サイト内検索|page:685

検索結果 合計:35184件 表示位置:13681 - 13700

13681.

「緩和ケア」について、全医療者が知っておいたほうがいい理由【非専門医のための緩和ケアTips】第1回

第1回 「緩和ケア」について、全医療者が知っておいたほうがいい理由はじめまして。飯塚病院 連携医療・緩和ケア科の柏木 秀行と申します。初回なのでちょっとだけ自己紹介をしておくと、初期研修を終えた後、総合診療科で後期研修を行い、その後ずっと緩和ケアの仕事を中心に活動してきました。現在は、緩和ケア領域の診療と併せて、部門の運営や教育、学会関連の活動もしています。この原稿を書いている時点で39歳、もうすぐ医師になって15年目になろうというところです。最近でこそ、緩和ケア領域に若手の医師が増えてきましたが、私が緩和ケアの道に進んだころは、まだまだマイナーなキャリアでした。なぜこんなキャリアになったのか、というのは、いろいろなきっかけがあったのですが、それはまた機会があればお話ししましょう。さて、今回から始まったこの連載ですが、「非専門医のための緩和ケアTips」というタイトル。「緩和ケア!? うちは普通のクリニックだぞ!」と思った方も多いと思います。「高齢多死社会」なんて言葉は、きのこ農家であるうちの親でも知っている時代になりました。そうなると、当面は治癒が困難な病気と共にある方や、亡くなる方が増えていきます。つまり、社会全体の緩和ケアニーズが増えていくのですね。そんな今の時代を共に生きる皆さまからいただいた、緩和ケアに関連する質問に対し、明日の臨床に役立つ「緩和ケアTips」を提供していけたらと思います。今日の質問緩和ケアって終末期のがん患者へのケアですよね? そういう患者は緩和ケア病棟に紹介すればよいのではないでしょうか? 当院は入院病床を持っていないので、緩和ケアの実践は難しいと思います…。確かに、日本の緩和ケアの制度は、診療報酬上の対象を「悪性疾患」として整備されてきた経緯があります。そのため、がん拠点病院を中心として緩和ケアの提供体制が整備された背景があるのです。しかし、時代は変わり、これからは医療者であれば誰もが基本的な緩和ケアを提供する必要があります。なぜならば、がん以外の疾患も含め、緩和ケアをしっかり提供していきましょう、という世の中になるからです。そうなると、かかりつけ医機能や訪問診療に取り組んだり、診療所でも緩和ケアに取り組んだりしなければなりません。緩和ケアは、緩和ケア病棟でのみ提供されるものではないのです!それでは、どうすればいいのでしょう?「現状でさえ忙しいのに、何か新しいことを取り組むなんて、とても無理!」なんて声も聞こえてきそうです。もしかしたら、「緩和ケアって患者の話を1時間とか聞くやつでしょ? 外来の合間にやるなんてとても無理ですよ」なんて感じている方もいるかもしれません。そうなんです、緩和ケアの大切さを100回唱えるだけでは何も解決はせず、医療現場でどうやって緩和ケアを実践するか、というところに目を向け、試行錯誤することが重要なのです。だって、われわれが診療する現場は、必ずしも緩和ケアを実践しやすい環境ばかりではないはずです。それでも、「必要な方に緩和ケアを提供していく、気軽に活用できるコツを共有したい!」、そんなテーマで書きつづっていくつもりです。残念ながら、「日本中どこでも通用する、共通した緩和ケアの提供モデル」なんて、すてきなものがあるわけではありません。それぞれの状況に最適化された提供モデルを、考え続けることが大切なのだと思います。私自身がもがいてきたこと、そして現在も取り組んでいる中で見えてきたことを順次お伝えしていけたらと思っています。それでは、今後ともよろしくお願いします。今回のTips

13682.

第53回 臨床実習制限や生活困窮…コロナ禍がもたらす医学生への試練

大学医学部の学生自治組織でつくる全日本医学生自治会連合(医学連)は、新型コロナウイルス感染症の流行が医学生の生活や教育に及ぼす影響についてのアンケート調査をまとめた。それによると、国や大学による学生への経済的支援については、8割超の学生が受給できなかったり、実習では患者と直接触れ合う経験ができなかったりするなど、さまざまな影響が出ていることがわかった。アンケートは2020年8〜9月と同年12月の2回、インターネットで実施。1回目の調査結果は同年10月に速報で公開。2回目の調査結果は1回目の結果を踏まえつつ、この4月1日に最終報告書として公開した。2回目の回答総数は1,437件で、国公立大生が88.1%、私立大生が11.9%。また、アパートなどでの一人暮らしは77.4%だった。経済状況に関しては、「かなり良い」「まあまあ良い」という回答が36.3%だった一方、「少し悪い」「かなり悪い」は21.0%あり、医学生の5人に1人が経済的に苦しい現状であることが明らかになった。アルバイトの有無はほぼ半数に分かれたが、アルバイトをしていない学生のうち、大学やアルバイト先の制限で経済的不安を抱える学生が3人に1人以上いることがわかった。国や学生による学生への経済的な支援については、81.1%の学生が「受給しなかった・できなかった」と答えた。そのうち26.5%が「受給したかったが、要件に当てはまらず、申請できなかった」と回答。「受給したかったが、手順が複雑で申請しなかった」「支援も存在を知らなかった」も合わせると、4割以上の学生に必要な支援が届いていなかった。一方、受給した学生でも31.8%が「不十分だった」と答えた。臨床実習に関しては、「履修した」と答えた学生296人を調査対象とし、「病棟で、全面的あるいは制限付きで実習が再開している」と答えたのは225人(76%)であった。これら225人の学生に病棟実習で経験できなくなっていることを聞いたところ(複数回答)、「患者さんへの診察」(137人)を挙げる人が最も多く、次いで「回診」「外来見学」といった患者と直接触れ合う可能性あるものや、「大学病院外での実習」といった大学外の人と接触する可能性のあるものが挙げられた。一方、先述した296人の中には、病棟での実習が「再開しておらず、オンライン等で代替されている」と答えた学生も15.5%いた。就職活動の有無について、「活動中あるいは1年以内に予定している」という回答が23.9%、「就職活動は終了した」が14.0%いた。このうち「活動中あるいは1年以内に予定している」と回答した学生に対しては、さらに具体的な分析が行われた。それによると、県外移動に「制限がある」という回答者は89.9%おり、そのうち7割以上が「就職活動に支障がある(と予想される)」と回答。県外移動制限を受けている学生の多くが就職活動に支障が出ることを懸念していた。また、医師臨床研修マッチングに関する情報提供や病院見学などの機会について、十分かどうか5段階評価(1:不十分〜5:十分だ)で質問したところ、70.1%の学生が「1」「2」と回答した一方、「4」「5」と回答した学生はわずか5.2%。就職情報と病院見学機会の不足が浮上した。医学連は調査結果を踏まえ、以下の提言を発表している。(1)お金の心配なく学べる大学へ(2)感染対策の中でも最大限、学修機会の保障を(3)就職先の選択肢を狭めない、柔軟な対応を(4)学生の活動・交流の場を確保しよう(5)孤立を防ぎ、こころの健康を守ろう医学連は「困難ゆえに対話を諦めるのではなく、学生と大学が双方の意見を理解しようと努力し、解決に向かって話し合いを重ねることこそが重要」と述べる。コロナ禍は、現役医師たちにとって未曾有の試練となっているが、医学生たちにとっても大きな障壁になっている。これからの医療を担う人たちの希望や意志を挫くことなく、診療現場に仲間として迎え入れられる日が来るよう、サポートが望まれる。

13683.

