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危険な飲酒者、日本のプライマリケアにおける超短時間介入は減酒に有効?/BMJ

 プライマリケアにおける、危険な飲酒(hazardous drinking)者のアルコール摂取量を減らすための医師によるスクリーニングと超短時間介入(1分未満)は、スクリーニングのみと比較して飲酒量低減効果は認められなかった。岡山県精神科医療センターの宋 龍平氏らが、実践的なクラスター無作為化比較試験「Education on Alcohol after Screening to Yield moderated drinking study:EASY研究」の結果を報告した。危険な飲酒をしている患者に対する短時間介入はプライマリケアの現場で広く推奨されているが、さまざまな障壁のため実施率は低いままである。超短時間介入は、長時間のアドバイスやカウンセリングと同程度に有効であることを示した研究も一部にはあるが、報告は一貫しておらず、プライマリケアにおいて簡易評価(スクリーニングのみ)と超短時間介入の有効性を直接比較した無作為化試験はなかった。BMJ誌2025年8月12日号掲載の報告。スクリーニング+超短時間介入vs.スクリーニングのみを無作為化試験で評価 研究グループは、危険な飲酒について日常的なスクリーニングや短時間介入、アルコール依存症の治療や自助グループへの参加機会を提供していない西日本4府県(岡山、兵庫、大阪、広島)のプライマリケアクリニック40施設を、ブロック無作為化法によるコンピューター生成の無作為化シーケンスを用い介入群と対照群に無作為に割り付けた。 対象患者は、AUDIT-C(アルコール使用障害同定テスト-飲酒量)スコアが男性5以上、女性4以上の危険な飲酒をしている20~74歳の外来患者とした。 患者および患者報告アウトカムを収集するスタッフは、割り付けについて盲検化された。 介入群では、AUDIT-Cによるスクリーニングに続いて、1分未満で簡単な口頭アドバイスとアルコールに関する情報リーフレットの提供を実施し、対照群ではAUDIT-Cによる簡易評価のみとした。 主要アウトカムは、24週時における直前4週間の総飲酒量、副次アウトカムは12週時における直前4週間の総飲酒量、および12週時ならびに24週時の飲酒行動変容の意欲であった。総飲酒量に有意差なし 2023年6月29日~8月7日に、40施設において計3,537例が研究への参加に同意し、適格患者1,133例が追跡調査の対象集団となった(介入群:21施設531例、対照群:19施設602例)。 24週時の総飲酒量は、介入群で1,046.9g/4週(95%信頼区間[CI]:918.3~1,175.4)、対照群で1,019.0g/4週(893.5~1,144.6)であり、群間差は27.8g/4週(95%CI:-149.7~205.4、p=0.75)、Hedges’gは0.02(95%CI:-0.10~0.14)であった。 12週時の総飲酒量は、介入群で1,034.1g/4週(95%CI:919.6~1,148.7)、対照群で979.3g/4週(866.1~1,092.4)であり、群間差は54.9g/4週(95%CI:-104.1~213.9、p=0.49)、Hedges'gは0.04(95%CI:-0.08~0.16)であった。 数値スコアに変換して評価した飲酒行動変容への意欲(高スコアほど変化への意欲が高い)は、12週時(群間差:0.25[95%CI:0.12~0.39]、Hedges'g:0.21[95%CI:0.10~0.33])、24週時(0.19[0.05~0.32]、0.16[0.05~0.28])のいずれにおいても介入群が対照群と比べて高かった。 結果を踏まえて著者は、「日本のプライマリケア現場において、危険な飲酒やアルコール依存症の疑いのある患者の飲酒量を減らすことにおいて、超短時間介入がスクリーニングのみと比べて優れていることを裏付けるエビデンスは見つからなかった」とまとめている。

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早期乳がん、5年以上の内分泌療法後にAI投与5年で遠隔再発27%減/Lancet

 術後内分泌療法を5年以上施行した患者にアロマターゼ阻害薬療法(AIT)を追加で5年間実施することにより、順守率がかなり低かったにもかかわらず、その後の遠隔再発率は約25%減少した。英国・オックスフォード大学のJeremy Braybrooke氏らEarly Breast Cancer Trialists' Collaborative Group(EBCTCG)がメタ解析で明らかにした。エストロゲン受容体(ER)陽性早期乳がんの閉経後女性において、5年間のタモキシフェン術後内分泌療法は15年再発率と死亡率を大幅に低下させ、AITはさらに効果的である。研究グループは、少なくとも5年間の内分泌療法後に再発のない女性を対象に、AIT追加の有効性を評価した。著者は、「死亡への影響を直接評価するには、より長期の追跡調査が必要と考えられる」とまとめている。Lancet誌2025年8月9日号掲載の報告。5年以上の内分泌療法後の患者をAIT追加と追加治療なしに無作為化した試験をメタ解析 研究グループは、いずれも5年以上のタモキシフェン単独、AIT単独、またはタモキシフェン後AITの投与を完了した閉経後ER陽性早期乳がん患者を、さらに数年間のAITを追加した群(AIT群)と追加治療なし群(無治療群)に無作為化した2010年1月1日より前に開始された試験について、患者個人レベルのメタ解析を行った。 主要評価項目は、浸潤性乳がんの再発(局所再発、遠隔転移、対側新規発症)、乳がん死亡、その他の原因による死亡、および全死因死亡とし、ITT解析(割り付け順守の有無にかかわらず、年齢、リンパ節転移の有無、試験で層別化し、非関連死時点で打ち切り)によりイベント率比(RR)を算出した。 1995年12月15日~2014年5月21日に2万5,100例が登録された無作為化試験12件が解析対象となり、このうち適格患者2万2,031例が解析に組み込まれた。AIT後に5年間のAIT追加で、再発および遠隔再発が最も減少 AIT群は無治療群と比較して、再発率が27%低下した(RR:0.73、95%信頼区間[CI]:0.67~0.80、p<0.0001)。この低下は、タモキシフェン単独療法歴のある患者のほうがAIT治療歴のある患者より大きく、また、AITを5年追加した試験のほうが2~3年追加した試験より無治療群との差が大きかった。 AIT治療歴のある患者でAITを5年追加した患者(追加試験開始後の追跡期間中央値:8.1年、四分位範囲:6.0~10.0)では、再発(RR:0.71[95%CI:0.61~0.81、p<0.0001]、診断後5~15年のリスク:11.6%vs.15.2%)、ならびに遠隔再発(0.73[0.61~0.88、p=0.0010]、6.6%vs.8.6%)が有意に減少し、乳がん死は有意ではないものの減少した(RR:0.90[0.70~1.15、p=0.40]、4.4%vs.5.0%)。 腫瘍の特性は、5~15年までの再発率の相対的減少に明確な影響を及ぼさなかったが、AIT 10年間とAIT 5年間の再発率の絶対減少は、リンパ節転移陽性例(リスク:16.3%vs.20.1%)のほうがリンパ節転移陰性例(9.1%vs.11.8%)より大きかった。 AITの5年間追加により、5年後の骨折リスクが増加した(RR:1.35[95%CI:1.13~1.61、p=0.0009]、4.6%vs.3.4%)。 割り付けられた治療の非順守率は高かった(プラセボ対照試験の場合に、AIT追加群39.0%vs.プラセボ群37.6%)。

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肝臓がんの60%は予防可能

 進行が早く致死的となることも多い肝臓がんの60%は、重要なリスク因子を回避または治療することで予防できることが、新たな国際的研究で明らかにされた。重要なリスク因子とは、ウイルス性肝炎への罹患、アルコールの乱用、または肥満に関連する危険な肝脂肪の蓄積などであるという。論文の筆頭著者である香港中文大学(中国)のStephen Chan氏は、「各国がこれらのリスク因子に焦点を絞り、肝臓がんの発生を防いで人々の命を救う大きな機会があることを浮き彫りにする結果だ」と述べている。この研究は、肝臓がんに関する特別報告書として、「The Lancet」に7月28日掲載された。 Chan氏らによると、肝臓がんは世界で6番目に多いがんであり、がんによる死因の第3位である。肝臓がんの影響の大きさは国によって異なり、特に中国は、主にB型肝炎の蔓延により、世界の肝臓がん症例の42.4%を占めるほど症例数が多い。同氏らの報告書では、何らかの介入を行わなければ、世界の肝臓がん症例は2050年までにほぼ倍増し、年間150万件を超えると予測している。報告書の上席著者である復旦大学(中国)のJian Zhou氏は、「肝臓がんは、治療が最も難しいがんの一つであり、5年生存率は約5〜30%程度だ。現状を逆転させるための対策を今すぐにでも講じなければ、今後四半世紀で肝臓がんの症例数と死亡数がほぼ倍増する恐れがある」と危機感を示している。 肝臓がんの多くは予防可能である。予防可能な原因の一つである代謝機能障害関連脂肪肝疾患(MASLD)は、肝臓内に脂肪がゆっくりとだが着実に蓄積していく疾患で、肥満と関係していることが多い。Zhou氏らによると、世界人口の最大3分の1が何らかのレベルのMASLDに罹患しており、肥満率の上昇に伴いこの疾患の症例数も増加することが予測されているという。Zhou氏らは、2040年までに米国人の55%がMASLDに罹患し、肝臓がんの発症リスクも上昇すると予測している。  共著者の一人である米ベイラー医科大学のHashem El-Serag氏は、「肝臓がんはかつて、主にウイルス性肝炎、またはアルコール性肝障害の患者に発生すると考えられていた。しかし今日では、肥満率の上昇に伴いMASLDが増え、それに起因する肝臓がんが増加傾向にある」と指摘している。 一方、B型肝炎ウイルス(HBV)およびC型肝炎ウイルス(HCV)については、治療法の進歩により、肝炎が肝臓がんの発症に与える影響は弱まりつつあるという。Zhou氏らは、「HBVに関連する肝臓がん症例の割合は、2022年の39.0%から2050年には36.9%に、一方HCV関連の症例は同期間に29.1%から25.9%に減少すると予測されている」と述べている。研究グループは、B型肝炎ワクチンの接種やC型肝炎の検査・治療の強化により、肝臓がんの発生率をさらに低下させることができる可能性があるとしている。  肝臓がんの発生を低下させるためには、MASLDの診断と治療も役に立つ。El-Serag氏は、「肝臓がんリスクが高い患者を特定する方法の一つは、肥満、糖尿病、心血管疾患などのMASLDリスクが高い患者を対象に、日常的な医療行為に肝障害のスクリーニングを導入することだ。このスクリーニングは、健康的な食事と定期的な運動に関する啓発活動の強化に役立つだろう」と付け加えている。  研究グループは、肝臓がんの年齢標準化罹患率を年間2~5%削減するだけで、2050年までに世界中で880万~1730万件の新たな肝臓がん症例を予防できる可能性があるとしている。これは、最大1510万人の命を救うことを意味するという。

