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便秘が心不全再入院リスクと関連―DPCデータを用いた大規模研究

 心不全による再入院のリスクに便秘が関与している可能性が報告された。東京都立多摩総合医療センター循環器内科/東京大学ヘルスサービスリサーチ講座の磯貝俊明氏らの研究によるもので、詳細は「Circulation Reports」11月号に掲載された。 便秘は血圧変動などを介して心不全リスクを高める可能性が想定されているが、心不全の予後との関連を調べた研究は限られている。磯貝氏らは、便秘が心不全による再入院リスクに関連しているとの仮説の下、診断群分類(DPC)医療費請求データベースを用いた後ろ向きコホート研究を実施した。 解析対象は、2016年4月~2022年3月に国内のDPC対象病院へ心不全のために初回入院し、生存退院した20歳以上の患者から、先天性心疾患、血行再建術や心臓移植が施行された症例、末期腎不全合併症例などを除外した55万6,792人(平均年齢80.0±12.3歳、女性49.2%)。退院時に下剤が処方されていた患者を「便秘あり」と定義すると22.0%が該当した。便秘あり群は高齢で(82.7±10.1対79.2±12.8歳)、女性が多かった(53.5対48.0%)。 主要評価項目として設定した「退院後1年以内の心不全による再入院」は、10万2,221人に発生しており、発生率は便秘あり群24.0%、なし群18.6%だった。副次評価項目として設定した「退院後1年以内の心不全による再入院および全ての再入院中の死亡」という複合エンドポイントは11万4,661人に発生し、発生率は前記の順に26.6%、20.6%だった。 60項目の共変量(年齢、性別、BMI、併存疾患、入院中の管理・治療、退院時処方薬、入院した年度、入院期間、退院時の日常生活動作〔ADL〕、病院の特徴〔大学病院か否か、年間心不全入院患者数〕など)を調整したCox比例ハザードモデルでの解析により、便秘あり群は便秘なし群に比べ、高い心不全再入院リスクと関連していた(調整後ハザード比〔aHR〕1.08〔95%信頼区間1.06~1.10〕)。また、死亡も含めた副次評価項目についても便秘と有意な関連が認められた(aHR1.09〔1.07~1.10〕)。 著者らは、本研究がDPCデータに基づく解析のため把握不能な臨床指標があること、退院後の増悪時に初回の入院先とは異なる病院に入院したケースを追跡できていないことなどを研究限界として挙げた上で、「心不全患者の便秘有病率は高く、便秘を有することは再入院リスクと関連している。今後の研究では、便秘に対する介入が再入院リスクの抑制につながるかどうかの検証が求められる」と総括している。 なお、便秘が心不全の増悪リスクを高める機序については、排便時のいきみによる血圧上昇、不快感のストレスによる交感神経系の亢進、便秘に伴う腸内細菌叢の変化を介した動脈硬化の進展などが考えられるという。

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フレイルの定義と対策

そもそも フレイルとはフレイルとは、「加齢に伴う予備能力低下のため、ストレスに対する回復力が低下した状態」を表す “frailty” の日本語訳として日本老年医学会が提唱した用語である。自立フレイルは、要介護状態に至る前段階として位置づけられるが、頑健・健常フレイル加齢要介護身体的脆弱性のみならず精神・心理的脆弱性や社会的脆弱性などの多面的な問題を抱えやすく、自立障害や死亡を含む健康障害を招きやすいハイリスク状態を意味する。適切な対策で、健康な状態に戻ることも可能です。「フレイル診療ガイド 2018 年版」(日本老年医学会/国立長寿医療研究センター、2018)ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会  秋下 雅弘先生講演資料よりフレイル対策 3つの基本栄養運動社会参加ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会  秋下 雅弘先生講演資料よりフレイル対策 栄養朝、昼、晩バランスよく食べる。筋肉をつくる「たんぱく質」と骨の発育に大切な「ビタミンD」を摂る。栄養口の中を清潔に保ち、定期的に歯科を受診する。ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会  秋下 雅弘先生講演資料よりフレイル対策 運動ウォーキングや水泳などの「有酸素運動」。筋力トレーニングのような「レジスタンス運動」。運動体調や体力に合った運動を継続する。ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会  秋下 雅弘先生講演資料よりフレイル対策 社会参加休日は外出をして体のリズムを整える。趣味や習い事などの楽しみをつくる。社会参加人とのつながりをもち脳に刺激を与える。ツムラ作成 「50歳からのフレイルアクション」発表会  秋下 雅弘先生講演資料より

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妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン 前編【今、知っておきたいワクチンの話】総論 第7回

