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第236回 トランプ氏の返り咲きで変わる?アメリカの医療制度の行方

世界が固唾をのんで見守った米大統領選挙は、共和党のドナルド・トランプ氏(78歳)が全米の選挙人過半数の270人以上を獲得することが確実になり、第47代大統領として返り咲くことが決定的となった。アメリカの大統領としては史上最高齢であり、選挙中2度もの暗殺未遂を切り抜け、さらに退任後の大統領返り咲きは建国以来132年ぶりという異例づくしである。ウクライナ紛争を「24時間以内に終結させる」という明白な放言(あえて不謹慎な言い方をすると、もしそれを実現するならばウクライナ・ロシア両国の指導層を入れ替えるために両国の首都に核兵器を使用することくらいしか私には思い浮かばない)をするトランプ氏が、今後アメリカをどのように導くのかは注目に値する。アメリカの医療制度の行方さて、今回の大統領選挙の争点の一つになりそうだったにもかかわらず、実質的にはほとんど争点にならなかったものがある。それは2010年3月に民主党のバラク・オバマ大統領政権下で制定された患者保護及び医療費負担適正化法(Patient Protect and Affordable Care Act)、通称オバマケアである。ご存じのようにアメリカでは日本のような国民皆保険制度ではなく、勤務先を通じたり個人で加入する民間医療保険を基本とし、これを高齢者と障害者向け公的医療保険のメディケアと低所得者向けの政府・州による医療給付制度のメディケイドが補完する制度設計である。この結果としてメディケアやメディケイドのカバー範疇には入らず、なおかつ所得が低いため民間保険に加入できない無保険者が2010年の米・国勢調査局の報告書「Current Population Survey Annual Social and Economic Supplement (CPS ASEC)」によると、人口の16.3%に当たる約4,900万人と報告されていた。また、2009年に当時のハーバード大学教授のエリザベス・ウォーレン氏(現在は民主党所属のマサチューセッツ州選出上院議員)が発表した論文では、医療関連負債(医療費支払いや病気が原因による収入減)が原因の自己破産は、自己破産者の約62%にのぼる。このような現状を打開するために制定されたのがオバマケアだが、これはメディケイドのカバー範囲を広げるとともに、それでも無保険になる人へは州あるいは政府が運営する医療保険取引所(事実上、単なるインターネットでの保険申し込みの場)を通じた保険加入を義務付け、取引所を通じた加入では所得水準により補助金が支給される。このほかにも民間、公的のいずれでも医療保険がカバーする標準範囲を定めたほか、一定規模以上の企業では従業員向けの団体医療保険の提供義務付け、民間保険会社に対する既往歴などでの加入拒否の禁止、保険未加入者に対する罰金なども定められた。日本人の感覚からすると、かなり至れり尽くせりの制度のようにも思えるが、制定当初はアメリカの主要世論調査機関ともいえるピュー・リサーチセンターやギャラップの調査で、反対派が賛成派を上回る状況だった。背景には、政府による市民生活への介入を最小限にしてなるべく民間に任せる、いわゆる「小さな政府」を望む共和党支持者の声や公的カバー範囲拡大に伴う増税や保険会社による保険料引き上げに対する懸念があったとされる。オバマ氏退任後の大統領選に共和党候補として初出馬したトランプ氏は、オバマケアを標的にし、廃止するとまで言い切った。トランプ氏の就任1期目最初の大統領令がオバマケア見直しを目的とするものだったことからも、その熱の入れようがうかがえる。しかし、共和党が提出した代替法案は一部給付範囲の縮小や既往歴に基づく高額保険料の徴収を認めるというマイナーチェンジはあったものの、オバマケアの骨格を残したもの。それすらも下院で共和党の賛成多数で法案は通過しながら、あろうことか上院で共和党穏健派の造反を招き、成立断念に追い込まれた。奇しくもこの時、上院で造反したのは共和党の重鎮で2008年の大統領選でオバマ氏に敗れたジョン・マケイン氏である。ちなみにトランプ氏とマケイン氏は同じ共和党でも犬猿の仲と言われ、ベトナム戦争期に海軍パイロットとして操縦機の撃墜に遭い、拷問などを受けながら北ベトナム領内で5年間の捕虜生活を送ったマケイン氏のことを、トランプ氏は「捕虜になるような人間は好きじゃない」と公の場で揶揄。トランプ氏の1期目在任中の2018年、マケイン氏が上院議員のまま脳腫瘍で亡くなった際は、大統領だったトランプ氏はホワイトハウスに掲げた半旗を短時間で戻して批判を浴びただけでなく、マケイン氏の遺族が意図的に葬儀へ招待をしなかったほどだ。トランプ氏、今はオバマケアに興味なし?さて今回の大統領選で民主党側の候補者が副大統領のカマラ・ハリス氏に交代後、オバマケアが両候補の間で直接話題に上ったのはABCニュース主催で行われた大統領候補討論会である。この時、トランプ氏と討論司会者の間で以下のようなやり取り(要約抜粋)があった。司会者オバマケアに代わるものの計画はありますか? もしあるなら、それが何なのか教えてください。トランプ私がオバマケアを引き継いだのは、民主党がそれを変えようとしなかったからです。彼らは全員一致で投票しませんでした。彼らはそれを変えるために投票しなかったのです。もし彼らが投票していたら、われわれはオバマケアよりもはるかに良い計画を作れたでしょう。しかし、民主党はそれを支持しませんでした。この辺がなんともトランプ氏らしい。前述のように、1期目の時に共和党が示した代替法案が成立しなかったのは同党からの造反があったからだ。この件について重ねて司会者から「イエスかノーで答えてください。あなたにはまだ、オバマケアに代わる計画はないのですか?」と問われて次のように答えている。トランプ私には計画の概念がありますが、私は今、大統領ではありません。しかし、もしわれわれがより良いより安価な何かを思いつけば、私が大統領の時にそれを変更するでしょう。まあ、この発言を聞く限り、1期目に実現しなかった代替法案「American Health Care Act(AHCA)」以上のものはないか、少なくとも本人の頭の中にはまったくプランがないかのどちらかだろうと個人的には推察している。このように感じるのは、実は1期目の時でさえ、トランプ氏はこの問題をマイク・ペンス副大統領にほぼ任せていたと言えなくもないからだ。その意味では2期目のトランプ政権では、この問題を副大統領となるJ・D・バンス氏が担当することになるのかもしれない。もっとも、作家やベンチャーキャピタリストという経歴を有し、一時はトランプ氏と対立関係にありながら、上院議員に立候補後はトランプ氏にすり寄ったポピュリスト的なバンス氏自身もつかみどころがないのが実際だ。今回、同時に実施された上下両院選挙でも共和党は過半数を制し、トランプ氏にとって目の上のたんこぶだったマケイン氏ももうこの世の人ではない以上、政治上はオバマケア廃止の障害はなさそうに見える。しかし、実は最大の障害は世論である。かつては反対派が上回っていたオバマケアに対し、2021年のピュー・リサーチセンターの調査、2023年のギャラップの調査ともに支持が過半数を超えているのだ。さらに非営利団体のカイザーファミリー財団が行っている世論調査「カイザー・ヘルス・トラッキング・ポール」の2024年4月の調査では、オバマケアを指示する人は62%まで達している。こうした風向きの変化に加え、アメリカ国民は現在の物価高にあえいでいる。苦境に置かれた市民の期待が今回のトランプ氏支持の根っこにあるとの指摘は多い。そうした中で苦境にあえぐ人々の実質負担増になる可能性が高いオバマケアの大幅改変は難しいように思える。いずれにせよ、今後の動向は良くも悪くも目が離せないと感じている。

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11月8日 レントゲンの日【今日は何の日?】

【11月8日 レントゲンの日】〔由来〕1895年のこの日、ドイツの物理学者・レントゲンがX線を発見した日にちなみ制定。また、毎年11月2日~8日の1週間を「レントゲン週間」と定めている。関連コンテンツ腹部CT画像の見落としの有無【医療訴訟の争点】事例020 電子画像管理加算での査定【斬らレセプト シーズン3】X線検査でわかる骨粗鬆症【患者説明用スライド】スパイロなしでも胸部X線画像で呼吸機能が予測可能!?乳がん放射線療法の有効性、1980年代以前vs.以降/Lancet

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絵本「ねないこだれだ」【なんでお化けは怖いの?なんで親は子どもにお化けが来るぞと言うの?(お化けの起源)】Part 1

