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III期dMMR大腸がん、術後補助療法にアテゾリズマブ上乗せでDFS改善(ATOMIC)/ASCO2025

 III期大腸がんの標準的な補助化学療法は、フッ化ピリミジンまたはオキサリプラチン併用療法である。ATOMIC試験は、StageIIIでミスマッチ修復機能欠損(dMMR)を有する患者において、補助療法として5-フルオロウラシル+レボホリナート+オキサリプラチン(mFOLFOX6)に抗PD-L1抗体アテゾリズマブを追加投与することで、患者予後を改善できるかを評価するために実施された。米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)のプレナリーセッションにおいて、米国・メイヨークリニックのFrank A. Sinicrope氏が本試験の2回目の中間解析結果を発表した。・試験:多施設共同無作為化第III相試験・対象:術後StageIIIのdMMR大腸がん患者(化学療法、放射線療法未治療)・試験群:mFOLFOX6とアテゾリズマブ(840mgを2週ごと)を12サイクル(6ヵ月)投与後、アテゾリズマブ単剤を13サイクル(計12ヵ月)投与(アテゾ群)355例・対照群:mFOLFOX6を12サイクル(6ヵ月)投与(mFOLFOX6群)357例・評価項目:[主要評価項目]無病生存期間(DFS)[副次評価項目]全生存期間(OS)、安全性 主な結果は以下のとおり。・2017年9月~2023年1月、712例がランダム化され、アテゾ群またはmFOLFOX6群に1対1で割り付けられた。患者年齢の中央値は64歳、55.1%が女性だった。腫瘍の分類では、83.8%が近位部、53.9%が高リスク(T4および/またはN2)だった。治療期間中央値はアテゾ群で10.9ヵ月、mFOLFOX6群で5.4ヵ月だった。・追跡期間中央値は37.2ヵ月で、124例のDFSイベントが観察された。3年DFS率は、アテゾ群で86.4%(95%信頼区間[CI]:81.8~89.9)、mFOLFOX6群で76.6%(95%CI:71.3~81.0)を示し、試験群で有意な改善が認められた(ハザード比:0.50、95%CI:0.35~0.72)。アテゾ群の有効性は、70歳以上および低リスク群と高リスク群を含むサブグループで一貫していた。・追跡期間中央値42.5ヵ月におけるOSは未成熟だった。・Grade3以上の治療関連有害事象は、アテゾ群の72.3%、mFOLFOX6群の59.2%で発現した。Grade3/4で多くみられたのは好中球数減少(43%と30%)末梢神経障害(19%と15%)だった。 Sinicrope氏は「アテゾリズマブをmFOLFOX6に追加することは、dMMRのStageIII大腸がん患者におけるDFSを有意に改善した。このレジメンを新たな補助療法の標準治療として検討すべきだ」とした。 現地で聴講した相澤病院・がん集学治療センターの中村 将人氏は「3年DFS率が有意差をもって改善し、プラクティスチェンジとなる発表だった。一方、実臨床に用いる際には、アテゾリズマブとの併用は広く使われるCAPOXレジメンではダメなのか、MMR/MSI検査を行うタイミングなどの点が議論になりそうだ」とコメントした。

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既治療CLDN18.2陽性胃がん、CAR-T療法satri-celがPFS改善(CT041-ST-01)/Lancet

 既治療のCLDN18.2陽性進行胃または食道胃接合部がん患者において、医師が選択した治療と比較してsatricabtagene autoleucel(satri-cel、自家CLDN18.2特異的キメラ抗原受容体[CAR]T細胞療法)による治療は、無増悪生存期間(PFS)を有意に延長し、全生存期間(OS)について有意差はないものの臨床的に意義のある改善をもたらし、安全性プロファイルは管理可能であることが、中国・Peking University Cancer HospitalのChangsong Qi氏らが実施した「CT041-ST-01試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌2025年6月7日号に掲載された。中国の無作為化実薬対照比較第II相試験 CT041-ST-01試験は、既治療のCLDN18.2陽性進行胃・食道胃接合部がんにおけるsatri-cel治療の有効性と安全性の評価を目的とする非盲検無作為化実薬対照比較第II相試験であり、2022年3月~2024年7月に中国の24施設で参加者のスクリーニングを行った(CARsgen Therapeuticsの助成を受けた)。 年齢18~75歳、CLDN18.2陽性の進行胃・食道胃接合部がんで、2ライン以上の前治療に不応であった患者を対象とした。被験者を、satri-cel(細胞量250×106、最大3回まで)を投与する群、または医師が選択した治療(TPC)を受ける群に、2対1の割合で無作為に割り付けた。TPCは、標準治療薬(ニボルマブ、パクリタキセル、ドセタキセル、イリノテカン、rivoceranib[apatinib])から1つを選ぶこととした。 主要評価項目は、ITT集団におけるPFSとし、盲検下独立中央判定とした。奏効率、病勢コントロール率も良好 156例(年齢中央値52.0歳[四分位範囲:44.5~59.0]、女性69例[44%]、胃腺がん136例[87%]、食道胃接合部腺がん20例[13%])を登録し、satri-cel群に104例、TPC群に52例を割り付けた。それぞれ88例(85%)および48例(92%)が実際に試験薬の投与を受けた。satri-cel群では、28例(27%)が3ライン以上の前治療を受けており、72例(69%)が腹膜転移を有していた。TPC群では、それぞれ10例(19%)および31例(60%)であった。 PFSの追跡期間中央値は、satri-cel群9.07ヵ月、TPC群3.45ヵ月だった。ITT集団におけるPFS中央値は、TPC群が1.77ヵ月(95%信頼区間[CI]:1.61~2.04)であったのに対し、satri-cel群は3.25ヵ月(2.86~4.53)と有意に延長した(ハザード比[HR]:0.37[95%CI:0.24~0.56]、片側log-rank検定のp<0.0001)。 OS中央値は、satri-cel群が7.92ヵ月(95%CI:5.78~10.02)、TPC群は5.49ヵ月(3.94~6.93)であり(HR:0.69[95%CI:0.46~1.05]、片側log-rank検定のp=0.0416)、有意差はないもののsatri-cel群で臨床的に意義のある良好な傾向を認めた。 奏効率(完全奏効+部分奏効)はsatri-cel群22%、TPC群4%(部分奏効2例のみ)、病勢コントロール率(完全奏効+部分奏効+安定)はそれぞれ63%および25%であった。奏効期間中央値はsatri-cel群が5.52ヵ月で、TPC群の部分奏効の2例ではそれぞれ4.47ヵ月および5.42ヵ月だった。奏効までの期間中央値はsatri-cel群が1.94ヵ月、TPC群の部分奏効例はそれぞれ1.77ヵ月および2.96ヵ月であった。固形がんでの世界初の無作為化対照比較試験 安全性解析は、試験薬の投与を少なくとも1回受けたすべての患者で行った。試験治療下でのGrade3以上の有害事象は、satri-cel群で88例中87例(99%)、TPC群で48例中30例(63%)に発現した。試験治療下での有害事象による死亡は、それぞれ1例(播種性血管内凝固症候群による)および1例(血液凝固障害による)にみられた。 satri-cel群で最も頻度の高いGrade3以上の治療関連有害事象は、リンパ球数の減少(86/88例[98%])、白血球数の減少(68例[77%])、好中球数の減少(58例[66%])であった。サイトカイン放出症候群は、satri-cel群の84例(95%)で発現した。 著者は、「本試験は、固形がんにおけるCAR T細胞療法の世界初の無作為化対照比較試験と考えられる」「これらの結果は、satri-celが進行胃・食道胃接合部がんの既治療患者における標準治療となる可能性を示唆しており、より早期の治療ラインでのさらなる検討を支持するものである」としている。

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第246回 医師への食事提供ルールが来春から厳格化、MRとの懇親が制限対象に/医薬品公取協

