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日本人大腸がんの半数に腸内細菌が関与か、50歳未満で顕著/国がんほか

 日本を含む11ヵ国の大腸がん症例の全ゲノム解析によって発がん要因を検討した結果、日本人症例の50%に一部の腸内細菌から分泌されるコリバクチン毒素による変異シグネチャーが認められた。これらの変異シグネチャーは50歳未満の若年者において高頻度に認められ、高齢者と比較して3.3倍多かった。この報告は、国立がん研究センターを含む国際共同研究チームによるもので、Nature誌オンライン版2025年4月23日号に掲載された。 本研究は、世界のさまざまな地域におけるがんの全ゲノム解析を行うことで、人種や生活習慣の異なる地域でがんの発症頻度に差がある原因を解明し、地球規模で新たな予防戦略を進めることを目的としている。今回は、大腸がん症例の全ゲノム解析データから突然変異を検出し、複数の解析ツールを用いて変異シグネチャーを同定した。その後、地域ごと、臨床背景ごとに変異シグネチャーの分布に有意差があるかどうかを検討した。 主な結果は以下のとおり。・大腸がんの発症頻度の異なる11ヵ国から981例のサンプルを収集した。内訳は、日本28例、ブラジル159例、ロシア147例、イラン111例、カナダ110例、タイ104例、ポーランド94例、セルビア83例、チェコ56例、アルゼンチン53例、コロンビア36例であった。日本人症例28例は、男性が18例、50歳以上が20例であった。・国別の変異シグネチャーの比較では、腸内細菌由来のコリバクチン毒素による変異シグネチャー(SBS88またはID18)は日本人症例の50%で検出され、他の地域の平均と比較して2.6倍多かった。・国別の大腸がん発症頻度は変異シグネチャーの量と正の相関を示し、11ヵ国で最も大腸がんの発症頻度が高い日本人症例において最もSBS88およびID18の量が多かった。・SBS88およびID18は、若年者症例(50歳未満)のほうが高齢者症例(70歳以上)よりも3.3倍多く検出された。・ドライバー変異と変異シグネチャーとの関連の検討では、大腸がんにおいて最も早期に起こるドライバー異常であるAPC変異の15.5%がSBS88またはID18のパターンと一致し、コリバクチン毒素によるDNA変異が大腸がんの発症早期から関与していることが示唆された。・変異シグネチャーの有無とコリバクチン毒素産生菌の量には有意な相関は認められず、早期からの持続的な暴露が大腸がんの発症に関与している可能性が考えられた。 これらの結果より、研究グループは「本研究によって、大腸がんの遺伝子変異には地域や年齢による違いがあることが明らかになった。コリバクチン毒素産生菌への早期からの曝露が、若年発症大腸がんの増加に関与している可能性が示唆される」とまとめた。

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うつ病リスクに影響を及ぼす食事パターン、男女や年齢で違いがあるか?

 食生活パターンは、うつ病リスクと関連している可能性がある。男女間および年齢層別の食生活パターンの違いは報告されているものの、うつ病リスクへの影響はこれまで十分に検討されていなかった。フランス・マルセイユ大学のYannis Achour氏らは、性別および年齢層における食生活パターンとうつ病リスクとの関連性を調査し、ターゲットを絞った予防および介入戦略に役立てるため、脆弱な集団を特定することを目指し、本研究を実施した。Nutrients誌2025年5月4日号の報告。 2021〜23年に横断的オンライン国際調査ALIMENTAK研究として実施された。食生活データは検証済み食品摂取頻度質問票、うつ病データは検証済み自己申告質問票を用いて収集した。主要成分分析(PCA)を用いて、異なる食品摂取パターンを特定した。さらに食生活パターンとうつ病との関連性を評価するため、複数の潜在的な交絡因子で調整したのち、多変量解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・慢性疾患でないまたは現在向精神薬治療を行っていない参加者1万5,262人のうち、4,923人(32.2%)がうつ病群に分類された。・18〜34歳の参加者において、超加工食品摂取は、男女とも同様に、うつ病リスク上昇との関連が認められた。・18〜34歳の女性では、炭酸飲料および缶詰/冷凍食品は、うつ病リスク上昇と関連していた。●18〜34歳【超加工食品】女性のオッズ比(OR):1.21(95%信頼区間[CI]:1.15〜1.27)、男性のOR:1.21(95%CI:1.07〜1.18)【炭酸飲料】女性の調整OR:1.10(95%CI:1.06〜1.95)【缶詰/冷凍食品】女性の調整OR:1.10(95%CI:1.04〜1.15)・35〜54歳および55歳以上の参加者において、女性でのみ超加工食品とうつ病リスクとの関連が認められた。・果物、ナッツ、緑黄色野菜などの健康的な食事とうつ病リスク低下との間に有意な関連が認められた。●35〜54歳【超加工食品】女性の調整OR:1.30(95%CI:1.20〜1.42)【健康的な食事(果物、ナッツ、緑黄色野菜)】調整OR:0.82(95%CI:0.75〜0.89)●55歳以上【超加工食品】女性の調整OR:1.41(95%CI:1.11〜1.79)【健康的な食事(果物、ナッツ、緑黄色野菜)】調整OR:0.79(95%CI:0.64〜0.97) 著者らは「食生活パターンとうつ病リスクとの関連性は、男女間および年齢層間で有意な差があることが明らかとなった。これらの知見は、公衆衛生介入のより明確なターゲティングに役立つ可能性がある」と結論付けている。

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PD-L1陽性の未治療進行TN乳がん、SG+ペムブロリズマブがPFSを改善(ASCENT-04/KEYNOTE-D19)/ASCO2025

 PD-L1を発現する未治療で手術不能の局所進行または転移を有するトリプルネガティブ乳がん患者を対象に、サシツズマブ ゴビテカン(SG)+ペムブロリズマブ併用療法の有効性と安全性を評価した第III相ASCENT-04/KEYNOTE-D19試験の結果、SG+ペムブロリズマブは化学療法+ペムブロリズマブよりも無増悪生存期間(PFS)を有意に改善したことを、米国・ダナファーバーがん研究所のSara M. Tolaney氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で発表した。・試験デザイン:国際共同非盲検ランダム化第III相試験・対象:PD-L1を発現する(CPS≧10、22C3アッセイ)、未治療(根治治療の完了から6ヵ月以上経過)で手術不能の局所進行または転移を有するトリプルネガティブ乳がん患者 443例・試験群:サシツズマブ ゴビテカン(21日サイクルの1・8日目に10mg/kg)+ペムブロリズマブ(21日サイクルの1日目に200mg) 221例・対照群:医師選択の化学療法(ゲムシタビン+カルボプラチン、パクリタキセル、nab-パクリタキセル)+ペムブロリズマブ※ 222例 ※病勢進行時はSGへのクロスオーバーが許容・評価項目:[主要評価項目]RECIST v1.1に基づく盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、BICRによる奏効率(ORR)、BICRによる奏効期間(DOR)、安全性、QOL・データカットオフ:2025年3月3日 主な結果は以下のとおり。・443例が両群に1:1に無作為に割り付けられ、病勢進行または許容できない毒性が認められるまで投与が継続された。追跡期間中央値は14.0ヵ月(範囲:0.1~28.6)であった。・年齢中央値はSG+ペムブロリズマブ群54歳、化学療法+ペムブロリズマブ群55歳、両群ともにde novoが34%、6~12ヵ月以内の再発が18%、12ヵ月以上前の再発が48%であった。以前の治療歴は、タキサン系が52%/51%、ゲムシタビン+カルボプラチンが48%/49%、PD-(L)1阻害薬が4%/5%であった。・主要評価項目であるBICRによるPFS中央値は、SG+ペムブロリズマブ群11.2ヵ月(95%信頼区間[CI]:9.3~16.7)、化学療法+ペムブロリズマブ群7.8ヵ月(同:7.3~9.3)であり、SG+ペムブロリズマブ群において統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を示した(ハザード比[HR]:0.65[95%CI:0.51~0.84]、p<0.001)。12ヵ月PFS率は、48%および33%であった。・治験担当医評価のPFS中央値は、SG+ペムブロリズマブ群11.3ヵ月(95%CI:9.2~14.6)、化学療法+ペムブロリズマブ群8.3ヵ月(同:7.3~9.3)であった(HR:0.67[95%CI:0.52~0.87]、p=0.002)。12ヵ月PFS率は、48%および36%であった。・ORRは、SG+ペムブロリズマブ群60%(95%CI:52.9~66.3)、化学療法+ペムブロリズマブ群53%(同:46.4~59.9)であった(オッズ比:1.3[95%CI:0.9~1.9])。完全奏効は13%および8%であった。・DOR中央値は、SG+ペムブロリズマブ群16.5ヵ月(95%CI:12.7~19.5)、化学療法+ペムブロリズマブ群9.2ヵ月(同:7.6~11.3)であった。・OSデータは未成熟(成熟度26%)であったが、SG+ペムブロリズマブ群において良好な傾向がみられた。・Grade3以上の試験治療下における有害事象(TEAE)は、SG+ペムブロリズマブ群71%、化学療法+ペムブロリズマブ群70%に発現した。10%以上に発現したGrade3以上のTEAEは、SG+ペムブロリズマブ群では好中球減少症(43%)と下痢(10%)で、化学療法+ペムブロリズマブ群では好中球減少症(45%)や貧血(16%)、血小板減少症(14%)であった。新たな安全性シグナルは認められなかった。・SG+ペムブロリズマブ群では、TEAEによる治療中止が化学療法+ペムブロリズマブ群よりも少なかった(12%および31%)。 これらの結果より、Tolaney氏は「ASCENT-04/KEYNOTE-D19試験の結果は、SG+ペムブロリズマブ併用療法がPD-L1陽性の未治療進行トリプルネガティブ乳がん患者に対する新たな標準治療となる可能性を支持するものである」とまとめた。

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どのように多発性骨髄腫治療の長い道のりを乗り越えるか/日本骨髄腫学会