今回のキーワード象徴機能被害念慮心の理論空想上の友達(イマジナリーフレンド)三項関係サイン言語伝承の心理神の起源皆さん、お化けは怖いですか? 小さい子供は怖がりますよね。それにしても、なぜお化けは怖いのでしょうか? そして、なぜ親は小さな子供にお化けが来るぞと脅すのでしょうか?これらの答えを探るために、今回は、絵本「ねないこだれだ」を取り上げます。「シネマセラピー」のスピンオフバージョン、「絵本セラピー」としてお送りします。この絵本を通して、お化けを怖がる心理とその起源を、発達心理学と進化心理学の視点から掘り下げます。これらを踏まえて、より良いお化けの怖がり方を一緒に探ってみましょう。お化けを怖がる心理とは?絵本「ねないこだれだ」は、子供が夜になかなか寝ないでいると、お化けがその子供をさらい、一緒に夜空の闇に消えていくというシンプルかつ恐ろしいストーリーです。まず、お化けを怖がる心理を大きく2つ挙げて、発達心理学の視点から整理してみましょう。(1)姿がよくわからない絵本の表紙を見てのとおり、お化けのフォルムは、いわゆる魂のイメージのようにぼうっとしていて、全体的に白く、足がなくて宙に浮いています。まさに何かが「化け」て出てきているような、得体の知れない存在です。ちなみに、お化けに足がないのは日本独特で、世界的にはお化けに足はあります1)。1つ目の特徴は、姿がよくわからないことです。つまり、本来は見えないものです。とくに、夜はものが見えにくいので、お化けは夜に現れるという設定も納得がいきます。また、夜は眠気から意識レベル(認知機能)が下がって見間違い(錯視)が起きやすいので、同じくお化けは夜に現れるという設定は理に適っています。それでは、本来は見えないものなのに、小さな子供はどうやってお化けを認識するようになるのでしょうか? 言い換えれば、子供はいつからお化けを怖がるようになるのでしょうか?1歳までは、見知らぬ人や大きな音など、その瞬間に目の前で見えたり聞こえたものだけを怖がります。もちろん、一人ぼっちになることへの不安(分離不安)や真っ暗闇であることへの不安(暗闇恐怖)は、もともとあります。しかし、お化けと言われても怖がりません2,3)。まだ目の前にいないものを認識できず、お化けの意味がわからないからです。2歳後半からようやく、目の前にいないものを認識できるようになり、それがお化けと呼ばれることを知ります3)。このように、言葉によって目の前にない(いない)ものを含めて何かを認識する心理機能は、象徴機能と呼ばれています。この機能の始まりは、生後9ヵ月目に親が指を差した方向や視線を向けた方向と同じ方向を見ることです。この時に、自分が見えていなくて相手が意図している何かをイメージするようになります。それは最初、「ママ」「パパ」や「ご飯」「お花」など実際に存在する具体的な人や物であるわけですが、やがて目に見えない抽象的なものにも広がっていきます。その最初が、お化けでしょう。つまり、生まれて最初に想像した目に見えないものはお化けということになります。ちなみに、2歳半という年齢は、目がない顔の絵に目を描き入れることができるようになる時期と一致しています。つまり、ざっくりとした形を言葉と紐付けてイメージすること(概念化)ができるようになり、「ない」ものや「いない」ものも言葉によって認識できるようになる時期であると言えます。なお、象徴機能の詳細については、関連記事1をご覧ください。次のページへ >>

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絵本「ねないこだれだ」【なんでお化けは怖いの?なんで親は子どもにお化けが来るぞと言うの?(お化けの起源)】Part 2

(2)何かされそうであるこの絵本の最後の2ページは、「おばけの せかいへ とんでいけ」「おばけに なって とんでいけ」と語られ、締めくくられます。その1ページ目の絵には、子供がお化けに引っ張られて、宙に浮いており、子供の足はすでにお化けと同じく足がなくなっています。その2ページ目は、夜空に2つのお化けのシルエットが浮かび、すでにその子供は完全にお化けにされてしまったことがほのめかされています。これは正直、大人が見てもギョッとします。2つ目の特徴は、何かされそうであることです。正体がわからないからこその怖さに加えて、親から教えられたり、まさにこのような絵本から知ることで、特殊能力の使い手であるお化けは、想像上の怖いものとして刷り込まれ、実際に子供を怖がらせる存在になるわけです。幼児における恐怖の対象の研究では、お化けという存在は、一人ぼっちでいること(分離不安)や真っ暗闇の中にいること(暗闇恐怖)と並んで最上位に位置します2)。これらの恐怖には、やはり何かされるのではないかという不安(被害念慮)が結びついています。ちなみに、ある3歳児がお化けのふりをして大人たちを怖がらせているうちに、だんだん自分自身が恐くなって泣き出すという報告があります3)。この現象は、4歳以降では起こりません。そのわけは、4歳に、相手には相手の心があるとわかる心理機能(心の理論)が発達し、自分とお化け(相手)の心を分けることができるようになるからです。この心の理論の発達とあいまって、3歳から6歳にかけて、姿がわからなくて何かされそうな存在は、お化けのほかに、幽霊(ゴースト)、化け物(モンスター)、鬼(悪魔)などとより具体的となり、細分化されていきます3)。そして、良いこともしてくれる妖精や天使、さらには万物の精霊(アニミズム)、恩恵と同時に罰も与える神に発展していきます。ちなみに、話しかけてくるなど実際にいるかのような空想上の友達(イマジナリーフレンド)として現れる心理現象を引き起こす場合もあります。子供にお化けを怖がらせる効果とは?以上より、ただでさえ子供はお化けを怖がるのに、なぜ親は子供にお化けが来るぞと脅すのでしょうか?この絵本でお化けは、夜中にぬいぐるみを持って立ち歩いている子供を発見し、「あれ あれ あれれ…」と言います。そして、「よなかに あそぶこは おばけに おなり」と言い渡します。つまり、お化けはやみくもに何かしてくるわけではなく、とくに言いつけを守らなかった時にやってくることがわかります。まさに、「ねないこだれだ」というタイトルがそれを示しています。つまり、子供にお化けを怖がらせるのは、子供がお化けを怖がることを利用して、しつけをするためであることがわかります。しつけとは、生活習慣から人間関係のマナーなど、社会のルールを教えることです。これは万国共通で、英語圏だと「いい子にしないと、ブギーマン(化け物)がさらいに来るよ」と言います。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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絵本「ねないこだれだ」【なんでお化けは怖いの?なんで親は子どもにお化けが来るぞと言うの?(お化けの起源)】Part 3

お化けを怖がる起源とは?お化けを怖がる心理は、姿がよくわからず、何かされそうであることがわかりました。そして、親が子供にお化けを怖がらせるのは、しつけに利用できるからであることもわかりました。それでは、そもそもお化けはどうやって生まれたのでしょうか?ここで、「個体発生は系統発生を繰り返す」という考え方を体だけでなく心にも応用して、心の発達(個体発生)の順番から心の進化(系統発生)の順番を推測し、人類がお化けを怖がる起源を3つの段階に分けて迫ってみましょう。(1)目の前にいないものを認識する人類は、約700万年前に誕生してから、二足歩行をすることで手が自由になり、手に入れた獲物を余分に持ち歩けるようになりました。その余分な獲物をとくにオスがメスにプレゼントして、メスはそのお礼にセックスをして、そのオスとの間にできた子供を育てていました。これは、プレゼント仮説と呼ばれています。この時、オスとメスとの間にはプレゼントを介した関係(三項関係)が成り立ちます。たとえば、指差しや視線の向きで、「それちょうだい」「それあげる」というプレゼントのやり取りをするようになったでしょう。これが、指差し(意図共有)の起源です。人類に最も近いチンパンジーでも指差しはしないことから、これは、最初の人間らしさの1つでしょう。心の発達に置き換えると、指差しがわかるのは生後9ヵ月です。やがて、指差しや視線のやり取りは、「あのプレゼントちょうだい」「あのプレゼントあげる」のように、自分が見えていなくて相手が意図している何かをイメージするようになるでしょう。1つ目の段階は、相手のしぐさや表情によって目の前にない(いない)ものを認識することです。当時はまだ言葉を話すことができなかったため、コミュニケーションはもっぱらしぐさ(ジェスチャー)や表情などのサイン言語でした。これが、象徴機能の起源です。心の発達に置き換えると、象徴機能によって、目の前にいないもの(お化け)を認識するようになる2歳半です。つまり、人類がお化けを認識していたのは、人類の心の進化のかなり早い段階である可能性が推定できます。もちろん、当時は「お化け」という言葉はないわけですが、目に見えなくて得体の知れない何かの存在を認識はしていたでしょう。なお、プレゼント仮説の詳細については、関連記事2をご覧ください。(2)目の前にいないものの意図を考える約300万年前、人類は家族そして部族をつくり、助け合うようになりました。この時、相手と意図を共有するだけでなく、その意図は自分の意図とは別々である、つまり相手には相手の心(意図)があることがわかるようになりました。これが、心の理論の起源です。その後、長い時間をかけて、目の前にいない存在(お化け)の意図も気にするようになったのでしょう。2つ目の段階は、目の前にいないものの意図を考えることです。そして、その存在に何かされそうと不安に思ったことでしょう(被害念慮)。心の発達に置き換えると、お化けにはお化けの心(意図)があると思うようになるのは、4歳です。当時に、お化けを表すジェスチャーが用いられていたかもしれません。(3)目の前にいないものを怖がり怖がらせる約20万年前に、人類が言葉(音声言語)を話すようになりました。当時から、部族で起きた出来事を語り継ぐようになったでしょう。約10万年前、人類は貝の首飾りを信頼の証(シンボル)としてプレゼントするようになり、抽象的な思考ができるようになりました。当時から、語り継ぎの中で説明ができない現象は、お化けの仕業と説明され、その物語はどんどん抽象化されていったでしょう。そして、部族が団結して秩序を安定させるため、お化けを脅威として利用もしたでしょう。これは、民間伝承という文化であり、伝承の心理です。実際に、その中の多くには教訓(モラル)が盛り込まれています。そして、その罰として登場するのは、お化けのほかに、幽霊(ゴースト)、化け物(モンスター)、鬼(悪魔)、万物の精霊(アニミズム)、そして神へと発展していったでしょう。逆に言えば、神の起源はお化けと言えるでしょう。3つ目の段階は、社会のために目の前にいないものを怖がり、周りを怖がらせることです。心の発達に置き換えると、お化けが細分化されるのは3歳から6歳です。そして、この時期にお化けと教訓を含む多くのファンタジーの絵本が親から読み聞かされるわけです。人類史において、最初の抽象的思考は、貝の首飾りを信頼の証(シンボル)とする約10万年前とされています。しかし、心の発達の視点では、お化けを怖がるのは2歳半であるのに対して、首飾りなどのシンボルがわかるのは早くても4歳ぐらいです。このことから、もしかしたらお化けを怖がる方が、抽象的思考としては貝の首飾りよりも先だったと考えることもできるでしょう。むしろ、お化けを怖がり怖がらせるという伝承の心理を通してこそ、人類の抽象的思考(概念化)が発達したと考えることもできるでしょう。なお、伝承の心理の詳細については、関連記事3をご覧ください。<< 前のページへ | 次のページへ >>