発症後2日でウイルス排出量ピーク、新型コロナ治療が困難な理由を解明

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を巡っては、病態の多様性もさることながら、いまだウイルス自体の全容が明らかになっていない。そんな中、九州大学大学院理学研究員の岩見 真吾氏らの研究グループは、米国インディアナ大学公衆衛生大学院の江島 啓介氏らとの共同研究により、SARS-CoV-2を特徴付ける感染動態の1つとして、生体内におけるウイルス排出量のピーク到達日数が既知のコロナウイルス感染症よりも早く、この特徴がゆえに、発症後の抗ウイルス薬による治療効果が限定的になっていることがわかった。研究結果は、PLOS Biology誌2021年3月22日号に掲載された。新型コロナのウイルス排出量のピークは発症から平均2.0日程度 研究グループは、新型コロナウイルス感染症に加えて、過去に流行した中東呼吸器症候群(MERS)および重症急性呼吸器症候群(SARS)の臨床試験データを分析。症例間の不均一性を考慮した上で、生体内でのウイルス感染動態を記述する数理モデルを用いて解析した。その結果、新型コロナウイルス感染症におけるウイルス排出量のピーク到達日数が発症から平均2.0日程度であり、MERS(12.2日)やSARS(7.2日)と比べ、かなり早期にピークに達することがわかった。 さらに、本研究で開発したコンピューターシミュレーションによる分析から、投与するウイルス複製阻害薬やウイルス侵入阻害薬が強力であったとしても、ピーク後に治療を開始した場合では、ウイルス排出量を減少させる効果はきわめて限定的であることも示唆された。 本結果は、新型コロナウイルス感染症に対する抗ウイルス薬治療が、ほかのコロナウイルス感染症と比べて困難である理由の1つを明らかにするものである。著者らは、「今回の研究は、新型コロナウイルス感染症を含む症例データを数理科学の力で分析することで、コロナウイルスのさまざまな感染動態を特徴付け、治療戦略を開発するうえで重要な定量的知見である」と述べている。なお、本研究で得られた知見に基づいた医師主導治験が、現在国内で進行中である。

13684.

不妊症女性のうつ病有病率~メタ解析

 不妊症に悩む女性におけるうつ病などのメンタルヘルスの問題は、男性よりも深刻な健康上の問題である。うつ病は、個人の健康に悪影響を及ぼし、生活の質を低下させる可能性がある疾患である。イラン・Shahid Beheshti University of Medical SciencesのZahra Kiani氏らは、不妊症の治療反応に対するうつ病の影響を考慮したうえでシステマティックレビューおよびメタ解析を実施し、不妊症女性におけるうつ病有病率を調査した。Fertility Research and Practice誌2021年3月4日号の報告。 各種データベースより、2000年から2020年4月5日までに公表された文献を、独立した2人のレビュアーが検索した。検索キーワードには、うつ病、障害、不妊症、有病率、疫学などを用い、ペルシャ語および英語で検索した。文献のタイトル、アブストラクト、フルテキストを評価した。レビュアーは、Newcastle-Ottawa Scaleを用いてエビデンスの質を評価した後、STATA version 14を用いて調査結果を分析した。不均一性および出版バイアスの評価には、I2およびEgger's検定を用いた。 主な結果は以下のとおり。・32件をメタ解析に含め、文献の不均一性を考慮し、変量効果モデルを用いて検討した。・抽出された研究には、不妊症女性9,679例が含まれた。・プールされた有病率の最低値は21.01%(95%CI:15.61~34.42、Hospital Anxiety and Depression Scaleで評価)、最高値は52.21%(95%CI:43.51~60.91、ベックうつ病評価尺度で評価)であった。・不妊症女性におけるプールされたうつ病の有病率は、低中所得国で44.32%(95%CI:35.65~52.99)、高所得国で28.03%(95%CI:19.61~36.44)であった。 著者らは「不妊症女性のうつ病有病率は、一般人口よりも高かった。とくに低中所得国では、不妊症女性のうつ病に対する適切な対策、計画、政策を確立し、この問題を減少させるための取り組みを行う必要がある」としている。

13685.

食道扁平上皮がん1次治療、ニボルマブ+化学療法とニボルマブ+イピリムマブが生存ベネフィット示す(CheckMate-648)/BMS

 ブリストル マイヤーズ スクイブは、2021年4月8日、切除不能な進行または転移のある食道扁平上皮がん(ESCC)患者を対象に、ニボルマブと化学療法の併用療法およびニボルマブとイピリムマブの併用療法を評価した第III相CheckMate-648試験の肯定的なトップラインの結果を発表した。 同試験の中間解析において、ニボルマブと化学療法の併用療法は、主要評価項目であるPD-L1陽性患者の全生存期間(OS)および副次評価項目である全無作為化患者集団でのOSで統計学的に有意かつ臨床的に意義のあるベネフィットを示した。加えて、PD-L1陽性患者での盲検下独立中央判定(BICR)評価による無増悪生存期間(PFS)で統計学的に有意かつ臨床的に意義ある改善を示した。 ニボルマブとイピリムマブの併用療法も、PD-L1陽性患者でのOSおよび全無作為化患者集団でのOSで統計学的に有意かつ臨床的に意義のある改善を達成した。しかし、PD-L1陽性患者でのBICRの評価によるPFSの改善は達成しなかった。 同社は、CheckMate-648試験のデータの評価を完了させ、今後の学会で結果を発表するとともに、規制当局と共有する予定だとしている。

13686.

PADの歩行運動療法、低強度では有効性なし/JAMA

 末梢動脈疾患(PAD)患者への在宅歩行運動療法において、低強度の歩行運動は、高強度の歩行運動に比べ、12ヵ月後の6分間歩行距離の改善について有意に効果が低く、運動をしない場合と比べて有意な差はなかった。米国・ノースウェスタン大学のMary M. McDermott氏らが、305例を対象に行った無作為化比較試験の結果を報告した。運動能力の低下したPAD患者には、監督下で行う虚血性下肢症状を誘発する高強度の歩行運動が初回療法とされているが、そのアドヒアランスは不良であることが知られている。著者は、「今回の結果は、PAD患者の客観的測定に基づく歩行能力改善のための低強度の在宅歩行運動は支持されないことを示すものであった」と述べている。JAMA誌2021年4月6日号掲載の報告。最長50分/回の歩行運動を週5回実施、強度と時間は自己記録 研究グループは2015年9月25日~2019年12月11日に、米国内4ヵ所の医療機関を通じ、PADの患者305例を対象に試験を開始し、2020年10月7日まで追跡した。 被験者は無作為に3群に割り付けられ、(1)在宅で行う低強度(虚血性下肢症状を誘発しないペース)の歩行運動(低強度運動群、116例)、(2)在宅で行う高強度(中等症~重症の虚血性下肢症状を誘発するペース)の歩行運動(高強度運動群、124例)、(3)運動なし(対照群、65例)をそれぞれ12ヵ月間実施した。歩行運動は、監督者なしで1回最長50分を週5回実施。被験者に加速度計を装着してもらって運動強度と時間を記録した。 記録データは12ヵ月間にわたって週1回、コーチが被験者に電話をして確認。その際にコーチは被験者が指示どおりの運動を行うよう助言をした。対照群にも12ヵ月間にわたって週1回、電話で教育的コミュニケーションが行われた。 主要アウトカムは、12ヵ月時点における6分間歩行距離のベースラインからの変化で、臨床的意義のある最低変化は8~20mとした。低強度vs.高強度、12ヵ月後の6分歩行距離改善幅の差は40m 無作為化を受けた被験者305例の平均年齢は69.3(SD 9.5)歳、女性47.9%、黒人59.3%だった。12ヵ月の追跡期間完遂者は250例(82%)だった。 6分間歩行距離の変化は、低強度運動群がベースライン332.1mから12ヵ月時327.5mで平均-6.4m(95%信頼区間[CI]:-21.5~8.8、p=0.34)、高強度運動群は338.1mから371.2mで平均34.5m(同:20.1~48.9、p<0.001)であり、群間差は-40.9m(97.5%CI:-61.7~-20.0、p<0.001)だった。 対照群の同変化は328.1mから317.5mで平均-15.1m(95%CI:-35.8~5.7、p=0.10)であり、低強度運動群との比較において有意差はなかった(群間差:8.7m、97.5%CI:-17.0~34.4、p=0.44)。 有害事象は184件報告され、1人当たりの同発現頻度は、低強度運動群が0.64、高強度運動群が0.65、非運動群が0.46だった。試験参加に関連した重篤有害事象の発現は各群で1例ずつ報告された。

13687.