<先週の動き> 1.医師への食事提供ルールが来春から厳格化、MRとの懇親が制限対象に/医薬品公取協 2.医療費削減のため風邪薬・湿布が保険外に? 医師会は反発/政府 3.三党合意で11万床削減の波紋、病床再編と医療DXの両輪は進むか/政府 4.「医療費タダ乗り」批判に本腰、外国人の社会保障制度見直しへ/政府 5.iPhoneでマイナ保険証対応へ、医療機関も対応準備を/デジタル庁 6.特定健診実施率、過去最高も目標未達、背景に情報提供の不足も/厚労省 1.医師への食事提供ルールが来春から厳格化、MRとの懇親が制限対象に/医薬品公取協医療用医薬品製造販売業公正取引協議会(医薬品公取協)は5月30日、講演会や情報提供における飲食提供のルールを13年ぶりに見直し、明確な金額基準と提供形態の規定を導入する新運用基準を発表した。来春の2026年4月1日から実施。新基準では、医師への飲食提供の上限は「飲酒を伴う飲食」で2万円、「飲酒を伴わない食事」で3,000円に統一された。講演会の役割者や医療機関から委託された業務に伴う飲食は上限2万円まで許容されるが、施設外でのMR活動における飲食は廃止され、食事のみ・上限3,000円に厳格化された。これは「飲酒を伴う情報提供は適切でない」との判断による。また、社内研修会の講師への慰労飲食は“乱用の恐れが大きい”として禁止され、従来1万円以下で認められていた着席型の懇親会も認めない方針とした。懇親行事は原則として立食形式に限定される。この見直しは、2012年の改定以降の社会変化-コロナ禍、情報提供のデジタル化、働き方改革など-を反映したもの。従来、飲食に関する基準は不明瞭で違反リスクも高かったことから、公務員倫理規程を参考に「国民・患者からの理解」重視で簡素化と整合性を図った。あわせて2024年度には、病院長への10年以上にわたる社有車送迎による規約違反が「指導」対象となるなど、透明性向上と規律強化が求められている。医薬品公取協の新会長には安川 健司氏(アステラス製薬)が就任し、改定ルールの周知と規約遵守、業界全体の信頼向上に取り組む姿勢を表明した。 参考 1) 飲食提供ルールを改定へ-施設外での酒席認めず、医療用医薬品製造販売業公正取引協議会(薬事日報) 2) メーカー公取協 飲食や食事の提供に関する運用基準見直し 上限額明記 社内研修会の慰労会は許容せず(ミクスオンライン) 2.医療費削減のため風邪薬・湿布が保険外に? 医師会は反発/政府政府は2026年度から、医療費削減策として「OTC類似薬」の一部を医療保険の適用外とする方向を正式に打ち出した。風邪薬や湿布薬、胃薬など、効能が市販薬と類似する処方薬が対象で、維新の会の試算では最大3,500億円の医療費削減が見込まれる。これにより、現役世代の保険料軽減が期待される一方で、高齢者や慢性疾患患者への影響は避けられず、日本医師会は「健康被害のリスクがある」として強く反発している。このような制度改革と並行して、製薬業界でもOTC市場への展開が活発化している。2025年6月、エーザイは国内で初めてPPI(プロトンポンプ阻害薬)のOTC化を実現し、「パリエットS」を発売した。同剤は医療用と同量のラベプラゾールナトリウムを含み、要指導医薬品として薬剤師の対面販売が義務付けられている。今後はアリナミン製薬(タケプロンS)や佐藤製薬(オメプラールS)も参入予定であり、OTC胃薬市場に構造変化をもたらす可能性が高い。さらにED治療薬「タダラフィル」のスイッチOTC化も動き出した。エスエス製薬が申請を進めており、薬剤師による問診と適正使用指導、医療機関との連携体制を構築する方針だ。偽造薬の蔓延や未受診者の多さ(ED患者の88%が未治療)を背景に、正規ルートでの治療アクセス拡充が期待されている。こうした変化により、軽症疾患の自己管理が推奨される一方で、診断機会の喪失や副作用管理の困難性が課題となる。医師にとっては、患者のセルフメディケーションを前提にした服薬管理の支援や、重症化リスクの早期発見の啓発がより重要となる。 参考 1) OTC類似薬、保険除外へ 26年度から一部、骨太明記 政府、患者負担配慮(共同通信) 2) “OTC類似薬見直し”で風邪薬や湿布が保険適用外に? 膨張する医療費の削減目的が背景「健康被害広まる」と医師会は反発(FNNプライムオンライン) 3) 国内初、OTCのPPI「パリエットS」が発売(日経ドラッグインフォメーション) 4) 緊急避妊薬のOTC化「面前服用は必要」意見多数(同) 3.三党合意で11万床削減の波紋、病床再編と医療DXの両輪は進むか/政府政府が6月6日に公表した「経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太の方針)」に加え、自民・公明両党と日本維新の会の三党合意により、医療業界にとって重大な政策転換が進もうとしている。今回の合意では、全国で約11万床の病床削減と、電子カルテ普及率100%に向けた医療DXの加速が明記され、医療提供体制と経営構造に抜本的な変革が迫られることになる。三党は人口減少によって将来的に不要とされる病床が11万床にのぼると推定し、2040年を見据えた新たな地域医療構想の開始時期である2027年度までに、調査を踏まえて削減を図る方針。維新の試算では、この病床削減により年間約1兆円の医療費抑制効果が見込まれるとされるが、自民党側はこの数字への責任を明言せず、合意文書では「一定の合理性のある試算」との曖昧な表現に止まっている。他方、「骨太方針2025」では医療・介護給付費の対GDP比の上昇に対して制度改革を進める方針が打ち出されており、医師の地域偏在是正、在宅医療体制の整備、ICT活用の推進が重点項目となっている。とくに地方では医療・介護の維持そのものが課題となっており、病床の削減は地域医療体制の崩壊リスクを伴う。電子カルテ普及率の5年以内の実質100%実現も明記され、医療DXが急速に進む見通しである。医療情報の共有による効率化が期待される一方で、初期投資やシステム整備の負担が中小病院や診療所に重くのしかかる可能性がある。これに加え、介護分野でも人材確保と処遇改善、公的制度の見直しがセットで進められる。このような一連の改革は、医療の質の担保と地域格差の是正を両立させる必要があり、数値目標ありきで進めれば、現場の疲弊や医療難民の増加を招く恐れもある。全国自治体病院協議会も声明で「数字ありきではなく、適正な病床再編を」と強調している。現場の声を踏まえつつ、持続可能な医療・介護体制をどう築くか。今回の合意は社会保障改革の一里塚であると同時に、医療現場への重大な問いかけでもある。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針 2025原案(経済財政諮問会議) 2) 自公維 “病床削減などで国民負担軽減”社会保障改革 合意(NHK) 3) 人口減で全国11万床が不要に…自公と維新が病床削減で合意、医療法改正案の年内成立目指す(読売新聞) 4) 自公維・社会保険料の負担軽減協議 余剰病床の削減で合意 11万床で1兆円の医療費削減(FNNプライムオンライン) 4.「医療費タダ乗り」批判に本腰、外国人の社会保障制度見直しへ/政府政府は6月6日、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2025」の原案において、「外国人との秩序ある共生社会の実現」を掲げ、外国人による医療費の「タダ乗り」対策を中心とする制度見直しを明記した。外国人による社会保障の不適正利用や滞納への懸念が高まる中、入国審査の厳格化、在留資格更新への制限、情報基盤整備など、多方面からの対策が進められる。厚生労働省の調査では、外国人世帯主の国民健康保険納付率は全国平均で63%に止まり、日本人世帯の93%と比べて大きな差がある。政府はこれを受け、医療費の未払い履歴を入国管理や在留資格の審査に反映させる仕組みを構築し、保険制度の適用範囲の見直しも検討する。また、医療費未払いを理由とした外国人観光客の再入国拒否や、社会保険料滞納者への在留資格更新の不許可も新たな対応策として盛り込まれた。制度の実効性を高めるため、内閣官房に新たな司令塔組織を設置し、「外国人材の受け入れ・共生に関する関係閣僚会議」を中心に、法令順守や情報の透明性向上に取り組む方針。さらに、2028年度導入を目指す電子渡航認証制度や入国・出国情報の一元管理により、出入国管理の強化も進める。急増する外国人観光客や就労者との共生を前提に、制度の整合性と持続性が問われる中、国民の不安を背景にしたこの一連の対策は、今後の外国人政策全体の方向性を左右する転機となる可能性がある。 参考 1) 経済財政運営と改革の基本方針 2025原案(経済財政諮問会議) 2) 外国人医療費「タダ乗り」対策強化 政府「骨太の方針」原案 外国人関連部分の全容判明(産経新聞) 3) 医療費未払い、入国審査を厳格化 外国人材受け入れで司令塔組織-政府(時事通信) 5.iPhoneでマイナ保険証対応へ、医療機関も対応準備を/デジタル庁デジタル庁は6月6日、2025年6月24日からiPhoneにマイナンバーカード機能を搭載可能とする方針を発表した。これにより、iPhoneユーザーは物理カードを持ち歩かなくても、マイナポータルへのログインや、住民票などの証明書の取得が可能となる。ウォレットアプリへの登録後、顔認証や指紋認証で本人確認を行い、各種行政手続きに対応できる。医療現場にとって注目すべきは、9月以降に「マイナ保険証」機能もiPhone上で利用可能になる点だ。現在はAndroid端末のみが先行対応していたが、今後はiPhoneでも対応となる予定で、保険証確認がスマートフォン1台で完結する時代が到来する。厚生労働省は7月から一部の医療機関で実証実験の開始を予定。従来のカードリーダーにスマホ読取用アタッチメントを追加する形で運用される見込みだ。セキュリティ対策として、AppleのFace IDやTouch IDで保護されており、医療情報や銀行口座情報はスマホに保存されない設計。万が一の紛失時も24時間体制のフリーダイヤルやAppleの「探す」アプリから即時利用停止が可能となる。iPhoneへの対応により、患者側の利便性が大幅に向上する一方で、医療機関としては新たな読み取り機器や受付対応の見直しが求められる可能性がある。今後の制度設計や導入指針に注目が集まる。 参考 1) 2025年6月24日から「iPhoneのマイナンバーカード」を開始予定です(デジタル庁) 2) iPhoneにマイナ機能搭載、24日から…カードが手元になくても行政手続き可能に(読売新聞) 3) 「iPhoneのマイナンバーカード」6月24日開始(Impress Watch) 4) iPhoneへのマイナンバーカード搭載は6月24日から-秋には保険証にも 運転免許証対応は?(CNET Japan) 6.特定健診実施率、過去最高も目標未達、背景に情報提供の不足も/厚労省厚生労働省が公表した2023年度の「特定健康診査・特定保健指導」の実施状況によると、特定健診の実施率は59.9%、保健指導の実施率は27.6%となり、いずれも制度開始(2008年度)以来で過去最高となった。ただし、国が掲げる2023年度の目標値(健診70%以上、保健指導45%以上)には届かず、2029年度までの達成が継続課題となっている。健診の実施率は、健康保険組合や共済組合が80%超と高い一方で、市町村国保は38.2%に止まり、保険者間の格差が大きい。年代別では40~60代前半で60%を超えたが、高齢層では実施率が低下傾向にある。一方、東京都が行った2024年度「都民の健康と医療に関する実態と意識」調査によれば、健康意識は高まっているものの、特定健診の受診率は66%とコロナ前の72.3%には戻っておらず、保健指導の未実施者も多い。指摘内容は、「脂質異常」「高血圧」「肥満」が中心で、保健指導を受けた人のうち約7割が「おおむね」または「一部」実行していると回答した。生活習慣の改善意欲を持つ人は9割近くに上ったが、特定保健指導を「案内されていない」とする人が約4割おり、対象者への確実な情報提供や参加促進策が課題とされる。今後は、対象者の掘り起こしや、働き盛り世代・高齢層への個別アプローチの強化、保険者間の格差是正が、生活習慣病予防と医療費抑制に向けた鍵となる。 参考 1) 2023年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況(厚労省) 2) 特定健診実施率は59.9% 23年度、保健指導は27.6%(MEDIFAX) 3) 特定健診実施率59.9%、23年度 過去最高も国の目標未達(CB news) 4) 「都民の健康と医療に関する実態と意識」の結果(東京都)