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絵本「ねないこだれだ」【なんでお化けは怖いの?なんで親は子どもにお化けが来るぞと言うの?(お化けの起源)】Part 4

どう子供にお化けを怖がらせる?お化けを怖がる起源とは、目の前にいないものを認識する→目の前にいないものの意図を考える→目の前にいないものを怖がり怖がらせることであることがわかりました。そして、心の進化において、お化けを怖がることと抽象的思考(概念化)には密接な関係があることもわかりました。これを踏まえて、どう子供にお化けを怖がらせればいいでしょうか?それは、やはり子供に読み聞かせをするたびに、怖がることを一緒に楽しむことでしょう。そうすることで、人類の心が進化していったのと同じように、子供の心がより豊かに発達していきます。これは、サンタクロースを信じることにも通じます。「ねないこだれだ」のお化け本のシリーズには、怖そうでありながら、同時に友達になれそうな親近感のあるかわいらしいお化けがたくさん出てきます。よくよく見ると、実は子供と同じ身長と体型です。これこそこの本が、子供に「怖いけど、好き」と言わせ、永遠に愛され続けている最大の理由でしょう。1)「オバケ?」p.29、p.68:オバケ研究所編、ブルーシープ、20242)「幼児期における恐怖対象の発達的変化」p.131:富田昌平ほか、三重大学教育学部研究紀要(第68巻)教育科学、20173)「幼児はお化けをどのように認識しているのか?」p.316:富田昌平ほか、三重大学教育学部研究紀要(第71巻)教育科学、2020<< 前のページへ■関連記事伝記「ヘレン・ケラー」(前編)【何が奇跡なの? だから子供は言葉を覚えていく!(象徴機能)】Part 2映画「アバター」【私たちの心はどうやって生まれたの?(進化心理学)】Part 2昔話「うらしまたろう」(その2)【隠された陰謀とは?そして精神医学的に解釈するなら?(シン浦島太郎)】Part 2

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婚活を始めたキッカケ【アラサー女医の婚活カルテ】第1回

皆さま、はじめまして。「こん野かつ美」と申します。このたび縁あって、新連載を担当することになりました。連載のテーマは……ズバリ「女性医師の婚活」です☆30代前半の女性医師である私は、結婚相談所での婚活を経て、現在の夫(他科の医師)と結婚しました。ただ、結婚までの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。約1年半の活動期間の中で、仕事と婚活のバランスに悩んだり、クセ強めなお見合い相手との会話に疲れ果てたり……。(くぅー、いつか話のネタにしてやるんだから!)と思って乗り切った場面が、それはもう、いくつもありました。この連載は、そんな当時の経験を振り返りながら、書き進めていきたいと思います。結婚を意識する読者の皆さまにとって、参考になれば幸いです。かつ美、婚活を始めたキッカケは私は、医学生時代から結婚願望が強いほうでした。学生時代や初期研修医時代にお付き合いした男性は何人かいたものの、残念ながら結婚に至るまでのご縁はなく……。そうこうしているうちに、卒後3年目以降の専門研修に突入し、仕事以外のことを考えるヒマが(物理的に)なくなってしまいました。学生時代からの同級生カップルや、研修医の同期が次々とゴールインする中、漠然と「いつか私も結婚を」という思いを持ちつつも、家と職場との往復だけでは、なかなか出会いの機会に恵まれませんでした。そんな中、ある講演会で提示された「女性の妊孕性の年齢別変化」のグラフを見て、ハッと衝撃を受けたのです。30代以降はとくに、加齢とともに妊孕性がどんどん低下していく……。机上の知識としては知っていたことですが、いざ自分がその年代に差し掛かかると、急に現実味を帯びてきました。(子供が欲しいなら、今動かなきゃ!)こうして、いよいよ本格的に「婚活道」に踏み出す決意を固めました。女性医師にとっての「結婚」女性医師にとっての「結婚」を表す言葉として、「3分の1の法則」や「心電図のたとえ」が有名です。3分の1の法則女性医師のうち、3分の1は「生涯未婚」、3分の1は「結婚後に離婚」、残る3分の1が「結婚生活を継続」というもの心電図のたとえ女性医師が結婚するタイミングとしては、最初の波(P波)が医学生時代や卒後すぐ、最大の波(QRS波)が卒後2~3年の初期研修修了頃、最後の波(T波)が30歳前後にやってくる(その後はない!)というもの真偽のほどはともかく、このようなことわざ(?)が存在するということは、女性医師の人生において「『結婚』が『必須のもの』ではない」ということの、裏返しだと思います。世間一般からすると高い学歴・収入・社会的地位を持つ女性医師は、結婚などしなくても、悠々自適に独身生活を謳歌することが可能です。仕事のやりがいだって、十分にあります。そんな女性医師が、なぜわざわざ「結婚」をしたいのか?私の場合は、先述のとおり「子育てという経験をしたいから」、そして「パートナーと一緒に年齢を重ねる人生を味わいたいから」というのが、その答えでした。これが、婚活を進める中で、一番のモチベーションとなりました。これから「婚活道」に踏み出そうとする方は、「周りがみんな結婚したから」「親にせっつかれるから」などという「受け身」の動機付けではなく、なぜ結婚したいのかという、「能動的」な理由を、ご自身の中にしっかり見つけておくことをお勧めします(婚活には時間もお金もかかりますし、メンタルがすり減ることもあります。受け身の動機付けでは、モチベーションが続きません)。「医師」か「非医師」か、それが問題だ医学生時代や研修医時代からの交際を経てゴールインした夫婦が周りにいると、一見「医師×医師」の組み合わせがスタンダードのように感じられますが、実際には「女性医師×医師以外の男性」という組み合わせでうまくいっている夫婦も、数多く存在します。生物学的な理由で、妊娠・出産においては、どうしても女性側に負担が偏ります。「医師×医師」の組み合わせだと、男性医師が順調にキャリアアップする一方で、妻である女性医師は、出産を機に時短勤務に切り替えるケースが多くなりがちです(こうしたキャリアを否定しているわけではありません)。家事や育児は妻のワンオペという例も少なくありません。一方、「女性医師×医師以外の男性」という組み合わせでは、多くの場合、妻のほうが高収入です。そのような背景もあり、家事や育児を(場合によっては夫のほうが多く)分担しつつ、妻である女性医師も貪欲にキャリアアップを目指す例を私も何例も知っています。「一家の稼ぎ頭」という責任は重いですが、キャリアを積みたい女性医師にとっては、「医師以外の男性」との組み合わせのほうが適している面もあるのかもしれません。私の場合、最終的には医師である現在の夫と結婚しましたが、婚活そのものは、お相手を医師に限定することなく進めました(すてきだなぁと思う男性医師は、残念ながら早々に結婚していることが多いというのも、お相手を医師に限定しなかった理由ですが……泣)。読者の皆さまも、よほどの理由がなければ、いったんお相手の職業にこだわらずに広くアンテナを張ることが、良い結果を生むかもしれません。いかがでしたか?次回は、私が利用した婚活ツールについて、より具体的なお話を書きたいと思います。お楽しみに。

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次世代のCAR-T細胞療法―治療効果を上げるための新たなアプローチ/日本血液学会

