サイト内検索|page:53

検索結果 合計:35100件 表示位置:1041 - 1060

1041.

第278回 いよいよ本格化するOTC類似薬の保険外し議論、日本医師会の主張と現場医師の意向に微妙なズレ?(後編)

「調査対象に偏りが見受けられるため、調査結果については詳細な分析が必要」と日本医師会こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。いろいろあった夏の甲子園(全国高校野球選手権大会)も終わり、野球はNPBとMLBのポストシーズン進出争いにその焦点が移ってきました。気になるのはMLBのロサンゼルス・ドジャースの夏に入ってからの失速ぶりです。この週末のサンディエゴ・パドレスとの3連戦では1勝2敗と負け越し、結果、パドレスにナショナル・リーグ西地区首位に並ばれました(現地8月24日現在、25日には再び首位に)。投手陣、とくにリリーフ陣の弱さがポストシーズンに向けて最大の弱点になっています。大谷 翔平選手で視聴率を稼いできたNHKも気が気でないでしょう。開幕時はワールドシリーズ出場間違いなしと言われたスター軍団のあと1ヵ月余りの戦いぶりと、ダルビッシュ 有投手擁するパドレスのさらなる追い上げに注目したいと思います。さて、今回も前回に引き続き、三党合意(自民・公明・維新)で決まったOTC類似薬の保険外しについて書いてみたいと思います。前回は、日本医師会が8月6日の記者会見で、OTC類似薬の保険外しの動きに対し強い反対の意向を改めて表明、その理由として「経済的負担の増加」と「自己判断・自己責任での服用に伴う臨床的なリスク」を挙げたこと、その一方で、今年7月、日本経済新聞社と日経メディカル Onlineが共同で医師に対して行った調査では「OTC類似薬の保険外しに医師の賛成6割」という意外な結果が出たことについて書きました。日本医師会は、記者会見でこの結果に対し、「調査対象に偏りが見受けられるため、調査結果については詳細な分析が必要」と苦言を呈したのですが、そんなに”偏った”調査だったのでしょうか。もう少しその内容を見てみましょう。「保険適用から外してもよい」と考える薬効群分類は「総合感冒薬」「湿布薬」「ビタミン剤」など日経メディカル Onlineは7月30日付けで「医師7,864人に聞いたOTC類似薬の保険適用除外への賛否」という記事を配信しました。対象は日経メディカル Onlineの医師会員で総回答者数は7,864人、調査期間は参議院選挙前の2025年7月1~6日です。同記事によれば、調査に回答した医師の過半数である62%が「OTC類似薬の保険適用除外」に対し賛成(「賛成」20%、「どちらかと言えば賛成」42%の合計)でした。なお、回答した医師の内訳は、病院勤務医70.1%、診療所勤務医15.2%、病院経営者1.5%、診療所開業医10.8%、研究者・行政職1.1%、その他2.4%です。病院勤務医が7割と最も多く、診療所開業医が実際の割合(病院長含め開業医の割合は医師全体の約2割程度)よりも若干低かったのですが、大きな「偏り」というほどのものではないでしょう。立場別での賛否では、病院勤務医が「賛成」の率が最も高く(69%)、次いで診療所勤務医(54%)、病院経営者(51%)の順でした。診療所開業医は「賛成」36%、「反対」が63%でした。「反対」が多いとはいえ約4割が保険適用除外に「賛成」とは、ある意味意外な結果でした。OTC類似薬のうち、「保険適用から外してもよい」と考える薬効群分類について聞いた質問では、「総合感冒薬」(51%)、「外用消炎鎮痛薬(湿布薬)」(41%)、「ビタミン剤」(37%)、「外用保湿薬(ヘパリン類似物質など)」(31%)が上位を占めました。保険適用から除外してよいと考える理由については、「増え続ける国民医療費を抑制するため」52%、「医薬品目的で受診する人を減らすため」31%、「OTC薬と効果に大きな違いがないため」27%、「多忙な診療業務の負担を軽減するため」16%という結果でした。つまり、勤務医を中心に現場の医師たちの実に半数が、増え続ける医療費をなんとかせねばと考えており、さらに、医師の働き方改革や医師偏在によって多忙を極める医師たちの一定数が、OTC類似薬の保険適用除外は医薬品目的で受診する人を減らし、診療業務を効率化するためにプラスになると考えているわけです。日本医師会の主張と現場の医師の意向のズレは、「軽症でも患者を手放さず、初診料・再診料を柱に診療報酬を確保する」ことを第一義とする(診療所開業医中心の)日医と、「本当に診療が必要な患者だけを効率的に診たい」現場医師との間にある、”診療方針のズレ”といえるかもしれません。OTCよりも危険な処方薬ですらきちんと説明が行われず、ポリファーマシーによる健康被害も起こっている日本医師会は「自己判断・自己責任での服用に伴う臨床的なリスク」を反対の理由に挙げ、「OTC類似薬の保険適用除外は、重複投与や相互作用の問題等、診療に大きな支障を来たす懸念がある」とその危険性を指摘していますが、現実問題として重複投与や相互作用を常に気にしながら処方箋を書いている医師はどれくらいいるのでしょうか。以前(第270回 「骨太の方針2025」の注目ポイント[後編])にも書いたことですが、そもそも現状、処方箋を発行する医師は薬の説明をほぼ薬局薬剤師に丸投げし、その薬局薬剤師も印刷された薬剤情報提供書を右から左へ受け流しているだけ、というところが少なくありません(私や家族の経験からも)。OTCよりも危険な処方薬ですらきちんと説明が行われず、ポリファーマシーによる健康被害も起こっている状況はそのままに、「OTC類似薬の保険適用除外は、診療に大きな支障を来たす懸念がある」とはやや言い過ぎではないでしょうか。「経済的負担の増加」は税制などの制度変更とマイナ保険証を活用したDXで改善できるのでは?OTC類似薬の保険適用除外のもう一つの問題と言われる患者の「経済的負担の増加」ですが、こちらは税制などの制度変更とマイナ保険証を活用したDXで改善できるのではないでしょうか。今年5月の三党協議の場で、使用額が大きいOTC類似薬の上位6品目と湿布薬1品目について、通常の使用日数で患者負担額がどれくらい違うかについての厚生労働省の試算が示されています。それによれば、「ヘパリン類似物質クリーム」で市販薬はOTC類似薬の5.4倍、その他の薬でも1.1〜3.4倍という結果でした。日本医師会の江澤 和彦常任理事は8月6日の記者会見でOTC類似薬を保険適用外にすることで、患者の自己負担額で比較すると30倍以上になると指摘、「経済的な問題で国民の医療アクセスが絶たれる」と懸念を示しています。しかし、患者負担の面からみれば増加ですが、国の医療費負担の面からは削減になるわけで、セルフメディケーション税制(特定市販薬を年1万2,000円超購入した場合、超過分を8万8,000円まで控除できる制度)の限度額や対象薬剤を拡充したり、医療費控除との併用を認めるような改革を行ったりすれば、患者の経済的負担増はいくらでも軽減できると思います。セルフメディケーション税制は現行の医療費控除の「特例」のため、重複控除を避ける必要があるため「選択適用」となっていますが、それこそ今の時代に合っていない制度と言えるでしょう。なお、セルフメディケーション税制については2026年12月に制度の期限を迎えるものの、国は制度の恒久化と対象薬剤(インフルエンザ検査を追加など)の拡大を検討しています。3党合意と骨太の方針でOTC類似薬の保険適用除外が決まっているのですから、それに合わせて同制度の抜本的な見直しを期待したいところです。セルフメディケーション推進で職能の重要性が増すと考えられる薬剤師、しかし日本薬剤師会はOTC類似薬の保険適用除外になぜか「反対」また、薬局等でOTCを購入しているのが患者本人なのか、家族など第三者用なのか、というチェック等もマイナンバーカードを活用し、お薬手帳の情報などと紐付けることで、より効率的に行うことができるのではないでしょうか。さらに、セルフメディケーション税制に基づく所得控除の申告もe-Tax(国税電子申告・納税システム)で簡単にできるようにすれば、OTCの活用は今まで以上に進むはずです。要はそうした制度・仕組みをつくろう、セルフメディケーションを推進しようという意欲や熱意が国や各ステークホルダーにあるかどうかだと思います。その意味では、診療と処方権を絶対に手放したくない日本医師会はさておいて、セルフメディケーション推進でその職能の重要性が増すと考えられる薬剤師を束ねる日本薬剤師会が、OTC類似薬の保険適用除外に対して「今までの仕組みを壊すことになる」(岩月 進・日本薬剤師会会長)などとして「反対」の立場を表明(2025年2月段階)しているのがまったく解せません。薬剤師は自分たちの職能を高めたり、仕事を増やしたりすることが嫌いなのでしょうか。AIやロボットに仕事を奪われてもいいのでしょうか。OTC類似薬の保険適用除外は、2025年末までの予算編成過程を通じて具体的な検討を進め、早期に実現可能なものは2026年度から実行される予定です。そうした動きを阻止するべく日本医師会、日本薬剤師会など守旧派勢力が今後、どんなアクション起こすかが注目されます。

