疼痛の状態推移を表す)を用いた12ヵ月間のコホートシミュレーションを行った。疼痛重症度の分布は8週間の非介入研究から、また、各重症度に関する直接医療費を推計するための医療資源の消費は医師調査から得た。 1QALY獲得当たりのICERを算出するとともに、感度解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・直接医療費および入院費はいずれも、通常治療群と比較してプレガバリン群が低かった。・基本ケースにおいて、プレガバリンによる1QALY獲得当たりのICERは、公的医療費支払者の立場で約202万5,000円、社会の立場(生産性損失に関連した間接費を含む)で143万5,000円であった。・非介入研究から得られた術後疼痛スコア、最初の疼痛重症度レベルおよび現時点のEQ-5D-5Lスコアに関する代替値を使用した感度解析により、費用対効果解析の結果の頑健性が認められ、ICERsは基本ケースと類似していた。・費用対効果受容曲線を描出した結果、プレガバリンの費用対効果が良好となる確率は高かった(≧75%)。

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神経障害性疼痛、ノルトリプチリンとモルヒネは単剤より併用が有効

 神経障害性疼痛に対し、三環系抗うつ薬を含む1次治療は必ずしも有効ではないため、2次治療としてオピオイドが推奨されている。カナダ・クイーンズ大学のIan Gilron氏らは、三環系抗うつ薬であるノルトリプチリンとモルヒネの併用療法ついて有効性および安全性を評価する目的で、各単独療法と比較する無作為化二重盲検クロスオーバー試験を行った。その結果、併用療法において便秘、口乾および傾眠の副作用発現頻度が高かったものの、有効性は各単独療法と比較して優れていることが明らかとなった。Pain誌2015年8月号の掲載報告。 研究グループは、2010年1月25日~2014年5月22日の間に単施設にて神経障害性疼痛患者52例を登録し、経口ノルトリプチリン、モルヒネおよび併用療法に1対1対1の比で無作為に割り付けた。各治療期間は6週間とし、用量は最大耐用量(MTD)に漸増した。 主要評価項目は、MTDにおける1日の平均疼痛(0~10で評価)、副次評価項目は他の疼痛、気分、QOLおよび副作用などであった。 主な結果は以下のとおり。・39例が少なくとも2つの治療期間を完遂した。・平均1日疼痛スコアはベースライン時5.3で、MTD時は併用療法が2.6、ノルトリプチリン単独療法が3.1(p=0.046)、モルヒネ単独療法が3.4(p=0.002)であった。・簡易疼痛調査票(BPI)スコアも、各単独療法に比べ併用療法で有意に低かった。・中等度~重度の便秘の発現率は、併用療法43% vs.モルヒネ単独療法46%(p=0.82)、vs.ノルトリプチリン単独療法5%(p<0.0001)であった。・中等度~重度の口渇の発現率は、併用療法58% vs.モルヒネ単独療法13%(p<0.0001)、vs.ノルトリプチリン単独療法49%(p=0.84)であった。

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神経障害性疼痛に対するミルナシプランのエビデンスは?

 ミルナシプランはセロトニン・ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI)であるが、慢性神経障害性疼痛や線維筋痛症の治療に用いられることがある。英国・オックスフォード大学のSheena Derry氏らは、慢性神経障害性疼痛に対するミルナシプランの鎮痛効果および安全性についてシステマティックレビューを行った。その結果、ミルナシプランの使用を支持するエビデンスはないことを報告した。本報告は、慢性神経障害性疼痛および線維筋痛症を対象とした以前のシステマティックレビュー(Cochrane Library Issue 3、2012)のアップデートで、今回は神経障害性疼痛と線維筋痛症に分けてシステマティックレビューを行った。Cochrane Database of Systematic Reviews誌オンライン版2015年7月6日号の掲載報告。 研究グループは、慢性神経障害性疼痛患者においてミルナシプランとプラセボまたは他の実薬とを比較した8週間以上の無作為化二重盲検試験について、2015年2月23日時点でCENTRAL、MEDLINEおよびEMBASEを用いて論文を検索するとともに、参考文献やレビューも調査した。 2人の研究者が独立して検索および有効性と安全性のデータを抽出し、研究の質を評価した。 主な結果は以下のとおり。・該当した論文は、神経障害性疼痛を伴う慢性腰痛患者40例を対象とした1件のみだった。・ミルナシプラン100mg~200mg/日とプラセボとで、6週後の疼痛スコアに差は認められなかった(エビデンスの質:非常に低い)。・有害事象の発現率は両群間で類似していたが、結論付けるにはデータがあまりに少なかった(エビデンスの質:非常に低い)。

