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第170回 相変わらずグダグダの岡山大病院、眼科で不正徴収発覚も検査の具体名公表せず。健康保険法違反、臨床研究指針逸脱の可能性も

謎が多く、首を傾げざるを得ない不透明な事件こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。MLBも後半戦に突入したこの週末は、埼玉県の高校野球ファンの友人に同行して、上尾市にあるUDトラックス上尾スタジアムまで県大会3回戦の試合を観戦してきました。観戦した東京農大三高校対松山高校、熊谷商業対所沢高校の試合は3回戦ながらそれぞれ見ごたえある投手戦で楽しめました。しかし、おそらく40度は超えていたであろう観戦席の暑さには参りました(この日は埼玉や群馬など関東内陸部で軒並み39度を観測)。毎年、埼玉の県大会は何試合か現地で観戦しているので、暑さはそれなりに覚悟していたのですが、16日は桁違いでした。選手も大変そうで、ベンチに直射日光が当たっていた1塁側の農大三高では、試合中に何人の選手の足がつっていました。この先、温暖化が今以上に進むと、夏の全国高等学校野球選手権大会も地方大会から開催方法を真剣に考えなければならないかもしれません(朝5時試合開始とか)。選手だけではなく、観戦する側にとっても暑さはそれこそ死活問題になってきています。さて、今回は7月5日のNHKの報道で明らかになった岡山大学病院眼科で起きた検査費用の不正徴収について書いてみたいと思います。報道を読む限りでは、どうも謎が多く、首を傾げざるを得ない不透明な事件です。「目の中の液体を採取して病原体の有無を調べる検査」で3万円自費徴収7月5日、NHKは「岡山大学病院が、眼科で治療を受けていた複数の患者に対し、本来は病院が負担するべき検査費用を支払わせていたことが、関係者への取材で分かった」と報じました。NHKの報道によれば、岡山大病院は今年1月、眼科で治療を受けていた70代の患者に対し、目の中の液体を採取して病原体の有無を調べる検査を実施。この検査は大学病院が研究目的で行ったもので、本来費用は全額病院が負担するべきでしたが、3万円あまりの検査費用を全額患者に請求し、支払わせていたとのことです。患者から指摘を受けた大学病院は、不適切な請求だったことを認め、6月に検査費用を全額返金。その他にも不正徴収していた患者は20人以上おり、やはり返金したとのことです。なお、最初のNHK報道では「研究目的」とされていた検査は、その後「補助的検査」であったと岡山大病院は訂正しました。何か臭いますね。患者23人、総額は124万円NHKの報道を受け、各メディアも動き、岡山大病院は7月6日に眼科外来で患者23人の検査費用を誤徴取していたことが判明した、と正式に発表しました。岡山大病院が病院のウェブサイトに掲載したお詫びの文書、「岡山大学病院における検査費用の誤徴取について」によれば、自費診療で行った検査は診断の補助的検査として実施した検査で、「全額本院負担とすべきであった」として、誤って徴収していた患者23人にはすべて返金手続きを取った、とのことです。同病院は「今回の事例は、医師の保険診療への理解不足、患者さんへの説明不足等が招いたこと」として「患者さんやそのご家族、また地域の皆さまに、ご迷惑とご心配をおかけしましたことは深くお詫び申し上げます」と謝罪しています。なお、各紙報道等によれば、不正徴収が行われていたのは2019年4月~2023年2月で、目の炎症を調べる補助的な検査の費用として1人につき数万円程度徴収、総額は124万円に上っていました。1月下旬に受診した患者から大学宛に「全額負担はおかしいのではないか」との訴えがあり、病院側が調査を進めていました。NHK報道等で明るみに出たことで、7月6日の公表と相成ったわけです。「補助的な検査」とは何の検査だったのか?この報道を読んで、いくつかの疑問点が浮かんできました。一つ目は、「補助的な検査」とは何の検査だったのか、自費を徴収された患者の疾患は何だったのか、という点です。岡山大病院はWebサイトにわざわざ「お詫び文」を掲載しながら、肝心なその点について詳細を何も書いていません。NHKも各紙報道もその点について詳しく書いていません。岡山大病院が敢えて公にしていないと考えられます。これでは「私、ある悪いことをしました。ごめんなさい」と言ってるだけです。悪いことは何なのか、どう悪かったのか説明しないのでは、謝罪とは言えないのではないでしょうか。検査名や検査機器を隠さなければならない理由が何かあるのでは、と勘ぐってしまいます。本当に「補助的検査」だったのか?二つ目は、NHK報道で最初「研究目的」とされていた検査を、その後「補助的検査」と岡山大病院が訂正している点です。前田 嘉信病院長のコメントでもわざわざその点に言及しています。本当に「補助的検査」だったのでしょうか。実際には研究目的の検査で、しかも研究だという同意を患者から取っていなかったとしたら、文部科学省、厚生労働省、経済産業省の3省による「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」(文部科学省、厚生労働省、経済産業省)に抵触してしまいます。大学病院という研究機関にあって、この指針違反は重大な問題です。「患者さんへの説明不足等が招いたこと」と岡山大病院自身が謝罪している点も気になります。具体的な検査内容や検査機器、患者の疾患名がわからないとそんなことまで勘ぐってしまいます。保険診療と併せての自費検査は混合診療なのでは?三つ目は、保険診療と併せての自費検査は混合診療に該当し、健康保険法違反ではないかということです。保険診療においては基本的に、評価療養や選定療養などで定められた診療等について保険外療養費制度を活用する以外、自費診療との”混合”を認めていません。23人もの患者に堂々と混合診療を提供していたとは驚きです。岡山大病院は今年5月に中国四国厚生局長に報告書を提出したそうですが、仮に混合診療と判定されれば何らかの行政処分が下るはずです。自費徴収したお金はどこに流れていたのか?四つ目は、自費徴収したお金はどこに流れていたか、です。報道等では、発覚のきっかけとなる診療を担当した医師は、眼科で独自に料金を徴収、病院の正規の領収書とは別に、眼科独自の領収書も発行していたとのことです。眼科の医師が自分のポケットに入れていたのか、あるいは病院の会計に入れてたのか…。そもそも、保険外療養費制度を活用するにしても、病院の会計窓口ではなく、診療科の窓口で医師が自費の料金を徴収するなんて聞いたことがありません。「医師の保険診療への理解不足」と岡山大病院は説明していますが、本当にそうなのでしょうか。国立大学病院の診療行為で得たお金が民間企業へ?というわけで、岡山大病院の広報に問い合わせてみたという、知人の記者に何があったのか聞いてみました。彼によれば、岡山大病院は検査名や患者の疾患名の公表を頑なに拒んでおり、検査名、疾患名はわからなかったそうです。「とくに疾患名は患者さんのプライバシーもある」と言われたとのこと。医師が徴収していた「自費分については、検査機器のメーカーに全額行っていた」と答えたそうです。国立大学病院の診療行為で得たお金が民間企業へ?それが事実なら、それはそれで大きな問題です。検査機器メーカーも現時点で公表されていません。ガバナンス不全が際立つ岡山大病院岡山大病院(と同大医学部)の不祥事については、本連載では「第160回 岡山大教授の論文不正、懲戒解雇で決着も論文撤回にはまだ応じず」でも書きましたが、その他にもいくつかの事件で世間を騒がせてきました。まず、新型コロナ関連の交付金の過大受給です。岡山大病院は、新型コロナの入院患者を受け入れる病床を確保した医療機関を補助するための「空床補償」と呼ばれる交付金を、実際よりも高額な病床の単価で申請し、2022年度までの2年間で、合わせて19億円余りを過大に受給していたことが判明しています。その他、岡山大前学長の槇野 博史氏のスキャンダルとして、「2,000万円の私的流用」と「3億円不正経理」が2023年2月14日付の週刊誌「FLASH」ですっぱ抜かれています。同記事は、「槇野氏は、岡山大学病院長時代、約2,000万円もの大学のお金を自身の趣味である写真に注ぎ込んだ。監査法人が2022年6月3日に3億円の不正経理を指摘しているにもかかわらず、大学はこのことを公表していない」と書いています。「FLASH」はまた、2023年3月7日付の「岡山大学病院『がん患者の半数が放り出される』異常事態に…シーメンス社と結んだ250億円契約を白紙撤回」と題する記事で、岡山大学病院がシーメンスヘルスケア社と交わしていた放射線治療装置、診療棟建設、機材の維持管理等の契約を2021年8月に突如白紙撤回した事件についても書いています。同記事は、この白紙撤回も槇野氏の判断で行われたと書いています。こう見てくると、旧六医大の一つで歴史ある岡山大医学部、岡山大病院ですが、ガバナンスに相当問題がありそうです。「患者さんの信頼にこたえられるような病院づくりをしてまいる所存でございます」と、今回の事件で前田病院長は殊勝なコメントしていますが、眼科の不正徴収について検査名、機器メーカーを公表しない、できないという事実だけでも、相変わらず「信頼」からは程遠い病院だなと思いました。

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思わぬ情報収集から服薬直前の抗菌薬の変更を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第55回