本稿では「妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチン」について取り上げる。これらのワクチンは、女性だけが関与するものではなく、その家族を含め、「彼女たちの周りにいる、すべての人たち」にとって重要なワクチンである。なぜなら、妊婦は生ワクチンを接種することができない。そのため、生ワクチンで予防ができる感染症に対する免疫がない場合は、その周りの人たちが免疫を持つことで、妊婦を守る必要があるからである。そして、「胎児」もまた、母体とその周りの人によって守られる存在である。つまり、妊娠可能年齢の女性と妊婦を守るワクチンは、胎児を守るワクチンでもある。VPDs(Vaccine Preventable Diseases:ワクチンで予防ができる病気)は、禁忌がない限り、すべての人にとって接種が望ましいが、今回はとくに妊娠可能年齢の女性と母体を守るという視点で、VPDおよびワクチンについて述べる。ワクチンで予防できる疾患(疾患について・疫学)妊娠可能年齢・妊婦にとってワクチン接種が重要な理由は下記3つである。(1)妊婦がVPDに感染すると、重症化しやすい感染症がある。また、胎児に感染すると胎児に健康問題が生じ、最悪の場合、流産/早産を含め、胎児の生命に関わることがある。(2)一方で、あらかじめワクチンで予防できていれば、高確率でVPDによる上記の事態を免れる。(3)しかし、妊婦は生ワクチンを接種できないため、「妊娠前」に(計画的な)接種が必要である。上記の理由以外に、妊婦が免疫をつけておくと新生児のVPD感染や、それによる重症化を予防することにもつながるVPDもある。つまり、女性1人のワクチン接種の有無が、その女性(妊婦)以外に、胎児、産後の新生児の健康問題にまで関りうるという点において、本稿の重要性は高い。妊娠前に免疫をつけておくべきVPDを表に示す。表 感染症に罹患した場合の胎児および母体への影響画像を拡大する上記以外のあらゆる感染症でも、流早産のリスクが伴うどのワクチンも世界的に安全性と有効性が確かめられているワクチンの概要(効果・副反応・生または任意・接種方法)妊婦に生ワクチンの接種は禁忌である。そのため妊娠可能年齢の女性には、事前に計画的なワクチン接種が必要となる。しかし、妊娠は予期せず突然やってくることもある。そのため、日常診療やライフステージの変わり目などの機会を利用して、予防接種が必要なVPDについての確認が重要となる。一方、不活化ワクチンは妊娠中でも接種が可能である(詳細は後編で詳述する)。以下に生ワクチン(麻疹、風疹、水痘、ムンプス)について説明する。1)麻疹、風疹、水痘、ムンプス(生ワクチン)これら4つの生ワクチンはしばしばMMRV(Measles Mumps Rubella Varicella)と略して表現されることが多い、重要性の高いVPDである。MMRVそれぞれのワクチンについての共通点としては、1歳以上でそれぞれ計2回の接種を受けていることが必要であることが挙げられる。また、感染症としても基本再生産数(R0)*1が高く、麻疹・水痘は空気感染するなど、その感染性の高さも共通項といえる(R0:麻疹12-18、風疹6-7、水痘8-10、ムンプス4-7)。いずれも子供の感染症であるという印象を持つ医師も少なくないかもしれないが、現代においては、小児は定期接種で予防されている割合が格段に増えた。そして、幼少期に定期接種になっていなかったがために、ワクチンを接種する機会がなく、かつ、感染機会もないまま、キャッチアップの機会に恵まれなかった、「置いてけぼりの成人」が主に罹患する感染症であると心得たい。*1基本再生産数(R0:アールノート)集団にいるすべての人間が感染症に罹る可能性をもった(感受性を有した)状態で、1人の感染者が何人に感染させうるか、感染力の強さを表す。つまり、数が大きいほど感染力が強い。それぞれの疾患やワクチンの詳細については、本コンテンツのバックナンバーを参照していただきたい。MRワクチン(麻疹・風疹)水痘、帯状疱疹ワクチン流行性耳下腺炎(ムンプス)妊婦に関連する内容を下記に述べる。(1)麻疹麻疹は先進国でも死亡率0.1%の重症感染症である。また、命をとり止めたとしても、呼吸器(肺炎、中耳炎など)や消化器(下痢、口内炎)の合併症が多い。頻度は少ないが神経系合併症は予後不良で、感染してから数週間、数年、数十年後に発症するものもある。胎児が麻疹に感染しても奇形などを来すことはないが、妊婦が感染することで、妊婦の重症化やそれに伴う流・早産のリスクが伴う。わが国での麻疹発生数は、コロナ禍はその感染対策の影響で年間10例以下であったが、いわゆる「コロナ明け」に伴いその数は徐々に増加傾向にある。世界全体では継続的に毎年12~15万人の死者が出ている。麻疹感染の発端はそのほとんどが輸入麻疹(海外から持ち込まれた麻疹のこと:日本人が渡航先で感染して帰国するパターンや、麻疹に感染した海外の人がわが国で発症するパターンなどが代表例)である。インバウンド(海外からの旅行客)が確実に回復し、増加傾向である以上、再度感染者数が増えるのは想像に難くない(図)。図 麻疹累積報告数の推移 2017~2024年(第1~47週)画像を拡大する感染症発生動向 2024年第47週(2024/11/27) 国立感染症研究所より引用麻疹の年代別感染者の割合は、例年20~30代が約半数以上を占めており、女性では妊孕性の高い年代といえる。2000(平成12)年4月2日以降に生まれた人(2024年4月1日時点で23歳以下)は、予防接種制度で2回のワクチン接種を推奨されていた年代であるが、それ以外(24歳以上)は、接種回数が不足している可能性がある*2。妊娠可能年齢の女性には、日常診療での積極的なワクチン接種歴の確認が望ましい。*2 2008(平成20)年4月1日から行われた特例措置(5年間)では、1990(平成2)年4月2日~2000(平成12)年4月1日生まれの人に対して、MRワクチン2回目接種が行われた。そのため、この24~33歳(2024年4月1日時点)で特例措置を受けている人は2回接種していることになる。(2)風疹妊婦が妊娠初期に風疹に感染すると、高い確率で胎児にも感染し、先天性風疹症候群(Congenital Rubella Syndrome:CRS)の赤ちゃんが生まれる可能性がある。CRSの3大症状は、難聴、心疾患、白内障だが、その他、精神や身体の発達の遅れなどもある。感染時期が、妊娠初期であればあるほど胎児に異常が認められる確率は高くなるが、妊娠20週以降では異常がないことが多いと報告されている1)。また、成人でも15%程度不顕性感染があるため、母親が無症状であってもCRSは発生し得ることにも留意したい。2012~13年の風疹大流行時には45例のCRSの赤ちゃんが生まれた。その後のフォローアップ調査でCRS児の致命率は24%、CRSを出生した母親の中で風疹含有ワクチンを2回接種した人は0人であった2)。CRSを出生した母親の多くは、単に「風疹ワクチンの必要性や重要性について知らなかった」「誰かが教えてくれていたら…」という、自身の無知に対する後悔の念を述べている3)。妊娠可能年齢の女性やそのパートナーへの事前の情報提供がいかに重要か、また、他人事ではなく、自分事として考えることの難しさについて考えさせられる体験談をぜひご一読頂きたい。なお、風疹流行時の首座は、幼少期に予防接種の機会がなかった40~50代の成人男性である。その年代に対して2019年4月から実施された風疹第5期定期接種は2024年度末まで延期されたが、2024年11月時点で抗体検査を受けた人は500万人弱(対象男性人口の32.4%)、ワクチン接種を受けた人は107万人強(対象男性人口の7.0%)*3と、目標には程遠い結果である。残りの期間(抗体検査は2月末、定期接種は3月末まで)でどこまで接種率が伸びるか、これにはわれわれ医療従事者の啓発力が試されるかもしれない。*3 風疹に関する疫学情報 2025年1月29日現在(3)水痘水痘は2014年10月に1~2歳児での2回の接種が定期接種化され、患者数は大幅に減少した。しかし、そんな中でも国立感染症研究所(感染研)のレポートでブレイクスルー水痘による集団感染事例が報告されるなど、気が抜けない感染症である。水痘は小児に比し、成人で重症化しやすく、中でも妊婦は重症化しやすいハイリスク者である。風疹は妊娠初期の感染でCRSとなるリスクが高いと述べたが、水痘は妊娠中だけでなく、周産期の母児に対しても大きな影響を及ぼす。たとえば、水痘に対する免疫がない妊婦が妊娠中に初感染すると、10~20%で水痘肺炎を発症し、時に致死的となる。その他、妊娠中期の感染で胎児が先天性水痘症候群(Congenital Varicella Syndrome:CVS)を発症するリスク(2%程度の頻度で出生)があり、周産期(分娩5日前~2日後)では重篤な新生児水痘を生じ得る。妊娠前のブライダルチェックなどで、麻疹・風疹についてはよく議論に上がりやすいが、水痘はなぜか忘れられがちである。妊娠前に接種記録を確認し、1歳以降で2回の接種歴が確認できない場合は不足分の接種を推奨したい。次回、後編では、不活化ワクチンなどの概要、接種のスケジュール、接種時のポイントなどを説明する。参考文献・参考サイト1)病原微生物検出情報 (IASR) 先天性風疹症候群に関するQ&A(2013年9月)2)2012~2014年に出生した先天性風疹症候群45例のフォローアップ調査結果報告. 国立感染症研究所.3)体験談「妊娠中に風疹になって~予防の大切さを伝えたい!~」(風疹をなくそうの会 「hand in hand」)講師紹介

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認知症リスク因子のニューフェイス【外来で役立つ!認知症Topics】第26回

Lancetが報告した修正可能な14のリスク因子世界的な医学雑誌Lancetは、2017年から認知症のリスク因子について最先端のデータを発表してきた。第2報告は2020年、そして最新報告は2024年に発表された1)。これら3回の報告の内容は少しずつ変化してきた。なお、示された結果は、この作業部会が継続的に最新の報告などを吟味してその結果をまとめたものである。それだけに古典的なリスク因子、たとえば運動不足、教育不足、飲酒や喫煙といったもの以外に、いわばニューフェイスが現れてきた。そのようなものとして最も有名なのは2017年の発表2)でデビューした「中年期からの難聴」だろう。また、大気汚染、最新の報告では視力低下と低密度リポタンパク質(LDL;Low Density Lipoprotein)コレステロールの高値が加わった。そして2024年の報告にある14のリスク因子のすべてに対応できたら、認知症発症は45%抑制できるとされる。画像を拡大する本稿では、こうしたリスク因子がなぜ悪いのかに注目してみる。古典リスク因子として、まず若年期の教育不足。これは基本的な神経回路の成長が十分なされないということだろう。中年期のリスク因子については、頭部外傷と難聴以外は、脳血管に悪影響を及ぼすとまとめられるだろう。頭部外傷に関しては、ボクサー脳などさまざまなスポーツ外傷や交通事故による後年の害が知られてきた。外傷から10年以上も後に、認知症が発症してくるとされる。また老年期のうつ、社会的交流の乏しさについては、社会的な存在である人間がそれらしい活動を失うということかもしれない。運動不足については、神経細胞や脳血管の新生につながらないことが大きいのだろう。さらに糖尿病では、インスリンとアミロイドβの両方を分解するインスリン分解酵素が注目されてきた。大気汚染比較的新しいリスク因子の大気汚染については、PM2.5(PM;Particulate Matter)が注目されている。これは大気中を浮遊する径2.5ミクロン以下の微粒子であり、従来は呼吸器系や循環器系への悪影響が注目された。これは脳にも悪影響を及ぼすとされる。また近年では大気汚染は、地球の温暖化や緑地の減少などと相乗的な悪循環を形成するといわれる。中年期からの難聴さて2017年にいわば衝撃のデビューをした「中年期からの難聴」だが、この発表中の全リスク因子のうちで最も影響が大きいと報告された。2024年の報告でも影響力7%とやはり最強である。このような難聴がなぜリスク因子になるかについての考え方は、以下のようにまとめられている3)。(1)蝸牛とその上行経路(難聴)および海馬など側頭葉内側(認知症)のいずれもアルツハイマー病病理で侵される。(2)難聴による音刺激の欠乏が1次聴覚野と海馬の形態変化をもたらし認知予備能を減らすことで準備状態を作る。(3)本来記憶などの認知機能に費やすべき知的エネルギーを、難聴者は聴覚理解に回す必要がある。(4)聴覚的理解用のエネルギー増加がシナプスに悪影響する。より単純ながら、聴覚刺激が入らないことは、たとえば社会交流をしても脳に対する重要な刺激が届かないことになるという考えもある。高LDLコレステロール2024年には新たなリスク因子についても報告された1)。まず生化学的な知見として、中年期からの「悪玉コレステロール」といわれるLDLコレステロールの高値である。これは以前から脳動脈硬化の促進因子として有名であった。つまり動脈を詰まらせ、柔軟性を低下させる堆積物であるプラークの構築に寄与するため悪玉と呼ばれる。このLDLコレステロールが100以上、また「善玉コレステロール」といわれるHDL(High Density Lipoprotein)コレステロールのレベルが40以下の場合、アルツハイマー病(AD)発症の可能性が増加するとされる。AD発症のリスクを高めるだけでなく、「悪玉コレステロール」は脳の一般的な認知機能を損なうこともわかっている。またLDLコレステロール値が高いと、そうでない人に比べて記憶に障害がありがちで、脳動脈がアテローム性動脈硬化症を発症して脳卒中のリスクを高める。さらにLDLコレステロール値が高くなることで、脳内の血流が減少し、白質の密度が低下する状態につながる可能性もある。視力低下次に老年期の視力低下である。その原因では、白内障と糖尿病性網膜症が重視され、緑内障と加齢性黄斑変性症は関連しないとされる。英国では200万人が視力低下していると推定される。加齢とともに視力障害は多くなるだけに、視力障害を持つ人々のほぼ80%は65歳以上である。視力低下の程度と認知症のリスクは相関する。もっともこれは未矯正・未治療の視力喪失者には当てはまり、矯正・治療すればリスクは高まらない。たとえば、白内障の手術をした人は、しない人に比べて認知症になる可能性が30%低いとした報告もある。ところで、ヒトの情報の80%は目から入る、それに対して耳からは20%以下だといわれる。だから筆者には、視力喪失がリスク因子とされたのが遅いとも思われるのだが、聴覚と視覚が認知症という大脳の変化にもたらす影響は、それぞれが持つ情報量とは別なのかもしれない。参考1)Livingstone G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404:572-628.2)Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care. Lancet. 2017;390:2673-2734.3)Ray M, et al. Dementia and hearing loss: A narrative review. Maturitas. 2019;128:64-69.