 多発性骨髄腫の治療は目覚ましい進歩を遂げている。その一方で、高齢化や治療の長期化に伴う課題も顕在化している。第50回日本骨髄腫学会学術集会では、多発性骨髄腫診療における地域連携と多職種連携について議論された。多発性骨髄腫治療の課題を解決する中核病院と診療所の「並走的連携」 兵庫医科大学の吉原 享子氏は、地域の中核病院の立場から多発性骨髄腫治療について述べた。多発性骨髄腫の治療は、中核病院で患者を安定させ、地域連携病院や在宅診療へと移行するのが通常である。長期に渡る治療においては合併症のフォローアップが重要であり、地域医療機関との連携は不可欠である。とくに、CAR-T療法などの高度治療では、紹介元病院との連携を密にして円滑に治療を提供できる体制づくりが求められる。 医療法人星医院の磯田 淳氏は多発性骨髄腫診療の課題として、治療薬の高度化、患者の高齢化、治療期間の長期化をあげた。院内連携で高度化や複雑化に対応し、高齢化や長期化に対応には地域連携で対応する。現在の日本の骨髄腫の病診連携の形としては、中核病院が診療を継続し診療所がサポートする「並走型連携」が現実的である。こうした地域との連携が機能することで、入院中の高度なレジメンが患者の予後改善に効果的に結びつくことになる。多発性骨髄腫患者をチームで支える看護師、薬剤師 渋川医療センターの本多 昌子氏は看護師の立場から病院での取り組みを紹介。院内における対面カンファレンスの重要性を指摘した。また、患者にとって最も身近な存在である看護師は、収集した情報をカンファレンスで提供し、チームのハブとしての役割を担うべきだと述べた。 国立国際医療研究センターの小室 雅人氏は、多発性骨髄腫治療の複雑化に伴い、薬剤師の役割が重要になっていると指摘。患者・家族への服薬指導だけでなく、医師に対する処方提案やポリファーマシー対策の提言も薬剤師の重要な業務である。とくに高齢患者においては、副作用により治療が継続不能になる可能性があるため薬剤師の役割は大きいという。かかりつけ医と骨髄腫主治医の連携を 日本骨髄腫患者の会の上甲 恭子氏は、2022年と25年に行ったアンケートの結果も交え、多発性骨髄腫患者が抱えるさまざまな問題について説明。医師との意識のギャップ、かかりつけ医と骨髄腫主治医の連携の重要性を指摘した。 アンケートの結果から、治療については骨髄腫主治医への依存度が高いこと、かかりつけ医と骨髄腫の主治医の連携によって患者のウェルビーイングが向上すると示唆された。

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末梢肺結節の診断、ナビゲーショナル気管支鏡検査は針生検に非劣性/NEJM

 直径10~30mmの末梢肺結節の悪性・良性を鑑別するための生検において、ナビゲーショナル気管支鏡検査は経胸壁針生検に対し、診断精度に関して非劣性であり、気胸の発生が有意に少ないことが、米国・Vanderbilt University Medical CenterのRobert J. Lentz氏らInterventional Pulmonary Outcomes Groupが実施した「VERITAS試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年5月18日号で報告された。米国の医師主導型無作為化非劣性試験 VERITAS試験は、医師主導型の非盲検無作為化並行群間非劣性試験であり、2020年9月~2023年6月に米国の7施設で参加者を登録した(Medtronicなどの助成を受けた)。  肺がんの事前確率が10%以上で、直径10~30mmの末梢肺結節を有する成人患者を対象とした。被験者を、ナビゲーショナル気管支鏡検査を受ける群または経胸壁針生検を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。  主要アウトカムは診断精度とし、生検で特定の診断(悪性腫瘍または特定の良性病変)を受けた患者のうち、12ヵ月間の臨床的経過観察によりその診断が正確であることが確認された患者の割合と定義した(非劣性マージンは10%ポイント)。副次アウトカムには、気胸の発生などの手技に関連する合併症が含まれた。手技に要した時間は長かった 234例が主要アウトカムの解析の対象となり、ナビゲーショナル気管支鏡検査群に121例(年齢中央値66.0歳[四分位範囲[IQR]:62.0~72.0]、女性47.1%、追跡不能の2例[1.7%]を含む)、経胸壁針生検群に113例(68.0歳[61.0~74.0]、49.6%、3例[2.7%])を割り付けた。全体の結節の直径中央値は15mm(IQR:12~19)であり、82.5%は内部が充実成分のみの結節(solid nodule)で、87.6%では肺の外側3分の1の領域に結節が位置していた。  生検による特定の診断が、12ヵ月間の臨床的経過観察で正確であると確認されたのは、ナビゲーショナル気管支鏡検査群が119例中94例(79.0%)、経胸壁針生検群は110例中81例(73.6%)であり(絶対群間差:5.4%ポイント[95%信頼区間[CI]:-6.5~17.2])、診断精度に関してナビゲーショナル気管支鏡検査群の経胸壁針生検群に対する非劣性が示された(非劣性のp=0.003、優越性のp=0.17)。  生検により悪性腫瘍または特定の良性病変の病理所見が示された患者の割合は、ナビゲーショナル気管支鏡検査群が79.3%、経胸壁針生検群は77.9%であった(絶対群間差:1.5%ポイント[95%CI:-9.9~12.8])。このうち悪性腫瘍の診断の割合はそれぞれ64.5%および54.0%、特定の良性病変の診断の割合は13.2%および15.0%だった。また、手技に要した時間中央値は、それぞれ36分(IQR:28~48)および25分(13~36)であった(群間差中央値:11分[95%CI:8~18])。手技関連合併症、気胸は有意に少ない 手技関連合併症は、経胸壁針生検群で113例中33例(29.2%)に発生したのに対し、ナビゲーショナル気管支鏡検査群は121例中6例(5.0%)と有意に少なかった(絶対群間リスク差:24.2%ポイント[95%CI:15.0~35.6]、p<0.001)。このうち気胸は、ナビゲーショナル気管支鏡検査群で4例(3.3%)、経胸壁針生検群で32例(28.3%)に発現し(25.0%ポイント[15.3~34.8]、p<0.001)、胸腔ドレーン留置、入院、またはこれら両方に至ったのはそれぞれ1例(0.8%)および13例(11.5%)であった(10.7%ポイント[3.7~17.6])。  介入を要する出血は発生せず、12ヵ月の追跡期間中に死亡例はなかった。 著者は、「これらの結果は、技術的にどちらのアプローチも可能な肺結節の生検では、診断精度が経胸壁針生検と同程度で、合併症が少ないナビゲーショナル気管支鏡検査が選択すべき手技であることを示唆する」「本試験には教育施設と地域施設が参加しているが、ナビゲーショナル気管支鏡検査は経験豊富な呼吸器専門医が行っているため、今回の知見は専門知識が少ない施設には一般化できない可能性がある」としている。

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食生活の質は初潮を迎える年齢に影響する

 何を食べるかが、女児の初潮を迎える年齢に影響を与えるようだ。新たな研究で、食生活の炎症レベルが最も高かった女児では最も低かった女児に比べて、翌月に初潮を迎える可能性が約15%高いことが示された。この結果は、身長やBMIで調整後も変わらなかったという。米フレッド・ハッチンソンがんセンターのHolly Harris氏らによるこの研究の詳細は、「Human Reproduction」に5月6日掲載された。 この研究は、9〜14歳の米国の小児を対象にした追跡調査研究であるGrowing Up Today Study(GUTS)に1996年と2004年に参加した女児のうち、ベースライン時に初潮を迎えておらず、食生活の評価など必要なデータの完備した7,530人を対象にしたもの。参加者は初潮を迎える前に、9〜18歳の若者向けの食品摂取頻度調査(youth/adolescent food frequency questionnaire;YAQ)に回答しており、追跡期間中(2001〜2008年)に初潮を迎えた場合には、その年齢を報告していた。 研究グループは、YAQのデータを用いて代替健康食指数(Alternate Healthy Eating Index 2010;AHEI-2010)と経験的炎症性食事パターン(Empirical Dietary Inflammatory Pattern;EDIP)のスコアを算出し、食生活の質を評価した。AHEI-2010は、野菜、豆類、全粒穀物などの健康的な食品に高い点数を、赤肉や加工肉などの食品やトランス脂肪酸、塩分などを含む食品といった不健康な食品には低い点数を付与する。一方EDIPは、食生活が体内で炎症を引き起こす可能性を総合的に評価する。参加者を、スコアごとに最も高い群から最も低い群の5群に分類した上で、AHEI-2010スコアおよびEDIPスコアと初潮を迎える年齢との関連を検討した。 参加者の93%が追跡期間中に初潮を迎えていた。BMIや身長を考慮して解析した結果、AHEI-2010スコアが最も高い群、つまり、食生活が最も健康的な群は最も低い群に比べて、翌月に初潮を迎える可能性が8%低いことが示された(ハザード比0.92、95%信頼区間0.85〜0.99、P=0.03)。また、EDIPが最も高い群、つまり、食事の炎症性レベルが最も高い群では最も低い群に比べて、翌月に初潮を迎える可能性が15%高いことも示された(同1.15、1.06〜1.25、P=0.0004)。 Harris氏は、「AHEI-2010とEDIPの2つの食生活パターンは初潮年齢と関連しており、食生活がより健康的な女児では初潮年齢の高いことが示唆された。重要なのは、これらの結果がBMIや身長とは無関係である点だ。これは、体格に関わりなく健康的な食生活が重要であることを示している。初潮年齢の早期化は、糖尿病、肥満、心血管疾患、乳がんのリスク上昇など、その後の人生におけるさまざまな転帰と関連していることを考えると、これらの慢性疾患のリスク低減に取り組む上で、初潮を迎える前の時期は重要な可能性がある」と述べている。 Harris氏はまた、「われわれの調査結果は、全ての小児期および思春期の子どもが健康的な食事へのアクセスと選択肢を持つべきこと、また、学校で提供される朝食や昼食は、エビデンスに基づくガイドラインに準拠したものであるべきことを浮き彫りにしている」と話している。

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中耳炎の治療、将来は抗菌ゲルの単回投与で済むかも?