 今回は、抗菌薬の服薬直前に患者さんから飛び出た思わぬ発言から処方変更につなげた症例を紹介します。患者さんの話をしっかり聞き、気になることは深掘りすることが大事だと改めて感じた事例です。患者情報50歳、男性(施設入居中)基礎疾患多発性血管炎性肉芽腫、脊髄梗塞、仙骨部褥瘡既往歴半年前に総胆管結石性胆管炎副作用歴シロスタゾールによる消化管出血疑い処方内容1.アザルフィジン錠50mg 1錠 朝食後2.プレドニゾロン錠5mg 2錠 朝食後3.ランソプラゾールOD錠15mg 1錠 朝食後4.アムロジピン錠5mg 1錠 朝食後5.エルデカルシトールカプセル0.75μg 1C 朝食後6.アピキサバン錠5mg 2錠 朝夕食後7.マクロゴール4000・塩化ナトリウム・炭酸水素ナトリウム・塩化カリウム散 13.7046g 朝食後本症例のポイント訪問診療に同行したところ、この患者さんは褥瘡の状態が悪く、処置後の感染リスクを考慮して抗菌薬が処方されることになりました。アモキシシリン・クラブラン配合薬+アモキシシリン単剤(オグサワ処方)が処方となり、緊急対応の指示で当日中の服薬開始となりました。薬を準備して再度訪問した際に、患者さんより「過去に抗菌薬でひどい目にあったと思うんだよなぁ」と発言がありました。お薬手帳や過去の診療情報提供書には抗菌薬による副作用の記載はなく、その症状はいつ・何があったときに服用した薬なのかを患者さん確認してみると、「胆管炎を起こして入院したとき、抗菌薬を服用して2日目くらいに悪心と発疹が出て具合がものすごく悪くなった。医師に相談したら薬剤誘発性リンパ球刺激試験(DLST)のようなものを行ったら抗菌薬が原因だということで治療内容が変更になったことがある」とのことでした。準備した薬は服薬させず、過去に胆管炎で入院した病院に連絡し、病院薬剤師に詳細を確認することにしました。担当薬剤師によると、副作用の登録はシロスタゾールしかありませんでしたが、カルテの詳細な経過を追跡調査してもらうことにしました。すると、胆管炎時に使用したアンピシリン・スルバクタムを投与したところ、アナフィラキシー様反応があったという医師記録があり、投与を中止して他剤へ変更したことがわかりました。処方提案と経過病院薬剤師から得たペニシリン系抗菌薬アレルギーの結果をもとに、医師にすぐ電話連絡をして事情を話しました。そこで、代替薬として皮膚移行性が良好かつ表層菌をターゲットにできるドキシサイクリンを提案しました。医師より変更承認をいただき、ドキシサイクリン100mg 2錠 朝夕食後へ変更となり、即日対応で開始となりました。施設スタッフおよび本人には、過去に副作用が生じた抗菌薬とは別系統で問題ない旨を伝えて安心してもらいました。お薬手帳にも今後の重要な情報なのでペニシリンアレルギーの記載を入れ、臨時で受診などがある場合は必ずこのことを伝えるように共有しました。変更対応後に皮疹や悪心、下痢、めまいなどが出現することなく経過し、皮膚症状も悪化することなく無事に抗菌薬による治療は終了となりました。

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コロナ罹患後症状における精神症状の国内レジストリ構築、主なリスク因子は?/日本精神神経学会

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行はすでに3年以上経過しているが、流行が長期化するほど既感染者が増加し、コロナ後遺症(コロナ罹患後症状、Long COVID)のリスクも上がる。コロナ後遺症は、倦怠感や認知機能障害といった精神神経障害が年単位で持続する場合もある。 国立精神・神経医療研究センターの高松 直岐氏らの研究チームは、こうしたコロナ後遺症の病態解明と新規治療法開発につなげるため、COVID-19感染後の精神症状を有する患者レジストリの構築を実施している。中間解析の結果、コロナ後遺症による有意な心理社会的機能障害の予測因子は、退職経験、主婦層、COVID-19罹患への心配や抑うつが中等度以上、ワクチン接種2回以下であることが示された。6月22~24日に横浜にて開催された第119回日本精神神経学会学術総会にて、高松氏が発表した。 本レジストリ、PSCORE-J(Psychiatric Symptoms for COVID-19 Registry Japan)の研究の正式名称は「COVID-19感染後の精神症状を有する患者レジストリの構築と病態解明及び新規治療法の開発に資する研究」。同センターの久我 弘典氏が研究代表を務める。COVID-19急性期患者(前向き)と過去にCOVID-19に感染した患者(後ろ向き)で16歳以上の人を対象に登録目標数1,000例とした、国内の多施設共同研究である。対象者に、頭部MRIや血液検査、認知機能検査(MOCA-J)、罹患後症状の重症度評価(CGI-S)などの医師による診察、および、スマートフォンを使って患者が自己回答する心理検査(ePRO)を定期的に実施した。対象者への「新型コロナウイルス後遺症の影響で、日常的な生活がこれまでと明らかに違いますか?」という質問で、当てはまる人をケース群、当てはまらない人をコントロール群とした。 本研究の医師の診察による予備的解析結果は以下のとおり。・ケース群43例、コントロール群29例の計72例が解析された。ケース群は女性67%、平均年齢44.9歳(SD 11.9)、コントロール群は女性66%、平均年齢42.1歳(SD 9.7)。・コロナ後遺症の重症度を臨床全般印象重症度スコアCGI-S(スコア範囲:1[正常]~7、スコアが高いほど重症)で評価したところ、コントロール群は29例すべて正常(1点)であったが、ケース群では、精神疾患の境界線上(2点)1例、軽度(3点)13例、中等度(4点)10例、顕著(5点)8例、重度(6点)10例であった。・抑うつをPHQ-9スコアで評価したところ、コントロール群は大半が正常だったのに対し、ケース群はCGI-Sで評価された重症度に比例してPHQ-9の重症度が高くなった。・ケース群では女性のほうが男性よりも有意に重症度が高い人が多かった。 ePROを使った患者アンケートでは、コントロール群115例、ケース群121例の計236例の結果が得られた。この回答を多変量解析し、コロナ後遺症による心理社会的機能障害の予測因子とオッズ比(OR)を推定した。主な結果は以下のとおり。・「COVID-19による退職経験がある」はOR:44.9、95%信頼区間[CI]:5.66~355.1(p<0.001)であった。・「主婦である」はOR:83.3、95%CI:3.15~2204.3、p=0.008であった。・「COVID-19感染が心配である(中等度)」はOR:11.9、95%CI:1.48~96.2、p=0.020、「同(重度)」はOR:56.1、95%CI:5.97~527.3、p<0.001であった。・「抑うつ(PHQ-9スコア)が中等度」はOR:7.02、95%CI:1.76~28.0、p=0.006、「同(重度)」はOR:12.3、95%CI:2.53~60.2、p<0.001であった。・「ワクチン接種が2回以下」はOR:14.2、95%CI:3.77~53.7、p<0.001であった。 高松氏は、本結果の制限として、対象者が国立機関の精神科を受診した比較的重症度の高い集団であるため、現時点では本邦の全体集団を表すものではないことを挙げつつ、今後の展望としてさらに被験者のリクルートを拡大する意向を示した。

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『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』改訂のポイント/日本腎臓学会

 6月9日~11日に開催された第66回日本腎臓学会学術総会で、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』が発表された。ガイドラインの改訂に伴い、「ここが変わった!CKD診療ガイドライン2023」と題して6名の演者より各章の改訂ポイントが語られた。「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」第1~3章の改訂ポイント第1章 CKD診断とその臨床的意義/小杉 智規氏(名古屋大学大学院医学系研究科 腎臓内科学)・実臨床ではeGFR 5mL/分/1.73m2程度で透析が導入されていることから、CKD(慢性腎臓病)ステージG5※の定義が「末期腎不全(ESKD)」から「高度低下~末期腎不全」へ変更された。・国際的に用いられているeGFRの推算式(MDRD式、CKD-EPI式)と区別するため、日本人におけるeGFRの推算式は「JSN eGFR」と表記する。・一定の腎機能低下(1~3年間で血清Cr値の倍化、eGFR 40%もしくは30%の低下)や、5.0mL/分/1.73m2/年を超えるeGFRの低下はCKDの進行、予後予測因子となる。※GFR<15mL/分/1.73m2第2章 高血圧・CVD(心不全)/中川 直樹氏(旭川医科大学 内科学講座 循環・呼吸・神経病態内科学分野)・蛋白尿のある糖尿病合併CKD患者においては、ACE阻害薬/ARBの腎保護に関するエビデンスが存在するが、蛋白尿のないCKD患者においては、糖尿病合併の有無にかかわらず、ACE阻害薬/ARBの優位性を示す十分なエビデンスがない。したがって、ACE阻害薬/ARBの投与は糖尿病合併の有無ではなく、蛋白尿の有無を参考に検討する。・CKDステージG4※、G5における心不全治療薬の推奨クラスおよびエビデンスレベルが『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では次のとおり明記された。ACE阻害薬/ARB:2C、β遮断薬:2B、MRA:なしC、SGLT2阻害薬:2C、ARNI:2C、イバブラジン:なしD。※eGFR 15~29mL/分/1.73m2第3章 高血圧性腎硬化症・腎動脈狭窄症/大島 恵氏(金沢大学大学院 腎臓内科学)・2018年版では「腎硬化症・腎動脈狭窄症」としていたが、『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では「高血圧性腎硬化症・腎動脈狭窄症」としている。高血圧性腎硬化症とは、持続した高血圧により生じた腎臓の病変である。・片側性腎動脈狭窄を伴うCKDに対する降圧薬として、RA系阻害薬はそのほかの降圧薬に比べて末期腎不全への進展、死亡リスクを抑制する可能性がある。ただし、急性腎障害発症のリスクがあるため注意が必要である。・動脈硬化性腎動脈狭窄症を伴うCKDに対しては、合併症のリスクを考慮し、血行再建術は一般的には行わない。ただし、治療抵抗性高血圧などを伴う場合には考慮してもよい。「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」で腎性貧血を伴う患者のHb目標値が改定第4章 糖尿病性腎臓病/和田 淳氏(岡山大学 腎・免疫・内分泌代謝内科学)・尿アルブミンが増加すると末期腎不全・透析導入のリスクが有意に増加することから、糖尿病性腎臓病(DKD)患者では定期的な尿アルブミン測定が強く推奨される。・DKDの進展予防という観点では、ループ利尿薬、サイアザイド系利尿薬の使用について十分なエビデンスはない。体液過剰が示唆されるDKD患者ではループ利尿薬、尿アルブミンの改善が必要なDKD患者ではミネラルコルチコイド受容体拮抗薬が推奨される。・糖尿病患者においては、DKDの発症、アルブミン尿の進行抑制が期待されるため集約的治療が推奨される。・DKD患者に対しては、腎予後の改善と心血管疾患発症抑制が期待されるため、SGLT2阻害薬の投与が推奨される。第9章 腎性貧血/田中 哲洋氏(東北大学大学院医学系研究科 腎・膠原病・内分泌内科学分野)・PREDICT試験、RADIANCE-CKD Studyの結果を踏まえて、腎性貧血を伴うCKD患者での赤血球造血刺激因子製剤(ESA)治療における適切なHb目標値が改定された。『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では、Hb13g/dL以上を目指さないこと、目標Hbの下限値は10g/dLを目安とし、個々の症例のQOLや背景因子、病態に応じて判断することが提案されている。・「HIF-PH阻害薬適正使用に関するrecommendation(2020年9月29日版)」に関する記載が追記された。2022年11月、ロキサデュスタットの添付文書が改訂され、重要な基本的注意および重大な副作用として中枢性甲状腺機能低下症が追加されたことから、本剤投与中は定期的に甲状腺機能検査を行うなどの注意が必要である。第11章 薬物治療/深水 圭氏(久留米大学医学部 内科学講座腎臓内科部門)・球形吸着炭は末期腎不全への進展、死亡の抑制効果について明確ではないが、とくにCKDステージが進行する前の症例では、腎機能低下速度を遅延させる可能性がある。・代謝性アシドーシスを伴うCKDステージG3※~G5の患者では、炭酸水素ナトリウム投与により腎機能低下を抑制できる可能性があるが、浮腫悪化には注意が必要である。・糖尿病非合併のCKD患者において、蛋白尿を有する場合、腎機能低下の進展抑制、心血管疾患イベントおよび死亡の発生抑制が期待できるため、SGLT2阻害薬の投与が推奨される。・CKDステージG4、G5の患者では、RA系阻害薬の中止により生命予後を悪化させる可能性があることから、使用中のRA系阻害薬を一律には中止しないことが提案されている。※eGFR 30~59mL/分/1.73m2 なお、同学会から、より実臨床に即したガイドラインとして、「CKD診療ガイド2024」が発刊される予定である。