1042.

看護師の燃え尽きがインシデントを招く?データが示す実態【論文から学ぶ看護の新常識】第28回

看護師の燃え尽きがインシデントを招く?データが示す実態看護師の燃え尽き症候群(バーンアウト)が、患者の転倒や投薬エラーといったインシデントの発生と関連していることが、最新の大規模メタアナリシスで示された。Lambert Zixin Li氏らによる研究で、JAMA Network Open誌2024年11月4日号に掲載された。看護師のバーンアウトと患者の安全、満足度、ケアの質との関連:システマティックレビューとメタアナリシス研究チームは、看護師のバーンアウトと、患者の安全、満足度、ケアの質との関連の大きさと、その調整因子を評価することを目的に、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。Web of Scienceなどの7つのデータベースを用いて、1994年1月1日から2024年2月29日までの研究を検索した。主な結果は以下の通り。32ヵ国、28万8,581名の看護師を含む85件の研究が対象となった。患者の安全への影響:看護師のバーンアウトは、患者の安全に関する以下の指標の悪化と関連していた。安全文化・風土の低下(標準化平均差[SMD]:−0.68、95%信頼区間[CI]:−0.83~−0.54)患者安全評価グレードの低下(SMD:−0.53、95%CI:−0.72~−0.34)院内感染の増加(SMD:−0.20、95%CI:−0.36~−0.04)患者の転倒の増加(SMD:−0.12、95%CI:−0.22~−0.03)投薬エラーの増加(SMD:−0.30、95%CI:−0.48~−0.11)有害事象や患者安全インシデントの増加(SMD:−0.42、95%CI:−0.76~−0.07)看護ケアの未実施の増加(SMD:−0.58、95%CI:−0.91~−0.26)(褥瘡の頻度との有意な関連はなかった)患者満足度への影響:看護師のバーンアウトは、患者満足度の評価の低下と関連していた(SMD:−0.51、95%CI:−0.86~−0.17)。(患者からの苦情や患者虐待の頻度とは有意に関連しなかった。)ケアの質への影響:看護師のバーンアウトは、看護師自身が評価したケアの質の低下と関連していた(SMD:−0.44、95%CI:−0.57~−0.30)。(標準化死亡率とは有意に関連しなかった。)関連の強さ:上記の関連は、看護師の年齢、性別、職務経験、地域によらず一貫しており、年数が経過しても持続していた。患者安全のアウトカムでは、バーンアウトの「個人的達成感の低さ」は、「情緒的消耗感」や「脱人格化」よりも関連が小さく、また「大学教育を受けた看護師」においても関連が小さかった。看護師のバーンアウトは、医療の質と安全性の低下、そして患者満足度の低下と関連していることが明らかになった。最新のシステマティックレビューとメタアナリシスから、看護師のバーンアウトが患者の安全、満足度、そしてケアの質に直接影響を与えることが明らかになりました。これは、看護師個人の情緒的消耗や脱人格化といった問題にとどまらず、医療現場における安全文化の低下、院内感染の増加、転倒、投薬エラー、看護ケアの未実施など、具体的なインシデントに直結することがデータで示されています。この「バーンアウトと、患者安全・満足度・ケアの質の低下」という重要な関連は、看護師の年齢や性別、職務経験、働く国や地域によらない、普遍的な課題であることが示されました。さらに、バーンアウトによる患者安全への悪影響は過去30年間改善されることなく続いており、ケアの質への悪影響は、時代と共に強まっているという深刻な実態も明らかになりました。これらの結果は、臨床現場でインシデントが増加している場合、その原因を看護師個人の問題として叱責したり、表面的な要因の追求だけで終わらせるべきではないことを示しています。むしろ、スタッフの精神的な疲労やバーンアウトが根底にある可能性をぜひ考慮してみてください。この視点を持つことで、問題への介入方法が大きく転換し、看護師のウェルビーイング向上だけでなく、患者さんへの安全で質の高いケアの提供に直接繋がることが、本研究でも示唆されています。さらには、本研究結果を通して、エッセンシャルワーカーである私たち看護師の労働環境や待遇の改善について、組織や行政が改めて考える一つのきっかけになることを願います。論文はこちらLi LZ, et al. JAMA Netw Open. 2024;7(11):e2443059.

1043.

医師の終末期の選択、95%が延命治療を拒否

 医師が進行がんや末期アルツハイマー病になった場合、どのような終末期医療を希望するのか? ベルギー・ブリュッセルのEnd-of-Life Care Research GroupのSarah Mroz氏らによる研究結果が、Journal of Medical Ethics誌オンライン版2025年6月10日号に掲載された。 研究チームは2022年5月~2023年2月に一般開業医、緩和ケア専門医、その他臨床医の1,157人を対象に横断的調査を実施した。ベルギー、イタリア、カナダ、米国(オレゴン州、ウィスコンシン州、ジョージア州)、オーストラリア(ビクトリア州、クイーンズランド州)の8エリアで、参加した医師に進行がんと末期アルツハイマー病という2つの仮想の臨床シナリオを提示し、終末期医療の意向に関する情報を収集した。 主な結果は以下のとおり。・出身国に関係なく、進行がんとアルツハイマー病の両ケースで90%以上の医師が症状緩和のための薬物療法を希望し、95%以上が心肺蘇生、人工呼吸器、経管栄養を避けることを希望した。・医師が心肺蘇生、人工呼吸器、経管栄養の延命治療を「良い選択肢」だと考えることはまれだった(心肺蘇生:がんの場合0.5%・アルツハイマー病の場合0.2%、人工呼吸器:同0.8%・0.3%、経管栄養:同3.5%・3.8%)。・医師の約半数が安楽死(積極的安楽死・医師幇助による自殺)を良い選択肢だと考えていた(がんの場合54.2%、アルツハイマー病の場合51.5%)。安楽死を良い選択肢だと考える医師の割合は、がんの場合はイタリアの37.9%からベルギーの80.8%、アルツハイマー病の場合は米国・ジョージア州の37.4%からベルギーの67.4%と幅があった。・安楽死の法的選択肢がある地域で開業している医師は、がん(オッズ比[OR]:3.1)とアルツハイマー病(OR:1.9)の両方に対して、安楽死を良い選択肢だと考える傾向が強かった。 研究者らは「医師の多くは、終末期における症状の緩和を強化し、延命治療を避けることを好む傾向があった。進行がんやアルツハイマー病の場合、半数以上の医師が安楽死を希望した。安楽死の希望は地域によって大きなばらつきがあり、安楽死の合法化が、地域ごとの希望に影響を与えているようだ」としている。

1044.