 中耳炎に罹患した幼児の面倒を見た経験のある親なら、症状の治りにくさや再発のしやすさを知っているだろう。小児の中耳炎では、通常は数日間に及ぶ経口抗菌薬を用いた治療が行われるが、耐性菌が発生しやすく、再発リスクも高い。こうした中、ゲル状の外用抗菌薬の単回投与により中耳炎を効果的に治療できる可能性のあることが動物実験で明らかになった。米コーネル大学R.F.スミス化学・生体分子工学科のRong Yang氏らによるこの研究結果は、「ACS Nano」4月8日号に掲載された。 耳に抗菌薬を直接塗布すると、経口抗菌薬の服用により生じ得る胃の不調やカンジダ症感染などの副作用を軽減できる可能性がある。しかし、中耳炎は通常、鼓膜の奥で発生し、鼓膜自体が浸透性の構造ではないため薬が届きにくく、ほとんど効果が得られないという。 そこでYang氏らは、抗菌薬のシプロフロキサシンをリポソームに封入して薬を患部にまで到達させる方法を考え出した。脂質二重膜でできたカプセル状構造物のリポソームは、皮膚や鼓膜のような膜組織の細胞構造と相互作用して薬の浸透性を高めることが知られている。一般には正に帯電したリポソームは、皮膚組織などに薬をよく届けるとされている。しかしYang氏らは今回、正に帯電したリポソームだけでなく、負に帯電したリポソームにもシプロフロキサシンを封入し、温度に応じてその性質を変化させる温度感受性ハイドロゲルに添加して抗菌薬ゲルを作った。その上で、これら2種類のゲルと、ハイドロゲルとシプロフロキサシンを合わせただけのゲルの3種類の効果を、チンチラを用いて検証した。チンチラは中耳炎の研究において、人間の耳とよく似た反応を示す動物モデルとして広く使用されている。 その結果、中耳炎に罹患したチンチラのうち、負に帯電したリポソームに封入されたシプロフロキサシン含有ゲルを鼓膜に塗布されたチンチラでは、24時間以内に治癒が確認された。また、治癒後7日間の間に鼓膜の炎症や中耳炎の再発は見られなかった。これに対し、ハイドロゲルとシプロフロキサシンを合わせたゲル、または正に帯電したリポソームに封入されたシプロフロキサシン含有ゲルで治療されたチンチラのうち、治療から7日後に治癒が確認された個体の割合はそれぞれ25%と50%にとどまり、鼓膜の炎症の程度も未治療の場合と同程度であった。 ただし、動物実験の結果は人間では異なる場合が多いと研究グループは指摘する。それでもYang氏らは、中耳炎に対する治療が抗菌薬の単回投与で済むのなら、患者の治療遵守が高まり、小児における抗菌薬の使用が減り、その結果、患者ケアが改善される可能性があると述べている。 Yang氏は、「私は、この技術を研究室での実験から臨床現場へ応用する次の段階に大きな期待を抱いている。この技術は患者の治療遵守を高め、耐性菌の減少に寄与し、最終的には小児に対する抗菌薬の投与法を変える可能性があるからだ」と話している。

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不定愁訴、魚介類の摂取不足が原因か

 女性は男性よりも原因不明の体調不良(不定愁訴)を訴える可能性が高い。今回、日本の若い女性における不定愁訴と抑うつ症状の重症度が、魚介類の摂取量と逆相関するという研究結果が報告された。研究は和洋女子大学健康栄養学科の鈴木敏和氏らによるもので、詳細は「Nutrients」に4月3日掲載された。 不定愁訴は、器質的な疾患背景を伴わない、全身の倦怠感、疲労感、動悸、息切れ、脳のもやもやなどの症状を指す。これらの症状は、検査で原因が特定できない場合が多く、心身のストレスや自律神経の乱れが関与していると考えられている。過去50年間に行われた様々な横断研究より、不健康なライフスタイルとそれに伴う栄養摂取の影響が不定愁訴に関連することが報告されている。しかし、不定愁訴と特定の食品、栄養素との関連は未だ明らかにされていない。このような背景を踏まえ、著者らは不定愁訴および抑うつ症状を定量化し、これらの症状の重症度と関連する栄養素や食品を特定することを目的として、日本の若年女性を対象とした横断的調査を実施した。 質問調査は2023年6~12月にかけて行われた。和洋女子大学に所属する18~27歳までの学部生86人が対象となり、参加者は同日に微量栄養素欠乏症関連愁訴質問票(MDCQ)、食物摂取頻度調査票(FFQg)、日本版ベック抑うつ質問票(BDI-II)の3種類の質問票に回答した。MDCQのスコアは26をカットオフとし、スコア26以下の参加者を愁訴の訴えが少ない群(LC群)、スコア27以上を訴えが多い群(HC群)とした。HC群では微量栄養素欠乏症の可能性があることを示す。BDI-IIスコアは、13をカットオフとし、13以下の参加者を抑うつ度の低い群(LD群)、14以上を抑うつ度の高い群(HD群)に分類した。2群間の比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた。 FFQgから得られた86人の体組成、栄養摂取量は、2019年の国民健康・栄養調査報告(厚生労働省)から引用した20~29歳の日本人女性のそれとほぼ同等であった。参加者はMDCQスコア(≤26:LC群、≥27:HC群)とBDI-IIスコア(≤13:LD群、≥14:HD群)に基づいて2つのグループに分類された。摂取していた栄養素について、HC群とLC群およびHD群とLD群を比較したところ、HC群とHD群ではエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ビタミンD、ビタミンB12の摂取量が有意に少ないことが分かった。これらの栄養素は日本人において主に魚から摂取されているため、両群の魚介類の摂取量を比較した。その結果、HC群の魚介類の摂取量(中央値〔範囲〕)は有意にLC群より低かった(35.9〔0~107.7〕g vs 53.8〔2.6~148.7〕g、P=0.005)。HD群とLD群を比較した場合でも、同様の低下が認められた(35.9〔0~107.7〕g vs 53.8〔0~148.7〕g、P=0.006)。 参加者はさらに、愁訴の訴えが少なくかつ抑うつ度の低いLC-LD群(MDCQ≦26かつBDI-II≦13)と愁訴の訴えが多くかつ抑うつ度の高いHC-HD群(MDCQ≧27かつBDI-II≧14)の2群に分けられた。両群の栄養素・食品摂取量を比較したところ、HC-HD群のEPA、DHA、ビタミンD、ビタミンB12の摂取量はLC-LD群よりも有意に低かった。さらに、HC-HD群では、亜鉛、セレン、モリブデン、パントテン酸といったその他の微量栄養素も有意に減少していた。食品摂取量に関しては、HC-HD群の魚介類の摂取量は、LC-LD群よりも75%低かった(12.8〔0~107.7〕g vs 53.8〔2.6~148.7〕g、P=0.001)。 本研究について著者らは、「本研究から、魚介類の摂取量は、不定愁訴の重症度および抑うつ状態に関連があることが分かった。魚介類の摂取または、EPA、DHA、ビタミンDなどの摂取が、精神神経疾患の不定愁訴およびうつ病の予防・管理に有効であるかどうかを検証するには、さらなる研究が必要だ」と述べている。 本研究の限界点については、推定された栄養素および食品量は絶対値でなく概算値であったこと、食事の質や抑うつ症状の有病率に影響する社会経済的地位のような共変量を考慮していないことなどを挙げている。

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NEJMに掲載された論文でも世界の標準治療に影響を与えるとは限らない?(解説:後藤信哉氏)

 心筋梗塞と脳梗塞の病態には類似点が多い。心筋梗塞は冠動脈の動脈硬化巣破綻部位に形成される血栓が原因であるのに対して、脳梗塞の原因には塞栓症、微小血管障害などもあり複雑である。心筋梗塞により病態の似ているlarge-vessel occlusionによる脳梗塞が本研究の対象とされた。 脳も心臓も虚血臓器に速やかに血液を灌流することが重要である。虚血の原因は血栓であるため、血栓溶解療法に期待が大きかった。しかし、心筋梗塞治療では血栓溶解療法の役割は残らなかった。病院への搬送に時間がかかる場合には救急車内にて血栓溶解療法を施行することも検討されたが、再灌流障害としての心室細動なども考えると、ともかくカテーテル治療のできる施設に素早く搬送することが何よりも重要との結論になった。 本研究は中国で施行された550例のランダム化比較試験である。発症4.5時間以内の症例に限局し、90日の自立の予後はtenecteplase治療群にて良好とされた。比較的小規模の、必ずしもhardではないendpointの1国でのランダム化比較試験は、以前であればNEJMに届かなかった。本研究が公開されても標準治療が変わるとは思い難い。

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第245回 医師を襲うSNS誹謗中傷、ワクチンについての正しい情報発信が敵意の対象に

