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第121回 高額過ぎて新型コロナワクチン接種が進まない

各学会から見解2024年10月に、日本感染症学会・日本呼吸器学会・日本ワクチン学会の3学会から合同で、「2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解」が発出され1)、「高齢者における重症化・死亡リスクはインフルエンザ以上であり、今冬の流行に備えて、10月から始まった新型コロナワクチンの定期接種を強く推奨」と記載されました。そして、日本小児科学会から「2024/25シーズンの小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」も発出され2)、「生後6ヵ月~17歳のすべての小児への新型コロナワクチン接種(初回シリーズおよび適切な時期の追加接種)が望ましい。特に、重症化リスクが高い基礎疾患のある児への接種を推奨」という文面になりました。こうした学会の見解は、これまでのエビデンスに裏付けられたものであり、一定の合理性を感じます。「変異ウイルスに効かない説」いまだによく聞く言説として、今年のワクチンはもう新しいKP.3系統に効果がないというものがあります。これは誤解です。確かに、従来のワクチン(起源株の1価ワクチン、BA.4・BA.5を含む2価ワクチン、XBB.1.5の1価ワクチン)やXBB以前の獲得免疫については、現在の主流株であるKP.3にはやや劣る側面があるかもしれません。しかし、現在定期接種で用いられているJN.1の1価ワクチンは、ここよりも下位系統に対して中和抗体の誘導が可能で、現在主流のKP.3系統も含めて発症予防効果があると考えられています3)。この冬に流行するのは、おそらくXEC株というものですが、これはKS.1.1(JN.13.1.1.1)とKP.3.3(JN.1.11.1.3.3)の組み換え体であるため4)、これもJN.1対応の現行ワクチンで効果があると思われます。ちなみに、JN.1対応ワクチンを接種した場合、KP.3株およびXEC株に対する中和抗体価は、JN.1株ほどではないものの有意に向上したという査読前論文があります5)。この冬に流行しそうな株は、現行ワクチンで十分と考えられます。現状、過去のワクチン接種の後、効果がなくなってしまった人がほとんどなので、とくに定期接種対象者についてはどこかで接種を検討する形でよいかと理解しています。高額過ぎて打てない自治体によって対応に差はありますが、ほとんどの子供は定期接種対象者ではありません。そのため、新型コロナワクチンの接種費用はガチでかかります。約1万5,000円です。家族4人で打つと6万円ということになるので、それなら感染予防を心掛けて今年の冬を乗り切ろうというご家庭が多いかもしれません。この費用負担が、新型コロナワクチンの接種を妨げる一因ともいえます。インフルエンザワクチンは接種するものの、コロナワクチンは見送る──そんなご家庭が増えているのが現状です。さらに、レプリコンワクチンに関する誤情報も影響している可能性があります。実際、Meiji Seika ファルマは、こうしたデマに対して訴訟を起こすなど、厳しい対応を行っています。諸外国では無料で接種できる国も多く、日本の現状は「予防医学の理想」からは遠い位置にあります。将来的にインフルエンザとの混合ワクチンが実現する際には、この費用の問題も解決されることが期待されます。参考文献・参考サイト1)日本感染症学会, 日本呼吸器学会, 日本ワクチン学会. 2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解(2024年10月17日)2)日本小児科学会. 2024/25シーズンの小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方(2024年10月27日)3)厚生労働省. 第2回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会資料. 資料1「2024/25シーズン向け新型コロナワクチンの抗原組成について」(2024年5月29日)4)Kaku Y, et al. Virological characteristics of the SARS-CoV-2 XEC variant. bioRxiv. 2024 Oct 17. [Preprint]5)Arona P, et al. Impact of JN.1 booster vaccination on neutralisation of SARS-CoV-2 variants KP.3.1.1 and XEC. bioRxiv. 2024 Oct 04. [Preprint]

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乳がんにおけるADCの使いどころ、T-DXdとSGを中心に/日本治療学会

 現在、わが国で乳がんに承認されている抗体薬物複合体(ADC)は、HER2を標的としたトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)とトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)、TROP2を標的としたサシツズマブ ゴビテカン(SG)の3剤があり、新たなADCも開発されている。これら3剤の臨床試験成績と使いどころについて、国立がんセンター東病院の内藤 陽一氏が第62回日本治療学会学術集会(10月24~26日)におけるシンポジウム「明日からの乳診療に使える!最新の薬剤の使いどころ」で講演した。開発が進むADC、現在3剤が承認 内藤氏はまず、「ADCは次々と開発が進んでおり、現在3剤が承認されているが、今後も新薬の登場や適応追加が予想される」と述べ、“明日から”というより“明日まで”使える内容と前置きした。 現在承認されている3剤の適応は、T-DM1がHER2+乳がん、T-DXdがHER2+乳がんおよびHER2低発現乳がん、SGがトリプルネガティブ(TN)乳がんである。T-DXdはさらにHER2超低発現乳がんにおける有効性が示され、SGは海外でHR+乳がんにも有効性が示されていることから、今後適応が広がる可能性がある。HER2+進行乳がん2次治療はT-DM1からT-DXdに HER2+進行乳がんに対するT-DM1の第III相試験には、トラスツズマブ+タキサンの治療歴のある患者に対してカペシタビン+ラパチニブと比較したEMILIA試験、3次治療以降で医師選択治療(TPC)と比較したTH3RESA試験が挙げられる。どちらも全生存期間(OS)の有意な改善が示されたことから、トラスツズマブ+タキサン後の2次治療以降の標準治療となったが、現在は以下のようにT-DXdに塗り替えられた。 T-DXdは、トラスツズマブ+タキサンの治療歴がある患者に対してT-DM1と比較したDESTINY-Breast03試験、T-DM1治療歴のある患者に対してTPCと比較したDESTINY-Breast02試験があり、どちらもOSの有意な改善が認められた。一方、同じ2次治療として、トラスツズマブ+タキサンの治療歴のある患者に対してT-DM1+tucatinibをT-DM1と比較したHER2CLIMB-02試験があり、無増悪生存期間(PFS)の有意な改善が認められた。試験間での比較は適切ではないものの、ハザード比(HR)はHER2CLIMB-02試験では0.76(95%信頼区間[CI]:0.61~0.95)とDESTINY-Breast03試験の0.33(同:0.26~0.43)とは大きな差があり、脳転移症例に対してどちらも効果が認められること、tucatinibは現在日本では承認されていないこともあり、T-DXdがHER2+進行乳がんの2次治療の標準治療となっている。NCCNガイドラインでも2次治療にはT-DXdのみが記載されている。HR+進行乳がんには現在T-DXdのみ、開発中の薬剤も HR+進行乳がんでは、HER2低発現乳がん(IHC2+/ISH-またはIHC1+)とHER2超低発現(IHC0で染色細胞が10%以下存在)にT-DXdの有効性が認められ、現在はHER2低発現乳がんに対してのみ、2次治療以降で承認されている。 SGについても、2~4ラインの治療歴のあるHR+/HER2-進行乳がんを対象としたTROPICS-02試験において、TPCに比べてPFSおよびOSの改善が報告されている(日本ではHR+進行乳がんには未承認)。さらにTROP2を標的としたdatopotamab deruxtecan (Dato-DXd)が開発中である。すでにSGが承認されている米国のNCCNガイドラインでは、HR+進行乳がんの2次治療として、HER2低発現ではT-DXd、それ以外はSGと記載されている。TN乳がんに対するT-DXdとSGの試験成績 TN乳がんに対するADCとしては、T-DXdとSGが承認されている。T-DXdについては、HER2低発現進行乳がんに対するDESTINY-Breast04試験において、HR-症例のみの解析でPFS、OSとも良好な結果であったが、症例数は58例(T-DXd群40例、TPC群18例)と少ない。一方、SGのTN乳がんに対するASCENT試験は529例と症例数が十分に多く、PFSのHRは0.41(95%CI:0.32~0.52)、OSのHRは0.48(同:0.38~0.59)と良好な結果が示されている。NCCNガイドラインでは、TN乳がん2次治療においてSGが上に記載されており、生殖細胞系列BRCA1/2病的バリアントなしかつHER2低発現にはT-DXdと記載されている。 内藤氏は、ADCにおけるもう1つの問題として、ADC後のADCは効果が低い可能性があるという報告がなされていることから、「ADC後に何を投与するかということが今後の課題」と述べた。わが国における現時点のADCの使いどころは? 最後に内藤氏は、日本における2024年10月時点のADCの使いどころについてまとめた。 まず、HER2+進行乳がんでは2次治療にT-DXd、3次治療以降にT-DM1が入る。HR+進行乳がんでは2次治療にT-DXd(HER2低発現)のみ入っているが、「今後、SG、Dato-DXdが承認されたときにどれを使うかは今後の議論」とした。TN進行乳がんでは2次治療にSGとT-DXd(HER2低発現)が入るが、ベネフィットの大きさにはあまり遜色ないと述べた。また、これらの注意すべき有害事象のマネジメントについて、SGでは好中球減少が比較的多いためG-CSF投与などのマネジメント、T-DXdではILDのマネジメントを挙げ、講演を終えた。

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造血器腫瘍も遺伝子パネル検査の時代へ/日本血液学会

 固形がんで遺伝子検査が普及しているなか、造血器腫瘍でも適切な診断・治療のために遺伝子情報は不可欠となりつつある。日本血液学会からは有用性の高い遺伝子異常と遺伝子検査の活用方針を示した「造血器腫瘍ゲノム検査ガイドライン」が発行された。第86回日本血液学会学術集会では、Special Symposiumとして遺伝子パネルの実臨床での活用状況が発表された。臨床現場で進む造血器腫瘍の遺伝子解析 造血器腫瘍では対象となる遺伝子異常が固形がんとは違う。また、遺伝子検査の目的も固形がんでは治療対象の探索だが、造血器腫瘍ではさらに診断、予後予測が加わる。そのため、造血器腫瘍専用の遺伝子プロファイル検査が必要とされている。 九州大学では398遺伝子を標的としたDISCAVar panelを開発、すでに1,500以上の症例に活用している。名古屋大学では急性骨髄性白血病(AML)に関連する58種類の遺伝子を対象とした次世代シークエンス(NGS)解析を行っている。AML250例を超える解析結果から、従来の染色体検査に遺伝子検査を加えることで、より精密な予後層別化が可能になることを明らかにした。承認された造血器腫瘍遺伝子パネル検査「ヘムサイト」 造血器腫瘍専用の遺伝子パネル検査の必要性が望まれるなか、国立がん研究センター、九州大学、京都大学、名古屋医療センター、東京大学医科学研究所、慶應義塾大学および大塚製薬が共同で開発した造血器腫瘍遺伝子パネル検査「ヘムサイト」が2024年9月に製造販売承認された。 ヘムサイトは一塩基置換や遺伝子の挿入・欠損、また融合遺伝子や構造異常を含む計452の遺伝子をDNAとRNAの解析によって同定する。 国立がん研究センター研究所ではプロトタイプ検査を用いた前向き試験を実施し、この検査の臨床的な有用性を評価した。176症例の188検体を解析し、296個の遺伝子に1,746個の異常を同定した。85%の症例でガイドラインで認められているエビデンスを有する異常が確認され、遺伝子パネル検査の臨床的有用性を示す結果となった。

