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新型コロナウイルス感染症は妊婦で重症化しやすく、早産と帝王切開のリスクを上げる(解説:前田裕斗氏)

 新型コロナウイルス感染症と妊婦の関係性について、これまで(1)一般女性と比較して妊娠中にとくに罹患しやすいということはない(2)罹患した場合は一般女性よりも重症化しやすい(3)罹患した場合、妊娠合併症(帝王切開や早産など)が増える などの可能性が報告されている。なお、上記は母体についての影響の話であり新生児については記載していない。 このうち、(2)と(3)については複数の中小規模の研究があるものの、研究組み入れ基準が症状ではなく入院時PCR陽性が条件である、同時期のコホートを比較対象とした研究は少なかった。今回の研究では、同時期の妊娠していない新型コロナウイルス感染者と比べた感染妊婦の重症化リスク、および感染妊婦の中でも重症化しやすい要因、そして非感染妊婦と比較して妊娠合併症が増えるかどうかについて検討している。 結果としては、非妊娠女性の感染者と比較して妊婦では入院リスクが2.65倍、ICU/CCUへの入院リスクが5.46倍という結果となった。また、年齢・高血圧既往・妊娠後期の感染がこれらのリスクと相関していた。妊娠合併症について、新型コロナウイルス感染は早産・帝王切開リスクと有意に相関したが、妊娠高血圧腎症、死産のリスクとは相関を認めなかった。 本研究の強みは適切な比較対象集団を置いていること、ほとんどが症状のある妊婦を対象としているため臨床現場の感覚に即したものであること、2021年末までの出産を対象としておりデルタ株の影響を見たコホートであることである。一方、現在主流のオミクロン株についてのデータは今後の報告が待たれる。また、人種について、本研究ではアジア人妊婦の重症化リスク、ICU/CCU入院リスクが共に有意に高く出ているが、これはカナダにおける結果であり、人種によって受けられる医療サービスが違うこと、それに関する要因が考慮できていないことなどから、人種についての結果は慎重な解釈が必要だろう。 妊婦や、妊娠を希望する方への適切な情報提供は感染流行下においては非常に重要であり、その点で非常に価値の高い論文である。日本では同様の研究はほぼ報告されていないが、1件、全国的なアンケート調査で重症化に関わる要因を聞いたものがある1)。この研究でもやはり妊娠後期または産後の感染が重症化と相関したと報告され、日本においても本研究の結果は適応可能と考えてよいだろう。現在3回目のワクチン接種は妊婦においても当然勧められるが、高齢者などと同様4回目以降の接種や、今後妊娠時にワクチン接種を行ったほうがよいかどうかについてはオミクロン株の影響の結果報告が待たれる。

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「後継者採用」という甘い誘いに乗ったら…【ひつじ・ヤギ先生と学ぶ 医業承継キソの基礎 】第41回

第41回 「後継者採用」という甘い誘いに乗ったら…漫画・イラスト:かたぎりもとこ「後継者採用」というキーワードをご存じですか?企業経営者の年齢が上がっている昨今、「後継者を採用によって広く募ろう」というこの言葉をメディアで見掛けることが増えています。医療機関も例外ではありません。診療所の院長が高齢になっているのに後継者が見つからず、「まずは従業員として雇用して、その後お互いに問題がなければ承継する」という取り組みが多く行われています。採用される側からすれば、まずは従業員として経験を積んだうえで経営を任せてもらえるのですから、将来開業したい人・経営したい人にとって魅力的なプランです。しかし、“うまい話”には必ず落とし穴があるものです。後継者採用のよくある条件は、「5年後を目処に後継者に譲りたいが、それまでは従業員として働いてほしい」というものです。採用される医師側は「5年働いたら、無償で診療所を譲り受けられる」と考え、現院長に気に入られようと頑張ったり、相場より低い給料で甘んじて働いたりします。しかし、そこに次のような落とし穴が待っています。5年経っても、なかなか後継の話が具体化しない引き継ぎたい意向を伝えると、「あと3年待ってほしい」と先延ばしされる引き継ぎたい意向を伝えると、高額な譲渡額を言い渡される現院長側の事情としてよくあるのは下記のようなものです。採用当初は「5年で引退する」と決めていたものの、実際にそのタイミングになってみると踏ん切りがつかないこれまで引き継ぐ意向のなかった息子・娘が、急に引き継ぎたいと言ってきた医業承継の仲介会社から営業を受けて話を聞くと、3,000万円の売値がつくことがわかって欲が出た「後継者採用」にはこのような落とし穴があることを知ったうえで、基本合意書を締結し、「言った言わない」になることを防ぐ約束事は書面で取り交わし、お互いの本気度を確認するお金の問題(売値の価格目線)を事前に確認するといったトラブル予防策を取りながら、話を進めるとよいでしょう。

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第116回 読者の声に応えてタブーに迫る!諸派のコロナ対策、その言い分を比較