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認知症の診断までにかかる時間は平均3.5年

 典型的な認知症の症状が現れてから診断に至るまでには平均で3年半かかっていることが、新たな研究で示された。若年性認知症の場合には、診断までにかかる年数はさらに長くなることも少なくないという。論文の上席著者である英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)精神医学教授のVasiliki Orgeta氏らによるこの研究結果は、「International Journal of Geriatric Psychiatry」に7月27日掲載された。 Orgeta氏は、「認知症のタイムリーな診断は、治療へのアクセスを改善し、人によっては、症状が悪化する前の軽度の状態で過ごす期間を延ばすことにもつながる」と述べ、診断プロセスの迅速化の重要性を強調している。初期段階で投与すれば、アルツハイマー病の進行を遅らせることができる可能性のある薬剤が開発されたことで、認知症の早期診断はこれまで以上に重要になっていると同氏らは指摘する。 Orgeta氏らは、ヨーロッパ、米国、オーストラリア、中国で実施された13件の研究を対象にメタアナリシスを実施し、認知症の症状発現から診断までにかかる時間(time to diagnosis;TTD)と、TTDに影響を与える因子について検討した。13件の研究は、ヨーロッパ、米国、オーストラリア、中国で実施されたもので、解析対象者は合計で3万257人、認知症の発症年齢は54〜93歳であった。 13件中10件の研究を統合して解析した結果、全てのタイプの認知症における平均TTDは3.5年であった。また、65歳未満で発症する若年性認知症に関する6件の研究を用いた解析では、平均TTDは4.1年とやや長くなることが示された。TTDに影響を与える因子については研究間で一貫していなかったものの、若年性認知症や前頭側頭型認知症では、TTDが長くなる傾向が一貫して認められた。さらに、1件の研究では、黒人ではTTDが長い傾向が示されていた。 では、TTDがこれほど長くなる理由は一体何なのだろうか。共著者であるUCL精神医学部門のPhuong Leung氏は、「認知症の症状は正常な老化と間違われることが多い。また、恐怖や偏見、世間の認知度の低さから助けを求めるのを躊躇する人もいる」と述べている。研究グループによると、その他にも認知症が疑われる症例に対する非効率的な医師紹介システム、患者と医師の間の言語の壁、メモリークリニックのスタッフ不足なども、TTDが長くなる要因として挙げられるという。 Orgeta氏は、「認知症の診断を迅速化するために多方面からのアプローチが必要だ。啓発キャンペーンは、初期症状に対する理解を深め、偏見を減らし、人々がより早く助けを求めるよう促すのに役立つだろう。臨床医の研修も早期発見と紹介には欠かせない。さらに、早期介入と個別支援へのアクセスを向上させて、認知症患者とその家族が必要な支援を受けられるようにすることも不可欠だ」と話している。

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眼圧と呼吸機能に有意な関連、日本の大規模データが示す新知見

 呼吸機能と眼圧、一見無関係に見えるこの2つに意外な関連があるかもしれない。国内の約30万人の健診データの解析から、呼吸機能が低い人は眼圧が低い傾向にあることが示された。眼疾患における適切な眼圧管理では、呼吸機能も考慮すべきという示唆が得られたという。研究は、東京慈恵会医科大学眼科学講座の寺内稜氏、東海大学医学部基盤診療学系衛生学公衆衛生学の深井航太氏らによるもので、詳細は、「Scientific Reports」に7月1日掲載された。 緑内障は世界で2番目に多い失明原因であり、今後さらに患者数の増加が見込まれている。その発症と進行において眼圧は中心的な役割を果たしており、眼圧の上昇は唯一の修正可能なリスク因子とされている。眼圧は血圧や血糖、体格、年齢などの身体的因子によって影響を受けることが報告されているが、呼吸機能との関連については十分な検討がなされていない。過去に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の女性では眼圧が低下しているとの報告があるものの、再現性が不十分であり、その背景にある生理学的メカニズムも不明である。そこで本研究では、呼吸機能と眼圧の関連を検証する目的で、日本の大規模健診データを用いた横断研究を実施した。 本横断研究では、慈恵医大で作成されたJikeiデータセットおよび日本人間ドック・予防医療学会が作成したJapan Ningen Dock Study (JNDS)データセットを用いた。Jikeiデータセットには2015年1月1日~2018年12月31日までの間に東京慈恵会医科大学附属病院新橋健診センターで一連の健康診断を受けた者が含まれた。一方、JNDSデータセットは日本人間ドック・予防医療学会が主導した2014年度の大規模調査に基づくもので、全国129の医療機関が参加した。眼圧はノンコンタクトトノメーターで計測したが、JNDSにおいては施設間で使用機器が異なっていた。呼吸機能はスパイロメトリーを用いて、一秒率(FEV1%)、対標準一秒率(%FEV1)、対標準努力肺活量(%FVC)の各指標を計測した。呼吸機能指標と眼圧の関係は、右目の眼圧を従属変数とした多重線形回帰分析により検討した。 最終的にJikeiデータセットには1万361人(平均年齢50.3歳、女性33.9%)が含まれた。右眼の平均眼圧は12.7±2.8mmHgであり、FEV1%の低下に伴い眼圧が直線的に低下する傾向が認められた(β=0.020、95%信頼区間〔CI〕0.011~0.029、P<0.001)。また、FEV1%が70%未満の参加者では、健常とされる90~100%の群に比べて眼圧が0.641mmHg低く(95%CI -0.996~-0.286、P<0.001)、統計的に有意であった。 JNDSデータセットには28万3,199人(平均年齢51.7歳、女性37.7%)が含まれた。右眼の平均眼圧は13.3±2.9mmHgであり、FEV1%と眼圧との間に有意な正の相関が認められた(β=0.015、95%CI 0.013~0.016、P<0.001)。FEV1%が60%未満の参加者では、90~100%の群と比較して眼圧が0.888mmHg低く(95%CI -1.047~-0.729、P<0.001)、統計的に有意な差が確認された。 JikeiおよびJNDSの両データセットにおいて、眼圧とFEV1%の間には有意な正の相関が認められた。一方で、%FEV1および%FVCについては、いずれのデータセットでも眼圧との有意な関連はみられなかった。今回の調査で眼圧との関連が認められたFEV1%は、呼吸機能障害の中でも特に閉塞性換気障害を評価するために用いられる指標である。 本研究について著者らは、「本研究では閉塞性換気障害と眼圧の低下との関連が確認された。この関連は、2つの独立したデータセットにおいて一貫して認められた。今回の知見は、正確な眼圧管理において呼吸機能を考慮することの重要性を示唆している。なお、COPDによる眼循環の低下と、それに伴う房水産生の減少がこの結果の一因である可能性があるが、具体的な機序は不明であり、今後のさらなる研究が必要である」と述べている。

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夢の中でも熱血指導【Dr. 中島の 新・徒然草】(594)

