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第240回 消費者向け「遺伝子検査」を受けて思わず動揺!その分析結果とは

消費者向け(Direct-to-Consumer:DTC)遺伝子検査について目にしたことがある医療者も少なくないだろうと思う。私もこれまでネット上で目にはしていたが、眉唾モノとの印象が強く、完全無視を決め込んでいた。しかし、ある取材でこれを受けなければならなくなった。編集者が「早い・安い」で申し込んだ検査キットが届いたのは、今から約1ヵ月前。検査キットと言っても唾液採取のための容器とその補助装備、さらにID・パスワードが書かれた紙が入っていただけだ。まず、そのID・パスワードで検査会社のウェブサイトにアクセスし、個人情報や生活習慣、飲酒・喫煙歴、両親の出身地、自分と親の既往歴などについての簡単なアンケートに回答する。そのうえで同封されていた容器に自分の唾液を充填し、ポストに投函。翌日には検体が無事届いたとのメールが入り、それから1週間で自分のメールアドレスに検査結果終了の案内メールが届いた。体質分析の結果早速アクセスしてみた。200項目超の体質の項目を見る。大まかな項目は以下のとおり。基礎代謝量…高  肥満リスク…低  筋肉の発達能力…高短距離疾走能力…低  有酸素運動適合性…低  運動による減量効果…高アルコール代謝…普通  酒豪遺伝子(意味不明だが)…普通  二日酔い…低アルコール消費量…多  アルコール依存症リスク…中  ワインの好み…赤肌の光沢…低  肌のしわ…多  AGA発症リスク…低まあ、基礎代謝に関しては高いのかどうかわからないが、かつて幼少期の娘からは「お父さんと一緒に寝ていると、お布団の中がコタツを最強にした感じで、冬でも汗をかく」と言われたことがある。体質では「登山家遺伝子」なる項目もあり、そこは“高所登山家タイプ”となっていた。体質の食習慣に関する評価項目では、なぜか芽キャベツと甘いものは好まないとの評価だった(私は仕事場近くの焼き鳥・焼きとん屋に行き、野菜串焼きに芽キャベツがあると喜んで注文し、ムシャムシャ食べてしまうのだが…)。飲酒については、実生活と明確に異なるのは、私の好みのワインは「白」という点だ。肌については自覚がある。男性型脱毛症(AGA)の発症は確かに今のところその兆しはない。しかし、ここまで来ると、大きなお世話と言いたくもなる。いずれにせよ当たらずとも遠からずというか、当たっていると言えるものもあれば、明らかに違うと言えるものもある。ただ、自分の体のことはわかっているようで、わかっていない部分もあるので何とも言えない。性格分析の結果そして性格についても分析があり、同じ項目について事前アンケートの結果と検査結果が並列で記載がある。こちらもアンケート結果と検査結果がほぼ同一のものもあれば違うものもある。どちらかといえばほぼ同一のものがほとんどである。そして「総合性格タイプ」は、持ち前のタフな精神力で、自分の好奇心に従って未知の世界へどんどん飛び込んでいける“サバイバルYouTuber”タイプとの評価である。まあ、当たっていると言えなくもないが、同時にYouTuberと一緒にされるのもなんだかなという感じである。165疾患のリスク、その結果は…さてこの検査の本丸、というか受ける人の多くが気にするであろうと考えられるのが疾患リスクである。私の受けた検査では、「予防」なる大項目があり、さらに一般疾患と各種がんの合計165疾患についてリスクが表示されている。このリスク表示、疾患ごとにオッズ比のような数値と大、中、小の3段階の定性的表現で発症リスクが示してあった。がんの項目を見ていくと、ほとんど問題はなさそうである。が、後半にスクロールしている手が止まった。多発性骨髄腫の発症リスクが「大」とある。思わず「はあ?」と声が漏れてしまった。一瞬動揺してしまうと同時に、検査結果を見る当事者をそういう心理状況に置く結果通知をラーメン店の券売機にある「小」「並」「大」にも似たざっくりした表現で示された腹立たしさも入り混じった何とも言えない不快感である。さて当然のことながら多発性骨髄腫を知らぬわけはない。化学療法が奏功しやすい血液がんの中でも難治で知られるがんである。少なくとも数年前の5年相対生存率は50%未満だ。ちなみにこれ以外でも一般疾患では、痛風、狭心症、そしてなぜか慢性C型肝炎もリスク大と判定された(というか、C型肝炎に未感染であることはたまたま最近行ったある検査で判明している)。だが、やはり多発性骨髄腫のリスク大のインパクトが一番大きい。発症するとかなりの痛みを伴うことや激烈な化学療法が必要になること、そして治癒もコントロールも難しいことがわかっているからだ。もっともDTC遺伝子検査は、正確に言えば遺伝子そのものを調べているわけではなく、「一塩基多型(SNP、スニップ)」と疾患に関する相関を調べた研究を基にリスク判定しているため、各種固形がんや遺伝性乳卵巣症候群(HBOC)のような発症や増悪に関与する遺伝子変異の検査に比べれば、当たるも八卦当たらぬも八卦の域であることは私自身も百も承知である。ただ、実はちょっとだけ安堵感もあった。血液内科専門医の皆さんならご存じのように、昨今、この疾患では新薬開発が活発で治療選択肢も増えているからだ。治療法によっては5年相対生存率も60%近くまで伸びている。そんなこんなで日本血液学会の「造血器腫瘍診療ガイドライン2023」に記載された多発性骨髄腫のパートを改めて通読してみた。私にとってこれはこれで改めて知識の整理ができる利点もあった。ただ、ガイドラインで示されている治療の実際は、やはり文字で読んでいるだけでもきつそうである。とはいえ、今後本当に多発性骨髄腫を発症したとしても「あの時、ああいう結果が出てたしな」という感じで受け止められると考えれば、この検査が自分にとって無意味だったとまでは言えない。神社でおみくじを引いて、「凶」と出た直後にケガをしたら、「おみくじは凶だったし」と自分を納得させようとすることとどこか似ている。一部の専門家がDTC遺伝子検査の持つ不確実性を踏まえ、「占い」と評してしまうのはそうしたところにも起因しているのかもしれない。ただし、私のように割り切れる人はどれだけいるだろうか? 気弱な人、生真面目な人ならばそうは簡単に割り切れない危険性は十分にある。そのように考えると、まったく科学的根拠がないわけではないとはいえ、ただ唾液を投函してこのような結果が示されるという今の在り方は、もう少し改善することも必要なのではないかとも考え始めている。

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映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その1)【宗教体験と幻覚妄想は表裏一体!?(統合失調症の二面性)】Part 1

今回のキーワード宗教体験幻聴被害妄想知覚の異常思考の異常宗教妄想皆さんは、「神のお告げが聞こえる」「私たちは罰を受けている」と説かれるとどう思いますか? これらのいわゆる預言や神罰の境地、つまり宗教体験は、古くから世界各地で共通してみられます。一方で、率直なところ、周りで誰も話していないのに声が聞こえる幻聴や、周りから何かされているのではないかと思い込む被害妄想と何が違うのでしょうか?この答えを探るために、今回は、映画「ミスト」とドラマ「ザ・ミスト」を合わせて取り上げます。この2つの作品は、原作が同じで、展開もかなり似ていますが、登場人物の設定が違い、ドラマの方がより複雑な人間関係になっています。ただ、この2つの作品に共通して一際存在感を発揮していくキャラクターがいます。映画では「カーモディさん」、ドラマでは「ナタリー」です。今回は、この2人に焦点を当て、精神医学の視点から、宗教体験と幻覚妄想は表裏一体であるわけを説明し、統合失調症という心の病の二面性について一緒に考えてみましょう。なお、今回は、このシネマセラピーの記事における映画「ミスト」の後編になります。前編「宗教の起源」と中編「マインドコントロールのメカニズム」については、以下の記事をご覧ください。宗教体験が幻覚妄想と表裏一体であるわけは?あるのどかな田舎町に突然立ち込めた濃い霧(ミスト)。その中に入ってしまった町の人たちは、次々と大けがをして死んでいきます。何とかその霧から逃れた人たちは、大きな建物の中に避難しますが、そこに閉じ込められてしまいます。彼らは、わけがわからず恐怖に震え、途方に暮れるだけだったのでした。そんななか、映画ではカーモディさん、ドラマではナタリーが、信仰心によって存在感を発揮していきます。まず、この2人の言動から、宗教体験が幻覚妄想である理由を大きく2つ挙げて、精神医学的に説明しましょう。(1)神のお告げが聞こえる―幻聴映画版のカーモディさんは、異常事態の当初、トイレの中で涙を流しながら神と対話していました。彼女は、「どうか私にこの人たちを助けさせてください」「あなたの言葉を説かせてください」「光で導かせてください」「悪人ばかりではないはずです」「あなたの赦しによって何人かは救うことができるはずです」「天国の門をくぐれるはずです」「1人でも救えたら、私の人生に意義が見いだせます」「私の役割を果たせるのです」「そしてあなたのおそばに行ける」「あなたのご意志を全うできるのです」と語ります。ドラマ版のナタリーは、アリやクモを神格化して、会話しているようなシーンが描かれていました。1つ目の宗教体験は、神のお告げが聞こえ、神と対話することです。これらは、宗教的には預言と見なされますが、精神医学的にはそれぞれ命令幻聴、対話性幻聴が当てはまります。なぜなら、周りで誰も話していないのに声が聞こえてくるという知覚の異常としては、このような宗教体験も幻聴もやはり区別できないからです。(2)私たちは罰を受けている―被害妄想映画版のカーモディさんはやがて、周りの人たちに「真実が見えない?」「私たちは罰を受けている」「神のご意思に背くことをしているから」「禁じられた神の古き掟を破っているから」「月面を歩いたり、原子を分裂させたり、幹細胞の研究や中絶!」「生命の神秘を破壊する」「神だけに許された世界への冒涜よ!」「神の審判が下ったのよ」「地獄の魔物が解き放たれた」「燃える星が天から落ちてきた」などと熱心に説き続けます。ちなみに、この神罰の一連のセリフは、9.11テロの直後にキリスト教原理主義の高名な総帥が言った言葉のパロディです。ドラマ版のナタリーは、以前に森林警備隊員から聞いた話を語り出します。「クマの母親が3頭の子グマを生んだの。でも、その母クマはそのうちの2頭を殺したの。彼はショックを受けたわ。そして、すぐに残りの1頭を保護したの。でも、あとからわかったのは、母グマはその2頭が感染症にかかっていたのを知っていたからなの。残りの1頭の命を守るためだったの」「この霧の目的はそれと同じ」「人間も自然の一部よ」と確信して言っていました。2つ目の宗教体験は、私たちは罰を受けていて、それはもともと人間は罪深いからと思い込むことです。これらは、宗教的には神罰や原罪と見なされますが、精神医学的にはそれぞれ被害妄想と罪業妄想が当てはまります。なぜなら、合理的な根拠なく思い込んでしまう思考の異常としては、このような宗教体験も妄想もやはり区別できないからです。なお、「罰を受ける」根拠を「人間の存在が罪(原罪)だから」としている点では、後付けの関係妄想とも言えます。つまり、すでに問題が起きているという状況(被害)が先であることから、被害妄想がこの宗教体験の本質であると言えます。次のページへ >>

