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運動習慣のある人でも座りすぎは心臓に良くない

 座っている時間が長いと、たとえ推奨される最低限の運動を行っていたとしても、心臓に悪い影響が生じることを示唆するデータが報告された。ただし、より高強度の運動を加えることで、そのリスクをある程度抑制できる可能性があるという。米コロラド大学ボルダー校のChandra Reynolds氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS ONE」に9月11日掲載された。同氏は、「仕事の後に少し歩く程度では、心臓の健康にとって十分ではないかもしれない」と述べている。 この研究は、米国コロラド州で行われている二つの疫学研究の参加者1,327人(平均年齢33.2±4.9歳〔範囲28~49〕、女性53%)を対象に行われた。研究参加者の年齢が比較的若いことに関連して、論文の筆頭著者である米カリフォルニア大学リバーサイド校のRyan Bruellman氏は、「若者は自分には加齢の影響が生じ始めていると全く考えていないことが多い。しかし後々の健康にとっては、人生のこの時期に何をするかが重要だ」と語っている。 研究参加者の1日の座位行動時間は平均8.58時間だったが、中には16時間に及ぶ人も含まれていた。運動時間については、平均的に1週間あたり80~160分の中強度運動、135分未満の高強度運動をしている人が多く、これらは米国の全国平均よりも運動習慣が良好な集団であることを示していた。 この研究では、BMI、および、総コレステロールを善玉コレステロール(高比重リポ蛋白コレステロール)で除した値(TC/HDL-C比)という二つの指標を、心臓の健康状態を推測するために利用した。解析対象全体の平均は、BMIが26.9±6.1で、TC/HDL-C比は3.3±0.9だった。 解析の結果、座位行動時間が長い人ほど、これらの評価指標が悪いことが明らかになった。一般的に推奨される最低限の運動量である、1日に約20分の中強度の運動を満たしていたとしても、座位行動時間が長いことによる心臓への悪影響は、十分に抑制されていないと考えられた。 しかし、1日30分以上の高強度の運動、例えばランニングやサイクリングを加えると、座位行動時間が長いことによる心臓への悪影響を、ある程度抑制できる可能性が示された。例えば35歳で1日の座位行動時間が4時間ながら、毎日30分以上の高強度運動をしている人のTC/HDL-C比は、性別にかかわらず、座位行動時間が同じで高強度運動をしていない30歳の人と同レベルだった。つまり、高強度運動を加えることには、5歳程度の若返り効果があると推測された。 研究者らは、座位行動時間が長くなりがちな人に向けたアドバイスとして、職場でスタンディングデスクを使用したり、毎日30分以上の高強度運動をしたり、土日に“週末戦士”として高強度のトレーニングを集中して行うことなどを提案している。

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味覚異常の2割は口腔疾患が主因で半数強に亜鉛以外の治療が必要―歯科外来調査

 歯科における味覚障害患者の特徴を詳細に検討した結果が報告された。患者の約2割は口腔疾患が主因であり、半数強は亜鉛製剤処方以外の治療が必要だったという。北海道大学大学院歯学研究科口腔病態学講座の坂田健一郎氏、板垣竜樹氏らの研究によるもので、「Biomedicines」に論文が9月23日掲載された。 近年、味覚異常の患者数が増加傾向にあり、特に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックで顕著に増加した。味覚異常の原因として古くから亜鉛欠乏が知られており、治療として通常まず亜鉛製剤の投与が行われる。しかし、亜鉛製剤が無効な症例も少なくない。また味覚障害の原因に関する研究は、耳鼻咽喉科で行われたものや既に何らかの基礎疾患を有する患者群での報告が多くを占めている。これらを背景として坂田氏らは、北海道大学病院口腔科の患者データを用いた後ろ向き研究を行った。 2007~2018年に同科を受診し味覚障害と診断された患者は322人であり、平均年齢66.3±13.1歳、女性73.3%、平均罹病期間15.2±20.0カ月だった。味覚障害の診断および原因の探索は、口腔外科専門医による問診、舌・口腔・鼻腔の観察、味覚検査、血液検査(亜鉛、銅、鉄、ビタミンB12)、唾液分泌検査、口腔カンジダ培養検査、うつレベルの評価(自己評価に基づくスクリーニングツール〔self-rating depression scale;SDS〕を使用)などにより行われた。 味覚検査は、舌の4領域に4種類の味質を使用して味を感じる閾値を特定し、年齢を考慮して判定するろ紙ディスク法、または、口の中全体で味を感じ取れるか否かで診断する全口腔法という2種類の検査法を施行し、量的味覚障害または質的味覚障害と診断された。これら両者による診断で、年齢、性別の分布に有意差はなかった。また血清亜鉛濃度も、量的味覚障害の患者群が73.1±16.3μg/dL、質的味覚障害の患者群が73.4±15.8μg/dLであり、有意差がなかった(血清亜鉛濃度の基準範囲は一般的に80μg/dLが下限)。ただし、味覚障害の主因については、心因性と判定された患者の割合が、量的味覚障害群に比べて質的味覚障害群では約1.5倍多いという違いが見られた。 全体解析による味覚障害の主因は、心因性が35.1%、口腔疾患(口腔カンジダ症、口腔乾燥症など)が19.9%、亜鉛欠乏が10.2%、急性感染症が5.0%、全身性疾患が5.0%、医原性(薬剤性以外)が2.5%、薬剤性が1.9%、特発性(原因が不明または特定不能)が20.5%だった。 この結果から、歯科で味覚障害と診断された患者では、亜鉛欠乏が主因のケースはそれほど多くなく、むしろ心因性や口腔疾患による味覚障害が多いことが明らかになった。また、実際に行われていた治療を見ると、半数以上の患者が亜鉛製剤処方以外の処置を要していた。これらを基に著者らは、「味覚異常を訴え歯科を受診した患者の場合、血清亜鉛値から得られる情報は参考程度にとどまる。臨床においては、低亜鉛血症を認めた場合は亜鉛製剤を処方しながら味覚障害の原因探索を進めるという対応がベストプラクティスと言えるのではないか」と述べている。また、心因性の味覚障害が多数を占めることから、「診断のサポートとしてSDSなどによるうつレベルの評価が有用と考えられる」と付け加えている。

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70歳未満の長生きの向上―過去と未来(解説:名郷 直樹氏)

 高齢者でなく70歳未満を対象にして、世界の10の地域、人口の多い30ヵ国を対象に、10年間の早期死亡確率とそのばらつき、今後50年の予想を検討した論文である。 長寿化による避けられない死より、それ以前の若年での死亡を検討するという視点は、「人生100年時代」と超高齢者まで生きることばかりを喧伝し、若年者の健康に対しての提言がはっきりしない日本の現状に対しても大きな意味を持つ研究である。 早期の死亡確率は“probability of premature death(PPD)”として定義されており、ある年齢Xからn年経過した時点の死亡確率IxとIx+nの差をIxで割ったものを年齢X時点の早期死亡確率と定義している。たとえば、0歳時の死亡確率を0.08%、70歳時点での死亡確率を1.5%とするとPPDは{(1.5-0.08)/100}/(0.08/100)=17.75になる。 この論文では、70歳以前の死亡を早期死亡と定義し、PPDを各集団で比較している。全体の解析ではPPDが31%、2010-19年の変化率で1.3%と報告している。また国別の2019年時点のPPDは、30ヵ国中、日本、韓国、イタリアが12%と最も低い値を示している。さらに2010-19年の変化率では韓国が3.1%とトップで、日本は1.9%で9位である。ここで注目すべきことの1つとして、米国だけが+0.1%と死亡率の増加を示している点である。格差社会の拡大が関係しているのかもしれない。上流階級での改善が、黒人や移民などの死亡率の悪化でかき消されているというのは1つの仮説にすぎないが、今後日本でも起こりうることかもしれない。 日本は平均余命で世界のトップクラスにあるのと同様に、70歳以前の死亡も世界で最も少ない部類に入ることが示され、その変化率が小さいことからすれば、世界で最も早い時点で70歳以前の死亡確率の低下を達成したと思われる。しかしながら、これがこのまま続くかどうかの保証はない。むしろ、医療費削減、介護費の削減、国民皆保険の自己負担の増加、あるいは皆保険の見直しなど、現状維持さえも困難になるような状況かもしれない。 少子化対策が強調される中、高齢者にかけるコストの削減がその背景で進んでいる。103万円の壁の議論はまさにその1つだろう。こうしたデータはそれを後押しするように使われるかもしれない。しかし、さらに50年が経過すれば、今の少子化世代が高齢に差し掛かり、まったく別の世界観が必要になるだろう。先進国での高齢者の減少と少子化対策による人口増加、発展途上国における人口の急激な増大となれば、以前問題となったように、少子化よりも人口増加が問題になり、人口の減少をどう達成するかが最も重要なこととして取り上げられる時代になるかもしれない。そうした将来に対して、この論文をどう読むか、読者であるわれわれに課された大きな問題である。