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早期アルツハイマー病治療薬ケサンラの臨床的意義とは/リリー

 日本イーライリリーは2024年10月29日、「ケサンラ承認メディアセミナー ~早期アルツハイマー病の当事者の方々が、自分らしく生活できる時間を伸ばす~」と題したメディアセミナーを開催した。早期アルツハイマー病(AD)治療薬「ケサンラ点滴静注液350mg」(一般名:ドナネマブ)は、同年9月24日に「アルツハイマー病による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」を効能または効果として日本における製造販売承認を取得している。本セミナーの冒頭では、日本イーライリリーの片桐 秀晃氏(研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部)が同社の取り組みとして、「世界中の人々のより豊かな人生のため、革新的医薬品に思いやりを込めて」という使命をもとに、認知症への理解促進と治療アクセスの向上に努め、共生社会の実現に向けて尽力していく意向を示した。認知症は診断前から病態が進行している ケサンラの投与対象となるのは軽度認知障害(MCI)および軽度の認知症の患者であるが、こういった患者の病態について古和 久朋氏(神戸大学大学院 保健学研究科)が解説した。ADの進行プロセスにおいては、アミロイドβが脳内に蓄積してアミロイドβプラーク(老人斑)が形成される現象が、MCIの発症前のプレクリニカル期から起こるとされている。その後はタウと呼ばれるタンパク質が蓄積し、神経細胞死、脳萎縮が続けて起こり、最終的に認知症になるということが明らかとなってきているという。ケサンラは、このアミロイドβプラークをターゲットとした抗体で、プラークに結合することで貪食細胞が脳内に蓄積したプラークを除去し、症状の進行を遅らせる薬剤とされる。認知機能低下の進行を抑制する治療薬 続いて、ケサンラの臨床試験結果について小森 美華氏(日本イーライリリー 研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部)が解説した。国際共同第III相臨床試験であるAACI試験(TRAILBLAZER-ALZ 2試験)は、60~85歳の早期AD患者1,736例が参加した多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照試験で、ケサンラの有効性と安全性を評価した試験である。試験においては被験者を無作為にケサンラ群(860例)とプラセボ群(876例)に分け、4週ごとに72週間静脈内投与した。ケサンラ群においてアミロイドPETでアミロイドβプラークの除去が確認された患者は、盲検下のままプラセボ投与に切り替えられた。患者背景は、平均年齢が約73歳、ADのリスク因子とされるAPOEε4キャリアが約7割、MMSEの平均は約22点であった。主要評価項目は、ベースラインから76週までの統合アルツハイマー病評価尺度(iADRS)スコア(範囲:0~144、スコアが低いほど障害の程度が大きい)の変化量とされ、副次評価項目には臨床的認知症重症度判定尺度(CDR-SB)スコアの各項目スコアの合計(範囲:0~18、スコアが高いほど認知障害の程度が大きい)の変化量が含まれた。 76週時点のiADRSスコアの変化量は、全体集団ではケサンラ群で-10.19、プラセボ群で-13.11であり、進行抑制率は22.3%であった。そのうち、軽度/中等度タウ蓄積集団においては、ケサンラ群で-6.02、プラセボ群で-9.27であり、進行抑制率は35.1%であった。また、CDR-SBスコアの変化量は、全体集団ではケサンラ群で1.72、プラセボ群で2.42であり、進行抑制率は28.9%、軽度/中等度タウ蓄積集団では、ケサンラ群で1.20、プラセボ群で1.88であり、進行抑制率は36.0%であった。この結果は、全体集団においては76週の間で5.44ヵ月の症状進行の遅延に相当し、軽度/中等度タウ蓄積集団においては76週の間で7.53ヵ月の症状進行の遅延に相当するという。探索的評価項目であるアミロイドβプラーク除去(アミロイドPETで陰性の基準となる24.1センチロイド未満)を達成した患者の割合は、全体集団では52週で66.1%、76週で76.4%であり、軽度/中等度タウ蓄積集団では52週で71.3%、76週で80.1%であった。さらに、途中でケサンラからプラセボに投与を切り替えた集団においても、背景調整をしていない全体集団のプラセボ群との比較であるものの、76週にかけて継続してCDR-SBスコアの悪化の抑制が認められたという。 安全性については、有害事象の発現割合はケサンラ群で89.0%(759/853例)、プラセボ群で82.2%(718/874例)であった。アミロイド関連画像異常(ARIA)の発現に関して、ARIA関連事象の発現がケサンラ群で36.8%(314例)、プラセボ群で14.9%(130例)に認められた。その中でも、ARIA-E関連事象はケサンラ群で24.0%(205例)、プラセボ群で2.1%(18例)に、ARIA-H関連事象はケサンラ群で31.4%(268例)、プラセボ群で13.6%(119例)に認められた。ARIAの症状としては、頭痛や悪心、錯乱が多く報告されているという。 投与における注意点として、小森氏は「定期的なMRIの撮影や、点滴中や点滴後30分間の経過観察といった安全管理を行うこと」と語った。患者が自分らしく生きていけるための治療を目指して 最後に、古和氏は臨床試験結果からみたケサンラの臨床上の価値について語った。ケサンラの投与により1年で約66%の患者のアミロイドβプラークが除去されたことから、治療を早めに終えることで患者の負担を減らすことができ、さらに「アミロイドβプラークを除去すること」を医師と患者の共通の目標とできることは大きなメリットであるという。また、認知機能低下の進行を抑制できるということは、患者が現在の生活を少しでも長く続け、自分らしく過ごすことが可能になるという希望を与えることにつながるとされる。さらに同氏は、医療現場ではケサンラ投与患者のフォローアップ体制の整備が進んでいるとし、本薬剤について「現在の日本の医療体制であれば、十分に効果と安全性に考慮しながら投与できる薬だろう」と締めくくった。

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「大腸治療ガイドライン」、主な改訂ポイントを紹介/日本治療学会

 第62回日本治療学会学術集会(10月24~26日)では「がん診療ガイドライン作成・改訂に関する問題点と対応について」と題したシンポジウムが開かれた。この中で今年7月に発行された「大腸治療ガイドライン2024年版」について、作成委員会委員長を務めた東京科学大学 消化管外科の絹笠 祐介氏が、本ガイドラインの狙いや主な改訂ポイントを紹介した。 「大腸治療ガイドライン」は2005年に初版を発行、その後7回の改訂を重ね、今回は第8版で2年ぶりの改訂となる。前回は薬物療法に関連した部分改訂だったが、今回は全領域を改訂し、クリニカル・クエスチョン(CQ)も刷新した。 本ガイドラインの特徴は、一般病院の医師が診療を行う際の指標になることを目的としていることだ。実臨床で使いやすいものとするため、多くのガイドラインが準拠する「Minds診療ガイドライン作成マニュアル」は参考に留め、エビデンスと推奨の不一致を許容する方針としている。実務で使いやすいよう「できるだけ薄くする」ことも目指しており、今版のCQの数は28と旧版から変えず、本文や資料も凝縮することで157頁とほかのがん関連ガイドラインと比べてコンパクトになっている。 また、今版からの変更点としては、CQにおける推奨の合意度を記載して委員の意見の相違が見えるようにしたこと、集学的治療が進む大腸がん治療を鑑みて補助療法に関しては関連領域の委員が合同で原案作成、推奨度の決定を行う形式に変更したことがある。さらに作成期間中を通してパブリックコメントを募集し、内容に反映させる試みも行った。 今版で新設されたCQは以下のとおり。CQ3 大腸に対するロボット支援手術は推奨されるか?1)ロボット支援手術は、直腸手術の選択肢の1つとして行うことを強く推奨する(推奨度1・エビデンスレベルB、合意率:74%)。 2)また、結腸手術の選択肢の1つとして行うことを弱く推奨する(推奨度2・エビデンスレベルC、合意率96%)→ロボット手術が保険適用となったことを踏まえて新設。CQ9 周術期薬物療法の前にバイオマーカー検査は推奨されるか?1)RAS、BRAF、ミスマッチ修復機能欠損(MSIもしくはMMR-IHC)検査を行うことを弱く推奨する(推奨度2・エビデンスレベルB、合意率78%)2)Stage II/III大腸の術後についてはミスマッチ修復機能欠損検査を行うことを強く推奨する(推奨度1・エビデンスレベルA、合意率96%)→バイオマーカーによる予後予測の有用性に関する報告を踏まえ、初めて関連するCQを設定。CQ12 直腸に対するTotal Neoadjuvant Therapy(TNT)は推奨されるか?直腸に対するTNTは行わないことを弱く推奨する。(推奨度2・エビデンスレベルC、合意率:70%)CQ13 直腸術前治療後cCR症例に対するNon-Operative Management (NOM)は推奨されるか?行わないことを弱く推奨する。(推奨度 2・エビデンスレベル C、合意率:39%)→欧米を中心に広がりを見せるTNT(=術前の集学的治療)、NOM(=非手術管理)についてのCQを新設。いずれも「行わないことを弱く推奨」となったが、NOMに関しては委員の意見の相違も見られた。CQ19 切除可能肝転移に対する術前化学療法は推奨されるか?切除可能な肝転移に対する術前化学療法は行わないことを弱く推奨する。(推奨度2・エビデンスレベルC、合意率:91%)CQ20 肝転移巣切除後に対する術後補助化学療法は推奨されるか? 肝転移巣切除後に対して術後補助化学療法を行うことを弱く推奨する。(推奨度2・エビデンスレベルB、合意率:87%)→これまで術前術後が一緒になっていたCQを分けて新設。CQ22 大腸の卵巣転移に対して卵巣切除は推奨されるか?1)根治切除可能な同時性および異時性卵巣転移に対しては、切除することを強く推奨する。(推奨度1・エビデンスレベルB、合意率74%)2)卵巣転移および卵巣転移以外の切除不能遠隔転移を同時に有する場合、薬物療法を選択するが、卵巣転移の増大による自覚症状がある場合は、卵巣転移の姑息切除を行うことを弱く推奨する。(推奨度2・エビデンスレベルC、合意率91%)CQ28 肛門管扁平上皮に対して化学放射線療法は推奨されるか?遠隔転移を認めない肛門管扁平上皮患者に対して、化学放射線療法を行うよう強く推奨する。(推奨度1・エビデンスレベルA、合意率100%)→大腸研究会のプロジェクト研究から得られた新たなエビデンスを踏まえ、卵巣転移、肛門管扁平上皮に関するCQを新設。CQ25 切除不能大腸に対する導入薬物療法後の維持療法は推奨されるか?オキサリプラチン併用導入薬物療法開始後に、患者のQOLなどを考慮して、維持療法に移行することを推奨する。1)FOLFOXIRI+BEV後のフッ化ピリミジン+BEV(推奨度1・エビデンスレベルA、合意率100%)2)FOLFOX/CAPOX/SOX+BEV後のフッ化ピリミジン+BEV(推奨度2・エビデンスレベルA、合意率65%)3)FOLFOX+CET/PANI後の5-FU+/-LV+CET/PANI(推奨度2・エビデンスレベルB、合意率91%) このほか、新たなエビデンスが集積した周術期薬物療法に関連した項目が大きく改訂され、「高齢者の術後補助療法」に関するCQ8では「高齢者」の定義が旧版の70歳から80歳に引き上げられるなど、各項目の見直しを行った。 完成後にはガイドライン評価委員会に外部評価を依頼した。この委員会はガイドラインの質担保のため専門委員、外部委員を含めた委員が専用のツールを使って評価をするもので、この評価の結果も掲載されている。 絹笠氏は「外部評価において指摘された患者参加、費用対効果の記載などは今後の課題だ。またガイドラインの実臨床への影響の評価、フューチャーリサーチクエスチョンへの対応、委員構成、発刊間隔なども今後の検討事項だと考えている。ガイドラインではCQが注目されるが、本ガイドラインは長年記載されていたCQを本文に落とし込むなど、1冊全体を充実させる工夫をした。ぜひ、全体に目を通していただきたい」とした。