重症急性腎障害、RRT実施遅延で死亡リスク増大/Lancet

 重症急性腎障害(Kidney Disease: Improving Global Outcomes[KDIGO]ステージ3)で尿量減少72時間超または血清尿素窒素濃度112mg/dL超を有し、即時の緊急腎代替療法(RRT)を要する重篤な合併症を認めない患者においては、RRTの開始を長期遅延する治療戦略はベネフィットをもたらすことなく潜在的な有害事象と関連する。フランス・APHP Hopital AvicenneのStephane Gaudry氏らが、278例を対象に行った多施設共同非盲検無作為化試験の結果を報告した。重篤な合併症を認めない重症急性腎障害患者に対してRRTの開始を延期することは、安全であり医療機器使用の最適化を可能にするとされているが、リスクを伴わない延期の猶予期間については明確にはなっていなかった。Lancet誌2021年4月3日号掲載の報告。フランス39ヵ所のICUで試験 研究グループは、待機戦略のさらなる開始延期は、通常の待機戦略と比べてRRTフリー期間が長くなるとの仮説を検証するため、フランス39ヵ所の集中治療室(ICU)を通じて試験を行った。 危篤状態の重症急性腎障害(KDIGOステージ3)患者について、尿量減少72時間超、または血清尿素窒素濃度が112mg/dL超になるまで観察。その後、患者を無作為に2群に割り付け、一方には即時RRTを開始(待機戦略群)、もう一方にはRRTの必須徴候(顕著な高カリウム血症、代謝性アシドーシス、肺水腫)または血清尿素窒素濃度が140mg/dLに達するまで待機してRRTを開始した(長期待機戦略群)。 主要アウトカムは、無作為化から28日後までの生存日数およびRRTフリー日数で、ITT解析で評価した。60日死亡リスク、長期待機戦略群は待機戦略群の1.65倍 2018年5月7日~2019年10月11日に5,336例が評価を受け、そのうち278例が無作為化された。待機戦略群は137例、長期待機戦略群は141例だった。 RRTフリー日数中央値は、待機戦略群12日(IQR:0~25)、長期待機戦略群10日(0~24)で、両群間に有意差はなかった(p=0.93)。 多変量解析の結果、長期待機戦略群の待機戦略群に対する60日時点の死亡ハザード比は、1.65(95%信頼区間:1.09~2.50、p=0.018)だった。 なお、急性腎障害やRRT関連と考えられる合併症数は、両群間で差はなかった。

13688.

抗肥満薬としてのGLP-1受容体作動薬セマグルチドの有効性(解説:住谷哲氏)-1375

 高血圧、高脂血症および2型糖尿病などの生活習慣病の多くは肥満と関連している。さらに肥満を改善すれば高血圧、高脂血症および2型糖尿病の改善がみられることも少なくない。高血圧には降圧薬、高脂血症にはスタチンやフィブラート製剤、2型糖尿病には血糖降下薬が使用可能であるが、肥満に対する治療薬としてわが国で認可されているのは食欲抑制剤としてのマジンドール(商品名:サノレックス)のみである。肥満大国の米国ではこれに加えて、腸管からの脂肪吸収を抑制するリパーゼ阻害薬であるorlistat(商品名:Xenical)、中枢神経系に作用するphentermine/topiramate(商品名:Qsymia)、naltrexone/bupropion(商品名:Contrave)も販売されているがいずれも副作用が問題で長期使用できる薬剤ではない。 インクレチン関連薬であるGLP-1受容体作動薬は血糖降下薬として開発されたが、体重減少作用を有することから抗肥満薬として以前から注目されてきた。リラグルチドは抗肥満薬(商品名:Saxenda)としてすでにわが国以外の多くの国で認可されている。本論文はセマグルチドの抗肥満薬としての有効性と安全性を検討した国際第III相試験プログラムSemaglutide Treatment Effect in People with Obesity(STEP)の一つであるSTEP 1についての報告である。その結果は、セマグルチド2.4mgの週1回投与は68週後にプラセボと比較して約15%の体重減少をもたらした。head to head試験の結果を待つ必要があるが、SCALE試験1)で報告されたリラグルチド3.0mg投与による体重減少率はプラセボ群と比較して-4.5%であったのに対し、本試験ではプラセボ群と比較して-12.4%でありセマグルチド2.4mg投与による体重減少率がリラグルチド3.0mg投与より大きいと思われる。 Googleで「GLP-1ダイエット」と入力して検索すると249,000件がヒットした(2021年4月11日現在)。その多くは楽に痩せる注射としてGLP-1受容体作動薬を紹介している。この問題については2020年日本糖尿病学会が「GLP-1 受容体作動薬適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解」として警告を発している2)。現時点で2型糖尿病患者以外への投与は論外であるが、本剤を使用することが有益である肥満患者のためにも、わが国でも抗肥満薬としてのGLP-1受容体作動薬が認可されることを期待したい。

13689.

株高ですが、今投資するべきは株じゃないですよ!【医師のためのお金の話】第43回

こんにちは。自由気ままな整形外科医です。今は空前の株高です。ニュースになるので、株式投資に関心を持っている方も多いことでしょう。しかし、コロナ禍における株式投資は、昨年の3月ごろが最も“おいしい”時期でした。私はこの時期に過去最大級の資金を株式市場に投入しましたが、現在は一切投資をせずに静観しています。その理由は単純で、株価が高騰した今は、投資の旬は過ぎ去ったと判断しているからです。一方で、今時点で虎視眈々と狙っている投資対象の1つが不動産です。一般的に不動産市場の値動きは株式市場から半年~1年ほど遅行する、といわれています。つまり、2021年3月現在は、コロナ禍の傷が癒えて不動産価格が上昇しはじめた時期だと考えているのです。そうは言っても、不動産投資って何だか敷居が高いなあ、と感じている人は多いのではないでしょうか? 株式投資や仮想通貨なら、あっという間にスマホで取引できちゃいます。しかも数万円といった少額取引からOKです。そんな手軽な投資がスタンダードになったため、扱う金額が大きく、対面取引となる不動産投資には二の足を踏む人が多いでしょう。しかも、不動産業者さんはうさんくさいイメージ満載です。何だか話をするだけでカモられそう…。そんな不安感でいっぱいの人のために、私が実践している不動産投資がどんな感じなのかを公開しましょう!希望ピッタリの物件で即決2011年の年末に、懇意の不動産業者さんから電話がかかってきました。いわく、先ほど媒介契約を締結して賃貸マンションの物件を預かったのだけど、購入する意思はありますか? とのことです。電話越しに物件の概要をお伺いすると、私がメインで投資しているドンピシャのエリアです。しかも相続物件とのことで、売り主さんは売り急いでいるようです。売却希望価格は5,400万円で、当時としてもやや安い価格でした。築25年のRC造ではあるものの、見たこともない希少立地の物件だったため、「その価格で購入させていただきます!」と即答しました。しかし、当時は不動産市況が悪く、銀行融資も難しい時代でした。今と違って手元資金も少なかったため、銀行融資が必須の状況です。必死で現金をかき集めて手付金をつくり、同時に3つの銀行に融資の申し込みをしました。3行から融資内諾を勝ち取り当時の私は、すでに投資用不動産を何棟か所有していたものの、借入比率が高くて手元資金も薄い状況です。医師免許を持っていることだけが取りえの不動産投資家であり、優良顧客ではなかったはずです。一部の金融機関を除き、融資内諾には早くても3~4週間程度かかります。融資特約を付ける場合でも、その期限は1ヵ月のことが多いです。このため、融資内諾が下りるのは融資特約期限の直前のことが多く、精神的に追い詰められてしまいます。この物件では申し込みから3週間後に担当者から架電がありました。電話を受けたのは職場からの帰宅途中でしたが、融資内諾の一報に、人目もはばからずにガッツポーズしたことを鮮明に覚えています。さっそく融資内諾が下りたことを伝えたところ、残りの2行もすぐに融資内諾となりました。銀行も現金なものです(笑)。そうなると、今度は融資条件の交渉のステージに進みます。私と銀行の立場は逆転しました。私は金利リスクを回避したいので、長期固定金利を最優先にしています。このため、10年以上の固定期間、金利水準、および銀行の店格を基準に選択しました。最終的に第一地銀の本店で、融資期間25年、うち固定期間10年、金利1.5%で融資を受けることになりました。最初に融資内諾をくれた銀行ではなかったのが心に引っ掛かりましたが、ビジネスなので仕方ない、と考えることにしました…。普通レベルの物件運営でも利回りは向上するこのようにして苦労して手に入れた物件ですが、当時の満室賃料収入は44万円/月で、表面利回りは9.8%でした。当時からかなり良い利回りでしたが、これは売り主さんが売り急いでいたため、割安で購入できたことが要因です。さて、投資物件としての運営を始めると、いろいろとあらが目に付いてきます。まず売り主さんはあまり原状回復工事に積極的ではなく、内装等に汚れが目立っていたため、賃料は周辺よりもかなり低い水準でした。普通レベルの工事をするだけで賃料を上げることができました。さらに他の物件を売却して利益が出た年度に、節税目的で大規模修繕を行いました。この工事のおかげで入居者確保がさらに容易になりました。そして現在の賃料収入は56万円/月で、表面利回りは12.4%まで上昇しています。仮に売却すれば約1億円の利益この物件は希少立地にあるため、私としては永久に保有する予定です。売却意思はないのですが、購入時と現在の価値を算出してみました。まずは路線価です。2012年は32万円/m2でしたが、2020年には60万円/m2にまで上昇しています。8年間で約2倍になりました。建物の築年数が増したものの、銀行評価は主に土地に対して行われるので、積算価格は約2倍になったことになります。そして、現在の周辺エリアでの流通利回りは約5%です。収益還元法で簡易的に計算すると、1億3,440万円の評価となります。もちろん、築33年なので法廷耐用年数は20年となり、多少割り引かれた物件評価となりますが、この程度の価格であればいつでも売却できる可能性が高いことは非常に安心感があります。さらに所有している9年間で得られた賃料収入は、経費を控除すると約1,800万円です。大規模修繕費用500万円を控除しても、この物件を所有することで1,300万円を得たことになります。そして2021年3月末の融資残高は約3,000万円で、9年間で1,500万円を返済しました。現時点の実質的残債は1,700万円なので、仮に売却すれば約1億円の利益を手にすることができます。このような物件をいくつか所有していると、人生の幅が広がることは容易に想像できることでしょう。もちろん、経験値がなければ今回のような芸当はできませんが、これまで見てきたように私は特殊なことをしたわけではありません。「適切なタイミング」で、「適切な立地と価格の物件」を購入しただけです。たったそれだけのことで、大きな利益を得ることができるのが不動産投資の醍醐味なのです。

