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患者数が5年で5倍!心不全診療で取りこぼせない疾患とは/日本心臓病学会

 心アミロイドーシスは、もはや希少疾患ではないのかもしれない―。9月27~29日、仙台で開催された第72回日本心臓病学会学術集会のシンポジウム「心臓アミロイドーシス診療Up to date」において、本疾患の歴史や病理診断、病態~治療に関する現況や最新情報が報告され、これまでの心アミロイドーシスに対する意識を払拭すべき現状が浮き彫りとなった。心不全診療、心アミロイドーシスの除外診断は落とせない 心アミロイドーシスは全身性アミロイドーシスの一症状で、心臓の間質にアミロイド蛋白が沈着し、形態的・機能的異常をきたす進行性かつ予後不良の疾患である。アントニオ猪木氏が闘った病としても世間を賑わしたが、他方で医学界においても見過ごすことができない疾患として、今、注目を浴びている。というのは、心アミロイドーシスが心不全のなかでも治療方法が確立していないHFpEFの原因疾患の1つであること、診断方法や治療薬の進歩により診断件数が直近5年で約5倍にまで急増していることなどに端を発する。 ほんの10年前までは診断に心内膜心筋生検を要し、遺伝性では肝移植を治療法とするなどの高いハードルがあったが、『2020年版 心アミロイドーシス診療ガイドライン』の発刊により、心臓99mTcピロリン酸シンチグラフィ(骨シンチグラフィ)を用いた非侵襲的な病型診断ができるようになり、さらには2019年に入りタファミジス(商品名:ビンダケルCap80mg、ビンマックCap61mg[2022年承認])にATTRアミロイドーシス(遺伝性[ATTRv]および野生型[ATTRwt])が適応追加されたことで状況が一変。現在、国内のATTRアミロイドーシスを基礎とした心不全患者は「5万人に上る」と田原 宣広氏(久留米大学心臓・血管内科循環器病センター 教授)は説明した。診断時に留意する点 心アミロイドーシスは免疫グロブリン性のAL(amyloid light chain)とトランスサイレチン(transthyretin:TTR)を前駆蛋白とするアミロイドが全身諸臓器に沈着するATTR(ATTRvとATTRwt)で98%以上を占め、原因不明の心不全や心肥大、大動脈弁狭窄症、そして強い伝導障害のある患者をみた際に鑑別したい疾患である。 病理医の立場から解説した内木 宏延氏(福井大学分子病理学 教授)は、確定診断を下す際の注意点として、骨シンチグラフィの普及により診断精度が向上したものの、日本では病理診断が必須であることを言及しており、「生検が必要な場合には、アミロイドが蓄積している皮下脂肪深部の細胞を採ることが大切で、その目安は親指の第一関節くらいの深さ」と説明した。 続いて診断時のポイントを解説した久保 亨氏(高知大学医学部老年病・循環器内科 病院准教授)は「心臓外症状に注目してほしい」と強調。病型を推察する際の目安として以下の所見を踏まえて診断を進めていくとともに、「AL、ATTRそれぞれを想定した心臓外症状としてみることが重要」と説明した。<とくにチェックすべき徴候・身体所見>・手根管症候群(とくに両側)・脊柱管狭窄・末梢神経障害・巨舌・自律神経障害・shoulder pain sign・蛋白尿などの腎障害・下血などの消化器症状 このほかに心電図検査や心エコーにてapical sparing(心基部の長軸方向ストレインが低下し、相対的に心尖部では保たれている所見)が認められ、心アミロイドーシス疑いが強まった時点でALかATTRかを判断するが、ALは骨シンチグラフィで偽陽性を示す場合があるため、「予後不良で準緊急対応が必要とされるALの除外は早急に行わなければならない。そこで、われわれはM蛋白の評価と骨シンチグラフィを同時に実施している」とし、「Definite診断(組織生検でのTTR同定が必要[タファミジス使用には必要])が付いていなくても、Probable診断(M蛋白の除外+骨シンチグラフィ陽性)の段階で申請可能であり、2024年度から書式が病型ごとに分かれたため、ATTRのprobable診断が得られれば、組織所見を待たずに遺伝学的検査を実施するほうがスピーディに進められる」と特定疾患申請方法についても説明した。治療薬の現状と将来展望 トランスサイレチン型心アミロイドーシス(ATTR-CM)の治療には、心不全治療とアミロイド沈着に対し疾患修飾薬による治療が必要となる。心不全治療について、南澤 匡俊氏(信州大学循環器内科)は「SGLT2阻害薬によりイベント抑制のみならずeGFRやNT-proBNPの増悪抑制効果1)が得られる」と述べ、心機能予防については「DELIVER試験のように左室駆出率が保たれた心不全(HFpEF)への心保護効果に対する薬物療法の検証が活発になってきている。心アミロイドーシスで心機能低下がない場合でも将来を見据えた予防的治療を行い、心保護を行うことが推奨される」と説明した。 疾患修飾薬については、アミロイドの原因となる血中TTRの90%以上が肝臓で産生されるため、治療標的として(1)siRNA製剤による肝臓でのTTR産生抑制、(2)TTR四量体の安定化、(3)アミロイド沈着に対する除去が挙げられる。現在、ATTRv神経症には(1)と(2)が、ATTR-CMには(2)が保険収載されており、(3)は治験段階である。遠藤 仁氏(慶應義塾大学医学部循環器内科)はATTR-CMの治療介入のタイミングについて「NYHAIII症例へはなるべく早期に安定化薬であるタファミジスを処方したほうがイベント改善効果は得られる。一方、心不全がないATTR-CMであっても早晩に心不全を発症するため、タファミジス投与により予後の改善が期待できる」と説明、さらに高齢ATTR-CM(>80歳)についてのタファミジスの有効性を示した2)。このほか、新たなTTR量体安定化薬acoramidisやsiRNA製剤ブトリシランについての有効性・安全性を紹介し、「ATTR-CMの治療薬として、TTR安定化薬やsiRNA製剤が広く使われていくだろう」と述べ、肝細胞の遺伝子編集、アミロイド線維を除去する抗体医薬NI006などの将来的な治療についても触れた。他科からのコンサルト需要が増加傾向に 近年、整形外科医から心アミロイドーシスを疑う手根管症候群患者の病理診断の依頼件数が増えており、「その数は心筋検査に匹敵するくらい」と内木氏は驚いていた。このように他科にも心アミロイドーシスを疑う視点が浸透しつつある今、循環器医への心アミロイドーシス診療に対するコンサルトが今後ますます増えていくと予想される。

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肝細胞がんにおけるICI療法後の肝移植の転帰は良好

 肝細胞がん患者において、肝移植(LT)前の免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の使用は転帰を悪化させないという研究結果が、「Journal of Hepatology」7月10日に掲載された。 中東肝疾患センター(イラン)のMohammad Saeid Rezaee-Zavareh氏らは、ICIの使用がLT後の転帰に及ぼす影響について、個々の患者データを用いたメタ解析で検討した。解析には、適格患者91人のデータが含まれた。 その結果、追跡期間中央値690.0日の間に、同種移植片拒絶反応が24例、肝細胞がん再発が9例、死亡が9例認められた。年齢(10年当たりの調整ハザード比〔aHR〕0.72)およびICIウォッシュアウト期間(1週間当たりのaHR 0.92)において、移植片拒絶反応との関連が認められた。同種移植片拒絶反応の確率が20%以下の患者における、ウォッシュアウト期間の中央値は94日であった。全生存は、同種移植片拒絶反応の有無による違いは認められなかった。肝細胞がんの再発患者は未再発患者よりもICIサイクルの中央値が少なかった(4.0対8.0)。ICI後にミラノ基準を満たした患者の割合は、再発患者の方が未再発患者よりも低かった(16.7%対65.3%)。 上席著者である米シダーズ・サイナイ医療センターのJu Dong Yang氏は、「免疫療法の最終投与から肝移植まで90日間の間隔があれば、臓器拒絶反応のリスクは免疫療法を受けなかった場合と変わらない」と述べている。 なお複数人の著者がバイオ医薬品企業、医療機器企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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敗血症患者の半数は2年以内に死亡する