「日本第一党」「こどもの党」「平和党」「天命党」「幸福実現党」「スマイル党」「核融合党」「沖縄の米軍基地を東京に引き取る党」「共和党」「ファーストの会」「日本改革党」「維新政党・新風」「参政党」「メタバース党」「自由共和党」「新党くにもり」以上は現在最も候補者が多いとされる参議院議員選挙の東京選挙区で、国政議席を持たない政党の立候補者が所属する「政党」である。ちなみに上記以外に『議席減らします党』『動物愛護党』『バレエ大好き党』『炭を全国で作る党』の標榜もあるが、これらの候補者はすべてNHK党公認である。ちなみに数行前で政党にカギカッコ(「」)をつけたのは、前回、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)対策で取り上げた政党は国政に議席を持ち政治資金規正法に基づく政党の定義を満たしているものがほとんどだが、上記の政党はそうではないからである。前回までに取り上げなかった政党、その理由さて前回の本連載後、「ほかの政党は取り上げないの?」という読者のお声を何件か頂戴した。実は国政に議席のない政党の政策も取り上げようと思ったことは何度かあるが、それをしなかった理由はいくつかある。まず、報道で「諸派」と表記されるこうした政党は、時にシングルイシューの政策であることが多く、医療にスポットを当てても取り上げようがないのが第1の理由である。そして第2の理由が私としては一番大きいのだが、これらの政党をすべて取り上げると、原稿の文字数が1万字超になる。これはインターネット上の記事、とくに一般向けではかなり「禁じ手」だ。おおむね一般の読者が読むに堪える文字数が3,000字程度だからである。それでなくとも私の記事は長めである。とくに一般向けに医療情報を発信しようとすると、丁寧な説明が必要になり、必然的に文字数が多くなる。たとえば、この連載ならば「ワクチンの発症予防効果は…」とスラっと書いても読者が誤読することはまずない。しかし、一般向けでは「ワクチンには感染予防効果と発症予防効果と重症化予防効果があり、感染予防効果とは…」と書かないと、高確率で「誤読」される。というか、極論を言えば、そこまで書いてもほぼ誤読される。こうした長い原稿を書くためか、最近では私がよく執筆する一般向けの情報サイトの編集者からは「とにかく短めに」と本音のお叱りを押し殺した哀願が多い。ちなみに私が丁寧に書こうとした結果、どれだけ記事が長くなるかは講談社が運営する情報サイト「現代ビジネス」の私の記事の一覧を見ていただけるとわかると思う。実際には1本の記事として書いたものの、その多くが編集者の苦心により2本以上に分けられている。その点、当サイトの担当編集者は何も嫌味を言わないので私にとってはありがたい存在である。というか、すでにこの時点で1,100文字を超えている(笑)。第3の理由は当サイトでは政治ネタはあまり読まれない傾向があるからであり、第4の理由には、私はどうしても職業病で与野党問わず酷評してしまうため、懲りずに読んでいただいている読者の一部を不快にさせてしまう可能性があるのだ。こうした数々の「タブー」を敢えて無視して今回はチャレンジしてみようと思う。そう思うのは、私も年齢を重ね、候補者を見る目が変わってきたせいもある。その変化の具体例として私は「泡沫候補」という言葉は使わない。すべての被選挙権を持つ国民は、立候補の権利があり、それに基づき政治主張をする自由がある、そして石をぶつけられかねない立候補者としてわが身を晒せる勇気を持てる人はそう多くはない、という当たり前の事実を人生の折り返し地点を超えて再確認したからである。これには選挙取材歴では日本一といっても良い友人のフリーライター・畠山 理仁(みちよし)氏の影響がある。彼の著書、「黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い」(集英社刊、第15回 開高健ノンフィクション賞受賞作)、「コロナ時代の選挙漫遊記」(集英社刊)は必読の名著といってよい。コロナ対策を掲げる7党の言い分今回、東京選挙区を取り上げたのは、やはり多種多様な候補がいるからである。宮城県出身である私が東京に出てきた頃、一番驚いたのは選挙時の候補者の多さである。若かりし頃は東京での選挙を「大ビックリ人間コンテスト」とすら呼んでいた。今は候補者に敬意を払い、「日本最大の政策博覧会」と言うようにしている。さて、そろそろ本題に移ろう。念のため言っておくと、冒頭の順番は東京都の選挙公報の掲載順となっている。まず、この中で政党のホームページ、選挙公報、政党作成のチラシ、配信動画などで新型コロナ対策を掲げているのは16党のうち7党である。これらを紹介しながら、かいつまんで批評を加えたいと思う。まず、天命党(代表:小畑 治彦氏)である。元東大阪市議の小畑氏が立ち上げた政党でヴィーガン食の良さを訴えることが政策主眼のようである。宗教チックに思われる名称のためか、小畑氏は「天命党は宗教政党ではない」と断言している。同党はInstagramを選挙活動に多用しており、そこから浮かぶ新型コロナ政策とは以下のようなものだ。新型コロンワクチンの接種は必要なしPCR検査は信頼性に疑問があるマスク着用は不要もちろんワクチン、検査、マスクはいずれも限界があるが、一定のリスク低減効果があることも科学的に提示されている。これ以上は言うまでもないだろう。次は幸福実現党(党首:釈 量子氏)である。ご存じのように同党は宗教団体「幸福の科学」(総裁:大川 隆法氏)の政治部門である。掲げている新型コロナ関連政策を要約すると以下の通りだ。コロナ発生源、中国の責任を追及コロナ起源の調査を行わず、発生源をうやむやにするWHOの責任を追及中国を利する「ワクチン外交」を自由主義国と共に阻止宗教心でコロナ禍を乗り越える自由の制限を伴う緊急事態宣言やまん延防止措置の発出は行わない政府の権限肥大化を防ぐため、コロナ禍を契機とした憲法の「緊急事態条項」新設に反対ワクチンのメリット、デメリットを提示したうえで接種は自由意思を最大限尊重事実上の強制接種につながる無料ワクチン接種を原則有料化感染症法の分類を5類相当とし医療機関へのアクセスを改善国産の新型コロナ治療薬の開発推進生物兵器や化学兵器に対抗する自衛隊部隊の強化ややわかりにくい政策のように思うかもしれないが、同党は「新型コロナは中国が開発した生物兵器」というスタンスをとっている。これが冒頭の3件と最後の1件の政策の根拠でもある。ちなみに生物兵器論に関しては、中国が中東呼吸器症候群(MERS)ウイルスや重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルスを利用した生物兵器開発中に流出したウイルスが原因との説が一部で流布されたが、遺伝子配列の解析やウイルスがMERSやSARSよりも弱毒化していること(生物兵器として利用するなら強毒化させるのが当然という考えに基づく)などから否定的な見解が多い。私個人もその立場である。もっとも今後の対策を考えた場合、自然宿主などの原因に迫らねばならない。これまで世界保健機関(WHO)が中国で行うことができた調査は非常に制限の多いものであったことは知られている。その意味で中国でのより厳密な調査が必要ということでは同党のスタンスにも一定の理解はできる。ワクチン政策に関しては、個人の自由意思尊重に異論はないが、ワクチンによる感染拡大リスク極小化のための最大のネックは費用も含めたアクセスの問題であり、有料化するのは非現実的と考える。新型コロナの5類相当扱いについては過去にも触れているが、医療機関や高齢者施設でのクラスターが発生しやすいこのウイルスの特性を考えれば、最低限の条件として感染者の重症化リスクにかかわらず使用できる経口薬が上市されることである。その観点からすると、現状ですべての医療機関に新型コロナの診療を行えというのはやや酷であると感じる。国産治療薬については本連載で再三見解を述べているが、どの政治家も安易に考え過ぎである。それを実現したければ、赤字国債を今後20年ほど毎年数兆円発行して製薬企業の開発支援として提供するくらいの覚悟が必要である。核融合党(代表:桑島 康文氏)は今回取り上げる中では唯一、代表の桑島氏が医師である。選挙公報に記載の政策を列挙する。新型コロナの感染症法での5類相当引き下げ逆転写でDNAに取り込まれるmRNAワクチンの承認取り消し、廃止自粛、鎖国の廃止国産の複数株混合不活性化ワクチンの導入2番目の「逆転写でDNAに取り込まれる」は科学的にほぼゼロと言って良い、つまりはほぼ間違いと言って良いことはここの読者ならご存じのはず。ちなみに私個人は一般人の知人から時々この不安について尋ねられることがある。これを正確に細かく説明すると時間がかかるので、いつもはやや不正確ながら「マグロの刺身を食べて10年後にヒトからマグロになってしまった人が周りにいる?それがないのと同じこと」と話すようにしている。最後の不活性化ワクチンについては、選択肢を広げる意味ではありと思っているが、既存のワクチンほどの効果が得られるかという点は中国のシノバック社ワクチンのデータなどから疑問視している。共和党(棟梁:鳩山 友紀夫氏)は、政界では「宇宙人」とも評された旧民主党党首で元首相でもある鳩山 友紀夫氏(2013年に「由紀夫」から「友紀夫」に改名)が政界復帰をして立ち上げた政党である。党の政策をホームページで見てみると新型コロナに関しては以下の記載がある。「新型コロナウイルスは日本社会にすさまじいインパクトを与えた。この影響は新型コロナウイルスが終息しても終わりではない。グローバリズムの進展、地球温暖化や気候変動、モンスター台風などの自然災害、インターネットや遺伝子組み換えなどの現代技術の暴走の可能性など、巨大リスクへの本格的な大規模対策をおこなう」うーん、少なくとも何をやるのかは具体性に欠ける。失礼ながら鳩山氏は相変わらず「宇宙人」のままのようである。次にファーストの会(代表:荒木 千春氏)は、これまた有名な東京都知事・小池 百合子氏が創設した地域政党・都民ファーストの国政版である。代表の荒木氏は小池都知事の元秘書で、今回の出馬直前まで中野区選出の東京都議会議員だった。さて、その政策である。公衆衛生上の危機に対する司令塔機能の強化ワクチン追加接種促進検査、医療、宿泊療養体制の強化、自宅療養への支援子どもの往診体制の強化後遺症分析、サポート体制強化公的医療機関の機動的対応力の強化医療人材の偏在是正、育成の強化民間医療機関の公的役割を踏まえた連携体制の検証、協力確保策の強化危機時の検査キット、ワクチン、抗体薬、治療薬等の医療物資の開発、確保、承認、流通の迅速化国産ワクチン、治療薬の開発支援診療報酬引き上げ等によるオンライン診療の拡大DXによる保健所等の効率化東京、地域の実情に合わない国のコロナ対策の是正ざっと見渡す限り、前回紹介した国政政党の政策を重複なく寄せ集めた感があり、ほとんど目新しさはない。最後の政策に関しては、より細かく▽ワクチンの不合理な配分、緊急事態宣言のタイミング、特措法等の改正の遅れ、危機時の水際対策強化など地域の実情に応じた対応を促す▽国から自治体への権限・財源・人材の分権推進、近隣道府県など広域連携の推進、保健所など二重三重行政の解消、と記述があり、この辺が地域政党を出自とする同党らしさと言えなくもない。もっとも自治体と国との関係での改善点はもっと平易で詳しく記述すれば、もしかしたら説得力を増すのではないかと老婆心ながら思う。最近、とみにメディアへの露出が目立つのが参政党(共同代表:松田 学氏、赤尾 由美氏、吉野 敏明氏)。共同代表のうち吉野氏は歯科医師である。同党のホームページ上にある新型コロナ政策は以下の2点だ。感染症対策を軸とした危機管理体制と高度医療資源の機能的な再配分正しい感染症の知識を普及して「コロナ脳」から脱却、国民の行動制限やワクチンに頼らず、日常生活を早く正常化し、免疫力の強化と機動的な医療システム構築でコロナ禍を克服、自由と健康の両立を実現感染症対策での危機管理体制強化の必要性は論を待たないが、それを「軸」として高度医療資源配分も行うとなると、やや偏り過ぎではないだろうか。国内の死因のトップはがんであり、これに心臓疾患などが続くことを考えれば、高度医療資源配分ではこうした疾患のほうがむしろ「軸」としてはふさわしい。また、2番目の免疫力強化も健康食品のキャッチコピー感がある。免疫力を上げるというのは市中では良く使われるが、免疫の働きは未解明な点も多く「科学的にこうだ!」と言える部分はわずかである。その意味で政党としてこの文言を政策文に入れることにはかなりの違和感がある。さらに「国民の行動制限やワクチンに頼らず」との記述は、ワクチンに一定の役割を認めているかのようにも読めるが、同党候補者にはワクチンそのものに科学的に疑問符がつくような根拠で否定的な発言をする人が散見される。自由共和党(代表:青山 雅幸氏)は元立憲民主党の衆議院議員だった青山氏が創設した新党である。掲げる政策は以下の通りだ。5~11歳へのワクチン接種阻止、20歳以下のワクチン接種中止濃厚接触者や無症状者の隔離、アクリル板設置、常時マスク、幼稚園児へのマスク着用、まん延防止等重点措置/緊急事態宣言のすべてを撤廃PCR検査のCt値の適正化新型コロナの感染症法5類相当への引き下げワクチン接種で副反応を訴える人の救済憲法の「緊急事態条項」新設に反対一覧すればわかるが、既存の新型コロナ対策の多くに否定的である。青山氏の場合、Twitter上などでも以前からワクチンに対する不信感をあらわにしており、それが同党の政策にも直結しているようである。若年者では新型コロナが重症化しにくく、その一方で既存のワクチンに比べて新型コロナワクチンでは接種に伴う自覚症状のある副反応が少なくないため、若年者でのワクチン接種に否定的な意見が少なくないことは私自身も承知している。若年者の場合、本人のためというよりは周囲のためという側面が強くなることも否定はしないし、また現在の感染の主流であるオミクロン株では現行ワクチンの効果が減弱し、ブレイクスルー感染も少なくないのもまた事実である。もっともそれを言ってしまえば、現行の予防接種法に基づき定期接種に組み入れられている一部のワクチン、具体的には患者報告数の少ない日本脳炎なども接種の必要性はなしとなってしまう。私個人は感染症では個人に加え、地域・社会全体でのリスク低減を目指すという視点は必要であると考えており、自由共和党の考えには必ずしも賛同できない。また、青山氏は新型コロナワクチン接種後の長期的副反応を訴える人に配慮すべきという主張もTwitter上でよくつぶやいている。この点について言えば、総論では理解できるが、こうした主張の多くは、接種者本人のみの主張に過度に依存しており、科学的にはより厳密に考える必要がある。その意味で接種者の長期フォローアップは必要であるとは考えるが、現時点で海外の事例を見ても、一部の年齢層であってもワクチン接種を中止する必要がある兆候は見当たらない。以上が各政党の提示する政策に対する私見である。なお、政党としての主張にはないが、報道各社が候補者本人にアンケートを行っているのはよく知られている。NHKの参院選特設サイトでその結果を見ると、ここで登場しなかった候補者の考えもうかがえる。以下では冒頭で名前を取り上げた政党に限定して候補者の回答を紹介する。同サイトのQ3「新型コロナウイルス対策で、今、政府がより重点をおくべきは『感染拡大の防止』と『経済活動の回復』のどちらだと考えますか」では、今回取り上げた政党の候補者のうち「どちらかと言えば感染拡大防止」あるいは「感染拡大の防止」と回答したのが維新政党・新風(代表:魚谷 哲央氏)の候補者のみ。Q4「新型コロナウイルスは、入院の勧告や外出自粛の要請など強い措置がとれる感染症に指定されています。この扱いを維持すべきだと考えますか。季節性のインフルエンザと同じ扱いに変えるべきだと考えますか」では、「維持すべき」が平和党(代表:内藤 久遠氏)、「回答しない」がメタバース党(代表:後藤 輝樹氏)のみ。さてどうだったろう? もちろん、内容によっては読者が嫌悪感を覚える政策もあったと思う。しかし、実はこうした諸派と言われる政党のホームページで政策をつぶさに眺めると、他領域などでは「へーーー」と感心するものもなくはない。お時間のある方は目を通してみて欲しい。

