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アルツハイマー病に伴うアジテーションが医療負担に及ぼす影響

 アルツハイマー型認知症に伴うアジテーションは、一般的な症状であるが、これに伴う医療負担はよくわかっていない。米国・Inovalon InsightsのChristie Teigland氏らは、アルツハイマー型認知症に伴うアジテーションを有する患者とアジテーションのない患者におけるベースライン特性、医療資源の利用、コストの評価を行った。Journal of Health Economics and Outcomes Research誌2024年10月29日号の報告。 対象は、2009〜16年のメディケア有料請求データベースよりアルツハイマー病および認知症で30日以上の間隔で2件以上の請求があり、診断6ヵ月前および12ヵ月後に医療/薬局保険に継続加入していたメディケア受給者。重度の精神疾患患者は除外した。アジテーションの有無により2つの患者コホートを定義し、記述的探索分析により患者の特徴、医療資源の利用、コストの比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・アルツハイマー型認知症患者268万4,704例中76万9,141例が包括基準を満たした。・そのうち、アジテーションを有する患者は28万1,042例(36.5%)であった。・アジテーションの有無に関わらず、アルツハイマー型認知症患者の平均年齢は83歳。・両群共に女性の割合が高かったが、アジテーションを有する患者群では、男性の割合がわずかに高かった(30.3% vs.28.2%)。・アルツハイマー型認知症に伴うアジテーションを有する患者は、アジテーションのない患者と比較し、社会経済的地位が低い(メディケイド二重受給資格:45.0% vs.41.7%)、障害がある(10.5% vs.9.4%)傾向が高かった。・全体的に、アルツハイマー型認知症に伴うアジテーションを有する患者は、アジテーションのない患者よりも医療費が高額であり(患者1人当たりの年間医療費の平均:3万2,322ドル vs.3万121ドル)、入院および急性期ケア後の医療費に、最も大きな差が認められた。 著者らは「アルツハイマー型認知症に伴うアジテーションを有する患者は、経済的な負担が大きく、関連する健康アウトカム改善のためにも、新たな治療オプションの必要性が浮き彫りとなった」と結論付けている。

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スタチン、上咽頭がんCCRT中の投与で死亡リスク減

 スタチンによる、さまざまな悪性腫瘍に対する潜在的な抗がん作用が注目されている。頭頸部がんにおいては、診断前後のスタチンの使用が化学療法の有効性を高め、がん幹細胞の活性を抑制し、放射線療法に伴う心血管および脳血管の合併症を減少させる可能性があることが示唆されている。 進行上咽頭がん(nasopharyngeal cancer)患者における同時化学放射線療法(CCRT)中のスタチン使用が、全生存率およびがん特異的生存率に与える影響を評価する研究が報告された。台湾・台中慈済病院のJung-Min Yu氏らによって行われた本研究は、Journal of the National Comprehensive Cancer Network誌2024年11月号に掲載された。 台湾の全国健康保険研究データベースを用い、2012~18年にCCRTを受けた進行上咽頭がん患者を抽出した。対象は、転移のないIII~IVA期、PS 0~1、標準CCRT(プラチナベース化学療法と強度変調放射線療法併用)を受けた成人の上咽頭がん患者だった。スタチン使用は、根治的CCRT期間中にスタチンの累積定義1日投与量を最低28回以上受けていることと定義した。スタチン使用者と非使用者の生存率を比較するため、傾向スコアマッチングで年齢、性別、併存疾患などの交絡因子を調整した。さらに、異なる種類のスタチン、累積用量、およびスタチン使用の1日当たりの強度の影響も調査した。 主な結果は以下のとおり。・1,251例が対象となり、1,049例が非スタチン群、202例がスタチン群であった。ベースライン特性では、スタチン群は非スタチン群と比較して年齢中央値が高く、女性が多く、高所得者・都市部の住民・併存症を持つ割合が高かった。マッチングを行った結果、スタチン群と非スタチン群各174例、計348例が解析対象となった。追跡期間中央値は6.43年であった。・全死因死亡率は、非スタチン群では50.57%であったのに対し、スタチン群では33.33%、調整ハザード比(aHR)は0.48(95%信頼区間[CI]:0.34~0.68)であった。同様に上咽頭がん特異的死亡率は、非スタチン群では40.80%、スタチン群では22.99%、aHRは0.43(95%CI:0.29~0.65)であった。・全死因死亡率において、親水性スタチンのロスバスタチンは非スタチン使用と比較してaHR:0.21(95%CI:0.19~0.50)、親油性スタチンのアトルバスタチンはaHR:0.39(95%CI:0.23~0.66)と、とくに良好な結果を示した。全死因死亡、上咽頭がん特異的死亡ともにスタチンの累積定義1日投与量が増加するごとにリスクが減少し、用量反応関係があることが示された。 研究者らは「スタチンは抗炎症作用や免疫調節作用も有することが報告されており、CCRT中の腫瘍微小環境に影響し、治療効果を高めた可能性がある。また、スタチン使用が放射線感受性を高め、腫瘍細胞のアポトーシスを促進する可能性も示唆されている。とくに心血管疾患のリスクが高い患者においては、スタチンの使用が二重の利益をもたらす可能性がある。スタチンの種類、投与量、投与期間など、最適な使用方法に関するさらなる研究が必要だ」とした。

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急性期脳梗塞の血栓除去術、バルーンガイドカテーテルは有用か/Lancet

 前方循環の大血管閉塞による急性期虚血性脳卒中患者に対する血管内血栓除去術において、従来のガイドカテーテルを使用した場合と比較してバルーンガイドカテーテルは、むしろ機能回復が不良であり、死亡率も高い傾向にあることが、中国・海軍軍医大学長海病院のJianmin Liu氏らが実施した「PROTECT-MT試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌2024年11月30日号に掲載された。中国の無作為化対照比較試験 PROTECT-MT試験は、急性期虚血性脳卒中の血管内血栓除去術におけるバルーンガイドカテーテルの有効性と安全性の評価を目的とする非盲検(エンドポイント評価は盲検下)無作為化対照比較試験であり、2023年2~11月に中国の28の病院で患者を登録した(中国国家自然科学基金などの助成を受けた)。 年齢18歳以上の急性期虚血性脳卒中で、修正Rankin尺度(mRS)のスコア(0[症状なし]~6[死亡]点)が0または1点であり、現地のガイドラインで症状発現から24時間以内に血管内血栓除去術を受けることが可能な患者を対象とした。 これらの患者を、バルーンガイドカテーテルまたは従来のガイドカテーテルを使用する群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。臨床アウトカムのデータを収集する医師は、割り付け情報を知らされなかった。 主要アウトカムは機能回復とし、ITT集団における90日後のmRSスコアの変化で評価した。死亡率も高い傾向に 329例を登録し、バルーンガイドカテーテル群に164例、従来型ガイドカテーテル群に165例を割り付けた。全体の年齢中央値は69歳(四分位範囲[IQR]:59~76)、128例(39%)が女性であった。ベースラインのNIHSSスコア中央値は15点(IQR:11~20)、ASPECTS中央値は8点(6~9)だった。 90日の時点におけるmRSスコア中央値は、従来型ガイドカテーテル群が3点(IQR:2~5)であったのに対し、バルーンガイドカテーテル群は4点(2~5)と有意に悪化していた(補正後共通オッズ比:0.66、95%信頼区間[CI]:0.45~0.98、p=0.037)。 また、安全性のアウトカムである90日時の全死因死亡率(mRS 6点)は、数値上はバルーンガイドカテーテル群のほうが高かったが有意差はなかった(39例[24%]vs.26例[16%]、リスク比[RR]:1.51、95%CI:0.97~2.36、p=0.068)。 頭蓋内出血(バルーンガイドカテーテル群36% vs.従来型ガイドカテーテル群32%、RR:1.12、95%CI:0.83~1.51、p=0.46)および症候性頭蓋内出血(15% vs.11%、1.34、0.76~2.38、p=0.31)の発生率には両群間に差を認めなかった。内頸動脈の重度血管攣縮の頻度が高い とくに注目すべき手技関連合併症では、内頸動脈の重度の血管攣縮の頻度がバルーンガイドカテーテル群で高かった(4% vs.1%、RR:7.04、95%CI:1.15~43.75、p=0.037)。ガイドカテーテル関連の血管解離、血栓除去術関連の血管解離、造影剤の血管外漏出、大腿動脈アクセス関連の合併症の発生率には両群間に差はなかった。 著者は、「本試験は早期中止となっており、治療器具の異質性(さまざまな種類のバルーンやカテーテルの使用を許容)や頭蓋内血管の動脈硬化の割合が高かったことなどの限界があるため、今後、これらの結果を確認し、他の集団への一般化可能性を評価する研究が求められる」としている。

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COVID-19罹患で自己免疫・炎症性疾患の長期リスクが上昇

