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映画「クワイエットルームにようこそ」(その2)【家族の同意だけでいいの?その問題点は?(強制入院ビジネス)】Part 1

今回のキーワード障害者権利条約医療保護入院制度法律の抜け穴判断基準入院費精神医療審査会家族調整市町村長同意前回(その1)は、強制入院の1つである医療保護入院について詳しく説明しました。実は、この医療保護入院は、もはや世界で日本だけにしかなく、障害者権利条約に従っていないと国連から改善勧告がなされています1)。また、精神科医が所属する基幹学会(日本精神神経学会)からは、すでに医療保護入院を廃止すべきであるとの見解が示されています2)。つまり、日本ならではの医療保護入院という制度が障害者への人権侵害を招いており、しかもそれに私たちがあまり気付いていないという衝撃の事実です。どういうことでしょうか?今回(その2)は、映画「クワイエットルームにようこそ」を通して、医療保護入院制度の問題点を明らかにして、強制入院ビジネスの不都合な真実に迫ります。医療保護入院制度の問題点とは?まず、医療保護入院制度の問題点を、病院、家族、地域の3つの立場からそれぞれ明らかにしてみましょう。(1)強制入院の裁量権が病院に独占明日香が強制入院させられた精神科病院は、民間病院でした。実際に、精神科病院の8割以上は民間病院です。よくよく考えると、本来、行動制限のような人権侵害ができるのは警察などの公権力に限られています。しかし、精神障害に限っては、私人(民間病院)がほぼ独断ですることが可能になっています。1つ目の問題点は、強制入院の裁量権が精神科病院に独占されていることです。それを可能にする「法律の抜け穴」を、大きく3つ挙げてみましょう。a.医療保護入院の判断基準が曖昧明日香が入院していた女子病棟には、さまざまな人が入院していました。たとえば、おそらく統合失調症で、何らかの妄想によって自分の髪の毛を燃やしたり暴れる人です。この場合は、措置入院の要件にもなっている「自傷他害のおそれ」があるため、強制入院が必要であると多くの人が納得できます。一方、摂食障害で、食事を食べない、食べても吐くために、超低体重になっている人も何人かいました。確かに、摂食という点では自立不全ではありますが、程度の問題になるため、自傷他害ほど白黒つけられません。また、判断能力が保たれている場合は、本人の意思で体重を減らしていることになります。本人の意思でお酒を飲み続けるアルコール依存症と、「本人の意思」という生き方の問題(嗜癖)としては同じです。ちなみに、アルコール依存症だけではさすがに強制入院の対象になりません。なお、摂食障害が嗜癖である理由については、関連記事1をご覧ください。1つ目の「法律の抜け穴」は、医療保護入院の判断基準が曖昧であることです。その1でも説明しましたが、強制入院の要件は、自傷、他害、自立不全によって「自他への不利益が差し迫っている」ことです。自傷と他害は明確ですが、自立不全は程度の問題になるため、明確ではありません。そもそも、根拠となる精神保健福祉法では「医療及び保護のため」としか記載されていません。つまり、入院が必要と精神科医(精神保健指定医)が独断し、家族が同意すれば、誰でも強制入院させることができます。これは、実はとんでもない権力です。しかも、現在では入院したあとに家族が同意を撤回しても、医療保護入院は継続できるという行政解釈がなされてしまいました3)。ますますとんでもない状況になっています。次のページへ >>

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映画「クワイエットルームにようこそ」(その2)【家族の同意だけでいいの?その問題点は?(強制入院ビジネス)】Part 2

b.医療保護入院の入院費が収入源担当看護師は、明日香に「料金は一括で払っていただいていますから」と伝えていました。ここからわかることは、当たり前と言えば当たり前ですが、民間の精神科病院は、営利組織でもあります。2つ目の「法律の抜け穴」は、医療保護入院の入院費が精神科病院の収入源になってしまっていることです。収入を確保するためには、なるべく多くの患者を強制入院させて、改善してもすぐに退院させないようにする必要があります。経営方針の最適解は、医療保護入院の判断基準が曖昧であることを利用して、常に満床、なるべく空きベッドを出さないことです。一方で、任意入院や外来通院では、この経営戦略は使えません。わかりやすく言うなら、犯人が捕まらなくても警察署はつぶれないですが、患者が捕まらないと精神科病院はつぶれてしまうということです。このような精神科病院で働く精神科医や看護師にも職業倫理や人権意識があることにはあります。しかし、当然のことながら、雇われている立場であり、経営方針に従わないと嫌がらせをされたり、別の理由をつけられて職を追われます。それを見越しているため、忖度したり渋々従っていることも想像できるでしょう。また、精神保健指定医は国家資格で、更新のために定期的に研修会に参加する必要があります。しかし、これを開催する団体に限っては、主に民間の精神科病院が所属する学会や協会です。国家資格でありながら、国が直接開催するという形をとっていません。申し込みの時に、あえてこれらの団体の名前を表示させて、選ばせる仕組みになっています。いくら便宜的とは言え、このように国家資格の更新に民間の精神科病院の団体の息がかかっているように見えるため、精神科医は資格を無事に更新するため、やはり精神科病院の経営方針に忖度せざるを得ないでしょう。また、この研修会では、国連の勧告によって「精神障害者の権利の擁護」という言葉が精神保健福祉法に新たに盛り込まれたという事実は説明されるのですが、精神科医(精神保健指定医)はどう具体的に「権利擁護」をするべきかについては、いっさい触れられません。これは、利害関係を考えれば当然と言えば当然です。精神科医たちに本気で人権擁護に取り組まれてしまっては、より多くの患者をより長く入院させられなくなり、精神科病院が赤字経営に陥ってしまうからです。そしてそれは結局、精神科医たちの職場を失ってしまうことになるからです。このような構造的な問題は、精神科病院にとって世の中にあまり知られたくない不都合な真実です。さらにおかしな点は、入院費の支払いを患者本人に請求している点です。入院費は保険診療ではありますが、自己負担があります。映画では、差額ベッド代が1泊2万円の「ブルジョア部屋」に5年間入院している患者がいました。本人が支払うことは、入院中で物理的にも経済的にも不可能です。心理的にも絶対に払いたくないでしょう。そうなると、扶養義務があって、入院に同意した家族が代わりに支払うことになるわけです。しかも、先ほどにも触れましたが、家族が同意を撤回しても医療保護入院は継続可能であるため、支払い義務は続きます。これは、治療契約として明らかに破綻しており、やはりおかしな状況になっています。ちなみに、もう1つの強制入院である措置入院は、行政命令であるため、警察に留置されているのと同じ扱いで、入院費は完全に公費で、支払い義務はないです。実際の統計(2023年)では、日本の精神科病院における医療保護入院患者は約13万人で、措置入院患者数は約1,600人です。この2つを合わせた強制入院率は、欧州諸国の約15倍と、断トツに多いです1)。欧州諸国には医療保護入院がないことから、単純に考えて、もしも日本も医療保護入院がなくなれば、欧州諸国と同じ低い水準の強制入院率になることが推測できます。しかも、2002年から、もともと増え続けていた任意入院が減り、逆に医療保護入院が増え始め、2023年には倍になっています。このわけは、2002年から診療報酬の高い精神科救急病棟(スーパー救急)が国家的に推進され、その認定要件に強制入院の患者がより多く(その病院の入院患者の6割以上)いることとされてしまったからであることが考えられています。つまり、任意入院になるはずの患者をあえて医療保護入院にしていることが推測できます。このことからも、医療保護入院がいかに都合よく利用されているかがわかります。そして、この状況は、さすがに国としても想定外だったようです。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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映画「クワイエットルームにようこそ」(その2)【家族の同意だけでいいの?その問題点は?(強制入院ビジネス)】Part 3

