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オリジナルニュース中等症コロナ肺炎、ファビピラビル+カモスタット+シクレソニドで入院期間短縮/国内第III相試験(2022/06/15掲載) 本研究は中等症のCOVID-19肺炎患者におけるファビピラビル、カモスタット、およびシクレソニドの併用療法を評価した論文であり、2020年11月11日から2021年5月31日までに登録された本邦でのCOVID-19罹患患者を対象としている。登録患者は121人で、56人が単独療法、61人が併用療法だった。 本研究では、経口ファビピラビルにカモスタットとシクレソニドを併用することで安全性の懸念なしに入院期間の短縮ができたことが示されたが、本論文の結果が本邦のCOVID-19治療に与える影響は小さいと考えられる。理由を以下に示す。 まず、執筆時点での中等症のCOVID-19肺炎患者に対する治療とそのエビデンスを確認する。本邦ではCOVID-19に対する薬物治療の考え方 第13.1版等にも記載があるように、抗ウイルス薬としてレムデシビルを投与し、臨床病態によっては(酸素投与がある場合に)抗炎症薬としてデキサメタゾンやバリシチニブの投与が行われている。このうち、デキサメタゾンはRECOVERY 試験(Horby P, et al. N Engl J Med. 2021;384:693-704.)で、世界で初めてCOVID-19患者治療で有意な改善を、バリシチニブもレムデシビルとの併用下で臨床的な改善が報告されている(Kalil A, et al. N Engl J Med. 2021;384:795-807.)。レムデシビルに関しては、中等症のCOVID-19に対する単剤治療での有意な臨床的アウトカムは見いだしがたいが、発症早期の患者に投与することで臨床的なアウトカムや死亡率を低下させた報告があり、抗ウイルス効果は期待されるだろう(Gottlieb RL, et al. N Engl J Med. 2022;386:305-315.)。そして、ステロイドを投与する患者に関しては、先行して抗ウイルス薬を投与したほうが臨床症状の改善が早くなり、重症化率を低下させるという報告がある(Shionoya Y, et al. PLoS One. 2021;16:e0256977.)ことを加味すると、COVID-19の酸素需要がある患者には、ステロイドなどの抗炎症薬の投与が望ましく、レムデシビルも抗炎症薬とともに投与することがよいだろう。 さて、本研究に戻る。本研究が開始された時期は、COVID-19に対する確立された治療薬はなく、各国で有効性が期待される薬剤を探っている状況だった。本研究で対象となった薬剤の、ファビピラビル、カモスタットとシクレソニドについて整理する。 ファビピラビルは本邦で開発され、新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症に対する承認があり備蓄されていた抗ウイルス薬である。COVID-19が流行した初期に期待された治療法の1つであったが、本邦で実施された多施設無作為化オープンラベル試験でも早期のCRP陰性化や解熱傾向は見られたものの、有意差には達しておらず(Doi Y, et al. Antimicrob Agents Chemother. 2020;64:e01897-20.)、現時点でCOVID-19の標準治療に位置づけられてはいない。 シクレソニドもCOVID-19の治療で有効性が期待されていた薬剤である。本研究と患者対象が一致したデータではないが、国内のランダム化比較試験ではシクレソニド投与群で肺炎増悪が多く(https://www.ncgm.go.jp/pressrelease/2020/20201223_1.html)、臨床的な改善を示すことができなかった。カモスタットも臨床的改善までの日数やICU滞在期間の短縮、死亡率などの改善を示すことができず、現時点で臨床的に常用されている薬剤ではない(Gunst JD, et al. EClinicalMedicine. 2021;35:100849)。 本研究は、作用機序の異なる薬剤を組み合わせることで臨床的な効果が向上することを期待していたが、シクレソニドやカモスタットは個々の薬剤としては、明らかなデータの改善を示す研究はなく、併用による相加あるいは相乗効果の薬理学的な背景も記載はない。本文に記載があるように、サンプルサイズも小さく安全性のプロファイルに懸念が残る点、hard clinical primary outcome(臨床的に客観性の高い主要評価項目)が採用されていないという点といった問題があり、これらの併用薬の有効性を示すためには、より大規模の人数で、標準治療群とhard clinical primary outcomeについて比較をすることが望ましいだろう。 本研究結果は、現在のCOVID-19診療に与える影響は小さいと考えるが、本邦における感染症研究という観点からは、同研究が発表された意義は大きいと考える。 パンデミックを起こした感染症の臨床研究は、早期に有効な治療法を見いだすことが望ましく、速やかな臨床研究の実施が望ましいが、臨床研究を実施するには医師だけではなく、多くの職種の協力や適切なモニタリング、参加者の協力などの資金とともに環境整備が必要となる。本研究のようにパンデミック下での前向き研究実施には、労力と研究が遂行できる環境、それらの下準備が求められる。 新規感染症に対する創薬を行う場合は、適切な臨床試験のもとで適正な薬剤の評価が行われることが重要であり、本邦でも新規感染症に対する創薬を行うためには、このような臨床研究ができる環境をさらに整備してゆくべきであろう。 COVID-19診療について振り返ってみると、ワクチン接種や重症化リスクの高い患者に対する治療薬の整備により、重症化率、致死率はこの2年間で大きく減少しているが、未だに終息はしていない。重症化リスクの高くはない患者さんでも、症状の早期緩和、Long COVID罹患率の低下、他者への感染リスクを低下させるなどの社会生活を円滑に進めるための薬剤が期待されており、これらの問題を解決する薬剤が開発されることを期待したい。ただ、本邦ではワクチン接種も進んでおり、オミクロン株流行下でも、重症化率や死亡率は低下し、急性期症状持続期間も短縮していたことを考えると、オミクロン株で抗ウイルス薬の有効性を評価する場合には工夫が必要かもしれない。COVID-19の比較対象にしばしば出されるインフルエンザも抗ウイルス薬があるが、インフルエンザに対する抗ウイルス薬は発症後48時間以内に内服しなければ症状などの有意な改善が望めないように、急性期症状持続期間が短縮しているオミクロン株で治療効果を評価する場合は、速やかな抗ウイルス薬投与ができる環境で評価を行わないと臨床症状の改善で有意差を確認することは難しいかもしれない。 今後は、新型コロナウイルス・オミクロン株に対する抗ウイルス薬の評価が行われることになると考えるが、ウイルスの特徴も踏まえた上で、臨床現場でどのような患者さんに、どのように用いることで、どのような効果を期待するのかを適切に捉えた臨床試験を組み立て、評価を行うことがとくに望まれると考える。