 2024年10月11~13日に第86回日本血液学会学術集会が開催され、13日のJSH-ASH Joint Symposiumでは、『次世代のCAR-T細胞療法』と題して、キメラ抗原受容体遺伝子改変T細胞(CAR-T細胞)療法の効果の毒性を最小限にとどめ、治療効果をより高めるための新たな標的の探索や、細胞工学を用いてキメラ抗原受容体(CAR)構造を強化した治療、およびoff the shelf therapyを目標としたiPS細胞由来次世代T細胞療法の試みなど、CAR-T細胞療法に関する国内外の最新の話題が紹介された。CAR-T細胞療法を最適化するための新しい標的の開発 CAR-T細胞療法はB細胞性悪性腫瘍や多発性骨髄腫(MM)などに対する効果が認められているが、毒性については解決すべき課題が残っている。ガイドラインでは主な合併症として、サイトカイン放出症候群(CRS)および免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)が取り上げられているが、CAR-T細胞療法による新たな、または、まれな合併症とその管理についての情報は少なく、新たな標的の検討とともに明らかにしていく必要がある。米国血液学会(ASH)のCAR-T細胞療法のワークショップでは、CAR-T細胞の病態生理の理解、まれな毒性についてのデータの蓄積、on-target off-toxicityを回避するための的確な標的となる抗原などが検討されている。 Fabiana Perna氏(Moffitt Cancer Center)らは腫瘍関連抗原(TAA)および腫瘍特異的抗原(TSA)、さらに腫瘍特異的細胞表面プロテオームの解析を行っている。同氏らはこれまで、急性骨髄性白血病(AML)におけるCAR-T細胞療法の標的を同定するために、プロテオームと遺伝子発現の同時解析を行い、26個の標的を同定した。このうち15個は臨床試験で用いられ、その多くがAMLの正常細胞上に高発現する蛋白であった。 MMに対してはB細胞成熟抗原(BCMA)を標的としたCAR-T(BCMA-CAR-T)細胞療法の成績は良好とはいえず、新たな標的抗原が必要である。Perna氏らはMM患者約900例のサンプル約4,700検体を用い細胞表面のプロテオームを解析し、RNAシーケンスを行い、腫瘍組織に高発現するBCAAを含む6個の標的を同定した。そのうちSEMA4Aは再発/難治性MM患者での高発現が認められた。BCMA-CAR-T細胞療法後の再発はBCMAの発現低下に関連し、CARの機能低下を惹起すると考えられ、的確な標的の探索が必要である。Perna氏らはSEMA4AがCAR-T細胞療法の標的となりうると考え、SEMA4A-CAR-T細胞療法を試みている。なお、MM患者の免疫療法に関しては第I相試験が予定されている。 また、Perna氏らはmRNAスプライシングに由来する白血病特異的抗原の解析パイプラインを開発中であり、AML患者サンプルからスプライスバリアントの異常発現を認めたことから、同氏は、疾患特異的スプライスバリアントを標的とした治療法につながることを期待していると述べた。CAR-T細胞療法抵抗性克服と新たな応用の探求 CAR-T細胞療法は、CD19およびBCMA抗原を標的として、B細胞性悪性腫瘍(リンパ腫、白血病)およびMMに対して行われている。BCMA-CAR-T細胞療法は初期治療の奏効率は高いが、長期寛解率は低くとどまっている。CAR-T細胞の機能不全は抗原逃避、T細胞欠損、腫瘍微小環境(TME)などにより惹起される。そこで、酒村 玲央奈氏(メイヨー・クリニック 血液内科)は、CAR-T細胞療法の治療抵抗性克服と新たなストラテジーを探求するうえで、重要な鍵となる免疫抑制細胞について検討した。 がん関連線維芽細胞(CAF)は、CAR-T細胞の機能不全を誘導するが、同時にMM患者の治療効果を高める可能性があると考えられている。これまでの酒村氏の検討でMM患者由来のCAFがTGF-βなど抑制性サイトカイン産生を増加させ、PD-1/PD-L1結合を介してCAR-T細胞を阻害し、FAS/FASリガンド経路を介してCAR-T細胞にアポトーシスを誘導、制御性T細胞(Treg)を動員することが示された。また、線維芽細胞活性化タンパク質(FAP)を標的としたCAR-T細胞はマウスの体重を有意に減少させ、off target効果による重篤な毒性を惹起すると考えられ、CAF表面上に発現するCS1およびBCMAの2つを標的としたCAR-T細胞は腫瘍細胞およびCAFを溶解することが示された。さらに、BCMA-CAR-T細胞療法施行患者由来の骨髄サンプルを用いたシングルセルRNAシーケンスを行い、non-responder由来のCAFが高頻度にデスリガンド(抗腫瘍性リガンド)を発現すること、non-responder由来のT細胞は慢性的に刺激され疲弊したphenotypeであることが明らかとなった。また、non-responder由来の骨髄サンプルではTMEを支配する腫瘍関連マクロファージ(TAM)とCAFの有意なクロストークの存在が示された。 間葉系幹細胞(MSC)は多能性細胞であり、免疫抑制および組織再生治療における効果が研究されている。そこで酒村氏は、MSCの免疫抑制効果を向上させるために、細胞工学技術を用い健康な人から得た脂肪由来のMSCにCARを搭載し、移植片対宿主病(GVHD)に対する治療戦略をマウスモデルで検討した。研究には、とくにGVHDをターゲットとしたE-cadherin(Ecad)特異的なCAR-MSC(EcCAR-MSC)を用いた。EcCAR-MSCの開発では、Ecad特異的な単鎖可変フラグメント(scFV)クローンが生成され、CAR-CD28ζ構造を設計し安定発現させてMSCの免疫抑制機能を強化したことが示された。 GVHDモデルにおいてEcCAR-MSCはマウスの体重減少を軽減し、GVHD症状を緩和し生存率を向上させた。また、Ecad陽性大腸組織へ特異的に移行し、T細胞活性を抑制し免疫調節機能効果を向上させた。また、シングルセルRNAシーケンスにより、抗原特異的刺激を受けたEcCAR-MSCにおいてIL-6、IL-10、NF-κBなどの免疫抑制シグナル経路の活性化が認められた。EcCAR-MSCのCD28ζシグナルドメインを含むCAR構造体はより強い免疫抑制効果を示した。 酒村氏は、CARを用いたMSCの免疫抑制機能を強化する新たな細胞治療とGVHDおよび腫瘍抑制における可能性を提示した。また、MSCの開発は免疫環境の調節を可能とし、炎症性腸疾患(IBD)、全身性エリテマトーデス(SLE)、関節リウマチ(RA)など自己免疫疾患の治療にも新たなアプローチを提供するものと考えると述べ、CAR-T細胞療法を進展させ、より多くの患者予後の改善を目指したいと結んだ。難治性腫瘍に対するiPS細胞由来次世代T細胞療法の開発 難治性NK細胞リンパ腫に対しては、L-アスパラギナーゼを含む抗がん剤治療や末梢血由来細胞傷害性T細胞(CTL)による細胞治療が試みられてきたが、治療効果は十分ではなかった。とくに末梢血由来T細胞は細胞治療後に疲弊し、長期的には腫瘍が増大することが知られている。そこで、安藤 美樹氏(順天堂大学大学院医学研究科血液内科学)はNK細胞リンパ腫患者の末梢血よりエプスタイン・バーウイルス(EBV)抗原特異的CTLを使用し、iPS細胞を作製後、再びT細胞に分化誘導し、iPS細胞由来若返りCTL(rejT)を作製し、NK細胞リンパ腫に対する抗腫瘍効果を検討した。その結果、rejTはNK細胞リンパ腫細胞株に対し強力な細胞傷害活性を示した。次いでNK細胞リンパ腫細胞株を腹腔内注射したマウスを用い、rejTおよび末梢血由来T細胞で治療し生体内での抗腫瘍効果を比較検討した結果、両群とも有意な腫瘍増大抑制効果が認められた。さらにrejTは末梢血由来T細胞に比べ有意な生存期間延長効果を示し、マウス体内でメモリーT細胞として長期間生存し、リンパ腫再増殖抑制効果が持続したことが示された。 次いで安藤氏は、末梢血EBV抗原LMP2特異的CTLからiPS細胞を作製し分化誘導後、iPS細胞由来若返りLMP2抗原特異的CTL(LMP2-rejT)がEBV関連リンパ腫に対し強い抗腫瘍効果を発揮することをマウスモデルで証明した。また、LMP2-rejTは生体内でメモリーT細胞として長期生存し、難治性リンパ腫の再発抑制を維持することを確認した。 安藤氏はこの手法を応用し、LMP2-rejTにCARを搭載することで、2つの受容体を有し、同時に2つの抗原(CD19、LMP2抗原)を標的にできるiPS細胞由来2抗原受容体T細胞(DRrejT)を作製した。マウスを用いた検討ではDRrejTは受容体を1つのみ有する従来のT細胞に比べ、難治性の悪性リンパ腫に対し強力な抗腫瘍効果と、生存期間延長効果を示し、メモリーT細胞として長期生存が示された。 また、安藤氏はiPS細胞に小細胞肺がん(SCLC)に高発現するGD2抗原標的キメラ抗原受容体(GD2-CAR)を遺伝子導入後、分化誘導したiPS細胞由来GD2-CART細胞(GD2-CARrejT)を作製し、SCLCに対する強い抗腫瘍効果を示した。さらに、GD2-CARrejTは末梢血由来のGD2-CART細胞に比べ、疲弊マーカーであるTIGITの発現がきわめて低いことを明らかにした。また、マウスの検討でGD2-CARrejTは末梢血由来LMP2-CTLに比べNK/T細胞リンパ腫を抑制することが示された。 さらに、安藤氏はiPS細胞由来ヒトパピローマウイルス(HPV)抗原特異的CTL(HPV-rejT)を作製し、HPV-rejTは末梢血由来CTLと比較して子宮頸がんの増殖を強力に抑制することを確認した。子宮頸がん患者由来のCTL作製は時間とコストがかかり実用化には課題がある。一方、健康な人のCTLから作成した他家iPS細胞を用いた場合、これらの問題は解決するが、患者免疫細胞からの同種免疫反応により抗腫瘍効果が減弱する。そこでCRISPR/Cas9技術を用い、HLAクラスIをゲノム編集した健常人由来他家HPV-CTL(HLA-class I-edited HPV-rejT)を作製した。マウスを用いた検討で、HLA-class I-edited HPV-rejTは患者免疫細胞から拒絶されずに子宮頸がんを強力に抑制し、長期間の生存期間延長効果も認められた。また、末梢血由来HPV-CTLに比べ、細胞傷害活性に関するIFNG遺伝子や、組織レジデントメモリー細胞に関係するITGAE遺伝子などの発現レベルが有意に高く、組織レジデントメモリー細胞を豊富に含むことが示された。これらの機能解析により、HLA-class I-edited HPV-rejTはTGF-βシグナリングによりCD103発現レベルを上昇させ、その結果、抗原特異的細胞傷害活性が増強することが明らかとなった。現在、HLA-class I-edited HPV-rejTを用いた治療の安全性を評価する医師主導第I相試験が進行中である。 安藤氏はiPS細胞由来の抗原特異的、そしてHLA編集細胞が、off the shelfのT細胞療法に、持続可能で有望なアプローチを提供するものと期待されると締めくくった。