 救急外来を受診して入院した敗血症患者の50%強が2年以内に死亡していることが、オーフス大学病院(デンマーク)臨床疫学分野のFinn Nielsen氏らによる新たな研究で明らかになった。Nielsen氏は、「敗血症後の死亡リスクを上昇させるいくつかの因子が判明した。当然のことながら、高齢はその1つであり、認知症、心臓病、がん、過去6カ月以内の敗血症による入院歴などもリスク上昇と関連していた」と述べている。この研究結果は、ヨーロッパ救急医学会年次総会(EUSEM 2024、10月13〜16日、デンマーク・コペンハーゲン)で発表された。 この研究でNielsen氏らは、2017年10月から2018年3月の間に感染症の疑いで同大学病院に入院した患者2,110人の転帰を追跡調査した。これらの患者のうち714人が敗血症を発症していた。Nielsen氏は、「われわれの研究は、前向きに収集された患者データに基づく敗血症データベースに依拠したものだ。これまでの研究で頻繁に使用されているレジストリデータとは異なり、このアプローチはエラーを最小限に抑え、敗血症の影響についてより正確で詳細な洞察を可能にする」と説明している。 その結果、中央値で2年後、361人(50.6%)が敗血症を含むあらゆる原因により死亡していた。関連因子を検討したところ、高齢の場合、年齢が1歳上がるごとに死亡リスクが4%上昇することが明らかになった。また、死亡リスクは、がんの既往歴がある場合では2倍以上(121%の増加)、虚血性心疾患がある場合では39%、認知症がある場合では90%、過去6カ月以内に敗血症による入院歴がある場合では48%増加することも示された。 Nielsen氏は、「この知見は、急性期医療に携わる臨床医と研究者の双方に有益だと思われる。敗血症は死亡率の高い重篤な疾患だと認識することが重要だ」と話している。その一方で同氏は、「この研究は単一施設で実施されたため、より大規模な研究が必要だ。敗血症の包括的な疫学的状況を把握するには、本研究と同様の手法を用いた、診療部門、地域、国を越えたより大規模な研究を実施して敗血症関連の転帰について繰り返し検討する必要がある」と述べている。 本研究には関与していない、EUSEMの演題選定委員長であるBarbra Backus氏は学会のニュースリリースの中で、「敗血症は、重篤で死に至る可能性のある疾患だ。敗血症の発症率はいくつかの国で増加しているが、現時点では、敗血症を発症した患者の長期的な転帰に関する信頼できる情報は限られている」と指摘する。その上で同氏は、「この研究は、敗血症患者の死亡リスクを高める可能性がある、警戒すべき特定のリスク因子を明らかにした。臨床医はこの知見を、患者をより注意深く監視し、経過観察するために活用できるはずだ」と述べている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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禁煙開始が「遅すぎる」ことはない

 喫煙習慣のある高齢者の中には、「今さら禁煙しても意味がない」と考えている人がいるかもしれない。しかし、実際はそんなことはなく、高齢期に入ってから禁煙したとしても、タバコを吸い続けた場合よりも長い寿命を期待できることが明らかになった。例えば75歳で禁煙した場合、喫煙を続けた人よりも1年以上長く生きられる確率が14.2%に上るという。米ミシガン大学のThuy Le氏らが、禁煙によるメリットを禁煙開始時の年齢別に解析した結果であり、詳細は「American Journal of Preventive Medicine」に6月25日掲載された。 この研究には、米国で行われている国民健康調査やがん予防研究、国勢調査、死亡統計などのデータが用いられた。35~75歳の間のさまざまな時点の喫煙状況で対象者を3種類(喫煙歴なし、喫煙継続、禁煙)に分類し、平均余命を割り出して比較した。その結果、若いうちに禁煙したほうがメリットは大きいものの、高齢になってから禁煙した場合にも、喫煙を続けた人より寿命が延びることが示された。詳細は以下のとおり。 まず、35歳の一般人口の平均余命は45.4年、喫煙歴のない人は47.8年、喫煙者は38.7年、35歳で禁煙した人は46.7年。35歳時点で禁煙することにより、喫煙を続けた場合に比べて平均余命が8.0年延長し、1年長く生きられる確率が52.8%、4年長く生きられる確率が45.4%、6年長く生きられる確率が40.6%、8年長く生きられる確率が36.0%であることが示された。 一方、65歳の一般人口の平均余命は19.5年、喫煙歴のない人は20.9年、喫煙者は15.1年、65歳で禁煙した人は16.8年。65歳時点で禁煙することにより、喫煙を続けた場合に比べて平均余命が1.7年延長し、1年長く生きられる確率が23.4%、4年長く生きられる確率が16.3%、6年長く生きられる確率が12.4%、8年長く生きられる確率が9.3%だった。 また、75歳の一般人口の平均余命は12.3年、喫煙歴のない人は13.4年、喫煙者は9.0年、75歳で禁煙した人は9.7年。75歳時点で禁煙することにより、喫煙を続けた場合に比べて平均余命が0.7年延長し、1年長く生きられる確率が14.2%、4年長く生きられる確率が7.9%、6年長く生きられる確率が5.1%、8年長く生きられる確率が3.1%だった。 論文の筆頭著者であるLe氏は、「過去10年間で、若者の喫煙率は著しく低下した。しかし、高齢者の喫煙率は変化が少ない」と述べるとともに、「われわれが知る限り、禁煙が高齢者にもメリットをもたらすことを立証した研究は過去にない。われわれは、喫煙をやめることがどの年齢でも有益であることを示し、喫煙習慣のある高齢者に禁煙の動機付けとしてほしかった」と研究背景を語っている。 論文の上席著者である同大学のKenneth Warner氏も、「高齢になってから禁煙することで得られるメリットは、絶対値としては低いように思えるかもしれないが、残されている寿命に大きな影響を与える」と述べている。

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飛行機内でインスリンポンプに軽微な影響が生じる可能性

 インスリンポンプを装着して飛行機に乗ると、上昇中と降下中に、血糖値にわずかな変化が生じる可能性のあることが報告された。ただし、その影響は医学的な問題を引き起こすほどのものとは考えにくいという。英サリー大学のKa Siu Fan氏らによる研究の結果であり、欧州糖尿病学会(EASD 2024、9月9~13日、スペイン・マドリード)で発表された。 インスリンポンプは、インスリンを連続的に自動投与する機器で、主に1型糖尿病の治療に用いられている。急激な気圧の変動が生じた場合、機器の内部に気泡が発生し、インスリン注入速度に微妙な影響を及ぼす可能性がある。Fan氏らはその影響を、飛行中の機内の気圧変化を模したチャンバー(密閉された部屋)を用いて検討した。 3種類、計26台のインスリンポンプをチャンバー内に入れ、まず20分かけて高度8,000フィート(約2,440m)に相当する550mmHgまで減圧。その後、30分間は巡航状態としてそのまま維持し、続いて20分かけて海面高度の気圧に近い750mmHgまで加圧した。この間、インスリン注入速度は1時間当たり0.6単位に設定した。データを解析した結果、20分間の減圧(飛行機では上昇に相当)中に、インスリンは設定した用量より平均0.60単位過剰に注入されていた。一方、加圧(降下)中には、設定した用量より平均0.51単位不足していた。 Fan氏は、「飛行機が上昇中は気圧の低下により、ポンプ内部に気泡が発生してカートリッジから設定よりも多いインスリンが注入されるため、インスリン注入量がわずかに増加することがあり得る。反対に飛行機が降下中は気圧の上昇により気泡が消失して、インスリンがポンプ内部に吸い戻されるため、インスリン注入量がわずかではあるが減少することがあり得る。インスリンポンプを使用している人は、飛行機内の気圧の変化がインスリン注入量に影響を及ぼす潜在的な可能性のあることを知っておいた方が良いだろう」と述べている。 同氏らは、今回の研究で示された影響の程度は、健康上の問題を引き起こすほどではなかったとしている。しかし、より高い高度へ短時間で上昇するようなことが起きた場合、機内の急激な減圧によって深刻な問題が発生する可能性はゼロではないという。具体的には、インスリンが過剰に注入されて血糖値が大きく低下し、低血糖が生じるリスクが想定されるとしている。ただしそのような事態に対しては、消化吸収の速い糖質を摂取するという一般的な方法で対処可能だ。 Fan氏によると、「飛行中の気圧変化によるインスリン注入量の変化が血糖値に及ぼす影響は、個々の患者のインスリン感受性、血糖管理状態、搭乗前に食べた食事によってそれぞれ異なる」とのことだ。また、「血糖値への意図しない影響を防ぐために、インスリンポンプを使用している患者は、離陸前にポンプを一時的に外しておき、巡航高度に達したら、気泡の有無の確認および除去をした上で再装着すると良い」としている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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糖尿病、脳卒中合併高血圧でも積極的降圧が有効―とはいうが、COVID-19ロックダウン下の中国で大規模臨床試験を強行したことに驚き(解説:桑島巌氏)