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コンパッション・シティって知っていますか?【非専門医のための緩和ケアTips】第89回

コンパッション・シティって知っていますか?「コンパッション・シティ」って聞いたことがありますか? 私も勉強中だったのですが、学ぶ機会があったのでお話ししたいと思います。今後の緩和ケアを議論するうえで大きな論点になっていくと思われるテーマです。今回の質問最近、学会に参加している際に「コンパッション・シティ」とか、「コンパッション・コミュニティ」という言葉を聞きました。ちょっと聞いただけではよくわからなかったのですが、緩和ケアとどのような関わりがあるのでしょうか?「コンパッション・シティ」という用語、緩和ケア領域で耳にする機会が増えてきました。「コンパッション」は日本語に直訳すると「思いやり」。「思いやりを持った都市」、???って感じですが、もうちょっと詳しくみていきましょう。まず、この「コンパッション」という概念について説明しましょう。医療者であるわれわれには「シティ」よりもこちらのほうが直感的に理解しやすいはずです。高齢化が進み、死や喪失を経験する方が増えています。そこには医療だけではアプローチできない苦悩があり、その苦しみは病院の中では解決できません。緩和医療分野の世界的な権威であるアラン・ケレハー氏は、「苦しみのほとんどは病院の中にあるのではなく、生活の中にある。病院で解決できる苦痛など、せいぜい5%ほどしかない」と、よく仰っています。実は先日、アラン・ケレハー氏が来日され、直接お話を伺う機会があり、私自身、深い学びを得ました。「苦しみは病院ではなく生活の中にある」というのは、まさしくそのとおりだと思いませんか? では、病院にいる私たちは、これにどのように対応すればよいでしょうか。ポイントになるのが、「地域」そして「都市」レベルでの「コンパッション」なのです。皆さんが診療している地域でも、町内会やご近所付き合いの中で支え合いが機能していることがあるでしょう。困っている人がいれば話を聞いたり、ゴミ出しのお手伝いや見守りをしたりなど、家族以外の身近な人たちが、お互いに支え合っている例です。自己犠牲に基づく献身ではなく、お互いができることをできる範囲でやり、支え合うようなコミュニティは多数あります。これが「コンパッション・コミュニティ」なのです。一方、「コンパッション・シティ」では、行政からのアクションも含め、個別のコミュニティだけでなく都市レベルでコンパッションを高めるまちづくりに取り組んでいる例、というのが私の理解です。トップダウンの「コンパッション・シティ」と、ボトムアップの「コンパッション・コミュニティ」と理解するとわかりやすいかもしれません(このあたりは私も勉強中なので、解釈違いなどあればご指摘ください)。緩和ケアに関わる医療者として、医療機関だけでなく地域でケアが提供されるのは本当に大切なことだと思います。また、われわれも含めたケアの提供者も、ケアが受けられる環境であってほしいとも思います。そのヒントが「コンパッション」なのかもしれません。こういった横文字の新しい言葉って、多くの人に理解され、定着するまでが大変ですよね。「アドバンス・ケア・プランニング」(ACP)もその途上にあり、議論の中では誤解も生じやすい言葉だと感じています。一方、うまく日本語に訳すのも難しいため、多くの議論を重ねながら、定着すればと思っています。今回のTips今回のTipsコンパッション・シティは、これからのケアのあり方を考えるうえで重要なコンセプトです。

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便秘【いざというとき役立つ!救急処置おさらい帳】第21回

便秘は古今東西いろいろな場面で遭遇します。しかし、「便秘でしょ」と軽く考えていると痛い目を見ることがあります。今回は救急外来での症例を通じて、便秘診療の注意点を確認してみましょう。<症例>80歳、女性主訴便秘病歴3日くらい前から排便がなく、1時間前から腹痛を訴えている。本人が「便秘かも」と言っており、浣腸を希望して受診した。思わず「浣腸しておいて」と言いたくなるかと思いますがそこはぐっと我慢して、ステップを追って診察していきましょう。ステップ1 本当に便秘?と疑う腹痛の鑑別は多岐にわたります。鑑別を記載すると膨大になるため割愛しますが、患者さんが「便秘のようだ」というときに、「本当に便秘?」と常に疑う必要があります。まれに尿閉を便秘と訴える患者さんもいます。「便秘で浣腸」という行為は、医療者以外でも一般的に行っている対処方法ですが、浣腸でも重篤な合併症を生じる可能性があります。浣腸は下行結腸・S状結腸あたりから直腸膨大部までの腸管内容物を排除することを目的としています。腸管壁の脆弱性を生じる疾患(憩室炎など)があった場合、圧をかけることにより消化管穿孔のリスクになるという報告があるため1)、安易に便秘と診断して浣腸することは控えるべきです。この患者さんの腹部の所見は、左下腹部に圧痛を認めるものの腹膜刺激症状はなく、直腸診では便塊を触れるのみで腫瘤の触知は認めませんでした。本人曰く、排尿は来院前に済ましているとのことで尿閉は否定的でした。他に腹痛を生じる疾患は認めなかったため、便秘と診断しました。ステップ2 治療便秘は16%の人が経験し、60歳以上となると33.5%の人が罹患するという報告があります。便秘の種類としては器質性と機能性に分けられます。器質性は腫瘍や炎症などによる腸管の狭窄、蠕動低下を来した状態であり、適切に治療しないと重篤化するため早期の発見が必要です2,3)。機能性は器質性以外の便秘で、腸管蠕動の低下や脱水により便が固くなり、排便が困難となり発症します。この患者さんは直腸診で硬便を触れるため機能性の便秘の可能性が高いと判断したところで、看護師より「摘便しましょうか?」と提案がありました。便秘の治療はさまざまです。この患者さんのように、すでに便が直腸下部にある場合、坐剤、浣腸、摘便がよい適応になります4)。私は肛門近くに便塊がある場合(糞便塞栓)、可能な限り摘便した後に浣腸をしています。固い便が肛門をふさいでいると浣腸や坐剤がうまく使用できないと考えるからです。患者さんに摘便、浣腸を行ったところ大量の排便があり、患者の腹痛はきれいに消失しました。なお、80歳という年齢を考えると、器質性の便秘の可能性も最後まで否定できないため、必ず大腸内視鏡検査を進めましょう。ステップ3 便秘を繰り返さないための指導便秘になるたびに浣腸をする人がいますが、浣腸は頻度が高くはないとはいえ消化管穿孔などの重大な合併症や習慣性を招くという報告があります5)。機能性の便秘を生じる原因は多岐にわたり、原因を1つに絞るのは難しいと言われています2)が、最も頻度が高い原因は生活習慣(食物繊維の不足、脱水、運動不足など)とされ、適度な飲水、運動が便秘の頻度を下げるという報告があり重要です6)。そして忘れてはいけないのが薬剤性です。便秘を生じる薬剤は、Ca拮抗薬、抗うつ薬、利尿薬など多岐にわたります。必要な薬は内服しなければいけませんが、昨今では高齢者のポリファーマシーが問題になっており、処方薬の調整のきっかけにしてもらいたいと考えます7)。この患者さんの内服薬は降圧薬くらいで、運動不足が便秘の原因と言われたことがあるため可能な限り体を動かしているとのことでした。生活習慣でこれ以上改善するのは難しいと判断し、薬剤投与を行うこととしました。わが国の慢性便秘症診療ガイドラインでは、「浸透圧下剤(酸化マグネシウム)」、「上皮機能変容薬(ルビプロストンなど)」が最も強く推奨されています4)。私は中でも安価で調節がしやすい酸化マグネシウムを好んで処方しています。投与後の反応は患者によって異なるため、330mgを毎食後で開始して、処方箋に「自己調節可」と記載し、患者さんに説明したうえで調節してもらっています。酸化マグネシウムを増量しても効果が乏しい場合は刺激性下剤を追加しています。酸化マグネシウムを投与する際に注意してほしい合併症が高マグネシウム血症です。投与量(≧1,650mg/日)や投与期間(36日以上)、腎機能障害(糸球体濾過量<55.4mL/min)、血中尿素窒素の上昇(≧22.4mg/dL)によってリスクが増加すると報告があり、長期投与を行う場合は漫然と処方するのではなく、定期的な血中マグネシウム濃度の測定が必要です8)。腎機能障害があるなどリスクが高い場合は、上皮機能変容薬を選択しています。この患者さんには酸化マグネシウムを処方し、近医に通院して加療を継続してもらうこととなりました。便秘という疾患は多くの人が経験する疾患であり、便秘が主訴の患者さんに対して「便秘だろう」という先入観で診察を怠ると痛い目にあうことがあります。積極的に介入していきましょう。1)大城 望史ほか. 日本大腸肛門病学会雑誌. 2008;61:127-131.2)Forootan M, et al. Medicine(Baltimore). 2018;97:e10631.3)Black CJ, et al. Med J Aust. 2018;209:86-91.4)日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断治療研究会. 慢性便秘症診療ガイドライン2017.南江堂;2017.5)Niv G, et al. Int J Gen Med. 2013;6:323-328.6)Leung L, et al. J Am Board Fam Med. 2011;24:436-451.7)大井 一弥. YAKUGAKU ZASSHI. 2019;139:571-574.8)Wakai E, et al. J Pharm Health Care Sci. 2019;5:4.