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乳がん薬物療法の最新トピックス/日本治療学会

 第62回日本治療学会学術集会(10月24~26日)で企画されたシンポジウム「明日からの乳診療に使える!最新の薬剤の使いどころ」において、がん研究会有明病院の尾崎 由記範氏が、乳がん薬物療法の最新トピックスとして、KEYNOTE-522レジメンの使いどころ、HER2ゼロ/低発現/超低発現の課題、新たなPI3K阻害薬inavolisibを取り上げ、講演した。高リスク早期TN乳がんへのKEYNOTE-522レジメンの使いどころ 切除可能トリプルネガティブ(TN)乳がんの標準治療としては、術前に化学療法を行い術後にカペシタビンやオラパリブを投与する治療があるが、KEYNOTE-522試験の結果から術前・術後にペムブロリズマブを使えるようになった。 KEYNOTE-522試験は、主にStageII/IIIのTN乳がんに対して、カルボプラチン+パクリタキセル → AC/ECの術前・術後にペムブロリズマブを併用し、予後改善を検討した第III相試験である。本試験で、病理学的完全奏効(pCR)割合、無イベント生存期間(EFS)、全生存期間の改善が認められ、現在、ペムブロリズマブ併用レジメンが標準治療となっている。また、サブグループ解析において、StageやPD-L1の発現、pCR/non-pCRにかかわらず一貫した有効性が示され、StageII/IIIに広く使用できる。一方、免疫チェックポイント阻害薬は免疫関連有害事象(irAE)のリスクがある。術前治療においてGrade3以上のirAEが13%に認められており、5年EFSの9%のベネフィットとのバランスが議論になっているという。 今回、尾崎氏はKEYNOTE-522レジメンの日常診療におけるクリニカルクエスチョン(CQ)のうち4つを取り上げ、自施設(がん研究会有明病院)の方針や考えを紹介した。CQ:T2N0M0 cStageIIAのような比較的リスクの低い症例に対しても使用すべきか?T2N0症例における5年EFSは10%の差があり、TN乳がんは再発すると予後が約2年であることから、使用するようにしている。CQ:ホルモン受容体が弱陽性(ER 1~9%)の症例に使用すべきか?KEYNOTE-522試験にはER 1~9%は含まれていないが、ER 1~9%はTN乳がんとして治療すべきという考えがあり、最近の論文ではThe Lancet Regional Health-Europe誌にもそのように記載されている。ESMO2024でER 1~9%に対するリアルワールドデータが報告され、pCR割合は75%とTN乳がんと同程度だった。がん研究会有明病院ではER 1~9%もTN乳がんと診断して使用している(必ずしも保険が適用されるとは限らないため、各施設での判断が必要)。CQ:アントラサイクリンパートでG-CSF製剤の予防投与をするか?KEYNOTE-522試験での発熱性好中球減少症の発現割合は18%と報告されている。がん研究会有明病院の青山 陽亮氏の発表では22.9%と報告されており(JSMO2024)、多くはアントラサイクリンパートで発現しているため、G-CSF製剤の1次予防投与を推奨している。CQ:術後の最適な治療法は?pCR/non-pCRにかかわらずペムブロリズマブの使用が標準治療になっているが、non-pCRの場合のカペシタビン、生殖細胞系列BRCA病的バリアントを有する場合のオラパリブも世界的に標準治療と位置付けられている。pCRの場合にペムブロリズマブを省略可能かどうかが世界中で議論されており、それを検討するためのOptimICE-pCR試験が2,000例規模で進行中である。また、non-pCRではより有効な治療選択肢が必要とされており、その1つとしてdatopotamab deruxtecan+デュルバルマブが検討されている(TROPION-Breast03試験)。また、周術期ペムブロリズマブ投与後の再発症例は非常に予後不良であることから、再発症例に対してペムブロリズマブ+パクリタキセル±ベバシズマブで比較する医師主導治験(WJOG16522B、PRELUDE試験)を開始予定である(治験調整事務局:尾崎氏)。HER2ゼロ/低発現/超低発現の区別は喫緊の課題 次に尾崎氏は、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)の適応に関連するHER2ゼロ/低発現/超低発現について取り上げた。 HR+HER2低発現/超低発現乳がんを対象としたDESTINY-Breast06試験において、T-DXdの有効性が示された。HER2超低発現の定義は、IHC0で10%以下の細胞に不完全な染色がある場合とされており、HER2-乳がんのうち20~25%とされている。この超低発現乳がんでも低発現乳がんと一貫した有効性が報告された。ESMO2024では、各施設でIHC0と判断された乳がんのうち、中央では24%がHER2低発現、40%が超低発現と判定されたとの報告があり、約6割がT-DXdのベネフィットが得られる可能性がある。T-DXdは今年8月、FDAからHER2低発現/超低発現の転移再発乳がん治療を対象として「画期的治療薬」として指定されており、日本でもすでに効能・効果追加の一部変更承認申請がなされていることから、尾崎氏は「HR+HER2ゼロとHER2低発現、超低発現の区別が喫緊の課題」と述べた。新規PI3K阻害薬inavolisibがFDA承認、日本における課題 尾崎氏は最後に、昨年末のサンアントニオ乳がんシンポジウム2023で初めて第III相INAVO120試験の主要評価項目である無増悪生存期間が発表され、そのわずか10ヵ月後の今年10月10日にFDAで承認されたPI3K阻害薬のinavolisibについて紹介した。 INAVO120試験は、術後内分泌療法中に再発もしくは終了後12ヵ月以内に再発し、PIK3CA変異があるHR+HER2-乳がんを対象とした試験で、inavolisib+パルボシクリブ+フルベストラントの3剤併用の有効性が示された。 現在、尾崎氏が考えるHR+HER2-乳がんに対する薬物療法は、アロマターゼ阻害薬+CDK4/6阻害薬を投与後、PIK3CA/AKT/PTEN変異の有無によって2次治療を選択、その後、ホルモン療法耐性、ホルモン感受性なし、visceral crisisの場合は抗体薬物複合体や化学療法、という流れである。inavolisibは再発診断時からPIK3CA変異を検出する必要があるため、尾崎氏は「米国では、再発1次治療としてinavolisib+パルボシクリブ+フルベストラントの併用がすでに承認され標準治療となるため、将来もしinavolisibが日本でも開発され承認されれば、日本でも同様に再発時点で遺伝子検査にてPIK3CA変異を確認する必要がある」と課題を提示した。

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MET exon14スキッピングNSCLC、グマロンチニブの日本人データ(GLORY)/日本肺学会

 グマロンチニブは、METチロシンキナーゼのATP結合部位を選択的かつ競合的に阻害する薬剤であり、既存のテポチニブ、カプマチニブと同様の作用機序を有する。グマロンチニブは、MET遺伝子exon14スキッピング変異陽性の非小細胞肺がん(NSCLC)を適応とする薬剤として、本邦では2024年6月に製造販売承認を取得し、同年10月に発売された。本承認の評価試験である国際共同第Ib/II相試験「GLORY試験」1)の第II相パートにおける、全体集団および日本人集団の結果について、後藤 功一氏(国立がん研究センター東病院)が第65回日本肺学会学術集会で報告した。試験デザイン:国際共同第Ib/II相試験(今回は第II相試験の試験デザインと結果を示す)対象:未治療または2ラインまでの前治療歴があり、MET遺伝子exon14スキッピング変異陽性のStageIIIB~IVのNSCLC患者84例(日本人:10例)投与方法:グマロンチニブ 300mg(1日1回、経口)を病勢進行または許容できない毒性の発現まで評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)に基づく奏効割合(ORR)[副次評価項目]病勢コントロール割合(DCR)、奏効期間(DOR)、無増悪生存期間(PFS)など 主な結果は以下のとおり。・対象患者84例の背景は、男性が57%(日本人集団:60%)、腺がんが75%(同:80%)、StageIVが87%(同:100%)、前治療歴ありが45%(同:20%)などであった。・有効性解析対象集団は79例(日本人集団:8例)であった。・主要評価項目のBICRに基づくORRは、全体集団が66%、日本人集団が75%であった。・DCRは、全体集団が84%、日本人集団が100%であった。・前治療歴の有無別にみたBICRに基づくORRは、未治療の集団(44例[日本人集団:7例])では71%(日本人集団:71%)、前治療歴ありの集団(35例[同:1例])では60%(同:100%)であった。・DOR中央値は、全体集団が8.3ヵ月、日本人集団が5.0ヵ月であった。・PFS中央値は、全体集団が8.5ヵ月、日本人集団が7.6ヵ月であった。・全体集団における主な治療関連有害事象(30%以上に発現)は、浮腫(80%)、低アルブミン血症(38%)、食欲減退(32%)、頭痛(32%)であった。日本人集団で2例以上に発現したGrade3以上の治療関連有害事象は浮腫(2例)のみであった。・投与中断に至った有害事象は全体集団で40%、日本人集団で40%に発現した。減量に至った有害事象は全体集団で37%、日本人集団で60%に発現した。 本発表の結語として、後藤氏は「主な有害事象として、浮腫や低アルブミン血症があるが、それらを休薬や減量などで上手にマネジメントすることで、長期にわたってグマロンチニブを患者さんへ届けていただきたい」と述べた。

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運動しても血圧が低下しない人とは?