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いよいよ本丸!病態把握と鑑別にChatGPTを使う【誰でも使えるChatGPT】第2回

皆さん、こんにちは。近畿大学皮膚科の大塚です。前回は、Googleレビューの辛辣なコメントに、ChatGPTを用いて感情的にならずに対応するためのプロンプトをご紹介しました。クリニックに寄せられる不条理なクレームに対して、冷静かつ誠実な回答を自動的に生成することで、医療現場の負担を軽減する活用法を提案しましたが、いかがでしたでしょうか。さて、今回はシリーズ第2回として、より直接的な臨床場面での活用例をご紹介したいと思います。前回は「口コミ対応」に焦点を当てましたが、今回は日常の診療行為、つまり「病態把握と鑑別診断」を助けるためのプロンプトです。医療現場では、患者さんの主訴や随伴症状などを総合的に判断し、鑑別診断を考える作業が不可欠です。とりわけ皮膚科では、「似ているものの、まったく異なる疾患」が多く存在し、一般内科や他科領域に及ぶ症候を伴うことも少なくありません。こうしたとき、ChatGPTに相談することで、見落としがちな疾患や、一般的な鑑別疾患を素早くリストアップすることができます。もちろん、最終的な責任は医師である私たち自身にあり、AIが示す情報をうのみにしてはなりません。しかし、情報整理の一助として、あるいは診断プロセスを考える際の「ブレーンストーミング・パートナー」として、ChatGPTを使う手はあると思います。関連サイトChatGPT(臨床症状)から考えられる鑑別診断は?ここで、(臨床症状)の部分には、実際に手元にある患者さんの主訴や身体所見を具体的に入力します。たとえば、「顔面に境界明瞭な紅斑が出現し、そう痒と軽度の落屑を伴う」といった皮膚症状を入力することで、ChatGPTはその記述を基に鑑別診断リストを提案してくれます。20代女性、頬部に2週間続く境界明瞭な紅斑と軽度の落屑があり、そう痒感を訴えています。皮疹は環状を呈し、拡大傾向にあり、中心部はやや色素沈着が生じています。このような臨床所見から考えられる鑑別診断を、一般的な皮膚科疾患を中心に列挙し、それぞれの疾患について特徴的な所見や鑑別のポイントを簡潔に示してください。以下がChatGPTからの想定回答例です。この症例の臨床所見(頬部の境界明瞭な紅斑、軽度の落屑、そう痒感、環状の拡大傾向、中心部の色素沈着)から考えられる主な鑑別診断を以下に列挙し、それぞれの特徴的所見と鑑別ポイントを示します。白癬(体部白癬)環状紅斑、辺縁部の微細落屑が典型的。KOH検査で菌要素の確認が可能。乾癬境界明瞭な紅斑と落屑が特徴だが、環状配列はややまれ。肘・膝伸側や頭皮も要注意。紅斑性狼瘡(頬部紅斑)蝶形紅斑など特有の分布があり、日光過敏症や関節痛など全身所見を確認。類乾癬(pityriasis rosea)クリスマスツリー様配列や母斑を確認。軽度のそう痒が多い。多形滲出性紅斑病変がターゲット状を呈することある。他の全身症状や粘膜病変の有無もチェック。脂漏性皮膚炎頭皮や鼻唇溝など脂漏部位での落屑性紅斑が多いが、環状になることは少ない。こちらの頭の中になかった鑑別診断や、追加で確認すべき検査所見を思い出すきっかけになります。また、これに「鑑別を絞るために必要な追加情報」や「検査のオプション」などを尋ねるプロンプトを続けて入力することで、さらに洗練させることができます。今回のプロンプトは、クリニックや病院で日々行われる「鑑別診断の初期スクリーニング」をサポートするためのものです。ChatGPTを医師の「セカンドオピニオン的な存在」として活用することで、見落としを減らし、より効率的で的確な診療プロセスを追求する手掛かりとなるでしょう。次回からは、さらに一歩進んで、治療戦略やガイドラインに基づくマネジメントプランをChatGPTに助言させる活用法など、より専門的な使い方をご紹介していく予定です。お楽しみに。

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第251回 “タカる”厚生労働省(前編) 「課税のような形で製薬企業に拠出義務」の創薬支援基金(仮称)構想、最終的に財源は国費と「任意」の寄付で決着

