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医師数公表、人口当たり医師数が最も多い県・少ない県/厚労省

 厚生労働省は、2025年12月23日に令和6(2024)年12月31日現在における医師数を公表した。報告によると全国の届出「医師数」は34万7,772人で、「男性」は26万2,801人(75.6%)、「女性」は8万4,971人(24.4%)だった。令和4(2022)年と比べると4,497人(1.3%)増加していた。また、人口10万人当たりの医師数は280.9で、前回に比べ6.2増加していた。 年齢階級別では「30~39歳」が6万7,729人(20.5%)と最も多く、次いで「50~59歳」が6万5,939人(19.9%)、「40~49歳」が6万5,264人(19.7%)の順で多かった。 また、男女の構成割合を年齢階級別にみると、すべての年齢階級で「男性」の占める割合が多くなっていたが、「女性」の割合は、年齢階級が低くなるほど高く、「29歳以下」では36.8%だった。全体の95%の医師が医療施設で従事 施設・業務の種別では、「医療施設の従事者」は33万1,092人(総数95.2%)で、前回に比べ3,648人(1.1%)増加していた。「介護老人保健施設の従事者」は3,337人(同1.0%)で、前回に比べ39人(1.2%)増加し、「医療施設・介護老人保健施設・介護医療院以外の従事者」は9,403人(同2.7%)で222人(2.4%)増加していた。 施設の種別では、「病院(医育機関附属の病院を除く)」が16万1,113人と最も多く、「診療所」が11万1,699人、「医育機関附属の病院」が5万8,280人となっており、昭和61(1986)年以降「病院(医育機関附属の病院を除く)」が最も多い結果となった。また、施設の種別に年齢階級をみると、「病院(医育機関附属の病院を除く)」「医育機関附属の病院」では「30~39歳」、「診療所」では「60~69歳」が最も多かった。平均年齢は「病院(医育機関附属の病院を除く)」が47.9歳、「医育機関附属の病院」が39.7歳、「診療所」が60.1歳だった。診療科別平均年齢では「美容外科」が41.2歳と低い 従事する主たる診療科別では、「内科」が6万2,161人(18.8%)と最も多く、「整形外科」が2万2,630人(6.8%)、「小児科」が1万8,009人(5.4%)の順で多かった(臨床研修医1万8,257人を除く)。少数診療科では「気管食道外科」が94人(0.0%)、「アレルギー科」が170人(0.1%)、「肛門外科」が431人(0.1%)の順で少なかった。 主たる診療科別で平均年齢をみると、「肛門外科」が60.5歳と最も高く、「臨床研修医」を除くと「美容外科」が41.2歳と低くなっていた。 主たる診療科を施設種別にみると、病院では「内科」が2万1,865人(10.0%)と最も多く、「整形外科」が1万4,659人(6.7%)、「精神科」が1万2,364人(5.6%)の順で多かった。また、診療所では「内科」が4万296人(36.1%)と最も多く、「眼科」が8,597人(7.7%)、「整形外科」が7,971人(7.1%)の順で多かった。埼玉県の医師不足、専門医不足が顕著に 医療施設に従事する都道府県別にみた人口10万人当たりの医師数は、徳島県が345.4と最も多く、長崎県が333.8、京都府が333.2の順で多かった。その一方で、埼玉県が189.1と最も少なく、茨城県が198.1、千葉県が213.3の順で少なかった。 また、近年医師数の減少などで問題となっている「小児科」「産婦人科」「外科(心臓血管外科、呼吸器外科など)」について都道府県別にみた人口10万人当たりの医師数は次のとおりだった。・主たる診療科が「小児科」の医師数は、鳥取県が187.3と最も多く、千葉県が101.5と最も少なかった。また、専門性資格の「小児科専門医」は、鳥取県が146.0と最も多く、山口県が58.0と最も少なかった。・主たる診療科が「産婦人科・産科」の医師数は、福井県が66.4と最も多く、埼玉県が35.1と最も少なかった。また、専門性資格の「産婦人科専門医」は、島根県が60.0と最も多く、埼玉県が29.0と最も少なかった。・主たる診療科が「外科」の医師数は、長崎県32.3と最も多く、埼玉県が14.6と最も少なかった。また、専門性資格の「外科専門医」は、鳥取県が21.7と最も多く、埼玉県が12.3と最も少なかった。

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ヘルペス陽性早期アルツハイマー病、バラシクロビルは有効か?/JAMA

 神経科学的、疫学的、および電子的健康記録を用いた研究において、単純ヘルペスウイルス(HSV)がアルツハイマー病(AD)の病態形成に関与する可能性が示唆されている。米国・New York State Psychiatric InstituteのD. P. Devanand氏らは、早期AD症状を有するHSV(HSV-1またはHSV-2)陽性の患者を対象に、HSVに有効な抗ウイルス薬であるバラシクロビルの臨床的ベネフィットを検討するプラセボ対照無作為化試験「VALAD試験」を実施。主要アウトカムの認知機能の悪化に関して、バラシクロビルの有効性は示されなかったことを報告した。著者は、「早期AD症状を有するHSV陽性患者に対する治療に、バラシクロビルは推奨されないことが示唆された」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年12月17日号掲載の報告。対プラセボで78週の認知機能の変化を評価 VALAD試験は、臨床的にADが疑われると診断またはADバイオマーカーが陽性で軽度認知障害(MCI)と診断され、HSV-1またはHSV-2の血清抗体検査(IgGまたはIgM)が陽性、ミニメンタルステート検査(MMSE)スコアが18~28の成人を対象とした。 試験は、米国の記憶障害に関する外来専門クリニック3施設で実施された。被験者募集は2018年1月~2022年5月に行われ、適格被験者はバラシクロビル4g/日投与群または適合プラセボ群に無作為に割り付けられ追跡評価を受けた。最終フォローアップは2024年9月であった。 主要アウトカムは、11項目のAlzheimer's Disease Assessment Scale Cognitive(ADAS-Cognitive)サブスケールスコア(範囲:0~70、高スコアほど障害が重いことを示す)について、78週時点における最小二乗平均(LSM)変化量であった。 副次アウトカムは、(1)Alzheimer's Disease Cooperative Study-Activities of Daily Living(ADCS-ADL)スケールスコアのLSM変化量、(2)6つの脳領域(内側眼窩前頭皮質、前帯状皮質、頭頂葉、後帯状皮質、側頭葉、楔前部)に関する、18F-florbetapirを用いたアミロイドPETの標準化集積比(SUVR、高スコアほどアミロイドが高レベルであることを示す)のLSM変化量、(3)4つの脳領域(扁桃体、海馬、嗅内野、海馬傍回)に関する、18F-MK-6240を用いたタウPETの側頭葉内側部SUVR(高スコアほどタウが高レベルであることを示す)のLSM変化量であった。 有害事象の発現頻度を安全性アウトカムとした。バラシクロビル群のほうが認知機能の悪化が大きい 120例が無作為化され(バラシクロビル群60例、プラセボ群60例)、うち93例(77.5%、バラシクロビル群45例、プラセボ群48例)が試験を完遂した。被験者120例は、平均年齢71.4歳(SD 8.6)、女性が55%、ADと診断された者が75%、MCIと診断された者が25%であった。人種別では白人が両群とも76.7%を占めている。 78週時点で、11項目のADAS-CognitiveサブスケールスコアのLSM変化量(主要アウトカム)は、バラシクロビル群10.86(95%信頼区間[CI]:8.80~12.91)vs.プラセボ群6.92(4.88~8.97)であり、バラシクロビル群がプラセボ群よりも認知機能の悪化が大きいことが示唆された(群間差:3.93、95%CI:1.03~6.83、p=0.01)。 副次アウトカムは、いずれも78週時点で、(1)ADCS-ADLスケールスコアのLSM変化量はバラシクロビル群-13.78(95%CI:-17.00~-10.56)vs.プラセボ群-10.16(-13.37~-6.96)であり(群間差:-3.62、95%CI:-8.16~0.93)、(2)18F-florbetapirアミロイドPET SUVRのLSM変化量は0.03(-0.04~0.10)vs.0.01(-0.06~0.08)であり(群間差:0.02、-0.08~0.12)、(3)18F-MK-6240タウPET側頭葉内側部SUVRのLSM変化量は0.07(-0.06~0.19)vs.-0.04(-0.15~0.07)であった(群間差:0.11、-0.06~0.28)。 最もよくみられた有害事象は、クレアチニン値上昇(バラシクロビル群5例[8.3%]vs.プラセボ群2例[3.3%])、COVID-19感染(3例[5.0%]vs.2例[3.3%])であった。

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単純性淋菌感染症、単回投与の新規抗菌薬zoliflodacinが有効/Lancet