 COVID-19罹患は、さまざまな自己免疫疾患および自己炎症性疾患の長期リスクの上昇と関連していることが、韓国・延世大学校のYeon-Woo Heo氏らによる同国住民を対象とした後ろ向き研究において示された。これまでCOVID-19罹患と自己免疫疾患および自己炎症性疾患との関連を調べた研究はわずかで、これらのほとんどは観察期間が短いものであった。著者は「COVID-19罹患後のリスクを軽減するために、人口統計学的特性、重症度、ワクチン接種状況を考慮しながら、長期的なモニタリングと管理が重要であることが示された」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2024年11月6日号掲載の報告。 研究グループは、Korea Disease Control and Prevention Agency-COVID-19-National Health Insurance Service(K-COV-N)コホートを対象に、COVID-19罹患後の長期における自己免疫疾患および自己炎症性疾患のリスクを調べた。対象は、2020年10月8日~2022年12月31日にCOVID-19罹患が確認された住民(COVID-19罹患群)、2018年に一般健康診断を受けた住民(対照群)とした。 主要アウトカムは、COVID-19罹患後の自己免疫疾患および自己炎症性疾患の発症率とリスクとした。逆確率重み付け法を用いて、人口統計学的特性、一般的な健康データ、社会経済的状況、併存疾患などの共変量を調整して解析した。 主な結果は以下のとおり。・観察期間180日超のCOVID-19罹患者314万5,388例、対照376万7,039例の計691万2,427例(男性53.6%、平均年齢53.39[SD 20.13]歳)が解析に含まれた。・COVID-19罹患群でリスクが高かった疾患(調整ハザード比、95%信頼区間)は以下のとおりであった。 円形脱毛症(1.11、1.07~1.15) 全頭脱毛症(1.24、1.09~1.42) 尋常性白斑(1.11、1.04~1.19) ベーチェット病(1.45、1.20~1.74) クローン病(1.35、1.14~1.60) 潰瘍性大腸炎(1.15、1.04~1.28) 関節リウマチ(1.09、1.06~1.12) 全身性エリテマトーデス(1.14、1.01~1.28) シェーグレン症候群(1.13、1.03~1.25) 強直性脊椎炎(1.11、1.02~1.20) 水疱性類天疱瘡(1.62、1.07~2.45)・人口統計学的特性(男性/女性、40歳未満/以上)別のサブグループ解析では、COVID-19罹患による自己免疫疾患および自己炎症性疾患のリスクは、性別や年齢によって異なることが示された。・とくに、ICU入室を要する重症COVID-19罹患、デルタ株優勢期の感染、ワクチン未接種はCOVID-19罹患後の自己免疫疾患および自己炎症性疾患のリスクが高かった。

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冷水浴と温水浴、運動パフォーマンスを高めるのはどちら?

 野球の試合の後に、投手が冷水浴をして翌日の試合に備える姿は珍しいものではない。しかし、試合前に筋肉や関節に痛みを感じるアスリートは、冷水浴よりも温水浴をする方が良いようだ。新たな小規模研究で、温水浴はアスリートの運動パフォーマンスを向上させる可能性のあることが明らかになった。立命館大学大学院スポーツ健康科学研究科の露木守氏らによるこの研究結果は、米国生理学会の運動の統合的生理学会議2024(11月20〜22日、米ペンシルバニア州ユニバーシティパーク)で発表された。露木氏は、「運動後の冷水浴はスポーツの現場では一般的だが、冷却がパフォーマンス能力に必ずしも良い影響を与えるわけではない」と述べている。 この研究では、試験参加者である少数のアマチュアアスリートに高強度のインターバルランニングを50分間行ってもらい、その後、20分間、冷水(華氏59度〔摂氏15度〕)または温水(華氏104度〔摂氏40度〕)に浸かるか、水の入っていない浴槽に座ってもらうかをしてもらった。1時間後に、試験参加者のジャンプの高さと、クレアチンキナーゼおよびミオグロブリン(筋肉へのダメージの指標となる酵素とタンパク質)の血中濃度を測定した。また、参加者の報告に基づき、筋肉痛の程度も評価した。 その結果、ジャンプ力は、冷水浴後よりも温水浴後の方が高くなることが明らかになった。一方、クレアチンキナーゼとミオグロブリンの血中濃度については、温水浴後と冷水浴後との間で有意な差は認められなかった。翌朝、試験参加者に最大能力の90%でランニングタスクを行ってもらい、パフォーマンス能力を評価した。その結果、冷水浴をした場合と温水浴をした場合との間で有意な差は認められなかった。 露木氏は、「われわれの研究結果は、運動後の温水浴は冷水浴に比べて、筋出力の回復を促進するというものだ。この知見は、1日に複数回の運動や競技を行う人にとって役立つだろう」と話している。 露木氏はNBCニュースに対し、「温水浴は損傷した筋繊維への血流を増加させ、筋繊維の修復と強化を助ける」と説明し、「ハーフタイムがあるスポーツなど、パフォーマンスが1日に2回必要な場合には温水浴をする方が良い。15分か20分の温水浴をすることで、後半のパフォーマンスが向上する可能性があるだろう」と話している。 一方、米ニューヨーク大学(NYU)グロスマン医学部整形外科分野のSpencer Stein氏は、「私は、冷水浴にも長所はあると考える。冷水浴に痛み軽減効果があることは、過去の研究でも明らかにされている」と話す。一方、米マウントサイナイ医療システムのリハビリテーションイノベーションディレクターを務めるDavid Putrino氏は、温水浴の場合は華氏98~104度(摂氏36.7〜40度)のお湯に10~20分、冷水浴の場合は華氏50~59度(摂氏10〜15度)の水に10~15分浸かることを推奨している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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喘息やCOPDの増悪に対する新たな治療法とは?

 英国、バンベリー在住のGeoffrey Pointingさん(77歳)は、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の増悪がもたらす苦痛を表現するのは難しいと話す。「正直なところ、増悪が起きているときは息をすることさえ困難で、どのように感じるのかを他人に伝えるのはかなり難しい」とPointingさんはニュースリリースの中で述べている。しかし、既存の注射薬により、こうした喘息やCOPDの増悪の恐ろしさを緩和できる可能性のあることが、新たな臨床試験で示された。「The Lancet Respiratory Medicine」に11月27日掲載された同試験では、咳や喘鳴、息苦しさ、痰などの呼吸器症状の軽減という点において、モノクローナル抗体のベンラリズマブがステロイド薬のプレドニゾロンよりも優れていることが明らかになった。論文の上席著者である英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)呼吸器科のMona Bafadhel氏は、「この薬は、喘息やCOPDの患者にとってゲームチェンジャーになる可能性がある」と期待を示している。 ベンラリズマブは、肺の炎症を促す好酸球と呼ばれる特定の白血球を標的としている。米食品医薬品局(FDA)は2017年、同薬を重症喘息の管理を目的とした薬として承認している。研究グループによると、好酸球性増悪は、COPDの急性増悪の最大30%、喘息発作の約50%を占めているという。このようなエピソードでは、肺内で好酸球を含む白血球が急増し、喘鳴、咳、胸部の圧迫感を引き起こす。このことを踏まえてBafadhel氏らは今回の臨床試験で、喘息とCOPDの発作に対するベンラリズマブの有効性を評価した。 対象とされた158人の喘息またはCOPD患者(平均年齢57歳、男性46%)は、急性増悪時(好酸球数が300cells/μL以上)に、以下の3群にランダムに割り付けられた。1)プレドニゾロン30mgを1日1回、5日間経口投与し、ベンラリズマブ100mgを1回皮下注射する群(ベンラリズマブ+プレドニゾロン群、52人)、2)プラセボを1日1回、5日間経口投与し、ベンラリズマブ100mgを1回皮下注射する群(ベンラリズマブ群、53人)、3)プレドニゾロン30mgを1日1回、5日間経口投与し、プラセボを1回皮下注射する群(プレドニゾロン群、53人)。 その結果、90日後の治療失敗率は、プレドニゾロン群で74%(39/53人)、ベンラリズマブ群とベンラリズマブ+プレドニゾロン群を合わせた群(統合ベンラリズマブ群)で45%(47/105人)であり、統計学的に統合ベンラリズマブ群はプレドニゾロン群よりも治療失敗率が有意に低いことが示された(オッズ比0.26、95%信頼区間0.13〜0.56、P=0.0005)。また、28日目に症状をVAS(視覚的アナログスケール)で評価したところ、統合ベンラリズマブ群がプレドニゾロン群よりも49mm(95%信頼区間14〜84mm、P=0.0065)高い改善を示し、ベンラリズマブの方が症状の改善に効果的であることが示された。いずれの群でも致死的な有害事象は発生せず、ベンラリズマブの忍容性は良好であることも確認された。 これらの結果を受けて研究グループは、「すでに喘息の治療薬として承認されている薬が、喘息やCOPDの増悪を抑える手段としてステロイド薬に代わるものとなる可能性がある」との見方を示している。 この臨床試験に参加したPointingさんは、ベンラリズマブは「素晴らしい薬」であると言う。「ステロイド薬の錠剤を使用していたときには副作用があり、初日の夜はよく眠れなかったが、今回の臨床試験では初日の夜から眠ることができ、何の問題もなく自分の生活を続けることができた」とPointingさんは振り返っている。 今回の臨床試験では、医療従事者がベンラリズマブの皮下注射を行ったが、家庭や診療所でも安全に投与できる可能性があるとBafadhel氏らは話している。なお、本試験はベンラリズマブを製造するAstraZeneca社の助成を受けて行われた。

