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男性部下の育休に対する上司の怒り、背景に職場の不公平感とストレス

 男性が育児休業(育休)を取りにくい職場の空気はどこから生まれるのか。今回、男性の育休に対する上司の怒りは、業務負担や部下に対する責任感といった職場ストレスが原因となり、不公平感を介して生じている可能性があるとする研究結果が報告された。研究は筑波大学人間系の尾野裕美氏によるもので、詳細は「BMC Psychology」に7月1日掲載された。 日本では男性の育児休業制度は国際的にみても手厚く整備されており、法的には長期間の取得が可能で、一定の所得補償も用意されている。しかし現実には、男性の育休取得率やその取得期間は依然として低く、制度が十分に活用されているとは言いがたい。従来の研究では、育休取得によるワークライフバランスの向上や仕事満足度の向上といった肯定的側面に主に焦点が当てられてきた。一方で、制度活用が職場内で生じさせる不公平感や、上司が感じる感情的な負担といった側面には、これまで十分な検討がなされてこなかった。そこで本研究では、男性部下の長期育休取得に対する上司の否定的感情が、職場におけるストレッサー(不明確な役割や能力を超えた業務など)を通じてどのように形成されるのかを明らかにすることを目的とした。不公平感が怒りの媒介要因となるという仮説モデルに基づき、その相互関係を検証するためのオンライン調査を実施した。 2024年3月にインターネット調査会社を通じて、30~60歳の民間企業の管理職400名(男女各200名)からデータを収集した。質問項目は、男性育休への怒り、男性の育休に関する不公平感喚起状況(育児関与の希薄さ、手厚い恩恵の享受、自身の仕事量の増加)、職場のストレッサー(質的負荷、量的負荷、部下に対する責任)、属性情報(性別、年齢、職業など)で構成された。 性別と子の有無を要因とする二元配置分散分析を行った結果、「育児関与の希薄さ」「手厚い恩恵の享受」において性別の主効果が有意で、女性の得点が高かった。一方、怒りと不公平感喚起状況との交互作用は認められなかった。職場ストレッサーでは「部下への責任感」にのみ有意な交互作用が認められた。単純主効果検定により、子どものいない男女間では男性が有意に高く、また女性では子ありの方が有意に高かった。一方、「質的負荷」「量的負荷」には交互作用・主効果ともに認められなかった。怒りは、男性育休に関する「育児関与の希薄さ」「手厚い恩恵の享受」「自身の業務負担の増加」の3つの不公平感要因および職場ストレッサーと正の相関を示し、不公平感要因は職場の様々なストレッサーとも関連した。 次に共分散構造分析により、職場のストレスが不公平感を介して上司の怒りに至る理論モデルを検証した。質的・量的負担や部下への責任感が、「育児関与の希薄さ」「手厚い恩恵の享受」「自身の仕事量の増加」といった男性育休に関する不公平感を高め、これらのうち「育児関与の希薄さ」「自身の仕事量の増加」が怒りと有意に関連した。また、量的負担は怒りに直接影響し、責任感は怒りを抑制する効果を示した。モデルの適合度指標はいずれも良好で、仮説モデルの妥当性が確認された。 本研究について著者は、「職場のストレスにより、男性社員の育休取得に対して上司が不公平だと感じ、それが怒りにつながることがある。ワークライフバランス施策には、意図しない負の影響が生じる場合もあり、本研究は、男性の育休に対する職場の反応がどのように職場環境に左右されるかを示すことで、職場の公平性に関する理解を深める手がかりとなる」と述べている。

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小児心停止における人工呼吸の重要性、パンデミックで浮き彫りに

 「子どもを助けたい」。その一心で行うはずの心肺蘇生だが、コロナ流行期では人工呼吸を避ける傾向が広がった。日本の最新研究が、この“ひと呼吸”の差が小児の救命に大きな影響を与えていたことを明らかにした。コロナ流行期では、胸骨圧迫のみの心肺蘇生が増加し、その結果、死亡リスクが高まり、年間で約10人の救えるはずだった命が失われていた可能性が示唆されたという。研究は岡山大学学術研究院医歯薬学域地域救急・災害医療学講座の小原隆史氏、同学域救命救急・災害医学の内藤宏道氏らによるもので、詳細は「Resuscitation」に7月4日掲載された。 子どもの院外心停止はまれではあるが、社会的に大きな影響を及ぼす。小児では窒息や溺水などの呼吸障害が心停止の主な原因であることから、人工呼吸を含む心肺蘇生(Cardiopulmonary resuscitation:CPR)の実施が強く推奨されてきた。一方、成人では心疾患が主な原因であることに加え、感染対策や心理的・技術的ハードルの高さから、蘇生の実施率を高める目的で「胸骨圧迫のみ」のCPR(Compression-only CPR:CO-CPR)が広く普及している。また、成人においては、新型コロナウイルス感染症の流行下では、たとえ講習やトレーニングを受けた市民であっても、感染リスクを理由に人工呼吸の実施を控えるよう促される状況が続いていた。しかしながら、こうした行動変化が小児の救命にどのような影響を及ぼしたかについては、これまで十分に検証されてこなかった。このような背景をふまえ著者らは、全国データを用いて、コロナ流行前後における小児の院外心停止に対する蘇生法の変化と、それが死亡や後遺症に与えた影響を検証した。 解析のデータベースには、総務省消防庁が管理し、日本全国で発生した院外心停止の事例を記録・収集する「All-Japan Utstein Registry(全国ウツタイン様式院外心停止登録)」が用いられた。解析には、2017~2021年にかけて発生した17歳以下の小児の院外心停止7,162人が含まれた。主要評価項目は30日以内の死亡率とした。 2017~2021年の間に、目撃者によってCPRが実施されたのは3,352人(46.8%)だった。そのうち人工呼吸を含むCPRが実施された割合は、コロナ流行前(2017~2019年)には33.0%だったが、コロナ流行期(2020~2021年)には21.1%と、11.9%の減少が認められた。 次に、CO-CPRと臨床転帰(30日以内の死亡など)との関連を評価するため、交絡因子を調整したうえで、ロバスト分散付きPoisson回帰モデルによる多変量解析を実施した。解析の結果、CO-CPRは30日以内の死亡(調整後リスク比〔aRR〕1.16、95%信頼区間〔CI〕1.08~1.24)や不良な神経学的転帰(aRR1.10、95%CI 1.05~1.16)と有意に関連していた。この傾向は、呼吸原性心停止(呼吸の停止が原因で心臓が停止する状態)で顕著だった(aRR1.26、95%CI 1.14~1.39)。 また、コロナ流行期にCO-CPRが増加したことによる影響を、過去のリスク比をもとに概算したところ、人工呼吸の実施率の低下によって、2020年~2021年の2年間で計21.3人(年間換算で10.7人)の小児が救命されなかった可能性があると推定された。 本発表後に行われた追加解析では、この人工呼吸の実施率の低下は緊急事態宣言解除後の2022年(16.1%)から2023年(15.0%)にかけても維持されていた。これは、コロナ流行期に人工呼吸を伴うCPRからCO-CPRへの移行が加速し、流行後もその傾向が続いていることを示唆している。 本研究について著者らは、「本研究は、小児の心停止患者に対して、人工呼吸が極めて重要であることをあらためて裏付けるものであり、今後の小児向け蘇生教育のあり方、感染対策を講じた安全な人工呼吸法の手技の確立、人工呼吸補助具(例:ポケットマスクなど)の開発や普及啓発など、社会全体で取り組むべき課題が多々あることを示している」と述べている。 さらに、人工呼吸の実施については、「国際蘇生連絡委員会(ILCOR)や欧州蘇生協議会(ERC)などでは、小児に対する最適なCPRとして胸骨圧迫と人工呼吸の両方を行うことが強調されている。しかしパンデミック以降、人工呼吸に対する心理的・技術的なハードルが一層高まり、ガイドラインを周知するだけでは実施が進みにくい状況にある。そのため、安心して子どもを救える社会を実現するには、CPRトレーニングプログラムを活用するなど、平時からの準備と理解の促進に取り組むことが重要である」と付け加えた。

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第257回 新型コロナ感染9週連続増加 変異株「ニンバス」拡大、百日咳も同時流行/厚労省