 単純性淋菌感染症の治療において、zoliflodacinはセフトリアキソン+アジスロマイシンの併用療法に対して非劣性であり、安全性プロファイルは同等であることが、スイス・Global Antibiotic Research & Development PartnershipのAlison Luckey氏らZoliflodacin Phase 3 Study Groupが行った海外第III相無作為化非盲検非劣性試験の結果で示された。淋菌(N. gonorrhoeae)は複数の第1選択薬および第2選択薬に対して耐性を獲得しており、新たな治療薬の開発が世界的な公衆衛生上の最優先事項となっている。zoliflodacinは、新規作用機序で細菌のDNA複製を阻害するファーストインクラスの経口スピロピリミジントリオン系抗菌薬で、新たな標的(GyrB)を有し、多剤耐性菌株を含む淋菌に対して強力なin vitro活性を有することが示されていた。著者は、「本検討で示されたデータは、zoliflodacinが単純性淋菌感染症に有効な経口治療選択肢の1つとなりうる可能性を示唆するものである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年12月11日号掲載の報告。zoliflodacin単回投与vs.セフトリアキソン+アジスロマイシン併用投与 本検討の被験者の適格要件は、臨床的に泌尿生殖器系の単純性淋菌感染症が疑われる12歳以上とされ、試験は、ベルギー、オランダ、南アフリカ共和国、タイ、米国の17の外来クリニックで実施された。試験参加国は、疾患有病率が高い国が選定され、参加施設は、HIVまたは性感染症とその治療に精通した研究経験のある主任研究者によって選定された。Feasibility調査票と試験前訪問調査で、性感染症症例管理ガイドライン、臨床サービス、リソース(施設、スタッフ、試験チームの構成案、試験参加施設で提供される標準的な性感染症サービス、検査能力の評価、試験経験、臨床試験の倫理レビューなど)の評価が行われた。 適格被験者は、zoliflodacin 3g(経口)単回投与群(zoliflodacin群)またはセフトリアキソン500mg(筋注)+アジスロマイシン1g(経口)の併用投与群(対照群)に2対1の割合で無作為に割り付けられた。治療の割り付けは被験者と試験担当医師には知らされたが、細菌検査室のスタッフおよび試験スポンサーの中央試験チームは、データベースがロックされるまで盲検化された。 主要エンドポイントは、細菌学的ITT集団における治癒判定(Test Of Culture[TOC]、6±2日目)時に細菌学的治癒(尿道または子宮頸管検体の培養検査で淋菌陰性または検出不能)を達成した患者の割合であった。有効性の主要解析で、治療群間差(対照群-zoliflodacin群)の両側95%信頼区間(CI)の上限が非劣性マージンの12%を下回った場合、非劣性と判定された。推定治療群間差は5.3%、zoliflodacin単回投与の非劣性を確認 2019年11月6日~2023年3月16日に1,011例がスクリーニングされ、スクリーニング基準を満たさなかった81例を除く930例が無作為化された(zoliflodacin群621例、対照群309例)。被験者の平均年齢は29.7歳(SD 9.4)、815/930例(88%)が出生時男性に、115/930例(12%)が出生時女性に分類された。514/930例(55%)が黒人またはアフリカ系米国人、285/930例(31%)がアジア人、113/930例(12%)が白人であった。 泌尿生殖器系の細菌学的ITT集団におけるTOCに基づく細菌学的治癒率(主要有効性エンドポイント)は、zoliflodacin群90.9%(460/506例、95%CI:88.1~93.3)、対照群96.2%(229/238例、92.9~98.3)であり、推定治療群間差は5.3%(95%CI:1.4~8.6)で、事前に規定した非劣性マージンの要件を満たした。 zoliflodacin群の忍容性は概して良好で、有害事象は治療群間で類似していた。治療中に発現した主な有害事象は、zoliflodacin群では頭痛(61/619例[10%])、好中球減少症(42/619例[7%])、白血球減少症(24/619例[4%])で、対照群では注射部位疼痛(38/308例[12%])、好中球減少症(24/308例[8%])、下痢(22/308例[7%])であった。有害事象の大半の重症度は軽度または中等度であった。重篤な有害事象は報告されなかった。

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新生児に対するビタミンK投与を拒否する親が増加傾向

 米国では、1961年に全ての新生児に対するビタミンKの筋肉内投与が開始されて以来、ビタミンK欠乏性出血症がほぼ解消された。ビタミンKは、血液凝固を助ける目的で投与される薬剤であり、ワクチンではない。しかし新たな研究で、近年、新生児へのビタミンK注射を拒否する親が増えていることが明らかにされた。研究グループは、注射の拒否により新生児が深刻な出血リスクにさらされる可能性があると警告している。米フィラデルフィア小児病院の新生児専門医であるKristan Scott氏らによるこの研究結果は、「The Journal of the American Medical Association(JAMA)」に12月8日掲載された。 この研究でScott氏らは、2017年から2024年の間に米国50州にある403カ所の病院で、妊娠35〜43週で生まれた509万6,633人の新生児の医療記録を調べた。その結果、全体の3.92%に当たる19万9,571人がビタミンKの注射を受けていないことが明らかになった。注射を受けていない新生児の割合は、2017年の2.92%から2024年の5.18%へと有意に増加しており、特に新型コロナウイルス感染症パンデミック以降に急増していた。この結果についてScott氏は、「増加自体は驚くことではないが、増加の大きさには驚いた」とNBCニュースに語っている。 新生児のビタミンK体内濃度は非常に低い。米疾病対策センター(CDC)によると、ビタミンKの投与を受けない場合、危険な出血を起こす可能性が80倍以上高くなるという。出血は、生後6カ月までの間にあざや内出血などの形で現れる可能性があり、最も重篤な場合には障害や死亡につながる脳出血が生じることもある。 このことを踏まえてScott氏は、「われわれは、出血リスクのある新生児の集団を作り出しているに等しい。本当に心配なのは脳出血、つまり脳卒中だ。脳出血が起こると、最終的には死に至る可能性がある」と話している。 専門家らは、オンライン上の誤情報やビタミンK注射とワクチンの混同が、こうした傾向の根底にあるのではないかと疑っている。この研究には関与していない米テキサス小児病院の新生児科医であるTiffany McKee-Garrett氏は、「親は、ビタミンK注射をワクチン接種と同等に捉えている」とNBCニュースに語っている。 一部の国では、新生児に経口ビタミンKを投与している。しかし医師らは、経口ビタミンKは信頼性が低く、場合によっては複数回投与する必要があるのに対し、ビタミンKの注射は1回の投与で効果があるとしている。 米NYC Health + Hospitalsの新生児科医であるIvan Hand氏は、「ビタミンK欠乏性出血症は予防可能であり、そもそも発生していること自体が問題だ」と話す。医師らは、現状のようなビタミンK投与が拒否される状態が続けば、出血イベントの発生数が増加する可能性が高いとの見方を示している。Hand氏は、「ビタミンK投与は極めて効果的であるが、人々はそのことを十分に理解していない。重度の出血を起こした乳児を見たことがないため、そのようなことは起こらないと思っているのだ。しかし、それが見られないのは、われわれがそうした乳児の治療をしているからだ」と話している。

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PD-L1陰性転移トリプルネガティブ乳がん1次治療におけるサシツズマブ ゴビテカン(解説:下村昭彦氏)

オリジナルニュース免疫療法の対象とならない進行TN乳がんの1次治療、SGがPFS延長(ASCENT-03)/ESMO2025 PD-L1陰性転移トリプルネガティブ乳がん(TNBC)の初回治療としては、長らくタキサンを中心とした化学療法が実施されてきた。2次治療以降ではTROP2 ADCやHER2低発現に対するトラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)が用いられるようになり、TNBCの治療は大きく変化している。これらADCの1次治療における有効性が期待されてきた。 ASCENT-03試験はPD-1/PD-L1阻害薬の対象とならない転移TNBCを対象として、サシツズマブ ゴビテカン(SG)と化学療法を比較した第III相試験である(Cortes J, et al. N Engl J Med. 2025;393:1912-1925.)。主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)中央値において9.7ヵ月vs.6.9ヵ月(ハザード比[HR]:0.62、95%信頼区間:0.50~0.77、p<0.0001)と統計学的有意にSG群で良好であった。一方、全生存期間(OS)中央値は21.5ヵ月vs.20.2ヵ月(HR:0.98)とSGの優越性は示されなかった。そもそもTNBCのOS中央値は15ヵ月程度であり(Deluche E, et al. Eur J Cancer. 2020;129:60-70.)対照群のOSそのものも、かつてよりかなり良くなっている。これは、2次治療以降でOSを延長することが示された複数の薬剤(SGやT-DXd)が使用可能になったためであると考えられる(Bardia A, et al. N Engl J Med. 2021;384:1529-1541.、Modi S, et al. N Engl J Med. 2022;387:9-20.)。 一方で、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で同時に発表された同様にPD-L1陰性TNBC1次治療としてのダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd)がPFSならびにOSの延長を有意に示したことから、その結果の不一致について検討が必要である。後治療としてADCが使えることは両試験とも同じであることを考えると、OSの結果の違いには何らかの薬剤としての違いがある可能性がある。ホルモン受容体陽性乳がんの2次治療では、TROPiCS-02試験でSGがOSの延長を示し、Dato-DXdはTROPION Breast-01試験でOSの延長を示せなかったことから、サブタイプによってその結果が逆転している(Bardia A, et al. J Clin Oncol. 2025;43:285-296.、Rugo HS, et al. Lancet. 2023;402:1423-1433.)。単純にOSの結果が安定するほどの薬効がない可能性もあるが、PFSは確実に延長していることから、今後は後治療の影響やバイオマーカーなどの探索が必要である。

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異物除去(13):眼洗浄【一目でわかる診療ビフォーアフター】Q157

異物除去(13):眼洗浄Q157町の診療所で新患外来を担当中。とくに既往のない60歳女性が「市販の漂白剤を桶に入れようとした際に、両眼に跳ねてしまった。痛みがあるため診てほしい」と診療所を受診した。とくに流水での洗浄はしておらず、明らかな視野障害、視力障害はない。眼球結膜充血はあるが瞳孔の変形はない。表面麻酔の点眼薬を使用し、眼洗浄をしようと思うが、特別な器具がない。どうしようか。

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小児にも使用しやすい脳腱黄色腫症治療薬「フジケノン粒状錠125」【最新!DI情報】第54回