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英国の一般医を対象にした身体症状に対する介入の効果―統計学的な有意差と臨床的な有意差とのギャップをどう考えるか(解説:名郷直樹氏)

 18〜69歳で、Patient Health Questionnaire-15(PHQ-15)スコア(30点満点で症状が重いほど点数が高い)が10~20の範囲、持続的な身体症状があり、過去36ヵ月間に少なくとも2回専門医に紹介されている患者を対象に、症状に対する4回にわたる認識、説明、行動、学習に要約できる介入の効果を、52週間後の自己申告によるPHQ-15スコアで評価したランダム化比較試験である。 介入の性格上マスキングは不可能であるが、アウトカム評価と統計解析については割り付けがマスキングされているPROBE(Prospective Randomized Open Blinded Endpoint)研究である。ただPROBEであっても、アウトカムが症状であることからするとバイアスを避け難い面があり、効果を過大評価しやすいという限界がある。 また、介入群と対照群の差が2点以上を統計学的有意とするサンプルサイズで検討されているが、この研究が開始された以後に臨床的に意味のあるスコアの差を2.3以上とするという論文が発表され、統計学的な有意差が示されたとしても、臨床的には問題のあるサンプルサイズである。 結果は、介入群のPHQ-15スコアが12.2、対照群が14.1、その差は-1.82、95%信頼区間は-2.67~-0.97と統計学的には有意な差を報告している。しかし、この1.82の差はサンプルサイズ計算に用いられた2の差に達しておらず、臨床的に有意と判定される-2.3とは0.5近い差がある。95%信頼区間の下限で見れば、約1点の差しかないかもしれず、この介入が臨床的に有効とは言い難い結果である。しかしながらこの論文の結論は、“Our symptom-clinic intervention, which focused on explaining persistent symptoms to participants in order to support self-management, led to sustained improvement in multiple and persistent physical symptoms”とあり、統計学的な差と臨床的な差の問題を取り上げていないのは大きな問題だろう。 さらに、この研究が日本においてどういう意味があるかと考えると、重大疾患がなく、原因不明の身体症状が持続する患者は、一般医をかかりつけ医として登録している英国と違い、フリーアクセスであるが故に多くの医療機関を渡り歩き、この論文を適用するような状況そのものがないというのが現状ではないだろうか。こうした患者がドクターショッピングをしないで済むよう、この論文に示された高度な介入を検討する以前に、家庭医、一般医の制度の導入をまず検討すべきだろう。

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認知症以前のMCIが狙われる、新手の「準詐欺」とは?【外来で役立つ!認知症Topics】第24回

特殊詐欺の増加とその背景3、4年前に弁護士との飲み会があり、オレオレ詐欺など特殊詐欺の動向に話が及んだ。このとき1人の弁護士がこう語った。「NHKによる注意勧告など広く知れ渡るようになり、手口も周知されてきた。そうそう新手もないだろうから特殊詐欺は減っていくだろう。その分、荒っぽい強盗が増えるんじゃないか」。今日振り返ると、「闇バイト」に代表される後者については、まさにそのとおりになった。ところが、前者の特殊詐欺については大外れになってしまった。というのは、図に示すように、法務省および警察庁の発表によれば、特殊詐欺の認知件数は2004年(平成16年)をピークに減少していたが、2011年(平成23年)から増加傾向に転じ1)、2023年(令和5年)には過去15年間で最多となったからだ2)。そして2023年度の被害額は400億円台となった。図. 特殊詐欺 認知状況・被害総額の推移(参考2より)画像を拡大する手口別では「架空料金請求型」が大幅に増加した。中でも目立つのが、それらの4割を占めた「サポート詐欺」3)だ。ウイルスに感染したと虚偽の警告をパソコンに表示させ、復旧を名目に金銭を要求するものだという。警察庁はサポート詐欺が増えた背景として、犯人側にとっての効率の良さを指摘する。偽の警告にだまされて復旧を求める被害者側から電話がかかってくるため、オレオレ詐欺のように不特定多数に電話をかける必要がないからだという。こうした背景があるからこそと考えるのだが、最近「認知機能障害のある高齢者における消費者トラブルに関する医療福祉関係者向けアンケート」4)を消費者庁が実施している。私も実際にやってみたが、これは認知症と軽度認知障害(MCI)の当事者が被害者となるこの種のトラブルの実態を調査するものだとわかった。特殊詐欺は認知症以前の人が狙われやすい特殊詐欺といわれるこの手の経済的犯罪の源流はオレオレ詐欺だろう。そして預貯金詐欺、還付金詐欺、架空料金請求、国際ロマンス詐欺などがある。当院には、「オレオレ詐欺にやられたうちのお袋は認知症ではないか?」といった類の受診が年間に10例くらいあるだろうか? ところが経験的に、どうも認知症者は被害者にならないようだ。被害者の多くは認知的に正常、もしくはときにMCIの人だ。筆者はこの結果にずっとなるほどと納得してきた。というのは、特殊詐欺に引っかかるにはかなりの理解力も行動力も必要だ。認知症レベルになるとそれはない。逆に認知症の人は、訪問販売やTVショッピングのように手続きが簡単なものの契約をすることが多い。新手の「準詐欺」、被害の実態は?最近驚いたのが、筆者が担当する患者さんが経験され、NHKのニュースでも見た「準詐欺」の報道だ。いくらか難しい法律用語が含まれるが、この準詐欺罪とは、「刑法に規定された犯罪。18歳未満の児童の知慮浅薄又は人の心神耗弱に乗じて、財物を交付させ、又は財産上不法の利益を得、若しくは他人にこれを得させる。欺罔(きもう:だまし)行為が行われておらず、詐欺罪の規定で捕捉しきれないが、相手方の意思に瑕疵(かし:欠陥)の有る状態を利用する点で詐欺罪に類似することから、詐欺罪に準ずる犯罪類型として処罰する」とある。準詐欺に遭った患者さんが経験したのは、築43年のおんぼろマンションの風呂場だけを800万円で購入する取引を承諾して押印し、契約が成立した事件である。購入動機、捺印の状況など中核に関する本人の記憶は曖昧であった。「投機心をそそられた、投資になると思った、儲かるから、銀行金利が安いから」というもっともらしい発言の反面、「マンションを買う気はなかった、判子を貸してくれと言われたから、押すだけだからと言われたから、貸してあげた。私はなにも買わない、ただ判子を押せと言われたのでそのとおりにした」と矛盾したことも述べた。これとは別に、訪問時にお土産をもらったこと、相手側が自分を持ち上げて気持ちが良くなったという意味の発言が筆者の印象に残った。ちなみにこの方の改定長谷川式は24点、またMMSEは21点でありMCIの診断をしている。「準詐欺罪」の成立には、被害者が「物事を判断する能力が著しく低下した状態」だったことを立証する必要がある。MCIのように認知症と診断されていない場合には、立件のハードルは高い。「詐欺罪」についても、マンションの価格が相場より高額だっただけでは罪に問うのは難しく、契約した人がどんな誘われ方をしたのかを覚えていないケースも多いため、立件にはハードルがある。また、認知症の診断がない人の場合には、業者側が「1人で生活できているし、会話もできたので判断能力に問題ないと思った。納得して契約してもらった」などと言い逃れする可能性も指摘されている。高齢者の心を論じるとき、その基本は孤独や寂しさにある。「巧言令色鮮し仁」は高齢者には通じないと書いた作家がある。こうした経済犯罪につながる契約が成立する背景には、孤独や寂しさを巧みに衝いてくる巧言令色があるのかもしれない。参考1)法務省. 令和5年版 犯罪白書 第1編/第1章/第2節/3 その他の刑法犯2)警察庁. 特殊詐欺認知・検挙状況等(令和5年・確定値)について3)警察庁. サポート詐欺対策4)消費者庁. 認知機能障害のある高齢者における消費者トラブルに関する医療福祉関係者向けアンケート