創薬と医師偏在の2つの施策で民間に資金拠出を求めるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は、神奈川県の丹沢山塊にある鍋割山に足慣らしに行ってきました。鍋割山と言えば、山頂にある小屋で出す「鍋」にちなんだ鍋焼きうどんが有名です。我々も売り切れ前に食そうと、午前9時前には麓の大倉に着いて歩き始めたのですが、登山道前の林道歩きが結構長く、登り始める前に少々飽きてしまいました。それでも、昼前には山頂に到着、名物の鍋焼きうどんと富士山の眺望を楽しむことができました。それにしてもこの山、鍋焼きうどんがなかったらその魅力は半減というか3分の1かもしれません。夏季はヤマビルがうようよいますし……。というわけで、登るのは春か晩秋がお薦めですが、春の週末は大混雑で鍋焼きうどんの売り切れ時間も早まるようです。登られる方はご注意を。さて今回は、厚生労働省の“タカり”とも取れる最近のいくつかの動きについて書いてみたいと思います。一つは、厚生労働省が創薬スタートアップ育成に向けて「創薬支援基金(仮称)」を作ろうと画策し、製薬企業に強制的に資金拠出を求めようとした”事件”です。そしてもう一つは、昨年末に厚労省が決定した「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージ」の中の「経済的インセンティブ」の対策で、「重点医師偏在対策支援区域における支援のうち、当該区域の医師への手当増額の支援については、全ての被保険者に広く協力いただくよう保険者からの負担を求める」と、保険者(健保組合等)からの資金拠出を求める決定をしたことです。どちらも厚生労働省の医政局マターです。どうしてこんなタカり(ある経済誌は「国家的な”カツアゲ”」と表現)まがいの施策が続くのでしょうか?武見 敬三前厚生労働相が突然明かした「創薬力強化機構」構想「創薬支援基金(仮称)」の構想が表沙汰になったのは昨年末でした。2024年12月11日付の日刊薬業は、「創薬力強化機構、日本橋に設置へ 武見前厚労相、来年1〜2月にも」という記事を掲載、武見 敬三前厚生労働相が12月10日に都内で開かれたイベントで「創薬力強化機構」の構想を明かしたと報じました。同記事によれば武見氏はこの機構について「創薬に特化して、シーズに関わる研究開発力を強化するためのファイナンスの仕組み」と語ったとのことです。この機構の構想については、12月17日付の「日経バイオテク」が配信した「武見前厚生労働相、『創薬基盤の強化に向け、2025年1月下旬から2月に『創薬力強化機構』を設立する』」と題するインタビュー記事がもう少し詳しく報じています。同記事によれば、武見氏は、「官民が連携して、創薬の基盤を我が国に再構築することを目的」として「創薬力強化機構」を創設すると語り、「そのために必要な基金を設立することを目指して、2025年の通常国会に法案を提出するべく、現在検討の最終段階」で、「比較的自由度の高い組織体にするため、一般社団法人として設立する予定」と語っています。そして、「機構への出資企業は既に決まっているのか」という記者の質問に対して、「これからのことなのでまだ分からないが、日本の製薬企業はそれほど積極的に乗ってきているわけではないだろう。日本の製薬企業は、基本的に個社で対応しようとする傾向があるのと、1社当たりの資本が大きくはないからだ」と話していました。米国研究製薬工業協会と欧州製薬団体連合会が資金拠出を半ば強制的に求められていると明かすこの時点での武見氏の一見余裕ありそうな発言からは、厚労省担当者(医政局医薬産業振輿・医療情報企画課)が関係企業や関係団体を回って、機構設立に向けての資金集めを着々と進めていたと想像できます。しかし、世の中はそうは甘くなかったようです。12月25日に米国研究製薬工業協会(PhRMA)と欧州製薬団体連合会(EFPIA)が突然共同声明を出し、厚生労働省から「創薬支援基金(仮称)」への資金拠出を半ば強制的に求められていることに対し、強い反対を表明したのです。「2025年度(令和7年度)薬価中間年改定、費用対効果評価 及び義務的な創薬支援基金に関する共同声明」1)と題されたこの声明は、その前半で「岸田政権は、日本のエコシステムを回復し、ドラッグ・ロスを防止するための重要な第一歩を踏み出した」ものの、石破政権になってからの方針転換で2025年度中間年改定において革新的医薬品の薬価引下げのルールが拡大、「予期せぬ決定により、企業の中には、10年以上前から長らく策定してきた綿密な投資回収計画の見直しを迫られ、数百億円もの損失を被る可能性がある」と中間年改定の政策を強く批判しています。そして後半で、「私たちは、最近になって、政府が『創薬支援基金(仮称)』を創設」しようとしていることを知ったが、その仕組みが「新薬創出等加算品目(日本において臨床的に革新的な医薬品として厚生労働省が加算を付与したもの)を有する企業の収益に応じ、課税のような形で強制的に拠出義務を課すことで、開発初期段階のパイプラインを有するスタートアップ企業を支援する意向」であることから、「市場の魅力を更に低下させることになる当該『創薬支援基金(仮称)』への投資を企業に義務付けることに反対します。活力のある投資環境の創出は、義務・命令によって達成できるものではありません。今回の決定は、日本が創薬力の低下とドラッグ・ロスを生じさせた道に再び後退させるものです。(中略)私たちは、厚生労働省がこの度決定した誤った政策を撤回するまでの間、これらの取組みへの参加を留保することと致しました」と、この基金への参加の留保を表明したのです。AMEDだけでは不十分というのが武見氏、そして厚労省の考え「企業の収益に応じ、課税のような形で強制的に拠出義務を課す」というのは、どう考えても筋の悪い政策で、確かにいただけません。製薬会社から批判が出るのも頷けます。ところが、12月の時点で表立った批判がPhRMAとEFPIAからしか出てこなかったというのも、なかなか興味深いものがあります。日本の製薬企業も厚労省から同様の説明、要請を受けていたはずだからです。「お上(厚労省)の言うことには逆らえない」と考えていたのかもしれません。あるいは、この構想のそもそもの発案者の一人が中外製薬の永山 治名誉会長であることも、無碍に反対できないという忖度を招いたのかもしれません。ちなみに、1月7日付の日刊薬業は、日本製薬団体連合会の岡田 安史会長(エーザイ代表執行役)が同紙のインタビューで、「日本製薬工業協会が昨年11月末ごろに厚生労働省から『創薬支援基金(仮称)』に関する説明を受けたことを明らかにした」と報じています。同記事によれば、「岡田会長は、政府が日本の創薬エコシステム強化に向けた姿勢を示していることは評価しつつも、基金の具体的な運営方法や組織体制、拠出の在り方などについては、製薬業界と十分に議論し、合意を形成しながら進めてほしいと訴えた」と書いています。外資系企業とはまったく異なる厚労省寄りの発言と言えます。「創薬支援基金(仮称)」はスタートアップやベンチャーへの支援を目的としていますが、同様の役割を担う機関として内閣府所管の国立研究開発法人・日本医療研究開発機構(AMED)があります。AMEDだけでは不十分というのが武見氏、そして厚労省の考えだったようです。当初の「創薬力強化機構」構想は潰え、「革新的医薬品等実用化支援基金」で決着結局、この「創薬支援基金(仮称)」構想、最終的に「革新的医薬品等実用化支援基金」という名称で、10年間の基金を設立することになりました。同基金はスタートアップ向けのインキュベーションラボや動物実験施設などに資金を出すとのことです。財源は国費のほか、製薬会社からの「任意」の寄付を募るということで決着、当初検討していた製薬会社に強制的に拠出義務を課す案は見送られました。革新的医薬品等実用化支援基金は国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所に2026年度に設置予定で、関連法案(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案)が2月12日閣議決定され、今国会に提出されています。2月12日付の日経バイオテクは「白紙に戻った『創薬力強化機構』構想」と題する記事を配信、厚労省が義務的な拠出金は諦めたことや、2月4日の国民民主党の衆議院議員の質問主意書に対する政府答弁で創薬力強化機構構想について「『政府によって設立』することは検討していない」と否定的な見解が示されたことなどで、この構想は「事実上、白紙に戻ったと業界では受け止められています」と書くとともに、「インキュベーション施設や動物実験施設の整備に活用するといった計画が聞こえていますが、基金でないとできない事業なのかどうか、判然としない印象です。(中略)業界関係者は、『厚労省は、日本の創薬力強化に向けて機運を高めてきたのに、突然出てきた基金と機構の構想で全部ぶち壊しになった感じだ」と嘆いていました。今回の騒動は、今後の創薬力強化の取り組みに長く傷痕を残す可能性もあります』と今回の一連の流れを総括しています。創薬について疎い私などは、AMEDを単純にテコ入れするという施策ではダメだったのかと思うのですが、そうはならなかった(あるいはしたくなかった)ところに、本来の「創薬力アップ」という目的とは別の政治家、政党、省庁間の微妙な力関係が垣間見えます。次回は、厚労省のもう一つの”タカリ”政策とも言われている、医師偏在是正のための「経済的インセンティブ」の対策における、保険者からの資金拠出を求める決定について書いてみたいと思います。(この項続く)参考1)2025年度(令和7年度)薬価中間年改定、費用対効果評価 及び義務的な創薬支援基金に関する共同声明/米国研究製薬工業協会(PhRMA)、欧州製薬団体連合会(EFPIA)

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クロルヘキシジン含浸ドレッシング材はCVC関連感染症予防に有効【論文から学ぶ看護の新常識】第3回