c.医療保護入院への審査が形骸化明日香は、強制入院中のため、締め切りのある原稿を書くことも送ることもできないなか、面会に来たコモノ(放送作家である鉄雄の弟子)から「代わりに書きました」と聞かされます。しかし、その内容があまりにも突飛であったため、そのショックから持病の蕁麻疹が全身に出てしまい、コモノが叫び声を上げてしまいます。それを聞きつけた担当看護師は、他の看護師たちに「(明日香用の)クワイエット(ルーム)の手配を」と速やかに指示を出すのです。しかし、明日香もひるみません。すぐに上半身裸になり、蕁麻疹の様子をコモノに携帯で撮らせて、「この病院は、患者がこんな体(蕁麻疹)になっているのに、治療もせずに監禁しようとしているってインターネットに写真をアップしますよ」と反論するのです。明日香はこうするしか、「クワイエット行き」(隔離拘束)を免れる方法がなかったのでした。なお、厳密には、隔離拘束の最終的な判断は精神保健指定医が行います。3つ目の「法律の抜け穴」は、医療保護入院への審査が形骸化されていることです。審査とは、都道府県が設置した精神医療審査会のことです。ここに、患者は強制入院中の不当な扱いに対して処遇改善請求や退院請求をする権利があります。しかし、実際にそれが認められるのは数%にすぎません1)。なぜこんなことが起きてしまうのでしょうか?そのわけは、書類審査だけだからです。立ち入り審査や聞き取り審査はありません。その書類も、審査に引っかからないように、たとえ頻度は少なくても症状をきっちり記載する作文対策をすることができます。むしろ、審査請求の認定率が少しでもあるのは、単に精神科医が作文対策をうっかり「怠った」だけの書類上の不備であることが推測できます。ちなみに、先ほど医療保護入院への同意を家族が撤回できないと説明しましたが、その代わりに家族が退院請求をすることができるとの行政からの説明があります。しかし、結局これも認定される可能性は、かなり低いわけです。なお、退院支援相談員は、2014年の精神保健福祉法の改正で導入されましたが、結局この役職も「当該医療機関内に配置」と明記され、その精神科病院に勤務する精神保健福祉士になってしまうため、支援ではあっても、審査の役割はありません。わざわざ明記されているのは、外部の目を入れさせないようにするためではないかと邪推してしまいます。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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映画「クワイエットルームにようこそ」(その2)【家族の同意だけでいいの?その問題点は?(強制入院ビジネス)】Part 4

(2)強制入院の裁量権が家族にも明日香の主治医は、担当看護師に「(強制入院)と言っても、旦那が出せって言ったら、こっちはそんな強制力ないですから」「旦那のオッケーさえあれば、出るの早いんじゃない」と言っていました。先ほどにも触れましたが、現在では「旦那が出せ」と行っても、病院はそれ突っぱねることができるようになりました。ただ、このセリフは、とても開けっ広げですが、医療保護入院制度の問題の本質を突いています。2つ目の問題点は、強制入院の裁量権が家族にもあることです。「出せ」って言われて出すわけではなくなりましたが、反対に「出さないで」と言われたら、なかなか退院させられないことになります。病院としては、空きベッドができてしまうのは避けたいのですが、入院の長期化(3ヵ月以上)で診療報酬が減算されていくのも避けたいです。理想的にはぴったり3ヵ月で退院させて、次の患者を入れ替わりで入院させたいという思惑があります。ホテル経営と発想は同じです。しかし、家族が「今は家で受け入れる余裕がない」などと言えば、主治医も配慮はします。家族が本人の入院を厄介払いに思っていれば、なおさら手こずります。これは、退院するかどうかは、主治医と家族が相談して決める、そして家族の意向にある程度合わせる、いわゆる「家族調整」です。家族が退院後の受け入れを渋れば、病状とは無関係に入院が継続されます。つまり、入院する段階だけでなく、退院する段階にも家族には裁量権があることになります。病状が安定すれば強制入院を速やかに解除するという人権擁護の取り組みは、明らかに後回しであることがわかります。2014年の精神保健福祉法の改定前は、まだ同意する家族の優先順位があり、それが同等の場合は裁判所で同意者の選任の審判を受けるという手続きがありました。これは、司法の目が強制入院に少しでも向けられていることを意味しました。しかし、現在は、家族なら誰でも同意できることになり、司法の目はなくなりました。また、2023年の改正では、同意する家族等から除外される者が「身体に対する暴力を行った配偶者(DV加害者)等」とされましたが、これから行うリスクのある者や精神的な暴力(モラルハラスメント)は含まれていません。よくよく考えると、本来夫婦は対等であるはずなのに、一方が精神障害であるためにもう一方に強制入院に同意する権限(裁量権)を与えることで、力関係を生み出します。たとえば、「言うこと聞かないとまた入院させるよ」と言うなど、医療保護入院による家族同意自体がモラルハラスメントのリスクをはらんでいることになります。ちなみに、もしも明日香の「旦那」(家族)が、逆に入院に同意しなかったり、そもそも家族がいなかったらどうなっていたでしょうか? いくら救急病院に空きベッドがないからと言って、いきなり精神科病院に転院させられることはなくなります。別の救急病院に転院して、意識が戻ったところでその救急病院の医師(多くは併診する精神科医)が判断能力を評価するわけです。または、その医師が専門外で評価できない場合、警察通報にて警察保護の上、措置診察(措置入院の判断のための診察)が行われます。ただし、どちらにせよ、以下の点で、かかりつけの心療内科への通院は勧められますが、まず強制入院(措置入院)にはならないでしょう。酒に酔った勢いで間違えて薬を多く飲んだと主張している点希死念慮は酩酊中の発言であり、現在は見られない点謝罪や反省の弁を述べて、判断能力が保たれている点その直前まで職業適応しており、もともと問題行動を認めていない点雑誌の原稿の締め切りをとても気にしており、今後も社会適応が見込める点<< 前のページへ | 次のページへ >>

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映画「クワイエットルームにようこそ」(その2)【家族の同意だけでいいの?その問題点は?(強制入院ビジネス)】Part 5