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英語で「遅れています」は?【1分★医療英語】第160回

第160回 英語で「遅れています」は?《例文1》I apologize for the inconvenience. I'm running about 10 minutes late today.(ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんが、今日は10分ほど遅れています)《例文2》Dr. Kato is running late due to an emergency. Would you like to wait or reschedule?(加藤医師は緊急事態で遅れています。お待ちになりますか、それとも予定を変更しますか?)《解説》“I’m running late.”は、自分が予定より遅れていることを相手に伝える際に使用するフレーズです。医療現場では、緊急事態が発生することも多く、予定が変更になることがしばしばあると思います。そのような場合、医師や受付が患者に対して適切にコミュニケーションを取ることが求められますが、そんなときによく使われるフレーズです。遅れる時間がわかっている際には、“late”の前に時間を付けて例文のように“I’m running 10 minutes late.”という形で用いることもできます。「遅れる」と表現したい際には、ここで使われている“late”や“delay”などの単語はすぐに思いつくと思いますが、動詞の“run”をこのような形で使うというのは、英語に慣れていないとなかなか思いつかないかもしれません。“run”と聞くと、まずは「走る」という和訳を思い浮かべると思いますが、このように遅れを伝える際にも使うことができます。あるいは、「検査を行う」と伝える際に、“We will run some blood tests.”(いくつかの血液検査を行います)という形でも用いられます。動詞の和訳のバリエーションを増やすというよりは、このようなフレーズごと覚えてしまうとよいのではないでしょうか。講師紹介

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伝わりそうで伝わらない病院の言葉【もったいない患者対応】第19回

伝わりそうで伝わらない病院の言葉私たちは毎日のように無意識に専門用語を使っているせいで、患者さんにも思わずわかりにくい言葉を使ってしまうことがあります。他の医療者が病状説明しているのを横で聞いていて、「その言葉では伝わらないのでは…?」と思うことも非常によくあります。言葉の意味がわからなかったときに、医療者に対して臆せず聞き返すことができる人は決して多くありません。「よくわからないけれどわかったふりをしておこう」と思って黙ってしまい、後になって何か問題が起きた際に、医療者との信頼関係が崩れる恐れもあります。ここでは、私がよく気になる7つの言葉を挙げてみます。増悪(ぞうあく)「増悪」は私たち医療者が非常によく使う言葉ですが、一般的にはほとんど使われない言葉です。血液検査やCT検査の結果を見せて患者さんに説明しながら、「徐々に増悪しているようです」と言っている医師を見かけることがありますが、なかなか患者さんは理解しづらいでしょう。字面を見ると意味はわかりますが、口頭で「ぞうあく」と言うと意味は伝わりにくいはずです。「悪化している」「悪くなっている」と言うほうがよいと思います。余談ですが、医療者のなかにこれを「ぞうお」と間違って覚えている人がいます。「憎悪」は「憎しみ」、「増悪」は「増える」と、漢字が違うのでご注意ください。認める・得る医療者の間では、「ここに腫瘍が認められます」「改善が得られています」のような説明をよくしますが、一般的な会話ではまず使いません。電話で患者さんのご家族に、「お母さんのレントゲン写真の結果なんですが、肺炎の改善が認められます」と説明している人を見たことがありますが、「かいぜんがみとめられる」と聞いて、すぐに意味がわかる人はいないでしょう。指摘できない画像レポートなどでよく見る「異常は指摘できません」は、非医療者から見ればかなり不思議な表現です。一見すると「異常があるのかないのかよくわからない」という印象をもたれます。医療者にとっては、異常が本当に「ない」と証明することはできないこと、あくまで、行った診察や検査で「異常が見当たらなかった」だけであることを含意する意図で、「指摘できない」は便利に使える言葉です。しかし、このあたりの微妙な感覚を患者さんと共有するのは難しく、「指摘できない」では意図がうまく伝わりません。そのため、「いまの時点では検査で異常は見当たりませんが、検査ではわからないような異常が起きている可能性もあるため、症状が現れたらすぐにもう一度検査をしましょう」と、丁寧に説明をするほうがよいでしょう。頻回(ひんかい)「頻回」も私たち医療者がよく使う言葉です。最新の広辞苑には載っているのを確認しましたが、一般的にはあまり使われない言葉でしょう。「頻繁」はよく使われる言葉ではありますが、「頻回」は「頻繁」ともニュアンスが少し違います。患者さんに説明するときは、状況に応じて「繰り返し」「何度も」のような言い換えが必要でしょう。所見(しょけん)「画像所見は良くなっているんですが…」「血液検査では貧血の所見があります」といった表現を私たちはよくしますが、患者さんが相手だと、やや口頭では伝わりにくいという実感があります。「所見」は、「あなたの所見を聞かせてください」というように、辞書的には「見た目での判断」「意見」「考え」といった意味の言葉だからです。「画像所見」「検査所見」のような、医療現場で使う「所見」は、これとは少しニュアンスが異なります。検査の「所見」という場合は、「検査結果」や「検査からわかること」とし、病状に関して「~の所見」というときは、「サイン」「兆候」「きざし」のような表現に言い換えるほうが無難です。傾眠(けいみん)「今朝から傾眠傾向です」と看護師が患者さんのご家族に説明している姿をときどき見ます。便利な言葉なので、医療現場で私たちはよく使いますが、やはり一般的には理解されにくい言葉です。「意識がぼんやりしている」「すぐに眠ってしまう」のような言い換えが必要ではないかと思います。発赤(ほっせき)「発赤」も、患者さんにとってはなかなか難しい専門用語です。文字で見ると意味はわかりますが、「ほっせき」と言葉で発するとまったく理解されないことがあるため、注意が必要です。一方、「発疹(ほっしん)」は「突発性発疹」など一般的に知られた病名に付いているため、音だけでも理解できることが多いようです。

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第244回 果糖は肝臓で作られる脂質を増やしてがんの増殖を促す

肝臓で果糖から作られる脂質ががんの増殖をどうやら促すことが、ワシントン大学のGary Patti氏らがNature誌に発表した新たな研究で示されました1)。飲料や加工食品に果糖ブドウ糖液糖が広く使われるようになったことを主な原因として、果糖の摂取が過去50年で大幅に増えており、それが肥満や代謝症候群の蔓延に寄与していると見る向きがあります。肥満や代謝症候群はがんと強く関連することが知られ、その関連への果糖の寄与も想定されています。Otto Warburg(オットー・ワールブルグ)氏がさかのぼること100年ほど前に報告した研究で、がん細胞は増殖する正常細胞に比べてグルコースをより多く消費することが示されました2)。たとえ酸素が十分にあってもグルコースを乳酸へと変えるがん細胞に特有のその解糖系は、今では同氏の名を冠してワールブルグ効果(Warburg effect)として知られ3)、がん細胞の主要な動力源の1つと目されています4)。グルコースと同様に果糖も腫瘍の増殖を促すようです。疫学試験では果糖摂取と膵がんや大腸がんの関連が示唆され、マウスの実験で果糖が腫瘍増殖を促すことが示されています4)。Patti氏らの研究でも果糖は黒色腫、乳がん、子宮頸がんを模す動物の腫瘍増殖を確かに促しました。しかし同氏らの当初の予想に反し5)、その作用は果糖が腫瘍の直接の栄養として利用されることによるものではありませんでした。それもそのはずで、がん細胞は果糖代謝の開始酵素であるケトヘキソキナーゼC(KHK-C)を発現していませんでした。それゆえ果糖を栄養として容易に利用することができません。がん細胞とは対照的に肝細胞はKHK-Cを発現しており、果糖を代謝してリゾホスファチジルコリン(LPC)を含む種々の脂質を排出しました。共培養で検討したところ、肝細胞からのLPCはがん細胞の手に渡り、細胞膜の主たるリン脂質であるホスファチジルコリンを生み出すのに使われました。動物実験で果糖ブドウ糖液糖を与えたところ、血清のLPCの類いのいくつかが7倍超増えました。また、LPCはマウスの腫瘍をより増殖させました。一方、ケトヘキソキナーゼの阻害はがん細胞に直接手出しすることなく血中のLPCを減らし、果糖を介した腫瘍増殖を抑制しました。それらの結果によると、果糖はLPCなどの栄養分の循環を増やして腫瘍増殖を促すようです。果糖が腫瘍増殖を促すのを防ぐ薬の開発に今回の結果が役立つかもしれないとPatti氏は言っています5)。果糖と比較的若年でのがんの増加の関連が検討される果糖摂取の増加と時を同じくして、大腸がんなどのがんの多くが50歳に満たない人に多く認められるようになっています。はたしてその2つの傾向に関連があるのかどうかを調べる試験のチームをPatti氏らは最近結成しており、がん研究を支援する国際的な取り組みCancer Grand Challengesが同試験に最大2,500万ドルを出すことを約束しています5,6)。参考1)Fowle-Grider R, et al. Nature. 2024 Dec 4. [Epub ahead of print]2)Warburg O. J Cancer Res Clin Oncol. 1925;9:148–163.3)The liver converts fructose into lipids to fuel tumours / Nature4)Nakagawa T, et al. Cancer Metab. 2020;8:16.5)Research reveals how fructose in diet enhances tumor growth / Eurekalert 6)Preventing early-onset colorectal cancers aim of $25 million award / Washington University

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抜歯時の抗凝固療法に介入してDOACの休薬期間を適正化【うまくいく!処方提案プラクティス】第64回