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肥満の膝OA患者へのセマグルチド、疼痛を改善/NEJM

 肥満(BMI値≧30)かつ中等度~重度の疼痛を伴う変形性膝関節症(OA)を有する患者において、週1回のセマグルチド皮下投与はプラセボと比較して、体重および膝OA関連の疼痛を有意に減少したことが示された。デンマーク・コペンハーゲン大学のHenning Bliddal氏らSTEP 9 Study Groupが二重盲検無作為化プラセボ対照試験の結果を報告した。体重の減少は疼痛などの膝OAの症状を緩和することが示されているが、肥満者のGLP-1受容体作動薬の効果は十分には研究されていなかった。NEJM誌2024年10月31日号掲載の報告。ベースラインから68週までの体重変化率、疼痛スコアの変化を評価 試験は11ヵ国61施設で68週間にわたり行われた。被験者は、肥満(BMI値≧30)であり、米国リウマチ学会(ACR)の分類基準で臨床的に膝OAと診断され、対象となる膝に放射線学的に中等度の変形が認められ、膝OA関連の疼痛(無作為化時のWestern Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index[WOMAC]疼痛スコアが40以上[スコア範囲:0~100、高スコアほどアウトカムが不良であることを示す])を有する患者を適格とした。 被験者を2対1の割合でセマグルチド群、プラセボ群に無作為に割り付け、セマグルチド(2.4mg)を週1回皮下投与またはプラセボを投与し追跡評価した。試験期間中、両群ともカロリー制限食と身体活動のカウンセリングを受けた。セマグルチドの投与は0.24mgで開始し、目標用量2.4mgの到達は16週時点とされた。2.4mgで許容できない副作用が認められた被験者には、治験担当医師が安全と判断すればより低用量(1.7mg)による投与の継続が可能であり、プロトコールでは、治験担当医師の裁量で目標用量2.4mgまで増量するための追加の試行を少なくとも1回行うことが推奨された。 主要エンドポイントは、ベースラインから68週までの体重変化率およびWOMAC疼痛スコアの変化。重要な検証的副次エンドポイントは、SF-36(ver.2)の身体機能スコア(スコア範囲:0~100、高スコアほどより良好な健康状態であることを示す)であった。体重、疼痛スコアいずれも有意に減少、SF-36身体機能スコアも有意に改善 2021年10月~2022年3月に計407例が無作為化された(セマグルチド群271例、プラセボ群136例)。平均年齢56歳、平均BMI値40.3、平均WOMAC疼痛スコア70.9であり、被験者の81.6%は女性であった。 被験者の多くが治療ピリオドを完了し(セマグルチド群86.7%、プラセボ群77.9%)、試験を完了した(それぞれ90.8%、89.7%)。試験ピリオドを完了したセマグルチド群235例において、最終受診時に2.4mgの投与を受けた被験者は211例(89.8%)であった。 ベースラインから68週までの体重の平均変化率は、セマグルチド群-13.7%、プラセボ群-3.2%であった(p<0.001)。同様にWOMAC疼痛スコアの変化は、セマグルチド群-41.7ポイント、プラセボ群-27.5ポイントであった(p<0.001)。 SF-36身体機能スコアの改善は、セマグルチド群がプラセボ群よりも有意に大きかった(スコアの平均変化12.0ポイントvs.6.5ポイント、p<0.001)。 重篤な有害事象の発現は、両群で同程度であった(セマグルチド群10.0%、プラセボ群8.1%)。最も多くみられた重篤な有害事象は良性、悪性および詳細不明の新生物(それぞれ3.3%、2.2%)および胃腸障害(1.5%、0.7%)であった。試験レジメンの永続的な中止に至ったのはセマグルチド群6.7%、プラセボ群3.0%であり、最も多くみられた理由は胃腸障害であった。

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CKDへのエンパグリフロジン、中止後も心腎保護効果が持続/NEJM

 疾患進行リスクのある幅広い慢性腎臓病(CKD)患者において、SGLT2阻害薬エンパグリフロジンは、投与中止後も最長12ヵ月間、追加的な心腎ベネフィットをもたらし続けることが、英国・オックスフォード大学のWilliam G. Herrington氏らEMPA-KIDNEY Collaborative Groupによる「EMPA-KIDNEY試験」の試験後追跡評価において示された。EMPA-KIDNEY試験では、エンパグリフロジンが疾患進行リスクのある幅広いCKD患者に良好な心腎効果をもたらすことが示されていた。今回の試験後追跡評価(post-trial follow-up)では、試験薬中止後のエンパグリフロジンの効果がどのように進展するかが評価された。NEJM誌オンライン版2024年10月25日号掲載の報告。EMPA-KIDNEY試験後の追跡評価 EMPA-KIDNEY試験は、CKD患者を対象に8ヵ国241施設で行われた第III相二重盲検プラセボ対照試験。被験者は、エンパグリフロジン(1日1回10mg)またはプラセボの投与を受ける群に無作為化され、中央値2年間追跡された。全被験者が、eGFR≧20~<45mL/分/1.73m2もしくは≧45~<90mL/分/1.73m2かつ尿中アルブミン(mg)/クレアチニン(g)比≧200であった。 試験終了後、同意を得た生存患者を2年間観察した。同期間中に試験薬(エンパグリフロジンまたはプラセボ)は投与されなかったが、各試験施設の治験担当医師はエンパグリフロジンを含むSGLT2阻害薬の非盲検での処方は可能であった。 主要アウトカムは2つで、EMPA-KIDNEY試験開始から試験後追跡評価終了まで評価した腎疾患進行または心血管死であった。統合期間の主要アウトカムイベント発生HRは0.79、試験後のみでは0.87 試験後追跡評価は、7ヵ国185施設で行われ、EMPA-KIDNEY試験で無作為化された6,609例のうち、4,891例(74%)が登録された。この間の非盲検SGLT2阻害薬の使用は、両群で同程度であった(エンパグリフロジン群43%、プラセボ群40%)。 EMPA-KIDNEY試験開始から試験後追跡評価終了まで(統合期間)に、主要アウトカムイベントの発生は、エンパグリフロジン群で865/3,304例(26.2%)、プラセボ群で1,001/3,305例(30.3%)報告された(ハザード比[HR]:0.79、95%信頼区間[CI]:0.72~0.87)。試験後追跡評価期間のみでは、主要アウトカムイベントのHRは0.87(95%CI:0.76~0.99)であった。 統合期間における腎疾患進行の発生は、エンパグリフロジン群23.5%、プラセボ群27.1%であり、死亡または末期腎不全(ESKD)の複合の発生は各群16.9%、19.6%、心血管死の発生は各群3.8%、4.9%であった。エンパグリフロジンの非心血管死への影響は認められなかった(両群とも5.3%)。

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運動を週末にまとめてしても、200種類の疾患リスクが減少