(3)強制入院の裁量権が地域社会にも広がるおそれ映画では、明日香の内縁の夫が、医療保護入院の同意者になっていましたが、実際には法的な夫か血縁関係のある家族である必要があるため、無効であるとその1で説明しました。明日香の父はすでに他界しており、兄弟はなく、唯一の家族である母とは、絶縁状態でした。家族がいないだけでなく、明日香のように家族がいても疎遠で「かかわりたくない」との理由で同意も反対もせずに意思表示を示さない場合も、2024年の精神保健福祉法の改正によって、市町村長が同意の可否を判断できるようになりました。これは一見すると、公的な立場が関わるので、入院の要件が措置入院と同じように、より厳正になるのではないかと思われるかもしれません。しかし、「市町村長同意事務処理要領」4)を確認する限り、「人権擁護」には触れていませんでした。つまり、市町村長同意は、家族同意の形式的な代行にすぎず、むしろ病院の言いなりになってしまうおそれがあります。市町村は、患者の権利擁護をする立場(アドボケーター)にはなっていないということです1)。しかも、それだけではありません。3つ目の問題点は、強制入院の裁量権が地域社会にも広がるおそれがあることです。核家族化した現代社会では、明日香のように家族と疎遠な人たちがますます増えており、今後に医療保護入院について意思表示を示さない家族がますます増えるでしょう。この状況は、実質的には市町村同意の権限拡大です。そうなると、まず懸念されるのは、ホームレスです。ホームレスは、生活保護をあえて選ばない、または選ぶことができないくらい判断能力が低いながら、生活能力がぎりぎり保たれているグレーゾーンの人たちです。ホームレスは、家族がいたとしても、すでにホームレスであることから、基本的に家族とは疎遠です。つまり、逆説的にも、今までのホームレスは、生活に自由はあまりなさそうですが、家族がいても同意も反対もしないために強制入院はさせられないという「自由」がありました。しかし、その同意か反対かを問う必要がなくなったため、地域住人の要望を受けた市町村がホームレスを地域で取り締まり、精神科病院に連れていくことができます。これは、強制入院についての、地域社会の参入です。精神科病院としては、衛生的には抵抗があるかもしれません。ただ、実際に認知機能が低下しているという病状があり、入院費は生活保護により公費扱いになるため、断らないでしょう。ただし、それはホームレスにとってはたして幸せでしょうか? 私たちの価値観からしてみれば、保護されて衣食住が満たされているから、幸せだろうと思うかもしれません。しかし、保護の名のもと「収容」されて、彼らにとっての「自由」がなくなるわけです。本人が望んでいないことを良かれと思って強いるのは、ただの偽善になってしまいます。地域社会の保安という思想が優先されており、そこに人権意識はありません。なお、ホームレスの自由権の詳細については、関連記事2をご覧ください。もっと言えば、地域社会に都合が悪い人は、ホームレスだけではありません。ゴミ屋敷の住人、新興宗教を普及しようとする人、さらには行政や政府を批判して抗議活動をする人です。彼らは社会で望ましいとされる生き方(主流秩序)から逸脱しているため、「ゴミ収集がやめられない強迫症」、「特定の宗教の教義へのこだわりがある発達障害」、そして「行政や政府への被害妄想がある妄想症」という診断のもと、強制入院の対象にされるおそれがあります。つまり、彼らにまで、強制入院の対象が拡大するおそれがあります。明日香が入院していた精神科病院の「クワイエット行き」(隔離拘束をする保護室)が、地域社会で繰り広げられるわけです。本来、人権侵害のリスクのある権力は厳しく監視するべきなのに、「抜け穴」をさらにつくってしまっては、公安警察がいた戦前に逆戻りです。強制入院ビジネスの不都合な真実とは?医療保護入院制度の問題点は、強制入院の裁量権が、病院に独占されていること、家族にもあること、今後に地域社会にも広がるおそれがあるということでした。そして、これを可能にしているのが、医療保護入院の判断基準が曖昧で、入院費が収入源になってしまい、審査が形骸化しているという「法律の抜け穴」や、不合理な行政解釈、さらには市町村同意の権限拡大でした。人権擁護が尊ばれる時代の流れに明らかに逆行しています。このような医療保護入院制度のおかげで、精神科病院は、一大巨大産業であり続けています。これは、関係者たちが世の中に知られたくない、不都合な真実です。名付けるなら「強制入院ビジネス」です。そして、強制入院させられる障害者が、人権侵害という、そのビジネスのツケを払わされ続けているということです。1)「医療保護入院」p.4-P5、p.41、p.57、p.80:精神医療、批評社、20202)「精神保健福祉法改正に関する学会見解」P2:日本精神神経学会、20223)「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律等の施行 に伴うQ&A」P9:厚生労働省社会・援護局 障害保健福祉部精神・障害保健課、20164)「市町村長同意事務処理要領」:厚生労働省、2023「不都合な真実」ビジネスの関連記事障害年金ビジネス万引き家族(後編)【年金の財源を食いつぶす!?「障害年金ビジネス」とは?どうすればいいの?】Part 1カウンセリングビジネスM-1グランプリ(続編・その2)【ツッコミから学ぶこれからのセラピーとは?】Part 2教育ビジネスドラマ「ドラゴン桜」(前編)【なんでそんなに東大に入りたいの? 学歴ブランド化の不都合な真実とは?(教育ビジネス)】Part 1幼児教育ビジネス伝記「ヘレン・ケラー」(後編)【ということは特別なことをしたからといって変わらない!?(幼児教育ビジネス)】Part 1生殖ビジネスキッズ・オールライト(その2)【そのツケは誰が払うの? その「不都合な真実」とは?(生殖ビジネス)】Part 1<< 前のページへ■関連記事映画「心のカルテ」(後編)【なんでやせ過ぎてるってわからないの?(エピジェネティックス)】Part 1映画「路上のソリスト」(その2)【「不幸」になる権利はあるの?私たちはどうすればいいの?(ホームレスの自由権)】Part 1

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乳幼児健診でよくある疑問・相談への対応

限られた時間で判断・助言をするために「小児科」65巻12号(2024年11月臨時増刊号)乳幼児健診の場で保護者から向けられる素朴な、しかし切実な質問に、つい曖昧に答えてしまうことはないでしょうか。限られた時間の中で、見逃してはいけない徴候であれば確実にすくい上げることはもちろん、そうでなくとも医学的な根拠があり、かつ保護者が安心できる答えをその場で伝える――そのために知っておくべき44テーマについて、各領域の専門家にその考え方・答え方を解説いただきました。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する乳幼児健診でよくある疑問・相談への対応定価8,800円(税込)判型B5判頁数240頁発行2024年12月編集「小児科」編集委員会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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第131回 医師の子ども、中学受験させる?

中学受験が大活況まだ赤ちゃんだと思っていたわが子も、気付けば小学6年生。やべえ、光陰矢の如しすぎる。私の子どもの中学受験が終わりました。受験のリアルを横で見てきた親としては、「昔より問題がムズくなってね?」というのが一番の感想でした。日本全体では少子化が進む一方で、中学受験者数は右肩上がり。首都圏では、受験率が40%を超えるというデータもあります。同世代の医師の知り合いのお子さんも、この2~3年中学受験に挑んでいる人が多いです。中学受験に必要な算数は、中学生で習う範囲の専門知識を使わず、小学算数のやり方で解くという暗黙のルールがあったような気がします。しかし、塾ではそんなものはすでに崩壊していて、円周率は「π」で話が進んでいきますし、xやyなどの代数もガンガン使っています。私が中学受験したのは30年以上前ですが、当時の特殊算だった「つるかめ算」や「通過算」といった問題は、今では基礎の基礎。今では、立体を何度も切断して解答を導くような問題も出題されています。「しょせん中学受験の算数だから僕もまだイケる」とナメていましたが、どこの学校の模試も難しすぎてほとんど解けませんでした。さらに、コラムを書いているくせに、私は国語が大の苦手でして。最近では、「先生は、もったいぶった し○○○しい 様子で話を始めた」という穴埋め問題を解答できませんでした。この問題、「しかつめらしい」が正解ですが、私、人生で一度もこの単語使ったことないですね(笑)。「しかめ面」じゃなくて、「鹿爪」なんですね。コロナ禍前の壮行会が再びコロナ禍は、受験校の周辺で塾が集まって「絶対合格するぞー!」といった壮行会が減っていました。しかし、現在は再び、のぼりを持った先生と生徒が集まって、校門前やグラウンドで「エイエイオー!」と大きな声を上げていました。近所迷惑になるエリアの学校では、別会場の貸しビルなどでやっていたそうです。『二月の勝者』という中学受験の漫画があります。塾講師の分析力もすごいですが、出てくる生徒の学力をどのように調整するかというディテールにこだわっている名作です。ちょっと盛って描いているのかな、と当時思っていました。しかし実際に受験生の親をやってみると、まさにこの作品のような感じだったかもしれません。私は「学歴社会」という言葉は好きではなくて、子どもが中学受験しようとしまいとどちらでもよかったのですが、子どもが受験したいと言ってきたので、サポートしました。理系や医学部はかなり人気化しつつあります。知り合いの医師と話していると、医学部進学歴の高い中高を受験させる医師がやはり多いようです。

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25種類の治療抵抗性うつ病治療の有効性比較〜ネットワークメタ解析

 オーストリア・ウィーン医科大学のJohan Saelens氏らは、治療抵抗性うつ病に対するさまざまな抗うつ薬治療を比較し、エビデンスに基づく治療選択を促進するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Neuropsychopharmacology誌オンライン版2024年12月30日号の報告。 2つ以上の抗うつ薬試験で治療反応が認められなかった成人うつ病を対象に実施されたランダム化比較試験(RCT)を対象研究とした。2023年4月13日までに公表された研究をPubMed、Cochrane Library、Embaseより検索した。すべてのRCTは、研究群が10例以上で構成され、双極性うつ病または精神病性うつ病患者は除外された。研究の質の評価には、Cochrane Risk of Bias Tool-2を用いた。主要アウトカムは、治療反応率とした。ランダム効果ネットワークメタ解析を用いてオッズ比(OR)を算出した。 主な内容は以下のとおり。・8,234件のうち69件のRCTを分析に含めた。・対象患者数は1万285例(女性:5,662例、男性:4,623例)、25種類の治療法が含まれた。・25種類の治療法のうちプラセボまたは対照治療よりも高い治療反応を示した治療法は、電気けいれん療法(ECT)、ミノサイクリン、シータバースト刺激(TBS)、反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法、ケタミン、アリピプラゾールのみであった。・ORの範囲は、アリピプラゾールの1.9(95%信頼区間[CI]:1.25〜2.91)からECTの12.86(95%CI:4.07〜40.63)であった。・中程度の異質性が認められた(I2:47.3%、95%CI:26.8〜62.0)。・対象研究のうち、バイアスリスクが高い研究は12.5%、低い研究は28.13%、懸念のある研究は59.38%と評価された。 著者らは「治療抵抗性うつ病の治療法の中には、さまざまなアウトカムに対し強力な治療効果を示すもの(ECT、TBS、rTMS、ケタミン)もあれば、一部のアウトカムに有用なアウトカムを示すもの(ミノサイクリン、アリピプラゾール)もある」とし「これらの知見は、治療抵抗性うつ病に対するエビデンスに基づく治療選択の指針となる可能性がある」としている。