五百九十四の段 夢の中でも熱血指導一瞬涼しくなったと思ったら再び猛暑が……外来の患者さんたちとも、熱中症談義をすることが多くなりました。とくに高齢者は、脱水になっても喉が渇かないからでしょうか。気付いたら発熱して動けなくなっていたというパターンをよく聞きます。ある高齢女性は、喉が渇いていなくても水分を摂るよう心掛けているのだとか。しかも、水、お茶、炭酸水、スポーツドリンクなどのボトルを並べておいて、順に飲んでいるそうです。確かに、同じものばかり飲んでいたら飽きてしまいますよね。さて、今回は先日見た夢について語りたいと思います。夢の中でも私は病院で働いていました。何やら研修医レクチャーがあって、そこで指導しているのです。ワイワイ、ガヤガヤとあまり話を聴いてもらえないので、声を張り上げなくてはなりません。 中島 「今日はコッツン外傷の話をするぞー!」 研修医A 「コッツン外傷って何ですか?」 中島 「ちょっと頭を打ったけど、心配だから診てほしいって人だ」 研修医B 「救急外来に来ます、そういう患者さん!」 2、3人は私の話を聴いてくれています。 中島 「何を見て何を判断するか。3つあるから順番に言ってみろ」 研修医C 「わかりませーん」 中島 「まずは頭部CTを撮影するか否かだろ」 一見大したことなさそうに見えても、患者さんが吐いたりボーッとしていたりしたら、頭部CTを撮影したほうがいいですね。 中島 「次は何だ。順不同でいいから言ってくれ!」 研修医A 「うーん、難しいです」 中島 「入院させるか、帰すかだ」 研修医B、C 「ワイワイ、ガヤガヤ」 夢の中とはいえ、もはや誰も耳を貸してくれません。でも、入院か帰宅かというのは必ず決めなくてはならないので、慎重な判断が必要。患者さんを自宅に帰した後で急変した、などということがあったら最悪です。私自身は高齢者、抗血栓療法中、飲酒後、脳神経外科手術の既往など、リスクがある人は入院の上、一晩の経過観察をお勧めしています。そういった明らかなリスクがなくても、付き添いの家族が入院を懇願する、一人暮らし、何だか嫌な予感がする、といった些細な理由も無下に扱ってはなりません。 中島 「3つある中の最後、何を判断する?」 研修医B 「わーかりーませーん!」 中島 「頭の医者を呼ぶか否か、だろ。しっかりしてくれよ」 大阪医療センターでは脳当直というのがあって、脳神経外科医か脳神経内科医のどちらかが、必ず院内に待機しています。なので、脳外科医を自宅から呼び出すとか、他院に転送するとかいう必要はありません。でも、午前3時にコッツン外傷で脳当直を叩き起こすのは、研修医にとってハードルが高いことでしょう。ただ、私が研修医にいつも言っているのは「こんなことで呼ぶなよ!」と怒鳴られるほうが、「何でオレに連絡しなかったんだ!」と怒られるよりも100倍マシだということです。後者の場合は、すでにトラブルが起こってしまっているわけですから。ということで、夢の中でも研修医指導してしまったというお話です。考えてみれば、平成半ば頃は当直体制もあまりしっかりしておらず、トラブルが頻発していました。でも、令和の今ではCT撮影もスムーズ、脳当直も爽やか対応で入院・帰宅の判断をしてくれるし、研修医にとってははるかに働きやすくなったことと思います。そうそう、働き方改革で当直明けにすぐに研修医が帰れるのも大きな変化ですね。とはいえ、いつも何かしら困ったことが起こるのが人の世の常。新たなトラブルについては、また改めてお話しする機会を持ちたいと思います。最後に1句 夜が更けて 残暑の中で 診療す

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8月21日 治療アプリの日【今日は何の日?】

【8月21日 治療アプリの日】〔由来〕株式会社CureAppが製造・販売する「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ」が厚生労働省から薬事承認を取得した2020年8月21日を記念して制定。治療アプリは、従来の医薬品やハードウェア医療機器では治療効果が不十分だった病気を治すためのもので、アプリを第3の治療法として多くに人に知ってもらい、活用してもらうことが目的。関連コンテンツ保険適用の高血圧治療用アプリとは?【治療用アプリの処方の仕方】高血圧治療用アプリの臨床的意義【治療用アプリの処方の仕方】今後の高血圧治療における治療アプリの役割は?【治療用アプリの処方の仕方】コンビニと症状検索アプリが連携、何のため?【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】TAV in TAV承認で見えてきた課題と新アプリの役割/日本心不全学会

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胆道系疾患へのエコー(1):3つ組み肝小葉構造の理解【Dr.わへいのポケットエコーのいろは】第4回

胆道系疾患へのエコー(1):3つ組み肝小葉構造の理解今回から、3回にわたって胆道系疾患の手技を紹介します。ここでは「脈管を鑑別できる」「胆嚢炎を診断できる」「閉塞性黄疸を疑える」「閉塞起点がわかる」という目標を設定して解説していきます。今回は脈管の鑑別について、ポケットエコーの手技を解説します。3つ組み肝小葉構造が観察できると、肝内の脈管を鑑別することができます。脈管を鑑別する早速ですが、図1の白い矢印と赤い矢印が指してるものはわかるでしょうか?図1 肝臓のエコー像画像を拡大する白い矢印は白く厚い線に囲まれていますが、赤い矢印は、黒い丸がメインで見え、あまり白い線が目立っていません。肝臓の脈管構造を考えてみましょう。肝臓には主に4種類の脈管がありますが、そのうち肝静脈だけが、他の脈管(門脈、肝動脈、肝内胆管)とは走行が異なっています(図2)。図2 肝臓の構造とエコー像画像を拡大するしたがって、白く厚い線に囲まれている方が、門脈、肝動脈、肝内胆管からなる「3つ組み」の構造です。 これらの脈管は、この3つ組みに沿って走行しています。そのため、とくに肝内胆管の脈管を見たい場合は、この3つ組みの構造に沿って観察を進めることが重要になります。それでは、実際のエコーの手技を見ていきましょう。どうでしょうか。白く厚い線の管が3つ組みで、黒い管がメインの方は肝静脈であることが見てとれたと思います。肝静脈は、追っていくと下大静脈に合流することが確認できます。また、3つ組みについては、門脈が主体で見えていますが、詳細に観察することで肝内胆管などの脈管構造がわかります。それでは、次回は「胆嚢をさまざまなアプローチで描出する方法」について紹介します。

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第24回 「先生、死にたいです」その声にどう向き合うか。NY州、「尊厳ある死」へ歴史的転換点

米国・ニューヨーク州において、終末期の患者が自らの意思で死を選択することを認める「医療的死亡援助(Medical Aid in Dying:MAID)」の合法化に向けた法案が、州議会を通過しました1)。アメリカ国内でこの制度を導入する州が広がりを見せる中、国内有数の大都市を抱えるニューヨーク州でのこの動きは、個人の尊厳や自己決定権を巡る議論に大きな影響を与える可能性があります。法案は現在、知事の署名を待つ段階にあり、その判断に全米から注目が集まっています。この法案が成立すれば、ニューヨーク州はオレゴン州やカリフォルニア州などに続き、この制度を認める11番目の州となります。著者の所属する医療機関でも、法案成立に備えて倫理委員会での院内方針の策定を準備する動きが見られる一方、「知事が署名するまでは現行法上、違法行為である」として、職員に慎重な対応を求める通達を出すなど、各医療現場は重要な転換点を前に緊張感を漂わせています。長年にわたり議論が続けられてきたこの法案の議会通過は、終末期医療における患者の権利を重視する声が、社会的に一定の支持を得たことを示しているのかもしれません。しかし、生命の尊厳を巡る倫理的・宗教的な対立も根強く、法案の成立がゴールではなく、新たな議論の始まりとなることも間違いないでしょう。「安楽死」との違いは「自己決定」の最終段階このニュースを理解するうえで、しばしば混同されがちな「安楽死」との違いを明確にすることが不可欠です。「医療的死亡援助(MAID)」と、一般的に「積極的安楽死」と呼ばれる行為との間には、法制度上、そして倫理上、決定的な違いが存在しています2)。医療的死亡援助(MAID)で対象となるのは、回復の見込みがない末期疾患と診断され、精神的に正常な判断能力を持つ成人の患者です。複数の医師による診断を経て、患者が自発的に繰り返し要請した場合に、医師は致死量の薬剤を「処方」します。しかし、その最終的な服用は、患者自身の意思と行為によって行われます。ここが安楽死との大きな違いです。医師の役割はあくまで処方までであり、直接的な生命の終結には関与しません。「自己決定権」を最大限に尊重した形とされる所以です。一方、積極的安楽死は、患者本人の同意に基づき、医師が注射などの手段を用いて直接的に患者の生命を終結させる行為を指します。最終的な行為の主体が医師である点が、MAIDとの最も大きな違いです。ベルギーやオランダなど一部の国では合法化されていますが、アメリカの多くの州では殺人罪に問われる違法行為です。今回ニューヨーク州で議論されているのは、あくまでも前者、つまり患者自身の最終的な選択を核とする「医療的死亡援助」です。この推進派が「医師による自殺ほう助(Physician-Assisted Suicide)」という言葉を避け、「医療的死亡援助」という呼称を好む背景には、この「自己決定」の側面を強調し、ネガティブなイメージを払拭したいという意図もあるようです。倫理的ジレンマ――賛成論と反対論の狭間で「医療的死亡援助」の合法化を巡る議論は、米国社会が抱える複雑な価値観の対立を映し出しているともいえます1)。賛成論の根拠となっているのは、主に「個人の尊厳」と「自己決定権」です。背景に、「耐えがたい苦痛を伴う延命治療を続けるよりも、自らが選んだタイミングで尊厳を保ったまま人生の幕を下ろす権利は保障されるべきだ」という考え方があります。現代医療でもなかなか緩和できない苦痛からの解放は、人道的な選択肢の一つとして認められるべきだという声が強いのです。すでに制度を導入しているオレゴン州では、25年以上にわたる運用実績があり、厳格な条件下で適切に機能していると評価されています。一方で、反対論も根強く存在します。まず、宗教的な観点から「生命の神聖さ」を侵す行為であるという批判があります。また、「滑り坂(スリッパリー・スロープ)理論」への懸念もあります。これは、一度合法化を認めると、当初は終末期の成人に限定されていた対象が、次第に障害や精神疾患の苦痛に悩む人たち、認知症の高齢者などへと安易に拡大解釈されてしまうのではないか、という危惧です。さらに、高額な治療費の負担に苦しむ患者やその家族が、経済的な理由から死を選んでしまうという「誘導」になりかねないという指摘もあります。命を救うことを使命とする医師が、人の死に関与することへの倫理的なジレンマもまた、医療界内部で議論が分かれる理由です。ニューヨーク州知事がどのような決断を下すのか、その行方はまだ不透明です。しかし、今回の法案通過が、終末期医療のあり方、そして「いかに生き、いかに死ぬか」という根源的な問いを、社会全体で改めて考える大きなきっかけとなっていることは間違いありません。その結論は、州を越えてアメリカ全土の、そして世界の国々の議論にも影響を与えていく可能性があると思います。では、どう向き合うか。「死にたい」という言葉の裏にあるものでは、「医療的死亡援助」が法的に認められていない現状で、患者から「先生、死にたいです。手伝ってもらえますか?」と問われたら、医療者はどう向き合うべきでしょうか。この問いに対し、ティモシー・E・クイル氏の論文3)は、安易な肯定や否定ではなく、まず患者の苦しみを深く理解しようと努める対話の重要性を説いています。とても古い論文ですが、その内容は現在でも参考になります。この論文によれば、患者の「死にたい」という言葉の裏側には、必ずしも死そのものへの望みがあるというわけではなく、多くの場合、対処可能な別の問題が隠されています。したがって、医師の最初の応答は「あなたを助けたいと思っています。そのために、まずはあなたの苦しみと願いを理解させてください」といった、対話を開く姿勢がきわめて重要です。患者の願いの背景には、主に以下のような要因が考えられます。1.治療への疲弊繰り返される辛い治療に疲れ果て、これ以上の延命ではなく、残された時間を穏やかに過ごしたいという願いの表れである場合があります。この場合、治療の目標を「治癒」から「快適さ(コンフォート)」へと切り替えることで、患者は安堵を取り戻し、死にたいという思いが解消される可能性があります。2.身体的苦痛痛みを我慢しているケースも少なくありません。たとえば、麻薬性鎮痛薬への「依存」を恐れるあまり、激しい痛みを誰にも打ち明けられないでいることがあります。適切な知識に基づき、痛みを積極的にコントロールすることで、死にたいという思いが解消されることも多いのです。3.心理社会的・精神的な苦痛家族への負担を思い悩んだり、信仰上の葛藤を抱えたり、あるいは臨床的な「うつ病」が原因である可能性も考慮すべきでしょう。家族会議の実施、ソーシャルワーカー、聖職者、精神科医、心理療法士といった専門家との連携によって、解決の糸口が見つかることもあります。そして、最も主治医に求められるのは、患者を見捨てないという約束です。「どんなに辛い状況になっても、決してあなたを見捨てず、最後まで痛みを和らげ、尊厳を保てるよう最善を尽くします」と約束し、寄り添い続けることが、患者にとって大きな支えとなります。また、患者の言葉の裏にある真意を探り、その苦しみに共感し、解決策を共に創造していくプロセスそのものが、治療的な意味も持ちます。死を直接手伝うという選択肢がなくても、医療者は患者の苦しみに最後まで向き合い、尊厳ある最期を支えるという本来の役割を全うすることができるのです。「医療的死亡援助」を認めるべきかどうかという議論は、時に患者の視点を置き去りにし、「そもそもなぜ」という大切な視点を忘れ去らせてしまうことがあります。私たち医療者は今こそ原点に立ち返り、このような視点を大切にしていきたいものです。 1) Ashford G. New York Moves to Allow Terminally Ill People to Die on Their Own Terms. The New York Times. 2025 Jun 9. 2) Quill TE, et al. Palliative options of last resort: a comparison of voluntarily stopping eating and drinking, terminal sedation, physician-assisted suicide, and voluntary active euthanasia. JAMA. 1997;278:2099-2104. 3) Quill TE. Doctor, I want to die. Will you help me? JAMA. 1993;270:870-873.