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日本の双極性障害外来患者に対する向精神薬コスト~MUSUBI研究

 双極性障害の治療コストは、地域的要因および普遍的要因と関連しているが、西欧諸国以外からのデータは、限られている。また、臨床的特徴と外来薬物療法のコストとの関連性は、十分にわかっていない。札幌・足立医院の足立 直人氏らは、日本人の統合失調症外来患者における治療コストとその後の臨床症状との関連性の推定を試みた。とくに、医療費の大部分を占め、近年増加傾向にある医薬品コストに焦点を当てて調査を行った。その結果、日本における双極性障害患者の1日当たりの平均治療コストは約350円であり、患者特性および精神病理学的状態と関連していることを報告した。Annals of Medicine誌2023年12月号の報告。 日本の精神科クリニックにおける双極性障害の多施設治療調査「MUSUBI研究」では、2016年に日本の精神科176施設の外来を受診した双極性障害患者3,130例を対象にレトロスペクティブに評価を行った。臨床的特徴および薬剤の処方状況を記録し、向精神薬治療の1日当たりの総コストを算出した。日本における双極性障害外来患者の年間医療コストは、人口統計に基づき推定した。1日当たりの医療コストと臨床的特徴との関連を評価するため、重回帰分析を用いた。 主な結果は以下のとおり。・向精神薬の1日当たりのコストは、0~3,245円の範囲であり(平均349円、32.5米ドル相当)、指数関数的な分布がみられた。・双極性障害外来患者にかかる年間コストは、約519億円(5億1,900万米ドル)であった。・日本の双極性障害外来患者にかかる推定年間コストは、米国を除くOECD諸国と同等であり、一部のアジア諸国よりも高かった。・重回帰分析では、向精神薬の1日当たりのコストと強い関連が認められた因子は、社会適応、抑うつ症状、年齢、ラピッドサイクラー、精神症状、他の精神疾患の併存であった。

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話題のマイナ保険証、機器の設置率やトラブル報告は?/1,000人アンケート

 皆さんの施設ではマイナ保険証の利用で困った事例はないだろうか? ある報道によると、オンライン資格確認の導入施設の65%以上1)で何らかのトラブルが発生しているという。そこで今回、ケアネット会員のうち、20床未満の施設を経営/勤務する医師1,000人の実情を伺うべく「マイナ保険証で困っていること」についてアンケートを実施した。カードリーダーの設置率、昨年10月から40ポイント上昇 昨年10月、マイナ保険証が本格導入した際にもケアネットでは『マイナ保険証への対応』についてアンケートを実施しており、前回に続き今回も「マイナンバーカードの取得と保険証への連携手続き」「カードリーダーの設置状況」に関する調査を行った。昨年10月と今回の調査を比較した各変化率は以下のとおり。●マイナンバーカードの取得と保険証への連携手続き・マイナンバーカードを取得している:59% → 76%(+17ポイント)・取得しており、連携手続きを終えた:33% → 60%・取得しており、これから手続き予定:26% → 16%●カードリーダーの設置状況・対応済:20% → 60%(+40ポイント)・対応準備中:35% → 18%・未設置※:45% → 22% ※様子をみて検討する・迷っている、その他、対応予定はない、を含む最も困るトラブルは「システム関連」 設置義務が課されていることから、上記の結果にも反映されているようにこの半年で設置状況も変わりつつあるようだが、設置施設が増え、利用者が増えれば必然的にトラブルに見舞われる割合も増えるだろう。では、実際にどのようなトラブルが多いのかを調べたところ、「システム関連」が最も多く、「患者説明/窓口対応の負担」「登録情報の不備」とつづいた。また、トラブルが生じている施設の約4割で診療にも影響が生じているということが明らかになった。<カードリーダー設置後に困っていること>・顔認証エラー多発(50代・内科)・資格確認で該当なしがよくある(60代・内科)・リーダーが動かないとレセコン、レントゲンすべてが止まる(50代・内科)・マイナ保険証使用中はほかのシステムが使えない(30代・腎臓内科)・マイナカードリーダーの読み込みが遅い(50代・整形外科)・保険証が変更になっていてもひも付けがすぐにされていないことがある(40代・皮膚科)・勤務先変更により保険証も変更しているにもかかわらず、勤務先の手続きが滞っているためにマイナ保険証へタイムリーに反映されていない(50代・皮膚科)・本人しか取得することができず、介護の必要な家族が取得するのは難しい(50代・内科)・オンライン診療でマイナ保険証が使えない(60代・脳神経外科)・発熱外来でドライブスルー利用の患者さんがマイナ保険証を利用できない(40代・内科)・管理業務の負担が増える。保守費用が増える。マイナ保険証のほうが再診の保険証の確認により多くの時間がかかる(40代・糖尿病/代謝・内分泌科)・回線設置・セキュリティー対応を含むランニングコストで月5万円の負担を強いられる(50代・循環器内科) このほか、アンケートの詳細やマイナ保険証に関する意見などは以下のページで公開されている。『マイナ保険証の対応、困っていることは?』<アンケート概要>目的:利用可能な医療機関の65%でシステム上のトラブルを経験している(全国保険医団体連合会の最終集計結果より)と報道があったことから、会員医師の状況を確認した。対象:病床数20床未満のケアネット会員医師 1,000人調査日:2023年6月23日方法:インターネット

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中等症~重症の乾癬、女性の出生率低い

 英国で行われた住民ベースのコホート研究で、中等症~重症の乾癬女性患者は背景因子をマッチングさせた非乾癬女性と比べて、出生率が低く、流産のリスクが高いことが示された。英国・マンチェスター大学のTeng-Chou Chen氏らが報告した。乾癬女性患者の出生率および出生アウトカムに関する研究は、サンプルサイズが小規模、比較対象が設定されていない、正確な妊娠記録が欠如しているなどの限界が存在していた。今回の結果を踏まえて著者は、「さらなる研究により、流産リスクの上昇との因果関係を明らかにする必要がある」と述べている。JAMA Dermatology誌オンライン版2023年6月7日号掲載の報告。 女性の乾癬患者と年齢・生活水準(剥奪指標)をマッチングさせた非乾癬患者を比較した。1998~2019年の期間にUK Clinical Practice Research Datalink GOLDデータベースに登録された887施設の電子健康記録(EHR)を用い、pregnancy register、Hospital Episode Statisticsのデータを結び付けた。一般的に妊娠可能な年齢(15~44歳)の住民は622万3,298例で、乾癬の診断前1年以上のフォローアップデータがあった乾癬患者6万3,681例が対象となった。臨床医により記録された診断コードで乾癬患者を特定し、乾癬患者1例につき5例をマッチングさせた。 出生率は100患者年当たりの妊娠件数として算出。出生アウトカムを特定するために、pregnancy registerあるいはHospital Episode Statisticsに記録されたそれぞれの妊娠アウトカムをスクリーニングした。負の二項モデルを用いて乾癬と出生率の関連を検討し、ロジスティック回帰分析を用いて乾癬と出生アウトカムの関連を検討した。データ解析は2021年に行われた。 主な結果は以下のとおり。・乾癬患者6万3,681例と背景因子をマッチングさせた非乾癬患者31万8,405例が、解析に組み入れられた(年齢中央値30歳[四分位範囲[IQR]:22~37])。・追跡期間中央値は4.1年(IQR:1.7~7.9)。同期間における中等症~重症乾癬患者は3,252例(5.1%)で、うち561例が指標日(最新の診断日、15歳時点、1998年1月1日のいずれか)に中等症~重症乾癬であった。・全試験期間において、乾癬患者の出生率は、非乾癬患者と比較して有意に高率だった(レート比[RR]:1.30、95%信頼区間[CI]:1.27~1.33、p<0.001)。しかし、中等症~重症乾癬患者の出生率は、有意に低率であった(RR:0.75、95%CI:0.69~0.83、p<0.001)。・乾癬患者の流産のオッズは、非乾癬患者と比較して有意に高かった(オッズ比[OR]:1.06、95%CI:1.03~1.10、p<0.001)。流産の95%超が妊娠第1期(91日未満)に発生した。・一方、分娩前異常出血、妊娠高血圧腎症、妊娠糖尿病のリスク上昇はみられなかった。・流産のオッズは25~34歳群と比較して、20歳未満群(OR:2.04、95%CI:1.94~2.15、p<0.001)、20~24歳群(1.35、1.31~1.40、p<0.001)で有意に高かった。死産や早産の統計学的有意差はみられなかったが、これらの結果は、人口統計学的特性、生活様式、社会経済学的状況、併存疾患で補正後も一貫していた。

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ブタからヒトへ、心臓異種移植アウトカムに影響した因子/Lancet

