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有毒な難分解性物質PFASを吸収する腸内細菌を発見妊娠困難、小児の発達遅延、がんや心血管疾患を生じやすくするなどの数々の害と関連し、便利だけれども分解し難くて環境中や体内にずっと居座る厄介な難分解性化学物質・PFAS(ピーファス)を吸収して糞中に排泄しうる腸内細菌を、ケンブリッジ大学の科学者らが発見しました1,2)。ヒトの腸内のそれらの細菌を底上げすることで、PFASの害をやがては防げるようになるかもしれません。人工の化学物質の環境汚染はもはや安全な水準を超えているかもしれません。水や農業システムの広範囲に及ぶ汚染によって数多の環境汚染物質が食物に吸収され、それらを食する人間の体内に入り込んでいます。そういう環境汚染物質の中で永続化学物質(forever chemical)との異名でも知られるPFASはとくに心配です。消火剤の泡、防水服、食材が張り付かない調理器具、口紅、食品包装などの工業や店頭のありとあらゆる製品に使われている4,730種類の化合物がPFASに属し、近代社会に不可欠なものとなっています。PFASが引っ張りだこなのは、炭素-フッ素(C-F)結合の強度に由来する他に類を見ない安定性と強力な親水/疎水性基に由来する界面活性剤様の便利な特徴によります。しかしそれらの特徴は諸刃の剣でもあり、長く分解されずに環境や人体に蓄積して健康を害します。PFASは数日で尿中に放出されるものもありますが、長い分子構造のものは体内に何年も留まる恐れがあります。PFASの健康への負担は莫大なようです。たとえば欧州全域の年間のPFAS絡みの医療費は実に500~800億ユーロにも達すると試算されています。その欧州や米国での血中PFAS検出率は高く、飲水のPFASを抑えることやPFASの使用を制限することが計画されています。しかし世界的な取り組みにはなっていません。環境中に長くとどまるPFASの効率良い除去法はいまのところありませんが、しかしよい兆しもあり、PFAS汚染地で見つかったシュードモナス属の細菌にPFASを収集する能力があることが判明しています3)。また、乳酸菌がPFASと結合してPFASの毒性を緩和しうることも示唆されています4)。それらの先立つ成果を踏まえてケンブリッジ大学のKiran Patil氏らは人体の腸内細菌とPFASの関わりを検討し、PFASを盛んに吸収しうる38の細菌株の発見にこぎ着けました。それらのうちPFASを最も蓄積するいわばエリート細菌株5種類をマウスの腸に導入したところ、糞中のPFAS排泄が増加し、腸の細菌がPFASを蓄積して体外へと排出しうることが裏付けられました。しかしその結果はあくまでも一回きりのPFAS投与の結果であり、次の課題としてPFASの摂取とその血中濃度、尿や糞中への排泄、微生物組成の長期間の推移を検討する必要があります。Patil氏らは体内のPFASを取り除く微生物を開発する企業であるCambiotics社5)を早くも設立し、目当ての微生物の性能を格段に飛躍させる手段を検討しています2)。 参考 1) Lindell AE, et al. Nat Microbiol. 2025;10:1630-1647. 2) Gut microbes could protect us from toxic ‘forever chemicals’ / Eurekalert 3) Presentato A, et al. Microorganisms. 2020;8:92. 4) Chen Q, et al. Environ Int. 2022;166:107388. 5) Cambiotics社ホームページ