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片頭痛予防に有効な食事パターンは?

 片頭痛は、患者の生活の質に重大な影響を及ぼす一般的な神経疾患である。食事パターンは、片頭痛の予防とマネジメントにおいて、潜在的に重要な因子として認識されている。イラン・Kerman University of Medical SciencesのVahideh Behrouz氏らは、地中海式ダイエット、高血圧予防のための食事療法DASH食、神経発生遅延のための地中海-DASH食介入(MIND)、ケトジェニックダイエット、低脂肪食、低血糖食、グルテンフリーダイエット、断食ダイエットなど、さまざまな食事パターンを比較分析し、片頭痛の予防とマネジメントにおける有効性を評価し、その根底にあるメカニズムを明らかにするため、システマティックビューを実施した。Brain and Behavior誌2025年7月号の報告。 2023年8月までに公表された観察研究および介入研究をPubMed、Web of Science、Scopusデータベースよりシステマティックに検索した。 主な結果は以下のとおり。・地中海式ダイエット、DASH食、MIND、ケトジェニックダイエット、低脂肪食、低血糖食、グルテンフリーダイエットなどの特定の食事パターンに従うことは、とくにグルテン過敏症の患者において、片頭痛の症状改善に有望な結果が示された。・地中海式ダイエット、DASH食、MINDといった植物性食事パターンに多く含まれる植物性ポリフェノール、野菜、食物繊維、脂肪分の多い魚、豆類、低脂肪乳製品の摂取量増加は、片頭痛の症状改善との関連が認められた。・片頭痛の臨床的特徴は、食事の脂肪の種類と量の変化に伴って改善することが示唆された。・ケトジェニックダイエットとω3脂肪酸の摂取を重視した低脂肪食は、いずれも片頭痛の臨床的特徴に対する有望な介入である可能性が示された。・断食や食事を抜くことは、片頭痛発作の悪化と関連が認められた。・全体として、これらの食事療法は、ミトコンドリア機能の改善、神経保護、血管緊張の調節、酸化ストレス/神経炎症の抑制、片頭痛の病因に関与するカルシトニン遺伝子関連ペプチドのレベルの低減など、さまざまな細胞経路において主要な役割を果たす可能性が示唆された。 著者らは「特定の食事療法を選択することは、片頭痛患者にとって実行可能なアプローチとなる可能性があり、明確なガイドラインを確立するためにもさらなる研究が求められる」と結論付けている。

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「高齢者の安全な薬物療法GL」が10年ぶり改訂、実臨床でどう生かす?