 2022年1月7日、米国・メリーランド大学のMuhammad M. Mohiuddin氏らは、世界初となる10個の遺伝子改変ブタ心臓のヒトへの異種移植手術を行った。既往症や複数の外科的および非外科的な合併症にもかかわらず、レシピエントは術後60日目に移植片不全で死亡するまで生命が維持された。今回、同氏らは異種移植手術のアウトカムに影響を及ぼす因子の重要性について報告を行った。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2023年6月29日号に掲載された。同種移植不適応の末期心不全の57歳男性 対象は、年齢57歳、歩行不能の末期心不全の男性で、静動脈体外式膜型人工肺(VA-ECMO)を装着され、同種移植が不適応の患者である。 異種移植手術の成功後、移植片は心エコー上で良好に機能し、拡張期心不全が発現する術後47日目まで、心血管系および他の臓器系の機能は維持されていた。 術後50日目に、心内膜心筋生検で、間質浮腫や赤血球の血管外漏出、血栓性微小血管症、補体沈着を伴う損傷した毛細血管が見つかった。 低ガンマグロブリン血症に対する静脈内免疫グロブリン(IVIG)療法後と、初回の血漿交換中に、IgGを主とする抗ブタ異種抗体の増加が検出された。 術後56日目の心内膜心筋生検では、進行性の心筋スティフネスと一致する線維化変性が認められた。 また、微生物無細胞DNA(mcfDNA)検査では、ブタのサイトメガロウイルス/ロゼオロウイルス属(PCMV/PRV)の無細胞DNAの力価が上昇していた。超急性拒絶反応は回避、ブタPCMV/PRV再活性化で有害な炎症反応 本症例では、超急性拒絶反応は回避された。観察された血管内皮傷害の潜在的なメディエータとして、以下の因子が同定された。 第1に、広範な血管内皮傷害は抗体介在性の拒絶反応を示すものであった。第2に、IVIGはドナーの血管内皮に強く結合しており、免疫の活性化を引き起こした可能性があると考えられた。 最終的に、異種移植片の潜在的なPCMV/PRVの再活性化と複製が、有害な炎症反応を引き起こした可能性がある。 著者は、「これらの知見は、将来の異種移植手術のアウトカムを改善するための方策を指し示していると考えられる」としている。

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週1回の持効型insulin icodecの第IIIa相試験結果(ONWARDS 3)/JAMA

 インスリン製剤による治療歴のない2型糖尿病患者において、insulin icodecの週1回投与はインスリン デグルデクの1日1回投与と比較して、HbA1cの低下が有意に優れ、その一方で体重の変化には差がないことが、米国・テキサス大学サウスウェスタン医療センターのIldiko Lingvay氏らが実施した「ONWARDS 3試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2023年6月24日号で報告された。11ヵ国での無作為化実薬対照第IIIa相非劣性試験 ONWARDS 3試験は、目標達成に向けた治療(treat-to-target)を行う無作為化ダブルマスク・ダブルダミー・実薬対照第IIIa相非劣性試験であり、2021年3月~2022年6月の期間に11ヵ国92の施設で実施された(Novo Nordisk A/Sの助成を受けた)。 対象は、インスリン製剤による治療歴がなく、インスリン製剤以外の血糖降下薬による治療を受けており、HbA1cが7~11%(53~97mmol/mol)の2型糖尿病の成人患者であった。 被験者は、insulin icodec週1回投与+プラセボ1日1回投与(icodec群)、またはインスリン デグルデク1日1回投与+プラセボ週1回投与を受ける群(デグルデク群)に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、ベースラインから26週目までのHbA1cの変化量であり、非劣性マージンは0.3ポイントとした。 588例(平均[SD]年齢58[10]歳、女性219例[37%])が登録され、294例がicodec群に、294例がデグルデク群に割り付けられた。564例(96%)が試験を完遂した。体重の変化には差がない 平均HbA1c値は、icodec群ではベースラインの8.6%から26週時には7.0%に低下し(推定変化量:-1.6ポイント)、デグルデク群では8.5%から7.2%まで減少し(-1.4ポイント)(推定治療群間差[ETD]:-0.2ポイント、95%信頼区間[CI]:-0.3~-0.1)、icodec群のデグルデク群に対する非劣性が示された(p<0.001)。また、優越性検定ではicodec群の優越性が確認された(p=0.002)。 空腹時血糖値のベースラインから26週までの変化量の両群間の差(推定変化量:icodec群-54mg/dL vs.デグルデク群-54mg/dL、ETD:0mg/dL、95%CI:-6~5、p=0.90)、治療期間の最後の2週間における1週当たりの平均インスリン用量の差(ETD:1.10、95%CI:0.98~1.22、p=0.90)、体重のベースラインから26週時までの変化量の両群間の差(推定変化量:icodec群2.8kg vs.デグルデク群2.3kg、ETD:0.46、95%CI:-0.19~1.10、p=0.17)には、有意差は認められなかった。 レベル2(臨床的に重要)と3(重度)を合わせた低血糖の発生割合は、ベースラインから31週まででは数値上はデグルデク群よりもicodec群で高かったものの有意な差はなかった(曝露の人年当たりの割合:0.31件vs.0.15件、推定率比:1.82、95%CI:0.87~3.80、p=0.11)が、26週までではicodec群で有意に高かった(0.35件vs.0.12件、3.12、1.30~7.51、p=0.01)。 著者は、「26週投与後におけるHbA1c低下の0.2%ポイントの差の臨床的意義はわずかと考えられる。臨床においてinsulin icodecによる治療を考慮する場合、週1回投与のわずかな血糖改善効果と利便性を、低血糖リスクのわずかな増加と比較検討する必要がある」としている。

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英語で「避妊薬」は?【1分★医療英語】第89回

第89回 英語で「避妊薬」は?There are several methods of contraception.(いくつかの避妊方法があります)I prefer oral contraceptives.(経口避妊薬がいいです)《例文1》How effective are the contraceptive devices?(避妊具の成功率はどれくらいですか?)《例文2》Most contraceptive pills contain a combination of estrogen and progestin.(多くの避妊薬にはエストロゲンとプロゲスチンが含まれています)《解説》“contraception”(避妊)の語源は前置詞の“contra”(妨げる)と名詞の“conception”(妊娠・受胎)を合わせたものです。さらに“-ive”を付けると“contraceptives”(避妊具・避妊薬)を意味します。避妊薬は“birth control pill”とも表現します。例文にありますが、ホルモンの“estrogen”は日本語では「エストロゲン」ですが、英語の発音は「エストロジェン」(「エ」にアクセント)とかなり異なります。同様に“progestin”は「プロゲスチン」ではなく「プロジェスティン」(「ジェ」にアクセント)です。日本でもアフターピルの市販化について議論がされていますね。アフターピルは日本語と同じように“after pill”、“morning after pill”とも言いますが、“emergency contraceptive pill”(緊急避妊薬)、あるいは有名な商品名から“Plan B”(Plan B One-Stepという緊急避妊薬がある)と表現することもあります。米国の全州でアフターピルは薬局やオンラインで処方箋なしに「OTC(over-the-counter)薬」として購入できます。また、私のいるカリフォルニアでは2016年より薬剤師の権限が広がり、通常の避妊薬も薬局で薬剤師から購入できるようになりましたが、これは「BTC(behind-the-counter)薬」扱いとなっています。BTCとは言葉どおり「カウンターの後ろ」に置かれる薬剤であり、年齢や量を確認したうえでないと販売できない仕組みです。素早くアクセスできることが大事である“emergency contraception”や“immunization”(ワクチン接種)などは、日本でも薬局での販売や実施が早期に実現すればよいと思います。講師紹介

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添付文書改訂:アメナリーフに再発性単純疱疹が追加/ミチーガが在宅自己注射可能に ほか【下平博士のDIノート】第125回

アメナリーフに再発性の単純疱疹が追加<対象薬剤>アメナメビル(商品名:アメナリーフ錠200mg、製造販売元:マルホ)<改訂年月>2023年2月<改訂項目>[追加]効能・効果再発性の単純疱疹[追加]効能・効果に関連する注意単純疱疹(口唇ヘルペスまたは性器ヘルペス)の同じ病型の再発を繰り返す患者であることを臨床症状および病歴に基づき確認すること。患部の違和感、灼熱感、そう痒などの初期症状を正確に判断可能な患者に処方すること。<Shimo's eyes>本剤の適応症はこれまで帯状疱疹のみでしたが、2023年2月から「再発性の単純疱疹」が追加されました。帯状疱疹の場合は1日1回2錠を原則7日間投与ですが、再発性の単純疱疹では1回6錠の単回投与となります。初発例は適応になりません。用法・用量に関連する注意には「次回再発分の処方は1回分に留めること」とあり、患者さんの判断で服用するPIT(Patient Initiated Therapy)分を前もって1回分処方することができます。患者さん自身が単純疱疹の症状の兆候を認識した際に速やかに服用することで、早期の対応が可能となります。パキロビッド:パック600と中等度腎機能障害用のパック300が承認<対象薬剤>ニルマトレルビル・リトナビル(商品名:パキロビッドパック600/同300、製造販売元:ファイザー)<承認年月>2022年11月<改訂項目>[変更]医薬品名、規格パキロビッドパック600、同300が承認<Shimo's eyes>パキロビッドパックは、モルヌピラビル(商品名:ラゲブリオ)に続く、2番目の新型コロナウイルス感染症の経口薬として2022年2月に承認されました。2023年3月21日以前は、登録センターに登録することで特定の医療施設に配分されていました。今回パキロビッドパック600/同300が薬価収載され、2023年3月22日以降は一般流通されています。パキロビッドパック600は従来のパキロビッドパックと同等の製剤で通常用のパッケージです。一方、パキロビッドパック300は中等度の腎機能障害(eGFR30mL/min以上60mL/min未満)の患者さん用のパッケージです。600と300はブースターであるリトナビルの投与量は同じですが、抗ウイルス薬であるニルマトレルビルが300では半分の量になっています。ミチーガ:在宅自己注射が可能に<対象薬剤>ネモリズマブ(遺伝子組換え)(商品名:ミチーガ皮下注用60mgシリンジ、製造販売元:マルホ)<在宅自己注射の保険適用日>2023年6月1日<改訂項目>[追加]重要な基本的注意自己投与の適用については、医師がその妥当性を慎重に検討し、十分な教育訓練を実施した後、本剤投与による危険性と対処法について患者が理解し、患者自ら確実に投与できることを確認したうえで、医師の管理指導のもと実施すること。自己投与の適用後、本剤による副作用が疑われる場合や自己投与の継続が困難な状況となる可能性がある場合には、ただちに自己投与を中止させ、医師の管理のもと慎重に観察するなど適切な処置を行うこと。また、本剤投与後に副作用の発現が疑われる場合は、医療施設へ連絡するよう患者に指導を行うこと。使用済みの注射器を再使用しないように患者に注意を促し、すべての器具の安全な廃棄方法に関する指導を行うと同時に、使用済みの注射器を廃棄する容器を提供すること。[追加]薬剤交付時の注意患者が家庭で保管する場合は、光曝露を避けるため外箱に入れたまま保存するよう指導すること。<Shimo's eyes>本剤は、4週間の間隔で皮下投与する抗体医薬品のアトピー性皮膚炎治療薬として2022年8月に発売され、2023年6月から在宅自己注射が可能となりました。近年、新しい作用機序のアトピー性皮膚炎治療薬が続々と開発されています。経口薬としては、関節リウマチへの適応から始まったJAK阻害薬、本剤のような抗体医薬品、外用薬ではPDE4阻害薬が発売され、難治性の患者さんにも選択肢が増えています。RA系阻害薬:妊娠禁忌について再度注意喚起<対象薬剤>RA系阻害薬<改訂年月>2023年5月<改訂項目>[新設]妊娠する可能性のある女性、妊婦妊娠する可能性のある女性に投与する場合には、本剤の投与に先立ち、代替薬の有無なども考慮して本剤投与の必要性を慎重に検討し、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。また、投与が必要な場合には次の注意事項に留意すること。(1)本剤投与開始前に妊娠していないことを確認すること。本剤投与中も、妊娠していないことを定期的に確認すること。投与中に妊娠が判明した場合には、ただちに投与を中止すること。(2)次の事項について、本剤投与開始時に患者に説明すること。また、投与中も必要に応じ説明すること。妊娠中に本剤を使用した場合、胎児・新生児に影響を及ぼすリスクがあること。妊娠が判明したまたは疑われる場合は、速やかに担当医に相談すること。妊娠を計画する場合は、担当医に相談すること。<Shimo's eyes>RA系阻害薬に関しては、2014年9月に妊婦や妊娠の可能性がある女性には投与しないこと、投与中に妊娠が判明したらただちに中止することなどが注意喚起されていましたが、それ以降も妊娠中のRA系阻害薬投与により、胎児や新生児への影響が疑われる症例(口唇口蓋裂、腎不全、頭蓋骨・肺・腎の形成不全、死亡など)が継続的に報告されていました。医師が妊娠を把握せずにRA系阻害薬を使用していた例が複数存在していたため、RA系阻害作用を有する降圧薬32成分(ACE阻害薬、ARB、レニン阻害薬、アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬)の添付文書改訂が指示されました。