13690.

「ボルヒール」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第47回

第47回 「ボルヒール」の名称の由来は?販売名ボルヒール®組織接着用一般名(和名[命名法])人フィブリノゲン、人血液凝固第XIII因子、アプロチニン液、トロンビン(JAN)、塩化カルシウム水和物(JAN)効能又は効果組織の接着・閉鎖(ただし、縫合あるいは接合した組織から血液、体液または体内ガスの漏出をきたし、他に適切な処置法のない場合に限る。)用法及び用量フィブリノゲン凍結乾燥粉末(バイアル1)をフィブリノゲン溶解液(バイアル2)全量で溶解し、A液とする。トロンビン凍結乾燥粉末(バイアル3)をトロンビン溶解液(バイアル4)全量で溶解し、B液とする。溶解した両液の等容量を接着・閉鎖部位に重層又は混合して適用する。通常、10cm2あたりA液B液各々1mLを適用する。なお、接着・閉鎖部位の状態、大きさなどに応じて適宜増減する。警告内容とその理由該当しない禁忌内容とその理由(原則禁忌を含む)禁忌(次の患者には適用しないこと)1.本剤の成分又は牛肺を原料とする製剤(アプロチニン等)に対し、過敏症の既往歴のある患者2.下記の薬剤による治療を受けている患者凝固促進剤(蛇毒製剤)、抗線溶剤※本内容は2021年4月14日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2021年1月改訂(第14版)医薬品インタビューフォーム「ボルヒール®組織接着用」2)KMバイオロジクス株式会社:医療用医薬品

13691.

第53回 まだまだ続く日医工自主回収、ジェネリックが再び「ゾロ」と呼ばれる日

「日医工から変更 都内薬局の8割」こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。この週末は東京都の「まん延防止等重点措置」適用を前に、久しぶりに奥多摩の山に行ってきました。奥多摩湖から御前山、鋸山、奥多摩駅というやや長いコース。ちょうどカタクリの花がシーズンで、いつもは人気がそれほどない山がそこそこ混雑しており、外国人のパーティも結構いました。六本木で遅くまで飲めないストレスが山に向かわせているのかもしれませんね。さて、今回はだらだら1年も続いている日医工の自主回収の話を取り上げます。2020年4月7日の12成分15品目の自主回収(クラスII)を皮切りに、2021年2月までにアレルギー性鼻炎薬、胃腸薬、糖尿病薬など合わせて75品目の製品の自主回収を繰り返したジェネリックの大手メーカー・日医工。4月10日付の朝日新聞朝刊は「日医工から変更 都内薬局の8割」という記事で、東京都薬剤師会が会員薬局に調査した結果を報じています。医師の「後発医薬品への変更不可」指示も増える傾向?同記事によれば、「86%が同社から他社製品に切り替えたと回答した」とのことです。1年間にわたり、自主回収の嵐に翻弄された現場の薬局や薬剤師の怒りが表れた結果と言えるでしょう。この調査は、東京都薬剤師会が3月13日〜31日に会員3,756人を対象に行ったものです(回答者は2,530人)。日医工製品への対応については「すべて他社製品に変更した(する予定)」が28%で、「一部のみ変更」を加えると86%に上っています。さらに、「将来においても採用しない」という厳しい回答も25%もあったそうです。調査では患者からの反応についても聞いているのですが、ジェネリック薬への不信感を抱いた患者から「先発医薬品への変更を求められた」との回答が25%と高くなっていました。薬局だけでなく、病院においても日医工製品の採用を再検討するところも出てきているようです。例えば、3月15日付の日刊薬業は「徳洲会(全国71病院)が、採用している日医工製品の一部切り替えの検討を始めている」と報じています。また、ある薬局関係者から聞いた話ですが、近隣の医療機関から発行される処方箋で、銘柄名処方で変更不可欄にチェックがある(後発医薬品への変更不可)ものが増えている、とのことです。変更不可が極端に増えると、後発医薬品調剤体制加算の算定にも影響が出てきます。日医工の事件は、単に医薬品流通を混乱させ、後発医薬品全体の評判を落としただけでなく、薬局の経営そのものにも影響を及ぼしかねない事態となっているようです。業務停止命令中も国が立ち入り調査しかし、この自主回収事件。新型コロナ感染症の感染拡大がなかったら、もっと大きな問題になっていたでしょう。不適合となった錠剤を砕いて製造し直していた、とのことですが、カップ麺やお菓子などの食品製造で同じことをしても大問題になりそうです。それを命や健康に関わる薬でやっていたのですから…。日医工の一連の回収のきっかけとなったのは、富山県が2020年2月に行った同社の富山第一工場(主に経口剤の生産拠点)への事前通告なしの抜き打ち査察でした。その後、PMDA(医薬品医療機器総合機構)から「富山第一工場での製造や品質管理に問題がある」との指摘を受け、社内調査を実施。出荷試験で「不適合」となった製品について別のロットで再試験を行ったり、国から承認されている工程と異なる工程で製造(品質試験で不適合となった錠剤を砕いて製造し直す等)した製品があったりしたことが判明し、一連の自主回収につながりました。今年3月には医薬品医療機器法に基づき同社の富山第一工場の製造業務を32日間、同社の販売業務を24日間(いずれも3月5日より)停止する命令が下されました。この業務停止期間中の3月24日、厚労省と富山県は合同で富山第一工場に医薬品医療機器法に基づく立ち入り調査に入っています。業務停止命令中に国が立ち入り調査を行うのは、極めて異例のことでした。自転車操業で収益確保の後発医薬品メーカー睡眠導入剤の成分を経口抗真菌薬に混入させ、死亡者2人を出した福井県の小林加工も2021年2月に116日間の業務停止命令を受けています。相次ぐ後発医薬品メーカーの不祥事は、企業のずさんな製造や品質管理が最大の問題と言えますが、後発品を製造する企業が置かれた環境にも原因がありそうです。国は医療費削減のため後発品の使用促進を強力に推し進めてきました。しかし、一方で診療報酬の改定財源などの確保のため薬価は下げ続けており、業界自体が「薄利多売」という構造的な問題を抱えています。後発薬の薬価は、はじめは先発品の5割程度ですが、薬価改定のたびに引き下げられます。使用量そのものは国の施策に乗って増大の一途ですが、価格はどんどん下るので、まさに自転車操業のように新しい後発医薬品を発売し続けないと収益が確保できないのです。日医工は近年、アステラス製薬子会社の工場、エーザイの後発薬子会社、武田テバファーマの後発品事業などを次々と買収、積極的に規模拡大を行っていました。そうした急速な規模拡大に、製造部門や管理部門の体制がついていけなかった、との指摘もあります。使用促進策を背景に「ゾロ」から「ジェネリック」にイメチェンしたものの後発医薬品は、かつて「ゾロ」と呼ばれ、「安かろう悪かろう」と言われていました。私が記者になった当時は「先発品しか使わない」という医師が普通にいました。しかし、2000年代以降、国が後発医薬品の使用促進策を本格化、診療報酬・調剤報酬などにより政策誘導が行われ、その使用率は着実に伸び、先発医薬品信奉も薄れていきました。エポックメーキングだったのは、2008年度の診療報酬改定です。この改定では「処方せん様式」が変更され、医師が「後発医薬品への変更不可」欄に署名しない場合、薬局は長期収載品から後発医薬品に切り替えることが可能となり、さらに患者に同意を得れば処方医に確認することなく、別銘柄の後発医薬品が調剤できるようになりました。薬局での使用率を高めるための調剤基本料の後発医薬品調剤体制加算もこのとき新設されました。こうした医療機関や薬局に対する経済誘導や、高橋 英樹や黒柳 徹子といった大物芸能人を起用した後発医薬品メーカーのCMなどの影響もあり、後発医薬品は「ゾロ」ではなく「ジェネリック(一般的な薬)」として、日本でも定着してきたのです。業務停止処分明け直後にまたまた自主回収そこに起こった日医工や小林化工の事件。「やっぱりゾロはだめだな」といったイメージを少なからぬ医師や薬剤師に改めて植え付けたのではないでしょうか。なんと言っても、日医工は沢井製薬と並ぶ後発品のトップメーカーです。それなのにこの体たらくでは、他のメーカーは大丈夫か、となっても不思議ではありません。とは言え、国は医療費削減のための手段である後発医薬品の使用促進策を推し進めて行くのは間違いありません。薬局も経営のために後発医薬品の使用割合を保持し続けるでしょう。後発医薬品使用割合については、2017年6月の閣議決定で2020年9月までに数量ベースでの使用割合80%達成の政府目標を掲げ、2020年9月時点の使用割合は78.3%となっています。一方、医師側は、医薬分業が進んだ結果““薬を手放し””てしまっていますから、薬局ほどがつがつと後発医薬品にこだわる必要がありません。冒頭で紹介したように、「少々お金はかかるが、この薬は患者のためにもゾロはNG」というトレンド、すなわち「後発医薬品への変更不可運動」が生まれてくる可能性は否定できません。厚生労働省が今回の事件の反省点を、後発医薬品の使用促進策などの政策の中にどう落とし込むか(あるいは無視するか)が注目されます。とここまで書いてきたら、また日医工の自主回収のニュースが入って来ました。4月8日、同社がオロパタジン塩酸塩OD錠5mg「日医工」と、レボセチリジン塩酸塩錠5mg「日医工」の2品目の自主回収(いずれもクラスII)を開始したと発表したのです。長期安定性試験において溶出性試験が承認規格に適合しない結果が得られたというのが理由で、いずれも富山第一工場で製造した製品とのことです。同社は業務停止処分が明け、4月6日から業務再開したばかり。その6日には日本経済新聞朝刊に一面広告を出し「日医工グループの品質行動指針」を公表、「安心と信頼を届けていきます」と宣言しています。これだけ立て続けに事件を起こしたら、普通ならば社長は辞任するものですが、日医工の社長(2代目のワンマン社長と言われているようです)は今のところ辞める気配はありません(小林化工の社長は3代目で、社外から新社長を招聘するとの報道があります)。日医工の自主回収問題、1年経っても回収は収まらず、その余波は続きそうです。