 高齢者の薬物療法に関するエビデンスは乏しく、薬物動態と薬力学の加齢変化のため標準的な治療法が最適ではないこともある。こうした背景を踏まえ、高齢者の薬物療法の安全性を高めることを目的に作成された『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』が2025年7月に10年ぶりに改訂された。今回、ガイドライン作成委員会のメンバーである小島 太郎氏(国際医療福祉大学医学部 老年病学)に、改訂のポイントや実臨床での活用法について話を聞いた。11領域のリストを改訂 前版である2015年版では、高齢者の処方適正化を目的に「特に慎重な投与を要する薬物」「開始を考慮するべき薬物」のリストが掲載され、大きな反響を呼んだ。2025年版では対象領域を、1.精神疾患(BPSD、不眠、うつ)、2.神経疾患(認知症、パーキンソン病)、3.呼吸器疾患(肺炎、COPD)、4.循環器疾患(冠動脈疾患、不整脈、心不全)、5.高血圧、6.腎疾患、7.消化器疾患(GERD、便秘)、8.糖尿病、9.泌尿器疾患(前立腺肥大症、過活動膀胱)、10.骨粗鬆症、11.薬剤師の役割 に絞った。評価は2014~23年発表の論文のレビューに基づくが、最新のエビデンスやガイドラインの内容も反映している。新薬の発売が少なかった関節リウマチと漢方薬、研究数が少なかった在宅医療と介護施設の医療は削除となった。 小島氏は「当初はリストの改訂のみを行う予定で2020年1月にキックオフしたが、新型コロナウイルス感染症の対応で作業の中断を余儀なくされ、期間が空いたことからガイドラインそのものの改訂に至った。その間にも多くの薬剤が発売され、高齢者にはとくに慎重に使わなければならない薬剤も増えた。また、薬の使い方だけではなく、この10年間でポリファーマシー対策(処方の見直し)の重要性がより高まった。ポリファーマシーという言葉は広く知れ渡ったが、実践が難しいという声があったので、本ガイドラインでは処方の見直しの方法も示したいと考えた」と改訂の背景を説明した。「特に慎重な投与を要する薬物」にGLP-1薬が追加【削除】・心房細動:抗血小板薬・血栓症:複数の抗血栓薬(抗血小板薬、抗凝固薬)の併用療法・すべてのH2受容体拮抗薬【追加】・糖尿病:GLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬・正常腎機能~中等度腎機能障害の心房細動:ワルファリン 小島氏は、「抗血小板薬は、心房細動には直接経口抗凝固薬(DOAC)などの新しい薬剤が広く使われるようになったため削除となり、複数の抗血栓薬の併用療法は抗凝固療法単剤で置き換えられるようになったため必要最小限の使用となっており削除。またH2受容体拮抗薬は認知機能低下が懸念されていたものの報告数は少なく、海外のガイドラインでも見直されたことから削除となった。ワルファリンはDOACの有効性や安全性が高いことから、またGLP-1(GIP/GLP-1)受容体作動薬は低体重やサルコペニア、フレイルを悪化させる恐れがあることから、高齢者における第一選択としては使わないほうがよいと評価して新たにリストに加えた」と意図を話した。 なお、「特に慎重な投与を要する薬物」をすでに処方している場合は、2015年版と同様に、推奨される使用法の範囲内かどうかを確認し、範囲内かつ有効である場合のみ慎重に継続し、それ以外の場合は基本的に減量・中止または代替薬の検討が推奨されている。新規処方を考慮する際は、非薬物療法による対応で困難・効果不十分で代替薬がないことを確認したうえで、有効性・安全性や禁忌などを考慮し、患者への説明と同意を得てから開始することが求められている。「開始を考慮するべき薬物」にβ3受容体作動薬が追加【削除】・関節リウマチ:DMARDs・心不全:ACE阻害薬、ARB【追加】・COPD:吸入LAMA、吸入LABA・過活動膀胱:β3受容体作動薬・前立腺肥大症:PDE5阻害薬 「開始を考慮するべき薬物」とは、特定の疾患があった場合に積極的に処方を検討すべき薬剤を指す。小島氏は「DMARDsは、今回の改訂では関節リウマチ自体を評価しなかったことから削除となった。非常に有用な薬剤なので、DMARDsを削除してしまったことは今後の改訂を進めるうえでの課題だと思っている」と率直に感想を語った。そのうえで、「ACE阻害薬とARBに関しては、現在では心不全治療薬としてアンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、SGLT2阻害薬が登場し、それらを差し置いて考慮しなくてもよいと評価して削除した。過活動膀胱治療薬のβ3受容体作動薬は、海外では心疾患を増大させるという報告があるが、国内では報告が少なく、安全性も高いため追加となった。同様にLAMAとLABA、PDE5阻害薬もそれぞれ安全かつ有用と評価した」と語った。漠然とした症状がある場合はポリファーマシーを疑う 高齢者は複数の医療機関を利用していることが多く、個別の医療機関での処方数は少なくても、結果的にポリファーマシーとなることがある。高齢者は若年者に比べて薬物有害事象のリスクが高いため、処方の見直しが非常に重要である。そこで2025年版では、厚生労働省より2018年に発表された「高齢者の医薬品適正使用の指針」に基づき、高齢者の処方見直しのプロセスが盛り込まれた。・病状だけでなく、認知機能、日常生活活動(ADL)、栄養状態、生活環境、内服薬などを高齢者総合機能評価(CGA)なども利用して総合的に評価し、ポリファーマシーに関連する問題点を把握する。・ポリファーマシーに関連する問題点があった場合や他の医療者から報告があった場合は、多職種で協働して薬物療法の変更や継続を検討し、経過観察を行う。新たな問題点が出現した場合は再度の最適化を検討する。 小島氏らの報告1,2)では、5剤以上の服用で転倒リスクが有意に増大し、6剤以上の服用で薬物有害事象のリスクが有意に増大することが示されている。そこで、小島氏は「処方の見直しを行う場合は10剤以上の患者を優先しているが、5剤以上服用している場合はポリファーマシーの可能性がある。ふらつく、眠れない、便秘があるなどの漠然とした症状がある場合にポリファーマシーの状態になっていないか考えてほしい」と呼びかけた。本ガイドラインの実臨床での生かし方 最後に小島氏は、「高齢者診療では、薬や病気だけではなくADLや認知機能の低下も考慮する必要があるため、処方の見直しを医師単独で行うのは難しい。多職種で協働して実施することが望ましく、チームの共通認識を作る際にこのガイドラインをぜひ活用してほしい。巻末には老年薬学会で昨年作成された日本版抗コリン薬リスクスケールも掲載している。抗コリン作用を有する158薬剤が3段階でリスク分類されているため、こちらも日常診療での判断に役立つはず」とまとめた。

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官民学で肥満対策に取り組む千葉市の事例/千葉市、千葉大、ノボ

 国民の健康維持や医療費の削減などのため、肥満や過体重に対するさまざまな取り組みが行われている。今回、千葉市とノボ ノルディスク ファーマは、官民学連携による肥満・肥満症対策の千葉モデルの実施について「肥満・肥満症対策における課題と実態調査から見る官民学連携による千葉モデルの展望」をテーマに、メディアセミナーを開催した。セミナーでは、千葉市との連携の経緯やその内容、肥満症に関する講演、肥満症に関係する課題や今後の取り組みなどが説明された。官民学で千葉市から始まる新しい健康作りの流れ 同社が2024年9月に実施した全国47都道府県9,400人へのアンケート調査「肥満と肥満症に関する実態調査」によれば、「太っていることが原因で他人からネガティブなことを言われた内容」について、「体型が好ましくない」(57.6%)、「運動不足である」(45.5%)、「だらしない、怠惰である」(34.5%)の順で多かった。また。「『肥満』を解消するために医療機関を受診しなかった理由」では、「肥満は自己責任だと思うから」(39.8%)、「医療機関に行くとお金がかかるから」(35.4%)、「相談するほどの肥満だと思っていないから」(25.0%)の順で多く、肥満や肥満症に関するスティグマ(偏見)、社会的偏見の存在が確認されたという。 そこで、こうした課題に対し、2024年10月に千葉市と肥満および肥満症に関する環境を整備し、千葉市がより健康な社会を実現するモデル都市になることを目指すことを目的に協定を締結した。具体的には、地域住民・保健医療関係者の肥満・肥満症の理解向上、関連疾患の分析、子供の健康応援などの事項について連携を行うとされている。 はじめに千葉市長の神谷 俊一氏が、千葉市は最重要政策の柱の1つに「市民一人ひとりの健康寿命を伸ばし、誰もが豊かに暮らせる地域社会を作ること」を掲げていること、そのために「市民の健康に関する意識の向上を図り、行動変容を促し、健康作りに取り組みやすい社会環境を作る行動の後押しとしたい」と語り、今後は、三者が相互に協力しながら、市民の健康増進に取り組んでいき、「千葉市から始まる新しい健康作りの流れが全国へ波及していく第一歩となることを願う」と抱負を語った。肥満者の約4割が医師に相談は不要と回答 続いて基調講演として「肥満および肥満症 千葉市民の実態調査結果を踏まえて」をテーマに千葉大学学長の横手 幸太郎氏が、肥満症診療の要点と実態調査の内容などを解説した。 「わが国では20歳以上の肥満者は男性31.7%、女性21.0%とされ、年々BMI35以上の高度肥満も増えている」と疫学を示した上で、肥満と肥満症、メタボリックシンドロームは、概念が個々で異なり、肥満はBMI25以上、肥満症は、肥満(BMIが25以上)かつ、(1)肥満による耐糖能異常、脂質異常症、高血圧などの11種の健康障害(合併症)が1つ以上ある、または(2)健康障害を起こしやすい内臓脂肪蓄積がある場合に肥満症と診断されている。また、肥満症は治療が必要な疾患とされ、治療では食事、運動、行動、薬物療法、外科的療法が行われている。 そして、肥満・肥満症の原因としては、自己責任だけでなく、現在の研究では、遺伝的要因、職業要因などさまざまな要因により起こることが指摘されており、肥満・肥満症になることでスティグマや経済的問題、睡眠不足やメンタルヘルスなどの疾患など課題もあると説明した。 次に2025年3月に千葉市が市民に行った「肥満および肥満症に関する実態調査」について触れ、この調査は、千葉市民の男女2,400人(年齢20~70代)にインターネットで調査したもので、肥満症の認知について、「知っている」という回答は16.9%に止まり、医師への相談意向についても「思う・やや思う」で31.0%だった。その理由としては「相談するほど肥満だと思っていない」が43.4%で1番多かった。また、「肥満の人への印象」では、「運動不足である」が45.5%で1番多かった。 これらの調査を踏まえて横手氏は、「肥満はリスクであり、肥満症は病気である。一方、肥満・肥満症は自己責任だけでなくさまざまな要因が関連している。今回実施した千葉市民の肥満・肥満症に関する実態調査でも、千葉市民における肥満・肥満症に対する正しい理解の不足、そしてスティグマが存在することが明らかになった。予防だけでなく、治療を通して長きにわたる良い管理をして健康を保つためにも、スティグマの払拭が必要。自分で抱えることなく、それを社会でサポートして、リスクを認知し、どうやってそれを乗り越えて元気で長生きを実現するかが必要であり、今千葉市でこうした動きが出ている」と語り、講演を終えた。子供の健康応援を全世界で実施 次に「プロジェクトの進捗」について、同社の広報・サステナビリティ統括部の川村 健太朗氏が、今回の連携で行われている施策を紹介した。 3月4日「世界肥満デー」に合わせた疾患啓発として、千葉市の『市政だより』やSNSで肥満や肥満予防に関する記事の発信のほか、先述の実態調査を行ったこと、市民公開講座を実施したこと、大阪万博での発表などの取り組みが紹介された。 とくに3回にわけて行われた「ロゴ・スローガンの開発ワークショップ」では、官民学連携による新しい肥満・肥満症対策の取り組みが議論され、「みんなで気づく、みんなで動く。千葉市肥満と肥満症をほっとかない! プロジェクト」のローンチとロゴが決定されたことを紹介した。 最後に「今後に向けて」をテーマに同社の医療政策・渉外本部長の濱田 いずみ氏が同社の今後の取り組みを説明した。 肥満症の克服には社会的な連携が必要であること、そして、幼児期から思春期に肥満の子供は、成人後に肥満になる可能性が5倍高く、不安障害やうつ病のリスクも高いことが研究で示されていることから、今回の連携協定では「子供の健康応援」が含まれ、子供が健康に育つために運動と食事改善、地域に根ざした多様なアプローチなど仕組み作りを行うという。この取り組みは、世界5ヵ国(カナダ、スペイン、ブラジル、南アフリカ、日本)で展開しており、千葉市もその一環であることが説明され、「今後も肥満症を始めとする深刻な慢性疾患の克服に全社を挙げて取り組んでいく」と決意を述べた。