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食物アレルギー既往の患児、「学校生活管理指導表」に記載すべきは?【乗り切れ!アレルギー症状の初診対応】第5回

食物アレルギー既往の患児、「学校生活管理指導表」に記載すべきは?講師長野県立病院機構 長野県立こども病院 小児アレルギーセンター長伊藤 靖典 氏【今回の症例】6歳の男児。小学校入学にあたり、食物アレルギーに関する「学校生活管理指導表」の記載について主治医に相談があった。乳児期に鶏卵、小麦、クルミのアレルギーと診断されていた。現在、小麦はうどんやパンなど、制限なく摂取できている。鶏卵は食物経口負荷試験にて加熱鶏卵1個は摂取可能であることを確認したが、非加熱鶏卵は食べていない。クルミは特異的IgE抗体が陽性のため、除去を指導され、食べたことがない。特異的IgE抗体検査結果小麦:5.6 UA/mL、卵白:3.2 UA/mL、オボムコイド:<0.1 UA/mL、クルミ:56 UA/mL、Jug r 1:45.3 UA/mL学校給食で配慮(除去)が必要となる、「学校生活管理指導表」に記載するべき食品はどれか。1.小麦2.鶏卵3.クルミ4.上記すべて

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ASCO2023 レポート 消化器がん

レポーター紹介本年も世界最大級の腫瘍学学会の1つであるASCO2023が、6月2日から6日に現地米国シカゴとオンラインのハイブリッドで開催された。消化器がんの注目演題について、いくつか取り上げていきたい。ATTRACTION-5: A phase 3 study of nivolumab plus chemotherapy as postoperative adjuvant treatment for pathological stage III (pStage III) gastric or gastroesophageal junction (G/GEJ) cancer. #4000本試験は胃切除術+D2郭清以上の手術を受けたStageIIIの胃がんもしくは食道胃接合部がんに対する術後治療として、化学療法に対するニボルマブの上乗せを検証した第III相試験であり、本邦の静岡県立がんセンターの寺島先生より報告された。主要評価項目は中央判定の無再発生存期間、副次評価項目は研究者判定の無再発生存期間、全生存期間(OS)および安全性であった。日本、韓国、台湾、中国の東アジアの4ヵ国から755例が登録され、377例が化学療法+ニボルマブ群に、378例が化学療法群に登録された。患者背景は65歳以上が約40%、男性が約70%、PS0が約80%、StageIIIA〜Cが3分の1ずつ、胃全摘が43%、病理diffuse typeが56%、日本からの登録が48%あった。化学療法の内訳はS-1が35%でcapeOXが65%、PD-L1発現(腫瘍における発現)は1%以上が10%程度で、両群の患者背景に偏りは認められなかった。主要評価項目である中央判定の3年無再発生存率は、化学療法+ニボルマブ群で68.4%、化学療法群で65.3%と統計学的な有意差を認めなかった(HR:0.90、95%CI:0.69〜1.18、p=0.4363)。サブグループ解析ではニボルマブの上乗せ効果はPS0、食道胃接合部/噴門部、StageIIIA/IIIB、intestinal typeおよびS-1群で乏しい傾向があった。副次評価項目である研究者判定の3年無再発生存率は64.9% vs.59.3%(HR:0.87、95%CI:0.69〜1.11)、3年生存率が81.5%vs.78.0%(HR:0.88、95%CI:0.66〜1.17)であった。新規の有害事象は認められなかった。Perioperative PD-1 antibody toripalimab plus SOX or XELOX chemotherapy versus SOX or XELOX alone for locally advanced gastric or gastro-oesophageal junction cancer: Results from a prospective, randomized, open-label, phase II trial.  #4001前述のATTRACTION-5試験に続き、中国から周術期化学療法における抗PD-1抗体薬の上乗せを探索したランダム化第II相試験が報告された。本研究ではcT3a-4aでN因子陽性かつM0の胃がんおよび食道胃接合部がんを対象にして、SOXもしくはcapeOXに抗PD-1抗体薬であるtoripalimabを上乗せする試験であった。通常治療群は術前治療としてcapeOX/SOXを3コース、術後にcapeOX/SOXを5コース行った。試験治療群は周術期capeOX/SOXにtoripalimabを上乗せした後に、6ヵ月間toripalimab単剤が継続された。主要評価項目はtumor regression grade rate(TRG rate)でTRG0(腫瘍細胞なし)もしくはTRG1(1細胞もしくは小グループの腫瘍細胞残存)の割合であり、副次評価項目は原発巣の病理学的完全奏効率、完全切除率、無再発生存率、event free survival、全生存期間および安全性であった。各群54例、108例が登録され、今回、主要評価項目のTRG rateと安全性が報告された。化学療法+toripalimab群と化学療法群の割合は、食道胃接合部がんでは31%と37%、diffuse typeでは33%と37%、cT3では39%と31%、cN3では22%と11%、SOX治療群では61%と46%であった。TRG rateは試験治療群44%、通常治療群20%であり、試験治療群で統計学的に有意な改善を認めた(p=0.01)。また、化学療法+toripalimab群でのTRG rateの上乗せは、腫瘍部位や病理Lauren分類にかかわらず認められた。術後の病理学的評価を見ると、ypT0~2の割合は、化学療法+toripalimab群46%、化学療法群22%と、化学療法+toripalimab群で良い傾向を認めたが、yp0~1の割合は57% vs.59%と大きな差は認められなかった。周術期合併症や治療強度は両群に有意差はなかった。有害事象について見ると、免疫関連有害事象は化学療法群に比べ、化学療法+toripalimab群で多く認めたが(全Gradeでは13% vs.2%、Grade3以上では2% vs.0%)、重篤な治療関連有害事象に関しては大きな差がなかった(Grade3/4で36% vs.30%)。胃がんにおける今学会の注目演題は周術期の試験である。ATTRACTION-5は胃がんにおいて最も注目されていた発表だったが、StageIII胃がんにおける術後化学療法へのニボルマブの上乗せ効果は認められなかった。現在、周術期の免疫チェックポイント阻害薬の併用療法は多数行われている。この試験では、術前化学療法への免疫チェックポイント阻害薬toripalimabの上乗せによって、TRG rateは改善を認めた。しかし本研究はまだ観察期間が短く、無再発生存期間や全生存期間のデータはない。欧米では周術期のFLOT療法にアテゾリズマブの上乗せを検証するDANTE試験、FLOT療法にデュルバルマブの上乗せを検証するMATTERHORN試験などが行われている。DANTE試験は2022年のASCOで中間解析が報告され、副次評価項目であるTRG rateはPD-L1がCPSで高値の群やMSI-High集団で、アテゾリズマブの上乗せ効果が強く認められた。またMSI-Highの胃がんの術前治療としてイピリムマブ+ニボルマブの有効性を探索した第II相試験(GERCOR NEONIPIGA)も行われており、pCR率58.6%、TRG1は73%で認められている。今回の両研究ではバイオマーカー解析の結果はないため、今後の解析が待たれる。また、周術期化学療法へのペムブロリズマブの上乗せ効果を検証するKEYNOTE-585試験において、病理学的完全奏効率は有意に改善したものの、主要評価項目であるevent free survivalは統計学的有意な改善が示されなかったことが、MSD社のプレスリリースで報告された。現在進行中の試験も、いまだ全生存期間や無再発生存期間のデータはないため、今後、周術期治療の免疫チェックポイント阻害薬が胃がん患者の本当の予後改善につながるのかも含め、いずれの試験においても慎重な検討が必要であると考えられる。Liposomal irinotecan + 5-fluorouracil/leucovorin + oxaliplatin (NALIRIFOX) versus nab-paclitaxel + gemcitabine in treatment-naive patients with metastatic pancreatic ductal adenocarcinoma (mPDAC): 12- and 18-month survival rates from the phase 3 NAPOLI 3 trial. #40062023年のASCO-GI で発表されたNAPOLI-3試験において、リポソーマルイリノテカン+5-FU+レボホリナート療法のNALIRIFOX療法は、主要評価項目の全生存期間中央値11.1ヵ月vs.9.2ヵ月と、ゲムシタビン+ナブパクリタキセル(GnP)療法に対する統計学的に有意な改善が報告された。今回、追加解析の結果がASCO2023で報告された。主要評価項目である全生存期間は11.1ヵ月vs.9.2ヵ月(HR:0.83、p=0.04)であり、12ヵ月生存率は45.6% vs.39.5%、18ヵ月生存率は26.2% vs.19.3%と、いずれもNALIRIFOX群で良好な結果であった。事前に設定されたサブグループ解析結果も報告され、PS、肝転移の有無、年齢にかかわらず無増悪生存期間と全生存期間の双方でNALIRIFOX療法の有効性が示された。重篤な有害事象については骨髄抑制には大きな差はないものの、Grade3/4の有害事象で下痢(20.3% vs.4.5%)、嘔気(11.9% vs.2.6%)、低K血症(15.1% vs.4.0%)などがNALIRIFOX群で多い傾向であった。