肥満症には社会全体で対応し、医療費を削減/PhRMA、リリー

 米国研究製薬工業協会(PhRMA)と日本イーライリリーは、「イノベーションによる健康寿命の延伸と国民皆保険の持続性:肥満症を例にして」をテーマにヘルスケア・イノベーションフォーラムを都内で共同開催した。 肥満症は、わが国でも患者数が増加し、健康障害と社会的スティグマ(偏見)を伴う、深刻な慢性疾患となっている。その一方で、肥満者の生活習慣のみがフォーカスされ、自己管理の問題と見なされる傾向がある。従来は、運動療法や食事療法など治療選択肢が少なかったこともあり、他の疾患と同じレベルの必要な治療が行われてこなかった。 しかし、近年では、治療薬という新たな治療選択肢が登場し、肥満症に関連する健康障害の改善のみならず、国民皆保険制度の持続可能性の向上にも寄与することが期待されている。 フォーラムでは、臨床、財務行政、厚生行政、製薬のパネリストが、肥満症をテーマに、医療政策の現状と課題、今後の医療イノベーションの役割について議論した。重篤な疾患の上流にある肥満症対策が医療費の軽減につながる はじめに日本イーライリリー 代表取締役社長のシモーネ・トムセン氏が、「肥満疾患の社会経済的負担は重大であり、数兆円規模で影響を与えている。早期介入を通じ、肥満関連健康障害を改善することは、財政的負担を軽減する大きな機会となる。このフォーラムを通じ、肥満症が適切に診療され、肥満症患者にとってより良い治療環境を実現するための第一歩を踏み出せることを願う」と挨拶した。 続いてシンポジウムでは、門脇 孝氏(虎の門病院院長)、岡本 薫明氏(元財務事務次官)、鈴木 康裕氏(国際医療福祉大学学長)、パトリック・ジョンソン氏(イーライリリーアンドカンパニー エグゼクティブ・バイスプレジデント)が登壇した。 シンポジウムでは、「なぜ今肥満症か?」、「日本の肥満症の課題と解決策」、そして「医療制度の持続性」について議論された。肥満症に焦点が当たっている理由として、肥満・肥満症が死に至る健康障害(心筋梗塞、脳卒中など)の上流に位置しており、気付かれにくいため健康障害を引き起こしやすいこと。そして、その健康障害が医療費などを圧迫することなどが挙げられた。 また、肥満症の課題としては、スティグマについて多くの意見が出され、ルッキズムもわが国では大きくなりつつあることが指摘された。肥満症を正しく理解し、患者の自己努力だけに委ねないよう、社会全体が取り組む必要があるという意見が出された。 そして、肥満症に関するエビデンスの創出についても、他の重篤な疾患の予防にもつながる本症への対策は、治療効果のエビデンスを研究することで健康のアウトカムだけでなく、経済的な効果も適切に検証する必要があるという提言が行われた。 また、エビデンスの観点では、患者など当事者の声が認識されていないことが大きな課題であり、これが社会的なスティグマにつながるとされ、今後は当事者の声を政策に反映していくことが、肥満症対策と政策推進の大きな鍵だとの提案がなされた。 医療制度の持続性については、医療にとどまらない予防、健康増進、健康診断が重要であり、社会・経済的に課題を抱えた肥満症の当事者も多く、こうした患者への切れ目のない支援が、社会全体で必要との意見が出された。とくに健康無関心層への啓発やメッセージ発信が必要との提言がされた。 最後にPhRMA日本代表のハンス・クリム氏が「政策決定者や医療界のリーダーは、バイオ医薬品イノベーションエコシステムが直面する課題に対処する必要がある。研究開発とイノベーションへの投資を促進し、患者が新規医薬品に迅速にアクセスできる政策が必要」と閉会の挨拶を述べ、フォーラムを終えた。

1045.

玄関付近に植物のある家に住んだほうが日本人のうつ病リスクが低い

 高齢者のうつ病は、認知機能低下や早期死亡リスク上昇につながる可能性がある。住居環境とうつ病との関連は、多くの研究で報告されているものの、玄関付近の特性とうつ病との関連性を調査した研究は限られている。千葉大学の吉田 紘明氏らは、日本人高齢者における玄関付近の特性とうつ病との関連を明らかにするため、横断的研究を実施した。Preventive Medicine Reports誌2025年6月20日号の報告。 2022年1月〜2023年10月、65歳以上の日本人を対象にコホート研究を実施した。解析対象は、東京都23区内に居住する2,046人(平均年齢:74.8±6.2歳)。2023年におけるうつ病の状況は、老年期うつ病評価尺度(GDS15)を用いて評価した。2023年の玄関エリアの特性を説明変数として用いた。修正ポアソン回帰分析を用いて、うつ病有病率比および95%信頼区間(CI)を推定した。 主な結果は以下のとおり。・対象者2,046人中458人(22.4%)がうつ病に分類された。・玄関付近に植物や花のある住宅に住む人は、そうでない人と比較し、うつ病の有病率が低かった(有病率比:0.84、95%CI:0.71〜0.98)。・住宅種別による層別解析では、集合住宅居住者における植物や花のある住宅に住む人のうつ病有病率比は0.72(95%CI:0.52〜0.99)であった。・戸建て住宅に住む人では、有意な関連が認められなかった(有病率比:0.85、95%CI:0.70〜1.03)。 著者らは「日本人高齢者のメンタルヘルスをサポートするためには、玄関付近の特性に配慮することが重要である。植物や花を配置できる玄関周りのデザインとマネジメントシステムは、高齢者のうつ病予防に役立つ可能性が示唆された」と結論付けている。

1046.