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狂犬病予防レジメン、モノクローナル抗体は有用か/Lancet

 狂犬病は、ほぼ確実に死に至る、主としてアジアとアフリカの低・中所得国で影響の大きいウイルス性疾患の人獣共通感染症である。ワクチンと免疫グロブリンによる曝露後予防(PEP)がきわめて効果的だが、狂犬病免疫グロブリン(ヒト狂犬病免疫グロブリン[HRIG]またはウマ狂犬病免疫グロブリン[ERIG])の製造・供給にさまざまな制約があり、低・中所得国の狂犬病への高リスク曝露例の大半は、狂犬病免疫グロブリンによる予防的治療を受けていないという。インド・Serum Institute of IndiaのPrasad S. Kulkarni氏らRAB-04 study groupは、同国で開発され2016年に受動的予防法として承認された世界初の狂犬病モノクローナル抗体(RmAb、Serum Institute of India製[Pune])について市販後調査を実施。RmAbは安全で忍容性は良好であり、狂犬病に対する予防効果が示されたことを報告した。Lancet誌2025年8月9日号掲載の報告。無作為化試験で免疫グロブリンレジメンと比較 研究グループはインドの3次救急病院15ヵ所で、RmAbを含むPEPレジメンの長期安全性、免疫原性および有効性を評価する、第IV相非盲検無作為化実薬対照試験を行った。 対象は、WHOの狂犬病曝露カテゴリー3(狂犬病感染が疑われる動物による曝露)を有する2歳以上で、試験登録前72時間未満に曝露があった患者(顔、首、手、指への曝露については試験登録前24時間未満)を適格とした。 被験者を、RmAb+精製Vero細胞狂犬病ワクチン(PVRV[Rabivax-S])またはERIG(Equirab製)+PVRVのいずれかのPEPを受ける群に3対1の割合で無作為に割り付けた。さらに各群で、筋肉内投与または皮内投与を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。各試験群には、ブロックサイズ8の並び替えブロックデザインを用いて割り付けられ、試験開始前に中央無作為化リストが作成され、双方向ウェブ応答システムを用いて無作為化された。免疫原性の検査担当者は割り付けを知らされなかった。 RmAb(3.33 IU/kg)およびERIG(40 IU/kg)は、WHO 2018推奨に従い0日目にのみ創傷内および創傷周囲に注射投与した。PVRVは、1.0mLを筋肉内投与(0日目、3日目、7日目、14日目、28日目:Essenレジメン)または0.1mL+0.1mLを皮内投与(0日目、3日目、7日目、28日目:updated Thai Red Crossレジメン)した。 主要アウトカムは予防的治療後365日までの治療関連重篤有害事象で、安全性解析対象集団(ワクチンと予防的治療を1回以上受けた全被験者)で評価した。また、狂犬病ウイルス中和抗体濃度の幾何平均値(GMC)をサブ対象集団で評価した。主要アウトカムの治療関連重篤有害事象は0件、長期の免疫応答を確認 2019年8月21日~2022年3月31日に、4,059例が登録・無作為化された。計3,994例(男性3,001例、女性993例)がPEPレジメンによる治療を受けた(RmAb+PVRV群2,996例、ERIG+PVRV群998例)。両群のベースライン特性は類似しており、平均年齢はRmAb+PVRV群30.3(SD 17.0)歳、ERIG+PVRV群30.6(17.5)歳、18歳未満の被験者がいずれも25.1%であった。また、曝露動物は犬がそれぞれ93.5%と92.6%。曝露から無作為化までの平均時間は15.1時間と15.4時間であった。 3,622例(90.7%)が1年間のフォローアップを完了した。 治療関連有害事象は、RmAb+PVRV群11件、ERIG+PVRV群で17件が報告された。ほとんどの有害事象は、軽度で一過性であった。 重篤な有害事象は、RmAb+PVRV群7例で7件報告されたが、すべて治療との関連は認められなかった。ERIG+PVRV群では治療と関連がある重篤な有害事象が1件報告された。 14日目に狂犬病ウイルス中和抗体濃度のGMCは、RmAb+PVRV群は16.05 IU/mL(95%信頼区間[CI]:13.25~19.44)に、ERIG+PVRV群は13.48 IU/mL(9.51~19.11)に上昇した(GMC比のポイント推定値:1.19[95%CI:0.82~1.72])。 1年間のフォローアップ中、狂犬病を発症した被験者はいなかった。 結果を踏まえて著者は、「RmAb+PVRVのPEPレジメンは、免疫原性が認められ、免疫応答は長期にわたり持続した」とまとめている。

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脳梗塞発症後4.5~24時間、アルテプラーゼ静注vs.標準薬物治療/JAMA

 虚血性脳卒中発症後4.5時間以降における静脈内血栓溶解療法の安全性と有効性については、いまだ十分な検討は行われていない。中国・Second Affiliated Hospital of Zhejiang University, School of MedicineのYing Zhou氏らHOPE investigatorsは無作為化試験において、灌流画像で救済可能組織が確認され、血栓除去術が当初予定されなかった急性虚血性脳卒中患者では、発症後4.5~24時間以内のアルテプラーゼ静脈内投与は、症候性頭蓋内出血は増加したが機能的アウトカムのベネフィットが得られたことを示した。JAMA誌オンライン版2025年8月7日号掲載の報告。無作為化試験で、90日時点の機能的自立を評価 研究グループは、中国の26ヵ所の脳卒中センターで無作為化非盲検エンドポイント盲検化試験を行った。2021年6月21日~2024年6月30日に、主幹動脈閉塞を問わず灌流画像で救済可能組織が確認された虚血性脳卒中を呈した患者372例を登録した。脳卒中発症(発症が不明の場合は、最終健常確認と症状確認の中間時点)が受診前4.5~24時間であり、血栓除去術が当初予定されなかった患者を適格とした。 被験者は、最小化アルゴリズムを用いて1対1の割合で、アルテプラーゼ静注(0.9mg/kg、最大用量90mg)を受ける群(186例)または標準的な薬物治療を受ける(対照)群(186例)に割り付けられた。 主要有効性アウトカムは機能的自立で、90日時点の修正Rankinスケールスコア0~1と定義した。安全性アウトカムは、36時間以内の症候性頭蓋内出血、90日以内の全死因死亡などとした。 データ解析は2024年12月~2025年2月に行われた。機能的自立40%vs.26%、症候性頭蓋内出血3.8%vs.0.5% 登録された372例は、年齢中央値72歳(四分位範囲:64~80)、女性が160例(43%)であり、全例が試験を完了した。 主要アウトカムの機能的自立は、アルテプラーゼ群75/186例(40%)、対照群49/186例(26%)で報告された(補正後リスク比:1.52[95%信頼区間[CI]:1.14~2.02]、p=0.004、補正前リスク群間差:13.98%[95%CI:4.50~23.45])。 36時間以内の症候性頭蓋内出血は、アルテプラーゼ群(7/185例、3.8%)が対照群(1/182例、0.5%)と比べて高率であった(補正後リスク比:7.34[95%CI:1.54~34.84]、p=0.01、補正前リスク群間差:3.23%[0.28~6.19])。 90日以内の全死因死亡は、アルテプラーゼ群(20例、10.8%)が対照群(20例、10.8%)と同等であった(補正後リスク比:0.91[95%CI:0.52~1.62]、p=0.76、補正前リスク群間差:0%[-6.30~6.30])。

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がん免疫療法の効果に自己抗体が影響か

 がんに対する免疫チェックポイント阻害薬(CPI)を用いた治療は、一部の患者では非常に高い効果を示す一方でほとんど効果が得られない患者もおり、その理由は不明である。しかし、その解明につながる可能性のある知見が得られたとする研究結果が報告された。患者自身の自己抗体(自分の細胞や組織の成分を標的として産生される抗体)が、CPIに対する反応に極めて大きな影響を及ぼしている可能性のあることが示されたという。米フレッド・ハッチンソンがんセンターの免疫療法学科長であるAaron Ring氏らによるこの研究結果は、「Nature」に7月23日掲載された。 Ring氏は、「われわれの研究は、体内で自然に産生される自己抗体が腫瘍を縮小させる可能性を劇的に高め得ることを示している。自己抗体によって患者がCPIに反応する確率が5~10倍も高まるケースがいくつか確認された」と同センターのニュースリリースで述べている。 CPIは、メラノーマや特定の種類の肺がんを含む幅広いがんの治療に革命をもたらしたが、全ての患者がこれらの薬剤に反応するわけではない。そこでRing氏らは今回、CPIによる治療を受けたがん患者374人と健康な対照者131人から採取した血液サンプルを用い、Rapid Extracellular Antigen Profiling(REAP)法によって、6,172種類の細胞外および分泌タンパク質に対する自己抗体の結合パターンを調べた。Ring氏は、「長年、自己抗体は自己免疫疾患の原因となる悪玉と見なされてきた。しかし近年では、体内に備わった強力な治療薬として作用する可能性も明らかにされつつある。われわれの研究室では、自己抗体のこのような薬理作用を解明し、これらの天然分子をがんなどの疾患に対する新たな治療薬として応用することを目指している」と話す。 その結果、がん患者の血液では、健康な人に比べて自己抗体のレベルが著しく高いことが示された。また、特定の自己抗体が患者の予後改善と関連していることも判明した。例えば、サイトカインの一種であるインターフェロン(IFN)のシグナル伝達を遮断する自己抗体は、CPIによる抗腫瘍効果の改善と関連していた。この知見は、IFNが多過ぎると免疫系が疲弊し、CPIによる治療効果が制限される可能性があることを意味すると研究グループは説明している。 Ring氏は、「一部の患者では、免疫系が自ら併用薬を作り出したかのようだ。その自己抗体がIFNを中和することでCPIの効果を増強している。この発見は、全ての患者に対し、IFNのシグナル伝達経路を意図的に調節する併用療法を考案するための明確な指針となるだろう」と述べている。 一方で、いくつかの自己抗体は患者の予後悪化と関連していた。これは、がんと闘うために不可欠な免疫系の重要な経路を自己抗体が阻害するためだと考えられた。研究グループは、「こうした自己抗体を排除したり、その作用を打ち消したりする方法を見つけることでCPIの有効性を高められる可能性がある」と述べている。 Ring氏は、「これはまだ始まりに過ぎない。現在われわれは、他のがんや治療法にも対象を広げ、自己抗体を活用あるいは回避することで、より多くの患者に免疫療法を届けられるよう取り組んでいるところだ」と話している。