クロルヘキシジン含浸ドレッシング材はCVC関連感染症予防に有効クロルヘキシジン含浸ドレッシング材は中心静脈カテーテル(CVC)関連感染症予防に有効であり、組織接着剤は固定の持続時間を延長させる効果が示された。Hui Xu氏らによる研究で、International Journal of Nursing Studies誌の2024年1月号に掲載された。中心静脈カテーテル関連合併症予防のためのドレッシング材および固定器具の有効性:システマティックレビューとメタアナリシス研究グループは、CVCに関連する合併症を予防するためのドレッシング材および固定器具の効果を、システマティックレビューとメタアナリシスで評価した。46のランダム化比較試験(RCT)が含まれ、対象者は1万54例。主な評価指標をカテーテル関連血流感染症(CRBSI)、カテーテル先端の細菌感染、皮膚の刺激や損傷、固定の失敗率などとした。コクランの基準に従って、Cochrane Wounds Trials Registerなど6つのデータベースを2022年11月まで検索。ランダム効果モデルでメタアナリシスを実施。クロルヘキシジン含浸ドレッシング材は、従来のポリウレタン製ドレッシング材と比較して、CRBSIの発生率を低減する可能性が示された(リスク比[RR]:0.60、95%信頼区間[CI]:0.44~0.83、低確実性)。また、クロルヘキシジン含浸ドレッシング材は、カテーテル先端の細菌感染も減少させる可能性がある(RR:0.70、 95%CI:0.52~0.95、非常に低確実性)。組織接着剤については、ドレッシング材と比較して、皮膚刺激のリスクを増加させる可能性があるが(RR:1.88、95%CI:1.09~3.24、低確実性)、固定の持続時間を延長する効果もあった(平均差[MD]:43.03時間、95%CI:4.88~81.18、中等度確実性)。臨床現場での適切なデバイス選択の指針として役立つ結果が得られた。ドレッシング材と組織接着剤を用いたCVC固定について言及した論文です。まず、クロルヘキシジン含浸ドレッシングは感染率を下げるというのは、みなさん納得の結果でしょう。組織接着剤の論争の背景の一つとして、原材料のシアノアクリレートにはホルムアルデヒドが含まれており、炎症を誘発することからも、この論文を含むさまざまな議論が行われています。この背景知識からも予想できるように、当然の結果とも言える皮膚刺激となる可能性、固定の持続時間を延長する効果が示されました。この研究の考察で述べられているのですが、どの固定がよいか(組織接着剤を用いた方がよいかなど)に関しては、エビデンスを示せるレベルに達していません。その根拠は、一部の研究に結果が引っ張られているような状況が生じています。よって、今後どちらがよいかは大きく変わってくる可能性があります。臨床看護師の感覚のように、その場その場に応じて固定方法を考えていくことが今は大事だということがある意味示されているように思います。1点注目すべきは、心臓外科術後の状態においては、CVC固定は縫合を行わず組織接着剤の固定を行っていたが、安全性の理由から縫合を行うようになっているような研究があり、この研究はこの領域では比較的規模が大きい研究であることからも、心臓外科術後の固定は縫合が必要と考えさせられる結果でもあります。論文はこちらXu H, et al. Int J Nurs Stud. 2024;149:104620.

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ICI関連心筋炎の診断・治療、医師の経験値や連携不足が影響

 2023年にがんと心血管疾患のそれぞれに対する疾病対策計画が公表され、その基本計画の一環として、循環器内科医とがん治療医の連携が推奨された。しかし、当時の連携状態については明らかにされていなかったため、新潟県内の状況を把握するため、新潟県立がんセンター新潟病院の大倉 裕二氏らは「免疫チェックポイント阻害薬関連心筋炎(ICIAM)についての全県アンケート調査」を実施。その結果、ICIAMではアントラサイクリン関連心筋症(ARCM)と比較し、循環器内科医とがん治療医の双方の経験や組織的な対策が少なく、部門間連携の脆弱性が高いことが明らかとなった。Circulation Report誌オンライン版2025年2月4日号掲載の報告。 本研究は新潟大学循環器内科と新潟腫瘍循環器協議会(OCAN2020)が、ICIAMとARCMに関する質問票を県内すべての循環器内科医とその病院の指導的ながん治療医に配布し行われた。 主な結果は以下のとおり。・アンケートには、病院29施設の循環器内科医124人と指導的立場にあるがん治療医41人が回答した。・ICIAMの臨床経験があると報告した循環器内科医は31.8%、指導的立場にあるがん治療医は24.4%で、ARCMの経験(循環器内科医の80.0%[p<0.001]、指導的立場にあるがん治療医の58.5%[p=0.009])よりも有意に低かった。・21年以上の勤務歴のあるベテランの循環器内科医は20年以下の循環器内科医と比較してICIAMの経験が少なかった(18.6%vs.38.5%、p=0.018)。・免疫療法を実施している20施設のうち、12施設(60%)では循環器内科医と指導的立場にあるがん治療医の間で「相談なし」と回答し、5施設(25%)では「ICIAM 発症後に相談した」と回答の一致を認めた。一方、ARCM発症前または発症後の部門間相談について、「相談なし」と回答したのは回答したのは4施設(20%)のみで、12施設(60%)で「ARCM発症後に相談した」と回答の一致を認めた。 本結果を踏まえ、大倉氏らはICIAM診療における5つのギャップを次のように示しており、(1)循環器内科医とがん治療医の経験のギャップ(2)循環器内科医とがん治療医の知識のギャップ(3)循環器内科医の若手とベテランの世代間ギャップ(4)循環器内科とがん診療科の部門間ギャップ(5)連携体制の病院間のギャップ 「病院では循環器内科医とがん治療医の連携を促進させる必要がある」としている。

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統合失調症の疾患経過に発症年齢が及ぼす影響

 中国・天津大学のQingling Hao氏らは、慢性期統合失調症患者の初回入院年齢に影響を及ぼす因子、とくに臨床的特徴および血清パラメータに焦点を当て、検討を行った。European Archives of Psychiatry and Clinical Neuroscience誌オンライン版2025年1月21日号の報告。 対象は、中国の精神科病院17施設より募集した慢性期統合失調症患者1,271例。初回入院年齢を含む人口統計学的データおよび臨床データを収集した。精神症状、未治療期間、各血清パラメータの評価を行った。これらの因子と初回入院年齢との関連を調査するため、統計分析を行った。 主な内容は以下のとおり。・初回入院年齢の平均は、28.07±9.993歳。・独身および精神疾患の家族歴を有する患者では、入院時の年齢がより若年であった。・自殺念慮および自殺行動のある患者では、そうでない患者と比較し、入院年齢がより若年であった。・回帰分析では、早期入院年齢の重要なリスク因子として婚姻状況(独身)、精神疾患の家族歴、自殺念慮または自殺行動が特定された。・一方、未治療期間、総タンパク質、LDL値は初回入院年齢と正の相関が認められ、抗精神病薬の投与量およびアルブミン値は負の相関が認められた。 著者らは「本調査により、慢性期統合失調症患者の初回入院と関連する重要な因子が特定された」とし「統合失調症患者の治療アウトカムを改善するためにも、高リスク患者に対する早期介入および適切なサポートの重要性が示唆された」としている。

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乳がん術後マンモグラフィ、頻度を減らすことは可能か/Lancet

 乳がんの診断時年齢が50歳以上で根治手術から3年が経過し、再発のない女性では、年1回のマンモグラフィ検査に対し、2年または3年に1回の低頻度マンモグラフィ検査は、乳がん特異的生存率、無再発率、全生存率に関して非劣性であることが、英国・ウォーリック大学のJanet A. Dunn氏らが実施した「Mammo-50試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2025年2月1日号で報告された。英国の非劣性を検証する無作為化第III相試験 Mammo-50試験は、年1回のマンモグラフィ検査に対する年1回以下の低頻度マンモグラフィ検査の非劣性の評価を目的とする実践的な無作為化第III相試験であり、2014年4月~2018年9月の期間に英国の114の病院で参加者を登録した(英国国立衛生研究所[NIHR]Health Technology Assessment programmeの助成を受けた)。 侵襲性または非侵襲性乳がんの初回診断時年齢が50歳以上で、根治手術を受けた後、再発のない状態で3年が経過した女性を対象とした。被験者を、年1回のマンモグラフィ検査を受ける群、または年1回以下の低頻度マンモグラフィ検査(乳房温存術を受けた患者は2年ごと、乳房全切除術を受けた患者は3年ごと)を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付け、6年間追跡した。 主要評価項目は2つで、乳がん特異的生存率および費用対効果とした。なお本論では、乳がん特異的生存率の解析結果を報告している。乳がん特異的生存は試験登録日から乳がんによる死亡までの期間とし、非劣性マージンは3%に設定した。 副次評価項目として、無再発期間(初回局所領域再発、遠隔転移、新たな原発乳がんの発生のない期間)、全生存期間などを評価した。5年乳がん特異的生存率:98.1%vs.98.3% 5,235例(年齢中央値66歳[四分位範囲[IQR]:60~71])を登録し、年1回群に2,618例、低頻度群に2,617例を割り付けた。3,858例(73.6%)が60歳以上で、4,202例(80.3%)が乳房温存術を受け、4,576例(87.4%)が浸潤性の病変を有し、1,159例(22.1%)がリンパ節転移陽性、4,330例(82.7%)がエストロゲン受容体陽性、3,811例(72.8%)がホルモン療法を継続中であった。 追跡期間中央値は5.7年(IQR:5.0~6.0、根治手術後8.7年)で、この間に343例が死亡し、うち116例は乳がんによる死亡であった(年1回群61例、低頻度群55例)。 5年乳がん特異的生存率は、年1回群が98.1%(95%信頼区間[CI]:97.5~98.6)、低頻度群は98.3%(97.8~98.8)だった。補正後ハザード比(HR)は0.92(95%CI:0.64~1.32)であり、年1回群に対する低頻度群の非劣性が示された(非劣性のp<0.0001)。大幅なコスト削減の可能性も 5年無再発率は、年1回群で94.1%(95%CI:93.1~94.9)、低頻度群で94.5%(93.5~95.3)であった。補正HRは1.00(95%CI:0.81~1.23)であり、年1回群に対し低頻度群は非劣性であった(2%マージンにおける非劣性のp=0.0024)。また、5年全生存率は、年1回群94.7%(95%CI:93.8~95.5)、低頻度群94.5%(93.5~95.3)で、補正HRは1.07(95%CI:0.87~1.33)と、低頻度群の非劣性が確認された(2%マージンにおける非劣性のp=0.0078)。 乳がんイベント345件のうち224件(64.9%)が緊急入院または症状の発現による病院システムへの再紹介によるもので、内訳は年1回群が175件中108件(61.7%)、低頻度群は170件中116件(68.2%)であった。 著者は、「本試験のデータは、これらの女性では診断から3年以降にマンモグラフィによるサーベイランスの頻度を少なくしても、安全性が保たれ、生存、再発の発見、新たな原発がんの検出に有害な影響を及ぼさず、大幅なコスト削減の可能性があることを示している」「これらのエビデンスは、この患者群におけるマンモグラフィ・サーベイランスに関するガイドラインの改訂に使用可能と考えられる」としている。