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MASLD患者の転帰、発症リスクに性差

 代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は世界的に増加傾向にあり、好ましくない肝臓や肝臓以外における転帰の主な原因となっている。米国のMASLD患者のデータを使用し、性別と肝臓および肝臓以外の転帰との関連性を調査した、米国・スタンフォード大学医療センターのTaotao Yan氏らによる研究がJAMA Network Open誌2024年12月4日号に掲載された。 研究者らは2007~22年のMerative MarketScanデータベースからMASLDの成人患者を特定し、傾向スコアマッチングを使用して男性/女性群のベースライン特性のバランスを取った。肝臓関連の転帰(肝硬変、肝代償不全、肝細胞がん[HCC])と肝臓以外の転帰(心血管系疾患[CVD]、慢性腎臓病[CKD]、肝臓以外の性別に関係ないがん)の発生率を推定し、性別ごとに比較した。 主な結果は以下のとおり。・MASLD患者76万1,403例のうち、ベースライン特性がマッチした男女34万4,436組が分析に含まれた。平均年齢(52.7歳/53.0歳)のほか、糖尿病や高血圧などの既往症、服薬状況などは2群間でバランスが取れていた。・女性は男性と比較して、1,000人年当たりのあらゆる肝臓関連の転帰(12.72対11.53)および肝硬変(12.68対11.55)の発生率が有意に高かった。・一方、男性は肝代償不全(10.40対9.37、ハザード比[HR]:1.11、95%信頼区間[CI]:1.08~1.14)、HCC(1.88対0.73、HR:2.59、95%CI:2.39~2.80)、CVD(17.89対12.89、HR:1.40、95%CI:1.37~1.43)、CKD(16.61対14.42、HR:1.16、95%CI:1.13~1.18)、および性別に関係のないがん(6.68対5.06、HR:1.32、95%CI:1.27~1.37)の発生率が高かった。 著者らは「これは性別とMASLDの好ましくない臨床転帰との関連性を調べるために設計された最大のコホート研究だ。女性のほうが肝硬変の発症率とリスクが高いことがわかったが、これはMASLDが米国の女性における肝移植の主な適応であるという観察結果と一致している。既存の研究結果と同様に、本研究でも、男性のMASLD患者はHCCリスク増との有意な関連性がわかった。さらに、男性のMASLD患者は女性よりもCVDと性別に関係のないがんのリスクが高いことで、一般集団では男性が女性よりもCVDとがんリスクが高いという既存の知識を裏付けた。私たちの研究は、MASLD患者の肝臓および肝臓以外の臨床転帰のリスクに有意な性差があるという証拠を提供し、性別に基づいたMASLD予防、モニタリング、および治療管理戦略の方針を支援するものである」とまとめた。

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透析中の骨粗鬆症患者へのデノスマブは心血管イベントリスクを上げる可能性/京都大

 透析患者の骨粗鬆症の治療では、腎排泄に頼らないデノスマブが使用されている。しかし、その有効性、安全性を他の骨粗鬆症治療薬と比較した大規模研究はこれまでなかった。そこで、桝田 崇一郎氏(京都大学大学院医学研究科薬剤疫学分野)らの研究グループは、透析患者の骨粗鬆症に対するデノスマブは、ビスホスホネートと比較し、骨折リスクを低減させる一方で、心血管イベントのリスクを増加させる可能性があることを、電子レセプトデータを用いたコホート研究により明らかにした。本研究結果は、Annals of Internal Medicine誌2025年1月7日オンライン版に掲載された。1,032例でデノスマブと経口ビスホスホネートの効果を比較 研究グループは、DeSCヘルスケアが保有する電子レセプトデータを利用し、標的試験エミュレーションの枠組みのもと、透析患者の骨粗鬆症に対するデノスマブと経口ビスホスホネートの有効性と安全性を比較するコホート研究を実施した。 対象は50歳以上の透析患者で、骨粗鬆症の診断を受け、2015年4月~2021年10月までの間にデノスマブもしくは経口ビスホスホネートを新規に開始した患者。主要評価項目は、薬剤使用開始から3年間の骨折と主要心血管イベント(MACE)の発生リスク。 主な結果は以下のとおり。・患者は合計で1,032例が同定された(デノスマブ群658例、経口ビスホスホネート群374例)。・全体の平均年齢は74.5歳で、62.9%が女性だった。・MACEの3年間の発生率はデノスマブ群のほうが高く、リスク差は8.2%(95%信頼区間[CI]:-0.2~16.7)、リスク比は1.36(95%CI:0.99~1.87)だった。・複合骨折の3年間の発生率はデノスマブ群のほうが低く、リスク差は-5.3%(95%CI:-11.3~-0.6)、加重3年リスク比は0.55(95%CI:0.28~0.93)だった。 この結果を受け研究グループは、腎臓または骨粗鬆症の重症度、心血管またはその他の代謝リスクに関する臨床データが不足し、交絡が残存していたこと、安全性アウトカムには腎臓のエンドポイントが含まれていなかったことを研究の限界として指摘し、「経口ビスホスホネートと比較し、デノスマブは骨折リスクを45%低下させ、MACEリスクを36%上昇させると推定された。しかし、この推定値は不正確であり、今後も研究が必要である」と述べている。

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妊娠糖尿病、メトホルミン±SU薬vs.インスリン/JAMA

 妊娠糖尿病治療において、経口血糖降下薬(メトホルミンおよび必要に応じてグリベンクラミドを追加)は、インスリンと比較して、在胎不当過大児の出生割合に関する非劣性基準を満たさなかった。オランダ・アムステルダム大学医療センターのDoortje Rademaker氏らが、無作為化非盲検非劣性試験の結果を報告した。妊娠糖尿病のコントロールにおいて、メトホルミンおよびグリベンクラミドの単剤投与はインスリンの代替として使用されているが、これらの経口血糖降下薬による治療がインスリン単独の治療と比較して、周産期アウトカムに関して非劣性であるかどうかは明らかになっていなかった。JAMA誌オンライン版2025年1月6日号掲載の報告。在胎不当過大児の増加予防に関して非劣性であるかを検証 研究グループは、2016年6月~2022年11月にオランダの25医療センターで、経口血糖降下薬による治療戦略がインスリン療法に対して、在胎不当過大児の増加予防に関して非劣性であるかを検証した。最終フォローアップは2023年5月。 試験には、2週間の食事療法後に血糖コントロールが不十分(空腹時血糖値95mg/dL超[5.3mmol/L超]、食後1時間血糖値140mg/dL超[7.8mmol/L超]、食後2時間血糖値120mg/dL超[6.7mmol/L超]のいずれかとして定義)であった単胎妊娠16~34週の妊娠糖尿病患者820例が登録された。 被験者は、メトホルミン(1日1回500mgで開始し、3日ごとに1日2回1,000mgまたは最大許容量まで増量、409例)またはインスリン(試験施設の処方による、411例)による治療を受ける群に無作為に割り付けられた。メトホルミン群では必要に応じてグリベンクラミドを追加投与した。その後、必要に応じてグリベンクラミドに代えてインスリンを用いた。 主要アウトカムは、在胎不当過大児(在胎期間と性別に基づく出生体重が90パーセンタイル超)の割合の群間差であった。副次アウトカムは、母体の低血糖、帝王切開、妊娠高血圧症候群、妊娠高血圧腎症、母体の体重増加、早産、分娩損傷、新生児の低血糖、新生児の高ビリルビン血症、新生児集中治療室(NICU)入室などであった。在胎不当過大児は経口血糖降下薬群23.9%、インスリン療法群19.9% 被験者820例のベースライン(試験登録時)の平均年齢は33.2(SD 4.7)歳、妊娠時BMI値30.4(6.2)、35%が初産であった。アウトカムの解析(per protocol解析)には、同意を得られなかった被験者、追跡データを得られなかった被験者を除外した、経口血糖降下薬群406例、インスリン療法群398例が対象に含まれた。 試験期間中、インスリンを使用せずに経口血糖降下薬のみ(メトホルミン単剤および必要に応じてグリベンクラミド追加)で血糖コントロールを維持したのは320例(79%)であった。 新生児における在胎不当過大児の割合は、経口血糖降下薬群23.9%(97例)、インスリン療法群19.9%(79例)であり(絶対リスク差:4.0%、95%信頼区間[CI]:-1.7~9.8、非劣性のp=0.09)、絶対リスク差の95%CI値は非劣性マージンの8%を超えていた。 母体の低血糖は、経口血糖降下薬群53例(20.9%)、インスリン療法群26例(10.9%)であった(絶対リスク差:10.0%、95%CI:3.7~21.2)。その他の副次アウトカムは、群間差は認められなかった。