<先週の動き> 1.医師を襲うSNS誹謗中傷、ワクチンについての正しい情報発信が敵意の対象に 2.「宿直医の遠隔兼務」を検討へ、ICT活用で実現へ/政府 3.地域医療の“最後の砦”は誰が担う? 特定機能病院制度に再編の兆し/厚労省 4.「骨太の方針2025」で開業医狙い撃ち? 報酬適正化と負担増の両刃政策/政府 5.B型肝炎の既往歴を主治医が見落とし、リウマチ患者が死亡/名古屋大学 6.フランスで「死の援助」法案が下院可決、終末期医療の転換点に 1.医師を襲うSNS誹謗中傷、ワクチンについての正しい情報発信が敵意の対象に新型コロナウイルス感染拡大の時期に、メディアを通じて医療現場の実情やワクチンの有効性を発信してきた医師たちが、SNS上で激しい誹謗中傷にさらされたことをきっかけにネットでの医師の情報発信について法的対応が必要になってきた。埼玉医科大学総合医療センター教授の岡 秀昭医師は、SNSでの発信を始めた2020年以降、匿名アカウントからの罵詈雑言や容姿・家族への攻撃、自宅住所の晒し行為、さらには殺害予告まで受けた。岡医師は弁護士らと相談の上、2022年10月に制度化された「発信者情報開示命令」を活用し、人格攻撃に該当すると判断された投稿約50件について情報開示を申し立て、これまでに20人超を特定。投稿削除や謝罪、最大100万円の和解金支払いに至ったケースもある。その一方で、一部の対象者には民事訴訟や刑事告訴も進行中だ。投稿者の中には「感情的になり軽率だった」とする謝罪文を送る者もいたが、「殺意」などの過激な投稿もあり、深刻さは増している。同様に、コロナワクチン情報サイト「こびナビ」の元副代表・木下 喬弘医師も中傷被害に遭い、自宅住所の晒しや虚偽情報拡散を受け、法的対応を決断した。だが、情報開示には半年以上を要し、証拠収集や投稿精査に膨大な労力がかかったという。木下医師は「施策実行の妨げになる」との危機感から提訴に踏み切ったと述べる。発信者情報開示制度は、従来の二段階手続きを簡素化し、原則1件数千円・約100日で開示に至る。しかし、SNS事業者側が必要情報を持たない場合や、投稿者の支払い能力がない場合には、費用回収も困難となる。また、開示の可否は投稿が名誉毀損や人格攻撃に該当するか否かで左右されるため、慎重な証拠収集が求められる。投稿日時やURL入りのスクリーンショットの保存が有効とされる。最高裁判所によると、開示命令の申立件数は2023年で前年比1.7倍の6,779件に上るなど急増しており、社会に「反撃」意識が浸透しつつあることが背景にあるとみられる。国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口 真一准教授は、法制度だけでなくSNS運営会社による速やかな削除対応や、投稿者への啓発が今後の課題と指摘している。医師による科学的情報発信が敵意にさらされる現実に、医療従事者自身も直面する可能性がある。SNS上の発信には正確さと冷静さを求められると同時に、攻撃への備えとして法的手段や証拠の保存を知ることが、自身と社会を守る手段となり得る。 参考 1) テロリスト、戦犯…女性がXに不穏な投稿を続けた理由を語った 標的は「コロナ対策を呼びかける医師」(東京新聞) 2) ネットリンチ…1時間に30件の暴言にさらされ続けた岡秀昭医師 「発信者」たちを特定しようと決意した経緯(同) 3) コロナ解説きっかけ、SNS中傷5,000件被害の医師「萎縮すれば正しい情報伝わらない」(読売新聞) 4) SNSひぼう中傷受けた医師 投稿者20人超を特定した秘策(NHK) 2.「宿直医の遠隔兼務」を検討へ、ICT活用で実現へ/政府医師の宿直義務について、政府は今後、オンラインを活用した「遠隔兼務」を正式に制度化する方向で検討を開始する。規制改革推進会議の答申(5月28日付)では、2025年度上期から要件の検討を始め、遅くとも2027年度中に結論を得て、措置を講じると明記された。これは、とくに医師不足が深刻な地方病院において、夜間帯の宿直体制を効率化し、昼間の診療体制を確保する狙いがある。宿直対応を1人の医師が複数の病院で遠隔的に担うという新たな勤務モデルが導入されれば、医療資源の最適配置に大きく貢献できる可能性がある。この議論の背景には、谷田病院(熊本県甲佐町)をはじめとする慢性期医療機関の現場からの強い要望がある。谷田病院では2024年の平日夜間、宿直1回当たりの平均対応件数が0.78回と非常に少なく、大半のケースは電話やカルテ確認によるオンコール対応で済んでいた。実際に、夜間の発熱や軽度高血圧などに対しては、解熱剤処方や経過観察の指示で十分対応可能だったという。こうした現場の実情を踏まえ、厚労省は2025年に医療法第16条とその施行規則に基づく「宿直医義務」の例外規定について解釈の明確化を図る。これまで「電話による指示」に限定されていた部分を、「オンライン等の情報通信機器」による対応も含まれることを明確にし、ICT技術の進展を制度に反映させる。加えて、医療提供体制を維持する観点から、電子カルテの情報共有などを含めた技術的要件と、医師の駆け付け可能な距離・対応時間などの勤務条件を整備することが検討されている。地域間格差の拡大を避けるため、「ローカルルール」の発生を防ぐことも留意事項に盛り込まれている。今後の焦点は、実際に「遠隔兼務」が可能となる医療機関の条件整備と、緊急時対応の安全性確保にある。とりわけ、死亡診断や蘇生処置など現地での対応が必要なケースとの線引きが課題となる。少子高齢化が進行し、医療需要が高まる中、限られた人材で地域医療を維持するために、「常駐」から「最適配置」への転換が求められている。今回の制度改革は、そうした時代の要請に応える第一歩となるだろう。 参考 1) 宿直医、複数病院の掛け持ち可能に 人手不足解消へ厚労省が容認(日経新聞) 2) 宿直医のオンライン活用による「遠隔兼務」、遅くとも2027年度中に結論へ(日経メディカル) 3) 資料「地域における病院機能の維持に資する医師の宿直体制の見直し」について(規制改革推進会議) 4) 規制改革推進に関する答申(同) 3.地域医療の“最後の砦”は誰が担う? 特定機能病院制度に再編の兆し/厚労省厚生労働省は5月29日、「特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会」を開き、大学病院本院以外の特定機能病院の承認要件の見直しに着手した。現在、88の特定機能病院のうち79が大学病院本院である一方、それ以外の9病院は総合型(国立国際医療研究センター病院、聖路加国際病院)と特定領域型(がん・循環器など)に分類され、実績や機能にばらつきがあることが厚労省から示された。厚労省は、大学病院本院に対しては「基礎的基準」と「発展的(上乗せ)基準」の二段階で評価し、「高度医療・研究・教育・医師派遣」の4本柱を求める方針を提示。一方で、大学病院本院以外の施設は医師派遣や臨床研修医の受け入れが想定されておらず、実績も限定的であることがデータから明らかとなった。検討会では、こうした実態に配慮しつつ、大学病院本院以外を特定機能病院と同一に扱うべきか、あるいは「別枠」で評価すべきかが論点として浮上。構成員からは、要件満たさなくなる医療機関について経過措置の必要性や、従来の投資や安全体制への配慮を求める声も上がった。また、地域医療構想や医師偏在対策との整合性も重視され、都市部に集中する大学病院本院以外の施設が「地域の最後の砦」として機能していない現状を踏まえ、特定機能病院制度そのものの再定義も視野に入る。新承認要件の具体化と並行して、次回以降の検討会では該当病院からのヒアリングも行われる予定だ。2026年度の診療報酬改定への影響も見込まれる中、制度設計は医療提供体制の構造的見直しに発展する可能性がある。高機能病院の役割とその評価のあり方が、今、改めて問われている。 参考 1) 大学附属病院本院以外の特定機能病院の現状及びあり方等について(厚労省) 2) 第24回特定機能病院及び地域医療支援病院のあり方に関する検討会 資料(同) 3) 大学本院以外の特定機能病院、承認要件見直し論点に 要件満たさなくなる医療機関の取り扱い慎重に 厚労省(CB news) 4) 大学病院本院「以外」の特定機能病院、大学病院本院とは異質で「特定機能病院と別の枠組み」での評価など検討へ-特定機能病院等あり方検討会(Gem Med) 4.「骨太の方針2025」で開業医狙い撃ち? 報酬適正化と負担増の両刃政策/政府政府は5月26日に経済財政諮問会議を開き、今年度の「骨太の方針」の骨子案を提示した。これをもとに6月に「骨太の方針2025」が閣議決定されるが、この中に医療・介護分野の職員の賃上げを明記するとともに、診療報酬や介護報酬など公定価格の引き上げが検討されている。一方で、社会保障制度の持続性確保の名の下に、医療界にとって見逃せない複数の構造改革も盛り込まれる方向となっている。民間議員や財政審は、診療報酬を用いて医療・介護現場の確実な賃上げに繋げる一方で、医療資源の偏在や無駄な医療提供の是正も主張。病床の適正化や外来機能の集約、さらには医師の開業シフトを抑制する報酬体系の再設計も求められている。また、医療法人に対する職種別給与情報の開示や経営情報の「見える化」も強化され、経営の透明性向上と報酬配分のメリハリが焦点になる。さらに、医療費の適正化策として薬剤の自己負担見直しやOTC薬へのスイッチ促進、市販品類似薬の保険外化などが検討されている。これらは高額療養費制度見直しとセットで実施される可能性があり、患者負担が現場の診療にも影響を及ぼす恐れが危惧されている。診療所の利益率が高いという財政審の分析を背景に、今後は病院と診療所の費用構造の違いを踏まえた報酬の差別化も想定される。医学部定員増世代の開業適齢期到来を踏まえ、診療所の過剰供給を防ぐ対策も検討課題に挙げられた。一方、医療界からは物価・人件費の高騰に即応できない診療報酬制度に対して強い危機感が示され、診療報酬の期中改定や柔軟な財政支援の必要性が訴えられている。財政審はこれに対し「どれだけ国民の理解があるか」と慎重な姿勢を崩していない。医療界にとって、「賃上げ」を名目とした制度改変が、実質的には財政再建と歳出抑制の手段と化すリスクも孕んでいる。制度の持続性と現場の実情をいかに調和させるかが、今後の診療報酬議論の中核となる。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針2025骨子案 (内閣府) 2) 政府、骨太方針の骨子案に「公定価格の引き上げ」明記 医療・介護の賃上げ具体化を検討(JOINT) 3) 諮問会議で民間議員 診療報酬で「現場の確実な賃上げに」 薬剤自己負担見直しなど改革が「一層重要」(ミクスオンライン) 4) 財政審 基礎的財政収支の黒字化 “来年度にかけ早期に”(NHK) 5) 診療報酬の「適正化」求める建議、財政審 社会保障は「秋が主戦場」 増田氏(CB news) 6) 26年度予算の概算要求、最重要事項1項目のみ要望 物価・人件費高騰に対応できる報酬体系創設を 四病協(同) 7) 経営安定化や幅広い職種の賃上げに対応 厚労相 次期診療・介護報酬改定などで(同) 5.B型肝炎の既往歴を主治医が見落とし、リウマチ患者が死亡/名古屋大学名古屋大学医学部附属病院は5月28日、過去にB型肝炎ウイルス(HBV)感染歴のあった70代女性患者が、リウマチ治療中にHBV再活性化による急性肝不全を発症し、2021年に死亡した事例について、医療ミスを認め記者会見で謝罪した。女性は2008年に関節リウマチと診断され、免疫抑制療法が開始された。初診時の検査でHBV感染歴が判明しており、定期的なウイルス量測定および肝機能検査が予定されていたが、主治医は検査異常を薬剤性肝障害と誤認。2016年8月以降は患者の既往歴を失念し、一部の検査を中止していた。その結果、HBV再活性化を見逃し、2021年4月の肝機能悪化時にも詳細な評価を行わず、薬剤減量のみの対応に留めたことで病状が進行。同年6月に急性肝不全で死亡した。外部の事例調査委員会は、主治医が既往歴を考慮せず、肝障害の緊急性を正しく評価しなかったことを問題視。さらに、HBV再活性化リスクに関する病院内の情報共有体制や注意喚起機能の不備も指摘された。名古屋大学病院は遺族に謝罪し、損害賠償について協議している。再発防止策として、電子カルテへの感染歴表示、検査未実施時の警告アラート導入などを進めるとした。丸山 彰一病院長は会見で「当院の医療行為が不幸な結果を招いたことを深くおわび申し上げる」と述べた。今回の事例は、免疫抑制療法下におけるHBV再活性化対策の徹底と、診療科横断での患者情報共有の重要性を改めて浮き彫りにした。定期的な検査の実施や既往歴の把握、さらに肝機能障害時の鑑別診断が求められる。 参考 1) 関節リウマチの治療中、免疫抑制剤等によりB型肝炎ウイルスが 再活性化し、肝不全から死亡に至った事例について(名古屋大学) 2) 名大病院、誤診で女性死亡 肝炎患者に適切な治療せず(産経新聞) 3) 名古屋大附属病院 B型肝炎ウイルス感染の患者 医療ミスで死亡(NHK) 4) 名古屋大病院でB型肝炎の悪化見逃し70代女性死亡 医療ミス、遺族に謝罪(中日新聞) 6.フランスで「死の援助」法案が下院可決、終末期医療の転換点に5月27日、フランス国民議会(下院)は、終末期患者に対し致死薬の投与を認める「死の援助」法案を賛成305票、反対199票で可決した。本法案は、安楽死や自殺ほう助を禁じてきたフランスの政策を大きく転換するもので、今秋の上院審議を経て成立を目指す。対象は、「治癒不可能で耐え難い苦痛を抱える終末期の成人患者」に限定され、フランス国籍またはフランス在住の18歳以上に限定される。本人による致死薬の自己投与が原則で、身体的に不可能な場合に限り、医師や看護師による投与が例外的に認められる。マクロン大統領は2022年に市民会議を設置し、「死を迎える権利」に関する国民的議論を主導。その結果、多数の市民が死の援助に賛同し、今回の法案提出に至った。一方、カトリック教徒の多い同国では、宗教界や一部医療関係者の強い反対も根強く、国民投票の可能性も指摘されている。法案が成立すれば、フランスはドイツ、スペイン、スイスなどと並び、終末期医療において「死の援助」を制度的に認める欧州の少数国の1つとなる。 参考 1) フランス下院、「死の援助」法案を可決(AFPB) 2) フランス下院、終末期患者への「死の援助」法案を可決(毎日新聞) 3) 終末期「死の援助」法可決 仏下院、秋に上院審議へ(共同通信) 4) フランスで終末期患者に対する「死への援助」導入する法案が可決 フランス在住の18歳以上の成人のみ可能…患者自身で致死量の薬を投与(FNN) 5) フランス下院が自殺幇助法案を可決 妨害行為には禁錮、罰金刑も(産経新聞)