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有給休暇取得率の高い診療科は?/医師1,000人アンケート

 有給休暇は一定の条件を満たしたすべての労働者に付与されるもので、医師も例外ではない。しかし、緊急性の高い患者のケアや医師不足などにより、医師の労働環境は有給休暇が取得しやすい状況ではないケースも多いと考えられる。今回CareNet.comでは会員医師約1,000人を対象に、有給休暇の取得状況や2024年4月の働き方改革の影響などについてアンケートを実施した(2025年1月23~24日実施)。2024年度の平均有給休暇取得日数は7.6日 2024年度の有給休暇の取得日数(予定含む)は、平均で7.6日、最も多かったのは5~9日(40.7%)との回答で、7.5%の医師は0日と回答した。厚生労働省による「令和6年就労条件総合調査」1)では、調査対象の全産業における平均取得日数は11.0日と報告されており、医師の取得日数は全体平均と比較して少ないことがうかがえる。 平均取得日数を年代別にみると、20代(7.0日)と30代(6.9日)でやや少ない傾向がみられたものの、40~60代では8.0~8.2日で、年代による大きな差はみられなかった。診療科別にみると、10日以上と回答した医師がリハビリテーション科、精神科で50%以上を占めた一方、呼吸器外科、血液内科では20%以下に留まった。平均有給休暇取得率が最も高かったのは皮膚科で71.8% 全体の平均有給休暇取得率(取得日数/付与日数)は59.3%で、上述の厚生労働省調査では65.3%であり、医師の取得率は6%低い結果となった。年代別にみると40代が最も高く(61.3%)、60代が最も低かった(56.6%)。診療科別にみると、皮膚科(71.8%)、リハビリテーション科、精神科(ともに67.2%)などで高かった一方、総合診療科、救急科、呼吸器外科、血液内科では50%を下回った。 有給休暇の最長連続取得日数について聞いた結果、2~4日との回答が39.9%と最も多く、連続取得なしとの回答も36.0%を占めた。自由記述欄では、「土日に絡めて取得したがる者が増え、争奪戦になっている」「内科管理があるため、なかなか長期間とりにくい」「いまだに長期休暇を取得できない体制だし、雰囲気もある」などの声が寄せられた。医師の働き方改革による影響、半数が「変化なし」3割は「取得しやすくなった」 2024年4月の医師の働き方改革施行以降、有給休暇取得状況に変化はあったかどうかを聞いた結果(複数回答)、54.9%が「変化なし」と回答した一方、29.1%は「有給休暇が取得しやすくなった」と回答した。また、「勤務間インターバル確保や代償休息のための有給休暇消化が発生するようになった」(8.9%)、「有給休暇取得者が増加し希望日に取れない/取りにくくなった」(4.6%)、「実働のある有給休暇消化が発生するようになった」(3.9%)などの回答もみられた。 自由記述欄では、「気兼ねなく取得できる環境になってきた」など状況の改善を示唆するコメントがあった一方、「宿日直許可制度が始まってから、休めない当直なのに休んでいる扱いとなり、有給も取りづらい」「働き方改革の影響で給料が減るため、それを補うため有給休暇を利用して他院にパートに行かなければならなくなった」といった声も聞かれている。 このほか、地方別にみた平均有給休暇取得率、有給休暇の主な過ごし方などのアンケート結果の詳細を以下のページにて公開している。『医師の有給休暇取得事情』

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食物繊維の摂取は有害な細菌の減少につながる?

 腸の健康を維持する効果的な方法の一つは、食物繊維をたくさん摂取することかもしれない。世界45カ国、1万2,000人以上の人の腸内微生物叢を分析した研究で、腸内微生物叢の構成が肺炎桿菌や大腸菌などの命を脅かす可能性のある感染症に罹患する可能性を予測するのに役立ち、食物繊維を通して有益な腸内細菌を養うことで、感染症に対する体の抵抗力が強化される可能性のあることが明らかになった。英ケンブリッジ大学のAlexandre Almeida氏らによるこの研究結果は、「Nature Microbiology」に1月10日掲載された。 肺炎桿菌や大腸菌などの腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の細菌は、世界的に主要な日和見感染症の原因菌である。これらの細菌は健康な人の腸内微生物叢にも広く存在しているため、腸内細菌間の相互作用が感染抵抗性の調節に関与している可能性がある。この点を明らかにするために、Almeida氏らは、45カ国、1万2,238人の腸内微生物叢に関するメタゲノムデータの解析を行った。 その結果、個人の健康状態や地理的な居住地の違いに関わらず、それぞれの腸内微生物叢の特徴から、その人の腸内に腸内細菌科の細菌が定着する可能性を予測できる可能性のあることが明らかになった。具体的には、172種類の腸内微生物種が腸内細菌科の細菌とともに定着する「共定着種(co-colonizer)」に、135種類が互いに排除し合う「競合排除種(co-excluder)」に分類された。また、フィーカリバクテリウム属(Faecalibacterium)が腸内に存在すると、腸内細菌科の細菌が定着しにくい傾向があることが示された。さらに、「競合排除種」は、短鎖脂肪酸の生成、鉄代謝、クオラムセンシング(細菌が互いの分泌物を通して同種菌の状態を感知し、遺伝子発現などを調整する仕組み)の機能と関連し、一方、「共定着種」は、より多様な機能や腸内細菌科に類似した代謝特性と関連していた。 フィーカリバクテリウム属は、野菜、豆、全粒穀物などの食物繊維が豊富な食品を摂取することで増える腸内細菌で、腸の健康に良いとされる化合物である短鎖脂肪酸を生成する。このことからAlmeida氏は、「われわれの研究から得られた主な結論は、腸内微生物叢の組成が腸内の潜在的に有害な細菌の増殖を抑える上で重要な役割を果たしており、この効果は食事を通じて調整できる可能性があるということだ」と述べている。なお、過去の研究では、腸内にフィーカリバクテリウム属が少ないことは、炎症性腸疾患(IBD)などの胃腸疾患に関係していることが明らかにされているという。 Almeida氏は、「この研究で、食物繊維を多く摂取することで有害な細菌が減少することが証明されたわけではないが、食物繊維の摂取量を増やすことには健康上の利点が多くある」と話す。また、本研究には関与していない、米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のWalter Willett氏は、「食物繊維の糖尿病、体重管理、心血管疾患に対する効果については、確固たるエビデンスが存在する」と述べている。なお、同氏によると、成人では1日当たり30g程度の食物繊維の摂取が推奨されているが、ほとんどの米国人はその量の約58%しか摂取していないという。 一方、同じく本研究には関与していない、米コロンビア大学ヴァジェロス医科大学医学・疫学分野のDaniel Freedberg氏は、「食物繊維は、私が診察することの多い便秘や下痢などの胃腸疾患の患者にも良い唯一のものだ」と話す。同氏は、「高繊維食は結腸を保護する可能性がある。被験者を、繊維質が極めて豊富な食事を摂取する群と超加工食品の多い食事を摂取する群にランダムに割り付けた試験では、生検において、超加工食品の多い食事を摂取した人の結腸組織にあまり良くない変化が認められたことが報告されている」と述べている。