13693.

コロナ禍の献血不足を救う?自己血輸血の効果を検証

 新型コロナウイルス感染症の影響はさまざまな側面で現れているが、献血の減少もその1つに挙げられる。保存血液の使用機会の多い外科領域では、現状に鑑みた効率的な保存血液の使用を検討する必要がある。欧米では、血液製剤の使用を減らすために希釈式自己血輸血が活用されている。京都大学の今中 雄一氏ら研究グループは、国内で手術を受けた患者の保存血液使用率について、希釈式自己血輸血を受けた患者と受けていない患者とで比較したところ、自己血輸血を受けている患者では赤血球製剤使用率が約2割少ないことがわかった。本結果は、PLOS ONE誌オンライン版2021年3月10日号に掲載された。 本研究では、日本の行政データベースを基に、2016~2019年に心臓手術(3万2,433例)および大動脈手術(4,267例)を受けた患者を登録し、保存血液使用率と使用量について、希釈式自己血輸血を受けた患者(自己血輸血群)と受けていない患者(コホート群)で比較した。病院情報と患者情報を調整するため、解析には多段階傾向スコアマッチングを用いた。 主な結果は以下のとおり。・保存血液の中で最もよく使われる赤血球製剤について、心臓手術における自己血輸血群では使用率38.4%(vs.コホート群:60.6%、p<0.001)、使用量は3.5単位(同:5.9単位、p<0.001)と減少効果を認めた。・同じく、心臓血管手術における自己血輸血群では使用率83.8%(vs.コホート群:91.4%、p=0.037)、使用量は7.9単位(同:11.9単位、p<0.001)と減少効果を認めた。・副次的転帰である輸血関連有害事象の発生や、術後ICU滞在期間は、両群間に差は認められなかった。 著者らによると、欧米では800mL以上の血液を採取して自己血輸血することが推奨されているが、欧米人に比して体格が小柄な日本人では、そのような大量の採血を行うのは容易ではなく、推奨量も不明であるという。加えて、国内における希釈式自己血輸血の保険適応は2016年で、現段階では十分に浸透しておらず、日本人における効果検証が十分に行われていないのが現状だという。 希釈式自己血輸血は、人工心肺開始前に採取した自己血を室温で保存し、術中に使用するため、凝固関連因子を不活性化することなく正常範囲内で迅速に提供でき、術中の輸血戦略には大きなメリットである。著者らは、「新型コロナウイルスの影響から献血の減少が深刻になっている地域もあり、効率的な保存血液の使用を検討する必要がある。血液が足りない患者に迅速かつ確実に保存血液を送るためにも、希釈式自己血輸血は重要な技術だ」と述べている。

13694.

血清尿酸値と認知症リスク~メタ解析

 中国医科大学のZhike Zhou氏らは、血清尿酸値(UA)と認知症およびそのサブタイプのリスクとの関連を調査するため、メタ解析を実施した。Frontiers in Aging Neuroscience誌2021年2月25日号の報告。 Embase、PubMed、Web of Scienceより、2020年7月までに公表された文献を検索した。標準平均差(SMD)および95%信頼区間(CI)を算出するため、変量効果モデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・適格基準を満たした研究は23件(5,575例)であった。・全体として、認知症患者のUAレベルは、非認知症患者と比較し、低かった(SMD:-0.32、95%CI:-0.64~-0.01、p=0.04)。・認知症タイプのサブグループ解析では、UAとアルツハイマー病(AD)およびパーキンソン病認知症(PDD)との関連が認められたが、血管性認知症(VaD)との関連は認められなかった。 ●AD(SMD:-0.58、95%CI:-1.02~-0.15、p=0.009) ●PDD(SMD:-0.33、95%CI:-0.52~-0.14、p=0.001)・UAレベルの層別解析では、UA四分位1~2において認知症および神経変性サブタイプと負の相関が認められ(p<0.05)、UA四分位4と認知症に正の相関が認められた(p=0.028)。・交絡因子のメタ回帰分析では、認知症のリスク推定においてUAの影響が認められた因子は、年齢、BMI、糖尿病、高血圧、喫煙ではなく教育であった(p=0.003)。 著者らは「低UAレベル(292μmol/Lまたは4.91mg/dL)は、ADおよびPDDの潜在的なリスク因子である。認知症におけるUAレベルのメカニズムは、さらなる調査により明らかにする必要がある」としている。

13695.