 忙しくて運動を毎日続けることが難しいという人に、朗報といえるデータが報告された。毎日運動するのと週末に集中して行うのとで、健康に対して同程度のプラス効果を期待できるという。米マサチューセッツ総合病院不整脈センターのShaan Khurshid氏らの研究の結果であり、詳細は「Circulation」に9月26日掲載された。論文の上席著者である同氏は、「健康のための運動で最も大切なことは、運動のスケジュールではなく運動の総量なのかもしれない」と語っている。 運動に関するガイドラインでは一般的に、中~高強度の運動を1週間に150分以上行うことが推奨されているが、その運動を毎日20分ずつ程度に小分けして行うのと、数日にまとめて行うのとで、健康への影響力が異なるのかという点については、十分検討されていない。そこでKhurshid氏らは、英国の大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータを用いた検討を行った。 2013年6月~2015年12月の間の1週間、加速度計を装着して生活してもらい運動習慣を把握し得た8万9,573人(平均年齢62±8歳、女性56%)を、加速度計の記録に基づき、毎日少しずつ運動している人(毎日運動群)、週末にまとめて運動をしている人(週末運動群)、および推奨される前記の運動量を満たしていない人(非運動群)という3群に分類。交絡因子を調整後に、678種類の疾患や状態・症状について非運動群を基準として比較した。その結果、毎日運動群は205種類のリスクが有意に低く(ハザード比〔HR〕の95%信頼区間の範囲が0.41~0.88)、週末運動群は264種類のリスクが有意に低かった(同0.35~0.89)。 それぞれの疾患や状態のリスクを個別に見ると、高血圧(毎日運動群はHR0.72〔95%信頼区間0.68~0.77〕、週末運動群はHR0.77〔同0.73~0.80〕)、糖尿病(同順にHR0.54〔0.48~0.60〕、0.57〔0.51~0.62〕)、肥満(HR0.44〔0.40~0.50〕、0.55〔0.50~0.60〕)、睡眠時無呼吸(HR0.49〔0.39~0.62〕、0.57〔0.48~0.69〕)などで、運動スケジュールにかかわらずリスクの大幅な低下が認められた。運動量が多い人(中央値の週当たり230.4分以上のサブグループ)で解析した結果も同様だった。 著者らは、「ガイドラインの推奨事項を満たす運動を行っている場合、200種類を超える疾患や状態のリスクが低下し、特に心代謝系に顕著な影響が及ぶことが示された。この影響は、運動を毎日均等に行うか週末に集中して行うかに関係なく、同等と考えられる」と総括。またKhurshid氏は、マサチューセッツ総合病院発行のニュースリリースの中で、「患者に対しては、自分が最も効果的と思うスケジュールで運動を行って、ガイドラインの推奨を遵守するように助言すべきだ」と述べている。

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ベンゾジアゼピン中止戦略、マスクした漸減+行動介入の効果

 ベンゾジアゼピン(BZD)受容体作動性催眠薬(BZD睡眠薬)の臨床試験では、プラセボ効果が観察される。臨床ガイドラインでは、とくに高齢者においてBZD睡眠薬を中止し、不眠症の第1選択治療として不眠症の認知行動療法(CBT-I)が推奨されている。BZD睡眠薬の減量中に1日投与量をマスクし、プラセボ効果のメカニズムを活用してCBT-Iを強化する新たな介入方法が、BZD睡眠薬中止を促進するかは、不明である。米国・カリフォルニア大学ロサンゼルス校のConstance H. Fung氏らは、BZD睡眠薬のマスクした減量と増強CBT-Iを併用した介入は、BZD睡眠薬の長期中止に寄与するかを検討するため、ランダム化臨床試験を実施した。JAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年10月7日号の報告。 対象は、大学および退役軍人省医療センターで現在または過去に不眠症に対しジアゼパム換算量8mg未満の用量でロラゼパム、アルプラゾラム、クロナゼパム、temazepam、ゾルピデムを3ヵ月以上、2回/週以上使用した55歳以上の患者。2018年12月〜2023年11月のデータを収集した。データ分析は、2023年11月〜2024年7月に実施した。BZD睡眠薬のマスクした減量と増強CBT-Iを併用した介入(MTcap群)と標準CBT-IとマスクしないBZD睡眠薬漸減による介入(SGT群)との比較を行った。主要有効性アウトカムは、治療終了後6ヵ月(6ヵ月ITT)でのBZD睡眠薬の中止率とし、7日間の自己申告による服薬記録を行い、サブセットについては尿検査測定を行った。副次的アウトカムは、治療後1週間および6ヵ月後の不眠症重症度質問票(ISI)スコア、治療1週間後にBZD睡眠薬の中止率、治療後1週間および6ヵ月後のBZD睡眠薬の投与量とDysfunctional Beliefs About Sleep-Medication subscaleとした。 主な結果は以下のとおり。・詳細なスクリーニングを行った338例のうち対象患者188例(平均年齢:69.8±8.3歳、男性:123例[65.4%]、女性:65例[35.6%])は、MTcap群92例、SGT群96例にランダムに割り付けられた。・MTcap群は、SGT群と比較し、6ヵ月後のBZD睡眠薬の中止率向上、1週間後のBZD睡眠薬の中止率向上、1週間後のBZD睡眠薬の1週間当たりの使用頻度の減少が認められた。【6ヵ月後のBZD睡眠薬の中止率】MTcap群:64例(73.4%)、SGT群:52例(58.6%)、オッズ比(OR):1.19、95%信頼区間[CI]:1.03〜3.70、p=0.04【1週間後のBZD睡眠薬の中止率】MTcap群:76例(88.4%)、SGT群:62例(67.4%)、OR:3.68、95%CI:1.67〜8.12、p=0.001【1週間後のBZD睡眠薬の1週間当たりの使用頻度】−1.31、95%CI:−2.05〜−0.57、p<0.001・フォローアップ時のISIスコアは、両群間で有意な差がなく改善が認められた(ベースラインから1週間後:1.38、p=0.16、6ヵ月後:0.16、p=0.88)。 著者らは「プラセボ効果のメカニズムをターゲットとしたBZD睡眠薬の減量とCBT-Iとの新たな併用療法により、BZD睡眠薬の長期中止率を改善することが示唆された」と結論付けている。

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リラグルチドは小児肥満の治療薬として有効である(解説:住谷哲氏)

 『小児肥満症診療ガイドライン2017』1)によると、小児肥満の定義は「肥満度が+20%以上、かつ体脂肪率が有意に増加した状態(有意な体脂肪率の増加とは、男児:25%以上、女児:11歳未満は30%以上、11歳以上は35%以上)」であり、肥満症は「肥満に起因ないし関連する健康障害(医学的異常)を合併するか、その合併が予想される場合で、医学的に肥満を軽減する必要がある状態をいい、疾患単位として取り扱う」とされる。ここで肥満度は学校保健安全法に基づき、肥満度(%)={(実測体重-標準体重)/標準体重}×100が広く用いられている。さらに小児期からの過剰な内臓脂肪蓄積は早期動脈硬化につながることから、小児期メタボリックシンドローム診断基準もすでに作成されている。小児肥満症患者の多くが成人肥満症に移行することから、現在では小児肥満症は成人の非感染性疾患(non-communicable disease:NCD)抑制のための重要な対象疾患と認識されている。 わが国では肥満と肥満症が区別されているが、欧米では区別されず、ともにobesityである。本試験の対象者も肥満に起因ないし関連する健康障害の有無はinclusion criteriaに含まれておらず、obesity-related complicationsとして耐糖能障害や高血圧などを有する対象者が約半数含まれている。したがって、以下のコメントでは「小児肥満症」ではなく「小児肥満」を使用する。 成人と同じく小児肥満の治療も食事・運動療法が基本となる。しかし、薬物療法が必要な患者も少なからず存在する。現在のわが国では残念ながら小児肥満に適応のある薬物は存在しない。リラグルチド(商品名:ビクトーザ)はわが国では肥満治療薬として承認されていないが、欧米では高用量(3.0mg/日)が肥満治療薬として承認されている。これまで成人(>18歳)2)、青少年(12~18歳)3)でその有効性が報告され、すでに治療薬として承認されているが、小児(6~12歳)での有効性は不明であった。そこで本試験「SCALE-Kids試験」が実施された。 対象患者の背景は平均で年齢10歳、身長149cm、体重70kg、腹囲95cm、BMI 31kg/m2である。リラグルチドの投与量は成人、青少年と同量の3.0mg/日であり56週後のBMIの変化率が主要評価項目とされた。その結果は予想どおり、リラグルチド群で有意なBMIの減少を認め、有害事象も許容範囲であった。 本試験の結果に基づいて、リラグルチドはおそらく小児肥満治療薬として欧米で承認されるだろう。わが国でも肥満の有病率は増加しているが欧米の比ではなく、本年ようやく成人に対してセマグルチド(商品名:ウゴービ)が肥満症治療薬として使用可能となったばかりである。わが国では成人に対してもリラグルチドは肥満治療薬として承認されておらず、小児肥満治療薬としての道のりはまだまだ遠いと思われる。

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寄り道編(12)虫を原材料とする漢方薬【臨床力に差がつく 医薬トリビア】第61回

 ※当コーナーは、宮川泰宏先生の著書「臨床力に差がつく 薬学トリビア」の内容を株式会社じほうより許諾をいただき、一部抜粋・改変して掲載しております。今回は、月刊薬事63巻6号「臨床ですぐに使える薬学トリビア」の内容と併せて一部抜粋・改変し、紹介します。寄り道編(12)虫を原材料とする漢方薬Question虫を原材料にした漢方には何がある?