<先週の動き> 1.新型コロナ感染9週連続増加 変異株「ニンバス」拡大、百日咳も同時流行/厚労省 2.消化器外科医、2040年に約5,000人不足 がん手術継続に黄信号/厚労省 3.医療ネグレクト対応、緊急時の同意なし医療に法的責任問わず/こども家庭庁 4.往診5年で4割増 高齢者中心に需要拡大も過剰提供を懸念/厚労省 5.末期がん患者に未承認治療3千件超 都内クリニックに措置命令/厚労省 6.がん治療後の肝炎再活性化で患者死亡、情報共有不足が背景に/神戸市 1.新型コロナ感染9週連続増加 変異株「ニンバス」拡大、百日咳も同時流行/厚労省新型コロナウイルスの感染者が全国的に増加している。厚生労働省によると、8月11~17日に約3,000の定点医療機関から報告された感染者数は2万2,288人で、1医療機関当たり6.3人となり、9週連続で前週を上回り、入院患者も1,904人と増加した。例年、夏と冬に流行のピークがあり、今年もお盆や夏休みの人の移動を背景に感染拡大が続いている。流行の中心はオミクロン株の派生型「NB.1.8.1」で、俗称「ニンバス」と呼ばれる株。国立健康危機管理研究機構によれば20日時点で国内検出の28%を占め、同系統を含めると全体の8割以上になる。感染力は従来株よりやや強いが、重症化リスクは大きく変わらないとされている。症状は、発熱や咳に加え「カミソリを飲み込んだような強い喉の痛み」が特徴で、筋肉痛や関節痛を伴う例も報告されている。ワクチンは重症化予防に有効と考えられており、WHOも監視下の変異株に指定している。都道府県別では、宮崎が最多の14.7人、鹿児島12.6人、埼玉11.5人と続き、東京や大阪など大都市圏では比較的低水準に止まっている。厚労省は「手洗いや咳エチケット、エアコン使用時の換気など基本的な感染対策を徹底してほしい」と呼びかけている。新学期開始で人の動きが再び活発化する9月中旬ごろまで増加が続く可能性が指摘される。一方、百日咳も同時流行しており、8月10日までの週に3,211人が報告され、年初からの累計は6万4千人超となった。子供を中心に長引く咳を呈し、乳児では重症化するリスクが高い。国内外で増加傾向にあり、厚労省は原因を分析中。コロナと百日咳が並行して拡大する中、専門家は体調不良時には早めに医療機関を受診し、感染拡大防止に努めるよう求めている。 参考 1) 変異ウイルス「NB.1.8.1」“感染力やや強い”(NHK) 2) 新型コロナ感染者、全国平均で9週続けて増加 例年夏に流行 厚労省(朝日新聞) 3) “カミソリをのみ込んだような強烈な喉の痛み” 新型コロナ「ニンバス」感染拡大 百日せきも流行続く(読売テレビ) 2.消化器外科医、2040年に約5,000人不足 がん手術継続に黄信号/厚労省厚生労働省の「がん診療提供体制のあり方に関する検討会」は、2040年にがん手術を担う消化器外科医が約5,000人不足するとの推計をまとめた。需要側では初回手術を受ける患者数が2025年の約46万5千人から40年には約44万人へ微減する一方、供給側の減少が急速に進む。外科医の約7割を占める消化器外科では、日本消化器外科学会の所属医師(65歳以下)が25年の約1万5,200人から40年に約9,200人へ39%減少し、需給ギャップは5,200人規模に拡大すると見込まれている。背景には若手医師の敬遠がある。消化器外科は10時間を超える食道がん手術や夜間・休日の救急対応など負担が大きい一方、給与水準は他科と大差がない。修練期間も長く、労働と報酬のバランスが「割に合わない」とされ、2002年から20年間で医師数は2割減少した。他方、麻酔科や内科は増加しており、診療科間での偏在が深刻化している。こうした現状に、学会や大学病院は人材確保策を模索する。北里大学は複数医師で患者を担当し、緊急時の呼び出しを減らし、富山大学は長時間手術の交代制を導入、広島大学は若手の年俸を1.3倍に引き上げた。学会は拠点病院への人材集約により休暇確保や経験蓄積を両立させたい考えを示している。報告書はまた、放射線治療では、装置の維持が難しくなる可能性や、薬物療法では地域格差が生じやすい点にも言及。今後は都道府県単位で医療機関の集約化やアクセス確保を検討し、効率的な医療提供体制を整える必要があるとしている。高齢化が進み85歳以上のがん患者は、25年比で45%増えると見込まれる中、医師不足は治療継続に直接影響し得る。厚労省は、就労環境や待遇改善に報酬面での配慮を進め、がん医療の持続可能性確保に向けた施策を急いでいる。 参考 1) 2040年を見据えたがん医療提供体制の均てん化・集約化に関するとりまとめ(厚労省) 2) がん手術担う消化器外科医、2040年に5000人不足 厚労省まとめ(毎日新聞) 3) 消化器外科医の不足深刻…厳しい勤務で若手敬遠、「胃や腸のがん患者の命に関わる」学会に危機感(読売新聞) 4) 消化器外科医「5,000人不足」 がん診療「病院集約を」厚労省検討会、40年推計(日経新聞) 3.医療ネグレクト対応、緊急時の同意なし医療に法的責任問わず/こども家庭庁こども家庭庁は8月、保護者の思想や信条を理由に子供に必要な医療を拒否される「医療ネグレクト」について、緊急時に医療機関が保護者の同意なく治療を実施した場合でも、刑法や民法上の責任は基本的に問われないと定め、7日付の事務連絡で明示するとともに、法務省とも協議済みとしている。救命手術などで同意が得られなくても「社会的に正当と認められる医療行為」であれば刑事責任は生じず、急迫の危害を避ける行為であれば悪意や重大な過失がない限り、民事責任も免れると解説している。背景には医療現場からの実態報告がある。こども家庭庁が救命救急センターを有する88医療機関を対象に行った調査では、2022年4月~24年9月までに24機関から計40件の医療ネグレクト事例が報告された(回答施設の3割弱に相当)。多くの事例では保護者への説明を尽くし同意を得る努力が行われたが、同意取得が不可能または時間的猶予がない場合、医療機関の判断で治療が行われていた。調査では対応の工夫として「児童相談所と事例を共有」が75%、「日頃から顔の見える関係作り」が59%と挙げられた。一方で、児相との「切迫度認識の差」や「帰宅可否を巡る判断の齟齬」など課題も指摘された。児相のノウハウ不足を補うため、具体的事例や対応方法を管内で共有することの重要性も強調されている。こども家庭庁は、平時からの地域ネットワーク構築や事例共有を通じ、迅速かつ適切な対応体制の整備を自治体に要請。現場の医師にとっても、緊急時に同意がなくとも治療に踏み切れる法的整理は大きな後押しとなるが、児相との連携強化や判断基準の共有が今後の課題となる。 参考 1) 令和6年度子ども・子育て支援等推進調査研究事業の報告書の内容及びそれを踏まえた取組(こども家庭庁) 2) 緊急時の保護者同意ない医療「法的責任負わず」こども家庭庁(MEDIFAX) 3) 救命救急センターの3割弱で医療ネグレクトの報告 思想などに起因する事例、22年4月-24年9月に40件(CB news) 4) 令和6年度 保護者の思想信条等に起因する医療ネグレクトに関する調査研究報告書(三菱UFJ) 4.往診5年で4割増 高齢者中心に需要拡大も過剰提供を懸念/厚労省厚生労働省の統計によると、医師が自宅を訪ねる往診が過去5年で1.4倍に増加した。2024年は月27万5,001回と前年比11.2%増で、とくに75歳以上の高齢者が利用の8割を占め、前年比19.6%増の23万件超となった。在宅高齢者の急変時対応や有料老人ホームなどでの需要が増え、夜間・休日対応を外部委託する医療機関の広がりが背景とみられる。一方、コロナ禍では15歳未満の往診が急増。外来受診制限や往診報酬の特例引き上げにより、2023年には月1万7,000件を超えた。深夜の乳幼児往診では1回5万円弱の報酬が得られるケースもあり、自治体の小児医療無償化と相まって都市部で利用が拡大した。しかし、2024年度の報酬改定で特例は縮小され、15歳未満の往診は63.8%減少した。往診の拡大は救急搬送の抑制につながる利点がある一方、診療報酬目的で必要性の低い往診を増やす事業者がいるとの指摘もある。厚労省もこの問題を把握しており、必要に応じて中央社会保険医療協議会(中医協)で、在宅医療報酬の見直しを議論する考えを示している。訪問診療は計画的に実施される在宅医療の柱で、2024年は月208万回、患者数110万人。これに対し往診を受けた患者は約20万人に止まる。往診の増加が高齢社会に不可欠な在宅医療の充実につながるのか、それとも過剰提供の温床となるのか、制度の在り方が問われている。 参考 1) 令和6年社会医療診療行為別統計の概況(厚労省) 2) 医師の往診5年で4割増 高齢者の利用拡大、過剰提供の懸念も(日経新聞) 5.末期がん患者に未承認治療3千件超 都内クリニックに措置命令/厚労省厚生労働省と環境省は8月22日、東京都渋谷区の「北青山D.CLINIC」(阿保 義久院長)に対し、カルタヘナ法に基づく措置命令を出した。自由診療に対する同法の命令は初めて。同院は2009年以降、末期がん患者らに「CDC6shRNA治療」と称する遺伝子治療を提供してきたが、必要な承認を得ていなかった。治療には遺伝子を組み込んだレンチウイルスが用いられ、製剤は院長が中国から個人輸入していた。これまでに3千件以上行われたが、有効性や安全性は科学的に確認されていない。患者への同意文書では「がん細胞に特異的に発生するCDC6というたんぱくを消去する遺伝子を投与する」と説明されていた。両省は製剤の不活化・廃棄と再発防止策の報告を命じた。現時点で健康被害や外部漏洩は確認されていないという。クリニックは6月以降治療を中止しており、今後は法に基づき申請するとしている。厚労省によると、自由診療での遺伝子治療は、科学的根拠が不十分なまま患者が全額自費で受けるケースが国内で広がっている。昨年の法改正で「再生医療等安全性確保法」の対象にも加わったが、今回の事例は十数年にわたり違法状態が続いていたことを示している。厚労省は今後、医療機関に法令順守の徹底を求めている。 参考 1) 「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」に基づく措置命令について(厚労省) 2) 未承認「がん遺伝子治療」に措置命令 カルタヘナ法、自由診療で初(毎日新聞) 3) がん自由診療に措置命令 都内クリニック手続き怠り(東京新聞) 4) がんに対する自由診療の遺伝子治療めぐり、厚労省などが措置命令(朝日新聞) 6.がん治療後の肝炎再活性化で患者死亡、情報共有不足が背景に/神戸市8月21日、神戸市立西神戸医療センターは、70代男性患者が医療事故で死亡したと発表した。男性は2023年10月に悪性リンパ腫と診断され、B型肝炎ウイルスを保有していることを自ら申告していた。化学療法にはB型肝炎ウイルスを再活性化させる作用を持つ薬が含まれるため、予防目的で核酸アナログ製剤が併用処方されていた。しかし、2024年に悪性リンパ腫が完全寛解した後、担当医が患者のB型肝炎感染を失念し、薬の処方を中止。継続されていたウイルス量の検査でも増加傾向を見落とし、2025年1月に男性は急性肝炎を発症し、入院から18日後に死亡した。男性の担当医は免疫血液内科の医師で、B型肝炎治療を専門とする消化器内科ではなかった。事故後、病院は消化器内科以外の医師が核酸アナログ製剤を処方できない仕組みを導入するなど再発防止策を取っている。北垣 一院長は会見で「重大な結果を招いたことは大変残念で、深く反省している」と謝罪、遺族にも経緯を説明し、理解を得たとしている。B型肝炎の再活性化をめぐっては、化学療法や免疫抑制療法の患者における発症リスクが広く知られており、定期的な検査と予防的投薬の継続が学会ガイドラインでも推奨されている。今回の事故は、がん治療後も必要な薬の中止と検査結果の見落としが重なり、致死的転帰を招いた典型例となった。同様の事故は他施設でも発生しており、今年5月には名古屋大学医学部附属病院で、リウマチ治療を受けていた70代女性が検査不備によりB型肝炎再活性化で死亡していたことが公表されている。専門家は、複数診療科にまたがる患者管理における情報共有とチェック体制の徹底が再発防止に不可欠だと指摘している。 参考 1) B型肝炎ウイルス感染を失念、投薬を誤って中止し患者死亡…西神戸医療センターが遺族に謝罪(読売新聞) 2) 薬剤処方を誤って中止、患者死亡 神戸の市立病院が謝罪(共同通信) 3) 「担当医が患者の申告を失念」 70代男性が急性肝炎で死亡 神戸(朝日新聞)

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事例30 特異的IgE定量・半定量の査定【斬らレセプト シーズン4】

解説事例では、アレルギー性接触性皮膚炎に対する「D015 13 特異的IgE定量・半定量検査」がA事由(医学的に適応と認められないもの)にて査定となりました。この検査は、1回の採血において特異抗原の種類ごとに13種類まで所定点数を算定できます。さらに多くの種類の特異抗原が保険診療対象に認められており、病名との不適切な組み合わせがA事由による査定対象となることを経験しています。事例の査定原因を調べる途中で、支払基金の公開情報を思い出しました。支払基金・国保統一事例454にて、「同検査は、(1)アレルギー性接触皮膚炎(疑い含む)、アレルギー疑いには認められない」と通知されています。通知の理由には「(1)病は、アレルゲンの皮膚接触により発生する(IV[遅延]型アレルギー)であり、IgEの関与はなく、診断的には皮内反応検査(パッチテスト)が実施される。単にIgEの関与を確認することなく特異的IgE検査をすることは不適切」とありました。検査会社の臨床意義などには、「IgEが大きく関与するI型アレルギーに分類される疾患の治療に用いる」とあります。事例では、非特異的IgEの検査もなく、特異的IgE定量・半定量検査が診療報酬上限の13種類も実施されています。また、医学的に適応とならないと通知されている病名に対して算定されていることも査定の原因であると推測ができます。レセプトチェックシステムでは、同検査に対する病名の記載がないことが指摘されていました。レセプト担当者に指摘への対応を聞いたところ、「病名末尾の(体幹・四肢)を見て、広範囲のアレルギー反応だから追加病名は必要がない」と判断されたとのことでした。事例の場合は、当該病名が適用外と明確に公表されていることから、検査に対する適切な病名が必要であることを医事担当に研修を行い査定対策としています。

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英語で「人差し指」ってどう言う?【患者と医療者で!使い分け★英単語】第30回

医学用語紹介:手の指 digits手の指のことを医学用語では親指から順番に“1st digit”(第1指)~“5th digit”(第5指)といいますが、患者さんにこれらの呼び名が通じなかった場合、何と言い換えればいいでしょうか?講師紹介