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くすぶり型多発性骨髄腫治療は発症予防の時代へ?【Oncologyインタビュー】第50回

出演:日本赤十字社医療センター 骨髄腫アミロイド―シスセンター顧問 鈴木 憲史氏経過観察が常識化しているくすぶり型多発性骨髄腫(SMM)。リスク評価の細密化により、治療介入が有用なハイリスクSMMが研究されている。そのような中、ダラツムマブの介入を評価したAQUILA試験の結果が発表された。同試験の共同研究者である日本赤十字社医療センターの鈴木憲史氏に視聴者からの事前の質問も含めて解説いただいた。参考Dimopoulos MA, et al. N Engl J Med. 2024 Dec 9. [Epub ahead of print]

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生存時間分析 その1【「実践的」臨床研究入門】第55回

Cox比例ハザード回帰モデルの基本的な考え方今回からは、生存時間分析における多変量解析について解説します。われわれのResearch Question(RQ)のプライマリアウトカムは末期腎不全であり、そのアウトカム指標は末期腎不全の発生率です(連載第40回参照)。仮想データ・セットを使ってExcel関数で末期腎不全の発生率を計算する方法を示しました(第41回参照)。ここで用いた仮想データ・セットには「打ち切り」(連載第37回参照)のデータも含まれています。この「打ち切り」という事象も考慮し、Kaplan-Meier法を用いた生存時間曲線を描き、さらに厳格低たんぱく食遵守群と非遵守群の2群でLog-rank検定を用いて比較するまでのEZR(Eazy R)の操作手順についても解説しました(連載第42回、第43回、第44回参照)。発生率やKaplan-Meier曲線は生存時間に関する記述統計です(連載第50回参照)。この項では、アウトカム指標(目的変数)の型が生存時間である場合に適応される多変量解析手法、「Cox比例ハザード回帰モデル」(連載第49回、第50回参照)の基本的な考え方とその実際について述べていきます。まず初めに、生存時間分析において使用される「ハザード」と「ハザード比」、さらに「比例ハザード性」といった生物統計学の重要な概念について説明します。ハザードとハザード比ハザードとは、「ある瞬間におけるイベント発生のリスク」のことであり、「瞬間的なイベント発生率」と言い換えることもできます。ハザードは時間とともに変化する(時間依存的)ことがあります。例:透析導入直後は死亡のリスクが高く(ハザードが高い)、透析導入後ある程度時間が経過するにつれて安定しリスクが下がる(ハザードが低い)が、加齢に伴いリスクが再上昇する(ハザードが高い)、など。ハザード比(Hazard ratio:HR)は2つの比較群におけるハザードの比です。HRは、一方の群が他方の群と比較して、どの程度イベント発生のリスクが高いかを相対的に示しています。HRは単に「イベントが発生したかどうか」だけでなく、「いつイベントが発生したか」という「時間」の要素を考慮したリスク指標です。それゆえ、HRは時間経過が重要な生存時間分析において、治療効果やリスク要因の影響を評価する際によく使われ、主に「Cox比例ハザード回帰モデル」を用いて推定されます。比例ハザード性HRを解釈するうえでの重要な前提条件の1つに「比例ハザード性」があります。「比例ハザード性」とは、異なる群間におけるハザードの比が時間によらず一定である、という仮定です。前述したように、ハザード(瞬間的なイベント発生率)自体は観察期間中に経時的に変化し得るものの、HRは観察期間を通じて一定である、ということです。生存時間分析において、「Cox比例ハザード回帰モデル」はこの「比例ハザード性」の仮定のもとにHRを推定します。Kaplan-Meier曲線は生存時間分析において、イベントが発生するまでの時間(生存時間)の分布を視覚的に表現するグラフでした(連載第42回参照)。主に、異なる群間の生存率(イベント非発生率)の時間経過に伴う変化を比較する際に用いられます(連載第43回、第44回参照)。Kaplan-Meier曲線は「比例ハザード性」の仮定を視覚的に評価する簡便な手段でもあります。それでは、以前に仮想データ・セットからEZRで描画したKaplan-Meier曲線を確認してみましょう(連載第43回、第44回参照)。この図のように、2つのKaplan-Meier曲線がおおむね平行に推移し、観察期間の途中で交差したり、曲線間の距離が大きく変化したりしていない場合は、「比例ハザード性」の仮定が成立している可能性が高いとされます。したがって、われわれのRQの生存時間分析の多変量解析手法として、「Cox比例ハザード回帰モデル」を適用することは妥当と考えられます。

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事例025 骨粗鬆症のエルカトニン筋注が査定【斬らレセプト シーズン4】

解説骨粗鬆症にて治療中の患者に、エルカトニン筋注を毎週のように実施していたところ、D事由(告示・通知の算定要件に合致していないと認められるもの)にて査定となりました。カルテでエルカトニンの注射初日を確認したところ、肋骨骨折の診療開始日からほぼ毎週実施されて2月に至っていました。エルカトニンの添付文書には「6ヵ月間を目安とし、長期にわたり漫然と投与しないこと」との注意書きがあります。過去にしばしば、「6ヵ月を超える長期投与には、漫然と投与しないこと」と返戻がありました。本事例では、7ヵ月目にもエルカトニンの注射が毎週のように続けられていたにもかかわらず、医学的必要性がレセプト上に表現されていなかったことが査定の原因となったものと推測ができます。レセプトチェックシステムでは、6ヵ月超えのアラートが表示されていましたが、そのまま提出されてしまったようです。レセプトチェック担当者には、見落としの無いように依頼しました。医師のオーダー時には限度期間を超えていることがわかるように表示し、注意を促す改修を行い査定対策としています。

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がん患者のワクチン接種率を上げるカギは医療者からの勧め/日本がんサポーティブケア学会

 第10回日本がんサポーティブケア学会学術集会において、国立がん研究センター東病院の橋本 麻子氏は「がん患者を対象としたワクチン接種に関する2年間のアンケート調査」の内容をもとに、がん患者におけるワクチン接種の実態と課題について発表した。低い肺炎球菌、帯状疱疹のワクチン接種率 がん患者は、治療や疾患の進行に伴って免疫機能が低下していることが多く、感染症予防は非常に重要である。そのため、学会などでも季節性インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹、新型コロナウイルスワクチンの定期接種が推奨されている。 2023年および2024年に実施されたアンケート調査の結果から、がん患者のワクチン接種状況が明らかになった。がん種は乳がん、肺がん、大腸がん、その他さまざまながん患者が含まれていた。 ワクチン接種率(インフルエンザ、肺炎球菌、帯状疱疹、新型コロナウイルスのいずれかを接種したことがある患者)は2023年、2024年とも約9割にのぼる。しかし、内訳を見ると、インフルエンザワクチンは約50%、新型コロナワクチンは約60%の接種率を示しているものの、肺炎球菌ワクチンは約20%、帯状疱疹ワクチンは5%以下にとどまっている。医療者からの推奨が、がん患者のワクチン接種行動につながる 医療者からワクチン接種推奨があったかについて尋ねたところ、2023年、2024年とも約20%の患者が推奨があったと回答した。推奨者は、がん担当医が6〜7%、かかりつけ医が9〜10%で、かかりつけ医のほうが多かった。 ワクチンを推奨された患者が、その後ワクチン接種に至った割合は全体で80〜100%であった。インフルエンザワクチンを推奨された患者の接種率は76.2%、推奨されていない患者の接種率は10.4%であった。肺炎球菌ワクチン、帯状疱疹ワクチンともに推奨されていない患者に比べ、推奨された患者で高く、医療者からのワクチンの推奨は接種行動につながることが明らかになった。 また、家族など同居者の感染は患者の感染症発症に影響するため、同居者のワクチン接種も重要である。今後は多職種が連携し、がん患者および家族へのワクチン接種を推奨できるよう、医療者の教育の啓発継続も課題である。