小児にも使用しやすい脳腱黄色腫症治療薬「フジケノン粒状錠125」今回は、脳腱黄色腫症治療薬「ケノデオキシコール酸(商品名:フジケノン粒状錠125、製造販売元:藤本製薬)」を紹介します。脳腱黄色腫症は小児期からの継続した治療が必要ですが、わが国ではこれまで本疾患を効能・効果とするケノデオキシコール酸(CDCA)製剤がなく、開発が望まれていました。<効能・効果>脳腱黄色腫症の適応で、2025年9月19日に製造販売承認を取得し、11月21日より販売されています。<用法・用量>成人:通常、ケノデオキシコール酸として1日量250mgより投与開始し、250mgずつ増量した後、維持量として1日量750mgを1日3回に分けて連日経口投与します。患者の状態により適宜増減しますが、1日量として1,000mg、1回当たりの投与量として375mgを超えないこととします。小児:通常、ケノデオキシコール酸として1日量5mg/kgより投与開始し、5mg/kgずつ増量した後、維持量として1日量15mg/kgを1日3回に分けて連日経口投与します。患者の状態により適宜増減しますが、1日量として15mg/kgおよび750mg、1回当たりの投与量として250mgを超えないこととします。<安全性>副作用として、肝機能異常、鼓腸(いずれも5%以上)、ALT上昇、AST上昇、ALP上昇、ビリルビン上昇、下痢、軟便、悪心、嘔吐、食欲不振、腹痛、胸やけ、腹部不快感、腹部膨満感、発疹、そう痒、倦怠感、めまい、顔のむくみ(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脳腱黄色腫症の治療に用いられます。血中コレスタノールを低下させることで症状を改善します。2.かまずに服用してください。3.制酸薬などと併用すると作用が弱まることがあるので、他の薬を使用するときは薬剤師に相談してください。<ここがポイント!>脳腱黄色腫症(Cerebrotendinous xanthomatosis:CTX)は、ステロール27位水酸化酵素をコードするCYP27A1遺伝子の変異により、その酵素活性が著しく低下する常染色体劣性遺伝疾患です。27位水酸化酵素は、肝臓における一次胆汁酸の合成に必須の酵素であり、この酵素が欠損するとケノデオキシコール酸(CDCA)の合成が著減し、血清中のコレスタノールが上昇します。また、CDCAは胆汁酸合成経路の律速酵素であるコレステロール7α-水酸化酵素の発現を抑制する役割も担っています。しかし、CDCAが減少すると、このネガティブフィードバックが抑えられ、血清中のコレスタノールがさらに上昇します。上昇したコレスタノールは、脳、脊髄、腱、水晶体、血管など全身の臓器に沈着し、進行性の神経障害(知能低下・錐体路症状・小脳症状など)、皮膚・腱黄色腫、若年性白内障、早発性心血管疾患など、さまざまな臓器障害を引き起こします。治療は、胆汁酸プールの補充を目的としたCDCA製剤の投与が中心となっており、コレステロール7α-水酸化酵素へのネガティブフィードバックを正常化することで、コレスタノールの産生・蓄積を抑制します。しかし、国内で承認されているCDCA製剤の適応は「外殻石灰化を認めないコレステロール系胆石の溶解」に限られており、CTXを効能・効果とするCDCA 製剤は承認されていませんでした。そのため、日本神経治療学会は、医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議に対し、CTXを効能・効果とするCDCA製剤の開発要望書を提出していました。本剤は、一次胆汁酸であるケノデオキシコール酸を有効成分とするCTX治療剤であり、成人および小児に使用できます。CTXは遺伝性疾患であり、小児期から継続した治療が必要と考えられるため、小児でも服用可能な用量調節が容易な粒状錠となっています。また、苦みをマスキングするため、フィルムコーティング錠を採用しています。日本人CTX患者を対象とした国内第III相試験(FPF1011-03-01試験:非盲検非対照試験)において、主要評価項目である血清コレスタノール濃度(平均値±標準偏差)の推移は、診断時22.25±12.66μg/mL、投与52週時は6.73±5.67μg/mLでした。※2026年1月27日に一部内容の修正を行いました。

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第300回 新調したての精子で体外受精が成功しやすくなる

新調したての精子で体外受精が成功しやすくなる射精してから間もない新調したての精子を使った体外受精(IVF)がどうやら妊娠の成功を増やすようです1,2)。体外受精では、精子を採取する2~7日前に前もって射精しておくことがたいてい男性に指示されます。できるだけ健康な精子が体外受精で受精するようにするためです。精巣で精子がより長く留まるとさまざまな内なる毒素、とくには活性酸素種(ROS)や、汚染物質などの外襲に見舞われる期間も長くなります。それが原因で精子はDNAを傷めて役目を果たせないようになるかもしれません。実際、精巣での滞在期間がより短い精子ほど質が良いのは本当のようです。2年ほど前のメタ解析では、前の射精から4日間以内の不妊男性の精液の質の改善がみられています3)。3年ほど前の別のメタ解析では前の射精後すぐの4時間以内の精子はDNA損傷が少なく、よく動くという結果が得られています4)。さらには、射精控えの期間が短いほどどうやら妊娠しやすくなることが、卵子に精子を直に注入する体外受精(intracytoplasmic sperm injection:ICSI)の1,691回の取り組みを調べた試験で示されています5)。しかし、精子が卵子に泳いで行く昔ながらの体外受精(conventional in vitro fertilization:c-IVF)で射精控えを短くすることに同様の取り柄があるかどうかはよくわかっておらず、c-IVFに最適な射精控えの期間も定まっていません。そこで中国の吉林大学第一病院(First Hospital of Jilin University)のYueying Zhu氏らは、同病院でc-IVFに臨むパートナー500組を募って、射精控え期間を短くすることに取り柄があるかどうかを無作為化試験で調べました。それらの男性はc-IVFの精子回収が先立つ2日以内の射精後の群(射精控え短期群)と標準の2~7日後の群(標準群)に1対1の割合で割り振られました。最終的に射精控え短期群の226組と標準群の227組が試験を完了しました。幸いにして射精控え短期群の妊娠継続(12週間以上の胎児の心臓の活動)達成率は標準群より有意に高く、それぞれ46%と36%でした(p=0.030)。射精から精子回収までの期間が短いことは精子不足でのICSI移行を増やすかもしれないとの懸念は当たらず、精子不足でのICSI移行率は両群で似たり寄ったりでした(それぞれ3%と2%)。今回報告された結果は試験の全容の一部にすぎません。被験者の経過の記録は進行中で、肝要の転帰である生児出生率を含むほかの評価項目が後に報告されます1)。盛りだくさんとはいえ今回の試験は1つの病院で実施されたものであり、多施設でより多くの被験者を募る試験でより短期の射精控えの効果を調べることが今後必要と著者は言っています。まだまだ調べることは多そうですが、より直前に射精しておくことが好調な精子を得る良い手段であることを今回の結果はひとまず示したようです2)。体外受精をしないパートナーの妊娠もそういう新調したての精子で改善するかどうかも今後の試験で判明しそうです。乗り物酔いの薬を米国承認身近な困りごとの薬を米国がここ40年で初めて承認しました6)。承認されたのは乗り物酔いの嘔吐を防ぐ飲み薬です。米国の製薬会社Vanda Pharmaceuticalsが開発しました。商品名はNereusです。Nereusは吐きそうな動き(motion)がある出来事(event)の1時間ほど前に1回きり経口服用します7)。その成分tradipitantは化学療法の悪心嘔吐の予防に使われる薬と同様にニューロキニン遮断作用を担います。米国の沿岸で被験者に船に乗ってもらった2つの第III相試験(Motion SyrosとMotion Serifos)でNereusの効果が裏付けられています。それらの試験で同剤投与群の嘔吐の発生率はプラセボ群の半分足らずで済みました8,9)。向こう数ヵ月のうちにNereusを米国で発売するとVanda社は同剤承認を知らせる先月末30日のニュースに記しています6)。参考1)Trigger-Day Ejaculation Improves Conventional in vitro fertilization Outcomes: A Prospective Randomized Controlled Trial. The Lancet on SSRN. 2025 Dec 2.2)IVF success may depend on how long men abstain from ejaculation / NewScientist3)Du C, et al. Andrology. 2024;12:1224-1235.4)Barbagallo F, et al. J Clin Med. 2022;11:7303.5)Gupta S, et al. J Hum Reprod Sci. 2021;14:273-280.6)Vanda Pharmaceuticals Announces FDA Approval of NEREUSTM(tradipitant)for the Prevention of Vomiting Induced by Motion7)NEREUS PRESCRIBING INFORMATION8)Polymeropoulos VM. et al. Front Neurol. 2025;16:1550670. 9)Vanda Pharmaceuticals Reports Positive Results from a Second Phase III Study of Tradipitant in Motion Sickness / PRNewswire

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P-CABとPPI、ガストリン値への影響の違いは?