家族性大腸腺腫症に対する低用量アスピリンへの期待(J-FAPP Study IV)

 家族性大腸腺腫症(FAP)患者における低用量アスピリン(100mg/日)の使用によりポリープ再発を有意に抑制させたことが、石川 秀樹氏(京都府立医科大学大学院医学研究科分子標的予防医学 特任教授)、武藤 倫弘氏(同 教授)ら研究グループの『大腸がん超高危険度群におけるがんリスク低減手法の最適化に関する研究』から示唆された。この報告はLancet Gastroenterology & Hepatology誌4月1日号オンライン版に掲載された。 FAPでは大腸がんの前がん病変である腺腫が100個以上発生するため、がん予防法として20歳以降に大腸切除術が行われる。しかし、術後QOLの低下、デスモイド腫瘍発生などの問題をはらんでおり、内科的予防法が模索されている。2006年より大腸腺腫患者への低用量アスピリン(100mg/日)による発がん予防に関する試験(J-CAPP Study)が実施され、その効果が立証されている。 本研究はそのJ-CAPP Studyの結果も踏まえて行われたJ-FAPP Study IVであり、低用量アスピリンにメサラジン(2g/日)を併用することで5.0mm以上の大腸腺腫の再発を抑制できるかどうかを検証した二重盲検プラセボ対照無作為化多施設共同試験である。 対象者は5.0mm以上の腺腫の摘除が終了し大腸が温存されているFAP患者で、適格年齢は16〜70歳、大腸切除の病歴がなく、大腸に100を超える腺腫性ポリープの病歴がある者とした。参加者は低用量アスピリン+メサラジン群、低用量アスピリン+メサラジンプラセボ群、アスピリンプラセボ+メサラジン群、アスピリンプラセボ+メサラジンプラセボ群の4つに割り付けられ、大腸内視鏡検査の1週間前までの8ヵ月間にわたって投与が続けられた。主要評価項目は薬剤投与中の8ヵ月での5.0mm以上の大腸ポリープ発生率だった。 主な結果は以下のとおり。・2015年9月25日~2017年3月13日の期間、104例が4群に割り付けられ、うち2例がアスピリンプラセボ+メサラジンプラセボ群から離脱した。・8ヵ月の間に5.0mm以上の大腸ポリープが発生したのは、アスピリンプラセボ群26例(50%)、低用量アスピリン群15例(30%)、メサラジンプラセボ群21例(42%)、およびメサラジン群20例(38%)だった。・ポリープ再発の調整オッズ比(OR)は、アスピリン群で0.37(95%信頼区間[CI]:0.16~0.86)、メサラジン群で0.87(95%CI:0.38~2.00)だった。・最も多い有害事象はグレード1〜2の上部消化管症状で、低用量アスピリン+メサラジン併用群26例中3例(12%)で発生した。 研究者らは「成人で大腸が保存されている FAP 患者対象の試験としては世界最大の試験成果であり、従来大腸全摘出術が標準治療とされているFAP患者にとって低用量アスピリンが新たな治療法の選択肢となることが期待される。今後は投与期間や人数を増やし、長期効果、日本人FAP患者での副作用の影響などを明らかにしていきたい」としている。

13696.

新型コロナワクチンによるアナフィラキシー、高齢者での管理は?

 COVID-19ワクチンによるアナフィラキシーの発生頻度は10万回に1回~100万回に5回程度と稀であるものの、高齢者のアナフィラキシーの管理はとくに慎重に対応する必要がある。欧州アレルギー臨床免疫学会(EAACI)、欧州老年医学会(EuGMS)らは合同のワーキンググループを発足、COVID-19ワクチンによる高齢者のアナフィラキシーの管理に関する公式見解(position paper)を、Allergy誌オンライン版2021年 4月2日号に報告した。 position paperは下記5項目で構成され、それぞれ推奨事項が提案されている。1.COVID-19ワクチンとアナフィラキシー2.高齢者におけるアナフィラキシー症状3.高齢者における重度のアナフィラキシーのリスク因子4.高齢者におけるアナフィラキシーの管理5.臨床でのアナフィラキシー反応の予防と管理 本稿では、一部内容を抜粋して紹介する。「COVID-19ワクチンとアナフィラキシー」、頻度や傾向は? 米国のワクチン有害事象報告システム(VAERS)で報告されたデータの最初の分析では、ファイザー社のmRNAワクチン100万回投与当たり11.1例のアナフィラキシーが報告された。続く2021年1月18日のVAERSレポートでは、ファイザー社ワクチン接種者で100万回投与当たり5回、モデルナ社ワクチン接種者100万回投与当たり2.8回のアナフィラキシーが報告されている。ワクチンに使用されているポリエチレングリコール(PEG)がアレルギー反応を引き起こす可能性があると指摘されている。 ファイザー社ワクチンでのアナフィラキシー症例の年齢中央値は40歳(27~60歳)で、報告された症例の90%は女性。アレルギー反応は、常にではないものの、多くの場合、重度のアレルギー反応の既往歴のある人に発生した。 また、mRNAワクチンの臨床試験段階では、痛み、倦怠感、頭痛、発熱などの局所および全身性反応の発生数は、若年者よりも高齢者で少なかった。「高齢者におけるアナフィラキシー症状」、若年者との違い 2019年に報告がまとめられた欧州のアナフィラキシーレジストリでは、昆虫毒や鎮痛薬、抗生物資などによりアナフィラキシーを発症した65歳以上1,123人のデータが解析されている。発現したアナフィラキシー症状は若年成人と高齢者で類似していたが頻度は異なり、高齢者では心血管症状がより頻繁に発生していた(若年成人の75%に対して80%)。 主な心血管症状は意識喪失(33%)で、めまいと頻脈については若年成人に多くみられた。心停止は、高齢者の3%と若年成人の2%で発生。皮膚症状は最も頻繁にみられ、蕁麻疹と血管性浮腫は通常は他の症状の前に現れる。皮膚症状のない高齢患者のアナフィラキシー反応の重症度は、若年成人と比較して増加した。消化器症状は、両方のグループで同様の割合で発生していた。 呼吸器症状、とくに呼吸困難は、高齢者で頻繁にはみられていない(若年成人の70%に対して63%)。ただし、チアノーゼ、失神、めまいは、高齢者のショック発症を高度に予測していた。Ring and Messmer 分類のGrade III(47%)およびGrade IV(4%)を含む重度のアナフィラキシー反応は、65歳以上で多くみられた。 高齢患者の30%でアドレナリンが投与され、60%で入院が必要であり、19%が集中治療室(ICU)で治療された。Grade IIおよびIIIの症例では、若年および中年の成人と比較して、有意に多くの高齢者が入院およびICUケアを必要としていた。「高齢者における重度のアナフィラキシーのリスク因子」 高齢者における重度のアナフィラキシーのリスク因子として、「併存疾患」と「服用薬と多剤併用」を挙げている。併存疾患として、上述のレジストリでは高齢であることと肥満細胞症の併存が重度のアナフィラキシーのリスク増加の最も重要な予測因子であった。遺伝性α-トリプトファン血症もリスク因子となる。虚血性心筋症ではアナフィラキシーの重症化および死亡リスクが高くなる。アテローム性動脈硬化症の病変により、アナフィラキシー中の低酸素症および低血圧に対する耐性が低下することも報告されている。レジストリでは、心血管疾患、甲状腺疾患、およびがんが若年成人よりも多くみられた。 服用薬については、レジストリでは重度のアナフィラキシーリスクの補因子となる薬剤(ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、β遮断薬、アセチルコリン、プロトンポンプ阻害薬など)は、若年成人(18%)よりも高齢者(57%)で有意に多く処方されていた。年齢とは独立して、アレルゲン曝露と近い時期に投与されたβ遮断薬とACE阻害薬は、重度のアナフィラキシー発症リスクとの関連がみられたが、アスピリンとアンジオテンシンII受容体拮抗薬では確認されなかった。 そのほか、抗不安薬、抗うつ薬、催眠薬等中枢神経系に作用する薬で治療されており、アナフィラキシー症状や兆候に対する認識に影響を与えている可能性のある高齢者には、注意を払うことが重要となる。「高齢者におけるアナフィラキシーの管理」、アドレナリン使用の注意点は? EAACI および世界アレルギー機構のガイドラインでは、アナフィラキシーの第一選択療法としてアドレナリンの迅速な筋肉内注射が推奨されており、高齢者においてもアドレナリンが重度のアナフィラキシーに作用することが報告されている。ただし、アドレナリンの多くの心血管系有害事象は血管内経路を介して発生すると考えられ、血管内投与は原則として避ける必要がある。 心血管疾患の併存は、アナフィラキシー発症時のアドレナリンの使用を制限するものではない。これは、この救急措置において他の薬剤が救命効果を発揮しないためである。高齢患者やアナフィラキシーリスクがある心血管疾患のある患者においても、アドレナリン投与に絶対的な禁忌はない。アドレナリン投与後、心室性不整脈、高血圧、心筋虚血などの重篤な副作用は報告されていない。ただし、アナフィラキシー発症の高齢患者では、アドレナリン注射後に有害心イベントを経験する可能性が高く、80歳以上の患者が最もリスクが高いという報告がある。そのため、心血管疾患併存患者がアナフィラキシーを発症した場合、アドレナリン投与のリスクとベネフィットを迅速・慎重に比較検討する必要がある。

13697.