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乳がん内分泌療法に伴うホットフラッシュにelinzanetantが有効(OASIS-4)/ASCO2025

 HR+乳がんの内分泌療法に伴うホットフラッシュなどの血管運動神経症状(VMS)はQOLに影響し、アドヒアランスを低下させ乳がんの転帰を悪化させるが、有効な治療法はほとんどなく承認された薬剤もない。今回、内分泌療法を受けているHR+乳がん治療中もしくは乳がん発症リスクが高い女性を対象に、ニューロキニン(NK)-1,3受容体拮抗薬elinzanetant(EZN)の有用性を検討した多施設無作為化二重盲検プラセボ対照第III相OASIS-4試験の結果を、ポルトガル・ABC Global AllianceのFatima Cardoso氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で報告した。本試験において、EZNが内分泌療法に伴うVMSの頻度と重症度を早期に減少させ、その効果は52週まで継続し、忍容性も良好であったという。この結果はNEJM誌オンライン版2025年6月2日号に同時掲載された。・対象:HR+乳がんの治療中もしくは乳がん発症リスクが高い18~70歳の女性で、内分泌療法(タモキシフェンまたはアロマターゼ阻害薬、GnRHアナログ併用/非併用)に伴う中等度~重度のVMSを週35回以上経験した女性・試験群:1日1回EZN(120mg)を52週間投与(316例)・対照群:プラセボを12週間投与、その後EZNを40週間投与(158例)・評価項目:[主要評価項目]1日の中等度~重度VMSの頻度の平均のベースラインから4週および12週までの平均変化[重要な副次評価項目]Patient-Reported Outcomes Measurement Information System Sleep Disturbance Short Form(PROMIS SD SF)8b合計スコア、Menopause-Specific Quality of Life(MENQOL)質問票合計スコアのベースラインから12週までの平均変化[副次評価項目]1日の中等度~重度VMSの頻度の平均のベースライン~1週の平均変化および経時変化、1日の中等度~重度VMSの重症度の平均のベースライン~4週および12週の平均変化、治療中に発現した有害事象(TEAE) 主な結果は以下のとおり。・1日の中等度~重度VMS頻度の平均(95%信頼区間[CI])は、ベースラインでEZN群11.4(10.7~12.2)、プラセボ群11.5(10.5~12.5)であった。ベースラインからの減少は1週から認められ、4週ではEZN群が-6.51、プラセボ群が-3.04で有意差が認められた(最小二乗平均差:-3.5、95%CI:-4.4~-2.6、p<0.0001)。12週においてもEZN群が-7.76、プラセボ群が-4.20で有意差が認められた(最小二乗平均差:-3.4、95%CI:-4.2~-2.5、p<0.0001)。・1日の中等度~重度VMSの重症度の平均におけるベースラインからの低下は、4週ではEZN群で-0.73、プラセボ群で-0.43、12週ではENZ群で-0.98、プラセボ群で-0.53と、いずれもEZN群のほうが大きかった。・プラセボ対照期間(12週まで)にTEAEが報告された患者はEZN群で220例(69.8%)、プラセボ群で98例(62.0%)であった。疲労、傾眠、下痢がEZN群のほうが多かった。 なお、52週の試験期間後、患者意思による任意の2年間の延長が進行中であり、追加の安全性データが集積されている。

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進行尿路上皮がん1次治療、EV+ペムブロリズマブによるCR・PR症例の探索的解析結果(EV-302/KEYNOTE-A39)/ASCO2025

 局所進行または転移を有する尿路上皮がん患者の1次治療において、エンホルツマブ ベドチン(EV)+ペムブロリズマブ併用療法と化学療法の有効性を比較したEV-302/KEYNOTE-A39試験の探索的解析の結果、EV+ペムブロリズマブ群で完全奏功(CR)を達成した患者の割合は化学療法群の約2倍であり、レスポンダー(CR+部分奏功[PR]症例)では適切な用量調整のもとで長期間治療を継続していることが明らかとなった。米国・Cleveland Clinic Taussig Cancer InstituteのShilpa Gupta氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で発表した。 EV-302/KEYNOTE-A39試験では、EV+ペムブロリズマブ併用療法が化学療法と比較して、無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)を有意に延長したことが報告されている。・対象:未治療の局所進行/転移を有する尿路上皮がん患者(GFR≧30mL/分、ECOG PS≦2)・試験群:EV(1.25mg/kg、3週ごと1・8日目に静脈内投与)+ペムブロリズマブ(200mg、3週ごと1日目に静脈内投与) 437例・対照群:ゲムシタビン+シスプラチン(シスプラチン不適格例ではゲムシタビン+カルボプラチン) 441例・評価項目:[主要評価項目]盲検下独立中央判定(BICR)によるPFS、OS[副次評価項目]奏効率(ORR)、奏効期間(DOR)、安全性など・層別因子:シスプラチン適格性、PD-L1発現状況、肝転移の有無 主な結果は以下のとおり。・本探索的解析のデータカットオフは2024年8月8日、追跡期間中央値は29.1ヵ月であった。・confirmed ORRは試験群67.5%(295例)vs.対照群44.2%(195例)、confirmed CRは30.4%(133例)vs.14.5%(64例)であった。・試験群のCR+PR症例のベースライン特性はITT集団とおおむね一致しており、年齢中央値が69(37~87)歳、ECOG PS1/2が43.7%/2.0%、肝転移ありが20%、シスプラチン不適格が41.7%であった。・CR+PR症例におけるDOR中央値は、試験群23.3ヵ月(95%信頼区間[CI]:17.8~NE)vs.対照群7.0ヵ月(95%CI:6.2~9.0)であった。・CR+PR症例におけるDOR中央値をシスプラチン適格性ごとにみると、シスプラチン適格患者では試験群24.4ヵ月(95%CI:17.8~NE)vs.対照群8.3ヵ月(95%CI:5.9~10.8)、シスプラチン不適格患者では21.9ヵ月(95%CI:15.7~NE)vs.6.6ヵ月(95%CI:5.5~9.3)であった。・CR+PR症例におけるOS中央値は、試験群39.3ヵ月(95%CI:36.5~NE)vs.対照群32.1ヵ月(95%CI:26.8~NE)で(層別ハザード比[HR]:0.59、95%CI:0.44~0.79)、24ヵ月時点での試験群のCR+PR症例の生存率は76.3%であった。・試験群における治療サイクル中央値は、EVが全体集団:9(1~54)サイクル/CR+PR症例:12(1~54)サイクル/CR症例:13(1~50)サイクル、ペムブロリズマブが全体集団:11(1~35)サイクル/CR+PR症例:17(1~35)サイクル/CR症例:27(1~35)サイクルであった。・試験群におけるGrade3以上の治療関連有害事象(TRAE)発生率は、全体集団:57.3%、CR+PR症例:61.4%、CR症例:61.7%であった。・EVの安全性プロファイルは、全体集団とCR+PR症例でおおむね一致しており、Grade3以上のTRAEとして多くみられたのは、皮疹(全体集団:15.2%、CR+PR症例:17.3%)、高血糖(6.4%、7.5%)、末梢性感覚ニューロパチー(4.8%、6.4%)などであった。・ペムブロリズマブの安全性プロファイルは、全体集団とCR+PR症例でおおむね一致しており、Grade3以上のTRAEとして多くみられたのは、重度の皮膚障害(全体集団:12.3%、CR+PR症例:12.9%)、肺臓炎(3.9%、4.1%)、肝炎(2.0%、2.4%)などであった。・用量調整は全体集団と比較してCR+PR症例でより多く実施されており、CR+PR症例では休薬がEV:69.2%/ペムブロリズマブ:62.4%、EVの減量が53.9%で行われていた。 Gupta氏は「今回のデータは、局所進行または転移を有する尿路上皮がん患者の1次治療として、シスプラチン適格性を含むベースライン特性によらずEV+ペムブロリズマブ併用療法が標準治療であることを支持するものである」とまとめている。