 胃食道逆流症(GERD)および消化性潰瘍患者において、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)はプロトンポンプ阻害薬(PPI)と比較して、全体的な有害事象プロファイルは同様であるが、血清ガストリン値の上昇が有意に大きいことが示された。韓国・亜洲大学校のYewon Jang氏らが、システマティックレビューおよびメタ解析の結果をJournal of Gastroenterology and Hepatology誌オンライン版2025年12月2日号で報告した。 研究グループは、MEDLINE、Embase、Cochrane Libraryのデータベースを用いて、2024年6月3日までに公開された文献を検索した。対象は、GERDまたは消化性潰瘍(胃潰瘍または十二指腸潰瘍)患者において、P-CABとPPIの安全性を比較した無作為化比較試験(RCT)および観察研究とした。なお、Helicobacter pylori除菌療法での使用は除外した。主な評価項目は有害事象および重篤な有害事象の発現割合とし、血清ガストリン値の変化についても解析した。最終的に11件の研究(RCT 10件、観察研究1件)が抽出され、合計5,896例(P-CAB群3,483例、PPI群2,413例)が解析に含まれた。 主な結果は以下のとおり。・特定の有害事象を報告した9件の研究において、下痢(7研究)、便秘(4研究)、上気道炎(4研究)、鼻咽頭炎(3研究)、悪心(3研究)、肝機能検査値異常(3研究)などが報告された。・主な有害事象(5%超に発現)は、鼻咽頭炎(P-CAB群16.4%vs.PPI群16.2%)、上気道炎(7.4%vs.5.1%)、下痢(5.2%vs.5.2%)であった。・P-CAB群ではPPI群と比較して、骨折が多く発現する傾向にあった(1.3%vs.0.4%)。・多くの研究で既存の肝障害患者は除外されていたにもかかわらず、肝関連有害事象は一定数発現した(ALT増加:P-CAB群2.9%vs.PPI群3.1%など)。・重篤な有害事象の発現割合は、ほとんどの研究で両群とも10%未満であり、両群で同程度であった。・血清ガストリン値の具体的な変化を報告した6件の研究のメタ解析の結果、P-CAB群はPPI群と比較して、血清ガストリン値の上昇が有意に大きかった(平均差:130.92pg/mL、95%信頼区間[CI]:36.37~225.47、p<0.01)。ただし、研究間の異質性が高かった(I2=98%)。・ボノプラザンとランソプラゾールを比較した3研究の解析でも、ボノプラザン群で血清ガストリン値の上昇が有意に大きかった(平均差:174.03pg/mL、95%CI:78.43~269.52、p<0.01、I2=98%)。 著者らは、本研究結果について「P-CABの有害事象プロファイルはPPIと同様であることが示唆された。しかし、P-CABを用いる患者では、胃酸分泌抑制に伴う血清ガストリン値上昇のモニタリングが不可欠である。また、P-CABとPPIのいずれを用いる場合でも、肝機能障害について注意深くモニタリングすることが求められる」と結論付けた。また、骨折について「先行研究では、長期のPPI使用者において、高ガストリン血症が骨折リスクの重要な要因であることが報告されている。P-CABも血清ガストリン値の上昇を誘発することから、同様のリスクを有する可能性が考えられる。そのため、とくに骨粗鬆症リスクのある患者において、P-CABの長期安全性を評価するためのさらなる検討が求められる」と考察した。

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アルツハイマー病/MCI患者の認知機能保護にω3脂肪酸は有効か?〜メタ解析

 アルツハイマー病や軽度認知障害(MCI)患者において、ω3多価不飽和脂肪酸(n-3 PUFA)が脳活動に有益な効果をもたらすことが報告されている。しかし、認知機能改善に対するn-3 PUFAによる食事介入の有効性については、一貫した知見が得られていない。中国・鄭州大学のPipasha Khatun氏らは、n-3 PUFAによる食事介入がアルツハイマー病またはMCIと診断された患者の認知機能に及ぼす影響を明らかにするため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Nutrition Reviews誌オンライン版2025年10月1日号の報告。 n-3 PUFA摂取量と認知機能関連アウトカムとの関連性を検証したランダム化比較試験をPubMed、PubMed Central Library、Cochrane Libraryよりシステマティックに検索した。9研究の包括的評価を行い、そのうち7研究をメタ解析に含めた。著者、出版年、研究分野、研究種類、病態(アルツハイマー病またはMCI)などの重要な詳細情報をデータ抽出手順に組み込んだ。対象研究の評価には、コクランのバイアスリスク評価尺度、ランダム効果モデル、標準化平均差(SMD)、95%信頼区間(CI)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・n-3 PUFA摂取は、全検査IQ(FSIQ)(SMD:-0.82、95%CI:-1.57〜-0.08、p=0.000)、情報処理(SMD:-2.90、95%CI:-5.25〜-0.56、p=0.000)、認知機能における数字記憶/ワーキングメモリ/注意力(SMD:-1.89、95%CI:-3.27〜-0.51、p=0.000)の改善に有効であることが示唆された。・一方、n-3 PUFA摂取は、画像補完(SMD:-0.07、95%CI:-0.50〜0.35、p=0.000)、図の配置(SMD:-0.08、95%CI:-0.32〜0.16、p=0.075)、ブロックデザイン(SMD:-0.15、95%CI:-0.37〜0.03、p=0.123)、算数的側面(SMD:-0.33、95%CI:-0.61〜0.04、p=0.007)に対する有効性は認められなかった。 著者らは「n-3 PUFAは、MCI患者のFSIQ、情報処理、数字記憶/ワーキングメモリ/注意力などの認知機能改善に有意な影響を及ぼすことが示唆されたが、絵の完成や配置など一部の認知機能領域に対する有効性は認められなかった」とまとめている。

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自然光を浴びることで、2型糖尿病の血糖管理と代謝が改善

 現代では多くのオフィスワーカーが生活時間の8~9割を屋内で過ごしているとされ、慢性的な日光不足が2型糖尿病などの代謝疾患のリスク因子として注目されている。日中の自然光曝露が2型糖尿病患者において血糖変動を安定化させ、脂肪利用を高めるとともに、骨格筋の概日リズム(体内時計)を調整する可能性が示された。この研究成果は、Cell Metabolism誌オンライン版2025年12月18日号に掲載された。 本試験は2型糖尿病患者13例を対象とした無作為化クロスオーバー試験であった。参加者は連続4.5日間、自然光群と人工照明群に割り振られ、1~4日目の8~17時、5日目の9~13時30分のあいだ、広い窓から自然光が差し込むオフィスルームまたは人工照明のみで照らされたオフィスルームのいずれかに滞在した。参加者は持続血糖測定(CGM)、間接熱量測定、メラトニン値、血中マルチオミクス解析などを受けた。 主な結果は以下のとおり。・2型糖尿病患者13例(平均年齢70歳、BMI 30.1kg/m2)が対象となった。参加者は2回の介入を受け、屋内で人工照明と自然光を浴びた。・CGMデータを、食後血糖上昇(食後スパイク)と、これとは独立した基礎血糖の日内リズム(24時間周期)で解析した。自然光と人工照明を比較すると平均血糖値に差はなかったものの、自然光では正常血糖範囲(4.4~7.2mmol/L)の時間が有意に増加した。基礎血糖の日内リズムの振幅も、自然光は人工照明よりも有意に小さかった。・自然光と人工照明ではエネルギー消費量は変わらないものの、自然光では日中を通して脂肪酸化が亢進し、糖利用が相対的に抑制された。・メラトニン分泌開始時刻そのものは変化しなかった一方で、自然光では就寝前(21~23時)のメラトニン分泌量が有意に増加した。 著者らは「本試験は少人数、4.5日間という短期間ながら、自然光曝露という非侵襲的・低コスト介入で、2型糖尿病患者の血糖安定化と脂質利用亢進が得られた点は重要である。日光曝露が概日リズムの位相を変えることなく夜間のメラトニン分泌を増加させ、末梢時計機能や代謝リズムの改善を介して血糖安定化に寄与した可能性が示された。薬物・運動療法に加え、職場や生活環境の光設計(窓際配置、日中の自然光確保)が代謝管理の補助戦略となる可能性がある。これらの結果は、自然光曝露が単なる概日リズムの調整にとどまらず、実際の代謝機能改善をもたらすことを示している」とした。

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ROS1陽性NSCLCで4剤目、タレトレクチニブの特徴は?/日本化薬