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今後の高血圧治療における治療アプリの役割は?【治療用アプリの処方の仕方】第3回

高血圧治療用アプリの保険算定について保険算定の要件は下記のとおりです。アプリの入力率が7日間のうち5日(71.4%)以上必要というのは厳しいと感じるかもしれませんが、家庭血圧をしっかりとモニタリングするというところに重きを置いているためです。なお、臨床試験において、アプリ利用率は12週時で98.06%でした。保険項目の適用(CureAppホームページより抜粋)B005-14 プログラム医療機器等指導管理料:90点※特定保険医療材料[高血圧症治療補助アプリ]を算定する場合に月1回に限り算定B005-14 プログラム医療機器等指導管理料 導入期加算:50点※初回に限り算定特定保険医療材料[227 高血圧症治療補助アプリ]:7,010円※初回の使用日の属する月から起算して6か月を限度として、初回を含めて月1回に限り算定なお、前回算定日から、平均して7日間のうち5日以上血圧値がアプリに入力されている場合のみ算定することができる。これからの高血圧治療治療用アプリの登場によって「高血圧治療が変わるか?」と思うかもしれませんが、もう変えていかないといけないと思っています。通院している患者さんのうち、ガイドライン推奨の血圧値にコントロールできている人は半分もいません。55%がコントロール不良です。120~125mmHgくらいまでしっかりと家庭血圧を下げることで脳卒中リスクは5分の1くらい下がりますが、現在の方法や薬物治療ではやはり限界があります。ガイドラインは非常にしっかりとした内容のものではありますが、まだ「実装」されていません。これから大切なのは実装医学(Implementation Medicine)や実装科学(Implementation Science)です。エビデンスから日常診療につなげる具体的な施策、たとえば、クリニカルイナーシャの改善や患者さんとの血圧目標の共有、服薬アドヒアランスの向上などに落とし込み、患者さんの血圧をきちんと下げるとともに一人ひとりの行動を変えるというものです。行動変容を促す治療用アプリ、薬剤の組み合わせや新規の降圧薬、腎デナベーションなど、あの手この手でまずは早朝の血圧を下げていくことが重要です。キーワードは個別最適化療法高血圧の新薬や治療法の登場のほか、薬剤同士の組み合わせも活発に検討されていて、本当に面白い時代になってきたと思います。最近では、患者さんの環境を変えるという概念もあります。季節や大気汚染などの環境が患者さんの血圧や循環器に影響を与えることがわかっているため、周辺の環境を整えて血圧のピークを下げるよう試みます。薬剤だけでなく、行動や環境も変えて、患者さんのベストな状況にもっていってあげるという時代になっています。それらの指標は早朝の血圧と夜間の血圧と考えます。今後の高血圧治療は、個別最適化療法というのがキーワードでしょう。

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第237回 「新たな地域医療構想」の議論本格化、どんどん増える“協議”する項目、元々機能していなかった地域医療構想調整会議のさらなる形骸化が心配

四病協が新たな地域医療構想における「医療機関機能」のイメージ案に再考求めるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。野球シーズンも終わってしまいました。米国のMLBは、大谷 翔平選手が所属するロサンゼルス・ドジャースが4年ぶりのワールドシリーズ優勝を決めました。前の優勝は4年前、2020年です。このときはコロナ禍の真っ只中、レギュラーシーズンの試合数はわずか60試合で、ワールドシリーズも両チーム(相手はタンパベイ・レイズ)の本拠地でもないテキサス州のグローブライフ・フィールドで行われました。しかも、試合のとき以外は選手全員がホテルに缶詰めとなって全試合を戦うバブル方式(まとまった泡の中で開催する、という意味)でした。さらに、ジャスティン・ターナー選手が新型コロナウイルス陽性なのに出場して物議を醸すなど、優勝にちょっとしたケチも付きました。たった4年前ですが、コロナ禍というのはいろんなことが異常だったなと改めて思います。そのドジャース、今年は年間162試合をフルに戦い、ポストシーズンでさらに16試合、最後は宿敵ニューヨーク・ヤンキースを破っての優勝(しかもパレード付き)ということで、文句のつけようがない正真正銘の世界一です。選手にとってもファンにとっても喜びはひとしおでしょう。それにしても、ワールドシリーズ第5戦の5回表、ヤンキースのアーロン・ジャッジ選手、アンソニー・ボルピー選手、ゲリット・コール投手が連続して守備のミスを連発、5点差を逆転され自滅していったのには驚きました。それも高校生でもしないような単純ミスばかりです。王者ヤンキースの選手も普通の人間で、大舞台では緊張したり、うっかりしたりするということですね。いやはや、野球は面白いです。さて、今回は厚生労働省の「新たな地域医療構想等に関する検討会」で議論されている「医療機関機能」のイメージ案に対して、四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会で構成)が再考を求めたことについて書いてみたいと思います。四病協はいったい何が不満だったのでしょうか。入院医療だけでなく、外来・在宅医療、介護との連携等を含む医療提供体制全体の課題解決を図る「新たな地域医療構想」厚生労働省の「新たな地域医療構想等に関する検討会」は、2025年を目標年とする現在の地域医療構想の「次」について検討を進める会です。2040年を目処に、それまでにどのような医療提供の姿を作っていくのかが、多面的に議論されています。2024年3月29日に第1回が開かれて以降、10月17日までに10回を数えました。8月26日に開かれた第7回では、厚労省が“中間取りまとめ”として「新たな地域医療構想を通じて目指すべき医療について」と題する資料を提示、次のような基本的な考え方が示され、委員の了承も得て本格的な議論に入りました。85歳以上の高齢者の増加や人口減少がさらに進む2040年以降においても、全ての地域・全ての世代の患者が、適切な医療・介護を受け、必要に応じて入院し、日常生活に戻ることができ、同時に、医療従事者も持続可能な働き方を確保できる医療提供体制を実現する必要がある。このため、入院医療だけでなく、外来医療・在宅医療、介護との連携等を含め、地域における長期的に共有すべき医療提供体制のあるべき姿・目標として、地域医療構想を位置づける。人口や医療需要の変化に柔軟に対応できるよう、二次医療圏を基本とする構想区域や調整会議のあり方等を見直した上で、医療・介護関係者、都道府県、市区町村等が連携し、限りある医療資源を最適化・効率化しながら、「治す医療」を担う医療機関と「治し、支える医療」を担う医療機関の役割分担を明確化し、「地域完結型」の医療・介護提供体制を構築する。端的に言えば、今の地域医療構想が、病床の機能分化・連携のみに重点を置いていたのに対し、次の地域医療構想は、入院医療だけでなく、外来・在宅医療、介護との連携等を含む、医療提供体制全体の課題解決を図るため大幅にバージョンアップを図る、ということです。四病協での指摘はちょっと神経質過ぎる気もさて、四病院団体協議会は、厚労省が示した構想区域で求められる「医療機関機能のイメージ案」が誤解を生みかねないなどとして、11月にも書き換えを求める意見を出す方針を決めました。これは、四病協が10月23日に開いた記者会見で、日本病院会の相澤 孝夫会長が明らかにしたものです。「医療機関機能のイメージ案」とは、9月30日と10月17日に開かれた「新たな地域医療構想等に関する検討会」で厚労省が示したものです。下図のように、医療機関に報告を求める機能の類型について、(1)高齢者救急の受け皿となり地域への復帰を目指す機能、(2)在宅医療を提供し、地域の生活を支える機能、(3)救急医療等の急性期の医療を広く提供する機能、の3項目と「その他地域を支える機能」を提示しています。新たな地域医療構想等に関する検討会(令和6年10月17日)提出資料より10月23日付のキャリアブレインマネジメントなどの報道によれば、四病協では、(1)の病院は高齢者の救急医療のみに対応すればよいのか、という指摘があったほか、(3)の病院は3次救急医療だけを提供すればよいのか、といった意見が出て、「誤解を生む」との声が上がったとのことです。相澤氏は記者会見で、「イメージ案を書き直してもらうようにしたらどうかということで、四病協としての意見をまとめて厚労省に提出していく」と述べたとのことです。確かに、この図をぼーっと眺めると、「高齢者救急の受け皿」と「救急医療等の急性期の医療」は別の医療機関が担うように見えるかもしれません。ただ、「医療機関」と書かれているのではなく「医療機関機能」と、「機能」という言葉が付いています。四病協の指摘はちょっと神経質過ぎる気もします。とは言え、適当に書かれたポンチ絵が一人歩きしてしまうこともよくあります。まだ何も決まっていないので、誤解を生まない表現に変えておくことは大切かもしれません。地域医療構想調整会議も見直さないと次の地域医療構想も“絵に描いた餅”で終わりかねない私自身がこの「新たな地域医療構想」で気になるのは、検討すべき(あるいは協議すべき)項目が多岐に渡り、多過ぎる点です。病床の機能分化・連携推進だけが目的だった今の地域医療構想ですら、地域医療構想調整会議(いわゆる協議の場)の多くはほとんど機能しなかったと言われています。結果、多くの構想区域で病床の機能分化は進まず、急性期病床は思うようには減らず、回復期病床が足りない状況を招いたわけです。地域医療構想調整会議という組織には、現状、大きな強制力はありません。ダラダラ協議をして、何も決めなくても罰則もありません。唯一、地域医療構想調整会議での協議が整わないときに、都道府県知事は公的医療機関には「不足する医療機能を提供することを指示」でき、民間医療機関には「不足する医療機能を提供することを要請」できるくらいです。都道府県知事の医療機関に対する「要請」はほとんど意味がなく、実質機能しないことはコロナ禍で実証済みです。「新たな地域医療構想」に向けて、地域医療構想調整会議の位置付けや強制力、権限、さらには都道府県知事の権限も見直さないと、「地域医療構想」はまた“絵に描いた餅”で終わりかねません。これからの「検討会」の議論の行方に注目したいと思います。

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骨髄腫研究の最前線:新たな治療法開発への挑戦と期待/日本血液学会