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統合失調症とうつ病における幻聴の違いは

 統合失調症および統合失調症様疾患では、4人に 3人以上の患者が幻聴を経験しているのに対し、うつ病では、6%の患者に幻聴が認められると報告されている。この2つの疾患における幻聴の鑑別は、診断および予後予測において重要である。インド・Dr D.Y. Patil Medical CollegeのTahoora Ali氏らは、統合失調症とうつ病における幻聴の特徴を比較した。Industrial Psychiatry Journal誌2025年1~4月号の報告。 対象は、3次医療の精神科センターの入院患者より抽出された統合失調症およびうつ病患者110例。社会人口統計学的情報、臨床的特徴に関連する情報、幻聴評価尺度の特徴を含む本検討のために設計されたプロフォーマを用いて、評価を行った。 主な結果は以下のとおり。・統合失調症患者とうつ病患者は、年齢、教育、職業、社会経済的地位によりマッチングされた。・統合失調症患者の幻聴は、うつ病患者と比較し、以下の項目において有意に高い評価を認めた。 ●幻聴の頻度 ●明瞭性 ●音調 ●重症度 ●注意力散漫 ●自己制御 ●苦痛 著者らは「統合失調症患者における幻聴の特徴は、うつ病患者とは大きく異なっていた。これは、診断を超えた重要な意義を示唆している。これらの幻聴の特性を臨床的に評価することは、診断精度の向上に役立つ可能性がある」と結論付けている。

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軽症~中等症COVID-19、40種の薬物療法を比較/BMJ

 非重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する40種の薬物療法のうち、ニルマトレルビル/リトナビルとレムデシビルは入院を減少させる可能性が高く、コルチコステロイド全身投与とモルヌピラビルは、この2剤ほどではないが同様の効果を有する可能性があり、アジスロマイシンなどは、症状の解消までの時間を短縮する可能性が高いことが、カナダ・McMaster UniversityのSara Ibrahim氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2025年5月29日号に掲載された。薬物療法の無作為化試験のネットワークメタ解析 研究グループは、軽症または中等症COVID-19の治療薬の有効性を比較する目的で、系統的レビューとネットワークメタ解析を行った(カナダ保健研究機構[CIHR]の助成を受けた)。 データの収集には、Epistemonikos Foundationが運営するCOVID-19 Living Overview of Evidence Repository(COVID-19 L-OVE)の、2023年1月1日~2024年5月19日のCOVID-19関連論文の公開・更新型のリポジトリを用いた。また、WHOのCOVID-19データベース(2023年2月17日まで)と中国の6つのデータベース(2021年2月20日まで)も検索した。 解析には、COVID-19の疑い例、その可能性が高い例、あるいは軽症または中等症のCOVID-19と確定された例を対象とし、薬物療法または標準治療かプラセボに割り付けた無作為化試験を含めた。アジスロマイシンで症状解消が4日短縮 軽症または中等症COVID-19患者において薬物療法の有効性を評価した259件(16万6,230例)の無作為化試験のうち、187件(72%)を解析の対象とした。 標準治療と比較して、次の2つの薬剤で入院を減少させる可能性が高かった。入院患者数を最も強く抑制したのはニルマトレルビル/リトナビル(1,000例当たり24.99例減少[95%信頼区間[CI]:-27.86~-20.19]、エビデンスの確実性:中)であり、次いでレムデシビル(20.93例減少[-27.79~-6.69]、中)であった。 コルチコステロイド全身投与(1,000例当たり15.99例減少[95%CI:-23.93~-2.63]、エビデンスの確実性:低)とモルヌピラビル(9.82例減少[-16.66~-2.28]、低)でも、入院数を減少させる可能性が示唆された。 また、標準治療に比べ、症状解消までの時間を最も大きく短縮させる可能性が高かったのはアジスロマイシン(平均群間差:4.060日短縮[95%CI:-5.270~-2.580]、エビデンスの確実性:中)であった。モルヌピラビル(2.340日短縮[-3.450~-1.070]、高)、コルチコステロイド全身投与(3.480日短縮[-5.320~-1.050]、中)、ファビピラビル(2.170日短縮[-3.150~-1.080]、中)、umifenovir(2.410日短縮[-3.850~-0.710]、中)でも、症状の持続時間を短縮する可能性が高かった。 ドキシサイクリンは、入院日数を標準治療より1.33日(95%CI:-2.63~-0.03)短縮する可能性が高かった(エビデンスの確実性:中)。異なる変異株の影響は考えにくい 標準治療と比較して、ロピナビル/リトナビル(1,000例当たり41.46例増加[95%CI:15.1~68.29])のみが、投与中止に至った有害事象のリスクが高かった。また、ロピナビル/リトナビルでは、入院日数を標準治療より1.77日(95%CI:0.340~3.190)延長するリスクがみられた。 他のアウトカム(死亡、機械換気導入、静脈血栓塞栓症、臨床的に重要な出血)への影響に関しては、いずれの薬剤もエビデンスが不確実で、標準治療と比較して明確な有益性を示す薬剤は認めなかった。 著者は、「本研究は、COVID-19の世界的流行のさまざまな段階における試験を対象としており、その多くはワクチン導入前の、COVID-19のアウトカムがより不良な時期に実施されている」「解析の対象となった試験には、COVID-19の異なる変異株に感染した患者が含まれているが、われわれの知る限り、ウイルスの亜型が本研究に含まれる薬剤の効果修飾因子であるという十分なエビデンスはないため、これが今回の結果に重大な影響を及ぼしたとは考えられない」としている。

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FUS-ALSの治療、jacifusenが有望/Lancet

 融合肉腫(fused in sarcoma:FUS)の病原性の変異体に起因する筋萎縮性側索硬化症(FUS -ALS)において、FUS pre-mRNAを標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド製剤であるjacifusenは、安全で有効性が期待できる治療薬となる可能性があることが、米国・コロンビア大学アービング医療センターのNeil A. Shneider氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年5月22日号で報告された。医師主導型の症例集積研究 研究グループは、FUS-ALSの治療におけるjacifusenの安全性、薬物動態、バイオマーカー、臨床データ、病理所見などの評価を目的に、医師主導型の多施設共同非盲検症例集積研究を行った(ALS Associationなどの助成を受けた)。 FUS変異の保因者で、ALSの診断基準(El Escorial基準、Gold Coast基準)を満たすか、診断を受けていない場合でも、運動ニューロン疾患の発症または電気生理学的異常の臨床的エビデンスを有していれば対象とした。長期にわたり気管切開を伴う人工呼吸器による管理を受けている患者は不適格とした。 jacifusenは髄腔内注射された。複数回の増量(20mgから始まり120mgまで)に基づき、安全性およびその他のデータの取得状況に応じて連続的にプロトコールを修正し、最後に登録された参加者は治療開始時から毎月120mgの投与を受けた。有害事象は11例で80件、半数で背部痛 2019年6月~2023年6月に、5施設(米国の4病院とスイスの1病院)で12例(年齢中央値26歳[範囲:16~45]、女性7例[58%]、家族性ALS 6例[50%])を登録した。jacifusenの投与期間中央値は9.3ヵ月(範囲:2.8~33.9)で、総投与量中央値は930mg(範囲:200~2,940)、投与回数中央値は9.5回(範囲:4~25)だった。 6例(50%)で脳脊髄液(CSF)中の細胞数または総蛋白濃度の一過性の上昇を認めたが、投与期間とは関連がなかった。試験治療下での有害事象は11例(92%)で80件発現した。最も頻度の高い有害事象は背部痛(6例[50%])で、次いで頭痛(4例[33%])、悪心(3例[25%])、腰椎穿刺後頭痛(3例[25%])の順であった。 80件の重症度の内訳は、軽度が51件(64%)、中等度が23件(29%)、重度が1件(1%)、生命を脅かすイベントが3件(4%)、致死性が2件(3%)であった。死亡した2例は、いずれも試験薬との関連はないと考えられた。 重篤な有害事象は5例(42%)で9件発現したが、治療関連の可能性がある、または治療関連が明らかなイベントは認めなかった。試験治療下での有害事象のうち、治療関連の可能性があるとされたのは12件(7例[58%])だった。1例でNfLの著明低下、2例で臨床的有益性の可能性 CSF中のニューロフィラメント軽鎖(NfL)濃度は効果を評価するバイオマーカーとなる可能性があり、変動が最も大きかった1例では、投与開始時の3万711pg/mLから5回目の投与時(6ヵ月後)には5,277pg/mLへと82.8%低下した。 ほとんどの患者は投与開始後も機能低下(改訂ALS機能評価尺度[ALSFRS-R]で評価)が続いていたが、1例が10ヵ月後にこれまでにないほどの客観的な機能回復を示し、もう1例は無症状のままで経過しつつ筋電図異常の改善を認めた。 また、4例の中枢神経系組織標本の生化学的および免疫組織化学的分析では、FUS蛋白レベルの低下とFUSの病理学的な負荷の明らかな軽減が示された。 著者は、「本試験の結果により、FUS-ALSに対するjacifusenの安全性と有効性が示唆された。本薬の有効性は現在進行中の臨床試験でさらなる評価が進められている」「これらの良好な臨床アウトカムは、より早期の介入、長期にわたる一貫性のある治療コース、あるいはこれら両方と関連した」としている。

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胃がん周術期、FLOTにデュルバルマブ上乗せでEFS改善(MATTERHORN)/ASCO2025