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寄り道編(14)狭心症治療薬の歴史【臨床力に差がつく 医薬トリビア】第63回

 ※当コーナーは、宮川泰宏先生の著書「臨床力に差がつく 薬学トリビア」の内容を株式会社じほうより許諾をいただき、一部抜粋・改変して掲載しております。今回は、月刊薬事64巻2号「臨床ですぐに使える薬学トリビア」の内容と併せて一部抜粋・改変し、紹介します。寄り道編(14)狭心症治療薬の歴史Questionニトログリセリンからダイナマイトを開発したことを後悔したアルフレッド・ノーベルが晩年に処方された薬は?

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第241回 相変わらず診療所開業医をターゲットとする財務省、財政制度等審議会「秋の建議」の注目点

「診療所開業医=日本医師会」がまたまたカチンとくる内容こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は一昨年秋にも登った埼玉県・奥武蔵の伊豆ヶ岳に行って来ました。西武秩父線の吾野駅から子ノ権現、天目指峠を経て伊豆ヶ岳、正丸峠を経て正丸駅に下りるいつものコースです。子ノ権現までの山道のイチョウの黄葉や、伊豆ヶ岳周辺のカエデの紅葉、正丸峠にある奥村茶屋名物のジンギスカンなどを堪能して帰路につきました。このコース、昨年は左足の中手骨を骨折していて行っていません。その前の2022年は苗場山で痛めた右膝をかばいながらの登山、2021年は正丸峠からの下りで転倒し、左手小指を骨折しました。個人的に何かと整形外科と縁があるので少々不安でしたが、今年は特に何のイベントも起きず無事下山できました。ちなみに、正丸峠はしげの秀一の漫画「頭文字(イニシャル)D」にも登場する、かつての“走り屋”の聖地でもあります。車で秩父を訪れる方は、ハイカーと“走り屋”が混在する歴史的レストラン、奥村茶屋をぜひ訪れてみてください。さて、今回は財務大臣の諮問機関、財政制度等審議会が11月29日に2025年度の予算編成に向けた意見書(令和7年度予算の編成等に関する建議、通称「秋の建議」)をとりまとめ、加藤 勝信財務相に提出しましたので、その内容について書いてみたいと思います。昨年のように、翌年に診療報酬改定を控えた年の秋の建議には、財務省の考えを反映させた厳しい提言や大胆な施策案が盛り込まれることが多く、昨年などは診療報酬本体マイナス改定が適当だとし、とくに診療所に入る報酬の単価を5.5%程度引き下げるよう求め、日本医師会などの大きな反発を招きました(「第188回 診療報酬改定シリーズ本格化(後編) 『財務省による医療界を分断するような動きがある』と日医・松本会長、『私たちは、財務省の奴隷なのでしょうか』と都医・尾崎会長。その財務省は地域別診療報酬を提案」)。今年の「秋の建議」も総じて「診療所開業医=日本医師会」がまたまたカチンとくる内容になっており、医療について財務省の主要ターゲットが相変わらず診療所(とくに大都市の)であることが伺えます。「自由開業制・自由標榜制が、医師の偏在の拡大につながっている」「秋の建議」の医療分野の重点項目としては、創薬力強化、薬価改定、医師偏在対策などが並びました。このうち、厚生労働省で今、「総合的な対策パッケージ」の策定が進められている医師偏在対策については、「自由開業制・自由標榜制が、医師の偏在の拡大につながっている。(中略)地域間、診療科間、病院・診療所間の医師偏在を解決するためには、保険医療機関の指定を含む公的保険上の指定権限の在り方にまで踏み込んだ実効的な規制を導入することが不可欠」として、「外来医師多数区域での保険医の新規参入に一定の制限を設けることはもとより、さらに、既存の保険医療機関も含めて需給調整を行う仕組みを創設する」といった手法の導入を提言しています。また、かねてより財務省が提言してきた「診療所の偏在是正のための診療報酬の地域別単価の導入」も再度盛り込まれました。地域別単価については本連載の「第209回 これぞ財務省の執念? 財政審・財政制度分科会で財務省が地域別単価導入を再び提言、医師過剰地域での開業制限も」などでも度々書いてきたことです。秋の建議でも「医師偏在対策として、地域別診療報酬の仕組みを活用し、報酬面からも診療所過剰地域から診療所不足地域への医療資源のシフトを促していくべきである。なお、当面の措置として、診療所過剰地域における1点当たり単価(10円)の引下げを先行させ、それによる公費節減効果を活用して医師不足地域における対策を別途強化することも考えられる」としています。建議ではさらに、医師偏在対策をエビデンスベースで進めるためには、診療科ごとの医師偏在指標が必要であるにもかかわらず、そうした指標が存在しないことの問題点も指摘、「例えば『○○科のサービスが特に過剰な地域』について、都道府県や地域医療関係者が客観的・絶対的な形で判断できるような『医師偏在指標』に拠った基準を速やかに策定すべき」としています。この診療科ごとの医師偏在指標の提案は今回初めて出てきた項目です。将来的には標榜科目の制限にもつながっていく提案だと言えます。もっと知事がぐいぐい地域医療提供体制のリストラに介入しろ!「秋の建議」では、現在検討中が進められている新しい地域医療構想についても提言しています。「現状投影に基づく医療ニーズを入院・外来・在宅医療・介護の間で割り当てるという発想ではなく、患者像の変化(需要面での変容)に加えて、希少な医療資源を最大限活用する観点から、各医療機関における入院・外来機能の役割分担の明確化・集約化を加速させることによる地域医療提供体制の効率化(供給面での取組)をしっかりと反映した必要病床数や外来需要等の推計に立脚したものであるべき」といった至極真っ当な提言に続き、「医療法において、地域の会議における協議が整わない場合には、地域で不足している病床機能を提供するよう、個別の病院に指示・要請・勧告できるとの規定があるが、ほとんど発動実績はない」として、「各医療機関に対し、病床の機能分化・連携や病床数の縮減など、構想と整合的な対応を行うよう求めるに際して、国の保険医療機関の指定の在り方の検討と合わせ、知事の権限強化を図るべきである」と、知事の権限強化が必要であると強調しています。要は「もっと知事がぐいぐい地域医療提供体制のリストラに介入しろ!」と言っているわけです。2025年が目標年の地域医療構想の達成具合を考えれば、こちらも真っ当な提言と言えるでしょう。建議にはその他、原則全ての医薬品を対象にした毎年薬価改定の実施、バイオシミラーが出ているバイオ先発品の一部に選定療養を導入すること、セルフメディケーション推進策(医薬品の有用性に応じた自己負担率の設定、薬剤費の定額自己負担の導入、OTC類似薬の自己負担の検討など)、リフィル処方の推進に向けた取り組みなども盛り込まれました。日本医師会は自由開業・標榜の制限、診療報酬の地域別単価の導入、セルフメディケーション推進などの提案に反対を表明ところで、「秋の建議」に向けて財政制度等審議会の財政制度分科会が11月13日に社会保障に関する議論を行い、資料を公表した段階で、日本医師会は自由開業・標榜の制限、診療報酬の地域別単価の導入、セルフメディケーション推進などの提案に反対を表明しています。11月22日付の日経メディカルなどの報道によれば、11月20日に開かれた定例記者会見で日医会長の松本 吉郎氏は、「国民皆保険制度の下で、誰もがどこでも一定の自己負担で適切な診療を受けられることを基本的な理念とし、被保険者間の公平性を期する観点から全国一律の点数が公定価格として設定されている」として1点10円の堅持を強調、セルフメディケーション推進については「薬剤師による的確な受診勧奨・情報共有、医療機関との連携が重要である」として断固反対の姿勢を示しました。また自由開業・標榜の制限については、「職業選択の自由に抵触する」としてこちらも強く反対しています。大都市と地方の土地代や物価差などの実情や、現実には患者は実感できずその存在すら疑わしい医療機関と薬剤師の情報共有・連携などを考えると、松本会長の反論の説得力は極めて弱いと言えるでしょう。それにしても、厚生労働大臣を何度も務め、親日本医師会とも見られる加藤氏が財務大臣になっても、診療報酬の地域別単価導入など、日本医師会が嫌がることを相変わらず提言してくるあたり、財務省の執拗さ、執念を改めて感じることができます。加藤大臣下の財務省と日医との今後の“戦い”に注目したいと思います。