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がんの緩和ケア、放射線・神経ブロック治療普及のセミナー開催

 働くがん患者を企業と一緒に支援する厚生労働省の取り組み「がん対策推進 企業アクション」は、6月28日、「がん治療における緩和ケア」をテーマとしたメディア向けセミナーを開催した。これは、6月9日に厚生労働省が医療者への啓蒙と一般患者への説明用として、がんにおける緩和ケアを説明する資料1)を作成し、都道府県衛生主管部(局)、がん診療連携拠点病院等の病院長、日本医師会を通じて広報をはじめたことを受けたもの。資料は、心理的・精神的ケアを含めて診断時から緩和ケアが受けられること、痛みへの対応としてオピオイド等の使用だけでなく放射線治療や神経ブロック等の活用を促すこと、が主な内容となっている。 セミナーの冒頭では、がん対策推進 企業アクション議長の中川 恵一氏(東京大学 総合放射線腫瘍学講座 特任教授)が「日本国内では年間100万人ががんに罹患し、38万人が命を落としている。その3分の1は働く世代であり、この年代にも緩和ケアは重要なテーマ。日本はこの分野において遅れが目立つ」と述べた。「これまで、日本では治すことが最優先され、癒すという観点が後手になりがちだった。緩和ケアも進行がんの終末期患者を中心に行われてきたが、2006年に制定されたがん対策基本法に基づき、あらゆる種類・進行状態のがん患者に提供するよう医療者への働きかけを進めており、今回の資料作成もその一環だ」と説明した。加えて、「がんの疼痛緩和の基本はオピオイド等の処方だが、それが効かない場合には放射線治療や神経ブロックが有効であり、その周知や実施を進めることが患者のQOLの維持・改善のために必要だ」とした。 その後、沖縄徳洲会病院の服部 政治氏(疼痛治療科統括 部長)が「がん疼痛治療の現状」と題した講演を行った。服部氏が積極的に行っている疼痛緩和目的の神経ブロックは、全国の実施回数が年間300回と非常に少ない水準に留まっている。服部氏は「がんの疼痛には鎮痛薬の内服や皮下注、手術・放射線治療、そして神経ブロック療法・脊髄鎮痛法がある。治療初期は鎮痛薬、それが効かなくなったら放射線、最後に神経ブロックと直線的に各手法が提供されているのが現状」と説明した。そして、「疼痛緩和のためモルヒネを大量投与されているケースにおいて神経ブロックを行うことで痛みを軽減させ、モルヒネの投与量を10分の1程度まで減らせることが複数のデータで示されている。神経ブロックを施術したことで終末期患者が在宅診療に切り替えられた例もあるが、オピオイドの投与量は一気には減らせないため、大量投与になる前の初期から、複数の緩和ケアの手法を組み合わせて提供することが有効だ」と説明した。そして、現状の課題として「20年ほど前まで一般的だった神経ブロック・脊髄鎮痛法が行われなくなった結果、施術できる医師、研修できる施設が減っている。鎮痛薬に偏った日本における緩和ケアの課題感を共有し、人材育成を進めることが重要だ」と強調した。

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新型コロナ、2m超でも感染した事例のリスク因子/BMJ

 英国・UK Health Security AgencyのDaphne Duval氏らは、システマティック・レビューの結果、レストラン、公共交通機関、職場、合唱会場といった屋内環境において2m以上離れていても新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染(airborne transmission)が生じる可能性があり、感染に寄与する可能性がある要因として不十分な換気が特定されたことを報告した。SARS-CoV-2感染リスクは、感染者に近接したとき(2m未満)に最も高くなる傾向があり、スーパースプレッダーでは2m超でも感染する可能性が示唆されていたが、詳しいことは不明であった。著者は、「今回の結果は、屋内環境での感染予防対策、とくに十分な換気の必要性を強調するものである」とまとめている。BMJ誌2022年6月29日号掲載の報告。2020年1月1日~2022年1月19日の18研究についてシステマティック・レビュー 研究グループは、まずComberらによるシステマティック・レビューに含まれる研究のうち2020年1月1日~7月27日に発表された研究をスクリーニングし、次にMedline、Embase、medRxiv、Arxiv、WHO COVID-19 Research Databaseを用いて2020年7月27日~2022年1月19日に発表された研究を検索し、適格基準を満たした研究についてWeb of ScienceおよびCocitesで引用分析を行った。 適格基準は、屋内環境(非医療環境)下で2mを超えた距離でもSARS-CoV-2に感染した事例について報告した観察研究とし、濃厚接触または媒介物が主な感染経路と考えられる観察研究(家庭内感染など)は除外した。 Rayyan Systemsを用いて2人の評価者が独立してスクリーニングし、ほぼ完全に一致した研究について1人の評価者がデータ抽出を行い、もう1人がチェックした。 主要評価項目は、2mを超えるSARS-CoV-2感染、およびその感染に影響を及ぼした要因とした。組み込まれた研究の方法論的な質は10問で構成される品質チェックリストを用いて厳格に評価し、エビデンスの確実性はGRADE(Grading of Recommendations、Assessment、Development、Evaluation)を用いて評価した。また、設定ごとにNarrative synthesisを行った。 18件の研究(関連する報告は22報)が解析に組み込まれた(方法論的質が「高」3件、「中」5件、「低」10件)。「換気不十分」「一方向気流」「大声で歌う・話す」のうち1つ以上でリスク大 18件のうち、16件の研究では感染イベントの一部あるいはすべてで、2mを超えてSARS-CoV-2感染が発生した可能性があり、2件は不明であった(GRADE:確実性が非常に低い)。 16件の研究において、換気不十分(確実性が非常に低い)、一方向の空気の流れ(確実性が非常に低い)、大声で歌う・話すなどエアロゾルの放出が増加する活動(確実性が非常に低い)のうち、1つ以上の要因により2mを超える距離でも感染する可能性が高まるようであった。 13件の研究において主要症例は、無症状、症状発現前または感染時の発症前後であるものが報告された。 なお、組み込まれた研究の中には、感染調査が十分実施されていたものもあるが、研究デザインに起因するバイアスリスクが残っており、感染経路を十分評価するために必要なレベルの詳細な情報が必ずしも提供されていなかった。

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先天性心疾患、術後の人工心肺装置を介したNO吸入療法は有効か/JAMA

 先天性心疾患に対する心肺バイパス術を受けた2歳未満の小児において、人工心肺装置を介してのNO(一酸化窒素)吸入療法は、人工呼吸器使用日数に有意な影響を与えなかった。オーストラリア・クイーンズランド大学のLuregn J. Schlapbach氏らが、多施設共同無作為化二重盲検比較試験「Nitric Oxide During Cardiopulmonary Bypass to Improve Recovery in Infants With Congenital Heart Defects trial:NITRIC試験」の結果を報告した。心臓手術を受ける小児において、人工心肺装置を介した一酸化窒素吸入療法は、術後の低心拍出量症候群を軽減し、回復の改善や呼吸補助期間の短縮につながる可能性があるが、人工呼吸器離脱期間(人工換気を使用しない生存日数)を改善するかどうかについては不明であった。JAMA誌2022年7月5日号掲載の報告。人工心肺を介した一酸化窒素20ppm投与と標準治療を比較 研究グループは、オーストラリア、ニュージーランド、オランダの小児心臓外科センター6施設において、2017年7月~2021年4月の期間に先天性心疾患手術を受けた2歳未満児1,371例を対象として無作為化試験を行った。最終追跡調査日は2021年5月24日。 適格患児は、人工心肺装置を介して一酸化窒素20ppmを投与する一酸化窒素群(679例)、または一酸化窒素を含まない人工心肺装置による標準治療群(685例)に、無作為に割り付けられた。 主要評価項目は人工心肺開始後28日目までの人工呼吸器離脱日数、副次評価項目は低心拍出量症候群・体外式生命維持装置の使用・死亡の複合、集中治療室(ICU)在室期間、入院期間、術後トロポニン値であった。人工呼吸器離脱期間に両群で有意差なし 無作為化された1,371例(平均[±SD]生後21.2±23.5週、女児587例[42.8%])のうち、1,364例(99.5%)が試験を完遂した。 人工心肺開始後28日目までの人工呼吸器離脱日数の中央値は、一酸化窒素群26.6日(IQR:24.4~27.4)、標準治療群26.4日(24.0~27.2)で、両群に有意差は認められなかった(絶対群間差:-0.01日、95%信頼区間[CI]:-0.25~0.22、p=0.92)。 一酸化窒素群で22.5%、標準治療群で20.9%が、48時間以内に低心拍出量症候群を発症し、48時間以内に体外式生命維持装置を必要としたか、28日目までに死亡した(補正後オッズ比:1.12、95%CI:0.85~1.47)。その他の副次評価項目は、両群間に有意差はなかった。 著者は、研究の限界として、技術的な理由により人工心肺装置の技術者(灌流技師)は盲検化されていないこと、一酸化窒素の投与量が固定用量であったこと、ニトロソチオール値は計測されていなかったこと、両群の中に非盲検の一酸化窒素吸入療法を受けた患者がいたことなどを挙げ、そのうえで「今回の結果は、心臓手術中に人工心肺装置を介した一酸化窒素の投与を支持するものではない」とまとめている。

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双極性障害患者における生涯の自殺企図と関連する要因~BiD-CoIN研究