 今回は、歯科治療に伴う直接経口抗凝固薬(DOAC)の休薬期間について、最新のガイドラインに基づいて介入した事例を紹介します。適切な周術期管理によって、経過は良好なままDOACの服用継続が実現しました。患者情報80歳、女性(施設入所中)基礎疾患認知症、統合失調症、心房細動(CHA2DS2-VAScスコア※:4点[年齢2点、女性1点、高血圧1点])※CHA2DS2-VAScスコア:範囲0~9点、点数が高いほど梗塞リスクが大きい処方内容1.アピキサバン錠2.5mg 2錠 分2 朝夕食後2.リスペリドン錠1mg 1錠 分1 夕食後3.トラゾドン錠25mg 1錠 分1 就寝前4.酪酸菌製剤錠 3錠 分3 毎食後本症例のポイントこの患者さんは歯科治療(単純抜歯1本)の予定があり、施設看護師より「訪問診療医から1週間のDOACの休薬指示が出たので抜薬の対応をしてほしい」と連絡がありました。しかし、抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン1)では、出血時の対応が可能な医療機関で行うことを前提に、DOAC単剤による抗凝固薬投与患者に対して、休薬下の抜歯よりもDOAC継続下で抜歯をすることが推奨されています。また、Steffelらの報告2)によると、DOACの周術期管理において、低出血リスク手術では24時間の休薬で十分とされています。アピキサバンの薬物動態データ3)では消失半減期が約12時間であることからも、7日間の休薬は過剰と考えられます。医師への提案と経過そこで、医療機関に電話で疑義照会し、看護師を介して医師に情報提供を行いました。まず、CHA2DS2-VAScスコアは4点で塞栓リスクが高く、認知症による活動性低下および向精神薬併用による鎮静作用もあるため、休薬により血栓リスクがさらに高まることが懸念されます。一方で出血リスクはあるものの、単純抜歯1本(低リスク処置)であり、抗血小板薬は非併用であることから、局所止血処置は可能と考えられることを伝えました。そのうえで、抜歯は病院ではなく診療所で行うことや、アピキサバンの血中濃度ピーク時(服用後3~3.5時間)3)に抜歯が行われて出血リスクがあることも懸念事項として伝えしました。医師からは、アピキサバンの半減期が約12時間である程度効果が残ることから、処置当日のみの休薬が妥当と判断されました。施設看護師にも変更内容について情報共有し、抜歯後の止血状況や口腔ケア時の出血状況で問題があれば相談するように伝えました。その後の経過を看護師と連携をとりながら確認したところ、抜歯時の出血は問題なく、血栓症状の発現もなく、術後の経過は良好なままDOACを服用継続できていました。本事例を通じて、(1)周術期管理における過剰な休薬の危険性、(2)エビデンスに基づく介入の重要性、(3)薬剤師による能動的な情報提供の意義を感じました。まとめ1.エビデンスに基づく評価:ガイドラインの適切な活用、患者個別のリスク評価、薬物動態データの考慮2.多職種連携の実践:医師との情報共有、歯科医師との連携、施設スタッフへの情報提供1)日本有病者歯科医療学会ほか編. 抗血栓療法患者の抜歯に関するガイドライン2020年版.学術社;2020.2)Steffel J, et al. Eur Heart J. 2018;39:1330-1393.3)エリキュース錠 医薬品インタビューフォーム(第13版)

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水分摂取を増やすと肥満や腎結石以外にも有効な可能性

 1日の水分摂取量に関しては、公的な推奨がいくつかされているもののそれを裏付けるエビデンスは明確ではなく、水分摂取量を変更することによる利点は十分に確立されていない。米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のNizar Hakam氏らが実施したシステマティックレビューの結果、エビデンスの質と量は限定的であるものの、少数の研究で1日の水分摂取量の増加が体重減少や腎結石予防に有益であることが示され、また、単一の研究では片頭痛予防、尿路感染症、糖尿病管理、低血圧に対する有益性が示唆された。JAMA Network Open誌2024年11月25日号掲載の報告。 2023年4月6日まで、PubMed、Web of Science、Embaseについて系統的文献検索を実施した。対象は、定義された量の水分を毎日摂取することが健康関連のアウトカムに与える影響を評価した研究とされた。 主な結果は以下のとおり。・スクリーニングされた1,464件のうち、1999~2023年に発表された18件(1%)が適格とされレビューに含まれた。うち15件(83%)は並行群間無作為化比較試験(RCT)、3件(16%)はクロスオーバー研究であった。・これらの研究における介入としては、4日間~5年間の決められた期間、毎日の水分摂取量を特定の量だけ変更することが推奨され(18件中17件が水分摂取量の増加、1件が水分摂取量の削減)、対照群には主に通常の水分摂取習慣を維持することが求められた。・主要評価項目には、体重減少、空腹時血糖値、頭痛、尿路感染症、腎結石などが含まれた。・10件の研究(55%)で1つ以上の肯定的な結果が報告され、8件の研究(44%)で否定的な結果が報告されていた。・水分摂取量の増加は、体重減少(対照群と比較し44~100%大きな体重減少)および腎結石イベントの減少(5年間にわたり参加者100人当たり15イベント減少)と関連していた。・体重減少に関しては、3件の過体重および肥満の成人対象のRCTにおいて、12週間~12ヵ月間食前に1,500mL/日の水を摂取したところ、対照群と比較して大きな体重減少がみられた。・腎結石に関しては、1件の健康成人対象のRCTおよび1件の特発性カルシウム結石の初回エピソードを有する患者対象のRCTにおいて、2,000mL/日の水分摂取量増加および尿量2,000mL/日を達成するための水分摂取量増加により、対照群と比較して結石および再発リスクが低下した。・個々の研究では、片頭痛予防、尿路感染症、糖尿病管理、低血圧に対する有益性が示唆された。 著者らは、水分摂取量が健康上のアウトカムに及ぼす影響を評価した臨床試験の数は限られていると指摘し、低コストで有害作用が少ないことを考慮すると、特定の条件下での有益性を評価するより十分にデザインされた研究が必要としている。

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統合失調症患者における21の併存疾患を分析

 統合失調症とさまざまな健康アウトカムとの関連性を評価した包括的なアンブレラレビューは、これまでになかった。韓国・慶熙大学校のHyeri Lee氏らは、統合失調症に関連する併存疾患の健康アウトカムに関する既存のメタ解析をシステマティックにレビューし、エビデンスレベルの検証を行った。Molecular Psychiatry誌オンライン版2024年10月18日号の報告。 統合失調症患者における併存疾患の健康アウトカムを調査した観察研究のメタ解析のアンブレラレビューを実施した。2023年9月5日までに公表された対象研究を、PubMed/MEDLINE、EMBASE、ClinicalKey、Google Scholarより検索した。PRISMAガイドラインに従い、AMSTAR2を用いて、データ抽出および品質評価を行った。エビデンスの信頼性は、エビデンスの質により評価および分類した。リスク因子と保護因子の分析には、等価オッズ比(eRR)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・本アンブレラレビューには、19ヵ国、6,600万人超の参加者を対象とし、21の併存疾患の健康アウトカムを評価した88件の原著論文を含む9件のメタ解析を分析に含めた。・統合失調症患者は、以下の健康アウトカムとの有意な関連が認められた。【喘息】eRR:1.71、95%信頼区間[CI]:1.05〜2.78、エビデンスのクラスおよび質(CE):有意でない【慢性閉塞性肺疾患】eRR:1.73、95%CI:1.25〜2.37、CE:弱い【肺炎】eRR:2.63、95%CI:1.11〜6.23、CE:弱い【女性患者の乳がん】eRR:1.31、95%CI:1.04〜1.65、CE:弱い【心血管疾患】eRR:1.53、95%CI:1.12〜2.11、CE:弱い【脳卒中】eRR:1.71、95%CI:1.30〜2.25、CE:弱い【うっ血性心不全】eRR:1.81、95%CI:1.21〜2.69、CE:弱い【性機能障害】eRR:2.30、95%CI:1.75〜3.04、CE:弱い【骨折】eRR:1.63、95%CI:1.10〜2.40、CE:弱い【認知症】eRR:2.29、95%CI:1.19〜4.39、CE:弱い【乾癬】eRR:1.83、95%CI:1.18〜2.83、CE:弱い 著者らは「統合失調症患者は、呼吸器、心血管、性機能、神経、皮膚に関する健康アウトカムに対する広範な影響が認められており、統合的な治療アプローチの必要性が明らかとなった。主に、有意ではなく、エビデンスレベルが弱いことを考えると、本知見を強化するためにも、さらなる研究が求められる」としている。

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ER+/HER2-乳がんへの術後タモキシフェン、閉経状態による長期有益性の違いとバイオマーカー