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BPSDには抑肝散???【漢方カンファレンス2】第4回

BPSDには抑肝散???以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう) 【今回の症例】 90代男性 主訴 奇声、介護への抵抗 既往 高血圧、アルツハイマー型認知症 病歴 5年前に認知症が悪化して施設入所。数ヵ月前から昼夜を問わず「あ゛ーっ」といった奇声や噛みつくなどの行動が目立ち始めた。介護への抵抗やほかの入居者からのクレームもあり、連日、抗精神病薬の頓服で対応していた。漢方薬で何とかならないかと受診。 薬剤歴 ドネペジル錠5mg 1回1錠、クエチアピン錠25mg 1錠頓用(1日4〜5回使用) 現症 身長165cm、体重52kg。体温36.7℃、血圧150/60mmHg、脈拍83回/分 整 経過 初診時 「???」エキス3包 分3で治療を開始。(解答は本ページ下部をチェック!) 2週後 夜間に奇声を発することが少なくなった。 1ヵ月後 介護への抵抗がなくなった。 2ヵ月後 精神的に落ち着き、笑顔もみられるようになった。 3ヵ月後 抗精神病薬の頓服が0〜1回/日で落ち着いている。 問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む【問診】<陰陽の問診> 寒がりですか? 暑がりですか? 体の冷えを自覚しますか? 顔はのぼせませんか? 横になりたいほどの倦怠感はありませんか? 暑がりです。 冷えは自覚しません。 顔がのぼせます。 体はきつくありません。 入浴で長くお湯に浸かるのは好きですか? 冷房は苦手ですか? 入浴は長くできません。 冷房は好きです。 のどは渇きますか? 飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか? のどが渇きます。 冷たい飲み物が好きです。 <飲水・食事> 1日どれくらい飲み物を摂っていますか? 食欲はありますか? 1日1.5L程度です。 食欲はあります。 <汗・排尿・排便> 汗はよくかくほうですか? 尿は1日何回出ますか? 夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか? 便秘や下痢はありませんか? 汗かきで顔に汗が多いです。 尿は5〜6回/日です。 夜は1〜2回トイレに行きます。 便は毎日出ます。 <ほかの随伴症状> よく眠れますか? 悪夢はありませんか? 毎晩、眠れません。 悪夢はありません。 昼食後に眠くなりませんか? 動悸はありませんか? 足をつったり抜け毛が多かったりしませんか? 昼食後の眠気はありません。 動悸はありません。 足のつりや抜け毛はありません。 ほかに困っている症状はありますか? いつもイライラしています。 自然と怒りがこみあげて大きな声が出ます。 【診察】顔色は紅潮して怒った表情。脈診では浮沈間・やや強の脈。また、舌は暗赤色、乾燥した白黄苔が中等量。腹診では腹力は中等度、心下痞鞕(しんかひこう)、小腹不仁(しょうふくふじん)を認めた。四肢の触診では冷感はなし。※(いつも赤ら顔で怒った表情で大声を出している。布団はかぶっていないことが多い、食欲はあり、オムツ交換時、便臭が強い、夜間も眠らず大声を出していることが多い)カンファレンス 今回はアルツハイマー型認知症で施設入所している高齢者の症例ですね。自分は訪問診療にも行っているので、このようなケースによく遭遇します。認知症の周辺症状といえば、抑肝散(よくかんさん)ですね! 病名から漢方薬に飛びついてはいけませんよ。まずBPSD(behavioral and psychological symptom of dementia)による症状は、易怒性、興奮、妄想などの「陽性症状」と抑うつ、無気力などの「陰性症状」に分けられます。抑肝散は陽性症状に用いるのが原則です1)。 認知症の症例では、コミュニケーション困難で自覚症状の問診ができないことが多いです。今回の提示した問診はできたと仮定して記載しています。実際は自覚症状の問診はできず、「診察」の項の※のような情報を参考にすることも多いです。また普段の様子をよく知る看護師や介護スタッフからの情報収集が役立つことも多いですね。 高齢者では病歴がとれずに困りますからね。 問診以外でも、脈は動脈硬化で硬くなって不明瞭、舌は開口指示に従えない、お腹はオムツで診察するのに手間がかかる、などとなかなか所見が取りづらいことも多いですね。そのぶん、望診を重視して、診察時の見た目の印象が処方決定に役立つことも多いです2)。 そのため高齢者の漢方診療では、五感をフルに使う必要があるね。患者の表情、触診で冷えを確認、オムツの中の便や尿の臭いなどで虚実を判定するよ。便や尿の臭いが強い場合は実証、臭いが少ない場合は虚証を示唆する所見だね。だけど日常的にオムツ交換をやっている看護師や介護スタッフに質問すると、臭いに耐性ができているためか実際は臭いが強くても、便臭は強くないですっていうこともあるから注意だよ。可能であれば自分で確認したほうがよいけどね。 なるほど〜。高齢者の漢方治療のコツですね。 では、いつものように漢方診療のポイント(1)陰陽の判断からしてみましょう。 本症例は、暑がり、長く入浴できない、冷水を好むなどから陽証です。 そうだね。たとえ問診ができなくても、赤ら顔、布団をかぶっていないことが多い、四肢に冷えなし、便臭が強いなどの情報からも陽証だね。そのほかには乾燥した白黄苔、口渇なども熱を示唆する所見だね。 陰証の高齢患者さんは、布団にくるまっている、厚着、活気が乏しい、いつも寒がっているといった特徴がありますね。 高齢者だから、寝たきりだからといって、陰証・虚証と決めつけてはいけないよ。長生きできている高齢者だからこそ、生命力が強く体力があると考えることもできるのだ。 なんとなくイメージがわきますね。 六病位はどうですか? 陽明病ほど熱が強くないので少陽病です。ほかに腹満や便秘があることも陽明病の特徴でしたが、それらもないですね。 よくわかっているね。少陽病は慢性疾患において「川の流れがよどむ淵のように停滞する時期」といわれるんだ。陽証において、太陽病は悪寒・発熱、陽明病では身体にこもった強い熱と腹満・便秘といった特徴的な症状があるため、「慢性疾患で明らかな冷えがなければ少陽病」とも表現され、慢性疾患に対して漢方治療を行うことの多い現代では重要だよ(少陽病については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。 なるほど。冷えがなくて、陰証が否定されれば、少陽病と考えることが多いのですね。納得です。 それでは、漢方診療のポイント(2)の虚実の判断に移ろう。 脈はやや強、腹力も中等度とあるので虚実間〜実証です。 漢方診療のポイント(3)気血水の異常はどうでしょうか? 食欲不振や全身倦怠感などの気虚はありません。 赤ら顔や顔に汗は気逆と捉えることができますか? 気逆でよいね。そのほかにも気逆には、動悸、驚きやすい、焦燥感、悪夢などがあるけどそれらはないようだ。血水に関しては、舌の暗赤色と舌下静脈の怒張は瘀血で、水の異常はあまり目立たないね。 あとはイライラ、不眠といった精神症状が目立ちます。 怒りっぽいことも含めて、精神症状として漢方診療のポイント(4)のキーワードで考えよう。本症例をまとめるよ。 【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?暑がり、長湯はできない、顔面紅潮、冷水を好む→陽証(少陽病)(問診ができない場合)顔面紅潮、布団をかけていない、便臭強い、四肢に冷えなし→陽証(少陽病)(2)虚実はどうか脈:やや強、腹:中等度→虚実間〜実証(3)気血水の異常を考える赤ら顔、顔に汗が多い→気逆舌暗赤色→瘀血(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込むイライラ、不眠、怒りっぽい、心下痞鞕(+)、胸脇苦満(−)解答・解説【解答】本症例は、陽証・実証・気逆に対して用いる黄連解毒湯(おうれんげどくとう)で治療をしました。【解説】黄連解毒湯は少陽病・実証に用いる漢方薬で、のぼせの傾向があって顔面紅潮し、精神不安、不眠、イライラなどの精神症状を訴える場合に用います。黄連(おうれん)、黄芩(おうごん)、黄柏(おうばく)、山梔子(さんしし)とすべて清熱作用をもつ生薬で構成されます。腹診では、心下痞鞕や下腹部に横断性の圧痛があるのが典型です。精神症状以外にも、のぼせを伴う鼻出血、急性胃炎、皮膚疾患などに活用されます。またお酒を飲むとすぐに顔が赤くなる人が黄連解毒湯を飲むと二日酔い予防になるといわれます。統合失調症患者の睡眠障害に対する報告3)や湿疹、皮膚炎に対する症例4)などが報告され、熱を伴うさまざまな疾患に用いられています。今回のポイント「少陽病」の解説太陽病では表(ひょう:体表面)に闘病反応がありました。少陽病は生体の内部に影響がおよび、表と裏(り:消化管)の間である半表半裏(はんぴょうはんり)が病位になります。実際は、半表半裏はのど〜上腹部あたりを指していると考えられます。そのため口が苦い、のどが乾く、ムカムカする嘔気、食欲不振などの症状が出現します。太陽病では着目しなかった舌や腹部の所見も重要になります。具体的には舌では舌苔が厚くなり(写真左)、腹診では両側季肋部に指を差し込むと抵抗感や患者の苦痛が出てきて、胸脇苦満(きょうきょうくまん)とよびます(写真右)。少陽病ではその場で闘病反応を鎮める治療を行い、「清解(せいかい)」といいます。少陽病の適応として発症から数日が経過したこじれた風邪が典型です。また、少陽病は慢性疾患において「川の流れがよどむ淵のように停滞する時期」といわれます。陽証において、太陽病は悪寒・発熱、陽明病では身体にこもった強い熱と腹満・便秘といった特徴的な症状がありますから、「慢性疾患で明らかな冷えがなければ少陽病」とも表現され、慢性疾患に対して漢方治療を行うことの多い現代では重要です。柴胡と黄芩が含まれる柴胡剤が少陽病期によく用いられ小柴胡湯(しょうさいことう)がその代表です。柴胡剤はこじれた風邪以外にも、ストレスと関連するイライラや不眠などの症状に用います。少陽病では柴胡剤以外にもさまざまな種類の漢方薬が準備されています。なお、黄連解毒湯は「赤い怒り」といわれ、赤ら顔、顔面紅潮が使用目標です。一方、抑肝散は「青い怒り」で、顔色があまりよくないのが典型です。したがって、のぼせや熱が目立つ症例では抑肝散よりも黄連解毒湯を考えてください。また、黄連解毒湯は止血作用があるので、鼻出血で顔ののぼせがあるような場合には黄連解毒湯を内服しながら、鼻を圧迫するとよいでしょう。上下部消化管内視鏡で止血困難な消化管出血の症例に黄連解毒湯を活用したという報告もあるのです5)。今回の鑑別処方BPSDの陽性症状に対して、黄連解毒湯と同じように、顔面紅潮、興奮などの精神症状があり、便秘を伴う場合には三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)が適応になります。同じ気逆の症状でも、動悸や悪夢を伴う不眠があり、イライラしているような場合は柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれうとう)を用います。この場合は腹診で胸脇苦満や腹部大動脈の拍動が触知されるのが特徴です。黄連解毒湯や三黄瀉心湯の場合は、胸脇苦満はなく心下痞鞕が目標になり、腹診所見で鑑別する場合もあります。柴胡加竜骨牡蛎湯はメーカーによって瀉下作用のある大黄(だいおう)の有無に違いがあるので便秘によって使い分ける必要があり、大黄を含むほうがより実証の漢方薬です。このように興奮や不穏に対する症状には瀉下作用のある大黄が含まれることが多いです。これは大黄には瀉下作用だけでなく鎮静作用があり、単に便秘の改善を目標にしているのではないことを意識する必要があります。古典では統合失調症のような状態に大黄を一味(将軍湯とよぶ)で煎じて鎮静させたというような記載もあります。また抑肝散よりも怒りが目立たず、活気の低下や食欲不振がある場合は釣藤散(ちょうとうさん)を考えます。釣藤散は脳血管性認知症に対する二重盲検ランダム化比較試験(DB-RCT)6)があり、夜間せん妄や不眠などに加え、会話の自発や表情の乏しさといった意欲の低下の改善を認めています。このRCTを参考に当科では「療養型病床群において釣藤散投与を契機に経管栄養状態から経口摂取が可能となった高齢者の3例」を報告しました2)。当科では、釣藤散はBPSDの抑うつ、無気力などの陰性症状や低活動性せん妄に対して用いることが多いです。 1) 桒谷圭二. 誰もが使ったことのある漢方薬 〜でもDo処方だけじゃもったいない〜 3. 抑肝散。Gノート増刊. 2017;4:1066-1076. 2) 田原英一ほか. 日東医誌. 2002;53:63-69. 3) 山田和男ほか. 日東医誌. 1997;47:827-831. 4) 堀口裕治. 日東医誌. 1999;50:471-478. 5) 坂田雅浩ほか. 日東医誌. 2017;68:47-55. 6) Terasawa K, et al. Phytomedicine. 1997;4:15-22.