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急性期脳梗塞、再灌流後のtenecteplase動注は有益か/JAMA

 主幹動脈閉塞を伴う急性期脳梗塞を発症し、最終健常確認時刻から24時間以内に血管内血栓除去術(EVT)を受け、ほぼ完全または完全な再灌流を達成した患者において、補助的なtenecteplase動脈内投与(動注)は、90日時点の障害なしの患者の割合を有意に増加させなかった。中国・重慶医科大学附属第二医院のJiacheng Huang氏らPOST-TNK Investigatorsが無作為化試験「POST-TNK試験」の結果を報告した。JAMA誌オンライン版2025年1月13日号掲載の報告。90日時点の障害なしを評価 POST-TNK試験は、医師主導の無作為化非盲検アウトカム評価盲検化試験で、中国の34病院で行われた。被験者は、近位頭蓋内主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞を発症し、最終健常確認時刻から24時間以内にEVTを受け、EVT後のexpanded Thrombolysis in Cerebral Infarction(eTICI)スコアが2c~3、静脈内血栓溶解療法を受けていない患者とし、補助的なtenecteplase動注の有効性と安全性を評価した。 被験者の募集は2022年10月26日~2024年3月1日に行われ、最終フォローアップは2024年6月3日であった。 適格患者540例を、tenecteplase 0.0625mg/kgの動注を受ける群(tenecteplase動注群、269例)、または動脈内血栓溶解療法による治療を受けない群(対照群、271例)に無作為に割り付けた。 有効性の主要アウトカムは、90日時点の障害なしとし、修正Rankinスケールスコア(範囲:0[症状なし]~6[死亡])0/1と定義した。安全性の主要アウトカムは、90日時点の死亡、48時間以内の症候性頭蓋内出血とした。対照群と比較し主要アウトカムに有意差なし、症候性頭蓋内出血の発現率が高率 試験を完了したのは539例(99.8%)であった(年齢中央値69歳、女性221例[40.9%])。 90日時点の修正Rankinスケールスコア0/1の患者の割合は、tenecteplase動注群49.1%(132/269例)、対照群44.1%(119/270例)であった(補正後リスク比:1.15、95%信頼区間[CI]:0.97~1.36、p=0.11)。 90日死亡率は、tenecteplase動注群16.0%(43/269例)、対照群19.3%(52/270例)であった(補正後ハザード比:0.75、95%CI:0.50~1.13、p=0.16)。48時間以内の症候性頭蓋内出血の発現率は、それぞれ6.3%(17/268例)と4.4%(12/271例)であった(補正後リスク比:1.43、0.68~2.99、p=0.35)。

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米アルツハイマー病協会が新たな診療ガイドラインを作成

 アルツハイマー病(AD)の専門家グループが、新たに包括的な診療ガイドラインを作成し、家庭医や脳専門医がADおよびAD関連疾患(ADRD)を最も効果的に検出する方法を提示した。この新ガイドラインは、「Alzheimer’s & Dementia」に12月23日掲載された。 このガイドラインでは、次に挙げる3つの一般的な基準に従い脳の健康状態を評価することを推奨している。それは、1)患者の全体的な認知障害のレベル、2)記憶、推論、言語、気分などに関わる特定の症状の有無、3)症状を引き起こしている可能性のある脳疾患の有無。 本ガイドラインの筆頭著者である、米アルツハイマー病協会および米ハーバード大学医学大学院神経学分野のAlireza Atri氏は、「これらの診断領域は、ADをはじめとする認知症に関する新たな研究成果が得られるたびに、新しい検査方法をガイドラインに組み込むことができるよう、意図的に広く定義されている」と話す。また同氏は、「本ガイドラインは、米国初の学際的なガイドラインとして広範な臨床状況で利用できるように設計されており、高品質で個別化された診断プロセスを体系的にまとめた包括的な基盤を提供する。このプロセスには特定の検査が組み込まれており、分野の進展に応じて更新することが可能だ」と説明する。さらに、「新しいツールやバイオマーカーが十分に検証され、実臨床で使用されるようになれば、本ガイドラインも、細部で部分的な修正が必要になるだろう」と付け加えている。 ADをはじめとする認知症の研究は着実に進展しているが、認知機能低下の診断に関する現在のガイドラインは20年以上も前に作られたものだと専門家は指摘する。さらに、これらのガイドラインは神経学や認知症の専門医を対象としたものであり、脳の健康に不安のある患者を診察する家庭医に対する指針は示されていなかった。こうした現状を踏まえて、アルツハイマー病協会は今回のガイドライン作成に当たり、脳の健康の評価プロセスを刷新するために、プライマリケア医や専門医など、複数の医療分野の専門家から成るワーキンググループを招集した。 新ガイドラインの上席著者でアルツハイマー病協会の最高科学責任者であるMaria Carrillo氏は、「新ガイドラインは、記憶に関する訴えを評価する際の指針を医師に提供する重要なものだ。記憶の問題の根底にはさまざまな原因が関与している可能性がある。そのため、そのような訴えの評価は、ADを早期かつ正確に診断するための出発点となる。さらに、このガイドラインは、記憶障害の一因となる可能性のある他の根本的な原因に関する情報を臨床医に提供する」とアルツハイマー病協会のニュースリリースの中で述べている。 脳の健康状態の総合的な評価には、次のようなことが含まれている。・記憶力と思考力のテスト・年齢、認知症の家族歴、高血圧、喫煙などのリスク因子の評価・認知機能の低下を反映している可能性のある日常生活の症状の評価・MRIまたはCTによる脳の検査、およびその他の臨床検査 ワーキンググループによれば、新しい検査やスキャンは、開発され次第、このフレームワークに追加される可能性があるという。本ガイドラインの共著者である米マサチューセッツ総合病院前頭側頭葉疾患ユニットのBradford Dickerson氏は、「このガイドラインは、従来のガイドラインの範囲を拡大し、診断プロセス全体にわたる推奨事項を臨床医に提供する」と述べる。同氏はまた、「われわれは医療専門家に対して、認知症評価の目標についての自分の考えが患者と一致しているかを確認することから始めることを推奨している。そのためには通常、プロセスの具体的な手順について患者に説明し、理解を得るための話し合いが必要になる。その後、症状や検査に関する情報の取得に必要な手順を概説し、患者に合わせたさまざまな診断テストを行い、診断開示プロセスに関するベストプラクティスをまとめると良い」と話している。

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タバコを1本吸うごとに寿命が22分縮む?