 糖尿病や脳卒中既往を有する高血圧患者では、収縮期血圧の降圧目標値を140mmHg以下とするよりも120mmHg以下としたほうが心血管合併症の予防効果が有意に大きい、という中国で実施された大規模臨床試験の結果である。本試験の結果は、2015年に発表された米国のSPRINT試験に規模や目的などが似たプロトコールであり、結果としての積極的降圧群が心血管死を有意に抑制した点でも類似している。 大きな違いは、SPRINTでは糖尿病症例や脳卒中既往例を除外しているのに対し、本試験ではこれらの疾患を合併した症例でも積極的降圧が有用であるとの結論を導いている点である。しかし注目すべきは、本試験では腎機能がeGFR 45mL/分/1.73m2以下の腎機能低下例を対象から除外している点である。すなわち、糖尿病性腎症などで腎機能が低下している症例では本試験の結果をそのまま適用することはできない。 また、測定方法もSPRINTでは医療スタッフのいない環境下で自動血圧計による3回の座位血圧測定に基づいてフォローしているのに対して、本研究ではtrained investigatorが自動血圧計にて3回測定している。この点は、白衣現象をどの程度除外しえたかが問題になろう。 積極的降圧にどのような降圧薬が追加使用されたかは本論文から明らかではないが、低ナトリウム血症が多いことから、サイアザイド系あるいはサイアザイド類似降圧利尿薬が使われたと推定できる。さらに、積極的降圧群に失神が有意に多いことは注意が必要である。 そして驚きは、本試験は中国発祥のCOVID-19が中国全土のみならず、全世界に猛威を振るった時期に遂行された点である。すなわち、2019年9月~2020年7月までに登録した症例を3.4年間(中央値)追跡した試験であり、コロナの1例目が中国・武漢で見つかったのが2019年12月であり、それ以後は急速に世界に拡散し、とくに中国ではゼロコロナ政策によって2022年11月まで全国的に徹底したロックダウンを実施したことは記憶に新しい。論文では、ロックダウンは服薬コンプライアンスに影響を与えなかったとさらりと述べているが、にわかには信じがたい。 本試験は試験プロセスに疑問はあるものの、糖尿病、脳卒中既往例でも積極的降圧が心血管死の予防に有効であるとの結論を導いている。しかし、あくまでも1つのエビデンスかもしれないが、Evidence-Based Medicine(EBM)ではない。EBMとはエビデンス、患者の特性、医師の経験を三位一体ですべきものであり、とくに高齢者のような多様性を特徴とする世代には、患者の特性(腎機能、認知機能、ADL)などを考慮した個別的対応が求められる。

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中心静脈カテーテルのガイドワイヤーを2年間放置されていた男性【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第268回

中心静脈カテーテルのガイドワイヤーを2年間放置されていた男性「これってただの医療過誤では…」と思われる症例が、ときに医学論文化されていることがあります。日本だと、さすがに中心静脈カテーテル(CVC)のガイドワイヤーを長期間放置したら、ニュースになるでしょう…。Chatzelas DA, et al. Surgical Removal of a Long-Forgotten, Retained Intravascular Foreign Body: A Case Report and Literature Review. Vasc Specialist Int. 2024 Jul 17:40:25.82歳の男性患者が2021年9月に大腸がんの手術を受けました。手術中に右内頸静脈からCVCが挿入されましたが、その際にガイドワイヤーが体内に残されたことに気付かれませんでした。内頸静脈のガイドワイヤー、ということは右房・右室に向かって入っていたのでしょうが、2年後の2023年10月、CT検査でなんと右大腿静脈から上大静脈まで伸びるガイドワイヤーが残っていることが発見されました。こっわ…!幸いにも患者さんには症状がなく、深部静脈血栓症などの血栓徴候もありませんでした。局所麻酔下で外科的に異物を除去することが決定され、右大腿静脈を切開し、鉗子を使用してガイドワイヤーを慎重に引き抜きました。透視検査で残存するガイドワイヤー断片が残っていないことを確認し、静脈造影でも出血がないことを確認しました。患者さんは術後早期に退院しました。その後、1ヵ月後、6ヵ月後のフォローアップでも、とくに異常はなかったそうです。めでたし、めでたし。ん?…いや…、めでたいのか…?CVCで使用するガイドワイヤー紛失は、基本的にまれです。というか、ガイドワイヤーの先端をつかむことに神経を集中させているので、紛失などあってはならないものです。残置されたガイドワイヤーは、不整脈、血管損傷、血栓塞栓症、感染、心臓穿孔、心タンポナーデなどの重篤な合併症を引き起こす可能性があるため、基本的には緊急的に処置されるべきものです。この症例の問題は、ガイドワイヤーを置き忘れたことだけでなく、大腸がんの術後なのに2年間画像フォローされたことがなかったという点でしょうか。

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第235回 コロナワクチン否定のための引用論文、実は意外な結論だった

つくづく新型コロナウイルス感染症のワクチン問題は説明が難しいと感じている。つい先日、知人と久しぶりに会った時に「新型コロナウイルスのスパイクタンパク質って毒性あるの?」と尋ねられ、「なんかそう言っている話もあるけどね」と確たる答えを返せなかった。確かにSNS上では、mRNAワクチンで産生されるスパイクタンパク自体に毒性があり、ワクチン接種そのものに問題があるという指摘は、ワクチン批判派の人たちからはよく流されている。私がこうした指摘にこれまで気にも留めなかったのは、脂質ナノ粒子にくるまれて細胞内に入り込んだmRNAワクチン成分がそこでスパイクタンパク質を作り出しても、スパイクタンパク質自体やmRNAが入り込んでスパイクタンパク質を産生している細胞は、ワクチン接種で誘導された免疫反応で排除されるのが、このワクチンの理論的な作用機序だと考えているからだ。とはいえ、知人の指摘する話の原典には当たったことはなく、後日実際に検索しているうちに、ワクチン批判派があちこちで引用する2021年3月のCirculation Research誌に掲載されたLetter1)に行き着いた。ワクチン否定派の引用論文×自身が気になった論文これはスパイクタンパク質をつけた疑似ウイルスをハムスターに接種した実験で、スパイクタンパク単体でも細胞表面のACE2受容体のダウンレギュレーションを通じて血管内皮細胞に障害を与える可能性があるとの研究。これ自体は当然ながら一定の信憑性はあるのだろう。もっともこの論文の最後を読んで、申し訳ないが笑ってしまった。というのも、結論は「ワクチン接種により産生される抗体や外因性の抗Sタンパク質抗体は、新型コロナウイルスの感染だけでなく、内皮障害も保護する可能性が示唆される」というものだったからだ。ワクチン批判派の人たちは、論文を読まずに拡散していたということにほかならない。もっとも私自身の中でことはこれで終わりにはならなかった。前出の論文検索中にCirculation誌の2023年1月に掲載されていた論文2)を見つけたからだ。この論文が記述していたのはmRNAワクチン接種約100万回当たり1回程度生じるといわれる心筋炎の副反応に関する研究である。その中身は「新型コロナワクチン接種後に心筋炎の副反応を経験した若年者と年齢をマッチングさせたワクチン接種経験のある健常ボランティアの血液を分析した結果、心筋炎発症集団の血中でのみワクチン接種により産生された抗体が結合しきれていないスパイクタンパク質が高濃度で検出された」という内容である。ちなみにこの研究では「抗体産生や新型コロナウイルス特異的T細胞などの免疫応答についても解析し、両集団に差がなかった」ことも記述している。この論文では、「こうしたワクチンによる抗体が掴まえきれない、血中を遊離するワクチン由来のスパイクタンパク質が心筋炎発症に関与する可能性が示唆される」と結論付けている。もっとも前述のように両者の免疫応答に差がなく、心筋炎発症集団で高濃度に検出された遊離スパイクタンパク質も33.9±22.4pg/mLと量そのものの絶対値で見れば微量にすぎない。となると、新型コロナワクチン接種者で発症する心筋炎に関しては、遊離スパイクタンパク質はリスクファクターではあるものの、何らかの内因性のファクターが関与していると見るのが妥当だと個人的には考えている。友人の意外な反応さて、そんなこんなを前述の知人に伝えたところ、「だとするならやっぱり危ないんじゃないのかな?」との反応。「いやいや、そうではなくて…」と私は語り掛け、合計1時間半にもおよぶ長電話になってしまった。私が話した内容の大半は、リスクとベネフィットのバランスである。もっともここで“約100万回に1回”という心筋炎の発症頻度が非常にわかりにくいことも改めて思い知らされた。確率に直せば0.000001ということになるので、そう説明すると知人もようやく「まあ、そんなに低いのね。何度もコロナで苦しむリスクを減らすなら、ワクチンもコスパが良いのか?」と言い出した。ちなみに本人は今年61歳。過去に2度の感染で苦しんでもいる。しかし、本当にリスクの伝え方は難しいと改めて感じている。とくに今回、私が経験したケースは入口となるファクトそのものは間違いではない。ただ、ワクチンに批判的な人たちがそこをフックに針小棒大に語っていると、こちらも医療に詳しくない一般人に説明する際はのっけから苦労する。つまり、ワクチン批判派は入口のファクトは一定の信頼性があるものを使っているため、彼らが伝える“ある種の妄想”と言っても差し支えないその先の解釈までもが、何も知らない人は“信憑性を帯びている”と無意識に受け止めているということだ。ここへさらにヒトの中に無意志に備わっているゼロリスク願望が加わると、より確かな情報を理解してもらうハードルが一気に高まってしまう。そしてSNS上で次世代mRNAワクチン、通称・レプリコンワクチンに関する異常とも言えるデマのまん延を見るにつけ、医療従事者の皆さんは私以上に苦労しているのだろうと思わずにはいられない。参考1)Lei Y, et al. Circ Res. 2021;128:1323-1326.2)Yonker LM, et al. Circulation. 2023;147:867-876.