 多発性骨髄腫(MM)は形質細胞の単クローン性増殖を特徴とする進行性かつ難治性の造血器腫瘍であるため、現時点では治癒困難とされる。しかし近年、新たな治療戦略によって長期生存が可能になりつつある。 2024年10月11~13日に開催された第86回日本血液学会学術集会では、『新たなアプローチが切り拓く骨髄腫の病態解析』と題したシンポジウムが行われた。座長の1人である黒田 純也氏(京都府立医科大学大学院医学研究科 血液内科学)は、「多発性骨髄腫の病因・病態のさらなる解明は、新規治療法の開発や個別化医療の推進につながると期待される。そこで、本シンポジウムでは4名の先生方に、最新研究に基づく知見や将来展望についてご講演いただきたい」とあいさつした。多発性骨髄腫の診断・治療における循環腫瘍細胞の役割と展望 MMの前がん病態であり、治療の対象とならないくすぶり型骨髄腫(SMM)患者を対象としたBruno Paiva氏(スペイン・ナバラ大学)らの検討から、治療対象となる症候性MMへの進展リスクを予測するうえで、末梢血中の循環腫瘍細胞(CTC)は骨髄形質細胞(BMPC)の代替となりうることが示唆されている。 また、SMM患者の無増悪期間にCTCの挙動が影響することも確認されたため、Paiva氏は「こうした低侵襲な検査による評価は頻回のリスク再評価を可能にし、予想能を向上させる可能性がある。さらに、わずかなCTCで評価可能な手法も開発されている状況を踏まえると、無症候段階にある患者での有用性が期待される」とした。 一方、新規診断(ND)MM患者におけるCTCの予後的価値に関しては、Paiva氏らの検討によりCTCの割合が高いほど無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)が有意に短縮し、これは標準リスク群、高リスク群に関係なく同様とされたことから、「CTCはNDMM患者における最も重要な予後因子の1つ」と報告している。 そして、「CTCは移植の適応やR-ISS(改訂国際病期分類)と共に、NDMM患者におけるPFSとOSの独立した予測因子であり、CTC不検出であれば完全寛解や骨髄中の微小残存病変(MRD)はPFSとOSに影響しないことを確認している」と付け加えた。 さらにPaiva氏らは、末梢血中の残存病変の予後的価値について検討する中で、CTCを検出する新たなフローサイトメトリー法“BloodFlow”と、免疫グロブリン・サブクラスを検出する質量分析法“QIP-MS”が予後予測能を補完的に向上させることを示し、「血液検査のみで骨髄検査と同等の情報が得られる」と述べた。 「MMの診断・治療には、骨髄検査と共に遺伝子検査やCTCなどを組み合わせたリスク層別化が必要である。また、治療過程では初期には骨髄検査が重要だが、維持期や観察期間中は画像検査も考慮しつつ、末梢血検査で代用できる可能性がある」と結論した。新たな解析技術による多発性骨髄腫の理解 MMの理解にはゲノミクス、トランスクリプトミクス、プロテオミクスなどの観点から腫瘍細胞の特性を捉える必要がある。また、骨髄中の腫瘍細胞の局在と他の細胞との関係性や、どのようなタイミングで臨床的に懸念される病態に至るかを解明することが重要とされる。しかし、「MMは細胞遺伝学的・分子生物学的に多様で不均一なため、従来の解析技術では骨髄腫細胞の詳細を明確にすることは難しい」と、Michael Slade氏(米国・セントルイス・ワシントン大学)は指摘する。 こうした中、Slade氏らのグループはシングルセル解析による新たな腫瘍関連マーカーの特定を試みている。これによると、MM患者41例の骨髄穿刺液53検体を用いたシングルセルRNAシーケンスにより、既知のBCMAのほか、FCRL5やSLAMF7を含む複数の治療標的候補となるタンパク質が特定された。また、これらタンパク質をコードする遺伝子は高い相関もしくは相互に排他的であり、バルクプロテオミクス/RNAシーケンスによる検証で、これらの治療標的候補としての妥当性が確認された。 なお、無症候性から症候性MMへの進行は腫瘍のみならず、その周囲の微小環境の変化が関与するため、治療においてはその影響を考慮すべきであることが認識されつつある。そこでSlade氏らのグループは、腫瘍免疫微小環境の構成をさらに詳しく理解するため、NDMM患者の治療前および治療後に採取した100万個以上のCD138陰性骨髄穿刺液検体をシングルセル解析により評価し、微小環境がMMの進行に関与することや、高リスクの細胞遺伝学的異常を有する患者では治療前から細胞傷害性T細胞や炎症性CD14陽性単球が豊富に存在するといった特有の免疫環境を認めることを明らかにした。 また近年、細胞の空間情報を維持しつつタンパク質・遺伝子の発現およびシグナル伝達を網羅的に評価する“空間マルチオミクス”技術が登場し、多数のプラットフォームが開発されている。たとえば、ドイツの研究グループは、難治性MM患者11例の皮膚や筋肉などの髄外病変を空間トランスクリプトミクスで解析し、細胞遺伝学的異常が空間的に不均一でないことを明らかにした。Slade氏は、「髄外病変は検体として扱いやすいが、骨髄自体の分析にはいくつかの課題がある。われわれはその克服に向け取り組んでいる」とし、「シングルセル解析と空間マルチオミクスの組み合わせがMMの生物学的理解をより深め、新しい発見をもたらすだろう。まだ発展途上だが、これらによる知見がMMの予防や治療法の開発につながるため、今後の期待は大きい」と結んだ。多発性骨髄腫の病態に関与する新たなエピゲノム制御機構の特定 細胞の増殖、分化、アポトーシスの転写制御因子であるMYCはMMをはじめ、多くのがん種で重要な役割を果たしている。そのため、MYCの転写共役因子の特定ならびに詳細なメカニズムの解明は、新規治療法の開発に不可欠と考えられる。 こうした中、転写活性化に関わるH3K4のヒストン脱メチル化酵素KDM5ファミリーは、MYC依存的な細胞増殖メカニズムの重要な制御因子であることが示されている。そして、KDM5ファミリーの中でもとくにKDM5Aは、H3K4メチル化サイクルを制御することでMYC標的遺伝子の転写活性化をサポートするため、MMをはじめとするがん種に対する有望な治療標的と示唆されている。 一方、がん細胞はその発生過程において、前駆細胞に組み込まれた増殖と生存のメカニズムに深く依存している。この“Lineage dependency”と呼ばれる概念はさまざまながん種において認識されているため、正常発達過程に関与する系統関連がん遺伝子を標的とすることは合理的と考えられる。 なかでもIL-6は、MMの発症や進行に重要な因子であることから、これに焦点を当てた系統関連がん遺伝子の特定が行われている。これらの研究に加え、現在、大口 裕人氏(熊本大学 生命資源研究・支援センター)らはIL-6/JAK/STAT3経路におけるMM細胞の増殖と生存を促進するB細胞系転写調節因子の同定を進めている。 「われわれの試みは、MMの病態には異なる2つのメカニズムが関与し、その両者にエピゲノム制御異常が深く関わっていることを支持するものである。このような新たなメカニズムの解明が、本疾患に対する新規治療法の開発につながる」と、大口氏は述べた。多発性骨髄腫の新規治療戦略の開発に向けた骨髄腫モデルマウスの解析 ヒストン脱メチル化酵素のUTX(KDM6A)はエピゲノム制御に関わる遺伝子であり、その変異や欠損を伴うMM患者の予後は不良なため、UTXはMMにおける腫瘍抑制因子とされる。また、RAS/RAF/MEK/ERKカスケードはNDMM患者において最も影響を受ける経路とされ、BRAF遺伝子の中でも活性型BrafV600E変異はとくに重要と考えられている。 こうした背景に基づき、三村 尚也氏(千葉大学医学部附属病院 輸血・細胞療法部)らはUtx欠損かつ活性型BrafV600E変異を有する新たなコンパウンドマウスを作製し、MMの病態解明を試みている。 まず、エピジェネティックな側面の検討から、Utx欠損と活性型BrafV600E変異は疾患の進行を相乗的に加速させ、生存期間の短縮を招くとともに、形質細胞新生物やB細胞リンパ腫、リンパ増殖性疾患といった成熟B細胞腫瘍を誘発した。なお、UTXの腫瘍抑制機能は脱メチル化酵素活性でなく、cIDR(天然変性領域のコアドメイン)が主にその機能を担っていた。さらに、Mycや細胞周期、リボソーム関連遺伝子が腫瘍細胞に多く含まれていることや、クロマチン構造の変化は発症前から始まり、長い時間をかけて徐々に転写が変化してMM発症に至ることが示唆された。 一方、PD-1やTim-3などの共抑制性受容体は疲弊したT細胞に発現し、MM患者ではCD8陽性・PD-1陽性・Tim-3陽性の疲弊T細胞が増加している。 そこで三村氏らは、抗腫瘍免疫応答に関する検討を行い、PD-1陽性・Tim-3陽性の疲弊T細胞は細胞傷害活性が強いものの、アポトーシスを誘導するために寿命が短く、PD-1陽性・Tim-3陰性の疲弊T細胞は抗腫瘍反応の維持に重要な役割を果たしていることを明らかにした。さらに、T細胞を疲弊させる転写因子のToxおよびNr4a2発現がリンパ節や脾臓で上昇していることを確認し、「T細胞の過剰な疲弊を防ぐことが、抗腫瘍免疫の活性・維持につながる」とした。 そして、「本モデルマウスはエピゲノム制御異常と免疫応答の役割を理解する有用なツールである。現在、MMの新規治療戦略について、小胞体ストレス応答、シグナル伝達、エピゲノム修飾、免疫応答に着目した研究を進めており、これらの展開を通してMMの根治を目指す」と結んだ。

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TN乳がんに対する初のADCサシツズマブ ゴビテカン、有効性と注意すべき有害事象/ギリアド

 2024年9月24日、全身療法歴のある手術不能または再発のホルモン受容体陰性/HER2陰性(トリプルネガティブ)乳がん(TNBC)の治療薬として、TROP-2を標的とする抗体薬物複合体(ADC)サシツズマブ ゴビテカン(商品名:トロデルビ)が本邦で承認された。10月29日にギリアド・サイエンシズ主催のメディアセミナーが開催され、岩田 広治氏(名古屋市立大学大学院医学研究科臨床研究戦略部)が「トリプルネガティブ乳がんに新薬の登場」と題した講演を行った。ESMOガイドラインでは転移TNBCの2次治療として位置付け 欧米では同患者に対するサシツズマブ ゴビテカンは約3年前に承認・使用されており、2021年のESMO Clinical Practice Guideline1)ではPD-L1陽性患者に対する免疫療法、gBRCA陽性患者に対するPARP阻害薬、PD-L1およびgBRCA陰性患者に対する化学療法などの次治療として位置付けられている。 乳がん領域で承認されたADCとしてはトラスツズマブ エムタンシン(商品名:カドサイラ)、トラスツズマブ デルクステカン(商品名:エンハーツ)に続き3剤目となるが標的となる抗体が異なり、TNBCに対しては初めて承認されたADCとなる。岩田氏は、「新しい作用機序の薬剤が使えるようになることは朗報。われわれはこの新しい武器を有効に使っていかなければならない」と話した。ASCENT試験とASCENT-J02試験のポイント 国際第III相ASCENT試験(日本不参加)では、2レジメン以上の化学療法歴のある(術前化学療法後12ヵ月以内に再発した場合は1レジメンで参加可能)転移TNBC患者(529例)を対象として、サシツズマブ ゴビテカンと主治医選択による化学療法の有効性が比較された。PD-L1陽性で免疫チェックポイント阻害薬治療歴のある患者が26~29%、gBRCA陽性でPARP阻害薬治療歴のある患者が7~8%含まれており、再発診断から登録までの中央値は約15ヵ月であった。 最終解析の結果、無増悪生存期間(PFS)中央値はサシツズマブ ゴビテカン群4.8ヵ月vs.化学療法群1.7ヵ月(ハザード比[HR]:0.413、95%信頼区間[CI]:0.33~0.517)、全生存期間(OS)中央値は11.8ヵ月vs.6.9ヵ月(HR:0.514、95%CI:0.422~0.625)となり、サシツズマブ ゴビテカン群における改善が示されている2)。奏効率(ORR)は35% vs.5%であり、岩田氏はこの結果について「2レジメン以上の治療歴のある患者さんに対し、大きな治療効果といえる」と話した。 日本で実施された第II相ASCENT-J02試験においても、サシツズマブ ゴビテカン投与患者(36例)におけるPFS中央値は5.6ヵ月、OS中央値はNR、ORRは25%で、ASCENT試験で報告された有効性との一貫性が示されている。注意を払うべき有害事象と今後の展望 岩田氏は、有害事象の中でとくに注意すべきものとして好中球減少症、下痢や悪心などの消化器症状、脱毛を挙げた。Grade3以上の好中球減少症はASCENT試験で34%、ASCENT-J02試験で58%、下痢はそれぞれ10%、8.3%に認められた。欧米では好中球減少症への対策として60~70%で予防的G-CSF投与が行われているといい、岩田氏は好中球減少症のマネジメントが課題となると指摘した。 現在、転移・再発TNBCの1次治療におけるサシツズマブ ゴビテカンの有効性を評価する臨床試験がすでに進行中であるほか、同様の機序の薬剤の開発も進んでいる。岩田氏は今後はそれらの薬剤との組み合わせや使い分けが重要になってくるとして、講演を締めくくった。