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映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その1)【宗教体験と幻覚妄想は表裏一体!?(統合失調症の二面性)】Part 2

じゃあなんで宗教体験は統合失調症と見なされないの?宗教体験と幻覚妄想は、知覚や思考の異常という精神医学的な視点では区別できないことがわかりました。そして、幻覚妄想を主症状とする精神障害は統合失調症ですが、実際の研究でも、宗教体験とこの統合失調症は、同じ脳領域が過活動になっていることがわかっています1)。それでは、なぜ宗教体験は統合失調症と見なされないのでしょうか?その理由は、宗教体験は、宗教という文化として世界中で古くから受け入れられてきたからです。つまり、正常か異常か、健康か病気かは、社会で受け入れられるかどうか、常に多数決で決まっていることがわかります。なお、この健康の概念の詳細については、関連記事1をご覧ください。以上より、同じ知覚や思考の異常でも、社会的に受け入れられている場合は宗教体験、受け入れられていない場合は統合失調症になるわけです。この点で、たとえ宗教体験であっても、それでトラブルを起こし、社会的に受け入れられなくなれば、宗教妄想を呈した統合失調症と診断します。逆に言えば、宗教体験は、統合失調症と同じ心理現象(幻覚妄想)のプラス面を見ているだけと言い換えられます。これが、統合失調症の二面性です。つまり、統合失調症は、宗教に関連した何らかの存在理由があることが想定できます。それは一体、何なのでしょうか?(次回へ続く)1)「宗教の起源」p.246:ロビン・ダンバー、白揚社、2023<< 前のページへ■関連記事ドキュメンタリー「WHOLE」(後編)【自分の足を切り落とすことが健全!?(健康の定義)】

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統合失調症患者が考える抗精神病薬減量の動機と経験

 統合失調症患者の多くは、時間の経過とともに、抗精神病薬の減量または中止を望んでいる。デンマークでは、政府の資金で専門外来クリニックが設立され、抗精神病薬の減量指導が行われてきた。デンマーク・コペンハーゲン大学のAlexander Nostdal氏らは、クリニック通院患者における抗精神病薬減量の動機および過去の経験に関するデータを収集し、報告を行った。Psychiatric Services誌2024年11月1日号の報告。 対象患者は、抗精神病薬の中止または減量についての動機に関する自由記述式調査に回答した。過去の投薬中止経験、症状、動機、副作用レベルに関する情報も併せて収集した。 主な結果は以下のとおり。・88例中76例(86%)が調査に回答した。・抗精神病薬を中止した主な動機は、副作用(71%)、抗精神病薬服用の必要性に関する不安(29%)であった。・その他の要因には、長期的な影響への懸念、診断への同意、効果不十分の経験、服薬によるスティグマを感じるなどが挙げられた。・抗精神病薬中止に関する過去の経験は42例から報告され、そのうち23例は再発経験を報告した。・ほとんどの患者は、減量(75例中73例、97%)または中止(75例中62例、83%)を実現可能だと考えていた。 著者らは「専門家の指導による抗精神病薬の減量の動機付け要因は、中止を選択した患者を対象とした過去の研究結果と一致していた。抗精神病薬中止による再発を経験した患者においても、そのほとんどが減量または中止が実現可能であると考えていた。最適な治療連携を行ううえで、患者の動機と信念を理解することは最も重要である。指示に従い減量を行うことで、抗精神病薬の突然の中止や根拠のない中止を減らすことが可能である」と結論付けている。

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医師の「スーツ」事情、所持数や予算は?/医師1,000人アンケート

 ビジネスパーソンにとってユニフォーム的な存在である「スーツ」。一方、医師の仕事着といえば白衣のイメージがあるが、実際には勤務中に何を着ているのか?スーツを着る機会はいつなのか?ケアネット会員の男性医師を対象に、仕事中の服装やスーツの所有状況などについてアンケート形式で聞いた。対象:ケアネット会員の男性医師1,008人(30代以下、40代、50代、60代以上の年代別で各252人)実施日:2024年10月30日診療中の服装、若手ほどスクラブ派が多数、ベテランはワイシャツ&白衣派も 「Q1. 診察中の服装として、最も多い服装は?」(単一回答)との質問では、「スクラブのみ」「スクラブ&白衣」が同率の27%だった。とくに30代以下の若手医師では7割以上が「スクラブのみ」もしくは「スクラブ+白衣派」だった。一方、ベテランになると「ケーシー」や「スラックス+ワイシャツ(=スーツのジャケットなしの服装)&白衣」という回答が増えた。年配の医師は開業している割合が高く、検査や手技をする機会が限られる、手術を行う機会が減る、といった事情も影響していそうだ。実際、「スラックス+ワイシャツ&白衣」の回答は20床未満の診療所の勤務者で最も多かった(16%)。「その他」の回答としては外科系の医師を中心に「術衣」「術衣+白衣」との回答が目立った。スーツを着るのは「学会参加時」、所有数は3着以内が7割 「Q2. 勤務中にスーツを着るシチュエーションを挙げてください」(複数回答)との質問には「学会に参加するとき」が751人(75%)と最多となった。その後には「講演をするとき」が528人(52%)、「会食・パーティ」が289人(29%)などとなった。一方で、「着る機会はない」「ほぼない」との回答も複数あった。 「Q3. 現在、スーツを何着持っていますか?」(数値で回答)との質問には、平均3.4着、中央値2着という結果だった。0着12人(1%)、1着156人(16%)、2着337人(34%)、3着202人(20%)と3着以内で7割、以後4着95人(9%)、5着101人(10%)と5着以内で9割を占めた。一方で、「50着」「30着」という回答もあった。購入場所は量販店が半数、予算は年齢が上がるにつれ変化 「Q4. 通常、スーツをどこで買うことが最も多いですか?」との質問には洋服の青山、スーツセレクトなどのスーツ量販店が最多で半数近く(47%)を占め、続いてデパート・ブランド店(39%)だった。「Q5. スーツ1着(上下一式)のおおよその予算はいくらですか?」への回答では全体では「5~8万円台」が最多で32%、続いて「2~4万円台」が30%だった。年齢が上がるにつれ量販店での割合が減る一方で、デパート・ブランド店やオーダースーツ専門店の割合が上がり、同時に1着当たりの予算も上がる傾向があった。1着当たりの予算が2万円以下とした人は20代では13%だったが、60代では6%と半分以下に減り、一方で5~8万円台との回答は20代で28%だったが、60代以上では42%に増え、9万円以上との回答者も35%存在した。機能性重視が大半だが、オーダーメイドへの憧れの声も 最後に「Q6.スーツに対する思いや要望」を自由回答で聞いたところ、「動きやすいものがいちばん」(消化器内科・20代)、「洗濯がしやすいもの」(循環器内科・40代)、「伸縮性の良いもの」(循環器内科・40代)、「ポケットがめちゃくちゃ多いもの」(消化器外科・60代)など、機能面の要望に集中した。とくに「学会出張時、シワになりにくい」(糖尿病・代謝・内分泌内科・30代)との回答は多数あった。「内科とはいえ処置の機会が多いため、季節を問わず常に半袖のケーシー。スーツ着用の機会はほとんどないので、とにかく安いものが良い」(内科・60代)といった実用的な回答が目立った。 一方で、「イタリアンスタイルが体格に合う」(内科・60代)、「ずっとアルマーニに決めている」(循環器内科・60代)、「普段は着ないので、着る時は楽しみたい。オーダースーツは裏地もこだわることができるし、生地を決めている時も楽しい」(循環器内科・30代)という、“スーツこだわり派”からの回答もあった。「オーダーメイドスーツを作りたいが敷居が高い」(糖尿病・代謝・内分泌内科・30代)という回答も10人近くから寄せられており、「状況が許せばオーダースーツに挑戦したい」という層も一定数いるようだ。アンケート結果の詳細は以下のページで公開中。スーツに関するアンケート/医師1,000人アンケート

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持続性AF、線状アブレーション+肺静脈隔離術は有益か?/JAMA