複雑性黄色ブドウ球菌菌血症へのdalbavancin週1回投与、標準治療に非劣性/JAMA

 複雑性黄色ブドウ球菌菌血症で、初期治療により血液培養の陰性化と解熱を達成した入院患者において、標準治療と比較してdalbavancin週1回投与は、70日の時点で「アウトカムの望ましさ順位(desirability of outcome ranking:DOOR)」が優越する確率は高くないが、臨床的有効性は非劣性であることが、米国・デューク大学のNicholas A. Turner氏らが実施した「DOTS試験」で示された。黄色ブドウ球菌菌血症に対する抗菌薬静脈内投与は、一般に長期に及ぶためさまざまな合併症のリスクを伴う。dalbavancin(リポグリコペプチド系抗菌薬)は、終末半減期が14日と長く、in vitroで黄色ブドウ球菌(メチシリン耐性菌を含む)に対する抗菌活性が確認されていた。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2025年8月13日号で報告された。週1回投与2回の有効性を評価する北米の無作為化試験 DOTS試験は、複雑性黄色ブドウ球菌菌血症の初期治療を終了した入院患者におけるdalbavancinの有効性と安全性の評価を目的とする非盲検評価者盲検化無作為化優越性試験であり、2021年4月~2023年12月に米国の22施設とカナダの1施設で参加者を登録した(米国国立アレルギー感染症研究所[NIAID]の助成を受けた)。 年齢18歳以上、複雑性黄色ブドウ球菌菌血症と診断され、無作為化の前に、初期抗菌薬治療開始から72時間以上、10日以内に血液培養の陰性化と解熱を達成した患者を対象とした。被験者を、dalbavancin(1日目、8日目の2回、1,500mg/日、静脈内投与)または標準治療(メチシリン感受性の場合はセファゾリンまたは抗ブドウ球菌ペニシリン、メチシリン耐性の場合はバンコマイシンまたはダプトマイシン、治療医の裁量で4~8週間投与)を受ける群に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは、70日時点のDOORとし、次の5つの構成要素の組み合わせで優越性を評価した。(1)臨床的成功:黄色ブドウ球菌菌血症の徴候および症状が消失した状態での生存、(2)感染性合併症:新たな部位の感染発現、菌血症の再発、感染部位の管理のための予定外の追加処置、(3)安全性:重篤な有害事象、試験薬の投与中止に至った有害事象、(4)死亡率、(5)健康関連生活の質(HRQOL)。 dalbavancinのDOOR優越の確率に関する95%信頼区間(CI)が50%を超える場合に、優越性が達成されたと判定することとした。有害事象による投与中止が少ない 200例(平均[SD]年齢56[16.2]歳、女性62例[31%])を登録し、dalbavancin群に100例、標準治療群に100例を割り付けた。試験登録後の入院期間中央値はそれぞれ3日(四分位範囲:2~7)および4日(2~8)だった。167例(84%)が70日目まで生存し、有効性の評価を受けた。70日目に有効性の評価を受けなかった参加者は、解析では臨床的失敗と見なされた。 70日時点で標準治療群に比べdalbavancin群でDOORが優越する確率は47.7%(95%CI:39.8~55.7)であり、dalbavancin群の優越性は示されなかった。 DOORの各構成要素については、試験薬の投与中止に至った有害事象の頻度(3.0% vs.12.0%、DOOR優越の確率:54.5%[95%CI:50.8~58.2])がdalbavancin群で低かったが、臨床的失敗(20.0%vs.22.0%、51.0%[45.3~56.7])、感染性合併症(13.0%vs.12.0%、49.5%[44.8~54.2])、非致死性の重篤な有害事象(40.0%vs.34.0%、47.0%[40.4~53.7])、死亡率(4.0%vs.4.0%、50.0%[47.1~52.9])は、いずれも両群で同程度であった。忍容性は良好 副次エンドポイントである臨床的有効性(70日時点で次の3項目がない状態と定義。臨床的失敗[抗菌薬治療の追加または継続を要する黄色ブドウ球菌菌血症の徴候または症状が消失していない]、感染性合併症、死亡)の割合は、dalbavancin群73%、標準治療群72%(群間差:1.0%[95%CI:-11.5~13.5])と、事前に規定された非劣性マージン(95%CI下限値:-20%)を満たしたことから、dalbavancin群の非劣性が示された。 また、dalbavancinは良好な忍容性を示した。重篤な有害事象はdalbavancin群40%、標準治療群34%、試験薬の投与中止に至った有害事象はそれぞれ3%および12%、Grade3以上の有害事象は51%および39%、とくに注目すべき有害事象は12%および8%、治療関連有害事象は8%および6%で発現した。 著者は、「主要エンドポイントとして菌血症に特化したDOORを使用したため、単純な臨床的有効性のアウトカムよりもリスクとベネフィットのバランスをより適切に反映した結果が得られた可能性がある」「死亡率が低かったのは、菌血症の消失後に参加者を登録したため、生存の可能性が高い集団が選択されたことが一因と考えられる」「dalbavancinは標準治療に比べ、DOORに関して優れていなかったが、他の有効性や安全性のアウトカムを考慮すると、本研究の知見は実臨床におけるdalbavancinの使用の判断に役立つ可能性がある」としている。

1047.

最低賃金上昇へは診療報酬の期中改定対応を要望/日医

 日本医師会(会長:松本 吉郎氏[松本皮膚科形成外科医院 理事長・院長])は、8月20日に定例記者会見を開催した。会見では、「最低賃金の上昇を受けた期中改定の必要性」と、10月に開催される「女性のがん」に関するシンポジウムの概要が説明された。医療機関の倒産は地域医療へダメージ はじめに会長の松本氏が「賃上げに関する指標が軒並み高水準で上がってきている中で、医療では人員配置の制約もあり、医療職1人当たりの労働生産性を上げて、全体の員数を減らすといったような対応は難しく、人員を確保し続ける必要がある。また、診療報酬は固定価格であり、医療機関は賃上げにはとても対応できるような経営状況にはない。そのため、医師会は期中改定が必要であると要望しており、基本診療料を中心に診療報酬が引き上げられるべきと考えている。一部報道では医療機関の経営悪化が深刻化していることが広く報じられ、東京商工リサーチによれば2025年上半期の医療機関の倒産は16年ぶりの高水準となっている。このままの状況が続けば患者さんの受診がかなり制限される、あるいは入院ができなくなるといった医療が制限される状況になる」と懸念を述べた。 続いて常任理事の城守 国斗氏(医療法人三幸会 理事長)が、具体的な課題と要望内容を説明した。 この数年、最低賃金は4~6%前後の伸びを示しているものの、医療は公定価格で運営され、診療報酬改定は2年に1度であり、本体改定率は2022(令和4)年度改定では0.43%のプラス、2024(令和6)年度改定では0.88%のプラスとなっている。 これでは、最低賃金や人事院勧告の高い伸び率や本年の春季労使交渉の平均賃上げ率5.26%などに対応できる状況ではない。このような状態が続くと医療職が他産業へ流出するなどの事態が懸念される。とくに最低賃金への対応は、ベースアップ評価料の引き上げではなく、「基本診療料を中心に引き上げるべきと考え、最低賃金が引き上げられる今秋から年末に向けて期中改定が必要だと考えており、国に要望していきたい」と語った。 最後にシンポジウムのお知らせとして常任理事の黒瀬 巌氏(医療法人社団慶洋会 理事長)が、女性特有のがんは近年増加していること、20~40代の間でも発症するがんが増加傾向にあることを指摘し、「子宮頸がんや乳がんの初期ではほとんど症状がなく、見過ごされがちであり、いずれのがんも早期発見できれば完治する可能性が高い疾患」と指摘。今回のシンポジウムは、このようなことを踏まえ、「がんの早期発見・治療に結び付けるために、定期的な検診とともに、早期から医療機関への適切な受診が必要であることを啓発することが目的」と説明した。 シンポジウムは、「知って安心! 女性のがんを正しく学ぼう!」をテーマに、10月5日(日)の14時30分(2時間)より日本医師会館 大講堂で開催予定。

1048.

アカラブルチニブ、マントル細胞リンパ腫に承認取得/AZ

 アストラゼネカは、アカラブルチニブマレイン酸塩水和物(商品名:カルケンス錠100mg)について、「マントル細胞リンパ腫」を効能又は効果として、2025年8月25日付で厚生労働省より承認を取得したことを発表した。本承認は国際共同第III相ECHO試験の結果などに基づくもので、米国、EU、ほか数ヵ国でマントル細胞リンパ腫(MCL)に承認されている。 第III相ECHO試験は、65歳以上の未治療MCL患者を対象とし、アカラブルチニブとベンダムスチンおよびリツキシマブとの併用療法群と標準治療である免疫化学療法群を比較した試験で、アカラブルチニブ併用療法群が病勢進行または死亡のリスクを27%低減したことが示唆された(ハザード比:0.73、95%信頼区間[CI]:0.57~0.94、p=0.016)。また、無増悪生存期間(PFS)の中央値は、免疫化学療法単独群の49.6ヵ月に対し、アカラブルチニブ併用療法群で66.4ヵ月であった。 再発/難治性のMCLに対しては、海外第II相非盲検単群試験であるACE-LY-004試験、および国内第I相試験(D8220C00001試験)の結果に基づいている。ACE-LY-004試験では、標準的な免疫化学療法後に再発または難治性を示したMCL患者において、アカラブルチニブ単剤療法による全奏効率(ORR)が81.5%(95%CI:73.5~87.9)、完全奏効率が47.6%(同:38.5~56.7)であった。また、D8220C00001試験では、日本人の進行期B細胞性腫瘍の成人患者に対して、アカラブルチニブ単剤療法によりMCLコホートでORRが61.5%(同:31.6~86.1)であった。<本承認により追加された「効能又は効果」と「用法及び用量」>●効能又は効果:マントル細胞リンパ腫●用法及び用量:〈マントル細胞リンパ腫〉・未治療の場合ベンダムスチン塩酸塩及びリツキシマブ(遺伝子組換え)との併用において、通常、成人にはアカラブルチニブとして1回100mgを1日2回経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。・再発又は難治性の場合通常、成人にはアカラブルチニブとして1回100mgを1日2回経口投与する。なお、患者の状態により適宜減量する。

1049.