 欧米において、化学療法FLOT(フルオロウラシル、ロイコボリン、オキサリプラチン、ドセタキセル)は切除可能な胃がんにおける術前術後の標準治療だが、再発率は依然として高い水準にある。胃がんにおける免疫チェックポイント阻害薬(ICI)は、切除不能例において化学療法との併用で承認されているが、術前術後療法では承認されていない。 MATTERHORN試験は切除可能な胃がん患者を対象に、術前術後療法としてFLOTにICIであるデュルバルマブ上乗せの有用性をみた試験である。すでに病理学的完全奏効(pCR)率を有意に改善したことが報告されているが、米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)プレナリーセッションにおいてYelena Y. Janjigian氏(米国・メモリアルスローンケタリングがんセンター)が、主要評価項目である無イベント生存期間(EFS)を含む第2回中間解析の結果を報告した。この結果はNEJM誌オンライン版2025年6月1日号に同時掲載された。・試験デザイン:国際共同二重盲検ランダム化第III相試験・対象:切除可能なStageII~IVA期局所進行胃がん/食道胃接合部腺がん 948例・試験群:術前術後にFLOT+デュルバルマブ1,500mgを4週ごと2サイクル、術後にデュルバルマブ1,500mg 4週ごと10サイクル(デュルバルマブ群)474例・対照群:術前術後にFLOT+プラセボを4週ごと2サイクル、術後にプラセボを10サイクル(プラセボ群)474例・評価項目:[主要評価項目]EFS[副次評価項目]全生存期間(OS)、pCR、安全性など・データカットオフ:2024年12月20日 主な結果は以下のとおり。・計948例がデュルバルマブ群474例、プラセボ群474例にランダム化された。追跡期間中央値は31.5ヵ月だった。・デュルバルマブ群はプラセボ群と比較して、EFSで統計学的に有意な改善を示した(ハザード比[HR]:0.71、95%信頼区間[CI]:0.58~0.86、p<0.001)。EFS中央値はデュルバルマブ群では未到達(95%CI:40.7~未到達)、プラセボ群で32.8ヵ月(95%CI:27.9~未到達)だった。2年EFS率は、デュルバルマブ群でプラセボ群よりも高かった(67%対59%)。・OS中央値は、デュルバルマブ群で未到達、プラセボ群で47.2ヵ月(HR:0.78、95%CI:0.62~0.97、p=0.025)であった。・pCR率はデュルバルマブ群で19%、プラセボ群で7%だった。・Grade3/4の有害事象の発生率は両群で類似していた。デュルバルマブ群はプラセボ群と比較して手術や補助療法の開始を遅らせなかった。 Janjigian氏は「デュルバルマブ+FLOTは、プラセボ+FLOTと比較してEFSで統計学的に有意な改善を示し、OSの有望な傾向を示した。これらの結果は、デュルバルマブを切除可能な胃がん周術期の新たな標準治療として支持するものだ」とした。 現地で聴講した相澤病院・がん集学治療センターの中村 将人氏は「EFS、OSが改善したポジティブな結果だった。一方で、日本におけるStageII/III胃がんの術後化学療法はS-1が中心でFLOTレジメンは使われていない。また、サブグループ解析ではアジア人においては両群に有意差がなかった。こうした点から、この治療戦略を日本の臨床に取り入れるべきかどうかは意見の分かれるところであり、さらなるデータが必要となりそうだ。今年のASCOの消化器がん演題の中で、最も議論を呼ぶ結果ではないか」とコメントした。

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好奇心は加齢に伴い減退する?

 ある種の好奇心は、高齢になっても増していくようだ。好奇心とは一般に、新しい情報や環境を学び、経験し、探索したいという欲求のことを指す。これは、個人の比較的安定した性格的な傾向としての「特性好奇心」と、特定の物事に反応して情報を得ようとする一時的な「状態好奇心」に分けられる。新たな研究では、加齢に伴い「特性好奇心」は減退する一方で、「状態好奇心」は強まることが明らかにされた。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の心理学者であるAlan Castel氏らによるこの研究の詳細は、「PLOS One」に5月7日掲載された。 Castel氏は、「心理学の文献によると、好奇心は加齢に伴い減退する傾向がある」と話す。しかし、過去の研究結果の多くは、年齢と好奇心の関連を調査するにあたり、特性好奇心と状態好奇心の区別が十分に行われていなかったと研究グループは指摘する。 Castel氏らは今回、パイロット研究(対象者193人)と本研究(事前登録者1,218人)から成る2段階の研究を実施し、トリビア課題により状態好奇心を、アンケートにより特性好奇心を測定し、それぞれが加齢とどのように関連するのかを検討した。 その結果、年齢は状態好奇心と正の関連を示す一方で、過去の研究結果と同様、特性好奇心とは負の関連を示すことが明らかになった。これは、年齢が高くなるほど状態好奇心は強くなる一方で、特性好奇心は減退することを意味する。 Castel氏は、「本研究結果は、選択性理論に関する私の過去の研究の一部と一致している。この理論では、人は歳を重ねても、学びたいという気持ちを失うのではなく、学ぶ内容についてより選択的になるだけだと考える」と説明している。同氏はさらに、「生涯学習を見れば、この考え方が当てはまることが分かるだろう。実際、多くの高齢者が、教室で学び直したり、趣味やバードウォッチングを始めたりしている。このことは、このレベルの好奇心を維持することで、歳を重ねても頭の冴えを保てることを示していると思う」と話す。 研究グループによると、人は中年期までは学校や仕事で成功し、家族を養い、経済的に安定するために必要な知識やスキルの習得に注力する傾向がある。これは、初期の好奇心を刺激する一方でストレスの原因ともなり、幸福感を損なう可能性もあるという。つまり、人は成長に必要な情報を得るにつれて、特性好奇心に割り当てるリソースが少なくなる傾向があるということだ。しかし、子どもが独立して自分が定年を迎えると、個人的な関心ごとに時間やエネルギーを費やすようになり、その結果、状態好奇心が高まる。 Castel氏は、「人は、歳を重ねるにつれて大切なことに集中し、あまり重要でないことは忘れがちになるのかもしれない。私が話を聞いた高齢者の多くが、好奇心を持ち続けることは大切だと話していた。このことは、認知症の初期段階にある人は、かつて楽しんでいたことに無関心になる可能性があるという研究結果とも一致している」と話している。

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片頭痛の原因は、ベーコンに生息していたアレ【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第283回

片頭痛の原因は、ベーコンに生息していたアレアメリカ在住の52歳男性が主人公です。慢性片頭痛、2型糖尿病、脂質異常症、肥満の既往歴があり、これまで月に1~2回程度であった片頭痛が4ヵ月間で週1回程度に増加し、後頭部両側を中心とした強い痛みを訴えるようになりました。とくに懸念すべきことは、これまでトリプタン製剤などの頓服の鎮痛薬に良好に反応していた片頭痛が、治療抵抗性を示すようになったことです。生活に困りますよね。Byrnes E, et al. Neurocysticercosis Presenting as Migraine in the United States. Am J Case Rep. 2024;25:e943133.ただ、新しい神経症状はなく、神経学的所見も非局在性でした。―――ふぅむ、やはり片頭痛なのか。ここは、主治医の問診力が問われます。病歴聴取を重ねたところ、なんだか変なエピソードが出てきました。患者「軽く火を通しただけのカリカリとは到底いえないベーコンを、長年にわたって食べる習慣があります」…あー、なんかそれ、怪しそうやん!実施した頭部CTでは、大脳半球全体の深部皮質および脳室周囲白質実質内に多数の嚢胞性病巣が両側性に認められました。MRIでは、これらの嚢胞性病変の周囲にT2/FLAIR高信号での浮腫が確認されました。ブルっと震えるような所見です。「これは…神経嚢虫症かもしれないッ!」この寄生虫感染症が鑑別診断に挙がる主治医もスゴイですが、やはり生焼けベーコンのエピソードがこの疾患を疑うポイントなのでしょうね。徹底的な感染症検査が行われ、血液・尿培養、HIV抗体、クリプトコッカス抗原、トキソプラズマ抗体はすべて陰性でしたが、嚢虫症IgG抗体が陽性となり、神経嚢虫症の診断が確定しました。 発作予防と脳浮腫軽減のためのデキサメタゾンに加え、経口アルベンダゾールとプラジカンテルが、計14日間投与されました。患者は治療に良好に反応し、病変の退縮と頭痛の改善がみられました。いやー、よかったよかった。神経嚢虫症は、有鉤条虫(Taenia solium)による感染症です。人間は偶発的な中間宿主に過ぎず、これに感染した豚肉や糞便中の嚢胞を摂取することで感染することが知られています。開発途上国で風土病となっていますが、現代における海外渡航や移民の増加により、先進国でも診断されることも増えています。低温調理やジビエが一時期流行って、変な感染症が話題になったことがあります。グランピングもまだまだ流行っているので、豚肉を摂取する場合は十分に加熱しましょう。

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第265回 経験して実感、「副作用情報」の重要性と報告方法