本研究よりNALIRIFOX療法はGnP療法への優越性が示されているが、ディスカッサントも触れていたように、有効性はFOLFIRINOX療法の第III相PRODIGE/ACCORD試験と同等で(全生存期間11.1ヵ月、12ヵ月生存率48.4%および18ヵ月生存率18.6%)、下痢はNALIRIFOXでより高率であった。NALIRIFOX療法の有効性と安全性に関する本邦のデータはないが、使用対象は全身状態良好な症例になると思われる。本邦における現状を考えると、全身状態の良好な膵がん症例にはGnP療法およびFOLFIRINOX療法(もしくはリポソーマルイリノテカン+5-FU+レボホリナート)を使い切る戦略を考慮することが肝要と考える。NALIRIFOX療法については、今後、QOLやバイオマーカー解析の結果も待たれる。Tucatinib and trastuzumab for previously treated HER2-positive metastatic biliary tract cancer (SGNTUC-019): A phase 2 basket study.  #4007Results from the pivotal phase (Ph) 2b HERIZON-BTC-01 study: Zanidatamab in previously-treated HER2-amplified biliary tract cancer (BTC).  #4008今回、HER2陽性の胆道がんに対して2つの研究が発表された。1つ目のSGNTUC-019試験は、国立がん研究センター東病院の中村先生より報告された。本研究は、HER2陽性例に対するHER2 チロシンキナーゼ高選択的経口阻害薬であるtucatinibとトラスツズマブの併用療法の有効性を探索する、臓器横断的なバスケット試験(第II相試験)における胆道がんコホートの報告である。対象は、抗HER2療法の既往がない1レジメン以上の全身化学療法を受けた、病理組織でIHC/FISHでHER2陽性症例もしくは組織か血液におけるNGS検査でHER2増幅を認めた症例であり、30例が登録された。奏効率は46.7%、病勢制御率は76.7%、無増悪生存期間中央値は5.5ヵ月で、全生存期間中央値は15.5ヵ月であった。主なGrade3以上の有害事象は嘔気、食欲不振および胆管炎であった。zanidatamabはHER2タンパクの細胞外ドメインであるECD2とECD4の2ヵ所に結合するbispecific antibodyで、前臨床研究ではトラスツズマブとペムブロリズマブの併用療法よりも期待される有効性を示した。HERIZON-BTC-01試験はゲムシタビンを含むレジメンに不応となり、中央判定で組織学的にHER2陽性と判定された胆管がんを対象にzanidatamabの有用性を探索した第II相試験である。80例が登録され、奏効率は41.3%、病勢制御率は68.8%、無増悪生存期間中央値は5.5ヵ月であった。主なGrade3以上の有害事象は下痢、心機能低下および貧血であった。HER2高発現の胆道がんは5~30%程度といわれており、注目される治療標的の1つである。バスケット型試験であるMyPathway試験のHER2陽性胆道がんコホートでは、ペルツズマブ+トラスツズマブで奏効率が23.1%と報告されている。また、昨年のASCO2022では、本邦からトラスツズマブ デルクステカンの第II相試験(HERB試験)も報告され、奏効率は36.4%であった。今回の新たな2つの治療もHER2陽性例に対し有用性を示したことから、胆道がんにおける抗HER2療法の一日も早い臨床導入が期待される。PROSPECT: A randomized phase III trial of neoadjuvant chemoradiation versus neoadjuvant FOLFOX chemotherapy with selective use of chemoradiation, followed by total mesorectal excision (TME) for treatment of locally advanced rectal cancer (LARC) (Alliance N1048). #LBA2ASCO2023消化器がんにおける、唯一のplenary session発表である。欧米では遠隔転移を伴わない進行直腸がんに対する標準治療は、術前化学放射線療法、Total Mesorectal Excision(TME:直腸間膜全切除)を伴う手術、そして術後補助化学療法である。しかし、術前化学放射線療法に伴う晩期毒性(腸管・膀胱・性機能障害、骨盤骨折、2次発がんなど)も問題となっていた。今回、cT2でN因子陽性もしくはcT3の直腸がんに対する術前治療として、骨盤内化学放射線療法(50.4Gy)群に対するFOLFOX±選択的化学放射線療法群の非劣性を検証するランダム化第III相試験(PROSPECT試験)が報告された。主要評価項目は無再発生存期間、副次評価項目は局所再発率、全生存期間、R0切除率、病理学的完全奏効率、PROによる毒性、QOLであった。非劣性マージンは片側α0.049、power85%で、1.29と設定された。対象群では術前化学放射線療法後に手術と術後補助化学療法が施行された。試験治療群では、FOLFOX6サイクル施行後20%以上の腫瘍縮小が得られた症例には、手術と術後化学療法が、腫瘍縮小20%未満およびFOLFOX不耐例には、術前化学放射線療法が施行され、その後手術と術後補助化学療法が行われた。FOLFOX±選択的化学放射線療法群に585例、化学放射線療法群に543例が登録された。患者背景に大きな偏りはなく、術前MRI施行例は84%、cT3N(+)症例が約50%、肛門縁から腫瘍までの距離は中央値で8cmであった。5年無再発生存率はFOLFOX±選択的化学放射線療法群で80.8%、化学放射線療法群で78.6%であり、非劣性マージンの1.29を95%信頼区間の上限が超えず、統計学的有意に非劣性が証明された(HR:0.92、95%CI:0.74〜1.14)。また、年齢とN因子の有無で調整しても同様に非劣性が証明された。局所再発なしに5年生存した症例の割合は、FOLFOX±選択的化学放射線療法群で98.2%、化学放射線療法群で98.4%、5年生存率は89.5%と90.2%であった。病理学的完全奏効率はFOLFOX±選択的化学放射線療法群で22%、術前化学放射線療法群で24%であった。術後化学療法も両群とも約80%で施行された。また、FOLFOX±選択的化学放射線療法で化学放射線療法を受けた症例は9%であった。術前治療における毒性は、FOLFOX±選択的化学放射線療法群で倦怠、嘔気、食欲不振などが多く、化学放射線療法群では下痢が多かった。QOLに関する有意差はなく、腸管機能や性機能に関してはFOLFOX±選択的化学放射線療法群で良好であった。以上の結果より、cT2N(+)、cT3N(-)、cT3N(+)症例に対してFOLFOX±選択的化学放射線療法は治療選択肢の1つとなりうると報告された。今回の報告では、FOLFOX±選択的化学放射線療法群では、約90%の症例で術前化学放射線療法を回避できた。腸管機能や性機能への影響も軽減されている。本研究の適格基準を満たす直腸がんの術前治療として、FOLFOX±選択的化学放射線療法は治療選択肢となりうる。ただ、cT4症例、リンパ節転移が本試験の基準より高度であるなど、さらに進行した局所直腸がんでの有効性は明らかではない。より進行した局所進行直腸がんに対しては放射線療法も含めたTotal Neoadjuvant Therapy(TNT)が注目されている。本邦でも、T3〜4/N(-)もしくはTanyN(+)の局所進行直腸がんに対して、short courseの放射線治療(5Gy×5回)からcapeOXを行う群とcapeOXIRIを行う群を比較するランダム化第III相試験(ENSEMBLE試験)が進行している。TNTでは、化学療法と放射線療法を組み合わせて行うことにより手術を避けるNon Operative Management(NOM)も注目されており、局所進行直腸がんに対する、さらなる治療開発が期待される。Efficacy of panitumumab in patients with left-sided disease, MSS/MSI-L, and RAS/BRAF WT: A biomarker study of the phase III PARADIGM trial. #3508最後に、本邦で行われたPARADIGM試験のバイオマーカー解析について報告する。RAS/BRAFのみならずMSIのステータスも含めて解析された結果であり、より実臨床に近い対象に絞った報告であった。MSI-HighもしくはRAS/BRAF変異を認める症例は、左側で10.3%、右側で43.2%と、右側で多く認められ、治療開始前のctDNAのBRAF V600E変異も左側4.3%、右側31.3%と、右側で多く認められた。左側のMSSかつRAS/BRAF変異野生型の全生存期間は、FOLFOX+パニツムマブ群40.6ヵ月に対しFOLFOX+ベバシズマブ群34.8ヵ月と、パニツムマブ群で良好であったが、MSI-HighもしくはRAS/BRAF変異型では15.4ヵ月 vs.25.2ヵ月と、ベバシズマブ群で良好であった。右側でもMSSかつRAS/BRAF野生型では全生存期間37.9ヵ月 vs.30.9ヵ月および奏効率70.7% vs.63.6%とパニツムマブ群で良好であったが、MSI-HighもしくはRAS/BRAF変異型では全生存期間13.7ヵ月 vs.17.9ヵ月および奏効率37.8% vs.69.4%と、ベバシズマブ群で良好であった。PFSも左側、右側にかかわらず、MSI-HighもしくはRAS/BRAF変異型ではベバシズマブ群で良好な傾向があった。奏効率もMSI-HighもしくはRAS/BRAF変異型では左側、右側にかかわらず、ベバシズマブ群で統計学的有意に高かった。本結果より、抗EGFR抗体薬を使用する前にRAS/BRAF変異のみならずMSIを測定することが重要であることが示唆される。また本研究を含め複数の研究で、組織検査のRASは野生型であっても、ctDNAでRAS変異を認める症例が10%程度存在することが示唆され、このような症例では抗EGFR抗体薬の効果が乏しいことが、PARADIGM試験を含め報告されている。将来的には組織だけでなく、ctDNAによるゲノム検査が治療前に行えるようになることが期待される。