 紙巻きタバコ(以下、タバコ)を1本吸うごとに寿命が最大22分短縮する可能性のあることが、英国の喫煙者の死亡率データに基づく研究で明らかにされた。この結果は、1日に20本入りのタバコを1箱吸うと、寿命が7時間近く縮む可能性があることを示唆している。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のアルコール・タバコ研究グループのSarah Jackson氏らによるこの研究結果は、「Addiction」に12月29日掲載された。Jackson氏は、「喫煙者が失う時間は、大切な人々と健康な状態で過ごすことができるはずの時間だ」と述べている。 2000年に報告された研究では、1991年まで40年にわたって男性の死亡率を追跡したBritish Doctors Studyのデータ(1日当たりの喫煙本数は15.8本と推定)を基に、タバコを1本吸うごとに寿命が平均11分短縮することが推定されていた。現時点では、British Doctors Studyの2001年までの50年間の追跡データと、女性の死亡率を2011年まで追跡したMillion Women Studyのデータが利用可能である。これらの研究では、喫煙をやめなかった場合、男性では約10年、女性では約11年寿命が短縮することが推定されているという。今回、Jackson氏らは、1996年の女性の1日当たりの喫煙本数(平均13.6本)を考慮してタバコを1本吸うごとに失われる寿命を算出した。その結果、男女全体では20分、男性では17分、女性では22分と推定された。 また、喫煙の有害な影響は累積的であり、禁煙を早期に始めて喫煙本数を減らせば減らすほど寿命は長くなることも示された。例えば、1日10本のタバコを吸う人が2025年1月1日に禁煙を始めると、1月8日までに1日分、2月20日までに1週間分、8月5日までに1カ月分、年末までに50日分の寿命を守ることができることになるという。なお、過去の研究から、喫煙者は通常、不良な健康状態で過ごす年数と同じ年数の寿命を失うことが示唆されている。つまり、喫煙が主に影響を与えるのは健康な中年期ということだ。この知見に基づくと、60歳の喫煙者の健康状態は、非喫煙者の70歳の健康状態に相当することになると研究グループは述べている。 Jackson氏は、「これらの結果は、20代か30代前半までの早い時期に禁煙した人の平均寿命は、喫煙未経験者と同等に近付く傾向があることを示している。しかし、年齢を重ねるにつれて、禁煙しても取り戻せないほど少しずつ寿命が失われていく。禁煙時の年齢に関係なく、禁煙することで喫煙を続けた場合よりも平均寿命は確実に長くなる」と述べている。その上で同氏は、「禁煙は間違いなく、健康のためにできる最善のことだ」と強調している。 喫煙率は1960年代から減少しているが、米疾病対策センター(CDC)によると、喫煙は依然として米国における予防可能な死因の第1位であり、毎年48万人以上の米国人が喫煙により命を落としている。喫煙は寿命に影響を及ぼすだけでなく、免疫系にも悪影響を及ぼす。2024年に「Nature」に掲載された研究では、喫煙は免疫反応を弱め、感染症、がん、自己免疫疾患に対する脆弱性を高めることが示されている。このNature誌掲載論文の責任著者の1人でパスツール研究所(フランス)トランスレーショナル免疫学部門長のDarragh Duffy氏は、「良い知らせとしては、喫煙によりリセットが始まることだ。禁煙する最適な時期は今なのだ」と話している。

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SNSの投稿は患者さんも見ている【もったいない患者対応】第22回

SNSの投稿は患者さんも見ているSNSを日常的に利用する医療者は多いでしょう。とくに、FacebookやX(旧Twitter)で個人アカウントをもち、他の医療者らと交流したり、一般向けに情報発信したりしている人は多いと思います。しかし、不特定多数の人が読むことのできるSNSで医療者として投稿するときは、かなりの慎重さが求められます。私はXで10万人を超える方にフォローしていただき、アクティブに情報発信を行っていますが、他の医療者の投稿を見ていて一種の危うさを感じることが少なくありません。個人情報への配慮はできている?まず気になるのは、個人情報への配慮が十分でない投稿です。たとえば、「今日の手術は〇〇だった」「今日の外来で診た患者さんは〇〇だった」というような、話題になっている患者さんが特定される恐れのある投稿は非常に危険です。匿名アカウントであっても、内容によっては「自分のことかもしれない」と思う患者さんがいるかもしれません。もし、その人のことでなかったとしても、「本人が見たら『自分のことかもしれない』と感じるような投稿を医療者がしている」という事実自体、医療不信につながる恐れがあります。「今日」といった限定的な日時を書かないのはもちろんのこと、具体的な事実の記載も避けなければなりません。一般の方が見て不信に思わない?SNSに投稿する際は「医療者が見ればなんの悪意も感じないが、一般の方が見れば不信感を抱く可能性がある」類の投稿になっていないかどうか、注意が必要です。たとえばよく見るのが、「点滴がなかなか入らず、何度も失敗してしまった」「手術が大変で、いつもより2時間も余分にかかってしまった」といった投稿です。医療者にとってみれば、患者さんの血管が細いことなどが原因で、輸液ラインの挿入に難渋することは日常茶飯事でしょう。手術も、何度も行っていれば「もっとうまくやれたかもしれない」と自省的に振り返る機会はあります。しかし、一般の方にこうした理解を求めることはできません。「うまくいかなかった」という投稿を見れば、そういう“不幸な目”にあった患者さんのことを考え、医療者に対して「けしからん」という怒りを募らせるかもしれません。これは、医療への不信感を助長する可能性があり、きわめて危険なことです。医療者にとっての日常は、非医療者にとっては非日常です。SNSに仕事のことを投稿する際は、常にこの点への注意が必要なのです。上手に活用して快適なSNSライフをむろん、SNSは情報発信において非常に有用なツールです。医療者から発信された情報のおかげで救われる患者さんはたくさんいます。私のほか、数万人のフォロワーを抱える医療者たちは多くいますし、熱心に運用すれば多くの人の役に立つことができるのも事実です。気持ちよくSNSを利用するためにも、ここに書いたような細かな配慮を忘れないことが大切です。

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若い女性への再発予防の指導方法について 実際どう指導していますか?【とことん極める!腎盂腎炎】第11回

若い女性への再発予防の指導方法について 実際どう指導していますか?Teaching pointリスク因子を評価し適切な再発予防指導(飲水励行や排泄後の清拭など)までできるようになるはじめに女性は解剖学的に尿路感染症を起こしやすく、約3人に1人は24歳までに尿路感染症を少なくとも1回は経験する1)。尿路感染の既往をもつ女性のうち30〜44%が再発し、0.3〜7.6回/年生じるという報告もあり、生活の質(QOL)にかかわる重要な問題である2)。再発防止は本人のQOL維持、繰り返す抗菌薬曝露による耐性菌発生の予防の観点からも重要である。若い女性への尿路感染症の再発予防の生活指導方法について紹介する。1.若い女性の再発性尿路感染症のリスク因子閉経前の女性のリスク因子として、(1)性的活動の活発であること、(2)殺精子剤の使用、(3)新たな(1年以内の)性的パートナー、(4)尿路感染症の既往のある母親、(5)小児尿路感染症の既往がある。しかし、遺伝的な素因よりも性交や殺精子剤のリスクのほうが大きいとされ、行動への介入は予防可能なリスクとなる3)。2.再発予防への日常生活への指導防御機構とリスク因子を踏まえ予防的な介入を考えていく。本項では介入として日常生活への指導をまとめる(薬剤、サプリメントによる予防は第13回で紹介する)。日常生活への指導の有効性を裏づけるエビデンスは限られるが、介入によるリスクの低さから薬物などによる介入前に実践することが推奨されている。飲水量の増加は単施設であるがRCTで有効性が示されている4)。水分摂取量が少ない(1.5L/日未満)、再発性膀胱炎(3回以上繰り返す)を来たした成人女性において通常量の飲水に加えて、1.5L/日の追加飲水の介入を行ったところ非介入群と比較して、膀胱炎の発症が1年あたり1.5回減少した(1.7回[95%信頼区間[CI]:1.5~1.8]vs. 3.2回[95%CI:3.0~3.4])。筆者はさらに飲水行動について詳しく問診するようにしている。飲水量が少なかった場合、「なぜ飲水量が少ないか」を聞くとさらに背景に迫れることがある。気軽に排泄に行きづらい職場環境(例:コンビニ店員でトイレに行くタイミングがないなど)が背景にあり飲水を控えているというケースも経験する。その場合は、職場環境改善への働きかけなどに協力してあげることも大切となる。また、性交や殺精子剤は尿路感染症のリスク因子であり、性交を減らすことや殺精子剤を含む避妊具を避けることを、本人やパートナーとカウンセリングを行うこともリスクを減らすと期待される。その他、明確な関連は示されていない個別での相談や効果を評価する指導内容も含め表にまとめた4,5)。小児期から繰り返している場合や腎結石、尿路閉塞、間質性膀胱炎、尿路上皮がんが疑われるような場合は泌尿器科受診を勧めることも忘れてはならない。表 若年女性の単純性尿路感染症の再発を予防するための日常生活への指導画像を拡大する再発性の膀胱炎の最終手段として抗菌薬投与が選択されることもあるが、耐性菌のリスクの観点からも導入しやすい日常生活への指導からしっかりと介入していくことは大切である。生活へのアプローチは一人ひとりの事情もあるので、本人の生活について丁寧に聴取し生活に合わせた指導内容を一緒に考えていくことはプライマリ・ケア医の重要な役割である。1)Foxman B. Dis Mon. 2003;49:53-70.2)Gupta K, Trautner BW. BMJ 2013;346:f3140.3)Hooton TM, et al. N Engl J Med 1996;335:468-474.4)Hooton TM, et al. JAMA Intern Med 2018;178:1509-1515.5)Hooton TM. N Engl J Med 2012;366:1028-1037.