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喫煙とCVDリスクとの関係は用量依存的

 喫煙と心血管疾患(CVD)リスクの関係は用量依存的であることを示した研究結果が、「JAMA Network Open」に11月1日掲載された。 中央大学光明病院(韓国)のJun Hwan Cho氏らは、韓国の国民健康保険データベースを用いて、禁煙後のCVDリスクと、累積喫煙量(パックイヤー〔PY〕)や禁煙後の経過年数(years since quitting;YSQ)との関連を検討した。対象は、2006年から2008年の間に自己報告による喫煙状況が記録された539万1,231人(男性39.9%、平均年齢45.8〔標準偏差14.7〕歳)で、15.8%は現喫煙者、1.9%は元喫煙者、82.2%は喫煙未経験者であった。元喫煙者と現喫煙者については、喫煙開始年齢、過去または現在の1日当たりの喫煙本数、および禁煙した年齢(元喫煙者のみ)に基づき、ベースライン時点のPYとYSQを計算した。対象者の喫煙状況は、2019年まで2年ごとに更新された。最終的に、PYの中央値は、元喫煙者で10.5(四分位範囲5.3〜20.0)PY、現喫煙者で14.0(同7.5〜20.0)PYであった。元喫煙者のYSQの中央値は4年(同2〜8)であった。主要評価項目は、CVD(心血管疾患による死亡、心筋梗塞、脳卒中、心不全の複合)の発症率およびそのハザード比とし、ポアソン回帰分析でCVD発症率を算出した。また、Cox比例ハザード回帰モデルにより、喫煙状況に基づく調整ハザード比(aHR)を推定した。 PYとCVDリスクとの関係は、現喫煙者および元喫煙者の双方で用量依存的であり、特に、元喫煙者では喫煙未経験者に比べて、8PYを境にCVDリスクが有意に上昇していた(aHR 1.16、95%信頼区間〔CI〕1.13〜1.19、P<0.001)。現喫煙者においては、10PYまでリスクが直線的に急増し、10〜20PYではリスクが維持され、20PYを超えると再び増加に転じていた。 YSQとCVDリスクとの関係は、YSQが長いほどCVDリスクは低下することが示された。特に元喫煙者では現喫煙者と比較して、YSQ5年以内にCVDリスクの有意な低下が認められた(aHR 0.96、95%CI 0.92〜0.99)。しかし、喫煙未経験者と比べると、元喫煙者ではYSQ 20年以上が経過しても、依然としてCVDリスクは高いままであった。喫煙量が少ない(8PY未満)元喫煙者では、CVDリスクは喫煙未経験者と同等であり(同1.02、0.97〜1.07、P=0.47)、YSQ20年以内にリスクが顕著に低下していた。一方、喫煙量の多い(8PY以上)元喫煙者では、長期間にわたって高いリスクが維持され、YSQが25年を経過するまでCVDリスクは高いままだった(同1.18、0.94〜1.43、P=0.81;有意差は消失)。 著者らは、「過去にヘビースモーカーであった人のCVDリスクは、現喫煙者と同等だと考えるべきであり、それに応じた管理計画を立てる必要がある」と述べている。 なお、一人の著者が、製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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化学療法誘発性末梢神経障害患者の10人に4人が慢性的な痛みを経験

 化学療法誘発性の末梢神経障害(chemotherapy induced peripheral neuropathy;CIPN)の診断を受けたがん患者の10人に4人が慢性的な痛みを抱えていることが、新たなシステマティックレビューとメタアナリシスにより明らかになった。米メイヨー・クリニックの麻酔科医であるRyan D’Souza氏らによるこの研究は、「Regional Anesthesia & Pain Medicine」に1月29日掲載された。D’Souza氏は、「われわれの研究結果は、慢性的な痛みを伴うCIPNは、末梢神経障害と診断された人の40%以上に影響を及ぼす、世界的に見ても重大な健康問題であることを明示している」と述べている。 化学療法薬はがん細胞を殺すが、同時に健康な細胞や組織、神経系にもダメージを与え、特に末梢神経への影響が大きい。CIPNの症状には、バランスや協調運動の喪失などの運動障害と、感覚の喪失、しびれ、うずき、「針で刺されたような感覚」、皮膚の灼熱感などの感覚障害がある。CIPNの有病率については、これまでにも複数の研究で報告されているが、どの程度が慢性的な痛みを経験するのかについては明らかになっていない。 この点を明らかにするために、D’Souza氏らは、28カ国でCIPNの診断を受けた計1万962人を対象に実施された77件の研究データを用いて解析を行い、慢性的な(3カ月以上)痛みを伴うCIPNの統合有病率を推定した。28カ国のうち実施研究数が最も多かったのは、米国での13件、次いで日本での10件だった。また、研究の多く(45.45%)は前向き観察研究であり、その他は、後ろ向き観察研究(37.66%)、ランダム化比較試験(16.88%)などであった。対象者のがん種としては、大腸がん(25件の研究、32.47%)、乳がん(17件の研究、22.08%)が多かった。 解析の結果、対象者における慢性的な痛みを伴うCIPNの統合有病率は41.22%であることが明らかになった。化学療法の種類別に解析を行うと、同有病率が最も高かったのはプラチナ系抗がん薬での40.44%、次いでタキサン系抗がん薬での38.35%であった。がん種別に見ると、肺がん患者を対象にした研究で最も高い有病率(60.26%)、卵巣がん患者(31.40%)とリンパ腫患者(35.98%)を対象にした研究で最も低い有病率が報告されていた。 研究グループは、「今後の研究では、化学療法が神経痛を引き起こす具体的な機序を解明するとともに、命を救うための治療を受けているがん患者をその痛みから守ることができる治療法の開発に焦点を当てるべきだ」と話している。

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2型糖尿病患者はビタミン、ミネラルが不足している

 2型糖尿病患者の半数近くが、微量栄養素不足の状態にあるとする論文が、「BMJ Nutrition, Prevention & Health」に1月29日掲載された。国際健康管理研究所(インド)のDaya Krishan Mangal氏らが行ったシステマティックレビューとメタ解析の結果であり、特に、ビタミンD、マグネシウム、鉄、ビタミンB12の不足の有病率が高いという。研究を主導した同氏は、「この結果は2型糖尿病患者における、栄養不良の二重負荷の実態を表している」と述べ、糖尿病治療のための食事療法が栄養不良につながるリスクを指摘している。 この研究では、システマティックレビューとメタ解析のガイドライン(PRISMA)に準拠して、Embase、ProQuest、PubMed、Scopus、コクランライブラリ、およびGoogle Scholarといった文献データベースを用いた検索が行われた。また、灰色文献(学術的ジャーナルに正式に発表されていない報告書や資料など)も、包括基準(2型糖尿病患者〔合併症の有無は問わない〕でのランダム化比較試験、縦断研究、横断研究、コホート研究)に照らし合わせて採用した。なお、1型糖尿病や妊娠糖尿病、18歳未満の2型糖尿病での研究、症例報告、レビュー論文などは除外した。 2人の研究者が独立してスクリーニング等を行い、最終的に132件(研究対象者数は合計5万2,501人)の報告を抽出した。メタ解析の結果、2型糖尿病患者における微量栄養素不足の有病率は45.30%(95%信頼区間40.35~50.30)と計算された。性別にみると、男性の42.53%(同36.34~48.72)に対して女性は48.62%(42.55~54.70)であり、女性の方が高値を示した。 微量栄養素不足の分布を正規分布に近づけるための統計学的処理の後、不足の有病率が最も高い微量栄養素はビタミンD(60.45%〔55.17~65.60〕)で、次いでマグネシウムが(41.95%〔27.68~56.93〕)であり、鉄が27.81%(7.04~55.57)、ビタミンB12が22.01%(16.93~27.57)だった。これらのうちビタミンB12については、メトホルミンが処方されている患者に限ると、26.85%(19.32~35.12)とより高値となった。 以上の結果に基づき著者らは、「2型糖尿病の食事療法では、エネルギー出納や主要栄養素の摂取量を重視する傾向がある。しかし本研究によって、いくつかの微量栄養素不足の有病率が高いことが明らかになった。栄養バランスを総合的に把握した上での最適化が、常に優先されるべきであることを再認識する必要がある」と総括している。 また、代謝にはさまざまな栄養素が関わっているため、微量栄養素の不足が糖尿病を悪化させたり、糖尿病以外の健康問題を引き起こしたりすることもあるという。さらに、「微量栄養素の不足は糖代謝とインスリンシグナル伝達経路に影響を及ぼし、2型糖尿病の発症と進行につながることも考えられる」と述べ、栄養不良自体が2型糖尿病の潜在的なリスク因子である可能性を指摘している。

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早期の緩和ケアは死期の近い高齢者の入院を予防できない?(解説:名郷直樹氏)