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PPARγアゴニスト、神経障害疼痛の鎮痛作用あり

 米国・ケンタッキー大学のRyan B Griggs氏らは、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)アゴニストの反復投与により脊髄後角におけるグリア活性化が変化し、神経障害性疼痛様反応が減少することを明らかにした。PPARγは核内受容体であることから、遺伝子発現の持続性変化が疼痛減少に関与すると考えられているが、著者らはこれまでに、PPARγアゴニストであるピオグリタゾンの単回髄腔内注入が、ゲノム機構で必要とされる時間よりも短時間の30分以内に痛覚過敏を減少させることを示していた。今回の報告について著者らは、「脊髄性PPARγの活性化が標準的なゲノム活性から独立して神経障害性疼痛を急速に減少させることを示した最初の報告」と述べたうえで、「ピオグリタゾンは、1つにはアストロサイト活性化の減少によって、また、PPARγのゲノム性および非ゲノム性作用の両方を介して、神経障害性疼痛を速やかに阻害する」と結論付けた。Pain誌2015年3月号の掲載報告。 研究グループは、PPARγ活性化の迅速な抗痛覚過敏作用を検討する目的で、坐骨神経部分損傷ラットにピオグリタゾンを投与し痛覚過敏を評価した。 主な結果は以下のとおり。・ピオグリタゾンは、投与5分以内に痛覚過敏を抑制した。・ピオグリタゾンの腹腔内または髄腔内投与による抗痛覚過敏作用は、PPARγアンタゴニストであるGW9662の全身投与または髄腔内投与によって阻害された。・ピオグリタゾンとタンパク質合成阻害剤であるアニソマイシンを同時に髄腔内投与し7.5分間隔で評価した結果、投与初期はピオグリタゾンの抗痛覚過敏作用に変化はなかったが、後に減少した。・坐骨神経部分損傷によって誘発されたGFAP発現の増加を、ピオグリタゾンは投与後60分以内に抑制した。

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慢性腰痛は神経障害性疼痛の有無で治療薬を使い分け

 慢性腰痛の治療にプレガバリン(商品名:リリカ)やオピオイドが用いられることがあるが、これまで両者の有効性を比較した研究はない。独立行政法人 国立長寿医療研究センター 整形外科脊椎外科医長の酒井 義人氏らは高齢患者において検討し、全体の有効率に差はないものの神経障害性疼痛や下肢症状の有無で、効果に違いがみられることを示した。著者は、「鎮痛か日常生活動作(ADL)の改善かなど、治療の主たる目的を明確にしておくことが大切」とまとめている。European Spine Journal誌オンライン版2015年2月15日号の掲載報告。 対象は65歳以上の慢性腰痛で治療を継続している患者65例で、プレガバリン投与期とオピオイド投与期を実施し、いずれも4週間投与した後、疼痛およびADLについて視覚アナログスケール(VAS)、日本整形外科学会腰痛治療判定基準(JOAスコア)、ローランド・モリス障害質問票(RDQ)、簡易版マックギル疼痛質問票(SF-MPQ)、EuroQOL-5D、高齢者用うつ尺度(GDS)を用い評価した。また、神経障害性疼痛スクリーニング質問票も神経障害性疼痛の評価に用いた。 主な結果は以下のとおり。・有効率は、プレガバリン73.3%、オピオイド83.3%で、有意差は認められなかった。・効果発現までの平均日数は、プレガバリン10.2日、オピオイド6.1日で、有意差はなかった。・プレガバリンは神経障害性疼痛、オピオイドは非神経障害性疼痛を伴う腰痛患者で、より有効であった。・ADLの改善は、プレガバリンよりオピオイドで大きかった。・プレガバリンは下肢症状を有する腰痛患者、オピオイドは下肢症状を有さない腰痛患者で、より効果的であった。