 日本化薬は、タレトレクチニブ(商品名:イブトロジー)を2025年11月12日に発売した。タレトレクチニブは、ROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺がん(NSCLC)に対するROS1チロシンキナーゼ阻害薬(ROS1-TKI)として、本邦では4剤目の薬剤となる。本剤の発売を機に2025年11月20日に開催されたメディアセミナーでは、林 秀敏氏(近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門 主任教授)がROS1融合遺伝子陽性NSCLC治療の現状や本剤の特徴を解説した。ROS1融合遺伝子陽性NSCLCの特徴 ROS1融合遺伝子は、ROS1遺伝子が染色体上でパートナー遺伝子(CD74、SLC34A2、EZRなど)と再構成することで生じる。ROS1融合遺伝子から産生されるROS1融合タンパクは、ROS1の下流のシグナル伝達経路(ERK1/2、AKTなど)を恒常的に活性化し、腫瘍の増殖が引き起こされる。 ROS1融合遺伝子の頻度は、NSCLCの1~2%とされる。希少遺伝子異常ではあるが、林氏は「肺がん患者全体の母数が多いため、国内の患者数は2,800~5,600例と推定される。これは急性リンパ性白血病の患者数と同程度である」と述べ、治療法開発の重要性を指摘した。これまでの治療の現状と課題 ROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対する治療薬としては、タレトレクチニブの発売前に、クリゾチニブ、エヌトレクチニブ、レポトレクチニブが臨床応用されている。これらの3剤はいずれも高い有効性を有する薬剤ではあるが、課題も存在すると林氏は指摘する。 ROS1融合遺伝子陽性NSCLCは、脳転移が生じる頻度が高いという特徴があるが、脳転移例への効果は薬剤によって異なり、とくに第1世代のクリゾチニブは脳内移行性が低いという課題がある。また、クリゾチニブやエヌトレクチニブに対する耐性が生じた場合、ROS1-TKIの効果が限定的であるという課題も存在する。さらには、既存の薬剤はめまいなどの神経学的有害事象の発現が多いというアンメットニーズもある。神経学的有害事象にはTRKB阻害が関与していると考えられていることから、ROS1阻害活性を維持しつつTRKBに対するオフターゲット活性を抑え、神経学的有害事象の軽減を目指した薬剤開発が望まれていた。神経学的有害事象の軽減を目指して開発されたタレトレクチニブ 今回発売されたタレトレクチニブは、ROS1などに対する阻害活性を有するTKIであり、既存のROS1-TKIと作用機序は同様である。しかし、本剤は野生型ROS1融合タンパクおよびROS1-TKI耐性変異体の両方に対して有効性を示し、脳転移に対しても有効で、神経学的有害事象を軽減することを目指して開発された薬剤である。 そのため、ROS1-TKI耐性変異の1つであるROS1 G2032R変異体に対しても高い阻害活性を有する。また、本剤のROS1への選択性は、神経学的有害事象との関連が考えられるTRKBの11.0~20.1倍であった。in vitroにおいて、ATP濃度をATPに対する各標的キナーゼのKm値付近に設定したときのROS1、ROS1 G2032R変異体、TRKBに対するIC50値は、以下のとおりであった(タレトレクチニブ、クリゾチニブ、エヌトレクチニブ、レポトレクチニブの順に示す)。・ROS1:0.0732、0.661、0.710、<0.05nmol/L・ROS1 G2032R:0.202、86.2、88.0、0.0946nmol/L・TRKB:1.47、6.75、0.155、<0.05nmol/L既治療例や脳転移例にも有効 タレトレクチニブの有効性と安全性は、主に国際共同第II相試験「TRUST-II試験」と、中国で実施された海外第II相試験「TRUST-I試験」で評価された1)。両試験は、ROS1融合遺伝子陽性のNSCLC患者を対象とした試験であり、ROS1-TKI未治療例と既治療例が含まれ、統合解析の対象は273例であった。 両試験の統合解析では、ROS1-TKI阻害薬未治療の集団(160例)において、主要評価項目の奏効割合(ORR)88.8%、副次評価項目の無増悪生存期間(PFS)中央値45.6ヵ月という良好な成績が示された。とくにPFS中央値について、林氏は「数字上はクリゾチニブやエヌトレクチニブの2倍以上の期間となる」と評価した。 また、ROS1-TKI既治療の集団(113例)においても、ORR 55.8%、PFS中央値9.7ヵ月という良好な成績が示された。これについて、林氏は「ROS1-TKI既治療例に対する治療選択肢が増えたことは非常に大きい」と述べた。 脳転移を有する症例に対しても高い頭蓋内奏効割合(未治療集団76.5%、既治療集団65.6%)が確認された。また、主要な耐性変異であるROS1 G2032R変異を有する患者においても、ORR 61.5%と良好な成績が示された。これらについて、林氏は「本剤の有効性が高かったことの一因であると考えられる」と考察した。 安全性については、有害事象として肝機能障害(AST増加71.9%、ALT増加67.6%)、下痢(63.6%)などの消化器系有害事象の発現が多かったが、これらの多くはGrade1~2であった。また、神経学的有害事象として浮動性めまい(21.3%)がやや多く発現したが、ほとんどがGrade1~2であり、林氏は「TRKBの阻害に関連する有害事象は軽減されていると感じている」と述べた。 2025年11月に改訂された『肺診療ガイドライン2025年版』2)では、既存のROS1-TKI 3剤(クリゾチニブ、エヌトレクチニブ、レポトレクチニブ)と並んで、本剤がROS1-TKI単剤療法の推奨薬の1つとして掲載されている(推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:C)。なお、本ガイドラインでは、ROS1-TKIの使用順序については言及されていない。 以上を踏まえ、林氏は「ドライバー遺伝子変異陽性NSCLCにおいての分子標的治療薬の使い分けとして、安全性を加味しつつ、有効性の高い薬剤から使用するのが基本である」と述べたうえで、「ROS1-TKIの治療歴を問わず、タレトレクチニブがROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対して幅広く使用されることが期待される」と締めくくった。Q&A 講演後、実臨床での使用に関して林氏に質問したところ、以下の回答が得られた。Q. 肝機能障害の有害事象が多いが、肝転移のある患者への使用は可能か? A. 肝酵素の上昇は、薬剤が肝臓で代謝されることに起因する副作用であり、肝転移があるからといって悪影響が増強されるわけではない。ビリルビン値が高いなど、肝機能が著しく悪い場合を除き、肝転移があっても基本的には使用できると考えている。Q. 他の3剤と異なり、用法・用量に「空腹時投与」とあるが、服用の工夫や指導は?A. ライフスタイルによるが、私は「朝起きてすぐ、朝食を食べる前に飲んでください」と指導することが多い。これが最もわかりやすく、飲み忘れも防げると感じている。タレトレクチニブは1日1回投与なので、患者の負担も比較的少ないと感じている。

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薬剤抵抗性の髄外病変を有する多発性骨髄腫、トアルクエタマブ+テクリスタマブが有望/NEJM

 薬剤抵抗性の真性髄外性骨髄腫の治療において、トアルクエタマブ(抗G蛋白質共役型受容体ファミリーC グループ5 メンバーD[GPRC5D]/CD3二重特異性抗体)+テクリスタマブ(抗B細胞成熟抗原[BCMA]/CD3二重特異性抗体)併用療法は、79%という高い奏効割合を達成し、無増悪生存期間(PFS)や全生存期間(OS)も良好で、約4分の3の患者がGrade3/4の有害事象を経験したが、これは各薬剤単独の既知の安全性プロファイルと一致することが、米国・Mayo Clinic RochesterのShaji Kumar氏らRedirecTT-1 Investigators Study Groupが実施した「RedirecTT-1試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年12月7日号に掲載された。国際的な非無作為化Ib/II試験のII相の結果 RedirecTT-1試験は、日本の施設も参加した国際的な非盲検非無作為化Ib/II相試験であり、2023年7月~2024年9月に患者のスクリーニングを行った。本論では、第II相の結果が報告された。 再発・難治性多発性骨髄腫のうち、骨髄と連続せず骨皮質を破壊しない形質細胞腫(真性髄外性骨髄腫)を有し、3クラスの薬剤(プロテアソーム阻害薬、免疫調整薬、抗CD-38モノクローナル抗体)による治療歴がある患者を対象とした。 被験者は、トアルクエタマブ(0.8mg/kg)+テクリスタマブ(3.0mg/kg)の皮下投与を、28日を1サイクルとして2週に1回受けた。 主要評価項目は、奏効(部分奏効以上)とし、独立審査委員会が国際骨髄腫作業部会(IMWG)の2016年の判定規準を用いて機能的画像法で評価した。副次エンドポイントとして、奏効期間、PFS、OS、安全性などについて検討した。奏効持続期間中央値は13.8ヵ月 90例を登録した(年齢中央値64.5歳、追跡期間中央値12.6ヵ月)。骨髄腫の診断以降の経過期間中央値は4.7年で、この間に受けた治療ライン数中央値は4であった。病変部位数中央値は2(範囲:1~7)であり、54例(60%)が少なくとも1つの軟部組織病変、35例(39%)がリンパ節病変、30例(33%)が臓器病変を有しており、最も頻度の高い病変部位は後腹膜、腹壁、胸壁であった。 90例中71例で奏効が得られ、奏効割合は79%(95%信頼区間[CI]:69~87)と、仮説として設定された40%を上回った。きわめて良好な部分奏効以上は63例(70%)、完全奏効以上は49例(54%)だった。また、奏効例のうち18例に抗BCMA CAR-T療法による治療歴があり、8例は二重特異性抗体療法による治療歴を有していた。 奏効期間中央値は13.8ヵ月(95%CI:11.5~評価不能)で、奏効例のうち奏効持続期間が12ヵ月以上の患者の割合は64%(48~76)であった。 PFS中央値は15.4ヵ月(95%CI:10.8~評価不能)で、12ヵ月PFS率は61%(50~71)であった。また、OS中央値は未到達で、12ヵ月OS率は74%(63~83)だった。非致死性有害事象による投与中止は6%と低率 頻度の高い有害事象として、味覚障害、口腔乾燥、嚥下障害などの口腔症状(87%)、サイトカイン放出症候群(78%)、非発疹性皮膚症状(69%)を認めた。患者の76%にGrade3または4の有害事象(ほとんどが血液学的毒性)が発現し、31%にGrade3または4の感染症がみられた。 1剤または両剤の投与中止の原因となった非致死性有害事象の発生率は6%と低かった。追跡期間中に死亡した10例のうち、5例は感染症によるもので、5例は試験薬関連と考えられた。 著者は、「Grade3または4の有害事象は76%と高頻度に発現したが、これは各薬剤単独の既知の安全性プロファイルと一致した。有害事象は全般に、併用によって増悪することはなかった」「これらの結果は、骨髄腫治療における、すでに市販されている二重特異性抗体の併用療法の臨床的有益性を示し、GPRC5DとBCMAの二重標的化の妥当性を裏付けるものである」としている。

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再発・難治性濾胞性リンパ腫、タファシタマブ追加でPFS改善(inMIND)/Lancet