 運動は血圧を低下させるのに有効だが、病態生理学的状態、運動の種類、地域による効果の違いはよくわかっていない。今回、福岡大学の末松 保憲氏らによる系統的レビューとメタ解析の結果、健康人や高血圧などの生活習慣病患者では運動の種類にかかわらず収縮期血圧が低下したが、心血管疾患患者では低下しなかったことがわかった。Hypertension Research誌オンライン版2024年11月1日号に掲載。 本研究では、Ovid MEDLINEとCochrane Libraryを用いて開始時~2023年8月1日の期間で運動による降圧効果を検討した435の無作為化比較試験を同定し、メタ解析を含むアンブレラレビューを行った。ランダム効果モデルのメタ解析で複数の研究にわたる効果量を推定した。 主な結果は以下のとおり。・運動により収縮期血圧は、健康人(-3.51mmHg、95%信頼区間[CI]:-3.90~-3.11、p<0.001)および高血圧を含む生活習慣病患者(-5.48mmHg、95%CI:-6.51~-4.45、p<0.001)で有意に低下したが、心血管疾患患者(-1.16mmHg、95%CI:-4.08~1.76、p=0.44)では低下しなかった。・運動の種類別では、健康人と生活習慣病患者ではすべての種類で収縮期血圧が有意に低下したが、心血管疾患患者では低下しなかった。・地域別では、オセアニアでは収縮期血圧の低下はみられなかった。アジアでは心血管疾患患者で収縮期血圧が低下した。 本結果から著者らは「心血管疾患患者で高血圧を軽減するために運動を行う場合、患者の病態生理学的状態と地域を考慮することが重要」としている。

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無症候性重症AS、早期TAVR vs.経過観察/NEJM

 無症候性の重症大動脈弁狭窄症(AS)患者に対するバルーン拡張型弁を用いた経カテーテル大動脈弁置換術(TAVR)の早期施行は、経過観察と比較して複合イベント(全死因死亡、脳卒中または心血管系疾患による予定外の入院)の抑制において優れることが示された。米国・Morristown Medical CenterのPhilippe Genereux氏らEARLY TAVR Trial Investigatorsが、米国とカナダの75施設で実施した無作為化非盲検比較試験「Evaluation of TAVR Compared to Surveillance for Patients with Asymptomatic Severe Aortic Stenosis trial:EARLY TAVR試験」の結果を報告した。無症候性の重症ASで左室駆出率(LVEF)が保たれている患者の場合、現行ガイドラインでは6~12ヵ月ごとの定期的な検査が推奨されている。これらの患者において、TAVRによる早期介入がアウトカムを改善するかを検討した無作為化試験のデータは不足していた。NEJM誌オンライン版2024年10月28日号掲載の報告。全死因死亡と脳卒中・心血管系疾患による予定外入院の複合イベントを評価 研究グループは、無症候性の重症ASで、米国胸部外科学会の予測死亡リスク(STS-PROM)スコア(範囲:0~100%、高スコアほど術後30日以内の死亡リスクが高い)が<10%、LVEF≧50%の65歳以上の患者を、TAVR群および経過観察群に1対1の割合で無作為に割り付けた。 TAVR群では、経大腿アプローチでバルーン拡張型弁(SAPIEN 3/3 Ultra、Edwards Lifesciences製)を用い、経過観察群ではガイドラインに従って標準治療を行った。 主要エンドポイントは、全死因死亡、脳卒中または心血管系疾患による予定外の入院の複合とし、ITT解析を実施した。TAVR群で複合イベントリスクが半減 2017年3月~2021年12月に1,578例がスクリーニングを受け、適格患者901例が無作為に割り付けられた(TAVR群455例、経過観察群446例)。患者背景は、平均年齢75.8歳、女性が30.9%、STS-PROM平均値は1.8%であり83.6%の患者は地域のハートチームによる評価で手術リスクが低いと判定されていた。 追跡期間中央値3.8年において、主要エンドポイントの複合イベントは、TAVR群で122例(26.8%)、経過観察群で202例(45.3%)に認められ、ハザード比は0.50(95%信頼区間:0.40~0.63、p<0.001)であった。各イベントの発生率は、TAVR群と経過観察群でそれぞれ全死因死亡が8.4%、9.2%、脳卒中が4.2%、6.7%、心血管系疾患による予定外の入院が20.9%、41.7%であった。 経過観察群では追跡期間中に446例中388例(87.0%)が大動脈弁置換術を受けた。 手技に関連した有害事象は、TAVR群の患者と経過観察群で大動脈弁置換術を受けた患者との間で明らかな差は認められなかった。

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出産女性へのトラネキサム酸予防投与、出血リスクを軽減/Lancet

 出産する女性へのトラネキサム酸の予防投与はプラセボと比較して、生命を脅かす出血リスクを軽減することが認められ、血栓症のリスクを高めるというエビデンスは確認されなかった。英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のKatharine Ker氏らAnti-fibrinolytics Trialists Collaborators Obstetric Groupが、無作為化比較試験のシステマティックレビューと個別被験者データ(IPD)を用いたメタ解析の結果で示した。トラネキサム酸は、臨床的に産後出血と診断された女性に推奨される治療薬であるが、出血を予防可能かについては不明であった。著者は、「出産するすべての女性にトラネキサム酸の使用を推奨するわけではないが、死亡リスクの高い女性では産後出血の診断前にトラネキサム酸の使用を検討すべきである」とまとめている。Lancet誌2024年10月26日号掲載の報告。トラネキサム酸の無作為化プラセボ対照試験についてIPDメタ解析を実施 研究グループは、WHO国際臨床試験登録プラットフォーム(WHO International Clinical Trials Registry Platform)を用い、出産する女性を対象にトラネキサム酸の有効性を評価した無作為化プラセボ対照比較試験を、データベース開始から2024年8月4日まで検索した。適格基準は、前向き登録、対象例数500例以上、割り付けの手順および隠蔽化に関するバイアスリスクが低い試験とした。 各適格試験の研究者から匿名化されたIPDを提供してもらい、2人の研究者がデータを抽出するとともに、コクランバイアスリスクツール修正版を用いてバイアスリスクを評価した。 有効性の主要アウトカムは生命を脅かす出血(出産後24時間以内の出血に関する死亡または外科的介入[開腹術、塞栓術、子宮圧迫縫合または動脈結紮]の複合)、安全性の主要アウトカムは致死的または非致死的血栓塞栓症の発生であった。メタ解析には1段階法を用いた。出血リスクは有意に減少、血栓塞栓症リスクはプラセボとの差なし 検索の結果、適格基準を満たした5件の臨床試験から計5万4,404例のデータが解析対象となった。4件において4万3,409例のIPDが得られ、1件については公表された試験報告書から1万995例の集計データを取得した。 解析対象のすべての試験は、バイアスリスクが低かった。 生命を脅かす出血は、トラネキサム酸群で2万7,300例中178例(0.65%)、プラセボ群で2万7,093例中230例(0.85%)に発生した(統合オッズ比[OR]:0.77、95%信頼区間[CI]:0.63~0.93、p=0.008)。トラネキサム酸の有効性が、生命を脅かす出血の潜在的リスク、分娩の種類、中等度または重度の貧血の有無または投与時期によって変化するというエビデンスは確認されなかった。 血栓塞栓症に関しては、トラネキサム酸群とプラセボ群との間に有意差は認められなかった。致死的または非致死的血栓塞栓症の発生は、トラネキサム酸群で2万6,571例中50例(0.2%)、プラセボ群で2万6,373例中52例(0.2%)であった(統合OR:0.96、95%CI:0.65~1.41、p=0.82)。 サブグループ解析において、有意な異質性は認められなかった。

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早期初潮がうつ病と関連〜メタ解析

 早期初潮とうつ病との関連におけるエビデンスには、一貫性がない。中国・北京師範大学のLing Jiang氏らは、早期初潮とうつ病との関連性を明らかにするため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Journal of Affective Disorders誌オンライン版2024年10月9日号の報告。 2024年6月17日までに公表された研究を複数のデータベースより検索した。プールされたエフェクトサイズを算出するため、ランダム効果モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・22研究、8万7,798例をメタ解析に含めた。・22研究のNewcastle-Ottawa Scale(NOS)スコアの範囲は4〜8、中央値は6。・早期初潮群は、非早期初潮群と比較し、うつ病スコア(標準平均差:0.13、95%信頼区間[CI]:0.04〜0.21)、うつ病発症率(オッズ比:1.37、95%CI:1.23〜1.52)が有意に高かった。・ただし、中程度の異質性が認められた(うつ病スコア:I2=54%、p=0.03、うつ病発症率:I2=61%、p=0.001)・サブグループ解析では、うつ病スコアと研究の種類(コホート研究:I2=57%、p=0.071、ケースコントロール研究:I2=61%、p=0.051)および研究の質(6以上:I2=58%、p=0.065、6未満:I2=62%、p=0.052)との有意な関連が認められた。 著者らは「早期初潮とうつ病との関連が明らかとなった。両親、学校、医療者は、より早期に初潮を迎えた女児のメンタルヘルスを注意深くモニタリングする必要がある」と結論付けている。

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大半の米国人が睡眠不足で日中の眠気に悩まされている

 米国成人の大半が睡眠不足であるという実態を示すデータが報告された。日中の眠気のために、仕事や人間関係に悪影響が生じたり、自動車運転時の反応速度にも負の影響が起きたりしている懸念があるという。米国睡眠医学会(AASM)が行った大規模な調査の結果であり、10月1日に同学会からプレスリリースが発行された。 この調査は、米国中の成人2,006人を対象に、2024年5月16~24日にオンラインで実施された。結果を解析したところ、米国成人の54%が「睡眠が足りない」と考えていることが明らかになった。さらに、10人中8人(82%)が日中に眠気を感じていて、そのことによって仕事、気分、人間関係などのうちの少なくとも一つに支障が生じていると回答した。 これらの結果を受けてAASMの広報担当者で睡眠専門医のAlexandre Abreu氏は、「日中の眠気を、単に厄介な症状と考えるべきではない。その影響は、仕事の生産性から個人的な人間関係まで、あらゆることに波及して、自分のベストを尽くしてパフォーマンスを発揮しようとしても、その努力を阻害してしまう可能性がある」との解説を加えている。実際、今回の調査でも、回答者のほぼ半数(47%)が、「眠気によって生産性が妨げられ、集中力を持続できず、効率的な仕事の遂行に困難を感じている」と答えた。また回答者の3分の1(31%)は、「眠気が仕事の質に影響する」と答えた。この点は女性に比べて男性において、「不満」として挙げられることがより多かった。 このほかにも、やはり3分の1ほど(34%)の回答者が、「眠気が記憶力や想起力に影響する」と考えていて、「運転中の反応時間に影響が出る」との回答も16%に上った。さらに注目すべきこととして、約4分の1(24%)の人が、「日中の眠気が家族や友人との関係に悪影響を与えている」と答えた。 Abreu氏は、「これらの調査結果は、日中の眠気の悪影響が広範囲に及ぶという事実を明確に示している。健康的な睡眠を取ることの重要性を認識して、睡眠に問題がある場合は、周囲に助けを求めることが非常に重要だ」と語っている。なお、AASMは、成人の場合、一晩に7時間以上の睡眠が必要だとしている。また、就寝時間を一定に保つこと、安眠できる環境を作ること、そして睡眠の問題がある場合には医師に相談することなども推奨している。