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認知症診断後の経過に男女差は?

 認知症の男性患者は、年齢や人種/民族、社会経済要因、併存疾患などで調整した後でも女性患者と比較して死亡率が高く、入院などの医療サービスの利用率も高いことを、米国・Duke University School of MedicineのJay B. Lusk氏らが明らかにした。JAMA Neurology誌オンライン版2025年8月11日号掲載の報告。 認知症の発症率は女性で高いことが知られており、性差は認知症のアウトカムにも影響する可能性が示唆されている。そこで研究グループは、認知症の男性患者と女性患者における、認知症と診断された後の死亡率や医療サービスの利用率を調査するために全国コホート研究を行った。 調査はメディケア加入データを用いて2014~21年に実施され、最大8年間の追跡調査が行われた。解析は2024年4月〜2025年4月に行われた。対象は、国際疾病分類第10版(ICD-10)に基づく認知症の診断コードを有し、過去1年以上の出来高払い制メディケア加入歴のある65歳以上の患者であった。 主要評価項目は、Cox比例ハザード回帰分析で推定された全死亡率のハザード比(HR)であった。副次評価項目は、一般的な医療サービスの利用(入院、専門看護施設やホスピス入所、神経画像診断サービスや理学療法/作業療法など)のHRであった。 主な結果は以下のとおり。・研究には、2014~21年に認知症と診断された572万1,711例(女性330万2,579例、男性241万9,132例)が含まれた。・女性患者は、男性患者と比較して1年粗死亡率および全原因入院率が低かった(いずれもp<0.001)。 -1年粗死亡率:女性21.8%、男性27.2% -全原因入院率:女性46.9%、男性50.5%・男性に関連する死亡の未調整HRは1.30(95%信頼区間[CI]:1.29~1.31、p<0.001)であった。・年齢、人種、民族、メディケイドの二重受給資格、併存疾患、医療アクセスで調整すると、この関連性はわずかに弱まった(調整HR:1.24、95%CI:1.23~1.26、p<0.001)。・男性に関連する全原因入院の未調整HRは1.13(95%CI:1.12~1.14、p<0.001)、調整HRは1.08(95%CI:1.08~1.09、p<0.001)であった。・男性患者では、ホスピス入所、神経画像検査、神経変性疾患の診断または行動障害による入院のリスクも高かった。 これらの結果より、研究グループは「認知症の男性患者の死亡率を低下させ、医療サービスの利用を減らす戦略は、認知症による負担を軽減するうえでとくに効果的である可能性がある。女性は認知症の発症率が高いため、発症予防に重点を置くことが性差による認知症関連死亡率の格差を解消するために重要である」とまとめた。

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Lp(a)高値が及ぼす冠動脈疾患以外へのリスクとは/Circulation

 リポ蛋白(a)[Lp(a)]は動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)の残余リスクの1つとして重要とされ、近年、再注目されている。今回、MIT・ハーバード大学ブロード研究所のTiffany R Bellomo氏らが、Lp(a)高値が冠動脈以外の動脈硬化疾患の発症ならびに重大な合併症の進展に関連していることを明らかにした。Circulation誌オンライン版2025年7月28日号掲載の報告。 研究者らは、冠動脈以外の動脈硬化性疾患および合併症の発症リスクが高い患者を特定する上で、Lp(a)測定が有用となることを明らかにするため、英国バイオバンク46万544例のうちLp(a)が測定されていた患者データを解析。Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、Lp(a)濃度と末梢動脈疾患(PAD)や頸動脈狭窄の発症の関連、初発の主要下肢有害イベント(MALE)および初発の脳卒中進展との関連についてモデル化した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象者は、年齢中央値58歳(四分位範囲:51~64)、男性54.2%、欧州系94.4%、糖尿病患者5.5%、喫煙者10.5%であった。・追跡期間中央値13.6年(同:12.9~14.4)において、PADと頸動脈狭窄の初発者はそれぞれ6,347例(1.4%)と1,972例(0.43%)であった。・登録時点にPADと頸動脈狭窄を有していた対象者において、MALEあるいは脳卒中を発症したのはそれぞれ196例(2.7%)と67例(1.9%)であった。・Lp(a)中央値は、ASCVDのない患者は19.5nmol/L(同:7.6~73.5)、PAD発症例では25.3nmol/L(同:8.3~107.3)、MALEへ進展した症例では33.3nmol/L(同:8.7~158.2)、頸動脈狭窄の発症例では29.5nmol/L(同:8.5~116.3)、頸動脈狭窄から脳卒中へ進展した症例では37.8nmol/L(同:11.1~158.3)であった。・Lp(a)血清濃度75nmol/LあたりのPAD発症リスク推定値は、ハザード比(HR):1.18(95%信頼区間[CI]:1.15~1.20、p<0.0001)で、頸動脈狭窄発症リスク推定値(HR:1.17、95%CI:1.13~1.20、p<0.0001)とほぼ同等であった。・PAD患者のうちLp(a)高値群は、正常群と比較して、MALE発現リスクが1.57倍高かった(95%CI:1.14~2.16、p=0.006)。・頸動脈狭窄患者のうちLp(a)高値群が虚血性脳卒中を発症するリスクは1.40倍高かったが、有意ではなかった(95%CI:0.81~2.40、p=0.228)。

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転移乳がんへのCDK4/6阻害薬、1次治療と2次治療でOSに差なし~メタ解析

 CDK4/6阻害薬は、HR+/HER2-転移乳がんに対して、1次治療での使用が2次治療での使用より無増悪生存期間(PFS)の改善が認められたことから、1次治療としてガイドラインで推奨されている。一方、1次治療からの使用は累積毒性とコストの増加に関連することがSONIA試験で示唆されており、1次治療と2次治療の生存期間を比較したデータは少ない。今回、ブラジル・サンパウロ大学のLis Victoria Ravani氏/米国・マサチューセッツ総合病院のZahra Bagheri氏らがメタ解析を行った結果、2次治療での使用は1次治療からの使用と比べ、PFS2(無作為化から2次治療で進行するまでの期間)は悪化したが、全生存期間(OS)は同等であることが示唆された。Breast Cancer Research誌2025年8月13日号に掲載。 本研究は、PubMed、Embase、Cochrane、学会プロシーディングを検索し、CDK4/6阻害薬による1次治療と2次治療の両方もしくはどちらかを受けた患者を含む観察研究および無作為化試験の系統的レビューおよびメタ解析を行った。1次治療からCDK4/6阻害薬を投与された患者は1次治療群に、1次治療でCDK4/6薬を投与されず2次治療から投与された患者は2次治療群に割り付けた。PFS2とOSをプール解析し、さらに試験デザインによる感度分析も行った。 主な結果は以下のとおり。・7,602例を対象とした9件の研究(無作為化試験5件、観察研究4件)が組み入れられ、6,475例(85.1%)が1次治療からCDK4/6阻害薬を投与され、1,127例(14.8%)が2次治療で投与された。・1次治療群は2次治療群より有意にPFS2が長かったが(ハザード比[HR]:2.08、95%信頼区間[CI]:1.90~2.27)、RCTのみの感度分析では有意差は認められなかった(HR:1.10、95%CI:0.94~1.30)。・OSは、1次治療群と2次治療群で有意差は認められず(HR:1.09、95%CI:1.00~1.18)、RCTのみの感度分析でも有意差は認められなかった(HR:1.03、95%CI:0.84~1.26)。 著者らは「本結果は、2次治療から1次治療への治療シフトは毒性とコストは増加するが普遍的に転帰を改善する、という想定に異議を唱えるものである」と結論している。

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乳児の脊髄性筋萎縮症、発症前にリスジプラムが有効/NEJM

 遺伝学的に脊髄性筋萎縮症(SMA)と診断された未発症の生後6週までの乳児において、SMA発症前のリスジプラムの投与は、自然経過研究における未治療SMA乳児と比較し、12ヵ月時および24ヵ月時の機能的および生存アウトカムが良好であった。米国・St. Jude Children's Research HospitalのRichard S. Finkel氏らRAINBOWFISH Study Groupが、同国と欧州など7ヵ国で実施した第II相非盲検試験「RAINBOWFISH試験」の結果を報告した。リスジプラムは、経口投与可能なmRNA前駆体スプライシング修飾薬で、臨床症状を有するSMA患者に対する有効な治療薬であるが、無症状の患者における有効性および安全性は不明であった。今回の結果を踏まえて著者は、「リスジプラムによる症状発現前の治療の相対的な有効性と安全性をさらに理解するために、より大規模な無作為化比較試験および長期追跡調査が必要である」とまとめている。NEJM誌2025年8月14日号掲載の報告。SMAと診断されたが症状を呈していない生後6週までの乳児を対象に試験 RAINBOWFISH試験の対象は、スクリーニング時に5番染色体長腕(5q)に変異がある常染色体劣性のSMA(遺伝学的SMA)との診断を有するが、SMAを強く示唆する臨床徴候または症状が認められない、初回投与時の年齢が生後1~42日(在胎期間は単胎で37~42週、双胎で34~42週)の乳児とした。SMN2遺伝子のコピー数は問わないこととしたが、SMN2遺伝子のコピー数が2でベースラインの複合筋活動電位(CMAP)振幅が1.5mV以上の患者(主要有効性解析対象集団)を、少なくとも5例に達するまで登録を継続した。自然経過研究では、SMN2遺伝子のコピー数2を有する未治療の乳児の大半は、重症SMAの表現型(I型)で、自立座位が不可であったり、永続的な人工呼吸管理および摂食支援を要する、あるいは生後13ヵ月までに死亡することが示されている。 研究グループは、適格登録患児全例にリスジプラムを平均血漿曝露量約2,000ng×時間/mLとなるよう1日1回経口投与した。最初の3例は0.04mg/kgで投与を開始し、薬物動態データに基づき投与開始後3~8週以内に全例0.2mg/kgに調整した。投与期間は、非盲検投与期を24ヵ月としてその後は非盲検延長期に移行し、計5年間とした。 主要アウトカムは、主要有効性解析対象集団における投与12ヵ月時点での、支持なし5秒以上の座位保持可能(BSID-IIIの項目22に基づく)な患児の割合とした。副次アウトカムは全例における臨床症状を伴うSMAの発症、生存期間、呼吸支援、発達マイルストーンおよび運動機能、栄養摂取などであった。支持なし5秒以上の座位保持可能な患児の割合は80% 2019年8月7日に最初の患児が登録され、SMN2遺伝子のコピー数が2、3または4以上の患児計26例が登録された(クリニカルカットオフ日は、主要解析[投与12ヵ月時]2023年2月20日、投与24ヵ月時2024年3月27日)。 投与12ヵ月時に、21例(81%)が支持なし30秒以上座位保持が可能、14例(54%)が起立可能、11例(42%)が自立歩行可能であった。 主要アウトカム(主要有効性解析対象集団5例)については、4例(80%、95%信頼区間:28~100)が支持なし5秒以上の座位保持が可能で、事前規定の達成基準5%(未治療I型SMA患者の自然経過研究に基づく)を上回った。 投与12ヵ月時の評価後に3例が試験を中断した(親または介護者によってオナセムノゲンアベパルボベクによる遺伝子治療に切り換えたため)が、24ヵ月間の治療を完了した23例は全例が永続的な人工呼吸管理および摂食支援なしで生存していた。 24ヵ月間に、7例の乳児で9件の治療関連有害事象が報告されたが、いずれも重篤ではなかった。

