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術前化学療法(分子標的薬併用を含む)は早期乳がんに対する標準治療として確立している。HER2陽性乳がんやトリプルネガティブ乳がんでは、術前化学療法で病理学的完全奏効(pCR)が得られた場合は再発のリスクが下がることが知られているが、得られなかった場合(non-pCR)の再発リスクが高いことがunmet medical needsとして認識されてきた。そのため、non-pCRに対する術後治療に対するエビデンスがここ10年で蓄積し、また現在も開発されている。 トラスツズマブ併用術前化学療法を受けたHER2陽性早期乳がんで、手術病理でnon-pCRであった症例を対象としてT-DM1の有効性を示した試験がKATHERINE試験である。2019年にNEJM誌に報告され(von Minckwitz G, et al. N Engl J Med. 2019;380:617-628.)、日本国内でも2020年に適応拡大されている。KATHERINE試験は、タキサンならびにトラスツズマブを含む術前化学療法を受け、乳房または腋窩リンパ節に浸潤がんが遺残していたHER2陽性乳がんに対し、術後治療として当時の標準療法であるトラスツズマブ単剤とT-DM1を比較した試験である。ホルモン受容体陽性の場合はホルモン療法が併用された。 今回、KATHERINE試験の長期フォローアップの結果がNEJM誌に発表された(Geyer CE Jr, et al. N Engl J Med. 2025;392:249-257.)。追跡期間中央値8.4年で、主要評価項目である無浸潤疾患生存(iDFS)はハザード比(HR)0.54(95%CI:0.44~0.66)とT-DM1群で有意に良好であった。イベントはT-DM1群で19.7%、トラスツズマブ群で32.2%に発生し、7年iDFS率はT-DM1群80.8%、トラスツズマブ群67.1%であった。副次評価項目の全生存(OS)のHRは0.66(95%CI:0.51~0.87、p=0.003)とT-DM1群で統計学的有意に良好であった。 Non-pCRに対する術後T-DM1はすでに実臨床で用いられている確立した標準治療である。実臨床の根拠を強くする結果であるといえよう。KATHERINE試験の解釈で注意が必要なのは、本試験ではペルツズマブが使用されていないことである。HER2陽性早期乳がんにおけるペルツズマブは、pCRの改善を目的とした術前化学療法では標準的に併用され、また術後治療における標準治療ともなっている(von Minckwitz G, et al. N Engl J Med. 2017;377:122-131.)。術後抗HER2療法を実施する場合は、トラスツズマブ単剤が選択されるケースは多くはない。転移乳がんにおけるT-DM1療法の効果は、ペルツズマブ治療歴があると弱まることが知られている(Dzimitrowicz H, et al. J Clin Oncol. 2016;34:3511-3517.、Noda-Narita S, et al. Breast Cancer. 2019;26:492-498.)。このことが術後治療におけるT-DM1の価値に直接影響するわけではないが、エビデンスの解釈の際には意識する必要がある。