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京都府立医科大学 呼吸器内科学【大学医局紹介~がん診療編】

髙山 浩一 氏(教授)山田 忠明 氏(准教授)河内 勇人 氏(助教)髙橋 祐希 氏(後期専攻医)講座の基本情報医師の育成方針入局してくる若い先生方には必ずや自己実現を果たしていただきたいです。視野を広く持ち、目指す方向として常に5つの分野を意識するよう求めています。それは、臨床、研究、教育、行政、ビジネスです。目指す道が見つかるまで医局は寄り添い、その道がはっきり見えたら後押しをします。そのために、大学病院では臨床だけでなく、基礎研究にも、学生教育にも携わる機会を提供し、国内外への留学も推奨しています。いろいろな立場に自分の身を置くことで、おのずと自分が何者かを知ることになります。変化を恐れてはいけません。変わり続けることは最も重要な能力であり、それは誰にでも備わっています。地域のがん診療における医局の役割京都府立医科大学附属病院が掲げる理念は「世界トップレベルの医療を地域へ」です。すなわち、レベルの高い医療の実践と、それを地域へ伝える人材の育成が当院の使命とも言えます。当科では抗がん薬物による標準治療を実施するだけでなく、新薬の治験を含む多くの臨床試験に取り組み、新たなエビデンスの創出を目指します。当院で知識と技術を身に付けたがん診療のプロを広く地域の病院へ送り出すことが医局の役割です。力を入れている治療/研究テーマ呼吸器内科では急性期から慢性期の疾患まで多岐にわたるため、幅広い知識が必要になります。当科では、とくにがん診療において、臨床・トランスレーショナル・基礎研究のすべての分野において積極的に取り組んでいます。なかでも、分子標的薬や免疫療法に関する薬剤耐性のメカニズムの解明と、その克服を目指した研究に注力しています。これまでに得られた基礎研究の成果の一部は、治験という形で実際の患者さんに還元されており、臨床現場への直接的な貢献にもつながっています。今後も、当科ならではの独自の視点から生まれる基礎・トランスレーショナル研究を推進し、その成果を臨床応用へとつなげていくことに力を尽くしてまいります。医学生/初期研修医へのメッセージ当科には多様なキャリアを持つ仲間が集い、活気ある雰囲気の中でがん診療と研究に取り組んでいます。臨床での疑問を自ら学び、解決し、現場に還元したいと感じたときは、ぜひ一度、当科の扉を叩いてみてください。同医局でのがん診療/研究のやりがい、魅力呼吸器領域におけるがん診療は、新規治療戦略・薬剤の開発が刻一刻と進化しており、最前線の知識と判断力が求められる奥深い分野です。当医局では、若手医師が早期から臨床・研究に主体的に関われる機会を大切にしています。上級医との距離も近いので、困ったときはすぐに相談できる安心感がある中で、やりがいと責任感を持って診療や研究に携わっています。全国規模の臨床研究や企業治験にも多数参画しており、標準治療に対する理解だけでなく、「日々の診療がこれからの治療を創る」という視点でも取り組めるのが魅力です。医局の雰囲気、魅力最近は若手の先生の入局者が多く、活気のある雰囲気はアピールポイントの1つです。医師としてキャリアを歩むうえで、日常診療や研究の面だけでなく、キャリアプラン・プライベートとの両立などいろいろな悩みに直面すると思いますが、同世代の仲間がいることは大きな支えになります。多彩なバックグラウンドを持った医局員が在籍しており、それぞれロールモデルになって後輩を導いてくれています。マンパワーが充実しているからこそ、誰かが新しい事へと挑戦する機会や困ったときに支え合える環境が作りやすいのだと、日々実感しています。これまでの経歴京都で生まれ育ち、2021年に金沢大学を卒業後、京都の宇治徳洲会病院で初期研修を行いました。大学在学中に呼吸器内科に興味を持ち始めましたが、まずは一般的な内科管理や救急対応を学ぶために、市中の急性期病院で研修することに決めました。初期研修修了後は京都府立医科大学呼吸器内科に入局し、引き続き初期研修を行った宇治徳洲会病院で呼吸器内科専攻医として2年勤務し、本年度より京都府立医科大学附属病院で勤務しています。同医局を選んだ理由大学在学中に初めて見た気管支鏡検査に惹かれたのをきっかけに呼吸器内科に興味を持ちました。患者さんと親身に向き合える診療科を志望していましたが、その中でも呼吸器内科は、急性期から慢性期、良性疾患から悪性疾患まで幅広く対応できる点に魅力を感じました。教授をはじめとするスタッフ方の雰囲気も温かく、大好きな京都に拠点を持ちつつ多くの関連病院と連携している点も入局の決め手でした。普段は和気藹々と、時に緊張感をもって取り組める環境です。ぜひ一度、雰囲気を味わいに来てください!京都府立医科大学大学院医学研究科 呼吸器内科学住所〒602-8566 京都府京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465問い合わせ先respir@koto.kpu-m.ac.jp医局ホームページ京都府立医科大学大学院医学研究科 呼吸器内科学専門医取得実績のある学会日本内科学会日本呼吸器学会日本臨床腫瘍学会日本アレルギー学会日本呼吸器内視鏡学会日本遺伝性腫瘍学会研修プログラムの特徴(1)関西圏を中心に東京や北海道の病院とも連携しています。(2)がんセンター、気管支鏡研修施設、健診施設での研修も可能です。(3)女性医師にとっても働きやすい病院が多いです。専攻医募集中!興味のある先生はぜひご一読ください専攻医募集ページSNSでも医局の活動や最新情報を発信していますので、ぜひフォローしてください!公式Instagram公式Facebook

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ガイドラインはどう考慮される?【医療訴訟の争点】第12回