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喘息予防・管理ガイドライン改訂、初のCQ策定/日本アレルギー学会

 2024年10月に『喘息予防・管理ガイドライン2024』(JGL2024)が発刊された。今回の改訂では初めて「Clinical Question(CQ)」が策定された。そこで、第73回日本アレルギー学会学術大会(10月18~20日)において、「JGL2024:Clinical Questionから喘息予防・管理ガイドラインを考える」というシンポジウムが開催された。本シンポジウムでは4つのCQが紹介された。ICSへの追加はLABAとLAMAどちらが有用? 「CQ3:成人喘息患者の長期管理において吸入ステロイド薬(ICS)のみでコントロール不良時には長時間作用性β2刺激薬(LABA)と長時間作用性抗コリン薬(LAMA)の追加はどちらが有用か?」について、谷村 和哉氏(奈良県立医科大学 呼吸器内科学講座)が解説した。 喘息の治療において、ICSの使用が基本となるが、ICS単剤で良好なコントロールが得られない場合も少なくない。JGL2024の治療ステップ2では、LABA、LAMA、ロイコトリエン受容体拮抗薬、テオフィリン徐放製剤のいずれか1剤をICSへ追加することが示されている1)。そのなかでも、一般的にICSへのLABAの追加が行われている。しかし、近年トリプル療法の有用性の報告、ICSとLAMAの併用による相乗効果の可能性の報告などから、LAMA追加が注目されており、LABAとLAMAの違いが話題となることがある。  そこで、ICS単剤でコントロール不十分な18歳以上の喘息患者を対象に、ICSへ追加する薬剤としてLABAとLAMAを比較した無作為化比較試験(RCT)について、既報のシステマティックレビュー(SR)2)のアップデートレビュー(UR)を実施した。 8試験の解析の結果、呼吸機能(PEF[ピークフロー]、トラフFEV1[1秒量] )についてはLAMAがLABAと比べて有意な改善を認め、QOL(Asthma Quality of Life Questionnaire[AQLQ])についてはLABAがLAMAと比べて有意な改善を認めたが、いずれも臨床的に意義のある差(MCID)には達しなかった。また、喘息コントロール、増悪、有害事象についてはLABAとLAMAに有意差はなく、同等であった。 以上から、「ICSへの追加治療としてLABAとLAMAはいずれも同等に推奨される(エビデンスの確実性:B[中])」という推奨となった1)。ただし、谷村氏は「ICS/LAMA合剤は上市されていないため、アドヒアランス・吸入手技向上の観点からはICS/LABAが優先されうると考える。個別の症状への効果などの観点から、LABAとLAMAを使い分けることについては議論の余地がある」と述べた。中用量以上のICSでコントロール良好例のステップダウンは? 「CQ4:成人喘息患者の長期管理において中用量以上のICSによりコントロール良好な状態が12週間以上経過した場合にICS減量は推奨されるか?」について、岡田 直樹氏(東海大学医学部 内科学系呼吸器内科学)が解説した。 高用量のICSの長期使用はステロイド関連有害事象のリスクとなることが知られ、国際的なガイドライン(GINA[Global initiative for asthma]2024)3)では、12週間コントロール良好であれば50~70%の減量が提案されている。しかし、適切なステップダウンの時期や方法、安全性については十分な検討がなされていないのが現状であった。 そこで、中用量以上のICSで12週間以上コントロール良好な喘息患者を対象に、ICSのステップダウンを検討したRCTについて、既報のSR4)のURを実施した。 抽出された7文献の解析の結果、ICSのステップダウンは経口ステロイド薬による治療を要する増悪を増加させず、喘息コントロールやQOLへの影響も認められなかった。単一の文献で入院を要する増悪は増加傾向にあったが、イベント数が少なく有意差はみられなかった。一方、重篤な有害事象やステロイド関連有害事象もイベント数が少なく、明らかな減少は認められなかった。 以上から、「中用量以上のICSでコントロール良好な場合はICS減量を行うことが提案される(エビデンスの確実性:C[弱])」という推奨となった1)。岡田氏は、今回の解析はすべての研究の観察期間が1年未満と短く、骨粗鬆症などの長期的なステロイド関連有害事象についての評価がなかったことに触れ、「長期的な高用量ICSの投与により、ステロイド関連有害事象のリスクが増加することも報告されているため、高用量ICSからのステップダウンにより、ステロイド関連有害事象の発現が低下することが期待される」と述べた。FeNOに基づく管理は有用か? 「CQ1:成人喘息患者の長期管理において呼気中一酸化窒素濃度(FeNO)に基づく管理は有用か?」について、鶴巻 寛朗氏(群馬大学医学部附属病院 呼吸器・アレルギー内科)が解説した。 FeNOは、喘息におけるタイプ2炎症の評価に有用であることが報告されている。FeNOは、未治療の喘息患者ではICSの効果予測因子であり、治療中の喘息患者では経年的な肺機能の低下や気道可逆性の低下、増悪の予測における有用性が報告されている。しかし、治療中の喘息におけるFeNOに基づく長期管理の有用性に関するエビデンスの集積は十分ではない。 そこで、臨床症状とFeNO(あるいはFeNOのみ)に基づいた喘息治療を実施したRCTについて、既報のSR5)のURを実施した。 対象となった文献は13件であった。解析の結果、FeNOに基づいた喘息管理は1回以上の増悪を経験した患者数、52週当たりの増悪回数を有意に低下させた。しかし、経口ステロイド薬を要する増悪や入院を要する増悪については有意差がみられず、呼吸機能の改善も得られなかった。症状やQOLについても有意差はみられなかった。ICSの投与量については、減少傾向にはあったが、有意差はみられなかった。 以上から、「FeNOに基づく管理を行うことが提案される(エビデンスの確実性:B[中])」という推奨となった1)。結語として、鶴巻氏は「FeNOに基づく長期管理は、増悪を起こす喘息患者には有用となる可能性があると考えられる」と述べた。喘息の長期管理薬としてのマクロライドの位置付けは? 「CQ5:成人喘息患者の長期管理においてマクロライド系抗菌薬の投与は有用か?」について、大西 広志氏(高知大学医学部 呼吸器・アレルギー内科)が解説した。 小児を含む喘息患者に対するマクロライド系抗菌薬の持続投与は、重度の増悪を減らし、症状を軽減することが、過去のSRおよびメタ解析によって報告されている6)。しかし、成人喘息に限った解析は報告されていない。 そこで、既報のSR6)から小児を対象とした研究や英語以外の文献などを除外し、成人喘息患者の長期管理におけるマクロライド系抗菌薬の有用性について検討した適格なRCTを抽出した。 採用された17文献の解析の結果、マクロライド系抗菌薬は、入院を要する増悪や重度の増悪を減少させず、呼吸機能も改善しなかった。Asthma Control Test(ACT)については、アジスロマイシン群で有意に改善したが、MCIDには達しなかった。同様にAsthma Control Questionnaire(ACQ)、AQLQもマクロライド系抗菌薬群で有意に改善したが、MCIDには達しなかった。 以上から、本解析の結論は「マクロライド系抗菌薬の持続投与は、喘息患者に有用な可能性はあるものの、長期管理に用いることを推奨できる十分なエビデンスはない」というものであった。これを踏まえて、JGL2024の推奨は「マクロライド系抗菌薬を長期管理の目的で投与しないことが提案される(エビデンスの確実性:C[弱])」となった1)。また、この結果を受けてJGL2024の「図6-5 難治例への対応のための生物学的製剤のフローチャート」における2型炎症の所見に乏しい喘息(Type2 low喘息)から、マクロライド系抗菌薬が削除された。■参考文献1)『喘息予防・管理ガイドライン2024』作成委員会 作成. 喘息予防・管理ガイドライン2024.協和企画;2024.2)Kew KM, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2015;2015:CD011438.3)Global Initiative for Asthma. Global Strategy for Asthma Management and Prevention, 2024. Updated May 20244)Crossingham I, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2017;2:CD011802.5)Petsky HL, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2016;11:CD011439.6)Undela K, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021;11:CD002997.