 濾胞性リンパ腫は長期生存率が高いが、一般的に根治が困難で、寛解と再発を繰り返すことから複数の治療ラインが求められている。カナダ・ブリティッシュコロンビア大学のLaurie H. Sehn氏らによる「inMIND試験」において、再発・難治性濾胞性リンパ腫の治療では、レナリドミド+リツキシマブへの追加薬剤として、プラセボと比較しFc改変型抗CD19抗体タファシタマブは、統計学的に有意で臨床的に意義のある無増悪生存期間(PFS)の改善をもたらし、全奏効割合や奏効期間も良好で、安全性プロファイルは許容可能であることが示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年12月5日号で報告された。世界210施設の無作為化プラセボ対照比較試験 inMIND試験は、日本を含む世界210施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2021年4月~2023年8月に参加者を登録した(Incyteの助成を受けた)。 年齢18歳以上、組織学的にCD19+およびCD20+の濾胞性リンパ腫と確定され、1ライン以上の全身療法(抗CD20モノクローナル抗体を含む)を受けた後に再発または不応の病変を有する患者を対象とした。 被験者を、タファシタマブ(28日を1サイクルとし、1~3サイクル目は1・8・15・22日に、4~12サイクル目は1・15日に12mg/kgを静注投与)を最大12サイクル投与する群、またはプラセボ群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。全例に、レナリドミド+リツキシマブを投与した。 主要評価項目は、ITT集団におけるPFS(無作為化の時点から初回の病勢進行、再発、全原因による死亡までの期間)とし、各施設の担当医がLugano分類(2014)に従って評価した。安全性は、無作為化の対象となった患者のうち少なくとも1回の試験薬の投与を受けた集団で評価した。全生存期間のデータは不十分 548例(ITT集団)を登録した。273例をタファシタマブ群に、275例をプラセボ群に割り付けた。ITT集団の年齢中央値は64歳(範囲:31~88)で、249例(45%)が女性であった。 ベースラインで、433例(79%)が濾胞性リンパ腫国際予後指標で中または高リスクであり、患者全体の前治療ライン数中央値は1(範囲:1~10)で、248例(45%)が2ライン以上の前治療を受けていた。173例(32%)に初回診断から24ヵ月以内の病勢進行(POD24)を認め、209例(38%)が直近の前治療に不応で、233例(43%)は抗CD20モノクローナル抗体に不応の治療歴を有していた。 追跡期間中央値14.1ヵ月の時点で、担当医判定によるPFS中央値は、プラセボ群が13.9ヵ月(95%信頼区間[CI]:11.5~16.4)であったのに対し、タファシタマブ群は22.4ヵ月(95%CI:19.2~評価不能)と有意に優れた(ハザード比[HR]:0.43、95%CI:0.32~0.58、p<0.0001)。 独立審査委員会の判定によるPFS中央値も、タファシタマブ群で有意に延長した(未到達[95%CI:19.3~評価不能]vs.16.0ヵ月[95%CI:13.9~21.1]、HR:0.41、95%CI:0.29~0.56、p<0.0001)。 PFSのサブグループ解析では、POD24の有無、抗CD20抗体の不応歴の有無、前治療ライン数(1ライン、2ライン以上)、地理的地域の違い(欧州、北米、その他)を問わず、いずれの集団でもタファシタマブ群で有意に優れた。 全奏効割合(完全奏効、部分奏効:84%vs.72%、オッズ比:2.0、95%CI:1.30~3.02、p=0.0014)、奏効期間中央値(21.2ヵ月vs.13.6ヵ月、HR:0.47、95%CI:0.33~0.68、p<0.0001)、後治療開始までの期間中央値(未到達vs.28.8ヵ月、HR:0.45、95%CI:0.31~0.64、p<0.0001)は、いずれもタファシタマブ群で有意に良好だった。一方、全生存期間のデータは不十分であり、全体的な解析は追跡期間5年の時点で行う予定とされる。標準治療の新たな選択肢となる可能性 いずれかの群で患者の20%以上に発現した有害事象は、好中球減少(タファシタマブ群133例[49%]vs.プラセボ群123例[45%])、下痢(103例[38%]vs.77例[28%])、COVID-19(86例[31%]vs.64例[24%])、便秘(80例[29%]vs.67例[25%])などであった。 また、Grade3または4の有害事象(タファシタマブ群195例[71%]vs.プラセボ群189例[69%])、および重篤な有害事象(99例[36%]vs.86例[32%])の発現率は両群で同程度だった。 試験期間中にタファシタマブ群で15例(6%)、プラセボ群で23例(9%)が死亡し、それぞれ5例(2%)および17例(6%)が病勢進行による死亡だった。タファシタマブ群では治療関連有害事象による死亡例は認めなかったが、プラセボ群では2例(1%)に治療関連の致死的な有害事象が発現した。 著者は、「この3剤併用療法は3次医療機関だけでなく地域医療においても実施可能であるため、とくに現在選択肢が少ない2次治療として、再発・難治性濾胞性リンパ腫患者の標準治療の新たな選択肢となる可能性が示唆される」「タファシタマブ治療後の患者におけるCD19発現の解析が、その後の治療の決定の指針となる情報をもたらすと考えられる」としている。

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若々しい脳を保つ秘訣は筋肉量の維持と脂肪のカット

 身体が健康的で筋肉量が多いと脳の健康状態が良好に維持されやすいことが、米セントルイス・ワシントン大学放射線学・神経学准教授のCyrus Raji氏らによる新たな研究で示された。Raji氏は、「筋肉量が多く内臓脂肪が少ない健康的な身体では、脳もより健康的で若々しい傾向にある」と話している。この研究結果は、北米放射線学会年次学術集会(RSNA 2025、11月30日~12月4日、米シカゴ)で発表された。 Raji氏は、「年齢を重ねると、筋肉量が減り内臓脂肪が増えることは広く知られているが、こうした健康指標が脳の老化そのものに関連していることが、今回の研究で示された。体内の筋肉量と脂肪量は、脳年齢に基づいた脳の健康状態を反映する重要な指標であることが明らかになった」と説明している。 Raji氏らは今回の研究で、1,164人の健康な成人(平均年齢55.17歳、52%女性)の全身のMRI画像を収集した。MRI画像は、脂肪は明るく、体液は暗く映るT1強調画像という手法を使って撮影された。次に、AIアルゴリズムを用いて各参加者の筋肉量や脂肪量(皮下脂肪と内臓脂肪)、および推定「脳年齢」を数値化し、それらの指標と脳年齢との関係を解析した。 その結果、内臓脂肪と筋肉の比率が高い人ほど脳年齢が高いことが明らかになった。一方、皮下脂肪は脳年齢とはほとんど関係していなかった。この結果についてRaji氏は、「筋肉量が多い参加者では脳が若々しい傾向にあった一方、筋肉量に対して内臓脂肪の量が多い参加者では脳が老化している傾向にあった」と言う。また、同氏は「皮下脂肪は脳の老化には関連していなかった。つまり、筋肉量が多く、筋肉量に対する内臓脂肪量の比率が低いほど脳が若いということだ」と説明している。 Raji氏は、この研究は身体と脳の健康が密接に結び付いていることを示していると指摘し、「この研究は、体組成のバイオマーカーと脳の健康との関連について広く信じられていた仮説を実証し、今後のさまざまな代謝介入や治療の臨床試験に、これらのバイオマーカーを組み込む基盤を提供するものだ」と述べている。 またRaji氏は、「本研究から、筋肉量を維持しながら脂肪、特に内臓脂肪を減らすことが、脳の老化や脳の健康に最も良い影響を与えることが示唆された」と述べている。近年、GLP-1受容体作動薬の登場により、多くの人が余分な脂肪を減らすためにこれらの減量薬に頼るようになっている。しかし、Raji氏らによれば、GLP-1受容体作動薬は筋肉量を減らす可能性もあるという。この点を踏まえ同氏は、「今回の研究から得られた知見は、内臓脂肪のみを標的とし、筋肉量への影響を最小限に抑えたGLP-1受容体作動薬の開発に役立つ可能性がある」との見方を示している。 なお、学会発表された研究は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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SGLT2阻害薬のCKD進行抑制:糖尿病およびアルブミン尿の有無にかかわらず得られる絶対的ベネフィット/JAMA(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか? SMART-C(SGLT2 Inhibitor Meta-Analysis Cardio-Renal Trialists' Consortium)は、SGLT2阻害薬のランダム化比較試験(RCT)における心・腎アウトカムをメタ解析する国際共同研究組織である。SMART-C研究の成果は、2024~25年にLancet誌などに4編の論文として主要誌に報告された。そのうち2編は主として腎保護効果に焦点を当てた解析であり、JAMA誌オンライン版(2025年11月7日号)に同時掲載された。 その第1報はNeuenらによる論文で、これは「腎アウトカム」のクラスエフェクトを解析した研究である。ここでは、SGLT2阻害薬の腎保護作用が、糖尿病の有無にかかわらず、eGFRが低下したステージ4の患者や尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)が低い群においても相対的効果が認められることが示された(CLEAR!ジャーナル四天王「SGLT2阻害薬の腎保護作用:eGFR低下例・低アルブミン尿例でも新たな可能性/JAMA」)。 第2報は、Staplinらによる今回紹介するJAMA誌掲載論文である。本論文では、腎疾患イベントに加え、「死亡および入院」に関する絶対リスクの評価を中心としたメタ解析が行われた。その結果、糖尿病の有無やUACRの値にかかわらず、腎機能、入院、死亡といったアウトカムにおいて、SGLT2阻害薬の絶対的ベネフィットが確認された。これらの新知見は、SGLT2阻害薬の適応や治療選択肢の拡大の可能性を支持するものである。本SMART-C研究の主な成績 腎疾患を適応とするSGLT2阻害薬を使用したRCT8件を対象に解析を行った。解析対象は5万8,816例で、平均年齢は64±10歳、女性は35%であった。内訳は、糖尿病患者4万8,946例、非糖尿病患者9,870例である。主要評価項目は、腎・安全・全般アウトカムとして、腎疾患進行、急性腎障害(acute kidney injury:AKI)、全入院および全死亡とした。統計解析は逆分散重み付け法によるハザード比(hazard ratio:HR)の統合を行い、糖尿病の有無およびUACR<200mg/gと≧200mg/gで層別化して異質性を評価した。絶対効果は、各サブグループにおけるプラセボ群のイベント率に統合相対リスクを適用して推計した。 その結果、腎疾患進行に対するHRは、糖尿病ありで0.65(95%信頼区間[CI]:0.60~0.70)、糖尿病なしで0.74(95%CI:0.63~0.85)であった。推計イベント率は、糖尿病ありで33対48/1,000人年、糖尿病なしで32対46/1,000人年(いずれもSGLT2阻害薬群vs.プラセボ群)であった。AKIについては、糖尿病ありでHR:0.77(95%CI:0.69~0.87)、糖尿病なしでHR:0.72(95%CI:0.56~0.92)であり、糖尿病の有無にかかわらずAKIリスクの有意な低下が認められた。全入院は、糖尿病ありでHR:0.90(95%CI:0.87~0.92)、糖尿病なしでHR:0.89(95%CI:0.83~0.95)であった。全死亡は、糖尿病ありでHR:0.86(95%CI:0.80~0.91)、糖尿病なしでHR:0.91(95%CI:0.78~1.05)であり、非糖尿病群では統計学的に境界的であった。さらに、UACRによる層別サブグループ解析では、相対効果はUACR≧200mg/g群と<200mg/g群でおおむね同程度であったが、ベースラインの高いUACR≧200mg/g群では、腎疾患進行に対する絶対的ベネフィットがより大きかった。一方、全入院に対する絶対的ベネフィットは、UACR<200mg/g群においても明瞭に認められた。2つのSMART-C研究のインパクト KDIGOガイドライン(Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) CKD Work Group. Kidney Int. 2024;105:S117-S314.)では、糖尿病の有無やUACRの程度により推奨の強さが異なるため、臨床現場において「SGLT2阻害薬はどのような患者に、どれだけの絶対的利益が期待できるのか」という点には不確実性が残されていた。本論文で報告されたSMART-C研究第2報は、糖尿病の有無およびUACR200mg/gを閾値として層別化したサブグループごとに治療効果を統合し、入院や死亡といったアウトカムに対する「絶対評価」を行うことで、この不確実性を明らかにしようとした試みである。 SMART-C研究第1報が、SGLT2阻害薬の「腎アウトカム」におけるクラスエフェクトに焦点を当てたのに対し、第2報では、「入院・死亡」を含む臨床的に重要なアウトカムに対するSGLT2阻害薬の絶対的ベネフィットに焦点を当てたわけである。言い換えれば、第1報の解析が「どの程度まで進行した腎疾患に有効か」という相対的観点から検討したのに対し、第2報の解析は、「誰がどれだけ利益を得るのか」を糖尿病の有無やUACRによって具体的に層別化して検討した点に特徴がある。その結果、本研究により、SGLT2阻害薬がもたらす絶対的ベネフィットが明確に示された。本論文のインパクトは、現行ガイドラインにおける適応基準の再検討や、より多様な患者集団に対する個別化治療の拡大につながる可能性を示唆する。実臨床の視点からSMART-C研究を紐解く SMART-C研究の解析結果は、統計学的に妥当性はあるとしても、SGLT2阻害薬は決して「腎保護の万能薬」となるわけではない。実臨床において本結果をどのように活用するかの各論は、3大腎疾患である糖尿病性腎臓病(DKD)、慢性糸球体腎炎(CGN)、腎硬化症(NS)によりおのずと異なる。DKDおよびCGNにおいては、UACRの多寡にかかわらずSGLT2阻害薬を選択することに大きな異論はないが(ただし、大規模RCTの多くはRAS阻害薬併用が前提となっている点には留意が必要)、高齢者ではUACRが比較的少ないNSでは注意が必要である。DKDやCGNの病態の主体は糸球体過剰濾過である(Kanbay M, et al. Nephrol Dial Transplant. 2024;39:1228-1238.)。一方、NSの病態の基本は、これとは異なり糸球体虚血である。 SGLT2阻害薬は、DKDでは糖尿病により拡張した輸入細動脈を収縮させ、CGNではRAS活性化により収縮した輸出細動脈を拡張させることで、糸球体過剰濾過を改善し、腎保護作用を発揮する。一方、輸入細動脈の狭小化を特徴とするNSでは、糸球体はむしろ虚血腎の状態にあり、病態生理学的には、過剰濾過改善機序による腎保護効果は期待しにくい。また、SGLT2阻害薬導入時の安全面への配慮として、脱水や低血圧の確認、DKDにおけるシックデイ時の対応やケトアシドーシス予防、AKIリスクの管理、尿路感染症への注意なども決して軽視できない。確かにSMART-Cの本論文の結果は、UACRの多寡を問わずSGLT2阻害薬の絶対的ベネフィットを示した点で朗報である。しかしながら、高齢者に多い高血圧性腎硬化症においても同様のベネフィットが再現され、末期腎不全や透析導入の減少に結びつくのか、さらに長期安全性や副作用リスクをどこまで担保できるのかについては、今後の実臨床の積み重ねとリアルワールドデータによる検証が不可欠である。