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胎児超音波検査での医療者の言葉が親子関係に影響か

 もうすぐ親になるという人たちにとって、初めてわが子の姿を目にする機会は超音波検査であることが多い。こうした超音波検査で病院のスタッフがお腹の中の子どもについて発した言葉が、その後の育児に良い影響を与えたり、逆に悪い影響を与えたりする可能性のあることが、新たな研究で示唆された。米ノートルダム大学心理学分野のKaylin Hill氏らによるこの研究の詳細は、「Communications Psychology」に5月5日掲載された。 Hill氏らはまず、妊娠11~38週の妊婦320人を対象に聞き取り調査を実施し、その時点でお腹の赤ちゃんがどんな子であると感じているかを尋ねた。その後、生後18カ月の時点で、子どもの行動面や情緒面の問題について評価してもらった。173人が生後18カ月の追跡調査を完了した。 その結果、妊娠中に赤ちゃんに対してポジティブな見方を持っていた母親は、生後18カ月の時点で子どもに情緒的な問題や行動的な問題が少ないと評価する傾向が認められた。一方で、親の評価が妊婦健診での経験と関連している場合には、評価のトーンがネガティブになりがちであった。また、ネガティブな評価は子どもの将来の行動的・情緒的問題と関連していた。ただし、そうしたネガティブな評価が妊婦健診に由来するかどうかはこの関連に影響していなかった。 次にHill氏らは、161人の研究参加者を対象に実験を行い、妊婦健診での超音波検査中に聞いた言葉が、これらの傾向に関係している可能性を検討した。実験では、検査技師から妊婦に超音波画像の質の悪さについて、1)技術的な問題が原因でうまく撮れなかった、2)胎児が「協力的でない」ために画像がうまく撮れなかった、3)心配する必要はなく、その後の超音波検査で良い画像を得られるだろう、のいずれかの言い方で伝えられた。その結果、胎児が「協力的でない」と言われた母親は、他の2つのパターンの説明を受けた母親と比べて、その後、子どもに対して否定的な見方をしがちになる傾向が認められた。 こうした結果を受けてHill氏は、「胎児の発達に関する専門家であると見なされている超音波技師などが検査中に使った言葉はそのまま親に受け止められ、赤ちゃんが生まれる前から『自分の子どもはこういう子だ』という認識に影響を与える」と言う。Hill氏によれば、このような早い段階に自分の子に対して抱いた印象は、女性の産後うつのリスクにも、わずかではあるが重要な影響を及ぼす可能性があるという。 Hill氏は、「もちろん、われわれは親をサポートしたいと考えている。この研究が示しているのは、妊婦との重要なやり取りの中で使われる、一見些細に思われる言葉の選び方の違いがいかに大きく影響するかということであり、その点について、まずは医療従事者と話し合うことが大事だということだ」と話している。 Hill氏は「産前産後の時期は身体的にも心理的にも、また社会的にもさまざまなレベルで変化が起こる時期であり、抑うつリスクが最も高まる時期の一つだ。もし超音波検査での経験が子どもに対する見方に影響を与えるのであれば、それによって親子関係のさまざまな面にも影響が及ぶ可能性がある。このことは親と子の双方の将来にとって極めて重要だ」と述べている。

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高齢期も自由を失い管理される時代になるのだろうか?(解説:岡村毅氏)

 20世紀の人々は、○○を食べると認知症にならない、という夢物語をよく語っていた。例の○○オイルなどだ。その背景には、人々は認知症のこともまだあまり知らず、よくわかんないけど、なりたくないよね、恐ろしいよね、という無垢な認識であったことが挙げられる。大学病院でも、認知症と精神疾患の人はオペ室には入れるべからず、などといわれていた。こういう時代だからこそ「実は○○がよい」みたいな魔法の杖のような話が受ける。何も知らない人同士が無責任に話している世間話にすぎないからだ。これをハイデガーなら頽落と呼ぶかもしれない。 21世紀になり、もうすぐ日本人の10人に1人が認知症か軽度認知障害という時代である。人々も、医療関係者も認知症のありのままの姿をよく知っている。入院患者だって、こども病院以外は高齢者ばかりじゃないか。こう書いている私も、読んでいるあなたも、すべての存在者が、年をとれば向かっていく状態なのだ。 認知症を予防する魔法の杖なんてないことも薄々わかってきた。大変つまらない話ではあるが、まともな食事を食べること、大酒を飲まないこと、煙草を吸わないこと、運動をすること、頭を使うこと、生活習慣病をきちんと管理すること、などは認知症のリスクを微妙に減らすことは常識だ。そこで次に来たのが、たくさんの介入を「全部のせ」にしてしまうというものである。FINGER研究とかUS POINTER研究といったものである。 さてこの論文は、高齢者に、スパルタ的な(?)構造化したプログラムをさせると、テキストなどを渡して勝手にさせるといった、いわば「放牧した」場合に比べると、認知症予防の効果はあったと報告している。 この結果はあまりにも当たり前すぎて論じるほどの価値はないが、精神科医としては、別のアングルから論じてみよう。こういうエビデンスの積み重ねが、高齢期の私たちのあり方をジリジリと変えていくのではないかという視点だ。 20世紀後半は「成人するまでは学校に行く、成人したら働く、子供を作り、60歳ごろまで働き、その後だいたいすぐ死ぬ」という人生であった。その後は高齢期がどんどん延びており、「暇で仕方ない」「やることがない」などと言いながら人々はのほほんと高齢期を暮らしている。基本的に高齢期は、年金もまがりなりにもあるし、仕事は多くの人はしておらず、かなり自由が許されている。昔から高齢者の自由人はいたが、非常にまれだった。こんなライフステージを同時期にたくさんの人が過ごしている現代は、稀有な時代である。 しかし、本論文のような管理された介入を行っている高齢者は、認知症になるリスクが減り、身体疾患のリスクが減り、また社会から完全に離れてしまい、何しているのかわかんなくなってしまうリスクも減るだろう。社会を管理する側から考えるといいことしかなさそうだ。ということは、高齢者はこういったプログラムをすることを義務にしよう、という考え方が出てこないだろうか? FINGERやUS POINTERの研究者がそんなことを考えていると言っているのではなく、100%の善意で研究していることはわかっているが、精神科医とは常に長い時間軸で、俯瞰的に、常識を疑って思考してしまうことが宿命なのでお許しいただきたい。あくまで思考実験である。 高齢期に放牧されていた時代が終わり、高齢期にも学校のようなところに行き、健康に資する生活をすることを強制される(何らかのインセンティブもある。たとえば学校に行っていれば年金が1%増額とか、医療費が多少安くなるとか)という未来もあり得るかもしれない。インドの古来の説でいう「林住期」のように、高齢期には世俗を離れ自由に生きたい、と思っている人にとってはディストピアかもしれない。一方で、認知症のリスクを少しでも下げたい、と願う個人が自主的に参加するということであれば文句を言う筋合いでもなかろう。私は健康でいたいが、同時に自由でいたい。認知症フォビアと多因子介入と全体主義の悪魔合体は、できれば見たくないものである。

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高齢者の内服薬がわからないとき、避難所の医師が迫られる判断【実例に基づく、明日はわが身の災害医療】第4回