症例昨今では各分野において診療ガイドラインが作成され、臨床現場で頻用されている。本稿では、診療ガイドラインに準拠した治療の適否が争われた東京地裁令和4年3月10日判決を紹介する。<登場人物>患者53歳・女性(平成18年時点)原告患者の相続人被告総合病院事案の概要は以下の通りである。平成18年(2006年)11月13日胸部圧迫感や全身倦怠感を主訴として被告の関連病院を受診。血液検査にて肝機能障害が認められたため、被告病院の消化器内科を紹介。11月14日被告病院消化器内科外来を受診。腹部CT検査にて、総胆管内に直径5mmの結石があることおよび胆のう内にも小結石があることが確認され、総胆管結石と診断。11月15日被告病院に入院。午後3時30分内視鏡的乳頭バルーン拡張術(EPBD)を受け、総胆管から2個の結石を排石。胆汁排出のため、内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD)も実施され、カテーテルが留置された(EPBD及びENBDをあわせて本件手術という)。本件手術の終了直前(午後5時前)に本件患者がカテーテルを自己抜去したため、胆汁排出のためのドレナージは奏功しなかった。午後6時20分頃嘔吐(黄色のもの中等量。血液も少量混入)午後7時40分頃腹満感及び嘔気の訴え午後8時10分頃腹痛の訴え11月16日午前0時10分頃腹痛の訴え午前0時30分頃腹痛の訴え午前0時50分頃嘔吐(緑黄色のもの中等量)、その後も嘔気、腹痛の訴えが続く。午前中触診の結果、腹部の上部及び両側部に圧痛及び筋性防御。本件患者は医師に対し、前日より痛みが良くなっているかもしれない旨を回答した。血液検査の結果、WBC:1万6,620/μL、CRP:2.03mg/dL、血中アミラーゼ(AMY):1,120IU/L。腹部CT検査の結果、肝臓及び脾臓の周囲に少量の腹水、胆のう周囲から肝門部及びファーター乳頭の周囲を中心とした後腹膜腔に気腫が確認。他方、腹腔内に造影剤が流出貯留している所見はなし。担当医は、消化器内科の上司及び外科医に手術の必要性についてコンサルトした結果、ファーター乳頭近くの胆管の小穿孔は否定できないとしながらも術後急性膵炎と診断し、経過観察を行うこととした。午後血液検査の結果、WBC:1万6,880/μL、CRP:9.45mg/dL、AMY:1,205IU/L。午後4時頃背中から腹部にかけて、どちらも痛い旨の訴え午後8時45分頃右側腹部痛、腰痛の訴え11月17日午前腹痛の訴え続く血液検査の結果、WBC:2万760/μL、CRP:21.81mg/dL、AMY:1,420IU/L。腹部CTの結果、腹水の増加及び胸水が確認され、膵臓の腫大は著明ではないが、炎症は後腎傍腔まで波及していた。触診の結果、腹部全体に圧痛、筋性防御及び腸蠕動音の減弱。午後0時58分頃「重症急性膵炎(+胆汁性腹膜炎疑い)」の傷病名で大学病院救急センターに搬送。腹部CTの結果、腹腔内及び後腹膜腔内の気腫(free air)、両側胸水並びに腹水が認められた。午後7時頃内視鏡下の上部消化管造影検査において、十二指腸内に明らかな損傷部位を同定できず、管腔内に胆汁が認められた上、ファーター乳頭近傍のわずかな造影の漏れや正中近くのわずかな溜りが認められた。午後9時頃ERCP後の下部胆道穿孔、穿孔性腹膜炎との術前診断にて、胆のう摘出術、チューブ挿入術及び洗浄ドレナージ術を実施。平成19年1月9日同大学病院にて、回盲部上行結腸切除及び人工肛門(小腸瘻)を造設。2月2日被告病院に転院。平成20年5月17日退院。その後、急性白血病を発症し、平成21年10月16日、原発不明がんの死因により死亡。実際の裁判結果本件の裁判では、11月16日正午までの時点で開腹手術実施する義務があったか、または被告病院での実施が困難である場合には同時刻までに転医させる義務があったか等が争われ、被告病院の医師が、本件患者が急性膵炎であると診断したこと及び経過観察としたことの判断の適否が問題となった。裁判所は、被告病院の医師が急性膵炎と判断したことについて、以下の点を指摘し、「術後急性膵炎と診断したことが不合理であったとは言えない」とした。EPBDを含む内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)後の偶発症では急性膵炎が最も多いとされていることERCPなどの後に一時的ではない強い腹痛が発生した場合、膵炎であることの頻度が高いとされていること(『ERCP後膵炎ガイドライン2015』)急性膵炎の診断では血中の膵酵素上昇の確認が重要であり、多くの場合、血中アミラーゼの上昇により診断可能とされていること(『ERCP後膵炎ガイドライン2015』)本件では11月16日午前の血中アミラーゼの数値が基準値を超えていたこと次に、被告病院の医師が経過観察としたことについて、裁判所は、以下の点を指摘し、「本件患者について、経過観察を行うこととしたことも不合理であったとはいえない」とした。『急性膵炎診療ガイドライン2010』によれば、重症急性膵炎(壊死性膵炎)に対する早期手術は推奨されないとされていたこと本件患者は、本件手術後、複数回にわたって嘔吐や強い腹痛、腹部膨満を訴えていたものの、11月16日に医師に対して同月15日より痛みが良くなっているかもしれない旨を伝えていたこと11月16日の腹部CT検査の結果、腹水及び気腫が認められたものの、腹水は少量に留まり、気腫も後腹膜腔に限局していたことその上で、裁判所は、「11月16日正午頃の時点で、原告らが主張する注意義務が発生したとは認められない。医師が、本件患者について、術後急性膵炎と診断して経過観察を行うこととしたことが不合理であったとはいえず、医師に注意義務違反があったとは認められない」と結論付けた。なお、本件では、原告(患者側)は、協力医の意見書を提出しており、その意見書には、急性膵炎であれば、触診時、膵臓がある上腹部に圧痛等の腹膜刺激症状が現れ、ほかの箇所の腹部触診では、腹膜刺激症状が現れないので、上腹部に腹膜刺激症状が限局しているという判断になると記載され、WBC及びCRPの値がやや上昇していたことや腹部CTで少量ではあるが気腫(free air)及び腹水が認められたことから、急性汎発性腹膜炎を発症している状態と診断して緊急開腹手術を実施すべきであったと記載されていた。このため、かかる意見書に従えば、急性膵炎と診断して経過観察した医師には注意義務違反があるということとなる。しかし、裁判所は、かかる意見について、腹膜刺激症状の指摘は「急性膵炎患者の腹痛部位は上腹部、腹部全体の順に多く、圧痛部位は腹部全体、上腹部、右上腹部の順に多い旨の『ERCP後膵炎ガイドライン2015』及び『急性膵炎診療ガイドライン』の記載と合致せず、採用することができない」とし、ガイドラインの記載に反することを理由に、意見書記載の意見を採用しなかった。注意ポイント解説本件は、ERCP後の診断を急性膵炎としたこと、経過観察としたことの判断の適否が問題となった事案である。急性膵炎と診断したことについて、裁判所は、『ERCP後膵炎ガイドライン2015』の記述(「ERCPなどの後に一時的ではない強い腹痛が発生した場合、膵炎であることの頻度が高いとされていること」「急性膵炎の診断では血中の膵酵素上昇の確認が重要であり、多くの場合、血中アミラーゼの上昇により診断可能とされていること」)を踏まえて、医師が急性膵炎であると診断したことが不合理とは言えないと判断している。これは、一般にガイドラインは作成時点の医学的知見を集約したものである上、当該ガイドラインのクリニカルクエスチョンには記述の根拠たる関連論文の出典の記載もあるため、医学的な裏付けもある証明力の高いものとして判断されたものと考えられる。そして、このような理由から、ガイドラインの記載に反する患者側協力医意見書は採用されなかったものと考えられる。また、急性膵炎であるとの判断が不合理ではないとした場合の対応についても、ガイドラインの記載(「重症急性膵炎[壊死性膵炎]に対する早期手術は推奨されない」)を参考とした判断がなされている。本判決のこれらの判断は、過失(注意義務違反)の有無に関し、ガイドラインの考慮のされ方がうかがえるものとして参考となる。ただし、ガイドラインはさまざまな分野において各種のものが存在するが、どのような位置付けで作成されているのか(診療の参考に留まるのかなど)については、ガイドラインごとに異なる。また、ガイドラインの中のクエスチョンごとに推奨度や文献・論文等の裏付けの程度も異なる。また、そもそも患者ごとに症状が異なり、ガイドラインに記載されている症状がそのまま当該患者に当てはまるとは限らない点には注意が必要である。ガイドラインの記載どおりに対応していれば過失(注意義務違反)が否定されるとは限らないことに留意する必要がある。医療者の視点診療ガイドラインは、私たち医療者にとって日常診療の重要な指針ですが、その活用には臨床的判断が不可欠です。本症例はガイドラインが医療訴訟の判断基準となりうることを示していますが、ここから学ぶべき点は多いと思います。私たち臨床医が常に認識すべきは、ガイドラインは「標準的な患者」を想定して作成されており、個々の患者さんの状態がそれに合致するとは限らないということです。推奨度や根拠レベルにも差があり、すべてが同等の重みを持つわけではありません。ガイドラインに準拠した診療を行いながらも、患者さんの臨床所見の変化に注意を払い、当初の診断や治療方針を常に再評価する姿勢が重要です。臨床経過が予想と異なる場合には、ガイドラインに縛られ過ぎず、柔軟に方針を変更する判断力も求められます。また、複数の診療科での連携・相談を行うなど、チーム医療の視点からのアプローチも大切です。ガイドラインを「参考にする」という本来の位置付けを正しく理解し、それを踏まえた上で個々の患者さんに最適な医療を提供することが、私たち医療者の責務だと考えます。Take home messageガイドラインは作成時点の医学的知見を集約したものであるから、過失(注意義務違反)の有無を判断する基準(医療水準)となりうる。ただし、ケースバイケースの判断となるため、ガイドラインの記載どおりに対応していれば過失(注意義務違反)が否定されるとは限らないことに留意する必要がある。キーワードERCP、急性膵炎、ガイドライン診療ガイドラインは、一般に、医学的知見を集約したものであることからすれば、医療水準の認定に当たって、その記載内容の趣旨及び示されている推奨度等を勘案して考慮される。このため、推奨度が低いものについては、その記載と異なる対応をしても過失(注意義務違反)とされない可能性がある(逆に言えば、その記載どおりの対応をしていても過失[注意義務違反]がないとはならない可能性がある)。他方で、推奨度が高いものについては、その記載内容がそのまま医療水準となり、その記載に沿った対応をしていれば過失(注意義務違反)とならない可能性が高くなる(逆に言えば、その記載どおりの対応をしていない場合に過失[注意義務違反]があるとされる可能性が高くなる)。(1)推奨度がどういうものであるか、(2)ガイドラインの想定としている患者の状態、(3)実際に診療をしている患者の状態との違い(ガイドラインの記載をそのまま適用して診療にあたってよい症例か否か)を踏まえて対応する必要がある。

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全医師が遭遇しうる薬剤性肺障害、診断・治療の手引き改訂/日本呼吸器学会