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お茶やベリー類など、フラボノイド摂取が認知症リスクを低下

 ベリー類、お茶(紅茶・緑茶)、赤ワイン、ダークチョコレートなどの食品や飲料に含まれるフラボノイドの摂取量と、認知症リスクの関連について、英国・クイーンズ大学ベルファスト校のAmy Jennings氏らが調査を実施した。本研究は英国の約12万人を対象に実施され、フラボノイドが豊富な食品を日常的に摂取することで、認知症リスクを大幅に低減することが示唆された。JAMA Network Open誌2024年9月18日号掲載の報告。 本研究は、2006~10年のUKバイオバンクのデータを使用し、40~70歳の12万1,986例が対象となった。追跡期間は平均9.2年(標準偏差[SD] 1.5)で、2023年9月にデータ解析が行われた。参加者の食事データについて、206種類の食品と32種類の飲料の消費頻度が、食事評価アンケートを用いて記録され、合計5回の評価が行われた。食事評価データを2回以上有し、食事評価期間に認知症と診断されていない参加者が選出された。 食事評価データから、フラボノイド摂取量が算出された。主なフラボノイド供給源は、お茶、赤ワイン、ベリー類、リンゴ、ブドウ、柑橘類、ピーマン、タマネギ、ダークチョコレートだった。フラボダイエットスコアは、フラボノイドを豊富に含む食品の1日当たりの摂取量(サービング数)とした。認知症リスクとフラボノイド摂取の関連を評価するため、Cox比例ハザード回帰モデルが使用された。 主な結果は以下のとおり。・参加者12万1,986例の平均年齢は56.1(SD 7.8)歳、女性55.6%。中央値9.4年(IQR 9.3~9.8)の追跡期間中に、882例の新たな認知症発症が確認された。・1日当たりのフラボダイエットスコアの中央値は4.3(IQR 2.8~5.9)で、そのうち中央値2.7(IQR 1.0~4.0)はお茶からだった。・参加者をフラボダイエットスコアで5段階に分け、最も高い群(中央値7.3[IQR 0.0~8.1])と、最も低い群(中央値1.4[IQR 0.8~1.9])を比較した。最も高い群のほうが認知症リスクの低下が認められた。調整ハザード比(aHR):0.72、95%信頼区間[CI]:0.57~0.89、傾向のp=0.03。・最も高い群において、お茶、赤ワイン、ベリー類の中央値摂取量は、それぞれ1日当たりお茶5(IQR 4.0~5.6)、赤ワイン0(0.0~1.0)、ベリー類0.5(0.0~1.0)で、これらの摂取量を満たしていない群と比較して、認知症リスクの低下が認められた。aHR:0.62、95%CI:0.46~0.84。・以下のサブグループ解析でも、フラボダイエットスコアが最も高い群は、最も低い群と比較して、いずれも認知症リスクの低下が認められた。 遺伝的に認知症リスクが高い参加者において、aHR:0.57、95%CI:0.42~0.78。 うつ症状がある参加者において、aHR:0.52、95%CI:0.33~0.81。 高血圧のある参加者において、aHR:0.70、95%CI:0.52~0.94。 本結果により、フラボノイドを豊富に含む食事スコアが高いほど認知症リスクが低くなり、とくに、遺伝的リスクが高い人、うつ症状、高血圧症のある人でリスクの低下が顕著に認められた。お茶やベリー類などを日常の食事に取り入れることで、高リスク者でも認知症リスクが低下する可能性が示唆された。

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骨髄線維症に10年ぶりの新薬、貧血改善が特徴/GSK

 グラクソ・スミスクライン(GSK)は6月に日本における約10年ぶりとなる骨髄線維症の新薬モメロチニブ(商品名:オムジャラ)の承認を取得した。発売開始に合わせ、10月18日に行われたメディアセミナーでは、近畿大学 血液・膠原病内科 教授の松村 到氏が骨髄線維症の疾患特性や新薬の概要について講演を行った。 骨髄線維症は血液疾患で、骨髄増殖性腫瘍(MPN)のなかの古典的骨髄増殖性疾患に分類される。骨髄組織が線維化することが特徴で、これによって血球産生が障害され、貧血や髄外造血による脾腫、倦怠感などの全身症状を伴い、一部は急性骨髄性白血病(AML)に移行する。患者数は国内で年間約380人と希少疾患の部類に入り、高齢者に多く、生存期間中央値は3.9年(国内調査)と、MPNの中でも最も予後の悪い疾患だ。MPNに共通にみられるJAK2、CALR、MPL遺伝子変異が本疾患の発症と疾患進行にも関与する。 骨髄線維症の薬物療法におけるこれまでのキードラッグは、2014年に承認されたJAK阻害薬ルキソリチニブだ。JAK2経路を阻害することで脾腫を縮小し、全身症状を軽減する効果が見込める。一方で副作用として血小板減少症と貧血が問題となる。今回発売となったモメロチニブはJAK1・JAK2の阻害に加え、アクチビンA受容体1型(ACVR1)の阻害作用も持つ。これにより、鉄代謝を調整するホルモンであるヘプシジンの産生を抑制するため貧血の改善が期待できる。こうした特性により、ルキソリチニブの使用が難しい貧血を有する患者にも使用できる。 今回の承認は、第III相SIMPLIFY-1試験とMOMENTUM試験の結果に基づくもの。SIMPLIFY-1はJAK阻害薬治療歴のない患者を対象に、モメロチニブのルキソリチニブに対する非劣性を検証した試験。主要評価項目は24週時点での脾臓縮小(35%以上)した患者の割合で、モメロチニブ26.5%、ルキソリチニブ29.0%とほぼ同等の結果を示した。全体的な症状改善はルキソリチニブのほうが勝る一方、輸血非依存の割合はモメロチニブ群でより高かった。 MOMENTUMはJAK阻害薬治療歴のある患者を対象に、ダナゾール(貧血治療に用いられるステロイド薬)とモメロチニブを比較した試験。主要評価項目である全身症状の改善でモメロチニブは有意に優れた結果を示した(24週後、モメロチニブ群25% vs.ダナゾール群9%)。 両試験の結果を踏まえ、モメロチニブは未治療・既治療両方の骨髄線維症患者に対する適応を取得した。松村氏は「薬剤の使い分けは今後の議論となるが、貧血や血小板減少傾向のある患者に対してはモメロチニブを優先して使うことになるだろう。10年振りの新薬に期待している」とまとめた。

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薬物乱用頭痛に対する薬物療法の比較〜ネットワークメタ解析

 薬物乱用頭痛の治療に対する予防薬の必要性については、議論の余地が残っている。中国・雲南大学のFanyi Kong氏らは、薬物乱用の改善を含む、薬物乱用頭痛の治療に利用可能な薬剤の相対的なベネフィットおよび安全性を評価するため、本研究を実施した。The Journal of Headache and Pain誌2024年10月7日号の報告。 薬物乱用頭痛に対するさまざまな薬剤の効果を比較するため、文献検索を通じて、ランダム化比較試験のシステマティックレビューを実施した。介入効果の比較をランク付けするため、ランダム効果ネットワークメタ解析を行った。アウトカムのベースラインからの改善には、治療反応率(頭痛頻度50%以上の減少)、急性薬物乱用の改善率、1ヵ月当たりの頭痛および急性期治療薬の減少を含めた。エビデンスの信頼性の評価には、Grading of Recommendations, Assessment, Development & Evaluation(GRADE)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニングした8,248件のうち、28件を分析対象に含めた。・トピラマートは、プラセボと比較し、治療反応率(オッズ比[OR]:4.93)、頭痛頻度(加重平均差[WMD]:−5.53)、急性期治療薬使用(WMD:−6.95)に有益であり、忍容性、有害事象の増加などの安全性(OR:0.20)も良好であった。・フレマネズマブ(OR:3.46〜3.07)、ガルカネズマブ(OR:2.95)、A型ボツリヌス毒素(OR:2.57)は、治療反応率が高かった。・急性薬物乱用の改善は、eptinezumab(OR:2.75 〜2.64)、フレマネズマブ(OR:1.87〜1.57)、A型ボツリヌス毒素(OR:1.55)がプラセボよりも優れていた。・eptinezumab(OR:3.84〜3.70)、フレマネズマブ(OR:2.60〜2.49)、エレヌマブ140mg(OR:2.44)、A型ボツリヌス毒素(OR:2.16)は、エレヌマブ70mgよりも有効性が高く、安全性および忍容性に差は認められなかった。 著者らは「薬物乱用頭痛の治療反応率向上には、フレマネズマブ、ガルカネズマブ、eptinezumabが有望であった。急性薬物乱用の改善には、eptinezumabが最も有効で、次いでフレマネズマブであった。A型ボツリヌス毒素は、治療反応率を中程度で改善し、急性薬物乱用の改善に小さな効果が認められた」と結論付けている。