 インド・Post Graduate Institute of Medical Education & ResearchのSandeep Grover氏らは、双極性障害患者の生涯における自殺企図について、関連するリスク因子を評価するため検討を行った。その結果、双極性障害患者の約3分の1は生涯において自殺企図を経験しており、それらの患者は臨床経過がより不良であることを報告した。Nordic Journal of Psychiatry誌オンライン版2022年6月22日号の報告。 10年以上の疾患歴を有し、臨床的寛解状態にある双極性障害患者773例を対象に、生涯の自殺企図を評価した。自殺企図の有無にかかわらず、さまざまな人口統計学的および臨床的なリスク因子について比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象の双極性障害患者のうち、自殺企図歴を有する患者は242例(31.3%)であった。・自殺企図歴を有する患者は、そうでない患者と比較し、以下の特徴が認められた。 ●教育歴が短い ●多くの場合、女性である ●エピソード期間が長い ●総エピソード数が有意に多い(生涯、発症後5年間、1年ごと) ●うつ病の総エピソード数が有意に多い(生涯、発症後5年間、1年ごと) ●うつ病エピソード期間が長い ●より重篤なうつ病エピソードがある ●初回エピソードがうつ病である場合が多い ●躁/軽躁/混合エピソード期間が長い ●うつ症状または躁症状の残存が多い ●生涯においてラピッドサイクラーの場合が多い ●依存症として大麻を使用している ●自身の疾患について洞察力が乏しい ●障害レベルの高さ(とくにIndian disability evaluation assessment scaleの4領域中3領域)

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オミクロン株時代の未成年者に対するRNAワクチン接種法とは?(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

 本論評の主たる対象論文として取り上げたのはFleming-Dutraらの報告で、未成年者(5~17歳)を対象としてBNT162b2(Pfizer社)のオミクロン株に対する感染/発症予防効果を調査したものである。未成年者の分類は国際的に統一されたものはなく、本論評では各製薬会社の分類に準拠し、生後6ヵ月以上~4歳(Pfizer社)あるいは6ヵ月以上~5歳(Moderna社)を幼児、5~11歳(Pfizer社)あるいは6~11歳(Moderna社)を小児、12~17歳(Pfizer社、Moderna社)を青少年と定義する。本論評では、ワクチン接種の最先端国である米国と本邦の現状を比較し、本邦において未成年者のワクチン接種として今後いかなる方法を導入すべきかについて考察する。小児、青少年におけるBNT162b2の2回目接種のオミクロン株に対する感染/発症予防効果 Fleming-Dutraらは2021年12月26日~2022年2月21日までのオミクロン株優勢期において、米国ほぼ全域から集積されたコロナ感染疑い症状を有し核酸増幅検査(NAAT)によって感染の有無が判定された5~11歳の小児と12~15歳の青少年を対象としてBNT162b2ワクチン2回接種のオミクロン株感染/発症予防効果(VE)を調査した。1回のワクチン接種量は小児で10μg、青少年で30μgであった。 ワクチン2回接種2~4週後におけるVEは小児で60.1%、青少年で59.5%とほぼ同等の値を示した。しかしながら、ワクチン2回接種2ヵ月後におけるVEは小児で28.9%、青少年で16.6%であり、とくに、青少年における時間経過に伴うVEの低下が著明であった。青少年のワクチン接種3ヵ月後のVEは9.6%で統計学的にゼロと判定された。以上の結果はオミクロン株優勢期に成人を対象として報告された傾向と概略一致している(Andrews N, et al. N Engl J Med. 2022;386:1532-1546.)。 Dorabawilaらは小児、青少年におけるBNT162b2の2回接種後のオミクロン株に対する入院予防効果を検討した(Dorabawila V, et al. medRxiv. 2022 Feb 28.)。その結果、小児の入院予防効果はワクチン2回接種1.5ヵ月後で100%から48%に低下、青少年では94%から73%まで低下することが示された。オミクロン株に対する入院予防効果が時間推移と共に低下する傾向は成人においても観察されている(UKHSA. Technical Briefing. 2021 Dec 31.)。青少年におけるBNT162b2の3回目追加接種のオミクロン株に対する感染/発症予防効果 Fleming-Dutraらは905例の青少年を対象として3回目追加接種のオミクロン株に対する感染/発症予防効果(VE)に関しても報告している。3回目接種後の観察期間が短く確実な検討とは言い難いが、2回目接種後時間経過と共に急速に低下したVEは3回目の追加接種2~6.5週後に71.1%まで回復した。この値は青少年における3回目追加接種によるVEの最大値と考えることができ、Andrewsらが報告した成人のオミクロン株に対する3回目追加接種によるVEの最大値(67.2%)と同等の値であった(Andrews N, et al. N Engl J Med. 2022;386:1532-1546.)。しかしながら、青少年において3回目追加接種によって回復したVEが時間経過と共にどの程度の速度で低下するかは解析されていない。小児に対する3回目追加接種の効果を検証した論文は発表されていない。米国、本邦における未成年者に対するRNAワクチン接種基準 インフルエンザウイルスを標的としたワクチン接種は生後6ヵ月以上の年齢層に適用されている。一方、新型コロナウイルスは発症後2.5年しか経過していないがために未成年者に対するワクチン接種法は流動的である。米国における未成年者に対するRNAワクチン接種に関する最新の指針が2022年6月17日にFDAから発表された(FDA. News Release. 2022 Jun 17.)。FDAの指針によると;(1)Pfizer社のBNT162b2に関しては、幼児(生後6ヵ月~4歳)に対し1回3μgを2回ではなく3回連続して接種する新たな方法が提唱された。2回目は1回目から21日後、3回目は2回目から8週後に接種し、3回連続接種をもってワクチン接種が完結する。すなわち、3回連続接種を“Primary series”とする斬新で価値ある考え方である(3回目接種を追加接種とは考えない)。この考え方の基礎になっているのは、成人においてオミクロン株に対するワクチン誘導性液性免疫(中和抗体形成)は2回接種では賦活化が弱く、3回目接種後に初めて有意な賦活化が観察されたという事実である(山口. 日本医事新報 2022;5111:28.)。幼児に対する追加接種(4回目接種)は推奨されていない。(2)小児(5~11歳)と青少年(12~17歳)に対するBNT162b2の接種法は以前に決定された内容が継承され、小児においては1回10μgを21日間隔で2回接種、青少年においては成人と同様に1回30μgを21日間隔で2回接種する。すなわち、小児、青少年においては2回接種をもって“Primary series”と定義された。3回目の追加接種は2回目接種より5ヵ月後に施行することが推奨された(接種量:2回目までと同量)。4回目の追加接種は推奨されていない。(3)Moderna社のmRNA-1273に関しては、生後6ヵ月~5歳までの幼児(Pfizer社の幼児の定義と異なる)に対して1回25μg、6~11歳までの小児(Pfizer社の小児の定義と異なる)に対して1回50μg、12~17歳の青少年に対して1回100μgを1ヵ月間隔で2回接種する。(4)mRNA-1273を用いた3回目の追加接種(接種量は初回量と同じで2回目より1ヵ月以上あけて接種)は免疫不全を有する未成年者(生後6ヵ月~17歳)において認められたが、BNT162b2の場合と異なり免疫不全を有さない未成年者には認められなかった。4回目の追加接種は推奨されていない。 BNT162b2とmRNA-1273の未成年者に対する3回目追加接種の適用の差は、各ワクチンの治験結果を基礎とした科学的根拠に基づくものであるが、本質的に同じ作用を有する両ワクチンの適用を異なった形のまま放置することは施策上混乱を招く恐れがある。 本邦における未成年者に対するワクチン接種に関する厚生労働省の指針は、2022年5月25日に更新された(厚生労働省. 新型コロナウイルス感染症に係る予防接種の実施に関する手引き[第8版]. 2022年5月25日)。この指針では、BNT162b2(商品名:コミナティ筋注)のみが5~11歳の小児に対する2回接種(1回10μg、21日間隔)が認められているが、生後6ヵ月~4歳の幼児には認められていない。また、BNT162b2を用いた3回目追加接種は12歳以上の年齢層(青少年と成人)に対して認められているが(2回目接種後5ヵ月以降に30μg接種)、mRNA-1273(商品名:スパイクバックス筋注)においては18歳以上の成人にしか認められていない(2回目接種後5ヵ月以降に通常量の半量である50μgを接種)。未成年者に対する4回目の追加接種は推奨されていない。以上のように本邦における未成年者に対するRNAワクチン接種指針は不完全であり、とくに、5歳未満の幼児に対する有効なワクチン施策を早急に確立する必要がある。 Pfizer社、Moderna社は武漢原株のS蛋白に加え、オミクロン姉妹株(BA.4、BA.5)のS蛋白を標的とした2価ワクチンの開発を急ピッチで進めている。米国FDAはこの新規2価ワクチンを今秋以降に追加接種用のBoosterワクチンとして期待していると表明した(The Washington Post. updated. 2022 Jun 30.)。この場合にも、従来ワクチンは医療経済的側面から2回目接種までの“Primary series”として使用されるはずであり、成人、未成年者に対する従来ワクチンの接種法を現時点において確立しておくことは重要課題の1つである。

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年を取って嬉しいこと【Dr. 中島の 新・徒然草】(433)

四百三十三の段 年を取って嬉しいこと映画を劇場で観ようとしたら、一般が1,900円のところ、60歳以上のシニアは1,200円です。普通、年を取って嬉しいことはありませんが、これは得した気分です。今回観たのは「トップガン マーヴェリック」!思い起こせば30数年前、映画を観た若者は皆がトム・クルーズになりきっていました。で、今回。冒頭から30数年前と同じシーン、同じ音楽。僅かにアレンジが違うのか、それとも音響設備の違いなのでしょうか。同じDanger Zoneでも、21世紀版という感じがしました。また、戦闘機の発着シーンも、さまざまなカメラアングルを駆使して臨場感を出しています。そしてストーリーは単純明快。敵のウラン濃縮施設を完成前に破壊するというもの。あちこちに30数年前のトニー・スコット監督による「トップガン」に対するオマージュともいうべき台詞やシーンがあります。シーンとしては、ミラマーの滑走路の横をトム・クルーズがバイクで走るシーン。86年版では画面の右から左でしたが、今回は左から右。これは「帰ってきた」ということを示しているのかもしれません。また出撃するトム・クルーズに対して“Make us proud.”と言うシーン。これは86年版で出撃するパイロットたちに“This is what you have been trained for. You are America's best. Make us proud.”と言った台詞に対するオマージュでしょう。実はこの台詞は、何かの時に使えると思って覚えていたのです。で、2011年の東日本大震災のときに使う機会がありました。「お前はこの日のために厳しい訓練を受けてきたんだ。今こそ、その成果を見せてくれ!」と災害派遣チームとして出発するレジデントに言おうとしました。しかし、実際に口から出てきた台詞は「気を付けてな」というだけのものでした。ちょっと情けないですね。ということで、ぜひ読者の皆様にも劇場で観ることをおすすめします。前作を観た人はオマージュを探しながら。今作が初めての人は、新鮮な衝撃を受けるために。そういえば、映画館には1人で来ていた年配の男性が多かったような気がします。皆それぞれに感情移入していたのでしょうか?最後に1句夏の空 トム・クルーズも 還暦だ