 がん薬物療法の領域は、数多くの分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬(ICI)、抗体薬物複合体(ADC)が登場し、目覚ましい進歩を遂げている。しかし、これらのなかには薬剤性肺障害を惹起することが知られる薬剤もあり、薬剤性肺障害が注目を集めている。そのような背景から、2025年4月に『薬剤性肺障害の診断・治療の手引き第3版2025』が発刊された。本手引きは、2018年以来の改訂となる。本手引きの改訂のポイントについて、花岡 正幸氏(信州大学病院長/信州大学学術研究院医学系医学部内科学第一教室 教授)が第65回日本呼吸器学会学術講演会で解説した。いま薬剤性肺障害が注目される理由 花岡氏は、「いまほど薬剤性肺障害が注目を集めているときはない」と述べ、注目される理由として以下の5点を挙げた。(1)症例数の増加ICIなどの新規薬剤の登場に伴って薬剤性肺障害の報告が増加している。(2)人種差国際比較により、日本人で薬剤性肺障害の発症率が高い薬剤が存在する。(3)予後不良な病理組織パターン重症化するびまん性肺胞傷害(DAD)を呈する場合がある。(4)多様な病型非常に多くの臨床病型が存在し、肺胞・間質領域病変だけでなく気道病変、血管病変、胸膜病変も存在する。(5)新たな病態ICIによる免疫関連有害事象(irAE)など、新規薬剤の登場に伴う新たな病態が出現している。改訂のポイント8点 本手引きでは、改訂のポイントとして8点が挙げられている(p.viii)。これらについて、花岡氏が解説した。(1)診断・検査の詳説 今回の改訂において「図II-1 薬剤性肺障害の診断手順」が追加された(p.13)。薬剤性肺障害の疑いがあった場合には、(1)しっかりと問診を行って、原因となる薬剤の使用歴を調査し、(2)諸検査を行って他の原因疾患(呼吸器感染症、心不全、原病の悪化など)を否定し、(3)原因となる薬剤での既報を調べ、(4)原因となる薬剤の中止で改善するかを確認し、(5)再投与試験によって再発するか確認するといった流れで診断を実施することが記載されている。 肺障害の発症予測や重症化予測に応用可能なバイオマーカーの確立は喫緊の課題であり、さまざまな検討が行われている。そのなかから国内で報告されている3つのバイオマーカー候補分子(stratifin、lysophosphatidylcholine[LPC]、HMGB1)について、概説している。(2)最新の画像所見の紹介 薬剤性肺障害の画像所見が「表II-3 薬剤性肺障害の一般的なCT所見」にまとめられた(p.21)。薬剤性肺障害の代表的な画像パターンは、以下の5つに分類される。・DADパターン・OP(器質化肺炎)パターン・HP(過敏性肺炎)パターン・NSIP(非特異性間質性肺炎)パターン・AEP(急性好酸球性肺炎)パターン なお、今回の改訂において、特定の薬剤の肺障害としてALK阻害薬、ADCに関する画像所見が追加された。(3)薬物療法の例の追加 薬物療法のフローについて「図III-2 薬剤性肺障害の薬物療法の例」が追加された(p.50)。重症度別にフローを分けており、すべての症例でまず被疑薬を中止するが、無症状・軽症の場合は中止により改善がみられれば経過観察とする。被疑薬の中止による改善がみられない場合や中等症の場合は、経口プレドニゾロン(0.5~1.0mg/kg/日)を投与する。これで改善がみられる場合はプレドニゾロンを漸減し、2~3ヵ月以内に中止する。経口プレドニゾロンで改善がみられない場合や重症・DADパターンでは、ステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン1,000mg/日×3日)を行い、経口プレドニゾロンに切り替える。改善がみられる場合は漸減し、改善がみられない場合はステロイドパルスを繰り返すか、免疫抑制薬の追加を行う(ただし、免疫抑制薬に薬剤性肺障害に対する保険適用はないことに注意)。(4)予後不良因子の追加 薬剤性肺障害の予後を規定する要因として報告されているものを以下のとおり列挙し、解説している。・背景因子(高齢、喫煙歴、喫煙指数高値、既存の間質性肺炎、喘息の既往[ICIの場合]など)・発症様式(低酸症血症、PS2~4など)・胸部画像所見(DADパターンなど)・血清マーカー(KL-6、SP-D、stratifinなど)・気管支肺胞洗浄液(BALF)所見(剥離性の反応性II型肺上皮細胞)・ICIによる肺障害と抗腫瘍効果 ICIについては、irAEがみられた集団で抗腫瘍効果が高いこと、ニボルマブによる肺障害が生じた症例のうち、腫瘍周囲の浸潤影を呈した症例は抗腫瘍効果が高かったという報告があることなどが記されている。(5)患者指導の項目の追加 薬剤の投与中に新たな症状が出現した場合は速やかに医療機関や主治医に報告するよう指導すること、とくに抗悪性腫瘍薬や関節リウマチ治療薬を使用する場合には、既存の間質性肺疾患の合併の有無を十分に検討することなどが記載された。また、抗悪性腫瘍薬の多くは医薬品副作用被害救済制度の対象外である点も周知すべきことが示された。(6)抗悪性腫瘍薬による肺障害を詳説 とくに薬剤性肺障害の頻度が高いチロシンキナーゼ阻害薬、ICI、抗体製剤(とくにADC)について詳説している。(7)irAEについて解説 ICIによって生じた間質性肺炎では、BALF中のリンパ球の増加や制御性Tリンパ球の減少、抗炎症性単球の減少、炎症性サイトカインを産生するリンパ球・単球の増加など、正常分画とは異なる所見がみられることが報告されている。このようにirAEに特異的な所見がみられる場合もあることから、irAEの発症機序について解説している。(8)医療連携の章の追加 本手引きについて、花岡氏は「非専門の先生や診療所の先生にも使いやすい手引きとなることを目指して作成した」と述べる。そこで今回の改訂で「第VI章 医療連携」を新設し、非呼吸器専門医が薬剤性肺障害を疑った際に実施すべき検査について、「図VI-1 薬剤性肺障害を疑うときの検査」にまとめている(p.123)。また、専門医への紹介タイミングや、かかりつけ医・非呼吸器専門医と呼吸器専門医のそれぞれの役割について「図VI-2 かかりつけ医と専門医の診療連携」で簡潔に示している(p.124)。すべての薬剤が肺障害を引き起こす可能性 花岡氏は、薬剤性肺障害の定義(薬剤を投与中に起きた呼吸器系の障害のなかで、薬剤と関連があるもの)を紹介し、そのなかで「薬剤性肺障害の『薬剤』には、医師が処方したものだけでなく、一般用医薬品、生薬、健康食品、サプリメント、非合法薬などすべてが含まれることが、きわめて重要である」と述べた。それを踏まえて、薬剤性肺障害の診療の要点として「多種多様な薬剤を扱う臨床医にとって、薬剤性肺障害は必ず鑑別しなければならない。すべての薬剤は肺障害を引き起こす可能性があることを念頭において、まず疑うことが重要であると考えている」とまとめた。

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BRAF V600E変異mCRC、エンコラフェニブ+セツキシマブ+mFOLFOX6は新たな1次治療に(BREAKWATER)/ASCO2025

 BREAKWATERは、BRAF V600E変異転移大腸がん(mCRC)における、1次治療としてのエンコラフェニブ+セツキシマブ+化学療法と標準治療を比較評価する試験である。2025年1月に行われた米国臨床腫瘍学会消化器がんシンポジウム(ASCO-GI 2025)では、主要評価項目の1つである奏効率(ORR)の主解析結果、全生存期間(OS)の中間解析結果の報告が行われ、ORRはEC+mFOLFOX6群が有意に高く(60.9%vs.40.0%)、OSのハザード比(HR)も0.47と大きな差が付いたことに注目が集まっていた。これまでの本試験の報告に基づき、本レジメンはBRAF V600E変異mCRCに対し、米国食品医薬品局(FDA)から1次治療を含む早期承認を取得している。 2025年5月30日に始まった米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)では、Vall d'Hebron University Hospital(スペイン・バルセロナ)のElena Elez氏が、本試験の無増悪生存期間(PFS)の主解析結果およびOS、安全性などの更新データを報告した。この内容は2025年5月30日のNEJM誌オンライン版に同時掲載された。・試験デザイン:国際共同第III相無作為化比較試験・対象:未治療のBRAF V600E変異mCRC患者637例・試験群:エンコラフェニブ300mg1日1回経口投与、セツキシマブ500mg/m2、mFOLFOX6を2週間ごと投与(EC+mFOLFOX6群:236例)・対照群:医師選択による化学療法±ベバシズマブ(標準治療群:243例)※当初はEC群を含めた試験デザインだったものを2群にプロトコール変更・評価項目:[主要評価項目]PFS、ORR[副次評価項目]OS、安全性など 主な結果は以下のとおり。・データカットオフ時点(2025年1月6日)におけるPFS中央値はEC+mFOLFOX6群12.8ヵ月(95%信頼区間[CI]:11.2~15.9)、標準治療群7.1ヵ月(95%CI:6.8~8.5)、HRは0.53(95%CI:0.407~0.677)と、EC+mFOLFOX6群が有意に延長した。・更新されたOS中央値はEC+mFOLFOX6群30.3ヵ月(95%CI:21.7~未到達)、標準治療群15.1ヵ月(95%CI:13.7~17.7)、HRは0.49(95%CI:0.375~0.632)と、こちらもEC+mFOLFOX6群が有意に延長した。・ORRはEC+mFOLFOX6群65.7%、標準治療群37.4%だった。・治療関連有害事象は、Grade3/4がEC+mFOLFOX6群で76.3%、標準治療群で58.5%に発生した。Grade5は標準治療群の1例だった。頻度の高いものは悪心、貧血、下痢だった。 Elez氏は「本試験は二重の主要評価項目を達成した。EC+mFOLFOX6群は標準治療群と比較して臨床的に意味のある、かつ統計学的に有意なPFSおよびOSの改善を示し、毒性は管理できる範囲内だった。EC+mFOLFOX6は、BRAF V600E変異mCRCの1次治療における新たな標準治療となるだろう」とまとめた。  現地で聴講した相澤病院・がん集学治療センターの中村 将人氏は「今回のOSのアップデートに注目していたが、HRが0.49と非常に良い結果だった。予後不良の代表的例であるBRAF変異においてOSが30ヵ月を超える時代が来たことは感慨深い。BRAF V600E変異mCRCの2次治療にはEC+ビニメチニブの3剤併用療法があるが、本レジメンはビニメチニブを使わず、後治療に残しておけることにも意味がある。日本において本レジメンの承認はこれからだが、いずれの薬剤もすでに臨床で使われているものであり、明日からの実臨床を変える結果だと感じた」とコメントした。

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コーヒーは片頭痛予防に有効なのか?

 片頭痛は、不十分な薬物療法、不安、睡眠障害、うつ病、ストレスなど、さまざまなリスク因子の影響を受ける慢性的な神経疾患である。コーヒーは多様な生理活性作用が報告されており、急性片頭痛の症状緩和に役立つといわれているが、長期にわたる摂取を中止した場合、予期せぬ片頭痛の誘発につながる可能性がある。片頭痛患者の一部は、カフェインを潜在的な誘発因子として捉えているが、カフェインの片頭痛予防効果はいくつかの研究で示唆されている。コーヒーとその成分が片頭痛に及ぼす複雑な生理学的・薬理学的メカニズムは、依然として十分に解明されていない。中国・Shulan (Anji) HospitalのAyin Chen氏らは、コーヒーとその成分が片頭痛発症リスクに及ぼす影響を明らかにする目的で、メンデルランダム化(MR)解析を用いた調査を実施した。Neurological Research誌オンライン版2025年4月20日号の報告。 交絡因子およびバイアスリスクを低減するため、遺伝子変異を曝露量の代理指標としたMR解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・コーヒー摂取と片頭痛リスクの間に、有意な逆相関が認められた。この結果は、コーヒーが頭痛障害を予防する可能性があるという過去の疫学研究と一致している。・MR解析では、7-メチルキサンチンが片頭痛のリスク低下と関連していたのに対し、カフェ酸硫酸塩はリスク上昇と関連していた。・感度分析では、トリゴネリンを除くすべての成分について一塩基多型選択に異質性は認められず、MR-Egger法およびMR-PRESSO検定の両方で水平多面発現性や外れ値は認められなかった。 著者らは、「本結果により、コーヒーおよびその成分が片頭痛リスクに及ぼす影響が明らかとなり、有益な食事に関する推奨事項が提供される」とし、「コーヒーの保護効果は、アデノシン受容体拮抗作用と密接に関連している可能性があり、根底にあるメカニズムの解明には、さらなる研究が求められる」とまとめている。

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コントロール不良の軽症喘息、albuterol/ブデソニド配合薬の頓用が有効/NEJM