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既治療KRAS G12C変異陽性NSCLC、adagrasib vs.ドセタキセル/Lancet

 既治療のKRASG12C変異陽性非小細胞肺がん(NSCLC)患者において、adagrasibはドセタキセルと比較して無増悪生存期間(PFS)を統計学的に有意に延長し、新たな安全性上の懸念は認められなかった。フランス・パリ・サクレー大学のFabrice Barlesi氏らKRYSTAL-12 Investigatorsが、22ヵ国230施設で実施した第III相無作為化非盲検試験「KRYSTAL-12試験」の結果を報告した。adagrasibはKRASG12C阻害薬で、KRASG12C変異を有する進行NSCLC患者を対象とした第II相試験において有望な結果が示されていた。Lancet誌2025年8月9日号掲載の報告。化学療法と免疫療法の前治療歴があるNSCLC患者を対象、主要評価項目はPFS KRYSTAL-12試験の対象は、KRASG12C変異を有する局所進行または転移のあるNSCLCで、プラチナ製剤を含む化学療法および抗PD-1または抗PD-L1抗体による前治療歴があり、ECOG PSが0または1の成人患者であった。 研究グループは適格患者を、adagrasib(1回600mg、1日2回経口投与)群またはドセタキセル(75mg/m2、3週ごとに静脈内投与)群に2対1の割合で無作為に割り付け、病勢進行、許容できない毒性発現、担当医師または患者の判断、あるいは死亡まで投与を継続した。無作為化は中央双方向Web応答システムを用い、地域(アジア太平洋地域以外vs.アジア太平洋地域)および前治療(逐次投与vs.併用投与)で層別化した。 ドセタキセル群では、盲検下独立中央判定(BICR)によるRECIST 1.1に基づく病勢進行が認められた場合、adagrasibへのクロスオーバーを可とした。 主要評価項目は、ITT集団(無作為化した全患者)におけるBICRによるRECIST 1.1に基づくPFSであった。安全性は、試験薬が投与されたすべての患者を対象に評価した。本試験は現在も進行中である(新規登録は終了)。PFS中央値はadagrasib群5.5ヵ月、ドセタキセル群3.8ヵ月 2021年2月23日~2023年11月16日に1,021例がスクリーニングされ、453例がadagrasib群(301例、66%)またはドセタキセル群(152例、34%)に無作為化された。それぞれ298例(99%)および140例(92%)が試験薬の投与を受けた。 追跡期間中央値7.2ヵ月(95%信頼区間[CI]:5.8~8.7)において、ITT集団でのBICRによるPFS中央値はadagrasib群5.5ヵ月(95%CI:4.5~6.7)、ドセタキセル群3.8ヵ月(2.7~4.7)であり、ハザード比(HR)は0.58(95%CI:0.45~0.76、p<0.0001)であった。治験担当医師評価によるPFSも同様の結果が得られた(5.4ヵ月vs.2.9ヵ月、HR:0.57)。 副次評価項目であるBICRによる奏効率も、adagrasib群がドセタキセル群と比較し有意に高かった(32%[95%CI:26.7~37.5]vs.9%[5.1~15.0]、オッズ比:4.68[95%CI:2.56~8.56]、p<0.0001)。 治療関連有害事象(TRAE)は、adagrasib群(298例)で280件(94%)、ドセタキセル群(140例)で121件(86%)報告された。Grade3以上のTRAEは、adagrasib群で140件(47%)、ドセタキセル群で64件(46%)報告され、主なものはadagrasib群でALT上昇(8%)、AST上昇(6%)、下痢(5%)、ドセタキセル群で好中球数減少(11%)、好中球減少症(10%)、無力症(10%)であった。 治療関連死は、adagrasib群で4例(1%、てんかん、肝不全、肝虚血および原因不明が各1例)、ドセタキセル群で1例(1%、敗血症)が報告された。

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音声で日本人の軽度認知障害を検出可能か?

 軽度認知障害(MCI)では、発声パターンやテンポの変化がみられることがあるため、音声は認知機能障害の潜在的なバイオマーカーとなる可能性がある。音声バイオマーカーの予測特性をタイムリーかつ非侵襲的に検出するうえで、人工知能(AI)を用いたMCIの検出は、費用対効果に優れる方法であると考えられる。国立循環器病研究センターの清重 映里氏らは、日本の地域住民における非構造的な会話の音声データからAIで生成した音声バイオマーカーを用いて、MCIを検出する予測モデルを開発し、その効果を検証した。The Lancet Regional Health. Western Pacific誌2025年6月12日号の報告。 日本の地域在住成人1,461人を対象に横断的デザインによる観察研究を実施した。アウトカムは、MCIスクリーニングの記憶パフォーマンス指数スコアにより評価した認知機能障害とした。音声データは、3分間の自由解答式インタビューより収集し、音声生成器Wav2Vec2を用いて、音響的特徴と韻律的特徴に基づき、512次元の個々の音声情報ベクトルとして音声バイオマーカーを抽出した。その他の重要な予測因子として、年齢、性別、教育歴を含めた。979人の参加者を対象に、極度勾配ブースティング決定木アルゴリズムとディープニューラルネットワークモデルを適用し、認知障害予測モデルを開発した。モデル開発に含まれなかった482人の参加者において、曲線下面積(AUC)を用いて予測性能を検証した。 主な結果は以下のとおり。・対象者の内訳は、女性が967人(66.2%)であり、認知障害が526人(36.0%)でみられた。・平均年齢は79.5±6.3歳、平均教育年数は11.6±2.2年であった。・音声バイオマーカーの導入により、年齢・性別モデルでは、AUCが0.80(95%信頼区間[CI]:0.76〜0.84)から0.88(0.84〜0.91)へ有意な改善が認められた(DeLong検定:p<0.0001)。・また、年齢・性別・教育モデルでは、AUCが0.78(95%CI:0.73〜0.82)から0.89(0.86〜0.92)へ有意な改善が認められた(DeLong検定:p<0.0001)。 著者らは「音声バイオマーカーを用いた認知障害の予測モデルは、MCIスクリーニングにかかる時間を大幅に短縮し、高い予測性能示すことが明らかとなった。音声バイオマーカーは、予測性能の向上に大きく貢献することが示唆された」とまとめている。

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「永遠の化学物質」が2型糖尿病リスクと関連?

 ほとんど分解されないために環境中に長期間存在し続けることから、「永遠の化学物質」と呼ばれているPFAS(ペルフルオロアルキル化合物やポリフルオロアルキル化合物)の血中濃度と、2型糖尿病発症リスクとの有意な関連性を示唆する研究結果が、「eBioMedicine」に7月21日掲載された。米マウントサイナイ・アイカーン医科大学のVishal Midya氏らの研究によるもので、同氏は、「われわれの研究は多様な背景を持つ米国の一般人口において、PFASがいかに代謝を阻害し糖尿病リスクを高めているのかを探索するという、新たな研究の一つである」と述べている。 PFASは1940年代から一般消費財に用いられるようになり、現在では焦げ付き防止処理の施された調理器具、食品包装材、家具、防水機能を持つ衣類など、さまざまな製品に利用されている。Midya氏は、「PFASは熱、油、水、汚れに強い合成化学物質で、極めて多くの日用品に含まれている。そしてPFASは容易に分解されない。そのため、環境中だけでなく、人体にも蓄積されていく」と解説している。 この研究は、マウントサイナイ病院でプライマリケアを受けている6万5,000人以上の患者データを用いたコホート内症例対照研究として実施された。糖尿病既往者を除外した上で、後に2型糖尿病を発症した患者群と、年齢、性別、人種/民族が一致する糖尿病未発症の対照群、各群180人を抽出。ベースライン(糖尿病群における糖尿病診断の中央値6年〔四分位範囲1~10〕前。対照群ではそれと同時点)で採取されていた血液サンプルのPFAS濃度と、糖尿病リスクとの関連を検討した。 PFAS濃度の三分位に基づき全体を3群に分け、年齢、性別、人種/民族、ベースラインのBMI、喫煙習慣、PFAS濃度測定検体の採血時期などを調整して解析すると、PFAS濃度が高い一つ上の三分位群に上がるごとの糖尿病診断オッズ比が1.31(95%信頼区間1.01~1.70)であり、両者の間に有意な関連が認められた。また、PFASはアミノ酸や炭水化物、および一部の薬物の代謝に影響を及ぼすことを示唆するデータも得られた。例えば、体内の脂質、血糖、薬物、エネルギーの代謝の調整に重要なシグナル伝達分子(sulfolithocholyglycine)のレベルが、PFASへの曝露によって変化している可能性が見いだされた。 ただし研究者らは、「研究の性質上、この結果のみではPFASと2型糖尿病の間に直接的な因果関係があるとは言えない」としている。因果関係の有無を確かめ、PFASがどのように代謝を変化させ糖尿病リスクに影響を及ぼすのかを詳細に理解するためには、さらなる研究が必要だという。

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パッチ検査でメラノーマを早期発見できる日は近い?