T-DXd、化学療法未治療のHER2低発現/超低発現の乳がんに承認取得/第一三共

 第一三共は2025年8月25日、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd、商品名:エンハーツ)について、日本において「ホルモン受容体陽性かつHER2低発現又は超低発現の手術不能又は再発乳」の効能又は効果に係る製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。 本適応は、2024年6月開催の米国臨床腫瘍学会(ASCO2024)で発表された、化学療法未治療のホルモン受容体陽性かつ、HER2低発現またはHER2超低発現の転移再発乳がん患者を対象としたグローバル第III相臨床試験(DESTINY-Breast06)の結果に基づくもので、化学療法未治療のHER2低発現またはHER2超低発現の乳がんを対象に承認された日本で初めての抗HER2療法となる。

1050.

幼児期の重度う蝕、母親の長時間インターネット使用と関連か

 育児に関する情報をインターネットから得ることは、現代では一般的な行動となっている。しかし、画面に向かう時間が長くなりすぎることで、子どもの健康に思わぬ影響が及ぶ可能性がある。最近の研究により、母親の長時間インターネット使用と、3歳児における重度う蝕(Severe early childhood caries :S-ECC)の発症との間に有意な関連が示された。母親が仕事以外で1日に5時間以上インターネットを使用していた場合、そうでない場合と比較して、子どもがS-ECCになるリスクが4倍以上高まる可能性が示唆されたという。研究は島根大学医学部看護学科地域老年看護学講座の榊原文氏らによるもので、詳細は「BMC Pediatrics」に7月2日掲載された。 本研究では、幼少期の口腔ケアが主に親の責任であることに着目し、母親の長時間インターネット使用が育児時間を圧迫し、子どもの口腔ケアの軽視を招く可能性があるという仮説を立てた。口腔ケアは育児の中で優先度が低くなりがちであるため、母親の長時間インターネット使用によって浸食されやすい育児行動である可能性が高く、これがS-ECCリスクの増加につながると考えられた。従来の研究では、親のメディア使用とECCとの関連については、横断研究が1件報告されているのみであり、十分に検討されていない。以上の背景を踏まえ、本研究では、子どもの1歳半時点における母親の長時間インターネット使用と、3歳時点におけるS-ECCとの関連を検証することを目的に、後ろ向きのコホート研究を実施した。 本研究では、2016年4月から2017年9月の間に島根県松江市へ妊娠の届出を行った母親とその子どもを対象とし、1歳6か月児健診および3歳児健診時のデータを用いて、1,938件の記録を解析対象とした。子どもの3歳時点のS-ECCは、虫歯、喪失歯、または処置歯の合計が4本以上と定義した。1日5時間以上のインターネット使用は、「問題のあるインターネット使用」と関連するとの報告がある。そのため本研究では、1歳6か月児健診時における母親のインターネット使用時間に関するアンケートで、「1日5時間以上」と回答した場合を「長時間インターネットを使用している」と定義した(仕事でのインターネット使用時間は含めないものとした)。 子どもの1歳半時点における母親のインターネット使用時間が1日5時間を超えていた割合は2.0%だった。母親がインターネットに最も多くの時間を費やした目的としては「情報収集」が最多であり、全体の59.5%を占めた。一方で、1日5時間以上インターネットを使用していた母親に限ると、「情報収集」に最も時間を費やしていた割合は26.3%にとどまった。また、子どもの3歳時点における虫歯の有病率は13.5%であり、S-ECCと判定された子どもの割合は2.6%だった。 子どもの3歳時のS-ECCと1歳半時点の母親のインターネット利用時間との関連について、前者を従属変数、後者を独立変数として単変量のロジスティック回帰分析を行った。その結果、1歳半時点の母親の1日5時間以上のインターネット使用は、3歳時点のS-ECCと有意に関連していた(オッズ比〔OR〕 4.64、95%信頼区間〔CI〕 1.58~13.60、P=0.005)。この傾向は、1歳半時点の親による仕上げ磨きと親の喫煙を共変量として追加した多変量解析でも維持された(調整OR 4.27、95%CI 1.42~12.86、P=0.010)。 著者らは、本研究には単一都市のデータによるサンプルバイアスや、自己申告に基づく情報バイアスの可能性があること、母親のみを対象としていることなどの限界点を挙げた上で、「母親の長時間インターネット使用がS-ECCに関連する新たな要因である可能性を示した点で、本研究には意義がある。今後の研究では、こうした限界を克服した研究デザインを採用し、対象に父親を含め、親の長時間インターネット使用と子どもの発育・発達との関連について、さらなるエビデンスの蓄積が求められる」と述べている。

1051.

PPIがOTC薬として発売!OTC類似薬の保険適用除外の布石か【早耳うさこの薬局がざわつくニュース】第157回

2026年度の法改正や報酬改定まであと半年。OTC医薬品界隈では大きな動きがあり、医療用医薬品として長年使用されてきたプロトンポンプ阻害薬(PPI)が、要指導医薬品としてドラッグストアなどで発売されました。OTC類似薬の保険適用除外にも関連してくるかもしれません。久々のプロトンポンプ阻害薬(PPI)という大型品のスイッチ化に、OTCメーカー各社が期待を懸けて拡大へ注力している。6月から他社に先行して発売中のエーザイ「パリエットS」(有効成分=ラベプラゾール)に加え、1日にはアリナミン製薬の「タケプロンs」(ランソプラゾール)、5日には佐藤製薬の「オメプラールS」(オメプラゾール)が発売。16年越しの業界要望が認められ、ようやくスイッチ化されたPPI3成分が揃い踏みとなった格好だ。(2025年8月19日付 RISFAX)PPIはOTC医薬品としてはかなりの大型商品であり、かつ複数製品の発売でもあることから広告などで話題になっています。皆さんの薬局でも患者さんからの問い合わせなどはありましたでしょうか?これらのPPIについては、2009年にスイッチ候補成分に入ったものの各方面からの反対などがあり、何度かOTC化が見送られてきました。しかし、胃がんなどの重大な消化管疾患を見過ごす恐れがないようにするため、「短期使用の徹底」を条件にラベプラゾール、ランソプラゾール、オメプラゾールの3成分が要指導医薬品としてスイッチ化され、要指導医薬品として承認されました。今まではOTC医薬品のうち、胃痛や胸やけなどの症状では、H2ブロッカーであるガスターが最も売れていたと思います。一般の人が胃痛や胸やけなどの症状緩和を目的として服用する場合、ガスターとPPIでどう使い分けをするのでしょうか。胃痛や胸やけなどの症状緩和という市場をガスターとPPIで取り合うのだとすると、実際に市場の拡大はそれほど見込めないのではないかと思ってしまいますが、各社は広告などにも力を入れているようですので、楽しみに様子をみたいと思います。OTC類似薬を段階的に保険給付から除外一方で、医療用医薬品のOTC類似薬については、保険適用除外の議論が引き続き交わされています。日本医師会は、2025年8月の定例会見で「OTC類似薬の保険適用除外は反対」と再度表明しました。医療用医薬品に比べて価格が10倍以上高いことが多いこと、それにより経済的な問題で国民の治療アクセスが絶たれ、自己判断や自己責任で服用しなければならず、臨床的なリスクが伴うなどと主張しています。2025年6月に基本方針が三党で合意され閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025」(骨太方針2025)に「OTC類似薬の保険外しの政策は、OTC類似薬(市販薬と成分や用量が同等の処方薬)を段階的に保険給付から除外する」という方針が盛り込まれています。2025年度末までに検討を進め、2026年度から実現可能なものは実行される予定ですので、これから半年ほどで議論が活発化されるはずです。それほど時間はありません。今後のOTC医薬品、医療用医薬品のOTC類似薬の取り扱いの議論に注目していきたいと思います。

1052.