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調剤の外部委託に反対しているのは薬剤師会だけ?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第92回

前回のコラムで、日本薬剤師会から出された2022年版の政策提言を紹介しました。その提言の1つに調剤の外部委託に関する項目があり、日本薬剤師会は「その行為の一部をほかの薬局などに委受託することは薬物治療全体の責任が果たせないので、絶対に認められない」と明確な反対を表しています。調剤の外部委託については、今年の2月から7回にわたって「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」(以下WG)で議論され、7月にこの親検討会である「薬剤師の養成及び資質向上等に関する検討会」で結論が報告される予定です。現時点のWGの「とりまとめ(案)」では、「対物業務の効率化を図り、対人業務に注力できるよう調剤業務の一部外部委託を検討する」とあります。おそらく7月に報告される結論においてもそのように記載されるのだろうと思います。日本薬剤師会とはまったく逆の意見が出されることになりそうです。ここで、その外部委託について、現在の論点を整理したいと思います。まずは規制に関する問題です。現時点では調剤の外部委託は法律で認められておらず、1つの薬局の中で調剤、監査、服薬指導を行う必要があります。薬局の運用を変えることで外部委託ができるという状況ではなく、規制緩和などの対応が必要になります。調剤の何を委託するのか、そしてその委託先は誰なのかという点についても議論されています。WGにおいては、一包化に限るべきというとりまとめ案になっていますが、議論の中では高齢者施設の入所者をはじめとする在宅医療に関する調剤を含めるべきという意見も出ています。委託先の距離制限の議論もあり、当面の間は同一の3次医療圏内とすることを示しています。個人的には、これだけ物流が盛んになっている現代において距離制限って必要? と疑問に思います。そのほか、安全性の確保も当然論点の1つです。患者さんの医療安全が確保されるよう、手順書の整備や教育訓練の実施、情報連携体制の構築、記録の保存などが挙げられています。私は薬局以外の仕事で医薬品のOEM(委受託による製造)に関する業務の経験がありますが、その際は委託先がきちんと業務を行っているかについて、契約はもちろん、先方の手順書の確認や実地調査、書面調査などを定期的に行うことで委託業務の信頼性を確保していました。これらはかなりの手間と慣れの時間を要しますが、必要な基準ですので最重要課題として議論してほしいと思います。次の規制緩和は処方箋40枚ルール?この調剤の外部委託の議論には、必ず付いて回る問題があります。それが「処方箋40枚あたり1人以上の薬剤師配置基準」の見直しです。これは2022年の経団連からの要望にも明記されており、機械化や効率化、対人業務へのシフトにより薬局の業務が大きく変化するため、調剤の外部委託とともにこの40枚ルールを撤廃も含めて柔軟な基準に見直してはどうか、とあります。ただし、この2つを同時に議論するとややこしくなるため、とりあえず40枚ルールは横に置いておいて、外部委託の問題を優先しているのではないでしょうか。それぞれに感情論もあるので、別で議論するほうが賢明だと私も思います。調剤の外部委託の議論を追っていくと、もしかして完全に反対という姿勢を取っているのは日本薬剤師会だけなのでは? と思えてきました。既得権益を守るというのが職能団体の原則なのかもしれませんが、こんなにも世論が薬剤師を次のステージへ向かわせるために背中を押してくれているときに本当にそれでいいのか? という違和感を覚えずにはいられません。

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ASCO2022 レポート 乳がん

レポーター紹介2022年6月3日から7日まで5日間にわたり、2022 ASCO Annual Meetingが今年はハイブリッドで実施された。日本からの現地参加者はそれほど多くなかったようであるが(筆者調べでは、乳がん関係者は10人未満の参加)、プレナリーのトップバッターを務められた国立がん研究センター東病院の吉野先生をはじめ、オーラルやポスターで発表された方々の中には現地参加された方も多かったようである。私は昨年と同じくバーチャルでの参加となったが、やはり日常診療をしながら深夜に学会に参加するのは負担が大きく、また会場の特別な空気感の中でほかの研究者と直接意見交換する機会を持てないのは寂しいものである。来年は現地で参加できることを願ってやまない。さて、2022年のテーマは“Advancing Equitable Cancer Care Through Innovation”であった。乳がん領域では昨年に引き続きプレナリーで日常臨床を変える結果が発表され、ほかにも抗体医薬複合体(antibody drug conjugates:ADCs)の演題が多く、さまざまな概念が変わった年であったといえるであろう。乳がんの演題について、プレナリーセッションの1題、Metastaticから2題、Local/Adjuvantから1題を紹介する。HER2低発現の切除不能・転移乳がんに対するトラスツズマブ デルクステカンと主治医選択治療を比較した第III相臨床試験(DESTINY-Breast04試験, LBA2)まず1つ目に、これまで10年以上にわたって私たちがよりどころとしてきたサブタイプの概念を変えることとなったプレナリーの演題を紹介する。トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)は抗HER2抗体にトポイソメラーゼ阻害剤を結合したADCsであり、単群第II相試験であるDESTINY-Breast01試験の結果をもって日本を含めた各国で承認され、HER2陽性乳がんに対して使用されている薬剤である。DESTINY-Breast03試験では圧倒的な差でT-DM1よりも優れており、2次治療における標準治療と位置付けられている。本薬剤の第I相試験ではHER2低発現(HER2 IHC 1+もしくは2+かつISH陰性)に対しても有効性が認められたことから、本試験が計画された。HER2低発現は転移乳がん(MBC)の約50%を占める。DESTINY-Breast04試験は、HER2低発現の切除不能・転移乳がんに対して、2~3次治療としてT-DXdと主治医選択治療(treatment of physician’s choice:TPC、カペシタビン、エリブリン、ゲムシタビン、パクリタキセル、アルブミン結合パクリタキセルから選択)を、ホルモン受容体(hormone receptor:HR)陽性患者における無増悪生存期間(progression free survival:PFS)を主要評価項目として検証した第III相試験である。373例(うちHR陽性331例)がT-DXd群に、184例(うちHR陽性163例)がTPC群に割り付けられた。主要評価項目のHR陽性集団におけるPFSにおいて、10.1 vs.5.4ヵ月(HR:0.51、95%CI:0.40~0.64、p<0.0001)とT-DXd群において有意に良好であった。また、全患者においても9.9 vs.5.1ヵ月とHR陽性集団と同傾向であった。さらに副次評価項目の全生存期間(overall survival:OS)において、HR陽性集団では23.9 vs.17.5ヵ月(HR:0.64、95%CI:0.48~0.64、p=0.0028)と統計学的有意にT-DXd群で良好であり、全患者においても23.4 vs.16.8ヵ月とHR陽性集団と同様であった。探索的解析ではHR陰性(すなわち、これまでトリプルネガティブ乳がんと呼んでいたサブタイプ)においても、PFSで8.5 vs.2.9ヵ月、OSで18.2 vs.8.3ヵ月とHR陽性と同様にT-DXd群で良い傾向であった。サブグループ解析でも、あらゆるサブグループにおいてT-DXdの有効性が示された結果であった。腫瘍縮小においてもHR陽性で52.6 vs.16.3%、HR陰性で50.0 vs.16.7%であり、T-DXd群で高い奏効が得られた。一方、T-DXdは注意すべき有害事象の多い薬剤である。G3以上の有害事象はT-DXd群で53%、TPC群で67%であり、むしろT-DXd群で少ない傾向にあった。T-DXdでとくに注意すべき有害事象は12.1%であり、これまでの試験と大きな差は認めなかった。しかし、G5が0.8%で認められている。これはDESTINY-Breast03試験では認められなかった事象である。比較的治療歴の濃厚な症例が含まれていたことが一因かもしれないが、より詳細な検討が必要だと思われる。心毒性の頻度は低く許容範囲内であろう。本試験は、乳がんに「HER2低発現」という新たなサブタイプを築いた。今後われわれはこれまでのサブタイプの概念を捨てて、さまざまなバイオマーカーを複合的に判断しながら治療戦略を考えていく必要がある。HR陽性HER2陰性乳がんに対するsacituzumab govitecan(SG)と主TPCを比較した二重盲検無作為化第III相試験(TROPiCS-02試験, LBA1001)ADCsの試験をもうひとつ紹介する。SGはTROP-2という細胞表面タンパクを標的としたADCsであり、2020年のESMOでは、MBCに対する治療歴のあるトリプルネガティブ乳がん(triple negative breast cancer:TNBC)を対象として行われたASCENT試験で、PFS、OSのいずれも改善したことが示された薬剤である。国内ではまだ開発の途上であるが、米国などでは承認され標準治療の1つとなっている。こちらも、先行して行われた第I相試験でHR陽性HER2陰性集団に対しても有効性が期待されており、本試験が計画された。TROPiCS-02試験は、内分泌療法1レジメン、CDK4/6阻害剤1レジメン、タキサン含む化学療法2~4レジメンの治療歴があるHR陽性HER2陰性MBCを対象として行われた。SGとTPC(カペシタビン、エリブリン、ビノレルビン、ゲムシタビンから選択)に、それぞれ272例、271例が割り付けられた。いずれの群においても95%が内臓転移を有していた。主要評価項目のPFSにおいて5.5 vs.4.0ヵ月(HR:0.66、95%CI:0.53~0.83、p=0.0003)と、統計学的有意にSG群で良好であった。サブグループ解析では、いずれのサブグループにおいてもSG群で良好な結果であった。副次評価項目のOSについては中間解析が実施され有意差は認められなかったが、ややSG群で良好な傾向を認めた。奏効率についてはSG群で21%、TPC群で14%であった。G3以上の有害事象はSG群で74%、TPC群で60%であり、SGの特徴である血球減少や消化器毒性が報告された。DESTINY-Breast04試験と比べるとやや心もとない結果ではあるものの、TROPiCS-02試験のほうが治療歴はずっと濃厚であること、内臓転移のある症例がほとんどであること、全例がタキサン治療歴を有するなど、予後不良集団がエンリッチされていることが原因と考えられる。これら2試験の結果から、HR陽性HER2陰性乳がんにおいても複数のADCsが今後治療選択の中に入ってくることになるであろう。HER3を標的としたADCsであるpatritumab deruxtecanの第I/II相試験の結果(#1002)もうひとつ新しいバイオマーカーを対象とした試験を紹介しておきたい。patritumab deruxtecan(HER3-DXd)は、抗HER3抗体であるpatritumabにT-DXdと同じ殺細胞性薬剤であるデルクステカンを結合した新しいADCである。乳がんを対象として第I/II相試験が実施されていたが、その有効性の結果が発表された。なお、用量漸増パートでは最大耐用量に到達せず、最終的に6.4mg/kgが推奨用量となった。用量漸増パート、用量設定パートでは全サブタイプを対象として実施され、その後HR陽性HER2陰性またはTNBCかつHER3-highと、HR陽性HER2陰性かつHER3-lowを対象として拡大パートが実施された。全パートを統合して解析した奏効率は、HR陽性HER2陰性HER3-high and lowで30.1%(95%CI:21.8~39.4)、TNBC HER3-highで22.6%(95%CI:12.3~36.2)、HER2陽性HER3-highで42.9%(95%CI:17.7~71.1)と高い奏効を認めた。PFSはそれぞれ7.4ヵ月(4.7~8.4)、5.5ヵ月(3.9~8.4)、11.0ヵ月(4.4~16.4)であり、こちらも濃厚な治療歴のある症例を対象とした第I/II相試験としては十分良好な結果であった。毒性についてはG3以上が4.8mg/kgコホートで64.6%、6.4mg/kgコホートでは81.6%であった。とくに頻度が高い有害事象としては好中球減少、血小板減少、白血球減少、貧血などの血液毒性が多く、悪心、食欲低下、嘔吐、下痢などの消化器毒性や粘膜障害、倦怠感、脱毛などが見られていた。HER3という新たなバイオマーカーを対象としたADC出現によって、今後さらにサブタイプの概念が変わっていく可能性が高い。多くの治療選択肢からどのようにして最適な治療を選択していくか、より深い議論が必要となるであろう。乳房温存手術を受けたT1N0 Luminal A乳がんに対する放射線治療省略(LUMINA試験, LBA501)日本国内では乳房再建術が保険適用となってから乳房全切除術が増加しているものの、約半数には乳房温存手術(breast conserving surgery:BCS)が実施されている。温存乳房に対する放射線治療(radiation therapy:RT)は標準治療であり、RTによって局所再発を67%減らすことが可能である。一方、(寡分割照射の実施が増えているにせよ)毎日の照射は患者にとって負担であるし、皮膚の変化や放射線肺臓炎など、有害事象も少なくない。そこで、再発低リスクのLumina Aタイプの患者を対象として、術後RTの省略を試みた試験が本試験である。Luminal AタイプのBCS+RT後の5年局所再発率は2.8%と報告されている。LUMINA試験では低リスクのLuminal Aタイプの患者の定義として、55歳以上、T1N0、G1~2、ER≧1%、PgR>20%、HER2陰性かつKi67≦13.25%と定義した。前向き単群試験として、閾値5年局所再発率を5%未満と定義した。Ki67は中央判定で評価し、必要サンプル数は500と設定された。また試験参加者は少なくとも5年間のホルモン療法(アロマターゼ阻害剤またはタモキシフェン)を実施された。500例の患者が登録され、55~64歳が40%、65~74歳が48%、75歳以上が12%であった。主要評価項目の5年局所再発率は2.3%(95%CI:1.3~3.8)であった。局所再発は試験登録から2.5年たったところから徐々に増加していた。副次評価項目である対側乳がんの発症は1.9%(95%CI:1.1~3.2)、すべての再発は2.7%(95%CI:1.6~4.1)、5年無病生存は89.9%(95%CI:87.5~92.2%、半数が乳がん以外の2次がん)、5年OSは97.2%(95%CI:95.9~98.4%、乳がん死は1例のみ)と非常に良好な成績であった。この結果から55歳以上で増殖能が低く、また早期のLuminal Aタイプ乳がんではRT省略についても検討の余地が出てくると考えられる。