 エストロゲン受容体(ER)陽性/HER2陰性乳がん患者における術後内分泌療法の長期有益性は、閉経状態によって異なることが示唆された。スウェーデン・カロリンスカ研究所のAnnelie Johansson氏らは、20年の追跡調査を完了しているSTO試験(stockholm tamoxifen randomized trial)の2次解析結果を、Journal of the National Cancer Institute誌オンライン版2024年12月4日号で報告した。 STO試験(STO-2、STO-3、STO-5)では、1976~97年に浸潤性乳がんと診断された 3,930例の女性が登録された。今回の2次解析では、2~5年間のタモキシフェン40mgの術後補助療法群または対照群(内分泌療法なし)に無作為に割り付けられた、ER陽性/HER2陰性乳がん患者1,242例(閉経前:381例、閉経後:861例)が対象。カプランマイヤー解析、多変量Cox比例ハザード回帰、時間依存性解析により、無遠隔再発期間(DRFI)を評価した。同試験では、標準的な腫瘍特性のほか、70遺伝子シグネチャーによる遺伝学的リスク(低リスク/高リスク)のデータが収集されている。 主な結果は以下のとおり。・閉経前の場合、リンパ節転移陰性(調整ハザード比[aHR]:0.46、95%信頼区間[CI]:0.24~0.87)、プロゲステロン受容体(PR)陽性(aHR:0.61、95%CI:0.41~0.91)、遺伝学的低リスク(aHR:0.47、95%CI:0.26~0.85)の患者で統計学的に有意なタモキシフェンの有益性が確認され、遺伝学的低リスク患者でのみ10年以上維持された。・閉経後の場合、低悪性度(aHR:0.55、95%CI:0.41~0.73)、リンパ節転移陰性(aHR:0.44、95%CI:0.30~0.64)、PR陽性(aHR:0.60、95%CI:0.44~0.80)、Ki-67低値(aHR:0.51、95%CI:0.38~0.68)、遺伝学的低リスク(aHR:0.53、95%CI:0.37~0.74)などすべての予後良好マーカーを有する患者で長期的有益性が示され、腫瘍サイズによる影響はみられなかった(≦20mmのaHR:0.55、95%CI:0.39~0.77、>20mmのaHR:0.64、95%CI:0.44~0.94)。・予後不良の腫瘍特性を持たない(clinical marker score=0)患者において、閉経前では5年までの早期の有益性が確認された一方、閉経後では少なくとも20年までの長期的有益性が示された。 著者らは、標準的な腫瘍特性では閉経前患者における術後内分泌療法の10年以降の有益性を予測できないため、長期的有益性の予測においては分子バイオマーカーが必要になる可能性があるとしている。

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心筋梗塞へのコルヒチンは予後を改善するか/NEJM

 急性心筋梗塞患者の治療において、発症後すぐに抗炎症薬コルヒチンの投与を開始し、3年間継続しても、プラセボと比較して心血管アウトカム(心血管系の原因による死亡、心筋梗塞の再発、脳卒中、虚血による冠動脈の予期せぬ血行再建術の複合)の発生率は減少せず、その一方で3ヵ月後には炎症マーカーが有意に低下することが、カナダ・マクマスター大学のSanjit S. Jolly氏らCLEAR Investigatorsが実施した「CLEAR試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2024年11月17日号で報告された。14ヵ国の医師主導型無作為化プラセボ対照比較試験 CLEAR試験は、心筋梗塞発症後におけるコルヒチンとスピロノラクトンの心血管アウトカムの改善効果の評価を目的とする2×2ファクトリアルデザインの医師主導型無作為化プラセボ対照比較試験であり、2018年2月~2022年11月に14ヵ国104施設で患者を登録した(カナダ保健研究機構[CIHR]などの助成を受けた)。 心筋梗塞患者をコルヒチンまたはプラセボ、スピロノラクトンまたはプラセボの投与を受ける群に無作為に割り付けた。本論では、コルヒチンに関する結果が報告された。 有効性の主要アウトカムは、心血管系の原因による死亡、心筋梗塞の再発、脳卒中、虚血による冠動脈の予期せぬ血行再建術の複合とし、time-to-event解析を行った。主要アウトカムの個々の項目にも差はない 7,062例を登録し、コルヒチン群に3,528例、プラセボ群に3,534例を割り付けた。全体の平均年齢は61歳、女性が20.4%であった。9.0%が心筋梗塞の既往歴を有し、10.0%が経皮的冠動脈インターベンションを受けており、18.5%が糖尿病で、95.1%がST上昇型心筋梗塞(STEMI)、4.9%が非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)だった。 追跡期間中央値3年の時点で、主要アウトカムのイベントは、コルヒチン群が322例(9.1%)、プラセボ群は327例(9.3%)で発生し、両群間に有意な差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.99、95%信頼区間[CI]:0.85~1.16、p=0.93)。 主要アウトカムを構成する4つの項目にも差はなかった。心血管系の原因による死亡はコルヒチン群3.3% vs.プラセボ群3.2%(HR:1.03、95%CI 0.80~1.34)、心筋梗塞の再発は2.9% vs.3.1%(0.88、0.66~1.17)、脳卒中は1.4% vs.1.2%(1.15、0.72~1.84)、虚血による冠動脈の予期せぬ血行再建術は4.6% vs.4.7%(1.01、0.81~1.26)であった。重篤な有害事象に差はない、下痢が多かった 3ヵ月の時点におけるC反応性蛋白の最小二乗平均(ベースラインの値で補正)はコルヒチン群で低かった(2.98±0.19mg/L vs.4.27±0.19mg/L、群間差:-1.28mg/L、95%CI:-1.81~-0.75)。 有害事象(コルヒチン群31.9% vs.プラセボ群31.7%)および重篤な有害事象(6.7% vs.7.4%)の発生率は両群で同程度だった。また、下痢の頻度がコルヒチン群で高かった(10.2% vs.6.6%、p<0.001)が、重篤な感染症には差がなかった(2.5% vs.2.9%)。 著者は、「下痢の発生率の増加とC反応性蛋白の低下は予想どおりであり、本試験におけるコルヒチンの生物学的効果を支持するものであった」「最近のメタ解析では、コルヒチンによる心血管系以外の原因による死亡の名目上の増加が示されているが、本試験では逆にプラセボ群に比べて発生率が低かった(1.3% vs.1.9%、HR:0.68、95%CI:0.46~0.99)」としている。また、「本試験のデータが提示される前に、欧州心臓病学会は冠動脈アテローム硬化性疾患患者に対するコルヒチンの推奨をクラスIIbからクラスIIaに変更し、米国食品医薬品局は冠動脈疾患の治療薬として本薬を承認している」という。

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IL-6が新規診断2型糖尿病患者の肥満関連がんリスク予測に有用

 新たに2型糖尿病と診断された患者における肥満関連がんリスクの評価に、インターロイキン-6(IL-6)が有用だとする、ステノ糖尿病センター(デンマーク)のMathilde Dahlin Bennetsen氏らの研究結果が、欧州糖尿病学会(EASD 2024、9月9~13日、スペイン・マドリード)で発表された。 2型糖尿病は、肥満関連がんのリスク増大と関連のあることが知られている。この関連には、2型糖尿病と肥満の双方に共通するリスク因子である、軽度の慢性炎症が関与している可能性が想定されている。脂肪組織はIL-6や腫瘍壊死因子-α(TNF-α)などの炎症性サイトカインを放出しており、そのため肥満に伴い軽度の慢性炎症が生じ、これが発がんリスク上昇に寄与すると考えられている。IL-6とTNF-αはともに炎症の初期に産生が高まるサイトカインだが、これらとは別の炎症マーカーとして臨床では高感度C反応性タンパク質(hsCRP)が広く用いられている。hsCRPは直接的には発がんメカニズムに関与せずに、全身の炎症レベルを反映する。Bennetsen氏らは、これらの三つの異なる炎症マーカーが、新規診断2型糖尿病患者の肥満関連がんの予測バイオマーカーになり得るかを検討した。 デンマークで行われている2型糖尿病コホート研究の参加者のうち、診断から間もない患者9,010人を抽出し、がんの既往歴のある患者732人、および、共変量のデータが不足している1,809人などを除外し、6,466人(年齢中央値60.9歳〔四分位範囲52.0~68.0〕、女性40.5%)を解析対象とした。中央値8.8年の追跡期間中に327人が肥満関連がんを発症した。 年齢と性別を調整したモデル1では、IL-6のみが発がんと有意な関連が認められ(ハザード比〔HR〕1.19〔95%信頼区間1.07~1.31〕)、TNF-α(HR1.08〔同0.98~1.19〕)やhsCRP(HR1.08〔0.97~1.21〕)は有意な予測因子でなかった。IL-6は、モデル1の調整因子に糖尿病罹病期間、飲酒・運動習慣、ウエスト周囲長を追加したモデル2(HR1.18〔1.07~1.31〕)や、さらにモデル2にHbA1c、トリグリセライド、血糖降下薬・脂質低下薬の処方を追加して調整したモデル3でも(HR1.19〔1.07~1.32〕)、引き続き有意な予測因子として特定された。喫煙習慣が把握されていた4,335人での解析でも、IL-6が有意な予測因子であることが確認された。 モデル3の変数に基づく発がん予測において、IL-6を追加することによりC統計量は0.685から0.693へとわずかながら有意に上昇した。一方、TNF-αやhsCRPの追加では、予測能の有意な上昇が見られなかった。 以上の結果を基にBennetsen氏は、「新規診断2型糖尿病患者の中から、IL-6によって発がんリスクの高い個人を把握することで、より的を絞った効果的なモニタリングと早期発見が可能になり、早期介入と個別化治療を通してアウトカム改善につながるのではないか」と述べている。

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硬膜下血腫の再発に有効な新たな治療法とは?