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眼科外来診療―クリニックでの対応と紹介のタイミング―

診断のピットフォールや紹介のタイミングをわかりやすく「眼科」66巻11号(2024年11月臨時増刊号)どこから読んでもすぐに役立つ、気軽な眼科の専門誌です。本年の臨時増刊号は「眼科外来診療―クリニックでの対応と紹介のタイミング―」と題し、日常臨床の場で診断や治療を進めていく際のポイントと、ある一線を越えた場合や初診時すでに一線を越えている病態に対し、より高度で適切な医療を提供するために紹介するタイミングに焦点を当て、専門家の先生方にご執筆をいただきました。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する眼科外来診療―クリニックでの対応と紹介のタイミング―定価9,350円(税込)判型B5判頁数368頁発行2024年11月編集後藤 浩/飯田 知弘/雑賀司 珠也/門之園 一明/石川 均/根岸 一乃/福地 健郎ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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第247回 どこか似ているフジテレビと女子医大、大学に約1億1,700万円の損害を与えた背任の疑いで女子医大元理事長逮捕、特定機能病院の再承認も遠のいた病床利用50%の医科大学に未来はあるか?

東京女子医大よりお粗末だと感じたフジテレビの中居氏問題への対応こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。タレント、中居 正広氏の女性とのトラブルにフジテレビ編成局の幹部社員が関与していたと報道を受けて、同社の港浩一社長が1月17日に記者会見を行いました。しかし、その会見内容や会見方法を巡ってさまざまな批判が巻き起こっています。まずその会見方法ですが、参加者はフジテレビ記者クラブの加盟社に限り、それ以外は参加できませんでした(この問題を報道してきた週刊誌記者などは入れず)。さらにNHKや在京キー局は質問できないオブザーバー参加で、動画撮影も禁じられました。報道に携わるテレビ局であることを考えると、まさに信じられない対応と言えます。今後、フジテレビ報道局の記者たちはさまざまな取材先で「おたくには取材させない」「カメラはダメね」と言われ続けることでしょう。さらに驚いたのは、港社長の、「第三者の視点を入れて改めて調査を行う必要性を認識しましたので、今後、第三者の弁護士を中心とする調査委員会を立ち上げることとしました」の発言です。各紙報道によれば、「第三者」という言葉を使ってはいるものの、この調査委員会が日本弁護士連合会のガイドラインに沿った第三者委員会になるかどうかは未定とのことです。元理事長が先週逮捕された東京女子医大ですら、第三者委員会を立ち上げています。同窓会組織から勤務実態のない元職員に給与が不正に支払われていたとされる問題などを調べるために設置されたこの第三者委員会は、当時の岩本 絹子理事長の問題行動を徹底的に調べ上げ、約250ページにも及ぶ調査報告書をまとめて昨年8月に公表、調査した委員(弁護士)による記者会見も開かれました。この調査報告書は至誠会の不適切な資金支出を指摘するだけでなく、学校法人の不適切な資金支出もつまびらかにし、さらに寄付金を重視する推薦入試や大学の人事のあり方の問題点も指摘しました。そして、それらの根本原因として、同大が岩本元理事長に権限が集中する「一強体制」で「ガバナンス機能が封鎖された」と厳しく糾弾しました。この第三者委員会の報告書公表後、岩本元理事長は同大理事会において自身を除く全会一致で理事長職を解任されています。フジテレビが日弁連のガイドラインに沿った第三者委員会を設置しないとなれば、問題解決への意欲がないと世間から見られ、ますます窮地に陥るでしょう。実際、トヨタ自動車や日本生命などのスポンサーもCMを差し止め始め、1月21日の段階でその数は50社を超えました。今年春の番組改編に向け、テレビ局はスポンサー獲得のための営業活動のピークにありますが、こちらも相当苦戦することでしょう。まさに「危急存亡の秋」と言えます。計約1億1,700万円相当の損害を与えた背任容疑で東京女子医大元理事長逮捕ということで、同じく危急存亡の秋を迎えている東京女子医大です。この連載で何度も取り上げてきた東京女子医大ですが、警視庁は1月13日、同大の岩本元理事長(78)を背任容疑で逮捕しました。1月14日付の朝日新聞などの報道によれば、逮捕容疑は2018年7月~2020年2月、同大の新校舎棟の2件の建設工事を巡り、建築会社社長で1級建築士の60代男性と同大経営統括部元幹部の50代女性と共謀の上、男性に対し、給与とは別に実態がない「建築アドバイザー」としての業務報酬名目で計21回にわたって大学に不当に支払わせるなどして、計約1億1,700万円相当の損害を与えた、というものです。こうした金銭の流れは岩本元理事長が指示し、男性名義の口座に報酬が支払われていたとのことです。警視庁は岩本元理事長以外の2人についても立件する方針とのことです。東京女子医大の岩本元理事長長が関わる不正に捜査のメスが入ったのは去年3月でした(「第207回 残された道はいよいよ身売りか廃校・学生募集停止か? ガバナンス崩壊、経営難の東京女子医大に警視庁が家宅捜索」参照)。2019年以降、理事長を務めてきた岩本元理事長による不正な支出が疑われるとして、大学関係者が刑事告発を行い、告発状を受理した警視庁が3月、大学本部や岩本元理事長の自宅などを一斉に捜索したのです。それから約10ヵ月、やっと逮捕に至ったわけです。1月13日付のNHKは、「警視庁の幹部は『元理事長への現金の還流は、口座を通しておらず、証拠の欠片を拾い集めるパズルのような難しい捜査だった』と話しています」と報じています。岩本元理事長に還流された現金は総額約8,700万円に上る逮捕容疑の金銭の還流やその他の岩本元理事長の経営手法については、本連載の「第226回 東京女子医大 第三者委員会報告書を読む(前編)『金銭に対する強い執着心』のワンマン理事長、『いずれ辞任するが、今ではない』と最後に抗うも解任」、「第227回 同(後編)『“マイクロマネジメント”』と評された岩本氏が招いた『どん底のどん底』より深い“底”」でも詳しく書きました。この報告書には、今回の容疑となった岩本元理事長が金銭面で同大に与えた損害のほかに、卒業生の教員への採用・昇格に寄付金を要請したり推薦入試での寄付金受け取りを指示したりしていたことや、PICU運用停止に代表される「教育・研究と病院・臨床に対する理解・関心の薄さ」、「異論を敵視し排除する姿勢と行動」、「人的資本を破壊し組織の持続可能性を危機に晒す財務施策」など、医科大学トップとしてあるまじき、さまざまな所業が赤裸々に書かれています。そんな中、捜査当局は刑事責任が問える新校舎棟の建設工事を巡る金銭の動きに焦点を絞って捜査を進めてきたわけです。1月16日付の日本経済新聞などの報道によれば、岩本元理事長は建築士の男性に報酬を受け取るため専用の口座をつくらせ、男性が入金された報酬から自身が支払う税金を差し引いた上で、3分の1を男性が受け取り、残りの3分の2を元理事長に還流させていた疑いがあり、その金額は計約3,700万円に上るとしています。さらに別の工事に関しても、大学支出分から現金約5,000万円を受領した疑いがあり、これらを合計すると岩本元理事長に還流された現金は総額約8,700万円に上るとのことです。なお、1月21日付の日本経済新聞は、警視庁が昨年岩本容疑者の自宅など関係先を背任容疑で捜索した際、岩本元理事長の関係者が住む東京都港区のマンションの一室から、「金塊2キロ(約3,000万円相当)とスーツケースに入った現金約1億5,000万円」が発見され、さらに「元理事長宅の納戸からも現金と金塊が出てきた。(中略)これらの関係先から総額で現金約2億円と金塊計10キロ超(2億円相当)を押収した」と書いています。岩本元理事長体制下で噴出した事件の数々それにしても、東京女子医大も地に落ちたものです。岩本元理事長体制下の東京女子医大については、本連載でも何度も取り上げて来ました。2020年7月には「第15回 凋落の東京女子医大、吸収合併も現実味?」で同大が「コロナ禍による経営悪化を理由に夏季一時金を支給しない」と労組に回答し、看護師の退職希望が法人全体の2割にあたる400人を超えたニュースを、同年10月には「第28回 コロナで変わる私大医学部の学費事情、2022年以降に激変の予感」で、同大が2021度から学費を6年間で計1,200万円値上げして私立医大で2番目に高くなったニュースを取り上げました。さらに、同じく2020年10月には「第30回 東京女子医大麻酔科医6人書類送検、特定機能病院の再承認にも影響か」で、東京女子医大病院で2014年2月、鎮静剤プロポフォールの投与を受けた男児(当時2歳)が死亡した事故について、警視庁が当時の集中治療室(ICU)の実質的な責任者だった同大元准教授ら男性麻酔科医6人を業務上過失致死容疑で東京地検に書類送検したニュースを取り上げました。同病院はこの事故で2015年に特定機能病院の承認を取り消されています。外来患者数激減、病床稼働率もわずか50%岩本元理事長体制下で、経営状況も悪化の一途です。東京女子医大の令和5年度事業報告書(速報版)によれば、稼ぎ頭であるはずの本院、東京女子医科大学病院(1,190床)の1日外来患者数は、令和3年度が2,862人、令和4年度が2,705人、令和5年度が2,538人と減少傾向でした。そして何よりも衝撃的なのが病床稼働率です。令和3年度が61.7%(1,193床)、令和4年度が53.2% (1,193床)、令和5年度が50.7%(1,190床)と、もはや半分しか病床が稼働していないのです。紹介も含めて患者が来ないことに加え、看護師をはじめとする職員不足で病棟を開けたくても開けられない、という事情もあると考えられます。今回の元理事長逮捕や大学人事や推薦入試での不正によって、特定機能病院の再承認はさらに遠のき、加えて私学助成金(私立大学等経常費補助金)も大幅に減額される可能性もあります(令和5年度で総額20億円)。仮にそうなれば大学経営に対するダメージは計り知れません。日本大学や東京女子医大などで起こった相次ぐ不祥事を受け、改正私立学校法が今年4月に施行されます。理事会とそのトップの理事長へのチェック強化が図られ、理事と評議員の兼務も認められなくなります。不正のあった理事の解任請求権や、監事の選任・解任権限が、理事会の諮問機関にあたる評議員会に与えられることにもなります。しかし、東京女子医大にとっては後の祭りと言えそうです。ワンマン理事長の暴走を許し、ガバナンスをまったく効かせてこなかった理事会の責任は極めて重いと言えるでしょう。河田町同郷のフジテレビと女子医大、経営権が移る可能性も東京女子医大は1970〜90年代には、日本の大学病院としては最先端の経営を行っていました。心研をはじめ、消化器病・脳神経・腎臓病の各センターなど、臓器別のセンター方式をどこよりも早く導入、それぞれにスター教授を配して、臨床だけではなく、研究でも最先端を走っていました。以前にも書いたことですが、1980~90年代にかけ、私はよく新宿区河田町にある東京女子医大病院に取材に通っていました。「東京女子医大、強さの研究」という特集記事を担当したこともあります。当時、東京女子医大の隣にはお台場に移転する前のフジテレビ本社がありました。フジテレビも「オレたちひょうきん族」のヒットなどで、視聴率で在京キー局のトップを走っていたと記憶しています。あれから40年近くが経ち、どちらも昔日の面影はなく、東京女子医大は元理事長逮捕、フジテレビは冒頭に書いたような報道機関の役割を自ら放棄する体たらくです。おそらくこちらも社長交代(あるいはもっと上も)まで行くでしょう。時代の変化に対応できず、旧態依然の経営を続け、ガバナンス不全のままの組織はあっという間に淘汰されてしまいます。5年先、いや3年先には、東京女子医大もフジテレビも経営権は今とはまったく違うところに移っているかもしれません。