 持続性心房細動(AF)患者の治療において、肺静脈隔離術(PVI)にマーシャル静脈内エタノール注入(EIVOM)を併用した線状アブレーションを追加することにより、PVI単独と比較して12ヵ月以内の心房性不整脈再発が有意に改善された。中国・Beijing Anzhen HospitalのCaihua Sang氏らPROMPT-AF investigatorsが、中国の3次医療機関12施設で実施した研究者主導の多施設共同無作為化非盲検試験「PROMPT-AF試験」の結果を報告した。これまでの無作為化試験では、PVI後に線状アブレーションを追加したときのPVI単独に対する優越性は検証されていなかった。EIVOMは僧帽弁輪峡部でのアブレーションを容易にし、線状アブレーション戦略の有効性を改善する可能性があるとされていた。JAMA誌オンライン版2024年11月18日号掲載の報告。EIVOM併用線状アブレーション追加の有効性をPVI単独と比較 研究グループは、2021年8月27日~2023年7月16日に、18~80歳で、少なくとも1種類の抗不整脈薬に抵抗性を示し、AFアブレーション歴のない持続性AF(持続性AFエピソードが3ヵ月以上持続)患者498例を対象に試験を行った。被験者を、PVI群またはPVI+EIVOM+線状アブレーション群(介入群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 介入群では、最初にEIVOMを行った後、PVIと左房天蓋部、僧帽弁輪峡部、三尖弁下大静脈間峡部の線状アブレーションを行った。 患者にウェアラブル単極誘導心電図(ECG)パッチを1週間に24時間装着してもらいモニタリング。また、症状発現時にECGやホルター心電図を追加した。 主要エンドポイントは、アブレーション後12ヵ月以内(3ヵ月のブランキング期間を除く)に抗不整脈薬を使用せず30秒以上続くあらゆる心房性不整脈が認められなかった患者の割合であった。副次エンドポイントには、心房性不整脈の再発、AF、複数回の処置後の心房性不整脈の再発、抗不整脈薬の有無にかかわらず記録された心房頻拍または心房粗動、AFの重症度、および生活の質(QOL)の改善が含まれた。主要エンドポイントはEIVOM併用線状アブレーション追加が良好 無作為化された患者498例のうち、495例(99.4%)が主要解析に組み入れられた。平均(±SD)年齢は61.1±9.7歳、男性が361例(72.9%)であった。 主要エンドポイントである12ヵ月以内の抗不整脈薬不使用で30秒以上続く心房性不整脈が認められなかった患者の割合は、介入群で246例中174例(70.7%)、PVI単独群で249例中153例(61.5%)であった(ハザード比:0.73、95%信頼区間:0.54~0.99、p=0.045)。介入効果は、事前に規定されたすべてのサブグループで一貫していた。 副次エンドポイントについては、有意な結果は認められなかった。また、手技に関連する有害事象の発現率に両群で差はなかった(p=0.15)。

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子宮内膜症・子宮筋腫の既往、早期死亡リスクと関連/BMJ

 子宮内膜症あるいは子宮筋腫の既往歴のある女性は、生殖可能年齢を超え70歳未満での早期死亡の長期的リスクが高まる可能性があり、主に婦人科系がんによる死亡リスクの増加とも関連し、子宮内膜症はがん以外の死亡リスクの増加とも関連していた。中国・上海交通大学のYi-Xin Wang氏らが、前向きコホート研究の結果を報告した。子宮内膜症と子宮筋腫は、慢性疾患の長期的リスクを高めることが示されているが、早期死亡リスクに及ぼす影響は不明であった。BMJ誌2024年11月20日号掲載の報告。米国の女性看護師、約11万例を追跡 研究グループは、米国で1989年に開始された前向きコホート研究「Nurses’ Health Study II」に登録された25~42歳の女性看護師を対象とした。同研究では2019年までの30年以上にわたり、生殖特性、行動因子および健康状態に関して2年ごとに郵送または電子アンケート調査が行われている。 本検討では、心血管疾患またはがんの診断歴のある女性、子宮内膜症または子宮筋腫の診断前に子宮摘出術を受けた女性、子宮内膜症あるいは子宮筋腫を腹腔鏡検査あるいは超音波検査/子宮摘出で確認されたことがないと報告した女性は除外し、計11万91例を解析対象とした。 主要アウトカムは、2年ごとのアンケートで報告された腹腔鏡検査で確認された子宮内膜症、または超音波検査や子宮摘出で確認された子宮筋腫別の全死因死亡および死因別早期死亡で、Cox比例ハザードモデルによりハザード比(HR)を推定した。70歳未満の死亡を早期死亡と定義した。子宮内膜症や子宮筋腫は、70歳未満の早期死亡と関連 299万4,354人年の追跡調査(1人当たり27.2年)において、早期死亡は4,356例認められ、そのうち1,459例ががん、304例が心血管疾患、90例が呼吸器疾患によるものであった。 腹腔鏡検査で確認された子宮内膜症を有する女性と有していない女性における全死因による早期死亡の粗発生率は、それぞれ1,000人年当たり2.01および1.40であった。年齢補正モデルを用いた場合、腹腔鏡検査で確認された子宮内膜症は早期死亡と関連していた(HR:1.19、95%信頼区間[CI]:1.09~1.30)。行動因子を含む潜在的な交絡因子で補正した年齢調整モデルを用いた場合は、さらに関連が強まった(1.31、1.20~1.44)。 死因別死亡の解析の結果、腹腔鏡検査で確認された子宮内膜症は主に、老衰および原因不明の疾患(HR:1.80、95%CI:1.19~2.73)、非がん性呼吸器疾患(1.95、1.11~3.41)、神経系および感覚器官の疾患(2.50、1.40~4.44)、および婦人科悪性腫瘍(2.76、1.79~4.26)による死亡リスクが高かった。 超音波検査または子宮摘出術で確認された子宮筋腫は、全死因早期死亡とは関連していなかったが(HR:1.03、95%CI:0.95~1.11)、婦人科悪性腫瘍による早期死亡リスクの増加と関連していた(2.32、1.59~3.40)。心血管疾患および呼吸器疾患による死亡リスクは、子宮内膜症と子宮筋腫の併存状況によって異なり、子宮内膜症と子宮筋腫の両方を有している女性では全死因早期死亡リスクが増加した。

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時間制限食でメタボ該当者のHbA1cが有意に低下

 メタボリックシンドローム(MetS)該当者の食事療法に時間制限食を用いることで、標準的な食事療法よりもHbA1cが有意に低下したとする研究結果が報告された。米ソーク生物学研究所のEmily N.C. Manoogian氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of Internal Medicine」に10月1日掲載された。 時間制限食(time-restricted eating;TRE)は、1日の中でエネルギー量のある飲食物を摂取可能な時間帯を限定し、少なくとも14時間以上はエネルギーを摂取しないという食事療法。一方、摂取を禁止する時間帯以外はエネルギー量を考えず自由な飲食が可能で、総摂取量の増大が許容されることもある。この手軽さから人気が高まりつつあり、また減量や心代謝関連マーカーの改善につながるとする研究報告が増えているものの、まだ評価は確立されていない。 Manoogian氏らは、心代謝関連マーカーに対するTREの有用性を、標準的な食事療法と比較するランダム化比較試験を実施した。研究参加者は、空腹時血糖値高値またはHbA1c高値を含む代謝異常を呈している成人のMetS該当者。無作為にTRE群と標準的食事療法群(対照群)に割り付け、3カ月間の介入を行った。なお、食事療法の有用性を検討する場合、薬物療法施行中の患者は対象から除外することが多いが、本研究では対象に含めた。著者らは、これによって「薬物療法にTREを上乗せすることのメリットも検討し得た初の研究となった」としている。 介入に際して、TRE群では個人の起床/就床パターンを把握した上で、摂食可能時間が4時間以上短縮されるように個別に設定。その結果、起床1時間後から就床3時間前までの間の8~10時間が摂食可能時間として設定された。介入期間中の遵守状況は、スマートフォンのアプリを用いてリアルタイムで追跡された。研究参加者全員が標準的な治療を継続し、食事に関しては地中海式ダイエットに関する栄養カウンセリングが行われた。 研究参加者の89%に当たる108人が介入を終了した。ベースライン時点の主な特徴は、平均年齢59歳、女性56人、BMI31.22、摂食時間14.19時間だった。年齢の影響を調整後、介入後のTRE群のHbA1cは対照群に対して-0.10%(95%信頼区間-0.19~-0.003)であり、有意差が認められた。また、体重、BMI、腹部体幹脂肪(abdominal trunk fat)の低下幅も、対照群より3~4%多かった。減量時の一般的な懸念材料の一つである、除脂肪体重の有意な低下は認められなかった。全体として、重大な有害事象は報告されなかった。 著者らは、「個別化されたTREは成人MetS該当者の高血糖改善につながり、心代謝系の健康に広範なメリットをもたらす可能性のある、実践的なライフスタイル介入と言える」と述べている。

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脳卒中の重症度を高める3つのリスク因子とは?