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NSCLCへのニボルマブ+イピリムマブ±化学療法、実臨床の有効性・安全性(LIGHT-NING第4回中間解析)/日本肺学会

 国際共同第III相試験CheckMate 9LA試験、CheckMate 227試験の結果に基づき、進行・再発非小細胞肺がん(NSCLC)の1次治療として、ニボルマブ+イピリムマブ±化学療法が保険適用となり、実臨床でも使用されている。2試験の有効性の成績は、少数例ではあるものの日本人集団が全体集団よりも良好な傾向にあった一方、Grade3以上の治療関連有害事象(TRAE)の発現割合は、日本人集団が全体集団よりも高い傾向にあったことが報告されている。そこで、ニボルマブ+イピリムマブ+化学療法(CheckMate 9LAレジメン)、ニボルマブ+イピリムマブ(CheckMate 227レジメン)を使用した患者のリアルワールドデータを収集するLIGHT-NING試験が実施された。本試験の第4回中間解析の結果について、山口 哲平氏(愛知県がんセンター呼吸器内科部)が第65回日本肺学会学術集会で発表した。試験デザイン:後ろ向き観察研究対象:未治療の進行・再発NSCLC患者544例(有効性解析対象515例)試験群1:ニボルマブ(360mgを3週ごと)+イピリムマブ(1mg/kgを6週ごと)+化学療法(3週ごと、2サイクル)(CM 9LA群:318例)試験群2:ニボルマブ(240mgを隔週または360mgを3週ごと)+イピリムマブ(1mg/kgを6週ごと)(CM 227群:226例)評価項目:[主要評価項目]治療状況、全生存期間(OS)、Grade3以上の免疫関連有害事象(irAE)、治療中止に至ったTRAEなど[副次評価項目]irAEの発現時期とirAEに対する治療内容および症状改善までの期間、irAEの有効性への影響など 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値は15.2ヵ月であった。・対象患者の年齢中央値は70歳、女性が18.8%、PS 0~1/2/3以上が89.1%/5.9%/1.3%、扁平上皮がんが27.6%、PD-L1発現状況が1%未満/1~49%/50%以上/不明は46.3%/34.9%/9.4%/9.4%であった。・治療別にみた年齢中央値はCM 9LA群が67歳、CM 227群が73歳、75歳以上の割合はそれぞれ12.3%、42.0%であり、高齢の患者では化学療法を含まないニボルマブ+イピリムマブが多く選択される傾向にあった。また、StageIV(一部切除不能StageIIIを含む)/再発の割合は、CM 9LA群が78.9%/21.1%、CM 227群が69.0%/31.0%であり、CM227群で再発の割合が高く、遠隔転移の割合が低かった。・解析時点において、イピリムマブのみを中止した患者の割合は2.6%、ニボルマブとイピリムマブの両剤を中止した患者の割合は91.9%で、イピリムマブ中止の内訳は病勢進行が43.2%、有害事象が42.8%であった。・OS中央値は、CM 9LA群が21.7ヵ月、CM 227群が18.8ヵ月であり、1年OS率はそれぞれ67.4%、61.8%、2年OS率はそれぞれ47.3%、44.0%であった。いずれの群でもPD-L1の発現状況による明らかな差はみられなかった。・PFS中央値は、CM 9LA群が6.8ヵ月、CM 227群が6.3ヵ月であり、1年PFS率はそれぞれ32.9%、36.1%、2年PFS率はそれぞれ21.0%、23.2%であった。いずれの群でもPD-L1の発現状況による明らかな差はみられなかった。・進行・再発別にみたOSの解析では、CM 9LA群におけるOS中央値はStageIV集団が17.6ヵ月、再発集団が29.2ヵ月であり、再発集団のほうが良好な傾向にあった(ハザード比[HR]:0.50、95%信頼区間[CI]:0.39~0.89)。同様に、CM 227群ではそれぞれ13.9ヵ月、27.8ヵ月であり、再発集団のほうが良好な傾向にあった(同:0.65、0.39~0.96)。・進行・再発別にみたPFSの解析でも、CM 9LA群におけるPFS中央値はStageIV集団が5.6ヵ月、再発集団が11.1ヵ月であり、再発集団のほうが良好な傾向にあった(HR:0.70、95%CI:0.49~0.98)。同様に、CM 227群ではそれぞれ5.3ヵ月、10.0ヵ月であり、再発集団のほうが良好な傾向にあった(同:0.71、0.50~0.99)。・医師判定に基づく奏効率は、40.1%(CM 9LA群:41.9%、CM 227群:37.4%)であった。・Grade3/4のTRAEは43.9%(CM 9LA群:53.5%、CM 227群:30.5%)に発現した。・治療関連死は3.7%(CM 9LA群:4.1%[13例]、CM 227群:3.1%[7例])に認められた。 本結果について、山口氏は「有効性に関して、CM 9LA群とCM 227群は同様の結果であり、いずれの群もPD-L1発現状況によっても治療効果に大きな差はみられなかったが、再発の集団で良好な傾向にあった。安全性に関する新たなシグナルは観察されず、安全性プロファイルはCheckMate 9LA、CheckMate 227試験と同様であった」とまとめた。

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高リスク網膜芽細胞腫の術後CEV療法、3サイクルvs.6サイクル/JAMA

 片眼性の病理学的高リスク網膜芽細胞腫の術後補助療法において、6サイクルの化学療法(CEV:カルボプラチン+エトポシド+ビンクリスチン)に対して3サイクルのCEV療法は5年無病生存率が非劣性であり、6サイクルのほうが有害事象の頻度が高く、QOLスコアの低下が大きいことが、中国・中山大学のHuijing Ye氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年10月21日号に掲載された。中国の非盲検無作為化非劣性試験 本研究は、病理学的高リスク網膜芽細胞腫患者に対する術後CEV療法の有効性に関して、6サイクルに対する3サイクルの非劣性の検証を目的とする非盲検無作為化試験であり、2013年8月~2024年3月に中国の2つの主要な眼治療施設で患者を登録した(Sun Yat-Sen University Clinical Research 5010 Programなどの助成を受けた)。 高リスクの病理学的特徴(高度な脈絡膜浸潤、視神経後方への進展、強膜浸潤)を有する片眼性の網膜芽細胞腫に対する摘出術を受けた患者187例(年齢中央値25ヵ月[四分位範囲[IQR]:20.0~37.0]、女児83例[44.4%])を対象とした。これらの患児を、術後CEV療法を3サイクル行う群(94例)またはこれを6サイクル行う群(93例)に無作為に割り付けた。 主要評価項目は5年無病生存率とし、非劣性マージンを12%に設定した。無病生存は、無作為化から、局所再発、領域再燃、遠隔転移、対側眼の網膜芽細胞腫、2次原発がん、全死因死亡のいずれかが最初に発生するまでの期間と定義した。5年全生存率には差がない 全例が試験を完了し、追跡期間中央値は79.0ヵ月(IQR:65.5~102.5)であった。無病生存イベントは19例(3サイクル群9例[9.6%]、6サイクル群10例[10.8%])発生した。局所領域の治療失敗を7例(4例[4.3%]、3例[3.2%])、遠隔転移を15例(7例[7.4%]、8例[8.6%])に認めた。 主要評価項目の推定5年無病生存率は、3サイクル群が90.4%、6サイクル群は89.2%(群間差1.2%、95%信頼区間[CI]:-7.5~9.8)であり、非劣性基準を満たした(非劣性のp=0.003)。ハザード比(HR)は0.89(95%CI:0.36~2.20)だった(p=0.81)。 5年全生存率(3サイクル群91.5% vs.6サイクル群89.3%、HR:0.78[95%CI:0.31~1.98]、p=0.61)は両群間に差はなかった。2歳以上の111例における健康関連QOLの評価では、術後6ヵ月時の身体機能、精神的機能、社会生活機能の低下が、3サイクル群で少ない傾向がみられた。 また、総費用、直接費用、間接費用は、いずれも6サイクル群に比べ3サイクル群で有意に少なかった(それぞれ42.4%、41.2%、43.0%低い、すべてp<0.001)。Grade1/2の有害事象が有意に少ない 有害事象は、3サイクル群で93例中75例(80.6%)に282件、6サイクル群で93例中89例(95.7%)に681件発現した。Grade1/2の有害事象は3サイクル群で有意に少なかった(78.5% vs.95.7%、p<0.001)。治療関連死は両群とも認めなかった。 著者は、「3サイクルのCEV療法は、片眼性の病理学的高リスク網膜芽細胞腫の術後補助化学療法として6サイクルCEVに代わる有効な治療法となる可能性がある」「3サイクルCEVは、治療期間の短縮に伴うQOLの向上や経済的負担の軽減に寄与すると考えられる」「本試験は非盲検デザインであり、非劣性マージンは12%と大きめに設定されているため、慎重な解釈が求められる」としている。