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異常降雨が全死亡リスクと関連、心血管・呼吸器疾患死亡も/BMJ

 日降雨量の強度はさまざまな健康に影響を及ぼしており、異常降雨は全死因死亡、心血管系疾患および呼吸器系疾患による死亡の相対リスク上昇と関連していた。また、その関連は、地域の気候や都市インフラによって異なっていた。ドイツ・German Research Center for Environmental HealthのCheng He氏らが、日降雨量(強度、期間、頻度)の特性と死亡との関連について解析し、報告した。気候変動により、短期的な降雨現象の頻度と深刻さが増している。降雨に関連する健康リスクに関する研究は、主に感染症と暴風雨に焦点を当てており、心血管系や呼吸器系の健康への影響、降雨強度の変化がこれらの状態にどのような影響を与えるかなど、より広範な影響は知られていなかった。BMJ誌2024年10月9日号掲載の報告。降雨量と死亡率との関連性を、降雨事象別に解析 研究グループは、Multi-Country Multi-City(MCC)Collaborative Research Networkのデータベースから、1980~2020年の34ヵ国または地域の645ヵ所における、外因を除く死亡(ICD-10:A00-R99、ICD-9:001-799)または全死因死亡、ならびに心血管系の疾患(I00-I99、390-459)と呼吸器系の疾患(J00-J99、460-519)の特定データを入手するとともに、欧州中期予報センターによる第5世代再解析データセットの陸地成分(ERA5-Land)から同期間と地点における1時間単位の地表降水データを入手した。 主要アウトカムは、1日当たりの死亡率と、再現期間(ある規模の極端な事象が平均して何年に1回発生するかを表した値)が1年、2年、5年における降雨事象との関連(降雨後14日間の累積相対リスク)で、連続的な相対強度指数を使用して強度応答曲線を作成し、世界規模での死亡リスクを推定した。 解析対象は、全死因死亡1億995万4,744例、心血管系疾患3,116万4,161例、呼吸器系疾患1,181万7,278例であった。調査期間中、再現期間1年の降雨事象は計5万913件、再現期間2年の降雨事象は8,362件、再現期間5年の降雨事象は3,301件確認された。再現期間5年の異常降雨は、全死因死亡・心血管系疾患死・呼吸器系疾患死のリスク上昇と有意に関連 再現期間5年の異常降雨は、1日の全死因死亡率、心血管系疾患死亡率および呼吸器系疾患死亡率の上昇と有意に関連しており、降雨後14日間にわたる累積相対リスクは、それぞれ1.08(95%信頼区間[CI]:1.05~1.11)、1.05(1.02~1.08)、1.29(1.19~1.39)であった。 再現期間2年の降雨事象は、呼吸器系疾患死亡率のみと関連していたが、再現期間1年の降雨事象については有意な関連は確認されなかった。 非線形解析により、中~大雨の事象では保護効果(相対リスク<1)がみられ、きわめて強い降雨事象では悪影響(相対リスク>1)に変化することが示された。 さらに、異常降雨事象による死亡リスクは、気候のタイプ、ベースライン降雨量の変動性および植生被覆によって変化すると思われるが、人口密度と所得水準の緩和効果は有意ではなかった。ベースライン降雨量の変動が小さい地点や植生被覆の低い地点では、リスクが高いことが示された。 著者は研究の限界として、解析対象となった地点が主に東アジア、欧州、北米であり、中南米とアフリカが少なかったこと、評価結果の正確性がモデル化された出力降水データへの依存から生じる潜在的な曝露の誤分類によって影響を受ける可能性があること、数十年にわたる調査のため、健康データの診断またはコーディングのエラーが生じた可能性があることなどを挙げている。

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60歳以上へのRSVワクチン、承認後初のシーズンの有効性/Lancet

 RSウイルス(RSV)ワクチン承認後最初のシーズンである2023~24年の米国において、同ワクチンの接種は、60歳以上のRSV関連入院および救急外来受診の予防に有効であったことが示された。米国疾病予防管理センターのAmanda B. Payne氏らが報告した。2023年に初めて使用が推奨されたRSVワクチンは、臨床試験で下気道疾患に有効であることが確認されているが、実臨床での有効性に関するデータは限られていた。Lancet誌2024年10月19日号掲載の報告。RSV関連入院および救急外来受診に対するRSVワクチンの有効性を解析 研究グループは、米国8州の電子カルテに基づくネットワーク(Virtual SARS-CoV-2, Influenza, and Other respiratory viruses Network:VISION)において、2023年10月1日~2024年3月31日にRSV検査を受けた60歳以上の成人におけるRSV様疾患による入院および救急外来受診に関して、検査陰性デザインを用いた解析を実施した。 受診時のRSVワクチン接種状況は、電子カルテ、州および市の予防接種登録、一部の施設では医療請求記録から取得した。 ワクチンの有効性は、RSV陽性症例群と陰性対照群でワクチン接種のオッズを比較し、年齢、人種/民族、性別、暦日、社会的脆弱性指数、呼吸器系以外の基礎疾患数、呼吸器系の基礎疾患の有無および地理的地域で調整し、免疫不全状態別に推定した。免疫正常者における有効性、RSV関連入院に対し80%、救急外来受診に対し77% 60歳以上、免疫正常者のRSV様疾患による入院は2万8,271例で、RSV関連入院に対するワクチンの有効性は80%(95%信頼区間[CI]:71~85)、RSV関連重篤疾患(ICU入院/死亡、または両方)に対するワクチンの有効性は81%(95%CI:52~92)であった。 60歳以上、免疫不全状態の患者のRSV様疾患による入院は8,435例で、RSV関連入院に対するワクチンの有効性は73%(95%CI:48~85)であった。 60歳以上、免疫正常者のRSV様疾患による救急外来受診3万6,521例において、RSV関連救急外来受診に対するワクチンの有効性は77%(95%CI:70~83)であった。 ワクチンの有効性の推定値は、年齢層や製剤の種類によらず同様であった。 著者は研究の限界として、RSV陽性患者の受診がRSV感染症以外の理由で受診していた可能性を否定できないこと、予防接種登録、電子カルテ、医療請求記録では、投与されたRSVワクチンの投与量をすべて特定できない可能性があること、残余交絡の可能性などを挙げている。

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幸福感が脳卒中や心筋梗塞からあなたを守る

 幸福感が高い人ほど、脳卒中や心筋梗塞のリスクが低いことを示唆するデータが報告された。中国科学技術大学脳卒中センターのWen Sun氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Heart Association」に9月18日掲載された。 論文の上席著者であるSun氏は、「われわれの研究結果は、人々の精神的な健康を高めることが心臓や脳の病気の予防に不可欠な要素であることを意味しており、健康管理への総合的なアプローチの重要性を支持するものと言える」と述べている。さらに同氏は、「医療専門家は、患者の幸福を高める効果的な方法として、習慣的な身体活動、社会活動、ストレス管理テクニックを推奨するなど、生活満足度と幸福感を向上させる戦略を、日常のケアの一部として含めることを検討する必要があるのではないか」とも付け加えている。 この研究は、英国の一般住民を対象に行われている大規模疫学研究「UKバイオバンク」の参加者、12万1,317人(平均年齢56.56±8.15歳、男性45.03%)のデータを用いて行われた。参加者の幸福感は、UKバイオバンク研究登録時に行われていた調査票の回答を基に把握した。具体的には、家族、友人関係、健康、仕事、暮らし向きに関する幸福感や満足感などを、6段階のリッカートスコアで判定して定量的に評価した。 中央値11.77年の追跡期間中に、脳卒中5,990件、慢性虚血性心疾患9,177件、心筋梗塞6,462件、心不全3,323件が発生。結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒習慣、民族、腎機能、基礎疾患、血圧・脂質・血糖管理のための薬剤処方など)を調整後、幸福感のスコアが1標準偏差高いごとに、脳卒中(ハザード比〔HR〕0.89〔95%信頼区間0.87~0.91〕)、慢性虚血性心疾患(HR0.90〔同0.88~0.92〕)、心筋梗塞(HR0.83〔0.81~0.85〕)、心不全(HR0.90〔0.87~0.93〕)のリスクが有意に低下することが示された。 また、幸福感のスコアに基づき4群に分け、スコアが最も低い群を基準として比較すると、最もスコアの高い群は、脳卒中は45%、慢性虚血性心疾患は44%、心筋梗塞は56%、心不全は51%、それぞれ低リスクであることが分かった。さらなる分析の結果、幸福感の高い人は、より健康的なライフスタイルを維持していて、慢性炎症のレベルが低いことが明らかになった。Sun氏は、「これらの結果は、感情や心理的な健康が身体的な健康に及ぼす影響力の強さを強調しており、これまで十分に理解されていなかった複雑な生物学的メカニズムに光を当てるものだ」と総括している。 本研究には関与していない米国心臓協会(AHA)のGlenn Levine氏は、「報告された研究結果は、精神的健康と心血管のリスクとの関連性を具体的に示している。精神的健康に関してはこれまで当然のことながら、うつ病やストレスなどのネガティブな事象が研究テーマとなっていた。しかしこの研究は、人々の幸福感というポジティブな面の重要性を明示した」と述べている。