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さじ加減で過降圧や副作用を調整している医師にとっては3剤配合剤の有用性は低い(解説:桑島巌氏)

 Ca拮抗薬、ARB/ACE阻害薬の単剤で降圧目標値に達しない場合には両者の併用、それでも降圧目標値に達しない場合には、サイアザイド類似薬またはサイアザイド系利尿薬の3剤併用とするのが『高血圧治療ガイドライン2019』である。その場合、3剤を1つの配合剤とすることで服薬コンプライアンスの改善が見込まれるが、本試験は、Ca拮抗薬アムロジピン2.5mg、ARB(テルミサルタン20mg)、サイアザイド類似薬(インダパミド1.25mg)の3剤を配合したGMRx2(本邦未発売)半量の有効性と安全性を、各成分2剤併用と比較した国際共同二重盲検試験である。12週間追跡の結果、3剤配合は2剤併用よりも家庭血圧の有意な降圧をもたらし、外来血圧の降圧率も優れ、かつ副作用による中断率においては2剤併用と差がなかったというのが結論である。 さて、この試験結果が本邦の実臨床にどの程度役立つかが問題である。 本試験の3剤配合、2剤併用に用いられているアムロジピン、テルミサルタンの用量は、日本の初期用量と同じである。インダパミドは、わが国では1mg錠が最小用量であるが、本試験の1.25mg錠とほぼ同じと見てよいであろう。注目すべきは、テルミサルタンとインダパミドの2剤併用は平均値で見ると130/80mmHgを下回る有効性を示し、十分な降圧効果をもたらしており、2剤併用でも十分な降圧効果が得られている点である。ARB/ACE阻害薬とサイアザイド系薬の併用は非常に有効ではあるが、とくに高齢者では低Na血症や低K血症による不整脈や脱力などの副作用に十分な注意が必要である。その場合、配合剤では微調整がしにくいという難点が生じる。とくに、さじ加減で血圧や副作用により用量を微調整している医師にとっては、3剤配合剤の有用性は低いと思われる。

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知りたくなかった真実【Dr. 中島の 新・徒然草】(554)

五百五十四の段 知りたくなかった真実大阪でも、もはや冬かと思う寒さです。結局、秋は彼岸からの1ヵ月程度だったのかもしれません。あんまりですね、最近の四季は。さて、外来にお見えになった男性。年齢は40代くらい。中島「健康のためには適度な運動が一番ですよ」患者「でも僕は膝が悪いんで」中島「確かに、走ったり歩いたりすると膝に負荷がかかりますよね」患者「だから泳いでいるんですよ」それはナイス・アイデア!泳いでも歩いても、プールの中なら膝に負荷がかかりません。中島「どのくらいの距離を泳ぐんですか?」患者「だいたい1.3キロから1.5キロくらいです」中島「すごいですね」患者「慣れたら誰でもできますから、大したことないですよ」その昔、今から10数年前のこと。私も屋内プールで泳いでいたことがありました。でも、せいぜいが500メートルほど。それでも25メートルプールだと10往復です。途中で「6往復目だったかな、7往復目だったかな」とわからなくなったりするので、あまり泳ぎそのものを楽しむことはできませんでした。当時、プールの中を歩いたり泳いだりしているのは、大半がお年寄り。50代だった私でも、若いほうだと思われていたに違いありません。中島「実は私も昔は泳いだりしていたんですが」患者「先生もですか!」中島「その頃は高齢の方が多かったんですけど、今はどうなんですか?」患者「今もお年寄りばかりです」きっと皆さん、ずいぶん元気なんでしょうね。中島「ところで、以前から気になっていたことがありましてね」患者「何でしょう」中島「私は時々プールのトイレに行ったりしていたんですけど」患者さんは話の行く先が見えない、という表情をしています。中島「私のほかにトイレを使っている人を見たことがなくってですね」患者「そりゃあ行く必要がないからじゃないですか」中島「本当にそうでしょうか。私くらいの年齢になるとわかりますが、何か一段落するたびにトイレに行ってますから」「えっ?」という顔の患者さん。中島「そう思ったら、もうプールには行く気になれなくなりまして」患者「まさか」中島「1ヵ月に1回くらいは水の入れ換えもしているみたいなんで、その直後だと何だかプールの水が透明な気がするわけですが、逆に言えば……」患者「やめてくださいよ、先生。もう泳ぎに行けなくなるじゃないですか!」そうなんですよ。皆さん、尿意を催すたびに律儀にトイレに行っていたのかな。どうやらこの世には、知らないほうがいいこともあるみたいですね。そんなことに気付いたのも自分自身、トイレが近くなったから。高齢者の諸事情が実感をもってわかるようになりました。そう考えると、医者が年を取るのも悪くないのかもしれません。というわけで最後に1句秋すぎて 尿意と戦う わが人生

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急速進行性糸球体腎炎〔RPGN:Rapidly progressive glomerulonephritis〕