市中肺炎入院の抗菌薬投与、3日間は8日間に非劣性/Lancet

 臨床的安定性の基準を満たす市中肺炎入院患者の抗菌薬治療では、15日後の治癒に関して、βラクタム系抗菌薬の3日間投与は8日間投与に対し非劣性であり、30日時の治癒、死亡、治療関連有害事象などには両群間に差はないことが、フランス・パリ・サクレー大学のAurelien Dinh氏らが行った「Pneumonia Short Treatment(PTC)試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2021年3月27日号に掲載された。成人の市中肺炎に関する米国のガイドラインでは、5日間以上の抗菌薬治療と臨床的安定性基準に準拠した治療中止が推奨されているのに対し、欧州では8日間投与が推奨されており、至適な治療期間は十分に確立されていない。市中肺炎入院患者の抗菌薬治療期間が短縮されれば、抗菌薬消費量の削減に役立ち、結果として薬剤耐性菌、有害事象、関連費用の削減がもたらされると考えられている。フランス16施設のプラセボ対照無作為化非劣性試験 本研究は、市中肺炎で入院し、3日間のβラクタム系抗菌薬の投与後に臨床的に安定した患者において、さらに5日間の追加投与の必要性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化非劣性試験であり、フランスの16施設が参加し、2013年12月~2018年2月の期間に参加者の適格基準の評価が行われた(フランス保健省の助成による)。 対象は、年齢18歳以上、中等度の市中肺炎で入院(集中治療室[critical care unit]以外の病棟へ入院)し、3日間のβラクタム系抗菌薬による治療を受けた後、事前に規定された臨床的安定性基準を満たした患者であった。 被験者は、さらに5日間、βラクタム系抗菌薬(経口アモキシシリン1g+クラブラン酸125mg、1日3回)の投与を受ける群、またはプラセボ群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要アウトカムは、抗菌薬の初回投与から15日後の治癒とした。治癒は、無熱(≦37.8°C)、呼吸器症状の消失または改善、原因を問わず抗菌薬の追加投与がないことと定義された。非劣性マージンは10%ポイント(群間差の95%信頼区間[CI]の下限値が-10%より大きい場合に非劣性と判定)とされた。15日治癒割合、ITT解析で77% vs.68%、PP解析で78% vs.68% βラクタム系抗菌薬を3日間投与後、適格基準を満たした310例のうち、157例がプラセボ群に、153例が追加投与群に割り付けられた。試験薬の投与を受ける前に、7例(プラセボ群5例、追加投与群2例)が同意を撤回した。intention-to-treat(ITT)集団の年齢中央値は73.0歳(IQR:57.0~84.0)で、41%(123/303例)が女性であり、24%(73例)が2つ以上の併存疾患を有していた。 ITT解析では、15日時の治癒の割合は、プラセボ群が77%(117/152例)、追加投与群は68%(102/151例)であり、群間差は9.42%(95%CI:-0.38~20.04)と、プラセボ群の追加投与群に対する非劣性が示された。また、per-protocol解析による15日治癒割合は、プラセボ群が78%(113/145例)、追加投与群は68%(100/146例)で、群間差は9.44%(95%CI:-0.15~20.34)であり、プラセボ群は追加投与群に対し非劣性であった。 副次評価項目である30日時の治癒、死亡、1つ以上の治療関連有害事象、1つ以上の重篤な治療関連有害事象、入院期間、回復(仕事または日常生活活動への復帰)までの期間には、両群間に差は認められなかった。 最も一般的な有害事象は消化器症状で、プラセボ群の11%(17/152例)、追加投与群の19%(28/151例)で報告された。30日までの死亡は、プラセボ群が3例(2%)(黄色ブドウ球菌による菌血症、急性肺水腫後の心原性ショック、急性腎不全に関連する心不全)、追加投与群は2例(1%)(再発肺炎、急性肺水腫疑い)であった。 著者は、「これらの知見により、抗菌薬消費量が実質的に削減される可能性が示唆される」としている。

13698.

新型コロナワクチン対応シリンジが承認取得、1瓶で7回採取可能/ニプロ

 ニプロ株式会社(大阪市北区)は4月12日のプレスリリースで、新型コロナワクチン接種に伴う需要に応えて開発した「ニプロVAシリンジ」について、3月25日付で承認事項一部変更承認を取得したと発表した。 現在、国内で承認され接種可能なファイザー社製の新型コロナワクチンは筋肉注射が前提であることから、同シリンジは筋肉に確実に届くよう針長を25mmとし、薬液吸引および注入時の操作性などを考慮し、25G(0.5mm)の針を採用した。また、針と外筒を一体型にすることでローデッド化を実現。薬液の残るシリンジ先端部分は、従来型通常シリンジの約15分の1(約 0.002mL)程度であり、より残液量の少ないワクチン接種にも対応できる。社内検証では、ファイザー社製ワクチン1瓶から7回分の薬液が採取可能なことを確認したという。来月から国内工場で生産を開始する予定に加え、さらなる承認事項一部変更承認申請により、タイ工場でも製造を進める方針。 併せて同社は、「ニプロシリンジ」の製造ラインを強化したことも発表。ガスケット先端を突起型にしたローデッドモデルで、本製品はあらゆる太さ、長さの針が装着可能という。 これらの生産体制の確立により、ニプロ社における2タイプのシリンジ生産数量は、今年度で合わせて約1億本となる見込みだ。

13699.

FDA、再発・難治多発性骨髄腫に対するイサツキシマブのカルフィルゾミブ・デキサメタゾンとの併用を承認 /サノフィ

 サノフィは、2021年3月31日、米国食品医薬品局(FDA)が前治療歴が1~3の再発又は難治性多発性骨髄腫の成人患者に対してカルフィルゾミブ・デキサメタゾン併用療法に追加する医薬品としてイサツキシマブ(商品名:サークリサ)を承認したと発表。 イサツキシマブはすでに、レナリドミドとプロテアソーム阻害薬を含む2レジメン以上の前治療歴を有する再発・難治多発性骨髄腫の成人患者に対して、ポマリドミド・デキサメタゾン併用療法に追加して用いる医薬品として承認されている。 今回のFDAの承認は、無作為化多施設共同非盲検第III相IKEMA試験のデータに基づいたもの。この試験は、16ヵ国69施設で治療を受けている再発多発性骨髄腫の患者302例を対象に行われ、イサツキシマブを標準治療であるカルフィルゾミブ・デキサメタゾン併用療法に追加した患者群は、病勢進行または死亡のリスクが45%低下した(ハザード比:0.548、95%CI:0.366〜0.822、p=0.0032)。

13700.