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1分でわかる家庭医療のパール ~翻訳プロジェクトより 第17回

第17回:慢性腰痛に対してのオピオイド~短期間は有効だが、長期間投与の効果と安全性ははっきりしない監修:吉本 尚(よしもと ひさし)氏 筑波大学附属病院 総合診療科 慢性腰痛は、外来で多い訴えの1つです。慢性腰痛を持つ患者さんが疼痛コントロールに苦しんで受診されることが多く、総合診療外来医師、整形外科医師が治療に難渋していることも多いです。 2011年4月にトラムセット(トラマドール+アセトアミノフェン合剤)が承認されてから、NSAIDsで対応困難なケースなどに対して、わが国でもオピオイドの使用が以前よりも身近なものになってきています。また、他のオピオイド内服もしくは、パッチ剤(フェンタニル剤)を貼付されているケースも散見します。 オピオイドは疼痛コントロールに有効といわれますが、便秘や嘔気といった副作用などに悩み、長期に投与してよいものかと考えることがたびたびあります。長期使用の安全性は明らかになっておらず1), 2)、個人的には慎重に使用したいと考えます。日本では、慢性腰痛に対して、日本ペインクリニック学会が作成した神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン3)もあり、参考になると思います。 以下、American Family Physician 2014年8月15日号1)、The Cochrane database of systematic reviewsオンライン版 2013年8月27日版2)よりオピオイドは、慢性腰痛の治療に有効か?randomized controlled trialsのMeta-analysis 慢性腰痛には、オピオイドが短期間の疼痛の緩和と機能改善に多少有効であると一般的に考えられている。しかしながら、長期間のオピオイド使用でのデータは、ほとんど存在していない。長期間のオピオイド使用については、議論の分かれるところである。医師は、患者に疼痛の緩和を求められるが、長期間のオピオイドを使う際には投薬調節と安全性への配慮も求められる。トラマドールとプラセボを比較した5つの研究には、方法論的なバイアスがあったが、概して患者はプラセボより多くの痛みが減り、機能的なアウトカムもより改善することを示した。痛みの改善はSMD(標準化平均差)、-0.55( 95% CI -0.66~-0.44、low quality evidence)、機能の改善は SMD、-0.18( 95% CI -0.29~-0.07、moderate quality evidence)であった。2つの研究では、経皮ブプレノルフィンとプラセボを比較した。ブプレノルフィンの2つの研究では、エビデンスレベルは低く、プラセボより痛みが減るが、機能は改善しないことが判明した。痛みの改善はSMD、-2.47( 95% CI -2.69~-2.25、very low quality evidence)、機能の改善はSMD、-0.14( 95% CI -0.53~0.25、very low quality evidence) であった。5つの強オピオイドの研究では、痛みが減り、機能改善することが判明した。痛みの改善はSMD、-0.43( 95% CI -0.52~-0.33、moderate quality evidence)機能の改善はSMD、-0.26(95% CI -0.37~-0.15、moderate quality evidence)であった。いずれのトライアルも研究の質は低~中等度で、中断率が高く、観察期間が短く、機能改善の定義が限定されている。オピオイドの長期使用に関するトライアルは、さまざまなリスクを総合的に評価するなど慎重に行うべきである。慢性腰痛に対するオピオイドの長期間の効果と安全性を示しうるRCTはない。※本内容は、プライマリケアに関わる筆者の個人的な見解が含まれており、詳細に関しては原著を参照されることを推奨いたします。 1) HENRY C. BARRY. Am Fam Physician. 2014; 90: 259B-C. 2) Chaparro LE, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2013; 8: CD004959. 3) 日本ペインクリニック学会神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン作成ワーキンググループ 編. 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン. 真興交易医書出版部. 2011. 