「薬には主作用とともに副作用が付き物」とよく言われるが、よほど頻度が高い副作用でもない限り、未経験か経験しても気付いていない人がほとんどだろう。かく言う私の場合、ワクチンの副反応まで含めると、過去に経験したのは抗ヒスタミン薬による眠気、帯状疱疹ワクチンや新型コロナワクチンによる発熱ぐらいだ。副作用の範疇ではないが、禁煙補助療法中に薬剤師から「決して空腹中に服用しないでください」と注意を受けたバレニクリン(商品名:チャンピックス)を大したことはないだろうと勝手に思い込んで起床後の空腹時に服用し、強烈な胸やけに襲われ、ベッド上でのたうちまわったことがある。用法を念押しされた薬そのような私が最近、日常生活に支障を来すような「副作用」を経験した。きっかけは父親の介護のため、ゴールデンウイーク中に地元仙台に戻った時のことだ。椅子に座っていると左膝頭を中心に大腿~下腿の中ほどまで「まるで筋が詰まったような違和感」「電気ショックのような瞬間的な痛み」を感じたのだ。当初は一過性のことと高をくくっていたが、2日経っても改善せず、近所のドラッグストアでアセトアミノフェンを購入して服用した。それで幾分かは改善したが、違和感は消えない。結局、翌日にイブプロフェン配合の消炎鎮痛薬も購入し、併用することにした。立位や歩行時に症状はないが、薬の効果が薄れた時の座位では明確に違和感がある。こうなると仕事をするのも食事をするのもなかなか大変である。薬で症状を抑えながらようやく仕事を続け、ときどき横になるという生活が続いた。もっとも薬で抑え込んで逃げ切ろうとは思っておらず、きちんと原疾患特定のために受診は必要だと思っていたが、東京に戻ってからと決めていた。そして近所の整形外科を受診し、X線写真も撮影したうえで下された診断が「腰椎椎間板ヘルニア」。医師いわく、「おそらく長年の姿勢の悪さと筋トレの過大な負荷が原因」と言われた。ちなみに問診時には、筋トレ直後に似たような痛みを一過性で感じたことがあったと伝え、具体的な筋トレメニューも伝えた。どうやらレッグエクステンションマシン*で60kgの重量を用いていたことが私の体格(身長167cm、体重61kg)には過大だったらしい。*主に太ももの前側にある大腿四頭筋を鍛えるためのマシントレーニング器具とりあえず筋トレは当面中止で、コルセット着用と2種類の内服薬が処方された。そのうち1種類は「服用は寝る前ね。これ間違わないように」と厳しく念を押された。それは非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)のセレコキシブ(商品名:セレコックスほか)と神経疼痛治療薬のプレガバリン(商品名:リリカほか)で、医師に「就寝前に」と厳しく言い渡されたのは後者である。当時、処方を拒まれ続けた疼痛治療薬もちろんこの薬のことは、私も一通り以上に知っているつもりだ。実は私の父に関係して因縁のエピソードがある。いまから約10年前のことだ。当時70代だった父親が帯状疱疹を発症し、そのまま帯状疱疹後神経痛(PHN)に悩まされた。私は当時東京にいたが、母親が1日おきに私に「何とかならないものか」と電話をしてきたほどだ。母親に事情を聞くと、近所のかかりつけ医からはジクロフェナク(商品名:ボルタレンなど)は処方されているが、痛みが軽減した様子がないという。ちなみに当時の父親はADLも認知機能も保たれていた。この時、私は発売されて5年ほどのプレガバリンの話を伝え、かかりつけ医に処方を検討してもらうよう伝えてみてはどうかと提案した。しかし、母親によると、主治医からは「めまい・ふらつきの副作用頻度が高いので高齢者には使いたくない」と言われたという。確かに承認当時の国内第III相試験の結果でも、浮動性めまいの頻度が28.6%はあったので、かかりつけ医の言うこともわからなくはなかった。それから数日間、父親はジクロフェナクを服用しながら痛みを訴え続け、結局、ある深夜に痛みに耐えかねた父親の叫び声を聞いた近所の人が駆け付け、救急車で総合病院に搬送された。搬送先の当直医も、やはり「プレガバリンは使いたくない」とのことで、ロキソプロフェン、アセトアミノフェン、ラベプラゾール、レバミピド、ガバペンチン、ゾルピデムが処方された。この時、ここまでして処方を避けられる薬なのだから相当な副作用なのだろうと思った。ただ、当直医から「日中はペインクリニックの担当医がいるので、可能ならば受診してみてほしい」との提案があり、翌々日に再受診すると、ようやく最小用量のプレガバリンが処方され、父親を悩ませていたPHNは直後からピタリと治まった。プレガバリンの服用開始から1週間で処方薬は同薬単剤になり、さらにそれから2週間後にそれも中止となった。懸念されたふらつきやめまいの症状もなかった。これは…副作用?さてそんなこんなもあり、自分が服用するとなるとやや緊張した。初日就寝前に服用し、起床後にふらつき・めまいはなかった。が、実はすでに初日から異変はあった。私は元来寝つきもよく、6~7時間の睡眠で中途覚醒はほぼ経験がない。夜中にトイレに起きるのも年2回くらい。ところが、いつもの睡眠時間を念頭に目覚まし時計をかけても、朝にアラームに反応して目は一旦開くのだが、あっという間に目が閉じてしまう。最終的にすっきり目覚めるのはベッドに入ってから8~9時間後。つまり睡眠時間が1~2時間伸びてしまっているのだ。フリーランスの身でこの生活パターンは、実は業務時間が減るため意外とダメージが大きい。服用開始3日目には中途覚醒を経験し、以後、毎日ベッドに入ってから約4時間で中途覚醒が起こるようになった。その一方で椎間板ヘルニアの痛みはかなり沈静化していた。1週間後に主治医にこのことを伝えると、その瞬間、「ぼーっとするならプレガバリンは止めましょう」と言われ、あっさりセレコキシブ単剤へと変更された。そしてその処方箋を薬局に持っていくと、薬剤師からはプレガバリンが外された理由を尋ねられた。医師に伝えた内容をそのまま伝えると、薬剤師が「中途覚醒ですか? ちょっと待ってください」と調剤室に入っていった。どうやらPCで添付文書情報を確認したらしい。そのうえで「不眠症1%以上と記載されていました。正直、私も不勉強で知りませんでした。ありがとうございます」と言われた。これで1件落着と言いたいところなのだが、実はこの中途覚醒、その後1週間ほど引きずった。当初は半ば気のせいだろうと思っていたが、添付文書を精読したら「本剤の急激な投与中止により、不眠、悪心、頭痛、下痢、不安及び多汗症等の離脱症状があらわれることがあるので、投与を中止する場合には、少なくとも1週間以上かけて徐々に減量すること」と記載されていた。ということは、気のせいとも言い切れないだろう。副作用報告は未来の「ポジティブ情報」父親にとっては救世主だった薬が、私にとっては“功罪半ば”というのも不思議なものである。それとともに医療者はこういう事例には日常的に接しているのだろうが、副作用事例として報告されているのは氷山の一角なのだろうとも改めて思った。これは別に医療者を責めているわけではない。一般論としての各薬剤の副作用の種類とその頻度を把握しておけば、診療上ほぼ問題はないだろうし、細かな副作用すべてを報告していたら医療者は身が持たないはずだ。とはいえ、副作用として報告されない事例も含めれば、一般的に各薬剤で知られている副作用の頻度は相当変わるのではないだろうか? ということで、医療者や製薬企業のMR任せにせず、私は医薬品医療機器総合機構(PMDA)の「患者副作用報告」にオンラインで届け出た。別にプレガバリンが憎いわけではない。よく医薬品情報に関して「ポジティブ情報」「ネガティブ情報」という言葉が使われる。前者は有効性を示す研究報告などで、後者は副作用など安全性に関わる情報を指すが、実は私はこの言葉が大嫌いである。未知や重篤な副作用は、それに遭遇した患者にとってはたまったものではないが、「どんな人に投与してはいけないか」の情報こそが医薬品の適正使用に必須である。前述した「ネガティブ情報」こそが、究極の「ポジティブ情報」であると私個人は考えている。「n=1」「蟷螂之斧」に過ぎないかもしれないが、今回は改めて医薬品との付き合い方を考える機会となった。