災害現場の声「薬を自宅に忘れた、どうすれば?」大規模災害発生から2日目。避難所では、生活環境が破壊され、多くの高齢者が「普段飲んでいる薬がない」と訴えていました。お薬手帳もなく、内服薬の種類も不明。病院も被災し、通常受診は困難です。被災者からは「せめて、普段飲んでいる薬を少しでも欲しい」と切実な声が聞かれました。近年、大規模地震や水害など、インフラが寸断される自然災害が頻発しています。こうした災害時には医薬品の供給が滞り、とくに高齢者は被災ストレスに加え、普段から内服する薬を失うことで健康被害のリスクと不安が著しく高まります。このような切迫した状況下で、医療者はどう対応すべきなのか、以下に対応例と、その際に知っておくと役立つかもしれない内容を解説します。実際にどう対応したか? 限られた情報で判断高齢者の多くは慢性疾患を抱え、日常的な内服薬が必要ですが、大規模災害発生時には、避難するのが精一杯で、内服薬を持参する余裕がなく、自宅に忘れることがあります。実際の現場では、電子お薬手帳を使いこなす高齢者はまれで、紙のお薬手帳なしでは飲んでいる薬剤名を特定することが困難です。こうした被災者の状況を理解し、「薬がないので、薬が欲しい」という訴えに対応するため、内服薬の特定と代替薬の検討を進める必要があります。お薬手帳や口頭で薬剤名が特定できれば代替薬の調整は容易ですし、内服薬が不明でも、既往症が判明した場合(高血圧、糖尿病、心疾患など)、応急的に代替薬を提供することができます。しかし、内服薬・既往症ともに不明なことが大半です。糖尿病や高血圧の既往、ステロイド服用などは生命に直結する可能性もあるため、かかりつけ医に連絡を取るなど、情報を得る努力が必要です。災害時特有のストレスによるリスクと薬剤選択の原則災害時には、薬の中断により急性増悪のリスクがあることに加え、災害時特有のストレスが加わるため、いくつかの注意点があります。循環器系疾患では、災害発生後には急性心不全やたこつぼ型心筋症など、交感神経の活性化によるストレス誘発性の疾患が増加します1~3)。また、糖尿病患者においては、米国での2005年のハリケーン・カトリーナ後の調査でHbA1c上昇が報告されており4)、避難所の炭水化物中心の食事により高血糖が起こりやすくなることが指摘されています。さらに、食欲低下によるシックデイも想定され、血糖管理には注意が必要です5,6)。次に、災害時の薬剤選択も重要です。処方や在庫、服薬管理の煩雑化を防ぐため、可能な限り単純な治療計画を立て、多剤併用を避ける必要があります。長時間作用型で安全性の高い薬を選ぶことも重要です。たとえば高血圧に対しては、頻回服薬が困難な避難所環境に適した、長時間作用型カルシウム拮抗薬が有用です。そして、物資が限られる中では、「少ない薬で最大の効果を狙う」処方が求められるため、薬剤の種類は絞り、個別の患者状態を見ながら調整が必要です。災害時の慢性疾患管理、限られた状況下での判断力と実践力災害時の慢性疾患管理は、日本に限らず世界的にも共通の課題です。薬を忘れて避難した高齢者への対応は、災害発生後の緊急状況における医療者の判断と具体的な行動が重要になります。災害時には物資の供給が滞るため、薬剤不足は命に直結するリスクがあることを留意しておく必要があります。だからこそ、限られた資源の中で最大限の対応ができるよう、目の前の患者から得られる情報に基づき、迅速かつ実践的な判断を下す能力が、災害対応を担う医療者には不可欠です。日常から、外来に通う患者さんには、お薬手帳と内服薬は災害時に必ず一緒に持って避難するように指導し、可能ならば数日分の備蓄を避難用バッグに入れておくように勧めるのもよいでしょう。 1) 循環器病研究振興財団. 災害時における循環器病~エコノミークラス症候群とたこつぼ心筋症~. 2) 坂田泰彦, 下川宏明. 災害と心不全. 心臓. 2014;46:550-555. 3) Babaie J, et al. Cardiovascular Diseases in Natural Disasters; a Systematic Review. Arch Acad Emerg Med. 2021;9:e36. 4) Fonseca VA, et al. Impact of a natural disaster on diabetes: exacerbation of disparities and long-term consequences. Diabetes Care. 2009;32:1632-1638. 5) 日本糖尿病教育・看護学会. 改訂版 災害時の糖尿病看護マニュアル. 2020年. 6) 日本糖尿病協会. インスリンが必要な糖尿病患者さんのための災害時サポートマニュアル. 2012年.

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ChatGPTで英語革命! 生成AI、Chat GPTとは?【タイパ時代のAI英語革命】第2回

Generative AI(生成AI)とは生成AIとそれにまつわる言葉が、ここ数年で急速に一般化しつつありますが、それと同時に混乱しやすい状況も起こっています。似た概念の多くの用語が飛び交うので、多くの人が「AIって具体的に何?」「機械学習とディープラーニングは何が違うの?」「生成AIとLLMの違いは?」といった疑問を抱くのも無理はありません。医療英語という専門分野でAIを活用するためには、皆が用語を正しく理解しておくことで混乱や誤った使い方を防ぐことができます。本章では、ChatGPTをはじめとする「Generative AI(生成AI)」の位置付けを明確にするために、周辺の用語を階層構造にして、整理しながら解説します。画像を拡大する人工知能(AI:Artificial Intelligence)人工知能とは、「人間のように知的にふるまうことを目指す技術」の総称です。最も広義な概念です。AIと聞くとつい最近のことかと思われますが、AIという言葉自体は1956年に生まれており、実は70年もの歴史があります。特化型AI(Narrow AI)AIには大きく「汎用型AI(Strong AI とSuper AI)」と「特化型AI(Narrow AI)」というカテゴリーがありますが、現在実用化されているAIは特定のタスクに特化した特化型AIといわれます。人間が指示したことに対して応えてくれる画像解析、音声認識、チャットボットなどがこれに当たります。汎用型AIとは、いわゆる人間と同じく自分で考え動き、宗教観や価値観などの複雑な感情を持つことができるものですが、まだ実現化されていません。機械学習(Machine Learning)Narrow AIのカテゴリーの中でテクノロジーの中核を担うのが機械学習です。人間がルールを一つひとつ書くのではなく、データからパターンを学習させて判断や予測を行う仕組みです。ディープラーニング(Deep Learning)機械学習の中でも、とりわけ人工ニューラルネットワーク(ANN)を構成したモデルがディープラーニングです。簡単にいうと、より複雑な機械学習のモデルです。たとえば、画像を読み込む、パターンを認識して解析する、それを音声で伝えるといった、目、脳、言語という人間のさまざまな感覚を組み合わせたような複雑な処理を指します。ディープラーニングは、昨今のAIの性能が大幅に向上するきっかけとなりました。生成AI(Generative AI)ディープラーニングのサブカテゴリーに当たる生成AI(Generative AI)は、与えられた情報を基に新しいコンテンツ(文章、画像、音声など)を生成するものです。従来のAIは「分類」や「予測」が主でしたが、Generative AIは「創造する」という点で大きく異なります。名前の知られたChatGPTやGemini、Copilotといったチャットボットはすべて生成AIに当たります。大規模言語モデル(Large Language Models:LLM)Generative AIの中でも、とくに言語(テキスト)を扱うモデルがLLM(日本語では大規模言語モデル)です。膨大なテキストデータを基に文脈を理解し、自然な文章を生成することができます。ChatGPTの中核はLLMです。GPT(Generative Pre-trAIned Transformer)GPTとは、OpenAIという会社が開発したLLMのうちの1つです。LLMを「クルマ」という大きなカテゴリーだとすると、Open AIはそのうちの超大手会社「トヨタ自動車」、GPTはその会社が作っているクルマに当たります。ChatGPTようやく皆さんが最も身近に聞き慣れているものが出てきましたが、多くの人が日常的に使用しているChatGPTは、先ほどのGPTという頭脳(最新バージョンはGPT-4)を使って作られた対話型アプリのことです。この図と説明でAIに関わるさまざまな用語を階層的に整理できたのではないでしょうか。最後に、ChatGPTを含む「生成AI」でできることを確認しておきましょう。生成AIの力前段で生成AIとは、「コンテンツを創造するAI」であると説明しました。しかし、具体的に何ができるのかを理解するには、実際の分類を見ていくことが重要です。本章では、Generative AIの機能を人間の能力に例えて、以下の3つに大別してご紹介します。1)言語能力これはChatGPTが最も得意とする分野で、人間でいえば「読む」「話す」「書く」といった言語力(脳)、発声(口)、筆記(手)を司ります。自然言語を理解し、意味のある文章として出力するタスクです。以下のような応用が含まれます。質問応答例:医師が「COVID-19の現在の治療指針は?」と尋ねると、ガイドラインを基に要約された回答が返ってきます。感情分析例:自分の打った文章の内容やSNSの投稿から、「満足」「不満」「怒り」といった背後にある人間の感情を読み解くことができます。指示応答例:「5歳の子供にもわかるように糖尿病を説明して」と入力すれば、年齢に応じた表現で文章を生成します。2)感覚・知覚能力生成AIは人間でいう目、耳といった感覚器官の働きも司ります。画像の説明例:病理画像やX線画像を入力すると、「肺の右下葉に浸潤影が見られます」などと自動で解説を生成することができます。視覚質問への応答例:画像と質問を同時に入力し、「このMRI画像に異常はあるか?」と聞くと、それに対して回答を返すことが可能です。知的処理これは人間の「考える」「要約する」といった知能(脳)を司るものです。情報抽出例:カルテ内の大量のデータから患者の病名・検査値だけを自動抽出します。要約例:論文やガイドラインの長文を、数行に簡潔に要約できます。構造化データ解析例:データから傾向を読み取り、「この患者群におけるA薬の副作用発現率は?」といった分析を行います。このように生成AIは、人間が生み出せるもののほとんどの機能を、人間からの的確な指示によって代替します。医療英語分野では生成AIの「言語機能」の面で主にサポートを受けますが、「知的処理」に関しても触れていきます。それでは、今までの知識を踏まえながら、次回から医療英語のためのChatGPTの使い方を見ていきましょう!

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