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CKDステージ3への尿酸降下薬、尿酸値6未満達成でCKD進展抑制か

 高尿酸血症は慢性腎臓病(CKD)患者で高頻度にみられる。高尿酸血症を有するCKD患者に対する尿酸低下療法については、『高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版』では、腎機能を抑制する目的に尿酸降下薬を用いることが条件付きで推奨されている1)。また、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では、保存期CKD患者に対する尿酸低下療法について、「腎機能悪化を抑制する可能性があり、行うことを考慮してもよい」とされている2)。しかし、CKD患者における血清尿酸値の管理目標に関する無作為化比較試験は存在しない。中国・中南大学のYilun Wan氏らの研究グループは、英国のデータベース(IQVIA Medical Research Data[IMRD])を用いて、痛風を有するCKDステージ3の患者への尿酸低下療法について、血清尿酸値6.0mg/dL未満達成の有無別に腎機能への影響を検討した。その結果、血清尿酸値6.0mg/dL未満達成群は、非達成群と比較して腎機能障害の進展が増加せず、むしろ抑制される可能性が示された。本研究結果は、JAMA Internal Medicine誌オンライン版2024年11月25日号で報告された。 本研究の対象は、IMRDに登録された40~89歳の痛風を有するCKDステージ3(eGFR 30~60mL/min/1.73m2が3ヵ月以上持続、またはCKDステージ3の診断記録を有する)で、尿酸降下薬による治療を受けた患者1万4,792例であった。対象患者を尿酸降下薬開始から1年以内の血清尿酸値6.0mg/dL未満の達成の有無で分類し(達成群/非達成群)、腎機能への影響を検討した。両群の比較にはtarget trial emulationのデザインを用いた。target trial emulationの手法として、cloning-censoring-weighting法を用いて、達成群と非達成群を比較した。評価項目は腎機能高度低下または末期腎不全(eGFR 30mL/min/1.73m2未満が3ヵ月以上持続、またはCKDステージ4/5、血液透析、腹膜透析、腎移植のいずれかの診断記録を有する)とした。 主な結果は以下のとおり。・対象患者の年齢(平均値±標準偏差[SD])は73.1±9.5歳で、男性は62.3%(9,215例)であった。ベースライン時の血清尿酸値、eGFR(いずれも平均値±SD)は、それぞれ8.9±1.6mg/dL、49.9±12.3mL/min/1.73m2であった。・尿酸降下薬の内訳は、アロプリノールが98.8%(1万4,615例)、フェブキソスタットが1.2%(177例)であった。・尿酸降下薬開始から1年以内に血清尿酸値6.0mg/dL未満を達成した割合は31.8%(4,706例)であった。・追跡開始から5年間の腎機能高度低下または末期腎不全の発生率は、達成群が10.32%、非達成群が12.73%であり、調整リスク差は-2.41%(95%信頼区間[CI]:-4.61~-0.21)、ハザード比(HR)は0.89(95%CI:0.80~0.98)であった。・末期腎不全の発生率は、達成群が0.6%、非達成群が1.2%であり、調整リスク差は-0.63%(95%CI:-0.94~-0.32)、HRは0.67(95%CI:0.46~0.97)であった。 本研究結果について、著者らは「痛風を有するCKD患者において、血清尿酸値6.0mg/dL未満を目標とする尿酸低下療法は、忍容性が良好であり、CKDの進展を抑制する可能性も示された」と考察し、「痛風を有するCKD患者の治療において、血清尿酸値の目標値を達成するために、尿酸降下薬による治療を最適化することを支持するものである」とまとめた。

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日本人双極症と関連する遺伝子をゲノム解析で同定

 双極症は、躁/軽躁状態と抑うつ状態の間での気分変動を特徴とする精神疾患である。双極症には、シナプス遺伝子のエクソン領域と重複するまれな病原性遺伝子コピー数変異(CNV)と関連している。しかし、双極症に関連するシナプス遺伝子のCNVを包括的に調査した研究は、これまでになかった。名古屋大学の中杤 昌弘氏らは、エクソン領域に限定せず、日本人集団におけるシナプス遺伝子と重複するまれなCNVと双極症との関連を評価した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2024年10月15日号の報告。 双極症患者1,839例、対照群2,760例を対象に、アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション(aCGH)を用いて、CNVを検出した。シナプス遺伝子と重複するまれなCNVを特定するため、シナプス遺伝子オントロジー(SynGO)データベースを用いた。遺伝子ベース解析を用いて、双極症患者と対照群における頻度を比較した。双極症に関連するシナプス遺伝子セット解析を行った。有意水準は、偽陽性率(false discovery rate:FRD)を10%に設定した。 主な結果は以下のとおり。・RNF216遺伝子と双極症との有意な関連が認められた(オッズ比:4.51、95%信頼区間:1.66〜14.89、FRD<10%)。・RNF216遺伝子に対応する双極症関連CNVは、7p22.1微小重複症候群において原因と考えられている領域(minimal critical region)と一部重複していた。・さらに、遺伝子セット解析を行い、シナプス後膜の不可欠な構成要素にかかわる遺伝子群が双極症と関連することも発見した。・GRM5遺伝子のイントロン領域と重複するCNVは、双極症患者と対照群との間で有意な関連が認められた(p<0.05)。 著者らは「本検討により、RNF216遺伝子およびシナプス後膜関連遺伝子のCNVと双極症リスクとの関連が示唆された」とし「ゲノム解析の結果を活用することで、双極症の病態解明や個別化医療の実現に寄与することが期待される。将来、早期のリスク評価と予防的介入により、患者のQOL向上につながる可能性がある」と結論付けている。

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2050年までの早期死亡改善に必要なことは?/Lancet