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乳がん診断後の手術遅延、サブタイプ別の死亡リスクへの影響

 乳がん診断後の手術遅延による乳がん特異的死亡率(BCSM)への影響はサブタイプにより異なり、ホルモン受容体陽性(HR+)/HER2陰性(HER2-)患者でBCSMリスクの最も顕著な増加がみられたことが明らかになった。これまで、手術の遅れが死亡リスク増加と関連することが報告されていたが、サブタイプによる違いがあるかどうかは明らかになっていなかった。米国・Stephenson Cancer CenterのMacall Leslie Salewon氏らが実施した後ろ向きコホート研究の結果が、Breast Cancer Research誌2024年12月30日号に掲載された。 研究グループは、米国国立がん研究所(NCI)のSurveillance, Epidemiology, and End Results(SEER)データベースを用いて、2010~17年に初回治療として手術を受けた局所乳がん患者において、手術の延期が生存率に与える影響がサブタイプ(HR+/HER2-、HR-/HER2-、およびHER2+)によって異なるかどうかを評価した。手術までの時間(TTS)は、診断のための生検日から手術日までの日数として定義され、TTS=30日を対照とした。BCSMは、サブタイプ別にそれぞれFine-Gray回帰モデルを使用してTTSに応じて評価され、TTSに影響を与える人口統計学的・臨床的変数、治療変数が傾向スコアによる逆数重み付け法を用いて調整された。 主な結果は以下のとおり。・調整後のBCSMリスクは、すべてのサブタイプにおいてTTSの増加とともに増加したが、その関連パターンと範囲は異なっていた。・HR+/HER2-患者において、TTSに関連するBCSMリスクは最も顕著な増加を示した。BCSMリスクはTTS=42日以降にほぼ指数関数的に増加し、調整後の部分分布ハザード比(sHR)は、TTS=60日で1.21(95%信頼区間[CI]:1.06~1.37)、TTS=90日で1.79(95%CI:1.40~2.29)、TTS=120日で2.83(95%CI:1.76~4.55)であった。・HER2+患者では、sHRはほぼ直線的な増加を示し、TTS=60日で1.34(95%CI:1.02〜1.76)、TTS=90日で1.78(95%CI:0.92〜3.44)、TTS=120日で2.29(95%CI:0.63〜8.31)であった。・HR-/HER2-患者では、sHRはほぼ直線的な増加を示したものの推定値に有意差はみられなかった。

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日本における片頭痛診療の現状、今求められることとは

 日本では、片頭痛を治療する医療機関および医師の専門分野における実際の治療パターンに関する調査は十分に行われていない。慶應義塾大学の滝沢 翼氏らは、日本の片頭痛患者の実際の臨床診療および治療パターンを医療機関や医師の専門分野別に評価するため、レトロスペクティブコホート研究を実施した。PLoS One誌2024年12月19日号の報告。 2018年1月〜2023年6月のJMDC Incより匿名化された片頭痛患者のレセプトデータを収集した。片頭痛を治療する医療機関および医師の専門分野別に患者の特性や治療パターンを評価した。 主な内容は以下のとおり。・対象は、片頭痛患者23万1,156例(平均年齢:38.8±11.8歳、女性の割合:65.3%)。・クリニックで初回処方を受けた患者は81.8%、画像検査を行った患者は42.5%、初回診断時に一般内科を受診した患者は44.4%、脳神経外科を受診した患者は25.9%。・画像検査の実施率は、専門医のいるクリニックで59.4%、専門医のいる病院で59.1%、専門医のいない病院で32.9%、専門医のいないクリニックで26.9%。・全体として、急性期治療を受けた患者は95.6%、予防治療を受けた患者は21.8%。・専門医のいる施設といない施設を比較すると、専門医のいる施設ではトリプタンの処方頻度が高く(67.9% vs.44.9%)、アセトアミノフェンおよびNSAIDsの処方頻度が低かった(52.4% vs.69.2%)。・予防治療の頻度は、専門医がいる施設(27.4%)のほうがいない施設(15.7%)より高く、医療機関の種類を問わず年々増加していた。 著者らは「日本の片頭痛患者のうち、初回診断時に専門医のいる施設を受診した患者は半数のみであり、専門医は非専門医よりも、片頭痛特有の薬剤および予防薬を使用する傾向が高かった」とし「片頭痛患者に対し専門医受診の必要性を広め、専門医と非専門医の医療連携を強化することが求められる」と結論付けている。

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