 転倒などにより頭部を打撲すると、特に高齢者の場合、脳の表面と脳を保護する膜である硬膜の間に血液が溜まって(血腫)危険な状態に陥る可能性がある。このような硬膜下血腫に対しては、通常は手術による治療が行われるが、8〜20%の患者では、再発して再手術が必要になる。こうした中、標準的な血腫除去術と脳の中硬膜動脈の塞栓術(遮断)を組み合わせた治療が血腫の進行や再発のリスク低下に有効であることを示したランダム化比較試験の結果が報告された。米ワイル・コーネル・メディスン脳血管外科および介入神経放射線学分野のJared Knopman氏らによるこの研究結果は、「The New England Journal of Medicine(NEJM)」に11月20日掲載された。 Knopman氏は、「硬膜下血腫では、血腫を除去した後でも再発して再手術が必要になる可能性があるため、この結果が意味するところは大きい。特に、慢性硬膜下血腫がよく生じる高齢患者において再手術は困難を伴う」と話す。また、論文の筆頭著者である米バッファロー大学のJason Davies氏は、「よくあることだが、高齢患者がすでに抗凝固薬を服用している場合、慢性硬膜下血腫の再出血を防ぐのは特に難しい」と強調している。 Knopman氏らが今回の臨床試験で検討した治療法は、通常の血腫除去術に加え、「鼠径部などの血管から挿入したカテーテルを通じて液体塞栓物質のオニキスを中硬膜動脈に注入する方法(中硬膜動脈塞栓術)を併用するものだ。対象とされた症候性の亜急性または慢性硬膜下血腫患者400人は、この併用療法を受ける群(塞栓術群、197人)と、標準的な血腫除去術のみを受ける群(対照群、203人)にランダムに割り付けられた。主要評価項目は、治療後90日以内に再手術を要した血腫の再発または進行とした。副次評価項目は、治療後90日時点での神経機能低下とし、mRS(修正ランキンスケール)により非劣性解析(リスク差のマージンは15パーセントポイント)で評価した。 再手術を要した血腫の再発または進行が生じた患者は、塞栓術群で8人(4.1%)、対照群で23人(11.3%)であり、塞栓術群で再発や進行のリスクが有意に低いことが明らかになった(相対リスク0.36、95%信頼区間0.11〜0.80、P=0.008)。神経機能の低下は、塞栓術群で11.9%、対照群で9.8%に発生したが、リスク差は2.1パーセントポイント(95%信頼区間-4.8~8.9)であり、塞栓術群と対照群の間に有意な差は認められなかった。 Knopman氏は、「オニキスを用いて中硬膜動脈を封鎖することが治療成績改善の鍵だった」と米ワイル・コーネル大学のニュースリリースで結論付けている。同氏はさらに、「本研究は、中硬膜動脈が硬膜下血腫の形成と再発に果たす役割を示しただけでなく、これまで何十年も知られず、治療もされていなかった脳の全く新しい側面を明らかにした」と述べている。 研究グループは現在、手術するほどのサイズではない慢性硬膜下血腫の患者の治療において、最初に中硬膜動脈塞栓術を実施することの有効性について検討しているところだという。Knopman氏は、「このような患者に早期に中硬膜動脈塞栓術を行えば、後に手術が必要となる患者数を減らせる可能性がある」と述べている。研究グループは、「中硬膜動脈塞栓術は今後10年で、脳神経外科医が行う最も一般的な手術になる可能性があるため、医療費を削減し、高齢患者集団の全体的な健康状態を改善する可能性がある」との見方を示している。

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幼少期の教師との関係は子どもの学習や発達に影響する

 幼児期から小学3年生までにかけての子どもと教師の関係が良好であると、子どもの学習や発達に大きな利益をもたらす可能性のあることが、米オハイオ州立大学教育学・人間生態学准教授のArya Ansari氏らの研究で示された。Ansari氏は、「このような早期からのつながりは、学業成績だけでなく社会的および情緒的な発達や、教育の成功に重要な実行機能能力にも大きく影響する」と話している。この研究結果は、「Child Development」に11月20日掲載された。 Ansari氏らはこの研究で、2010~2011年に幼稚園児約1万4,370人を対象に開始された進行中の研究(Early Childhood Longitudinal Study)のデータを用いて、幼児期から小学3年生までにかけての子どもと教師との関係の質が、子どもの教育に及ぼす影響について検討した。この研究データには、5年生までの子どもの家庭および学校での経験に関するデータも含まれていたが、4・5年生時の子どもと教師との関係性についての報告がなかったため、今回の研究では3年生までの期間が対象とされた。子どもと教師との関係の質は、STRS(Student-Teacher Relationship Scale)の短縮版を用いて、親密さとコンフリクト(葛藤)の観点から評価し、両者の関係が子どもの学業成績、欠席率、実行機能、社会的行動の発達に与える影響を検討した。 その結果、幼稚園という早い段階で形成された子どもと教師との関係の質は、子どもの早期の学習と発達に大きなメリットをもたらす可能性のあることが明らかになった。また、両者の関係は低学年の期間を通じて重要であり、時間の経過とともに累積的な効果をもたらすことが確認された。全ての子どもが教師との親密な関係から利益を得ており、特に女子では、教師との関係においてコンフリクトや親密さに不足が認められた場合には、社会的に悪影響を受ける傾向のあることが示された。一方、男子はそのような影響を受けにくい傾向が認められた。 Ansari氏は、「この研究から得られた最も驚くべき知見は、子どもと教師の関係が、短期的にも長期的にも多様な集団で幅広いアウトカムに一貫して影響を及ぼすという点である」と、「Child Development」の発行元であるSociety for Research in Child Development(SRCD、児童発達研究学会)のニュースリリースの中で説明している。 Ansari氏は教師に対し、率直な意見を述べるように子どもを促し、彼らの話に積極的に耳を傾けるよう呼び掛けている。また、強い絆で結ばれた人間関係を築くために、教師は子どもの気持ちを認め、協力を促すべきであるとも付け加えている。なお、教師と子どもの絆は子どもたち一人一人の興味を育むことによって築かれることも、この研究で示された。 Ansari氏は、今回の研究結果について、「教師と子どもの関係のさまざまな側面がどのように学びを形成するのか、また、こうした関係が集団や環境によってどのように異なるのかを探る足掛かりとなるものだ」と話している。

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第220回 インフルエンザ患者数が前週比2倍以上に増加、年内にも感染ピーク?/厚労省