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疼痛を伴うMSにデュロキセチンが有効

 米国・コロラド大学ヘルスサイエンスセンターのTimothy L. Vollmer氏らは、神経障害性疼痛をしばしば有する多発性硬化症(NP-MS)患者における疼痛処置としてのデュロキセチン(商品名:サインバルタ)の有効性と忍容性を評価する無作為化二重盲検試験を行った。その結果、NP-MS患者に対してデュロキセチンは有効であることを報告した。安全性プロファイルも他の患者集団で報告されたものと一致していた。NP-MS患者へのデュロキセチン治療は適応承認されていない。Pain Practice誌2014年11月号の掲載報告。 検討は、239例のNP-MS患者を対象に行われた。まず、被験者を、デュロキセチン60mg/日投与群またはプラセボを投与する群に無作為に割り付け、1日1回投与の6週間にわたる急性期治療フェーズの検討を行った(デュロキセチン投与群は30mgを1週間、60mgを5週間投与された)。その後、12週間の非盲検延長フェーズ(デュロキセチン30~120mg/日投与)の検討を行った。 被験者は、無作為化以前に、MSを有して1年以上、1日の平均疼痛(API)評価スコアが4以上の日が7日間のうち4日以上あった。なお患者の毎日のAPI評価は、電子日記において11ポイント制(0[疼痛なし]~10[最大級の痛み])で行われた。 主要有効性評価は週ごとのAPI評価の変化で、ミックスモデル反復測定分析により分析が行われた。治療完了や治療中断理由、治療関連有害事象の発生は、Fisher's 正確確率検定で比較した。 主な結果は以下のとおり。・デュロキセチン群は118例、プラセボ群は121例であった。・6週時点で、デュロキセチン群の患者はプラセボ群の患者と比較して、API評価における統計的改善が有意に大きかった(-1.83 vs. -1.07、p=0.001)。・治療完了について、群間で有意な差は認められなかった。・有害事象による中断は、デュロキセチン群がプラセボ群よりも統計的に有意に多かった(13.6% vs. 4.1%、p=0.012)。・食欲減退の報告頻度が、デュロキセチン治療患者で有意に高かった(5.9% vs. 0%、p=0.007)。

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女性の痛みを理解する

 2014年10月28日、ファイザー株式会社、エーザイ株式会社 プレスセミナー「性差と痛み」にて、順天堂大学医学部 麻酔科学・ペインクリニック講座 井関 雅子氏が「女性に多い痛みとその最新治療動向」について紹介した。女性は長年にわたり痛みの問題を抱える 日本の平均寿命は世界的にみても長く、女性は世界第一位である。しかし、平均寿命と健康寿命の差をみると、女性は12.4年と、男性(男性は9.02年)以上に長い。 一方、日本の慢性疼痛は26.4%、2,700万人と多い。とくに女性は月経痛をはじめリウマチ、変形性関節症など生涯を通して、さまざまな疼痛疾患を経験する。上記の健康寿命との差からみても、女性は長期間痛みの問題を抱えて生きていることになる。知られていない女性の痛み 女性に多い痛みとして、井関氏は頭痛、手根管症候群、乳房切除後疼痛症候群、線維筋痛症を紹介した。 頭痛、なかでも女性の片頭痛の有病率は12.9%と高い。男性(3.6%)の3.6倍である。それにも関わらず、医療機関未受診の女性は69.4%と多い。 手根管症候群は何らかの原因で正中神経が圧迫されることで発症する。患者は圧倒的に女性に多く、欧州の統計では男性の3~10倍である。初期には痛みやだるさなどを訴えるが、進行すると筋力の低下から筋委縮にいたることもあり放置は危険である。 乳房切除後疼痛症候群では、手術側の乳房や腋下、上腕内側に神経障害性疼痛特有のアロディニア(異痛症)*が見られる。デンマークの調査では、乳癌手術後5~7年後に痛みを訴えた患者は37%。本邦でも術後8年以上経過した患者の21%が乳房切除後疼痛症候群と思われる慢性疼痛を訴えている。しかしながら、乳房切除後疼痛症候群に対する医師の認識は低いという。神経障害性疼痛薬での治療が可能であるにも関わらず、患者の65%が治療を諦めているという実態を紹介した。 井関氏は、女性は生涯を通し痛みに悩む機会が多いこと、痛みには種類があり種類に応じた治療法があるため早期の専門家の診断および適切な治療が求められること、また、長引く痛みは完治しなくても改善を目指す治療を行うことを強調した。*アロディニア:通常では疼痛をもたらさない微小刺激が、すべて疼痛としてとても痛く認識される感覚異常

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