 将来的には、自宅で行う新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の簡易検査のように、メラノーマ(悪性黒色腫)の検査ができるようになるかもしれない。米ミシガン大学の研究グループが、マイクロニードルが埋め込まれた「ExoPatch」と呼ばれるシリコンパッチにより、マウスのメラノーマと健康な皮膚を区別することができたとする研究結果を報告した。同大学の化学工学教授のSunitha Nagrath氏は、「成功すれば、このパッチが皮膚がん検出に革命を起こす可能性がある」と述べている。米国立衛生研究所(NIH)の資金提供を受けて実施されたこの研究の詳細は、「Biosensors and Bioelectronics」10月1日号に掲載された。 ExoPatchに使われているマイクロニードルは長さわずか0.6mm、針先の幅は100nm(0.0001mm)未満と非常に細い。針は、アネキシンV(Annexin V)というタンパク質を含む特殊なゲルでコーティングされていて、それがエクソソームという物質を皮膚から吸着する。エクソソームは細胞から放出される小さな膜状の小胞で、タンパク質やDNA、RNAなどを含んでいる。エクソソームは細胞間コミュニケーションに重要な役割を担っており、がんをはじめとするさまざまな疾患の発症や進行に関与していると考えられている。がん細胞が放出するエクソソームは、周囲の組織や遠隔部位においてがんの転移や進行を促進する環境を形成することが報告されており、がんの早期発見や診断マーカーとしての応用が期待されている。 パッチを皮膚からはがした後に酸性の液体に浸すと、ゲルが溶けて針に付着していたエクソソームが溶液中に放出される。その後、この溶液に検査用の試験紙を浸すと、結果が表示されるという仕組みだ。もし検体にメラノーマ由来のエクソソームが含まれていれば、試験紙には2本線(陽性)、含まれていなければ1本線(陰性)が現れる。 研究では、マウスの皮膚組織サンプルを用いてこの試験の精度が検証された。サンプルの半分は健康なマウスから、もう半分はヒトのメラノーマ由来の腫瘍片を注入したマウスから採取されたものだった。Nagrath氏らがマウスの皮膚にパッチを15分間貼り付けてからはがし、それを走査電子顕微鏡で観察したところ、想定されていたサイズである30〜150nmのエクソソームがマイクロニードルにしっかりと付着していることが確認された。次に、このゲルを溶液に溶かして試験紙で検査をした。その結果、両者を明確に識別することに成功し、メラノーマ由来の皮膚サンプルでは、正常な皮膚と比べて試験紙の線が3.5倍濃く現れていることが確認された。 Nagrath氏は、「これは、皮下液から疾患特異的なエクソソームを捕捉するように設計された初のパッチであり、その潜在的な応用範囲は広範だ」と述べる。同氏はまた、「色白でほくろが多い人はメラノーマのリスクが高いため、通常は6カ月ごとに皮膚科で診察を受け、疑わしいほくろがあれば生検で悪性か良性かを調べてもらう必要がある。しかし、この検査があれば自宅ですぐに結果が分かり、陽性の結果のときのみ皮膚科を受診して追加の検査を受ければ良くなる」と話している。 今後は、ヒトを対象にした予備的研究を経て、このパッチに関する臨床試験が行われる予定である。研究グループは、このパッチの特許保護を申請済みであるという。

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第276回 医学誌側が拒否!ケネディ氏がワクチン論文に要請したこと

INDEX今さら何を…医学誌編集部がケネディ氏へ抵抗示す職権の乱用が過ぎる今さら何を…「私はこれまで『反ワクチン』や『反産業』と呼ばれてきましたが、それは事実ではありません。私は反ワクチンではありませんし、反産業でもありません。私は安全を重視する立場なのです」「私の子どもたちは全員、ワクチンを接種しています。ワクチンは医学において極めて重要な役割を果たしています」上記の発言は、米国・保健福祉省長官のロバート・F・ケネディ・ジュニア氏(以下、ケネディ氏)が米連邦議会上院財務委員会の指名承認公聴会で述べた発言だ。同公聴会は大統領が指名する閣僚の承認是非を検討するプロセスの入口である。以前からケネディ氏のことは本連載(第264回、第267回、第274回参照)で同氏によるACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)の委員全員の解任、mRNAワクチン研究の縮小などを取り上げ、なかば「週刊ケネディ」状態になっているが、それはこれほど突っ込みどころの多い人物もそうそういないからである。昨今の報道からもこの人のワクチン懐疑主義は筋金入りであり、前述の公聴会発言は長官承認を得るための方便に過ぎなかったのだと改めて思っている。医学誌編集部がケネディ氏へ抵抗示すその昨今の報道とは「ケネディ米厚生長官のワクチン研究撤回要請、医学誌が拒否」というロイター電である。要約すると、“デンマーク国立血清学研究所(SSI)が行った小児用ワクチンに含まれるアジュバントのアルミニウムと50種類の疾患(自閉症、喘息、自己免疫疾患を含む)との関連性を調べた大規模コホート研究の結果、これら疾患の増加とアルミニウム・アジュバントとの関連は認められなかったという研究に対して、ケネディ氏が撤回を要求し、掲載した『Annals of Internal Medicine』誌編集部が拒否した”というものだ。この研究1)、中身を見ると個人的にはなかなかのものと感じる。まず研究に使用したデータはデンマークの国民健康登録データで、デンマークでの小児用ワクチン接種プログラムが始まった1997~2018年までに生まれ、2歳時点まで国内に居住していたすべての子どもを対象にしている。移住、死亡、特定の先天性疾患や先天性風疹症候群、呼吸器疾患、原発性免疫不全症、心不全または肝不全などの既往例を除外した最終的な解析対象は122万4,176例と極めて規模が大きい。ちなみにデンマークのワクチンプログラムは、2歳までにジフテリア・破傷風・百日咳、不活化ポリオの混合ワクチンとヒブワクチンの3回接種とMMRワクチンの1回目を完了させるもので、2007年からは肺炎球菌ワクチン(2010年までは7価、それ以降は13価)が加わっている。この研究結果によると、アルミニウム・アジュバントの曝露量は出生年代によって異なり、総アルミニウム曝露量の中央値は3mg(四分位範囲2.8~3.4)。最終的な生後2年間のワクチン接種によるアルミニウム累積曝露量1mg増加当たりの調整ハザード比は、自己免疫疾患が0.98(95%信頼区間:0.94~1.02)、アトピー性またはアレルギー性疾患が0.99(同:0.98~1.01)、神経発達障害が0.93(同:0.90~0.97)という結果だった。レトロスペクティブな研究ではあるが、これだけ大規模であることを考えれば、その欠点はかなり補えていると言える。また、この研究の特徴は日本より先行して導入されたデンマーク版マイナンバーであるCPR(Central Persons Registration)番号を利用しているため、親の経済状況などの交絡因子などは可能な限り調整されているはずだ。職権の乱用が過ぎるこの研究についてケネディ氏は「製薬業界による欺瞞的なプロパガンダ」と評し、対照群がないことなどを批判したらしいが、研究の筆頭著者は「デンマークでのワクチン未接種率は2%未満のため、統計学的に意味のある対照群設定は困難」と反論している。世界の大国・アメリカの閣僚とは言え、そもそも学術誌に掲載された査読済み論文を自らの要請だけで撤回させられると本気で思っているならば、相当な破廉恥だと思うのは私だけではないはずだ。 1) Andersson NW, et al. Ann Intern Med. 2025 Jul 15. [Epub ahead of print]

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市中発症型MRSAと院内獲得型MRSAの比較【1分間で学べる感染症】第32回

画像を拡大するTake home message市中発症型MRSAは、若年者を中心に皮膚軟部組織感染症を引き起こすことが多く、院内獲得型MRSAとは臨床像・薬剤耐性・遺伝子背景が異なるため、その違いを理解しよう。MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は、医療関連感染だけでなく市中でも発症することがあり、起因背景や臨床像、薬剤感受性に違いがあります。今回は、市中発症型MRSAと院内獲得型MRSAの主な違いについて整理し、それぞれの理解を深めていきましょう。リスク患者市中発症型MRSA(Community-associated MRSA:CA-MRSA)は、若年者、スポーツ選手、軍隊、薬物静注使用者、同性愛者など、医療機関と接点のない健康な方々に発症することが多く報告されています。接触機会の多い生活環境や皮膚の小さな外傷が感染契機となります。一方、院内獲得型MRSA(Healthcare-associated MRSA:HA-MRSA)は、入院患者、長期療養施設入所者、透析患者、長期カテーテル留置中の患者など、医療的介入を受ける方々に多く認められます。病院内の医療機器や環境が感染源となることがしばしばです。臨床症状CA-MRSAでは、皮膚軟部組織感染症(蜂窩織炎、膿瘍など)が主な臨床像であり、とくにPVL(Panton-Valentine leukocidin)遺伝子を保有する株では壊死性肺炎など重篤な病態を呈することもあります。一方、HA-MRSAは、肺炎、菌血症、術後創部感染、皮膚軟部組織感染症など、多彩な感染症を引き起こします。重篤な基礎疾患を有する入院患者では、全身感染に進展することも少なくありません。抗菌薬耐性CA-MRSAはβラクタム系抗菌薬に耐性を示す一方で、ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)、ドキシサイクリン、クリンダマイシンなどの非βラクタム系抗菌薬に感受性を示すことが多くあります。一方、HA-MRSAは、βラクタム系抗菌薬に耐性を示すことに加え、上記の抗菌薬にも耐性を示すことが多く、バンコマイシン、リネゾリド、ダプトマイシンなど、選択肢が限られます。SCCタイプCA-MRSAは、SCCmecタイプIVやVを有している一方、HA-MRSAは、SCCmecタイプI〜IIIを有することが多いとされています。PVL遺伝子CA-MRSAはPVL遺伝子を高頻度に保有し、この毒素が好中球を破壊することで強い炎症反応や組織破壊を引き起こします。PVL陽性株による壊死性肺炎や皮膚壊死病変の報告もあり、とくに注意が必要です。一方、HA-MRSAではPVL遺伝子の保有はまれであり、主に基礎疾患に伴う易感染性や長期医療介入が病態進展に関与します。このように、市中発症型MRSAと院内獲得型MRSAは臨床的背景や対応すべき抗菌薬の選択が異なるため、上記のポイントを十分に念頭に置いておく必要があります。1)Nichol KA, et al. J Antimicrob Chemother. 2019;74(Suppl 4):iv55-iv63.2)Naimi TS, et al. JAMA. 2003;290:2976-2984.3)Huang H, et al. J Clin Microbiol. 2006;44:2423-2427.

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症例報告の類似事例の誤診・見落とし?【医療訴訟の争点】第14回