 喫煙、高血圧、心房細動の3つのリスク因子は、脳卒中リスクだけでなく、脳卒中の重症度を高める可能性のあることが、新たな研究により明らかになった。ゴールウェイ大学(アイルランド)老年医学分野のCatriona Reddin氏らによるこの研究の詳細は、「Neurology」に11月13日掲載された。 Reddin氏は、「脳卒中は、障害や死にさえつながる可能性があるが、生活習慣の是正や薬物療法により改善できるリスク因子は数多くある。われわれの研究結果は、障害を伴う重度の脳卒中を予防するためには、さまざまな脳卒中のリスク因子の中でも特に、高血圧、心房細動、喫煙の管理が重要であることを強調するものだ」と述べている。 今回の研究でReddin氏らは、世界32カ国で募集された患者を対象に、初発の急性脳卒中のリスク因子について検討した国際的な症例対照研究(INTERSTROKE)のデータを用いて、脳卒中のリスク因子が重症度にどのように影響するのかを検討した。対象は、急性脳卒中を発症した1万3,460人と発症していない1万3,488人の計2万6,948人(平均年齢61.74歳、男性59.58%)、検討した脳卒中のリスク因子は、高血圧(140/90mmHg以上)、心房細動、糖尿病、高コレステロール、喫煙、飲酒、食事の質、運動不足、心理的・社会的ストレス、ウエストヒップ比であった。対象者の脳卒中の重症度をmRS(修正ランキンスケール)で評価したところ、4,848人(36.0%)が重度の脳卒中(4〜6点)に該当し、残りの8,612人(64.0%)は非重度(軽度〜中等度)の脳卒中(0〜3点)であった。重度の脳卒中の発症者は、介助なしでは歩くことや身の回りのことができなくなり、生涯にわたって継続的な介護が必要になる場合が多いと研究グループは説明する。 年齢、性別、国籍、脳卒中のタイプで調整して解析した結果、高血圧に罹患していた人では正常血圧の人に比べて、重度の脳卒中の発症リスクが3.2倍(オッズ比3.21、95%信頼区間2.97〜3.47)、軽度から中等度の脳卒中の発症リスクが2.9倍(同2.87、2.69〜3.05)高いことが明らかになった。また、心房細動のある人ではない人に比べて、同リスクがそれぞれ4.7倍(同4.70、4.05〜5.45)と3.6倍(同3.61、3.16〜4.13)、喫煙者は非喫煙者に比べて同リスクがそれぞれ1.9倍(同1.87、1.72〜2.03)と1.7倍(同1.65、1.54〜1.77)高いことも示された。 こうした結果を受けてReddin氏は、「われわれの研究結果は、高血圧を管理することの重要性を明示している。高血圧は、世界的に見ても脳卒中の修正可能なリスク因子の中で最も重要だ」と述べている。同氏はさらに、「高血圧の管理は、特に、若年層での高血圧と脳卒中の発症率が急増している低・中所得国において重要だ」と付言している。

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CKDの早期からうつ病リスクが上昇する

 腎機能低下とうつ病リスクとの関連を解析した結果が報告された。推定糸球体濾過量(eGFR)が60mL/分/1.73m2を下回る比較的軽度な慢性腎臓病(CKD)患者でも、うつ病リスクの有意な上昇が認められるという。東京大学医学部附属病院循環器内科の金子英弘氏、候聡志氏らの研究によるもので、詳細は「European Journal of Clinical Investigation」に9月27日掲載された。 末期のCKD患者はうつ病を併発しやすいことが知られており、近年ではサイコネフロロジー(精神腎臓学)と呼ばれる専門領域が確立されつつある。しかし、腎機能がどの程度まで低下するとうつ病リスクが高くなるのかは分かっていない。金子氏らは、医療費請求データおよび健診データの商用データベース(DeSCヘルスケア株式会社)を用いた後ろ向き観察研究により、この点の検討を行った。 2014年4月~2022年11月にデータベースに登録された患者から、うつ病や腎代替療法の既往者、データ欠落者を除外した151万8,885人を解析対象とした。対象者の年齢は中央値65歳(四分位範囲53~70)、男性が46.3%で、eGFRは中央値72.2mL/分/1.73m2(同62.9~82.2)であり、5.4%が尿タンパク陽性だった。 1,218±693日の追跡で4万5,878人(全体の3.0%、男性の2.6%、女性の3.3%)にうつ病の診断が記録されていた。ベースライン時のeGFR別に1,000人年当たりのうつ病罹患率を見ると、90mL/分/1.73m2以上の群は95.6、60~89の群は87.4、45~59の群は102.1、30~44の群は146.5、15~29の群は178.6、15未満の群は170.8だった。 交絡因子(年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、高血圧・糖尿病・脂質異常症)を調整後に、eGFR60~89の群を基準として比較すると、他の群は全てうつ病リスクが有意に高いことが示された。ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。eGFR90以上の群は1.14(1.11~1.17)、45~59の群は1.11(1.08~1.14)、30~44の群は1.51(1.43~1.59)、15~29の群は1.77(1.57~1.99)、15未満の群は1.77(1.26~2.50)。また、尿タンパクの有無での比較では、陰性群を基準として陽性群は1.19(1.15~1.24)だった。 3次スプライン曲線での解析により、eGFRが65mL/分/1.73m2を下回るあたりからうつ病リスクが有意に上昇し始め、eGFRが低いほどうつ病リスクがより高くなるという関連が認められた。 これらの結果に基づき著者らは、「大規模なリアルワールドデータを用いた解析の結果、CKDの病期の進行とうつ病リスク上昇という関連性が明らかになった。また、早期のCKDであってもうつ病リスクが高いことが示された。これらは、CKDの臨床において患者の腎機能レベルにかかわりなく、メンタルヘルスの評価を日常的なケアに組み込む必要のあることを意味している」と総括。また、「今回の研究結果は、サイコネフロロジー(精神腎臓学)という新たな医学領域の前進に寄与すると考えられる」と付け加えている。 なお、eGFRが90以上の群でもうつ病リスクが高いという結果については、「本研究のみではこの理由を特定することは困難だが、CKD早期に見られる過剰濾過との関連が検出された可能性がある」と考察されている。

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会場騒然! 医師の出番【Dr. 中島の 新・徒然草】(558)

五百五十八の段 会場騒然!医師の出番今年は紅葉が遅いですね。大阪では11月末から12月初めがピーク。その一方で、私のマンションでは中庭にクリスマスイルミネーションが出現しました。そんなわけで、紅葉とクリスマスイルミネーションが混在する不思議な日々になっています。さて先日のこと。女房の父親が出演するバイオリン発表会がありました。私にとっては義父にあたります。残念ながら義母は発表会に足を運ぶ元気がありません。1人での発表会というのもかわいそうなので、女房が応援に行きました。発表会後は立食形式の打ち上げです。打ち上げは発表者やその家族、関係者合わせて40人ほどが集まり、和やかに進んでいました。ところが、その場で1人の高齢女性が突然気分を悪くして倒れてしまったのです。瞬く間に場内は騒然となり、そこにいた人たちがあれこれ言い始めました。中でも年配の男性が「心臓マッサージだ!」と大きな声で叫ぶので、事態は混乱する一方。ついに「こりゃ駄目だ」と思った女房が「私は医師です」と名乗り出ました。「この方は呼吸していますから、胸骨圧迫は必要ありません」とその男性を制止します。さらに「どなたか救急車を呼んでください」と依頼しました。バイオリンの先生が通報してくれたのですが、なかなか要領を得ません。横で聞いていると、会場名の「○○会館」を告げると、救急隊から「住所を教えてほしい」と求められているようでした。先生は住所を探し出して何とか伝えたのですが、あまりにもしどろもどろだったので、女房が電話を代わりました。幸いにも話が通じ、救急車が来てくれることになりました。さらに女房は「どなたか会館の前に立って、救急隊を案内してください」と声をかけると、若い男性が名乗り出てくれました。○○会館には複数のホールがあり、大ホール、中ホール、小ホールと分かれています。そのため、誘導役が必要だったのです。そうこうしている間に、倒れた女性は徐々に意識を取り戻しました。何でも普段は△△病院にかかっているとのこと。ようやく救急隊が到着し、女性の様子を確認し始めます。妻も横で聞いていたのですが、女性は胃切除手術を受けたことがあると話していました。これを聞いた妻は「ははーん、これはダンピング症候群だな」と推測し、救急隊に「胃切除をした△△病院だったら近いしカルテもあるから、そこに搬送するのが一番スムーズだと思いますよ」と助言しました。幸いにも△△病院が応需してくれたので、救急車がそちらへ向かうことができました。ちなみに付き添い役は、女性のバイオリンの先生が引き受けてくれたそうです。後日、女房の父親がバイオリンレッスンに行った時のこと。発表会の出来事が話題に上りました。周囲から大いに称賛され、とくにその患者さんとバイオリンの先生からは深く感謝されたそうです。義父は「いやあ、娘は長らく患者さんを診ていないんですけどね」と謙遜したそうですが、後で妻から「余計なことを言わないでよ」と怒られていました。その後、私もこの件について少し調べてみました。脳外科医にとってダンピング症候群なんか無縁ですから。胃切除後に起こるダンピング症候群には、2種類あるのだとか。1つは食後30分以内に起こる早期ダンピングで、小腸に食物が急激に移動し、浸透圧の変化によって動悸や意識レベルの低下を引き起こすもの。もう1つは食後1時間以上経ってから起こる後期ダンピングで、血糖値の急激な乱高下により手の震えや意識障害を来すものです。発表会のケースでは、時間経過から見て、早期ダンピングだったのかもしれません。今回の出来事を通じて思ったのは、高齢者が集まる場では、突然の体調不良を起こす人がいるかもしれないということです。幸いにも大事には至りませんでしたが、いざという時にどう行動すべきか、われわれ医師も頭の片隅に入れておくことが重要ですね。ということで最後に1句冬の午後 いきなり倒れる 高齢者

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子育て世代の女性インターベンショナリストの活躍【臨床留学通信 from Boston】第6回