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第1回 新型コロナのイベルメクチン「もう使わないで」

いったん下火になっていた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ですが、国内の新規感染者数は6月下旬から増え始め、昨日7月6日は4万5千人を超え、現場は警戒心を持っています。―――とはいえ、BA.2以降、滅多に肺炎を起こすCOVID-19例に遭遇しません。おそらく次の波がやってきたとしても、大きな医療逼迫を招くことはないのでは、と期待しています。「イベルメクチンを処方しない医師は地獄へ落ちろ」さて、私はCOVID-19の診療でいくつかメディア記事を書いたことがあるのですが、当初からイベルメクチンに関してはやや批判的です。疥癬に対してはよい薬だと思っていますが、COVID-19に対しては少なくとも現在上市されている抗ウイルス薬には到底及びません。しかしSNSなどではいまだにイベルメクチン信奉が強く、そういった「派閥」から手紙が届くこともあります。中には、「COVID-19にイベルメクチンを処方しない倉原医師よ、地獄へ落ちろ」といった過激な文面を送ってくる開業医の先生もいました。確かに当初、in vitroでイベルメクチンの有効性が確認されたのは確かです。しかし、かなり初期の段階で、寄生虫で使用するイベルメクチン量の約100倍内服しないと抗ウイルス作用は発揮されないことがわかっており1,2)、副作用のデメリットの方が上回りそうだな…という印象を持っていました。その後の臨床試験の結果が重要だろうと思っていたので、出てくるデータを冷静に見る必要がありました。トップジャーナルでことごとく否定50歳以上で重症化リスクを有するCOVID-19患者への発症7日以内のイベルメクチンの投与を、プラセボと比較したランダム化比較試験があります(I-TECH試験)3)。これによると、重症化リスクのある発症1週間以内のCOVID-19患者に対するイベルメクチンの重症化予防への有効性は示されませんでした。また、1つ以上の重症化リスクを持つCOVID-19患者に対して、イベルメクチンとプラセボの入院率の低下をみたランダム化比較試験があります(TOGETHER試験)4)。この試験でも、入院・臨床的悪化のリスクを減少させませんでした(相対リスク0.90、95%ベイズ確信区間:0.70~1.16)。ITT集団、per protocolのいずれを見ても結果は同じでした。EBMの基本に立ち返って、使用を控えるべき万が一、イベルメクチンの投与量や投与するタイミングを工夫して、何かしら有効性が示せたとして、ではその効果は現在のほかの抗ウイルス薬(表)よりも有効と言えるのでしょうか。塩野義製薬が承認申請中のエンシトレルビルですら、現時点ではウイルス量を減少させる程度の効果しか観察されないということで、緊急承認は見送りとなっています。イベルメクチンについて、まず今後奇跡的なアウトカム達成など、起こらないでしょう。表. 軽症者向け抗ウイルス薬(筆者作成)何より、目の前にしっかりと効果が証明された抗ウイルス薬が複数あるのです。有効な薬剤を敢えて使わずにイベルメクチンを処方するというのは、EBMに背を向けているにすぎません。この行為、場合によっては法的に問われる可能性もあります。現時点では使用を差し控えるべき、と私は考えます。参考文献・参考サイト1)Chaccour C, et al. Ivermectin and COVID-19: Keeping Rigor in Times of Urgency. Am J Trop Med Hyg. 2020;102(6):1156-1157.2)Guzzo CA, et al. Safety, tolerability, and pharmacokinetics of escalating high doses of ivermectin in healthy adult subjects. J Clin Pharmacol. 2002;42(10):1122-1133.3)Lim SCL, et al. Efficacy of Ivermectin Treatment on Disease Progression Among Adults With Mild to Moderate COVID-19 and Comorbidities: The I-TECH Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med. 2022 Apr 1;182(4):426-435.4)Reis G, et al. Effect of Early Treatment with Ivermectin among Patients with Covid-19. N Engl J Med. 2022 May 5;386(18):1721-1731.

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ドパミン過感受性精神病患者に対する長時間作用型注射剤による長期治療の有効性

 ドパミン過感受性精神病(DSP)は、抗精神病薬によるドパミンD2受容体のアップレギュレーションに起因すると考えられ、統合失調症患者の不安定な精神症状と関連している。抗精神病薬の長時間作用型注射剤(LAI)は、ドパミン過感受性のコントロールに有用である可能性が示唆されているが、LAIによる長期治療がドパミン過感受性精神病の発生や悪化にどのような影響を及ぼすかは、よくわかっていない。千葉大学の小暮 正信氏らは、ドパミン過感受性精神病の有無によりLAIによる長期治療の効果に違いがみられるかを検討した。その結果、ドパミン過感受性精神病患者に対する少なくとも3年間のLAI治療の有効性が確認され、LAI治療がドパミン過感受性精神病を悪化させる可能性は低いことが示唆された。著者らは、その要因として、LAI導入による抗精神病薬の総投与量の大幅な減少が挙げられる可能性があるとしている。Journal of Clinical Psychopharmacology誌オンライン版2022年6月17日号の報告。ドパミン過感受性精神病群と非ドパミン過感受性精神病群でLAIの効果比較 対象は、3年以上のLAI治療が行われた統合失調症患者58例。LAI導入前3年間の医療記録からドパミン過感受性精神病の有無を確認し、ドパミン過感受性精神病群(30例)または非ドパミン過感受性精神病群(28例)に分類した。LAI導入後3年間の臨床経過を評価するため、LAI治療の効果を両群間で比較した。 ドパミン過感受性精神病の有無によりLAIによる長期治療の効果に違いがみられるかを検討した主な結果は以下のとおり。・ドパミン過感受性精神病群と非ドパミン過感受性精神病群ともに、抗精神病薬投与量(LAIと経口剤の併用)の有意な減少、臨床全般印象度の改善度(CGI-I)の測定による有意な改善が認められた。・各指標について両群間で差が認められなかったことから、ドパミン過感受性精神病の有無にかかわらずLAIの長期治療効果が類似していることが示唆された。・平均して、ドパミン過感受性精神病群は非ドパミン過感受性精神病群と比較し、LAI導入前は高用量の抗精神病薬で治療されていたが、LAI導入後にそれらは標準用量の範囲内まで減少した(LAI導入前:1,004.8mg、LAI導入後:662.0mg)。