 多疾患併存患者の死亡リスクを予測するGagne comorbidity score(1年時点での死亡予測のスコア:-2~26、高値ほどリスクが高い)が6点以上(1年後の死亡率が25%以上)の66歳以上を対象とし、救急外来受診時に、エビデンスに基づく多職種による教育、重大な疾患に関するコミュニケーションについての刺激に基づくワークショップ(救急外来での会話)、意思決定サポート、救急外来スタッフによる監査とフィードバックによる介入の効果を、入院をアウトカムとして検討したクラスターステップウェッジランダム化比較試験である。 クラスターステップウェッジとは、施設ごとに介入の順序をランダムに割り付け、最終的にはすべての施設が介入を受け、介入前後で効果を検討する手法である。通常のランダム化比較試験では介入群と非介入群を比較するが、この手法ではすべての対象者が介入群であり、その介入前後のアウトカムの変化を比較する。 結果は、介入前の入院率が64.4%、介入後の入院率が61.3%、入院率の差が-3.1%、95%信頼区間が-3.7~-2.5%と差を認めているが、多変量解析で交絡因子を調整後のオッズ比では1.03(0.93~1.14)と差を認めていない。差があるとしても小さい、というのが大ざっぱな理解かもしれない。ただ、この介入に関わる人や時間のコストを考慮すると、統計学的な差があっても、現場での実現は困難ではないだろうか。 この研究は2018~22年にかけて行われているが、この間にCOVID-19の流行があり、入院適応に対して大きな変化があった。末期の患者がこの時期にはホスピスなどに入院困難であったり、COVID-19による入院のために他疾患の入院が困難になったり、多くのこの時期の医療状況が結果に影響したと予想される。 さらにこのクラスターステップウェッジの手法は、非介入群との比較ではなく介入前後の研究であるため、従来のランダム化比較試験のように交絡因子がコントロールされるわけではない。その意味ではランダム化比較試験という命名は不正確だと思われる。介入時期ランダム化介入前後比較試験と呼ぶのがいいと思う。 また、この手法のメリットとしてすべての対象者に介入がなされることがあるが、効果があるかどうかわからない介入を全員に提供してしまうという非倫理性もある。可能であれば介入群と非介入群を比較するクラスターランダム化比較試験が行われるべきではなかろうか。

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GLP-1受容体作動薬はパーキンソン病全般にも有効か?(解説:内山真一郎氏)

 パーキンソン病患者に対するGLP-1受容体作動薬の効果を検討する第III相無作為化比較試験が英国で行われた。25~80歳でドーパミン治療を行っているHoehn & Yahrステージが2.5以下のパーキンソン病患者に、徐放型エキセナチド2mgかプラセボを96週間にわたって週1回皮下注射し、1次評価項目としてパーキンソン病の運動障害スケールであるUPDRS Part IIIを評価したところ、エキセナチド群とプラセボ群の悪化度には有意差がなく、疾患修飾薬としてのエキセナチドの有効性は証明されなかった。このエキセナチドの臨床効果の欠如は、DATスキャンの画像所見上の効果の欠如とも一致していた。 この試験結果が否定的だったのは、中枢神経へのエキセナチドの移行が不十分であったことが原因である可能性も否定できないが、2型糖尿病患者ではパーキンソン病の進行がGLP-1受容体作動薬により抑制されたという強力なエビデンスがあることを考えると、GLP-1受容体作動薬はインスリン抵抗性による神経炎症反応を抑制して効果を発揮している可能性があり、HbA1cが比較的高いサブグループのパーキンソン病患者に標的を絞った臨床試験を行う価値があるように思われる。

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糖尿病(8)糖尿病の食事療法(3):グリセミックインデックス【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q134

糖尿病(8)糖尿病の食事療法(3):グリセミックインデックスQ134血糖コントロールにおいて、低グリセミックインデックス(GI:Glycemic Index)食の有効性が知られているが、低GI、高GIはいくつを指すか?

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胃酸分泌抑制薬との併用が可能になった慢性リンパ性白血病治療薬「カルケンス錠100mg」【最新!DI情報】第33回

胃酸分泌抑制薬との併用が可能になった慢性リンパ性白血病治療薬「カルケンス錠100mg」今回は、ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬「アカラブルチニブマレイン酸塩水和物(商品名:カルケンス錠100mg、製造販売元:アストラゼネカ)」を紹介します。本剤は、慢性リンパ性白血病治療薬としてすでに発売されているカプセル製剤とは異なり、胃酸分泌抑制薬を服用している患者にも使用しやすいフィルムコーティング錠です。<効能・効果>慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)を適応として、2024年12月27日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはアカラブルチニブとして1回100mgを1日2回経口投与します。なお、患者の状態により適宜減量します。<安全性>重大な副作用として、出血(頭蓋内血腫[頻度不明]、胃腸出血、網膜出血[いずれも0.2%]など)、感染症(肺炎[3.2%]、アスペルギルス症[0.2%]など)、骨髄抑制(貧血[5.5%]、好中球減少症[17.5%]、白血球減少症[17.5%]、血小板減少症[7.7%]など)、不整脈(心房細動[1.5%]、心房粗動[頻度不明]など)、虚血性心疾患(急性冠動脈症候群[0.2%]など)、腫瘍崩壊症候群、間質性肺疾患(いずれも0.4%)が報告されています。その他の副作用は、頭痛、下痢、挫傷(いずれも10%以上)、悪心、発疹、筋骨格痛、関節痛、疲労(いずれも5~10%未満)、浮動性めまい、鼻出血、便秘、腹痛、嘔吐、無力症(いずれも5%未満)、皮膚有棘細胞がん、基底細胞がん(いずれも頻度不明)があります。本剤は主にCYP3Aにより代謝されるので、強~中程度のCYP3A阻害薬(イトラコナゾール、クラリスロマイシン、ボリコナゾールなど)、強~中程度のCYP3A誘導薬(フェニトイン、リファンピシン、カルバマゼピンなど)との併用は可能な限り避け、代替の治療薬を考慮します。また、セイヨウオトギリソウ含有食品は摂取しないように指導する必要があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は慢性リンパ性白血病に用いられます。2.この薬は、自己判断して使用を中止したり、量を加減したりすると病気が悪化することがあります。指示どおりに飲み続けることが重要です。3.セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)を含む食品は摂取しないでください。4.この薬を服用中に発熱、寒気、喉の痛み、鼻血、歯ぐきからの出血、青あざができるなどの症状が現れたら、速やかに主治医に相談してください。5.他の医師を受診する場合や薬局などで他の薬を購入する場合は、必ずこの薬を使用していることを医師または薬剤師に伝えてください。<ここがポイント!>慢性リンパ性白血病(chronic lymphocytic leukemia:CLL)は、Bリンパ球ががん化することで発症し、多くの場合は緩徐に進行します。CLLは初期段階では無症状であることが多いですが、進行すると脱力感、疲労感、体重減少、悪寒、発熱、寝汗、リンパ節の腫れ、腹痛などの症状が現れます。CLLの初回治療にはイブルニチブもしくはアカラブルニチブ±オビヌツズマブが推奨されています。アカラブルニチブは、経口投与可能なブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)の阻害薬であり、BTKの酵素活性を選択的かつ不可逆的に阻害します。アカラブルチニブはBTKの活性部位のシステイン(Cys-481)残基と共有結合することで、B細胞性腫瘍の増殖および生存シグナルを阻害します。アカラブルニチブはカプセル製剤(商品名:カルケンスカプセル)として2021年に承認され、CLL治療薬として販売されていますが、胃内pHが4を超える条件下では溶解度が低下します。そのため、プロトンポンプ阻害薬との併用は可能な限り避け、制酸薬およびH2受容体拮抗薬と併用するときは投与間隔を2時間以上空けるなどの注意が必要です。しかし、血液がん患者の20~40%は、胃内pHを変化させる薬剤の投与を受けていると推定されているため、胃内pHの条件に左右されずに溶出する新しい薬剤の開発が望まれていました。今回承認されたカルケンス錠は、アカラブルチニブをマレイン酸水和物にすることでpH依存的溶解プロファイルを改善し、生理学的pHの範囲内で十分な溶解性を有することが確認されています。健康被験者を対象とした生物学的同等性試験(海外第I相試験であるD8223C00013試験)において、本剤およびカプセル剤を空腹時投与した結果、カプセル剤投与に対する本剤投与におけるアカラブルチニブのCmaxおよびAUC(0-last)の最小二乗幾何平均値の比は、それぞれ1.00(90%信頼区間:0.91~1.11)および0.99(0.94~1.04)であり、いずれも生物学的同等性の判定基準範囲内(0.8~1.25)でした。これにより、生物学的同等性の基準を満たすことが確認できました。

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