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第172回 long COVIDと関連する遺伝子領域を同定

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)罹患後症状(long COVID)と関連する6番染色体の遺伝子領域が見つかりました。16ヵ国での24試験のlong COVID患者6千人超(6,450人)とそうでない約110万人(1,09万3,995人)が全ゲノム関連解析(GWAS)で検討され、ほぼどの組織でも発現することが知られる転写因子FOXP4の遺伝子領域rs9367106地点の塩基がシトシン(rs9367106-C)の人のlong COVIDの発現率はそうでない人に比べて1.6倍高いことが示されました1,2)。rs9367106地点とlong COVIDの関連はFOXP4遺伝子発現の変化を介するらしく、遺伝子発現データベースGTExを解析したところrs9367106-Cの代理役rs12660421-Aと肺や脳の視床下部のFOXP4遺伝子発現亢進の関連が認められました。先立つ研究でFOXP4とCOVID-19重症度の関連が示されています。今回の研究でも同様の結果が得られており、COVID-19重症度がlong COVID発生におそらく一枚かむことがさらに裏付けられました。ただし、FOXP4遺伝子座とlong COVIDの結び付きはより強く、重症度だけで説明がつくものではなく、重症度とは独立したFOXP4とlong COVIDの関連がどうやら存在するようです。long COVIDの快復のほどは?世界の少なくとも6,500万人がlong COVIDを患っており、その数は日々増えています3)。頭痛、疲労、脳のもやもやなどの症状を特徴としますが、long COVIDの定義はいまだに議論されています。上述したような遺伝子解析の成果が出始めてはいるもののlong COVIDの生理学的な仕組みもこれから調べていく必要があります。しかしわかってきたこともあります。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が世界に広まり始めてから3年以上が過ぎ、long COVID患者のどれほどが快方に向かうかの目安となる試験結果2つがこの5月に報告されています。5月25日にJAMA誌に掲載された報告では米国の成人約1万人が調べられ、感染から6ヵ月時点でlong COVIDだった人の3人に1人が9ヵ月時点ではlong COVIDを脱していました4)。その約1週間後の5月31日にBMJ誌に掲載された別の報告はワクチン普及前にSARS-CoV-2感染した成人約千人の追跡結果です。それら感染者のうち5人に1人を超える22.9%は感染から6ヵ月経っても不調が続いていましたが、1年後のその割合は5人に1人に満たない18.5%に低下しました5)。2年後の不調患者の割合は17.2%であり、1年後とあまり変わりませんでした。すなわち感染から1年経つと不調の解消は頭打ちとなるようです。感染から1年後までは快方がより期待できるものの1年を過ぎるといよいよ慢性病態に陥るとBMJ報告の著者は言っています6)。参考1)Genome-wide Association Study of Long COVID. July 01 2023. medRxiv.2)Gene linked to long COVID found in analysis of thousands of patients / Nature3)Davis HE, et al. Nat Rev Microbiol. 2023;21:133-146.4)Thaweethai T, et al. JAMA. 2023;329:1934-1946.5)Ballouz T, et al. BMJ. 2023;381:e074425.6)Long COVID: answers emerge on how many people get better / Nature

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男性機能の維持にも、テストステロン増加に最適な運動/日本抗加齢医学会

 いくつになっても男性機能を維持させたい、死亡リスクを減らしたい、というのは多くの男性の願いではないだろうか―。「老若男女の抗加齢 from womb to tomb」をテーマに掲げ、第23回日本抗加齢医学会総会が6月9~11日に開催された。そのシンポジウムにて前田 清司氏(早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授)が『有酸素運動とテストステロン』と題し、肥満者のテストステロン増加につながる方法、男性機能を維持するのに適した運動について紹介した。肥満者のテストステロン増加に運動が影響、男性機能には… 近年、国内の死因別死亡数では心血管疾患や脳血管疾患が上位を占めているが、肥満者(BMI≧25)が増加することでこの死因が押し上げられることが示唆されている1)。そのため、肥満者を減らせば心・脳血管疾患も減少傾向に転じる可能性がある。 そこで、前田氏はこの課題解決としてテストステロン濃度に着目。ある研究2)によると肥満者ではテストステロン濃度が低下し、またある研究3)ではテストステロンは血管機能(動脈スティフネスや中心血圧)に保護的に作用することが報告されている。加えて、テストステロン増加がさまざまな疾患リスク減少に寄与する4)ことも報告されている。以上の報告から同氏らは、肥満者ではテストステロン値が低下し、その結果、心血管リスクが上昇していると仮説を立て、肥満者において、食事・運動介入による心血管やテストステロン濃度への影響を調査した。 本研究ではまず、肥満者を対象に生活習慣の改善介入(食事と運動の併用介入)を3ヵ月間実施した。有酸素性運動は3回/週(1回あたり90分、内訳:ストレッチ10~15分、有酸素性運動40~60分、整理運動20~30分)行った。食事法には四群点数法を導入し、1食あたり560kcal程度、1日1,680kcal程度の摂取とし、1回/週の週間食事指導、食事記録に基づいた個別指導が行われた。続いて、肥満者を運動群(n=49)、食事群(n=28)、併用群(n=56)の3群に割付け、食習慣と運動習慣のどちらがよりテストステロン値に影響を与えるかを調査した。なお、併用群ではいずれもの介入がなされた。さらに、運動能力の男性機能やテストステロンへの影響を調べるために筋力(握力)と持久力(最大酸素摂取量)の関係性についても解析した。 主な結果は以下のとおり。・食事と運動の併用介入による減量後に、動脈スティフネスと中心血圧はともに低下した。また、介入後のテストステロン濃度の増加が大きいほど脈波伝播速度で評価した動脈スティフネスの低下は大きく、中心血圧の低下も大きかった。・運動群、食事群、併用群のそれぞれの効果を検討した際の体重変化は、運動群で2kg、食事群で8kg、併用群で12kgの減量がみられ、併用群が最も効果的であった。ただし、単独介入を比較すると、食事群のほうが運動群より効果が高かった(-9.8% vs.-2.5%、p<0.01)。・食事群と運動群でテストステロン濃度の増加率をみると、それぞれ3.8%、17.8%の増加(p<0.05)で、テストステロンの増加には運動療法が重要であった。・運動強度は、高強度の身体活動量(早歩きや軽いジョギング)の増加とテストステロンの増加に有意な関係性がみられた。・持久力および筋力が高いと勃起機能が高く、有酸素性運動はAMSスコア(男性更年期症状の自己評価による点数)を改善することから、有酸素性運動かつ筋力トレーニングが男性機能に有用であった。 以上の結果より、同氏は「体重減少だけをみると食事介入が影響するが、テストステロン濃度の増加には有酸素性運動が、とくに少し強度が高めの早歩きや軽いジョギングなどの運動が有用であることが示唆された。また、男性機能の維持には筋力、持久力を高く保つことが重要で、とくに軽いジョギングや自体重での筋力トレーニングなどの運動療法の実施が重要」と発表した。

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イノツズマブ+ブリナツモマブ併用mini-Hyper-CVD療法で再発ALLの生存率改善

 mini-Hyper-CVD療法とイノツズマブの併用は、再発難治性急性リンパ性白血病(ALL)患者において有効性を示し、ブリナツモマブ追加後はさらに生存率が向上したことが、米国・テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのHagop Kantarjian氏らによる研究で明らかになった。Journal of Hematology & Oncology誌2023年5月2日号の報告。 成人ALL治療は近年、大きくその様相が変化している。B細胞上のCD19抗原を標的とする二重特異性T細胞誘導(BiTE)抗体ブリナツモマブやCD22を標的とした抗体薬物複合体のイノツズマブ オゾガマイシンや各種CAR-T細胞療法など、新しい治療法選択肢が登場したためである。 再発難治性ALLに対するブリナツモマブとイノツズマブ単剤の有効性は、すでに確認されているとおりである。今回は、イノツズマブを用いた低用量のmini-Hyper-CVD療法に、ブリナツモマブを追加することで、化学療法による負担を減らすことができないかを検討した。新しいレジメンの有効性と安全性 Ph陰性、CD22陽性の再発難治性B細胞性ALL(B-ALL)患者を対象に試験が行われた。最初の4サイクルは低用量のmini-Hyper-CVD療法とイノツズマブが併用された。その後、ブリナツモマブを追加してさらに4サイクルの治療が行われたが、その際にイノツズマブは減量・分割投与された。 本試験の主要評価項目は全奏効率と全生存期間(OS)であった。 最終的に110例の患者がイノツズマブとブリナツモマブの併用療法を受け、108例(98%)の患者が前治療として化学療法を受けていた。 主な結果は以下のとおり。・91例(83%)が奏効を示し、完全奏効は69例(63%)であった。・75例(82%)の患者で測定可能残存病変が陰性であった。・追跡期間中央値48ヵ月、推定3年OS率は40%(95%信頼区間[CI]:30~49%)であった。・より詳細に解析した結果、mini-Hyper-CVD療法とイノツズマブ併用患者の推定3年OS率は34%(95%CI:23~45%)、ブリナツモマブ追加群の推定3年OS率は52%(95%CI:36~66%)であった。・治療の忍容性は良好で、ほとんどの副作用はGrade1/2であった。・早期死亡(4週間以内の死亡)は7例(6%)、CRで死亡した患者は9例で、感染症2例、心筋梗塞1例、気管支肺出血1例、肝移植片対宿主病1例、死因不明4例であった。・ブリナツモマブ関連の有害事象により中断した例はあったが、減量して再開するなどの処置が行われ、ブリナツモマブを中止した患者はいなかった。新しい治療選択肢として この結果から、抗体療法を単剤で行うのではなく、"トータル化学免疫療法レジメン"という形で、あらゆる有効な治療法の組み合わせを検討することの重要性が示された。同時に、イノツズマブ+ブリナツモマブ併用mini-Hyper-CVD療法の有効性と安全性が確認され、ブリナツモマブの追加により転帰がさらに改善する可能性が示唆された。今後、大規模な多施設共同試験を実施し、成人再発難治ALLにおける新しい標準治療として確立していくことが期待される。