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第276回 訪問看護に激震? 28億円不正請求問題で厚生労働省が「全国一斉調査」開始へ

2026年が明けました。医療業界では医療法改正などで、新しい動きが見えてきました。そのなかで、メディアによって問題が深刻化していることが明らかになった訪問看護ステーションの話題を年の初めに考えてみたいと思います。近年、末期がんや難病患者の受け皿として急増した「サービス付き高齢者向け住宅」(以下「サ高住」と略します)。病院からの早期退院を促す国の政策と、在宅での看取りニーズが合致し、一見すると社会課題の解決に寄与するビジネスモデルとして急成長を遂げました。しかし、その裏側では、診療報酬・介護報酬を組織的に搾取する「闇」が広がっていたことが、相次ぐ内部告発と特別調査委員会の報告によって白日の下にさらされました。今回は、「PDハウス」を運営していた最大手のサンウェルズや「医心館」のアンビスホールディングス、精神科の訪問看護最大手ファーストナースを巡る不正請求の実態と、それを受けた厚生労働省の「全国一斉調査」および「個別指導の厳格化」についてまとめ、今後の厚労省による調査が訪問看護およびサ高住に与える影響について考察してみたいと思います。利益至上主義が生んだ「不正請求」の実態2025年2月に東証プライム上場のサンウェルズが発表した特別調査委員会の報告書は、業界に大きな衝撃を与えました。不正請求の試算額は、総額約28億4,700万円に上り、ほぼすべての施設で組織的な不正・過剰請求が認定されました。主な不正・過剰請求の手法として、「短時間訪問」の偽装と「同行者不在」の加算請求が挙げられていました。「短時間訪問」の偽装としては、実際には数秒~数分の安否確認や投薬、あるいは睡眠センサーの画面確認のみであるにもかかわらず、診療報酬の算定要件である「30分以上の訪問」を行ったと虚偽の記録を作成していたものです。その件数は17万件を超えています。また、「同行者不在」の請求でも、実際には1人で訪問しているにもかかわらず、複数名で訪問したと偽り、加算報酬を不当に得ていました。さらに入居者の病態に関わらず、最初から「1日3回・毎日」の訪問看護を行うことが標準化され、マニュアルで「必須記載」と指示を行い、1人当たりの月間診療報酬の「合格ライン」を81万円に設定するなど、医療の必要性ではなく「売上目標」から逆算したオペレーションが常態化していました。こうした実態は最大手の「医心館(アンビスホールディングス)」でも指摘され、特別調査委員会の報告では、組織的不正は否定しつつも、実態のない請求が約6,300万円分判明しています。さらに特掲診療料の施設基準等別表第7や同第8に基づく訪問看護の特例を用いて、医療保険で算定できる患者を集め、収益性を高く維持していました。厚労省による訪問看護「全国一斉調査」と選定基準の明確化こうした事態を重くみた厚労省は、この2026年1月より健康保険法に基づき訪問看護ステーションに対する「全国一斉調査」を開始します。医療機関などに対する全国規模の同時調査は、訪問看護の分野では極めて異例の措置です。指導・監督の厳格化(通知のポイント)「令和7年度に実施する指定訪問看護事業者等に対する共同指導に係る取扱いについて」および関連事務連絡によれば、厚労省は指導対象の選定基準を明確化しています。訪問看護レセプト1件当たりの平均額が都道府県平均を超え、かつ全ステーションの上位1%に含まれる事業所を「都道府県個別指導」の対象として優先的に選定するよう指示しています。さらに情報提供(内部告発)への対応として、不正請求や過剰訪問に関する具体的な情報提供があった場合、これを最優先で指導対象とします。不当事項が確認された場合、原則として指導月から1年以上遡って報酬の自主返還を求めます。また、中央社会保険医療協議会(中医協)では、同一建物内の多数の患者に対する頻回訪問について、報酬を引き下げる方向で検討が進んでいます。今後の訪問看護・サ高住への影響と考察今回の一連の騒動と規制強化によって、今後の在宅医療・介護のあり方を劇的に変える可能性があります。これまで、サ高住や有料老人ホームに訪問看護ステーションを併設し、入居者を「自社サービス」で囲い込んで報酬を最大化するモデルは、過剰利潤を追求しやすい収益性の高いビジネスでした。しかし、今後は「1件当たりの単価」が高い事業所が自動的に指導対象となるため、不必要な過剰サービスを提供して請求する事業者ついては、返還リスクと社会的信用の失墜により淘汰されることになります。訪問看護の実施には、必ず医師の「訪問看護指示書」が必要です。報道によると、一部のホスピス住宅では「末期がん」でない患者に末期がんの診断を付けたり、不必要な頻回訪問の指示を出したりする医師の存在が指摘されています。厚労省の調査では、当然ながら「指示を出した医師」の判断も検証対象となります。医学的妥当性を欠く指示を出し続けた医師は、不適切な請求を助長したとして、行政指導や免許に関わる責任を問われるリスクが生じます。このほか、不正に得た高額な報酬を原資として、訪問看護ステーション側が地域の急性期病院から看護師を「高給」で引き抜いていた実態も明らかになりました。規制強化によって事業者の収益が適正化されれば、こうした高額な給与提示は困難になります。地域医療全体としては、偏在していた看護師が本来必要とされる現場に戻るポジティブな側面もありますが、その一方で、経営基盤の弱い中小のサービス事業者にとっては、さらなる採用難につながる恐れもあります。「適切な事業者」の選定が求められる退院支援さらに病院側にも影響が出ることになります。病院のソーシャルワーカーや勤務医は、これまで患者の転院・退院先としてホスピス型住宅を依頼する際、「空きがあるから」という理由だけで紹介することができなくなります。「外部のサービスを排除して囲い込みをしていないか」、あるいは医療機関側に「訪問看護指示書の記載」について要求が多くはないかといったチェックが必要になります。性善説の終焉と「説明責任」の時代へ訪問看護のシステムは、長らく「性善説」に基づいて運用されてきました。しかし、今回のサンウェルズ事件を契機に、その信頼は崩れ去り、今後は、記録や不適切な算定を防止するために医療・介護DXといったITテクノロジー(GPSや入退室ログなど)で監視する仕組みが標準化されるでしょう。医師にとって重要なのは、訪問看護が「なぜ頻回の訪問が必要なのか」を患者の病態に基づいて医学的にいつでも説明できることです。訪問看護事業者や訪問サービス事業者の意見に引きずられた訪問診療や訪問看護は、もはや「隠し通せる時代」ではありません。地域医療の崩壊を防ぐためには、不正を排除し、真に手厚い看取りを必要とする患者に資源を集中させる健全な市場環境の再構築が急務となります。 参考報道 1) 訪問看護、1月全国調査へ 厚労省、不正請求問題で(共同通信) 2) 看護師たちの勇気の告発がついに国を動かした ホスピス住宅と精神科の訪問看護、国が全国一斉に不正調査へ(共同通信) 3) 指定訪問看護事業者等に対する高額を理由とする都道府県個別指導の取扱いについて/令和7年度に実施する指定訪問看護事業者等に対する共同指導に係る取扱いについて(厚労省) 4) 老人ホーム会社、診療報酬28億円不正請求疑い 高額紹介料支払いも(朝日新聞) 5) 特別調査委員会の調査報告書の受領に関するお知らせ(サンウェルズ社) 6) 訪問看護の最大手、過剰請求か 精神科「あやめ」が全社的に(共同通信) 7) 訪問看護における「別表7」を徹底解説(カーネル)