子育て世代の女性インターベンショナリストの活躍ボストンでは10月中旬から最低気温0度を切るようになり、11月にもなると車のフロントガラスが凍っている日もあります。MGHでのおおよそ5ヵ月ほどのローテーションが終わりました。11月下旬からはホリデーシーズンで、11月28日はThanksgiving、翌日はBlack Friday、翌週の月曜はCyber Mondayと呼ばれ、多くのネット通販などでセールが始まり、1年の生活必需品(子供の靴など)を買い溜めする時期でもあります。今回は米国でカテーテル治療に従事する女性インターベンショナリストについて紹介します。米国では、日本に比べて女性インターベンショナリストが多いと思われます。実際に同僚のフェローは計11人いますが、うち4人が女性です。そのうち1人はCTO(chronic total occlusion:慢性完全閉塞)治療フェローであり、1年間の通常のcoronary interventionのフェローを終えて、CTOフェローをしています。CTOでは、患者さんおよび術者へのそれなりの被曝も懸念されますが、なんと妊娠中で、果敢に複雑病変を有する患者さんの治療に当たっていました。もちろん被曝しないようにさまざまな放射線防護を駆使し、妊婦さんへの被曝モニターも行われています。Rampertと呼ばれる巨大な放射線防護の壁も使用して、被曝を最小限に抑えたりもします。臨月近くなると数時間に及ぶCTOの治療中に、時折水分補給をしたり、椅子に座ったりと辛そうではありますが、本当にすごいです。現在は無事出産して3ヵ月ほどの育児休暇を取っています。米国では専修医(フェロー)中に育児休暇を取得するのは当たり前となっています。ほかの同僚のフェローはすでに2人子供がいて、弁膜症カテーテルを担当しています。もう1人のフェローはcoronary interventionをする忙しい立場です。前年はリサーチなど時間的ゆとりのある1年だったそうで、そこで出産をしたそうです。フェローの間は、このようなリサーチワークを選択でき、また、産休・育休が最大限取得できるので、出産に向けて時間を取りやすいこともあるのでしょう。もちろん働き方だけでなく、シッターが充実しているというのも米国ならではです。ColumnAHA 2024に参加してきました。筆頭著者は筑波大学研修医の先生。日本からの参加が難しいとのことで私が代わりにポスターの前に立っておきました。AHAでの発表と同時に、Circulation誌の姉妹誌であるCirculation Cardiovascular Interventions誌に掲載されました。ぜひご覧ください。Shimoda T, Kuno T, et al. Comparison of Transcatheter versus Surgical Tricuspid Repair among Patients with Tricuspid Regurgitation: Two-Year Results. Circ Cardiovasc Interv. 2024 Nov 18. [Epub ahead of print]画像を拡大する

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ターナー症候群〔TS:Turner syndrome〕

1 疾患概要ターナー症候群(Turner syndrome:TS)は染色体の核型45,Xを基本として多彩な核型を示す表現型は女性の性染色体異常症である。X染色体の一部または全体が欠失(機能的な欠失も含む)することによって発症する。45,XのX染色体モノソミー、i(Xq)、Xp-、Yp-などの構造異常や、性染色体の関連するさまざまなモザイクがある。■ 症状表現形は女性で、基本症状としては、(1)低身長と(2)性腺異形成に伴う卵巣機能不全で、これらに加えて個々に(3)心疾患、(4)翼状頸、(5)盾状胸、(6)腎疾患などを合併することがある。上記の臨床症状があって、通常の染色体検査(G分染法)でX染色体短腕遠位部を含む染色体異常があれば、ターナー症候群と診断される。臨床症状と染色体異常の両方あることが診断に必要である。一般的に知的障害は伴わないが、学習障害や社会的スキルの発達に困難な例がみられる。発症頻度は出生女児の1,000人に1人程度とされている。原則として遺伝することはない。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)ターナー症候群の診断は、上記の身体的特徴、とくに低身長と無月経などの症状に基づいて行われる。小児期には症状が揃っていないことから、低身長で疑われることがほとんどである。小児期に原因不明の低身長を示す女性は、染色体検査の対象となる。ターナー症候群は、出生した時点で疾患自体は確定しているが、症状は出生時からみられるものと、思春期以降の年齢になるまで明らかにならないケースもあるため、診断時期が小児期を逃すと、次の診断時期は思春期で、原発性無月経を主訴に受診した際となる。思春期に原発性無月経で受診した際の診断のアルゴリズムを図に示す。図 原発性無月経の診断アルゴリズム(日本産婦人科医会 研修ノート No.106 思春期のケア(3)原発性無月経の診断2021年.より引用)画像を拡大する確定診断には染色体検査が必要である。末梢血リンパ球染色体分析が基本的な染色体検査である。通常のG分染法でよいが、複雑な構造異常がみられる場合などでは、高精度分染法などを追加する必要がある。これは卵巣形成不全が出現する思春期まで待っていては診断が遅れるからである。なお、症状が典型的なターナー症候群で、末梢血のリンパ球染色体で46,XYが検出される場合には、口腔粘膜などを用いた染色体検査で45,Xがみつかるようなケースもある。通常の染色体検査で診断困難な複雑な染色体異常では、マイクロアレイ法やFISH法、whole chromosome painting(WCP)解析などで、詳しい情報が得られることもある。また、胎児のターナー症候群は、健常な妊婦が出生前遺伝学的検査を受けた場合に、偶発的にみつかることもある。ただ、胎児がターナー症候群の核型を示す場合は高率(99%)に流産する。3 治療 (治験中・研究中のものも含む)ターナー症候群の治療は、症状や合併症に応じて個別に行われる。成長ホルモン療法は小児期の低身長の改善を目的に実施される。第二次性徴が現れないなどで思春期に入ってから診断された場合は、エストロゲン補充療法が行われる。原発性無月経の場合には妊娠は困難である。ただ、原発性無月経ではなくて、初経があれば妊娠することもあるが、流産率や胎児の染色体異常の可能性は健常女性に比較して高くなる。成人期には心臓や腎臓の合併症については、個別に早期発見と管理・治療が必要である。染色体異常にY染色体が含まれる場合は、精巣由来の性腺が含まれる可能性があり、その場合はがん化のリスクがあるため、性腺切除を考慮する。4 今後の展望近年の研究により、ターナー症候群の理解と治療が進展している。ターナー症候群の原因は完全に解明されてはいないが、X染色体の短腕の欠失部位に存在するSHOX遺伝子が関連することが報告されている。SHOX遺伝子の欠失により各細胞では同遺伝子を2コピーではなく、1コピーしか持っていない。これにより産生されるSHOXタンパク質の量が減少し、このタンパク質の不足が本症の女性によくみられる低身長と骨格の異常(手首と肘の関節の異常な回転など)の一因となる可能性がある。こうした知見に基づき、遺伝子治療や新しいホルモン療法の開発が期待されている。一方で生活の質を向上させるための支援や心理的サポートや教育支援など、患者の全体的なケアが重要視されている。本症の女性の妊娠については、わが国ではまだ一般的ではないが、海外では第三者からの卵子提供や胚提供により妊娠が可能である。また、初経があれば、早発卵巣不全となる前の段階で、卵子凍結を行って、体外受精により妊娠することも理論上は可能である。5 主たる診療科ターナー症候群の治療は、以下の診療科で行われる。小児科:子供の成長や発達を管理産婦人科:生殖機能の管理と治療内分泌科:とくに成人期以降のホルモン療法や成長管理遺伝科:遺伝カウンセリングと染色体検査循環器科:心臓の異常に対する治療腎臓内科:腎臓の異常に対する治療※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報小児慢性特定疾病情報センター ターナー(Turner)症候群(公的助成制度の情報:一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)遺伝性疾患プラス ターナー症候群(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本内分泌学会 ターナー症候群(一般利用者向けのまとまった情報)日本小児内分泌学会 低身長(一般利用者向けのまとまった情報)患者会情報club-turner.jp 全国のターナー症候群の家族会の一覧(全国に多数あるターナー症候群患者会の情報)1)岡田義昭 監修. 新版ターナー症候群. メディカルレビュー社;2001.2)Gravholt CH, et al. Nat Rev Endocrinol. 2019;15:601-614.3)Aly J, et al. Curr Opin Pediatr. 2022;34:447-460.4)日本産婦人科医会 研修ノート No.106 思春期のケア(3)原発性無月経の診断2021年.公開履歴初回2024年12月5日

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尿グラム染色でグラム陽性球菌が見えたとき何を考える?【とことん極める!腎盂腎炎】第10回