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救急外来でのChatGPTの活用は時期尚早

 人工知能(AI)のChatGPTを病院の救急外来(ED)で活用するのは時期尚早のようだ。EDでの診断にAIを活用すると、一部の患者に不必要な放射線検査や抗菌薬の処方を求め、実際には入院治療を必要としない患者にも入院を求めるような判断を下す可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のChristopher Williams氏らによるこの研究は、「Nature Communications」に10月8日掲載された。Williams氏は、「本研究結果は、AIモデルの言うことを盲目的に信頼するべきではないという、臨床医に対する重要なメッセージだ」と話している。 この研究でWilliams氏らは、EDの臨床ノートを用いて、AIモデル(GPT-3.5 turboとGPT-4 turbo)が、入院、放射線検査、抗菌薬処方の必要性の3点についての推奨を的確に提供できるかどうかを評価した。25万1,000件以上のED受診から、それぞれのタスクにつき1万件の受診サンプルをランダムに抽出し、患者の症状や診察所見などの書かれた臨床ノートの内容をAIモデルに分析させた。モデルには、患者に入院が必要か、放射線検査が必要か、抗菌薬の処方が必要かについて、全て「はい」か「いいえ」で答えさせた。 その結果、AIモデルは全体的に、実際に必要とする以上の過剰なケアを推奨する傾向があることが明らかになった。レジデントの医師の診断精度に比べて、GPT-4 turboモデルの精度は8%、GPT-3.5 turboモデルの精度は24%低かった。 こうした結果を受けてWilliams氏は、「AIモデルは医学試験の質問に答えたり臨床記録の作成を手助けしたりすることはできるが、現時点では、EDのような複数の要素を考慮する必要がある状況に対処できるようには設計されていない」とUCSFのニュースリリースで述べている。 Williams氏は、「AIモデルのこのような過剰処方の傾向は、モデルがインターネット上でトレーニングされているという事実によって説明できるかもしれない」と話す。正規の医療アドバイスサイトは、緊急性の高い医学的質問に回答するためではなく、それに答えることのできる医師に患者を紹介するために設計されている。 またWilliams氏は、「これらのAIモデルは、たいていの場合、『医師の診察を受けてください』と答えるようになっている。これは、安全性の観点からはもっともなことだが、EDの現場では、用心し過ぎることが必ずしも適切であるわけではない。不必要な介入が患者にはかえって害となり、リソースの浪費と患者の医療費増加につながる可能性があるからだ」と述べている。 Williams氏は、AIモデルをEDで活用するには、患者の診察により得られる情報を評価するためのより優れたフレームワークが必要だとの見方を示す。そして、そのようなフレームワークの設計者は、AIモデルが重大な問題を見逃さないようにしつつ、不要な検査や費用が発生しないようにバランスを取る必要があると述べる。同氏は、「完璧な解決策はない。それでも、ChatGPTのようなモデルにはこのような傾向があることが明らかになったのだから、われわれには、AIモデルを臨床現場でどのように機能させたいかを熟考する責任がある」と話している。

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重症の新型コロナ感染者の心臓リスクは心疾患既往者のリスクと同程度

 重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、心筋梗塞や脳卒中、全死亡などの主要心血管イベント(MACE)リスクを高め、その程度はCOVID-19に罹患していないが心疾患の既往歴がある人のリスクとほぼ同程度であることが、米クリーブランドクリニック・ラーナー研究所心血管代謝学部長のStanley Hazen氏らによる新たな研究から明らかになった。この研究ではまた、重症度にかかわらず、COVID-19罹患は、その後3年間のMACEリスクを2倍に高めることも示されたという。この研究結果は、「Arteriosclerosis, Thrombosis and Vascular Biology」に10月9日掲載された。 Hazen氏は、「この研究結果から、COVID-19は上気道感染症である一方で、さまざまな健康リスクを伴う疾患であり、心血管疾患の予防に関する計画や目標を策定する際には、COVID-19の既往歴を考慮すべきことを強く示したものだ」と述べている。 COVID-19パンデミックの初期には、新型コロナウイルスへの感染が血栓や心臓の問題のリスクを高めることが示されていた。しかし、このような高リスク状態がいつまで続くのか、どのような要因が影響するのかについては十分に解明されていないとHazen氏らは言う。 そこでHazen氏らは、2020年の2月1日から12月31日までの間に英国でCOVID-19の診断を受けた患者1万5人のデータを分析し、心血管の健康状態をCOVID-19に罹患していない21万7,730人と比較した。 その結果、COVID-19への罹患者では、重症度とは無関係に、1,003日の追跡期間にわたってMACEリスクが2倍以上に上昇することが明らかになった(ハザード比2.09、95%信頼区間1.94〜2.25、P<0.0005)。このようなリスク上昇は、COVID-19罹患により入院を要した人で顕著だった(同3.85、3.51〜4.24、P<0.0005)。また、心血管疾患の既往歴がないCOVID-19罹患者でのMACEリスクは、心血管疾患の既往はあるがCOVID-19罹患歴がない人よりも20%以上高かったことから(同1.21、1.08〜1.37、P<0.005)、COVID-19による入院が冠動脈疾患(CAD)と同等のリスク(CAD risk equivalent)をもたらすことが確認された。 さらにHazen氏らは、そのリスクの程度が血液型によって異なることも突き止めた。血液型がA型、B型、AB型の人では、O型の人と比べてCOVID-19による入院を経験した後の血栓イベント(心筋梗塞と脳卒中)のリスクが有意に高いことが示されたのだ。このことは、新型コロナウイルスへの感染後の心疾患リスクには、その人の遺伝的特徴が影響している可能性を示唆していると、Hazen氏らは指摘している。 論文の上席著者で、米南カリフォルニア大学ケック医学校ポピュレーションヘルス・公衆衛生科学および生化学・分子医学教授のHooman Allayee氏は、「われわれは、この結果を説明できる要因が他にあるかどうかを確認しようとしているところだが、実際に、特定の血液型では、生物学的な何らかのメカニズムが作用しているようだ」と話している。また同氏は、「われわれの観察の結果と、世界の人口の60%はO型以外の血液型である事実を踏まえると、われわれの研究は、個々の患者の遺伝的特徴を考慮した、より積極的な心血管リスク低減策を検討すべきかどうかという重要な問題を提起するものだ」と同大学のニュースリリースの中で付け加えている。 Allayee氏は、医師は新型コロナウイルスへの感染を全般的な心臓のリスクの一部としてとらえる必要があると主張する。同氏は、「現時点で疑問として残るのは、本研究結果と今後の研究結果により、心疾患の既往がない人に対する心臓の予防医療に関するガイドラインが、COVID-19の心臓への影響を考慮したものに変更されるのかということだ」と話している。

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第二の、はたまた初めての血友病B遺伝子治療fidanacogene elaparvovec(解説:長尾梓氏)