 2050年までに世界の年間の早期死亡(70歳未満の死亡)の割合を半減させ、全年齢層で生活の質(QOL)を向上させることは可能と考えられるが、高パフォーマンス国と中パフォーマンス国が早期死亡の改善率を維持または加速度的に上昇させるためには、子供と成人の健康に対する多額の投資を要することが、ノルウェー・ベルゲン大学のOle F. Norheim氏らの調査で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年11月20日号に掲載された。10地域と人口の多い30ヵ国のクロスカントリー分析 研究グループは、2050年までの早期死亡率の半減は可能かの検証を目的に、70歳に至る前の死亡率の大きなばらつきと、過去50年間(1970~2019年)のその傾向を、世界の10の地域と最も人口の多い30ヵ国で比較するクロスカントリー分析を行った(ノルウェー開発協力局[NORAD]などの助成を受けた)。 早期死亡の割合(probability of premature death:PPD)に関するすべての分析には、国際連合(UN)世界人口推計(World Population Prospects)2024年版の生命表を用いた。これらの生命表から、1年ごとの年齢別死亡率を用いて性別、国別、年別の死亡の割合を算出した。70歳未満の死亡率は半世紀で56%から31%に減少 世界全体のPPDは、1970年の56%から2019年には31%に減少したが、紛争や社会的不安定、HIV/AIDSにより逆に増加した国もあった。また、成人と比較して子供の死亡率は、より迅速に低下していた。 1970~2019年の半世紀に、31年以内にPPDの半減を達成したのは、世界のすべての国のうちでは34ヵ国で、人口の多い上位30ヵ国のうちでは7ヵ国(バングラデシュ[半減に要した期間:1991~2022年]、イラン[1983~2006年]、中国[1970~2001年]、ベトナム[1972~1995年]、韓国[1992~2011年]、イタリア[1983~2012年]、日本[1970~2001年])であった。人口が多く、最近の改善率が良好な国は7ヵ国 人口の多い上位30ヵ国のうち、2010~2019年の期間に年平均値(2.2%)を超える改善率を達成したのは7ヵ国(韓国[3.9%]、バングラデシュ[2.8%]、ロシア[2.7%]、エチオピア[2.4%]、イラン[2.4%]、南アフリカ共和国[2.4%]、トルコ[2.3%])であった。この状況が持続すれば、2050年までにPPDが半減する可能性があると考えられた。 著者は、「早期死亡を減少させることで、より多くの人々が健康で長生きできるようになると考えられるが、寿命の延長に伴って慢性疾患の罹患期間が長期化する人々が増えるため、慢性疾患の罹患率を抑制するための投資も必要となるだろう」としている。

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HER2+乳がん術前補助療法のde-escalation、トラスツズマブ+ペルツズマブ+nab-パクリタキセルが有望(HELEN-006)/Lancet Oncol

 HER2+早期乳がんに対する術前補助療法において、トラスツズマブ+ペルツズマブにドセタキセル+カルボプラチンを併用した標準レジメンより、トラスツズマブ+ペルツズマブにnab-パクリタキセルを併用したde-escalation治療のほうが有用な可能性が示唆された。中国・The Affiliated Cancer Hospital of Zhengzhou University and Henan Cancer HospitalのXiu-Chun Chen氏らが、多施設共同無作為化第III相HELEN-006試験において主要評価項目である病理学的完全奏効(pCR)の最終解析結果を報告した。The Lancet Oncology誌オンライン版2024年11月26日号に掲載。・対象: 18~70歳、StageII/IIIの未治療浸潤性HER2+乳がん患者・試験群:nab-パクリタキセル(125mg/m2、1、8、15日目)+トラスツズマブ(負荷量8mg/kg、維持量6mg/kg)+ペルツズマブ(負荷量840mg、維持量420mg)を3週ごと6サイクル投与・対照群:ドセタキセル(75mg/m2、1日目)+カルボプラチン(AUC6、1日目)+トラスツズマブ(負荷量8mg/kg、維持量6mg/kg)+ペルツズマブ(負荷量840mg、維持量420mg)を3週ごと6サイクル投与・主要評価項目:pCR(ypT0/is ypN0)(modified ITT) 主な結果は以下のとおり。・2020年9月20日~2023年3月1日に689例を無作為に割り付けた(nab-パクリタキセル群343例、ドセタキセル+カルボプラチン群346例)。689例全例がアジア人女性で、 669例(nab-パクリタキセル群332例、ドセタキセル+カルボプラチン群337例)が1回以上の試験治療を受けた。年齢中央値は50歳(四分位範囲:43~55)、追跡期間中央値は26ヵ月(同:19~32)だった。・pCR例は、nab-パクリタキセル群が220例(66.3%、95%信頼区間[CI]:61.2~71.4)、ドセタキセル+カルボプラチン群が194例(57.6%、95%CI:52.3~62.9)だった(複合オッズ比:1.54、95%CI:1.10~2.14)。 ・Grade3/4の有害事象は、nab-パクリタキセル群で100例(30%)、ドセタキセル+カルボプラチン群で128例(38%)に認められ、多かったGrade3/4の有害事象は悪心(nab-パクリタキセル群、ドセタキセル+カルボプラチン群の順に22例、76例)、下痢(25例、55例)、神経障害(43例、8例)であった。 ・重篤な薬剤関連有害事象は、nab-パクリタキセル群で3例、ドセタキセル+カルボプラチン群で5例に報告され、両群とも治療関連死亡は報告されなかった。  著者らは、「この結果は、HER2+早期乳がんに対する術前補助療法において、トラスツズマブおよびペルツズマブとnab-パクリタキセルの併用が標準レジメンより利点がある可能性を示唆するものであり、この新しい併用療法がこの患者集団における術前補助療法の新たな標準療法を確立する可能性を示唆する」としている。

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心不全のない心筋梗塞後の患者にβ遮断薬の処方は不要?

 β遮断薬は、心筋梗塞を経験した多くの人にとって頼りになる薬である。しかし、スウェーデンの新たな研究により、心筋梗塞から回復し、心機能が正常に保たれている患者には、この薬による治療は必要ない可能性のあることが明らかになった。この研究では、心筋梗塞後に左室駆出率が保たれている患者に対するβ遮断薬による治療は、患者の抑うつ症状の軽度な増加と関連することが示された。詳細は、「European Heart Journal」に10月3日掲載された。論文の筆頭著者であるウプサラ大学(スウェーデン)心臓心理学分野のPhilip Leissner氏は、「それだけでなく、この患者群にβ遮断薬を投与しても、生命維持には役立たない」と同大学のニュースリリースの中で述べている。 心臓専門医は数十年にわたり、心臓病の治療薬としてβ遮断薬に頼ってきた。この薬は、アドレナリンやノルアドレナリンなどのカテコールアミンが心臓のβ受容体に結合するのを防ぐことで、血圧や心拍数などを抑える作用を持つ。しかし、近年、医療の進歩により心筋梗塞から回復した患者に対する医薬品の選択肢が増えたことを受け、β遮断薬の使用は疑問視されるようになっている。Leissner氏らは、これは特に、心筋梗塞から回復後に左室駆出率が保たれている患者に当てはまると話す。同氏らは、2024年4月に発表した論文において、この種の患者に対するβ遮断薬による治療は不要であると結論付けている。 今回の研究では、これらの患者に対するβ遮断薬による治療は害となる可能性さえあることが判明した。Leissner氏らは、心筋梗塞後にβ遮断薬(メトプロロール、ビソプロロール)か、それ以外の薬を処方された心不全のない患者806人のデータを用いて、β遮断薬の投与が患者が報告する抑うつおよび不安の症状に及ぼす影響を調査した。患者は、入院時と2回の追跡調査時(心筋梗塞から6〜10週間後と12〜14週間後)に、Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)を用いて抑うつと不安に関する評価を受けていた。 解析の結果、β遮断薬による治療は、1回目の追跡調査時(β=0.48、95%信頼区間0.09〜0.86、P=0.015)、および2回目の追跡調査時(β=0.41、95%信頼区間0.01〜0.81、P=0.047)の両方で、抑うつ症状に負の影響を与えることが示された。一方、不安に対する影響は認められなかった。さらに、研究開始前にすでにβ遮断薬を使用していた患者では、抑うつリスクがさらに高まることも示された。この結果は、β遮断薬の使用と抑うつ症状との間に用量反応関係があることを示唆している。 研究グループは、「β遮断薬による治療を受けた心不全のない心筋梗塞生存者では、抑うつ症状の重症度にわずかな増加が認められた」と結論。「これまでの研究で、β遮断薬の使用により、抑うつ、不眠症、さらには悪夢を見るリスクが高まることが分かっているので、この結果に驚きはなかった」と述べている。 Leissner氏は、「かつてはほとんどの医師が、心不全のない患者にもβ遮断薬を処方していた。しかし、その根拠はもはやそれほど明確なものではなく、再検討が必要だ」と指摘する。さらに同氏は、「心筋梗塞を経験した患者の中には、抑うつリスクが高いと考えられる人もいる。β遮断薬が心臓に良い効果をもたらさないのであれば、そのような患者に対する同薬の処方は不必要である」と述べている。