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アセトアミノフェンを適切に使えていますか?認知症ケアと痛みの見逃し【こんなときどうする?高齢者診療】第12回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。今回は、認知症患者さんの“行動の背景にある痛み”をどう捉え、どう評価し、どうケアするかという問いをテーマに、実践的な視点をご紹介します。「自傷他害のおそれがある認知症患者に対して、抗精神病薬や抗うつ薬の処方はどこまで許容されますか?」結論からお伝えしましょう。抗精神病薬は、可能な限り使わない方向でケアを組み立てることが基本です。薬に頼らない選択肢を持つことこそ、老年医学の実践といえます。理想論のように聞こえるかもしれませんが、小さな一歩から老年医学を診療やケアに取り入れられるよう、有用なツールをご紹介します。※やむをえず抗精神病薬を使う際のコツは、第10回で詳しく解説しています。“PAIN”の評価をしたか? 認知症患者は痛みを訴えられない認知機能が低下しても“痛み”は生じます。患者が痛みを感じられない、あるいは感じている痛みを伝えられないために、自傷他害やせん妄の原因になっていると気付かれていないことは多くあります。ある研究では、痛みのコントロールを適切に行った群は、対照群と比べて有意に抗精神病薬使用量の減少や認知症BPSDの出現頻度が低下したと報告されています1)。痛みのコントール、とくに本人が認知機能の低下のために訴えることのできない身体的な疼痛をコントロールすることは、認知症患者のケアに欠かせません。とはいえ、患者が訴えられない痛みをどのように見つけるのでしょうか?ここで役に立つアセスメントツールが、PAINAD(Pain Assesment in Advanced Dementia)2)です。5つの項目の観察から、痛みを定量的に評価できます。内容を見てみましょう。1.呼吸通常はゆったりとした呼吸ですが、痛みに伴って速くなります。より痛みが強くなると過換気になっていきます。2.発声うめき声・大声でわめく・泣いてしまうなどの周囲を困らせるような発声は、痛みのサインと判断します。3.顔の表情認知症患者は表情が出にくく、痛みがないときは無表情に見えます。悲しそう、おびえている、顔がゆがんでしまうなどのネガティブな表情は痛みがあると評価します。4.ボディランゲージ同じところを行ったり来たりする、繰り返し行動、握り拳を作って体につけているなど、緊張や落ち着きのなさを感じさせる行動が痛みに伴って増加します。5.なだめやすさベースラインをなだめる必要がない状態として、声掛けや体をさわるなどしないと落ち着かない、あるいはそれらをしても落ち着かないときは痛みが隠れていると考えます。PAINAD(Pain assessment in Advanced Dementia)画像を拡大する合計点:1~3点は軽度の痛み、4~6点は中等度の痛み、7~10点は高度の痛み3)このように、PAINADは認知症で言葉での訴えが難しい方でも、観察を通じて痛みの兆候を把握できるツールです。いかがですか?これならば問診ができなくても評価できそうですね。PAINADを使って痛みがありそうだと判断したら、原因疾患を探します。よくあるのは、褥瘡、軟部組織や関節の痛み、感染症、口腔内環境の悪化などです。ひとつ原因疾患を見つけても、安心してはいけません。高齢者では複数の原因が絡み合って痛みが生じていることが多いため、油断せずほかの要因も探しましょう。まず非薬物療法を検討、それでも難しいときに安全な鎮痛薬を適切に使用次に痛みにどう対処するかです。軽度の痛みであればまず理学療法などの非薬物療法と、アセトアミノフェンの併用を考慮します。高齢者は薬剤使用における副作用リスクが高く、症状が非定型に出現します。鎮痛薬の中でもNSAIDsなどのリスクの高い薬は極力使用を控える方法があるか、を常に検討しましょう。痛みがコントロールできないと高齢者のケアで相談を受けると、アセトアミノフェンを有効に使えていない場合、充分量が使われていないケースが多くあります。アセトアミノフェンは高齢者に対して最も安全性が高いとされる鎮痛薬のひとつですから、1,000mg/回、3,000mg/日でしっかりと使ってみてください。最初から1日3回の使用がためらわれる場合は、まず1日1回で様子をみてみましょう。例えば、就寝前に投与し翌朝まで様子を見る。リハビリ前に投与して動作や運動量を理学療法士に観察してもらうなどはわかりやすいかもしれません。あわせてPAINADで定量的に評価し続けることも、その後の診療・ケア計画の助けになります。許容できる範囲の痛みは何か? pain is inevitable. suffering is optional4)痛みをコントロールするときに大切なのは、「完全な無痛」を目指すのではなく、「生活に支障がない範囲で痛みを許容する」ところから始める視点です。薬を増やしすぎず、副作用の少ないケアにつながります。コミュニケーションがとれる患者なら、許容できる範囲の痛みの程度を聞き取り、痛みを完全に取り除く以外のゴールを設定しましょう。たとえば日々の生活でできるようになりたいこと、などです。疾患により痛みが生じること自体は避けられない場合もあるかもしれませんが、患者の苦しみが減るように治療やケアを行うことは可能です。痛みは減らし、苦痛をなくすことを目指していきましょう! ※今回のトピックは、2022年6月度、2023年度3月度の講義・ディスカッションをまとめたものです。CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」でより詳しい解説やディスカッションをご覧ください。参考1)Bettina S Husebo et al. BMJ 2011;343:d4065.2)Victoria Warden,et al. J Am Med Dir Assoc. 2003 Jan-Feb;4(1):9-15.3)樋口雅也ほか.あめいろぐ高齢者診療. 129. 2020. 丸善出版4)村上春樹.走ることについて語るときに僕の語ること.2010.文藝春秋

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腸球菌菌血症におけるTEEの適用判断:DENOVAスコア【1分間で学べる感染症】第27回

画像を拡大するTake home messageEnterococcus faecalis菌血症を見た際には、DENOVAスコアを計算して経食道心エコー(TEE)が必要かどうかの判断に役立てよう。Enterococcus faecalis菌血症を見たとき、感染性心内膜炎(IE)の可能性を考慮するために経食道心エコー(TEE)を行うかの判断は、しばしば臨床上の悩ましいポイントです。TEEは感度の高い検査ですが、侵襲的かつリソースも限られる中で、全例に実施することは現実的ではありません。皆さんも臨床現場で悩むことがあるかと思います。そこで今回は、腸球菌菌血症におけるTEEの適用判断の参考となる「DENOVAスコア」1)を紹介します。DENOVAスコアとは?DENOVAスコアとは、腸球菌菌血症におけるTEEの適用を判断するための予測スコアとして、スウェーデンから報告されたものです。これは従来のNOVAスコア2)の改訂版で、より診断精度の高いスコアとされています。DENOVAスコアは以下の6項目からなり、各1点を加算します。Duration of symptoms症状が7日以上継続Embolization塞栓症の既往Number of positive cultures血液培養陽性数が2本以上Origin of infection unknown感染経路不明Valve disease弁膜症の既往Auscultation of murmur心雑音の聴取計6点満点で、3点以上のカットオフにおける感度は100%、特異度は83%と高い診断精度が報告されています。したがって、3点以上の場合にはTEEの実施を検討します。注意点としては、DENOVAスコアはE. faecalis単独の菌血症を対象としており、E. faecium菌血症や複数菌による菌血症には適用できないことが挙げられます。このDENOVAスコアが2019年に報告された後に、外的妥当性やほかの因子の比較も検討されているものの3,4)、現在のところ臨床現場で最もよく使用されているのは、この6項目のDENOVAスコアです。とはいえ、患者さんに十分なリスクとベネフィットを説明し、適用に関しては患者さんごとに慎重な判断が求められることが基本です。1)Berge A, et al. Infection. 2019;47:45-50.2)Bouza E, et al. Clin Infect Dis. 2015;60:528-535.3)Danneels P, et al. J Infect. 2023;87:571-573.4)Perez-Rodriguez MT, et al. Eur J Clin Microbiol Infect Dis. 2024;43:1481-1486.

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口唇ヘルペスウイルスがアルツハイマー病リスクと関連か

 単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)感染がアルツハイマー病(AD)発症リスクと関連しており、抗ヘルペス薬の使用がそのリスクを低減する可能性が、米国の大規模リアルワールドデータを用いた後ろ向き症例対照研究で示された。本研究は、米国・ギリアド・サイエンシズのYunhao Liu氏らにより実施された。BMJ Open誌2025年5月20日号に掲載。 本研究では、米国の大規模民間保険請求データベース「IQVIA PharMetrics Plus」を用い、2006~21年の間にADと診断された50歳以上の患者34万4,628例を特定し、年齢、性別、地域、データベース登録年、医療機関受診回数でマッチングした同数の対照者を1対1の割合で抽出し、後ろ向きマッチング症例対照研究を実施した。 主な結果は以下のとおり。・AD症例群と対照群はともに、平均年齢は73±5歳、女性が65.11%であった。・AD症例群ではHSV-1感染の診断歴がある人の割合が0.44%(1,507例)だったのに対し、対照群では0.24%(823例)であった。・多変量解析で調整後、HSV-1感染の診断歴はAD発症リスクの有意な上昇と関連していた(調整オッズ比[aOR]:1.80、95%信頼区間[CI]:1.65~1.96)。・層別解析ではとくに高齢者で顕著であり、75歳以上の年齢層ではaORが2.10(95%CI:1.88~2.35)であった。・HSV-1感染の診断歴のある患者群(2,330例)において、抗ヘルペス薬を使用した人(931例、40%)は、使用しなかった人と比較してAD発症リスクが有意に低かった(調整ハザード比[aHR]:0.83、95%CI:0.74~0.92)。・抗ヘルペス薬による同様の保護効果は、AD関連認知症の解析でも認められた。・本研究において、HSV-2(単純ヘルペスウイルス2型)および水痘・帯状疱疹ウイルス感染の診断歴もADとの関連が認められたが、サイトメガロウイルスでは有意な関連はみられなかった。 著者らは、「これらの知見は、ヘルペスウイルスの予防を公衆衛生上の優先事項として捉えることの重要性をさらに強調するものであり、神経親和性ウイルスの抑制がADおよびAD関連認知症の自然経過を変えるかどうかを判断するためのさらなる研究が必要だ」と結論付けている。

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