症例本稿では、診療における画像所見の解釈や疾患の鑑別の適否が争点となった一例として、プロラクチノーマ(下垂体腺腫)を嗅神経芽細胞腫と誤診し、放射線・抗がん剤治療を受けた結果、重篤な後遺障害が残った事案についての東京高裁令和2年1月30日判決を紹介する。なお、本件の争点は多岐にわたるため、本稿では鑑別診断に関係する部分を取り上げるものとする。<登場人物>患者43歳(初診時)・男性原告患者、患者の配偶者被告A大学病院、B大学病院、C放射線治療専門病院、Dがん専門病院事案の概要は以下の通りである。事案の概要を見る平成19年12月18日患者は、慢性副鼻腔炎の症状(鼻出血・鼻漏・鼻閉・眼の奥の痛みなど)を訴えて、A大学病院の耳鼻咽喉科を受診(初診)。12月22日A大学病院にてCT検査。放射線科医の報告は以下のとおり。「篩骨洞と蝶形骨洞に軟部組織陰影を認める。蝶形骨洞の病変は頭蓋内への進展が疑われるが、MRIによる精査が望まれる。両側の上顎洞、左篩骨洞、前頭洞に軟部組織陰影や液体貯留像はない。慢性副鼻腔炎。」平成20年1月8日A大学病院にて、MRI検査。放射線科医の読影報告は以下のとおり。「蝶形骨洞を中心に篩骨洞領域に広がる軟部陰影を認める。T2強調像で中等度高信号を呈し、一部高信号域も認められる。斜台は腫瘤により圧排を受けており、下垂体も下方から押されており、境界が不明瞭となっている。腫瘤性病変を疑う。強い浸潤傾向ではないと思われるが、下垂体機能などはチェックが必要であると思われる。脳実質や眼窩方向への進展は現時点ではあまりはっきりしない。脳の浮腫性変化は不明瞭。内耳道の拡張・腫瘤形成像は特に認められない。出血・水頭症なども特に認められない。」1月12日「慢性副鼻腔炎又は副鼻腔腫瘍」との病名でA大学病院に入院。1月15日A大学病院耳鼻咽喉科にて、本件患者の右慢性副鼻腔炎に対し、右内視鏡下鼻内副鼻腔開放術を施行。中鼻甲介鼻中隔側から総鼻道にかけて本件腫瘍を認め、これを切除し、病理検査を依頼。病理検査の結果は、以下のとおり。「組織学的には既存の粘膜構造は消失し、出血壊死あるいは肉芽様変化を伴った組織内への浸潤性増殖を呈する腫瘍を認める。腫瘍細胞は比較的小型で円形~類円形核を有し、細胞質は淡明あるいはわずかに微細顆粒状であり、細胞境界の不明瞭な腫瘍細胞巣を形成している。一部にはロゼット様配列も認められる。また、腫瘍細胞の血管内への侵襲もみられる。synaptophysin/NSEが陽性であり、chromogranin Aも一部陽性反応を認める。S-100蛋白は腫瘍細胞巣の辺縁の支持細胞の一部に陽性像をみる。右副鼻腔の嗅神経芽細胞腫として矛盾しない所見であり、腫瘍細胞及び増殖形態などからグレード2~3に相当する状態と考えられる。」1月22日A大学病院の担当医は、原告ら(本件患者及びその妻)に対し、本件腫瘍につき嗅神経芽細胞腫と診断されること及び当該疾病の概要等を説明の上、当該疾病の治療にはB大学病院が優れているとして、「病名又は症状」を「嗅神経芽細胞腫」、「目的」を「加療のお願い」とするB大学病院の専門医宛の診療情報提供書を作成してこれを交付し、その際、CT、MRI、病理組織検査報告書のコピーを添付した。1月29日A大学病院の担当医は、原告らの要望を受け、Dがん専門病院頭頸科宛の診療情報提供書を作成してこれを交付し、その際、CT、MRI、病理組織検査報告書のコピー、病理標本のプレパラートを添付した。2月4日原告は、診療情報提供書、CT、MRI、病理組織検査報告書のコピーを持参し、B大学病院頭頸部腫瘍センターを受診。診察した専門医は、MRI画像等を踏まえ、本件腫瘍につき嗅神経芽細胞腫であると考え、本件患者に対し、サイバーナイフ(ロボット誘導型定位的放射線治療装置)による治療が適当ではないかと勧めた。また、本件患者の持参したMRIの画質が悪かったため、本件腫瘍について精査する目的で、外部検査機関にてMRIを取り直すことを指示するとともに、A大学病院における病理標本のプレパラートも持参するよう求めた。2月5日原告は、外部検査機関にて副鼻腔造影MRI検査を受けた。同検査機関医師の報告は以下のとおり。「両側海綿静脈洞、トルコ鞍内、右篩骨洞後部及び右中頭蓋窩にかけて約43×35×30mm大の良好に造影される腫瘍を認める。両側内頚動脈内には良好な血流を認めるが、狭窄の有無は不明。右篩骨洞粘膜は肥厚しているが、同部に腫瘍性病変が存在するかは不明。腫瘍は右中頭蓋窩に進展しているが、側頭葉への浸潤の有無ははっきりしない。嗅神経芽細胞腫。」2月6日原告は、A大学病院の診療情報提供書、CT、MRI、病理組織検査報告書のコピー、プレパラート標本を持参し、Dがん専門病院を受診。同病院にてプレパラート標本の病理検査が行われ、病理医の報告は以下のとおり。「線維性結合織の中に胞巣状をとり浸潤する腫瘍を認める。胞巣内部は比較的均一な類円形核を有する腫瘍細胞からなり、神経細線維様基質はほとんどみられないが、Abortiveなrosette構造がみられる。嗅神経芽細胞腫、鼻副鼻腔未分化がん、内分泌がん(小細胞型/未分化型)、未分化神経外胚葉性腫瘍/ユーイング肉腫などが鑑別上挙がるが、嗅神経芽細胞腫を最も考える。」Dがん専門病院の医師は、病理検査の結果やMRI画像等を踏まえ、本件腫瘍につき、嗅神経芽細胞腫と診断し、本件患者に対し、B大学病院の医師の勧めているサイバーナイフによる治療を選択することでよいと思われる旨を伝えた。2月8日本件患者は、プレパラート標本を持参してB大学病院を受診。B大学病院の病理医の報告は以下のとおり。「組織学的には円い核と比較的淡明な胞体を持つ腫瘍細胞のシート状の増殖がみられる。Rosetteの形成は必ずしも明瞭でないが、免疫組織化学的に腫瘍細胞は神経内分泌マーカーに陽性を示す。嗅神経芽細胞腫に合致する所見。」2月9日B大学病院の担当医は、外部検査機関で撮影したMRIや同院の病理診断の結果等を踏まえ、本件腫瘍について嗅神経芽細胞腫と診断した。担当医は、本件患者に対し、同人に神経症状がなく腫瘍も限局していることなどから、治療法としてはサイバーナイフ治療が適当と考えられることなどを説明したところ、本件患者が同治療を受けることを希望したため、C放射線治療専門病院を紹介し、同病院宛の診療情報提供書を作成、交付した。2月12日本件患者は、B大学病院の診療情報提供書及び外部検査機関MRIを持参のお上、C放射線治療専門病院を受診し、放射線を正確に病変部に照射できるように位置を決めるための造影CT及び単純MRI(MRA含む)撮影を実施。2月18日同日から22日までの間、5日間連続でサイバーナイフ治療を受けた。その後本件患者は、B大学病院を数回受診したが、なお腫瘍は残存しており、その大きさはサイバーナイフ治療前から不変であった。7月23日B大学病院の担当医は、本件患者に対し、現状ではサイバーナイフ治療による有意な効果が得られていないことや化学療法等について説明。本件患者が化学療法を受けることを希望したため、Dがん専門病院を紹介し、同病院宛の診療情報提供書を作成し、交付した。その後本件患者は、Dがん専門病院に入院し、抗がん剤治療を受けた。12月21日MRI検査の結果、本件腫瘍は、同年7月と比較して明らかに縮小していた。平成21年3月16日本件患者は、鼻から鼻水とは違うねばねばした透明の液体が出てくるようになったことから、Dがん専門病院の医師に相談したところ、耳鼻科受診を勧められた。4月20日本件患者は、A大学病院の耳鼻科を受診。4月24日A大学病院にて、副鼻腔CT撮影。4月27日A大学病院の医師は、副鼻腔CTを踏まえ、鼻漏が認められ、蝶形骨洞周囲の骨の破壊像はあるが、これについてはDがん専門病院でフォローされているはずであり、同病院で治療を行ったほうがよい旨説明し、同院宛の診療情報提供書を作成。その後Dがん専門病院を複数回受診し、たびたび鼻水を訴える。9月9日Dがん専門病院の医師は、髄液漏ではないかと疑い、頭頚科へコンサルトし、10月6日に頭頸科を受診。10月12日不穏状態や39度以上の発熱がみられ、救急搬送され、E基幹病院に入院。髄液や血液培養から肺炎球菌が検出され、肺炎球菌を起因菌とする急性細菌性髄膜炎と診断。その後B大学病院、別のF基幹病院での診療加療を受けた後、さらに別のG基幹病院にて、血液検査の結果、プロラクチン(PRL)が660と高値(正常値:4.4~31.2ng/mL)を示したことから、プロラクチン産生腺腫が疑われた。G基幹病院にてA大学病院のプレパラート標本を取り寄せて病理診断をしたところ、本件腫瘍は、嗅神経芽細胞腫ではなく、良性の下垂体腺腫であるプロラクチノーマであることが判明した。平成23年1月24日G基幹病院にて髄液瘻閉鎖手術を実施。なお、以上の経過の中で行われた治療の副作用により、記憶障害や視力障害、嗅覚・味覚の喪失などの後遺症が残った。実際の裁判結果本件の裁判では、大きくは、誤診(プロラクチノーマを嗅神経芽細胞腫と誤認)と、髄液鼻漏の見落としが問題となったが、本稿では、前者を取り上げることとする。本件患者らは、浸潤性の下垂体腺腫の存在については、複数の大学医学部で学生の教科書として使用されている脳外科領域の成書に記載があるから、本件診療当時の耳鼻科医においても、その存在についての知見を有することが医療水準(過失=注意義務違反の有無の判断基準)となっていた旨を主張した。これに対し、まず、裁判所は、医療水準の判断基準につき、「医療訴訟において、医師の有すべき注意義務の基準となるべきものは、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準であるところ…上記医療水準については、医療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等のほか、医師の専門分野を考慮すべきであり、診療当時、ある地域の大学病院の脳外科医においては、知悉していてしかるべき知見であっても、同病院の耳鼻科医においては、これが困難な知見については、その知見を有していなかったとしても、これをもって、上記耳鼻科医に過失があるということはできないというべき」とした。その上で、裁判所は、以下の点などを指摘し、「脳外科領域の成書に浸潤性の下垂体腺腫の存在についての記載があることをもって、本件診療当時の耳鼻科医において、その存在についての知見を有することが医療水準となっていたと直ちに認めることはできない」とした。本件患者らの調査した大学医学部7校のうち、脳外科領域の科目において、本件患者らの指摘する成書を教科書として指定しているのは、1校だけであり、教科書・参考書として指定しているのも1校に留まり、他校は参考書の一例として指定しているにすぎないこと。A大学病院、B大学病院、Dがん専門病院の耳鼻科医師は、証人尋問にて、いずれも浸潤性の下垂体腺腫の存在についての知見を有していなかった旨の証言をしていること。原告の診療に当たった医師らは、下垂体原発の腫瘍であれば、通常は下垂体を中心として腫大し、軟らかい脳実質や視神経の交差部の方向(上方)に進展するものであるが、本件腫瘍にそのような進展はみられず、下垂体腫瘍に特徴的な所見はない旨の意見を述べていること。また、本件患者らは、耳鼻咽喉科領域においても、大学病院からだけでなく、地方の医療機関等からも、浸潤性の下垂体腺腫の診断をすることができたとの多数の症例報告(約90件)が昭和年代からされており、これは、本件診療当時(平成20年頃)、浸潤性の下垂体腺腫が存在するとの知見に基づく診療が地方の医療機関においても相当程度普及し、実施されていることを示すものである旨主張した。これに対し、裁判所は、以下の点などを指摘し、「数例の報告があるからといって、直ちに、同様又は類似の症例において浸潤性の下垂体腺腫を疑い鑑別診断を行うことが臨床医学の実践における医療水準として確立されていたと認めることはできない」と判断した。「症例報告は、一般に、特殊な疾患の発見や治療法の確立のために有用なものということができるものの、医学的証拠の階層では下位に位置付けられるものであるから、症例報告があることをもって、直ちに臨床医学の実践における医療水準となっていたということはできず、この点は、仮に症例報告が相当数にのぼっていたとしても、同様というべきである」「医学的証拠の階層の上位に位置付けられると考えられる「日本頭頸部学会編 頭頸部診療ガイドライン2009年版」には、頭頸部のがんの原発巣の診断に関し、浸潤性の下垂体腺腫の存在について言及した部分はない」本件患者らの指摘する症例報告は、脳外科ないし内分泌科等、耳鼻咽喉科以外の領域の医学雑誌に掲載されたものであり、耳鼻咽喉科領域の医学雑誌に掲載されたものではない。本件患者らの指摘する症例報告には、浸潤性の下垂体腺腫について、まれと報告するものが多いこと。なお、本件において、A大学病院の耳鼻咽喉科医師が、プロラクチノーマと嗅神経芽細胞腫の鑑別が問題となった平成10年の症例の症例報告をしているとして、浸潤性の下垂体腺腫が存在するとの知見があったとの主張がなされた。これに対し、裁判所は、「医師が過去に経験した特殊な症例によって得られた知見が診療当時の医師の有すべき知見とはいえない場合において、医師がその後、当該知見を失念したり、当該知見が現に診療中の患者に当てはまるか否かの検討が必ずしも十分でなかったりしたとしても、これをもって、当該医師に過失があったと直ちにいうことはできない」とし、以下の点などを指摘し、過失があったとは言えないと判断した。医師が過去に経験した特殊な症例やその際に得た知見をすべて記憶しておくべきであるとはいえない。症例報告をした医師は、本件患者の主治医ではなかったこと。過去の症例報告事例では、左上顎洞がんの疑いで紹介を受け、病理医から小細胞がんと診断された事例であったのに対し、本件では、慢性副鼻腔炎の疑いで紹介され、病理医から嗅神経芽細胞腫と診断された事例であったこと。本件では、他院である大学病院Bにおいて、本件腫瘍が嗅神経芽細胞腫であるかについて改めて診断することが予定されていたと考えられること。注意ポイント解説本件は、大学病院を含む複数の医療機関において診療が行われるも、結果として、良性の腫瘍を悪性腫瘍と誤信して診療していたことが判明し、それまでの治療において後遺症が残存した事案である。そのため、当時の各医療機関の医療水準のもとで、良性腫瘍であると診断することができたかが問題となった。具体的には、本件では、患者の主訴は耳鼻科領域のものであったが、真実は脳外科領域のものであったことから、他の診療科において知己していて然るべき知見が医療水準を構成するかが問題となった。そして、本裁判所の判断のうち「医療訴訟において、医師の有すべき注意義務の基準となるべきものは、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である」とするのは判例上確立された基準であるため、特に目新しいところはない。他方で、本裁判所が「医療水準については、医療機関の性格、その所在する地域の医療環境の特性等のほか、医師の専門分野を考慮すべきであり、診療当時、ある地域の大学病院の脳外科医においては、知悉していてしかるべき知見であっても、同病院の耳鼻科医においては、これが困難な知見については、その知見を有していなかったとしても、これをもって、上記耳鼻科医に過失があるということはできないというべき」とし、医師の専門分野を考慮すべきとした判断は、必ずしも明言されてこなかったところであり、注目に値する。また、併せて、医療水準の判断において、本裁判所が成書、症例報告、ガイドラインの位置付けなどに関し、「症例報告は、…医学的証拠の階層では下位に位置付けられるものであるから、症例報告があることをもって、直ちに臨床医学の実践における医療水準となっていたということはできず、この点は、仮に症例報告が相当数にのぼっていたとしても、同様」「医学的証拠の階層の上位に位置付けられると考えられる「日本頭頸部学会編 頭頸部診療ガイドライン2009年版」には、…」として、医学的知見の掲載された文献等の医療水準判断における位置付けを明示している点も、必ずしも明言されてこなかったところであり、注目に値する。本件においては、結果として、良性の腫瘍を悪性腫瘍と誤信して診療していたことが過失ではないと判断されたものの、それは、患者の主訴に合致する診療科(耳鼻咽喉科)において、各医療機関において然るべき検査が行われていたこと。いずれの検査においても、患者の主訴に合致する診療科(耳鼻咽喉科)の悪性腫瘍を指摘する一方、真実の疾患の可能性をうかがわせる読影レポートなどがなされていないこと。本件腫瘍が、真実の疾患の典型的な例とは異なり、鑑別が困難なものであったこと。患者の主訴に合致する診療科(耳鼻咽喉科)において、真実の疾患に関する症例報告はほとんどない上、症例報告があるものにおいても本件腫瘍の発生頻度が稀とされているものであったこと。等の事情があったためと考えられる。このため、然るべき検査が行われていなかったり、検査において真実の疾患を疑わせるレポートがあったり、他診療科でも知っていて然るべき疾患であったりする場合(診療科を問わない医学書やガイドラインに記載されている等)には、本件と異なる判断がされる可能性があるものであり、本裁判所の判断は必ずしも一般化できないことに留意して診療にあたる必要がある。医療者の視点本件は、自らの専門領域の疾患との鑑別が問題となる他科の疾患にどう向き合うかという、実臨床でしばしば遭遇する課題について、司法の判断が示された重要な事例です。裁判所が「医師の専門分野」を考慮し、耳鼻科医が脳神経外科領域の稀な疾患である「浸潤性の下垂体腺腫」の知見を有していなかったとしても、直ちに注意義務違反(過失)にはあたらないと判断した点は、臨床現場の実感に近いものと言えます。患者さんの主訴(鼻出血や鼻閉など)から耳鼻咽喉科を受診し、担当医がその専門領域の疾患を念頭に鑑別診断を進めることは、ごく標準的な診療プロセスだからです。しかし、実臨床の現場では、診断に少しでも迷う点や非典型的な所見があれば、専門分野に固執せず、他科へコンサルテーションを行うことが極めて重要です。本件でも、初期のMRI検査の放射線科レポートには「下垂体機能などはチェックが必要であると思われる」との記載がありました。このようなサインをどう受け止め、脳神経外科や内分泌内科といった他科へ相談するアクションを起こせたかどうかが、患者さんの診断結果を左右した可能性があります。この判決は、専門外の知識不足が直ちに法的責任に問われるわけではないことを示しており、臨床医の過度な萎縮を防ぐ意義があります。一方で、私たちは「医療水準」という基準だけでなく、常に患者さんにとっての最善は何かを考えなければなりません。非典型的な症例に対しては、専門の壁を越えて柔軟に他科の専門医の知見を求める姿勢が、これまで以上に重要になると考えさせられる事例です。Take home message自身の診療科領域の疾患との鑑別が問題となる他科の疾患(成書やガイドラインに記載のあるもの、比較的頻度の高いもの)については、知見をアップデートしておく必要がある。患者の主訴から疑われる疾患の鑑別に必要な検査を行い、他科の専門疾患が疑われれば速やかにコンサルトする必要がある。キーワード他科領域の知見、成書、症例報告、ガイドライン、医療水準