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ビタミンDサプリで肥満高齢者の血圧低下

 高齢の肥満者がビタミンDサプリメントを摂取すると、血圧を下げられる可能性のあることが報告された。ただし、推奨される量よりも多く摂取したからといって、上乗せ効果は期待できないようだ。ベイルート・アメリカン大学医療センター(レバノン)のGhada El-Hajj Fuleihan氏らの研究の結果であり、詳細は「Journal of the Endocrine Society」に11月12日掲載された。 ビタミンDレベルが低いことが高血圧のリスクと関連のあることを示唆する研究報告があるが、その関連を否定する報告もあり、結論は得られていない。これを背景としてFuleihan氏らは、ビタミンDレベルが低下していて、血圧が高いことの多い肥満高齢者を対象とするランダム化比較試験を行った。 血清ビタミンDレベルが10~30ng/mLで、BMIが25超の過体重から肥満(日本ではBMI25以上は全て肥満)に該当する65歳以上の高齢者221人をランダムに2群に分け、1群にはビタミンDを600IU、他の1群には3,750IU投与し血圧への影響を評価した。研究参加者は平均年齢71.1±4.7歳、女性55.2%、BMI30.2±4.4であり、143人(64.7%)が高血圧(130/80mmHg以上)だった。なお、米国ではビタミンDの摂取量として、通常1日当たり600IU(約15μg)が推奨されている。 介入から1年後、収縮期血圧は全体平均で3.5mmHg有意に低下していた(P=0.005)。これをビタミンDの用量別に見ると、高用量群では4.2mmHg有意に低下していたのに対して(P=0.023)、低用量群の低下幅は2.8mmHgであり非有意だった(P=0.089)。同様に拡張期血圧に関しても、全体平均で2.8mmHg有意に低下し(P=0.002)、高用量群でも3.02mmHgの有意低下(P=0.01)、低用量群では2.6mmHg低下と有意水準未満の変化だった(P=0.089)。 ベースライン時のBMIで層別化(30以下/超〔30以上は米国における肥満に該当〕)すると、BMI30以下の過体重者(55.2%)ではビタミンDの用量にかかわらず収縮期/拡張期血圧に有意な変化が見られなかった。BMI30超の肥満者(44.8%)では、ビタミンD高用量群では収縮期血圧(P=0.006)と拡張期血圧(P=0.02)がともに有意に低下していたが、低用量群では収縮期血圧のみが有意に低下していた(P=0.024)。 多変量線形混合モデルによる解析の結果、介入後の収縮期血圧はベースライン時の収縮期血圧(β=0.160、P<0.0001)とBMI(β=0.294、P=0.055)によって予測され、ビタミンDの投与量の違い(β=0.689、P=0.682)は有意な予測因子でなかった。 これらの結果を基にFuleihan氏は、「ビタミンDサプリメントは、高齢、肥満、ビタミンDレベルが低いなどに該当する、特定のサブグループの血圧を下げる可能性があることが分かった。ただし、推奨量以上に摂取したとしても、血圧への上乗せ効果は得られないと考えられる」と述べている。

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猛暑は植え込み型除細動器装着者の心房細動リスクを高める

 心臓に問題を抱える数多くの米国人が、心拍を正常化して心イベントを予防する小型の植え込み型除細動器(ICD)を使用している。しかし、極端に暑い日には、より気温が低い日と比べて、ICD装着者が不整脈の一種である心房細動(AF)を起こすリスクが約3倍に上昇することが新たな研究で示された。米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院環境保健学のBarrak Alahmad氏らによるこの研究は、米国心臓協会年次学術集会(AHA 2024、11月16~18日、米シカゴ)で発表された。 専門家らは、気候変動によって気温が摂氏38度に達する日が増えるにつれて、この脅威は高まる可能性があると指摘している。AHAに協力する専門家の一人で、今回の研究には関与していない米ケース・ウェスタン・リザーブ大学教授のSanjay Rajagopalan氏は、「著しい気温上昇のリスクがある地域に住んでいて、影響を受けやすい人は、この研究結果に留意し、必ず適切な予防策を取って涼しさを保ち、水分補給を行うよう心がけてほしい」と話している。 Rajagopalan氏は、「これは、ICDで検出されたAFと気温の急上昇との関連を示した最初の研究かもしれない」とAHAのニュースリリースの中で述べている。同氏はまた、「この研究結果は、外気温と心血管の健康の関連について検討した最近の研究に続くものだ。高齢化と肥満の増加に伴い一般人口でのAFの有病率が上昇しつつあることを考慮すると、今後は、気温上昇にも対処する必要があるかもしれない」と話している。 Alahmad氏らは今回の研究で、2016~2023年にICDまたは両室ペーシング機能付き植え込み型除細動器(CRT-D)の植え込み術を受けた2,313人の患者データを調べた。植え込み術を受けた際の患者の平均年齢は約70.6歳で、男性の割合は78%だった。対象者には肥満者が多く、またほとんどの患者に心筋症(心臓のポンプ機能が低下する疾患)があった。Alahmad氏らは、ICDやCRT-Dで検出された初発AFを調べ、外気温との関連について検討した。 その結果、AFの発生リスクを最も低下させると考えられる「至適外気温」は比較的低く、摂氏5度から8度と推定された。一方、外気温が極端に高い日には、ICDやCRT-D装着者のAFリスクが大幅に上昇することが確認された。例えば、理想的な外気温のときと比べると、摂氏39度、40度、41度の日には、これらのデバイス装着者のAF発生リスクが同順で、2.66倍、2.87倍、3.09倍に上昇していた。また、AFの発生数は、早朝(0時〜7時)よりも就労時間中(8時〜17時)に多く、週末よりも平日に多いことも示された。さらに研究を進めた結果、30分以上続くAF発作に関しても、同様の傾向が認められた。 共同研究者の一人で、米マサチューセッツ総合病院の心臓電気生理学者であるTheofanie Mela氏は、「不整脈がもたらす負担を最小限に抑えるため、この研究結果の根底にある生理学的なプロセスを理解し、AFを引き起こす状態を回避することに注力する必要がある」とAHAのニュースリリースの中で述べている。同氏はまた、「その一方で、患者には極端な温度の環境を避けること、エアコンを使用して体が極端な暑さによる強いストレスを受けないようにすることを勧める」と助言している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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“Fantastic Four”の一角に陰り:心筋梗塞例にミネラルコルチコイド受容体拮抗薬は無効(解説:桑島巌氏)

 アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬の4つは心不全の治療薬におけるFantastic Fourとして広く宣伝されてきた。しかし本論文は、その一角を成すMRAの1つスピロノラクトンが心筋梗塞後の心血管死や心不全悪化に対しての効果はプラセボ群と差がなく、有用性を認めなかったという結果を示した。 心不全、収縮機能が低下した心筋梗塞例に対してスピロノラクトンやエプレレノンが死亡率を減少させることは、すでにRALES研究(Pitt B, et al. N Engl J Med. 1999;341:709-717.)やEPHESUS研究(Pitt B, et al. N Engl J Med. 2003;348:1309-1321.)などで証明されている。しかし今回発表されたCLEAR研究では、心筋梗塞後の症例に対してのスピロノラクトンの有用性は証明できなかった。 スピロノラクトンに有意な有効性を認めなかった最大の要因は、イベント数が少ないことによる検出力不足である。本研究の対象者は心筋梗塞後に冠動脈インターベンション(PCI)を受けた症例であり、ほとんどの例でステント(96%)や、抗血小板薬(97%)やスタチン(97%)などによる厳格な再発予防治療を受けており、心血管イベント発症率は低いのは当然である。この点、RALES研究やEPHESUS研究の時代とは背景が大きく異なっている。 また本研究ではKillip II以上の心不全症例が含まれていないことも、スピロノラクトンの有用性を示すことができなかった一因であろう。 約7,000例規模の試験において有効性を認めなかったことは、実臨床においても心不全を合併しない心筋梗塞例に漫然とMRAを処方することは避けるべきとのメッセージである。

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英語で「呼吸音は正常です」は?【1分★医療英語】第159回