高齢者の高血圧【日常診療アップグレード】第37回

高齢者の高血圧問題76歳女性。高血圧のため定期的に受診している。症状は何もない。既往歴に高血圧、脂質異常症、変形性関節炎がある。内服薬はリシノプリル、シンバスタチンである。自立した生活を送っている。血圧は136/82mmHg、脈拍は74/分である。収縮期血圧を130mmHg未満とするため、患者に相談することなく降圧薬を追加した。

1054.

第281回 森林浴で高血圧が改善

森林浴で高血圧が改善森林浴(forest bathing)が本態性高血圧症患者の血圧を有意に下げることが、中国での無作為化試験で示されました1,2)。さかのぼること40年以上前の1980年代、日本発祥の森林浴は緊張を解いて不安を軽減させる心理的な効果を有することが知られます。日本のチームの2008年の報告によると、森林浴はアドレナリンやノルアドレナリンなどのストレスホルモンの尿中濃度を下げます3)。また、副交感神経の活性を高めうる一方で、交感神経の活性を抑制しうることも多く報告されており4)、それらの報告も森林浴のリラックス効果を裏付けています。そのような心理的効果のみならず、森林浴は免疫を向上させ、血圧を抑制するなどの体調を整える働きも有することが知られています。それゆえ自然の中で過ごすことを慢性疾患の治療に取り入れる動きが増えています。たとえば高齢化する人口での高血圧症の治療に森林浴は有益かもしれません。最近Lancet Planet Healthに発表されたメタ解析によると、毎週いくらかの時間を公園などの自然の中で過ごすようにすることを患者に勧める自然処方(nature prescription)は血圧の有意な低下をもたらしました5)。自然処方群の収縮期血圧(SBP)と拡張期血圧(DBP)は対照群に比べてそれぞれ4.82mmHgと3.82mmHg多く下がりました。そのメタ解析にも含まれる中国での無作為化試験では、本態性高血圧症の高齢者の血圧を下げる森林浴の効果が確認されています6)。被験者24例のうち、半数の12例は浙江省の常緑広葉樹林、あとの半数の12例は浙江省の省都(杭州市)の市街地で7日間を過ごしました。両群とも毎日午前と午後に散歩し、広葉樹林で過ごした被験者の血圧が市街地で過ごした被験者に比べて有意に低下しました。中国の森林研究所のAibo Li氏と東京農業大学の上原 巌氏らの新たな試験結果によると、同様の効果がより短期の3日間の森林浴でも得られるようです。Li氏らの試験には本態性高血圧症の高齢者36例が参加しました。2021年5月21~23日の3日間を24例は森林浴をして過ごし、対照群となる12例は市街地で過ごしました。森林浴をする被験者は杭州市から車で3時間半ほどのところの国立公園に出向き、毎日3時間ゆっくりハイキングし、中国の伝統的な運動である気功をやはり毎日1時間しました。加えて、21日の午後にはリラックスと交流のためにお茶を振る舞う会が1時間催され、22日の午後には瞑想を1時間しました。対照群の12例は宿泊する市街地の近くを森林浴群と同様に散歩して気功をし、22日の午後には瞑想をしました。試験開始時点で差がなかったSBPとDBPのどちらも試験終了後には森林浴群のほうが市街地群よりも低くなっていました。森林浴群と市街地群の試験終了後のSBPはそれぞれ134.08mmHgと146.50mmHg、DBPはそれぞれ78.25mmHgと84.58mmHgでした。森林浴群は炎症の指標のC反応性タンパク質(CRP)がより低下しており、値が高いほど好調なことを意味する心拍変動(heart rate variability)がより高くなっていました。また、不安やストレスがより軽減し、活力の向上も認められました。森林浴は薬に頼らない効果的な降圧治療となりうると著者は結論しています。今回の試験で森林浴群と対照群がどれだけ歩いたかは不明です。もし森林浴群のほうがより歩いていたならそれが転帰改善の理由かもしれず2)、今後の試験では歩数の検討も必要なようです。森林浴の効果がどれだけ長続きするか、健康維持にどう貢献するかを調べる課題も残っています1)。また、より多様な多くの被験者を募っての試験を実施することで森林浴の効果の汎用性も判明するでしょう。 参考 1) Li A, et al. Front Public Health. 2025;13:1631613. 2) Forest bathing may boost physical health, not just mental well-being / NewScientist 3) Li Q, et al. J Biol Regul Homeost Agents. 2008;22:45-55. 4) Li Q. Environ Health Prev Med. 2022;27:43. 5) Nguyen PY, et al. Lancet Planet Health. 2023;7:e313-e328. 6) Mao GX, et al. J Cardiol. 2012;60:495-502.

1055.

ラーメン摂取頻度と死亡リスクの関係~山形コホート

 週3回以上のラーメンの頻繁な摂取は、とくに男性、70歳未満、麺類のスープを50%以上摂取する習慣やアルコール摂取習慣のある人といった特定のサブグループで死亡リスク増加と関連する可能性が示唆された。山形大学の鈴木 美穂氏らは、山形コホート研究の食品摂取頻度質問票のデータを用いて、日本人一般集団におけるラーメン摂取頻度と死亡率との関連を検討した。The Journal of Nutrition, Health and Aging誌オンライン版2025年8月1日号への報告より。 本研究は、山形コホート研究の食品摂取頻度質問票調査に参加した40歳以上の6,725人(男性2,349人)を対象とした。ラーメンの平均摂取頻度を、月1回未満、月1~3回、週1~2回、週3回以上の4群に分類。麺類のスープ摂取量は、「ラーメン、うどん、そばのスープはどれくらい飲みますか?」という設問に対する回答を、「50%以上」と「50%未満」の2群に分類した。ラーメン摂取頻度と死亡との関連を明らかにするため、Cox比例ハザード解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・参加者のラーメン摂取頻度は、月1回未満:18.9%、月1~3回:46.7%、週1~2回:27.0%、週3回以上:7.4%であった。・ラーメン摂取頻度が多い参加者は、より高いBMIを有し、若年、男性が多く、喫煙・飲酒習慣や、糖尿病・高血圧を有する割合が高かった。・追跡期間中央値4.5年において145人が死亡(男性85人)し、うち100人ががん、29人が心血管疾患による死亡であった。・各背景因子で調整後の多変量Cox比例ハザード解析では、「週3回以上」群は「週1~2回」群と比較して、有意ではないものの死亡リスクが増加する傾向を示した(ハザード比[HR]:1.52、95%信頼区間[CI]:0.84~2.75、p=0.163)。・サブグループ解析の結果、「週3回以上」群では、「週1~2回」群と比較して、 男性(HR:1.74、95%CI:0.83~3.65、p=0.140) 70歳未満(HR:2.20、95%CI:1.03~4.73、p=0.043) 麺類のスープを50%以上摂取(HR:1.76、95%CI:0.81~3.85、p=0.153) 飲酒習慣のある人(HR:2.71、95%CI:1.33~5.56、p=0.006)において、死亡リスクの増加傾向がみられた。

1056.