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若年透析患者の腎移植アクセス、施設スタッフ数と関連/JAMA

 米国では、透析施設によって患者対スタッフ比(看護師またはソーシャルワーカー1人当たりの患者数)が大きく異なり、この施設間の差が高齢患者のアウトカムに影響を及ぼすことが知られている。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のAlexandra C. Bicki氏らは今回、青少年および若年成人の透析患者について調査し、患者対スタッフ比が低い施設と比較して高い施設は腎移植待機リスト登録率および腎移植率が低く、とくに22歳未満の患者で顕著であることを明らかにした。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2024年10月23日号で報告された。米国の12~30歳の患者の後ろ向きコホート研究 研究グループは、患者対スタッフ比が青少年および若年成人の透析患者における腎移植へのアクセスと関連するかの検証を目的に、後ろ向きコホート研究を行った(American Kidney Fund Clinical Scientist in Nephrology fellowshipなどの助成を受けた)。 解析には、米国の全国的な末期腎臓病のレジストリであるUS Renal Data Systemのデータを用いた。対象は、2005年1月1日~2019年12月31日に全米8,490施設で透析を開始した12~30歳の患者であった。 透析施設を、患者対看護師比および患者対ソーシャルワーカー比の四分位数で4群に分類した。Fine-Grayモデルを用い、死亡の競合リスクを考慮したうえで、四分位別の腎移植待機者登録および腎移植の発生率を評価した。スタッフの担当患者数が多いと腎移植率が低下 5万4,141例(透析開始時の年齢中央値25歳[四分位範囲[IQR]:21~28]、男性54.4%)を解析の対象とした。74.5%が透析開始時に22歳以上で、84.7%が血液透析を受けていた。患者対スタッフ比中央値は、看護師が14.4(IQR:10.3~18.9)、ソーシャルワーカーは91.0(65.2~115.0)だった。追跡期間中央値2.6年の時点で、39.9%が腎移植を受け、17.9%が移植前に死亡した。 患者対看護師比が第1四分位(<10.3)群の施設に比べ、第4四分位(>18.9)群の施設では、腎移植待機者登録率には差がなかった(サブハザード比[SHR]:0.97、95%信頼区間[CI]:0.93~1.01)が、腎移植率は低かった(0.86、0.82~0.91)。 また、患者対ソーシャルワーカー比が第1四分位(<65.2)群に比べ、第4四分位(>114.7)群では、腎移植待機者登録率が低く(SHR:0.95、95%CI:0.91~0.99)、腎移植率(0.85、0.81~0.89)も低かった。透析施設のスタッフ配置の改善が重要 腎移植率については、2つのスタッフ比はともに、透析開始時の年齢と交互作用がみられ、22歳以上で透析を開始した患者(患者対看護師比の第1四分位群対第4四分位群のSHR:1.00[95%CI:0.94~1.06]、患者対ソーシャルワーカー比の同:0.96[0.91~1.02])と比較して、22歳未満で開始した患者(0.71[0.65~0.78]、0.74[0.68~0.80])でより顕著に低かった。 著者は、「透析施設のスタッフの比率が若年患者の腎移植アクセスに重要な影響を及ぼし、看護師やソーシャルワーカーによる支援の不足が、若年患者が移植の評価を受ける際の支障となる可能性が示唆された」「若年透析患者が、より早期に腎移植を受けられるようにするためには、透析施設におけるスタッフ配置の改善が重要と考えられる」としている。

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血圧測定、腕の位置により過大評価も

 自宅で血圧を測定する際には、腕の位置に注意する必要があるようだ。米ジョンズ・ホプキンス大学医学部小児科臨床研究副委員長のTammy Brady氏らによる新たな研究で、血圧測定の際には、腕の位置によって測定値が過大評価され、高血圧の誤診につながる可能性のあることが明らかになった。この研究結果は、「JAMA Internal Medicine」に10月7日掲載された。 米国心臓協会(AHA)によると、米国では成人の半数近くが高血圧であるという。高血圧を治療せずに放置すると、脳卒中、心筋梗塞やその他の重篤な心疾患のリスクが高まる。AHAのガイドラインでは、血圧は、適切なサイズのカフを用いて、背もたれのある椅子などで背中を支え、足は組まずに床につけた状態で、適切な腕の位置で測定することを求めている。「適切な腕の位置」とは、血圧計のカフが心臓の高さになるようにして、腕はテーブルなどの上に置くことだと説明している。しかしBrady氏らは、診察の際に、患者が腕をほとんど支えられていない状態で血圧を測定されることが多いことを指摘する。 このことを踏まえてBrady氏らは今回の研究で、血圧測定中の腕の位置(机の上に乗せた状態、膝の上に置いた状態、脇にぶら下げた状態)が測定値に与える影響を調査した。対象者の18〜80歳の成人133人(平均年齢57歳、女性53%)は、測定時の腕の位置の順序が異なる6つの群にランダムに割り付けられた。まず、全員が膀胱を空にし、2分間の歩行を行い、5分間休憩した。その後、上述の3種類の腕の位置で、上腕に合ったサイズのカフを装着して、30秒間隔で3回の測定を1セットとする血圧測定を3セット受けた。セットとセットの間には2分間の歩行と5分間の休憩をはさんだ。また、腕を机に乗せた状態で4セット目の測定も受けた。 その結果、腕を膝の上に置いた状態で血圧を測定すると、机に乗せた状態での測定に比べて収縮期血圧の平均値が3.9mmHg、拡張期血圧の平均値が4.0mmHg高くなることが明らかになった。また、腕を支えずに脇にぶら下げた状態で測定した場合には、机に乗せた状態での測定に比べて収縮期血圧の平均値は6.5mmHg、拡張期血圧の平均値は4.4mmHg高くなっていた。 論文の筆頭著者であるジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院のHairong Liu氏は、「常に腕を支えずに血圧を測っていると、収縮期血圧の値が実際よりも6.5mmHg高くなる可能性がある。これはつまり、123mmHgであるはずの収縮期血圧が130mmHgに、あるいは133mmHgが140mmHgになる可能性があるということだ。収縮期血圧140mmHgはステージ2の高血圧に分類される値だ」と話す。 ただし研究グループは、これらの結果は自動血圧計による測定に限定されるもので、他の機器による測定に当てはまらない可能性があるとしている。それでもBrady氏は、「この研究結果は、臨床医がベストプラクティス・ガイドラインにもっと注意を払う必要があることを示唆している」と、ジョンズ・ホプキンス大学のニュースリリースの中で述べている。

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ビタミンD値が低いとサルコペニアのリスクが高い可能性

 血清ビタミンD値が低い高齢者は骨格質量指数(SMI)が低くて握力が弱く、サルコペニアのリスクが高い可能性のあることが報告された。大阪大学大学院医学系研究科老年・総合内科学の赤坂憲氏らの研究結果であり、詳細は「Geriatrics & Gerontology International」に8月1日掲載された。 サルコペニアは筋肉の量や筋力が低下した状態であり、移動困難や転倒・骨折、さらに寝たきりなどのリスクが高くなる。また日本の高齢者対象研究から、サルコペニア該当者は死亡リスクが男性で2.0倍、女性で2.3倍高いことも報告されている。 サルコペニアの予防・改善方法として現状では、筋肉に適度な負荷のかかる運動、および、タンパク質を中心とする十分な栄養素摂取が推奨されており、治療薬はまだない。一方、骨粗鬆症治療薬として用いられているビタミンD(VD)に、サルコペニアに対する保護的作用もある可能性が近年報告されてきている。ただし、一般人口におけるVDレベルとサルコペニアリスクとの関連は不明点が少なくない。これを背景として赤坂氏らは、東京都と兵庫県の地域住民対象に行われている高齢者長期縦断研究(SONIC研究)のデータを用いて、年齢層別に横断的解析を行った。 SONIC研究参加者のうち、年齢層で分けた際のサンプル数が十分な70歳代(平均年齢75.9±0.9歳、男性54.2%)と、90歳代(92.5±1.6歳、男性37.5%)を解析対象とした。全員が自立して生活していた。 血清25(OH)D(以下、血清VDと省略)の平均は、70歳代では21.6±5.0ng/mLであり、35.8%が欠乏症(20ng/mL未満)だった。90歳代では平均23.4±9.1ng/mLであり、43.8%が欠乏症だった。なお、VDは日光曝露によって皮膚で生成されるため、日照時間の違いを考慮して季節性を検討したところ、70歳代の男性では、冬季測定群に比べて夏季測定群の方が有意に高値だった。 サルコペニアのリスク評価に用いられている、SMI、握力、歩行速度、および、BMIや血清アルブミン、血清クレアチニンと、血清VDとの関連を単回帰分析で検討すると、年齢層にかかわらず、SMIと握力が血清VDと有意に正相関し、その他の因子は関連が見られなかった。それぞれの相関係数(r)は、以下の通り。70歳代の血清VDとSMIは0.21、血清VDと握力は0.30(ともにP<0.0001)、90歳代の血清VDとSMIは0.29(P=0.049)、血清VDと握力は0.34(P=0.018)。 続いて、SMIおよび握力を従属変数、性別を含むその他の因子を独立変数とする重回帰分析を施行した。その結果、70歳代のSMIについては、血清VDが有意な正の関連因子として特定された(β=0.066、P=0.013)。一方、70歳代の握力に関しては、血清VDは独立した関連が示されなかった。また90歳代では、SMI、握力ともに血清VDは独立した関連因子でなかった。 著者らは本研究の限界点として、横断的解析であり因果関係は不明なこと、日光曝露時間や栄養素摂取量が測定されていないことなどを挙げた上で、「地域在住の自立した高齢者では、血清VDレベルはSMIや握力と関連しているが、歩行速度とは関連のないことが明らかになった。この結果は90歳代よりも70歳代で明確だった」と総括。また、「さらなる研究が必要だが、血清VDレベルを維持することが骨格筋量の維持に寄与する可能性があるのではないか」と付け加えている。

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