尿グラム染色でグラム陽性球菌が見えたとき何を考える?Teaching point(1)尿からグラム陽性球菌が検出されたときにどのような起因菌を想定するかを学ぶ(2)腸球菌(Enterococcus属)に対して、なぜグラム染色をすることが重要なのかを学ぶ(3)尿から黄色ブドウ球菌(S. aureus)が検出された場合は必ず菌血症からの二次的な細菌尿を考慮する(4)一歩進んだ診療をしたい人はAerococcus属についても勉強しよう《症例1》82歳女性。施設入所中で、神経因性膀胱に対し、尿道カテーテルが挿入されている方が発熱・悪寒戦慄にて救急受診となった。研修医のA先生は本連載の第1~4回(腎盂腎炎の診断)をよく勉強していたので、病歴・身体所見・血液検査・尿検査などから尿路感染症と診断した。グラム染色では白血球の貪食像を伴うグラム陽性の短レンサ球菌が多数みられた。そこから先はよく勉強していなかったA先生は、尿路感染症によく使われる(とA先生が思っている)セフトリアキソン(CTRX)を起因菌も考えず「とりあえず生ビール」のように投与した。A先生は翌朝、自信満々にプレゼンテーションしたが、なぜか指導医からこっぴどく叱られた。《症例2》65歳女性、閉経はしているがほかの基礎疾患はない。1ヵ月前に抜歯を伴う歯科治療歴あり。5日前からの発熱があり内科外来を受診。後期研修医のB先生は病歴・身体所見・血液検査・尿検査を行った。清潔操作にて導尿し採取した尿検体でグラム染色を行ったところ、グラム陽性球菌のcluster像(GPC-cluster)が確認できた。「尿路感染症の起因菌でブドウ球菌はまれって書いてあったので、これはコンタミネーションでしょう! 尿路感染症を疑う所見もないしね!」と考えたA先生は患者を帰宅させた。夕方、A先生のカルテをチェックした指導医が真っ青になって患者を呼び戻した。「え? なんかまずいことした…?」とA先生も冷や汗びっしょりになった…。はじめに尿路感染症を疑い、グラム染色を行った際に「グラム陽性球菌(GPC)」が検出された場合、もしくは細菌検査室から「GPC+」と結果が返ってきた場合、自信をもって対応できるだろうか? また危険な疾患を見逃しなく診療できるだろうか? 今回は、なかなか整理しにくい「尿からグラム陽性球菌が検出されたときの考え方」について解説する。1.尿路感染症の起因菌におけるグラム陽性球菌検出の割合は?そもそも尿路感染症におけるグラム陽性球菌にはどのような種類がいるのか、その頻度はどれくらいなのかを把握する必要がある。表11)は腎盂腎炎の起因菌を男性・女性・入院の有無で分けた表である。なお、このデータは1997〜2001年とやや古く、かつ米国の研究である。表22)にわが国における2010年のデータ(女性の膀胱炎患者)を示すが、表1のデータとほぼ同様であると考えられる。画像を拡大する画像を拡大するほかの文献も合わせて考えると、おおよそ5~20%の割合でグラム陽性球菌が検出され、Staphylococcus saprophyticus、Enterococcus faecalis、Staphylococcus aureus、Streptococcus agalactiaeなどが主な起因菌であるといえる3)。閉経後や尿道カテーテル留置中の患者の場合はどうだろうか? 閉経後に尿路感染症のリスクが上昇することはよく知られているが、その起因菌にも変化がみられる。たとえば若年女性では高齢女性と比較してS. saprophyticusの検出割合が有意に多かったと報告されている2)。また尿道カテーテル留置中の患者の尿路感染症、いわゆるCAUTI(カテーテル関連尿路感染症)においてはEnterococcus属が約15%程度と前述の報告と比較して高いことが知られている4)。グラム陽性球菌が検出されたときにまず考えるべきこと尿からグラム陽性球菌が検出された際にまず考えるべきことはコンタミネーションの存在である。これは女性の中間尿による検体の場合、とくに考慮する必要がある。過去の文献によると、女性の膀胱炎において、S. saprophyticusはコンタミネーションの可能性が低いとされる一方で、Enterococcus属やS. agalactiaeはコンタミネーションの可能性が高いとされている5)。中間尿を用いた検査結果の判断に悩む場合はカテーテル尿による再検を躊躇しない姿勢が重要である。また採取後常温で長時間放置した検体など、取り扱いが不適切な場合もコンタミネーションの原因となるため注意したい。グラム染色でこれらをどう判断する?コンタミネーションの可能性が低いと判断した場合、次に可能な範囲でグラム染色による菌種のあたりをつけておくことも重要である。以下に各菌種の臨床的特徴およびグラム染色における特徴について簡単に述べる。●Enterococcus属Enterococcus属による尿路感染症は一般的に男性の尿路感染症やCAUTIでしばしばみられる一方で、若年女性の単純性尿路感染症では前述のとおり、コンタミネーションである可能性が高いことに注意する必要がある。Enterococcus属は基本的にセフェム系抗菌薬に耐性を示す。言い換えると「グラム染色なしに『尿路感染症なのでとりあえずセフトリアキソン』と投与すると治療を失敗する可能性が高い」ということである。つまり、グラム染色が抗菌薬選択に大きく寄与する菌種ともいえる。Enterococcus属は一般的に2〜10個前後の短連鎖の形状を示すことが特徴である。また、Enterococcus属は一般的にペニシリン系抗菌薬に感受性のあるE. faecalisとペニシリン系抗菌薬への耐性が高いE. faeciumの2種類が多くを占め、治療方針を大きく左右する。一般的にE. faecalisはやや楕円形、E. faeciumでは球形であることが多く、両者を区別する一助になる(図1)。画像を拡大するまた血液培養においては落花生サイン(2つ並んだ菌体に切痕が存在し、あたかも落花生のように見える所見)が鑑別に有用という報告もあるが6)、条件のよい血液培養と異なり、尿検体ではその特徴がハッキリ現れない場合も多い(図2)。画像を拡大する●Staphylococcus属Staphylococcus属は前述のとおり、S. saprophyticusとS. aureusが主な菌種である。S. saprophyticusは若年女性のUTIの原因として代表的であるが、時に施設入所中の高齢男性・尿道カテーテル留置中の高齢男性にもみられる。一方で、S. aureusが尿路感染症の起因菌となる可能性は低く、前述の表1などからも全体の約1〜2%程度であることがわかる。またその多くは妊娠中の女性や尿道カテーテル留置中の患者である。ただし、S. aureus菌血症患者で、尿路感染症ではないにもかかわらず尿からS. aureusが検出されることがある7)。したがって、尿からS. aureusが検出された場合は感染性心内膜炎を含む尿路以外でのS. aureus感染症・菌血症の検索が必要になることもある。Staphylococcus属はグラム染色でcluster状のグラム陽性球菌が確認できるが、S. saprophyticusの同定にはノボビオシン感受性テストを用いることが多く、グラム染色だけでS. saprophyticusとS. aureusを区別することは困難である。●Streptococcus属Streptococcus属ではS. agalactiae(GBS)が尿路感染症における主要な菌である。一般的に頻度は低いが、妊婦・施設入所中の高齢者・免疫抑制患者・泌尿器系の異常を有する患者などでみられることがあり、またこれらの患者では感染症が重篤化しやすいため注意が必要である。グラム染色ではEnterococcus属と比較して長い連鎖を呈することが多い。●Aerococcus属前述の頻度の高い起因菌としては提示されていなかったが、Aerococcus属による尿路感染症は解釈や治療に注意が必要であるため、ここで述べておく。Aerococcus属は通常の検査のみではしばしばGranulicatella属(いわゆるViridans streptococci)と誤認され、常在菌として処理されてしまうことがある。主に高齢者の尿路感染症の起因菌となるが、スルホンアミド系抗菌薬に対して耐性をもつことが多く、Aerococcus属と認識できずST合剤などで治療を行った場合、重篤化してしまう可能性が指摘されている8)。グラム染色では球菌が4つくっついて四角形(四量体)を形成するのが特徴的だが、Staphylococcus属のようにクラスター状に集族することもある。《症例1》のその後また別の日。過去に尿路感染症の既往があり、施設入所中・尿道カテーテル挿入中の80歳女性が発熱で救急搬送された。A先生は病歴・身体所見・検査所見から尿路感染症の可能性が高いと判断した。また、尿のグラム染色からは白血球の貪食像を伴うグラム陽性の短レンサ球菌が多数みられた。1つ1つの球菌は楕円形に見えた。過去の尿培養からもE. faecalisが検出されており、今回もE. faecalisによる尿路感染症が疑われた。全身状態は安定していたため、治療失敗時のescalationを念頭に置きながら、E. faecalisの可能性を考慮しアンピシリンで治療を開始した。その後、患者の状態は速やかに改善した。《症例2》のその後指導医から電話を受けた患者が再来院した。追加検査を行うと、経胸壁エコーでもわかる疣贅が存在した。幸いなことに現時点で弁破壊はほとんどなく、心不全徴候も存在しなかった。黄色ブドウ球菌による感染性心内膜炎が疑われ、速やかに血液培養・抗菌薬投与を実施のうえ、入院となった。冷や汗びっしょりだったA先生も、患者に大きな不利益がなかったことに少し安堵した。おわりに尿グラム染色、あるいは培養検査でグラム陽性球菌が検出された場合の対応について再度まとめておく。尿路感染症におけるグラム陽性球菌ではS. saprophyticus、E. faecalis、S. aureus、S. agalactiaeなどが代表的である。グラム陽性球菌が検出された場合、S. saprophyticus属以外はまずコンタミネーションの可能性を考慮する。コンタミネーションの可能性が低いと判断した場合、Enterococcus属やStreptococcus属のような連鎖状の球菌なのか、Staphylococcus属のようなクラスター状の球菌なのかを判断する。また四量体の球菌をみつけた場合はAerococcus属の可能性を考慮する。また、S. aureusの場合、菌血症由来の可能性があり、感染性心内膜炎をはじめとしたほかの感染源の検索を行うこともある。<謝辞>グラム染色画像は大阪市立総合医療センター笠松 悠先生・麻岡 大裕先生よりご提供いただきました。また、笠松先生には本項執筆に際して数々のご助言をいただきました。この場を借りて厚くお礼申し上げます。1)Czaja CA, et al. Clin Infect Dis. 2007;45:273-280.2)Hayami H, et al. J Infect Chemother. 2013;19:393-403.3)Japanese Association for Infectious Disease/Japanese Society of Chemotherapy, et al. J Infect Chemother. 2017;23:733-751.4)Shuman EK, Chenoweth CE. Crit Care Med. 2010;38:S373-S379.5)Hooton TM et al. N Engl J Med. 2013;369:1883-1891.6)林 俊誠 ほか. 感染症誌. 2019;93:306-311.7)Asgeirsson H, et al. J Infect. 2012;64:41-46.8)Zhang Q, et al. J Clin Microbiol. 2000;38:1703-1705.