転移乳がんへのT-DXd後治療、アウトカムを比較

 転移乳がん(MBC)に対し、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)投与後の治療選択について十分なデータはない。米国・ダナ・ファーバーがん研究所のPaolo Tarantino氏らによる、電子カルテ由来のデータベースを用いた後ろ向き解析の結果、T-DXd投与後の追加治療(後治療)によるアウトカムは、MBCのサブタイプおよび投与された治療レジメンによって有意に異なることが明らかになった。また、T-DXd直後にサシツズマブ ゴビテカン(SG)を使用した場合、すべてのサブタイプで実臨床での無増悪生存期間(rwPFS)が比較的短く、T-DXdとの一定程度の交差耐性の可能性が示唆された。Journal of the National Cancer Institute誌オンライン版8月14日号掲載の報告。 本研究では、米国における全国規模の電子カルテ由来の匿名化データベースを用いて、2019年12月~2023年9月にT-DXd治療を開始し、T-DXd投与後に追加治療を受けた転移乳がん(MBC)患者のデータをレビューした。T-DXd投与前に一度でもHER2陽性であればHER2陽性、T-DXd投与前に一度もHER2陽性でなければHER2陰性として分類した。T-DXd後の治療におけるrwPFSおよび全生存期間(OS)を、カプランマイヤー法およびログランク検定を用いて比較した。 主な結果は以下のとおり。・T-DXd投与後に追加治療を受けた患者793例を特定した。・T-DXd投与後の追加治療のアウトカムはサブタイプにより有意に異なっていた(p<0.001)。各サブタイプのrwPFS中央値は以下のとおり:【HER2陽性MBC】4.6ヵ月【ホルモン受容体(HR)陽性/HER2陰性MBC】3.4ヵ月【トリプルネガティブMBC】2.8ヵ月・また、T-DXd投与後の追加治療のアウトカムは治療レジメンによっても有意に異なっていた(p<0.001)。各サブタイプおよび各レジメンごとのrwPFS中央値は以下のとおり。【HER2陽性MBC】内分泌治療レジメン:6.7ヵ月、SG:2.3ヵ月【HR陽性/HER2陰性MBC】エリブリン:5.9ヵ月、SG:2.5ヵ月【トリプルネガティブMBC患者】ほとんどの治療レジメンでrwPFSが3ヵ月以下と予後不良。SG:3ヵ月、エリブリン:2ヵ月、多剤併用化学療法:2.5ヵ月

1057.

統合失調症における認知機能、日本の医師と患者はどう考えているか

 国立精神・神経医療研究センターの住吉 太幹氏らは、日本における統合失調症に伴う認知機能(CIAS)の認識、対応、患者負担について評価を行った。Schizophrenia Research. Cognition誌2025年6月27日号の報告。 2023年4〜12月、日本の精神科医149人および統合失調症患者852人を対象に、オンラインで非介入横断研究を実施した。 主な内容は以下のとおり。・精神科医は、急性期には陽性症状のコントロールを優先し、維持期・安定期には社会機能の改善を最優先していた。・CIASのマネジメントは、患者が社会復帰する際に最も重要であると考えられていた。・外来患者よりも入院患者において、CIAS発症率が高いと報告された。・精神科医の72%はCIASの評価を行っていたが、統合失調症認知機能簡易評価尺度(BACS)を使用した割合は15%にとどまった。・精神科医の58%から、CIAS介入を受け入れた患者の割合は、担当患者の40%以下であると報告された。・統合失調症患者の68%は、現在または過去にCIASを経験していると報告した。・CIASに関連する最も多い負担は、「以前できていたことができなくなった、または時間がかかるようになった」(65%)と「集中力を維持できない」(64%)であった。・現在CIASを経験していない患者496人では、「以前できていたことができなくなった、または時間がかかるようになった」が52%、「集中力を維持できない」が50%と報告された。 著者らは「CIASは、日本の精神科医に広く認識されているものの、適切な評価ツールの使用および介入が行われていなかった。多くの患者がCIASに関連する負担を報告したが、その多くはCIASを認識していなかった。これらの結果は、CIASに対する認識を高揚させることで、臨床現場でのマネジメントが容易となり、統合失調症患者の社会復帰の向上につながる可能性を示唆している」としている。

1058.

ADHDの薬物療法、自殺・犯罪リスクも減少/BMJ

 注意欠如・多動症(ADHD)の薬物療法は、コア症状だけでなく自殺行動、物質乱用、交通事故、犯罪行為の発生を有意に低減することが、スウェーデン・カロリンスカ研究所のLe Zhang氏らの調査で示された。ADHDの治療において、薬物療法はコア症状の軽減に有効であることが無作為化対照比較試験で示されているが、自殺行動や物質乱用などの、より広範で重要な臨床アウトカムに関するエビデンスは十分でないという。研究の成果は、BMJ誌2025年8月13日号に掲載された。5つのアウトカムをtarget trial emulation研究で評価 研究グループは、経験者との協議の下で、ADHDの影響を受ける人々の現実的なニーズに合わせて選出した5つのアウトカムに関して、薬物療法の有効性を評価する目的で、target trial emulation研究を行った(Swedish Research Council for Health, Working Life and Welfareなどの助成を受けた)。 スウェーデン居住者で、2007年1月1日~2018年12月31日に、年齢6~64歳でADHDの初回診断を受けた患者を対象とし、2年間追跡した。診断から3ヵ月以内に薬物療法を開始し、追跡期間中も処方薬の使用を継続した群(開始群)と、薬物療法を開始しなかった群(非開始群)を比較した。 研究期間中に同国でADHDの治療薬として承認を受けていたのは、アンフェタミン、デキサンフェタミン、リスデキサンフェタミン、メチルフェニデート(以上、中枢神経刺激薬)、アトモキセチン、グアンファシン(以上、中枢神経非刺激薬)の6剤であった。 主要アウトカムとして、ADHDの診断から2年間における5つのアウトカム(自殺行動、物質乱用、不慮のけが、交通事故、犯罪行為)の初発および再発イベントの発生を評価した。同国で刑事責任能力および運転能力が問われる最低年齢は15歳であることから、交通事故と犯罪行為の評価は15~64歳のサブコホートで行った。イベント既往歴を有する患者で、より良好な結果 ADHD患者14万8,581例(年齢中央値17.4歳[四分位範囲:11.6~29.1]、女性41.3%)を解析の対象とした。このうち8万4,282例(56.7%)が薬物療法を開始し、開始時に最も多く処方されたのはメチルフェニデート(7万4,515例[88.4%])で、次いでアトモキセチン(6,676例[7.9%])、リスデキサンフェタミン(2,749例[3.3%])の順だった。 ADHDの薬物療法により、5つのアウトカムのうち次の4つで初発率の有意な改善を認めた。自殺行動(1,000人年当たりの重み付け発生率:開始群14.5 vs.非開始群16.9、補正後発生率比:0.83[95%信頼区間[CI]:0.78~0.88])、物質乱用(58.7 vs.69.1、0.85[0.83~0.87])、交通事故(24.0 vs.27.5、0.88[0.82~0.94])、犯罪行為(65.1 vs.76.1、0.87[0.83~0.90])。一方、不慮のけが(88.5 vs.90.1、0.98[0.96~1.01])には、両群間に有意差はみられなかった。 過去に5つのアウトカムのイベント既往歴のない患者では、薬物療法により自殺行動(発生率比:0.87[95%CI:0.79~0.95])、交通事故(0.91[0.83~0.99])の発生率が有意に改善した。これに対し、イベントの既往歴を有する患者では、薬物療法により5項目すべてが、より顕著かつ有意に改善し、発生率比の範囲は自殺行動の0.79(95%CI:0.72~0.86)から不慮のけがの0.97(0.93~1.00)にわたっていた。再発への効果が顕著、刺激薬でより良好な結果 再発率は、以下のとおり、5つのアウトカムのすべてで薬物療法により有意に改善した。自殺行動(1,000人年当たりの重み付け発生率:開始群22.7 vs.非開始群24.3、補正後発生率比:0.85[95%CI:0.77~0.93])、物質乱用(166.1 vs.201.5、0.75[0.72~0.78])、不慮のけが(119.4 vs.122.8、0.96[0.92~0.99])、交通事故(31.6 vs.37.2、0.84[0.76~0.91])、犯罪行為(111.3 vs.143.4、0.75[0.71~0.79])。 また、中枢神経非刺激薬と比較して中枢神経刺激薬は、初発率および再発率とも5つのアウトカムのすべてで有意に良好であった。初発率の発生率比の範囲は、物質乱用の0.74(95%CI:0.72~0.76)から不慮のけがの0.95(0.93~0.98)まで、再発率の発生率比の範囲は、犯罪行為の0.71(0.69~0.73)から不慮のけがの0.97(0.95~0.99)までだった。 著者は、「この全国的な登録データを用いたtarget trial emulation研究は、実臨床の患者を反映したエビデンスをもたらすものである」「これらの知見は、ADHD患者全体において、広範な臨床アウトカムに対するADHD治療薬の有益な効果を示している」「本研究は、現在の無作為化比較試験では捉えきれていない、有益性に関する重要な情報を提供する」としている。

1059.