1 疾患概要■ 定義急速進行性糸球体腎炎(Rapidly progressive glomerulonephritis:RPGN)は、数週~数ヵ月の経過で急性あるいは潜在性に発症し、血尿(多くは顕微鏡的血尿、まれに肉眼的血尿)、蛋白尿、貧血を伴い、急速に腎機能障害が進行する腎炎症候群である。病理学的には、多数の糸球体に細胞性から線維細胞性の半月体の形成を認める半月体形成性(管外増殖性)壊死性糸球体腎炎(crescentic[extracapillary]and necrotic glomerulonephritis)が典型像である。■ 疫学わが国のRPGN患者数の新規受療者は約2,700~2,900人と推計され1)、日本腎臓病総合レジストリー(J-RBR/J-KDR)の登録では、2007~2022年の腎生検登録症例のうちRPGNは年度毎にわずかな差があるものの5.4~9.6%(平均7.4%)で近年増加傾向にある2)。また、日本透析医学会が実施している慢性透析導入患者数の検討によると、わが国でRPGNを原疾患とする透析導入患者数は1994年の145人から2022年には604人に約5倍に増加しており、5番目に多い透析導入原疾患である3)。RPGNは、すべての年代で発症するが、近年増加が著しいのは、高齢者のMPO-ANCA陽性RPGN症例であり、最も症例数の多いANCA関連RPGNの治療開始時の平均年令は1990年代の60歳代、2000年代には65歳代となり、2010年以降70歳代まで上昇している6)。男女比では若干女性に多い。■ 病因本症は腎糸球体の基底膜やメサンギウム基質といった細胞外基質の壊死により始まり、糸球体係蹄壁すなわち、毛細血管壁の破綻により形成される半月体が主病変である。破綻した糸球体係締壁からボウマン腔内に析出したフィブリンは、さらなるマクロファージのボウマン腔内への浸潤とマクロファージの増殖を来す。この管外増殖性変化により半月体形成が生じる。細胞性半月体はボウマン腔に2層以上の細胞層が形成されるものと定義される。細胞性半月体は可逆的変化とされているが、適切な治療を行わないと、非可逆的な線維細胞性半月体から線維性半月体へと変貌を遂げる4)。このような糸球体係蹄壁上の炎症の原因には、糸球体係締壁を構成するIV型コラーゲンのα3鎖のNC1ドメインを標的とする自己抗体である抗糸球体基底膜(GBM)抗体によって発症する抗GBM抗体病、好中球の細胞質に対する自己抗体である抗好中球細胞質抗体(ANCA)が関与するもの、糸球体係蹄壁やメサンギウム領域に免疫グロブリンや免疫複合体の沈着により発症する免疫複合体型の3病型が知られている。■ 症状糸球体腎炎症候群の中でも最も強い炎症を伴う疾患で、全身性の炎症に伴う自覚症状が出現する。全身倦怠感(73.6%)、発熱(51.2%)、食思不振(60.2%)、上気道炎症状(33.5%)、関節痛(18.7%)、悪心(29.0%)、体重減少(33.5%)などの非特異的症状が大半であるが5)、潜伏性に発症し、自覚症状を完全に欠いて検尿異常、血清クレアチニン異常の精査で診断に至る例も少なくない。また、腎症候として多いものは浮腫(51.2%)、肉眼的血尿(14.1%)、乏尿(16.4%)、ネフローゼ症候群(17.8%)、急性腎炎症候群(18.5%)、尿毒症(15.8%)5)などである。肺病変、とくに間質性肺炎の合併(24.5%)がある場合、下肺野を中心に湿性ラ音を聴取する。■ 分類半月体形成を認める糸球体の蛍光抗体法所見から、(1)糸球体係蹄壁に免疫グロブリン(多くはIgG)の線状沈着を認める抗糸球体基底膜(glomerular basement membrane:GBM)抗体型、(2)糸球体に免疫グロブリンなどの沈着を認めないpauci-immune型、(3)糸球体係蹄壁やメサンギウム領域に免疫グロブリンや免疫複合体の顆粒状の沈着を認める免疫複合体型の3型に分類される。さらに、血清マーカー、症候や病因を加味しての病型分類が可能で、抗GBM抗体病は肺出血を合併する場合にはグッドパスチャー症候群、腎病変に限局する場合には抗GBM腎炎、pauici-immune型は全身の各諸臓器の炎症を併発する全身性血管炎に対し、腎臓のみに症候を持つ腎限局型血管炎(Renal limited vasculitis)とする分類もある。このpauci-immune型の大半は抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophi cytoplasmic antibody:ANCA)が陽性であり、近年ではこれらを総称してANCA関連血管炎(ANCA associated vasculitis:AAV)と呼ばれる。ANCAには、そのサブクラスにより核周囲型(peri-nuclear)(MPO)-ANCAと細胞質型(Cytoplasmic)(PR3)-ANCAに分類される。■ 予後RPGNは、糸球体腎炎症候群の中で腎予後、生命予後とも最も予後不良である。しかしながら、わが国のRPGNの予後は近年改善傾向にあり、治療開始からの6ヵ月間の生存率については1989~1998年で79.2%、1999~2001年で80.1%、2002~2008年で86.1%、2009~2011年で88.5%、2012~2015年で89.7%、2016~2019年で89.6%と患者の高齢化が進んだものの短期生命予後は改善している。6ヵ月時点での腎生存率は1989~1998年で73.3%、1999~2001年で81.3%、2002~2008年で81.8%、2009~2011年で78.7%、2012~2015年で80.4%、2016~2019年で81.4%であり、腎障害軽度で治療開始した患者の腎予後は改善したものの、治療開始時血清クレアチニン3mg/dL以上の高度腎障害となっていた患者の腎予後については、改善を認めていない6)。また、脳血管障害や間質性肺炎などの腎以外の血管炎症候の中では、肺合併症を伴う症例の生命予後が不良であることがわかっている。感染症による死亡例が多いため、免疫抑制薬などの治療を控えるなどされてきたが、腎予後改善のためにさらなる工夫が必要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)RPGNは、早期発見による早期治療開始が予後を大きく左右する。したがって、RPGNを疑い、本症の確定診断、治療方針決定のための病型診断の3段階の診断を速やかに行う必要がある。■ 早期診断指針(1)血尿、蛋白尿、円柱尿などの腎炎性尿所見を認める、(2)GFRが60mL/分/1.73m2未満、(3)CRP高値や赤沈亢進を認める、の3つの検査所見を同時に認めた場合、RPGNを疑い、腎生検などの腎専門診療の可能な施設へ紹介する。なお、急性感染症の合併、慢性腎炎に伴う緩徐な腎機能障害が疑われる場合には、1~2週間以内に血清クレアチニン値を再検する。また、腎機能が正常範囲内であっても、腎炎性尿所見と同時に、3ヵ月以内に30%以上の腎機能の悪化がある場合にはRPGNを疑い、専門医への紹介を勧める。新たに出現した尿異常の場合、RPGNを念頭において、腎機能の変化が無いかを確認するべきである。■ 確定診断のための指針(1)病歴の聴取、過去の検診、その他の腎機能データを確認し、数週~数ヵ月の経過で急速に腎不全が進行していることの確認。(2)血尿(多くは顕微鏡的血尿、まれに肉眼的血尿)、蛋白尿、赤血球円柱、顆粒円柱などの腎炎性尿所見を認める。以上の2項目を同時に満たせば、RPGNと診断することができる。なお、過去の検査歴などがない場合や来院時無尿状態で尿所見が得られない場合は臨床症候や腎臓超音波検査、CT検査などにより、腎のサイズ、腎皮質の厚さ、皮髄境界、尿路閉塞などのチェックにより、慢性腎不全との鑑別を含めて、総合的に判断する。■ 病型診断可能な限り速やかに腎生検を行い、確定診断と同時に病型診断を行う。併せて血清マーカー検査や他臓器病変の評価により二次性を含めた病型の診断を行う。■ 鑑別診断鑑別を要する疾患としては、さまざまな急性腎障害を来す疾患が挙げられる。とくに高齢者では血尿を含めた無症候性血尿例に、脱水、薬剤性腎障害の併発がある場合などが該当する。また、急性間質性腎炎、悪性高血圧症、強皮症腎クリーゼ、コレステロール結晶塞栓症、溶血性尿毒症症候群などが類似の臨床経過をたどる。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)入院安静を基本とする。本症の発症・進展に感染症の関与があること、日和見感染の多さなどから、環境にも十分配慮し、可能な限り感染症の合併を予防することが必要である。RPGNは、さまざまな原疾患から発症する症候群であり、その治療も原疾患により異なる。本稿では、ANCA陽性のpauci-immune型RPGNの治療法を中心に示す。治療の基本は、副腎皮質ステロイド薬と免疫抑制薬による免疫抑制療法である。初期治療は、副腎皮質ホルモン製剤で開始し、炎症の沈静化を図る。早期の副腎皮質ホルモン製剤の減量が必要な場合や糖尿病などの併発例で血糖管理困難例には、アバコパンの併用を行う。初期の炎症コントロールを確実にするためにシシクロホスファミド(経口あるいは静注)またはリツキシマブの併用を行う。また、高度腎機能障害を伴う場合には血漿交換療法を併用する。これらの治療で約6ヵ月間、再発、再燃なく加療後に、維持治療に入る。維持治療については経口の免疫抑制薬や6ヵ月毎のリツキシマブの投与を行う。また、日和見感染症は、呼吸不全により発症することが多い。免疫抑制療法中には、ST合剤(1~2g 48時間毎/保険適用外使用)の投与や、そのほかの感染症併発に細心の注意をはらう。4 今後の展望RPGNの生命予後は各病型とも早期発見、早期治療開始が進み格段の改善をみた。しかしながら、進行が急速で治療開始時の腎機能進行例の腎予後はいまだ不良であり、初期治療ならびにその後の維持治療に工夫を要する。新たな薬剤の治験が開始されており、早期発見体制の確立と共に、予後改善の実現が待たれる。抗GBM腎炎については、早期発見がいまだ不能で、過去30年間にわたり腎予後は不良のままで改善はみられていない。現在欧州を中心に抗GBM腎炎に対する新たな薬物治療の治験が進められている7)。5 主たる診療科腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本腎臓学会ホームページ(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)急速進行性腎炎症候群の診療指針 第2版(医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター 急速進行性糸球体腎炎(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)1)旭 浩一ほか. 腎臓領域指定難病 2017年度新規受療患者数:全国アンケート調査. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)難治性腎疾患に関する調査研究 平成30年度分担研究報告書.2019.2)杉山 斉ほか. 腎臓病総合レジストリー(J-RBR/J-KDR) 2022年次報告と経過報告.第66回日本腎臓学会学術総会3)日本透析医学会 編集. 我が国の慢性透析療法の現況(2022年12月31日現在)4)Atkins RC, et al. J Am Soc Nephrol. 1996;7:2271-2278.5)厚生労働省特定疾患進行性腎障害に関する調査研究班. 急速進行性腎炎症候群の診療指針 第2版. 日腎誌. 2011;53:509-555.6)Kaneko S, et al. Clin Exp Nephrol. 2022;26:234-246.7)Soveri I, et al. Kidney Int. 2019;96:1234-1238.公開履歴初回2024年11月7日

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呼吸困難に対しては鎮静? モルヒネの増量?【非専門医のための緩和ケアTips】第87回

呼吸困難に対しては鎮静? モルヒネの増量?呼吸困難への対応について書いた「第84回 緩和的鎮静に用いる薬剤」の掲載後、読者の方から実践的なご質問をいただきました。難治性の身体症状の代表格である呼吸困難に対するアプローチについてです。今日の質問呼吸困難に対してモルヒネで鎮静することは推奨されない、と書かれていましたが、こちらに疑問があります。考え方はわからないでもないですが、ケースバイケースで対応すべきではないでしょうか。これは、実臨床で非常に悩ましい場面を経験するからこそのご質問ですね。ご質問者は、かなり豊富な緩和ケア実践を積まれているのではと推察します。さて、今回のご質問である「呼吸困難に対し、“鎮静”よりも“モルヒネ増量”で対応することの是非」について、私の見解を述べたいと思います。「最も無難な答え」としては、質問者の方も書かれているように「ケースバイケース」になるでしょう。ただ、それだとちょっと不親切な気がしますので、もう少し深掘りしてみましょう。こうした問いに対しては、「どのようなケースはモルヒネ増量が望ましく、どのような点が異なると鎮静が望ましいのか」という視点で考えることが重要です。この問題に対して、私は2つの軸で考えています。1つ目の軸は、「モルヒネ増量によって、目標とする呼吸困難の緩和がどの程度の確率で可能か?」というものです。ほかの分野の薬剤でも同様ですが、ある程度の臨床経験を積むと「これなら効きそう」「この症状だとあまり効かないかな」といったことを感じながら診療していることでしょう。そうした経験値を基に、モルヒネを増量して症状が軽減したため、少し増量してみる、という判断はありうるでしょう。逆に、原疾患の病態が不可逆的だったり早い速度で悪化したりしていれば、モルヒネを増量しても有効でない可能性が高いでしょう。その際は鎮静をせざるを得ないと判断するケースが多くなります。2つ目の軸は「患者の望んでいる覚醒度」です。症状が非常に重く、夜も寝られない状況であれば、少しでも早く症状を和らげて欲しいと考える患者さんが多いでしょう。もちろん、鎮静の倫理的妥当性は常に慎重に検討することが必要ですが、そうした状況では「モルヒネをゆっくり増量」というのは、患者の望む対応でないかもしれません。反対に、「症状をある程度我慢してでも、しっかり起きていたい」と希望する患者さんもいます。そうした方には、鎮静薬は患者の望む症状コントロール目標に見合ってない介入になってしまいます。こうしたケースでは、副作用の心配がなければ、モルヒネ増量が優先度の高い対応となるでしょう。個別の状況で判断が異なる論点なので、少し複雑に感じられる方もいるでしょう。ただ、こうした個別の状況において、「この患者さんは何を目指していて、今はどういう状況なのか?」と考えながら実践する点が、緩和ケアのやりがいでもあります。どちらが正解というよりも、「どういう状況ならば、どのやり方が最善なのか」を常に考え、うまくいった時のやりがいを感じていただけたら幸いです。今回のTips今回のTips緩和ケアにおいては、ケースバイケースに対応した考え方が大切です。

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