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「グーフィス」の名称の由来は?【薬剤の意外な名称由来】第83回

第83回 「グーフィス」の名称の由来は?販売名グーフィス®錠5mg一般名(和名[命名法])エロビキシバット水和物(JAN)効能又は効果慢性便秘症(器質的疾患による便秘を除く)用法及び用量通常、成人にはエロビキシバットとして10mgを1日1回食前に経口投与する。なお、症状により適宜増減するが、最高用量は1日15mgとする。警告内容とその理由設定されていない禁忌内容とその理由禁忌(次の患者には投与しないこと)1.本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者2.腫瘍、ヘルニア等による腸閉塞が確認されている又は疑われる患者[腸閉塞を悪化させるおそれがある。]※本内容は2026年1月5日時点で公開されているインタビューフォームを基に作成しています。※副作用などの最新の情報については、インタビューフォームまたは添付文書をご確認ください。1)2022年4月改訂(第6版)医薬品インタビューフォーム「グーフィス®錠5mg」

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NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その4】そもそもなんで多重人格は「ある」の?-進化精神医学から迫る解離性同一症の起源

今回のキーワード記憶喪失知らないふり乳幼児の生存戦略慕うふり産業革命病理化適応度可塑性[目次]1.なんで多重人格は「ある」の?-「慕うふり」で生き延びる2.「心の傷を癒すということ」は「生き延びるということ」3.参考記事前回(その3)、多重人格になるメカニズムを、脳科学の視点から仮説を使って解き明かしました。それでは、人類の心の進化の歴史のなかで、多重人格はいつ生まれたでしょうか? 言い換えれば、多重人格はなぜ「ある」のでしょうか?この謎の答えに迫るために、今回も引き続き、NHKドラマ「心の傷を癒すということ」を取り上げ、進化精神医学の視点から、多重人格の起源に迫ります。なお、多重人格の現在の名称は解離性同一症です。ただ、この記事では、わかりやすさを優先して、このドラマで使われた従来の名称である「多重人格」で表記します。なんで多重人格は「ある」の?-「慕うふり」で生き延びる片岡さんは、安先生に「こんな病気(多重人格)になったんは、私が弱いからですよね」とたずねます。すると、安先生は「違うよ。とても耐えられんような苦しさと悲しさの中で、それでも生き延びる方法を見つけようとしたんや。生きる力が強いんや」と力強く答えます。確かに片岡さんが言うように、多重人格になるのはその脆弱性があるからとその3で説明しました。しかし、進化の視点で捉え直すと、安先生が言うように、「生き延びる方法」として「生きる力が強い」と言えます。どういうことでしょうか? そもそもなぜ多重人格は「ある」のでしょうか?まず多重人格の起源は、記憶喪失の起源を土台にして考えることができます。そこで、記憶喪失の進化の起源を理解する必要があります。この詳細については、関連記事1をご覧ください。記憶喪失の起源とは、約300万年前に人類が助け合いの集団をつくるようになってから、トラウマ体験を「知らないふり」(記憶喪失)で生き延びるという、新しい環境に適応するための生存戦略であると説明しました。ここで、多重人格は大人ではなく子供、とくに乳幼児期のトラウマ体験によって発症することを踏まえると、原始の時代、人類の乳幼児がどんな環境に身を置いていたかに着目する必要があります。その環境とは、現代社会のような人権という概念すらなく、子供、とくに乳幼児の命はとても軽かったでしょう。病気ですぐに死んでしまうので、たくさん子供がつくられました。よくよく考えると、つい近世まで、飢餓の時は、捨て子さえも珍しくありませんでした。児童労働もごく当たり前でした。つまり、現代で禁止されている虐待は、原始の時代ではごくありふれた現象であったことが想定されます。そんななか、親から虐待された子供は、そのトラウマ体験によって記憶喪失になるだけだと、その親の顔を思い出せないのでその親に後追いや抱き着きなどの愛着行動を示すことができません。すると、親はたくさんいる他の兄弟に目をかけるようになり、その子供は構ってもらえなくなります。原始の時代、そんな子供(遺伝子)は死(淘汰)を意味します。一方で、人格部分として再び現れてでも、その親の顔を認識して愛着行動を示すことができれば、虐待されるにしても、食料は分け与えられるなどの一定の保護が得られます。たとえば、幼児の人格部分が出ていた片岡さんのように、「私のおうち、どこ?」「ママに会いたい。ママ…」と泣くことです。原始の時代、そんな子供(遺伝子)は生き残るでしょう。そして、主人格は、当初親の顔については記憶喪失になっているわけですが、人格部分が代わりに親との愛着関係をつなぎ留めていてくれたおかげで、やがて成長するにつれていつも一緒にいる大人がおそらく親であると再認識するようになるでしょう。これは、乳幼児の生存戦略です。つまり、大人と違って子供は、「知らないふり」(記憶喪失)だけでは不十分で、「知ってるふり」「慕うふり」(人格部分による愛着行動)もして、何とか親(愛着対象)に食らいついて生き延びるよう進化したでしょう。これが、多重人格の起源と考えられます。大人と違って子供の場合、虐待する親であっても一定の養育行動を引き出さなければ生き延びられないので、親の顔の記憶を喪失して愛着行動を示さない主人格の代わりに、愛着行動を示す人格部分が積極的に出てくる必要があったというわけです。なお、大人になった片岡さんは、気味が悪いと避難所から追い出されるなどのトラブルを起こしていました。しかし、原始の時代は、多重人格として大人になってもそれほど困らなかったと考えられます。なぜなら、原始の社会では、言葉さえなく、その日暮らしでその瞬間を生きているだけであり、人格は1つであるという概念すらなかったからです。ちなみに、言葉を話すようになったのは約20万年前、人格などの概念を用いるようになったのは約10万年前以降、そして人格は1つであり変わらないという合理主義や個人主義の価値観が広がったのは約200年前の産業革命以降です。そしてまさに産業革命以降に、多重人格が病気として認識(病理化)され、報告されるようになったのでした1)。以下のグラフは、「24」、「エクソシスト」、そして今回に論じてきた解離症のすべての起源をまとめたものです。「心の傷を癒すということ」は「生き延びるということ」進化の視点で捉え直すと、安先生が言うように、多重人格が「ある」のは、「弱いから」ではなく、子供が「生き延びる方法」(生存戦略)として「生きる力が強い」と言えます。これは、発達心理学の視点では可塑性、進化精神医学の視点では適応度と言い換えられます。つまり、安先生の言葉は、小さい子供の時の片岡さん自身だけでなく、私たちの祖先の人類にも当てはまることだったのです。この点で、このドラマのタイトルである「心の傷を癒すということ」とは、私たち人類が「生き延びるということ」でもあると言えるのではないでしょうか?なお、多重人格の治療については、関連記事2をご覧ください。参考記事ちなみに、虐待を含む不適切な養育(マルトリートメント)における子供の愛着の反応パターンとしては、今回の「知ってるふり」(多重人格)だけでなく、「馴れ馴れしいふり」(脱抑制型対人交流症)や「よそよそしいふり」(反応性アタッチメント症)も挙げられます。これらも、乳幼児の生存戦略であると言えます。多重人格は、脱抑制型対人交流症や反応性アタッチメント症と比べて、幼少期は目立たず潜在しており、その後に顕在化する特徴があります。そして、これらは、その3でも触れたストレンジ・シチュエーション法2)における、以下のタイプと関連しています。 1) 稀で特異な精神症候群ないし状態像、p80:中安信夫、星和書店、2004 2) 乳幼児のこころpp103-104、遠藤利彦ほか、有斐閣アルマ、2011 ■関連記事米国ドラマ「24」【その2】なんで腰抜けや記憶喪失は「ある」の?-進化精神医学から迫る解離症の起源スプリット【なぜ記憶がないの?なぜ別人格がいるの?どうすれば良いの?(解離性障害)】

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「GERD」、患者さんに英語で説明するには?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第45回

医学用語紹介:胃食道逆流症 GERD「胃食道逆流症」を患者さんに説明する際に、専門用語であるGERD(gastroesophageal reflux disease)が通じなかった場合、どのような一般用語で言い換えればよいでしょうか?講師紹介

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