低グレード前立腺がん、想定よりリスクが高い場合も

 生検でグレードグループ1(GG1)に分類された前立腺がん患者は、転移リスクが低いため、治療はせずに経過観察のみでよいとされることが多い。しかし新たな研究で、GG1前立腺がん患者のおよそ6人に1人は中〜高リスクのがんであることが示された。米ワイル・コーネル・メディスン泌尿器科・人口健康科学科のBashir Al Hussein氏らによるこの研究結果は、「JAMA Oncology」に7月31日掲載された。 前立腺生検の結果は、非がん性から高リスクで治療が必要ながんまでさまざまである。現在、生検でGG1と判定された場合、治療は行わずに定期的に腫瘍の評価を行って進行の兆候がないか確認する「積極的監視」の方法が取られることが多い。Al Hussein氏らによると、積極的な監視では、前立腺で生成されるがん関連タンパク質である前立腺特異抗原(PSA)値をモニターするための血液検査、生検、MRI検査などが行われる可能性があるという。しかし同氏らは、前立腺生検は前立腺全体の組織を採取するわけではないため、1回の生検では悪性のがん細胞を見逃す可能性もあると強調する。  今回の研究でAl Hussein氏らは、米国のSEER(Surveillance, Epidemiology, and End Results)データを用いた人口ベースのコホート研究を実施し、リスクカテゴリー別にGG1前立腺がん特異的死亡率や手術時の病理所見を評価した。対象は、2010年から2020年にかけて、局所限局性前立腺がんと診断された29万9,746人(年齢中央値64歳)で、そのうちの11万7,162人が生検でGG1と判定されていた。 対象者のうち、9%(1万440人)がfavorableな中間リスクGG1、3%(3,145人)がunfavorableな中間リスクGG1、4%(4,539人)が高リスクGG1に分類された。これは、GG1に分類された患者の約6人に1人が実際には中〜高リスクのがんに該当し、放射線治療や前立腺の摘出が推奨されるケースだったことを意味している。また、高リスクGG1で前立腺全摘除術を受けた1,455人の患者のうち、867人(60%)に悪性病理所見が認められた。 前立腺がん特異的死亡率は、unfavorableな中間リスクGG1群で2.4%、高リスクGG1群で4.7%であり、GG2以上のfavorableな中間リスク群およびunfavorableな中間リスク群の死亡率(それぞれ、2.1%と4.0%)と同程度であることが示された。前立腺がん特異的死亡リスクは、低リスクのGG1群に比べて、favorableな中間リスクGG1群で1.60倍、unfavorableな中間リスクGG1群で2.10倍、高リスクGG1群で3.58倍であった。 この新たな知見は、一部の臨床医がGG1前立腺がんを「がん」に分類するのを完全にやめるべきだと議論している時期に明らかになったという。論文の共著者である米ケース・ウェスタン・リザーブ大学泌尿器科准教授のJonathan Shoag氏は、「低悪性度と低リスクは同じと誤解されることが多いが、われわれは今回、両者が異なることを明確に示した。GG1の名称を変更しようとする試みは見当違いだ。なぜなら、生検でGG1前立腺がんと診断された患者の中には、治療を受けなければ、生涯にわたってがんによる痛みや苦しみが生じるリスクが高い患者も多いからだ」と述べている。 Shoag氏によると、GG1前立腺がんは全て低リスクだとする考え方は、主に、摘出された前立腺組織サンプルの検査を根拠にしているという。しかし個々の患者にとって、摘出した組織からの情報に基づく判断と、たった1回の生検結果に基づく判断は同じではない。同氏は、「臨床医として、われわれは個々の患者と生検結果が示す状況に基づいて判断を下さなければならない」と述べている。  Al Hussein氏もこれに同意を示し、「GG1前立腺がんであっても患者が臨床的に不良な特徴を示す場合、予後について患者に知らせるためのより良い方法を見つける必要がある。医師には、患者を教育し、診断内容を理解して最善の治療法を決定するために必要な情報を患者に提供するとともに、実際にリスクが低い人に対する積極的監視を提唱し続ける責任がある」と話している。

1060.

カリフォルニア州では気候変動で救急外来受診数が増加

 気候変動による日々の気温上昇を受けて米カリフォルニア州の救急外来(ED)では、かつてないほどの混雑が予想されることが、新たな研究で示唆された。この研究では、同州では気候変動により主に寒冷関連の死者数が減少するという明るい側面も確認されたものの、暑熱関連の気候変動は怪我や慢性的な健康問題の悪化を招くため、EDを受診する患者が増え、医療システムへの負担が増加することが予想されたという。米カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)公衆衛生学分野のCarlos Gould氏らによるこの研究結果は、「Science Advances」に7月30日掲載された。 Gould氏は、「暑さは死に至るほどではないにしても健康に害を及ぼす可能性がある。気温の上昇は、一貫してED受診の増加と関連しているため、死亡率のみを考慮した研究や政策では大きな負担を見落とすことになる」と話している。 Gould氏らは米スタンフォード大学の研究者らと協力し、2006年から2017年までのカリフォルニア州の死亡数、ED受診数、入院数、毎日の気温に関するデータを調べ、気候変動による健康への影響を2050年まで予測した。その結果、カリフォルニア州では、気候変動により、2050年までに主に寒冷関連の死者数が合計5万3,500人減る(0.43%の減少)と推定された。この減少は、年間推定300億ドル(1ドル147円換算で4兆4,100億円)の節約につながる可能性があるという。その一方で、同州では気候変動によるED受診が合計で150万件増加(0.46%の増加)し、医療費が年間5200万ドル(約76億4400万円)増加すると推定された。 ED受診の原因のうち、暑熱と関連する症状として最も多いのは熱中症だが、怪我、精神疾患、中毒など、暑さに関連した他の出来事や症状による受診も少なくない。論文の共著者であるUCSD公衆衛生学分野のAlexandra Heaney氏は、「われわれは、熱波による健康への影響として死亡についてのみ注目しがちだが、この研究は、中毒、内分泌疾患、怪我、消化器系の問題など、暑熱の影響を受けやすいと一般には考えられていない多くのことが、実際には影響を受けていることを示している」と指摘する。その上で同氏は、「現在、そして将来における熱波について考える際には、あらゆる健康被害に焦点を当てる必要がある」と付け加えている。 研究グループは、気候変動の影響は特定の人口層に特に大きな影響をもたらすと話す。Gould氏は、「年齢は気温による健康リスクを左右する上で重要な役割を果たす。高齢者は特に寒さに弱く、逆に、若者や子どもは暑さの影響を受けやすい」と指摘する。 論文の上席著者でスタンフォード大学環境社会科学分野教授のMarshall Burke氏は、「気候変動によりカリフォルニア州で予想される医療負担を軽減するには、さまざまな関係者の協力が必要だ」と話す。同氏は、「誰が、どのように、そしてどのような気温で影響を受けるのかを把握することは、健康を守るための適切な対応を計画する上で非常に重要だ。これは気候変動の有無に関わらず当てはまることだが、地球温暖化によりその重要性はいっそう高まり、誰が何にさらされるかも変わってくる」と述べ、病院、保険会社、公衆衛生機関が協力して、今後数年間の気温上昇に備え、最もリスクの高い集団に向けたメッセージを準備する必要があると話している。

検索結果 合計:35100件 表示位置:1041 - 1060