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日本における統合失調症患者に対する終末期ケアの実態

 東北大学のFumiya Ito氏らは、日本全国のレセプトデータベース(NDB)を用いて、統合失調症入院患者の終末期ケアの実態を調査した。BMJ Supportive & Palliative Care誌オンライン版2025年7月15日号の報告。 2012~15年に死亡した20歳以上の入院患者を対象に、NDBのサンプリングデータセットを用いて、レトロスペクティブコホート研究を実施した。アウトカムは、最期の14日間に終末期ケアを受けた患者の割合とした。 主な結果は以下のとおり。・終末期患者4万9,932例のデータを分析し、そのうち統合失調症患者は530例であった。・死亡場所については、統合失調症患者は精神科病棟で死亡していた(44.8%、95%信頼区間[CI]:41.7~48.9)。・統合失調症患者は非統合失調症患者と比較し、心肺蘇生(16.6%vs.20.5%、p<0.001)、人工呼吸器(13.4%vs.20.9%、p<0.001)を行った割合が低かったが、オピオイド投与の割合は高かった(20.8%vs.19.0%、p=0.30)。・多変量ロジスティック回帰分析では、統合失調症患者は心肺蘇生(調整オッズ比[aOR]:0.50、95%CI:0.38~0.65、p<0.001)、人工呼吸器(aOR:0.48、95%CI:0.36~0.63、p<0.001)の実施と負の相関を示し、オピオイドの投与とは正の相関を示した(aOR:1.57、95%CI:1.18~2.09、p=0.002)。

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個人の性格から高血圧リスクは予測できるか/早大

 心血管疾患(CVD)の主要リスクとなる高血圧は、個人の性格などが予測因子となるであろうか。この課題に早稲田大学総合人文科学研究センターのSixin Deng氏らの研究グループは、わが国における4年間の縦断的研究において、ビッグファイブ性格特性(開放性、誠実性、外向性、協調性、神経症的傾向)が高血圧リスクの予測に果たす役割を検証した。その結果、「高い開放性」は、持続性高血圧のリスク上昇と関連していることが判明した。この結果は、BMC Psychology誌2025年7月24日号に掲載された。 高血圧リスクの予測因子は性格以外にも 研究グループは、NTTデータ経営コンサルティング研究所が管理する「ヒューマン・インフォメーション・データベース」の縦断的データから、7,321人(男性4,069人、女性3,252人;平均年齢51.98[SD:13.47]歳)を抽出し、分析を実施した。性格特性はTen-Item Personality Inventory-Japanese(TIPI-J)を用いて評価され、高血圧の有無は2019~22年に毎年追跡された。階層的多項ロジスティック回帰分析を用いて、持続性高血圧と新規発症高血圧の有意な予測因子を特定した。 主な結果は以下のとおり。・「高い誠実性」は、持続性高血圧と新規発症高血圧の両方のリスク低下と関連していた。・「高い開放性」は、持続性高血圧のリスク上昇と関連していた。・性格特性に加え、年齢、性別、収入などの人口統計学的要因も高血圧リスクの有意な予測因子だった。 以上の結果から研究グループでは、「性格特性、とくに誠実性と開放性は、高血圧の転帰に重要な役割を果たすこと、そして、これらの結果は、心理的要因と人口統計的要因の両方を考慮した個人に合わせた介入の重要性を示唆し、高血圧の予防と管理戦略の改善に役立つ」と結論付けている。

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再発・難治性多発性骨髄腫、CAR-Tへのブリッジングとしてのトアルクエタマブの可能性/Blood

 再発・難治性多発性骨髄腫に対するBCMAを標的としたCAR-T療法へのブリッジング療法として、二重特異性抗体であるトアルクエタマブの有用性を多施設後ろ向き解析で評価した結果、実行可能で安全かつ効果的であることが示唆された。米国・ウィスコンシン医科大学のBinod Dhakal氏らがBlood誌オンライン版2025年8月1日号で報告。 BCMAを標的としたシルタカブタゲン オートルユーセル(cilta-cel)とイデカブタゲン ビクルユーセル(ide-cel)は再発・難治性多発性骨髄腫に有効だが、製造に6~8週間かかることや、最大10%に病勢進行または死亡のリスクがあることから、効果的なブリッジング戦略が必要となる。その選択肢の1つであるトアルクエタマブについて評価するため、20施設(米国18施設、ドイツ2施設)において後ろ向き解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・トアルクエタマブを投与された134例中119例がCAR-T治療に進んだ(cilta-cel:98例、ide-cel:21例)。進まなかった理由は、病勢進行(7例)、製造失敗(6例)、患者の意思(2例)などであった。・患者の年齢中央値は65歳、前治療歴は中央値で5ラインであった。高リスクの細胞遺伝学的所見は44%、髄外病変は41%に認められた。85%がCARTITUDE-1試験/KarMMa試験の適格基準を満たしていなかった。・トアルクエタマブの投与日数中央値は23日間(82%が0.8mg/kg隔週投与)、奏効率は71%であった。毒性は管理可能であり、Grade3以上のサイトカイン放出症候群(CRS)はみられず、Grade3の免疫細胞関連神経毒性症候群(ICANS)が2%、Grade1~2のトアルクエタマブ特有の毒性(味覚70%、皮膚38%、爪17%、60%は消失)が認められた。・CAR-T後の奏効率は88%(完全奏効54%)で、毒性はGrade3以上のCRSが2例、Grade3のICANSが1例、Grade3以上の感染症が5%に認められた。また、2例に顔面神経麻痺、1例に急性骨髄性白血病が発現した。・トアルクエタマブは持続的な可溶性BCMA低下と14日目前後のCAR-T増殖のピークと関連した。 著者らは「トアルクエタマブによるブリッジングは安全であり、治療が困難な患者の大多数がBCMA標的CAR-T療法に進むことが可能」としている。

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