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第125回 ボーナス大幅減!看護師「新人がどんどん辞めていく」

ボーナス大幅減先日、とある看護系の研究会でお話をさせていただきました。盛り上がったのは、看護師の新人がどんどん辞めていくという現象です。急性期や大規模な医療機関ほど、入ってきて数年で辞めてしまう人が多いようで、看護師もキツイ現場を選ばないという方向へ働き方が改革されているように感じます。11月27日に日本医療労働組合連合会が会見を開き、医療職・介護職の今年冬のボーナスに関する調査の結果を公表しました1)。全国の医療機関・介護施設でのボーナスの大幅引き下げ回答が続出し、ザワついています。最前線でケアに当たる職種ほど、大幅引き下げのインパクトは大きく、当該研究会でも不満が爆発していました。記者会見の内容としては、医療職・介護職の今年冬のボーナスは200組合の平均で42万8,164円ですが、実は昨年と比べて9万8,884円少なくなっており、最大平均26万円超の減額になる組合もあるとのこと。実に4割超の医療機関・介護施設でボーナスの減額が行われています。診療報酬・介護報酬が低すぎるベア(賃上げ)についても、全労連・国民春闘共闘のベア平均額は1万円を超えているのですが、実は日本医療労働組合連合会加盟の労働組合のベア平均額は8,000円余りで、見栄えがよくありません。しかも、コロナ禍以降、急性期を去っていく医療従事者も少なくなく、1人1人の相対的な業務量は増えている状況で、現場が持たないという声も耳にします。急性期病院でケアしているある看護師は、「たとえるなら、ファミレスで満席の状態で、3人で回しているような感じ。呼ばれても、洗い物や料理しているから、なかなか患者さんのところに行けないです」と言っていました。職員の給与に回すための、診療報酬・介護報酬があまりにも低過ぎるので、赤字で倒産する病院も出てきているありさまです。だましだまし、あと何十年かは持つと思いますが、「これやべぇぞ!」と政府が腰を上げたときには、誰も現場に残っておらず、後進も育っていないという焼野原状態もワンチャンありそうです。「新人が入職しても、1~2年でスキルを身に付けるとすぐ辞めてしまう」という声も聞かれました。ある看護師は「やりがいが低賃金で燃やされてしまう」と話し、働き続けることが難しい現状を嘆いていました。研究会の最後に聞かれた「今のうちに逃げる準備をしておかないといけませんね」という発言には、もはや取り返しのつかない状況にあるのではという危機感がにじんでいました。この問題の根底には、国全体のお金の流れや少子高齢化といった構造的な問題があります。医療・介護分野への予算配分を見直し、現場で働く人々が「やりがい」を持ちながら長く働ける環境を整備する必要があります。しかし、そのためには国としての覚悟と抜本的な政策転換が不可欠です。このままでは、「政府が本腰を入れたときにはすでに現場が焼け野原」という最悪のシナリオも否定できません。私たち一人ひとりがこの問題に目を向け、声を上げていく必要があるのではないでしょうか。参考文献・参考サイト1)介護ニュースJoint. 看護職・介護職らの冬のボーナスが大幅減に 4割超の組合が引き下げ=日本医労連(2024年11月27日)

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便失禁を起こしやすい患者とは?便失禁診療ガイドライン改訂

 日本大腸肛門病学会が編集を手掛けた『便失禁診療ガイドライン2024年版改訂第2版』が2024年10月31日に発刊された。2017年に発刊された初版から7年ぶりの改訂となる。今回、便失禁の定義や病態、診断・評価法、初期治療から専門的治療に至るまでの基本的知識がアップデートされ、新たに失禁関連皮膚炎や出産後患者に関する記載が拡充された。また、治療法選択や専門施設との連携のタイミングなど、判断に迷うテーマについてはClinical Question(CQ)で推奨を示し、すべての医療職にとっての指針となるように作成されている。 便失禁の定義とは「無意識または自分の意思に反して肛門から便が漏れる症状」である。このほかに「無意識または自分の意思に反して肛門からガスが漏れる症状」をガス失禁、便失禁とガス失禁を合わせて肛門失禁と定義される。国内での有病率について、65歳以上での便失禁は男性8.7%、女性6.6%である。一方、ガス失禁を含む肛門失禁は34.4%であるが、男性15.5%に対して女性42.7%と性差が見られる。主な便失禁の発症リスク因子として、年齢・性別などの身体的条件や産科的条件に加え、BMIが30を超える肥満、全身状態不良、身体制約などが報告されている。また、過敏性腸症候群や炎症性腸疾患、糖尿病、過活動膀胱、骨盤臓器脱、認知症や脊髄損傷といった疾患もリスク因子となる。直腸がんも便失禁の原因になりうるが、とくに直腸がんに対する肛門温存手術後の排便障害である低位前方切除後症候群の発生率は高率で、主訴の直腸がんが根治した後に排便障害を抱えて生活している患者は増加傾向であるという。 このような病態背景があるなか、本診療ガイドラインは「便失禁診療・ケアを普及することで、便失禁症状を改善し、便失禁を有する患者の生活の質の改善」を目的として、便失禁の診断・治療とともに便失禁の程度とその状態の評価、便失禁に伴う皮膚症状や生活の質への評価と対応、寝たきりとなっている患者への介護などの側面からも捉え、8つの重要臨床課題と5つのClinical Question(CQ)が設定されている。<重要臨床課題>(1)便失禁の臨床評価(2)特殊病態の臨床評価(3)治療方針決定に必要な検査(4)食事・生活・排便習慣指導の有用性(5)薬物療法の適応と有用性(6)骨盤底筋訓練・バイオフィードバック療法の適応と有用性(7)洗腸療法の適応と有用性(8)手術療法の適応と有用性<Clinical Question>CQ1:便失禁の薬物療法において、ポリカルボフィルカルシウムとロペラミド塩酸塩はどのように使い分けるか?CQ2:出産後に便失禁が発症した場合、専門施設への最適な紹介時期はいつか?CQ3:分娩時肛門括約筋損傷の既往を有する妊婦の出産方法として、経腟分娩と帝王切開のどちらが推奨されるか?CQ4:肛門括約筋断裂による便失禁に対して、肛門括約筋形成術と仙骨神経刺激療法のどちらを先行すべきか?CQ5:脊髄障害を原因とする便失禁の治療法として、仙骨神経刺激療法は有用か? なお、日本大腸肛門病学会は本ガイドラインの使用について、便失禁を診療する医師だけではなくケアを行う介護者や一般市民も想定しており、便失禁診療の一助となることを願っているという。

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うつ病に対する認知行動療法、クレアチン補助療法が有用

 前臨床および臨床研究によると、手頃な価格で入手可能な栄養補助食品クレアチン一水和物は、従来の抗うつ薬治療において有用な補助療法となりうる可能性がある。英国・グラスゴー・カレドニアン大学のNima Norbu Sherpa氏らは、うつ病に対する認知行動療法(CBT)に加え、クレアチンまたはプラセボを8週間投与した場合の有効性を比較するため、二重盲検ランダム化プラセボ対照パイロット試験を実施した。European Neuropsychopharmacology誌2025年1月号の報告。 うつ病患者100例を対象に、クレアチン+CBT群50例またはプラセボ+CBT群50例にランダムに割り付けた。主要な有効性アウトカムは、こころとからだの質問票(PHQ-9)スコアの変化とし、混合モデル反復測定共分散分析を用いて評価した。許容性(すべての原因による治療中止)、忍容性(有害事象による治療中止)、安全性(有害事象が認められた患者数)の評価には、ロジスティック回帰を用いた。年齢、性別、ベースライン時のうつ病スコアにより調整したエフェクトサイズを算出した。 主な結果は以下のとおり。・対象患者100例の平均PHQ-9スコアは17.6±6.3、女性は50例、平均年齢は30.4±7.4歳。・治療8週間後、PHQ-9スコアは両群ともに低下していたが、クレアチン+CBT群のほうが有意な低下が認められた(平均差:−5.12)。・すべての原因および有害事象による治療中止、有害事象が認められた患者の割合は、両群間で同等であった。 著者らは「本試験では、クレアチンは、うつ病患者に対するCBTの補助療法として有効かつ安全であることが示唆された」とし、「今後、より長期かつ大規模な臨床試験が必要とされる」としている。

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化膿性汗腺炎への適応が追加されたビメキズマブ、その特徴は?/UCB

