1681.
各学会から見解2024年10月に、日本感染症学会・日本呼吸器学会・日本ワクチン学会の3学会から合同で、「2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解」が発出され1)、「高齢者における重症化・死亡リスクはインフルエンザ以上であり、今冬の流行に備えて、10月から始まった新型コロナワクチンの定期接種を強く推奨」と記載されました。そして、日本小児科学会から「2024/25シーズンの小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方」も発出され2)、「生後6ヵ月~17歳のすべての小児への新型コロナワクチン接種(初回シリーズおよび適切な時期の追加接種)が望ましい。特に、重症化リスクが高い基礎疾患のある児への接種を推奨」という文面になりました。こうした学会の見解は、これまでのエビデンスに裏付けられたものであり、一定の合理性を感じます。「変異ウイルスに効かない説」いまだによく聞く言説として、今年のワクチンはもう新しいKP.3系統に効果がないというものがあります。これは誤解です。確かに、従来のワクチン(起源株の1価ワクチン、BA.4・BA.5を含む2価ワクチン、XBB.1.5の1価ワクチン)やXBB以前の獲得免疫については、現在の主流株であるKP.3にはやや劣る側面があるかもしれません。しかし、現在定期接種で用いられているJN.1の1価ワクチンは、ここよりも下位系統に対して中和抗体の誘導が可能で、現在主流のKP.3系統も含めて発症予防効果があると考えられています3)。この冬に流行するのは、おそらくXEC株というものですが、これはKS.1.1(JN.13.1.1.1)とKP.3.3(JN.1.11.1.3.3)の組み換え体であるため4)、これもJN.1対応の現行ワクチンで効果があると思われます。ちなみに、JN.1対応ワクチンを接種した場合、KP.3株およびXEC株に対する中和抗体価は、JN.1株ほどではないものの有意に向上したという査読前論文があります5)。この冬に流行しそうな株は、現行ワクチンで十分と考えられます。現状、過去のワクチン接種の後、効果がなくなってしまった人がほとんどなので、とくに定期接種対象者についてはどこかで接種を検討する形でよいかと理解しています。高額過ぎて打てない自治体によって対応に差はありますが、ほとんどの子供は定期接種対象者ではありません。そのため、新型コロナワクチンの接種費用はガチでかかります。約1万5,000円です。家族4人で打つと6万円ということになるので、それなら感染予防を心掛けて今年の冬を乗り切ろうというご家庭が多いかもしれません。この費用負担が、新型コロナワクチンの接種を妨げる一因ともいえます。インフルエンザワクチンは接種するものの、コロナワクチンは見送る──そんなご家庭が増えているのが現状です。さらに、レプリコンワクチンに関する誤情報も影響している可能性があります。実際、Meiji Seika ファルマは、こうしたデマに対して訴訟を起こすなど、厳しい対応を行っています。諸外国では無料で接種できる国も多く、日本の現状は「予防医学の理想」からは遠い位置にあります。将来的にインフルエンザとの混合ワクチンが実現する際には、この費用の問題も解決されることが期待されます。参考文献・参考サイト1)日本感染症学会, 日本呼吸器学会, 日本ワクチン学会. 2024年度の新型コロナワクチン定期接種に関する見解(2024年10月17日)2)日本小児科学会. 2024/25シーズンの小児への新型コロナワクチン接種に対する考え方(2024年10月27日)3)厚生労働省. 第2回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会研究開発及び生産・流通部会季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会資料. 資料1「2024/25シーズン向け新型コロナワクチンの抗原組成について」(2024年5月29日)4)Kaku Y, et al. Virological characteristics of the SARS-CoV-2 XEC variant. bioRxiv. 2024 Oct 17. [Preprint]5)Arona P, et al. Impact of JN.1 booster vaccination on neutralisation of SARS-CoV-2 variants KP.3.1.1 and XEC. bioRxiv. 2024 Oct 04. [Preprint]