<先週の動き>1.インフルエンザ患者数が前週比2倍以上に増加、年内にも感染ピーク?/厚労省2.2040年を見据えた新たな地域医療構想、在宅医療強化が必要/厚労省3.移植希望、複数医療機関に登録可能に、体制改革案を公表/厚労省4.医師の働き方改革でガイドラインを改正、時短計画見直しを強化/厚労省5.地方は分娩数減、都市部はコスト増で産科診療所の経営が悪化/日医総研6.担当医が画像診断報告書を見逃し、肺がん診断が1年遅れる医療過誤/神戸大1.インフルエンザ患者数が前週比2倍以上に増加、年内にも感染ピーク?/厚労省インフルエンザの流行が拡大している。厚生労働省によると、11月25日~12月1日の1週間における定点1医療機関当たりの患者報告数は4.86人と、前週の2倍以上に増加した。全国的な流行期に入ってから6週連続の増加で、患者数は2万4,027人に達した。都道府県別では、福岡県が11.43人と最も多く、ついで長野県(9.07人)、千葉県(8.18人)と続いている。専門家は、このペースで患者数が増加すると、年内にも感染のピークを迎える可能性があると指摘している。インフルエンザは、インフルエンザウイルスによる感染症で、発熱、咳、のどの痛み、頭痛、関節痛、筋肉痛などの症状を引き起こす。感染経路は、咳やくしゃみなどの飛沫感染や、ウイルスが付着した手で口や鼻を触ることによる接触感染。厚労省では、手洗い、マスクの着用、咳エチケットなどの感染対策を呼びかけている。また、ワクチンの接種も有効な予防策となる。ワクチンは、接種してから効果が出るまでに約2週間かかるため、流行期前に接種することが推奨されている。参考1)インフルエンザの定点報告数が倍増 感染者数2万人超える(CB news)2)インフルエンザ 感染ピークはいつ?流行期入り後 患者増続く(NHK)2.2040年を見据えた新たな地域医療構想、在宅医療強化が必要/厚労省厚生労働省は、12月6日に「新たな地域医療構想等に関する検討会」を開き、2040年の高齢社会を見据えた新たな地域医療構想案について検討を行った。2040年頃に迎える高齢者人口のピークと医療ニーズの変化に対応するため、入院医療だけでなく在宅医療の強化や医療機関の機能分担を明確化し、地域完結型の医療体制構築を目指す内容となった。2040年には、85歳以上の高齢者が2020年比で42%増加すると予測され、都市部を中心として在宅医療の需要も62%増加する見込みとなっている。新たな構想では、各地域で将来の在宅医療需要を推計し、医療関係者と連携して必要な体制について検討を行っていく。具体的には、医療機関の機能を「急性期拠点機能」「高齢者救急・地域急性期機能」「在宅医療等連携機能」「専門等機能」の4つに分類し、地域での役割分担の明確化を行う。大学病院などには、医師の派遣や医療従事者育成といった広域的な機能を担うことも期待されており、行政は、地域ごとの医療ニーズを踏まえ、医療機関の機能強化を支援する。この構想は、2024年度補正予算案にも反映されており、医療機関の経営支援、医師不足地域への支援、医療DX推進などに1,311億円が計上されている。一方、財政制度等審議会は、医療費総額の伸びを抑制するため、診療報酬の適正化や医師偏在対策などを提言している。医療現場からは、介護ヘルパーなど在宅医療の担い手不足や、診療報酬改定による経営悪化を懸念する声も上がっており、新たな地域医療構想の実現には、医療費抑制と医療提供体制の充実を両立させることが課題となる。今回、討議されなかった医師偏在対策については来週、開催する会議で検討を行い、年末までに関係者の合意を得て、対策パッケージとして取りまとめたい考えだ。参考1)第14回 新たな地域医療構想等に関する検討会(厚労省)2)新たな地域医療構想、取りまとめ案を大筋了承 連携・再編・集約化を28年度までに協議(CB news)3)新「地域医療構想」案を公表 「在宅医療」対応強化など 厚労省(NHK)3.移植希望、複数医療機関に登録可能に、体制改革案を公表/厚労省厚生労働省は12月5日、脳死からの臓器移植の体制を抜本的に見直す改革案をまとめ、有識者委員会に提示した。改革案では、提供者(ドナー)家族への対応や移植希望者の選定、臓器搬送の調整など、これまで日本臓器移植ネットワーク(JOT)に集中していた業務を分割し、あっせん機関を複数化する。具体的には、ドナー家族への対応は地域ごとに新設する法人に移管し、JOTは移植希望者の選定や臓器搬送の調整などに専念する。また、移植希望者が登録できる医療機関を、現在の原則1ヵ所から複数ヵ所に拡大する。これにより、第1希望の医療機関が受け入れを断念した場合でも、他の医療機関で移植を受けられる可能性が高まる。さらに、知的障害などで意思表示が困難な人からの臓器提供についても、本人の意思を丁寧に推定した上で判断できるようにガイドラインを見直す予定。この改革案は、JOTの業務多忙化や人員不足による対応の遅れ、移植実施病院の受け入れ体制不足など、現在の臓器移植体制が抱える課題を解決することを目指している。厚労省は、今後、パブリックコメントなどを経てガイドラインを改正し、新たな体制を構築していく方針。参考1)第70回 厚生科学審議会疾病対策部会臓器移植委員会(厚労省)2)厚生労働省 脳死からの臓器移植 実施体制の大幅な見直し案示す(NHK)3)臓器あっせん、複数機関で 厚労省改革案 移植増狙い負担軽減(日経新聞)4)移植医療体制の抜本見直し案、厚労省臓器移植委が了承…移植希望者の複数施設登録を可能に(読売新聞)4.医師の働き方改革でガイドライン改正、時短計画見直しを強化/厚労省厚生労働省は、医師の労働時間短縮計画作成ガイドラインを一部改正し、11月28日に都道府県などに通知した。改正のポイントは、計画の年度途中における「年度暫定評価」と次年度開始後に行う「年度最終評価」の2段階評価を導入し、よりきめ細かく計画を見直すことができるようにした。今回の改正は、「医師の働き方改革を推進するための医療法等の一部を改正する法律」(令和3年法律第49号)に基づくもの。同法では、時間外や休日の労働時間が年960時間を超え、特例水準を適用する医師が勤務する医療機関などに、医師の労働時間短縮計画の作成を義務付けている。ガイドラインでは、計画期間について5年を超えない範囲で設定することとし、4月を計画の開始月とした場合を例に、毎年の見直し方法を解説している。初年度は、第3四半期頃に「年度暫定評価」を実施し、計画の対象となる医師の時間外・休日労働時間数や、タスク・シフト/シェアによる労働時間の短縮に向けた取り組みについて実績を確認する。確認期間は4月からおおむね6~8ヵ月間とした。その結果に基づき、第4四半期頃に計画見直しを検討し、年度末までに2年目の計画の変更を行う。2年目以降は、前年度全体の「年度最終評価」を第1四半期頃に実施し、「年度暫定評価」と同様に実績を確認する。その結果に基づき、2年目の計画の見直しが必要かどうかを検討し、計画を見直す場合は6月末日までに計画の変更を行う。一連の見直しは毎年行い、特定労務管理対象機関は時間外・休日労働時間の実績などを記入する参考資料とともに計画を都道府県に提出する。それ以外の医療機関は医療機関等情報支援システム「G-MIS」に登録する。厚労省は、今回のガイドライン改正により、医療機関における医師の労働時間短縮に向けた取り組みが、より効果的に推進されることを期待している。参考1)医師労働時間短縮計画作成ガイドラインの一部改正について(厚労省2)医師の時短計画、2段階評価で毎年見直し タスクシフト・シェアの状況も確認 厚労省(CB news)5.地方は分娩数減、都市部はコスト増で産科診療所の経営が悪化/日医総研日本医師会総合政策研究機構は、全国の産科診療所の経営状況などを把握するため、9月にアンケート調査を実施した。その結果をワーキングペーパーとしてまとめ公表した。これによると、2023年度の産科診療所の経常利益率は3.0%で、前年度から0.4ポイント悪化し、赤字診療所の割合は42.4%と、前年度から0.5ポイント拡大したことが明らかとなった。調査は、日本産婦人科医会の会員の産婦人科と産科の診療所1,000ヵ所を対象に、ウェブ形式と紙の調査票で実施された。有効回答は449ヵ所(有効回答率44.9%)で、このうち医療法人の産科診療所は191ヵ所だった。2023年度の経常利益率を地域別にみると、大都市は2.9%、中都市は3.0%、小都市・町村は3.0%だった。前年度に比べ、中都市では1.1ポイント上昇したが、小都市・町村で2.8ポイント、大都市では1.5ポイント悪化した。都市部では物価高騰と賃上げなどによるコストの増加が経営悪化につながり、地方では分娩数の減少が経営を圧迫している現状が浮き彫りになった。回答施設の病床利用率は、平均5割を切っており、入院患者数が減少していることがわかる。しかし、24時間対応の医療スタッフを維持する必要があるため、人件費の削減が難しく、経営悪化に拍車をかけている。日医総研は、こうした状況が続けば、医療スタッフを維持するのが困難になり、分娩の取り扱いを止めざるを得ない診療所が増えるとして、国による支援を呼びかけている。参考1)産科診療所の特別調査(日医総研)2)産科診療所の4割超が経常赤字 日医総研 医業利益率は悪化(CB news)6.担当医が画像診断報告書を見逃し、肺がん診断が1年遅れる医療過誤/神戸大神戸大学医学部附属病院は12月6日、医師2人が患者のCT画像診断報告書に記載された肺がんの疑いを見落とし、診断が約1年遅れる医療過誤があったと発表した。患者は70代の女性で、2016年から心臓血管疾患の経過観察のため、同病院で定期的にCT検査を受けていた。2022年10月のCT検査で放射線科医が肺がんの疑いを指摘したが、当時の担当医は報告書の内容を確認しなかった。翌2023年10月にも同様の指摘がされたが、別の担当医もまた見落としていた。同年10月中旬、患者のかかりつけ医が診断報告書を確認し、肺がんの疑いに気付き、同病院の呼吸器内科に紹介したことで、肺がんの診断が確定した。しかし、発見時にはすでに進行がんの状態であり、完治が難しい状態になっていた。同病院は、早期に発見できていれば手術などの治療が可能だった可能性が高いことを認め、「患者とご家族に多大な苦痛をおかけしたことを反省し、謝罪申し上げる」と発表した。再発防止策として、同病院では、報告書の見落としを防ぐシステムの活用や、診療科ごとに診断リポートの重大な指摘を見逃さないよう確認する責任者を置くなどの対策を講じるとしている。参考1)画像診断レポートの確認不足による肺の確定診断及び治療の遅延について(神戸大)2)神戸大付属病院で医療ミス、肺がん疑いの患者CT検査結果の確認怠る…発見遅れ完治困難に(読売新聞)3)神戸大病院 肺がん疑いのCT画像報告書を主治医が見落とし 1年放置し「重大な影響」(神戸新聞)4)神戸大病院で肺がんの診断遅れるミス 疑い指摘を担当医2人が見逃す(朝日新聞)

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