 このたび、NEJM誌にファイザーの血友病B遺伝子治療であるfidanacogene elaparvovecの第III相試験のデータが公表された。投与から最長15ヵ月まで安定した第IX因子活性の発現がみられた。同量を投与した第I/II相試験では、6年程度まで安定した第IX因子発現のデータが報告されている(学会発表のみ)。 fidanacogene elaparvovecは2023年12月にカナダ、2024年4月にFDA、同年7月にはEMAですでに承認を得ている。商品名はBeqvezだそう。元はSpark Therapeuticsによって開発が始まり、2014年にファイザーが権利を取得し開発を引き継いでいる。 血友病B遺伝子治療には、2022年11月にFDAで承認を得たのを皮切りにカナダ、EUでも承認されているetranacogene dezaparvovec(商品名:Hemgenix、製造販売:CSL Behring)があり、fidanacogene elaparvovecは世界的には第二の血友病B遺伝子治療といえる。日本では治験開始時期が異なるため、最初の遺伝子治療になる可能性が高い(「はたまた初めての」)。ちなみに、2つの遺伝子治療の値段は米国では同じだそうだ。 2つの遺伝子治療のFDAの適応症(indication)を調べてみた。fidanacogene elaparvovec:中等度~重度の血友病Bの成人において・現在、第IX因子の予防療法を使用している、または・現在、または過去に生命を脅かす出血を経験している、または・繰り返し、深刻な自然出血エピソードを経験している、かつアデノ随伴ウイルスAAVRh74varカプシドに対する中和抗体をFDA承認の検査で持っていない場合etranacogene dezaparvovec:血友病Bの成人において・現在、第IX因子の予防療法を使用している、または・現在、または過去に生命を脅かす出血を経験している、または・繰り返し深刻な自然出血エピソードを経験している場合 あくまでもFDAのindicationではあるが、AAV抗体の有無で適応が異なってくることに注意が必要である。日本人のAAV抗体陽性率は20~30%程度とされており、年齢が上がるにつれて陽性率も上がる(Kashiwakura Y, et al. Mol Ther Methods Clin Dev. 2022;27:404-414.)。これらを踏まえて、適応を検討することになるだろう。 血友病の遺伝子治療といえば、気になることとして「どれくらい持続するのか」「グルココルチコイドの使用(安全性も含む)」が挙がる。[どれくらい持続するのか] 投与後の第IX因子活性は期間などが違うので比較はできないが、参考までに提示しておくと以下のとおりとなる。「結構いい感じ」と言っても差し支えないだろう。fidanacogene elaparvovec:承認用量5×1011vg/kg投与15ヵ月時の平均FIX活性:26.9%(中央値:22.9%、範囲:1.9~119.0)etranacogene dezaparvovec:承認用量2×1013gc/kg投与3年後のFIX活性(平均±SD[中央値:範囲、症例数]):38.6 IU/dL±17.8(36.0:4.8~80.3、48)[グルココルチコイドの使用]fidanacogene elaparvovec:使用人数:45例中28例投与開始までの期間:中央値37.5日(範囲:11~123)投与期間:中央値95.0日(範囲:41~276)etranacogene dezaparvovec:使用人数:54例中9例投与開始までの期間:中央値6.1週(範囲:3.14~8.71週)投与期間:中央値74.0日(範囲:51〜130日) グルココルチコイドの使用については、実臨床において投与を受けた方の肝機能に最も注意すべき期間を示しているため、関係者は絶対に押さえておく必要がある。これを知らずに肝機能の悪化を見逃してしまうと、せっかく投与した遺伝子治療が水の泡となるかもしれず、患者負担、医療費など、さまざまな面でもったいないことになってしまう。 血友病の遺伝子治療は近々日本でも発売される見込みであるが、投与の体制がしっかり整っているとは言い難い状況である。学会を含め、全医療者で取り組む課題である。

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投票マッチングサイトを使ってみた!【Dr. 中島の 新・徒然草】(553)

五百五十三の段 投票マッチングサイトを使ってみた!雨が降ったり止んだり、暑くなったり寒くなったり。日本の秋は何かと忙しいですね。皆さん、先日の衆院選、投票には行きましたか?私は薄曇りの秋空のもと、女房とともに投票所に行ってきました。小選挙区と比例代表の投票と最高裁の国民審査です。投票所の前で、高齢女性が候補者ポスター掲示板を見ながら娘さんに尋ねていました。母「この中から選んだらええのん?」娘「そうよ」見れば、掲示板の候補者は4人だけです。思わず私は言いそうになりました。中島「ちゃうちゃう、あと1人おるで」もちろん、口に出しては言いませんでしたけどね。というのはもう1人、ポスターのない候補者がいたからです。この候補者の選挙公報は手書きだったので、インパクトは抜群!でも、掲示板にポスターを貼る余裕がなかったのでしょうか。女房「あのポスターって自分で貼っているわけ?」中島「まさか。全部のポスターを自分で貼る人なんかいないやろ」女房「せめて投票所の前だけでも貼っておいたらよかったのに」確かに全部でなくても、投票所の前の掲示板だけでも貼っておいたら効果的だったのかもしれません。後で調べてみると、私の住んでいる選挙区の投票所は118ヵ所もありました。投票所の前の掲示板だけといっても大変ですね。さて、問題は誰に、そしてどの政党に投票するかです。世の中、便利になったもので、その疑問に答える「投票ナビ」というサイトを見つけました。いくつかの質問に答えるだけで、自分の考えとの政党別合致度がわかります。質問というのは、選択的夫婦別姓、消費税、物価対策、政治とカネ・議員歳費、マイナンバーカードと健康保険証の一体化など。それぞれの質問にいくつかの選択肢があり、順に選んでいくと、自分の考えと近い政策の政党が順位を付けて表示されます。マッチング結果を見ると、確かに自分が比例代表で投票した政党が1位になっていました。ただ、このサイトの場合はテーマ間に軽重が付いていません。やはり、自分にとって重要な問題とそうでないものがあります。ほかに探してみると、自分が大切と思う問題を複数選んだうえで回答するサイトもありました。NHKの「衆議院選挙2024 ボートマッチ」というサイトです。まず自分の選挙区を選び、次にテーマを選択します。テーマは経済・財政、安全保障、社会保障、エネルギー、少子化対策・教育など10個ほどありました。その中から、自分が重要と思うテーマをいくつでも選ぶシステムです。そして、たとえば少子化対策・教育をテーマとして選んだとしましょう。すると「少子化対策として、いま政府が最優先で取り組むべきことは、次のうちどれだと考えますか」という質問が出てきて、選択肢が6つ示されます。若者の所得向上や雇用環境の向上子育て世代に対する経済支援の強化仕事と育児の両立に向けた働き方改革保育サービスの充実教育の実質無償化回答しないこれらの選択肢の中から、自分の考えに最も近いものを1つ選ぶわけです。1つのテーマにつき2~3個の質問があるので、順に答えてみました。答え終わると、どの候補者の主張が自分に最も近いかがわかります。自分でやってみると、私が投票したのは5人の候補者うちの2番目の一致率の人でした。確かに一致率が1番目と2番目の候補者の間で迷ったので、このサイトもよくできています。とくに、テーマは選んだけれども中身がよくわからない、という場合に実用的。「イチから分かる!テーマ解説」というボタンを押すと「少子化の現状、現在の政策、必要な財源」など、それぞれについてのコンパクトな説明が出てきます。これを読んで、考える材料にすればいいわけですね。残念ながら、これらのサイトを知ったのは投票後。とはいえ、具体的な政治問題を考える良い機会にもなりました。読者の皆さま、次の選挙で活用してみてはいかがでしょうか。最後に1句秋曇り 投票がてら 散歩する

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大阪大学医学部 外科学講座消化器外科学【大学医局紹介~がん診療編】