先天性腎性尿崩症〔Congenital nephrogenic diabetes insipidus〕

1 疾患概要■ 概念・定義腎性尿崩症(Nephrogenic Diabetes Insipidus:NDI)は、腎尿細管におけるAVP(Arginine Vasopressin)の作用不足のために尿濃縮障害を呈し、そのために多尿(尿の過剰産生)と多飲(過度の口渇)を呈する疾患群である。NDIは、成因により先天性と二次性に分けられる。先天性NDIは、AVPのV2受容体やAVP依存性水チャンネルのアクアポリン-2の遺伝子異常などにより発症する。二次性NDIは、低カリウム血症、高カルシウム血症、腎泌尿器疾患、薬剤(炭酸リチウムほか)、アミロイドーシスなどに伴って発症する。先天性NDIは難病指定を受けている。本稿では主に先天性NDIについて述べる。■ 疫学わが国の関連学会会員を対象とした全国規模の腎性尿崩症の頻度調査(2009~2010年)では、173例のNDIが確認され、そのうち15例はリチウム製剤に起因する二次性NDIであった1)。■ 病因と分類NDIの原因は、先天性と二次性に大別されるが、二次性はさらに、薬剤性、腎泌尿器疾患によるもの、その他、などに区分される(表12))。表1 腎性尿崩症の原因2)1.先天性1)X連鎖潜性遺伝(劣性遺伝)性 AVPR22)常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)性 AQP23)常染色体顕性遺伝(優性遺伝)性 AQP24)その他2.電解質異常1)高カルシウム血症2)低カリウム血症3.薬剤性リチウム、デメクロサイクリン、アンホテリシン B、アミノグリコシド系薬剤、メトキシフルレンなど4.腎泌尿器疾患1)慢性腎不全2)逆流性腎症、間質性腎炎3)異形成腎、髄質嚢胞性腎疾患、ネフロン癆4)ファンコニー症候群(シスチン蓄積症、他)、バーター症候群5)尿路閉塞5.その他1)サルコイドーシス2)アミロイドーシス3)シェーグレン症候群4)鎌状赤血球症5)浸透圧利尿(糖、マンニトール、ナトリウム)6)ACEI/ARB fetopathy**は著者改変1)AVPによる集合管における尿濃縮の機序V2受容体は7回膜貫通型Gタンパク質共役受容体で、腎集合管主細胞の血管膜側細胞膜に発現している。AVPがV2受容体に結合するとGタンパクとアデニル酸シクラーゼの活性化を生じ、cAMPが産生される。cAMPはプロテインキナーゼA(PKA)を介して、輸送小胞膜上にホモ4量体で水チャンネルを形成しているアクアポリン-2をリン酸化する。リン酸化されたアクアポリン-2を載せた小胞は管腔側細胞膜へ移動し、エクソサイトーシスにより細胞膜と融合することで管腔と主細胞間に水チャンネルが開通する。主細胞の血管側細胞膜上でアクアポリン-3、4により恒常的に開通している水チャンネルの作用と併せて、管腔側から血管側へ水が再吸収されて尿が濃縮される(図)。図 腎尿細管主細胞におけるV2受容体とアクアポリンによる水の再吸収(著者作成)画像を拡大する2)先天性NDI(a)遺伝形式と発症機序先天性NDIの90%以上はX連鎖潜性遺伝(劣性遺伝)である。約9%の患者は常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)であり、1%は常染色体顕性遺伝(優性遺伝)である。X連鎖潜性遺伝(劣性遺伝)NDIの95%にはAVPのV2受容体遺伝子AVPR2に病的バリアントを認め、常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)NDIの約95%にはアクアポリン-2遺伝子AQP2に病的バリアントを認める。軽症または部分型の先天性NDIは、AVPR2遺伝子異常に報告されることが多いが、顕性遺伝(優性遺伝)形式をとるAQP2遺伝子異常によるものも報告されている。(b)AVPR2の遺伝子異常AVPのV2受容体遺伝子AVPR2はヒトではX染色体上に位置していて、3つのエクソンからなる。この遺伝子の病的バリアントによるNDIの発症は、男性100万人に4人程度の発症率で認められている。報告されている200種以上のバリアントには特定の集積部位は認められない。機能解析がなされているミスセンス例の多くは、misfoldingによるtrafficking障害によりバリアントタンパクが膜に到達できないことによる。バリアントの種類によっては、部分的にAVP作用が保たれる例も存在する。2012年の厚生労働省研究班の全国調査では、遺伝子解析が実施された62例のうち、AVPR2異常が43例を占めた1)。(c)AQP2の遺伝子異常アクアポリン-2の遺伝子AQP2はヒトでは12q13に位置し、4つのエクソンよりなる。常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)形式と常染色体顕性遺伝(優性遺伝)形式の双方が報告されている。2012年の厚生労働省研究班の全国調査では、遺伝子解析が実施された62例のうち、AQP2異常が5例を占めた1)。(d)ACEI/ARB fetopathy遺伝性ではないが先天性NDIが、妊娠中に降圧薬ACEI/ARBを内服した母体から出生した児に発生することが報告されている3)。薬剤による影響がその原因であるので二次性でもある。3)二次性 NDI以下の原疾患・原因により引き起こされるNDIであり、主に、年長児や成人に発症する。(a)腎泌尿器疾患慢性腎不全、間質性腎炎、慢性尿路閉塞などの腎尿細管機能低下を招来する腎泌尿器疾患は尿濃縮力を低下させ、NDIを呈する。(b)電解質異常高カルシウム血症,低カリウム血症に伴う尿濃縮障害によるNDIが知られている。(c)薬剤性 NDI躁状態治療薬(炭酸リチウム)、抗リウマチ薬(ロベンザリット二ナトリウム)、抗 HIV 薬(フマル酸テノホビルジソプロキシル)、抗菌薬(イミペネム・シラスタチンナトリウム、アムホテリシン、塩酸デメクロサイクリン)、抗ウイルス薬(ホスカルネットナトリウム水和物)などによるNDIが知られている。リチウムについては、glycogen synthase kinase 3(GSK3)を抑制することにより、AVP感受性アデニル酸シクラーゼ活性が低下して細胞内cAMP産生が低下し、AVP作用が減弱するとされている。(d)その他頻度は低いがアミロイドーシス,サルコイドーシスなどの全身疾患もNDIの原因となる。■ 症状多尿が共通した症状であるが、患者の年齢により徴候が異なる。先天性NDIの徴候を述べる。(1)胎児期:母体の羊水過多。(2)新生児期:生後数日頃から、原因不明の発熱およびけいれんを来す。高浸透圧血症、高ナトリウム血症を呈す。(3)幼児期~成人:多尿(3~20L/日、乳幼児では体表面積あたりの尿量が2,500mL/m2以上)とそれに伴う多飲を呈す。軽症例では、心因性多飲として経過観察されていたり、多尿に気付かれず夜尿のみを訴えることもある。体重増加不良、便秘を呈すこともある。■ 予後1)中枢神経系口渇に対して自らの意思で飲水できない新生児、乳幼児や意識障害を伴う例では、特に診断前には高張性脱水(高ナトリウム血症)を来し、中枢神経系の不可逆的な障害を残すことが多い。新生児では初発症状が高ナトリウム血症による痙攣のこともある。2012年の厚生労働省研究班による全国調査では、先天性NDIの約1割に精神発達遅滞を認めた。乳幼児期を過ぎれば自律的に水分摂取が可能となるので、意識障害時を除いて高張性脱水による中枢神経合併症を生じることはないとされる。2)腎泌尿器系現在のところ、NDIの多尿を適切に改善させる治療法がないので、長期間の多尿による腎泌尿器系の合併症が約半数の患者にみられる。水尿管を含む水腎症、膀胱尿管逆流症の併発により腎機能低下を招来する。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)先天性腎性尿崩症の診断基準は、主要症状である多尿、検査所見として尿浸透圧の低値とAVPへの無反応/反応低下、鑑別診断と遺伝学的検査よりなっている(表24))。これには軽症または部分型NDIを診断するための重症度分類も含まれている1)。先天性NDIの診断年齢は、1歳未満が半数以上を占めているが、1~4歳で診断される例も1~2割を占める。表2 先天性腎性尿崩症の診断基準4)と重症度分類1)画像を拡大する3 治療 (治験中・研究中のものも含む)多尿に見合う適切な量の水分摂取、腎への溶質負荷を軽減するための塩分・蛋白質の摂取制限、サイアザイド系利尿薬や非ステロイド系抗炎症薬の投与が行われる。小児期には、まず塩分制限を行い、効果が不十分な場合に蛋白制限を追加するが、成長障害に十分な注意を払わなければならない。サイアザイド系利尿薬(ヒドロクロロサイアザイドで2~4 mg/kg/日)は、利尿により生じる軽度の体液量減少がレニン・アルドステロン・アンギオテンシン系や交感神経系を賦活して近位尿細管におけるNaと水の再吸収を促進することで、結果的にAVPの作用部位である集合管への水・電解質の負荷を軽減し、逆説的に尿量減少効果を呈すると考えられている。サイアザイド系利尿薬の投与により、尿量は、1/2~1/3程度に減少する。効果が不十分な場合、AVPR2遺伝子異常によるNDIではインドメタシンや選択的COX-2 阻害薬が有効とされるが、近年、長期の選択的COX-2阻害剤投与が心臓の副作用を招くことが明らかにされた。部分的NDIではAVPへの反応性が残存しているので、高容量のDDAVPとサイアザイドの併用による治療が可能な場合がある。4 今後の展望AVPR2バリアントやAQP2バリアントでは、タンパクの細胞質移送が障害されていることが明らかになっているので、種々の薬剤のシャペロン作用により、バリアント蛋白の細胞質内での滞留を解除する試みがなされているが、実用には至っていない5)。5 主たる診療科新生児科、小児科、内科、泌尿器科、腎臓内科、神経内科、神経小児科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター 先天性腎性尿崩症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報腎性尿崩症 友の会(患者とその家族および支援者の会)1)腎性尿崩症の実態把握と診断・治療指針作成に関する研究(研究代表者 神崎 晋). 平成21~23年度総合研究報告書. 2012.2)根東義明. 日腎会誌. 2011;53:177-180.3)Miura K,et al. Pediatric Nephrology.2009;24:1235–1238.4)先天性腎性尿崩症.難病医学研究財団 難病情報センター.(2021年3月1日閲覧)5)Bernier V, et al. J Am Soc Nephrol.2006;17:232-243.公開履歴初回2021年04月13日

検索結果 合計:35184件 表示位置:13681 - 13700