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オミクロン株流行中の5~11歳へのワクチン接種、実際の有効性は?/NEJM

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン変異株流行中における、5~11歳へのmRNAワクチンBNT162b2(ファイザー製)の2回接種は、SARS-CoV-2感染および症候性新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対し中程度の保護効果を示したことが、イスラエル・Clalit Research InstituteのChandra J. Cohen-Stavi氏らによる検討で示された。これまでオミクロン変異株流行中の5~11歳への、BNT162b2ワクチンのリアルワールドでの有効性に関するエビデンスは限定的だった。NEJM誌オンライン版2022年6月29日号掲載の報告。13万6,127例を対象に、SARS-CoV-2感染・症候性COVID-19への有効性を検証 研究グループは、イスラエル最大の医療ケア組織のデータを基に、2021年11月23日以降にBNT162b2ワクチン接種を受けた5~11歳の小児を特定。ワクチン非接種の小児とマッチングし、オミクロン変異株流行中にBNT162b2ワクチン接種を受けた小児における、1回目および2回目接種後のSARS-CoV-2感染と症候性COVID-19に対する有効性を推定した。 両群の2022年1月7日までの累積アウトカム発生について、Kaplan-Meier推定法で推定し、ワクチン有効性を1-リスク比で算出した。また、年齢サブグループ別のワクチン有効性も推定した。 試験期間中にワクチンを受けた試験適格児は13万6,127例、マッチドワクチン非接種児は9万4,728例だった。有効性は5~6歳が10~11歳より高い傾向 記録されたSARS-CoV-2感染に対するBNT162b2ワクチンの推定有効率は、1回目接種後14~27日で17%(95%信頼区間[CI]:7~25)、2回目接種後7~21日で51%(39~61)だった。 2回目接種後7~21日に記録されたSARS-CoV-2感染に関する両群の絶対リスク差は、1,905件(95%CI:1,294~2,440)/10万人、症候性COVID-19については同599件(296~897)/10万人だった。 症候性COVID-19に対するBNT162b2のワクチン有効率は、1回目接種後14~27日で18%(95%CI:-2~34)、2回目接種後7~21日で48%(29~63)だった。 年齢サブグループ別にみた傾向として、10~11歳と高年齢グループに比べ、5~6歳と低年齢グループのほうが、ワクチン有効性が高かった。2回目接種後7~21日に記録されたSARS-CoV-2感染への有効率は38%(95%CI:18~53)vs.68%(43~84)、同じく症候性COVID-19への有効率は36%(0~61)vs.69%(30~91)だった。

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DPP-4阻害薬で胆嚢炎リスク増、とくに注意が必要な患者は/BMJ

 2型糖尿病患者において、DPP-4阻害薬は胆嚢炎リスクを増大することが、中国・北京連合医科大学病院のLiyun He氏らによるシステマティック・レビューとメタ解析の結果、示された。無作為化試験の被験者で、とくに医師の注意がより必要となる治療期間が長期の患者でその傾向が認められたという。先行研究で、GLP-1は胆嚢の運動性の障害に関与していることが示唆されており、主要なGLP-1受容体作動薬であるリラグルチドが、胆嚢または胆道疾患リスクとの増大と関連していることが報告されていた。また、GIPも胆嚢の運動性に影響を及ぼすことが報告されていた。BMJ誌2022年6月28日掲載の報告。エビデンスの質はGRADEフレームワークで評価 研究グループは、DPP-4阻害薬と胆嚢または胆道疾患の関連を調べるため、PubMed、EMBASE、Web of Science、CENTRALをデータソースとして、各媒体創刊から2021年7月31日までに発表されたDPP4阻害薬に関する無作為化対照試験について、システマティック・レビューとネットワーク・メタ解析を行った。適格とした試験は、2型糖尿病の成人患者を対象に、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬およびSGLT2阻害薬と、プラセボまたはその他の糖尿病治療薬について比較した無作為化対照試験だった。 主要アウトカムは、胆嚢疾患または胆道疾患、胆嚢炎、胆石症、胆道疾患の複合とした。2人のレビュアーがそれぞれデータを抽出し、試験の質を評価。各アウトカムのエビデンスの質を、GRADEフレームワークを用いて評価した。メタ解析は、プールオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を用いた。胆嚢/胆道疾患、胆嚢炎リスク増加、長期服用で関連増大 82件の無作為化対照試験、被験者総数10万4,833例を対象にペアワイズ・メタ解析を行った。 プラセボまたは非インクレチン製剤に比べ、DPP-4阻害薬は、胆嚢/胆道疾患の発症リスク増大(OR:1.22[95%CI:1.04~1.43]、群間リスク差:11[95%CI:2~21]/1万人年)および胆嚢炎リスク増大(1.43[1.14~1.79]、15[5~27]/1万人年)と有意に関連していた。 一方、胆石症の発症リスク(OR:1.08[95%CI:0.83~1.39])、胆道疾患の発症リスク(1.00[0.68~1.47])との関連は認められなかった。 DPP-4阻害薬と胆嚢/胆道疾患および胆嚢炎発症リスクの関連は、服用期間が長い患者で観察される傾向が認められた。 また、184試験を対象にネットワーク・メタ解析を行ったところ、DPP-4阻害薬はSGLT2阻害薬に比べ、胆嚢/胆道疾患リスクおよび胆嚢炎リスクをいずれも増大させたが、GLP-1受容体作動薬との比較では、同増大は認められなかった。

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TN乳がん1次治療でのペムブロリズマブ+化学療法、日本人でのOSとPFS(KEYNOTE-355)/日本乳学会

 手術不能の局所再発/転移を有するPD-L1陽性(CPS≧10)のトリプルネガティブ(TN)乳がんの1次治療で、ペムブロリズマブ+化学療法をプラセボ+化学療法と比較した国際共同第III相KEYNOTE-355試験において、無増悪生存(PFS)および全生存(OS)を有意に改善したことはすでに報告されている。また、本試験の日本人患者のサブグループ解析は、2019年12月11日のデータカットオフ時点の中間解析でPFSが全体集団と大きな乖離がなかったことが2020年の日本乳学会で発表されている。今回、2021年6月15日のデータカットオフ時点における日本人患者での有効性と安全性の結果について、聖マリアンナ医科大学の津川 浩一郎氏が第30回日本乳学会学術総会で発表した。TN乳がんの日本人患者におけるペムブロリズマブ+化学療法の有効性・対象:未治療の手術不能な局所再発/転移を有するTN乳がん患者(18歳以上、PS 0/1)847例(日本人87例)・試験群:ペムブロリズマブ+化学療法(ナブパクリタキセル、パクリタキセル、ゲムシタビン/カルボプラチンのいずれか)566例(日本人61例、うち2例が治療中)・対照群:プラセボ+化学療法 281例(日本人26例)・評価項目:[主要評価項目]PD-L1陽性患者(CPS≧10およびCPS≧1)とITT集団におけるPFSとOS[副次評価項目]奏効率、奏効期間、病勢コントロール率、安全性 TN乳がんの1次治療でペムブロリズマブ+化学療法をプラセボ+化学療法と比較したKEYNOTE-355試験における日本人患者での有効性と安全性の主な結果は以下のとおり。・ベースライン時の特性について、TN乳がん患者の日本人集団では全体集団に比べてPS 0が多かった。また、併用する化学療法はゲムシタビン/カルボプラチンが多く、周術期(術前・術後)化学療法とは異なる患者が多かった。・OSについては、ハザード比(HR)がCPS≧10のTN乳がん患者群で0.36(95%CI:0.14~0.89)と全体集団と同様に改善を示した。CPS≧1の患者群では、全体集団では有意な改善が示されなかったが、日本人集団では0.52(同:0.30~0.91)と改善を認め、ITT解析でも0.46(同:0.28~0.77)と改善が認められた(注:国内での保険適用はCPS≧10の患者)。・PFSのHRは、CPS≧10のTN乳がん患者群で0.52(同:0.20~1.34)、CPS≧1の患者群で0.61(同:0.35~1.06)、ITT集団で0.64(同:0.39~1.05)だった。・Grade3~4の治療関連有害事象(AE)は、日本人集団でペムブロリズマブ群85.2%、プラセボ群84.6%に発現し、全体集団よりやや多かったが、いずれも管理可能だった。ペムブロリズマブ群のほうが多かったAEは、味覚異常、食欲低下、口内炎、皮膚炎などであった。 これらの結果から、津川氏は「手術不能の局所再発/転移を有するPD-L1陽性のTN乳がんの日本人患者におけるペムブロリズマブ+化学療法が支持される」と結論した。

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無症候性内頚動脈狭窄症に対する内科治療の高い発症抑制効果が確認された(解説:高梨成彦氏)

 本研究では内科治療を適用されたNASCET 70~99%の無症候性高度頸動脈狭窄症患者において、同側脳卒中の発症率が5年間で4.7%と、過去の報告よりも低く抑えられたことが報告された。 観察期間中のスタチンと降圧薬のアドヒアランスはそれぞれ70.7%、88.5%と高い水準に保たれており、血中LDLコレステロール濃度と血圧は正常範囲内に管理されていた。近年の進歩した内科治療によって脳卒中の発症率が低く抑えられたと考えられる。 この結果を踏まえると、無症候性頸動脈狭窄症については発見時の狭窄度だけを根拠に血行再建術を適用することはできないだろう。本研究ではNASCET 90%以上の狭窄をhigh-grade stenosisと分類して狭窄度の進行を観察している。そして同側脳卒中を発症した患者のうち24.1%が観察中にhigh-grade stenosisに進行した患者で、12.8%は閉塞を来した患者であった。 無症候性高度頸動脈狭窄症患者の中でも狭窄が進行した患者については脳卒中発症リスクが高く、血行再建術の適応がある可能性が示唆される。 他の研究では、超音波検査で低輝度を呈するプラークを認めた患者では同側脳卒中発症の相対危険度が2.31と高かったという報告(Gupta A, et al. Stroke. 2015;46:91-97.)や、経頭蓋ドップラーでembolic signalを認めた患者では同側脳卒中発症の相対危険度が6.37と高かったという報告(Markus HS, et al. Lancet Neurol. 2010;9:663-671.)がある。 無症候性頸動脈狭窄症患者に対しては基本的に内科治療を適用し、前述のような狭窄度以外の因子を考慮して脳卒中発症の危険性が高いことが予想される患者を選択し、血行再建術の適応を判断する必要があるだろう。