 軽症喘息に対する治療を受けているが、喘息がコントロールされていない患者において、albuterol(日本ではサルブタモールと呼ばれる)単独の頓用と比較してalbuterol/ブデソニド配合薬の頓用は、重度の喘息増悪のリスクが低く、経口ステロイド薬(OCS)の年間総投与量も少なく、有害事象の発現は同程度であることが、米国・North Carolina Clinical ResearchのCraig LaForce氏らBATURA Investigatorsが実施した「BATURA試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年5月19日号に掲載された。遠隔受診の分散型無作為化第IIIb相試験 BATURA試験は、軽症喘息に推奨される薬剤による治療を受けているが喘息のコントロールが不良な患者における固定用量のalbuterol/ブデソニド配合薬の頓用の有効性と安全性の評価を目的とする二重盲検無作為化イベント主導型・分散型第IIIb相比較試験であり、2022年9月~2024年8月に米国の54施設で参加者を登録した(Bond Avillion 2 DevelopmentとAstraZenecaの助成を受けた)。本試験は、Science 37の遠隔診療プラットフォームを用い、すべての受診を遠隔で行った。 年齢12歳以上で、短時間作用型β2刺激薬(SABA)単独またはSABA+低用量吸入ステロイド薬あるいはロイコトリエン受容体拮抗薬の併用療法による軽症喘息の治療を受けているが、喘息のコントロールが不良な患者を対象とした。 これらの参加者を、albuterol(180μg)/ブデソニド(160μg)配合薬(それぞれ1吸入当たり90μg+80μgを2吸入)またはalbuterol単独(180μg、1吸入当たり90μgを2吸入)の投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付け、最長で52週間投与した。 主要エンドポイントは、on-treatment efficacy集団(無作為化された治療の中止前、維持療法の強化前に収集した治療期間中のデータを解析)における重度の喘息増悪の初回発生とし、time-to-event解析を行った。重度の喘息増悪は、症状の悪化によるOCSの3日間以上の使用、OCSを要する喘息による救急診療部または緊急治療のための受診、喘息による入院、死亡とし、治験責任医師によって確認された記録がある場合と定義した。 主な副次エンドポイントはITT集団(on-treatment efficacy集団のようなイベント[治療の中止や強化]を問わず、すべてのデータを解析)における重度の喘息増悪の初回発生とし、副次エンドポイントは重度の喘息増悪の年間発生率と、OCSへの曝露とした。年齢18歳以上でも、2集団でリスクが低下 解析対象は2,421例(平均[±SD]年齢42.7±14.5歳、女性68.3%)で、albuterol/ブデソニド群1,209例、albuterol単独群1,212例であった。全体の97.2%が18歳以上で、ベースラインで74.4%がSABA単独を使用していた。事前に規定された中間解析で、本試験は有効中止となった。 重度の喘息増悪は、on-treatment efficacy集団ではalbuterol/ブデソニド群の5.1%、albuterol単独群の9.1%(ハザード比[HR]:0.53[95%信頼区間[CI]:0.39~0.73]、p<0.001)に、ITT集団ではそれぞれ5.3%および9.4%(0.54[0.40~0.73]、p<0.001)に発生し、いずれにおいても配合薬群で有意に優れた。 また、年齢18歳以上に限定しても、2つの集団の双方で重度の喘息増悪のリスクがalbuterol/ブデソニド群で有意に低かった(on-treatment efficacy集団:6.0%vs.10.7%[HR:0.54、95%CI:0.40~0.72、p<0.001]、ITT集団:6.2%vs.11.2%[0.54、0.41~0.72、p<0.001])。 さらに、年齢12歳以上のon-treatment efficacy集団における重度の喘息増悪の年間発生率(0.15vs.0.32、率比:0.47[95%CI:0.34~0.64]、p<0.001)およびOCSの年間総投与量の平均値(23.2vs.61.9mg/年、相対的群間差:-62.5%、p<0.001)は、いずれもalbuterol/ブデソニド群で低い値を示した。約60%がソーシャルメディア広告で試験に参加 頻度の高い有害事象として、上気道感染症(albuterol/ブデソニド群5.4%、albuterol単独群6.0%)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)(5.2%、5.5%)、上咽頭炎(3.7%、2.6%)を認めた。 重篤な有害事象は、albuterol/ブデソニド群で3.1%、albuterol単独群で3.1%に発現し、投与中止に至った有害事象はそれぞれ1.2%、2.7%、治療関連有害事象は4.1%、4.0%にみられた。治療期間中に2つの群で1例ずつが死亡したが、いずれも試験薬および喘息との関連はないと判定された。 著者は、「分散型試験デザインは患者と研究者の双方にとってさまざまな利点があるが、患者が費用負担を避けることによる試験中止のリスクがあり、本試験では参加者の約19%が追跡不能となった」「特筆すべきは、参加者の約60%がソーシャルメディアの広告を通じて募集に応じており、近隣の診療所や地元で募集した参加者のほうが試験参加を維持しやすい可能性があるため、これも試験中止率の上昇につながった可能性がある」「青少年の参加が少なく、今回の知見のこの年齢層への一般化可能性には限界がある」としている。

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抗ANGPTL4抗体、新たな脂質低下療法の可能性/Lancet

 完全ヒト化抗アンジオポエチン関連タンパク質4(ANGPTL4)抗体MAR001は、循環血中のトリグリセライドおよびレムナントコレステロールを安全かつ効果的に低下させ、アテローム動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)のリスクを低減する有望な脂質低下療法となる可能性があることが、米国・Marea TherapeuticsのBeryl B. Cummings氏らが実施した「MAR001試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年5月15日号で報告された。単回と複数回投与の安全性を評価する2つの試験 研究グループは、MAR001によるANGPTL4の阻害の包括的な安全性の評価を目的に、ヒトで初めての無作為化プラセボ対照単回増量投与第I相試験(2017年11月~2019年9月)および二重盲検無作為化プラセボ対照第Ib/IIa相試験(2013年11月~2024年7月)を行った(Marea Therapeuticsの助成を受けた)。 第I相試験(全56人)は3つのパートから成り、パート1A(健康な成人)では年齢18~65歳、体重50kg以上、BMI値18~30の32人を登録し、MAR001 15mg、50mg、150mg、450mgを単回皮下注射する群に各6人およびプラセボ群に8人、パート1B(高BMI)では体重70kg以上、BMI値30~40の12人をMAR001 450mg群に9人およびプラセボ群に3人、パート1C(高トリグリセライド)では体重59kg以上、空腹時トリグリセライド値200~500mg/dLの12人をMAR001 450mg群に8人およびプラセボ群に4人をそれぞれ割り付けた。 主要目的は、MAR001単回皮下注射から141日後までの安全性と忍容性の評価と、健康な試験参加者における薬物動態の評価とした。 第Ib/IIa相試験は、高トリグリセライド血症で2型糖尿病の既往のある成人、またはスクリーニング時のHOMA-IR値が2.2以上で腹部肥満(ウエスト周囲長が女性88cm以上[アジア系は80cm以上]、男性102cm以上[同90cm以上]と定義)のある成人を対象とし、オーストラリアの2施設で55人を登録し、MAR001 150mg群に10人、同300mg群に9人、同450mgに17人、プラセボ群に19人を割り付け、2週ごとに7回投与した。 主要目的は、代謝機能障害を有する参加者におけるMAR001複数回投与の安全性と忍容性の評価であった。投与終了から12週間の追跡調査を行った。有害事象の多くはGrade1/2、重篤なものはない 2つの試験の結果、MAR001は安全で、全般に良好な忍容性を示した。第Ib/IIa相試験の全体で、有害事象は85%に発現し、このうちGrade1が40%、Grade2が44%であった。とくに注目すべき有害事象は27%、投与中止に至った有害事象は2%、試験薬関連の可能性がある有害事象は38%に認めた。一方、重篤な有害事象および死亡に関連した有害事象はみられなかった。 また、試験薬関連の全身性の炎症バイオマーカー値の上昇や、MRIで評価した腸間膜リンパ節の大きさや炎症の変化は観察されなかった。 MAR001 450mgの投与による、プラセボで補正した12週目におけるトリグリセライド値の平均減少率は52.7%(90%信頼区間[CI]:-77.0~-28.3)であり、レムナントコレステロールの平均減少率は52.5%(-76.1~-28.9)であった。 著者は、「これらの臨床所見は、ANGPTL4の阻害により安全かつ効果的にトリグリセライドとレムナントコレステロールが減少し、ASCVDリスクが大幅に低下するというヒトの遺伝的予測と一致する」「これらの結果は、ASCVDリスクを低下させる新たな脂質低下療法として、また心血管リスクが残存する高リスク者に対する標的治療として、MAR001の研究開発の継続を支持するものである」としている。

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突然の心停止の最大のリスクは生活習慣

 生活習慣や環境関連のリスク因子をコントロールすることで、突然の心停止(SCA)の約3分の2を予防できる可能性があるという研究結果が、「Canadian Journal of Cardiology」に4月28日掲載された。復旦大学(中国)のRenjie Chen氏らの研究によるもの。論文の上席著者である同氏は、「リスク因子に対処することで、多くのSCAを予防し得るという結論に驚いている」と語っている。 SCAは致死率が高く、かつ予測が困難なため、世界的に主要な死亡原因の一つとなっている。SCAのリスク因子に関するこれまでの研究の多くは仮説主導型という研究手法で行われていて、この手法では事前に定義された仮説に含まれていない因子の発見が難しい。これを背景にChen氏らは、英国で行われている住民対象大規模疫学研究「UKバイオバンク」のデータを利用し、エクスポソームワイド関連研究(EWAS)やメンデルランダム化(MR)解析という、仮説に依存せずリスク因子を探索する手法による研究を行った。 UKバイオバンク参加者50万2,094人を平均13.8年追跡したところ、3,147人がSCAを発症していた。食事・運動・喫煙・飲酒習慣、抑うつや孤独、環境汚染への曝露、雇用状況・暮らし向き、体重・血圧など、修正可能な125の潜在的リスク因子を、SCA発症者と非発症者で比較したところ、SCAリスクと関連の強い56の因子が浮かび上がった。そのうち25の因子は、集団寄与危険割合(その因子を除外すればSCAを防ぐことのできる割合)が10~17.4%の範囲にあり、これには、喫煙、運動、テレビ視聴時間、肥満、睡眠、握力、教育歴などの変更可能な因子が含まれていた。 また、特にリスクの高い因子を除外することで、SCAの発生を40%予防できると予測された。それには生活習慣の改善が最も強く寄与し(40%のうち13%)、次いで身体的因子(9%)、社会経済的因子(8%)、心理社会的因子(5%)、環境因子(5%)が寄与していた。また、リスクがそれほど高くない因子も含めて、より徹底的な対処を行った場合、最大で63%のSCAを予防できると考えられた。この予測においても最も寄与するのは生活習慣の改善であり、18%の減少が見込まれた。 Chen氏は、「われわれの知る限りこの研究は、医学的な手段を用いずに修正可能なリスク因子とSCA発生率との関連性を包括的に調査した、初の研究である」と述べている。また論文の筆頭著者である同大学のHuihuan Luo氏は、「本研究により、SCAと有意な関連のあるさまざまな修正可能因子が見つかり、生活習慣の改善がSCA予防に最も効果的であることが分かった」と総括している。 少し意外なデータも見つかった。それは、パソコン操作時間(不健康とされる座位行動に該当する)が、SCAに対して保護的に働くような関連が見られたことだ。研究者らによると、これはパソコンの操作がSCA予防につながるというのではなく、パソコンユーザーには教育歴が長い人が多い傾向があり、教育歴の長さは一般に健康に対する保護因子として働くためではないかという。

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