 ユーシービージャパンは、ヒト化抗ヒトIL-17A/IL-17Fモノクローナル抗体ビメキズマブ(商品名:ビンゼレックス)について、2024年11月26日に化膿性汗腺炎(HS)の適応追加に関するメディアセミナーを行った。同薬剤は、9月24日にHSに対する適応追加の承認を取得している。セミナーでは、藤田 英樹氏(日本大学医学部皮膚科学系皮膚科学分野)がHSの病態とビメキズマブの概要について講演を行った。隠れているところにできる悩ましい疾患 HSは、痛みを伴う慢性的かつ再発性の炎症性皮膚免疫疾患だ。腋窩や臀部、鼠径部、肛門周囲、乳房下部などの間擦部に好発し1)、しばしば炎症性の結節が生じ、膿瘍形成に進行、さらに毛包が破裂して排膿を伴う瘻孔を形成して、その後瘢痕化することがある2)。HSは痛みや瘢痕により、患者のQOLを損ないやすい疾患といえる。 HSに適応がある生物学的製剤としては、2019年2月に適応追加されたヒト型抗ヒトTNFαモノクローナル抗体のアダリムマブがある。アダリムマブのターゲットであるTNFαはさまざまな細胞から分泌されるが、ビメキズマブのターゲットであるIL-17A/IL-17Fは主にT細胞から分泌される。藤田氏は「既存の薬剤とターゲットが異なるビメキズマブが治療の選択肢に加わることは治療上良いこと」としたうえで、「使い分けは専門家でも非常に難しく、区別する検査や方法がないのが現状だ」と課題を述べた。 今回の承認は、中等症~重症の化膿性汗腺炎患者を対象に、ビメキズマブの有効性と安全性を評価した2つの第III相試験、BE HEARD I試験および日本も参加したBE HEARD II試験に基づいている。 BE HEARD II試験の主要評価項目である、HSに対する治療効果の評価指標HiSCR50の達成率(16週時点)は、プラセボ群の32.2%に対しビメキズマブ320mg Q4W群53.8%、同320mg Q2W群52.0%であり、ビメキズマブ群のいずれもプラセボ群と比較して統計学的に有意な改善を示した(ビメキズマブ320mg Q4W群:p=0.004、同320mg Q2W群:p=0.003)。また、より厳格な指標であるHiSCR75の達成率(16週時点)においても、ビメキズマブ群はプラセボ群を上回る結果を示した。両試験における安全性のプロファイルは過去の乾癬などに対する臨床試験のデータと一致しており、新たな安全性シグナルは認められなかった。疾患の認知度向上が課題 最後に、HS患者の奥村 幸代氏が登壇し、自身の経験について述べた。奥村氏はHSが発症してから診断を受けるまで年単位の時間がかかり、計10ヵ所以上の膿瘍摘出術を受けながら、いまだ症状が落ち着かない現状だという。疾患の情報が不足していることや患者会がなく患者間の情報共有が容易ではないこと、指定難病ではないことからの金銭的な負担を訴えた。今後については「HSの認知度が上がることで、医療へのアクセスが改善されることを期待している」と述べた。

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世界の糖尿病罹患率、日本の女性が低下し世界最低群に/Lancet

 英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのBin Zhou氏らNCD Risk Factor Collaboration(NCD-RisC)は、200の国と地域における1990~2022年の糖尿病の罹患率と治療動向を調べ、ほとんどの国、とくに低所得国と中所得国では、罹患率の上昇に比べて糖尿病治療率(糖尿病治療薬を使用している患者の割合)はまったく増えていないか、十分には増えていないことを示した。糖尿病はプライマリケアレベルでの検出が可能で、また効果的な治療により合併症リスクを低減できるが、糖尿病治療の実態と、それがどのように変化しているのかについて十分なデータはなかった。Lancet誌2024年11月23日号掲載の報告。18歳以上1億4,100万例が参加した試験1,108件のデータを解析 対象は、18歳以上の空腹時血糖値(FPG)、糖化ヘモグロビン(HbA1c)、糖尿病治療に関する情報が収集された1億4,100万例であった。国・地域を代表する集団を対象に含む研究(population-representative study)1,108件のデータを用いて行われた。 「糖尿病」の定義は、FPGが7.0mmol/L以上、HbA1cが6.5%以上、または糖尿病治療薬を服用していることとし、「糖尿病治療」の定義は、糖尿病の治療薬を使用している糖尿病患者の割合とした。 ベイジアン階層メタ回帰モデルによりデータを解析し、糖尿病の罹患率と治療率を推算。結果報告では、それらの変化の事後確率が0.80超であった国の数を示した。罹患率は低所得国と中所得国で15~22%ポイント上昇 2022年において、推定8億2,800万例(95%信用区間[CrI]:7億5,700万~9億800万)の成人(18歳以上)が糖尿病を有しており、1990年から6億3,000万例(5億5,400万~7億1,300万)増加した。年齢標準化糖尿病罹患率は、女性13.9%(95%CrI:12.3~15.8)、男性14.3%(12.5~16.4)であった。 1990~2022年に年齢標準化糖尿病罹患率が上昇(事後確率0.80超)したのは、女性については131ヵ国、男性については155ヵ国であった。うち、最も上昇幅が大きかった(15~22%ポイント)のは東南アジア諸国(マレーシアなど)、南アジア諸国(パキスタンなど)、中東および北アフリカ諸国(エジプトなど)、中南米・カリブ海諸国(ジャマイカ、トリニダード・トバゴ、コスタリカなど)の低所得国および中所得国であった。 年齢標準化糖尿病罹患率が上昇または低下のいずれもみられなかったのは、女性では66ヵ国、男性では44ヵ国であった。そのほとんどは中央・西ヨーロッパ諸国(デンマーク、オランダなど)、サハラ以南のアフリカ諸国(エチオピア、マラウイなど)、東アジア・太平洋諸国(シンガポールなど)、カナダ、および1990年にすでに罹患率が高かったポリネシア諸国やミクロネシア諸国の多数の島しょ国であった。日本の罹患率は女性のみ低下がみられ、2022年は世界の最低群に位置 低下(事後確率0.80超)がみられたのは、日本(女性のみ)、スペイン、フランスで、1~2%ポイントの低下であった。また、ナウル(男性)は1990年に30.7%ポイントと高かったが、7%ポイント低下していた。 2022年の糖尿病罹患率が世界で最も低かったのは、西ヨーロッパ諸国と東アフリカ諸国の男女、日本およびカナダの女性であった。一方、最も高かった国は、ポリネシア諸国、ミクロネシア諸国、カリブ海諸国(トリニダード・トバゴ、ジャマイカなど)、中東および北アフリカ諸国(エジプトなど)、パキスタン、マレーシアであった。治療率は世界の30歳以上糖尿病患者の59%が未治療 2022年において、糖尿病成人患者(30歳以上)の59%に当たる4億4,500万例(95%CrI:4億100万~4億9,600万)が治療を受けていなかった。未治療者数は1990年の3.5倍に当たる。 1990~2022年に、糖尿病治療率が上昇(事後確率0.80超)したのは、女性については118ヵ国、男性については98ヵ国であった。うち、最も治療率が改善したのは、中央・西ヨーロッパ諸国、中南米諸国(メキシコ、コロンビア、チリ、コスタリカ)、カナダ、韓国、ロシア、セーシェル、ヨルダンであった。一方、サハラ以南のアフリカ諸国、カリブ海諸国、太平洋諸島国、南・南東・中央アジア諸国のほとんどの国では、治療率の上昇はみられなかった。 2022年において、年齢標準化治療率はサハラ以南のアフリカ諸国と南アジア諸国で最も低く、一部のアフリカ諸国の治療率は10%未満であった。一方、韓国、多くの高所得の西側諸国と中央・東ヨーロッパ諸国の一部(ポーランド、チェコ、ロシアなど)、中南米諸国(コスタリカ、チリ、メキシコなど)、中東・北アフリカ諸国(ヨルダン、カタール、クウェートなど)の治療率は55%以上であった。 これらの結果を踏まえて著者は、「糖尿病および未治療の糖尿病による負荷は、低所得国と中所得国でますます重くなっている。糖尿病の早期発見と効果的な治療を強化するための医療サービスを再編・供給する糖尿病プログラムと共に、健康保険制度およびプライマリヘルスケアの拡充を図るべきである」と述べている。

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慢性硬膜下血腫、補助的中硬膜動脈塞栓術は有益か/NEJM

 症候性の慢性硬膜下血腫患者において、補助的中硬膜動脈塞栓術と標準治療の併用は標準治療単独と比べて治療失敗リスクを低下させ、短期的には後遺症を伴う脳卒中や死亡の発生の増加には至らなかった。米国・Stony Brook MedicineのDavid Fiorella氏らSTEM Investigatorsが、国際多施設共同非盲検無作為化比較試験「STEM試験」の結果を報告した。慢性硬膜下血腫の治療を受けている患者は治療失敗のリスクが高い。同患者集団における補助的中硬膜動脈塞栓術の、治療失敗のリスクへの影響は明らかになっていなかった。NEJM誌オンライン版2024年11月20日号掲載の報告。標準治療+中硬膜動脈塞栓術vs.標準治療単独を評価 STEM試験では、画像診断で10mm超の症候性慢性の硬膜下血腫を認める患者を試験対象の適格とし、標準治療の補助として中硬膜動脈塞栓術を受ける群(塞栓術群)または標準治療単独を受ける群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。無作為化の前に、各患者に対して外科的または非外科的な標準治療のいずれかを受けることが選択されていた。 有効性に関する主要エンドポイントは、(1)180日時点の慢性硬膜下血腫の再発または残存(>10mm)、(2)180日以内の再手術または手術による救命処置、(3)180日以内の重大な障害を伴う脳卒中、心筋梗塞またはあらゆる神経学的要因による死亡の複合とした。 安全性に関する主要エンドポイントは、30日以内の重大な障害を伴う脳卒中または全死因死亡の複合であった。主要アウトカムのイベント発生のオッズ比0.36 2020年11月~2023年5月に32の試験参加施設で310例の患者が登録され、塞栓術群に149例、対照群に161例が無作為に割り付けられた。外科的標準治療を受けたのは189例、非外科的標準治療を受けたのは121例であった。患者の平均年齢は73歳、70%が男性であった。 主要有効性解析において、主要アウトカムのイベントは塞栓術群で19/120例(16%)、対照群で47/129例(36%)に発生した(オッズ比:0.36、95%信頼区間:0.20~0.66、p=0.001)。 主要安全性解析において、30日以内の重大な障害を伴う脳卒中または全死因死亡の発生は、塞栓術群4/144例(3%)、対照群5/166例(3%)であった。180日間における全死因死亡は、塞栓術群12例(8%)、対照群9例(5%)であり、神経学的要因による死亡は塞栓術群1例(1%)、対照群3例(2%)であった。 これらの結果を踏まえて著者は、「さらなる試験を行い、硬膜下血腫の治療における中硬膜動脈塞栓術の安全性を評価すべきであろう」と述べている。

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