土岐 祐一郎 氏(教授)江口 英利 氏(教授)富丸 慶人 氏(助教)三吉 範克 氏(助教)中本 蓮之助 氏(専攻医)古賀 千絢 氏(専攻医)講座の基本情報医局の特徴・基本理念大阪大学消化器外科講座は、2008年より主任教授2人で1つの教室を運営するという特殊な形態をとっています。その結果、全体で120人を超える大きな教室となりましたので、基本理念を作りみんなの心を1つにしています。ミッションは「病める人に寄り添い、託された命を守り切ることがメスを持つ我々の使命です」、そして行動指針が「技術と知識を磨き、現代医療の最後の砦になります」「新しい科学、新しい医療、新しい手術を創出します」「外科医の絆を大切にし、社会に貢献します」の3つです。この基本理念を忘れないように多様な人が集まる教室を目指してゆきます。学生と医局員の食事会を開催医局独自の取り組み・若手医師の育成方針消化器外科は、上部消化管、下部消化管、肝胆膵など広い領域の診療を担当する診療科で、これらの臓器はお互いに近接し連携して機能していますので、これらを総合的に理解し対応できることが求められます。大阪大学消化器外科講座では、多彩な消化器疾患の外科治療を総合的に理解できるよう、臓器の垣根なくカンファンレンスや合同手術を行う体制ができており、一方、日々進化する高度な専門的医療も実践できるよう、グループ編成を行って最先端医療を提供しています。がん診療では国指定の地域がん診療連携拠点病院として、また臓器移植では脳死肝移植、脳死膵移植の認定施設として本邦をリードしています。上述のような高度医療技術を身につけることも大切ですが、一方で外科基本手技とも言える虫垂炎や胆石症、ヘルニアや腸閉塞などに対する手術も消化器外科医師としてきわめて重要です。大阪大学消化器外科講座は、近畿圏の基幹病院(約50施設)との密な連携体制が誇りで、外科専門医の取得をめざす若手外科医の育成のための教育システムにとくに力を入れています。連携する病院の若手医師を対象としたハンズオンセミナーや症例検討会、手術手技のコンテストやビデオクリニックなどを頻繁に開催しています。そのような活動を通じて若手医師が集まってくれる医局となってきており、日本専門医機構の外科専攻医プログラムでは、7年連続で日本一の入局者数となっています。医局のレクリエーションとして行ったゴーカートレース医局の雰囲気・魅力大阪大学消化器外科講座は、あらゆる消化器外科疾患に対して専門性の高い医療を提供しておりますが、一方では皆でレクリエーション活動なども行い、和気あいあいとした雰囲気の教室です。医師間のコミュニケーションが活発で、知識や経験を共有し合える環境が整っている点も特徴です。また、それぞれの医師のライフ・ワーク・バランスも尊重し、医師の働き方改革への取り組みも積極的に行っています。医学生/初期研修医へのメッセージ多くの手術を含めた臨床のみならず、研究、留学などさまざまな経験ができますので、自分の可能性を確実に広げることができる医局です。どのようなキャリアプランであっても、一緒に考えてくれる先輩方や仲間がたくさんいます。皆さんと一緒に仕事ができることを楽しみにしていますので、ぜひ仲間に加わってください!医局説明会でのハンズオンの様子医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力私たちは、消化器がんに対する腹腔鏡手術やロボット手術などの低侵襲手術から拡大手術にも力を入れ、患者さんに優しい治療を目指しています。また、新規がん診断や薬物治療に関する基礎研究、再生医療、そしてAIを用いた解析やプログラミングにも注力し、次世代の医療技術の発展に貢献したいと考えています。医学生/初期研修医へのメッセージ医療は今、テクノロジーの進化により驚くべき変革が起きています。AIやロボット技術を駆使し、より精密で効果的な治療が可能になる時代です。皆さんが挑戦する新しいアイデアや発見が、未来の医療を形作る重要な一歩となります。未知の分野に果敢に挑み、自分だけのキャリアを切り拓いてください。一緒に、新しい時代の医療を創造していきましょう。学生向けロボット手術の操作シミュレーション実習入局した理由近畿大学医学部を卒業後、市中病院で2年間の初期研修を行いました。学生実習や研修医としての外科ローテーションを通じて、多くの手術症例に携わる機会があり、手術への興味がいっそう深まりました。また、周術期管理や手術技術の向上を通じて、患者の全身状態の改善に寄与できることに大きなやりがいを感じ、消化器外科への入局を決意しました。その後、市中病院で2年3ヵ月の消化器外科後期研修を経て大阪大学病院に戻り、病棟業務と大学院生としての日々の活動に従事しています。現在学んでいること大学病院では、高度進行がんに対する術前化学療法や放射線療法を含む集学的治療、ロボット支援手術、さらには肝・膵移植など、大学病院ならではの多様な症例を経験することができました。経験豊富な指導医のもとで、多くの症例を通じ、周術期管理や手術技術、知識の習得に励んでいます。食事会の様子消化器外科を選択した理由医学科5年の研究室配属プログラムで、消化器外科教室で2ヵ月間勉強させていただきました。実臨床では手術をして周術期管理をする傍らで、さまざまな学術的観点からがんについて研究をされている先生方の姿を目の当たりにし、「がん」と真っ向から向き合う姿勢に感銘を受けました。がんを診療する外科、という観点から産婦人科や泌尿器科などほかの外科も検討しましたが、他臓器とも密接に関連する消化器疾患自体の病態生理に興味があったため、消化器外科を選択しました。現在学んでいること現在は阪大病院で専攻医として学んでおります。大学病院では最新技術の導入はもちろん、臨床研究や治験も豊富で、市中病院では経験できないような症例が多く、がん診療への理解が深まるのを実感しています。また大阪大学は学術面でのサポートも手厚いので、学会などへも積極的に参加しています。日々の臨床だけでは得ることができない着眼点を吸収する良い機会になっていると思います。専攻医を対象とした真皮縫合コンテスト大阪大学大学院医学系研究科 外科系臨床医学専攻外科学講座消化器外科学住所〒565-0871 大阪府吹田市山田丘2-2問い合わせ先ytomimaru@gesurg.med.osaka-u.ac.jptmakino@gesurg.med.osaka-u.ac.jp医局ホームページ大阪大学大学院医学系研究科 外科系臨床医学専攻外科学講座消化器外科学専門医取得実績のある学会日本外科学会日本消化器外科学会日本食道学会日本肝胆膵外科学会日本移植学会日本大腸肛門病学会日本消化器病学会日本内視鏡外科学会日本ロボット外科学会日本消化器内視鏡学会 など研修プログラムの特徴(1)高難度ながん手術をはじめ、臓器移植や再生医療などの最先端医療を実践でき、さらにはそれらの開発研究にも参加する機会があり、高度な医療技術や研究能力を得ることができます。(2)手術だけでなく内視鏡検査、化学療法など幅広い一般診療にも従事することができ、各種専門医の先生と一緒に高い技術と知識を習得できる実践的な研修を提供しています。(3)研修先や勤務先が大阪を中心とした関西エリアの主要な医療機関であり、通勤や生活面での負担が少ない環境で、充実した研修が受けられる点も大きな魅力です。

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第120回 赤字でも耐えて事業継続を求められる国立大学病院

国立大学病院が赤字国立大学病院長会議が今年7月に発表した2023年度の決算概要(速報値)によると、全国42の国立大学病院の総収益は1兆5,657億円で、費用が1兆5,716億円と上回っています。経常損益は、2022年度の386億円の黒字から、初めて60億円の赤字に転落しました。今年度はさらに赤字が膨らむ見通しで、同会議が10月4日に緊急記者会見で発表した2024年度の収支見込みによると、235億円の赤字となっています。大学病院だけではなく、どこの病院も割とキツくなっています。赤字が大幅に拡大する原因はいくつかあります。たとえば、医薬品・材料費の増加は前年比121億円増、エネルギー価格高騰の影響により光熱水費が前年比33億円増、物価も高騰しており業務委託費や設備投資も64億円増、という状況です。そして、最も大きな負担となっているのが働き方改革による人件費の増加で、前年比343億円という大幅な増加となっています1)。2024年度診療報酬改定によるベア評価料などで108億円の増収が見込まれているものの、人件費のトータル増加額がその3倍以上となる見通しで、収益バランスが破綻しつつあります。「地域医療介護総合確保基金」の財政支援を拡大すべきではないかという意見がありますが、賛成です。経営圧縮連休中の診療を検討する大学病院も増えているようですが、人件費を削って経営圧縮を試みている中、今よりも「総労働時間」を増やす方向へのかじ取りは厳しいかもしれません。物価高騰によって医療機器の更新や維持が難しくなっています。「胃瘻ボタンを交換するほど医療機関が赤字になる」というのは有名な話ですが、診療報酬そのものが収益を上げるスキームになっていないことが一番の問題です。「国立たるもの清貧であれ」というマインドが根付いてしまうと、診療できる病院が減って、回りまわって困るのは国民ではないかと思います。医療分野は労働集約型が基本であり、人的リソースの依存度が高い一方、AIや自動化技術による労働時間の短縮や業務効率化が期待されています。医療のDX化が叫ばれていますが、医療現場ではいまだにFAXが大活躍している状況であり、人件費が削減できるほどのドラスティックなDX化が実現できるのは、ずいぶんと先になる気しかしません。行政的な縦割り構造が、重い足かせとなっています。経費を削減することで、短期的な費用圧縮にはつながるものの、長期的には組織の競争力低下や医療の質の低下を引き起こし、かえって負の影響が大きくなるかもしれません。どこの病院でも「このままだと日本の医療はどうなってしまうのだろう?」という不安が広がっています。診療・教育・研究を続けなければならない国立大学病院は一般の医療機関とは異なる特殊な費用構造を持っています。高度医療の提供、医学教育、研究開発という3つの機能を同時に担っており、これらは本質的にコストセンターとしての性質を持ちます。赤字セグメントをたくさん抱えているとしても、痛みに耐えて事業を継続しなければならないというツライ側面があります。最先端医療の研究開発や医師の育成には、短期的な収益では測れない社会的投資としての側面があります。また、医療の高度化に伴う費用増加は構造的な問題です。新しい医療技術や医薬品の開発により、治療の選択肢は広がっていますが、それらは往々にして高額なのです。2024年度の予測では、医薬品・材料費だけで121億円の増加が見込まれています。これは技術進歩に伴う不可避的なコスト上昇であり、もはや人件費削減では補いきれない規模かもしれません。コスト削減が叫ばれるさなか、「医師の働き方改革」という劇的な改革に乗り出しているため、中長期的には相当厳しい冬の時代が到来するかもしれません。参考文献・参考サイト1)国立大学附属病院長会議:2024年10月4日 令和6年度第3回記者会見を開催

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