第159回 英語で「呼吸音は正常です」は?《例文1》Despite the patient's prolonged cough, the lungs were clear to auscultation bilaterally.(患者の長引く咳にもかかわらず、呼吸音は両側正常でした)《例文2》The physical exam showed that the lungs are clear to auscultation, ruling out any respiratory distress.(身体検査では 肺は聴診で異常がなく[呼吸音は正常であり]、呼吸困難が除外されました)《解説》今回は、身体診察の所見についての英語表現を解説します。英語でカルテに記載したり、医療者にプレゼンしたりする際には、日本語と同様に「肺の聴診音は清」というような表現法が使われます。そのため「清」を表す“clear”、そして聴診の“auscultation”を用いて“clear to auscultation”というように記載されます。ちなみに、米国の医療現場では略語が使われることも多く、カルテでは多くの所見が略語で記載されています。最近の流れでは「意味がわかりにくい略語はやめよう」という動きもありますが、いまだに多くの略語が使用されているのが現状です。今回の“clear to auscultation”も例外ではなく、カルテなどでは“CTA”もしくは“CTAB”と記載されることが多いです。“CTAB”の「B」は“bilaterally”「両側」という意味ですので、“Lungs CTAB”とあれば「肺聴診音は両側清」という意味になりますね。ちなみにラ音は“rale”と記載されます。いびき音は“rhonchi”、喘鳴音は“wheeze”です。せっかくの機会なので英語の呼吸音をまとめて覚えてしまいましょう。講師紹介

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新たな筋萎縮性側索硬化症治療薬「ロゼバラミン筋注用25mg」【最新!DI情報】第28回

新たな筋萎縮性側索硬化症治療薬「ロゼバラミン筋注用25mg」今回は、筋萎縮性側索硬化症用剤「メコバラミン(商品名:ロゼバラミン筋注用25mg、製造販売元:エーザイ)」を紹介します。本剤は、治療薬が限られている筋萎縮性側索硬化症の新たな選択肢として、運動機能の低下抑制が期待されています。<効能・効果>筋萎縮性側索硬化症(ALS)における機能障害の進行抑制の適応で、2024年9月24日に製造販売承認を取得し、11月20日より発売されています。<用法・用量>通常、成人には、メコバラミンとして50mgを1日1回、週2回、筋肉内に注射します。本剤の投与開始にあたっては、医療施設において、必ず医師または医師の直接の監督の下で行います。在宅自己注射は、医師がその妥当性を慎重に検討し、患者またはその家族が適切に使用可能と判断した場合にのみ適用されます。<安全性>重大な副作用には、アナフィラキシー(頻度不明)があります。本剤の臨床試験ではアナフィラキシーの副作用報告はありませんでしたが、低用量メコバラミン製剤でアナフィラキシーが報告されています。その他の副作用は、白血球数増加、注射部位反応(いずれも1%以上)、発疹、頭痛(いずれも1%未満)、発熱感、発汗(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.筋委縮性側索硬化症(ALS)の進行によって生じる運動機能の低下を抑制する薬です。2.1日1回、週2回、筋肉内に注射します。3.注射は、医療関係者や医師の指導を受けた上で、患者本人またはご家族が行うことができます。4.在宅自己注射のために処方された薬剤の入ったバイアルは、処方された際に入っていた外箱や遮光した箱に入れた状態で保管してください。5.自己判断で使用を中止したり、量を加減したりせず、医師の指示に従ってください。<ここがポイント!>筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動ニューロンが変性する進行性の難治性神経変性疾患です。症状は一般的に四肢の筋力低下から始まり、構音障害(発音困難)や嚥下障害が生じます。発症から2〜4年で呼吸筋麻痺による呼吸不全に進行し、人工呼吸器の装着で延命が可能ですが最終的には死に至ります。治療薬としては、ALSの機能障害の進行を抑制するリルゾールやエダラボンが使用されていますが、現在のところ確立された根治療法はありません。メコバラミンは、活性型ビタミンB12の一種であり、末梢神経障害やビタミンB12欠乏症による巨赤芽球性貧血の治療薬として使用されてきました。一方、以前より高用量のメコバラミンがALS患者に対し有効である可能性が示唆されていました。このため、エーザイはALS患者を対象に治験を実施し、2015年5月に新薬承認申請を行いましたが、追加試験が必要と判断されて2016年3月に申請を取り下げました。その後、医師主導治験として実施された高用量メコバラミンのALS患者に対する第III相試験において、高用量メコバラミンの有効性、安全性および忍容性が確認されたことから、再度承認申請が行われました。ALSに対するメコバラミンの作用機序の詳細は解明されていませんが、ホモシステイン誘発細胞死の抑制によるものと考えられています。孤発性または家族性ALS患者を対象とした医師主導の国内第III相試験(国内763試験)において、主要評価項目であるベースラインから治療期16週目までの日本語版改訂ALS Functional Rating Scale(ALSFRS-R)の合計点数の変化量は、プラセボ群が-4.6、本剤50mg群が-2.7でした。群間差(本剤50mg群-プラセボ群)は2.0(95%信頼区間:0.4~3.5、p=0.012)であり、本剤50mg群のプラセボに対する優越性が検証されました。

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第243回 ED薬・タダラフィルやシルデナフィルと死亡、心血管疾患、認知症の減少が関連

ED薬・タダラフィルやシルデナフィルと死亡、心血管疾患、認知症の減少が関連勃起不全(ED)薬としてよく知られるタダラフィルやシルデナフィル使用と死亡、心血管疾患、認知症の減少との関連がテキサス大学医学部(UTMB)のチームの研究で示されました1,2)。タダラフィルとシルデナフィルはどちらもPDE5阻害薬であり、血流改善・血圧低下・内皮機能向上・抗炎症作用により心血管の調子をよくすると考えられています。それら成分は肺動脈性肺高血圧症(PAH)の治療にも使われ、タダラフィルは前立腺肥大症に伴う下部尿路症状の治療薬としても発売されています。UTMBのDietrich Jehle氏らの今回の研究は世界中の2億7,500万例超の臨床情報を集めるTriNetXに収載の米国男性5千万例の記録を出発点としています。それら5千万例から、ED診断後のタダラフィルかシルデナフィル処方、または下部尿路症状診断後のタダラフィル処方があった40歳以上の男性が同定されました。3年間の経過を比較したところ、タダラフィルかシルデナフィルが処方されたED患者は、非処方患者に比べて死亡、心血管疾患、認知症の発生率が低いことが示されました。具体的には50万例強の解析で以下のような結果が得られており、血中でより長く活性を保つタダラフィルがシルデナフィルに比べて一枚上手でした。全死亡率タダラフィルは34%低下、シルデナフィルは24%低下心臓発作発生率タダラフィルは27%低下、シルデナフィルは17%低下脳卒中発生率タダラフィルは34%低下、シルデナフィルは22%低下静脈血栓塞栓症(VTE)発生率タダラフィルは21%低下、シルデナフィルは20%低下認知症発生率タダラフィルは32%低下、シルデナフィルは25%低下下部尿路症状患者のタダラフィル使用は一層有益でした。40歳以上の下部尿路症状患者100万例超のうち、タダラフィル使用群の死亡、心臓発作、脳卒中、VTE、認知症の発生率はそれぞれ56%、37%、35%、32%、55%低くて済んでいました。やはり米国のED男性を調べた別の観察試験3,4)でもPDE5阻害薬やタダラフィルと死亡や心血管疾患の減少の関連が示されています。今春2月にClinical Cardiology誌に結果が掲載されたその1つ3)ではEDと診断されてタダラフィルが処方された男性8千例強(8,156例)とPDE5阻害薬非処方の2万例強(2万1,012例)が比較され、タダラフィル使用群の心血管転帰(心血管死、心筋梗塞、冠動脈血行再建、不安定狭心症、心不全、脳卒中)の発生率がPDE5阻害薬非使用群に比べて19%低いことが示されました。また、タダラフィル使用患者の死亡率は44%低くて済んでいました。タダラフィルと心血管転帰の発生率低下の関連は用量依存的らしく、同剤の使用量が上位4分の1の患者は心血管転帰の発生率が最小でした。有望ですがあくまでもレトロスペクティブ試験の結果であり、次の課題として男性と女性の両方でのプラセボ対照無作為化試験が必要だと著者は言っています3)。参考1)Jehle DVK, et al. Am J Med. 2024 Nov 10. [Epub ahead of print]2)Study finds erectile dysfunction medications associated with significant reductions in deaths, cardiovascular disease, dementia / The University of Texas Medical Branch 3)Kloner RA, et al. Clin Cardiol. 2024;47:e24234.4)Kloner RA, et al. J Sex Med. 2023;1:38-48.

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