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コーヒー摂取とうつ病や不安症リスクとの関連

 これまで、コーヒー摂取と身体状態や死亡リスクとの関連性に関するエビデンスは蓄積されているが、精神疾患との関連性を評価した報告は限られていた。中国・杭州師範大学のJiahao Min氏らは、コーヒー摂取とうつ病や不安症リスクとの関連を調査し、さらにコーヒーの種類や添加物による影響を検討した。その結果、コーヒーを1日当たり2~3杯摂取することは、メンタルヘルス改善のための健康的なライフスタイルの一環として、重要である可能性が示唆された。Psychiatry Research誌8月号の報告。コーヒーとうつ病および不安症との間にはJ字型の関連性 英国バイオバンクのデータを用いて、2006~10年のベースラインタッチスクリーンアンケートに回答した参加者14万6,566人のデータを分析した。フォローアップ期間中、2016年にこころとからだの質問票(PHQ-9)、7項目一般化不安障害質問票(GAD-7)を用いて、うつ病および不安症の発症を確認した。コーヒーのサブタイプは、インスタントコーヒー、ひいたコーヒー、カフェインレスコーヒーとし、添加物にはミルク、砂糖、人工甘味料を含めた。関連性の評価には、多変数調整ロジスティック回帰モデルおよび制限付き3次スプラインを用いた。 コーヒー摂取とうつ病や不安症リスクとの関連を調査した主な結果は以下のとおり。・コーヒーを摂取していた参加者は約80.7%、多くは1日当たり2~3杯(41.2%)摂取していた。・コーヒー摂取とうつ病および不安症との間には、いずれもJ字型の関連性が認められた。・精神疾患の発症リスクが最も低かったコーヒー摂取量は、1日当たり約2~3杯であった。・ひいたコーヒー、ミルク入りコーヒー、無糖コーヒーを1日当たり2~3杯飲んでいた参加者も、同様の結果であった。

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肝線維化やNASH消失にpegozaferminが有効か/NEJM

 非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の治療において、線維芽細胞増殖因子(FGF21)アナログpegozaferminはプラセボと比較して、NASHの悪化を伴わない肝線維化の改善効果が優れ、肝線維化の悪化を伴わないNASH消失の達成割合も良好であることが、米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校のRohit Loomba氏らが実施した「ENLIVEN試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2023年6月24日号に掲載された。米国の無作為化プラセボ対照第IIb相試験 ENLIVEN試験は、米国の61施設が参加した二重盲検無作為化プラセボ対照第IIb相試験であり、2021年9月~2022年8月の期間に患者の登録が行われた(米国・89bioの助成を受けた)。 年齢が21~75歳、肝生検でNASHと確定され、肝線維化ステージF2またはF3(中等度または重度)の患者が、pegozafermin 15mg(毎週1回)、同30mg(毎週1回)、同44mg(2週ごとに1回)、2種のプラセボ(毎週1回または2週ごとに1回)を皮下投与する群に無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは2つで、24週時点のNASHの悪化を伴わない肝線維化の改善(ステージ0~4のスケール[ステージが高いほど重症度が高い]で、1ステージ以上の低下)と、24週時点の肝線維化の悪化を伴わないNASHの消失であった。第III相試験での開発の続行を支持する結果 222例が無作為化され(pegozafermin15mg群21例、同30mg群73例、同44mg群57例、プラセボ群71例)、うち219例が投与を受けた。全体の平均(±SD)年齢は55.6±10.4歳、87例(39%)が男性、208例(94%)が白人で、平均体重は102.2±20.9kg、平均BMI値は36.6±5.9で、147例(66%)が2型糖尿病だった。 24週時にNASHの悪化を伴わずに肝線維化が少なくとも1ステージ改善した患者の割合は、プラセボ群が7%であったのに対し、15mg群は22%(プラセボ群との差:14ポイント、95%信頼区間[CI]:-9~38)と有意な差は認められなかったが、30mg群は26%(19ポイント、5~32、p=0.009)、44mg群は27%(20ポイント、5~35、p=0.008)で、プラセボ群に比べ2つの用量とも有意に優れた。 また、24週時に肝線維化の悪化を伴わないNASH消失を達成した患者の割合は、プラセボ群が2%であったのに対し、15mg群は37%(プラセボ群との差:35ポイント、95%CI:10~59)、30mg群は23%(21ポイント、9~33)、44mg群は26%(24ポイント、10~37)で、プラセボ群に比して3つの用量とも良好だった。 pegozafermin群で最も頻度の高い有害事象は、吐き気(15mg群19%、30mg群32%、44mg群19%)と下痢(24%、19%、14%)であった。重篤な有害事象は、プラセボ群4%、15mg群5%、30mg群4%、44mg群11%で発現し、44mg群の1例(急性膵炎)が担当医によって治療関連と判定された。 著者は、「2週間に1回の投与が可能であれば、患者の利便性と治療へのアドヒアランスが向上する可能性がある。本試験の結果は、より大規模で長期の第III相試験におけるpegozaferminの開発の続行を支持するものであり、用量選択の指針として有益な情報となるであろう」としている。

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GIP/GLP-1/グルカゴン受容体作動薬retatrutideの有効性・安全性/Lancet

 2型糖尿病患者の治療において、グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド(GIP)、グルカゴン様ペプチド1(GLP-1)、グルカゴンの3つの受容体の作動活性を有する新規単一ペプチドretatrutideは、プラセボと比較して、血糖コントロールについて有意かつ臨床的に意義のある改善を示すとともに、頑健な体重減少をもたらし、安全性プロファイルはGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬とほぼ同様であることが、米国・Velocity Clinical Research at Medical CityのJulio Rosenstock氏らの検討で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2023年6月26日号で報告された。米国の無作為化プラセボ/実薬対照第II相試験 本研究は、米国の42施設が参加した二重盲検無作為化ダブルダミー・プラセボ/実薬対照第II相試験であり、2021年5月~2022年6月の期間に患者のスクリーニングと無作為化が行われた(Eli Lilly and Companyの助成を受けた)。 年齢18~75歳、HbA1c値7.0~10.5%(53.0~91.3mmol/mol)、BMI値25~50の2型糖尿病患者が、スクリーニング前の少なくとも3ヵ月間、食事療法と運動療法のみの治療、または安定用量のメトホルミン(≧1,000mg、1日1回)による治療を受けた後、次の8つの群(いずれも週1回皮下投与)に、2対2対2対1対1対1対1対2の割合で無作為に割り付けられた。 (1)プラセボ、(2)デュラグルチド1.5mg、(3)retatrutide 0.5mg、(4)同4mg(開始用量2mg)、(5)同4mg(漸増せず)、(6)同8mg(開始用量2mg)、(7)同8mg(開始用量4mg)、(8)同12mg(開始用量2mg)。 主要エンドポイントは、ベースラインから24週時点までのHbA1cの変化であり、副次エンドポイントには、36週時点までのHbA1cおよび体重の変化が含まれた。 281例が登録され、プラセボ群に45例、デュラグルチド1.5mg群に46例、retatrutide 0.5mg群に47例、同4mg漸増群に23例、同4mg群に24例、同8mg緩徐漸増群に26例、同8mg急速漸増群に24例、同12mg漸増群に46例が割り付けられた。全体の平均年齢は56.2(SD 9.7)歳、女性が156例(56%)で、平均糖尿病罹患期間は8.1(SD 7.0)年、白人が235例(84%)であり、平均HbA1cは8.3%(SD 1.1)、平均BMI値は35.0(SD 6.3)、平均体重は98.2kg(SD 21.1)であった。脂質プロファイルを改善し、血圧を低下させる効果も 24週時におけるHbA1cのベースラインからの最小二乗平均変化は、プラセボ群が-0.01%(SE 0.21)、デュラグルチド1.5mg群が-1.41%(0.12)であったのに対し、retatrutide 0.5mg群は-0.43%(0.20)、4mg漸増群は-1.39%(0.14)、4mg群は-1.30%(0.22)、8mg緩徐漸増群は-1.99%(0.15)、8mg急速漸増群は-1.88%(0.21)、12mg漸増群は-2.02%(0.11)であった。 retatrutideによるHbA1cの低下は、プラセボ群と比較して0.5mg群を除く5つの群で有意に大きく(いずれもp<0.0001)、デュラグルチド1.5mg群との比較では8mg緩徐漸増群(p=0.0019)と12mg漸増群(p=0.0002)で有意に大きかった。36週時にも、これらと一致した知見が得られた。 また、体重は36週の時点でretatrutideの用量依存性に減少し、減少率は0.5mg群3.19%(SE 0.61)、4mg漸増群7.92%(1.28)、4mg群10.37%(1.56)、8mg緩徐漸増群16.81%(1.59)、8mg急速漸増群16.34%(1.65)、12mg漸増群16.94%(1.30)であった。プラセボ群の体重減少率は3.00%(0.86)、デュラグルチド1.5mg群は2.02%(0.72)だった。 体重減少は、プラセボ群と比較してretatrutideの用量が4mg以上の群ではいずれも有意に大きく(4mg漸増群:p=0.0017、これ以外のすべての群:p<0.0001)、デュラグルチド1.5mg群との比較でも4mg以上の群で有意に大きかった(いずれもp<0.0001)。 軽度~中等度の消化器系の有害事象(吐き気、下痢、嘔吐、便秘など)が、retatrutide群の35%(67/190例、0.5mg群の13%[6/47例]から8mg急速漸増群の50%[12/24例]までの範囲)、プラセボ群の13%(6/45例)、デュラグルチド1.5mg群の35%(16/46例)で発現した。試験期間中に重篤な低血糖の報告はなく、死亡例もなかった。 著者は、「同時に、retatrutideは脂質プロファイルを改善し、血圧を低下させ、心代謝系のアウトカムを全般的に改善した」とし、「これら第II相試験の知見は、2型糖尿病および他の肥満関連合併症を有する肥満患者を対象とする第III相試験において、retatrutideの有効性と安全性をさらに検討することを支持するものである」と指摘している。

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