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活性型ビタミンD3は耐糖能異常患者の2型糖尿病発症を予防しない(解説:住谷哲氏)

 後ろ向きの観察研究で有効性が示唆されたが、前向きのランダム化比較試験で有効性が否定されることは少なくない。ビタミンD3物語もその1つだろう。がん、心血管病、認知症などの発症を予防できるのではないかと期待されたが、残念ながら現時点でビタミンD3がこれらの疾患の発症を予防するエビデンスは存在しない。今回、新たにその物語に追加されたのが2型糖尿病発症予防効果である。 わが国で多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験を実施することはかなりの困難があると思われる。2型糖尿病発症予防における活性型ビタミンD3エルデカルシトールの有効性を検証した本試験は、結果は否定的であったが、その点で貴重な報告と思われる。 ビタミンD3の2型糖尿病発症予防効果を検証した試験としては、既にD2d試験の結果が報告されている1)。天然型ビタミンD3を用いたこの試験においても、ビタミンD3の2型糖尿病発症予防効果は認められなかった。この研究におけるサブグループ解析では、ビタミンD3欠乏症のグループ(血清ビタミンD3<12ng/mL)では、2型糖尿病発症のハザード比[HR]は0.38(95%信頼区間[CI]:0.18~0.80)であり有効である可能性が示唆されていた。したがって次のステップとしては、ビタミンD3欠乏症を有する耐糖能異常患者を対象としたRCTを実施したほうがよかったかもしれない。しかし本試験とD2d試験はほぼ同時進行で実施されており、本試験で患者の組み込み基準に血清ビタミンD3が入っていないのは無理からぬことと思われる。しかし本試験で、多変量分数多項式Cox回帰分析を用いた事後解析で有効性が示唆されたのは、組み込み時の血清ビタミンD3低値ではなく、基礎インスリン分泌量低値であった。したがってこの結果が正しいとすると、インスリン分泌能の低下した耐糖能異常患者においてはビタミンD3が2型糖尿病発症予防効果を有する可能性もある。しかし、これもそのような患者を対象としたRCTの結果が出るまでは仮説にとどままるだろう。 本試験においてもエルデカルシトールの投与により腰椎と大腿骨頸部の骨密度および血清オステオカルシン濃度が有意に上昇した。現時点ではビタミンD3には骨密度増加作用のみを期待するのが妥当と思われる。

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第116回 地域医療のパイオニアが院長だったクリニックでモルヒネ過剰投与、経緯や原因明らかにせず

DX以前の日本の光景に口があんぐりこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。暑いですね。節電要請に加え、KDDIの通信障害もあって、この土日は各方面、いろいろな意味でバタバタしていたようです。猛暑で熱中症患者が急増する中、コロナ患者も再び漸増傾向です。通信障害によってauの携帯電話が使用できないことで、救急医療や在宅医療などの現場にも少なからぬ影響が出たようです。自治体の中には消防車が「緊急時は自宅の固定電話や公衆電話、au以外の携帯電話から通報してください」と拡声器で呼びかけて回っていたところもありました。電力不足といい、電話がつながらない状態といい、DX以前の日本の光景に口があんぐりと開いてしまった週末でした。さて、今回は東京・国分寺市で起きたモルヒネ過剰投与事件を取り上げます。昔からよくある古典的な医療過誤ですが、古典的だけにいろいろ考えさせられることが多い事件です。40代女性医師と60代女性薬剤師を業務上過失致死疑いで書類送検必要量の100倍のモルヒネを高齢患者に処方して死亡させたなどとして、警視庁が東京都国分寺市の医療法人実幸会・武蔵国分寺公園クリニックの40代女性医師と、近隣の調剤薬局の60代女性薬剤師の2人を業務上過失致死の疑いで東京地検立川支部に書類送検していたことわかり、6月29日、各紙が一斉に報じました。送検は23日付で、2人は容疑を認めているとのことです。各紙報道等によると、昨年2月1日、都内の男性(93)が息苦しさを訴えてクリニックを受診。処方されたモルヒネ含有の内服薬を服用したところ、1週間後の2月8日にモルヒネ中毒で死亡したとのことです。警視庁の調べで、医師が電子カルテの入力を誤って必要量の100倍のモルヒネを処方した疑いが判明。一方、処方箋を受け取った薬剤師は処方内容をよく確認せずに薬を調剤した疑いがあるとのことです。医薬分業のセーフティーネット機能せず報道を読む限り、よくある処方箋に関する医療過誤です。ただ、医薬分業においては、重大な医療事故に至る前に、セーフティーネットが何重にも張り巡らされているはずです。今回はそれらがまったく機能していなかったようで、その意味でもとても深刻な事件と言えるでしょう。処方箋の記入ミスや電子カルテの入力間違いは誰にでも起こり得ます。仮に電子カルテに100倍のモルヒネという異常値が入力された場合、アラートが出るようなシステムではなかったのでしょうか?一方、処方箋を受け取った薬局の薬剤師は処方箋の監査を行っていなかったのでしょうか。医薬分業が進められてきた最大の理由は、薬局の薬剤師による処方監査や疑義照会によって、薬物投与に関する医療過誤を防ぐためであったはずです。今どき「100倍量のモルヒネ」に気づかない薬剤師が普通に地域で働いていること自体が驚きです。この事件が報道される直前の6月26日、日本薬剤師会は役員改選を行い、山本 信夫会長の5選が決まっています。日本医師会会長が1期で代わったことを考えると相当な長期政権と言えます。山本会長は5期目の課題として「国民に薬局・薬剤師の存在を見えるようにすること」語ったそうですが、昔から同じようなことを言ってきている印象です。そんな抽象的なことよりも、最低限、処方監査や疑義照会がきちんとできる薬剤師を地域にきちんと配してほしいものです。ちなみに、日本医療機能評価機構が今年4月13日に公表した、薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業の「共有すべき事例」1)でも、処方医が小児患者に10倍量のリスパダールを過量投与する処方箋を出し、薬局薬剤師が気づかなかった事例が紹介されています。今回のモルヒネ過剰投与の件も含め、薬剤師の処方監査忘れは、全国各地で起こっているであろうことが、こうした事例からも伺い知ることができます。僻地医療、地域医療で著名な前院長モルヒネ過剰投与事件に関して、もう1点驚いたことがあります。事件を起こした武蔵国分寺公園クリニックが、僻地医療、地域医療で有名な名郷 直樹氏が院長を務めていたクリニックだということです。名郷氏は、自治医大卒。作手村国保診療所所長、自治医大地域医療学助手、社団法人地域医療振興協会・地域医療研究所地域医療研修センター長などを経て、2011年に武蔵国分寺公園クリニックの院長となり、昨年末まで院長を務めていました。この間、地域医療、家庭医療、EBMのパイオニアとして多くの大学医学部、大学薬学部で非常勤講師などを務め、後進の指導にあたってきました。著書も多数あります。武蔵国分寺公園クリニック自体も、日本プライマリ・ケア連合学会認定のプログラムに従って、家庭医療専門医(家庭医)を目指す医師を対象とする研修プログラムを運営。また、東京都立多摩総合医療センターの協力型臨床研修施設として、初期臨床研修医の受け入れも行っています。事故の原因や詳細は不明なままそんな地域医療のお手本と言えるようなクリニックですが、この事件に関してはマスコミの取材に一切応えていません。ホームページには6月29日付で「報道の件について」として、「本件はご遺族とはすでに示談が成立しています。事故の詳細については 一般社団法人日本医療安全調査機構に詳細な報告書を提出しています。また、警察には当院より届出を行い、できる限りの情報を開示し、捜査に協力してきました。当院としては医師・薬剤師個人に責任があるとは考えておらず、すべての責任は当院自体にあると考えています。(中略)。事故後には医療安全管理委員会を定期開催し、事故の再発防止に努めており、今後二度とこのような事故を起こすことのないよう努めてまいります」という文章が掲載されたのみです。7月2日にも追加で「報道に関するお知らせ」が掲載されましたが、「二度とこのような事故を起こすことのないよう、今後も対策徹底に努めてまいります。(中略)。今回の報道にある調剤薬局は、国分寺市内を含む近隣の調剤薬局ではない事をお知らせ致します」と事故の詳細には触れていません。事故の経緯や原因といったエビデンスを明らかにすべきでは名郷氏は現在、管理者(院長)ではなく名誉院長ですが、昨年、院長時代に勤務していた医師が起こした医療過誤です。「示談は成立している」「日本医療安全調査機構に報告書を提出した」「警察には情報を開示し、捜査に協力している」だけではなく、なぜ事故が起こったのか、薬局との連携はどうなっていたのか、その後、同様の事故が起きないようにどんな対策を取っているのかを、概要だけでも世間に報告すべきではないでしょうか。地域住民も本当にこのクリニックにかかり続けてよいのか、判断に困ると思います。こうした医療事故が起こると、日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)に報告済みであることをもって、十分な対応をしていると考える医療機関(とくに民間医療機関)は多いですが、税金(診療報酬)が投入された地域の社会インフラであることを考えると、医療事故がなぜ起きたか、防止対策をどうとっているかについて、住民への情報開示は不可欠だと思います。日本の地域医療、家庭医療を牽引し、EBMの定着にも尽力してきた人だけに、院長時代に自院で起こした事故の経緯や原因といった“エビデンス”を明らかにしないのはとても残念に感じます。参考1)薬局ヒヤリ・ハット事例収集・分析事業「共有すべき事例」/日本医療機能評価機構

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